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[28181] 【習作】ダンジョンループ
Name: 臆病者ソテー◆3afef9b8 ID:eaf8f71e
Date: 2011/06/04 19:06


 気がついたら僕は自分の部屋に居て、そこには僕がいた。

 ……………いや、言っている意味がわからないかもしれないが、僕にもよくわからない。混乱している。異常事態。オカルトな状況が発生しているのだ。
 まず、僕はつい先ほどまで外にいた。それが、いつのまにか部屋に戻って来ている。それがまず一つ目の異常。
 先ほどまで■■■にいたのに…………ってあれ? さっきまで僕はどこにいたんだ? ……お、思い出せない。けれど、僕がこの部屋に飛ばされる直前まで違う場所にいたことは覚えている。
 怖い。この異常の中でついに唯一信じられる自分すらも信じられなくなってしまった。
 急に心細くなってくる。普段はこれ以上ないほどリラックスできる空間だというのに、今はそれが逆に不安を加速させる要素となっている。

「あ、来たんだ。おかえりなさい。いや、……いらっしゃいかな?」

 僕が不安げな表情でおろおろしていると、“先に部屋にいたもう一人の僕”が僕に声をかけてきた。

「えっと……」

「まぁ座りなよ。話は長くなる。立っていると疲れるだろう。なぁに、気を遣う必要はない。ここは君の部屋でもあるからね」

 そういって“僕”はキッチンへとお茶を淹れにいった。
 僕は黙って席につくと、目を閉じて記憶の整理に集中した。
 二三分は経過しただろうか、“僕”がお茶をお盆に淹れて戻ってくる。お茶を僕の前に置くと、彼は僕の対面に腰掛けた。

「さて、さっそくだけど、君、今の状況掴めてる?」

 僕はお茶をすすり、カラカラに渇いた喉を潤した。
 落ち着いてみれば、すんなりと思い出すことが出来た。先ほどまでの記憶の混乱が嘘のようだ。それに伴い、精神が安定していくのを感じる。もしかしたら、このお茶の効能かもしれない。

「……はい。大体思い出しました。……というより、把握してきたって感じかな


―――僕は死んだんですよね?」

 彼は頷き、言った。

「そう、君は死んだ。この東京大地震でね。死傷者12万人、重傷者は……まだちょっとわからないな。こっちが調査するのは死者だけだから」

 東京大地震。数年前からいつきてもおかしくないと言われてきた大地震だ。それがついにきて、そして僕はそれで死んだ。つまりはそういうことだ。
 ただ不思議なのは、僕がこうして肉体を持って(少なくともそう感じる)ここに存在していることだ。

「……どうして僕はここにいるんですか? ここはあの世ですか? もしかしてあなたは天使とか?」

 彼は苦笑して言う。

「敬語じゃなくていいよ。同じ顔に敬語を使われると違和感だ。……そうだね。順番に答えていこう。
どうして君がここにいるのかは、これから説明するが、一言で言えば君がイレギュラーだからだ。
そしてここはあの世とこの世の中間。どこにも影響しない亜空間。一時的に君を隔離する為に、レンタルした。まぁ………広義的に見ればあの世と取れないこともないね。
そして最後に、僕は天使じゃない。君たち風に言うなら………神、あるいは宇宙人、かな? 天使や悪魔でも間違ってないけど、多分宇宙人の方がしっくりくると思うよ」

 一気に質問したのは失敗だった。急激に増加した情報量に頭がついていかない。少しずつ整理していくしかなさそうだ。

「あ〜、イレギュラーってなんですか?」

「イレギュラーはイレギュラーだ。本来の枠から大幅に外れた、意図しない存在のことを指す」

 ……駄目だ。意味がわからない。これは後回しだな。

「なぜ貴方は僕と同じ顔なんですか?」

「重ねて言うが、敬語はいい。フランクにいこう。これから長い付き合いになる。リラックスした関係を築いていかないと、少し大変だろう。
質問の答えは簡単だ。君が僕に似たんだよ。……ただまぁ、問題なのは似すぎたことだね」

「? どういうこと?」

 敬語はいいというので、止めた。それよりも気になることが更にでてきた。僕の方が似ている? 彼が僕の姿をかたどってでてきたわけではなく? 長い付き合いとは一体………。

「有体に言ってしまえば………僕は君のオリジナルなんだよ。君たち風に言うなれば、君は僕のクローンって感じかな」

 僕は一瞬眉を潜めてしまった。

「クローン? ……僕はしっかりと両親が存在するけど?」

 彼は手をひらひらさせて言う。

「あくまでも例えだよ。例え。君に限らず、この世界の人間は、僕たちの世界の存在のコピーみたいなものなんだ。というより、分身って言うか、何ていうか。いい例えが浮かばないな。とにかく、僕たちは君たちの大元だと理解してくれ。ほらよくいるだろう? 妙にそっくりな人たちが。あれは大元になった存在が同じだから似ているんだ」

 そこで彼は何かを思い出したように本棚へ行き、一冊の漫画を取り出した。取り出した漫画は藤崎龍の方針演技である。それの最終巻だ。
 ページを開き、僕へ見せる。開かれたページは、ラスボスが無数に分裂するシーンだ。

「これこれ、こんな感じ、君たちは、僕たちの存在のほんの一部を、更に細かく分裂させた存在なんだ。うーん、一%の2億分の1くらいかな」

「なんだか精子みたいだ」

 何気なく言った僕の言葉に、彼は衝撃を受けたかのように目を見開き、少し興奮したように言った。

「そう! それだよ、まさしくそんな感じ。君は僕の放った2億匹のワンダフルライフの一匹なんだ。
放ったワンダフルライフは、地上で肉体という卵子を求めて彷徨う。うまく見つけられれば着床し、生物という受精卵になるわけだ。
うん。我ながら非常にわかりやすい例えだな」

 彼は自慢気になんども頷く。が、こちらはなんとも複雑な気分だ。なんせこちらは目の前の男のザーメンの一匹と言われたようなものなのだから。

「それで、どうして僕はここにいるのか、そろそろ教えてくれないか?」

 僕が問いかけると、彼は真面目な顔をして頷いた。

「そう、そこで話は戻る。君がイレギュラーだという話だ。
君が僕の精子の一匹という話はしたね? つまり僕は君の父親のようなものだ。だから、その子は父親の形質を受け継ぐ。世の中に似た人間が3人はいるというのはこの為だ。
とは言っても、肉体というもう半分の要素がある為、父親と同じ存在となることはない。ここら辺は君たちの遺伝の関係と同じだよね。
普通は、あぁ、ちょっと面影があるね、程度だ。

君をイレギュラーと言ったのはここ。ほら見てご覧。


僕たち、似すぎているだろう?」


 僕は頷く。ややつり目がちの猫眼。少し高めの鼻。薄い唇。シャープな輪郭……。僕と彼は、鏡で写したようにそっくりだ。

「君はね、もはや僕の何千億分の1スケールの僕なんだ。ただ容姿が似ているだけなら問題はなかった。放置する。当たり前だが、僕たちが死後の君たちに接触することはない。なんせ、数が膨大だからね。

僕が今回君に接触したのは、君が僕に似すぎて、僕の神としての形質も受け継いでしまったからなんだよ」

「形質?」

 僕が問いかけると、彼は頷き、お茶で唇を潤すと続けた。

「そう。俗にいう、魂食らいだ。これは、元々は自分の分裂した存在を回収する為の機能で、当然だが君たちには着いていない。
着いていないはずだが、何故か君にはついてしまったんだなぁ」

 なるほど、それでイレギュラー。

「それで、それの何が問題が?」

「問題は大有りさ。魂食らいをした個体はね、吸収した魂の分だけ強くなれる。当然純粋な力も大きくなるし、寿命も延びる。そんな君が、永遠と魂を食らい続けてみろ。………やがて君は僕たちにすら届きうる」
 なるほど、ね。大体理解した。聞いた話、僕たちは彼らの完全下位存在なわけだ。僕たちが無意識レベルで猿等の他の生物を見下すように彼らは僕たちを見下す。その僕たちが、彼らまで進歩するのは、僕たちにとって猿が急に人間と同等の知能まで進化するのと同じくらい認めがたいものなのだろう。ある種禁忌だ。
 ならば僕たちならばどうするか。簡単だ。そんな個体は処分してしまえばいい。それで終わり。特に、一個体の突然変異なら尚更だ。ならばなぜ、彼らはそうしないのだろうか。

「じゃあ僕を処分すればいい。君たちにとって僕らはその程度の存在だろう」

 この僕の問いに、彼は頭が痛いという風に頭を抱えた。

「そこが問題なんだ。魂というのは、滅することができないんだよ。できるのは吸収のみ。つまり、君を消すには僕は君を吸収するしかないんだ。
するとどうなると思う?」

 なるほど、つまり、そこで僕の特質が問題となるわけか。

「君が、僕の中に吸収された別の存在の魂を、吸収することになる」

「そう、それが問題なんだ。君が肉体を失った瞬間に解放された魂食らいの力。それによって食らった12万人分の魂。それを僕が間接的に吸収することになる。
これは、僕たちの世界では大犯罪なんだ。そちらで言えば、殺人に当たる。だから、僕は君を吸収することはできない」

「まさしく八方塞がりだね。それで、君は僕をどうするの?」

 そう、聞きたかったのはつまるところそれだ。僕をどうするのか。それが聞きたかった。精子だのザーメンだの、受精卵だのはどうでもいいのだ。

「君を別の世界へと送る。そこで君には赤ん坊から1からやり直して貰い、天寿を全うしてもらう」

「天寿を全うするとどうなるんだ?」

「魂が更新されて、魂食らいの力が消えるんだ。食らった魂も解放される。
寿命っていうのは、地上を彷徨ってすり減った、変質した魂が、元の状態まで復元されるまでに必要な期間のことなんだ。だから、君には天寿を全うしてもらいたい。然るのち、僕が君を回収する」

「なるほど、話はわかった。で、どうして違う世界なんだ? ここでもいいじゃないか」

「君みたいなイレギュラーや、僕たちの世界の犯罪者を無数に砕いた存在を隔離する世界があるんだ」

 なんだ。刑務所か。荒れた世界っぽい………。

「心配しなくてもいい。そこが刑務所なら、ここは少年院みたいなものだから。ぶっちゃけ大差ないよ」

「あ、そうなんだ」

「転生に当たってだけど、一つだけボーナスがある。というか、魂食らいを発動させないための機構だね」

「何かな? 漫画の力が使えるようになるとか?」

 神様テンプレの基本だろう。

「いや、死ぬ直前に、死亡フラグが立つちょっと前まで戻す。君の力は、肉体が死に至ると発動するから、死なないようにサポートする必要があるんだ」

「? 意味がよくわからない」

「つまり、だ。君が撤退の殿を勤めたとする。その際に「ここは俺に任せて先に行け!」等の発言をする。そして死ぬ。その瞬間、僕は時間を巻き戻し、君が発言する直前に戻す」

「あ、なるほど、すごいわかりやすい」

「お分りいただけたようで幸いだ。それじゃあ準備はいいか? 数年は自分で下の世話ができないから、今のうちに立って小便ができる幸せを噛み締めた方がいいぞ。あ、精通も数年後だから今のうちにオナニーをしたほうがいいかもしれない」

「余計なお世話だ。自称神の割に下ネタが多すぎるぞ」

「君も好きだろう?下ネタ」

 まぁ正直嫌いではない。
「そもそも神はセックスを奨励している。産めよ殖やせよ人間ども。沢山子作りして卵子を増やしてくれ」

 自称神は、人差し指と中指の間に親指を入れて拳を握りしめるというなんとも卑猥なジェスチャーをして、無駄に満面の笑みを浮かべて言った。
 これが神か。もう駄目だな、この世界。


「もう早く転生させてくれないか? 君と同じ空間にいるのは正直苦痛になってきた」

「ふっ。君もいずれ気付くさ。長く生きると、娯楽はセックスぐらいしかないということにね」

「早くしろ!」

「では良い人生を。じん ふたなり君」

「そうせいだ! そうせい。神 双成だ! わざとか!」

 まばゆい光に呑み込まれ、薄れゆく視界の中、最後に見たのは、奴の妙に苛つく笑顔だった。



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