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目 次 ]      月刊・お好み書き 1998年2月1日号



ウソ発覚?
炭酸ガスによる地球温暖化説は
政治がらみのインチキだった?

環境経済学・槌田敦さんに聞く

 「炭酸ガスによる地球温暖化説は政治がらみのインチキである」。昨年の地球温暖化防止京都会議以来、炭酸ガス削減といえば誰もが認める「正義」のようですが、この「正義」に異論を唱えている学者がいます。名古屋市の名城大学・商学部教授の槌田敦さんです。「槌田エントロピー理論」は世界的に有名です。エントロピーって何って? まあ、それは本文を読んで下さい。果たして炭酸ガス温暖化説と槌田さん、どちらがインチキなのでしょうか。それから物理学などというものに非常に疎い者が、この記事を書いていますので、自然物理の常識を、さも大発見のように書いてしまうかも知れませんが、そこの所はご勘弁を。(大西 純)



◆槌田 敦(つちだ あつし)
 1933年東京都生まれ。現在、横浜市在住。名城大学・商学部教授(環境経済学)。「槌田エントロピー理論」の基づき反核・反原発の立場で積極的に発言。リサイクルや環境保護運動の誤りも指摘し、環境問題を解決するための具体的プログラムも提示している。

環境保護の名で

 槌田さんの著作の中に『環境保護運動はどこが間違っているのか』という、かなり挑戦的なタイトルの本がある。宝島社(発行当時JICC出版局)から92年7月に出た。よく売れたそうだが、環境保護団体などから様々な抗議も受けた。それもそのはずで、誰もが「地球にやさしい」と信じてきたリサイクル運動などに、いかに多くのウソがあるかを明らかにした本だったからだ。その本で、槌田さんが「ウソ・インチキ」であるとしたものを列挙すると…。
1牛乳パックはリサイクルすべきだ
2再生紙とリサイクルは地球にやさしい
3分別収集運動でごみ問題は解決できる
4自然食運動で「安全」と「健康」が手に入る
5炭酸ガスが増えれば地球は温暖化する
6科学技術でエネルギー問題は解決できる
 以上は本の帯からの引用だが、槌田さんは、これらのことを、いろんな例を挙げながら「すべて間違っています」と論じていった。「常識」が覆えされていく痛快さに加え、対談形式というわかりやすさもあり、この本は僕の愛読書となった。
 そして昨年12月の地球温暖化防止京都会議。温暖化ガス、とりわけ炭酸ガスは世界的悪役になった。今こそ槌田さんに会わねばと思った。京都会議にはインチキがあったのか、それとも『環境問題は―』の本から約5年で槌田さんの理屈こそダメになったのだろうか。





太陽活動の影響

 槌田さんは、いきなり本題に入っていった。
 「地球の気温というのは一番基本的には太陽活動によって決まるんです。まず太陽の活動のことが議論されていない。太陽は、だいたい11年周期で1周するんですね。これが少し長くなることがある。それは太陽が膨らんでいる時、すなわち活動が活発な時です。地球の気温が高くなるというのは、よく理屈はわかっていないんだけれど、この太陽の活発化に、ほぼ比例しているんですね。そのことを無視して炭酸ガスのことを議論してもダメです。それとですが、炭酸ガスが増えたからとって、それが気温が上がる原因になっているのかどうかは即断できませんが、気温が上がったことで炭酸ガスが増えたというのは間違いないようです」
 エッなんで? 話をさえぎってワケを聞いた。
 「水や土にに溶けていた炭酸ガスが出て来た。気体というのは温度を上げると出て来るというだけのことですよ」

消えた炭酸ガス

 なるほど…。「次も昔から言われていることだけど」と槌田さんは続けた。
 「炭酸ガスの発生量と、大気の中の炭酸ガスの量が合わない。発生した量の半分もが、どこへ行ったかわからない。たぶん水中や土壌に溶けているんだと思うけど、だったら気温が上がってなかったら大気中の炭酸ガスは増えてなかったかも知れない。とにかく半分もが、どこに消えたかわからない段階で、とやかく議論するのは間違ってる。要するに、つい最近のデータだけで騒ぎ過ぎだし、最近のことさえ、きっちり説明できていない。科学者は学問研究を放棄したんですよ。因果関係を言えてから議論すべきです。すると、そんなこと言ってると間に合わないと言って問題をすり替えちゃう。炭酸ガスの問題というのは究極の問題として確かにあるわけだけれど、究極の問題を今、議論すべき時か。これは、ほかのことを議論させないための陰謀、原子力発電を進めるための陰謀です」


他の問題隠す陰謀?

 事は単純でないようだ。問題を整理してみよう。
★昨今の気温上昇は自然現象の範囲内なのか。
 少なくとも1980年頃以降、地球の平均気温は急に上がっている
★比例するように炭酸ガス濃度も増えている
★確かに炭酸ガスは温暖化効果ガスである
★しかし、先の槌田さんの話を聞くと、
 温暖化の元凶が炭酸ガスだとは、にわに信じ難い
★だとすれば、ほかに温暖化を招いている要因はあるのか
★そして、そもそも温暖化して何が問題なのか

 僕が言うまでもないが、物を燃やせば水蒸気と炭酸ガスが発生する。現代文明は石油を燃やして発電し、自動車を動かし、大量のゴミを焼却している。大気に放出された炭酸ガスは、太陽から受けた光は通すが、太陽によって温められた地表に真綿をかぶせるような効果がある。問題になっている炭酸ガス、メタン、亜酸化窒素も含め、温暖化効果をもたらす微量な気体は50種類を超えるという。
 ところが、槌田さんは次のように言う。
 「温暖化ガスという点では炭酸ガスより水蒸気の方が効果は大きいんですね」
 それは聞いたことがなかった。槌田さんは「だからインチキなんだ」と言って、水蒸気による温暖化効果を説明してくれた。

水蒸気の温暖化効果

 よく晴れた冬の朝は寒い。天気予報でもよく耳にする放射冷却だ。なぜ起こるのか? 空気が乾燥していて、熱が大気中にそのまま逃げるからである。反対に雨や雪の日の朝は意外と気温自体は高い。また日本の場合、夏は放射冷却は起こりにくい。空気が湿っているからである。朝の砂漠が時として氷点下になるのも放射冷却のためだ。少し考えると気温に影響が大きいのは炭酸ガスよりも水蒸気であることがわかる。

 「だから炭酸ガスによる温暖化効果があらわれるのは、水蒸気による温暖化効果の少ない所、つまり寒冷地、冬の温帯地方、砂漠です。砂漠は別として、寒い所が温かくなるだけです。平均気温が2度高かったという5000年前の縄文時代の日本、文化の中心は函館や青森でした。温暖化説が本当でも、その時の気候になるだけじゃないですか。さっき言ったように暑いところが、もっと暑くなるんじゃないから別に困りませんよ。暖房代もかからない」

南極の氷は溶けない

 よく言われる「温暖化によって南極の氷が溶けて水位が上がりモルジブ共和国が水没してしまう」というのも、槌田さんに言わせるとウソだという。仮に温暖化によって氷が溶けたとしても南極の大部分が氷点下であることには変わりなく、溶けるのは南極周辺だけになる。一方、地球全体の温暖化によって海水の蒸発も増える。その水蒸気は大気循環で南極にも流れ込み氷になる。「氷が溶けるのと新たに凍るのと、どちらが多いのかという話は、気象学者がするべき研究ですが、結局、気象学者たちは黙ってしまった」と槌田さん。だから「氷が溶けて…」という理屈は90年頃に、すでにウソが証明されているという。それで考えられたのが、温暖化によって海水が膨張するという話。「理科年鑑でも見れば海水の膨張率が載っていますから、どうぞ計算してみて下さい」と槌田さんは相手にしなかった。

エントロピー理論

 「気温ばかり問題にする気候学に間違いがあるんです。今から言う大気と水の循環がきちんとあれば、気温が2度上がったところで何も問題はないのです」と槌田さんは言う。

 循環―。これこそが「槌田エントロピー理論」のキーワードだ。少し遠回りになるが、「槌田エントロピー理論」を紹介しようと思う。以下しばらく、槌田さん最新の著書『エコロジー神話の功罪=ほたる出版』の請けうりです。
 エントロピーとは「汚染」のことである。生物・非生物にかかわらず、何かが動くためには、まずエネルギーが必要だ。人間だったら、それは食糧にあたる。食糧は消化され体内を循環する。そして汚染=エントロピーを排泄物や汗として捨てる。エントロピーを捨てることによって、新たなエネルギーが補給でき、体内循環が成立し人間は活動ができる。つまり活動の3要素は「資源の投入」「物質の循環」「廃物と廃熱の破棄」である。ところで何かが活動すれば汚染=エントロピーは必ず増大する。そしてエントロピーを排出できなくなれば活動停止となる。例えば車の排気口を塞げば車は止まるし、便秘がずっと続けば人間はやがて死んでしまう。

大気の空冷システム

 この「廃物と廃熱の破棄」のシステムに注目し、地球上の大きな循環にあてはめたのがエントロピー環境論だ。太陽光は地表に吸収され平均15度の熱となる(資源投入)。大気は熱せられ軽くなり上昇する。上昇すると圧力が下がり温度は低下する(これが低気圧)。圧力が下がると冷えるのは、山の上の方に登るほど気温が下がるのと同じ理屈で、これを断熱膨張による温度降下という。大気は上昇を続け5000〜6000メートルくらいの所でマイナス23度程度になり、ここで宇宙へ放熱する(廃熱=エントロピーの破棄)。その結果、冷却され重くなった大気は下降する。今度は逆に圧力が上がって(高気圧)温度は上昇していき(断熱圧縮による温度上昇)、地表に戻ると平均15度になる。こうして物質、すなわち大気の循環は成立する。地表の熱は宇宙に運ばれるので、大気の循環は地表を冷却することになる。エンジンに例えれば「空冷」の機構だ。

さらに有効な水冷

 地球には「水冷」もある。海や川の水は熱を得て水蒸気となる。この時に地表の熱エントロピーが大気に移る。地球が汗をかいたと考えればいい。汗の水分が体から熱を奪うのと同じだ。その熱で軽くなり上昇した水蒸気は、上空で圧力が下がることにより冷え、水滴や雲となる。雲は成長して重くなり雨や雪となって地表に落ちる(水循環の成立)。雲ができるときに発生する熱や水蒸気がもっていた熱エントロピーは大気に渡される。そしてやはり低温放熱で宇宙に捨てられる。水の循環は大気の循環の力を借りて放熱を行うが、地表の熱エントロピーを奪う冷却能力は「空冷」の3〜4倍あるという。夏、うちわであおぐより水浴びした方が良く冷えるのと同じ理屈である。
 ふたつの循環で大切なのは、大気は下の部分が熱せられて軽くなり、上の部分が宇宙への放熱で冷やされ重くなっていることだ。もしも大気が太陽光に対して不透明で、熱を反射してしまうようだと、大気の上の部分が温められ、大気は循環しない。風呂のお湯は、かき混ぜないと、上が熱く下がぬるいままなのと同じだ。循環がないと、地表の熱エントロピーは溜まる一方で、地球は熱地獄となる。

犯人は都市化気象?

 そして問題の炭酸ガスである。
 「大気の空冷、水冷のことを考えないで炭酸ガスのことを議論するのはおかしいんですよ」と槌田さん。「それより問題なのは…」と続けた。
 「1月22日の東京都心の最低気温は4度、八王子マイナス3度でした。30〜40キロくらいしか離れていないのに、どうしてこんなに違うんでしょう。東京が海に近く水蒸気を出していることもあるでしょう。だけど、もっと大きいのはホコリ、大気汚染です。炭酸ガスだとか、水蒸気はね、特定の波長にしか効かないんです。炭酸ガスも水蒸気も分子ですから、(網の目状になっていて)抜けてる所は光を通す。つまり温暖化効果ガスではあるが、太陽光を反射するものではなく、大気の大きな循環を妨げるものではありません。炭酸ガスが少々増えて2度気温が上昇したところで、大気の空冷・水冷のシステムが働いている限り、決して熱エントロピーは溜まらない。熱地獄にはなりません。ところが、大気汚染、煙、これらは個体ですから、あらゆる波長の光を吸収して循環を止めてしまう。これの温暖化効果は炭酸ガスや水蒸気なんか比較にならないほどすごいんですよ。循環がなくなると風が吹かない。風が吹かないと水蒸気が蒸発しないから水冷もなくなる。止まったどんよりした空気になっちゃう。都市気象、ヒートアイランドですね。ホコリで一杯になって、その中では、もはや空気は動かない。今、地球はそういう方向に行ってますね」
 「それなら、炭酸ガスなんかより都市化気象の方が温暖化をもたらしてるという仮説は成り立つのですか」
 「その通り。かつてはロンドンとか大阪とか川崎とかだけだったのが、今や世界中にホコリだらけになった。80年頃からの気温上昇は、都市化気象が一番の原因だと思っています」

エルニーニョの原因?

 炭酸ガス温暖化説は、いよいよウソくさくなってきた。
 「インドネシアの森林火災も同じような問題ですか」
 「ええ、大問題です。大気の循環を阻害すればどうなるか? エルニーニョになっちゃうんですよ」

エルニーニョ現象
 南米のペルーからエクアドル沿岸から東太平洋赤道域で海面水温が異常に上昇する現象(槌田さん流に言うと水温が下がらない)。世界的に異常気象をもたらす。赤道地帯を吹く南東からの風・貿易風が通常通り強いと、温かい海水が西太平洋に運ばれる。それを補おうとペルー沖で冷水が湧き上がり水温を下げるが、(例えばインドネシアの火災によって大気の循環が止まることによって)貿易風が弱まると温かい水が東太平洋に残り、エルニーニョが起こると考えられている(1991年『朝日現代用語・知恵蔵』を参考)。

 インターネットで「地球温暖化」と検索して、いろんなホームページをのぞいてみると、エルニーニョその他、異常気象のことまで炭酸ガスによる温暖化の仕業と決めつけている所もある。槌田さんに言わせると「検証もしないで、まとめて議論するな」となる。 炭酸ガス温暖化説を唱える人に会って話を聞いたわけでもないが、一般に見受けられる炭酸ガス温暖化説よりも、槌田さんの話の方が、どう考えても僕には説得力がある。では、炭酸ガス温暖化説はウソであるとすれば、なぜ、京都で国際会議を開くような大がかりで、金のかかる芝居を打つのだろうか。槌田さんは「原発推進のためだ」と断言する。

「原発推進のため」

 京都会議に熱心だったのは欧州諸国、中でもフランスとスウェーデンだった。フランスは原発大国だが、スウェーデンは「脱原発」を決めた国だ。しかし槌田さんいわく「スウェーデンは原発の率が世界一高い、これ以上増やせないから脱原発と言っているだけで、代わりのエネルギーがなければ原発って、ちゃんと言ってますよ」という。日本では、通産省の資源エネルギー庁が必死で、原発は「炭酸ガスを出さないクリーンエネルギー」だとPRしている。インターネットのホームページによると、2030年の時点で1990年と同レベルの炭酸ガス濃度を保つためには、火力から原発へのさらなる転換が必要で、あと50基(現在稼働中のものとあわせれば101基になる)の原発を造らなければならないというシミュレーションが載っていた。
 槌田さんは「原発が炭酸ガスを出さないなんてとんでもない」と言う。発電所の中ではあんまり石油を燃やしていないから炭酸ガスを出さないが、ウランを掘ったり、燃料に加工したり、発電所を建設する時に、いっぱい石油を使っていて、槌田さんによると、その量は石油火力発電と大して変わらないという。

「脱原発」の問題点

 「脱原発グループが情けないのは、炭酸ガスを出さない原発って言ってる時に、そのことに対して議論できないことです。そのこと議論したのは僕だけだから」と槌田さん。さらに脱原発グループへの批判を語った。
 「問題点をまともに議論しようとしないで、温暖化防止に太陽光発電だ、などと言って、問題点をスリ替えて議論してる。スリ替えて議論をするということは、向こうの言い分を認めてるということですよ。原発は炭酸ガスを出さないということには反論しないんだから、それは原発やむなしという雰囲気作りへの協力ですよ。放射能が危ないと騒ぐわけだけど、放射能の問題で困っているのは原発推進側も同じなんですね。ならば代わりのエネルギーはというと、太陽光だ風力だという。そんな現実的でない話は反論ではありません。やっぱり代わりのエネルギーが存在しないんだから原発は必要悪なんだ、という論理を補完しているに過ぎませんよ」

太陽光発電の無駄

 槌田さんの本を読むと太陽光発電や風力発電といった、いわゆる「クリーン・エネルギー」の虚構も書かれている。太陽光発電というのは半導体光電池を使って光を直接電気に変換する方式で、最良の半導体を使い理想的な太陽光の条件なら、光の約20パーセントを電気に変換することができる。しかし、実際はその効率はどんどん下がっていく。発電できるのは真昼の3〜5時間、雨の日はダメ、半導体の表面にホコリもたまる。そんなこんなで稼働率は10パーセント程度となる。従って原発1基を止めるには、東京の山手線の範囲、または和歌山県の水田全てに相当する面積にソーラー・システムを設置しなければならないという。「クリーン・エネルギー」というのもウソで、太陽光発電に使う大量のシリコンをつくるには大量の電力、すなわち石油が必要になる。ほかにも電力や燃料が必要で、石油消費の元を取るのに10年はかかるという。
 風力発電も設備を作ったり維持したりするのに石油を使わなければならないのは同じである上に、風力固有の問題がある。風のエネルギーが風速の3乗に比例することだ。例えば、風速5メートルで設計すると、風速3メートルになると電力は5分の1程度しか得られなくなる。逆に8メートル吹くとエネルギーが設計基準の4倍になってしまい装置がこわれるので回転を止めなければならない。多くの場合プロペラは発電に関係なく回っているか止まっているかとなるという。
 要するに原発も含めて、いわゆる「クリーン・エネルギー」は、すべてが「間接石油火力発電」であり、そのまま燃やして電力にする石油火力と天然ガスに、能力面でも経済面でも勝るものはないというのが槌田さんの見解だ。それでも、まるでダメな「クリーン・エネルギー」に国が金をかけているのは、「クリーン・エネルギー」が確立されるまでは原発を存続させる(永久に必要悪となることができる)という理由付けなのかも知れない。

石油はなくならない

 ところで、最も優れたエネルギーである石油は、そう簡単にはなくならないという。
 「そもそも、あと30年で石油はなくなる、といって石油の代替エネルギーとして出てきたのが原子力だったのですが、それがインチキだったんですね。石油可採年数というのは毎年発表されているんですが、可採年数は原油の『確認』埋蔵量を年間使用量で割った値です。1960年代にあと30年と言われた石油が、年々増えてるんですね。『確認』埋蔵量というからには『未確認』埋蔵量があって、技術が進歩すると『未確認』が『確認』されることになります。また、原油価格が下がって油田に一時蓋をすると、それも『未確認』埋蔵量になるんです。だから、石油は欲しくなったらいくらでも出て来るということなんです。まああと100年でなくなるということはない。200年くらいはもつでしょう。それに天然ガスだってあるんだから、石油がなくなった後はどうするという議論は、あと何年で石油が尽きるというのが、もう少し具体的に見えてきてからでいいんじゃないですか。それより、今やらねばならないことは一杯あります」

全ての道は原発へ

 いろいろ話が飛んで申し訳ないが、こうして見ると地球温暖化の話も、クリーンエネルギーの話も石油枯渇説も、原発という一本の線でつながる。しかし、槌田さんの話や本に書いてあることが事実として考えるとして、原発を推進することは、権力側にとって、そこまで重要なことなのだろうかと素朴に思ってしまう。危険だし金はかかるし、世間にはウソをついてごまかさないとならない。軍事的目的があるのだろうということは想像がつく。しかしそれ以外、権力側にも存続してもメリットはあまりないように思えるのだ。槌田さんは「原発派に勇気を与える京都会議ですよ」と揶揄するが、炭酸ガス地球温暖化説や京都会議の本質は、本当に「そこまでして」そんな原発を守ることにあったのだろうか。
 「槌田エントロピー理論」からいっても原発は、何もいい所はない。先ほどは大気循環と水循環の話だけしたが、「槌田エントロピー理論」は植物や動物を含めた地球上の大循環のことだ。ひとことで言うとエントロピー=汚染が地球の循環の中で消えないもの、すなわち土にかえらない物、かえせない物、燃やして灰にすると毒が出るものは、つくってはならないということだ。人間の手に負えない放射能を出す原発など、一番造ってはならないものである。御三家といわれる三菱、東芝、日立も、状況を読んでか、すでに天然ガス発電の方に力を注いでいるという。

「末期ガン状態」

 まして、槌田さんの話では原発は、すでに技術的にも死に体である。今回は詳しい話は省くが、加圧式の原発というのは、原子炉の中で圧力をかけられ沸騰した320度の水がぐるぐる回っているものらしいが、これには水位計がついていないという。アメリカのスリーマイル島で1回、福井の美浜で1回それぞれ空焚き寸前になる事故を起こしており、今後も同じような事故が起こる危険性は高いのに、今も加圧式原発に水位計が技術的に付けることができないそうだ。また、次の例も美浜の事故の時にあったことだ。細い管が折れ冷却水が一部流失、緊急炉心冷却装置ECCSが作動したが、そのECCSポンプが能力不足で水を十分に供給できず空焚き寸前になった。同じように使いものにならないECCSポンプは、全国に6ヵ所、美浜の1、2号、愛媛の伊方1、2号、九州・玄海の1、2号にあるという。なぜ、直さないかといえば、修理をすれば、ほかの所がもっと悪くなる可能性があるのだという。直す気もないということだ。手術をすれば転移を誘発しかねない末期ガンのような状態なのだ。
 「脱原発グループは、それらのことを知ってるクセに言わないんです。マスコミもECCSポンプが働いて水位が戻ったなどとウソを書く。完全に馴れ合いですよ。ひと押しすれば原発はなくせる状況なのに、脱原発グループが邪魔をしているんです。いらいらしますね」

科学では解決できない

 さらに槌田さんは言う。「放射能の問題は科学技術が、そのうち解決すると言って、見切り発車で原発はスタートしました。しかし、今なお解決しないばかりか原発の技術は止まったままです。反対に石油火力は技術開発がうまく働いて単価がどんどん安くなっていってる。科学技術は使うものであって信じてはダメなんですね。科学技術で解決しようとするんじゃなく、解決した科学技術を使うことが必要なのです」(未完)




[参考図書]いずれも槌田敦著
☆環境保護運動はどこが間違っているのか=宝島社(当時JICC出版局)980円(税込)1992年7月
☆エネルギーと環境〜原発安楽死のすすめ=学陽書房1600円(税込)1993年4月
☆エコロジー神話の崩壊=ほたる出版(1800円+税)1997年12月


大西 純
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