ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
あまたの謎と世界の法則
 領地に帰るといくつかのことが解決し、また謎が増えました。
 まずトイレットペーパーのことです。
 屋敷の倉庫にありました。もちろん買った覚えも造った覚えもありません。
 トイレットペーパーをどうしようかと立ち話していたら、セバスチャンがいいました。
「ございますが?」
「どこに!」
「お屋敷の地下にある倉庫にございます。清掃道具などお屋敷のメンテナンスに必要なものをしまっておく場所でございますが」
 セバスチャンに案内してもらいました。確かに清掃道具とか予備のシーツ、カーテンなどと一緒に山積みになってました。
 セバスチャンに聞いてみましたら
「こちらのペーパーは旦那様方が毎月お支払いになっておられますお屋敷や領地の維持費のうちから賄われております。毎月いつの間にか補充されております」
 館の維持費にそんなものが入っているとは知りませんでした。
「というか、どこで作っているんですか! 誰がもってきているんですか!! そんなレシピあるんですか!!」
 セバスチャンが眼を見張りました。トイレットペーパーのロールを片手に考え込んでいます。
「考えたこともございませんでした。そういえば不思議でございます。どこで造られているのでしょう?」
 謎のアイテムです。『トイレットペーパー』。誰がどこで作っているのでしょう?
 そういえば『クリエイト・ミレニアム』のトイレは水洗でした。しかし、下水道を造った覚えはないのです。流したものはどこへ行くのでしょう?
 さらに謎です。

 そしてもうひとつ。陽だまり村でもお茶がお湯でした。料理アイテムは味がしません。
 メンバーを集めた緊急会議で老師が証言してくださいました。
「三時にセバスチャンがお茶とお菓子をもってきてくれましたにゃ。にゃんと、報告どおり飲み物は水の味、食べ物は味なしですにゃん」
「陽だまり村でもですか」
「ただし、素材の状態では味がする。他にうちの特産品は加工物だが味がある。砂糖、塩はちゃんと味がある」
 アマクサが付け加えました。
「料理アイテムは味がなくて、素材は味がする……ですか。うちの特産品と料理アイテムの違い……なにか法則のようなものがありそうですが……」
 僕は腕を組んで考え込みました。
「それから……下着のことですにゃ、海パンではどうですかにゃ?」
「か、海パン? あ!」
 忘れていましたが、この『クリエイト・ニレミアム』にも水着があります。
 海辺の町のクエスト関係で報酬として『~な水着(女子専用)』のレシピがあるのです。~は大胆、とかエッチ、とかの言葉が入ります。
 誰の趣味だよ!
 その中で確かに『海水パンツ(男性用)』というハズレ報酬がありました。ちなみに『~な水着(女子専用)』レシピもコンプリートしているはずです。マリーの要望で。鬼畜です。「ま、またつまらぬものをコンプリートしてしまったのですにゃ~」という老師の無念の叫びはメンバーの爆笑を誘いました。
 後に老師お手製の水着でリゾート気分を味わったのはいい思い出です。おかげさまでうちのメンバーは全員水着をもっています。
 ちなみに女子用の水着に比べると『海水パンツ(男性用)』の必要レベルは低いです。四十です。半分です。性差別だと思います。
 一時的な代用品としてはいいでしょう。
「その手がありましたか」
 ぱんつ事情はいちおうのめどが立ちました。
「『銀狼騎士団』の下着の注文を受け付けるつもりですかにゃ?」
「そのつもりです。女子メンバーだけでも二百か三百はいたはずですよね。大口ですよ」
「大口過ぎますにゃん! 我輩を過労死させるつもりですかにゃ! それに陽だまり村の綿花はまだ実験段階で数が少ないのですにゃ。数百もの注文は受けられないのですにゃ~」
 綿花栽培は最近始めたばかりでした。素材がなければ注文がこなせないのはどおり。しかしながらちゃんと対策はしました。
「安心してください、老師。こんなこともあろうかと、素材を買い込んであります」
 僕はバックから布を取り出しました。綿花もあります。逃げ道は当然潰します。
「ぐにゃん!」
 老師は痛恨の一撃を受けた。
「NPCの供給量はひと月にいくつと決められています。シェア独占も夢じゃありません。おそらくミセパンのレシピをもっているようなコアなプレイヤーは少ないです。ましてや、あの高レベルですよ。造れるプレイヤーはそうはいません。今までマーケットに流れたこともないでしょう」
「我輩とて、隠しておきたいですにゃ」
 老師には隠しておきたいことが満載です。アレやコレやのイロモノレシピをコンプしているなど、大きな声ではとても言えません。
「いいじゃないですか。人助けですよ。老師がやらねば、女の子たちがノーパンになってしまうのですよ。いいんですか!」
「それはそれで男のパラダイスのような気がしますにゃん」
 うぬ、そう来たか! ばっと他のメンバーを見渡しましたら、アマクサとマリーが高速で眼をそらしました。しかし、僕は彼らの口元がにやけたのを見逃しませんでした。
 いま、なにを想像した!
 男というイキモノは!
「なんてことを言うんですか! いいですか、考えてみてください」
 僕の脳裏には南さんの凛とした軍服姿が浮かんでいました。
「あの『銀狼騎士団』の女性の軍服の下がラブリーなミセブラ、ミセパンになるんですよ! それはそれでギャップ萌えじゃないですか!」
「確かに!」
 マリーが即答しました。中身は男ですね。老師の耳がピクッと反応したのを僕は見逃しませんでした。畳み込むなら今です。
「恨まれますよ。女の恨みは怖いですよ」
「そ、それはひしひしと感じますにゃ。しかし、我輩はぱんつ販売で天下をとりたくないですにゃ!」
「とれるんですか? ぱんつで」
「ぱんつの神と呼ばれたくないですにゃ! ぱんつ販売で歴史に名を残したら末代までの恥ですにゃ! ぱんつ販売で名が売れてもいいんですかにゃん! うちは帽子屋(ハッター)であって下着屋ではないのですにゃあ! 『ルナティック・ランジェリー』とよばれてもいいのですかにゃん!」
『それはいや(だ)(です)(ね)!』
 ギルドメンバーの心がひとつになった瞬間でした。
 いえ、下着をばかにするつもりはありませんが。下着を笑うものは、下着に泣くのです。後一週間もすれば現実となるでしょう。一週間同じぱんつはけますか? 僕は嫌です。毎日取り替えて洗濯したいです。
「大丈夫です。あわせて特産品も売りますから。なぜかうちの加工品には味があります。きっと欲しがる人は増えるでしょう」
 味がする理由がわかれば、もっと儲けに繋がるでしょうが。
「それはそれとしておいといて、ひとついいですか?」
「なんですか?」
「ヴォルグさんから忠告されましたが、戦闘はゲームだったときと違い過酷なようです。しかしながら、領地を持っている以上、戦闘は避けられない義務でもあります。どうしたいですか?」
 これは領地を持つものだけのイベントですが、領地をモンスターが襲うというイベントがあります。
 もともと領地というのは自動生成で造られたタウン近くの『小さな村』なのです。これを買い上げて領地にするのですが『モンスター(または野生生物)が村をあらす』という軽いイベントが三ヶ月に一回ぐらいの確率で発生します。
 さしてレベルの高くないモンスターですが、放置しておくと領地に被害がでます。これを撃退するのも領主の役目。
 領地を持つほどのプレイヤー、またはギルドであれば難しくありません。
 ドロップ品は臨時収入となります。素材も手に入るので悪いイベントではないのです。
 自分でやるのが面倒なときはNPCの兵士を雇えます。最低五人雇わなければならない義務がありますが、自分でモンスターを撃退するのが面倒な人はこの兵士を多めに雇っておくのです。
 五人ずつの単位で雇えます。強さは大したことありません。レベルにして20くらい? 雑魚モンスターとどっこいどっこいの強さです。プレイヤーが戦闘を指揮することもできます。その場合はNPCとパーティをくんだことになります。戦闘を繰り返すとレベルが上がりますが30ぐらいが限界です。死ぬこともありますが『コモン』は復活できません。新しく雇いましょう。
 たとえ兵が倒したものでもドロップ品や素材は領主のものとなります。館の倉庫に納めてくれます。働いてくれた兵士にボーナスを渡すと忠誠心が上がります。
 兵士は忠誠心がなくなると脱走します。忠誠心には気をつけなければなりません。戦闘が終わっても傷を癒さなかったり、兵士が死んだりすると忠誠心が減ります。月々の給金を支払わないと一気に0になります。
 給料の未払いは厳禁です。兵士だけのパーティの場合は予めポーションなどをわたしておくとよいでしょう。館に帰ってきたとき負傷していたら、すぐさま治してあげましょう。ボーナス、プレゼントなどで忠誠心を上げておくことをお忘れなく。
 どれだけゲームのシステムどおりなのかわかりませんが、このイベントが起きる可能性はかなり高いと思われます。
 うちは自分達でやればいいと思っていたので、最低限しか雇っていません。
「どうしたいとは?」
 老師、猫言葉が消えております。顔がマジですね。
「僕たちにはいくつかの選択肢があるということです。ひとつは領主であり続けること。いくつかの義務を背負うことになりますが、陽だまり村と館が僕たちのものです」
 これもひとつの選択肢。
「ひとつは領主であることを放棄すること。月々の維持費を支払わなければ、当然領主の権利を失います。この場合僕たちには何も残りません。追い出されるだけです」
 これもまたひとつの選択肢。権利を失えばアイテムとともに館から強制退去させられるのです。
「ひとつはこの館を含む『陽だまり村』を売却することです。この場合、最低でも資産の半分は残ります」
 領地は売りに出せます。会館で買い取ってもらうこともできますが、その場合どれだけ発展させていても最初にゾーンを買い取ったときの半額になります。他のプレイヤー、またはギルドに買取をお願いすることもできます。その場合の金額は相談になります。
 買い取った方は決められた維持費を会館に支払えばいいのです。前の持ち主が作った施設がそのまま使えます。
 これは領地を管理しきれないときの手段です。ギルドキャッスルも売買できます。
 プレイヤー同士の売買の場合は、賢者あるいは錬金術師が書類を製作し、本人たちの署名ののち会館での手続きが必要です。
「どれを選びます?」
「愚問ですにゃ」
 老師が紅茶風お湯を啜りました。
「せっかくここまで発展させたんだよ。まだ試したいこともあるし」
「僕に育てた薬草達を手放せと?」
 メンバーの意見を代表し、マリーが腕を組んで傲然と言い放ちます。
「ここは、俺達の家だぜ、ギルマス」
 男前です、マリー。
「素晴らしい。全員一致ですね。では、僕達にはやらなければならないことがたくさんあります。領地の維持費を稼ぎ、兵士の給料、使用人の給料、職人達の手当てを支払わなければなりません。そして、領地を守るためには戦わなければなりません」
 思わず笑ってしまうのを僕は止められませんでした。さすが僕のギルドのメンバーです。『気狂い帽子屋(ルナティック・ハッター)』の名前どおり酔狂人がそろっています。
「戦闘訓練をしましょう。ローテーションを組んで。陽だまり村に一人は残るようにしましょう。なにかあれば念話で連絡してくれればすぐに駆けつけれるように。残った人はなにかの襲撃があった場合、兵士を使ってくれてもかまいませんよ。まずはレベルの低い狩場から初めていきましょう。慣れるのが大事です。少しずつ難易度を上げていきましょう。戦闘方法も考える必要がありますね。基本的なフォーメーションを決めておきましょうか。さあさあ、僕達には泣いている暇も立ち止まっている暇も絶望する暇もありませんよ。さっそく作戦を練りましょう」
 これはクエストです。内容は『異世界と化した世界で領主であり続けること』『生き続けること』『この世界の法則を見抜くこと』このクエスト確かに『ルナティック・ハッター』が請け負います。
ぱんつネタ、まだまだひっぱるかも知れません。実はネタの仕込が多すぎて読者さまがどこまで拾ってくれているか不安です。仕込みすぎ?
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。