相も変わらず、原発事故の責任の所在を巡って泥をなすり合う政府・東電・原子力安全委員会を見ていると、「CO2削減」「エコ」など言って原子力発電を祭り上げていたのがはるか昔のことのように思える。
近年の日本の原子力政策は、環境への配慮(今となっては冗談としか聞こえないが…)という“錦の御旗”のもと、推し進められてきたわけだが、小出裕章氏の著書『原発のウソ』(扶桑社/刊)には、たとえ今回のような事故がなかったとしても、原発が環境に配慮されているとは言い難い現実がつづられている。
■「原子力はCO2を出さない」のウソ
地球温暖化が叫ばれるようになって以来、原子力発電のPRには必ずといっていいほど「CO2を排出しない」という文言が入るようになったが、これはあくまでも“発電時にはCO2を排出しない”ということだ。燃料のウラン採掘やウラン原鉱の製錬、ウラン濃縮、そして燃料棒の形への加工、それらの運搬など、それぞれの過程ではおびただしい量のCO2を排出しているのである。
■原発は地球を暖め続けている
ただ、これだけであれば、単にCO2の排出量のみ比較した場合、原子力は火力や水力発電よりも比較的“環境に優しい”ことになる。
しかし、原子力はさらに直接的に地球環境に悪影響を与え続けているのである。
現在使われている標準的な原子力発電所の発電量は100万キロワットだが、原子炉の中では300万キロワットもの熱が生み出されている。つまり原子炉で生み出された熱の3分の1程度しか電気に変わっていないことになる。
では残りの200万キロワットはどうなっているかというと、捨てられているのだ。
具体的には、海水を原子力発電所内に引き込み、原子炉で生み出されたものの余ってしまった熱でその海水を暖め、海に戻している。こうすることで余った熱は捨てられるのである。
しかし、問題は暖められた海水。
実に毎秒70トンもの海水が原発内に引き込まれ、吸収した熱で水温が7℃上がった状態で海に戻されるのだ。年間で計算すると、日本にある合計54基の原発は実に約1000億トンもの“7℃温度が高い水”を海に流していることになる。日本に流れるすべての河川の一年間の流量の合計が約4000億トンといえば、1000億トンがどれほどの量かわかるだろう。
これでは、とても原子力は環境にやさしいなどとはいえない。
『原発のウソ』はこれまでこの国の原子力政策を支えてきた国ぐるみでのウソに鋭く切り込んでいる。原子力発電の実際にかつてないほど関心が集まっている今、これほど読者を納得させる本はないのではないか。
(新刊JP編集部/山田洋介)