東京電力福島第一原子力発電所の事故は、すべての電源を失ったことで事故が深刻化しましたが、原発の安全対策を示した国の指針では「長期間にわたる全電源喪失を考慮する必要はない」と記述されています。この指針を所管する原子力安全委員会の班目春樹委員長は、NHKの取材に対して、震災が起きるまで全電源喪失を考慮しないことが深刻な事故につながるとは認識していなかったことを明らかにし、指針を全面的に見直す考えを示しました。
国の指針「安全設計審査指針」は、平成2年に原子力安全委員会が改定したもので、全国の原発は、この指針に沿って災害や事故に備えています。指針では「長期間にわたる全交流電源喪失は、非常用電源の修復が期待できるので、考慮する必要はない」と記述されており、こうした防災に甘い記述が今回の事故を深刻化させた要因の1つになっていると指摘されています。これについて、指針を所管する原子力安全委員会の班目春樹委員長がNHKの取材に応じ、「すべての電源喪失を考慮しなくてもよいとわざわざ書いてある。私もうっかりしていたが、今回の事態に至るまでこの文章を気にかけていなかった」と述べ、記述があることは知っていながらも、深刻な事故につながるとは認識していなかったことを明らかにしました。そのうえで班目委員長は「最悪のケースをきちんと想定すべきだった。私自身も勉強不足で大変申し訳ない。指針そのものに間違いがあるわけで、指針を根本から見直す必要がある」と述べました。さらに、班目委員長は、こうした記述が長年放置されてきた背景について「“原子力村”と呼ばれる狭い社会の中で、自由かったつな議論が行われず、くさいものにはふたをするというような、難しい議論を避ける空気があった。今回の事故は人災だった」と述べました。