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[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第107話。更新。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2011/06/04 17:45
真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第0話

はじめに

注意


うp主は文章書いたことありません。
国語は常に成績1か2です(一番下
時代・世界・年号などの考証もまったく無いです。きっと。
文章力?ははは、こやつめ。
思いついたことだけを書いてるような稚拙な作品です。   
当初はこんな作品になるとは思いもしませんでした。
ギャグになるの・・・かな?シリアスのシの字もありません。本当なんだから! 
話の辻褄を合わせるために無理やりな部分も多いです。
このSSではオリキャラはほとんど出てきません。そう思っていた時期が私にもありました。むっちゃ出てきてます。
最初はそれほど主人公が強くもないので俺TUEEEEEEな無双にはなりにくいはず。   多分。
でも馬は強いです(?)
一刀?誰それ?おいしいの?
史実を折り曲げたりするのが大好きですが地味に史実設定を盛り込んでアーッ!
ベースは恋姫です・・・よ?
ご都合主義・・・ですよ?
最後の最後に禁じ手使用して見放される可能性極大。
ソレがいやなら回れ右を推奨DEATH。
こんな駄作でもお付き合いくださるとありがたく思います。
最後に。
批判はかまいませんが、ただの誹謗中傷をする方に読んでいただきたいとは思いませんし、そういった感想を残す方もいらっしゃいますが、それは感想ではなくただの嫌がらせです。
そのような方は万人を楽しませる作品でも何でも書いてください。
別に止めもしませんので。
というか、感想残さず帰ればいいじゃない。


それではどうぞ!





~~~ぷろろぅぐ~~~

面倒なことは特に何の前触れも無くやってくるものだ。
 
気がついたら赤ん坊になってました、俺。
俺、普通に社会人です。会社行って働いて家に帰って食って寝て会社行って。の現代社会の負のスパイラルの中で疲れるだけの日常を送ってる人のはずです。
転生というのか?・・・それとも夢見てるのか?俺死んでないよ?普通に寝たの覚えてるし。
でもなぁ、夢にしちゃ随分世界の作りがしっかりしてる。
夢だったら第三者的な視点で状況見えたりするはずだし、唐突に世界が切り替わったりなんてこともざらだ。
そーいうことも無いしな。
そもそも、体があまり言うこと聞きません。
天井見てることしかできないんですよ。
言葉も喋れない。おぎゃーおぎゃーと泣くことしかできない。
どう考えても赤ん坊。
夢であって欲しいよなぁ・・・。
で、俺が赤ん坊と仮定して、前世?これが未来かどうかまでは解らないけど、俺がいた時代の記憶もおれ自身の記憶も残ってます。
やっぱ生まれ変わり?でも待て、やっぱ夢の可能性も。
うあ、眠い・・・・・・あとお腹すいた。
「おお、元気な男の子じゃないか!」とか「ええ、無事に生まれてきて本当に良かった・・・」とか周りで仰ってますが眠気に負けました。視界暗転。

で、次目覚めたとき、いかついおっさんが俺の顔見てるわけです。
「おお、目を覚ましたぞ!?」

誰ですかあなた。
俺、このおっさんに抱き上げられてるんでしょうか。
背中に布団の感触とかないです。
背中に腕の感触ありますが、なんか浮遊してる感じ。
「あなた、あまり乱暴にしないでくださいね?それと」
「おお、すまんすまん。」
というお話をしてます。

で、おっさんが女性に俺を渡して・・・あ、この女性偉い美人。
話の流れで行けばおっさんが父親でこの女性が母親なのかなぁ。
で、俺を抱いてる女性が胸をはだけて・・・・・・ナニシテルノ?
うおおおおい!おっきなおっぱいが近づいてくる!!
これもしかして授乳とか言うものうわああああああ柔らかーい。

OK、落ち着くんだ俺。今の俺は赤ん坊。母親は俺に母乳を与えてるだけ。
吸えば良いんです。そうじゃないと俺栄養不足で死ぬし!

以下略。

そんなこんなで、しばらく時間が経って・・・・・・やっぱ夢じゃない。
いつまでたっても赤ん坊のままですよ。
父親が俺を抱き上げる。母親が子守唄を歌ってくれたりする。
聴覚・嗅覚・味覚。その他諸々。
最初にも言ったけど夢にしちゃ感覚がリアルすぎる。
夢だったら嬉しいのだけどね。でも俺のこと見つめて嬉しそうな父親とか母親の顔見てると、現実でもいいかなとも思っちゃうわけで。
本気で嬉しそうだもん、この人たち。
いかつい顔してるけど俺を抱き上げてるときは嬉しさのあまり顔がにやけてる父親。
でもって、柔和そうな、そのうえすっげー美人でやさしい母親。

参ったなぁ。
でね、話し変わるんだけど赤ん坊って本当不便。
意思疎通がまともにできません。ほとんど自力で移動できません。
泣いて意思を伝えることしかできんのですよ。お腹が空こうとお手洗いだろうと。

以下略。

そして1年が過ぎ2年が過ぎいつの間にか10歳を超え・・・。
なんとなく解ってきたことがあります。
まずここ。国は中国みたいです。
父上が洛陽がどうとか西涼がどうとか言ってるのが聞こえました。
中国といえば三国志くらいしか思い浮かびません。
ゲームとかでけっこう齧ってるし、武将の名前もかなり暗記してます。漢字書けないけど。
言葉は・・・。「俺中国語喋れないよ、どうしよう」とか思ってたんですが、なんか普通に理解できます。
俺が生まれたときに父上が「目を覚ましたぞ!」とか言ってるの理解できちゃったんだよね。
どうして日本語なんだろうと思いますが、考えたところで解らないので無理やり「あー、そーいうもんなんだ」と思うことにしました。


あと、この家は「高」姓で俺の名は順です。



つまり俺の名前は・・・・・「高順」。













マヂデスカ?








~~~楽屋裏~~~

どうも、恥めまして。
UP主のあいつです。
やっちまった、投稿しちゃったよ。こんなお目汚し確定作品をorz

それは置いといて。

プロローグなのであまり長めにしないように、と思って書いたんですが・・・・・・短すぎるような気が。
本当ゴメンナサイ。 
色々と描写が足りてないと自分でも思いますが・・・足りないところは脳内補完をお願いします(オヒ
主人公視点のみで綴られてるわけではないので混乱するかもしれませんが、ご容赦を。
ご意見・ご感想お待ちしております。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第1話(少しだけ修正)
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/02 23:50
高順伝 第1話 幼年期すっとばしてもう大人。

時は後漢、霊帝の時代。
場所は并州、上党。

ここに1人の男がいる。
歴史に名前を残さないだろう、多くの人に知られるわけではないだろう、しかし確かに存在した男が。
彼の名は高順。
飛将と呼ばれた、後漢最強の将「呂布」の元で戦い、時代を駆け抜けた猛将――――


の、はずだったんだけど・・・・・・。



~~~并州・上党~~~

政庁のとある一室。
椅子に座った1人の男が自分の目の前にある机に山積みにされた竹簡を見てため息をつく。
(あれだけこなしたのにまだこんなに残ってるのか・・・・。)
黒髪をざんばらに刈り込んでいるものの、前髪が眼を覆ってしまいそうなほどに長い。
身長は173か4センチ程度。この時代で言えば7尺5寸程度。
この時代の中国であればまあ、高いほうである。
体つきは割りと筋肉質で、こういった・・・・書状やら書簡やらの問題を片付ける手合いの文官にはどうも見えない。
文官の仕事をしていると言うのに安っぽい兵士の鎧を着たままだ。
やはりどう考えても文官には見えない。
それは本人も理解しているところだが、主君に「やれ」と言われた以上・・・・・

嫌だと言ってもやらなければいけないのであった。



「高順ー。兵糧の計算できたー?」
「ああ、計算して数出してあるから。あそこに置いてある竹簡持ってってくれ。」
部屋に入ってきた女性兵士のほうを向くことなく高順は返事をする。
竹簡に眼を通し、数に不備が無いか確かめる。
今こなしているのは今期の兵糧の支出と、金銭的な収入、それに付随してくる諸々。
兵糧が減ったのならまた買って増やせばいいのだが、どうにも収入が安定しない。というか減っている。
(やっぱ、人が少ないんだよな・・・。少ないってことはそれだけ収入が減るし、作物の出来高にも悪影響・・・いや、何で俺みたいな立場の人間がこんな心配を・・・)
そこまで考えたところでまた別の、今度は兵士ではなく男の文官が部屋に入ってきた。
「高順、武具と馬の数がどうも合わんのだ。一度見てやって欲しいのだが。」
「だぁぁあああっ!なんで俺にそーいう仕事持ってくんの!?ほかに算術できる人はいないの!?あと一度に仕事持ってこないでください!!」
「ひゃっ!?」
いきなり叫んだことに驚いたのか、女性兵士が運んでいた竹簡を取り落とす。
「びっくりしたなぁ、もう・・・。いきなり叫ばないでよ、驚くじゃない!」
「ご、ごめん・・・。」
こんなやり取りを聞いてた文官が苦笑しつつ「すまんな」と言う。
「いないわけではないが、忙しい。そしてお前が一番正確に、かつ早く終わらせれる。」
「俺だって忙しいですよ!?この机の上に溜まってるものが見えますか!?これから訓練がありますし!他の人にも数え方教えてありますよ!?」
「まあそう言うな。時間が無いのですぐに頼む。あと訓練も遅れるなよ。」
「無理だろ常識的に考えて!誰か助けてー!」


どうも、高順です。



一兵士なのになんで兵糧計算とか物資点検とか1人でこなすんでしょうね?
普通は訓練一筋でしょう。こーいうのは文官さんの仕事なのに。


ただ・・・この時代、普通の兵士は文字の読み書きとか簡単な計算とかできない人が多かったようです。
蜀の名将の1人、王平も文字の読み書きできなかったという話もあるくらいです。
そして、何故か志願とはいえ兵士になってる俺。
なるつもり無かったんですよ?警備兵として働くのが目的だったんですよ?
なのに何故なったかって?

母上のせいですorz


うちの大将・・・・丁原さんって言う人ですが、兵士募集の立て札たてた時にですね、「志願兵のほかに文字の読み書き、簡単な計算ができる者も求む」
という項目を追加してたんですよ。
立て札立てると言うか、兵士募集するのは刺吏の仕事じゃないですけどね。
それ見た俺が父上と母上に「そんな立て札たってたよー」と言ったのです。
それが自らの首を絞めることになるとは思わず。
「お前は教えたことも無いのに算術を理解してたし、少し教えるだけで文字を覚えた。志願してみてはどうか?」とか言い出しましたよ。 
「嫌です、俺は父上と同じように警備兵になるつm」
「なりません。このような時のために母はあなたに武を教えたのです。あなたとてこのような田舎で終わるつもりは無いでしょう?」
「いえ、望むところdヘブゥッ!?」
「終わるつもりは無いでしょう?」
「いや、むしろ終わらせtハブゥッ!?」
「無・い・で・しょ・う!?」
「・・・・息子よ、従うのだ。兵士になる前に死ぬぞ?(小声で」
「無いですよね?」
「・・・はい」
「ま、まあ・・・息子よ、お前の武芸の腕は相当なものだ。よほど無茶をしない限りは大丈夫だろう。」
「はぁ。」


そんな流れでした。母上にむっさ全力で殴られました。
ちなみに警備兵になりたかった理由。
簡単なことで「このまま行くと俺死ぬことになるだろ?」と言う事です。
丁原さんは義理の息子である呂布に暗殺されます。(史実じゃ親子じゃないよね)
そして高順はその後呂布が死ぬまで部下として従い、そして呂布に殉じて処刑された人です。

俺がその歴史上の高順と同一人物になるのかどうかは知りませんが・・・このままだとそうなる可能性もあるんですよ。
なので自分の死亡フラグべっきぼきに折りたたむために警備兵。
他の職業も考えたんですが、商人とかいうのは柄じゃないし。
母上に相当鍛えられたんで、そこらの人々よりは強い、ということを鑑みての考えだったのですが・・・。

生存フラグを母上に叩き折られました。

嫌だ、死にたくない・・・orz

で、志願兵として申し込みをしたところあっさりOK。(計算ができるとかは言いませんでした。余計な仕事回されても嫌だし。)
人材が足りないという事もあったんでしょうが、そも兵士の数がそれほど多くないみたいです。
やっぱ戦乱の時代ですしね。少しでも多く兵士が欲しいのでしょう。
え?計算とか文字のこと言ってないのに、何故一番最初の状況になってるのか?だって?
・・・少し前の話になるんですが、訓練中に「馬の数が合わないー!」とか叫んでる物資確認役のおじさんがいまして、「早くしないと丁原様ににお仕置きされてしまう!」とか言ってたんです。
で、放置すればよかったんですが涙目になってたので少し可哀想だと思ってしまって。
数え方聞いたら「1頭ずつ数えてる。」そりゃ時間かかります。
なので少しだけ知恵を貸したのですよ。

「たとえば10頭ずつ並べて、10頭を1として、それがどれだけ出来るか計算すれば少しは計算速くなるんじゃないですか?」
「それだっ!」

確認役のおじさん、喜び勇んで確認に向かいました。
簡単な掛け算ですよ。
こーいうことがまだ解らない時代・・・だったのかなぁ?
そこらへんの商人のほうが余程頭が良くなるぞ。
ま、あのおじさんの頭の出来がそれほどじゃない、ってことで納得しました。
これで話が終わるはずだったのに、その後丁原様に呼び出し食らいました。
最初に上官が呼ばれてたんですが、どういうわけか俺自身にも呼び出しがきたんです。
何かお知らせがあるのならどんな用件でも上官を通じて来ると思うのですが・・・・わざわざ本人を呼ぶなんてね。
で、上官曰く「お前に直接会ってみたいと仰せだ。」と。
そして「俺何か悪いことしたかなぁ?」と考えつつ太守の執務室へ向かうことに。

~執務室~
大して広くも無い部屋に、申し訳程度の調度品が置かれている。
それなりに品のいい机に乱雑に置かれた書簡の束。割と高級な絨毯。
そしてその机の向こうに丁原・・・・并州の刺吏がいた。
窓の方を向き外の景色に眼をやっている。
白く、長い髪を腰あたりで綺麗に切り揃えているのだが、政務の真っ最中のはずなのに何故か鎧を着込んでいる。
ここから見える風景は、それほど良いという訳ではない。
活気はあるが乱雑に建てられた家々。
汗を流し、訓練を続ける多くの兵士達。
だが、彼女自身はこの風景を気に入っていた。
自分が与えられ、守り、大きくしてきた場所だ。
他国から見れば裕福でもなく、土地の実りも少ない。
あるのは山国に近い故にその方面で鍛えられた山岳騎兵や、賊の横行する中で戦い、実戦で鍛えた兵士ぐらいなものだ。
他者に自慢できるようなものなど何も無い。
それでも、彼女はこの風景が、そしてこの地が好きだった。
そこまで考えたあたりで入り口のほうから声が聞こえてきた。
どうやら、先ほど呼びつけた者が来たらしい。



「かまわん、入れ。」
と返事が返ってきたので俺は入り口を開け、失礼します、と言いつつ入室する。


ここで初めて丁原様を間近で見たんですが・・・女性です。
歳は30代前半ってところですが、割と美人です。
武将っぽくて・・・というか完全に猛将な感じで官吏っぽいところがまったく無いです。
この人本当に刺史なのだろうか?
いや、ここ政務室なのになんで武装しておられるんだろう、俺何かやった?
そんなことを考えてたら、丁原様が
「よく来てくれた。すまんな、訓練中に。お前は・・・高順と言ったな。物資確認任せた奴がお前に随分感謝してたぞ。いつもより早く終えることが出来た、と。」
「いえ、そんな事は・・・。なんだか、お仕置きされる、とか叫んでおりましたので。」
「お仕置き?・・・はは、少し叱る程度なのにな。大袈裟な。」
と言って丁原様は苦笑する。
あのおじさん、俺の名前出したのかな?とも思ったんですが後で聞いたところ俺の上官に名前と顔を確認してもらって、丁原様に報告したのだそうな。
余計なことを。
「今、我が軍は人手不足でだな。」
「はあ。」
「少しでも多く人材が欲しいわけだ。文武に秀でた者がな。」
この言葉に俺は少しだけ、違和感を覚える。
丁原様は一応、中央。つまり、後漢王朝から正式に并州の刺史に任命されてるからだ。
丁原様が刺史になる以前にも他の刺史がいたし、県令と言う・・・俺がもともと生きてた世界で言う市長とか知事とか、そういうものに該当するはず。
太守、というものよりもっと上の立場だ。人手がそこまで不足するとも思えない。
「あの、身分を弁えずの言葉ですが。宜しいでしょうか?」
「うん?構わんぞ。言ってみろ。」
「本当に、人材が少ないのですか?」
「・・・ふむ?なぜそう思う?」
「いえ。立て札に計算や文字云々が書いてありましたので。」
「ほう、そこを見ていたのか。ならはっきりと言おう。少ない。中央に近い場所や、栄えている土地であればいざ知らず。このような田舎ではな。」
「そんなはずは無いでしょう。刺史といえば太守などより格上の存在。郡を束ね太守を束ねている存在ですよ?小さな郷にだって人がいない訳ではない筈。それなのに」
「解っているさ、それくらいはな。」
少し苛立ったのか丁原様の声が少し荒々しくなる。だがそれは俺に向けての怒りではないようだった。
「・・・いや、すまん。」
「いえ、申し訳ありません。一兵士の分際で・・・」
「構わぬ。そもそもお前に怒ったわけではないしな。」
ふう、とため息をつき丁原は話を続ける。
「さて、お前の疑問に答えてやろう。なぜ人手、いや、人材がいないのか?ということだ。簡単さ、人が少なくなってきているだけだ。」
「人が少ない、ですか?」
「ああ、ここのところ太平道というものが民の間で流行っていてな。知らないか?」
「・・・名前だけなら。」
きたか、このイベントが。もうそろそろ来るかなぁ、とは思ってたけど。
太平道。黄巾の乱。
三国志を知ってる人間にとっては「ここから三国志が始まった」と言えるほど時代を動かすきっかけになった争乱だ。
「教祖が張角というらしいが。どんな手を使ったかは知らないが民を手懐け、手勢に加えてしまうのだそうだ。自分の住んでいる土地を捨てるわけにも行かないから全部が全部とは言わないが。」
全く、忌々しい。と、丁原が悪態をつく。
なるほど、そうやって民が離散するってことか。
でも史実じゃ病を癒したりとかしてたと思うのだけどな。作物が不作だったり、賊に襲われたりとかいろいろな要因もあるはずだけどね。
「中央から回されて来る人間も、全員というわけではないがな。たいしたことの出来ない連中ばかりでな。保身に回るわ収賄を繰り返すわ、その上で仕事をしないわでこっちの苦労が・・・うぐぐっ」
胃のあたりを抑えて丁原が呻く。
「だ、大丈夫ですか?」
「案ずるな。くっ・・・くそ。つ、つまりだ。計算できる奴がいてもそいつは中央から来る人間ばかりで、仕事をまともにしない。人を集めようにも、人がそもそもいない。だから負担が増えていく。きっちり仕事をする奴もいるが・・・どうにもな。」
心の中で(ああ、官吏としての才能はなさそうだけど人の上に立ってるんだよな。苦労も多いのだろうな)とか考えながら俺は口を開く。
「だから自分で集めれる人間からそれなりの人材が出てくれれば、ということですか?」
「そうだ、お前だってわかる筈だろ?たかが馬の数を数えるだけだぞ。実際の数と合うかどうか。それだけの仕事をあれだけ時間がかかって、まともにできん者ばかりなのだ。そこいら辺の商人にすら劣る。」
「むう・・・。」
「もっとも、拒否することは許さんぞ?文官に似たような仕事だがこれも嫌でもやってもらう。」
そりゃそうだろう。この時代に人権というものは正直に言うと無い・・・いや待て。ちょっと待て。
「あの、丁原様、もう1つ質問です。」
「何だ、質問の多い奴だな。」
「今、文官に似た仕事「も」とか仰られました?」
「言ったな。」
「俺・・・じゃなくて、私は兵士ですよ?訓練とかするんですよ?そこに更に仕事ですか?」
「ああ、案ずるな。そこまで難しい仕事はお前の元には行かない。さっき言ってた軍事物資の計算とかその程度だ。給料もその分支払う。」
「・・・。えーと、たかが兵士n「うるさい黙れ」申し訳ありません。」
「まったく、男の癖にうだうだと。案ずるなと言ったぞ?決済やら住民の嘆願書やらの処理を任せるわけじゃないんだ。さっきも言ったが簡単な計算さ。」
簡単なんてさっき一言も言ってねえじゃん!
でも、何言っても聞いてくれそうにないよこの人。俺にやらせる気満々だし。
「解りました、やらせていただきます・・・・・・。」
「うむ、そう言ってくれると思っていたぞ。」
「無理やりの癖に(ボソリ」
「ん?何だ?」
「いいいええええ、何でもありません!・・・あ、そうだ、ついでにもう1つ」
「またか・・・。今度は何だ?」
「馬の頭数、実数と計算された数と合致したんですか?」
「合ってなかった。」
「・・・・・・。えーと・・・。」
「まあ、誰かがちょろまかしたのかもしれんな。良くある話さ。」


いや、駄目だろ。良くあることって・・・


そして、結果的に最初の状況になってるわけです。
最初はただの計算って言ったくせに。
無謀だろ、兵糧の支出計算とか・・・。






追伸:父上の言う「お前の武芸の腕は相当な・・・」というものですが、母上にみっちりと仕込まれました。
剣。槍。弓。馬術。その他。

自分の身は最低限自分で守れるように、という配慮でもありますが、こうでもしないと生きていくのが辛い時代なんです。
もう少しすれば住む場所によってはある程度安定してくるんでしょうけどねえ。

で、母上。チートすぎます。
最初は父上から教わったのですよ。
素手での護身術とか棒術。
警備兵になるつもりだし、そこまで強くなくてもいいのだろうな。
と思って教わってたんですが途中で母上が「あなたも男の子なら剣くらい使えなくてどうします!」とか言い出してそのまま教師が父上から母上にバトンタッチ。
マヂスパルタだった・・・。地獄の日々です。あんなに柔和で優しい母上が特訓のときだけはまさかの鬼教官。

まずは体力作りの走り込みから始まって筋力トレーニングやらされて剣の素振りとか槍の使い方だとか馬術とか。
これが基本の形ですから更にいろいろな要素増やしてくれます。
あと父上警備兵で、給料も多いわけじゃないのに母上が馬買って来たのには驚きました。
「なんで馬あるの!?高いのに!維持費どうするのさ!?」と叫んだのですが母上曰く「こんな事もあろうかと」ずっと昔からヘソクリしてたみたいです。
その影で父上泣いてましたけど。
維持費とか購入資金のために小遣い削られてたんだろうな。

そして何度か手合わせしたんですよ。
でも全戦全敗。剣でも槍でも弓でも。
どれ1つとして母上に敵いませんでした。
兵士としてお勤めする前日にもう1度だけ手合わせしたんですが、やはり勝てません。
服に掠らせるだけで精一杯でしたよ・・・。


・・・母上が兵士になってれば良かったのでは?


~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。
プロローグだけでは駄目かな?と考えて1話も投下します。
最初に書いたものは分量が少ないので色々書き足してみたのですが・・・グダグダもいいところです。
とりあえず、この場で書きたかったのは丁原さんところの人材不足 です。
でも、こんな低レベルな計算ができないような時代ではなかったと思いますけどね・・・w
あと、この時代の女性はやっぱチートです(ぁ
ご感想、お待ちしております。




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第2話 楽屋裏のみ言い訳と言う名の修正
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/01 22:39
どうも皆さん、高順です。

俺の役職、レベルアップしました。
どんな風に?

兵士→兵士(物資点検も兼ねる)→親衛隊という名前の丁原様の小間使い



なんかどんどん兵士から離れていく・・・死亡フラグ折るはずが全然違うほうに行く・・・orz



第2話 やっと話が前に進んだ。俺の苦労も加速度的に増えた。





小間使いになった理由、というのは簡単なものでして。
自分の仕事をせこせこやってたら、丁原様に「身の周りの仕事を助けるのが欲しいからお前やれ。」
少し前に物資点検やれ、と言ったのにもうジョブチェンジですか。フリーダム過ぎる。
この人横暴なんだけど逆らったら殺されかねんし、逃げたら逃げたで家族に迷惑かかるしなぁ。
兵士になる前から逃げろといわれればそれまでだけど・・・。
母上が地の果てまで追ってきそうな気がします。

ま、フリーダムは置いておくにしても、小間使いです。
物資点検はどうなったって?
それは俺が不要になっただけです。
俺に色々仕事頼んでくる人もいれば、どう数えればいいの?と聞きに来る人もいるんです。
それに対していちいち対応してればそれこそキリが無いのですが・・・。
いちいち教えていくうちに、聞きに来てた方々も内容を心得たみたいです。
掛け算割り算の仕様を覚えてくれたんだろうな。
そしてそれを他の人々に伝えていったらしいので、簡単な計算できる人が多くなりました。
そうなると、必然的に俺の仕事が減っていきます。
そこに目を付けられたようで「お前暇だろ?いや暇に決まってる。だから私の仕事を手伝え。」

なんつー俺様主義ですか、丁原様。
ちなみにどんな仕事かというと・・・。
「おい、高順。酒買ってきてくれ。」
「高順、酒のつまみがないぞ。ほかに無いのか?」
「ううっ・・・昨日は飲みすぎたか・・・高順、水もってこい・・・・・・」
「高順、この書類に判子押しとけ」
・・・ぜんぜん兵士としての仕事してないんですけど?
あと、判子は本人で押してください。

だから小間使い。最初は秘書?とか思いましたけど、買い物いきーの酒仕入れーの以下省略。

ちくしょう|||orz

そんな関係が半年続き1年続き。丁原様の声色1つである程度何して欲しいか理解できるようになりました。
慣れって怖いなぁ。
1年ほど側に仕えて解ったことも色々あります。
まず、丁原様。武人としても指揮官としても優秀ですが官吏としてはそれほどじゃないです。
ただ、人を差別しない方ですし身分に捉われずに意見を聞いたりもしてくれます。
政治方面に自分が向いてないというのも自覚してるようで、周りの意見に頼りたがるっていう側面もありますが部下としては仕えやすい部類ではないでしょうか??
こういう人だと解ってれば・・・。いや、やっぱ斬られるような気がする。
まあ、側で見ないと理解できない面も多々あるものです。

前にも、
「なぁ、高順。」
「はい?何でしょう?」
「もっと、農作物の出来がよくならんものかなぁ・・・」
というやり取りがありました。
そういえば、このあたりの時代で・・・・韓浩ですっけ?流民を引き入れて農業に従事させるという屯田制度を曹操に提言した人がいます。
王朝の末期になると大抵反乱やら賊の横行やらで農作物の出来が悪くなり、先祖伝来の土地を離れて一村まるまる人がいなくなる、とかそういうことが多いのですよ。
もちろん、今の後漢もそうなのです。実際には前に丁原様が言ってた「人が少ない」時代とでも言いますか。「人が土地に集まらない」と言っても良いのかもしれません。
屯田というのは軍屯と民屯という2つの状況がありまして、今は軍屯のほうが主流です。
その流れを民屯へ向けたのが韓浩さんという訳。
俺自身も物資点検という名目の文官さんの仕事押し付けられてたのでその辺りは憂慮していたところです。
韓浩さんの言ってたのと似たようなことを言いました。
「この地域に限らず、流民が多いから引き入れましょう。最初の2年か3年は税なし、農具はこちらから貸し出し、牛馬を自分で持ってきた人は税率を下げる。という形で。」
「悪くない案だと思うが流民を引き入れることができんぞ?彼ら全員を受け入れる食料もないし、土地も無い。」
「全員でなくても良いのです。街の外には荒れた土地がいくらでもあるでしょう。少しずつ開墾していけばいいのです。収入が増えていけば少しずつでも街の規模を広げて、開墾地を増やしましょう。」
「ふむ・・・しかし、それでは最初のほうは収支が減るのではないか?」
「引き入れてから1年2年は収益が少なくなるかもしれませんが、長期的に見れば必ず収入は増えます。生産力が上がれば軍屯だけの今より食糧事情を改善できると思います。」
「ふーむ・・・。だが荒れてる土地と解ってるんだぞ?肥料はどうするんだ?そんなに大量に用意できるわけではないぞ。」
「馬や牛、鶏の糞を使用する物は時間がかかりますね・・・草や木を燃やした灰でもある程度代用できます。」
「灰で?ほう、それは初耳だな・・・。」
「あとは魚を干し、それを砕いたもの。石や貝殻、それと骨を細かく砕いたもの。こういったものを混ぜ合わせれば肥料にもなるんです。ただ、灰や石を砕いた物を使う場合はたい肥なども使用しなくては土地が痩せていきますけど・・・。」
「おい、高順。」
「はい?」
「お前、そんな知識をどこで得た?」
「え・・・、あ。その、それは・・・。」
…しまった。調子に乗りすぎたか。
この時代にある知識かどうか考えて言うべきだった。
灰や魚粉ならともかく、石やら貝殻が肥料の代わりになるなんてこの時代の人々が知るはずも無い。
「いや、そのー。前にどこぞの本にそんなことが書いてあったような無いような・・・。」
やばい、ぜんぜん言い訳になってないよ。どうする俺。
「・・・まあ、いいか。どこでそんな知識を得たかは知らんが・・・使い物になるんだな?」
「は、はい。間違いありません。」
丁原は、ふふ、と少しだけ笑い、高順の目を見て言った。
「お前の案、採用しよう。しかし結果が出なければ・・・。」
「もちろん出せます。ただ、結果が出るのはどうしても先になってしまいますが。(危なかった!追求されたらもう本当どうしようかと!)」

と、こんなやり取りをしたのです。
正直めっさ疑われてると思います。
でも、一応はやらせてくれるんですよ。
一度やらないと結果が出るかどうかすらも分からないですからね。
あれ、やっぱ仕えやすいじゃん?

その後も色々とありました。
肥料作ってる人々に意見求め、改良点が無いか調べたり、丁原様が贔屓にしてる酒処の酒(酒処・桃園とかいう名前。どっかで聞いたような)を買い求めたり、流民を少しずつ領内に引き入れて、土地を耕して、酒処(ry
あと、流民を引き入れて、開墾して。肥料撒いて。
大変でしたが1年後2年後が楽しみです。
あと、個人の欲求としてですが味噌汁欲しいです。確か大豆から作るはずだったから・・・。
材料何とかなるかな?とか考えてたり。



・・・やっぱ兵士として働いてないような。
とか考えてたらまたも丁原様から呼び出しくらいました。
何かやったかなぁ?と考えて政庁に向かったのですが開口一番、
「そろそろ兵士として働きたいだろ?いや働きたいに決まってる。そこで賊の討伐に向かう。賊討伐の嘆願書も近隣の村々から幾度か出ていたし、兵の訓練の成果も見たい。てわけで準備しろ。」



俺の死亡フラグ、再び。
本来ならこんなところで死なないから大丈夫だよね・・・?

そして何がなにやらわからぬままに出陣用意。
軍需物資や輜重の用意などは専用の文官さんがやってくれるので楽チンです。
俺のやることといえば自分の装備とかきっちり確認するくらいなものです。
ただ、用意だけで数日かかるのは仕方ないですね。
つれてく兵士の数がそうは多くないからまだ楽なほうですが。

そう思ってた時期が俺にもありました。

出陣1日前のこと。
政庁にて。
「おい、高順!」
「はひっ!?何ですか丁原様!」
「こんなところで何をしてる!」
「何って・・・自分の用意が終わったので何するかな?と・・・」
といいつつ俺が持ってるのは濡れ雑巾。
だって掃除してくれる人少ないんだもの・・・。
濡れ雑巾で汚れてる壁とか床を必死こいて拭いてます。
今度、パートタイマー制度の導入を進言してみよう、うん。
明日出陣だというのに随分と気楽だなぁ、と自分でも思いますけどね。
・・・現実逃避してるだけです。
「そんなもんは他の誰かにやらせておけ、お前にはもっと大事な仕事がある!」
「いや、ほかに誰もやってくれないから自分でyメメタァッ!?」
「口答えするな!」
めっさ全力で殴られましたよ、ええ。
母上を思い出します。下邳で処刑されるより暴力で死にそうですが・・・逃げれないよなぁ、きっと。
「ううっ・・・だ、大事な仕事って何ですか?」
頬をさすりながら呻くように聞いてみる。
実際一兵士のやることなんかそうは無い物だ。
自分の武具を用意して出陣を待つだけ。
戦闘になったらそりゃ大変なんだが。
でも、本当に何か大事な仕事あった?と考えてみる。
・・・駄目だ、思いつかん。
「申し訳ありません、何も思い浮かびません。」
この言葉が癪に障ったのか、いや、もともと機嫌が悪いからか、丁原の表情が険しくなる。
「ええい、気の利かん奴だなっ・・・。酒だ、酒。酒を買い占めて来い!」
この発言にはさすがに驚きです。
明日出陣なのに酒盛りする気ですかあなた。何処の酔っ払いかと。
「あの。酒買い占めて来いって?桃園の酒なのは解り切ってますが、明日出陣ですよ?今日酒盛りするつもりなんですkパウッ!?」
「だーれーがー今日酒盛りするといった!?出陣中に私が飲む酒が無いだろうが!?」
いや、兵士に与える酒で我慢しろよ・・・。と思ったがこれ以上は言わないでおこう。死ぬかもしれん。

割と何事にも無頓着な主君ではあるが、酒・・・とりわけ「酒処・桃園」に対しての拘りは半端ではなかった。
高順はあまり酒を飲まないので他の酒とどう違うか全く解らなかったが、本人曰く「他の酒よりも飲み慣れてる上に、いい酒でな。少し味が変わっただけですぐ解る。」
それの何がいいのか解らないが、「味が変わればその良し悪しを判断できる。旨くなってればよし、不味くなれば一言言いに行く。あそこの主とも長い付き合いだ。ある程度わがままを通せるんだよ。」とも言う。
付き合いというわけではなく、ある程度気心の知れた間柄というところか。
そのあたりは自分に合う味にしてくれるから、と高順は解釈していた。しかし。だからって。
「しくしく・・・何も殴らんでも・・・・・・。」
「私はな、桃園の酒意外口にするつもりは無いぞ。無論、戦いの最中は控えはするがな。そういうわけだ、とっとと買って来い。」
ほんっきで俺様主義だな。なにが「そういうわけ」か全然解らんし。
自分で行けよ、と思うが正直に言うと小間使いなんだよな、俺。
これ以上口答えしても全力で殴られるだろうし、痛いの嫌だから従おう。
「解りましたよ。そうですねえ・・・3,40瓶あればいいですか?」
「買い占めろといっただろう?まあ、あまったらそれはそれで構わん。帰還した後で飲む。」
独り占めか、この人は。
「はぁ。では行って来ます。」
「おう、早く行け。」

こんな緊張感の欠片もないやり取りを終えて―― 
一晩たった今、丁原率いる6000の兵が上党から出陣しようとしていた。
政庁の近くに軍勢が集結している。
その軍勢のすぐ目の前に丁原と、数十人の親衛隊、そして高順もその中に混じっていた。
側仕えに近いといっても高順はあくまでただの兵士であった。
それが少し前に丁原に「今のままじゃ立場上都合が悪いだろ?だから今から親衛隊な。」とか通達されたのである。
親衛隊の扱いで丁原の側にいるのは、彼が丁原だけでなく他の者から認められている、という事実があったし、丁原の小間使いという立場は言い換えれば個人秘書のようなものだ。
それがいつまでも一般兵士のままでは、という丁原なりの配慮だった。
肥料のことに関してもそうだが、簡単ではあるが学の無い兵士でもある程度数字計算できるようにしたのは他ならぬ高順だった。
穏やかな性格でほとんどといってもいいほど人の言うことを聞かない丁原に(理不尽な暴力に晒されても)諌言、助言の類が出来る数少ない人物。
そして、これはあまり知られていないことだったが・・・。
武のほうでも割りと優秀な部類である。
高順にとっては、軍に入ってからの訓練というものが温く感じる程度のものだったようだ。
そう感じるのは彼が幼少期から体験した、母親の「マヂスパルタ」訓練が原因のようだが・・・。
そのおかげか彼自身の武術は相当なものだった。
母親からかなりの武才を引き継いでいたのかもしれないが、本人もそれ相応の努力をしているのである。
最初はそのことを知らなかった丁原も正直に感心するほどの才だった。
武の才覚に恵まれ、丁原に対して一歩も引かず諌言し、才知もあり、穏やかな人柄で万人に慕われる。
間違っているかもしれないがこれが高順の周りにいる人々の、高順に対しての評価。
ただ、それを後に聞いた本人は「過大評価過ぎる」と頭を悩ませる事になった。

「全軍、集まりました!」
丁原の副将である老齢の男が報告をする。
その言葉に丁原は頷き、口を開く。
「うむ。・・・皆、よく聞け。これより我らは晋陽方面へ向かう。皆もよく知ってると思うが、このところ賊の数が増えている。晋陽のほうでも幾度も賊を鎮圧するために出陣しているようだが、此度は数が多く、幾らかの村が占領されており・・・・自力で鎮定できない故、我らが出陣することとなった。」
その言葉に兵たちは僅かに動揺し、ざわめく。
晋陽は上党ほど規模の大きい都市ではないが、それでも相当な規模の兵力はあるはずだ。
それなのに何故?
それほど規模の大きい賊だというのか?
兵士の動揺に対し、丁原は眼を閉じしばらく無言だったが「静まれ。」と、一言を発する。
その発言だけで兵士たちは口を閉じ、姿勢をただし丁原のほうへと向き直る。
「皆の疑問も尤もである。だが!!!恐れることは無い。数が多いと言っても烏合の衆。お前たちが日々行ってる訓練を思い出せ。我等が負けるはずが無い。負ける道理などありはしない。負ける要素など何1つ無い!」
この言葉に兵士たちの表情が今まで以上に引き締まる。
「全軍、騎乗せよ!」
丁原が、高順が、兵士たちが。
馬に跨り、槍を携える。
「全軍、出陣っっ!!」



向かうは北。
晋陽と上党を結ぶ街道よりも大きく外れた村々。




上党と晋陽を結ぶ街道より離れた村々。そしてそこから更に数理ほど南に、陣を張っている軍勢がいた。
その陣には6千ほどの兵士が行きかい、夕餉の支度をしたり、陣幕を立てたりしている。
一番豪華な陣幕に、いうまでもなく総大将の陣幕なのだが、その中で苛々としている人物がいた。
「ああ、くそ。苛々する・・・・。」
「まあそう仰らないでください。総大将がそうだと部下も不安になりますよ?」
「あー、うるさいうるさい。…あのくそ太守め。自分の責任を果たさんとはいい度胸だ…!」
そう言いつつ、陣幕の中で酒を煽る女性。そして、その女性を宥める若い男。
女性は言うまでもなく丁原で、男は高順だった。
なぜ丁原がイラついているのか?それは晋陽の太守に原因があった。

数日前のことである。


上党より出陣した丁原軍であったが、彼女らはあくまで「応援部隊」という形での出陣だった。
何故かと言うと、これは晋陽方面で起きた騒ぎだからだ。
丁原は并州の刺史である。
并州は上党と晋陽の2都市を擁する土地の総称で、上党には丁原。そして晋陽にも、もう1人の太守が存在する。
丁原は立場として「并州の責任者」という位置づけになるので、その太守よりも位が上ということになり・・・請われれば出陣はするのが当然なのだが血の気の多い彼女からすればむしろ望むところだったりする。
するのだが、この問題はあくまで晋陽の問題だ。
上党周辺の治安状況は、丁原が赴任した頃は盗賊の類が多かったものの幾度も征伐に乗り出し、その成果か今は割りとおとなしいほうだ。
治安がよくなり生活も不安が少なくなった為、たまに出没するとしても近隣の村々に幾度か、という程度だ。
しかし、今はその「近隣」というのが上党よりも晋陽側になっている。
丁原もその辺りを憂慮して何度と無く賊討伐を早急に行うように指示をしていた。
が、返ってきた返事が「我々も努力していますが何分にも賊の数が多く手出しもしにくくて…なにとぞお助けください」的な情けないものだったらしい。
そんな情けない返事に対して「じゃあ応援部隊出してやるからどれだけ出して欲しいか言え。それとそちらが捻出できる兵の数も教えろ」と怒りを抑えつつ(ついでに胃の辺りも押さえつつ)また指示を出した。
その返事が「賊の数も多いので出来るだけ多く出してください。こちらからは500くらいしか出せません。あと、見せしめのために全滅させてください」という、すさまじく自分本位というか面の皮の厚い内容だった。


このあまりといえばあまりな内容に、丁原は本気で機嫌を損ねたのである。(出陣前に高順に当たってたのは、これがほとんどの原因だったりする。)


合流してみたらしてみたで、当初500と言っていたにも関わらず、実際には誰も送って来ない。
非常識なことに500を送るのも渋っているらしい。
丁原がイラつくのも、無理の無いことだった。

そのせいで当り散らされる高順や、親衛隊にとっては不運なことこの上ないのだが。


「ところで、丁原様。」
「ん、何だ?」
酒を煽りつつ、丁原は投げやりに応える。
「それ何杯目ですか、自重sいや、そうじゃなく。賊の規模とか、誰が先導しているかは知っておられるんですか?」
「ああ・・・。一応な。賊の名は…なんと言ったか。えー…」
「黒山賊。首領の名は張牛角、ですな。」
そう言って陣幕の中に入ってきたのは丁原の副将。朱厳という名の老人だった。
「これは、朱厳様。」
拱手し、高順が出迎える
「おい、治心。私が今言おうとしたことをだな…。」
「ほっほっほ、申し訳ございません。齢をとると、空気が読めませんでな。」
そこまで言って高順が椅子を用意したことに気がつき、「ああ、すまんの。…どっこらせ」と老人くさい言葉を口にしつつ座り込む。
朱厳、字は治心。
丁原の副将であり、齢60をゆうに超える老将。并州の勇者と呼ばれる人物だ。
老人であるが、武才は全く衰えておらず、寧ろ老境に入ってからその技は更に磨きがかかっている、と言われる人物である。
外見的には白い顎鬚をたっぷりとたくわえた好々爺で、穏やかな性格、普段の生活で声を荒げるようなところを高順は見たことがない。
それでいて戦場では勇猛果敢、神速果断といえるほどの鋭さを見せ付ける。
戦場指揮は当然の事ながら、得意の二刀流で眼前の敵を切り飛ばし畳んで行く。
高順から見て上党で彼に適う者はいないだろうな、と思うほどの腕前だ。
実際何度か稽古をつけてもらったものの彼に勝てた事は一度もない。
いや・・・・・・自分の母親なら勝てるかも、と思ったのは内緒だ。

丁原が物心つく前から仕えているらしく、彼女が唯一といっていいほど頭が上がらない存在である。
まさに上党、丁原軍最強・最良の存在。

「数は・・・・聞いたところだと3000程、とわしは聞きましたな。」
「ああ、そうだ。あのくそ太守の報告ではな。」
「丁原様、くそ、とは何です?くそ、とは。そのような言葉遣いは治して欲しいとあれほど申しておりまするに。」
ああ、わかったわかった、と手を振りつつ丁原は投げやりに応える。
「まったく、幼い頃はワシのことを「ちしん、ちしん」と呼んで後ろをついて来るほどの、それはもう眼に入れても痛くないほどの・・・」
「あー!あー!うるさい!昔の話はするんじゃない!!!」
「皆の者、丁原様も昔は可憐でなぁ。」
「わーーー!!言うな、解った、口の悪さは治すから!それ以上言うなーーーーー!」
「ほっほっほ、解ってくだされば良いのです。」
回りにいる者はこんなやり取りは慣れているためか苦笑するのみ。
高順も最初は「あの傍若無人な丁原様が!?」と驚きはしたもののもう見慣れてる光景だ。
朱厳の横まで歩き「どうぞ」と言って酒と杯を差し出す。
すまんの、と言いつつ話を続ける。
「しかし、おかしなものですな。晋陽の兵力は総兵力で約7000。他の賊を鎮圧してる様子でもないというのに送ってきた兵士は皆無。」
「ああ、おかしすぎる。…どうせ、私に厄介ごとを押し付けて、自分はのうのうとしてるとか、そんな程度だろうさ。こっちは6000出してるんだぞ?守備兵力除けば半数近く出してやってるんだ。くそっ・・・」
そこまで言って、丁原はまた酒を呷る。
「・・・ふぅ。守備に3000使おうが4000使おうが構わんがな。結局軍を送ってこないとは。職務放棄と受け取られても仕方ないだろう。」
「ほっほっほ、丁原様の言うとおり、厄介ごとを避けて通りたいのでしょうな。」
「まあ、構わんさ。奴のお願いどおりきっちり全滅させてから・・・・。」
職務怠慢という責任を追及してやる、どこまでもな。と殺意も露に言った。
(さすがに刺史になるだけあって、こういうときの迫力は凄いな。)
高順たちは丁原たちのやり取りを横で聞くだけだったが、普段と違う迫力を見せる主君を頼もしい思いで見つめていた。


夜が明け、丁原軍は当初の目的地である村の1つに向かう。
斥候を幾度か放ったので、ある程度の数にも目星がついている。
目の前の村と、その西と北にある3つの村に賊の痕跡あり。という内容だ。
目の前にある村の周りでは賊の被害が出てなかったようだが、他2つの村の周辺では被害が発生している。
もしかしたら、ここが賊の本拠かもしれない。
ただ・・・進発する前の軍議だが、情報を掴んだものの、正直頭をかしげる様な情報がいくつかあった。
「報告によれば目前にある村にいる賊の数は800から1000程度ということだ。装備も不揃いで、おかしなことに…女子供もいるらしい。」
「女子供、ですか。妙な話ですな?」
「ああ、妙だ。どこかから連れ去られてきたか?と思ったのだがな。どうも、その村で生活しているらしい。」
「生活・・・?そこで自炊して、生活を営んでると?」
「うむ。斥候に出した者も頭を傾げていたがな。もう少し詳しく言えば、男たちは武装をしているが女子供は強要されて生活を営んでるということではないようだ。」
「つまり、彼らにとっては男はともかく、それ以外は普段どおりの生活をしている、といったところですか?」
「ああ、住み慣れた土地に住んでいる、といった感じか。」
「本拠地であれば、不思議ではないでしょう。しかし、聞いた限りでは賊とは縁のないような生活ですね。」
その場にいた全員が考え込む。
男は武装しているが、女性や子供といった非戦闘員は普段どおりの生活をしている?
「1つ、よろしいでしょうか?」
「ん、高順か。かまわんぞ。」
「彼らは本当に賊ですか?賊であればその…堕落した生活をするでしょう?子供も殺し、女性には乱暴をする、とか。なのに、男性はともかう、それ以外はごく普通の生活をしているというのは・・・。」
「だな、やはりそう思うか…。一度、自分たちで見たほうが早そうだな。」
丁原は立ち上がり、軍勢の割り振りをしていく。



まず、丁原率いる2000の兵で村に入る。
その間に朱厳率いる3000で村の入り口を固め、逃げられないようにする。
残りの1000は輜重部隊であるから直接的な戦闘には参加しないが、もしも襲われるようなことがあったとしても自衛できる程度の装備と能力はある。
ちなみに、高順は丁原率いる第1陣に属する。
彼らが賊であると判明すれば殲滅、賊でないと判断すれば何が起こってるのかということを詳しく聞く。
大まかに言えばこんなものだ。

「では治心よ、頼んだぞ。」
「はは、お任せを。」

こうして、丁原率いる第1陣が村へ向かった。
村のほうでも、丁原軍が来たことを察知し、官軍が来たか!?とか、くそ、もう来やがったか!とか、女子供は家に篭るんだ!とかそういう声が飛び交う。
村が騒然とした頃に、村にある一際大きな家から1人の少女が扉を開け、広場へとやって来る。
まだ幼い少女だ。年の頃12,3といったところか。
黒く長い髪を結い上げており快活な感じだが、服装は上品なもので、良家の子女を思わせる。
「もう・・・・来た?」
幼いにも関わらず、周りが慌てる中で唯1人落ち着いている。
少女に気がついた周りの誰かが、危ないです、なにとぞ家にお入りください。と言っているが、彼女は聞いていなかった。
「行かないと…!」
少女は走り出した。後ろからお待ちください!とか何とか聞こえてくるが、聞くわけには行かない。
こちらに向かってくる官軍―――
誰が来たのかは知らないけど、話を聞いて貰わないと。



同じ頃、村からやってきた数百人の男たちが思い思いの武器を手に取り、丁原軍の前に立ちはだかっていた。
「くそ、この村に官軍は入れねぇぞ!」
「そうだ、これ以上行かせるな!」
など、随分と士気が高い。
そして、武器をかざし丁原軍に威嚇を続ける。
そんな光景にも丁原は恐れもせず、馬から下りる。高順を始め、親衛隊も馬から下り、丁原の周りを固めようとする。
それを片手で制し、信じられないくらいの殺気を放ちつつ、
「我が名は丁原!この并州の刺史である!賊がこの村を襲い、支配していると聞き討伐に来た!」
と一喝する。

その一喝だけで村の男たちは怯み、それ以上何も言えなくなってしまう。
「そんな…俺たちは悪くないじゃないか…。」
「そ、そうだ…。お前たちが悪いくせに…。」
今までの威勢が嘘の様だった。

「ほう、私たちが悪い、と?何がどう悪いのだ。詳しく言ってみろ。」
「それは…それは」
武器を構えてる一人の男が声を震わせて反論しようとする。だが、その後方からざわめきが起こる。
そして、道を開けるかのように皆下がっていく。
「む…。」
こちらにやって来たのは一人の少女だった。
少女が丁原の目の前まで進み、頭を下げた。
「お初にお目にかかります、丁原様。どうか、皆の無礼をお許しください。」
「ふむ、無礼か。」
少女の謝罪を聞いた丁原から殺気が薄れていく。
声色から、上辺や偽りで謝罪をしている訳ではない。そう感じたからだ。
高順たちは警戒を解いていないようだが、こちらが指示するか、向こうから行動を起こさない限り無用なことはしないだろう。
「いや、こちらこそ脅すような真似をして済まなかった。娘よ、名を聞かせていただこうか?」
その言葉に安堵したのか、いや最初から恐れてもいなかったのか。
微笑を浮かべ、少女は応える。
「性は褚、名を燕と申します。丁原様。」










~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。
出ないようなことを言っておいて、あっさり出ましたオリキャラ。もうほんとごめんなさい。
でもまだ1人目だよ?1人くらいならいいよね!?
と、言い訳をしつつ。
最後に出てきた褚燕はどうだって?さぁ・・・・?(笑

白状しちゃうと、朱厳さんは後漢の将で実在した人物、朱儁がモチーフです。
史実でも・・・・ゴニョゴニョ(ぉ
高順の武力ですが、恋姫基準で言えば現状ではそれなりにあると思ってください。
無双できるほどではありませんが、恋姫で出てくる男性として考えたら、もうあれです(あれって何
1年も仕えれば、普通に高順の訓練を丁原さんも見たでしょう。
その辺りまで書くと余計に長くなるかな、と思いまして省きましたが・・・・。
でも書いたほうがよかったのかなー。

彼が逃げないのは感想でも書きましたが逃げたほうが酷い目に合わされるから、と考えてるからです。
実際こんな理不尽な人がいたら逃げますねw
この時代は兵士が逃げた場合、その家族に累が及ぶという時代ですから両親大好きな高順くんは逃げるに逃げれないのでしょうね

自分で「兵士募集の立て札あったよ」と迂闊なことを言っちゃうから・・・w
ところで。
今第7話くらいの途中まで書いていたのですが気づきました。

「あれ?恋姫キャラ1人も出てなくね?」

・・・・・・・。
書き直しぢゃああああああああっっっ!!!(涙
てなわけでどっかに恋姫キャラ押し込むために書き直し中。
こんな作品に期待してくれてる人はあまりいないでしょうがもう少しお待ちくださいませ(涙

ご意見・ご感想、お待ちしてます。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第3話(ちびっと誤字脱字修正)
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/10 22:37
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第3話

第3話 褚燕様ガチで強かった。なんでこの世界は女性ばかり強いのですか?orz




褚燕と自己紹介をした少女は、その場に集結していた村の男性たちを落ち着かせ、丁原の軍勢が
敵ではないことを説明。
警戒は溶けていないものの多少は安心したのか、彼らはぞろぞろと帰っていった。
丁原も朱厳の元へ伝令を出し、攻撃の中止、ならびにそのまま村の「外」に対し警戒するように伝えた。

自身の連れてきた軍勢にも朱厳と合流するように命じ、丁原自身は数人の親衛隊と残る。

「さて、褚燕とか言ったな。お前には色々と説明して欲しいことがあるのだが?」
人が少なくなった村の一角で、丁原は褚燕と名乗った少女に言った。
「ええ、こちらが知っていることをお話いたします。ただ、このような屋外では失礼に当たります。窮屈ではありますが、どうぞ我が家へお越しください。」
「ふっ、私は外でも構わんが…まあ良い。そちらの好意に甘えるとしよう。おい、高順。お前がついて来い。」
この言葉に言われた本人、高順が驚き声を上げる。
「は?私だけですか?」
「そうだ、あまり多人数でいっても警戒されるだけだろ?それに今この場に残ってる中で一番腕が立つのはお前だ。回りの者も文句あるまい?」
と、話を振られた幾人かの親衛隊は皆一様にうなずき、その通りです。と苦笑しつつ答える。
「はは、別にお前らの腕が悪いといってるわけではないぞ。この中で、というだけのことだ。ああ、朱厳にも伝えておいてくれ。」
「ははっ。何卒お気をつけて。」
と、高順を除いた親衛隊の者たちは拱手をし、そのまま朱厳の待機する村の外へ向かっていった。
「……。」
「おい、高順。何をボサっとしてる。早く行くぞ。」
「はぁ…。」

あいつら、少しくらい反論してくれよ…。

褚燕に案内されて歩いていく二人。
たどり着いた先は「ほほう、個人の持ち物としてはそこそこ大きな家だな。」と丁原が感心するほど立派な家だった。
この村の規模も思った以上に大きく、最初800前後の人数が生活していると聞いていたのだがもう少し多い1000人ほどだな、と高順は考えていた。
褚燕に聞いたところ、やはり1000人前後が生活を営んでるという。
「数ヶ月前まではもっと多かったのですが…。さあ、どうぞ。」
そして、そのまま家に上がりこもうとしたところその家の門に立っていた、おそらく門番だろう。
その門番が「申し訳ありませんが、武器をお預け願いたい。」と言ってきた。
丁原たちがもしも褚燕に害意を持っていたら、ということを危ぶんでの発言だろうが、丁原の立場としては「武器の無い状況で襲われたらどうする?」ということになる。
「うーむ、参ったな…。」
武器を渡すかどうか悩むが、そこに褚燕が一言「この方たちなら大丈夫です。このまま入っていただきます。」と言った。
「そんな、彼らがもし褚燕様に」「大丈夫です。この方たちは敵ではありません。もしも彼らが本気になれば、我々はもう生きてはいませんよ?」
と、一言で切って捨てた。
門番としても、そこまで言われれば反論できず小声で、解りました、と呟くのみであった。
「ごめんなさい、私の身の安全を考えての発言だと解っています。ただ、彼らについてはそのような心配は不要です。…では、どうぞ。」
と、丁原と高順を促して褚燕は進んでいった。

褚燕の家は外観から見ても立派なものだったが、内側もまた立派だった。
調度品やら絨毯やらが、豪華極まりない。
丁原の政務室よりもよほど品の良いものばかりだ。
これが本当に彼女の家なら、褚燕、或いは彼女の一族は相当な名士なのかもしれない。
そして、通された部屋もまた豪華な調度品やら何やら。
褚燕が丁原たちに、どうぞお座りください、と促して椅子に腰をかける。
丁原は違和感無くそのまま褚燕の目の前に座った。
高順はそのまま丁原の後ろで直立不動の姿勢で立っている。
「あの、お連れの方もお座りいただければ。」
褚燕は気を利かせるものの丁原に「彼に気遣いは不要です。」とだけ言い、事情の説明を求めた。何故、この村が賊の住処として報告されたか、ということを。
褚燕もどう言えばいいものかと悩んでいるようだったが、やはり隠し事はしないほうがいいかと思い直し、全て伝えることにした。
「まず、何故我々が賊とされてしまったかですが…。正直に言って濡れ衣でしかないんです。」
「ほう、濡れ衣?」
「はい。事の発端は3年以上前になります。」
それから褚燕は淡々と説明を続けた。
晋陽の太守が今の太守に変わってから、段々と税の値を吊り上げていったということ。
ありもしない橋の修繕費、神像への供物。些細な理由をつけては税を取り立てていったのだ、と。
それはこの村に限ったことではなく、他の地域に対してもそうなのだという。
1年前に褚燕の父親が他の村々との連名で太守に税を下げて欲しいという嘆願書を出したが無視され、それどころか漢朝の決定に逆らったとして連行され処刑されたということ。
そして、叔父の張牛角が不満を持ちこの当たりの村落を纏め上げようとしていること。
おとなしく聞いていた丁腹と高順だったが、怒りがこみ上げてきていた。
丁原にとってはそんな事があったというのは初耳だったし、高順にとってもその話は聞くだけで胸糞の悪くなるような話だった。
税を上げるのならば刺史である自分に「こんな理由で、どう使用するから、どれだけの期間、税を上げたい」とか、そういった相談があって当然だ。
それもせず、勝手に税を上げて、民からの意見を聞かず一方的に罪人扱いをして処刑だと?
「ふざけおって!!」
丁原が目の前の机に拳を叩きつけ、真っ二つに粉砕した。
「………。」
「あ。」
「丁原様…。」
 
三者三様の反応だった。


「おい、高順。」
割れた机をそのままに、後ろに振り返り丁原は高順に語りかける。
「はい、何でしょう。」
「お前から何か聞きたいことはあるか?」
丁原にとっては、晋陽太守が自身の利益のためだけに動いている、という情報を察知しただけで十分だったようだ。
あとは調べを進めて徹底的に追い詰めてやる。とでも思っているだろう。
「しかし、私のような立場で疑問を口にするのは。」
「構わん。少しくらいのことなら私は気にしないし、私に対しての無礼はいつものことだろうが。隣に座らせるつもりは無いけどな。」
この言葉に高順は苦笑し、それならと思い自分の疑問を口にする。
「褚燕様、私からもいくつか聞いてよろしいでしょうか?」
「ええ。かまいませんよ。それと褚燕、と呼び捨てでも構いませんよ?」
「さすがにそれは。では褚燕様、あなたの叔父の、張牛角…と言いましたか?性が違いますがこれは?」
「それは、慣わしです。」
「慣わし?」
「はい。我々の元の出はここからも遠い黒山というところです。私の一族は代々そこで生活を営んでいました。ですが一族の数が多くなって、各地に散っていったのです。」
「晋陽各地に?」
「いえ、上党にもいると思います。そして、この辺りで根を張ったのが我々や叔父の一族なんですが…。代々の慣わしで、男子であっても女子であっても成人するか、子を成すまでは張性を名乗らないんです。」
「成人するまでですか?ですがそれは・・・。」
「さきほど、父が・・・処刑されたと言いましたね。私も処刑されるはずだったのでしょうけど、褚性を名乗っていたので連座せず、命拾いをいたしました。過去にも似たようなことがあったそうです。」
褚燕が辛そうな表情で話す。
褚燕は年の頃12,3といったところだ。
この年頃なのに、泣きもせずよく我慢して話せるものだなと感心しつつ、悪いことを聞いてしまった、と後悔する気持ちがない交ぜになる。
「いや、申し訳ないことを聞きました。お許しを。」
「いえ。・・・ほかに何か?」
「それではもう1つ。叔父の張牛角ですが。彼がこの騒ぎの1つの本題である賊の頭領なのですね?」
「・・・!」
「ほう?」
褚燕の表情が心なしか蒼くなり、丁原が感心したような声を上げる。
「高順、何故そう思う?遠慮をする必要はない。思ったことを言え。」
高順は褚燕を見つつ、辛いな、と思いながらも自分の考えを喋り始める。
「まず1つ。この村は被害を出しておらず、生活を見るに・・・賊ではないようです。ただ、他の村には被害が出ているという報告もありますね。この村も賊の住処として教えられた以上、何らかの繋がりがあるのでは?と。」
「ふむ。」
「この村の西と北に1つずつ規模の大きな村があると聞いています。そして、その村の周りで被害が多発していませんでしたか?その2つの村のどちらかが張牛角の住処で、もう1つはこの騒ぎに乗じた、といったところでしょうか。」
「・・・と、私の部下がこんなことを言っているが、実際のところはどうなのだ。褚燕?」
「・・・。仰るとおりです。」
褚燕は項垂れて、認めた。
「やれやれ、もう1つの重要なところを隠すとは。感心しないな。」
「申し訳ありません。隠し立てをする・・・いえ、隠していたのです。私は。」
そして、まだ迷いがあるようだが、顔を上げる。
「1つ、お願いがあります。隠し事をしていた私にこんなことを言う資格などないのは承知していますけど。」
「言ってみろ。」
「はい、叔父の、張牛角のことです。彼は、このあたりの黒山から出てきた者たちを1つに纏めるべきだ、常々そう言っていました。」

こういった、役人の要求を突っぱねるためには力を結集するしかない。それには指導者が必要だ。
そしてその指導者には自分が相応しい。周りの黒山出身のものは俺に従うべきだ。
張牛角の言い分はこうだった。

だが、それに反発したのがこの村を治める褚燕の父だった。
褚燕の父は良識のある人物だったらしく、力ではなく言葉で意思を伝えるべきだ。
上のものがそうだからと言って下にある我々までが力にたより続けては結局同じことだ、力に対して力で対抗するのは我々の仕事ではない とこう主張したのである。
張牛角よりも褚燕の父親のほうがこの近辺では影響力があったようで、張牛角に賛同するものはその時点でほとんどいなかったのである。
渋々、自分の意見を引っ込めて従う振りはしていたものの、やはり不満はあったようだ。
だが3年前に太守が変わり、1年前に褚燕の父が処刑された。
そのために、張牛角がまた同じことを言い出したのだ。
褚燕の父の末路を知った人々の多くが張牛角に賛同し、彼の元へと集まっていった。
残された褚燕も、最低限自衛のために村の人々を説得し武器などを持たせていたが、それを叔父のように、外へ向けるつもりは無かった。
そして数ヶ月前に、叔父は従おうとしなかった近隣の村へ攻め入ったのだった。

「その時に、叔父は見せしめだと申して村1つを焼き、住人を皆殺しにしたのです・・・。これでは晋陽太守と何も変わりません。」
褚燕は辛そうに言う。
「なるほどな。で、お願いというのは?」
「叔父を・・・牛角を止めてください。本来ならば私の役目かもしれませんが、今となってはどうにも・・・。」
丁原の後ろで聞いていた高順もそれはそうだろう、と考える。
当初、張牛角の勢力にある兵数は3000程度という報告だった。
おそらくは、今自分たちのいるこの村の人数も含まれる形での報告だ。
そしてこの村にいる人数は約1000人。その人数を引けば張牛角の手元には2000程度。
この村の全員が武器を取ったところで倍の数。手出しが出来るはずもない。
だからこそ、自衛の為に男性が武器を持っているのだろう。
褚燕は何も言わないが、この村はおそらく・・・晋陽に狙われている。
晋陽の太守にとって、上司である丁原には黒山賊発生の元となったこの村には出来れば関わって欲しくなかった筈だ。
何らかの間違いで、黒山賊が発生したのは自分のせいだと知られたら(政治的にも物理的にも)首を落とされるのが解りきっている。
自分の手持ちの戦力で片を付けたいところだったが、規模の大きい戦いになるのは解っていたし、自力で鎮圧できる自信も無い。
そこで自分の不利になることは言わず、彼ら全員が反乱を起こした賊である、と報告をした。
そのまま一気に進み、一気に殲滅さえしてくれれば、自分の非は明るみに出ることなく、また自分の懐を潤すことが出来る。
血の気の多い丁原ならば問題あるまい、という安易な考えだったに違いない。
だが丁原は、血の気が多いのは事実だが決して人の話を聞かない愚鈍な人間ではなかった。
そこが晋陽の太守にとっての盲点だったのだ。
褚燕が自衛のために村の武装化を進めたのは、張牛角に対してではなく、晋陽軍に対してのものだったということだ。

褚燕が本当のことを言ってるかどうかまでは解らなかったが、晋陽で今頃暢気にしてるであろうクソ太守にしても、全部が全部事実を報告したとは考えられない。
まあいい。奴は締め上げればすぐに洗いざらい吐くだろう。
考えを纏めたところで、丁原は褚燕に問う。
「褚燕、張牛角を止めて欲しいと言ったな。」
「はい。」
刺すような視線に怖じることなく、褚燕は丁原の眼を見つめ返して応えた。
「私には奴と交渉をするつもりは無い。それを解って言っているのだな?」
「・・・はい。」
「今の返事、覚悟の上だな?」
「無論です。」
丁原は質問をしたのではなく、確認をした。褚燕の覚悟を聞いたのだった。
要は「お前の叔父は止めてやろう。ただし命を取るという形でだ。賊にも、賊に加担した者にも見せる慈悲など私には無い」ということだ。
褚燕もその意味を理解して、覚悟をして返事をしたのだ。
しばらくの間、誰も、何も喋らなかった。
「・・・ふぅ。」
丁原がため息をついた。
「解った、いいだろう。褚燕よ。お前の願いは聞き入れた。我々は後日発つ。詳しい事が決まったら伝令を寄越す。」
この言葉に褚燕は頷く。
では、と一言を残し丁原は部屋を出て行き、その後ろに高順も続く。
一度だけ高順は振り向き、褚燕のほうへ一礼して―――慌てて丁原のあとを追いかけていったがまたすぐ戻ってきた。
「机の修繕費出しますので後日請求を!」
「え?」
眼をぱちくりとさせる褚燕にまた一礼し、今度こそ高順は去っていった。

館を出た2人はそのまま朱厳の陣へと向かう。
幾人の村の住人とすれ違うが、その誰もが暗く沈んだ表情だった。
気になった高順は丁原の後ろにつきつつも、周りに視線を巡らせる。
荒れて、ひび割れた大地。その大地に水を撒き、鍬で掘り起こす人々。
彼らの姿を見て、高順は何かできることはないだろうか・・・と考えていた。
「おそらく、元々は農地だったのだろうな。」
高順が周りを見ていることに気づいていた丁原が歩行速度を落とさず語りかけた。
「何故彼らがこんな所でこんな事をしていると思う?」
「晋陽の軍か、黒山賊に攻撃されたか。或いは・・・。搾取され、生活を維持できず、去っていった人々の残した土地。諦めきれないのではないでしょうか?」
「まあ、そうだろうな。で、今お前は何を考えていた?」
ぎくっ。
「はい?何のことですか?」
高順は白を切るが、丁原にとってはお見通しだったようだ。
「とぼけるな。肥料を分けてやりたいとか、ここに軍勢残して開墾を手伝うとか出来ないだろうか?とか、甘っちょろいことを考えていたんだろう?」
ぎくぎくっ。
「あー・・・。」
「あのな。そんな甘いことでどうする?農地が荒れて困ってるのはここだけじゃないぞ。お前は聖人君子か。誰も彼も助けることが出来ると思っているのか?馬鹿が。」
「ですが、何らかの形で助けることは出来るのではないでしょうか。」
「そりゃ、あるだろうな。」
「ならば」
高順も食い下がるが丁原としては取り合うつもりも無いのか冷淡に応えるのみだ。
「馬鹿。今ここで助けてみろ。他からも「自分たちにも肥料をください、困ってるんですー」とか来るのは解り切ってる。損得を考えろ。心を開けば向こうも心を開くわけじゃないんだ。お前の考えていたのはただの自己満足でしかない。」
「丁原様・・・。」
「お前の気持ちは解らんでもない。しかしな、困ってる者全員を助けることなど出来るはずがないだろうが。諦めろ。」
これは、丁原の本音だ。
助けてやりたいのは山々だが、あれこれと助け続けていては先が見えない。
損得がどうと言っていたが、それも人の上に立つ以上、切るべき所は切り捨て、拾うべきところを拾う、という考えなのだ。
そうでなければこの先やっていくことはできんぞ、という高順への忠告である。
その気持ちは解るのだが、だからと言って見捨てるということが高順には出来なかった。
自分ひとりでは大したことが出来ないのもよく解ってはいたが。
高順は考えた。なんとかこの村の力になりたい。
褚燕は何も言わなかったが、税率を上げられ、取り立てられ、財政的にも苦しいだろうし何より食料も残りが少ないはずだ。
だからこそ、村の人々の表情が晴れないのだ。
自己満足でも構わない。
自分の考えを纏め、口を開いた。
「ならば、1つ提案があります。」
「なんだ。」
「この村のことです。」
「おい、高順・・・。」
まだこの話を続けるつもりか、と後ろを振り向いたが、高順の眼は真剣だった。
「どうかお聞きください。」
「・・・はぁ。解った。言うだけ言ってみろ。」
「まず、この村に、戦力を残しては如何でしょう?」
「はぁ?何故そんなことをする必要がある?」
「ありますよ。自身の悪政を証言できる人々が残っているんですよ?晋陽側は彼らを消したいと思ってるはずではありませんか?」
「それは解っている。ならばこそ早急に張牛角を討つ必要がある。それに、狙われていると言ってもこの村には自衛戦力・・・。」
そこまで言ったところで丁原は、いや・・・なるほどな、と言い直した。
「・・・。そうか。そうくるか。」
「援軍は出さなかったのではなく、出せなかったのでは?我らに合流させるつもりが、向こうが思っていた以上に早く村に入られた為に、合流することが出来なくなったのです。」
あくまで予想ですが、と断った上で話を続ける。
「晋陽側はそのまま攻撃して欲しいと思ったでしょうが、そうはならなかった。丁原様が彼らの事情を聞きましたからね。そうなれば反乱を起こした「理由」を知られてしまいます。本当か嘘かはともかく、自分が疑われる。丁原様のいうクソ太守の目論見はここで崩れています。」
「だから予定を変更した、か。では最初に言っていた晋陽の援軍は我々を監視する為の物だった?」
「恐らくは。もし丁原様が彼らと話をしようとする素振りを見せたのなら、自分たちが攻撃を仕掛け戦端を開いていたのかもしれませんね。」
「なるほどな。そうなれば・・・なし崩し的に戦いが開始されてしまい、殲滅戦になってしまうからな。」
「はい。我らがこの村に入ったことは向こうでも掴んでいるでしょう。クソ太守にとっては我々全員がこの村を出て行くことを願っているはず。我々がいなくなれば残るのは500程度のこの村の戦力のみ。2000も出せば事足ります。」
一度言葉を切り、更に続ける。
「ここに1000程度の軍勢を残せば、晋陽側も迂闊に手を出せないはず。規模の大きい軍勢なら収集にも時間がかかるでしょうしね。そうやって時間を稼ぐ間に丁原様率いる本隊で黒山賊を討ち、帰還する。そうすれば」
「太守が無用な搾取と減税の嘆願をした民を殺した。その事実を知る人々も生き残り、クソ太守を追い詰める布石になる、か。」
「それだけではありません。もし攻撃をされたとしたら、「上党より来た援軍に何故攻撃をしたか。」という事と「戦力があるのに援軍を出さなかったのは何故か。」ということを追加する形で問い詰めることが出来ます。もし「そちらが余りに早く到着したので」とか言っても攻撃をされた場合、事実は変わりません。」
ついでに、丁原様が民を助け、悪辣な政治を行った太守を断罪した。ということを喧伝すれば人気が高まるでしょう。とも付け加える。
「ふ。は、ふはははは!なるほどな、いい所に気がつくじゃないか!」
最後まで聞いていた丁原だったが、いきなり笑い始めた。
これは良い、と言いつつ大笑いする丁原に、その喜びようを見て唖然とする高順。
まさか。まさかとは思うが。
「丁原様・・・。もしかして、俺を試しました?」
「ふふふ、さあ、どうかな?はっはっは!私のことがついでか、これは良い。ふふふ、そこまでは考え・・・はは、はっははは!」
どうも、自分の人気のことまでは考えが行ってなかったようだ。
最初に言ったところに気がついてるなら、自分の声望に繋がる位は理解していると思っていたのだが、どうもその辺りのことは気にしてなかったらしい。
(相変わらずこういうことには無頓着だなぁ・・・)
心の中で呟く高順だった。
「ふふ、いいだろう。ここに歩兵600、騎兵400。あと輜重隊を200ほど残す。」
すこし落ち着いたのか、それとも機嫌が良くなったのか。おそらくその両方だろうが、丁原は笑顔で話す。
「あ、ありがとうございます!」
「気にするな。あと、主将に治心を残す。暴れることが出来なくなるかもしれんから不満はあるだろうがな。ふふ、賊よりも官軍のほうが骨があるといって喜ぶかも知れんな。肥料についても許可を出そう。与える名目は考えてあるのだろ?」
参ったな、お見通しか。と、高順は人差し指で頬をかく。
丁原はにやりと笑うのみだったが
「ああ、あと開墾云々はお前が朱厳に直接言え。自分で治心を納得させてみるのだな。」
思い出したかのように付け加えるのだった。


数日後、丁原が率いる4800(うち800は輜重)が、西に向けて出撃していった。

褚燕は最初「兵士と食料を残す。村の防衛を手伝おう」と伝えてきた伝令の言葉を疑った。
わざわざ自分から丁原の元まで足を運び、確認をするほどに。
丁原自身から説明を受け事実だと知ったときに褚燕は驚きのあまり、その場で数分ほど固まってしまった。
我に返った褚燕は、その場で平伏し、何度も何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。
丁原は苦笑しつつ兵士を護衛につけ送り返したが、そのときこっそり「礼ならば高順に。あいつが案を出したんです」と耳打ちした。
残った朱厳率いる部隊はそのまま村に残り、柵などを作り防御を固める。
やることが無い兵士は休ませていたが、しばらくして荒れた土地の開墾を交代制で手伝い始めた。
褚燕は朱厳に礼を言おうと(そして高順に礼を言おうと)、朱厳の元までやって来るがそこでまた「やることの無い兵を開墾にまわして欲しいと嘆願してきたのは高順でしてな。」と返す。
その合間に高順は朱厳の許可を得て上党へ使いを送り、相当な量の肥料を運ばせる。
肥料がたどり着いた頃、ちょうど褚燕が自分の元まで礼を言う為に来ていたので「使ってくれ」とばかりに全て渡した。
褚燕はまたも高順に驚かされる羽目になるのだが、疑問に思っていたことを口にした。
「何故この村の為にそこまでしてくださるのですか?」と。
「何故って?簡単です。この村が苦しい思いをしたのは直接には晋陽太守のせいです。しかし、彼の悪政に気がつかない我々にも非があるわけでしてね。」
その罪滅ぼしですよ、と屈託無く笑うのだった。
そんな彼に褚燕が何度と無く感謝したことは言うまでもない。

その後、20日ほどが過ぎるが、上党軍と村の人々はおおむね仲良くやっていた。
上党側が開墾の手伝いをしてもらっていたのもあるが、上党側が食料と肥料を提供したことが大きな理由だった。
丁原が「すぐ終わらせる」と言いつつも「もしもの時のために」と糧食を多めに用意した為、余裕があったし、村の食糧事情も相当厳しいことが解っていたからである。
その間兵士たちは開墾の手伝い、住民の手を借りて防衛力強化といった作業に余念が無かったが、1人だけ他と違うことをしている者がいた。
高順である。
もちろん、兵士と同じように鍬を振るい、落とし穴を掘ったりなどの作業はしていたが特別に許しを得て、ある人に稽古をつけてもらっていたのである。
その相手は・・・・・・褚燕。
場所は、村の広場よりも少し離れた位置にある公園のような場所。
公園と言っても、木が植えてあり、野草を刈って更地にした程度のものだ。
昼間は子供たちがこの辺りで走り回っているのだという。
もっとも、彼らが稽古をするのは夕方から夜にかけてだから誰の迷惑にもならない。
「遅いです!!」
バキィッ!
「ぐっはぁぁあっ!」
「まだ遅いですよ!」
ボキィッ!
「く、くそ!」
「さきほどよりも良くなりましたが・・・まだ!!」
ボギャアッ!
「グフゥッ!?」
・・・・・・・・・・・・



「いつつつつ・・・・・・死にそう。」
水で濡らした布を頭にあてがう高順。
「ご、ごめんなさい。」
そして謝る褚燕。
「あの、1つ質問があるのですけど。」
「はい?何です?」
「何故、私に稽古をつけて欲しい、と仰られたのです?」
これは褚燕にとっては何故?と思うことだった。
朱厳に手合わせをしてもらえばいいはずだし、他の兵士で暇な人をつかまえてつき合わせればいいはずなのに。
「褚燕さんが強そうだったから?」
「・・・私、そんなに強そうな外見してますか?」
「普通ですよ?」
「むー。」
高順の知識として、褚燕が強いということを知ってのことだが、それを素直に言うことはさすがにまずい。
高順はこの時代から見ればずっと未来の知識を持ってる存在である。
三国志のことをそこそこに知ってる彼は褚燕がどういう人物なのか、というのを知識として知っていた。
その強さを知るからこそ、手合わせを頼み込んだのだが・・・少々、強すぎた。
何せ、動きが早いのだ。すばしっこいとか、そういうレベルじゃない。
拳の動きが見えないわ、蹴られたと思ったときには既に体が吹き飛ばされてるとか。
反撃すれば超反応で避けられ、また手痛い反撃を食らう。
これでは手合わせも何もあったものじゃない。
どうしたものか、と悩む高順に褚燕が遠慮がちに声をかける。
「あの・・・。」
「え、はい?何ですか?」
「どうして自分の攻撃が当たらないのか?と思っておられます?」
「よくお分かりで。・・・うーん、俺には才能が無いって事なんですかねー。」
「才能が無い?高順様が?・・・・・・ぷっ、うふふふ・・・」
こんな愚痴をこぼす高順に褚燕は何故か妙な面白さを感じてつい噴出してしまった。
「ひどいなぁ、笑うなんて。」
「ふふ、ごめんなさい。逆なんですよ?」
「えー?」
「才能はあると思いますよ。ただ、それを活かしきれてないだけと思います。」
実際、褚燕は高順の武力に感心していた。
手合わせで槍の攻撃を見せてもらっただけだが、槍で突く速さ、薙ぎ払う速さ、振り下ろす速さ。
そのどれもが相当なものだと思っていた。
当てられたことが無いので威力は解らないが、本気で当てられたら一撃で勝負がつくはずだ。
自分も本気を出しているわけではないので実際に戦場で戦わなければ解らないものはある。
「活かしきれてない、かぁ。」
「ええ、高順様はなんと言うか・・・攻撃が素直すぎます。」
「素直って?」
「戦ってる最中に自分が狙ってるところをじっと見つめ続けてるんです。あれではすぐに避けられてしまいますよ?」
そのまま攻撃を繰り出してくるのですから、避けるのは易いことです。とも付け加える。
「高順様はまずその癖を直すべきです。あとは、実戦に出なければ何とも言えませんね。」
「うーん、もっと別のところを狙うべきですか。」
「うぅん・・・。簡単に言えば、相手の肩を見ながら足を打つ。足を見ながら胸を突く。とかそんなところでしょうか。」
褚燕がフェイントという言葉を知っていたらそう言っただろう。
「援軍が来ると思う場所に援軍を出さず、来ないだろうと思う場所に不意に援軍を繰り出す、か。」
「はい?」
「相手の意表をつく、とかそんな意味です。ああ、他にどんな所が悪いと感じました?」
「動きに無駄が多いです。」
「ぐはぁ」
一言で切って捨てられた。
「高順様の攻撃はとても早いです。私もさっきは来るのが解ってても避けるのに苦労しましたから。私の速度に体がついてこれるようになった、ということですね。」
「おお、初めて褒められた!」
「うふふっ。ただ、攻撃は早いですけど、どうも無駄があるように見受けられました。」
「だから無駄が多い、ですか。たとえば?」
「これは言葉では何とも言えませんけど・・・。」
そうですね、と小首を傾げて考えてから褚燕は続ける。
「高順様にちょっとした課題を出しましょう。これから毎日、ご自分の気が済むまで「突き・薙ぎ払い・振り下ろし」の3つだけを徹底的にこなしてください。」
「3つだけ、ですか?」
「はい。高順様は小手先の技術などに頼らない戦いをしたほうがよほど強いと思います。その3つの動作をとことんまで鍛え上げて、練り上げて・・・。技術など後からいくらでもついてきますよ。」
「・・・そんなものなのでしょうか。」
「どんな武器や戦い方でも、必要な動作を最大限まで鍛えることが出来ればまずは十分です。相手の意表も大事ですけど。高順様はまずそこから始めましょう。」
「・・・わかりました。ですが明日からじゃ遅い。今からです。」
「え?」
「ありがとうございました、褚燕様。これから課題ををこなしてきます!」
立ち上がり、高順はそのままどこかへ走って行った。これからまだ続けるつもりなのだろうか。
褚燕は一人残される形になったが・・・。
「おかしな人・・・。」
と、苦笑交じりに呟き帰路に着いた。




そして・・・晋陽の軍勢が村に攻撃を仕掛けてきたのは、その4日後のことだった。









~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。少し長いかな?と思ったのですが・・・


そんなことは無かったぜ!(むしろ文章考えるのに数日もかかってこの出来。吊るしかない

というか、これだけ書いてもまだ黄巾に突入しない・・・・
自分の文才の無さに絶望した!orz

何度も読み返して誤字とかチェックしてるのに何故又見つかるのか・・・

ご意見、ご感想お待ちしておりますっ。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第4話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/15 19:25
高順伝
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第4話


彼女達は遅れてやって来た。やっぱり名を残す人はチートなんですね?




「ほっほっほ。来るだろうとは思っていたが、案外遅かったのう。」
「そうですね。この遅さは有難いですが、なんと言うか。」
村より少し北に布陣した晋陽軍を見据えて話す朱厳と高順。
晋陽軍が布陣したことを察知し、陣を敷いて3日。
正直、これほど晋陽太守が無能だとは思わなかった。
丁原が出陣して既に20日以上。
それだけの時間が過ぎてからやっと出陣とは。
多少考えれる頭があるならもっと早く行動を起こしただろう。
丁原が出陣してすぐに攻められれば準備の整ってない状況で迎え撃つ羽目になっていただろう。
黒山賊にしても、動員できるだけの兵力を差し向け殲滅すればそれこそ自身の暴政など知られるはずが無かっただろうに。
他人任せにするからこうなるのだ。よほど自分で考えるのが嫌なのだろうか?
まあ、その無能さが朱厳たちにとっては有利な状況を作り出したのだから何とも言いようのないものがあった。
既に上党と住民たちの混成部隊は所定の位置についている。
村の方は、住人が柵を何重にも設置し、内側から槍でけん制しつつ後ろから弓矢で応戦。
保険もかねて輜重隊200人の兵士もつけている。彼らはあくまで防衛部隊だ。
村の外には朱厳率いる騎兵400、歩兵が600。
歩兵とは言っても、全員が弓を持っているし、騎兵の中にも弓を所持している者がいる。
向こうが攻撃でこちらが防衛だから当然といえば当然だが。
そして何故か・・・朱厳の本陣に褚燕も混じっていたのだった。

~~~数十分前~~~
「危ないですって!危険ですから下がっててくださいよ!!」
「大丈夫です!私の実力は高順様が一番良くご存知でしょう!?」
「知ってますけど、そういう問題じゃないんですって!」
「じゃあどういう問題ですか!」
「わざわざあなたが戦う理由が無いんです!」
「あります!父の敵を討つ。十分すぎる理由ですよ!?ちゃんと武器も所持していますし、足手まといにはなりませんから!」
「そういう問題じゃなくってー!朱厳様も何とか言ってくださいよー!?」

こんなやり取りが朱厳の陣幕内で行われていた。
晋陽軍が攻めてきた。という話を聞きつけた褚燕が出向いてきた。
それだけなら良かったのだが、その時に彼女はこう言ったのだ。
自分も部隊に参加させて欲しい、と。
これに反発したのが高順だった。
別に彼女が幼いから、とか戦争は戦争屋に任せろ、とかそういうことを言いたいわけではない。
彼女の実力はよく理解しているし体力面に不安があるものの、この戦いでどうにかなるということも無いだろうと踏んでいる。
だが、戦に限らないことだが命のやり取りに絶対など無いのだ。もし流れ矢が飛んできたら?戦が終わったと安堵したところを襲われたら?
彼女はこの一連の騒動での被害者であり、彼女の証言は晋陽太守を追い詰めるのに必要なものの1つである。
高順自身、彼女に死んで欲しくないという気持ちもある。
そのあたりを考えてを反対をしているのだが・・・。
こんなやり取りを繰り返しているが、まったく話が先に進まない。

「まあまあ・・・。高順よ、本人が仰っているのだし、参加していただいてはどうかな?」
「朱厳様までそんなことを・・・!」
「しかし。我が軍と共に突撃、ということはしてはいけませぬ。このような状況では村に敵を引き込んで戦う事になります。その時に力をお貸し下され。」
「朱厳様・・・。いえ、ありがとうございます。」
「はぁ・・・。」
こうして、朱厳の賛成案の為に高順が引き下がらざるを得ない形になってしまったが朱厳も注意を忘れなかった。
「高順の言うとおり、あなたは体力が無い。村人を前面に押し出して戦うつもりはありませんが・・・。無理だと思ったらすぐにお退き下され。」
褚燕もこれには言い返す言葉も無く頷くのみであった。

そして今。
「彼らは何をしてるんでしょうね?攻めかかって来るわけでも無し。」
「さあのう。大方向こうの大将が混乱でもしとるのではないかの?」

~~晋陽軍~~~
「おい、なんで俺たちの目の前に上党の兵士が布陣してるんだ?」
「俺たちの任務は賊征伐じゃ・・・。」
「出陣が取りやめになったと思ったらまた出陣とか・・・くそ、あの豚太守め。」
村の北部に布陣した晋陽軍だが、兵士たちからはこんな声が上がっていた。
それを聞いたこの軍の総大将は近習に「静かにさせろ」と怒鳴るばかりだった。
実際彼自身も自分に与えられた任務に疑問がないわけではなかった。いや、疑問しかなかった。
最初に500で出陣しろとか、それを準備が終わった頃に取りやめ。
そしてまた出陣。
上党側が援軍なのに、本隊である自分たちが500で出陣しろ。何の冗談だ。
そこで急に2000で出陣しろ。くそ、ふざけやがって。
そんなことを思って進軍したのだが。
目的地に着いたら着いたで、またも彼は苛立ちを覚える状況に遭遇した。
目の前にいるのはどう見ても賊じゃなく自分たちと同じく官軍。その上自分たちの援軍として来た筈の上党軍じゃないか。
上はいったい何を考えてるんだ!
布陣して1日が過ぎ、目の前の部隊が上党軍と悟った彼は「自分たちの目の前にいるのはどう見ても上党軍だ。なのに何故攻撃をする必要があるのか?」と太守に伝令を出した。
返って来た返事は「それは偽官軍だ。賊が変装しているに違いない。そんなことを考えてる必要があるなら早く攻撃して全滅させろ。」
放った密偵も「村の守備をしている軍は上党軍に間違いありません。その上指揮を取っているのは朱厳様のようで・・・。」と言って来た。
朱厳様だと?冗談じゃない!俺たちが束になっても勝てるお人じゃないぞ!!
その上、布陣してるのは1000程度とはいえ、こちらより錬度も装備も上の上党兵だ。
それを1人残らず全滅させろ?
くそ、あの豚め。戦いの事を知らないくせに無茶苦茶言いやがって。
「将軍・・・。」
「何だ。」
「その、また伝令が手紙を・・・。」
「ああ?・・・見せてみろ。何々・・・『早く攻撃しろ、さっさと行け。さもなくば後詰で繰り出した精鋭部隊1500にお前たちの背後を攻撃させるぞ』」
「・・・・・・。」
「・・・・・・あ・・・あっんのクソ豚は・・・!!!」
「しょ、将軍!落ち着いてください!」
「落ち着けるか馬鹿野郎!」
「ちょっとmぎゃあー!?」
「おい、誰か!将軍がご乱心だ!?」
「将軍!どうか、どうか落ち着いてー!?」
「あーもう!こうなったら破れかぶれだ!通達だ!先鋒部隊は突撃!時間を置いて我らも出陣るぞ!」


こんな感じだった。




~~~上党軍~~~

「攻めて来ませんね。」
「来ないのう。」
「来ないですね。」
高順、朱厳、褚燕が同じようなことを同時に口にする。
彼らが布陣してから3日。睨み合いばかりで衝突には至っていない。
時間をかけるのは晋陽軍にとっては不利になるばかりだというのに。
今こうしてる間にも丁原は黒山賊と戦ってるか、追い詰めてるかのどちらかだ。
その丁原が軍勢を引き連れて帰還すれば晋陽側には打つ手が無くなる。
攻めかかかって来ないのは戦いたくないからか。目の前にいたのが賊でなく自分たちと同じ官軍だからか。
それとも、何か考えがあってのことか。援軍でも来るのだろうか?
だが、援軍が来るにしては遅い気もする。
3日も睨み合いをしていては兵士たちが緊張状態に慣れて精神的に弛緩するのだろうが朱厳がきっちりと引き締めているため、油断をしているような兵士はいない。
そこまで考えたところで、晋陽軍が慌しく陣を整えてるのが見えた。
「ほっほっほ、奴さん、攻めて来るようじゃな。・・・伝令!」
さっきまでの穏やかな感じは何処へやら、朱厳の表情が一気に引き締まる。
「はっ!」
「歩兵隊に伝えよ!これより敵が攻めてくる。軽々しく討って出ず、守りを固め、突撃してくる部隊をけん制せよと!騎兵部隊300は一当てしてすぐに退け!」
「承知!」
「高順!」
「ははっ!」
「おぬしは騎兵100を率いて村へ入るのじゃ。」
「わ、私が・・・ですか?」
「うむ、敵部隊はおそらく時間差で攻めてくるじゃろう。敵全軍が攻めてきたらば、我らは一度村まで下がり防戦に徹する。その間に他の出口より抜け、一気に敵の横腹を突くのじゃ。」
「しかし、私は指揮などしたことが・・・」
「なに、先頭でお主が勇を振るえば良い。それだけで兵は着いてくるものよ。無論そこそこ指揮もするべきじゃがな。然る後、反撃に移る。」
ほっほっほ、と笑い朱厳は高順の肩を叩く。
「戦場を見よ。個人の眼でなく、全体を見る眼でじゃ。なあに、今はまだ解らずともいずれ解る。よいか、機を見誤るなよ。」
「は・・・はい!」
「うむ。では行くのじゃ。褚燕様は村にお残りくだされ。」
「え?私も高順様と共に・・・。」
「なりませぬ。約束致しましたな?残っていただきます。どうかお下がりくだされ。高順が攻撃を開始するまで村内部で戦う事になるでしょう。その時に」
朱厳の言葉に褚燕は唇をかみ締める。
今、高順と共に行って、万が一のことがあってはいけない、という配慮。約束もある。それは解っている。解っているのだが。
「褚燕様、我々が突撃するときに形勢が逆転するということでしょう。その時までの我慢です。兵数に差があるのですから最初は仕方が無いとお思いください。」
「・・・。解りました。高順様?」
褚燕は両手で高順の手を包む。
「きょ、褚燕様?」
「どうかご無事で。決して無理をなさらぬように。そして・・・お願いします。」
そのまま、褚燕は頭を下げた。
「・・・お任せを。」
彼女の手を握り返す。褚燕は安心したのか、そっと手を放した。
「では、行って参ります!」

~~~同時刻、村より北東に4里ほど進んだところ~~~

「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「くっ、まだ追ってくる?」
「はぁ、ふぅ・・・疲れたのですよー。」
「まだだ、あと少し西に行けば村落があるはず。急げ!」

3人の女性がひたすらに西に向かって走っていた。
1人は青みがかった髪に胸元の開いた白い服の少女。目の前を走る2人の少女の足の遅さに焦れるが、こればかりは仕方が無い。
彼女たちは智謀の士ではあるが、体力は一般の女性のものと変わらない。
3里も4里も延々全力で走りぬけ、というのは相当辛いに違いない。
だが捕まれば何をされるか解らない。自分1人ならば渡り合う事も可能だろうが誰かを守りながらという条件付では厳しいものがあった。
そしてその後ろに追いすがる40人ほどの男たち。

盗賊か山賊かとしかいいようのない風貌で、交渉というか話そのものが通じそうに無い連中だ。
「ひゃっはー!待ちやがれええええっ!」
「いい女が3人もいるぜぇ!」
「おいテメェら!あの3人を捕まえた奴にゃあ褒美をくれてやるぜぇ!」
「さすがお頭ぁ!売っちまうつもりですね!?」
「あれだけの上玉だぁ、高く売れるぜえ!」
「その前にお楽しみも・・・グフフフ。」
「さすがお頭、あくどい!そこに痺れる憧れるぅ!」
『ヒャッハー!』×40



「・・・だ、そうだぞ!2人とも!人気者は辛いな!?」
青い髪の少女が前を走っている2人の少女に語りかける。
「じょ、冗談ではありません!」
「おー、このまま捕まれば美味しく食べられそのまま・・・。ぐぅ。」
「こんなときに寝るな!しかも走ったままとかどんな器用さだ!?」
「おおっ!?襲い来る悪意についつい現実逃避を」
1人は茶髪に眼鏡をかけた少女。
もう1人は金髪碧眼。頭の上になんだかよく解らない妙な生物(?)を乗せている。その頭の上の生物(?)は何故か手に飴を持っている。
「おい、2人とも!漫才は後にするべきだと思うぞ!?」
「「まぁ、勘弁してくれよお嬢ちゃん。こいつはまだまだ若いんだぜ。若さゆえの過ちって言葉、知ってるかい?」と、そう申しておりますのでどうか1つ。」
「・・・。それ、喋れたのか?」
「そんなことを言っている場合では!星殿、あなたの武勇で何とかならんのですか!?」
星と呼ばれた少女はその言葉にやれやれ、といった感じで首を横に振る。
「私1人ならまだしも、2人を庇いながらではとても力を発揮できませぬな。私が30人と戦ってる間に10人が2人のもとへ行けばどうにもならぬ!それよりも、2人の自慢の知恵でなんとかならぬのか!?」
意地の悪い笑顔で問い返す。
「くっ・・・。」
「おー、稟ちゃん、頑張るのです。」
「お前も考えろぉぉぉぉっ!」
「風はとてもお疲れでその上眠くて頭が働かないのです。・・・ぐぅ。」
「そう言ってる割には足はちゃんと動いてるな!?あと寝るな!!!」
「・・・・・・2人とも、漫才をしている元気があるならもっと早く走っていただきたいですな!」
「言われずとも!」

星、稟、風。
お互いを真名で呼び合う彼女たち。
星と呼ばれた少女は趙雲。
稟と呼ばれた少女は戯志才。
風と呼ばれた少女は程立。
稟と風はその後名前を変え、稟は郭嘉、風は程昱と名乗る事になる。


そんな彼女らが向かうのは今まさに戦闘が開始されようとしている褚燕の村。



英傑たちと高順の出会いが、刻一刻と近づいていた。






~~~楽屋裏~~~

短いですねぇ・・・

それはそうとついに出ましたね、恋姫のキャラが。

本当はもっと遅く出すつもりだったんですが「恋姫キャラまだ?」みたいな空気だったので無理やり(ぉ
上党というか晋陽は幽州のお隣だし趙雲たちが旅で立ち寄っても多分大丈夫だよね?
色々プロットを考えては棄却しーの却下しーの。大変です。


ご感想お待ちしております。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第5話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/06 14:30
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第5話

メジャーな方々と出会いました。でも全員女性でした。嬉しいやら悲しいやら・・・。




「はぁ、はぁ、はぁ!」
「あともう少しだ、走れ!」
「風はもう駄目です。後はよろしく・・・ぐぅ。」
「ああ、もうまた寝始める・・・。諦めないでください、風!」

こんなやり取りをしつつ褚燕の村へひた走る趙雲達。
途中に岩場があり、彼女たち3人はそこを素早く抜けたが、後方の盗賊たちは数が多いためかそこで少し渋滞し、ある程度距離を稼ぐことが出来た。
「はぁ、ふぅ。しかし星殿!あの村・・・何かおかしいぞ!」
「ああ、どうも戦ってる真っ最中に見えるな!」
村に近づくにつれ、どうにも様子がおかしいことに気がつく。
何重にも柵をはり、騎兵やら歩兵やらが村の内外に陣を展開している。
あれは官軍だろうか。
そしておそらく村人だと思うが・・・柵の内側で槍を構え、弓を構え、こっちを見ている。

「風もそう思いますねえ。こっちに対しても殺気満々。「おう、姉ちゃん達。もしかして誤解されてるんじゃあねえかい?」と言っておりますよ?」
「・・・だから漫才は後にしてください、風。」
「戦闘中か・・・。だが、入り込めば何とかなるのではないかな?少なくとも」
最後尾を走る趙雲じゃ後ろをチラッと振り返る。
そこには40人ほどの盗賊たちが
『ヒャッハー!』×40
「・・・・・・。こんな状況からは抜け出せると思うのだが!?」
「それに関しては同意です!とにかく、どうにかして村に入れてもr「ぐぅ。」寝るなーーーー!!!」

趙雲達は必死だった。(特に戯志才が。


「高順、高順ーーー!!」
黒髪を三つ編みにして肩から垂らしている女性兵士が走りながら高順の名を叫ぶ。
「どうした!?・・・って何だ、郝萌?」
郝萌と呼ばれた少女が不満そうな表情になる。
「何だ、ですって?何か不満あるの!?」
「いや、そんな息せき切って走ってくるからさ。もう内部まで攻め込まれたのかと。」
「はぁぁぁ・・・。ま、いいけどさ。もう。」
彼女の姓は郝、名は萌。
この物語の1話において、いきなり高順が叫んだことに驚いて竹簡を取り落とした人だ。彼女も親衛隊であり高順から見れば先輩に当たる。
2人とも齢が近く(郝萌のほうが年下だが)、よく一緒に仕事をする間柄のせいか良い友人関係だったりする。
高順よりも年齢が下だが彼よりも早く親衛隊に抜擢され、優秀な人なのである。
ただ、影が薄いのか派手さが無いのか、微妙に目立たない人であった。
「で、何があったのさ?」
「あ、そうそう。何かね、村の人から聞いた話なんだけど。東のほうから盗賊がこっちに向かってるんだって。」
「何?盗賊?・・・まさか敵の援軍?」
「でも、数が40人ほどだそうよ。これじゃ援軍にならないでしょ?それに、その先頭を3人の少女が走ってて・・・どうも、追われてるみたい。」
「その3人が盗賊ってことはないよな?」
「そこまでは。でも先頭の3人は必死になって逃げてるみたいだし、服装からして盗賊には見えないって聞いたよ?村の人もどうしようって。」
うーん、と高順は腕組みをして考える。
厄介のときに厄介なことがやってくるとは言うものの。
こんな状態じゃなければ迎えてやりたい所だが・・・。
しかし、このままではどっちにしても戦闘に巻き込まれるだろう。
いっその事村の中へ避難してもらったほうがまだ生き残れる確率も高いだろう。
賊の討伐も官軍の仕事だ、と思うし。
ただ、自分の指揮権はあくまで与えられた100の騎兵だけ。
機を見て一気に敵の横腹を突け、と言われている以上、ここで勝手に部隊を動かすわけにも行かない。この場合、一度朱厳に伝令を出し許可を得るべきだな。と高順は考えた。
「よし、郝萌。悪いんだが・・・。」
「朱厳様にも伝令出したわ。」
「・・・流石だね姉者。」
「へ?何よそれ?」
「いや、何でも。」
相変わらずよく解ってるな、と高順は感心した。
指揮官は朱厳だから当然と言えば当然だ。
この場合、一番近くで部隊を展開できるのは高順。
なので朱厳にも高順にも知らせるのが一番最良だ、と考えたのだろう。
ほどなくして朱厳のもとから伝令が来る。
「高順殿!朱厳様よりの言伝を預かってまいりました!」
「ご苦労様です。して、朱厳様は何と?」
「村の方々に先頭を走る女性3人を村へ避難させるように伝えよ、と。そして騎兵隊を率い盗賊どもを追い散らせ、とのこと!」
「承りました。」
「では、私はこれにて!」
伝令は慌しく帰っていった。
「郝萌!村の人々に説明を!」
「解ったわ!」
高順は後ろに控えていた部下達のほうへ振り返る。
「皆、聞いていたな!?これより我らは盗賊どもを殲滅する!面倒かもしれんが付いて来てくれ!・・・全兵、騎乗せよ!!」
「おう!」

~~~村東部~~~
「おい、二人とも!見えるか!?」
「ええ、あれは官軍の騎馬隊ですね!」
「おおー、助けてくれるのですねー。」
村のほうから騎馬隊がこちらに向かってくるのが趙雲たちからも見える。
「ただ、問題は・・・。」
「私達も盗賊と思われてるかもしれませんけどね・・・。」
「・・・・・・。」

そうだった。
もし彼らが自分達を盗賊と勘違いしてたら?
挟み撃ちにされる形になるか。というか疑われたら、自分達が盗賊ではないと証明する手立てが無い。
「ま、まあそこは智謀の士である二人に任せるとして!」
「おお、星ちゃんが全部丸投げにしてきましたよ。というわけで稟ちゃん頑張るのです。ぐぅ。」
「あなたも丸投げするつもりですか!?」

割と考えなしの3人だった。
そうこうしているうち、騎馬隊がこちらへと走ってくる。
これはまずいか?と思う趙雲達だったが・・・。
先頭を走ってきた男、高順だが――速度を落とし「そこの3人!」と呼びかけてきた。
先頭の男に倣って周りの騎兵達も速度を落とし始める。
そこで稟が機先を制する形で「官軍の方ですね!盗賊に追われております、どうかお助けを!」と叫んだ。
「俺の上党の・・・って、くそ、名乗る暇は無いよな。貴方達、早く村の中へ!」
「え・・・?」
その言葉にきょとん、とする趙雲達。
「え?じゃなくて!早く逃げてください!」
「その・・・そんなあっさり信じるなんて・・・我々の事を疑わないのですか?」
「そんな事はいいから早く!・・・誰か!彼女達を護衛して村に!」
「解った!さあ、早く!」
「あ、ああ・・・。」
「わ、解りました。」
「おお、助かったのです。」
とか何とかいいながら10人ほどの騎兵に付き添われ村の方へと走って行った。
高順はそれを見届け、再度盗賊たちのほうへ馬を駆けさせる。
「突撃!生かして返すなあっ!」
「おおーーー!!!」

盗賊たちも盗賊たちで今更ながらにどうするべきか悩んでいた。
狙ってた娘達は官軍に保護されてしまったし、ほとんどの騎兵がこちらに向かってくる。
目先の欲に囚われすぎて引き際を完全に見誤ってしまった。
今の彼らに出来ることは3つあった。
真っ先に逃げること、降伏すること、戦って死ぬこと。
最後の1つだけはありえない。あと2つ、どっちが生き残れるかと考えたせいで。
逃げれる可能性を失った。

「斉射用意!・・・放てっ!」
何十本もの矢が盗賊たちに飛んでいく。
「う、うわ・・・に、逃げおげあっ!?」
「お、お頭ぁっ!?ぎゃああっ!!!」
始めの射撃のみで盗賊頭が射抜かれ、周りにいた十人ほどの賊も巻き添えになる形で死んだ。
「ひ、ひぃぃ。逃げろ!」
盗賊たちは一目散に逃げ出したが趙雲達を何里も走って追い続けた彼らは体力が残っていなかった。
先頭を走る高順は槍で数人の賊を刺し貫いた。
逃げようとして背を向けた瞬間に槍で貫かれる者。矢で射抜かれる者。剣で斬られる者。
様々だったが、高順たちは盗賊たちをただの一人も残さず殲滅した。

盗賊を殲滅した騎馬隊は、休むことなくまた村へと駆けて行く。
その一番後ろを進むのは高順と途中で追いついてきた郝萌だ。
その高順は凄まじく顔色が悪い。というか吐きそうな顔をしている。
「・・・高順?」
「・・・・・・うぅっ。」
(やっぱそうなるよね・・・。)
郝萌ははぁ、とため息をついた。
別に高順が軟弱だとか、そんな感想を持ったわけではない。これは兵士という人を殺す職業なら大抵誰もが通る道だ。
郝萌も初めて戦場に出て人を殺したときは思い切り吐いてしまった。
(辛そうだなぁ。・・・よし。)
郝萌は高順より先行し、回りの者に話しかける。高順には聞かれないように。
「ごめん、皆。ちょっと先行っててくれる?」
「お?どうかしたのか?」
「あー、ちょっと高順が。その、ね?」
「あぁ・・・。そっか、わかった。じゃあ先に行ってるぜ!」
行こうぜ、とか何とか言いながら高順と郝萌を除いた騎兵達はすぐに村へと駆けて行った。
「お、おい・・・あいつ、ら。う、うぅっ・・・。」
郝萌が高順と同じくらいの位置にまで戻ってきて、馬を並べ心配そうに言う。
「高順、皆気を使ってくれたんだよ。ほら、馬から下りて。」
「うぐ、そ、そんな心配しなくても・・・・・・。おぅ・・・。」
「無理しないの。別に恥ずかしいことじゃないんだからさ。そこの岩陰あたりで吐いて。」
「う・・・。」
駄目だ。もう限界だ。くそ・・・。
高順は馬を止めそのまま下りる。もう歩く気力が無いらしく、その場で蹲ってしまった。
心配した郝萌が肩を貸し、岩陰まで連れて行く。
「す、すまん・・・。み、見ないでく・・・おぅぅっ」
「大丈夫だって、ほらほら。」
そう言ってしゃがみ込み、郝萌は高順の胸の辺りを小突いた。
ただでさえ限界だったのにそこまでされたらどうしようもなく、高順はそのまま吐き上げてしまった。
郝萌はそのまま高順の背中をとんとんと叩いている。
「うう・・・。な、情けない・・・・・・。」
嘆く高順に、郝萌は自分の水筒の蓋を開け、差し出した。
「ほら、これで口ゆすいで。少しは気分良くなるよ。」
「あ、ああ。すまない。」
口をつけ水を含み口をゆすぎ、ぺ、っと吐き出した。
水筒を返そうとしたが、そのまま返すのは失礼だよな?と考えた高順は口をつけていない自分の水筒を変わりに差し出す。
「ぷっ。そんなの気にする必要ないのに。」
笑う郝萌に、俺が気にするんだよ、と言い返し無理やり水筒を手渡した。
はいはい、と苦笑して水筒を受け取る郝萌。
吐けるものを全て吐いたからかもしれないが、高順の具合はすぐに元に戻った。
人前で醜態を晒したのを気にしているのか、少し落ち込んでるように見える高順だが、郝萌は少しも恥ずべきでは無いと思っていた。
人を殺したのだ。それも自分の手で。気分が悪くなって当然だ。
「あまり気にする必要は無いわ。」と言うのみだったが、その優しさが辛いような嬉しい様な、微妙な気分を味わう高順だった。

村に帰還した高順たちだったが、まだ本命の晋陽軍との戦いが終わったわけではない。
朱厳が村の外で粘っている。
すぐに伝令を出し、民間人の保護と盗賊を殲滅し終えたことを伝えた。
これで朱厳様も退かれるだろう、と思い、また出撃の準備をしていると。
「もし、そこの御仁。」
「・・・?」
呼びかけられた高順が振り向くと、先ほど村に避難した3人が立っていた。
「おや、あなた方は・・・・・・。あ、先ほどは失礼しました。名乗りもせず、その上馬上から偉そうに。俺の姓は高、名を順と申します。」
と拱手をする高順。
「いえ、そのような。助けていただいたことに感謝しております。」
と、3人は頭を下げた。
「私の姓は趙、名を雲と申す。」
「私は姓を戯、名を志才と言います。」
「私は程、名を立と言いますよ、お兄さん。」
「・・・。・・・・・・はい?」
何?と言った感じで聞き返す高順に、趙雲達も何か?と言った感じで首を傾げる。
ちょううん?ぎしさい?ていりつ?

OK。ちょっと待て。考えろ俺。
趙雲といったらあれだ。演義で蜀の五虎将か何かの人で長坂をただ一騎で駆け抜けた勇者。もうメジャーすぎるくらいメジャーな人だ。
戯志才は・・・ちとマイナーだが曹操の信頼が篤く、死後、荀彧だかに「何とか後任を探してくれまいか」と言わせるほどの智謀の人だったよな?
程立は、確か曹操のブレーンの1人で夢で日輪掲げたとか十面埋伏とかの、これまた智謀の人じゃないか。

・・・・・・もしかして、本人達?
もしかして俺、三国時代を彩った英傑を目の前にしてる?


なんか、また性別が女性だけど。

「あー・・・・・・。えー、どうしたものか。」
「???」
高順の挙動がおかしな感じになって更に首を傾げる3人。
「ああ、駄目だ。埒が明かん。・・・すいません、お三方。質問させてもらっていいです?」
「え?はぁ、どうぞ。」
「まず、青い髪のあなた。趙雲さん、ですよね?」
「そうだが、それが・・・?」
「字は子龍って言いますか?」
「何と!?何故私の字を知っておられる!?」
「本物!?じゃあ常山の昇り龍本人か!」
「何!?そんな通り名は初めて聞いたが・・・ふむ、中々の響きですな。常山の昇り龍。ふふふ。・・・良い!」
うわ、やっぱだ。ビンゴ。大当たり。
なんか常山の昇り龍っていうのが偉く気に入ったのか身悶えしてるし。
「戯志才さんは・・・あまり知りませんけど。すごく頭のいい人ですよね?策に自信があります?」
「え?ええ、すごくかどうかまでは解りませんけど・・・。それなりに自信はあります。」
おお、こっちも当たり。あとはこの・・・なんだろう、お子ちゃま?
「「おう、兄ちゃん。今ものすごく無礼な考え事しなかったかい?」と、この子が言っております。」
そう言って頭の上に乗ってる謎生物(?)を指差す程立。
「うお、ごめん。・・・えーと、程立・・・さん?あなた、字は仲徳・・・で良かったっけ。」
「おおっ!私の字まで知ってるとは・・・。お兄さん、お目が高いねぇ。」
お目が高いって何だ?と思うがそれは受け流して。
うわー、すごいよ本物だよ。丁原様初めて見たときも感動したけど。
まさかこんな有名人にまで会えるとは思わなかった。
「あの、高順殿?如何しました?」
「ふぉっ!?ああ、すいません。あなた達ほどの英傑に会えたことが嬉しかっただけです。」
「ほほぅ、我らを英傑とは・・・。お目が高い、と言いたいところですが少し過大評価ではありませぬかな?」
趙雲がにやりと笑う。
「おお、それよりも。こちらからもお聞きしたいことがあったのです。」
「趙雲殿たちから?」
「ええ。・・・何故、我らをお助けになられた?盗賊の一味であるかも知れぬ我らを。」
今までの雰囲気は何処へやら。趙雲が真面目な表情で聞いてくる。程立も戯志才も同じ疑問を持っているのか、やはり真面目な顔つきになっている。
「何故、か。まあ、簡単に言えば・・・貴方達が逃げるのに必死だったとしても、この村が今戦闘に巻き込まれてるのは理解できましたよね?」
「無論。」
「この村の物資が目的としても、軍勢がぶつかり合ってるときに好き好んでやってくる盗賊はいない。そう思いませんか?」
「それは確かに。」
「そんな状況でも村に向かってくる。それだけ貴方達が追い詰められていると思っただけです。たとえ戦闘に巻き込まれるとしても、賊に捕まるよりはまだましだ、ということかな?それに。」
「それに?」
「賊がらみとかで困ってる人々を助けるのが官軍の仕事でしょ?誰も彼にも手を差し伸べることが出来なくても、少しくらいなら。自己満足もいいところなんですけどね・・・。」
高順は苦笑して人差し指でこめかみの辺りをぽりぽりとかいた。
「主君にもその甘さを何とかしろ、みたいなことを言われたのですが・・・。性分でして。」
俺みたいなのはなんて言うのかな。ただの偽善者かなぁ。と無邪気に笑う高順。
そうして笑う彼の事を戯志才と程立は勿論、物事を皮肉に見ることが多い趙雲ですら好意的に受け止めた。
そういう人間がどう呼ばれるのか。それは趙雲達はなんとはなしに理解できたが、それは彼が自分で理解するべきことで、今言うべきことではないのだろう。
「では、皆さん。ここから先は官軍の仕事です。3人とも、安全・・・は無いかもしれないですが、戦闘が終わるまで村の中で待っていてください。」
「お待ちを。私達もお手伝いいたします。」
「そうですね~。戦力比がどの程度のものかは知りませんけどー。私達もお手伝いできると思いますよ~?」
「左様。高順殿。我らも戦列にお加えくだされ!」
と、三者三様に頼み込む。
だが、高順は首を横に振った。
「駄目です。少なくとも今は。」
「高順殿!」
「さっきまでずっと走り続けてお疲れでしょう。それに俺には貴方達を戦列に加えるとかそんな権限が無いんです。ただ、気持ちだけは受け取っておきます。」
「ですが・・・。」
戯志才がなおも言い募るが、議論するつもりは無いとばかりに高順は頭を下げ、周りに待機していた兵達に出陣する旨を伝えた。
その言葉に兵士達は騎乗し、持ち場へと駆けて行った。
「・・・。どうします、星ちゃん?」
「決まっておろう?我らは我らのやりたいようにするさ。ふふっ、楽しくなってきたな。」

そのころ、朱厳たちは――――

「ぐわぁあぁっ!」
朱厳の双剣で切り裂かれた晋陽兵が悲鳴を上げる。
「ほっほっほ。この程度かの?」
余裕の体で朱厳は笑う。
その朱厳の前には重症、軽症、そして死亡したもの。
数十人の晋陽兵が転がっていた。
上党兵も晋陽側に比べれば数は少ないものの、錬度と士気の高さによって善戦していた。
幾人かは倒れ重軽傷を負っている者もいたが、尚士気は衰えることなく戦い続けている。
「く、くそぉ・・・。やっぱ、あいつら上党軍かよ?」
「じゃあ、本物の朱厳様なのか・・・?」
「冗談じゃない、勝てるわけ無いぞ・・・!」
「俺はやだぞ、なんで上党軍と戦わないといけねーんだ!」
何人かの兵が自陣に向かって逃げていった。
それに釣られるように更に多くの兵が武器を捨て逃亡し、または降伏し・・・遂には先鋒部隊全体が士気を喪失。完全に瓦解していったのだった。


~~~晋陽軍~~~

「将軍!先鋒部隊500が壊乱!」
「な、こんなに早く!?しかも壊乱とは・・・!」
時間を稼ぐことも兼ねて同数の兵を当てたのだこうも早くとは・・・。あと少しで突撃準備が整うというのに。
これでクソ太守も余裕が無くなるだろう。コレまで以上にせっついて来るだろうな。
しかし、上党軍と戦って勝てるか?
彼らの被害はほとんど・・・?
何だ、村へと退いて行く・・・。朱厳様は何を考えてるのだろう。
我々を村に引き込んで叩くというのか?
しかし、ほとんど被害を出していないのに退くとは。
いったい何を考えている?
そこへ、また伝令が駆け込んでくる。
「将軍!後方から進軍してきた部隊ですが・・・。」
「何だ、どうした。」
「その部隊を指揮する方が将軍にお会いしたいと。」
「ふん、どうせ早く攻撃しろ、というお達しだろうが。」
「・・・解っているなら早くしていただこうか?」
「・・・・・・入って良いとは一言も言ってないのだが?」
いつの間にか陣幕に1人の男が入って来ていた。
真っ赤な鎧に、嫌らしい笑みを浮かべた頭の禿げ上がった男だ。
名前までは覚えていないが武の才に恵まれており、それを普段から自慢し続けてるいけ好かない奴だ。
武将としては自分より格下も格下なので言葉遣いに気をつける必要も無い。
「太守殿は早く攻撃しろ。と仰っておられるのですぞ?」
「言葉に気をつけろよ貴様。貴様に指図を受ける覚えは」
それ以上彼は言葉を口にすることが出来なかった。いや、出来なくなった。
目の前の禿げ男の突き出した剣に胸を刺し貫かれたからだ。
「ぐぶぉお・・・き、きさ、ま・・・」
「まったく、五月蝿い男だ。やれと言われた以上とっととやれば良かったんだよ。」
剣を引き抜く。将軍はそのまま血反吐を吐きながら倒れ伏した。
「しょ、将軍!?なんという事を!」
「おい、そこのお前。将軍殿は名誉の戦死を遂げられた。指揮権は太守様の命令により俺が引き継ぐ。用意が整い次第全軍突撃だ、兵士どもにそう伝えろ。」
「くっ・・・。」
「とっとと行け。それともお前も名誉の戦死を遂げるか?えぇ?」
わかりました、と憎憎しげに呟いて兵士が陣幕を出て行く。
その態度に多少腹を立てた禿男だったが、すぐに気を取り直した。
ようやく機会が回ってきたんだ。のし上がるためにこの状況を利用してやる、と。
彼は解り易いくらいに権力というものを妄信する男だった。
男は自分が新たな将軍であると触れ回った。
そんな彼を兵士達は「自称将軍」と、平気で陰口を叩くのだった。



~~~上党側~~~

「よし、こんなものじゃな。退け!」
朱厳の指示の下、兵士達は負傷者を収容し村内部へと退いていく。
高順に騎兵を預けたものの、出番が来る前に終わってしまったようだ。
まず、初戦は大勝利といって良い。
これで退けば晋陽側も「何故有利なのに退くのか?」と思うだろう。
元々戦意が高くない上、自分達の任務に疑問を抱いてる様子だ。
このまま時間を稼げればそれで良し。朱厳はこう考えた。
この時点での彼の思惑は成功していたし、晋陽側の混乱までは知る由が無かった。

そして同じ頃、数日前に張牛角を斬った丁原がこちらに向かっていることを知る者もいなかった。

~~~褚燕の村~~~

「朱厳様、ご無事でしたか!」
「当然じゃ。あの程度のこと造作も無いわ。」
喜ぶ高順とそう言って笑う朱厳。
「申し訳ありません、盗賊を片付けるのに時間がかかってしまいまして・・・。」
「なぁに、構わぬ。今日に限って言えばお主らの出番が来る前に終わってしまったからの。」
出番を取ってしまって悪かったの、朱厳は笑う。

村の中に兵士を収容し終えた朱厳は「まずは良し」と考えた。
夜も更けた頃、部隊の主だった者を陣幕に集め次の策を練る。
時間を稼げば良いだけだし、晋陽側もどうも戦意が低いのか積極的に攻めてこない。
今現状で言えば兵力もこちらが負けてはいるものの、守るだけならば問題はないだろう。
そう考え、さてどうするか、と考え始めたところに伝令が朱厳のもとまで駆けて来た。
「朱厳様!」
「おう、どうした?」
「先ほど放った斥候より急報!「敵に援軍あり!」。その数・・・1500ほど!それと・・・指揮官が変わったと。」
「む・・・。1500?しかし指揮官が変わったとは。どうしてじゃ?」
「その、援軍として派遣された将が先ほどまで我々と戦っていた将軍を殺したとか・・・まだ詳しいことまでは解りません。」
回りの者も多少は驚いた顔つきになる。
「それが本当であれば・・・少々見くびっておったかな?このような強硬手段に出るとは。これで敵の軍勢が3000ほどにまで膨れ上がったしまったか。」
「こちらも被害が無かった訳ではありませんし・・・。今戦える兵士は輜重隊の方々も総動員して1100程度ですか。」
今回の戦いで上党側の兵も100人ほどが死傷していた。
全員が全員戦えぬわけではないが、無理をさせることも出来ない。
「この村に砦並みの堅牢さを期待することは出来ません・・・。指揮官が変わった以上、積極的に攻めてくるのは眼に見えている。村人にも戦ってもらわなくては。」
「村の人々まで前線に出すのか?それは・・・。」
誰かの言った言葉に反対しようとする高順だが、それを朱厳が手で制する。
「高順よ、お主の気持ちは解らんでもない。しかし、時と場合を考えるのじゃ。村人を巻き込むのは得策とは言えぬがな。その当たりはまだまだ若いの。」
「ぬぅ・・・。」
確かに朱厳の言う通りである。
朱厳自身も村の人々を盾にして戦うつもりは無いようだが、この戦力差はかなり大きい。
今日の戦いは相手が様子見をするような感じだったのであっさりと勝てはしたが、全軍で攻め込まれれば・・・。
守りきれないかもしれない。さて、どうするべきか。
皆が腕組みしたところで兵士が陣幕に入ってきた。
兵士が一礼し、朱厳に報告をする。
「朱厳様。褚燕様がお越しになられました。お会いになられますか?」
「ふむ、褚燕殿が?よし、お会いしよう。」
はっ、と返事をした兵士が陣幕の外へ出て誰かに、どうぞ。というのが聞こえた。
そして陣幕に褚燕と・・・3人の少女が一礼し入ってきた。
その3人を見た恭順が驚く。
「・・・趙雲殿?それに戯志才殿に程立殿まで!?」
「何じゃ?知り合いか?」
「はい、盗賊たちに追われていた方々で・・・。」
「朱厳様、皆様。このような時間に失礼いたします。実はこの方々がどうしても、と。」
褚燕が言葉を切り、趙雲達がその場で跪く。
「私は姓を趙、名を雲と申します。賊から助けて頂き、感謝しております。」
戯志才も程立も名乗り、感謝の意を伝える。
「この方々が何故このような戦いをしているのかどうしても知りたい、と仰るのでお教えしたところ、義勇兵として参加させて欲しいと申しまして。」
「民を守る立場のものが民を苦しめる。そのような暴挙、許しがたし!」
「どうか、我らも参加させていただきたい。」
「皆さんの力になれると思いますよー?」
褚燕の言葉に続き言い募る趙雲達。
朱厳もふうむ、と唸りどうしたものかと考える。
義勇兵はともかく、彼女達の腕を知らないのだから何とも応えようがないのだが。
「それがしは槍の腕に多少の自信がございます。戯志才と程立は智謀の士。必ずやお役に立って見せまする!」
趙雲が尚も続ける。
「うーむ。」
「多少、ではなぁ・・・。」
「それに、あの程立とやらはまだ子供ではないか。子供に何が・・・」
上党の兵たちもぼそぼそと疑問やら何やらを口にし、不安そうな表情をする。
だが、3人は特に表情を変えるわけでもなかった。
正直こんな扱いは慣れている。
女の分際で、とかそんな事は言われなかったがやはり大抵の人は疑ってくるものだ。
やはり、認められることは無いのだろうか?
我々のような流れ者がいきなりこんなことを言っても信用はしてもらえないかな、と趙雲が自嘲的な思いに駆られるが・・・思わぬ援護が入る。
「良いのでは?」
「高順殿・・・?」
後押しする高順を3人が不思議そうな顔で見る。
「高順、お主は彼女らの実力を知っているのか?」
「ええ、知っています。趙雲殿と言えば幽州随一の槍の使い手と聞き及んでいます。戯志才殿も程立殿も智者としてその名を幾度か。自分達から手を貸すと言って下さってるのですから断る道理はありません。」
その言葉に朱厳はまたも、ふうむ、と唸る。
正直、今の状況ならば一人でも多くの兵士が欲しい。問題は趙雲達の実力を知らないということだが・・・高順は必要とあらば嘘をつくが必要ではない嘘をつくような男ではないことを朱厳は知っていた。
「・・・そうじゃな。村人にも力を貸していただこうというのに断る必要も無いな。では、お三方。参加を認めましょう。」
「感謝いたします!それと、1つ我侭をお許しいただきたい。」
「我侭?」
「はい。それがしは・・・高順殿の下で戦いたく思います。他2人は策で貢献いたしますゆえ。」
「ちょ、ちょっとお待ちを。」
趙雲の言葉に高順は慌てる。
「俺の下、と言われても俺は指揮権のない兵士ですよ?それを」
「それでもです。高順殿に命を助けていただいた恩があるのですから。今度は私が命をかけて高順殿をお守りいたします。」
「・・・・・・。」
何故か郝萌が高順を思い切り睨み付ける。
そして何故か回りの者もニヤニヤとする。

俺、何も悪いことしてないよね・・・?

「・・・あー、じゃあお願いしますね、趙雲殿。戯志才殿も程立殿も無理をなさらぬように。」
その言葉に満面の笑みを浮かべる趙雲達だった。

こうして、一時的にではあるが趙雲達が共に戦う事になったのであった。



~~~陣幕の外~~~
「高順殿。」
軍議が解散され、陣幕から出た高順を趙雲が呼び止める。
「なんです、趙雲殿。」
「ふふ、あなたもお人が悪い。昼は出しゃばるなといい、今は我々が参戦することを後押しとは・・・。」
「ああ・・・そうですね、悪いと思ってますよ。」
高順は苦笑する。
「ただ、昼と夜でこうも状況が変わるとは思わなかったので。正直、お三方が手伝ってくれると聞いて驚きましたよ。」
「ほう、我らが恩義を返さぬままどこへなりと去っていくような者に見えたと?」
「意地悪だなぁ・・・。そんなじゃないですよ。」
「では、どのような?」
「簡単に言えば・・・あなた達のような英傑と肩を並べて戦う事になるとは。と、そんなところですよ。」
高順はしごく真剣な表情で言う。
「・・・ふ、あっはっはっはっはっは!!!」
「ど、どうしました?」
「くっく・・・英傑云々は先ほど聞きましたが。そこまで期待されているとは思いませんので。・・・ふふふ。」
「別に笑わなくてもいいじゃないですか・・・。」
「・・・正直、感謝したいのはこちらです。」
さきほどの高順か、それ以上に真面目な表情で趙雲が応える。
「我々は幾度も同じような状況を見たことがあります。たとえば盗賊に悩まされ、山賊に悩まされ、泣き寝入ることしか出来ない人々の苦しみ。」
「・・・。」
「そんな人々を助けるためにこの槍を振るい、力を尽くそう。そして仕えるべき主君を探そう。そう考えて旅をしているのです。ですが誰も・・・私のような女のことを最初から打算無しで信頼し、仕事を任せようとしてくれた人などいなかった。高順殿、あなたを除いて。」
「俺だけ、ですか?」
「はい。故に、あなたの言葉が嬉しゅうございました。あなたの期待に応えたいと思ったのです。恩を返すというのも理由ですが・・・」
「・・・そうですか。」
「もっとも・・・誰でも彼でもそうやって信じようとなさる部分はまだ甘いですかな?」
そう言ってまた笑う趙雲。
いや。この甘さこそが彼たる所以なのだろう。
趙雲はこの甘さは嫌いになれそうにないな、と思う。
「ぬう・・・。」
「ふふ。それでは私はこれにて失礼いたす。明日からよろしく。」
「ええ、こちらこそ。」
高順に拱手し、趙雲は待たせていた戯志才・程立と共にしばらくの間宿として使用させてもらえるようになった褚燕の館へと歩いていく。
「星ちゃん?」
「ん?何かな、風殿?」
「なんだか嬉しそうなのです。」
「ふむ、私にもそう見えますね。予想はつきますけどね。」
「ふっ、ならばその予想が当たったと思えば良いさ。」

趙雲は空を見上げる。
自分の旅は弱き者を助けるために。そして乱世を鎮める主君を見出すための旅だった。
それほどの大器を持つ者は未だに目の前に現れてはいない。


だが思う。自分が仕えたいのはどこかの太守や王なのか?
否。一武将でも良いのだ。
歴史に名を残したいとか表舞台で戦いたいとか、そんな野望は持ち合わせていない。
自分の仕える存在が、どこかの誰かに仕えていても構わない。
自身の使える何者かが乱世平定の原動力たる者であれば。

趙雲は高順の優しさ、いや、もうどうしようもないほどの甘さに何か感じ入るものがあった。
彼のような手合いは、太守とか政治的な意味で人の上に立つ立場には絶対になれないだろう。
なったとしてもあの甘さを誰かに利用されて潰されるのがオチだ。

だが、あの甘さ。嫌いではない。
まだ将としての実力自体は解らないが・・・もし、あるのなら。その力がこれからも伸びるのだとすれば。
彼が将たるものとして一皮向ければ。
高順という男を自分の可能性の1つとして考える。

「・・・ふふ。面白い出会いがこうも立て続けにあるとは。この2人に出会い、高順殿と出会い。世界というものは本当に広い。」



その呟きは誰にも聞かれること無く、中空に溶けていった。







~~~楽屋裏~~~
どうも、うp主のあいつです。
いやぁ、またやってしまいました。
新しい武将。つうても実在の武将ですけどねw
郝萌なんてマイナー武将誰が知ってor覚えてるやら。

つか、晋陽ネタいつまで引っ張るんだ自分。
文才が平凡以下だからいつまでも長くなってしまうのでしょうね(遠

ご意見、ご感想、お待ちしておりまする。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第6話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/19 20:28
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第6話



「しっかし、この作戦で上手くいくのかなぁ。」
郝萌がそんなことを口にする。
「なんだ、まだ不満があるのか?」
「そりゃあねぇ・・・ぽっと出の・・・戯志才と程立だっけ?いきなり指図されるような形になったしぃ・・・。」
「良いじゃないか。それで生き残れるかもしれないんだからさ。」
不満を口にする郝萌と、それを宥める高順。
彼らの今いる場所は褚燕の村より東・・・いや、どちらかと言えば東北になるか・・。2里ほど離れた丘のすぐ近く。
丘と言っても「小高い」程度で、周りが岩場になっている。
徒歩の盗賊から徒歩の趙雲達がなんとか逃げ切れたのは、こういった大人数が一度に通りにくい場所を利用したからだ。
それがこんな形で役に立つとは高順は勿論趙雲達も思いもしなかっただろう。
今この場所には彼らのほかに騎兵200ほどと輜重隊100ほどが待機している。その中には趙雲もいる。
あれからすでに3日が経過していた。
本来ならすぐに晋陽軍の総攻撃が始まっていたのだろうが、それが遅れていた。
そうなった理由は戯志才と程立の立てた作戦。

彼女達の策は単純なものだった。
まず、最初の戦いで捕虜にしていた晋陽兵に偽情報を掴ませて帰陣させる。
その内容は「近日中に丁原が軍勢を率いてここに来る。」という、ただそれだけ。
明確な日時も解らなければ、どれだけの兵士を率いてくるかも解らない。
自分達に攻撃を仕掛けてくるのは解りきっていることだが・・・これを知らされた晋陽兵士は混乱した。
更に追加で「丁原が朱厳に伝令を出していた。内容は「自分が着陣するまでに降伏したものは許す。降伏しなかった者は全員殺す」という苛烈なものだ」という内容の情報。
これだけでは終わらない。
「黒山賊は既に丁原が殲滅した」とか「すでに晋陽に攻め入ったらしい」とか、嘘か本当か判別しにくい情報まで流す。
これらの情報で更に晋陽側は混乱をした。
指揮官が不当な交代をし、更に色々な情報が飛び交い何が嘘で何が本当かわからない。
実は高順たちも丁原が実際にこちらに向かっているということを知らなかった。
すぐそこまで伝令が向かってきており、朱厳もその情報を知るのはこの後である。
なので黒山賊が殲滅されたのは事実だが・・・それを知る者は丁原と、彼女の率いる軍勢だけだった。
そういう意味では戯志才と程立の流した偽情報は全て「嘘」だったのである。

そして、その日のうちに彼女達は足の速い騎兵全てと、歩兵としての輜重隊50ずつを村の外へ出すことを提案してきた。
勿論夜影にまぎれて、である。
まず、輜重隊50と騎兵200を村の東側、つまり高順たちの今いる場所に少しずつ送る。
この場所は村からでも見えにくい場所だ。
村人が、逃走していた趙雲達を発見するのが遅れた理由もそこにある。
そして斥候を放ち、村の西側に同じように隠れる場所が無いかどうかを探す。
もしあったらそこにも輜重隊50と騎兵200を同じように配置する。
運よく西側にも同じような場所があったが、東側よりも位置が遠いのが問題だった。
だがその問題は朱厳本陣の奮戦でなんとかなる、と戯志才達は考えた。
朱厳率いる歩兵500と村人500で村の南に下がり応戦。
その途中には多くの罠がある。
侵入してくる可能性は低いと思うが、東と西の入り口を封鎖。北からのみ侵入できるようにもって行けばいい。
その裏工作をするのは褚燕と彼女の個人的な部下達だ。
褚燕はその時まで喋らなかったが、彼女の言う「個人的な部下」は彼女の一族に古くから仕える人々で、個人戦闘力はそれほどではないが密偵・撹乱など裏の仕事で高い能力を発揮する人々らしい。
本格的な戦になった場合にのみ使おうと決めていたらしいが、それが今だと判断したのだ。
褚燕自身も本来はそういった戦い方をする手合いである。
何度かこちらへ放たれた斥候を排除するのも彼女達がやっていたらしい。
残りの輜重隊100と負傷者、そして村の非戦闘員は既に南に向かっている。


そして、晋陽側というと・・・軍団長が交代したことと色々な情報に惑わされて逃亡する兵が後を絶たなかった。
武器を捨て、上党軍へ降伏した者も少なくない。
こういう事態では統率する者の技量と、兵士達が将を信頼しているか否かが分かれ目となる。
武の才に恵まれていても、凶暴なだけの力自慢では統率力など無いに等しい。
逃げようとする兵士を斬り捨て、見せしめにしたが余計に兵士達が逃げるだけの状況に陥った。
そのために当初は3000近かった兵士も3日経った頃には2500程度にまで減っていたのだった。
そこに追い討ちがかかる。
夜中、多くの兵士が寝静まる中で放火騒ぎが起こった。
褚燕の「個人的な部下」が侵入し、陣幕に手当たり次第に松明を投げ込んでいったのだ。
将軍の陣幕にも投げ込まれ、すぐに消し止めたものの・・・ただでさえ低い士気が更に低下した。
このままでは埒が明かない。日を置けば置くほど不利になる。
そう考えた「自称将軍」は明朝、どのような状況であろうと全軍で突撃することを通達。
兵士達も渋々といった感じで持ち場につき始めたが・・・戦意など何処を探しても無かった。

そして、夜が明ける。
褚燕の村と晋陽軍本陣の距離は約3里(1・3km前後)。その間には何1つ邪魔をする物は無いただの平地だ。
「自称将軍」はおそらく、村に本隊が待ち構えているだろうと予測した。
晋陽軍から見て南一直線に褚燕の村。南東、南西は岩場があり、そこに勢を隠しているだろう。
特に南西側にはこちらから見て、小高い丘がある。村に攻め寄せれば東西から出撃して攻め込んだ部隊を挟撃しようというのだろうが・・・。
どうせ、向こう側はこちらより戦力が少ないのだ。村の人間を動員したとしてたかが知れている。
不審なのはこちらから放った斥候が誰一人帰還していないことだが・・・まあ良い。
全戦力で攻め、1人残らず抹殺してくれる。

晋陽軍2500、全軍が布陣する。
「いいか、貴様ら。この戦いに勝てば褒美は思いのままだ。太守様も大層お喜びになるだろう。前任の無能と俺が違うことを見せてやる!・・・男は皆殺しにしろ!女は好きにしろ!行け!進めぇっ!」
この言葉。賊とどう違うというのか。兵士達は鬨の声を上げるが・・・・・・こんな言葉で戦意が出るはずも無かった。
「全軍突撃だーーーー!」
威勢がいいのは自称将軍ただ1人。

「来たか・・・!」
晋陽軍が突撃を開始した。
2500程度とはいえ、流石に迫力がある。岩場に隠れていた高順達に気づいているだろうが、こちらには一兵も攻めてこないようだ。
おそらく、西側にも兵を寄越さないだろう。朱厳率いる本隊にのみ焦点を絞ったということか。
「ふっ、読みとしては悪くない。悪くないが・・・我々を甘く見すぎているようですな。」
晋陽軍の突撃を見守る高順の後ろから趙雲がそんな感想を漏らした。
「伏兵に気づいているのならまずそちらを優先して叩くべきでしょうに。そう思いませぬかな?」
「そりゃあね・・・。全軍で一気に落とす、というのも悪くないとは思うけど。どうにも向こう側の戦意が低いし、動きも遅い。本気で戦おうとしてるの、1割もいないんじゃないか?」
もし本気で村を落とすのなら進軍速度も速いだろうし、こちらにも兵を派遣するだろう。
派遣しないとしても、指揮官に誰かが諌言するはずだ。誰も何も言わなかったのか。それとも回りの意見を聞こうとしない無能なのか。
「どっちにしても。」
2人の間に割り込むかのように郝萌が話しかけてくる。
「向こうの指揮官が無能でこっちが助かるってだけよ。」
「ははは、確かに。」
郝萌の言葉に趙雲がさもありなん、といった感じで笑いながら頷いた。
「戯志才と程立だったっけ。あの人たちの策がこうも簡単に決まるとも思ってなかった。大したもんよね。・・・高順、そろそろ攻め込むべきかな?」
「いや、まだだな。まだ敵全軍がこの岩場を越えていない。まだ時間がかかるさ。・・・っておい。」
「何よ?」
高順の言葉に郝萌が首を傾げる。
「今回、この部隊を率いるのは郝萌だろ。何で俺に聞くのさ?」

そうなのだ。
今回、部隊を率いるように言われたのは郝萌である。
前に高順が部隊を率いたから次は郝萌。というわけではなく、これは丁原親衛隊に所属するものなら誰もが通る道だったりする。
今回のこの戦いで朱厳に従う形で残された親衛隊は約半数。
親衛隊に所属すると最低でも1人1回は小規模ながら部隊指揮をさせられるのである。
これは丁原軍の武将、人材不足が顕著であるというのが原因だったりする。
彼らの為でもあるし、主君である丁原、あるいは副将である朱厳がいればいいが、両者共にいない場合親衛隊が部隊の指揮をしなくてはならないのだ。
そういった状況でも自分の意志で動けるように。少しでも早く慣れさせよう、と言うのが大きな理由だった。

「えー、別にいいじゃない?周りの人の進言にも耳を傾けるべきなんでしょ?」
「いや、そりゃそうだが。趙雲殿とか他に人がいるでしょ。」
「なーによ。さっきから趙雲殿趙雲殿ってー。そんなにあたし頼りにならないー?」
「なんでそういう話になるのさ!?つかその言い方じゃ俺が趙雲殿にべったりな感じになるだろ!」
「違うの?」
「違うわー!」
「ふふふっ、二人とも。私の取り合いも結構ですがその前に為すべき事がありますぞ?」
「「取り合ってない!!」」
「おやおや、つれませんなぁ・・・。」

こんな頭の緩いやりとりをしている3人だった。

朱厳率いる部隊は良く戦っていた。
正面で戦う朱厳が強かったのもあるが、兵たちも槍衾を展開し敵を寄せ付けない。
火矢を使ってくるものもいたが、弓が得意な兵と村人の混成部隊で優先的に仕留めていく。
何より褚燕とその部下による戦闘の効果が高かった。
褚燕はともかく、部下達は戦闘力自体は然程高くない。
彼らはそれを補うために上党軍から弩を借り受けていた。
村の構造を熟知している彼らのゲリラ戦法で、少しずつ、だが確実に晋陽兵が討たれていく。
また、褚燕自身の戦い方も晋陽兵にとっては恐怖の的だった。
褚燕は流線型手甲をつけておりそれが彼女の武器なのだが・・・どちらかと言えば、関節技を多様していた。
それも確実に殺す関節技。首を「へし折る」のである。
手甲で攻撃をそらし、殴りつけ、ひるんだところに掴みかかり首を折る。
腕や足の関節を極め無効化することもあったが、見せしめに首を折り戦意を鈍らせようという考えである。
まだ幼い少女がそんな戦い方をする。晋陽兵は恐怖した。
一進一退の戦いをしているように見えるが、攻めている側の晋陽兵が逆に押される場面も少なくない。
どちらがどう有利かもわからぬまま戦いは続いていた。

今村を攻めている晋陽兵は2200ほど。
「自称将軍」は供回り300程度と共に本陣に控えていたが戦況が一向に有利に傾かないことを理解したのか、自分自身が出撃しようとしていた。


「高順殿・・・。敵本陣が動きましたぞ。」
趙雲が高順に呼びかける。
「こちらでも確認しましたよ・・・。郝萌、そろそろ動く時間だぞ。」
「う、うん・・・。」
「なんだ、自信ないのか?」
「うん・・・。だってさ、あたし達が突入時期誤ったら、って思うと・・・。皆の命預かってるって立場だし。」
「大丈夫だって。俺達が突入したら西側のほうも突撃を開始する。見たとこ本陣の兵士はそう多くない。村からも幾ばくかの部隊が反転してくるだろうが・・・それまでに大将討ち取ればいいだけさ。」
「そうですな、どうもやる気があるのは敵大将のみ。残りは無理に戦わされているようですから・・・敵将を討ちさえすればすぐに終わるでしょう。」
「そういうこと。」
それで終わる。心配するなって。と郝萌の肩をぽんっと叩く。
「・・・そっか。わかった。やるだけやってみる。」
「その意気だ。・・・そろそろ部隊に号令かけときなよ?」
「うん。」
返事をして、伝令を走らせる。
「ふふ、お優しいですな?」
「そーかなぁ。普通ですよ?」
「いやいや、戦場であのような心遣いをなさるとは。ただ、私から見れば少々甘さが過ぎますかな?」
「いま戦闘中ってわけでもないですしね。流石に斬り合いしてるときには無理。」
「ははは。まあ、その甘さ・・・私は嫌いではありませぬな。ただ、ご注意を。高順殿がお優しいのは理解いたしましたが・・・その甘さがいつの日か御自身の身を危うくするやもしれませぬ。どうかご注意を。」
「わかってますよ。まだ死にたくありませんしね・・・。」
なら軍人にならなきゃ良かったんだけどね。こんな時代だ。戦いから無縁な場所なんて少ないだろうし。
それを知ってるから母上も父上も俺を鍛えてくれたのだろう。
武将として強くなって・・・徐州で起こるだろう戦を引っくり返せば。もしかして、とは思ってるんだけど。
よく考えたら俺が呂布に仕えるかどうかすらわからんし。まだ上党にいないみたいだし。実際のところはまだまだわからんのだよなぁ・・・。
それ以前に死ぬかもしれんし。
「こーじゅん?こーじゅんてば!」
「ひょわっ!?」
「何呆けてんの?そろそろ出撃なんでしょ。気合を入れて、ほら!」
そう言って郝萌が高順の背中をばしばし叩く。
「そうだな・・・俺もまだまだ死にたくないし。」
そのために人を殺さなければならんのは嫌だけどね。


自称将軍は怒っていた。
その怒りは自軍の兵士に対してのものだ。
彼に言わせれば「俺が直々に指揮してやってるのに、何故あんな小さな村1つ落とせんのだ!!」である。
指揮と言ってもただ突撃ーと言っただけだし、自分は300ほどの兵に囲まれているだけなのに。
現在村を攻めている晋陽軍は彼が連れてきた1500の兵士含め2500ほど。
だが、その1500も最初からやる気が無い。
軍全体が「こんな戦やりたくないよ・・・」と、そういう考えなのだが彼にはその辺りがよくわかってないらしい。
この数日間、周りで待機している兵も彼の乱暴さや喧しさに内心辟易としている。
(早く上党軍攻めて来ないかなぁ、そしたらこいつ置いて逃げるのに)とか思うほどに。
「ええい、もう良い!俺が敵将の首を直々にあげてやる!」
そうなれば兵士も発奮するだろう、とか叫びながら単騎で突撃しようとしていた。
周りの兵も内心うんざりしながら、嫌そうに馬を駆けさせたのだった。


来た。
高順は内心で敵将軍の頭の悪さに感謝していた。
全軍突撃から数時間が経過していたが、晋陽軍は村側の守りを崩せないでいた。
戦術としては悪くないのだが・・・自軍の統率も取れず、士気も上がらない状況で突撃したところで良い結果が出るとは思わない。
その上こうも簡単に本陣を前方に動かすとは。
「郝萌、あと少しだ。号令をかけるのはお前だ、しっかりな?」
「わかってる・・・!」
晋陽軍があと少しで自分たちの目の前を通り過ぎる。
あと少しだ。郝萌が心の中で数える。
4・・・3・・・2・・・1・・・

「今っ!突撃っっっ!!!」
郝萌の号令を合図に上党騎馬隊200と歩兵(輜重)50が飛び出した。

その突撃は移動している晋陽本陣からも見えた。
「しょ、将軍!東より上党軍です!!数はおよそ200ほど!」
「うるさい!見ればわか・・・」
「西からも上党軍が現れました!その数200・・・?いや、もっと多い!?」
「な、何っ・・・?400だと!?こちらよりも数が多い!くそ、退くぞ!貴様らは敵を食い止めろ!」
「そんな、無理です!」
「俺は将軍だぞ!貴様らは俺を守るのが仕事だろうが!?」
「くそ、やってられるか!」
「俺はもう嫌だ!降伏する!」
「な、逃げるな!戦えい!」

郝萌・趙雲・高順が先頭を走り、その後ろを二百数十の兵が追従していく。
歩兵は少し離されているものの良くついてきている。
誰の眼から見ても目の前の晋陽軍は混乱しているのが解った。
もっとだ、もっと早く!もっと疾く!
あと少しで弓が届く位置だ。郝萌が隣で「弓、用意!」と叫んでいる。
その声にあわせ、趙雲と高順は同じタイミングで弓に矢を番えた。
狙いは一本。敵将のみ!
「・・・斉射用意!放てーーーっ!!」
その言葉に従い騎兵部隊は矢を放つ。
一寸遅れ、「向こう側」の上党軍も矢を撃ち始める。
その射撃で晋陽軍の右翼・左翼共に数人の兵が倒れる。
高順の放った矢も将軍の側にいた兵士の肩を射抜いていた。その場に倒れたがまだ死んではいないようだ。
「ちっ、狙いを外したか!」
「ふむ、私も外してしまいましたな。」
趙雲も外したらしく、少し残念そうだった。
(やっぱ、鐙いるかな・・・。重心がうまく取れんから狙いが・・・。って、そんな場合じゃないな!)
「高順殿!奴らの動き、少しおかしくないか!?」
「どこがおかしい・・・って、ん?」
高順は何が?と思っていたが、確かに何かがおかしい。
戦闘を走っていた将軍の周りの兵が我先に逃げていく。
踏みとどまろうとしているのは20人もいない。
何かの策か?と思ったが・・・どうも、本気で逃げてるようだ。
「・・・趙雲殿。あれはおかしいというか単純に逃げてるだけでは?」
「ふむ、やはりそう見えますかな?」
ならば、と思い高順は側にいた郝萌に声をかける。
「郝萌!予定通りに行くとは思わなかったが・・・。」
「ええ、敵将のみに狙いをつける!皆、行くわよっ!」
「ああ!」
「心得た!」
郝萌の号令に従って上党兵が逃げ惑う晋陽兵を無視して将軍に突撃を仕掛ける。
向こうも逃げられないと悟ったかこちらに向かってくる。
「郝萌!抜かるなよ!?」
「言われなくても!」
言いつつも高順は弓を構え、矢を放つ。
その矢がきっちりと敵兵の首を射抜く。
首を射抜かれた兵は「ぐがぁっ」と呻き、馬から落ちていった。
射抜かれた時点でもそうだが、このような人馬入り乱れる乱戦時に馬から振り落とされれば助かることは無いだろう。
(くそっ・・・やっぱ、気分のいいもんじゃないよな・・・。)
前に人を死なせたときのように吐き気が襲ってくるということは無かったがそれでも複雑な気分だった。
「・・・!高順殿!」
「え?って、おわっ!?」
隣を走る趙雲の槍が高順の目前を薙ぎ払う。
カキィッ、という音と共に一本の矢が折れ、弾かれた。
「注意不足ですぞ!」
「あ、ああ・・・助かりました。」
危ないところだった。もう少しで今自分が死なせた兵士と同じ運命を辿るところだった。
「どれだけの腕を持とうと、油断は死に繋がる。ゆめゆめお忘れなきよう。」
「ええ、感謝します。」
その言葉に笑顔で返し、趙雲は自分に突撃してきた敵騎兵を一撃で「馬ごと」屠った。
「・・・すごい。」
「ふっ、この程度のこと造作もありませぬな。」
いや、この程度って。槍を横薙ぎしただけで馬ごと吹き飛ばすってどれだけ膂力あるんですか趙雲さん。
どう見ても10メートル以上は吹き飛んでったし。半端ない。
晋陽の兵もほとんどが逃げ、将軍を守ろうと向かってきた兵士もある程度先頭を駆ける郝萌・趙雲・高順によって討たれた。
「あまり強くないわ。これなら!」
「油断するなって!」
「油断してたのは高順のほうでしょ?一緒にしないでくれる!?」
「ぬぅ・・・。」

そんなことを言いつつも敵将が目前まで迫っていた。
どうも郝萌に狙いをつけたらしく、一直線に彼女の元へ突っ込んでいく。
郝萌も受けて立つつもりのようで速度を落とすことなく向かっていく。
「そこの女っ!この俺様と勝負しろぉっ!」
「望むところよっ!」


「でぇいっ!」
「んぅっ!」
馬のすれ違いざまに敵将が槍を突き出し、郝萌は腰に帯びた剣を抜き、槍を下から切り上げる。
馬上である上、よほどタイミングが合わなければできないような技だが郝萌は目立たないだけで優秀な武将だった。
その一撃で槍の穂先が斬り飛ばされる。
「くっ。ぐぅ・・・貴様よくも・・・」
馬首を返しながら呻き、自称将軍も剣を抜く。
郝萌も馬首を返し、さらに切り込もうとするが・・・。
その時、郝萌の馬の頭に一本の矢が突き刺さった。
「えっ!?」
馬首を返そうとしていた郝萌の馬がそのまま力を失い勢いよく倒れ、郝萌が振り落とされる。
自称将軍に従ってこちらに向かってきた兵の1人が弓で狙っていたのか。それとも流れ矢か。
一騎打ちとは言ってもまだ周りで戦いが続いていたのでそこまでは解らなかった。
「んぐ・・・げほっ!」
「郝萌!くそ、まだ誰か残っていたか!?」
郝萌は受身を取り損ねたのか背中を強打したらしい。仰向けに倒れ咳き込むばかりで立ち上がることが出来ない。
これ幸いとばかりに自称将軍が剣を振りかざし駆けて来る。
「はーっはっはっはぁっ!死ねえっ!」
「ちっ!」
高順が馬を駆けさせ、間に入ろうとするが・・・その必要は無かった。
趙雲のほうが先に動いていたからだ。
「高順殿!あなたは郝萌殿を!」
「了解したっ!」
応えつつも高順は馬の速度を緩めない。
敵の兵士がほとんど討たれたとは言え、戦うことの出来ない郝萌がいつ狙われるか解らないのだ。
高順は回りに眼を配らせる。敵の兵士がどこかに潜んでいないか。
・・・いる。馬の死体の陰に隠れて郝萌を弓で狙っている兵士が!
高順は弓を構え兵士を狙う。
(くそ、振動が大きすぎて狙いが上手く定まらないが・・・!当たれ!)
そう念じて矢を放つ。
ひゅおっ、と空気を切り裂き矢が一直線に飛んでいく。
直後、「ぐあっ!?」という叫びと共に兵士が弓を取り落とした。
仕留める事は出来なかったが、腕に当てたらしい。
充分だ、と安堵しつつ馬から下りて郝萌に駆け寄る。
「おい、しっかりしろ!郝萌!生きてるか!?」
「ぐ・・・ごほっ、勝手に・・・ころ、さないで・・・よ・・・けほっ」
「なんとか生きてるな。よし、掴まれ。」
「ん・・・あり、がと・・・」
郝萌を抱え起こし「趙雲殿は?」と向き直る。
彼女の腕ならば心配する必要は無いだろう。
しかし、もしもということはあり得るのだ。心配してもしすぎというわけではない。
だが、やはりその心配は必要が無かった。
高順が向き直ったときにはすでに趙雲は自称将軍を討ち取っていたのだ。
どんな内容の戦いだったかは知らないが、おそらく一方的な戦いだったのだろう。
もしかしたらさっきみたいに一撃で終わらせたのかもしれない。
「はぁ・・・本当おっかない人だよ。」
自称将軍に従った兵もほとんど討たれるか、無力化されたようだ。
趙雲も馬から下りてこちらに駆け寄ってくる。
汗をかいてはいるが返り血は一滴もついていない。
「あれだけの戦いで返り血なしとは。趙雲殿にとっては楽な戦いでしたかね?」
「まさか。まあ、苦戦はしませんでしたな。そんなことより郝萌殿、大丈夫ですかな?」
「え、ええ・・・ありがとう。」
「いやいや。無事でなにより。さ、戦いは終わりました。あとは兵をまとめ帰還するだけですな。」
そう言って村のほうへ向き直る。
村のほうでも将軍が討たれたのを知ったのか晋陽兵は武器を捨て降伏をしはじめているようだった。
戦いは終わったがこれからのほうが大変だ。
村の復興もある。この件での後始末もある。
さて、丁原様はどうするつもりかな。そこまで考えたところで高順は1つ大事なことを思い出した。
まだこの場所で遣り残したことがあるだろう、と。
「いえ、趙雲殿。まだあなたには1つ大きな仕事がありますよ?」
この言葉に趙雲は少し驚き、「な、何か遣り残したことが?」と返す。
「ええ、それはもうとっても大事なことが。」
「しかし・・・今私がやることなど何1つ無いような?」
「あるじゃないですか。名乗りです。」
「あ・・・。」
そう。名乗りである。
流浪の武将というのはこうやって名を上げて行く。
そうすれば武勇があるとか、或いは知略があるとかで評価され仕官する時などに有利になる。
どこかの太守の下で義勇兵として戦い功績を挙げて、名を上げ、位の高い人々との繋がりを持つ。
他の方法もあるが武官はそうやって自分にとって有利な状況を作る。
どの時代でもどんな世界でも、それは代わることの無いルールの1つだ。
趙雲は今、間違いなく功績を残したのだからここで名乗りを上げる権利がある。高順はそう言っているのだ。
「いや、しかし・・・郝萌殿が彼奴の槍を叩き切ったことが有利に働いた事実もあるわけでして。」
「それが無くてもあなたが勝ってましたよ。それで納得できないなら2人の功績にすればいいでしょう?郝萌はどうだ?」
抱えている郝萌に問いかけてみる。
「こほっ、うん、私もそう思う。って、あ、あたしも!?」
「ああ、郝萌も趙雲殿も誇れることをしたんだ。堂々と胸を張ればいいんだよ。」
「高順殿・・・。」
「ふう。ま、郝萌はこんな状態で大きな声出せないでしょうけどね。趙雲殿がやりたくないなら俺がやっちゃいます。」
「え?ちょ、ちょっと」
趙雲が抗議しようとするが高順はすう、と息を吸い込み高らかに宣言する。
「敵将!常山の昇り龍・趙子龍と上党の郝萌が討ち取った!」

その場にいた上党兵が手にしていた武器を高く掲げ歓声を上げる。
郝萌も趙雲もこんな展開になるとは思わず、あたふたとしていた。
周りの人々が歓声を上げる中、高順もまた手にした槍を掲げる。
趙雲たちが力を貸してくれた。敵の士気の低さ、行動の遅さにも救われた。
褚燕も村人達も団結して協力してくれた。上党の皆も死力を尽くして戦った。
幸運が重なった、というのが一番しっくりと来るかもしれない言い方ではあったものの。
それでも。戦いは終わった。俺達は勝てた。生きて帰る事が出来るのだ、と。



~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。
やっと序章が終わりに近づいてまいりました。
むしろこんだけ書いてやっと・・・というところに私の文才の無さがorz
さてさて、高順君はこれからどうなるのか?

まだ筆者にもワカリマセン(駄目

あと1つ。
1日2日で1話書き上げるのは流石に無茶だと思った。反省している|||orz

ご感想お待ちしております。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第7話 (なんか修整)
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/20 23:08
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第7話


丁原、十常侍との確執を深める也。





戦いが終わってから2日ほどで丁原が帰還した。
そこまで規模の大きな戦いになるとは思っていなかったようで、「治心行かせて私が残れば良かったぁぁぁっ!」とか叫んでいたが、高順達にしてみれば「勘弁して欲しい」言葉ではあった。
ただ、状況は思わしくない。というのには2つほどの理由があった。
1つ。晋陽太守であるが「お咎めなし」となったのである。それは何故か?
丁原は帰還してすぐ中央(洛陽)に晋陽太守の悪政を糾弾、並びに今回の官軍同士の戦いがどのような理由によるものか、ということを使者を通して説明をした。
だが、返って来た言葉は「お咎めなし」ただこの一言。
悪政を行い、官軍同士の戦いを招いた事実があるにも拘らず、である。
丁原も・・・いや、この戦いに関わったすべてが耳を疑うような結果だった。
むしろ、そのような戦いを行った原因が上党側にあるとまで返される始末。
洛陽からの使者曰く「黒山賊を討ち果たした功績により不問に処すが次は無いと思え。」とまで言われてしまう。
勿論丁原も、そして高順たちも怒り心頭に達するのだが・・・その使者に問題があった。
それはまた後にしようと思う。

それと、この時点では誰も知らないが晋陽太守は十常侍に莫大な賄賂を渡しており、その為にこのような形の結末になったのだ。
それを知った丁原は十常待を憎み、少しずつ確執を広めていくことになる。

もう1つ。褚燕たちの処遇について。
これが高順たちにとって一番辛い結果になった。
使者曰く「今住んでいる村を放棄させ、黒山へ帰らせる」。つまり追放だった。
勿論晋陽太守の差し金である。
それを伝える使者として赴いたのは高順だが内心「どう言えばいいっていうんだよ・・・」と、暗澹とした気持ちになったのは言うまでもなかった。
高順の言葉を聴いたときの褚燕の愕然とした表情。なんでこんなことに?と騒ぐ村人達。
幸いなのは誰1人として「上党軍のせいで」ということを口にする人がいなかったということくらいだろう。
褚燕も「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と頭を下げてきた。
謝りたいのはこっちだというのに。
しばらくして周りの人々に立ち退きの準備を始めるよう命令する褚燕。

浮かばれないのはこの戦いの犠牲者だ。
上党・晋陽の兵士、そして褚燕の村の人々。
全部合わせれば相当数の被害が出ている。
にも関わらず上党が逆に糾弾され、被害者でしかない褚燕達には更に被害が降りかかる。
いったいあの戦いは何だったというのか。誰のための戦いだったというのか。
高順は褚燕に「何かあったら知らせて欲しい。出来る限りの力になる」と、気休めにもならない台詞しかいえなかった。
その言葉に、悲しそうな笑顔で「ありがとうございます。」と褚燕は返したが・・・。

後に高順はこの気休めの約束を果たすことになるが、この時点では両者共に知るべくも無いことだった。


そして、いい話。
これは高順や趙雲たちにとって、という程度のものでしかないのだが。
まず、高順。
丁原と朱厳率いる部隊が合流した後、若干の部隊を残して上党軍は帰還する。
帰還する兵たちの中には義勇兵として参加した趙雲達も含まれていた。
その後、上党政庁で「今回の戦いの功労者に褒美を授ける」という話になったのだが、そこに高順も出ることになった。
正直に言うと、今回の戦いは何かを得るという戦いではない。
あくまで自領内の紛争という形だ。
本来なら褒美を与えるような情況ではないのだろうが、丁原は「功績を立てたものにはそれだけの褒賞があって当然だ」と言い張りこのような運びになったのである。
今回の一番の功労者は敵将を討った郝萌と趙雲である。
郝萌はかなりの額の金子を与えられていた。
趙雲は褒美などいらないと言っていたのだが、旅をするには金が必要だろう?と丁原に諭され半ば無理やりに金を受け取らされている。
戯志才と程立は「我々は作戦を立てただけで大したことはしていない」と言い張って結局受け取ろうとはしなかった。
その後、丁原は趙雲達に仕官の話を持ちかけてみたが、これは断られた。
丁原も朱厳や高順に彼女達の活躍を聞いていたので、残念そうではあったが・・・。
「無理強いはできんしな。だが、もし何かあったら遠慮なく頼ってくれ。」と言い、これには彼女達も素直に頷いた。
朱厳や、ほかに功績を立てたものにも褒美が与えられていく。
そして、高順の番。

「高順、前へ出よ。」
丁原に呼ばれ、歩き出す。
椅子に座る丁原。その前まで進み、高順は跪く。
「高順、お前は今回少数ではあるが部隊を率いて盗賊を殲滅し、他にも数人の敵兵を討ったそうだな。」
「は。しかし、私個人の手柄ではないと思います。回りの皆が頑張ってくれただけです。」
「謙遜するな。結果を出せるように人間を動かしたのはお前だろう?謙遜は構わんがそれも過ぎれば嫌味になるぞ。」
「はぁ・・・。」
「まあいいさ。お前には・・・そうだな。これをやろう。」
そう言って丁原は立ち上がり・・・槍のようなものを高順に渡す。
槍だが、先端が3つに分かれている。三叉槍というべきだが少し形状が変わっている。
3本の刃がついているが、そのうち1本が直線的な槍の形状。1本が薙刀のような反り気味の刃。残り一本が横に伸びた刃。
この時代には無いはずであるが、高順の知識で言えばそれは(多少形状が違うものの)間違いなく「戟」という武器だった。
「これは・・・?」
「黒山賊を討伐した時に首領の張牛角が持っていたものでな。振るう前に本人が死んでしまったのだが。中々いい武器だろう?」
いや、討伐した賊の首領が所持してたって・・・嫌がらせですか?
そんな気持ちがそのまま表情に出ていたのか、高順の顔を見た丁原が噴出した。
「ぷっ・・・くくく・・・。いや、そんな顔をするな。縁起が悪いとかそういうわけでもあるまい?しかし、面白い顔を・・・くっくっく・・・」
この人絶対Sだ・・・いや、前から知ってるけど。
「ふふ、まあいいさ。その武器・・・たしか、三尖刀と言ってたかな?どう見ても戟なんだがなぁ。ま、呼び名はお前の好きにするといい。」
「・・・ははっ。ありがとうございます。」
どう見ても刀じゃないよな…。そうだなぁ、三刃戟とでも呼ぶかな?
「うむ。下がっていいぞ。・・・以上だ。皆、ご苦労だった。」

退出する間際、(そういえば三尖刀って袁術のとこの将軍・・・ええと、紀霊?とか言う人の武器だったような?)と高順は頭を傾げた。
なんだか今の世界は・・・自分の知ってる三国志という歴史から少しずつ外れている状態のようだ。
(まさか俺が影響与えてるとは思わないけど。でも三尖刀っていうのも演義だけの話だよね。じゃあ問題ないかかも?)
こんな感じで褒章授与式は終わった。

その後、高順は郝萌と趙雲たち3人娘を誘い、酒処「桃園」へと繰り出した。
ささやかではあるが戦勝祝いである。
その数日後に丁原が正式に戦勝祝いの宴を開くが、その話も次回にしよう。

高順達の座る席に所狭しと料理が置かれている。
高順がこほん、と咳をして水の注がれた杯を掲げる。
「さて、皆揃ったね?・・・えー、ささやかではありますが大将首上げた郝萌と、趙雲殿。そして策で多大な貢献をしてくださった戯志才殿と程立殿に感謝の証として、このような宴を開かせていただきました。前置きはこの程度にして、と。それでは皆さん・・・乾杯!」
『かんぱーい!』
全員が杯を掲げ、一気に中身を煽る。
「・・・ぷはぁ~。いや、いい酒ですな。店主殿、お代わりを!」
「趙雲殿、えらい飲みっぷりですね・・・。」
「って、高順?あんたねえ、こんなときくらい酒飲みなさいよ?」
「俺は酒駄目なんだよ。飲めないわけじゃないけど強くないの。」
「おお、中々美味しい料理です。」
「ちょっと、そんながっつかなくてもいいでしょう。料理は逃げませんよ。」
「むー。」
思い思いに宴を楽しむ。
そんな中、全員がある1つの品に興味を持った。
「高順お兄さん、この・・・なんでしょう?茶色・・・?の暖かい汁は。」
「お、それに気がつきましたか。・・・ふふふ。それはですね。味噌汁というものです。」
『みそしる?』
聴き慣れない言葉に4人が首を傾げる。
「作るのに偉く苦労しましたよ。作り方はある程度知ってましたが、どの菌までか詳しく覚えてませんでしたし塩も高いし。職人さん達にお願いしてやっとここまでこぎ着けました。ふっふっふ・・・」
「こ、高順殿?随分顔がおかしなことに・・・それに菌?って何ですか?」
「うむ。相当苦労したというのがよく解る表情ですな・・・。」
「何があったのか知らないけど・・・で、このみそしる?っていうの・・・食べても大丈夫なの?」
この言葉に高順が過剰なまでの反応を示す。
「当然!食えるとも!」
「ひえっ!?」
「何度も何度も作り直して職人さんたちと顔を突き合わせてあーでもないこーでもないと散々苦労してやっとある程度納得できるまでの味にしたんだ食べることができなきゃ話にならないだろうさあ食べてみてくれでもって感想をきk・・・げふっ、はぁはぁはぁ・・・」
なんというか肺活量を凄まじく必要としそうな言い方ではあったが、本当に自信があるようだ。
「正直に言うと、さ。外部の人に出すのはコレが初めてなんだよ。だから、正直な感想が聞きたいんだ。別に実験台にするって訳じゃないけど。」
「・・・では、いただくのです。」
「え、ちょっと、程立?」
不安そうな戯志才だが、程立は気にすることなくお碗を手に取る。
「高順お兄さんの目は真剣なのです。冗談とか嫌がらせをするような感じではありません。だから飲んでみるのです。」
そして、お碗の中身の味噌汁の匂いをくんくん、と嗅いで「今まで嗅いだことのない匂いです。でも良い匂い」と言って、お碗に口をつけそのまま流し込んだ。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・どうです?」
不安そうにしている3人と、高順。
違和感無く味噌汁を飲み込んだ程立だったが開口一番
「あひゅいれふ(熱いです)。」
「がくっ・・・」
全員が机に突っ伏した。
「あ、相変わらずですね・・・感想が美味しい不味いではなく熱い、とは・・・」
「・・・普通に美味しいのです。」
「なっ!?」
「ほ、本当ですか!?」
「うそ、こんな得体の知れない汁が!?」
「ちょ、郝萌!お前今なんつった!?」
「美味しいのです。皆も試してみるのです。」
と言いつつ更に味噌汁をすすり始める程立。
高順を除く全員が不審そうな顔をしていたが、意を決して口にし始めた。
「お・・・おお?」
「あれ?お、美味しい・・・?」
「これは・・・今まで口にしたことの無い味ですが・・・悪くありませんね・・・。」
「うむ、なんと言うか白米が欲しくなる味だ・・・。」
 
思った以上に評価が高いのに満足したのか高順はガッツポーズをして「やったぁぁぁっ!」とか叫ぶ。

後の話になるが高順は味噌を量産し、この味を広めようと試みる。
塩が高いのでどうしても高めの値段設定になってしまうのだが・・・。
しかしながらこれが思った以上に上手くいき・・・いや、行き過ぎることになる。
肥料の事もあるが、この為に凄まじい額の金が高順の懐に入り込むことになり、その金を元手に彼は私設軍を作ることになる。
ただ、入ってくる金額が半端ではないレベルで・・・正直どうしようか?と高順は悩むことになったり。

その後、宴も終わり帰路につくが、郝萌はともかくも趙雲たちは泊まる場所を確保していなかったので高順の家に泊まることになった。
家には両親がいるし、まあ変なことにはならないだろう。
いや・・・母親が凄まじく勘違いをする予感がするが。
「ふぁあぁあ~・・・世界が4つに分かれてるぅ~・・・」
「郝萌、飲み過ぎだって。だから飲みすぎるなって言っただろー?」
「ははは、高順殿も苦労いたしますな。」
飲みすぎて完全に駄目な人になった郝萌を抱える高順と、その姿を笑う趙雲。
「そう思うなら手伝ってくださいよ。」
「何を仰る。私のようなか弱い女にそんな力仕事が出来るはずがないでしょう?」
「・・・本当に?」
「・・・・・・真顔で返さないでいただきたい。」
そう軽口を叩くが、趙雲自身も眠ってしまった程立と、いきなり鼻血を噴いて昏倒した戯志才を抱えていた。
「しっかし・・・戯志才殿には驚きましたよ。酒で酔って変な妄想をしつつ鼻血噴き散らかして撃沈とは・・・。」
掃除が大変だった、と高順がぼやく。
「ふっ、確かに妙な御仁ではありますな。鼻血を噴くのは良くあることですが。」
「あるんだ・・・って、つきましたよ。ほら、起きなって。」
「んあうぅ~?ここ、あたしの家・・・?」
「俺の家だって。・・・おーい、父上ー、母上ー。いませんかー?・・・郝萌、寝てるよ・・・。すごい寝つきの良さだな。」
戸をとんとんと叩きながら高順が叫ぶ。
しばらくして戸が開かれた。
顔を出したのは母親だった。相変わらず元気そうだ。
「あらあら、お帰りなさい順。久しぶり・・・って。」
「ただいま、母上。・・・どうしたの?」
「じ・・・順が・・・女の子を家に連れて帰って来た!?あの朴念仁の順が!?」
「おおい!?こんな夜更けに何言ってるのしかも大声で!?酔っ払いより性質悪いよ!!近所に変な風に思われたらどうするの!!」
「いつか郝萌ちゃんを連れて来るだろうとは思ってたけど・・・こんなに可愛い人たちを追加で3人も!しかも1人はまだ成人もしてないような幼女!」
「人の話を聞けええええっ!4人ともそんな関係じゃないって!」
「あの、母君?」
遠慮がちに趙雲が声をかける。
「このような時間に大声で喚くのはよくありませぬ。話は家に入れて頂いてから、ということで。」
「そうですよ、その通りです母上!」
その言葉に母親も我に返ったらしい。
良かった。変な誤解をされないですむ。
「え、ええ。その通りね。ええと・・・あなたのお名前は?」
「ああ、これは失礼を。私は趙雲と申します。高順殿の妻1号です。」
「ぶふーーーー!!??」
「な・・・なんですって・・・妻!?もうそこまで!?」
「ちなみに私が抱えている眼鏡をかけた酔っ払いが戯志才。2号です。」
「ちょちょちょちょ、趙雲殿!?あーたいきなり何を!?」
趙雲は抗議する高順を無視して話を続ける。
「そして今私が背負ってるのが程立。」
そこにタイミングよく起きて来たのか、程立が挙手して「初めまして、お母様。3号なのです。」
「何言ってるの!?違う!違いますから!」
「・・・・・・順。」
「・・・はい。」
嫌な予感がします。むしろ嫌な予感しかしません。これは仕様ですか?
「あなたという息子は・・・母はあなたをそんなスケコマシに育てた覚えは・・・!」
や、やばい。やばすぎる。何か母上ワナワナ震えてるし。拳握り締めてるし。つかスケコマシっていう言葉この時代にあったの!?
「ちょ、趙雲殿!冗談にしちゃやりすぎですよ!はやく弁解を」
ここまで言ったところで趙雲が戯志才と程立を離し、高順にしなだれかかる。
「ちょ、趙雲殿!?胸!胸あたってますから!」
「当てておるのです。それよりも・・・ひどいではありませぬか。高順殿?あれほど私を真名で呼んで欲しいとお願いしたではありませぬか・・・?」
「なにぃぃいいぃ!?初耳です!聞いてない!!そんなこと一言も言ってないですよ!?」
「ふふ、酒に酔って忘れておるのですな?・・・我が真名は「星」。さあ、高順殿・・・。」
そのまま高順の胸あたりでのの字を書き始める趙雲。
「あああああああ、わかりましたっ。真名で呼びますから!だから離してー!星殿ー!」
「順っ!座りなさい!この母があなたの性根を叩きなおしてあげましょう!」
「いやちょっと待ってください母上!母上のは物理的に叩きなおすと言うか叩き潰すって感じでそもそも俺は無実です何も悪くあrぎょえあああああっっ!?」




・・・神様。もしおられるのでしたら教えてください。
何故俺はこうも巻き込まれなくても良いことにばかり巻き込まれて一方的に辛い思いをさせられるのでしょうか・・・?

薄れ行く意識の中、高順はこう思わずには入れなかった。



酒場に続いて、この後も大変だった。
高順が気を失ってる間に趙雲が冗談だったことを母に説明。
誤解は解けるものの・・・趙雲と母親の悪戯で全員が同じ部屋で寝かしつけられ、趙雲と程立が高順と同じ布団で折り重なるような形で寝ておりそれを朝早く起きた郝萌が発見。
凄まじい乱闘騒ぎになる。(犠牲者は高順
戯志才も前夜の妻僭称事件を知らされ、またしても妙な方向の妄想を全力全開させた上で鼻血を噴出し轟沈した。
しかも、趙雲を気に入った母が本気で高順とくっつけようとしたりと、本当に大変な思いをする羽目になるのだが・・・。
この2日後、高順から「今回の戦いを手伝ってくれたお礼」として贈られた馬2頭に乗り趙雲たちは旅立っていく。


趙雲が高順に真名を預けた理由は・・・自分たちを一番に信じ、仕事を任せてくれたことへの彼女なりの感謝であり、彼への好意の形でもあった。
素直に口にするのが照れくさかったのか、悪戯まがいの形で預ける感じになってしまったが、鈍い高順はそのあたりに全く気づくことが無かった。
それでもその後は趙雲を「星殿」と呼ぶあたり、妙なところで生真面目な高順だった。

何の因果か、高順と星の行く軌跡は重なり合うことになるのだが―――それはまた、後の事になる。



~~~楽屋裏~~~
1日で書くのはキツイです(何挨拶

どうも、あいつです。
結局こんな形になってしまいましたね。

この後も、高順には頼りになる?仲間が少しずつ増えていきます。
それでも彼が死亡するか生き残れるか、微妙なところではありますがw

彼が何処へ向かうのかは作者にもワカリマセンが頭の中では一応の形になってきています。
その中で次回作のネタが生まれてきてしまったのが不思議ですが(ぉ)なんとか書き上げたいと思います。
あと、時系列としては褒美授与→あれこれ→洛陽からの使者 ですので趙雲たちは事の顛末を知りません。
知ってたら憤激してたでしょうねえ・・・w

感想の方にもありましたが「ここ、言葉の使い方がおかしいよ?」というところがあったら遠慮なく教えてください。
ど素人がそのまま突き進んでるので何がおかしいのかよくわかっていません・・・

それではまた。次回をお楽しみに。



楽しみにしてくれてる人いるのだろうか(汗



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第8話 (誤字修正)
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/21 15:49
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第8話



どうも、皆さん。高順です。
もう何度使ったか解らない挨拶ですがいかがお過ごしでしょうか?



俺は今・・・・・・ものすごく大変です!


さて、何があったのか皆様に説明いたします。
星殿たちが陳留・・・というか兗州方面へ向かって3日ほど経った頃に洛陽からの使者がやってきたのです。
そのとき丁原様の命令で宴の準備をしていたんです。
「少し遅くなったが戦勝祝いの宴を開こう。褒美を与えてやれなかった者にも酒や飯くらいはくれてやらねば。」という名目ですね。
本当は自分が酒飲みたいくせに。

ある程度用意が整って「さあ、後は食事用意して酒持ってきてー」あたりまで漕ぎ着けた所で使者のご登場とあいなった訳です。
話は前話(第7話)で説明されているので良しとしまして。
今その使者が目の前にいます。
あ、ここは政庁ですからね?

それはそれとして・・・使者としてやってきたのが。そのー。


天下の飛将軍「呂布」と、泣く子も黙る「張遼」。そして呂布の軍師「陳宮」でした。


「・・・と、いうわけで此度の件については以上なのです!何か疑問は?」
なんか偉そうに言ってますよこの小さいの。
陳宮さん、偉くミニマムです。
呂布さんが・・・なんつーか全く喋りませんからその代弁で張り切ってるのでしょうけど。
うわ、丁原様怒ってるよ絶対に。
俺とか朱厳様、あと親衛隊の人々は丁原様の後ろに控えてます。
丁原様は俺達の前で、俺達と同じように跪いて話を聞いてます。
丁原様とはいえ洛陽からの使者を相手に無礼な真似をできるわけではありません。

「・・・いや、ありませぬ。」
怒りを押し殺してます。よく暴発しないよなぁ、とか感心しますよ。
「ならばコレで終了なのです!さ、呂布殿。早く帰りましょう!」
と、呂布さんに飛びつかんばかりの勢いで陳宮さんはしゃいでます。おのれお子ちゃま。
丁原様に限らず皆本心では相当むかついてると思いますよ?
自分たちの戦いの理由をあっさり否定されたわけですから。
一番辛いのは褚燕様の村の処分ですけど・・・。くそ、偉い人々には虐げることしか出来んのか。

それはともかく。
・・・俺の主観で行くと呂布さんも張遼さんもすごい美人です。
両者共にスタイル抜群ですね。張遼さんの格好はどうかと思いますけど。露出高すぎるよ・・・。眼の毒ですね。
呂布さんは陳宮さんの言葉に「こくっ」と頷いてそのまま退出しようとしてます。
その隣の張遼さんも困った顔で丁原様に「いやー、すまんかったなー。なんか宴か何かするつもりみたいやったのに邪魔してもうて。すぐ退散するから堪忍な。」とか話してます。
そしてそのまま3人とも退出。しばらくしてから丁原様が「はぁぁぁああっ・・・・・・」とため息つきながら立ちます。

「くっそー、あのおチビちゃんは。随分好き放題に言ってくれたな・・・。」
あ、やっぱ怒ってる。
「ほっほっほ。使者とは言え子供のいうことです。あまりお気になさらず。」
「しかしな、治心。あそこまで言われると流石に誰でも腹が立つぞ?お前だってそうだろうが。」
「それはそうかもしれませぬが。使者の前で不機嫌そうな顔をなさるのは問題かと。」
「もう帰ったみたいだから構わんがな。・・・どうした、高順?」
「へ?は、はいっ!?」
いきなり喋りかけるとは。思わず声がひっくり返りましたよ?
「はいっ?じゃない。お前、今何か良からぬことを考えてなかったか?」
「な、何がでしょうか?」
「あのなぁ。お前は今「さて、どうするかな?」的な顔してたぞ?自分で気がつかんのか?」
「ええ?そ、そんな顔してました?」
・・・感づくのが早いよなぁ、お見通し?
「してたさ。褚燕の村で考え事をしてたあの顔そのままだ。」
「・・・えーと。」
「で?何を考えていた?言ってみろ。聞くだけならタダだ。」
むう、隠し事は通用しないっぽいなぁ。じゃあ言ってしまうかな。
「えー、それでは。今からの宴に呂布様達にも参加していただければなー。とか考えてまして。」
「何ぃ・・・・・・・・・?」
「・・・いや、そこまで嫌な顔をしなくても。」

さて、俺の考えを言わせていただきます。
彼女達が十常侍と通じてるかは解らないですが、仲良くして置いて損は無いだろうということです。
呂布さんが既に後漢将軍だったことには驚きましたけどね。絶対上党にいるor入隊してくるとか考えてました。
俺が知ってる知識でなら呂布さんに勝てるような武将はまずいません。
張遼さんだってすっげえ武人だというのにそれ以上なんですよ?
その当たりは飛ばすとしてもいい機会だと思うのです。
いかんせん情報が少なすぎます。何をするにしても。
死亡フラグのこともありますから俺にしても知り合い増やすのは決して悪いことでは・・・ん?知り合い?

・・・まあいいか。


丁原様にしたって中央との繋がりをどっかで作っておくべきだと思うのです。
この世界の十常侍も恐らくは腐りきった宦官なんでしょうね。
史実を知ってる俺の観点から見ればその十常侍とあっさり敵対姿勢打ち出すべきじゃないとも思います。少なくとも黄巾の乱すら起きてない現状では。
史実では丁原様を殺すのは董卓であり呂布ですが下手したらそれ以前に十常寺と敵対して暗殺される、とかそういう状況にもなりうるんですよ。
その当たりは抜いて説明しました。
中央と繋がりを作るのは損じゃないですよー。呂布とお友達になっておくのも損じゃないですよー。とか、そんなノリで。
自分自身の名声とかには全く無頓着な丁原様ですから却下されるのを覚悟で言ってみましたが「晋陽の件もありますし、あまり敵を作るのもどうかと」と朱厳様もこちら側の思惑に乗ってくれる形で説得してくださいました。
そのおかげかOK出ましたよ?まだ機嫌悪そうですけどね・・・。
代わりに褚燕様への使者命じられ、その上呂布さんたちにお誘いかける役まで押し付けられました。言わないほうが良かったか|||orz
そんなこんなで急いで追いかけます。

「・・・宴会?」
「はい、丁原様が是非、と。」
初めて呂布さんの声聞きました。
抑揚が無いとか感情が無いとかそういうわけじゃ無いようです。
けっこう可愛い声してますね。
「・・・。でも、私達が誘われる理由が無い。」
「そうですぞ!恋殿はすぐに帰りたいと言っているのです!」
「ちんきゅ。人前で真名使っちゃ駄目。」
「う・・・申し訳ありません。」
ふむ、呂布さんの真名は恋というらしいですな。
しかし参加していただかないとこっちも困ります。
「まぁまぁ。ええやんか?こっちかて何日もかけて来たんやで?今日すぐに行かなあかんっちゅー訳やないしな。」
おお、張遼さんナイス!ま、実際今日すぐに発つわけじゃないと思いますけどね。
「なぁ、あんた・・・名前なんやったっけ?」
「あ、申し訳ありません。高順と申します。」
「高順・・・んー、順やんって呼んでええ?」
「じゅ、順やん・・・。・・・・・・いえ、構いませんが。」
・・・またえらくフレンドリーですね。そんな呼ばれ方をするとは。
「れ・・・あー、呂布もええやろ?たまにはこういうのもいいんとちゃうか♪」
「・・・ん。」
こくりと頷きました。
よし、張遼さんありがとう!あなたは良い人です!
「では、案内をさせていただきます。どうぞこちらへ。」
「ほいな。」
なんか後ろでなんですとー!?とか、ちんきゅ、静かにしてて。とか話し声聞こえますけど。仲いいんだなぁ。

さて、会場に案内して「もう少しですので適当にお寛ぎください」と言っておいて厨房へ向かいます。
え?何で俺が厨房にって?
俺が頼んでおいたものの出来を見せてもらうだけです。つっても簡単なものしかないですけど。
厨房の人々にお願いして味見をさせていただきます。・・・・・・うん、良い出来だ。これなら問題ない。
OK、スタンバイ完了。あとは持っていくだけです。
料理を運ぶために厨房の人々が慌しく動いてますし、俺も運ぶのをお手伝いしますよ?
数十分後、料理を机の上に並べ終え宴開始。
俺はまだ料理とか酒運ぶので忙しいので参加できてませんけど。
あたりを見回してみると丁原様は呂布さんと一緒に飲んでますし、張遼さんも朱厳様と飲み比べみたいなこと始めてます。
陳宮さんは、と。
あ・・・。郝萌に絡まれてますよ。「りょふどのー!」とか叫んでますけど無視されてます。
「きゃー!陳宮ちゃんかわい~♪」
「ぬああ、離せ、離すのです!苦しいのです!」
もう酔ってるのか、郝萌。陳宮さんも使者の1人なんだから無礼なことするなよー、と心の中で言っておいてまた厨房へ向かいます。
もう遅いっぽいですけど。
それからまた更に数十分。
もう運ぶものも無くなって来たので俺も参加です。勿論味噌汁も出しました。
けっこう好評なようでどんどん減っていきます。・・・あれ、呂布さんすごい勢いでおにぎりとか味噌汁口に詰め込んでる。
隣で見ている丁原様もぽかーんとしてます。いや俺もです。
張遼さんは・・・。
「あっはっはっは!朱厳のじっちゃんの話はおもろいなぁ!丁原はんが可憐とか想像でけへんって!あっはっはっはっは!!!」
「ほっほっほ。それだけではありませんぞ?他にも「泥酔、挙句に勘違い立てこもり事件」や「寝小便で見事な上党地図(幼少期編)」などなど・・・。」
「おお、興味深いなあ!もっとお話聞かせてぇな!」
ま た お 前 か!!!治心、そこを動くなぁっ!私自ら切り捨ててくれるわーっ!?」
「でえええええっ!?」
「あ、あっつぁぁあ!?味噌汁ひっくり返ったー!?」
ああ・・・丁原様が剣どっかから持ってきて朱厳様追っかけてるよ。しかも地味に張遼さん他数名の兵士が巻き添え食ってるし。
「ほっほっほ、まだまだ若いですなあ。」
「うるさい黙れっ!お前という奴はいつもいつもいつも私の恥ばかり言いふらしおって!そんなに私を困らせるのが楽しいのかー!?」
「ほっほっほ。楽しいですな。
「言い切ったよこいつ!?」

・・・楽しそうですね、お2人とも。巻き込まれる側はたまったものじゃないと思う。
でも張遼さんも笑い転げて「ええぞー!もっとやれー!」とか言ってますし、これはこれで良い・・・よくないか。
さっき絡まれてた陳宮さんは?
「へー、陳宮ちゃんの真名って音々音(ねねね)って言うんだー。ね、あたしも真名で呼んでいい?」
「ぶはっ、は、離すのです!これ以上抱き絞められると窒息してしまうのです!」
郝萌の胸辺りに顔を埋めたり離れたりで忙しそうです。そういや郝萌ってけっこう胸大きいんでs何言ってるんだ俺。
「んふふー。呼んじゃ駄目って言われたら仲良くなって許してもらうけどー♪お風呂とか一緒に入ってー。」
「むぐっ、ねねを殺すつもりですか!」
「そんなことしないってばぁ。親睦を深めるだけだよー?」
そう言ってまた思い切り抱き締めてますよ。死なすつもりか。
「むぐー!?わ、わかったのです!許すのです!だから離すのですー!?」
「やったー♪じゃあ後で一緒に寝ようね?ねーねちゃん♪」
「何ですとー!?」
何と言いますか。無理やり仲良くなってる風味ですよ郝萌さん。
陳宮さんもご愁傷様としか言いようが無い。
さて。本題の呂布さんは、と。
「・・・。」
さっきまで丁原様と割と楽しそうに飲み比べしてたけど今は朱厳さまとデンジャー追いかけっこ真っ最中だから取り残されてる形になってるな。
でもお酒チビチビと飲んでるし、味噌汁(野菜入り)もまくまく言いながら食べているし楽しんでないわけではなさそうです。
思い切って話しかけてみようかな?
「あの、呂布殿?」
「むぐ?」
「・・・食事中でしたか、申し訳ありません。」
「んくっ。・・・構わない。」
「そうですか。って・・・え、えらくまた沢山・・・。お腹のほう大丈夫なんですか?」
すごいよ呂布さん。何この積み上げられた皿とかお碗の枚数。
20枚とか30枚じゃきかん気がする。しかも味噌汁のお碗まで何十も積み上げられてるし。
「・・・名前、高順?」
「え?あ、そうです。張遼殿には順やんとか呼ばれてしまいましたが。」
「許してあげて。悪意は無いから。」
「怒ってはいませんよ。驚いただけです。」
ん、と呂布さん頷かれました。最初は全然喋らないかし無表情だから感情ない人なのかな?と思ってましたが違ったようですね。
「ところで。」
「はい?」
「これ作ったの、高順って聞いた。」
「これ?・・・味噌汁とおにぎり?」
「ん。」
味噌汁はともかく、おにぎりを気に入っていただけるとは。
ちょっとお話しますと、おにぎりが食べたくなったことが前にありまして。
ただ、基本的に具が無いものばっかなので寂しいのですよ。
そこで鮭フレークと、鮭おにぎりを作ってみました。
鮭意外にもいろいろなお魚で試して見ましたがやっぱ鮭が一番美味しいです。
ネックは塩の値段が高いって事なのですが・・・使う量を少し押さえめにしたって鮭フレーク美味しいですからね。
それを今回の宴で少し出させていただいたわけですが、これもまた高評だったようです。
かなり多めに作ったのにすぐ無くなりましたしね。
少し塩気のあるもの、というのが少ない時代だから余計に美味しく感じてしまったのかな?
「他のも美味しかったけど・・・この2つも美味しかった。考えたのも作ったのも高順だって。丁原が。」
「そうでしたか。気に入っていただいたようで何よりです。」
実際に嬉しいものです。考案したのは厳密に言えば俺じゃなくてこの時代から見てずっと先の未来の人ですけどね。
「・・・。」
何でしょう。呂布さんじ~~~~~っと俺の顔見てらっしゃいます。この方すごく可愛いので眼福ではありますけどなんか照れるのでやめて欲しいです。
警戒されてるような気もしますが俺は敵意とか持ってないですよ。
「怖く、ない?」
「へ?誰がです?」
「私。・・・これ。」
と言いつつ呂布さんが自分の体の腰辺りにある刺青を指差します。

あー。そうか。この時代って刺青がある人は「漢人」という扱いを受けられないとか聞いたな。
異民族であることを強調するためとか、罪を犯して追放されたときに刺青をされるとかそんな話を聞いたことがあった。
呂布さんも確か北方の騎馬民族出身で純粋な漢人じゃないのだっけ。
この人は武力が馬鹿高いから若くして将軍に抜擢されてるのだろうけど・・・やっぱ嫌がらせとか多いだろうし、出目のために嫌われたり白眼視されることがあったのかもね。
救いは張遼さんと陳宮さんがごく普通に仲間として、主として接してくれてることか。
そう考えるとけっこう気の毒な人なのかもしれない。
それを気にして警戒してたのかな?
今回みたいに酒宴に誘われたりとか無かったのかも・・・。

「ええ、別に。全く、何1つ怖くありませんね。」
「え?でも・・・」
「言わせたい奴には言わせて置けばいいのですよ。それで呂布殿という人の何かが変わるわけでもありませんし。」
「・・・。」
「張遼殿も陳宮殿もあなたを慕ってるでしょう?解る人には解るものですよ。」
「・・・そういうもの?」
「そういうものです。「この世に自分は唯一人」ってね。呂布殿はそのままでいいと思います。」
「・・・ん。」
あ、なんか嬉しそう。
俺個人がそういう差別が嫌いなだけですけどね。
向こうがこっちを嫌うのならともかく、意味も無くこっちが一方的に嫌うとか、そういうの嫌なんです。
「おかわり、ある?」
「え?お、おかわり。です?」
「ん。」
いきなり話題が変わったよ。でも、おかわりって。
いや・・・気を許してくれたって事かな?
「そこまで気に入られました?材料はまだありますから出そうと思えば出せますけど。」
そのとき俺は見ました。呂布さんの顔が「ぱあああっ・・・」てな感じに輝くのを。
うおお、何だこの顔。くそっ、そんな良い顔で俺を見ないで!なんかご褒美を上げるって言われて嬉しそうにしてる子犬を連想しちゃうから!
「おかわり。おにぎり・・・100個くらい。味噌汁いっぱい。」
「はあ。おにgひゃ、百!?時間かかりますよ!?」
「待ってる。」
「うう・・・。じゃ、じゃあ味噌汁はそこの鍋の中に・・・」
このとき、またも俺は見ました。しゅん・・・って感じに項垂れる子犬を連想させるような悲しげな呂布さんを。
「あれじゃ足りない・・・。」
えーと。さっき一杯って言いましたよね?いや・・・もしかして?
「あの、呂布殿?もしかして俺が勘違いしたのかもしれませんから確認を。「いっぱい」というのはお碗に「一杯」ではなく「鍋に一杯」って意味ですか?」
「(こくり)」
また呂布さんの顔が嬉しそうに輝きます。自分の意図を理解してもらえた!みたいな感じ。
もしも今の呂布さんに犬の尻尾が生えていたらものすごい勢いで「ぶんぶんぶん!」と振り切れんばかりの勢いだったと思いますね!

やばい・・・か わ い す ぎ る!!!


「解りました。・・・しばらくお待ちを!」
「ん。」

そして俺の戦いが始まります。
今の俺に出来ること。それは厨房へ向かい無理難題を吹っかけることです!
俺は何処までも行ける。まさに風。自由。(自己暗示
全力疾走で厨房へ向かい戸を開けます。
「え?こ、高順さん?どうしました?」
「皆さん!追加注文です!」
「え、えーーー!?」
「呂布将軍たっての希望です!反論も何も出来ないと思ってください!」
「嘘!?呂布様の!?」
「まずは鮭おにぎり100個以上!そして味噌汁たくさん!以上です!!」
「何ですかその適当感あふれる数量!しかも100!?」
「早く!あまり遅いと呂布殿が落ち込んでしまいます!」
「えーーーー!?」
「俺も手伝いますから!」

実際にあまり遅いと機嫌損ねちゃうかもしれません。
味噌汁はまだ野菜の切り残しもあれば味噌自体も残してますから問題ないのですが、さすがに100個もおにぎり作るのは。

~~~数十分後~~~
「お待たせしました!」
料理を運ぶための台車に味噌汁とおにぎり乗せて宴会場に突撃です。
あ、また呂布さんの顔が輝いた。くそぅ、何この可愛さ!?
彼女は一番上座にいますからこっちから向かわないといけないのですが、なんかすげえ勢いでこっちまで走ってきます。やっぱ犬?
「あ、あの?来て頂かなくてもこちらから行きましたよ?」
「ん。・・・美味しそう。」
聞いちゃいないし。
「あー、どうぞ。お食べください。」
(まくまくまくまく・・・)
うお、すっげえ勢いで食べ始めました。これじゃ味解らんのではなかろーか。
ただ、ここで他の方々も乱入。
「お、順やん。うちも貰ってええ?なんや酒ばっか飲んどってあんま食ってなかったんや。」
「まくっ!?」
・・・食いながら驚くとかまた器用な。
言いながらも既におにぎりいくつか持ってってますよ張遼さん。
「く、くそ・・・やはり勝てなかった・・・。」
「ほっほっほ。まだまだ甘いですな、丁原様。」
「あ、丁原様に朱厳さ・・・ま!?」
何でしょう、朱厳様が筆をくるくると回しつつこっちに来ます。
後ろにいる丁原様の額に「肉」とか頬に「芋」とか書かれてるんですが。
デンジャー追いかけっこがいつの間にかカオス追いかけっこへと変貌した模様。刺吏とそれを支える股肱の臣が何やっちゃってるんですか?
「おい、高順。私達も貰っていくぞ。走り回って酒も切れたし・・・朱厳。飲みなおしだ。付き合え・・・。」
「ほっほっほ。まずは顔を洗ってからにしなされ。」
また減っていくおにぎり。
他の方々も「おー、追加か?気が利くなー。」とか言いながら次々とおにぎりとか味噌汁減っていきます。
「まく・・・。」
いや、だからね?食べながら悲しそうな顔でこっち見ないでください。
それでも止まることのない呂布さんの食欲。本気でよく食うよ。
「んぐっ。・・・高順?」
「へ?も、もう食べ終わった!?」
「高順。足りない。」
・・・また寂しそうな子犬を連想させる・・・ああああああっ!もうっ!
「解りました追加ですねおにぎり100個と味噌汁一杯ですね解りました少々お待ちを!!!!」

俺は風(以下略

「お・・・おまた、せしましたぁっ・・・」
またしても台車で持ってまいりました。
呂布さん会場の入り口で待ってました。ずっといたのだろうか?

今度は誰にも邪魔されること無く完食。
ものすごく満ち足りた顔で「まくまく」しておいででした。
さて、他の方々はどうなったでしょうね?

兵士の皆さんはそこかしこで眠ってます。
起きてる人誰もいないし。
丁原様は?・・・おろ、朱厳様の膝枕で寝てますよ。案外甘えん坊?
朱厳様もそのまま眠っておられますね。
張遼さんも酒瓶抱いて寝てます。丁原様たちの近くで寝てますから飲み比べをやってたのかも?
陳宮さんは郝萌に抱き締められたままです。両者共に寝入ってますね。
結局離してもらえなかったようです。
郝萌は酒が入ると途端に駄目な人になっちゃうみたい・・・。
最初はあんなに嫌がってた陳宮さんですが今は郝萌にしがみ付いて胸を枕にしてる感じで眠ってます。
なんだか仲の良い姉妹みたいな感じがしないでもない。
呂布さんも満足したのか座り込んで欠伸をして眠り始めました。

このまま放っておいて風邪ひかれるのも嫌ですし、全員分の毛布を持ってきますか。
また重労働だなぁ。って。そういえば。

俺、呂布殿の世話ばっかしててまだ何も食ってない・・・。
 


後日、満足そうに呂布さんたちは帰っていきました。
呂布さんは丁原様に「楽しかった」と言ってましたし張遼さんも朱厳様とまた飲み比べすることを約束してました。
陳宮さんは郝萌に「また遊ぼうね。」と言われて・・・寂しさが出てきたのか少し涙ぐんでました。なんだ、やっぱ仲よくなれたんだ。
俺自身も呂布さんと張遼さんに感謝の言葉をいただきました。
「またいつでもお越しください。精一杯のおもてなしをさせて頂きます。」と返したら呂布さんすっごくいい笑顔を見せてくれました。
あと1つ。帰り際、張遼さんに話しかけられたのですが。

「なあ、順やん?呂布と随分仲良うなったなぁ?」
「へ?そうですか?」
「ああ、あいつもえらい嬉しそうやったし。・・・あんがとな。」
「?」
「あいつな、あの刺青のせいで・・・なんちゅーか行く先々でな・・・。丁原はんもその当たり触れずに普通に接してくれたみたいやし。順やんもそうだったんやろ?」
「ええ。刺青1つや2つで差別なんてしませんよ。」
「はは、言い切ったなぁ。うちも朱厳のじっちゃんと飲み比べして、いろいろな話聞かせてもろたし。こんな楽しい思いさせてもろーたん、はじめてかもな。」
「はじめて、ですか。」
「ん。正直、あんたらは中央の決定に色々思うこともあるやろうけど・・・それでも宴に誘ってくれたからな。本当に感謝しとる。っと、もうそろそろ出立やな。」
「そうでしたか。・・・お気をつけて。また会えることを願っていますよ。」
「ははは、うちもまた順やんとは会える気がする。ほな、達者でな。朱厳のじっちゃんにもよろしゅーな!」

そんな感じで帰還されました。
実際、また会うのでしょうね。
はてさて。
その時、どんな立場で再開を果たすのやら。





~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。
だからね、1日で書くのは辛いんです(まだ言うか

今回は普段と少し感じを変えて「高順君の視点のみ」で書いてみました。
正直やり辛かったです・・・。
普段は高順君の視点のみで書いてるわけではありませんから。
次回からは元に戻します。
その前にちょっとした番外編を差し込みますが。

あ、書き忘れましたが厨房の人々は全滅です(疲労的な意味で

今回やりたかったことは「やっぱ呂布たちと相性がいいんだなぁ」ということをみて欲しかった、的なものですね。
それと呂布はやっぱ犬ですね(w


某(ぴー)を知ってる方ならニヤリとするような番外編。
好きな人いたら・・・ごめんなさい(何?



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 番外編その1
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/22 08:22
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 幕間という名の番外編

それは夢の現の物語・・・


何だコレは。
夢の世界?・・・もしかしてまた転生?
いやいやそんな事は無い。随分おかしな世界だ。
太陽に顔がある。
なんかのっぺりした山みたいな絵が背景にある。
よし、これは夢。うん。夢だ。
だからね。

「お前はいったい誰だぁぁぁぁあっ!?」
高順の叫びが木霊する。
ここは夢の世界。
現実ではない、されど実際に今ある世界。
そして彼の叫びは目の前にいる奇怪な何かに向けてのものだった。
奇怪な何か、というかただの太ったおっさん。
出来損ないのサザエさんっぽい髪型だし、変な服の上に変なマント羽織ってるし。
しかも手をひらひらさせて宙に浮いてる。
「私はあなたの武器、三刃戟の精です。」
この言葉を聞いた瞬間。

高順は明日に向かって走り出した!
 

「ああっ!?逃げないで!逃げないでー!逃げないでっ!ていうか引かないで!」
「うっさい!お前みたいな変な存在の相手なんか出来るかっ!」
「今日は頑張る高順君に、このワタクシ応援しに参りましたっ!」
ぴたっ。
「・・・応援?」
この言葉に精霊(?)はうんうんと頷く。
「さあ、この精霊様になぁんでも言ってみんしゃい。ズッギュゥゥゥゥンとね。」
胸を叩いて誇らしげに言う。
「な、なら・・・一個だけ、どうしても聞きたいことがあります!」
「うんうん。」
「俺、何がなんだかわからぬままに三国時代の中国に飛ばされるわ、有名武将が軒並み女性だったりするし、そして・・・将来的に処刑される武将になってしまったんです。不幸な事ばっかりです。」
「おお、それは不憫な。」
「ううっ・・・。何とか処刑されないように色々と頑張ってるんですが・・・。俺、このまま処刑されちゃう運命なんでしょーか・・・?」
高順の悲痛な言葉だった。だが精霊は鼻をほじりつつ
「・・・まぁね。」

高順は後ろに向かって前進した!

「ちきしょおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「まっ!待ちなさい高順!今のなし!嘘っ!ノーカン!ノーカウント!」
精霊は一瞬で高順の目の前に回りこむ。
「はぁはぁはぁ・・・・・・。そんなことより、良くお聞き高順。こんなことやってる場合じゃないのよ。」
「へ?」
「さっき君も言った通り、このままじゃ君を待ち受ける運命はゴイスーなデンジャーなのですよ。」
「ご、ごいすーって・・・すごいってこと?」
「そう。」
「デンジャーって危険って事ですよね?」
「そう。」
「く、くそう・・・やっぱ無理なのかなぁ・・・。」
精霊(?)の非常な宣告にがっくりと項垂れる高順。
「最後まで話をお聞き高順。」
「え?」
「確かにこのままじゃ待ってるのは先の無い未来。で~も~!私の助言を聞けば大丈夫。」
「じょ、助言・・・?」
「そう、高順君。あなたはすぐに旅に出るのよ。」
「旅に・・・ですか。」
「そぉう。そしてたくさんの知り合い、仲間を得なさい。そうすればあなたの知る歴史が違う方向へと動くでしょうぉぅ。」
「・・・。」
「心当たりはあるでしょぉう?」

確かに。高順には思い当たる節が多くあった。
丁原の下に呂布がいない。既に後漢将軍であるという事実。
そして、本来なら接点の無い褚燕や趙雲たちと知り合ってもいる。
自分の手元には無いはずの三尖刀もある。

「む・・・確かに。」
「自分の行ける所へ行ってみなさい。でもあまりのんびりし過ぎると黄巾の乱がおこるわよぅ?」
「え・・・マジで?」
「マジ。」
「・・・解りました。やれるだけやってみます。」
「うふふ。そろそろお別れの時間のよぅねえ。頑張るのよ高順。では、さぁらぁばぁ。」
「え、ちょ、ちょっと待って。なんかあなたの声最初と変わって・・・なんかア○ゴさんというか○ルみたいな声・・・!」
「ぎゃー!この私の首が捥げ、中から病気もち風の鳥の頭が!?」
「え?」
「巨神兵が炎の七日間を!?」
「え?」
「病院で太っといお注射してもらいなさい!」
「え?」
「ピーピカピリララポポリナペンペルトー!」
「何その呪文!?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

~~~現実世界・兵舎~~~
「うあああああっ!?」
高順が掛け布団を引っくり返し飛び起きる。
「な・・・は、はぁっ・・・。ゆ・・・め?今のは夢か?」
ああ、驚いた。しかし何だったのか、あの夢は。
すごいインパクトだったよ・・・。
そして、ふと壁に立てかけてある自分の武器・・・三尖刀ならぬ、三刃戟を見る。
「・・・まさか、ね。」
ああ、おかしな夢だった。もう一度寝なおそう。
でも気になる事言ってたなぁ。旅に出ろ、か。

それは高順も前々から考えていたことだった。
例えば洛陽に行ったり、自身にとって終焉の地となるであろう除州へ行ったりして仲間を・・・或いは知り合いとかを作る。
そういった伝手を総動員して歴史と違う方向へ持っていくことは出来ないだろうか?
前までなら「いや、歴史ってそう簡単に動くもんじゃないよなぁ・・・」で諦めたところだった。
しかし、今は前例がある。夢の中でも思ったが微妙に自分の知る歴史から何かが変わってきている。
大筋で変わることは無いかもしれない。
だが、細部を変えていくことで何かが変わっていく可能性があるのではないか?
 
「旅、か・・・。」
上党はこれから大きな騒乱に巻き込まれることは少ないだろう。
呂布と丁原が戦う事になるとしたら・・・それは多分まだ先の話になる。
まだ黄巾の乱すら起こっていない。
そしていつか起こるであろう褚燕の戦い。
だが、それまでの間。
残された時間は少ないかもしれないが、それまでの間に旅に出て力をつけるということはできないだろうか?
恐らく。このまま上党にいても事態というのは何も変わらない。
昔に比べて多少は腕に覚えが出てきた。どういうわけか無駄に金も貯まった。
旅に出る用意が整った、とでも言うべきか?
・・・貰った給料を使う暇が無かっただけ、というのもあるが。

「・・・よし。そうと決まれば。」
丁原様に許しを得なければ。
そして旅支度を整えよう。

そう多く残されていない時間。その間に何とか足掻けるだけ足掻いてみよう。





~~~楽屋裏~~~

どうも、作者のあいつです。
文章量少ないのはお許しください。あくまで超短編の番外編です。

さてさて、やっと・・・これで・・・序章もほぼ終わりです。
この先高順君はどこに行くのでしょう?

あ。

ヘルシ○グネタ使ってごめんなさい(土下座



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第9話(調子こいて連投&題修正
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/11 13:47
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第9話

どうも皆様、高順です。今俺は洛陽にいます。


洛陽。
皇帝の済む中華最大の都市であり、首都。
「うぁー・・・すっごい人の数。上党はやっぱり田舎だよなぁ・・・。」
思わずこんな感想が出てしまうほどの人、人、人。
都市の規模、人の数、店の多さ。何もかもが上党とは大違いだ。
この地にはおそらく呂布や張遼がいるのだろう。だが高順には会う気はない。
少なくとも今は。
「あれから1週間か・・・皆元気にしてるかな?」

彼が上党を出たのは1週間ほど前。
丁原に願い出て職を辞してきたのだ。
(丁原様には叱られるし、郝萌には泣かれるし、それを見た周りの方々からはニヨニヨされるし。散々だったよな。)
何だかんだ言いつつも丁原も朱厳も郝萌も「無事に帰ってこい」と言っていたし、非番の兵士もけっこうな人数で見送りもしてくれた。
両親を説得するのが辛いな、と思ってもいたが案に相違してあっさりと了承された。
「お前が外の世界を知るべき時期が来たということだろう。」と。
本当にいい人たちだ、と思う。
(そうさ、いつか帰るさ。目的を果たしたら。)

心に誓う高順だった。

さて。
高順が洛陽に来たのは理由がある。
洛陽の場合は知り合いを増やす、ということではなく「この時代で一番賑わっている土地」であることが理由だ。
味噌が流行るかな?もしかしてもう誰かが作ったのかな?というのを見極めたいというのがあった。
幸いと言ってもいいべきかどうかは解らないが、やはり味噌はまだ自分(と作成協力してくれた職人)以外には作ることが出来ないようだ。
実はこの職人達も高順の旅に同行したい、と言いだしていた。
それを説き伏せるのにも随分と苦労したものだ。
余談ではあるが、味噌作成は今のところ上党以外では行われていない。
この時代、情報というものが周りに伝わる速度が極端に遅い。
一般レベルでは旅人が「あそこでこのようなことがあった」とか、そんな程度。
それも伝聞なので不明瞭なことこの上ない。
正確な情報、というものが正確なまま伝わるかが怪しい時代なのだ。
味噌自体、上党で浸透するのもまだ多少の時間は必要だろう。
富裕層には人気があったらしく、相当な額で買い込んでいく人も多々見受けられた。
量産体制があまり整ってないこともあり、作れる数にも限度があったせいで相当な値段設定だが、それでも買って行く人が多いのでよほど美味しいと思われているのだろうか。
何人かが「味噌の作成方法を教えて欲しい」と頼んできたこともあったが・・・
それを一蹴したのは味噌職人達だった。
「俺達だって味噌作りを極めてねーんだ!そんな半端な技術を他人に教えられるかぁ!」
と、こんな感じで。
彼らは自分たちに作成方法を教えてくれた高順に感謝しているらしく、常々「いつか最高の味噌を作ってみせまさぁ。そんときゃ高順の旦那に一番に食ってもらいてぇ。」とまで言ってくれていた。
だからこそ旅に同行したいと言ってくれたのだ。
彼らにも家族があるし、またいつか帰ってくるから待っていて欲しい、と説得して何とか納得したもらえた。
将来は不安そのものだったが・・・自分の周りには気のいい人ばっかりで、そこは幸いではあるな、と思う。

そしてもう1つの目的。
これは彼個人の欲求でしかないが・・・「良い馬が欲しい」というものだった。
母親から贈られた馬も割と良い馬だったが、どうもこの頃疲れやすくなっていた。
購入した時点で相当な年齢だったらしいし、それを思えば本当に頑張ってくれた、とも思う。
その為母親に世話を頼み、軍馬からは引退させていた。
今まで十分頑張ってくれたのだ。あとは穏やかに暮らして欲しい。
そんな理由もあって、この旅では馬を利用せず徒歩で洛陽まで来た。
相当高順に懐いていたので連れて行って欲しかったようだが・・・あまり無理をさせるのも気の毒だ。
この洛陽は現在は商業都市としても一番賑わう場所だ。
交易で取引される馬にもきっと良い馬があるはずだ。
ただ、呂布たちに出くわしませんように・・・と内心ビビリまくってる高順だった。

「うーん・・・良い馬・・・いないもんだなぁ。」
馬を扱う店を何軒も見て回ったが中々いい馬が見つからない。
何と言うかポニーとか軽種とかに近いものばかりだ。
それも体格があまり良くない。
実を言うと、高順が欲しいのは速度重視の軽種ではない。
重種か中間種の体格の良い馬だ。
別に史実に沿って、とかまでは考えていないがいつか屈強な騎馬隊を持ちたいなあ、と考えているので軽種では少々心許ない。
重武装させてもまったく問題ない、という手合いの馬が欲しいのだ。
(やっぱこの時代じゃ重種いないのかなぁ・・・よし、今度は交易品を扱うとこへ行ってみるか。)

その後数日間探すが、やはり良い馬が見つからない。
軽種か中間種で妥協するしかないかな?と思ったその時。
ある一頭の馬が高順の眼に留まったのだった。

交易店、と言ってもそれは様々なものだ。
ちゃんとした建物を店として使用もしていれば、バラック小屋のようなちゃちな建物を使用している場合もある。
その馬のいる店は「露天」であり・・・屋根も何もない野ざらしの店だった。
そこに一頭の馬がいたのだ。
体躯が凄まじく大きい。一目見た瞬間に(黒○号?)と思うほどの大きさだ。恐らく2メートル前後はあるだろう。
体毛の色が黒・・・というか、青毛というべきか。日の光を浴びた部分が虹色に輝くかのような美しさだ。
高順は脇目も振らずその馬のもとへ歩いていく。
「はぁ・・・。」
目の前で間近に見て高順は思わずため息をついてしまった。
遠目から見ても相当大きいのに間近で見るとその大きさに圧倒されてしまう。
馬のほうもじっと高順を見つめいていたが、すぐに興味を失ったのか、ふい、と視線を逸らしてしまった。
「ふぇっふぇっふぇ、兄さん。この馬に目が留まったのかぇ?」
「へ?」
声の聞こえたほうを見ればすぐ近くに小柄な老人がいた。
外套を被っているので良くはわからないが・・・声からして男性だろう。
しかし、いつの間にいたのか。まったく気配に気づかなかった・・・。
「ふぇっふぇっふぇ。そう警戒しなさんな。しかし、兄さんもお目が高いねぇ・・・。」
「この馬、爺さんの店の売り物?」
「おお、そうともさ。しかしなぁ・・・相当に気が荒い。今まで何人も買い求めに来たが。ふぇっふぇっふぇ。こいつは誰も背中に乗せようとせなんだわ。」
馬は馬なりに人を見るってことかいな、と呟いて近くのゴザのようなものがひいてある場所に腰を下ろした。
「兄さんもやめといたほうがええぞ。目の前まで近づいて頭突きを食らわなかったのにゃあ驚いたがの。」
「頭突き・・・って。」
「ふぇっふぇっふぇ。今まで買取に来た奴は全員頭突きを食らっとったわい。後ろから近づけば蹴られる。警戒し続けてずぅっと立ったまま寝てるでな。」
ま、諦めたほうが身のためじゃて。と言ったまま会話が途切れてしまった。
高順もしばらく考えていたが・・・。
「な、爺さん。」
「ん?何じゃ?」
「それでも、この子を売りたいんだよな?」
「そりゃあそうじゃ。高い金払って買い取り、ここまで連れて来たんじゃ。売れなくては困る。じゃが・・・半分諦めとるがな。」
「買うよ、俺が。」
「・・・ほほぅ?高いぞぇ?危ないぞぇ?」
「ああ、構わない。それだけの価値があるんだ。惜しくないよ。」
「ふぇっふぇっふぇ。ならば商談といくかいの?」
それから高順は老人と幾ばくかの話をした。
齢、病気などを持っていないか、等。
結果、まだ若く、病気も怪我も無い。気性が荒々しい。そして性別が雌、この中国の馬ではない。ということも解った。
そして値段であるが・・・これまた老人の言うとおり相当な高値であった。
移送費や餌代、買い取った額も相当にかかったのだろう。
正直に言うと、この国でも良質と思われる馬の十数倍はかかる。
それでも高順は買った。その場で全額を支払ったのである。
老人もまさか本気で全額を出すとは思わなかったらしく、絶句していた。
「い、いや。兄さん。これは貰いすぎじゃ。まさか本気で全額出すとは思わんかった。この7割でええ。からかって悪かったの」と言って3割を返してきた。
高順からすればまだ多少の余裕はあったのだが内心、肥料とか味噌作っておいて正解だったな、と考えるほどの額ではあった。

さて、問題はこの後だ。どうにかして馬に認めてもらわなくては。
とりあえず、目の前まで近づいても頭突きをされないということだけは解った。
後ろから近づくのは・・・まだ危なそうだからやめとこう。うん。
考えつつも、「体を触らせてもらえないかな?」と体を撫でてみようとしたのだが。


手を噛まれました。




「ぐぬうううう・・・ま、まさか噛まれるとは。」
「ふぇっふぇっふぇ。いきなり体を撫でようとしてもそら無理じゃて。しかし・・・今まで来た奴は全て頭突きで追い返したというに。それだけで驚きじゃわい。」
「むぅ・・・。」
「まだ警戒しとるっちゅーこった。人間とて同じ。見知らぬ存在には警戒するのは同じことじゃな。」
「・・・それだっ!」
「んん?」
「爺さん、今ので解った!どうすれば良いのか!」
「ほ、ほお?」
そうだ、簡単なことじゃないか。
ついこの間まで俺は自分の馬・・・いや、購入したのは母上だけど。世話してたんじゃないか、自分の手で。こんな簡単なことに気がつかないなんてどうかしている。
「爺さん、この子の好物って何だ?馬草(干草)?」
「そうじゃな、馬草しか与えとらんでよく知らんが・・・人参はどうじゃ?」
「よし、買って来る!」
「え、おい、兄さん・・・。行っちまったよ。」

そんなやり取りをして人参と馬草を買いに走った高順を横目で見つつ、青毛の馬は「ぶるる」と短く鳴いたのだった。

~~~30分ほどして~~~
「た、ただいま・・・ぜはー。」
息を切らして高順が帰って来た。
手にはざるの様な物とそこに乗せた一杯の馬草と人参、あとリンゴもあった。
「なんじゃ、リンゴまで買ってきたんか?」
「え、ええ。うちの子も好きだったので。」
「うちの?なんじゃお主。馬飼ってたのか?」
「ええ。最初から俺に懐いてくれていましたし、ここまで大変なことにはなりませんでしたけど。」
「大事にしとったんかの?」
「そりゃもう。俺にとっては家族ですよ。もう老齢なんで、実家で世話してもらうことになりましたけどね。今まで無理させた分、これからは静かに暮らして欲しいなーと。」
「ほほー。」
なるほどなぁ。馬を大事にしてたってことか。そういう何かを感じてこの馬も頭突きせんかったのかもなぁ。
「さ、飯だぞー。」
高順は馬の口当たりのとこまでざるを持っていく。
青毛も警戒して匂いをくんくん、と嗅いでいたが、しばらくしてもそもそと食べ始めた。
人参も食べたがリンゴが好みだったらしく、すごい勢いで食べきってしまった。
体が大きいのでかなりの量を買って来たのだがあっさりと。
だが、満足したらしい。

それから、高順と馬の奇妙な共同生活が始まった。

食事の世話は勿論、糞の処理などもする。(前の馬でも同じことをやっていたので違和感なくこなしていた。
最初は嫌がられたが水をかけて体を拭く、ということもしてみせた。
その甲斐あったのか、3週間ほど経過した頃には体を触られてもまったく嫌がる素振りを見せなくなっていた。
老人は直ぐに「次の取引にいかなきゃならん」と西方へ旅立ってしまったが最後に「兄さんならきっと認められるさ。がんばりなよ」と言ってくれた。
そして1ヶ月。
高順は胸の鼓動を抑えつつ、青毛の背に鞍を乗せてみた。
嫌がられない。
手綱をくいくいと引っ張って歩行をさせてみる。
これも嫌がられない。
ならば、と後ろに移動してみる。
蹴られない。

もしかして、いける?乗せてもらえる?

青毛の隣まで移動して首や体を撫でてみた。
「ぶるる」と鳴きつつ気持ちよさそうに眼を細める。
「・・・よし。」
高順は意を決して背中に乗ってみようと青毛の体に手をかけてみた。
すると、青毛は自分からしゃがみ込んだのである。
「あ・・・。」
やった。認めてもらえた。相棒として認識されたんだ。
「な、涙が出そう・・・。」
感激のあまりそんな言葉が出てしまう。
青毛は「どうしたの?」みたいな眼で高順を見ていた。
「よし、乗るぞ・・・。」
そのまま鞍の上に腰をかけてみる。
やった、乗れたよ。乗れたよ俺!自分で自分を褒めてあげたい。


そのまま青毛がすっと立ち上がる。
「お、おおっ・・・?」
世界が高い。いや、広い。
今まで見えることの無かったものが見えそうな気がする。
今まで行けなかった場所でも簡単に行けそうな気もする。
普通に乗る馬であればここまで高い視点になることはないだろう。
今まで感じたことの無い開放感・・・いや、高揚感というべきだろうか?
そんなものが高順の体の中を駆け巡っていた。
「すごいな・・・これは。よし、少し歩いてみるかな?」

街中なので流石に駆けさせる訳には行かない。
手綱を握り、少し歩かせようと思ったが青毛は自分から歩き出した。
高順は前に進もう、と思っていたが、自分から前に向かっていく。
じゃあ今度は右に、と思ったところで右に方向転換して歩き始める。
まさかとは思うが俺が進みたいと思った方向に・・・俺の意思を読んでるのか?
「お前・・・○風か何かか?」
「ぶるる?」


よし、一度街の外へ出よう。そして広い場所で思い切り駆けさせよう。
この子だって今までずっとこの場所につきっきりだったんだ。
少しくらいは走り回りたいだろう。
「な、ちょっと外に行って駆けようか?」
「ぶるる。」
かまわない、と言った感じの返事だろうか。
「ん、そうだ。そういえば名前をつけて無かったよな・・・。」
どんな名前にしようか。
黒・・・いや、そこから王とかつけちゃ駄目だよな、うん。
高順は考える。

黒い体毛、そして光を浴びると虹のように輝く。
・・・黒い・・・虹。

「そうだな・・・ちょっと格好つけすぎかもしれないけど。虹黒(こうこく)としよう。」
「ぶるるっ。」





その後、虹黒と名づけられた青毛の馬は常に高順を背に戦場を駆け抜けることになる。
虹黒は高順の人生の中、彼に仕えた将の誰よりも早く、誰よりも長く側にいたという。
虹黒の忠義は誰もが認められるところであり、高順が死して埋葬されたときに、虹黒の遺骨も共に埋葬されるほどのものだった。

だがそれは、まだまだ後の時代のお話・・・。



~~~楽屋裏~~~
どうも、あいつです。
ようやく高順くんに背中を預ける馬が出てまいりました。
モデルはいわずと知れた黒○ですねw

そして、馬の種類ですが・・・
この時代にはいないはずのペルシュロンという種類の馬です。
WIKIなどで調べれば早いでしょうw


さて、この旅編はあまり長くしないようにしたいと思います。
最初の晋陽編だけでも8話いっちゃったので;

さてさて、次に高順君が向かうのは何処でしょう?
どうぞ、お楽しみに・・・。


あと、1日で2話更新するのは無茶。(ぁ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 番外編その2(誤字修正
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/11 13:45
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第10話

陳留にての一コマ。



虹黒という心強い仲間(?)を得た高順はそのまま洛陽を出て陳留へ向かっていた。
別段陳留に用事があった訳ではない。
むしろそこは中継地点でしかなく、目的はその隣の徐州である。
余裕があれば曹操とか見てみたいな、くらいは思っていたが考えてみれば自分を処刑する人間である。
考えるのは実際に町に入ってからでいいかな。と思い直す高順だった。

「いやぁ・・・これは凄い。」
陳留に入っての高順の第一声はこれだった。
洛陽ほどの規模ではないものの、それでも賑わいがある。
洛陽はどちらかというば雰囲気が重い都市だ。
それは年代を重ねた独特のもので・・・日本で言えば京都とかに近いかもしれない。
その点で言えば陳留は活気に溢れている。
その活気は年代を経た重みではなく、新興都市にある軽やかで新しい何かを感じさせるものだった。
昔の陳留がどうだったかなどは知らないが、もし一代でこれだけの都市に仕立て上げたのだとしたら・・・曹操という人間はとんでもない存在だ。
「超世の傑と呼ばれたのは伊達じゃないってことか・・・。」
やはり、一番気をつけるべき存在だな。・・・まだ性別知らないけど。

高順はその時何も考えていなかったのだが、今の高順は良い意味でも悪い意味でも目立っていた。
理由はただ1つ。
虹黒の存在である。
2メートルほどもある、ほとんど見たことのないような巨馬。
それに跨ってる高順。
ありとあらゆる意味で目立ちまくっているのだが、当人は洛陽で慣れてしまっていたのかそのあたりに全く気がつかない。
行きかう人のほとんどが「何あの大きな馬・・・」みたいな目で見ているし、声を潜めて色々と話もしていたのだが・・・全く気がつかない暢気な高順だった。
勿論声をかけてくるような者など誰もいない。
しかし・・・だからだろうか。
空気を読まず声をかけてくる者がいた。

「おい!そこの男!」
声が聞こえてくる。
明らかに女性の声だ。
誰のことを呼んでるのか知らないが、名前くらいは言ってやるべきじゃないかなー。
高順は自分に言われた言葉だと全く気がつかずこんなことを考えていた。
「おい、聞こえてないのか!?おいっ!」
まったく、天下の往来でそんな大声出して。やるなら他でやってほしいなぁ。←まだ気づいてない。
「あーーー!聞け!て言うか止まれ!お前だ、そこの巨馬に跨ってる奴!」
ここまで言われて鈍い高順もやっと気がついた。
「へ?俺?」
「そーだ!もっと早く気がつけこの馬鹿!」
いつの間にいたのか、すぐ近くに紅いチャイナドレス、体の右側を覆うような紫色の鎧を着た女が立っていた。
右の肩に髑髏をモチーフとした肩鎧をつけている。
髪はオールバックにしているのだが、前髪を一筋だけピンと三日月のようにして垂らしている。
スタイルも抜群で・・・美女、と言っても差し支えない。髑髏は悪趣味だと思うけど。
「ああ・・・どうも申し訳ない。全く他人事のように思ってまして。」
そう言いつつ高順は虹黒から降りる。
「で、何の用でしょう?」
「あ、ああ。」
んん、と軽く咳をして少女は続ける。
「その馬。私に売ってくれないか?」
いきなり何を言ってるんだ?と高順は思った。外見を見れば自分が商人では無いことくらいわかると思うのだが。
「・・・駄目です。」
「何故だ、金なら出すぞ?」
女は不満げに言う。
「いや、金の問題ではなくてですね。この子は俺の相棒みたいなものなんです。」
「相棒、だと?お前も金を払ってその馬をどこかから購入したのだろう?それ以上の金は払ってやる。」
「確かにその通りですが・・・困りましたね。まだ出会って日は浅いですが俺にとっては家族も同然なんです。家族を売ってくれ、と言われてわかりました。と売らないでしょう。」
「むう・・・。」
高順は無意識のうちに虹黒の首を撫でていた。
虹黒も気持ちよさそうに眼を細める。
「ううっ・・・ど、どうしても売って貰えないか・・・?」
「ええ、こればかりは。」
「な、ならば・・・!」
「はい?」
「私と勝負しろぉっ!」
女はどこからか禍々しい形の刀を持ち出してきた!
「はああああっ!?何でそうなるの!?あとそんな馬鹿でかい刀どっから出した!?」
「うるさいっ!私が勝ったらその馬を寄越せ!お前が勝っても寄越せ!!」
「何その俺様理論!?どっちにしてもあなただけが得をする流れじゃないですか!?」
「私はチマチマとしたことが大嫌いなんだ!素直に売ればこうはならなかったというのに!」
そう言って女はどでかい刀を思い切り上段に構える。
「チマチマした部分がどこにあったと!?万人に理解できるように説明を求めますよ可愛いお姉さん!」
「!!」
・・・何か動きが止まった。
上段に構えたままピクリとも動かなくなる。
「か、かかかっ可愛い!?なな、ななななな・・・何を言い出すのだ貴様!?」
「いや、実際俺の主観からすれば普通に可愛いですからって何言わせるんですかあなた!?とにかくその物騒な物しまって下さいって!」
高順もテンパっているためか、自分がおかしなことを言ってるのに微妙に気づかない。
変な雰囲気で一触即発。
周りにいた住人達も不安そうに・・・一部野次馬と化している者もいたが、見守るだけしか出来ない。
だが、刀を振りかぶったままの女と高順の間に割り込んでくるものがあった。
虹黒である。
「な、何・・・?」
「お、おい。虹黒!?危ないから下がってて!」
後ろから高順の声。そして目の前には刀を振りかぶった女。
虹色は下がらない。
殺気を篭らせた眼でじっと女を見据える。
女も予想外のことに驚きを隠せない様子だった。
(な、何だ・・・?馬だぞ?たかが馬なのだぞ!?それが・・・自分から主を守るように立ちはだかるとは。しかもこの殺気は・・・!)
本来、馬というのは臆病なものだ。
体の大きさに似合わず、優しい部分がある。
主人が未熟だとからかったりもする茶目っ気のあるものもいれば、本当に気性の荒いだけの扱い辛い馬だっている。
だが、総じて言えば臆病な馬のほうが多い。
それを理解しているからこそ主人のために立ちはだかるこの巨馬に女は驚き、畏怖を覚えたのである。
「・・・。」
「虹黒、下がるんだ!大丈夫だから!」
それでも虹黒は下がらない。

「おい、そこ!何をして・・・ん、姉者?」
そこに人ごみをかき分けて誰かがやってきた。
「あ、秋蘭・・・。」
「・・・?」
む、また美人さんが来ましたよ。
今度やってきた人は青いチャイナドレス。今目の前にいる女とは対照的に理知的な感じのする女性だ。
ただ・・・この人は今まで一触即発(?)状態だった女とは逆側のほうに鎧を着けている。
髑髏の肩当も反対の左方向だ。
左右対称、という言葉がしっくり来る。
あと、両者共に胸まあいいか。しかし・・・髑髏が流行ってるのだろうか?
「なんだ、姉者の起こした騒ぎだったか。」
「な、なんだとは何だ。私は悪くなどないぞ。」
弁解する女を横目に青いチャイナドレスの女性が高順の下までやってくる。
まだ殺気をみなぎらせている虹黒を見ながら「随分と立派な馬だな。・・・怪我は無いか?」
「え、はあ。ありません。」
「そうか、それは何よりだ。どうせ、姉者が無茶を言ったのだろう?「馬を寄越せ、今すぐ寄越せ!」とか。」
「その通りです!」
「なんで解るんだ・・・?」
「ははは、本当にすまない。許してやってくれ。・・・ほら、姉者も謝るんだ。」
「おい、秋蘭!私は何も悪くないと・・・!」
「ああ、解った解った。しかし、本当に立派な馬だな。姉者が欲しがるのも頷ける。」
「うむ、その通りだ!」
褒められたわけではないのに姉者と呼ばれた女は胸を張る。
「はぁ・・・。姉者?頼むから厄介ごとを増やさないでくれ。ああ、申し送れた。私は夏侯淵。字を妙才という。先ほど姉者が呼んでいたのは真名でな。」
「か、かこーえん!?」
この人が?WHY?じゃ、向こうの人・・・夏侯惇???
(ああ、やっぱり女性ですかそうですか。有名武将もいいとこの夏侯淵もやっぱり女性ですか?もう慣れましたとも。・・・うう、男の武将はいないのですか?少しくらい出て来てくれてもいいじゃん?俺、なんかどんどん肩身が狭くなってくよ・・・。)
「お、おい。どうしたんだ?」
夏侯淵が心なしか心配そうに見ている。
「いえ、何でもありません何でも。は、はははははは。」
「何でもない割には随分疲れているように見えるが。」
「気のせいです。・・・じゃあ、あちらのおっかない人は夏侯惇殿?」
「なっ!何故私のことを知っている!?」
夏侯惇と呼ばれた女性は肩をいからせ高順に詰め寄ろうとするが、また虹黒に阻まれた。
「あうっ・・・。」
「はぁ。諦めろ姉者。どう見ても非はこちらにあるのだ。大人しくしていてくれ。」
「そ、そんなぁ。しゅうらぁ~~~~ん・・・」
「情けない声を出さないでくれ。・・・ああ、すまない。しかしな。何故姉者の事まで知ってるのだ?」
うわ、しまった。またやっちゃったよ。
知識があるから無意識にやってしまう。悪い癖だよ。
言い訳ならある程度は思いつくが、さて。
「そりゃ、有名ですもの。夏侯姉妹あっての曹猛徳。曹猛徳あっての夏侯姉妹、とか。外見までは知りませんでしたけどね。」
「ほう、そうか。ふふ、その言葉を言ったのが誰かは知らないが中々の慧眼だな。ところでお前の名を聞いていないのだが。」
「いや、俺の名なんて。耳汚しでしかないですよ。」
「謙遜するな。この馬・・・虹黒と言ったか?これほどの馬にあれだけの覚悟と忠誠を抱かせるのだ。お前が只者ではない、ということくらいは解るさ。」
「いや、本当に只者ですよ?・・・・・・まあいいか・・・。俺は姓を高、名を順と申します。」
「高順、か。ふむ、覚えておこう。・・・ほら、姉者。何をぼーっとしているんだ?早く仕事に戻るぞ。」
「え?し、しかし。馬・・・お、おい引っ張るんじゃない!?」
「姉者も見ただろう?あの馬と高順の絆を。姉者がどれだけ脅迫しようとどうしようもないさ。ではな、高順。」
妹に首筋をつかまれずるずると引きずられていく夏侯惇。
「きょうはく・・・難しい言葉で言われてもわからんぞっ!おいっ、高順とか言ったな!私は諦めないからなー!おいこら、いい加減放せ秋蘭ー!?」

そんなやり取りを見て周りの人だかりも少しずつ消えていく。
一部「なんだ、つまんねー」という雰囲気で去っていく者もいたが。
いつか泣かす。

・・・しかしながら、まさに台風一過。
あーいうの見てると丁原様とか朱厳様を思い出しますね。元気でやってるのでしょうか?
「ぶる・・・。」
「お、虹黒。悪かったな。」
頭を撫でてみる。
「命を助けてもらったなあ、今日は奮発しよう。リンゴたくさん買ってあげるからなー。」
「ぶるっ!」


こうして、一時だけのものではあるが、陳留での騒動は一旦幕を下ろす。
高順は何の因果か後に夏侯姉妹と激戦を繰り広げることになるが・・・。


それはまた、別のお話である。



~~~楽屋裏~~~
番外編その2です。やっぱり短いです。

私の中での魏の扱いはこんなものですあいつです(どんな挨拶ですか

やっと出てきましたね、魏武の人々。
このシナリオでの曹操は現状は敵なのであまり扱いが良くないかもしれませんね。
さて、次は除州に向かいます。
その前に高順もそろそろ(人の)仲間を迎えたいところですね。次あたりに出るでしょう。

先ほど誤字修正したのですが「あまり」を「あまち」て。
死にたい(恥

それではまた。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第10話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/26 18:21
習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第10話

洛陽から陳留。そして徐州へ。

これが高順の立てたプランである。
徐州からも更に移動するつもりだが、一応は数ヶ月滞在するつもりだ。
陳留では目立つことは絶対に出来ない・・・とは思いつつも夏侯惇のせいで意味無く目立つ羽目になった。
今曹操と出会っても意味が無い。高順は判断した。
それに、夏侯惇怖いし。

滞在する期間が長いのも理由がある。
それは彼の地が呂布が敗死する場所であり、自身の終焉の地だからだ。
史実の呂布が曹操に敗北した理由は様々だ。
元の能力の違いもあっただろう。
戦力、政治力、その他諸々。
また、劉備を手懐けようとして失敗した、ということもある。
劉備という男の本質を理解できていない、という点で人を見る眼も無い。
部下の能力も・・・実際に大したことの無い連中ばかりだ。
頼れるのは張遼と陳宮くらいしかいない。
歴史の結果を知ってるからこその評価でしかないのだが、それでも他の呂布軍武将の経歴を知ってる高順にとって、武将の不足というのは由々しき事態だった。
そして、高順にとってはこれが一番の理由だと思うのだが・・・民の信頼を得られなかったことではないか?とも思うのだ。
つまり、高順のやることは。
呂布が来る来ないに関わらず、僅かなりとも民の信頼を得ておこう。ということだ。
当然、数ヶ月だからそう眼に見えた成果というのは出ないだろうがやらないよりはマシだ、という結論だった。
それに、もしかしたら部下・・・いや、仲間を得られるかもしれない。
それで呂布の敗北、そして自分の死を防げるかどうかまでは解らない。
自分が史実どおり呂布に仕えるかどうかすら解りもしない。
しかし、やらないよりはマシだろう。



そう思っていた時期が俺にもありました。あったんです・・・。



どうも皆さん、高順です。前置きが長くなりましたがいかがお過ごしでしょう?
俺は今・・・またしても大変です(涙


「どうしました?高順殿。」
「あー、いや。どうしてこうも面倒ごとばかり巻き込まれるかなぁ?と考え事をしてまして。」
高順は目の前にいる少女に返事をする。
銀髪で、前髪を短く刈り込んでいるが後ろは伸ばしており、三つ編みにしている。
髪の形が・・・なんとなく耳を垂らした犬のような形に見えなくも無い。
金属で作られた無骨な軽鎧でしなやかな身体を包み、腕に手甲をはめている。
その手甲は拳の部分まで包み込んでいて、手甲というよりも「ナックル」といったほうが良い代物だった。
身体のあちこちに傷がついているが、それは彼女が厳しい鍛錬を己に課し、それだけの戦いをくぐってきたことの証左といえるかもしれない。
彼女の姓は楽、名を進。字を文謙。真名を「凪」と言った。

「も、申し訳ありません。まさかこんな事になるとは。」
「はは、まあ楽進さんのせいではありませんしね。」
「あー。高順さんまだ凪ちゃんって呼ばないのー。」
「あーあー。ほんま高順はんは強情やなー。凪も苦労するで。」
「おい。沙和、真桜。おかしなことを言うんじゃない。」
そう言いながら高順たちの元へ歩いてくる2人の少女。
1人薄く紫がかった髪で腰に工具のようなものをぶらさげている。
胸を・・・現代の感覚で言えばビキニ水着のようなもので覆っている。
彼女の胸は大きく、歩く度に自己主張するかのようにたゆたゆと揺れる。
何故か関西弁を使っている。高順は彼女と話すたびに張遼を連想してしまう。
もう1人は金・・・いや、栗色の髪。
大きな眼鏡とそばかすが大きな特徴で、彼女もまた胸が大きい。

関西弁を使う少女の姓は李、名を典。字は曼成。真名は「真桜」。
眼鏡の少女は姓を于、名を禁。字を文則。真名が「沙和」。

今高順のいる地は大梁と呼ばれる地のとある村落があった場所。
「梁」とも呼ばれるこの地は陳留のすぐ南東に位置する。
この場所は高順の目指す除州への通り道なので通過するだけなら特に問題は無い。
無いのだが、何故か彼女たち3人が高順の旅についてくることになったのだ。
そもそもの発端は高順が陳留を出る少しだけ前の事だった。

~~~数日前、陳留にて~~~

例の騒ぎの後、高順はリンゴと馬草を買い込み食堂へと向かっていた。
「今日は麻婆豆腐とご飯の気分だ。」と呟きながら虹黒の手綱を引きつつ移動している。
流石に乗りっぱなしでは人目につく、ということを理解したからだった。
「ちょっとここで待っててくれよ。すぐ帰ってくるからさ。」
少し迷惑かもしれないが、虹黒を食堂の前で待機させる。
周りの人の奇異の視線などまったく気にはならない。
ただ、虹黒だけにするのも不安ではあった。
誰かに連れて行かれたり、傷つけられたりしないだろうか?
「じゃ、行ってくるからな」
「ぶる。」
食堂にすぐ入ってから「ずごしっ!」という音と「ぎゃああああああ~~!」と叫ぶ誰かの声がした。
高順が店に入ったと同時に誰かが虹黒を盗もうとして、そして反撃を食らったのだろう。
「・・・心配は不要、かな?」
乾いた笑みを浮かべる高順だった。
適当な席に座り、店主に「すいません、麻婆豆腐とご飯」と注文し、何となく店内を見回してみる。
時間もちょうど昼ごろで、賑わっているとは言わないが人が少ないというわけでもない。
3人の少女がすぐ隣に座っており、一目見ただけだったが「ふむ、また可愛い女性がいるな」程度の認識で特に気になるものでもなかった。
そこら辺で、店員のお姉さんが「はい、お待ちどうさま」と麻婆豆腐とご飯を持ってきてくれた。
ありがとう、と応えレンゲを持ち「いただきます。」と言った瞬間。

喧嘩が発生した。

「ちょ!何すんねん!?この竹かご大事な売り物やっちゅーに!」
「うるせぇ!んなとこに置いてるのが悪りーんだ!」
「何やと!」
「さ、真桜ちゃん・・・やめようなの。厄介ごとはよしたほうがいいの。」
「そうだ、真桜の言うとおりだぞ?」
「せやけどなぁ・・・悪いのあいつらやんか!」
「はっ、んな竹かごの1つや2つでうだうだ抜かすんじゃねえ。っけ。」
そう言って男は竹かごに唾を吐きかける。
「こ、この酔っ払いのオッサン・・・!もう限界や!」
どうも、彼女達の売ってる物を壊され、その上ケチをつけられたらしい。
それに対して・・・また随分巨乳な少女が文句をつけたらしい。
あーでもないこーでもないと文句を言い合っている。
どこの町でもよくある光景といえばそれまでなのだが、どんどんエスカレートしていってる。
「そんなもん、足元に置いとくほうが悪いんだよ!」
「邪魔にならんようにしとったわ!おどれが酔っぱろーて足元ふらつきながら歩いたのがそもそもの原因や!」
「なんだとぉ!?」
「なんや、やるんかい!?受けてたったるどコラァッ!!!」

(また随分と熱いやり取りだな・・・。)
正直、この件に干渉するつもりは高順にはまったく無かった。
どちらにも非があるしどちらにも言い分がある。
これは高順の考えだが、もし実力行使になったとしても少女達の方が確実に勝つ、と踏んでいる。
結果の解ってる小さな喧嘩に介入したくなかった。
それに今高順は麻婆豆腐を食べるのに忙しい。
と、そこへ少女が「落ちてきた。」
どがしゃあん、と派手な音を立てて高順の座っていた席にさっきまで言い争いをしていた少女が飛び込んできた。
いや、飛び込んだというか、突き飛ばされてバランスを崩した。といった感じか。

「あ・・・・・・。」
「痛っつつつ・・・ああ~、背中にご飯とか麻婆豆腐がぁ~・・・。」
「はっ、ざまぁみやがれってんだ。」
と吐きながら酔っ払いの男が自分の席に帰っていく。
その席には8人ほどの男達が座っている。
「おいおい、餓鬼相手にやりすぎんなって。」「ああ?あいつらが全部悪いんだ。ったく、迷惑料払ってもらってもいいくらいだぜ。」と、自分勝手なもの言いをしている。

「な、あんた。大丈夫か?」
「うう、大丈夫やけど・・・背中が気持ち悪い・・・。あ、凪・・・どこ行くん!?」
ん?と、隣を見やる高順。
見ると、銀色の髪の少女が男の席に向かっていくのが見えた。
「おい。」
「あ?んだよ?」
殺気を押し殺した声で先ほどの酔っ払いを呼び止める。
「ただの口喧嘩ならまだしも・・・暴力を振るうのなら話は別だ。彼女に謝ってもらいたい。」
「はあ?なんで俺が謝らなきゃなんねーんだ?」
ニヤニヤと嫌らしい、下卑た笑みを浮かべつつ酔っ払いは言う。
「竹かごを壊した事と彼女に手を出したことは全くの別問題だ。」
「けっ、うるせえ餓鬼だぜ。・・・おらっ!」
酔っ払いは銀髪の少女の頬をいきなり殴りつけた。
「凪!?」
「凪ちゃん!?」
「くっ・・・。」
そこへ店の店主が「お、お客様、どうか喧嘩沙汰になるようなことは・・・」と、やってきたのだが・・・酔っ払いの仲間が「いやいや、被害者はこっちですから」とかまたも自分勝手なことを言っている。
「で、ですが・・・。」
「おいおい、おっさんは黙ってなって。悪いのは全部この餓鬼どもだからさぁ・・・。」
「ううっ・・・。」
店主は完全に怯え、他の客も皆怖がって近づこうともしない。
「あ、あんの酔っ払いども・・・もう我慢でけるかぁ!」
「ここまでやられて黙ってるほど私もお人よしじゃないのっ!」
舐められた真似をして黙っていられなくなったのだろう。眼鏡さんと巨乳さん(高順命名)が酔っ払いの席へ向かっていく。
「て、てめぇらっ・・・えべふっ!?」
さっき巨乳さん(仮)と銀髪さん(仮)に乱暴なことをした男が一瞬でのされる。
「こ、この餓鬼どもっ!やっちまえ!」
「うるさいっ!」
「ぎゃあああっ!」
気勢を上げた男も銀髪さん(仮)に一撃でKOされた。
他の男たちも仲間の敵を討とうとして向かっていく。
周りの客は悲鳴をあげ(一部はしめしめ、といった感じに)店から逃げ出していく。
「あ・・・あーあ・・・やっちゃったか」
そんな混乱にも動じることなく自分の席を片付けていた高順がやれやれ、と首を振った。
まあ、何がどうなってもあの子達が勝つだろうな。
気の毒なのはここの店主さんだけど。

「ぎゃああああああっ!」
男が2人同時に高順の近くまで吹き飛ばされてきた。
高順は周りを見渡してみるが、さっきまで威勢よくほえてた男達は一人残らず倒されていた。
今目の前にいる2人が最後だったということか。
「はんっ、ざまぁ見さらせこのスットコドッコイどもが!」
「佐和たちの完全勝利!なの!」
「全く。素直に謝っておけばいいものを。」
「あー・・・でも、どないしよ。飯全部駄目になってもうたし、竹かご・・・うわ、全部壊れとる・・・。」
「うええ・・・どうしようなの・・・」
「・・・困ったな。せっかく村の皆で作ったのに・・・。」
喜んだり落ち込んだり、忙しい。
(あんだけ暴れておいて・・・元気なお嬢さん達だな。)
実際のところ、高順と1つか2つしか違わないような齢だが、そう思わずにいられない。
何せ息切れ1つしていない。
割と本気で強いのかも、と高順が思ったその時。
目の前に飛ばされた2人の男がゆっくり立ち上がり、懐から短刀を取り出した。
「あ。」
高順が間の抜けた声を出す。
「く、くそ。よくもやってくれたなぁ。ええ、おい?」
「ここまで恥かかせてくれたんだ。生きて帰れると思うんじゃねぇぞ、クソ餓鬼がぁ・・・。」
得物を出した男達に、3人娘の表情が硬くなる。
「うわっ、喧嘩で光り物出しよったで。」
「負けることはないと思うけど・・・。」
「しかし面倒だな。・・・どうもあの2人だけではないらしい。」
え?と周りを見る眼鏡(仮)と巨乳(仮)。
他に3人の男が立ち上がり、短刀を取り出す。
「むー。こんな狭い所でか。一気に組み付かれたら・・・凪やったらええやろうけど。」
「ふう。突破するしかないか。」
「へっへ。もう謝っても許してやらねぇ。」
「謝るべきなのはそっちのほうなの。」
「うっせぇ!今度こそやったらぁっ!」
短刀を構える男達。
だが――――。
一瞬で動きが止まった。
いつの間にか高順が三刃戟の槍部分を男の首元に突きつけていたからだ。
「え?」
「あれ・・・?さっきの兄ちゃんやんか。」
「・・・手助けしてくれるつもり、か・・・・・・?」
三人娘と短刀を握り締めてる5人の男達の視線が一斉に高順に注がれる。
「な、てめぇ・・・」
「ったく。酔っ払いのすることだと思って黙って見ていれば。でも、そんなもの使うつもりなら黙ってられないねぇ・・・?」
ぐい、っとさらに三刃戟を突き出す。
もっとも、高順は三刃戟の刃部分すべてに木製の鞘をつけている。
それでも本気で振り回せば殺傷能力は十分にある。
「そこのお嬢さんたち、こっちへ。」
高順は手招きをする。
彼女達も素直に従い高順の所へ移動する。
男達も追いかけようとするが仲間に武器を突きつけられて動くに動けない。
「あ、あの・・・」
「話は後。まずはここから出よう。」
「は、はい。・・・行くぞ、真桜、佐和。」
銀髪さん(仮)が真桜、佐和と呼ばれた2人を促して食堂から出る。

ふう、行ったか。
「さて、と。おっさんたち。この落とし前どうするつもりかな?どれだけ店に迷惑かけたか。わかってんの?」
威圧感と殺気を込めて言ってみる。
今まで感じたことの無い寒気を覚えて、完全に男達は黙り込んでしまう。
高順はこれまで幾度か戦場に出ている。
人を殺したのは晋陽軍との戦いが初めてだったが、それまでにも小規模な賊の捕縛などはこなしていたのだ。
その上、数千の兵が戦う戦場を一度とはいえ潜り抜けている。
そこらで喧嘩をしているチンピラなどとは比べるべきではない。
「う、うう。」
「あ、店主さん。」
店の中で呆然としていた店主に高順は声をかける。
「は、はい?」
「警備隊呼んどいて。で、こいつらに責任とらせりゃいいさ。ちゃんと状況説明してね。」
「へ、は、はい。すでに店員に行かせましたけど・・・。」
「あはは、手際いいねおっちゃん。んじゃ、遠慮なしね。」
言うが早いか、高順は三刃戟の柄のほうで男を叩きのめした。
「うわ!?よくもぶぺらっ!」
他4人も一撃で気絶させていく。
「はあ。こーいう手合いはいつも同じ事しか言わないんだから。・・・じゃね、おっちゃん。迷惑かけてごめんよ。」
そのまま高順は出て行こうとするが、まだお代を払ってないことに気がついた。
「ごめん、忘れてた。・・・はい。」
懐から結構な額の金を出し、店主に手渡す。
「い、いえ。こんなに沢山は頂けません・・・。」
店主は恐縮するが、高順は無理やり同然に押し付けた。
「まあそう言わないで。修繕費の一部に使って、ね?足りなければこいつらから取り立てればいいからさ。」
それじゃ、と今度こそ高順は店を出た。
外で待たせていた虹黒の元へ急ぐ高順。
「よし、虹黒。行こうか。」
そこにタイミングよく街の警備隊がやってきた。
「うわ、やべっ。急ぐぞ!」
「ぶるるっ」
高順は虹黒に飛び乗り陳留を出たのだった。


「はぁ。なんだか忙しい一日だったな、虹黒。」
「ぶる」
高順のぼやきに、虹黒はいちいち反応して鳴き声を上げる。
律儀と言うか何と言うか。
この当たりは微妙に高順と似てるのかもしれない。
そこへ。
「おおーい!待ってんかー!!」
さっきの少女達が追いかけてきた。
「ふえ?」
「ぜっ、はぁぁ・・・酷いで兄ちゃん。「話は後」言うてまさか放置してくとは・・・」
あ・・・忘れてたよ。
高順は虹黒から降りる。
「ああ、申し訳ない。自分の身を守るのに精一杯でして。」
「あんだけの殺気出せるのに?冗談はやめてや?」
「ううっ、疲れたの~。」
「ふう。・・・2人とも修行が足りんぞ。」
「うっさい。凪みたいな体力なんて修行したところでそうそうつかんわ。」

賑やかな人たちだ。嫌いじゃないけど。
「それはそうと。先ほどは有難うございました。」
「せやせや、ほんまおおきにな。」
「ありがとうなの!」
どうも、感謝の言葉を言うためにわざわざ街の外まで追いかけてきたらしい。
「はは。俺の助けなんて必要なかったと思いますけどね。」
「それに、貴方の乗っている馬にも助けていただきました。」
「はい?虹黒に?」
「虹黒という名前なのですか。あの後、店から出たところで警備隊に捕まりそうになってしまって。そこを助けてもらったのです。」
銀髪さん(仮)の言葉を聞いて高順は虹黒の首を撫でつつ(虹黒・・・何やったんだよ?)と思っていた。
「・・・もしかして、頭突きか後ろ回し蹴りのどっちかですか?」
「・・・・・・両方です。」
両方かよ。
「はぁ。長居するつもりは無かったとはいえ。」
「申し訳ありません・・・。」
「いやいや。今も言ったとおり長居するつもりは無かったですからね。」
「せやけどなー。うちらも困ったことになってもうてなー。」
「困ったこと?・・・えーと。名前なんですっけ?」
「あ、せや。名前教えとらんかったな。うちは李典、字を曼成いいます。で、この眼鏡が・・・。」
「むー。眼鏡とか言わないで欲しいの。私は于禁。字は文則なの!」
「私は楽進。字を文謙と申します。」
少女達は皆、高順に一礼をする。

楽進、李典、于禁。
いずれも名のある武将だ。しかも3人も。
というか、またしても女性か。
神様。お願いです。どうか、誰でもいいから男性武将を出してください。
もう俺色々きつすぎて泣きそうです・・・。
しかし、夏侯姉妹に続いて3人も後の魏の将に出会うとは。
「で、兄ちゃんの名前は何ちゅーの?」
「・・・はっ。」
もうあれです、立て続けに事が起こって俺の神経がついていきません。本当助けて・・・じゃない。
「申し訳ない。俺は高順と言います。」
「高順殿ですか。解りました」
「で、困ったことって?」

自分には関係のないことなのにわざわざ聞いてしまうのが高順の弱点であり、長所だった。
何せ甘いというか何にでも首を突っ込みたがる。
高順の人の良さは、矯正しようの無いレベルだった。
おかげで多くの人が彼に好意的な評価を下すのだから、世の中というのは解らない。
そのせいで常に厄介ごとに巻き込まれるおまけがついてくるのだが。

「その。私達もお尋ねものになってしまったようで・・・。」
これで街に入れなくなってしまいました。と楽進が顔を伏せる。
「ただ入れない、というだけなら良いんだけど。」
はぁ、と李典がため息をついて更に続ける。
「村の皆で作った竹かごを陳留で何度か売ってたの。そうやってお金を作って村の資金に充てて・・・。」
「その上、今回は先ほどの騒ぎのために予想していたより稼ぎが少なくなってしまいました。これでは村の皆に合わせる顔が無い。」
「なるほど。本来稼げた額を遥かに下回った。でもって一番近場で栄えてる都市に行商にこれない。それが困ったこと、か。」
彼女達は事情を説明すればいいのだろうけど、虹黒が警備隊相手に頭突きとか、後ろ回し蹴りとかかましたらしいから・・・無理かもしれないな。
高順には村のことなど関係のない話なのだろうが、虹黒が彼女らを助けるためとはいえ警備隊相手に大立ち回りをしてしまったので無関係とも言い切れない。
人の良さも相まって(何とかしてやりたいな)と高順は考えていた。
ただ、単純に金を出しても楽進あたりが絶対に拒否するだろう。
となると方便が必要になってくる。さて、どうしたものか。
(ん?そうだな・・・これくらいしかないかな。よし。)
「なあ、楽進・・・さん?ちょっと聞きたいんだけど。」
「はい?何でしょう?・・・あと、呼び捨てで構いませんよ、高順殿。」
「そうですか。それじゃ楽進・・・さん。」
3人娘が「がくっ」とずっこけそうになる。
「ま、まあ後々慣れてくれれば・・・で、何ですか?」
「ここから大梁の・・・あなた方の住んでる村?日数としてはどれくらいかかります?」
「ここから、ですか?そうですね・・・3、4日もあれば。」
「そうですか。じゃあ・・・道案内と護衛。お願いできます?」
『え!?』
高順の言葉に全員が驚いた。
道案内?護衛?自分たちの村に何か用でもあるのだろうか?特に何かがあるわけでもない小さな村なのに。
「あー。実はですね。徐州に向かう途中なんですよ。ですから皆さんの村を通るかもしれないでしょ?道とか解らなくて不案内ですからね。それでそこまでの道案内を兼ねた護衛お願いしたいかなー、と。」
「それくらいやったら別にかまへんけど・・・。」
「うん、全然問題ないの!」
「ありがとうございます。で、報酬のほうですが。」
『はあ!?』
また3人娘達が驚く。
「報酬って、金払うつもりなんか!?」
「ただ道案内するだけでお金だなんて・・・貰える筈がありません!」
「そうなの!ここら辺は平和なほうなの。前は多かったけど。太守様が変わってから盗賊討伐が盛んになったし・・・。」
3人同時に言ってくるので流石に高順も戸惑う。
「お、落ち着いて。まず最初の質問。護衛もしてもらうんだから当然です。2つ目。何をするにしても報酬は必要だと思います。我々は主従関係ではありませんしね?3番目。あまり。ということは出ることは出ますよね?危険性はあるということです。」
そのあたりのことを考えての報酬です。と高順は締めくくった。
ここまで言われて楽進たちも気がついた。
彼は自分たちを助けようとしてくれているんだ、と。
余計なお世話と言えなくもないが、彼は恐らくこう思っているのではないだろうか?
「街に入れなくなった原因を作ったのは自分だろう」と。
確かに、あの町で商売を出来なくなったのは大きな痛手だ。
ほとぼりが冷めればそんなこともないだろうが・・・それでも若干やりにくくなる、という事実は残る。
それを考えれば、悪い話というわけではない。
「・・・ほな、商談と行きまっか?」
「あ、おい。ま・・・じゃない、李典!」
「ええやんか。高順はんはうちらに仕事任してくれようとしてるんやで?そこに報酬まで付けてくれるとまで言うてる。稼げなかった分、取り戻す機会やで?」
「しかし、だからといって!」
「いいんですよ、楽進さん。」
「こ、高順殿。」
「あなた方にはそれだけの実力があると思いますしね。その腕を高く評価して、と。」
さらさらと竹簡に筆で金額を書き込んでいく。
「3、4日分の拘束代金・・・で・・・成功報酬・・・ん~。こんなものかな?」
そう言って3人に代金を書き込んだ竹簡を見せてみる。
『ぶーーーーー!?』
竹簡を見た3人は同時に吹いた。
「ちょ、何事!?」
「どどどどど、どいだけ高額やねん!?」
「こ、こんな額ちょっと見たことないの・・・」
「我々が何回陳留に行けばこれだけの額になるんだ・・・?」
「10回や20回じゃきかんと思う・・・。」

あれ?なんか呆然とされましたよ?
おかしいな。彼女らの腕を鑑みればこれくらい普通だと思うんだけどな。
じゃあ現物支給のほうがいいのかな?
ならば、と思い高順は自身が背負っている袋(大きいリュックサック)の中身を探し始めた。
このリュックサックは上党で服や布の仕立て屋さんに手伝ってもらって作成したものだったりする。
金属の留め金を使っているからそこそこに値段はかかったものの、大量の食料や水などを仕舞うのに相当役に立つ。
そのリュックは4つあり、そのうちの1つを高順は物色し始めた。
普段は虹黒の鞍に引っ掛けてあるのだが、数が多くて砂漠移動中の駱駝を連想しそうな装備である。
余談ではあるが虹黒に乗せている鞍も職人に頼んで作ってもらった特注品で、槍や剣、弓などを取り付けれるような形にしてある。
三刃戟もそこに挟み込まれており、いつでも取り出せるようにしてある。
「あの、高順殿?」
楽進が遠慮がちの声をかけてくる。
高順はまだリュックサックの中身を漁っており振り返りもせずに返事をした。
「何です?」
「お気持ちは嬉しいのですがこれは少し貰いすぎだと思います。僅か3日程度の道のりでこれほどの額を頂くわけには・・・。」
「何言うてんねん凪。こんだけ貰えりゃ村の皆も喜ぶやんかっ?」
「そうなの。高順さんの好意を最大限利用するの!」
李典と于禁が小声で楽進を止めにかかる。
「いや、しかしだな・・・それより人前で真名を呼ぶんじゃない!あと最大限利用とか言わなかったか今!?」
何の漫才をしているのやら。
「ごほんっ。そうじゃなくて。あの、高順殿?」
「あったー!」
高順が目当てのものを見つけたらしく歓声を上げる。
「え?あの、あったって何が?」
「これです。どうぞ。」
高順が何か丸い鏡のようなものを楽進に渡す。
楽進も流されるままに素直に受け取ったが、「それ」をじぃっと見て驚きの声を上げた。
「こ、これって、璧じゃないですか!緑色の・・・もしかしてこれ、翡翠ですか!?」
「ご名答。で、もう1つ。」
もう一個、銀色の棒のようなものを楽進に投げ渡す。
翡翠の璧に傷をつけないように片手で持ち、もう片方の手で棒を受け取る。
「わっと!?・・・高順殿、これは何でしょう?」
その棒を穴が開くほど凝視する3人。
高順はこともなげに「何って。銀ですけど?」と応える。
「はぁ。」と気の無い返事をした楽進達だったが数瞬後、またも「はああああああっ!?」と叫んだ。
「・・・あー、えらく驚き癖がありますね、3人とも。お兄さんは嬉しいです。」
「ぎ、銀!?銀の、のべ、延べ棒っ・・・。これ、本物なの!?」
「う、うち、こんなん初めて見たで・・・。」
楽進はもう何を言っていいのかも解らないようで唖然として口をぱくぱくさせるのみだった。
3人とも「何でこんな高価なもの持ってるの!?」とでも言いたげな顔をしていた。

実は翡翠の璧も銀の延べ棒も洛陽で購入していたものである。
虹黒を購入したことでかなり減りはしたものの、大量のお金が残った。要するに「重い」のである。
持って来すぎた・・・と、内心で後悔したのだが「じゃあ換金できる物品に換えれば良いよな?」と考え、璧や銀、金といった「価値が高いがあまりかさ張らない」ものを買い込んだのだ。
それがこんなところで役にたつとは。
「ど、どんだけ金持ちやねん・・・?」
「ま、あまりお気になさらず。で、いかがです?引き受けていただけます?」
もうここまで来ると圧倒されたのか、それとも呆れたのか。3人ともただコクコクと頭を縦に動かすのみだった。

ここで終わればよかったのだが、やはりというか何と言うか。
高順はまたしても厄介ごとに巻き込まれることになる。






~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。
流石にこれだけ書くと1日更新は無理です。
というか1日1回とか2回更新はあほすぎる、と今さらながらと思いました、本当に。

で、書いてみての感想なのですが。



あ、あるぇー(゜3゜)?

でしたorz

あれ・・・?なんで1話で終わってないの?約束したじゃないお姉さんと。(誰が)
罪なので罰としてt(以下略

誤字が多いですね。徐州なのに除州とか・・・
ちょっとだけ修整しました。


それではまた!



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第11話(誤字修正
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/26 21:33
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第11話

高順です。いかがお過ごしでしょうか皆様。

だからね。行く先々で厄介ごとに巻き込まれるのは俺の体質ですか?
そうやって叫びたい気分です・・・。


大梁までの3日ほどで、高順と楽進たちは随分と打ち解けていた。
3人ともすぐに高順に真名を教え、呼ぶことを許可してくれている。
最初に真名を教えてくれたのは楽進・・・凪だった。
それについては沙和と真桜も随分驚いていた。
「あの堅物の凪が!?」といった感じに。
凪も「そんなにおかしいか!?」と叫び返していたが。
僅か3日間だけの旅だが彼女達の性格について高順は大体理解できていた。
何より彼女達のやり取りが楽しい。
彼女達が高順の話を興味深そうに聞く時もあった。
一番興味があったのは彼女達の腕前だが、これもまた大したものだった。
凪は格闘家で「気」というものの使い手だという。
かめはめ○のようなレーザーっぽいのは撃てないが、気で弾を作り出し、それを放つ程度のことは出来ると。
それくらいの技を持っているので恐らくは硬気功とかもできるのだろう。
真桜はどちらかと言えば技術者のようなタイプだそうだ。
彼女の変わった槍、螺旋槍という穂先が回転する槍も自作だと言うし、凪と真桜の武具も彼女お手製だと言う。
沙和は2人に比べてパッとしないが、2人に比べて普通の女の子らしい感性を持っている。
悪い言い方をすれば「中庸」、良い言い方をすれば「バランスが取れている」といったところか。
一番性格的に苦労していそうなのは凪だと踏んでいるが。
そんな形で僅か3日の旅は終わりを告げるようとしている。
「予想通り、賊に襲われるようなことも無かったし・・・今回は平穏に行きそうだな。」と高順は考えていた。
そして3日後。ようやく彼女達の村に到着した。
だがそこは・・・。
唯の廃墟と化していた。



「なんや、これ・・・」
真桜が信じられない、と言った表情で首を振る。
本当に何があったというのだろうか。
確かに、村だ。
いや、村だった、というべきか。
そこそこの数の家があり、規模も決して小さくない。
高順が見たところ住んでいたのは200人ほど、と予測した。
ただ・・・多くの家が焼かれ、崩れ、原形を留めていない箇所もあった。
何よりもこの死人の数。30や40ではきかない。
老若男女問わず、といったところだ。
「どうして、こんな・・・。」
凪もうろたえるばかりだ。
「おおーい、誰か!誰かいないのかー!」
すると、どこかに隠れていたのか子供数人が出てきた。
「その声、凪お姉ちゃん?」
「佐和お姉ちゃんに真桜お姉ちゃんもいる!」
「・・・でっかいお馬さんと知らないおじさんもいる・・・。」
「皆、無事だったのか・・・良かった。」
少し安心したのか凪がしゃがみ込んで子供達を抱き締める。
沙和も真桜も駆け寄って来て子供達の無事を喜んでいた。
高順は・・・「おじさん」呼ばわりされて少し落ち込んだ。

「ところで、何があったんだ?他の皆は無事なのか?」
凪は子供達に尋ねた。
「よくわかんない・・・。知らない人がたくさん来て・・・。他の皆もまだ隠れてる。」
「あたしたち、お姉ちゃん達の声が聞こえたから出てきたの・・・。」
「そうだったんか・・・自分らの両親とかは無事か?村長は大丈夫なんか?」
「うん、村長さんなら家にいると思うよ。でも・・・。」
やはり、何人か家族を亡くしたものがいたのだろう。
その先を言おうとしない。
「そっか・・・頑張ったな。偉いで。」
真桜はそう言って目の前にいた少年の頭を撫でてやる。
そこで、今まで我慢していた何かがきれたのか。少年は大声を上げて泣き始めた。
それにつられるような形で、周りの子供達も。
凪、真桜、沙和。
彼女達は泣いている子供たちをしっかりと抱き締めていた。そして、彼女達も・・・静かに涙を流していた。


高順と虹黒はそれを見ていることしか出来ない。
自分たちは部外者だ。このような状況で出しゃばるべきではない。
なんとなく、高順は殺された人々を見てみる。
子供の盾になろうとして、共に・・・恐らく槍で貫かれた母子がいた。
背中を切りつけられて死んだ老人もいる。
首を切りつけられた青年や、鍬で応戦しようとしたと思われる人もいた。
そして、恐らくは賊だろうと思われる亡骸もあった。
やはり、賊か。
「くそっ。胸糞悪い・・・!」
いつも、弱い人々ばかりがこんな思いをする。
自分より力のあるものにはかかって行かないくせに。
高順は褚燕と、彼女の村のことを思い出していた。
自分より強い存在に必死に抵抗しようとした人々。その思い実らず、追いやられていった人々。
高順には褚燕の村と、この村の今の惨状がどうしても重なって見えてしまうのだった。
このまま亡骸を放置するのは忍びない。
考えた末、高順は墓穴を掘り始めた。

凪達は子供達を家に帰した後、村長の家に向かって行った。
何があったのかを聞きに行ったに違いない。
高順は亡骸を穴に埋めていいかどうか迷ったが、そのまま埋めていくことにした。
村の外側に穴を掘ったので邪魔にはならないだろう。
少しずつ、丁寧に穴の中へと遺体を納めていく。
賊の分まで作ってやるのはやりすぎだと思ったが・・・死んでしまえば皆同じだ。
放っておいても周りの迷惑になるのは解っている。
一応、村人の感情を考慮して村人の墓からは随分と遠くに墓穴を掘って置いた。
賊の亡骸を抱えようとしたとき、高順はあることに気がついた。
その賊の左肩に少しだけ見える程度だが「黄天」と刺青のようなものがあったのだ。
「黄・・・まさか、これって?」
そうか、ついに来たって事か?
いや待て、俺の知ってる知識でならまだこいつらが一斉蜂起するのはまだ1年ほどの猶予があるはずだ。
ってことは。
末端の統制の取れてない連中の仕業か?
しかし・・・
高順は一人でぼそぼそと呟いていた。
彼は時折考え事をするとその考えを呟いてしまう癖がある。
その上周りの状況お構いなしにそれをやってしまうこともある。
何も知らない人が見ればただの危ない人にしか見えない。
そしてすぐ側に凪がやってきているのにも全く気がついていなかった。
「あの・・・高順殿?」
「誰が率いているかにも・・・うーん・・・。」
「・・・高順殿!」
「おふぅっ!?」
「さっきから何を独り言を・・・。」
凪が胡散臭いようなものを見るかのように高順を見ている。
「あ、あー。すいません。どうも考え事をすると独り言を続けてしまう癖があるようで。凪殿にも全く気がつきませんでしたよ。」
「そうですか・・・ところで。」
凪は周りを見渡す。
「この墓穴・・・高順殿が?」
「ええ。部外者ですからあまり村のことに干渉するのもどうかと思ったんですけどね。亡骸をそのままというのも後味が悪くて。すいません。」
「いえ。高順殿のご厚意に感謝したいくらいです。村の皆も完全に意気消沈してしまって・・・。」
凪ははぁ、とため息をつく。
「高順殿。村長が礼を言いたいので家までお越しいただきたい、と申しています。」
「へ?しかし・・・。」
「本来なら、村長本人が来るべきなのですが。」
いや、そういうことを言いたいわけじゃないのですが・・・。
なんで関わりたくないことに限って関わらざるを得ない状況を作られるかなぁ?
でも事情を聞きたいところではあるよな。もし黄色の人々が関わってるなら今回1回だけじゃ済まなさそうだし・・・。
またしても考え込む高順に痺れを切らしたのか、凪は高順の首辺りを引っ張って歩き始めた。
「さあ、行きますよ、高順殿。」
「って凪殿!?引っ張らないで!首!首がしま・・・えげぇふっ!?」

~~~村長の家~~~
「3人を助けていただき、本当にありがとうございました。高順さん。」
村長は足を負傷していたが、律儀に立って高順に頭を下げた。
「いえ。むしろ俺のほうが迷惑をかけてしまいましたから。」
そう言って高順も頭を下げた。
両者共に律儀に頭を下げてるので感謝してるのか謝罪してるのかよくわからない図だった。
村長が足を引きずりながら椅子に座り、高順にも、どうぞ、と薦める。
遠慮しようかとも思ったが、黄巾のことで聞きたいこともある。考えた末で買う順も椅子に腰掛けた。
凪たち3人娘も座っている。
「凪から聞きましたが、死者を弔ってくれたとか。本来なら我々がやらなければいけないことなのですが・・・。」
村長の表情は晴れない。
「部外者がこんなことをするのはどうかと思いましたが・・・やはり放っておけない性分のようでしてね。」
「いえ、感謝しております。・・・ところで高順さん。悪いことは言いません。早くこの村を出立なさってください。」
村長の言葉に3人娘が立ち上がって抗議をする。
「村長、それはあんまりとちゃうか!」
「そうなの!さっき到着したのに出てけなんて酷すぎなの!」
「その通りです!」
随分と頭に血が上っているようだ。
「落ち着きなさい3人とも。早くせねばまた奴らが来る。恩人を巻き込みたいと申すか?」
「それは・・・。」
「陳留に救援要請をしようとも思ったのだが・・・皆怯えて外に出て行きたがらない。もしかしたら監視されているかもしれない。馬も無い。どうしようも・・・」
「・・・。」
村長の言葉に項垂れる凪たち。
どうやって会話をそこに持っていくかな?と考えていた高順にとってそこは狙い目だった。
「奴ら、とは?この村をこんなにした連中のことですか?」
「ええ、その通りです。奴らはまた来るといっておりました。それが何時かは解りかねますが・・・このままでは危険なのです。」
「その「奴ら」の素性・・・よろしければお聞かせ願えませんか?」
村長は迷っていたようだが、しばらくして口を開いた。
「彼らは自分たちのことを「選ばれた神の使い」と。「この村はこれより我らの支配下に入る。全ての物資を献上せよ」とも言っておりました。」
「何やそれ・・・!勝手な言い草しおって!何様のつもりや・・・。」
「真桜、落ち着け。」
「従わねばこうなる、と言って数十人の村人を殺していきました。抵抗をした者もいたようですが・・・。」
従えといいながらも村人を殺すか。物が目当てなのは分かりきっているが・・・全滅させるつもりはないということか?
今はまだ準備期間ということか。その為に無用な混乱は避けたいと?
それにしてはやり方が雑すぎるな。所詮は物目当て、だな。
だから賊の死体も残ってたわけだな。これで大体何者かはわかった。
あとは最後の確認をするだけだな。

「その賊ども。頭に黄色い布を巻いていませんでしたか?」
「な、何故それを?」
高順の言葉に村長が驚く。
「やはり、そうでしたか・・・。」
「高順殿・・・何かご存知なのですか?」
「ええ。ある程度は。」
聞いてきた凪に高順は首肯する。
ただ、これを喋っていいかどうかについては高順も悩んでいた。
まだ彼らの表立っての行動はあまり無い。
今回の一件に関しても名を借りたとか、真似をしただけの暴徒である可能性も捨てきれない。
その辺りまでは判断できない現状で言ってしまっていいものか?
まだもう1つ聞く必要があるな。
「その賊を仕切ってる奴の名前は聞きましたか?あと、どれくらいの人数を率いてました?」
「確か・・・波才、と。数は・・・300ほどでしたかな。」

・・・大当たり。潁川の黄巾勢力作った1人。つうかリーダー格だろ、波才って。
それが300人ほどしか率いてないというのは疑問だが。もしかしてこれから勢力作るつもりなのか?
でも、もし本人だとして。
今のうちに討っとけばこの当たりの勢力は弱まるよな。
もし弱まらなくても有力なリーダーを討ったってだけで十分かもしれない。
少なくとも、この人たちは救われる。
潁川の勢力が少なくなれば官軍も楽できる→その分戦力を他にまわす余裕が出来る。
そんな図式が高順の頭の中で組みあがった。
問題はどうやって戦うか、ということだ。
この村に、戦える戦力というのはほとんど存在しない。
凪たちと自分、あと虹黒のみだ。
なんとかして陳留あたりから兵士を引き出したいところではある。
何もせず一度帰還した、というのは脅しもあっただろうが・・・おそらく、戦力を補充或いは拡充するために去って行ったのでは?
潁川黄巾の全盛期であった数万やらの兵力を出してくるわけはないと思う。
しかし、もし自分の読みどおりだとしても千規模の兵を動かすことも予想できる。
やはり、この村の人間だけでは・・・。
高順は必死になって考えた。
この村を褚燕の村のようにしてなるものか。あんな結末はごめんだ。


「村長さん。もう1つだけ聞きたい・・・いや、確認したいことがあります。」
「はて・・・なんでしょうか?」
「あなた方はどうするおつもりです?」
「・・・?」
「このまま屈するか。勝てる見込みが薄くても抵抗するか。あなたの、そして村の人々の意思をお聞きしたい。」
「そんなん解ってるやろ!徹底抗戦や!」
「落ち着いてくださいね、真桜殿。あなた達が戦うつもりでも村の人々は違います。」
「ぁう・・・。」
「我々は戦いたくありません。いえ、戦えません。」
沈痛な表情で村長は呟いた。
「前に見せしめに殺されたのは若い者ばかりでした。今残っているのはわしのような老いぼれか、年端も行かぬ子供ばかり。抵抗したくてもできないのです・・・。」
「・・・。そうですか・・・。」

駄目か。
彼らがやる気を出して協力してくれなくてはどうしようもない。
村長が協力してくれる気になっても村人全員がそうだというわけでもない。
手詰まりか。
いや?何も全滅させなくてもいいのではないか?
波才なり誰なり捕らえて曹操に突き出せば。
丁原様も黄巾の存在を知っているんだ。曹操も知っている可能性が高い。
どちらにせよ、彼らをどこかに逃がさなくては。陳留以外の選択肢は無さそうだったが。
他の村に行くにしても数日かかるようだし、いつ襲われるか解らない現状ではそれが一番無難といえる。
(ここで黄布の勢力を削いでおきたかったんだけどな・・・。)
だが、戦えない以上は仕方が無い。
逃げる策は考える必要は無い。
誰かを先行させて陳留へ助けを求める。
その間に全員で陳留を目指す。
それを3人娘や自分だけで担うのは大変そうだ。
怪我人もいるし、年寄りや子供もいる。僅か3日ほどの距離だが随分と長い逃避行になりそうだ。



「あの・・・。」
そこへ凪が遠慮がちに声をかけてくる。
「ん?何でしょう?」
「色々と考えてくださるのはありがたいのですが・・・高順殿を巻き込むわけには行きません。どうかお逃げを。」
「そうなの、早く逃げて欲しいの!」
「せやなぁ。せっかく助けてくれたのに、悪いけど。」
「ふーん・・・。で、皆さんはどうするおつもりで?」
高順の問いに凪が困ったように答える。
「それは・・・陳留に逃げるくらいしか。」
「お尋ね者なのに?」
「うっ・・・。」
「死にますよ、このままじゃ確実に。黄巾が黙ってると思いますか?」
「覚悟の上なの!」
駄目だな、人の話を聞いちゃいないよ。
説得しても聞いてくれないだろうな・・・。
高順はため息をついた。
「解りました、解りましたよ。それじゃ、俺は逃げさせていただきますよ。」
「はい。お世話になりました。それとこれを。」
凪は翡翠の璧と銀の延べ棒を高順に渡した。
「これはもう不要になってしまいました。高順殿、お達者で。」
「ほなな!」
「さようならなの!」
「・・・。」
高順は背を向けて、その場を後にした。










~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。

この回、実に難産でした。
4回は書き直しましたよ、ええ。
今回に限らず、この作品全体があれな出来なので偉そうなことはいえませんが、今回はあまり納得できてないですね。
本来ならもっと平和的に行くはずでした。

流石に3人娘だけでは勝てないでしょう。魏の暴走特急こと惇さんなら勝てるかもしれないですけどw
やる気の無い人々を戦争に送り出せませんし。話を作るのは難しいです。


基本的に行き当たりばったりで話を作ってるのにも原因が(以下略
それと、ここから更新速度少し落ちるかもしれません。忙しいの(吐血
むしろ今までが早すぎたのでは?と思う今日この頃。

それではまた。













~~~楽屋裏終了~~~




~~~陳留へ続く道~~~

「まったく、いきなり頭突きをかまされるとは。」
高順は真っ赤になった自分の頭を押さえつつ文句を言った。
あの後虹黒に乗って陳留へ向かおうとしたところ、出会いがしらに頭突きをされたのだ。
高順は虹黒が何を言いたいのかはわかっていた。
「あの村を見捨てるつもりなのか」と。

そんなことは解ってるさ。俺は見捨てない。
1人でも多くあの村の人々を救ってみせる。勿論凪殿たちも。
俺の力では無理だ。だが曹操を動かすことが出来れば。
「それにはまず、お前の助けがいるんだよ。虹黒。」
「・・・。」
虹黒は更に走る速度を上げる。
「頼んだぜ、虹黒。・・・正直会いたくないし、会わせてもらえるかどうかもわからないが。・・・治世の能臣、乱世の姦雄。超世の傑と呼ばれた人の顔を拝みに行きますか!」
「ぶるっ!」

全速力で走る虹黒。
彼らが目指すのは陳留。
曹操との出会いの意味。そしてこれから始まるであろう戦いと、その結果動くかもしれない歴史。
それが何をもたらすか、それはまだ・・・誰にも解らない。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第12話(また誤字orz
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/09/27 23:06
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第12話


えーとね、今陳留の政庁にいるんですよ。俺。
それでですね、何度も使った言葉をまた言う羽目に陥ってましてね。
それ即ち。
大変なことになってますorz


曹操さんがチートだということが解った。虹黒さんが惇さんを嫌ってるのも解った。


「はぁ。またここに戻ってくるとは。」
陳留。曹操が治める土地。
「もう関わりたくないんだけどな…。まあ、仕方ない。」
虹黒は1日半もせずに大梁から陳留までの距離を走破していた。
歩いて3日ほどで着いたのだからまあ、妥当なところか?とも思うのだけど。
しかも、あまり疲労していないし。
普通の馬の何倍の体力を持ってるんだろう?と高順は違う意味で不安になるほど虹黒は元気だった。
ていうか、どうやって入ろう。
虹黒が警備兵を倒したって聞いたし、手配されてる可能性もあるんだよな・・・。
「まあ、捕まったら捕まったで良いか。」
おそらく、夏侯姉妹のどちらかが警邏をしているのだろう。
そうでもなければいきなり街中で「馬を寄越せ!」とか言われないだろうし。
高順は堂々と入り口の門をくぐっていった。


・・・。


捕まりませんでした。


「あ、あるぇー?何で?WHY?WHAT?」
あっさり街に入れましたよ。好都合といえば好都合だから良いのだけど。
さて、曹操さんにお目通りするには騒ぎを起こすか、何らかの形で渡りをつけないといけないのだが・・・。
そうなると、あの2人くらいしかいないんだよなぁ。

あの2人とは、夏侯惇と夏侯淵である。
一時的とはいえ面識を持っているし、黄巾云々は話をすれば理解してもらえるだろう、と高順は考えていた。
できれば夏侯淵に会いたい。夏侯惇だと人の話聞いてくれなさそうな気がする。
いや、聞かない、十中八九。
それでも、夏侯惇が騒ぎを起こせば夏侯淵もすぐに察知して飛んでくるだろう、という読みもあったりする。
なのであの2人に会うことがまず最初の一手。
そのためにはどうするか?
答えは「虹黒に乗ってれば良い」である。
この馬に乗っているとそれだけで目立つ、ということを前回の騒動で理解できた高順。
そのまま街を歩けばすぐに夏侯惇あたりが見つけるだろう。
それでなくても、虹黒は前回警備隊に喧嘩を売ったのだ。
すぐに話が広まるはずだ。
「それなら街の入り口で何故捕まらなかったのやら。」
高順は頭をかしげるのだった。
そして、虹黒と街を回って半刻もせず・・・あの人がやってくる。
ぶるる・・・と、虹黒が正面を見据えて唸り声を上げる。
「どうした、虹こ・・・く?」
うわ、虹黒が見つめてる方角からなんかすっげえ勢いで走ってくる人が。
しかも途中で何人か撥ねてるっておおい!あれ惇さんじゃないか!
街の人に何やってのさ!?
つかあの距離からこっち見つけたのか!そりゃ虹黒は目立つと思ってたけど!
「まずいな、あの突進力。なんとか避けないと・・・って!?」
高順がそう言った直後、虹黒も夏侯惇に向けて突進を始めた!(高順を乗せたまま
「だああああああっ!!?虹黒さん何するつもりですかーーーーーっ!!!」
高順の叫びにも虹黒は反応しない。そうしている間にも彼我の距離は縮まっていく。
「こーーうーーこーーくーー!!」
夏侯惇が雄叫びを上げる。
「ぶるるっ!!」
虹黒がそれに応える。(?
そして――――


虹黒の頭突きが夏侯惇の額に炸裂した!


「みぎゃあああああああああああああっっっ!!?」
ゴロゴロゴロゴロ・・・
思いっきり頭突きを食らった夏侯惇は地面をのた打ち回る。
「・・・こ、虹黒さん。あーた一体何を・・・。」
その辺をのた打ち回ってる夏侯惇が目の前に来た瞬間、虹黒はとどめとばかりに踏みつけた。
「かはぁっ・・・」
「なぁぁあーーーーーー!?」
虹黒さん、あんた何てことしてるの!?
つかそんなに夏侯惇が嫌いか!
虹黒から降りた高順はしゃがんで倒れ伏した夏侯惇の様子を見る。
「だ、大丈夫ですか!ちょっとぉ!?」
流血はしてないようだし、死んでもいない。
・・・あれだけの頭突きをくらい、とどめに踏みつけられたというのに。
「・・・これ、どうしよ?」
そう言った瞬間、虹黒がまた踏み潰そうと片足を上げた。
「だー!駄目!絶対!」
「・・・ぶるるっ。」
何か、「ちっ」って感じで不満そうに足を下ろす虹黒。
本気で嫌ってるようだ。
そこへ、姉の叫びを聞いたからか、最初から探していたのか。
夏侯淵が走ってきた。
「おい、、姉者どこへいっt何事だっ!?」
・・・第1の目的達成。

その後が大変だった。
夏侯淵は何があったのかすぐに理解してくれたのだが、夏侯惇が落ち込むわ怒るわ夏侯淵に泣きつくわ。
「しかし、随分と嫌われたものだな、姉者?」
「うぅ~~~しゅ~ら~ん・・・虹黒が~~~・・・。」
眼の幅涙を「ぶわー」っと流しつつ夏侯淵に泣きついている。
そんな夏侯惇を宥めつつ、夏侯淵は高順のほうへ向き直った。
「また会ったな、高順。既にこの街を出たと思っていたのだが・・・。」
「いえ、確かに一度出ましたよ。ちょっと用事がありまして。」
「そうか、やはり出ていたか。」
「ん?どういう意味です?」
「いや何。どこぞの食堂で大暴れしてそのまま逃げたとか聞いていたので、な。」
「・・・誰から聞いたんです?」
夏侯淵は自分に泣きついている姉を指差した。
「・・・あー。」
「虹黒を見つけたので、なんとか仲良くなろうと近づいたところを頭突きを喰らって蹴り飛ばされたと。」
「・・・ごめんなさい。」
虹黒・・・喧嘩した警備隊の人って夏侯惇のことだったのか・・・。
「まあ、あまり気にする必要は無いさ。大方姉者が何かしようとしたのだろうからな。それに、だ。店主がお前達の弁護までしてくれている。感謝しておくのだな。」
「しゅ~らぁ~~ん・・・。」
「ああ、よしよし。泣くな姉者。」
そう言って姉の頭を撫でる夏侯淵。
どっちが姉なのやら。いや、そうじゃなくて。
「あー、夏侯淵殿?」
「む、何だ?」
「折り入って頼みがありまして。」
「頼み?」
高順はかいつまんで夏侯淵に事情を説明した。
大梁のとある村が賊に襲撃されたこと。
このままでは村の人々が全滅させられるかもしれない、ということ。
「ふむ。それは確かに由々しき事態ではあるな。しかし、私にはその当たりのことを左右する権限がない。それに、賊と言っても規模は小さいのだろう?」
「そうだ、賊の100や200程度、1人でなんとでもできるだろう!」
「姉者。そこいらの一般人と自分を一緒にしないように。」
「ええ!?できないのか!?」
夏侯惇が心底驚いたといった表情をし、夏侯淵は深く溜息をついた。
「姉者は少し静かにしていてくれ。」
「う~~~~・・・。」
「まあ、それはともかくだ。賊の100人程度ならお前と虹黒だけでなんとかなるのではないか?」
「それは買いかぶりすぎです、夏侯淵殿。10人くらい倒せれば奇跡ですよ。」
「随分と謙遜をするものだな。しかし、それだけでは軍を出してもらえるかどうかは解らないな。」
やはり、これだけでは無理か。なら。
高順は幾分か声を潜めてこう言った。
「それが黄巾でも、ですか?」
これには夏侯淵も反応を示した。
「ほぅ?・・・なるほど。詳しい話を聞こうか?・・・着いて来い。ほら、姉者も一緒に。」
「え?でも警邏・・・。」
「兵たちには伝えておくさ。そら、行くぞ姉者。」
「ちょ、ちょっと待て秋蘭。・・・首!首極まってるから!襟を引っ張るなっ・・・!」
「人前で真名で呼ばないでくれと言っただろう?これで何度目だ、姉者。」
「しゅ~~~~ら~~~~ん!」
「今ので4度目だな。」
本当、どっちが姉なんだろう。しかもきっちり数えてるし。
まあいいか。これで第2の目的達成だ。
一番苦労するのは次なんだろうな・・・。ああ、嫌になってくる。
「どうした高順?さっさと行くぞ?」
「ああ、ちょっと待ってください。ほら、虹黒も行くぞ。」
高順たちは急いで夏侯淵の後を追った。
向かう先は政庁。
そこに曹操がいる。

政庁の中へ入り、さらに進んでいく。
さすがに虹黒は入れないので外で待機してもらった。
「上党のに政庁に比べて随分規模が大きいな。」
街の規模も全然違うから当然といえば当然か。
しかし、中も広い。夏侯淵さんが先導してくれてるからいいけどはぐれたら絶対迷うぞ。
そんなことを考えていたら夏侯淵がある扉の前で止まった。
おそらく、この部屋に曹操がいるのだろう。
ここが政庁の中心部。宮殿で言えば玉座とかそのあたりに位置する場所だろう。
「すまないがここで待っていてくれ。」と言い残し夏侯淵は部屋に入っていった。
「やれやれ。ここで時間食うわけにはいかないんだけどな。」
お役所仕事みたいに待たされなければいいのだけど、と思った直後に「話を聞いてくださるそうだ、入れ。」
・・・えらく判断が早いな。
じゃあ、入らせていただきますか。
高順は拱手し失礼いたします、と言ってから部屋へと入った。
正面の馬鹿にでかい椅子に座ってるのが・・・恐らくは曹操だろう、
その横に夏侯姉妹、さらに離れて親衛隊、といったところか。
しかし、曹操・・・やっぱ女なのな。ツインテールで背小さいし、胸もなまあいいや。
その椅子から歩いて十数歩あたりのとこで止まり、拱手して口上を述べようとするがそれを曹操は手を上げて遮った。
「構わない、ある程度のことは秋蘭から聞いたわ。」
「・・・そうですか。」
「自己紹介が必要かしら?私は曹操。字を猛徳。この陳留を預かる者よ。」
ふう。なんというか、すごいな。本人にそのつもりは無いのだろうが威圧されているように感じる。
さすがは三国志最大の覇者となる人だけあるな。
とりあえず、跪いておくか。
「さて。大梁に賊が出たと聞いたのだけど。間違いなく、黄巾なのね?」
「はい、間違いありません。私自身が見たわけではありませんが・・・彼らと思しき亡骸の肩に「黄天」と。」
「数は?」
「そこまでは解りません。村長に聞いたところでは300ほど。しかしながらそれが全ての兵力数とは思えません。」
「そう。村人達はどうしているのかしら?」
「そのまま応戦しているか、それとも陳留に向かっているか。村の若者も見せしめに多数殺されたと聞きました。」
「なるほどね。それで?あなたは尻尾を巻いて逃げてきたわけ?」
曹操のこの言葉に高順はさすがにカチンと来た。
非難しているのか、と思って曹操の顔をちらりと見てみたがそのようなつもりではないらしい。
一言で言えば試されている、というところか。
「ええ、その通りです。」
「ふん、軟弱なっ!」
高順の言葉に吐き捨てるかのような言葉を吐く夏侯惇。
「黙っていなさい、春蘭。」
「そ、そんなぁ・・・。」
「高順と言ったわね。逃げた理由を聞かせてもらえるかしら?」
「簡単です。誰かが助けを求めなければならないでしょう。あの村に戦力といえるものはほとんどない。しかし馬はない。俺の馬・・・虹黒に乗れるのは今は俺だけです。なら簡単でしょう?」
「ふふっ。冷静に見た結果、それ以外のやりようが無いと考えて行動に移したわけね。・・・良い判断だわ。」
どうやら、一定の評価をされたらしい。まあ、曹操の眼鏡に適ったわけではないだろうが。
「春蘭、出撃準備を。騎兵5千もあればいいでしょう。私も出るわ。」
「よ、よろしいのですか?」
「当然よ。たとえ100だろうと200だろうと、それが自領の民であろうとなかろうと。助けを求める声があるなら私は絶対に見捨てない。行きなさい。」
「は、ははっ!」
夏侯惇は慌てて部屋を飛び出していった。
たいしたものだ。判断が早いのにも驚いたが5千の兵士を即時動かせれるだけの態勢を整えてあるわけだ。
いや、やろうと思えばもっと多くの兵を動かせるのだろう。
これで、うまくいけばあの村の人々の被害も抑えることができるだろう。
それに、民を見捨てるつもりが無いとも言い切った。
覇者としても王者としても、風格があるということだな。
「それでは、私もこれで。」
高順も戦う準備をするために部屋を辞そうとする。しかし。
「待ちなさい。」
曹操に呼び止められた。
「は・・・。何でしょう?」
「あなたにまだ聞きたいことがあるわ。」
「・・・私に?」
「ええ。高順。これから先の時代・・・何が一番必要になってくると思う?」
少しだけ楽しそうな表情をしながら曹操は質問をする。
「兵力、生産力、資金力。その他諸々。その中であなたが一番重視するもの。それを聞かせて貰える?」
いきなり何を言うのかと思えば。また、試すつもりか。
この人は他人を試すことが好きなのだろうか?
・・・史実じゃ、そういう面も確かにあったみたいだけどさ。
高順は特に考えることなく、かつ面倒くさそうに答えた。
「情報、あるいは知識です。」
「へぇ・・・。根拠は?」
高順は頭を右手の人差し指でトントンと叩いた。
「判断が出来るからです。頭が良くても、知識が無ければ意味が無い。知識があっても、引き出す情報が無ければ意味が無い。」
それからも高順の言葉が続く。
「俺が逃げて来て、「大梁が襲われた。黄巾の仕業だ」と伝えるからこそ曹操様は出撃の判断をなさいました。どんな状況でどんな判断をすればいいのか?この先の時代を生きるのはまずそれです。」
「なるほど。言いたいことはわかる気はするわ。」
「特に貴方のように人の上に立つ立場であれば尚更です。判断材料、そして判断。それができなければ自分は当然部下をも失う結果に繋がる。材料が多ければその分迷うことも多くなるとは思いますがね。」
迷える材料があるだけ、まだましでしょう。判断が出来なくなったとき、それが死ぬときですから。と高順は締めくくる。
そして、その材料こそが「情報」なのだ。高順はそう言いたかった。
「うふふ、あははははは。面白いわ、貴方みたいな手合いは兵力とか武力とか言ってくるのだろうと思ってたのに。思考の死角を突かれた、とでもいうのかしら?」
「他の要素を軽く見ているわけではありませんよ。ただ、その辺りがないとここから先の時代、生き残るのは無理だろうな。こう考えただけです。」
「あら、私はこう見えても後漢の人間よ?そういう発言は聞き逃せないわね。」
「その割には怒りませんね。」
高順の言葉に、曹操はまた楽しそうな表情をする。
「さあ、どうかしらね?ああ、もう1つだけ貴方に聞きたいことがあるの。」
「はぁ。」
「こう見えて、私の「手」は長くてね。」
「手?」
手って・・・どう考えてもそれほど長くないよな。普通?
「例えば、数年ほど前。上党のとある兵士の発案から良い肥料が作られるようになった。とか、まだ誰も食べたことが無いような食料を開発した、とかね。」
げっ・・・まさか。そういう意味の手か!?
「そして、名が「高順」といったかしら。。偶然ね、あなたと同じ名前よ?」
横にいた秋蘭も「何!?」といった表情をしている。
「まさかとは思うけど。同一人物かしら?」
高順は内心で冷や汗をかきながら「まさか。」と言うのが精一杯だった。
「できればその2つの作り方、教えて欲しいのだけどね?」
「ですから、別人です。そんな名前の男なんていくらでもいるでしょう。」
「ふぅん・・・。私は一言も「男」とは言ってないわよ?」
「ああああっ!しまった!墓穴掘ったぁぁああぁああっ!?」
「あら、カマをかけてみるものね。本当に本人だったなんて。」
ふふ、と曹操は笑う。してやったり、という感じか。
やばいまずいやばい怖い!何なのこの人!?そこまでの諜報組織持ってるの!?チートってレベルじゃないですよ本当に!
OK俺は逃げる。どこまでも逃げる!俺は風、自由!(またしても自己暗示)
そして、逃げようとして腰を浮かせかけた高順を曹操の一言が押し留める。
「高順。私に仕えなさい。」
・・・はい?何をいきなり?
「冗談でしょう。俺なんて程度の低い塵芥ですよ。」
だが、曹操の目は本気だった。先ほどまでの冗談を言ってるのか本気なのか判別のつきにくい表情などではない。
「私は本気よ。あなたの判断、そして誰も知らない何かを生み出したその知力。これから先の時代を見越した慧眼。そして、春蘭を打ちのめすような獰猛な巨馬を心服させた度量。」
「・・・・・・。」
その眼は真剣そのもの。
「貴方の腕、才覚。私が相応の値で買い上げる。悪くは無いと思うのだけど?」
だがそこへ。
「華琳さまぁっ!出撃準備完了いたしましたっ!」
空気を読めない人が帰って来たのだった。

「・・・。そう。ご苦労様、春蘭。」
「姉者・・・。」
「・・・。」
今までの緊迫した空気はどこへやら、一気に緩くなってしまった。
これから出陣なのに。大梁の人たち助けて黄巾と戦わなければならんのに。
曹操さんが無駄にこっちを圧倒して・・・いや、これは助けられたか。
「え?え?何だ?私、何かしたのか?」
本人は何もわかってないようだったけど。
「んんっ。で、どうかしら、高順?」
話を続けようとする曹操。
「・・・なぁ、秋蘭。」
「何だ、姉者。」
夏侯惇は小声で妹に話しかける。
「何の話をしているんだ?」
「ああ、華琳様が高順に仕えろと言っているんだ。」
「そうkって何いいいいいいっ!?」
いきなり大声を上げる夏侯惇に、曹操は溜息をついた。
「・・・何、春蘭?」
「駄目です!絶対に駄目です!こんな奴を華琳様に近づけるわけにはいきません!」
腕を振り回して抗議をする夏侯惇。だが曹操はそれを完全に無視して話を続ける。
「選びなさい、高順。私に仕えるか。それともこの鎌の餌食となるか。」
「脅迫ですか!?ていうかいつの間にそんな鎌を!?」
「それだけ貴方を評価しているということよ、勘違いをしないで欲しいわ。」
「貴様ー!絶対に許さんぞ!断れ!断れー!?もしハイって言ったら私がお前を殺す!」
「落ち着け姉者。それでは高順が死ぬだろう!」
「私は一向に構わん!むしろそうなれば虹黒も私の馬に!」
「だから落ち着け姉者!そんなことしたって余計に嫌われるだけだぞ!」
何だこのカオスな状況。
仕えなければ殺すと言われるし、仕えたら殺すって言われてるし。俺にどうしろと?
まぁ・・・答えは決まってますけどね。
「お断りいたします!」
「・・・本気かしら?」
曹操の目に殺意のようなものが宿っていく。
「ええ、本気です。」
「命が惜しくないと見えるわね。いいでしょう。」
そう言って曹操は鎌を振りかぶる。
だがそこへ夏侯惇が飛び出していった。
「貴様華琳様のお誘いを断るとは何事だー!」
「ちょっと待てさっきあんた断らなければ殺すってげぶはぁぁぁっ!?」


殴られました。
俺、何も悪くないと思うのですけど。

気が殺がれたのか、曹操はまた溜息をついた。
「もう良いわ。・・・貴方にとって悪い話ではないと思うのだけど。断る理由を教えてもらえる?」
あの後夏侯惇は曹操によって昏倒させられ放置されてるので、今この場で起きているのは曹操・夏侯淵・高順である。(兵士もいるが
「失礼なことになります故、それはご勘弁を。」
「構うことは無いわ。一番文句を言いそうなのはそこで寝てるし。」
ねぇ?と夏侯淵の方へ向き同意を求める。
夏侯淵も苦笑するばかりだ。
「それならば、失礼を承知で言わせていただきましょう。」
「ええ。」
「あなたは人を自分の機能としか見ていない節がある。」
「機能・・・。」
「俺はそれが酷く気に入らない。人のことを愛しているように見えて、そうじゃない。あなたは人の才能のみを愛している。」
「高順、お前!」
食って掛かろうとする夏侯淵を曹操が止める。
「構わない。続けて。」
「貴方に心酔している人は良い。だがそうでない人も多いだろう。全員が全員あなたに心からの忠誠を抱くと思うか?あなたの器の大きさは解る。だが、俺という存在は貴方の器の中に居場所が無い。すぐに弾かれるのが眼に見えている。俺は器の中に居場所を作ってくれる方にこそ仕えたい。まだ見つけてはいませんがね。」
「なるほどね。ふふふ。つまり私は貴方に認められていないということね。」
「俺程度に認められても楽しくなど無いでしょう。では、これで。」
こう言って高順は退出していった。おそらく彼なりの準備をするつもりだろう。

面白い。面白いわ。と言って曹操は立ち上がった。
「秋蘭、春蘭を起こしなさい!」
「ははっ!」
「兵たちに伝達。これより我らは大梁へ向かう。民の保護を最優先、そして賊を殲滅するわ!」



~~~楽屋裏~~~

どうも、あいつです。
やっと三国志の主役(あいつ主観)出てきましたね。
曹操は書くのが苦労する存在です。覇者としての大きさを書くなんて私ごときじゃ無理。
さて、高順君が曹操さんに仕えない理由を語っていましたね。
私自身はそうは思ってないですが、仕えにくい人ではあるだろう、と思います。
何故高順くんが曹操さんを敵視しているのか、というのは上記のこともありますが「自分を処刑する相手だ」ということも大きいと思います。
曹操さんがどういう人物かも知らなかったわけですしね(知識として知ってるだけに過ぎません
幼い頃から接していれば仕えるに値する、と思っていたでしょう。
しかし、曹操の人格がえらく破壊されてますね。こんなの曹操さんじゃないw
それと惇姉さん。完全にギャグ的存在に。
彼女が活躍できる場面は・・・あるのかな(笑

さてさて、5千の曹操軍に混じって出撃する高順くん。彼らは間に合うのでしょうか?

間に合わなければ困るのですけどねw
それではまた!



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第13話(少し訂正
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/02 07:14
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第13話

陳留の南へと進む曹操軍5000。
その構成はほぼ全てが騎兵である。状況が状況のため速度重視の姿勢だ。
この速度で行けばすぐに凪たちと合流できるかもしれない。
向こうが陳留へ避難する為に動いてくれていれば、だが。

先頭を走るのは曹操。
その両隣に夏侯姉妹。
どこかそこら辺を高順。
と言っても、虹黒の体格が他の馬に比べ数段大きいので目立つことこの上ない。
兵士達も「何だあの馬・・・」といった表情で見ていたし、夏侯惇も「うう、いいなぁ・・・」とか呟いていた。
曹操も、正直驚いていた。
曹操軍の騎兵は基本的に軽騎兵である。
兵は神速を貴ぶ。の考えでこれはこの時代の基本形。
そして、今現在もかなりの速度で駆けているのに虹黒は平然とついて来る。
あれほどの巨馬を乗りこなす高順も大したものだと思うのだが、馬の操り方が自分では真似ができそうに無い。
手綱をつけてるくせに、それに全く触らない。
馬を引くときには使っていたようだが、虹黒に騎乗して以降1度だって手綱を握っていないのだ。
それどころか今は腕を組んでいるのみ。
まるで高順の意思を虹黒が読み取っているのではないか?と思えるほどだった。
(ふふ、春蘭が一目で惚れこんだというのも解る気はするわね。)
さて、それは置いておいて・・・高順の話によると村の人々は「逃げる気はあるかもしれないが、村の外に出るのを恐れて動いていないかもしれない」ということだった。
向こうが自発的に動いていれば保護できる可能性が高まるのだが・・・もし動いていなければ。
最悪の状況になり得る、という予測もしておかなくてはいけない。
「秋蘭!」
曹操は隣にいる夏侯淵を呼ぶ。
「ははっ!」
「あなたに右翼の騎兵1500を預けるわ。先行しなさい。高順も連れて行って!」
「心得ました!高順、聞こえたか!?」
「ああ、聞こえた!しかし、虹黒じゃ追いつけんかもしれませんよ!?」
「ならば最後尾の者に付いて来い!・・・はっ!」
夏侯淵が馬を加速させ、右翼の騎兵部隊と高順がそれに続く。
少しでも早く、救うべき命を救うために。


~~~数十分前・そこから更に10里ほど南~~~

150人ほどの集団が陳留を目指している。
どうしても怪我人や老人、子供といった体力の無いものたちばかりなので進む足が遅い。
休憩しては進み、また休憩しては進みということを延々と繰り返している。
そしてその最後尾には凪達3人娘がいた。、
「くそ、まだ陳留は見えないか。」
「当たり前や、普通に歩いて3日ほど。馬があればその半分ほどで済むやろうけどな。こっちゃ怪我人ばっか、馬にも乗れんのばっかやで?」
「進むのが遅いのは仕方ないの。」
「ああ、そうだな・・・。」
前を進むのはは凪達が住んでいる村の人々だった。
村長と3人娘が説得して、怖がる村人達を外に連れ出したのだ。
他の村に逃げるのを考えないでもなかったが、それではその村を巻き込んでしまうし防衛力も期待できない。
幸い、曹操という新しい太守は英明で有名だ。
なんとか陳留までたどり着ければ受け入れてもらえるだろう。
「せやけどなぁ、追い出しといてなんやけど。高順兄さんにも手伝ってもらうべきやったかもな。」
「それは・・・そうだが。高順殿は我々の村とは無関係だ。巻き込んでしまうわけにも行かないだろう?」
真桜の言葉に凪が反論する。
「それはそうだけど。でも、死んだ人のために墓を作ってくれたり、なんとか皆を助けようとして何か考えてたみたいだったの。」
「な、なんだ。私1人が追い出したような言い方をして。2人だって早く村を離れるように言ってただろう?」
沙和にまで攻撃されて凪は幾分拗ねたようなものの言い方をする。
「私だって、高順殿に手助けしてもらえたら・・・心強いさ。だが、それでも・・・。」
「あーはいはい、解った解った。凪は頑固やなぁ。ま、うちも同意見やけどな。高順兄さんに手伝ってもろたら、心強いわ。」
「あー、ずるいの!沙和だってそう思ってるの!」
「いや、ずるいとかそういう問題ではないと思うが・・・おい、2人とも。また来たぞ。」
凪の言葉に真桜が「ん?」と南へ視線を向ける。
黄色い布を頭に巻いた・・・黄巾党が馬を駆って追いかけてくる。その数およそ70ほど。
「・・・あー、ほんまや。懲りへんなぁ、あいつら。」
「これで5回目なの・・・。」
「追ってくる数が少ないのが救いだな。2人とも、気合を入れろ!」
凪が手甲「閻王」を叩き合わせる。
「まったく、さっきからあんな少ない数で。何考えてるの!」
沙和が獲物の二刀を構えて南を見据える。
「どうせ本隊が来るまでの時間稼ぎしとるんやろ!うちらみたいな少人数放っとけちゅーねん!」
真桜が螺旋槍を地面に突き刺す。
「ふう、我々を殲滅して見せしめにして周りの村々も従わせようと。そのつもりなのだろう。」
「せやな。けど・・・うちらを甘く見たこと後悔させたるっ!」
「沙和だって負けないの!」
黄巾騎兵はすぐそこまで迫っている。
村の人々を守るために何としてもここで食い止めなければ。

それから数十分後、凪たちは黄巾騎兵を全滅させ、10数頭の馬を手に入れた。
今まで何度も同じように馬を得ていたが、駄馬ばかりで使い道が無かったのだ。
今回はごく普通の馬を10頭ほど得られた。幸いと言ってもいい。
問題は自分たち以外に乗馬できる村人がほとんどいないということだった。
「うーん、馬乗れるんうちらだけやなぁ。」
「そうだな。後ろからせっついたところでこれ以上速度が上がるわけでも無い。」
「速度もそうだけど、食料と水も心配なの・・・。」
黄巾から奪った馬に乗った3人が同時に深いため息をついた。
「ともかく、あの上り坂を超えれば一呼吸つける。それまでは頑張ってもらわないと。」
あの上り坂、というのは前に凪達が高順と上った坂とはまた別の坂である。
それほど急ではないものの幾度も続くので体力が無い者には相当に辛いはずだ。
あれを越えれば残りの坂は1つだけ。
本当ならそこも一気に超えて平坦な道に出てしまいたいが今の状況を考えるとそれも難しい。
ここで、急に先頭を進んでいた人々の足が止まった。
疲労しているのはわかるが、何故止まるのだろう?
3人娘も不思議に思い、集団の先頭へと向かった。
そして・・・そこで愕然としてしまった。
いつの間にか、黄巾党が回り込んでいた。
その数、およそ3千といったところ。
もう1つの上り坂までは数里も無い。
だが、その坂の下付近で黄色の布を頭に巻いた連中がひしめいている。
不恰好ではあるものの、いくつかの旗が見える。
その旗には「中黄太乙」だの「蒼天已死」だのと書かれている。
それを見て3人は信じられない、と言いたげな表情になった。
「いつの間に・・・。」
あれだけの数が人知れず集まれるわけが無い。
「いや・・・。まさか、このために騎馬隊で撹乱をし続けたというのか・・・。」
凪の呟きに真桜が反応する。
「ちゃうな・・・。連中、ずっとここで張っとったんや・・・!少しずつ騎馬こっちに差し向けて、こっち急かしたんやろ!」
「じゃあ、皆で村を出ることを知ってたの・・・?」
「或いはそう踏んどったんやろ!くそっ!」
3人は武器を構え、こちらに向かって進んでくる黄巾党を押し留めようとする。
「皆、戻るんだ!このままでは全滅するぞ!」
凪の言葉に我に返ったのか、呆然としていた人々もあたふたと来た道を戻ろうとする。
そこでまた異変が起こる。
一番後ろにいた男が短刀を隣にいる子供に突きつけていたのだ。
「な、何や!?って・・・何儀、お前何考えてるんや!?」
真桜に何儀と呼ばれた男はにやりと笑って「こういう事だ。見て解らないか?」と言って笑い始める。
「はっ、はははははは。誰も気づかないだなんてな。どいつもこいつも抜けてるぜ。」
「どういう意味や・・・?」
「こういうことだよ。」
何儀は自分の服の腕部分を捲くった。
そこには「黄天」という刺青。
「お、お前・・・。」
そういうことだったのか。3人は合点がいった。
彼は生まれも育ちも自分たちと同じ村だ。それなのに。
何儀は黄巾に通じていたか、あるいは最初からその一員だったのだろう。
自分たちが村を出ることに決めたとき、何らかの形で伝えたのか。
「見せしめに殺すつもりなの・・・!」
「へっへっへ、そんなことをする必要はないんだよ。何故なら・・・あの周辺で黄巾に属してないのはお前らだけだったからなぁ。」
「・・・!」
このままでは不味い。全滅するのが眼に見えている。
凪は数瞬迷い、これ以外に道は無いと思い至った。
「皆、逃げろ!真桜、沙和。後を頼む!」
「凪、いきなり何を・・・うわっ!?」
凪は両手に気弾をつくり、何儀へと向ける。
「おいおい、こっちは人質がいるんだぜ・・・。この餓鬼の命が惜しくねえのかっ!?」
「惜しいに決まっている!」
叫びつつ気弾を何儀に投げつけた。いや、正確には何儀の足元に。
轟音と共に大量の土が舞い上がる。
舞い上がった土は煙となって何儀の視界を遮った。
「げほっ、くそ!・・・がぁっ!?」
土煙を喰らって咳き込んでいた何儀だったが、その喉に沙和の刀「二天」が突き刺さり、何儀は即死した。
人質となっていた子供を抱き上げて真桜が叫ぶ。
「皆、逃げるんや!早く!」
真桜の声に押されるように、逃走が始まった。
真桜も沙和も、まともに歩けない老人達を抱えたり、肩を貸したりして少しでも距離を稼ごうと走り出す。
だが、ここで凪の姿が見えないことに気がついた。
「凪っ・・・どこや!どこ行った!?返事せえ、凪ーーー!」
周りを見渡すが土煙に視界を遮られ近くの事しか解らない。
「沙和ー!凪はおるんかっ!?」
「こっちにはいないの!」
「くそっ・・・!」
探しに行きたいが両手に人を抱えてる今では無理だ。
(何でもええ、死なんとってくれ・・・・!)
真桜には祈ることしか出来ない。

その時。
凪は坂の下から進軍してくる3千を超える黄巾党に単身で挑んでいた。

~~~黄巾が在陣している場所から1里北・夏侯淵軍~~~
夏侯淵はここで部隊を止め、細作を放ち続け事細かな状況を聞き分け整理をしていた。
この時点で夏侯淵が得た情報は「すぐ目の前に黄巾党3千ほどが在陣」「陳留方面へ逃げようとしていた集団が反転」「1人の拳士と思わしき少女が突撃、善戦するも捕らえられた」というもの。
「くそ、間に合わなかったか・・・。」
夏侯淵は手綱を握る手に力を込めて呻く。
救いがあるとすれば、避難をしていた人々が追いつかれていない、ということくらいか。
そこにまた細作から情報が送られてくる。
「集団は逃げ切った模様。黄巾はそのままその場所に帯陣、動かず。見張りも無い模様。」
もう時間としては夕方だ。追撃は諦めたのだろう。
「高順、すまん。少しだけ間に合わなかったようだ。」
先ほど追いついてきた高順に夏侯淵は頭を下げた。
「いえ・・・夏侯淵殿のせいではありません。」
夏侯淵のせいではない。もう少し俺が早く陳留に到着していればよかった。それだけだ・・・。
高順は自分を責めた。
早く助けてやりたい。そして、夏侯淵も同じことを思っている。
しかしどうすれば良い。
曹操の本隊残り3500が到着するのは夜半ごろ。
今手元にある1500で攻撃を仕掛けても・・・負けることは無いだろうが、捕らえられた少女がどうなるかがわからない。
また、後方へ逃げた集団も保護しなくてはいけない。
なんとか、この坂を越えたもう1つの坂に布陣したいのだが・・・見張りが無いとは言え全軍で行っては直ぐにばれてしまう。
脇道がないではないが・・・やはり時間がかかる。
どうするべきか・・・。
夏侯淵に思い浮かぶ策は1つしかない。
「高順、お前はどうするべきだと思う?」
判断に迷うわけではないが夏侯淵は隣にいる高順に聞いてみる。
「挟み撃ちしかないでしょうね。曹操殿は黄巾の情報を欲しがっている。」
ふむ、同じ考えか。
「そうだな。ここで首領なり幹部なり捕らえて他の拠点の有無は調べたいと思っていらっしゃるだろうな。」
「ええ、そうなれば1人も逃がすことなく殲滅しなければならない。討ち逃せば拠点に逃げられてしまうかもしれない。」
「そうなると、やはり挟み撃ちだな。しかし・・・。」
「夏侯淵殿。こんなのは如何です?」
高順は自分の出した策を夏侯淵に打ち明けた。
それを聞いた夏侯淵は「ふむ、それしかないかな。」と判断。伝令を曹操本隊へ向かわせようとした。
そこで、夏侯淵はある考えがふと脳裏に浮かんだ。
高順に部隊を任せてみてはどうだろう?
華琳様もおそらくは高順の武力、統率力を見たいと思っていらっしゃるだろう。
彼の慧眼やら知力を華琳様を理解している。
しかし、武力などの軍事能力についてはまだ解っていない。
名も無い男に部隊を預けるつもりは無いが彼女の勝負勘がこう告げている。
「任せたい」と。
そこで、1つ条件を追加して伝令を出した。
「高順に500ほどの兵士をつける。」
その後、その話を聞かされた高順はがっくりと項垂れていたが・・・。
彼に付けられる兵士も最初は「あんなどこから出てきたか解らないような男の下で!?」と不満を持っていたが夏侯淵の命令でもあるし、仕方なく従った。
ちょうど、輜重隊(騎馬隊)も目的に沿う道具を積んでいる。
馬の泣き声を押さえるために布で馬の口を固定。
こうして、夏侯淵の率いる部隊と高順は(泣きそうになりつつ)目的の場所へと少しずつ進んでいった。

~~~黄巾党の本陣~~~
「ははは、中々良い女だなあ、ええ?」
陣幕の中で凪の顔をじっくり凝視した男が上機嫌で酒を煽る。
黄色い布を頭に巻いた男・・・おそらく波才という男だな。
両手を後ろに縛られた凪はそんなことを考えていた。
「あ、兄貴ぃ。俺・・・もう我慢できねえっす!」
波才の側にいた数人の男が鼻息も荒くそんなことを言う。
「まあそう言うな。俺達にはあの3人の女神様がいらっしゃるんだ。それ以外の女に目移りなんてするべきじゃねぇ。」
「で、ですが兄貴!」
「落ち着け黄邵。俺達は女に迫るとき無理やりなどはしねぇ。ははは、まぁこの女もあの方たちの歌を聴けばすぐに解る。そして直ぐに自分から・・・グフフのフ。」
下卑た顔でおかしな笑みを浮かべる波才と、その取り巻きに凪は心からの嫌悪を感じた。
(くそ、下品な奴らめ。)
凪には自分のことより真桜や沙和、村の人々が無事に逃げおおせたかどうかのほうが心配だった。
だが、力尽きた自分を取り囲んだ黄巾党に近隣の村の見知った若者が混じっていたことも驚きだった。
どうやら自分が思っていた以上に彼らの影響は強いようだ。
「はっはっは!ここまで上手くいくとは思わなかったけどなぁ!他の村も劉辟と龔都が押さえてるだろう!時間が経てば経つほど兵の数は膨れ上がる!」
まったく、黄巾さまさまだよなぁ!と言いつつ更に酒を煽った。
どうも、今すぐ自分に何かをしようと考えている訳ではないようだ。
(3人の女神、か。)
恐らく、その3人とやらが彼らの上に立つ存在・・・黄巾党の真の党首なのだろう。それに歌がどうこうとも言っていた。
何のことかは解らなかったが、覚えておくとしよう。
自分が生きてここを脱出できれば、この情報も何らかの役に立つはずだ。
脱出できるかどうかまでは解らないが。
上機嫌になって酒を煽り続ける波才と、周りの兵士達。
「ああ・・・れんほーちゃん・・・ハァハァ。」
「ち、ちーほうチャン・・・ハァハァ・・・」
「てんほーたん・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
いや・・・別の意味でおかしくないか?と嫌悪感丸出しで引きまくる凪であった。

~~~同時刻、曹操本陣~~~
先ほどまで夏侯淵達がいた場所より更に南に曹操本隊は停止していた。
細作を幾度か放ったが、どうも黄巾党は見張りもろくに付けず酒宴をしているらしい。
まあ、もし見張りがいたとしても問題はない。
全て始末すればいいだけだ。
「ふむ、そろそろかしらね。」
曹操は一人呟いた。
高順と夏侯淵が考えた策というのは、挟み撃ち。である。
ただ、時間差をつけたやり方でいくらしい。
目的地の東西にはちょっとした獣道があるようで、そこを少しずつ進んで回り込むのだという。
恐らく夏侯淵達も細作を放った結果見張りがいない。ということを掴んだのだろう。
高順の部隊は南(真桜達が逃げた方角)。
夏侯淵は西、そしてもう1つの部隊は東。
隊を3つに分け、その2つを夏侯淵(実際に指揮をするのは西の部隊だが)、1つを高順が率いると言う。
客将ですらない高順を、小なりとはいえ部隊の隊長として扱うのはどうかと思うが・・・。
まだ見たことのない彼の武力を見られるのなら、それはそれでいいか、とも考える。
高順の指揮があろうと無かろうと、自軍の兵士なら水準以上の活躍を見せる。
挟み撃ちにするのならあまり差が無いと言えなくも無い。そう考えて許可を出した。

これくらいなら誰でも考えられる策ではある。だがしかし。
「私には仕えない、か。その割りに結果的に・・・私に有利に働くだろう処置を取るなんてね。」
曹操はそんなことを考えていた。
「華琳様ー!出撃はまだなんですかー!?」
夏侯惇が待ちくたびれたせいか、普段の元気さを感じられない声で喚いているのが聞こえてくる。

・・・前言撤回。考えられないのがここに1人いたわ・・・。
曹操は涙が出たわけでもないのに目頭を押さえ、深くため息をついた。

~~~同時刻、高順隊~~~
高順は与えられた500人のうち、100人を村人の保護のために南へと送った。
村人を保護したらすぐにこちらに合流するように伝えている。
一番最初に突撃を仕掛けるのは彼らだ。
彼らのやることは突撃、撹乱である。
黄巾本陣に突撃を仕掛け、火矢をありったけ射ち込む。
最初は混乱するだろうが、時間がたてば混乱も収まり反撃を試みる部隊も出てくるだろう。
そこへ東側(夏侯淵のいない側)の部隊が攻撃を開始。更に時間差で夏侯淵の部隊も攻撃を開始する。
目の前にいる黄巾党は戦慣れもしていなければ錬度も低い。装備も悪い。
対して曹操軍は夏侯姉妹、曹操が直々に訓練を行い、装備も質の良い物を選んでいる。
数もこちらが多い。負ける要素は無い。
だが、敵を逃がさないために包囲攻撃をする必要がある。
その為、どうしても部隊を薄く広く布陣させなければならない。
夏侯淵と高順の考えもそこにあったが「こちらの数を多く見せかけるために銅鑼を鳴らし続け、混乱を広め続ける。」という意見が一致している。
そろそろ曹操本隊も到着した頃だろう。
あとは足並みを揃えるだけだ。
「あー、すいません。隊長代理。」
兵士の1人が高順に話しかけてくる。
「ん?どうしました?」
「隊長代理を疑う訳じゃねーんですが・・・本当に上手くいくんですか?」
「いかなければ困りますよ。大丈夫ですって。相手に「組織的な戦い方ができないように」すればいいんです。」
「それってすごく難しいんですが・・・。」
「確かにそうですけどね。ですが、混乱の度合いを広げ続けていれば、正規の訓練も受けてない連中です。すぐに瓦解しますよ。」
「そういうもんなんですかねぇ・・・。」
「それに、あなた方は曹操様の訓練を受けている精鋭部隊です。大丈夫ですよ。それと・・・皆さん、この戦いは殲滅戦です。嫌な気分にもなるでしょうが・・・1人も残さず殺してください。」
「・・・うっす。解りました。」
「もう少しで出撃します。皆さん、必要なものをきっちり持ってるかどうか今一度確認を。」
「了解。」
高順がすぐに出撃しない理由。それは真桜と沙和を待っていたからだった。
村の人々にも手伝って欲しいことがある。
それから10分ほどで保護に向かわせた部隊から伝令が駆けてきた。
沙和と真桜も一緒に。

「あれ・・・高順兄さんやんか!?なんで陳留の軍に混じって・・・?」
「高順さん、もしかして陳留の軍人さんなの?」
再会しての一番、彼女達はそんなことを言い出した。
「違いますよ、曹操様に「皆のことを助けてー」とお願いしただけです。まぁ・・・色々あって一緒に出陣する羽目に陥りましたけどね。」
高順は苦笑してこんなことを言った。
「ほな、うちらのためにわざわざ陳留まで戻ったんか!?」
「まぁ・・・そうなりますね。あのまま見捨てる真似なんて出来ませんしねー。」
「・・・。」
朗らかにこんなことを言う高順を2人は信じられない気持ちで見つめていた。
こんな時代だ。
人の命の価値など塵同然。
それなのに、たった3日ほどの付き合いでしかないのに、彼は相当な無茶をしている。
しかも、「巻き込みたくないから」と追い出したも同然の扱いをした自分たちのために。
彼にとっては彼自身の命よりも行き摺りで関わった人の命のほうが優先されるようだ。
もしかしたら、凪はそのあたりの性格を誰よりも早く察知したのかもしれない。
そうでもなければあの無骨な凪が1日もせず真名を教えたことの説明がつかない。
本当に、信じられない。

「な、なぁ。高順兄さん・・・。」
「はい?」
「うちら、兄さんに謝らんと・・・。」
「へ?何で?」
真桜の言葉に高順が心底意外そうな表情をする。
「だって、追い出したんやで?それなのに。」
「どうして、こんなに良くしてくれるの?」
「・・・?」
よく解っていないらしい。
「あー、その、なんて説明したらええやろ。3日程度の付き合いしかないのに、なんでうちらを助けるつもりになったん?て聞いてるんよ。」
「はい?3日程度の付き合いをした人を助けちゃいけないですか?」
この言葉に2人は勿論、周りにいた魏の兵士たちも唖然としていた。
高順本人は「何をおかしなこと言ってるのやら。」と、自分たちに背を向けて黄巾の陣を注意深く見ている。
「・・・は、ははは。」
凄いわ、この人。
うちらが思った以上に底抜けのお馬鹿さんで底無しのお人よしや。
それも良い意味で。信じられんわ・・・。
「あ・・・皆、ついたみたいなの。」
100人ほどの兵に守られた人々がこちらに向かってくる。
「よし。これで準備が整ったな。」
「準備?」
「ええ、黄巾と戦うための準備。沙和殿と真桜殿も手伝ってもらえます?」
「勿論なの!」
「当たり前や!」
2人は当然のように頷いた。


~~~数分後~~~
「て訳です。皆さん、理解していただけました?」
「ほいな。」
「お任せなの!」
高順は沙和と真桜に作戦の概要を伝え、必要な動具を持たせていた。
問題は村の人たちだが、不安そうにしているものの100人ほどの兵士が護衛についているので、なんとか作戦に参加してくれることを了承した。
「よし、行きますか。」
この瞬間、今まで優しげだった高順の雰囲気が一気に変わる。
「皆さん、お互いの間を空けずに、1つの塊となって突撃してください、一騎駆けは禁止です。」
この言葉に全員が頷く。
「ありがとうございます。それでは・・・出撃!」
「おおーーーー!」

虹黒に跨った高順が沙和と真桜、そして曹操軍400を引きつれ一気に坂を駆け下りていく。
その後ろで、村人達と100人の兵が大きく叫び、銅鑼を鳴らし、出来る限りの大きな音を出し始めた。
「火矢、構えっ!」
高順の声と共に全兵が弓を構え黄巾の陣幕に狙いを定める。
「撃てっ!」
400もの火矢が陣地めがけて飛翔していく。
幾つもの陣幕に火矢が刺さりたちまち火の手が上がる。
ここまでは上手くいっているようだ。
眠りこけていた黄巾兵士も起き始めたが、何が起こったのか全くわかっていない。
火の手が上がり、どこかの軍が攻めてきた。ということは解っても狼狽するばかり。
彼らにとっては信じられない光景だった。
南の坂から少数の兵が一丸となって駆け下りてくる。
先頭を走るのは信じられないほどの体躯の馬、それを乗りこなす男。
その後ろには数百ほどの漆黒の鎧に身を包んだ騎兵部隊。
幾度も矢を打ち込まれ、陣幕が燃え、兵士が射倒されていく。
しかも、その後方から凄まじい音が鳴り響いている。まさか後続がいるというのか?
次から次へ起こる「不測の事態」に黄巾党は混乱するばかりだった。
「ここまでは良し。・・・全兵、突撃!」
「うおおおおぉぉーっ!」
高順が片手に三刃戟を構え、虹黒は更に速度を上げる。
虹黒は逃げ惑う兵を撥ね飛ばし、高順も同じく逃げることしか出来ない兵をたたんで行く。
「うちらも負けてられんで、沙和ぁっ!」
「解ってるの!」
真桜と沙和、そして兵士達が横一列になって陣を切り裂く。
そこへ、なんとか抵抗をしようと幾人かの兵士が槍や刀を構えて高順に向かってきた。
「死ねやこらあああっ!」
「・・・ふっ!」
並んで突撃してきた兵2人を、高順は三刃戟で一気に貫いた。
ズドォッ!という音が響き、貫かれた兵達は何が起こったのかも解らないまま即死した。
人を殺す感覚に未だ慣れていない高順は少し顔を顰める。そして、2人を貫いたままの三刃戟をそのまま持ち上げていく。
ギ、ギシィ・・・と戟がしなる音が聞こえてくる。
それはそうだ、大人2人を貫いたまま持ち上げているのだから。
今の高順の姿は、敵から見れば恐ろしいものに映っただろう。
炎に照らされた漆黒の巨馬。返り血を浴び、兵を貫いたままの戟を持ち上げ、殺意の篭った眼差しでこちらを見下ろす男。
黄巾兵には高順が悪鬼羅刹に見えたに違いない。
彼の姿に黄巾兵は戦意を無くし背中を見せて逃げていく。
そして、彼に付き従っている兵たちはその姿に更に戦意を高めていく。
「追撃です、一人も漏らさず討ち取ってください。」
「はいっ!」
兵たちは応えて更に追撃を仕掛けていく。
「・・・やれやれ。これじゃ、松明は要らなかったかな?」
実を言うと、まだ手を残していたのである。
陣幕が燃え上がった後、油を塗りこんだ松明に火をつけ、更に他の陣幕を焼く。ということを考えていたのだが。
黄巾兵が思った以上にあっさり崩れたせいで使う意味もなくなってしまった。
まあ、いいか。
高順は一人ごちて、追撃を開始した。


戦いは一方的なものになりはじめていた。
中央部にいた波才が何とかして態勢を整えようとしても前線から逃げてきた兵士達のせいで上手く身動きが取れないのだ。
訓練を受けていない非正規部隊の弱みが吹き出てきた。
そうしているうちにも多くの兵士が討たれている。
降伏をしようとした者もいたが、有無を言わさず殺されているようだ。
波才は判断した。こうなったら東西に分かれて逃げるしかない。
「おい、黄邵!その女を連れて来いっ!とっとと逃げるんだよ!」
陣幕の中で震えている黄邵に怒鳴って命令をする
「ああああ、あ、兄貴・・・。でも俺、脚震えて・・・!」
「ふっざけんじゃねえ!とっとと来いっていってんだ!」
そのとき、伝令が飛び込んできた。
「た、大変です、波才様ぁっ!」
「何だ、どうしたってんだ!?」
「とと、東西からも敵兵が・・・!数はわかりません!」
「何ぃぃぃっ!?」
波才は慌てて陣幕の外へ出て周りを見渡す。
・・・本当だ。本当に両側から兵士が出てきやがった。どういうことなんだ!?
「ええい、くそっ。」
悪態をついて陣幕の中にいた凪を連れてくる。
「女、お前は人質だ。来いっ!」
「グッ・・・。」
布で口を巻かれ、腕を幾重にも縛られた凪を引っ張り、波才は北へ逃げ始めた。
すでに無駄な行いだということも知らず。

夏侯淵の放った矢が寸分違わず黄巾兵の頭を射抜いていく。
「ふむ、どうやら上手く行った様だ。」
高順隊の突撃が随分敵の士気を挫いてくれたらしい。
これならば奇襲をする必要はなかったな、夏侯淵は考えつつ更に敵兵を一人射抜いた。
本来は「時期を見計らって突撃する」だったのに、自分たちが行動を開始した頃には「逃げようと向かってきた敵を一掃する」になっている。
高順はどんな戦い方をしたのやら。
「夏侯淵様、この辺りの敵は掃討したようです!」
部下の言葉に夏侯淵は周りも見渡す。黄巾兵の死骸ばかりだ。
こちらの被害はほとんど出ていない。
「東の部隊はどうだ。苦戦しているか?」
「いえ、こちらよりは時間がかかっているようですが目立った損害は無いとの事!」
「そうか、だが油断をするな。我々はこれより他2隊と合流。北へ向かう。1人も残さず斬れ!」
「はっ!」
さて、仕上げだな。
そんなことを考えた瞬間、高順隊が目の前を通っていった。
「ふふ、案外やるじゃないか。それに・・・」
高順の隣にいた2人の少女。名前も素性も知らないが中々の手練だな。
夏侯淵は馬首を北に向けた。
「我々も続く。遅れるなよ!」


波才は凪を連れて北へ逃げていた。
部下の事など知ったことではない。
自分さえ生きていればいい。
群がってくる部下を殴り、蹴り捨て、更に北へと逃げていく。
お前達は壁だ。俺が逃げるための時間を稼げ。
そう叫び、走り続ける。
「ひぃ、ひぃ・・・。こ、この坂さえ越えれば逃げられる。この坂さえ・・・。あと数十歩だ。あと少しだ。」
うわ言のように呟く波才だったが・・・坂を越えた瞬間絶句した。
目の前にはどこの官軍か知らないが、3000以上もの軍勢がいる。
その距離は半里程度(200メートル前後)
周りは暗いが、篝火を炊いてあるためかある程度のことは見える。
「なんてこった・・・。」
東西南北。どの方向にも最初から逃げ場など無かったのだ。
そして、目の前にいる軍勢の旗には「曹」の1文字。
「くそっ・・・!」
波才は南へ向き直り、包囲の薄いところを探そうとしたが、それももう間に合わないことを知った。
漆黒の巨馬に跨った男が。それに付き従うかのように進んでくる騎兵が。
今まで自分の後ろにいた兵士達を1人ずつ、だが確実に屠りながらこちらへと向かってくる。
「どこへ行くのかしら?」
波才の後ろから声が聞こえてくる。
慌てて波才は振り向いた。
そこにいたのは鎌を手にした小柄な少女。その隣には歪な形をした大刀を構えた少女。
そして、後ろには数千の騎兵。
「く、来るなっ!」
波才は凪の首に刀の刃を押し当てる。
「て、てめぇ、一体何者なんだ!どうして俺がこんな目にあわなきゃいけねえんだよ!?」
目の前にいる少女は無様な姿を嘲笑うかのような笑みを浮かべて言い放つ。
「私は陳留太守、曹操。賊を討つのに理由などいるのかしら?」
「そ、曹操。陳留太守直々だと・・・馬鹿な!?何故だ、こんな早く嗅ぎつけられるなんて!」
「さあ、何故かしらね?」
曹操は手にした鎌を波才に向ける。
「降伏したほうが身のためよ?もう完全に逃げ場は無くなったようだしね。」
その言葉を聞いた波才がまた回りを見回す。
前には曹操、横には騎兵部隊。後ろにも部下達を一人残さず抹殺した曹操軍の別働隊。
「う、ううっ。」
たまらず1歩ずつ下がる波才。
そして1歩ずつ間合いを詰めていく曹操。
その時、何に気づいたか。曹操は少し楽しそうな笑みを浮かべた。
曹操は波才の後ろにいる者に語りかけた。
「あら。秋蘭に高順。随分と早かったわね。」
「これでも遅いと思ったくらいですが。」
「これで遅いって・・・俺には基準が解りませんよ・・・。」
波才のことなどまるで目に入らぬように話しかける。
曹操は下馬していた高順の近くにいた2人の少女にも注目していた。
戦闘に参加した以上、腕に多少なりとも覚えがあったのだろう。
返り血を浴び、武器も赤く染まっているということはそれだけの戦いをした証拠でもある。
見込みがあれば誘ってみるか。
そこで一旦思考を戻し、更に波才に詰め寄っていく。
「ああ、待たせて御免なさいね。で?降伏するの?しないの?」
「うっせえ!人質がどうなっても良いのか、ええ!?」
波才は凪の首筋に当てた刀に力を込める。
「・・・!」
全員の動きが止まる。
それを見た波才は下卑た笑みを浮かべ、勝ち誇ったかのように続ける。
「へっへっへ。さあ、とっとと道を開けろ。俺はこんなところで死ぬ男じゃねぇ!」
ここで凪が噛まされていた布を自身の肩に当てこすり、なんとか布を外そうともがき始めた。
「な、何しやがる!?」
暴れる凪と押さえ込もうとする波才。
それを見て、真桜と沙和が飛びかかろうとする。
だが、凪の首を押さえた波才はまたも刀を凪の顔へと近づける。
「くっ・・・。」
「へ、へへ・・・妙な動きするんじゃねえぞ。ええ?」
「か、構わない。皆、この男を討ってくれ!」
「なっ!?」
波才は驚いて凪を見つめる。
確かに口布を当てて喋れなくしてあったはずだ。
しかし、凪の口元には布が無い。その代わりに頬に一筋の切り傷があり、そこから血を流していた。
今の騒ぎで自分から刀に近づき、布を切り裂いたのだろう。
「早く!この男を逃がすべきじゃない!」
「く、このっ・・・」
高順はここで、隣にいた夏侯淵の服の裾を少しだけ引っ張った。
夏侯淵は最初、何のつもりだ?と考えたが、高順の手の動きが「自分の後ろに下がって」と示していることに気がついた。
(・・・なるほどな。)
高順の考えを読んだ夏侯淵は少しずつ高順の後ろに下がった。
飛びかかろうと前に進んだ真桜と沙和も少しずつ後ろに下がる。
そして、虹黒も高順の横に歩を進める。
ただ高順の後ろに隠れるだけではすぐに動きも見えただろう。
だが、虹黒や真桜たちが盾になり、波才の目からは完全に夏侯淵の姿が映らなくなった。
それを確認したうえで高順は息を整えた。
自信は無いが、やってみるか。
「やりなよ。」
高順のこの言葉で場が一瞬で静まった。
「こ、高順兄さん。何言い出すねん!?」
真桜が静止しようとするが高順は気にする風でもなく続けた。
「本人がやれといってるんだ。やればいいだろ?」
「う、うぐぐ・・・。」
「だが、覚悟しておけよ?もしこれ以上その人を傷つけようとしたら・・・。」
高順は殺気を膨らませる。
「さあ、やってみろ。お前の覚悟を見せてみろ!」
「くそお、馬鹿にしやがってえええええっ!」
殺気に当てられ錯乱した波才は本当に刀を振り上げた。
その隙を夏侯淵は見逃さなかった。高順の肩のすぐ上で弓を構える。
この距離だ、当てれぬわけは無い。
気合を込め、一矢を放つ。
その矢は夏侯淵の狙い通り、肩を抜いた。
「ぎゃあああああああああ!?」
肩を射抜かれた波才は痛みのあまり刀を落とす。
自由を取り戻した凪がそのまま上段蹴りで波才の顎を蹴り飛ばした。
「くけっ・・・」
妙な声を上げて波才は昏倒した。
曹操が波才へ近寄り、首元に手を当ててみる。
「ふむ、息はあるようね。」
そして、波才の口の中を調べる。
「か、華琳様!?一体何を!そのようなこと私に命じてくだされば!」
それを見た夏侯惇が驚きのあまり声を上げる。
「毒が無いか調べるだけよ。あなたに任せたら歯を全部折ってしまうでしょ?」
「あう・・・。」
「・・・毒も無し、と。皆、ご苦労様。秋蘭、この男が自決しないように猿轡をかませておいて。」
「ははっ。」
夏侯淵は拱手すると、気絶した波才を引っ張って兵士達と本陣のほうへ向かっていった。
さてと。

高順は短刀で凪の腕を縛り付けていた縄を切り落とした。
真桜と沙和は凪に抱きついて「無事で良かったの!」とか「あいつらに酷いことされへんかったか!?大丈夫なんか!?」とか言っている。
「ああ、大丈夫だ。って、そんな思い切り抱きつくな。苦しいじゃないか。」
「せやけどなぁ・・・高順兄さん?さっきのアレはどういうことやねん?」
真桜は高順に抗議の声を上げる。
「そうなの!演技でもあれはやりすぎなの!」
「か、勘弁してくださいよ・・・俺もやりすぎだとは思いましたけど。」
はぁ~、とため息をついて、座ろうとしたが何かを思い出したのか、布と水筒を取り出した。
布を水で濡らして凪に近づいていく。
「ちょっと良いです?」
「え?何を・・・うわっぷ!?」
布で凪の顔の傷を拭きだしたのである。
「よし、これで、っと。」
今度は別の布を酒で濡らし、また拭き始める。
高順は酒は飲まないが、こういった時のために消毒用として酒を持ち歩いている。
「あ、あの。いいですから!これくらい平気です!」
凪が暴れようとするが、高順はそれを押し留めた。
「はいはい、少し染みますが雑菌が入ったら厄介ですからね。消毒するだけです。2人も凪殿抑えててくださいね。」
「え、消毒って・・・って、真桜、沙和?」
沙和と真桜が凪を両脇からがっちりと押さえつける。
「にひひ、了解や。」
「さあ、存分にどうぞなの!」
「ちょ、待って・・・ひゃああああああっ!?痛い、痛いですって!高順殿ー!?」
「染みるって言ったでしょ。おし、あとは軟膏をつけて・・・。はい、いいですよ。」
「う、うううう・・・」
凪が涙目で高順に抗議の視線を送る。
が、途中で思い出したように
「あ、あの・・・1度ならず2度まで助けていただいて。ありがとうございました。」
と、頭を下げた。
「え?はぁ。別に構いませんよ。兵を出してくださったのは曹操様です・・・し。」
あ、やばっ。忘れてた。
早く逃げないと・・・捕まりそうな気がする。いや捕まる。
OK、俺は逃げる!だがその前に。
高順はまた道具袋を漁り、翡翠璧1枚と銀の延べ棒2本を凪に手渡した。
「へ?あの、これ・・・。」
「陳留に行くにせよ、村に戻るにせよ、皆さんの当面の生活資金は必要でしょ?これだけあればしばらくは足りると思いますから!それじゃ俺はここで!」
「え、そんな、助けていただいた上にこんな事まで・・・ってどこに行くんですか高順殿!?」
「俺は風!俺は自由!」
「何ですかそれ!?」
高順は意味不明な言葉を叫びつつ虹黒に跨って東側へ逃亡した。

「ああっ!逃げられた!?」
いつの間にか曹操が側にいた。何故か縄を持って。
・・・まさか、高順殿が逃げたのって・・・?
かなりの距離を走った高順が後ろを振り返り「あばよとっつぁん!」と叫んだ。
「何それ!?じゃなくて、春蘭!捕まえなさい!多少手荒なことをしても許すわ!兵を使っても構わない!」
「はいっ!」
夏侯惇が信じられない速度(しかも徒歩)で虹黒に追いすがる。
「待ーーーてーーー!高順!虹黒ー!」
「げぇっ!?追ってきたぁっ!?」
下り坂とは言え馬を追い越すとかどんだけ脚力あるんだ!?
虹黒を追い抜き、数十メートル先まで回りこみ、夏侯惇は大刀を構えた。
「我が武を前に逃げられると思うな高順!今度こそ決着をつける!さあ、かかって・・・こ、い?」
いつの間にか虹黒が目の前まで突進をしていた。
「え、あ。ちょっと待て、普通こういう時は止まるだろ!何考えて・・・!」
「ちょ、虹黒さんー!お願いだから止まってー!このままじゃ不味いってーーー!」
まさか、私が目の前にいるときだけは高順は虹黒を制御できないというのか?
「やばいやばい!惇さん避けてー!」
「ふ、ふははは!この程度、何程のことも無い!さあ、虹黒!私の胸に飛び込んで来い!」
「ブフゥッ!」
「見事に受けきってみsごぶはあああああっ!?」
「だー!?ほんとに飛び込んだよちょっと!?」
ひゅるるるるるるる・・・と、飛んでいき、どしゃっ!と地面に激突する夏侯惇。
「う、うくく・・・この私をこの程度でどうにかなど・・・え?」
夏侯惇が顔を上げた瞬間。そこには虹黒の前脚があった。
ごきゃばきゃどぎゃあっ!
「のおおおおおおおっ!?」
「ぎゃあああああ!踏んでる!踏んでる!?つうかそれはストンピングに近いって!!虹黒さん、そこまで嫌ってるの!?」
夏侯惇の上を通り過ぎた虹黒はとどめとばかりに、後脚で思い切り、全くの躊躇をせず蹴り飛ばした。
ひるるるるるるるるるるるる・・・・・・ズギョアッ!!
哀れ、夏侯惇は曹操のすぐ目の前まで蹴り飛ばされて戻ってきたのだった。
何があったのかと夏侯淵が戻ってくる。
「あああああ、ごめんよーー!夏侯淵さん、あとで惇さんに謝っておいてーーー!」


しばらく、目の前の状況についていけず皆唖然としていたが、夏侯淵は姉の惨状を目の当たりにして錯乱していた。
「あ、姉者ー!?しっかりしろー!誰だ、誰にやられた!?私を残して死なないでくれ、姉者ーーーー!?」
「わ、私は死なない・・・何度、でも蘇る、さ・・・ガファッ!」
「姉者ーーー!?」
「はぁ・・・。」
唯でさえ痛い頭が余計に痛くなるのをこらえつつ、曹操は凪たち3人娘のほうへ向き直った。
曹操は3人娘の戦いを見ていた。
高順の膂力にも驚いたが、その隣で確実に敵を屠っていった2人の少女。
高順に聞いた話が正しければ・・・眼鏡をかけた娘が于禁、大きな槍らしきものを持っているのが李典。
今助け出されたのが楽進か。
楽進に限って言えば、戦いを見たわけではない。
だが、彼女は自分が殺されそうになっても全く怖じる事は無かった。
人間など弱いものだ。普段は偉そうなことを言っても自分の身に危険が迫ったらそうは言っていられなくなる。
危機に瀕したときにこそ、人の本質が良く判る。
そして楽進は、その危機に己の意地、或いは意思を貫こうとした。
大したものだ、と思う。
「さて、あなた達。」
「え?」
曹操に呼びかけられた凪たちは不思議そうな顔をする。
「私は陳留太守、曹操。貴方達の協力のおかげで黄巾党を殲滅できたわ。ありがとう。」
「い、いえ。こちらこそ、皆を助けていただいて感謝しています。」
凪が跪き、頭を下げた。
沙和と真桜もつられて跪く。
「そのような礼は不要よ。それより。貴方達の戦いを見せてもらったわ。中々見所がありそうね。」
「え?そ、そのような事は。」
「高順ではないけど、随分謙遜するのね。どう?私に仕えてみない?働きに見合った報酬は約束するわ。」
夏侯淵は正直、今の曹操の言葉に驚きを隠せなかった。
いつもであれば「仕えてみない?」ではなく「仕えなさい」だ。
命令ではなく、個人の意思を確認したのである。
もしかしたら高順に言われたことを気にしていたのかもしれない。
「人を、自分の機能の一部としてしか考えていない。」という言葉を。

曹操の言葉に、3人はしばらく顔を見合わせる。
少しして、凪が意を決したように口を開く。
「我々は―――」

「ふぅぅ・・・こんだけ逃げれば安全、かな?」
高順は一旦虹黒を停止させた。
何里走ったかはよく解らないが、ここまで来れば・・・。いや、夏侯淵さんいるしなぁ。
3日で500里、6日で千里の人だし。
「やっぱもう少し離れたほうがいいよな・・・なんせあの曹操さんだしな。」
思えば、虹黒には苦労のかけ通しだ。徐州の小沛を抜けて下邳に行くつもりだが、途中で休ませておこう。
もう少し頼むな、と虹黒に喋りかけて更に駆けようとするが、虹黒は動こうとしない。
それどころか馬首を西に向けた。
「お、おいおい。まさか戻ろうとしてないよな?」
流石にそれは困る、と冷や汗をかいた高順だったが、そこで馬が3頭こちらに駆けてくるのが見て取れた。
乗っているのは・・・凪、沙和、真桜だ。
凪がこちらに手を振っている。
「高順殿ー!お待ちくださーい!」
「・・・何だ?何であの3人がこっちに来るんだ?」
訳がわからない。
流れから言ってあの3人はあのまま曹操の部下になるはずだ。
それがどうして?
「ふいい、やっと追いついたで。」
「こ、虹黒・・・早すぎるの・・・。おかげで馬がへとへとなのぉ~・・・。」
「ふう、何とか追いつけてよかった。」
3人が思い思いの言葉を口にする。
「えーと、皆さん何でこんなとこに?・・・はっ、まさか俺を捕らえに!?」
「え?」
「お、俺は嫌ですよ!?絶対曹操殿には仕えませんって!」
「・・・何か、勘違いなさっておられませんか?」
凪の言葉に高順は「え?」という表情を見せた。
「うちら、曹操はんに仕えてへんで?」
「え?誘われたんじゃないんですか?」
「誘われたけど、お断りしたの!」
「何で!?絶対厚遇してくれますよ!?」
「確かにそう言うとったけど・・・なぁ?」
真桜は凪と沙和のほうへ振り返る。
凪が進み出て、高順に向かって跪く。
それに習い、沙和と真桜も。
「え?何を・・・。」
「我ら3名、高順殿に仕えたく参上いたしました!」
「・・・虹黒、お前に仕えたいんだってさー。」
思わず現実逃避をする高順であった。
「ぶっ!?なんで虹黒なん!?」
「いやいやいや!おかしいですから!貴方達ほどの人が俺を選ぶとかどういうこと!?将来性が無いとか見る目が無いとかそういうの以前の問題ですって!絶対間違えてます!」
狼狽してしどろもどろになる高順。
だが、凪達はそんな彼の姿を笑うことなく真剣な表情をする。
「間違えてなどいません!」
「そうなの!自分達で考えて、今ここにいるの!」
「うちら、こう見えて本気やで?」
いや、そりゃ嬉しいけどさ。この人たち仲間に出来れば俺の死亡フラグ、そうとうへし折れる確率高まりますよ。
でも、なんだって俺なの?
口に出さなくても、表情がそう言っていたのだろう。
高順の疑問に返すかのように凪は言った。
「2度も助けていただき、恩を返さず。それ即ち、信義にもとる。我々なりに考えた結果です。」
「命を助けられたんはうちらだけやない。村の人々もや。皆を助けてくれたことも、理由の1つやで。」
「その上、当面の生活費まで援助されてる。返さないといけない恩が一杯あるの!」
一気にまくし立てる。
「じゃあ、全部村の人たちに渡したの?」
「はい。当然です!」
言い切った凪に高順は呆然とした。

・・・。
馬鹿な子たちだなぁ。全部って。
もし俺に断られたらどうするつもりだったんだろう?
いや、なんとなく・・・「我々が仕える事を許してくださるまで何処までもついて行きます!」とか言い出すよなぁ、このノリだと。
俺みたいに、死ぬことを恐れてるだけの下らない男に仕えたい、だってさ。
・・・良い目してるよな、3人とも。こんな目で、こんなに必死に頼まれて。
断れる訳無いじゃないか。
果報者、っていうのは今の俺をさす言葉なのかもしれないなぁ。

ふぅ、とため息をついた高順を跪いたまま見つめている3人。
そのまま背を向け、虹黒の鞍に引っ掛けてある道具袋から何かを取り出した。
それは3つの袋だった。少し動かすたびにジャラジャラと音がする。
高順はその袋を1つずつ、手渡していく。
「これって・・・?」
「給料です、3人の。」
「給、料。」
「それじゃ・・・!」
「歓迎しますよ。これからよろしく。」
『は・・・はいっ!』
高順の言葉に3人は嬉しそうに頷くのだった。
これ以降、3人は高順の部下として歴史に名を連ねることになる。
色々な経緯があって彼女達は一軍の将としても名を残すが・・・。
最後まで高順の部下であることに拘り、最後までその姿勢を崩すことは無かった。




余談ではあるが、曹操は波才から他の黄巾党の拠点を聞き出し、全て殲滅。
本来歴史に出てくるはずの「潁川黄巾賊」はこのときに消滅した。
1年後、黄巾の乱が起きたときに陳留付近で黄巾賊は決起するものの、纏め上げる存在がいなかったために小規模な部隊が各地に点在するだけ、という形になっていく。
本来よりも早く自領の黄巾賊を殲滅したことで中央の官軍にとって有力な遊撃部隊として各地を転戦。その威名を知らしめることになる。
青洲黄巾賊を吸収することで曹操はその武威を満天下に示す。
歴史に曰く「魏武の強、ここより始まる。」。
それが、この世界ではこの時既に「魏武の強」が始まったのである。

正史よりも少しずつ、だが確実に違う方向へと向かい出す世界。
別の、独立した世界へ進み始めた時代。
無数の世界へと枝分かれしていく「外史」と呼ばれる世界の1つ。
その1つの世界がようやく動き出した・・・その瞬間だった。














~~~楽屋裏~~~

・・・すいません、面白い要素何も無かったですね(吐血
あいつです。
さて、今回は「陳留へ避難するよ→げぇっ、黄巾!→凪さん捕らえられました→曹操軍、攻撃開始→勝ったYOママン→高順さんに仕えますが何か?」です。(要約しすぎ
本当は2話になる予定でしたがあまり長いと結局晋陽編と同じくらいの話数に・・・・無理やり詰め込みましたとも、ええ。(そのせいでまたも文章が滅茶苦茶
ですが、書いた分量が多いため結局は1・5話~2話くらいのものにw
あと、戦いが一方的過ぎますね。
黄巾も何をしたかったのやらw

さて、ようやっと高順くん一行は徐州へ入ります。
そこで彼らに加わるであろう仲間とは?

申し訳ありませんが、もう少しだけお待ちください。
それではまた!



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第14話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/04 12:25
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第14話


下邳。
今現在、この地に高順たちは腰を落ち着けている。
徐州最大の都市であるこの場所は現在、陶謙が支配している。
実際にこの都市を預かるのは曹豹だが、それはあまり関係のない話ではある。


「ただいまー、っと!」
「ああ、お帰り。お疲れ様。」
入り口の扉を開けて叫ぶ真桜に高順は労いの言葉をかけた。
彼女達が高順に仕え、下邳に到着して2週間。
仮住まいを探し、彼女達に見合った仕事を探し、と色々忙しかったがそれもやっと落ち着いた。
「ご苦労様なのー。夕飯もう少しで出来るから待っててなの。」
台所からひょっこりと顔を出した沙和が真桜にそう言った。
「ほい、ところで凪は?」
「ああ、彼女はまだ帰って来てないね・・・もう少しで帰ってくるんじゃないかなぁ?」
そかそか、と言いながら真桜は居間で大の字に寝そべった。
「こらこら、女の子なんだからもう少し恥じらいをだね。」
「あー、高順兄さんはうるさいなー。これくらいええやん?」
「いや、しかしだな。」
抗議しようとする高順だったが・・・しばらく考え、これ以上言うのをやめた。
「仕事場が仕事場だしなぁ・・・多少粗忽になるのも仕方ないか。」
「なっはっは、そういうこっちゃ。やり甲斐があって楽しいし、うち向きやし。不満はあらへんで?」
「ははは、それは何より。凪にとっては多少辛いかもしれないけどね。」
この2週間で高順は凪たちに敬語を使わなくなった。
彼女達が「部下に敬語を使う必要はありません!」と主張した為である。
最初は違和感もあったが、この頃ようやく慣れた。
そこで、凪が「ただいま戻りました。」と帰って来た。
「ああ、お帰り。お疲れ様。」
「おお、帰って来たなー。あとは飯待ちやでー。」
「わかってるの!」
彼らはこんな感じで上手く共同生活を営んでいたのだった。

彼らが借りた家は中々の大きさで、10人くらい転がり込んでも問題が無い程度の広さだった。
虹黒の住処を探さなければいけなかったが、上手い具合にこの家に厩があったのでここに決めたのである。
昔はどこぞの武将が住んでいたらしいが、詳しいところはよくわからない。
値段もそれなりに高いが、虹黒含め馬が4頭いるし、厩をまた探しにいくとかその賃貸費用を考えると・・・。
このほうが安上がりだと思ったのだ。

「で、凪?仕事のほうはどうやったん?」
「ああ、最初は戸惑いもしたが・・・この頃少しずつ慣れてきた。」
「そっか、ええこっちゃ。」
「真桜は・・・聞くまでも無いな。」
「当然や!さっきも高順兄さんに言ったけどな、うち向きやしな。」
彼女らの仕事、というのは建築、あるいはその解体業である。
高順が探してきた仕事で、真桜にとってはスキルアップになるし、凪にしても手に職をつけたほうがいいだろうという考えだった。
真桜は元来こういった仕事を得意としており、すぐに慣れたが、苦労したのは凪である。
何せ、壊すことは出来ても作ることが出来ない。
なので、仕事関係者に頼んで「解体専用」にしてもらったのだ。
ただ解体と言っても力任せに壊すのではなく、そのまま他のところへ転用できるような解体、という意味だ。
戦国時代の日本の話だが建築をするときは、前に解体された建物などの廃材を転用して新たに作成する、ということがままあった。
簡単に言えばリサイクルだが、そういったことが可能な技術を持つ人々がいたのである。
作るのが無理なら壊すほうを覚えてもらおう、ただし次にどこかで使える形に。
そういった方向へ考えを変えたのだが、割と上手く行っているようだ。
資材を運ぶ時も、そこいらの男衆が何人がかりで運ぶようなものを平気な顔をして1人で運んでいる、という話も聞いている。
2人とも外見は良いし、真面目な凪とひょうきんな真桜は現場の人気者だった。
沙和は、と言うと彼女は帳簿役を任せている。
凪たちは日当という形で給料を貰っており、それを管理する役目にしたのだ。
それに限らず、支出と収入を記載、それに応じた食事など。
そういった日々の細々としたことも任せてある。
本人も働きたかったようだが、これも大事な仕事だというのを理解しているようで渋々了承してくれた。
・・・割とノリノリでこなしていたけど。
高順は、傭兵のような仕事をしていた。
下邳は陳留ほど大きくは無いが、それでも商人が駐在している大都市である。
その分治安が悪くなったり盗賊が内外に横行したりもする。
警備兵がいないでもないが、毎日発生する事件に対して明らかに数が足りていない。
そんな理由からか、民間からも協力者を募っている。
その1人が高順、という訳だ。勿論これも日当である。
「はーい、ご飯の時間なのー。」
沙和が食卓に食器を並べだす。
「おお!待ちくたびれたでー。」
「沙和、今日の夕飯のおかずは何だ?」
凪の言葉に沙和は胸を張り「今日は凪ちゃんの要望にお答えして麻婆豆腐も作ったの!」と答えた。
瞬間、凪の目が輝いた。
「もっちろん、からしビタビタ!」
この言葉に、高順は真桜に小声で話しかけた。
「なぁ、真桜。凪って辛いもの好きなの?」
「え?あぁ、そやな。高順兄さんは知らへんかったかな。むっちゃ辛いもの好き。うちらじゃ舌が痺れる様なもんでも平気で食うしな。」
「かなりの量食べるのは一緒に生活して解ったけど・・・なんか意外だな。」
「なはは、せやな。うちも沙和も最初は驚いたし。さて、早よ座りましょ。凪が待ちくたびれとるで?」
「ん、そうだね。じゃ、皆さん手を合わせて。」
『いただきまーす!』
この後、高順は好奇心から凪の辛子ビタビタ麻婆豆腐を少しだけ分けてもらったが・・・真桜と沙和の予想通り、辛さのあまり完全に轟沈したのだった。
「美味しいのに・・・。」
という凪の言葉を聞きながら。

その後、更に1週間が経ち、高順は面白い出会いをすることになる。
今回の高順の仕事は盗賊退治である。
街の外だが盗賊達が根城にしてある場所があるのでそこに襲撃を仕掛ける、という話だった。
歩いて一日、馬で行けば往復できる距離だという。その為、高順は虹黒を伴って出陣した。
行くのは下邳の兵士に傭兵が混ざった構成だ。
その中に、1人の女性がいた。
黒髪で身長が高く、またもスタイル抜群の美人である。
どちらかと言えばエキゾチックな感じのする人だが、薄汚れた感じがするせいで折角の美人が台無し、といったところか。
服装も半裸といえるほどに露出がある。
ただ・・・背中と腰あたりに大きな刺青があった。
非漢民族、蛮族の証である。
行軍中に一度休憩を挟んだ時のことだが、その時にその女性に虹黒が自分から近づいていったのである。

「・・・何だ?」
女性は自分に近づいて鼻を「ふんふん」と鳴らして匂いを嗅いでくる馬を訝しげに見ていた。
だが、それ以上何をしてくるわけでもないので、気にしないことにしたようだ。
所持しているズタ袋の中身を漁って食料を探し始めた。
その時、虹黒が女性の顔を「ぺろっ」と舐めたのである。
「えひゃっ!?」
女性が変な叫び声を上げる。
「お、おい。ちょっと待て・・・やめっ・・・ふぁぁっ!?」
女性の叫びなど全く気にせず顔やら耳やらをベロベロと舐めまくる。
「おおい、虹黒ー!?いきなり走っていくからどこに・・・あれ?・・・・・・虹黒が懐いてるよ。初見の人に。」
高順は虹黒と旅をして知ったのだが、遊んで欲しい時、かまって欲しい時などはああやって意思表示をするのである。
自分もよくやられたし、この頃は凪あたりも犠牲者(?)であったりする。
それなのに、目の前の女性は初見で・・・どうやら、随分と気に入ったらしい。
・・・惇さん、何か可哀想だな、と思ったがそれはいいとして。
「お、おい。そこのお前・・・この馬の主か!?は、早くなんとかして・・・ふやぁっ!?」
露出した背中まで舐められてまた変な叫び声を上げる。
「お、おい!虹黒!その人迷惑がってるからやめなさい!」
高順が手綱を引っ張る。
最初は抵抗していた虹黒だったが、しばらくして諦めたのか、そこで座り込んでしまった。
「ううっ・・・一体何なんだ・・・?」
「すいませんすいませんすいません!大丈夫でしたか!?」
取り出した布で顔やら背中を拭いていく。
「いや、別にかまわないが・・・。」
「本当に申し訳ない。普段はあまり人に懐かない子なんですけどね・・・。」
どうしたのやら、と虹黒の首筋を撫でる高順。
それを見て、女性が少しだけ笑った。
「?」
「ああ、すまない。その馬を大事にしているのだな。と思ってな。」
「そりゃそうですよ。俺の大事な仲間ですからね。」
「仲間、か。良い事だ。その気持ちを忘れなければその馬・・・虹黒と言っていたか。馬のほうもお前を信頼してくれるさ。」
「ええ、勿論です。」
「良い返事だ。・・・それよりも、私にはあまり近づくな。」
「へ?」
「・・・刺青だ。見て解らないのか?」
そう言って女性は自分の腰あたりを指差した。
「刺青は解りますけど。」
「ならば蛮族だと解るだろう?私には近づかないほうが良い。」
じゃあな、とだけ言って女性はその場を離れていった。
離れていく女性をしばらく見ていた高順と虹黒だったが、しばらくして「やれやれ」と肩をすくめた。
「ここにも呂布さんと同じ手合いがまた1人、か。関わるな、と言われたら関わりたくなるのが人情ってもんだよ。な、虹黒?」
高順の言葉に虹黒は「ぶるるっ」と応えたのであった。

その日はそれで終わり、盗賊たちもすぐに退治されたのだが・・・そこから、高順が彼女に何かと言って関わりだす。
実際はこれまでも何度か見かけていたのだが、女性が1人でいることを好んでいたためか接点が無かったのである。
女性も最初は迷惑そうにしていたものの、話し相手くらいにはなると思ってくれたのかぽつぽつと話をしてくれたり、聞いてくれたりするようになった。
自分は別の場所に住んでいたが、事情があって追い出されてしまった。とか、1人の少女を保護して一緒に住んでいる、とか。
あと、仕事中の食事は持参なのだが・・・いつも野菜を取っている。
この時代でも野菜は主食ではなく、あくまで添え物でしかない。
最初こそ、ベジタリアンかな?と思っていたがそうではなかったらしい。
理由を聞いたら「私のような蛮族はお前達よりも日当が少ない。あの娘の食費も必要でな。安いものしか用意できないんだ。」という答えだった。
(やっぱ差別か・・・胸糞悪い話だ。)
そこで高順はある1つのことを思い出す。
「あ。そういえば。」
「?」
「名前をずっと聞き忘れてた・・・。」
「・・・確かに、名乗っていなかったな。」
んっ、と咳払いをした女性はこう言った。
「聞いて得をするようなものでもないがな。私の名は沙摩柯と言う。」
「はぁ。・・・はあああああああああああああああっ!?」
「な、何だ!?うるさい奴だな!」
「ちょ、今なんて!?沙摩柯って言いましたか今!?」
「言ったぞ。」
「あなた南荊州とかに住んでたんじゃないですか!?」
「確かにその辺りだな・・・って何故知ってる。」
・・・OK,冷静になれ、俺。
本来、沙摩柯って人はもっと後の時代になって出てくる人だ。
今の時代だとまだ子供だと思うのだけど・・・。
でも、他の人も皆若いしなぁ。揃いも揃って女性だし。
それに・・・前から気になってたが物騒な武器を持ってますよ。
鉄の棒に穂先・・・?か柄か解らないけど刺がたくさんついてる円形の棒。
鉄疾黎骨朶、だっけかな。じゃあ本物って事なのか?
変な修正でも働いているのだろうか。
虹黒が懐いてるっぽいのも異民族だからかも。
しかし・・・この場所にいないはずの人が出ましたよ。
あれこれと悩んでいる高順に不思議そうな顔で見つめる沙摩柯。
「・・・おかしな奴だな。」
呆れ顔でこんなことを言われる高順であった。

実際、おかしいと思われて仕方が無い。
非漢民族である沙摩柯に自分から話しかけたりするところが、特に。
そう思いつつも、沙摩柯も高順に感謝していることはあった。
今までは1人でいることが多かった沙摩柯もこの頃は何かと高順とつるんで暇だと感じることが少なくなった。
野菜くらいしか購入できない彼女を見かねて握り飯を分けてくれたりする事も多い。
自分と同じ部族、或いは同じ境遇の人々しか信じられない。今まで沙摩柯はそう考えていた。
どこに行こうと、異民族であることを理由に不当な扱いを受ける。
まともに人として扱ってもらえたこともない。
ところが、高順はどういうわけかそういった差別意識を沙摩柯には向けてこなかった。
それどころか、食事を奢ってくれたりとか、前に話した保護している少女へのお土産に、と果物を渡してくれたり。
見知らぬ土地に出てきた沙摩柯という人を「人として」扱ってくれた初めての人だった。
高順にしても、沙摩柯との付き合いは悪くないものであった。
呂布のこともあったし、高順自身が「刺青の1つや2つが何ほどのものか」と考えている。
○クザやら○フィアとかであればまだしも。
罪を犯し「人ではない」事を証明するために彫られる刺青か、部族の風習として刺青をしているか。
違いはあっても、どちらにせよ非人間として考えられるのである。
罪を犯したことへの刑罰ならそれは仕方が無い。社会的制裁ということで納得もしよう。
だが、高順は「自分たちと違う」というだけで差別するのはどうなんだよ?と考えているし、そんな風潮には平然と反発をする。
善良な人間だっているんだぞ、と。
呂布が悪質な人間だったろうか?凪たちの話を興味深そうに聞いたり、虹黒に懐かれて困惑したり、人の表情を見せる沙摩柯は非人間だというのだろうか?
そんなはずがないだろう。
この反発心が形になって彼の率いる部隊にその特色が表れることになるのだが・・・それはもう少し後の話。

さて。
高順はこの日、沙摩柯を自分たちの住処に招待した。
別に妙な意図があったわけではない。
沙摩柯が凪たちに興味を持ったこともあるし、凪たちに沙摩柯の話をしたら「是非一度お会いしたい」とも言っていたからだ。
「では、あの娘も連れてくる」と言っていたので、高順は沙摩柯の住処に着いて行くことにした。
表通りを抜け、あまり人が寄り付かない道へ入っていく。
どの都市でも言えることだが、裕福な人々がいれば逆に貧しい暮らしをしている人々が集まる場所が出来る。
治安と同じだ。平和なところがあればそうでない場所がある。
そして、沙摩柯が住んでいるのは治安はともかく、貧しい人々の住処・・・言うなればスラムであった。
そのスラムを進んでいく2人だったが、高順はあることに気がついた。
「人がいないな。」
スラムでも多少は人がいるはずだと思うのだが人っ子1人見当たらない。
「ああ、ここは我々のような立場の者が押し込められる場所さ。ここに住んでいるのは私達とあと2人位かな。」
「・・・そこまで差別するか。本当にどうしようもない奴らだな。」
ここの太守は曹豹と言ったか。
実際に方針を決めているのは陶謙だろう。
演義では人の良い好々爺といった男だが史実では悪政を行うし、反董卓連合に参加せず形勢を傍観、その後董卓に貢物を出していたという男だ。
形勢云々は仕方ないとして、悪政を行っていた、というのはどうも事実のようだな。
「それが普通なんだ。高順のように差別しない手合いがこの街では珍しいんだよ。」
「そういうものかなぁ。」
「そういうものさ。・・・ここだ。」
沙摩柯に案内されて到着した場所は廃屋だった。
どこもかしこもボロボロだ。
沙摩柯は「雨風が凌げるだけマシさ。」と肩をすくめていたが、これは子供には辛いだろうな、と高順は考えていた。
そこへ、その廃屋から1人の少女が出てきた。
「あ、おかえりなさい、沙摩柯お姉ちゃん・・・。あっ。」
年の頃は・・・恐らく、10に満たないな。7,8歳くらいか。
ただ、知らない人がいたことに驚いて廃屋の入り口の裏に隠れてしまった。
「知らない人がいる・・・。」
「怖がらなくていいぞ、前に話した高順という男だ。」
「じゃあ・・・お土産をくれた人?」
「ああ、そうだ。いい奴だぞ?怖がらなくても良いさ。」
沙摩柯の言葉を聞いた少女は高順の前まで出て来て「ぺこり」と頭を下げた。
「何度もお土産をいただいてありがとうございます。それと沙摩柯お姉ちゃんがお世話になってます。」
「・・・沙摩柯さん、随分礼儀正しいですね。」
少女の言葉に高順が少し驚いて後ろの沙摩柯に言う。
「まあ、な。」
高順はしゃがみ、少女と同じ目線くらいに頭を下げた。
「初めまして。・・・ええと、名前教えてもらえるかな?」
「ぞうは、です。」
「・・・ぞうは・・・。臧覇!?」
(びくっ)
「ああ、ごめん。驚かせるつもりは無かったんだ。変わった名前だな、と思ってね。」
怯えてしまった臧覇の頭を「よしよし」と撫でながら高順は弁解した。

むぅ・・・臧覇ですら女の子ですよ。
曹豹や陶謙の性別はどうも男のようだけど・・・俺に関わる武将が全員女なのだろうか。
虹黒も雌だし・・・。
男としては嬉しいけど、皆俺より強いのだよなぁ・・・立場が無いorz
でもさ、そろそろ仲間に男の武将が出て来てもいいと思うのですよ。
今の住処で3人娘とは別室で寝てるけどたまにすごい孤独感を感じるときがあるし。
神様、そろそろ考えていただきたいと思います(割と本気

気を取り直して。
「臧覇ちゃん、ね。俺は・・・知ってると思うけど。高順と言います。高順おじさんとでも呼んでくれればいいですよ?」
(おじさん?)
(おじさん・・・)
どうも、大梁の村の子供におじさんと言われたことを自虐しているらしい。(臧覇たちが知るわけも無かったが
高順の発言に臧覇は首を横にふるふると言って「お兄さん。」と言った。
「へ?」
「おじさんじゃないよ、お兄さんだよ。」
「そっか。まあ、好きに呼んでくれればいいよ。」
言いながらも高順は少しだけ嬉しかった。
(おじさん呼ばわりされなかったよ!初めて子供に「お兄さん」呼ばれたよ!真桜は別として・・・。生きてて良かった!)
・・・おかしなところで感動する高順であった。
じゃあ、そろそろ行こうか?と沙摩柯のほうへ向き直る。
「え?どこかお出かけ?」
「ああ、高順が家に遊びに来て欲しい。と言うのでな。」
「本当に?」
「嘘じゃないよ?臧覇ちゃんは遊びに行きたくないかな?」
「行く!」
満面の笑みを浮かべて返事をする臧覇だった。


~~~高順たちの住処~~~
「ただいまー、っと。」
「お帰りなさい、高順殿。」
凪が出迎える。と、高順の後ろにいる沙摩柯たちに気がついた。
「そちらの方々は・・・?」
「ああ、前に言ってた沙摩柯さんと、一緒に住んでる臧覇ちゃん。」
「そうですか、この方々が。申し送れました、私は楽進と申します。」
凪が沙摩柯と臧覇に自己紹介をして頭を下げた。
「あ、ああ。私は沙摩柯。ほら、臧覇。挨拶をしなさい。」
「初めまして!臧覇です!」
「おや、元気がいいですね。・・・さあ、どうぞ。用意は整ってますから。」
そう言って凪は居間の方へ向かってしまった。
その後姿を見ながら沙摩柯は溜息をついた。
「ん?どうしました?」
「いや。なんというか普通に接してくれているな、と思っただけさ。どうも、差別されることに慣れているのか・・・普通に扱われることに戸惑いがあってな。」
「じゃ、これから慣れてください。ほらほら、早く入って。」
高順は2人の背中を押す。
「随分と簡単に言ってくれるな・・・お、おい。押さなくても入るって!」
「ほら、早く早く。」
促されて進んでいく2人を待っていたのは・・・。

『いらっしゃ~~~い!』
大歓迎であった。

「おー、よう来てくれはりましたな。うちは李典いいます、よろしゅーに。」
「于禁なの!お客様は初めてなの!」
随分と歓迎ムードである。
沙摩柯と臧覇は何事!?と言いたげな顔でポカーンとしている。
「ほら、2人とも早く座って。今日は豪勢に豚の焼肉なんですよ?」
「焼肉!?」
「ねえ、沙摩柯お姉ちゃん。やきにくって何?」
「え?それは・・・。」
「まあ、食べたら解るって!ほらほら、早う座ってぇな!」
沙摩柯たちも慌てて座る。
「えー。今日はお客様が来ました。沙摩柯さんと臧覇ちゃんです。2人のご来訪を記念して本日は焼肉で歓迎会です。お代わりはたくさんあるので遠慮なしで大丈夫。それでは皆様、手を合わせてー。」
高順の言葉につられて沙摩柯が手を合わせ、何が何だか解ってない臧覇も真似をして手を合わせた。
「いただきます!」
『いただきまーす!』
「い、いただき・・・ます?」
「いただきます?」
沙摩柯はともかく臧覇も焼肉など食べたことが無いらしく、どうすればいいのかわからない様だった。
「あれ?臧覇ちゃん、食べないの?」
それを見た沙和が臧覇の顔を覗き込む。
「え、その、えっと。どうやって食べたらいいのかわかんなくて・・・。」
「なるほどー。じゃあ教えてあげるの!まずね、こうやって箸でお肉を取って・・・あ、熱いから気をつけるの。」
「臧覇ちゃんー、子供なんやから遠慮せんでもええでー。むしろ遠慮するんが失礼っちゅーもんやー。」
「おい、真桜、もう酔ってるのか!?」
「ええやんかー、凪も飲みーやー。」
「く、酔っ払いめ・・・。」
和気藹々とした雰囲気で歓迎会は進んでいく。
臧覇も最初は戸惑っていたようだが、意を決して肉を口に入れた。
「お・・・美味しい・・・こんなの初めて食べた・・・。」
この言葉に沙和と真桜は何故かガッツポーズをする。
「よっしゃあ、タレの味付け大成功や!」
「気に入ってもらってよかったの!」
その後もしばらく肉を食べて米を食べて、と忙しかった臧覇だがふと箸を止めてポロポロと涙を流し始めた。
「うわ!?どないしてん、火傷でもしたんか!?」
「う、ううん。違うの。」
涙を吹いて臧覇は頭を横に振った。
「じゃあ、どうしたの?」
「暖かいご飯って・・・ぐすっ、こんなに美味しいんだって思って・・・。」
「・・・。」
この言葉に沙和も真桜もしゅんとしてしまった。
騒ぎすぎた、と思って反省したのかもしれない。高順はそう思ったが。
「よっしゃ!嫌なことは忘れてまえ!臧覇ちゃんも酒飲むんや!」
「え?ええっ?お酒って?」
真桜がおかしなことを言い出し、高順はそれに反応する。
「ちょっ!真桜さん何言ってるんだ!駄目ー!子供にお酒飲ませちゃ駄目ー!」
「何やねん、ええやんかそれくらい!高順兄さんは固いわ!固いちゅうか硬いのはあそこだけで十分やっちゅーの!沙和かてそう思うやろ!?」
「当然なの!」
「沙和さんまで何言ってんだ!?臧覇ちゃん、飲んじゃ駄目だから!絶対駄目だからー!酔っ払いの言葉をまともに聞いちゃ駄目だー!!」
「え、うん。・・・えへへ。」
毎回の事ながらドタバタである。
彼らのやり取りを見ていた沙摩柯は呆然としている。
「どうしました?お口に合いませんか?」
そんな彼女に凪が横から話しかけた。
「いや、美味しいさ。久々に暖かいものを食べたからな。ただ、臧覇が楽しそうにしているのを久々に見たと思って。」
「そうですか。」
「ああ。・・・ところで、楽進といったか?お前は怖くないのか?」
「・・・ああ、真名はまだ教えていませんでしたね。凪、と呼んでくださって結構ですよ。」
「そうか、ではそう呼ばせてもらおう。」
「はい。それと先ほどの質問ですが・・・何が怖いのです?」
「言い方が悪かったか。私の刺青を見てもこの家の者は恐れないのか?」
「何か罪を犯されましたか。」
「いや。部族の風習だ。」
「では、恐れる必要はありませんね。」
凪は特に気負うでもなく言い切った。
「刺青の1つや2つで人間でないか、そうでないか。それで人の在り方など変わりはしません。少なくとも私達はそう思っています。・・・高順殿も、同じ事を言うのでしょうね。」
「・・・そうか。確かに高順もそんなことを言っていたな。いや、済まなかった。」
そこで、凪は沙摩柯に杯を差し出した。中には酒が満たされている。
「凪、これは?」
「乾杯のつもりです。」
「・・・なるほど。」
沙摩柯は杯を受け取る。。
「だが、何に乾杯なんだ?」
「何でも良いでしょう。・・・ならば、我々と、貴方達の出会いに。」
「そして、今日という日に。」
沙摩柯は自分の杯と凪の持つ杯に重ねた。
こつん、という音がして中身の酒がそれにあわせて揺れる。
2人は中身の酒を一息で飲み干した。
「旨い酒だな。」
「ええ、本当に。」

高順が真桜と沙和に無理やり酒を飲まされ昏倒し、凪が2人に説教食らわせたりと一波乱あったものの。
臧覇も高順や3人娘によく懐いたし、沙摩柯も3人娘と飲み比べをしたり。2人にとっては久々に楽しい時間だったようだ。
夜も更けてきた頃、あまり長居しては迷惑になるだろうと考えた沙摩柯は臧覇に「そろそろ帰ろう」と言った。
「えー、もっと遊びたい。」
「我侭を言うんじゃない。高順たちに迷惑だろう?」
「うー・・・。」
嫌がる臧覇を沙摩柯は宥めようとする。
「えー、ええやんかー。今日は泊まっていきーやー。」
臧覇を援護するように真桜がそんなことを言い出す。
「なー、凪ー、沙和ー?別に構へんよなぁー?」
「酔っ払いめ・・・。まあ、私は良いと思うぞ。」
「沙和も良いと思うの・・・うぅ、飲みすぎたかも・・・。」
「しかしだな・・・。」
そこで、昏倒していた高順が頭を振りながらやっと起きてきた。
「ぬぅ・・・これだから酒は・・・くそ、途中で記憶が抜けてるよ・・・。」
「あー、おはよー高順にーさん。」
「おはよう、じゃないよ。無理やり酒飲ませて。」
げんなりする高順の姿を見て真桜は「にゃはは」と笑う。
「そうだぞ、真桜。高順殿は酒は苦手だと前から仰ってただろう。」
「固いこと言いなや。あ、んなことよりもやな。」
「んな事とか言われた・・・。」
「沙摩柯はんと臧覇ちゃん、今日ここに泊まりたい言うとるんやけど。」
「お、おい!私はそんなこと一言も言ってないぞ!?」
「なっはっは。むしろ住みたいとか言うてたでー。」
「言ってない!おい、高順!嘘だからな、信じるなよ!?」
必死に否定する沙摩柯と、からかってるような言い方をする真桜。
だが、高順は。
「ん、住んでもらおう。了承。問題なし。」
「は?」(真桜
「へ?」(沙和
「え?」(凪
「何!?」(沙摩柯
「?」(臧覇
凄まじくあっさりと許可を出してしまったのであった。(沙摩柯と臧覇の意思は無視。

「おい、高順!?」
「高順兄さん、決断速っ!」
「沙和も驚きなの・・・。」
「高順殿・・・。いきなり何を?」
「え?何?何?」
5人が5人、別の反応を示すが高順はこともなげに言う。
「だってさー。さっき沙摩柯さんの住んでる場所見せてもらったんだけどさ。あれはキツイって。無理。」
「無理って何が!?」
「凪たちは見てないから解らないだろうけど。あれは酷いよ。沙摩柯さんだけなら耐えられるかもしれない。でも臧覇ちゃんにはきつ過ぎる。」
「それは・・・しかし、私達には他にいくところが無いんだぞ?」
「だからここに住めば良いのです。あんな劣悪な環境だと臧覇ちゃん、大変なことになりますよ?」
「いや、しかし。」
「沙摩柯さんだってそうはなって欲しく無いでしょうに?」
「それは・・・そうだが。」
高順は矛先を変えて3人娘のほうへ向き直った。
「皆はどう思う?」
「うち?かまわへんで?」
「沙和も問題ないの!」
「私も構いません。」
こちらはあっさりと了承してくれた。
「なあ、臧覇ちゃん?今住んでるところの生活は苦しくない?」
「え?辛いけど・・・。沙摩柯お姉ちゃんいるから平気だよ!」
この言葉に、その場にいた一同が「良い子だなぁ・・・。」と思ったとか。
その後もあーでもなこーでもない、と色々議論を重ねた結果、2人はこのまま一緒に住むことになる。
ただし、沙摩柯も臧覇も、何らかの形で働くこと。
これは彼女達のほうから言い出したことで、その点に異論は無い。
ただ、沙摩柯は刺青の問題があって稼ぎは少ないし臧覇はまだ幼い子供だ。
どうするべきかな?と考えた高順だったが、すぐにあることを思いついた。
臧覇は、沙和に家事を教えてもらい文字の読み書きや数字計算を覚えてもらう。
これは最低限の一般知識を習得してもらおうと考えたからだ。
そして沙摩柯だが・・・彼女は馬術、あるいは馬上戦闘の達人であるようだ。
普通の歩兵としての能力も高いが、その辺りに注目して3人娘の馬術の指導を頼んだのである。
彼女らは歩兵としての戦闘力は高いのだが馬上戦闘は普通よりも多少上、と言ったところだった。
自分が教えてやれば良いのかもしれないが、何せ乗っている馬が虹黒では手本以前の問題のような気がする。
その辺りをどうやって教えればいいかと頭を悩ませてもいたので、好都合といえば好都合だった。
指導時間は・・・彼女達も自分も普段は仕事をしている。
なので、「休日」に指導をお願いすることにした。
これは高順なりに考えたことで、週休2日制を実施している。
5日間働き、あとの2日は身体を休める。或いは鍛錬を行う。といった感じだ。
その2日間に出来る限り馬術を教え込む。勿論身体を休める時間程度は作るが。
その案を提示したところ、あっさりと了承を得られた。
「じゃあ、明日が休日だからそこからお願いしよう。」
「ああ、構わない。・・・ふむ。馬術か・・・。」
「どうかしました?」
「いや、1人馬術を得意としている知り合いがいてな。あの場所にもう1組住んでいると言わなかったか?」
「・・・ああ、確かにそんなことを言っていたような。」
「気心が知れた仲だし、あいつは私よりも気性が柔らかいからお前たちとも気が合うだろう。あいつも呼んでやりたいが・・・しかし、高順たちの負担を考えるとな。」
「ふーむ。」
悩む沙摩柯を尻目に、高順はまた3人娘に聞いてみる。
「てな訳でもう二人増えそうですが皆さんどうでしょう?」
『問題なし。』(断言
「だ、そうですよ、沙摩柯さん。」
「・・・お前達の常識を疑いたくなってくるよ。」
ふぅ、とため息をつく沙摩柯。
「そういうことなら、明日連れてくるよ。ただ、馬はどうするんだ?」
「明日買いに行けばいいでしょう。この街なら良い馬の1頭や2頭くらい、すぐ見つかるでしょう。」
「いや、そうじゃなくて、金はどうするんだ?」
「俺が出しますよ?」
「・・・そ、そうか。お前、どこぞの資産家か何かなのか?」
「そういうわけでは無いですけどね。まぁ、金なら・・・また無駄に貯まってるのかもなぁ。」
どこか遠い目をして呟く高順。
沙摩柯は意味が解らず首を傾げるばかりだった。
そして、夜が明けたころに沙摩柯は2人の客を連れてきた。
2人とも性別は女。
1人は沙摩柯と同じように、成人した女性。もう1人は臧覇と同じく幼い少女。
「は、初めまして・・・。」
「はじめまして!」
女性は少し気弱そうに、少女は元気よく高順に挨拶をした。
「初めまして。沙摩柯さん、このお二人が?」
「ああ、そうだ。・・・ほら、自己紹介を。」
「あぅ・・・。」
「お前の気の弱さは知ってるが、それくらいは自分でやれ。ほら。」
「わ、解りました。」
女性はその場に跪き、少女も真似をする。
「わ、私は蹋頓と申します!」
「私は丘力居だよ!」

・・・どさっ。
2人の名を聞いた瞬間、何故か高順はその場で気絶したのだった。
「ええっ!?ど、どうかなさいましたか!?」
「おい、高順!?どうした、何があったー!?」

神様、何でこんな見目麗しいお姉さんばっかりなんですか・・・。
しかも何か色々と間違っている気がします、むしろこの2人の立場が逆でいいんじゃないでしょうか・・・・・・?
もう慣れたと思いつつも、やっぱり慣れません。誰か助けて・・・。
薄れていく意識の中、自分を取り巻く状況に絶望(?)する高順であった。




~~~楽屋裏~~~
今回も面白い要素があまり・・・
なんで難産って続くのでしょうね。あいつです(何挨拶

さてさて、今回は2人・・・いや、実際には4人ですが高順と共に三国時代を駆ける人々が増えました。
解らない人もいるかもしれないので読み方を。

沙摩柯→「しゃまか」、あるいは「さまか」 私はしゃまか、と読みますが。
臧覇→「ぞうは」
蹋頓→「とうとん」、あるいは「とうとつ」
丘力居→「きゅうりききょ」

丘力居、舌をかみそうな名前ですw

さて、不要かもしれませんが少しだけ解説を。
高順が言った「むしろこの2人の立場が逆でいいんじゃないでしょうか」というものですが。
蹋頓は丘力居の甥か何かだったと思われます。
丘力居が亡くなった時はその息子が幼かったので代わりに蹋頓が一時的に勢力を引き継いだ、ということですね。
なので「逆でいいのでは?」と思ったのでしょうね。
作者は「同じ一族なので登場させた」というだけです。
イメージとしては戦闘力を考えるとどうしても蹋頓のが上に思ってしまうので逆の立場になった、という感じですw

それじゃ、何で沙摩柯が臧覇と一緒にいるんだよ、ということなのですが・・・
すいません、深く考えませんでした(おい
他の異民族の方を出そうとも思いましたが・・・あまり出すのもどうかなぁ、と思ってこのような配役に。
申し訳ありません。
さて、徐州編は次くらいには終わると思います。彼女らを出したかっただけ、というのがありm(拉致

彼らが次に向かうのは何処になるのやら。

それではまた!



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第15話(調子に乗って連投
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/04 22:44
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第15話

「高順お兄さん、これでいい?」
「ん?おお、ちゃんと綺麗になってるな、偉い偉い。」
高順が雑巾を持った臧覇の頭を撫でる。
「あー、臧覇ちゃんばっかりずるい!わたしだって頑張ってるのにー!」
「ほら、喧嘩しない。・・・丘力居ちゃんもちゃんとやってるな、偉いぞ!」
今度は丘力居の頭を撫でる。
「えへへー。」
「さて、そろそろ弁当持っていくかな。2人もついて来る?」
『うん!』
「よしよし、じゃあ皆で一緒に行こうな。」
2人の頭を撫でながら高順は台所へ赴いた。

臧覇と丘力居は、高順たちの住処に世話になっている。
蹋頓と沙摩柯もなのだが彼女達は今、凪たち3人娘に馬術ならびに馬上戦闘を教えている。
臧覇と丘力居は住処の掃除やら、馬の世話をして貢献している。
虹黒はどうも子供好きのようで、臧覇たちに身体を拭いてもらったりするのが楽しみらしい。
あまり他の人は乗せたがらないくせに、臧覇たちはあっさり乗せたのである。
その代わり、高順が一緒で無いと無理なようだが。
沙摩柯ら4人が転がり込んで1ヶ月。
この1ヶ月で高順らを取り巻く環境が少しずつ変わっていた。
まず、高順。
どういうわけか陳登や、その父親の陳珪から仕官を要請されていた。
本来彼らの居場所は小沛なのだが・・・。
虹黒が目立ちすぎたせいか、盗賊退治で頑張りすぎた結果なのか。
それはよく解らないが、直々の要請をされていた。
おそらく、武力に長けた人間が欲しいということだろうな。と高順は考えている。
実際、史実じゃ戦闘力に長けた武将はほとんどいなかったし、武官として思いつくのが曹豹くらい、というのがある意味で終わってる。
それは必死にもなるだろう。
勿論、丁重に断った。陶謙に仕えてやるつもりは毛頭ない。
そして凪たち3人娘。
彼女らは高順が思った以上に頑張っていた。
仕事もだし、馬術訓練も弱音を吐くことなく黙々とこなしている。
蹋頓と沙摩柯の教え方も随分上手なようだし、なにより実戦形式で教えているのが大きいようだ。
流石に街中では無理なので郊外まで出て行っての訓練になる。
高順も修行をしなければ、と考え凪から「気」の練り方などを少しだが教わった。
さすがに一朝一夕では無理なので簡単な呼吸法やら何やらだったが、凪曰く「飲み込みが早いから教え甲斐がある」だそうな。
高順は自分の武の才能は母親の血が色濃く受け継がれたからではないか?と考えている。
そうでもなければ気、というものなんて扱えない。
最後に沙摩柯たち。
彼女達の大きく変わった所といえば服装だった。
臧覇と丘力居は子供用の服を。
沙摩柯と蹋頓は・・・なんというか、スリットがすごいことになってるチャイナドレス。
沙摩柯は黒、蹋頓は灰色。
2人ともスタイルが抜群すぎるので高順曰く「あれは反則だ・・・」と言わしめるほどの破壊力である。
夏侯姉妹もチャイナドレスを愛用していたが、あの2人よりも裾の長いものを選んだ。
あの姉妹のはほとんど下着が見えてしまうようなもので、あれはあれで問題である。
沙摩柯と蹋頓の場合は「刺青を隠す」意図もあったりする。
ただ、服を選んだのが3人娘だったこともあり服屋で随分と弄られていたのか、げんなりした様子を見せていた。
あと、彼女達の馬だが虹黒のような重種は売っていなかったので、中間種を2頭購入した。
気性が穏やかで乗りやすく、すぐに沙摩柯たちにも慣れた。

こんな生活をしていた高順達だったが・・・。
意外にも早く、その生活は終焉を迎えそうだった。
理由は・・・今度は陳登ではなく、陶謙から直々の仕官要請が来てしまったのである。

使者からの言葉と手紙を受けた高順は(一応)恭しい態度で使者を見送った。
そして居間に帰って来た高順はそのまま胡坐をかいて座り込んでしまった。
「・・・ちっ。」
高順が露骨に不機嫌になる、というのは珍しい。
よほど気に入らないことがあった時にしかそんな表情も態度も見せない男だ。
だが、他の人々より気が長いと言うか滅多に怒らない。
部下である3人娘にからかわれても「まったく、あいつらは。」と苦笑して済ましてしまう。
自分の上司をからかう、というのは本来やってはいけないことで、剣を抜かれても仕方が無いような時代である。
もともとこの時代の人ではないから、という理由もあったが、その気の長さは周りに好印象で受けとられる事が多かった。
そんな高順が見るからに不機嫌になっている。
一体何があったというのだろう?と訓練から帰って来た3人娘と沙摩柯らは顔を見合わせていた。
そこに、大人の空気など読めない少女二人が高順にひっついて行った。
「ねー、高順にーちゃ?何かあったのー?」
「なんだか、機嫌悪いみたいです・・・。」
それを見た5人が一斉に青ざめた。
(お、おい。なんて空気読めない行動を!)
(しゃ、沙摩柯さん、止めてくださいよ!高順さんに叱られちゃいます!)
(もう無理だ蹋頓!そういうのは凪達に言え!)
(ええっ、うちら!?)
(あれはいくらなんでも無理なの!)
高順は尚も不機嫌そうにしていたがさすがに子供にあたることはできないと思ったようで「ああ、何でもないよ」と応えた。
だが子供たちも納得しない。
「えー、全然何でもないように見えないよー?」
「き、丘力居ちゃん。嫌がってるのにあまり聞いちゃいけないような気がする・・・。」
「う~~~。」
「・・・ふぅ。」
高順はため息をついた。
この子達は、興味本位だけで聞いてるわけではない。
普段あまり怒ったりしない高順のことが心配だったのだろうし、不安だったのかもしれない。
それを思うと、さすがに怒りも収まってくるような気がした。
高順は2人の頭をなでつつ「2人に教えてもちょっと難しい内容だからよくわからないと思うよ」と苦笑した。
「え~・・・」
「う・・・」
少し落ち着いたのか、高順は普段とあまり変わらない様子で「悪いんだけど皆を呼んで来てくれないかな?」と頼んでみた。
二人ともこくこくと頷き、居間を出て行く。
しばらくして、皆が居間にぞろぞろと入ってきた。
「よ、呼びましたか?」
心なしか震えた声で凪はそんなことを言った。
他の者もどこか落ち着かない様子だ。
「・・・なんでそんなに怯えてるか解らないけど、皆に話したいことがあってね。」
「話したい事・・・何やろ?」
真桜の疑問に高順は先ほど使者から受け取った手紙を机の上に置いた。
『???』
「これを読めば解ると思うよ。」
その手紙を広げ、凪はざっと見で内容を調べていく。
「・・・これって、仕官要請状ではないですか?」
「え?嘘!?見せて見せて!」
そう言って身を乗り出してきた沙和に凪は手紙を渡した。
「うわぁ・・・本当なの・・・。」
手紙の内容を知らない他3人も、手紙の内容を覗き込んでいる。
「これの何が問題なんでしょう?」
「その手紙自体には何も問題は無いよ。問題なのは陶謙さ。」
「陶謙・・・この徐州を預かる人ですよね?」
「そう。」
そこで一旦言葉を切ってはぁ~~・・・と高順はため息をついた。
「沙摩柯さんや蹋頓さんなら知ってるかもしれないけど・・・。張昭って人、知ってるかな?」
話を振られた沙摩柯と蹋頓は「張昭?」と聞いてしばらく考えていたが、思い当たる節があって「ああ、あれか・・・」という反応を示した。
「何があったん?その張昭とか言う人。」
真桜の質問に蹋頓が応えた。
「少し前の話なのですが・・・陶謙はその張昭という人を茂才に推挙して、自分の家臣にしようとしたことがあったんです。」
「あった・・・って?」
「張昭という人はそれを断ったのです。そこで終われば良かったのですが・・・。それを恨んだ陶謙に張昭は投獄されたのです。」
「・・・なんちゅうやっちゃ。」
「それだけじゃないさ。自分の気に入った人材しか使わない。だから政治も刑罰も偏る。そのせいで苦しんだ人々も多い。」
沙摩柯の言葉に高順は頷く。
「そういうこと。だから、嫌なんだ。投獄されるのも困るしね。」
それに、と高順は続ける。
「もし俺が家臣になったとしよう。そんな性格の男だぞ?沙摩柯さんと蹋頓さんはまず追放される。異民族だから、ってね。」
だからこそ、この街で差別される立場になってたんじゃないか、と憎憎しげに呟いた。
「では・・・高順殿はこの話を?」
「断る。当然だ。ただ、そうなると・・・」
「・・・この街を出なきゃいけないの。」
沙和ががっくりと肩を降ろす。
凪も真桜も「そんな・・・」と呟く。
それを見た高順も鬱々とした気持ちになってくる。
(くそ、まだやりたいことはあった。皆もようやくこの街に慣れてきたっていうのに。)
何故急に陶謙が仕官要請をしてきたかは解らない。
一介の傭兵でしかない自分のことをどこで知ったのか。
小沛にいるだけの男が何故?
疑うとしたら陳登あたりなのだが・・・そんなことを疑ったところでキリが無い。
「なあ、高順。」
「はい?何でしょう?」
「その。我々もついて行っていいのか?」
「・・・はい?」
「その、私達までついて行くのはご迷惑ではないでしょうか?」
沙摩柯も蹋頓も少し不安そうな表情だった。
彼女達の立場はあくまで高順に保護された、というものでしかない。
彼が出て行く、というのならば自分たちが無理について行くのは・・・と、考えているのだろう。
異民族の自分たちを連れ歩くのは・・・という、彼女らの自虐も含まれているかもしれない。
「・・・怒りますよ?」
「え?」
「このまま皆さんを残したらそれこそ何をされるか解らないでしょう?嫌だと言っても首根っこひっつかまえて連れて行きます。」
馬鹿なことを言わないでくださいね、と締めくくった。
その言葉を聞いて3人娘は「さすが高順」とでも言いたげな笑顔を見せた。
「さて、そうなると食料と水・・・。いや、臧覇ちゃんと丘力居ちゃんは・・・。」
と、高順は独り言モードに突入した。
しばらく時間が経ったが、考えを纏めたのだろう。
真桜と沙和を見て「すまない、2人とも。ちょっと頼まれてくれるか?」
「ん?」
「2人には食料と水の買出し。あと馬車の車のほうだけ買ってきて欲しい。できれば大き目の奴を。」
「了解や、じゃあ・・・うちが車のほう行ってくるか?」
「じゃあ、私は食料?」
「いや、まず2人で車を買って欲しい。勿論2人とも馬に乗ってね。帰りがけに食料を買ってきてくれ。ただ、ある程度の余裕は持たせてくれ。」
こう言って高順は二人に資金を渡した。
「解った!ほな行ってくるで!」
「すぐに帰ってくるの!」
2人は厩に向かい、その後馬を駆って市へと向かっていった。
「沙摩柯さんと蹋頓さんは、この家の中の片付けを。必要最低限必要なものも揃えておいてください。人数分の毛布とか着替えを。」
「解りました!」
「ああ、臧覇と丘力居にも準備を手伝わせよう。」
「ええ、できるだけ早く。俺と凪は・・・馬の準備かな。俺は仕事場に行って皆に謝ってくるよ。」
「え?しかし、それは私が直に行ったほうが・・・。」
「何かあったらまずいだろ?余裕があったら沙摩柯さんと蹋頓さんを手伝っておいてくれ!」
「は、はい!」
返事を返す前に高順は凪と真桜が働いている現場へと向かっていった。

数時間後、全員自分に与えられた仕事をきっちりこなして集合していた。
「馬車は!」
「よし!」
「馬は!?」
「よし!」
「食料品その他!」
「よし!」
「高順兄さん!」
「いない!」
・・・・・・。


「何やっとんじゃ言いだしっぺはあああああっ!?」
そう、未だに高順は帰還していなかった。
馬車の用意も整い、臧覇も丘力居も既に乗り込んでいる。
「ああああ、もう。早よせんとどうなっても知らへんでぇー!?」
「落ち着け真桜。今騒いでもどうしようもないぞ。」
「・・・ねえ、あれ。高順さんじゃないの?」
沙和が指差した先には確かに高順がいた。走っている。そして、その後ろに・・・。
凪達が世話になっていた仕事場の人々も一緒になって走っていた。
「うぉ、あれ・・・仕事場の皆やんか?」
「親方も一緒だ・・・一体?」
「おおーい!待たせて済まなかったー!」
高順が手を振りながら走ってくる。
「遅いですよ、高順さん。」
「そうだぞ、言いだしっぺが一番遅いとは。」
「い、いや。すいません。蹋頓さん、沙摩柯さん。実は真桜と凪が世話になっていた仕事場の皆もお別れを、と言って・・・。」
そう言って見つめる先では、凪と真桜が揉みくちゃにされていた。
「ちょ、なっ!?何で皆ここにおるねん!?」
「お前らが急に出て行くって聞いたから皆集めてきたんだよっ!」
「こんにゃろぅ、短い付き合いだったけど楽しかったぞ!また来いよ!」
「な、お、親方まで!?」
「おう、凪!真桜!俺の教えてやった事忘れんじゃねーぞ!」
「わ、解ってます!・・・誰だ今胸触ったの!?」
「おい、これ持ってけ!餞別だチキショー!」
「誰やケツ触ったん!?胸の間に野菜挟むなー!嫌がらせかー!?」
「・・・賑やかですね。」
「賑やかだな。」
「賑やかなの。」
「あー、皆さん。このままじゃ収拾つかないんで、そろそろ。」
「お、おお。悪かったな、高順の旦那。あんたも、暇があったらここに寄ってくれよ。歓迎すっからよ。」
「ええ、すいません、何分急なことで。」
「いいってこった。あの嬢ちゃん達が来てから皆やる気になってたしなぁ。寂しくなるが、これで今生の別れって訳でもあるめぇ。」
「ええ。またいつの日か。」

「よし、出発だ!」
高順の声に皆「おう!」と叫び、下邳の出入り口を抜けていく。
たくさんの出会いがあった下邳。
親方達に見送られて、凪も真桜も少しだけ涙ぐんでいた。
僅か2ヶ月ほどの滞在だったが・・・多くのものを得られたと思う。
馬車を操るのは蹋頓と沙摩柯。
3人娘も馬に乗っているし高順も虹黒に乗っている。
「で、高順さん?次はどこへ向かわれるのです?」
「せや、うちもそれ聞きたかった!」
「そうだな、北へ向かおうと思ってる。」
「北・・・か。そうなると南皮か?」
「いや、どうせなら北平か薊あたりまで足を伸ばしたいな。」
「北平と薊・・・んー、太守って誰なの?」
沙和の問いに、高順は陽が沈みかけた空を見上げて応えた。


「公孫瓚。字を伯珪。」







~~~楽屋裏~~~
どうも、明日仕事だというのに1日で2話書いちゃったあいつです(挨拶

こんな感じで徐州編が終わりましたがいかがだったでしょうか?
戦闘が続いたのでこういった日常シーンを差し込むのはあれです。現実逃避です(何故
この徐州編はどちらかといえば「幕間」になりますかね。
次に向かうのは北平と薊、としていますがこの時代でのこーそんさんの居城は薊だったような気がしてすこしだけぼかしました。
同じ幽州なのですけどねw

蛇足ですが、沙摩柯さんと蹋頓さんに支給(?)された馬はハクニーとか思ってください。
またしてもこの時代とこの国にいない品種の馬ですけどw
WIKIで調べry

さて、幾人かが「こーそんさん云々」と言っていましたが・・・見事に当たりましたねw
実は誰かに言われたから、というわけではなく最初からこーそんさんの所へ行くのは流れとして決まっていました。
おそらくこのまま黄巾の乱が起こるだろう、と思います。
彼が上党に帰れるのはいつの日やらw

今ふと思うと・・・十数話書いてまだ黄巾おきてないんですね(遠い目
短い話でしたが本日はここまでです。それではまた!ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第16話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/07 19:39
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第16話

北海、平原、南皮を抜け、更に北へ。
高順一同は北平を目指し進んでいた。
北平に行く理由、というのは単純に高順が公孫瓚という人物に興味を抱いているからだ。
白馬義従と、その戦いぶりを見たい。その戦いぶりを何かに活かせるかも。と考えたからだった。
道中、蹋頓に公孫瓚はどんな人かを聞いたところ「勇猛さがありますが、性格は大人しく純朴です。」という返事が帰って来た。
それを聞いた沙和と真桜は不思議そうな表情をする。
「でも、北方の騎馬民族は漢民族と対立してたような?」
「せやなぁ。そこいらで差別されたからわざわざ徐州まで来たんちゃんの?それなのに純朴?」
「確かにあの辺りは我々烏丸と対立していますが、我々も単于・・・ああ、単于というのは漢で言うところの皇帝です。その単于が変わるたびに態度を変えていたんです。」
「態度を変えるというのは・・・対立したり、そうでなかったり。ということですか?」
凪の言葉に蹋頓は頷いた。
「漢の擁護を受けるべきだ、と主張する者もいれば、その逆もいます。私は擁護を受けるべき、と主張した側ですけどね。」
この言葉は高順にとって少し意外だった。
史実では蹋頓は袁紹に肩入れして公孫瓚を攻撃している。
公孫瓚も烏丸を憎んでいること甚だしい、という話のある人物だ。
その点も考慮して「行きたくないなら、言って欲しい」と言ってみたし、元来、北方騎馬民族である烏丸にいた蹋頓は立場上で言えばやはり、公孫瓚とは仇敵のはずである。
それを知っているので、最初から反対してくるかもな、と高順は考えていたが・・・そんな意見は飛んでこなかった。
「結局、権力争いで敗北してしまって丘力居と共に逃げる羽目になりましたけどね。その時点で北平にいるのは危険でしたから。」
「なるほど・・・。それで、公孫瓚は烏丸を差別したりとか?」
高順の言葉に蹋頓は「いいえ?」と首を振った。
「え?でも仇敵じゃないんですか?」
「降伏して兵士になった者も、そのまま帰化した者も数多くいますよ。一昔前は差別も酷かったみたいですけど・・・今は漢民族と家庭を作ったりという人も増えてきたようです。」
彼女の言葉にまたしても「意外だ」と高順は思う。
どうも、そのあたりの性格が史実とは違うみたいだ。
恐らく、公孫瓚よりも前の世代から異民族の受け入れは始まっていたのだろう。
その政策を引き継ぐ形になっただけなのかもしれない。
まあ、行ってみればわかるさ。それで蹋頓さんと沙摩柯さん、丘力居ちゃんが嫌な思いをするようであれば・・・すぐに出るとしよう。
臧覇ちゃんは異民族じゃないから大丈夫とは思うけどね。

~~~北平~~~
「ふーむ、そこそこ賑わいがあるね。」
街を見た高順の第一感想はこうだった。
洛陽や陳留、下邳といった大都市と比べるのが間違いとは思うが、それでもそこそこに栄えている印象を受けた。
そういえば上党もこんな感じだったな。皆元気にしているだろうか、と思う。
それよりも、目を引くのが刺青をした人の多さである。
その刺青をした人と仲睦まじく歩いている人もいれば、子供同士で遊んでいたり、という光景がちらほらと見られる。
どうも、ここは本当に異民族を受け入れつつある街であるようだ。
やはり、公孫瓚が異民族を執拗に殲滅しようとしていた、という史実と随分違うようだ。
蹋頓はともかく、沙摩柯は随分と興味深そうに周りを見ていたし、3人娘も初めて来た街のあちこちを見ていた。
高順も異民族と漢民族が同じ街で同じ人間として生活しているのを興味津々といった風で見ていた。
こうやって両者が寄り添っているこの街でも・・・差別全部がなくなることなどありはしないだろう。
それでも心を通じ合わせていく人々がいて、その子孫が新しい命を紡いでいく街なのだ。
高順は何か、感じ入るものがあった。
それと同時に公孫瓚という人に更に興味を抱く。
その後、街中をある程度見て廻ったが特に気になるようなことは無い。
沙摩柯にも蹋頓にも絡んでくるような者はいなかったし、市も奴隷売買をするような雰囲気ではない。
ただ、興味深いことがあった。
一度解散して街を散策したときに(沙摩柯と蹋頓、2人の子供組のことが心配だったのでついていった)蹋頓の知り合いがいたらしく、何かを貰っていた。
後で聞いたことだが烏丸にいた時、漢に同じように擁護を受けるべきという立場の人だったらしい。
高順は興味を引かれて「何を貰ったのです?」と聞いたが蹋頓は悪戯っぽく笑って「秘密です。後で教えますから」と言うのみだった。
そして、食堂で集合したときに蹋頓は何を貰ったのかを教えてくれた。
「これです。」
と言って差し出してきたのは何か白い液体の入った入れ物だった。
「これは何だ?」
という沙摩柯の質問に丘力居が「これはね、酪だよ!」と胸を張って教えてくれた。
「酪・・・?」と、丘力居と蹋頓以外はハテナ顔だった。
「一度飲んでみてください。」と蹋頓は杯にとくとくと注いでいく。
全員分回ってきたが、(高順は興味津々だったが)誰も口をつけようとしない。
蹋頓も丘力居も「美味しいー!」とか「久しぶりに飲みましたね・・・。」と満足している。
よし、と言って高順は一気に杯を煽った。
「うお、高順兄さん度胸あるな!?」
「ど・・・どうですか?」
「美味しい?それとも不味いの!?」
「・・・うまーい。」
「ええっ!?」
全員が「嘘!?」と言いたげな反応を見せる。

うん、これヨーグルトだ。
砂糖の入ってない感じだな、日本で食べるのと少し違うような感じだけど。
飲料で甘みが無いって言うのも初めてだなぁ、とか考えつつ残りも全部飲み干し「ごちそうさま。」と手を合わせた。
高順が美味しそうに飲み干したのを見て「ならば私も。」と凪が口をつけた。
それに吊られて全員が恐る恐る飲みだす。
「・・・美味しいとは思いませんが、飲めなくは無いですね。」
「うぇ、けほ、けほっ・・・にがぁ・・・。」
「ううっ、甘みが無いのぉ~・・・。」
「ふむ、悪くない味だな。」
「う~~、なんだか微妙な味だよぉ・・・」
全員別々の反応を見せたが高順たちを除けば半々で飲めるといったところか。
「ああ、素のままだと慣れてない人はつらいかもね。砂糖を少し入れるといいかも。」
高順は時に気にする風でもなく言った。
丘力居と蹋頓は高順があっさりと飲みきったことに驚いて「酪を知っていたのですか?」とか聞いてきた。
「名前は初めて聞きましたけど、この味なら幾度か口にしましたね。俺は好きですよ。もっとたくさん無いかなー。」
「本当ですか!?なら、材料を貰ってきますからまた一緒に飲みましょう!」
と、蹋頓は嬉しそうに言うのだった。
どうも自分たちの知る味を理解してもらえたのが嬉しかったらしく、丘力居も「さっすが高順おにいちゃん!」と喜んでいた。
そこへ、食堂の外から歓声が起こった。
何事だろう?と思った皆が耳を澄ましていると、「公孫瓚将軍万歳!」だの「さっすが白馬将軍だ!」など、そういう声ばかりだった。
外を見てみると、軍勢が行進しているのが見えた。
どうも賊か何かを討伐して帰還してきたらしい。
どういう人物かな?という興味で食堂の外へ出て軍勢を見てみる。
先頭を進む白馬に跨った・・・またも女だ。赤毛で、赤と白、そして黒を基調とした服に白い鎧を着込んだ少女が進んでいる。
その後ろを進む騎馬隊も皆一様に白馬に乗っている。
「へぇ、あれが噂の白馬義従か・・・。」
「へ?何やその白馬義従て?」
「その名前の通りさ、真桜。騎射とかできる優秀な人を集めて白馬に乗せてるの。強いらしいよ?」
「へぇー。虹黒とやりあったらどっちが強いやろ?」
真桜の言葉に沙摩柯が笑う。
「比べようが無いだろう?乗ってる人間の良し悪しにも関わると思うがな。まぁ・・・虹黒のほうが圧倒的に有利だな。」
「せやろなぁ。」
なはは、と笑う真桜を尻目に、高順はずっと公孫瓚の軍勢を見ていた。
軍事には相当の心得があるらしく、数は少ないながらもバランスの取れた軍容であった。
騎馬が多いのが特徴だが歩兵もいるし、弓兵もきっちりいる。
白馬義従も騎射ができる者ばかりだから弓の攻撃力が劣っているわけでもない。
なるほどな。できれば戦いぶりも見てみたいものだな。
そう思った瞬間。
高順は、行進する軍の中に上党で出会ったあの少女の姿を見つけた。
白い服に青い髪、龍牙というあの槍。
間 違 い な い。
(あ、あるぇー!?何で星さんここにいんの!?もっと後じゃないのか?黄巾前からここにいるなんてどういうこと!?)
うん、やばい。絶対不味い。
何が不味いって・・・。
こんな沢山女性に囲まれてる現状を見られたら凄まじい弄りが発生すること間違いなし。
4ヶ月ほど前での母と彼女の結託ぶりはそれはもう凄かった。
そのせいで自室が鼻血の海と化すわ謂れのない暴力を振るわれて俺が一方的に涙目にされたりとか。
それでいてこっちをからかってるのか本気なのか解らない態度で真名教えてくれたり。
なんというか星さんは俺にとって台風の目です。
今のうちに隠れよう、うん、それしかない。
そう考えて、こそこそと食堂の中へ避難しようとした高順であったが、その瞬間。
こつん。
と小石を頭に当てられた。
ま、まさか・・・と後ろを振りむく。
行軍している軍勢の中にいる星が満面の笑みでこちらを見ていた。



気 づ か れ た ! ?


星は唇だけを動かす。
曰く「しばらくそこで待っていてくれ。」
そのまま食堂の前を通り過ぎていく星。
普段の表情に戻り、正面を向いて行進していく星だったが・・・。
また1度だけ振り向いて人差し指を左右に「ちっち。」と言わんばかりに動かした。
彼女の言いたいことは高順にも解っている。
恐らくこう言いたかったのだろう。
「甘いですな。」と。
行進している軍の最後尾が通り過ぎた後も、高順はそのまま呆然と立ち尽くしていた。
心なしか真っ白になって。
「いやぁ、すごかったなぁ。・・・どしたん、高順兄さん?」
「なんか、真っ白になってるの・・・。」
終わった・・・絶対に終わった・・・|||orz←高順の心の声

意外と言えばあまりに意外な再開。
どうしてこうもおかしな運命の下に生まれたのだろうか、と叫びたくなる高順だった。

それから半刻ほど経った食堂。
「あの、高順さん?どうしてずっと食堂にいる必要が?」
「高順殿?そろそろ出ませんか?」
蹋頓と凪が遠慮がちに声をかけてきた。
高順は何故か椅子の上に正座して座っていた。
「いや、ここに居たい訳ではないのですが居ないといけない理由があるんです。」
「・・・?」
どういう意味かがよくわからない。
他の皆も食事を終えているし、いつまでも残っているのは不自然なのだが・・・。
そこに、1人の少女が「邪魔をする。」と言って入ってきた。
辺りを見回して、「おお、居ましたな。感心感心。」とか言って高順の元へと歩いて行く。
びくっ、と高順は肩を振るわせた。
「?」
皆、高順に近づいていく少女を不思議そうな表情で見ている。
少女は高順の横まで来て「お久しぶりですな、高順殿。お元気でしたか?」
にこやかに言う。
その一部始終を見ていた周りの人々は「だ、誰だ?」と騒然とする。
「しかも、このような綺麗どころ・・・いや、一部幼い子も混じっておりますが。高順殿も隅に置けないですな?」
「星殿・・・その事でからかうのは勘弁してくださいよ・・・。ま、それはともかく。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。」
星は右手、いや、拳を突き出す。
高順も拳を突き出し、「がっ」と拳同士を叩き合わせ笑った。
彼らなりの挨拶なのだ。何だかんだと言いつつも、やはり仲が良い。
「あ、あの~・・・。」
そこへ沙和が入り込んでくる。
「こちらの人・・・誰なの?」
皆もうんうん、と頷いている。
「おお、これは申し送れました。私は趙雲、字を子竜と申します。」
ここまでは尋常な挨拶である。
だが、ここからが彼女の本領発揮であった。
「高順殿の妻一号です
「ぶふぅーーーーーっ!!?」
『!!?』
「ちなみに、2号と3号も居ます。
「がふぁっっ!?(吐血」
この言葉に周囲は色めきたつ。
「ほ、ほんまかっ!高順兄さん!?」
「だとしたらとんでもないスケコマシなの!」
「うわ~・・・高順おにいちゃん、大人しそうに見えて・・・。」
「ねえ、沙摩柯お姉ちゃん。スケコマシって何?」
「・・・。まだ、お前が知るには早い言葉だな。」
「?」
ところで、この状況に無言だった者がいる。
凪と蹋頓だ。
拳を握り締めワナワナと震えている。
背中に「ドドドドドドド・・・・・・」とか「オオオオオオオオオ・・・」とか、そんな擬音が出そうなくらいの雰囲気だ。
「あ、あの・・・お二人とも?どうなさいました?」
高順の言葉に2人は殺意の篭った何かを漂わせてにっこりと笑った。


~~~同日同刻・陳留のとある食堂~~~
『えくしゅっ。』
二人の少女が同時にくしゃみをした。
眼鏡をかけた少女と、金髪の背の低い少女。
稟と風である。、
「「ふぅう・・・珍しいですね、寒いわけでもないのにくしゃみなんて。」
「おー。誰かが噂を・・・ぐぅ。」
「寝ないで早く食べなさい。」
「おおっ!?噂をしたのが高順おにいさんかと思うとつい眠気が。」
「え、高順殿・・・ぷぱはぁっ!」
高順と一緒の布団で眠った(とは言え、悪戯なのだが)稟にとっては、その言葉は危険なものだった。
何せ色々と妄想をしてしまうのだ。
「ああ・・・高順殿の逞しい(中略)私の誰にも(中略)そんな(中略)ああ・・・ぶぱぁっっ!?」
「おお。今日はいつもより多めに出ております。2割り増しぐらいで。・・・ほら、とんとん。」
いつも通りのとんとんをしつつ、風は考えていた。
(星ちゃんと高順おにいさん、元気でいてくれるといいのですけどねー。)
いや。案外今頃はどこかで再会でもしているのかもしれない。
この国の、どこかで。


~~~北平に戻る~~~
星の自己紹介を受けて、高順側の人々も自己紹介を済ませていた。
ただ、高順は星の虚報により混乱した凪と蹋頓に(何故か)しばかれた。
その時の状況は・・・。
「とりあえず、詳しいお話をお聞かせください。明確に言えば格闘戦で。」
「私もお聞きしたいですね。主に馬上戦闘で。」
「なんでそんな力ずくな展開に!?」
という感じだ。
実際に戦闘をしたわけではないが何と言うか・・・一方的に叩かれたり殴られたりどつかれたり、だった。
「ううっ・・・なんで俺ばっかりこんな目に・・・。」
「まったく、酷いことをなさる人々ですな。」
『あなたのせいでしょう!』
凪と蹋頓の声が重なった。
「で?結局のところ、高順とはどういう間柄なのだ?」
沙摩柯は特に気にするでもなく高順に質問する。
「ああ・・・。昔、というほどじゃないですね。俺が上党にいたときに、縁があって一緒に戦ったんです。妻は嘘ですよ?」
「ああ、あの戦いは大変でしたな。」
星もどこか懐かしそうに言う。
「それは良いとして・・・。高順殿は何故このような大所帯で北平に?」
「ん、公孫瓚って人に興味があってね。白馬義従のこともあるけどさ。」
「ほう?」
「ま、烏丸とも一応仲良くやってるみたいだしね。兵士だと家族を殺された恨みとかあるかもしれないけど。」
「・・・。」
高順の言葉に星が複雑そうな顔をする。
「どうしました、星殿。」
「実は、そうでもないのです。」
「・・・何故です?」
「街の中は平和です。しかし今現在、公孫瓚殿は烏丸と抗争を繰り返しています。」
「・・・。」
星の言葉を聞いた蹋頓は目を伏せた。理由を知っているのだろう。
「先ほどの凱旋をご覧になっておられたでしょう?あれも烏丸との戦いに勝利したからですな。」
「そんなに数が多いのか・・・。」
「ええ、この頃幾度も出陣しましたが・・・なかなか思うように行きませぬな。」
「・・・星殿、俺も1つ聞きたいのだけど。」
「む、何ですかな?」
「何で星殿は公孫瓚に仕えたんです?俺はてっきり曹操あたりに仕えたものだと。」
「曹操・・・?ああ、あの御仁の名を出すとは。高順殿はお目が高いですな。」
「そういうものですかねぇ。」
「確かに、あの御仁はたいしたお人ですな。しかし、何と言いますか・・・百合百合しいのですよ。」
星の言葉に3人娘がぎょっとする。
「百合・・・もしかして我々が誘われたのって・・・。」
「うわぁ・・・受けなくて良かったの。」
「そ、そーいう趣味があったんかいな、あのお人は・・・。」
「ほう、あなた方も誘われておりましたか。ふふ、ああいった雰囲気も悪くはありませぬが。どうも、あそこは排他的でしてな。それに。」
「それに?」
「私の活躍する場が見出せませぬ。あまりに完璧すぎる。仕える甲斐がないのですよ。」
あのお方は私の性に合いませぬ、と星は肩をすくめた。
「その点で言えば公孫瓚殿は仕え易いですからな。決して凡庸ではないのですが、どうも、こう放っておけないと言うか。それと、正式に仕えてる訳ではありませぬ。客将という立場ですよ。」
「客将ね・・・。」
高順は何か悩むような素振りを見せる。
彼には現状で2つの思惑があった。
1つは前から考えていたが白馬義従、あるいは烏丸族の戦いぶりを自分の目で見たい、という欲求だった。
蹋頓の戦い方を見て、ある程度は烏丸の戦術を理解した。
それを集団戦で、というのを見たいものだ。
あともう1つは、皆のために少し腰を落ち着けたい、という事だ。
徐州滞在があまりに短くなってしまって3人娘にとっては良い迷惑だったはずだ。
にも関わらず文句1つ言わず着いて来てくれている。
だが、そろそろ疲れも見え始めているのが解っていた。
丘力居も臧覇も何も言わないが相当に参っている。
1年とは言わなくてもそれに近いくらいは落ち着きたいものだ。
そして、星も星で彼らの品定めをしていた。
高順が何故旅をしているかは知らないが、道楽のためという訳ではないだろう。
凪を筆頭とした3人娘もだが、蹋頓と沙摩柯という全く別の異民族が一緒に居るところも興味深い。
それに、(子供2人は別としても)皆相当に腕に自身がありそうだ。
高順とてこの4ヶ月ほど、ただ無駄に過ごしていた訳ではあるまい。
公孫瓚にも興味を抱いているとの事なので、丁度良いのかも知れない。
公孫瓚はそれなりに強いし自分もいる。が、まだ戦力としては物足りない。
その上脅威なのは烏丸だけではない。黄巾のこともある。
彼らのように腕に自身がある人材を確保しておきたい。
ならば。
「高順殿?」
「はえっ!?な、何です?」
「もしそちらが宜しければ・・・公孫瓚殿に会ってみませぬか?」
「・・・何ですって?」
「ですから、公孫瓚殿にお会いしてみるつもりはありませんかな?」
星の言葉に高順は不信感を覚えた。
確かに、公孫瓚の白馬義従に興味もあるし、腰を落ち着けたいというのもある。
しかし、いきなり面会してみる?とは。
彼女は客将の立場ではあると言っていたが、そこまでの権限を持っているのだろうか?
「うーむ。・・・皆はどう思う?」
高順は凪達の顔を見回して聞いてみた。
「会うだけならば構わないのでは?」
こう主張したのは3人娘。
「会うな、とは言わないが慎重になったほうがいいのではないか?」
と主張するのは沙摩柯。
「私はどちらでも」というのは蹋頓。
多数決で決める訳ではないが「行かないほうが良い」と言うのは誰1人居ない。
多少、きな臭いものを感じないではないが・・・星のことだ。高順に嫌がらせをしても回りを巻き込むような嫌がらせはすまい。
「・・・じゃあ、会わせて頂きましょうかね。」
「そうこなくては。では、早速行くとしましょう。」
星は随分嬉しそうな表情で言うのだった。




~~~楽屋裏~~~
どうも、史実の公孫瓚の性格を捻じ曲げましたあいつです。
この作品は基本は恋姫で残りは全てあいつの妄想でできています(いまさら
公孫瓚と烏丸の関係については色々とあるでしょうが見逃してください。土下座いたしますから(ぇ

さて、作中に出てきた「酪」。
これは色々な解釈があるのですね。
説によっては「チーズ」とか「バター」とか「ヨーグルト」だったり。
この作品ではヨーグルト説をとらせていただきました。
実際どのような味だったのでしょうね?

ていいく&かくかは・・・この時点では住んでいる場所解りませんね。
曹操に仕官したとは思うのですが、鄄城に行くのははもう少し後だと思ったので陳留にしてみました。

今回は名前だけでしたが次あたりに公孫瓚が出てきますね、原作のように影が薄く出来るかどうか(ぇ、そこ?
それではまた。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第17話(何か少し修正
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/11 16:42
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第17話


北平政庁にて。
星の差し金(?)によって、高順たちは公孫瓚と面会を果たすことになった。
その前に、政庁までの道のりで虹黒を見た星は「まさか、これほど立派な馬がいようとは。」と随分驚いていた。
烏丸と幾度も戦ったことはあったが、こんなに立派な体格をもった馬は少し見たことが無い、という。
やはり虹黒は特別な存在だろうか?と少し不安になる高順だった。(強さ的な意味もかねて。
それと、丘力居達は馬車の中で待機している。


陳留ほどではないがしっかりとした作りの部屋に公孫瓚が居て、その周りに兵士や・・・おそらく、将軍がいる。
高順らは公孫瓚の目の前で皆跪いていた。
「伯珪殿、客人をお連れしました。」
「ああ、さっき聞いたよ。・・・ようこそ北平へ。私が公孫瓚。字は伯珪だ。よろしくな!」
随分とにこやかな人というか・・・素直そうなお人だ。
これが高順の公孫瓚への第一印象だった。
素直と言うか、嘘をつけないというのか。
いつか凄まじい貧乏くじを引きそうな、そんな感じだ。
「ああ、それとな。そんなに畏まらなくてもいいんだけど?そうやって跪かれることには慣れてなくてさ。」
公孫瓚は少し照れくさそうに言った。
「そうですな、伯珪殿にはそういう礼は不要でしたな。」
「いや、最低限は必要だと思うぞ!?」
そんなやり取りを聞いて高順は何か安堵するものがあった。
やはり、人を差別するとかそういう手合いには見えない。
ずっと跪いてる高順たちに公孫瓚は少し困ったような表情をした。
「あのー。ずっとそうされてるのはすっごく辛いんだけど・・・そろそろ立ってもらえないかな?」
「・・・は。これは失礼を。」
彼女らのやり取りが少し楽しかったせいですっかり忘れていた。
促される形で立ち上がる。
「で、お前は・・・高順、だったよな。星から何度か聞いてる。面白い人だ、ってね。」
「・・・はあ。」
何を吹き込んだのやら。
星に抗議の視線を送る高順だったが、当の本人は何処吹く風、とまったく気にしていない。
「それで、後ろの人々は聞かされていないけど・・・ん?」
高順の後ろに居る3人娘や沙摩柯を見回していた公孫瓚だったが、蹋頓を見た瞬間反応が変わった。
「お、お前・・・。蹋頓!蹋頓じゃないか!?」
呼ばれた蹋頓はふぅ、とため息をついて「お久しぶりです。」と答えた。
公孫瓚は蹋頓に走りよる。
「あはははは、久しぶりじゃないか!?元気にしてたか?丘力居ちゃんは?」
「ふふ、お蔭様で。何の因果か主君を得ました。あの子も元気にしていますよ。」
「そうか、それは良かった。・・・まさか、こんな形で合えるなんて思わなかったよ。」
盛り上がる彼女らを見て星は特に遠慮をせず質問をする。
「伯珪殿?もしかしてお知り合いですか?」
「え?あ、ああ。すまない。うん、友人だ。」
「数年前に知遇を得まして。おかしな人ですよ。異民族の私にも偏見を持たずに接するなんて。」
「そういうものかな。でも、高順もそうなんだろ?」
「はい。そうですね。」
蹋頓はゆっくりと頷く。
「私は蹋頓を差別しない。高順も、多分その仲間も蹋頓を差別しない。それで良いだろ?」
「ええ。・・・ふふ、あなたと言い高順殿と言い。おかしな方々ばかりですね。」
公孫瓚の言葉にゆったりとした笑顔を浮かべる蹋頓だった。
「さて、と。本題に入ろうか。星からの提案でね、お前達を客将として雇わないか?と言われたんだ。」
高順は「やはりな。」と考えた。
戦力を求める公孫瓚と、少し落ち着きたい高順。
お互いの利害が一致しているのは解っていたし・・・どうも、公孫瓚の陣営と言うのはどうもパッとしない武将が多い。
決して無能ばかりではないのだが公孫瓚と趙雲のおかげでなんとか保ってる、というイメージがある。
烏丸は白馬義従を恐れている節があるからそれだけで戦いを有利に進められるのかもしれないが、それでもまだ不安はある。
烏丸に限らないが異民族は数が多い。何度叩いてもしばらくすればまた勢力を伸ばし始める。
公孫瓚としても、烏丸の強硬派を殲滅とまでは言わなくても立ち直れないほどの打撃は与えておきたいのだろう。
「それでな、星は随分とお前の事を高く買っているし、蹋頓の実力は私も知っている。他の4人は実際に見て見ないと解らないけど・・・。どうかな?」
「ええ、それではよろしくお願いします。」
あっさりと頭を下げる高順に公孫瓚は「え、えらく判断が早いな・・・。」と言った。
「こちらとしてもしばらく腰を落ち着けようと思っていましたしね。合間に星殿に稽古を付けていただきたいとか、いろいろ。」
「なるほどなぁ。ははは、じゃあ頼りにさせてもらうよ。」
公孫瓚がこう言ったところでその後ろに控えていた武将がずかずかと進んできた。
「ん・・・なんだ、範に越。それに王門。どうかしたか?」
「姉上、我々は反対です!」
越、と呼ばれた男性武将が声を荒げる。
皆、鎧兜に身を包んでいるので容姿はわかりにくいが・・・皆機嫌が悪いのが見て取れる。
おそらく高順達を受け入れた公孫瓚の判断が気に入らないのだろう。
「さよう、私も反対ですぞ、姉上!」
「そんな氏素性も知れない者を受け入れるとは・・・一体何をお考えなのですか!」
範と呼ばれた男と王門と呼ばれた男も吼える。
「なんだ、お前達・・・。何に不服があるんだ?」
「不服?大有りです!」
公孫越が腰に吊るしている剣の柄に手をかける。
「高順とやらはまだしも・・・異民族を客将?ふざけるのも大概にしてください。」
「やめないか、越。彼らは私の客人だぞ?私に恥をかかせるつもりか!?」
「そうではありませぬ!異民族に一端の位を与えるのが気に入らないのです!」
その声に公孫範も王門も同調する。
「越の言うとおりです。その上、蹋頓ですと・・・?烏丸の先代単于でしょう!」
「一平卒としてならばまだしも、客将ですと?馬鹿馬鹿しい、そのような前例はありませぬわ!」
彼らの意見に公孫瓚も少しカチンと来たようだ。
せっかく戦力として迎え入れると言ったのに、それを部下から真っ向に否定されてしまっては自分の、そして彼らを推挙してくれた星の立場が無い。
こんな言われ方をされれば高順たちとて面白くは無いだろう。
案の定。
「おいおいおい、兄さんら偉い言いようやなぁ?」
「沙和も頭にくるの!」
「仲間を侮辱されて、黙っているつもりは無いぞ・・・!」
3人娘が殺気を発する。
その只ならぬ気配に公孫越らは後ずさる。
が、ここまで言ってしまった手前退く事も出来ないと思ったか。
「ふ、ふん。お前らのような小娘に凄まれても怖くもなんとも無いな!」
と、虚勢を張った。
この言葉にいち早く反発したのが凪である。
「ほう・・・?ならば、試してみるか?お前達の言う小娘風情の力を見せてやるぞ。」
どうも、本気で怒っているらしい。
本来ならば真桜と沙和を止める役割の凪がここまで激昂するのだ。
蹋頓や沙摩柯をけなされたことに怒りを覚えたようだ。
「待て、凪。お前がそんなことでどうする?」
「そうですよ。怒っていただけるのは嬉しいですがそれも時と場合によりますから。」
蹋頓と沙摩柯が後ろから凪を抱きかかえて止めようとする。
「お前たちも。・・・気持ちは有難く受け取っておくよ。だから怒るな。私も蹋頓もこんな扱いには慣れている。」
「・・・っ。し、しかし・・・!」
凪は悔しさで唇を血がにじむほどに噛みしめていた。
「お前達、いい加減にしろ!」
公孫瓚も自分の部下達の行いに腹を立て、叱責をしている。
どうやら、彼女の軍も一枚岩ではないらしい。
これでもまだ他の都市よりはましなのだが。
「これは客人に対しての無礼にあたる。下がれ。」
「ですが姉上!」
「下がれと言ったぞ?」
「く・・・。」
公孫瓚にここまで言われれば反論することも出来ず、3人は部屋を出て行った。
それを見届けて公孫瓚はこめかみを押さえて唸る。
「ったく、あいつらは・・・。悪かったな、嫌な思いをさせて。烏丸との戦いが続いて気が立ってるんだ。許してやってくれ。」
「そんなに戦が続いているのですか?」
「ああ。もうこれで何度目になるやら。それに劉虞殿や張挙のこともある。頭が痛いよ。」
高順の質問に公孫瓚は俯きながら言った。
「劉虞や張挙・・・?その方々が何か?」
「ああ。劉虞殿は幽州の牧でな。烏丸を懐柔しようとしているんだ。人望のあるお方だから、彼になびく烏丸も多い。」
「しかし、それになびかぬ者がいる。強硬派、とでも言うのでしょうな。それらを討伐するために我々が出向くのですが・・・。」
公孫瓚に続いた星だが、少し表情が暗くなる。
「そんな我々のことが気に入らぬようなのです。「こちらが丸く収めようとしているのだから邪魔をするな」と。しかし、烏丸の強硬派は収めようなどと思ってはおりませぬ。」
これだから戦を知らぬ方は、と星は肩をすくめた。
「劉虞殿は強硬派にも金品を送って恭順を促しているんだ。奴らはその金品を利用して軍備を増強する。これでは・・・。」
「ふむ・・・だから公孫瓚殿は躍起になって烏丸の強硬派を倒そうとしているのですね?」
「ああ、それもある。そこにさっき言った張挙という男が絡んでくるんだけど。・・・これは後回しでいいんだ。まず倒さなければいけないのが・・・。」
「楼班。現在の烏丸の・・いえ、「強硬派」の首魁ですね?」
「へ?知ってるのか、蹋頓!?」
途中で口を挟んできた蹋頓に公孫瓚は驚きの声を上げる。
高順達も驚いたがよく考えてみたら蹋頓は烏丸の先代単于だ。面識があったということだろう。
「ええ。知っていますよ。何せ私の元夫ですから。」





『なにいぃぃぃぃぃぃぃっっ!!?』
一呼吸おいてから高順たちは叫び声を上げた。
「元夫って・・・蹋頓殿、結婚なさってたのですか!?」
「ええ。恥ずかしながら。」
「うわぁ。ただれた関係なの?」
「違います。」
「結婚暦何年なん!?」
「1年以下です。」
「失礼ですが蹋頓さん、年齢はお幾つですか?」
「・・・高順さんだから言いますが、23です。」
「若いっ!?」
「うふふ。」
高順らの質問に律儀に答える蹋頓。
公孫瓚や星らもさすがに驚いており、「まさか結婚してたとは・・・。」とか「しかし、楼班が夫とは。」とか言っている。
「蹋頓、夫かどうかはともかく・・・成り行きを教えてもらいたいな。何故その男と結婚をしたか。何故追い出されたのか。」
沙摩柯の言葉に蹋頓は頷いた。
「ええ、そのつもりですよ。ではお話します。」
蹋頓の話を要約するとこうだ。
蹋頓は元々、単于ではない。
単于だったのは蹋頓の兄で、それが前触れも無く急に病死をした為に急遽、仮に立場を継ぐことになったという。
全く乗り気になれないような事だが、回りの者たちが随分と熱心にかき口説いたらしい。
そこで彼女は1つの条件を出した。
「兄には幼い子供がいる。次代の単于は当然その子がなるべきだが幼いゆえに何も出来ない。だから、私は一時的に継ぐことにする。兄の子が立派に成長したときに、私は単于をその子に正式に継承する。」
周りの人々はその案に1も2もなく同意。こうして蹋頓は一時的に代理として単于を名乗ることになる。
その子の名は丘力居。彼女が保護していた少女だ。
それが7・8年ほど前の話で、そこから半年もせず婚儀が決まる。
烏丸の有力者の一人で、名は楼班。その時既に齢40を超えていたとされる。
彼の一族は別段有力者の家系というわけではなく、何度も結婚をし、離婚をし、というのを有力者の間で繰り返して家格を上げていたらしい。
本来ならそのような男と結婚をするのはありえないことなのだが、その頃はどういうわけか有力者の「急な病死」が流行っていた。
その為、何かあっては不味いという周りの思惑や、その頃に出来上がりつつあった楼班派閥の働きかけなどがあったのだろう。
単于である蹋頓にはそういった流れは知らせていなかった。
知った頃には用意が整ってしまっていたし、周りの(と言ってもごり押しだが)要望があって断るに断れない状況を作り出されていたのだった。
が、蹋頓はこの男が怪しいと思っていたし、他の者もそう考えていたが証拠が無い。
自身の兄から始まり、単于に近い男性が次々と亡くなっていく。その結果、今まで名前を聞いたことも無い男・・・楼班が台頭することになったのだから。
半ば無理やり結婚をさせられたが、夫婦としての営みは何も無かった。
向こうが求めて来ても拒んでいたからだ。何より楼班は部族の女性を何十と抱えていたし、愛情があるわけでもない。
その後1ヶ月もせず楼班は後漢に対して戦争を仕掛けるべきだ、と主張し始めた。
自分は後漢に臣従して部族の安泰を図ろうとしていたがそれとは真逆の方針である。
穏健派である自分と強硬派の楼班との対立が始まり、それは日に日に深刻な形になっていった。
しかし、自分の方針に好意的だった部族の有力者はほとんどが「病死」しており、その代わりに楼班に媚び諂う者たちが「有力者」となっている。
なんとか劣勢である状況を打破しようと有力者の子弟達と話をしてみたが・・・それらは幼かったり、有力な発言権利を持てない人々ばかりで、今すぐ戦力という形にならなかった。
そして・・・楼班が暗殺者を仕向けてきた。
目的は自身と、丘力居の抹殺なのが目に見えている。
暗殺者を蹴散らし、赤子の丘力居を連れて、追いすがる楼班側の兵士を振り切って。
なんとか北平へ逃げたところで公孫瓚と出会い、更に徐州へ。
そして今に至る、ということだ。

「・・・随分とまぁ。散々な目にあった、としか言いようが無いですね。」
高順は同情と言うか、心配をしてしまった。
よく耐えてこられたものだ、と。
彼女はその齢ですでに己の信念を持って行動していたのだろう。
自身の責任の重さと向かい合って必死に生きてきたのだ。
それに比べて、自分は・・・死亡フラグ云々と。本当に情けなく思えてしまう。
「そうですね。ただ、私には丘力居がいましたから。兄の無念も晴らさねばなりません。なんとかして生き延びなくては、と思えば勝手に身体が動くものですよ。」
「そうか・・・全く、そんな理由があるならもっと早く話してくれれば良いのに。何か手助けできたかもしれないじゃないか。」
公孫瓚が口を尖らせて文句を言う。
本当に蹋頓を友人と考えているからなのか、根っこからお人よしなのか。
恐らくはその両方だろう。
「ふふ、ありがとうございます。私の事情はこれで終わりです。次は先ほど話に出てきました張挙、とやらの事をお教え願えますか?」
「ああ。張挙と張純だな。簡単に言えば楼班と結んだ反乱軍さ。しかも、張挙は天子を、張純は大将軍を名乗っている。」
「皇帝を僭称?・・・どういう人々なんだ、それ。」
「中山国の相だとか、泰山の太守だとか聞いたがそれはどうでもいいな。奴らは楼班と結んで数万の軍勢と率いて薊を攻撃してきたのさ。それ以外にも遼東を攻めたりな。なんとか追い返せたものの、大勢の人が犠牲になった・・・。」
「なるほど。まず楼班を倒し、烏丸の援護を失くした状態で張挙らを討つ、ですね。」
高順の言葉に公孫瓚は頷いた。
「そういうことだ。天子を名乗るような奴らに遠慮なんか必要ない。問題は奴らにも金品を贈る劉虞殿なんだがな。討伐してしまえば文句は言うだろうけど、そこで終わるさ。あ、そうだ。1つ高順に聞きたいことがあるんだ。」
「はい、何でしょうか?」
「お前、部隊を指揮したことがあるか?」
「無いです。」
あっさりと断言する高順だった。
ある、と言ってしまえばなんか面倒なことをやらされそうだと感じたからだ。
「そうか・・・なら、お前の仲間と共に小部隊で戦ってもらおうかな。」
「伯珪殿。しばしお待ちを。高順殿は嘘をついております。」
「げっ!?」
「・・・へー。嘘か。」
「上党で100人ほどの部隊を率いておられましたな。なぜそのような嘘をつくのやら?」
「へー。100人も率いたのか。」
(しまったぁぁああ!星殿いるのすっかり忘れてた!どうする俺、どうやって言い逃げするよ!?)
星の言葉を聞いた公孫瓚は意地の悪い笑顔で高順を見る。
そこへ、3人娘も追い討ちをかけてきた。
「あれ?高順兄さん、曹操はんのところでも部隊率いてたやん?」
「そうなの、そこに沙和たちを編入したのも高順さんなの!」
「確か・・・500人ほど率いておられませんでしたか?」
「ほほう、曹操殿のところで仕官でもなさっておられたのですか?しかし、500人とは・・・ふふふ。」
「へー、500人か。すごいなー。」
星と公孫瓚はにやにやと笑っている。
「ちょ、おい!?3人とも何言ってるの!あれはあの時一回だけ・・・あっ。」
「認 め た な、高順?」
「認めましたな。」
「認めたなぁ。」
「認めたの。」
「認めましたね。」
「ほう、高順は部隊長も経験していたのか、やるな。」
「さすが高順さんですね。」
皆が一様にそんなことを言い出した。
「星殿、謀ったな!?」
「謀ったとは人聞きの悪い。自分から率いたと仰ったではありませぬか。」
「そうだな、それに嘘をついたのが悪いぞ?」
「ううう・・・。」
流石に言い逃れが出来る状況ではないようだ。
諦めた高順はがっくりと肩を落とした。
「はい、1度ずつですが100人と500人の騎兵を率いました・・・。」
「素直で宜しい、なんてな?あはは。」
快活に笑う公孫瓚だったが、高順としては笑い事ではない。
どう考えても兵士を押し付ける気満々だ。
何と言いますか。どうしてこう行く先々で兵士押し付けられますかね?皆おかしいですよ、行きずりの浮浪者に兵士率いさせようだなんて・・・。
「それで、俺に何をさせようというのでしょうか公孫瓚様?」
「なんだよぅ、嫌味だなー。そう難しいことさせないから心配しないでくれ。ちょっと騎兵200率いてもらうだけだから。」
「・・・滅茶苦茶難しい気がしますが、理由を聞きましょうか?」
「簡単だ、兵士を率いる武将がいない。」
「・・・。公孫範殿、公孫越殿、王門殿。それ以外にも単経殿・関靖殿・厳網殿・田楷殿辺りがいらっしゃいますよね?それでも不足なんですか?」
「な、なんだ?随分詳しいじゃないか?」
「ええ、それはもう。北平に来るまでにある程度調べてましたから。」
「調べたって・・・まあいいや。けど、実際に武将は不足してるんだよ。星にも騎兵500を率いてもらってる。小規模部隊の隊長が不足しているんだ。」
「星殿、凄いですね。じゃなくて。では先ほど上げた武将は一体どれだけの兵数を・・・。」
「そうだなぁ、1人に着き1000とかだな。ただ、全員1000の兵を纏める能力があっても100とか200の少数の兵を纏める才能が無いんだ。で、その少数の兵を纏める人材が少ないんだよ・・・。」
「はぁ。そこで俺に任せたいと?」
「うん。できれば他の者にも任せたいところだけど。皆高順の部下として働きたいんだろうし、兵を率いた経験も無いよな?」
公孫瓚の言葉に3人娘は頷く。
「せやなぁ。いきなり兵士率いろ。言われてもなぁ。」
「自信が無いの・・・。」
「我々にはまだ早いかと。できれば高順殿の下で働いて、それを参考にしたいと思っています。」
「うん、そうだな。蹋頓と沙摩柯は・・・すまないな。越や範の言うことじゃないが・・・2人を隊長にすると、どうしても反発する奴らがいるんだ。本当にすまない。」
「解っているさ。ただ、蹋頓には烏丸兵を率いさせてもいいんじゃないか?」
「それはおいおい考えるよ。言い方は悪いけど楼班に対しての武器になるだろうからな。本人は嫌かもしれないけど・・・。」
公孫瓚は蹋頓の顔色を伺うように言う。
「解っております。高順さんがやると言った以上、我々も仕事をしなくてはいけないでしょう?それに・・・これは良い機会です。そろそろ盗られた物を取り返すつもりです。」
「はは、頼もしい言葉だね。さて、今日はここまでにしようか。部隊の編成は後日打ち合わせをしよう。星、悪いのだけど彼らに空いている部屋を宛がってくれるかな?これからまだやることがあるんだ。」
「承知しました。では、ご案内致しましょうか。皆様方、ついて来て下され。」
星は公孫瓚に拱手し、高順達もそれに習い、星に続いて退室していく。

「はぁ~~~・・・結局こうなったかぁ・・・。」
廊下を歩く星についていく高順達。
高順は一人ため息をついた。
「宜しいではありませんか?期待されている証拠ですぞ?」
「期待は良いけどさ。なんで一兵士に皆部隊を任せようとするのかねぇ。なんか過大評価されてるよ、うん。」
その言葉に、そのようなことは無いでしょう、と星は呟く。
「えー・・・と、趙雲殿?」
「ん、何ですかな?」
凪の呼びかけに星は振り返る。
「我々に与えられる部屋、というのは・・・個室でしょうか、相部屋でしょうか?」
「・・・ああ、なるほど。1人野生の獣がいるから不安だと言いたいのですな?」
「獣とか言われた!?」
「おや、誰も高順殿とは言っておりませぬぞ?」
「ぬぐぐぐ・・・。」
「い、いえ、そうではないのですが・・・。相部屋だと相当大きな部屋でないと全員入りきれないものですから。荷物などもありますし。」
「ふむ、それもそうですな。では、今日は2部屋お使いください。・・・ここです。」
案内された2部屋は共に割りと大きく、4人程度なら十分住めるような部屋だった。
「寝台程度ならありますが・・・他の家具は今のところ我慢してください。それでは、私はここで。」
そう言って星は去っていった。
「・・・ふむ、今日からここが俺達の部屋、ね・・・。あ!?」
「な、何!?」
叫び声を上げた高順に驚いて全員が高順の方を向く。
「丘力居ちゃん達、すっかり忘れてた・・・。」
『・・・あ。』



~~~馬車の中~~~
「遅いね、高順おにーちゃん達。」
「もしかして・・・忘れられてるのかも・・・。」
実際に忘れられていた2人だった。


その後、急いでやってきた高順に散々不平不満を垂れて、後日お詫びに好きな玩具を買っていい、ということを高順に約束させる子供達であった。














~~~楽屋裏~~~
どうも、あいつです。
今回は色々おかしな設定が発覚・・・。
史実では楼班は丘力居の子ですね。
それと、牧、というのはまだこの時代にはありません。あと数年したら劉エン(劉ショウの父)が中央に牧という役職を作ろうという建言をするのですが。
あと、烏丸では男は殺しても罪にならないらしいです。
じゃあ楼班抹殺すればいいんじゃね?と思いましたが・・・知ったのは書き終わってからでした(駄目

修整→下がれと退室しろって意味同じだと気づいた。本当馬鹿ですね私orz

しかし、蹋頓さんがまさかの元人妻設定。うかつに歴史に名を残すと大変ですね(何
それではまたノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第18話(修正多い(ノヘ
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/13 18:12
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第18話

公孫瓚の根拠地、北平。
この地で高順達は公孫瓚の客将となって兵士を率いる立場になってしまっていた。
公孫瓚は「次の出陣までは約1月かかるだろうから、それまでに隊の掌握と訓練を頼む。ちなみに、新兵だからさ、ちゃんと教育してくれよ?」と無茶な命令を出してきた。
無茶、と言うのは現状で(高順側から見れば)馬術に秀でた者が沙摩柯と蹋頓しかいない、と言う事に起因する。
異民族に教えられるのはあまり気分の良い物ではないかも知れない。
公孫越らが蹋頓らの事で公然と反発をしたのも「異民族風情が」という感情が先立っているからだ。
自分と虹黒のやり方では正直参考にならない、という事を理解していたし、3人娘にしてもまだ馬上戦闘に慣れきっていない。
さて、どうしたものだろう?
自分に与えられた部屋(さすがに男が相部屋では不味いので別に部屋を用意してもらった)で、悩む高順だが、その前にいくつかやりたいことがある。
まず1つ目。北平でも味噌を広めようという、味噌汁好きの彼の野望である。
幸いと言っても良いかどうかは解らないが、北平は上党からは割りと近い。
1月もあれば・・・恐らく、往復はできなくてもそれに近い距離は移動できる。
そう考えて、沙摩柯に竹簡を上党にいるであろう親方さんに届けて貰えるように頼んだ。。
内容は「味噌売れてたら、ある程度の金額と出来上がった味噌を寄越してください。それと、出来ればで良いので職人さんを2人ほど回していただけると助かります。」というものだ。
正直、金額のほうは期待するべきではない。その中から職人さん達への給料も出るし、自分が居ないのだから横領されてても文句など言えない。
其れでなくても迷惑をかけているのだから、その程度は許容範囲といえる。
味噌は自分で味見をしたい為で、職人はここ、北平で広めるために手伝いをしてもらおうと考えるからだ。
最低でも半年はいるつもりだし、その間にこの味を広めたいものだ。
美味しい、というのもあるが上党で受けいられた味がここでも通用するだろうか?ということがある。
そして2つ目。これが重要だ。
まず、自分に与えられた兵士(騎馬兵)だが、どうも烏丸と北平の人間からなる混成部隊のようだ。
両者共に馬の扱いは慣れているだろうが、北平側はやはり劣るだろう。
どちらも均等に、とまでは行かなくてもそれに近い質まで持って行きたいものだ。
そうなると、どうしても蹋頓にお願いをすることになるのだが。
自分自身も星に稽古をつけて貰いたいというのもあるし、兵士の質を上げるために訓練も見なければならない。
なんだか騎兵ばかり任されてそこは不満でもある。歩兵とか任せてもらえないだろうか。
その辺りは置いておくとして、今高順のやってることは兵士リストを作成する、というものだった。
あいうえお順に兵士の名前を竹簡に書き込んで、点呼の時などに使おうと思っている。

「さぁて・・・こんなもんか。」
筆を置き、竹簡に書き連ねた名前を数え、200人分書き込まれていることを確認する。
こういう作業は部下の数がそこまで多くないからこそ出来る作業だ。
これが1000とか2000だと、自分だけで出来る仕事ではなくなってしまう。
「ふう、残りの仕事は明日だな。」
ふと窓の外を見ると既に夕日が落ちかけていた。
1つのことに集中すると周りに目が行かない、というが高順もそういう人間だ。
「明日は実際に部下になる人と対面、か。どんな事言えばいいのやら。」
これだから人の上に立つのは嫌だ。
面倒なことが次から次へとやってくる。
部下の命を預かるという立場も正直重い。
人の命など金より軽い、というのはどこの時代でもそうだが・・・戦乱の時代と言うのはその傾向が顕著になってくる。
これから始まるはずの大乱世。
その軽い命でも、現代的な感覚を持つ高順にとっては重過ぎる物だった。
こんな事を考える時点で部隊の長失格なんだろうな、と自嘲気味に呟いた高順は竹簡を畳んでいく。
既に部隊の育成方針は固まっているし、蹋頓に任せておけばその辺りは心配ないだろう。
馬上戦闘のみではなく、馬を失った場合の歩兵戦術も教え込んでいかねばならない。
そちらは楽進ら3人娘がいるからそこも問題・・・問題は、彼女らの戦い方を実践できそうにない事だ。
気、とか言われても普通は出来ないし。
そこら辺は自分で教えるしかない。その為の武具とかを揃えないといけないだろう。
考えないといけないことは沢山ある。
だが、その前に。
「厨房行って腹ごしらえをしよう。」
いそいそと部屋を出て行く高順だった。

~~~次の日、北平訓練所~~~
整列した200人の兵士の前で高順は三刃戟を片手に、訓示をしていた。
その200の兵の中に3人娘と蹋頓も混じっている。
訓示と言っても立派な事を行った訳ではないが。
一通りの事を言い終わった高順は、「では、ここから訓練内容を発表します。」と言った。
「騎馬戦闘は・・・蹋頓さん、前へどうぞ。」
呼ばれた蹋頓が高順の隣に移動し、兵達のほうへ向き直る。
「騎馬戦闘は彼女に教えていただきます。本来なら俺が教えたいところですが、俺のやり方は当てにならないらしいので。蹋頓さん、何か言いたいことは?」
「はい。・・・初めまして、皆さん。これより馬術を教えます蹋頓です。烏丸族の私に教えられるのは不服を覚える方もいらっしゃるでしょうが、生き残るためだ、と思って頑張ってください。」
この言葉に高順も続く。
「他にも色々と教えないといけないことはあるのですが、いきなり全部詰め込んでも混乱をするだけでしょう。ですからまず、馬上戦の技術の向上のみ目指してください。その後に歩兵戦闘もお教えいたします。それに伴いもう1つ。自分の馬の世話ですが、極力自分で行ってください。」
高順の言葉に3人娘と蹋頓を除く兵士達がざわめく。
そのざわめきが一段楽するところまで待って、高順は続ける。
「皆さんが驚くのは無理も無いことですが、これを実行してください。馬という生物は臆病です。ですが、主人を慕っているならきっちりとこちらの思い通りに動いてくれる聡明さがあります。馬を好きになれなければ馬から好かれることなどできないでしょう?両者が信頼しあうからこその騎兵だ、と俺は思っています。信頼が無ければ馬は主人の命令でも聞かないことがあるでしょう。」
そこで一旦言葉を切って、高順は三刃戟の柄を地面を「こつっ」と叩いた。
「何も、全てを自分でやれとは言いません。ですが、可能な限りの世話をしてあげてください。馬がこちらを信頼してくれれば多少の危険を顧みることなく皆の指示に従ってくれるでしょう。・・・宜しいですね!?」
最初は迷っていた兵士達だったが、高順の丁寧ではあるが力強さを感じる口調に押される形で全員拱手をしていた。
「・・・宜しい。それでは、蹋頓さん。後をお願いしますね。」
「はい。お任せを。・・・皆、騎乗しなさいっ!」
先ほどまでの温厚な表情が一点、蹋頓の表情が厳しくなる。
兵士たちも背筋を伸ばしてすぐに自分の馬に乗る。
普段は温厚、というより弱気と言っても良い彼女だが、教練のときはかなり怖い。
凪達も「あの二面性はいったい何だろう。」と驚くほどだったらしい。が、厳しいのは自分の技術をきっちり教えようとしているだけで、不当な怒り方など決してする事は無い。
兵士たちも最初は戸惑うだろうがすぐに慣れるだろう。
「彼女に任せて置けば安心だな。よし、俺は・・・。」
「高順さん!隊長たるあなたが何をしておられるのです!?さあ、早く虹黒に乗ってください!」
「え?お、俺もですか!?」
瞬間、ゴシャッ!という音が響く。そんなことを言った高順の頭に蹋頓が思い切り棍を叩き落したのだ。
「のぉぉぉおおぉっ!?」
『!!?』
のた打ち回る高順を見て兵士が本気で震え上がった。
蹋頓が棍を持っているのは、練習で相手を必要以上に傷つけない為だ。
それでも彼女の戦闘能力なら平気で人を殺傷する武器になる。
兵士達はこう思っていた。
「隊長でも口答えすればああやって制裁されるのだ。」と。
「高順さん、皆が待っているのです!隊長たるあなたが兵に迷惑をかけて何としますか。さあ、お早く!」
「はいっ!申し訳ありません!」
何故か敬礼をしてから虹黒に跨る高順だった。(兵士も最初虹黒を見たとき驚いていたがいつものことなので省略
「宜しい。では始めます。これは初歩的な技術ですが槍と言うのは突き・薙ぎ・下ろしの3つから成り立ちます。最も、これはどの武器に言えることですが・・・。」
蹋頓の話は続く。
長柄の武器で突く、というのは思った以上に難しい。なので皆(高順らを除くとして)は先ず払いと振り下ろしからだ。
剣や刀のように短ければ払いは斬りとなるが、刺すのは長柄に比べれば易い。
「まず皆さんには馬の扱い、ならびに馬上での剣・槍・弓の扱いを覚えていただきます。今回はどれか1つを徹底的に教え込むことはしません。ですが均等にこなせるようにはなっていただきます。」
そう、次の戦いは少なくとも一ヶ月以上先のことだ。
それまでに最低限の戦力にはしなければならない。
「それだけではなく、筋力・耐久力。そして歩兵戦も覚えていただきます。馬を失ったときでも最低限の戦いを出来るように。・・・解りましたか!?」
『はいっ!』
高順も、3人娘も、兵士たちも、皆一斉に返事をしていた。
「良い返事です!」
そして、彼らの特訓が始まった。


~~~数時間後~~~
「・・・よしっ、今日はここまでにします。皆、ご苦労でした。明日からも同じように行きますから、休めるうちに休んでおくように。解散!」
『はっ!』
皆、一様に疲れた顔だったが返事はしっかりとしたものだった。
全員が下馬をして、自身の馬の手綱を引き厩へと引き上げていく。
おそらく、これから馬の身体を洗ったり、餌を与えたりするのだろう。
高順の言ったこともきっちりと覚えていたらしい。
凪達も、高順も馬から下りて汗をぬぐっていた。
「ふぃぃ・・・今日もまた凄かったなぁ。しかも、思い切りぶん殴られたし。」
ぼやく高順の隣で蹋頓は「申し訳ありません・・・。」としょんぼりとしていた。
「あー、蹋頓はんは謝ることないと思うでー。あれは高順兄さんが悪いねんって。」
「そうですね、高順殿は自分だけ逃げるつもりだったようですから。」
「たまには沙和たちと一緒に訓練するべきなの。」
「いや、そりゃそうだけどさ。勿論蹋頓さんは悪くない。でも、俺にもやりたいことがあったんだよ。」
「へー、何やの?趙雲はんを手篭めにするとか?」
「何でそうなるかな!?彼女と槍の手合わせしてもらいたかったんだよ、修練です!」
「ま、まさか・・・股間の槍!?」
「人の話をどこまで曲解させるんだああああっ!?しかも人聞き悪いぞ!」
叫ぶ高順と、それをからかう真桜と沙和。
蹋頓と凪は何を想像したのか真っ赤になって俯いている。
「ううっ、俺全然尊敬されてないよね・・・。」
「せやね。」
「そうなの。」
「・・・え、わ、私は高順殿を尊敬していますから!ね、蹋頓殿!?」
「え?ええ、勿論!?」
「・・・2対2ですか、そうですか。って、それよりも。皆、後で俺の部屋に来てくれる?」
「へ?何かあるん?」
真桜の言葉に高順は「あるんですよ。」と返した。
「はっ、まさか・・・沙和達の瑞々しい身体をムググッー!?」
「よーし、沙和?ちょっと黙っていようか?」
凪に絞めと言うかチョークスリーパーっぽい技をかけられて沙和は強制的に沈黙した。
「あら、私は構いませんけど。」
余裕ありげに言ってのける蹋頓。
「うぉー、さすが元人妻。余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)やなぁ・・・。」
「とと、蹋頓殿!?そういう冗談を口にするのはまだ時間的にも!」
「え?冗談など言ってませんよ?」
ふんわりとした笑顔を浮かべる蹋頓に凪も真桜も高順も絶句した。(沙和は現在気絶中
訓練を終えた今、全員汗だくになって服が身体に張り付いている。
普段露出しっぱなしの真桜。
それに対して凪や蹋頓は「普段は露出が少ないが、ちょっとしたしぐさで異様な色気を感じる」手合いだ。
高順は正直どちらにも弱い。
全員見た目も良いし、何だかんだ言いつつもきっちり信頼もしてくれている。
例え冗談であっても、そういう人々に迫られると高順は本気で困ってしまうのである。
顔を真っ赤にして、ごほん、と咳をした高順は「それはともかく。」と場の流れを変えようとする。
「後で皆で来てくださいね。馬の世話して、風呂で汗流してから。それじゃ。」
高順はこう言って虹黒の背をポンッと叩いて厩へと歩いていった。
「・・・口説き損ねましたね。」
『!!?』

蹋頓は・・・割りと本気だったらしい。

言われたとおり馬の世話を終え、汗を流してきた4人は高順の部屋へと赴いた。
途中で一緒になったので皆で赴く。
凪が高順の部屋の扉をコンコンと叩き、「失礼します。」と入っていく。
「ああ、ご苦労様。」
「いえ。それで、我々に用事とは?」
「ん、これ。」
高順は銭の入った袋を4つ取り出した。
「・・・これは?」
「お金。公孫瓚殿に給料として貰ったの。で、これに支給額が書いてある。確認してね。」
高順は竹簡を取り出して4人に見せた。
竹簡の一番最初にかなり大きい額が書き込まれている。これを6人分に割って支給するのだ。
高順達は客将とされているが実際は傭兵である。
その為、公孫瓚と色々交渉をして自分達の給料を決めなくてはいけない。
そういった役割は真桜が一番向いているので助言者として一緒に交渉をしてもらった。
結果、「まあこんなものだな」と言う所で互いに納得できたので、特に大きな混乱も見られなかったがこれからの戦いで活躍できれば額も増えるのだろう。
その辺りは自分達の腕にかかっている、という事だ。
「沙摩柯さんには渡したんだけどね。そこで皆も呼べばよかったのだけど。今日、皆が集まるからそこで良いかと思ってね。」
全員、竹簡を見て、間違いが無いかどうかを確認していく。
だが、皆が「あれ?」と首を傾げていた。
どう見ても金額が合わない。
よく見ると高順だけ、随分と額が少なめであった。
「なあ、高順兄さん?」
「ん?」
「なんで高順兄さんだけこんなに取り分が少ないん?」
「一番楽してるから。」
「・・・・・・。」
あっさりと言ってのける高順に、全員が固まってしまった。
確かに現状では兵を鍛える、という肉体的に辛い役目は彼女達の役割である。
だが、高順も今日のように訓練には参加するし場合によっては自分から凪や沙摩柯にお願いして居残り特訓のようなこともしていく。
それに加えて部隊の編成や、兵士の名簿を作ったりと隊長としての仕事もある。
なのに、一番楽とか言ってしまうのである。
欲が無い、と言えばそれまでなのだろうが、部下としてはもう少し欲を出したほうが良いのでは?と心配させられてしまう。
「心配しなくても、ちゃんと生活できる分は確保してあるから。そーいう顔しないでくださいよ。」
彼女らが心配そうな顔をしているのが解ったのか、高順も取り繕ったように言うのだが、凪達にしてみれば「そういう問題ではないと思う。」といったところだ。
「さて、俺の用事はこれで終わり。解散していいですよー。」
「・・・はい、解りました。」
皆、釈然としなかったが本人がこれで納得をしているのなら仕方が無い。
この欲の無さが悪い方向へと向かなければ良いのだが。
退室していく4人は全員そんなことを思っていた。
4人が出て行った後、高順は「ん~~~。」と、身体を伸ばした。
「よし、今やらないといけない事は全部終わったな。」
後は沙摩柯さんが帰ってこないとなんとも言えないなぁ。
・・・よし、時間も余ったことだしアレの進捗具合を確かめに行こう。
前に厨房の人にお願いをしておいたので出来上がってる頃だろう。

~~~厨房にて~~~
「どうもー、頼んでた奴できました?」
厨房に入っていくなり高順は作業をしていた人々に声をかけた。
「あ、高順さん。お待ちしてました。こんなもので宜しいですか?」
彼が出してきたのは肉の腸詰め・・・そう、ソーセージである。
作り方は教えておいたが、問題は材料だった。
氷とか燻製機とかもそうだが、香辛料などがどうしても間に合わせの物しか使用できない。
口金や絞り袋などはあったのでなんとかできるだろうとは思っていたが、形だけは何とかなったらしい。
温度を保ったりとか、そういう面倒なことが出来ないだろうから、どうしてもある程度のところで妥協しなくてはいけない。
「いやぁ、苦労しましたよ。空気がすぐに入るので針で穴を開けたり、薄いところが破れたりとか。」
「はは、そうですね。でもちゃんと形になってるところは流石ですね。」
実際、大したものだ。
形状などはなんとなくのイメージしか伝わらないものだが、きっちりとソーセージの形になっている。
その辺りはやはりプロだということだな、と高順は納得した。
「では味見をして見ましょうか。皆さんも一緒にどうです。」
「え?でも、我々よりも高順さんから食べたほうが・・・。」
「別にかまいませんって。作ってくれたのは皆さんですし、最初に食べる権利があると思うのですよ?」
「そ、そうですか?じゃあ・・・。」
1人の女性がおずおずと箸でつまんでソーセージを口に入れ噛み千切る。
ポリッという、いい音がした。
「むぐ・・・お、美味しい・・・!?」
「え?本当に!?」
「こんな変な肉が!?」
「・・・変な肉って・・・・・・。」
味噌汁のときと言い、どうしてこうおかしな評価しかもらえないのだろうか。
まあ、彼らからすれば初めて見た物だろうし、警戒するのも無理は無いか。
「じゃあ、俺もいただきますかね。・・・むぐっ。」
ふむ、ちゃんと水抜きはされてるし、作り立てだからか余計に美味しい。
少し胡椒が強い気がするけど食欲が出てくるくらいの良い辛さだ。
これは良いな。成功と言っても差し支えない。
「よーし、大成功。でもこれ・・・かなり数があるけどどうしよう?」
「そうですねえ、趙雲さんや公孫瓚様にも試食して頂くのは?」
「それだっ。よし、じゃあ持っていくよ。皆さんありがとうねー。」
そう言って高順は出来立てのソーセージを持って行くのだった。

結果。
公孫瓚:「美味しいな・・・どうやって作ったんだ?」
星:「ほほう、これは中々良い辛さですな・・・。酒のつまみに良いやもしれませぬ。」

また酒ですか。
ついでに3人娘と蹋頓さん達にもお裾分けして見ます。
 
真桜:「美味いなぁ。これも高順兄さんが作ったん?」
沙和:「これ、豚肉なの?ちょっと信じられない・・・。」
凪:「もう少し胡椒が利いていれば更に美味しいのですが・・・。」
蹋頓:「あら、形が(中略)。美味しいですよ、ふふ。」
丘力居&臧覇:(無言でむくむく)

なんだかおかしな反応をした人が1人いましたが概ね好評なようです。
ケチャップあればなー。

この後、公孫瓚に「前の肉、量産してくれる?」とお願いされることなど夢にも思わない高順だった。

それから2週間ほどして、沙摩柯が帰還した。
大量のお金と2人の職人を連れて。
旅の疲れがあったが、彼女らはまず高順の部屋へと赴いた。
高順の部屋の扉を叩き、部屋に入る。
「あ、沙摩柯さん。おかえ・・・り・・・。何その大量の袋。」
「ただいま。お金だ。持ちきれない分があったからそれはまず私の部屋(沙摩柯と蹋頓は相部屋。丘力居らもいる)に突っ込んでおいた。後で持ってくるよ。」
その異常な数の金の詰まった袋を見て、高順は「一体どれだけ儲けたんだよ・・・。」と、気が遠くなりそうだった。
「で、沙摩柯さん。その・・・後ろに居る方々は?」
高順の部屋には現在、本人と沙摩柯、そして後ろに2人の女性・・・少女と言ったほうがいい。が立っている。
高順より少し年が下かも知れない。
その少女2人がその場で高順にひれ伏した。
『お初にお目にかかります!』
「え?何?どうしたの!?」
いきなりのことで思考が追いつかない。
「私達、上党で味噌作りの仕事を与えられていた者です。」
「高順様のおかげで職を得られたも同然です、感謝しています!」
「え。あー・・・。君たちを選んだのは親方さんだと思うけど・・・うん。」
なんだろう、凄く感謝されてる。
俺、味噌の作り方を親方と一緒にあれこれ悩んで後を任せただけで・・・別にこの子達の雇い主じゃないんだけど。
でも、何らかの技術、つまり手に職つけらたのは大きな自信になるとは思います。
「あー。お二人共、そろそろ立ってくれないかな?」
まだ跪いてる2人に高順を声をかける。
その言葉を聞いて、2人とも素直に立ち上がった。
「ま、小難しい話は無しにして。ようこそ。あなた方にもここで味噌を作ってもらいますけど・・・きっちりと給料は出すのでご心配なく。」
「はい!」
「それと、2人の名前を教えていただけますか?」
「閻柔です!」
「田豫です!」

また、マイナーな人々が・・・。
両方とも優秀な人だとは思いますが、何でそれが上党から来るかな。
いや、もういいけど。慣れたけど!

「あの、高順様・・・?どうかしましたか?」
「え?ああ、いや、何でもないです。それよりも・・・参ったな。来るのは男性だと思ってたし、2人か・・・部屋が無いな。」
「大丈夫です、高順様の部屋で泊まります!」
「ブフゥッ!?それは不味いですって!」
「別にかまわんだろ?」
「沙摩柯さん何言ってるのさ!?俺男ですから!女の子2人と一緒にお泊りとかキツイですから!?」
「問題ありません!襲われても構いませんから!」
「ブーーーーッ!!?」
なんというテンションの高さだ・・・。
正直おじさんも疲れます。
無意識にえろい事言う蹋頓さんもきついが、この子達も天然でこういうこと言うのかなぁ。疲れるなぁ。
まあ、悪い子達ではないと思う。
おじさん頑張る。

結局、この日は彼女らに同じ部屋に泊まってもらったが、翌日3人娘と星に弄られるわ、凪や蹋頓に絞められそうになるわで散々な思いをする高順であった。
後日、真桜に自分達専用の鐙を作ってもらったり、歩兵戦闘用の6mクラスの長槍や馬上戦闘用の籐牌(円形の盾で藤を編み込んだもの)を更に木や金属で補強した物を作ってみたりと色々な話があるが・・・。
それはまた、別の機会に。





~~~楽屋裏~~~
どうも、またしてもちょい役武将を出しましたあいつです。
連投は出来ませんでしたが休日を丸一日使って書き上げたことは評価して欲しいと思うんだ(何

さてさて。
最後に馬上戦闘用の籐牌や長い槍を作成したりとか色々やってますが、他にもアイロンのような形をした盾やら楕円形の盾やらも作ってそうです。
歩兵用の盾とか作成してるかもしれませんね。
そしてソーセージですが・・・作中のやり方できっちりした物が出来るかどうかは解りません。
「できる訳ないだろ!」と思ってもスルーの方向で(待
閻柔と田豫は上党ではなくどっちかと言えば北平よりの人になると思いますが・・・名前だけの人で今後出てくることは無いでしょう。
恐らく上党と同じように味噌倉を作って生産に乗り出すのでしょうね。いつ解体できてもいいような形でw
楽進さんも解体スキル持ちになってましたし。
そして高順くんの扱いが悪いのは仕様になりつつりますね。
それより、元人妻設定になったことで蹋頓さんの性格が次第にえちーな方向へ。最初こんな性格ではなかったというのに。
一体どうなる(本当に

話は変わりますが、当初、この作品は10話程度で終わらせるつもりでした。
他の作品でもありますが、3話とかで黄巾の乱終わらせて、5話くらいで洛陽編終わって、残りで徐州編。
「俺達の戦いはまだ続く!(漢坂?」なノリで。
しかし、蓋を開けてみると。
「あれ、番外編入れてもう20話近くやってるのにまだ黄巾いってなくね?」


・・・迂闊すぎる私に乾杯(黒烏龍茶で
なんで処女作がこんな長編になってるのでしょうね。迂闊にも程があります。
単純に私の構成力が無いだけなのですが・・・(笑
そのあたり、読者様はどう思ってるのでしょうね?もっと早く進めろよ!とお思いなのでしょうか。


さて、次あたりから烏丸との戦いになると思います。
白馬なんとかもありますから、きっと戦いそのものは楽なのでしょうね。烏丸は白馬なんとかを恐れていたらしいですから。

それではまた。
ご意見ご感想お待ちしております。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第19話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/17 07:18
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第19話

前回の話から1ヶ月半が経った頃、公孫瓚は1万1千を率いて出陣した。
北平の更に北にある万里の長城。
高順達は、後に世界遺産となるはずの場所にいる。
もっともこの時代は高順の知る長城よりは更に北に位置していた。
現代の人々が知る万里の長城は、この時代ではもっと北に位置していたのだ。

「しかし・・・万里の長城というからさぞ壮大な物を想像していたんだが・・・実際はわりとしょぼいな。」
高順は城壁で北・・・烏丸族に動きが無いかどうか注意を払いつつこんな感想を漏らした。
それを隣で聞いた星もさもありなんと頷く。
「そうですな。私も最初見たときは驚いたものです。場所によってはあっさりと登れそうな場所もありますし。」
星は周りを見渡しながら言った。
実際、その辺りに生えている木に登れば、城壁の高さにまで上がっていける。
「よくもまあ、こんなんで防衛線張ってたもんだよ。しかもすっげぇ距離だし。1箇所を集中的に攻撃されたらすぐに破られるぞ?」
「実際、破られておりますからな。我々がここにいるのはあくまで小休止というだけのこと。」
「もう少ししたら出撃って事か。」
「左様。烏丸の集落はここより北に位置しておりますゆえ。」
「成る程ね。・・・ったく、憂鬱になる。」
はぁ、とため息をつく高順に星は首を傾げる。
「憂鬱?戦いが怖いとか?」
「そりゃ普通に怖いさ。兵士を率いる立場って言うのも原因だし。」
「ふふ、高順殿らしい言葉ですな。人の命は重い、と言う事ですかな?」
「当たり前だよ。殺しに行くんだから殺されることも覚悟しないといけないしね。死にたくないけどさ。」
「ははは、その通りですな。」
「俺が憂鬱って言うのはさ・・・ほら、あそこの方。」
高順は城壁の下側を指差す。
「あそこの・・・ああ、王門達ですな。」
星も納得したように笑う。
「あれ?星殿はあいつら呼び捨てですか?俺とか公孫瓚殿には「殿」とかつけるのに。」
「ええ、その辺りは曖昧ですが。友人と認めているものは真名で呼び捨てに致しますな。」
「じゃあ凪とかも?」
「無論。」
この1ヶ月で3人娘と星は真名を教えあっていたらしい。
いつの間にかお互いを真名で呼んでいたが、高順は最初違和感を感じず、途中で「あれ?」と気づいたのだった。
「俺は?」
「友人ですが真名を教えて頂いてないですからな。蹋頓殿と沙摩柯殿もそうですし。」
「あの二人は真名が無いだけじゃないかな?俺もそうだし。実際には真名を使用できるような生まれじゃないんだよね。」
真名、というのは基本的に生まれがそこそこ良い人間、つまり上流階級に許されるものだ。
自称の場合もあるが、趙雲は恐らく自称だろう。
蹋頓と沙摩柯も、真名のことは知っているだろうが異民族にはそういう風習が無いのかもしれない。
「まあ、それは良いとして。王門らが何か?」
「なんかね、目の敵にされてるみたいで。」
「ほう?」
「最初のほうで蹋頓さんと沙摩柯さんを、けなしたでしょ?あれで凪達が随分頭に来てるみたいでさ。」
「そういえば、そんな事がありましたな。」
「俺も頭にきてるけどね。あの3人が怒ってくれたおかげで逆に冷静になれたというか・・・。それからかな。」
「まったく、あの方は。前から陰湿だとは思っておりましたが。」
「俺に対して文句を言うだけなら許せるんだけどね。凪とかにもネチネチと嫌味を言ってるらしい。」
「はぁ・・・。公孫瓚殿も悩んでおられる様子でしたからな。」
「雇い主を困らせる訳にも行かないしなぁ。困った問題ですよ。」
「全く。・・・む、そろそろ出撃時間ですな。」
「お、もうですか。それじゃ行きますか。」
「承知。」
2人は階段を下りて集合場所へと向かっていった。

~~~集合場所にて~~~
高順と趙雲が降りた頃には既に互いの部隊は出撃準備を終えていた。
2人の姿を認めた楽進や沙摩柯が近づいてくる。
「隊長、準備を完了しました。いつでも出撃できます!」
「そっか、ご苦労様。沙摩柯さんも。」
「ああ、かまわないさ。他の皆も張り切ってるし、兵士もやる気に溢れている。上手く育てることができたようで安心だな。」
楽進が高順の事を「隊長」と呼んだが、これは少し前からの事だ。
李典や于禁は「高順さん」とか「高順兄さん」とか、その時々によってばらばらだが、普段はそう呼んで来る。
楽進は「高順殿」と呼んでいたが部隊を預かる人なのだから、と考えて「隊長」と呼ぶ事にしたらしい。
今までどおりで良いよ、と言ったのだが「それでは他に示しがつきません!」と言い張り、結局高順が折れる形になった。
ところで、趙雲と高順の部隊だがよりによって王門隊へ編入されていた。
公孫瓚の率いる兵は1万1千。
本隊は公孫瓚の白馬義従4000。その内に公孫範。
右翼に田楷率いる3000。その内に厳網、鄒丹。
そして左翼に王門3000。その内に単経。そして趙雲、高順。
残りの1000は輜重だが、有事の際には公孫瓚本隊に属して戦う。
歩兵・弓兵・騎兵はバランスよく揃っているが、白馬義従は騎射ができるものを集めて組織されているので弓の攻撃力は高い。
そうなると歩兵が一番少ない計算になるが、そう問題はないだろう。
問題は敵の数が3万程であるという事と、自分達の主将が王門であるということだ。
公孫瓚は出陣する前に「敵は数が多いが、烏合の衆だ。戦を始めた頃は強いが、柱となる武将が少ないから時間と共に弱っていく。持久力が無いんだ。」という事を話していた。
最初はもっといたのだが戦い続け、そして劉虞の懐柔によってなんとかここまで数を減らしたのだと言う。
つまり、持久戦に持ち込めば勝機が見えるといいたいのだろう。
だが・・・そうなると一番の問題は王門だ。
何せ高順の部隊と相性が悪い。
高順のことを「ただの傭兵」と見なしているし(事実だが)3人娘の事を「役に立たない小娘共」と呼ぶ。
沙摩柯らのことを「薄汚い蛮族」とも言っている。
公孫瓚に「あんな奴が隊長では兵も役に立たないのがわかり切っている」と何度も言っていたと聞いている。
自分のことだけを言うなら我慢もしよう。
だが、部下まで巻き込むのは止めてほしいものだ、と考えている。
普段は温厚な高順だが、そろそろ限界が近かった。
趙雲もそれを察しているらしく、何度か「あまり短気を起こさぬように。」と言われていたが。
公孫瓚もそれを問題視しているらしい。
それなら指揮下につけてくれるな、と言いたいが「高順たちが手柄を立てれば良い。そうしたら王門も文句を言えなくなるさ。」と考えてこのような布陣にしたらしい。
「さて、高順殿。そろそろ進軍時間ですな。」
「む、もうそんな時間か。嫌だなぁ。」
「隊長、またそのような。・・・私も嫌ですが。」
「はは、皆思うところは同じさ。行こう。」
沙摩柯の言葉に皆が頷き、自身の馬に騎乗。
率いる部隊へと向かっていった。


~~~一刻後~~~

進軍を続ける公孫瓚部隊の元に、放っていた偵察部隊から連絡が来た。
「この先約5里先に烏丸・張挙連合の姿を確認。総数3万ほど。」
まず、その報告が公孫瓚の元へ行きそれから各武将の元へと伝わっていく。
「3万、か。約3倍ですね。」
楽進が傍らにいる高順達に話しかける。
「3倍ね・・・。このだだっ広い平野でぶつかるんだよな。公孫瓚殿はよほど自信があるらしいね。
「蹋頓はんが呼びかけるとかでけへんの?」
「できなくはないでしょうが、彼らは強硬派と目されている立場ですからね。正直効果は薄いでしょう。私が蹋頓と気づくかどうかも解りませんからね。余裕があればやってみますけど。」
「ま、どちらにせよ警戒しておくに越した事はないでしょうね。公孫瓚殿も当然そう考えてるでしょう。」
そうですね、と蹋頓も同意する。
「烏丸に警戒するのは良い事だが。」
沙摩柯が後ろから話しかけてくる。
「我々にはもっと警戒しなければならない相手がいるぞ。」
「へえ?沙摩柯はんが警戒って。どんな奴なん?」
いつもは寡黙であまり喋るのを好んでいないようなイメージをもたれる沙摩柯だが、実際は割りと話し好きで沙和や真桜の冗談で笑っていたりする事もある。
「ん、我々のすぐ後ろにいる。」
「沙和達のすぐ後ろ・・・ああ、王なんとか!」
「そう、王なんとかだ。足を引っ張られないように気をつけろよ?奴の練兵を見てみたが兵はともかく本人は酷い出来だ。あんな男に無能と言われる奴の顔が見たいものだ。」
やれやれ、と大げさなジェスチャーをする。
「・・・言われた我々の立場がありません。」
「ああ、そうだな。だから見せてやろうじゃないか。無能と言われた我々の戦いをな。」
沙摩柯の言葉に全員が頷いた。
「あのー・・・。」
そこに、弱弱しい声が横槍を入れる
「ん、どうしたん?田豫。」
「何で、味噌職人の自分が従軍してるんすか・・・?」
「そら、高順兄さんの命令やもん。」
泣きそうな顔で質問をしてくる田豫の姿があった。
実は、彼女を連れて行こうと考えたのは高順だ。
史実の田豫の功績を知っていたからというのもあるが、彼女に料理をしてもらいたいという考えもあった。
何せ自分達のいる場所は長城を更に北に超えた場所だ。寒くて仕方が無い。
じゃあチャイナドレスの上に鉄、或いは皮の鎧を重ね着している蹋頓や沙摩柯はどうなるんだ?と言われそうだが、彼女らは寒さにある程度慣れているらしい。
だが、普通の兵士達はそうも行かないだろう。
そこで「味噌汁使えないかな?」と考えたのだ。
軍用食の味が薄い・・・塩の値段が高いから仕方が無い事ではあるが、塩気が少ないのだ。
それを考えると味噌は塩分もあるし、野菜と一緒に炊けばそれだけで強力なおかずとなり、身体も温まる。
つまり、田豫は従軍料理人ということになる。
当然、戦の空気に慣れてもらって、いつか武将として働いてもらおうとも考えている。
史実の事を考えれば軍師、あるいは内政官としても有能そうだ。
「うう・・・ひどいっすよ、高順様・・・。」
「あー、悪いと思ってるよ。でも、そんだけ田豫さんに期待してるからでもあるので。」
「・・・高順様にそう言われたら張り切らないわけにはいかないっす!」
・・・割と根は単純らしい。
「で、自分はその王何とかって人知らないんすけど・・・そんなに駄目なんすか?」
『うん。』
「・・・全員で即答っすか。」
高順隊全員が知っている事なのだが、王門という武将は「なんでこんなのが一介の将軍なんだ?」と思うほどに惰弱な武将だった。
あまりに高順隊をけなすので、「ならばお手合わせをしていただきましょうか。王門殿は相当な武の持ち主とお見受けしますゆえ。」と高順は一度挑戦しようとしている。
その時王門は「貴様ごとき小僧に本気を出すまでも無いが、今日は日柄が悪い!」とか言って逃げたのである。
その日はまさに雲1つ無い透き通るような青空だったのだが。
その後も何度も「今日は如何です?」と言ってみたが・・・同じような事を言って逃げるばかり。
しまいには「持病の癪が・・・」とか言い出したのである。それが全くの本気で。
これを聞いた高順隊の皆は確信したのである。
「はっきりと解った。王門、こいつは・・・駄目な奴だ!」と。
随分抽象的な表現だが、これが一番しっくり来る。
本当になんでこんな奴が将軍なのだろう?
高順は王門という武将の事を知識として理解していたから「ああ、やっぱりな。」程度の認識だったが、公孫瓚は一体何を思って・・・。
もしかしたら、本当に人手不足なのかもしれない。

閑話休題。

~~~公孫瓚・本陣~~~
駄目な奴はさて置いて、公孫瓚の軍勢は更に進軍を続ける。
その眼前に少しずつだが、烏丸らしき部隊が見えるようになってきた。
向こうもこちらの姿を確認したらしく、慌しく陣形を整えている。
公孫範は「どうなさいます?」と本隊先頭を進んでいる公孫瓚に声をかける。
「決まってるだろう、全軍突撃用意だ。関靖!」
「ははっ!」
「各部隊に伝令を出せ。まず我々が敵陣に突撃を仕掛ける。左翼・右翼の前衛部隊も前に。中衛・後衛部隊は左右に大きく迂回し、敵の横腹を突かせる!」
「承知いたしました!」
関靖と呼ばれた男・・・公孫瓚の軍師の1人である。
知略に富んだ人材が少ない公孫瓚陣営にとっては無くてはならない人物だ。
その関靖が伝令を呼び、今の命令を一言一句間違うことなく伝え、伝令を各陣に走らせる。
それを見届けた公孫瓚は烏丸の陣を睨み付ける。
「今度こそ・・・決着をつけてやるぞ。楼班、張挙。」

~~~高順・趙雲部隊~~~
「さて、高順殿。聞きましたかな?」
趙雲は隣に布陣している高順隊まで来て話をしていた。
「ああ、聞きました。前衛部隊突撃だとか。」
「うむ、公孫瓚殿の白馬義従の突撃に合わせて攻撃を開始。一応打ち合わせをするべきと思いましてな。」
「前衛・・・ま、どうしても我々に回ってくる役目ですね。」
「無論。それゆえ功績を立てることが出来ましょう。後ろに控えてるアレの鼻を明かす良い機会ですな。」
「はは、確かに。せいぜい足を引っ張られないように気をつけるべきですけどね。」
「ふ、言えておりますな。・・・それでは私はここで。ご武運を。」
趙雲は拱手をして自軍のほうへと戻っていった。
それを見送った高順は凪に命令を下す。
「凪、聞いてたね?悪いが兵士を集めてくれ。」
「はい。」
数分とせず、兵士達が高順の前に集まり整列をする。
兵士達の前列には3人娘、沙摩柯、蹋頓がいる。
「全員、集まったな。・・・。皆、聞いてくれ。これより我が隊は烏丸・張挙連合に攻撃を仕掛ける。」
兵達はざわめくこともせず、直立不動の姿勢を維持したまま高順の話を聞く。
この1月半で、彼らは最初の頼りなさが嘘のように成長していた。
皆、蹋頓や3人娘のスパルタ訓練に音を上げることもせず、必死になって与えられた課題をこなしていた。
結果、突出した部分がなくても・・・ある程度はどんな状況にも対応できるようになっていた。
こんなに短い時間でこれだけの結果を出せたのは教官がよかったという事もあるだろうが、兵1人1人の頑張りがあったからでもある。
良い兵士たちだ、自分も見習うべきだな。
高順はそう思っていた。
「作戦を説明します。まず、公孫瓚殿率いる白馬義従前衛3000が攻撃を仕掛けます。それと同時に右翼・左翼の前衛部隊も出撃。我々も前衛に位置するので出撃する事になりますね。ここまでで質問は?」
凪が挙手する。
「楽進、どうぞ。」
「はい、左翼の前衛は我々と趙雲殿の部隊。合わせて700ほどです。残りの中衛・後衛2300はどう動くのです?」
「我々が敵前衛を攻撃し、こう着状態に陥ったところで迂回。横っ腹を突きます。このような何も無い平野でぶつかる以上、兵数の差がそのまま勝敗に繋がると思いますが・・・白馬義従は烏丸に恐れられている存在です。」
「では、数の差はなんとかなる、という事ですね?」
「ええ。おそらくは。我々にとって大切なのはこう着状態を作る事です。烏丸兵は持久力が無いと聞いていますから、こう着状態が長引けば次第に弱ってくるでしょう。そこを突くと言うことらしいです。」
「解りました。」
「他に何か?」
「・・・。」
高順はしばらく待ったが誰も何も言わない。
「・・・宜しい。それでは」
言葉を続けようとした高順だったが、そこに銅鑼の鳴る音が響く。
出陣の合図だ。
本陣の白馬義従が列を成し、その先頭に公孫瓚が進んでいく。
まず、白馬義従1000ずつが陣を作り、3部隊に分かれた。
更にその両翼に右翼。左翼の前衛部隊がつき、計5つの陣が出来る。
そして、その後ろに各陣中衛・後衛部隊が布陣する。
少し違うかもしれないが、鋒矢の陣を作ったのだ。
突破を狙っている、と見せかけるのだ。
その後少しずつ下がり、烏丸の陣形が崩れた頃に後方で温存していた部隊を回り込ませる。
最初こそこちらが苦しいだろうが、耐えきれば勝機が見えるだろう。
「高順隊、騎乗!」
高順の掛け声に兵士が従い、自身の馬に跨る。
彼自身も虹黒に跨り、戦場を見わたす。
目の前を趙雲の部隊が進んでいく。
それに従い、高順隊も陣形を維持したまま進んでいく。
戦を前に気分が昂ぶる。
それと同時に憂鬱な気分も高順は覚えていた。
今までは自身の命だけを考えれば良かったが、ここからは兵士の、部下の命を背負う事になる。
その重さにも慣れなくてはいけないのだろう。
「隊長、我等の布陣も完了致しました!」
「ああ。」
楽進の声に頷く。
それと同時に公孫瓚の声が聞こえてきた。
「攻撃開始」というシンプルな命令だ。
その声に従って、彼女自慢の白馬義従が雄叫びを上げて一散に突撃を開始。
他の部隊も続いていく。
高順から見ても、威勢よく進んでいくと思えた。
何故か地味な印象を受ける公孫瓚だが、軍勢をきっちりと鍛えているのがよく解ったし、先頭で剣を振るう姿も様になっている。
負けてはいられない。
「これより我が隊も攻撃を開始するが、その前に皆に命令を下す。生き残れ、それだけだ。・・・突撃だ!他の部隊に遅れをとるな!」
「うおおおおおおおっ!」
高順の声に兵が応え、各々の武器を構える。
勝つ為に。そして生き残るために。
高順隊は趙雲隊と共に楼班・張挙軍の前衛部隊へと突撃を開始した。





~~~楽屋裏~~~
書き忘れましたが閻柔は北平で臧覇たちと遊んでます、あいつです。(何挨拶
戦の前の前哨とか、書くのが難しいです。普通に全部似たような構成になりますからねぇ。
いや、何でも書くのは難しいですけど。
・・・こうして見てみると基本的に高順くんは運が良いです。どの戦いも本人の能力よりも運で勝ち残る形ですし・・・
後半になれば少しはチートっぽくなると思うのですが・・・まだ黄巾すら終わっちゃいない。高順くんの明日はどっちだ(笑
今回はギャグ要素全くありませんでしたね。辛いです(ぇ

それと、この頃更新速度が微妙に遅くなっています。
でも仕方がありません。ヴェスペリ○が面白いのが悪いのです(??


さて、ネタな上話が凄まじく短いですが、ギャグを突っ込んで見ました。











【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~  蝶☆番外編。

無理やり打ち切ってみたら多分こうなる編。

最終話~絶望を胸に。~




陳留政庁にて、高順の最後の戦いが始まろうとしていた。
っていうか始まっていた。

「チクショオオオオ!喰らえ夏侯惇!俺の新必殺滅陣営!」
高順の戟の一撃(というよりただの突き)が夏侯惇を捉えようとする。
その一撃を見て夏侯惇は嘲る様に言った。
「さあ来い高順!私は虹黒に蹴られただけで死ぬぞオオ!」
つん。
高順は遠慮がちに戟の先っちょ(布で巻いてある)を夏侯惇の胸に押し当てた。
「グアアアア!こ、この猪武者の名を欲しいままにする夏侯惇がこんなヘタレに!?しかも今どこ触った!」
「うっさい!ただのお芝居とはいえ変な事言うな!台本通りにやれないのかあんた!?」
「あ、すまん。いや、そうじゃなくて・・・えっと。」
「?」
「(小声で)なぁ高順、次の台詞なんだっけ?」
「(小声で)ば、馬鹿なあああっ!て叫ぶんです!」
「(小声で)あ、そうだった。・・・・・・バ・・・バカなあアアアアアア!グアアア!」
夏侯惇の断末魔が響く。
その声が聞こえたのか、次の部屋で高順を待ち構えている3人がため息をついた。
「ああ、姉者がやられたか。・・・多分、台詞忘れて高順に迷惑かけてるんだろうな。いつもの事だがな。」
「あの・・・夏侯淵殿?」
「うむ、どうした、郭嘉?」
「私と程昱、この話ではまだ曹操殿の下で働いててもお目通りは適ってないのですが・・・。」
「ああ、気にするな。作者が適当に考えた話で適当に役に当てはめただけのものだしな。細かいことを考えたら負けだ。」
「しかし。」
「それに見てみろ、程昱のあの落ち着きようを。」
「ぐぅ。」
「あれを泰然自若、というのだ。お前も見習ったほうがいいぞ?」
「・・・あれは、単純に寝てるだけです。」
そこへ、高順が扉を破り、戟を構えたまま突進してきた。
「くらえええ!」
「ああ、やっと出番か。それでは。」
『グアアアアアアア!』(2人棒読み、1人鼻血)
4人を刺し貫いた高順はハァ、とため息をついた。
「やった・・・ついに四天王(?)を倒したぞ!これで曹操のいる部屋への扉が開かれる!」
その声が届いたのか届いてないのか。
それは知らないがどこかから声が響いてきた。
「よく来たわね、陥陣営。いえ、高順。待っていたわ・・・。」
「こ、ここが曹操のいる部屋へ続く扉だったのか・・・!感じる、曹操の覇気を・・・。」
「なんでこんな事をしなければいけないのか甚だ疑問だけどね・・・。」
「・・・それ言っちゃ駄目です。」
「まあ良いわ。それよりも・・・戦う前に1つ言っておく事があるわ。あなたは私を倒すのに頑張って武将を集めてるみたいだけど・・・別にそんなの無くても倒せるわ。・・・って、あなた、武将集めてるの?」
「一応。本当に一応。じゃ無くて・・・な、なんだってー!(棒読み)」
「それと・・・ぇえと、何だったっけ。・・・ああ、そして呂布は食費が異様にかかるから故郷へ放してきたわ。後は私を倒すだけね。クックック。・・・こんな悪役みたいな笑い方しないわよ、私。」
自分の台詞に突っ込みを入れる曹操に高順も言い返す。
「フ・・・上等だ。俺も1つ言っておく事がある。色々な女性とのフラグが立ってるような気はしたがそんな事はなかったし、高順キモスとか言われたから確認してみたら本当にその通りすぎて作者も地味に凹んだぜ!後々どうしようとか悶えてるし!!自虐ネタゴメンナサイとか、キモイとか言われた俺の立場とか!!!orz」
「・・・なんだかよくわからない言葉が混じってるし、始める前から本人が立ち直れないような状況に陥ってる気がするのだけど・・・そう。」
高順が(涙目で)三刃戟を構えなおす。
己の勇気が世界・・・いや、己の死亡フラグを叩き折る事を信じて。
「ウオオオッ、行くぞオオオオ!」
「さあ、来なさい高順!」

ご愛読ありがとうございました。あいつ先生の次回作にご期待ください!





嘘ですけど。



~~~もう1度楽屋裏~~~

もしこんなシナリオで終わらせたらブーイングどころじゃすまないですね、宇喜田さんとかボンバーマンとか毛利の爺さんに何されるかわからないあいつです。
なんでこんなことしたのかと言いますと。
「この作品で打ち切りとかやめてくださいっす!」というお言葉がこちらの予想より多かったので、ギャグでこんなことをしでかしてみました。
むしろ、「早く終わっちゃえよYOU」と言われると思ってたのに(汗
そしてもう1つの理由は名前が化けて読めない、とか名前の字が難しくて読めない、というご意見が少々ありまして、その補完のためでもあります。
まさか名前紹介だけで更新する訳には行きませんからね。そう思って書き上げましたが書いた後に気がつく。

「第1話というか注意書きのとこに追記すれば良かったんじゃね?」



うああああああああorz

さて、今思い出せた人物のみですが名前紹介を致します。順不同ですがご勘弁を。

丘力居(キュウリキキョ)
蹋頓(トウトン)
公孫瓚(コウソンサン)
劉虞(リュウグ)
沙摩柯(シャマカ)
臧覇(ゾウハ)
楽進(ガクシン)
李典(リテン)
于禁(ウキン)
趙雲(チョウウン)
閻柔(エンジュウ)
田豫(デンヨ)
夏侯惇(カコウトン)
夏侯淵(カコウエン)
郭嘉(カクカ) シナリオ中ではギシサイですが。
程昱(テイイク)
高順(コウジュン)
丁原(テイゲン)
呂布(リョフ)
陳宮(チンキュウ)
張遼(チョウリョウ)
朱厳(シュゲン)

こんな所でしょうか?
表記されて無い人物は大抵読めるだろう、と考えて抜いていますがもし抜けてたらお教えください。

しかし、1時間かけて何を書いているのやら。
まだ次の話も書いていないというのに。
でもヴェスペr(拉致


それではまた次回お会いしましょう。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第20話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/19 07:14
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第20話


「こんな所までやってくるとは・・・。」
烏丸本陣にて楼班は1人憤っていた。
今まで何度も公孫瓚と衝突を繰り返してきた烏丸・張挙連合だったが、この頃はその勢力も随分と弱体化していた。
劉虞の懐柔工作と、公孫瓚との戦いで10万を超えていた軍勢が今では3万程度にまで減っている。
不利を悟って北方までやってきたがどうも公孫瓚はこちらを見逃す気はないらしい。
それに、後漢の内部事情に詳しいであろうと思って張挙らと連合を組んだが、これが全く役に立たない男達だった。
だがその張挙と張純は今現在ここにいない。
いや、この戦いの最初から彼らはこの世に存在していない。
楼班が暗殺したからだ。
役に立たない奴らだったが1万ほどの軍勢を保持していたし、役に立たない彼らにいつまでも偉そうな態度を取られるのも癪だった。
「追い詰められても塩漬けにしてある奴らの首を差し出して降伏すれば命は助かるだろう。」
こんな打算もあったが、楼班は知るべくも無かった。
全てを取り返すために公孫瓚の軍勢に参加している蹋頓がいる事を。

烏丸前衛部隊1万5千程(こちらは中央・右翼・左翼のみの3部隊)と、公孫瓚前衛部隊5千程(全5部隊)は激しくぶつかり合っていた。
楼班率いる烏丸族は白馬義従を苦手としているのか、数で有利な筈が押されている。
これだけの差があって有利になれない現状にも楼班は苛立つ。
敗北続きで厭戦気分が兵達に蔓延しているのだが、それをどうにもできないところが楼班という男の限界だった。
前衛部隊の戦いは続く。
どうも高順らの配置された最左翼が一番敵の数が多いらしい。
当初は弓の打ち合いで始まったが、すぐに距離が縮まり近距離戦へと移行している。
こう着状態を作り出す事が目的とはいえ、流石にこの数の差は厳しい。
趙雲隊と高順隊、合わせて700。
それに対して彼らに相対する烏丸の右翼は全部6000ほどだ。
次から次へと向かってくる烏丸兵を幾人も討ち果たした高順だが、ここまでの差があると凄まじく厳しい。
平原とはいえ、一度に戦力をぶつけ合う訳ではなかった。
烏丸兵が白馬義従を警戒していた為か、前衛部隊の先鋒部隊と戦う事になったが、攻めて来る数は3000ほど。
兵力差で言えば4倍近くある。
隣の白馬隊がすぐに前面の敵を押しまくり、余裕が出来たのかこちらを援護してくれているが、やはり苦戦を免れない。
「こっちの数が少ないからって嵩にかかって・・・このっ!」
高順が戟を横に薙ぐ。
その一振りで高順の目の前にいた烏丸騎兵は血しぶきをあげ、馬から転げ落ちていった。
それを隣で見ていた沙摩柯が敵兵3人を相手に渡り合いながら話しかけてくる。
「高順!今ので何人目だ!?」
「20から先は数えるのを止めましたよ!そちらは!?」
「50を超えたところで面倒になった!」
「さすが沙摩柯さん・・・っと!」
沙摩柯を狙って剣を振りかぶった敵兵の胴を高順は刺し貫き、敵兵が密集している場所に力任せに投げつけた。
すぐ近くでは沙和と真桜が連携攻撃を繰り出して1人1人確実に兵を仕留めていく。
凪は基本的に徒手空拳だが、敵兵から奪った槍や剣などで応戦。時折気弾で敵を吹き飛ばしていた。
蹋頓も兵士を率いて当たっては引き、また当たっては引く、ということを繰り返す。
彼女もまた強く、槍を振るう度敵の死骸が増えていく。
兵士達も2人1組で敵に当たっているが、数の少なさはどうしようもなく被害が大きくなり始めているようだ。
隣で戦っている趙雲隊も必死に戦っており、なんとか拮抗しているものの・・・ふとした事で戦局が悪化するだろう。
早く後方で控えている部隊を投入してほしいが、まだ烏丸側の後衛部隊も待機したまま。
あれを引き出せなければ意味が無い。
そう思っているうちにまた2人ほどこっちに向かってきた。
「ちっ、本当に多い!こっちには白馬義従がいないからっていい気になってるな・・・。」
戟を構える高順だったが、その時横から蹋頓が割って入り一撃で烏丸兵2人の首を跳ね飛ばした。
「ご無事ですか!?」
「え、ええ。お蔭様で。」
「それは何よりです・・・せいっ!」
味方の死骸を踏み越えて突撃してくる烏丸兵を更に屠っていく蹋頓。
「・・・強いなぁ。」
本当、なんでこんな強い人々が俺に仕えてるんだろうか・・・?
「ほほう、蹋頓殿に見とれて・・・ふふふ、あの胸ですな、あの胸がよろしいのですな!?」
いつの間にか趙雲まですぐ側にいた。
その言葉に高順はにっと笑う。
どう見ても変態です。本当にありがとうございました。
「いや違う、そうじゃないです!そりゃ確かに胸まあいいですよ、もう。戦場だってのに随分余裕ですね!俺にはそんな余裕ないですよ!」
多少は疲労していたがまだまだいける。
「はは、確かに。では、無駄口を叩いた分働くとしますかな!」
「その意気ですよ・・・ふんっ!」
「しっ!」
高順と趙雲の一撃が同時に烏丸兵を捉えた。



~~~烏丸前衛・右翼部隊~~~
「まだ崩せんのか!?」
「はっ、思いのほか抵抗が激しく・・・。」
右翼を率いる武将・・・名は烏延と言うのだが、彼女は焦っていた。
こちらには6000ほどの兵がおり、後衛にも4000程が待機している。
だと言うのに、前方にいる僅か1000にも満たない部隊を抜く事ができない。
白馬義従は自分達にとって恐ろしい相手だ。
だが、目の前にいる部隊は白馬義従ではない。
それなのにここまで時間がかかってしまうとは・・・。このままではこちらの弱みが出てしまう。
騎馬民族である烏丸は短時間で敵を駆逐する事が得意だが、篭城戦や、時間のかかる戦闘などではその真価を発揮できなくなる。
長時間耐える、ということが苦手なのだ。
今はまだ良いが、このままズルズルと時間をかけると士気が低下していく事が解り切っている。
後方の陣も未だに動きが無い。戦闘が始まって数時間がたっている。
今現状でも、少しずつではあるが味方の士気は下がり始めているのだ。
彼女は決断した。
「・・・。伝令に伝えろ、後方に陣取っている難楼にも出撃を要請しろ。私自身も出る!」
「し、しかし単干の命令も無く・・・。」
「あんな奴の下知を待っていては機を逃す!構わぬ、行け!」
「は、ははっ!」
側のものに命じ、烏延も近習と共に最前線へと馬を駆けさせる。
誰が率いてるかは知らないが、それらを討ち取ってしまえば向こうも士気は低下するだろう。
そうすれば数が勝るこちらが押しつぶして終わりだ。
今・・・この地で敗北する事は出来ない。
私達は待ち続けなくてはいけないのだ。
その為に、戦い続けなければならない。
この戦で勝利しなくてはならない。
劉虞に買収された者達は、劉虞の意向通りに楼班に代わる単于を立てようとするだろう。
それでは駄目なのだ。
考えながら烏延は更に進んでいく。
互いがぶつかり合ってる場所まで進み、そこで烏延は信じられないものを見る。
進んでいくこちら側の兵士が、先頭の7人に押し返されていく情景だった。
白馬に跨った、純白の衣装に身を包んだ女。
黒い巨馬に跨り戟を振り回す男。
自らの武器を振るい、その男を討たせまいと奮闘する5人の女性。
その周りにいる兵も、自身らを率いる将を守ろうと戦い続けている。
これだけの戦力差に屈することなく戦っているのは見事なものだ。
だが、彼女にとってはそれはどうでも良かった。
巨馬に跨った男を守るように戦う女性の1人に見覚えがあったのだ。
数年前、楼班に暗殺されかかって行方不明になったあの人に似ている。
次期単于となるはずだった幼い丘力居を守って何処かへと去って行った蹋頓に。
「そんな・・・まさか?」
烏延は信じられない、これは何かの冗談ではないか?と思った。
彼女の姿を確認しようと、烏延は更に馬を進める。
「烏延様、お下がりください!」
兵士が喚いているが、烏延は聞いていない。戦い続けている蹋頓の姿をじっと見る。
「・・・間違いない。」
間違いない。いや、間違えようがあるものか。
7年前とは少し雰囲気が違うが、間違いなく蹋頓だ。
帰って来たのか、楼班から奪われたものを取り返すために。
「長かった。やっと・・・やっと帰って来たのか・・・!」
胸の中にこみ上げてきたものを隠しきれず、声が少し震えた。
ようやくだ。やっとこの時が来たのだ。
そうと解れば、この戦場に用は無い。
彼女は一度下がり、後方の陣に待機している難楼にもう1度伝令を出す。
内容は「機は熟した。」という一言のみ。
「兵に通達だ。我らはこれより後方に下がり難楼の部隊と合流、西へ離脱する!」
「はっ!?しかし・・・」
「後で理由を教えてやる、早くするんだ!」
「は、ははっ!」
その命令が烏丸右翼全体に伝わるのには然程時間はかからなかった。

~~~前衛部隊戦場~~~
蹋頓も戦いつつではあるが引いていく烏延の姿を確認していた。
7年前、最後に会ったときに比べて彼女も随分と大人びたように感じる。
しかし・・・穏健派でもあった彼女がどうして?
楼班に逆らえなかったか、或いはずっと機を待っていたか。
あるいはその両方か。
烏延も自分と同じ齢だ。
彼女も立場上は穏健派であったが、あの当時、年齢が16か17の少女に権限などあるわけもない。
脅威と思われる事がないから暗殺もされなかったのだろう。
烏延が穏健派・・・自分側の派閥という事を楼班は知らなかったのだろうと思われる。
そうでなければ数千からなる兵を預ける事もしないはずだ。
この後しばらくして、高順達最左翼が戦っていた烏丸兵は少しずつではあるが戦場を脱出していき、その後方に布陣していた部隊も共に西側へと離脱。
趙雲・高順隊は何が何だか解らず、しばらくその場で呆然としていた。
彼らだけでなく中央で戦い続けていた烏丸兵と公孫瓚の軍勢の全将兵は何が起こったのか解らなかった。
最初に混乱から立ち直ったのは蹋頓のいた高順隊で、次に趙雲隊が平静を取り戻す。
満身創痍の彼らであったが、隊長である高順・趙雲を先頭に烏丸前衛中央に横から攻撃を仕掛ける。
公孫瓚もここに来て、後衛部隊を温存する理由が無くなったと判断。
後方で待機していた隊に伝令を送り、ほぼ全軍を投入する。
烏丸は右翼全体がごっそり抜けたこともあり、前衛部隊が士気を喪失。
後退するも追いすがる公孫瓚の軍勢に執拗に追撃され、瞬く間に数を減らしていった。

~~~烏丸本陣~~~
「ろ、楼班様!大変です!」
兵士が本陣陣幕に息を切らせて入ってくる。
楼班は、というと呑気に酒を飲んでいた。
「何だ、騒々しい!何があった!」
「それが・・・う、右翼が・・・。」
「右翼?右翼がどうした?敵右翼を殲滅したか!」
「いえ、逆です!こちらの右翼を率いておられた烏延様と難楼様が・・・部隊ごと戦場離脱して・・・。」
最初、その言葉の意味を楼班は理解できなかった。
撤退?右翼丸ごと?
「・・・な、そんな馬鹿な!」
酒臭い息を吐きつつ慌てて楼班は陣幕を出る。
戦いが始まっても陣幕の中に居続けるという時点で・・・何と言うか総大将として駄目なのだが。
陣幕から出て楼班が目にしたのは、誰もいなくなった右翼の陣と、混乱し続ける自軍の将兵達。そして前衛部隊が猛烈な追撃をかけられ駆逐されていく様であった。。
「そ、そそ・・・そんな馬鹿なことがあるか・・・。」
(右翼丸ごと?誰がそんな命令を出した。何故俺の指示無く勝手に動いたのだ?そもそもこいつらはそれを止めなかったのか?)
いや、それよりも・・・兵の数が一気に少なくなったのが問題だ。
右翼全体で1万だが、それがごっそりといなくなった状況だ。
楼班は公孫瓚側の兵数を完全には把握していないが、それでも1万以上は出して来ているだろう。
両軍共に衝突して相当数の被害を出しているが、右翼が離脱したせいで被害が余計に大きくなった。
このままでは支えきれない。
何とかして引かなければ・・・。

~~~公孫瓚陣営~~~
公孫瓚は全軍に突撃命令を下した後、本陣に戻り事態の推移を見ていた。
物見の言葉では「敵右翼撤退」とのことだったが・・・。
理由は解らないがそのおかげで随分と楽になった。
被害は大きかったが向こうはこちらの何倍もの被害を蒙ったのだ。
大戦果、と言っても良い。
「・・・そろそろか。」
開戦から数時間。既に日が沈んでいた。
追撃を仕掛けさせたものの、兵士達の疲労が大きいからかどうも動きが鈍い。
今日1日ですべてが決まるわけではなく、相応の戦果も出せた。
頃合だ、と公孫瓚は考えた。
「兵を引き上げさせる。銅鑼を鳴らせ!」
暫くして引き上げの合図である銅鑼の音が戦場に鳴り響く。
それまで追撃を仕掛けていた軍勢は銅鑼の音を聞き、兵を素早くまとめ引き上げていく。
最初から戦闘に参加していない後衛部隊は尚も追撃をしようとしていたが、一部の烏丸兵が頑強に抵抗し諦めて引き上げていった。
危うい部分もあったが、公孫瓚はこの戦いを制したのである。


その夜、各陣の将の姿は公孫瓚の陣幕にあった。
客将だが、高順と趙雲も呼ばれていた。
今回の戦いは楼班の首こそ取れなかったが大きな打撃を与える事ができた。
公孫瓚が彼らを陣幕に集めた理由、それはこの先の方針を決める為であった。
「さて、皆。これから私達はどう動くべきかな?」
公孫瓚の問いかけに、武将達は自分なりの意見を言っていく。
一度北平に戻ったほうが良い、このまま様子を見る為に待機するべき、このまま一気に攻めるべき。
大体この3つの意見である。
が、途中から罵り合いのような雰囲気になってしまっている。
今回の戦では大した働きが出来なかったくせに偉そうな事を抜かすな、とか他にも色々。
高順らは客将という立場上自分達から口を挟むつもりは無かったし、こんな罵り合いに参加したくも無かった。
それよりも、早く抜け出して隊の再編成をしたい。
趙雲隊にせよ高順隊にせよ今回の戦いで大きな被害を出している。
趙雲隊の死傷者は100人ほど。高順隊の死傷者は60人以上。
両部隊共に大損害だった。
高順も浅手ではあるが傷が多く、立ってるだけで多少辛い。
諸将が罵り合いの様な口論をしているのを横目で見つつ、高順は趙雲にぼやいた。
「趙雲殿・・・。ここって毎回こんな状態なんですか?」
「うむ・・・。今回は特に酷いな。今回は前衛部隊が大きな働きをしましたからな。我等が受け持った敵右翼が突然瓦解したこともある。」
「勿論、こちらもそれ相応の被害を出しましたがね・・・。」
「そうですな。が、そこで好機ができた、と思えば。言い方は悪いが兵の犠牲は無駄ではなかった、というところですな。」
「そのせいで命令が出るのは遅かったとはいえ後衛部隊が出遅れた、か。」
ある程度議論を聞いていると、後衛部隊が追撃を熱心に主張している。
手柄を立て損なった、と考えているからだろう。
前衛を受け持った武将達の意見は追撃・撤退の割合が半々位か。
彼らの議論を公孫瓚は黙って聞いている。
もしかしたら、公孫瓚もどうするべきか迷っているのかもしれない。
「ねえ、趙雲殿。」
「何です?」
「趙雲殿ならどちらを選びます?追撃か、撤退か。」
高順の質問に趙雲は自分の顎を撫でる。
「ふむ、難しい問題ですな。こちらとしても被害は大きかった。しかし、敵の被害はこちらよりも数段大きい。」
「撤退派はこれ以上の被害を出したくない。追撃派は一気に戦局を決めたい、或いは手柄が欲しい。そんなところですね。」
「然り。まあ、手柄云々の思惑は考えずに置きましょう。そうなると私としては・・・。」
趙雲がここまで言ったところで、公孫瓚は高順達のほうへ顔を向ける。
「なあ、趙雲と高順の意見はどうだ?」
これは2人にとって意外なものだった。自分たちまで意見を求められるとは。
必然的に諸将の視線が2人に注がれる。
王門のように「こんな小僧どもに」と思う者もいれば「僅か数百で一歩も引かずに戦った骨のある奴らだ」と思う者もいる。
そういった色々な考えを纏った視線だ。
高順らにとってはどちらでも良い話だが。
趙雲と高順は少し顔を見合わせていたが、同時に意見を言った。
『追撃です。』と。
「追撃か。理由は?」
「このまま追い詰めるところまで追い詰めてしまえば良いのです。時がたてばまた彼らは勢力を盛り返すでしょう。」
「それに、劉虞殿の妨害・・・とまでは行かなくとも、邪魔が入ることも予想されます。楼班の首を取る好機と思いまする。」
「ふむ・・・。」
公孫瓚は悩んだが・・・しばらくして「このまま進撃、楼班の首を取る。」と宣言した。
決め手となったのは趙雲たちの言う「劉虞」の名である。
撤退・追撃、両者共に言い分はあるし、それは公孫瓚にとっても理解できる物だった。
が、やはり問題は劉虞だった。
撤退して、また出陣をしようとしても次は恐らく妨害が入る。
今回は不意打ちのような形で出撃したから止める暇も無かったのだろうが、これからは掣肘するような動きをしてくるだろう。
ならば、強気一本槍で攻めて楼班の首を取って見せれば・・・文句は出るだろうがそれ以外のことは出来なくなるだろう。
反対派は異議を唱えるが公孫瓚は頑として聞かない。
主君がそれほどの意思で決めたのならいつまでも反対と言い張る事もできず、彼らは引き下がった。
部隊の編成を終え次第、また出撃する。
決まったところで軍議は終了、諸将は自らの部隊へと帰って行った。


これと同じ頃に、高順の敷いた陣を守っていた蹋頓は兵を少数率いた女性2人の訪問を受けていた。
彼女らの名は烏延、難楼。
数年前、楼班の元から脱出した蹋頓の帰還をずっと待っていた仲間達だった。





~~~楽屋裏~~~
どうも、高順君は運が良くて負け知らずですね。あいつです。
烏延、難楼・・・誰も知らないような武将が出てきました。
実際には蹋頓を引き摺り下ろして楼班に単干の座を継承させた人々です。
ですが、楼班と蹋頓の立場を逆にしたのだから2人にも逆のことをしてもらおうと考えこのような形になりました。
二人が数千の兵を指揮する立場なのは史実での状況を微妙に反映させた結果です。
というか、1万1千で3万の兵に突撃しかけるなんて無茶。呂布とかがいれば別でしょうけど・・・w
それと、高順君は「この世界の男性としてはチート」に近いのかもしれませんね。
あいつにはこの世界の男性は基本的に一般兵士か内政官ばっか、というイメージがあったりします。
一回の戦闘で20人オーバーも倒せる時点でチートすぎるのですが。
この世界の男性で他にチートなのは・・・張任さんとかが当てはまるのでしょうね。
彼も相当優秀な人だと思います。

さて、先の展開が見えてきたと思いますけど・・・
次くらいで烏丸戦終わらせたいと思ってます。
そしてようやく黄巾ですよ・・・うん、きっとそう(自信無さげ
2話とか3話でするりと行くはずがその10倍近くかけてようやく・・・絶望した!自身の(ry


それではまた!ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第21話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/26 18:44
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第21話


高順は自分の陣幕にいた。
高順だけではない。3人娘・沙摩柯・蹋頓・田豫もだ。
そこに更に2人の女性が加わっている。
難楼と烏延。
先刻まで戦っていた烏丸軍の武将である。
高順が軍議に出かけている間に蹋頓を訪ねて来たのだという。
彼女らは一応、形式的に縄をかけられていたが抜けようと思えばいつでも抜けれるような曖昧な形だった。
高順が帰ってくるまで待った方が良いという判断からだ。
蹋頓から「今、自分は高順というお人に仕えている。」と聞かされた2人は素直に従い、大人しくしていた。
帰還してきた高順は当然驚いた。
だが、すぐに公孫瓚に伝えない。
ある程度事情を聞いてからでも遅くは無いという判断だ。
そこから、質問が始まった。
「えーと、難楼さんと烏延さんですっけ。お二人は烏丸の武将なんですよね。」
「うん。」
「そうだ。」
難楼と烏延は肯定した。
「では、ここを訪ねてきた理由は?」
「蹋頓ねーちゃがいるって烏延が。それで、軍を撤退させて、自分の目で確かめに来たの。」
「だから本物だって言っただろ。」
「んー。本物だった。」
・・・烏延はともかく、難楼は随分とノリが軽い。
凪に対しての佐和・真桜みたいな、そんな間柄かもしれない。
「しかし、貴方達がわざわざ訪ねてくるなんて。驚きましたよ。」
蹋頓は2人に声をかける。
「蹋頓が去ってから・・・いろいろな事がありました。我々は立場上、何も言う事ができず楼班側の武将に・・・。」
「ねーちゃが帰ってくるまでに、自前の兵を持とうと頑張って。そしたら公孫瓚と戦う羽目になっちゃった。」
難楼の言葉に烏延が頷き、言葉を続ける。
「我々が今負ければ、完全に劉虞の望む形で単干を据えられてしまいます。そうなる前に楼班を討たなければならない。そこで攻められてどうしようと思っていたのですが・・・。そこで蹋頓の姿を見つけて。」
「だから訪ねてきた、か。」
ふーむ、と腕を組んで高順は考える。
彼女らが訪ねてきたのは蹋頓が本人かどうかを一応確認するためだろう。
そして、本題は・・・こちらと手を組みたいとかそんなところだろう。
確認をしないとな、と高順はある程度考えてからまた2人に質問をする。
「では質問を続けます。お二人は蹋頓さんの無事を確認しに来たと仰ってますが・・・まだ他に確認したい事はありますか?」
「他・・・とは?」
「別に隠さなくてもいいと思うのですけどね。丘力居ちゃんの事が気になっているのでは?」
高順の言葉に2人はピクリ、と反応をする。
「むしろ、そちらが本命だと思っていましたが・・・。こちらとしても隠すようなものではありませんけどね。」
高順は確認するかのように蹋頓の顔を見つめる。
「あら、そんなに見つめられると困ります。ふふ・・・。」
「・・・そうじゃないんですけど。」
つか、なんでこういう流れにしたがるかな・・・って凪がこっちをむっさ睨んでる・・・!
「はぁ、じゃあ言いますね。結論から言うと無事です。北平にいますよ。」
「それは本当か?」
「嘘を言ってこちらが何かを得られる訳ではありませんしね。そうでしょ?」
もう1度蹋頓の方へ向く。
「ええ、高順さんの言うとおり。あの子は元気にしていますよ。」
「そうか・・・。ならば、これで準備が整ったという事か。」
烏延が嬉しそうに言う。
「・・・蹋頓殿、準備とは?」
「そうですね、彼女達も私と同じく・・・単干の地位を本来あるべき者に戻したいと考えているのでしょう。楼班は知らなかったのでしょうけど、元々穏健派同士ですから。」
「なるほど。」
凪の質問に蹋頓はさらりと答える。
「蹋頓、一度戻って来てくれ。蹋頓の言葉を聞けば我々の指揮下にある兵も従うだろう。」
「楼班ジジィを(規制)して、(中略)で、叩き殺してやるわ!」
なんだか凄まじく不穏当な言葉を繰り出してくる難楼に、その場にいた全員が「大丈夫だろうか・・・」と不安そうな表情になった。
「・・・。叩き殺すかどうかはともかく。提案があるのですが宜しいですか?」
「・・・提案?」
「ええ。あなた方にとっても損にならない話だと思いますよ。」
高順のこの言葉にどうしたものか、と顔を見合わせている烏延達。
蹋頓もどうするつもりなのだろう?と高順を見つめている。
しばらくして決心したのか。
「・・・提案とやら、聞かせてもらおうか。」
烏延はこう言うのだった。

~~~その後、公孫瓚陣幕~~~
「・・・さっき軍議を終えた所なのに、また来るなんて。何か用事があるのか?」
眠ろうとしたところを邪魔されたのか、公孫瓚は少し不機嫌そうだった。
高順は内心で悪い事をしたかな?と思ったがこういうことは早くしたほうがいい。
当然、公孫瓚に頼んで人払いをして貰っている。
「ええ、大事な用件ですよ。・・・3人とも、入ってきて。」
「・・・ん、3人?」
高順に促されて蹋頓、その後ろに従うように烏延達が入ってきた。
「この3人が何か?」
「ええ、話を聞いていただきたい。率直に言います。彼女達と結んでいただけませんか?」
「・・・えーと、いきなりすぎて意味が解らないんだけど?」
ジト目になる公孫瓚だが、高順は構わずに話を続ける。
「今日の戦いで烏丸で突然離脱した軍勢がいたでしょう?それを率いていた武将が蹋頓さんの後ろにいる難楼さんと烏延さんなんです。」
「へぇ・・・?」
「で、その軍勢を蹋頓さんが説得します。その上で結び、楼班を共に討ちたい。こう言ってるんです。」
「・・・いきなりな話だな。それが事実かどうか確認する術もないというのに?」
「ですが、公孫瓚殿にとっては良い機会ではありませんか?楼班の兵は減り、こちらは兵が増える。多少は楽になると思いますよ。」
「それはそうだけど。しかしなぁ。」
公孫瓚は渋るような態度を取る。
同盟、という言葉を言わないところが高順の嫌らしい所である。
やはり多少なりとも利がなければ動かないだろう。もう一押しが必要か。
「公孫瓚殿、最後までお聞きください。良い、と言うのはそれだけではないのですよ?」
「ふむ?」
「まず1つ。先ほど聞いた話ですが張挙・張純は既に死亡しています。楼班に暗殺されたと言う形でね。楼班は最悪、その首を差し出して降伏すれば命は助かるだろうと考えているようで。」
「・・・何だと?」
よし、公孫瓚殿が食いついてきたな・・・。
「偽天子を名乗った首です。この情報だけで大きな意味があるし、取れば勲功にもなるでしょう?2つ目。今日、撤退していった烏丸兵。全部で8000弱ほどだそうです。先ほど言いましたが・・・全てを説得することはできないでしょうが、結べば公孫瓚殿の兵士が増えるということになります。」
「ふむ。」
「そして3つ目。これが一番大きな要因ですが・・・楼班を倒せば烏丸の単干は一時的に蹋頓さんが継ぐのです。その後すぐに丘力居ちゃんに継承するそうですけど・・・。」
「丘力居・・・?ああ、あの娘だな。」
公孫瓚は蹋頓が連れていた幼い少女のことを思い出していた。
「はい。ここで烏丸との繋がりがあれば後々大きな徳になる。そう思いませんか?丘力居ちゃんが蹋頓さんの方針を受け継いだとします。そうなると穏健派を取り込む形になりますよね?」
「成る程な。劉虞殿は恐らく自分の意のままになる単干を仕立てようとする。それをこちらから掣肘するということか・・・。」
「そうです。それと、無事楼班を倒せば・・・。これは、蹋頓さんが言うべきですね。」
その言葉を受け、蹋頓さんはゆっくりと立ち上がる。
「高順さんの言う形で楼班を倒せた場合。我々は正式に公孫瓚殿と同盟を結びます。」
「何!?」
「復興するのにはまだまだ時間がかかるかもしれませんけど・・・何かあった場合、兵力的に支援する事も可能かと。」
「む・・・。」
確かに、これは公孫瓚にとっては悪くない・・・いや、良い話だった。
自分と劉虞の仲は正直に言って相当にこじれている。
もし、劉虞の考えどおりに彼の望む単干が擁立されてしまえば、その兵力を使ってこちらを攻める。ということは充分に有りうる話なのだ。
楼班を討てばそれは大きな勲功になる。張挙と張純の首もだ。
それに「蹋頓と結ぶ」ことに大きな意味がある。
当人が主張するように蹋頓から丘力居に単干の地位が譲られれば、それは「正統」な形なのである。
劉虞が擁立する何者かに比べればよほど説得力のある立て方だ。
その正統な単干に従う者の数は間違いなく多いだろう。
正統の単干と正式な同盟を結ぶ事ができれば。背後を気にする事もなくなり、劉虞も迂闊な事はできなくなるだろう。
蹋頓が説得して付いて来る兵士が千でも二千でも・・・これは大きな利だ。
公孫瓚は判断した。
「今は口約束しか出来ないでしょう。ですが・・・。」
「解った、蹋頓。同盟を結ぼう。」
「・・・え?」
「だから、同盟だ。そちらがきっちり約束を果たしてくれる前提だけどね?」
「も、勿論です!」
このやり取りを見て高順は内心で「よし!」と思っていた。
こういう場合の公孫瓚は随分と決断が早い。
迂闊だととられることもあるだろうが、即断即決、というのはリーダーとして重要な資質でもある。
考えるのは軍師とか、部下の仕事。
その考えを聞いて、実行するか否かを決めるのが主君の仕事の1つ。
その資質を公孫瓚は十分に持っているのだ。
(これで、こちらが勝てる確率は更に上がるだろうな。)
それから先の事を見越して話を続ける彼女達だが、そこはもう高順が関与する話ではない。
高順はそのまま陣幕を出て行く。

この同盟と、後に高順が行った「ある事」のおかげで公孫瓚の運命が微妙に変わる事になるが・・・それはまだ、当人達も知らぬ話だ。

夜が明ける前に蹋頓は烏延達を伴って出立した。
目的地は離脱した兵を待機させている場所だ。
「3日で戻って来てほしい」と公孫瓚に頼まれた為、急がなくてはいけない。
公孫瓚はこの同盟を渋るであろう部下を説得する役だ。
ただ、どういうわけか・・・。
蹋頓に着いていく事になった人々がいる。
高順隊である。
100人ほどの騎兵を連れて、荒野を走り続けた高順らは程なく烏丸兵が待機している場所に到着した。
今は烏丸兵を集めて蹋頓らが説得をしている最中である。
さすがにこれは自分達の仕事ではないと判断して、離れた位置で待機している。
時折、「うおおー!」とか雄たけびが聞こえてくるが・・・どうも、蹋頓の説得は上手く行ってるらしい。
熱気のようなものがこちら側まで伝わってくるのだ。
戦を前にした団結、とでも言おうか。
幾度も大きな戦に出た高順にとっては、身近な感覚である。

「むう、まさか俺たちまでついていく事になるとは。」
「そう仰らず。それもまた隊長の役目です。」
「せやなぁ。部下の事なんやし、高順兄さんが世話せな。」
「全くもってその通りなの。」
「ま、諦めるんだな。」
ぼやく高順に3人娘と沙摩柯はさも当然のように言った。
だが、これは不当な役目と言うわけではない。
途中で何らかの妨害があることは考慮するべきだし、蹋頓はあくまで高順の部下である。
ならば隊長として最後まで付き合う、というのは決しておかしくはない話だ。
なのだが・・・どうも、落ち着かない。
なんかすっごく嫌な予感がするのだ。
こういう時の自分の悪い予感とかは凄まじい的中率を誇る。
考えたところで蹋頓が幾人かの兵を引き連れ高順のもとまでやってきた。
「どうでした?」
「大成功です。」
「それは何よりです。従ってくれる兵の数はどれくらいになりました?」
「全員です。」
「それは何よrブフゥッ!?]
「あん、汚い・・・。」
全員って・・・凄まじいですよそれ?
8千弱の兵士ですよ?それをこんな短期間で説得って・・・蹋頓さん、何をやったんだ。
そんな表情をする高順の顔を見て、蹋頓が笑う。
「うふふ、そんな顔をしなくて宜しいではありませんか?彼らも私の意見に賛同してくれただけです。特別何かをした、というわけではありません。」
柔らかく言う蹋頓だったが、高順は心の中で「この人、魅力もチートなんだな。」と確信するのだった。
正統単干の血筋と能力は伊達じゃないってことかもしれない。
その後、また急いで公孫瓚の元へと戻っていく高順達だったが・・・その後ろに8千弱の兵士がつき従う形となってしまい、凄まじく落ち着かない気持ちを味わう羽目になった。
これが嫌な予感の正体か・・・と思う高順だったが、それは外れだった。
実際にはこの後に起こる事が「嫌な予感の正体」なのだが、それは後の話に。

その後、3日もせず帰還した蹋頓の部隊を(驚きつつも)公孫瓚は自軍に編入。
編入と言っても混成軍にはせず、烏延達に7千ほどを率いてもらって左翼に配置する。
本来なら蹋頓が全部率いるはずなのだが・・・その蹋頓はある理由から千を率いて東へと向かって行くのだが、そこに高順・趙雲の軍勢500ほども編入されていた。
そして、公孫瓚全軍1万のうち7千を中央、3千を右翼に展開。
左翼6千は、時機を見て2千ほどを烏丸本陣に進ませ、楼班が北へ逃走するのを妨害する役割がある。
これらは軍議で決まったことだが、凄まじい早さで段取りが決められた。
王門が反対しようとしていたが「うるさい!」という公孫瓚の一喝で黙り込んでしまった。
その王門は右翼前衛に配置されている。
彼に限らず、前回の戦いで後衛に回された武将は今回は前衛に回されていた。
そして公孫瓚らは北方へと進軍、烏丸軍を捕捉し攻撃を開始した。
公孫瓚・蹋頓烏丸同盟と楼班烏丸との決戦である。

ちなみに、布陣図を図にすると・・・

     楼班                        
  右翼 中央 左翼                     
   ↓  ↓  ↓ ↓ ↓                 
   ↑  ↑  ↑ ↑ ↑         
  左翼 中央 右翼
    公孫瓚                        

ごく普通の形だが。


    
    /↓
   /
  /→ 楼班                        
/右翼 中央 左翼                     
│  ↓ ↓  ↓  ↓ ↓                 
\ ↑  ↑  ↑ ↑ ↑         
  左翼 中央 右翼
    公孫瓚      

最終的にこのような形になる。

高順らはこの陣のずっと東にいるという形だ。  
彼らのいる東には遼東・・・公孫度という男が治める地がある。
そこに逃げられる前に勝負をつけるべきだと公孫瓚は考えているが、楼班が北へ逃げる事を考慮しなければいけない。
その為に回り込んでの本陣強襲をしなければいけない。
そして、逃亡する経路を押さえる高順隊。
公孫瓚の右翼が少ないのも、そのあたりを考えての事だった。


さて、高順達。
楼班が公孫瓚の目論見どおり東側へ逃げてくる、という前提を基にして勢を2つに分ける事にした。
逃げてくるであろう楼班を遮るのは蹋頓と、彼女の率いる千の烏丸兵。
高順達と趙雲の500は退路を遮る、という役割。
今回、最後に手を下すべきは蹋頓だから当たり前と言えば当たり前だ。
烏延らの話では、楼班の元にいる正規の烏丸兵は少ないのだという。
現状で楼班の兵力は1万7千ほど。前回の戦いで3~4千ほどの兵力を失った事になる。
現状では張挙らから奪った兵力1万と烏丸兵7千ほどなのだそうだが・・・どうも、その1万が役に立たないらしい。
常に後衛にいて前に出たがらないのだそうだ。
戦う気がないならさっさと降伏すればいいのだが・・・偽天子のもとで戦った兵なので、降伏しても許してもらえないと思ってるのだろう。
それは公孫瓚の気持ち1つで変わる事だ。
人の良い彼女なら「まあ、首謀者とそれを扇動した奴は死んだのだし・・・。」と許してしまいそうな気はする。
「ふむ、そろそろ烏丸と衝突したころですかな。」
太陽の昇り具合を見つつ趙雲は高順に話しかける。
「さあ、どうでしょうね。俺達は待つのが仕事ですからね。」
「おや、高順殿は伯珪殿を心配しておられないので?」
「んー・・・心配しないと言うか、心配をする必要がないと思ってるだけです。」
それは偽りの無い本心だった。
正史や演義では袁紹にボロボロにされる白馬義従だが、高順の目から見て彼らの力量は中々のものだった。
よく言えば「万能」と言えなくも無いが悪く言えばどこか尖った所が無い。
これこそは、という凄みが無いのだ。
曹操の軍勢などに比べれば装備・錬度は一歩劣る。
十分だが何か足りないような気がする。
そんな白馬義従でさえこれだけ強いのだから西涼騎兵の強さはどれほどのものなのやら、と思う。
「高順兄さん。」
物思いに耽っていた高順だったが真桜の声で現実に引き戻される。
「伝令から報告やで。「我、優勢に事を進めり。」やって。」
「そっか、ご苦労様。伝令さんを休ませて上げてね。」
「ほいな。」
高順らがこんなやり取りをしている時、公孫瓚は烏丸左翼を敗走させていた。

実際、公孫瓚の軍勢は優勢だった。
まず左翼に配置した烏丸だが、彼らは公孫瓚が思った以上の働きを見せていた。
今まで何度か烏丸と戦ってきた公孫瓚だったが、「これがあの烏丸か?」と思うほどの勇猛さを見せ付けた。
これが本来の彼らの戦闘力だった、ということだ。
楼班は部下の本来の力を全く引き出せていなかった、それだけなのだろう。
指揮官が有能であれば烏丸は強い。
それを如実に表した戦いだった。
楼班側は何故同じ烏丸兵が公孫瓚に味方しているのかと混乱をきたした。
そこへ追い討ちをかけるように宣言をしたのだ。
「蹋頓様がご帰還なされた!」と。
それが嘘か本当かは一兵士ではわからない。
何故目の前にいる同じ烏丸兵は公孫瓚に味方しているのだろう?
もしかして本当に蹋頓様が?
その疑念が広がり更に混乱の度合いを深めていく。

左翼が思った以上の働きを見せている事に公孫瓚は感心していた。
蹋頓、という名前を出しただけであれだけの混乱を見せる。
蹋頓という女性が烏丸でどれだけの影響力を持っているか。
それを見せ付けられる形になった。
右翼は少々苦戦しているようだが、すでに敵左翼を崩した烏延率いる左翼部隊が少しずつ中央部隊へ突進している。
そして楼班本陣を強襲する難楼も手筈どおりに事を進めているようだ。
このままいけば中央部隊も崩れ、右翼へ救援もいけるだろう。
そのまま楼班を東へ向かわせれば蹋頓も本懐を遂げる事ができる。
「蹋頓・・・か。」
彼女が単干になれば、お互いにとって良い関係が築かれるだろう。
敵中央部隊の動きを見つつ、勝利した後のことを考え始める公孫瓚だった。

~~~高順達の待機場所~~~
「・・・来ないの。」
「まだ日は落ちてないぞ?しっかりを気を張れ。」
待ちくたびれた感のある沙和を凪は注意した。
「うー。でも待ちくたびれたの!」
「それは根性が足りないだけだ。」
「でも、日の当たらない岩場でじーーーーっとしてるのは暇なの・・・。」
「・・・それは私も思うが。」
実際、彼らが待機をしている時間は相当長い。
気を抜かないようにしなければならないが長時間気を張り詰めておく、というのは難しいものだ。
高順らから更に東に離れた蹋頓は目を閉じている。
仇敵である楼班を討つ、という思いが彼女を昂ぶらせているのか。
それともその昂ぶりを押さえつけようとしているのか。
そこまでは解らないが、蹋頓はじっと待ち続けていた。

~~~数刻後~~~            
「ハッ・・・ヒッ・・・」
楼班は供回り300ほどに守られ戦場を離脱、東の遼東を目指していた。(これは公孫瓚の思惑通りに行った
「くそ、公孫瓚めが・・・。何故これほど執拗に追撃をしてくる・・・?」
偽天子と組んで乱を起こした以上追われて当然なのだが、こういった自己中心的な人物にはそのあたりは解らないようだった。
その上、烏延らが兵士を引き連れて公孫瓚に投降している。
実際には投降ではなく同盟なのだが楼班がそのあたりの事情を知るはずもない。
烏延らが良いのであれば、と考え公孫瓚に使者を送り降伏の意思を伝えたがあっさりと拒否されてしまい、逃げる以外の手段が無かった。
兵を失い、行き場所も失い・・・今の楼班は単干ですらない、ただの愚かな老人だ。
その楼班は更に東へと走っていく。
馬も無い徒歩での逃避行だ。
どれだけ逃げたか、それすらも解らないがこのままなら何とか逃げれそうな気がしていた。
いや、何とかして逃げなくては。
単干になって権力を振りかざしたい。その個人の欲望から始まった暗殺劇。
先代の単干をはじめ、多くの人を殺しやっと得た地位だったのだ。
遼東の公孫度に支援を求めてもう1度烏丸を、そして単干の座を取り戻すのだ。
だがそこで。
前方で烏丸兵が列を成して待機しているのが見えた。
「お、おお・・・助かったぞ・・・。」
味方だと思って安堵した楼班だったが、すぐに知ることになった。
彼らは自分の命を狙った「敵」であるという事を。
兵たちが一斉に自分達を囲うように動き始めたのだ。
それを見た楼班が取り乱す。
「な、何事だ!?楼班を知らんか!?単干だぞ!」
逃げようと後ろを見れば、恐らくは公孫瓚の部隊だろう。
500ほどの騎兵が退路を塞ぐために動き始めていた。
「くっ・・・ぜ、単干に逆らうと申すか、お前ら!?」
楼班を囲む兵士達は応えることなく武器を構え、威圧をする。
それに対して、楼班も、楼班の率いる兵士も狼狽するばかり。
そこへ楼班らを取り囲む兵士達が道を開ける。
無論楼班の為ではない。
後ろから歩いてきた女性に道を開けたのだ。
その女性の名は蹋頓。
先代の単干を仮に継承した人である。
「あら、お久しぶりですね。単干様?」
辛らつな物言いをする蹋頓に、楼班は怒りの表情を向けるが・・・すぐに真っ青になった。
「な、蹋頓!?何故お前がこんなところに!?死んだはずではなかったのか!」
「驚くのも無理は無いでしょう。暗殺したと思った女が生きていたのですから。暗殺者を買収した甲斐があったというものです。」
「なっ・・・。」
蹋頓は楼班の周りにいる兵士に「下がりなさい」と命令を下す。
その言葉で兵士達は武器を捨て、その場で跪いた。
最初からそのつもりだったのかどうかは解らないが、蹋頓の持つ静かな気迫に気圧されたようにも見えた。
「き、貴様ら!?立て!戦え!」
楼班が叫ぶが、その声に応える者は誰一人としていない。
これが蹋頓と楼班の差なのだろう。
恐らく、蹋頓は単干代理であった時代に多くの人々に慕われていたのだろう。
政治、或いは武の才覚を見せたのだろうか。
彼女を知る人々はその才能まで理解していたのかもしれない。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか。」
「ま、待て!?お前は夫を殺すというのか!?」
そう叫んだ楼班の耳を蹋頓は槍の穂先で貫いた。
最初何が起こったのか解らない楼班だったが、すぐに耳から血があふれ出し叫び声を上げてその場をのた打ち回る。
「いっ・・・ぎゃああああぁっ!?み、みみみみ、耳が!血がぁっ・・・ぎあぁあ・・」
「夫?あなたが私に夫として何かをしてくださったことがありました・・・?」
「ひっ・・・ひぃぃ・・・耳がぁぁ・・・。」
「あなたが私にした事。私の兄を謀殺し、近しい人々を次々に死なせて・・・。私から大切なものを奪っていった!それが夫?笑わせないで!」
「ひっがぁ・・・ごめ、ごめんなさひ・・・。」
「うるさい!」
「ぎゃがぁっ!」
蹋頓は引きずり倒した楼班の顔を思い切り蹴り飛ばした。
「た、頼む・・・こ、これをやる、だから許して・・・。」
痛みと涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした楼班は持ち運んでいた2つの桶を差し出した。
中には塩漬けにされた張挙と張純の首が入っているのだろう。
それを見せられた蹋頓は怒りでどうにかなりそうだった。
たとえ一時的ではあれ、単干を名乗った者がここまで命乞いをするとは。
蹋頓は桶の中身を見ることもなく、怒りに任せて桶の1つを蹴り飛ばした。
がごっ、という音が響いて凄まじい勢いで桶が飛んでいく。
その先には高順がいて・・・

そのまま高順の頭に「すぽっ」と。
逆ホールインワンを達成したのだった。







「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
沈黙が辺りを支配する。
塩と生首の入った桶を頭からすっぽりと被った高順。
それを見て硬直する兵士達。
そして・・・
「のおおおおおおっ!?かぶった!中身かぶっt生首きもっ!!!?」
「ぎゃあああっ!?塩こっち飛んできたの!?気持ち悪いの!」
「汚なっ!高順兄さんこっちこんといて!?」
「おい、まるで隊長が汚いみたいな・・・ああああっ!?」
塩やら何やらを思い切り引っかぶった高順と、その周りで大騒ぎする3人娘達。
沙摩柯と趙雲は高順を盾にする形で後ろに下がったため何1つ被害を受けていなかった。
「た、隊長!落ち着いてください!すぐに取りますから!」
「ああああっ!誰か、早く取ってぇぇぇぇぇえぇぇっ!!」
「お、おい、誰か!隊長が大変だー!?」
楽進や、兵士までもが混乱しおたついている。
先ほどまでの緊迫した空気が一点、一箇所だけ緩い空間が作り出されていた。
流石に蹋頓もこれは不味いと思い、心の中で「ごめんなさい・・・」と高順に謝っていたが。
それはともかく、楼班はまだ命乞いをしていた。
どうか、どうか命だけは・・・。という言葉を繰り返している。
そんな楼班を見下していた蹋頓は、自分の中の怒りが不意に冷めていくのを感じた。
こんな男に、兄は、仲間は殺されたのか。
こんな男のせいで私と丘力居は7年も苦しんだのか。
自身の実力を弁えぬ男が無用な戦いを引き起こして、沢山の同胞を死に追いやったのか。
多くのものを引き換えにして、代価として得るのがこんな男の命なのか。
それを思うと、不意に空しくなってきた。
「・・・。1つ、選ばせてあげますよ。」
楼班を見下ろしたまま、蹋頓は語りかける。
「へっ・・・?」
「誇りある自決か。それとも私の手で一瞬で死ぬか。好きなほうを選びなさい。」
この言葉に楼班は震え上がる。
「い、嫌だ・・・死にたくない・・・。」
「ならば手足の腱を切り、目と喉を潰して雍狂の地に放り捨てられるか。死ぬよりも苦しいでしょうね。」
「う・・・。」
「さあ、どちらにしますか。選びなさい。」
この言葉に自棄になったか楼班は剣を抜いて立ち上がり、蹋頓に向かっていく。
「うわあああっ!」
雄叫びと共に斬りかかるが、蹋頓は慌てる事も無く槍を横に薙ぐ。
ピゥッ、という音が聞こえた瞬間、楼班の首が胴から刎ね飛ばされていた。
数瞬後、身体が崩れ落ちほぼ同時に刎ねられた首も地に落ちた。
その光景を見ていた誰もが声1つ出さずに立ち尽くす。
静寂の中、蹋頓は物言わぬ死体を見下ろしていた。
感情など何処にもない、そんな表情で。
そんな表情を見せる彼女のことが心配になって、(桶を取った)高順は蹋頓の側へと歩いて行く。
いや、高順だけではない。
3人娘も、沙摩柯も、趙雲も。
今まで見た事の無い彼女の無機質な表情に誰もが心中に不安を抱いたのだ。
「蹋頓さん・・・?」
「・・・?何ですか?」
高順の呼びかけに応えた蹋頓は小首をかしげていた。
「どうしました?」とでも言うように。
もしかして、自決でもしようとしたのではないか、と不安に思っていたがどうもそうではないようだ。
そして、蹋頓は再び楼班の死体を見つめる。
「人を死なせる覚悟はあっても自分が死ぬ覚悟が無い。最後の最後まで愚かな男だった・・・。」
「・・・。」
彼女の言葉は高順にとって辛い物だ。
高順も「自分の死亡フラグを折る」ことを目的にはしているものの―――
その為に人を殺して来た。だからこそ今この場所に立っていられる。
蹋頓の言葉を借りれば、高順もまた「死を恐れる愚かな男」なのである。
「さあ、帰還しましょうか。公孫瓚殿がお待ちになっているでしょう。」
高順の心中の懊悩など全く気がつかず蹋頓は努めて明るく言う。
そして、少し。本当に少しだけ遠くの何かを見つめるような表情をする。
「兄上、皆。敵は討ちました。終わりましたよ・・・。」
落ちかけていく夕日を見やり、蹋頓は逝った人々のことを思い、静かに呟くのだった。











~~~楽屋裏~~~
俺・・・土日でもう1度更新できたらこの作品打ち切るんだ・・・
嘘ですゴメンナサイあいつです。(挨拶

このような駄作品を読んでいただいている皆様の中には「(ある程度)シリアスにやってんのに無駄にギャグ入れるなよ」と感じられる方もいらっしゃると思います。
これに関してはゴメンナサイ、としか言いようがありません。
シリアスが続くのがあいつには耐えられないのです、アレルギーです(ぉ
しかし、生首はいった桶をかぶるとは。
本気でかっこ悪いですね、高順くん。
それともう1つ、本文で出てきた「雍狂の地」ですが・・・
WIKIのをそのまま転載します(ナヌ

「雍狂の地というのは、山はなく、砂漠と水沢と草木が生えるばかりで、マムシが多く、丁令の西南、烏孫の東北に当たる。そこに追いやって苦しめるのである。」
こんなとこに手足と目を壊されて放り捨てられたら・・・やはり、一思いに死んだほうがマシ、なんでしょうね。


さて、北平烏丸編、やっとこ終わりが見えてきました。
次で烏丸編も終了です。・・・うん、きっとそう。
その次に黄巾がやってきますが・・・どうなることやら。

それでは、また次回にお会いしたしましょう。(・×・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第22話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/28 21:14
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第22話

楼班を討ち、張挙・張純の首も取った公孫瓚は意気揚々と北平へ帰還した。
公孫瓚はすぐに3者の首を洛陽へ送る。
その首は「天子を僭称し後漢朝へ反逆した罪人」として晒し首にされるであろう。
こうして、楼班・張挙の起こした乱は終結。
僅かな時間ではあるが北平は平和を取り戻す。
この乱を(武力を用いて)ほぼ独力で押さえた公孫瓚の声望は高まった。
後漢朝は公孫瓚を中郎将に昇進させた上で都亭侯に任じてその功績に報いたのだった。

~~~北平・政庁のとある一室にて~~~
「えー、それでは。今回も無事に勝利して全員生きて帰って来れました。それら諸々を祝しまして・・・。」
『乾杯!』
杯を掲げて中に満たされている酒(高順や子供らは水)を飲み干す。
その一室にいるのは高順・3人娘・趙雲・沙摩柯・蹋頓・丘力居・臧覇。そして閻柔と田豫も。
彼らは戦勝祝いを行っていた。
本来ならば酒場を借りたかったが、今頃同じように祝杯を挙げている兵たちに先を越されてしまい場所が無かった。
そこで、無理を言って公孫瓚に全員が入れるような部屋を1晩だけ貸してもらう事にしたのだ。
その公孫瓚は現在他の部屋で自軍の主だったものと宴会をしている。
「遠慮せずに参加すればいいじゃないかー。」とぼやいていたが、高順らは客将という身分だし、蹋頓以外は主だった戦績を挙げているわけでもない。
あれだけの戦力差に退かず、一人で何十人と打ち倒したのだからそんな事もないと思うが名のある将を討った訳でもない。
何より、蹋頓や丘力居を連れて行くと王門が何をしてくるか解らない。(ちなみに王門は烏丸との決戦の折、突撃した瞬間に落とし穴に嵌って身動きが取れないまま戦が終わったらしい)
そんな理由があって断りを入れていた。
「なーんやぁ、高順にーさん・・・全然飲んどらへんなー。」
「んー、お酒に弱いって前に言ってたの。」
「そんなん関係ないない。飲んでしもたら・・・あれや、喉元過ぎれば何とやら、や!つーわけで、飲め。」
「・・・何が何だか良くわからないよ、真桜。しかも何で命令口調?って、やめてくれ、俺酒駄目だから!」
「そうですぞ、無理やりは良くありませぬな。自発的に飲むように追い詰めればよいのです。」
「何か不穏な発言をしている人が!?」
いきなり酒に呑まれて真桜は高順に絡みだす。
思い切り腕を肩に回し、高順の杯に酒を注ごうとしている。
別段悪気があるわけでもなく、単純に酔っ払っているだけだ。
星は酔っているわけではないが、高順を弄る事が楽しいからか、こういった話題には自分から参加してくる。
そんなやり取りを見て、凪がやんわりと止めに入る。
「おい、真桜。隊長は酒が駄目だって前から言ってるだろう。沙和も見てないで止めろ。あと、星殿も!」
「えー、面白いから止めたくないの。」
「せや。酒っちゅーもんは飲んで呑まれての繰り返しで強くなるもんや。つうわけで飲めー。飲むんやジョー。」
「・・・俺は下戸なの。つかジョーって誰だよ・・・。」
はぁ、と高順はため息をつき周りを見る。
閻柔と田豫は沙摩柯、蹋頓に異民族の話を色々聞いてるらしい。
自分達の知らない文化を聞いて目を輝かせている。好奇心旺盛なのだろう。
そして丘力居達は・・・。
「にゃはははははは、丘力居ちゃんが6人いゆ~~~・・・。」
「うふふふふう・・・高順にーちゃんが蹋頓おねーちゃんと・・・うふふふふふ・・・・・・。」
完全に酒に呑まれていた。
「おおおおい!誰だ、この子達に酒飲ませたのー!?」
「うちが飲ませた(キリッ」
「あほかああああっ!?」
こんな感じで、割と楽しくやっている高順達であった。

夜も更け、ほぼ全員が酒に呑まれて床で寝たり自室に引き上げていく頃・・・高順は蹋頓に誘われて「飲み直し」をしていた。
蹋頓は自分の杯に注がれた酒をつーっと飲み干す。
(この人も酒豪だよなぁ・・・。これで何杯目だろう。)
高順の元には酒に強い人ばかり揃っていた。
沙摩柯も異様に強いし、3人娘や趙雲、閻柔や田豫も相当なウワバミだ。
自分一人が酒に弱い。
そんな理由もあって、本来ならば「飲み直し」など絶対に受けないのだが、今回は受けるだけの理由があった。
蹋頓と丘力居。
彼女らと別れなければならない。
理由など考えるまでもない。
丘力居は次代の単干に。蹋頓はそれまでの中継ぎとして。
彼女達は自身の責務を果たすために烏丸へと帰らなければならないのだ。
今も烏延と難楼が蹋頓らの帰りを待ちわびている。
本来であれば蹋頓らはそのまま残留するべきであったが、本人達と高順らの希望によって北平へ帰って来た。
明日になれば、烏延らが手配した1000ほどの兵が迎えに来るだろう。
公孫瓚との同盟云々はその後の話だ。
今回の酒宴は蹋頓達の送別会、という側面があった。
その為に付き合っているのだが・・・一向に潰れない。
高順は果実酒を口にしているが、2杯ほどで酔いが回ってしまって上手くものを考える事ができない。
「うーっ・・・よ、酔いが醒めない・・・。」
「ふふ、本当に弱いですね。」
「皆が強すぎるだけです・・・。」
高順の言葉に笑いながら頷く蹋頓。
「さあ、まだ潰れないでくださいね。この一杯が最後なんですから。」
「うぇ?最後?」
「ええ。最後です。」
そう言って蹋頓は高順と自分の杯に酒を注ぎ始める。
「これは誓いの杯。貴方達と私達がいつの日にか、再開をする。その約束のための誓いの杯です。受けていただけます?」
「・・・。」
そんなことを言われれば断れる訳がない。受けるのが筋と言うものだろう。
高順も気持ちを切り替え、その杯を受け取る。
「いつか必ず。」
「またどこかで出会うために。」
そう言って二人は杯を掲げて一気に飲み干す・・・はずだった。
少しだけ酒を口に入れた高順が咳き込んだのだ。
「うぉ、げほっ、げほっ!?こ、このお酒・・・老酒!?蹋頓さんこんなのをすいすいと飲んでたの!?」
「・・・ぷは、あら、飲み干してないではありませんか?」
少し不満そうな表情を見せる蹋頓。
「こんな強い酒飲めませんよ!」
「ふぅ、仕方ありませんね・・・。」
そう言って蹋頓は高順の杯を奪い注がれた酒を口に含む。
そして・・・








高順に口付けた。
「・・・!?」
「んむっ・・・ちゅふぅ・・・」
蹋頓は高順の頭を両手で掴み、逃げられないようにしてそのまま口移しで高順の口の中に酒を送り込む。
何が起こったか解らない高順はそのまま老酒を飲み込んでしまい・・・すぐに昏倒した。
「・・・あら?」
「うゅぅうああ・・・さ、サボテンの花がぁ・・・うぐっ・・・。」
「ここまで弱いなんて・・・。」
これでは誓いの杯というか、誓いの口付けである。
まあ、仕方が無いか。
他にも色々と楽しみたかったのだけど。
思い直し、蹋頓はまたチビチビと酒を飲み始めた。
彼女は楼班のもとから脱出した後の数年間の事を思い返していた。
幼い丘力居を連れて北平まで逃げ延び、そこで公孫瓚と出会った。
そして徐州まで逃れ・・・地獄の日々が始まったのだ。
異民族と言うだけで差別され、働く場所さえ満足に得られない。
沙摩柯のように武勇を発揮できる場所で働く事ができればよかったのだろうが、その時はまだ丘力居が赤子である上、傍を離れにくい。
もし自分が働けなくなるような大怪我を負ってしまえば・・・それこそ丘力居を養う事が不可能になる。
いつの日か兄の仇を討つ。
何があろうと、例え泥をすする様な真似をしてでも生き延びなくてはいけない。
そして彼女は身体を売る事で生計を立てた。
どうしても安く買われてしまうのは仕方が無い。
だが、その7年間で心も身体も磨り減っていった。
夜中に丘力居が寝付いた後、どうして自分がこんな思いをしなければならないのか、と涙を流す事も多々あった。
売女と蔑まれ、石やら何やらを投げつけられ傷つけられる事だってあった。
傷ついた身体を信念だけで引き摺って、ボロボロになっても彼女は働き続けた
なんとか丘力居も自分も生き延びる事はできたのだが相当に無茶をしすぎたのか。
蹋頓の身体は女性としての機能・・・子を成す能力を完全に失っていた。
女性としての幸せを得る事もできないことを理解した蹋頓は自分の人生に絶望感を覚えた。
近くに同じような境遇の沙摩柯がいなければ。
彼女と友人になっていなければ蹋頓はもっと早くに潰れていただろう。
高順達と出会うきっかけを作ったのも沙摩柯だ。
廃屋で、文字通り丘力居と身体を寄せ合って過ごしていた蹋頓は「いつまでこんなことを続ければいいのだろうか・・・。」と、鬱々とした思いを抱えて眠りに着こうとしていた。
そんなときに沙摩柯がやってきたのだ。
「我々のような異民族でも差別しない奴がいる。お前の体のこともあるし、丘力居だってこのままでは死ぬかもしれない。騙されたと思って一緒に来ないか?」と。
蹋頓はこの数年間で男性に対しては人間不信に近い感情を持っていた。
自分の身体を壊されたのだから当然と言えば当然だ。
しかし、沙摩柯の言う事も解らないではない。
このままでは自分はともかく、丘力居がどうなるか心配だった。
考えた末に、一緒に行く事を決めた。
そして蹋頓は高順達と出会う。
彼らとの暮らしは、蹋頓にとって久々の人間らしい暮らしだった。
最初こそ警戒をしていた蹋頓も、彼らに悪意も邪気もないと理解してすぐに本当の家族同然の仲になっていく。
誰も自分達を差別せず、同じように食事をして、肩を寄せ合って眠りに着く。
たったそれだけの、人としての当たり前の生活。
蹋頓はその当たり前を7年もの間、完全に忘れていた。
丘力居も高順達によく懐いていたし、たまに高順の寝所に入り込んで彼を困らせたりと歳相応の少女らしい振る舞いをしていた。
彼らと過ごした半年程度の時間は、彼女の人間らしさを十分に取り戻していたのだ。
そして今、おかしなことに自分は大願を果たしてここにいる。
形として高順らを利用してしまうような流れになってしまった事が心苦しい。
考えつつ、蹋頓は酔いつぶれて眠ってしまった高順の髪を、何とはなしに撫でてみる。
自分はよく高順に気があるような発言や振る舞いをして彼を困らせている。
彼の初心な反応を見るのが好きだったし、それに反応する凪を見て楽しんでもいる。
だが本当に彼に気があるのか無いのか?と言われればどうなのだろう?
あるか、無いか。どちらと聞かれれば・・・恐らくは「ある」のだろう。
彼のどことなく子供っぽいところや、普段は駄目な人なのに戦になると割と頼りになるところとか。
そして、彼の優しさにも惹かれるものがある。
ただ、内心で恐れるものがあってそこで踏ん切りがつかない。
子を残す事ができない身体で彼と関係を持ったところで一体何がどうなるというのか。
嫌われるのではないだろうか?
どうもそんなことを考えてしまうのだ。
だが、いつか自分で決めなくてはいけないときは来る。
逃げる訳ではないが、まだ自分の気持ちは保留にしておこう。
きっと、遠くない未来に彼らと再会を果たす筈だ。
その時までに・・・自分の気持ちを整理しておこう。
そう考えた蹋頓は、高順の隣に寄り添うような形で床に寝そべった。
朝起きた時の高順の反応が楽しみだ。
愚にも着かぬことを考えて、蹋頓は目を閉じて眠りについた。



明朝、高順は蹋頓の胸の中で窒息死しかかっているのを凪に見つかり活を入れられていた。(云われない暴力的な意味で


~~~北平、城門にて~~~
烏延が手配した烏丸兵1000人ほどと難楼が蹋頓と丘力居を迎えに来ていた。
高順達は勿論、公孫瓚まで蹋頓と丘力居を見送るためにわざわざ足を運んでいた。
「元気でな、蹋頓。」
「あなたも。高順さん達のことを頼みました。」
「言われるまでもないな。」
蹋頓と沙摩柯は拳を叩き付け合う。
丘力居も臧覇とまた会う約束をしていた。
3人娘も、他の皆も、気持ちは変わらない。
そこへ、難楼が「お二人とも、そろそろ・・・。」と遠慮がちに言う。
「ええ、解りました。・・・それでは皆さん。またお会いしましょう。」
そう言って蹋頓は馬に乗り前に丘力居を乗せようとする。
だが、そこで高順が「あ、ごめん。少しだけ待ってて。」と言い丘力居を呼び寄せる。
「どうしたの?高順にーちゃん・・・?」
「ん、これを渡し忘れたと思ってね。はい。」
そう言って高順が手渡したもの・・・それは木で出来た剣。木剣だ。
「前に買い物に行ったときに欲しがってたよね?それで買っておいたんだけど・・・渡そうと思ってて忘れてたんだ。」
高順は丘力居の前でかがみ込んで同じくらいの目線にあわせる。
元気でね、と木剣を渡して頭を撫でる。
そこで、我慢していた糸がぷっつり切れたのか・・・丘力居はぽろぽろと涙を流し始める。
「え、ちょっ!?なんで?何で泣いてるのー!?」
「あー、高順にーさんが女の子泣かしたー。」
「泣かせたのー。」
「ふむ、かような幼子まで・・・罪な男ですな。」
「お前ら・・・。」
「解ってて隊長を困らせてるだろ・・・?」
そんな周りの混乱など気にもせず、丘力居は高順に聞いてくる。
「また・・・会えるんだよね?」
「・・・。」
この戦乱の時代。死はすぐ身近にある時代なのだ。
無事でいられる保障など何処にもない。
これに答えるのには相当勇気が要る。
高順という人物の最後を知っているだけに、約束などしない方が良いのかも知れない。
しかし。
「うん、きっと会えるよ。」
「本当に?」
「ああ、本当だ。平和な時代になったら。必ずまた会える。」
「・・・うん。約束だよ?」
「ん、約束だ。」
高順はもう1度丘力居の頭を撫でる。
丘力居も、涙を流さなかった。



こうして蹋頓達は自分達の居場所へ帰っていった。
だが、彼女達の戦いはまさにこれから始まるのだ。
烏丸を立て直すために。平和な時代のために。そして。
約束を果たすために。





蹋頓らと別れて数週間後、北平を訪れる集団があった。
3人の少女を筆頭にした100人ほどだ。
「ふぇ~、やっと着いたね~。」
胸の大きさに比例して頭の軽そうな少女が呟く。
信じられないが彼女がこの集団を率いているのだろう。
「そうかー?けっこう早く着いたと思うのだ!」
「早くかどうかはともかく・・・。公孫瓚殿にお目通りをしなくては。」
それに追随する二人の少女。
1人は・・・なんというか、普通のお子様だ。
だが、その小柄な身体には不釣合いな大きな旗のようにも見える矛を抱えている。
もう1人は美しい黒髪をポニーテールのような形で纏めており、手に持つ槍・・・いや、槍ではなく青龍刀だ。
その青龍刀を握る手に力を込める。
どちらかと言えば、この黒髪の少女のほうが統率者として相応しい気迫を持っている。
「うん。白蓮ちゃん元気にしてるかなー。」
「それも会えば解るでしょう。さ、行きましょう、桃香様。」
桃香と呼ばれた少女の名は劉備、字を元徳。
黒髪の少女は関羽、字を雲長。
幼い少女は張飛、字を翼徳。
後に多くの仲間に支えられ益州にて蜀漢を建ち上げる3人の義姉妹たち。
そして正史では呂布に死刑宣告も出したも同然の・・・高順にとっては唾棄すべき存在。
そんな彼らの出会いがすぐそこまで迫っていた。







~~~楽屋裏~~~
最初はただの弱気なお姉さんだったのに!明らかに性格変わってるよ!責任者出て来い!・・・本当に日曜日に1話UPしてしまったあいつです。

今回は誰も「知りたくねぇー!」な蹋頓さんの過去話がメインでした。
・・・・・・なんでこんなへヴィーな過去になってしまったか・・・あいつにも全く解りません。
おかしいなぁ、なんか1人歩きしてるよ蹋頓さん。
ですが子を残せないって・・・。
正直、あいつは嫌な話が大嫌いです。
からく○サーカスの作者様ではありませんが「嫌な話が書けない」のです。
なので蹋頓には、どこかで、何らかの形で救済措置を・・・と考えています。
・・・できるのかなぁ(遠

さて、ようやく恋姫本編の始まり辺りまでやってきました。
ちょっと時系列が狂っているかもしれません。
もしかしたら本編よりも早く3姉妹が到着したのかも。このシナリオでは影響ないのですが。
で、このときの公孫瓚の兵力は1万以上です。
しかし3姉妹が到着した後の賊征伐では3千しかいませんでした。
このあたりの統合性が取れていないのは不味いと思うのですが・・・
連戦につぐ連戦で兵士が消耗していた→義勇軍微募→その兵力が3千でした とでも思ってください。
本編に沿って兵力とか計算してたらそれこそ(ry
そういえば本編で張飛の字、なんていいましたっけ・・・翼徳ですっけ。
今回は益徳にしましたが「翼徳だろjk」になったら・・・まあいいや(おぃぃ

あと、高順のいう「前に買い物~」は、ゾウハと丘力居のことを忘れてたときの約束を果たすための買い物です。
こんな伏線誰もわからないでしょうな。説明も無いですし(遠


それではまた、次回でお会いしましょう。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第23話 いきなりしゅーせーい。(ズゥン
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/29 18:19
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第23話

~~~北平・政庁にて~~~
侍女に案内された劉備らは公孫瓚との対面を果たしていた。両者共に友人であるし、100人程度とはいえ兵士を引き連れている、という理由であっさりと面会がかなったのだ。
「桃香!ひっさしぶりだなー!」
「白蓮ちゃん!久しぶりだねー♪」
わざわざ玉座(?)から立ち上がり、公孫瓚は劉備を出迎える。
「蘆植先生のところを卒業して以来だから・・・。もう3年以上もたつのか。はは、元気そうで何よりだ。」
「白蓮ちゃんこそ元気そうだね♪それにいつの間にか太守になって。中郎将になった上に都亭侯まで送られたって聞いたよ?凄いなー。」
まるで自分のことのように喜ぶ劉備に公孫瓚は恥ずかしそうに頬をかく。
「いやー。別に私の力だけでなったわけじゃないし。それに、ここはまだ通過点だ。こんなところで止まるつもりは無いぞー?」
「さっすが秀才の白蓮ちゃん。言う事が大きいなぁ。」
「ま、まぁこれくらいはな。それよりも桃香は一体何をしてたんだ?連絡が取れなかったから心配してたんだぞ?」
「んっとね、あちこちでいろいろな人を助けてたの。」
「ほほぉ、それで?」
「それでって・・・それだけだよ?」
劉備はきょとんとして言い返す。
「・・・はぁぁぁぁぁっ!?」
「ひゃっ!?」


こんなやり取りをしている公孫瓚らを見て、末席にいた高順は隣にいる趙雲にぼそぼそと話しかける。
「趙雲殿。あの人一体何者でしょう?」
「さて、なんでも伯珪殿のご友人だとか。」
「・・・そりゃ、真名で呼び合ってるんだから友人でしょうね。しかし、公孫瓚殿のご友人といったら・・・」
実を言うと、この時点で高順には誰か察しがついていた。彼女は・・・恐らくだが劉備なのだろう。第一印象ではどうも頭の中身が緩そうなタイプに見えるのだが。
しかし、油断をするべきではない。。どこぞで「乱世の道化師」と呼ばれるような人なのだ。彼自身はそこまではいかなくても「乱世のペテン師」だろうとは考える。
何せどこの陣営に行っても迷惑ばかりかけるような人物だ。公孫瓚には特に損になるような行動をしている訳ではないが、袁紹・曹操・劉表・劉璋と渡り歩いてその全ての陣営に疫病神のような形で関わっている。
呂布も、自業自得ではあるものの劉備に死刑宣告をされたも同然の形で処刑されたのだ。自分にとっても警戒するに越した事はない。
そんなことを考えている内に劉備は公孫瓚に関羽、張飛のことを紹介していく。
張飛はまだわからないが関羽は高順から見ても凄まじい手練に見える。なんというか、今まで戦ってきた相手とは比べ物にならない闘気のようなものを感じる。
趙雲も同じ事を考えているらしく、彼女らの一挙手一投足を見逃すまいと注視している。
そこで高順の後ろにいた干禁が話しかけてくる。
「ねぇ、高順さん。」
「ん?どうかした?」
「あの関羽って人・・・なぁんか気に入らないの。」
「へ?なんで?」
「よく解らないけど・・・う~、なんだか好きになれそうに無いの・・・。」
そこで高順は「ああ、そういえば史実でも演義でも干禁は関羽にボコボコにされてたんだっけ」と思い出した。
そのせいで死後も不名誉を蒙ったのだから干禁にとっては天敵もいいところだろう。
「まあ、我慢しなよ。俺だってあの人たちは微妙に気に入らないけど。第一印象で決め付ける事もないよ?」
「う~~~・・・。」
そう言いながらも高順は劉備たちを第一印象で決めかかっている。
まだ不満そうな干禁はさておいて、高順は公孫瓚らの話を聞いていた。
「で、桃香が私を訪ねてきたのは旧交を温めに来た、というわけでは無いと思うのだけど・・・。本当のところはどうなんだ?」
「うん、白蓮ちゃんが烏丸とか盗賊征伐をするって聞いたから私達も力になれないかな、と思って。」
「へえ、そうだったのか。それはあり難いな。兵の数は・・・実は烏丸と戦った後だからそれほど多くはないのだけど、指揮官はいくらでも欲しいからな。聞いた話だとけっこうな数の兵を連れて来たらしいじゃないか?」
「あ、う、うん。沢山いるよ、兵隊さん!」
「そうかそうか。・・・で?」
公孫瓚は見透かしたような表情で意地悪く劉備を見つめる。
「で、でって?何かなぁ・・・。」
「本当の兵士はどれくらいいるんだ?」
「うぇ・・・そ、それはぁ・・・。」
言葉に詰まる劉備を見て公孫瓚はやれやれ、と苦笑する。
「ふふ、桃香の考えてる事くらいお見通しだ。だけど、私にそういう小細工はして欲しくなかったな。」
「はぁ、バレてたんだ。」
「おいおい、これでも太守なんだぞ?それくらい見抜く目がないと務まらない。ま、気にしないで良いさ。私が同じ立場なら同じ事をしてただろうから。」
「う、うん。」
「けど、友人の信義を蔑ろにする者に人がついてくる事はない。覚えておきなよ?」
公孫瓚は下手な小細工を弄するよりも誠心誠意を基本にぶつかれば良い、と言っている。当然それは人によるが、それを見抜く目を持て、ということでもあるのだろう。
真心を見せても心を開かない人はいるものだ。幸いと言っていいのか、高順の周りにいる人々は全員心を開いている。これは単純に運が良かっただけだ。
今の公孫瓚の言葉は自分にも当てはまる言葉だ。覚えておくべきだろう。
「うん、覚えておく。えへへ、相変わらず良い人だね、白蓮ちゃん。」
「なっ、ば、馬鹿なこと言ってるんじゃない!ただの老婆心だよ、老婆心!」
「えへへー♪」
「くぅう・・・。」
なんとなく、2人の関係がわかった高順は苦笑した。良くも悪くも常識人の公孫瓚は色々と劉備に振り回される役割だったのだろう。
ごまかす様に咳払いをして、公孫瓚は話を続ける。
「それよりも!兵士の数を教えてくれよ?」
「それが・・・1人もいないの。」
「・・・はぁっ!?」
「最初から一緒に行動してくれてるのはさっき紹介した2人だけで・・・。」
「2人って・・・関羽と張飛だっけ?うーん、2人の力量がどれほどのものなのかがよく解らないのだが・・・。」
「あう・・・そうだよね・・・。」
しゅん、となる劉備の後ろから関羽達が進み出る。
「鈴々はすっごくつおいのだ!」
「左様。必ずやお役に立ちまする!」
「うーん・・・。」
彼女達の言葉にも公孫瓚はいまいち歯切れの悪い言葉しか出てこない。と、そこへ助け舟を出す人物がいた。趙雲である。
「人を見抜け、と言った本人がその2人の力量を見抜けぬでは話になりませんぞ、伯珪殿?」
自身の座から歩いていく趙雲。
その言葉に公孫瓚はほんの少しだけムッとする。
「むぅ・・・。なら、星はわかるのか?その2人の力量を。」
公孫瓚の言葉に「当然ですな。」と趙雲は頷く。
「武を志すものであれば姿を見るだけで2人が只者ではない、ということくらいは解るものです。」
「ん~・・・星がそういうのなら間違いはないのだろうけど・・・。」
まだ悩む公孫瓚から一度視線をはずして、趙雲は関羽のほうへと向く。
「そうであろう、関羽殿?」
「そういう貴女も腕が立つ。私にはそう見えるが?」
「うんうん、鈴々もそう見たのだ!」
「さぁ・・・それはどうでしょうか?」
2人の言葉に意味ありげな笑みで返し、また公孫瓚のほうを向く。
「して、如何なさいます?彼女らを受け入れますか?」
「・・・そうだな、桃香の実力は知っているし、他の2人も星が言うのだから間違いは無いだろう。不安が無い訳じゃないが、当家には人材が少ないんだ。私に力を貸してくれ。」
こう言って頭を下げる公孫瓚に劉備は少し慌てつつも、
「もっちろん!頑張るからね!」こう返事をしたのだった。
「張飛殿、関羽殿もよろしく頼むぞ。」
「ああ、我が力。とくとご覧じろ。」
「任せるのだ!」
こちらも鷹揚に頷くのだった。
彼女らのそんな様子を見て、楽進が高順にはなしかける。
「隊長・・・。なんだか、我々のことを忘れて話が進んでいるような・・・。」
「ん?そうだねぇ。」
「そうだねぇって・・・。」
「仕方ないさ、あーいうのは。他所から横槍入れるのが野暮って物です。」
「うーん・・・。」
何か納得いかないように腕を組む楽進に、高順は苦笑するのみだった。数日後、陣割が決まって3姉妹・趙雲、そして高順達も呼び出されて城門に向かう。そこには3千ほどの兵士が整列していた。その様子を見て劉備たちが「うわー!」とか言って感嘆の声を上げる。
「すごーい、これ全部白蓮ちゃんの兵隊さん!?」
「いやー・・・正規兵と義勇兵が半々ってところかな。」
「それほどに義勇兵が集まったのですか。」
感心したように呟く関羽に趙雲が答える。
「それだけ大陸の情勢が悪化し何とかしたいと考えている人々が多い、ということの証左でしょうな。」
「ふむ、確かにここ最近は賊の数が多くなっている。それも当然なのだろうな・・・。一体、この国はどうなるのだろう。」
「民のため、力なき人々のため。間違った方向に向かわせたりはしないさ。この私がな。」
胸を張り言い切る趙雲に関羽は好意的な表情を見せる。
「・・・趙雲殿。」
「ん?如何なされた?」
「あなたの志に深く感銘を受けた。どうだろう、我が盟友となっていただけないであろうか?」
「鈴々もおねーさんとお友達になりたいのだ!」
関羽と張飛は、趙雲の意思に自分達と同じものを感じたのだろう。この混迷している国のために力を振るいたい。人々を守るための盾となり、矛とならんという志を。
「ほう、志を同じくする者は考える事も同じと言うことですかな。」
「・・・?それはどういう―――」
趙雲は関羽に手を差し出し、穏やかな笑みを浮かべる。
「必ずやこの大陸に安寧を。友として誓いあおう。」
「・・・ああっ!」
「誓うのだ!」
「あー!私も!仲間はずれにしないでよー!」
がっちりと手を組む3人を見て劉備も慌ててその上に自分の手を載せる。
「皆で頑張って平和な世界を作ろうね!大丈夫、皆で力を合わせればすぐに平和な世界が来るから!」
「そんなわけないのだ。お姉ちゃんは気楽だなー。」
「ふ、そんなお気楽さも世の中には必要なものでしょう。」
こうやって盛り上がる4人は、お互いに真名を教えあい救国の志を確かめ合っていた。
それを外から見ていた高順は、その周りで参加したがっている公孫瓚を見かけた。
「・・・参加したいのなら参加すればいいんじゃないですか?」
「な、ばっ、馬鹿!ただ、私も救国の志があるんだから忘れないで欲しいなー、って・・・。」
「じゃあそういえば良いじゃないですか?」
「あうぅ・・・。」
公孫瓚は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「拗ねなくてもいいと思うのです。」
「拗ねてない!」
更に顔を真っ赤にして公孫瓚はぷいっ、っと横を向くのだった。
高順達は、というと。劉備たちのやり取りを心なしか冷たい視線で見ていた。含むところが無いではないが、彼女達の言っているのはあくまで理想論で中身が伴っていない。
「皆で頑張れば」と簡単に言うが、それで平和な世界が来るのなら当の昔に平和になっているはずだ。
言葉通りに受け取るつもりは無いが、そのあたりの現実を理解していない子供の理論にしか聞こえなかった。どうも3人娘と沙摩柯も同じようで苦虫を噛み潰したような、そんな表情をしている。
清濁併せ持つ、という言葉がある。今の劉備はその「清」しかない。そのままでは乱世で生き延びる事など出来はしないだろう。ゆくゆくは敵となることがわかっている相手だが、公孫瓚の友人だ。「その辺りは放っておけないよなぁ・・・。」と考えてしまうところが高順の甘いところだった。

ここで公孫瓚は陣割を発表した。
公孫瓚は中央の部隊を率い、劉備達は左翼の陣を率いる。右翼は趙雲が率いてそこに高順隊も配置されている。
数としては中央が1300。左翼が1000、右翼は700である。
前回の戦闘で相当数の兵士が死傷し、烏丸征伐の後すぐに盗賊たちが行動を活発化。その鎮圧のために各方面に兵と武将を配置したために数が少ないのだ。
それでも恐れることなく賊討伐に向かうというのだから公孫瓚も豪胆な性格をしている。
「しかし、劉備殿に左翼を丸ごと任せるとは。伯珪殿も剛毅ですな。そう思いませぬか、高順殿。」
右翼の先頭に立つ趙雲が隣にいる高順に話しかける。
「そうですね。剛毅です。それだけ力量を信じておられるのでしょうねえ。」
「・・・高順殿。劉備殿がお嫌いで?」
なんだかそっけなく言い放つ高順に趙雲は少し不満そうな表情をする。彼がここまでぶっきらぼうな態度を取るのは初めてのような気がする。
「そうですね。好きか嫌いかと言われれば嫌いな部類です。理想家すぎますからねぇ、現実を全く見てませんし。」
こう言い切った高順を趙雲は不思議そうに見つめる。彼がここまではっきりと嫌うと明言したのは、王門以外では初めてだ。しかも自分では話をしたことがないというのに。
彼女達との間何かあったのだろうか。不機嫌になるようなことでも?しかし、彼は劉備殿達と接触をしたがらなかったようだし・・・はて?と考える趙雲だったが、軍勢の戦闘に立つ公孫瓚の声が聞こえ一時その考えを中断した。
「諸君、これより我らは出陣する!烏丸を沈静化した後、行動を活発化してきた賊を私自ら殲滅してくれよう!公孫の勇士よ、功名を立てる機会がまた来た。存分に手柄を立てて見せろ!」
公孫瓚の言葉に兵士達が大音声をもって応える。
この大地を揺らさんばかりの鬨の声を聞いた公孫瓚が剣を掲げ号令を出す。
「出陣だ!」
意気揚々と出撃する兵士達。それに続いて劉備部隊、そして趙雲隊が続いていく。
盗賊が根城にしている場所まではそう遠くはない。
「ま、生き残るために頑張るとしますか。死ぬなよ、皆。」
「応!(ほいな!はいなの!ああ。了解っす!)」
高順は後ろに顔を向けて3人娘や沙摩柯、そして今回、田豫と入れ替わりで従軍した閻柔に声をかけた。・・・まったく息が合ってないが、いつものことなので高順は気にもしていなかった。
平原を進み数時間。本陣からの伝令が命令を伝えるために各陣へと急行していた。
「全軍停止!これより我らは鶴翼の陣を敷く!各部隊、行動を開始なされよ!」
これを受けて、各部隊が一斉に動き始めた。本陣を真ん中に据えて、左翼・右翼ともに兵を分けて5つの部隊を展開する。
趙雲が、そして劉備(実際に訓示をするのは関羽達)が自部隊の兵に戦闘前の訓示を言っている。
聞いていると、立派な事を言っている。流石後の世に神となる存在だな、と素直に感心する。
それに対抗する訳でもないが、高順も自分に従う兵に訓示を垂れていた。
「生き残れ、そして必ず勝て。いつも通りにやればいい。烏丸との戦いを生き延びた皆だ、自信を持て。以上だ。」
「はいっ!」
高順の言葉に兵も応える。ここで、盗賊たちがこちらに突撃を仕掛けてくるのが見えた。
「盗賊がこちらに向かってきます!各部隊、ご注意を!」
また伝令が本陣へ向かっていく。盗賊の数は5000ほど。だがこちらの陣容を考えれば勝てない相手ではない。
「全軍、迎撃態勢!必ず勝つぞ!」
公孫瓚の命令が各部隊へと届いていく。
「関羽隊、出るぞっ!」
「鈴々も負けないのだ!」
闘志をあらわに、劉備隊が動き始める。
「ふっ、高順殿。われらも負けてられませぬぞ!?」
「承知。高順隊、彼女達に負けるなよ!」
『おうっ!』

こうして、公孫瓚部隊3000と盗賊5000がぶつかりあった。
先ず最初に両軍ともに弓を打ち合う。が、統制の取れていない賊軍はてんでばらばらの行動を取るばかりで足並みも揃わない。
対して公孫瓚軍は歩兵に槍と盾を構えさせ、その後ろから弓を間断なく放っていく。
両軍の兵が矢で射抜かれて倒れていくが、盾を持たない賊のほうが被害が大きかった。
これでは埒があかないと思ったのか、賊は遮二無二突撃を仕掛けてきた。だが、歩兵が槍を構えているため一定以上から進めず、後ろから進んできた兵に押されて槍の餌食になるものも少なくなかった。
そうやって躊躇をしている賊に、更に矢を射込んで行く。
鶴翼の陣、というのは数が少ない側が使用する防御陣形である。本陣を餌にして、その餌に喰らいついてきた所を右翼と左翼が挟み撃ちにして殲滅する、というものなのだ。弓の打ち合いだけで賊軍が相当に消耗している。
最初こそ威勢よく突撃を仕掛けてくる賊であったが、消耗した人数が多いためかすぐに尻込みして下がり始めようとする。
通常ならば罠か?と疑うのだが、この辺りは公孫瓚、趙雲、ついでに高順(とその部下達も)も幾多の戦いを潜り抜けた猛者である。
(あの動き・・・随分と雑だ。罠の類は無いだろうが。深追いをしないほうがいいか?)by公孫瓚
(ふむ。罠、として見るなら伏兵であろう。だが、この見渡しの良い平原で伏兵は・・・無いだろうな。向こうが先に突出してきたのだから落とし穴なども無いだろう。」by趙雲
(見通しの良い平原だから岩とかを使用する事は不可能。あるとすれば火くらいだが・・・風もない。その前に奴らを駆逐できるだろうな。)by高順
結果、公孫瓚は鶴翼の陣を維持する必要は無いと判断。本陣が先行、そこへ右翼と左翼が着いて行く形・・・蜂矢の陣に近い形になって突撃を開始する。
中央・右翼の歩兵と騎馬隊は槍を構え全速力で賊部隊に突撃を仕掛けていき、左翼の劉備隊も負けじと突撃していく。
「関羽隊、突撃だ!匪賊共を1人残らず討てっ!」
「鈴々も負けないのだ!皆、頑張るのだー!」
そう言って先頭を進む関羽と張飛は、逃げていくか或いは立ちふさがる賊兵を苦も無く討ち取っていく。
青龍刀、そして蛇矛が振り下ろされる度、薙ぎ払われる度、1人といわず3人4人と吹き飛ばされていく。それを遠目から見ていた高順も内心で大したものだと考える。
軍神と呼ばれた関羽。長坂においてただ一騎で曹操軍数十万を震えさせた張飛。その威名は伊達ではないという事か。
劉備は・・・なんだろう。剣を抱えてあっちでふらふら、こっちでふらふら、という感じでおたついている。・・・あれで、何で公孫瓚殿は「実力を知ってる」のだろう。どう見ても素人にしか見えない。
劉備は置いておくとして、関羽と張飛はただひたすらに敵を薙ぎ倒して行く。
本陣から遅れて突撃をしたのに、すでに追い抜いて少々突出した形になっている。
「・・・隊長。」
「ん、どうした?」
虹黒が後ろ回し蹴りで賊を1人蹴り倒したところで楽進が隣にやって来る。
「劉備殿の左翼が少々突出気味です。あれでは囲まれませんか?」
「囲まれるだろうね。」
「そ、それでは助けに行くべきでは?」
「俺達は右翼ですよ。一番遠いじゃない?それに、関羽さんや張飛さんがなんとかするよ。」
「確かに、彼女達は凄まじい強さですが・・・。」
「それ以前に自分の目の前にいる敵に集中するべきだね。右翼が一番数少ないんだから、っと!」
かなり遠くにいる賊を矢で仕留めつつ高順は馬を進めていく。
「彼女らを援護するのはこっちに余裕が出来てからでいいさ。」
もっとも、こちらに余裕が無いか?と言われればそんなことはない。
関羽達に匹敵する力量を持つ趙雲がいるし、楽進・李典・干禁もいる。沙摩柯も閻柔もいるのだ。
それに、前回の烏丸戦を生き延びた兵士達も頼りになる。沙摩柯や蹋頓らに鍛えられる前はどことなく頼りない感じだったが、今ではあの大きな戦いを生き残ったことに自信を持ったのか勇敢に戦っている。
もしかしたら自分より勇猛かもしれない。
前から感じていたが、どうも自分は数千の兵士が戦う大規模な戦に縁があるらしい。
それに、人を殺す事をなんとも思わなくなりつつある自分に恐れを抱く事も多い。迷っていては自分が殺られる。解っているのだが人の死に鈍感になっていく事が怖くて仕方が無い。
だが、楽進を初めとした部下、いや、仲間達。自分を信じて着いて来てくれる兵士達の死に鈍感になるつもりは無い。
まだまだ守られる立場の自分だが、いつの日か1人でも多くの仲間を守れるくらいには強くなりたいものだ。それが自分の死を回避する事にも繋がるだろうから。
そんなことを思いつつ、虹黒、楽進と共に眼前の敵を討ち続ける高順だった。
そのまま戦闘を続ける両軍だったが、最初の出だしで躓いた賊軍が当初の勢いを取り返す事ができない。
公孫瓚側は、反撃を開始してから勢いに乗りまくり、退却しようとした賊軍に追いすがり次々と討ち取っていく。
「敵は総崩れだ!行け、追いまくれ!」
「皆、鈴々に続くのだー!」
周囲にいる兵士を鼓舞しつつ、関羽と張飛は戦線を維持できず崩壊していく賊軍に更に攻撃を仕掛ける。同じように中央・右翼も敵陣へと深く食い込んでいく。
その後、数時間もせぬ内に公孫瓚の軍勢は勝利した。
公孫瓚側の被害・・・死傷者数は僅かなもの。その後も執拗に追撃を繰り返しほぼ全滅させた、といえるほどの成果を上げるのだった。
こうして、関羽や張飛。趙雲らの活躍もあって公孫瓚軍は完全勝利を手にしたのだった。

引き上げていく公孫瓚に、劉備隊と趙雲隊(ついでに高順隊)が合流する。
「おお。皆よくやってくれたな。こちらの被害も少なかったし。いや、良かった。」
公孫瓚のねぎらいの言葉に皆が笑顔になる。実際、関羽らの奮闘があったからこそ兵の士気が上がり勝利に繋がったのだ。
「やったね、白蓮ちゃん。さっすがぁ♪」
「いや、皆の力あってこそさ。本当に感謝している。」
「えへへー♪」
そんなお気楽な会話をする公孫瓚らを尻目に趙雲は空を睨みつける。
「ん、どうしたんだ、趙雲?」
「・・・公孫瓚殿。この頃、世の雰囲気がおかしくはありませぬか?」
「へ?雰囲気?」
「左様。この所、争乱が続きすぎている。何か良くない事の前触れのような、そんな気がしてなりませぬ。」
趙雲の言葉に、関羽が頷く。
「確かに、趙雲の言う事は正しいと思います。この頃匪賊の動きが多すぎる。」
「お主もそう思うか・・・。」
「ああ。賊は増えてる上、飢饉も疫病も猛威を振るっている。」
「食料が少なくなるからどこかから奪ってくる。だから余計に食糧不足になる、か。」
公孫瓚はぽつりと呟いた。
「その上、国境付近では五胡が動き始めているとも聞く。先ほどの話ではありませぬが、何かが起こる前触れのようにも感じますな。」
「大きな動乱、その前兆か・・・。」
関羽が険しい表情で空を睨む。
「高順殿はどう思われる?」
「・・・はっ?」
全くのアウェーだった高順は自分に話を振られるとは思っていなかったらしく素っ頓狂な声を上げる。
「・・・聞いておられなかったのですか。」
趙雲は少しがっかりしたような顔をした。
「聞いてなかった訳ではないですが。まさかこっちに話を振られるとは思ってなかったですし。・・・で、何かの前触れとかそんな話でしたね。」
「うむ。」
ここまで来て劉備たちが、ちょっとした質問をしてくる。
「あのぉ、すいません。」
「?」
「その、そちらの方・・・どなた?」
劉備たちは公孫瓚に顔を向けて質問をした。
「な、なんだ。知らないのか?」
「その、何度か見かけたことはあるんだけど。一回もお話をしたことがないかなー。あははは。」
これは嘘ではない。公孫瓚と政庁で話をしていた時も、この数日間でも何度か顔を合わせてはいる。
高順はできれば劉備達と係わり合いになりたくなかったし、劉備達も誰か知らないので接触しても挨拶をする程度の間柄でしかなかった。
「高順。自己紹介をしてやってくれないか?」
「・・・はぁ。」
まあ、仕方ないか。ここで紹介を渋れば不審がられるだろうしな。
「俺の名は高順です。よろしく。」
なんだか凄まじくそっけない。普段の彼の性格を知っている公孫瓚と趙雲は顔を見合わせる。その顔には「何かいやな事でもあったのだろうか?」と書いてある。
そのそっけなさに多少驚きつつ劉備達も自己紹介をする。
「あ、えーと。私は劉備、字を玄徳って言います。」
「鈴々は鈴々なのだ!」
「・・・それは真名だろう。この子は張飛、字を翼徳。私は関羽、字を雲長。よろしく頼む。」
「どうも。」
・・・やはりそっけない。普段の彼を知っているだけに公孫瓚と趙雲は違和感を感じる。
「さて、さきほどの趙雲殿の質問にお答えしますね。動乱がどうこうとか、そんなお話だったと思いますが。」
「あ、ああ。」
「起こりますよ。」
「はぁ。」
あっさりと言う高順に皆が「あーそうか。」という反応を見せる。
「いや、そうじゃなくて!そんなあっさり言うか!?」
「そうだぞ、高順殿。何か根拠があるというのか?」
公孫瓚と関羽が微妙に抗議をする。
「根拠なら幾らでも。まず1つ目。漢王朝の腐敗ぶりは相当なものですよ。どれだけ中央の官僚が腐敗していると思ってるんですか?まともな人もいるでしょうけど、そういった人々が頑張ったところでどうにもならないところまで来てるんです。もう民草は限界なんですよ。」
「そんな・・・。」
後漢王朝、劉家の血筋に連なる劉備が悲しそうな顔をする。
「劉備殿達だって見てきたでしょう?民草の生活の実情を。先ほど戦った賊どもは一体何故賊になったのか。飢えたから奪う側に走ったのではないですかね?奪う側になった彼らに同情など必要ありませんが、彼らがそうならざるを得ない現状を作ったのも漢王朝そのものですよ。」
劉備がさらにシュンとする。実際、彼女らも公孫瓚の元へたどり着くまでに、同じような状況を幾度も見た。それを理解しているからこそ旗を揚げて人々のために戦いたいと思っている。
高順も流石に言い過ぎたか、と反省したが・・・彼女らのことを考えれば辛い現実も教えてやらねばならない。
「そういった人々の敵意、悪意は少しずつ形になってきています。それがそろそろ暴発する、俺はそう考えていますよ。」
ねえ?と、高順は3人娘のほうへ向き直り同意を求め、楽進達も至極真面目な顔で頷き返した。
彼女達は黄巾党と一戦交えており、あの勢力が民に浸透しているのを痛感している。高順達は自分達の経験を鑑みて「何かが起こる」と言っているのだ。(高順は知識としても知っているが。)
「大事なのは、そこでどう立ち回るか、ですよ。どうせ漢王朝から通達が来るのは事が起こってからでしょうしね。それまでにやれることをやっておかねば。」
高順はこう締めくくる。そんな彼を、公孫瓚、趙雲、劉備達は感心したような面持ちで見つめていた。
「・・・えーと、どうしました?」
「いやぁ、大した分析力だなー、と思ってさ。どうしてそこまで解るんだ?」
公孫瓚は本当に感心しているようで、興味深そうに聞いてきた。
「どうしてって・・・経験をしているからです。前にそういう勢力とやりあいましてね。立ち上がるならそれに似た勢力だろうと思うんです。」
そして、そこが乱世の呼び水となっていく。それを確信している高順であった。

その後も公孫瓚は劉備達を従えて幾度も賊征伐に乗り出した。その甲斐があって劉備の名もそこそこに知られる様になっていたし、持ち前の優しさからか北平の人々からの人気も高かった。
高順もある程度は彼女達と話をする程度の間柄にはなっていたが、やはり自分から傍へ行くような真似はしなかった。
劉備は高順ともっと仲良くしたいと思っているようだ。趙雲の疑念にあっさり答えたときの洞察力に感心もしていたし、関羽、張飛に敵わないとしてもかなりの武の才能を持っている。
それに彼の部下も相当な猛者揃いだ。仲良くしておいて損は無い。趙雲もだが高順は公孫瓚の客将であることを知っている為、自分たちが旗揚げをした後、どこかで自陣営に引き込めないだろうかと言う打算もあった。
少し話がずれるが、高順が北平でソーセージを作ったのはちょっとした理由があった。
実は、北平に限った事ではないがこの時代のこの国の北部では気候や水の問題で米があまり作られていない。
主流なのは麦である。その麦を加工してパンのようなものに加工するのだ。
そして、肉は豚がよく食される。パンに豚肉のソーセージを挟んで、というのは現代人の考えだが高順もそう考えたらしい。
それがどういうわけか当たって大人気となったのだが・・・劉備達も随分気にったようだ。
これはあくまでついででしかないのだが、その作り方を教えてもらえないかなー、と劉備は考えてもいた。
関羽は彼にあまり好意的ではなく、どこかよそよそしい。干禁ともそりが合わないようだ。
逆に張飛は高順と仲がいい。(というか一方的に付きまとっている。)高順は子供好きな性格(丘力居や臧覇を可愛がっている)のようで、嫌だ嫌だと言いつつも張飛に遊びに誘われたときはあっさりとついていくし、幾度も鍛錬に付き合ってもいる。
高順は一方的に倒される事が多いが、近頃は少しずつだが張飛の動きに付いていけるようになっていた。
同じくらいの年齢だからか、張飛は臧覇とも仲良くやっているようだ。
公孫瓚も趙雲も、お互いの関係が険悪なのだろうか?と不安がっていたが、これらのことで一応安心したらしい。
それはともかくも、ある日の事。
「う~・・・。」
劉備が城の中庭のある場所に陣取り筆を持って目の前の書物を見ながら何かを書き写している。
その日、高順は兵の訓練と3人娘、沙摩柯らと組み手をした帰りでそんな劉備の姿を見かけたのだった。
「何をしているのやら。」
筆を持って、書き写しては頭から湯気が「どしゅ~・・・」と吹き出てるような、そんな感じだ。
(・・・関わらないようにしよう。)
決断してそのまま去ろうとする高順だが、その姿を運悪く(?)劉備に見つかった。
「あ・・・お~~~い、高順さ~~~~~ん!!」
OK、俺には何も聞こえない。俺は風、ふりーだむ。
「こーーーーじゅんさーーーーーーーーーん!!!」
・・・流石にこれだけ大声で呼ばれて無視は無いよな。むしろそんな真似したら関羽さんに頭握り潰される。メメタァって感じに。
高順は諦めて劉備のほうへ向き直り、歩いていく。
「何か御用ですか?」
「うん、あのね。政治のお勉強教えてほしいなーってちょっとなんで逃げるの!?」
引き返そうとした高順の服の裾を引っ張り劉備が抗議する。
「俺は政治とかそういった類が苦手なので。ではってちょっと首!絞まってる極まってる絞まってる!?」
「教えてくれるまで離さないんだからぁ~~~!」
「解りました!わかる範囲で教えますから・・・!く、くるじい・・・」

本人が意図するより、割と仲良く(?)している高順と劉備だった。



~~~楽屋裏~~~
どうも、子供の鈴々に手を出す一刀は犯罪者です、あいつです(挨拶
高順くんを劉備大嫌いにしようと試みましたが・・・無理でした。
なんかこっちのプロット崩しにかかってくるんですよ、高順くん。
お人好しもここまで来るとただの馬鹿のような気がします。
今回は原作の会話を微妙に取り入れてみましたが如何でしたか?あいつは大変やりにくかったです(笑
しかし、盟友云々のくだりは・・・なんでしょうね。原作のほうでも違和感を感じる会話でしたが自分で書いてみるとやっぱり違和感がががががが。
これも友愛仁愛軍団の為せる業・・・なわけないですなw

これはあいつの疑問なのでスルーしていただいても全然構わない質問なのですが。
最初にも書きましたが今回のように「原作会話も取り入れる」のは読者様としてどのようなものでしょう?
意図無く似たような会話になるのはともかく。
「作者の考えた会話のみでいいよ!」とか「原作会話取り入れてもいいんじゃないかな?」とか「どっちでもいいよ、(゜3゜)ペッ」という人もいらっしゃると思います。
アンケート、というものではありませんが教えてくださると後々やりやすいかな?と。
それと文章量。毎回多かったり少なかったりです。安定させたほうが良いのでしょうか・・・?

さて、ようやっと次から黄巾編に入ります。本当に長かった・・・。もしかしたらどっかで番外編を書くかもしれません。
ふと(仕事中に)思った事がありまして、「自分、戦闘編になると1つの戦争につき日常も含めて2~3話書いてるよね?」
・・・これからの戦い、少なく見積もっても(規制)回ほどあるんですけど・・・
現在、番外編も含めて25話程度です。そこから換算すると・・・



最低でも終わる頃に40話は軽く超えるよね?






のオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお|||orz
俺・・・30話で打ち切るんだ・・・
このお話があいつの最初で最後の作品になる事請け合いですが・・・なんで処女作でこんな長編になるのか誰か教えてorz

それではまた次回、お会い致しましょう。(・×・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ (短いけど)第24話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/10/31 15:11
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第24話

高順と趙雲。
現在、公孫瓚軍ではこの2人が組む事が普通になっていた。賊征伐、警邏、兵士訓練。何をするにも公孫瓚はこの2人を組ませる。高順配下の人々も当然それに従う。
この2人を組ませる状況は大抵、征伐など武力関係の仕事になってくるが2人が共に仕事をすると他の武将に任せるよりもよほど効率良く鎮圧していく。
彼らの鍛えた兵士が強い、ということもあるし、高順に従う将の能力も高い。
それ以上に高順と趙雲の相性が良い。阿吽の呼吸とでも言おうか、特に打ち合わせをしたわけでもないのに、戦場で抜群の連携能力を見せつける。
公孫瓚は2人の能力を評価していたし、期待も高かった。
高順が公孫瓚のもとで客将として働いて数ヶ月。彼は公孫瓚陣営にきっちりと馴染んでいたのである。
その2人が何度目になるか解らない賊討伐を劉備たちとこなし、北平へ向かう間に。
洛陽からの勅使が公孫瓚へ黄巾討伐へ参加するように、という勅令を下しているところだった。

~~~北平~~~
劉備、趙雲、高順。
彼らは公孫瓚に賊討伐成功を報告するために政庁へと向かっていた。
3人娘や関羽達は兵を纏め兵舎へと向かっているのでここには居ない。
「うーん、今回も皆頑張ったよね~♪」
劉備が歩きながら身体を反らせて伸びをする。
「そうですな。我々にかかればあの程度、容易いものです。」
趙雲も当然だというように笑う。高順はそんな2人を後ろから見ているだけであった。
別に彼女らに含む事はない。高順は他ごとを考えていたに過ぎない。
この数ヶ月で劉備は義・情という言葉を使わずに戦い続けた。その能力と彼女本来の優しさで、この数ヶ月を過ごしていたのだ。
甲斐あって、北平のみならず、周辺の邑や街での彼女の評判は高まるばかりであった。
そして趙雲。戦場ではお互いの考えがある程度、ではあるが読めるようになってきた。彼女と共に戦場を駆けた時間は1年にも満たないのだが・・・もともとの相性でも良かったのだろうか。
「あれ?高順さん、ボーっとしてどうしたの?もしかした私のことでも考えてた?なーんちゃって♪」
「そんなことは未来永劫ありませんからご安心を。」
能天気な劉備の発言に普段と変わらぬ態度で辛らつな言葉を浴びせる高順。やれやれ、また始まったか。と趙雲は苦笑するのみだ。
彼らの間はぎくしゃくしている、という訳ではない。が、どうも高順は劉備に未だ慣れないらしい。
心底嫌っているのであれば勉強に付き合ったり、忠告などもしないはずだ。なのに、高順は劉備から一定の距離を置いての付き合いをしている。
そのあたりのことは本人にしか解らない事情があるのだろう。趙雲はそう結論付けていた。
そんなことを考えるうち、3人は政庁へとたどり着いた。が、どうにも騒がしい。
「ん?何だろ、皆忙しそうだね・・・。」
「そうですな。何かあったのでしょうか?」
「さあ?公孫瓚殿にお聞きすれば解るのではないでしょうかね。どちらにせよ報告をしなくてはいけませんから、急ぎましょう。」
そう言って高順はそのまま歩いていく。劉備と趙雲はいぶかしむ様な表情をしていたが、高順は2人に比べれば幾分落ち着いていた。そろそろ来るんじゃないかな?と思っていたからだ。
3人はいつもよりも歩く速度を速めて公孫瓚の元へと急ぐのだった。

政庁・玉座の間で公孫瓚は頭を抱えていた。
黄巾征伐に参加するつもりではあるが、何せ現段階の情報では黄巾「賊」の兵力規模が大きすぎる。
烏丸の事を片付けてからまだ数ヶ月しか経っていないと言うのに。公孫瓚は内心で盛大なため息をついていた。
そこへ侍女が傍にやって来て「劉備様、趙雲様、高順様がご帰還なさいました。ご報告に参っておられますが、お会いになられますか?」と聞いてくる。
公孫瓚は迷う事も無く「ああ、会おう。」とだけ告げた。
侍女はそのままで部屋から出て行き、入れ違いで3人が入室してきた。
「やっほー♪白蓮ちゃん、賊征伐完了しましたー!」
「・・・はは。お帰り、3人とも。」
能天気すぎる桃香の発言に苦笑しつつ公孫瓚は3人を見る。
「賊征伐、完了いたしました。」
高順と趙雲は律儀に言い直す。
「ああ、ご苦労様。しばらく休んでもいい。と言いたいところなんだけど・・・。」
「?」
「先ほど洛陽から勅使が来てね。3人にも知っておいて貰いたいんだ。」
そう言って公孫瓚は勅使から聞いた内容をそのまま高順たちに聞かせた。
1年ほど前から太平道と言う・・・全容は掴めていないが、そういった名前の「恐らく」宗教組織が勃興していた。
あまりに規模が大きすぎるので幾度も解散命令が出されたものの、一向に応じる気配が無い。
そんな中、数週間ほど前に洛陽にて反乱を起こそうとした馬元義という男を捕らえ、拷問で自白をさせた結果・・・太平道の手の者だと発覚。即日車裂きの刑で処刑したのだという。
その後、太平道を壊滅させようと数万の官軍を派遣したところ、「数十万」の黄色い鉢巻を頭に巻いた太平道の兵に反撃を食らって官軍が全滅。各主要都市を占領してその勢いは増すばかり。
それに恐れを為した現後漢皇帝「霊帝」は寵愛している側室「何后」の兄「何進」を大将軍に任命。太平道、いや、「黄巾賊」を壊滅させよ、と命令した。
何進は洛陽にある官軍の兵力では鎮圧できないと判断、各地の太守に兵を派遣するように勅使を遣わせた。その勅使の1人が公孫瓚の元へとやって来て勅令を伝えた。
掻い摘んで言うとそういうことなのだそうだ。

それを聞いた3人は黙っている。
劉備と趙雲はどうしたものか、と考え高順は「命令を下したのは霊帝ではなく十常侍だろうな。」と、別のことを考えていた。
「私は参加するつもりだし、配下も参加するべきだと言ってる。でも、3人の意見も聞いておきたいんだ。」
「うー、普通に参加するべきだよね?」
「そうですな。そのような輩、放っておく事こそ天道に反すると言うもの。」
「まあ、放っておいたら大変な事になるでしょうね。」
3人の言葉に公孫瓚は頷く。
「そういうと思っていたよ。で、話は変わるのだけど、今回の件は桃香にとって好機だと私は思うんだ。」
公孫瓚の言葉に劉備は「へ?好機って?」と間抜けな反応を返す。
「はぁ。つまりだ。独立するための好機だ、って言う事。考えてもみなよ、これだけの騒ぎになっているんだ。武力によって、という形で手柄を上げる絶好の機会じゃないか?」
「そうですね。劉備殿達がそのつもりで行くなら・・・恩賞に与る可能性は高いでしょう。そうなれば、どこかの土地とそれなりの地位を賜るかもしれませんね。」
「ふむ。そうなれば劉備殿の仰っていた「多くの人を守る」という理想に僅かながら近づく事になりましょう。」
公孫瓚の言葉に高順も趙雲も賛同する。
「え?え?えっとぉ・・・。その、あたしの一存で決められないかなぁ、あはは。愛紗ちゃんと鈴々ちゃんに相談したいんだけど・・・。駄目?」
「それは構わないさ。でも、なるだけ早く決めてくれよ?」
「うん!」
公孫瓚の言葉に元気良く頷き、劉備は走って部屋を出て行った。これから関羽達と相談をするのだろう。
高順も趙雲も、公孫瓚の判断は適切なものだと考えている。その魅力で他の欠点を補っているとはいえ統率力・政治力、どれをとっても劉備は公孫瓚に勝てるものが無い。
2人とも劉備が公孫瓚より有能だとは思っていないし、公孫瓚にしても別段おかしな思惑を持って独立を勧めたわけではないだろう。人の良い公孫瓚は素で劉備にとっての好機だと思っているのだ。
それくらいのことは劉備でも理解しているはずだ。彼女らにとってこの話を断るべき理由は何も無い。
「なあ、2人とも。」
公孫瓚に声をかけられた高順は思考を停止させた。
『何ですか?』
「桃香にああは言ったけど・・・その。」
どうも歯切れが悪い。何か悩んでいるのだろうか?
「えーと・・・ふ、二人は独立しよう、とか考えてるかなー。って思って。」
公孫瓚は何か自信なさげに、そんなことを言った。
「いえ、別に。趙雲殿は?」
「私も特には。・・・何故そのような事をお聞きなされる?」
高順も趙雲も公孫瓚の言いたい事がよく解らない。
「そ、そっかぁ。いや、それなら良いんだ。あは、あはははは・・・。」
乾いた笑みを浮かべながら力無く、かつ少し嬉しそうに公孫瓚は笑う。
その態度を見て趙雲は意地の悪い笑みを浮かべつつ「成る程・・・そういうことですか。」と呟いた。
「え、な、何だ?その何か考えてそうな表情・・・。」
「高順殿。伯珪殿は我々に出て行かれると寂しいと申しておるようですな。」
「なっ!」
「ほほー。」
趙雲の指摘に公孫瓚は思い切り首を横に振って否定し、高順は成る程とばかりに頷いた。
「ち、違うぞ!?今2人に出て行かれたら困るなー、とかそれくらいで!寂しいとか頼れる人が少なくなるなーとかそんな・・・あ。」
自分の言葉に真っ赤になって公孫瓚は俯いてしまい、そのまま黙り込んでしまう。さすがにやりすぎたか?と思う趙雲だったが、公孫瓚は暫くしてぽつぽつと話し始めた。
「正直言うと、さ。今2人に抜けられると本当に困るんだ。黄巾賊の規模は数十万。私の軍勢は1万程度。勿論戦うのは私だけじゃない。他の軍閥だって動くんだ。それでも数はこっちが不利みたいだけど・・・。」
公孫瓚の言葉を2人は黙って聞いている。
「趙雲、高順の武勇と統率力。そして高順の部下のあの子達の戦力。情けない事なんだけど、2人以上に力を持っている武将は我が軍にはいない。桃香が抜けるのも痛いんだけどね。この状況で、もし2人に抜けられたら」
「さて、俺はここで失礼します。」
「え?ちょ・・・。」
「高順殿!?」
公孫瓚の言葉を遮って高順は部屋を出て行こうとする。
「こ、高順~~~・・・」
なんだか、公孫瓚がすっごく悲しそうな顔をする。
「申し訳ありませんが、これから兵に一層気合を入れるように、と言わなければなりません。」
「・・・え?」
「え?じゃないですよ。黄巾賊との戦いが始まるんでしょう?今までの賊とは訳が違います。一部隊を預かるものとして兵士には言うべきことを言っておかねばなりません。」
では、と言って高順は今度こそ部屋を出て行った。
言葉無く呆然としている公孫瓚。そして。
「くく、あはははははっ!」
いきなり笑い出す趙雲。
「え、何だ!?」
「いえ。高順殿も素直ではないところがお有りだと。ふっ、くくく・・・。」
「何だ、どういう事だよー!?」
「ですから、高順殿は「黄巾賊との戦いが終わるまで出て行きませんよ」と言ったのです。」
「へ・・・?」
「当然、私もそのつもりですが。ここで公孫瓚殿を放って行くことなど私にはとてもとても。さて、私も兵に喝を入れて来なければなりませんな。」
「星・・・。」
思わず真名で呼んでしまう公孫瓚に苦笑しつつ、趙雲も部屋を出ようとする。
「その、あ、ありがとう・・・。」
恥ずかしそうに言う公孫瓚に「その言葉、高順殿にも伝えておきましょう。」とだけ言って趙雲は退出していった。
趙雲は先に部屋を出た高順に追いつこうと小走りに廊下を進んでいく。すぐに追いついたのだが、高順は壁にもたれて俯いてしまっている。なんだか落ち込んでるように見えるが・・・さして気にもせず趙雲は高順に話しかけた。
「高順殿?」
「あー、趙雲殿。どうなさいました?」
「私も兵に声をかけておかねば、と思いましてな。それと伯珪殿がありがとう、と申しておりました。」
「そうですか・・・。」
何だろう、本当に元気が無い。自分の判断に後悔しているのだろうか。
「高順殿、後悔でもしておいでか?」
「まさか。黄巾賊との戦いが終わるまで公孫瓚殿の元に留まる、というのは最初からそのつもりでしたからね。ただ。」
「ただ?」
「あんな似合いもしない格好の付け方するんじゃなかった、と絶賛後悔中なだけで・・・。なんであんな言い方してしまったのだろう・・・。」
ず~~~~ん、という表現が似合いそうなくらいに落ち込んだ表情を見せる高順に、趙雲はまた笑い出す。
「笑わないでくださいよー・・・。今、自決したいくらいには後悔してるんですよ?」
「最初、あんな受け答えをしたときには劉備殿に毒されて腹黒くなったか?とか伯珪殿が困る顔を見て楽しんでいるのか?と思ったものですが・・・いやはや。」
「ううっ・・・死にたい・・・。」
遠慮なく笑う趙雲の表情とは裏腹に高順のテンションは際限なく下がり続ける。
「ふっ、高順殿に死なれては私も困ります。戦場で私の動きに合わせてくださるのは貴方くらいしかおりませぬ。」
ここまで冗談めかして話す趙雲だったが、急に真剣な顔になる。
「ですが、軽々しく「死にたい」など・・・たとえ冗談でも2度と申されるな。」
「・・・?」
「貴方の命は、最早貴方だけの命ではない。貴方に従う兵士がいる。貴方を慕って貴方の後ろについていき、或いは貴方の横で共に戦うものがいる。高順殿が死ねば、行き先が無くなる者達がいるのです。」
「趙雲殿・・・。」
「少し説教がましいことを言ってしまいましたな。されど、これは私の本心です。貴方はもう、一騎駆けの兵に有らず。私の言った言葉の意味、よくよくお考えあれ。」
そんな事を言って、趙雲はその場を去っていった。彼女の後姿を見送り、高順は今言われた言葉を心の中で反芻する。
(俺の命はもう、俺の物だけではない、か・・・。)
それが命を賭けるべき舞台であれば、趙雲も高順も平気でその舞台とやらに臨むだろう。彼女は「今はその時ではないでしょう。」とも言っているようにも感じた。
どちらにせよ、今は黄巾賊のことだけに集中しよう。自分の終焉の地になるかもしれない徐州の戦までにはまだ時間はある。それまでに、何とか状況を変える事が出来れば良いのだが。

その1週間後、劉備は関羽らを引きつれ北平を発った。
公孫瓚の好意で劉備達は兵を集める事を許可されたが、その数は最終的に5000を超えている。その報告を聞いた公孫瓚は「私が募集してもその半分集まらないのに・・・」と相当に凹んでいた。
武器・防具、そして食料も公孫瓚から分けられており、ある程度軍としての体裁も整ったようだ。
彼女達が発つ時、一応高順らも見送った。この時、高順も「餞別」として烏丸から購入していた名馬3頭を贈っている。張飛が乗れるかどうか不安だったが、何とか乗りこなしていたようだ。
高順は劉備、関羽には苦手意識を持っていたが(メメタァされかかった)張飛にそのような意識を持つ事はなかった。
よく臧覇と遊んでくれたし、鍛錬に付き合ってくれたりもした。その感謝も込めて張飛に馬を送った際にこっそりとお菓子を渡している。
その後、諸葛亮と鳳統という少女が劉備軍に合流しているのだが、それは高順達にとっては与り知らぬ事であった。
だが、もしもその2人の姿を見たら高順はこう言ってたであろう。
「あの天才軍師2人がこんな幼女だとーーーーー!?」と。

劉備軍が北平を出立して更に数日後、公孫瓚も1万3千の兵を率いて豫州黄巾軍と戦うために出撃。留守として王門・公孫範が3000の兵で北平を固める事になっている。
この戦いの最中、高順は戦とは関係のないところで色々と苦労をする羽目になるのだが・・・。
それが語られるのはもう少し先の事である。





~~~楽屋裏~~~
私のシナリオでは人物崩壊がすごいですあいつです(挨拶
もう全員恋姫キャラじゃなくなって別人になってるよ・・・orz
この回は幕間みたいなもので短いのです・・・(言い訳


豫州黄巾党は黄巾本隊でそれこそ本気で何十万の軍勢だと思うのですが・・・。そこにいきなり行かねばならない公孫瓚の運命は如何に。
本来は黄巾「賊」という呼び名ではなく単純に「黄巾」だったらしいですね。
このシナリオの初期ですが波才を初めとした豫州・潁川の黄巾賊の根幹を成す人々が全員戦死、処刑されてますので曹操さんは随分楽になってます。
黄巾は本編よりも早く終結してしまいそうです。荊州方面ももしかしたらすぐに収束するのではないですかね。
この乱によって漢王朝の寿命が無くなるのは変わりませんけど。

さてさて、高順君の明日はどこなのか。
次回作じゃない、次回にご期待ください・・・え?期待なんてしてないって?(汗



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ (また短い)番外編その3
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/01 07:50
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 番外編その3

劉備さんと高順さんが中身の無い議論をしてみたでござる。の巻。


~~~北平。城の中庭にて~~~
「う、うう。高順さんの言う事難しい~・・・。」
頭から湯気を「ぶしゅ~~~」っと上げながら劉備は机に突っ伏した。
彼女は高順にお願いして勉強を教えてもらっている。蘆植という人の下で公孫賛と共に学んだはずなのだが、お気楽ご気楽な劉備はあまり勉学に熱心ではなかったようだ。
人の上に立つなら必須な事とか、そういう物を何も知らない。「信頼の輪を広げれば何とかなる!」みたいな感じで突き進んだ結果、こんな人になってしまったらしい。
「・・・難しいですか。これ?」
高順が見ている参考書の題には「芋でも解る!簡単すぎる万能政治参考書」とかそんなことが書かれていた。芋でも解るというのが地味に意味不明だが、言ってる事は簡単だ。
要約すると「金を稼げ・卑怯なことバッチコーイ・兵士一杯用意しろ」とか、そんな程度である。
鍛錬の時間を割いて10数日以上。これだけ教えているのだから少しくらいは成果を出してほしいものなのだが・・・。現実はそれほど甘くなかった。
その10数日で彼女の性格をある程度理解できてはいる。最初はただの考え無しとか、史実よろしく道化師か。とも思っていたが、どうもこの性格は天然らしい。
というか天然ボケ。それ以外の何者でもない。案外腹黒い事を言ったりもするのだが、自身には何の自覚も無いらしい。
史実の事柄から「油断ならない人」と思っていたが、それが天然ボケから来る腹黒さだったとは。
ただ、悪い事ばかりではない。「人を騙す」ことが根本的に苦手なようで、嘘をついて人の土地を奪い取るとか、そういう黒さは無いのだ。
劉備は恐らく、史実どおりの歴史の流れ方をすれば西・・・益州を併呑するであろう。
史実でも演義でも信頼してくれた相手に矛を向けて奪い取った形だ。が、この劉備は・・・人の声に、部下の声に押されて獲りに行くタイプだな。と高順は考えている。
外交なんかは持ち前の腹黒さで地味に嫌がらせをしつつチクチクと責める形かな?とかそんな事も思う。
だが。この頭の悪さは如何ともしがたい。つーか無理。こりゃ関羽さんも苦労するはずだわ。高順は内心で劉備の部下になるであろう人々の苦労を思い遣っていた。実際、今自分がきっついし。
「もぅ、高順さん!私にも解るように噛み砕いて説明してよ~。今の私に何が足りないのか良くわからないよぅ・・・。」
「これ以上何をどう噛み砕けと・・・?」
何度繰り返したかも解らないやり取りである。自分も頭は良くないし、教える才能なども無いと思っているがここまで理解してもらえないと「教えてる事がそもそも正しいのかどうか」する解らなくなってくる。これは重症だ・・・。
「あー・・・解りました。じゃあ、もう1度説明しますからね。これで理解してくれないと俺泣きますよ?こういうことは孫子とか知らない俺が教えるのはおかしな話ですけどね。」
さて、と言ったところ。そこへ趙雲が通り掛った。
「おや、劉備殿に高順殿。いけないお勉強の真っ最中ですかな?」
「また出し抜けに妙な事を。普通のお勉強です。」
「えぇ~、星ちゃんったらぁ。そんなこと教えてもらってないよー?」
・・・疲れる。俺、よくやったから森に帰ってもいいよね?
そのまま席を立とうとする高順の首に劉備がしがみ付く。
「待ってー!お願いだから見捨てないでー!?」
「・・・また俺を絞め殺すつもりですか劉備さん?」
不機嫌そうな顔でまた席に着く。2人のやりとりを見ていた趙雲は「あー。やっぱり高順殿は劉備殿が苦手なのだな・・・」と思うのだった。
「はぁ。じゃあもう1回お教えしますよ・・・って、何で趙雲殿まで座っておられるので?」
見ると趙雲も空いている席に座っていた。
「や、お気になさらず。」
「無理です、気になr「じゃあ星ちゃんも一緒にお勉強しよ?ね?ね?」
高順の言葉を遮り星の腕に抱きつく劉備。どうも一緒に話を聞いてくれる人が欲しかった様だ。多分解らない事を全部丸投げするつもりだろう。
「ははは。一緒に勉強はともかく高順殿がどのように物事をお教えするかは気になりますな。」
「・・・そうですか。じゃあ聞いててもいいですよ。では、気を取り直して。劉備殿。今のこの世の中で大成しようとするならば先ず何が大事だと思われますか?」
「愛と友情と信頼!」
「・・・微妙に間違ってるような正解のような。これはあくまで私見ですがね。他者との繋がりです。」
「やった、正解♪」
「最後まで聞いてくださいね。この繋がりですが、中央の政治・財界のお偉方との繋がりと言う意味でもあります。それは何故か?これは何時の時代でも変わりませんが人の上に立つと言うのは「出世する」と同義です。そうですね・・・趙雲殿に質問です。」
「ふむ、何です?」
「人の上に立つ。中央との繋がり。そしてこの混迷した時代。元々人の上に立つ身分に生まれた者であればともかく、劉備殿のような無位無官。どのようにすればのしあがれますかね?」
「簡単ですな。目に付くほどの功績を挙げることです。武勲であれ何であれ。」
「そうです。劉備殿には幸い関羽さんや張飛さんのような武勇の士がついています。武勲を上げることはそう難しくないでしょう。」
「うんうん。」
「では、その後は?」
高順の質問に劉備が首を傾げる。彼女はいつもここで躓くのだ。
「う~~~・・・平和な時代になる?」
「一気に飛躍しましたね・・・。じゃあ、こう仮定しましょう。劉備殿が大功を上げてどこかの郡とか都の太守になったとして。そこで何が必要になってきますかね?」
「う・・・えーとぉ・・・住民への優しさ!」
「んー。なんで微妙にはずれなのか、そうでないところを突いてきますかね?住民はその後です。趙雲殿はどう思います?」
「さて。人材ですかな?」
「そうです。人材ですね。もう1つ、追加で。」
少し首を傾げる趙雲だったが、すぐに「資金ですか?」と答える。
「正解です。人材とお金。これが重要になってきます。これはあくまで劉備さんに当てはめての答えですけどね。」
「ふえ?あたし?」
劉備が自分を指差して不思議そうな顔をする。
「ええ。じゃあ質問ですが、劉備さんが独立したとしましょう。その後何をするべきかわかるのですか?街を治める、とは簡単に言いますが、治め方をご存知なのですか?」
「え?ええと・・・何をすればいいのか解りません・・・。」
「お金を得ないといけないでしょう?何をするにせよ先ずお金です。で、お金を稼げる人が劉備さんの部下にいますか?」
「今はいないけど・・・あ、高順さんが部下n「それはありません。」はぅ・・・。」
こんな言葉の応酬を見て趙雲が「くっくっく」と笑う。どうも彼女から見ると出来の悪い漫才のように見えるらしい。
「ですから、人材なのですね。貴方には譜代の臣がいないのです。これからどうすればいいのか、というのを示してくれる頭脳役が必要になってくるんです。」
「あぅ。じゃあ、お金は?」
「文官ですね。民から金を得て、その金を管理して「どこで」「なにに」使ったのか。どう使うのか。それを考えてくれる人も必要です。」
高順の言葉に趙雲も頷く。
「そうですな。今の劉備殿は兵士もいなければ資金を得るための方策を考える部下がいない。独立したとて、その先の道を示す軍師もいない。」
「何もかも、1人でできる訳じゃないんだ・・・当たり前だよね。」
「・・・ここに来るまでにすっげー時間がかかりましたよ。」
なんでこんなに時間がかかるのかなぁ?俺の教え方よほど悪いのかなぁ?と悩む高順だったが、すぐに気を取り直す。
「そういった人々を迎えて、資金を稼ぐ事ができればあとは領土拡張です。その辺りは公孫瓚殿の方が詳しいでしょう。この話はこれで終わりですね。」
「はぁい。・・・なんか、難しいんだね。それに、何をするにしても人の力を借りる事は重要なんだ・・・。」
「全くもってその通りです。自分ひとりで出来ることなんてたかが知れてます。では、これで授業は終わりです。」
「あ、ごめん、もう1つだけ!」
「・・・はぁ。何ですか?」
「義とか情とか、そういう言葉を大々的に使わないほうが良い、っていうのはどうして?」
これは、高順が「授業」を始めた当初に言った言葉である。これからは血を血で洗い、人を騙して領地を得るような、そんな時代になっていく。
強かさが必要になる、と言ってもいいかもしれない。劉備はその強かさを天然で発揮できる人だが、こんな時代に義や情を広告に使うのは・・・少なくとも今はあまり良くないと思うのだ。
劉備が史実どおりの行いをするかどうかはともかく、その言葉が偽善になって、結局は名声を下げやしないか、ということでもある。
なんだって、いつか敵になるであろう劉備にこんな事を教えているのか。彼自身でも解ってないが、そこが高順の甘さであり弱点の1つでもあるのだろう。
恐るべきはそうやって他人の好意を無自覚に利用してしまっている劉備なのだろうが・・・。自身の信念の大元となる事を否定されれば劉備はずっしりと落ち込むのだろう。
その辺り、ぼかしてやるべきかな?と考えつつ。
「そうですね。簡単に言えば「それを言えるだけの実力がない」ですかね。」
「うぇ・・・実力?」
まだよく解っていない劉備だが、隣にいた趙雲は得心したように頷く。
「つまり・・・劉備殿の信念は弱き人々には心地よい響き。しかし、力無き者が何を言おうと、それを実行できなければ弱者の遠吠えに過ぎない。民を納得させたければそれに見合うだけの力量を得よ。そう仰りたいのですな?」
「まさしく、その通り。別に劉備さんの信念を真っ向から否定する訳ではありませんけど・・・信念を実行したいのであれば、ということですかね。それまでは義と情で民を救うという言葉、あまり使わないほうが宜しいのでは?と。」
誰も彼も救える訳ではない。実際は否定したい高順だが、それはまぁ・・・これからの彼女の行動を見れば解るのだろう。数年先の話か。それともそのときに自分が死んでいるのかすら解らないが、史実どおりに進めば嫌でも彼女の本質は見えるはずだ。
「う~・・・でもでも・・・。」
尚も言い募ろうとする劉備だったが、高順はそれを遮った。
「はい、授業はここでおしまいです。これ以上のことを知りたければ・・・そうですね、軍師を得た後にしていただきましょう。まだあなたには自身の進むべき道が見えていない状況ですからね。」
「あう。解りました・・・ありがとうございました。」
高順の言葉にぺこりと頭を下げて劉備は参考書やら何やらを抱えてその場を去って行った。残ったのは高順と趙雲のみ。しばらく沈黙を続ける二人だったが、
「・・・ふふ。高順殿も人が悪い。」
先に趙雲が口を開いた。
「はい?俺は嫌な人ですよ?」
「ご冗談を。あなたが劉備殿を嫌っているのは何となく解りましたが・・・それにしては面倒見が良いですな?」
「どうでしょうね。我ながら馬鹿だとは思ってますけどね。」
肩をすくめる高順を見て趙雲はハハハ、と笑う。
「嫌だ嫌だと言いつつも結局は面倒を見てしまう。ふふ、上党でお会いした頃からそうでしたが。その辺りは全く変わっておりませぬな。」
「むう。なんだか成長してない、と言われてるような。」
そんなことはありませぬ。と趙雲は優しい笑顔で高順を見る。実際、彼は良い意味で性格が変わっていない。
武芸の腕は随分上がったと思う。3人娘や沙摩柯。今はいないが蹋頓との組み手で腕を磨いていたし、自分や張飛とも鍛錬を行ってもいる。
趙雲から見ても3人娘や沙摩柯のような、どちらかといえば「アクの強い」部下にあそこまで慕われている(普段は弄られているけど)というのは大したものだろう。
劉備と高順は、どことなく似ていると思う。現実を見ているか否か、などの違いは多少あるものの「他者に甘い」ところはそっくりだ。
趙雲から見た高順の性格は「内側へ向く」性格だ。先ず大事なものを守ろうとする。普段は「死にたくないでござる。」とか意味不明なことを言っていて死と言う概念を極端に恐れているように見える。
妙なとこで小心者なのだ。にも関わらず戦や、仲間達に危害が加えられようとするとわが身を省みず敵陣へと向かってしまう。
怖いのはその傾向が更に極端になりはしないか、ということだが。彼の周りにいる人々を見る限り、そんな心配も必要ないだろう。
武将として、高順は彼女のことを非難できたりするような立場ではないと思う。甘さが捨て切れていない。しかし、趙雲にとっては高順は劉備とはまた違った魅力を持った人物だった。
自分も彼もこのまま公孫賛に仕え続ける事はないだろう。もしかしたら、最終的に敵同士になるかもしれない。だが願わくば・・・お互いがどのような立ち位置になるかは別として、彼とは同じ道を歩みたいものだ。
「さて、俺はここで失礼しますよ。ちょっと楽進達や閻柔さんと田豫さんにお願いしてる事がありましてね。」
「厨房ですか?」
「うん、そうdなんで解ったんですか!?」
「いえ、沙摩柯殿に「高順が今度はお菓子っぽいの作るみたいだぞ」と聞きまして。」
趙雲はしれっと言い放つ。そして高順はジト目に。
「もしかして、趙雲殿がここに来たのって・・・「それ」食べたいからなのでは?」
「ほう、これは異な事を仰せになられる。ですが高順殿がそこまで言われるのであれば味見をさせていただきましょうかな?」
「・・・趙雲さんも腹黒ですね。」
「おやおや、遠慮などせずとも宜しいのですぞ?」
「食べたいならそう言えば良いのに・・・。まあいいか。趙雲殿にも味見していただきましょうか。お酒のつまみにはなりそうも・・・あ。」
「ふふ。また何か思いついたようで。後々が楽しみですな。では、参りましょう。」
彼の言う「それ」は「タルト」である。バニラエッセンスとか、そういう類のものは無いが他の材料なら何とかなるな。と考えて皆に材料を集めてもらい、厨房の人に協力をお願いして作成しているのだ。そろそろ焼きあがった頃ではないだろうか?
そして酒のつまみ云々で思い出したのは「ソーセージ」に香辛料を更に突っ込んで「チョリソー」っぽくできないかな?と思い至ったのであるが・・・。
それはともかく、高順は趙雲に急かされて厨房へと歩き出す。
その後、タルト作成に成功したり、それを公孫賛がいたく気に入ったり、端折られた(単純に呼び忘れた)劉備たちに「なんで私達の分は無いのー!?」と逆切れされてしまい、リアルメメタァを関羽にかまされそうになったりと、いろいろな話があるのだが―――

それは本編には、全く関係のない話である。




~~~楽屋裏~~~
こんな簡単な事がわからないほど桃香はアホの子じゃないと思いますが、薄力粉と小麦粉の違いがわからないあいつはアホの子です、あいつです(挨拶長っ
でも需要と供給の関係があまりわかってない彼女だからきっと問題はないと思うんだ・・・。
そして、義と情云々。劉備は弱小の頃からこれを標榜してましたね。それが逆に足かせになったのではないかなと思うのです。
だから卑怯な真似をできなくなるし、やったらやったでそれを口実に攻撃されるし。したたかな彼女には痛くも痒くも無いでしょうが、少しくらいはまともな乱世の英雄になれる・・・かなぁ?(苦笑
本編最初期だと本当におつむの中身が無い子ですね、劉備は。
蜀ルートではそれが徐々に君主らしくなる・・・なってたのかなぁ?(汁

実を言うと、本編よりこちらを先に投稿せねばならないはずなのですが・・・ぼけててこっちが後になってしまいました。
24話で「いつ高順くんが関羽に頭握りつぶされそうになったの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、投稿順が逆になってます(汗
なんでこんなミスをしたのやら・・・。


ではでは、またお会いいたしましょうノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第25話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/03 15:23
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第25話


鄴と呼ばれる地。黄巾賊と呼ばれる集団の根拠地はそこにある。
公孫賛率いる1万3千は鄴に向かうまでに幾度も黄巾賊と戦い続けた。そのほとんどが小規模な軍勢であるが、放っておく事はできない。
そのまま放置すれば関係のない村落を襲うだろうし、鄴の黄巾本隊と合流か、あるいは背後を脅かされる危険が付きまとう。
潰しても潰してもまた出てくる黄巾賊。まるでもぐら叩きのようだ、と高順は思う。
これほどまでに民間に浸透していたという事にも驚いた。未来知識で知っていたが・・・どうも甘く見ていたらしい。数十万どころか本当に100万ほどの勢力ではないだろうか。
それはともかくも、高順隊も趙雲隊も、公孫賛軍の主力部隊として戦い続けた。趙雲も高順もこれまでの活躍で認められたのか率いる兵士数が増えている。趙雲は1000、高順は700と言ったところだ。
劉備軍と鉢合わせをすることは無かったが、彼女達はもっと南の方へと向かったらしい。劉備が曹操軍と協力して黄巾を叩いてるなど露ほども知らない高順だったが「まあこんなとこで死ぬ人たちじゃないしなぁ。」とさして心配もしていなかったのであった。
数ヶ月ほど同じことの繰り返しをしていた公孫賛軍だったが、ようやくと言うべきか鄴まで進む事が出来た。
荊州方面・潁川方面共に各地の太守と官軍が(表面上)協力して片を着けたからか、史実よりも早く黄巾賊を追い詰める事に成功したようだ。(潁川方面はほとんど黄巾の勢力は無い。以前に曹操が潁川黄巾賊を立ち上げたであろう黄巾幹部を軒並み滅ぼした事が原因である。)
公孫賛の率いる兵士は1万1千程度にまで減ってしまっていたが、何とか鄴にたどり着いていた。
その鄴城には「天已死 黄天当立 歳有甲子 天下大吉」と書かれた旗が多く立っている。正直に言うと見飽きたと言いたい位に何度も見てきた旗だ。
それだけ多くの戦い続けた、と言うことだ。
公孫賛軍は少し遅めに到着してしまったが、どちらにしても独力で攻める戦力は無い。この地に既に集まっている他の軍も軍勢も自分達以外の軍勢が集結してからでいいだろうと思っているはずだ。
当然、自分達が美味しいところを持って行こうと言う思惑がある。如何に被害を少なく、如何に大きな勲功を得るか・・・それが一番の関心事であった。
それは公孫賛にとっても同じ事。やはり戦力を失いたくは無い。今この場に集っている軍勢は10万にも満たないが・・・黄巾はまだ20万、或いは30万以上の兵数だ。
官軍の司令官・・・皇甫嵩という名の女性だが、彼女もまた悩んでいた。いつ攻撃を仕掛けるべきか、と。蘆稙は宦官に賄賂を贈らなかった為に更迭されてしまい、朱儁もまた更迭されるのでは?という噂が流れている。
そうなると皇甫嵩としてもやりにくくなる。ようやく集まりだした諸侯が不安を覚えてしまえば士気を喪失しかねない。武働きなど期待できなくなってしまうのだ。
その上にいつまで待てばいいのかと言う焦燥感も一部諸侯の間で流れ始めている。
役に立つか立たぬか解らぬようなものが多い状況だ。曹操や袁家、公孫賛。頼れそうなものが多いのもまた事実ではあるのだが・・・。初期では黄巾戦に参加していた呂布の軍勢も、今は不穏な気配を見せている西涼に派遣されてしまい、ここにはいない。
最悪、今現状で集まっている軍勢で攻めるしかない。しかし、黄巾の兵力は2~30万ほどという報告を聞いている。
これだから政治と言うものは嫌なのだ。倒すべき敵は目の前にいるのに、こんなときにまで賄賂だ何だと。高順の仕えていた丁原も宦官を嫌っていたが皇甫嵩もまた宦官を嫌っていた。
と、そこへ伝令が皇甫嵩の陣幕に入ってきた。内容を聞くと袁術の軍勢が到着したらしい。
伝令の報告に、そうか、と呟いて皇甫嵩は陣幕から出て行き確認をする。
その視線の先にあるのは「袁」の旗と、到着した兵士が2万ほど。そして、その軍勢の中に・・・「孫」と書かれた旗の下に、それほど規模の大きくない部隊も混じっていた。

~~~夜、公孫賛軍・宿営地~~~
宿営地で高順らがやっていること、それは夕飯作りであった。
周りから見たら「何で武将がそんなことを!?」と思うのだろうがこれは高順隊ではごく普通の常識だった。当番制で食事を作るのだが、その当番の中に高順も入っているだけのことだ。
兵士も最初は驚いていたが、今ではその光景はありふれた物となっている。味噌汁に具を突っ込み、飯を炊き、惣菜の用意など。700人規模とはいえ、けっこうな量である。
公孫賛本人は皇甫嵩の陣幕、つまり本営に呼び出されており、恐らくは今後の事を相談、指示をされているのだろう。
高順は丁原がいないか探してみたがどうもここにはいないらしい。
その代わり「曹」の旗を見つけたときはなんだか「どよ~~~ん」と気分が沈みかけた。顔見知りではあるし、前に虹黒が夏侯惇を跳ね飛ばし・踏み潰し・蹴り飛ばし・の3連撃かましたので謝罪に行くべきかもしれない。だが行ったら行ったでろくな目に会うまい。
まあ良いや、と思って気にしないでおく事にする。どうせ高順は自前の旗など持っていないので目立つ事もない(虹黒に乗れば嫌でも目立つ)。
一部隊を率いるとは言え、彼も趙雲もあくまで公孫賛の私兵であり客将だ。「公孫」の旗が在ればそれで良い。
それから暫くして公孫賛が帰って来たようだ。伝令から「高順殿と趙雲殿も陣幕までお越しください」と伝えられたので、後は3人娘と沙摩柯に任せて陣幕へ向かう事になった。
陣幕には公孫賛、そして今回の戦いで従軍してきた武将全員が揃っている。
「ああ、良く来てくれた。すまないな、炊き出しの最中に。2人とも、座ってくれ。」
その言葉に従い高順達は席に着く。
「よし、これで全員揃ったな。先ほど皇甫嵩殿・・・今回の戦の総司令官とでも言うべきかな。その皇甫嵩殿に呼ばれて他の諸侯と協議をしてきた。結果・・・2日後、早朝に総攻撃を仕掛ける事になった。」
公孫賛の言葉に諸将がざわめく。
「静かに。今回の戦いは基本的に攻城戦になる。当然、黄巾が城から打って出て来る事も予想されるのだが・・・どうも黄巾は兵糧が欠乏しつつあるらしいな。」
これは当然と言えば当然だ。鄴は相当堅固かつ巨大な城、城砦と言っても良い。だが巨大と言っても何十万の兵を一箇所に留めておけばその分食料の消費も早くなるし、衛生状態も悪い。
鄴を囲んで数週間になるが、攻める側より攻められる側のほうが有利なこの状況。出撃してこないのはそういった事情があるのだろう。、
「そして、まだ仮ではあるが陣割りが決定した。我々は鄴の北門を攻める。東からは曹操、西からは袁紹、南から皇甫嵩殿。他はまだ聞いていないが・・・すぐにそこらも決まるだろうな。」
さすがに規模の大きい城だけに、東西南北に門があるようだ。完全に包囲して張角達が逃げられないようにする。ただ、問題が無い訳ではない。張角の顔を知っているのもが誰もいないのだ。他に張宝・張梁もいるのだが性別も解らない。皆殺しにしろ、ということか。
そんな命令を受けているわけではないだろうが、そうせざるを得ない場合もあるかもしれない。そこは覚悟を決めるべきかもしれない。
その後、公孫賛軍の陣割りも発表された。現状のままで行けば騎馬隊の出番はあまり無いだろう。城攻めであれば攻城兵器、そして弓・歩兵隊の出番だ。
万が一黄巾が出撃した場合の事も考え、先鋒部隊にも趙雲、高順部隊が追従する事になった。
細かい打ち合わせを終えて軍議もお開きになる。ほとんどの武将が出て行った後、高順も趙雲も陣に戻るか、と思った矢先・・・とある人々が公孫賛を訪ねてやった来たのだった。

伝令が陣幕に入ってきて公孫賛に耳打ちをする。
内容を聞いた公孫賛はどうしたものかと迷っていたが、まあいいか、と呟いて伝令に「入ってもらっても構わない。」と言った。その言葉を受けて伝令は陣幕の外へと出て行く。
「・・・何かあったのですか?」
「いや、ちょっとした客が来たみたいでね。もう少し早く来れば良かったのだけど。」
高順の質問に公孫賛は首をすくめた。
「ふぅむ、どなたが来られたのでしょうな?」
「ああ、それは―――」
「失礼するわ。」
言いかけた公孫賛だったが、そこにその「客」とやらが入ってきた。
客の数は3人。皆、肌の色が浅黒い。背も高く、スタイルも抜群だ。その上美人ときている。現代世界であればどこかの有名なモデル、と言っても誰も疑わないだろう。
そして、服の布地の面積が妙に少ない。豊満な胸が溢れそうなほど・・・簡単に言えば凄まじい露出度であった。
1人は眼鏡をかけていて、割ときつそうな感じのする女性。1人は胸元の開いた少し薄い紫色のチャイナドレスを身に纏っていて、妖艶な女性だ。
そして、もう1人は紫か、桃色に近いような感じの髪を蓮・・・?のような髪飾りで束ねて後ろに流している。額に真っ赤な塗料で紋様のようなものを描いている。
この女性がこの3人の中でリーダー格なのだろう。
「あー・・・ようこそ、お越し頂いた。」
その凄まじい美女3人を見て言葉を失っていた公孫賛だったが、礼儀に従って拱手して迎える。
先頭にいた女性も拱手をして応える。そして、笑顔でこう言ったのである。
「お目にかかれて光栄だわ。私は孫策、字は伯符。」
その言葉に高順は1人呆然としていたのであった。

これで、三国の英雄3人(孫権か孫堅でもいいけど)が出てきた訳だ。しかし、策さんが?孫堅さんはどこにいるんだ?
それに、あの後ろにいる2人。多分、眼鏡のほうは周喩か陸遜・・・孫策が連れて来たって事は周喩だろうな。
あの胸が一番でかい人・・・誰だ?程晋?それとも朱治だろうか、あるいは黄蓋?そこまでは解らないけど・・・
しかし、3人とも凄まじくナイスプロポーションですよ。あの胸の大きさ、蹋頓さんや沙摩柯さんともタメを張る。呉のおぱいはギガントか!?そうじゃない、いや、落ち着け俺。

そんなことを考えている高順と、趙雲の目の前で公孫賛と孫策は色々と話をしている。
「こちらと共同で当たりたい、と。袁術殿はそう仰ったのか。」
「ええ。袁術軍の先鋒として出るのは私だけどね。」
「こちらとしては構わない。我々の持ち場は既に決まっているからな。しかし・・・こちらから孫策殿の部隊に援軍、それも騎兵部隊を送ってくれと言うのは虫が良すぎないか?」
「あたしに言われてもなぁ。これはあくまで袁術の言い分だし・・・ま、自分の軍の損害出したくないだけなんでしょ?正直うざいったら無いわよ。」
そんなことを言い出す孫策に後ろにいた眼鏡の女性が注意する。
「おい、孫策・・・。」
「解ってるってば、周喩は心配性ね。・・・でも、助けが欲しいのは本音なのよ。うちは歩兵ばっかで騎兵が全然いないもの。向こうが出撃してくると数が少ないからきっついのよねー。」
「ふーむ。」
公孫賛と袁術軍の兵を足すと3万前後にまで膨れ上がる。公孫賛の軍勢だけでは明らかに力が不足しているので袁術の申し出は受けるべきなのだが・・・公孫賛側から先鋒として出る兵数はおよそ4千と言ったところ。
袁術側の先鋒は孫策の5千ほど。どうも孫策は袁術の客将といった感じで立場が良くないらしい。何かあったらすぐに見捨てられる形になるだろう。
そうなれば公孫賛側の軍勢も巻き込まれて痛手を負うのが目に見えている。袁術の目論見が「自軍の兵の被害を最小限に」という事は解りきっているが・・・さて、どうしたものだろうか。
「はぁ。仕方ないな。こちらも兵に余裕があるわけじゃないから、回せても少ないと思うけど。それでも良いなら。」
「うん、構わないわ。都合してくれるだけでこちらとしては大助かりよ。」
「どの部隊を派遣するかはすぐに決めて、明日向かわせるよ。それで良いかな?」
「ええ。・・・では、そろそろ失礼するわ。また会いましょう。」
拱手して孫策達はその場を去って行った。
「・・・はぁ~・・・。頭が痛くなってくるよ・・・。まさかこっちから兵を派遣だなんて。」
疲れた、と言わんばかりに項垂れる公孫賛。本当に困っているようだ。
「これも弱小太守の弱みだなぁ。・・・でもどうしよう。」
騎兵部隊と言えば白馬義従だが、これは公孫賛直属の部隊である。小隊長などはいるが、部隊長と言う意味では公孫賛のみ。そうなれば他に主力騎兵部隊として考えるのは・・・趙雲か高順だ。
公孫越あたりを派遣しようかとも思ったが、能力を考えると派兵するにしてはどうも頼りない。きっちりと戦力になる部隊を送らないと、面子が立たないと言う問題もあるのだ。
そうなると必然的に高順、或いは趙雲になる。
悩む公孫賛だったが、仕方ないとばかりにため息をついた。
「すまない、高順・・・。悪いんだが明日、援軍として孫策殿の陣に行ってくれないか?」
「こちらは客将ですからね。行けと言われれば行かなくてはなりません。孫策殿の陣に合流するのは明日で良いのですよね?」
「うん。本当にごめんな・・・。」
「構いませんよ。」と笑って高順は陣幕を出て行った。それに趙雲もついて行く。
「高順殿、貧乏くじを引きましたな。」
「そうかもしれませんね。ですが、これは実質袁術からの要請ではなく命令みたいなものですからね。」
「向こうの方が勢力は大きいですからな。仕方ないといえばそれまでかも知れませぬが。」
「ええ。・・・では、俺はこちらなので。」
「うむ、ではまた。」
陣が別にあるので両者は別れて自分の陣へと歩いていく。
その途中で考えている事が1つ。
「もしかして、ここで微妙に歴史が変わるか?」ということだった。
場所や時期は違うかもしれないが、袁術に要請を受けて出撃するのは本来は公孫賛の弟である公孫越なのだ。
そこで公孫越は戦死して袁家と公孫賛の間柄は険悪になる。少なくとも歴史上ではそうなっている。
だというのに、まさか自分がその役目につくとは思いも寄らなかった。
もしかしてここが自分の死に場所か?と思うと背筋も寒くなるというものだ。だが、3人娘や沙摩柯もいるし、何より孫家の人々も一緒だ。
大丈夫だろう・・・いや、大丈夫だと思いたい。
考えつつも暫く歩いていくと、孫策達が高順の陣付近で立っているのが見えた。出て行ったのは自分達より前だったはずだが、こんなところで何をしているのだろう?
高順の陣では現在夕餉の支度をしている。高順は支度を開始した頃に呼ばれたのだが、ちょうど支度が終わった時間だったようだ。
味噌汁を炊く良い匂いが漂ってくる。
「んー。良い匂いねぇ~。」
「ああ。今まで嗅いだ事の無い匂いだが・・・ふむ、肉を焼いている匂いもするな。」
「ふぅむ、食欲をそそられる匂いじゃな。・・・ったく、袁術め。もう少しマシな飯を回して欲しいものよな。」
「ふふ、それは祭殿が贅沢なだけでしょう?」
「なんじゃとー!?ワシが贅沢なのではない、冥琳(周喩の真名)が淡白なだけであろう!」
「ほら、二人とも喧嘩するんじゃないわよ。・・・でも、正直羨ましいわね。美味しそう。」
「ならば、食べていかれますか?」
「え?」
いきなり後ろから話しかけられたことに、3人は多少驚きつつ振り向く。
「あ・・・えーと。貴方はさっき、公孫賛殿の陣幕にいたわよね?名前は・・・」
「名乗っておりませんね。俺は高順と申します。以後お見知りおきを、孫策殿。」
「え、ああ。そう。よろしくね?」
拱手した高順に拱手を返す孫策。
「ところで、食べてく?って今言ってたけど。あなたがこの陣の責任者なのかしら?」
「ええ。そうですよ。なんだか「良い匂い」だの「食欲がそそられる」だの「袁術がけち臭い」だのと仰っておられたので。」
「・・・ワシ、そこまでは言っておらぬぞ・・・?」
「はは、冗談ですよ。それはともかく、夜も更けて寒くなってきましたからね。失礼を承知で申せば・・・その、お三方の格好では寒くないだろうか?と思った次第。少し食事をして体を温めてください。」
高順の言ったとおり、3人は凄まじいまでの薄着である。どうして胸とか露出しないで済むの?と疑問を持ちたくなるくらいに。
「別に寒くは無いけどね・・・でも、本当に良いの?わたし達誘っても良い事なんか無いと思うけど?」
「遠慮などしないで頂きたい。食事と言うのは皆で食べるから美味しいのです。客が来れば皆喜ぶでしょうしね。」
さ、お早く。と急かす高順に押されて孫策達は困ったような表情で歩き始めるのだった。

~~~高順の陣~~~
「おそーい!何やっとたんや!?」
「え、俺のせいじゃないよね!軍議で呼ばれたんだから俺悪くないよね!??」
「皆を待たせるのが悪いの!よって高順さんが悪なの!」
「悪とか断言された!?」
「お前ら、隊長を困らせてそんなに楽しいか?」
『うん』(即答)
「・・・まあ、何だ。高順、強く生きろよ?」
「俺、もう駄目っぽい・・・。」
帰陣早々、部下に目一杯文句を言われて落ち込む高順と、それを見て驚きのあまりぽかん、となってる孫策達。
なんというか、上司と部下の間柄が随分不明瞭に見える。軍規がないわけではないだろうが・・・。
「・・・ところで高順。この3人は何者だ?」
「あら、自己紹介してなかったわね。私は孫策。で、眼鏡が周喩で乳でかが黄蓋。」
「・・・眼鏡。」
「・・・乳でか・・・。」
なんとも失礼すぎる紹介である。というか全員胸は大きいと思うのだが。
「・・・凄まじく失礼な紹介ですね、孫策殿。っと、それは後にして。悪いんだけど孫策殿達の分も用意してくれる?」
高順に言われて楽進が「解りました、しばしお待ちを。」と頭を下げてから歩いて行き、数分もせず戻ってくる。
お盆の上に皿やらお碗がいくつも乗っている。豚汁やら白米やら魚やら野菜やらウインナーやらチョリソー(っぽくしたもの)やら。色とりどりである。
それを楽進はどうぞ、と言って3人に渡していく。
良く見ると兵士たちも思い思いのところに座り、自分の皿を足元に置いていたりする。孫策らは「何で食べないのか?」と思う。
高順は全員に食料がいきわたった事を確認して「それでは皆さん、手を合わせてください!」と叫んだ。
その声に合わせて皆が手を合わせ、孫策たちも釣られて同じように手を合わせる。そして、全員で―――
「いただきまーす!」
と高順と同じように叫んで、一斉に食事を取り始める。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
孫策達は驚いて声も出ない。まさか、こんなことを部隊丸ごとでやるなんて。
「どうしました?美味しいですよ?」
「え?あ。うん。じゃあ、一口・・・。」
高順に促されて孫策は少しだけ豚汁をすする。別段躊躇した訳ではなく、驚いていただけだ。
「へぇ、美味しい・・・。」
「ほぅ、では私も。」
「・・・策殿が美味いというなら。」
周喩と黄蓋も試すように一口だけすする。
「ほほぉ・・・中々良い味だ。」
「ふむぅ、野菜と肉の出汁が効いておるの・・・美味いではないか。」
「ふっふっふ、お口にあったようで何より。」
2人の反応を見て高順はニヤリと笑って食事を続ける。
3人娘も沙摩柯も談笑しながら食事をしている。いや、兵士達もだ。和気藹々という言葉がしっくり来る。
良い雰囲気だ。孫策達はそう思った。お互いの関係が不明瞭と言うのではなく、これがこの部隊の「普通」なのだろう。
部隊の長、或いは武将が兵士達と同じように地面に座って兵士達と肩を並べて同じ物を食べる。
先ほどは部下に弄られていた高順だが、あれも考えようによっては部下達は友人の延長線上に近い関係なのかもしれない。
あまり褒められた事ではないと思うが、絆というものが強いのだ。あの若さで兵士と同じ目線で過ごすのは大したものではないか。
(高順という人間の本質は良く知らないが、人となりだけは評価できるな。)
孫策はそんな事を考えつつ、また豚汁をすすり始めた。

その後、暫くして。
「のぉ、高順。他に酒のツマミになりそうなものは無いのか?」
と黄蓋が話しかけてきた。
「ツマミ?辛肉詰め(チョリソーの事)じゃ足りませんでしたかってちょっと、酒飲んでるんですか!?」
「おうよ、酒は人生の伴侶!酒なくして人生など語れぬというものよっ!」
わっはっは、と偉そうに笑う黄蓋を周喩がたしなめる。
「黄蓋殿?他者の陣にまでやってきて酒を飲み、あまつさえツマミを要求?孫家に恥をかかせるつもりですか?」
「ぬっ、うるさい奴が。少しくらい構わぬであろうが?」
「貴方の少しはちっとも少しではありません。」
「ええい、やかましいわ!」
「いえ、良い機会です。今日と言う今日は言わせていただきますが・・・。」
周喩と黄蓋の言い争いが始まった。理詰めで諭す周喩と、酔っ払いの黄蓋なので、両者共に延々と食い違う事を行っている。
そんな2人を尻目に、孫策が高順に謝罪する。
「ごめんね、高順。私の部下が勝手に酒飲むわ説教開始するわ・・・。困ったもんよ。」
「そういう貴女も随分深酒してませんでしたか?」
「うっ、バレてた?」
「それはもう。堂々と飲んでましたからね。」
ううっ、とたじろぐ孫策と、それを見て少し笑う高順。
「ああ、孫策殿に色々と聞きたいことがあるのですが宜しいですか?」
「ん?聞きたい事?構わないけど。」
「あなたの親に孫堅様という方がおられませんか?」
高順の言葉に、孫策は少し悲しそうな・・・遠い目をする。
そんな彼女の表情を見て、高順は「あれ?」と首をかしげる。
「母様は・・・死んだわ。劉表と争ってる最中に流れ矢に当たってね。あっけないものだった。あれほどの人がね・・・。」
「そうでしたか。それは・・・申し訳ない。」
「いいわ、貴方のせいじゃない。母様が死んで、そこからがケチのつきはじめよ。袁術に領土の大半掠め取られるし、その袁術の客将になってこき使われるし。」
「・・・。」
孫策の話を聞いた高順は「少しおかしい」と感じた。
本来の歴史からすれば孫堅が死ぬのは反董卓連合の後だ。にも拘らず、黄巾の乱時点で戦死?
どうも、自分の知識として理解している三国志から少しだけ時系列がずれている様な気がする。
まさか自分が影響を与えたなどとは思わないが・・・そうなると自分の処刑、あるいは戦死時期が早まったり遅くなったりもするのだろうか?
今目の前にいる孫策が死なずに済むかもしれない、という「自分も知らない三国志」という世界に行きかけているのか?
顎に手を当て考え込む高順を見て、孫策は「気にしないで、って言ったのだけど。」と苦笑していた。
どうも誤解をされたようだ。が、孫堅に会えないのは本当に残念であった。どのような人だったのだろう。
「いえ、こちらこそ申し訳ない。」
「で、他に聞きたいことって?」
「何故貴方のような人が袁術の元で働いているのか、と思っていたのです。今答えを頂きましたから・・・。」
「そう。なら良いのだけど。じゃあこっちからも質問。」
「はい?」
「何で母様のことを知ってるの?」
・・・しまった。またやってしまった。何でこう毎回毎回同じミスをするんだ俺・・・。
考えろ俺、何とか切り抜けろ!
「えー。俺、ちょっと前に旅をしていたんですよ。洛陽・陳留・それに呉に近い徐州の下邳とかね。その辺りで聞いたのですよ。亡くなってる事は知りませんでしたが。」
「へぇ・・・?人は見かけによらないのね。ちょっと甘いどこぞのお坊ちゃまとか思ってたのに。」
「甘い、ですか。ふぅ、よく言われますよ。育ちはあまり良くないですけどね。」
「今回誘ってくれたお礼じゃないけどその甘さ、何とかしたほうがいいわ。いつか足元を掬われる。或いは身を滅ぼすわね。」
孫策の、辛らつではないが諭すような言い方に驚きつつ、
「何故、そうお思いに?」
「さあ。強いて言えば勘。貴方みたいな人はね、裏切りとか・・・そうね、大切な物や人を失ったときに立ち上がることが出来なくなる。心が脆いせいでね。」
「心が脆い・・・。」
甘いとか言われるのは良くあるが。心が脆いなどと言われたのは初めてだな、と思う。
「貴方は矛盾してるように見えるのよね・・・。そんな甘さを残したまま戦場に立つ。非情になり切らなければならない場面で、その甘さが出て来てしまいかねない。足元を掬われるって言うのはそういう意味。」
「むぅ・・・。」
「・・・ふふっ。」
深く考え込む高順の顔を見て孫策は噴出した。
「その甘さのおかげで美味しいご飯にあり付けたのだから、それは感謝するべきでしょうけどね。さて、私達はそろそろお暇するわ。あまり迷惑をかけることもできないし、ね。」
そう言って孫策はまだ言い合いを続けている黄蓋達の下へと歩いていった。
甘さ、か。・・・このままで、自分は死亡フラグを折れるのだろうか。
ただ、皆に嫌われたくないだけで、上辺だけの生き方をしてるだけでは無いのか?自分は本当はどうしたいのだろう?
その後孫策らを見送ったが、高順の心は晴れないままだ。
明日からは孫策と一緒に戦わねばならないので、そんな迷いを残したままというのは不味いのだが・・・そこで高順は1つ孫策に言い忘れていた事があるのを思い出した。
「派遣されるのが俺だって言い忘れていた・・・。」



~~~孫家の方々~~~
「いやぁ、思いもかけず上手い飯にありつけたのぉ。」
ほくほく顔の黄蓋。
「酒も沢山飲めましたからね。そういえば雪蓮(しぇれん)も飲んでいたような?」
雪蓮というのは孫策の真名である。
周喩の指摘に孫策も黄蓋も「げっ」と言いたげな表情を見せる。
「い、いいじゃないのよ。高順が良いって言ってたんだしさ。」
「その割りに高順は「いつ飲んだの!?」と驚いていましたね。」
「うっ・・・。」
周喩に口で勝とうと言うのがそもそも無理なのだが、孫策のこういうところ癖のようなものだ。言ったところで治りはすまい。
「追求するのはこれくらいに致しましょう。いつ黄巾の襲撃があるか解らぬこの状況で酒を飲むのはいささか不謹慎では、と言いたいだけですから。」
「うう・・・。これくらいって言ったのに・・・。」」
「軍師として、友人として、これくらいは言わせていただいても罰は当たりません。・・・祭殿もですよ?」
「くっ。こっちまで飛び火するか!?」
「当然です、元はと言えば・・・。はぁ、もう止めましょう。それよりも雪蓮。」
「ん?」
「あの高順という青年。貴方の目から見てどう思う?」
周喩の問いかけに「んー。」と唸ってから振り返る。
「甘すぎるわね。優しいと甘いは同義ではないわ。部下に対して優しいのはかまわないけど、疑う事を知らなすぎる。私達が袁家の間者だったという可能性もあるのにね。ただ・・・」
「ただ?」
「母様の事を知っていたわ。」
「!・・・ほぅ。先代の事を・・・成る程。」
黄蓋と周喩が納得したような素振りを見せる。
孫堅の名を知っているのであれば、「江東の虎」の異名を知らぬわけが無い。だからこそ袁家の間者である可能性など考えてもいなかったのかもしれない。
虎の子は虎。虎が袁術ごときに飼える道理が無い。ということを理解していたのだろう。
「知っていたのはただの偶然かもしれないけれどね。で、冥琳、祭から見た高順はどうだった?」
「そうじゃなぁ。ワシはあの辛肉詰めが中々。じゃなくて、あの性格は評価できるのでありませぬかな?最初、部下に弄られていたのには驚きましたがな。」
「そうですね、性格の事は祭殿と同意見です。ああ見えて配下からは随分信用をされているようにも見える。腕のほうは見ていないので何とも言えないですが、悪く無いのでは。」
「何じゃ、冥琳。お主、その辺りは節穴よの。」
「ほう。では祭殿の見立てでは?」
黄蓋の言葉に周喩は興味深そうな表情を見せた。
「まだ未熟。と言いたいがあれで中々鍛えこんでおるぞ。無駄な筋肉が無いと言ったほうが良いか。それにあ奴の戟。名前までは知らぬが、相当に重いぞ?」
「そこまでご覧になっていたのですか?」
「うむ、と言いたいところじゃがな。あの鎧を着込んだ娘、楽進と言うたか?あれに聞いてみたのじゃ、どんな男なのかとな。得られた情報は少ないものだったが、あの戟を片手で扱うのだと。」
「ほほう。どのような戟かまでは見ておりませんでしたが・・・。祭殿がそこまで買われるとは。」
黄蓋はそうだが、どうやら周喩も高順のことを多少評価しているらしい。
黄蓋は「武才」を、周喩は配下に慕われる「統率」を。人柄については孫策の云うとおりで、確かに甘い。
「そっかぁ。2人は大なり小なり評価してるのね。私はちょっと微妙かな・・・。」
孫策は歯切れが良くない。高順の甘さが気にかかっているといったところか。
「ふむ。ならば雪蓮。1つ賭けをしてみないか?」
「賭け?」
「ああ。私は高順が将来的に武将として大成しそうな気がする。あの甘さでは政には向かないだろうが、戦場での勇という形であれば祭殿と意見は合いそうだ。」
「へぇ・・・。」
孫策にとっては少し意外だった。周喩が他者をこう評価すると言うのもだが、それに賭けを追加してくるなんて。
冗談として受け流せといっているのか、それとも余程自信があるのか。
「ふふん。冥琳が賭けで私に勝てるなんて思わないけど乗ってあげる。そうねぇ・・・負けたほうが勝ったほうにライチ酒進呈でどう?」
「いいでしょう。ただ、時間はかかるでしょうね。1年か2年か3年か。期限をつけなくては。」
「あら、何年でもいいわよ?絶対に勝てる自信があるもの。」
悪戯っぽく微笑む孫策。その言葉に周喩も意地悪く笑う。
「ふぅ、後悔しても知らないわよ、雪蓮。」
「おいおい、ワシは参加させてもらえんのかい?」
黄蓋は腰に手を当てて呆れたように言う。
「ほう、祭殿はライチ酒を作れましたか?」
「それくらい作れるわっ!」
「別に良いじゃない、参加させてあげれば。で、祭はどっちにするの?」
「大成するほうですな。今回はこちらこそ負ける気が致しませぬ。」
黄蓋は何ら迷うことなく言ってのけた。
2対1か。絶対に負けられない、とは思うが・・・邪魔のしようが無いし、賭け自体ほとんど冗談のようなものだ。
「ま、次に会うのは何時か解ったものじゃないけどね。今回の戦いで戦死したらそれまでだし。」
「全くです。案外、明日派遣されてくるという公孫賛殿の武将・・・高順かもしれませんからね。」
「はは、まっさかぁ。」
そういって笑う孫策。いくら何でもそれは無いだろう。孫策はこの時ばかりは周喩の言葉を本気で笑い飛ばすのだった。
だが。

夜が明けた後、派遣されてやって来た武将が高順だった事を知って、「・・・まさか周喩の言う通りになるなんて。賭けまで周喩の言った通りになったらどうしよう・・・?」
と、賭けに乗ったことを本気で後悔する孫策であった。




~~~楽屋裏~~~
前に言った大変ってこういう意味ですあいつです。(挨拶
ちょっとした質問ですがどこの軍勢でも騎兵部隊って精鋭部隊なんですよね?基本的に馬ってお金かかりますし。

これで、魏・呉・蜀の3君主が出揃いましたね。一武将なのに、こんな短期間に3人に会うとはどんな運ですか、高順くん。
しかし、どこの君主も高順に対しての評価が違いますね、当然ですけど。

曹操→時代の先を見越すし、武力も中々ある。あの3人娘も中々のものね。主力を張れるわけではないけど、欲しい人材ではあるわ。
劉備→愛沙(関羽)ちゃんと喧嘩しちゃったけど(これはどっちか言えば高順が悪い)鈴々ちゃん(張飛)とは仲いいし・・・高順さんの部下も有能そうだから引き入れたいなぁ。
孫策→あの甘さが無ければ良いんだけどね。武力とか統率力はこれから見せてもらえば済む事よね?

こんな感じ?行く先々でヨイショされちゃうのはこういうご都合シナリオでは仕方ないかもしれませんが、違和感がありすぎますね。
ナントカシタイナァ。
さて、次回はどうなることやら。
それではまた。(・×・)ノシ





お・ま・け。

公孫賛→星(趙雲)ー!高順ー!お願いだから戻ってきてええええええっ!!!!(涙)(袁紹に攻められつつ



・・・これ、評価じゃないような?(汗



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第26話(誤字はっけーん
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/07 16:49
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第26話


~~~袁術軍。孫策陣営にて~~~
どうも皆様。高順です。
今現在、孫策殿の下で連れて来た騎兵を編成し終えて開戦の時を待つ身なのですが・・・。

無闇にしんどいのですがどうしてですか!(血涙
いやね、何がしんどいって黄蓋さんからは「このまま孫家に来ないか?」と誘われたり周喩さんからは「どこで孫堅様の事を知った?」とか色々質問攻めにされたり!
しかもあの「ぱつんぱつん」なエロスな身体を布地面積少ない服で!男として天国か地獄なのかと!
女性の兵士さんもチラホラといますが、皆一様に露出度高いのですよ?
なんか凪さんが「ギリギリギリ・・・」と歯軋りしてこっち睨んでます、だから何で毎回こう俺に関係のないところで俺が辛い目に会うのさ?
ぼすけてー!誰かー!




さて。
前日、周喩・黄蓋とある賭けをした孫策だったが早速後悔したくなってきた。
高順は3人娘・沙摩柯らを連れて700ほどの騎兵部隊を率いてきたのだ。
まさか高順が精鋭部隊(この時代の騎兵部隊は大抵精鋭)を率いていると思っていなかったが、それ以上に驚いたのは高順の乗っている馬、虹黒だった。
ちょっと見たことの無い巨躯で、その上気が荒い。
珍しく思って触ろうとした孫策だったが、頭突きをされそうになって慌てて離れたり。
高順曰く「この子は俺の相棒なんです。その上、きっちりと人を見てますよ。」と。
(そんな気難しい馬に認められて、更に騎乗してる高順って一体・・・。)
心底から思う孫策であったが、肝心の「武将としての力量」を見たわけではない。黄蓋は「まだまだ未熟」とは言っていたし、賭けの期間もさすがに1日ではあるまい。
そこを考えて心を落ち着かせるが、虹黒に睨まれて腰を抜かしかけた自軍の兵を見て「やっぱり止めとくべきだったかなぁ・・・」と後悔する孫策だった。
そして、攻撃開始当日。
鄴の城壁には黄巾弓兵がずらりと並んでおり、攻め寄せようとする官軍に弓を構え、いつでも戦えるようにしている。
鄴の黄巾総兵力は不明だが、20万は下るまい。
本来、攻城戦では攻める側が守る側の3倍以上の兵力を用意するのが常道と言われている。
その為、兵糧戦に持ち込みたいところだったが、洛陽からも毎日のように「早く攻めろ」という催促が来ている。
戦の事も解らぬ青瓢箪どもに好き勝手言われるのは気にいらないが、奴らも文句を言うのが仕事なのだ。
これ以上諸侯をこの場所に留め置くことも困難と見た皇甫嵩は現状戦力12万で攻める事を決断。
公孫賛・袁術の合同部隊の先鋒のみならず、既に持ち場に着いた全部隊はすでに布陣を終えて出撃の合図を今か今かと待ち続けていた。
公孫賛先鋒の将軍は田楷。その下に趙雲も配置されている。
袁術軍先鋒は孫策。配下に周喩、黄蓋。そして公孫賛から援軍として派遣された高順。
両部隊合わせて9000ほどの軍勢だ。
すでに全軍弓兵・歩兵の配置も済ませ攻城兵器(と言っても雲梯と破城槌くらいしか無い)の準備も整っている。
あとは皇甫嵩が命令を下すのみだ。


「さぁて、命令はまだかな~?」
もう戦が始まる直前だというのに孫策は呑気なものだ。
「孫策、あなたね・・・。」
「そう目くじらを立てるでない、周喩。大将が萎縮すれば兵にも萎縮が伝わろうもの。これくらいで丁度良いわ。」
「そうそう、黄蓋の言うとおり♪」
「はぁ・・・おい、高順。こういう大将にはなるなよ?」
周喩が近くにいた高順に話しかける。
「こんなやり方が通用するのは孫家くらいのものだ。まったく・・・。」
「はぁ。まあ、無駄に緊張するよりは・・・。」
こんなやり取りの最中に、銅鑼の鳴り響く音が聞こえてくる。攻撃開始の合図だ。
その瞬間、孫家の武将、そして高順の表情が一気に戦士のそれと変わる。
すぅぅ、と息を吸い込み孫策は腹の底から声を出す。
「行くぞ、孫家の勇士達!勇を奮え、勝利せよっ!私に続けーーーーーっ!」
「うおおおおおおおっ!!!」
孫策の号令の下、孫家の兵が城壁へと殺到する。
いや、孫家だけではない。東西南北、その場にいる全ての諸侯の軍勢が攻撃を開始した。
「さすが江東の虎の一族だな・・・高順隊!孫家に遅れをとるな!全兵、生きて帰れよっ!」」
『はいっ!』
「虹黒、お前も頼むぞ。」
「ぶるっ!」
虹黒の首を撫でて、高順は先頭を駆けていく。その後に、楽進・干禁・李典・沙摩柯、そして700の騎兵が付き従う。
暫くして孫策・公孫賛前衛部隊が城壁に取り付いて、なんとか雲梯で登って行こうとするが、弓兵に狙い撃ちにされて上手くいかない。
「全兵、城壁の弓兵を狙えっ!」
沙摩柯の声に兵士が弓を構え、城壁の敵を狙い撃つ。当然、高順の部隊も狙われ、何人かが射倒されていく。
そこで城壁に楽進の気弾が炸裂した。1発、2発、3発、と立て続けに同じ場所に撃ち込まれて穴が開いていく。
その上にいた兵士達の重みに壊れかけた壁が耐え切れず、少しずつ崩れ始める。
「くそ、あの女を殺せっ!」
黄巾の弓兵も楽進を放置していては危ないと思ったか、楽進を狙い撃とうとするものがいる。
そのうちの幾人かが高順や干禁の放った矢で射抜かれて城壁から落ちていったが、何本かの矢が楽進に向かって放たれていく。
だが、楽進はそれを軽やかなステップで回避する。その内一本が身体に当たりそうになったが、手刀で叩き落した。
「・・・もしかして、援護いらなかったのでは?」と思う高順だったが、それ以上は考えずさらに矢を撃ち込んでいく。
そこへ少し遅れ気味だった攻城兵器(破城槌)が城門付近まで進んできた。
破城槌というのは現代で言うところの「寺の鐘」を叩くのと同じような原理を使用した城門を攻撃するためのものだ。
槌は基本的に木でできているが破壊力を上げるために先端を鉄で、更に尖らせている。
車輪がついてはいるものの速度が遅く、槌で城門を攻撃する人々も無防備になる。その為に屋根をつけて矢から身を守れるようにしているが、熱湯などに対してはあまり意味を成さない。
ともかくも、その破城槌を近づけさせまいと黄巾兵は矢を射込んで行く。
両軍共に矢を射続け被害が少しずつ広がっていくものの、矢の数が少ないのか黄巾側は石つぶてを放ち始めた。
石と言っても握り拳ほどの大きさがあって、当たり所が悪ければ当然死ぬ。その代わり飛距離が無いため、雲梯を登ろうとする兵士に当てることしかできない。
それを見て、高順は少し距離をとるように兵士に伝達。当然孫策や公孫賛側にいる趙雲も同じように下がり一方的に矢を撃ち込み続ける。
一番目立っていたのは黄蓋で、1本の矢で確実に1人ずつ黄巾兵を撃ち抜いていく。というより、場合によっては貫通している。
「すっげー・・・多分、淵さんもあんな感じだろうなー。」
いつも虹黒に蹴り倒される姉を「死ぬなー!?」とか叫んで抱きかかえてる気苦労の多そうな夏侯淵を思い出す。
曹操軍は東門を攻めているようだが、当然彼女も従軍してるのだろう。淵さんに会うのはいいけど、その姉と主君がなぁ・・・いや、そうじゃない。
馬鹿な考えは追いやって、高順は城壁の上にいる兵をまた1人射抜いた。
それから数時間ほど戦闘を続けるも、黄巾側は出撃してこない。というよりも出来ない。
多くの兵士に囲まれ、全ての城門を破城槌で固められてしまい、出撃しようにも出来ないのだ。
日が落ちたので両軍共に際立った戦果を上げる事も無く兵を引いた。城門が傷だらけになり、防衛戦力を削った、という事くらいか。
数日間同じ事を繰り返すが、黄巾は本当に矢が尽きてしまい、遠距離攻撃が出来なくなった。その上城内の兵糧が欠乏しつつある。
ここ、鄴の指導者は黄巾の首魁・張角だが、戦闘指揮官は他に数人いる。その指揮官、高昇・厳政は相談した結果、討伐軍の兵糧を奪う事にした。
狙いは北側の官軍だ。東・西・南共に精強な軍勢が揃っているが北側だけは動きが鈍い。見たところ、数は多いがその中核部隊が動こうとしない。
3万ほど兵士がいるが、きっちりと戦っているのはその半数ほどだ。
戦力を北門に集中させ、襲撃。糧食を奪い撤退する。北側の兵力は3万ほどだが、こちらが疲れきっていると思い込んでいる。
油断をしている筈、実際に動けるのはその5割もいないのではないか。と考えていた。問題はそこまで錬度が高くない黄巾兵が上手く動くかどうかだが、やるしかない。


その頃、孫策と公孫賛の軍勢は部隊を分け、何時間ずつかで交代、見張りをしていた。
当然、高順部隊も同じように見張りをしている。完全に眠っているのは袁術軍くらいのものである。
袁術はまだまだ子供でその辺りを理解していないし、その部下の張勲という名の武将も「全部孫策さんに任せておけば良いんですよ♪」とか抜けたことを言っている。
それは置いておくとして、孫策達と高順は「そろそろ敵が打って出て来るだろう」と言う事を直感で感じていた。
戦闘が終わった後、城壁の上にいる兵士が北側を見て相談したり、きょろきょろとして落ち着きが無いのを見たからだ。
矢も撃ってこなくなったし、恐らくは城内に備蓄してある軍需物資、そして食料が無くなりつつあるのではないか?と見立てていた。
公孫賛も同じ考えだったようで、趙雲部隊もずっと見張りをしている。
夜も更けた頃、高順の陣幕に沙摩柯が入ってきた。高順の陣は一番城へと近い場所にある。状況としては一番最初に黄巾と接触するだろうし、袋叩きにされることも覚悟しなくてはならない。
そして、これはわざとであるが篝火を1つか2つ程度に抑えて、こちらが油断しているぞ、と見せかけてもいる。
本来ならもっと数の多い孫策や趙雲のやる仕事なのだろうが、数が少ないほうが敵も油断するだろうと考えての事である。
「ん・・・、どうかしましたか?」
「ああ。そろそろ来る。孫策の元にも使いを出しておいたほうが良いぞ。」
「さすが夜目が利きますね。3人娘と兵士達は?」
「既に準備を整えている。」
高順は沙摩柯の言葉に頷く。傍にいた兵3人を呼んで、「そろそろ黄巾が攻めてくる、準備をされたし」という内容を孫策・趙雲・公孫賛の陣へ走らせる。
続いて2人も陣幕を出る。すると、既に兵が整列していた。
その前に高順が立つ。
「これより黄巾が攻めてくる。規模はまだ解らないが相当数攻めてくることが予想される。既に公孫賛殿と孫策殿の陣に伝令は送ったけどね。」
高順の言葉を兵士達は黙って聞いている。
「今までで一番辛い戦いになるだろうな。だが、これさえ乗り越えれば黄巾も打つ手がなくなるはずだ。・・・全兵に通達。なんとしても生き残れ。生き残る事こそが勝利に繋がると知れ、以上だ。騎乗!!」
言葉に従い、兵士が自身の馬に乗る。高順も虹黒の背に乗って部隊の先頭に進んでいく。
黄色の布を頭に巻いた一群がこちらに向かってくるのが見える。その数およそ・・・数万!?
「おいおい、多すぎだろ・・・。」
冷や汗をかきつつ高順は呟く。既に兵は全員射撃を行えるように弓を構えているが、この差は如何ともしがたい。
すぐに孫策たちの部隊が来るだろうが、時間稼ぎをするには少し辛そうだ。だが、やるしかない。
「俺達に攻撃を仕掛けてきた事を後悔させてやれ!撃ち方用意っ!!」
「応っ!」

黄巾勢も目の前に6百ほどの騎兵が迎撃態勢を構えていることに気がついていた。
夜襲を仕掛けに来たというのに、面前の部隊は既に展開してこちらを待ち構えていたのだ。遭遇戦、という形になってしまった。
しかしこちらは4万もいるのだ。たかが数百の騎兵で持ち堪えられる筈も無い。高をくくって突き進んでいく。
そこへ、何百と言う矢が打ち込まれて兵士が射抜かれていく。
部隊を分散させず一丸となっている上、数が多いせいもあって、矢を打ち込まれれば打ち込まれた分だけ被害が広がっていく。
「くそっ、ひるむなっ!」
誰かが勇ましく叫ぶも、矢が間断無く打ち込まれ続けて、先頭を進んでいく兵がばたばたと倒れていく。
高順部隊は600の軍勢を3つに分けて、鉄砲3段撃ちではなく矢を3段打ちにしていた。
防御陣地を敷く余裕など無いので下がっては打ち、下がっては打ちを繰り返す。
数万相手にそれではまさに「焼け石に水」程度の損害しか与えられないが、多少の効果はあったようで黄巾の進撃速度が鈍っている。
出撃した黄巾兵は歩兵ばかりだ。これが全て騎兵部隊であれば今頃高順隊は蹴散らされていただろう。
そのまま、同じように下がりつつ矢を打ち続けていく。既に先ほどまで自分達が使用していた陣からは、随分と距離が離れている。
見ていると、陣幕が荒らされているのが解る。黄巾兵が食料を奪っているのだろう。
ここまでは高順の狙い通りだった。僅かばかりでも時間を稼ぐために幾ばくかの食料や飲料水は残しておいた。
あとは、仕上げを残すのみ。
高順部隊は転進して黄巾部隊のほうへと向かって行く。
一部の黄巾勢は、陣に残された食料を全て奪い、後方へと運んでいった。
小規模な陣なので、期待していたほどの量があるわけではない。この夜襲部隊を指揮していた厳政は更に攻め込もうとするのだが、1つだけ気がついたことがあった。
「何故、この辺りはこれほど油の匂いが・・・。」
思った所で、先ほどまでこちらの足止めをしていた騎兵部隊が向かってくるのが見て取れた。
「奴らめ、血迷ったか?僅か数百程度で。」
だが厳政は血の気が引くのを感じた。騎兵部隊は火矢を弓につがえていたのだ。これは・・・まさか?
こちらが不用意に陣に入ったところを火で―――
「い、いかんっ!全軍・・・」
最後まで言い終えることもできないまま、大地は炎に包まれた。

「うっしゃ、作戦成功やっ!」
李典は馬上でガッツポーズをしていた。
元々、この作戦は彼女の考え出したものだ。
「あいつらって、食料目当てで攻めてくるんやろ?せやったら、足止めするために陣に物資残しといてやな。油を辺り一面に撒いとくねん。そこへ火矢ぶっ込めば2重の嫌がらせやで!」と、こんな感じだ。
ある程度の頭があれば誰でも考え付くだろうし、黄巾兵も全員馬鹿ではないだろうから成功するかどうかは5分5分だろう。
だが高順はここで、もう1つの利用価値を見出した。
「それやれば、他から駆けつけてくる部隊も「あそこで戦っている!」って解りやすくなるよね?」
つまり、目印としての意味合いもあるよ、ということだ。
成功しようとすまいと、目論見は達成できる。上手く行けば儲け物、くらいのつもりでやってみたのだがまさかここまで上手く行くとは。
よほど黄巾は食料に飢えていたと見える。
ふと後方を見ると、孫の旗印、そして趙、公孫の旗印も見える。
彼らもあの炎を目印にして進撃してくるだろう。李典は高順の隣まで馬を進ませる。
「なっはっは、思った以上に上手くいったやん。な、高順兄さん?これって特別手当貰てもええ働きと思わん?」
「そうだなぁ、作戦発案者は李典だしな。俺が自腹切ることも考えよう。でも・・・。」
「解ってるって!頑張ってくれた皆にご褒美与えなって事やろ?」
「仰るとおりで。その前に先ず生き残らないとなっ!」
「ほいなっ!」
その頃、東側の曹操部隊、西側の袁紹部隊、南の皇甫嵩も北の異変に気づいて兵士を派遣していた。
各々数に違いはあるものの総勢で3万ほどになる。
曹操側から繰り出された部隊は夏侯惇と夏侯淵が、袁紹側からは顔良と文醜が。皇甫嵩側からはなんと皇甫嵩自身が兵を率いて急行している。
一番早くたどり着いたのは曹操軍で、炎が燃え盛っている辺りで黄巾兵が右往左往しているのが見えた。
「姉者、あそこだっ!」
「それくらい言われなくても解ってる!」
夏侯淵の言葉に夏侯惇が怒鳴り返す。夏侯惇は少し不機嫌だった。せっかく曹操と陣幕であんな事やこんな事をして楽しんでいたというのに。
このやり切れない怒りと切なさと心強さ(?)は黄巾兵をメッタメタのギッタギタにして晴らしてやる。夏侯惇は心中で怒りをたぎらせていた。(もう少しまともな表現の仕方は無いのだろうか・・・?)
見ると、孫策軍と公孫賛軍もその火を目印にして突撃しているのがわかる。公孫賛は本陣の兵士まで動かして黄巾勢を横から突いているし、孫策も突出してきた黄巾兵を包囲、殲滅している。
夏侯惇は普段は頭の中身が残念な事になっている人だったが、戦争の事になると野生的な勘に頼ることは多いものの、割りと頭が働く。
公孫賛がどんな人物かは知らないが、こういう事態で迷い無く本陣の兵を投入するとは。なかなか思い切りの良い奴ではないか。
その隣にいる袁術軍は何が起こったかよく解らずオロオロとしているのも見えたので余計にそんな風に見えたのかもしれない。
孫策軍も、数が少ないようだが率いる武将が随分有能なのだろう。一糸乱れぬ動きで、隙の無い戦い方をしている。
隣にいた夏侯淵も同じことを思ったらしく「ほぅ。なかなかの決断力だ。悪くない。」と言っている。
既に曹操軍の先頭部隊は公孫賛の軍勢と同じく黄巾兵を横脇から崩し始めていた。
夏侯淵が弓を構え、夏侯惇が刀を構え、兵士に混じって突撃をしようと更に馬を駆けさせる。
「姉者、我らも行くぞ!・・・うむ?」
「ああ、解って・・・る・・・。」
その時、夏侯姉妹はある人物を見ていた。
孫の旗印の下で戦っている男。あの漆黒の巨馬に跨り、戟を振り回して黄巾兵を薙ぎ倒していく男を。
「あれは・・・まさか、高順かっ!?」
「こーーーうーーーこーーーくーーー!」
瞬間、夏侯惇は迷うことなく虹黒のいる方向へ馬を走らせた!
「ちょ、なっ!?姉者、黄巾兵はどうするつもりだー!?」
夏侯淵の叫びも虚しく、夏侯惇は現状を一顧だにせず馬を加速させる。
「今度こそ、今度こそ逃がさんぞ虹黒ー!」
その叫びが聞こえたかどうか。虹黒は「ぶるるっ!?」と妙な反応を見せた。
「ん、どうした虹こ・・・く。」
「どうしたの、高順さ・・・ふええっ!?」
高順と干禁が虹黒の見つめている方向を見てみると、炎に照らされた形であるが、夏侯惇がこちらに向かってくるのが見えた。
何あの鬼の形相?つか何でこっち来るの!?
「ええええええっ!?なんで惇さんこっち向かって来てるの!?俺敵じゃないって!あっち行ってあっち!」
思わず黄巾兵のいる方角を指差してしまう高順だったが、夏侯惇にはそんな事が解る筈もない。
「・・・!?隊長、危ないっ!」
楽進の声に高順がハッとなる。見れば横に3人程の黄巾兵が槍をかざして突撃してくる。
「チッ!」
三刃戟を振り下ろそうとした高順だが、それよりも早く虹黒がその場で黄巾兵に背を向ける形で回転した。
「へっ?・・・まさかっ?」
そのまさか。虹黒は久々の後ろ回し蹴りを炸裂させ、その直線状にいる黄巾兵数人を天高く弾き飛ばした。当然その射線上に夏侯惇がいる。
飛んできた黄巾兵を一刀で叩き切り、夏侯惇は勝ち誇る。
「ふははははっ!そうそう何度も同じ手を喰らわんぞ、虹黒!今度と言うこんd」
言い終わらぬうちに、同時に蹴り飛ばされた黄巾兵の1人が夏侯惇の馬に、もう1人が夏侯惇を直撃した。
「ごばはぁっ!?」
堪らずに馬から落ちる夏侯惇。そして、同じように馬も耐え切れずにそのまま倒れこむ。
よりにもよって夏侯惇の上に覆いかぶさるように。
「え?嘘、待・・・あぎゃあああああああああああああっっ!?」
へちょっ。(潰された音
「姉者ーーー!?」
馬に押しつぶされ悲鳴を上げる夏侯惇、その惨劇を見て悲鳴を上げる夏侯淵。戦場なのに何をしているのやら。
高順も高順でその惨状を見てげんなりとしていた。
まさか夏侯姉妹に見つかるとは思ってなかったし、こんな事になるとは・・・。間違いなくあの2人は曹操へ「高順が参加しておりました」「虹黒がいましたっ!」とか報告してしまうのだろう。
その場面をリアルに想像できる分、余計に疲労感が増える。
「虹黒・・・どうして、そこまで惇さん嫌いなのさ・・・?」
「ぶるっ?」
何かをやり遂げたみたいな感じの虹黒。それを見て(戦闘中にも拘らず)脱力する高順であったが、気を取り直して攻撃を再開するのだった。

厳政は何とか火に包まれた陣から逃げ出して、状態の推移を見ていたが夜襲は完全に失敗した事を悟っていた。
自分達が奪った陣から北にどうしても進む事ができない。
煮え返り沸き返りしているうちに東・西・南の官軍からも増援が来て、兵数に差が無くなってしまっている。
素早く奪い、素早く退く。という目的が失敗した以上、夜襲は失敗したも同然。それを理解できない所が賊でしかない厳政の限界だった。
そこへ、最初に自分達に矢を打ち込んで進軍を遅らせた部隊の先頭にいた男。高順のことだが・・・その男が向かってくるのが見えた。随分と巨大な馬に跨っている。
せめてあの男を討たなくては面目が立たない。厳政は槍を構え、雄叫びを上げて高順へ向かって馬を走らせた。
その時、高順のすぐ隣に黄蓋が追従するような形で着いて来ていた。
「おう、高順!中々やるのう!?」
「何がですか!?」
「たった600ほどであれだけの数に嫌がらせ、かつ目印となるように火計とは!周喩も「考えたものだ」と抜かしておったわ!」
そう言って笑う黄蓋。
だが、高順からすれば「感心するような事じゃないよな。」と思うのだった。
高順隊は数は少ないし、やれる事も限られている。自分の頭の出来は決して良い訳ではない。
手元にある兵士・物資などを考えて結局この程度しかできなかったのだ。褒められたところで気分が悪くなるだけなのである。
「大軍師、周喩殿に比べれば児戯ですよ、とでも伝えてくださいな。」
少しだけムスッとして、そうぼやく高順に黄蓋はまたも笑う。
「はっはっは!そうむくれるでないわ。あやつは「自身にできることを考えた上でこの結果を出そうとしたのだろう。悪い策ではない。」とも言うておったぞ?」
「そうですか・・・っと。」
尚も向かってくる兵を突き倒し、速度を緩めることなく戦場を疾駆する。その後ろに楽進達も続く。
そこへ、少し立派な身なりをした黄巾兵が高順に向かってきた。
「そこの男っ!俺と一騎打ちをしろ!」
「・・・俺、だよな?」
高順は周りに男がいないかどうかを確認してみた。隣には黄蓋。近くには3人娘と沙摩柯。
全員が女性だ。どう考えても男は自分のみ。
「俺は張宝様の将、名は厳政!尋常に勝負だぁ!」
「・・・賊の名前なんざ、どうだって良いんだよ。」
名乗りをあげ、厳政は高順に突進してくる。それに対して高順は特に速度を上げるでもなく、そのまま進んでいく。
すれ違いざま、高順の繰り出した三刃戟はあっさりと厳政の胴を貫き通していた。
「ほほぉ・・・やるではないか。」
見ていた黄蓋は感嘆の声を上げる。と、高順は三刃戟を肩に担ぐ。
貫かれたままの厳政の身体が高順の後ろを走っている黄蓋の前に差し出されるような格好になった。
「た、隊長!?何のおつもりです?隊長の挙げた功績を黄蓋殿に譲るというのですか!?」
「お主・・・何のつもりじゃ?ワシに敵将首をくれてやる、と言いたいのか?」
楽進、黄蓋の両名が非難の声を上げる。
声を出さないまでも、干禁ら他の者も同じ事を言いたいだろう。
「さあ?」
「馬鹿にしてくれるなよ、儒子が・・・。」
どうも、敵将首を譲るという高順の態度が気に入らないらしい。
やれやれ、別におかしなつもりでこんな事をしてる訳ではないのに。
「黄蓋殿、少しお考えください。」
「ふむ?」
「孫家に援軍に出された俺の功績は、簡単に言えば「孫家の功績」になるんですよ?どちらにせよ、孫家にとっては悪くない条件です。」
「解っておる。」
「では、「援軍に出された俺」よりも「孫家生え抜きの武将」である貴女が首を取るほうが見栄も外聞も良くなると思いません?」
「ぬっ・・・。」
「今、孫策殿は幾つも先にある利と同様、目先の利も求めなくてはいけない。独立の為に少しでも多くの功績を挙げないといけないのでしょう?」
「ぬぬっ。しかし、それをしてお主に何の利がある?」
「・・・さあ?強いて言えば、江東に覇を唱えるのは孫策殿のほうがよほど絵になるでしょう?俺は会った事ないですが、袁術じゃ力不足ですね。」
「ふっ・・・。江東の虎の娘が躍進する姿を見たい。その為に自分の功績をふいにする、か?おかしな奴じゃな・・・。」
黄蓋は笑っている。自分の利を考えずにこんな事をする奴がいるとは、とでも思っているのだろう。
事実、高順は功績どうこう等は二の次であった。
自分が、仲間が生き残っていけばそれで充分だ。望み過ぎはかえって不幸を呼ぶ。自身の死亡フラグを折るのならば戦いを止めてしまえば良いのだが、これ以外に自分が生きる術が無いのも良くわかっている。
性分だな、と苦笑する以外に道は無い。
黄蓋は目の前に差し出されたままの厳政の首を掴み、剣で斬り付けた。
鮮血が迸るが、気にする風でもなくそのまま厳政の首を高々と掲げる。
「敵将、厳政!孫策軍が将、黄公覆が討ち取った!」
その大音声に、孫策軍の士気が大いに上がったのだった。

討伐軍は襲撃を仕掛けてきた黄巾賊を迎撃、目的を達成させずに押し込む。厳政を失い、統制の取れないまま次々と兵は討ち取られ、城内へ撤退していく。
高順達も退いて行く黄巾賊を追撃するが、ある場所で楽進が止まり、馬から下りる。
高順らは何事かと思い、馬速を緩めて後ろへ向き直った。
「ん、どうしたんだ、楽進?」
「申し訳ありませんが暫くお待ちください。・・・こぉぉぉっ・・・。」
突然、楽進が気を練り始めた。この戦いで毎日のように気弾で城壁を攻撃し続けていたが、今回もそのつもりらしい。
当初は城壁から矢が飛んで来て中々上手く行かなかったようだが、日が経つにつれて弓矢での抵抗が薄くなっていた。
一日に何十発と気弾を撃てる筈もないが、楽進は城壁に対して常に攻撃を続けていた。その為か、北側の城壁はボロボロになっている。
実は、楽進は最初に3発程度の気弾で城壁が崩れかたったのを見てから「城壁を崩す」事にのみ目的を置いていた。
徐州で短い期間ながら、李典と共に家屋等の解体業をこなしていた時に培った「目」で、何処が一番崩しやすいか?と探し続けたのだ。
城壁の範囲が広いので、時間がかかっていたが一箇所に目星をつけていた。
明日でも良かったのだろうが、敵が撤退して反撃が来ない今のほうが都合が良い。
しかし、徐州での経験がこんなところで活かされるとは。何があるか解らないものだ。
「全兵、来ないとは思うが敵に注意、円周防御だ。」
高順の命令で兵士達が楽進の周りを囲んで警戒。黄蓋は何をするつもりかと興味深そうに見ている。
この1年近く。3人娘は沙摩柯・蹋頓・趙雲。名だたる勇将相手に訓練を続けた。
楽進の気の総容量、コントロール、破壊力。彼女に限らず、3人娘の力量は大梁にいた頃とは比べ物にならない。
皆が警戒する中、楽進の掌にある気弾は通常と比べ物にならないほどの密度になっている。大きさ自体は普段と変わらないが、込められた気の総量が大きいのだ。
楽進は目標の場所に身体を向け、思い切り気弾を投げつけた。
「行けええええええっっ!!!」
高順隊が固唾を呑んで見守る中、討伐軍の頭上を飛び越えて気弾が城壁に迫り―――轟音をたてて命中した。
その場所は確かに大きく崩れたが、城壁全体にダメージが行ったようには見えない。
「くそっ、失敗か・・・?」
思わず楽進が呟いた瞬間、今しがた気弾が命中した部分に大きく亀裂が出来た。そこを中心にして亀裂が更に広がっていく。
その場にいた官軍も黄巾兵も呆然とする中、どんどんと亀裂の規模が広がっていき、最後には北側の城壁全体がひび割れた姿になった。
「うぉ。楽進さんすっげー・・・。」
「むぅ・・・や、やるのう。」
高順と黄蓋は感嘆と、半ば呆れが入り混じったような言い方をした。
これで、北側の城壁はほとんどと言っていいほど防衛能力を失った。城門ではなく城壁を破城槌で叩いたほうが早いだろう。
恐らく、向こうにとってもこちらにとっても明日が正念場だ。
そんな事を思いつつ、高順は部隊を纏めて後方に下がった。

~~~翌日~~~
いつもと同じように布陣を整え、討伐軍は出陣を待っていた。
違うところは北門の軍勢がいつも以上に猛っているという事、そして破城槌が最前線に位置している事か。あと少し攻めれば城門どころか城壁すら突破できるのだ。無理も無いだろう。
良く考えたらこの戦いの最大の功労者って楽進ではないのか?と高順は思っていたが、一武将のその配下のやった事でしかない。
正当な評価など望めないだろうな、と少し残念に思った。
さて、高順は孫策側への援軍と言う形なので当然孫策の傍にいる。
昨日は黄蓋が敵将の首を挙げたので彼女の機嫌も大変良かったのだが、今は少し悪い。というより疲れきった表情だ。
高順は同じく傍にいた周喩にヒソヒソ声で話しかける。
「なんか、孫策殿の機嫌がよくないですね。何かあったのですか?」
「ん?ああ。昨日は機嫌がよかったのだが、すぐ後に袁術の使いが来てな。その首を寄越せと言ってきたんだ。」
どことなく周喩もうんざりした様な表情だ。
「はぁ?」
「袁術曰く「孫策は妾の部下。ならば孫策の功績は妾の功績じゃ!」とか言ってな・・・。結局、首・・・功績を奪われてしまった。」
「・・・ちょっと、用事が出来たので行って来ていいですか?すぐに潰してきますから。」
割と真面目な表情でそんなことを言う高順を見て周喩は珍しく笑顔を見せた。
「はは、気持ちはありがたいが止めておけ。これは孫家の問題だからな。これ以上巻き込むつもりも無いさ。・・・すまんな、折角譲ってくれた功績を。」
「・・・黄蓋殿から聞きましたか。」
「孫策も知っているさ。ふふ、借りを1つ作ったな。いつか返すからな?」
「気にしなくても良いですよ。・・・そろそろ出陣ですかね。」
「うむ。気をつけろよ。」
他にも黄蓋と色々話をしていたところで銅鑼が鳴る。
「む、始まるか。今日こそ終わらせてくれよう。着いて来い高順!」
張り切る黄蓋に苦笑しつつ、高順も兵士を率いて飛び出していく。
見ると、破城槌は既に城壁に取り付こうとしている。昨日、楽進が気弾を撃ち込んだ所だ。
そうはさせまいと、黄巾兵が城門を開けて破城槌へと突進していくが、そこに公孫賛軍前衛の田楷軍が突撃し、足止めをしている。
城壁の上にいる黄巾兵が石つぶてを飛ばしてくるが、破城槌はそのまま進み続け城壁に向かって槌を叩き付けた。
3度、4度と繰り返すうち、城壁が音を立てて崩れ始めた。何人かの兵が巻き込まれている。
「高順、私達はどう動けばいいんだ!?」
横にいる沙摩柯に聞かれるが、城攻めで騎馬隊ができる事など知れている。
「俺達は城壁内部まで攻める。建物の中は歩兵に任せておけば良いさ。あと、非戦闘員には手を出すな!」
「解った。お前たちも聞いたな?行くぞっ!」
「はいっ!」
高順隊は他の部隊と共には城壁の残骸を越えて黄巾兵を駆逐していく。

黄巾の乱と呼ばれる戦い。それが今、終結しようとしている。





~~~楽屋裏~~~
お久しぶりですあいつです(まだ1週間たってない
本当はもう少し書く予定でしたがもう駄目です、気力0です。本編までが長いのに本編に入ってからが短いこのシナリオって・・・。
そして久々に出ました、夏侯姉妹。
それに名前だけですが顔良と文醜も出ましたね。
惇さんは相変わらずですけどね・・・(遠
むしろ、このシナリオではこういった役割を期待されてるような気がしないでもありません。
厳政があっさりと死にましたが・・・演義のみの、出番が少ないくせに割とろくでもない奴です。
王門と同じくらい酷いかもしれない。(あいつ主観

さて、恐らく次回で黄巾編が終わりますね。
その次はどうしようか・・・。

ご意見、ご感想お待ちしております(・×・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第27話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/09 23:11
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第27話


黄巾兵は北側の城壁を崩され、混乱していた。城門ではなく城壁を崩す。そんな馬鹿なことを誰が思うだろう?
だが、その馬鹿を実行した何者かがいるのは確かだ。事実、今目の前にあったはずの城壁は崩れて官軍が次々にそこから入り込んでくる。
これを見ていた指揮官、高昇は北側に対して兵力を集中させた。しかし今の状況から考えるとそれは効果が薄い。
北からの圧力に対抗するために兵を集中させれば、必然的にそれ以外の方角の兵が少なくなる。つまり抵抗が弱くなるのだ。
北側から攻め込んだ軍勢も流石に苦戦するが、矢も無く、食料も少ない黄巾の士気が高いはずも無く直ぐに押されていく。
少し経ってから東・南・西の順番に門が破られ、黄巾はいよいよ後が無くなった。
それを見越した高昇は既にあの人たちを死んだことにして・・・偽装をして本人達は脱出してもらっている。
高昇はまだ幾ばくか士気の高い兵を率いて、官軍の数が少ない場所を探す。だが、全方位を囲まれてしまった以上、どうしようもない。
あの方々には何とかして逃げてもらわなければ、我々の夢が費えてしまうのだ。逆に生きてさえ逃げ延びさえしてくだされば、自分がここで死んでも本望と言うもの。
血路を開かんと剣を振るい敵兵を切り捨てていくが、数日間ずっと戦い詰めの高昇は既に限界だった。と、そこへ。
「そこの男、黄巾の将と見た!将としての誇りがあるなら私と戦え!」
真っ赤な服、髑髏をあしらった肩鎧。
夏侯惇である。
「くっ・・・良かろう。この高昇、相手をしてやるっ!」
「その意気や良し!我が名は夏侯元譲。貴様を黄泉へ送る名、しかと心に刻め!」
剣を掲げて高昇は突撃、それに対して夏侯惇は刀を構えるのみ。
「ぬああっ!」と雄叫びを上げて剣を振り下ろす高昇。だがその剣が夏侯惇の身体に届くよりも早く、夏侯惇の刀が高昇の首を跳ね飛ばしていた。
「曹猛徳が将、夏侯元譲!敵将、高昇を討ち取ったり!」

その頃、高順隊は城内、というより市街の黄巾兵と戦っていた。
既に黄巾は指揮系統も失っているようで、散発的な抵抗をするのみ。数が多いだけの、まさに烏合の衆だった。
城内の戦いは他に任せて自分達は敗残兵狩り、あるいは非戦闘員の保護に回っている。
城と言っても、城壁の中には何千何万と言う人家がありそこに兵士が隠れているのかもしれないのだ。ほとんどの住民は避難するか逃げたかのどちらかだろうが、避難し損ねた市民もいるかもしれない。そう考えた上での行動でもある。
こういった城内戦の場合、略奪などが起こるのは常であり、その被害を少なくしようとしている。
幾つもの家を見て回ったが、黄巾のみならず、官軍の中からも女子供に乱暴をしている者が出ていた。
高順はそういった手合いを見つけたら、黄巾だろうと官軍だろうと容赦なく殺すようにと命令を下している。その兵士の所属する部隊から文句が出るかもしれないが、そうなれば尻丸出しというかいろいろなものを丸出しにしている死体でも見せてやればいいだろう、と考えていた。
今となっては黄巾兵よりも一部の官軍のほうが敵だと言えたかもしれない。
攻城戦、市街戦というのは本来こういうものだが・・・。どれだけの市民、或いは黄巾の非戦闘員を保護したか。
そんなことをしている内、高順はとある家屋の前にいた。

虹黒から降りて、戟ではなく剣を持つ。屋内の戦闘では戟は扱いづらい。
そこへ、3人娘が馬に乗って駆けて来た。
「隊長!この辺りの住民はほとんどいないようです。それと、沙摩柯殿が兵を率いて他の地区に向かっておられます。」
「ったく、ほんましょーもない奴らばっかやで。ケツ穴ん中にうちの槍ぶっ込んだろーかと、何度思ーたか・・・。」
「うっわ、真桜ちゃん不潔なの・・・。」
「・・・ほんとにね。真桜、君は女の子なんだからそーいう事言わないように。それと、皆ご苦労さん。・・・まだ終わった訳じゃないけどね。さて、入りますか。」
高順は家の戸を開け、中に敵がいないかどうかをじっくりと確かめてから、高順は家屋の中へと入りこんだ。3人娘もそれに続く。
中は割りと広いつくりだったが、伏兵などがいるわけではないようだ。
そこには、3人の・・・外套を着込んでいて、顔までは解らないが恐らく女性?と思わしき人々がいた。
屋内に入ってきた高順らを明らかに恐れており、家の奥で縮こまっている。
やれやれ、と高順は剣を鞘に納めて、3人の前でしゃがみ込んだ。もしこの3人が伏兵であっても退ける自信はある。
3人娘は、というと家の入り口に張っている。
「別に怖がらなくていい。逃げ遅れたのか?」
戦中なので多少気が昂っているが、最大限優しく言ってみる。そのうちの、体の小さい少女(2人いるが、その1人)が「はい、そうなんです。」と答えた。
「そうか。君達が黄巾かどうかは知らないが・・・逃げ遅れたのは災難だったな。俺達は市民を保護しているんだが、着いて来てくれないか?最低限、城の外には連れ出す。」
「え・・・でも・・・。」
「もし誰か襲って来ても追い返すさ。信用してもらえないのは仕方ないのだけどね。」
そりゃあ、官軍が女子供に乱暴してるような今の状況じゃ信用してもらえないのも無理は無いな、とつい苦笑する。
目の前の3人は悩んでいるようだったが、このままここに隠れていてもいずれは・・・と思ったのか、1人が立ち上がった。
では、お願いします。とこれまた身体の小さい少女が頭を下げた。
他の2人はどうしていいのかよく解らなかったようだが、促されて立ち上がる。
「ほら、姉さんたちも。」
「え、うん。あ、ありがとうございます。」
「よ、よろしくね?」
「はい、こちらこそ。しかし、3姉妹ですか。身長から考えるに、長女があなたで・・・残り二人のどっちがお姉さん?最初に立ち上がった人?」
こうやって緊張をほぐそうとしているのだろう。どうでも良い話だが、高順本人は自覚なしに話しかけている。
そんな高順の言葉が気に入らなかったのか、もう1人の小さい少女が腕をぶんぶんと振り回して不満そうに「違うもん!」と叫んだ。
「へ?違うの?」
「違うよ!お姉ちゃんは正解だけど次女はちぃだもん!れんほーが三女なの!」
「そ、そうなのか・・・って、随分変わった名前だな。真名のほう?」
呑気に言っている高順だったが、その「ちぃ」と名乗った少女の言葉に楽進が妙な反応を見せた。
(何だ・・・れんほー・・れんほう?どこかで聞いた覚えが・・・?)
楽進は顎に手を当てずっと記憶の糸を手繰っていく。李典と干禁がそんな彼女を不思議そうに見ていたが、楽進はある事を思い出そうとしていた。
(そうだ、あれは・・・私が大梁で捕まったとき。波才と言ったか・・・。奴らが「てんほーちゃん」だの「ちーほうちゃん」だの「れんほーちゃん」だの。ただの偶然、か?)
悩む楽進だったが、意を決して高順の隣まで歩いていく。
「ん、どうかした?」
「はい、お三方に質問がありまして。宜しいでしょうか?」
この言葉に3人は「はぁ。」と曖昧な返事をした。何だろう?と思っているに違いない。
「皆さんは姉妹なのですよね?」
「うん、そうだけど・・・。」
「先ほどの「ちぃ」さん。貴方の真名になりますが「ちーほう」と言うのでは?」
「え、何で知ってるの?」
外套を被っているので解らないが、ちーほう、と呼ばれた少女は不審な表情をしているかもしれない。
「そして、貴女の真名が「れんほう」さん。では、一番背の高い貴女の真名は「てんほう」さん?」
「え、え?何で?どうして解ったの?」
「・・・そうですか、解りました。隊長、李典、干禁。その3人を捕まえて。」
この言葉に、高順達は「何で?」という表情を。てんほう、ちーほう、れんほうと呼ばれた少女達は肩をびくりと震わせた。
「事情は説明しますから早く。逃がさないでください!」
真剣に言う楽進の声に、高順達は素早く動いて、逃げようとした3人を捕まえた。
「く、離して、離しなさいよー!」と、暴れる3人を何とか押さえつける。暫くして、抵抗する気力も失せたのか、諦めたのか。3人は動かなくなった。
「くうう、手に引っかき傷が・・・しかし、楽進。この3人がどうかしたのか?」
「ええ。というかものすごい大手柄ですよ、隊長。」
「???」
「この3人が名乗ったのは真名です。恐らく、通常使っている名は・・・順番に、「張角」・「張宝」・「張梁」ですね。」
「・・・はい?この娘達が?張角?黄巾党の首魁?」
「はい。・・・どうなんだ?」
いきなりすぎて楽進除く3人は頭が着いていかない。
そりゃ、確かに3人は性別も年齢も外見も不詳だった。が。こんな、何も出来なさそうな娘達が、あの黄巾の乱の首謀者?
外套をめくって、3人の顔を見てみる。どれも可愛らしい年頃の娘さんだ。髪の色が青みがかってたり紫っぽかったりするが、それももう慣れた。
しかし、どう見ても後漢朝転覆を謀る様なタイプには見えない。
「うーん・・・。本物として、どうしたものか・・・。」
「そら、官軍に突き出せばええやろ?褒章もたんまり貰えるでー?」
李典の言葉に、3人はがっくりと項垂れる。この場合、死刑になるのが目に見えているからだ。
下手すれば牛裂きの刑、腰斬、凌遅の刑なんてのもあり得る。
「まあ、突き出すかどうかは別にして、陣幕までご案内だな。ほら、3人とも立って。」
高順の言葉に項垂れたまま、張角らは立ち上がった。
「干禁、悪いのだけど沙摩柯さんに合流して、作業の続きを頼むよ。俺たちは陣幕にこの3人連れて行くから。」
「解ったの!」
「楽進、李典は俺と一緒にこの3人連れて陣幕まで帰還。・・・さ、行きますよ?」
「・・・。」
やはり、返事は無い。
「あと、1つだけ。無闇に逃げようとしないでくださいね。もしそうなると、嫌でも貴方たちを斬らねばならなくなる。」
高順は「話を聞いてからでも遅くは無い」と考えている。この3人が張3兄弟ならぬ、3姉妹なのは解ったが、クーデターを考えるような人間にはどうにも見えない。
外套を被せて、3人を連れて行く。と、そこへ運が悪く周喩の部隊と鉢合わせた。
皆、内心で「げっ・・・」と思ったが、不審な行動をとらなければ大丈夫だ。・・・大丈夫と思いたい。
「高順か。お前達のおかげで随分楽が出来たぞ。黄蓋殿も・・・む、お前達の連れているのは?」
「俺たちは今、逃げ遅れた市民の保護をしてまして。この3人もそうなんです。」
「ほぅ、成る程な。」
周喩は興味深そうに見ていたが、暫くして肩をすくめるように「解った、気をつけろよ。」と部隊を率いて去っていく。
すれ違いざま、「高順、これで差し引きしてお前に貸し2つだからな?」と、言い残して。
その後姿を見送りつつ、「さすが孫家の大軍師。その目はごまかせないか。」と呟く。流石にこの娘達が張姉妹だとは思わなかっただろう。名のある武将か何かだと考えたのかもしれない。
その後も何度か官軍に見つかったが、何とか上手く言い逃れて(李典のおかげ)陣まで引き返す事はできた。

問題はここからだったりする。
陣幕の中で何故か正座してションボリしている張3姉妹。
正直に言って、高順は悩んでいた。やはり乱を引き起こすような人間には見えないのだ。
そこら辺は聞いてみないとなんとも言えない。
陣幕の中には高順と楽進のみ。外に李典を見張ってもらう。
「さて、えーと。張角さん達に聞きたいのですが。」
「はい・・・。」
「単刀直入に聞きますが、この乱・・・貴方達が主導したものですか?」
「ち、違います・・・。」
「では誰が?黄巾党というのは貴方達が立ち上げた組織なのでしょう?ならば、やはり貴方達が主導した事になる。後漢朝転覆を狙ってね。」
この言葉に、人和(れんほう)が反論する。
「だから、それは誤解なんです!私たちはそんな大それた事を考えてなどいない!」
「そうだよ、ちぃ達はそんな事してないもん!」
「しかし、現実に黄巾党は武力を以って後漢朝を攻撃した。その結果がこれではないのですか?」
「うう・・・それは。」
(むう、なんだか要領を得ないな。この状態で解ってるのは、この3人が主導したという訳ではない事と、後漢に対して反乱をした訳ではないという事。
あくまでこれは彼女らの言い分を全面的に信じた場合、だけど・・・。うーん。)
「じゃあ・・・貴方達は何を思って黄巾党を作ったのです?」
この言葉に天和(てんほう)が答える。
「なんだか誤解をされてしまってるんですけど・・・。あたし達が作った訳じゃないんです。」
「はい?」
「私達の・・・うぅん、何て言えば良いかな。「追っかけ」さんが作った組織なんです。」
「・・・お、追っかけ?」
「うん。私達、世間からは宗教組織の長、みたいな風に言われてるらしいけど本当は唯の旅芸人。歌ってお金を稼ぐのがお仕事なんです。」
「旅芸人・・・って。」
えーと、WHY?歌って踊れる旅芸人が黄巾首魁?HAHAHA冗談きついぜモルダー。って、混乱してる場合じゃない。
これで混乱するなといわれるほうが辛いけどね!
新たな事実が発覚しましたね。こんな事が事実だったら今頃歴史の先生は大慌てです。まさか「旅芸人が後漢に対して挑みました!」なんて言えないよね?
それと、張角さん・張宝さん・張梁さんの順に真名が「天和(てんほう)」・「地和(ちほう)」・「人和(れんほう)」らしいです。
だから、天公将軍・地公将軍・人公将軍な訳か。偶然にしちゃできすぎだよな・・・。何か楽進さんも「はあ?」と言いたげな顔してましたよ。
いや、それは良いとして。
「えと。じゃあ、黄巾党というのが言うとおりに追っかけ集団として、何で担がれてしまったので?」
「中央の偉い人が兵士を連れてきて。いきなり「集会を中止しろ!」って。集会と言うよりみんなの前で歌ってただけなのに。そしたら皆怒っちゃって・・・。」
「あれよあれよと言う間にこんな事になっちゃった。私たちは歌で国一番になりたいだけだったのに・・・。」
つまりだ。彼女たちは歌でこの国の一番になりたかった。黄巾党は彼女らのファンだったが、その数が多くなりすぎて、国家権力に阻まれそうになった。
多分、中止命令は1度や2度ではなかっただろう。その上で武力介入をしたのか。
それに反発した人々が彼女達を御輿にして暴動を起こしたのだ。それがいつの間にか大陸全土を覆うような規模になってしまって、いつしか目的が違うほうへと摩り替わっていった?
彼女らの活動の邪魔をするのは許せない、という行動がいつの間にか後漢に不満を持つ農民や賊を吸収してこれほどの乱に。
なんともまあ・・・。

高順は何度目になるか知れないため息をついた。まさか黄巾の乱が一部のファンの暴動とか、そんなところから始まっただなんて。
彼女らの言を信じるならば、彼女たちは加害者でありながら被害者でもある。
ファンの暴動を止めれる立場であり、その機会は幾らでもあったはずなのだ。
だが、彼女らのような一介の旅芸人に何が出来たのか、と言われれば・・・。やはり、何も出来なかっただろう。
何が何だか解らぬままに巻き込まれて、いつの間にか御輿にされて。そして捕まってしまったら処刑。
何だかな、と思う。確かにこの乱のせいで罪の無い人々が多く犠牲になった。
罪を償わせるのは当然だと思うが、このまま官軍に突き出すのも・・・。しかし、このまま放せばまた同じことの繰り返しになるだろう。
(う~~む、どうしたものか・・・。死刑は行きすぎだと思うのだよな。多分、この人たちを担いだ連中は戦死とかしてる筈だ。ん・・・待てよ?)
ここで1つ、高順は発想を変えた。彼女らは人を制御する事はできなくても人を集める事はできる、という所に目を向けたのだ。
官軍に突き出す。→確実に処刑。よし、駄目だ。
他の諸侯に渡してみる。→官軍に引き渡されてry。OK、問題外。
じゃあ孫策さんは?→彼女は価値には気づくだろうけど、目先の利も必要としている以上、官軍に突き出すほうが手っ取り早く地位やら何やら得られる。下手すれば袁術にもっていかれるけど。駄目だな・・・。
(となると・・・うーわ、やっぱあの人しかいねぇ。出来ればあの人の戦力拡張に貢献とかしたくないけど・・・。でも、戦力無いといつか来るだろうあの戦いで負ける可能性もある。
妙な事言ってしまえば、ある程度貸しを作ったほうが後々有利かもしれない。しかし・・・あああああっ。)
色々と考える高順だったが、どうもそれ以外に手は無さそうだ。
それ以外の人に託してもろくな結果になりそうも無い。あの人なら、この人たちの価値も理解するだろうし、きっちりと手綱を締めて制御も出来るだろう。
絶対顔合わせたくないんだけどね。でも、この娘達を見捨てるのはどうも・・・。
高順は怯えきってしまっている3姉妹を見て、ため息を吐いた。
自分のやろうとしてることはとんだ偽善だ。自分の満足のために、この戦いで犠牲になった人々の、その家族の気持ちなど考えずに張3姉妹の命を助けようとしている。
これじゃ、劉備さんのやってることと変わらんな、と自嘲したくもなる。彼女のやり方を批判しておきながら、彼女がとるであろう行動を自分もしようとしているのだから。
ここで、ちょうど干禁達も帰って来たらしく馬の馬蹄の音が陣幕の外から響いてきた。
「隊長、どうなさるおつもりですか・・・?」
楽進は遠慮がちに口を開いた。
「・・・気は進まないけどね。」
「それでは、やはり官軍に?」
「いや。彼女達を有効に利用してくれる人のところへ連れて行く。」
「しかし、それでは!彼女たちはこの乱を起こした原因なのですよ!?確かに、状況を信じるのであれば被害者でもあるのですが・・・。」
「だからさ。考えようによっては死ぬよりも辛いかもね?」
「え・・・?」
「楽進、悪いのだけど李典、干禁、あと沙摩柯さんを呼んで来てくれるかな。少し出かけるから皆について来てもらおう。」
「それは構いませんが。一体何処へ?」
凄まじく嫌そうな顔をしつつ、高順は呟く。
「・・・曹操殿の陣に。もう城内の掃討戦も終わっただろうからね。」

~~~曹操軍の陣~~~
桃色の髪を結い上げた少女が陣の見回りをしていた。
結い上げた、と言っても・・・なんというか、お好み焼きなどの鉄板に油を敷く「アレ」みたいな感じだ。
背も低く、明らかに子供である事がわかる。
ただ、異様なまでの大きさの鉄球を担いでおり一種独特な雰囲気ではある。
彼女の姓は許、名を褚。字を仲康という。
先ほど夏侯惇らが「敵将首を挙げた」と意気揚々と帰還してきた。
許褚は曹操の、そして陣の警護が仕事だったので共に行けなかったのだ。既に戦は終わり、あとは曹操らが色々な手続きをして陳留に帰還するのみだ。
そう思っていたところで、陣の外から誰かが近づいてくるのが解った。
許褚は陣の入り口に立って「止まって!ここから先は許可のある人しか通れないよ!って、うわ、何この大きい馬・・・?」と叫んだ。
それを聞いて、先頭の巨馬に跨った男が馬から下りて拱手をした。
「これは失礼を。俺は高順。公孫賛殿の元で客将をしているものです。曹操殿に用事があって参りました。どうかお通し願いたい。」
「うぇ、こ、こーそんさん?誰それ・・・?」
「誰それって・・・むう、参ったなぁ・・・。」
高順の言葉にハテナ顔をする許褚に、高順も困った表情を見せる。
(誰か、俺の事解る人を呼んでもらうべきかな・・・。でも、いきなり惇さんいる?とか聞いても余計に不審がられるだけだよ・・・どうしたもんだか。)
悩む2人の元に、曹操軍の女兵士が駆け寄ってきた。
「許褚殿、曹操様がお呼びです。至急起こしになるようにと。・・・え?」
その女兵士は高順の顔を見て驚いた顔つきになった。
「あの、まさか・・・高順殿ではありませんか?」
出し抜けに言われたので、高順は「はい?」と間抜けな声で返してしまった。
「そうですけど。何故俺の事を?」
「前に、大梁の黄巾討伐で高順殿の下にいました!」
「・・・え、嘘。あの時に?」
「はい!あの時の高順殿の雄姿・・・今でも覚えております!」
「はぁ、雄姿って言うほど大して無いもしてないような・・・。」
高順を見る女性兵士の目が輝いている。あの時のことを思い出しているのだろうか。
「ところで、何をしに来られたのです?曹操様にお仕えしようと?」
「いえ、そうではなくて、用事があって来たのです。でも、この・・・え、許褚さん?」
さっきは流してしまったが、許褚?
曹操の2代目親衛隊長・・・そっか、幼女なのか。いや、もう驚きませんよ。ええ、もう・・・。
「えー、許褚さんに止められてしまいまして。どうしたものかと。」
高順の言葉を聞いた女性兵士は「なるほど。」と言って許褚に耳打ちをした。
「この方は大丈夫です。おかしなことをなさる方ではありません。保証いたします。」と。
「うー・・・満寵さんがそこまで言うなら・・・解った。皆通ってもいいよ。」
「そうですか、ありがたい。・・・皆、行くよってまんちょぉぉおおぉ!?」
いきなり素っ頓狂な声を上げた高順に2人が驚いて後ずさった。
「ふええっ!ど、どうかしましたか!?私が何か!?」
「な、何?何何何!?」
「い、いや・・・何でもありませんよ。何でも。あは、あははははは・・・。」
満寵て。魏の名将の1人じゃないか。俺、そんな名将の上で一度だけとはいえ仕事したのね・・・。
なんだか笑えないような状況だと思うのだが、自分の感情を誤魔化しておく。
「で、では、許褚殿。私はこれで。」
そういって満寵は去って行った。
「んー。まあ良っか。じゃあ、着いて来て。」
「了解。今度こそ行くよ、皆。」
許褚の後ろに高順、3人娘、3姉妹、そして沙摩柯が続く。暫く歩くと幾人かが「あ、高順殿だ。」とか「あれ、どうして高順殿が?」と言っているのが聞こえた。
それに感心したのか、許褚は歩きながらも高順のほうへ顔を向けた。
「へぇ。おじさん、本当に曹操様の元で働いたんだ。」
「おじさん・・・。ま、まあ1度だけね。」
「ふぅん。・・・着いたよ。じゃあ、ボクが先に行くからね。」
失礼します、と言って許褚が陣幕に入っていく。高順らは暫く待っていたが、「入りなさい」という曹操の声が聞こえたので、同じように「失礼します」と入っていった。
高順に習って、着いてきた皆が拱手して入っていく。
陣幕には曹操、夏侯姉妹、許褚、そして見たことのない猫耳フードらしきものを被った少女もいた。
「久しぶりね、高順。元気そうで何よりだわ。春蘭、秋蘭。縄を持って来て。」
「いきなり何言ってるんです貴方は!?落ち着いてください、話せば解るから!」
「あら、私は激しく燃え盛る烈火の如く落ち着いているわ。昨日は春蘭に随分な恥をかかせたようじゃない?」
「ちーがーうー!アレは寧ろ夏侯惇殿の方に責任が・・・」
「き、貴様!私のせいだというのか!?」
高順の言葉に夏侯惇が激昂して刀を抜きかける。それを曹操は片手を挙げて制した。
「はいはい、原因が春蘭にあったのは解っているわ。少しからかっただけよ。それで?私に用事って何かしら?」
興味深そうに曹操は高順を見る。
「私に仕えにきたのかしら?それとも、本当にただの用事かしら?」
「用事のほうですよ。・・・申し訳ありませんが、人払いをお願いしたい。」
高順の言葉に猫耳フードの少女が怒鳴る。
「あんたねぇ・・・用事があるって言うから華琳様(曹操)は特別に聞いてくださってるのよ!それを人払いですって!?ふざけないで!!」
「桂花、黙っていなさい。」
「で、ですが。」
「私は「黙っていなさい」と言った。私の命令が聞けないの?」
この言葉に、桂花と呼ばれた少女は渋々引き下がる。
「ふう、悪いわね。でも、人払いをする必要は無いわ。この場所にいるのはいずれも信頼できる者たちばかり。・・・そうね、季衣(許緒)には外の警護をお願いしようかしら。」
「はいっ!」と元気良く叫んで許緒は人幕の外へ出て行った。
「さて、用事とは何かしら?」
曹操の言葉に高順は外套を被ったままの張3姉妹を自分の横に連れてきて、外套を取る。
「紹介します、張角さんとその妹達。張3姉妹です。」
『!!?』
高順の言葉に夏侯姉妹が武器を取る。
「待ちなさい、2人とも。・・・高順、その3人が本当に張姉妹なのかしら?それを証明できる方法はあるかしら?」
この言葉に高順は肩をすくめる。
「さあ。本人達がそう言っているだけですからね。ただ、本当であれば価値は凄いですよ?」
「?」
高順は、自分が知る限りの事情を説明した。
彼女らは旅芸人であり、その歌声に魅せられた人々が黄巾党の正体である事。黄巾党が戦いを引き起こした理由。
唯の御輿と担がれた事。全てを喋った。
黙って聞いていた曹操だったが、やがて口を開いた。
「はぁ。それが本当なら私たちは完全に振り回された形になるわね。」
「本当なら、ですけどね。」
「で、その娘達を私に合わせてどうするつもり?私の手柄にしろとでも?」
この言葉に高順は首を横に振った。
「彼女達の「人を集める才覚」を、曹操殿に正しく使っていただきたい。」
「へぇ・・・。それがどういう意味か解ってて言ってるのかしら?」
「それは勿論。」
「私がその才能を最大限利用すればどうなるのかしら?」
「そりゃもう、黄巾の乱なんて目じゃない規模になるでしょうね。ですがこれは保険でもあります。」
「保険?」
「貴方のほかに北で力を持ちそうな人が約1名。それに対して、ですかね。」
「ふぅん。そういう事?」
曹操が楽しそうに眼を細める。
「あなたが勝つのでしょうけどね。ですが、人の数がいなければ危ないのも事実。あなたが勝つ方が、色々と危険なのかもしれませんけどね・・・。」
「・・・解ったわ。彼女達の才能。私がきっちりと使いこなして見せるわ。暴走なんてさせないから大丈夫よ。」
参ったな、これもお見通しか。高順は苦笑した。
曹操は北で力を持つ、ということに思い当たる人物がいたようだ。当然公孫賛ではない。
その時は年代的に自分が死んでいる可能性が高いので、危険がどうとかは実際には解らない。だが、これで曹操の実力が1つどころか3つ4つ飛びぬけるのは事実だ。
早まったかもしれないな・・・。
「まあ、彼女らが偽者だったら煮るなり焼くなり好きなように。」
高順の言葉に3姉妹が「ええっ!?」と叫ぶ。だが、これは彼女らの犯したことを考えれば安いものだと思う。
「まあ、頑張って。では、用事はこれだけです。失礼致します。」
高順は長居をするつもりは無いと、そのまま陣幕を出ようとする。
「待ちなさい、高順。」
「は?」
「「また」貴方に聴きたいことがあるわ。」
「・・・はぁ、解りました。」
「貴方、私に仕えるつもりは無いと言っているわね?」
「ええ。」
「でも、貴方は結果だけ見れば、私の利益に繋がることをしていく。前の大梁のときも。そして今回も。貴方は一体何を考えているの?」
「・・・さあ?確かに結果だけ見ればそうなのでしょうね。強いて言えば個人的な欲ですよ。」
「欲?どういうこと?」
「大梁の時は、楽進達を、そして村の人を助けるために貴方を利用した。今回は3姉妹がどうしても悪人に見えない上、官軍に突き出して死刑にするのもどうかと思いましてね。」
高順の言葉を曹操は黙って聞いている。
「まあ、簡単に言えば俺は偽善者なんですよ。それに、使える才能があるなら使いこなす。それが貴方の流儀でしょう?」
「当然ね。」
「だからこそ俺は貴方に仕えませんけどね。馬車馬は御免なんです。では。」
「まだよ、用事は終わっていないわ。」
「ぬぅ。」
曹操は、夏侯淵に「あの二振りの剣を持ってきなさい。」と命じた。夏侯淵はその言葉に多少驚きつつ、陣幕を出て行くが、直ぐに帰って来る。
夏侯淵から二振りの剣を受け取った曹操は高順に自分から剣を渡した。
1本は青い鞘に、もう1本は黒い鞘に入っている。両方とも、かなりの長さだ。
「この剣は?」
「私が昔使っていた剣よ。青釭、そして倚天の剣。これを貴方にあげるわ。」
「・・・褒美のつもりで?」
「まさか、この剣だけでチャラに出来るような問題ではないわ。あくまで手付けのようなものね。いつか、きっちりと借りは返すわ。」
高順はその剣を一本ずつ鞘から抜いてみる。
青釭は片刃なので、剣と言うよりは刀だ。ただし、刀身が長く、反身がない。対する倚天は、どちらかといえば長剣だ。両刃で重そうに見えるが実際はそれほど重くない。
「良いのですか?これ相当な業物ですよ?」
「ええ、私はもう使わないもの。」
「そうですか。では受け取っておきますよ。・・・3人とも、元気でね。」
高順の言葉に3姉妹は「あ、ありがとうございました」と頭を下げた。死ななくてすむということが解ったのだろう。
その3人の言葉に手を振って応えた後、高順は陣幕を出て行った。
曹操はその後に、夏侯惇と夏侯淵に命じて張姉妹に陣幕を宛がった。2人は見張りでもある。
見送った後、曹操は「ふっ・・・うふふふ。あはははは・・・。」と思わず笑い出してしまった。
「華琳様?」
「あら、桂花。私が笑った理由でも知りたい?言わなくても解っているとは思うのだけどね。」
曹操は人前でも平気で真名を使う。桂花、と呼ばれた少女は本来は荀彧と呼ばれている。
「当然解っています。あの男の言うとおり、3人が本当に張姉妹ならどれだけ多くの人を集められるか。その上、同じような事が起こっても彼女らを使えばすぐに鎮定できるでしょう。」
「その通り。人、そして治安に於いても私は大きな利益を得たわ。それにしても・・・ふふ。おかしな男ね、高順は。」
「本当にただおかしいだけです!あんな男・・・!」
荀彧はそう言い切るが、それは当然だろう。そのまま官軍に差し出せば多大な恩賞を得られたのは間違いない。
それを不意にする理由など無かったはずなのに、特に拘るでもなく曹操に引き渡したのだ。
恩賞とか、その類に欲が無いにしても、これは少しおかしい。
「まあ、その辺りは良しとするわ。何物にも代え難い利益があったのだから。」
そう、この黄巾討伐は曹操にとって大きな飛躍のきっかけになるだろう。
張3姉妹は勿論、以前の大梁黄巾もだ。彼らを早く討伐したおかげで自分達の勲功の稼ぎどころが増えた。
そして高順が利に釣られる様な男ではない事も理解できた。それを外さなければ落とし処は幾らでもある。
いつか、自分の前に跪かせて見せる。欲しいものを手に入れなければ気がすまない曹操の意地でもあった。

曹操軍の陣を出た高順に、3人娘が次から次へと話しかけてくる。
「なあ、高順にーさん。ほんまに良かったのん?」
「そうなの、すっごい大手柄だったのに。」
「・・・私は隊長を疑う訳ではわりませんが、たまに考えている事が解らなくなってきます。」
「3人同時に話しかけなくても。これで良かったんだよ、多分。」
高順はこう言うが、やはり納得は出来ないらしい。
「せやけどなぁ。あの3人の首はごっつい価値あったと思うわ。それを不意にするって言うのがよぅ解らんわ。」
「そうですね。彼女らの首は1つでも、相当の価値だったと思います。」
「太守になれたかもしれないの。」
「そんなもんになった所で堅苦しくなるだけだよ。政治的才能なんて俺にはないしね。」
ま、分相応ってことですよ。と高順は未練なく言うのであった。
黄巾の乱を引き起こした罪と、民衆をここまで追い詰めた後漢の罪。
どちらがどう正しく、間違っているのか。力の使いどころを間違えたとか、政治の腐敗とか色々あるのだろう。
だが、今の後漢が張角たちを正統な立場で処分できるのか?と聞かれれば高順は「どうだろう?」と悩んでしまう。
もしも武力介入で3姉妹の活動を止めようとしたのなら、後漢朝が最初の加害者となり、黄巾党は反撃をしただけとなる。
それがおかしな形で広がっていき、抑制できないのは黄巾の悪意でもある。そしてその悪意を独力で止められなかった後漢。
あのまま3姉妹を官軍に引き渡せば、間違いなく処刑されて真実は闇の中へ、となるのだろう。
それすら、3姉妹の言い分を信じれば、ということでしかない。
どちらがどう悪いのか、などは当人達にしか解らないのだろう。そんな訳のわからない物に巻き込まれるのは御免だ、という気持ちが高順にはあった。
思ったが、どうも3人娘は納得がいかないらしい。
「む~~~。でも惜しいなぁ・・・。」
「今回ばかりは隊長が優しいから、では納得がいきません。何故あの3人を助ける必要があったのでしょうか?」
「納得いく説明を求めるの!」
「まあ、私はどちらでも構わないのだがな。高順にも考えがあって曹操とやらに引き渡したのだろう。」
3人娘と違って沙摩柯はどちらでも良い、という考えのようだ。それも高順を信用しているからこそだろう。
沙摩柯は、高順のことを「利ではなく理。その一点だけを外さないように行動している」と見ている。
時折おかしなヘマをやらかして、周りから避難されていることもあるが、基本的には義と情の人だ。それこそ「高順からの劉備への評価」と同義であり、沙摩柯もそれは理解している。
1つだけ違うところがあるとすれば、劉備は立場上「利益」を見なければならないが、高順はその「利益」をそれほど考えようとしない。というよりも故意に考えないようにしているとも思える。それが素の性格なのかどうかまでは解らないのだが・・・。
どちらにせよ、沙摩柯は高順の考えに異を挟むつもりは無い。拾ってもらった恩を働きで返すのみだ。
その沙摩柯はともかくも、3人娘はまだ高順に文句を言っている。
彼女らの言葉に、高順は少し考えて答え始めた。
「な、3人とも。質問に質問で返してしまうけど、後漢朝の言ってる事が何もかも正しいと思う?」
「へ?後漢?何で?」
「いいから、答えて欲しいな。」
高順の言葉に、3人娘は迷うことなく「否」と答えた。
「だろうね。俺もそうさ。実際、黄巾に対しての話も違っただろう?黄巾党が政治結社だとか、怪しげな宗教団体とか、政府転覆を狙ったりとか、最初はそんな話だった。でも、奴らがそんな思想を持ってたかな?」
「・・・持ってなかったの。」
「じゃあ、そういう事さ。後漢は自分達に都合の悪い事を隠して、相手の非ばかりを説いた。考えてもみなよ?最初は3姉妹の言うとおり追っかけの起こした暴動だったとしても、その後これだけ規模が大きくなったのはどうしてだ?それだけ政治に不満を持つ人々が多いからだよ。自分達に都合の悪い事は見ないふりをしている連中の言う事など聞きたくもないね。」
「では、隊長は3姉妹の事を信じておられるのですか?」
「全部信じた訳じゃないよ。でも、あの娘達が政権奪取とか狙うように見えたかな?もし狙ったとしても、その後のことを考えているように思えたかな?」
「それは・・・。思えませんでした。」
「あの娘たちは本当に歌で国一番になる事を目指していただけだと思うよ。もう少し平和な時代に生まれていれば、本当にそうなれたかもしれないのに。」
「せやけど、それだけで助けたる、ちゅーのは・・・。」
「真桜の言うとおりです。それでも彼女達の罪が消えた訳ではありません。」
「んー。こう考えたら納得できない?ここで死刑にされるよりも、曹操さんのところでこき使われるほうがよほど辛い、って。」
高順の言葉に3人はその情景を思い浮かべる。そしてすぐに、
『・・・あー。』と唸った。鮮明にその状況を想像できる分、よほど説得力があったのだろう。
「あの大将に使われるのはむっちゃきついなぁ・・・。」
「過労死確定なの。」
「・・・確かに、解りやすい例えでしたね。」
3人は「はぁ~~~・・・」と盛大なため息をついて、それ以上の追求をしてこなくなった。
単純だな、と苦笑する高順だったが、他にも助けた理由はあった。簡単に言えば「同情」してしまったのだ。
少し考えてみると、高順と張3姉妹の境遇は微妙に似ている。
自分は転生と言う形で。3姉妹はいきなり黄巾党の首魁へ。本人達の望む望まないに関わらず今の状況に押し上げられた。
高順は自分と3姉妹の辿る、或いは辿ったかもしれない運命に何か重なるものを感じていた。
歌う事が好きで、その歌で国一番になりたいと夢を追い続けて、最後には賊として処刑されるなんて、あんまりではないか。
自分の、そして彼女達の置かれた状況と境遇に反発した結果が、彼の取った行動だった。
犯した罪の分は清算すれば良い。人を扇動していったのは彼女達ではなく彼女達を祭り上げた人々、そして今の時代を作り上げた政治なのだから。
もし自分が平和な時代になるまで生き延びることが出来たなら、その時に彼女達の歌を是非とも聴いてみたいものだ。
そんなことを思いつつ、高順は自身の陣へと帰っていくのだった。




こうして、黄巾の乱は一応の終結を見た。
張角らと「思われる」遺体を発見したのは袁紹の軍勢であり、その首を切って皇甫嵩に届けた袁紹が軍功第一とされた。
他にも黄巾の将を討ち取った曹操、孫策(袁術に首を横取りされたが、孫策軍の黄蓋が厳政を討ち取ったときの音声を皇甫嵩は聴いていた)。
黄巾の夜襲を防ぎ、城壁を壊すほどの猛撃を見せた公孫賛。彼らにも軍功ありと、皇甫嵩は中央に報告をするつもりのようだ。
大なり小なり、この戦いに参加した諸侯は恩恵を与えられるだろう。
だが、これで終わった訳ではない。これからも同じような事は起こるうる。
諸侯は各々、その胸に野望を秘め帰途に着いた。

時代が本格的に動き出そうとしている。
高順もまた、その時代の波に嫌でも飛び込んでいかなくてはいけないのだが・・・。
それは、もう少しだけ後のお話。




~~~楽屋裏~~~
3姉妹を助ける理由になっていません、あいつです(ぁぁ
更新速度はどんな程度がいいのでしょうねえ。
あまり早いとその分終わるのも早くなり、遅いとそれはそれで文句を言われそうな・・・w

また難しかったです、今回は。
3姉妹が家屋で閉じこもっていたのは護衛が全員死んだからでしょうねぇ。とか、城壁ってそんな簡単に崩れるものなの?とか。
まあ、今回は高順くんが自分を偽善者と言いきったり、結局自分も劉備と変わらないと自覚したりとかそんなお話。
それ以上に文才の無さに作者が気づく回でした(駄目だ
ほんと、どうしよう・・・


さて、これからのお話ですが・・・

高順:こうじゅん。こーじゅん。皇潤。お試し価格6300円。この先どうするのか考えるの面倒なのでなんかもう次回死にます。
3人娘:楽進の気弾がうそ臭い威力だったり、李典が回転ドリルだったり、干禁の影が薄いのでもう死にます。
曹操:ドリル回転髪がうざいのでもう死にます。
公孫賛:どう頑張っても影が薄いのでもうなんか死にます。



こんなんじゃ駄目ですか?駄目ですね。解ってるんですたまには現実逃避したいんです生きててゴメンナサイあああああああっ(涙



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ ちょっと本気出して打ち切ってみた。(偽)の巻。誤字アッタヨ
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/14 09:17
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 最終話 ~夢の後先~

下邳が燃えている。
城壁のあちこちが壊され、破られ、所々に兵士の死骸が散乱していた。
城には「曹」の旗がたてられており、先ほどまであったはずの「呂」旗は引き摺り下ろされ燃やされている。

下邳。つい先ほどまで呂布が治めていた都市。
つい先ほど、というのは劉備と曹操の連合軍に攻められて陥落したからだった。
連合軍の威容に恐れを為した呂布軍の将、侯成・宋憲・魏続が城門を開けて降伏。
結果、三国最強と呼ばれた少女、呂布は関羽・張飛・趙雲。そして魏の夏侯惇・夏侯淵・典韋・褚猪と言った両軍の勇将相手に闘い、あえなく討ち死にをしたのである。
降伏を呼びかけられた陳宮は最早これまでと、自身の胸に短剣を突き刺し自刎。
張遼も夏侯惇と激闘の末、敗北し捕縛された。高順と、彼に付き従う武将も最後まで戦い抜いたが、呂布亡き状態である上、どうしようもできない物量差に押され、関羽らに破れ捕縛されたのだった。
その高順を見下ろす形で、曹操が仮の玉座に座っている。劉備らもその横にいて、どうしたものかと悩んだ表情だ。
張遼、そして高順に付き従っていた3人娘と沙摩柯は、すでに曹操への臣従を了承しているが、傷を負っていて、その治療のために陣幕へと運ばれここにはいない。
だが、高順だけが頑なに臣従を拒否しているのだ。曹操は、何度目になるか知れない言葉を高順に言う。
「高順、私に仕えなさい。貴方の才能は呂布程度に扱いきれるものではなかったわ。呂布は貴方の能力を理解できず、貴方の鍛え上げた武将と兵を全て魏続に与えた。そのような事をせず、貴方と陳宮の言葉に耳を傾けていれば今日のような無様な敗北はなかった筈。」
「貴方であれば、その才能とやらを使いこなせると?」
「当然ね。私を誰だと思っているのかしら?貴方が臣従する、というだけである程度は丸く収まるわ。貴方を慕って、ここまで着いてきたあの娘達の気持ちを理解してあげて欲しい。」
「・・・。」
「さあ、決断しなさい。」
曹操の言葉に、高順は「お断り致す。」とだけ。この一言を口にするのみだった。
この態度に、夏侯惇も頭に来たのか、高順を怒鳴りつけた。
「貴様、いい加減にしておけよ!?華琳様のご厚意を何だと思っているのだ!?」
この言葉に、高順は取り乱すでもなく答える。
「厚意?そんなものは知ったことか。俺は前にも言ったはずだぞ・・・?俺と言う人間は曹操と言う存在の器に入れない手合いだとね。」
「華琳様の器の中に入りきれないとでも言うのか!」
「逆だ。曹操殿の器の中に入る事すらできない、という意味さ。俺は前にも仕えるつもりは無いと明言しただろう?言った以上、それを違える事はない。それとも、あんたが逆の立場なら臣従するとでも言うのか?」
「そのようなこと、ありえるはずが無い!」
「無いのなら、黙っていてもらおう。人にはそれぞれ思うところがある。曹操殿が言うから、それに従う。そんな人間ばかりではないよ。」
「・・・ならば、劉備はどうかしら。彼女ならば貴方の眼鏡に適うのではなくて?」
曹操の言葉に、高順は劉備を見やる。
その劉備の表情だけで、言いたい事が解る。
「お願いだから、生きる道を選んで。」と。
昔、彼女の真意を掴めずに随分と酷い関わり方をしたものだ。と思い出す。
彼女らの真意は何1つとして変わっていなかった。義と情。その2つの文字のみは絶対に斬り捨てることなく、彼女たちはこの戦乱の世を生きているのだ。
彼女はその言葉と意味を万人に伝えようとするのだろう。そして、そのまま世界が平和になってくれればいいと思うのだろう。
それに比べて自分は、彼女の力量を疑い、義と情を封印しろと言った。そのくせ、自分が彼女と同じような行動をしていたのだ。
それに自己嫌悪を感じ、それから何とか性格を変えようと試みた。だが、結局は出来ないままだった。
自分の性格、性質を偽って生きる。そんな器用な生き方などできなかったのだ。
そのままズルズルと生きた結果がこれだ。自身の運命、それを変えることが出来ないまま、ここで死を待つ身となっている。
「・・・劉備殿、か。はは、それもいいかも知れんな。」
「ならば・・・。」
「だが、それも断る。」
「・・・どうして?何故そこまで死にたがるの?」
曹操の悲しげな問い。それに対して、高順は簡単な話だ、と言いたげな表情を見せた。
「俺如き凡才が生きる場所が劉備殿の下にありますか?もし俺が仕えると言った所で、活躍の場など無いまま終わるでしょう。・・・俺の気持ちは変わりませんよ。さあ、勝者と敗者の差。功罪を明確になされるが良い。」
「・・・解ったわ。高順を刑場に連れて行きなさい。」
毅然とした態度で曹操は言い放つ。
「しかし、宜しいのですか?」
夏侯淵が遠慮がちに言うが、曹操は首を振った。
解ったのだ。彼の心が動かせないことに。
無理に支配下においても、結局は満足するように動いてはくれないのだろう。
そのまま他陣営に属されて、敵対でもされたらまた苦労する羽目になる。本当に惜しいが、仕方が無い。

そのまま刑場に引き立てられた高順は座して目を閉じる。
結局、自身の運命を変えることは出来なかったがこれはこれで楽しい人生だった、と思う。
本来なら知りあえる筈も無い人々と出会えた。呂布という存在の元で、自分の力を出し切って戦えた。
あの曹操、劉備。英雄と評される存在を相手に存分に戦えた。
心残りがあるとすれば楽進達だが、彼女達ならば曹操の下で実力を発揮していけるだろう。
自分は一足先に逝って、その活躍を見届けるとしよう。いや、先に逝った呂布達と共に向こうで大暴れしてみるのも一興か。
そのまま、高順は執行吏の1人に押さえつけられた。そして、もう1人の執行吏が高順の首に向けて、青龍刀を振り下ろす。
数瞬の後、肉を切り裂く音が刑場に響き渡った。





建安3年12月。高順刑死。
最強の騎馬隊を率いて三国無双の名をほしいままにした呂布軍。
その呂布と共に乱世を駆け抜けた高順の死は、1つの時代の終焉であり、これからの時代の始まりの予兆でもあった。

























































あいつ「という夢を見た。」
高順「夢かよっ!?」





~~~楽屋裏~~~
人間である以上、どうしようもない疲れが存在するのです、あいつです(挨拶
さて、今回のシナリオ、人によっては驚くかもしれませんね。
むしろ、「ふざけんな!」とか。
ただ、これは旅が中途半端な結果に終わってしまった場合の高順くんの末路でもあります。
あのまま丁原さんの元にいても同じような結末ですね。
BADEND、というのを書いてみたくなりましたw

色々な批判、意見を見て「なるほど。」と思うところもあれば「ふざけるな!」と激昂もして見たり。
意見にすらなってない批判感想には反応しない、これで良いのでしょうかね・・・。
この回が問題になったので削除しましTA!(駄目


でもまた疲れたらやります(現実逃避として



次回はちゃんとしたものを書きます!それではまたノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 番外編その4 上党的日常。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/14 09:21
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 番外編その4 上党的日常。



黄巾の乱終結より3ヶ月。
高順達は北平を辞して、上党に帰還しようとしていた。
当初は黄巾の乱が終結してすぐに、と考えていたのだがそれ以降も黄巾残党が幾度も北平領内を荒らしまわったり、盗賊団がそれに合流したり、と中々に忙しかったのだ。
公孫賛だけでも楽に出来たであろう仕事だが、彼女は太守としての仕事が山積みで(2ヶ月ほど領内を空けていた)涙目になっていた。
趙雲も同時期に暇乞いをしようとしていたらしいのだが、それを見て高順と相談をした。
「もう少し沈静化するまでは仕事をしよう。」と。2人にしても、公孫賛は1年近く世話になった恩人だ。
少しでも負担を減らしてあげよう、ということになったのだ。
それから3ヶ月、彼女の親族の越、範らと共に数度目の賊討伐を終えた頃、2人は「そろそろ頃合だな。」と考えた。
公孫賛の公務が一段落してきたし、賊の数も帰還してきた頃に比べれば随分と減った。
それを見計らって、高順と趙雲は同時に「そろそろ暇乞いを」と言いに行った。その時公孫賛が見せた表情は・・・ずぅぅぅん、と今まで見たことの無いほどの暗いものだった。
「そ、そうか。2人ももう行くんだな。は、はは。はははははは・・・。はぁぁ~~~。」
・・・そして、盛大な溜息だった。
だが、高順、趙雲らの鍛え上げた兵は中々の強さになっていたし、何度も功績を挙げてくれたのだ。
本音を言えば客将としてではなく家臣として仕えて欲しかったが、2人にも思うところがあるからこそ、客将の立場を欲したのだ。引き止めるのは彼らのためにならないだろう。
それを思った公孫賛は項垂れつつも、「わかった。2人とも・・・いや、楽進達もだけど、ご苦労様。本当によく働いてくれたよ。本当にありがとうな。」と、笑顔で言ったのだった。
出立当日、わざわざ公孫賛が見送りに来てくれていた。
彼女だけではなく、この1年近くを共に過ごしてきた多くの将兵もだった。
意外だったのは公孫越、公孫範も見送りに来てくれた事だった。出会った当初は高順、3人娘。蹋頓や沙摩柯にまで蔑むような態度を取っていた彼らだが、共に戦場を駆け、活躍する彼らを見て認識を改めたらしい。王門とは関係修復できなかったが、それはどうでもいい。
その彼らが、率先して話しかけてきた。
「あー、高順。その、だな。最初は、ああいう態度を取ったりしたが・・・。その、悪かったな。」
「へ?」
「いや、沙摩柯達の事を蛮族と言ってただろ?」
公孫越の言葉に、公孫範も恥ずかしそうに続く。
「それに、楽進殿達の事まで役に立たない小娘とか言ってしまっていたしな。その認識は間違っていたようだ。すまない。」
そう言って二人は頭を下げた。それを見て楽進達も笑いつつ、
「いえ、こちらも心中で「減らず口ばかりたたいて・・・」と思っていましたが、口だけの方々ではなかったとすぐに解りました。」
「ぬ・・・く、口だけとな・・・。」
「せやなぁ。でも、烏丸との戦いにせよ、黄巾の時にせよ、公孫賛のねーさんに従って勇敢に戦ってたやろ?」
「うんうん。見直したの。」
「まあ、人のことを蔑んだだけはあるな、くらいは思ったものさ。」
「ぬ、ぬぬぬ・・・。」
一斉に「口」撃される2人だったが、暫くしてその場にいた全員が笑い出してしまった。思い返せば、仲が悪いなりに上手くやっていたのだ。その事を思い出して、何よりも懐かしさのほうがこみあげてきてしまった。
「お前ら、気をつけろよ?この辺りはなんとかなってきたが、上党の辺りはまだなんとも言えんからな。」
「ええ、ご忠告感謝します。お二人もお元気で。」
そう言って握手を交わす。別に青春劇をしたい訳ではなかったが、こういうのも悪くは無い。
「なぁ、私を忘れないでいてくれると嬉しいのだけど・・・。」
おずおずと公孫賛が口を挟んでくる。
「忘れてる訳が無いでしょう。・・・お世話になりました。」
高順の言葉に皆が頭を下げ、臧覇も「ありがとーございました!」と言った。
(そういえば、公孫賛殿はたまに臧覇と遊んでくれていたらしいな。)と思い起こす。
考えてみれば、彼女には本当に世話になりっぱなしだ。旅に出てから一箇所に腰を落ち着ける機会はそうなかったが、北平は、いや、公孫賛が治めるこの場所は居心地が良かった。
「ん。元気でな。近くに着たらいつでも立ち寄ってくれよ?」
「ええ、そうさせていただきます。」
「それと、私の真名を預けるよ。」
「え?いや・・・しかし。」
「おいおい、これでも感謝してるんだぞ?真名というのは心を許したものにだけ許す本当の名前さ。私は皆を信頼している。皆は私を信頼してくれないのか?」
「そんな事はありませんよ。」
多少驚きつつも答える高順に、公孫賛は爽やかな笑みを見せた。
「なら、断る必要は無いよな?よく桃香が私を真名で呼んでいたから知ってるとは思うけど・・・私の真名は「白蓮(ぱいれん)」だ。」
「・・・そうですか、解りました。またいつかお会いしましょう、白蓮殿。」
高順の言葉に、皆が続いていく。
「今までありがとうございました、白蓮様。」
「ありがとうございましたなの。」
「おおきにな、忘れへんで?」
「貴方に心からの感謝を。・・・そして、蹋頓らの事を頼む。」
皆の言葉に、公孫賛は照れ笑いを見せた。
「はは・・・。あ、そうだ。星(趙雲)は何処に行ったんだ?」
「へ?見ていないですけど・・・。」
「まったく、あいつは・・・。まさか挨拶もせずに出て行ったのか。薄情なy「誰が薄情ですと?」うひぇっ!?」
なんと、公孫賛の後ろから趙雲が出て・・・いや、やって来た。
「全く以って失礼な事を仰る御仁ですな。私は用意に手間取っただけです。」
「そ、そうか。何をそんなに手間取ってたんだ。」
「それは秘密です。女には秘密が多いものですぞ?」
そうは言うものの、何か大きな樽(中身メンマ)を背負ってたり、荷物袋の中に大量の徳利を詰め込んであるので何を買っていたか丸分かりである。
高順はその中に、赤い布か何かで封をされた徳利を見つけた。少しだけ気になったが、それは後で聞けばいいだろう。
「私も女だけど・・・まあいいか。星も元気でな。いつでも立ち寄ってくれよ?」
「ふむ、またこき使おうと言う魂胆ですか?」
「そんなわけ無いだろ!」
「ははは、解っております。今まで世話になり申した。白蓮殿もお元気で。」
「ああ、星もな。」

こうして北平、いや、公孫賛の下を去った高順達だったが・・・。
「あのー。」
「ん、何ですかな、高順殿?」
「・・・なんで、趙雲殿まで着いてきてるんですか?
そうである。何故か趙雲が高順一行に加わってしまっていたのだ。
「なんで、と申されましても。私の行く方向がこちらなだけでございます。」
「俺達、上党へ向かうんですよ?」
高順の言葉に趙雲は知っておりますが、と答える。
「いや、知ってるとかじゃなくてですね・・・。」
「ほぅ、私のようなか弱い女を1人にしたいとでも。そして野獣が如き男に襲われても構わない。そう仰りたいのですな。」
「飛躍しすぎだー!そこまで言ってないでしょ!?」
高順が叫ぶ。。何でこの人はいつもこう、アレなんだろう。周りの人をからかって楽しむ事に全力を尽くしているように見えるが、そうでないときも多い。
一言で言って掴みどころがないのだ。
多少、弄られる事に慣れてきた高順だったが、おかしな意味にも通じてしまう言葉で弄られるとどうしても落ち着かない。
「まあ、それはそれとして。どうして趙雲殿まで上党に向かわれるのです?隊長は上党が生まれ故郷だそうですが・・・?」
楽進も、高順と同じ疑問を感じたのだろう。その問いに趙雲は特に何でもないように答える。
「実は、上党で丁原殿という・・・考えようによっては今でも高順殿がお仕えしているお方がおられましてな。私もあの方の元で一度だけ戦ったことがございます。高順殿とはその時お会いしたのですよ。」
「へぇー。高順さんがそんな境遇とは知らなかったの。」
「せやな、そういうこと話してくれたことあらへんかったよな。いや、あったっけ?忘れてもうたな。」
「私は初耳だな。」
「別に隠してたわけじゃないよ。話すようなことでも無かったしな。」
そう言いつつも、高順は懐かしそうであった。皆、元気にやっているだろうか。
丁原達もだが、父母のことと残してきた馬・・・海優(かいゆう)と名づけた牡馬だが、それらのことを思い出していた。
海優と名づけたのは優しい馬だった、というただそれだけのことでつけた名前だ。
旅をしようと決断した頃には既に老齢と言っても差し支えない馬だったので置いてきたのだ。父母も、お金の事はあるが馬を大切にする性分だ。多分元気でいるだろうな。
それから幾日。
北平から最短で上党に行くには、どうしても晋陽を通らなくてはいけない。
正直、晋陽でのことは思い出したくない事のほうが多かった。褚燕と親交があったのは間違いなく良い思い出だったが、それ以外が辛すぎる。
自分が悪い訳ではないが、あの戦いの結果は一体何だったのだろう、と今でも考えてしまう。
正しい者が勝てるとは限らない。そんな言葉を実感させてくれる嫌な結末だったのだ。
褚燕と話をしてみたいと思いもするが、彼女らが追いやられた「黒山」の場所を知らない。
そんな考えもあって、高順は晋陽を早めに抜けていった。対して、趙雲は褚燕だけではなく郭嘉と程昱の事を思い出していたようだ。
どことなく懐かしそうにしていたし、この地は高順らとも出会った場所でもある。高順にとってはそうではないが、趙雲にとっては良き思い出の多い土地だった。
高順が急いでこの土地を抜けようとする事に異論を差し挟むではなかったが、趙雲はどことなく寂しそうな表情を見せていた。
晋陽を抜け、更に数日。ようやく上党が見えてきた。もう、1年以上は経っている。
旅に出てから今まで、それほど長い時間が経った訳ではないが随分と濃い経験をしてきたな、と高順は考える。
虹黒、3人娘、曹操軍、蹋頓、沙摩柯、わざわざ上党からやってきた閻柔と田豫。そして劉備軍、公孫賛軍、孫策軍。当然、丘力居や臧覇もだ。
・・・本当に濃い連中ばかりだ。将来的に3国の君主となる人々とも知己がある。(孫権はまだ会ってないが。)
「さて、これから上党に入る訳ですが・・・まだ昼頃だし、まずは家に帰るかな。」
「ふむ、あの母上殿とお会いするのも久方ぶりですな。」
「・・・前みたいな事は止めてくださいよ、本当に。」
旅に出る前の母親と趙雲のやり取りを覚えている高順はげんなりとした。何があったのか知らない他の人々は「何があったのだろう?」くらいにしか思っていない。
それはともかくも、高順達は上党の門を潜っていく。
門番が数人いたが、高順にとっては顔見知りな上に、向こうも皆覚えていてくれたようで「おお、やっと帰って来たな!」と声をかけてくれる。
「ああ、やっと帰って来れましたよ。あとで丁原様にも挨拶に行きますけどね。」
「ん?今は丁原様は不在だぞ?」
「へ?不在って?」
ああ、そうか、知るはずもないよな。と門番は呟く。
「俺たちも詳しくは知らないのだけどな・・・。丁原様は3千ほどの兵を引き連れて洛陽へ行かれた。もう1月以上前のことだ。」
「1ヶ月・・・朱厳様も?」
「うん。上党の主力部隊を連れて行ったからな。何かあったのだろうかね。」
「主力ねぇ。今のここの戦力はどれくらいなんだ?」
「おいおい、そんなの知ってどうするんだ?」
門番が苦笑する。
「間者でもあるまいに。」
「そうだけどな。黄巾の乱とかがあっただろ?それなりに戦力拡充もしたのかと思ってさ。」
「そりゃあそうだ。前は7,8千ほどだったが今では1万をゆうに越えるよ。」
その中での主力3千か。これが多いか少ないかは解らないが・・・やはり、洛陽で何かあったのかも。
「ふぅむ・・・。」
「高順、悩むのはいいけど街に入ってからでも良いだろう?お連れの方々も待ちわびてるぞ?」
その言葉に、「おおっ!?」と叫び声を挙げておかしなリアクションを見せる。
3人娘や沙摩柯、趙雲もやれやれと言いつつも笑っていて、臧覇の乗っている馬車の御者をしている閻柔と田豫もにこにこと笑っている。高順はばつが悪そうな表情だ。
その性格は変わらないな、とまたも苦笑して門番が言った。
「ようこそ、上党へ。」


問題なく(?)上党に入った高順はまず実家を目指した。
閻柔と田豫は、「親方達に挨拶してくるっす!」と行ってしまった。変わって沙摩柯が馬車の御者をしている。
丁原も朱厳もいないようだし、主力・・・おそらく親衛隊もその中に入っているだろうから郝萌(かくぼう)もいないのだろう。
なら、最初の実家でも問題はないだろうと、街の中を進んでいく。
街の人々は虹黒が珍しいらしく、「あの馬、すごいなー。」とか、そんな噂をしている。そして、乗っている人間が見知った高順であることに更に驚いていたようだ。
行く先々でこんな感じなので、高順は慣れているし、他の面々も特に気にするでもない。
高順も高順で、街のあちらこちらを興味深そうに見ていた。
街並みはあまり変わっていない様にも見えるが、昔に比べて少し街が広がったような印象を受ける。屯田制を一部導入しているので、人が増えて街を広くしたのかもしれない。
そうこうしているうちに、家が見えてきた。家の前を箒で掃除をしている母の姿が見える。
すぐにこちらに気づいたらしく、「あら?」と高順らを見やる。高順達は馬から下りて、そのまま近づいていった。
高順の母はにこにこして「お帰りなさい、順。」と言ってくれた。その言葉に「ただいま帰りました、母上。」と答える。
だが、その後が。その後がいつも通りの展開だった。
「それに星さん・・・あら、他に4人も可愛らしい娘さんを・・・順、あなたまさかっ!?」
「一言だけ言っておきますが妻とかそういうのじゃないですからね母上前は夜中でしたが今は昼間ですよお願いですから自重してください!」
肺活量を無題に消費しつつ、高順は叫んだ。毎度毎度ご近所様におかしな評判を立てられては堪ったものではない。
「妻ではない・・・まさか、ただれた関係の多数の恋人!?」
「結局そうなるのか!だから違いますって・・・ただれたって何さ!?」
「その通りですぞ、母君。彼女らはそのような者ではありません。ただ、高順殿に仕込まれただけの哀れな娘達です。」
「この不埒者っっ!」
趙雲の言葉に、母の愛情の一撃が高順の顎に炸裂する。つうかタイガーアッパーカット。
「ぶぺらっ!?」
「前は妻を幾人も。そして今度はいたいけな娘さんたちにあなたの変(中略)趣味(中略)を仕込んでそのまま売り飛ばそうだなんて・・・!」
「誰もそんなこと言ってねええっ!何で毎回毎回そんな話になるのさ!」
このやり取りを聞いていた3人娘は明らかに引いて「隊長ってそんな趣味を・・・?え、妻!?」とか「そっかぁ、そういうのが好みなんだー。」とか好き勝手言っているし、沙摩柯もため息をついている。
ご近所さんも「やーね、高順くんったら・・・。」とか「またそんな趣味を加えて・・・。」とかヒソヒソ声で話している。
「違うから!何かの誤解っすよ!?」
・・・高順の心の叫びが真昼間の上党に木霊した。
嫌がらせのような誤解を受けつつ、高順達は家の中へと入っていった。
実はこの家、厩があってそこそこに広い造りをしている。修練場とか庭もある。それほど裕福なはずではないのに、母親がお金を何処かから持ってくる。
父親が警備兵をしているので稼ぎは一定ではあるが、どこからそんな金を持ってくるかは謎であった。別におかしな仕事をしている訳でもないので、母親が元々持っているお金なのだろう。
そうでもなければこんな家を作れるはずがない。
虹黒や他の馬を厩に入れていたのは沙摩柯で、自分は荷を下げる手伝いをしていたのだが、そこそこにして厩へと急いだ。
だが、そこにいるはずの海優がいない。
「あれ?」と厩を探してみたが、やはりいない。沙摩柯は不思議そうな顔で高順を見ている。そこに、高順の母がやってきた。
「こら、順。荷物を降ろすのを女性にやらせて・・・。」
「あ、母上。すいません、海優はどこに・・・?」
この言葉に、母は少し悩んだような素振りを見せるが・・・すぐに口を開いた。
「亡くなったわ。」
「・・・は?死んだ・・・?ど、どうして?」
高順は母に詰め寄る。
「老齢ではあったけど、そんな急に死ぬような病はなかったでしょう!それが何故・・・いつ死んだのですかっ!?」
「ええ・・・。貴方が旅立って2ヶ月ほどしてからよ。」
「に、二ヶ月・・・。たったの?」
「貴方が行ってしまった後、寂しがって・・・。毎日、厩から頭だけ出して貴方の帰りを待っているように見えた。食も細くなってしまって。それから一気に弱りだしてね・・・。」
「・・・。」
「好物だったリンゴも受け付けず、最後は立つことすら出来なくなってしまってね。最後に小さく嘶(いなな)いて、そのまま・・・。」
「そんな・・・。」
母親の言葉に、高順は項垂れる。好物のリンゴだって沢山買ってきたというのに。虹黒にも合わせてやりたかったのに・・・。
そんな高順の姿を沙摩柯も、母親も心配そうに見ている。
沙摩柯が高順と共に過ごした期間は1年数ヶ月程だ。いつも笑顔で、よく3人娘に弄られつつも元気だった高順だったが、ここまで落ち込んでいる姿をはじめて見た。
気がつけば、先ほど高順が詰め寄ったときの声に驚いてやって来たのだろうか。3人娘、趙雲に臧覇も遠目に高順の姿を見つめていた。
高順は暫く無言だったが、「墓は、どこでしょう?」と母親に聞いた。
「庭よ・・・。後で、りんごでもお供えしてあげなさい。」といわれた高順は少しだけ頷き「すいません、少し休ませてもらいます・・・。」と、肩を落として自室へと向かって行った。
皆、心配ではあったがそれを見守る事しかできない。
よほど落ち込んでしまったのか、その後、夕食の時間になっても高順は自室に篭ったきり出てこなかった。
心配した楽進が呼びに行こうとしたが、趙雲と沙摩柯が「やめておけ。」と止める。
「しかし・・・。」
「あいつが馬をどれだけ大切にしているか。お前だって知っているだろう?」
「誰でも、1人になりたいときがある。海優という馬を私も知っているが・・・高順殿に大変懐いていたゆえ。」
趙雲は晋陽軍との戦いに参加した折に、高順と馬を並べて戦っている。その時高順の騎乗していた馬が海優であることを覚えていた。
2人の言葉に、楽進は少し寂しそうな表情を見せる。
「大切な人が悲しい思いをしていても・・・私には慰める事もできないのですね。」
「そういう訳ではない。ただ、今回は1人にしてやったほうがいいというだけさ。何、心配するな。あいつのことだから直ぐに持ち直すさ。」
「・・・はい。」
「せやな、こっちまで暗い顔してたら高順兄さんが余計に落ち込むかもしれんし。」
「凪ちゃんまで落ち込んでたら世話ないの。」
高順の母は、彼女達の会話を聞いているのみだったが内心で安堵していた。
息子はきっちりと彼女達の信頼を勝ち得ているらしい。
高順は幼い頃、あまり友達もいなくて1人で何かを思い悩んでいるようなことが多い、どちらかと言えば暗い性格の子だった。
その息子に誰よりも親しくしてくれたのが郝萌であり、高順は彼女に振り回されるうちに徐々に子供らしい快活さを見せるようになったものだ。
そして今は、こんなにも心配してくれる友人達がいる。
海優のことは彼女にとっても残念だったし、その事で高順は心に傷を負ってしまうかもしれないが・・この人たちががいれば大丈夫だろう。
彼女は安心して夕食を食べ始めるのであった。

~~~深夜~~~
皆が寝静まった頃。
ろうそくの明かりを頼りに、高順は厩まで来た。海優が使っていた場所には虹黒がいる。
高順は、厩の扉を開けて、寝ている虹黒の隣に座り込んだ。
「ぶる?」
いや、どうも最初から起きていたらしい。虹黒は頭をもたげて高順の頬を舐める。
「っぷ。・・・なんだ、起きてたのか。」
はぁ、とため息をついて高順は虹黒の首を撫でる。そういえば、海優もこうやって撫でてやることが多かったよな、と思い出す。
誰に言うでもなく、高順は喋りだした。
「あいつはさ。考えようによってはお前の先輩なんだよな・・・。」
「??」
「良い奴だったよ。付き合いこそ短かったけど温厚な性質でね。・・・まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。」
「ぶるるっ・・・。」
「こんなことになるなら、一緒に連れて行ってやればよかった。旅の邪魔になっても、最後まで面倒を見るべきだったのかもしれない。最後くらい、看取ってやりたかったよ・・・。」
海優を連れて行けば、間違いなく旅の結果は違うものになっていただろう。
虹黒にも、3人娘にも合えないまま終わっていたのかもしれない。所詮結果論だが、そういう点では連れて行かないほうが正解だった。
それでも・・・。高順の頬に、涙が一筋流れて落ちる。そうやって、落ち込んでしまう高順の頬を虹黒がまた舐めた。
「うぷっ。」
舐めた後、虹黒は餌として置いてあったリンゴの1つを加えて立ち上がった。
「お・・・?どうした?」
不思議がる高順だったが、虹黒は気にすることなく入り口の前で止まる。多分、「ここから出せ」と言いたいのだろう。
「・・・?」
何をするつもりなんだろうと思いつつも、高順は扉を開ける。虹黒は馬蹄の音を響かせつつ歩いていく。
「おい、虹黒・・・?」
高順は虹黒についていくが、何をしたいのか見当がつかない。虹黒はそのまま庭へ入って行く。
虹黒が何かを探すような素振りを見せるが、目当てのものが見つかったらしくまた少し歩き、立ち止まる。
そこにあったものは、地面に刺さっている一本の木の棒と、鐙(あぶみ)だった。
それを見た高順は、これは昔自分が使っていた鐙じゃないか?と思い出す。
「これ、海優の墓か?」
そう、これは海優の墓である。高順の母は本当に馬のために簡素ではあるが墓を作っていたのだ。
海優の背に乗せて使用していた鐙が、何よりの証である。その墓の前に、虹黒が口に咥えていたリンゴを置いた。
馬が、こういうことを考えるとは思っていなかったが・・・。虹黒も、海優のことを悼んでいるのだろうか?
「お前、まさかこの為に?」
「ぶるっ。」
「そっか。・・・ありがとな、虹黒。」
高順は、もう1度虹黒を撫でるのだった。そのまま夜が明けて、朝食の時間になった頃に高順は食事部屋に入ってきた。
その姿を見た趙雲が一番に声をかけてくる。
「お、高順殿。もう宜しいのですかな?」
「ん?宜しいって?」
「・・・まったく。皆が心配していたというのに。」
「???」
ぼやく趙雲だったが、高順は「何が?」という表情である。
「まあ、元気になったのならそれで宜しい。さ、食事の準備が直ぐに終わるので座って待っていてくだされ。」
「はいh「返事は一回。」
「・・・はい。」
そのまま皆が集まり、朝食を摂る。
皆、高順のことが気になっていたようだが、普段と変わらない様子に、ほっと胸をなでおろした様だ。
いつまでも落ち込まれている、というのは皆の精神衛生上あまり良くない。いつも元気な高順なだけに、周りの心配が余計に増えてしまうのだ。
もっとも、今の高順は元気よく飯をかっこんでいたが。
食事が終わった後、高順は「ちょっと出かけてくる。」と1人で家を出てしまった。
3人娘は上党を案内して欲しかったようで、少し残念そうな表情を見せていた。趙雲と沙摩柯は高順の家の修練場で訓練をするらしい。
3人娘も臧覇もやる事がないので、その訓練を見学する事にした。
「うわ・・・広っ!」
修練場に入ってきた李典の第一声だった。
そう、広い。個人の家だというのに、10人くらいなら平気で訓練ができてしまう広さの修練場だ。
既に趙雲、沙摩柯の2名は訓練、いや鍛錬と言ったほうが良い――を、行っていた。両者共に流麗な槍捌きを見せたと思いきや、それまでの「静」から「動」へと動きを変えて、岩をも穿つような鋭い一撃を放つ。
その姿に触発されたか3人娘も訓練を開始するが、そこに思わぬ伏兵が登場する。
高順の母であった。

さて、高順が向かったところと言うのは味噌工房である。
前に沙摩柯を派遣したときに、閻柔と田豫、そして多額の資金を送ってくれたのだ。
礼も兼ねての行動である。時間的にもまだ仕事を始めたばかりだったようで、親方以下、全員が出迎えてくれた。
「お、高順の旦那!ひっさしぶりですなあ!閻柔らから聞きましたぜ。あちこちで目立ったようで!」
「別に目立ちたかった訳じゃないのだけどね・・・。皆もご苦労様。」
全員、職人気質なタイプだが気の良い人間ばかりである。職人気質すぎて時に頑固にもなるが、それが彼らなりの仕事への張り合い、というものなのだろう。
早速、作ったばかりの味噌を試飲させてもらう。
「・・・むぅ、良い味だなぁ。」
味と言い、匂いと言い・・・高順が「現代」で飲んでいたものと遜色ない。形はいわゆる固形で、ペースト状ではないが違いはそれだけである。
「へへへ。旦那にそういって貰えるとこっちも嬉しくなりまさあ。・・・ただねえ。」
「ただ?」
「味噌の味を極めちまった気がしましてねぇ。これ以上何をどうすりゃいいのか・・・。」
そう言う親方はどこか寂しそうだ。
その気になれば白味噌やら合わせくらいは作れそうなものである。というか味噌作りが始まって数年しか時間が経っていないのにここまでの物を作れるほうが驚きだ。
この時代の男性はどちらかと言えば物作りなどのほうに才能を発揮しているのかもしれない。
「まあ、良いんじゃないですか?そこまで言えるなら、周りに伝達する事もできるでしょう?」
「ですがねぇ・・・。」
親方はやはり何か納得いかないような様子だ。周りの味噌職人(閻柔と田豫)も「うーむ。」とか唸っている。
また味噌汁を一口啜った高順は「あー、美味い。」とか思いながら無意識にある言葉を口にしてしまった。
「はぁー・・・。これだけ美味しいのが作れるなら味噌ラーメンとかもできるのかもしれないなぁ。」と。
その言葉を聞いた職人一同が「はぁ!!?」と叫んだ。もしその場に効果音が出てきたとしたら「ピシャアッ!」とか出たかもしれない。
「旦那・・・あ、あんたなんて恐ろしい発想を・・・!」
「え?」
「ラーメンに味噌だって・・・?そんな邪道な!?」
「え?え?」
彼らは高順を放っておいて議論を始めてしまった。
邪道だ、だの、いや、これは面白いかもしれない。とか。
「しかし、味噌だぞ?辛くなりすぎるのではないか?」
「それは普通のラーメンだからだろう。豚骨出汁に混ぜて、甘めにするのは・・・。」
「それならば味噌を辛くするしか・・・。」
「それよりも匂いだ。豚骨の・・・ん、ニンニクが使えるか・・・。」
議論が続く。高順はまさかこんな事態に発展するなどとは夢にも思わず、ポカーンとしている。
結局、「味噌ラーメン、作るどー!」な流れになってしまった。

えーと、日本というか、札幌の皆様ゴメンナサイ。なんか中国と言うか俺が味噌ラーメンの発案者になってしまったっぽいです。
まだ、「ぽい」だけで実際には作られてませんが、彼らならば直ぐに作ってしまいそうな気がします。
・・・・・・。ナンテコッタイorz

その後、更なる議論につき合わされた高順はへとへとになりながら帰途に着いた。
まさか、自分の何気ない一言でおかしな方向へ話が進んでしまったなんて。
「もういいや、自分の迂闊さを呪いつつ今日も速く寝よう・・・。」などと言いながら、高順は歩いていく。
ただいま、と家の扉を開けるが反応がない。もう食事中かな?と思ったが、まだ食事には少し早い。皆で出かけてるのかも?と思う程度だったが、そこに臧覇がぱたぱたと歩いてきた。
「あ、高順おにーちゃんだ、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま。ねえ臧覇ちゃん。皆何処に行ったか知らないかな?」
「え?皆修練場にいるけど?」
「修練場?」
こんな時間まで修練してるのか?随分頑張るな・・・と思いつつ高順は臧覇と共に修練場へ向かった。
そこにはあったのは、ボロボロになって燃え尽きている5人と、修練場の隅っこでのんびりとしている母の姿だった。
「皆、何やってんの・・・?」
高順の言葉に、皆が顔だけそちらに向ける。
「あら、お帰りなさい、順。」
にこやかに挨拶をする母だったが、にこやかなのは彼女だけ。他の皆は一様に「ず~~~ん」という・・・なんだか疲労しきった顔で呻く。
「ううっ・・・こ、高順さぁ~~~ん・・・。」
「な、何やねん、このおっかさん・・・無茶苦茶や・・・。」
「まさか隊長のお母様がここまでの使い手だなんて・・・。」
3人娘が次々にこんなことを言う。
「え、何だ、どうしたんだよ?」
「お、おい。高順・・・お前、どうして母殿がここまで強い事を黙っていたんだ・・・。」
「前にお会いしたときには、只者でない事は理解できておりましたが・・・まさか、こ、これほど・・・。」
沙摩柯と趙雲も、疲れきって座り込んで壁にもたれているような状況だ。
「・・・なあ、本当に何があったんだよ。母上と手合わせしたの?」
高順の質問に李典と楽進が答える。
「せや。おっかさんも修練に参加する言い出してな。無茶やからやめとき、言うたんやけど。無茶なんはこっちやった・・・3人でかかって一方的に負けたし・・・。」
「お母様が「3人同時でも構わない」と仰ったので、手を抜いて挑んだのですが・・・まさか五胡式格闘術にあれほど精通しておられるなんて。お母様ご本人は「かじっただけの技術」と仰ってましたが、あれはかじった程度ではありません。もう完全に体得している・・・。」
「・・・まさか、3人相手にかすらせもしなかったとか?」
高順は昔、よく母親に手合わせをしてもらった事を思い出していた。最後に手合わせをしてもらったときは何とか服にかすらせた程度だったが・・・。今の母の姿を見るに、衣服の乱れすらない。
「その3人どころか我々でも無理だった。」
「こちらは得物ありで行ったのに母君は徒手空拳・・・あっさりと間合いに入られて投げ飛ばされるわ絞められるわ極められるわ。結局、手も足も出ずじまいでござった。これほどの強さだったとは・・・私もまだまだ修行が足りませぬ・・・。」
「え?星殿と沙摩柯さんまで同時にかかったの?」
「ああ。だが星が言うとおり。手も足も出ずだ・・・。」
げんなりとして沙摩柯が答える。
両者共に自身の武力には相当な自信がある。それは過信でも驕りでもなく、自分の能力を冷静に見ての結論なのだがその2人が、しかも同時にかかって手も足も出ないとは。
もしかして、自分が挑んだときに服にかすらせたのは母上の体調がよくなかったとか、手をあからさまに抜いていたとかそういうことなのだろうか・・・?
それを考えると高順は寒気を覚えるのだった。
「あらあら。皆さんだらしがない。この程度で疲れているようでは閨(ねや)で男性を悦ばせる事すらできませんよ?」
なんて事を言うんだ母上。と思うも、こういう会話に必ず食いついてくるであろう李典・干禁・趙雲は無言のまま。
本気で疲れきっているらしい。
もしも。もしもその場にいる全員(高順の母を除く)が1800年以上も未来の言葉を知っていたら確実にこう言ったであろう。
「母上、マジパネェ。」と。


(高順独白)
この後、母上は皆に昔の素性を聞かれていました。
実は俺も母上の過去は全く知りません。昔はそんなもの気にする余裕もなかったし、1度聞いてみましたがあまり喋りたがらなかった事もあって無理に聞き出すようなことをしなかったのですね。
ですが、沙摩柯さんや趙雲殿、楽進は武人として興味があったのでしょう。割としつこく聞いていました。
結果、解った事が1つだけあります。
母上の名前は・・・。






閻行というのだそうです。



・・・ええええええええええっ!!?











~~~楽屋裏~~~
設定無視もいいところですあいつです。(挨拶
今回は上党日常編、といったところでしょうか。書きたい事詰め込んだら良くわからないお話に・・・。
かくぼうさん、昔はただの同僚だったはずが子供時代から交友があったという事にしてしまいました。
しかし、味噌ラーメン・・・。よかったのかなぁ。北海道の皆様オコラナイデクダサイネ。

ここで原作を知らない人と閻行を知らない方への補足を。
「五胡式格闘術」というのは、原作で楽進が言った言葉です。(五胡式とかは言ってないようですが
五胡、というのは中国の異民族でして「鮮卑(せんぴ)・羯(けつ)・氐(てい)・羌(きょう)・匈奴(きょうど)」という5部族を指した言葉です。
要するに五胡というのは複数の異民族ということでしょうね。
で、作中で楽進が「組み付かれたら勝てない」という発言をしています。
なので、普通の格闘に加えて投げ技とかもあるんだろうな、と思って極められるとか絞められるという言葉を加えたのですが・・・作中において詳しい説明はなかったので妄想です。
そして閻行。
この人は西涼の韓遂という人の娘婿にされる人物ですが、1つだけ凄い経歴があります。
後に蜀漢の五虎将(演義だけでの話ですが)であり、関中で曹操と激戦を繰り広げた馬超を一方的に?叩きのめして半殺しにしたとか、そんな話がある人です。
つうか馬超殺しかけるとかすさまじすぎる。この人と呂布の戦いを見てみたかったなぁ、と思うのはあいつだけでしょうか。
時代考証とか色々考えると明らかに上党にいるのはおかしくなってしまうのですが・・・。このシナリオでは半殺しにされたのは馬騰か韓遂だと思ってください(無理
本来出る予定はなかったのですが、このシナリオ書き始めて初期の感想で「閻行出せないでしょうか?」な書き込みがあったので急遽ピンチヒッターとかそんなノリで(浅はか過ぎる
ですが、これで高順くんが男性として武力が高いことへのいい訳くらいにはなるかと・・・無理ですね、そうですか。
これはあいつの脳内設定なのであまり気にする事でもないのですが、この世界の、少なくとも三国時代の男性は武力が低いです。
というのも、原作で女性がチートなのもありますがこういう風に思っています。
RPG的例えですが「女性はレベルが上がるまでが早く、上がっていく能力値が高い。」「能力限界が男性に比べて高い」だと思ってます。男性はこの逆ですね。
当然、その枠に当てはまらない男性だっていると思います。張任(ちょうじん)とか、そうかもしれません。

それと座談会と言う名の愚痴だべりは消しましたYO。

さてさて、次回の話はどうしましょうかね。
それではまた(☆ω☆)ノシ




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第28話 丁原と呂布。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/15 00:19
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第28話 丁原と呂布。


高順達は上党を出て、丁原のいる洛陽へと向かっていた。
別に上党に別れを告げたというではなく、早めに丁原と合流しようと思っていたのだ。その証拠と言うわけではないが臧覇は閻行(高順の母)に預けられているし、田豫達もいない。
3人娘にせよ沙摩柯にせよ、高順が行くのならば付いて行こうという考えであるし、趙雲は今度は丁原に客将という立場で仕えるつもりらしい。
前の戦いの時に武功があったとして、丁原は趙雲に褒美を与えていた。
本人に受け取るつもりはなかったが、その時共にいた郭嘉らの旅の資金に充てる事ができたため、結局は(半ば無理やりに)受け取る・・・いや、受け取らされる形になったのだ。
その事については感謝をしているらしく、借りを作ったと思っているのだろう。それを返すために客将として、という事である。
普段は飄々として掴みどころのない趙雲だが、「信義に重きを置く」という意志は誰よりも強い。
さて、彼女らの考えはともかくとして高順はどうにも嫌な胸騒ぎがしていた。
この胸騒ぎは上党に帰還して、門番に「丁原様たちは洛陽へと向かわれた」という言葉を聞いてからのものだ。
正史でも演義でも呂布に殺された丁原であるが、自分の知る限り丁原と呂布の仲は良好だといっても良い。呂布は無口で自分の考えを他者に上手く伝えられない性格ではあるものの、信義がないというわけではない。
なので、いきなり暗殺と言うことはないとは思う。だが、それでも胸騒ぎが収まらない。自慢にもならないが、こういうときの自分の胸騒ぎ、或いは嫌な予感と言うのは相当な的中率を誇る。
予感が的中したとして、自分が傍にいたところで何ともならないだろうし、足手まといになる事だってあり得るが・・・。
知識に振り回されすぎな気もするが、やはり時期が時期だけに気になって仕方がない。
彼らは上党から南へと進んでいく。
道が舗装されている訳でもないが、まあ進めない場所ではない。そんな場所が延々と続く道だ。
高順が少し急ぎ気味に朝早く出立した事もあって、今日は早めに休もうという事になったのだが・・・。
そこに、10数人ほどの騎兵が向かってくる。
見張りをしていた高順は一体何事かと戟を構えた。他の皆は天幕の用意や食事の用意などをしていたが、異常に気がついて直ぐに高順の周りに集合してきた。
だが、その騎兵部隊の中に何人か見知った顔があることに高順は気がついた。あれは・・・上党軍の兵士だ。
向こうはそのまま通り過ぎるつもりのようだったが、その中の一人が高順に気づいたらしく、速度を緩めて高順の前で止まる。だがあまりに様子がおかしい。何故か怪我を負っている者までいる。
「お前・・・高順か?何でこんなところにいるんだ!?」
騎兵の一人が呼びかけてくる。
「それはこっちの台詞だ、皆、洛陽にいるはずじゃないのか?それに、なんで怪我してる奴らがいる・・・?」
「そうだ、こんなところで止まってる場合じゃないんだ。早く上党に行かなきゃならないんだ!」
「だから何でだよ!?」
「・・・丁原様が、呂布の軍勢に襲われているんだ。」
「何・・・!?何故、呂布が?」
「そんなこと知るもんか!丁原様に洛陽から離れるように命令されて、何が何だか解らないままいきなり襲撃されたんだ、こっちが知りたいくらいだよ!」
「っ・・・。」
彼らの言葉を聞いた高順は虹黒に跨る。
「た、隊長!?」
「様子を見に行く!3人は彼らと一緒に上党まで帰還するんだ!下手したら篭城戦になるぞ!」
「え、ええ・・・?」
3人娘も何が何だか解らずにおたつく。いきなり何があったというのか。
くそっ、嫌な予感的中かよ・・・。高順は振り返ることなく虹黒を駆けさせた。
その高順に、趙雲と沙摩柯が追いすがる。
「待たれよ!高順殿が行ってどうなるのです!我々も彼らと共に退くべきでしょう!」
「趙雲の言うとおりだ、お前1人で何が出来るんだっ!」
だが、高順は答えずに更に速度を上げる。
その後姿を見て、趙雲は自分の悪い予感が当たってしまった、と焦燥感を露にした。
身内を大切にするがあまり、いつかどこかでおかしな暴発をしてしまうのでは、悪い方向へ向かってしまうのではないか。そう思っていた。
それが今回、丁原達に危機が迫っているという言葉で完全に冷静さを欠いた行動に繋がっている。普段の高順であれば、自分達の言葉を聞くまでもなく退く事を選んだはずなのだ。
何とかして止めなければ・・・。
「くそっ・・・!沙摩柯殿、高順殿を止めるぞ!」
「ああ、3人は高順の言うとおり彼らについていけ、襲撃される事はないだろうが気をつけるんだぞ!」
「は、はいっ!」
沙摩柯と趙雲も、高順を追って馬を駆けさせた。


「はぁっ!」
「でぇいっ!」
張遼の「飛龍偃月刀」と朱厳の二対の刃が交差し、火花を散らす。
張遼は傷1つないが、朱厳はすでにボロボロの状態だ。張遼は何度も降伏を呼びかけているものの、朱厳は全く聞こうとしない。
「朱厳のじっちゃ、お願いやから降伏してんか!これ以上は無駄やで!?」
「お断りする。わしも武人の端くれ。負けると解っていても退けぬ戦いがあるわ!」
「ああ、もうっ・・・。」
何度となく退いては押し、押しては退くという戦いである。老齢であり、完全に押されてはいるものの、張遼も中々決定打を与える事ができない。
迷いもあったが、それ以上に朱厳の強さが思った以上のものだった。降伏を呼びかけていても、張遼にも余裕はない。
「迷うでないわ、小娘っ!」
「くうぅっ!?」
朱厳の繰り出す双剣を張遼は飛龍偃月刀で防ぎ、尚も戦いは続いていく。
呂布隊6000と、上党軍3000が交戦状態に入って数時間。すでに丁原軍の兵は殆どが討ち死にしていた。
丁原は洛陽を離れた後、親衛隊であれ何であれ、若い者を順番に逃がそうとした。自身と朱厳、そして少数の兵士で足止めしようとしたのだ。
兵たちも丁原の言葉に従って一度は逃げようとしたものの、「このまま放っておく事などできるか!」とばかりに駆け戻ったのだ。最低限、上党に危急を知らせる兵を遣わせて、大部分が丁原を守るために引き返した。
だが、その兵たちも呂布率いる騎馬隊に打ち負かされてしまい、屍となって地面に横たわっていた。
「はぁ、はぁっ・・・。」
「・・・・・・。」
上党側、つまり戦場の一番北で丁原と呂布は対峙していた。丁原の吐く息は荒く、対して呂布は呼吸1つ乱していない。
その丁原を守る親衛隊も殆どが討ち死にし、残っているのは十数人と言ったところだ。
「くっ、武神と評されるだけあるな・・・。やはり、敵わんか・・・。」
「・・・勝負はついた。降伏して。」
呂布の言葉に、丁原は自嘲の笑みを漏らした。
「ふん、部下を死なせて1人おめおめと生き残れというのか?どちらにせよ私は死ぬさ。それを考えて部下を逃がしたというのに。あの馬鹿者どもは・・・。」
「・・・そう。」
呂布は己の得物「方天画戟」を構えなおし丁原も長刀を構える。先に動いたのは呂布。一気に間合いを詰め、方天画戟を振るう。
丁原はなんとかそれを避けて反撃を試みるが、呂布はそれを難なく回避して、更に攻撃を加えていく。
親衛隊は、両者の攻防を黙ってみている事しかできない。凄まじすぎてついていけないのだ。
だが、決着がつく。
丁原の渾身の打ち込みを避けた呂布は、彼女の後ろに回りこみ腰辺りに斬り付ける。疲れきっている丁原はその一撃を避けきれず、腰から血を噴出して地面に倒れた。
「くっ・・・うぁ・・・。」
「・・・これで、終わり。これ以上は無駄。」
呂布は方天画戟を仰向けに倒れた丁原に突きつける。
「そ、そのようだな。さすが武神。私が敵うはずも、なか、ったか・・・さあ、斬れ・・・!」
「・・・まだ。治療を急げば助かる見込みはある。」
息も絶え絶えに言い放つ丁原であったが、呂布は動かない。と、そこへ割り込んでくるものがあった。
剣を、槍を構え突撃をしてくる丁原の親衛隊である。
「ま、待て・・・やめろっ・・・!」
だが、親衛隊は聞くことなく呂布へ向かっていく。呂布としても殺すつもりはなく、柄で応戦する。
「郝萌!お前は丁原様を連れて逃げるんだ!」
「・・・解った!」
声に応えて、郝萌と他数人の兵が丁原に駆け寄り、肩で抱えて戦場を離脱しようとする。馬もいない状況で逃げ切れる訳もないが、それでも足掻こうとする。
だが、それを見越して側面に弓兵を少数配置していた者がいる。陳宮だ。
(呂布殿には悪いのですが、ここで丁原を見逃す訳には行かないのです!ここで見逃して上党まで退かれてしまえば無用な争いに発展してしまうかも知れない。それだけは阻止するのです!)
本来ならば、丁原1人を討ってしまえばそれで良いはずだった。それが長引いてしまったのは上党軍が決して退こうとせず、丁原の盾となるために突撃してくるために、無用な戦いを強いられてしまったのだ。
陳宮も、丁原が兵士を逃がしたのは知っていたがまさか戻ってくるとは思っていなかった。
もっと早い段階で急襲を仕掛けるべきだった。そうすれば無駄な人死には出なかったはずなのに。丁原にしても陳宮にしても、そこだけは何よりの誤算だった。
(怨まないで下され・・・。)
内心で許しを乞いつつ、陳宮は兵に弓を射かけさせた。そして、射かけさせた後に気がついたのだ。
丁原を担いでいく兵士の中に郝萌の姿があった事に。
「あ・・・!」
矢は容赦なく、丁原たちへ向けて飛んでいく。それに気づいた兵たちは、そのまま丁原を離して―――全員が大の字になって丁原の盾になった。
矢を体中に受け、郝萌たちはその場に崩れ落ちる。殆どの者は即死していたが、郝萌だけはまだ生きていた。
しかし、それはまだ生きているだけで死ぬ運命に変わりはない。本人にもそれは良くわかっている。矢を受け、倒れる直前。郝萌は世界がゆっくりと動いているように見えた。
その中で、誰が射たのかが気になって、視線を巡らせて見る。その視線の先には、泣きそうな顔をしている陳宮の姿があった。
(そっか・・・ねねちゃん、あなたが・・・。)
郝萌は、彼女を怨みはしなかった。これもまた乱世の習いだ。ここで死ぬのは「そういうもの」でしかなかったのだろう。
自分の人生に後悔はしていない。だが、たった1つだけ残念な事はあった。高順と、また会おうという約束。再開を約束していたが・・・それを果たせそうにない。
(ごめん、高順。あたし、約束守れないみたい・・・。寂しいけど、向こうで待ってるからさ。できるだけ、ゆっくり来なさいよ・・・?生き急ぐ、よう、な真似だけはしない、で・・・。・・・先に、逝っ・・・、て・・・。)
仰向けに倒れていく郝萌。その身体が地面に倒れこむまでの間に、彼女の意識は闇に飲まれていった。

「くっ・・・。何と言うことだ・・・。」
丁原は後悔した。やはり、無理やりでももう1度兵達を戦場から離脱させるべきだった、と。
見れば、先ほど呂布に挑んだ兵も全員打ち倒され(気絶させただけのようだ)、朱厳も張遼と戦っているが・・・彼も長くは保たないだろう。
自分の判断は間違っていたのか。自分なりの正義を信じて、今の世を少しでも平和にしたいと思って、信念を持って行動してきたというのに。ここで終わるというのか。
「ぐくっ・・・。」
なんとか立ち上がろうとするが、自身の作った血だまりで足が滑って立ち上がることすら出来ない。意識が遠のいていきそうな錯覚を覚える。
と、そこへ、馬蹄の音・・・数は少ないが、間違いなく誰かが北からこっちに向かって来ているのを感じた。
「丁原様ーーー!!」
声が聞こえてくる。丁原はこの声に聞き覚えがあった。
「まさ、か・・・高順、か・・・?くぅ・・・。」
高順は虹黒から降りて、丁原の元まで駆け寄る。それに続いて趙雲、沙摩柯もやっと追いついてきた。
「ちっ、間に合わなかったか・・・。」
高順に追いつくことが出来なかった。こうなったら、討ち死に覚悟で戦うしかないな、と趙雲と沙摩柯は覚悟を決めた。
陳宮もなんとか気持ちをたて直し、もう1度丁原達に矢を射かけようとするものの、呂布はそれを手をかざして止めさせた。
「丁原様、しっかり!」
「うっ・・・お、遅かったじゃ、ないか?」
「くそっ、ここまでやられているだなんて・・・」
上党の兵士が多数討たれている状況を見て高順は呻いた。南側では朱厳がたった1人で張遼を止めている。もう、この状況では丁原の治療は間に合うまい。だが、諦めたりはしない。無駄だと解っていても・・・。
「沙摩柯さん、丁原様を頼み・・・。」
ここまで言った所で、高順は郝萌に気がついた。体中、矢だらけになって死んでいる郝萌に。
「すまん、私を守ろうとして・・・。」
丁原の言葉など耳に届かず、高順は郝萌の遺体の前に座り込んだ。
左首筋を触ってみるが、鼓動を感じない。温かみはまだ失っていないが、まったく生気を感じない。
「・・・嘘、だろ?」
また会おうと約束をした筈なのに。色々と話してやりたいこともあったんだ。
何で、こんなところで皆が。郝萌が死ななければならない・・・?呂布とも、陳宮とも上手く行ってたじゃないか。
皆、史実と違って生き残ることだって可能だった筈だ。それが・・・それが!
その時、高順は今までにない怒りを感じていた。今まで、誰に対しても心の底から怒った事のない高順が、初めて怒りに身を任せようとしている。
丁原を後ろから抱きかかえるような形で自分の馬に乗せ上党に向かいつつあった沙摩柯も、そして高順を追おうとした趙雲も「不味い・・・!」と感じた。
高順は三刃戟を振りかぶり、呂布に向かって突進をしていく。
「呂布ーーーーーーーーっ!!!」
「・・・。」
突撃を仕掛けてくる高順を、呂布は悲しそうな表情で見て、戟を構える。
その高順を止めようと趙雲は馬を走らせた。
「待たれよっ!高順殿の実力では絶対に勝てませぬ!」
だが、高順は聞いていない。
「怒りに支配されて何も見えていない・・・!えぇい、虹黒っ!」
趙雲の言葉を聞く前に、虹黒も高順に向かって駆け出していた。
呂布に向かっていく最中、高順の心中で「冷静な自分」と、「怒り狂った自分」が議論を交わしていた。
―――落ち着け、高順。このままでは死ぬぞ。お前が呂布に勝てるわけがないだろう―――
―――うるさい、そんな事はわかっている。だが、この怒りをどうやって静めろというのだ?―――
―――お前が死ぬだけならそれでいい。だが、お前を信じて付いて来てくれた人々も巻き込むつもりか?―――
―――うるさい。俺はあいつを殺す。黙っていろ―――
―――死亡フラグはいいのか?死ぬ運命を覆すつもりじゃないのか?―――
死亡フラグ?死亡フラグだって?そんなもの、知るか・・・。知ったことか!

「うおおおおぉぉっ!!」
「・・・。」
突進してきた高順が三刃戟を薙ぎ払い、呂布はそれを軽々と受け止める。
それどころか、お返しとばかりに目にも留まらぬ速さの突きを繰り出してきた。柄の部分であるがそれでも命中すれば一撃で大人を気絶させることが出来る威力だ。それですら呂布は手加減している。
趙雲は、その一撃で勝負が終わる。そう見ていた。彼女だけではなく、2人の戦いを見守っている者全員がそう思ったであろう。
しかし、高順はすんでのところでその一撃を避けていた。三刃戟を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で。左手のみで自身の体重を支え、一瞬で上に退避していたのだ。
高順はまだ左手で戟を掴んでおり、相当無茶な体勢ではあったが、右手で腰から吊るしていた大剣・・・倚天の大剣を鞘から引き抜く。
上方向からの攻撃を予想して、呂布は戟を上方へ構える。だが、予感した攻撃は来なかった。
高順はそのまま左手の力を抜いて戟を離し、呂布の足元付近へ着地。そのまま足へ向かって倚天の大剣を振り下ろした。
「っ・・・。」
予想外の攻撃だったが、それを呂布は後方へ飛ぶ事で回避。飛ぶ前に、高順の右肩を戟の柄で思い切り突き上げた。
「ぐあっ・・・!」
その一撃で高順の体は大きく吹き飛ばされていく。地面に叩きつけられる前に、趙雲が片腕で高順の身体を受け止めた。
「虹黒っ!」
「ぶるっ!」
趙雲の隣に虹黒が並走し、趙雲が抱きとめた高順を背に乗せる。そして、そのまま方向転換をして北側へと向かっていく。
「くっ・・・まだだ!」
もう1度呂布へ向かおうとするが、虹黒は従おうとしない。
「虹黒、どうしたんだ?戻るんだ!」
「高順殿、いい加減にしてくだされ!ここで無駄死にをして良いといわれるか!?」
「だが、朱厳様も残って・・・」
この言葉に、趙雲は怒鳴りつけた。
「この分からず屋がっ!自惚れるなっ!」
「うっ・・・。」
趙雲が今まで見せた事のない怒気を高順にぶつける。
「自分1人で何が出来るというのか、この未熟者!自分がどれだけ無謀な事を仕でかしたのか、まだ解らぬか!?」
「それは・・・。」
高順は言いよどむ。そう、趙雲の言うとおりなのだ。自分1人で突出して、趙雲と沙摩柯を巻き込んだのだ。
呂布がこちらを殺す気がないようだったから助かった。弓を射掛けさせようと思えばいつでもできた。殺そうと思えばいつでも殺せる、それだけの実力差だった。趙雲の言葉のほうが正しいのだ。
「くそっ、畜生・・・!」
高順は馬上で唇を血がにじみ出るほどに噛み締める。
趙雲も、隣で辛そうな表情だった。高順にああは言ったものの、自分だって何も出来ないままだったのだ。これほど自分自身の無力さを痛感する事もなかった。
2人は、己の胸の内に敗北感だけを残して、逃げていく事しか出来なかった。

朱厳は、高順らが丁原を連れて北へ向かっていくのを見届けていた。これでこの場に残る上党軍はほぼ自分1人になったと思っていい。
上党軍3000と呂布軍6000は、今朱厳のいる辺りを主戦場にしていた。丁原は後方に陣取っていたが、呂布と一部の部隊にあっさりと前線を突破されてしまったのだ。
何とか援護に向かいたかったが張遼との一騎打ちになってしまい、周りの兵士も次々と討たれ、打つ手がなくなってしまった。
そして今は手負いの自分1人。片方の剣も折れてしまい、残るは右手に片割れの一本の剣。どうも自分はここまでのようだ。
「朱厳のじっちゃ、もうええやろ?これ以上は無駄やで?」
張遼の言葉に、朱厳は静かに頭を振る。
「お主とて解っていよう。これが我々武人の役割。お主が逆の立場であれば、降伏を受け入れたと思うかの?」
「・・・思わへんけど。」
「ならば、そういうことじゃ。さあ、決着をつけるとするかの。」
朱厳は剣を構え、張遼もそれに倣う。
「これが最後や。ほんまに、降伏してくれへんのやな?」
「愚問。」
「さよか。ほな、全力で行くで・・・!」
降伏の呼びかけも一言で斬って捨てる朱厳の言葉に、張遼は説得は不可能と悟った。いや、最初から解っていた事だった。
朱厳、張遼の闘気が更に練りこまれていく。お互いに、最大最強の一撃を見舞わんと、力を溜めている。
その光景を、呂布隊の兵士は固唾を呑んで見守っている。
風の吹きすさぶ音が聞こえる。倒れた丁原軍の旗がバタバタとたなびく。共に無言だったが、風が一筋流れた瞬間。
「はああああぁぁっ!」
「でりゃああああああああっ!!」
両者は目を見開き、声を上げて交差する。飛龍偃月刀、そして朱厳の剣がお互いの身体に振り下ろされた。
武器を振りぬき、2人ともそのまま動かない。暫くして・・・
「ぐぶッ!?」
「・・・。」
朱厳が大量の血を吐き、腹部を押さえた。腹部を深く切りつけられ、そこからも血があふれ出す。
張遼のほうには、わき腹を薄く斬られた痕が残る。
ここまで、か。朱厳は自身の生を振り返ってみる。丁原に従って戦陣を駆けた半生。これだけの将と戦い、最後を飾る事ができた。何の後悔があろう。
あるとすれば、兵を巻き込んでしまった事と、丁原よりも・・・僅かだが先に逝く事である。そして、高順のことも気にかかる。
彼はまだ若い。だが、若さのみで全てを乗り切ることなど出来ない。早まった真似だけはしてくれるなよ、と思う。
そして、張遼。
朱厳は剣を地面に刺し、それを杖代わりに辛うじて立ち続けている。今の彼から見て、張遼は北。つまり上党方面に向いている。
張遼は朱厳に背を向けて、立ちすくんでいる。
「張遼・・・ごふっ、顔を・・・見せてくれぬ、かのぅ・・・?」
その言葉に、びくりと肩を震わせて・・・そして、張遼は朱厳のほうへ向き直る。
泣いていた。いや、泣くのを我慢しようとして歯を食いしばって肩を震わせて、そして涙を流している。
「・・・泣く、でない、張遼・・・。これもまた武人の定め。戦場に散ること、こそ本望と、いうものよ・・・。」
「・・・・・・。」
張遼は思い出していた。前に上党で行った酒宴に呼ばれ、朱厳にいろいろな話を聞かせてもらったこと。呑み比べをしたこと。ともに丁原を弄って、久々に心から楽しいと思えた時間を。
そういえば、と朱厳は思い出す。張遼とはまた呑み明かそうと約束をしていた事を。どうも、その約束は果たせないらしい。
「すまぬの、約束・・・守れそうにないわい・・・。」
「じ、じっちゃ・・・。」
「張遼・・・達者、での・・・。」
「―――!」
そう言い遺して、朱厳は傷口を押さえていた手を上げ、北に・・・上党へ向かって拱手した。
申し訳ありませぬ、丁原様。主君より先に逝く不忠をお許しくだされ。そう呟いて、静かに目を閉じ・・・立ったまま、朱厳は旅立った。
「う・・・う。じ、じっちゃ・・・う、ぐぅっ・・・。」
朱厳の死を理解した張遼の目から、涙がぽろぽろと零れ落ちる。このまま泣き叫んでしまいたい。そんな思いが溢れてくる。
だが朱厳はそれを自分に望むだろうか?自分を討った存在が、泣き崩れる姿を望むのだろうか?
否。望まないだろう。死者に望みの有る無し等解るはずもない。それでも、朱厳は今の自分の姿を見れば叱咤するのだろう。何を泣く必要があるか、と。
暫くして。張遼は涙を拭くこともせず朱厳の亡骸に拱手した。
張遼だけではない。呂布隊の兵も、呂布自身も、朱厳の亡骸に拱手をしていた。
張遼と矛を交え、最後まで主君への忠義を守り通した将である。それ以上に、伝わってもいたのだろう。これだけの戦いぶりを見せた朱厳を、悲しみではなく敬意をもって送り出してやりたいという、張遼の思いが。
そして、逃げる機会はあったはずなのに、朱厳と同じく忠義を全うせんと戦場に命を散らした上党兵への敬意でもあっただろうか。

朱厳、字を治心。
上党の勇者と呼ばれた老将に相応しい、誇り高き最後だった。











~~~あとがき~~~
シリアスのシの字も書けません、あいつです。
久々に1日で書き上げてしまった・・・。無茶をするぜ、全く。(誰だ
さて、ここまで上党を賛美するつもりなかったのに・・・どうしてこうなった。
それと、高順くん。怒りに呑まれていた事もありますが気持ちに変化がありましたね。というか、ここまで進んできたシナリオで初めて気を吐いたような感じです。
朱厳さんもかくぼーさんも、あと多数の上党兵が亡くなってしまいましたねぇ。
高順くんは彼らの死に何を思うのでしょう。そして、どんな身の振り方をするのでしょう。
その辺りは考えていますが、もう少しお待ちくださいませ。多分誰であれ見当はつくと思いますけどね(笑

それではまた次回お会いいたしましょう(TωT)ノ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第29話 上党の落日。(誤字ったのでアレ
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/15 18:42
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第29話 上党の落日。

高順と趙雲は無言のまま馬を走らせる。
先に行った沙摩柯は、重症の丁原を乗せているためにそれほど速度を出せるはずもない。直ぐに追いつくだろう。
だが、丁原のあの傷。そうは長くないだろうし、馬に跨っているだけでも相当な苦痛のはずだ。
果たして、沙摩柯の姿が見えてきた。既に彼女は馬を下りて、天幕の傍にいる。
「天幕?どうしてこんなところに?」
趙雲が疑問を口にする。高順も何も言わないが同じ事を考えていた。
「おーい!2人とも、こっちだー!」
沙摩柯が手を振る。やはり間違いはないようだ。2人とも直ぐ傍まで近づいて馬から下りる。
「2人とも無事だったか。何よりだ。」
沙摩柯が安心したように言う。
「沙摩柯さん、どうしてこんなところに天幕が・・・?」
「ああ、これはな。楽進が残ってくれていたんだ。李典と干禁は上党兵と共に退いたようだが、楽進は少しずつ下がっての移動だったようだ。」
確かに、この場所はさきほど高順達が休もうと天幕を張ったところからは更に北だ。楽進は自分達が撤退したときに備えて、そして何かあったときの足止めのために1人で残っていたのだろう。
無茶をするな、と思うがそれ以上の無茶をしてしまったのは自分だ。そして、彼女の無茶のせいで一時的とはいえ丁原を休ませる事ができるのだからこれは不幸中の幸いといえるかもしれない。・・・だが。
「・・・高順、中に入れ。丁原殿がお待ちだぞ。」
「ええ・・・。」
沙摩柯の表情も沈みがちだ。やはりもう長くはない、ということだろうか。高順は天幕の入り口を潜る。中には楽進と、寝かしつけられた丁原がいた。
「隊長・・・。」
「・・・こう、順か。」
今まで、手当てをしていたのだろうか。楽進の額には汗が浮かんでいる。そして、丁原は腰のあたりを幾重にも包帯で巻かれているが、その部分が真っ赤に染まっている。やはり、無理なのか。
「ふ・・・、そんな顔をするな。」
よほど酷い顔をしていたのだろう。丁原は薄く笑うが、その笑顔には生気がない。
楽進は、2人に一礼して天幕を出た。応急処置くらいしかできなかったが、彼女も理解していた。これが彼らの今生の別れであることを。
丁原の横に、高順はひざを立てて座り込む。
「丁原様・・・。」
「高順。いいか、呂布達を怨むなよ。・・・こんな事になったのは、私のせいなのだからな・・・くっ・・・。」
「ですがっ・・・。」
「高順。馬鹿な真似だけはするな。敵を討つとか、そんなことは絶対に考えるな・・・ぐぅ、これ以上、この件で死者を出すべきでは、ない。上党の者達にも伝えろ。降伏しろ、と。無駄な抵抗は一切するな。罪は私1人に被せてしまえ・・・。」
高順は無言だ。だが、命の灯が消えかかっている丁原にはそれを気にする余裕などない。
「お前にしか、頼めん事だ。解るな?」
「・・・はい。」
「うむ。・・・まったく、私も罪深い奴だ・・・。罪もない若者たちを巻き込んで、無駄死にさせてしまった。ぐぅっ・・・。」
「丁原様・・・。」
丁原はその手を高順を探すように彷徨わせる。目の焦点があっていないのだろうか。目が見えていないのか。高順は思わずその手を握り締めた。
「郝萌を・・・兵達を巻き込んで。私は・・・わた、しは・・・。」
丁原の目から涙が溢れてくる。死に瀕して心も弱ってしまっているのか。高順は丁原が涙を流すところなど初めて見た。
そして、丁原は静かに目を閉じる。
「ん・・・なんだ、お前達。そんな場所にいたのか・・・?」
「丁原様?」
「はは、律儀な奴らだな・・・朱厳に、郝萌か?わざわざ、私が来るのを待っていた、というのか・・・。」
今の丁原には何が見えているのだろう。朱厳、そして郝萌。先に逝った兵士であろうか。
「わ、解って、いる。直ぐに私も逝く・・・。そう、急かす、な・・・。」
丁原は一度だけ息を深く吐き出し、そして、そのまま動かなくなった。
「・・・丁原様・・・?」
呼びかけるも、彼女は動かない。手に力が篭っていない。息をしていない・・・。
「くっ・・・。」
高順は今まで握っていた手を離し、両膝を着いた姿勢のまま拱手をした。
趙雲たちは、天幕の外で呂布隊が進撃してくるであろうと、常に警戒を続けている。
本音を言えば直ぐに上党まで退きたいのだが、これは高順と丁原の最後の別れになるだろう。
それぐらいができる時間は稼いで見せよう、と思っていたが呂布隊は来なかった。少し時間が経ち、高順は天幕から出てきた。焦燥しきった顔をしている。
「高順殿、丁原殿は・・・。」
「逝かれた。今、旅立たれたよ・・・。」
「・・・そうですか・・・。」
うつむき加減で、高順は答えた。その場を沈黙が支配する。だが、ここでゆっくりしている暇などない。高順は直ぐに口を開いた。
「帰還する。天幕はそのままでも良い。行こう・・・。」
「承知。」
高順は丁原の亡骸を抱えて虹黒の背に跨る。彼はさきほど呂布に肩を打たれて負傷しており、それだけでも辛いはずだ。
趙雲、沙摩柯、楽進は何度も「自分達がやるから、無茶をするな」と言ったが、高順はどれだけ言われても丁原の亡骸を離そうとはしなかった。

呂布隊は、先ほどまで戦場だった場所に留まっていた。
追撃を仕掛けようと思えばいくらでもできたが呂布はそれを許可しない。
「戦死者の埋葬。それが終わってから。」と言い張って頑として動こうとしなかった。
陳宮にせよ、他の武将にしても、立場上追撃を進言せねばならないだけで戦死者を埋葬したいという彼女の言葉に無理に逆らうつもりもなかった。
2日ほどを費やして、上党、呂布軍の戦死者を弔い、負傷者も収容し終えた呂布は、静かに進軍の命令を出すのであった。

上党へ帰還した高順だったが、兵も住民も騒然としていた。
ようやく出陣の準備が整ったと思ったところで丁原、朱厳の戦死。そして付いて行った3000の兵士がほぼ全滅と言う話を高順から聞いたからだ。
朱厳の死をその目で見ていた訳ではないが、あの人の性格からしてあの状況での降伏はあり得まい。
高順は丁原から託された遺言を、誰に託すべきか迷った。なにせ、中核部隊である親衛隊も壊滅し、政治的に動ける人材が少ないのだ。ここで、上党の弱点が露出してしまった。丁原、朱厳に頼るところが大きかったために、音頭を取ろうと言う人間が出ないのだ。
人材の少なさがここでも裏目に出てしまったのである。
高順がすべてを主導する訳にもいかないので、太守代理として文官達を立てて、兵士達に伝達をするようにお願いした。
「これより進軍してくるであろう呂布軍に逆らわぬ事。彼女らは官軍である。篭城の用意も何もしないでいい。」という内容だ。何があろうとも服従しろ。丁原の遺言である。
そこまでは良かったが、問題はもう1つだけあった。丁原の亡骸をどするのか?ということだ。
高順は火葬を提案した。この時代は基本的に土葬で、当然この意見にほとんどの人々が反発した。
だが、高順は主張する。
「謀反者として扱われている可能性がある為に街中に埋葬するわけにもいかない。それに、普通に埋葬すれば遺体を掘り起こされ、首を切られ洛陽に送られてしまうだろう。間違いなく市で晒し者にされてしまう。」と。
丁原が何故謀反者として扱われたのか、その詳細を知らない人々からすればこれは納得がいかない話だ。
結局、高順が押し切る形で、火葬にすることにした。問題は弔う場所だが・・・。
丁原は花見や月見など外での宴も好んでいて、よく街の外に有る小高い丘で酒宴を開いていた。どうせなら、丁原様の好んだ場所に。あの丘のどこかに弔って差し上げたい。
この主張はあっさりと通り、直ぐに埋葬をしようと言うことになった。
いつ呂布達がやってくるかは定かではないが、もたつけば本当に首を落とされ晒し者にされるのだ。
2日後、急いだこともあって、略式ながら葬儀も終わり丁原の遺骨も埋葬された。
昼までは沢山の人が墓前にいたが、少しずつ人がいなくなり今は高順と、普段彼の周りにいる人々のみである。夕方になり、夜になっても高順は動こうとしない。
墓は全部で4つあった。丁原・朱厳・赦萌。そして、あの場所で散った兵達の墓。
その墓の前には「桃園」と書き込まれた徳利や沢山の花などが献じてあった。
既に夜。頭上には星空が広がっている。
「・・・隊長、そろそろ帰りましょう。夜風は身体に毒ですよ?」
楽進が遠慮がちに言う。高順はこの2日間あまり眠っていない。やる事が多かったからだが、精神的に眠れるほどの余裕がなかった。
高順は答えない。ただ、じっと墓前で立ち尽くしている。どうしたものか、と回りの者が悩んだその時。干禁が星が流れるのを見つけた。
「あ・・・今、星が落ちたの。」
「星・・・。」
趙雲が呟く。彼女の真名は「星(せい)」であるため流れ星、とかいう言葉はあまり好きではない。
「それは丁原殿の星ですかな・・・。」
「ふむ?なぜそう思うのだ?」
「人が死したときには、巨星堕つ、と申すでしょう?偶然ではあるとは思うのですが。」
趙雲らのやり取りを高順は黙って聞いていたが、小さな声で呟いた。
「・・・違うよ。」
「違う、ですか?隊長はどのようにお考えなのでしょう?」
「かっこ悪いから言いたくないけどさ。それに、これは俺の考えだから。」
「それでも構わないぞ?高順の考えを聞かせて欲しいな。」
沙摩柯の言葉に高順は「はぁ。」とため息をついた。
「人はさ。生まれるときにこそ地面に流れてくる。」
「生まれたとき?」
「ああ。巨星堕つ、だったら死んだ後でも堕ちちゃうじゃないか。それはあんまりじゃないか、ってそう思うんだ。だから、こう思うようにしている。人は死んだら、星になるためにあそこへ登っていくんだってね。」
高順は恥ずかしそうに言いつつも、空を見上げる。
空にあるのは、夜中ではあるが雲1つ無い空。満天の星空だ。
「そのほうがさ、よほど夢がある。そう思えないかな?」
高順の言葉に、李典が笑い出す。
「ぷっ。ほんまにかっこわるいなぁ。そんな夢見がちな事言うの高順兄さんくらいやと思うで?」
「ぬぅ・・・。」
「しかし、その考えはわからぬではありませぬな、ですが、高順殿がそういったお考えとは・・・ふふふ。」
「頭の中がお花畑なの。」
「うるさいよ!つうか干禁に言われるのは何故か腹が立つな!?」
「お、怒らないでください、隊長!?」
皆、冗談を言ってからかっているだけである。
そうやってひとしきり笑いあった後、高順は空を見上げて目を閉じる。彼のまぶたの裏には、丁原達が在りし日の思い出が鮮明に焼きついている。
丁原達が生き残った未来があったかもしれない。最終的にどこかに飲み込まれるにせよ、これから来るであろう群雄割拠の時代に、群雄の1人として名乗りを上げていたかもしれない。
だが、そんな「もしも」ですら・・・考える必要の無い事になってしまった。
自分の言ったとおり人が星になるために空に上がっていくとして。今頃、丁原は朱厳、赦萌。先に逝った人々と出会えたのだろうか?
高順は静かに目を開けて空を見る。
もしかしたら、彼の目には映っていたのかもしれない。丁原が朱厳達と肩を組んで、肩を並べて歩いていく姿が。



丁原達は己の志の欠片を今を生きる人々に受け渡して、あの空へと還って行く。



















~~~楽屋裏~~~
だからシリアスなんて書けないとあれほど言ったのに!あいつです。(挨拶
またしてもやりました、1日更新。こんなことやるから終わりが早くなるのだと子一時間。

皆様の感想をご拝見させていただきましたが、「朱厳が死ぬのは予想してたけど赦萌が死ぬのは予想GUY」という方が多かったようです。
本来、彼女はここで死ぬ運命ではありませんでした。ですが(テープレコーダー故障)というわけでここで退場になってしまったのです。
ちなみに陳宮はここから先ほぼ出番はありません。むしろこの出番以外何処に(ry

さて、皆様に質問です。

高順くんが一時的でも呂布のもとで戦うほうが・・・良いですよね?

→いいえ
 いいえ
 いいえ


あれ?(ぉぃ

それではまたお会いしましょう。(;ω;)ノシ












~~~すべてをぶち壊す番外編~~~
注意:今回に限り台詞形式です。駄目な人はお帰りはあちらです(何
つうかどこかで見たことがある?


忘れなさい(何




高順「もう、なんだよコレ!担当に文句言ってやる!」
電話中・・・
高順「あ、もしもし、馬超さん?ひどいじゃないですか、読みましたよ今月号の俺の漫画!(高順伝)」
馬超「え、酷いって・・・ストーリーが?」
高順「ぐへぇー。違いますよ、誤植ですよご・しょ・く!台詞の文字が間違ってるんですよ!」
馬超「えー、ほんとにかー。どこどこ、何ページめー?」
高順「ほら、高順が魏の夏侯惇に挑む前の会話で「あいつだけは・・・許さない。」って、最高にかっこいい台詞が・・・。」

「作者だけは・・・許さない。」

高順「ひどいっすよコレ!(シナリオが)」
馬超「あ、本当だ。やっちゃった♪」
高順「いや、やっちゃったじゃないですよもう!?主人公がいきなり作者に喧嘩売ってる感じになってるじゃないですかっ!」
馬超「あっはっは!」
高順「あっはっはぁー!?なんでそんなご機嫌なの?誤植はここだけじゃないっすよ!」
馬超「え、ほんと?どこどこ?」
高順「主人公が自分の暗い過去を語って「俺の憎しみは、消えないんだ!」って、決意を新たにする蝶☆渋いシーンで・・・。」

「俺は肉汁が、美味しいんだ!」

馬超「あ、ほんとだ。漢字間違ってる。やっちゃった♪」
高順「いやだからやっちゃったじゃないですよちょっとー!?」
馬超「あっはっはっはっは!何、肉汁って、油汁?あっはっは。」
高順「あっはっはじゃないですよ、何でそんな上機嫌なの?」
馬超「いやー、じつは先日彼氏ができちゃって。」
高順「え、ほんとですか?それは良かったですねってこっちは全然良くないですよ。まだ誤植あるんですよ!」
馬超「え~?どこどこ~?」
高順「いや、ついに現れた夏侯惇が「お前が高順か。」っていう蝶☆緊迫した画面で・・・。」

「お前は芳醇(パン)か。」

馬超「あっ、ホントだ。」
高順「お前は芳醇(パン)か、って何ですか。どんなボケをしたら誤字をした挙句括弧つきでパンとかかかれるような誤植になるんですかっ!?またやっちゃった♪とか言わないでくださいよ!?」
馬超「ひゅ~♪(口笛)・・・やっちゃったぜ☆」
高順「いややっちゃったぜじゃないですってば!何ちょっと小粋な言い方にしてるんですか!誤植はまだあるんです!」
馬超「えー、どこー?彼氏いない暦0年のあたしが一体どんな間違いを?」
高順「その次のシーンですよ。高順が「俺が高順だ!」蝶☆くーるなシーンが!」

「俺は皇潤(ヒアルロン酸)だ!」

高順「なんで主人公がいきなり健康食品宣言しちゃってるんですか!?しかもまた括弧つきだし・・・!」
馬超「あ、ほんとだ。間違ってる。」
高順「間違いすぎですよね!?」
馬超「はっはっは、やっちゃったぜ☆」
高順「ぐくっ・・・かっこよく言わないでください、気に入ったんですかそれ!?」
馬超「気に入ったんだぜ、とっちゃやだぜ☆」
高順「とるかそんなもん!それよりもっとあるんですよ誤植ー!」
馬超(うざそうに)えー、まだあるのー?どのへんなんだぜ?」
高順「ありますしってどのへんなんだぜ!?無理に言わなくてもいいです!最後ですよ最後!高順が「俺の新しい技を見せてやる」っていう、蝶☆土器土器のシーンですよ!」
馬超「どれどれ・・・?」

「俺の新しい足を見せてやる」

馬超「あ、ほんとだ。やっちゃったぜ☆」
高順「なんですか、新しい足て!」
馬超「ごめん、彼氏のことで頭が一杯でつい。」
高順「しかも、もっと酷い誤植が最後にあるんですよ!高順が三刃戟を構えて「うぉぉぉぉーっ!」って突っ込むところですよっ!」
馬超「え~~~~?そんなところ間違えないと思うんだけど・・・。」
高順「間違ってるんですよ!」

「ちゃんと台本読んでください。」

高順「なんすか台本って!もう意味わかんない!しかもこのコマについてるあおり文句、なんすかコレ!?「彼氏ができました~」何自慢してるんですか!」
馬超「やっちゃったぜ☆」
高順「やっちゃったじゃないでしょ、これあおり文句自分が自慢したいって、ただそれだけの事で言っちゃっただけでしょー!?」
馬超「言っちゃったぜ☆」
高順「あーもー何かもぉぉぉぉ・・・!やってられないんだぜ!」
馬超「ごめんねだぜ☆」

~~~数日後、電話中~~~
馬岱「もしもし、月刊あるかでぃあの馬岱です。お疲れ様♪」
高順「え、馬岱さん?」
馬岱「今日からあたしが担当になりました。よろしく♪」
高順「え、あの、馬超さんは・・・。」
馬岱「おねーさま・・・亡くなっちゃった。」
高順「うぞぉぉぉぉぉおおぉぉぉっ!!?な、何故に!?」
馬岱「実は、初めて出来た彼氏が他にも浮気してたようで・・・。」
高順「え、浮気!?それで自ら命を・・・。」
馬岱「ショック死だよ?」
高順「ショック死!?」
馬岱「なんか、ご主人s・・・じゃなくて、その彼氏さんが、他の女性と何股もかけてたみたいでー。」
高順「え、相手、そんな男の屑だったのか・・・ちなみに、何股かけてたんですか?」
馬岱「おねーさま含めて20股。」
高順「かけすぎじゃああああああああああああああああああああっ!!!?
















これがやりたかっただけ。最初は桃香にしましたがそこまで鞭打つような真似はかわいそうだ、と思い馬一族にでていただきました。
純情かつ愛すべきお馬鹿な娘なのでこういうときは動かしやすいですw
ここから、あのおかしなノリの番外打ち切りが続くのですな(笑



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第30話 北へ。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/22 09:09
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第30話 北へ。  



高順達は、丁原の墓前を離れていた。理由は1つ。これからの方針を決定するためである。
高順は呂布と切り結んだし、趙雲達は顔も見られている。少なくとも3人は漢の正規軍に挑んだ形になってしまっていた。
捕まれば斬首されるなり何なりされてしまうことが目に見えているし、高順は父母をも巻き込んでしまっている。
この件に3人娘は全く関係なく、高順は彼女らに暇を出そうとしたのだが本人達がそれを拒否。
「ならどうするんだ?」という事になり、一度高順宅で話し合おうということになった。
幸いと言っていいのか、呂布達は未だ上党に到着していない。その間に結論を出してしまおうという話だった。

「えー・・・何これ。家族会議?作戦会議っつーの?開催しまっせー。」
李典のあまりやる気のない声で始まった作戦会議。各人から色々な意見が出される。
楽進始め、3人娘が主張したのは「公孫賛に助けを求めたらどうか?」だった。確かに彼女は顔見知りであるし、事象を知れば匿ってもくれるだろう。
だが、高順達が漢に対しての反逆者と言うことになれば、態度も違ってくる。
いかに公孫賛とは言え、反逆者を匿うというのは立場上好ましくない状況だろう。彼女に迷惑をかけたくもない。
ならば南・・・例えば荊州を南に抜けて交州、或いは西に抜けて益州などに逃げてはどうか、という意見。悪くない案だとは思うが、子供である臧覇がそこまで長い旅路を耐えられるか?という問題が出てくる。
益州にしても劉焉が治めており、彼は漢王朝とは馴染みの深い人物である。
高順は駄目元で「曹操殿のところは?」と言ってみたが、これは自分も全くの乗り気ではないし、何より全員が嫌がった。
前回、黄巾の乱のときに曹操の陣に顔を出したがその時に、明確にではないが一部百合百合しい雰囲気を感じてしまったらしい。趙雲は曹操陣営を「排他的」とも評しており、あそこに行くのは嫌ですな・・・と明確な意思表示まで示した。
陶謙は名前すら出てこなかった。
そこで、閻行(高順の母)が「私の伝手を利用して馬騰のもとへ行くのはどうか?」という提案をしてくれた。
馬騰は幾度も漢王朝に逆らっては服従し、ということを繰り返しており、反逆者が逃げてきたところで気にも留めないだろう、ということだ。
この場合、呂布達をかわして、かつ洛陽方面を抜けなければならない。
河内(かだい)・洛陽・弘農(こうのう)、そして長安。皇帝お膝元というか、漢王朝の支配力のもっとも強い場所を無事抜けられるのか、という問題に突き当たる。
そうなると必然的に東・北・南、ということになってしまうのだが・・・。
「さて、どうするのだ、高順?」
沙摩柯の問いに、高順も迷う。
北は公孫賛・東は曹操や袁紹。南は袁術。・・・高順自身は曹操と公孫賛以外をあまり知らないのだが、袁術は孫家の手柄を奪ったり、袁紹は・・・なんか嫌な予感がする。正史を鑑みても、あの袁術の血縁と考えても忌避したくなる。
「・・・一度、公孫賛殿を頼ろう。俺達全員が手配されているかどうかも解らないからな。もし迷惑をかけるようであれば退去するさ。他に皆の意見はあるかな?」
高順は皆を見回してみるが、得にこれと言った意見は出てこない。
この案は「事情を知った場合、公孫賛がこちらに手を出してくるかどうか」が一番の問題である。(他の諸侯にも言えるが)
彼女の性格であれば、可能性は半々といったところだろうか。
「そうと決まれば膳は急げ、ですな。ぐずぐずしていればそれこそ手遅れになりましょう。」
趙雲は立ち上がり、部屋を出る。自身の荷を纏めるのだろう。他の者も彼女に続いて部屋を出る。残っているのは閻行と高順のみ。
その高順は俯いて母に詫びる。
「母上、俺は・・・。」
「何も言わずともよいのですよ、順。」
「しかし、父上と母上を巻き込んでしまいました。俺は親不孝者ですよ・・・。」
「・・・ふふ、私も若い頃は馬騰、韓遂と組んで漢に対して挑んだものです。私の中にある「叛」の血が貴方にも受け継がれていた、ということでしょうか。」
たとえ一時期の怒りであっても、この息子は官軍・・・漢に対して挑む事を選択したのだ。若い時期の自分も同じように色々な人に迷惑をかけたのだ。夫はともかくも、自分が文句を言う筋合いは無い。
「さあ、我々も準備しますよ、順。・・・その前に、夫を引きずってこなければ。」
閻行は部屋と言うか家を出た。言うとおりに、夫を探しに行ったのだろう。
高順も、準備・・・と言っても、武器と虹黒くらいしかない。金銭の管理は李典に預けているし、臧覇は沙摩柯が何とかするだろう。
後は荷の上げ下げとかそんな程度だ。虹黒に鞍を乗せつつ、高順は「自分が一番回りに迷惑をかけているのに、一番働きが無いよな・・・。」と自嘲する。
呂布が丁原を討った事は、もうどうしようもない。本位だったか、そうでないか、それも解らない。高順は「恐らく、黒幕は十常侍だろう。」と見当をつけている。
酒宴のときに見た呂布の素顔を知っている高順としても辛いが、すべて真相が明らかになってからだ。今はまだ仇の1人、と認識すればいいだろう。
1時間ほどして、閻行は本人の言ったとおりに夫(高順の父)を引っ張ってきた。何故か気絶していたが・・・聞き分けの無いことでも言って、実力行使でもされたのだろうか?
また、父親以外にも引っ張ってきた人物がいる。閻柔と田豫である。曰く「親方からの命令っす、どこまでもついていくっすよ!」とのことだったが、これまた大量の資金を持参していた。
「一体どれだけ稼いでたんだろう・・・?」と思うがそれは後回しにして。
家財道具などは諦め、身の回りの物を最低限馬車に詰め込んで、高順達は上党城門を抜けて北へ落ち延びようとする。
だが、少し遅かったらしく城門を抜けようとしたところで呂布軍の・・・恐らくは先遣隊だろう、1500程度の軍勢がこちらに向かってくるのが見て取れた。速度のあまり出ない馬車があるので追いつかれる可能性が高い。
高順はそのまま馬車を護衛する形にして、全員に全速力で離脱するように伝え、自身は少しだけ遅れて殿(しんがり)を勤める事にした。
これに対して趙雲や楽進が「また命を粗末にするつもりか!?」と怒ったが、高順は「そんなつもりはない。丁原様の仇も討てないまま死ねるものか。皆は馬車を護衛するために行ってください。」とだけ言って馬速を緩めた。
両者共に渋々高順の言葉に従い、進んでいく。高順は後方を警戒しつつ、虹黒を北へと進ませる。
そして、高順達の様子は先遣隊として遣わされた2人の武将にも遠目ではあるが見えていた。

~~~先遣隊・先頭~~~
まだ、どこか幼さを残した感じの青年が先頭を進む男に話しかける。話しかけた男も話しかけられた男も高順よりは年上に見える。
「なあ、兄貴。あそこにいる奴ら、北へ脱出するつもりじゃねーか?」
「そうだろうな。」
「じゃあ、攻撃していいんじゃねーの?あいつら逃亡兵だろ?」
青年の言葉に、男・・・この先遣隊を預かる武将はため息をついた。
「そうだろうが、呂布殿は抵抗する者以外は見逃せ、と仰せだったろう?」
「そりゃあそうだけどさぁ。あいつらがどっかに助けを求めるとかそういうの考えたほうがいいんじゃねーか?」
「さてな。助けを引き出せたとしても彼らは漢に対して弓を引くことになる。そんな度胸のある諸侯がいるとは・・・ん、あの男・・・?」
「どしたよ、兄貴?」
兄貴と呼ばれた男は目を細めて集団の後方へ移動した騎馬兵をじっと注視する。そして、小さな声で「呂布殿のお考えどおりか・・・」と呟いた。
「おーい、兄貴ー。どしたー?」
「・・・ふむ。役目を果たせそうだな。30騎ほど連れて行くぞ、繍。」
「へ?ってことは、あいつ、高順?」
「そのようだ。では行ってくるぞ。」
「ちょ、兄貴!たまには俺に行かせてくれよー!?」
「お前が行ったらいきなり戦闘を仕掛けるだろうが?」
「あったりまえだ!あの呂布殿と僅かでも渡り合えるような男なんだろ?手合わせしたくなるのが人情ってもんだぜ!?」
「だから余計に任せられんと言うのだ。大人しくしていろ。」
苦笑して、男は高順を目指して30騎を率いて駆けていく。

~~~高順視点~~~
騎兵の一団がこちらに向かってくる。数は2~30といったところか。
流石にあの数を相手に生き残れる自信は無いな、と半ば覚悟しつつ高順は倚天の大剣を構える。三刃戟は呂布と戦ったときに戦場に置き去りにしてしまったので倚天の大剣と青釭の剣が今の武器である。
だが、先頭を進んでくる男は「待たれよ、こちらに戦闘の意思は無い!武器を収められよ!」と叫ぶ。
「戦闘の意思が無い。その割りに何十騎も連れて来ているな。警戒をするに越したことは無いな・・・。」
程なくして、集団は高順に追いついてきた。その時には高順も反転して彼らと相対している。
集団の先頭にいる男が一歩だけ進み出て「高順殿とお見受けするが?」と言ってくる。向こうに敵対意思は無いと言っているが、実際はどうかわかったものではない。
ちょっと勝てる見込みは無いが、ここで暴れて敵を釘付けにしておけば皆を逃がせる確率も少しは高まるだろう。
「その通りだ、と言ったら?」
「やはりそうか。呂布殿と渡り合おうとした男を見間違えるはずも無いがな・・・。おい。」
男は部下に何事かを命じた。すると、後方から何人かの兵が武器を携えて進み出てくる。彼らの携える武器に高順は見覚えがあった。
「これは・・・。」
三刃戟。朱厳・郝萌の剣。そして丁原の長刀。あの戦いで逝った人々の、そして高順の武器だった。
「呂布殿にこれを届けるように、と言われたのだ。間に合わぬかもしれぬ、とは思っていたのだがな。」
「呂布が?何故・・・。」
「さて、な。あのお人は「彼らが逃げても見逃せ。」とも仰せだった。何をお考えかは解らないが。ともかくも、これは貴公の武器だろう?受け取られよ。」
言われたとおりに、高順は戟を受け取る。この戟は兵士が2人がかりで持っていたが、高順は片手で持ち上げて肩に担いだ。
剣と長刀はどうしたものかと迷ったが・・・考えてみれば丁原達の形見になる。剣はボロボロになってしまっているが、これらも受け取って武器を固定するための腰紐に差し込んだ。
「本来なら、貴公は反逆者の一味として討伐されるはずだろうが・・・呂布殿も張遼殿もそれを望んでおられぬようだ。丁原殿が反逆者かどうかも実際はわからぬしな。」
「いきなり何を・・・。」
「まあ、聞け。今回の件は十常侍からの命令だ。大将軍何進の命令ではない。」
「何?」
「何故に十常侍から直接命令が来たのかは解らぬ。丁原殿を逆臣として扱うという詔勅も来たが、偽ではないかと疑う声も多い。」
「偽詔勅・・・。」
「かも知れぬ、という程度だな。さて、そろそろ行かれたほうが宜しい。本来ならば手合わせの1つでもして頂きたい所だが、向こうの女性がこちらを延々と睨んでいるのでな。」
向こうの女性?と高順が振り返ると、楽進が両手に気弾を作り出して高順というか、高順の話している男を睨んでいる。何かあったら気弾を叩きつけるつもりなのだろう。
「あー・・・。」
「では、俺はこれで失礼するとしよう。また出会える事を期待している。」
そう言って、男は部隊を率いてさっと退いてしまった。
彼らが去った後、楽進が近づいて来る。
「隊長~~~・・・?」
「・・・はぇっ!?何、なんでそんな睨んでるの!?」
名前聞き忘れたな、とか呂布は一体何を考えているのだろう、と考えていた高順はいきなり話しかけられて身体をビクリと震わせた。
「とりあえず、一発殴って良いですか?良いですよね?というか殴る!」
「ちょ、あれ!?なんで?どうして殴られないといけないの!?」
「死ぬつもりは無いといっておきながら、いつまで経っても追いかけてこないわ、敵と話し込むわ・・・ぬぐぐぐぐ・・・。」
楽進は、胃の辺りを押さえつつ、握り拳を振り上げる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!許してー!?」
なんかもう、すっげぇ情けないくらいに許しを請う高順だったが、楽進は脱力したように俯いて腕を下げた。
「はぁ・・・お願いですから、こんなことは2度としないでください。何度無茶をすれば気が済むのですか・・・?周りがどれだけ心配しているかも知らないで・・・。」
「へ?あの、楽進さん?」
狼狽する高順だが、楽進は肩を震わせて泣いていた。
「どれだけ皆を心配させれば気が済むのですか。どれだけこちらの寿命を削れば・・・・・・。」
後は声にならず、鼻をすすって嗚咽を上げるばかり。その姿を見て、高順は「ああ、またやってしまった・・・。」と激しく後悔した。
趙雲にせよ、楽進にせよ、高順の無茶っぷりで相当神経を削っているらしい。彼女らに限らず、皆が高順を心配しているのだが。
高順は楽進を促して北へと向かう。
何とか泣き止んでもらえまいか、と何度も謝罪する高順であったが楽進はなかなか涙を抑えることができず、先行していた皆に追いついたときに「女泣かせですか?」と散々にからかわれる事になった。
からかうものの、皆内心では安堵したようだった。更に「これに懲りたら二度と独断専行をしないように!」と李典や干禁にまで何度も釘を刺される羽目になった。
それだけ皆に心配をかけてしまっていた、という事なのだろう。高順も「自重しないとな・・・」と反省しながらも、北を目指すのだった。


~~~呂布軍・先遣隊~~~
既に彼らは上党城門を抜けて政庁にまで達しようとしていた。上党側も逆らうつもりはないようで、迎えの使者が先遣隊の先頭に立っている。その後ろを、先ほど30騎を連れて行った男が急いで追いかけていく。
「繍!」
繍、と呼ばれた男は軍勢の真ん中あたりにいたが、声に振り返る。
「んあ?おお、兄貴。早かっt「この馬鹿者が!」うへえっ!?」
「誰が先に行けと言った!危急のときであればともかく、勝手に軍を動かすなといつも言っているだろう!」
「で、でもよ・・・。」
「でも、ではない!・・・今回は上党側が素直に屈してくれたから良いものの・・・。彼らに異心あればどうするつもりなのだ!?先遣隊なのだから、というお前の気持ちは解らぬではない。しかし、軍を任されたのは俺だ。お前の一存で勝手に動かすな、良いな?」
「わ、わかったよ、兄貴。すまなかった・・・。」
「まったく・・・。」
説教も一段落したところで、兵士が話しかけてきた。
「張済様、そこまで仰らずとも。お止めできなかった我々にも非があるのですから。」
兵士の言葉に、張済と呼ばれた男は「やれやれ」と首を左右に振った。
「お前なぁ・・・助け舟出すならもっと早くしてくれよ!?」
「兵に当たるでない、繍。まったく、どうしてお前はいつもこう、アレなのだ・・・。」
「ひでぇ!アレとか言われた!?」
「張繍様も抑えて・・・。」
何だか緊張感が全く無いが、先遣隊は滞りなく上党制圧を為した。
張済、そして張繍。
高順はこの兄弟と再会をするのか。それとも敵として戦場で相対するだろうか。


高順達は北を目指して進んでいく。
彼らは生き残る事ができるのだろうか。公孫賛の元へたどり着けるのだろうか?それとも・・・。







~~~楽屋裏~~~
なんとかしてみました、あいつです。
皆様、こんな作品をきっちりと読んでくれているのですねえ。重箱の隅をつついたような感想が来ると言い訳を考えるために作者も慌てます。そして自滅します(汗

呂布は高順を見逃しました。破棄された30話と同じような流れで丁原たちの形見も託しました。
私はどうも呂布を喋らせ気味の傾向にあるようです。原作イメージを壊されたくない方々の事も考えて・・・これから先彼女の出番はないかも知れません。私自身の力不足で上手く表現が出来そうに無いのです。
知らぬうちに死んでたとかそういう扱いにされるかも・・・。
高順、弱すぎね?という意見もチラホラといただきます。しかし、チート女性武将と比べられるのは・・・女性チートの世界に男として生まれた彼の不運ですなあ。女性だったら遠慮なしにチートにするのですけど。
さて、今回は今迄で一番の難産シナリオでした。上手く説得力ある状況を作り出せなかったためにシナリオを修正した為ですね。
中々上手く考えられず、ここで「以降、彼らの姿を見たものは誰もいない。」とかにして終わらせてやろうとも思いましたが、まだ始まったばかりですしね、お話的に。打ち切るにしてももう少し進めてからの方が良いだろう、と。
もう疲れたよパトラッシュ。

はてさて、彼らは公孫賛の元へ無事たどり着けるでしょうか。たどり着けたとしてその後、どう動くのでしょうか。
力及ばずな状況に陥ったら・・・本当どうしよう・・・。







次回作:「三国時代、最もけしからん名を持つ男。その名は謝旌。」お楽しみに。



嘘ですけど。それではまた。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第31話 晋陽の乱。(抜けてたところ修整
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/11/29 09:00
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第31話 晋陽の乱。


高順達が上党を北に抜けて数日。彼らは今晋陽領内の街道を通っている。高順にとっては、この地は嫌な思い出ばかりのある土地だ。
ここを通れば、丁原や朱厳の事を思い出してしまうので更に忌避したくなっているのかもしれない。
晋陽での事の顛末を知らない趙雲にとってはそうではないが、彼女も丁原のことを思い出したのか苦い表情を見せている。出来るだけ早く抜けてしまいたい。あと数日もすれば晋陽を抜けて薊(けい)に入るだろう。
と、ここで高順に限らず、全員が少し気にしたことがある。
人がほとんどいないのだ。前回通ったときはそんな事など気にもしていなかったが、道中で見かける村々に人の姿が見えないのだ。
単純に家の中にいるのか?とか、黄巾の乱の余波か?とも思ったが、本当に人に出会うことが無かった。農村だろうが街道だろうが、あまりに人が少なすぎる。一体何があったのだろうか?
なんとなく不気味さもあったが、暗くなってきた事もあって数人ほどが少し怯えてしまっている。
「うー・・・なぁんか気味悪いの・・・。」
「そ、そうっすね。こうも人が少ないと、何かこう・・・。」
怯える干禁達の後ろで、趙雲が手を「ぱんっ!」と叩き合わせた。
「ぎゃーーーーー!?」
「のぉおおおおおおっ!?」
びびりまくって思い切り馬を駆けさせる干禁と、それに釣られて一緒に進んで行ってしまう閻柔。あっという間に2人の姿は遠くへと消えてしまった。
全員、それを呆然と見ていたが楽進が趙雲を非難する。
「・・・趙雲殿。人が悪すぎです・・・!」
「はっはっは。それがしは虫がいたので潰そうとしただけですぞ?」
「またそういう減らず口を・・・。」
「・・・やれやれ。」
まったく、と言いたげに高順は首を振った。
ところで、高順の父母は基本的に馬車の中で臧覇と共にいる。今は閻行が御者をしている。
臧覇は2人にも良く懐いていて、まるで本当の両親のように思っていたようだ。2人も子供と言うか、むしろ孫のように思っているらしく凄まじい甘やかしっぷりを見せていた。
旅の最中、たまーに「早く孫が欲しいですね、あなた。」と高順に聞こえるように言って来て、彼にしてみれば「頭痛の種が増えた」認識だった。仲が良いのは良い事だと思うのだが。
「高順。あの2人、追いかけたほうが良いだろう?」
「そうですね。じゃあ沙摩柯さんもついてきてください。楽進達はこのままの速度で。」
「承知。」
「はい。」
「ほいなっ。」
皆の返事に高順は頷く。
「では、行きましょう。」
言って、高順は虹黒を駆けさせる。さて、その頃干禁達は、と言うと・・・。

「ひえええっ、助けてなのーーーー!」
「うえええええっ・・・自分達なんて殺しても一銭の徳にもならないっすよーーーー!?」
小さな森の中で、50人ほどの粗末な武装で身を固めたどこぞの兵士に囲まれていた。
「おい、貴様らっ!官軍か!?」
街道を走っていた干禁と閻柔だったが、途中で捕まってしまって森の中に連行されてしまったのである。今は馬から引き摺り下ろされて、槍を手にした兵士達に囲まれている。
「違うの!官軍じゃないの!」
「本当っす!信じてくださいっすよーーーー!」
泣き喚きつつ、否定する。そりゃ、泣きたくもなるだろう。自分たちは官軍に追われていて、こんな床で油を売っている場合ではないのだ。
大体、趙雲がおかしな悪戯をするからこんな目に合わなければならない。2人とも座り込み、抱き合って目の幅涙を流しつつ趙雲を呪った。
「ぐすっ、趙雲さんのばかああああああっ!!」
思わず叫んでしまう干禁だったが、趙雲、という言葉に何人かの兵士が反応した。
「ちょううん・・・?」
「どこかで聞いたぞ・・・いや、待て。」
兵士が1人、干禁たちの前で屈み込む。
「おい、お前ら。ちょううん、というのは・・・えーと、こういう字で書くのか?」
言いながら、その男は剣の先端で地面に「趙雲」と書き込んだ。
「そ、そうっす・・・。」
「では、外見は・・・純白で、胸元がけしからんくらいに広く開いた服。青みがかった頭髪、ではないだろうな?」
この言葉に、干禁と閻柔は顔を見合わせた。外見を言い当てるわ、趙雲、という名前を書くわ。
張、ではなく趙。この字を使用しているのは趙雲くらいなものである。何故それを知っているのか。昔の知り合いなのだろうか?
「なんで、趙雲さんの事知ってるの・・・?」
「何だと・・・本当に趙雲殿か。では、お前達は趙雲殿の仲間なのか?」
「その通りっす。おいちゃんたち、趙雲さんの事知ってるんすか?」
この言葉に、何人かの兵士がどうしたものか、と悩み始めた。それ以外の兵士は何の話かは解っていない。
「うぅむ、まさか趙雲殿のお仲間とは。」
と、そこへ。
「おーい!李典!閻柔さーん!どこ行ったーーーー!?」
「早く出て来いーーー!出てこないと飯抜くぞーーー!」
高順と沙摩柯の声が聞こえてくる。2人の姿を見失っているので、呼びかけながら進んできているらしい。
「あ、高順さん!」
「・・・こうじゅん?こうじゅんだと?」
「へ?」
先ほどの男の表情がまたしても変わる。
「おい、あんたら。高順って、上党の高順殿のことか?」
「確かに、高順さんhむぐぐ・・・。」
「わー!言っちゃ駄目っすよー!」
言おうとした干禁の口を閻柔が慌てて塞ぐ。
上党を出て数日だが、もしかしたら高順一行は反逆者、或いはお尋ね者として各都市に通達が行っているかもしれないのだ。
そのような布告が為されたかどうかは解らないし、もしそうだったとして数日でどこまで広がるかは解らないが、迂闊に喋るべきではないと思ったのである。もしこの兵士たちが官軍だったら・・・。
だが、案に相違して男達は槍を下げた。
「これは失礼をした。高順殿、趙雲殿のお仲間であったとは。非礼をお許しください。」と、頭まで下げた。
「え?」
そこで、兵士達は2人を連れて森の外まで出て行った。高順を迎えるためである。
兵士達と共にいる2人を高順はジト目で見た。
「2人とも、何やってたの?男かどわかしごっこ?」
「そんなごっこ遊びなんてしないっすよ!」
抗議する閻柔を尻目に、高順と沙摩柯は何十人といる兵士に目を向ける。
「で、あなた方は一体?官軍には見えませんが。黄巾残党?」
高順の質問に先ほど干禁達を尋問(?)していた兵士は「違います。」と否定した。
「我々は黒山の者です。以前、上党の丁原様にお世話になりました。」
「丁原様・・・じゃあ、張牛角のときの?」
「はい、その通りです。高順殿は我々を覚えておいでではないでしょうが、肥料を分けて頂いたことを今でも覚えております。」
この言葉に、高順はその時のことを思い出した。
肥料を分けてあげたいと丁原に嘆願した事。趙雲達との出会い。何千もの兵同士が戦ったこと。郝萌や朱厳。
そして、晋陽太守のせいで黒山という場所へ追いやられていった褚燕と、その村民の事・・・。良い思い出よりも悪い思い出のほうが大きい。丁原達ももういないのだ。
「そうでしたか。と言うことは、あなた方は黒山の・・・。褚燕様はお元気ですか?」
「それは・・・元気と言えば元気なのですが。」
何となく歯切れが悪い。褚燕が元気なのは間違いないだろうが、どうして言葉を濁すのだろう。
「高順殿。悪い事は言いませぬ。ここを早く抜けてください。」
「晋陽を、ですか?」
「はい。詳しくは言えませんが・・・。」
そこまで言った瞬間に、後方から剣戟の音が鳴り響く。
「!?」
「何だ!?」
全員が後方(高順たちが通ってきた道)へ走っていく。高順達の後ろ、と言えば趙雲達が今通っているはずだ。
先ほどまで人の姿などまばらだったと言うのに。まさか盗賊の類か?賊程度であれば、趙雲や楽進、それに閻行とているのだ。心配は要らないだろう。
だが、官軍であれば自分達の首目当てで襲いかかって来る事もあるだろう。・・・いや、やはり趙雲達がいるから心配は要らない気がする。
高順たちが急行すると、直ぐに趙雲達がどこかの兵士と応戦しているのが見えた。そして、高順は趙雲たちに襲い掛かっている70人ほどの兵士を観察する。
「あいつら・・・あの鎧には見覚えがあるぞ。」
「高順、あれは晋陽の兵か!?」
「間違いない・・・晋陽兵だ!くそっ!」
一体何処に潜んでいたのか。いや、それよりも・・・よくよく考えたら馬車の中には臧覇がいる。
「くっ、・・・急ぐぞ、3人とも!」
「はいなのっ!」
「了解っす!」
「応!」

~~~趙雲側~~~
「はぁっ!」
楽進の蹴りが晋陽兵の首に炸裂する。その兵士は首をおかしな方向に向けて吹き飛んで行った。
「ちっ、こいつら・・・どこから出てきた!」
楽進は自分と李典の後ろに田豫を下がらせて戦っている。田豫自身はそれほど強い訳ではない。
「そも、どこの兵士やねんこいつらっ!晋陽兵かいっ!」
李典は螺旋槍を思い切り叩きつけて跳ね飛ばしていく。趙雲も、高順と同じく晋陽兵であることを見抜いている。
「その通りだ!どこから尾けていたかは知らんが・・・しっ!」
趙雲も槍を一閃させ、晋陽兵を数人纏めて弾いて行く。田豫も慣れないながら矢を射掛けての牽制。こちらの戦闘要員は僅かで晋陽兵は数十もいる。手数は少しでも多いほうがいい。
そうなると、一番危ないのは馬車なのだが・・・。
「そぉい。」
「あべしっ!?」
「・・・。」
なんだか、母上殿(閻行)が晋陽兵の頭を卵みたく握り潰していた。兜かぶってるのに握り潰すってどういう握力をしているのだろうか・・・?
閻行は頭を潰された哀れな兵士の剣を奪い、一呼吸で馬車を囲んでいた20人ほどの兵士の首筋を正確に切り裂いていた。
兵士達はある程度の間隔を空けていたが、その間隔を一瞬で縫うように駆け抜けて(徒歩)、正確に首のみを狙って斬りつけて絶命せしめたのだ。
目にも留まらぬ早業、という言葉は聞くが彼女の場合、「目にも映らぬ」である。それを見ていた趙雲・楽進達も、その一瞬で何が起こったのか全く見えなかった。
そして思うのだ。「私達、何もしなくて良いよね?」と。
「さあ、どうしました?こちらは僅か数人。数十名もいる官軍様ならば楽に討ち取れるでしょう?」
閻行はにっこりと笑いながら言うが、晋陽兵にすれば悪魔の笑みである。
全員後ずさりしていたが、そのうちの1人が悲鳴を上げて逃げ出していく。それに釣られて1人、また1人と逃げていき、後に残されたのは傷1つない趙雲達と30以上の晋陽兵の亡骸であった。
結局、高順達がたどり着くまでに彼女達は自分達に振りかかった火の粉をあっさりと払いのけたのであった。
「おやまあ・・・。官軍も随分と質が堕ちましたね。・・・ああ、彼らは中央の兵ではありませんでしたか。」
剣を投げ捨てた閻行がぼやく。20年程前、彼女は西涼で中央から派遣された討伐軍相手に暴れまわっていたのだ。彼女の中にある叛の血が騒いだのかもしれない。
そこへ、ようやく高順達がたどりついた。高順や干禁は、現場の状況を見回す。
「うぉ・・・死屍累々・・・。」
「順、遅いですよ。」
閻行が文句を言う。だが、高順が遅いのではなくて、彼女達が早く片をつけただけに過ぎない。
「しかし、何故晋陽兵が我らを・・・?」
趙雲が顎に手を当てて考え込む。
「既に我々が逆賊扱いをされたか・・・・・・。はてさて。」
「うーん、しかしな。途中で官軍に追い抜かれるようなこともなかったと思うが・・・早馬なんて見もしなかったし。」
「そうやなー。そんなもん見ぃへんかったしなぁ。」
「隊長、議論よりも早く北平へ向かうべきでは・・・?」
楽進の言葉に、高順も「それもそうか。」と頷く。ただ、時間としては既に遅いほうでそろそろ野営の準備に入りたい。さっきの森辺りが良いのではないだろうか。
素早く考えを纏めて高順は行動を開始しようとするが、そこに先ほど高順たちと話をしていた所属不明の兵士が追いついてきた。
「ひぃ、はぁ・・・や、やっと追いつけました・・・。」
「・・・あ。」
完全に彼らのことを忘れていた高順であった。

最初、皆は彼らのことを疑っていたが高順は事情を説明した。趙雲は納得したようだが、他の皆は多少の不信感を持っているらしい。楽進にせよ閻行にしても「そう容易く信じるのはどうか。」と苦言を言う。高順は色々と質問をしようとしたが、彼らは晋陽兵の亡骸を見て「不味いことになってしまった」とか言い始めた。
「何が不味いんだ?」
「・・・解りました、事情を全て説明いたします。「黒山」へお越しください。このままこの辺りで野営をするには危険すぎます。」
この言葉に全員が顔を見合わせる。信じていいものかどうか。しかし、晋陽側から仕掛けられたとはいえ、彼らも一応は官軍である。
全て討ち果たしたのならばまだしも、逃亡されてしまったのだ。すぐに自分達の(高順を始めとした4人は見られていないが)人相書きやら何やらが出回るだろう。
どうも、選択肢はないようだ。
「・・・はぁ。解りました。では案内をお願いします。」
「隊長、彼らを信じるのですか!?」
「もし害意があったらもう襲い掛かってくるはずだよ。つうか干禁達は襲われたけど、官軍かどうかを確認したかっただけみたいだしね。それに、情報は必要だぞ?何でこんなに人が少ない、とか。」
「うっ。それはそうなのですが・・・。」
「どちらにせよ、晋陽は俺達を手配してくるはずさ。やばくなれば逃げる。皆もそれで良いかな?」
趙雲や沙摩柯はあっさりと頷く。他の者・・・特に楽進はなおも不満そうだったが、確かにこのままでは面白くない状況に陥るだろう。遅かれ早かれ、ということだ。
結局は楽進も折れて不承不承に頷いた。高順は振り返って、先ほどの兵士に話しかける。
「じゃ、案内をお願いしますね。」
「ははっ!」

それから数時間。高順達は50人ほどの兵士に囲まれて進んでいく。質問をしようと考えたがやはり辞めておいた。褚燕に全て聞けば良いのだろう。向こうに会う気があれば、だが。
そして更に進む事暫く。山、というよりも谷、といったほうがしっくり来るような場所に出た。谷の上まで見ることは出来ないが、随分と瘦せた土地である事はすぐに見て取れた。
平地にも家・・・バラック小屋と言える様な粗末な小屋があちこちに点在している。よく見ると農地や水場が相当大きな規模で作ってある。松明を何十と炊いてあって、夜中でも明るい。
人の数も多いが、何故か皆が一様に粗末とはいえ武装をしている。沙摩柯や趙雲達も「これは・・・。」と息を呑んでいる。それほどに人が多い。
高順は先ほどの兵士に話しかけた。
「これって・・・ここが、黒山ですか?」
「はい。・・・おい、皆。」
この言葉に、先ほどまで付いてきた兵士が所々に散っていく。
「?」
「ああ、申し訳ございません。彼らも任務でしたので。・・・さて、参りましょう。このような時間ですが褚燕様もお会いしてくださるでしょう。」
「任務・・・。そうですか、解りました。」
高順達は兵士の先導に従って進んでいく。
「あの、隊長・・・。」
「ん、どうかしたか?楽進?」
「その、先ほどから疑問だったのですが。褚燕というお方はどんなお人なのですか?」
「褚燕様?・・・前に、丁原様が賊の張牛角という男とやりあってね。晋陽側からの要請で彼らを反逆者とみなして討伐に向かったんだが・・・色々あったんだよ。で、その牛角の同族に当たる人。」
「え?では、褚燕という人も我々と同じように・・・。」
「ちょっと違うかな・・・。褚燕様の場合は濡れ衣だよ。でも、こんなところに追いやられてしまってね・・・。」
高順は憂鬱そうな表情でため息をつく。そんなやり取りだったが、傍で趙雲は憤然としていた。
褚燕がそんな状況に追いやられていた事を知らなかったし、高順は話そうとしなかった。彼なりに気を使って話さなかった、というのだろうが・・・だから、彼は晋陽を早く離れたがったのか。
そうならそうと早く言ってくれれば良いものを。どうしてこうなってしまったか問いただしても高順は話そうとはしないだろう。自分を仲間と思ってくれているなら、もう少し心を開いてくれぬかな、と心中で愚痴ってしまう。
ちょっと進むと、奥に少しだけ作りが豪華な家屋が見えた。あそこが褚燕の居館だろう。見張りの兵士が数人いる。
「暫くお待ちを。」と断って、兵士は見張りの元へと駆け寄った。僅かに話し見張りが家の中へ入っていくも、1分も経たぬうちに戻ってきた。
その見張りの言葉を聞いて、兵士が戻ってくる。
「褚燕様がお会いになられるそうです。皆様、お入りください。」
それだけ言って、兵士は拱手して去っていった。
「・・・皆、入れって。臧覇ちゃんはどうするんだよ。」
ちょこっとだけ作戦会議をして、高順の父親に見張り兼、臧覇のお守りとして残ってもらう事にした。
2人を除き皆が馬から降り、見張りが家屋の扉を開く。その奥には前に出会ったときよりも背が伸びて、女らしくなった褚燕の姿があった。

「高順様、趙雲様・・・。ようこそ、おいでくださいました。それと、他の方々は初めましてですね?私の名は褚燕。この「黒山」の・・・統率者、とでも言うべきでしょうか。」
長い黒髪をそのまま後ろに流した少女が深々とお辞儀をした。それに釣られて高順達も頭を下げる。
「さあ、どうぞお座りください。と言っても、椅子は3つしかありませんけれど・・・。」
机の向こうに褚燕が座り、その正面に高順と趙雲が座る。他の者は2人の後ろに立つ。さて、と褚燕が前置きをして、
「お久しぶりですね、褚燕様。随分と背が伸びましたね。」
高順の言葉に褚燕は柔らかく微笑んで見せた。
「そうでしょうか?それと、様付けはやめてください、と申しましたよ?」
「これは失礼を。あ、皆を紹介しておきますよ。順番に、楽進・干禁・李典・・・。」
高順の説明を、褚燕は興味深そうに聞いている。高順の母がいることに対して、彼女は随分驚いていたようだ。
「では、褚燕様。質問があるのですがお答えいただけますか?」
「お答えしましょう。お答えできる範囲であれば、ですが。」
「では、遠慮なく。まず1つ目。さきほど気がつきましたが、晋陽・・・随分人が少なくなったような気がします。旅の最中、ほとんど人に会いませんでした。そして2つ目。先ほど、案内をしてくれた兵士が「任務」とかいう言葉を使っていましたね。あれは一体?」
「答えましょう。1つ目について。実際に少なくなりました。晋陽太守・・・覚えていらっしゃいますか?」
「・・・ええ、未だに私腹肥やしに夢中なのですか?」
「正解です。丁原様にお助け頂いた時より更に税が重くなり・・・多くの農民が離農しました。2つ目です。彼らは偵察任務をしていたのです。」
「偵察?何を偵察していたのですか。」
「晋陽兵の動向です。」
「動向、ね。・・・では3つ目。」
2人のやり取りは続くが、そこで李典が口を挟む。
「なぁ、なんで動向を探る必要があるんな?その辺、詳しい説明が欲しいんやけど・・・そのせいで、うちらの友人が疑われて危険な目にあったんやで?」
この言葉に、褚燕は少々驚いたようだ。
「部下が失礼をしたのですか?・・・それは申し訳ありません。動向を探る理由・・・これは後でお話いたします。今はそれで宜しいですか?」
「ま、まぁ、ええけどな。きちっと説明してや?」
「はい。それで、3つ目の質問とは・・・?」
「何故ここにはこんなに人が多いのです?褚燕様の村に住んでいたのは1000程度だったでしょう?ぱっと見ですが・・・1万と言う数じゃきかないですよ、この数。」
「先ほどの質問に繋がりますね。離農した人々が、少しずつ集まってこのような形になっていったのです。」
「では、途中の村々で人影をほとんど見なかったのは・・・。」
「ええ。大半がこの「黒山」へ逃げ込んだのでしょう。それと1つ訂正・・・全部合わせれば1万ではなく、10万です。」
「!?」
褚燕の言葉に皆が息を呑む。10万・・・黄巾賊に比べれば少ないが、それでも凄まじい数だ。それだけ晋陽太守の課した重税が重く圧し掛かったということだろう。
「ここだけならば2~3万でしょうね。拠点はここだけではありません。晋陽各地に大小の拠点が散らばっています。それら全てを合わせて・・・という数です。」
「しかし、そんな数を集めて・・・いや、集まったというべきですか。どうなさるおつもりなのですかな?」
趙雲の問いに、褚燕は少しだけ俯いてぽつぽつと話す。
「4月ほど前の事です。我々の拠点・・・集落ですが、その1つが晋陽軍の襲撃を受けて壊滅させられました。あそこは戦う力の無い人々・・・女子供、老人が多い場所だったのです。それが、あんな・・・。」
思い出したくも無い、と言いたげな表情で褚燕は話す。
「当然、守備兵もいましたが全滅です。・・・ただ、静かに暮らしていたいだけだった。税を払う事すらできない程追い詰められた人々を受け入れて、最低限生きていけるようにしたいだけだった。それなのに・・・!」
褚燕の悲痛な言葉に、全員が沈黙する。少しだけ涙声になりつつも褚燕は続ける。
「・・・我々は住んでいた土地を追いやられ、この場所に来ました。そして自力で生きていけるように、荒れた地を馴らして、水源を探して。ようやくここまでこぎつけたのです。それを晋陽側はどこからか嗅ぎつけて来たのでしょう。「今まで滞納した税も纏めて払うように」と通達してきたのです。今まで何も与えようとしなかったのに、力をつけてきたら「寄越せ」と・・・。」
「では、先ほど言っていた滅ぼされた集落は・・・?」
「間違いなく見せしめでしょうな。従わなければこうなる、と。」
「・・・・・・。」
趙雲の発言に褚燕は力なく頷いた。
話を聞いていた高順は怒っていた。あのクソ太守め、と前に抱いた殺意がまたぶり返してくる。
そこに、閻行が「聞きたいことがあるのだけれど、宜しいかしら?」と挙手をした。
「え?はい、どうぞ?」
「褚燕さん、貴方は一体どうなさるおつもり?」
「え?」
「そこまで舐められた真似をして黙っているのかしら。聞いた話では、貴方は1年以上前の戦いでも話し合いをすることで解決の糸口を探していたとか。そして、今のこの状況・・・どうやって打破するおつもり?」
閻行の遠慮の無い言い方に、高順が反発する。
「母上、それは言いすぎでしょう!褚燕様は戦いを望んでおられないだけです、それを!」
「順、私は貴方ではなく褚燕さんに質問をしているのです。貴方とてどうするべきかは解っているでしょう?黙っていなさい。」
「っ・・・。」
閻行の反論は許さない、という物言いに高順は沈黙する。
「褚燕さん。言いにくいのであれば私が言って差し上げましょうか。両陣営の兵士の偵察。それは「動くべき時」を見定めようとしていたのでは?」
「それは・・・。」
「晋陽側は貴方がどう動くか、そして貴方の擁する兵力を知りたい。貴方は反撃の時を見定めたい。いえ、こう言ったほうが正しいのかしら?貴方が戦いたくなくても、回りがそれを許さぬ状況になった、と。」
閻行の言葉を黙って聞いていた褚燕だったが、参ったとばかりに頭を振った。
「仰るとおりです、閻行様。先ほどの李典様の質問に通じますね。私の部下が官軍に対して過敏な反応を示した事、晋陽側が有無を言わさず皆様に襲い掛かった事・・・。一言で言えば、我々は数日後に決起し、晋陽を制するための戦いを挑みます。その為の準備でもあったのです。私が我慢できたとしても、周りは黙っていられないのです。」
褚燕の言葉に、李典や干禁が反応した。
「ちょい待ち!ほな、うちら勘違いで攻撃されたんか!?」
「というか、褚燕さんの部下って思われたの!?巻き込まれた!?」
「・・・恐らくは。このような状況下で本当に旅をしているだけ、と思えなかったのでしょうね。」
「それって、無茶苦茶やばいっすよね?自分達、晋陽兵何人も倒して・・・。」
「ええ、間違いなく褚燕様側の人間だと思われましたね。」
高順のとどめの一言に、その場にいた全員(高順・褚燕・趙雲・閻行・沙摩柯除く)がず~~~ん・・・という感じで肩を落とした。
「うぅ・・・覚悟はしとったけど、まさかこんな反乱に巻き込まれるとは思ってへんかった・・・。」
「ああ。その上、黄巾のように官軍の大兵力が送られてくるだろうな・・・。」
「早かったなぁ、なの・・・。」
がっくりとしている3人娘を、趙雲は呆れたような眼差しで見た。
「やれやれ。これくらいで恐れるでない。我々はすでに漢に対して弓を引いたのだ。後に戻れぬ。それを理解して高順殿についてきたのだろう?」
「それはそうやけど・・・。」
「ならば、ウダウダと言うべきではない。覚悟をした以上、進む意外にできる事などないのだからな。」
「いつまでも逃げ続ける訳には行かないさ。どちらにせよ、この日が来るのは解り切っていた。思った以上に早かったけどねぇ。」
苦笑しつつ、高順は言った。そう、遅かれ早かれ自分達は逆賊として追われることになるのだ。こうやって確定さえしてしまえばある意味清清しく思えてくるから不思議なものだ。
だが、この言葉に褚燕は不思議そうな表情を見せた。
「あの、高順様?逆賊とか、漢に弓を引いたとか・・・どういう事なのでしょう?」
褚燕の質問に、どう答えたものかと思っていたが、素直に答えたほうがいいよな?と思い直して高順は答える。
「それは、その。丁原様が、殺されましてね。濡れ衣だとは思いますが、逆賊の汚名を着せられたらしいのです。そして、丁原様を殺した漢の正規兵に、俺が斬りかかってしまいましてね。」
「そう、ですか。丁原様が亡くなられた事は知っておりましたが・・・。」
「え・・・はいぃ!?何で知ってるんですか!?」
「私の「手足」は割と長いのですよ?それはともかくも・・・そうですか、そんな理由が。」
恩をお返しする事をさせて頂けないまま、逝ってしまわれたのですね・・・と、褚燕は寂しそうに言った。

この日はこれで話は終わった。
既に夜中だった事もあり褚燕が寝床を用意してくれると言うことでその厚意に甘える事にしたのだ。
彼らは宛がわれた一室で、この先どうするか?ということを相談しあっていた。
だが、相談するまでもなく「この乱に参加する事」で意見は一致。公孫賛の元へ行くのは「まだ逆賊として認定されていない」事が条件の1つだったし、そこから北へでも逃げて烏丸に保護でも求めようかと思っていたが、晋陽兵のおかげで完全に予定が狂ったのだ。
このままでは北平に行くまでに捕縛される確率のほうが高い。
それならば褚燕の引き起こす乱に参加して、晋陽制圧に乗り出したほうが幾分かは安全。逆賊ではない公孫賛に保護を求めるよりは、逆賊になる褚燕の元にいるほうが迷惑はかかるまい。そんな結論に達したのである。
その結論が出たとことで急に閻行が天井に向けて話しかけた。
「と、いうことで結論が纏まりました。納得していただけましたか、お三方?」
「はぁっ!?」
全員が「何事!?」と言いたげな声を上げた。
「あの、母上。今のは一体・・・。」
「気がついておりませんでしたか、順。天井裏に3人、監視がいたのですよ。」
「監視・・・。」
「別にこちらをどうこうしてやろうと思っていた訳ではないようですね。褚燕さんがこちらの出方を知りたがっていたのでしょう。」
「褚燕様が・・・何故。」
高順の言葉に閻行は「さあ?」と首を傾げた。
「少なくとも敵対したい訳ではない。できれば力を貸してほしいが、それを面と向かっていえない。我々から「参加したい」という申し出をしてくれることに期待していたのではないですか?」
「そんな回りくどい事をしなくても・・・。」
「色々とあるのですよ、こういうことはね。」
「?」
「彼女、乱を起こす機をじっと見ていたようですよ。ここらが一番のねらい目だという事を知って待っていたのでしょう。」
「へ?でも、どうせ乱を起こすなら黄巾と呼応すればええんとちゃいますの?」
「それも1つの考え方ですね。ですが褚燕さんは別の視点で見たようです。答えが解る方はいらっしゃいますか?」
誰も答えない。が、暫くして沙摩柯が「もしかして・・・。」と遠慮がちな言い方をした。
「黄巾の乱が終わったその直後に行動を起こした、というのは・・・諸侯が動けない事を見越した、ということでは?」
「あら、どうしてそうお思いに?」
「まだ黄巾が終結して1年も経っていません。にも関わらず、乱が起こる。それは漢の影響力の弱体化を鮮明にさせる。漢王朝にしてもそうそう何度も諸侯を戦に駆り立てる訳にはいかないでしょう。」
「ふふ、さすが沙摩柯さんですね。私も同じことを考えています。幾度も大きな戦乱が起こるというだけで民は「漢王朝は何をしているのか」という印象をもつでしょう。かつ諸侯に動員をかけられないであろう時期、それを狙ったのでしょうね。同時に乱を起こせば同時期の延長線上の戦いとして諸侯の軍勢を投入されていたでしょう?」
「な、なるほど・・・。」
「彼女、とんだ食わせ者だったようですね。さて、天井の方々。そういうわけですから、我々は逃げはしませんよ。そこにいられると眠れないのです。はやく褚燕さんに報告しなさいな。」
「・・・。」
少し間をおいて、閻行がふぅ、とため息をついた。天上の気配が消えたからである。
「あの、母上殿・・・。」
「どうかしましたか、趙雲さん?」
「褚燕殿は我々に嘘をついていた、ということですか?4ヶ月前に殺された人々や重税の事・・・。我々を自分の起こす乱に乗せるために・・・。」
「私自身の考えでは本当だったと思いますね。そうでもなければこれだけ多くの人は集まらないでしょう。芝居を打てるような手合いにも見えない。もしかしたら・・・本当に、言い辛かっただけかもしれませんからね。」
そう言って閻行は肩をすくめるのだった。
「で、順?貴方はこれで良いのですね?」
「ええ、構いません。俺の決断に皆を巻き込んで悪いと思っていますけどね。」
苦笑する高順であったが、彼はあることを思い出していた。
ずっと前に褚燕にこう約束したのだ。「何か困った事があったら言ってくれ。出来る限り力になる。」と。

~~~褚燕私室~~~
「そうですか、ご苦労様でした。」
ねぎらいの言葉を受けた「影」2者はすぐさま天井裏へと消えた。2者共に違う情報を持ってきたが・・・どうも、高順様の母君は全て見切っておられたらしい。褚燕は苦笑した。
だが、彼女にとっては高順達がここにいることが誤算である。結局は自分に協力してくれるらしいが、これは誤算でも嬉しい誤算。
彼の足跡はある程度追っていた。公孫賛の元で戦い、上党に行くまでの動きは掴んでいたし丁原の戦死、ということも知っていた。
先ほど自分からその件に触れなかったのは高順に気を遣ってのことだし、褚燕にとっても悔いの残る話であった。大きな借りを返し損なった・・・。というところだ。
だからこそ高順を巻き込みたくは無かったのだが・・・何の因果か、彼は自分達側の人間だと誤解されてしまったらしい。
彼が官軍に挑んだ事も知っていたので、ここは危ないですよ。と仄めかして早く逃げるように仕向けたのだが随分計算が狂ってしまっている。
手伝ってくれればそれに越した事は無いが・・・。
お互いに利用しあうのが一番か、とも思う。彼を助ける事で丁原様への恩返しにさせてもらおう、と自身を納得させて目を閉じる。
そういえば。
高順と前に出会ったとき、彼は「何かあれば言ってくれ。力になる。」と言っていた。もしかしたら、その約束を果たす為に協力してくれるのだろうか。
約束1つの為に自分の命を丸賭けすると言ってるも同然なのだ。それではただの馬鹿でしかない。
それとも、ここで自分は死なないという何かがあるのだろうか。
まあ良い。私はこの乱を成功させて、晋陽の民の平和を取り戻してみせる。私は死なない。そして高順様達も死なせない。


生き残ってみせる。その為の戦いなのだから。






~~~楽屋裏~~~
北平フラグが初っ端から折れました、あいつです。
作者が作り出したフラグを作者が折りましたよ、ええ・・・。
やっぱね、詰め込みすぎて作者でも把握しづらいこの状況。流れとして・・・
高順達、北平へ→晋陽で黒山の人と勘違いされました→生き残りをかけて反乱軍に合流。
こんな感じ?
あと、晋陽太守は丁原さん騙した奴です。いわば丁原のあだ討ちでもあるのですね。
そして、ここにきてまさかの黒山賊です。正史では褚燕は黄巾の乱と同時に大規模な反乱を起こしていますがこのシナリオでは時期をずらしたようです。
高順達は晋陽の乱を無事乗り切れるでしょうか。いぁ、乗り切ってもらわねば困りますがねw

さて、閻行さんが褚燕の思考を読み取ったのは同じ「乱を起こした者」だからというところでしょうか。
馬騰が幾度も漢王朝に反乱を起こしたのもそういった時節を見ながら、ということなのだと思ってます。
閻行さんもそういった匂いを感じ取ったのかもしれませんね。てか閻行さんチートすぎ。自重しなさい作者。


次は晋陽軍との決戦ですかね。多分これは楽勝ですが、その次が苦労すると思います。さぁ、どうなりますか。



~~~懲りずに武将紹介~~~
今回は誰にしましょうかね・・・。

~丁原~
史実、或いは演義において呂布に殺される可哀想な人。
史実では呂布は部下。演義では養子であるが、両方共に董卓に篭絡されて丁原を殺すという流れに変わりは無い。
当時、隆盛を誇り皇帝廃立を目論む董卓に真っ向から異を唱えた気骨ある人である。
彼の事跡はそれほど伝わっていないが、呂布という存在を(良くも悪くも)世に出したというのが一番の事跡になるのだろうか。
不憫な人である(汗

このシナリオでは、女性であり上党太守である。
呂布は恋姫世界においては既に漢の将となっているためにそれほどの絡みがあるわけでもない。
シナリオ開始当初は「パワハラ上司」だの「むかつく」だの「暗殺されて欲しい」という声が出るまで嫌われてしまった人。
それほどに嫌われた彼女だったが、殺された同情からか「割と好きな人だったのですが・・」という声がチラホラ。
もう、皆ツンデレなんだから(違う
あくまでこのシナリオのオリジナルキャラで、恋姫には出ていない。この人を生き残らせてほしい、という声もあったようなないような。
イメージがあるわけではないが、外見上でいうと、何故か初代アルトネリ○の女社長が思い浮かんでくる。何故だろう。

~朱厳~
まさにこのシナリオだけのオリキャラ。演義でも正史でも恋姫でも出るはず無い。
モチーフとなった人物はいるけど名前で察せ(誰
丁原が幼い頃から仕えていた人物で彼女の恥部を残らず記憶している爺様。おかげで丁原さんは彼に全く頭が上がらない。
老齢ではあったものの張遼に食いつく辺り、中々の武才を誇っていたのだと思われる。若い頃ならば本当に互角の戦いをしていたのかもしれない。


~郝萌~
正史や演義では呂布の配下。
最終的に呂布に反乱を起こそうとして高順に鎮圧された人。
この人って袁術か誰かのスパイだった?
しかし、馬鹿だなぁと思ってしまう迂闊な人。勝てるわけ無いじゃんよ・・・陳宮と謀っての反乱だと言われているがその辺りは不明。
このシナリオではやはり女性。
幼い頃から高順の友人であり、彼に好意を持っていたらしいが全く描写されずに亡くなった悲しい人。
最初はただの女性兵士だったのにいつの間にか名前つきキャラに。
つうかこの人の名前に「萌」という文字が付いているので、その為に覚えられている可能性が大きい。どっちにしろ不憫。



簡単ではありますがこの程度?
それではまた。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第32話 晋陽開戦。(少し修整
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/01 18:30
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第32話 晋陽開戦。


高順が褚燕の戦いに参加する事を決めて20日前後。
彼らは今、晋陽へ向けて進軍していた。
本来なら10日ほどで攻めていたはずだが、ちょっとした理由があり、褚燕に頼んで時期をずらしてもらった。
かなり前の時点で他の拠点に収集をかけていたので部隊集合などは特に問題は無かったし、晋陽側では警戒をしているだろうが洛陽に増援を手配した形跡も無い。
恐らく、黒山側の機密情報は「何1つ」晋陽側へは行き届いていない。それは褚燕の部下である「影」達の働きによる所が大きい。
「影」は褚燕の一族に代々仕える・・・言わば隠密集団のようなものだ。暗殺などもこなせるのだが、諜報活動や同じ「影」を狩る所を最も得意とする。
やろうと思えば晋陽太守も暗殺できるはずだ。だが、褚燕にそのつもりはない。
民に重税をかけ、罪のない人々を殺し、父を殺した憎い相手だ。だからこそ、暗殺ではなく自分の、或いは民の手で裁く必要がある。
影の努力もあって、晋陽への情報はほぼ全て遮断され逆にこちら側の偽情報を大量に流してもいる。
部隊を集結させたくらいは知っているだろうが、黒山側にどれほどの兵力があるか詳しく掴んではいないだろう。

さて、何故進軍時期を遅らたのか?それは閻行の言葉に端を発する。
褚燕の居館にて、晋陽の見取り図を見ながらの会議。
「褚燕さんの情報では晋陽の兵力は7~8000ほど。それを信じるとして、褚燕さんの兵力は4万弱。それも騎馬隊などが無く、農民兵主体の編成です。今回は城攻めが主な戦いになるでしょうから騎馬隊は不要といえますが・・・その後が辛いでしょうね。」
「と、言いますと?」
褚燕は閻行の言う事に首を傾げる。
「間違いなく、洛陽から討伐軍が差し向けられるでしょう。数は・・・そうですね。向こうがこちらの兵数を把握していると予想して・・・最低でも6万前後はくるでしょうか。」
「6万、ですか?それはちと数が少ないような。」
「趙雲さん、先ほども言いましたがこちらの主力はあくまで民兵が主体です。その上装備も貧弱な物・・・。城攻めに必要な兵数は守備側の3倍以上とも言いますが、常にそんな状況とは限りません。」
「そ、そうですか・・・。」
閻行の言葉に恥じ入るようにして趙雲が押し黙る。彼女は常に乱の渦中に身を置いて官軍と戦い続けた歴戦の勇士だ。その言葉には実戦に裏打ちされた確かな経験が見え隠れする。
「話が逸れましたね。さて、褚燕さん。これを打破するにはどうすればいいでしょうか?」
「それは・・・数をもっと多く集めるとか、女子供にも動員をかける、とか。」
「装備があればそれも良いでしょうね。問題はそこまで士気を高くすることが出来るかどうか、でしょう。」
「装備、ですか・・・。資金はありませんから・・・。どうしたものか。」
「そうですね・・・。現実的に行けば「晋陽をなるだけ無傷で」陥落させる。ですかね?」
この言葉に、全員が「は?」という訝しげな表情を見せる。
「ちょ、ちょい待ってぇな。晋陽を無傷て・・・そんなん、きつすぎまっせ?」
「そうだな。いくら閻行殿といえ、そのような事が感嘆にできるとは思いますまい。」
李典と沙摩柯が口を挟む。当然だろう。城攻めにはそれ相応の被害が出るのは常である。
「私が言う被害、というのは兵の消費のことだけではありません。城・城壁・城門。それらも無傷で手に入れよう、という事です。」
「そんなの、余計に難しいの・・・。」
「難しい、と決め付けるのは早いですよ。むしろ、これを乗り越えられないようでは後に来る討伐軍を迎え撃つ事が難しくなるでしょうね。」
「うー・・・。」
ではどうすれば良いのか。皆の視線が閻行に注がれる。だが、彼女は目を瞑り腕組みをしているだけだ。
「自分で考えてみろ」ということだろう。閻行の言わんとしたことを感じた皆が、隣にいる者と相談をし始める。
その中で高順はじっと晋陽内部の見取り図を凝視している。
(晋陽の城門はただ1つ。勢いに乗って攻めれば打ち破る事も可能、か。しかし、それでは城門の修理が間に合わないままで官軍を迎え撃つ事になる。褚燕様の言うとおりに援軍などが無いという前提での話・・・。)
高順は見取り図から視線を外し、天上を見上げた。
(城内から援軍を請う早馬が出る事もあるが・・・城門は1つ。そこからは出られない。残る可能性は城壁を飛び越えていく歩兵がいるかもしれないけど・・・。)
母上は、城攻めがメインと言っていたが、向こうにこちらの兵数が少ないという情報を流しておけば「最初を野戦に持ち込める」のではないか?と考える。
その野戦で勝利して、それに紛れて褚燕配下の影を潜り込ませる事ができれば、城攻めの際に城内を・・・例えば火事などを起こして混乱させる事も可能だろうか。
それでは「無傷」という事にはならないし、褚燕の評判も悪くなる。影の人数がどれほどいるかは知らないが、城門を開けさせるという仕事は辛いかもしれない。
野戦で勝利して迅速に攻めいれば早馬は出ないはずだ。問題はその後。そこに続いていく何かが足りない。
城壁を越えるなら梯子を使うしかないのだが、梯子では1人ずつがちまちまと登っていくことになって矢で狙い撃ちにされる。梯子をかけたとして。その梯子を外される事も考えるべきだし、壊されることだってあり得るのだ。
できるだけ多くの兵を安全に、一度に城壁を越えられるようにするには・・・?
「あの、褚燕様。少し宜しいですか?」
「はい?」
「破砕槌(城門攻撃兵器)と梯子の数はどれほどあるのです?」
「そうですね・・・槌は4、5ほどあります。梯子は100でも200でも用意できますけど。」
「では、木材は豊富なのですか?」
「豊富と言うわけではありませんが、この拠点ならばまだ余裕はあります。それが何か・・・?」
木材はある、か。ちょっと不恰好だが・・・李典に手伝ってもらえばできるか。
「褚燕様。もう1つだけ。出撃までの残り日数は?」
「あと10日ほどです。」
「・・・20日になりませんか?」
「え・・・ええ?できなくはありませんけど・・・遅らせる理由があるのですか?」
「少し時間と、人数を貸して頂きたいと思いまして。多分、後々必要になるのではないかとも思いますし・・・。」
高順の言葉の意味が解らず、その場にいた(閻行除く)皆が全員首をかしげた。

高順が作ろうと考えたのは外見で言えば「移動式木製階段」である。
梯子でもいけるのだろうが、一度に移動できる人数が少なく、城壁から弓やら熱湯やらで迎撃されれば時間がかかる上に被害ばかりが出てどうしようもない。
それならば、出来るだけ複数で移動できるような大きな梯子、或いは階段のようなものを作成してそこを駆け上がればいいのではないか?と思ったのだ。
まず、野戦に持ち込んでから晋陽兵になりすまして晋陽まで撤退・・・の案もいいのだが、晋陽側が乗ってこない場合もある。最低限の保険をかけておくべきだと考える。
階段を作り横からの矢に対して防御できるように其れなりに厚い木板(火矢を撃たれた場合に取り外せるように)を貼り付ける。車輪をつけて移動可能にした上で分解も可能、という冗談そのものな代物で汎用性は全く考えていない。
というのも、晋陽城の見取り図だけでなく、城壁の高さ・その周辺の地理も褚燕の配下がしっかりと記録してくれていたからだ。特に障害物も無い平坦な場所で、城門付近に堀があるわけでもない。それを理解するからこその代物である。
そもそも、今回の城攻めでは破砕槌が必要の無い扱いだ。1つだけ残して残りは他に転用してしまいたい。
分解・組み立て式にすることにも理由がある。上手くやれば、小型ではあるが投石車にも転用できるのでは?と考えたのだ。
晋陽を手中に収めれば中央の官軍が反応して討伐軍を差し向けてくるのは解り切っていることだ。それを迎え撃つために、ある程度の仕掛けを作っておきたい。
幸いにもこういった類の技術に長けた李典もいるし、人手も多い。使用できるかの試験は必要だろうが、何とかなるだろう。使わないですむのなら、それはそれで良い。
この案を伝えたところ、皆が怪訝そうな表情を見せた。やる気を出したのは李典だけである。
移動式木製階段、というものを上手くイメージできないだろうし、投石車、というのもよく解らない物だっただろう。
だが今回の戦いで破砕槌はあまり必要が無いということは理解してもらえたようで、後々のためになるなら・・・と褚燕は了解をした。
ここから、高順と李典はほぼ眠らずに作製図版を考え、楽進達にも手伝って貰って骨組みやら何やらを設計・・・と、凄まじい苦労をする羽目になるが、それは割愛する。
それから20日ほど後・・・つまり今だが、褚燕達はまず7千を率いて晋陽城へ出陣。後詰に1万(輜重含む)を配して出撃させる。戦闘要員は全て合わせて4万程だが、残りの兵は非戦闘員を守るために残している。
晋陽側へも情報を流していて、内容は「黒山軍が蜂起、兵力は5千ほど。」というものだ。
晋陽からも諜報員が何度か派遣されてきたが、それは褚燕の「影」が全て始末。そのせいで、晋陽側の掴んでいる情報は黒山側の兵数5千のみ、ということになる。
ここで話は変わるが・・・晋陽太守は僅かに焦っていた。普通の考えを持つ人間なら情報が無い時点で警戒をして、増援を求めるなり何なりするだろう。
しかし、これで彼は2度の失態を侵したということになる。
最初は丁原の時であり、自身の失政のせいで官軍同士の戦争に発展した。2度目である今回も、失政の結果という意味で同じである。
前回は賄賂をばら撒いて何とか誤魔化せたが、今回はそうもいかないだろう。私腹を肥やす事に夢中になりすぎて兵の増強を怠っていた事もある。
今回ばかりは自身の戦力で何とかするしかない。
彼にとって幸いな話は、黒山賊の数は少なく、賊であるゆえに装備も心許ないと思われるということ。そして黒山は西側にいるという3点だった。数は誤報だが、装備に関してはその通りだ。黒山側は歩・弓が主力で騎兵もいないし、民兵同然。方角は「西に向かわせた細作がほぼ全て消息を絶った」という事を鑑みて、である。
情報が誤りで数が多少こちらより多いとしても、装備で勝る官軍がまず勝てる、という考えである。出撃していく自らの兵6000を見送る晋陽太守だったが、内心は不安で一杯だった。
その考えはある意味で間違い、ある意味で正解だった。
装備で劣っていても、兵の士気は高い。その上に指揮能力・武力に秀でた武将が数人ほど黒山軍にいる。それを知らないことが、晋陽太守の不幸であった。
そしてもう1つ。この時点で高順や褚燕の読みは大きく外れている事になる。
彼らの読みとしては「速攻で攻めて援軍を呼べないようにする」だったが、居場所自体は少し前に知られていたのだ。
逆に、これらの事が褚燕側にとって有利に働く。晋陽から地理的に一番近いのは上党。その上党には呂布隊が駐在していたが、10日ほど前に代わりの太守代理が来たために洛陽へ帰還している。
もし通常の予定通りに攻めていたら、呂布達と戦う可能性もあったのだろう。

晋陽城より西に25里(約10キロ)。褚燕率いる黒山軍7000と晋陽軍5000が遭遇。間を置かずに一気に攻撃態勢に入った。
黒山軍の先鋒を務めるのは高順・沙摩柯・趙雲・閻行。中衛に3人娘。本陣に褚燕。(閻柔と田豫は留守番)・・・とは言うものの、全員が徒歩である。
彼ら以外、馬を持っている者がいないのでいざ突撃となると足並みが乱れてしまうのだ。
晋陽軍がまず矢を射掛けてくるが、高順達は意に介さず進んでいく。
そのまま進めば晋陽軍前衛の弓兵部隊とぶつかるのだが、そうはさせじと騎兵部隊が前へ進んでくる。
それを見ていた高順達だが、それでも勢いを止めることなく進む。そこへ高順達の後方に控えていた黒山側の弓兵部隊が一斉に弓をつがえて矢を放った。
弓兵部隊は歩兵部隊を盾にして前進していたが、彼らは騎兵のみを撃つ事に主眼を置いている。
たちまちに乱戦となるが、先頭を進んでいる閻行が・・・なんと言うか、あまりに異常な強さを発揮している。彼女が本来使用する武器は大斧(ポールアクスと言ったほうが早いか)なのだが、今はそれを使わずに剣を振るっている。
構わないのだが、戦い方が徹底して「確実に相手を殺す」形だ。相手の腕を斬って怯ませたり、などということは一切しない。常に相手の急所のみを狙って斬り、突き崩している。
それ以前に振るう剣の斬撃が早すぎて鎧や兜そのものを叩き斬っているのだが。
晋陽軍と直接ぶつかってからの閻行は、まるで散歩をしているかのように前進しつつ剣を振るう。その剣が振るわれるたびに晋陽兵の遺体が積み重なっていく。
高順や趙雲、兵士達だって必死に戦っているのだが・・・味方である黒山兵も少し引いている。
この人は敵だけではなく味方まで圧倒してどうするつもりなのだろう。ともかく、高順達も奮戦していた。
今までは常に馬上で戦っていたので、普段と違う目線での戦いは少々おかしく感じるが・・・それでも一般兵士などよりは数段強い。
向かってくる騎兵を三刃戟で馬ごと叩き斬り、敵に向かって投げ飛ばす。趙雲や沙摩柯も己の得物を振るって縦横無尽に駆け回り敵兵を寄せ付けない。
黒山側の前衛部隊を突き崩せないと見た晋陽側は、即座に全部隊で攻勢に出た。晋陽軍の攻撃に、錬度の低い黒山側は一部恐慌状態に陥って浮き足立つ。
戦いながらも、それが理解できた高順は舌打ちする。
「慌てるな!敵兵1人に対して2人一組で当たるんだっ!・・・ちっ、なかなか思うようにはいかないもんだな・・・。趙雲殿、沙摩柯さん!はぐれるなよ!?」
「解っている!」
「それよりも、母上殿はどこだ!?」
「・・・あそこ。」
向かってくる晋陽兵をなぎ倒しつつ、高順は顎で指し示す。その先には相変わらず晋陽兵を畳んでいく閻行の姿があった。「この風、この肌触りこそ戦争よ!」とでも言いだしかねないくらいの勢いだ。
突進してきた騎兵の繰り出した槍を平気な顔をして掴みとるわ、そのまま持ち上げて斬撃で馬ごと斬り倒すわ、奪い取った槍を投げつけて10人程の兵士を串刺しにするわ・・・。この母親、実にノリノリである。
そして高順は思うのだ。
「俺達、別に必要ないのでは・・・?」

前衛部隊が苦戦を強いられ(若干一名除く)ている状況を見た褚燕も、中衛・本陣ごと前線に向けて移動した。
楽進・李典・干禁は与えられた部隊を率いて、晋陽軍の横合いに回りこもうと迂回。矢を撃ちつつ時間差攻撃を仕掛けて晋陽軍を押し込んでいく。
最初こそ晋陽軍に押されまくっていた褚燕軍だったが、前線で戦っている高順達(というか閻行)の奮戦もあり次第に押していく形になっていく。
一番先頭を進み、敵陣のど真ん中で暴れまわっていた閻行に追いつくように高順達も進んでいく。この時点で、開戦から既に数時間が経っており両軍共に疲労しきっていた。
そこに、後詰として遅れて出撃した黒山軍1万が来援。晋陽軍としては「話が違う!」と思わざるを得ない。
敵の援軍を見て士気を喪失した晋陽兵は少しずつ後退し、ついには輜重をも捨てて逃げ出していった。
そのあまりに鮮やかな逃げっぷりを見た褚燕は「罠だろうか?」と警戒しつつも追撃命令を出す。後で知ったことだが、先頭きって逃げたのは晋陽の将軍だったらしい。本気で逃げたということになる。
そして、逃げていく晋陽軍の中には褚燕の手配した晋陽兵の鎧などで偽装した「影」が多く紛れ込んでいたのであった。
この戦いでの褚燕側の戦死者は700ほど。晋陽側は追撃で討たれた分を含めれば1600ほどだ。負傷者を含めると両軍とももっと多くなるだろう。
損害は軽微といえないが被害の割合を考えても、更に晋陽軍が放棄した食料・軍需物資を手に入れた褚燕軍にとっては勝利といっても良い戦果だ。
・・・・・・ある程度苦戦していたはずなのにあっさりと戦況が覆った点について、高順は深く考えようとしなかった。(考えたら負けと思っている
褚燕は、死傷者を後詰の部隊2000人を割いて処置させる事にした。
本来ならばここで休息を取るべきだろうが、時間的な余裕が無い褚燕にとってはそうも言っていられない。兵士もそれを理解しているらしく、再編成もそこそこに晋陽城へと向かっていく。
距離は大したことがないので1日とかからず到着したが、流石にこのまま攻める事は不可能である。晋陽側から早馬が出ないように完全に包囲し、兵に休息を取らせつつ日の出を待つことになった。


攻撃側:褚燕率いる黒山軍。現兵力14000。先鋒に、高順・趙雲・干禁・楽進。中衛に李典・沙摩柯。本陣に閻行と褚燕。
防御側:太守率いる晋陽防衛軍。残存兵力約5000。
閻行が本陣守備に残るのは「もしも援軍依頼の早馬が出ていた状況」に警戒しての事である。
武将一人が本陣守備に残ったところで何ほどのことも無いが、あの閻行である。
現在の官軍で言えば呂布が本陣防衛に回った、と言えば解りやすいのかもしれない。


そして、夜が明ける。










~~~楽屋裏~~~
だから自重しろと言っただろう閻行さん・・・風邪で3日ほど寝込んだあいつです(挨拶
・・・なんというか、あまり出さないほうがいいのですよね、母上殿は。るろ○に剣心の比古師匠と同じく、「ジョーカー」そのものです。
彼女関連で書きたいことはもう1つか2つくらいあるので、まだ無茶な暴れっぷりを見せるのでしょうねぇ(遠
それと「移動式木製階段」ですが、これはイメージとしては・・・戦国無双2で出てきた小田原城などの城壁越え用のイベントで出てくるアレです。解らない人も多いかと思われますがw
こんなもん出さなくても楽勝で勝てるとは思うのですが(理由:母上いるし・・・)投石車に転用できるならまぁいいか、と。悪乗りしすぎてますね。作者は自重するべきだと思います。
それと、今回は随分駆け足な展開ですね。もう少し考えて投稿するべきだったか(もう遅い

さて、次回は城攻めですね。
多分それはあっさり終わって、ちょっと時間が経ってから討伐軍が来るという流れになると思います。
さぁ、誰が派遣されてくるのやら。

それではまた次回に。(^ω^)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第33話 晋陽内乱、終幕・・・?
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/03 23:36
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第33話 晋陽内乱、終幕・・・?


晋陽城内にて、太守は部下に当り散らしていた。
曰く「この役立たずが!」とか「お前達のせいなのだぞ!どう責任を取るつもりなのだ!」とか。自身の無能を棚に上げて喚き散らすばかりしかできないこの男こそどうにかして責任を取るべきだというのに。
だが、それもあと少しで終わろうとしている。滑稽なのは自身の失策・失政のツケを己の首であがなう時がすぐそこまで来ていることに、全く気がついていないというところか。
そして、その命を刈り取る断罪者は城門の直ぐ向こうにいるのだ。

~~~城門・黒山軍~~~
褚燕率いる軍は既に布陣を終えて攻め入る姿勢を見せている。
既に部隊として攻め入る事ができるのだが、まだ「移動式木製階段」の組み上がりを待っている状況だ。
それほど時間がかかるわけでもないが、やはり緊張をしている者にとっては長く感じるらしい。
そんな中、褚燕本陣の陣幕では・・・。
「ふわぁぁあぁっ・・・んむっ。」
閻行が思い切り欠伸をしていた。
別にだらけているわけではない。彼女なりに気合が入っているはずだ。うん、きっとそうに違いない。
閻行のだらけきった用に見える行動を、褚燕は怒ることなく受け流していた。
何せ1人で数百人と斬りあって平然と帰還してくるような人である。ああ見えて周りに注意している・・・はず。
そう考えている褚燕の目の前で、閻行はもう1度大きな欠伸をした。
「ふぁ・・・眠い・・・。」
前言撤回。駄目だこの人。褚燕はこめかみ辺りに感じた痛みを何とか押さえるのだった。

駄目かどうかさて置いて、褚燕は今回の閻行の行動を不思議に思っていた。
昨日の戦いの勢いで、そのまま先鋒で攻めかかっていくと思っていたのだが急に「私、本陣守備に回ります。」と言いだしたのだ。
閻行の言う事では「万が一援軍が来たらそれを止めないといけないでしょう?私はここで壁として残るのです。」とのことだった。
だが、血気盛んな彼女が自分から残る、と言いだしたから皆「何を考えておられるのだろう?」と思う事しきりである。
それが表情として表れていたのだろう。褚燕の顔を見た閻行がにわかに噴き出した。
「くふふ・・・おかしな表情をなさっておりますね、褚燕さん。」
「え?そ、そんな変な顔ですか!?」
「あなたが変な顔なら世の中のほとんどの女性は変な顔ですよ・・・。そうではなくて。おかしなことを考えているのでは、と思いましてね。」
「はぁ・・・。たしかに、解らない事を考えていればおかしな表情にはなるかもしれませんね。では、2つお聞きしても宜しいですか?」
「答えられることなら、何なりと。」
「この城攻めで、何故本陣守備に回られたのでしょう?閻行様ならば、先頭にたって戦うのだとばかり・・・。」
褚燕の言葉に、閻行は「ああ、不思議に思われましたか。」と笑った。
「そうですね。こういうことは若い者が率先してやるべきだと思っています。私のような老人がいつまでもはびこる訳には行きませんからねぇ。」
どこか遠いところを見るような、そんな表情をする。
「老人だなんて、そのような事は・・・。」
「まぁ、若い者に楽をさせるな、と言うところですか。順達が今まで苦労をしていないとは思いませんけれどね。何度も老人に頼るな、と言いたいだけです。それに・・・。」
「それに?」
「あの子達ならやり通せると思っているのですよ、私は。ふふ、親のひいき目かもしれませんね。」
これに関しては褚燕はその通りだろうな、と思っていた。高順が考え、李典達が組み上げて言った移動式階段、そして閻行の勇猛さに隠れて目立たなかったが昨日の戦い。
高順は前に出会ったときよりも確実に強くなっていたし、彼の周りを固める人々も頼もしい存在である。彼らだけでは何も変わらなかったかもしれないが、彼らがいてくれたおかげで晋陽攻撃も成功しつつあるのだ。
「では、あと1つ・・・。閻行様は何故、人の上に立ち乱を征しようと思われなかったのですか?」
「人の上に跨るのは得意ですけど?」
何の気なく、閻行は言った。だが、褚燕の反応は凄まじく冷たい。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・ごめんなさい。」
果てしなく下ネタ。「駄目だこの人、早く何とかしないと・・・!」褚燕は心からそう思うのであった。
そんなことを考えた瞬間、伝令が陣幕の中へ入ってきて攻撃用意が整った事を告げる。
それを聞いた褚燕は伝令に「攻撃を開始します。銅鑼を鳴らす用意を!」とだけ言いつけて陣幕を出ていく。
閻行には上手くごまかされたような気がしないでもないが・・・また余裕のあるときに聞けばいいだろう。
陣幕から出た彼女の目に映ったのは、既に陣容を整えた自軍、城壁の上にびっしりと並んだ晋陽の弓兵。そして、移動している木製階段がもう少しで城壁に取り付くところであった。

晋陽側としてはあんな馬鹿な代物を持ってくるとは思いもしなかっただろう。篭城を決め込んでいる晋陽側。この戦力差で打って出る事ができるはずもなく、城壁と同じだけの高さを持つ攻城兵器が組みあがっていくのを見ていることしか出来なかった。
階段を移動させているのは人力である。彼らを守るために、破砕槌と同様、木で出来た厚い屋根がついている。
当然、晋陽兵は弓を射掛けて何とか足を止めようとしているが、黒山兵も弓を射掛けて晋陽守備軍を威嚇、攻撃している。
火矢を撃たれれば不味いが、外張りの木版は水で湿らせていて、最低限の処置はしてあった。
兵士達がお互いに矢の応酬をしている頃、高順・趙雲・楽進・干禁は己の得物を手に息を整えていた。
階段が取り付いたときに、彼らは一番に駆け上がっていく役目となっている。
何故かと言えば、現状で一番強いのは間違いなく彼らであり、また城壁上部で戦う為の武器を持っているのが彼らのみであった、という事実だ。
狭い城壁の上で戦う場合、長柄の武器を振るうのは少し難がある。
楽進は格闘。干禁は2対の剣。高順と趙雲は、今は剣に持ち替えている。趙雲は長槍「龍牙」しかない筈なのだが、何故か青釭の剣・・・いや、形状からいうと刀だが、それを構えている。
本来、その刀は高順の所持品である。丁原の遺した三刃戟、長刀。倚天の大剣、青釭の剣。ボロボロになって使用こそ出来ないが朱厳と郝萌の剣もある。
高順の所持しているはずの青釭の刀だったが、戦が始まる前に前に趙雲に強請(ねだ)られて(?)しまったのだ。

~~~その時のやり取り~~~
「高順殿、そんなに多くの武器を所持していても使い切れないでしょうに?」
趙雲の言葉に高順が「ん?」と返事する。
「ああ・・・でも、俺ってこの中で一番弱いですからねぇ。これくらい武器を持っていないと不安d「そんなことはありますまい?」・・・あるんです。」
「しかし、その鞘の青い・・・青釭の刀と申しましたか?一度も使用しているところを見かけておりませぬな。」
確かに、高順は青釭の刀を一度も使用していない。抜刀術など使用できるわけでもないし、倚天の大剣のほうが性に合っている。
丁原の遺刀は・・・なんというか、使用するのが恐れ多いと感じてしまう。それこそ、ここ1番で使用するべきだと考えているのだ。
「武器とは使用してこそ価値があるもの。平和な時代であっても必要とされるものです。その刀、大した業物とお見受けいたしますのに・・・使わぬは勿体無いと思いませぬか?」
「うーん・・・。」
彼女得意の丸め込みに乗りたいわけではないが、言っていることは間違っていない。それに、趙雲と青釭は相性が良いはずだ。
作り物の話である演義では、青釭は夏候恩という武将が曹操から与えられた武器。その夏候恩を戦場で倒したときに「これは良い剣だ!」とネコババして所持武器としてしまったのが趙雲である。
今は高順の持ち物だからそうなる可能性はほとんどないはずだが・・・かの名将、趙雲が戦場で名剣ネコババ事件とかはあまりにダサすぎる。つうかネコババせず正面から「譲ってほしい」と言っているのだからまだ清清しい。
このまま渋っても、結局口先三寸で取られるか、知らぬうちに彼女の物にされたり、とかされるような気がしてならない。(趙雲の性格を考えればそれは無いと思うが・・・)
これから先、自分が使うかどうかも考えて・・・結局、高順は青釭の刀を趙雲に譲る事にした。このまま錆びさせるには惜しい名刀。青釭の刀にしても、趙雲にしても良い話だろう。
「はぁ。解りましたよ。その代わり、大事にしてあげてくださいね?」
「おお・・・言ってみるものですな。まさか本当に譲っていただけるとは。」
高順は青釭の刀を趙雲に手渡す。趙雲は本当に嬉しそうに受け取った。
「ふふ。高順殿、返してくれと言っても遅いですからな?」
「言いませんよ。その刀にしても、趙雲殿の手元にあるほうが幸せでしょうしね。」
高順の言葉に趙雲はにんまりと笑ってみせる。
「当然。使いこなして見せますとも!」
上手く丸め込まれたと思わないではないが、青釭の刀を手にした趙雲の喜びようを見れば・・・まあ、これで良いか、と思ってしまう人の良い高順であった。
~~~回想終了~~~
そんな訳で、趙雲が青釭の刀を所持している。
決死隊の4人であるが、1番に突撃をするのは高順である。彼は片手に大剣、片手に木の盾を持っている。
横からの弓矢は気にしなくて良い。階段の先にいる正面の矢だけを防いで城壁まで上りきってしまえば・・・後続で続いてくる趙雲たちもやりやすくなるだろう。
彼女達の後に兵が続き、城壁の晋陽兵を駆逐していく。篭城を決め込んでいる兵士達は打って出る事は無い。むしろ、城壁守備に兵を回すと思う。
そうなれば、城門を守備するための兵士は少しずつだが少なくなっていくはずなのだ。城壁から敵兵が来るとなればそちらに兵士を割くのは当然だと思うだろう。
高順達が城壁で戦って敵をおびき寄せ、城門守備に隙が出来たその時。褚燕配下の「影」の出番だ。
晋陽兵に混じっている彼らは、「時期を見計らって城門を内部から開けるように」と言う命令が下されている。
城門守備兵が減れば、彼らも仕事がやりやすくなるだろう。そして、城門が開けば中衛として残留している沙摩柯と李典の出番だ。
城門を突破し、彼女らの部隊が暴れまわる。そうすれば最初は辛いはずの城壁攻撃部隊への圧力が減る・・・はず。兵数もこちらが多いので楽ではあると思うが油断をするべきではない。
突撃する順番としては、高順・楽進・趙雲・干禁といったところだ。
こういった事態に慣れている前者3人はいいのだが、最初に敵と切り結ぶ、ということに慣れていない干禁は緊張しっぱなしである。
「あうう・・・し、失敗したらどうしようなの・・・」と、弱気な事を言っている。
「大丈夫だ、沙和。いつも通りやれば出来る。」
「うう・・・凪ちゃぁ~ん・・・。」
励まされるも、情けない顔をして楽進(凪)に抱きついてしまう干禁(沙和)。
「お、おい・・・隊長も声をかけてやってください。心配するな、と。」
困りきった楽進が助けを求めるように高順に向き直る。まあ、干禁の不安は解らないではない。今まで先陣をきって戦っていたのが高順や趙雲。李典や干禁はその後の掃討戦といった戦いばかりこなしていたのだ。
李典にしても干禁にしても実力はある。一度乗り切ってしまえば、そんな不安も消し飛ばせるだろう。
しかし、怖いものは怖いらしく情けない表情が今も続いている。高順は「あまり望ましくは無いけど仕方ないな。」と思いつつも説得にかかった。
「沙和。ふと思ったんだけどさ。」
「ふ・・・ふぇ?」
「この頃皆に給金を渡すの忘れてたよね、俺。」
「え・・・え?ええ?」
高順の言葉に干禁・・・いや、楽進も趙雲も目をパチクリさせる。趙雲は別として、他の娘たちは立場としては全員「高順の私兵」である。
今までは公孫賛の世話になっていたので忘れてしまっていた(彼女から給料が出ていた)ようだが、今の状況であれば高順が給料を出さねばならない。
上党・晋陽のゴタゴタですっかり忘れ去られていたようだが、「給金」の言葉に干禁が目を輝かせた。
「今まで皆に迷惑かけてたからなー。不払いも含めて・・・ちょっと色をつけちゃおっかなー。」
「え!?多めに貰えるかもしれないの!?」
干禁の言葉に高順は「うんうん」と頷く。
「今回、頑張ってきっちり生き残ってくれたら他の皆の分も増やしちゃおうかなぁ。沙和が頑張ってくれた分上乗せって感じで?」
「おおおおおっ!?燃・え・て・き・た・のー!!!」
干禁、ボルテージMAXである。その様子を見て高順もやれやれ、と苦笑してしまった。なかなか現金な娘だ。
さて、と城壁に向き直ろうとする高順だったが、途中で趙雲と目があった。「私は?」という・・・なんか自分もお零れに預かろう的な視線である。
「・・・趙雲殿には無いですよ?」
「はっ!?」
「だって、貴女は俺の部下じゃないですし・・・。つうか、旅の途中で散々奢ってあげたでしょうに?」
「う、うむぅ・・・。」
実を言うと、趙雲の懐具合は割りと寂しいものであった。丁原の元で客将として資金を稼ごうと思っていたようだが、上党の件ではそれが不意になってしまった。
旅の途中でも高順にたかって(何か間違っている気はする)節約をしていたのだが、それも底を突きかけている。
「ま、お金なくなっても大丈夫。青釭の刀売れば良いですよ?」
「はぁっ!?」
「良かったですね、趙雲殿。その刀売れば相当な金額入ってきますよー。」
「な、なんと!?まさかそのつもりでお譲りに!?」
「さあ、どうなんでしょうねぇ?」
ニヤニヤと笑って答える高順。
「は、謀られた!?」
「嫌だなぁそんな謀るなんて人聞きの悪いさあそろそろ攻めましょうよ(棒読み」
いつもは丸め込まれているが、今回に限っては高順のほうが上手のようだ。2人の会話を聞いている楽進と干禁も顔を見合わせてクスクスと笑っている。
だが、次の言葉でそんな余裕も全て吹き飛ぶのだった。
「くぅぅ・・・仕方が無い。こうなったら・・・。」
「こうなったら?」
「高順殿!私を買って頂けませんか!?」
「ぶふぅっ!?」×3
「ちゃんと身体で稼ぎます故、どうか見捨てないで下され!」
高順・楽進・干禁が盛大に吹く。誤解されかねない事を大声で言うものだから、兵士たちまでが「はい?」というおかしな反応を見せる。
「だああっ!なんでそう毎回人聞きの悪い言い方しか出来ませんか貴女は!?」
「しかし、私は身体でしか稼げませぬから!」
趙雲は高順にしがみついて・・・というか、しなだれかかっていく。女性陣と旅をしてある程度こういった事に耐性ができた高順でも、こういうことをされるとてんで弱い。顔が真っ赤になっている。
「わかりました!今回は払いますからやめてーーー!?」
「いつまで隊長にくっついてるんですか!?」
「うわっ!?凪ちゃんまでどうしたの!?」
やはり、趙雲のほうが一枚上手だったようだ。もうあと少しで階段が城壁に取り付くのに何をしているのやら。
趙雲は、なんというか素の行動がエロい。わざとやっているときもあれば、無意識にそんな行動を見せるときもある。スタイルがいいので、そういうことをされると高順としても大いに困ってしまうのだが。
ちなみに、高順の知る中で一番エロくてスタイルがいいのは蹋頓だったり。彼女にも妙な迫られ方をしたことはあったが・・・どうして、皆そうやって自分をからかうのだろう?高順の悩みは尽きない。

ついに、と言うべきだが階段が城壁にピタリと横付けされて彼らのお笑い小劇場(?)も終わる。
階段の前に立った高順が、盾と倚天の大剣を構える。
「皆、作戦通りに行くぞ。俺が何とか道を開くから、順番に突撃をしてくれよ。」
高順の言葉に3人が頷く。同時に攻撃開始合図の銅鑼が鳴った。高順はすぅっ、と息を大きく吸い込んで「行くぞっ!」と叫んでそのまま階段を駆け上がっていく。
階段を壊すか引き剥がそうかとしていた守備兵だったが、向かってくる高順に向けて正面から矢を射掛ける。
「くそ、反乱軍が!」
「殺せ!矢を射掛けるんだ!」
「ちっ・・・!」
飛んできた矢を盾で防ぐが、何本かが勢いよく盾を破って高順の身体に届く。届くのだが腕をかすったり、鎧に当たったりと言った程度。諦めずに矢を射掛けていく晋陽兵だが、高順の突進を止める事ができない。
高順はそのまま階段を駆けていき、矢を撃ち掛けていた兵士数人を瞬く間に倒して城壁の上に躍り出る。階段の真正面にいた兵士は斬り伏せたが、左右を弓兵に囲まれてしまっている。
そこへ、高順の後ろから走ってきた楽進が城壁に手をかけて乗り込んできた。その両腕が光っていて、気弾を発射できる状態になっていることがわかる。
「はぁっ!」
楽進は高順を囲んでいた左右の兵士達に気弾を叩き込む。その余波に巻き込まれた兵士が幾人かが叫び声を上げて城壁の上から転落していった。
その状況にあっけに取られたのが運の尽き。更に趙雲・干禁も難なく乗り込んできた。高順・楽進組が右側(東)へ。趙雲・干禁組が左(西)へと攻め込んでいく。(褚燕達は南から攻めている。)
不運なのは彼らを相手にしなければいけない兵士である。
「ひ、ひええ・・・」
「くそ、化け物め!味方を巻き込んでも構わん!弓矢で・・・。」
この辺りを守る兵士長だろうか。指示を出して高順を止めようとするが、それは遅かった。
彼らが反応する以上の速さで高順・楽進が切り込んでいく。大剣で斬られ、殴り、蹴り飛ばされていく晋陽兵。
その逆側では趙雲が青釭の刀を振るっている。
既に何人も斬り伏せており、青釭の刀の威力に驚いているようだ。
「なんと、これだけ斬っても切れ味が落ちぬとは・・・。さすが名刀青釭というところか!」と感嘆の声を上げている。その傍ではいつも以上に張り切って双剣を振るう干禁の姿があった。
趙雲や沙摩柯のような華やかさがなくとも、彼女も優秀な武将である。斬りかかって来る敵兵の攻撃をいなし、的確に1人ずつ討ち取っていく。
「さぁ、どんどんかかってくるの!」
彼女達の勢いは留まることを知らない。そして、階段を駆け上がって後ろに続々と続いていく黒山兵。
高順・趙雲隊の攻撃は少しずつだが確実に城壁守備隊を駆逐していく。守備隊も溜まらず後退、城内の部隊に増援要請の伝令を送る。
だが、伝令を待つまでもなく城壁へと登っている部隊が少数あった。残りの大多数はと言うといきなり城壁に現れた黒山兵に驚いて政庁まで逃げていったらしい。
それを待っていたのだろう。どこからともなく「影」が多数現れて城門の閂(かんぬき)を開けにかかっていく。ごく少数残っていた守備隊が「影」を止めようと向かっていくのが城壁の上にいる高順達からも見えた。
「ええい、こんなところで手間取ってる暇は無いのだけどな・・・どけっ!」
「うああっ!」
高順は行く手を阻む兵士をまた1人斬り倒す。まだ城壁を登り降りできる階段までは遠い。
楽進も同じように、「影」に向かって敵部隊が動くのを見て取った。そのまま迷いもせず、城壁に足をかけて城内へと飛び込もうとする。
「ちょ、楽進!?」
なんという無茶をするつもりなのか、と見下ろしたが下に家屋がある。その屋根に飛び乗って、更に降りていこうという考えのようだ。楽進ほどの身体能力がない高順には無理な芸当である。
「隊長、先に行かせて頂き・・・危ない、後ろっ!」
高順の方へ振り返っていた楽進がいきなり叫ぶ。先ほど高順が倒したはずの晋陽兵が生きていたのだ。
楽進の声を聞いて、高順は慌てて後ろへ向き直る。その瞬間、胸から腹部にかけて鋭い熱さが走った。
「・・・ぐぅっ!?」
鮮血が飛び散り、高順が膝を付く。その目の前には傷を負いつつも剣を構えた、勝ち誇った表情の晋陽兵。
「死ね、化け物めっ!」
勝利を確信して剣を振り上げる晋陽兵。その瞬間―――その兵士の首筋に矢が刺さった。
断末魔の声を上げる事も無く、兵士は数メートルほど「吹き飛ばされた」。当然、そのまま城壁から転落。即死したのではないだろうか。
「隊長っ!?」
楽進が慌てて引き返してきた。好機と見て取った敵兵たちが殺到してくるものの、黒山兵が追いついてきて彼らに打ちかかって行く。
楽進に肩を貸してもらった高順は一体誰が矢を放ったのか、と城壁から下を見下ろす。
どうも矢を撃ったのは沙摩柯だったようだ。彼女は城門が開いたときに突撃を仕掛ける役目なのだが、城壁上の戦いを見ていたらしく高順が危機に陥った事を知ったのだろう。
(そ、そういえば沙摩柯さんって弓の方も名手だったっけ・・・?つ、痛ぅ・・・)
傷はそれほど深くないはずなのだが、切り裂かれた範囲が広いのか血が中々止まらない。
(くそっ・・・ここで終わるのか?まだ死ねないだろう。皆に給料払うって約束したんだぞ・・・。約束も果たせずに死ねる訳が無い!丁原様の、皆の仇を討ってないのに死ねるものか・・・!)
楽進が隊長、隊長!と呼びかけている声が何度も聞こえる。だが、意識が遠のいていく。周りの風景がぼやけていく。
(く、っそぉ・・・。)
ほぼ同時期に「影」が城門を内側から開いて黒山兵が城内へと攻め入ったのだが・・・それを見届ける前に、高順は意識を失った。








~~~楽屋裏~~~
母上には引っ込んでもらいましたあいつです。

高順君が初めて重傷を負いました。
ま、多分大丈夫だと思います。ここで死なれたら話になりませんしねぇ(w
次回は多分ですが、晋陽制圧が終わった後に目覚める高順、という感じで話が始まると思います。


さてさて、最初あいつは「この作品10話で打ち切るYO!」と言ってました。
それが10話越えて「あれ?終わらない」 20話越えて「あ、あれ・・・?どうしたの?なんで終わらないの?」 30話越えて「あるぇー?(ry」
全然先が見えないよどうしよう。年内で終わらせる予定だったのに無理すぎるorz
なんというか、キャラがこちらの思う以上に一人歩きしすぎです。閻行さんとか出る予定すら無かった&こんな人になるなんて・・・。
こっちのプロットをどんどん崩壊させてくれてます。

信じられないだろ。30話で虎牢関終わって徐州へ言ってるはずだったんだぜ・・・。

まだまだ(作者にも)どうなるか(本当に)解らないこの話ですが、願わくば最後までお付き合いくださいませ。
それではまた次回お会いしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第34話 晋陽的日常?
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/10 19:44
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第34話 晋陽的日常?


高順は闇の中にいる。
そこがどこか、というのは解らないだが自分は死んだのか?と思っている。
闇の中を浮いているような、妙な浮遊感。その浮遊感に逆らう事もできず漂っているような、そんな印象を受ける。
進む事も引くことも出来ない闇の中を延々と、漂う。
「やっぱ、死んだのかな。俺・・・。」
誰に聞こえる訳でもない言葉をぽつり、と呟く。その瞬間・・・声が聞こえてきた。
「勝手に死ぬんじゃないわよ。」
「・・・は?」
女性の声。聞き覚えがある。最後にこの声を聞いたのはいつだったか。
「言ったでしょ?生き急ぐような真似をしないで、って。」
尚も誰かの言葉が耳に届く。この声は・・・。
「郝・・・萌・・・?」
高順は2度と会えない少女の名を口にする。
呂布隊との戦いの最中に戦死した少女。また会おうという約束を果たしきれなかった人。
「さぁ、目を開けて。貴方を待っている人が多くいるの。まだ貴方は「こちら」に来るべきではないのよ?」
「おい、待ってくれ。こちらって何だよ?俺はやっぱり・・・。」
質問を試みるが、郝萌の声は応えない。その代わり、闇に光が差して行く。その光は次第に大きくなって―――
「か、郝萌っ・・・。おいっ!」
高順を包み込んだ。

「郝萌っ!!!」
郝萌(かくぼう)の名を叫び、高順は飛び起きた。
「・・・あ、あれ?」
寝ぼけた頭で高順は考える。今の光景は一体。郝萌の声は一体なんだった?それ以前に俺は生きているのか。
確か胸から腹に斬り付けられた筈だ、と自分の胸をさすってみる。その瞬間、激痛が走る。
「いぎっ・・・。」
痛みに高順は悶えた。というかここはどこなのだ。
辺りを見回すと、窓からは月が見えて・・・どうも夜中らしい。ここはどこかの一室。自分は寝台(ベッド)に寝かしつけられて、寝ていた・・・いや、意識を失っていたというべきか。
どうも死んだ訳ではないようだな、と思い直す。
確か自分は晋陽制圧戦で傷を負った筈だ・・・その後はどうなったのだろう?
生きているという事は成功したのだろうか?そうなるとここは晋陽城内?解らない事ばかりだ。
「誰かに聞きに行ったほうが・・・いつっ・・・。」
血を多く失ったのか頭がぼんやりとして上手く考えが纏まらない。と、そこで部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。
その向こうには包帯やら薬箱やらを持っている楽進の姿。
「・・・隊長?」
信じられないものでも見たかのように、呆然としている。
「ん・・・?ああ、楽進?無事だっt「隊長ーーーー!」ぎにゃああああああああああああああっ!?」
持っていたものをその場に放り捨て、楽進は高順に思い切り抱きついた。
「良かった・・・本当に良かった!このまま2度と目を覚まさ、ない・・・?」
「・・・(がくりっ」
「・・・え、あれ?た、隊長!?」
そう、楽進は嬉しさのあまり抱きついたのだ。「力の加減をせず、思い切り。」彼女の馬鹿力で抱き締められたせいで、高順の身体中に激痛が走る。
その激痛に対しての自己防衛本能が働いて、高順はまたしても気絶した。
「隊長?隊長ーーーー!?」
深夜の晋陽に楽進の悲鳴が木霊する・・・。


その数時間後、趙雲含め、自分の部下を全員部屋に呼んだ高順は事の次第を聞いていた。
自分が気絶した後、黒山軍は城門を突破。城壁上の敵部隊もこれまでか、と降伏。そのおかげで乱戦に巻き込まれず自分は助かったようだ。
残存した晋陽兵は太守とその取り巻きと共に政庁に立て篭もるが、状況を打破する手段などあるはずも無い。
それを見越した褚燕は降伏勧告を行った。
「このような状況を作り出した原因。民を愚かな政で苦しめた太守と取り巻きを差し出すように。そうすれば兵の罪は一切問わない。身柄の安全を保障する。」と。
事実、褚燕は降伏した晋陽兵を丁重に扱っていた。負傷者がいれば手当てもするし、戦死者も黒山兵と同じように平等に弔ってもいる。
自分の身の安全を保障され無い事に太守+αは反発するが、勝ち目の無い戦いなのがわかり切っている。
追い詰められた彼らは「身代金ならば幾らでも払うから、見逃してほしい。」と打診をしてきた。当然褚燕はそれを拒否。
「今まで民草から奪ってきたものを全て返せるとでも言うのか!」と遣わされて来た使者を切り捨てかねないほどの怒りを見せた。
それを知った太守は兵士達に何とか血路を開かせようと攻撃命令を出すが、そんな命令を聞くものは何処にもいない。
逆に兵士達に縛り上げられて褚燕の元へと突き出される羽目になる。褚燕は縛り上げられた彼らを見てただ一言。「斬れ。」とだけ命令を出した。
突き出されたものを全て斬罪にして、首は晋陽の広場にて晒されることになった。
そこまでは、誰もが思わないほどに早く終わったらしいのだが大変なのはその後だったようだ。
褚燕自身はここで満足したのだが、回りの者が褚燕に「晋陽をこのまま治めて欲しい」と言いだしたのだとか。
それは当然のことなのだろう。自分の意思で立ち上がり、戦うことを決意したのは褚燕だ。自分のやった事に自分が責任を取るのは当たり前だ。
周りの声に押され、褚燕は仕方ないと思いつつも晋陽を治める事にした。その時に名を「張燕」と改めたのだという。
問題は民が納得するかどうかだが張燕はこれまでよりも税を低く、そして戦災を蒙った人々は3ヶ月ほど税を徴収しないという事を発表。
これまでの悪政に倦(う)んでいた民衆も、張燕を好意的に受け止めたようで特に混乱も無かったのだ。
張燕は重傷を負った高順のことも気にかけていたようだが、太守代理として政務を処理する立場になったために現在凄まじく忙しい状況なのだそうな。
そして、張燕が晋陽を治めるようになって3日。つまり今だが、ここ・・・晋陽政庁のある一室にて高順が目を覚ましたということになる。

「なるほどね・・・皆、ご苦労様。」
寝台で身体を起こして聞いていた高順は皆をねぎらった。
内心ではこの戦いで一番働いてないのは自分だなぁ、と恥じ入ってしまいそうになっている。
見たところ、誰も怪我をしてないようだしそれは一安心と言ったところだろうか。皆心配してくれていたようだが、怒ってもいたらしい。
全員部屋に入ってくるなり「なんであんな無茶をした!」と本気で叱られてしまった。
怒られた瞬間に正座かつ土下座をして「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」と謝っていた高順も何だか情けないのだけれど・・・。
さて、ここで高順は約束を果たす事にした。「給金」を渡したのである。
3人娘、沙摩柯、趙雲。閻柔と田豫も呼ばれており、それには本人たちも「自分達が貰っていいんすか!?」と驚いている。
高順は頷き「2人にも迷惑かけてるんですから当然です。むしろ受け取ってくれなかったら泣く。」と意味の解らない説得をしていた。
2人とも大変喜んでいたのだが・・・趙雲が少し不満があったようだ。
「高順殿・・・頂いておいて何ですが、私の分が少なくありませぬか・・・?」
趙雲は他の者が貰った額(高順は給料を渡すときに竹板にどれだけの額か記載して渡している。給与明細のようなものだと思えばいいらしい)と見比べて不満を口にした。
これに関しては高順のほうにも言い分がある。青釭の刀を譲ったというのもそうだが、彼女は高順の部下ではなく協力者と言う立場だ。
今まで奢らされていた分も差し引いて、他の者に比べれば少々減額している。と言いながらも決して不当な額ではない。
今回高順が皆に渡した額は、本来彼女達が貰う金額の約半年分に相当する。
迷惑をかけ通しだった事。払うのを忘れていた事。干禁との約束。それら諸々合わせた、いわばボーナスのようなものだ。
高順は趙雲の言葉に不快感など感じることも無かったが、李典や干禁がむっとしたような表情をしている。
「ええやんか、貰えるだけ。」
「そうなの、趙雲さんは貰えるだけありがたがるべきなの!文句言える立場じゃないの!」
「う、むぅ・・・。」
趙雲としては回りの者たちと同等に扱ってほしいだけだったのだがそれを言われると反論も出来ない。
「なあ、高順。私の分が少し多くないか?1月分くらい多いのだが・・・。」
沙摩柯は自分の竹板を見ながら取り繕うように口を挟む。
他の者がどれどれ?と覗き込んだところ確かに多い。どういうことか、と問い詰められる前に高順は肩をすくめつつ答える。
「ああ、それは臧覇ちゃんの分です。この頃、あまり遊んであげられませんでしたしね・・・。寂しがってるでしょうし、そのお金で服やら玩具やら買ってあげてくださいな。」
「臧覇・・・そうか、あいつの分だったか。それなら良いんだ、すまない。しかし、物を買い与えられるよりは皆で遊びに連れて行ってやったほうが喜ぶと思うのだがな・・・。」
「そうしてあげたいのは山々ですけどね。状況が状況だけにそれはしばらくできそうにないんです。討伐軍のこともあれば、俺の怪我のこともありますしね。」
高順は自分の胸をつついた。
「まあ、そういうことです。で、これからの方針なんだけど・・・。」
言いかけた高順だったが、そこで扉を開けて部屋に乱入してくる人がいた。
「順!」
閻行である。そういえば彼女には誰も高順が目を覚ました事を伝えていなかった気がする。高順が皆に収集をかけたのは給料関係のことだったので失念していたらしい。
「あ、母上・・・。ご心配をおk「この未熟者っ!」げぶはぁっ!?」
『わーーー!?』
高順に駆け寄り、拳打をかます閻行。吹き飛ぶ高順。そして叫ぶ沙摩柯達。
丁原様もこんな感じだったなぁ、と薄れ行く意識の中で思い返しつつ高順は3度目の失神をするのであった。
結局、高順が次に目を覚ましたのは次の日の朝。今度は閻行にクドクドと説教をされる羽目になった。
曰く「周りにアレだけ心配をかけて、何も成長していない。」だの「修行が足りない」だの「あれくらいで気絶するとは何事ですか。私の若い頃などはあの程度の傷で失神などしたら良い笑い者でした!」etcetc・・・
あの傷で失神するなと言うほうがきっとおかしいと思うのだが、反論したら更に叱られそうな気がするので高順は謝り続けていた。
その中で、高順は更に閻行がチートな人なのだと確信する事になる。
「大体、あなたは「気」も使えません。楽進さんを見習いなさい!彼女もまだ私に比べれば未熟ですが、良い筋をしています。教えを請うては如何ですか。」
「・・・え?母上、楽進みたいに気を使えるんですか・・・?」
初耳です母上、といった風情で聞き返す。
「・・・それくらい当然でしょう?・・・まさか、順?あなた、私が馬やら牛やらを投げ飛ばすのを素でやってたと思って・・・?」
「え?いえ、そんな事は無いですよ!?」
「・・・。」
「・・・・・・。」
「できるんですけどね(ぼそり」
「!!?」
「ごほんっ。ともかくも順。貴方は昔に比べれば多少の強さを得たようですが・・・。その程度では討伐軍を相手取ることなど出来ないでしょう。趙雲さんや沙摩柯はまだしも、貴方は弱すぎる。」
「・・・反論のしようもございません。」
高順はその事について自覚していた。今回の戦いでもだが、呂布と戦ったときにも自分はあっさりと敗北した。
それまでの戦いでも、高順はそれほどの貢献をしている訳ではない。黄巾の戦いではどちらかと言えば楽進の活躍の度合いが大きかった。
烏丸戦では沙摩柯や趙雲、蹋頓の武力。公孫賛から与えられた兵の頑張りによって自分は生きながらえた。楽進を助けるための戦いでも、虹黒や曹操軍に頼らなければ自分は何も出来なかった。
前回の晋陽軍との戦いもそうだ。自分は勝利に貢献をしているわけではない。周りの人々のほうが貢献をしているのだ。
閻行の言葉に高順は項垂れた。自分の弱さを思い出し、恥じ入っていた。
きつい事を言った閻行にしても高順のことを過小評価しているわけではない。むしろひいき目があるかもしれない。真実、高順が上党に帰って来たときに閻行は「随分と逞しくなった」とその成長を内心で喜んでいたのだ。
そもそも、高順の戦う相手が悪すぎる。晋陽兵はともかくも、何十万という兵士がぶつかる規模の黄巾戦に参加、西涼同様に勇猛を以って鳴る烏丸兵を相手にする。その上、飛将と呼ばれ大陸最強の名高い呂布に挑むとは。
どれもこれも、高順が向こうに回すには分の悪い存在ばかりであった。そんな存在を相手取って、運もあっただろうが生き残ってきたことについては良くやったと褒めてやりたいところだ。
高順を叱咤する閻行も、自分が言い過ぎていることは解っている。だが、教えてやらねばならない事は多くある。この息子のことを思うのならば、少しはきつく言ってやらなくてはならない。
「そんな程度ではこれから厳しくなっていくだろう戦で生き残ることなど不可能です。ですから、貴方を一から鍛えなおします。」
「は・・・はぃぃ!?」
「そうですね、最低限、貴方を趙雲さんと互角に戦える程度に鍛えます。ちょうどいい機会ですから皆さんも一緒に鍛えましょう。討伐軍がやってくるまでにどれだけの時間があるかも解りませんが・・・。」
「え、えーと。母上。皆にはやってもらいたいことがあるのですが・・・特に李典は、投石兵器を作成してもらいたいので・・・。」
「・・・そうですか。数で勝るであろう官軍を相手にするには、そういった類のものは必要でしょうね。ですが、多少の時間は空くはずです。李典さんには軽めになりますがある程度の課題をこなしてもらいましょう。」
「え、あの、それはいつから・・・。」
高順は、幼い頃から母親に課せられた修行の数々を思い出して冷や汗をかきっぱなしだった。
今でもどうやってあの地獄を潜り抜けたのかと思っているほどに、過酷な時代だった。
「他の皆さんは今日から。貴方は傷が完治してから・・・と言いたいですが、良い機会です。楽進さんを呼んできますから待っていなさい。」
そう言い残して閻行は部屋を出て行った。
少しだけ時間が経って、楽進を連れて戻ってきたのだが、なんと閻行は楽進に「気で傷を癒す」技術を教えるのだという。
一朝一夕でできるような技術ではないので、基礎中の基礎を教える程度だそうだが・・・。この技は、基礎さえ覚えてしまえば、気の総容量やどれだけの気を叩き込むか、で随分と変わってくるものらしい。
何が何だか解らないらしかった楽進もそういった技術を教えてもらえる、ということで納得して修行をすることになった。当然のように実験台は傷の癒えていない高順である。
干禁や趙雲達も閻行に引っ張られて修行をさせられることになったがそれは割愛。
(母上、貴女は一体どれだけ・・・。あと、気を使えるのは一握りの才能ある人だと思います・・・。ちゅうか、最低ラインを趙雲さんレベルに設定って・・・立場が無いのでは。)
心底思う高順だったが、それは言わないことにした。何か怖いので。
それともう1つ。修行真っ最中に閻行は何かを思いついたようで、「これで多少はマシになりますか・・・。」と呟いていた。
一体何を考えて、何を実行したのかは知らないが・・・後になって、楽進の癒術(修行)を受けている高順に「まあ、母に任せておきなさい。奥手な順にとっても二石一鳥です!」と唐突に言い出して困らせるのであった。



その日の夜中、張燕は閻行の部屋を訪れた。張燕は閻行に対して恨み言を言いに来たのだ。
彼女は、高順達に政務に参加してもらうつもりでいたし、資金援助、そして肥料の作成などを頼み込むつもりだった。
だというのに、彼らを全員修行させるとか言い出して、計画をぶち壊されてしまったのだ。資金の事で高順を頼りにするのは悪いと思っているが、今現状で窮乏している晋陽の経済にとって、彼の資金力は旨みがある。
使える物は何でも使わなければならないほど、物資・人員共に不足しているのだから、と文句を言いにきたのである。他にも言いたいことはあった。
「閻行様・・・。いい加減にしていただけませんか・・・?」
「あら、何を?」
「何を?ではありませんっ!今の晋陽の状況を理解していただいているのですか?高順様たちに手伝っていただきたいことは山ほどあるというのに、修行だなんて!・・・はぁ、ぜぇぜぇ・・・。」
ちょっと怒鳴っただけだが、それだけで張燕は息切れをしてしまう。
彼女はこのところあまり寝ていない。それだけやる事が多いのだ。それならこんな場所に来ないで仕事をするように、と言われそうだが彼女にも言いたいことの1つや2つあるだろう。
「ええ、理解していますとも。理解しているからこそあの子達を鍛えなおしているのです。」
「それはもう少し待っていただけませんか?彼らの手を借りたいのですよ・・・。」
「申し訳ありませんが、それは出来ません。少しでもあの子達の力量を上げなくては生き残れませんからね。今回は雑魚ばかりが相手でしたが、中央の官軍が晋陽兵と同じだと思いますか?錬度はともかくも、軍需物資・装備の点で大きな差があるはずです。」
「それはそうですけれど・・・。」
「だからこそ、です。」
うう、と唸る張燕だった。高順達はあくまで協力者であって自分の正式な部下ではない。
このような切迫した状態だから使う、ということもできるのだが彼らの力量を鍛え上げれば、という閻行の言葉もわからないではない。
高順一党だけで、数百・・・もしかすると1000の兵に匹敵する力があるのだ。それが更に強くなるというのは悪い話ではないのだが・・・。
「それに、お金の事でしたら問題はありません。折を見て私から順に打診しますよ。あの子も他の娘達に給料を渡さなくてはいけませんから、無茶は出来ませんけれどね。本人はお金の事には恬淡(てんたん)とした性分ですから、あまり惜しみはしないでしょう。」
「それは・・・いえ、ありがとうございます。それと、まだ言いたい事はあるんです。」
「はい?」
「私の「影」に、何をさせたんですか?1人だけどうしても貸して欲しいというからお貸ししましたけど・・・。」
張燕は訝しげに閻行を見た。この「影」の話しは、先述の閻行の企み(?)に繋がる話であったりする。
「ふふ、それは内緒です。ですが、悪い話ではありませんよ?」
「悪いかどうかはともかく、一体どこに派遣したのですか。それは教えて頂いてもいいでしょう?」
「・・・はぁ。解りました。ですが、皆には内緒ですからね?」
閻行は仕方ないとばかりに、張燕に耳打ちした。
「え・・・えぇっ・・・?そんな場所に行かせたのですか!?」
「行かせましたね。」
「影」が派遣された場所を聞いて張燕は脱力した。一体、目の前のこの女性の交友関係はどうなっているのだろうか?
「はぁ・・・もう良いです。」
張燕はがっくりと肩を落とした。何を言っても駄目な気がする、この人は。
ただ、もう1つだけ聞きたいことがあった。前にはぐらかされたあの事だ。前線に立つのが好きなはずなのにわざわざ本陣守備に回ったりと、不自然な気はする。
閻行の言うとおりに「若い者に苦労をさせろ。」というのは偽りの無い考えだとも思うのだが、それ以外に思うところもあるのではないか?と思ってしまうのだ。
今回は邪魔が入ることは無いだろう。
「では、これで最後です・・・。前にもお聞きしましたが、何故貴方ほどのお人が上党で一市民として過ごしておられたのですか?閻行様ほどのお方であればどの勢力でも将として・・・いや、勢力の長としてこの乱世に起つこともできた筈。」
「人の上に跨る・・・。」
そこまで言った閻行だったが、張燕が何かすっげぇ顔で睨んでいるのでやめておいた。
「誤魔化さないでくださいね・・・!?」
「やだ、張燕さん。顔が修羅ですよ?」
「・・・(ゴゴゴゴゴゴ」
「・・・喋りますから御免なさい睨まないでください怖いですよ。」
「おかしな冗談を仰るからです・・・!」
張燕の言うとおりである。
閻行はこれまた仕方がないとでも言うように話し始めた。
「私はね。もう順が生まれる十数年ほど前に西涼にて乱の渦中にいました・・・。」
懐かしい話です、と呟きつつ閻行は話を続ける。
乱に参加するきっかけになったのは、馬騰と韓遂という2人の女性と知り合ったのが発端だった。
自分達の力を試したい。どこまで行けるのか、どれだけの事をできるのか、それを知りたい。馬鹿な理由ではあったと思うが、そんな志を持った彼女達は意気投合して西涼にて乱を引き起こした。
「統率」の馬騰。「知」の韓遂。「武」の閻行。彼女らの巻き起こした乱は凄まじいものだった。西涼や長安を中心に、何度官軍と衝突した事か。
幾度も幾度も死に掛かった。毎日のように敵の返り血を浴びて、身体が真っ赤に染まらぬ日も無かっただろう。
何も考えずに暴れていられたあの日々が本当に懐かしい。自分はただの武辺者としてどれだけ戦えるのか。どこまでが自分の限界なのか。敵を殺して勝ち続ける事だけを考えていれば良かったあの日々。
その凄まじい戦いぶりに、味方からは「戦場の支配者」と呼ばれ、敵である官軍からは「破壊者」などとも呼ばれていた。
馬騰と韓遂とも良好な関係であり、いつか西涼に独立した国のようなものを作りたいものだ、とも話したことも覚えている。
だが、そんな日々に暗い影を落とす人物がいた。彼女達が決起した時、他のメンバーも当然のように存在したのだ。
辺章(へんしょう)・北宮玉(ほくきゅうぎょく)という男達である。
彼らは名声が高く、西方の異民族を取り込んで兵力としていた。つまり、馬騰軍の主力部隊を作ったとも言える。
当時は馬騰が盟主という訳ではなく、むしろ辺章が盟主のような扱いであった。
しかし、統率者としても主君としても辺章より馬騰のほうが数段勝っていた。辺章は後方でじっとしているだけだが、官軍との戦いで前線に起って兵を指揮していたのは馬騰。いつの間にやら辺章達よりも馬騰らの名声のほうが高くなっていたのだ。
1つの組織に2つの派閥が出来上がっていくという図面。当然のように馬騰側へ走る者が多かった。
これが面白くない辺章は、馬騰・韓遂の主力武将である閻行を無理やりに自分の陣営に引き込もうとしたのだ。
閻行は当たり前だと言わんばかりにこれを拒否。人質を取られそうになるものの、それを食い止めて何とか逃げ延びることに成功する。が、その際に重傷を負ってしまった。
そして、それを知った馬騰と韓遂は「自分達は仲間なのに足の引っ張り合いをしてどうする。戦うべき敵は東にいるというのに、権力争いなどしているようでは先など見えない!」と激怒した。
卑怯な行いで閻行を危地に陥らせようとしたことへの怒りも混じっていたのだろう。
反乱軍の主導権争いに発展したこの内部抗争は、韓遂が辺章・北宮玉を暗殺することによって終結。反乱軍の性質が一気に変わることにもなった。
この騒動で閻行は自分の力が彼らのような存在を引き付けたのだろうか・・・。と、大いに悩む事になった。行き過ぎた武力を持ったが故に、おかしな形になった。もう一歩で友人達と戦う羽目になり、罪の無い子を人質に取られかかったのだ。
閻行はその後も馬騰の元で戦い続けたが自身の戦いの意義を見出せなくなっていった。だから、馬騰が西涼の支配権を漢王朝に認めさせた頃に彼女らの元を辞したのだ。
馬騰らも「気にする必要は無い。」と引き止めてくれたが・・・。
閻行は、元々人の上に立つつもりが無い。自分の思うとおりに暴れたいという欲求があった。
その欲求が自分の身の破滅に繋がりかかったのだ。それについて後悔をするわけではないが、行き過ぎた力はそれを御輿にしようとする人々を引き付ける。それを思い知ったのだ。
それが全うな大義を持った人々であれば良い。だが辺章らのように、権力志向の塊である人々と係わり合いになるのも御免だ。
圧政に対して立ち向かった張燕や黒山兵までがそんな存在だとは思わないが、自分たちは客将。活躍をしすぎても疎まれるだけだろう。
一番解りやすいのは保身、ということであった。
「いつの日か、私たちは張燕さんの下を去るでしょう。その時までに妙なしこりを残したくはない・・・。」
「そう、ですか・・・。」
閻行の言葉に張燕は頷いた。
「張燕さんがそんな人々と同列とは思いませんけど・・・。ですが、覚えて置いてくださいね。・・・ふふ、そんな顔をしなくても大丈夫。討伐軍を追い返すくらいは力をお貸ししますから。」
「はい・・・。」
「あの子達も、あの子達なりに自分たちの戦いに筋を通そうとしています。息子達を邪険にしないでくださいね?」
「しません!むしろ頼りにしています!」
馬鹿にしないでほしい、と張燕は子供のように頬を膨らませて反論した。
閻行にそんな過去があったとは知らなかったが、過去がどうあれ、それだけの事で態度を変えるつもりなどは無い。
「あらあら。それはありがたいお言葉ですね。さて、納得していただけましたか?」
「釈然としないものはありますけど、一応は。ただ、高順様たちにもお力を貸していただきたいのは事実です。お願いしますね?では、失礼します。」
「ええ、伝えておきますよ。」

張燕が出て行った後も閻行は少しだけ考えていた。
高順・・・息子が自分と同じ道を辿るとは思わないし、思いたくも無い。自分に無い優しさを持っている息子は、あっさりと利用されてしまうだろう。
馬騰の時と同じように、張燕を勝者にして漢王朝に晋陽の支配権を認めさせる。
それができればまず成功と言っても良い。その為にちょっとした伝手も使わせてもらおう。あとの残りは息子と、それとお金なのだが・・・まあ、これも何とかなるか。
ある程度の算段をつけたところで、閻行は寝ることにした。と、その前にもう1つ。
「武器の手入れ・・・しておきますか。」
また戦う事になるのだから、と自分の大斧を抱えて刃を磨き始める閻行だった。







~~~楽屋裏~~~
どうも、なんか咳が止まらないあいつです。
一応、母上様が戦わない理由らしきことを言ってました。戦うのは好きでも、一方的に利用される事は好まない、な感じだったのですねえ。
力を持つ者も、それなりの苦悩があるんだよ、というところでしょうか。先に言っておきますが、母上様は死にませんYO!私は嫌な話は書けないのです。
母上的には「戦いはするけど、いつまでも張燕の思惑には乗ってあげないよ」という釘差しでも合ったのでしょうかね。
高順君は最後まで面倒見るつもりかもしれないのですがw
そして晋陽軍との野戦では全力で戦っていないよ、というのを仄めかす言葉が出てました。オカシイナァ。ナンデコンナコトニナッタノダロウ?
しかし、辺章とか北宮玉とか・・・誰が知ってるんだろう、こんなマイナーw
一応の説明をしますと、馬騰は最初からではなくて途中から乱に参加しています。
最初は辺章が盟主、その下に韓遂がいまして・・・内部の権力抗争の末に韓遂が勝利、そこで馬騰を引き入れた、というのが史実でのお話だったと思います。
このシナリオではかなり捻じ曲げていますから信じちゃ駄目です。ただ後世に伝わっている史実をおかしな改変しまくってるだけで何もかもが嘘じゃないですけどね(今更・・・

さて、次回からようやく討伐に差し向けられる人が出てくると思います。
誰なのでしょうね、察しのいい皆様ならば既に解っておられると思いますがw

それではまた。




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第35話 第2次晋陽攻防戦へ。~幕間~
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/11 07:08
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第35話 第2次晋陽攻防戦へ。~幕間~

晋陽陥落を知った漢王朝は衝撃を受けていた。
黄巾の乱が終わったと思っていたら、今度は別の反乱が起こってしまったのだ。その上、その報告が来たのは晋陽太守が処断されてから丸々一ヶ月の時間が経っている。
既に多数の民衆もこれを知っており、漢王朝の威名も落ちたものだと囁きあうほどだった。
首脳陣は即時討伐軍を差し向けるように謀っていたのだが追い討ちのように、病で明日をも知れぬ身であった帝が病死。跡目争いによって、大将軍何進派と十常侍派の争いは激化していく。
その時、洛陽には袁紹・袁術、そしてその客将である孫策の軍勢も何進によって招聘されていた。
彼女達は何進派(孫策は袁術のおまけ扱い)であり、十常侍に対しての威圧目的で呼ばれていたのだ。そんな状態であり、賊軍制圧は後回しにされていた・・・いや、それで終わればよかった。
晋陽黒山賊の蜂起だけではなかったのだ。
偶然のことでしかないのだが、西と南でも争乱が起こった。まず南では、荊州南部で区星(おうせい)という男が周朝(しゅうちょう)・郭石(かくせき)という武将を率いて反乱の兵を起こす。
西においては、この頃は漢王朝に地位を与えられ沈静化、大人しくしていた馬騰が不穏な動きを見せ始めていた。
漢王朝と軍事的な衝突などはしなかったものの、軍兵の動きが慌しくなり始めているのだという。
何進も十常侍も流石に慌て、3方に対して兵を派遣する流れになった。
差し向ける主力部隊は・・・この中で一番手こずるであろう西方。そして南の区星、最後に張燕という順分けにされた。
西方には皇甫嵩、南方には朱儁。北には張温が討伐軍として差し向けられる。ただ、呂布・張遼といった精鋭部隊はそのまま洛陽守備隊として残されることになった。
彼女達は官軍と言うよりも、今は十常侍の私兵と言った立場に近い。十常侍としては自分達を守るための保険のつもりだったのだろう
何進も警戒して袁と孫の軍勢を差し向けないまま手元に残した。この流れだけで、実に3ヶ月近くの時間を空費している。

こうして、中途半端な対応の仕方をしたことで、何進・十常侍はお互いの寿命を減らす事になるのだが・・・。

その3ヶ月の間、晋陽側でも決戦準備を着々と進めていた。
高順達は閻行の元で修行。
閻行は全員を趙雲クラスまで持っていく、と言っていたがさすがにこれだけの短期間でとは行かない。
気の使用法も伝授してくれたが、楽進以外に適性を持っている者はおらず無駄足になってしまったのだった。
楽進個人は、気の総容量を増やすための特訓などもあって充実していたようだ。
閻行曰く「高順は私の息子なのだから使用できてもおかしくないと思ったのですけどね・・・。」と言っていたが、言われた本人にしてみれば「息子だからって適性持ってると限らないでしょ!?」である。
その後は地味かつ辛い特訓が続くが、高順が昔にやっていたのと違う点は「閻行がそれなりの力で稽古をつける」という点だった。
それでも手を抜いていると言うのだから、過去のものはほとんど遊びに近い感覚だったのではないだろうか。毎日のように限界まで身体を酷使して、閻行はともかく楽進は癒術練習も兼ねての治療・・・ということを繰り返す。
高順はほぼ毎日胸の傷が大なり小なり開いたりして、一番辛かっただろうが弱音を吐くこともなく必死に特訓をこなしていた。
閻行も少しずつ戦う時の力量を上げていき、皆が攻撃の早さ・重さに反応できるようになるまで・・・と、実力に見合っただけの力を出して特訓を続けていく。
その甲斐あってか、2ヶ月ほど経った頃は皆、そこそこの結果を出していた。
一番力量をあげていたのは高順である。一番と言っても、最初が弱いからそう見えるだけだが・・・母親が母親だけに、元々持っている武の才能がようやくに開き始めているようだった。
趙雲・沙摩柯・3人娘に閻柔と田豫まで猛特訓をこなして、やはり2ヶ月前に比べれば強くなっている。
閻行からすればまだ未熟ではあるが、全員で力を合わせれば・・・という程度に思えるくらいにはなっていた。
あくまで「閻行から見て」なので、当てにはならない。元々強い趙雲や沙摩柯ですら子ども扱いなのだから、彼女の基準がおかしすぎるだけである。
そして李典。彼女は別の意味で忙しい。
投石器の作成・他の仕掛け等もだが、ある事をやっている。武具の改修である。
特訓が始まってすぐのことだが、李典が高順を自室に呼んで「三刃戟」・趙雲の「龍牙」・楽進の「閻王」・干禁の「支天」を見て「う~ん・・・」と唸っているのが発端だった。
他の皆は気が進まないようだったが、武器の調子を見せてほしいということで渋々自分の武器を李典の部屋に置いていった。本人達は閻行の特訓を受けている真っ最中だ。
高順も特訓中だが李典がどうしても、と言い続けるので許可を得てわざわざやって来た。
「どうしたのさ、李典。いきなり俺達の武器が見たいだなんて?」
「いや、なぁ。これまで、兄さん達は戦を潜り抜けてきた訳やんか。で、沙摩柯はんやうちの武器はまだええんやけどな。気になって見せてもろたけど、兄さんらの装備、相当ボロボロんなっとるで。」
「・・・うーん、そういわれて見れば。」
高順は三刃戟をひょいっと持ち上げて刃の部分を見る。錆びはないが所々刃こぼれしている。
閻王・龍牙・支天も同じ。あちこちヒビが入ったり割れていたり・・・といった感じだ。
「んでな。ここらで、皆の武器を改修しようと思うんや。・・・金は高順兄さんに頼らんといかんけど。」
李典は申し訳なさそうに高順を見る。いつものことであるが、こういった事項に関しては常に高順が資金を出している。
「んー、金は出せる分は出すけど。それより、どうやって鋼鉄とかの調達と・・・施設はどうするつもりなんだ?」
「それは心配いらへんよ。前に閻行かーさんが野戦で大暴れしたやん?あの時に両断された鎧やら兜やらが廃材として残っとる。それを使わせてもらうんよ。鋼鉄と施設は街の鍛冶屋何軒かに打診したらええ返事もろーたし。」
「野戦って・・・あー。・・・あの時のか。」
高順はどこか遠い目をしながら晋陽軍との野戦を思い出す。あれは思わず晋陽軍に同情したくなるくらいだった。
「そ、あの時のな。でな、前に見せてもろうた・・・郝萌って人と朱厳って人の剣。あれを三刃戟の改修に使わせてもらいたいなぁ、と思ってる。」
「郝萌と朱厳様の・・・?」
高順は己の左腰に帯剣している2人の遺剣に視線を落とす。彼はもう一本、丁原の刀も常に佩いでいる。
「うん。その2本・・・言いにくいけど刃はボロボロで使い物になれへんやろ?高順兄さんにとって思い入れのある品ってのは解るんやけど。」
「・・・新しく作る武器に転用してやって方がいい、って事か。」
「うん・・・使いようのない武器をいつまでも装備してても意味あらへんと思う。きちっとした理由で使うんやったら、お二人も文句言わへんと思うんですわ。打ち直しても、戟と同時に何本も剣とか使用できへんやろ?・・・決めるのは兄さんやけどな。」
高順は2本の剣を腰紐から引き抜き、じっと見る。
確かに、このボロボロの剣は武器としての使い道はないだろう。まだ使用できる丁原の刀はともかくも。
迷う高順だったが、李典の言うとおり「何かに転用する事で使える様にする」ほうが・・・自分勝手な言い分である事は承知しているが、この剣にとってもいい結末であるような気もしてくる。
「丁原様に贈られた戟と2人の剣を混ぜ合わせて新しい物を作る、か。」
寂しそうに言う高順だったが、2振りの剣を李典に丁重に差し出して頭を下げた。「頼む。」と、ただ一言だけ言葉を添えて。
「ん、任しとき。出来る限り最高の状態に仕立ててみせるわ。」
その後も李典は全員を説き伏せて武器の改修を始めるのだった。
それを考えると、軽めとは言え特訓をして武装の改修をこなし、かつ投石機などの調製もこなす彼女が一番忙しいだろう。

張燕も政治に没頭して、なかなか暇がない。内政官などの話を聞きつつ色々と模索をしているようだ。
商業振興や戦災復興、兵の調練等、やるべき事は多い。その中でも一番重視したのは「商業」「農業」である。
この時代は商人という存在は扱いが悪く、搾取をされていた側の存在である。市に出入りするにはきっちりとそれ専用の名簿に登録をするのだが、それ自体に幾ばくかの費用がかかる。
きっちりとした身分でなければ登録も出来ないとか、売り上げの大多数を徴収されたりとか、それほど裕福であった訳ではない。
それでも大商人が存在するのだが、彼らは何らかの形で上に通じていたのだろう。(高順が虹黒を購入したのは洛陽だが、その時に接した売人は恐らく闇系であったのだと思われる。)
それらはこの時代の常識であり、張燕もそれに倣うべきだと思っていたのだがそれに待ったをかけたのは李典であった。
彼女、というか3人娘は自分達の村のために曹操支配下の陳留に幾度も赴いて行商をしていた。
その時には露天商として商いをしていたのだが場所代や税金などを取り立てられることもなかった。
それでも彼女達は陳留の食堂で食事をしたり、僅かではあるが陳留に金を落としていく。李典はそうやって「落とされる金」のほうに注視した。
織田信長や六角定頼の行った楽市楽座とは性質が違うのだが、国(この場合晋陽側)主導の自由市場・・・どちらかといえば混合経済だが、それを作るべきだと提言したのである。
これを流布することで商人を多数引き入れよう、情報も仕入れよう、という魂胆だが、特権を認めるのではない。商業振興するにも商人自体が少なく、また晋陽の経済事情も考えてのことだった。要するに「他所の様に多くの規制はかけないよ」ということだ。それを聞いて更に人が集まれば儲けものである。
ただし、不正や闇は原則認めない。そこは変わらないのだった。
李典の発案はもう1つあった。特産品がないなら交易をしよう、と。
完全に漢王朝に対して反旗を翻した立場の自分達が何処と? と誰もが思ったのだが李典には1つだけ心当たりがあった。
北。万里の長城を越えた先にいる人々・・・烏丸族と。
烏丸族は一定の場所に定住しない遊牧民族である。
彼らは現在公孫賛と強固な同盟関係になるが、漢王朝に屈している訳ではない。
単干(烏丸の代表者のこと)代理の蹋頓、そして次代の単干である丘力居の方針で逆らいはしないと言う態度だが服属した訳ではない。何かの切欠があればいつでも暴発する危険性は持ち得ている。
その烏丸族だが、特産品がないわけではない。毛皮・酪(乳製品)・放牧動物・岩塩などを不足しがちな穀物や工芸品と交換するような形で日々の糧を得ている。
現在は北平の公孫賛とのみ交易をしているだろうが、そこに加えてもらおうということだ。公孫賛に迷惑がかかる可能性もあるが、公孫賛を通さずにやってしまえば良い。
もし、晋陽と烏丸の関係がばれたとして、現在の漢王朝に長城を越えてまで烏丸族を征伐する余力はないだろう。
自分達に逆らわなければ、と妥協をするのではないだろうか。李典はこう踏んだのだ。
何よりも。
「うちらには、烏丸と密接に関係してる人がおるねんで?な、高順兄さん?」
「え、俺?」
・・・と、こういうことだった。
蹋頓に対して高順が直接頼み込めば決して悪い顔はされない。そういう考えだった。
ただ、交易はともかくもそれ以外はいきなり実行するのではなく財源確保をきっちりと確立してから。そして戦争が終わってからと言うことで決着をつけた。
まだまだ戦いは続く。そんな状態で人が来る筈もない。
問題点も多々出てくるだろうが張燕にしても李典にしても政治のプロではない。色々な人の話を聞いて、実践・失敗をして、そこから学び取っていくしかないのだ。
高順にも言いたい事はあったが、大抵の事は李典の口から出ていた。こういう話は自分よりも彼女達のほうがよく知っている。
だからと言うわけではないが、高順はこれ以降晋陽の政治に対して口を出さないようにし始めた。李典達の経験のほうこそ頼りになると判断した為であった。

そんな晋陽に向かって前述の通りに討伐軍が派遣された。
総大将は張温。その数4万と言ったところ。
この数は張燕晋陽軍の総兵数と変わらないのだが、これは官軍側の情報収集が甘かったせい。
官軍に伝わった張燕晋陽軍の総数は1万4千という数。これは張燕が晋陽を攻めたときの兵力数である。
その後に入城した残り2万数千は、全く話題に上っていなかったのだ。
それともう1つ。
派遣された張温と言う男・・・はっきり言って戦下手である。彼は元々西涼方面に配置された武将だったのだがあまりに戦下手すぎてほとんど勝利した事がない。
相手が馬騰軍だったということで相手が悪すぎるとも言えるのだが・・・そんな経歴のために賊軍討伐に向かわされたのだ。
今作戦で西涼方面に向かったのは皇甫嵩だが、彼女はこの時代で官軍最強の統率者であっただろう。
だからこそ、戦えば苦戦は間違いないと思われる西涼方面へと配置されたのだった。
それに比べれば、晋陽の事などは2の次3の次程度の考えだっただろう。
その油断は、過去に張温部隊を散々に打ち破った閻行を擁する張燕晋陽軍にとっての幸運ともいえるが・・・それが語られるのはもう少し後のお話。



おまけ。

~~~その頃洛陽にいる孫策達~~~
朝。洛陽の大通りを歩く3人の女性がいる。
全員、グラマラスな上に布地面積が少なすぎる服を身に纏っている。そう、孫策・周喩・黄蓋。孫家の人々である。
「しっかしまぁ・・・あの高順がねー。」
腕を組みながら歩く孫策が半ば感心したかのように言った。
「ああ、正直驚いたな。」
その隣をあるく周喩はしたり顔である。この時点で、高順一党は既にお尋ね者として国中で手配されていた。
趙雲・沙摩柯は・・・実際には素性が知られておらず、高順一党と言われても、高順以外の誰がいるのかと言うことは全く知られていない。
知っているのは呂布達しかいないのだが、その呂布達から得られる情報が曖昧なものばかりだった。高順の罪は官軍である呂布に挑んだという反逆罪なのであるが、解っている事はそれだけしかない。
何処に行ったか。高順一党、と言ってもどれだけの人数がいるのか。それすらもよく解っていないのだ。
「驚いたわよねぇ・・・まさか、あの呂布に挑んだなんて。」
孫策は黄巾戦の時に出会った人の良い青年の顔を思い出していた。確かに戦場では中々の武勇を見せていたが、まさかあの呂布に挑むとは。
その結果賊として手配されたのだから間違いなく貧乏くじだろうが・・・。
周喩も同じ考えだったが、彼女はそこからもう1つ「何故呂布に挑む必要が?」ということを考えていた。
高順の武勇、彼に従っている少女達の武勇。それはよく理解していたが彼ら全員の力を結集させても呂布には敵うはずがない。にも拘らず、一体何故・・・?
何か理由があってのことだ、くらいは解る。少しだけ頭の中で物事を整理していた彼女だったが、1つだけ鍵となりそうなことに思い至った。
「そういえば・・・同時期に上党太守の丁原殿が反逆者として呂布に斬られたという話があったな・・・。確か軍勢同士がぶつかったとか。」
「あー。そんな事聞いたっけ。でもさぁ、あれってどうなのよ?」
「どう、とは?」
「反逆者って言ってもさ。具体的にどう反逆したかは全然伝わってこないじゃない? これでさえ十常侍の言い分を全面的に信用して、という話だしね。」
孫策の問いかけに周喩もふぅむ、と顎に手を当てて考え込む。
「十常侍にとって都合の悪い事をしたとか、言動があったとか・・・。その辺りだろうな。その同時期に呂布に挑んだ高順。・・・ふむ。」
彼女達は丁原が高順の主君である事を知らない。知っているのは公孫賛の客将であるとかその程度だ。
彼の出身やら何やらまで詳しく聞いていた訳ではない。だが、周喩は彼らが主従関係であったのだろう、とおおよその見当をつけていた。
そんな周喩の考えを他所に孫策は尚も話し続ける。
「帝が亡くなってすぐに何進と十常侍の権力争い。西方・北方・南方でほぼ同時に起こった反乱。本当は南方の平定には私達が行くはずだったのにさぁ。勲功稼ぎ出来なくなったじゃない。」
南方、というのは区星の起こした乱を指す。区星は長沙の賊で乱を起こした場所は荊州南部。
本来ならば袁術や劉表、そして袁術の将である孫策たちが出張る筈だったのだが、袁術が何進の呼びかけに応じて自分たちまで洛陽まで連れて来たせいでそれが不意になってしまった。
その上、この都では自分達などお呼びでないような扱いだ。十常侍が身の安全のために呂布軍を残したので、何進は警戒して呼び寄せた自分達を守りとして配置したのだ。
中央に呼び出されて南には行けなくなった。が、西・北で戦乱が起こって自分達の活躍場所が出来た! と張り切っていたというのに。これではお預けを喰らったような状態に近くて悶々としてしまう。
「あーもー! 暴れたい! 戦いたいー!」
「おい、孫策。天下の往来で叫ぶな・・・。ん?黄蓋殿は何処に行かれた?」
「へ? あれ、どこ行ったんだろ。さっきまで其処にいたのに。」
孫策と周喩は黄蓋の姿を探して辺りを見回す。
「まったく、こんな時に。まさかそこらの酒処に入って一杯引っ掛けているのでは・・・。」
「だーれが酔っ払いだ!」
今まで2人が探していた黄蓋その人が路地からひょっこりと姿を見せた。
「誰も其処まで言っていません・・・。」
「って、そんなとこで何してるの?」
孫策の疑問に答えるように黄蓋が一枚の紙をひらひらと振るった。
「なぁに。面白いものを見つけましてな。少し前まではなかったものですが・・・ほれ。」
そう言って孫策にその紙を手渡す。
「ん、何々・・・「以下の者、漢王朝に弓引きし重罪人。生死を問わず捕らえた者に8万銭の褒賞を与えるものなり。」ああ、高順の手配書のこtブファッ!?」
孫策が思い切り噴出した。
「な、なんだ。どうしたんだ、孫策?」
お腹を押さえて必死に笑いをこらえてる孫策と、それを見てニヤリと笑う黄蓋。
「ぶ、くっくく・・・。これ、見てみれば、わか・・・あはははははっ!!」
差し出された手配書を手に持った周喩。
「以下の者・・・ふむ、確かに手配書・・・手配・・・。」
ここまで言って、周喩は完全に硬直した。そして暫くして。
「んくっ・・・くく、こ、これは・・・こ、れは・・・は、ははははは・・・。」
普段は笑うときでも上品な笑い方をする周喩だったが、不意を突かれたらしい。口を押さえて「ぷ、くくく・・・」と抑えているがちょっと涙目になっている。
何がそんなにおかしいのか、と言うと手配書に描かれた高順の顔である。
なんと言うか、子供の落書きレベルと言うか・・・角が生えてる。目が4つある。腕が3本ある。下半身が馬。人間の範疇を超えすぎている。滅茶苦茶すぎる。
「これ。誰が書いたのかしらね・・・ぷふっ。駄目! それこっちに見せないで周喩! 素敵だからあっち行って・・・!」
「私は何も悪くないぞ?しかし、これはっ・・・高順が知ったらどんな顔をするやら・・・。」
本当にどんな顔をするだろう。これを見せられたらものすごく微妙な表情を見せるだろうことは想像に難くない。
「そう思うじゃろ?しかしなぁ・・・一体何をお手本にしたらこんな顔になるのやら。」
黄蓋が手配書をもう1度手に取り「むー。」と考え込む。こんな特徴を伝えるほうも伝えるほうだが書くほうも書くほうだ。
というか、これを正式な手配書として公開するのがおかしい・・・よほど目撃者は高順の顔を覚えていなかったのか。
やらかしたのは呂布だが3人がそんなことを知る由もない。
呂布は高順を見逃すつもりのようで適当な特徴しか口にしなかった。高順のことを見た兵士達も呂布の意を汲んで適当な事ばかり言っていたのでおかしなことになってしまったのだった。
「まぁ似顔絵の事は置いておくとしてだ。孫策、例の賭けはまだ有効だぞ?」
「へ?・・・ああ、ライチ酒ね。でもさ、高順が賊になっちゃったなら私の勝ちで良いと思うのだけど?」
「なぁに、まだまだ解らんさ。西の馬騰のように最初は反乱軍だった者がれっきとした太守になった例もある。」
孫策の言葉に周喩が挑戦的に返す。どうしてそこまで高順の事を買っているのやら。
「まあいいけどさ。でも、あたしが負ける要素は何もないのよね~。」
「さあ、どうかな。どういうわけか今回ばかりは負ける気がしない。本当に理由は解らないのだけどな。」
そう、今回は負ける気がしない。理由など解らないのだが、自分の感がそう告げている。
黄蓋も同じらしく、自信満々である。
「ふーん。別にいいけどさ・・・。」
孫策はどことなく面白くなさそうに呟くだけだった。




~~~楽屋裏~~~
衝突するかと思ってたのに、幕間になってしまった・・・あいつです。
幕間、ですが第2次晋陽戦までの流れって感じですかね。武器の修繕とかそういう地味な話も出ました。
それと、こういうシナリオ書くためにあちこちのサイトで当時の文化やら何やら調べてみたりって事が多いのですが。
当時の城壁、10メートルとか20メートルの厚さがあったらしいですね。

あれ、楽進さん気弾でぶち倒してなかった・・・?(汁
あ、あれは若さゆえの過ちなんだから!誤解しないdごめんなさい私が悪うございました(土下座
書けば書くほど穴だらけのシナリオだという事が良くわかりました。こんな駄作を読んでいただいてる事がなんと言うかもう申し訳ないorz

シナリオ中で烏丸と交易する?な話になりましたが、この中で公孫賛と烏丸は強固な同盟関係を結んでいる、と出ました。これが彼女の運命の分かれ道です。そして高順の手引きがあれば張燕とも・・・?
蛇足かもしれませんが劉虞と烏丸の関係は冷め切っている状態です。
蹋頓も意味もなく交易してくれるとは思いませんけどねぇ。ただ、北平との交易だけでは不十分かもしれませんし、これからの展開を考えて何らかの接触を持たせるのも良いかと思います。

それともう1つ。張温という人ですが、呉の人ではなく洛陽の人です。同名の方がいるのですな。
この人、史実でも戦争が下手だったようでいろいろな人に批判されています。最後がアレなせいで相当損な役回りですな。
派遣される場所が基本的に間違ってるとは思うのですがどうかご勘弁を。
最後のおまけもお遊びです、どうかご勘弁ry


さて、次でようやく討伐軍が晋陽へ向かいます。どうなるのでしょうね。
それではまた次回。(・・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第36話 第2次晋陽攻防戦。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/14 07:22
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第36話 第2次晋陽攻防戦。


総数4万ほどの軍勢、いや、討伐軍が上党を通り過ぎ張燕晋陽軍を殲滅するために進軍している。
所詮は賊討伐、と高をくくって出陣した張温だったが自身の戦績に不安があり、十常侍からの命令もあったので助っ人を用意していた。
ただ、助っ人を用意していても破砕槌(城門攻撃兵器)をほとんど用意してない時点で張燕晋陽軍を甘く見すぎている。
だからこそ助っ人として派遣されてきた武将と、その配下6千の兵士は不安が募っていたのだった。
助っ人・・・紫を基調とした服。服と言っても下はチャイナドレスのような大胆なスリットの入ったものだ。
上半身は胸当てと両腕を覆う腕当て、首当てのみ。その首当てから2本の長いリボンのような布地を垂らしている。流石にそれだけでは寒いので、その上に白地の外套(マントのようなもの)で身を覆う。

その武将。名を華雄(かゆう)と言う。

「ふう、流石にここまで北に来ると寒いな・・・。」
軍勢の先頭付近を進む華雄は体をブルッと震わせて呻くように言った。
「ならば、もっと厚着をしてくるべきだったのでは?」
「そうですな。普段の薄着でさえどうかと思いますが。」
「それで良く風邪を引かないなと感心さえ致します。」
「そうですよぉ、そんな控えめな胸でそんな露出の高い服は駄目ですって。」
「・・・お前ら、後で覚えてろよ?」
周りを囲む武将の軽口に、華雄は少しへこみつつもにらみ付けた。
言った順番に武将の紹介をすると。胡軫(こしん)・樊稠(はんちゅう)・李粛(りしゅく)・徐栄(じょえい)である。
「まぁまぁ、そう仰らないでくださいよ。」
繕う様にいう徐栄をジト目で睨みつつ、華雄は「うるさい。」と返す。
「私みたいに大きければそれはそれで邪魔なんですよぉ?」
「うっさいうっさい聞きたくないー。胸の話はやめてくれ!」
武才には自信がある彼女だったが、胸の大きさには多少コンプレックスがあるらしい。耳を塞いで頭を振りまくる。
「そうだぞ、徐栄。華雄将軍はご自身の薄い胸に大いに不満があるのだ。」
「うむ、将軍の薄い胸の話はそれくらいでだな。」
「薄い胸薄い胸と年頃の女性が言うべきではありませぬな。」
「解りました、薄い胸の話はもうやめておきます。大丈夫です、小さくてもそれはそれで!!」
「・・・お前らが私のことを嫌っているのは良く解った。」
あまりの言い草に、流石の華雄もふてくされてしまった。
「えー、私は華雄将軍の事大好きですよ?苛めると楽し・・・まあ、胸はいいとして。華雄様が今回の戦に不満があるのは解るのですけど・・・。」
徐栄は声を落としてそんなことを言う。確かに華雄は今回の出撃に不満があった。
張温が戦下手だから、とかいうことではない。張温が自分達と対立する十常侍派の立場の人間であるからだ。
華雄は立場上、呂布陣営・・・董卓陣営と言い変えたほうがいいかもしれない人である。
十常侍はその董卓と友人である賈詡を共に呂布に対しての人質としたのだ。当然、自分達に対しても。何とか奪還できれば直ぐにでも逆襲に転じるというのに。
監禁されている場所も解っているが流石に守りが厚い。
だが、機会は必ず来る。
状況は揃っているのだ。あとは何進か十常侍。どちらかが暴発してくれれば洛陽守備隊として残っている呂布・張遼の出番だ。
正面きって宮中に奪還に行っても董卓らが人質にされて結局は動けまい。しかし、何らかの形で宮中の混乱が起きればどさくさに紛れて両者を取り戻すことだって出来るはずだ。最低限十常侍を取り除ければそれでもいい。
問題は何進が手元に置いた袁家の軍勢。
「・・・呂布たちに任せるしかないのだがな。」
頼んだぞ、と心中で思うしかない。
今は自分達の戦に集中しよう。圧制に対して立ち向かった晋陽の連中には悪いと思うのだが・・・。
ここで、華雄はあることを思い出した。
「おい、樊稠。例の手配書を持って来てただろ?一度見せてくれないか。」
「は。・・・どうぞ。」
樊稠と呼ばれた男は懐から丸められた一枚の紙を取り出して華雄に手渡す。
「高順、ねえ。丁原とやらの配下だったとか色々な話は聞くが・・・。」
華雄は高順のことを一応は知っている。呂布に聞いた話でしかないが気の毒な男だと同情してしまう。丁原に直接手を下したのは呂布であるが殺すように指示したのは十常侍だ。
高順とやらが主の仇を討とうとして呂布に挑んだという話も張済から聞いた。その結果、賊にされてしまったのだから不幸としか言いようがない。
「丁原に罪はないのだがな。主従どちらにとっても不憫な話さ。十常侍め・・・。」
しかし。しかしだ。
この手配書に書かれた高順の似顔絵。一体何だこれ?華雄は手配書とじっと睨めっこをしてそんなことを思っていた。
「なあ、お前ら。こんな腕とか目が沢山あって下半身馬っていう存在を見たことがあるか?」
『ありません。』
「そうだよなぁ・・・・・・。」
即答だった。
「呂布・・・高順と言う男の外見を素直に喋るつもりなかっただろ。これを正式な手配書として公開するのもどうかと思うぞ・・・これを頼りに探せって言われても先ず無理だ。」
「特徴を伝えたのは呂布様だそうですが・・・書いたのは陳宮殿だとか。」
「あいつが書いたのか・・・。」
もう少し、なんと言うか絵心のある奴に書かせるべきじゃなかったのか・・・?
馬上でじっと似顔絵を睨めっこを続ける華雄であった。

~~~晋陽~~~
張燕側でも、既に討伐軍4万がこちらに向かって来ている事を「影」の報告で掴んでいた。
この晋陽に討伐軍が到着するのは恐らく2日3日かかる、という事らしい。強行軍で来る可能性もあるから油断はしない。
張燕の指示で既に城壁上に守備隊を配置。城内にも李典お手製の投石機が3基配置されている。
城外にも陣地を構築してあり迎え討つ準備は万全・・・と言いたいところだが、一部そうとは言えない人々がいた。
高順達である。
「李典ー! 俺の武器はまだなのかー!?」
「ちょ、ちょい待ってもうちょい待ってー! 高順兄さんのはも少し待ってー!」
「おい、この改修された鎧どうやって着るんだ!」
「だあああっ、さっき説明したやんかーーーーー!」
新武器の扱いで困り果てていた。
「はぁぁ・・・高順殿と楽進はもう少し時間がかかりそうですな。」
「ああ。楽進の場合は鎧の部分が多くなったから仕方ないのかもしれないけどな。」
趙雲と沙摩柯はため息をついている。
閻行は城内守備(というか城門)、干禁は既に城外陣地へと赴いている。
趙雲と干禁の武器も新調されている。外見はそれほど変わっていないが趙雲の槍「龍牙」は少しだけ変化していた。
この槍は対となった先端のある槍で刺すことに主眼を置いていた。新たな「龍牙」は、その先端部分の交換が可能となっている。
装着できる物は青釭の刀。薙刀のようにも使用できる。青釭の剣の威力も高いので刺すだけでなく斬るという動作も可能になった。
趙雲はこの槍を「龍閃」と呼ぶことにしたようだ。
干禁は二刀流の使い手で、彼女の双剣「二天」も同じく改修されている。
見た目は変わらないが鋼鉄製になっていて、耐久性・威力共に底上げされている(これは他者の改修武器も同じである)。
干禁は見た目の変わらない自分の武器に何と言う名前をつけようか大いに悩み、高順に助け舟を求めていた。
「俺、そういう命名に対しての才能はないよ?」と言いつつも高順は必死に考えたらしく、出された名前が「摩利支天」である。
天がかぶってるから、とかそんな理由だったようだが干禁本人はいたく気に入ったようでそのまま摩利支天と呼んでいる。
そして楽進の鎧、「閻王」。この鎧は軽鎧といったほうが良い物だった。胸・膝から足・手甲、と楽進の戦い方に合わせてのものだったが防御力は大して無い。
そこで、防御力と攻撃力を重視したものに作り直そうと、ほとんど新規に作り直したといってもいいほどの代物を李典は作り上げた。
簡単に言えば全身鎧。ちゃんと腕・太もも・腹部・首・そして顎部分まで覆える鎧になっている。そのくせ間接部分に工夫を凝らしており、楽進の軽快な動きを全く損なわない作りだ。
一番変わったのは手甲であろう。今までは拳を傷つけないように丸く作られていたのが、かなり鋭角的な作りへと変化している。
そしてこの手甲。専用の長剣をはめ込むことが可能だ。
馬上戦でリーチの短い手甲では戦いにくいことこの上なかったが、専用武装を作り上げて、且つそれを装着できるような形にしたわけだ。
これで馬上戦でも対応可能になっていたが、楽進は「刃物はあまり使いたくありませんけど・・・。」と少し残念そうではあった。
この鎧、楽進も良い名前は思い浮かばなかったらしく、またも高順が名前を考えさせられる羽目になる。結果的に閻王ではなく「焔摩天」と名づけられた。(「マヤで良いんじゃないか?」と言ったら何か全力で嫌がられた
そして高順の武器。これがまだ完成していない。
最悪の場合、倚天の大剣で戦わないといけないか・・・と、高順は考えている。
だが、それ以上に最も厄介な事があった。つい先ほどまで高順は閻行と特訓をしていたのである。
これまで延々と特訓を繰り返してきたが、今の高順は他の誰よりもボロボロである。腕と足は包帯だらけ。胸の傷は少し無茶をすればまた出血するだろう。
楽進の癒術で痛みはほとんどないものの、いきなり戦闘に参加するのは辛い。
その上、三刃戟に代わる武器がまだ完成していない。今すぐ戦闘になるわけではないが「間に合わないかも・・・」と高順は考えていたのだった。

~~~2日後、晋陽~~~
高順・閻行・李典以外の全員が城壁或いは城外陣地に配置され、迎撃態勢をとっている。討伐軍は張燕軍陣地より3里(約1・2km)南に布陣。こちらも攻撃態勢を敷いている。
その先鋒には華雄軍6千が布陣。後方に張温率いる官軍3万数千が控える。
対する張燕軍の城外陣地には7千ほどを配置して、城壁ならびに城内守備に合計3万。
篭城策を取るべきなのだろうが、破砕槌で城門を突破される事を懸念して迎撃。また、城内設置の投石機には2通りの種類があって、攻城兵器を攻撃するための大岩投擲用が1基。人を攻撃するためのものが2基。指揮を取るのは李典である。
対人間用はとにかく「数撃ちゃ当たる」なもので、握り拳大の石を大量に且つ広範囲にばら撒く。便宜上「散弾型」とでも呼ぶことにしよう。これは一基が城壁前に石を飛ばせるように、もう一基が大岩投擲と同じ場所にばら撒くように調整されている。当然移動もできるし射角も変更可能だ。
破砕槌さえ壊してしまえば後は篭城で石をばら撒けるだけばら撒く、もいい。(篭城して大岩投擲で破砕槌のみ狙えばいいという意見もあったが城門に取り付かれると射角の問題で当たらない)
陣地を作ったのも、そこから南であれば大岩が届くという場所でもある。
とにかく防御に徹して相手の攻撃手段を封じ込め、そこから反撃をするという作戦であった。破砕槌が出ないのならばそれはそれで良い。城門守備に閻行が配置されたのは城門を突破された時の為でもある。
さすがの閻行といえど、単独で破砕槌を破壊する事などできよう筈もない。誰もがそう思っていたのだ。
そして晋陽陣地。そこには張燕・趙雲・沙摩柯がいる。騎馬隊は前晋陽軍からあった部隊をそのまま使用しておりその総数は1500ほど。残りは全て弓・歩兵だ。
常に他方向から射掛けられるようにジグザグに、幾重にも巡らせた木柵。城壁上からの方向指示で散弾型投石機の攻撃も待ち構えている。
守りを固め続けていれば確実に討伐軍は消耗する。また、張燕は「影」に命じて補給部隊があれば妨害するように命じている。補給が完全に途絶えることはなくても滞れば更に討伐軍の消耗は早まるに違いない。
問題はこちらには補給がなく、長期戦になれば食料が保たないという点である。防衛戦を展開しつつ、時間との勝負・・・。だが、やるしかない。
そして明朝。降伏勧告も宣戦布告もなく、討伐軍は張燕晋陽軍に突撃して行った。

「来ましたか・・・。弓兵、構えっ!」
張燕の指示を受けて兵が弓を構える。
総大将である彼女は本来城内で指揮を取るべきなのだが本人がそれを良しとせず前線(本陣だが)まで赴いている。
張燕自身もかなりの武力を持っており、決して邪魔になるような人ではない。
対して討伐軍先鋒部隊の華雄も騎兵に弓を構えさせて自身も同じように突撃をしている。
「行けっ!反乱軍を蹴散らせ!」
「ははぁっ!」
華雄の号令一過、騎兵部隊が先駆けていく。
彼女もまた「将たるものが後方でダラダラしているべきではない!」という人で、部下から何度も諌められているがその癖が治らない人だった。
その上、武力も統率力も高く結果を出してしまうから余計に人の言う事を聞かなくなってしまう。
徐栄も何度か諌めたが結局言う事を聞いてくれない。少しくらい痛い目にあったほうがいいのかも?と考えているが、流石にそれを口に出す事はできないだろう。
華雄に従って徐栄達4将も華雄に従い駆けていく。
「もう少し引きつけて・・・撃てっ!」
張燕の号令に従って弓兵が矢を放ち、討伐軍の騎兵が倒れていく。味方の亡骸を乗り越えてきた討伐軍兵士も騎射(馬に乗りつつ矢を放つ事)で反撃。張燕側の兵も同じく倒れていく。
討伐軍先鋒部隊は6千で、張燕側は7千。防御陣地に篭って戦うがどうしても不利だ。
(投石機を使用したいですが、まだそれほど多くの兵を釣り出していない。もう少し引き付けなくては・・・。)
兵士達に混じって趙雲と沙摩柯も矢を放つ。特に沙摩柯の矢は確実に敵騎兵を撃ち抜いていく。趙雲もそうだが、威力の点で言えば沙摩柯のほうが上で矢を番える速度もまた速い。
ちょっと不満そうに趙雲は呟く。
「むぅ、槍では負けぬと思いますが・・・弓では敵いませぬかな?」
「そんな事はないだろう。・・・ふっ!」
沙摩柯の放つ矢がまた騎兵を捉える。
「そんな事とはどちらですかな。槍では負けぬ、と言う意味か、私の弓の腕が沙摩柯殿に劣らぬ、ということか・・・。」
負けじと趙雲も矢を放ち兵士を討ち取る。
「さあな。それは自分で考えろ!」
言いながら沙摩柯はまた矢を放った。

最先頭を進んでいた討伐部隊は柵を越える事ができないまま、手数の差で押し込まれて後退。その後ろから徐栄が少し先行するように一騎で駆けていく。
当然、弓兵が徐栄を狙うが殆どの兵士が徐栄1人を狙って矢を放った。
自身を狙って飛んでくる矢を見ながら徐栄は笑った。
「貴方達は正しい。まったくもって正しい。けどね・・・。」
徐栄は槍を旋回させて、飛んできた矢を全て叩き落した。
「そんな程度でこの徐栄を止められると思うなぁっ!」
その徐栄の直ぐ横に樊稠も追いつき、同時に進んでいく。
それを見ていた沙摩柯と趙雲は、1つ目の柵を放棄して後方へ下がるように兵士達に命令を下して、干禁と共に待機している自軍の騎馬隊へと向かっていく。張燕側の陣地には柵が4段あるが、後方に行くほどに柵は広がり、控える兵の数も多くなる。
退き遅れた兵士達があっさりと柵を越えた徐栄たちに討たれ、後続の騎兵隊も遅れじと追いついてくる。
その頃には趙雲達も自身の馬に跨っており、突撃態勢も整っている。突撃してきた討伐軍の騎馬隊を第2の柵と兵に防がせ、趙雲達は迂回、横腹を突く。
そうすれば後方で待機している討伐軍本隊を釣りだせる布石くらいにはなるはずだ。ただ、彼女達は討伐軍大将の張温が臆病な性格であることを全く知らなかった。
そして、樊稠らの後ろに控えていた華雄という将軍の事も。

流石に徐栄達でも守備兵が多数いる柵を抜く事は容易ではないらしく、手こずっている。
武将達は手傷を負っていないが、張燕軍はとにかく歩兵が槍衾で防御を固め続けて後方から矢を撃ちまくってくる。
「ちっ、思ったよりも・・・!」
李粛が矢を叩き落しつつ叫んだ。徐栄は楽に矢を落としたが、彼女ほどの武勇を持っていない他3将には少し辛いようだ。
その上、防御部隊に手間取っている間に騎兵主体の攻撃部隊がこちらの側背を突こうと迂回し始めているのが見えた。
「くそっ、たかだか反乱兵と思っていたが中々やる!」
なんとか第2の柵も突破してしまいたいが張燕軍の抵抗も激しく先に進めない。そこへ、華雄が進み出てくる。
「これを突破できればいいのだろう?」
「は・・・? 華雄将軍!?」
長槍の槍衾・引っ切り無しに射掛けられてくる矢をものともせずに前に進んでいき、得物である大斧「金剛爆斧」を思い切り柵に叩き付けた。
柵がめきめきと音を立ててあっさり崩れていく。華雄は破壊した柵を乗り越え、何が起こったのか解らないまま呆然としている張燕軍兵を金剛爆斧で薙ぎ倒す。
「・・・はっ!?」
徐栄達も呆気に取られていたが、すぐさま思い直して華雄に続いて突撃。
張燕第二陣も切り崩され始めていく。
迂回して討伐軍側面を付こうとしていた趙雲だったが、柵を抜かれたのを見て馬首を翻した。
このままあの先頭を進んでいく武将、名前は知らないが放っておけば張燕本陣まで崩されかねない。
「干禁、沙摩柯殿はこのまま進み攻撃を!我が隊は本陣救援に向かう!」
伝令を飛ばし、趙雲は300の騎兵を伴って引き返す。
「やはり何事も思い通りには行かぬか!・・・チッ!」
趙雲が引き返すことを察知したか。武将と思われる男が幾許かの兵を兵を率いて足止めをするためだろう、こちらに向かってくる。
その武将が長剣を掲げて名乗りを上げながら駆けて来た。
「我が名は胡軫!反乱軍の将と見受けたぞ、勝負いたせ!」
「ええい、かかずりあっている暇は無いと言うのに!!」

~~~晋陽城・城壁~~~
自軍が苦戦している様子を、高順と楽進は黙って見ていた。
ここで投石機を使うべきなのだろうが、柵2つを短期間で越えられた事で乱戦となってしまい使用することが出来ない。
しかも、先頭を進んでいる女武将(華雄)が強く兵士達では太刀打ちが出来ない。何とか兵士が足止めしようとしても大斧を振り回して寄せ付けない。
その周りを固める3人の武将も強く、余計に手が付けられない状態だ。趙雲が本陣守備のために動き始めたが足止めの部隊に邪魔をされて思うように進めない。
救いがあるとすれば干禁と沙摩柯も討伐軍の脇腹を突いて面白いくらいに突き崩している事だが・・・これは敵戦力が前方に集中しているからかもしれない。
どちらにせよ、ここで城方から援軍を派兵しないといけないようだ。閻行が城門守備ではあるが投石機のほうへ行っている。
彼女1人で腕力に秀でた男衆数人分の膂力だ。まだ城門を攻められる事はないと見越して「投石機に石を運び込む・発射」の流れ作業に組み込まれている。
「こうなったら楽進か俺が行くしかないか・・・しかし、まだ俺の武器は完成してない。倚天の大剣と丁原様の長刀だけで行けるか?」
その上高順の体の傷が完全に癒えていない。癒術が間に合わなかったのだ。倚天の大剣の柄を握り締めて、高順は城壁の階段を下りようとする。
「お待ちください、隊長。」
そんな高順を、楽進は止めようと声をかける。
「止めないでくれ、楽進。このままじゃ本陣が落とされるぞ?」
「いえ、アレを。」
「・・・?」
楽進は城内の往来を指差す。そこには閻柔と田豫が2人がかりで布に包まれた大きな槍のようなものを運んでいる姿が見えた。
「あれは・・・。まさか三刃戟の改修が終わったのか?」
そう言って階段を駆け下りていく高順の姿に、楽進は苦笑してしまった。怪我だらけだというのに、思った以上に元気そうだ。
自分達の元へと駆け寄ってくる高順の姿を見つけて、閻柔と田豫も急ぎ足で近づいていく。
「高順様、ようやく改修が終わったっすよー!」
「急いで持ってきたつもりだったんですけど・・・重かったっす・・・。」
「そうか・・・ご苦労様。」
礼を言って、高順は2人がかりで担いでいた物を片手で軽々と持ち上げ、包んでいた布を取り外す。それを見た高順は感嘆の声を上げた。
柄まで傷だらけだった三刃戟だったが、これは傷1つない。また、三つの刃があった三刃戟とは違って、これは刃が一つ。
ただ、その刃がこれまでのものに比べて数段大きく刀のように反りがある。槍なのだが・・・解りやすく言うと刃が巨大で、美麗な装飾などは何もない青龍偃月刀と言ったところだろうか。
装飾がないのは李典に頼み込んでいたからだ。そんな物をつける余裕があるなら他に回してほしいと思っていたのだが、きっちりとこちらの意を汲んでくれたらしい。
「うわぁ・・・自分達2人でやっとこ担げたのを片手で。凄いっす!」
閻柔が感心して高順と槍を交互に見比べる。それを余所に、高順は鳴らしのつもりでそれを4・5回ほど振り回した。
「ふむ、重さは前に比べて重いけど・・・違和感はないな。今までどおりに使える。・・・よしっ!閻柔さん、田豫さん。俺達も出ますよ。」
「え、ええ!自分達もっすか!?」
「うん。2人とも俺の部下として部隊に組み込まれてますから。ほら、早く部隊の皆を集めて来てください!」
「は、はいっすー!」
なぜか敬礼をして田豫達は来た道を引き返していった。高順に与えられているのは歩兵が900ほど。もっと多く引き出すべきかもしれないが自身の指揮下に無い連中を動かすことは出来ないだろう。
このままでは張燕が負けるかもしれない。
城門から見れば張燕本陣はすぐ近く。ここで粘れば趙雲の騎馬隊も来るだろうし相手も退くだろう。そうすれば、投石部隊で追い討ちをかけることも可能。
問題は先頭を進んでくる武将を自分が止められるかどうかだが、それはやってみなければ分からない。
城門付近に佇んでいる虹黒に近づき、高順は首筋を撫でてからその背に跨る。
高順は自分の新たな武器を肩に担いで感慨に耽っていた。
やはり、この重さが無いと物足りない。高順は馬上で(不気味な)笑みを浮かべていたが、それから20分もせず田豫達は兵士を引き連れて城門前に整列。
高順はそれを確かめて城門を開けさせた。
幾つかある閂(かんぬき)が引き抜かれ、城門が開いてゆく。
その前方では討伐軍先鋒部隊によって、すでに本陣近くまで押し込まれて苦戦している張燕軍。
その後方では趙雲隊が兵士を減らしつつも本陣を襲う敵に撃ちかかって行き、沙摩柯らも奮戦して先鋒部隊の後方を撹乱している。
どういうわけか、討伐軍本隊は動こうとしない。この状態で一気に攻めかかってこられたら、それこそ張燕側は壊滅するのだが。
まあそれは良い。動かないのならそれで好都合だ。
「さあ、行くか。」
槍を構え直した高順は突撃命令を下す。その声に従って虹黒が、そして兵士達が一斉に駆け出した。

郝萌・朱厳の遺剣と、高順の三刃戟から作り出された重さ69斤(約15キロ)にもなる高順の槍。
三者の武器から作成されたその槍は後に「三刃槍」と呼ばれることになり、これから後の高順の戦いを支え続ける愛槍となる。










~~~あとがき~~~
こんなので精一杯でした、あいつです。
見返してみると状況を上手く説明できてない・・・(吐血
流れとして
討伐軍到着→戦端開くけど張燕側大苦戦(げぇっ、華雄!)→あっさりと切り込まれたので投石機出番なくね?→高順の槍完成、突撃開始じゃおまいらー! 

・・・こんなん?(なぜか疑問系
本来なら最初から高順も出るべきだったのですが、武器がまだ完成していない→もう少しで完成するから待って になってしまったのですかねえw
当初は城壁から飛びおりて、走ってきた虹黒の背中に乗る、という感じにしたかったのですがそれやると虹黒が死ぬor高順が乗るのに失敗して転落死になるのでやめました(ああ
一人で行っても、役に立ちませんしねえ・・・呂布ならともかくも、怪我がまだ完治してない高順君です。

さて、次回は高順君と華雄さんの直接対決です。
高順君にとっては初めて戦場で命のやり取りをする原作キャラになりますね。え?惇さん?彼女は虹黒としか戦ってません(?
ここで1つだけ補足を。
華雄さんは原作より少し落ち着いており、その上で実力も高い状態になっています。
実力は漢女ルートで例の2人組相手に互角に戦ったことを考慮されて、だったりするのですが・・・性格は・・・w
原作に比べて、ですから猪突なのは変わりませんが僅かでも将軍っぽく描写したいな、と。

高順君は傷だらけの状態で華雄さんに勝てるでしょうか?それではまた次回で。



追伸:徐栄さんはお遊びです本当御免なさい石投げないでー!



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第37話 第2次晋陽攻防戦その2
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/19 00:14
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第37話 第2次晋陽攻防戦その2


900の歩兵と共に城から出撃した高順はまず張燕の姿を探す。
討伐軍は確実に張燕を狙うはずだ。あの攻撃力の高さなら間違いなく本陣まで突破されてしまうだろう。
趙雲が間に合えばよいのだがそれも若干時間がかかり、干禁らも後方撹乱を任務としているため援護は期待できない。
その干禁達にせよ、何時までも先鋒部隊の撹乱は行えまい。その更に後ろには討伐軍本隊も控えている。
どちらにせよ張燕が討たれたら負けだ。ならば張燕を探して守り続けて時間を稼げば後方に回った将兵も戻ってこれる。
相手が退きはじめたらこちらも軍勢をまとめて投石機で攻撃でもいいかもしれない。
「張燕殿は・・・あれか。」
随分と露出の高い女武将と張燕が馬上で戦っている。僅か数十分であそこまで押し込まれていたとは・・・。急いで救援に向かわなければ、と高順は虹黒を駆けさせる。
見ると、相手は随分な剛力のようで荒々しい戦い方をしている。それでいて隙が少なく、張燕も持て余しているように見える。
兵士達は両者の戦いについていけない事もあって、とにかく討伐軍を押し戻そうと奮戦していた。
「く、強い・・・!」
張燕は何とか食い下がっているが限界が近かった。相手の攻撃力が高く、上手く受け流せないのだ。
まだ保っているがそれだけだ。先ほど配下武将の張楊の弩による狙撃援護があったが、それすら弾かれてしまって策が尽きていた。
趙雲が本陣救援に向かっているようだがそれも間に合うかどうか。
このままでは不味い・・・。その焦りが、張燕の判断を誤らせた。
「・・・くっ!」
華雄の攻撃を避けて反撃を試みたが、逆に間合いに入り込まれて斧の一撃で吹き飛ばされた。
「げほっ・・・は、はぁ・・・。」
馬から叩き落されたのだが、受身を取り損なって背中から落ちた張燕。凄まじい衝撃と痛みで暫く呼吸すら出来なくなる。その状況を見て晋陽兵が華雄に向かっていくものの、金剛爆斧を振り回されて弾かれる。
「う、ぐ・・・。」
仰向けに倒れている張燕の頭上には、大斧を振りかぶった華雄。
(気の毒だとは思うのだが、な・・・。許せ!)
心中で詫び、彼女は大斧を振り下ろ―――さなかった。
いや、振り下ろそうとしたのを一本の矢に邪魔されたのだ。大斧の刃で矢を弾き、馬を後退させる。
「ちっ・・・。」
そういえば、先ほどもあの少女と戦っている最中に矢を撃たれたがそれと同じ奴か。随分と精巧な狙いだ。
辺りを見回して張燕の姿を探す華雄だったが、どうもこの一瞬の隙を突いて退いたらしい。引き際を心得ている。
と、そこへもう1つ視界にある者が写った。巨大な黒馬に跨り、呂布の放天画戟のような大きな刃・・・いや、槍を肩に担いでこちらに向かってくる男。
明らかにこちらを目標に進んでくる。腕に(乾いているが)血の滲んだ包帯を巻いており痛々しいのだが、逆にちょっとした不気味さもある。
「ふむ、骨のありそうな奴もいるな・・・。相手になってもらおうか。」
華雄も金剛爆斧を担いで馬を駆けさせる。その男が高順であることを知らないまま。

高順から見ても、大斧を肩に担いだ女性武将がこちらに向かってくるのが見て取れた。
張燕があと少しで討ち取られるところでヒヤリとしたが、一瞬の隙を突いて後退。高順は内心で「流石に飛燕とあだ名されるだけはある」と感心していた。
だが、それも一瞬の事だ。高順は目の前に迫る将に集中した。彼女は途中で邪魔をしてくる兵士を悉く薙ぎ払い、平然と馬を寄せてくるのだ。
両者は距離が縮め、ある一定の距離で馬を止めた。高順は華雄の、華雄は高順の顔をまじまじと見る。
華雄は高順を「いい面構えだな」と考えている。
先に口を開いたのは華雄だった。
「我が名は華雄。名のある将と見受けた・・・一手、相手をしてもらおうか!」
聞いた高順は半分意外・半分納得、といった心境である。
(これだけの攻撃能力ならば華雄と聞いても納得できるな・・・。しかし、なんだって華雄が晋陽まで・・・?)
華雄は関西の人なので、西涼・・・涼州の人である。
董卓配下の騎馬隊将軍の筈なのでこの時期に来るのはおかしいのだが・・・まあ、細かい事は良い。
「どうした、怖気づいたか?」
「・・・ああ、申し訳ない。少し考え事をしていましてね・・・俺は高順、張燕殿の客将です。以後お見知りおきを。」
華雄は高順と言う名を聞いて「何?」と不審そうな表情を見せた。
「おい、今高順と言ったか。何と言う字だ。「高い」に「順番の順」か?」
「はぁ・・・そうですが。」
「お前が呂布に挑んだ高順・・・ははっ、やはりな。全然似てないじゃないか。」
「?」
華雄は少し楽しそうに笑う。あの馬鹿、やっぱりまともに話すつもりはなかったようだ。下半身が馬・・・というのは当たらずとも遠からずだが。呂布の事を思いつつ華雄は虹黒に目をやった。
毎回の事だが、高順と対峙或いは接した人は大抵虹黒のほうに注意が行く。
馬の特産地である涼州(というよりも関中)出身の華雄ですら、これほど立派な黒馬はお目にかかったことがない。
そして、そんな馬の背に乗って手綱を引くことなく戦場を走る高順。
しかし、1つだけ気にかかる事がある。高順という男、どこかで見た覚えがある。いや、誰かに似ているのだ。
アレはいつだったか・・・。
「まあいいさ。腕はどれほどのものか知らないが馬術は相当・・・面白い。さぁ、始めるか・・・!」
華雄はようやく、といった感じで金剛爆斧を構える。高順も同じように三刃槍を構えた。
(さて、華雄相手にどれだけ渡り合えるか・・・。)
高順は華雄という人に対して全く油断をしていない。
演義では華々しい戦果を上げながらも、関羽に対してのかませ犬同然にあっさりと討たれ、正史でも何が何だか良くわからない間に孫堅に討たれた武将だが、今目の前にいる彼女はどちらかと言えば演義に近い勇将だ。
自分が今まで命のやり取りをしてきた相手の中で三指に入る腕前だろう。(1は呂布・2は閻行
いや、2番目はおかしいような気はするが気にしたら負けだ。
2人とも、自分ではなく馬が動く。カッカッと馬蹄の音が地に響く。そして・・・華雄が先に仕掛けた。
「こぉぉおおおっっ!」
気合と共に、斧を袈裟懸けに振り下ろす。その一撃を高順は三刃槍で受け止めた。
ガキィンッ!と金属がぶつかり合う音が響き渡る。そこから華雄は息をつかせず更に切り込み続けていく。
右からの横薙ぎ、それを防がれれば馬が反転、遠心力をつけて逆方向からの切り払い。
それらを虹黒を後方に下がらせて避けるが、華雄は直ぐに距離をつめて追撃を仕掛けてくる。
高順は攻撃を何とか受け止めるがそのたびに腕に激痛が走る。
「ちぃ、傷が・・・。」
攻撃の全てを見切ったわけではないが、長い時間は戦えないようだ・・・そろそろこちらからも仕掛けるべきか。
華雄はただ力任せに斧を振り回すだけではない。たまにフェイントも織り交ぜてきて意識を逸らせようとしてくる時もある。
少し違うかもしれないが呂布をそのままパワーダウンさせたようなタイプだ。それでも充分強い。
攻撃速度・威力共に凄まじく、勝てるかどうか、それ以前に生きて帰れるかも怪しい。張雲か沙摩柯であれば勝てるだろうが・・・。とにかく反撃をしなければ。
振るう速さはあるのだが、振り切った後に構えを戻すまで僅かに隙が生じている。そこを高順は狙い始めた。
斧を振り切った華雄に三刃槍で突き入れ、打ち下ろす。
「むっ・・・」
先ほどまでとは違い、今度は華雄が守る側に徹し始めた。
高順の攻撃は速い。腕の怪我もあって本来の威力を引き出せていないものの、隙そのものが少ない。
また、威力が出てないといってもそれを虹黒が補う。華雄も高順も馬上戦では一箇所に留まらず、移動しながら攻撃をしていた。
馬を駆けさせ、すれ違いざまの攻撃・または武器を合わせての鍔迫り合い等。
ただ、高順の場合は攻撃のたびに「馬が踏み込む」のだ。高順の攻撃に合わせて虹黒が踏み込み、体重を乗せた一撃と為す。
華雄は心中で素直に驚いていた。
先ほど「高順の馬術は相当だ」と思ったものだが、その認識を更に「相当どころではない」と改めた。
人馬の呼吸が1つ。人馬一体とは言うが、目の前の男はそれを平然とこなしている。馬の扱いでは張遼か呂布並みかもしれない。
それに加えて、一撃の重さと速さ。見ていると、一撃を放ち、こちらの一撃を受けるたびに腕の包帯の赤い染みが広がっている。傷が開いているのだろう。
本来の威力が発揮できていないのかも知れないが、あの怪我でこの威力。
(怪我さえなければ、という所か。もしも万全の状況で戦っていれば・・・)
なんとも恐ろしい。馬上戦で限って言えば、この男は張遼並みの実力を発揮するのではないか?
そんな考えが頭をよぎり、華雄は小さく笑った。たかが反乱軍と侮っていたが、正直驚かされることばかりだ。
張燕は恐らく馬上戦に不慣れだっただろうが、それでも自分相手に粘り強い戦いを見せた。自軍の後方を撹乱している部隊長・・・名前こそ知らないが、こちらの主力部隊が前面に集中した頃を見計らって一気に側面を突いてきた。
そして、高順一党の長、高順。これほどの剛の者とは思いもしなかった。世にはまだ見ぬ強者がいる・・・なんとも面白い。
そんな考えをしていた華雄だったがすぐに思考を切り替えた。
(さて、そろそろ退き時か。高順と戦うのが楽しくて忘れていたが・・・)
見れば、高順の腕の包帯は完全に真っ赤に染まっていた。そして、自軍の後方部隊は押されて散り散りに。
その上に数は少ないながらも騎馬隊数百が直ぐそこまで迫っている。
胡軫が足止めに向かっていたはずだが、蹴散らされたようだ。その部隊長もこちらの予想以上に「出来る奴」と言う事らしい。
このまま留まっていても得る物はなさそうだ。
繰り出された高順の一撃を受け止め、華雄は馬を反転させて駆け出した。
「あっ!?」
「ははっ、もう少し戦いたかったが時間だ、今回は退かせてもらうぞ!・・・徐栄、撤退だ!軍を纏めて退く、遅れるな!」
「は、はい!全軍撤退!撤退だ!遅れるなー!」
高順は追いかけようとするが、腕の痛みに顔をしかめて反応が遅れてしまった。
見ると華雄と徐栄と呼ばれた女性武将は帰り掛けの駄賃とばかりに行く手を遮る張燕兵を蹴散らしていく。
趙雲部隊が本陣に到着したが、その頃には華雄とその軍勢は後方に撤退、追撃しようにも被害が大きくてそれどころではない。
干禁らも、一丸となって退いてくる華雄隊とぶつかるのは得策ではないとあっさりと道を譲っているが・・・後方をかき混ぜていた干禁と沙摩柯の部隊は1000ほど。一気に退いてくる華雄隊は5000以上。賢明な判断だろう。
その後、傷の痛みに耐えつつも張燕は軍勢をまとめて城内へ後退。
両軍共に痛み分けと言いたいところだったが・・・張燕側の死傷者は1000近く。華雄側は700ほどと、重症を負った胡軫。
張燕側の負けと言ってもいい状態だった。

~~~晋陽城内~~~
張燕に従って帰還した高順であったが、医務室でなぜか正座をさせられていた。
理由は、腕の怪我が治っていないというのに無茶をしすぎたという事だ。
張燕は助けられた側の人間なので弁護してくれていたが、趙雲と楽進の怒りは収まらなかったらしい。
「―――やはり、お止めしておくべきでした。・・・聞いていますか、隊長!?」
「高順殿、無茶なしないと約束をされたばかりでしょうに。そんなに約束を破るのがお好きですか?」
「いや、あの・・・ほんまスンマセンっした・・・。」
楽進と趙雲は文句を言いながら血まみれになった高順の腕の包帯を替えている。
文句を言いつつも世話を焼いているのだから素直でないと言うか何と言うか・・・。
当然、他の者もいい顔はしなかった。沙摩柯ですら、不満そうな表情を見せている。
そこへ、閻行が部屋に入ってきた。
「あら、皆様おそろいで。・・・随分やられたみたいね、順。」
高順の腕の傷を見ながら閻行はため息をついた。
しかしまあ、あれこれと良い娘に世話を焼かれる息子だ。奥手奥手とばかり思っていたが、こうしてみていると女性との縁が多いのかもしれない。
これならば気を回さなくても良かったか、とも思ったが・・・古来から「英雄、色を好む」とも言う。
息子が英雄の器とはこれっぽっちも思わないが、甲斐性はあるようだから幾らでも良い娘を見つけてほしいものだ。
速く孫の顔を見たいし(閻行の願望が入りすぎているが気にしたら負け。)
「いや、傷が開いただけで向こうからの攻撃は貰っていないのですが。」
「へぇ・・・。中々の腕のようね。相手はどんな武将だったのかしら。」
「名前は華雄と名乗ってましたよ。」
高順の返事を聞いた閻行は「華雄?」と首をかしげた。少しして、楽しそうな笑みを浮かべる閻行。
「・・・まあ、良いでしょう。順、次に出撃するときは貴方は休んでいなさい。」
「え?しかし・・・。」
「代わりに私が出ます。」
『!?』

~~~討伐軍陣地~~~
「胡軫。大丈夫なのか?・・・随分手ひどくやられたわね。」
陣幕の中で寝転がっている胡軫に徐栄は声をかけた。酷い状態だった。全身ボロボロ。片腕を骨折。そんな状況でも何とか助かったのだから運が良いとは言える。
「ああ・・・趙雲という女・・・正直、強さの桁が違っていた。何が起こったのかまったく解らなかったぞ・・・。」
胡軫は、趙雲に挑んだ。挑んだのだが、自分が斬りかかった所までしか覚えていない。目を覚ましたら陣幕の中だった、と本人は言っている。
胡軫を助けて帰還した兵士によると、趙雲が槍を薙ぎ払い、その一撃で胡軫は馬から叩き落されたのだという。
趙雲は止めを刺すでもなく、そのまま直進。兵も蹴散らされたが必要以上の交戦をせず、本陣を目指したのだとか。そのおかげで胡軫隊はそれほどの被害を出さずにすんだ・・・らしい。
つまり、胡軫は趙雲とやらにとって「お呼びでない」扱いだったのだ。
「・・・そこまで実力に差があると、腹が立つよりいっそ気分がいいな。」と胡軫は言うのだった。
「ところで、華雄様はどこに?」
「ああ。総大将殿の所へ文句を言いに行ったわ。どうして後詰を繰り出さなかったのかってね。」
徐栄ははぁ、とため息をついた。後半は華雄が抑えこまれた為に機を逸したが、前半は完全にこちらの流れだった。
その流れに乗って張温が軍勢を差し向ければ、一気に晋陽城まで戦線を繰り上げることも出来たはずなのに。もしかしたらそのまま張燕を討って終わらせることも出来たのかもしれない。
どうせ、華雄に任せて置けば安心とでも思っていたのだろうが。どうして官軍のお偉方はこうも能無しが多いのか。
「皇甫嵩殿か朱儁殿であれば、機を逃さなかったでしょうに。」
思わず愚痴をこぼす徐栄であった。
「おいおい、徐栄。愚痴を言うのは構わないがもう少し声を落とせ。外まで丸聞こえだったぞ。」
「あ、華雄様・・・。」
華雄が呆れ顔で陣膜の中へと入ってきた。
「胡軫も苦労だったな。」
「は、はい・・・。」
華雄は胡軫の横にどかっと座り込んだ。
「反乱軍と侮った為にこのざま、か。」
「申し訳ありません・・・。」
「いや、お前ではない。張温と・・・私だな。正直侮りすぎていた。」
そう、反乱軍を侮っていた。その為に胡軫は重症、攻め抜く機も逃した。
「張温と協議をして来てな。補給が滞ってるのだそうだ。」
「え?そんな・・・。」
徐栄の表情が曇る。もしかして、自分達の足を引っ張るつもりだろうか?
「別に十常侍が関連している訳ではないようだがな。襲撃されて火矢を射掛けられたりとか、そういう話を聞いた。まだ大丈夫だが、こちらにも余裕がなくなってくるということだな。」
「それが、張温が出てこない理由ですか?」
「はっ、まさかな。ビビッてただけに過ぎん。で、説得(と言う名の脅し)した所、明日もう1度攻める事になった。」
「明日ですか?」
「ああ。当然張温にも出てもらう。一気に城門を抜きたいところだが油断できん相手だということはわかった。それに、向こうも死にもの狂いで抵抗をしてくるはずだ。今日以上の戦いになるぞ。」
華雄の言葉に徐栄が頷く。残念ながら胡軫はここで留守番だが。
(しかし・・・高順。彼の顔はどこかで見た覚えがある。顔、というか・・・ええい、もどかしいな。)
記憶の糸を手繰って思い出そうとするが、すんでのところでそれが出てこない。
一応、張温に高順一党が晋陽軍にいるという事を伝えたがいまいち反応が鈍かった。十常侍に対しての点数稼ぎにはなるはずだが、よくよく考えれば晋陽を落とせば良いだけの話だ。
あの怪我では明日は出て来れないかもしれないが、総力戦になれば出てくることもありうる。そのときに聞けばよいかと思い直し、華雄は自分の陣幕へと向かっていった。


~~~翌日~~~
張温率いる討伐軍4万弱。そして張燕率いる反乱軍、同じく4万弱。
この日、討伐軍はほぼ全軍を投入して攻城戦に入る。
対する張燕側は篭城、今回は投石機を使用する。とにかく敵の数を減らす。ある程度抵抗すれば、相手は退く筈。
そこを閻行・趙雲・沙摩柯の攻撃部隊が後ろから攻めかかり損害を与える・・・と、消極的だが、現状で出来る戦い方である。
高順・3人娘・閻柔・田豫は城壁守備。(李典は投石機の指示があるので厳密には違う。
体の傷もあって高順は出撃を止められているものの、弓くらいなら撃てると言う事で城壁守備である。
討伐軍はと言うと華雄が先頭に立ち、出撃の時を待っている。こういう仕事は張温がやるべきなのだが土壇場で「いや、こういうことは華雄殿の方が絵になるし・・・」と言いだして、結局矢面に起つ事になってしまった。
だが、昨日の違うところはその後ろにつき従う兵数である。昨日は6千ほどだったが今回は3万5千。本陣(張温)の守備に4千ほどがいるだけで本当に総力戦の構えである。
馬の背に乗って目を閉じている華雄。その後ろには樊稠・李粛・徐栄。
華雄が静かに目を開けた瞬間、攻撃開始を知らせる銅鑼が鳴った。
「・・・行くぞっ!」
『応!』
華雄の言葉に、兵士が武器を構えて晋陽城へと突き進んでいく。
「さぁ、張燕よ。どう出る・・・?」
舌先で唇を舐めて、華雄も馬を駆けさせた。
晋陽側でも討伐軍が突撃してくるのが確認できた。3万数千の軍勢が一気に攻めてくるのは流石に迫力がある。
その上、一番先頭に起って軍勢を率いるのは華雄だ。
主戦場となるであろう城門上の城壁にいる高順は弓を手に、息を呑んだ。
昨日は気にしていなかったが討伐軍の旗には「華」だの「張」だの「徐」だのと書かれた旗がひしめき合っている。
張、は誰の事なのだろうか?と考えていた高順だったが、そこで急に城門が開いた。
「・・・え、何で城門が開いて・・・そんな作戦じゃないだろ・・・。皆は何か聞いているか!?」
だが、誰も聞いていないらしい。城壁から見ていた楽進も干禁も真っ青になって首を横に振る。なぜか兵士まで蒼白になっている。
この時、2人は高順の質問に首を振ったのではない。城門から出て行った人間を見て首を振ったのだ。
高順も慌てて城壁から確認をするが、やはり彼も真っ青になった。
「一体誰が・・・げえっ!?」
その視線の先にいたのは閻行・趙雲・沙摩柯。それに続いて1000ほどの騎兵が集結していく。彼らは追撃隊のはずなのだが・・・閻行は城壁に振り返って「援護よろしくー♪」と手を振っている。
「あああああ! 何やってんですか母上ー!? 援護よろしく♪ じゃないですよっ! 命令無視もいいかげんにしてくれー!」
いきなり作戦を崩されてしまって、高順は混乱した。
いや、彼だけではなく楽進達も。城内で指示をしていた張燕も、城門が開いて閻行たちが出撃した状況に訳もわからず唖然としていた。
そんな城壁・城内の混乱を他所に閻行達は陣を敷く。
「あのぅ、母上殿・・・本当に宜しかったのですか?」
「当然♪」
「しかし、軍令違反ですが・・・。」
「問題無し♪」
いや、大有りだろ。と内心で突っ込む趙雲と沙摩柯だったが、彼女らにしてもこの行動は冷や汗ものである。
城門で待機していた彼女達だったが、討伐軍が向かってきたという報告を受けた閻行が「じゃ、ちょっと行ってきます。」と散歩に行くような感じで城門を開けてしまったのだ。
「ちょっ!?」と、大慌てで閻行を引きとめようとした趙雲達だったが、閻行曰く「大丈夫大丈夫。あの討伐軍で核となる戦力は数千と言ったところ。先頭を突き進んでくるだろう武将さえ押さえれば勝機は見えてきます。」とむしろ引っ張られて出て来てしまった。
何でそんなに自信があるのかは解らないが、華雄という人物に心あたりがあるのか。それとも張温という人間の戦い方を知っているからなのか。
閻行は大斧を肩に担いで、待った。その目には獰猛な光が混じり、討伐軍を見据えている。城壁から息子が「何やってるんすかー! 戻ってくださいよ!」とか叫んでいるが、聞こえない振りをしておこう。
「楽しみねぇ・・・。」
彼女の見つめる先には、華雄がいる。
その華雄も、城門前で布陣している軍勢を見据えていた。
数は1000程度と言ったところか。見た限りでは昨日見かけた武将が2人ほどと、あと1人は・・・昨日はいなかった。
どうも、自分を見ているようだが。はて、どこかで見たような。まだまだ距離が離れているので良く見えないが・・・。
その距離もぐんぐんと縮まり、次第にその姿をきっちりと確認できるようになっていた。晋陽側では何かあったのか城壁上の部隊が慌しい動きを見せていたが、今は迎撃の構えを見せている。
この勢いのまま攻め込んでやろう、と思っていたのだが華雄はあることに気がついて、慌てて軍勢を停止させた。
それに驚いたのか、後ろにいた徐栄が「どうしました!?」と叫んでいる。
「あ、あれは・・・まさか・・・?」
徐栄の言葉など全く聞こえてない様子で、華雄は目の前の女性を見ている。
その女性は閻行なのだがその閻行は目の前にいる3万以上の兵士など眼中に無いような風情で、すたすたと華雄に向かって歩いていく。
後ろにいる趙雲達、そして城壁にいる高順達もいつ討伐軍が攻めて来ても良い様に得物を構えている。
そんな事などお構い無しに、閻行は華雄に話しかけた。


「お久しぶりね、「おはなちゃん?」」
「え、ええ・・・えーーー!? え、閻行様ぁぁぁぁあぁっ!!?」
華雄の絶叫が木霊した。





~~~楽屋裏~~~
久しぶりですあいつです。
高順君は不憫です。頑張ってるのに叱られてばっかり・・・。
いや、作者が悪いのですが(ぁぁ

そして、母上は自重するべき。でも、戦場ではこれが最後の見せ場になるはずなのでお許しを。

感想で、華雄さんは高順(或いは虹黒)にどんな目に合わされるのか!と期待(?)しておられる方がいましたが残念。
正解はまま上さまでした。これはもう結果が見えているとしか言わざるを得ない・・・。

ところで、これまでも何度も言って来たことですが、話数が結構多くなってきました。
10話から20話へ。20話から30話へ。現在(番外編含めて)40を突破して50には確実に届く状況・・・。
普通なら既に終わりが見えていたシナリオがどんどん迷走しています。
それでですね。この37話書いてる時点でまたネタが出来上がってしまいまして。
あいつ「あれ、今度は60話辺りで終わらせる予定が70越える?(汗」

・・・ナンテコッタイ。
なんで書いてる最中にネタが湧き上がってくるのかと子一時間。ごきげんようアンダーソン君。(え?
それ以前に「晋陽編3話位で終わらせます」と言っておきながら現在5話位使ってるんですよね・・・
・・・ナンテ(ry
もう1話か2話で晋陽編も終了・・・するといいなぁ(願望
その後はどうするか。

俺、投稿数が50になるまでにPV50万越えてたらその他版へ移動するんだ・・・(嘘

ではまた次回、お会いいたしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第38話 第2次晋陽攻防戦その3
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/26 08:36
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第38話 第2次晋陽攻防戦その3

華雄は閻行を指差してカクカクと震え、対する閻行はニコニコと笑っている。
驚きを隠せないままに華雄は馬を下りた。彼女を相手に馬上からなどとは、失礼に過ぎる。
「な、何故。何故貴女が晋陽の、しかも反乱軍に!」
「ええ、息子の無茶につき合わされましてね。」
「息子・・・?」
「昨日、貴女と手合わせをした子がいたでしょう。あれ、私の息子なのですよ。」
「昨日って・・・まさか、高順が!?」
「ええ、その高順です。あの子の起こした騒ぎに巻き込まれまして。順を可愛がってくれた礼をどうしてもしたくて、我侭をさせていただいたのですよ。」
「・・・。」
高順が、閻行様の息子・・・。そうか、だからどこかで見たことがあると思ったのか。確かに似ている。目元辺りなどがそっくりだ。
「そうですか、高順が貴女の・・・ならば、あの強さも納得できる。」
そこまで言って、華雄は一度振り返り、全軍に待機命令を出した。
「絶対に動くな。手を出すな。」と。討伐軍にしてみれば一気に攻めるべきなのだが、華雄はそれを許さなかった。
同じように、閻行も決着が付くまで動かないで、と自軍に通達を出す。
晋陽側もどうしたものかと思っているが、2人は一騎打ちをするつもりらしい。そして、2人は隣り合わせになり肩を並べて歩き出した。
「懐かしいですね。私が北宮玉らに人質に取られてからもう20年ほど。」
「そうね、順が生まれる前の話だから・・・そう、もう20年近く経ったのね。あの頃のおはなちゃんと言ったら、目にいれても痛くないくらいに可愛かったのに。」
「はは、今ではそんなものは欠片もありません。」
「でもよく覚えているわね。20年近いと言うことは貴女・・・4・5歳の頃の話よ。」
「それだけ印象的な事ですから。あなたが傷だらけになって、私を救ってくださった。稽古を付けていただいた事もよく覚えています。そして・・・。」
立ち止まった華雄はいきなり金剛爆斧を地面に叩き付けた。ズゥン、と音がして砂埃を撒き散らす。
「あなたが戦場で戦う姿に、戦う貴女の背中に憧れ私はこの斧を作った!」
華雄の持つ金剛爆斧、そして閻行の持つ大斧・・・これは、姿形が良く似ている。
「私の「引導断斧」に?それは光栄ね。」
閻行も担いでいた引導断斧をゆっくりと構える。
「ならば、解っているわね? その憧れた背中とやらに追いついてみなさい。そして追い越してみせなさい。貴女の20年をかけて磨かれた武を・・・私に見せなさい!」
「言われるまでもなく!」
両者は後方に飛びずさり、距離をとった。己の大斧を構えて、気合を入れる。
華雄はこの時、胸中に熱いものを感じていた。
あの閻行に挑める。20年も追い続けたあの涼州最強の、涼州の武そのものと謳われたほどの武に挑める。
今も尚、涼州では閻行という人は武人の伝説のようなものだ。
そんな人に勝てるかどうかなど解りはしない。いや、恐らくは勝てないのだろう。
だが、それもどうでも良い。いつか挑みたいと想い焦がれていた人が自身の挑戦を真っ向から受けてくれると言ったのだから。
華雄は一気に距離を詰めてこれが開始の合図とばかりに、閻行の首めがけて斧を打ち込む。だが、閻行も斧を縦に構えてあっさりとそれを止めた。
それどころか、もう片方の手で斧の刃が無い所を掴んで華雄ごと持ち上げる。凄まじい膂力だが華雄はいささかも慌てることなく、閻行の顎に蹴りを入れた。
「うっ・・・!」
諸に喰らって閻行は後ずさり華雄はそれを見逃さず、全力で斬りかかっていく。それを城壁から見ていた高順は「昨日は手を抜いていたのか?」と思うほどの凄まじさであった。
だが、閻行本人は涼しい顔をしてその全ての攻撃を防ぎ続ける。それがどれだけ続いたか。華雄は息が上がってきたのか呼吸が荒くなり始めた。
(さすが、閻行様・・・。これだけの立て続けに攻撃しても崩せないか!)
ならば、次の一撃で最後にする。決心した華雄は一度退き息を整える。閻行は、汗こそかいているが息1つ乱していない。
息を整えた華雄は、渾身の力をもって金剛爆斧を薙いだ。これが防がれればもう後がない、というほどの覚悟で。
閻行はその一撃を避けず受け止めるつもりなのだろうか、一歩も動かず引導断斧を構えたまま。
斧と斧がぶつかり、金属を叩き付け合う音が戦場に響く。
だが、華雄の最大の一撃も防がれる。それだけの威力はあったようで、受け止めた閻行も弾かれたがそれだけだ。
金剛爆斧に引きずられて、踏ん張った閻行の足が地面に跡を作る。
「くっ・・・通用せず、か・・・!」
呻く華雄だったが、閻行は感心したような面持ちである。
「大したものね・・・息子にも見習わせたいものよ。さて、こちらの番かしら。」
言うが速いか閻行は引導断斧を構えなおし、一足飛びで華雄との距離を詰める。
「な、速いっ!・・・くぁっ!?」
その速さに慌てて距離をとろうとする華雄だったが、左足に痛みを覚えた。
「何時の間に・・・。」
閻行は柄の部分で華雄の左足を打ち据えていた。死角でも何でもなかった、それなのに攻撃が目に移らなかったのだ。
逃げられないと悟った華雄は、防御行動に切り替えて反撃のタイミングを掴もうとした。
その華雄に、閻行は更に攻撃を繰り返す。その攻撃を華雄は受け止め続けるが、次第に傷が増えていく。当初こそ防御できていた攻撃が次第に捌き切れなくなっていく。
いや、閻行はわざと華雄の斧に攻撃を当てているのだ。いつもで殺ろうと思えば出来るはずなのだから。
何せ、攻撃の速さが違う。普通はどんな武器を使っていても、予備動作があるものだ。
攻撃する前の構え、攻撃した後に武器を引き戻す動き。あれほどの大斧なのに、その動きが異様に速い。
(何という人だ。攻撃速度が徐々に上がっている・・・!これですら全力ではないはずだ)
討伐軍も、張燕軍も、この一騎打ちを棒立ちになって見つめていた。特に衝撃を受けたのは討伐軍に属する徐栄である。
あの華雄様が手も足も出ない。呂布様はともかくも、張遼様と互角に戦える華雄様がああも一方的に。
もしかして、あの女性は呂布様とも互角に戦えるのでは・・・?
不味い、このまま放って置けば確実に華雄様が敗死する。焦った徐栄は密かに弓を構えるが、それを隣にいた樊稠が押し留めた。
「何故止める、樊稠!」
「止めねば撃つだろうが・・・それをしてみろ、勝てたとして華雄様はお前を一生お許しになられぬぞ。我が軍の士気にも係わる。それに、アレを見てみろ。」
「・・・?」
樊稠が城壁の上を指差す。
そこには、徐栄を弓で狙っている高順の姿。そして城門前で布陣する趙雲も、弓を構えてこちらを睨んでいる。
「撃てばお前も射抜かれるだろうな。」
「それは・・・。・・・・・・くそっ。」
徐栄もそれは理解しているらしく、悔しそうに弓を降ろした。

閻行と華雄の勝負も終わりが近づいている。
攻撃を捌けない華雄は致命傷はないが体中傷だらけで出血もしている。肩で息をして、相当辛いはずだがそれでも立っている。
「はぁ、はぁっ・・・。」
「よく耐えたわね。」
様子を見ていた閻行だったが、次で最後と言わんばかりに大斧を上段に構える。
「打ち下ろしで行きます。防いでみせなさい。」
「う、くぅ・・・。」
その言葉に、意識が朦朧としながらも華雄は釣られるように金剛爆斧を防御の型で構えた。それを見た閻行は、全力ではないが言ったとおりに大上段から引導断斧を振り下ろした。
華雄も何とか薄れかかった意識を手繰り寄せて全力で受け止めようとする。
だが、振り下ろしを受け止めた金剛爆斧が中ほどでぐにゃりと曲がりひしゃげていく。
そのままぐんぐんと折れていく金剛爆斧が完全に真っ二つになった。身を引くことも出来ず、華雄は止めきれなかった引導断斧の一撃を右肩に喰らった。
「がっ!?」
刃で切り裂かれて、そのまま・・・と誰もが思ったのだが、閻行は振り下ろす前に刃のない方を向けて叩きつけていた。
右肩を強打されその勢いに耐え切ることが出来ず、華雄は右肩から地面に叩きつけられた。そのまま地に倒れ伏し、動かない。
閻行は、倒れた華雄をじっと見ている。止めを刺そうと思えばいつでも出来るのだがそのつもりはないらしい。
それほど時間がかかるでもなく、華雄はゆっくりとだが立ち上がった。右肩を左手で押さえ、叩きつけられた時に擦りむくか何かしたのだろう、頭からも血を流している。
足も痛むのか、左足を多少引きずり気味にして僅かな距離だが閻行の前まで歩いていく。
「く、ぅう・・・流石です。やは、り・・・私如きでは足元にも及びません、でした・・・。」
息も荒く、華雄は言うが閻行は首を横に振った。
「そんな事はないわ。本当に立派になった・・・。成長したわね、「華雄」」
「・・・はは。初めて、名で・・・。」
華雄は辛うじてそれだけを言って、前のめりに倒れるが閻行が抱きとめた。当然、華雄はまだ生きている。
閻行は抱きかかえた華雄の頭をくしゃくしゃと撫でて、真っ二つになった金剛爆斧を回収。趙雲達に城内に退くように命令を出し、撤退させる。
当然、討伐軍はそれを黙って見ているつもりはない。徐栄らが真っ先に突撃して華雄の身柄を取り戻そうとする。
それは張燕側にも言えることで、突撃を開始したと同時に高順・干禁・閻柔部隊が城壁から矢を射かけ始めた。
「ちっ・・・小賢しい!」
徐栄は舌打ちしながらも矢の雨を掻い潜り、撤退していく部隊の殿(しんがり)を勤める閻行に向かっていく。
閻行は、と言うと後ろから進んでくる徐栄など気にもしていない。戦う意義がないと思うのか、それと相手にする必要も無いと言いたいのか。
「華雄様を返していただく!」
叫んで猛然と槍を振り上げる徐栄だったが、その目の前に何かが飛来してきた。
その「何か」は徐栄の槍、徐栄に従って突き進んできた周りの兵士達・・・多くの者を巻き込み、負傷、或いは死亡させた。
徐栄も、槍を握っていた手にかなりの衝撃を受けて思わず槍を落としかけた。
「くぅ・・・何だ、何が飛んできた!」
城壁の上を睨む徐栄の目には、全身鎧に身を包んだ少女(楽進)が映った。石つぶてを飛ばしてきたのかと思ったのだが、よくよく考えたら、そんなに大量の石を投げる事等できる筈もない。
その少女は、何かを振りかぶるように身を反らせて・・・その右手辺りの空気が不意に歪むのが徐栄には解った。
「・・・! 不味い、皆下がれーーー!!」
徐栄は叫んで一散に退く。少女の右手から放たれた何かは、大量の小さな空気の歪みとなって、討伐軍に襲い掛かった。
その歪に撃たれて、更に兵が落ちていく。
(駄目だ、これではあの閻行という女を追えない。李粛らも、矢の撃ち合いに集中してしまっている・・・。)
反乱軍め。華雄様が言うとおり、油断ならない手練が多いらしい。閻行は明らかに場違いな強さだったが・・・あの全身鎧の女は一体何を飛ばしてきたというのだ。
心中で毒づく徐栄だったが、それを今更言ったところで華雄の身柄が戻ってくる訳でもない。
こうなれば現在南側に集結している全軍をもって、城をアリの這い出る隙間もないほどに囲んで・・・。
算段を考えつつも退く徐栄の目に、更に信じがたいものが映った。
彼女が退いている方向・・・南側だが、徐栄の目前にいた討伐軍本隊が、大量の石つぶてを喰らって混乱する姿。(投石機自体はそれほど多くの石を飛ばせる訳ではないが、放つ石のサイズがそれほど大きくないからそのように思うだけだ。
何があったと馬を止め、城へと向き直る徐栄。よく見ていると城内から大量の石が飛ばされ、討伐軍を打って行く。
「なっ・・・そんな、馬鹿な」
一体何が起こっている。何か、大量の石を飛ばす何かが城内にあるというのか?これほどの戦いを見せる奴らがただの反乱軍?
(くそっ、冗談じゃない。なにが弱小の反乱軍だ!十常侍め・・・!)
決戦のつもりで意気込んで進軍してきた討伐軍だったが、投石機の放つ石つぶての多さと威力に混乱。
石の届かない位置まで退こうとするが総大将も居らず、また人数の多さが仇になって整然とした行動に移れない。
結局、逃げ遅れた兵士が矢で射掛けられ、石つぶてを喰らって、小さくは無い損害を出しただけで退かざるを得なかった。
そんなことをしている間に、閻行達は悠々と城門へ到達。負傷者はあったものの、目だった損害も特に無いまま撤退に成功した。

大した衝突にはならなかったが、討伐軍に被害を出す事に成功。その上武将である華雄を生け捕った事で第2ラウンドは張燕側が完全に取る形になった。
城壁に陣取っていた兵士達にはいくらか死傷者が出ていたが、今回の討伐軍の被害に比べれば小さなものである。
ほっと胸をなでおろす高順に、楽進が近寄ってきた。
「隊長、やりましたね。」
「ああ、今回は完勝といわずともそれに近い結果だったかな。投石器があんなに対人戦で有効だなんて・・・あ、そうだ。聞きたい事があるのだけど良いかな。」
「何でしょう?」
「さっき見てたんだけど気弾を拡散させてなかったか?」
「拡散?・・・あれですか。アレは咄嗟の思い付きだったのですけど、気を放つ前に握りつぶしたんです。」
「へ?気って握りつぶせるものなの?」
唖然として聞き返す高順に「さあ?」と楽進は首を傾げた。
「前に、李典が行っていた投石器の試運転を見ていた時に何気に思いつきまして。ぶっつけ本番でやってみせたのですが、上手く行きました。」
いや、ぶっつけ本番であんなことできるって・・・。やっぱ、母上の修行のせいかなぁ。皆滅茶苦茶腕が上がってるよ。
晋陽に来るまでならそんな拡散気弾とか出来なかったでしょうに。
「難を言えば、何処に飛ぶか解らない、狙いが定まらないと言ったところです。しかし、不特定多数の敵であれば有効だということですね。」
思った以上の結果が出た事に楽進は概ね満足そうな表情だった。それに対して、高順は不安そうな表情である。
気づいたのだろう、楽進は高順の顔を下から覗き込むようなしぐさを見せた。
「あの、隊長・・・。何か、不安な事でも?」
「ん・・・。いや、何でも「ないような顔には見えません。」・・・はい、ごめんなさい。」
毎回思うが、何で皆は俺が嘘をつこうとするのをあっさりと見破るのだろう。直ぐに表情に出るのかな・・・ってそうじゃない。」
「不安、ね。正直に言うと母上の事さ。」
「お母様?」
うん、と高順は頷く。
「命令無視って言うか勝手に出撃。そのせいで1000人もの兵士を道連れにするところだったんだぞ?」
「あ・・・。」
「華雄が母上の思惑に乗ってくれたから上手く行ったけどね。下手すれば全滅だ。」
これは、息子としても覚悟せにゃならんかなぁ、と呟く。
手柄を立てたといっても軍機違反は軍機違反だ。張燕としても罰せざるを得ないだろう。
きっちりとした規律を守れなければそこらの賊と変わりは無い。まだ討伐軍との戦いは続くのだから規律を保たなくては纏まりがなくなってしまう。。
もしも張燕様が母上に刑罰を命じたなら、なんとかして取り成さなくては。
その時は・・・覚悟するべきかな。

その後、張燕側の主要人物は全員政庁に集まった。
玉座には張燕。その目の前には正座をしている閻行。他の者達はその周りに控えているがどうなることやら、と内心穏やかではない。
「皆様、ご苦労様でした。皆様のおかげで敵将華雄を捕らえ、昨日の敗北を覆すほどの戦果を上げることが出来ました。感謝いたします。・・・さて、閻行さん。」
張燕は一度立ち上がり、穏やかに頭を下げた。だが、閻行を見る目は厳しい。
「あなたには罰を与えなくてはなりません。命令無視、ならびに将兵を巻き添えに。そのような勝手を見過ごす事はできません。貴女が好き勝手に振る舞い、それを許すことは私も立場上できない事・・・理解していただけますね?」
「ええ、当然ですね。」
「良いでしょう。閻行様には死罪を。・・・と、言いたいのは山々ですが。閻行さんの抜け駆けが此度の勝ち戦の1つの原動力となったのは確かな事。その上に華雄を生け捕ったという功績も見逃せません。ですから、以降の戦闘への参加を禁止、及び3ヶ月の自室謹慎を申し渡します。」
張燕の出した結論は、正直に言って甘いものだった。だが、あの華雄に勝って、かつ生け捕りなどと言う芸当をこなせるのは他に趙雲くらいだろう。
閻行の武力は頼りになるし、それを使用できなくするのは痛いが・・・。
だが、閻行本人は不服そうな表情だ。自分のした事の意味を解っているからこそ、もっと重い刑罰を願っていたのかもしれない。
「いいでしょう。ですが、それではあまりに温い。私の左目をもって、詫びと致します。」
「え?」
言いつつ、閻行は懐から小さな飛刀(投擲用の短剣)を取り出す。誰も止める間もなく、閻行は飛刀を己の左目へと突き入れた。
だが、その刃は届かない。目に突き刺さる前に誰かが突き出した手のひらに刺さり、その刃は血で濡れる。
手のひらを出したのは高順だった。
「ならば、母を止める事のできなかった愚かな息子にも罪があって然るべき。」
「・・・順、何のつもりですか。」
少し冷ややかに言う閻行だったが、高順は「今言ったとおりですよ、母上。」とだけ返す。
そして、飛刀が貫通して血まみれになった右の手のひらを張燕に示す。
「これで、手打ちにしていただきたい。宜しいですか?」
「え?え、はい・・・。」
感謝します、と頭を下げた高順は、閻行を促して退室して行った。
その場に残った人々は皆沈黙している。張燕にしても、「まさかこんな展開になるなんて」とまたも呆然としていた。
閻行を止められなかったという意味では趙雲と沙摩柯も同罪だったりするのだが、閻行に強く押し切られては分が悪すぎる、ということを鑑みて不問とされた。

廊下を進む高順と、その後ろについていく閻行。高順の右手は血まみれになっていて痛々しいことこの上ない。
「順、貴方一体何のつもりで・・・。」
質する閻行に、高順は振り向いてその頬を軽く叩いた。痛みはなく、叩かれた閻行も一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「貴方は一体何をしようとしたか解っておいでですか、母上。」
「どういう意味です・・・。」
「息子の目の前で「自分の目をくれてやる」とか言いますか、普通? 家族の立場になって考えてくださいよ。母上は何度も俺に無茶するなと言っておいて、本人が無茶をしたんですよ?」
「・・・。」
「折角、気を利かせて甘い処分で終わらせようとしてくれたのに。いいですか、2度とこんな真似しないでくださいね?」
人差し指を突きつけて言う高順。閻行は黙って聞いていたが、突然笑い出した。
「何故に笑いますか。」
「いえ? ふふふ・・・貴方も言うようになったと思いましてね。そうですね、今回は私に非がありますからその言葉はしかと胸に刻みましょう。ではこちらからも。」
先ほどの反撃とばかりに、閻行も高順の頬を叩いた。かなりの威力で。
「ぶっ!?」
「母を庇うためとはいえ、自分の手を怪我する馬鹿息子に言われたくはありません。自重なさい、順。傷物になるのは(以下省略」
「だー!? また訳のわからんことを言い出したよこの人!?」
ある意味いつも通りだった。

~~~討伐軍本陣~~~
張温は本陣陣幕で華雄が敗退し、捕らわれた事を報告するためにやってきた徐栄の言で知った。
その上、少なからず兵に被害が出た事も。
それを聞いた張温は頭を抱えた。
「うぅ・・・な、何故私がこんな目にあわなければならんのだ・・・。」とまでぼやく。
こんな目も何も、出撃せずに本陣でボケーッとしていたこの男が言う台詞ではない。
頭にきて怒鳴りそうになった徐栄だったが、それを何とか収めて進言をする。
「張温殿、このまま退いては反乱軍の名が増し、漢王朝の名が下がるばかり。此度はあのような戦いに対しての策を講じなかったゆえに・・・。」
「大体、あの華雄を捕らえるなんて。一体どんな武将が反乱軍にいるのだ。今回は楽が出来ると思っていたのに・・・。」
徐栄は進言するが、張温は全く聞いていない。まるで自分ばかりが不幸を背負っているとばかりに暗い独り言を続ける。
「くそぅ、くそぅ・・・。私が一体何をしたと言うのだ。」
一番上がこれでは、下にやる気など出るはずもない。徐栄は心底からため息をついた。
華雄様は随分苦労をなさっておられたのだなぁ、と今更ながらに思う。このやる気のない男を一時的にでも奮い立たせて、出撃させるところまで持って行ったのだ。
自分に同じことが出来るとは思えないが、ここで引き下がる事はできない。華雄が今どんな目に合わされているか解らないのだ。
傷だらけの身体をいいように弄ばれて(中略)、その上あの閻行という女の手で(略)。
・・・ああああああっ、華雄さまぁぁぁぁあ!!!
明らかに間違え抜いている妄想なのだが、速くお助けせねばと言う気持ちだけが進んでいく。
「と、とにかく・・・。敵には相当な猛者がいるようです。しかし、助けのない篭城等そう長くは続かないものです。あの閻行や高順一党が強いのは解りましたが・・・。」
徐栄の言う閻行、という言葉にずっと座って頭を抱えていた張温が反応して立ち上がった。
「なに・・・閻行?閻行だとぉぉお!?」
「は?知っておいでで。」
「そ、その女は大斧を持っておったか!?」
確かに閻行は大斧を持っていた。・・・いや待て、どうしてこの男が閻行を女だと知っている?
「ええ。持っておりました。」
立ち上がった張温の顔が見る見る青ざめていく。
「私はあの女に何度も痛い目に合わされたのだ! 西涼で何度も反乱軍制圧のために進軍したが、そ、その度に・・・!」
私は絶対に行かんぞ!そうだ、援軍を派遣してもらおう。と震える声で言いつつ、またしても張温は座り込んだ。
「お待ちください!その閻行と、張温殿のいう閻行が同一人物とは限りません!」
「お、お前はあの女と直に戦ったことがないからそのように安穏としていられる。とにかく、私は行かないぞ!」
その上、陣を南に5里、いや10里下げようとまで言い出した。
なんとか説得を続けようとした徐栄だったが、錯乱した張温に陣幕を追い出されてしまい・・・結局、すべてが徒労に終わった。
その後数日ほど協議をしていた討伐軍だったが、まず降伏勧告を出してみようという、今更な消極策に出るのであった。

~~~もう1度、晋陽城~~~
手を傷つけた高順だったが楽進の癒術を受けて(手足も)完治とは言えないが、戦う分には問題がないくらいに回復していた。
閻行が退屈しないようにと話をするために部屋に向かったり、町の警邏をしたりとそれなりに忙しい。
戦時下ではあるが討伐軍は陣をかなり南に下げたようなので、直ぐ襲い掛かっては来ないだろう。
警戒はしており、すぐに兵を動員できるようにはしているし高順達が警邏を行うのもそれに伴うものであったりする。
そんな中で、警邏帰りに高順はこの数日で日課となった「ある人物」を訪ねて城内の一室を訪ねていた。その部屋にいるのは華雄である。
高順は扉を叩いて「入ります。」と確認をして扉を開けた。
「失礼しますよ、華雄姐さん。」
「ん・・・ああ、高順か。よく来たな。」
部屋の奥の寝台で横になっていた華雄。頭と右肩に包帯を幾重にも巻いた姿で身体を高順のほうへと向けた。
そこまで歩いていき、高順は寝台の前の椅子に座った。
「まだ傷は良くなりませんか。あ、これお土産です。」
帰りに買って来た肉まんを袋ごと寝台のそばに置く。
「すまんな。それほど痛みはないが本調子とは言えん。楽進とやらの癒術とかいうのはたいしたもんだ。・・・というか、こういう時は土産と言うか見舞いで、持ってくるのも果物ではないのか?」
「果物持ってきたら「もっと精のつくものをくれ」と言いだしたのはそちらでしょう。怪我人なのに食欲多いですね。」
軽口を叩きあう2人。
捕虜である華雄の扱いはもっと酷くて当然だが閻行の知人であるし、敵であるとはいえ一軍の将を軽んじて扱うつもりはないという張燕の指示で厚遇といっていいほどの扱いを受けていた。
色々な情報を聞きだそうという打算もあるが、それくらいは当然の事だろう。
それはともかく、高順はこの華雄という女性に、一種の親近感を覚えていた。
幼い頃は閻行の娘・・・妹かもしれないが、そんな立場の人だったらしい。
いろいろと話を聞いたが、彼女が戦災孤児だったりとか、馬騰がそういう孤児を引き取っていたりとか、そこで閻行と出会った事なども教えてくれた。
華雄も、母同然に慕っている閻行の息子である高順に親近感を覚えたらしい。
その為か、華雄は高順に「姐さん」扱いされても全く怒りはしない。年齢的にも違和感はなく、2人は僅かの間に本当の姉弟同然の仲になっていた。
楽進や趙雲と言った、云わば高順一党と目される人々とも相性は悪くなく、良好な関係であったりもする。討伐側と反乱側という立場なのだが、そういったわだかまりを感じないのだろう。
暫くしたらまた敵同士になるのかもしれないが、それはそれだ、と言うことである。
「しかしなぁ、お前が高順だとは思いもしなかったよ。」
「前に戦場で戦ったときもそんなこと言ってましたよね。何でですか?」
「ああ。少し待て。」
華雄が懐から1枚の少しボロボロになった紙を取り出して高順に渡す。
見せられた高順は何かと思ってみていたが、少しして凄まじく微妙そうな表情を見せた。
「その手配書を見てくれ。こいつをどう思う?」
「凄く・・・微妙です。つか、何で目と腕が複数あって下半身が馬・・・あ、もしかして虹黒かこれ!?」
高順は自分(っぽい存在)が書かれた手配書をまじまじと見つめている。
「これ、誰が書いたんですか?」
「陳宮というちびっ娘と呂布だ。」
「呂布・・・。」
その名前を聞いた高順の表情が険しくなる。
「お前、確か丁原の部下だったのだよな。お前が手配された理由は・・・。」
「ええ。呂布殿に斬りかかった。つまり官軍に挑んだということですね。」
「そうか・・・。丁原の事は気の毒だった。あの人に罪はないのだがな。」
華雄は力なく首を振った。
「丁原様が反逆者とされた理由、知っておられるのですか?」
「知っている。十常侍を知っているか?」
「十常侍・・・!」
「ああ。あの宦官共の企てさ。丁原というお人は十常侍を嫌っていたし、対立もしていたからな。」
あいつらか。結局はあいつらなのか、くそっ。やはり、思ったとおりだった。晋陽の出来事で十常侍との確執が大きくなっていたのだ。
「どうせ、自分達にとって邪魔になったという理由でしょうね・・・あの玉無し共め。」
「実際その通りだ。それを思えば、呂布も不憫な立場さ。あいつも相当悩んでいたようだしなあ。」
「不憫?」
何が何だか解らない高順だったが、華雄は自分の知っている限りの事情を全て話した。
呂布と董卓の関係。その董卓が人質として十常侍に捕らわれ、呂布や張遼も従わざるを得ないこと。呂布が丁原に対して恩を感じていた事も一応知っている。
「怨むなとは言えない。ただ、誰にでも事情があって、その事情でやりたくなくてもやらざるを得ない、という事だってある。お前の立場で考えてみろ、楽進達が人質に取られて呂布と戦えといわれて・・・お前はそれを拒めるか?」
華雄の言葉に、高順は悩むことなく言ってのける。
「拒まないでしょうね。勝てる、勝てないに係わらず呂布殿に挑みますよ。」
だからと言って、許すか許せないかと言われれば、やはりすぐに許すことは出来そうに無い。だが、あの宴会での呂布を知る高順には、呂布もまた悩んだのだろう・・・ということだけは理解できた。
(やっぱり、辛いなぁ・・・。)
呂布の心情を理解できるからこそ、高順も悩むのだった。




そして、こんな話をしているその瞬間。
洛陽では何進が十常侍に暗殺されているのだが・・・それを知る者は当事者以外殆どいなかった。







~~~楽屋裏~~~
メリークルシマセマス終わりました。あいつです(挨拶
クリスマス終わったばかりなのにに何してるんでしょうね、私は。しっとマスクとして大活躍ですよ(何が?
張温さんが凄まじく情けないですが、正史にしろ演義にしろパッと出て「さよならー」な人なのでご容赦を。
閻行母さんに恐怖感抱きすぎですし・・・トラウマでもあるのかもw

華雄さんですが高順一党と割合仲が良いようです。
こうすれば洛陽にも・・・ゲフンゲフン。

さて、簡素な言い方ではありましたがようやく十常侍が動きました、次回ではその十常侍がアレになるんでしょうけど・・・
降伏勧告を受ける張燕はどう出るでしょうか。何進を抹殺した後、十常侍の動きは?
そして洛陽にいる二人の袁と孫策の動き。そして呂布が董卓を救い出せるのか・・・。いや、史実どおりなのでアレですが(アレ?
それともう1つ。
これで閻行さんの(戦場での)出番はほぼお終いです。ずうーっと後にもう1度あるかないか、という所ですか。
年内にあと1回更新できるかな・・・

まだまだ先の見えない高順伝。次回はどうなります事やら。
それではまた次回お会いいたしましょう。(・・)ノシ








~~~少し番外~~~
晋陽城のとある一室でのお話。

「張燕様、少し宜しいですか。」
「何ですか、高順様?」
それは高順と張燕の何気ない会話から発生した事柄だった。
「少し前に、華雄姐さんを矢で狙った張楊という人がいましたよね。」
「ええ、いますね。」
「どういう人なんです?俺・・・と言うか、周りの皆も会ったことが無いような気がしましてね。もしかして、影の1人とか?」
「影ではないのです。ただ、本人が余り人前で顔を見せたくないということで・・・。」
この質問は高順のちょっとした興味本位での事である。華雄には弾かれてしまったが、あの弓矢の精度は中々のものだった。
狙撃と言うのとは少し違うかもしれないが、上手く使えば結構な攻撃力になると思うのだ。
「まあ、同じ仲間なのに顔を知らないのは不便かもしれないですね。張楊、出てきなさい。」
何時の間にいたのか、張楊と呼ばれた男が高順の直ぐ後ろに立っていた。気配も全く感じない・・・相当な使い手であることがわかる。ただ・・・。
「・・・なんで後ろに、って。」



       ,,、‐''"~ ̄            ̄``''‐、、
     /                      \
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   /  / ~~` '' ‐- 、、 ,,__   __ ,,..、、 -‐ '' "~~\  ヽ
   |  /    __           ̄       __   ヽ  |
  .|  {  ´   ‐- ....__    __... -‐   `   } .|
  .|  〉,,・^'' - .,,      ~  i ~    __,,.- ^`・、.〈  |
./ ̄|  /,/~ヽ、  `'' ‐--‐ ,.| 、‐-‐'' "~   _ノ~\,ヽ | ̄ヽ
| (` | / ヽ,,_____`‐-、_、..,,___ノ八ヽ___,,.._-‐_'"´___,, ノ ヽ .|'´) | ←張楊
| }.| ./'   \二二・二../ ヽ  / ヽ、二・二二/  'ヽ | { |
.| //| .|          / |  |. \         | |ヽヽ|         
.| .| | .|        /    |  |.    \       | | | .|
|ヽ.| |      /     .|  |.     ヽ      .| .|./ .|
 |  .| |     /      |  |        ヽ     |  | /  
 ヽ .| |    /       .|  |       ヽ    |  | / 
  .ヽ.| |    /     '二〈___〉二`       ヽ   |  |./   
    | |          `-;-′         |  |    
     iヽ|.      ,,... -‐"`‐"`'‐- 、、     |/i  
     |  ヽ     /...---‐‐‐‐‐----.ヽ    /  .|
     |   ヽ.    ,, -‐ ''"~ ~"'' ‐- 、    /   |
    .|    ヽ         !          ./   .|
    ,,|     ヽ.         |        ./     |、
    |\.     ヽ            /     /.|
   .|.  \.      ヽ、____   ___/    /   .|
   '     `            ̄ ̄       ´     '


           

 



「!!?」
思い切りたじろぐ高順だったが、それにかまわず張燕はその男の紹介をする。
「ご紹介いたします、彼が張楊です。」
「・・・よろしくな、高順。」
なんですか、この握手を断りそうというか後ろに立ったら即投げ飛ばされそうな人。多分、真名はゴル○とかそういう・・・
「真名は東郷だ・・・。」
「誰も聞いてないのに!?」







こんだけ。ごめんなさい(笑



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第39話 なんというか色々。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2009/12/31 19:45
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第39話 なんというか色々。


晋陽城玉座の間にて、張燕は討伐軍総大将張温から遣わされた使者の携えていた降伏勧告文書を読んでいた。
内容は「愚かな戦いを始めた反乱軍首魁張燕と、高順一党の首を差し出せ」というものだった。
それ以外のことには何も触れられていない。ただ「首を出せ」とだけ。使者は内容を知っているはずもなく、ただ玉座の前で畏まっている。
これが仮にも討伐軍を任せられるほどの男が書く内容なのだろうか。
張温は実際にはもう少し賢しい男なのだが、閻行に恐れを為して、普段の頭脳を発揮できていない。それがこんなところにまで表れているのだから相当重症ではある。
「・・・なるほど。返書を書きますので暫くお待ちを。」とだけ言って、張燕は席を外した。
彼女は、内心で凄まじい怒りを感じていた。
愚かと言われたのもそうだが、自分達の首を差し出したところで兵と民の命が全く保障されないよ、と言っているも同然の勧告文書。何より罪を問うなら、前の晋陽太守こそ告発されて然るべきだろう。そして、そんな男を太守に据えた十常侍も。
彼らのような存在のせいで罪のない民は追い詰められて、それらに推されて自分は起ち上がったのだから。
そもそも、自分達の武将である華雄の事に言及すらしていない。もう死んだと思っているのか。それともどうでもいい捨て駒だといいたいのか。
そんな怒りを何とか押し留め、張燕は返書を書き始めた。

討伐軍の本陣は、張燕軍と最初に対峙した時よりも南に10里ほど下がっている。
それを往復させられる使者は溜まったものではないだろうが、それでも自分の任務を遂行するために帰還してきた。
そんな使者の苦労をねぎらいもせず、張温は慌てて返書を開いて返事を確認する。
そこには要約するが、流麗な文字でこんな事が書かれていた。
「降伏はありえず。ただ徹底交戦を行う。あまり時間をかけるのも面倒ですし、全ての決着は戦場で決めようではありませんか? 後はそちら次第、いつでも受けてたちましょう。」
と、挑発をしているとしか思えない内容だった。
自分の、高順達の、民の命を覚悟の2文字で背負い込んだ張燕の「やれるものならやってみろ」という、明確な挑戦状ですらある。
これを見た張温は「何がいけなかったんだ・・・。」と更に塞ぎこんでしまうのだが・・・まぁ、自業自得なのだろう。
華雄の安否がわからない徐栄らに教えれば間違いなく張燕軍との決着を望むだろう。戦いたくない張温にとっては頭痛の種でしかなかった。
「な、なんとか洛陽に帰還できんものか・・・?」と考え始めた頃に、洛陽にいる十常侍からの密書を携えた使者が討伐軍本陣に到着した。
この2日後、討伐軍は完全に撤退。徐栄達は納得行かず、対陣を続けるように求めたがこれ以上(怖いから)戦いたくない張温は十常侍から遣わされた手紙とその内容を盾に撤退を強行。
自分達だけでは華雄が無事としてだが救出も、輜重の問題でこれ以上の戦闘続行も不可能だと理解している徐栄達は不満を抱きながらも従うほか無かった。
張燕も討伐軍が撤退するのを黙認した。追撃をするべきだという声も挙がったが、反撃を恐れた張燕はそれに同調はしないのだった。
両軍共に被害はあったし、現状の兵数はそう変わらない。放っておけばいいと言う判断だった。
こうして、一時的に且つおかしな形ではあるが晋陽は官軍に勝利したことになり、またも漢王朝は名声を下げる羽目になった。
この時、南で反乱を起こした区星はあっさりと破られ、西の馬騰はただ官軍と睨みあいをしていただけである。
南(朱儁)に派遣された官軍は帰還中。西(皇甫嵩)もまた、何故十常侍からの命令が?と不審に思いつつも守備兵力を残して帰途に着くのだった。


討伐軍が退き、暫くは戦にならぬと見切った張燕だったが、困った事があった。華雄の処遇である。
ある程度情報を聞き出して、後は傷を治してもらい適当に拘留なり身柄を引き渡すか・・・とは考えていたが、まさか討伐軍が完全に撤退してしまうとは思いもしなかった。
華雄も討伐軍が完全に撤退した事に「はぁ!?」と驚き、「ああ・・・み、見捨てられた・・・」とガックリと肩を落としていた。
高順達は華雄の助命を願っていたし、敵将とはいえこの状況はあまりに不憫すぎる・・・と同情してしまった張燕は結局、「時機を見て帰還していただく。それまではこの地に留まって貰いましょう」という結論を出した。
そしてもう1つやりたいことがある。烏丸との繋がりを作ることだ。
これは、烏丸の動きを探らせていた影からの報告に「烏丸は現在、晋陽北側に移動して来ている」というものがあった。
長城を北に越えた場所だが、急がせれば数日とかからない。味方には引き込めなくても、少なくとも敵対はしたくないのだ。
高順達の話に寄れば、烏丸は公孫賛と良好な関係であるらしい。つまり、官軍とは言わなくても、官軍に協力をするかもしれない第3勢力と言える。
幸いと言ってもいいかどうか、烏丸と繋がりある高順が手元にいる。彼に仲立ちをしてもらって交渉をしたい。その旨を伝えたところ、高順は気乗りしないようだったが結局はその依頼を受けることにしたようだ。
高順から見ても、烏丸と敵対するかもしれない状況と言うのは好ましくない。

~~~晋陽城~~~
玉座の間に、張燕と高順の姿があった。彼らは今、烏丸との交渉のことについて話し合いをしていた。
「で、どうするつもりなんですか、張燕様。」
「はい、影に命じて手紙を届けさせています。長城付近でお会いしたいと。」
張燕の言葉に高順はやれやれ、と首を振った。
「俺が引き受けるの見越した上で既に使いを出していましたか。人が悪いと言うか何と言うか。」
「あら、酷い言い方ですね。信頼しているからこそだというのに。」
「はいはい。それで、人選はどうなさるおつもりですか。」
張燕は少し考えるような素振りを見せてから、「私と高順様、楽進様と沙摩柯様。残りの方々は留守居をお願いしたいと思います。」
正直に言えば、張燕は自分と高順さえいればなんとかなるような気はしていた。
自分自身が出向く事に意義があるし、高順がそれに従うのも交渉を少しでも有利にしたいだけである。沙摩柯は烏丸の代理責任者である蹋頓と知己だということもある。
楽進はどちらかといえばおまけのような扱いだが・・・。
「はぁ・・・まあ、構いませんけどね。どう動くかは返事が来てからですよね?」
「ええ、その通りです。ですからそれまでは警邏や訓練などをお願いします。」
「・・・非番の日は?」
「ありません(きっぱり)。」
・・・こき使うつもりですね、解ります。
張燕の冷たい一言にがっくりと肩を落とし、退室していく高順であった・・・。
数日後、影が単干「丘力居」の名で書かれた2枚の手紙を携えて帰還した。
1枚を張燕に。もう1枚を高順一党に対して。
張燕への手紙の内容は掻い摘んで言うと「そちらの考えたように、長城付近でお待ちする。」と、部族を抱える立場としての正式な文書である。
一方、高順達に対しての手紙は、彼らの安否を気遣い、また無事を喜んでいるという、友人として送った手紙であった。
手紙を受け取った高順は、自室に当時からの仲間を全員集める事にした。
この時点で彼らは手紙の内容を知らないのだが、蹋頓から丘力居が単干を継承したことに驚きつつも喜んでいた。
「さて、皆・・・手紙の封を開けるぞ。」
「いや、手紙1つにそこまで緊張するのもどうかと・・・。」
趙雲が苦笑しながら言う。事実、高順はなぜか緊張していた。特に意味はないのだが、内心で「丘力居ちゃん立派になったよなぁ」と嬉しかったのである。
「ねぇ、高順おにいちゃん。はやく読んでよ~。」
臧覇が頬を膨らませて文句を口にする。特に丘力居と仲が良いこの娘が一番手紙の内容を気にしているのかもしれない。
よし、と高順は封を開けて、手紙を広げてみる。
「何々・・・「皆様お久しぶりです。元気そうで何よりと言いたいところですけど、張燕殿の影からある程度の事情を聞きました。まさか皆様が朝敵になっているとは思いもしませんでした。蹋頓姉さまも心配しています。あ、私達は元気です。」」
ああ、蹋頓さんも丘力居ちゃんも元気にやってるって事だな。心配させているみたいだがそれは何より。と安心して高順は続きを読む。
内容は、単干を正式に継承したこと、丘力居の両脇を抱える立場の烏延と難楼にこってりと絞られていること、貰った木剣を大事にしていること・・・近況などが事細かに記してあった。
「蹋頓姉さまなんか、高順お兄さんが大怪我をして生死の境を彷徨ったというお話を聞いて「ちょっと行って来ます。」っていきなり晋陽に向かおうとしていました。」・・・何してるんですかあの人。」
黙って話を聞いていた皆が、特に沙摩柯が苦笑していた。大人しい性格ではあるが、たまに熱くなる子供っぽい所は変わってないな、と思わず笑みを浮かべてしまう。
どうも丘力居は影に高順達の現状をある程度、どころか細かく聞いたようだ。影も知っている範囲でならば高順達のことを隠さずに話したと見える。ただ、張燕の事に関してはほとんど喋らなかったらしく、張燕がどういう人かが解らないので少し不安です、とも書いてあった。
「「皆様が交渉の場に来るかどうかは解りませんけど、できればお会いしたいと思っています。臧覇ちゃんは来れないと思うけど、一帯が静かになったら幾らでも会えるよね。それでは皆様、お会い出来る事を楽しみにしております。」・・・だってさ。」
「丘力居ちゃんが単干・・・。なんだか想像できませんね。」
「蹋頓さんがそこまで早く譲るとは思ってなかったの。」
「まぁ、元気そうで何よりやん?」
半ば感心したように、3人娘がうんうん、と頷く。
「して? 交渉には誰が赴くのですかな、高順殿?」
「んー、張燕様が言うには、俺と沙摩柯さんと楽進を連れて行きたいって言ってたな。」
「なんと。私は連れて行って貰えぬのですか。」
趙雲はあからさまに不満げな表情で言って見せた。
「俺に言われてもなぁ・・・。どうしても行きたいのなら俺から聞いてみるけど、皆には留守居を頼みたいと言ってたんだよな。」
「ふーむ。」
高順にせよ趙雲にせよ、討伐軍がこのまま何時までも黙っているとは思っていない。張燕もそれを理解しているからこそ留守居のほうに武将を多く残したいのだろう。
張燕も交渉の場に赴くので臨時の総大将は誰になるやら、と考えた高順だったが・・・思い浮かんだのが張楊だったので深く考えないようにした。(現実逃避

~~~4日後、長城北部にて~~~
張燕は自身の言った通りに高順、沙摩柯、楽進と、1000ほどの兵とそこそこの数の荷馬車を伴って丘力居の指定した場所へと向かう。
そこには既に、数千の軍勢と「丘」と書かれた旗、そして立派な穹廬(きゅうろ。烏丸の使用するテントのようなもの)があった。
張燕は兵士達を待機させ、高順達のみを伴って穹廬へと向かう。
その穹廬の脇に立っていた2人の女性が進み出てくる。烏延と難楼であった。
「張燕殿とお見受けする。中で単干がお待ちだ、武器を兵に預けてから入られよ。」
少々高圧的な言い方であったが、話をしたいと申し出たのは張燕の方であり、出向く形になったのだ。仕方がないとは言える。
「解りました。皆様、武器を・・・。」
張燕の言葉に、沙摩柯と楽進は自分の武器を烏丸兵らに預けた。敵意が無いと言うことを証明するためでもあるのだが・・・高順は三刃槍を思い切り地面に突き立てた。
周りにいた烏丸兵は思わず得物を高順に向けるが、それを烏延と難楼が押し留めた。
さすがに彼女達は歴戦の勇士であり、高順の行いに些かも動じる事もない。
「お前達、これくらいのことで驚くな。すまぬな、高順殿。部下の非礼を許していただきたい。」
「解っている。・・・さ、入りましょ?」
「え、はい。」
張燕は高順に促されて穹廬の中へ。そこに楽進、沙摩柯と続き最後に高順も入っていく。
高順の真意は「この槍は重いから無理して持たせる必要は無い」というものだったが、その中には「あまり舐めるなよ」という物も含まれている。
その後、丘力居と張燕の会談の最中に悪戯心を出した何人かの若い兵士が三刃槍を地面から引き抜こうとしたのだが、誰1人としてそれを成し遂げられる者はいなかった。

穹廬の中には数人の兵士、そしてゴザのようなものに座っている丘力居と蹋頓の姿があった。
丘力居は高順達を見て一瞬だけ嬉しそうな表情を見せるが、すぐに真面目な表情になる。蹋頓は変わらずニコニコと笑っている。
高順から見ても丘力居は随分成長したように感じた。座っているのだが、別れた頃よりも背が伸びて女らしくなった。
蹋頓は変わっていないが、前に比べれば烏丸の事を考えて張り詰めていたような物がなくなったかようにも感じる。
張燕は促されて、丘力居の前に座った。
「ようこそお越しいただきました、張燕殿。」
「お初にお目にかかります、丘力居様。此度はこちらからの呼びかけに応えて下さり感謝しております。」
「いえ。さて、早速ですがそちらのご用件をお聞きしましょうか。」
内容は「烏丸と晋陽の同盟ないし不戦条約」「互いの特産物の売買」等である。
張燕側からの頼み事であるし、足元を見られることを覚悟しての話し合いだった。少なくとも、不利は承知である。
だが、案に相違して丘力居はあっさりと「いいですよ。」とだけ言った。そのあっさり具合は張燕だけでなく、高順達も驚くほどだった。
「あの・・・そんなにあっさり?」
「ええ。こちらは何を失うというほどのものでもありませんし。我々は公孫賛様と盟を結んでいますが、漢王朝に忠誠を誓っている訳ではないのです。」
公孫賛様から要請が来ない限りは漢人同士の争いに手を貸す理由もありませんし。と丘力居は肩をすくめた。
「では、確認を。烏丸と晋陽の軍事同盟。これは、公孫賛様からの要請があった場合でも張燕殿を攻めないということでもあります。そして物資食料等の取引。我々烏丸に何かあった時、晋陽で民の保護をして頂けると言う事。その逆も然り・・・。こんなところですか。」
まだまだ細かいところの調整をするべきだろうが、張燕側にとっては願ってもない話であった。少なくとも敵対はしないということは確定したのだから。
ただ、これは晋陽だけではなく高順達に対しての話でもある。丘力居は暗に「何かあったら高順達を受け入れる」事を仄めかしているのだ。
張燕も高順達も安堵した。これで南北から挟み撃ちされる心配はないし、何よりこの交渉が向こうの(多分)善意で上手く纏まろうとしているのだから。
丘力居は、些かなりともこれで恩返しが出来るのならば安いものだと考えている。甘い判断かもしれないが、丘力居は誰に意見を聞くでもなく己の意思でこの会談を纏めようとしていた。
だが、ちょっとした条件をつけようと思っている。
「ただし、2つだけ条件があります。」
「条件、ですか?」
張燕の言葉に丘力居は頷く。
「聞けば、張燕殿は漢王朝と敵対しているとか?」
「はい。ですが、それが何か・・・。」
この時点で、高順は何か凄く嫌な予感を感じていた。楽進も同じだったらしく、複雑そうな表情である。基本的に、この交渉では高順は口を出さず黙っていた。よほど変な方向に行けば口出しもしただろうが上手く纏まりかかっている状況を変にこじらせる必要は無い。
そこで高順は意識した訳ではないのだが不意に、自分と同じように黙って話し合いを見守っていた蹋頓と目があった。
彼女はにっこりと笑うのだが、なんというか妖艶なものを感じて高順は顔が真っ赤になった。
そんな周りの人々の変化など気にも留めず、張燕と丘力居は話を進めていく。
「友好の証としてそちらに援軍を派遣したいのです。」
「え、援軍!? しかし、それではそちらのお立場が不味くなってしまうのでは。」
「構いません。我々は漢王朝に屈している訳ではありませんし、公孫賛様には係わりのない事ですから。」
「それは・・・ありがたい事はありがたいのですが。」
「では、宜しいですね。烏丸騎兵700と、私の後ろに控えている蹋頓様を派遣。昔、高順殿は烏丸兵を指揮していたこともありますからその下に配属、ということで如何でしょうか。」
『!!?』
丘力居の言葉に高順・楽進が凍りついた。
「つまり、高順様の私兵と言った感じに・・・?」
「はい、そう思ってくださって結構です。」
(え、なにこの流れ。軽くヤバイ?つうか何で蹋頓さん・・・いや、手紙に蹋頓さんが晋陽に向かおうとしたとか・・・この笑顔と言い・・・伏線だったのかアレ!?)
何だか良くわからない事を考えていた高順だったが、これは晋陽側としては悪い話ではない。
晋陽を漢王朝から守りきり、諦めさせる・・・支配権を認めさせる、という段階で烏丸の影響が入るのは悪影響ではあるが、精強な騎馬隊と言うのは魅力的である。
高順は武力では趙雲・沙摩柯に多少劣るが、指揮能力だけで言えば決して負けていない。張燕は今まで知らなかったが、高順が公孫賛に仕えた時期に精強だが性格の荒い烏丸兵を手懐けていた。指揮する将として考えれば適任と言えそうだ。
高順としては断りたいし、というか実際に断ろうとしたのだが、張燕は機先を制して「解りました。責任を持って預からせていただきます!」と言ってしまい・・・高順の意思など全く関係のないところで話は纏まったのであった。

・・・や ら れ た。by高順。

~~~晋陽へ帰還する道中にて~~~
現在張燕軍は晋陽への帰還最中だ。丘力居は「このまま一泊していただいても。」と申し出てくれたが、もし討伐軍が再度侵攻してきたら・・・と言うことを考えればゆっくりしている余裕などない。
虹黒の背に乗った高順はなぜかどんよりとした表情を浮かべて肩を落としていた。
「いやね、解ってるんです。解っているんですよ?俺の意思なんて尊重されないでしょうし、同盟を結ぶ条件なんですからこっちが呑まないといけないって言うのはね。でもさ・・・。」
なんで蹋頓さんまで派遣するかな!? と叫びたかった。心から。
別に彼女の事を嫌っているわけではない。好意を向けてもらえるのは男として嬉しい事ではあるが、その行為が露骨過ぎるときが多々あり、少々困る。
それによって趙雲からは嫌味をネチネチ言われるし、楽進は機嫌が悪くなるし。閻行と出会えば嫌な方向で意気投合するのは目に見えている。
沙摩柯は友人と肩を並べて戦える状況を喜んでいる(高順の不幸には目をつぶってる)が、楽進としてはやはり微妙なようだ。
高順同様に、彼女を嫌っているわけではない。自分にないものを持っている大人の女性で、ちょっとした憧れもある。ただ・・・楽進も高順に好意のようなものを抱いているし、趙雲も同じようなものだ。
そこに蹋頓が加わるというのは戦力としては置いても、歓迎したくない話である。
その蹋頓は徐州で高順一党の女性陣に見立ててもらった服を着て、柔和な微笑を浮かべて高順の直ぐ横にぴったりと寄り添っている。(彼女も馬に騎乗している
(ううっ・・・あ、あそこは私の定位置のはずなのに・・・!)と、嫉妬の炎を燃え上がらせている楽進であった。
「あのー・・・蹋頓さん。」
「はい、なんですか?」
高順の問いに蹋頓は笑顔で応える。
「宜しかったのですか、丘力居ちゃんから離れて?」
「ええ、問題はありません。烏延と難楼がきっちりと補佐をしてくれますし、私は時折横から意見をするだけの立場でした。あの子はまだ一人前とはいえなくても・・・立派にやっていけますよ。」
そういって笑う蹋頓だったが、高順達と別れてからの彼女には離散した人々を集め、劉虞の横槍で分裂しかけた烏丸の建直し。やるべき事が多くあった。
蹋頓はそれらを終えたときに、休憩をさせてもらおうと考えていた。
丘力居に単干を継承させることも出来た。仇討ちから始まった自分の悲願は何とか達成できた。
女性として何よりも大切な部分を失い、それでも痛みに耐えて走り続けてきた。少しくらい休んでも罰は当たらないだろう。そんな蹋頓の心情を理解したからこそ丘力居は高順に姉同然の蹋頓を預けるつもりになったのだ。
「それでですね、蹋頓さん。」
「まだ何か?」
「何と言うか・・・それ以上近づかれると困るのですが。」
「あら、高順さんはもう私のことをお嫌いに?」
「ちがーう!違いますっ!虹黒が警戒するし、馬同士近づけすぎだって言ってるんですよっ!」
「ぶるるっ?」
え、何が?ってな感じに虹黒が顔を上げた。虹黒は全く警戒していないようだ。
それ以外に困っている事もある。彼女、徐州にいた頃に見立ててもらった服と言うのは深いスリットの入った艶っぽいチャイナドレスだ。その上に蹋頓は高順の仲間の中で最高のプロポーションを誇る。
彼女の身体の線を無駄に強調する服である上に・・・騎乗している蹋頓だが、馬の動く振動にあわせて彼女の豊満な胸g(以下省略)。
困る。眼福かもしれないが、男と言う存在はそういうものに果てしなく弱い。男の兵士は何人かが真っ赤になって俯いてるし女性兵士は敵意とか羨むような視線が・・・。
「嫌いでは無いと言うことは・・・愛の告白?」
「なんでそう両極端な発想になるかなっ!?」
こういった発言に、苦笑する兵士や沙摩柯。機嫌が一層悪くなる楽進。
様々な反応だが・・・蹋頓本人は久々の子供じみたやり取りを心底楽しんでいた。

張燕隊は何の妨害もなく無事に晋陽に到着。高順にくっついて来た蹋頓を、趙雲達は驚きながらも暖かく迎え入れた。
その後、蹋頓が閻行に挨拶に行った時に高順の予想通りおかしな方向で大いに意気投合したり、数日後高順に対して夜這いを(中略)男(中略)その時の叫び第一位は「もうやめて(中略)」、真っ白になって燃え(中略)であった。(何があったのだろう?






~~~前回に引き続いておまけ~~~
「んー・・・。」
ある日の夜。
自室の机に向かっている高順は、竹簡に書かれた内容を読みつつ悩んでいた。
竹簡の内容自体は影の諜報活動の結果得られたものだが、過去の物でありはさほど重要ではない。何より何度も読んできたものである。
この諜報能力は大したものだなぁ、と考えていた。活動範囲は狭いもののなかなか有用な情報を拾ってくる。それなりに影の人数も多く、1人1人が優秀でもあるのだろう。
情報が大事と曹操に言っておきながら、高順にはそういった技能も、人材もいない。
もしも、は禁句だが徐州なり陳留なり北平なりで、諜報活動の出来そうな人間を迎えておけば丁原達が死なないように手を打つ事だって出来たかもしれないのだ。
何事においても後手に回ってしまっている。高順はそれを痛感する。
そこで、「高順さん?」と誰かが後ろから腕を回して抱きついてきた。蹋頓である。
「・・・なんで貴女が俺の部屋に。何時入ったんですかって、ちょっと胸が当たって・・・!」
「んっふふ♪ 当ててるんですから当たるのは当然ですよぉ~? ・・・うっぷす。」
全然気配を感じなかったが、酒の匂いがする。酔っ払っているのだろうか・・・。いや待てこの会話には何かデジャヴ・・・どうでもいいか。
ひっついてくる蹋頓を苦労して剥がした高順だったが、蹋頓は酔いつぶれたのか眠りかかっている。
はぁ、と溜息1つついて、高順は蹋頓を自分の寝台に寝かしつけた。
「悩んでる暇があったら行動したほうがいいですよぅ・・・くぅ。」
寝台に潜り込んだ蹋頓は、わざとなのか寝ぼけているのか解らないような言い草でそれだけを言って寝息を立て始めた。
「やれやれ・・・。」
それを言うために酔っ払って来たということでもなかろうが。
「悩んでる暇があったら、か・・・。」

~~~張燕の執務室~~~
「というわけで、影ください。」
「何が「というわけで」か全く解らないのですけど・・・?」
言われたから即行動、ではないが高順は張燕の執務室に入るなりそう言った。
いきなりそんなことを言われたから張燕も困っている。
「ええと、どうして影が欲しいのですか? 理由を教えていただきたいのですけど。」
「理由・・・情報収集源が欲しいのですよ。何とか都合できません?」
「何とかと言われましても・・・困りましたね。」
張燕は腕組みをして考えた。
いきなりすぎるが、言い分は解らないではない。それに高順に対しては大きな借りばかりができている。
自分の戦いに、両者共に思惑があるとはいえ巻き込んだ事実がある。投石機作成・兵の訓練・資金援助(復興支援)等・・・。
数え上げただけでもこれだけの借りがある。お金を返す当ても現状では見つかっていないし、彼らには給料を払っている訳でもない。張燕軍の幹部級の扱いのはずなのに、それらしく扱ったことも無い。
しかし、彼に扱える影は・・・。
ふと、ある2人が思い浮かんだ。自分では上手く扱えないが、高順なら何とかなりそうな2人が。
「2人・・・心当たりが無いではありませんけど。」
「本当ですか!?」
「ええ、多分高順様であれば何とかなるかと・・・。」
「・・・え、何とかって。」
「大丈夫です! 高順様ならばきっと大丈夫ですから!(視線逸らし」
「え、無理を承知でお願いしてるのは俺なのに、なんで張燕様のほうから説得にかかって・・・!」
「楊醜(ようしゅう)! 眭固(すいこ)!」
混乱する高順を尻目に、張燕はその2人の名を呼ぶ。
そして、何処から現れたのか。その2人とやらがいつの間にか張燕の後ろに立っていた。




         _  -───-   _
            ,  '´           `ヽ
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    r'"        `ヽ
   /   fi l  ト ト |、i、 i   
    |   ノ リ ル' レ' リ リj ヾ リ  
   レヽ| '"^二´   `ニ^h′  
    { ^r  ゙⌒////(⌒ { |  
    ヽ.( ij       ∠ィ リ  ←眭固   
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     l ト、ヽ.       l /  
.     リ \` -─- , '    
 ─- ..⊥.   ` ー- イ-‐''" ̄  
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       /(  ̄)  (_)\         ┃   ━━━━━━━━
     /::::::⌒(__人__)⌒:::: \       ┃               
    |    ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚                        ←高順(イメージです
    \   。≧       三 ==-
        -ァ,        ≧=- 。
          イレ,、       >三  。゚ ・ ゚
        ≦`Vヾ       ヾ ≧
        。゚ /。・イハ 、、    `ミ 。 ゚ 。




「え、ちょ、何これどーなってるの!?」
むっさ引きまくる高順。このどこかで見た2人は何と言うかすっげぇマズイ気がする。
「ちょちょちょty(噛)、張燕様っ! 何ですかこの2人は!?」
「ええと、この2人は私の言う事を中々聞いてくれなくて、よく私に「張燕様が男だったらな・・・」とか。だから男性の高順様なら大丈夫です、大丈夫ですから!(まだ視線逸らし」
「な、何ぃぃぃぃ!?」
不毛な言い争いをする2人だったが、そこに楊醜と眭固が割り込んでくる。
「張燕様、こいつに仕えれば良いのかい?」
「ええ、そうです!」
「!?」
「中々いいツラしてるじゃないの。気合入れてかないと・・・なっ!(やる気満々」by楊醜
「僕達を引き入れたいなんて・・・なんて事を考える人なのだろう。」by眭固
「・・・。」
「そういわけで2人とも。これからは高順さんの影として誠心誠意お仕えしてください!(あさっての方向見つめつつ」
「ちょ、謀ったな張燕様!?」


         _  -───-   _
            ,  '´           `ヽ
          /                 \
        /                    ヽ
      / __, ィ_,-ァ__,, ,,、  , 、,,__ -ァ-=彡ヘ  ヽ
       ' 「      ´ {ハi′          }  l
      |  |                    |  |
       |  !                        |  |
      | │                   〈   !
      | |/ノ二__‐──ァ   ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ
     /⌒!|  =彳o。ト ̄ヽ     '´ !o_シ`ヾ | i/ ヽ !    「ああ、次は高順だ・・・(主君変更的意味で」
     ! ハ!|  ー─ '  i  !    `'   '' "   ||ヽ l |
    | | /ヽ!        |            |ヽ i !
    ヽ {  |           !           |ノ  /
     ヽ  |        _   ,、            ! , ′
      \ !         '-゙ ‐ ゙        レ'
        `!                    /
        ヽ     ゙  ̄   ̄ `     / |
            |\      ー ─‐       , ′ !
           |  \             /   |
      _ -‐┤ ゙、 \           /  ! l  |`ーr─-  _
 _ -‐ '"   / |  ゙、   ヽ ____  '´   '│  !  |     ゙''‐- 、,_


       ,.  -─-  、
    r'"        `ヽ
   /   fi l  ト ト |、i、 i   
    |   ノ リ ル' レ' リ リj ヾ リ  
   レヽ| '"^二´   `ニ^h′  
    { ^r  ゙⌒////(⌒ { |  
    ヽ.( ij       ∠ィ リ  「僕・・・こんな事初めてだけど良いんです・・・。(主君を変える的意味合いで」 
.     ド、 r ⌒`ー--‐1 ,'   
     l ト、ヽ.       l /  
.     リ \` -─- , '    
 ─- ..⊥.   ` ー- イ-‐''" ̄  
      ` ー-  、 /



「ところで、俺の真名は高和だ。」
「僕は、正樹です・・・。」
「だから誰も聞いてないよ!? 張燕さん、この2人はちょっと無理! 変更を要請します!」
「無理と言うか不可! 無理言わないでください、あまり我侭言うとお金返しませんから!(ヤケ」
「な、何ぃぃぃぃぃ!?」
結局、高順は押し切られてしまうのだった。
・・・蹋頓さんと言い張楊さんと言い、この2人と言い・・・なんでしょうか、俺は呪われてるんでしょうか。
神様、助けてプリーズヘルプミー・・・orz

これまで生きてきた中で、初めてと思えるくらい凄まじい脱力感に負けてその場で崩れ落ちる高順であった・・・。

~~~数日前~~~
「くそ、何で袁紹殿が宮中を攻撃してくるのだ!?」
「ひ、逃げ、逃げろーーー」
洛陽、宮中は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
何進を殺された報復として、孫策に焚き付けられる形で決起した袁紹・袁術が十常侍を攻撃。宮中にいた十常侍もろとも宦官2千人ほどが抹殺される事態に陥っていたのだ。
宦官と見れば区別無く抹殺していく袁家の兵士達。
この時、十常侍筆頭の張譲という男は側近と共に自身が擁立した皇帝「劉協」と、呂布を動かすための人質である董卓、賈詡という少女2人を連れて呂布の元へ逃げようとしていた。
だが、それは叶わなかった。このときを狙っていた呂布と陳宮が、張遼と張済・張繍兄弟に数百の兵をつけて宮中に送り込んでおり、この混乱に乗じて張譲とその供回りを悉く抹殺、董卓と賈詡の両名を奪還したのである。
張遼達は官軍であるため、攻撃はされなかったが相当危ない橋を渡ったようだ。途中で何度も袁家の武将に見つかり交戦も止むなしと言う状況だったが、賈詡が皇帝の名を利用する事で切り抜けたらしい。
その張遼達が何とか呂布が布陣している場所まで帰還。皇帝を拾ってきた事は大誤算であったが。
こうして、呂布を繋ぐ楔も、呂布を利用しようとしていた連中も一斉に消えた。残るは袁家の軍勢をどうするかだ。
賈詡と陳宮の「皇帝の名の下、官軍として袁家の軍勢を滅ぼすべし」という献策を受けた呂布は、十常侍を抹殺したと思って浮かれている袁家を撃滅するために静かに動き始めた。



~~~楽屋裏~~~
もーいくつねーるーとー和尚がー2-(謎 あいつです。
何とか平成21年が終わるまでにもう1話投稿できました。年末に何をしているのかといわざるを得ない。


復帰してーと言われてた蹋頓さんが復帰しました。もう皆エロいんだから(特にあいつが
丘さんも成長しました。作中では(めんどくさいから)書かれていませんが、臧覇も発奮したのかこの後趙雲とかに武術の稽古をお願いしていたり・・・。
この娘も後々立派になるのかもしれませんね。
そして洛陽。ちょっと複雑ですが、蹋頓さんが高順と合流する前くらいの話になります。
派遣された官軍が還ってこない内に、という思惑が2つの袁と孫策、呂布にもあったのですな。
で、何故孫策が袁紹と袁術を焚き付けたのかと言うと・・・なんででしょう。(おい
脳内設定では地図とか奪って戸籍帳を回収し損ねた、みたいな流れが出来てます・・・美味しいとこ取りするために。
この戦いでは孫策は実利を取るために行動をしたんですね、名はこの際と思って捨てたのかもしれません。何やったとこで袁にとられちゃいますし。
董卓奪還の流れも書きたかったのですがややこしくなりそうなのでやめました。ご都合主義で上手くいったよ、とw

これで董卓政権の掴み位はできてきました。
呂布、というか董卓が帝を奉じて官軍となったなら、それに相対する袁家軍は賊軍となってしまいますからねぇ・・・頭に血が上って「帝をお救いするのですわー!」とかになりそうです・・
いや、あの愛すべきお馬鹿さんじゃ無理なんだろうな(ああ
原作の「真・恋姫」では何進と十常侍が共倒れした後に、董卓が政権樹立できた理由を何も書かれてなかったので無理やりに理由をでっち上げてしまいましたが・・・
これで張燕軍も史実のような流れになるでしょうか。
で、おまけは気にしちゃ駄目です。気にしたら負けです。意味が解らない人は くそみそ で検索すれば不幸になれるよ!

もう1つ。高順君に何が起こったのかは想像にお任せします。
この後も少しその描写を書こうとしたんですが・・・絶対にXXXになるんですよねぇ・・・。要望があれば書くのかもしれませんけど。

ふと思ったのですが魏ってえろす担当の大人な女性がいません。
呉では黄蓋、蜀では黄忠・厳顔という人がいるのに。差別だ(え

さて、高順君たちは以降どんな流れに巻き込まれてしまうのでしょうかね。


来年が皆様にとって良き年でありますように。私?HAHAHAこやつめ(誰だ
それでは皆様。また来年お会いいたしましょう!(・×・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第40話 高順、洛陽へ(行くのにも一悶着)。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/08 23:56
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第40話 高順、洛陽へ(行くのにも一悶着)。


高順が晋陽で(何か色々と)大変な事になっていたとき、洛陽では董卓が軍・政共に権利を掌握しつつあった。
何進と十常侍が共倒れになり、権力の空白状態が生み出されてしまったのだ。
本来、董卓の現在での地位を狙ったのが袁家であり、十常侍を殲滅せんと動いたのだが・・・計算違いが生じた。
皇帝である劉協を擁してしまったのは呂布であった。彼女からすれば董卓と賈詡さえ保護できれば良かっただけで、帰還した張遼達に皇帝が一緒についてくるとは夢にも思わなかったようだ。
だが、賈詡と陳宮は「このまま、袁軍を掃討するべきだ」と呂布に進言した。
十常侍を誅した後、袁紹・袁術軍は宮中を荒らし回っている。総大将である袁紹はそんな事をしたい訳ではなかったが、一部の兵が暴徒同然となって宮仕えする女官に乱暴を働いたり、宝物を奪ったりという状況だった。
それを許す法は無い。幸いにも呂布のほうにこそ利と理があり、袁軍にはそんなものは無い。皇帝の有無も理由になる。
決断した呂布は、全軍を以って袁軍に総攻撃を仕掛けた。
彼女達の手元にある兵力は、宮中を占領している袁軍とほぼ変わりは無い程度だったが、相手が悪すぎた。
1人で万人を相手に出来る、という武を持つ呂布。張遼・張済・張繍・賈詡・陳宮といった勇将知将。そして精悍無比な西涼騎兵の心をきっちりと掴み結束させている董卓。
呂布を前面に押し出した「正規軍」は袁軍に強襲を仕掛けてあっさりと蹴散らした。
袁軍に所属する孫策が援護に出ていればもっと時間を稼げただろうが、孫策は地図を押収して(他にも色々と欲しいものはあったが)あっさりと退いていた。表向きは袁術軍の退路を確保しておく、という理由で。
呂布から攻撃を仕掛けられた事にも気づいていた。だが、普段から自分達をこき使い後ろでふんぞり返っているだけの袁術を助ける気などこれっぽっちも無い。
呂布に散々に追い散ららされて、ほうほうの体で逃げていく袁軍であった。
その後董卓は賈詡に命じて宮中の修復、洛陽の治安維持などを行い成果を挙げていく。
軍政共に再編を行い、何とか体制を整えた漢王朝は董卓を「賊である袁軍を蹴散らし洛陽に平和を取り戻した功臣」と賞し司空の座を与えた。
皇甫嵩と朱儁も高位の将軍位に就く予定だったが本人達は「この事態に我々は何もしていない。身に余る光栄ですが、功績を挙げていない我々が受けることは出来ない」と辞してしまい、繰上げのような形で董卓になってしまった。(これは賈詡が裏で動いた事も大きい
その後は、混乱の中で外戚、宦官共と多くの人材を失った漢王朝は軍事・政治も徐々に董卓に任せるようになる。
これは、董卓が呂布らを取り込み(最初から呂布は董卓派であるが)数万と言う自前の兵士を持っており、洛陽に駐屯させているからでもある。
それほどの大軍勢を官軍と為し、徐々に正規の兵士も自軍に取り込んでいく董卓・・・というよりは賈詡なのだが、その威容に皇帝となった劉協とその取り巻きも遠慮をし、かつ認めたということだろう。
漢王朝の董卓への厚遇が各地諸侯の反発を招き後々の大乱へと繋がっていくがそれを予見しているものはまだ少ない。



洛陽でそんな事が起こっていると知らない張燕は、警戒はしつつも影に情報収集を行わせている。
高順も(あまり色々と考えたくは無かったが)楊醜と眭固を洛陽に派遣して情報を得ようとしていた。
張温率いる討伐軍が退いたとは言ってもいつ来襲してくるかわかった物ではない。
最低限、官軍の動きだけは掴んでおきたいというものだったが・・・話はそれ以前の物で終わりそうになっている。
この時の状況を説明すると、南で乱を起こした区星は討伐軍の攻撃で半月と持たず壊滅。西の馬騰は不穏な動きを見せただけで攻めかかっていく事は無く、ただ防備を固めているのみ。
中央の政権が変わりつつある、という事を馬騰側が掴んでいたという話があったのかもしれない。
ともかくも、明確に反旗を翻しているのは晋陽のみという状況であり、総力を挙げて攻められればひとたまりも無い。
そして董卓側でも晋陽の乱と言うのは頭が痛い話であった。
政権を建てたとはいえ、十常侍派の者、権益を得たい者・・・多くの思惑が宮廷にはあるもので、足元が固まっているとは言えない。
軍事力を使用して晋陽を叩き潰すという手が無いでもないが、政権を建てたばかりで大規模な軍事力行使は・・・と思う向きもある。
荒事を好まない董卓は賈詡や陳宮といった軍師、そして呂布や張遼などと相談を重ね、外交的解決を考えている。
賈詡は「更に漢王朝の威信が低下するのではないか」と不安視もしていたが・・・。
また、華雄が晋陽勢に捕らわれているらしいという事、高順一党が晋陽勢に加担しているという報告も徐栄から上がっておりそれも原因の1つだった。
ここで問題が1つ。
誰が晋陽へ使者として赴くか、である。
確実に向こうが殺気だっているのは解っている事だし、降伏をさせるにせよ和平をするにせよ・・・胆力のある人物でなければ耐えられないのではないか?という考えである。(それを思えば張温が派遣した使者は胆力のある人物だったのだろう。
そこで名乗りを上げたのは張遼だった。
最初はそれほど興味を示さない彼女だったが、華雄が捕らわれている可能性がある事・高順一党が加担している事を知って態度を変えた。
呂布では口数の少なさから使者には向かないし、陳宮か賈詡では上から目線になりすぎて余計に反感を高めてしまうだろう。
特に反対も無く、ここまではすんなりと決まったものの、肝心の内容に関しては相当に揉めた。
まず、晋陽側の要求が無く何を何処まで望むのかが解っていない。
賈詡に限らず、まず独立を望んでいるというのは理解しているのだがどこまでの権利を認めてやるかだ。
そして漢王朝に反逆したという高順一党の処分についてもどうなるかが解らない。
この件に関しては(珍しい事に)呂布と張遼が特に熱心に赦免を望んでいた。
十常侍が存在しているのならば無理だったろうが、その十常侍自体が消滅している。
呂布らの主張は「丁原達はあくまで十常侍に反発しただけで漢王朝に反旗を翻した訳ではない。高順も同じことで、おかしな流れでいまの状況になってしまっただけだ。」というもの。
それはおかしいでしょ・・・と賈詡は突っ込みかけたが、「ん・・・?」と思い直した。
要は全ての罪を十常侍に擦り付けてしまえば良い訳だ。呂布達からも色々な事を聞かされたし、丁原達の事情も知っている。
実際、晋陽の乱にせよ高順一党にせよ、全て十常侍の「身から出た錆」と言うことは事実なのだ。
多少の権利を譲ってやる事は覚悟の上で、張燕・高順一党に赦免を出して足元の定まらない董卓政権のシンパに仕立てる事も可能か?と考え始めた。
それに、徐栄の報告で高順一党は油断できない相手で、相当な武力を持っているようだ。一騎打ちで華雄が負けるというのは相手がかなりの力量だと言う事・・・。
彼女を打ち倒したのは別人らしいが、高順と言う男も負傷しているにも拘らず華雄と互角に打ち合った、とも言っていた。
ただでさえ人材が少ないのだ、そういう人物は幾らでも欲しい。
自分達を「善」とし、十常侍を「悪」として自分達の正当性を主張する1つの機会か。
そこで賈詡は董卓の許しを得て和平文書を書いた。それを張遼に託し、後は彼女自身の裁量に任せる事にした。
問題はどこでどう落し所をつけ、それをこちらが実行できるか・・・というところか。まぁ、何とかなるだろう。張遼ならば問題ないだろうし、最初に垂らした餌も相当美味しくしたつもりだ。
そんな流れで、張遼は2千ほどの兵を引き連れて晋陽へと向かっていく。
その情報を晋陽側が掴んだのが張遼が到着する2日前であった。


~~~晋陽~~~
「・・・おかしなことになりましたね。」
張燕は高順一党を政務室に呼び出して対策会議を行っていた。
影からの報告によれば張遼は約2千の兵士を率いてこちらに向かっている最中だと言う。だが、2千と言うのはどういうことだろう?それだけの兵士で、戦争を出来るはずはない。
「あくまで護衛のためと言うことか。降伏勧告でもするつもりか?」
趙雲は顎に手を当ててじっと考え込んでいるがそれくらいしか理由が浮かんでこない。
他全員も同じ意見らしく、頷くばかり。
「相手の目的が解らないとはいえ、警戒を怠るべきではないでしょうね。影からの報告ではあと2日ほどで晋陽に到着するとか。投石機の準備、迎え撃つ場合の兵の編成・・・仕事は減りませんね。」
楽進は確認するかのように言った。
結局、いつも通りに警戒だけは怠らないように、ということになるのだが高順は1人、半々の確立の流れになるか、と考えていた。
楊醜と眭固の報告に「董卓が十常侍を消して政権の足固めをしている」という物が(不鮮明ではあるという条件付で)あった。
そうなると、董卓治世の漢王朝側としては晋陽と争う理由が一気に減る。
張燕は乱を起こしたといっても、どちらかと言えば十常侍の配置した太守への乱・・・十常侍のやり方に反発したという意味合いが強い。
消去法で考えれば、手打ちの打診をしてくるだろう・・・くらいは考え付く。
十常侍を抹殺したのが誰か、までは伝わっていない。普通に考えれば袁紹あたりか。
自分の手で仇を討ちたかったが・・・だが、片割れの呂布は残っているがそれは保留しておこう。
さて、もう半分は不安がある。董卓という人物が史実どおりであれば力任せで来ることもまた考えうる。
結局は警戒するしかないか、と思い直すが、もしも後半分の良い予感が当たれば・・・一気に張燕の立場は良くなるだろう。
ただ、自分達の扱いは良くならないかもしれない。張燕の独立を認める材料の1つとして自分達の引渡しが利用される可能性は高い。
(そうなると、俺達はお役御免・・・さて、どうなるのかなあ。)
やれやれ、皆には余計な苦労をかけてばっかりだ・・・はぁ、とため息をつく高順であった。

この会議の2日後、張遼は予定通りに晋陽へ到着。張燕との交渉を行いたいと使者を送る。
張燕達は魂胆を読みきれないが、応じると決断。
話し合いに応じるという返事を受けた張遼は、(周りの武将は止めたが)寸鉄も帯びずにただ1人晋陽の門を潜っていった。
その彼女を出迎えるのは楽進と趙雲だ。
こちらには欺くつもりは無い、ということをアピールするためである。そもそも争うつもりも無いのだから、と張遼は平然としていた。
「ほほぉ・・・」
案内役兼見張りの楽進と趙雲に付き添われて張遼は政庁へと向かっていく。
投石機やら街並みやらを興味深そうに見ているが、何よりも興味があるのは高順一党と目された楽進達の方である。
一度全力で手合わせをしなければ掴みきれないだろうが、この2人は相当な腕前だ。
華雄で相打ちにもっていけるか否か・・・くらいの強さやな、と予測をつけている。
他に何人いるかは知らないが、高順達を取り込めば更に董卓軍の戦力・・・そして戦術・戦略の幅が広がるだろう。
取り込めれば、の話なのだが張遼は絶対に引き込むつもりだ。賈詡にとっても、ある程度の餌で釣ったとして彼らの能力を知れば納得はするだろう。
(どうやって晋陽、ならびに順やんを引き込もかなぁ。書状の内容はあんま知らへんけど・・・書かれてる条件で満足してもらえるんかいな。)
自分を警戒して殺気をみなぎらせている楽進の視線など気にも留めず、張遼は思案していた。

~~~政庁~~~
「・・・ってな訳で、うちの主君は張燕殿と和平を結びたいと考えとります。詳細は・・・。」
こちらに書いてありますんで。と張遼は一通の書状を取り出した。
使者としては随分態度が軽く見えるが、張燕にせよ、高順達にせよ、中央での礼儀作法など知りはしないし拘っている訳でもない。
その点では両者共にありがたいと言えばありがたい。
政庁、この場所には張燕だけではなく高順達もいる。
書状を受け取った張燕はさらさらと読んでいく。やがて、全てを読み終えた張燕は張遼のほうへと向き直った。
「・・・ふむ。張遼殿。」
「何でしょ?」
「これに記されている内容は・・・事実ですか?」
「事実や、嘘ついてもしょーがあらへんし?」
「・・・ふーむ。」
張遼の言葉に、張燕は考え込んでしまった。
高順らは内容を知らないので何故考えているかは理解できなかったが、面白くない内容だったのだろうか。
「あの、張燕様。その書状の内容は・・・。」
遠慮がちに言う高順に、「あ、申し訳ありません。」と答えた張燕は内容を簡単に纏めて読み始めた。
「この書状に書いてある内容。「華雄を引き渡して欲しい事。高順一党を差し出す事。漢王朝に帰属し、2度と乱を起こさぬこと。以上の件を呑めば・・・。」
張燕は一旦言葉を切り、続ける。
「張燕・・・つまり、私を晋陽太守として認め、同時に平難中郎将に任ずる。と書いてあります。」
この言葉に、その場にいた全員(張遼ですら)が絶句した。
破格の処分・・・いや、処遇と言い換えても良い。反旗を翻した事を許し、かつ官位まで与える。馬騰と同じような扱いである。
その為には華雄の身柄と高順達を差し出さなければならないのだが、普通に考えれば一も二もなく差し出すだろう。
うわ、不味いなぁ。引き渡されて処刑の流れかなコレ。
高順は寒気を感じたが・・・張燕はここで結論を出さなかった。
「張遼殿。華雄さんは無事ですからいつでもそちらに身柄を移しましょう。ですが、高順様達はどのように扱われるのです。それを聞かせていただいてから答えを出しましょう。」
「へ?」
張燕は毅然とした態度で張遼を問いただした。答えによってはこの条件を呑まないという事を仄めかしている。
「あー、うちに決定権は無いんやけどな。うち個人の考えでは・・・」
「貴女の考えは良いのです。貴女の上の考えをお聞きしたいのです。」
「・・・あー。」
(参ったなぁ、賈詡はある程度うちの裁量で何とかしろ言うてたし、順やんらを殺そうとは思うてへんのやけど。うちの一存で全部決めてええもんか。)
張遼も張燕も悩みどころだった。
張燕としても確かに良い条件だが、それと高順達の身の安全が保障されないというのは別の話だ。
民の事も考えれば引き渡すべきかも知れないが共に戦った仲間を官位欲しさで売ったと言われ、或いは思われる。
それは面白くないし、そのせいで彼らが処刑されたなどとあっては自分自身の気分が悪すぎる。
「高順様達の身の安全、立場の保障が無い限り私は和平を受け入れません。それら全てを証明していただけない限りは・・・この話を進めるつもりもありません。」
張燕は毅然と言い放つ。
当然、張遼はすぐに話を纏めてしまいたいので困ってしまう。
僅かに考えて、(まあええわ。纏めてこい言うたんは賈詡やし。うちとしては丁原はんや順やん含めた上党組が被った汚名消したいし・・・。)と結論を出した。
「順やん達の身の安全と立場の保障はきっちりしてみせる、約束や。」
「それを証明する手立ては?」
「今は無い。けどな、上の人間からうちの裁量でなんとかして来い言われてるし、ある程度の事なら融通利かせるとも言うてた。そもそも順やんらを殺す予定自体があらへん。」
「話になりません。私が欲しいのは確証です。」
張燕は冷たく言い放った。張遼がいくら言おうと、彼女の言う「上の人間」の言葉を張燕は何も知らないのだ。
董卓側の事情を知らない以上、張燕としても譲れない。
「うー・・・信じてもらわれへんかぁ・・・。」
参ったなぁ、と張遼は本当に困った様子で頭を掻いた。と、そこで挙手をして待ったをかけた者がいた。高順である。
「張燕様、ちょっと宜しいですか?」
「え・・・? どうぞ。」
どうも、と言いながら高順は前に出た。
「張遼殿。書状の内容に嘘はないでしょうね?」
「うちも内容自体は知らへんかったよ。せやけど、書いてあるっちゅー事は本音やろうし、それを書いた奴の本心は知っとる。」
「つまり、俺達が行って処刑という事は無いと?」
「ありえへん。上は順やんらが欲しいんや。張燕はんにも解ってはる思うけど、言い方悪いの覚悟で・・・物々交換やな。」
「物々交換?」
「董卓政権はできたばっかで足元がユルユルや。何進・十常侍が消えてもその支持勢力はあるはずやんか?」
「ふむ。」
張燕だけではなく、高順達にも何となく読めてきた。それら対抗勢力が多いが、董卓側は人材、或いは手数が少ないのだろう。
張燕の独立を認めるのも自分達の支持勢力をにしたいとかそういう理由だろう。
華雄の返還と高順一党の罪を許す代わりに、張燕は董卓を支持。高順達も董卓の配下に・・・ということか。
(どうしたものかねぇ・・・。)
高順側から見れば、張燕の気持ちは解るしありがたいと思う。
だが、ここで突っぱねて武力での鎮圧になってしまったら? という不安がどうしても出てくる。
前回は討伐軍の総大将が勝手にビビッて退いたも同然だから良かったが、呂布辺りを前面に押し出して攻撃されたら・・・正直、間違いなく張燕は負けるだろう。
自分達が死ぬだけならまだ良いが、そのときには罪のない民草まで巻き添えになる。民の声に推されて立ち上がった張燕が民を道連れに・・・笑えない冗談だ。
仕方ないな、と高順は考えた。前々から思うが、どうして自分は仲間として付いてきてくれる人々に苦労ばかりさせるのだろうか?
「解りました、行きますよ。」
「え!?」
その場にいたほぼ全員が声を上げた。
「た、隊長!?」
「高順殿・・・宜しいのか? 罠である可能性のほうが高いのですぞ?」
構わないさ、と趙雲に対して言う高順だったが、直ぐに張遼の方へと顔を向けた。
「張遼殿、高順一党と目されてるのは俺と趙雲殿と沙摩柯さんだけか?」
「今んとこはな。他の連中は晋陽軍の一員程度や。」
「ならば、着いて行くのは3人だけで良いのですね?」
「んー・・・うちらとしては全員着てもらいたいんやけどな。」
「それは却下。全員で行って一網打尽とかはあり得るからね。それと、保険として蹋頓さんにも付いて来てもらおう・・・悪いと思っているけど。」
高順は申し訳無さそうに3人を見たが、趙雲達は苦笑して「やれやれ」と首を振るばかりであった。
「俺達全員が赦免されると解ったのなら全員呼ぶ。もし俺達が騙されて殺されるとしても、最低限の被害だけで済むしな。何もかもそっちの思う通りには動いてやりませんよ。」
最も、俺達を欺くメリットが董卓にあるかどうかは知らんけどね、とこれは心中で付け加えた。
「・・・順やんも人が悪いなぁ。」
ちょっと棘のある言い方に感じたらしく、張遼は唇を尖らせた。が、自分達は高順の大切な友人を殺したのだ。
今ここで斬りかかってこないだけまだマシかいな、と思い直した。
「当然だろ。張燕様も、張遼殿もそれで宜しいですね?」
「ふぅ。解りました。高順様の意思を尊重いたします。」
「しゃあないな。まずはそれで手打ちや。」
2人が頷くのを見た高順は「じゃ、俺はこれで。」と退室した。これから先の詳しい話を纏めるのは2人でやればいい。
華雄姐さんと両親にも伝えないと・・・。
そう思っていた高順だったが、趙雲と沙摩柯は良いとして、おかしな具合に3人娘が来てしまった。全員「納得行かない!」と騒ぎ立てている。
「高順さん、詳しい説明を求めるのっ!」
「せや、納得いくかこんなもん!」
「隊長、我々も連れて行ってください! 蹋頓さんが良くて私が駄目とか差別ですか!?」
1人、論点がずれている人がいるようだが気にしてはいけない。
「あのね、さっきも説明したでしょ? 全員で行って一網打尽とかになったらどうするのさ?」
「無理やり突破します!」
何処をだよ。じゃなくて。
「んーとね。俺の見立てじゃ、これは罠であるという確率が相当低い。罠ですらないと思う。」
「はぁ・・・?」
楽進は何故そんなことが解るのだと言いたげな表情を見せる。
「俺は董卓って人に逆らった訳じゃないし、向こうの言う支持勢力がほしいって言うのも事実なんだと思う。だから、それを確かめに行くって言うのが正しいかな?」
「では、それが事実だとわかったら。」
「そ、皆を呼び集める。先遣隊と言うべきかね。」
「先遣隊・・・うーん・・・。」
全員、腕組みをして考えてしまう。高順には勝算があるかもしれないが、周りの人間には何故董卓という人間を信じようとするかがいまいち解らない。
未来知識が無ければ解るはずがないのだから当然と言えば当然だが、高順にも不安はある。
史実の董卓はあまりにアレすぎて人としてどうかと思うタイプの人間だ。この世界じゃどうか知らないがあまりに不安すぎる。
それは置いておくとしても、今回の条件は決して悪くない。自分達と張燕の件もそうだが、張遼の言う「丁原達が被った反逆者の汚名も無かった事にする」というのが高順の決断材料となった。
これで、堂々と丁原達の墓を作り直して、弔う事ができるというものだ。まだまだ時間はかかるだろうが、平和な時代になればそれもできるだろう。
そのせいで巻き込まれる人は堪った物ではないが、高順達を騙し討ちにする理由が向こうには無いし、そこが高順のねらい目であったり。
「さて、華雄姐さんにも伝えないとな。」
考え込む皆を尻目に、高順はさっさと歩いていくのだった。

出立の日程などは直ぐに決まったようだが、1人だけ「私も行きます!」と意見を曲げない人物がいた。
楽進である。
蹋頓や趙雲におかしなライバル意識を持っているかどうかは判然としないが、こういう時にこそ連れて行って欲しいと考えているのだ。
まだ高順一党とされていない蹋頓を連れて行くというのがイマイチ解らないところだったが、それについては高順はきっちりと説明をしていた。
漢王朝に対して、敵対も味方もしていない烏丸族の元とはいえ単干であった蹋頓。その蹋頓に何かあれば丘力居も、烏丸族も黙っていない。
そういう意味では蹋頓の存在も保険と言えるし本人もその理由でついて行くことに了承している。
だが、そんな話し合いをしている場所が・・・。
「そういう話をするのは構わないのだが・・・出来れば他でやってくれないか?」
華雄が疲れた顔で言う。
今、高順達がいるのは華雄の使用している部屋。
そろそろ出発ですよ、用意しておいてくださいね。と伝えに来た高順に皆が引っ付いて来て、部屋はかなり狭苦しい事になっている。
「いやー、皆が今回の話で過敏になってましてね。洛陽に帰還できる華雄姐さんにとっちゃ問題の無い話ですが。」
「・・・あのな、高順の言うとおりにこの話には裏がないと思うぞ。賈詡はともかくも董卓様がそんな謀を出来るとは思えん。」
褒めているのかいないのか。
「罠で無いならば全員で行っても構わないのではありませんか・・・?」
「だから、念の為ってことさ。」
「はぁ。だから大丈夫だと言っているだろ、楽進。心配せずともな。そう不安そうな顔をするな。」
華雄はぎこちない手つきで楽進の頭をぽむぽむと撫でた。
この2人に限った事ではないが、華雄は高順一党と本当に仲が良かった。楽進も素直に撫でられて「うぅ・・・」と唸っている。
「華雄姐さんは董卓って人に直に接してるからそう言えるのでしょうけど。俺達は賈詡ってどんな人かも知らないですよ?」
「気性は少々荒いが悪い奴では・・・いや、智謀の士だから悪いか? まあ良い、私に任せておけ。何かあっても取り成して見せるさ。」
「華雄姐さんが・・・?」
「ああ。」
何をどうするつもりか知らないがな自信満々な華雄であったが、楽進はまだ納得できなかったようだ。
その後もついて行く、行かせないで相当揉めたのだが晋陽側に何かあったときの備えとして、3人娘と閻柔・田豫が居残りとなった。


すったもんだの騒動の後、高順について行くのは趙雲・沙摩柯・蹋頓と烏丸騎兵700。それと、討伐軍相手に暴れ(まわりすぎ)た閻行も行く羽目になった。(父親は留守番
3人娘は「何かあったらすぐ呼べ!」と息巻いていたが・・・。
何かあってからでは遅いのだけどなぁ、と皆苦笑していた。
このような流れで、高順達は一部の仲間と分かれて張遼・華雄と共に洛陽へ向かう。その結果、彼がどのような道を選び進んでいくのか・・・。
それが解るのはもう少しだけ先のお話。




~~~楽屋裏~~~
突っ込みどころの多い回になりました、あいつです(挨拶
今回は随分説明不足がry
まず、董卓政権が出来るのは数ヶ月とかはかかったでしょう。
何進の死やら袁紹の強襲などで一気に宮中の人材が減ったとでも思えばいいのかなぁ。それでも色々な派閥があるのでしょうね。
しつこい位に話に出てますが、董卓側は本気で高順一党と晋陽勢力を取り込むつもりです。
呂布からも話を色々と聞いたでしょうし、じゅーじょーじ絡みで無実なのに罪人にされた上党勢を赦免する・・・恩赦とは少し違う気もしますが、そういう感じですか。
董卓や賈詡にしても自陣営の武将数の少なさ(層の薄さ)が解っていますから、華雄と互角に戦えるような人は欲しいのだと思っていたり。
まともな人、呂布・張遼・華雄・(オリキャラだけど)徐栄・張済・張繍・・・あれ、けっこう多い?

こういう内政・外交絡みのお話って地味ですし、面白くないと思うのですが・・・読者様はどのように見ておられるのでしょうね。
そもそもこんな程度じゃ内政とか外交にすらなってないと思いますけど。
それと、今回の話の中で出てきた「張燕を晋陽太守・平難中郎将に任じた」のは史実のようです。任じたのは董卓ではなく、何進かじゅーじょー侍の筈ですけど。

前回とーとん姉さんと高順君に何があったのかと申しますと・・・。・・・やっぱXXXになって書けないな・・・(汁

夜這いされましたが、とーとんさん酒が入っていたのか寝てました→朝起きたら、だるい上になぜかリボン巻いてありました(どこに?)

とか書いたところでやっぱ需要はなさそうです。
こんなのでOKですか!?わかりません><(何がデスカ


1つ余談ですが高順君は呂布同様、張遼に対しても複雑な感情を抱いているようで・・・。
丁原さんと朱厳のじっちゃんは、戦場で彼女らと真っ向から戦って武将として散った形になってます。
その事に対して高順君は「武将として本望だっただろう」という感情があるようですが、カクボウや兵士の事もあるし・・・と、悩んでいるのでしょう。
呂布と張遼、2人の人柄を知っているからこそ余計に辛いのかもしれません。

高順君がどんな道を進むのか・・・いや、もう解りきってることですな(笑
それでは、また次回。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第41話 洛陽到着。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/12 18:32
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第41話 洛陽到着。

「ああ・・・やっと、やっと帰って来れた・・・。」
「やっとって・・・せいぜい、数ヶ月やんか。大げさやな・・・。」
「ふん、お前には解らんさ。ずっと監禁されていたも同然なんだ。もっとも、高順達がよく部屋に来てくれたからそれほど退屈はしなかったが・・・。」
「それや、それ。捕虜やっつーにえらく待遇が良かったんやな。しかも順やんから姐さん扱い・・・何があってん?」
「特に何も無いぞ?」
「何もなしに姐さん呼ばれるかいな・・・。」
嬉しそうに言う華雄と、突っ込みを入れて他愛の無い会話をする張遼。
彼女達は(というか高順達も含まれるが)洛陽へ帰還。今は政庁・・・いや、宮殿に向かっている。
行きかう人々にとって、軍勢が街中を進む事に違和感はないが、烏丸兵がいる事には興味があるのかチラチラと見ている者もいる。
高順にとっては2年ぶりくらいにはなるだろうか。彼についてきた沙摩柯・趙雲・蹋頓と烏丸兵にとっては初めてである。
当然のように、洛陽は大都市である。これほど規模の大きい都市に入ったことの無い沙摩柯や蹋頓は物珍しそうに辺りを見回していた。
趙雲は、というと・・・彼女は、洛陽ほどではないにしても賑やかだった陳留に滞在した事があり沙摩柯らよりは落ち着いていたが、やはり興味を引かれるものがあったのかあちこちを見回している。
沙摩柯と蹋頓も賑わっていた徐州に住んでいた経験があるが・・・彼女達は自分の生活に手一杯でそんな余裕など無かった。
人質、あるいは殺されることも覚悟で洛陽まで来た・・・という割りに、気楽なものである。
高順の言う事全てを信じる訳ではないが董卓が自分達を殺す利益は無いだろうし、切り札として蹋頓の存在もある。
緊張もしているが、その事が皆に僅かな安堵感を与えていたのも事実である。
「やれやれ。皆、気楽だね・・・。」
「そうですかな、これでも緊張しているつもりですが。」
虹黒の背で揺られていた高順がため息をつき、隣で馬を進ませている趙雲が反応した。
「何より、殺されることは無いと仰っていたのは高順殿でしょうに?」
「いや、それはそうなんだけどね・・・。しかし、目だってるな、俺達。」
「ふむ?」
高順が周りを見渡す。彼らの護衛のような形で烏丸騎兵700が配置されているのだが・・・張遼の率いる官軍2000とは格好が違う異民兵。高順ののる虹黒。目だって仕方が無い。
目立っていると思うだけで、気後れやら何やらはない。こちらが気にするような非はないのだし堂々としていれば良いのだ。
しかし・・・。
「お前、行く先々で物珍しげに見られてるよね。」
「ぶる?」
虹黒の鬣(たてがみ)を手で梳(す)きながら言う高順と、「え? 何が?」という感じで反応する虹黒。
この主従、いや、相棒同士のやり取りは毎度の事だ。
暫く進み、宮殿が見えてくる。
(あそこには皇帝がいて、んでもって董卓が、そして呂布がいる、か。)
斬りかからない様にしないとな、と思うが、よくよく考えれば武器の持ち込み禁止じゃないっけ?と思い出す。
自分が会うのは董卓で皇帝ではないから・・・まあ、どちらでも良いか。
そんなことを思っている高順の目の前で張遼や華雄、兵士達が馬から降りる。ここからは徒歩らしい。
「おーい、順やん! こっからは徒歩やで。あと、全員武器は預けてや。そっちの兵士もなー。」
張遼の指図に高順達は言われたとおりに馬から降り、官軍の兵に武器を預けた。
「感心感心。ほな、行くで。」
2,3度頷いた張遼に従って高順達も進んでいく。

~~~その頃の政庁~~~
皇帝の玉座の間ではないが、政庁にも玉座があった。そこに座っているのは董卓。隣には呂布や賈詡。本来ならば陳宮もいるはずだが、彼女は他の仕事(書類仕事だが)忙しくてここにはいない。
親衛隊の兵士もおり、中には張済もいる。
董卓だけではないが、彼女達は張遼が華雄を、高順一党を伴って帰還した事も、今ここに向かっている事も報告受けて知っていた。
董卓は、高順という人間に興味津々であった。
呂布から逆賊とされた経緯を聞いて不憫な人だ、と心底同情をしたが、徐栄や張済からも色々な話を聞いていた。
呂布に挑み、生き永らえて晋陽の乱に参加。派遣された討伐軍を押し返し、怪我だらけの身体でありながらあの華雄と互角に戦った。
彼の部下も女性ばかりだそうだが、中々の猛者でもあるという。
加えて、呂布と張遼からも人格を認められており、聞いた事はないが味噌・・・? というものを作成したそうだ。
自身に咎がないのに逆賊として追われ、漢王朝を敵に回した男・・・。そもそも高順に罪があるわけではないので赦免、というのは何か違う気もするのだけれど。
と、経歴だけを見聞きすれば架空の話の主人公のようだ。それに、どこか馬騰に通ずるものがあって親近感を覚える。(董卓は馬騰とは知己である
そこへ、兵士が入室して董卓の前で跪いた。
「失礼致します、張遼殿がご帰還なされました。」
「そうですか、ご苦労様です。お通ししてください。」
「はっ。」
兵士は立ち上がり部屋を辞していく。
「ふぅ・・・。」
「ちょっと、大丈夫? 月(ゆえ)」
隣にいた賈詡が董卓の顔を覗き込む。月というのは董卓の真名である。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと緊張しただけ。」
董卓はえへへ、と笑い返事をした。
「それなら良いんだけどさ。でも、月はもうちょっとしゃんとするべきよ。何なのよ、あんたのそのほんわかした雰囲気は。」
「うぅ・・・そんな事言われても・・・。」
董卓は困りきった表情になるが、賈詡の言う事も間違ってはいない。
今では董卓は実質的に漢王朝の軍勢を手中に収めている。いわば何進同然・・・いや、政治にも関与しているのだからそれ以上と言うことか。
だからこそ、もっと威厳を備えて欲しい、というのが賈詡の言い分ではあるが・・・何せ、董卓という人。可憐な少女だ。
いつもニコニコとしており、優しく穏やかな性格。怒っている姿を全く想像できないほど清純な少女である。その姿に癒されたり、微笑ましく思っている部下も多い。
また、呂布のような異民族に対しても偏見を持たずに同等に接していることからも人を見る目がある。その分、武も知もごく普通の少女のもので他者に頼らざるを得ない。
「そのままがいい」
呂布が呟く。彼女も優しい董卓が大好きだし、そのまま変わってほしくないと思っている。
賈詡も、立場上文句を言わなければいけないだけでやはり心優しい董卓の事が大好きである。
「ふん・・・! 僕だって好き好んで文句言ってるわけじゃないわよっ!」
「へ、へぅぅ・・・喧嘩しちゃ駄目だよぅ・・・。・・・え? え、詠(えい。賈詡の真名)ちゃん、恋(れん。呂布の真名。)さん・・・2人とも。」
「?」
「あ。」
今更ながらに気づいたのだが、その時には既に張遼達が入室しており・・・張遼と、その後ろに控える人々は唖然となってその現場を見つめていた。
「こほんっ。張遼さん、お疲れ様でした。それに、華雄さんも。無事で本当に良かった。」
「はっ、ありがたきお言葉。」
「あー。まあええけど。一応、任務完了ですわ。」
張遼と華雄が進み出て跪く。董卓も、華雄の事を聞いたときは随分と心配をしたものだが、元気に帰って来てくれて何よりだと安心していた。
「それと順やん、やのうて、高順一党もここに。・・・ほら。」
張遼に促されて前に進み出た高順・趙雲・沙摩柯・蹋頓も礼儀として頭を下げた。(閻行は武将ではなく反逆者の家族扱い。来なくてよかったらしい
「ようこそお越しいただきました。私は董卓。それで、高順さんはどなたでしょうか・・・?」
董卓は一応、高順が男性であることは知っている。ただ、その外見については呂布と陳宮合作のあの手配書でしか知らない。
あからさまにやる気の無い手配書だったので、一応の確認のつもりである。
高順も、表情には出さないが驚いていた。あれが董卓だという。
性別が違うのには慣れたのだが、どうも史実のどうしようもない性格ではないようだ。純情可憐と言うか、そういう言葉が似合っている少女だ。年の頃はまだ10代半ばというところだろう。
それに、先ほどの問答を見て理解した事だが賈詡も女性だ。董卓と同年齢くらいだろうからこれもまた少女と言っていいが、性格は逆で気の強そうな印象を受ける。
その上自分を「僕」と呼び眼鏡っ娘。一部の男性に妙な人気を得そうな手間か。
そして呂布。彼女は元々董卓派らしいのでこの場にいるのは不思議ではない。思い切り睨んでやろうかと思いもしたが・・・まあ良い。
「俺です。」
高順が一歩進み出た。
「貴方が・・・。解りました。貴方の主君である丁原殿の件は残念に思います。張燕殿への文書にも記しておきましたが、内容はご存知でしょうか?」
「ええ。知っています。」
「貴方達の反逆者としての手配の取り消し、丁原殿を始めとした上党勢も反逆者とされましたが、それも取り消しましょう。そして、張燕殿の処遇。」
高順達がここへ来たという事は、こちらからの申し出を受けるということに他ならない。これもまた確認のためである。
「その件につきましては・・・これを。」
高順は懐から一枚の書状を取り出した。これは張燕から董卓に宛てられた物で高順が預かったものである。
賈詡がそれを受け取り、董卓へ。
「・・・・・・。」
董卓はその書状を開いてさっと目を通した。
「我々は十常侍へ反発しただけで董卓殿と争う気はまったく無い。これよりは董卓殿へ合力することを誓う。」という内容だ。
他にも高順一党への寛大な処置を願っているが、それは最初からの方針であるので問題はない。
ここで1つだけ。張燕は董卓の指示には従うが、一言として漢王朝に帰属するとは書いていない。
つまり「董卓が力を持ち続ける限りは、そして高順達の無事が保証されている限りは言う事を聞きますよ。」と言うのだ。
董卓はこの書状を賈詡に渡した。
見てもいいのか、と思いつつ賈詡も中身を流し読みにする。
「ふぅん・・・。」
賈詡も同じ事に気がつき何度か頷いた。
張燕がどういう人か知らないが、ただの賊上がりと思って油断するべきではないようだ。むしろ、こういう強かさがあるからこそ乱を起こして成功させたともとれるか・・・。
晋陽太守として認めるのならば正式に印綬を与えて、と。ざっと考えつつ賈詡はその書状を折りたたんで懐にしまい込んだ。
さて、問題は高順一党だ。彼らを自軍の戦力として取り込むのだが、念の為ではないが彼らの意思も確認しておきたい・・・と、これは董卓の仕事だ。
「ほら、董卓。」
「う、うん。」
賈詡は小声で董卓を促し、董卓は高順達のほうへ向き直った。
「えっと・・・高順殿達の処遇は先ほどお伝えしたとおりです。ですが、こちらからもう1つお願いをして宜しいですか?」
「仕えろと?」
「え、はい、その通りですけど・・・。」
高順は睨んだ訳でもないし、語気を荒めた訳でもない。ただ、呂布や張遼のことで少し気が立っていた。それが僅かに言葉の端に出ていたようで董卓が少し怯えてしまう。
ああ、悪い事したな、と反省し、幾分調子を抑えて高順は話を続ける。
「・・・。ただで赦免されるとは思っておりません。張遼殿からも、我々が仕える事も張燕殿が晋陽太守になる為の1つの条件として提示されておりますので。」
「そうでしたか、張遼さんが。では・・・。」
「お仕え致しましょう。ただし、不躾を承知で1つ我侭を言わせていただいて宜しいですか?」
「我侭?」
「はい。呂布殿と張遼殿の下にはつけないで頂きたい。これが条件です。」
この言葉に、呂布も張遼も「ああ、やはりな」と感じた。それはそうだろう。
理由があったとはいえ、丁原達を殺したのは自分たちだ。その自分達の元で働くのは嫌で仕方が無いだろう。
そこで、賈詡が口を挟んだ。
「待ちなさいよ。あんたねぇ、降将の分際で何偉そうな事言ってんのよ? こっちからの提示を呑むって言う事は・・・。」
「賈詡ちゃん、いいの。」
「っ・・・。けど!」
一気に言い募ろうとした賈詡だったが、董卓に止められる。
「そんなこと言っちゃ駄目だよ。それを言ったら、その状況を作った大本は私たちだもの。」
「・・・う。」
董卓の言うとおり、呂布が十常侍の言いなりになったのは自分達が捕らわれたせいではある。
それが全ての原因とは言えないし、条件の1つとなった程度の事でしかないと思うのだが、董卓に滅法弱い賈詡は渋々押し黙った。
「あのー。」
それまでじっと黙っていた華雄がおずおずと手を挙げた。
「え? どうしました、華雄さん。」
「私から提案があるのです。高順もああ言っていますし、私の配下に置こうと思いたいのですが。」
「華雄さんの?」
「はい。恥ずかしながら、敗残の将である私を彼らは厚く遇してくれました。それに期間は短くとも、高順らとは家族同然の付き合いをして参りました。」
そこまでの事を知らない董卓は「へえ?」と意外な感になった。華雄が家族同然、と言う程の付き合いを高順一党としていたのは知らなかった。
「高順も気持ちの整理には時間がかかると思いますし、ある程度気心の知っている間柄であれば、その・・・。」
華雄はあまり口が上手いほうではない。だが、彼女の言いたい事は董卓には理解できた。
「ふふ、解りました。華雄さんの元につけたほうが高順殿も働きやすいでしょう。ただ、甘やかしちゃ駄目ですよ? 高順殿達もそれで良いでしょうか?」
「・・・解りました。確かにその方が良さそうです。よろしくお願いします、華雄姐さん。」
「お、おい。こういう場で姐さんと言うな。」
「皆もそれで良いよね?」
「ええ、構いません。頼りにしていますよ、華雄姐さん。」
「高順殿の思うように。よろしく、華雄姐さん。」
「ああ。よろしくな、華雄姐さん。」
「聞いてるのか!? ていうか全員で言うなぁっ!」
珍しく真っ赤になって慌てる華雄を見て、董卓や賈詡は小さく笑うのだった。

呂布は最初から高順は自分の部下になるとは思っていなかったが、張遼は少し悔しそうであった。
張遼は高順を自分の部下にしたかったらしい。というのも、彼女は呂布ほどの武勇はない(呂布が異常なだけだが)し、久々に会った高順は随分と逞しくなっていた。
男が上がったなぁ、と感心したものである。
それに、華雄隊は部下が多い。徐栄を始めとして、そこに高順一党が加わればそれだけで華雄隊の将は10人をゆうに超える。
決定してしまったのは仕方が無いのだが「1人くらいこっちに回して欲しいなぁ・・・。」と思うのは別におかしくない考えだった。

その後の事を見てみると、高順は約束どおりに晋陽居残り組みを全員呼び寄せた。その時、閻柔と田豫が上党に寄っていったのだが、同時に味噌作りの親方達まで付いて来てしまったらしい。(味噌ラーメンが出来たのだとか・・・。
大量の資金と味噌を持って来てくれたのだが、上党は大丈夫なのだろうか?
華雄の元で武将として働く事になった高順一党だったが、華雄の計らいによって1人ずつ正規の部隊を持つことも許された。
3人娘や趙雲はそのまま西涼兵やら元々からの漢王朝の兵を数百から千数百を率いる。趙雲が一番多く1500ほど。3人娘は1人で500ずつ程度で閻柔と田豫は趙雲の副将となり、指揮権は基本的に無い。
ただ、3人娘は高順の副将として働きたかったようだが・・・そうなると華雄軍の高順部隊の更に副将、という訳の解らない立場でありながら一部隊の将・・・という事になってしまう。
それを言われて、渋々諦めたようだった。が、結局同じように華雄隊所属になるのであまり変わらないのかもしれない。
さて、高順だが彼の部隊の中核は烏丸騎兵700だ。そのまま漢王朝の正規兵を組み込んでも良かったが、ちょっとだけ思いつく事があった。
混合兵力ではなく、いっそ異民族部隊として統一してしまおうと思い立ったのだ。兵数が4千5千と規模が大きくなればそうは行かないだろうが1000くらいなら何とかなりそうである。
そこで、華雄や董卓の許しを得て沙摩柯を武陵に派遣。彼女の息がかかっていそうな武陵蛮を数百の規模で集めてくるようにしてもらった。(他にちょっとした任務もあったがそれは別の機会に
高順と蹋頓は、洛陽やその近隣に住んでいる五胡などの異民族を集めて自部隊に組み込んだ。暫くして沙摩柯が400ほどの兵を集めてきたので、最終的に高順隊も1500前後に膨れ上がる。

さて、彼らが募兵などに費やした期間は2ヶ月弱であったが・・・その最中にある勢力が董卓と接触をしようとしていた。

~~~洛陽へ続く道~~~
騎馬隊800ほどが洛陽へと進んでいく。旗印は「馬」と「韓」。
「あーあ、なんでアタシが・・・。」
その部隊の戦闘を行く少女が馬上でぼやいた。
茶色の髪を朱色の布で結んで上に結い上げている。また、癖毛にでもなっているのか、頂点あたりの一部の髪が上へと向いてしまっている。
太ももまである緑色の服の下に白いスカート。胸元に黒いリボンのようなものが合って、馬の歩く振動にあわせて少女の豊満な胸の上でヒラヒラと動く。
少女の姓は馬、名を超。後に錦馬超とも、神威天将軍とも呼ばれる少女である。
「もう、姉上ったら。私達はお母様の代理として来たんだよ?」
「そうよ、姉上。お母様はこの頃体調が良くないんだから、仕方ないじゃない。」
馬超の後ろで同じく馬に乗っている少女2人が宥めにかかる。彼女達は馬休、そして馬鉄。馬家の3姉妹である(長女は馬超、次女が馬休、末妹が馬鉄)
皆、顔が似ており違いは髪型と背格好という程度だろう。胸の大きさも大して変わらない。
従妹に馬岱という娘もいるが、彼女は留守番である。
「うー。それは解ってるって。」
馬超は自分の後頭部をガリガリと引っかいた。
「おいおい、馬超。お前は女の子なのだから、もう少しそれらしく振る舞いなさい。」
「あ・・・伯母上。」
姉妹の更に後ろから、やはり馬に乗った女性が苦笑しながら進んでくる。
彼女は韓遂。馬騰と義姉妹の間柄で妹分に当たる。
年の頃は30代半ばと割と若い。馬超達の母である馬騰にしても30後半で割と早く馬超達を産んだ事になる。
余談だが馬家の女性は皆スタイルが抜群で、馬騰はその中でも群を抜いている。基本的に馬超と似ているが目はもう少し切れ長で、振る舞い・気性共に落ち着いたものがある。
外見も若々しく、もしも高順が見たら「着物が凄く似合う人」と言ったかもしれない。
韓遂も馬騰には敵わないまでも、すらっとした体つきに豊満な胸。彼女はどちらかと言えば野性的な美しさで、馬騰同様若々しい女性だった。
両者、20代後半と詐称しても充分通用するほどだ。尤も、このところ馬騰は体調を崩し気味で少しやつれていたのだが。
また韓遂という人は曹操とも随分仲が良い。性格は全く違うのだが、前にあったときに意気投合したのだそうな。
ただ、その意気投合した理由と言うのが・・・。
「しかし・・・姉上は今頃どうしているだろうか・・・心配だ!」
「あ、あの。伯母上?」
引きつった表情で韓遂に呼びかける馬超だったが、韓遂は全く聞いていない。
馬超の後ろにいた馬鉄も馬休もやれやれ、と頭を振っている。
「やめておきましょうよ、姉上。」
「ああなった叔母上は誰にも止められないんだから・・・姉上も知ってるでしょ?」
「いやー・・・。そりゃそうなんだけどさ。」
ぼやく姉妹であったが、韓遂は止まらない。
馬超に限らず、姉妹はこの伯母を尊敬している。だが、これだけはちょっと・・・。
「ああ、あの白い肌、優しい触り心地・・・。あの太ももに柔らかい胸! 首筋に舌を這わせて(執筆拒否)を舐めて(検閲)に指を這わせて(規制音)を優しく舌で(ズッギュゥゥゥン)甘噛みを・・・ああ、あああっ! あの姿だけで私はご飯大盛り5杯は行けるっっ!」
・・・そうなのだ。韓遂は女体至上主義とでも言おうか・・・ぶっちゃけ、曹操と同じく同性愛者である。
曹操は韓遂から馬騰のことを聞き及んでおり、(将才を知っていたのもあるが)大いに興味を持っており「一度お会いしたい」と言うほどである。
「・・・お、伯母上。もう、その辺で・・・て言うかご飯大盛りって。」
「だから無理、姉上。」
「あーあ・・・ああなったらきっと今夜は大変な事になるんだろうなー・・・英ちゃんも可哀想に・・・。」
「しくしく・・・。」
妄想がノンストップクレイジーな韓遂の後方に、目の幅涙を流している少女がいる。
姓も含めると成公英と言うのだが、皆は英ちゃんとか英と呼んでいる。
この少女もまた可愛らしくてスタイルが良い。彼女は韓遂を慕っており、韓遂も成公英の事を可愛がっている。
いるのだが、こうやって韓遂が(性的な意味で)暴走したときは毎度、閨でギシアンルーレットいやそうじゃなくて夜伽をさせられる運命にある。
成公英は同性愛者ではなくノーマル・・・ごく普通の異性愛者だ。だが慕っている韓遂の為でもあるし・・・と、しくしくと泣きながら結局閨を共にしてしまうのである。
彼女の初心な反応がまた可愛いらしく、韓遂は成公英を常に手元に置き、暴走のないときでも時折夜伽をさせているそうだ。
「ああ、姉上はいつもいつも反応が初心(うぶ)すぎる・・・。私が寝所に忍んで行って迫れば涙目になって「や、やめなさい、蛍(ほたる。韓遂の真名)・・・これは、命令ですよ!?」と混乱して私の真名を呼びつつ、かけ布団を引き寄せて、あのそそr(以下長すぎるので省略」
「・・・止まらないね。」
「・・・止まらないよね。」
「しくしくしく・・・。」
(・・・英、強く生きろ・・・。)
夜中の事を考えて落ち込みつつさめざめと涙を流す成公英に、馬超は本気で同情しつつ洛陽を目指すのだった・・・。





~~~楽屋裏~~~
3日もせずに更新とかアホですね、あいつです(挨拶
けっこう駆け足でしたが、兵士を集める間の話や、馬超が洛陽に来る話は次回以降にしたいと思います。
ところで、韓遂がおかしな人になりました。あと真名も出ていますね。
鉄と休も出ていますが、馬騰も同様に真名は設定されています。出てくるかどうかは解りませんw
しかし、おかしい。最初はもっとまともな人だったと言うのに・・・。
設定を明かしますと、蒼天○路や、どこぞのゲームやらで韓遂と曹操は仲の良い設定、あるいは認めている描写などがあります。
交馬語でしたか、その辺りを考えて 意気投合→何を材料にして意気投合?→同性愛者ネタでおk

・・・やらないか、よりマシとはいえ作者のアホさ加減が良くわかる話でした。


それよりも「とーとんお姉さんと高順君が何やったのかはっきりしろよYOU。むしろNOW」という意見がチラホラと。
だからね、XXX板になるって言ってるでしょうに(笑
もう、皆そんなにディアナが好きか(誰だ、御大将か


( ゚∀゚)o彡゜と~とん!ね~さんっ!




このとーとんねーさんコール入りの感想が40とか50出ればちょっと本気出して考える(え?
いや、来ないのが解りきってるからこんな事言うのですが。考えて「うん、考えた。やっぱ無し!」とかにする可能性もありますからね!(駄目

もし本当にそんな数来たらどうしよう・・・知識がぇろ漫画とかそれ系統しかない作者(;´Д`)

さて、次回は洛陽的日常ですね、そのあとがシスイカンだのコロウカンだのになりますかね・・・多分、史実どおりに負けるんじゃないかなぁ・・・w
それではまた次回。(・ω・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第42話   洛陽的日常。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/16 22:43
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第42話   洛陽的日常

董卓軍に仕える事になった高順だったが、ある問題が浮上した。彼、というか彼の仲間たちも含めて、住む場所を用意していなかったのである。
董卓達は宮殿の一室を用意すると言っていたが、呂布や張遼、更に宮仕えをする人々と交流を持たねばならない環境になってしまう。
呂布や張遼はまだ良いかも知れないが、政治的なことに携わる文官とあまり繋がりを持ちたくない。というのも、洛陽の文官と言えばどうしても十常侍を思い起こしてしまうのだ。
自分が基本的に武辺の人で、政治にあまり干渉しないように・・・と思っている事もある。
全員を見たわけでもないし、現状で知っている文官は賈詡か陳宮くらいだ。(陳宮の指示で郝萌が射殺された事を高順は知らない
その他の文官の中には、十常侍と繋がりがあって、今でもそういう派閥があるのだろう。絶対に係わり合いになりたくは無い。
その辺りをぼかして華雄や董卓、賈詡に相談したところ、その直ぐ傍にいた張遼が「1つ、心当たりがあるねんけど・・・」と言いだしたのだ。
「心当たり?」
「うん、ある。順やんにはええ気分やないかもしれんけどな。宮殿からもそれほど遠くなくて、かつ順やんの仲間全員で入ってもまだ余りがあるやろし、あのでっかい馬・・・虹黒やっけ、収容できる厩もある。」
「そんな場所が・・・。ですが、そんなに条件の良い場所なら既に使われているのでは?」
「せやな、順やんの言う事は尤もや。けどな、縁起が悪い言うて近づかん奴らが多いんや。」
「縁起?」
頭を傾げる高順に、張遼もすまなさそうに言う。
「丁原はんの居館やってん、そこは。」
「・・・成る程ね。」
十常侍に反発し、罪を着せられ、一方的に消された丁原が使用した洛陽での居館。確かに、縁起が悪いのかもしれない。
「で、そこを使っても良いので?」
「ん、一応董卓の許しは必要か思うてな。・・・ええかな?」
張遼の問いに、董卓は頷く。
「ええ、勿論です。ただ、掃除などは・・・。」
「それなら心配あらへんよ。順やん、他の連中も含めて今から行ける?」
他の連中、というのは趙雲・閻行・蹋頓・沙摩柯それと虹黒だ。(楊醜らも含まれているが考えないほうがいい気がするのは何故だろう
3人娘や田豫らはまだ到着していない。速くとも4・5日はかかるだろう。
「ええ、大丈夫でしょう。」
「決まりやな、ほなうちは案内してくるさかい。行くで、順やん。」
「あ、ちょ・・・引っ張らないでいただけるとあり難いっ! それでは俺はこれで・・・。」
「はい、お気をつけて。」
高順の服の裾を引っ張って退室していく張遼を、董卓は笑顔で見送った。

「丁原殿の居館、か。」
歩きながら趙雲が呟く。
高順らが張遼に案内されての道中。その最中に趙雲はふっと何かを思い出しながら丁原の名を出した。
「なあ、趙雲。私と蹋頓はその丁原という人を知らないのだが・・・実際、どういう人だったんだ?」
趙雲の隣を歩く沙摩柯が、何かを遠慮するように前を進む高順を見つめてから質問を投げかける。
「そうですね、私も少し興味があります。」とこれは高順の隣にいる蹋頓。
沙摩柯は丁原が息を引き取る所でしか面識が無い。
「どういう人、と言われましても。それがしもそれほど長い付き合いをしておりませぬぞ?」
そうなると、一番付き合いが長い・・・というか傍で見ていた高順が一番知っているだろう。
だが、それを直接聞くのはやはり勇気が必要だった。誰だって触れられたくない事の1つや2つあるものだ。
傍で見ていたからこそ解る事だが丁原が瀕死の重傷を負った時、呂布に対して見せた高順の怒りと殺意はそれまで見たことの無いものだったのだ。
沙摩柯も、「あの温厚な高順がここまで・・・。」と内心で震え上がったものだ。
「どういう人、か。正直、随分苦労をさせられたもんだよ。」
高順の呟きに、誰もが「え?」という表情を見せた。それに構わず、高順は更に続けていく。
「暴力振るうわ、計算の仕方を部下に教えてやれ」とか仕事中に「酒を買って来い、今から花見だ!」って、予定に無いし、聞いても無い行事を突っ込んでくるし。本当に苦労したなぁ。」
「・・・。」
いや、それって単純に仕事したがらない駄目な人なのでは? と思ったがそれは言わないほうがよさそうだ。
「無茶苦茶な人だったよ。でも・・・あの人は上党を心から愛していた。自室の窓から見える上党の街並みを見つめて嬉しそうに笑っている事もあったよ。ああ見えて割りと公明正大なところもあるしね。大変だったけど、人に仕えるっていうのでは・・・あの人のところが一番自分らしく生きてたかもね。」
しんみりと呟く高順の言葉に、張遼や沙摩柯たちも少し肩を落とす。
別に落胆をしたとかそういうことではなく、高順が丁原のことをどう思い、どう慕っていたか・・・それが良く解ったからだった。
皆が無言になって歩く事更に数分。
張遼の言う「丁原の居館」にたどり着いた。

「うぉ・・・大きいなぁ・・・。」
「これは・・・すごい土地だな。屋敷も随分大きい。」
高順と沙摩柯が感嘆の声を上げる。正直、上党の丁原の居館など比べ物にならない。
これほどの大きさの土地屋敷であれば高順一党どころか、何十人と住めそうな大きさだ。しかも住んでいる人もいないだろうに随分と綺麗に掃除されているような感じに見える。
「しかし・・・これほどの土地と屋敷。何故取り壊しもされずに?」
趙雲が張遼に質問する。
「せやなぁ、本来は全部潰される予定やった。けど呂布の奴がな、何かに使うかも知れないから無理言うて残すことになったんや。」
「呂布が・・・。」
珍しい事だが、高順と趙雲は呂布に対して蟠り(わだかまり)があるのか呼び捨てである。張遼には敬語を使うものの、まだ根は深い。(張遼や呂布は彼らに悪意など無いが
「ま、実際に宮殿と街の間ぐらいにあるからな、ここ。買出しやら何やらで色々と便利やったんは事実や。」
さ、入ろか、と一同を促して張遼は門を開けた。外側は綺麗にしてあったが、中はどうだろう。
「・・・すごいわね。」
今度は閻行が感心していた。
中も掃除の手が行き届いており、ゴミ1つ無い、とまで行かなくても今すぐに人が転がり込んで来ても問題ないくらいの綺麗さだ。
「何だってこんな・・・。」
「んー・・・あまり言わんほうがええかもわからんけどな、これも呂布がやったんや。」
「・・・あの人、掃除能力あるの?」
ジト目になって聞く高順だが、張遼はそれを笑い飛ばした。
「なははは、あの壊滅的な家事オンチにんなもんあるわけ無いやんか。正しくは呂布の命令、やな。順やん一党を帰順させるっつー話が来るより前に一気に大掃除や。」
もしかしたら、この日が来るの解っとって残す言い出したんかもなぁ、と張遼は中を案内しだした。
寝室、浴室、物置、台所などなど・・・生活に必要な道具・家具なども一通り揃っていて、本当に今からでも生活開始可能な状態だった。
残りは食料の買出しや、高順達の私物などを運ぶ程度か。
「よし、楽進達が来るまでに全部片付けるか・・・。」
高順は腕まくりをして気合を入れた。

彼らが片付け、というか荷物の積み込みをしている最中に宮殿で1つの動きがあった。
西涼を支配する馬騰の代理として送られた馬姉妹と韓遂(かんすい)が誼を通じたいと、贈り物やら何やらを持って董卓へお目通りを願い出てきたのだ。
董卓や賈詡、ついでに華雄も西涼方面には顔が利き(というか董卓の兵力の根幹は西涼兵だ)全員、馬騰とは交友があったり末烏。
張燕率いる晋陽勢との戦いの前に、西涼は不穏な動きを見せておりそれに対しては詰問をするべきだと賈詡は考えていた。が、新政権樹立やら派閥争いなどの権力闘争のほうが忙しすぎてそちらまで手が回らなかったのだ。
それが代理とはいえ、向こうからやって来たのだ。ちょうどいい機会だろう。
馬家の3姉妹、韓遂・成公英の5人が董卓の前で跪き、馬騰からの親書を差し出した。
受け取った董卓はそれをざっと読むが、内容自体は張燕からのものとそう変わりはしない。
「自分はあくまで兵力増強に力を入れただけで、不穏な動き云々は十常侍の勘違いに過ぎない。当方としても董卓と争うつもりは無い。」とこんなものだった。
これもまた上手い・・・言い方を変えれば卑怯な言い分である。張燕同様、一言も「漢王朝に」帰属するなどとは言っていないのだ。
結局のところ、馬騰も「董卓が力を持つ限りは争わない」と言いたいのだろう。反対に言えばこちらが劣勢になれば手のひらを返す・・・そういう事だ。
「我が主、馬騰は董卓殿と不戦条約を結びたいと申しております。少なくとも敵対はすまい・・・と、申しておりました。」
韓遂も、董卓が親書を読み終えた頃を見計らって一言添える。その証として絹や綿、上等な布や駿馬を数頭。装飾品として首飾りや立派な剣を献上した。
「なるほど、解りました。返書を書きますが、長旅でお疲れでしょう。こちらで宿を提供させていただきます。・・・さがって良いですよ。」
「ははっ。」
こうして、馬超達は董卓との謁見を終えた。


馬超達が下がった後、賈詡は董卓に「ちょっと、良かったの?」と聞く。
「え? 何が?」
「え? じゃないわよ。向こうの魂胆、もっと洗いざらい聞くべきだったんじゃないの?」
「ん・・・。でも、余計な波風を立てるべきじゃないんだよね?」
「そりゃ、そうだけど・・・。」
「最低でも敵対はしない、ということだけ解れば充分じゃないかな・・・。」
「甘いわね。こっちの力が強いから尻尾を振ってるだけだから。・・・はぁ、周りを固める戦力が無いから余計に苦労するわ。」
そう、董卓には支援してくれる勢力がまだまだ少ない。近隣諸侯はまだこちらの出方を伺っている。
自分達の利益のために結託して兵を挙げてくる事だって充分、いや可能性がとても高い。馬騰は代理とはいえ、わざわざ西涼から来て最低限争うつもりは無いというのだ。
董卓勢力にとっては敵対しないだけまだマシといえる。
十常侍を討って帝を抑えて・・・名実共に諸侯を押さえる立場が出来たのに。足場が全く無い状況でこの流れになったせいで、文字通り足元がおぼつかない。
まだまだ課題は多いのだ。
さて、馬超達が洛陽へやって来た理由。それは勿論董卓と誼を通じておくことだったが・・・もう1つの事情があった。
ある人物に会いに来たのだ。これは韓遂と成公英はあまり関係ない(無関係とも言い切れないが)話で、馬3姉妹(馬超・馬休・馬鉄のこと)にとって大事な話なのだ。
宮殿から出て行き、手配してもらったという宿に向かいながら韓遂は馬超へと話しかける。
「馬超、お前達の探し人は明日でよいか? 少々疲れていてな、速く休みたいのだ・・・。」
ちょっと眠そうに目を擦る韓遂。そしてその後ろでげんなりとした表情の成公英。
「ええ、構いませんよ、伯母上。」
「そうか、それはすまんな。・・・ふぁぁあ・・・。」
大あくびをする韓遂だったが、彼女が寝不足なのは理由がある。
(ねぇ、姉上。)
(何だ、休?)
(聞こえてたよね? 英ちゃんの喘ぎ声。)
(・・・うん。鉄も真っ赤になってたな。)
結局、洛陽までの道中(前回参照)で成公英は(性的な意味で)暴走した韓遂の手とかソレとかアレでヒィヒィ言わされていた。
その日だけで終わればよかったのだが、連日あらぬ方向で妄想特急一直線をかまし続けた韓遂は、毎夜・・・なんというか、その、アレな事を成公英にし続けたらしい。
「しくしくしくしく・・・」と、すすり泣くような声やら色っぽい喘ぎ声やら・・・天幕を守備していた兵士は女性だったようだが、彼女達も堪った物ではなかっただろう。もう少し一目を気にしてくれと思っていたに違いない。
すぐ近くに天幕を張っていた馬超ら姉妹も(うわぁ・・・)と、ちょっといけない妄想をするほど、桃色世界だった。
「そりゃ、疲れるよね・・・。」
「ああ。英・・・強く生き抜いて欲しいな。」
そんな声が届いているのかいないのか。
成公英はぐしゅぐしゅと鼻をすすりつつ、今夜は静かに寝かせてもらえるなぁ、という安堵感を抱いていた。(可哀想に・・・
「ああ。ところでだ、馬超。」
「え・・・な、なんです、伯母上。」
「お前、というかお前達姉妹の探し人の名前、忘れてないだろうな?」
韓遂の言葉に、馬超は馬鹿にしないで欲しい、と言いたげに頬を膨らませた。
「忘れるわけ無いだろ、伯母上。探し人は・・・。」
『母様と伯母上の盟友、閻行殿とその息子、高順!』
答えようとした馬超を遮り、妹2人が元気よく答えた。
「あ、お前らずるいぞ! 私だってちゃんと覚えてたのに!」
「早い者勝ちですよー?」
「なんですよー?」
「おまえらー!」
両手をぶんぶん振り上げて、馬鉄と馬休を追いかけ始めた馬超を見て韓遂は「まったく、お子様め。」と苦笑していた。
毎度の事だが、馬超は妹2人や従妹である馬岱に出し抜かれたりやり込められる事が多い。馬超が馬鹿とか言う事ではなく、単純・・・というか熱くなり易い性格なのだ。
その姉の性格を解っているからこそ、ああやってからかわれている事が多いのだが、お互いの仲は大変に良い。
仲が良いからこそ、ああやってじゃれあっているだけなのだが・・・ちょっとやり過ぎているらしい。
「むがー! もう怒ったぞー!」
と、叫んだ馬超は銀閃と名付けられた長槍を振り回し始めた。
「わー!? 姉上待って、武器を持ち出すのは反則ですよー!?」
「反則なんですよー!?」
とか言いつつも、馬休と馬鉄は自身の槍を持ち出してくる。(休の槍は白閃。鉄の槍は水閃という名らしい
どう見ても熱くなり過ぎである。
「わ、わわ・・・、韓遂さまぁ・・・。」
どうしたものかと、成公英もおたついている。
仕方ない、と韓遂は姉妹のいる方向に向かって、てくてくと歩いていった。
「この馬鹿妹達め、今度こそ成敗してやるー!」
「わー! 待って待って止まって姉上ぇぇ!?」
馬超のあまりの迫力にへっぴり腰な妹達が叫ぶ。だが、逆上しすぎている馬超は銀閃を振り下ろ・・・さなかった。
銀閃の柄の部分を韓遂が掴んでいたのだ。彼女は閻行などには敵うべくもないが、漢王朝に対して反旗を翻した一角の人物だ。
馬超が思い切り振り下ろそうとした槍の柄を片手で掴んで涼しい顔をしているのだから、その膂力たるや尋常ではない。
「えあっ・・・伯母上・・・。」
「この馬鹿娘。お前は次期馬家の総領として涼州の軍閥を束ねていく存在なんだぞ。それが・・・」
韓遂は、槍を掴んでいた手をすぅっと高く上げて、馬超ごと持ち上げていく。
「そんな些事の1つや2つでカッカするんじゃない。」
涼しい顔で言っているが、反論は許さないぞ、といった強めの感じでびしっと決め付けた。
韓遂は馬超より頭1つ分ほど身長が高い。高順より少し低い程度だが、そんな人に持ち上げられており馬超は槍にぶら下がっている格好になる。
「まったく。ちょっとしたことで直ぐ怒るのがお前の悪い癖だ、慎むんだぞ。・・・お前達もだ、休、鉄。」
「あう・・・。」
「そうやって姉を直ぐにからかうな。面白いのも可愛いのも解るのだが・・・やり過ぎると今みたいになる。何事もさじ加減1つ、だ。」
解ったな、という言葉に3人娘はシュンとして「ごめんなさい・・・」と謝るしかないのであった。
「解ればいい。さぁ、宿に行くぞ。」
馬超を降ろして韓遂は一同の前を進んでいく。
「・・・はぁ、さすが伯母上だ。あたしじゃ手も足も出ないよ・・・。」
「そうだよね・・・伯母上ですらアレだもん、閻行さんってどんな人なのかなぁ・・・。」
さすが、西涼の叛の1人だ。と馬超達は感心した。現役から徐々に退いて後進に立場を譲り始めている韓遂だったが、腕は全く衰えていない。
その伯母が「絶対に武力では敵わない」と評価する閻行がどんな人間なのか。そして、その息子の高順・・・一体、どんな奴なのだろう。
そんなことを思いつつ、馬超達も伯母の後ろを歩き始めるのだった。

その頃の丁原の・・・いや、今は高順の居館であるが、夕食の真っ最中だった。
豚肉と野菜を焼いて、高順の作ったタレ(焼肉のタレだが)を塗りたくり、炊き立ての白米へのおかずとする。
野菜を多く入れた味噌汁や豆腐、あと少し高かったがお茶を買って・・・と、時代を考えれば豪勢なものである。(高順は茶葉を量産できないかなぁ、と考えていたようだが。
皆で「いただきます!」と言ってから食事に手を付け始める。
「むぐっ、美味いぞこれ、どうやって作ったんだ高順!」
「材料は醤油とか砂糖を少し。あと唐辛子とか匂い付けにちびっと味噌を・・・。」
「ふふ、美味しいです。高順さんは料理をするのも、何かを作るのもお得意なんですね。」
蹋頓が味噌汁を啜り、幸せそうに笑みをこぼしつつ高順を褒めた。
「これくらいなら得意とは言いませんよ、蹋頓さん。」
「あら、そうですか? 私は高順さんにkいや何でもありません・・・。ですが、華雄さんや趙雲さん・・・あと、沙摩柯さんも美味しそうに食べていますよ?」
えげつない事を言われかけた気もするが、高順は「え?」と華雄達のほうへ向いた。
「がつがつがつ・・・」
「むぐ、もぐぐ・・・」
「むくっ。はふはふ。いやはや、この辛目のタレが肉に良くあいますな。酒とメンマが進むというものです。」
(メンマ?)
(なんでメンマ?)
「・・・めんまって・・・)
ともかく、確かに皆が食べる事に集中している。閻行も久々に食べる息子の料理を無言で、かつ一生懸命食べている。
そこで、華雄が「ごふっ」と、咳き込んだ。どうも喉を詰まらせたらしい。
「あーあー、そんなにかっこむから。はい、お茶ですよ。」
「んぐっぐ・・・・・・ぷは、死ぬかと思った。すまんすまん。」
「ったく、気ぃつけや華雄。」
「ところでですね、1つだけ宜しいですか。」
高順の言葉に、その場にいた皆が「ん?」と高順の顔を見た。
「・・・なんで、張遼殿と華雄姐さんがここにいるので?」
そう、高順一党がこれから住むこの居館。夕飯真っ最中のこの場所に、なぜか華雄と張遼までいたのだ。
「うちかて掃除とか色々手伝ったやん? ご褒美くらいあってもええやんかー。」
そう言った張遼は徳利の栓を開けて中に入っている酒を飲み始めた。
「いや、私はだな・・・。その、晋陽にいた頃は割と皆で食事をしていただろ。1人だと少し寂しくてだな・・・。」
と、華雄はどこか遠くを見つめて呟いた。確かに、高順達は「華雄1人で食事は寂しいだろうから」と皆で食事を持ち込んで一緒に食べたりしていたが。
実際のところ、華雄は本当にそう思っていたし何より高順達と一緒にいた方が楽しいのだ。・・・美味しい食事にもありつけるし。
張遼が紛れ込んでいるのは謎だが、彼女もこの居館の片付けの手伝いやら何やらしてくれていたので、まあ良いだろう。
呂布に対してはまだ恨みが大きいし張遼に対してもそうだが、高順は張遼に対しては言うほどに恨みきれていない(恨んでいる事は恨んでいる
人づて、と言うほどの事でもないが、華雄から聞いていたのだ。朱厳は張遼と戦い、武人として散って逝ったのだと。
丁原もそうなのだが、その最期を看取った事もあるし、「恨むな」と言われてもそこは無理な話だ。
が、両者共に将として戦って散った事は本望なのだろう・・・ということで、一時休戦ということにしておこうと思っている。
彼女達の行ったことに対しては怒っていても、その人柄を否定するつもりも無い。
仇を討つと明言しているものの、今の状況では2人は仲間である。どうやってそれを成し遂げればいいのやら。
未だ答えが見えない・・・だからこその一時休戦だ。
だが・・・。
「華雄姐さん、食いすぎです。」
「もがっ!?」
それよりも、この人の食事量を考えてもう少し白米を炊くべきだった・・・と悩む高順であった。

後日、馬超一行がやって来たり、その目的に全員が仰天してみたり、楽進達も到着したりとまだまだ色々とあるのだが・・・。
それはまた、次回のお話。




~~~楽屋裏~~~
今回も短いです、あいつです。
さてさて、馬超達も到着し、簡単な描写でしたが董卓と謁見をしました。
そんな彼女達の目的・・・いや、もう解りきってることかもしれませんな(笑
え、1人フリーダムがいる?・・・気にしたら負けです。

今回が短い理由はアレを同時進行しているからです。
というか、作者のアレは正直期待しないほうが良いと断言しておきます。正直「これは酷い・・・」な出来でしたから(通常通り

アレが後悔いや公開されるのはあと少しだと思うのですが・・・。どうなるのでしょう、本当に。
更新されるときは人知れず更新されてる可能性が高いので、チェックをお願いします(いや告知しろよ

で、XXX痛でちょっと本気出した(何!?

それではまた次回、あるいは向こうの痛いや板でお会いいたしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第43話 洛陽的日常。その2
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/22 18:43
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第43話 洛陽的日常。その2

高順、そして馬超。
この二者が洛陽へ到着して1週間ほどが過ぎた。
この時には楽進ら、晋陽居残り組も到着しており、何ゆえか上党にいるはずの味噌職人の人々もその道中に引っ付いて来ていた。
彼らが言うには「置いてけぼりにされてはたまらない」ということなのだが、これからも色々と金が入用なはずの高順の元で直接働こうという意味もあったようだ。
一応、楽進らの事も董卓に報告して高順・・・いや、この場合華雄軍だが、そこに所属する事になった。
が、ここで張遼が異を唱えた。内容は「華雄のところばっかし増強されて面白ーない! うちとこにも武将配置して欲しいねんけど・・・」なのだそうな。
確かに、彼女に言い分にも一理あるな、と董卓や賈詡も考え込んだ。
1つの軍勢にばかり戦力が集中するのは・・・ということなのだ。
呂布はあの通り、人を使うことは不得手だがその武威と力で万の軍勢に匹敵する。
張遼と華雄は兵の使い方も上手く、自身の腕前も相当なものだ。同等の扱いをして欲しい、と言うことでもないが自分のところに武将配置が無いのは「えこひいき」だというのが張遼の主張だった。
「華雄には李粛とか徐栄、4人がいるやん? そこに順やん部隊・・・えーと、9人やったっけ? 全員配置はきつぎますわ。2人や3人、こっちに回してくれてもええんとちゃいます?」
「うぅん・・・張遼さんの言う事も正しいと思うのですけど。」
間違った事を言ってるわけではないので、董卓も困り果てている。
「せやろ? なら・・・。」
「ただ、問題があるんです。」
「問題? 何やの?」
「・・・本人達が嫌がっているんです。」
「・・・はぁ。」
張遼は「はい?」と言いたげな表情だ。嫌がってるってどういうことやねん? と。
「これまでも、張遼さんから何度も同じお話をされました。それで、私から打診してみたんです。」
「結果が・・・全員に断られたってことかいな?」
「はい・・・。」

~~~その時の状況~~~
政庁にて。
「高順さん、一度決まったことを覆すのは心苦しいのですけど・・・張遼さんが武将を回して欲しいと仰っているんです。」
「はぁ・・・。」
「それで、高順さんは、呂布さんと張遼さんに思うところがあるのを承知で・・・私からもお願いしたいのです。」
「・・・そりゃ、確かに思うところはありますけどね。」
苦々しく呟いて、高順は自分と同じように呼び出された仲間達のほうへ身体を向けた。
「と、董卓殿はこう仰ってるが・・・行ってもいいぞ、と言う人はいる?」
『・・・・・・(無言)』
誰1人応えない。蹋頓や楽進などはそっぽを向いてさえいる。
「・・・らしいですよ、董卓殿。」
「へ、へぅぅ・・・困りました。」
董卓は自分の頬を両手で包んで本当に困っていた。

3人娘・・・「だが断る。」
沙摩柯・・・「私と蹋頓は高順の副官だからな。動くつもりは毛頭無いぞ。」
蹋頓・・・「高順さんの下で働けないのなら暇乞いを・・・。」
趙雲・・・「それがしも、気心の知れた方と働きたいですな。」
閻柔と田豫・・・「うぅ、私達は趙雲様の副官っすから・・・。」

と、にべもない。

「・・・と、こういう次第でして。」
「あ、あうぅ・・・うち、そこまで嫌われてるんかなぁ・・・。」
とほほ、と張遼は肩を落とした。
この時、張遼の下に着いている武将は誰もいない。
張済と張繍は董卓の身辺警護と、代わりに軍を指揮する役目を負っているし・・・牛輔(ぎゅうほ)とかはいらんしなぁ・・・。
「う~~~・・・、参ったなぁ・・・。」
横で見ていた賈詡は、こめかみ辺りを押さえて「はぁ・・・」とため息を1つ。
このまま董卓に任せてたら纏まるものも纏まらない。「あたしが独断と偏見で決めるわ。」と、大声で叫んだ。
「へぅっ・・・賈詡ちゃん・・・。」
「あんたはもーちょっと堂々としなさいよ・・・。張遼、2人ほどで良い?」
「おお、賈詡っち! いけるんか!?」
「あったりまえよ。それに、高順だって戦力が集中しすぎているのは理解してるみたいだしね。」
その2人、というのは干禁と李典である。
賈詡は高順一党と称される人々の観察を行って、その2人ならば何とかなるだろうという目星をつけていたのだ。
高順という人間を信用している訳ではないが、このまま忠誠を誓うというならば・・・規模が小さくとも、独立した部隊を任せてやってもいい。
特に趙雲は一番素質がありそうで、彼女は間違いなく一軍の長たりうる実力者だ。楽進は高順の下で働かせてやるほうが力を出しやすいだろう。
沙摩柯・蹋頓は一軍の長としても高順の部下としても、どちらでも使えそうだ。そうなると消去法での事でしかないが、干禁と李典・・・ということになるのである。
後日、高順は賈詡に呼び出されて事の次第を説明された。当然一軍の長云々は伝えられていない。不満が無いではないが賈詡や張遼の言い分は解るし仲間内で軋轢を作るのも良くない。
「ま、これは董卓からのお願いではなくて命令なわけよ。 拒否するのは許されないわ。」とまで言われれば了承するしかなかった。
その結果・・・張遼隊に配属されるのは、干禁と李典になった。
ただ言われるだけではなく、高順としても条件をいくつか出し、賈詡との交渉をしていたが・・・。
それを居館で聞かされた本人達は猛反発。
「なんでやねん!?」
「おかしいの!」
と凄まじい剣幕で高順に詰め寄るが・・・。
高順としても彼女達を手放したくは無いが、平均的な、つまりバランスを取るためには仕方の無い処置でもある。
そしてこうも説明した。
「2人はあくまで出向というか出張みたいな形でね。基本的に俺が2人にとっての指揮系統なわけだ。だから、俺が「2人とも張遼さんと一緒に戦って」と言えば2人はソレに従う。」
「・・・なんや、ややこしいなぁ。」
「つまり・・・高順さんが「一時的に俺の指揮下に入れ」と言ったら、そこに戻るの?」
「大雑把過ぎるけどそんなところかな。張遼さんの命令よりも俺の命令のほうが優先度高い訳だ。んー・・・俺直属の遊撃部隊とか他軍への応援部隊ってところかな? 2人にも兵が配置されるしね」
李典と干禁は、互いに顔を見詰め合っていたが・・・しばらくして「しゃーないなぁ・・・」と諦めた。
「すまないな、2人とも。俺としても2人には一緒に戦って欲しかったのだけど・・・。」
高順は済まなさそうに頭を下げた。
「なはは、わーっとるって。高順兄さんも納得してへんみたいやけど。」
「高順さんに頭を下げられたら断れないの。」
「その代わりって訳じゃないけど、2人はここに住んでいても良いみたいだ。調練は張遼殿と一緒みたいだけどね。」
「んなもん当たり前や。こっから離されるのだけは勘弁。・・・その前にな、高順兄さん。」
「何だい?」
李典は意地の悪そうな笑みで高順の顔を下から覗き込んだ。
「出張っつーのはな、手当てが出るんやで。知ってはります?」
「えへへー。そのあたりはちゃんと払ってもらうの!」
「な、あっさり了承したと思ったらそんなこと考えてたのか!?」
2人はけらけらと笑った。
「あったりまえやがなー。高順兄さんに譲ったんやから、こっちも見返り欲しいのはごく当然の心理や思いますけど。」
「・・・ぬぅう。」
まあ、仕方ないか? と思う高順。
色々と考えれば、楽進・李典・干禁は最初期からずっと高順と共に戦いを潜り抜けた戦友でもある。(虹黒もだが
彼女達はずっと高順と共に戦うことを願っていただろうし、そもそも自分のせいで望みもしない場所へ行って、望みもしない戦いにつき合わされている。
沙摩柯・蹋頓・趙雲・閻柔・田豫・・・彼女達だってそうなのだ。
それに対して、自分が見返りとして用意できるのはお金だけ。
何とも情け無い話であるが、彼女達が自分に向けてくれる信頼と引き換えに金を払っているようなものなのだ。
高順はそれを恥じているが、本人達が聞いたら首を横に振ってこう応えただろう。
「私達は私達の意志で高順に着いてきたんだ。」と・・・。
こうして李典と干禁は張遼与りの応援部隊として派遣されることになった。

洛陽での高順達の仕事は兵の訓練、華雄・張遼部隊との連携、警邏などになる。
とは言っても兵士の編成をしなければいけないようで、それは高順達の仕事ではない。賈詡の仕事である。
自分達に宛がわれる兵士の数もこの時では不明であって、上からのお達しを待つしかなかったのだ。
現状でやる事のない高順達だったが、1つだけやりたい事があって、それを沙摩柯に頼んでおいた。
支度金を用意するので武陵蛮を集めて欲しい。というものだった。武陵というのは沙摩柯の故郷で、その地に住む蛮族なので「武陵蛮」だ。
高順以外の武将は漢王朝の兵士を与えられる事になっているのだが、高順の部隊は烏丸騎兵700が中核となる予定である。
中途半端に異民族と漢土兵の混合部隊を作るよりはいっそ異民族一色にしたほうが良いか? という考えであった。
その為、今は沙摩柯がいない状況になっている。
高順と蹋頓は洛陽周辺にいる異民族に片っ端から声をかけて部隊に組み込んでいて、武陵蛮も含めれば・・・高順隊の最終的な兵士数は2000ほどになると予想されている。
さて、他の者たちはと言うと・・・これが、本当にやる事がない。
警邏などは直ぐに終わってしまうし、あとは自分達で居館の庭などで訓練をするしかないのだ。
その日は、高順と蹋頓も訓練を行っていたのだが・・・そこで、ちょっとした出会いがあった。

馬超姉妹・韓遂・成公英。彼女ら5人は高順を探していた。
韓遂はともかくも、他の者達は洛陽に来るのが初めてであり、観光を兼ねてもいたのだけれど・・・。
高順の住んでいる場所を知らなかったので、一度董卓なり賈詡なりに聞かねばならなかった。
そして街の宿から宮殿に向かう途中の事。馬超をじーーーっと見つめる黒馬・・・虹黒がいた。

「・・・何だろ、あの子。」
一番最初に気づいたのは馬超だった。
なかなか立派な邸宅があって、その庭部分から、自分を見つめている黒い巨馬がいるのだ。
馬好きの彼女は思わず、そちらへふらふらと歩いて行った。
「あ、姉上? どうしたの・・・うっわ、すごいお馬さんだぁ・・・。」
姉がふらふらと歩いていく事に気づいた妹2人も虹黒を見て一緒についていく。
「あ・・・韓遂さま。」
「ん?・・・はぁ、馬超達の馬好きにも困ったものだな・・・。」
そう言いながらも韓遂は成公英を伴って馬超らの後ろについていく。
「・・・。」
「・・・。」
じぃ・・・っと睨めっこをする馬超と虹黒。
目の前の馬は随分な巨躯の持ち主のようで、わざわざ馬超と目線を合わせるかのように首をかなり低い位置まで下げている。
ふんふん、と顔を近づけて馬超の匂いを嗅いでいた虹黒だったが・・・不意に、馬超の顔を「ぺろっ」と舐めた。
「えひゃっ!?」
へんな叫びを上げる馬超に構わず、虹黒は更にべろべろと馬超の顔を舐める。
「お、おいっ・・・あは、あはははっ・・・こら、ちょっと・・・ぬひゃっ!?」
その叫び声が聞こえたのだろう。黒髪の青年が、「こらこら、何してるのさっ!?」と馬超達のもとへと走ってきた。
「ぶるるっ・・・」
「あ・・・。」
その声に、目の前の馬は反応してそちらに歩いていってしまった。
「ったくもー。虹黒、知らない人の顔舐めちゃ駄目だって言ってるだろー?」と馬にやんわりと注意しつつ、その青年(高順だが)は馬超らの目の前までやって来た。馬もその後をゆっくりとついてくる。
「すいません、うちの家族がご迷惑をお掛けしたみたいで。」と青年は人懐っこい笑顔を見せた。
その笑顔に、馬超はどきりとした。彼は馬超から見て割と好みの男だったようだ。
「あ、いや・・・別にいいんだ。その馬・・・虹黒っていうのか? その子がじっとこっちを見てたからさ・・・。」
「そうでしたか。本当に申し訳ない。」
「いいなー、姉上だけあの子と仲良くしてー!」
「いいなー!」
「お、おい、お前らなっ・・・」
「・・・はは、どうやら随分気に入られたようだよ、虹黒。」
そんなやり取りをしている馬姉妹だったが、韓遂は青年を見つめて「ほう、なかなか・・・。」と心中で感嘆の声を上げていた。
その青年の上着は、訓練でもしていたのか・・・汗で身体にびったりと張り付いていて、中々筋肉質である事が見て取れる。
腕にいくつもの傷があるし、その青年の持っている武器もまた凄まじいものだ。槍のようだが、巨大な刀のようなものに見えるし長さも相当だ。
これを扱えこなせるというのなら、大した膂力の持ち主と言うことだな・・・と、韓遂は油断無く青年を観察していた。
さて、談笑をしていた馬超達だったが、思い出したのか目の前の青年に1つの質問をしていた。
「あ、そうだ。1つ聞きたい事があるんだけどいいかな。」
「はい?」
「今、人探しをしているんだが・・・高順って言う男を知らないかな?」
「・・・高順?」
「うん、どうだろう?」
「・・・どういう字です。「高い」に「順番」の順ですか。」
「ああ、そうだが・・・知ってるのか?」
青年は顎に手を当てて少し考えているようだったが、まあいいか、と呟いた。
「人違いかもしれませんが、俺の名前も高順です。」
「・・・なにっ!?」
馬姉妹だけでなく、韓遂も少し驚いたような表情を見せた。馬姉妹に至っては顔が真っ赤になっている。
「しかし、あなた方の探している高順が俺であるという訳では・・・。」
そこで、「少しいいか?」と、韓遂が前に出てきた。
「貴方は?」
「ああ、そういえば我々の自己紹介をしていなかったか。私は韓遂。で、これらが馬超・馬休・馬鉄。私の後ろにいるのが成公英。」
「・・・西涼の盟主、馬騰の一族と韓遂・・・って、まさか!?」
「ふむ、どうも当たりの様だな。閻行は元気にしているか?」
韓遂はにんまりと笑ってその名を出した。
「・・・はぁ、確か母上のお知り合いでしたね。用件・・・は、いいか。しばしお待ちを。」
高順はそう言って虹黒を伴って走り去った。少し経ってから高順は自ら韓遂らを居館の中へと招き入れたのだった。

高順は馬超一行を居間に案内。居間には既に沙摩柯を除く全員(何故か華雄と張遼までいた)が集まっていた。
閻行と韓遂の視線が重なり、2人はニヤリと笑みを見せる。高順は馬超らに席を勧めてから自分も着席した。
一応、形式上ではあるが皆を紹介する。馬超は何故かむっとしていたようだが・・・。
「さて、こんなところですか。・・・では、お聞きしますが俺を探してた理由をお聞かせ願えますか?」
この問いに、韓遂は「もっともだ。」といいつつ高順に2枚の手紙を渡した。1枚は馬騰から閻行に宛てた物でもう1枚は閻行から馬騰に宛てた物。
「・・・?」
「閻行の書いたものから読むんだぞ。」
「はぁ・・・。」
順番に意味があるのかなあ、と思いつつ高順は手紙を広げた。そこには、簡単に意訳するとこう書いてあった。
(意訳開始)「やっほー☆琥珀ちゃん(馬騰の真名)愛してる♪ 少し面倒だろうけどお願い聞いて欲しいなー。ちょっとうちの馬鹿息子に付き合って反乱かますんで、不穏な動きするだけでいいから支援して欲しいな。お礼に琥珀ちゃんの3人の娘の誰かと、うちの息子娶わせたいなーって思ってます。勿論3人全員でもいいよん☆」(意訳終了)
・・・・・・何この心の底から殺意の沸いてくる手紙。こんな無礼な手紙送られて馬騰さん怒らないのだろうか。
「よーし、母上ちょっとそこ座れ、むしろ正座。」
「え、どうして!?」
「どうして、じゃねええっ! こんな無礼な手紙良く書けますね貴方は!? しかも何ですか3人の娘と娶わせたい・・・え?」
無礼千万な内容に気を取られすぎていたのか、ようやく高順は気がついた。娶(めあ)わせる? 娶わせるって結婚って意味ですよね?
ちなみに、周りの人々は最初から理解しており・・・。

3人娘の反応→楽進が何故か落ち込む。他2人はニヤニヤ。
趙雲→ふむ、また恋敵が増えましたかな?
華雄→まったく、閻行様の気まぐれかつ悪意無く他人を巻き込む癖はまるで変わっていない・・・。
張遼→へぇ、西涼軍閥と関係あるなんて。やるやんか。
蹋頓→あらあら、人気者は辛いですね、とにこにこしている。
閻柔と田豫→おおぉ・・・い、一夫多妻制!?
馬姉妹→真っ赤。

この件については高順は一切悪くない事を理解してもいるようで、高順一党&華雄・張遼には悪意など欠片もないようだったが、本人にしてみればたまったものではない。
「・・・ははうぇ~・・・。ど、う、し、て! 貴方はいつもそうなんですか・・・!」
「あ、あの、順。落ち着きなさい、ね?」
今まで感じたことの無い怒りに、さすがの閻行も焦っていた。冷や汗をかいてわたわたとしている。
「高順。義姉からの手紙はソレに対しての返書だ。読んでみるといい。あと、誤解の無い様に言っておくが戦友ということもあって、その程度では義姉は怒りもしないぞ。」
それは人として何か間違ってるような・・・と何とか怒りを押し殺しつつ高順は返書とされている手紙を開いてみた。
「了承。」・・・ただこれだけが書いてあった。
「え、これだけ?」
「うむ、それだけ。」
高順の疑問に韓遂と馬姉妹はうんうんと頷いて見せた。
ある意味で「それだけで意思が通じる」という信頼の現われのようにも見えるし、「なんかもう面倒くさくなってそれでいいや」みたいな投げやりな反応にも思える。
「・・・て、手抜きな回答だよなぁ。・・・え、ちょっと待って。じゃあ、晋陽の乱の時に西涼が動いたのって!?」
「ああ、要請に基づいての事だな。行動に移したのだから返書は必要なかったのかもしれないけどな。」
「・・・こんな訳のわからん内容の手紙送られて動く馬騰様って一体・・・。」
高順はどこか遠い場所を見つめてぼやいた。
韓遂は何も言わないが、馬騰にもきっちりとした打算がある。不穏な動きを見せた、とあるが馬騰らにとっての仮想敵は常に漢王朝だ。その仮想敵に対しての軍事教練、そして兵士増員をしたのみ。
それだけで閻行に恩が売れるのならそれはそれで安いものだ、ということだ。
そしてもう1つは、娘たちの事に関してである。
下の娘2人はともかくも、馬超は少しばかり男勝りな部分があり。武勇もあることも手伝ってか少々扱いづらい面がある。
親馬鹿なところがある馬騰は、ちょっと速いと思うが馬超の嫁の貰い手を捜していた。
妥当なところで「関中十軍閥」と呼ばれる西涼の実力者10人の子弟などを思い浮かべていたのだが、全員が「恐れ多い」と辞退してくるし本人も「弱い奴は嫌だ」と興味も示さない。
さあ困った・・・と思った頃に、閻行からの手紙が来たのだ。
閻行の手紙の遣り取りはこれ一回だけと言うわけではなく、それ以前に何度もあったことで交流はきっちりと続けていた。
なので、馬騰の娘が3人ということを閻行は知ってたし、馬騰も閻行に高順と言う息子がいることも知っている。
内容は前述の通りで、馬騰はそこを利用するか、と考えたのである。あの閻行が自分の息子を鍛えない訳が無いし、娘にも婚約者ができて親としても安心が出来る。高順の人物も温和だと伝えられているのであとは会ってからということになるのだけれど。
恩を売れる上に、上手くやれば高順一党丸ごと自軍に吸収して尚且つ閻行が戻ってくる可能性もあるのだ。軍事演習も兵力増強もそろそろ行うべきかな、と考えていた事もあって馬騰は閻行の要請を受け入れたのである。
馬超は話を聞かされたときは乗り気ではなかったのだが、高順と言う男が中々の武勇の持ち主で馬術も巧み、と聞かされて少しだけ興味が沸いた。
特に馬術が得意と言うところに魅力を感じた。馬超本人も乗馬が趣味であるし、婚約者云々は無いにしても話のあう友人くらいなら、と思うようにした。
持ち前の気性の荒さと武勇、そして馬騰の跡取りということで、周りの男連中は馬超に遠慮をしすぎており本人もソレをなんとなく理解している。友人といえるのも同年代の成公英、あとは妹2人と従妹である馬岱くらいなもので、馬超本人の交友関係と言うのは本当に寂しい。
馬休と馬鉄も何故か乗り気だし、一度会ってみたいものだと思っていたところ、馬騰から洛陽へ使者として赴くように命令をされ今に至る・・・ということだ。

「一応言っておきたいのですが、俺、何も聞かされてないんですよね・・・。」
高順は正座したままの母親を睨みつけながら言った。
「どうして俺の知らないところで俺の人生に影響を与えるような事をしますかね母上は・・・!」
「いやー、あはは。色恋沙汰に疎い息子のためにーと思って。あはははは・・・。」
「・・・・・・。」
すっげぇ冷めた視線で返事をする高順に、閻行は引きつった笑みを浮かべる事しかできなかった。
「と、とにかく。いきなり婚約者云々言われても困ります。」
「うん、そうだろうな。だが、こっちとしても約束を果たして貰わねば困る。そこで次善の策として・・・友人からでもいいから交流を持ってやってくれまいか?」
「友人としての交流ですか?」
「うむ、お前達からしても交友関係を広めるというのは悪い話ではあるまい?」
この言葉には高順もある程度納得が出来る。常に追われ続けている立場であるし、これから先のことも考えれば馬騰との交流を持つというのはマイナスにはならないはずだ。
「それはそうですけど・・・。馬超殿達はそれで良いので?」
「え? あ、うん。別にあたしは・・・。」
「構わないよー!」
「なのですよー!」
「・・・異論は無い様だな。では、姪たちを頼むぞ。それとな。」
「それと?」
「暫く我々をこの居館に住まわせて欲しい。お前達の相性が良いか悪いかをこの目で見ておきたいし、間違いが起こって・・・いや、むしろ起こせ。」
「!?」

こうして、訳のわからぬ展開になりつつ馬超と交流を持つ事になった高順一党。
この流れで楽進が更に嫉妬の炎を燃やしたり、趙雲がよからぬ事を考えてほくそ笑んでいたり。
酒を飲まされた高順が韓遂と凄まじい内容の会話を展開したり、他にも色々とある訳だが・・・。
それがここで語られることはまずないであろう。
馬超姉妹や成公英にとっては、この交流は悪い話ではない。婚約者は話が飛躍しすぎているのだが、友人として考えてみれば高順一党は良い付き合いの出来る人々・・・性格の良い人々ばかりだったのが幸いでもあった。
彼らと何度も手合わせをして、高順の武勇が相当なものであることが解った。他の女性陣も高順より強かったり、高順とまで行かなくてもそれに追随できるほどの腕前だ。(楽進と趙雲も、変な気を起こさず普通に接している
閻行は差がありすぎると言うか次元が違いすぎたと言うか、一瞬で半殺しにされかかって馬超姉妹にとって一生物のトラウマになったりしたのだが・・・。
時折趙雲や蹋頓にからかわれたりもしていたが、気の良い人々ばかりである。馬超自身が不思議に思うくらいに、すんなりと皆の輪の中に溶け込んでいた。
それに、食事が美味しいのもありがたい話だった。食べ盛りの彼女達にとって、高順の作った食事は本当に美味しかったらしく、また大人数で食事をするのも新鮮だったらしい。
食べ過ぎて体重のことを気にしだす馬超だったが、その分、高順達との手合わせで脂肪を燃焼させていたし、このときは気付ける訳もないが栄養は全て胸に流れていて・・・何1つ不安に思う事もないのであった。



~~~楽屋裏~~~
インフルエンザって辛いんですね、あいつです(咳
いやはや、これで3日ほど寝込んでます。寝込んでいるのに何故これを書いているのか良く解りません(駄目
でも、3日目になると咳が酷いだけで割と何とかなるんですよ、自分の家で生活する分には(笑

・・・馬超たちの設定があんな形になってしまいましたが・・・ちょっと安易過ぎましたかね。
ただ、今の高順一党って(戦力的に見て)どの勢力にとっても凄い魅力的な部隊になってるんだと思います。作者の悪乗りが過ぎたとはいえ、かなり充実している布陣ですよ?
それを迎えられるなら・・・と馬騰も考えたかもしれません。西涼ってあまり人材のいないイメージがありますし。どこぞのアレとかソレよりはまだマシなのですが。


反董卓連合まではもう少し時間がかかるかな・・・?
それでは、また次回お会いいたしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第44話 洛陽的日常。その3。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/24 22:05
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第44話 洛陽的日常、その3。

馬超達が高順の居館に住み着いて早2ヶ月ほど。
その間に董卓軍は部隊の再編成を終えて高順達も軍事演習をこなすようになっていた。
その時には沙摩柯も武陵蛮と、山越合わせて400ほどを率いて帰還、高順達の集めた異民族(五胡も含まれる)と烏丸騎兵も合わせて約2000の部隊となっていた。
沙摩柯はとある土産も持って帰って来たが、それは後述。
高順一党の率いる兵は殆どが騎兵。干禁・李典・楽進はどちらかといえば支援部隊に当たるため弓・歩の割合も大きいが騎兵も配属されている。
高順の騎馬の運用法は基本的に「攻撃のみ」を重視している。
騎馬と言うのは防御に向いている訳ではない。その戦場走破能力と打撃力をもって敵陣を駆け抜け切り裂く・・・全てを攻撃能力に注ぎ込むべきだと高順は考えている。
一度、重装騎兵を作ってみようか? と考えたりもしたがそれをできる頑健な馬が虹黒くらいしかいないし、創設費・維持費共に今は少し手が出ない。
それよりも兵士1人1人の戦力を上げる為に金を使うべきだろうと考えているが、まあそれはいい。
張遼や呂布との軍事演習、模擬戦、武将同士の手合わせなど、やる事はたくさんある。
高順は武将同士の手合わせの時に真っ先に呂布に立ち向かってすぐ敗北、ということを繰り返していた。「ぶっころーす!」「・・・(べちりっ」「おヴぉふっ!?」と、まあこんな感じで一蹴されている。
すぐに負けて引き下がり、また挑んでは負けて・・・ということを何度も繰り返しているのだがそれは経験として活きる筈。実際に少しずつだが高順は呂布の猛撃に耐える時間が延び始めている。
それどころかたまに反撃を試みるほどに成長している。・・・まぁ、すぐに負けることは負けるのだけど。
呂布だけではなく、張遼、張済・張繍、徐栄、華雄などとも手合わせをしているし、張遼との間にも諍いはあるものの部隊の動かし方は、息があい始めており、なかなかの適応力を見せてもいた。
呂布に挑むのも高順だけではなく、全員が訓練を頼み込んで手合わせをしてもらっている。

さて、軍事演習などの話は置いて・・・高順には3つの問題があった。
問題と言ってもうち2つは高順自身にはあまり関係のない話だったのかもしれないが、それはともかく。
まず1つ目。
馬超達が西涼に帰還したことだ。
これは別段驚くようなことでもない。彼女らはあくまで馬騰の代わりで派遣されただけで、いつまでも洛陽に滞在する訳には行かないのだ。
送り出しには全員が顔を揃えていた。解っていた事とはいえ、別れと言うのは辛いものだ。真名を教えあうほどの友好関係も出来たようなのでその気持ちはひとしおだろう。
帰り際になって、感極まったのか単純に寂しくなったのか、馬超は涙ぐんでしまって別れの言葉も満足に言えなくなってしまうほどだった。
妹達がなんとか宥めたものの、彼女達も泣き出してしまって結局、韓遂が代わりに別れを告げることになった。
「高順、洛陽の生活が落ち着いたら今度はお前達が西涼に来てくれ。義姉にも会わせたいし、なによりあいつらが、な。」
そう言って、成公英に付き添われて離れていく馬超らに視線を向けた。
「ええ、そういたします。・・・韓遂殿もお元気で。」
「ああ、我が甥よ。そして、友人・・・中には愛人もいるようだがな?」
韓遂はにやにやしつつ蹋頓を見つめた。他にもいるのが解っているが一番濃厚な間柄と見ている。
「・・・まだ甥になるって決まってませんし、愛人とか言わないで頂きたい。」
「はは、なるも同然さ。お前のほうはともかく、馬超達にお前を離すつもりは無いようだからな。・・・ではな、閻行よ、お前ともまた会えることを願っているぞ。」
「ええ、貴方も元気で。馬騰にもよろしくね。」
「うむ、さらばだ!」
それだけ言って、韓遂は未練げなく背を向けて馬超らと、兵士の待つ郊外へ去っていった。
「・・・行ってしまいましたね。」
韓遂の颯爽とした後姿を見送りつつ、高順の隣にいた楽進が呟いた。
「ああ、行ってしまったね。面白い人たちだったよ・・・韓遂殿は滅茶苦茶だったけど。」
楽進は、確かに、苦笑してしまった。
彼女は当初こそ馬超達にまでライバル意識のようなものを抱いたものだが、友人の少ない境遇などを聞いて不憫に思ってしまったのだろう、割と親身になって世話を焼いていた。
もともと面倒見のよい性格であるし同年代と言うこともあって、馬超らは高順以外で一番最初に打ち解けて真名を教えあったのが楽進だった。
高順にしても、馬超は男勝りだとか乱暴だとか聞いたのだが実際には「言うほどのものかな?」程度にしか感じなかった。
むしろ、そういう風聞を気にして自分の女らしさに自信が持てないとか、人一倍可愛い服とかに興味を持つところなどは普通の女の子の感性だろうに? と可愛く思ったものだ。
趙雲や3人娘、蹋頓も同じように思ったらしい。よく洛陽の町に繰り出して(というか一方的に連れ出して)服などをどっさりと購入してきたりと、これまた女性同士の付き合い方をしたものだった。
妹2人も悪戯好きな娘達だったが、高順には懐いたようでよく甘えてもいた。(その度に馬超が真っ赤になって怒ったりもしていた)
その時のやりとりと言うのも決まって「お前らっっ! 高順が迷惑してるだろ!?」「えー? そんなことないですよー?」「ないのですよー?」「ぬがー!!」・・・と、この姉妹のいつもの喧嘩であった。
そんな元気な彼女達がいなくなるのは寂しいが、彼女達にも自分のやるべき事がある。
韓遂は・・・まぁ、うん(え?

そして2つ目の問題。これは高順と言うよりも賈詡の事である。
賈詡は、このところ寝不足が続いて疲労しているのだ。彼女の仕事が多いというより、自分から仕事を率先して実行してしまう・・・要するにオーバーワークなのだ。
ワーカーホリック(仕事依存症)というわけではないし、他の文官として陳宮や李儒もいるのだがそれでも足りないくらいに仕事が多い。
その状態で寝不足が続いて、不眠症に近い状態を引き起こしているようなのだ。
政庁や廊下ですれ違うたび、目の下にクマを作ってフラフラしている賈詡を見た高順も流石に心配になって董卓に「賈詡殿休ませたら?」と進言してみたが本人が「そんな暇ないわよ・・・」と、却下してしまったのだそうな。
眠りたくても眠れないらしい、という事を後日聞かされた高順は寝る前に酒を飲んでみたら? と思ったが・・・「そういえばこの時代ってアルコール度数の低い酒しか無いっけ?」と考えた。
もっと時代が下れば曹操が完璧に近い醸造酒を開発するかもしれないのだが・・・例えば黄酒(今で言う紹興酒)などはあっただろうが、大抵は濁酒(どぶろく)とか甘酒みたいなものだ。(それで酩酊する高順って・・・
ホットブランデーとか、砂糖を加えれば飲みやすく・・・と考えたところで高順は「・・・そういや、蒸留酒ってあったっけ?」と考え始めた。
考えた結果、サトウキビがあるということを知って・・・「ラム酒くらいなら作れるんじゃね?」と思い至った。
そこで、沙摩柯には兵士を集める以外にも「お金余らせてサトウキビも購入して欲しい」とお願いしておいた。(彼女のもう1つの目的はこれだった
この場合に1つ目の問題となるのは酵母なわけだが・・・ちょうど、虹黒の食料となるリンゴがあったのでそれを使うことにした。
リンゴと蜂蜜、白湯に蓋できっちり密閉できる瓶。温度が少し不安だったが、洛陽は暑い訳ではない。むしろ少し肌寒い程度だ。
なんとかなるか、と考えて早速材料を集めて作成開始。李典に頼んで完成度の高い蓋も作ってもらおう・・・。
酵母と言うものは一度作ってしまえば、種継ぎをして何度も使えるし、これでパンを作れば皆喜ぶかなー、と主夫じみたことを考える高順であった。
面倒なので色々と過程を飛ばすのだが、沙摩柯はきっちりとサトウキビを購入して帰還。そのサトウキビを何に使うのだ? と不思議そうな顔をしていた。
確か、絞り汁を乾燥させて黒砂糖を・・・と考えつつ、高順は手順どおりに進めていく。
さあ、最後の問題。どうやって蒸留するか? である。要は、下側で熱して、上側で冷ます、だ。
李典に少し手伝ってもらうことにして、「鍋に黒砂糖を溶かし込んだ水(醗酵済み)を入れて、その真ん中に杯を固定。上側を陶器の皿でがっちりと蓋。その皿に冷水を満たしてから熱する」と、面倒くさいやり方になるが、そうやって蒸留をすることにした。
本当は冷水ではなく氷水が良いのだが・・・温くなってきたら水を替えるしかないな、と思いつつ実行してみた。(湯煎だと時間がかかりすぎるが仕方が無い
また過程を飛ばして・・・何とかラム酒完成。
ラム酒と言っても、樽などで熟成させた訳ではないので色の無い透明な液体である。
高順が味見をすると完全に眠りこけるので他の人々にお願いしたところ、割と高評価が帰って来た。
もっと完成度の高い蒸留器を使えば更に美味しくできるのかもしれないのだが、こういう手合いの甘めの酒など飲んだことは無いので当然と言えば当然だろう。
これに、砂糖とお湯を加えて・・・本当はバターなどがいいのだが代用として一滴だけ酪(ヨーグルト)を浮かべれば・・・
(偽)ホット・バタード・ラムになる。これを寝酒にしてもらおうというわけだ。
試しに政庁にいる董卓、賈詡。その場にいた張兄弟と呂布にも飲んでもらった。「身体が温まるな」や「ちょっと甘いけど飲みやすい」など、これもまた悪くない評価だった。(陳宮はお子様なので不可能。
身体も温まるので一石二鳥・・・と言いたいところだが、これが常習化してしまわないように、と注意だけはしておいた。
もともとアルコール度数の強いお酒でもあるし、常習化してしまえば酒の量が増えて・・・という悪循環になる。そうなる前にきっちり寝るように、と。
これを飲み始めて賈詡は多少は眠れるようになったらしい。が、それよりもラム酒と言うものに興味を覚えて「製造方法教えなさいよ!」と迫ってくる辺り、仕事人である。
美味しかったのか、普通に気に入っていたのかもしれない。

最後に3つ目。
これが一番高順に関係してくるところだが・・・李典である。
それは訓練中。彼女の「高順兄さんの鎧、何とかなりまへんの?」という発言から始まった。
彼女は自分の仕事をしながらも、高順の命令で投石器や固定設置型の巨大弩(バリスタ)の量産に着手していて忙しい。
たまにさぼって干禁や張遼と一緒に洛陽に繰り出して楽進に大目玉を食らったりしているが、自分の技術を使えそうな事にはきっちりと目が行くところは流石である。
「へ? 何かおかしいかな?」
「いや、おかしいっちゅーか。そんなボロボロなん、よぅいつまでも着てるなー思いまして。新しいの支給されてますやろ? 代えたほうがええんとちゃいます?」
「んー、そうかなぁ。そんなに変かなぁ。」
高順の着用している鎧は、上党時代から使用しているものだ。一般の兵士が使用するような簡素な物だから丈夫とは言えないし、愛着もあってこれまでの戦いをそれで押し通していたのでやはりボロボロである。
だからこそ晋陽戦で大怪我を負って死に掛かったのだが・・・。
「でもなぁ。支給されてるやつでもいいけど・・・無骨すぎてどうもなー・・・。」
使い慣れたものの方が良いし・・・と渋る高順だったが、じゃあこんなのどうよ? と李典に相談してみた。
簡潔に言えば、戦国武将の使っていた鎧兜を提案した。精巧な図ではなく、ある程度のイメージと言うか、そういうものを伝えて・・・といったところか。
ちょっと前の話だが、高順は張遼に「順やんは見栄が足らんっ!」と叱られた事がある。
彼女が言うには、仮にも一部隊の隊長がそんな普通の鎧でどうするのだ、ということらしい。
「身分に相応しい格好しぃや、今の順やんは2千の兵士抱えてるんやろ。そこらの兵士やった時代のことはちょいと忘れてみ。な?」と。
そんな事を言われても・・・と考えて、結局思い浮かんだのが戦国武将の鎧だったのだが・・・。
できれば、動きやすいのにして欲しいと注文、材料費も払った。
晋陽では材料集めに多少苦労した節もあるが、洛陽でならば金さえ出せば何とでもなるのだろう。
他にも、張遼の使用する飛龍偃月刀も刃がボロボロになっていたので修復する事になったらしい。
そして、時間経過。
李典から呼び出しが会ったので顔を出してみた高順だが、他に何人かが「興味がある」として高順についてきている。。
工房で出来上がった鎧を見せてもらったのだが、何と言うかすごい事になっていた。
それを見た高順の第一感想。「・・・何これ?」である。
伝え方が悪かったかもしれないが、兜自体の出来は良い。かわりに兜の立て物が何と言うか・・・龍の姿を象っている。
龍の胴体、腕。そして尻尾が兜の後ろに垂れ下がるような格好で地面すれすれ、ムチのように駆動する。どこぞの鎧の魔剣みたいなもんである。龍の顔に至っては髑髏。悪趣味と言われても仕方が無い。
角も両横から2本。前立てだけで良かったのだが・・・これでは鬼みたいだ。
高順は心中で「・・・もしかして、張遼殿の下に回された恨み?」とか思っていたり。
顔の面当て・・・鼻と口と目は露出しているが、リアルロボットみたいな顔に見えて「どうやって思いついた?」と言いたくなる。
ただ、鎧の胴体部と脛当てに至ってはかなり良い出来だ。前方向の装甲を薄くして横と後ろに防御を集中させている。(前面に防御力が無いという訳ではない
腕部分や小手、脛当ても結構な防御力があって、全ての部分に相当量の鉄を使用したのが解る。
もう1つ、異様な部分がある。肩当である。
普通、戦国武将の鎧の肩当・・・袖と言うべきか。木や鉄の薄い板状のものを横方向に面を向けているタイプが多いのだが、李典作のものは違った。
どちらかと言えばプレートアーマーに近いのだが、上に跳ね上がってから後方、かつ下に向かって伸びている。
その肩当もそうとうな分厚さで、なぜか刀、或いは剣を鞘ごとマウント可能な形になっている。そして鞘が向く方向が上。きっちり固定しないと鞘から抜ける気がする。
マウントできる数も2本ずつ、両肩あわせて4本と言うことになる。
外見上で言えば・・・当世具足に近いのかもしれないが。
「・・・だからって、こんなごっついの作らんでも・・・何この中2病な鎧。」
「えー? ちゃんと間接部分は擦らんように作ってあるし、高順兄さんの大剣と丁原ってお人の刀も収納できるようにしてあるんやで?」
「いや、それはいいけど・・・。ん、この肩当って、手で持てるようにもなってるのか?」
「なはは、そうやで。手持ち盾としてでもええし、殴りつける武器にもなるし。強固な鈍器みたいなもんや!」
「ここに武器装着すると・・・変な蝙蝠みたいに見えるよ。これ。」
「にゃはは、まぁ、ええやん? さて、試着してもらいまひょ♪」
「え、これ採用したくないよ俺。李典、悪いんだけど作り直してくれよ・・・」
「え~~~?」
嫌がる高順だった。当然かもしれない。こんな出来が好いのか悪いのか解らない鎧を着てくれと言われて喜びそうな人間など・・・。
「そこまで悪いですか、これ? 私は良いと思うのですが・・・。」
・・・いた。楽進である。
「ふむ、外見での威圧効果も考えれば悪くないやもしれませぬな。」
「え、ちょ!? 楽進も趙雲殿も何を言ってるんだ!」
楽進の意見に賛同するように頷く趙雲。
「そうですね、良し悪しはともかくも、折角作っていただいたのですから一度着用なさってはいかがですか?」と、これは蹋頓。
「うおー、高順様羨ましいっす!」
「うちらも専用の鎧が欲しいっすよ!」
閻柔と田豫も目を輝かせている。ごつい鎧のが好きなのだろうか。
「むぅ・・・。」
そこまで言われれば、さすがに反対も出来ない。渋々といった感じで高順は鎧を着け始めた。
そして十数分。
鎧を着た高順を見て、皆は「ほほぉ~。」と声を挙げた。
当初はごついと思われていた鎧だったが、脇の部分を締めたり等、高順の身体に合わせて調整された鎧は割とスマートな印象になる。
リアルな武者ガンダ○みたいなものだが、髑髏龍の前立てなどもあって一層威圧感がある。
こんな鎧を来た武将が、虹黒のような巨馬に乗って戦場を暴れまわったら・・・武将級はともかく、一般兵などは大いに肝を冷やすだろう。
多分すごい重さなんだろうな、と思っていた高順だったが予想より全然軽い。彼自身の膂力もあったし、修行の成果も出ているのだろう。
間接部分もお互いを邪魔しないように調製されているみたいだし・・・外見さえクリアできれば良い出来だな、これ。と李典の技術力に舌を巻いた。
「おぉ・・・これはなかなか・・・。」
「これならば、虹黒にも似たような鎧を付けてあげたら宜しいのでは?」
「そうですね。こんなに恐ろしげな騎馬武者が戦場を疾駆する・・・うふふ、良いかも知れません。」
「でも、もう少し体を大きく見せたほうがよくないっすか?」
「んー、せやな・・・タッパ(背丈の高さ)が足りんかな・・・? せや、高下駄なんてどや!?」
「お、おい・・・そんなもの履いて戦闘なんてできんぞ!?」
「慣れればよいのです高順殿!」
「何その無茶振り!?」

結論。
虹黒に、俺と同じような鎧兜つける事になりました。虹黒さん黒王号道まっしぐら。
色は全部赤では武田騎馬軍団になってしまうので・・・一部蒼にして黒を基調に致しました。
目立ってしまいますが、目立つ分自分に攻撃集中して部下は楽になりそうです。
そして高下駄はく羽目になりました。慣れろ! だそうです。

・・・なんでこんな事に・・・|||orz
 
張遼さんの飛龍偃月刀ですが、李典が「ちょっと強そうだから」と飾りと刃の形状を追加変更したら怒ってました。
結局飾りは撤去されたみたいですが、刃はそのままで良いとか・・・。龍の飾りに愛着があったのかな?
それと、名前も「応龍偃月刀」に変えたそうです。
後で応龍偃月刀を補修した代金の請求書が俺宛に来ました。



・・・あれ?




~~~楽屋裏~~~

こういうチマチマしたネタを書くのも大変です、あいつです。(挨拶

馬超達帰還。これはごく普通の流れで特に驚くことも無い話だと。
男連中に優しく接してもらったことの無い境遇だったのでしょうか。イメージとしては馬超さんは猫っぽいです。
ただし、懐いた人にはすぐデレてしまう・・・あれ、つんでれ?

酒。詳しくない作者が書いたので色々とカオスです。あんな蒸留の仕方じゃちゃんとしたお酒にならないのでしょうね。
それでも、かの時代であれば良い匂いのする酒になったのでしょうか、突っ込みどころが多いかもしれませんがご容赦を。
個人的感想でしかないのですが、賈詡ってどうもオーバーワークしてしまいがちなイメージがあります。何故でしょうね。

鎧。これはどうしようかと思ったのですが。
きっちりと描写したことも無かったし、いつまでも上党時代の鎧じゃなぁ、と思って書いてみました。中2満載ですが、在るお人の絵がモデル・・・つうかそのままですが、そこが元ねたとなっております。
・・・更新されなくなってしまった太○慈さんnのお話と被ってしまっていますね。>日本の鎧とか
あれ、再開してくれないかなぁ・・・と思うのは筆者だけではないと思います。

さて、そろそろ皆様が心待ち(?)にしているアレが近づいて来ていますよ。
それでは、また次回お会いいたしましょう(・ω・)ノシ


・・・投稿した後に、投稿数が50であることに気がついた。
よくもまあここまで続けてこれたものです。
これも皆様が応援(?)してくださっているおかげだと思います、本当に感謝です。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第45話 洛陽的日常その4
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/28 18:42
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第45話 洛陽的日常その4

高順は何故か、賈詡と共に洛陽の市を歩いている。平たく言って、董卓のお供をしている。
お供と言っても、張済・張繍兄弟もいれば親衛隊もいる。別に高順が共に行く理由もありはしない。
単純に警邏のルートが同じだけだったりする。
董卓は1週間に1度、こうやって街の様子を見るために洛陽のあちこちを見て回る。
政務が忙しい身なのだが、放っておくと前のようにこっそりと抜け出すという可能性もあり、彼女の我侭に賈詡が折れたようなものなのだが、これは割と上手くいっている。
董卓に自覚があるかどうかはともかく、街の人の目に触れるところで権力者が普通に歩いているというのがそもそも珍しい。
街行く人々に親しそうに声をかけられて笑顔で返す董卓を、誰もが悪意を持って見ないのだ。
時折政治に不満のあるものが意見を言ってきたりもするようだが、そういうものに対しても真摯に対応していたり。
そういうことをされるとお付きの人々の苦労も多いのだろうが、そこは張兄弟がいる。きっちりと目を光らせているようだ。
高順もそれをじっと見ていて「何だ、ちゃんと自分の仕事をしているわけだ」と半ば感心していた。
ただ優しいだけの少女かと思っていたが、権力者として、為政者として人々に認められるように彼女なりの努力をしているのだろう。
遊びのついでか、そうでないかの違いもあるかもしれないが・・・そういえば、ああ見えて政務も嫌な顔せずにこなしているとも聞く。
・・・賈詡のお小言を聞きながら、ではあるそうだけど。
そこで、横にいた賈詡が高順の腕に肘鉄をかましてきた。
「・・・なんですか、賈詡先生。」
「月は僕のだから、変な目で見てんじゃないわよ・・・って、何その先生って!」
「え、賈詡先生は賈詡先生ですよ?
肘鉄など全く気にせぬように高順は答えた。
「いつから僕はあんたの先生になったのよ!?」
「俺の先生じゃないですが、政務とか取り仕切ってますし。先生でいいじゃないです・・・。」
「・・・?」
途中で言葉を切った高順の様子に、賈詡が不思議そうな表情になった。だが、直ぐに真顔に戻る。高順の表情に一瞬だけ厳しいものが見えたからだ。
その高順は指をぱちん、と合図のように指を鳴らした。
「山鳥は番(つがい)だ。・・・「狩り取れ」」
「・・・まさかっ!」
高順の物言いに、間諜だと気付いて親衛隊に指示を飛ばそうとした賈詡の肩を、高順がぽむ、と叩いて押しとどめる。
「何よっ!?」
「いいですよ、そのままで。」
「でも・・・。」
その瞬間、どこかから。
「アッー!!!」
「アオオッーーーーーー!?」
・・・おかしな叫び声が2つ、聞こえたのだった。
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・ねぇ「気のせいです」え、でも「気のせいなんです!」・・・そ、そう・・・。」
多分、あまり聞かれたくない事柄なのだろう。
賈詡の問いに、絶対に答えようとしない高順であった。

警邏の話はともかく。後日、ちょっとした客人が高順を訪ねてきた。
夜中頃だろうか、門番の兵士(これも異民族の人)がやってきて「高順様に、用があるとか」と報告をしたのだ。
「こんな時間に誰が?」と思いつつ、会うことにしたのだが、客室に通されていたその相手は。
「はい、どなたでsブフォ!?」
それほど高くない背丈、さらさらと後ろに流した黒髪の少女。
現晋陽太守の張燕である。
「お久しぶりですね、高順様。」
「・・・えーと。」
いきなりすぎて考えが追いつかないらしい。
え、なんで? なんで張燕様がここにいるの? と、こんな感じである。
「・・・どうして私がここに、ということですか? ある程度、領内が落ち着きを見せましたから、董卓殿にお目通りを願って挨拶をしただけです。その帰りに高順様がここに住んでおられると聞きまして。」
「はぁ・・・」
考えれば、当然のことだ。一応、董卓政権寄りという立場であるし、その董卓から晋陽太守の肩書きまで貰っているのだ。
「ああ、それと公孫賛様が心配されておられましたよ。あと「一度顔を見せに来い、言いたい事が山ほどある!」と怒ってもおいででした。」
「はい? 公孫賛殿が?」
「ええ。・・・高順様、私は烏丸と交流を持っています。その烏丸と交流のある公孫賛様とも交流を持つのは悪い事ではないでしょう。」
そう言って、張燕は笑った。
「なるほど。今日の用件はそこでしたか。」
彼女は公孫賛とも盟を結んだという事をわざわざ言いに着てくれたのだ。当然、他の用事があったからそのついでなのだろう。
ふむ、これで袁家が頭角を現してきてもなんとか対抗できるようになってくるか。
散々世話になった公孫賛が辿るであろう悲劇的な結末だけは何とか回避したい。丁原の件もあったし、色々と回り道をしたものだが・・・自分のやった事でただ1つ、大きく成功したと実感する高順であった。
「それと。この居館に来るまでに何度か煩わしい気配が致しましたので・・・全て「処理」させていただきました。」
「は・・・はいっ!?」
さすが、こういうところは凄みがあるよな・・・。と感心した高順だったが、次の一言で全て台無しにされた。
「ところで、お願いがあるのですが・・・お金を工面していただけませんかっ(涙」
「・・・とりあえず聞きましょうか。」
今日来た本当の理由はそこだったのね・・・と、げんなりする高順であった。


よくよく聞いて纏めたところ。
流れとしては先述の通りなのだが、煩わしい云々というものの説明がまだだった。
ここ数週間だが、高順の周りにまで間諜が派遣されているらしい。
確かに高順は「自発的に」派手に動いている。
異民族のみの部隊を作る。簡素ではあるが味噌倉を建てて、味噌の販売でも巨額の利益を得ているし。その利益を献上する事で代わりに塩の専売権を買い取ったりするが、それはどうでもいい。
要するに、それだけの富を作ることをして、異民族部隊を組織して、かつ上への覚えもめでたい・・・と言う動きをしたことが重要な訳だ。
これは高順なりに、董卓へ恩を返した事になっている。
自分達を赦免したこと、張燕を晋陽太守にしたこと。武将として迎えたことについては、利用するつもりなのがわかっているから特に何も思いはしない。
洛陽に潜む反対勢力から狙われている董卓の重圧を減らすため、というところか。これほど派手に動いてやれば自分に目が行くに違いないと思っているのだ。
きっちりと効果はあったようで、高順の周りにもどこぞ(と言っても洛陽内部)の勢力から派遣されてきた間諜が現れ始めた。
楊醜達に命じて狩らせているし、高順だけではなく、他の者まで間諜の多さに多少は気配が読めるようになってしまうほどだった。
張燕のいう「処理」はその間諜を抹殺したという事だ。
お金というのは、復興資金を使い果たしてしまったらしく・・・次の収入までちょっと保ちそうにないので、また融資をお願いしたい、ということらしかった。
「・・・前の分のお金、返してもらってないのに更に借り入れですか? 返すあて、本当にあるんですか?」
「あぅ・・・それを言われるととても辛いのですが・・・しかし、このままでは・・・ううう・・・。」
と、張燕も困りきっている。
彼女に対してはもう借りはないし、むしろ貸ししかないが・・・まあ良いさ、と諦めがちに決定。
返済期限無しの、無利息・・・ありていに言って「踏み倒しでもかまわないよ」くらいに投げやりな感じで相当額の融資をした。
その資金をどうやって持って帰るだが、さすがに護衛の兵を伴ってきたようなのでそれは大丈夫なのだろう。
帰り際、張燕は「それと。」と高順に耳打ちをした。
「少々、河北の状況がきなくさくなってきましたよ。」
「・・・河北が?」
「ええ。袁紹の動きが活発化しています。私が公孫賛様との同盟を急いだのも・・・。」
「ふむ、じゃあ金もその為に?」
「ええ、軍備を急がせなくては。・・・ただ、袁紹の狙い・・・どうも、洛陽のように思えます。各諸侯と合同で何らかの画策をしているのは間違いないでしょう。」
「・・・合同、ね。」
「はい。何か解れば影を通してお知らせいたします。それでは、私はこれで・・・皆様にも宜しく。」
それだけ言って、張燕は去っていった。どうも、これこそが本当の用件だったらしい。
「・・・そろそろ、動くって事か。」
本当ならばもっと時間がかかって欲しいところだ。
他諸侯の取り込みをするべく賈詡が動いているのだが、それはあまり意味が無さそうだ。
もしかして、史実以上に苦しい流れになるのかもしれない。
あの戦いで、諸侯を追い返せればそれでよし。追い返せなくても・・・董卓に義理を尽くして共に滅んでやる理由も無い。その辺りの見極めはきっちりとするべきだろう。・・・呂布と行動を共にするのかもしれないがそれはそれでかまわない。
彼女はいつか倒す仇なのだ。そう簡単に死なれては困るし、自分の目の届く範囲にいるならばかまわないのかもしれない。
そこまで考えて、急に眠気が襲ってきた。そういえば寝ようとしていたところだったのだ。
「さて、そろそろ寝るかな。」
欠伸をかみ殺しつつ、高順は寝所に向かった。
明日からも、まだまだやるべき事はある。




ちょこっと番外編。

兵士から見た高順。~~~とある兵士の日記らしきものから抜粋~~~

よう、俺の名は潘臨(はんりん)。
俺って言っても一応女だが・・・まあいいや。
俺は、ある時期を境にあの大将に仕える事になった。
切欠としては、沙摩柯の旦那・・・いや、旦那も女だが、ともかくも、あの人が武陵蛮なんかを募兵してるのを見たわけだ。
割と待遇が良いみたいだったので、駄目元で聞いてみたんだが・・・あっさりと了承を貰った。
他の条件を聞いてみると、洛陽ってところで高順とか言う男の下で兵士として働く事になるらしいんだが、それはどうでも良かった。
飯の種さえ貰えりゃ、俺としても文句は無いからなー。
「もう少し余裕があるから、他の者を連れて来てもかまわんぞ?」 と沙摩柯の旦那が言うもんだから。伝手を使って100人ほど集めたよ。
で、そのまま洛陽行って(その前に、何で沙摩柯の旦那はサトウキビ大量に購入してたんだ?)高順って奴の下で兵士として働く事になったんだけどな。
条件とか、色々すげーことになってたよ。
まず1つ目。
高順の部隊の兵士、異民族しかいねー。
烏丸とか、俺達みたいな山越。鮮卑やら羌、南蛮の奴までいやがる。聞いたら高順本人は漢民族らしーんだが、俺達みたいな異民族を差別せずに同じ人間として扱うんだと。
聞いた事もないぜ、そんなおかしな奴。
けどさ、あいつの配下の楽進って人とかも俺達を全うに扱うし。そもそも、高順の部下として沙摩柯の旦那が働いてるのだと。
一番驚いたのは、元・烏丸の単干っていう人まで部下だって聞いた時だけどな。何者だよ、あの大将は・・・?
2つ目。
兵士として働くからにゃあ、金を貰う。基本的に雇われ兵士ってのは戦った後に金を一括で貰うもんなんだ。
高順は、それを失くして毎月決まった額を「給料」として支払う。それは解ったし高順が金払いがいいのは解った。
ただ、おかしなことに・・・あいつ、家族がいたり、結婚とかしてる奴には「家族手当」と称して更に金を積むんだ。
しかも、兵士が事故にあって片手とか無くした、つまり、戦えない身体になっても見捨てない。
それならそれで、とあいつのやってる・・・味噌の販売? とか腸の肉詰めとか、そういうのの製作と販売という商いの手伝いをさせるんだ。
勿論兵士だったときより給料は下がるけどさ、それでも生活できる額だし手当てってやつも、ちゃんとつく。
兵士として訓練してる奴もいれば「手に職をつけることもしなくては」つって、家屋の解体やら、紐作りやら、とにかく色々な事をやらせてくる。
俺も家屋の解体やらされててさ、最初は加減もわかんねーでただ壊しまくってたんだけど・・・この頃は「他に転用できるような」壊し方が出来るようになってきた。
他にも商売のやり方とか、食事の作り方やらを覚え始めた奴らもいる。
高順の兵士だけで2000人くらいで、それにひっついてきた家族の数も含めれば3000近くになる。俺には家族とかいねーけどさ。
その家族も同じように仕事を覚えさせられてるよ。もう、この数千だけで小さな国家ができるんじゃねーか、と思う。
高順の売る味噌とか、塩が使われてるみたいで買う人も多い。俺も少し食わせてもらったが・・・けっこう美味しいのな、あれ。
しかも塩より安いんだ、そりゃ売れるわ。
その販売額だけですっげー事になってるみたいで、この頃、上の偉いやつらに金積んで塩の販売権利とかまで貰ったらしい。
それはいいとして、高順は兵士からの信頼を勝ち取ってる。そりゃそうだよな、俺達みたいな最下層の人間とも普通につるんでるだぜ?
何度か話す機会があったんで「なんで俺達みたいなゴミ以下の存在と普通に接することができるんだよ?」って聞いたらすっげぇ悲しそうな顔して。
「頼むから、2度とそんなことを言わないでくれ。あんたらはゴミじゃない、人間だぞ?」とかさぁ・・・。
言葉だけでなら簡単に言えるけど。あの大将は行動も伴ってるから大したもんさ。
3つ目。
高順は、人を使いこなす男で、自分自身は弱いのか? と思ってたんだが・・・甘かった。
何だあの強さ。しかも乗ってる馬も使う武器も規格外過ぎる。
濃い・・・黒紫っていうのか、そんな色の髑髏の鎧兜を馬に着せるってのがちょっと思い浮かばないが、高順のあの髑髏龍の鎧ととんでもない槍は何だよ!?
あんなくそ重い鎧着て、あんな馬鹿でかい槍振り回しても息1つ乱しゃしねぇ。あの大将と互角に打ち合う趙雲とか張遼って奴も化けもんだけどな・・・。
・・・おい、今さ、大将が楽進と組み手やってるの見てんだが。あの鎧着てても動きが遅くならないぞ・・・うん、びびった。
そういや、高順って女に弱い。
で、あんなに強いのに妙に気の弱いところがあるらしい。たまに楽進に「このスケコマシー!」とか追い回されて最終的に土下座して謝ってたり・・・何やってんだ?
趙雲や蹋頓って人に迫られ、からかわれたりして困ってるのも見たことがある。
アクの強い連中に囲まれてるってことなのか?
4つ目。
急に呼び出されて「何があったんだ?」と思ってたら、「中隊長に任じる」とか言われた。
何だそれ、と思って質問したら。
「5人一組を小隊、それを率いるのが小隊長。その小隊10組を作って、率いるのが中隊長。つうかあんたがそれになる。がんばれ?」だそうな。
がんばれて。いや、確かに俺昔は山賊頭でそれなりの数率いたけど! いきなりそんなもんに任命されるとは思ってもねぇよ!?
更に聞いてみると、その中隊15組ずつを率いるのが沙摩柯の旦那と、あとはさっき書いた元単干の蹋頓って人なんだと。
そうなると高順が率いるのは500人ってことか。



え、何? 山賊ってどういうことか、って?
・・・俺自身の昔話なんてどうでもいいんだろうけどさ、一応書いておくよ。
山越っていうのは、単一民族じゃない。多くの少数民族が集まって出来た多数民族なんだ。
異民族のみってわけでもなく、きつい税金払えなくなって逃げた奴とか、山賊・・・俺なんかがそうだけど、そういうのの寄り合いみたいなもん。
俺も昔は全うに生きてたけど・・・袁家の袁術って奴が俺の住んでた辺りの太守になってからきな臭くなった。
そっから一気に生活が悪くなったんだよ。
税金が高すぎるんだ。収入以上の税金を要求される事もあってさ。そのせいで一家離散とか言うのも珍しくなかった。
前に黄巾の乱ってのが起こって、その時に袁術の傭兵になったことがあった。あんだけの重税なんだ、さぞ払いもいいだろうと思ってたんだけど、すっげぇしみったれた額でな。
それですら払うのを渋るんだぜ? あの金は何のために使ってるんだっつぅの・・・。
そういうこともあって、俺は山賊、いや、山越として生活してたんだ。んで、沙摩柯の旦那に会って今に至る・・・ってことさ。



それなりに読み書きできるようにな、と本を渡されてこういう日記みたいなの書いてるわけだが・・・これくらい書けるわ、あんの馬鹿大将!
・・・ま、本当のところは感謝してるけどな、俺だけじゃないぜ? 
俺達みたいな異民族を全うな人間扱いしてくれてるあの馬鹿な大将と、その周りの人たちに皆が感謝してるよ。
「ちょっとー、いつまでかかってんのよー!?」
「うっせぇぞ、楊鋒!・・・って、やべぇ! もうすぐ訓練の時間だ、こんなの書いてる場合じゃ・・・」
「だから呼びに来たんでしょうがっ!? 中隊長就任初日から2人で遅刻なんてやだからねっ!」
「だぁぁ、ちょっと待て・・・」


(ここで日記は終わっている。)







~~~楽屋裏~~~

どうも、アイツです。
作品と全く関係のない話なのですが、皆様の中で「三国志でここが一番熱い!」と思うところはどこなのでしょうね。
筆者は官トあたりまででしょうか、勢力が乱立している状況が一番面白いと思っています。
ゲームなどのように拮抗した(ともいえませんが)大勢力が3つか4つくらいになると途端に投げ出したくなる・・・これは作者だけですかねww
234年以降は蜀も呉も一気に苦しくなりますしね・・・魏が強すぎるのがいけないんです(え?
それと、恋姫だからこそなのでしょうが、猛将が先陣を切っていく戦いがいつまでも続くという手合いも好きだったり・・・
勢力拮抗すると、正規兵のみの戦いになって勇将でも猛将でも戦陣きれなくなるのですなあ、危険度が高くなってw
この作品では(面倒だし)そういうことにはなりませんけどね。って、えらく脱線した(汗

今回の話は反なんとか連合の伏線?と兵士から見た高順君 なお話でした。
割と好意的に見られているようですが、女性に弱いと思われるのは毎度の事のようです。
兵士への金払いも良い、というのも・・・よくよく考えたら太史○の話と被ってますね(遠い目

さて、そろそろアレが来ますよ。
高順君は董卓を見捨てるのか。徐州へ向かうのか。


それ以前に生き残れるのか(汁
それではまた次回お会いいたしましょうノシ

あ、あとエンドオブエタニティが忙しくてry



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第46話 反董卓連合。汜水関・一戦目。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/30 13:49
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第46話 反董卓連合。汜水関・一戦目。

高順が洛陽に来て半年と少し。
それだけの時間が経った頃、袁紹が橋瑁という男を動かして、偽詔勅を出させた。
おおまかに言って「董卓が皇帝を蔑ろにして、洛陽で暴政を働いている。心ある諸侯は今こそ漢王室のため、大儀の為に挙兵し、姦賊董卓を滅ぼすべし」という内容である。
この(偽ではあるが)檄に、各地の諸侯が反応して立ち上がった。
まずは仕立てた袁紹、橋瑁(きょうぼう)。張邈(ちょうばく)・袁術・孔融(こうゆう)・鮑信(ほうしん)・孔由(こうちゅう)・王匡(おうきょう)・韓馥(かんぷく)・袁遺(えんい)・劉岱(りゅうたい)・公孫賛など。そして曹操・孫策・劉備・・・
錚々たる顔ぶれである。
董卓側も黙ってみていた訳ではなく、色々と折衝を繰り返し、各諸侯との共存を図ろうと努力をしていたのだが・・・袁紹があまりに自分勝手すぎて、董卓側としても持て余してしまったのである。
もともと董卓政権を認めていない袁紹だったし、自分が一番上でないと気がすまないというお子様な彼女は自身の財力と権力を嫌な方向に活用。
一大勢力を作り上げてしまったのである。
こうなると、董卓側としても迎え撃つ算段を整えなくてはならない。
洛陽の官軍を総動員して、東の虎牢関、そしてその更に東の汜水関に軍勢を派遣する事になる。(本来、この2つの関は同一のものだが・・・この世界には別々の関として存在したらしい
防衛に適さない洛陽での戦いは最初から埒の外である。
汜水関に華雄と張遼を派遣。そこで時間を稼ぎつつ敵戦力を削る。そして虎牢関に戦力を結集して、諸侯の軍勢との決戦を。
それが賈詡の描いた計画である。
賈詡には自信があった。
血の気の多い華雄だけに任せるには不安が残るので、張遼を派遣する。高順らでもなんとか抑えられるだろう。
その間に、投石機を虎牢関にありったけ設置。呂布を筆頭として、出来うる限りの戦力を虎牢関に集結。
華雄・張遼を下がらせて一体と為す。呂布とその配下の騎馬隊による機動攻撃力と、投石機の攻撃を交えた攻撃的防御で反董卓連合の戦力を引き裂いてしまおう、ということだ。
事実、賈詡の考えどおりに行けば・・・虎牢関はこの時点で最大の要塞と化すのだろう。

出撃を命じられた華雄・張遼部隊だったが、その中には高順部隊がいなかった。
高順は「用意しないといけないから」と1日だけ出撃を遅らせていたのだ。
用意、というのは自分達が敗北することを見越しての「夜逃げ」用意である。
用意と言っても、味噌倉を分解して、私財の処分やら何やら。勝てればいいが、負ければ戻れることは無いだろう、と今まで使用していた居館も綺麗に掃除をしている。
それだけの事を行ってから、高順隊は出撃した。その中には兵士だけではなく、兵士の家族や味噌職人などもいる。
その片付けの最中だが、高順は母である閻行に1つ、あるものを伝授されていた。
居館で、母に呼び出された高順は何故か母の前で正座をしていた。
「順、貴方にこれだけを教えようと思いました。これから先、どうなるか・・・予想もつかない情勢です。我々が死に別れるということもありえます。」
「・・・随分と弱気ですね。」
「冗談を言う訳ではありません。時に順。あなたは素手での殺りあいをしたことはありましたか?」
「・・・いえ、ありません。」
楽進と組み手を、という訓練ならばあるが命の取り合いで素手、というのはないよな、と思い至る。
そうですか、と呟いた閻行は高順の左腕を右手で掴んだ。
「・・・!? いででででっ、ちょ、たんまぁっ! 痛い痛い痛い痛い痛い!!」
ぎりぎりと、万力か何かで締め付けられるようなもので、それだけで彼女が凄まじい握力の持ち主であることが解る。
「「握撃」です。読んで字のごとく、握力のみで敵の体を破砕する・・・貴方も、相当な膂力の持ち主です。これを教えたくて呼びました。」
「あぅぅうう・・・だからって、俺の体で試さなくても・・・。」
「ふふ、ごめんなさいね、順。・・・武器を失ったとて、己の腕・足を使って戦うのです。諦めぬ限り、人には己の運命ですら踏みしめて立ち上がることができる物です。・・・忘れないように。」
「・・・はい、母上。」
いつもの冗談を言っている感じではない。彼女なりに学んだ事を、一部といえ息子に教えようとしているのであろう。
その気持ちを感じて、素直に頷く高順であった。

同じ頃、汜水関の東では連合軍が集結をしていた。
各諸侯が陣幕に集まってあれこれと会議をしているのだ。
そこへ、一番遅れて劉備の軍勢が到着した。
「ふわぁ・・・兵隊さんがたくさんいるよ、愛沙ちゃん、朱里ちゃん。」
劉備は関羽と諸葛亮を真名で呼びつつ、馬上で辺りを見回した。
諸葛亮。字を孔明。知る人ぞ知る、三国志最高の軍師であり政治家。
話によっては火薬を使ったり、東南の風を起こしたり、延命祈願を行ったりと無茶っぷり甚だしい人物だが・・・この世界では。
「はわわっ」
「あわわっ」
・・・相棒である鳳統と共に、はわわ軍師・あわわ軍師と呼ばれてしまうちびっ娘達である。
鳳統も、諸葛亮に負けぬほどの智謀の持ち主なのだが2人揃ってドジであり、不名誉極まりない先述のあだ名で呼ばれてしまっている。
「そうですね、桃香様。・・・これほどの軍勢が集まるのを見ると、流石に威圧されます。」
「にゃはは、愛沙おねーちゃんは無駄に緊張しているのだ。」
「何だと、鈴々。私は・・・」
「ああ、もう、駄目だよ2人とも。でも・・・本当にすごいなぁ。」
劉備の言葉に、帽子を風に飛ばされないように押さえている鳳統が頷いた。
「そうですね、各地の諸侯が一堂に会しているんです。陣地の中央にたなびく旗は・・・袁の一文字。袁紹さんの旗ですね。」
「ふむ、曹操殿と・・・あれは孫策殿の旗か。見覚えがあるぞ。」
「どこもかしこも、凄いのだ。」
そうやって、田舎者っぽい感じであちこちを見回していた劉備たちの元へ、金ぴかの鎧に身を包んだ兵士が近づいてきた。
「長の行軍、お疲れ様です! 貴殿のお名前と兵数をお聞かせいただけませんか?」
おそらく、袁紹軍の兵士なのだろう。
「ええと、私は平原の相、劉備です。1万2千の兵士を率いて参陣いたしました。連合軍の総大将にお取次ぎをお願いできますか?」
まず、尋常な言い方である。兵士もそれを紙に記載してから、困ったように返事をした。
「ははっ! ・・・しかし、何と言いますか。恐れながら、連合軍の総大将がいまだ決まっておらず・・・。」
「何? これだけの軍勢が集まってどれほどの時間が経っていると・・・にもかかわらず、総大将が決まっていない?」
「その、申し訳ありません!」
「え? あ、いや。」
そのつもりは無いが、関羽の言い方が少しきつくなってしまって兵士が萎縮してしまう。
「でも、それじゃ今は何の軍議をしてるのだー?」
と、張飛がもっともな質問を口にしたところ。その背後から誰かが声をかけてきた。
「その総大将を決めるための軍議をやってるんだよ。」
声に振り向いた劉備たちの顔が、驚きと喜びの色に染まる。
「あ・・・白蓮(公孫賛の真名)ちゃん!」
「やあ、桃香。皆も元気そうで何よりだよ。」
「うん! 白蓮ちゃんも元気そうだね!?」
「はは、お蔭様でね。で、総大将なんだけど、さ・・・冗談でも何でもなく、本当に決まってないんだよ。」
言われる前に、公孫賛は事実のみを言った。
「どうしてでしょう、諸侯の主導権争いがそれだけ激しいのでしょうか?」
諸葛亮の疑問に、公孫賛は困りきった顔で呟いた。
「そんないいもんじゃないよ・・・むしろ、皆そんなもんやりたくないって感じだ。責任もついてまわるしね・・・それで軍議が進まない。」
「そんなもの、やりたい人にやらせれば。」
「・・・そうなんだけど。やりたそうにしてる奴が自分から言い出さないんだ。周りに言わせようとしてる。」
「えっと・・・それを言えば責任を追うことになるから誰も言おうとしない。でもやりたい人は自分で言わない。だから話が進まない・・・?」
鳳統の言葉に、公孫賛は頷いた。
「まさに、その通り。・・・腹の探りあいばっかでね。疲れたから軍議からちょっと抜け出してところで皆に出くわした、ってわけだ。」
「権力争いを大真面目にやってるけど・・・はぁ、この間に董卓軍は軍備を整えているのでしょうね。」
「まったく。英雄駿傑と呼ばれる者がそろってこの様か・・・。」
鳳統・関羽は同時に嘆息した。大儀の為に集まったはずの諸侯は、足の引っ張り合いに終始しているのだから。
皆の愚痴を聞いているのかいないのか、劉備は、陣幕に向かって歩き始めた。
「え、桃香様!?」
「こうしている間にも、洛陽の人々が辛い思いをしているかもしれないんだよね。だったら・・・!」
「ま、待ってください! 今我々が行ったところでどうなるものでも!」
「そうなのだ!」
関羽と張飛が後ろから劉備を引っ張ってとめる。
「うぎゅぅ・・・」
首が絞まったのか、劉備が変な声を挙げた。
「はぁ・・・変わらないな、桃香。・・・まあ、愛沙達の言う事も正解だ。今の私やお前が何を言った所で・・・影響力は無いだろうな。」
「むー・・・じゃあ、どうすればいいの?」
「ぇと、あのぅ・・・率直に「総大将決めれば?」と言うのが一番いいと思いますっ・・・。」
鳳統が挙手して言った。
「白蓮さんが言った通り、腹の探りあいなんです。空気を読めない振りをしてまっすぐに「早く」と急かせば・・・。」
「なるほど! って、それじゃ私達が責任を負うことになるよね?」
「でも・・・こうやって無駄に時間を過ごすよりかは・・・」
劉備は少し考えて、それしかないと思ったのか。決意をして陣幕に乗り込んでいった。のだが・・・。
彼女が踏み込む数瞬前に、総大将が決まっていた。
公孫賛が出て行った後、袁紹と共謀していた韓馥の支持によって、袁紹が総大将となっていたのだ。
早く軍議を進めたい曹操や孫策が適当に「それでいいんじゃない?」と支持もした為に、あれよあれよと決まってしまった。
勢い込んでいったはいいものの、活躍の場を奪われた劉備はがっくりと肩を落としたのだった。(可哀想に・・・

軍議が終わって、陣幕に残ったのは袁紹・袁術、そして供回りの顔良やら張勲、そして諸侯の1人である韓馥である。
「おーっほっほっほ! 皆さんのおかげで、軍議は滞りなく終わりましたわ。韓馥さんには感謝してもし足りないくらいですわ・・・おーっほっほっほ!」
手を口に当てて、馬鹿みたいな高笑いをする女性が袁紹である。
曹操以上にくるくるな金髪ロールで、金ぴかの鎧に身を包んで・・・正直、ちょっと可哀想な人にしか見えない。
文武共に曹操に激しく劣る彼女だが、背丈の高さとスタイルの良さでは激しく勝るくらいだ。
その袁紹に韓馥は困りきって苦笑している。
その韓馥を見て、袁紹お付の顔良と文醜は「ああ、彼も苦労しているなぁ・・・」と、同情してしまうのだった。
韓馥。
彼は、見たところ14~5歳、まだあどけない感じを残している少年である。
その性格のせいで友人の少ない袁紹が、珍しく心から友人と呼べる存在である。(公孫賛も共通の友人であったりする
袁術にとってもそうなのだが、幼い頃から袁家の令嬢達に振り回されていて慣れているのかもしれない。
友人が少ない袁紹の、心根のまっすぐなところや優しい部分をきっちりと理解して、普通に接してくれる韓馥である。
顔良らとも仲が良く、彼女達に「良心そのもの」と評される優しい少年であった。

曹操、そして孫策は自陣に帰ってから「疲れた・・・」とばかりにため息をついた。
総大将を決めるための腹の探りあいもそうなのだが、その後の作戦でも頭痛を感じてしまう。
「華麗に雄雄しく、美しく進軍・・・はぁぁぁ・・・。」
2人とも、同日同時刻。同じことを呟いて同じことでため息をついているなど夢にも思わなかっただろう。
さて、孫家の陣地。
孫策は周喩を伴って帰還した。
「おお、帰って来ましたな・・・て何じゃ、2人して凄まじく疲れた表情で?」
出迎えた黄蓋が怪訝な顔をする。
「はは・・・あれに参加すりゃこんな風にもなるわよ・・・。」
孫策も周喩もげんなりとした表情であった。
「・・・まあ、それは良いとして。黄蓋殿、皆を集めてください。」
周喩の言葉に「応」と答えて、黄蓋はこの戦いに参加している武将を呼びに走る。数分の後、孫策の陣幕には主要武将が揃っていた。
孫策、周喩、黄蓋。
そして、先代である孫堅の四天王と呼ばれた程普、韓当、祖茂。(ここに黄蓋で四天王
他にもまだいるが、特に目立ったのがとある2人である。
1人は孫策に良く似た容貌を持つ少女。もう1人はその少女に影のように従う・・・これも女性だ。
孫策の妹である孫権、その護衛の甘寧である。
全員揃った事を確認して、周喩が口を開いた。
「ご苦労。軍議で決まったことを伝えるために集まってもらった。・・・さて、発表するぞ。」
固唾を呑んで、一同は周喩の発言を待つ。
「総大将は袁紹殿。先鋒は我々ではなく袁術殿だ。直ぐ目の前にある汜水関を、明日攻める。そして、袁紹殿の作戦は・・・。」
「作戦は・・・?」
「・・・ただ、攻めろ。だそうだ。」
この言葉に、孫策と周喩を除いた全員が「がくっ!!」と崩れ落ちた。
ただ攻めろって。そんな作戦があるものか。小城や村落ならばともかく、難攻不落と言われる虎牢関と肩を並べる堅牢な汜水関を作戦も無しに攻める?
「あ、あの、周喩。」
「はい、何ですか、孫権殿?」
「攻めろって、本当にそれだけなの? 例えば、汜水関を攻め落とした後は虎牢関を迂回して洛陽を直接叩くとか、そういう作戦は?」
「ありません。まっすぐ攻めろ、だそうです。」
「・・・・・・。」
孫権のみならず、他の武将もただ呆然となってしまった。
余談だが、孫家の根拠地に残された武将も多い。陸遜(りくそん)、周泰(しゅうたい)、呂蒙(りょもう)。孫策と孫権の妹である孫尚香(そんしょうこう)も居残りだ。
まずないだろうが、この戦いで孫策と孫権が死んだとしても、尚香がいれば孫家は終わらない。
話を戻して、呆然となった皆を落ち着かせるように周喩は話した。
「袁術が先鋒となったということは、後続に我々が布陣するのか、それとも盾にされるか、というところだな。・・・幸いと言うべきか、汜水関の守将は華雄と、こちらは油断ならないが張遼だという。」
「華雄と張遼か・・・ふむ、初戦から辛い相手よな。」
この中で一番年配である程普(ていふ)が陣幕の天井を睨むように呻いた。孫家の将の長老格である彼の言葉と態度は重みがある。
孫策・周喩の信頼も篤く、それだけで孫家における彼の重要性が知れるというものである。
「ええ、その通りね。華雄はともかく、張遼は辛い相手よ。数もこちらが圧倒的に少ない。」
華雄は大したことがない、と酷評されているように聞こえるが、張遼と言う存在がやりにくい相手なだけだ。比重の差があるだけという意味合いでしかない。
華雄も張遼も、名を馳せた武将であって油断をするべきではないが・・・華雄は昔、孫策の母である孫堅に手痛い敗北を喫していて、その戦いを孫策は体験している。その事実があったせいかもしれない。
「袁術側からの要請で盾にされる可能性もあるわ。功に逸って自力で動こうとするかもしれないけど・・・。」
「孫権殿の言うとおり。戦は我々の手で片をつける・・・くらいに気持ちでいかなければ。」
「できれば張遼と華雄は蹴散らしてすぐに董卓の首が欲しいわね。・・・汜水関まで出て来てくれないかしら?」
「はは、まったく・・・欲張りな大将ですなぁ。」
黄蓋の言葉に、皆が笑った。が、彼らの表情は直ぐに引き締まる。
「ともかくも、私達はこんなところで立ち止まる訳には行かないわ。最高の結果を出し続ける、これを目標に。・・・それと陣割りは・・・」
孫家の軍議は尚も続く。

~~~汜水関~~~
その間、汜水関に軍勢を集結させた華雄と張遼は今か今かと連合軍が攻めてくるのを待って・・・いるわけではない。
この時の汜水関の総兵力は4万。趙雲らの軍勢を合わせてだが、高順の軍勢も含めれば4万数千。
だが、その高順が未だに到着していない。ということは蹋頓も沙摩柯もいない。(李典と干禁は虎牢関で防備を固めて連合軍を迎え撃つ準備をしている
彼らがいないだけで戦いの帰趨が変わるということではないが、それでも華雄は焦れていた。
「ああっ・・・あいつらは何をしているんだ!」
「将軍、落ちついてください。」
「そうですぞ、気持ちの荒れは肌の荒れですからな。」
「こう見えて案外気が小さいから胸も小さいのでしょうな。」
「いや、この場合は小さいと言うか薄いというほうが・・・。」
「・・・やっぱり、お前達が私のことを嫌ってると実感できたぞ、今。」
李粛やら徐栄の言い方に、華雄も少し傷ついて城壁(というのが正しいかどうか)で、のの字を書いてふて腐れ始めた。
「ははっ・・・お主ら、あまり華雄将軍を苛めるな?」
傍から見ていた趙雲が笑いつつ諌めた。
「・・・そう思うなら途中で止めてくれ、本当に。」
「いや、そう思うのですが・・・やはり最後まで見たいと思うのが人情ですな。華雄将軍が弄られるのが新鮮ですし。」
「・・・お前も私のことが嫌いなのか? ・・・きたかっ!?」
趙雲の嫌がらせ(?)に少し項垂れた華雄だったが、何かの気配に感ずいたのか・・・城壁から身を乗り出して東の地を見据えた。
進軍してくる連合軍の兵士が、少しずつ見えてくる。
「・・・ほぉぉ、これはまた。」
「うはー、すっごい大軍やぁ・・・。」
趙雲と張遼が感嘆している。人、人、人。こうとしか表現できないほどの兵士の数である。
袁旗やら曹旗やら、各諸侯の旗も見える。
「これ、何人くらいいるんだろうな。」
「さて・・・10万ではききますまい。20万か、それとも30万か。・・・はは、随分な大舞台が回ってきましたな?」
華雄の言葉に、趙雲が笑って答えた。
普通ならばこれだけの数が向こうに回っているのだ、少しくらいは恐れを抱きそうなものだが、趙雲は楽しそうに体を震わせた。
この趙雲の名、満天下にしらしめてくれる、と思っているのだろう。
「で、どうすんねん。一応、賈詡っちの考えではここで時間稼ぎやけど。」
「ふん、そんなものは決まっている。お前達、出撃の用意だ!」
張遼の問いに、華雄は振り返った。
その視線の先には趙雲・楽進、そして徐栄らがいる。
『応っ!』
彼女達は答え、自身の部隊を展開するために走っていった。
「・・・熱い奴らやなー。うちらは出撃せーへんで。もしものときの守りがおらなんだらまずいからな。」
「かまわんさ、華雄隊・趙雲隊・楽進隊の2万で奴らの出鼻を挫いてやる!」


~~~連合軍~~~
先鋒となった袁術軍は孫策軍を従えるように進軍していく。
先鋒と言っても、周りに軍勢がいないわけではなく、韓馥の軍勢や、劉備の軍勢もいる。
袁術軍は孫策の軍勢も含めて4万ほどだろうか。汜水関の軍勢と遜色ない数だ。
ただ、士気も錬度も低い袁術軍だ。実際の能力としてはもっと低いのだろう。
これは袁術軍に限った事ではない。この連合の中でやる気があるのは曹操、孫策、劉備、公孫賛。あとは鮑信くらいであろうか。
他の諸侯は「これだけの大兵力なのだ、自分が何もしなくても周りが勝手に」と、思い込んでいた。
袁紹、袁術もさして差はない。参加して名声を上げ、面倒なところは影響力・発言力のない連中に押し付けようと、そういうことである。
汜水関の前には既に華雄隊が展開して、迎撃態勢を整え終えている。
総大将である袁紹は、汜水関の攻撃を指示。
指示を受けた先鋒部隊・・・袁術は張勲に命じて、攻撃を開始させた。
自分の軍勢と孫策の軍勢を合力させて進撃させる。
劉備なども攻めようとしたが、狭い隘路に人が溢れ、その上袁術軍が回りの進軍を妨げるように動くので思うような動きが出来ない。
穏やかな彼女も内心、「味方のはずなのに味方に邪魔されるなんて・・・!」と、不満げである。

さて、その袁術軍の先頭を走っているのは孫策ではなく、袁術軍の猛将の1人である兪渉(ゆしょう)という男だ。
袁術本人は子供である事もあって、割とどうしようもない人だったが、周りに人材がいないわけではなかった。
孫策軍(というか孫策本人まで)も負けじと駆けており、孫策と兪渉の馬が隣り合う。
「はっはっはっ! 孫策殿と共に駆けるとは思いもせなんだわ。袁術様がよくお許しになられたものよ!」
「はっ、言ってなさい! 一番槍は私達が頂くわっ!」
兪渉、孫策は馬上で軽口を叩きあっている。
孫策は、袁術とその取り巻きである張勲を嫌ってはいるが、その下にいる武将全員と仲が悪い訳ではない。
例えば袁術軍の武将だが、橋蕤(きょうずい)という男は孫策や、その母である孫堅を尊敬しているし兪渉も一武人として孫策を認めてもいる。
漆黒の旗・・・華雄軍の旗が翻り、銅鑼がなると同時に突出した袁術軍に向かってくる。
「雑兵めが、失せろぉっ!」
「でえええいっ!」
兪渉と孫策の刃が振り下ろされた。
「孫策、無茶をするな! ・・・ああ、もうっ! 黄蓋殿、程普殿、孫策の援護を!」
「おうともさっ!」
「任せよ!」
先頭を走る孫策の無茶っぷりに、周喩は困りつつも指示を飛ばしていく。
「華雄、出て来い! 臆したかーーーー!」
孫策と共に暴れまわっている兪渉の叫びが戦場を駆ける。

華雄は、袁術軍の猛攻を後方で見ていた。
「ふん、孫策・・・いや、袁術軍か。なかなかやるじゃないか。いいだろう、私も出るぞ!」
と、出撃しようとするがそれを隣にいた趙雲が押しとどめた。
「お待ちを、華雄殿は総大将・・・そう軽々しく出るものではございませぬ。」
彼女の言葉に、華雄配下の将が「うんうん」と頷いた。
「むがっ・・・しかし、総大将であるからこそ先頭を駆けて兵の模範と・・・。」
「時と場合に寄りましょう。もっと大物が出た時にこそが華雄殿の出番かと?」
「むう。しかし、誰かは知らないが敵将は私を指名しているのだぞ?」
趙雲の言う事もわからないではないが、華雄は食い下がる。
趙雲は笑って更に諌めた。
「ははは。確かに、あの男はそれなりの武勇のようですが・・・鶏を切り裂くに、何故に牛刀を用いる必要がありますかな? ここは私にお任せを。」
趙雲はこんなお世辞を言う。華雄もおだてに乗るわけではないが、少しだけ気分が良くなった。それに、趙雲も手柄は欲しいだろう。
たまには譲ってやるか。という心境も合って、「解った、出撃しろ。ただし、死ぬなよ?」と趙雲を送り出した。
「委細承知。吉報をお待ちくだされ!」
「趙雲殿・・・お気をつけて。」
「ふっ、解っておる。なぁに、案ずるな、楽進。行ってすぐ帰ってくるだけのことさ。」
趙雲は楽進の言葉を背に受けて、馬の腹に蹴りを入れた。
「趙雲隊、出撃! 狙うは敵将の首ただ1つ、進めっ!」
「ははっ!」
趙雲の命によって趙雲隊2000も前線へと動く。
前線部隊で指揮を取っているのは徐栄。彼女も戦巧者で、初期は押されていたが持ち直している。
その徐栄の隣に馬を進める趙雲。
「徐栄、無事か!?」
「あら・・・趙雲。今は耐えているけど・・・さすがに苦しいわ。貴方が救援に?」
「はは、それほど大した働きは出来ぬと思うがな。」
「謙遜ね。今、袁術軍の兪渉が暴れまわっているわ。さっき華雄様を名指ししたのもあいつよ。・・・孫策も嫌な相手だけど、あいつを討ってくれると助かるわ。」
徐栄は、現状では孫策よりも袁術軍のほうが厄介だと踏んでいた。
孫策軍のほうは数が少なく、袁術軍はその逆だ。
精兵の多い孫策軍も厄介である事に違いはないのだが、兪渉の活躍で袁術軍の兵士は弱卒ながらも勢いづいている。
まずはそれを止めるべきだと結論付けている。
「ふ、解った。私もそのつもりで出張ってきたのでな。」
「行ってくれるか?・・・まあ、貴方の腕であれば心配をする必要も無いだろうな。」
「ああ、任せろ。では、少し行ってくるぞ。」
それだけ言って、趙雲は更に軍勢を前に進ませる。

「ふん、華雄も大したことはないな。この程度の兵が董卓軍3指に入る将の率いる部隊とは。」
兪渉は目の前にいた兵を切り捨てて呟いた。
乱戦で孫策とはぐれてしまったようだが、さして問題はあるまい。彼女の実力ならばこれくらいで・・・と思ったところ、こちらに馬を進めてくる武将に気付いた。
袁術軍の兵士が10数人ほどそちらに向かっていくが問題にならず一蹴されてしまっている。その配下の兵士も、追い立てられる華雄隊の兵士を助けるかのように動いて袁術兵を追い散らしている。
「ふむ、貴様が華雄か?」
血濡れた槍刃を目の前の武将に向けて兪渉は質する。
「違うな、私は趙雲。」
「ふん、違うか・・・が、そこそこの強さはあるようだ。良かろう、この兪渉の刃の錆となれっ! 勝負!!」
兪渉は馬を一気に駆けさせて趙雲に向かっていく。槍を振りかぶり、間合いに入った趙雲を今まで屠った兵士と同じように刺し貫こうとした。
だが、一歩も動かなかった趙雲はそれ以上の速さで自身の槍・・・「龍閃」を切り下ろす。
交差した両者だったが、数瞬の後兪渉の体は袈裟懸けに切り裂かれた衝撃に耐えることができず、真っ二つになって吹き飛んだ。
龍閃の斬撃で兪渉の馬すら切り倒され、主人と同じく血と臓物を撒き散らして死んだ。
最初、兪渉には何が起こったか理解できなかった。先に武器を構えて槍をつけようとしたのは兪渉だ。
それよりも動きの遅かった筈の趙雲の槍(青釭の刀がくくりつけてあったので薙刀のようなものだ)が、その身体を切り裂いていた。
信じられない。そう思いながら兪渉は戦死した。
返り血を浴びて純白の服を赤く染めた趙雲は槍を突き上げ、高らかに。
「敵将、兪渉。常山の昇り龍、趙子龍が討ち取ったり!」と、大音声で名乗りを挙げた。
趙雲の圧倒的な勝利に華雄軍は勢いを取り戻して攻勢に出始める。
機を逃すまいと、華雄自身も戦線を押し上げ始めたのだ。
兪渉が一合で討たれた事で袁術軍の士気が落ちている。孫策軍が暴れている為に無様な敗北にはならなかったが一部の兵が浮き足立って後方に下がってしまった。
これによって、後方で焦れていた劉備と韓馥の軍勢が前に出始める。
韓馥軍の勇将と呼ばれる潘鳳(はんぽう)が一騎駆けで趙雲に向かっていくも、これもまた僅か一合で討ち取られてしまった。
それを後方で見ていた劉備・曹操・袁紹はそれぞれ違う反応を見せていた。
劉備は、まさか趙雲が董卓軍に所属しているとは思わなかったらしい。傍にいた関羽や張飛も驚いている。
関羽は志を同じくした趙雲が無道(と、連合軍から思われている)の董卓に参じたことへの怒り、そして武人として槍を合わせることができる! と相反した感覚を味わいつつ、趙雲へと突進した。
曹操は、高順に与えたはずの青釭の刀が龍閃にくくりつけられている事に多少の驚きを感じていた。どういう経緯であの趙雲という女の手元に渡ったのだろう。
が、それ以上に「大した武勇の持ち主ね・・・張遼同様、欲しいわ。」と人材収集癖を燃え上がらせている。
最後に袁紹だが・・・あんな武勇の持ち主がいるとは聞いておらず、混乱。自身の軍団最高の武を誇る顔良と文醜に出撃を命じた。
「無理ですよ・・・ここは連合軍中央ですよ?前線でまだ戦ってる部隊がいるのに、それ搔き分けていくんすか?」と反論されてしまった。
「曹操殿とか孫策殿もいるんです、大丈夫ですよ。」と部下のほうがしっかりしている。
「むぅぅう・・・ならば、任せましたわっ!」としかいえない袁紹であった。

向かってくる兵士や武将を切り伏せつつ、趙雲とその軍勢は戦い続けている。
武勇に聞こえのある兪渉、潘鳳が一瞬で討たれた事で連合軍先鋒部隊の士気は著しく下がっている。
趙雲だけではなく、楽進や徐栄らの奮戦もあって数で勝る連合軍相手に有利に戦いを進めていた。
後は適当に斬り散らして・・・と思った趙雲だったが、自分に向かって闘気を充てて来る何かが接近している事に気がついた。
その「何か」が、猛烈な勢いで自軍の兵士を吹き飛ばしてくる。その姿には見覚えが合った。
「趙雲ーーーっ!」
青龍偃月刀を振りかざして駆けてくるその女、関羽である。
「ふっ、関羽殿か・・・それこそ、相手に不足なしっ!」
不敵な笑みを浮かべて、趙雲も向かっていく。
「うおおおおおっ!」
「はあああっ!」
2人は気迫を込めて武器を交差させた。ガキィッ! と金属がぶつかる甲高い音が戦場に響く。
「趙雲、貴様・・・見損なったぞ!」
「ほぅ?」
「立派な人物だと思っていたのに・・・! 悪政を敷いている董卓に仕えているのはどういうことだっ! 恥を知る心があるなら退け、趙雲!」
鍔迫り合いのような状況で押し合っている2人だが、まだまだ余裕があるのだろう。問答を始めた。
「悪政? あれのどこが悪政だ? 民を愛し、治を施さんと努力をしている董卓のどこに悪意があるのか!」
「なにっ・・・」
「どうせ、董卓に嫉妬している連中の流す風評であろうが・・・事実を見ず、真実を知らぬ輩がどう言おうと、有るべき物が変わることはないっ!」
趙雲はまくし立てて、関羽を押し込んでいく。馬の力、趙雲の膂力・・・それが関羽を上回っているのだ。
彼女の怒りは本物だった。反董卓連合とはいうものの、董卓にどのような野心があったというのか。
数の力によって弱い存在を虐げる・・・趙雲には、連合軍がそういった手合いのものにしか見えなかった。
十常侍であればまだしも、と舌打ちまでしてしまった。
「ぐっ・・・!?」
「恥を知るべきはそちらだな、関羽。今の貴公の刃に正義の輝きは欠片も無しっ! 無道がどちらか、よくよく考えてみるが良い!!」
龍閃の一閃が、関羽の手にある青龍偃月刀を弾き飛ばした。
「なっ・・・馬鹿な・・・!?」
今の衝撃で痺れた手と、趙雲を交互に見て呟く関羽。趙雲からすれば、関羽を討つ絶好の機会だったろうが、彼女はそれをしなかった。
興味はない、とばかりに趙雲は関羽に背を向ける。
「趙雲、貴様・・・情けをかけるというのか!」
「左様、情けをかける。貴公らが洛陽に攻め入るかどうかは解らんが・・・そこで見るのだな、洛陽がどのように治められているかを。もっとも」
虎牢関より先に通すつもりはないがな、と心中で呟き趙雲は退いた。
「くそっ・・・どういうことだ・・・?」
その時に、帰陣を促す銅鑼の音が鳴り、両軍共に兵士が退く。
気付けば日は沈み、辺りは暗くなり始めている。
関羽もまた、青龍偃月刀を拾って劉備の陣に引き返していく。初めての敗北、そして趙雲の言葉に思いを馳せながら。



こうして、汜水関の初戦は両軍共に被害があったものの、実質董卓側の勝利だった。
高順隊が兵士の家族やら何やらを引き連れて汜水関に到着するのは、この日の夜である。

この闘いの帰趨がどうなるか、それはまだ誰にもわからない。


~~~別の話にするまでもない番外編~~~
汜水関にたどり着いた高順だったが、すでに夜だった事もあって睡眠をとることにした。
趙雲の活躍や徐栄・楽進の奮戦を聞いて、高順は嬉しそうだったが、無茶をしないでほしいとも思ってしまった。
それはともかく、高順も明日から戦線に加わるのだ。疲労を残してはいけないと思い、壁を背に座り込んで、三刃槍に持たれかかる様にして眠るのであった。
そして、またしても・・・あの夢を見る。

「・・・なさい、起きなさい。高順や、起きなさい。」
野太い声が呼んでいる。高順は「すぅっ・・・」と静かに目を開けた。
その高順の目の前には・・・何だろう、変なグラサンをした戸愚呂みたいな人がいた。
「あんた・・・誰?」
「私は貴方の槍。三刃槍の精ですトグロ。」
瞬間、高順は母譲りの握撃で目の前の精霊(?)の頭を握りつぶそうとした!
「ちょっ、やめっ! やめてください話を聞いてくださいお願いですから許してくださいトグロー!」
精霊(?)の懇願に、高順は手を離した。
「・・・ここはどこだよ。俺は帰る。」
高順の言葉に、精霊(?)はニィィ、と笑う。
「ここはこの私、三刃槍の精空間。「トグロ」空間なのでトグロ。」
「はぁ・・・?」
「お前はこれからワシと一緒にゲヴェルを倒しに行ったり、オヤカタサムァー! ユキムルァー!と叫んだり、馬2頭の上でバランスを保ちつつ「武田家名物!操作失敗!」とかするんだトグロ。」
「・・・何を言ってるのか良くわからないのだけど・・・。」
「変な顔してるときの石橋タカアキと太宰治の顔って区別つく?」
「知らんわそんなもん!」
瞬間、精霊(?)の眉間に一本の矢が刺さった。
精霊(?)は額から血を流してその場に倒れた。ピクリとも動かないという事は、おそらく死んだのだろう。
「誰だっ!?」
いつの間にか、背後に背の高い男が・・・どこかの高名な武将だろうか、弓を構えて立っていた。
「危ないところだったな、高順。そろそろ起きるといい。楽進や趙雲が待っているぞ。」
日焼け顔に、立派なひげを蓄えた壮年の男・・・恐らく、3~40くらいの年齢だろうか。裏表の無さそうな、人の良さそうな笑顔だ。
「えっと・・・貴方は?」
高順の問いに、男は考える素振りを見せてから答えた。
「そうだな・・・別の世界のお前、というところか? 或いは、本来この世界に生まれるはずだった高順、とでも言うべきかもな。」
「え・・・ええっ!? じゃあ本物の高順将軍!?」
「はっはっは、本物かどうか、ではないぞ、もう1人の我よ。お前も我も同じ「高順」。本来、会う事のない運命だったはずなのだがな・・・まあ良い、しっかりとやれ。」
「はぁ・・・」
「むっ! あそこにバット将軍が!」
「えっ!?」
「こんにちわ、ゴバルスキーです。」
「犬飼倫太郎です!」
「二人合わせて「飼い犬に手を噛まれたーズ」デス。DEATH!!」
「帰れ! そんなネタ誰がわかるよ!?」
「アウトブレイクです。とりあえず皆殺し。」
「病原体!?」
「こんにちわ、ゴール帝王です。」
「何このケイオス空間っ!」
・・・。・・・・・・。

「おーい、高順。こーじゅーん!」
「・・・ぬわっ!」
「あ、起きた。」
「へ、はれ? 華雄姐さん・・・?」
混乱している高順を見て、華雄はため息を1つ。
「しっかりしてくれよ、弟。・・・何か悪い夢でも見ていたのか?」
「いや・・・何でもないです。」
そう言って立ち上がった高順は、自分の手にある三刃槍を見据えて、首をかしげた。
「まさか・・・ねぇ?」



~~~楽屋裏~~~
キャラクター紹介。
高順。
えろいこととかヌップリとやって羨ましいんでなんかもう死にます。

楽進。
人物崩壊とか凄いことになってて面倒くさいので多分もう死にます。

関羽。
神様。そろばん。ヒゲ。たーんえーたーん。でもただのヤクザ。
扱いが可哀想になってますが、原作で一方的に董卓陣営を悪扱いしてたんでなんかもう死にます。



8割がた嘘ですが。あいつです(挨拶
ようやく、三国志で一番盛り上がるであろう反董卓連合の話になりました。2番目は王朗が諸葛亮に言葉で殺されるアレ(嘘
色々と設定をこねくりまわした結果、本編もケイオスになってます。
あれは本来、華雄が呂布に言った言葉なんですけどね・・・w
趙雲もこの戦いで大いに名を上げましたし。
あと、劉備の扱いもかなりガッカリものですが・・・こき下ろしている訳ではないのですけどね。
話の内容として劉備ではなく孫策・袁術を先鋒にしたかったので、ちょっと可哀想な目にあっていただきました。

自分の持ちうるネタを最大限詰め込んでいるので・・・もしかしたらあるかもしれない次回作が大変な事になるかも(遠

さて、ようやく高順一党(李典と干禁いないけど・・・)が表舞台に立ちます。・・・大丈夫かなぁ、死なないかなあ。

それでは、また最終回次回お会いいたしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第47話 汜水関・二戦目。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/01/31 21:25
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第47話 汜水関・二戦目。

初戦で勝利した華雄軍だったが、これ以降は打って出る事が少なくなっていた。
兵数があまりに違っていたのもあるし、基本的に時間稼ぎをしつつの戦いで良かったからだ。
汜水関を攻める連合側も、士気が低い。
袁術も、配下武将を討たれた事が響いたのか後は孫策に任せる、とばかりに後方に下がってしまっていた。
結局のところ、前線に出張っているのは孫策軍と劉備軍のみである。(曹操や公孫賛も出ようとしたが、狭い隘路だったために数部隊も展開できない。
何度も小競り合いのような戦いにはなったが、本格的な戦いまで発展もしない。だが、篭城側の士気が下がるのを待っていたのか、それとも自分達の軍勢の士気が下がることを懸念したのか。
連合側・・・というか孫策軍は総攻撃を仕掛けようとしていた。

~~~汜水関~~~
「ああ・・・くそぅ、イライラするっ・・・」
華雄が城壁の上でウロウロと所在無さげに歩いていた。
彼女がイラつくのは単純に彼女の性格に過ぎない。
元々、待つと言うことが苦手だし、なにより相手が孫家であることが致命的だ。
この1週間、各諸侯が交代しつつ攻めてきたものだが・・・孫策・劉備・曹操・公孫賛・鮑信あたりが積極的なだけで、他は日和見である。
攻められても汜水関から出撃しようとしない華雄だったが、孫家に幾度となく挑発されてその辺りは我慢の限界だった。
過去の話だが孫策の母である孫堅に、いいようにあしらわれて敗北した事がある華雄だ。その娘であり、風貌も良く似ている孫策に挑発されると孫堅に挑発されているような気分になる。
出撃しようとして高順や張遼に止められる、を何度となく繰り返してきたが・・・そろそろ限界のようだ。
「ぬぐぐううう・・・。」
今も、関の前で孫家の人々は華雄を挑発している。曰く、「臆病者」とかそういう類のものばかりだが・・・。
「やめなさいよ、母様にあれだけズタボロにされたんだからー。 でも、根性ないわよね、華雄は。私だったらここまで侮辱されたら耐えられないわ。」
「孫策、それ以上は勘弁してやろう。。あまり言いすぎなのも良くないぞ?」
「えー、だってその場面を想像すれば恥ずかしいもの。私だったら自決モノよ♪」
「そうか、自決か。はっはっは。」
「あっはっはっは♪」
孫策と周喩がわざとらしく、かつ声を大にしてそんなことを言って笑っている。
孫策は心から楽しそうだが・・・多分気にしてはいけない。
「むがぁっ・・・く、このぉ・・・!」
「はいはい、抑えや、華雄。もう作戦は9割達成しとるんや。後は向こうにそれなりに打撃与えとくべきやろうけど、兵力すり減らすべきやないやろ。」
「ぐぐぐぐぐっ・・・」
張遼は諌めるが、華雄はもう呻く事しかできない。
しかし、孫策が最後に言った言葉が止めとなった。
「まあ、華雄なんてそんなもんだって事よ。・・・あんなのに勝って歴史に名を残したいとは誰も思わないわね♪」
ぶちっ。
この言葉を聞いた華雄は完全にキレた。
「ふ、ふふふふふ・・・コロス、ゼッタイニコロス。コロシテヤル・・・」
「お、おい、華雄・・・」
華雄が張遼が止めるのも聞かず、ぶつぶつと何かを呟いて身を翻らせた。
あちゃー・・・と、手で顔を覆う張遼であったが、やはり止めなくては不味いだろう。
そう思って華雄を追いかけようとした張遼だったが、すぐに報告がやってきた。
「張遼将軍、大変です! 華雄将軍が2万の兵士を引き連れて出陣いたしましたっ!」
「早っ! 兵もやる気満々かいなっ!?」
そう、兵士もやる気というか殺る気満々だった。
1週間、延々敵の罵詈雑言に耐えてきた華雄隊の兵士は殺気を漲らせて出撃の時を待っていたのだ。
彼らに言わせればまさしく「戦争だ・・・これでまた戦争が出来るぞっ!」という心境だったのかもしれない。
関の扉が開け放たれて、華雄が先頭は駆けて孫策軍に向かっていく。
「ああ、もうっ・・・!」
「どうなさいますか、将軍・・・。」
「・・・。」
張遼は、孫策軍の動きを見ていた。
孫策は本陣まで退いて、指揮を取り始めている。彼女も前線で暴れたかったが、周喩に嫌味を言われて今回は下がったようだ。
張遼からすれば解るはずもないが、孫策軍の中央は程普が、左翼には黄蓋が、右翼には孫権が布陣している。
彼らは適当に切り結んで徐々に下がり始めていた。
孫策軍の動きに呼応するように後続の袁術軍が動き始めていることから「引き込んで退路を絶つ・・・。あかんな、被害が大きくなる。下手うてば・・・」というところまで張遼は読んだ。
完全に頭に血が上っている華雄にはそれが解らないだろう。
「・・・うちらは退く。虎牢関まで退がるんや、兵達にも準備させぇ!」
「はっ!? しかし、このままでは。」
「助けられん事もないやろーけどな、巻き込まれてこっちまで大損こくわけにもいかん。・・・時間を稼ぐことはできとるんやから退いても問題ないやろ。」
更に撤退命令を出そうとした張遼だったが、直ぐ傍に高順と沙摩柯、そして蹋頓がやって来た。
「あ、順やん・・・ちょうどええ、順やんらも撤退や。」
「何があったかと思ってきてみれば・・・止めなかったのですか!?」
張遼は叱責など気にもせず反論する。
「今まで散々とめとったやないか! こんな程度で頭に血ぃ昇らせてまうなら、それがあいつの限界ってこっちゃ。」
「・・・。」
「今退けば華雄の部隊だけで損害が済む。巻き込まれて自分の部隊まで全滅させられるか? 関守れてもうちらだけ・・・残り2万じゃどうにもならんで?」
「・・・そうですか、解りました。」
高順は唇をかみ締めつつ頷いた。
「解ってくれたか、ほな撤退の準備・・・。」
「沙摩柯さん、出撃の用意を。あと、楽進と趙雲殿にも伝令です。急いでください!」
「わかった!」
沙摩柯は頷いて走っていく。
「はぁっ!? ちょい待ち、うちの言ってること聞いてへんかったんか!?」
「聞いてますが、従うつもりはありません。」
「なっ・・・」
「俺の直属の上司は華雄姐さんでしてね。まだ戦いは始まったばかり。救援に行けば被害も抑えられるでしょう? 俺は行きます、張遼殿はご自由に!」
「あ、おい・・・ちょっと待ち順やん!」
背後から張遼の声が響くが高順は振り返らずに走り、後に蹋頓も続く。
「すいませんね、蹋頓さん。いきなり生か死かの大戦です・・・。」
「かまいません、あなたとならば何処までも。」
クスクスと笑って、蹋頓は答える。この人は本当に何処までもついて来そうだなぁ、と高順は苦笑した。
汜水関。この関は難攻不落をもって知られる。
虎牢関も同じような作りだが、関の前には隘路が続いて、両脇は崖。この崖は汜水関城壁から普通に歩いていける場所だ。
崖と言っても、急な坂というほうが正しいかもしれない。
「降りることならば何とかできそうだが登ることは難しい」という程度だろう。
実際に底を駆け下りるような者はいないし、登ろうとする者もいない。登ったところで関から人数を繰り出されて叩き落されるのが目に見えている。
高順はそこに目をつけた。今の状況では華雄隊は包囲、分断されて退くことも出来ずに撃破される可能性が高い。
関からまっすぐに出撃したとしても、孫策や周喩ならばそれを見越しているはず。袁術軍も出張って相当な兵士数になっているし、ただ出撃するだけでは張遼の言うとおり巻き込まれるだけ。
となれば、彼女達の埒の外から攻めて行くしかない・・・。その斜面を駆け下りて、比較的層の薄い横合い(左翼・右翼)に突撃すれば多少は華雄隊への重圧も減るだろう。
そして、反対側からも一手を加えれば・・・というところが高順の考えである。
高順は孫策軍右翼側、趙雲が左翼側。準備が整えば、後は伝令を送れば良い。
兵に指示を出しながら、高順は丁原たちのことを、そして演義等で聞く華雄の戦死場所が汜水関であることを思い出していた。
あの時、自分は何も出来なかった。しかし、今は・・・手前味噌だが、昔よりはまだマシになったと思っている。
共に戦ってくれる仲間もいる。自分が華雄の運命を変えられるかどうかは解らないが・・・もう、あんな思いをするのは御免だ。
それだけを思いながら、高順は虹黒に乗って駆け出していた。

後年、高順と関係の深かった人々が集まった時。経緯はわからないが高順の評価の話になった。
皆が言うに、高順は満場一致で「狼」である。
何人もの女性と浮名を流したことへの・・・女性好きということへの揶揄だろう。(どちらかと言えば食われる立場であったし、本人が聞けば絶対に納得しなかっただろう
だが、これにはもう1つの意味があった。
高順は、とにかく身内の死を恐れた。丁原達を失ったことは、彼にとって大きなトラウマとなっていたのだ。
自分の命を守るために戦っていた彼は、丁原の死を契機に「自分の命こそ知ったことか」という自殺行為同然の戦い方をすることも多くなっている。
ある意味では、丁原達とともに高順も死んでいたのかもしれない。
内へ内へと感情を向ける高順だったが、それは同時に部下と仲間の事を何より大切に思っている証だ。
狼とは、家族を大切にする。あるいは家族を多く持つ習性がある。その事を重ねて「狼」という評価に繋がったのだろう。
ただし、高順を愛した女性達は狼という前に「優しすぎる」という言葉を追加していたのだが。
優しい狼と評された男、高順。
あまり人に見せることのない、鋭く研ぎ澄まされた小さな爪牙を「反董卓連合」という巨大な存在に突き立てるために、彼は静かに動き始めていた。



その頃、戦場では。
「くそ、雑兵どもがっ・・・群がるなぁっ!」
徐栄の槍が、また1人孫策軍の兵の命を貫いた。
「はぁ、はぁっ・・・くそ、こうもあっさりと寸断されるとは・・・。」
先ほどまで華雄と共に戦っていたはずなのに、華雄の姿が見えない。
流石は孫家ということか、と徐栄は悔しそうに呟いた。
華雄隊の兵士達の錬度は高く、この状況でも精鋭揃いの孫家に劣ってはいない。だが・・・華雄の姿もなく、士気が落ちていることもあってか、少しずつ押されているのが徐栄には解った。
その華雄は現在孫権と甘寧の部隊に囲まれて孤軍奮闘しているのだが、それを知る術が徐栄にはない。
とにかく、華雄と合流して退くなり態勢を整えるなりしなくては・・・と思った瞬間に。
「徐栄、下がれっ!・・・がはっ!」
「胡軫!?」
孫策軍の誰かの放った矢が、徐栄を庇った胡軫の胸を貫いていた。

「おおおおぉぉっ!」
華雄の大斧の一撃を甘寧は受け流し、逆方向から孫権が切り込む。
「ちぃっ!」
身を退いて、孫権の刃を避ける華雄。だが、安心している暇はない。
怒りで我を忘れて、突撃した結果がこの様だ。引き込まれて、孫策に似た少女を追いかけるうちに退路まで塞がれている。
周りに従う兵士も次々と討たれ、数人しか残っていない。
「ふぅ、もう少しで華雄が討てる・・・甘寧っ!」
「はっ!」
孫権の言葉に甘寧が応え、華雄に斬りかかっていく。
「・・・っ、舐めるなぁっ!」
甘寧の大刀の一撃を防ぎきって、反撃を仕掛ける華雄だったが、その反撃が届く前に今度は孫権が斬りかかって動きを封じに来る。
甘寧の武力は高く、孫権はそれに一歩譲る、という腕前だったが・・・2人の連携に華雄は為すすべもなく受身に回ってしまっている。
そんな戦いをしているうちに体のあちこちに傷ができて、浅いとは言え出血が重なっていく。
「はー・・・はぁっ・・・」
朦朧とした意識で何とか踏ん張ろうとしている華雄だが・・・。
「ふんっ!」
更に斬り込んでくる甘寧の攻撃を何とか受け止めた華雄だったが、そこで限界がきたのか、姿勢を大きく崩された。
「く・・・」
「貰ったっ!」
勝利を確信した孫権の一撃・・・駄目だ、これは避けられそうにない。そう思った瞬間に徐栄が数百の兵とともに切り込んできた。
「華雄様ー!」
「・・・!?」
「ちっ!」
甘寧は徐栄の繰り出した槍を防ぐが、馬の突進力に弾かれる。(華雄・孫権・甘寧は現在徒歩である
周りにも孫策軍・袁術軍の兵士がいるが、徐栄と共に突進してきた兵士と戦っていて孫権の周りの兵士は多くない。
「華雄様っ!」
「・・・う、じょ、徐栄、か・・・?」
徐栄は馬上から華雄の体を引っつかんで抱きかかえた。しかし、直ぐに戻ってきた甘寧の繰り出してきた一撃で馬から落とされる。
「逃がすものか!」
「くぅう・・・手ごわい・・・!」
この時になると、一部の華雄隊の兵士が孫権の陣に攻撃を仕掛けている。華雄の居場所がわかったからだろうか、主を助けようと奮戦している。
戦場は混沌として、予断を許さない状況が続くが・・・このままでは、華雄も徐栄も戦死するだろう。
本人達もそれをよく理解していたが、それならば最後の最後まで抵抗してやる、と戦いを続けるのだった。
この時、高順隊は既に斜面付近に展開していた。向かい側には趙雲部隊が進んでいる。
下からは見えない位置に待機、いつでも矢を放てるように(馬を駆けさせながらでも弓を扱えるように調練している)兵士達に命令して状況の推移を見守っている。何度もこのまま飛び出したいと思ったか解らなかった。
華雄隊はまだ戦いを続けているし、まだまだ数が多い。兵士1人1人の力で何とか耐えている。
しかし、華雄が討たれてしまえばそこで終わる。指揮官を失った部隊は脆くも崩れ去る、それが現実なのだ。
高順はじっと華雄を追い詰めている2人の女性武将を見ていた。
1人は浅黒く、大きな幅広の刀を使って体術と剣術を組み合わせたような戦い方で華雄を追い詰めている。
もう1人は・・・恐らく孫家の人間だな、と考えている。
外見が、孫策をそのまま幼くしたようなものなのだ。背丈の高さや髪の長さなどは違うものの、強い意志を秘めた瞳などはそっくりである。
(・・・孫家、この場合だと・・・孫静(そんせい)か、孫権(そんけん)か、どっちかだな。多分孫権だと思うが・・・)
孫静というのは孫堅の・・・この世界では妹か弟か知らないが、孫策からすれば叔父か伯母に当たる人物だ。
眼下で戦っている女性はどう見ても孫策より年下だ。もしかしたら孫翊(そんよく)かもしれないが、それはさしたる問題ではない。
じっと戦況を見ている高順に、共についてきた楽進は「隊長、そろそろでは。」と進言した。
アレ以上は華雄がもたない。口には出さないが沙摩柯らも同じことを思っている。
だが、高順は「あと少し・・・」とだけ言って押さえつけた。まだ孫権が辺りに注意を払っている。
ねらい目としては、華雄と徐栄が斬られそうになる瞬間。誰もが華雄の負けを確信するかのような瞬間である。
(高順は知らないが)甘寧と孫権の波状攻撃で、華雄は完全に追い詰められていた。
徐栄も回りに立ちふさがる兵士の相手で手一杯だ。
「はぁっ!」
「くっ!」
甘寧の振り上げた刀の威力に耐え切れず、華雄は引導断斧を取り落としてしまった。
ここまでか・・・! 華雄は死を覚悟した。

「今だ・・・弓、放てーーーーーーっ!」
高順の号令一下、二千数百(楽進隊も加わっているのでこの数)のうち前衛隊が矢を斉射する。
兵の位置もあって半数以上が届きはしなかったが、もう半数の矢が孫策・袁術の混合部隊に降り注ぎ射抜いていく。
高順自身もだが、わざと一呼吸遅らせて孫権を狙い打った。
(この一矢から始まる戦いで、ここで討たれる華雄姐さんの運命を穿つ・・・いけっ!!)
それだけを念じて、矢を放つ。
そして、結果を見ることもせずに虹黒をそのまま斜面へと進ませる。
あまりに自然な動きだったので高順隊の兵士達は疑いもせずそれを見送ってしまった。が、すぐに蹋頓らは我に返って突撃命令を下す。
「遅れてはなりません、全兵突撃! 高順さんに続きなさいっ!」
蹋頓の命令に、兵士達も我に返って一散に斜面を駆け下り始めた。
相当に急な坂だが、兵も馬も何1つ恐れることなく突き進んでいた。
高順が先頭を、蹋頓・沙摩柯・楽進(彼女は徒歩だった)が続き、その後に兵士達。
全員が、馬の手綱をただ握るだけで、全てを馬に託した。馬が主人と自分に危害がでないように、道を考えて駆け下りていくからだ。
高順に至っては手綱を握ってすらいない。三刃槍を両手で肩に担いで、ただ孫権を見据えて突き進む。
「虹黒、いけるか?」
「ぶるぅっ!」
もしも虹黒が人間の言葉を喋ることができたなら「当たり前のことを聞くな!」と言っていただろうか。
その高順のすぐ後ろに楽進が追従していた。彼女は徒歩だが、閻行から気の使用法を教えられてこういう場所でも使っている。
自身の足に僅かに気を込めて、その威力を持って地面を蹴り跳ねる。ずっと前の話だが、前晋陽兵に襲われたときに閻行が見せた俊足移動方がまさにそれだった。
彼女ほどとは行かなくても、気の使い方が上手い楽進だ。これくらいの距離で、その上に急斜面。馬と同等かそれ以上の速さで走れる。
「楽進!」
「・・・は、はいっ!」
このような状況でも、高順は何1つ恐れずに傍らにいる楽進に話しかけている。
楽進は高順の後ろにいるし、高順は髑髏龍の鎧、そして面当てをつけているから表情などわからない。
「きっちり着いて来い、遅れるんじゃないぞ?」
それでも、彼は笑みを浮かべて言っているように思えた。
「・・・勿論です、隊長の背中は私が・・・皆が守ります! 後ろのことは気にせず、前だけを見据えてください!」
「ああ・・・往くぞっ!」
もう少しで斜面を駆け下り終える。高順はそこでようやくに三刃槍を構えた。
同じように、楽進は掌に気を溜めていく。
「はぁああぁっ!」
「せりゃああああっ!!!」
三刃槍が、楽進の放つ拡散気弾が、孫策・袁術軍の兵士を斬り飛ばし、吹き飛ばした。













~~~楽屋裏~~~
・・・お預けになっちゃった、あいつです(挨拶
題名も、汜水関・二戦目 というか 高順、奇襲戦 な感じに。
急斜面どうこうというのは原作で出ていない、でっち上げ設定です。原作の背景CGを見て「アレをもう少し緩やかにすれば駆け下りるくらいはできそうじゃね?」
・・・無理ですよね(ぁぁ
ちょっと短いですが、ここできりが良かったのでご容赦を・・・。

本格的な戦いは次回になります、さあ、孫策やら誰やらの反応をどうしようかなw 
ではでは、また次回お会いいたしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第48話 汜水関・三戦目。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/04 18:36
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第47話 汜水関・三戦目。

孫権は、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
勝った! と思った瞬間に、来るとは思っていない急斜面からの一斉掃射、それに続く騎馬突撃・・・。
そして、一呼吸遅れて飛来した一本の矢が、孫権の頭飾りの一部を射抜いたのだ。
「くっ・・・。」
何が起こったのか理解するまでに僅かな時間を要した。
その隙を徐栄が見逃すはずもない。
「せえいっ!」
「ちぃっ!」
徐栄の振るった槍が孫権の頬を掠めた。
人間の本能が働いたのだろう、孫権はその場から大きく後ろへと飛びずさった。
その僅かな時間を縫って、徐栄は華雄を庇うように立ち塞がって槍を構えた。。
「孫権様!」
甘寧が慌てて駆け寄ってくるが、頬の薄皮一枚斬られただけだ。血もわずかにしか出ていない。
「大丈夫よ、それより・・・。」
孫権は、こちらを目指して突進してくる部隊に視線を向けた。
その先頭を走る騎馬武者がいるが・・・兵から見れば恐怖そのものだろう。
黒紫に輝く髑髏の鎧兜に身を包んだ漆黒の巨馬。
それに跨る・・・あれは何だろう、髑髏の龍の鎧兜を身につけた・・・鬼!?
そう、鬼としか思えない。あれほど重そうな鎧、すさまじく巨大な、刀のような大槍。
傍らにいる甘寧も、驚きに目を見張っている。
なにより、あれほどの斜面を馬で駆け下がるとはどういうことなのだ。いや、あの鎧武者だけではない。
その後に怒涛のように続いてくる騎兵隊。あの坂で転げ落ちたら・・・周りにいる馬に踏み潰され、蹴倒されて死ぬのが目に見えている。
そんなものすら顧慮せずに・・・。どれほどの恐れ知らずなのだ?
いや、それよりも華雄達を先に討つべきだ。そうしてから迎撃を・・・。
そう考えた孫権だったが、それは僅かに遅かった。
この時、すでに高順と楽進が孫権の陣を横から突破しはじめていたからだ。

汜水関横脇の急斜面から突撃を仕掛けた部隊。
それを自分の陣営から見ていた者がいる。
公孫賛、孫策、曹操、そして劉備。その配下の武将達。

~~~公孫賛の陣~~~
「あ、あれは・・・」
最初、公孫賛はその鎧武者が高順だとは解らなかった。
だが、あの巨躯を誇る馬。その傍らを進む楽進の姿に「間違いない、高順だ・・・!」と確信した。
趙雲がいたことにも驚いたし、張燕からも彼らは董卓軍に所属しているとも聞いていたからいずれは出てくると思っていたけれど。
「まさか、この状況であの斜面を・・・。」
あれは、自分には真似ができそうにない。いや、白馬義従にだってあんな無茶な事を遂行できる奴はいないだろう。
孫策隊に援軍を送るべきかと思いもしたが、袁術軍が前を塞いでいて出れそうにない。
諦めるしかない、か。と公孫賛は呟いた。
しかし、彼らがどれほどの活躍をしても・・・それも長くは続くまい。
戦力差が大きく、正直に言って董卓に勝ち目はない戦いだ。
(できることなら、高順達には逃げ延びて欲しいのだけど・・・。)


~~~劉備の陣~~~
「うわっ・・・ねえ、愛沙ちゃん。あれ、あれ!」
「な、なんですか・・・って、あれは・・・まさか、高順!?」
「うおおおー、すごいのだー!」
3姉妹が驚きに声を挙げた。
そういえば、趙雲がいたのだ。高順がいてもおかしくはない。
が、あれほど無骨な鎧を着るような男だっただろうか? と愛沙は自問してしまうがそれはどうでもいい事だ。
あんな無茶をする男でもないと思っていたが・・・あれから彼も研鑽を積んだということか。
高順を知らない鳳統や諸葛亮は「誰でしゅかー!?」と若干噛んでいたが。

~~~曹操の陣~~~
「ふぅん・・・やっぱり、いたのね。」
曹操は驚きつつも心のどこかで納得していた。
趙雲という武将が使用していた武器に、過去に自分が使用していた青釭の刀が装着されていたのを知っていたのだ。
高順に与えた武器を何故あの女性が? と思っていたが、なるほど、そういうことか。
得心がいったところに、彼女の愛人である夏侯惇・夏侯淵姉妹が走ってきた。
「かか、華琳(曹操の真名)様ー! あれ、虹黒ー! 虹黒ですよね!」
「華琳様、あの武者は・・・高順でしょうか?」
「ええ、そうでしょうね。あんな馬、この大陸にそういるものではないわ。それに少し形が変わっているけど・・・何と言ったかしら、三刃戟に似た武器を持っている。」
答える曹操だったが、曹操の傍に侍っていた荀彧は夏侯惇に冷ややかな視線を。
曹操の親衛隊の一人である典韋は夏侯淵を見て首を傾げた。
「うるさいわねぇ・・・そんな大声出さなくても聞こえてるわよ!」
「なんだとー!?」
この2人の喧嘩はいつものことなので、夏侯淵も典韋も気にしていない。
「あのでかい人・・・お知り合いなんですか、秋蘭様(夏侯淵の真名)?」
「む、そうだ。昔、1度だけだが共に戦ったことがある。・・・褚猪は一度あった事があるな。」
そういわれて、同じく曹操の親衛隊である褚猪は考え込んでから、
「あー! あの時の兄ちゃんかあ!」と思い出した。
そう言われても、彼のことを知らない典韋である。つい曹操に聞いてしまった。
「その高順と言う人、どんな人なのですか?」
「そうね・・・甘すぎるわ。そして、その甘さに人が集まってくる。不思議ね男ね、異民族でも差別せず周りに置いているのだから。」
劉備とは違う形の甘さで、現実を見ながらも結局甘い決断ばかりするような男だ。
その甘さがあるからこそ劉備同然に人が集まってくるのだろうか。彼もそうだが、彼の周りに集まった人材も魅力的な者が多そうだ。
「ふふっ、欲しいわね。あれを引き抜けば一気に我が軍の陣容は厚くなる。」
理と利を得るために、董卓の政治状況を知りながらも出陣してきたが・・・利、の部分は相当大きそうだ。
「得られれば」という仮定の話でしかないから「そうも言っていられないか」と曹操は自戒した。
思案する曹操を他所に、夏侯惇と荀彧は威嚇行動を始めている。
「なんだこらやんのかー!」
「きぃぃいっ! あんたなんか、あんたなんかー!」
「・・・・・・はぁ。」
いつも仲の悪い夏侯惇と荀彧の罵り合いを見て「・・・高順、この2人の仲立ちして宥めてくれないかしら?」と割と心底から思う曹操。
それより、と曹操は気を引き締めた。
(前よりは実力は上がってるのでしょうね、高順。倚天と青釭を与えたのよ、成長していなければ許さないわ。)
「むがー!」
「むきー!」
「おいおい、姉者も荀彧もいい加減にしないか。」
「うっさい秋蘭は黙ってろこいつころすぜったいころすー!!」
「やれるもんならやってみなさいよこの胸太りー!」(夏侯淵沈黙
「・・・・・・・・・。」
・・・やっぱり、成長してなくてもいいから来てくれないかなぁ、と心底から思いなおす曹操であった。


~~~孫策の陣~~~
前三者は気楽なものだったが、直接対峙する孫策たちにとってはそれどころではなかった。
孫策も周喩も、駆けてくる騎兵部隊の先頭を走る武将が高順だと一瞬で看過している。
孫権は陣を建て直して迎え撃つつもりのようだが、それは甘い判断と思えた。
駆け下りた直後に見せた一撃。それで何人もの兵士が斬り飛ばされたのを見て、「不味い!」と直感したのである。
孫策は傍らにいる周喩に怒鳴るように命令を出そうとした。
「周喩っ!」
「解っている! 後曲の祖茂殿と韓当殿へ伝令、左翼孫権殿の陣を援護、急げっ!」
周喩もほぼ怒鳴るような感じだった。伝令も急いで祖茂と韓当の陣へと走っていく。
「周喩、私も出るわよ!」
「ああ、親衛隊も投入する。伯符(はくふ、孫策の字)は・・・何、「私も」って・・・」
「留守は任せたわ!」
「な、何っ!? 待ちなさい、伯符!」
ここで待っていろ、と言う前に彼女は飛び出していった。
(まったく・・・大将としての自覚を持て、とあれほど張紘殿に言われているものを・・・)
張紘というのは、孫家の軍・政助言者の1人でよく孫策が前線に出たがるのを諌めている人物だ。張紘も孫尚香のお守りとして残留している。
こうなれば、自分がここで全体を見るほか無さそうだ。
(しかし・・・高順め、随分と成長したようではないか。)
自軍、というよりも最初に犠牲になったのが袁術兵だったので多少は余裕があったのかもしれない。周喩はそんなことを思った。
前に出会ったときもそれなりに強かったのだが、今の斬撃を見れば相当に鍛錬を積んで前以上の実力をつけたのが理解できた。
それに、彼に付き従う騎馬隊の突進力ときたら。
逃げ惑う袁術軍はともかくも、孫家の兵士までもが一方的に飲み込まれて行く。
兵士では彼らの勢いを止めることができないのだ。孫策も、それを感じ取ったのだろう。
しかし、祖茂と韓当が攻めていくし、それに親衛隊にも腕利きがいる。
近頃迎えたばかりだが淩統(りょうとう)・宋謙(ソウケン)という武将がいて、両者ともにかなりの腕だ。
高順の武才は上がったかも知れないがこれだけの将が、そして孫策が向かったのならば問題はないだろう。
孫権も決して弱くはないし、孫家随一の使い手である甘寧もいるのだ。すぐ討ち取る事もできるだろう。
いや、捕虜にして本人が望めば孫家の将として取り立ててやってもいいのかもしれない。
孫策が渋るかもしれないが、彼と、彼の率いる騎馬隊は魅力がある。
歩兵はともかくも、精強な騎馬隊を持たない孫家では彼らのような手合いは喉から手が出るほど欲しい存在だ。
だが、周喩はすぐに思い知ることになる。
自分の見通しが甘かった、ということに。


~~~孫策軍・左翼~~~
高順はまっすぐに孫権と甘寧を目指して突き進む。
その右隣には楽進、左には沙摩柯。
華雄と徐栄の救援として蹋頓、その配下の中隊長である潘臨(はんりん)・楊鋒(ようほう)も向かわせた。
高順の後ろには2千数百の兵士が続き、袁術軍の兵士を一方的に虐殺している。
高順・楽進の第一撃目の凄まじさに、ほとんどの兵士が恐怖、混乱したのである。
あっさりと崩され、右往左往する袁術軍を蹴散らし、あるいは無視して進んでいく。
それに比べれば、孫策軍の兵士は混乱をしてもすぐに立て直すように方陣を組んで孫権を守ろうとしている。
さすが孫策殿や周喩殿が鍛えた兵だな。と高順は感心してしまっていたが、曹操でも劉備でも公孫賛でも、恐らく同様の動き方をしたのだろう。
高順の前に立ち塞がる兵士もいたが、虹黒に蹴り倒されて吹き飛ばされるか三刃槍の餌食になるか。
楽進の拡散気弾で倒れた兵士も多かっただろう。
高順・楽進・沙摩柯が突き進み、兵士もそれに続く。

その勢いを見て、孫権は華雄の首を諦めた。自軍の兵士達もあの勢いに飲まれて少々浮き足立っている。
「甘寧、行くわよ!」
「はいっ!」
2人は徐栄と華雄から視線を外して、兵を吹き飛ばして猛進してくる部隊に向かって反撃を仕掛けようと進んだ。
武将が前に出て兵の士気を高めるという意味合いもある。
彼女達は徒歩、馬上からの攻撃を防ぐのも討つのも苦労するだろうが甘寧も一緒なのだ、なんとかなると考えていた。
見れば、高順と孫権の距離はほんの僅か。指呼の間であった。
目の前の騎馬武者は、あの馬鹿でかい槍を構えて斜め上から切り払うような一撃を繰り出してきた。
(速いっ・・・でも、受け止めれば、横から甘寧が・・・)
孫権は母から受け継いだ「古錠刀(こていとう)」という刀を構えて防御する。
「・・・がっ!?」
がきぃん、という音がしたと同時に孫権の体は凄まじい勢いで地面に打ち倒された。
高順の振るった槍の威力に耐え切れず、叩きつけられたのである。
「くぅっ、一撃が重い・・・!」
それでもすぐに態勢を立て直して追撃に繰り出された斬り払いを防ぐ辺りはさすがと言うところだろうが、ここで孫権は下がって逃げるべきだった。
高順の攻撃を防いだはいいが、そこで身動きが取れなくなってしまったのだ。
(ぐぅう・・・何だ、この重さは・・・? 馬の体重も加えての一撃なのか、重さが・・・なくならない!)
孫権は刀を構えて、横から払われた一撃を防いでいる。そのままの姿勢で、両者共に動かない。
いや、孫権の場合は「動けない」のだ。表情にも余裕はなく、押し返そうとしてもびくともしない。
それなのに、目の前の騎馬武者は・・・面当てをしているので全ては解らないが気負いが無い様に感じる。本気を出していないのだ。
しかし、まだだ。まだ甘寧がいる。
瞬間、甘寧が凄まじい跳躍力で飛び跳ねて高順の頭上から襲い掛かる。
「はあああああっ!」
甘寧は雄叫びを上げて手にした幅広の刀「鈴音(りんいん)」で高順に斬りかかる。
高順は、というと甘寧に気がついたようでチラリと一瞥(いちべつ)したが・・・すぐに孫権に視線を戻した。
(・・・っ、この男・・・!)
私を無視するとはいい度胸だ。いいだろう、後悔する暇も与えぬよう一瞬でその命を刈り取ってやる。
甘寧は目の前の荒武者(孫権も甘寧も高順の事を知らない)に、致死の斬撃を叩きつけ・・・ることができなかった。
「なっ・・・!?」
甘寧の一撃は、すんでのところで防がれていた。
それを防いだのは沙摩柯。そして彼女の武器である鉄疾黎骨朶(てっしつれいこつだ)。槍のように長い柄の先端に大量の鉄製の棘がついた凄まじい武器である。
甘寧の全力と、殺意の全てを込めた一撃は沙摩柯が左腕で構えた鉄疾黎骨朶であっさりと防がれていた。
沙摩柯は余裕の表情で笑みを浮かべつつ口を開いた。
「お前の相手は・・・。」
「っ!」
「私がしてやろう!」
そういって鉄疾黎骨朶を振り回して甘寧を大きく弾き飛ばした。
「チィッ!」
弾き飛ばされた甘寧は空中で態勢を立て直す。が、彼女の着地地点を予測して突撃を仕掛けてきた沙摩柯の一撃が振るわれる。
沙摩柯の一撃を身体を捻る事で避けて、先ほどのお返しとばかりに刀で沙摩柯の頬を切り裂いた。
「ふむ? それなりにやるようだな。」
切り裂かれた軌道に沿って血が飛ぶが、沙摩柯はまったく気にしていない。
甘寧は鉄疾黎骨朶の棘のない部分を蹴り飛ばして、1度大きく後方に跳ぶ。
その先にいた逃げ惑うばかりの袁術軍の騎兵を蹴り飛ばし、馬を奪って沙摩柯に並走する。
沙摩柯は利き腕でない左側を取られて不利なはずだが、やはり余裕綽々だ。
可愛い真似をするじゃないか、と鼻で笑ってさえいる。
「はっ。」
「おのれ・・・」
甘寧は鈴音で斬り付けていく。
「わが鈴の音色・・・黄泉路への道標と思えっ!」
「ふん、鈴の音如きが人を黄泉路へ送ることなどできるものか。それと、余所見をするなよ?」
「貴様っ!」
甘寧の攻撃をあっさりと防いで、沙摩柯も攻撃を開始した。


高順は、完全に孫権の動きを封じていた。
周りにいる孫策軍の兵士が孫権を救うために向かってくるが、楽進や高順騎馬隊の兵士に阻まれてしまって突破できない。
「き、貴様ぁっ・・・」
この状況で、高順は少し迷っていた。
張遼に言われた事なのだが、自分はどうも見栄と言うものが足りないらしい。
現在着用している鎧もその指摘を受けて作成された代物だが、言動も自信が無さそうに感じる、というのだ。
「もう少し、戦場でも気の利いたこと言ってみ?」とか言われたのだが・・・それを今、一生懸命考えている彼であった。(戦場で随分気楽である
「おのれ、余裕を見せるかっ・・・貴様、何者だ!?」
「ぇーと・・・俺の矢を一寸の差で避けるは、まさに乱世の吉兆!」
「なっ・・・吉兆だと!?」
(うーわ、言っちゃったよ。何も思い浮かばないから蒼○の曹操さんの名言の1つ出ちゃったよ!)←絶賛後悔中
そこへ、孫権の陣から一番近かった祖茂とその軍勢が救援に駆けつけた。
「孫権様ーーー!」
真っ先に駆けてくる祖茂。
少し話を変えるが、孫策軍は経済的に大変貧しい状況だった。
黄巾の乱で手柄を立てた孫策だったが、その後ろ盾となっている袁術はそれが面白くなかったようで、騎馬隊や軍需物資を召し上げたりと色々な嫌がらせをしていた。
孫策はめげずに、それ以降も幾度も手柄を立てたりしたのだがそれは認められず、更に嫌がらせを受けることになったり。
その為に、孫策軍の将兵で馬に乗っているものは非常に少ない。孫権や甘寧、祖茂といった高級将校ですら戦場では徒歩である。
話を戻して、祖茂は刀を構えて高順へ向けて突撃する。
だが孫権は「無理だ」と悟っていた。母、孫堅四天王の1人である武名高い祖茂でも、目の前の男には敵わないと。
「無理よ、祖茂! 退きなさいっ!」
孫権はなんとかして祖茂を止めようとした。そして、それは間に合わなかった。
祖茂に向かって楽進が突進、手甲に取り付けられた刀(ジャマダハルに近い)の一撃で首を切り飛ばされて即死した。
「く、祖茂・・・!」
祖茂ほどの武人、目の前の男であればともかく、その供回りの兵士にすら勝てない・・・。


~~~孫策軍・右翼~~~
右翼で華雄隊の兵士を散々に討ちとっている黄蓋も、孫権が追い詰められていることに気がついていた。
そして、孫権を追い詰めている異形の鎧の武将が高順であることにも気がついている。
強くなったものだ。やはり自分の目に狂いはなかった、と誇りたい気持ちはあったが、今の状況では討たざるを得ない。
少し躊躇していたが・・・その矢先、祖茂が討たれるのが見えた。
自身の弓に矢を番えて高順の頭に狙いを定める。
(くっ・・・惜しいのじゃが・・・許せ、高順よ・・・!)
惜しみつつも、矢を放たんとしたその時。
先ほど孫権の陣が受けたように喚声と同時に「後方」から一斉に矢が降り注いできた。
その喚声が、黄蓋の狙いを毛筋ほどの差でずらした。
そのまま飛んでいった矢は、高順の兜の片側についている角を中程から打ち砕いたが・・・。
多少の衝撃はあったようだが、高順はたいしたこともない、とずれた兜を自由になっている左手で元の位置に戻した。
黄蓋は矢を外した事もだが「まさか・・・」と、ぞっとしつつ後ろを振り返る。
彼女らの後ろにあるのは、反対側の孫権の陣同様「急斜面」だ。
その急斜面を、駆け下りてくる部隊があった。
趙雲率いる騎馬隊2千である。
「あれは・・・趙雲か!? 不味い状況で・・・!」
・・・まさか、これも高順の差し金か? ・・・いや、考えている場合ではない。
「迎え撃て!!!」
黄蓋は兵を反転させて趙雲隊を迎え撃つ構えを見せた。

「はっはっは、黄蓋殿もさすがに慌てているな!」
趙雲は大笑している。
彼女達の役割は、高順同様に斜面を駆け下りて孫策軍右翼を撹乱することであった。
高順が突撃したと同時に行くべきではないかと考えていたが、高順の指令では「右翼の注意が左翼へ向いたときに突撃をして欲しい」というものだった。
上手く行くかは半信半疑だったが、下にいる部隊の慌てぶりを見れば大当たりだったようだ。
「そういえば、黄蓋殿と会うのは黄巾の乱の後・・・これで2度目か。あの時は味方で今は敵・・・因果なものだ。」
まあいい、あの御仁とも一度手合わせをして欲しいと思っていた。ちょうどいい機会かもしれぬ。
「さあ、閻柔、田豫も付いて来るのだぞ!」
「ひいい、こ、怖いっすー!」
「無理っす! 絶対無理っすよーーー!」
言いながらも、ちゃんと趙雲に続いていく2人であった。


~~~徐栄・華雄へと派遣された救援隊~~~
「徐栄さん、華雄さん、無事ですか!?」
孫家の兵を蹴散らしつつ、蹋頓は2人を確保した。
蹴散らした、といいつつもそれなりの損害があって、孫家の兵士の精強さが解る。
「蹋頓さん・・・ああ、私は無事だけど・・・華雄様が・・・。」
徐栄は華雄を抱きかかえて言葉を詰まらせる。
華雄は意識を失っていた。出血が思いのほか酷く、致命傷ではないものの放っておけば不味い事になるだろう。
「そうですか・・・解りました。・・・はいっ!」
向かってくる兵士を突き倒して、蹋頓は視線を巡らせた。と、そこに袁術軍の兵が乗り捨てたのか、それとも兵士だけが討たれたのか。
馬が一頭立ち尽くしている。
蹋頓は徐栄を馬まで誘導し、部下に守らせながら汜水関へ向かい始めた。
徐栄は声を張り上げて味方を鼓舞する。
「聞け、華雄隊兵士よ! 華雄様は無事だ! 全軍一丸となって汜水関まで退け、あとは高順・趙雲隊が引き受ける! 命を粗末にするな、なんとしても生還せよー!!」
徐栄は仲間を叱咤しつつ、蹋頓と共に汜水関へと向かう。
華雄の無事を理解した兵士達は、士気を少しずつ取り戻したのかなんとか持ち直して孫策軍を押し返し始めた。
袁術軍に足を引っ張られている孫策軍も、上手く対応できずに手を焼いているのだろう。
程普も何とか退かせまいと部下を鼓舞するが、少しずつ集結して汜水関へと突破を図る華雄隊を押しとどめることが難しくなってきた。
同時に、銅鑼が鳴り響いて汜水関の門が重い音をあげて開いていく。
怒声を挙げて騎馬隊が突撃を開始する。張遼が軍勢を率いて華雄隊の救援に出向いたのだ。
このまま下がれば名が廃ると思ったか、高順達まで見捨てる事に気が引けたのか。
どちらにせよ、これが大きな転機となった。両挟みにされては手の打ち様がない、と程普は即時決断。
兵を引いて後退した。
さて、その最中だが、華雄が一時的に意識を取り戻した。
「っ・・・く、うう・・・」
「華雄様、気がつかれましたか!?」
「うっ・・・ああ・・・今、状況はどうなっている・・・?」
「・・・現在、我らの軍勢は大きな損害を受け汜水関まで撤退中です。」
「そう、か・・・くそ、私のせいで・・・う、くう・・・、そうだ、他の奴らはどうなった・・・?」
華雄の言葉に、徐栄は血が滲むほどに唇を噛んだ。
「樊稠(はんちゅう)・李粛(りしゅく)は無事に合流。しかし、胡軫(こしん)は乱戦の中、私を庇って・・・。」
立派な、最後でした。と徐栄は付け加えた。
(・・・そうか、胡軫が・・・ぐっ・・・。すまん、胡軫。私が挑発に乗せられた為に・・・)
後悔しながら、華雄は痛みと出血の疲労でまた意識を失った。


~~~孫策軍・左翼~~~
「く・・・ぬぅっ・・・」
何度も何度も押し返そうと腕に力を込める孫権だったが、すべて徒労に過ぎなかった。
何とか甘寧の援護が欲しいところだが・・・ふと見れば、甘寧はこちらに気を取られたのか馬から叩き落されて追い詰められている。
完全に、打つ手がない。
韓当や姉である孫策も向かっているかもしれないが、ソレよりも前に自分は命を失っているだろう。
孫家の復興を目にすることなく死ぬことになるなんて、と孫権は半ば絶望していた。
さて、高順だが・・・彼も彼で困っていた。
彼の目的はあくまで「華雄の身柄を確保して退く」でしかない。
それさえできれば孫家に用はないのだ。
見たところ、趙雲は右翼の黄蓋隊を押しまくっているし、蹋頓も華雄達を無事に関まで送っている。
張遼がそのまま残留していて、援護をしてくれたのは嬉しい誤算だったが・・・誤算と言えば、自分自身の状況もまた誤算だった。
何というか自分が思うよりもあっさり敵を黙らせてしまったのだ。
目の前の少女が「甘寧」やら「祖茂」やら言っているのは聞こえていたのだが、その2人もあっさり自分の仲間に討たれるか無力化している。
(おかしいなぁ・・・目の前の人、多分孫権だと思うけど。祖茂も甘寧も相当な勇将のはずなのに・・・あれ?)
ふと視線を彷徨わせてみると、孫策がこちらに向かっているのが見えた。
同時に、楽進が高順の傍まで来て「隊長、華雄殿は無事退かれたと・・・我々も退くべきでは。」と進言してきた。
それほど多くはないが、孫策の率いる部隊だ。孫家の精鋭中の精鋭だろうし、自分の部下達も戦いで疲労しているだろう。
「よし、潮時だな。俺達が退けば趙雲殿も退くだろうしね・・・じゃ、行くか!」
高順は三刃槍を引いて、虹黒の背に楽進を引っ張りあげて汜水関へ駆け始めた。
楽進は驚いて「わ、た、隊長!?」と驚いているが、にやりと笑って孫権に背を向けた。
「き、貴様・・・! 何故私を討たん!?」
その背中に、孫権が怒声を放つ。
少し迷ったようだが高順は振り返って、
「・・・俺達の目的は達成した。あんたの首に興味はないよ。見逃してやる、とは言わないけど・・・そうだな、周喩殿に言っておいてくれ。」
「何・・・貴様、周喩と知り合いなのか!?」
「どころか孫策殿や黄蓋殿とも一応顔見知りだよ。あの人たちに恨まれたくないし・・・じゃない、「これで黄巾の時の借りは1つ返した」ってね。」
「黄巾・・・?」
これ以上は興味がない、とばかりに虹黒を駆けさせた。
「待てっ! 我が名は孫権! 貴様の名を聞かせろっ!」
「あんたの姉上か周喩殿・黄蓋殿に聴けば解るさ。 沙摩柯さん、撤退です!」
高順の声に、沙摩柯は「ふむ。」と答えて同じように馬を駆けさせる。
孫権と同じように、甘寧も地面に叩き伏せられていた。
「おのれぇ・・・私の首に興味はないというのかっ・・・」
「ああ、ないな。主君の危機に気を取られて自分の事が疎かになるような奴ならば尚更だ。」
「っ・・・!」
「もう少し強くなるのだな、甘寧とやら。」
それだけ言って、沙摩柯も部隊を纏めて退いていく。
右翼を押していた趙雲も、高順の撤退を見て「深追いは不要だ」と判断。
あっさりと退き始めた。
後から追いついた孫策は妹の無事を確認して追撃を仕掛けようと考えた。だが兵士達の疲労も大きく、これ以上は利益がないと判断。
兵を退かせた。


結局、孫権と甘寧は見逃される形で命を拾ったが・・・当人達は凄まじく怒っていた。
その怒りは、力不足である自分達へのものと、自分達を「討つべき敵」とすら見ていなかった高順達へのものである。
回りの者は「命があっただけ良かったとおもうべきだ」と慰めてくれたが、それで収まるはずもなかった。


~~~孫策・本陣にて~~~
「皆、すまない。今回の負けは私の判断が甘かったせいだ・・・!」
周喩は軍議の席でその場に座り、深く頭を下げた。
「お、おやめくだされ、軍師殿・・・。」
「左様、此度の敗北は軍師殿のせいではあるまい。」
韓当と程普が深く頷いて周喩を立たせようとする。
「だが、私の判断の甘さで祖茂殿を、多くの兵を失わせてしまった。その上孫権殿と甘寧・・・下手をすれば黄蓋殿もだ・・・。」
黄蓋は趙雲に挑まれ、不利な状況で何とか押し留まったが・・・負傷してしまって他の陣幕で治療を受けている。
孫策は黙って聞いていたが、彼女は「自分にこそ責任がある」とも思っていた。
「あんなものは予見できないわ。あの斜面を駆け下りてきた事、あの部隊の攻撃・突破力を甘く見たこと。反対側にも兵を伏せてあった事・・・。」
どちらかと言えば、斜面から突撃を仕掛けられた事よりも、突撃を仕掛けた部隊、にこそ問題がある。
まさか高順があそこまで・・・と思うのと同様、その周りを固めている配下の強さも予測外のことだった。
黄巾の時は高順の能力だけしか見ていなかったが、思い返せば楽進という武将は油断ならない攻撃力の持ち主だった。
甘寧を一方的に打ち負かした沙摩柯の存在もまた、予測できない事だ。
あそこまで袁術軍に足を引っ張られるとは思いもしなかったが。「これでまた難癖つけられるわね」とそちらも懸念するべき事態だ。
今回の敗因は「情報不足」が第一だ、と周喩も孫策も考える。
(袁術のせいで増員が出来ないのが難だが・・・やはり周泰(しゅうたい)のみでは広い範囲で情報を得ることは出来んな・・・)
情報を重視していながらも、その情報を得る手段が少ない事は周喩にとって頭痛の種の1つだ。
なんとかして、細作の数を増やして多くの情報を得られるような土台を作らなくては、と周喩は思い決めていた。
そこへ、黙り込んでいた孫権が挙手をした。
「・・・どうしたの?」
「姉上、周喩・・・あの鎧の男のことを教えていただきたいのです。周喩と姉上に聴けばわかる、と。周喩に「黄巾の時の借りは1つ返した」と伝えろと・・・」
「彼・・・高順ね。」
立ち上がった周喩も「ああ、高順だろうな。」と答えた。
「高順・・・どういう男なのです。借り、とは?」
「それはワシが答えよう。」
腕に包帯を巻いた黄蓋が陣幕の中へ入ってきた。
「黄蓋・・・大丈夫なの?」
「策殿も心配性ですな、無論心配は不要。・・・さて、高順じゃが。」
黄蓋は逐一説明した。
黄巾の乱の時に共闘した事。敵将の首を無理やり譲ってきた事。「借り」の事。自分と周喩が「良い将になる」と思ったことなど。
「まあ、あそこまで腕を・・・いや、将才を上げているとは思いもせなんだわ。」
と、黄蓋は締めくくった。


軍議が終わってからも、孫権は陣幕に残っていた。
孫策、周喩、黄蓋、甘寧もいる。
「どうしたの、蓮華(れんふぁ、孫権の真名)」
「姉上・・・どうか、次の戦いでは私に先鋒を!」
孫権は懇願したが、孫策は首を横に振った。
「無理ね。貴女では高順に勝てないわ。」
「そんな! どうか機会をお与えください!」
「権殿、落ち着きなされ。」
「祭(さい、黄蓋の真名)・・・。貴女も私に実力がないと・・・そう言いたいの!?」
「誰もそこまで言っておりませぬが。・・・いや、実力の差がある、というよりも今の貴女では無理、ということですかな。」
「どういう意味よ・・・!」
孫権は思わず黄蓋に詰め寄った。頭に血が上ると周りが見えなくなるのは孫権の悪い癖である。
公明正大で、王者としての度量を備えている孫権の数少ない悪癖の1つだ。
「そこですな、そうやってすぐに怒りで周りが見えなくなる。それで軍の指揮など出来よう筈もありませぬ。まして自分を守ることすら適わぬでしょうな。」
「う・・・。」
「・・・指揮云々はともかく。」
「冥琳(周喩の真名)、貴女まで・・・。」
「恐らく、正面からいっても勝ち目はありません。軍勢の少ない今では、相手の消耗を狙うしかないでしょう。」
「そうね。・・・これだけの負けを喫したのだから。これから、私達に出番が来ることはないかも知れないわね・・・。」
孫策は、これからの自分達に活躍の場が与えられないかもしれない、と嘆いた。
(高順。・・・次にあったときは必ず私の手で!)
(・・・沙摩柯と言ったな・・・忘れんぞ・・・!)

更に夜が更けて。
孫策・周喩・黄蓋の3人はあれこれとこれからの指針を決めていた。
なんとか次の戦いで挽回をするしかない、という結論に至ったが、そこで黄蓋が「ああ、忘れるところであった」と言いだした。
「祭殿、どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたか、ではないわ、冥琳。忘れてしもうたか?」
「忘れた? 何をです。」
怪訝顔の周喩に、黄蓋は「はぁ~」とため息をついた。
「策殿と賭けをしたであろうがよ。高順が良き将となるか否か。」
「・・・ああ、そういえば。どちらの目が正しいか、だったわね。」
(・・・やばっ。)
話題が自分に不味い方向へと向かった、と孫策はこっそりと陣幕から逃げようとしたが、黄蓋に襟首を「むんずっ」と掴まれた。
「え、えぇと・・・わ、私そろそろ寝ようかなぁ、と思ってるんだけど。」
こわばった笑顔を浮かべて孫策は誤魔化そうとしている。
「まあ、その前に1つ話をしましょう、策殿。・・・ライチ酒の件、よもや忘れておりますまい?」
「いやぁ、でも、あれだけで成長したとは言えないんじゃないかなぁ、あ、あははは・・・やっぱ駄目?」
「ふぅ。雪蓮(しぇれん、孫策の真名)、諦めたほうが良いわよ。」
「うぐっ、冥琳まで・・・。」
「では聞くけど。その成長してない武将にあそこまで陣をズタズタに引き裂かれたのは誰かしら?」
「・・・私達です。」←何故か正座している孫策
「1年も2年も前の「借り」を覚えていて、その「借り」を返すために、いつでも殺せたはずの孫権殿と甘寧を見逃したのは誰かしら?」
「・・・。高順です。で、でも祖茂がっ」←まだ正座中
「祖茂殿を討たれた事は辛い事ね。思うところが無いではないけど、それは戦場に生きる者として仕方のないことよ。」
うー、と唸る事しかできない孫策。
「ワシとしても、苦楽をともにした仲間ですからな、辛い事は辛いですなあ。」
「今の状況で言うべき事ではないことだけどね。・・・まぁ、ここで白黒をはっきりとつけるのも悪くはない。」
さあ、どうする?と2人に迫られた孫策はがっくりと。
「・・・謹んで、2人にライチ酒を贈らせて頂きます。」
項垂れて、今回に限れば自分より周喩達の目が正しいことを認めたのだった。





こうして、高順は一応と言う形ではあるものの孫策軍に勝利した。
孫家の兵士には「奴らの勝利はただの偶然に過ぎない」と言う者がいた。
「呂布、張遼、華雄だけだと思っていたのだが・・・趙雲に続いて、とんでもない武将がいたものだ」と言う者もいる。
以降、高順は孫家の将兵に畏怖の感情を持たれたか、「隻角の鬼」だの「髑髏龍の荒武者」だの「鬼高順」だの、凄まじい渾名を付けられてしまう。


~~~汜水関~~~
「ふぇっくし!」
「うわ、ばっちぃ!?」
そんな渾名を付けられた事など知るはずもない本人は、汜水関で張遼に対して盛大にくしゃみを放っていた。




~~~楽屋裏~~~
沙摩柯さんが強すぎます、楽進も強すぎます、高順も強くなってます、えっちは良くないと思います、あいつです(どんな挨拶だ

高順くんは一方的なまでに孫権さんに勝利いたしました。
孫権も弱くは無いですが、高順+虹黒。では相手が悪すぎたでしょうか。
沙摩柯さんは・・・甘寧に対してのリーサルウェポンですからねえw
それと、惇さん久々の出番。でも扱いが酷いと思いつつも楽しんでいる私はどS(自分で言った

孫策・周喩・黄蓋に認められて孫権に逆恨み(?)されてしまった上におかしな渾名をつけられた高順くん。
彼の明日はどっちでしょう。
あと、断言しておきますが、華雄とのXXXはありません。
あーりーまーせーんー。(お



さて、次回は・・・どうなるかな。虎牢関に退くかな?
その前にもう一つほど戦いがありそうですけど・・・

では、次回お会いいたしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第49話 汜水関・四戦目
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/07 13:51
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第49話 汜水関・四戦目

「いやあ、あのまま見捨ててくのも気が引けるやんか? それにやな、順やん死なれると後が大変や思うてなぁ。」
なははは、と張遼は照れ隠しするように笑った。
最初こそ「華雄を見捨てて虎牢関に退くべき」と主張していた彼女が、結局は退かずに高順達を援護したのは、そんな理由なのだという。
自分の男を見捨てるのも嫌だし、とも加えたが、死なれると後が大変・・・というのも張遼の偽りのない理由だった。
3人娘・趙雲・沙摩柯・蹋頓・閻柔・田豫。彼女達は「高順がいるから」董卓軍に所属しているだけの人々である。
張遼とは仲が良いし、華雄もそうなのだが、もしも高順と言う要が失われれば、楽進達はあっさりと董卓軍を離脱するであろう。
下手をすれば張燕も掌を返す事も考えられる。
それを思えば、「見捨てるべきではない」という結論は間違ってはいない。

華雄軍の被害は2万弱の内、3千ほどの死傷者と胡軫の戦死である。
孫策・袁術の混合部隊も両軍合わせて2千ほどの死傷者に、孫策軍の勇将である祖茂が戦死している。
どちらの部隊も大変な被害である。孫策軍は袁術軍と合わせての数だが・・・やはり、元々の軍勢が少ないので割合から見れば華雄軍よりも被害が大きくなってしまう。
その為に、彼女達は一度退いて他の諸侯に陣を譲る事になった。袁術は癇癪を起こしていたが。
しかしながら、どの諸侯もやる気がない。
劉備・曹操・公孫賛は次の虎牢関が決戦の場になると考えて戦力温存を図ることにしたようだ。
目の前の汜水関を落さなくては話にならないのだが・・・それこそ、それに対しては孫家が燃えている。
決戦の場を自分達で獲ってしまえばいいのだ、と孫家が攻め立てるのを待つ三者であった。
ただ、面白くないと思うのが袁紹であった。
「雄々しく! 華麗に!そして美しく進軍ですわー!」があっさりと覆されたのだから。
劉備か曹操あたりを当てて董卓側が疲弊したところで、汜水関を「自分の軍で」陥落させたい袁紹だったが、それが上手く行きそうにないのだ。
さあどうする、と悩んでいたところ孫策から「もう一度攻めさせて欲しい」と打診してきた。

汜水関でも、「これからどうする?」ということを各将が協議している。
張遼は「もう時間は充分稼いだのだから直ぐに退くべきだ。」と主張していた。
彼らの任務は「一週間は時間を稼ぐ」ことであって、汜水関を守って死ぬことではない。
強硬派であった華雄も負傷して暫くは戦えないし、なんとか戦力を疲弊させないまま退くということは理に適っている。
ここで1つ問題がある。
「誰が殿(しんがり)をつとめるのか?」だ。
華雄は前述の通り、指揮する分には可能だが、もしも乱戦となれば・・・傷が癒えていない今では無理だ。
張遼も、先頭にたって部隊を指揮するべき立場。
そうなると、自動的に高順が妥当と言うことになってしまう。
「てな訳で、順やん。殿お願いしてもええ?」
「・・・お願いも何も、拒否権はないですよね解ってます。・・・でも、俺の部隊だけじゃすぐにばれますよ。騎馬隊しかないですからね?」
「わーってるって。趙雲と楽進、あとうちの部隊からも兵貸すから。せやさかい、ある程度時間稼いだらとんずらや。ええな?」
「はいはい、解ってますって。・・・華雄姐さんを助けていただいたんですから、それくらいはやらせていただきますよ。」
はぁ、と高順はため息をついた。
「にゃはは、頼むで、順やん。それよか、きっちり退くんやで。」
「はい? なんで念を押しますか。」
「そらあんた。・・・んふふぅ、言わすん? 真昼間に?」
にんまりと笑う張遼。
「はぁ?」
「うちは順やんに貸し作ったし? そらもう「借りを返す」意味でのご褒美が10や20くらいあってもええと思うけどなぁ♪ 主に閨的な意味で。」
「ぶふーーーーっ!?」」
この言葉に、楽進・趙雲・蹋頓の目が「きゅぴーん」と光った。
具体的に言うと (☆ω☆)キュピーン ・・・こんな感じに。
高順に貸しを作れば閨でムフフ・・・という公式が彼女らの頭の中でできたかどうか。
にっひっひ、と笑って高順に擦り寄る張遼。
「なっ、張遼さん! 今は軍議の席ですよ・・・なぁっ! 何をしますか!?」
「ええやんかぁ、ちょっとくらい♪」
うりうり、と迫る張遼を他所に、嫉妬とか何かのオーラを放つ3人。
・・・真面目な軍議で何をしているのかと子一時間。
結論、高順は趙雲・楽進部隊と張遼から貸し与えられた二千ほどの軍勢と共に汜水関を守る。
機を見て逃げろ・・・という事になった。

~~~華雄の寝室~~~
「ども、姐さん、大丈夫ですか?」
高順は軽い口調で部屋に入った。
「あ・・・高順か。」
「・・・おお、よく来たな。」
寝台には華雄、傍らには徐栄がいる。
華雄は強がって「大したことはない」と言っているが、関に運び込まれた時点では割と危ない状況だった。
楽進の気癒術で傷を塞ぎ、流血を止めたことでなんとか持ち直したほどだ。
特に腕の傷が酷くて暫くは戦うことも出来ないだろう。
徐栄が献身的に介護をしており、命に不安はなくなったのだが・・・
かわりに、自信を失いかけていた。
これほどの負け戦になるとは思っていなかっただろうし、これまで自分を支えて来てくれた四将の一人である胡軫をも失ったのだ。
しかも、自分の判断の誤りのせいで。
相当堪えたのだろう、落ち込んで中々部屋から出てこない。
「あ、これからどう動くのか決定したんで知らせに来ました。やっぱり、予定通り虎牢関まで退くそうです。」
「そうか・・・。」
「で、華雄姐さんの軍勢は張遼殿と一緒に先発してください。勿論徐栄さんもですよ。」
「・・・何? お前はどうするんだ?」
「殿です。最後まで残って時間を稼いでから撤退です。」
「は? ・・・おい、ちょっと待て。お前の部隊だけでか!?」
「はぁ。趙雲殿と楽進もいますし、張遼殿から兵を回していただけるとか。守るだけなら何とでもできますよ。」
「・・・。いいか、死ぬなよ、絶対に死ぬな。生きて戻って来い、これは命令だぞ!」
掴みかからんばかりの勢いでまくし立てる華雄に、高順も少し驚いた。
「そんな怒鳴らなくても、こんなとこじゃ死にませんよ。いや、死ねません。まだまだやりたい事もありますしね。」
特に気負うでもなく、高順はあっさりと言いきった。
「なら、いい。・・・くそぅ、今回の戦じゃいいとこ無しだ。挑発にあっさり乗ってしまうし、そのせいで大切な部下を何千も無駄死にさせて・・・ぐすっ。」
色々と思い出してしまったのだろう、華雄はしゅん、と落ち込んで涙声になった。
「ああ、もう。らしくないですね。・・・ほら、ちーん。」
「・・・(ぶびぃぃぃっ)・・・ぐすっ。」
高順は、泣きそうになる華雄の鼻に紙を押し当てた。
華雄も素直に従い鼻をかむ。
「じゃあ、俺はそろそろ行きますね。徐栄さん、後はお願いします。」
「ん、任せろ。」
紙をくずかごに捨てた高順は部屋を出ようと華雄に背を向ける。
「あ、高順。あの・・・だな。」
「はい?」
「そ、その・・・ありg「失礼します。」・・・。」
華雄の言葉を遮るようにして部屋に楽進が入ってきた。
「あれ、楽進。・・・あ、そっか。治療の時間だったか。」
「はい、本来ならば私も華雄殿についていって癒術を続けたいところなのですが・・・。」
「・・・。」
礼を言おうとしたのを邪魔されて、華雄は少し不機嫌そうだった。
そんな彼女を見て、徐栄は忍び笑いをしている。

その後、数日かけて彼女達は虎牢関へと向かって撤退していった。
一度に大移動をすれば当然気付かれるであろうから、少しずつ小出しにしての移動である。
幸いと言うべきか、連合軍の大半の諸侯が攻めようとせず様子見ばかりをしていたので何の妨害もなく撤退は進んでいく。
こうして残留した高順達であったが・・・。
「むぅう・・・撤退予定日に限って戦意の高い方々が・・・。」
汜水関城壁の上で連合軍の様子を見ていた高順はそんな感想を口にした。
高順の目の前に展開する部隊、そして翻る旗は「孫」の一文字。
前の戦でなんとか撤退させた(と高順は思っている)孫策軍である。
ただ、本来ならば共にいるはずの袁術軍の姿はない。
今回は袁術軍と合同で来るつもりはないのか、それとも単純に足手まといと思ったか。
「まずいなぁ・・・もしかして、こっちが撤退中ってばれてるか? なにせ孫策殿には三国志最強軍師の周喩殿がいるし・・・。」
時刻は既に夕方であって攻めてくるのは明日になるのだろう。それとも、そう思わせて夜中に攻撃を仕掛けてくるか。
高順は兵士達の半数を眠らせ、もう半数を防衛に当たらせる事にした。
孫策軍の兵士は数も少なく、3千程度もあれば「守るだけ」ならば可能そうだ。
現状で一番油断ならない相手であるし、随分消極的な守り方になってしまう事にも不安はあるが、こちらも手持ちの兵力が少ないので仕方ない。

~~~孫策の陣~~~
「・・・攻撃をするのは明日早朝。全部隊、兵を休ませておくように。」
孫策は陣幕で各武将に命令を下した。
「ふぅ。もう一度機会がくるとは思いもしなかったわ。・・・これで戦果を出せなければ、孫家の名声も地に堕ちるわね。」
傍らにいる周喩に、孫策は思わず愚痴をこぼした。
「らしくないわね。なんとしても勝たなければならない戦よ。」
「そうじゃな、策殿らしくありませぬ。」
「解ってるわよぉ・・・。」
周喩と黄蓋は不満そうに口を尖らせた。どうも前回の負け戦の影響が大きいらしい。
(全く・・・賭けに勝ったはいいけれど、その影響がこんな形で。恨むぞ、高順。)
周喩は、高順に対しての評価が当たった事には満足していたが、そのせいで負けを喫したこともあって複雑だった。
自分達はこんなところで歩みを止める訳には行かない。
孫策の先代である孫堅の遺志を継ぎ、そして孫家の版図であった江東を平定・・・その先にある、自分達の理想へと進み続けなくてはならない。
もっとも、その障害となる存在は多いようだ。
孫策も感じたことなのだが、曹操辺りは間違いなく障害となる相手だ。
その前に袁術からの独立をしなければ話にならないが、その前に董卓・・・いや、この場合は高順か。
随分と高い壁になったものだ・・・。
何にせよ、ここを抜かなければどうにもならない。
周喩はずっと汜水関を観察し続けて「大部分の兵が撤退した」ことを看破している。
高順が残留していることも解っている。そうなると残留兵力は3千か4千か。どう見積もっても1万以下。
ならば防御を考えず全てを攻撃に叩き込めば何とかなる。
孫策軍の兵は少なく、落とせたとして被害が大きくなるのも理解しているがこれまでの失態を覆すにはそれだけの覚悟も必要になる。
そして、と周喩はその先を考える。
「汜水関を落として、できることであれば高順を捕縛、孫家の将として登用する。」
高順の攻撃能力、その配下の武将の能力、彼らに従う騎兵隊。
あれを何とかして自軍に吸収したい。
そうすれば、此度の被害以上の収穫となるだろう。
孫策も、彼らの実力を見た以上は部下にすることに異論は唱えないだろうし黄蓋も反対をすることはない。
不安があるとすれば孫権と甘寧だが、直に手合わせをした彼女達も、高順隊の戦力を「侮るべからず」と思っているはずだ。
反対意見もあるだろうが、全て抑えきってみせる、と周喩は決意していた。
だが、彼女は1つだけ見落としている事があった。
この時に、孫権は動き出していた、という事を。


~~~深夜~~~
汜水関の城壁の上で、楽進はじっと孫策の陣を見つめていた。
交代制ということで兵士と武将が二交代で見張りをしているのだ。
まさか、夜中に攻撃を仕掛けてくるとは思いもしないが楽進から見ても連合軍で一番戦意が高いのは孫家の軍勢だと思っている。
用心するに越した事はない、という高順の言葉も理解できた。
「・・・ん?」
ふと、楽進は異変に気がついた。
汜水関城壁は松明の明かりで照らされており、常に連合側の動向を警戒している。
明かりがあるからこそ解ったのだが、孫策側から100か200ほどの軍勢が向かってきたのだ。
先頭には前回の戦いで高順に負けた少女・・・楽進と変わらない年齢だろうか・・・がいて、隣には沙摩柯に敗北した浅黒い肌の少女もいる。
その少女は、矢が届かぬほどの位置で部隊を停止させてから、配下に松明と、松明を固定するための台を設置させた。
「あれは・・・一体何をしているんだ・・・?」
楽進の疑問に答えたわけではないが、少女はすぅっ、と大きく息を吸い込んでから大声で叫んだ。
「高順! 聞こえているか、高順ーーーー!」
「!?」


孫策の陣でも騒ぎになっていた。
「ちょっと、あれってどういうこと!? 何で蓮華が・・・。」
孫策は怒鳴るが、答えが返ってくるわけではない。
見張りは何をしていたのだ、と思っていたが、周喩が兵に事情を問いただしたところ見張りの兵が共に付いて行ってしまったのだとか。
「どういうことだ・・・。」
まさかとは思うが、高順と一騎打ちでもするつもりか?
いや・・・確か見張りは元々、甘寧の部下の「錦帆賊」と呼ばれる水賊の1人だった。
(だからか・・・!)
周喩は不味い、と直感した。
多分、という推測だが、孫権は高順に負けた事を恥じて一騎打ちで勝負を付けたいと思ったのか。
軍勢同士の戦いでは負けたが、本人からすれば不意を突かれての敗北だと思ったのかもしれない。
総攻撃になれば、乱戦で一騎打ちなどできない。それでは雪辱を果たせない・・・思い余って、こんな暴挙に出たのだろうか?
そうなれば相談できる人物など、孫権の側周りである甘寧以外にいないだろうし、甘寧が命じれば「錦帆賊」の連中はあっさりと従うだろう。
孫権の悪癖が妙な感じで露出した。頭に血が上りやすい人だし、それを危惧してはいたが・・まさかここまで。
よほど頭にきていたということか。
「くそっ、完全に見誤ったか・・・! 雪蓮、直ぐに軍勢を動かすぞ、こうなれば」
「不要よ。放っておきなさい。」
「・・・何?」
「あの子が高順に勝てるわけがないじゃない。無駄だからやめなさい。」
冷たく言い放つ孫策。
「本気か? 蓮華殿を「自分の後を継ぐ存在だ」と言っていたのは貴女でしょう!? それを」
「だからこそ、よ。こんな簡単なことが解らないようでは私の後を継ぐなどできるはずがない。・・・無謀の代価を払うのは自分自身よ。」
「雪蓮、貴女・・・!」
「短慮の果ての行動。その結果の責任・・・人の上に立つ以上、やってはいけない事がある。あの子はそれをしてしまったのだから。」
その上で、孫策は黄蓋に「蓮華が負けたら、貴女の弓矢であの子を討ちなさい。虜囚の辱めを受けるよりはマシよ」とまで命じた。
命令を受けた黄蓋は愕然としたが、孫策が怒り、本気で言っていると考えて陣の前に立って弓に矢を番えた。


「聞こえているか、高順! 我が名は孫権! 貴様との一騎打ちを所望する。臆さねば出て来いっっ!」
「・・・孫権? ということは孫策殿の血族か?」
楽進は、一応孫策のことを知っている。(黄巾の時に共闘している。
さあ、どうしたものか、と考える楽進だったが、孫権の声に応えるように高順は城壁の上に姿を現した。
「あ、隊長・・・。」
「夜中に大声で。・・・で、何事?」
「何でも、一騎打ちを望む、とか。」
一騎打ち? と疑問系で聞きながら高順を孫権を見据えた。
100か200か知らないが兵士の前で仁王立ちする孫権の表情は真剣そのものだ。
本気で挑みに来たな、と確信した。
「この松明が消えるまで待つ、降りて来い!」
「・・・・・・。」
降りて来い、と言われても降りる理由がない。
他人ならばともかく自分は臆病者と呼ばれてもかまわないし・・・。でもなぁ・・・。
「・・・まぁいいか。楽進の部隊は動ける?」
「は? はい、全員動かせますが・・・。」
「よし、じゃあ行くか。ま、急ぐ必要はないさ。松明消えかけてからでいい。それまでは適当にダラダラしとこう。」
「ダラダラって・・・。」
やる気があるのか無いのか解らない高順の言い草に、楽進は少しだけ肩を落とした。

孫権は腕組みをしてじっと待っていた。
松明の火も消えかかっているが、あの男が逃げるとは思わない。
それは解っているが、焦れて仕方がない。
「蓮華様、あの男は出てくるでしょうか。」
傍らにいる甘寧の言葉に孫権は頷いた。
「出てくるわ、絶対に。・・・必ず勝つ。」
孫権は、基本的に知・政の人だが武の素養もある。姉である孫策には勝てないが、粘り強い戦い方ができる。
彼女は高順の強さが「馬上だからこそ」という事実を見抜いていた。
一撃が重いのは、踏み込んでくる馬の体重が加わっているのだ、と考えている。
ならば馬から降ろせば勝機はある、と踏んだのだ。
何とかして馬から引き摺り下ろして対等の条件で戦えば・・・ということだ。
そう考えたところで、関の門が開いた。
「むっ・・・。」
あの巨馬に跨った男・・・間違いない、高順だ。その横にいる女は祖茂を討った武将だ。
が、高順は兵を500ほど引き連れている。
「ふん、臆病者め。随分遅かったな?」
孫権は古錠刀を高順に向かって突きつけた。
「ああ、すいません。飯食ってたもんで。」
「むぅ・・・」
舐めきった言い方に少しだけイラついたが「安い挑発だ、乗るものか」と呟いて気持ちを落ち着かせる。
「とにかくだ、一騎打ちを申し込む。そのつもりで出てきたのだろう? 正々堂々と勝負!」
「・・・やれやれ。お互いに兵士を引き連れている時点で正々堂々も何もないと思うけどな。」
さて、と言いつつ高順は虹黒から降りた。
「何・・・?」
「あんたは徒歩、俺は騎乗。不公平だからねぇ。」
「貴様っ・・・私を虚仮にするか!?」
孫権としては「思惑通りにいったのは良いが、どうしても軽んじられている気がする」と思うだろう。
「虚仮にしてないよ、馬鹿にしてるだけです。」
「ぬっぐぐぐぐ・・・。」
孫権は完全に挑発にのってしまっていた。
対して、高順は涼しい顔をして三刃槍を地面に突き立てる。
「・・・!?」
「自分は刀なのに相手が槍だから負けました・・・なんて言われたくもないしね。こっちも剣で行かせてもらいます。」
言って、高順は左肩鎧にマウントされている倚天の大剣を引き抜いた。幅広の大剣である。
「余裕だが・・・それが何時までもつか楽しみだ!」
言い捨てて、孫権は斬りかかって行った。

甘寧は、孫権と高順の戦いをじっと見ていた。
自分が出て行くべきだったかもしれないが、本人が一騎打ちを望んでいるので手を出す訳にも行かない。
甘寧から見ても孫権の武才は悪くない。高順とやらが馬に乗っていなければ勝てるかもしれない、と思っていたが・・・。
それは、すぐに甘い考えだと解った。
孫権は果敢に向かっていき、何度も何度も斬撃を放つのだが高順はそれを悉く、それもあっさりと受け止める。
胴を払うと見せかけて、足を払うように狙った一撃を放ったときは思わず「いけるか!?」と思いもしたが、高順は剣を地面に突き刺して孫権の一撃を防いでしまった。
延々と孫権が攻め続けているが、息が切れてきたのだろう、肩で息をしはじめた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・くそ、何故当たらない・・・?」
「そりゃ、そんなに無闇に振り回してるだけじゃ当たるものも当たりませんよ。」
にも拘らず。あれほど重そうな鎧を着ている高順は疲労を見せない。
「それで終わりですか? では、今度はこちらから行きますよ。」
言うが早いか、高順は倚天の大剣を振りかぶって大上段から斬りつけた。
孫権は後ろに下がって避けるが、高順はすぐに間合いを詰めてくる。
「くっ・・・このぉっ!」
孫権は距離を詰めた高順の首を狙って(孫権から見て)右から刀を払った。が、高順の斬撃が刀を打ち据える。
「つぁっ・・・!?」
凄まじい衝撃に右手が痺れて力が入らなくなる。その上、背中には大岩があって半ば追い詰められた姿だ。
それからは一方的な戦いが続く。
高順の攻撃は、当初一呼吸につき一撃・・・だったのが攻撃回数が徐々に増えている。
しまいには一呼吸で四回もの斬撃を繰り出してきた。
(ここまで、力の差があっただなんて・・・!)
完全に高順の力を見誤った、としか言いようがない。
先ほど刀を打ち据えられたがその時は「孫権が先に斬りかかった」のだ。だというのに、後出しの高順の放った攻撃のほうが先に届いてきた。
攻撃速度・威力共に完全に負けている。
このままでは・・・と、焦った瞬間。
高順の一撃が古錠刀の刀身を中程から叩き斬った。
「なっ・・・馬鹿な、母上が遺して下さった古錠刀が・・・。」
「古錠刀?」
えーと、それっと確か・・・孫堅の愛刀の古錠刀? すげー名刀じゃないか・・・。
(うーん、悪い事したかな・・・。)
と、高順は少しだけ後悔した。高順も亡き丁原の刀を大事にしている。
大切な人の遺した物を失う、というのは堪える物だ。
見れば、武器を失ったことで戦意を喪失したのか、勝ち目がないと思ったのか。
孫権は折れた古錠刀を見つめて呆然と立ち尽くしている。少しして孫権は諦めたように大人しくなった。
「私の負けだ。・・・斬りなさい。」
この言葉に、甘寧や兵士が孫権を守ろうとして動き始める。
楽進も彼女達の動きに反応したかのように兵を展開させるが・・・高順は、それを片手で制した。
「やめときなよ。ここで動いても得るものはないよ、特に孫権殿がね。」
とは言うものの。この状況をどうするかなぁ、と高順は悩んだ。
攻撃させれば孫権も甘寧も討てるだろう。だが、高順にはそんなつもりがない。
迷った挙句・・・高順は孫権に背を向けた。三刃槍を引き抜いて関に退こうと歩き始める。
「き、貴様・・・1度ならず2度までも私を見逃すというのか! 私の首に価値などないと言いたいのかっ!?」
孫権を一軍の将として認めていない、欲しいと思うほどの首ではない・・・高順の態度は、間違いなくそんな物だった。
恨まれるのは仕方がないとしても、追い掛け回されるのは勘弁してもらいたいな・・・と思って振り向く高順。
孫権は心底怒っていた。表情を見ればそれが解る。
高順はまたも迷った。
(どうしよう・・・これじゃ、また同じことをやらかしそうだし・・・こんな無茶で振り回される兵士もかわいそうだ・・・。)
俺がやったら、説教じゃなくて「SEKKYOU」になるんだよね・・・と僅かに考えた高順だったが「ええい、ままよ」と心を決めた。
わざと冷たく突き放すような口調で言い始めた。
「兵が哀れだ。」
「何?」
「兵が哀れ、と言ったのさ。あんた、孫策殿の妹だろう? その割にゃ随分出来が悪いな。」
「出来、だと・・・!?」
「そうだろ? 自分の怒りに振り回されて自分の部下を巻き込んで。挙句みっともなく負けて部下まで道連れにしようとしてるんだ。出来が悪いと言い切って何が悪い?」
「・・・! 言わせておけばぁっ!」
素手にも拘らず高順に掴みかかろうとする孫権の鼻面に、倚天の大剣を向ける。
「くっ。」
「言わせてもらうさ。それとも自分は有能だと? 俺が一騎打ちに応じずに部下をけしかけてたら、あんたらは全滅してただろ。そんな所を見落とす奴の出来が良い筈ないだろうよ。」
高順は、そのまま倚天の大剣を孫権の顔に・・・ではなく、孫権の後ろにある岩に思い切り突き刺した。
数瞬の後、一本の矢が剣の柄部分に命中した。
「な、何!?」
「・・・はい?」
孫権と高順・・・いや、兵士達もだが、一斉に矢の飛んできた方角へ顔を向けた。
遠くてよく見えないが視線の先に孫策の陣があり、1人の女性が矢を放ったことが見て取れた。
高順と孫権の距離の間辺りを狙ったのだろう。(孫策は、孫権を討たせるつもりだった
「ふぅむ、味方・・・いや、孫策殿からも見捨てられたかもね。」
「う・・・。」
確かにあの姉なら失態を犯した自分を許しはしないだろう。
とくに、後に孫家を告ぐ立場の1人である自分の失策であれば。
「はぁ・・・兵が哀れなら貴女も哀れだ。見逃してやる。・・・古錠刀の代わりになるか解らんが、その剣を貸す。女性が丸腰っていうのは危険なのですよ?」
高順は剣の鞘も孫権に放り投げた。
「き、貴様は何を考えている。敵である私の命を助けた上に剣を貸す・・・? そんな馬鹿な話があるか!」
「今実際に起こってるからあるんですよ。周喩殿にもう1度伝えておいてくれ。「これで借りは纏めて返しました」ってね。」
「っ・・・また、周喩への借りか・・・。」
「ちゃんと主君の後を継ぐ人として修行しなよ。・・・じゃあね。」
「お、お前に・・・私の何が解る!」
背を向ける高順に、孫権の自棄から出た言葉をたたきつけた。
「解る訳ないだろう。俺は王族でもないし実力者の子弟でもない。」
これ以上は自分が踏み込む領域ではないのだと思う。先ほどの「SEKKYOU」も今の彼女と過去の自分が重なって見えたからだ。
高順は呂布に斬りかかる事で朝敵となり、仲間達に苦労をかけた。いや、今でもかけ続けている。
孫権は己の怒りで無謀な行動に出て、自分と兵士の命を失いかかった。
立場も状況も全く違うが、自分はそのせいで苦しんでいる。
彼女も彼女なりに自分の立場と重責に苦しんでいるのかもしれない、と思いもする。
「貴女は王者としては劉備に敵わない。覇者としては曹操にも孫策殿にも敵いはしない。今のままではね。」
「劉備・・・曹操?」
孫権は2人のことを良く知らない。
「怒りに囚われるな、怒りを受け流せ。最低でも家臣の前で無闇な振舞いはするな。負けるにしても死ぬにしても、後に繋がる闘いに・・・なんてね。偉そうに言う立場じゃないのだけれど。」
「家臣・・・次に繋がる戦い方を・・・。」
呟いた孫権は甘寧達のほうへと顔を向けた。
「貴女は王道を進む王者か、それとも覇道を突き進む覇者か。・・・答えが出た頃に、その剣を返してもらうとするよ。まぁ・・・」
俺みたいな奴を屈服させられないような人がどちらになれるか、なんて解りはしないけどね。
高順はそれだけを言って汜水関へと退いていった。
「・・・王者、覇者。どちらになれるか、それともなれないのか・・・。」


孫権は甘寧らと共に帰陣したが、その後が大変だった。
孫策の怒りは本物で「首を叩き斬る!」と愛刀「南海覇王」を持ち出すわ、周りの重臣が孫策を抱えて何とか止めようとするわ。
短慮の末の行動であり、情けをかけられた上におめおめと逃げ帰ってきたのを許せるか、というのが孫策の言い分で、それに対しては孫権は何1つ言い訳はしなかった。
周喩・黄蓋・程普・甘寧などが全力で(?)命乞いをしてなんとか収まった。
孫権は高順の言うとおり、「これで周喩に全て借りを返した事」を伝える。
周喩は「まったく、あの男は・・・」と呆れていた。

早朝、孫策軍は汜水関に攻撃を開始。これ以上は後がない、とばかりの勢いで攻め立てる。
いつもなら汜水関に篭る軍勢も激しく抵抗をするのだがどうにも反撃が緩い。
あまりの緩さに孫策側は「まさか罠でも?」と疑い、夕刻に近いためもあって一時的に後退して様子を見た。
高順も、撤退の機を見ていたが「ここしかない」と、急いで軍勢を纏めて門に閂をしかけてから一目散に虎牢関へと退き始めた。
撤退中、横に並んだ楽進が高順に「隊長! 軍需物資は宜しいのですか!? 全て持っていくことが出来ませんでしたが・・・!」と聞いてきた。
「ああ、ある程度は仕方ない、連合にくれてやるさ。そんなもんよりも速さ重視。急ぐよー。」
「は、はぁ・・・。」
 
結果、孫策軍は大した損害もなく汜水関一番乗りを。
高順もそれほどの被害無く撤退を完了させたのであった。


~~~汜水関~~~
おかしな事になった、と孫策は嘆息した。
孫権は高順に二度も見逃されるし、その高順のおかげで汜水関一番乗りの名誉に与る事ができたし・・・。
それが自分達の実力で為した事でもないので、嘆息どころか不愉快そのものだ。
が、反面で「よくも周喩への借りとやらを延々覚えていたものだ」と僅かに感心した。
義理やら人情やらがあまり意味を為さない時代に、そういう所を芯に持って生きるというのは、誰であれ大したものだ。
あの甘さは未だに危険なものに見えるのだが、その甘さで妹の命が救われたのだし・・・と評価していいものか悪いものか。
「雪蓮。」
「ん・・・何よ、冥琳。」
考え事に没頭していたために、孫策の反応が僅かに遅れた。
「各諸侯も汜水関へ入った。総大将殿は随分ご立腹だったようだがな。」
「総大将? ・・・ああ、袁紹ね。放っておけばいいわよ。どうせ自分が一番乗りじゃなかったのが不安ってだけでしょ。」
「ふっ、だろうな。まったく、関1つで随分足止めされたものね。」
「全くよ。被害を抑えて利を得ようとしたのに根底から覆されたわ。」
「そうだな・・・ふぅ。」
汜水関一番乗りを果たした事で、ある程度面目が立ったと言えなくはないのだが、高順隊を捕縛する事はできなかった。
こちらの目論見をよくもまあ完全に打ち崩してくれたものだ。
「ところで、蓮華はどこ行ったの?」
「ん。視察をしてくると言っていたから・・・城壁の辺りを歩いているのではないか?」
「そう、なら良いのだけどね。」
「雪蓮。本当に貴女は蓮華殿を斬るつもりだった?」
「うん。」
「随分とあっさり言うのね。」
周喩はやれやれ、と大げさな身振りをした。
「そりゃ、孫家の顔に泥を塗ったんだから。折角高順が見逃してくれたし、皆今まで以上に頑張って働くって約束してくれたらそれで手打ちにしたのよ♪」
「・・・悪女め。」
「そりゃどーも、褒め言葉ね♪ ま、冗談としておくとしても、あの子にとっちゃ良い経験になったでしょ。その辺りだけは高順に感謝しなくちゃいけないかもねー。」
「何だ、結局は雪蓮も彼を評価してるじゃない。」
「ばっ・・・! 何でそうなるの!?」
「さあ? それよりライチ酒、楽しみにしてるわよ?」
「・・・・・・。はい、頑張らせていただきます。」


~~~汜水関・城壁~~~
周喩の言ったとおり孫権は城壁の上にいた。横には甘寧が控えている。
孫権は鞘に納められた倚天の大剣を握り締めて西の空を見つめていた。
―――あの男は、私を王者にも覇者にもなれない、と言った。―――
劉備・曹操という名が出ていたが、孫権はその二者をよく知らない。
覇者としての孫堅・孫策を知るだけであるし、自分自身は姉から「あんたは王たる者になりなさい。」と言い聞かされている。
そのせいでもなかろうが、孫権は周りから言われて王を目指す、という所があった。
誇り高き孫家の一人であり、それもまた当然だ。と思いながらも心のどこかで「ただ、そういう姿を求められているだけなのではないか」とも考えていた。
周りから求められて、漠然とした考えしか持てなかった彼女だったが、高順の「SEKKYOU」に、激怒しながらも感じるものがあった。
自分の怒りに付き合って死に掛かった甘寧と兵士達。それだけでも恐れるべき事だが、それを民に置き換えてみたら・・・と考えれば更にぞっとする。
ソレくらいの事はすぐに解るものなのだが、頭に血が上ると周りの見えなくなりがちな孫権にとっては今回の件は良い教訓となった。
(高順、忘れないわ。そして、私を認めさせてやる。お前1人認めさせる事ができない私が、どうして王を名乗れようか。どうして民を納得させる事ができようか・・・)
今まで孫権の中にあった「誰かに認められたい」という半ば消極的な考えが、「認めさせてやる」という積極的なものへと変貌しつつある。
甘寧は、孫権が何も喋らない事を不思議がった。いや、怒気すら発していない、と言うほうが良いかもしれない。
厄介な事でもお考えになってるのだろうか、とそっと横から表情を覗き見る。
しかし、そんな心配は無用らしい。
孫権の表情は、どちらかと言えば憑き物が落ちたようなものに見えた。
これまでは眉間に皺を寄せていた事が多い孫権の、久々に晴れやかな表情だった。

孫権は、西の方角をじっと見つめ続けていた。
日が沈み、夜の薄闇が降りてきた空を。





~~~楽屋裏~~~
どうも、文章力は中の下どころか下の下だと思います、あいつです。(挨拶
ハーレムは嫌ですかそうですか、という言葉に発奮して(中略)XXXネタ全て投棄(中略)そんなもんより本編進めろよNOW(中略)エロローグです(何これ?
それは置いとくとして・・・
「ちょ、あんたの作品すげえ叩かれてるから見てみwwww」といわれ検索したところ。
「うはwwww叩かれすぎwwwwこれはもう死ぬしかwwww」な感じになりました。ウツダシノウ


ま、半分冗談ですが(え?

SEKKYOUがきました。
でもこれくらいは良いよね、同じ痛みを知るからこそのSEKKYOUだからいいよね!?
これで孫権さんが王者として開眼するかどうか・・・。いや、するんでしょうけどw

さて、やっとこ汜水関終了です。
次からは虎牢関ですねえ。・・・どうしようかな。


ではまた次回に。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第50話 虎牢関・幕間。(ちょっと追加
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/14 15:02
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第50話 虎牢関・幕間。

張遼・華雄に続き、高順隊。
汜水関から退いた面々は一応、無事に虎牢関(ころうかん)にたどり着いた。
この虎牢関には無傷の呂布・干禁・李典隊が残留しており、総兵力は4万弱。
撤退を終えた汜水関の軍勢を含めれば6万を越える。
洛陽守備隊は2万ほど。長安には1万もいないが、これは漢中・西涼の軍勢が攻めて来ないだろう。と言う賈詡の読みだ。
長安は、洛陽よりもよほど守りやすい。
前漢の首都でもあった長安は洛陽よりも厚い城壁に囲まれた山間都市。
それゆえに交通が不便だという欠点はあるが、よほど下手を打たない限り落ちることは無いだろう。
そう読めばこそ、長安守備隊の大多数を洛陽・虎牢関に回したのである。
それを思えば高順と馬超の(親が勝手に決めた)婚約もそれなりの価値があったのかもしれない。
少なくとも、西涼の馬騰が攻めて来ることはないのだ。

~~~虎牢関~~~

無事にたどり着いた高順・趙雲・楽進隊。
彼らを出迎えたのは呂布、張遼であった。
「・・・無事。」
「おお、順やん、皆ー! ちゃんと撤退できたみたいなやな。」
呂布は笑いもしないが、雰囲気から彼らの無事を喜んでいるように見える。
高順本人はまだ敵意が消えないのだが、呂布は高順らをきっちり「仲間」と認識しているようだ。
「・・・まあ、何とか。李典と干禁はどこに?」
「おお、向こう側で投石機の準備しとるで。あの子らも順やん達の事心配しとったさかい、顔見せたり?」
「そうさせてもらいますよ、皆は?」
高順の言葉に、楽進が「私も行きます」と答えた。
他の者は疲労しているのか休息したいらしい。
同じように兵馬を休ませてくださいね、とだけ言い、高順と楽進は関の中へと入っていった。

李典と干禁、両名は張遼の言うとおり投石機の設置準備をしていた。
忙しそうにあれこれと指示を出していたが、高順と楽進の姿を見て「おおー! 高順兄さんに楽進やんか!?」と抱きつかんばかりの勢いで走ってきた。
干禁も「あ、ずるいの!」と言いつつ走ってくる。
「そんな走ってこなくても逃げやしないよ。仕事は順調?」
「なはは、あったり前や! と言いたいところやけどな。工程の7割くらいやな。」
「7割?思ったより少ないじゃないか。」
「うっさいわ楽進。・・・ま、思った以上に進んでへんのは事実やな。」
李典と干禁は振り返って設置準備で忙しそうに動き回っている人々を見た。
「兵士の家族も手伝ってくれるよって、進捗ちゅうか速度自体に問題はあらへんけどなぁ・・・。材料来るの遅いねん」
「その辺りの理由を話すの。一緒に来るの!」
と、疑問を聞こうとした楽進を干禁が押していく。
「あ、わ、ちょっと。押さなくても行く! 押すなー!」
「ほらほら、急いでなの!」
「・・・慌しいね。」
2人の様子を見ていた高順は素直にそんなことを言う。
「なはは、そら2週間も顔合わさずやからな。あいつも寂しがってたし。・・・ほな、うちらもいきましょか。」

そう言って、連れて行かれたのは李典の部屋。
適当に座ってや、と李典がいうものの、何に使うか良くわからない機材やら資財やらが所狭しと置かれている。
どこに座ればいいのだろう・・・とは言わず、皆思い思いに座ったり、壁にもたれたりする。
こほん、と咳払いをした李典はこれまでと一転して声のトーンを落として話し始めた。
「ええか、今から話すことは他言無用や。絶対話したらあかんで?」
それほど重要な事らしい。全員、頷く。
「よし。・・・楽進は知らんと思うけど、うちと干禁・・・高順兄さんにちょっとした仕事を任されててな。」
「仕事? それは一体。」
「内偵や。内部調査。」
「内部調査・・・何だ、それは。」
「ま、そのままの意味や。ほら、張燕はんから任された「影」が2人おるやろ。変な奴らやけど。」
ああ・・・そういえば、と楽進は頷いた。
「で、その2人が?」
「ん、高順兄さんの言いつけで洛陽内部の状況を色々調べとったんやけどな。・・・正直に言う、逃げの準備するべきやね。」
「・・・は!? 逃げ!? どういうことだ?」
我々は負けている訳では・・・と、言いかけたが直ぐに押し黙った。
楽進のいう「負け」は反董卓連合に対してのもので、李典のいう「逃げ」は洛陽の内部事情だということだからだ。
「続けてええか? ・・・あ、こっから先は干禁のが詳しいな。うちは投石器とかの作成・設置に忙しかったからな。頼む。」
干禁は、了解なの! と答えて語り始めた。
「まず、洛陽内部で反乱が起きそうなの。」
「ほぅ、反乱か。反董卓派の人々?」
「高順さんの言うとおりなの。名前が挙がっているだけで・・・王允(おういん)・士孫瑞(しそんずい)・黄琬(こうえん)・楊彪(ようひょう)。他にいると思うけど、それは眭固に調べてもろてる。」
「へぇ、漢王朝における高位の役人ばっかじゃないか。」
ここで1つ補足をすると、董卓は史実のように「相国」という立場ではない。
あくまで現状、武官として最上位の「大将軍」という立場でしかない。
彼女が軍のみならず政まである程度関係しているのは、洛陽の軍事権のほぼ全てを握っている事に、中央の役人が遠慮をしたせいだ。
他の理由としては、前政権で政治(のみならず、ある程度の軍事も)を掌握していた十常侍が一気に消え去り、袁紹の宮殿襲撃によって更に多くの朝臣が死んだからである。
そのせいで、名が有名であっても内実に乏しい人々ばかりが残ってしまった・・・ということもある。(王允は能力もある。
彼らは十常侍派、というほどでもないが急に表れて帝の信頼篤い董卓という存在。
董卓本人の能力は皆無と言っていいが、彼女の知恵袋である賈詡。智者・勇将を揃えている董卓に嫉妬、或いは危惧したのだろう。
当然、賈詡も王允達の動向をある程度は掴んでいて、何とか押さえつけようとしたのだが・・・その前に反董卓連合と言うものが出来上がってしまった。
そのせいでそちらに集中せざるを得ない状態である。
「洛陽の守備兵力は約2万、で、一応「反乱軍」と呼称するけど、そちらの兵力は不明・・・多くはないと思うの。」
「ただなぁ、もう1つ気になる報せがあってな。これのせいで逃げの一手を、つうことになっとるんよ。」
「ふむ?」
「董卓派の人間で、王允側に通じとる奴がおる。誰かまではわからへんけどな。」
「・・・なるほどな。利で釣られた連中がいるってことか?」
「多分な。ここにいる連中。呂布やら張遼・華雄の姐さん連中ではない。董卓の親衛やっとる張済・張繍でもない。」
李典も干禁も、反乱軍の総兵力は多くないと踏んでいる。
部隊の指揮を実際にするのは張済達、その軍師として賈詡。負けはすまい、相手が「本当に」王允達のみであれば。
怖いのは、そこに協力するであろう連中だ。
誰かまでは知らないがもしも洛陽守備隊以上の兵力となれば・・・守りには向かない洛陽での戦闘と言うのは守備側にとって好ましいものではない。
「ふーむ・・・で、それは董卓達に知らせたの?」
「へ? 何で?」
高順の質問に李典は「何でそんな事せなかんの?」という表情を見せた。
「え、知らせてないの!?」
「何で知らせんとあかんの。賈詡は気づいてるやろし、それを覆されへんならその程度やんか。」
「いや、それは・・・うん、間違いじゃないから何とも言いにくいです。」
ここで自分達が勝てれば良し、負ければ董卓も滅亡と言うことだろう。
「・・・高順兄さんは人が良すぎるな、今更すぎやし何度も言うたけど。それ以前に、うちらはこれからの戦いに集中せんとあかんやんか。連合軍追い払ってから洛陽まで走ってそっから王允らを何とかすればええんよ。」
「いや、それ遅いんじゃないか・・・?」
賈詡には知らせてやっても良いのではないか・・・と思う。
彼女は董卓の友人であり忠臣だが、この時、彼女は朝廷を実質的に切り盛りしている存在だ。
つまり、朝廷にとっても忠臣である。
彼女が何もかも知らないはずはないだろうが、戦時下にある現状では全て見通せるか・・・というところはある。
恐らく、王允達は連合軍と歩調を合わせて行動を起こそうとしているのでは? くらいは思うかもしれないのだけど。
なるほど、数が少ないのなら連合軍が洛陽に来るのを待ってから・・・(もし、彼らが反乱を本当にたくらんだとして)王允らはそう考えているはず。
数で勝る連合軍ならば、虎牢関に篭る董卓軍を滅ぼせると思っても不思議ではないのだ。
だが、虎牢関には投石器もあれば呂布・張遼・華雄もいる。兵の数も増えて攻略が容易なはずが無い。
連合は汜水関を抜くのにアレほど苦労をしたのだ。虎牢関ならば更に攻略は難しいだろう。
「な、高順兄さん。」
「・・・へ、あ、すまん。何だい?」
考え込んだ高順に、李典はまた声を落として前々から思っていたことを聞きはじめた。
「ずっと考えとったんやけどな。高順兄さんは独立する気無いん?」
「は? 独立?」
「うん。ぶっちゃければ群雄として起たへんの?ってこと。」
「・・・また唐突だな。」
「そっか? うちだけやのーて干禁も楽進も考えとることやで?」
「なぬ?」
高順は思わず2人の方へ顔を向けた。
楽進たちは「何で言うかな!?」と言いたげな表情で李典を見る。
「むしろ、何で勢力起こさんかなぁ? と疑問に思うくらいや。こんだけの人材抱えてるねんで? 文官が足りん思うけど・・・烏丸・張燕はん・伯圭はん(公孫賛のこと。呼びにくいそうで、李典はこう呼んでいる)の後ろ盾。」
「ふーん、それさえあれば一勢力起こすくらい簡単だって言いたいのか。」
「簡単、とは言わんよ。」
「ま、無理です。俺にそんな器量はないしね。誰かが平和にすればそれでいいんじゃない?」
「せやったら、素直に曹操はんとかに臣従すればええんやないの。なんで董卓に仕えたりとかして自分から遠回りするんや?」
「痛いところを衝くなぁ・・・遠回り、というか状況的にね。今董卓を見捨てれば張燕様の立場が不利になる。連合に参加して無いし、どっちにしても辛いだろう。董卓負けてどこぞに逃げれば・・・はは、これも難しいかな。」
「むー。」
「で、曹操に仕えろというけど・・・それはやだ。」
「何でやの、そこがわかr「過労死しそうで絶対やだ! こき使われるの目に見えてる! 夏候惇さんにも恨まれてるだろうし、あんな人々に付き合ってたら体がもちません!(涙)」・・・あー・・・それは解る。」
李典には、高順の言い分が実に良くわかった。
ずっと前に、曹操の誘いを受けた3人娘が断った理由の1つに「なんとなくだけど凄まじくこき使われそう・・・」というものがあった。
有能であればあるほど「便利な奴だ」と思われて激務の最中に放り込まれるだろうから、高順一党が曹操に降伏すれば間違いなく。
軍政のどちらかでもとんでもない激戦区へ投入されるだろう。
ソレはどこの勢力でも同じ事だろうが、曹操の場合はもう苛烈と言っていいほどかもしれない。
高順兄さんなら乗り切れるような気はするんやけど・・・身体壊すやろなぁ・・・と、今更ながらに思う李典である。
「まあその話は保留にして、投石機の話に戻るんやけど。」
「何で戻るんだ?」
「最後まで聞き、楽進。投石器の準備が遅れた理由。・・・さっき言った通り材料送ってくる速度が遅いねん。」
「は!?」
先ほどは流してしまったが、その辺りは賈詡が手配しているはずだ。彼女にそんな不手際があるとは思えない。
「多分、王允達が邪魔しとるんちゃうかなぁ・・・とうちは思ってる。食料やら物資やら全般、予定より遅れてくることが多い。」
「いやらしいけど効果的だな・・・。」
「どんな手段使って邪魔してるかよぅ解らんけど、王允って爺さん司徒(宰相職)やからな。いくらでもやりようはあるやろな。まぁ、最終的な判断は高順兄さんに任せる。ここで連合追い返せばそれで済む話やしな。・・・一応、この話はここで終わり。絶対口外したらあかんで?」
李典が珍しく真面目な表情で言った。
「解ってるさ。さてと、少し休ませてもらっていいかな。疲れててね。」
「かまわんで? あ、せや。高順兄さん。」
「ん?」
部屋を出ようとした高順を李典が引き止めた。
「補給物資に、高順兄さん宛の荷物があったんやけど・・・あれ、何なん?」
「お、来たのか。中身見た?」
李典は不満そうに唇を尖らせた。
「うちをどんだけ無礼な人間や思てるねん。他人様のものを見るわけないやんか。そら、中身は気になるけど・・・。」
李典の言葉に、高順は「にひひ」と、彼には珍しく意地悪い笑みを浮かべた。
「すぐにわかるさ。あ、恨む場合は張遼さんを恨んでくれよ?」
「・・・?」
言っていることの意味が解らず、楽進・干禁・李典は首を傾げるばかりだった。

後日、高順は虎牢関に詰めている武将全員を呼んで「荷物」を見せた。
その「荷物」は2つのものであった。
先ず1つ目。マント(外套)である。
首で留めるタイプではなく、肩留めタイプのものだ。
肩で留めれる様に、と左肩に留め金を兼ねた肩鎧まで作成してある。(高順は呂布の分まで作らせている。
呂布のマントは緋色で、表側には金刺繍で「呂」。裏面にも同じく金刺繍で「飛」と書かれている。
彼女は飛将と呼ばれる勇将であるため、ソレに習ったのである。
張遼は紫に銀刺繍で「張」。趙雲は白地に蒼の「趙」。呂布同様、裏面に「昇龍」。
華雄は黒地に赤で「華」・・・といった具合に、各武将にマントを用意した。
楽進・李典・干禁・蹋頓・沙摩柯・(一応)高順にも。
そして、華雄直下の胡軫(こしん)・樊稠(はんちゅう)・李粛(りしゅく)・徐栄(じょえい)の分まで作成してあった。
華雄のマントと同様であるが、少しだけ丈を短くしている。
彼らは自分達の分まであるとは思っておらず、割と嬉しそうであった。
「胡軫殿の分は無駄になってしまいましたね・・・。」と、高順は寂しそうにいうことしかできなかったが。
ちなみに、胡軫の物は徐栄の願いもあって彼女に譲られている。
何故マント? と思うしかないが、これは前述の「張遼を恨め」という言葉に繋がる。
高順は、張遼の「もっと見栄を張らなあかん!」という言葉のせいで髑髏龍の鎧やら兜やらを着用する羽目になってしまった。
ならば、と高順も「じゃあ、皆さんにも見栄を張っていただきますよ!」とばかりにマントを作成したのだ。
「ふっふっふ、どうです。俺だって恥ずかしい思いをさせられたのですから皆さんにm「・・・良い。」・・・え!?」
呂布は嬉しそうに、マントをつけはじめた。
以下、反応。

張遼:「へー、なかなか良いやん? ちゃんと服の色に合わせてとか、順やんも考えたなぁ。」
趙雲:「悪くありませんな。しかも「昇龍」。それがしの字にあわせるとは・・・高順殿は良くわかっていらっしゃる。フフフ・・・(趙雲の字は子龍」
華雄:「まさか私だけではなく、部下達のものまで作るとはなぁ・・・私の旗に合わせた色だな。」
3人娘:(大喜び。)
沙摩柯:「・・・私には似合わないと思うのだが・・・折角作成してもらったんだ、使わせてもらおう。」
蹋頓:「(何故か高順のマントを抱き締めて)高順さんの匂い(;´Д`)ハァハァ」
高順:「(´・ω・`)アルェー・・・?」←考えた方向とは違う向きになってションボリ

1人だけ何か違う反応を見せている人がいるようだが気にしてはいけない。
「試しに」と言い始めて皆がマントを着用し始めており、全員満足そうであった。
全身鎧の楽進などが特にサマになっていたが、全員、肩鎧+マントが割と似合っていて・・・高順はまたしても「(´・ω・`)アルェー・・・?」と困り顔になってしまっていた。 
そして2つ目。
「旗」である。
これは、戦闘前に届くはずだったがマントと一緒になったらしい。
高順が見たところ、呂布達の旗はボロボロになっていて「あれはちょっと・・・」と思うところがあった。
華雄の旗などはあちこち擦り切れていて少々みっともないくらいだ。
その為、元々からある旗を参考にして職人に無理を言って急いで作ってもらったのだ。
呂布・張遼・華雄はともかく、高順一党の旗をどうしようかと思いもしたが・・・。
「一部隊を預かる身としては作るべきだよな」と、これまた全員の分を作らせた。敵意を向ける呂布の分まで作成したのは「やっぱ差別は良くないですよ、うん」と妙なところで平等な性格を発揮しただけのようだ。
ともかくも、楽進や趙雲等は自分の旗があることに喜んでいたのだが1人だけ「旗は要らない」と固辞した人物がいた。
蹋頓である。
3人娘もそうなのだが、蹋頓はあくまで自分の立場を「高順の副将」という立場に置いている。
楽進達は自分の独立した部隊を与えられているので、そうも言えなくなってしまったのだが、蹋頓は高順部隊の中の一部隊を預かる立場でしかない。
沙摩柯も同じだが、後の話ではあるが彼女も一部隊の指揮官として抜擢される事になる。
蹋頓も部隊を任されかかったが「私は高順さんの部下として以外に働くつもりはありません」と突っぱね、最後まで「高順の副将」としての立場に拘り、貫いている。
最終的に「折角作成したのだから、貰っておきなさい」と周りに言われて受け取り、一応使用するにはするのだが・・・あまり乗り気ではなかったようだ。


こうして、(高順にとって)読みが外れたり、洛陽内部の不安を抱えたりしながらも、虎牢関防衛部隊は連合軍を迎え撃つ準備を進めている。
反董卓連合軍が虎牢関に進撃してくるのはこの数日後であった。


~~~虎牢関~~~

「完全とは言えんけど、まぁしゃあないか。」
李典は、設置された投石機を見つめて呟く。
全工程の8割を終えた程度で、完全とは言えないが何とかなるだろう。
晋陽で使用していた簡易的なものではなく、設計を一から見直して更に精度、特に耐久性を強化したものだ。
酷使すれば壊れそうだった晋陽版とは違い、壊れる心配は無い。
それに、これにばかり頼るという事はないだろう。
鬼神呂布、華雄、張遼、趙雲・・・これだけ剛勇を持つ武将、6万の兵、そして難攻不落と謳われる虎牢関。
大兵力で攻めてきたら投石機で迎撃、数を減らしてから打って出る。
彼女達の攻撃能力があれば、投石器の攻撃でボロボロになった部隊などすぐに壊滅させられるだろう。
逆に、少数精鋭で攻撃されれば、投石器はあまり意味が無いと思うがそうなれば、それこそ呂布達の出番である。
連合軍がどれだけ攻め込んできても、現状で負ける要素、というのは見当たらない。
ただし。
補給が予定通りに行われるのであれば、という前提付だが・・・。


「ほ~・・・やっぱ何度見ても大軍勢や。人が溢れかえっとるでー・・・。」
直ぐそこに陣を張っている連合軍。張遼はそれを見慣れているのだが「やっぱ多いなー」とか言っている。
「・・・烏合。」
同じく連合軍の陣を見ていた呂布はボソリと呟いた。
「・・・烏合の衆、って事かいな?」
「(こくり)」
「ま、せやろけどな。」
張遼は、この口数の少なく、一見すれば何を考えているか解らない呂布の友人だ。
この人に対しては「もうちょい賢く生きれんかなぁ」と不安になってしまうことも多い。
前述のように周りからは「何を考えているのか解らない」と思われている呂布だが、実は案外に頭が良い。
戦場では嗅覚、とでも言うべきか。じっと人を観察している。
そんだけ物事見れてるのに、なんで順やんと仲直りできへんかな、とこれもまた不安だが・・・呂布は、高順に斬られる事で彼の怒りに謝しようとしている・・・ように見えることもある。
救いがあるとすれば、高順は「真正面から挑む」性質が強いという事だろう。
毒殺とか謀殺とか、そういうことを考えられない高順の性格なので大丈夫だろう、とは思っている。
(いつか仲を取り持ったらんといかんわな)と、張遼は考えている。
話を戻すが・・・呂布は陣を見て、持ち前の嗅覚を発揮したのだろう。
呂布ほどの武人ともなれば、陣を見ただけである程度戦意があるかどうか、くらいは見分けられる。
張遼達は実際に矛を交え、連合軍の挙動を見て理解したものだ。
そんな呂布が烏合、というのだからやはり、連合軍の戦意は高くない。
ただ、そんな連合軍の中でも戦意の高い武将・部隊はある、ということも呂布は理解している。
「ま、誰が攻めてこようとうちの偃月刀で蹴散らしたるわ。・・・いや、うちだけやのーて皆頑張ってくれると嬉しいけど。」
「・・・ん。」
張遼の言葉に、呂布は僅かに頷く。

~~~連合軍陣地~~~
場所は変わって連合軍。
虎牢関を最初に攻めるのは王匡(おうきょう)・孔融(こうゆう)・劉備の3者。兵数4万ほどが攻める事になっていた。
汜水関に比べれば部隊の展開がしやすい広さだが、それでも総攻撃ができる、というほどのものでもない。
この布陣で、劉備は「先鋒に配してください!」と主張したが王匡らに「所詮義勇軍上がりに何ができるか」と言われてしまって後陣に配置されている。
袁紹は逆で「使い潰してもかまわない劉備を前衛に配置」しようとしていたが、王匡らの強硬な主張で渋々、そのような布陣にした。
この決定に、劉備陣営は大いに不満を露にしていたが総大将の決定に抗えるはずも無く、これまた渋々後方に下がっている。
王匡たちも焦っている。汜水関では張遼達の堅陣を抜く事もできず、被害が増大しただけ。
なんとか虎牢関で挽回したい、というところだ。
王匡・孔融ともに、ここ一番で使おうとした猛将を前面に押し出しているので、やる気があるのは間違いないようだ。
王匡の配下に方悦(ほうえつ)、孔融には武安国(ぶあんこく)という勇者がいる。
華雄に当てなかったのは「呂布を討つため」に温存したと考えられる。
劉備軍も、汜水関ではそれほど本気を出さなかったのは虎牢関のほうが戦功を立てやすいと思ったからで、その辺りは王匡らと変わりはしない。
「はぁ~・・・」
劉備は、自陣で一人ため息をついた。
何とかしてここで戦功を立てなければ、という焦りがある。
彼女は平原の相・・・今で言う警察署長のような役割だが、何故か太守同様の役割になっていた。
だからこそ、将として参陣できたのだが、戦功を立てないと褒賞がでない。褒章が出なければ将兵共に不満に思うはずだ。
それに、と自分に仕えてくれている武将を見回す。
武官としては関羽・張飛。文官としては諸葛亮・鳳統。
この4人の能力は素晴らしい物で、どう見ても他勢力の武将に見劣りしない。
しかし劉備軍の主だった武将と言うのはこの4人しかいない。
これは少し寂しい話だった。何とかしてもっと多くの武将が欲しい。ここで戦功を立て、もしも大きな都市の太守になったとしても・・・。
この4人と自分では、明らかに仕事が回っていかないだろう。
北平にいた頃、公孫賛は人材不足を嘆いていた。高順にも「人材は必要ですよー。」と教わってもいた。
最初は「大丈夫!」と考えていたものだが、平原の政治をこなしてその意味が身に染みてよく解った。
実は、劉備も周喩と同じく高順とその周りの武将を狙っている。
趙雲の武勇、孫策軍を一方的に叩いた高順とその周りの武将。彼に付き従う勇猛な騎兵部隊。
今の劉備に足りない物は数多い。名声・武将・文官・兵力・資金力。
ぶっちゃけ、何もかも。が、彼らを引き込むことが出来れば、大きな収穫となる。
名声を得れば、それを見聞きした人々がはせ参じるのだろうけど、悠長に待っていられるだろうか。
孫策にとってもそうだったが、劉備にとってもこの戦いはある意味でギリギリだった。
思いつつも、「いつ、出撃命令が来るかな?」と焦れていたところで、銅鑼が鳴った。
「桃香(劉備の真名)しゃま、出撃れふ! ・・・へぅ、また噛んだ・・・。」
劉備の横にいた鳳統が劉備を促す。
「あ。・・・そろそろ、だね。」
劉備は祖先から受け継いだ宝剣「靖王伝家(せいおうでんか)」を握り締めて立ち上がった。
同じように、諸葛亮・関羽・張飛も立ち上がる。
「皆、行こう!」
「はっ!」
王匡・孔融の軍が進発したのを見て、劉備軍も動き始めた。

~~~虎牢関~~~
こちら側でも、すでに出撃準備は整っていた。
出撃するのは呂布・張遼・趙雲・高順。
他の部隊は関の防衛だ。
高順は出撃前に張遼から「順やん、呂布やうちのこと嫌っててもええ、せやけど、戦場では肩を並べて戦うんや。個人の感情無しで頼む。せやないと勝てる戦いもおぼつかん。」と言われている。
そんなものは言われるまでもないですよ、と返した高順だが、言った張遼自体それほど心配をしているわけでもない。
高順という男が、どさくさに紛れて後ろから刺す、とかそういうことが出来ない性格であることが解っている。
連合軍に呂布に勝てるような武将がいるとは思わないし、呂布自体がある意味で「一個の軍隊」のようなものだ。
呂布の武は一騎当千どころか一騎当軍である。
いざとなれば関の守りについている楽進や華雄らの部隊もあるし、投石器の事もある。
張遼は見たことが無いので知らないが、直に喰らった華雄曰く「洒落にならん」だとか。
ここで、虎牢関側からも銅鑼が鳴る。
「ふむ、高順殿、遅れても知りませぬぞ?」
「遅れないから大丈夫ですって。」
「もし遅れたら・・・お仕置きですかな? 閨的な意味で。」
「え、何で!?」
「・・・行く。」
「っしゃ、気合入れるでー! 旗上げたらんかいっ!」
四者なりの反応である。

張遼の言葉で、虎牢関全部隊の旗が上がる。
緋色の「呂」旗、紫の「張」旗、純白の「趙」旗。
「華」・「楽」・「李」・「干」・「沙」。そして朱地に白文字の「高」に、目立たぬように側に上げられた「蹋」。
高順の旗の四隅には目立たぬように、じっと凝視せねば解らぬ程の小ささで、朱ではなく赤で「丁」「朱」「郝」「上」と書き込まれていた。
彼は、風にたなびく己の旗を見上げる。
(俺は、これでいく。上党の、先に逝った人々の思いと共に。)
呂布はすっと息を吸い込み、ただ一言の命令のみを放つ。
「出撃。勝って。」
『応っっ!』
高順も、視線を戻して進んでくる連合軍を見据えて進撃。
董卓・・・いや、この場合は呂布軍と言うべきだろうか。
呂布軍と連合軍の戦場の雄叫びがぶつかり合う。先頭を進む呂布。付き従うように後を追う趙雲達。

後の世。呂布に従い乱世を駆けた将に、人々はある呼び名をつける事になる。
壱の将、張遼。
弐の将、趙雲。
参の将、華雄。
四の将、沙摩柯。
伍の将、楽進。
六の将、李典。
七の将、干禁。
八の将、高順。
同世代に生きた人々、彼らの戦いを知る人々。
皆、半ば畏敬と畏怖を込め、彼らの事をこう呼んだ。
呂布と共に、乱世を駆け抜けた八人の騎将。
「呂軍八健将」と。


八健将、と称される彼女らの戦いが歴史に刻み込まれようとするその瞬間であった。








~~~楽屋裏~~~
少し、文章量が足りないか・・・と考えて追加してみました、あいつです(挨拶
なんというか、ここで「完!」と書き込んでも違和感が無い感じですね。
あいつは良く頑張った、そろそろ打ち切ろう・・・。







無理ですけど(あ



穆順が出ませんでしたが・・・張楊が張燕の部下なので察してください(ああ
その代わりに、すぐに「三英戦呂布」ですから・・・ま、あいつの文章力では盛り上がりどころ無く終わるね!

本当に次からが虎牢関の戦いになります。
とは言え、汜水関よりも短くなると思います。
汜水関、当初2話で終わらせる予定だったのに何故4話もかかるかな・・・(汗
ずっと前にも「60話でこの話終わらせるよ!」とか言ってたのに絶対終わりませんよこのペースだと。

・・・10話で終わらせるはずだった昔が懐かしい。(遠

さて、高順君はこの戦いに勝利することができるでしょうか。
それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第51話 虎牢関・一戦目。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/19 16:34
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第51話 虎牢関・一戦目。


呂布・張遼・趙雲・高順率いる2万弱と、連合軍から出撃した王匡(おうきょう)・孔融(こうゆう)・劉備の3万の軍勢。
本来は呂布・張遼の軍勢を合計しただけでも4万近いのだが、関の守備のためにある程度残留させている。
呂布は先頭を駆け、他の武将もソレに続く・・・いや、引きずられているといったほうが正しいかもしれない。
対して、王匡・孔融は本人達に指揮能力は無いため、それらは全て部下任せである。
劉備はそうでもないが何せ後陣であるため、前衛部隊がどうにかならない限りは前に出ることが無い。
また、今回は投石器を使用しない。
呂布の「数の多い部隊に使うべき。3軍3万前後のあの部隊、後ろの陣1万が手強い。でも、使うに値しない」(翻訳:張遼)との言葉で使用せず、ということが決まった。
王匡の軍勢の先を進むのは方悦。孔融の軍勢の先を進むのは武安国。
両軍共に、歩調をそろえて進んでいるが何とかして出し抜こうとしているのが良くわかる。
その両者の目に、緋色のマントを纏った武将が映った。
赤い毛並みの汗血馬に跨り、長大な戟・・・「放天画戟」を手にした飛将、呂布が。
そして、方悦が一気に馬を駆けさせた。その勢いに乗せられて王匡軍の兵士達も我先にと進んでいく。
当然、負けじと武安国も馬を更に煽って駆けさせる。
「呂布ーーーっ! 我は王匡軍が将、方悦! 勝負せいっ!」
「孔融軍の将、武安国! 俺と勝負しろ、呂布!!」
言うが早いか、方悦と武安国は槍を振り回して呂布にかかっていく。
呂布は、というとまったくの無表情で、速度を上げることも下げる事もせず、ずんずんと進んでいく。
方悦らからすれば、気負いも何も無く進んでくる呂布に「舐めやがって!」と思わずにはいられなかっただろう。
もう少しでぶつかる、というほどの距離まで近づき、方悦は槍を振り上げ、武安国は突き入れようとする。
瞬間・・・ピゥッ、と何かが凄まじい速さで振られたような音が響いた。
その音が鳴った瞬間、方悦の上半身は粉砕され、バラバラになった肉塊と大量の血液が連合軍の兵の上へと降り注いだ。
すぐに呂布は返しの一撃を武安国に繰り出す。
武安国は、槍を構えて耐えようとしたが、槍ごと腕を叩き折られて落馬した。
連合軍の兵士は、何が起こったのか解らず、慌てるばかり。
見ていた呂布軍の将兵にも、一瞬何が起こったのか理解できないほどの一閃であった。
張遼・趙雲・高順。沙摩柯や蹋頓にも、呂布が戟を信じられない速さで振りぬいた事を理解しているし、彼女の一閃をきっちりと捉えている。
もしも、この戦場で呂布を相手に勝利しようと思うならば・・・呂布軍からであれば張遼・高順一党が全力でぶつかって相打ちに持っていけるかどうか、といったところか。
連合軍であれば、関羽・張飛。夏候姉妹や褚猪、典韋などでようやっと抑えられるか否か・・・。
呂布と言う人は、一騎打ちを挑まれてもごく普通に「蹴散らす。」
相手が強ければ、或いは仲間内ならばある程度の敬意を払って相手もするだろうが、それ以下と見た場合は気にせず無視するか、叩き潰していく。
方悦も武安国も「自分が戦うに値しない」と思いながらも、進軍の邪魔とばかりに手を下したのだろう。
呂布の力量を知らないのが方悦と武安国の不幸・・・いや、方悦は知る暇もないまま逝けたのだからある意味幸せだったかもしれない。
王匡・孔融軍共に、最大の武を誇る将が僅か一撃で屠られた事に恐慌状態に陥った。
呂布は戟を無造作に薙ぎ払いつつ、ただ前へと進む。一度薙ぐごとに、その軌道上にいた兵士の身体が弾け飛んでいく。
それも、2人や3人と言うレベルではなく、10人単位だ。
後ろで見ているだけの高順達も「・・・すっげー・・・」と、呆然とするしかない。
というか、高順一党は基本的に「本気を出した戦をする呂布」というのを見たことが無い。
丁原の時はすでに決着がついた状態であったし、これまで何度も(殺すつもりで)手合わせをしたこともあったが、その両方とも、まず本気を出していない。
ただし、とんでもない弱点があった。
ただ進み、ただ鏖殺(おうさつ)していく呂布のお腹から「ぐぎゅううううううぅぅぅう~~~・・・」と、何とも情けない音が響いた。
呂布は後ろにいる高順の方へと顔を向けた。
「こーじゅん・・・お腹すいた・・・。」
「!?」
思わず、虹黒ごとずっこけそうになる高順。
なんだってこんな時に、ってそうじゃない。
「いやいやいや! それくらい我慢すればいいでしょ!?」
「お腹・・・。」
「だーっ! この腹ペコさんは時と場所弁えなさいよ!?」
張遼は「ああ、またか・・・」と顔を抑えながらも前面に出て、呂布の代わりに戦い始めた。
逆に言えば、「厄介ごとは順やんに任せた!」である。
この頃には連合側の兵士達も何とか平静を取り戻して呂布隊の兵士と矛を交え始めた。
もっとも、精強な西涼兵を主体とした呂布隊のほうが強く、結局は押しまくっている。
高順・沙摩柯・蹋頓も張遼同様に呂布の前を守り、槍を振るう。
「こーじゅん・・・。」
「だぁぁぁっ! 何で俺に言いますか貴女! つうか今は戦闘中、戦ってー!?」
「ごはん・・・。」
高順は努めて後ろにいる呂布を見ないようにしている。
多分、今の彼女の表情は上党でお腹を空かせたときの表情そのままだったであろう。
お腹をすかした子犬と言うか、そんな感じの。
敵対視していても、あの顔を見れば「あうううう・・・」と、間違いなく悶える羽目になる。
(間違いない・・・、あの時みたいな子犬っぽい表情になってる! かまってやりたくなるような感じになってる!)
高順達は必死になって連合軍の兵士を斬り散らしているが・・・何だろう、この前面の厳しさと後背の空気の温さは。

あまりの強さゆえに鬼神と呼ばれた最強の武将、呂布。
お腹が空けばこんなもんであった。


数を大きく減らしたのか、王匡・孔融の軍勢は次第に後ろに下がり、代わりに劉備隊が突出してきた。
呂布軍も僅かだが後退、陣形の立て直しを図る。
そこで、高順と趙雲の部隊は王匡・孔融隊の追撃に入った。
少しでも兵士の数を減らしてしまえ、ということなのだが・・・実際は張遼に呂布を押し付けたのである。
「ちょ、順やん、謀ったなー!?」
「君のお父上がいけないのだよ!」
「何やそれ!?」
という会話があったかどうかはともかく。
ぐぅぅぅぅ・・・と、お腹を鳴らし続ける呂布と、それを守るように展開する呂布隊と張遼隊。
劉備軍の先頭を進むのは張飛。関羽は万一の事を考えて劉備の身辺警護・・・と言いつつ、劉備本人が前線まで出張ってしまっていて、ほぼ同じような場所にいる。
彼女達の目的は呂布を倒すか、武将を捕らえる、だが・・・彼女達だけではいかにも辛いだろう。
その代わりと言うわけではないが、劉備らの後方には更に公孫賛や韓馥、袁術の軍勢が控えている。
当初は劉備の軍勢までであったが、呂布の凄まじい攻撃力を見た袁紹の命令で急遽三軍が投入されたのである。
高順・趙雲隊はというと・・・呂布は張遼に任せて逃げ出した王匡らの軍勢の追撃をしていた。
まっすぐ進んできた劉備隊とすれ違うような感じになってしまっているが、あわよくば劉備隊を横から突き崩そうとも考えていた。
事実、劉備隊の兵がいくらかこっちに向かってきていたが、後続としてやってきた呂布隊の兵士達と乱戦になってそれどころでは無いようだ。
高順は後方に援軍として現れた軍勢に目をやった・・・数は多くない、2万もいないくらいか。
横列に展開してこちら側を包み込もうとしているようだ。
ある程度牽制をする必要はありそうだ。劉備の部隊と纏まれば厄介でもある。
高順は、横にいる趙雲に声をかけた。
「うわ、公孫賛殿もいますね・・・。さあ、どうします。」
「劉備殿の軍勢は張遼・呂布に任せて問題はございますまい。我らは・・・ふふ、伯珪殿を驚かせてやりますかな?」
2人は馬上でにっと笑う。
「趙雲隊の兵に告ぐ、我らはこれより、後方に現れた部隊に突撃を仕掛ける!」
「高順隊も続く! しかし、深入りはするな、適当にかき回して直ぐに退け! ・・・沙摩柯さん、蹋頓さん!」
「はい!」
「解った・・・行くぞ、高順に続けえっ!」
『おおー!』
黎骨朶を敵陣に向かって掲げる沙摩柯の檄に、兵が応える。
(・・・やっぱ、俺がやるよりも沙摩柯さんやら蹋頓さんが命令出すほうがサマになってるなぁ。)
勝ち負けとかそういう問題ではないが、微妙に負けた気持ちになってしまう高順であった。
彼らの前には「公」「韓」「袁」の旗が立ち並んでいる。

一方、呂布。
未だに「ぐぎゅぅぅう・・・」と空腹で鳴り続けるお腹をさすりつつも、張飛と互角以上の戦いを見せている。
「でりゃーーーーーー!!」
「・・・!」
張飛の蛇矛(だぼう)が呂布の前髪をかすった。
「・・・まだ、速くなる。」
淡々とした物言いだが、呂布は僅かに驚いていた。
目の前の少女の攻撃速度が徐々に上がっている。
もっとも、呂布は全力を出せていない。側にいた張遼も、進んできた関羽と切り結んでいたが、向こうが下がったのを見て適当に切り上げたらしい。
追うつもりだったのだが、劉備本陣の兵が少ないのを見て「こっちを釣り出す考えか?」と警戒したようだ。
兵士を減らすほうに思考を切り替えて戦っている。
「にゃあぁ・・・全力でやってるのに息ひとつ切らさない・・・しかし、鈴々は負けないのだ! てやああっ!」
「・・・。」
ぎぃん、ぎきいんっ! と、画戟と蛇矛がぶつかり合い、唸りを上げる。(時折、腹の音も混じる
劉備本陣では、関羽やら諸葛亮が「引っかからなかったか・・・」と嘆息していた。
適当に切り結んでから本陣へ帰還、張遼の思ったとおりに伏兵をもって包囲、という流れに持ち込むはずであった。
これほどの短時間で伏兵を手配する辺り、諸葛亮の手腕が冴えていたが今一歩のところで上手く行かなかったようだ。
仕方が無い。今度は・・・と、2つ目の予定で動き出す。
「この状況では無駄に損害が増えるばかり、関羽さんも呂布にぶつけて撤退させます。見たところ幾つかの部隊が後方に布陣した味方部隊に切り込んでいますが・・・。」
劉備は頷き、関羽を再度出撃、呂布へと向かわせた。
幾つかの部隊、というのは高順と張雲の部隊。あわせて4千と言ったところか。
邪魔をさせないように、と呂布隊の兵士が牽制を仕掛けているが、そちらは本格的に戦っているわけではない。
一気に前面の呂布を攻めて、できれば討ちたいが、それは恐らく無理だ・・・というのが諸葛亮・鳳統の見解だ。
明らかに不調である呂布。なのに、張飛が全力で挑んでもあしらわれている感が強い。
ここまで実力の差があるとは・・・。このままでは張飛が負けることもありうる。
関羽はもう一度兵士を引き連れて呂布へと向かっていくのだった。

高順隊は真正面から公孫賛隊に斬り込んでいた。
まともに戦うつもりは無い。相手の鼻先を少しだけ掠めていく程度の戦いに抑えて・・・簡単に言えば牽制である。
牽制なのだが、妙に成果が出すぎている気がする。
呂布を倒す、というのもあるが連合軍は王匡・孔融の軍勢を援護或いは収容するつもりでもいる。
しかし、王匡・孔融の軍勢が逃げるということは・・・ありていに言えば、後続の軍に逃げ込んで混乱の度合いを増やしている事にもなる。
戦おうとする部隊と収容のみを行う部隊とを分けて置けばよかったのだろうが、そう言っていられないほどに王匡らの部隊は追い詰められていた。
おかげで、公孫賛・袁術・韓馥の部隊は上手く戦うことが出来ずに高順・趙雲の部隊の切り込みに対処が出来ない。
公孫賛は、部隊の中ほどで彼らの戦いぶりを見ていたが「これはちょっと敵わないな」と思っている。
兵の数はこちらが上なので、このまま戦い続ければ討てない事もないが、それではこちら側の被害も甚大になるだろう。
袁術軍は大半が逃げ腰だし、韓馥の軍勢も少し頼りないか・・・自分が踏ん張るしかないようだ。
「白馬義従、進め!」
公孫賛は自慢の騎馬隊「白馬義従」を前面に押し出した。
白馬義従とは、白馬のみで揃えた騎兵部隊であり、公孫賛率いる軍の核となる部隊だ。
烏丸兵も一部取り込んでいて他の陣営の騎兵部隊に比べれば優秀な部類である。
その「白馬義従」が出てきた時点で、高順・趙雲は見切りよく逃げ始めた。
2人、いや、沙摩柯に蹋頓も一時期公孫賛の元で戦ったことがある為、白馬義従の能力の高さを良く心得ている。
まともにぶつかったら、負けはしないだろうが被害は大きくなる。
それを見越して逃げの一手を打つ。
と、そこへ。
韓馥、袁術の軍勢から一騎ずつ将が飛び出した。
殿(しんがり)を務める趙雲と高順に追いすがるように駆けてくる。
趙雲の後ろには袁術側から、高順の後ろには韓馥側から出てきた武将。
袁術の武将、男性―――は趙雲の後ろにつき、名乗りを上げた。
「趙雲だな? 我が名は紀霊。兪渉の仇、討たせてもらうぞ!」
「ふむ、あの男の友人か。良かろう、相手になる!」
そして高順の後ろについた武将。
後ろに追いつかれたか、と高順は左から後ろを見たが、いつの間にかいない。
そこへ、横から語りかける声があった。
「その髑髏龍の兜に鎧。高順殿と見受けた。」
「・・・!?」
高順は右へ振り向く。
そこには、長い黒髪を適当に纏めた切れ長の眼を持つ女性がいた。
肌は白く、かなりの美人だ。・・・この世界の女性武将は美人しかいないのだろうか?
虹黒はかなりの速度で走っているのに、この女性武将は追いついてきているのだ。
馬がいいのか、馬術に巧みか・・・それとも、その両方か。
「先の汜水関の戦い、見せていただいた。董卓の元に、貴兄の様な武将がいると思いもしなかったよ。」
「そいつはどうも・・・で? やるのか、やらないのか。それ以前にあんた何者さ?」
高順の言葉に、女性は「ああ。名乗り忘れていたな。」と思い出したかのように言う。
「私は韓馥の将の一人。張郃(ちょうこう)、字は儁乂(しゅんがい)。貴兄と手合わせを所望するが・・・宜しいか?」
「ははっ、わざわざ確認をするなんて律儀じゃn張郃ーーーー!?」
「?」
おいおい、張郃つーたら後の曹操の五将軍の一人ですよ。張遼と同レベルの高能力の武将ですよ!
それが何故に俺みたいな雑魚い人に挑んできますかこんちくしょう! ・・・死ぬかも。
「私の姓名が何か?」
「いや、何でもないです張郃殿。」
「何故急に敬語になるのか理解できないが・・・」
怪訝そうな表情の張郃だが、何故か手を出してこない。
「・・・あ、受けるか受けないのかって返答を待ってるのか。」
「うむ。」
何でこんなに律儀なのか良くわからないが、高順は不思議とその性格に好意を抱いた。本当になぜかは解らないけれど。
「その前に1つ確認。なんで後ろから斬りかかって来なかったので?」
「一騎打ちを挑もうというのに後ろから斬りかかるなど聞いた事がない。堂々と戦ってこそ武人の誉れ。」
「・・・そりゃまた律儀な事で。それじゃ・・・始めますか!」
三刃槍を構えた高順の姿に、張郃が喜悦の表情を浮かべた。強い存在と戦いたい、と願う武将が浮かべる独特のそれを。
張郃は矛を構えて高順に打ちかかって行った。
「せえええいっ!」
「しっ!」

その頃、呂布は関羽と張飛を相手取って戦っている。
空腹状態の呂布は戦闘能力が著しく低下するのだが、それでもなんとか渡り合っている。
「はぁっ、はぁ・・・くそ、強い・・・!」
「ぜはー・・・ま、まったくこたえてないのだー・・・。」
関羽、張飛は息切れしている。
呂布は涼しい顔をしているがお腹が「ぐぅぅう・・・」と、なり続けていて・・・割と限界が近かった。
「・・・。」
これ以上は無理と判断したのか、呂布は馬首を返して虎牢関へと退き始めた。
関羽らも体力の消費が激しいこともあったし、張遼隊が来る事も予想。軍勢の被害も大きくなっていたため追撃を止めて撤退する。
劉備は諸葛亮らに命じて部隊を纏めさせた。
途中で高順・趙雲と鉢合わせをするかもしれないと思っていたが、彼らは少し主戦場から離れたところから虎牢関へと向かっている。
被害も大きい現状で、わざわざ彼らを突いて刺激する必要も無い。
武将を得ることは出来なかったが、嵐のように戦場で荒れ狂う呂布相手に何とか互角に戦った、という武名を挙げただけ得るものはあった・・・と、劉備はあとは後続部隊に任せて後退する、とあっさり退いた。

高順・趙雲は劉備軍を横目に(距離は離れているが)撤退している。
紀霊と張郃の相手をしていたが・・・2人とも武器を叩き折られてしまって追撃を諦めたようだ。
見たところ、趙雲は紀霊を難なくあしらっていたようだが、高順は冷や汗をかきながらの戦いだった。
よくもまぁ生き残れたもんだ・・・と思ってしまうほど張郃は強かった。
「・・・いかが致した、高順殿。」
「いやー・・・やっぱ強い人なんてどこにでもいるもんだなー、と。」
「ああ、先ほどの。」
「ええ。ところで、そっちの紀霊っていうのはどうでした?」
高順の問いに、趙雲は僅かに考える素振りを見せた。
「そうですな・・・中々の強さでした。関羽相手であれば30合か40合ほど打ち合えるかと。」
「・・・すげー強いじゃないですか、それ。」
やっぱ男性武将が弱いって訳じゃないんだなー、うん。何故か嬉しい。
「それよりも、先ほどの・・・張郃と言いましたか?中々の美人と見受けましたが?」
ちょっとした嫉妬のようなものを顔に浮かばせて趙雲は高順を見つめる。
「え? いきなり何を。」
「高順殿はどうも、ああいう手合いとの縁があるようですな。ちらりと見ましたが楽しそうに談笑をし、嬉しそうに手合わせを。」
「・・・えーと。嬉しそうって言うか、向こうが普通に」
「いやいや、怒っている訳ではありませぬぞ? 「英雄色を好む」とも申しますゆえ。ですが・・・その割りに、このところ周りの女性を蔑ろにしているように見えますが・・・どのようにお考えですかな?」
「・・・・・・。」
怒ってるじゃんよ・・・つか、何なのこの「浮気を追及されてるっぽい」空気。
その上蔑ろって!俺何も悪くないよ!・・・って、よく見たら前にいる蹋頓さんもじーっとこっちを笑顔で・・・。


あ の 笑 顔 が 怖 い。

高順は無事に虎牢関に退くも、蹋頓と趙雲があれこれと女性陣に話したために・・・。
機嫌を悪くした楽進や張遼の手で何故か「1人正座耐久レースぶっ続け4時間(お手洗いは1回だけ)」を(無理やり)やらされる羽目になったそうな。

韓馥の陣にて。
張郃は、叩き折られて刃の部分を失った矛をじっと見つめている。
彼女は「負けたな。」と実感していた。
勝負がつかないような微妙な終わり方だったが、高順はそれほど本気を出していないようにも見えた。(勘違いだが
もしも最初から本気であれば・・・自分は善戦もできずに一方的に叩き斬られていたのではないだろうか。
それに。
こちらが矛を折られたとき、高順は息切れもしていなかった。
「さすが、渾名に龍の一文字を冠する男。髑髏龍の荒武者、か。」
公孫賛の前衛部隊を思うままに斬り抜けていく武勇、一騎打ちの際に見せる武勇。
連合軍であれほどの武才を持つ者が一体どれほどいるだろう。
彼とはこれだけの縁かもしれないが。
もしもまた会えるのであれば、敵としてではなく味方として会いたいものだ。色々と教えを請いたい。
張郃はそんな事を考えながら己の陣幕へと向かったのだった。









~~~楽屋裏~~~
華雄(以下、華)「なぁ、高順。」
高順(以下、高)「どうしました、華雄姐さん。」
華「前回さぁ、呂軍八健将で私の名も入っていたよな。」
高「ああ、入ってましたね。俺もですけど。・・・何か不満でもありました?」
華「いや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだが・・・。」
高「そうじゃないけど?」
華「あれってさ、要は私はこのシナリオでは死なないし盗賊にもならんし流浪もしないぞ、っていう事でもあるんだ。」
高「・・・原作ではそんな流れでしたね、確かに。」
華「けっこう「華雄死なせないで」という感想があったらしいので作者もない知恵振り絞ってありえない展開にしたようだ。」
高「今回の戦いでも普通は出来ないようなこと(軍勢の横突っ切る)とかやってますからね。あの駄作者ほんと死ねばいいのに。」
華「・・・何か、私が死ななくなった事実はスルーされてるっぽい。誰も触れてくれてないし・・・」
高「・・・。それくらいいいじゃないですか。俺なんてこの先どうなるかも解らないんですから(遠い目」
華「そうか。・・・そういえばそうだったな(遠い目」
高「ええ(遠い目」

こんなミニドラマが急に思い浮かびました、あいつです。(挨拶
不幸な姉弟の逝く先はどうなるのでしょうね(え、字が

原作に出てこなかった張郃を出してみました。
なんで出てこないのか解らないほどの人なんですがねぇ>張郃
今回はフラグとか全然ないですよ、多分2度と高順とは会わないでしょう(お

さて、呂布VS関羽・張飛ですが・・・あっさりと終わらせてみました。
劉備視点で話を進めるわけでもないのであっさりで良いだろうな・・・と。
え?何ですって?方悦と武安国?いたっけ、そんなの?(待て
いいじゃないですか、架空の人々ですし(?


さて、次回は・・・どうしましょ、そろそろ曹操あたり出すべきでしょうか(予定は未定
それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第52話 虎牢関・二戦目。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/01 22:39
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第52話 虎牢関・二戦目。

連合軍は何度も何度も虎牢関に攻め込んでは撤退、ということを繰り返していた。
そもそも作戦が「華麗に美しく進軍」だかなんだか、よく解らないものである。
一度だけ、袁紹は一斉攻撃を仕掛けたがそこで投石機による凄まじい逆襲を喰らい、怖気付いたところを呂布隊が突撃・・・。
散々に蹴散らされて「きぃぃぃっ!くやしーですわー!」とか叫んでいた。
連合側は何故石或いは岩が飛ばされてくるのか(曹操ですら)解らなかったが、大軍で行けばまた同じ事になる、ということは理解していた。
ここで、曹操が出てくる。
今から攻める虎牢関を前にして、彼女は考えていた。
この虎牢関で一気に名を上げ、かつ武将を捕らえるという実利をも得ようとしていたのだが、目の前に存在する「要塞」に攻めあぐねている感があった。
大軍で行けば投石で兵が潰され、かと言って少数で行けば呂布・張遼・華雄・高順・趙雲の騎馬隊によって突き崩される。
正面から戦っても遅れをとるとは思わないが、篭城している彼らに勝てるか? と言われればそれも難しい。
夏候淵などに聞いてみたが「呂布を捕らえるならば、ここに居る武将全員と引き換えにする覚悟でなければ叶わないでしょう」と返されている。
その呂布を相手に互角に戦った関羽と張飛は大したものだと思うが、それはまあ良い。
呂布は諦めて、曹操は張遼と高順一党に狙いを定めようと考えたが、現状では張遼1人に絞ろうと考えている。
さてどうする? と悩む。「どうやって張遼をおびき出すのか?」ということで、だ。
大軍で言っても駄目、少数で行っても蹴散らされる。
下手をすれば高順や呂布も出てくる。
どうやって関の外までおびき出す・・・。と、さしもの曹操も考え込んでしまった。
おびき出しさえすれば、曹操軍の将兵で取り囲んで捕縛する事も容易い・・・はず。
はず、というのは・・・曹操には多少不安があった。
曹操は張角達を使って兵を集めている。
そういった兵は基本的に農民兵のようなものだ。装備も錬度も質の低い兵士が多い状況である。
もっとも、新兵が配属されたのは夏候淵の率いる弓兵部隊がほとんど。
前衛となる騎・歩兵には然程配置していない。
夏候姉妹と自分が鍛え上げた兵士もいるから一気に後衛に切り込まれない限りは問題はないだろうが、それでも辛いか。
陣幕で延々と考える曹操の隣には典韋・許褚、そして荀彧の姿がある。
じっと考え込む曹操に、典韋らは声をかけない。自分達は武で仕えるだけで智のほうでは全く役に立たないのを理解している。
荀彧はその逆。曹操が何故悩んでいるのかを理解しているのだが、虎牢関があれほどの要塞だとは荀彧も考えてはいなかった。
真正面から攻める、という袁紹の考え無しの命令には腹が立つものの、それを自分が言った所でどうしようもない。
有能な将を引き込む、というのは即ち「虎牢関」を落す、ということにも繋がる。
だが大兵力で攻めても攻めきれない(袁紹の指揮が駄目、諸侯の士気も低い)・・・少数兵力などもってのほか。
1人ずつ武将を釣り出すか。しかし、その「手」がない・・・。
荀彧も曹操の勝利に貢献しようと色々と考えているが、やはり妙案が出てこない。
そして、曹操とは違って荀彧には焦りがある。
孫策は汜水関を陥落させ、劉備は呂布と互角に戦ったいう何らかの実績を残している。
曹操軍が積極的に前線に出なかったということもあるが、孫・劉に名声が集まるのは面白くない。・・・袁紹は駄目な奴なので放っておくけど。
(どうしたものか・・・)
まだまだ考え続ける2人だが、そこに夏候惇、続けて夏候淵が陣幕へと入ってきた。
「華琳様ぁっ! 出撃準備は終わりましたっ!」
「お待たせいたしました、何時でも出陣できます。」
2人の声に、曹操は顔を上げた。
「そう、ご苦労様。」
そして、また考え込んでしまう。
その様子に夏候惇は不思議そうな表情になった。
「あのぅ・・・華琳さまぁ、出撃は・・・?」
「・・・そうね、出撃しなければならないわね。でも、もう少し待ってくれる?」
「・・・。」
目を瞑ったまま返事をする曹操。
夏候惇は妹のほうへ向いてぼそぼそと話しかけた。
(なぁ、秋蘭。)
(何だ、姉者。)
(華琳様は何を悩んでるんだ?)
(む、恐らく、張遼か高順をおびき出すための策を考えておられるのだろう。)
(そんなの、正々堂々と突っ込めば出撃してくるんじゃないか?)
(華琳様はそう思っておられないのだろう。被害を少なくして勝つ、その上で将を得る。が、さすがに虎牢関に篭る軍勢相手ではな・・・)
(・・・難しい事を言われても解らんぞ、もう少し解りやすく)
(・・・。まぁ、姉者はいつもどおり戦えば良いさ)
「ちょっと、ぼそぼそ五月蝿いわよそこのイノシシ!」
聞こえていたのかどうか、荀彧が夏候惇にむかって怒鳴りつけた。
荀彧は夏候惇にだけは手厳しい。曹操の寵愛を受けるもの同士、仲良くすればいいのだが・・・彼女にとっては夏候惇が一番の「ライバル」という認識があるらしい。
夏候淵にはある程度の敬意をもって接しているし、余裕のないときなどは粗暴な面が良く見えるのだが、普段はそう声を荒げたりする事はない。
「なぁっ!? 誰がイノシシだこの頭でっかち!」
「るっさいわね! こっちは考え事してんだから黙ってなさいよ!」
「ちょっと、2人とも。」
隣と前からの喧しい叫び声に辟易した曹操が止めようとするが二人には聞こえていない。
「はぁ!? 何を考えていたんだ、どうせろくでもないことだろう!」
「どうやって将を釣り出して被害少なく勝つか、よ! 華琳様も同じ事で悩んでいらっしゃるんだから邪魔すんじゃないわよ!」
「んなもん正々堂々一騎打ちを申し込めばいいだろ! 孫策のとこの・・・孫権? だっけか、あれも同じ事やって高順をおびき出したじゃないか!」
「・・・。」
「・・・。」
「姉者・・・。」
「・・・あれ? 何だ?」
曹操・荀彧・夏候淵の反応に、夏候惇も少し落ち着いたのか、怒鳴り声を上げなくなった。
「ふむ・・・。」
曹操はまたしても考えた。
張遼は武を尊ぶ性格だと聞いている。
おびき出したとして、同時に高順あたりが出撃してくるかどうか、ということはある。
汜水関の時の事情と今の事情は違うだろうから、一騎打ちを申し込んだとしてそのまま素直に乗るかどうか、ということもある。
が、これでもしもおびき出せたら御の字ではないか?
軍勢を率いてきたとしても、引き込んで退路を断ち、こちらの全部将で取り囲んでしまえば。
兵に被害は出てしまうのは確実だが、張遼ただ1人でも得ることが出来ればお釣りが来るほどの収穫だ。
こういう考え方自体、曹操は嫌うほうだが袁紹や袁術に比べれば自分の勢力はまだまだ小さい。
(上を目指す以上、目指す先が更に先にある以上、犠牲が多くなるのもやむなし、か・・・。嫌な女ね、私は。)
何かを得るために何かを犠牲にする。それが人の命であろうと、目的のために許す。
自分の考えに吐き気に近いものを覚えながら曹操は出陣命令を出した。
「・・・秋蘭、結局どうなるんだ?」
「む、姉者の思った通りではないか?」
「・・・??」
1人だけ、よく解っていない夏候惇であった。

~~~虎牢関~~~
城壁の上には兵に混じって高順、張遼、李典がいる。
「いやー・・・まさか投石器がここまでの威力発揮するとはなー。」
李典は自作の投石器の威力に満足していた。
先日の戦いではどうなるかと思っていたが、敵兵の数が多いため「数撃ちゃ当たる」の状況が出来上がっていた。
連合側に向かって撃てば、狙いを定めずとも当たる。総攻撃を頓挫させたあの戦いは大勝利と言っても良い。
「ほんまほんま。あれ作ったん李典やろ?」
「せやで。図面考えたんは高順兄さんやけどな。それを作成、改良したのがうちや。」
「へぇ。李典もやけど。順やんも才能あるんやなぁ。」
「へ? 俺?」
高順は自分に話が振られると思っていなかったらしい。
「あんな、考えてみ? 味噌やら菓子やら作るし、投石器なんてもん考えつくし、サトウキビ使って美味い酒作り出す。でもって一廉の武将。多才やん?」
「そのうえ多妻やし?」
「・・・誰が上手い事言えと。それ以前にまだ妻じゃないですよ。」
「へぇ・・・ほな、いつかは妻にしてくれると思うていいんやな?」
「何故そうなりますか!」
そもそも、自分が考え出した事じゃないんだけど・・・。最初に考えて作成した人ごめんなさい。
そんな頭の悪い遣り取りをしつつ、高順は連合軍側・・・つまり、東側に目を向けた。
「曹」の旗が翻り、軍勢が向かってくるのがわかる。
「あれは・・・。ついに来ましたか、連合軍最強部隊が。」
一万数千の曹操軍の後ろに張邈(ちょうばく)・鮑信(ほうしん)と続き、3~4万の軍勢になるだろう。
そこそこに多いが決戦を挑むには少ない数だ。
だが、高順は全く油断をしなかった。
何せあの「治世の能臣、乱世の姦雄」曹操だ。
兵も将も他陣営に比べて良く訓練されているはず。一番やりにくい相手であると思っている。
「ほほー。他に比べりゃ強そうやけど。」
「どないする? 投石機準備させよか?」
「その前に出撃準備でしょ。」
3人は急いで自分の持ち場へ着こうと動き始めたが・・・投石の届かぬ場所より更に東で停止した曹操軍から、一人の武将が歩いてくるのが見えた。
真っ赤なチャイナドレス、右肩に髑髏の肩鎧。
夏候惇である。
馬にも乗らず、肩に無骨な大刀を担いで徒歩で向かってくる。
兵に矢を射掛けさせるべきか、とも思ったがそれは止めて置いた。
使者として派遣された可能性もあるからだ。
夏候惇は矢が届かない位置(届いても掴み取るが)で止まり、声をあげた。
「聞こえているか、張遼!」
「・・・へ? うち?」
張遼は自分を指差して「何故?」と思っている。
「私は曹猛徳の将、夏候元譲! 貴様に一騎打ちを申し込む! 臆せぬなら我が申し出を受けよ!!」
「・・・。はぁ・・・?」
それだけを言って、夏候惇は更に関から離れてから、大刀を地面に突き刺した。
呆気にとられる高順・張遼・李典(兵士も)。
「ぇと、つまりどういうことやねん。」
「そら・・・一騎打ちちゃうの?」
な、順やん。と張遼は隣にいる高順へと顔を向けた。
どう思う? と意見を求めているのだろう。
「ふぅむ、順当に考えて張遼さんを捕らえようとしているのだと思いますけど。」
「むぅ、うちがあの夏候惇に負けるってことかいな。」
「というより、一騎打ちと言いながらも後方に軍勢展開してますしね。相手はあの曹操ですよ。俺は反対ですね。」
「反対か・・・つか、うち曹操がどんな奴か知らへんもん。」
「・・・まあ、油断ならない相手です。連合軍で最強の部隊でしょうね。」
高順はやはり反対らしい。そこで、李典が口を挟んできた。
「せやけどどうするん。張遼姐さんは出てかなあかんのとちゃう?」
「せやろ? けどなぁ・・・。」
「・・・。」
高順も考えていた。
こちらは兵力が向こうに比べて少ないし、勝つ為にはルールなど守っていく必要は無い。そんな余裕もない。向こうに合わせてやる理由もない。
しかし、出なければ張遼の武名は廃る。出れば捕らわれる可能性もある。
出る以上はある程度敵に損害を与えるべきなのだが・・・。
「・・・よし、一騎打ちは受けずに軍を出そう。」
「ええええっ!? そら殺生やで!? うち、戦いたいー!」
「わがまま言っちゃいけません。ここで張遼さんが負けて捕らわれたらどうするんです。」
「むぅうう・・・。」
「多分ですよ? 向こうは張遼さんを釣りだすのが目的ですよ。」
「何で解るん?」
「曹操は人材好きですからね。張遼さん狙っててもおかしくないんです。・・・そのうえ同性愛者ですから。」
「・・・マヂ?」
「本気と書いてマヂと読む。」
高順の言葉に、張遼はげんなりとしていた。
張遼は可愛い女の子は大好きだが、それは高順を間に立てて、の話。
よく楽進に「ひざまくらー♪」とか抜かして彼女の太ももの感触にうっとりとか、そういうことはあるがそれは張遼なりのコミニケーションだ。
閨(中略)多人数(中略)なら同姓でも口付け(中略)精(中略)である(意味不明
それはともかくとして、高順は楽進・干禁・趙雲・華雄を呼んでちょっとした作戦を立てた。
呂布にも許可を得て、出撃をする。
出撃するのは張遼隊(一部)・高順隊・趙雲隊の3部隊。
それ以外は基本的に守備だが、3人娘にはある任務をこなしてもらうことにした。
李典と干禁は「え~~~~!?」と叫んでいたが楽進は「腕が鳴ります!」とやる気満々であったりする。

こうして、秘匿名「惇さんおちょくり大作戦」が発動されたのであった。
・・・命名者が誰とは言うまい。

「・・・来るか。」
夏候惇は地に刺した大刀を引き抜いた。
虎牢関の門が開いていく。
その先頭には張遼。
夏候惇に会わせたか徒歩である。
その右隣(夏候惇から見て)には虹黒に跨る高順。
左には趙雲。
そして・・・後方からは続々と騎馬隊が続いてくる。
その数、約5千。
部隊ごとに別れているがきっちりと横列陣形を組んでいる。
それを後方で見ている曹操は「張遼・高順・趙雲・・・あと、異民族の女武将も出てきたわね。」とほくそ笑んだ。
張遼だけに狙いを絞るとは言え、あの3人の内誰かでも大収穫だ。
欲を言えば全員欲しいのだが・・・それと、兵士が出てくるのも織り込み済みだ。
夏候惇一人で耐えられる訳がないのも解りきっている事で、だからこそこちらも兵士を展開しているのだ。
向こうが一気に突撃して来ても夏候淵・典韋・許褚。
他にも・・・将に抜擢されたばかりの満寵、李通。
曹操の近縁では曹仁、曹純、曹休、曹洪などがいる。
実を言うと、曹操が武将を欲しているのはこういった「一族から抜擢された」武将が多いからだ。
解りやすく言うと、若い頃に「木下藤吉朗」と名乗っていた豊臣秀吉のようなもの。
元々農民である秀吉に子飼いの部下がいるはずもなく、弟の秀長くらいしか頼れるものがいない時期があった。
同じように、袁家のような解りやすいネームバリューがない曹操は、陳留を治めた時は部下不足に大いに悩まされたものだ。
(補足をすると、曹操の祖先を辿ると袁家など比べ物にならない名族である。・・・養子云々は別にして。
父や祖父が宦官であるために貶められている曹操だが本来「四世三公」など取るに足らない。
袁家というのは後漢になって出てきた家であり、前漢の功臣で曹参(そうしん)、その子孫である曹操とは比べるべくもない。
ただ、立て続けに高官を輩出した袁家のほうが解り易い・・・ということなのだろうか。補足終了)
兵の立場であった満寵らを見出して武将の層を厚くしようと図っているが、これでもまだ足りない。
これでも劉備や孫策に比べればマシなのだから、劉備たちの苦労も並大抵ではないだろう。
ともかくも、目的の人物を釣り出すことは出来た。
(さぁ、どう動かすか。どう動いてくるか・・・。)
曹操は、張遼隊の動きをじっと見つめていた。

夏候惇は大刀を張遼に突き付けた。
「張文遠、隠れなき剛の者と聞いていたが・・・軍勢を率いて出てくるとはな。臆したか!」
「うん、いやー、怖いわー。うちびびって漏らしそう♪」
「ぬがっ・・・。」
夏候惇の挑発など気にせず、逆に挑発を返して応竜偃月刀を構える張遼。
いいや、こんなのに乗るものか、と夏候惇は顔を振って気を取り直す。
「とにかくっ! 一騎打ちだ! 行くぞ張遼おおぉぉぉおおおおぉっっ!!!」
「よっしゃ、かかって来いやあっ!」
両者、一気に距離を詰めていく。
ソレと同時に趙雲と高順も馬を駆けさせた。
前・左右から挟撃を仕掛けてくるつもりか、と考えつつも夏候惇は慌てることなく前進。
「うおおおおおおっ!!!」
攻撃範囲に入った張遼に向かって、大上段に構えた太刀を全力で振り下ろす。
ずどぉんっ!! と、凄まじい轟音が響き、土煙がたつ。
今の攻撃をまともに喰らえば、たとえ防御をしていても無事ではすまない。
だが夏候惇が太刀を振り下ろした場所に、張遼はいない。手ごたえが全くなかったのだ。
そして、太刀を振り下ろすまでに、虹黒は夏候惇の隣をすり抜けていった。
「くそっ・・・どこだ!」
辺りを見回すがいない。ならば後ろか、と思って振り向く夏候惇の目に移ったのは張遼は高順の後ろ・・・虹黒の背に跨っている姿。
「・・・あ、あれ?」
かなり距離を離しているが、高順は僅かに振り向いて事態が上手く飲み込めない夏候惇に言う。
「ただ徒(いたずら)に逸るのは」
「武にあらず! ってか? なははは!」
高順の言葉を継いだ張遼は、愉快そうに笑って夏候惇に向かって手を「ひらひら」と振っていた。
同時に、夏候惇の後ろにいた張遼・高順・趙雲騎馬隊は一斉に馬を駆けさせる。
目の前にいる「夏候惇を無視」して。
まだ事情がわからない彼女は太刀を掴んだまま硬直している。
「え、あれ、おい・・・ちょっと・・・。」
夏候惇の声は、轟々となる馬蹄の音に掻き消されて誰にも届かない。騎馬隊が曹操本陣に向かっていき、彼女はただ1人そこに残された。
暫く経ってからようやく状況がわかったのか。夏候惇はうつむき、体を震わせて、
「むっ・・・無視されたああああああああああああああああああああああああっ!!!!?」
と叫んだ。
「お、おのれ高順! 何度私を馬鹿にすれば気がすm(ごがんっ!)ドゥブッハァ!?」
何か、すっごく硬い物が夏候惇の後頭部に命中。凄い音である。
前のめりになって倒れた夏候惇だが、直ぐに立ち上がって後ろを見た。
「く、お、お、お・・・だ、誰だあっ!?」
「・・・驚いた、力を込めた気弾なのにその程度で済むなんて。」
「ん? ・・・この声・・・。」
土煙が晴れぬ中、開け放たれたままの関門から4人の女性の姿。
現れたるは華雄・楽進・李典・干禁。

劉備軍の関羽と張飛が呂布相手に互角の打ち合いを見せた戦いを人々は「三英戦呂布」と呼ぶ。(劉備は加わらなかったがそれでも三英戦だ
これから始まる戦いは別の話であり、「三英戦呂布」に比べれば小さな話でしかないが・・・。
四英戦・・・いや、後に「四騎戦夏候惇」と呼ばれるもう1つの大一番が始まろうとしていた。



~~~楽屋裏~~~
楽進(以下、楽)「隊長ー、隊長ー?」
高順(以下、高)「ん・・・どうしたの、凪。」
楽「最後の最後に無茶な戦いが開始されましたけど・・・私達、大丈夫なのでしょうか?」
高「・・・さぁ(汗」
楽「・・・あ、補足しますと、「三英戦呂布」という言葉はありますが四騎戦夏候惇なんてものはありません。妄想の果ての戯言と思ってくださいね。」
高「誰も信じないだろ、常識的に考えて。」
楽「ですね。・・・それと、この作品の駄作者が悲鳴上げてましたよ。」
高「いつものことじゃないか?」
楽「そうですけど・・・。何か「投稿記事数60どころか80で終わるかどうかすら怪しくなってきたぁっ!」とか何とか。」
高「また変なネタ作ったのか?」
楽「どうなんでしょう・・・すでに次回作の構想がどうこうとか言ってますし。」
高「・・・・・・。あの駄作者のことだ、どうせ禄でもない話になるんだろうな。というか、この作品終わらせることに集中しろよ・・・」
楽「そうですね・・・。」

・・・何これ。尺の関係上、第二戦目で終わらなくなってしまいました、あいつです(挨拶
第二戦目で終わらせるよ! ってあれほど言ってたのに。お姉ちゃんの馬鹿!
罪なので罰としてち○○もぐ(待て














あと、これは愚痴なので流すの推奨。書かなきゃ良いのでしょうけど書かずに入られなかった、絶望した!(?

先日楽しみにしていたSSが1つ消えてしまいました。
好きだったのになぁ、あれ。
私みたいに、シナリオ中でも状況とかに言い訳して長く書いてしまうのもアレですが。(しかも文章力ないからグダグダになるし・・・とほほ)
あんな感じのサクサク感ある作品も良いと思うのですよ。
確かに一話ずつが短いとかは思いましたけど(w
ガチムチいやさガチガチの作品ばっかりじゃ息が詰まると思うのです。営利目的のSSじゃないのだから、不快感しかないような作品でなければある程度OK!
と、これくらいの気持ちで読んだ方が良いのではないかな・・・と。
実際はそれほど簡単なことではないと思いますけどね。
私も、処女作でこんな長編になるとは思いませんでしたが(汗)、三国志を知っている人に楽しんでいただけるように・・・と、色々ねたを突っ込んでいます。
成功しているかどうかはともかく。(駄目すぎる
読者様のご意見、ご感想、ご批判(こうしたほうがいいですよー、とか)は嬉しいですし、それが書き手のモチベーションにも繋がると思います。
私も、感想に暴言とかは多々いただきましたが(汁)皆様のお言葉あってこそ続けていられるのだと思っています。
しかしながら、誹謗中傷を感想に書いて書き手のやる気ダウン、そして消滅・・・となってしまうと、その作品を楽しみにしていた読者様方の気持ちも嫌なものがあると思うのです。
幸い、かの作品にそういう誹謗中傷は殆ど無かったようですけどね。
もっと良い作品にしてほしい、というお気持ちでのご批判ならば全く構わないのですが・・・感想にもならない暴言を書かれる方々はもう少し考えていただきたいと思う次第。
逆に、書き手のほうも、不快感のみ与えるような作品は書いちゃ駄目、絶対。(NO!
嫌なら読まずに感想も書かずに放っておいてくれればいいじゃないか・・・と思ってしまうのは書き手側のエゴなのかもしれませんけどね・・・。難しいです。
・・・私ごときが何をえらそうに言っているのやら。
不快感を与えてしまったなら申し訳ありません。(土下座






・・・って、よく見たら、某長編の投稿数越えた・・・(微震
げぇっ、政宗!(?

次は後編。さぁ、どうなりますか(特に四騎戦が不安
では、次回お会いいたしましょう(☆ω☆)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第53話 虎牢関・三戦目。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/23 23:31
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第53話 虎牢関・三戦目。

「お前らは・・・確か、前に華琳様のお誘いを断った3人だな。覚えているぞ。」
夏候惇は、楽進達の事を覚えていたらしい。
後頭部をさすりながらも太刀を構えた。
「それに・・・ふん。孫策に負けた華雄か。四対一・・・ちょうどいいくらいだな。いいだろう、相手になってやっても良いぞ!」
華雄は少しだけムッとしたようだが、直ぐに落ち着いて3人娘に声をかける。
「3人とも、いいか。とにかく足を止める。無理に勝とうとするな・・・行くぞ!」
「応!」
応えた3人娘は三手に分かれて攻撃を開始。
華雄も大斧を構えて一気に突進して距離を詰める。
「はあああっ!」
「はっ!」
素手での攻撃を、夏候惇は難なくかわしていく。もっとも、楽進はまだ本気を出している訳ではない。
突き・肘鉄・膝蹴りと繰り出していくが、夏候惇はあっさりと回避。
楽進の隙を見て太刀「七星餓狼」で切り払っての反撃をする。
だが楽進も負けていない。気を込めた足で地面を蹴り飛ばして一気に距離を開ける。
その横を華雄がすり抜けて行き、引導斬斧を振りかぶった。
「おおおっ!」
「ぐっ!?」
華雄の攻撃を太刀で受け止める夏候惇だが、その一撃の重さに内心で(大した威力だ・・・一筋縄ではいかないか!)と認識を改めた。
その間に、李典が右、干禁が左に回って挟み撃ちを仕掛ける。
「もらったの!」
「いったれやぁぁっ!」
干禁の双剣と李典の螺旋槍が迫る。
「ちぃっ」
「がっ!?」
夏候惇は力任せに華雄を蹴り飛ばした。
溜まらず吹き飛んだ華雄の体を、後方にいた楽進が受け止める。
「大丈夫ですか。」
「・・・っ、すまん。」
今の衝撃で口の中が切れたのか、華雄は口の端から血を流している。
それを乱暴に拭って、華雄は楽進と同時に駆ける。
「せえい!」
干禁は双剣を巧みに操って夏候惇に切りかかっていく。
楽進同様に手数で押していくが、フェイントのつもりで放った一撃を無理やり跳ね飛ばされて、太刀で足元を斬りつけられそうになった。
そうはさせるか、と李典が太刀めがけて上から螺旋槍を思い切り叩きつけて強引に止める。
「ええぃっ! 邪魔をしおって・・・。」
「邪魔せんほうがおかしいわ!」
攻守交替とばかりに、李典が螺旋槍を振り回して追い立てる。
その上に華雄がやってきて斧を横に斬り払って来た。
「甘い! ・・・何っ!?」
その斬り払いを避けた夏候惇は、斧を振り切って背中を見せた華雄の背中に飛び掛って斬り付けようとする。
だが、華雄はそのままもう一度同じ用に横薙ぎの斬り払い・・・回転斬りを仕掛けてきた。
横向きになった斧の刃の上には楽進がしゃがむ格好で座っており、彼女の両の拳が光っている。
そのままの姿勢で楽進は目の前の夏候惇に左拳から気弾を投げつけた。
「ちぃぃ、舐めるな!」
夏候惇は気弾を殴り飛ばして無効化。しかし、気がついたときには目の前に楽進がいた。
楽進は気を溜め込んだ右拳を夏候惇の胸にとん、っと軽く小突くような形で触れた。
「・・・! しまっ・・・」
「でやああぁっ!」
ギュボゥッ! と凄まじい音がなると同時に、気の塊が夏候惇の胸を直撃。
吹き飛ばされた夏候惇は岩に叩き付けられた。まるで衝撃波・・・大砲である。
よく見れば、楽進も右拳を左手で押さえつけて痛みを堪えている。零距離で気を叩き込むのは初めてで、力加減が上手くできなかったらしい。
「はぁっ・・・はぁっ。・・・どうだ・・・?」
4人はじっと夏候惇を見つめる。
が、少しだけして彼女は「ぬがああああっっっ!」と雄叫びを上げて立ち上がった。
「く、くそっ・・・これだけやってもそれほどの傷にならないか・・・!」
「うう・・・強いの・・・。」
「化けもんやなぁ・・・恨むで、高順兄さん。」
「弱気になるな、呂布のほうがもっと強いぞ・・・。こんな程度で諦めるな!」
弱音を吐く3人を華雄は叱り飛ばして斧を構える。
もっとも、余裕が無いのは彼女たちだけではなく、夏候惇も同じだった。
「ぜー、はぁぁ・・・くそ、こいつら・・・!」
一筋縄どころではない。一人一人でならば自分に勝てるわけは無い。
だがお互いを庇いあって防御を固め、隙を見せれば一気呵成に攻め立ててくる。
その上、今の攻撃力・・・。一瞬とはいえ意識を失うほどの威力だ。
こいつらの実力か、それとも高順が鍛えたか・・・。どちらにせよ、もう油断はない。
夏候惇は太刀を構えなおした。

~~~高順ら、突撃部隊~~~
「いやー、夏候惇のあの顔。大笑いや!」
「大喜びですね・・・。」
張遼は虹黒の背に跨って・・・高順の後ろに座っている。
虹黒は自分の認めた存在か、高順の認めた存在は背中に乗せる。
前者に属すのは張遼や趙雲、蹋頓と沙摩柯。後者は楽進ら3人娘だろうか。
高順と出会った当初は気の荒さが目立った虹黒だが、この頃は多少穏やかになったようだ。
案外子供好きであり、臧覇や丘力居に体を拭いてもらうと喜んでいたし、背中に乗っても怒らなかった。
華雄や呂布も乗ろうと思えば乗れるかもしれない。
それはともかく。
張遼・趙雲・高順騎馬隊は曹操軍に向かって突撃を仕掛けていた。
先頭を進むのは高順と張遼。沙摩柯と蹋頓もいる。
曹操もすでに迎撃態勢を整えていて曹純率いる騎兵が突撃準備を、曹仁の歩兵隊が槍を構えて待ち構える。
その後ろには夏候淵率いる弓兵隊。
一番奥には曹操親衛隊・・・曹操本人と許褚、典韋が固めている。どこかの部隊が苦戦したらいつでも出て行けるように、万全の態勢である。
頃合はよしと見たのだろう、曹純が剣を掲げて突撃命令を出す。
「よし、進め!」
曹純の命令で、騎馬隊が突撃を開始。すぐに高順達とぶつかる。
だが・・・。
「行くぞ、虹黒・・・突っ切れ!」
「ぶるっ!」
高順の言葉に虹黒は更に突進速度を上げる。
互いの騎馬隊は矛を構えてぶつかり合ったが、勢いのある高順隊のほうに軍配が上がった。
曹操軍の騎馬が虹黒にビビッた、というのも多少あるが・・・趙雲・高順・張遼騎馬隊は、西涼騎兵と馬の扱いに長けた異民族ばかりを固めた言わば「特化部隊」である。
また、曹操軍はそれほど騎馬隊が多くなかった。騎馬隊に限っていえば、数と質では大きく劣っているという事だ。
夏候淵はすぐに援護として矢を射掛け、それで射倒される兵士も出てくる。
しかし、すでに混戦となっているので上手く射掛けることは出来ない。
高順と張遼の勢いは凄まじいものだった。
高順が右側、張遼が左側の敵兵士を斬りつけていき、弓矢で狙われない限り、ほぼ全方位に隙が無い。
手綱を引かずとも高順の思い通りに動く虹黒が戦場を駆け周り、少しずつ曹操軍の騎馬隊の陣形に綻びが出来ていく。
趙雲・張遼の騎兵隊も完全に曹操騎馬隊を圧倒しており、曹純は早々と撤退をする羽目になった。
すでに一部の部隊が曹操軍の歩兵隊に肉薄しており、そちらでも戦端が開かれているらしい。
どちらかと言えば、歩兵隊のほうが強いらしく返り討ちにあっている兵が多い。
守りが堅く、歩兵を抜けないままに弓兵の攻撃で討たれる者が続出している。
不味い、と舌打ちした高順は乱戦から抜け出して歩兵隊に向かっていく。
「張遼さん、いいですね!?」
「当たり前や、うちを誰や思てるねん!」
歩兵隊は、突撃してくる高順(虹黒)に向かって槍を構えるが、幾人かは逃げ腰になってしまっている。
この時代の馬は現代で言う車だ。しかも虹黒ほどの巨馬であれば大型車のようなものに近い。
逃げ腰になってしまうのも当然だろう。
高順はそんなことを気にせず右側、張遼は左に身を乗り出した。
「はああああ!」
「しゃあああああっ!!」
槍を構えている歩兵隊に向かって、高順達は自分の得物を下から斬りあげた。
横列に並んでいた歩兵の槍以上の長さである応竜偃月刀と三刃槍に斬り散らされた兵士数人が、悲鳴と血しぶきを上げて倒れる。
幾人かの歩兵が槍で突いて来たものの、虹黒は一度棹立ちになり、タイミングを合わせて槍の穂先を前足で踏み倒した。
「うわぁ!?」
その衝撃に耐えられなかった歩兵は弾き飛ばされ、高順に斬り付けられて胴を寸断された。
高順はそのまま真っ直ぐに進撃、高順と張遼の攻撃で歩兵隊が蹴散らされて布陣に穴が開き始めた。
趙雲隊はその穴に向かって一気に突撃、更に傷口を広げていく。
沙摩柯・蹋頓の部隊は態勢を立て直そうとしている曹操騎馬隊と歩兵の牽制に回って意識を自分たちに向けさせている。
「ええい、不甲斐ないっ・・・!」
状況を見ていた曹操は歯噛みしている。
どうも相手の戦力を読み違えたらしい。向こうの被害もあるようだが、それ以上にこちらの被害が大きい。
こうなったら親衛隊を投入して、自分自身も赴く必要がある。
曹操自身、夏候姉妹と実戦そのものの特訓を繰り返しているためか、姉妹と同等の戦闘力を有している。
指揮官である為に自分から斬り込んでいくことは殆ど無いが、こういう時には武人の血が騒ぐらしい。
見れば高順・・・というか、虹黒の突進で歩兵部隊はかなり深い部分まで崩されている。
あのままでは夏候淵率いる弓兵部隊まで到達するのは時間の問題だ。
典韋と親衛隊の一部を夏候淵の救援に向かわせて、自分と許褚は歩兵隊の援護、敵騎兵隊を押し返す。
数の差はあるので決して負けはしないだろうが、放っておけば傷は大きくなって、これ以降の展開に大きな支障をきたす。
(もう・・・ここまで高順と張遼がやるなんて・・・春蘭もいつまで手こずっているの・・・!?)
曹操は、苛つきながらも指示を出し、自身も出撃した。
(高順、舐めるんじゃないわよ・・・!)

防御を固めた曹操軍歩兵隊の陣形だったが、高順の開けた穴が大きな傷となって騎馬隊の侵入を許していた。
内部まで斬り込まれている歩兵隊には為すすべも無く、何とか隊形を組みなおすために踏ん張っているが苦戦を強いられている。
高順自身はすでに弓兵部隊まで斬りこんでいるが、曹操軍の「少数を囲むために横に長く布陣した」事が高順達にとって有利なだけに過ぎない。
曹操ですら予測しきれなかった突破力で進んでこれたが、それもここまでだ。
時間をかければ間違いなく囲まれるだろうし、早く見切りをつけて撤退をしたほうが良い。
張遼も同感らしく、直ぐに退くべきだと思った頃に数本の矢が高順めがけて飛んできた。
高順は舌打ちしながらも、槍を旋回。すべての矢を叩き落した。
だが、左側から一本だけ・・・僅かな時間差で飛んでくる矢があった。
その矢は張遼へと向かってくるが、彼女の死角になって見えていないようだ。
「・・・くそっ!」
三刃槍を左手に持ち変える余裕はなく、仕方無しに左手を覆う小手でその矢を止めた。
鉄と青銅を重ねて拵えた小手だが矢の威力は相当なもので、矢じりが腕に突き刺さるほどだった。
もし小手がなければ貫通しただろう。よほどの強弓で放ったらしい。
その上、かなりの無理をして腕を伸ばしたために、態勢を崩して虹黒から転げ落ちてしまった。
「いでっ!?」
「な、順やん!?」
張遼は虹黒を促して高順の元へ駆けようとするが、高順自身は「来なくて良い、一箇所に留まらないで!」と叫ぶ。
一箇所に留まって勢いを失えば、弓で射倒される。
張遼も虹黒も理解しているようで、そのまま兵を蹴散らしながら戦場を駆け回る。
「後で拾いに来るからなっ、それまで死ぬんやないで!?」
はいはい、と手を振って返事をする。
高順は周りを見渡す。弓を手にした兵士達に囲まれているが、兵達は近接戦闘用の剣に持ち替えているものも多い。
そんな中、兵たちが歩いてくる1人の女性のために道を開ける。
歩いてくる女性の名は夏候淵。

「ふぅ、ふぅー・・・。」
夏候惇と華雄を始めとした4人の戦いは未だに続いていた。
両方、一歩も譲らずといった戦いが続いているがお互いに息が上がっている。
何よりも気になるのが曹操軍が完全に圧されているという状況だ。
夏候惇としては1人か2人討ってから退きたいところだったが、この状況では少し自信が無い。
どうしても本陣の事が気になってしまっている。
無念だが、仕方ない・・・夏候惇は太刀を構えた。
「ここまでだな・・・決着はまたの機会、ということにしておくぞ!」
「次のだと・・・? うぷっ!?」
言うが早いか彼女は太刀を、地面を切り裂くように振るった。
その軌道に沿って土煙が華雄らに向かっていく。
「くっ・・・逃げられたか・・・!」
煙が晴れたときには、夏候惇は曹操本陣へと走っていた。
「華雄姐さん、どうする? 今なら追いつけるかもしれへんけど・・・。」
「・・・。いや、辞めておこう。高順達もそろそろ退いて来るはずだ。かち合わなければいいのだがな・・・。」
華雄側にも余裕があるわけではない。
干禁も疲労で動けなくなっているし、楽進も気を使いすぎてへばっている。
華雄は干禁に肩を貸して、李典・楽進と共に関へと退いて行った。

「高順、これだけの数に囲まれているんだ。降伏を勧めるぞ。」
夏候淵は油断なく高順に弓の照準を合わせ勧告をする。
事実、これだけの兵士に囲まれている状態で勝てるとは高順も思っていない。
「降伏、ね・・・。前にも言いましたが、俺みたいな奴が曹操殿の器に入れる資格があるとお思いで?」
思っていなくても、これまで修羅場に近い戦場に身を置き続けた武人の性であろうか。
高順は我知らず三刃槍を構えている。
「さぁ、な。それは華琳様が決めることだ。私個人の考えで言えば本心から降って欲しいと思っている。」
武器を構えあいながらも、穏やかな話口調である。
「へぇ・・・どんな評価をされているやら。」
「というか、本気で頼む。姉者と荀彧(高順は彼女の真名を知らない)の仲裁をする奴がいないせいで、私も華琳様も胃が痛いんだ。」←若干遠い目
「・・・何と言うか、ご愁傷様と言うか。そんな仲悪いのかあの二人・・・。」
そういや荀彧って奴は前に会ったことがあるっけ。随分気性の荒いことは覚えているが・・・惇さんとは犬猿の仲っぽいな。
「ま、俺は曹操殿に仕えるつもりはありませんよ。どうしてもと言うなら・・・。」
「む、そうか・・・そうだろうな。」
高順の戦気の高まりを見て、夏候淵は納得したように笑みを浮かべる。
あの姉にしてこの妹あり。普段は冷静に見える夏候淵も、好敵に相対すれば武人の血が騒ぐのだろう。
「では。」
「始めるか。」
静かに言葉を交わした二人。
一騎打ちにしたわけではないが・・・高順と夏候淵の戦いが始まる。

趙雲は自身に斬りかかってくる兵を返り討ちにしつつ、ひたすらに突き進んでいた。
そこで、虹黒に乗った張遼と出くわす。
「張遼殿・・・何故貴女だけが虹黒に!? 高順殿は・・・」
趙雲同様、張遼も自分を止めようと群がってくる兵士を蹴散らしつつ趙雲と馬を並べる。
「うちの不注意でな、順やんが弓兵隊のど真ん中で転がり落ちたんや!」
「・・・はぁぁぁぁ!!? それは不味すぎるだろう!?」
「わーっとる! せやさかい今から迎えに行くんや。趙雲には、退路確保してもらおう思うてな、頼めるか!?」
2人とも、向かってくる兵を物ともせずに斬り散らす。多少の疲れはあるがまだまだいける。
「・・・ふむ、承知した。必ず連れ帰るように、宜しいな!?」
「合点承知、任せとき!」
張遼と趙雲は馬首を返した。自分の仕事をする為に。

「しっ!」
「むっ・・・!」
夏候淵の速射を高順はぎりぎりのところで避け続ける。
高順と夏候淵の戦いはほぼ互角と言う状況だった。
距離を詰めようとする高順、距離を開けようとする夏候淵。
どちらかと言えば有利なのは夏候淵だ。
彼女は「一騎打ち」を申し込んだ訳ではなく、周りにいる兵士と共に攻撃を仕掛けてくる。
弓兵といえど剣くらいは所持しているし、「もう少しで自分の得意とする距離に」と動き続けても兵に邪魔をされる。
その上、夏候淵は矢を連続速射で放って来て中々に付け入る隙が無い。
高順の左手の傷は大したことはないが、疲労のほうが大きくなって来ている。
このままでは・・・体力が無くなって捕縛→曹操への臣従拒否→斬首。の史実まっしぐらの状態に陥る。
自分だけの死で済めばまだしも、後追いしそうな人が若干1名いるのが洒落にならない。
そんなこともあっていまここで捕縛される訳にはいかない。
2人の戦いは尚も続くが、この辺りになるとすでに兵士が手を出せる領域ではなくなり始めていた。
両者、兵士達の間をすり抜けるような動きをするわ、高順の振り回す槍で巻き添えを食らう兵もいるわ。
夏候淵も余裕があるわけではなく、速射・連射をすると言ってもこの状況ではどうしても兵士を巻き込んでしまう。
その為に兵士が距離をとり始めて、結局は一騎打ち同然の状況だ。
夏候淵は後ろ、横に飛び跳ねて何とか距離を置こうとするが高順は次第に追いつき始めている。
(くっ・・・黄巾の時はそれなりの腕だったが・・・。やはり、見るだけと実際に戦うでは勝手が違うか・・・)
孫家を蹴散らした事で高順の強さは理解したつもりだったが、自分自身で戦ってそれが実感できた。
距離を詰められれば、自分では手が出ないほどの腕前だ。
近距離や格闘での戦いの心得はあるものの、目の前の男に通用するかどうかは疑問だ。
僅かな焦燥感を押さえつけながら夏候淵は腰の矢筒を探るが・・・
(・・・ち、不味ったか!)
思わず夏候淵は舌打ちをした。矢を放ちすぎたせいで、残りの矢数が僅か数本になっている。
そこまで数が減ったらすぐに解りそうなものだが、それを感じる余裕が無かったという事だろう。
そこで、僅かといえ動きを止めた事が夏候淵を更に不利にした。
高順の接近を許してしまっていた。それも、彼の持つ槍があと少しで届く、というところまで。
夏候淵は残り数本となった矢を引き抜いて高順に向けて放つ。
が、高順は三刃槍の刃を地面に突き刺して、まるで棒高飛びのように飛び上がって矢を避けた。
夏候淵が知るはずもないが、丁原が呂布との戦いで倒れた時、高順が呂布に仕掛けた不意打ちだ。
当然、上からの攻撃が来ると考えた夏候淵は自分の弓「餓狼爪(がろうそう)」を高順に向ける。
しかし、予測していた攻撃は来なかった。どころか、高順は夏候淵を飛び越えて、彼女の後ろに着地していた。
三刃槍を支点として、飛んだのである。
「馬鹿なっ・・・!」
夏候淵は慌てて後ろを向くが遅かった。
「はぁっ!」
高順は右拳で、夏候淵の左腋に下からえぐり込むような一撃を喰らわせる。
「ぐぅっ!?」
彼女は左肩に肩鎧を装備してるが、下からの攻撃には無力だ。
しかも、「ごぐんっ」と嫌な音がした
(くう・・・、肩の関節が外されたかっ・・・。しかし!」
夏候淵は仕返しだ、と右手に持つ餓狼爪を横薙ぎに薙いだ。
装飾の美しい弓だが、振りぬく速さにっては装飾部分で人を殺傷する事もできる。
高順は驚くことも無く、左手で夏候淵の右腕を閻行譲りの「握撃」で掴んだ。
本気ではなかったが、やられた本人にとっては溜まったものではない。
思わず弓を取り落とした彼女の左肩に、高順は更に踵落しを見舞う。
「う、がぁあっ・・・!」
さしもの夏候淵といえど、右腕を凄まじい握力で握られ、間接を外された左肩に追撃を喰らってはひとたまりも無い。
その場に蹲って痛みに耐えている。
この時、斬ろうと思えば斬れた(高順の両肩鎧には刀が設置されている)のだろうが、高順はそれをしなかった。
なんと言うか、緑色の髪に青色のリボン(?)をつけた小柄な少女がこちらに向かって猛進してくるのが見えたのだ。
年の頃はどう見ても10代前半から半ば。
手には紐付きの巨大円盤・・・見た感じではヨーヨーに見えるが、そんな物を持っている。
「秋蘭様ーーー!」とか叫んで凄まじい勢いだ。
少女は曹操親衛隊の一人で、許褚と互角の力量を持つ典韋である。
典韋は夏候淵を姉のように慕っており、夏候淵も典韋を可愛がっている。
夏候淵はそちらに顔を向けた。
しかし、すぐに表情を凍りつかせて「流琉(るる、典韋の真名)、後ろだ、横に飛び退けっ!!」と叫んだ。
典韋も何かに感づいたらしく、直ぐに横に飛んだ。
瞬間、今まで典韋がいた場所を凄まじい斬撃が通り過ぎた。
「えっ・・・ええ・・・?」
後もう少しで典韋は体を真っ二つにされていただろう。あまりのことに、典韋は呆然となって座り込んでしまっていた。
斬り付けたのは虹黒に乗った張遼。後もう少しだった、とばかりに舌打ちをして高順を目指し疾走する。
既に、虎牢関から出撃した騎馬隊は撤退に入っている。張遼は約束どおり高順を迎えに来たのだ。
爆走する虹黒を止められる者などいるはずも無く、無人の野を疾駆するかのように駆ける。
高順は地面に刺さったままの槍を抜いて「おーい」と手を振る(なんでこんなに無防備なのだろう?
夏候淵は痛む両腕を庇いあいつつ、高順を睨んだ。
「っ・・・高順、貴様・・・私を見逃すというのか!?」
「うん。」
「な・・・そんなに簡単に返事をする馬鹿が「ここにいますが何か。」・・・。」
普通、こういう場合。何があろうと敵将の首を討つのが当然の流れだ。
あれほどの戦いが出来たのだ。ここで討たれたとしても、華琳様は私をけなしたりはしないだろう。
それなのに・・・その流れを無視するとは、どこまで阿呆なのだ。
「高順、後悔するぞ・・・? 情けで私を生かした事を、必ず!」
「その時はその時です。・・・これで借りは返しましたからね。」
「借り・・・? 高順に貸しを作った覚えは・・・。」
いつのことだ、と聞こうとする彼女に高順は背を向けた。
「っと、来たな。」
「よっしゃ、そのまま手ぇ伸ばしときっ!」
張遼は左手に応竜偃月刀を持ち替えて、右手で高順の手を掴み、引っ張り挙げた。
「いよっし、成功や! 虹黒、そのまま行けやぁ!」
「ふむ、最初と逆になったねぇ。じゃ、胃には気をつけてねー。」
高順は張遼の後ろになり、夏候淵に手を振った。
「待て、借りとは何だ!?」
「楽進達の村が襲われたとき、俺が曹操殿に救援求めに行ったでしょ。あの時、淵さんが口を利いてくれたからねー!」
「は? まさか、あんな程度で・・・。」
夏候淵の言葉は、高順には届かない。
あの調子で行けば、そう時間もかからずに戦場を離脱するだろう。
「・・・おかしな奴だ。」
「し、秋蘭様ー。」
よたよたと歩きながら典韋が寄って来た。
「む・・・。流琉か。大丈夫か?」
「それは私の台詞だと思います。・・・腕のほうは大丈夫ですか?」
典韋は心底心配そうに夏候淵の腕をさする。
夏候淵は微笑んで「大丈夫だ、左肩は骨が折れたかも・・・ん。」
ここで、彼女は1つ気がついた。
今でも激痛が残る左肩だが、あの嫌な感じ・・・関節の外れた感覚がなくなっている。
痛みはあるが、きっちりと左手が動くのだ。
「あいつ・・・ふ、はは。本当におかしな奴だ。」
「秋蘭様?」
何故笑うのか、と不思議そうに夏候淵を見上げる典韋。
「あいつめ。自分で肩を外しておいて、肩の関節をはめ直したと言うのか。ふっ、なんと言うか・・・」
ただの偶然だろう、と思うが何か可笑しい。
「・・・。おかしなところで、律儀な奴だな。」
本当に武将に向いていない。それどころか失格だろう。
ここまで派手に負けて、普通は憎悪の1つや2つ抱いても不思議ではないだろう。
しかし、借りを返す事を重視したり、その気は無かったかもしれないが結果的に肩の関節をはめ直したり。
その、おかしな・・・愚直なまでの律儀さに可笑しさがこみ上げて来てどうにも憎めない。
「まったく。おかしな気持ちにさせてくれる。」
夏候淵は苦笑して首を振った。


虎牢関から出撃した部隊は、既に撤退を始めており、殿を務めているのは張遼・高順であった。
一時期、囲まれていたようだが趙雲が早めに後退、包囲網を突き破ったために被害は少なく済んだようだ。
「ふぅ、趙雲殿に感謝・・・いや、皆だな。虹黒も張遼さんもご苦労様。」
高順はほっと胸をなでおろしていた。
自分の作戦のせいで死んだ敵味方のことを思えば、気持ちが重くなってしまうが・・・これもまた、自分の武将としての責任だ。
こうやって、戦い続けて、自分も何時の日にか戦で逝く時も来るだろうがソレは今ではない。
「にひひ、せや、うち頑張ったんやで。これでまた貸しが1つ増えてn「閨はないですからね?」ぐむむっ・・・。」
と、またしても張遼と緩い会話をしていたところで、前方に土煙が濛々とたっているのが見えた。
「ん。あれ何や・・・ろ。」
「おぅ、じーざす・・・。」
張遼は驚き、高順は手で顔を覆い。
その土煙を巻き上げているのは・・・夏候惇であった。
前方にいる騎馬隊も、彼女の勢い(徒歩なのに)驚いて道を譲るような格好になっている。
「って、おい、順やん、後ろもまずいで!」
「・・・うわぁ・・・。」
後ろを振り向いた高順の目に移るのは曹操軍の追撃隊だった。
けっこうな数がいて、すぐ追いつかれるようなことは無いが・・・。
「こーうーじゅーんー! ちょーりょーーー! こーーうーーこーーくーー!!!
前方にいる夏候惇の雄叫びが聞こえてくる。
確実に自分達を・・・いや、どちらかと言えば虹黒を狙っているのが良くわかる雄叫びだった。
「ど、どないする・・・?」
徒歩の癖に、馬のような速度で迫ってくる夏候惇。
後ろからは追撃隊。さぁ、どうする・・・?
と、いつの間にか直ぐ目の前まで距離を詰めた夏候惇が一気に跳躍した!
「逃がさんぞぉっ!」
裂帛の気合とともに太刀を構える。
『ちっ!』
張遼と高順が同時に舌打ちをしたその時。
虹黒が今まで見せたことの無い凄まじさで一気に加速した!
「な?」
「おお!?」
「はぁっ!?」
・・・説明すると、夏候惇はジャンプして虹黒・・・というか張遼か高順に太刀で斬りかかろうとしている。
当然、虹黒が着地点に「いる」ことが条件だ。
ところが、虹黒は予測を超えた加速力で一気に駆け抜ける。当然、着地点の予測も外れる訳で。
夏候惇は内心「や、やばい・・・」と冷や汗をかいた。
この流れは、絶対いつものアレだ!
慌てて太刀を引っ込めて態勢を変えようとするが、ソレは間に合わなかった。
一気に馬首を返した虹黒(制御不能)も跳躍、夏候惇の背中に頭突きを見舞った。
「ぐはぁぁっ!」
「またか、またこのオチかー!?」
「何や、何が起こってんねん順やんー!?」
3人の悲鳴も何のその。
地面に落っこちた夏候惇、そして着地した虹黒。
「ぐ、ぬぬぬ。何のこれし・・・。」
痛みに耐えて立ち上がろうとした夏候惇。
しかし、それよりも早く虹黒の前足が彼女を思い切り踏みつける!
「どああっ!」
「やっぱりだよ、やっぱりだああ!(涙」
「だから何事やねん!?」
嘆く高順、混乱する張遼。
曹操軍最強の夏候惇が「馬」に足蹴にされる状況に、呆気にとられて立ち止まる追撃隊。先頭には許褚がいたりする。
「し、しかしこの夏候元譲! 一度や二度踏まれたところで・・・げふっ!?」
これまで、何度も虹黒に蹴り飛ばされ続けてきたことで、耐久力も上がっただろうが・・・やはり甘かった。
虹黒はそのまま前足でのストンピングを開始した。
げしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげし!!!
「ぎょええあああああああっ!}
「だああああっ、虹黒、やめてー! 惇さん潰れるから! 潰れた真っ赤なアレにーーー!!!?」(張遼、既に沈黙
高順の叫びにも、虹黒は反応しない。ぼろぼろになって「あ、ぐ・・・おおお・・・」と呻く夏候惇の服を咥えて「ぽいっ」と空中に放り投げて・・・。
これで終わりだ、とばかりにとどめの後ろ足蹴りで思い切り蹴り飛ばしたのであった。
ぴひゅううううううぅぅぅぅぅううぅぅう・・・・・・と追撃隊に向かって吹き飛ぶ夏候惇。
呆気にとられていた許褚が流石に気がついて「わ、わわわっ!?」と夏候惇を受け止めようと動き出すも、それも遅かった。
彼女の体を受け止めたはいいものの、勢いが付き過ぎていた為に、許褚まで地面を転がりまわる羽目に。
「うぇええええええええええええええええええええっっ!?」
「わー!?」
「どわああっ!!?」
哀れなのは、巻き込まれる一般兵である。
まるでボーリングか何か・・・いや、ドミノ倒しでもいいのだが、連鎖反応で多くの兵士が巻き込まれていた。
その哀れなドミノ倒しが終わり、地面に倒れている夏候惇。
彼女の体を受け止めて「はらほろひれはれ・・・」とぐったりしている許褚。
夏候惇は気絶しておらず、動かぬ体を持て余しつつ空を仰いだ。
抜けるように青い空を見ていた夏候惇の目に、ふと涙が浮かぶ。
「・・・また、馬鹿にされた。・・・う、ぐす。ふぇっ・・・ううぅ・・・かりんさまぁ、しゅうらぁ~~ん・・・」
敬愛する主君と、大好きな妹の真名を呼び、曹操軍最強の将は悔し涙を流すのであった。



虹黒はしてやったり、とばかりに「ふんっ!」と鼻を鳴らして再び関へ向かって駆け始めた。
「・・・あの、虹黒さん。どうして貴方はそこまで惇さんを嫌っているのでしょうか。」
何故か敬語の高順であった。
虹黒には明確に夏候惇を嫌う理由がある。
陳留で、夏候惇は「虹黒を譲れ」と高順に太刀を突きつけたのである。
その上、自分の体に(仲良くしようとしていたとはいえ)触ろうとしている。
性格が丸くなったとはいえ、一度抱いた嫌悪感はどうしようもないらしい。
「・・・ま、まぁ。虹黒のおかげで無事に帰還できそうやし。ありがとな、虹黒。」
「ぶるる。」
張遼の労いに、虹黒は嬉しそうに鳴いた。
高順も「あとでリンゴとか人参とか沢山食べさせよう」とか思っている。
「な、ところで順やん。」
「・・・はい、何です?」
張遼はにひひ、と笑って後ろの高順へ顔を向けた。虹黒の背中に乗っているのだから、二人は密着している。
張遼の顔は心なしか赤くなっている。
「あんな、さっきから言おう思てたんやけどな。順やんの左腕、しっかりとうちの腰に回っててな。」
「え・・・? はぁっ!?」
特に意識していなかったが、いつの間にか張遼の腰に手を回していたらしい。
慌てて離そうとするが、張遼は自分の手を重ねて離そうとしない。
「ええんやで? うちは嬉しいし。・・・にひひ、ところでもう1つ。うちな、下着はあまりつけへんねん。」
「!?」
そう、彼女はかなり露出の高い服装であった。
上は胸にさらしを巻いて、肩から服を羽織っているだけ。大きな動きをするたびに豊満な胸が「たぷん♪」と揺れる。
下は・・・何だろう。この時代には無いはずだが巫女服のようなもので、実際に下着を着けていない。しなやかな太ももがきっちりと見えている。
見慣れた、ということもあるし、張遼の場合は蹋頓のような「妖艶な色気」ではなく、「健康的な色気」と言ったほうが解り易い。
彼女のざっくばらんな性格もあるのだが・・・こう、面と向かって言われると嫌でも意識してしまうのが男の性である。
「そ、それが何か・・・って、ちょっと、俺の手をどこに持っていこうとしますか!?」
張遼は開けっぴろげになっている太ももに高順の左手を導いた。
「えー、ええやん。知らぬ仲でもあるまいし? んっふふ、このまま、太ももと太ももの間、触れてもええんやで・・・?」
「は、はぁー!?」
高順を見つめる張遼の目に、艶っぽい何かが見え隠れする。
「指先くらいなら全然大丈夫やで? 遠慮せんでもええやんか。」
「普通に遠慮するわ、何言っちゃってんのこの人!?」
「・・・あ、そか、いきなり下は時間的に早いってことやな。せやったら」
張遼は高順の左手を豊かな双丘、ぶっちゃけさらしに巻かれた乳房に持ち上げた。
むちぃっ・・・と、柔らかく甘やかでしっとり(以下省略
「ぎゃああああっ!? 柔らかいけど、傷! 矢が、血がー!?」


帰還後、関からそれを見ていた楽進にきっちり説教をされつつも癒術を受ける高順であった。
「まったく、戦場だというのに! どうして隊長はいつもいつも・・・(ブツブツ)」
「・・・。(俺、何も悪くないですよね・・・?)」



この戦いの高・趙・張騎馬隊の死亡者は400前後。負傷者を含めれば更に多かっただろう。
対して曹操側は死亡者、負傷者を含めて1000弱。
油断があったとはいえ、曹操軍もまた孫策同様手痛い敗北を喫したのである。

ここまで来れば、高順と、彼の騎馬隊の実力を疑うものは無かった。
戦上手の孫策を打ち負かし、河北の勇者である張郃、曹操の配下である夏候淵を圧倒した男。
異民族を信服させ、多くの勇者を擁する、どこからか現れた無名の将。
いつしか彼は連合軍、そして仲間内からもこう呼ばれるようになっていく。

どれほどの陣でも凄まじい攻撃力で切り裂いて行く騎将。
どれほどの戦上手でも彼の者と正面から相対するを躊躇うほどの武将。
黒き巨馬に跨り、圧倒的な突破・走破力で戦場を縦横に駆ける髑髏龍の武者。


攻めた敵陣を必ず陥落させる豪将。
即ち「陥陣営」と。



後々、高順は周りの人にこう言ったと伝えられる。
「過大評価極まれりってこういうことを言うんだよ!!」




~~~楽屋裏~~~
我はえろちかーあいつ(挨拶
意味が解りませんね、私にも解りません。
今、ふと思ったこと。

出たら負け武将:劉備・孫権(史実準拠
出たらエロ武将:黄蓋・厳顔・黄忠(恋姫準拠。あいつシナリオで言えばと~とんね~さんも?


やっぱり意味が解らない。

これで本格的に高順くんが乱世の諸侯に名を知られ(?)ました。
本人、すっげぇ嫌そうですけどねw

しかし、まさか淵さんに勝つとは。・・・まぁ、正史では惇さんにも勝ってしかも目も奪ってるんだから・・・良かったのかなぁ(汗
それと、華雄姐さんたちも善戦しました。
あいつシナリオではオフィシャルブック?の強さ準拠ではないのでこれもありかな、と思います。思いたい。
ま、呂布最強なのは動きませんけどね。魏武最強が強さ指数4とかどういうことかと。
・・・え? 虹黒? なにそれ?


・・・きょちょと、惇さんの名前間違えてた(吐血

さて、これで虎牢関も終わる・・・終わるか?(汗
では、また次回お会いしましょう(ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第54話 虎牢関。幕間その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/26 23:26
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第54話 虎牢関。幕間その2。

連合軍。
野望を胸に集った諸侯の士気は崩壊していた。
曹操ですら負けてしまった事で、ただでさえ低かった戦意が根こそぎ刈られた、というべきかもしれない。
何より、虎牢関を真正面から抜けそうに無い、という現実。
このままでは大した戦果も無く解散・・・などという事態になりかねない。
ここで解散してしまっては連合軍に対して、孤軍といっても良い状況で戦った董卓軍に敗北したという事になるのだ。
そこで、曹操は袁紹に策を「提言」した。
袁紹は真正面から攻め落とす事に固執していた為、難色を示したが「じゃあ、ここで負けを認めて解散するというのかしら?」と言われ「そんな筈がありませんわ!」と意地を張ってしまった。
その策、というのは・・・簡単に言えば「虎牢関を諦めて洛陽を直接攻める」というものだった。
「まず、総大将である袁紹殿が汜水関付近で守りを固める。汜水関自体は捨てて構わないわ。むしろ、董卓に再占拠させて戦力を分散する、位のつもりで行くべきね。そして、我々は洛陽付近の要害を取る。」
一気にまくし立てていく曹操。彼女は反論を許さぬ強い口調で一気にまくし立てた。こういった事は勢いが一番だ。
何せ、利だけで繋がっている諸侯。
ここまで負けが続くと瓦解しかねない。
「要害?」と、誰かの言った声に曹操は深く頷く。
「南陽(なんよう)の北部付近ね。太谷(たいこく)一帯を占拠して・・・そうね、袁術殿が宜しいかしら。」
「は!? なぜ妾が出なければならぬのじゃ!」
袁術は抗議の声を上げるが無視して曹操は続ける。
どうせ、洛陽一番乗りを目指しているとかそんな理由だ。先ず最初に案だけ出して、人選は後で決めれば良い。
「西に向かって武関(ぶかん)を占領。長安(ちょうあん。現代の西安である)に圧力をかけるのよ。そうすれば長安で「態度を決めかねている連中」を動かせるでしょう。ねえ、袁紹殿?」
「・・・ふ、ふん! そんな程度の事、私も考えておりましたわ!」
(・・・嘘ね。)
(嘘ですね)
(っちゃー・・・解りきってる嘘っすよ、麗羽様・・・(れいは、袁紹の真名))
曹操に話を向けられて不機嫌そうにそっぽを向いた袁紹を見て、曹操と、袁紹配下の将である文醜(ぶんしゅう)と顔良(がんりょう)がため息をついた。
「態度を決めかねている連中」というのは、董卓の将で長安を預かる李傕(りかく)・郭汜(かくし)、そして董卓の親戚に当たる牛輔(ぎゅうほ)である。
彼らは董卓に敵意を持っているわけではないが、連合軍有利と見て自分から(袁家に)使者を出して繋がりを持っていたのだ。
洛陽を陥落させ董卓を倒す事に協力したら、という条件付ではあるが・・・金なり褒美なり与えると言うことになっている。
が、彼らの目的はそこではなく董卓その人にあった。
彼らの思惑を一言で言うと「董卓たん(;´Д`)ハァハァ」とか「董卓たんにえろえろな服着せて(;´Д`)ハァハァ」・・・。

どう見ても道徳上許されない変態です、本当にありがとうございました。


彼らの思惑はともかくとして。
王允一派の中に楊彪(ようひょう)と言う人物がいる。
この男、妻に袁家ゆかりの女性を迎えており、その縁を使って袁紹との繋がりを作ったのである。
賈詡(かく、董卓の軍師)も王允派の動きに感づいてはいるが、流石にそんな裏の話まで走らない。
連合側である曹操はこの話を当然知っており、策に使おうといっているのだ。
ただ、もう1つの問題がある。
「なるほど、曹操さんの作戦はわかりましたわ。ですが! 私は残りません。誰か他の人を残しますわ。」
「・・・はぁ、参ったわね。汜水関の抑えは必要なのに・・・。」
・・・総大将、袁紹の我がままである。
彼女も袁術同様「洛陽一番乗り」を目指している。
誰が一番乗りでもいいのだが、彼女は自分こそがソレを成し遂げる、と言って聞かないのだ。
予測はしていたが、これを断られると困るのは曹操だ。
現在、虎牢関に篭る軍勢が5万強。
こちらの兵力は20万を超えていたはずが何時の間にやら1割以上減って17万強。
5千の兵を削るのに3万の兵を失っているのだ。
どの諸侯も磨り減っているが、袁紹だけは大した損害が無く、その上一番の大兵力。
汜水関を再度占領させるとして・・・半分の兵を裂いたとしても2万数千。
その汜水関の牽制を、袁紹にして欲しかったのだが・・・やはり、彼女の我侭街道まっしぐらな性格では無理だった。
彼女には連合軍総大将としての矜持があるだろうし、やはり無理か。
さぁ、誰か代役を立てなくてはならないわね、と思ったところで一人の武将が手を挙げた。
「ならばその役、私が引き受けましょう。」
「貴方・・・鮑信(ほうしん)!?」
鮑信、と呼ばれた武将・・・女性だが、自分の席から立ち上がった。
鮑信。彼女は曹操と盟友に近い間柄と言える。
歳は曹操よりわずかに上と言ったところだが、まだまだ立場の無い曹操を積極的に支援する数少ない人間だ。
傲岸不遜なところが若干ある曹操も、彼女には感謝しているようで立場を超えた友人と思っている。
この戦いの後、数年とせずに亡くなってしまう鮑信だったが・・・。
その後も生きていれば、間違いなく曹操の将となって重要な地位についていただろう、と言われる程の実力を兼ね備えた英傑。
「曹操殿の言う通り、汜水関の抑えは必要でしょう。向こうから積極的に責めてくると事はないと思われる。まあ、迫られれば勝ち目が無いので逃げさせていただきますがね。」
肩を竦めるように言う鮑信だが彼女の手持ちの兵力は1万以下であり、逃げるのはごく普通の選択だろう。
もっとも彼女の事だから、また兵を集結させて抑えを続けるだろうな、と曹操は考えている。
結局、武関にいくのは袁術ではなく張邈(ちょうばく)・袁遺(えんい)・劉岱(りゅうたい)になってしまったが、それ以外は概ね曹操の思惑通りになった。
虎牢関を力攻めしたところで無益、というのを理解していたからこそあっさり決まったのだろう。
最後に、陣幕を出る時に曹操は鮑信を肩を並べて出て行った。
「損な役を押し付けたわね、鮑信。」
「あら、曹操ちゃん。いやねぇ、貴女と私の仲じゃない?」
さきほどの口調から一転、砕けた感じの話しようである。
他の人が真似れば即斬り捨てられそうな口調だが、鮑信相手では曹操は文句を言いもしないし、相手が誰であれ物怖じせず対等に付き合う鮑信の性格に、曹操は好意を抱いている。
流石に、諸侯のいる前では慎んだようだが普段から鮑信はこんな感じだ。
曹操は、自分より背の高い彼女を見上げるように言った。
「借りと思っておくわよ。」
「あら、私は忘れてると思うけど。」
「ふっ、言ってなさい。・・・董卓を降した後、また会いましょう。」
「はいは~い、期待して待ってるわよー。」
彼女達はお互いの拳を軽く打ちつけ合ってから、自分の陣へと向かっていった。

数週間後、汜水関にて。
「・・・来ないねぇ。」
「来ませんね。」
「来ぃへんなぁ・・・。」
高順、楽進、張遼は関の近くに陣取る鮑信隊を見て呟いた。
曹操たちが動いて数週間。
高順達は、虎牢関から慌しく退いた連合軍を追って、李典・干禁(そして全ての投石器)を加えた形で汜水関へと向かった。
虎牢関を守るのは呂布と華雄のみである。
ただ、おかしなことに・・・連合軍が汜水関にいないのだ。
言葉通り、もぬけの殻である。
ごく普通に占領したが、罠があると言うわけでもない。
占領した後に「鮑」旗の一部隊が現れたが、全く攻めてこない。目の前で適当に時間をつぶしていると言うか。
その癖、きっちりと守りを固めている。一度、攻めてやろうと部隊を繰り出したのだが、鮑信軍は蜘蛛の子を散らすようにあっさり撤退。
拍子抜けして関に戻れば、また直ぐに集結して・・・という、そんな感じだ。
攻めてくるわけでもない、攻めればあっさり散る、そしてまた集まってくる・・・。
(時間稼ぎか。しかし・・・うーん。)
流石に怪しい、と高順は河内(かだい、洛陽、虎牢関の北にある都市)に「影」である楊醜・眭固。
それに、いつの間にか増えていた馬日磾(ばじつてい)を向かわせて情報収集に当たっている。
連合軍は南のほうヘ向かったので意味は無いし、見当違いともいえるが直ぐ近くの河内に向かっていると思うのは不思議な事でもない。
この辺り、戦術には適応できても戦略に適応できていない(というか経験が無い)高順の弱点が諸に出てしまっている。
同時期に洛陽が連合軍と王允、董卓を裏切った長安軍に攻められて陥落していることも、当然知らないままである。

洛陽は戦火に包まれていた。
洛陽守備隊が目前まで迫っている連合軍に気付いた頃には、何もかもが遅い状態だった。
賈詡は何とか東・・・虎牢関守備隊に救援要請を送ろうとしたが、周辺を完全に囲まれ、西からは長安を守っているはずの李傕の軍。
内部では王允一派が蜂起、混乱に乗じた連合軍と王允派兵士の手で城門まで突破されてしまった。
2万の兵で守備を固めていれば虎牢関から援軍も来ただろうが・・・。
連合軍がここまで来る事に気がつけないことにも問題がある。
だが、ほぼ全戦力を虎牢関・汜水関に集めなければならない董卓側に、他の拠点に千も2千も回す余裕など無かった。
所々の関所には連絡用の兵士を配置していたが、曹操の策に引っ張られた形の連合軍は凄まじい速さで攻め入った。
数十人、多くて百人程度の関所守備兵に、数万の軍勢を抜いて洛陽まで突っ切れ、と言うのも無茶な話ではある。
昼夜兼行、夜影に紛れて各拠点が攻略され、洛陽まで情報が行き届かなかったとはいえ、連合軍の進撃速度は大したものであった。
政庁にいた董卓は覚悟を決め、その場で自害をしようとしたが、賈詡や張済が説得をした。「まだ虎牢関と汜水関の兵力がある。東の地に逃げて再起をするべきだ」と。
「董卓という存在がいる限り、連合軍はどこまでも追ってくる。これ以上皆を巻き込む訳には」と拒否する董卓。
それでも賈詡は粘り強く「なら、あんたが世間的に死んだことにすればいい。こんなとこで諦めるんじゃないわよ!」と説得を続けた。
おかしなところで強情なのは董卓も賈詡もそっくりである。
これ以上は埒が明かぬ、と張済は董卓に当身を食らわせて気絶させた。
「さあ、軍師殿。我々はどう動けばよいのです!」
「・・・あ、え!? まさか、張済がそんな強硬な・・・じゃない。東門を抜けるわ。張繍が突破部隊を。あんたは月(ゆえ、董卓の真名)を守って一緒に退きなさい!」
「承知!」
「あと、適当に陽動部隊を繰り出すべきね。連合軍は南門を突破しているけど、そこに意識が集中してる・・・もしかしたら、奴らはソレを狙ってるかもしれないけど。」
虎牢関と汜水関に残る軍勢と、今手元にある兵を全て合わせても7万に届くか否か。
東門を突破できたとして、無事に済む訳がない。最終的には6万程度になるだろうか。
「くそ、王允め・・・裏で手引いてるのは董承(とうしょう。)でしょうけど。」
董承、という男は帝の妻の父。つまり、舅である。
十常侍同様に権力欲に取り付かれたつまらない男で、自分が帝を補佐して漢王朝を導く存在だと信じて止まない。
大した能力もないくせに、と思っていたが・・・裏で何かをする才能だけはあったようだ。
事実、尻尾を見せなかった・・・。
能力が無いと見限った甘さが命取りだった訳ね、と賈詡は自省した。
いや、それよりも脱出が先だ。
幸い、西涼兵が主体である董卓軍だ。力押しで抜けることも可能だろう。
賈詡は張済と張繍に守られつつ、東門を目指す。

数刻後、賈詡達は虎牢関へと脱出した。
幾人かの諸侯が追撃を仕掛けたようだが、返り討ちにあったようだ。
総大将である袁紹と、袁術が政庁一番乗りを争っていたりして纏まりが無い連合軍である。
王允らは董卓を追撃した部隊の1つを担っていたが、どうも返り討ちどころか逆襲されて戦死したらしい。
李傕は・・・まあ、どうでもいいだろう。

劉備は「余裕は無いけど」と前置きをして、洛陽復興のために僅かだが支援をすることにしている。
当然、劉備に従う人々もやる気満々だ。
そんな中、関羽は戦火に焼かれて僅かの間に荒れた洛陽の街並みを呆然と見つめていた。
諸葛亮や鳳統の・・・いや、趙雲の言うとおり、董卓は善政を敷いて立派に洛陽を治めていたようだ。
洛陽を攻略した瞬間は喜びが大きかったものの、今は落胆のほうが大きい。
解放軍のつもりだったが、洛陽の住人に無言の敵意を向けられた事が辛かった。
子供達に石を投げられ「お前達のせいで家が無くなったじゃないか!」と言われた事もある。
家族の遺体にすがって泣く人々を見ることしか出来ない。
様々だったが、1つだけ「自分達が来たからこんな事になったのだ」という冷たい事実だけが理解できた。
趙雲の言葉は正しかった。無道は袁紹・・・いや、自分達であった。
自分達の、いや、自分自身の正義を欠片も疑わなかった関羽にとって、これは大きな転機だった。
綺麗ごとは必要かもしれないが、それだけでは駄目だ。
政治や学問の事をもっと知る必要がある。武だけではいけない、と痛感した。
その後に一度、平原に帰還する劉備軍だったが、その際に関羽は諸葛亮と鳳統に頼んで教えを乞うたり、春秋左氏伝の写しを借りて読み耽ったり・・・。武だけではなく、学問にも励みだす。
後々の話ではあるが・・・関羽は文武両道の名将として大いに名を馳せる。


孫策は、というと前回の騒ぎ(袁紹・袁術が宦官を抹殺して回った話)で手に入れることが出来なかった戸籍台帳を入手・・・悪く言えば、ちょろまかしていた。
前回にも増して混乱の度合いが酷かったためか、潜入した周喩・黄蓋曰く「あっさり」と言えるほど上手く事が運んだようだ。
孫策は、袁家の「洛陽一番乗り」を遠まわしに「頑張るわねー」とか言って酒をちびちび飲みながら見つめるのみだったが、周喩の報告を聞いて迅速に動き始めた。
他にも、甘寧を派遣して洛陽内部の状況を探らせてもいる。
報告の内容は「洛陽の被害はかなりのものよ。混乱に乗じて賊・・・黄巾残党まで侵入したようね。」というものだ。
孫策は「ちっ」と舌打ちをした。
「獣の群れめ。いつまで跋扈するのかしらね・・・いつか悉く滅ぼしてやるわ。・・・蓮華!」
「はい!」
孫策は側にいる妹の孫権に声をかけた。
「私達も入城するわ。資材、食料。多少の無理はしていいから復興作業を開始しなさい。貴女は炊き出しと仮設天幕の準備を。」
潘璋や宋謙には治安維持、土地の責任者との面会等、多くの命令を出してから孫策軍も洛陽に。
そこで甘寧も合流、しかし、様子がおかしい。
慌てて孫策の元へと駆け寄ってくる。
「そ、孫策様!」
「な、何よ? 甘寧がそこまで慌てるなんて珍しい。」
「そ、それよりも、あの。い、井戸が!」
「・・・いど?」
何を言っているのか解らない、というか要領を得ない。
本人もどう説明していいか解らないらしく、「ついて来て下さい!」とか言って走り出したので、孫策と周喩は「何を見つけたのかしら?」と思ってついていった。
行き着いた先は町外れの路地で、そこには小さな井戸がある。
「この井戸が?」という孫策を甘寧は促した。井戸の中(というか底)に何かがあるらしい。
中を覗いたら、確かに何かが光っているのが見える。
「・・・何か解らんな。甘寧、取って来てくれるか。」
「は、ははっ!」
周喩の言葉に従って、甘寧は腰に巻きつけて網を巻きつけて(ついでに、孫策がそれを引っ張って)するすると井戸の中へと入っていく。
すぐに出てきた甘寧の手には小さな巾着袋が1つ。
「このようなものがありました。」と孫策に渡す。
「・・・何これ?」と開けてみたところ、中には白い大理石で作成された・・・龍をあしらった形の印鑑らしきものが入っているのみだった。
「な、これは・・・まさか、玉璽ではないか!?」
『はぁっ!?』
周喩の叫びに、孫策と甘寧が思い切り驚いた。
「むぅ・・・間違いない。始皇帝が作成した、と伝えられる物と条件が一致している。しかし、随分ととんでもない物を。」
「何故そんな大それたものが井戸の中に?」
「ふむ、逃走した董卓派の者が黄巾残党に襲われて・・・捨てたか、隠そうとしたか。どちらにせよ、これは使えそうだな。・・・待ちなさい、雪蓮。」
「ぎくっ。」
抜き足差し足忍び足で逃げようとした孫策を周喩は怖い顔をして呼び止める。
「ど・こ・へ、行こうとしているのだ?」
引きつった表情で孫策は振り返った。
「い、いや~・・・その。冥琳の考えてる事が解った気がしてさ~・・・。」
「ほほう、私がどう考えたか聞かせてもらおうか。」
「えーと、兵を偽装させて私が玉璽を得たことを噂で流して・・・。」
「うむ。」
「で、人も物も集まってくるだろうから、人前で「威厳と得を兼ね備えた」演義をして、とか・・・。」
「さすが、よく解ってるわね。・・・甘寧、逃がすな。」
「はっ。」
甘寧は周喩の命令どおりに動いて孫策の退路を断つ。
「ああっ!? あんた、どっちの味方よ! 私は君主様よ!?」
「・・・申し訳ありません、孫策様。ですが、この場合は軍師殿の命令に従うほうが正解かと。」
「む、むぐぐ・・・。あ、そうだ。私は引退してあとは蓮華に「馬鹿者!」ごめんなさいそんな怖い顔しないで!」
本気で怒った周喩の迫力に負けて孫策は直ぐに謝った。
「天佑、神助。呼び方は何でも構わないけれど、利用できる事は利用しなくては・・・我々は生き残れない。」
「・・・解ってるわよぉ。」
「なら、それで良い。頼むわよ?」
「はいはい。」
「「はい」は一回!」
「ごめんなさい!」

曹操は、というと彼女が得たものは何1つ無かった、と言っても良い。
連合軍を勝利に導く策を出した、とは言っても虎牢関で手痛い敗北を喫している。
だが、「芽」は撒いておいた。
実を言うと、董卓が東へと抜けたのは彼女の考えどおりである。というよりも東門の軍勢が少ないのは南門が抜かれたからである。。
南門が突破された事で、ほぼすべての諸侯がそこを目指したのだ。
西の馬騰を頼る事もあっただろうが、西門は押さえられており、脱出不可能。
ならば東の虎牢・汜水関の兵と合流して南か更に東へ・・・と考えるのは当然だろう。
曹操は、彼らの行き先を更に東の徐州、或いは南の荊州と踏んでいる。
北は袁紹やら公孫賛がいるし、東は・・・自分の領地はあるが、まだまだ小さいので素通りできると思われるのだろう。
そして、徐州の陶謙(とうけん)は親董卓派である。(表立って支援している訳ではなかったが
ならば、その伝手を頼っていくだろう、と思うのだ。
荊州の劉表(りゅうひょう)を頼るかもしれないが、かなり距離があるし、その前に袁術の領土を通る。
だからこそ、徐州・・・ということだ。
徐州は曹操の領地である陳留からも割と近い。
力をつけた後、徐州を攻め取る予定の曹操にとってはそのほうが都合が良い。
その時には董卓、いや、呂布や張遼、高順一党を敵にまわすことになるだろう。
それに勝利できれば、それこそ幾らでも取り返しが聞く。
その為の「芽」だ。
(せいぜい、逃げなさい、董卓。あとで私が全て頂く・・・。それこそ、食べ頃になったときに、ね。)
曹操は、董卓軍が逃げ去った東を見つめて笑みを浮かべていた。
・・・どうでもいいが、彼女が「食べ頃」とか言うと嫌な方面に聞こえるのは気のせいだろうか。


~~~汜水関にて~~~
呂布・・いや、董卓軍の主だった者が全て会議室に集まっている。
董卓を始めとして賈詡、呂布、陳宮、張遼、華雄(と徐栄らも)、高順一党。
いきなり董卓やら呂布が汜水関までやってきた時には、何があった!? と考えた高順だったが「洛陽が陥落」と聞いて(やっぱりなぁ・・・)とか思っていた。
やはり、あの曹操やら孫策やらが大人しく引き下がる訳はなかったか、と嫌々であるが納得した。
さて、議題は「これから先どう動くか」だ。(すでに董卓は亡き存在として、呂布軍となっている。まぁ、これまでとそれほど変わらないのだが・・・)
洛陽が奪われ、補給は無い。西の馬騰を頼る事もできなければ北へ行く事も出来ない。
そうなると、どうしても選択肢として残る場所が東と南である。
殆どの者が東を推す中、高順だけは南を推した。(降伏をするつもりは無いらしい)
「何で南なのだ!?」と陳宮に詰め寄られたが、高順にもきっちりと言い分はあった。
「東なんて、群雄割拠も良いとこでしょうが。陶謙頼るって言っても、あの腹黒というか小ずるい爺さんじゃ、いつ掌返すか解りませんよ?」
「むぅう、ですが、一応は手を結んでいるのです!」
陳宮は子供っぽく、というか実際に子供なのだが手をばたばた振り回して反論をする。
「徐州は海にも面して、地理的にも悪くないのです! 下邳と小沛のどちらかでも得られれば地力を蓄えられるはずなのですっ!」
だから、それが嫌だって言うのに、と高順はため息をついた。
高順は知識として、徐州が「曹操・劉備・呂布三者による三つ巴の戦い」の場になるという事を知っている。
この面子で行けば負けることはないかもしれないが、あの2人の軍勢にはまだこの時点で係わるべきではない。
下邳はいい所だったが、沙摩柯と蹋頓にとっては辛い場所だ。
その辺りを考慮しての反対意見なのだが・・・。
「どちらかを得るって、具体的にどうするのさ。あそこで反乱でも起こすのか。それとも反乱が起きるのを待って鎮圧、恩を売るか?」
「むぐっ・・・。う、奪うのです!」
おいおい。
「そんなもんより、南の荊州向かうか越えるかして交阯(こうし)頼るとかそういう方がいいと思うんですよ。益州に向かうもよし、そっから北上して正式に馬騰軍と組むってことも出来るでしょう。地力を蓄えるのにわざわざ騒乱の多くなる場所目指してどうするんです?」
「むぅううう・・・しかし、荊州では遠すぎるのです、広大な袁術の支配地を抜けるかどうかも怪しい・・・ここから近い徐州ならば、途中の障害も少ないですぞっ!」
「食料の問題もあるから、やな?」
「そういうことです!」
陳宮に助け舟、というつもりは無かったろうが張遼が口を挟んだ。
「徐州を得てそこから南に向かうという手もあるわね。揚州、淮南(わいなん)、荊北・・・。」
「・・・。」
むぅ、孤立無援。
「高順の言い分も解るけどね。実際問題、そこに行き着くまで食料が持つかどうかよ。・・・やはり、徐州へ向かうのが一番ね。」
最終的に賈詡の決断に従うことになった。
高順としては不満だがここで華雄や張遼を見捨てることは出来ないし・・・と、結局ついて行くつもりのようだ。
(死ぬかな、これは・・・。)
正史における自分の死に場所は徐州。死を覚悟して出立準備を始める高順であった。


鮑信は「勘」で汜水関から軍勢が出ることを察知していた。
彼らは恐らく東か南、多分東だろう・・・と、軍勢を置いている。
当然、真正面から戦うなどするつもりは無く彼らが出てきた後、後方から襲撃を仕掛ける。
妹の鮑忠(ほうちゅう)にも少数だが軍勢を任せており、追撃を仕掛けて100でも200でもいいから敵兵を討ち取ろうと考えている。
姉に似ず、鮑忠は猪突猛進な性格なので「深追いするな」と言ってあるが・・・不安である。
「っと、来たわねぇ?」
凄まじい勢いで東へ向かう董卓軍・・・いや、先頭を進むのは「呂」旗・・・呂布だ。
隠れて様子を窺うが、じっと見ていても「董」旗は出てこない。その内、すべての軍勢が出て行ったがやはり、「董」は見当たらなかった・
「もしかして董卓は死んだ? ・・・まあ良いわ。追撃開始!」
鮑信は立ち上がり、馬に乗った。
洛陽に向かった連中はこちらまでは来ないだろう。
さて、自分達だけでどれだけのことが出来るか、と鮑信は考えていた。

董卓・・・いや、呂布軍最後尾。
殿を務めるのは華雄の将である樊稠(はんちゅう)・李粛(りしゅく)・徐栄(じょえい)の三将。
主体は騎馬部隊であるが、歩兵や弓兵もいるので進む速度はそれほどでもない。
「・・・おい、2人とも」
「何だ、李粛?」
李粛に呼ばれた2人は後ろを見た。
「・・・追っ手が食いついて来ているな。」
「ああ・・・鮑信だったか? 自分から手出はしないが追撃だけはする、か。」
今まで汜水関の前に陣取って手出しをしてこなかったが、ここぞとばかりに追撃を仕掛けてくるようだ。
どうも騎馬隊のみで編成されているようでその数はそれほど多くない。
しかし、このままでは追いつかれるだろう。
「李粛。我々は引き返して鮑信軍に突撃する。それで多少は時間が稼げるだろう?」
「徐栄・・・できるだろうが死ぬぞ。」
「ああ。だが、兵士を犠牲にして生き延びるつもりも無い。名のあるとは言えんが武将首、目を引くくらいはできるだろう。」
徐栄の言葉に樊稠と李粛はお互いの顔を見て、僅かに考えた後で頷いた。
「うむ、いいだろう。我々は時間稼ぎにためにここに残る。だがな、徐栄。」
「お前は生き延びろ!」
李粛は、徐栄の馬の尻を槍の柄で叩いた。
馬は驚き、嘶いて駆けていく。
「な、お前ら! 何を考えている!?」
馬の速度を緩めて離れていく李粛達に、徐栄は悲鳴に近い叫びを上げた。
「我々全員が死ねば誰が華雄様の面倒を見る!」
「行け、徐栄。お前は生きろ、生きて・・・華雄さまを支え続けろ!」
馬の手綱を引いて何とか制御しようとするが、言う事を聞かない。
「ええい、! いう事を聞け、この駄馬がっ・・・くそっ、李粛! 樊稠ー!」
徐栄は離れていく2人の戦友の名を叫ぶことしかできなかった。
その2人に従って残る兵、およそ500。
彼らに初期から付き従っている古参の兵である。
馬首を返した李粛は無言のままに鮑信隊へと向かっていった。
樊稠と兵も、彼と同じように馬を駆ける。

追撃隊の先頭を走る鮑忠にも、足止めとして向かってくる部隊に気付いていた。
「ふん、姉上は先走るなと仰ったが・・・手柄を目の前に退く事などできない。」
討ち取れ! という号令に従って、鮑忠隊の騎兵900は雄叫びを上げる。
足止め部隊の先を駆けるは李粛。
同じく先駆けをしている鮑忠と交差、戦い始める。
だが、樊稠と西涼騎兵はそれらを無視して一気に鮑忠隊内部へと斬り込んでいく。
自軍の精鋭である騎兵先鋒隊があっさり蹴散らされたのだ。
すぐに中支えの部隊との乱戦に発展する。
「なっ・・・なんという突進力だ・・・!?」
「余所見をするな、小娘!」
「くっ!」
鮑忠は李粛が繰り出した突きを受け流して尚も一騎打ちを続けている。
暫くして鮑信が追いついた頃には、既に自軍の騎兵が蹴散らされて後衛部隊まで押し返されている状態に陥っていた。
それでも、見たところ足止め部隊の残兵は数十もいない。
鮑信が知るわけもなかったが、その頃には鮑忠が苦戦しながらも李粛を討ち取っている。
そして今、一騎の騎馬武者が乱戦の中から抜け出てきた。
後続隊の先頭にいる鮑信へとがむしゃらに突き進んでくる。
(確か、あれは樊稠と言ったか。華雄の武将だな。)
大物とはいえないが、決して小物ではない。
見れば、樊稠は所々怪我をしている。大怪我を負うか骨が折れるなりしたのだろう、左腕もだらりと垂れ下がっている。
鮑信は樊稠へと向かう。
2人はある一定の距離を開けて馬を止めた。
この間に、鮑忠隊は損害を出しながらも斬り込んできた兵を壊滅させていた。
「樊稠将軍と見受けたわ。・・・見れば、既に兵も無く、あんたにも戦う力が残ってはいない。降伏しなさいな。」
「ふ、ふっー・・・。」
樊稠は荒い息をついて、馬の背から地面に落ちた。
直ぐに起き上がったが、槍を突き立てて杖代わりにして立つのがやっとと言ったところだ。出血が酷いらしく、意識も混濁しているのだろう。だが、彼の放つ言葉には力が篭っていた。
「降伏など、せぬ・・・。兵と友に、顔向けが出来んのでな。」
「そう・・・残念ね。」
本当に残念そうに呟いた鮑信も馬から降りて、腰の鞘から刀を引き抜いた。
樊稠にあわせて、互角とは言いがたいが徒歩での戦いを望んだのだろう。
刃渡りが4尺(後漢尺に照らして約93センチ前後)、柄長は1・5尺(37センチほど)ほどの長尺刀だ。
鮑信はゆっくりと刀を腰だめに、樊稠はふらつきながらも槍を構えた。
両者、息を整えた後に無言で突進、交差。樊稠の槍と、鮑信の刀が陽光に煌き唸りをあげる。
だが・・・槍は届かず、鮑信の一撃は樊稠の胴を袈裟懸けに斬りつけていた。
「ごぶっ!」
樊稠は口と傷口から大量の血を吐き出し、己の血だまりに仰向けに倒れた。
彼の目には空が、そして、先に逝った戦友たちの姿が映った。
「が、はぁ・・・ふ、は、はは。俺は俺の役割を果たした、ぞ・・・。胡軫(こしん)・李粛。俺も、今、逝・・・く・・・。・・・。」
かすれ声で呟き樊稠は逝った。徐栄と、華雄。多くの戦友たちが少しでも生き残れる事を願って。
「・・・。お美事。」
鮑信は刀に付着した血を拭うことをせず、樊稠の亡骸に近づき、その横にしゃがみ込む。
見開かれたままの樊稠の目に手をかけ、そのまま下ろしてやる。
苦痛で歪んでいてもおかしくないだろうに、樊稠は笑みを浮かべながら眠っていた。 
「はぁ、はあ・・・あ、姉上!」
いつの間にか、背後に鮑忠がいた。鮑信は立ち上がって妹の方へ体を向けた。
「あら、鮑忠。・・・随分手酷くやられたものね。」
「うぐっ・・・申し訳ありません。」
「こちらは兵の被害が大きく、向こうは武将2人と西涼騎兵数百を失った。・・・まぁ、戦果有りと言うところね。」
素直に謝罪した鮑忠に、慰めの言葉をかける鮑信。
「あの・・・追撃を続けますか?」
「もう追いつけないわね。かなりの時間を稼がれた、というところかしら。・・・ふ、彼らの思惑通りね。」
鮑信は樊稠の亡骸を見下ろして呟いた。
「追撃は中止。敵味方の区別無く、遺体を埋葬しなさい。」



こうして呂布軍は徐州へと逃亡。後に、徐州は劉備・曹操・呂布の戦いの場になっていく。
その結果、誰が生き残るのか・・・。

それはまだ、もう少しだけ先のお話。


~~~楽屋裏~~~
生きるのに疲れた、もう森へ帰ろう。あいつです。(挨拶
樊稠の死に様を書いたシナリオを見れるのはアルカディアだけ!
嘘、多分(?
雑魚武将として扱われる樊稠やら李粛に見せ場を作った心意気だけは評価・・・できないですか、そうですね。

洛陽ですがあっさり落ちました。
イメージでしかありませんが、洛陽は賑わっているイメージがあっても守りに向いてない、みたいなものがあります。
また、王允派(董承派でもありますが)の数が多かったでしょうし、その中に黄巾残党が含まれていたのでしょう。
かなり早足で進めましたが・・・い、いいですよね?(不安

彼らを何処に向かわせるか色々と迷いました。
実は、高順君が向かう先としての候補は北(公孫賛)と西(馬騰)もありました。
その場合のイベントも色々と考えてあります。
しかし、このシナリオでの「正史」はあくまで徐州ルートなので・・・。
機会があったら「外史の外史」として書いてみたいですね。多分ムリですけど(笑



さて、高順君の死亡イベントありありな徐州です。
・・・どうやって呂布を徐州に置こうかな。適当にトウケン死なせるとか(こら

では、また次回お会いしましょう。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第55話 徐州へ。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/02/28 12:17
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第55話 徐州へ。

呂布軍は兗州(えんしゅう。陳留などがある)を抜け徐州へ向かった。
もしかして、曹操や連合軍の都市残留部隊と鉢合わせをするか、とも思えたが数万からなる軍勢に手出しをするつもりも無かったようで案外楽に通過できた。
呂布側としても、いきなり城攻めをして周りを刺激する事もないし、できる余力も無い。
当面の懸念があるとすれば3つ。
まず、食料だ。今はまだ何とかなっているが、このような流浪状態が続けば兵を食わせていけない。
どこかの村を襲って、と考えたところで数万の軍勢を養える食料があるはずも無い。
そして2つ目。兵の逃亡が相次いでいるという事。
これはどちらかと言えば仕方のない話だ。
これから先の展望が望めない、と離れていく兵士。もともと官軍で董卓や呂布に仕える義理の無い兵士。(高順もだが・・・
色々と事情はあったが、当初は6万を越えた軍勢も今は4万以下にまで減っていた。
そうやって離反していった兵士が村落を襲う盗賊となってしまう可能性も高い。
兗州で逃亡した兵が多いので、曹操が呂布を攻める口実にもなりかねないな、という話でもある。
3つ目は、陶謙(とうけん)の態度。
徐州に入った後に、陶謙から接触を図ってきたのである。
一応の渡りをつけるために、賈詡は(名目上の総大将である)呂布と張遼、兵士5千を引き連れて下邳(かひ)へと向かっているが、内心で「何を考えているやら・・・ある程度はわかるけどね」と考えている。
残りの人々は、と言うと小沛(しょうはい)よりも何十里も東に野営している。
小沛は下邳よりも西にある土地で、その付近にいるというのは一応、陶謙に遠慮をしたからである。
ただ、何と言うか・・・小沛を通り過ぎたのは異様な雰囲気を感じ取ったという事もある。
陶謙も陶謙で呂布に接触を図ったのも目論みあってのことだ。
陶謙という男、人を取り立てることは好むが、その一面で悪人を重く用いたり、人物の起用を根っこから間違えてる事が多い人だった。
軍事能力にはある程度長けていたし、賊を信任したというのも利用して簡単に捨てられるという事もあったのだろうが・・・。
黄巾の残党や盗賊を使って他州を荒らしたり、と殆ど盗賊の親玉のような人物である。
高順にしても「裏はあるだろうな。・・・お互いに利用しあおうとしてるのだろう。」くらいは想像がつく。
「何とか小沛とかに入って、早期に陶謙除いて徐州取れればねぇ・・・。」
割と恐ろしい事を言う高順である。
と言うのも、彼も自分の提案を却下されてあっさりと譲ったのも別の着地点を考えたからだ。
史実では曹操と陶謙のいがみ合いで、助けを求められた劉備が徐州へ向かう。
そして、手薄になった曹操の根拠地を呂布が攻め獲る、という流れだった。
その後に、劉備が徐州を譲られたり、結局は曹操に負けた呂布が劉備を頼ったり、ということもあるのだがそれはともかく。
今は順番そのものが大きく違っている。曹操と戦わずに呂布は徐州入りを行っている。
何とかして地盤を得て、下邳も奪える事ができれば。劉備を迎えずに徐州統一を果たす事ができれば。
当然そう上手く行くはずもないが、劉備・曹操・呂布の三つ巴にならず、劉備か・・・可能性として高いのは隣の曹操だが、そのどちらかのみを相手にする、という流れならばまだ何とかなる公算がある。
この頃の曹操も、それほど外部に対して積極的に動く事が出来ないはずなのだ。(逃亡した呂布軍の兵士が何をするかわかったものではないが、それはともかく)
また、袁術の影響力が史実より大きいという事にも着目している。
こちらが膝を折ることになるだろうが、曹操に対しての牽制を仕掛けさせることが出来ればもっとやりやすくなるのではないか、と考えているのだ。
ここで負ければ自分ひとりの命ですまないのだから、と高順は色々と考えている。
(まぁ、自分でも考え付くのだから賈詡先生が考え付く無い訳が無いよな・・・。さて、と。)
色々と考えながら高順は華雄の天幕へと向かっていった。
 
天幕にて。
華雄は座り込んでじっと自分の手を見つめていた。
何があるわけでもない。
今の彼女は汜水関で孫策に敗北を喫したとき以上に打ちのめされていた。
ずっと自分に付き従ってくれた華雄四将のうち、三人に先立たれた。
残っているのは徐栄のみ。しかも、三人揃って自分に許可無く勝手に逝った。
徐栄も落ち込んでいるが、自分が落ち込んでしまっては華雄様に更に辛い思いをさせる、自分がしっかりしなければ、と半ば強がって平静を装っている。
家族同然に思っていた戦友達を、いつの間にか殆ど失ってしまった・・・、と、落ち込んでしまった華雄。
当初は華雄も下邳に赴く予定だったが、こんな状態では連れて行けないと判断されて置いていかれたのだ。
高順も周りから「何とか慰めてあげて欲しい」と言われているが、ここで慰めたところでどうしようもない、と高順は考えている。
同じ痛みを知っているからこそ、したり顔をせず何も言わないほうが良い、と言うときもある。
こればかりは自分の中で整理をつけるしかないのだ、と思って何も言わないようにしている。
それでも側にいて見守る、ということはする。
ほぼ日課になってしまったそれをする為に、高順は静かに天幕へ入った。
「・・・。」
「・・・。」
お互いに何も言わない。
高順は華雄の隣に座り込んだ。もう、何度と無く同じことをやっている。
最初は急に涙を流したりと精神的に不安定だった華雄も今は多少落ち着いている。
時間が過ぎていく中、不意に華雄が口を開いた。
「なぁ、高順。」
「ん・・・何です、華雄姐さん。」
「お前も今の私と同じ気持ちを・・・ずっと、今も抱えているんだよな。」
「・・・そうですね。」
華雄は家族同然の戦友を。高順は敬愛する主君と友人、多くの仲間を失った。
あの時の辛い気持ちと、もう2度と皆には会えないのだ、という胸にぽっかりと空いた空虚な何か。
高順は今も尚、その気持ちを抱え続けている。
なのに何故、自分は今ここにいて、そして張遼と関係を持ってしまったのか、と考えると苦笑したくなってくる。
「・・・。辛いな。」
「ええ・・・。」
その日交わした言葉はそれだけだったが、ある程度持ち直したのだろう。
この日以降、僅かに元気を取り戻し始める華雄だった。

さて、下邳・政庁では。
「・・・と、いうことでしてな。我々も困り果てておるところで。」
腹に一物も二物も抱えていそうな顔の老人が玉座に座って、賈詡と話をしている。
陶謙である。
周りを武官で固めているが、賈詡の側にいる呂布相手では話にならないだろう。
少しでも交渉を有利に、と張遼と兵士5千も下邳の外に待機させているのだから、おかしな真似はすまい。
「なるほど。つまり、賊を退治していただきたいということね?」
賈詡の言葉に陶謙は頷く。
「本来は我々の仕事ですがの。戦力が乏しくてそれすらもできぬのです。」
作り笑顔で笑う陶謙。
(ちっ、ボケ老人め。よくもまあわかり易い嘘をつくものよね・・・)
賈詡の考えどおり、全くの嘘である。
黄巾残党を一部取り込み、反董卓連合に参加しなかった徐州には戦力があるはずなのだから。
唾を吐き捨てたい衝動に駆られながらも賈詡は話を続けた。
「では、確認を。小沛を主にした反乱軍・・・名は笮融(さくゆう)かしら。彼らの占領した徐州三郡(小沛、彭城、広陵)に篭る反乱軍を討てば、三郡そのまま譲っていただける、と。」
「ええ、その通りです。」
「随分と大盤振る舞い・・・と言いたいところだけど、主力となる数部隊を残せと言うのはどういうことかしら?」
これは、陶謙が最初に提示した条件である。
「ほっほっほ。それは当然でしょう。小沛はこの下邳と程近い。もし笮融が軍勢を派遣すればどうなるのです?」
「それこそ、陶謙殿ご自慢の曹豹(そうひょう)殿・・・彼の率いる丹陽兵の出番ではありませんか。」
丹陽というのは主君である陶謙の出身地だ。
そして、陶謙と曹豹は同郷。陶謙にとっては股肱の臣であり徐州軍の最高指揮官であるといっても良い。
「ほっほっほ、そうは申されましても困りますな。我々だけでは守りきれぬ、ということでもあるのです。お受けできぬのであれば、この話は無かった事にしてもいいのですぞ?」
「・・・。」
ならば頼むな、と言いたいところだが・・・悔しいが、陶謙の言うとおりである。
あくまで自分達は保護を求める立場なのだ。向こうの言い分に従わなければならない。
「・・・はぁ、良いでしょう。それで? どの部隊を残せというのかしら?」
「高順一党ですな。」
「・・・!」
そういえば、高順は一時期徐州に身を置いていたという話を聞いた事がある。
その際に蹋頓らを迎えたと聞いているし、陶謙に招かれて断ったと言う話も聞いた。
しかし、その時に断られたと言うのにまだ根に持っていたのか、それとも高順を本気で迎えようとしていたのか・・・。
賈詡としても、できれば乗りたくない提案である。
李典の扱う投石機とその部隊は城攻めにどうしても欲しいし、野戦となれば呂布隊に勝るとも劣らない高順・趙雲騎馬隊の攻撃力に期待しているからだ。
「宜しいのですか。高順一党にはあなたの嫌う異民族が多いのですよ?」
「何々、防御戦力としてならば全く構いませぬ。」
「では本人達に了解を」
「いやいや、ここで答えをお聞きしたいですな。」
にやにやと笑って陶謙は返答を迫る。
本人からは断られる可能性のほうが高いと自分でもわかっているのだろう。
陶謙は呂布軍を飼いならそうとしている。その為に高順隊を手元において人質としても戦力としても活用するつもりなのだ。
高順隊が戦力をすり減らそうが、徐州軍にとっては痛手にもならないのだし。
「・・・そうですか、どちらにせよ決めるのは我が主。どうするのです、呂布殿。」
その笑みに嫌悪感を隠そうともしない賈詡の言葉に、呂布は少し迷った素振りを見せる。
彼女も高順一党が使用できないと言う状態が苦しい事態になるのがわかっているからだ。
だが、受けねば他の部隊、兵士の住む場所も確保できない。
ソレを思えば、「・・・受ける。」としか返答の仕様が無かった。
「おお、受けていただけますか! では、兵糧を必要な分お譲り致しましょう。早速出陣してくだされ。」
陶謙は「いやあ、良かった良かった」と言っているが、呂布はちくりと一言言うのを忘れなかった。
「・・・こーじゅん達に危害を加えるのは許さない」と。
「むっ・・・」
呂布は、人づてに陶謙の人柄を聞いていた。
高順が誘いに応じなかったのは、陶謙の性格を知っていたからだ、とも聞いている。
実際、陶謙は自分の登用に応じない者を獄に繋ぐ、という事をしている。
もし、高順達を呂布軍から引き抜こうとしたら。それを断られた腹いせに彼らに危害を加えたら・・・。殺す。
「ひっ・・・!」
呂布の殺意の篭った視線に射抜かれて陶謙は恐怖した。
「賈詡、帰る。」
「へ、あ、・・・うん」
政庁全体に寒気を感じさせるほどの純粋な殺意を叩きつけて、呂布と賈詡(彼女も真っ青になっていた)はその場を去っていった。

「・・・う、くっ・・・」
曹豹を始めとした武官も金縛りにあったような状態に陥り暫く動けないでいた。
ようやく動けるようになった曹豹は慌てて陶謙の元へと走りよる。
「と、陶謙様・・・はぁっ!?」
陶謙の姿を見た曹豹は愕然とした。
陶謙は白目になってよだれと鼻水をたらし、しかも・・・小さいほうだが漏らしていた。
「へ、へへっ・・・へひひっ・・・。」
「のおおお!? と、陶謙様ーーー!?」
おかしくなったのか、変な笑みを見せて時折「びくっ!」と震える陶謙であった・・・。

~~~野営地~~~
「ふっ・・・ふざけるな!」
事の次第を賈詡から聞いた趙雲や楽進は彼女に詰め寄り、或いは掴みかかった。
「うくっ・・・」
「そんな大事な事を我々に一言も聞かずに決めるなど・・・! どういうつもりなのだ!?」
「せや! うちらを何や思てるねん!」
「幾らなんでも扱いが酷すぎるの!」
「・・・確かに、許容できる話ではありませんね。」
皆、思い思いに文句を言う。だが、賈詡にせよ呂布にせよ、納得してこの話を受けたわけではない。
状況が許すのであれば自分達が文句を言いたいところなのだ。
「やめなさいって、」
「高順殿・・・なぜそう落ち着いていられる!?」
見かねた高順が止めに入る。趙雲に睨まれたが高順は恐れを感じていない。
「陶謙ですよ? ある程度こうなる事も予想できましたって。俺達と数万の兵士。どっちを取るかと言われれば決まっているでしょう?」
「ですが・・・」
「それに、笮融を討っても実際に三郡を譲って貰えるとは限りません。難癖付けられて追い出されるとかになりますよ、きっと。」
賈詡もそれには同意である。
こちらを利用して不要になれば捨てようと言うのだろう。
わかり切っている事態だからこそ対処も考えうる。
「・・・ところで、笮融というのは何者だ。兵力とかは解らないのか?」
沙摩柯の質問に、賈詡は自分が聞いた情報を話しはじめる。
「元々、食糧輸送などを担っていた陶謙配下よ。でも、自分の権限で好き勝手をして、小沛の相になってからはソレが更に酷くなった。」
そして、この時代ではそれほど知られていなかった仏教を信奉しており、大規模な寺院を建てて「お布施」と称して民衆から金を巻き上げてもいる。
仏教の布教、と言えなくも無いが私利私欲で動いているに過ぎない。
その兵力はさほど多くないが、宗教で繋がっている連中とはとにかく厄介だ。
信仰心を最大の武器にしていた黄巾賊に漢王朝が大いに苦戦した、という前例もあるので賈詡は油断をしていない。
そのような相手に3万の軍勢で戦わないといけないので苦戦は免れないな、という覚悟もしている。
「・・・しかし、我々は納得できぬ。そのような大事を何故勝手に決めるのだ!」
事情はある程度わかるのだが、趙雲はまだ怒りが収まらない。蹋頓ですら機嫌が悪そうにしている。
「・・・ごめんなさい。でも、こうする以外に何かやり方はあったと思う?」
「それは・・・。」
言い争いをする両者の間に入るように、高順は会話に割って入った。
「はいはい、不毛な争いをしないの。・・・でも、賈詡先生。これは貸しにしますからね。」
「高順・・・。」
「高順殿・・・!」
「さっさと行ってさっさと片をつけてください、そうすりゃ何とでもなりますって。呂布がいるんだからおかしな事にはならんでしょ。」
話を向けられた呂布は「うん」と頷いた。
色々とこんがらがったが、とにかく呂布軍は小沛へと進撃した。
高順隊は東・・・下邳へと向かっていく。
何も言わずに進んでいく高順だったが、周りの人々は当然と言えば当然だが、未だに不満を露にしている。
「・・・隊長。今回ばかりは納得できません。」
「左様、この頃は我らの事を軽んじているように見受けられます。呂布も、高順殿も。」
楽進と趙雲が言い募ってくる。
「そうだな・・・そう思われても仕方ないと思うよ。」
「なら、何故。」
「俺だって頭にくるさ。怒ってばっかじゃどうしようもないし、皆が怒ってくれたから逆に冷静になれたともいえるんだけど。」
何とか皆が生き残れるように、と思ってもソレも難しいものだよなぁ、と呟く。
「でもね、俺は陶謙の思い通りになどなってやるつもりは無いよ。向こうが嫌がらせしてくるのならこっちも嫌がらせをしてやる。」
「嫌がらせ・・・?」
「俺達に壁になれと言うなら、望み通りにしてやればいいのさ。」
「・・・?」
陶謙、俺達はあんたに仕えるつもりは無い。
それに、だ・・・壁というのは敵だけじゃなくて味方ですら阻むのだぞ。
不敵な笑みを浮かべる高順に、回りの者は不思議そうな表情を見せた。

その後、高順一党は下邳へ向かい「城の外に布陣」した。
陶謙の使者が何度もやって来て城の中へ招き入れようとしたが「我々は下邳を守る壁の役割を仰せつかっています。それ以外の命令は聞いておりません。」と全く取り合わない。
その上、城の外に布陣をしているので商人やら何やらが近づかなくなってしまった。
通してもらおうとする人々もいたが、高順は余程の事がない限りまず下邳に入れさせない。
業を煮やした陶謙が「これはどういうことか!」と問責の使者を送ったが高順は使者にこう返答した。
「商人や住人を装った笮融の配下がいるとも考えられます。下邳を守らなくてはいけないので、笮融が滅びるまでは我慢してください。」
「いや、ですが・・・。」
「入りたがっている方々には「皆様には気の毒だと思いますが、我々の役目です。文句があるのなら命令を出した陶謙様にお願いいたします」と説得をさせていただきました。素直に帰っていただけましたよ。」
皮肉を交えた返答だったが、陶謙としては呂布に恐怖心を抱いているし、守備部隊と言う名目で高順隊を置かせたのだから何とも言い返せない。
趙雲達も、高順がこういった皮肉とか本気で意趣返しをするのを初めて見た。
だが、少しは気が晴れたのか、それともストレス解消の為か。
全員が全員、ノリノリで自分の仕事(物資・商人の流入の邪魔)をこなすのであった。
陶謙の機嫌を損ねるだろうし、住民にはあまりに気の毒だが。
約束を反故にするのであれば、こちらも相応の行動をするだけだ・・・。
高順は陶謙に対して、呂布に向けるのとは違う憎しみだけの殺意を燃やしていた。



~~~楽屋裏~~~
えろちっく艦隊再びかも(謎)、あいつです(挨拶
さて、陶謙への嫌がらせ開始です。
あ、当然ですけど陶謙には三郡渡すつもりは無いですからね(え
結局は武力で徐州を手に入れる事になるのでしょう。

さて、ようやく史実みたいな流れになってまいりました。
このまま突っ走りたいと思います。
でも、えろちっくは徐州なり小沛なり手に入れないと書けないんだ、すまない。
え? XXXなんてどうでも良いって? そんなことより早く打ち切rちょっと待て貴方達どこから侵入(ry

・・・(´・ω・`)ショボーン

では、また次回お会いしましょう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第56話 徐州へ。その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/03 23:00
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第56話 徐州へ。その2。

日が落ちて夜も更けた頃、下邳(かひ)城外にて、高順は伝令として呂布軍に同行させた楊醜(ようしゅう)の報告を受けていた。
「・・・解った、ご苦労様。引き続き頼む。」
「ああ、最後は広陵(こうりょう)だ・・・。」
腰を前後に振るわせつつ、楊醜は闇へと消えた。
(一体、何をどうしたらあんな不可思議な動きが・・・。)
それはともかく、呂布は小沛(しょうはい)をきっちり陥落させたようだ。
案外に篭っていた兵数は多くなかったらしい。
それと、賈詡は華雄に一軍を与え彭城を攻撃させたらしい。
無茶をさせるなぁ、と危なっかしく思ったが、彭城は兵がいないようで一戦もせず占領。そのまま待機しているという。
どうも笮融(さくゆう)は呂布軍に敵わないと見るや広陵へと逃げていったらしい。
その上、彭城の民の物資を奪って残存兵力をかき集めて広陵に篭った。
後は広陵を陥落させれば勝ち。自分達は一応の拠点を得ることになる。
さて、その時点では呂布軍にとって問題が発生していた。
小沛と彭城を占領して残りは広陵、ソレはいいが・・・陥落させた二都市に兵を残していかなければならない。
そうなると、どうしても広陵を攻める兵力が少なくなる。
何より、都市を空っぽにすれば陶謙が兵を差し向けて占領。何食わぬ顔で「我々が取り戻しましたから」とか言うのだろう。
どうすれば良いか、と賈詡は高順にも意見を求めているらしいので「彭城の華雄姐さんの軍を一旦小沛に撤退させてください」と楊醜に言付けをしておいた。
まあ、あの賈詡先生だからそれ位読んでるでしょ、とさして気にもしていない。
「さぁて。・・・趙雲殿。」
「ん・・・何ですかな。」
高順は隣にいた趙雲に話しかけた。
「そろそろ、出てくるかもしれませんよ・・・。「準備」しておいてくださいね。」
不敵に笑う高順に、趙雲も笑みを見せた。
「なるほど、それではそのように。」
一応、下邳を「守って」情報やら何やらの遮断をしているが、小沛と彭城が奪還されたことはいずれ知られるだろう。
そうなれば陶謙は確実に兵を差し向けるはずだ。・・・誰がさせるものか。
(それでも強行しようと言うなら、幾らでも相手になってやるぞ、愚物め・・・)と、高順は下邳を見つめていた。
陶謙の元には陳登という戦術能力の高い男はいるが、彼は武官と言うわけではない。
あくまで徐州軍閥の最高指揮官は曹豹だ。陳登に比べれば与しやすいと言える。
また、高順は部下に命じて下邳の周りに柵を作っている。
どちらかといえば下邳に対して防御を張っているような形で、だ。
当然外側に対しての防御もしているが、特に内側に対して警戒をしていたのである。
ここで高順、1つ考えた。
上手く行けばいいのだけどな、と彼は眭固を呼んだ。

後日、陶謙から使者が来て「彭城奪還の援軍に行くので軍を通せ」と言い出したので、頭にきた(ふりをした)高順は「え? 戦力が少ないから我々がここにいるんですよ?」と返答をした。
何故陶謙が知っているかというと「影」である眭固を使って、小沛の事には触れず「呂布軍が、陶謙様ですら攻略できなかった彭城を奪還したらしい」という情報をそれとなく流したのだ。
少し話を変えると、高順は誰でも彼でも構わず城内への人の出入りを止めている訳ではない。
例えば、流民だったり、怪我をしていたり、とか。
そういった「助けが必要だろう」と思われる人々はごく普通に通してやっている。
必要とあれば多少の資金を与え「これで何処かに泊まって仕事でも探せ」と城内まで通す。
眭固をそういった人々に紛れ込ませて下邳へ侵入させたのだ。
自身の売名行為を兼ね、陶謙に対しての揺さぶりと、民に対して呂布軍の精強さを伝える役目も担ってもらった。
1人でもこういう事を言い出せば、嘘でも事実でも噂と言うものは流れていくものだ。
「噂」と言うものはどんな時代でも効率的な情報操作術の1つだ。
さほど金もかからない、人手もほとんど不要・・・時間がかかることと、噂はあくまで噂と言いきれる状態では有効とはいえないけれど。
陶謙はソレが事実かどうかは解らないし、かといって城内からも城外からも人を遮断する高順隊がいて外に人を派遣できない。
それならば軍勢を援軍として派遣すれば、と思ったのだろう。
が、それはそれで「戦力が無い」と言ったことが嘘だと解ってしまう、と陶謙も悩んだ。
曹豹辺りは「幾らなんでも援軍として派遣するのですから無理に止めはしますまい」と言っていたが文官・・・糜竺(びじく)や孫乾(そんけん)は真っ向から反対した。
兵がいないのは嘘だよ、と自分から証明する行動をしてどうするのだ、と。何より、陶謙が三郡を割譲するという嘘の証明にもなるぞ、と言うのだ。
武官と文官が真っ向から意見を戦わせるが、陶謙は兵を派遣する事に決めた。
やはり、呂布などに自分の土地を与えるのが勿体無いと思い至ったのであろう。
糜竺らは「何と言うことを・・・そのような事をすれば、呂布軍がどう出るか解るはず!」となお反対をしたが聞き入られる事はなかった。
城外の部隊は総数6千程度。
こちらから1万なり2万なり兵を出せば流石に通すだろう・・・陶謙はそう考えた。
理屈が通らなければ力押し、というのは陶謙の得意技でもある。
「兵を派遣したい」という使者が来た事で、高順も「陶謙に約束を守るつもりは無い」と確信した。
ある意味で、高順は陶謙に「踏み絵を踏むか否か」の決断を強いた事になる。
前述の通り、使者を追い返してから高順は楽進達に命令を出し始めた。
その間に(いつの間にか)「影」となっていた馬日磾を、小沛(しょうはい)にいる呂布・・・いや、この場合は賈詡のもとへ向かわせた。
伝言を頼んだわけだが、その内容。
「早めに彭城の軍勢を小沛へ向かわせてください。陶謙の「援軍」を称した奪還軍が彭城へ行くはず。それが「材料」になると思います。小沛へ向かうかもしれませんが、何で今頃来るんだ? と適当に罵声でも(以下略)。」
彭城は人民がいなくなってもぬけの殻状態になる・・・だろう。
確保するか、それとも最低限の守備隊を遺して引き上げてくるか、のどちらかだろうが・・・。
戦力が無いと嘘をつき、泥棒猫のような真似をして、かつ約束を反故にしたのだ。
陶謙は約束をあっさりと破り、呂布軍そのものを敵にまわす格好になった。
兵糧の援助はしたようだが、それも少なかった聞いているし陶謙から接触を図ってコレだ。
彼が約束を守るつもりが無いと確信できた以上、遠慮など・・・最初からしなかったが、更にその必要は無くなった。
更に、李典に頼んで投石器を組み上げてもらっている。
高順は本気で戦闘準備を進めていた。
(陶謙・・・老いぼれめ。俺達を味方につけて使い捨てようとしたのだろうが・・・もっと上手くやるべきだったな。性急に動きすぎだ。敵を増やす上に民衆の支持も得られんぞ・・・?)


後日、無理やり押し通ろうとした曹豹以下1万(と輜重隊数千)の軍勢を、高順はあっさりと通した。
あっさり過ぎて、躍起になっていた曹豹が拍子抜けするほどだった。
彼らは高順隊の態度を窺いつつ彭城へと向かって行く。
今の彭城は空か、或いはまだ華雄がいるかもしれないが、今更行っても徒労に過ぎない。
そのまま華雄が城を守備すれば曹豹如きでは抜けまい。
城攻めができない、と戻ってくれば「笮融の派遣した軍勢」と決め付けて攻撃しても良いか、とこれまた物騒な考えである。
残留するならば、それはそれでよし。陶謙の戦力を分散させることができる。
言い逃れなど幾らでもできるし、向こうが文句を言ったところで無視すれば良い。どうせ直ぐ手切れとなって敵対する勢力だ。
ここで僅かなりとも戦力を削り取るか、戦いを先送りにする為に手を出さずか・・・。
冷たい視線で徐州軍を見送る高順であった。

~~~その間のちょっと一幕~~~

下邳を囲む高順隊であったが、ある日、珍妙な3人が「下邳に入れて欲しい」と高順のいる天幕まで訪ねてきた。
最初は楽進や趙雲に申し入れをしていたようだが、「入れて欲しい」「無理」というやり取りをしたらしい。
楽進らにしても高順に「判断がつかなかったら俺に直接言いに来て」と言われているし、目の前の3人は・・・何と言うか、「どうすれば良いんだろう・・・」と言うような連中でもあった。
判断に迷った楽進に連れてこられた三人を見た高順も「・・・。えーと。」と一瞬絶句してしまった。
1人は赤髪の青年で、高順と同じくらいの背丈だろうか。少し見ただけで武術の心得があると解る。
天幕まで案内した楽進に「ありがとう。」と感謝の言葉を口にしていた。
見た感じ、中々の好青年であるようだ。
2人目は、スキンヘッドでありながら長く延びた揉み上げを三つ編み、そして紫色のリボン。顎鬚も生えている。
筋骨隆々の肉体には紫色のパンツ・・・いや、もう「紐」と形容しても良いレベルの下着。
なんか、さっきから「んもぅ! 漢女(おとめ)の扱いがなってないわねぇんっ」とか言ってる。
はっきり言って視覚(規制)。
3人目は・・・白髭・白髪。髭が変に形の折れ曲がっていて、髪型は随分とジャパネスクな感じだ。
ただ、こちらもかなり服装が吹っ飛んでいる。
2人目同様、筋骨隆々の肉体なのだが何故かネクタイ。スーツっぽい上着に白褌。
股間がもっこりしててすげぇ嫌な感じである。
しかも、靴下と学生が使用しているような靴まで履いていて・・・。
一言で言えばキモイおっさん2人である。
「・・・えー、何の御用でしょうか?」
「ああ、すまない。俺達を下邳に入れて欲しいんだ。」
赤髪の青年の言葉に、高順は「うーん」と悩んだ。
「その前に、お三方の名を聞かせていただいて宜しいですか?」
「ん、俺の名は華陀(かだ)。で、この2人が・・・。」
「貂蝉(ちょうせん)よぉんっ!」
「我は卑弥呼(ひみこ)である!」
「はぁ。」
いや、そんな力強く叫ばれても。
「・・・は? 貂蝉? 卑弥呼?」
高順は「んな馬鹿な」と言いたそうな目で名乗った3人を見つめた。
貂蝉と言えば、連環の計で呂布と董卓の仲違いの原因を作った架空の女性・・・目の前のはどう見ても女性じゃないけど。
それに卑弥呼って・・・日本の邪馬台国の人じゃないか? なんだって中国にいるんだろう?
そして、華陀。
・・・ん? 華陀???
華陀って言えば・・・三国志きっての名医師じゃないか!?
「・・・あの、華陀殿。聞きたい事があるのだけど良いかな。」
「? ああ、構わないが。」
「あなた、もしかして医師で、人の体を治す事が得意だったりする?」
高順の質問に華陀が僅かに驚いて「へえ、よく知ってい「ぬぅぅうわんですってぇ! 既に華陀ちゃんの事をぉ、知ぃってるどぅえすってぇええ!?」
貂蝉に思いっきり邪魔をされる。
卑弥呼まで「うぬぅ、だぁりんの事を調べ上げているとは・・・この国のオノコ(男と言う意味)にしては中々見所があるな、貴様!」と、目を(本当に)光らせて高順を見据える。
つうか二人して変な構えを見せて威嚇している。
え、何これ怖い・・・! と、高順もビビッてしまった。
が、華陀の仲裁で2人はあっさりと退いた。
「やめてくれ、2人とも。話が進まないじゃないか。」
「あぁん、酷いわぁ、華陀ちゅわぁん・・・。」
「むぅ・・・だぁりんがそう言うのであれば・・・。」
・・・えっと、話の展開がおかしくてついていけないのですが・・・。いや、そうじゃなくて。
「それで、どうだろう。下邳には・・・。」
「・・・すまない、今3人を入れることは出来ないんだ。」
高順は、理由を説明した。
現在、自分達は半ば徐州軍と戦闘状態に入りかけている事。
自分達は侵略者であることも、包み隠さず。
その辺りは華陀も気にしていたが、なるほど、というだけで深く聞いてくる事もなかった。
「そういうわけで、この辺りには近づかないほうがいい。このまま南に向かうほうがまだ安全だよ。と、言いたいところなんだけど・・・華陀殿。」
「ん?」
「あなたに診て欲しい人がいるんだ。頼む・・・。」
頭を下げる高順。
華陀にとって、高順達は好ましい存在とはいえない。
華陀は病や怪我を治すことを生業としている。もっとも彼の場合は金銭目的ではなく、あくまで善意である。
高順は軍人で、そういった怪我人を増やし、病む人を増やし、人を死なせ、人を守る職業だ。
高順にとっても、華陀が自分達を好ましく見ないであろうとは思う。
それでも高順は頭を下げた。
現在、高順の部隊には怪我人はいない。だが・・・1人だけ、高順には手のうちようの無い状態で、苦しんでいる女性が1人いる。
三国志と呼ばれる話の中、最高の名医である華陀であればもしかして・・・と、縋らずにはいられなかったのだ。
高順に対しての考えはともかく、華陀にしても病人を放っておくつもりはない。
病に貴賎は無し。どんな人間であれ病に苦しむ人を見過ごせない性格であった。
「解った、診よう。案内してくれ。」
「あ・・・ああ。ありがとう!」
高順はもう1度頭を下げて走っていった。
それを見送った貂蝉と卑弥呼が、華陀に聞く。
「良かったのかしらぁん、華陀ちゃん。」
「うむ、あの男は徐州に戦乱を呼び込もうとしておるのだぞ、だぁりん。」
2人の言葉に、華陀は目を閉じて頷く・
「そうかもしれない。でも、俺は目の前で困ってる患者を見捨てたくはない。例え治せなくても、出来る限りのことはする。」
「うむ・・・さすがだぁりん。男の中の男よ!」
「いやぁん、かぁっこいいわぁん、華陀ちゅわん!」
頬を花びらのように染めてくねくねするおっさん二人。
はっきり言って某所のテロリストに近い危険さと言うかぶっちゃけキモイ。
その二人は無視するとして。
華陀は個人的に高順に好意を抱いた。
一軍の将が、部下の容態を見てやってほしい、と頭を下げるなど。部下が上司の容態を見てくれ、と言いにきたことは幾度もあったが。
そして、了承したときにも頭を下げた。
部下のために頭を下げる・・・軍人としては知らないが、一個人としては悪くない奴なのだろう。
華陀は高順をそう評価した。

僅かな時間の後、高順は一人の女性を天幕に連れてきた。蹋頓である。
「あの、高順さん。いきなり何を・・・?」
「・・・彼女だ。」
華陀は蹋頓を見て随分驚いていた。いや、貂蝉と卑弥呼も。
「これは・・・。」
「ふぅむ。」
「こういう偶然ってあるのねぇん・・・。」と呟いている。
実は、彼ら3人と蹋頓は初顔合わせではない。
蹋頓は記憶がないが、徐州で暴行を受けていた彼女を助けたのが華陀達である。
だが、臧覇は彼らの事を覚えている。
高順は、この直ぐ後に臧覇に事情を聞かされるがそれはともかく。
「高順、彼女の悪い部分は・・・腹部、だな。」
「な、そんなにすぐ解るのか!?」
診る事も無く言ってのけた華陀の言葉に、高順は驚く。
過去に診たのだから当然だが、華陀は「診る」だけで的確に病根を見際舞える事ができる。
前は自分の実力が足りなかったために治せなかったが・・・今ならば。
何が何だか解らない蹋頓を座らせ、華陀は鍼を取り出した。
高順も「何が始まるのだ?」と内心不安だったが・・・一番不安なのは蹋頓だろう。
高順は蹋頓の肩に手を置いて、彼女を、そして自分の心を落ち着けようとしている。
彼らの目の前で、華陀は鍼を手に、凄まじいまでの気を放出し始めた。
「え・・・ええっ!?」
(これは・・・何と言う気だ! もしかして、楽進・・・いや、それ以上の・・・!?)
華陀が手にする鍼に神々しい輝きが灯る。
その輝きが頂点に達した時、華陀は雄叫びを上げた!
「そこだっ! 我が身、我が鍼と一つなり! 一鍼同体! 全力全開! 必察必治癒(ひっさつひっちゅう)・・・病魔覆滅!!」
(今、必殺って言いましたよね・・・?)
(・・・。ひ、必中?)
高順達は何故か冷や汗を流した。
そんな2人に構わず、華陀は叫ぶ。(そして卑弥呼たちは隣で変なポーズを決めている)
「うおおおおっ! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
だが・・・華陀の鍼が「ぱきぃんっ!」と音を立てて砕けた。
「なっ!? そんな馬鹿な!!」
「・・・?」
「くそっ・・・無理だというのか・・・いや、しかし!」
華陀は何度も鍼を変え、黄金色の鍼まで使用して蹋頓の治療を試みたが・・・結局、上手く行かなかった。

打ちひしがれた様子で、華陀はひれ伏していた。
戦ったわけでもないのに、何故か服はボロボロになっている。
平たく言って、蹋頓の治療は失敗したのである。
「くそっ・・・すまない、高順・・・!」
「いや・・・いいんだ。診てくれたんだ、感謝している。」
最初は名前だけの藪医者だったのかな? とも感じた高順だったが、華陀の事を知る高順隊の兵に聞いたところ「時間が経っていなければ死人すら生き返らせる」という技術の持ち主らしい。
自分が見たわけではないので全てを信じる事はできないのだが、それでもあの「気」は偽物などではなかった。
嘘をつくような人間にも見えない。
つまり、蹋頓の容態は・・・もう、どうしようもない、ということなのだ。
蹋頓もその場にいて、高順から事の次第を聞かされていた。
高順からすれば教えたくはなかっただろうが、「一体、何をするつもりだったのです?」と説明を求められ(当たり前だ)、高順は項垂れて全てを話した。
話を聞き終えた蹋頓は、寂しそうに笑うのみ。
項垂れている高順に、「むしろ、これで諦めがついた」と慰めの言葉を言おうとしたが、それを言えば自分はともかく、自分のために頑張り続けてくれた高順があまりに哀れだった。
華陀曰く「病などで体が不調を訴えたり、痛みを感じるのは正常だが、それらを感じなくなれば・・・それは体がその状態を普通と捉えている」のだそうな。
人間の回復力で治る怪我や風邪程度の症状でならともかくも、蹋頓の病は「体がその状態を正常」と感じている、ということになる。
そういった状況になれば、手が付けられない。少なくとも今の俺の力では・・・、と華陀は悔しそうに唇をかみ締めた。
すまない、と繰り返す華陀。
蹋頓の体を治す事はできなかったが、高順はそれでも華陀に感謝をしていた。
華陀からすれば自分は嫌われる手合いだろうけど、そんな奴の頼みを聞き入れて蹋頓の容態を診てくれたのだから。

その後、数日間ほど居心地は悪かったようだが華陀は高順の元で生活していた。
下邳に入れないのなら、と去ろうとした華陀達を高順が引き止めたのだ。
今は入れないけれど、その代わりに小沛になら入れるように・・・と呂布宛てに書簡を書き、それを渡しもした。
既に小沛は陥落しているのだが、あそこは怪我人が多いだろうし、そこで腰を落ち着けてみてはいかがだろうか? と打診もしてみた。
華陀は最初は乗り気ではなかったようだが・・・自分のことを覚えていた臧覇に懐かれたり、趙雲と呑み比べをしてあっさり負けたり、高順と色々と語り合いもしていた。
蹋頓も彼を恨むような真似をせず、初心なところは高順さんそっくりね、と思いつつからかって楽しんでいる。
・・・何故か楊醜が、卑弥呼と貂蝉に「うほっ! いいオノコ!」とか言われて大勝負を繰り広げていたが。

勝負内容:腰の動きの早さ・乳首相撲。
勝負結果:よく解らないが引き分け(?)

そんな、僅か数日の付き合いでも高順一党と華陀一行は意気投合していた。
接点が無いはずの趙雲と貂蝉が随分仲良くなっていたり、彼女の相談に乗ったらしい貂蝉が高順を正座させて「恋愛の何たるか」を説いたり(とばっちり
華陀も高順の人柄を理解したようで、最後のほうは肩を組んで、お互い飲めない酒を飲んで轟沈していたし、楽進も武道の達人である卑弥呼に色々と教わっていたそうな。
2人のことを「キモイだけのおっさんか・・・?」と高順も見ていたのだが、楽進が認めるほどの武才を持っている。
見た感じではわからないが正義漢でもあるらしく・・・男好きというところを除けば、卑弥呼も貂蝉も胸に熱い物を秘めた一廉の人物だな、と考えを改めた。

その後、どういう経緯か、蹋頓の事情を知った趙雲が彼女とある1つの約束をしたり、高順は諦め切れなかったのか、蹋頓との夜の生活を更に頑張ったり。
過去に蹋頓を助けてくれた華陀に、感謝の気持ちとして旅用の資金を渡したり、と色々あるのだが・・・。
それはまた、別のお話。



~~~楽屋裏~~~
高順君の嫌がらせ、絶賛継続中・・・鼻がグズグズのあいつです(挨拶。
ここまで来ると陶謙の知力3くらいしかないんじゃないか、と思いますね。
高順くんも低いほうなのに・・・絶望的といえます。
史実でも政治センスが壊滅的に無かったような感じで評価されてたり・・・。
若い頃はよかったけど年を追うごとに駄目な人、ですかね。
呂布相手でも勝てると思ったのかも。曹操にも喧嘩売って返り討ちにされて・・・。
しかも、周りに救援要請とか。
人を見る目もですが、才能があるのやら無いのやら・・・。


卑弥呼とかが出てきました。
結局、蹋頓ねーさんの体は治りませんでした。
華陀が万能すぎると困るので原作よりパワーダウンです。
曹操の頭痛も(アクシデントあったとはいえ)治せなかったので・・・。

・・・え? 乳首相撲?
何のことだいおいちゃん解らないなぁHAHAHA

・・・さて。
この時点での呂布軍は高順らも含めて4万弱。
陶謙の兵力は・・・まあ、同程度ではないでしょうか。
笮融が兵力抱えた状態で反乱しなければもっと多かったかもしれませんね。
しかしまぁ・・・無茶なシナリオだと自分でも思います(笑
どうやって纏めますかね。

では、また次回お会いしましょう。














補足と言うか蛇足と言うか。
そろそろエロ描くべきでしょうか(自分で決めれ
ここでする質問かどうか解りませんが、ネタできたし・・・
あと、皆さんはTIZYOがお好き・・・なのでしょうかね。
今思い起こすとそんなのしか描いてないし、どうしてか割りと評判が良かったような(遠い目
それも徐州制覇してからになるのでしょうけど。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第57話 徐州へ。その3。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/06 23:47
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第57話 徐州へ。その3。


賈詡(かく)のもとに派遣した馬日磾(ばじつてい)が、伝言を預かって高順のいる下邳へと戻ってきた。
内容は「承知した。我々はこれより笮融(さくゆう)が篭る広陵(こうりょう)へと進撃する」というものだった。
高順の伝言を聞いた賈詡は、華雄率いる7千と小沛から出撃させた軽騎兵・輜重を含めた8千を合流させ、広陵を目指す。
攻撃部隊には呂布・陳宮に、彭城(ほうじょう)を抜け出した華雄の率いる総数1万5千ほど。
広陵に篭る軍勢は少ないようで、数は1万もいないのだという。
それなら、攻める兵数がもっと多くするべきでは、と思うのだがすぐに「ああ、呂布がいるからな」と心配することをやめた。
呂布一人で一万・・・どころか、もっと多くの働きができるだろう。
黄巾3万をほぼ一人で殲滅したというのは伊達ではない。
小沛(しょうはい)があっさりと陥落したのは、彼女の働きも大きい。
最初こそ戦う気満々であった笮融だが、様子見で繰り出した先遣隊2千が呂布一人に蹴散らされた事に肝を冷やし、軍勢を纏めて逃げ出したのだという。
追撃を考えない訳ではないが、陶謙に占領されるのも困るし、将兵も疲労している。
自分達の足場にするつもりなのだから、とまずは小沛に入城した、という流れだ。
この時点で、曹豹率いる徐州軍は彭城へ到達していない。
小沛守備隊に張遼・陳宮。そして、この時点では死亡した事にされている董卓親衛隊の張済・張繍兄弟。
また、小沛攻略時にそこそこ活躍したらしい曹性(そうせい)・魏続(ぎぞく)・宋憲(そうけん)・侯成(こうせい)といった面々も武将として採用されてた。
兵力も2万ほどであり、守るだけならば問題の無い程度だ。
賈詡は広陵を攻め落とした後、直ぐに彭城へと向かうつもりであった。
その頃には、恐らくだが曹豹が彭城を制圧しているだろう。
約束を守らなかった、という名分をもって彭城に篭る軍勢を広陵・小沛から出撃させる軍勢で挟み、そのまま攻め落とす。
然る後に下邳の戦力を封じ込めている高順の元に援軍を向かわせ、できる限り短時間で下邳を陥落・・・というのが現状における賈詡の考えである。
陶謙がそこまで大人しくしているか。自分の目論見どおりに彭城を落とし、高順の元へ援軍を派兵できるか。
陶謙を倒し、まともな政治を行えば徐州の民が不満に感じることは・・・最初はあっても直ぐに忘れるだろう。。
豪族連中も重用してやれば文句を出す事もない。
もっとも、彼らは未だに敵であるし、陶謙政権を打ち倒して登用すれば大きな態度は出来ない。
最初からこちらに寝返るなりしていれば権益を確保してやったり、と色々と五月蝿い事になるのだが、幸か不幸かこちらに協力しようとする徐州の豪族は未だいない。
この戦い、既に賈詡は勝利を確信している。
呂布に勝てるはずも無い笮融、半ば孤立しかかっている曹豹。高順隊6千に囲まれ、動きを封じられている陶謙。
高順が上手く押さえ込めなければ小沛まで撤退させればそれで良い。
速攻での勝利は達成できないが、それだけだ。それ以降の戦いで他勢力の介入が無ければ絶対に勝てる。
もっとも、と賈詡は心中で付け加えた。

陶謙如きが、「陥陣営」を向こうに回して、どうにかできるはずもないでしょうけど、ね。


その頃の下邳。
高順は着々と攻城準備を進めていた。
投石機から打ち出すために大量の石を運び込んでいるが、下邳側からは見えないように布やら天幕やらで隠している。
下邳の城門は東西南北4箇所。
「兵力」では高順側が大きく劣るが「戦力」で考えれば高順側が陶謙よりも勝る。
一気に2万3万の兵力で攻められれば、勝ちは難しいかもしれないが、同数程度ならば打ち負かせる自信はある。
また、高順本隊が陣を敷いているのは南西に近い場所だ。これはいつ呂布の援軍が来てもいいように・・・直ぐに合流できるように、ということだ。
兵力は約2千強。
他の城門には500ずつ、一方面に付き一武将を配置。投石機も大岩発射型と拡散型一門ずつ、合計二門・・・と、本気の布陣だ。
高順の陣地のみ拡散型である。
南には高順隊。
西・楽進。
東・干禁。
北・李典。(ここまでが兵力500)
趙雲隊は遊撃隊として、苦戦する陣があればそこへ向かう。彼女の兵力数も2千強。
約6千だが、彼らの半数は輜重隊を兼ねてもいる。
対して陶謙側の兵力は約3万。
曹豹率いる1万が主力部隊だが、陶謙は守備だけならば2万あれば充分と考えている。
城外に布陣する高順隊が総数6千前後であるし「攻城に必要な人員は守備側の3倍以上」の考えからすれば、それはそれで間違ってはいない。
だが、そうとは限らない場合もある。
3倍以下の兵数で城を攻略した事象が無い訳でもない。
高順にしても本気で攻め落とせるとは思っておらず、少しずつでも陶謙の戦力を削げば・・・程度の認識だ。
が、落すともりはなくても攻撃する気は満々らしい。
数を削げば削ぐほど後がやりやすくなる。
さて、下邳側というと、いつ呂布に攻められるかと戦々恐々としていた。
陶謙本人は「あんな若造に負ける訳が無い」と考えているようだが、陳登や糜竺らはそう思っていない。
彼らが積極的に呂布軍を攻める意見を出さないのも、陶謙と呂布、どちらがより徐州を治めるに足る人物か、と天秤にかけている側面もある。
もっとも、趨勢はほぼ呂布に決まった感がある。
相手を甘く見てしまいがちな陶謙を支えてきた陳登達だが、ここまで追い詰められて方策が浮かんでこないというのは致命的だ、と思い始めている。
呂布を厚遇して、上手く自分のコマに・・・という当初の指標を「やはり、奴らに徐州3郡を渡すのが惜しい」と自分であっさり覆し、いらぬ反感を買って・・・と、どうしようもない状態だ。
その上、目の前にいる高順隊を懐柔できるでもなく、むしろあの程度の猿知恵に振り回されて、ではどうしようもない。
それでも、呂布が3郡を取り戻すまで待ってから用意の整っていない隙を突いて奪還、という策を取るのならばまだしも・・・。
まだこちらの用意すら整っていない状況でご丁寧に戦力を分散させてしまっている。
このままでは、各個撃破されて余計に追い込まれる。というのも解らなくなるほど耄碌しているようにしか見えない。
彼ら徐州豪族は「徐州をよりよい方向へ治めてくれれば」呂布であろうと受け入れるだろう。
陶謙には政治的能力が無く、周りの臣下によって経営されている状態でもある。
陳登、そしてその親である陳珪は「高順と渡りをつけるべきか。それとも、彼らが城を攻める前に土産を持って降伏でもするか?」と考え始めていた。


彼らが陶謙を見捨てる考えを持ち始めた頃に、下邳からは夜影に紛れて脱出を試みる人間が増え始めた。
いや・・・脱出、というよりも陶謙の手の者による、他方への救援要請の密書を持つ工作員というべきか。
自分と争っていた曹操、平原の劉備、袁術・袁紹・・・誰彼構わずであった。
それも高順の手元にいた楊醜と馬日磾。
そして、未だに陣中にいる華陀(というか卑弥呼と貂蝉)によって全て阻止されていた。

その時の状況:「何だか今日はやけに騒がしいなァ」「お前初めてなんだろ? 力抜けよ。」「やめてくれええええええっ!」「ぎゃああああぁァッー!!?」

・・・。聞かなかった事にしてください。

そうやって工作員を狩り続けた高順の手にも、当然密書が渡る。
内容は「暴虐な呂布に攻められて困ってます。誰かプリーズヘルプミー(意訳)」というものである。
笮融の問題を呂布に丸投げして、その問題が終わっていないというのに呂布を排除しようとしている、ということだ。
高順も怒るよりまず呆れてしまった。
それなら自分で何とかすれば良かったじゃないか・・・。とは誰もが思うだろう。
人を見る目がないというのか、老化して史実の孫権の如くボケたのか。
これだけで攻める口実はできたも同然だがどうするか。
このまま攻めても袋叩きにされるだけだが、さて・・・呂布を待つか、それとも独力で攻めてみるか。
名分が必要にもなるだろうが、これだけ馬鹿にされて黙っているつもりはないし、人・物資の流通を妨げているのも「陶謙のせいですからー」と言いふらしてもいる。
影が噂を流してけっこうな時間も経つし・・・攻めない理由も無い。
陶謙からしても、全ての工作員が狩られたと解った様で「城外の部隊を殲滅してから」という気持ちになった。
こうして、お互いに開戦を決めた頃・・・。
呂布軍が広陵に立て篭もる笮融を攻め滅ぼし、同時期に彭城を占領した曹豹の部隊に対しての押さえとして、自身が5千の軍勢と共に再出撃。
小沛からも張済・張繍兄弟が6千ほどの兵と共に彭城へ向かう。
華雄隊は若干の守備隊を広陵に残留させ、高順隊の後詰として出撃。
その数は約5千。攻め落とすつもりの後詰ではなく、呂布軍が彭城を落とすまでの時間稼ぎ。
そして、華雄らが下邳へと向かっている最中。
陶謙は糜竺の弟である糜芳に1万の兵を預け城外へと繰り出していた。
当然、重臣連中は止めたが「これ以上は黙っておれん!」と無理やり出撃させたのだ。
これで、後に退く事は出来なくなったか・・・と、心ある人々は自分達を待つであろう暗い未来に溜息をつくばかりであった。

~~~下邳城外~~~
李典は城門が開き、兵が打って出てくるのを見ていた。
「おーおー。出てきよったなー。」
東西南北の格門から3千弱の兵が出撃している。
まともに戦えば袋叩きにされるだろうし、門向こうにはまだ控えの軍勢がいるかもしれない。
しかし。
「ぬっふっふ、うちらが下邳に向けて陣地構築したんは無駄やなかった、ちゅーわけやな。」
李典は後方に控える投石部隊に手を振って合図を送る。
大岩発射型は遠くに、拡散型は近くに配置してある。
李典だけではなく、干禁、楽進、高順の陣も同じように投石機が配置されている。
高順達は陶謙への嫌がらせだけをして過ごしていた訳ではない。
虎牢関の戦いの時に「どの角度で発射すればどの距離まで届くか」というデータくらいは取ってある。
それにあわせて角度と距離を調整しつつ、陣の構築を行っていたのだ。
拡散型は陣地の前面、つまり陶謙の兵と交戦をする場所に岩が落ちるように。
大岩発射型は、岩が城門の直ぐ目の前に落ちるように。
ある程度狙いが外れるのは仕方なく、実戦で誤差修正を行う。
拡散投石で相手は間違いなく驚くし兵力も削げる。
それだけで相手の足は鈍るだろう。
何十にも柵を巡らせてその後ろから矢を放ち、趙雲率いる騎馬隊・・・機動部隊と言っても良いが、彼女の部隊が苦戦している部隊を援護する。
李典の部隊は他の部隊よりも射線・射角を読んで誤差修正を計ることが出来るし、投石部隊も正確にその攻撃力を発揮できるだろう。
楽進は自身の気を使用した散弾で遠距離からの攻撃が出来る。
高順の部隊は・・・もう、言うまでも無いような気がする。
ああ見えて戦い方が上手いと言うか何と言うか。
高順隊の強さは、武将の行動に兵がきっちり従うというところにもある。
高順が前に矢を打てば兵も同じように前に矢を放つ。
左に打てば、左に。右であろうと同じ。
部隊全員が1つの行動をきっちりとこなす、ということができる部隊である。
兵が自分勝手な戦いをしない、というところが強みといえる。
そんな中、一番苦戦するのは干禁だろうと思われる。
彼女はどんな分野でも才能を発揮できるがこれといった何かが不足している。
兵を扱うのも上手だし、戦闘力も高い・・・が、他の武将に比べて凄みが足りないというべきだろうか。
だから、というわけでもないが・・・。
彼女の陣には本当にどうした事か、卑弥呼・貂蝉・華陀がいた。
「沙ぁ和ぁちゅわぁんっ! 何があろうとあたしたち、真の漢女に任せておけば安心よぉうっ!」
「我々が参加する謂れは無いが・・・。だぁりんが「怪我人が出るのを解っていて放っておけるか」と言うのでは仕方ない! 我ら真の漢女道継承者の力(だぁりんに)見せてくれよう!」
2人に挟まれた格好になる干禁は頭を抱えていた。
「あうぅう・・・どうしてこんな事にぃ・・・。」
卑弥呼と貂蝉は誰でも普通に真名で呼ぶ。
「すまないな、干禁。だが・・・卑弥呼の言うとおり、怪我人が出るのを解ってて去ることなどできないしな。俺達も手伝わせてもらうぜ!」
一人まともな華陀だったが、彼は積極的に戦闘に参加する訳ではない。あくまで救護班、衛生兵のような扱いだ。
もっとも、華陀本人もかなりの強さである。そうでもなければ旅などできるはずも無い。
だがもう1人、呼ばれてもいないのに出てくる奴がいた。楊醜である。
「良い事思いついた。お前ら、俺と組め。」と卑弥呼たちに言って、即席であるが3人で組んでいるのだ。
「ふっはっは! 楊醜、貂蝉! ワシの心は今、赤く萌えておるっ!(性的な意味で」
「んっふっふっふぅ♪ 楽しみねぇ(性的ry」
「きっと良い気持ちだぜ(性ry」
おかしな笑みを浮かべる3人を見て、干禁は泣きそうであった。
「高順さんの馬鹿ぁあああぁああーーーー!!!」
・・・ある意味、干禁の陣地に向かってくる「男性」兵士が一番哀れと言えるかも知れなかった。



「ふん、もう我慢の限界ってか。頭の悪いお子ちゃまとそう変わらんな。」
自分から嫌がらせをして、嫌がらせを返されたらぶち切れる。
この程度で音を上げるようではな・・・と、虹黒に跨り馬上の人となった高順は冷たく笑った。
見れば、敵勢は矛を構えてこちらに進んでくる。
これでもう、向こうは言い訳が出来ない。完全に手切れとなったわけだ。
遠慮はしないからな、と呟いてから高順は手を上げた・・・いや、他陣地の主将も。
「投石部隊、撃てーーー!」
手を振り下ろしたと同時に(高順の部隊のみ拡散型だが)大岩発射型・拡散型が岩(石)を飛ばした。
その岩は、東・西・北の城門に命中・・・せずに、城門の直ぐ目の前に着弾。
「城門の開け閉めが出来ない」ようにした。
また、遠間から握り拳大とはいえ大量の石が下邳から出撃した部隊へと降り注ぐ。
悲鳴と怒号と混乱が陶謙軍を駆け抜ける。
「う、うわ・・・何だ、何で岩・・・うわ、また来た・・・ぎゃあぁっ!?」
幾度となく降り注ぐ石の塊に打ち抜かれ、1人、また1人と命を失っていく。
陶謙軍の混乱を見て取った李典は思わずガッツポーズをした。
「っしゃあ、大当たりや! 今のうちや、撃て! 撃って撃って撃ちまくれーーー!」
「おーーー!」
李典の命令どおり、兵はありったけの矢を混乱しきっている陶謙軍へと打ち込む。
楽進隊・干禁隊・高順隊も矢を放ち、趙雲隊も騎射を行う。投石部隊も石を積み込んでは放ち、を繰り返す。
陶謙軍もただ混乱してばかりではない。
騎馬隊は各門出撃部隊に1000ずつはいる。
開戦から僅かな時間で各部隊は百以上の兵を失っていたが、数の多さを恃んで一気に柵を突破しようとする。
だが、南門の軍勢以外、引く場所が無い事に気付いた者は少ない。
騎馬隊は、馬を駆り一気に防御柵へと突進。歩兵隊も続き、城門の上にいる守備隊も矢を放つ。
しかし、防御柵は幾重にも張り巡らされており、一段抜こうが二段抜こうがそれほどの影響は無い。
その柵の防衛部隊が長槍を構えているので容易に近づく事もできない。
長槍に阻まれて怯んでいる内に矢で射抜かれ、落馬、あるいは絶命していく陶謙騎馬隊。
足の遅い歩兵隊も投石器の餌食になる者ばかりで、守備隊の放つ矢にいたっては高順隊に届いてすらいない。
「・・・曹操・孫策・劉備相手だったらこうは上手くいかないだろうな。」
高順はきわめて正統な感想を口にしていた。
後方に下がりつつ引き込んで、火計に巻き込む、とか考えていたのだが。
こっちから突撃をするまでもなく、あっさり崩れていく陶謙軍。
南門から出撃してきた部隊は既に退き始めている者さえいる。
連合軍の弱い諸侯ですらもっと手応えがあったな・・・と、嘆息しつつ、北・東・西から逃げてくるであろう陶謙軍の残存兵力を待ち構える高順であった。
同じ頃、李典・楽進の部隊も高順同様「こんなに楽に勝てた事は一度も無かったな」と思うほどの完勝を収めていた。
岩に阻まれ、門を通る事ができないので南に逃げるしかないが、そこを趙雲隊が追撃。散々に斬り散らしていく。
ただ、干禁だけはそうはいかなかった。
干禁に不利な状況だった、というわけではない。
どちらかと言えば陶謙軍にとって不利と言うべきだったが・・・。

以下、ダイジェストでどうぞ。

「ぬっはっはっは、足を踏ん張り腰を入れんかぁっ!そんな程度では弱い漢女のワシ一人すら倒せんぞ!」
「うわあああ、化け物だ! 矛も戟も刃が通じねえええっ!?」
「だぁれが、筋肉モリモリの花も枯れ地もやせ衰える化け物ですってぇええぇっ!?」
「んな事誰も言ってねえし意味わかんねぇよっ! ・・・って、うわあああ、こっちにも腰をカクカク動かす変態がぁああァッー!!!」
「や ら な い か? 」
「あおおっー!」(ヘブン状態で崩れ落ちる陶謙軍兵士)
「もういやあああああああああああああああああ!!! 誰か、誰かあああああああああああああっ!!!!?」
「う、うわわ・・・さっきまで後ろにいたのにいつの間にか前にーーー!」
「全門の虎!」
後門の狼ってところかしらぁん?」
「字が違うような・・・た、たすけて・・・かーちゃああああああぁぁあんっ!!!」
「・・・。」←呆然としている干禁。
「・・・・・・。」←同じく呆然としている兵士達。
「あの三人、随分頑張っているな・・・。」←よく解っていない華陀。

・・・。

まさに、阿鼻叫喚。地獄絵図そのものであった。  



と、まぁ・・・こんな訳で、下邳城攻防戦は終わりを告げた。
「陥陣営」という名を発揮するまでもなく、あっさりと終わったのだ。
南門以外を全て塞がれてしまった下邳。
兵を出して岩をどかすには、雲梯(はしごの様な物)で城壁から降りるか、南門から出るしかない。
が、雲梯で兵を降ろそうにも矢や投石で狙われ、南門には高順・趙雲隊が待ち構えている。
何度か兵を繰り出そうとしては阻止される、と言うことが続いて最終的には城に篭ってしまっている。
今回の攻防戦で討たれた陶謙軍の兵士は二千とも三千とも言われる。
負傷、降伏したものはもっと多かった。
高順隊にも少なからず死傷者は出たが、それでも陶謙に比べれば僅少といえる。
その辺りは華陀らに任せているのだが、時折、負傷者を収容した天幕からは「助けてえええええっ」「もう嫌あああぁぁあ」など、悲鳴に近いものが聞こえてくる事が多々あった。
悲鳴の聞こえてきた天幕で治療行為に当たっていたのは卑弥呼と貂蝉である。
それは置いておき、高順としても悩みがあった。
降伏・負傷者を受け入れたのはいいが、食料や飲料水に不安が出てきた。
その辺りは後続として進軍している華雄に頼めばいいのだが・・・もう1つ。
夜毎、下邳から高順側と接触を図る陶謙の配下が出始めたということだった。
兵士の逃亡も多く、陶謙としては高順以上に頭を悩ませるのだが・・・
接触を図ってきた中には陳登、今回の戦いで完全に打ち負かされた糜芳と、その兄である糜竺や孫乾という、後に劉備を支えた人々までも。
もしも彼らを信じるのであれば、この時点で陶謙は完全に徐州豪族から見放された、と言っても良い。
高順は半信半疑であるが、一週間を越えた頃に華雄が合流。更に数日後、彭城を攻略、曹豹を下した呂布が賈詡を伴って下邳に到着。
張遼は投降兵を伴って小沛に帰還。その後に下邳へ向かうらしい。広陵は、張遼から離れた張済・張繍兄弟が守備。
高順との間に先端を切り開いて数週間。下邳は完全に囲まれた。
下邳の残存兵力は逃亡兵が相次いだ事で1万以下。
臣下と運に見放された陶謙に打つ手は無く、その上、配下である元黄巾の将であった張闓(ちょうがい)に捕縛され、降伏の手土産にされてしまう凋落ぶりであった。



こうして、徐州はほぼ呂布の手に落ちた。
だが、西隣には曹操。南では大なり小なり、野心を持った群雄がしのぎを削っている。
まだまだ予断を許さない状況であるが、ようやくに呂布は確固・・・と言えないまでも大きな足場を得た。
そこに曹操や劉備が介入を果たしてくるのは、もう少しだけ先のお話。


~~~楽屋裏~~~
・・・例の三人、やりすぎ。あいつです(挨拶
なんか、母上どころじゃないほどのアレっぷりですが・・・まあ、うち2人は原作でも暴れまわってますしね!
このシナリオで華雄姐さんが強いのも化け物2人を同時に相手にして、ほぼ互角だったからです。
・・・ほんと、華雄姐さん凄いなぁ。

陶謙を捕らえる汚れ役は、徐州大虐殺の一端を作った奴に務めて頂きました。
汚れ役がいるのはすばらしいですね?
・・・ちなみに、陶謙さん。多分処刑されたのではないでしょうか。
次の話で書くの面倒なのでw
或いは、呂布の眼光にびびって心臓が止まったり。いい所なし。

・・・さて、次回からは徐州的日常ですかな?
ちょっぴりだけ戦後処理・・・するかなあ(笑

では、次回お会いいたしましょう。(ノシ





















( ゚∀゚)o彡゜

・・・あれ?(汗



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第58話 徐州的日常。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/07 19:51
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第58話 徐州的日常。

徐州を制した呂布。
彼女の軍勢の主だった者一同は下邳(かひ)へと集まっていた。
戦後処理やら何やらもあるが、その辺りが一寸落ち着いたので「皆を労おう」という呂布の提案で下邳で宴を開く事になったのである。
戦後処理、というのもおおまかなもので、降伏した者の扱いをどうするか、とか税金がどうとか、文官・武将の割り振りをどうするか、と多岐にわたる。
まず降伏した者については・・・役職はともかく、命の保障だけはした。一般の兵士などは通常通りの勤務形態に戻ってもらうことになる。
また、糜竺や陳登等、陶謙が捕らえられる前に降伏した者についても「きっちり働いてくれるなら罪に問うような事もしない」と約束。
豪族としての権益はともかくも、彼らの望む条件にある程度譲歩した事になる。
それと、武将の割り振りに付いてなのだが・・・これが難しい話だった。
まず、文官にしても下邳の政治的状況(税やら何やら)を把握する必要がある。
陳宮・賈詡くらいしかめぼしい文官はいないので、ある程度は旧陶謙政権を運営していた文官連中に頼る格好になる。
武官については・・・暫定でしかないが。

下邳・・・呂布・陳宮・賈詡・華雄・張兄弟。兵数は1万3千ほど。
小沛(しょうはい)・・・張遼・魏続・宋憲・侯成・曹性・干禁。兵数は2万。
広陵(こうりょう)・・・干禁を除いた高順一党。兵数6千弱。
である。(陳宮はいずれ小沛へ配属される

干禁だけ引き離されたのは、張遼が「うちんとこ部将足りへんやろー!」とごねたからである。
その為か、干禁が一人出向みたいな感じで小沛へ配属されたのだ。
外様組である高順に対しての露骨なまでの人質という側面もある。
そして、高順の父母も小沛へと移る事になった。
賈詡は高順一党をどう思っているのかがよくわかる処遇であるが、別に嫌っているわけではない。
ただ、ここまでの攻撃能力があるとは思ってもいなかった。
僅か6千程度で、相手が陶謙とはいえ・・・1万の軍勢をあっさりと敗走せしめたのだ。
陶謙が高順に勝てるわけは無いと思ってはいたが、ここまで鮮やかな勝ち方をされると・・・「外様組」である以上、油断が出来ないと考えたのだ。
高順にしても、呂布を倒すつもりであるし、張遼・華雄がいる以上自ら裏切るつもりも無い。
この話は高順一党にとって、面白くない話であるし抗議もしたのだが・・・曹操に対しての守りである、と言われてしまえば強くもいえない。
干禁も「そんなぁー・・・」と言っていたがどうしようもない。
その代わりに小沛は一番兵士が多いので、重要視されているという事実はある。
一番苦しいのは高順で、武将は多い代わりに兵の増強は無し、である。
袁術に対しての備えなのだが、投石機もあるし、守りを固めれば北の下邳からも数日で援軍が駆けつける立地条件。
悪くは無いかもしれないが・・・やはり賈詡先生に警戒されているみたいだな、と高順は嘆息した。
何より、代理ではあるが広陵を預かるような立場なのだ。
賈詡が言うには「いずれきっちりと太守を立てるけど今のところはあんたが治めなさい。」
無茶だった。横暴だった。悪魔だった。
土地を治めた事などない高順にとっては無謀極まる話である。
文官もいるから、基本的に治安維持やらなにやらだけで良いそうだが・・・不安である。
彭城(ほうじょう)については無人である事も関係して一時的に放置するらしい。
その辺りは後にして・・・。
高順達がそれぞれの任地へ向かうまで1週間の時間を与えられた。
簡単に言えばちょっとした休暇である。
もっとも、高順はやる事が沢山あった。
海が近いこの地では塩の売買で利益を見込めると思ったようで、何故かこの地に来てから大量に増えた「影」に命じて塩の生産高やら平均的な売却・買取値の調査を命じた。
高順は正式に塩の販売許可を得ているので、塩さえあれば味噌作り放題、売り放題になる。と言っても、既にその当時の漢王朝政権ではないので有名無実に近いが・・・
現王朝政権とは関係が無いし、税を払う必要があるとも思えない。呂布統治下の徐州に払えばいいだけだ。
この後、各地の「モグリ」の塩商人を引き寄せて傘下におくわ、他の塩商人よりも塩の価格を押さえ、薄利多売(薄利ではないが)を狙うわ。
当然、面白くない他商家から嫌がらせを喰らうがそれを財力で黙らせるわ。
財政収入のために品質が悪くして塩の値段をあげる、という政権&荒稼ぎする強欲商人の得意技も使わず、良質且つ安めの塩を供給するので民衆には喜ばれたり(密売人を多数引き入れたのもそこが理由であったりする
他にも「キャラメルくらいなら作れるんじゃないかなぁ」とか、小麦と果物、蜂蜜やナッツ(木の実)を使ったパイを考えてみたり。
塩も自分だけの独占にならないように気を遣ったり・・・と色々あるがそれは割愛。

また、徐州を制したことで陳宮と賈詡の両名が「正式ではないがこれまで従ってくれた部下に官職・将軍位を与えよう」と呂布に提案をした。
呂布はこの後徐州の州牧を自称(賈詡らの提案だが)する。
張遼・華雄・張兄弟など、初期から董卓に従っていた武将は騎都尉になる。
今回の戦いで起用された曹性などには当然無かったのだが、高順達も当初与えられる予定は無かった。
これには呂布始め、殆どの武将の猛反発を喰らった。
「彼らはほぼ独力で下邳を落とし、功績も大きい。だというのにその功績を評価しないのは何故だ!」と言うのだ。
高順自身はそんな物はどうでもよかったが、彼も「俺はともかく、部下には報いてくれないだろうか」と頼み込み、賈詡は渋々ではあるが、彼ら全員を「騎司馬」という役職に就けた。
「~司馬」というのは都尉(だけではないが)の下に付く、実働部隊の部隊長である。
自称ではあるが一応の官職を得た、ということになるだろう。
高順にとっては本当にどうでも良いお話だったが。

~~~下邳~~~
宴が終わった翌日の夕方ごろ。城壁の上に呂布と高順がいる。
高順は城壁の手すり部分に腰掛けており、呂布は城壁から外側を見て・・・更に言えば高順に背中を見せている。
既に城門を塞いでいた岩は呂布や楽進によって退かされるか破壊されるかしており、その残骸が残っている程度だ。
呂布はわざと高順に背を見せている。
いつか思った「いつ斬りかかって来ても構わない」という考えは消えていないのだ。
高順にしても、今この状況で呂布を殺すつもりも挑むつもりも無い。
焦れったく思ったか、呂布は背中を見せたまま語りかけた。
「・・・こーじゅん。」
「何ですか。」
「何時でも良い。」
言葉少なに言う呂布の背を、高順は見つめた。
が、彼はゆっくりとため息をついた。
「ま、預けておきますよ。今やっても得るものが無い。」
「・・・?」
「あなたはもう、徐州の旗頭だ。これから先、どこぞの勢力の介入はあるだろうけどね・・・その時、呂布がいなけりゃ皆が困る。」
「・・・でも。」
「それに、後ろから斬り殺せだって? そんな事したら丁原様に・・・皆に叱られますね。俺はあなたを正々堂々倒す。その時まで、死なないでくださいよ?」
高順の言葉に、呂布は薄く笑った。
最初は「ぶっ殺ーす!」だったのだが、いつからだろう。彼が「倒す」という言葉を使い出したのは。
高順の中でも、仇である事に違いは無いが「殺す」のではなく「倒す」ほうへと目的を変えている。
ずっと前に殺せばそれはそれで良かったのだが、呂布軍という物が結成された以上、そうもいかなくなった。
決着をつけるのであれば、それこそ平和な時代になるか、彼女を倒しても構わない状況になったら・・・ということだ。
・・・勝てるとは思わないが。
2人の考えはともかく、第三者から見ればこの状況、割と良い雰囲気である。
そして、それを許さないものがこの世界に1人だけ存在する。
「ちんきゅぅううぅううううーーーーーー・・・」
静かな声が聞こえてくる。
2人が「え?」と辺りを見回した瞬間。
「きぃぃぃぃいいいいいぃぃぃいっっっっっくぅぅううーーーーー!!!!」
高順の頭に、何処かから飛んできた陳宮の飛び蹴りが炸裂した!(どこから飛んできたのだろう?
「お・・・おおっ?」
「あ・・・。」
ただ、場所が悪かった。
これが往来であれば、ただ飛び蹴りが命中した・・・で済んだだろう。
しかし、ここは城壁。その上高順は城壁の手すりに座っていたのだ。
当然、バランスを崩す。
「お、やばっ・・・これって・・・・・!」
ぐらり、と後ろに倒れこむような感じで高順の体が「手すりからずり落ちた」。
高順の目に、雲1つ無い、赤く焼けるような空が映る。
(ああ・・・あの空の向こうに皆が・・・丁原様がいるんだろうなぁ・・・)
「ってそんな事考えてる場合じゃあああああああぁぁああああああああああぁああっっっ!!!?」
ぴひゅー・・・・メメタァッ。
「・・・。」
「・・・。」
呂布は硬直している陳宮の側までつかつかと歩いていった。
陳宮もまさかこんな事になるとは思っていなかったらしい。
そんな彼女の首根っこを捕まえた呂布は、陳宮の体を左手で抱えて、右手を彼女の可愛らしいお尻に当てた。
明らかに「お尻ぺんぺん」の状態である。
「ひにゃっ!? な、なななななにをなさるのです恋(れん。呂布の真名)殿ーーー!」
思い切りたじろぐと言うか、逃げようと暴れる陳宮だったが、非力な彼女にできるわけも無い。
見れば、呂布はいつも通りの無表情だが・・・どこか、怒っているように見える。ていうか怒っている。
「ちんきゅ・・・おしおき。」
「なんですとーーーー!?」
ぶぅんっ!(右手を高く振り上げた音)
ぱっしぃぃぃんっ!(その右手が陳宮のお尻に命中した音)
「ぴぎゃあああああああああああっ!!?」


~~~高順が落ちた場所~~~
何か変な音がしたのが聞こえたのだろう。
華雄が高順の落下した辺りを見回していた。
「何だ、今の「めめたー」って音・・・ん?」
木の陰、見えにくい場所で高順が頭から血を流して倒れているのが見えた。
「うおおおおっ!? こ、高順! 何があったーーーー!?」
慌てて駆け寄り、高順の体を抱きかかえる華雄。
「おい、高順! しっかりしろ、おいっ!?」
「おいおい、何やねん。誰がさけんdのおおおおおっ!?」
そこへ、警邏を終えてうろついていた張遼が通りかかった。
「おお、張遼。ちょうどいい所に! 華陀か楽進を連れt「順やん、華雄のうっすい胸に抱かれて鼻血出すなんて! どうせならうちの胸で楽しめばええやんか!」・・・おい。」
何を勘違いしてるんだこの露出凶。
おかしな叫びに、楽進・蹋頓・趙雲といった高順の愛人(笑)まで集まってきた。
華雄に抱きかかえられて頭から血を流す高順を見て・・・何人かが張遼同様の勘違いをした。

「そ、そんな! まさか、高順さんが薄い胸と豊満な胸のどちらでもいける両刀使いだったなんて!(用法を間違えている上、勘違いしまくっている蹋頓」
「ほほぅ・・・高順殿は、その手でもいけたのですな。ふふ、これは好敵手が増えたようだ。(解ってて言ってる趙雲」
「あ、あの・・・う、薄い胸にも薄いなりに良い部分があると思います!(フォローになってない楽進」
「お前ら・・・。いや、それ以上に楽進の優しさが辛いぞ・・・。|||orz」←打ちひしがれる華雄。

「ってそんな事言ってる場合か! 楽進、お前の癒術で血を止めろ、あと華陀を連れて・・・ああ、居場所がわかってるならそこまで連れて行け!」
怒鳴る華雄の声に圧されたか、蹋頓と楽進が高順を抱えて華陀の元へと駆けて行った。
補足すると華陀達もまだ下邳にいる。
負傷者の治癒と、功績があったとして宴に誘われていたからだ。
高順が広陵へ経つ頃に、彼らも再開を約して北へと旅立つが、それはまだ一週間先の話である。
ともかく。
「しかし・・・高順を一方的に倒したというのか? それとも・・・。」
「城壁から誰かが突き落とした、ちゅー事かいな・・・?」
残った華雄と張遼は己の得物を構えて、高順が落ちてきたであろう城壁を睨んだ。
「油断するな。」
「わーってる。」
二人は目配せして階段を登ろうとしたその瞬間。

ぶぅんっ!(何かが風を切って振り上げられるような音)
ぱっしぃぃぃんっ!(何かが叩かれた音)
「ぴぎゃあああああああああああっ!!?」(陳宮の叫び声)

「・・・。」
「・・・。」
華雄と張遼はもう1度お互いの顔を見て、こう思った。

無かった事にしよう。

「・・・高順の所へ行くか。」
「あほくさぁ・・・。」
2人は盛大に溜息をついて、楽進達の後を追っていった。

この休暇中、高順が色々とえらい目にあったりするのだが・・・。
それはまたXXX板別のお話・・・。



おまけ。
華陀の治療を受けた高順は、華陀がいる間中に医務室として使われている部屋の寝台の上で寝ていた。
その隣の寝台には、うつ伏せになっている陳宮。
この少女は、呂布にお尻を叩かれある意味重症・・・真っ赤になったお尻を摩っていた。
「ううっ・・・高順のせいで、ねね(陳宮の真名)までこんな目に・・・!」
「・・・こっちこそ、ちんきゅーのせいでこんな目にあったんですが?」
そう、高順は頭がかち割れて大量出血で死に掛かっていた。
華陀の治療の甲斐あって、頭に包帯をぐるぐる巻きにしているが・・・。
「お前が全部悪いのです!(やつあたり」
「うっさいちびっ子。尻たたくよ?」
「ひぃっ!(びくっ」
そんな程度の怒りしか見せない高順。

・・・仲が良いのか悪いのか。

ちゃんちゃん。




~~~楽屋裏~~~
何を一日で描いているのか&こんなネタが出てくるのか自分でも解りません、あいつです。
今回はちょっと後始末、ですね。

さて、この頃の曹操は・・・兗州(えんしゅう)を完全に掌握して皇帝を迎えていますが・・・途上で鮑信・鮑忠が戦死。
曹操を迎えるあたりは史実同様の動きですが、黄巾と戦う羽目になってしまったようです。
張角姉妹がいるので、大丈夫だと思ったのですが、救援が間に合わなかった・・・ということでしょう。(シナリオ上では
その後、鮑信の軍勢も全て曹操に吸収されたでしょう。史実同様に、鮑信の遺体を捜させたかもしれませんね。
また、徐州の動きも理解していて、そろそろ動くでしょう。

劉備はいまだ平原です。
陶謙の救援要請は届いていないので動きようも無いといったところですけど。
彼女らもそろそろ動き出すでしょう。

・・・次回は皆さんの期待通りに(多分)XXXですよ。
もう、皆えろいんだから! お兄ちゃんなんて知らない!(キモイデス
と言っても、短編を繋げた様な物になるかな・・・と思ってますけど。

それでは恒例のあれをお願いします。本気出せるから(何
今回は需要があるのか無いのか解らない人がメインのXXXかな。

それでは皆さんご一緒に。

( ゚∀゚)o彡゜OPPAI!OPPAIっ!



・・・いや、やっちゃ駄目かも。それ以前に誰か解ってしまいましたかね(汗



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第59話 徐州的日常。広陵(こうりょう)へ。(NAISEIにもなってない)。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/13 22:17
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第59話 徐州的日常。広陵(こうりょう)へ。(NAISEIにもなってない)。

広陵へ向かうため、下邳(かひ)から6千ほどの兵と数人の武将が出立して行った。
高順一党と、その配下である。
変わったのはそこに干禁と高順の父母がいないということか。
閻柔と田豫、臧覇も広陵へ向かうので、本当にその3人だけである。
高順は出立する前に、張遼に「干禁の事、頼みますよ」と頭を下げておいた。
張遼も鷹揚に頷き「任しとき!」と胸を叩いて請け負った。
干禁にも父母にもけっこうな額の生活資金を渡しておいたし、次に会えるのがいつか解らないが・・・恐らく大丈夫だろう、とは思っている。
不安があるとすれば、彼女達と共に働く侯成・宋憲・魏続である。
一度だけ彼らが下邳へやってきたのだが、その時の状況。
「我ら、呂軍三羽烏! 侯成!」
「宋憲!」
「魏続だフンガー!」
「・・・。」←呂布軍武将の反応。
侯成は女性。宋憲は瘦せっぽちな男。魏続は・・・なんつーか筋肉なのか贅肉か解らないが大柄な男。
彼らを見た瞬間、高順は彼らをこう呼ぶことに決めた。
「タイムボカ○3人組」あるいは「三馬鹿」と。
ちなみに、曹性はというと・・・。
「いやはや、皆様ご苦労様です! ・・・はぁっ! い、胃がっ・・・」
・・・中間管理職そのままの苦労性なおぢさんであった。
同じく苦労人の高順は「ああ、気が合いそうだ」と思ったとか何とか。
ともかくも、広陵へ向かう高順一党。
特に邪魔があるでもなく、賊の襲撃があるでもなく。
淡々と進んでいくだけである。
1週間もせず到着したが、全員「こんなにあっさりと到着できたのって初めてじゃないかなぁ・・・」と思うほどあっさりとした旅であった。
城門を潜った一団だが、街の人々の視線はどことなく冷たく、或いは何かを期待するような視線。
正直に言ってしまえば呂布軍と言うのは侵略者に近い。
陶謙の圧政に苦しみ、そのせいで笮融(さくゆう)の乱に巻き込まれ、それを討った呂布軍・・・。
自分達にこそ正義があるといえるわけでもないが、それでも無用な戦を終結させた、という点で言えば呂布軍は完全に侵略者とも言い切れない。
人屋も所々壊れていたり、焼かれていたりしていまだ復興途中である事がわかった。
街の人々もどう応対すればいいかわからないのだろう。
高順は「この人たちに認められるかどうか。そこが勝負どころなのかねぇ?」と思いつつ城へと向かっていった。

城の前まで進んできた高順隊を出迎えたのは文官・武官達、そしてその一番前で拱手する一人の女性であった。
遠目から見たが、割と美人だ。
どことなく周喩を連想させる風貌で、眼鏡が似合いそうな知的な女性である。
高順隊は全員下馬。高順は1人その女性の目の前まで歩いていく。
彼が目の前までやってくるのを待った女性がおもむろに口を開いた。
「高順様ですね。お迎えにも行かず・・・」
「いや、構わないさ。俺達のせいで街が滅茶苦茶になったからね。皆はそれぞれの仕事をこなしてくれれば問題は無い。」
「・・・ははっ。」
目の前の女性は深く頭を垂れた。
「それで、貴方は? 見たところここの責任者っぽい感じだが。」
高順は普通に聞いただけだが、女性は視線を厳しくする事はないが注意をするように話し始めた。
「・・・太守様、そのような言い方はよろしくありません。」
「え?」
「この広陵の責任者は貴方です、太守様。私はあくまで代理です。」
「・・・あー。うん。御免なさい。」
「謝る必要もありません。では、早速案内をさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
うーん。なんか厳しそうな人だ。厳しいと言うか、てきぱきとしていると言うか。
自分の職務に忠実なだけかも知れないけど、自分にも他人にも厳しいって感じだろうか?
「ん、ところで、貴方の名前は?」
高順の言葉に、女性は首を傾げて「ああ、名乗り忘れていたかな?」とばかりに頷いた。
「これは失礼を。私の姓は陳、名は羣。字を長文と申します。」
「陳羣(ちんぐん)・・・なるほど。」
道理で真面目だと思った、と高順は納得した。
「じゃあ陳羣さん、案内よろしく。」
「はい。」

陳羣は部隊の振り分けやら何やら・・・高順達を受け入れる態勢をほぼ完璧に整えていた。
高順らの居住部屋の割り振り、兵士達の宿舎、勤務日程などなど、多岐に渡る項目をほぼ全て。
街の視察やら、重要項目の決定などは高順がいなければできないからそれ以外、ということになるだろうか。
正直に言って、決定するかしないかの判断をする以外にやることがなくて・・・高順はいらない子であった。
ただし、高順は「今まで民に課していた租税の率を教えてほしい」とか「戦で家、家族を失った人への救済措置はどうか」と、民を第一に考えた事を陳羣に聞いていた。
それくらいは太守になれば当然なのだが、最初は高順を「ただの武辺者」と聞いていた陳羣は少しだけ評価を変えた。
高順は民の声を聞きたがり、直接の陳情があったときは馬(虹黒のこと。陳羣に限らず、高順を迎えた人々は皆その巨体に驚いていた)から降りて民と同じ目線で話をする。
随行している陳羣は「太守とあろうお方が」と文句を言ったのだが、高順は「民を大事にできなけりゃ人の上に立つ資格はないよ」と言い切って相手にしなかった。
高順は税の引き下げなども視野に入れているのだが(今までが妙に取り立てすぎていた)、それは段階的に、ということで結論を出した。
その代わりに、戦で家を失った人々には1年間税の取立てをしない、と言うことは決定された。
豪族の利益を図ってやったり、民の数・収入状況などを考えつつ徴兵をしたり、街の実力者と会議を開いたり・・・。
と、一武将であれば考えなくてもいい事まで考えさせられる羽目になった高順であったが、毎日が何かしら発見があって忙しくも楽しく思えていた。
(そりゃ、丁原様も人材が足りないー! って言うよなぁ・・・)と、妙な納得の仕方までしている。
陳羣という名政治家が殆どをこなしているのでそれほど大変には見えないが、丁原はこれを自分で実行していたのだから。
楽進や趙雲らもきっちりと兵の訓練を行い、賊の討伐を行い、と忙しい日々を送っている。
また、個人的訓練と言う格好だが臧覇が高順達に師事をしている。
全員が忙しいので常に教えてあげることは出来ないけれど、という条件で槍・弓・馬術を教えているが中々筋が良い。
長ずれば一隊を与えてみるのもアリかなぁ、と考えているし沙摩柯も「本人が望むのであれば」と口出しをしないことにしたようだ。
そして、塩商売。
これは広陵の民には好意的な反応を示した。
質の良い塩を安く入手できるように、かつ利益が出るように・・・というさじ加減が難しい。
輸送費などもかかるし、同じ塩を扱う業者から妨害が来る事も予想される。
味噌などもそうだが、高順はこういった商売の責任者に閻柔と田豫を起用した。
自分が忙しいせいで商売に集中できないからだし、彼女達もかなり荒事を体験してきているので・・・と任せてみたのだ。
干禁と同じように帳簿をつけたりしていた時期も長かったし、高順同様に私欲が薄い2人なので任命したのである。
彼女達は期待に応えて安くなりすぎず、高くなりすぎず。のラインをきっちり見極めて商売に励んでいる。
僅か数ヶ月でけっこうな財産を築く高順だったが、兵や武将、官吏の給金等必要な分を除いてほぼ全てを国庫に放り込んでいた。
商売の邪魔をされることも多々あったが、それを「財力」と影による「情報力」で圧倒して完全に黙らせてもいた。
黙らされた側はあまり質の良くない塩を高値で、という輩も多かったので遠慮はしていない。
中には良心的な商いをしている者もいて、そういう人々は保護したり傘下に置いたり。
戦後であったためにそれほど裕福ではない広陵が瞬く間に、とまで行かなくても少しずつ活気を取り戻していく。
そのあまりの復興速度に高順は「内政どころかNAISEIだよ。陳羣さん本当内政チートの1人。」と抜かしていた。
陳羣を始め、復興に多大な働きがあった内政官(に限らないが)に、高順は多額のボーナスを出している。
与えられた1人、というか筆頭である陳羣はその金額を見て「・・・え・・・は!?」と絶句していた。
こんなに多額の金子を頂く訳には・・・と陳羣は躊躇していたが「それだけの働きをしてくれたんです、受け取ってくださいつーか受け取らないと泣く。」と説得か何なのか解らない言葉で無理やり受け取らせたのであった。
事実、この復興は彼らの力あってのものなのだ。
歴史に名を残さないような、「縁の下の力持ち」そのままの人々が頑張っているからこそ、というのを高順は理解している。
駄目な奴も多いだろうが、それでも仕事をこなす人々が多く居て・・・というのを丁原に仕えた経験からよく解っていたのだ。
この一件以降、官吏から高順への評判、評価がまた違うものになっていた。
陳羣も最初は同じだったが「ただの武辺者」から「部下の働きを正当に評価できる太守」とか「金稼ぎが上手い」とか「欲がなさ過ぎて困る」だの。
良いのか悪いのか解らない評価も混じるが、概ね高順一党は広陵の官民に認められ始めたといっても良い。
さて、高順が太守として認められた頃。

高順は虹黒に跨って街中を視察していた。
周りには陳羣、蹋頓、楽進など。
陳羣は人をからかって遊ぶ悪癖のある趙雲とはそりが合わないようで、少しだけ距離をとった対応をしている。
逆に、楽進はほぼ大抵の物事に関して真面目であり陳羣から評価されている。
趙雲もその悪癖さえなければ・・・と、陳羣も頭を痛めている。趙雲はきっちりと仕事をこなすので、その点は評価されているらしい。
その陳羣は、この数ヶ月で高順と言う男を「変わった人だな」と感じていた。これは人間性のみを見ての評価だ。
個人でアレだけ大量の資金を持ち、武の人でありながらまず民衆ありき、を実践する。
前政権の陶謙はお世辞にも良い統治者とはいえなかった。
高順も政治力はあまり無いようだが、それを補える人材が側にいれば・・・元々優しい性格が上手く作用するのか、良い方向へと進みやすい。
人の良さを漬け込まれる心配は大いにあるが、そこらは陳羣が諫止すればいいだけだ。
優しい人だが、時折冷酷な判断を下すこともある。
高順の意に従おうとせず、利権ばかりを主張する豪族連中を一手に集め、一斉に抹殺するなど凄みを利かせることがあって、そこが「変わった人」という評価になるのである。
陳羣のほうが政治的な目があることは解っているので、高順は陳羣の意見を素直に聞く。
陶謙のような統治者の下では上手く発揮できなかった陳羣の能力だが、高順はそれを使いこなすとまでは言わなくても、きっちりと引き出している。
ともかく、高順は街の視察をしていた。
民も声をかけてくれたり、子供が群がってきたり。
そんな中、一人のボロを纏った少女が近づいてきた。
「・・・ぶるっ。」
「ん?」
周りに人が大勢いるので気付きにくい状態だったが、虹黒が鳴いたので、高順も「何だ?」と気付いたようだ。
見れば、裸足の少女・・・手と足も擦り傷だらけと言った風貌で、まるで足を引きずるかのような歩き方で近づいてきたのだ。
高順は慌てて虹黒から降り、少女へと駆け寄った。
「ちょ、まってください、隊長!?」
置いていかれた形の楽進達も追いかけていく。
「おい、大丈夫か!? どっかで喧嘩に巻き込まれでもしたか?」
高順は少女の前でしゃがんで、同じくらいの目線にあわせる。
ボロを纏った少女は幾分か困惑しているようだ。
「え? あの、ちがっ」
「じゃあ、暴行か? 警備兵は何をやって・・・」
「あ、あの、違うんです!」
少女は思わず叫んでしまった。
「え?」
「違うんです、あの、私・・・太守様にお願いがあって。」
「お願い・・・。よし、聞かせてくれ。その前に、君の名は?」
「あ、あ。申し送れました。私は・・・姓は闞、名を沢。字を徳潤(とくじゅん)と言いますっ」
少女の言葉を聞いた高順は思わず硬直した。
闞沢(かんたく)・・・って。

・・・マヂデ?








~~~楽屋裏~~~
番外編にでもしたほうが良かったかもしれない、あいつです。
さて、陳羣出してみました。チョイ役ですけどねー。
そして、何故ここで闞沢出るの!? と思われる方も多いでしょうね。

・・・私も思ってます(おいこら!?
「詳しい方」は解ってるかもしれませんねw
広陵にまで逃げた反乱軍首魁は誰でしたっけ・・・?

さて、もしかしたら内政官が1人増えるかもしれません。陳羣は・・・まあ、あの人の元へ行くのだろうと予測。
それでも高順一党からすれば・・・貴重な人材になるのでしょう。
あと、あいつはゲームとかのNAISEIしか知らないのでこんな程度の低い話になってしまいました。申し訳ありません(土下座
「民心掌握」「米・金銭収入」「兵士増加」とかそんな程度なんですよ。今回の話もそんな程度ですし;

で、実際にこんなに早く復興は出来ません。何事も直ぐ復興の兆しを見せる原作世界を元ネタにしているのでそれに倣って・・・


orz

さて、次回はちょっぴりだけ広陵の後始末・・・で、そろそろ奴らが介入してくる頃でしょう。
ではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第60話 劉備来る。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/22 17:52
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第60話 劉備来る。

「・・・頼みたいこと、ね。」
闞沢(かんたく)と名乗った少女の言葉を、高順は反芻した。
賊の討伐か、それとも街中で暴れている連中を退治してほしい、か。そんな所だろう。
「解った、詳しい話を聞こうか。」
高順は頷いてから立ち上がる。
闞沢も、こんなにあっさりと話を聞いてもらえると思っていなかったようで、驚きつつも喜んだ。
「あ、ありがとうございますっ」
「ん、その前にね。」
「ひゃっ!?」
高順は闞沢を抱き上げて、側にいる虹黒の背に跨った。
「ひゃ、わっ・・・たた、太守様!?」
「先ずはその怪我をどうにかしないとねぇ。・・・皆、ここで一度視察を打ち切るよ。城へと帰還します。」
高順の決定に、陳羣は異を唱えた。
「太守様、わざわざ城へ行く必要などないと存じます。」
「陳羣さん?」
「その娘の傷を治すのであれば塗り薬と包帯があれば良いだけのこと。・・・何より、その娘が何者かすら解らぬと言うのに。」
「むぅ。」
陳羣の言い分は解らないでもない。
彼女は、高順の前で同じように虹黒に跨っている闞沢を怪しんでいるのだ。
確かに怪しいだろう。ボロを纏った少女がいきなり太守である高順に助けを求めてくるのだから。どこか他州の間者か? と思っているかもしれない。
もっとも、街を巡回している兵士や、政庁に嘆願をしに行ったところで「怪しいから」と取り次いでもらえないだろう。
ならば直接直訴を・・・くらいは誰もが考える話だが、それを実行に移すのだからこの少女、随分と度胸がある。
尚も怪しむ陳羣だが、楽進が「大丈夫でしょう」と諌めた。
「楽進殿。・・・しかし。」
「大丈夫です、隊長はああ見えて、何故か人を見る目がおありですから。あの少女に悪意のようなものを感じないからこそ、ああやって虹黒の背に載せているのですよ。」
「はぁ・・・。」
「虹黒も、直感のようなものがあるようで・・・。ああやって素直に乗せているのも悪人ではないから、と。」
「・・・。よく解りません。あの人は他人を信じすぎです。」
陳羣は頭を振った。
こうなってはどうしようもないが、後で諌言しなければ。
「ふふ、陳羣殿が疑うのも無理はないと思いますが・・・隊長のすぐ近くには「影」も控えております。」
かげ? と陳羣は初めて聞く言葉に戸惑った。
「・・・知りませんでしたか? 隊長の側には情報収集、要人警護のために数人が常に控えているんです。」
「なっ・・・初耳です!?」
「え・・・? 知らなかったんですか!?」
そんな事は一言も・・・と、陳羣は絶句した。それと同時に高順が色々な情報を持っていたことにも納得が付いた。
情報を重視してその「影」とやらを配置していったのだろう。だから商人連中の先を越して黙らせたり、豪族集団を粛清したり・・・。
此方が掴んでいないようなことまで知っているのは何故だろう、と思っていたが・・・いやはや、ますますもっておかしな人だ。
その「おかしな人」は虹黒の背に闞沢と名乗った少女を乗せている。
闞沢とやらも虹黒の背で、普段とは全く違う高い目線を体験しており「うわぁああ・・・」と感嘆している。
(・・・あの喜びようは・・・間者でも暗殺者でもない、か。)
心配しすぎてもしすぎる、ということはないが、少なくともあの少女に関しては心配が要らないようだな、と陳羣も思い直したようだった。
それはそれとして、やはり「安易に他人を信用しすぎなように」と釘は刺させていただこう。と考える陳羣。
楽進も、自分と同じく根が真面目な陳羣の考えがわかっている様で、隊長も苦労しますね・・・と苦笑するばかりだった。

城にて。
手と足の治療をしてもらった闞沢は、客間に通されていた。楽進と陳羣も部屋に居る。
部屋のあちこちを所在無さげにきょろきょろと見回している。
贅沢を好まない高順であったが、流石に客間くらいは・・・と、そこには金をかけている。
闞沢も緊張しているが、ここで高順が菓子と茶をお盆に載せて入ってきた。
「いやあ、お待たせ。で、話ってうわああああっ!?」
最初から部屋に居て闞沢を見張っていた陳羣が、凄まじい速さで高順を部屋の外へと連れ出した!
闞沢は呆然としている中、部屋の戸が閉められ、外から凄まじい怒鳴り声が聞こえてくる。
「・・・太守様っ!貴方は一体何をなさっておいででしょうか!?」
「え、いや・・・緊張を和らげてもらうためにお菓子とお茶・・・。」
「そ・ん・な・こ・と・は! 給仕にやらせておけば良いのです! 太守様とあろうお方がお盆にお茶と菓子を載せて運んでくるとか友好的にも程があります! 以後慎みください!!!」
「でも、子供だからお菓子よろこn「べちっ!」痛ぁっ!?」
「慎んでくださいね! 宜しいですかっっ!?」
「・・・はい。」
太守になっても妙に立場が悪い高順であった。
また少しして客間の扉が開き、高順と陳羣が入室してきた。
何故か高順の頭から「どしゅ~~・・・」と湯気っぽいのが出ているが気のせいだろう。
・・・たまに頭をさすっているけど。
「あいたた・・・いや、待たせて悪かったね。それじゃ・・・話を聞かせてもらおうかな。」
「え、は、はいっ」
闞沢はこくこくと頷いて話し始めた。
「その、発端は・・・この地に笮融(さくゆう)が来た事だったんです。」
「笮融・・・ね。ふむ。」
闞沢の話によると、数ヶ月前に笮融の起こした反乱のせいで、彭城(ほうじょう)・広陵(こうりょう)の民も巻き込まれたと言うが、それは高順もよく知っていることだった。
問題は、「笮融が熱心な仏教徒」である事だった。当然、彼に従った兵や人々の中にも仏教徒がいるのだ。
もっとも、笮融が人々から慕われていた・・・ということはない。彼は人々から大量の金品を巻き上げていたのだから。
熱心な仏教徒だったそうだが、そこに自分の欲を大きく上乗せしたのが笮融の破滅に繋がったのであろう。
そして、呂布軍と戦い笮融は死亡。残された人々も死ぬか逃げるかしたのだと言うが・・・闞沢もその一人であった。
彼女の願いは、そういった人々を・・・家族もだが、集めて仏教の布教活動を・・・とまではいかなくても、教えを守りたい、ということだった。
これに対しては、流石に高順も即答できない話である。
淫祠邪教(いんしじゃきょう)の類を認めない高順だが、仏教はそういったものではない、という考えが頭にある。
この時代で仏教がそれほど認められなかったのは「権力者にとって得が無い」からなのだが・・・。
それほど宗教に馴染みの無い人、とりわけ迷信を信じる人々が多いこの時代にとっては仏教もどのように映るかが解ったものではない。
うーん。と悩みつつ茶を口に運ぶ高順。
(参ったなぁ、まさか宗教がらみだとは・・・潰していいようなもんじゃないしなぁ、仏教って・・・どうしたものか。)
悩む高順に、闞沢も不安になってしまったのだろう。
評判の良い領主で、民を大切にしている・・・という事を聞きつけて藁にもすがる思いでやって来たのだ。
話を聞いてもらえただけでも奇跡だと思うが、離散していった人々の中には自分の家族だって居る。
闞沢も必死であった。その必死さがとんでもないことを言わせてしまった。
「お願いします、お礼に、その・・・体で払いますから!」
「ぶふーーーーっ!?(茶噴き」

・・・必死すぎであった。
こんなに幼い娘に何を想像しましたか! と即座に楽進と陳羣に叱られる高順であったが、彼女達も「はあ!?」とか言っていたのは内緒だ。
体で払う、というのは「真っ当に働いて返す」と言う意味で性的な意味ではない。
闞沢といえば、後の呉の政治家の1人で、地味ではあるが赤壁の立役者であったり太子の教育係を任されたりと人格面でも評価される人物である。
まだ幼い(と言っても10代中盤程度)が、色々と勉学を教えてあげれば良いのかな? と高順は打算を含めた思考をしている。
何より、そういった離散した人々が集まって賊徒になられても困る。仕方ないかな、と高順は闞沢に色々と条件をつけた。
人々を集めてもいいし布教活動も認める。
ただし、狂信は駄目だ。一所に集まる場合は自衛能力程度なら許すが、外部に向ける武力は持たないこと。
集めた人々はあくまで難民なので、土地の開墾に従事してもらい、特別扱いをせず税も取り立てる。
そして、これが一番大事な条件だけど、と高順は前置きをしてから「政治に介入する事は絶対に許さない」と言った。
宗教勢力が政治に介入すると100%ろくな事にならない。どの時代でもそれは変わらない事実だった。
集まってきた人々に条件を飲ませることが出来れば、出来る限り手伝うよ? と高順は闞沢に言った。
陳羣も楽進も、そしていつの間にか部屋に入ってきた趙雲も、話には反対だった。
陳羣は騒乱の火種になると考えての事だし、楽進らも黄巾党のことを思い返している。
ただ、弾圧をするつもりはないし、政治に介入せず、武力を持たない・・・という条件を呑むのならば、という高順の案には賛成をしている。
闞沢も「絶対に皆を説得します!」と言い、高順も快く協力を約束した。
周りから見れば、もう少し人を疑ったほうがいいと思うのだが・・・あの闞沢という少女が高順を騙す事の利益がないし、仏教とやらの信徒を集めるにしても、労働力として試算するのならばそれはそれで悪くはない。
楽進達にしても「また隊長の困った癖が出てきたな」と苦笑してしまう。
どうして会ったばかりの人をああも信用してしまうのだろうか。そういう彼の性格のおかげで自分達は救われたのだし、人が集まっても来るのだろうけど。
特に趙雲は「あの甘さ、やはりなんとかしなければ・・・賈詡あたりのいいように利用されて終わるぞ・・・」と危ぶんでいる。
だが、高順は人材補強に余念が無いだけである。
実は下邳(かひ)に対しても多くの物資を送るように催促され、仕方無しに送るという一幕もあった。
どうも、広陵で稼ぐ資金の多さに目が行ったのか。賈詡は当初の取り決め以上の資金やら軍需物資を送るように、と言い渡してきたのである。
最初の取り決めと違うだろう!? と高順も文句を言ったが賈詡の返事は「それだけ物資があれば多少少なくても問題は無いでしょ? こっちだってきついんだから手を貸しなさい!」である。
高順からして見れば「こっちだってきついんだよ馬鹿野郎!」と叫びたいところだった。
それだけの物資を集めるために高順や陳羣がどれだけ駆けずり回ったか・・・。
流石の高順も腹に据えかねているらしく、人に当たりはしないものの不機嫌な時が多い。
いつかやって来るであろう対曹操戦を考えて、両都市に対しての補給地にするつもりなのだから・・・と思ってはいても、経営が軌道に乗りつつあるその矢先での要求だった。
賈詡に不信感を露にしている趙雲にとって、高順の不機嫌はある意味でよい兆候と言えなくも無い。
煽る訳ではないが、これまで何度も嫌な思いをさせられてきたのだ。
どうして文句の1つも言わないのだろうか? と不思議に思ったが、内心では怒っていたという事か。
高順と言う男を使いたければ、心底から信用して人質を取らず、普段は好きなようにやらせる、というのが一番分かりやすい手だ。
呂布であれば人質など取りはしなかっただろうし、高順も信頼に応えて働いていたであろう。
(やはり賈詡は高順殿の使い方をわかっていない。呂布ですらもっと上手く使えるだろうよ。軍師としては一流でも人としては、な。)
趙雲はそんなことを思っていたのだった。

こうやって、難民を誘致して労働・生産力の増強、闞沢を陳羣の元で修行させたり、と高順は多くの事をこなしていた。
賈詡に掠め取られてしまったが、それでも挫けずに物資を集め、食料を集め、人を集めた。
これが賈詡からの更なる疑惑を呼び込むことになるのだが、高順にとってはそんなものを考えている時間はない。
いずれは曹操がこの徐州に関ってくるだろう。そのときのために少しでも多く人材、戦力を増強させたいのだ。
掠め取られたといっても、下邳に集められた物資は最終的には無駄にはならない筈だ。それを思えばまだ「不機嫌」で済ませることも出来る。
高順は無理やり自分を納得させて、仕事に励んだ。
商売のほうもようやくに軌道に乗りはじめた為か、街行く人々の数も少しずつ増えているようだった。
塩商人をあちこち派遣して、良い塩を持ってくれば高く買い取ってもいる(お互いに利益が出るように)。
どうやっても、高い金を出して物品を買ってくれる商家に良い人と良い物は集まる。
この頃は塩やら味噌のような生活必需品だけではなく、それ以外の・・・例えば南との交易で手に入れた宝石類、果物・・・。
良品を高く買い取る、という噂を聞いた人々が持ち込んできた物品を、別の欲しがる人に売却など。
時折、鉄製品を売りに来る西方の業者などもいるのでそれも高く買い取り、兵の装備品に流用したり。
こうやって、人と物が日に日に広陵に集まっていく土台を作り始めている、
そんな時である。「視察」と「ついで」とか言う名目で、張遼がひょっこりとやってきた。
何でも、呂布に呼ばれて下邳に行く途中なのだそうな。
それにしては兵士を数千と連れているし、戦争でもするのか? と言いたくなるような物々しさである。
張遼も「ったく、いきなり呼びつけよってからに。理由も言わずに「下邳まで来い」やで?」と高順に文句たらたらである。
この動きを高順も怪しく思って、密かに影を下邳へと派遣する事にした。
それは良いとして、張遼の用件は・・・「こっちにも物資回してーなー」とか「礼は体でry」とかである。(実際にこの日の夜に夜這いをされたとか何とか
彼女の統治する小沛(しょうはい)は笮融の暴政と実際の戦場になったせいで、少なくとも下邳よりは苦しい情勢だ。
また、高順のように元からの資金を持ち合わせている訳でもなく、どうしても支援は必要だった。
今までは切り詰めつつ運営していたのだが、ジリ貧になるのが解っていたので頼ってきたのだろう。
賈詡にも「支援してー!」と要請しているらしいが「こっちにも余裕はないんだから高順に頼みなさい」とだけ言ったらしい。
それを聞いた高順は「またか・・・」と肩をガックリと落とした。
こういった高順への扱いには張遼も腹を立てているらしく「順やん頼りにするならもっと大事にせぇっちゅーの。それで外様扱いして冷遇したら順やんの立場がないやんか?」と、それを高順本人にぶちまけている。
この正直さが少し羨ましいな、と高順は思わず笑ってしまったが彼女は本気だったらしい。
このままでは高順の我慢も切れて、独立してしまうのでは・・・? と危ぶんでいるらしい。
賈詡・陳宮としては、高順を頼らなくてはならない状況が多いのはともかく、高順に実力を蓄えられては困る、という考えが頭にある。
彼が呂布・董卓に忠誠を誓う条件があるわけでもなく、いつ敵勢力の誘いに乗るか、或いは独立をしようとするか・・・それが解らなくて恐れている。
高順は現状で欠片もそんな事を考えていないし、仲間への義理で動いているだけだが・・・はっきり言って、賈詡にはその判別が出来なかった。
彼の律儀を頼みにしたいのだが、一方でその律儀を信じられない気持ちがある。
それが冷遇という形になってどうしようもない悪循環になってしまっているのだが、人の気持ちの機微に疎い・・・悪く言ってしまえば不器用な彼女にはそれが解らなかった。
また、上からの命令は絶対服従と言うのが当たり前と思っている彼女には、高順一党の怒りも理解できていなかった。
呂布軍が、内部に軋轢を作りつつも内政・軍備増強を行っている状況の中、平原から徐州へ向かう一団があった。
その一団を率いるのは劉備。



これにはカラクリがあって、曹操の策である。
この少し前に曹操は漢王朝に対して手を差し伸べ、また自領(当初、早々の支配都市は陳留であったが今は許昌を都としている)に皇帝を迎え推戴。
自分こそが漢王朝の守護者である、と内外に示そうとしたのだ。
皇帝勢力も、曹操を「社稷の臣」と評して正式に冀州牧に任命、かつ司空の位を与えた。
その中で曹操は、徐州で精力的に動く呂布軍への押さえとして、平原の劉備を呼び寄せ「徐州牧」の位を与え、また皇帝である劉協に拝謁させている。
その際に、同じ劉性である・・・つまり、劉備が自身の遠縁であることを喜んだ劉協に、曹操は「劉備に彼女に左将軍の位を与えたいのですがどうでしょうか?」と打診。
劉協はそれを快諾した。(左将軍は首都防衛隊の役割。朝議にも出席が許されると、重臣ともいえる立場である)
ようやく日のあたる所に出てきた劉備だが、彼女にも曹操の腹の内が読めている。
呂布と争わせて、良い所を持っていこうとしている・・・くらいは彼女でもわかる。諸葛亮・鳳統。関羽も同じ読みだ。
(へへーんだ、そうはいかないもんね)と思ったかどうかはともかく、劉備は素直に徐州へ向かった。
その兵数、およそ3万。
最初に連れて来た兵士はもっと少なかったのだが、曹操が兵の募集を許したのでそこで雇い入れたのである。
なんとか威容を整えて徐州へ向かうべきだ、と劉備は考えていたし、部下もそれには賛成していた。
結果、食料の減りが早くなってしまったが下邳に多量の物資を集積されているようで、それを狙っている。
情報源は曹操で、信用しきれないところが難であるが、それでも劉備は迷わずに徐州へ向かった。
彼女が曹操の呼び出しに応じたのにもきっちりと理由があった。
平原のすぐ近くに勢力を持つ袁紹の影響力が大きくなりすぎて、いつ攻められるか解らないような窮屈な思いをしていた所だったのだ。
危地を脱する、というわけでもないがそこに活路を見出したい・・・ということだ。
呂布と戦って勝てるかどうかが解らないが、劉備には正当性のある徐州牧という立場がある。
力で徐州に君臨した呂布よりもよほど説得力がある筈で、従う民も将兵も多いはずだ。
こちらの徐州入りを拒否したならば、間違いなくそれを口実に皇帝を推戴している曹操が動く。
とは言え、劉備は呂布を一方的に追い出すのではなく、ある程度の領地を与えて徐々に取り込もうと画策していた。
曹操が動けば戦になり民にも被害は及ぶ。呂布がそれを理解して手を組んでくれれば、とそこに期待を抱かずにいられなかった。
劉備と呂布軍と友好関係を結べば攻める口実の無い曹操からしても、手を出しにくくなる。
利用する事は難しくても、例えば同盟を結び呂布に国境を守ってもらって・・・等と、戦略が出来てくるのだ。
皆と仲良く出来ればいいよね? と劉備は考え、それを実行するつもりで居るようだった。
その安穏さに苦笑しつつ溜息をつく関羽達であったが・・・呂布と結ぶというのは悪い考えではない。
関羽にしても、呂布・・・いや、高順の下にいる趙雲とゆっくり話をしたかった。
張飛も「おー! 高順にーちゃんに会えるかもしれないのだなー!」と喜んでいた(何故か張飛は彼に懐いていた)し、良い機会なのかもしれない。


騒乱の火種となる条件をいくつも抱えた徐州へ向かう劉備達。
その結果がどうなるかは・・・まだ、本人達ですら解らない。




~~~楽屋裏~~~
徐州で終わらせない。そう思っていた時期があいつにもありました。あいつです。
やっとこさ劉備たちが出てきましたね。まぁ・・・目論見どおり上手くいくと思ったら大間違いだね!(は

原作では皇帝を保護しても後は放置していた曹操ですが、あいつ的に見れば「それってどうよ?」と思い使わせる事にしました。
いくら曹操が超世の傑・破格の人・・・覇者とはいえ、勢力を助長できる物であれば何でも使ったはずだと思います。
それを使わないのは曹操らしくないよなー、と。まあ、あいつの勝手なイメージですけれども。

以後、どたばたする徐州。勝ち上がるのは誰なのでしょう。
そしてその煽りを食らってさらに迷走するであろう高順。彼の明日はどっちだ。(死ぬ



さて、割と本気で打ち切ろうと考えています。
これは、今回の感想を見た後に書き加えたのですが・・・最低物だの気持ち悪いだの、そんな罵詈雑言を書かれてまで続ける気力も無ければ義理も無いのですよ。
まあ、そういう事を言う人は素晴らしい作品を書ける人なのでしょうけど・・・。
応援してくださっている方々には本当に申し訳なく思うのですが、あそこまで言われてモチベーションを維持するのは正直辛いものがあります。
皆さまの声援で何とか持ち直しかけましたが、あの感想で完全に心が真っ二つに折れました。
幸い(?)徐州ですし、当初の予定通りの話になるかもしれない・・・というのが現実味を帯びてまいりました。
まあ、作者の気の迷いで続行するかもしれませんが・・・可能性は低いとお考えください。

さて、謀反にちかい行動を取り始めた高順。
駄目軍師がソレを見逃すでしょうか・・・

では、また次回にて。




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第61話 劉備来る。その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/22 21:25
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第61話 劉備来る。その2。

さて、徐州は下邳(かひ)。
この地は現在呂布が支配している。
小沛(しょうはい)には張遼、広陵(こうりょう)には高順。
他、小さな拠点にも兵士を回しているが・・・概ね徐州三都市を支配する呂布を、人々は徐州を征した存在と認めている。
当初はどうなるかと思われていたが、呂布は無難どころではないレベルで徐州を治めている。
それには陳宮・賈詡・張遼、そして旧政権下から呂布へと鞍替えした官吏・武将の力あってこそである。
呂布自身に統治能力がなくとも、食欲か、可愛い小動物などにしか関心を示さない・・・有体に言って、支配欲、人の上に立つという野望がない。
我欲が薄いということは統治者にとって必要な資質の一つで、政治家としては赤点の彼女も統治者として見るならば、周りに有能な人々が居ればきっちりと「それらしく」なるのである。
そんな呂布治世下の下邳に、平原からやってきた一団が入城していた。
劉備と、その配下である将兵3万が・・・。


下邳城の玉座の間にて、呂布・・・というよりも、賈詡が劉備と交渉を行っていた。
両勢力の代表者が机を挟んで座り、その隣に軍師たる賈詡と陳宮、劉備側には諸葛亮と鳳統がいる。
呂布側には張遼・華雄・張兄弟が。劉備側には関羽・張飛。
お互いに睨みを利かせていて一触即発状態であったりする。
賈詡は急に現れた劉備を「何をしに来たのだ?」と真意を見透かそうとしていた。
劉備が徐州に向かっている事自体は細作の働きで知っていたが、その目的までは判別していない。
いつでも出撃・戦闘になっても構わないように、と小沛の部隊も下邳に呼び寄せ態勢を整えてもいた。
高順を呼ばないのは、彼が反劉備派であるからだ。
交渉をおかしな方向へ持っていかれては困るし、外様である彼の発言力が増しかねない事態になるというのも面白くない。
外様は外様。分を弁えてもらわなくては、と彼女は高順に厳しい態度を取っていた。
呂布や華雄など、高順に悪意を持たない人々は「もう少し高順を認めるべきだ」と何度も賈詡に言っている。
どころか、張兄弟や張遼も同じ意見だ。
賈詡は高順の能力まで否定する訳ではない。だが、危険だと思っている。
今はまだ大丈夫でも、どんな事で暴発するか解らないのだ。
彼の元には一騎当千といえる猛者が多くいて、兵の数もそこそこ。何より、広陵一都市で独立できるほどの蓄えがある。
だからこそ、物資を取り上げ、力を削ごうとした。高順が反発するのも覚悟の上でだ。
更に、彼女は高順一党という勢力を分散させるつもりだ。
彼らが一所に集まると脅威だが、散らばらせてしまえば恐れるに足りない。
今は高順を「武将」として扱うが最終的には「部将」に格下げもする。
例え、高順がどれだけの功績を立てようとも。賈詡は厳しい態度を取り続けるつもりであった。
自分の命令に従って当然、という自身への能力評価が判断を誤らせているがそれに気付く事もできない。
それが2人の溝を深め、後戻りが出来ないものになることすら予見が出来なかった。
さて、交渉だが・・・。
劉備側は正当性を盾にして、徐州全てを自分達に「返却」するように求めた。
当然、呂布側は反発。交渉は平行線でしかないが、流れとしては不利なものがある。
特に呂布の上に立つという形を陳宮が認めようとしない。
が、元からこの交渉は呂布側に不利なものだった。呂布達は武をもって徐州を得たに過ぎない。
誰が何を言おうと、正式な形で徐州牧となった劉備のほうにこそ理があった。
何とかして譲歩を引き出そうとする賈詡に、劉備はわざとらしくこう言った。
「んー・・・それじゃあ、まずここ(下邳)を私達の領地にさせていただきます!」と。
「・・・何故、下邳だけで良いの?」
賈詡の質問に、劉備の傍らに居る諸葛亮が答える。
「ココが一番豊かだからです。ほかの都市は一時的に呂布さんに「貸す」という形にさせて貰うつもりです。条件を呑めないのであれば・・・どうなるか、わかっておいでですよね?」
と、無い胸を反らして言い切った。
「むっ・・・。」
広陵も欲しかったが、どちらかと言えば放っておいて、後で美味しいところだけ頂こうという考えだ。
今、人を遣って治世状態を無理やり変えるのは好ましくは無い。
拠点が増えればそれだけ戦力を分散させる事にもなるので、現状では下邳のみで充分である。
この時点で、賈詡は劉備たちの魂胆に気付いていた。
小沛は曹操の領地に程近い。曹操と劉備が繋がっているかどうかまではイマイチ解らないが、もしも戦争となれば自分達を曹操に対しての盾にするつもりなのだろう。
加えて、土地を貸すという名目で此方に貸しを作ったと思わせ、更に言えば賃貸料とかそういう名目で物資を吸い上げようとも思っているはずだ。
自分が高順に対して行ったように、力を付けさせず、弱体化させず。という扱いをしようと。
もしかしたら、曹操にとって有利な動きをしているだけかもしれないが・・・どちらにせよ、両者と対立することはできない。
「それと、下邳に集積している物資も全て私達のものになります。宜しいですね?」
「・・・ん。」
諸葛亮は、賈詡に言えば絶対に反対をされるであろう事を呂布に対して言った。
最高意思決定を行うのは呂布であり、賈詡は助言を行うだけという立場を逆手に取られた形となった。
呂布も劉備と矛を交えるつもりが無かったので、あっさりこの案を呑んだ。
「なんですとー!?」
「ちょ、待ちなさいよ!?」
「賈詡、ちんきゅ。これは決定事項。」
「そ、そんなぁ・・・」
「・・・あぁ、もう! 好きにしなさいよ!」
穏やかに言う呂布に言い捨てて、賈詡は部屋を出て行った。
そんな賈詡を無視して、劉備はニコニコ顔で呂布に礼を言った。
「ありがとうございます、呂布さん。それと」
更に注文をつけようとする劉備だったが、呂布が遮るように言う。
「これで話は終わり。これ以上の要求は呑めない。」
「はわっ!?」
「私達は去る。」
「え、ちょ、ちょっと待って下さい!?」
「ま、待ってー! 話は最後まで聞いてよー!?」
席を立った呂布を、劉備達は引きとめようとするが完全に無視して呂布は去っていった。
呂布の家臣も従い(陳宮は不満たらたらであった)、部屋に残されたのは劉備側の人間のみ。
呆然として見送るしかなかったが、「まあ、まずはこれで良しとしよう」と思うのだった。
劉備たちは平原から来たのだが、内実はかなり厳しいものだった。
まず、資金も食料も持ってきた量ではこの先をどうやっても乗り切れないほど困窮していた。
どちらにせよ、下邳に貯めてある物資に頼らなければどうしようもない状況だったのだ。
これを呑んでもらっただけでも有難い話である。
もう1つの要求は、賈詡の睨んだとおり「土地の賃貸料」を取る腹積もりであった。
それは失敗してしまったが、これから先何とでもなるだろう。
恩を売った流れにしておけば、引き込む事も出来るだろうし、呂布軍を配下にすれば曹操の軍勢にも引けを取らない。
ここで一気に群雄として上を目指す劉備たちであったが・・・この一連の流れに激怒する男がいた。
高順である。

広陵の政務室。
楊醜から聞いた、この一件に関する報告は高順を心底怒らせるに足るものであった。
(か、賈詡先生の馬鹿め・・・! 一体何を考えているんだ!?)
彼が怒るのにも無理はなかった。
どうして自分をその場に呼ばなかった、というのもあるが、そういった大事な事を部下の意見を聞かずに勝手に決定してしまう事にもだ。
助言をするだけの立場に徹し、戦場で策を繰り出し勝利に貢献する・・・それが軍師ではないか。
董卓や呂布も高順の扱いに気を遣うように言っているのだが、本人は頑として聞こうとしない。
確かに彼女の目は確かだろうが・・・劉備と曹操に関して言えば甘く見すぎだ。
劉備のほうから擦り寄ってきたとは言え、この状況ではこちらがジリ貧になるだけだ。
地理上、曹操から攻められれば劉備の盾になる、という形になる。更に言えば、挟み撃ちにされればどうする?
自分に嫌がらせをするだけだったならまだしも、これでは自分達が滅亡する状況を作り出しただけにしか見えない。
お互いを利用しようとしているのだろうが、そう上手く行くものか。
賈詡は劉備を侮っているようにしか思えない。劉備風情では私達に、呂布軍には勝てない。そう思い込んでいるのではないか、と危惧してしまう。
(劉備のカリスマを知らないからか・・・。放っておけば徐州のほぼ全域が劉備になびくだろうに・・・クソッ。)
おそらくは、陳登やら糜竺やらはあっさり劉備に鞍替えしただろう。
正当性のある立場かそうでないか、を選ぶのなら誰でもそうするに決まっている。
もっとも、きっちりとした理由があって徐州にやってきた劉備を受け入れない、というのが賢明な判断ともいえない。
自分であっても渋々受け入れたであろうが・・・下邳をそのままくれてやる事もなかった、と思わずにいられない。
そこを考えれば、あっさりと話を打ち切って先方の要求を遮断した呂布は賢明といえる。
そこで不戦同盟なども結ぶ事ができれば更に良いのだが・・・いざとなれば、そんなものが役に立たない事は解っている。
逆に下邳だけで済んだと言う事を考えればまだましか? と、少しだけ気持ちを落ち着かせた高順は他の事に考えを移した。
まず、下邳に送った物資は完全に無駄・・・溝に捨てたも同然となった。
(劉備さんは大喜びしているだろうな・・・。ああ、あの苦労は一体何だったのか・・・受け入れるにしても、もっとやりようがあっただろうに。正当性云々を言っていられるほど余裕があるわけじゃないんだぞ・・・)
関連事項として、実はもう1度下邳に物資を送る予定もあった。
これは影が帰ってきてからにしようと思っていたのだが、その影の報告のおかげで物資を損耗せずに済んだ・・・ということだけは幸運といえたかもしれない。
もしも輸送を行っていたら何かと理由をつけて劉備陣営に押収されていたに違いない。
高順は天井へ顔を向ける。
「楊醜、眭固。いるな?」
聞いた瞬間に、天井裏から2つの気配が感じられるようになった。
「ああ、いるぜ・・・」
「楊醜、あんたは下邳に向かって劉備軍の動向を調べてくれ。それと、徐州豪族がどれだけ劉備側になびいたのかもな。」
「わかった、任せろ・・・。」
「眭固、お前は小沛へ行け。今回の件の賈詡の考えを聞いてこい。それと、干禁・張遼さん・華雄姐さん・・・ついでに俺の両親の身の安全の確保を。影を何人か連れて行って良い。どうしようもなければ曹操・劉備陣営に降伏させても構わん!」
「は、はいっ!」
「よし、直ぐに向かってくれ。」
「応!」
2人の影の気配が消える。
高順は曹操と劉備を好いていない、どちらかと言えば嫌っているほうだ。
それでも、その陣営に渡りを付けろという命令を出したのは・・・彼なりに覚悟をしないといけない、と理解したからなのかもしれない。
「・・・ふぅ、気が進まないが・・・。」
事の成り行きを皆に伝えておく必要がありそうだ、と溜息をついてから彼は執務室を出た。


高順は玉座の間に部下を集め、今回の件を伝えた。
全員憤っていたが、趙雲は特に頭にきていたようで・・・。
「して?」
「・・・? して、って?」
「高順殿はどうなさるおつもりなのです。」
これは岐路である。趙雲は言外にこう問いかけてもいるのだ。
ここまで舐められた真似をして、それでも唯々諾々と従うのか、と。
高順が「対応はこれまで通り」と言ったら趙雲は離反していたかもしれない。
だが、高順もここまでされて怒らない大馬鹿ではなかった。
「黙っていると思いますか? 既に詰問は出していますし、影を派遣してもいます。それと、劉備の出方にも寄りますけどね。」
高順も怒りを撒き散らせつつ言う。
そして、次の言葉だけは、皆の声が重なる。
「それでは・・・?」
「賈詡先生の返事次第だな。」
この言葉に、全員が高順の考えを読み取った。
彼の事だ、呂布に乱を起こすつもりも、敵対をするつもりも無いだろう。
しかし、賈詡に従い続ける理由は無い。賈詡の、こちらに対しての対応を改めない限りは・・・。
高順はそれを見極めようとしているのだ。
高順の考えに不安そうな表情を見せている者がいれば、「やっと決断したか」と満足そうに頷く趙雲のような者もいる。
それらには構わず、高順は心中に吹き上げる怒りを押し殺しつつ呟いた。
「賈詡先生・・・あんたの戦うべき相手は誰だ。俺か、劉備か、曹操か・・・?」

そして、また数週間。
眭固が直接に賈詡の書簡を持って高順の前に現れた。
高順は部屋で1人、その書簡を読む。
そこには・・・ある意味で予想通りと言うべきだろうか。賈詡の冷たい返事が書かれているのみだった。
「余計なことなど考えず自身の職務を全うしなさい。人質がどうなっても知らないわよ?」と。
高順は「どうしようもない」と考えざるを得なかった。そして、このままでは自分達が滅亡する事も予見した。
それとも、劉備よりも自分のほうがやり難い相手だと思っているのだろうか?
権力争いなど、勢力の土台をきっちり作ってからやればいいものを。こちらも相応の覚悟をもって当たらないといけない。
軍師が自分の欲のみで動いていては纏まるものも纏まらない。
もしも自分と言う存在が呂布軍になければ、きっちりと纏まったのかもしれないけどね・・・と、嘆息してしまう。
同じように、賈詡はこの時点で高順に対しある1つの手を打っている。
自分のせいと思っていないのが彼女らしいが、高順が謀反の意志を固めている、と読んだ賈詡は自分の部下である1人の暗殺者を高順の元へ向かわせていた。
その男の名は胡車児(こしゃじ)と言う。




~~~楽屋裏~~~
もう疲れたよパトラッシュ。あいつです。



今回は特にいうべき事がないと思いますが・・・さすがの高順くんも切れそうです。
そら我侭を聞いて物資送り続けてそれが劉備のものになって・・・ですしね。
このシナリオの賈詡は駄目軍師。でも性格は原作と変わらないと思う。

さて、前回打ち切るといっておきながら内心ではまだ迷っています。
まだまだ書きたいことが幾らでもあるんです。

袁・曹の決戦、公孫賛の行く末、小覇王飛躍・・・

高順君もですが、私自身どうするべきなのでしょうね(遠
では。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第62話 劉備来る。その3。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/25 20:17
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第62話 劉備来る。その3。


「・・・本当か?」
政務室で仕事をこなしていた高順は、報告のためにやって来た陳羣の言葉に、思わずそう言っていた。
陳羣は、ごく普通に「事実です」と言うのみであった。
陳羣。彼女は広陵の政治を一手に引き受けているといってもいい存在だ。
物資輸送やら資金管理やら、多くのことを任されている上に、高順の秘書・・・まあ、取次ぎなども含めて多くの仕事を精力的にこなしている。
この頃は闞沢に勉学・政治学などを教えているし、闞沢が連れて来た仏教信者への土地の割り振り、家屋の建設なども進めていて大変に忙しい。
そうなると、彼女の下で働く官吏も忙しいのだが不思議と不満が出てこない。
高順が彼女達の仕事ぶりを高く評価しているのもあるし、それに見合うだけの給金も保証されている。
それ以上に、自分達の力量を思う存分に奮える場がある、ということを喜んでいたのかもしれない。
前政権ではそれほど重要視されない陳羣だったが、現・・・というより、高順は陳羣の能力を信じて政治的なことを殆ど任せている。
政治能力はあまり無いからこそ、陳羣に頼るしかない状況だったが、それだけ自分を高く買ってくれていることに、陳羣は満足していた。
それに、政治力が無いとは言っても農・商に高い関心と理解を示す高順と言う人は陳羣にとっても仕えやすい人であった。
離散した農民を呼び集め、農具と牛馬を貸し与え、本来徴収する税率「農具を貸し与えられた場合は3割、道具を元から所持しているものは5割を本人の取り分」という前提を覆し、少しずつ税率を下げている。
陶謙は更に重税を課していたが、高順はそういった税を安く抑えて民衆に配慮・・・悪く言えば媚を売った。
戦火で焼け出された者は暫く税を免除しているし、農業に従事し始めた元難民も同じ扱い。税収は減ってしまうのだが・・・。
こういった噂を「影」に流させて、もっと多くの民を集めれば、長い目で見て税収は増加する。
人が増えれば下がった分の収益を補えるはずだし、人も増えていくし、食糧の生産力も上がっていく。
高順の治める広陵は近くに水源があるし、人を増やして治水と灌漑を行えば・・・とも思っている。
初期は辛くても時間が経てば必ず良い方向へ向かうはずなのだ。
高順は広陵という都市を下邳・小沛に負けない大都市にするつもりでいる。
例えば、広陵だけで一地方を攻めるだけの軍備が出来るよう地力を高めれば。
呂布が敗亡して、他勢力に頭を下げるときが来れば。
少なくとも、それだけの力ある都市と、発展に寄与して人々をどの勢力の長も無碍には扱えまい。
曹操や劉備のために働くのは割りと本気で嫌がっている高順だが、部下や仲間のためならそれも仕方ない事だと思っている。
ともかくも、陳羣の報告である。
「・・・。もう一度、聞いてもいい?」
陳羣は頷いて、もう1度先ほどと同じ報告をした。
「劉備殿が広陵へ向かっているようです。僅かな軍勢と共に。影である楊醜の報告とも一致しています。」
「何のために・・・。」
「簡単に言えば親睦を深めるためではないでしょうか。」
最初、この報告を聞いた陳羣も大いに驚いたものだ。というよりきっちりとした手続きを経て、劉備側からそういった話が舞い込んできたのだ。
陳羣はそういった取次ぎも自分の仕事の内なので、最初に知ったと言うことに過ぎない。
流石に自分の一存では決めかねる話ではあるが、正規の話し合いであれば別段断る必要の無い話でもある。
何より、先方は既にこちらに向かっているのだから、今更来るなともいえないのかもしれない。
だが、高順は何か嫌な匂いを感じていた。
何故に自分と親睦を深める必要があるのか、そのメリットは・・・。
(ふん、俺と呂布・・・賈詡の仲が悪い事を知って取り込みを図ろうとしているのか・・・そうでなくても、間違いなく呂布勢力の内部からの切り崩しを狙っているだろうな。)
ここで抹殺すれば良いのかもしれないが、それをやれば曹操が出てくるだろう。
劉備が前触れも無く州牧に任命される訳が無いのだし曹操と繋がっていると見るのが妥当だ。
会いたくは無いが、来てしまえば出迎えなくてはならないだろう。
仕方が無い、と思いつつも高順は陳羣に「用意をしておいて」とだけ言った。
陳羣も「畏まりました」と頭を下げ部屋を退出していく。
用意、というのは宴の用意である。仮にも州牧を迎えるのだからみみっちい事はできない。

この話を聞いた高順一党は「え~~・・・」と、露骨に嫌そうであった。
賈詡の事でも頭が痛いというのに、また厄介ごとが増える、ということだっただろう。
闞沢は劉備がどういう人物なのか、と言うことは知らないので釈然としない表情。
劉備には好意的な趙雲でさえ「何もこんな時に来なくても良いだろうに・・・」とか言っている。
「はいはい、文句があるのは解るけど来るって言ってる以上仕方ないでしょ。 皆も宴の準備を手伝ってくださいね。」
高順はパンパンと手を叩きつつ言った。
「せやけどなぁ、兄さん。劉備って、うちらにとっては敵対勢力やんか。なんで誼を通じる必要があるん?」
「俺も誼を通じたい訳じゃないよ。でもね、立場としては向こうが上。無茶な話ならともかく、ただ会いたいってやって来るんだから会わないわけにも行かないの。」
劉備が正式な徐州牧となり、それを呂布が受け入れた事には立腹しているが、判断として間違っているとは思わない。
自分も色々と言いたい事はあったし、故意的に省かれた事に腹を立ててもいるが。
「う~~~、めんどいなぁ・・・。」
「こっちもめんどいけど、早く動く。・・・陳羣さん、こちらの手の内を見られないようにね。軍の訓練とか装備とか見せないように。」
「はい、既に沙摩柯殿と蹋頓殿にお願いして街の警備兵だけにしております。城中の親衛兵だけはそうもいきませんが・・・。」
「構いませんよ、こちらの実情を見せてやるつもりはありません。向こうが見せてくれと言っても絶対言う事聞かないように。」
「ははっ。」
「城の造りや街を見られるのは仕方ないだろうけどね・・・ったく、面倒な事ばかり起きるよ。」
城壁の造り、地形確認、攻めるに易いか難いか・・・そういった事も見て行くはずだ。あっさりと情報を提示などしてやるつもりは欠片もない。
なんで一介の武将がここまでせにゃならんのか、と思わず嘆息する高順であった。

数日後、劉備達は本当に僅かな供回りと兵のみを連れて広陵へとやって来た。
高順も仲間を連れて、わざわざ城の外まで行って賓客として受け入れた。
劉備の供をしているのは関羽・張飛・鳳統。諸葛亮は留守居だという。
「えっと、お久しぶりです、高順さん。元気そうで何よりです!」
劉備はにこにこと笑って挨拶をした。
「お久しぶりですね、劉備さん。・・・虎牢関以来ですか。あの時は敵、今は・・・仲間とは言いがたいですが。」
高順も、特に嫌悪感などは出さずに対応をしている。
楽進・李典なども一応は頭を下げているが、嫌々やっている事は解っている。
関羽は趙雲を一瞥したが、彼女は高順達の遣り取りに集中して、何かあれば直ぐに動けるように警戒をしているようだ。
和やかに話をしている高順と劉備だったが、側にいた陳羣が「太守様、そろそろ・・・」という言葉に「ああ」と返事をした。
「話の続きは城中で。些細ながら宴の準備もしておりますので・・・ご案内いたします。・・・皆、行こう。」
「あ、はい。皆、ついていこ」
先導をするように城へ向かう高順。彼は劉備たちに背中を向けていて、一応の敵意が無い事を示している。
劉備一行も手出しをするつもりはないし、それ以上に街の賑わいのほうに目を向けている。
鳳統も「凄いでひゅ・・・」と噛みつつ感嘆していた。
農地開拓なども進んでいて近頃は城砦規模を広げる計画まで出ていたりするのだが、それを劉備達に教える義理も無い。
関羽や劉備は店に並べられた珍しい南方の小物(アクセサリー)を見て目を輝かせ、張飛は・・・お腹が空いているのだろう、あちこちの食事処を見て「おおー。凄いのだー・・・」とか言っている。
これでは、そこら辺の少女と変わらないな・・・と、高順は思わず笑ってしまう。
「なー、高順にーちゃん! 飯! 飯食べたいー!」
後ろにいたはずの張飛が高順の隣まで走ってきて、食事の催促を始めた。
「こ、こら、鈴々! やめないか、失礼だろう!?」
思わず張飛を真名で呼んでしまう関羽。妹分の発言に真っ赤になって怒っている。
高順は気にもせず、隣で歩いている張飛の頭をぐりぐりと撫でた。
「はいはい、さっきも言ったけど城で宴の用意してるんだからそれまで待ちなさい。関羽さんも子供のやることを一々目くじら立てて怒らない。」
「むー、鈴々を子ども扱いするななのだ、立派な大人なのだっ!」
「そうやって背伸びをしたがるのは子供の証。あと5年くらいしたら大人になるんだから「高順殿! 子供だろうと何であろうと礼儀に反する行いを見過ごす訳には・・・」・・・はぁ、あいも変わらず騒がしい人々だ。」
この言葉に「どこが騒がしいのです!」と怒鳴る関羽だったが、実際に騒がしいのだから仕方がない。
これで敵じゃなければねぇ・・・と思う高順だった。

城での宴は・・・まあ、一言で言って凄まじい騒ぎであった。
魚を使った料理、肉を使った料理・・・色々とあったが、張飛の食欲は凄まじかったし、酒を飲んだりして周りに止められたり。
そのまま高順に抱きついて眠りこけ、関羽に「変なことをしないでくださいね!」と怒鳴られたり。
高順も思わず「・・・こんなお子ちゃまに手を出す人は普通に性犯罪者だと思うけど。」と言い返してしまった。
何故か田豫と劉備が呑み比べをして同時KOというか撃沈したりという一幕もあった。
鳳統は高順の読み通りに城の縄張りなどを気にしていたが、陳羣の質問攻めにあってそれどころではなかったようだ。
陳羣は、高順に「鳳統か諸葛亮は政治に詳しい人々だ。話が合うんじゃないかな?」と言い含められていたのだが、それとは関係無しに政治の話が出来る人がいる事に満足していた。
鳳統も普段は諸葛亮以外に政治の話をする相手もいないので、つい熱が入ってあれこれと議論を重ねている。
反面、陳羣は劉備に近づこうとはしない。初対面から「どうも気に入らないお人だ」と思ったらしい。
初めて会ったのに、この嫌悪感は何だろう? と本人も思っている。
関羽も、蹋頓の「えろす話」を聞かされ「ななななななっ!?」と狼狽。その反応を面白がって更にあること無い事を吹き込んで・・・とか、凄まじくカオスな宴であった。
カオスが頂点に達しないうちに・・・と、高順は断りを入れて宴を中座。後は好きにやってくれ、とばかりに城を出た。
何も考えずに出てきただけで、どこに行こうとかそういうものではない。
強いて言えば少し散歩がしたかった、程度だ。あと、カオスに巻き込まれたくないし。
ふらふらと城壁の上を歩き回っていると、趙雲の姿があった。
槍を持ち、静かに城壁内の街を見下ろしている。
そういえば、宴が始まってすぐにいなくなっていたような? と思いつつ、高順は声をかけた。
「趙雲殿。」
「ん? ・・・ああ、高順殿。如何なされました?」
「それはこっちの台詞ですよ。こんなところで何をしているのです? ・・・あ、俺は散歩ですよ。」
「ふふ。何を、というわけではありませぬよ。ただ、ここで風に当たって街を見ていた、というだけのこと。」
「街を、ねぇ。」
高順は趙雲の隣に立って同じように街を見下ろした。
互いに、じっとしていたが、少しして趙雲が口を開いた。
「ここから見える景色は如何です。」
「景色?」
「左様。高順殿が作ったと言えなくも無いこの街。お好きですかな?」
「・・・あー。はは、何とも言いかねるな。丁原様の気持ちは解ったけどね。」
「丁原殿?」
ん、と高順は頷く。
「あのお人は、上党という街を愛していた。この街は私の誇りだ、ってね。そりゃ、自分の力で大きくして尽力し続けたんだ。愛着も沸くってものさ。」
「ほぅ・・・。」
「けど、何故かな。俺はそれほどの愛着を感じないかもしれない。・・・んー、上手く言い表せないけどさ、俺ってそれほどの苦労をせずに太守にされたでしょ?」
「は?」
いや、凄まじい苦労をしていると思うが・・・まあ、勉学とかはせずに武功のみで太守になったのだから・・・いや、それでも随分と苦労をしているような。
「だからかもね。幸い、俺には仲間がいるし、政治では陳羣さんがいるし。丁原様と違って恵まれているよ、本当に。」
「・・・ふむ。」
確かに陳羣の手腕は大きいと思うが、政策を打ち出しているのは高順も同じだ。
最初は新たな太守に懐疑的だった民も、今では高順を好意的に見ている。加えてこの都市の生産力。他の都市に引けを取るとは思えない。
趙雲は意を決して、前から言おうとしていた事を口にした。
「ここよりも、もっと高い景色を目指しては如何です。」
「・・・・・・。謀反を起こせ、ってことかい?」
暫く考えて、高順は応えた。
「謀反ではございませぬ。自立してはどうか、というだけです。」
「ふふ、それなら俺はすぐに死ぬ事になるね。」
「何故です。」
「民が付いてこない。兵も少ない。同盟をする相手もいない。」
支援勢力も無いのに、一旗あげれると思う? と高順は聞き返した。
兵はついて来てくれるだろう。しかし、民はそうは行かない。
長い戦乱に倦んでいる人々は、出来れば戦争になって欲しくないと思っている・・・高順はそう考えている。
「劉備がいれば、南に袁術もいます。ここに執着せずとも、南に勢力を伸ばし、荊州を得ればよいのです。」
「そんなに簡単にいけば、天下統一を果たす人間はごまんといるね。」
高順は全く取り合わない。
「ならば、いつまでも賈詡の言いなりになって、ボロボロになるまでこき使われるのですかっ!? ・・・あ」
失礼した、と趙雲は小さな声で呟いた。
趙雲は心底悔しがり、怒っていた。これほど呂布に尽くしているというのに、それを全く認めない賈詡。
その賈詡にいつまでも従っている高順にも。
その気持ちは高順にも解るが、今袂を分かつ訳にも行かない。それをやれば、干禁も閻行もどうなるかわからないからだ。
だが、高順は前にも言った通りにある程度腹を固めている。
「いつまでも、あいつの言いなりになってやるつもりは無いよ。」
「・・・?」
「もしも動くとすれば、次にあの馬鹿が妙な動きをしてからだ。理由も無くこちらから動くことはできない。」
「つまり・・・。」
「結果次第では・・・って事。その時は、俺も覚悟をしないと。でもね・・・賈詡先生の気持ちがわからないでもないんだ、本当のところは。」
「は? 賈詡の気持ち・・・?」
「ん。俺には呂布に忠義を尽くす理由も、董卓の為に働く理由は無い。何より、丁原様・・・上党の皆は、あの2人の命と引き換えになったんだ。」
「・・・そうですな。」
「呂布、張遼さんだけじゃなくて、あの2人だって言わば仇さ。董卓は俺を疑っては無いようだし、俺だって背くつもりは無いけどね。」
それは確かに、と趙雲は同意した。
董卓は、あまりに人を恨む事ができない・・というか、人に悪意を向ける事ができない人だ。だが、賈詡は違う。
「なまじ頭がいいから、一度不信感を抱くとそれがどんどん膨らんでいくんだろうな。ここまで事態がおかしくなるとは思っていなかった・・・俺も同罪さ」
その上、劉備とつるんでいると思われても仕方が無いこの状況だ。更に賈詡は疑いを増すだろう。
内部分裂を起こしているこの状況では・・・どう足掻いても曹操には勝てない。
だが、賈詡に従えば、自分はともかく趙雲達ですら使い潰されるだろう。
「何とか歩み寄る事が出来れば良いのだけどね・・・あの人、頑固で他人の話に聞く耳持ってくれないからな。・・・このまま終われば、丁原様が・・・皆が浮かばれない。」
高順はそれだけを言って、口をつぐんだ。
すぐ側に、誰かが近づいてきているのを察知したからだ。
こつこつ、と靴音を響かせてきたのは関羽であった。
「・・・関羽、か。」
「久しいな、趙雲。」
その場には高順もいたが、関羽はあまり考えないようにした。
本人も多少気遣ってか、趙雲の隣を関羽に譲る。
「何の用だ?」
「冷たいな。挨拶をしていなかったので来ただけだ。酒好きのお前がすぐに宴を抜け出したのも気になっていたが。」
趙雲は「ふっ」と笑う。
暫くして、趙雲は関羽に「お主の道は見えたか」とだけ聞いた。
「ああ、とうの昔に。そして、お前の言う真実とやらも垣間見た。」
「そうか、それは何よりだ。他者の言葉に踊らされず、自身の信念を以って進むといい。あの時のお主はそれをも見失いかけていたように思えたのでな。」
「ああ。」
関羽は強く頷いた。そして、もう1つの本題に入ろうとする。
「・・・趙雲。」
「む?」
「桃香様(劉備の真名)の元へ、来るつもりはないか。」
「・・・ふ、いきなりな話だな。私の仕えるお人がいる前でそんな話を切り出すとは思いもしなかったぞ。」
高順は黙って話を聞いている。まあ、そういう話も来るだろうな、とは思っていたので驚き半分と言った程度か。
「そうだな、言い方が悪いのかもしれない。高順殿、貴方にも来て欲しい。」
「へ? 俺?」
「ああ。わが主は貴方を、貴方の部下達を高く評価している。この都市の経営手腕に、鳳統も驚いていた。」
「へぇ・・・そりゃ、ありがたいお言葉だね。」
「茶化さないで頂きたい。・・・貴方が、呂布に冷遇されている事も掴んでいる。貴方ほどの将を冷遇するなど、ありえぬ話だ」
趙雲は何も言わないが、心中で大きくその言葉を肯定していた。(冷遇をしているのは賈詡だが。
賈詡の性格に問題があり、高順に原因があるのも本人の弁で理解したが・・・賈詡のやり方は一方的に過ぎる。
「この話は、桃香様も思っていることだが・・・今回に限っていえば私の独断に過ぎない。あの人は呂布勢力と仲良くしたいと仰っているが、それは無理なような気がする。」
「ふぅ・・・む。」
「貴方を取り込むか、少なくとも敵には回さない。これは我々の一致している考えだ。できる事であれば、共に働きたい」
「成る程ね。けど、俺は危ないよ? いつどんな状況で暴走するか解らないしね。劉備さんはこれから当て所も無く彷徨う気がするし。」
「そうか・・・?貴方は、手綱などせずに、ある程度好きにやらせるほうが余程いい働きをすると思う。下手に手綱をつけるとそれこそ暴発する気がします。」
「どうかなぁ・・・考えてもみなよ? 俺の下で戦略に通じている人がどれだけいる?」
「戦略、だと?」
「好きにやらせる、ってことは戦争の時に、自分の意思で敵を攻めろって事でもあるんだぜ? 俺は大した才能は無いけど、部下は頼りになる人ばかりさ。」
「・・・はぁ・・・また始まりましたな。謙遜もそこまでくると嫌味を通り過ぎていっそ清清しいと言うか。」
高順の言葉に趙雲は溜息をついた。どうしてこの人は自分自身の能力を認めないのだろう。
人の才能を見抜くのは得意なくせに、自分の事になるとてんで駄目だ。闞沢の輜重や治世の才能を見抜けるのに、どうしてこうなのだ?
贔屓目を抜いたとしても高順の才覚は中々のものだというのに。
「最後まで話を聞こうよ・・・。でもね、俺の周りにいる人は殆どが「戦術が得意でも戦略が無い、解らない人」ばかりさ。趙雲殿と蹋頓さんはあるかもしれないけどねえ。」
「ふむ? 私・・・?」
「そ、趙雲殿。孫家には周喩、曹家には曹操自身、夏候淵とか荀彧・・・呂布にも陳宮、賈詡。劉備さんには鳳統、諸葛亮。他の陣営では当たり前にいる人材が俺には無い。」
もっとも、諸葛亮は戦術が駄目っぽいし、賈詡も陳宮共に視野が狭いけど・・・と後半だけ心の中で留めて高順は笑った。
「そして、それを補うのが関羽殿や張飛・・・ってわけだ。独立部隊として動けって言うなら戦略も無いとだめでしょ? だから、俺では務まらないって言うのさ。」
「ほう・・・?」
関羽は「やはりこの男は只者ではないな」と感心した。
自分を卑下するのは悪い癖だが、それを抜かせば自分の側の実力・・・戦力と言ったほうがいいか。それをきっちり把握していている。
自軍の良い点と悪い点を見分けて、戦略が無いというのは謙遜ではないのだろう。
戦略と戦術の違いをきっちりと見分けている、というのもただの馬鹿ではないという証左。
こういう、自分の分を相応に理解しているといながら強大という手合いは、敵に回すと厄介な事この上ない。
「ふふ・・・まあ良いでしょう。そういう事にしておきますよ、高順殿。」
「しておく、じゃなくて事実だよ。」
それには応えず「返事は今すぐでなくても構いません。」とだけ言って関羽は踵を返した。
彼女の後姿が見えなくなった頃に「随分と評価をされたものですな?」と趙雲が笑った。
「過大評価だっての。盟を結ぶのはともかく、部下になるのは嫌だなぁ・・・。」
げんなりとして言う高順だが、趙雲は「劉備殿がこのお人を上手く扱えるとは思わないな・・・」と考えている。
どちらかと言えば、公孫賛のほうがまだ上手く扱えそうな気がする。孫策も悪くないかもしれない。
曹操は・・・あの女色の空気が無ければ、とも思うが高順本人が凄まじく嫌がっているので無理なのかも。
働かされすぎて死にそう、と高順は言っていたが、確かに曹操の下では過労で死ぬか倒れるくらいはありそうだ。
有能であればあるほど働かされる、位は聞いたことはあるがそうなると自分達は休む暇がないのかもしれない。
どちらにせよ、高順は呂布の下で終わる人ではない。
そんな確信が趙雲にはあった。

宴が終わり、何日間かを過ごしてから劉備達は帰って行った。
高順は護衛をつけて送ろうとしたが、その必要は無いと言われそのまま見送る事にした。
関羽への返事はしていないが・・・まあ、何かあれば連絡をする、程度でいいと思っている。
賈詡がこの話を知れば怒るだろうが、それは仕方の無い話だ。
これとは別の話だが、そろそろ小沛への輸送が近づいていて、今回の件での言い訳と謝罪の書簡、それに加えて大量の物資を送るつもりである。
輸送役は趙雲・李典・闞沢の三人。
楽進・蹋頓・沙摩柯等は高順と共に留守番である。
沙摩柯らが行かないのは、単純に彼女達が徐州で虐げられていた事に配慮して、だ。
幸いにも、彼女達が異民族だからと差別をするような器の底が浅い者は、高順一党にはいなかった。
そういった教育を受けていない者もいれば、異民族を配下にしている公孫賛のやり方を見ていた趙雲のような者もいる。
教育を受けているであろう孫策や曹操も、能力があれば差別意識など持たずに用いただろう。




賈詡によって送り込まれた胡車児は、劉備と高順が誼を通じている、ということを確認してから動き始めた。
彼は、賈詡の配下であり今回は暗殺者として働く事になっている。
賈詡は「高順と劉備が友好関係を結べば危険なことになる。高順の部下は五月蝿いかもしれないが」と前置きをしてから。
「もしも私の懸念するような状況になれば高順を討て」と命じたのである。
彼女の、高順への疑念はどうしようもない程に大きくなり、このままでは自分達が殺されるかも・・・という一種の強迫観念のようなものを感じてしまっている。
賈詡は高順一党の要である高順を討てば後は大人しくなる、と思い込んでいた。
だが、実際はその逆だ。彼が失われるような状況になれば、残った人々は暴走して取り返しがつかないことになる・・・それが賈詡にはイマイチ理解できていなかった。
胡車児が動くのがあと少し遅ければ、小沛への輸送は完了し、大量の物資が届く事もあって、賈詡も何とか落ち着いたのだろう。
ただし、賈詡には計算違いがあった。
彼女は胡車児が動くのはもっと時間が経ってからと考えていた。
派遣して、すぐに動く状況になるとは思っていなかったのだ。
胡車児を派遣して暫く経ってから「高順が劉備と通じている」として、呂布と軍勢を動かし大規模戦闘になる前に高順を討つ。
賈詡の計画はそんな感じだったが、大きな齟齬が生じて彼女の思い通りの流れにはならなかった。

そして、その時が訪れる。



輸送部隊が派遣される前夜の事。
高順は政務室にある椅子に腰掛けてぼんやりとしていた。
賈詡の命令を聞くのは嫌だが、呂布のとんでもない食欲で食料が足りなくなるとかは洒落にならない。自身の父母・張遼・華雄・干禁が腹を空かせる状況と言うのも嫌なものだ。
影に命じて皆の逃げ道を確保するように命じているが、それも上手く行くかどうか。
下邳に向かわせた楊醜も、現状では劉備が軍事的に動かないことを掴んだらしく一時的に帰還させている。
陳登を始めとした豪族連中もあっさりと劉備に鞍替えをしたそうだが、それは当初の読みどおりであってそれほど気にするような事もない。
高順からすれば、どちらかと言えば下邳よりも小沛のほうが気になるのだ。
そんなことを考えていると、不意に扉を叩く音が聞こえた。
「ん・・・? どうぞ。」
「夜分遅く、失礼致します。」
扉を開けて、一人の兵士が入室してきた。見れば兵士・・・男性だが、竹簡を持って跪いている。
これは、高順の悪い癖だった。
ある程度の事とは言え、彼は城内で将兵に武器を持つことを容認していた。かつ、自分で使者やら何やらを引見してしまう。
詰めが甘かったといえばそこまでだが、正直に言って油断をしすぎていたとしか言えない。
その兵士は跪いたまま高順に竹簡を差し出した。
「賈詡様よりお預かり致しました」とだけ言って畏まる。
賈詡から? と、高順は竹簡を開いた。
カラカラ、と音を立てて開かれていく竹簡に書かれているであろう文章をざっと読もうとしたが・・・おかしなことに何も書かれていない。
「・・・? 何だ? 何も書かれて・・・」
高順は、疑問の言葉を最後まで言う事ができなかった。
兵士は所持していた剣で高順の腹から胸までを、下から斬り付けていたのだ。
竹簡を読もうと開き、そこが高順にとっての死角となった。
「く、がふっ・・・!」
かなり深く斬りこまれた高順は、血をふき上げ、仰向けに倒れた。みるみるうちに血だまりは広がっていく。
天井裏にいた2人の影・・・一人は楊醜だが、慌てて飛び降りて来て高順を斬った兵士に挑む。
「ちっ!」
二対一では分が悪く、兵士は楊醜では無い影の胸を切りつけて何とか逃亡しようとする。
そのままでは、本当に逃げられていただろうが・・・斬られた影は、絶命する寸前に部屋の壁を思い切り叩いた。
だぁんっ! という音が響き、近くにいた人々が「何事だ?」と高順の部屋まで近づいていく。
その中には陳羣や、見回りをしていた沙摩柯といった人々も混じっていた。
「くそっ、よけいな真似を・・・!」
兵士・・・いや、胡車児は、舌打ちをしつつ楊醜へと斬りかかる。
ところが、楊醜はわざと背を向け「ふっ・・・!」と上段からの一撃を受け止めた。・・・尻で。
「何ぃ!?」
「甘い、な・・・!」
尻に挟まれた剣を引き抜こうとするも、凄まじい締め付けで動かない。こんな訳のわからない白刃取りをするのはこいつ位なものだろう。
(できれば、見た奴全て始末したかったが・・・!)
諦めたのだろう、兵士は剣を離して楊醜の尻に蹴りを見舞った。
「っ、やるじゃないの・・・!」
怯んだ隙に、胡車児は扉を開け放ち部屋を出ようとしたが、部屋の外には沙摩柯と陳羣がいた。
「っ! 曲者!」
「貴様、何者だ・・・暗殺かっ!?」
「えぇい、こんな時に!」
胡車児は陳羣を突き飛ばし人がいないほうの廊下を走っていく。
「うっ・・・沙摩柯殿!」
「承知!」
陳羣の言葉よりも早く、沙摩柯は追跡を開始していた。
途中で「本物の」兵が加わり、数十から百ほどの勢となって追いかけていく。
「太守様、一体・・・太守様!?」
執務室の中にはむせ返るような血の匂いが充満していた。
「おい、しっかりしな、高順!」
楊醜と陳羣に抱きかかえられた高順は、苦しそうに呻く。
「ごほっ・・・! ぐ、うっ・・・よ、楊醜・・・その、影は・・・」
「・・・駄目だ、既に死んでいる。」
首を横に振る楊醜。
「そう、か・・・ぐくっ・・・」
高順は悪い事をしてしまった、と後悔した。
あの兵士が何者で、どんな理由で自分を殺そうとしたかは解らないが・・・油断をしたせいで、1人の人間が死んだ。
「あの、影に家族がいたら・・・う、せ、生活の保障、を・・・」
「太守様、そのような事よりも自分のことを・・・楊醜、楽進殿を探してきなさい、早く!!」
「お、おう!」
楊醜はすっと部屋から出て行く。
「陳羣さん・・・・・・ま、間に合わない、かな・・・」
高順は、自分を抱えている陳羣の腕を掴んで必死に自分の遺志を残そうとしている。
「太守様、気をしっかりお持ちに! 助からないなどと言ってはなりません!!」
「俺が死んだ、ら・・・後は、ちょ、趙雲殿に、全て託し・・・曹操、か劉備を頼って・・・っ・・・!」
高順は陳羣に抱きかかえられたまま、ゆっくりと目を閉じた。
賈詡・・・どうしてそこまで急ぐ・・・!
これでお互い後に引けなくなった。もう手のうちようがないぞ・・・、と絶望的な思いの中で高順の意識が途切れた。
「た、太守様・・・太守様?!」

胡車児は何とか城の外へと抜け出していた。
後は街の中に潜んで、ほとぼりが冷めてから出れば良い。時間はかかるだろうが逃げおおせるだろう、と思っていた。
本当は毒を使用したい所だったが、高順の食事に混ぜる事も、飲み水に混ぜる事も困難だった。
水と食料の集積場所はきっちりと管理者他数名の兵士が配置されていて、入り込むことも難しい状況であった。
持ち合わせは粉末状の毒のみで、液体状の毒があれば刃に塗って確実に仕留めることが出来たかもしれないが・・・。
だが、アレだけの手傷を与えたのだ。すぐに傷口を塞げばともかくも、そんなことは出来まい。
胡車児としてはこのような実力行使はあまり取りたくない手段であった。
兵士を買収しようにも、殆どが異民族、かつ高順に心服している者ばかりでそんなものに応じようとはしない。
この時代にモラルと言う言葉はないが、高順隊の兵士は主君に対してのモラルと言う物が異常な高さであった。
高順本人の無防備さに助けられる形であそこまで行けたというだけで、まともなやり方とは言いがたい。
成功同然と言える結果だが「こんな危ない橋を渡るのは2度と御免だ」と胡車児は考えていた。
走りに走り続け、何とか街へと抜ける城門まで到達した、と思ったところで、一人の女性がそこに立っている事に気がついた。
暗殺者は舌打ちをして、もう一振り残していた長剣を抜いた。あの女さえ斬れば抜け出せる。
ちらりと後ろを振り返ると、正規兵を連れた女(沙摩柯)が迫っている。
その沙摩柯が、城門に立っている彼女に向かって大声でこう言った。
「蹋頓っ! その男を逃がすなーーーー!!」
「・・・はい?」
呼ばれた蹋頓振り返るが意味も解らず、ハテナ顔をする。
「その男は暗殺者だ! 高順がやられたっ! 殺さずに生け捕ってくれ!!」
「・・・何ですって?」
高順がやられた、という言葉と暗殺者、という言葉に蹋頓は反応し、普段の温厚な彼女からは想像できないほどの底冷えするような殺気が渦巻く。
見れば、その暗殺者とやらは剣を振りかぶって斬りかかろうとしてくる。
「どけ、女ぁぁ!!」
蹋頓は動じる事も無く、持っている槍の穂先で胡車児の「剣を持っているほうの」手を薙いだ。
「うがっ!?」
先に斬り付けたのは胡車児だが、後出しの蹋頓の一撃のほうが速かった。
胡車児の右肘から下が斬り飛ばされ血がふぶく。
その隙を見逃す蹋頓ではなく、右腕を押さえて呻く胡車児の顔に踵蹴りを入れた。

べきぃ、と音と同時に「べぐっ・・・!」と、胡車児は呻き口を押さえて蹲った。
押さえている指の隙間からは血液がぼたぼたと流れ落ちていく。
こうなれば、と舌をかんで自害しようとしたが、前歯が折れてそれもできない。
瞬間。
「くがっ・・・は!?」
気付けば、蹋頓が目の前にいた。彼女は胡車児の手を払いのけて、血と折れた歯だらけの口に自分の指を突き入れた。
いや、性格には布を、だ。
口を開けさせ、猿轡のように絞った布を押し当てて舌を噛まないようにしたのだ。
そうしてから、胡車児の残された手足を思いきり蹴り付け、へし折っていく。
毒があれば、それを飲むかも知れないと言う事だ。
「あっ、あああぁ・・・あああぁあぁっ!!!」
「これで、自害はできなくなりましたね・・・もっとも、舌を噛もうと、そう簡単に死ねるはずも無いのですが。」
蹋頓は、転げまわる胡車児の頭を掴み、左手で右の耳を引っ張る。
「ぐぅぃいっ・・・」
次第に、耳の付け根が「びちっ」と音を立てて少しずつ千切れていく。
「あ、あがが・・・ひゃ、ひゃめ・・・」
みぢぃっ!
「あぎゃああああぁあぁ・・・!!!?」
耳が千切れ、血が迸る。
蹋頓は笑顔だったが、途方も無く冷たい笑顔だった。人の死など意にも介さない、と言うほどの。
すぐそこまで走ってきた沙摩柯と兵士も呆然としてしまっている。
兵士は当然だが、蹋頓とは長年の付き合いである沙摩柯でも、あそこまで冷酷な笑顔を見た事が無かった。
底冷えのするような冷たい怒りと殺意・・・。あいつが、あんな表情を見せるだなんて。
「簡単に死ねるとは思わないでくださいね。あなたの知ることを全部、洗いざらい吐いて頂きます。指を落とし、鼻を削いで、目を潰して・・・」
「う、ああ、うううう・・・」
胡車児は、彼女の殺意以外の感情が映らぬ瞳に、心底から恐怖を抱いていた。
心を殺して冷徹に命令を実行する者が、その心をも握りつぶす殺意に負けている。
「私から・・・私達から高順さんを奪うだなんて・・・ふふ。およそ、死んだほうがマシだと思う苦痛を与えて・・・苦しみの果てに、たっぷりと殺して差し上げますよ。ふ、ふふふ・・・」
兄を、近しい人々を暗殺によって失い、今また暗殺で高順を失おうとしている蹋頓。
そんな彼女のどこか壊れた笑みは、目の前にいる暗殺者に対しての明確な死の宣告であった。





~~~楽屋裏~~~

先週、1週間の更新が無かったのはここまでをある程度書き溜めていたからです。あいつです。

気持ち悪い主人公ここに堕つ。(ぇ?

さて、これで呂布陣営の崩壊は決定的となりました。
賈詡の暴走を知る人が誰もいないというこの状況・・・袁術との同盟以前の問題になってしまいました。
曹操も遠からず攻めて来るでしょうね(遠



ではでは。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第63話 3つ巴。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/03/28 22:55
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第63話 3つ巴。


高順死す。
そんな噂が徐州に流れたのは、高順が胡車児に襲われてから少ししてからの事だった。
当然、呂布陣営にも、劉備陣営にもその話は知れ渡った。
張遼や華雄は「・・・まぢで?」というような反応を示す。
呂布や陳宮もどうなっているのか解らず混乱するばかりだ。
この状況になって、呂布勢力内部の意見は2つに分かれた。
高順に好意を向けている武将達は劉備と同じく「先ずは事実かどうかの確認をするべき」という意見。
高順に疑念を向けていた賈詡は「すぐに兵を差し向けて劉備に先を越されないようにするべきだ」と主張している。
また、高順隊の存在が宙に浮いてしまったような状態と考えたのだろう。
魏続が「この私が高順亡き後の部隊を統率いたしますねん!」と挙手したが、張遼と華雄にぶん殴られた上に呂布から「あなたじゃ無理。」とあっさり無視された。
さすがの賈詡も「あんた程度じゃ絶対無理・・・」と、こればかりは呂布に賛同していたが。
呂布としては、親高順派・非高順派どちらの言い分も正しく思える。
呂布はじっくりと考えた後「情報収集。軍も動かせるように」と結論を出した。
賈詡は「今動かなきゃ劉備に先を越されるわよ!? 広陵を盗られたらそれこそ劉備に屈服しないといけなくなる!」とあくまで派兵を主張していた。
呂布はこう言って賈詡の言葉を却下した。
「こーじゅん以外に、趙雲達は使いこなせない。これで兵を派遣して彼女達を怒らせればそれこそどうしようもない。」と。
それとも、こーじゅんが死んだと思える何かがあるの? と聞かれ賈詡は「う・・・」と言葉を詰まらせた。
結局のところ、会議はこれで終了したが・・・親高順派の筆頭である張遼・華雄らは賈詡への疑念を更に強くした。
呂布と高順の仲が、というより賈詡と高順の仲がもつれてしまっている事は気付いているし、高順を大事にしないことに、張遼らは強く講義をしていた。
賈詡は「彼の強さと手腕は認めるけど、それだけで重用は出来ない」と相手にしなかった。
元から呂布の部下ではない高順が日増しに勢力を強め、独立できるほどの威勢を持っていることに警戒をしているのは張遼達にも解っている。
だが、理由も無く叛乱するような人でもないことは良くわかっている。
「その強さと手腕が今一番求められとるんやろーが!?」と怒鳴ることも2度3度ではなかった。
呂布も同意見で何度か賈詡に「仲直りしてあげて」と言っているのだが本人は頑として聞こうとしない。
賈詡は、人間不信の気が強くなっていた。
というのも、元々から董卓の部下であった李傕や郭汜といった連中が利に釣られて、あっさりと裏切った事が彼女の他者への不信感を募らせる結果になっていた。
彼女の正確はお世辞にも社交的とは言えず、どちらかと言えば排他的なものである。
だからこそ、余所者といえる高順一党に対しての不信感が強くなっていた。
ただの「部将」であればともかくも、「武将」としても太守としても実力を示し、どのような形で自分と董卓の命を狙うか解らない高順。
排他的な性格は、どうしても高順という存在に警戒を示していたのだった。
ともかく、賈詡は焦っていた。
劉備に先を越されるのも不味いのだが、高順を暗殺したはずの胡車児も帰ってきていないのだ。
まさか、暗殺に失敗して自分が仕組んだ事だと気がついたか。それとも偽情報を流し、こちらからの動きを封じ着々と叛乱準備を進めているのか。
さすがに呂布にすべての事情を明かすわけには行かないし、劉備に先を越されて高順隊と広陵を盗られるような事になれば。
(胡車児が動いたのならば高順と劉備の接触があったはずだ。私以外に高順に暗殺者を仕向けるような物好きはいないはず・・・。)
いるとすれば陳宮くらいだがあの娘には凄みと言うか、土壇場の胆力が無い。
(・・・はぁ。仕方がないわね。まずは細作を放って広陵へ潜入。高順が生きているか否か・・・もしも生きていたら・・・最悪ね。)
実際には、もうどうしようもない状況なのだ。


趙雲達は、輸送を中止して胡車児を追求していた。
蹋頓の手酷い拷問(あまりの凄まじさに検閲)により、胡車児は何もかもを白状していた。
結果、広陵にいる高順一党全員は賈詡に激しい憎悪を抱く事となる。
呂布に対しても「何をしているんだ」と疑いたくもなってくる。
賈詡の動きに気付いていないのか、それとも呂布の許可を得て賈詡が動いているのか・・・
賈詡の動きに感づいていないとしても、ここまで来て賈詡の動きに気付かない、ではどうしようもない。
陳宮やらに知られずに静かに動くのは、ある意味でさすがと言えるが・・・。
高順に非が無い訳ではない。暗殺と言う強硬手段に出るとは思いもしなかったが、ここまで憎まれているとは思いもしなかっただろう。
広陵の民も「太守が死んだ?」という噂を信じ始めている。
高順はある程度忙しくても、街の視察を怠らない人だった。
太守が健在であるかどうか、というのは民衆にとって大事な事だったりする。
この状況で街を治め率いる人間がいないというのもアレなので、高順の言葉通りに趙雲が一時的に統率をすることになった。
怒りに任せて呂布に絶縁を叩きつけると思われたが、流石に彼女は冷静だった。
いや、冷静の中に怒りを押し殺しているというべきか。蹋頓ならば間違いなく兵を動員して攻め込んでいただろう。
趙雲が行なった事は、とにかく外部への情報の遮断であった。
ひた隠しにしているが、噂はすぐに徐州全域へと伝わっていくだろう。
賈詡か劉備が攻め込んでくる事もありうる、迎撃の準備だけはしておかねば、と趙雲は考えていた。
この状態であれば呂布が四面楚歌のはずなのに、自分たちまで同じ状況に陥っている。
趙雲にはそれが解っていたのだ。
どちらの陣営が知っても、結果は同じ。この広陵の接収だ。誰がやらせるものか、と思う。
自分達の怒りは頂点に達しているが、最終決定権を持つのはあくまで高順。
望みが絶たれない限り自分から行動を起こすべきではない。趙雲はそう決めていた。
それでも離反は、ほぼ確定的なことだ。



~~~小沛・玉座の間~~~
「んで? 自分は何も知らん。そー言いたいわけやな?」
「当たり前じゃない。」
張遼の質問に、賈詡はふてくされて応えた。もう何度目になるか解らない質問だ。
「大体、なんであたしに言う訳?」
「順やんが死んだか暗殺されたっちゅー話やからな。順やんと仲悪いあんたが疑われるんが当然やろが?」
賈詡は「はぁ」と溜息をついた。
「劉備が刺客を差し向けたとは思えないの? 確かに高順とは仲が悪いけどね。」
「はっ。劉備みたいな乳臭い小娘にそないな大それた真似できるかいな。人に好かれる手合いらしいけどな、あいつがそんなタマやとは思えんわ。」
張遼は、下邳で劉備と呂布が行った会談をその目で見ている。
その時に印象全てで答えを出す訳ではないが、そこまでの胆力がある人物には見えなかった。
関羽にせよ諸葛亮にせよ、それだけの凄みを感じもしなかった。
「だからあたしを疑う・・・はは、解りやすいわね、張遼。」
「あぁ?」
「劉備でなければあたし、というのが単純なのよ。曹操の動きかもしれない・・・とは思わないの?」
(・・・ちっ、賈詡め。)
賈詡の言い分だが、曹操はこの所大きく動き始めていた。
徐州と、曹操の領地である兗州の国境に、数万規模の軍兵が集結しているとの情報が入っているのだ。
賈詡は曹操が攻め入ってくる事を予見して、小沛より西に砦を作って張遼・干禁。ついでに魏続・宋憲・侯成を派遣する予定である。
守備兵は1万5千ほどを予定。
小沛には残りの武将を配置して兵数は2万。これは劉備に、或いは高順に対しての備えである。
当初はそれほどでもなかったが徐々に力をつけたことで警戒していたのだろう。
それについては親高順派の人々が「あいつが叛乱などするわけない」と賈詡に幾度も言っていたのだが、それを聞くつもりはなかったらしい。
そのせいで呂布軍内部の反目が深くなるという、どうしようもない状況だ。
総大将である呂布も「こーじゅんはそんな手合いじゃない」と言い続けても、賈詡は疑いを解かない。
その為に賈詡も多くの武将の反発を買っている。
干禁や華雄などは、賈詡の命令を拒否するという事が2度3度あってその度に口論をしていたり・・・。
そのせいで干禁止は何度か投獄をされ、また出獄してと言うことを繰り返している。
何にせよ、呂布や董卓がどれだけ言おうと賈詡は言う事を聞かない。
そんな彼女の態度に張遼らは限界を感じていたのだった。
「ちっ・・・まぁええわ。でな、これからの方針やけど。」
張遼は、呂布に視線を移して少し話を逸らした。
「曹操が来るかもしれん言うてたよな。ほな、うちらは西砦に移らせてもらう。」
「はぁ!? 待ちなさいよ、その前に広陵の状態を調べるのが先決よ!」
「知るかんなもん。うちは順やんが死んだとは思うてへんしな。行きたいなら自分1人でいけばええわ。仲間を疑うような奴についてける思うな・・・ええやんな、呂布?」
「・・・許可。」
張遼の提案に、呂布はあっさりと乗った。
現在、砦を守っているのは魏続・宋憲・侯成。彼らに任せておくのは正直不安でならない。
賈詡の顔を見たくない、というのもあるが、それ以上に干禁の身を守るための措置だ。
高順が心配なのは当然だが、とにかく干禁たちの身の安全のために賈詡から離れる必要がある。
あとでこっそりと閻行夫妻を連れていく予定もあるが、これは張遼の事情も絡んでいる。
残念ながら華雄は小沛守備隊なので連れて行くことは出来ないが・・・。
「ちょっと・・・!」
賈詡は引きとめようとするが、呂布はそれを制して首を横に振った。
はん、と賈詡に侮蔑の表情を見せて張遼は退出して行った。恐らく、干禁を迎えに行くのだろう。(この場所に干禁はいなかった。
「・・・ああ、もうっ! このまま劉備に広陵盗られたらどうすんの!?」
「打つ手が無くなるだけ。」
「それが解ってるならどうして・・・」
「賈詡に打つ手がないだけ。私が行く。」
「・・・は?」
「賈詡の言うとおり、広陵の状態を調べる事は必要。」
「だからアタシが行くって言ってんのよ。兵を貸して貰えればすぐに終わるわよ。」
「無理。賈詡が行けばこーじゅんは態度を硬化させる。だから私が行く。」
「むっ・・・」
呂布は華雄と陳宮に「あとはお願い」とだけ言って走った。
「解った、任せろ。」
「なんですとー!?」
正反対の反応をした2人。
華雄も親高順派であり、彼の身を案じているが陳宮はどちらかと言えば反高順派。
もっとも、賈詡のような複雑な意識は無く「呂布と仲が悪くない男性」だから・・・と子供の嫉妬のようなものに近い。
「くっ」
賈詡は追いかけようとしたが、それは華雄に止められた。
「やめておけ、賈詡。」
「華雄・・・あんたまで邪魔を」
「するに決まっている。今まで散々好き勝手内側を弄繰り回したんだ。・・・少しは頭を冷やせという事さ。」
「好き勝手ですって!?」
「我々を後ろからきっちりと支援してくれた高順を冷遇して・・・証拠はともかく暗殺までしようとしたんだろ? これを好き勝手といわずに何と言う?」
「だからあたしじゃないって言ってるでしょうが!!」
「誰が信じる? まぁ、己の身から出た錆と言うことだ。これ以上ウダウダ抜かせば・・・叩き斬るぞ、小娘。」
「・・・!」
華雄も、高順に対しての冷遇に怒っている1人だった。
賈詡を殺すか追放する、というのは呂布の方針ではないために、殺すつもりは無いが・・・それが無ければ、華雄も張遼もいつ賈詡に斬りかかるか解らないほどの怒りようであった。
それを抑えているのは「今こいつを殺せば更に状況がおかしくなる」と解っているからだ。
そんな華雄の殺気に当てられて賈詡はぞっとしてしまう。
「・・・どうなっても知らないわよ」
それだけ言って、賈詡は足を震えさせながら退出していった。
「ふん。賢しいだけの小娘・・・め?」
華雄が振り返ると、そこには・・・
「あうあうあうあう・・・」
賈詡同様、殺気に当てられた陳宮が涙目になりつつ、腰を抜かしてへたり込んでいた。

呂布が賈詡を罰するつもりが無い、というのは単純に彼女の力量を評価しての事であった。
下邳を取られたのは痛かったが、高順に物資を送るように強制していたのは高順の力を削ぐ、というだけのものでもなかった。
徐州豪族をなびかせる為に大量の資金と食料は不可欠であったし、増兵も必要な事であった。
それに、進めるはずであった袁術との交渉にもまた大量の財貨が必要とされるのも解りきった事である。
高順の力を削ぐ、という側面があるにせよそれだけの事ではない・・・ということを呂布は理解していたのだ。
徐州閥が(少なくとも)呂布治世下でおかしな動きを見せずに大人しかったのも、賈詡が上手く抑えていたからだし、高順に対しては悪手を繰り返しているがそれ以外ではきっちりと自分の仕事をこなしている。
斬れば良いのかもしれないが、自身の責任を転嫁するようで気分が悪い。
高順との確執は自勢力を崩壊させる原因となってしまったが、それを看過できない自分にも原因がある、と呂布は考えていた。
ともかく、呂布は三千ほどの兵を伴って広陵へと進発。
高順と賈詡の仲を取り持つ事も離反を止める事もできないが、直接矛を交えるような状況だけは避けておきたい。
劉備とは事情も過程も違うが、その辺りの認識は同じである。
僅かに焦りつつ、呂布は馬を急がせるのであった。

さて、劉備達も高順が死んだかどうかを調べる事に決めたが、これはこれで困った・・・と頭を抱える人が多かった。
劉備達は呂布勢力を上手く取り込んで曹操に対抗、できなければ武力で呂布を臣従させようとしていた。
高順と呂布の仲が上手くいっていないので、そこに付け込む、ということもした。
だが、この状況までは流石に読めなかった。
この隙は自分達に取って好機かもしれないが、ここで動けば曹操も動いてくる。
攻めるにしても、呂布と高順の仲たがいはあくまで別勢力内部の揉め事であって自分達の出る幕ではない。
二者の不仲を理由に攻め入るというのは説得力に欠ける。
高順から救援要請でも入れば・・・或いは呂布から攻めてくるのであれば別だろうが、それも無い。
攻める理由がないが、攻めなければ徐州全域を得られない。
攻めなくてもいずれ曹操が出てきて「ついでに」と自分達も攻撃される可能性が高い。
曹操も劉備もお互いを「強大な敵」になると認識しており、現状では呂布という同一の敵性勢力があるから敵対をしていないだけに過ぎない。
その緩衝材が無くなれば遠からず激突する。
だからこそ劉備も呂布陣営と仲良くして・・・と思っていたのだが、こうなると自分達の行動が制限されてしまう。
なりふり構わず行動に出るか、それとも運を天に任せてか・・・。
考えた末に、劉備は4千ほどの兵を広陵への「援軍」と称して向かわせる事にした。
呂布と高順の争いは不可避であると考え、自分達は徐州を騒がせる呂布を許さないよ、というポーズをとることに決めたのだ。
諸葛亮も鳳統も、いずれは呂布を勢力下において使おうと思っていたが、高順に恩を売れば援助物資を貰える分そのほうが特だと考えている。
当然、呂布を降せば次は高順を・・・ということでもある。
諸々の考えを抱きつつ、劉備軍は出陣。広陵へと向かう。

そして、数日後。
呂・劉軍は広陵付近で遭遇する事になるが・・・。



~~~兗州・許昌~~~
許昌の玉座の間に、2人の女性武将・・・夏候惇とその妹である夏候淵が入室してきた。
玉座に座る曹操の前に跪き、報告をする。
「華琳様、徐州攻撃の兵6万・・・いつでも出撃可能です。」
「そう、ご苦労様。」
曹操はふっと笑う。
これで準備は整った。
輜重のほうは荀彧に任せており、心配は要らない。
あとは仕上げを待つばかり・・・。
劉備は自分を出し抜こうとしたようだが、それを許すほどに自分は甘くは無い。
現状で曹操が掴んでいる情報は、下邳が劉備、小沛が呂布。広陵は高順が治めているという事だった。
また、国境守備隊の報告で小沛の西・・・自分達から見れば東だが、そこに砦が築かれて「張」旗が立てられたという事も。
他の小さな拠点も多くあるがそれは良い。
まさかあの高順が太守になるとは思いもしなかった。
そして、前から欲しいと思っていた張遼が国境守備に回されたことを知って、曹操の心は躍っていた。
早く攻め入りたいが、「急いては事を仕損じる」と考えて少しだけ心を落ち着ける。
曹操は、劉備の準備が整うまで待ってやる気は無い。
劉備の要請が着たら動いてやるとは言うものの、その要請が来る前に動くつもりであった。
既に筋書きは出来ていて、砦を自分達が落とし、小沛と広陵は劉備に攻めさせる。
この時点では高順が暗殺されたらしい、という話は曹操陣営まで届いていないので、広陵も一応攻略拠点になる。
或いは自身で広陵も一気に攻め取って、小沛を孤立させるという手を考えないでもないが・・・
劉備に呂布を抑える力量があるかどうかが鍵になる。
どうであれ、曹操軍が徐州へ向かうのも遠くはない。
呂布・曹操・劉備の3つ巴が始まるのは、すぐそこまで迫っていた。



~~~楽屋裏~~~
めんどくさい人たちです、あいつです。
趙雲は座して待つ・・・ではありませんが、現状では両陣営に関らないようにしたようですね。

さて、呂布隊3千と劉備隊4千。戦う訳ではありませんがどうなる事やら。
そして主人公(笑)は死んだのか生きているのか。

張遼・華雄らは賈詡の言う事を聞かないでしょうね、戦争中であればともかく。
既に呂布陣営は崩壊寸前、止めを刺すのは劉備か、はたまた曹操か・・・。


ではでは。




どうでもいい話ですが向こうも更新したDEATHよ。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第64話 三つ巴。その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/03 15:43
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第64話 三つ巴。その2。

広陵の郊外。
高順の治める地で、呂布軍三千と劉備軍四千が遭遇。
即開戦とはならないが、微妙な睨みあいを続けていた。
攻撃する理由がないものの、お互いの軍勢に「何をしにきた?」と疑念を抱いているのだ。
軍勢が出陣するという事は一部の例外を除いて「戦闘があるかもしれない事」を前提としている。
ために、両軍の兵は「こいつ等と戦うために?」と思うのだ。
将官クラスならば、この出陣が「広陵の様子を見る為」のものと理解しているが、末端の兵士にそんな事情を説明しているはずが無い。
だからこそ、お互いの兵は一触即発な雰囲気になっていた。

~~~劉備側~~~
「あうう・・・まさかこんな所で鉢合わせだなんてぇ・・・」
どうしよう、と劉備は悩んだ。
できれば戦いたくはない。ていうか確実に負けるし。
何せ急な出陣だったので、それほど多くの人物を連れて来ていない。
主だった人物では陳到(ちんとう)くらいしかいない。
この陳到という人、陳登と呼びが一緒だからややこしいが、旗揚げから少しして劉備に臣従していた人物である。
そういう意味では古参と言ってもいい男性武将だ。
基本的に裏方をこなす事の多い彼だが、部隊を率いての戦いも個人の武勇もそこそこにあって、「目立たないがどんな状況にも対応可能」という人だ。
彼がいれば、と思って関羽も張飛も、諸葛亮達すら連れてこなかった。
本人達は「ついて行く」と申し出てくれたが、劉備は「情報収集くらいならだいじょうぶ!」と言って即時出撃できる部隊を引き連れてきただけに過ぎない。
呂布側の武将は呂布1人のようだし、兵士もこちらよりは少ないけれど・・・呂布1人で兵士一万以上の働きをするのが解っている。
また、不仲とは言え目の前で呂布と自分が叩き合えば、高順側としては呂布に味方をするだろう。
向こうが動けばこちらも応戦せざるを得ないが勝ち目は零。
早まっちゃったかなぁ、と思いつつ「どうしよ・・・」と劉備は考えていた。
そんな時、彼女の側にいる陳到が遠慮がちに声をかけてきた。
「殿、目の前には真紅の呂旗・・・間違いなく呂布です。いかがなさいますか。」
「う・・・ん。」
「攻撃をするべきではないと愚考いたします。・・・ご命令とあらばいつでも突撃いたしますが。」
「だ、駄目だよ! ぜったい駄目なんだから! ・・・えと、様子見です!」
「は。では、いつでも応戦できるように。伝令!」
陳到は伝令を呼んで、各部隊に防御陣形を敷いて、相手に動きがあるまで手出しをするなと伝えさせる。
・・・どっちが総大将なのやら・・・。


~~~呂布側~~~
劉備軍を補足し向かい合う前に、呂布は全軍を停止させて伝令を各隊に出していた。
「動いちゃ駄目。でも、いつでも戦えるように」と素早く通達している。
この辺りの速さは、劉備・呂布の力量と言うか経験の差だが、呂布からしても現状で劉備と戦うのが好ましいとは思わない。
戦えば勝てるが、それをやると間違いなく向こうに名分を与えてしまう。
弓を番え、隊伍を揃え、劉備軍と対峙する。

両軍が緊張状態にある中・・・広陵の城門が開いた。

~~~広陵城壁にて~~~
「来ましたか・・・趙雲殿の読みどおりですね。」
見張りの報告を受けた陳羣は城壁上に弓・弩兵部隊を展開させて、自身も指揮を取るためにその場所にいた。
騎馬隊・歩兵隊は出撃準備を整えている最中だが、千ほどの部隊ならばすぐに出撃できる。
両軍の接近を知っているのは陳羣だけではない。趙雲を筆頭に、全武将が知っていることだ。
趙雲は情報を遮断すれば「どちらかは来る、あるいはどちらも来る」と予見していた。
高順が倒れたあの混乱状態。それを素早く纏め上げてきっちりと即応状態で待っている辺りはさすがと言えた。
ふと城門付近を見ると、趙雲・蹋頓が馬に跨って開門を待っている。
その後ろには千ほどの騎兵。
李典は投石器の指揮があって部隊を率いていく訳ではない。
残り数千の兵を纏めているのは閻柔と田豫。
もっとも、広陵軍は両軍を相手にするつもりはない。
目の前の騒動を収めて劉備を追い返し、呂布を招き入れる腹積もりだ。
今の状態で呂布を招くのは、ある意味で危険だが・・・どうしてもやっておかねばならない事があると言う。
それが終われば広陵軍勢は呂布の下から離れる事になる。
そのまま残っても戦えないし、攻め込んでくるであろう軍勢に持ち堪えられるはずも無いので選択肢としては「頃合を見て逃げる」しか無い訳だが。
暫くして、西側の城門が静かに開いた。
出陣の合図である銅鑼の音が鳴り響き、趙雲・蹋頓が駆け、騎兵部隊も後に続く。
そして・・・軍勢の最後に在るのは。
髑髏龍の鎧を着込み、三刃槍を肩に担ぎ、虹黒に跨る武者の姿。


「うぇ!?」
「・・・?」
劉備と呂布、そして両軍兵士は不意に鳴った銅鑼の音に驚き、広陵へと目を向けた。
そこには、「高」「趙」の旗印。
広陵太守、高順の軍勢であった、
数こそ少ないが、千ほどの騎兵が怒涛の勢いで迫ってくる。
劉備は思わず高順隊へと部隊を向けようとするが、対して呂布は全く動じなかった。
見ていると、先頭を走る趙雲が両軍の間に割り込むような位置で止まる。
ある程度の距離で止まり、すぅぅ・・・と息を吸い込んでから「両軍へ告ぐ!」と大声を出した。
「何ゆえ、劉備殿と呂布殿が兵士を率いて広陵まで来られたかは知らぬ。が、これ以上の騒動は無しにしていただきたい!」
この言葉に、劉備は反論をしようと馬を進める。
「ち、違います! 私達は争いに来たんじゃないんですよ!」
「ならば何ゆえに事前の相談無く、しかも兵を率いてやって来るのか? 異心ありと見なされても仕方がありませぬぞ? 呂布殿は形式場主君であるゆえ、多少は構いませぬが」
「あぅう・・・」
実際のところは異心ありまくりなので上手く反論が出来ない。
諸葛亮か鳳統がいれば上手く反論もするのだろうが、生来の性格が素直である劉備は言葉で言い負かすという事が基本、大の苦手である。
「そ、そのー・・・高順さんが暗殺されたって噂がこっちまで流れて来てー・・・それで、いてもたってもいられなくて」
「・・・。お心遣いはありがたいが、だからと言ってこの騒ぎ。感心は出来かねますな。」
趙雲は「はぁ」と大げさに溜息をついて更に続ける。
「これ以上騒ぎを大きくするのであれば、劉備殿・・・。我らは立場上、貴軍を鎮めなければなりませぬ。それに、高順殿はあそこに。」
そう言って趙雲は馬首を返す。
視線の先には、騎兵隊に守られるようにして佇む虹黒。その虹黒に跨った髑髏龍の鎧武者が見えた。
見ていると、三刃槍を掲げて今にも振り下ろそうとしている。
その姿に劉備は思わず「うわっ」と言ってしまったが、呂布は釈然としないものを感じていた。
どうにも違和感がある、と首を傾げていたが劉備はそれどころではなく冷や汗をかいていた。
(どどどどどどうしよう!? 何だかすっごいこっち睨んでるー!?)
確かに、虹黒も、その上に跨る高順と思わしき人も劉備軍をじっと見据えていた。
しかも開け放たれたままの広陵城門から、更に騎兵部隊が繰り出されてくる。
「殿、どうなさいます。前面には呂布。横合いからは高順。どう見ても我が方に勝ち目はありませぬ。」
陳到が正直な感想を口にした。
劉備としてはアレが「本当に高順かどうか確認したい」と、ごねたい所ではあった。
諦めが悪い、言い換えれば粘り強い部分のある劉備だが・・・流石に趙雲、高順、騎馬隊、そして呂布。話をするにせよ何にせよ余りに分が悪すぎる話であった。
その上、両側からにらまれるような立場。
これ以上ここに居ても得ることはない、と判断して劉備は「・・・帰還します」と、軍を纏めて下がり始めた。
(うう、あたし何しに来たんだろ・・・情報集めと話し合いに来たはずが、いつの間にか呂布さんと高順さん、どっちとも関係が悪化するような流れに・・・)
「一人(てか4千人)でお使いできるもん!」「が「出来ませんでした」だから、かっこ悪いことこの上ないが、仕方無い。
愛沙(関羽)ちゃんか鈴々(張飛)ちゃん連れてくるべきだったなー、と涙目になりつつ彼女は割と素直に帰還していった。
・・・本当に何をしにきたのやら。
そうやって去っていく劉備軍を見つめ、視界から消えた頃に趙雲が「さて」と呂布の元へと向かった。
「呂布殿、わが主が貴女に話があると申しています。このままついて来て下され。」
「・・・兵は。」
「食事と寝床くらいならばすぐに用意できます。参りましょう。」
「ん。」
そう言って両者は馬を進ませ、兵もそれに追随する。
蹋頓は呂布の後ろに付くが、どうも怒気というか殺気のようなものを感じる。恐らくは高順暗殺に関係しているだろう。
彼女の怒りは間違ったものではない。呂布はそう考えている。
賈詡の暴走も、暗殺も止められなかったのは自分だ。
勢力統率者としては「知らなかった」で済まされる話ではない。
趙雲だって同じように考えているだろうが、そういった感情は今はまだ表に出していない。
思いつつ、呂布は虹黒と、それに跨った武者の横を通り抜けていく。
趙雲はそれを横目で見つつ、ふむ、と笑った。彼女に子供だましは通じなかったらしい。
実は、かの武者は沙摩柯であった。
沙摩柯と高順の背丈はそれほど変わらないし、彼女には虹黒が懐いていて背中に乗せるのを嫌がらない、という数少ない人である。
あの重い鎧も違和感なく着こなして、同様に重い三刃槍を平然と担ぐ辺り、沙摩柯の膂力が知れる。
虹黒も自然に広陵へと馬首を巡らせてゆっくりと歩き始めた。

両軍が広陵に入城。すぐに政庁へと進む。
それを見届けた陳羣は、兵の食事の用意をさせるために慌しく城壁上から下りて行く。
沙摩柯は、と言うと政庁に到着したあたりで虹黒から降り、兜を脱いで「ふぅ。」と一息ついていた。
重いことは重いらしい。
虹黒がその汗にぬれた頬を「べろり」と舐めたので「えひゃっ!?」と素っ頓狂な叫びを上げたがそれはともかく。
呂布や趙雲も馬から降りて、歩いていく。
先導をするのは趙雲、従って歩く呂布。その後ろで呂布を警戒して見つめる蹋頓。
そのうちに、とある部屋の前に着いた。
コツコツ、と趙雲が扉を叩いて「呂布殿をお連れしました」と言ってから呂布に「どうぞ」と譲った。
促されるように部屋に入った呂布の目に、寝台で楽進の治療を受けている高順の姿が映った。


「・・・お、やっと来たか」
遅かったねぇ、と高順は笑う。
少しやつれた感じはするが、生気に溢れた表情であった。
高順は寝台に寝ている、というよりも上半身を起こした姿で楽進の癒術を受けていた。
上半身は裸で、胸に1つ、その胸から腹部にかけての傷が1つ。
腕やら手の甲やらにも小さな傷痕が沢山あった。
胸から腹部への傷が暗殺されかかったときについたものなのだが、これの治療が中々進まなかったようだ。
「・・・特に驚かないな、んー。何か面白くない。」
たちの悪い冗談だが、高順はそう言って笑った。
面白いとかそういう問題じゃありません! と楽進に叱られて「ごめんなさい!」と謝ってる辺り、元気なのかそうでないのか。
「・・・ごめん。」
呂布はそれを見て、頭を下げた。
「はは。これは・・・いや、あんたのせいじゃない、とは言い切れないし俺にも原因がある。謝るなら賈詡が一番に謝るべきかな。まあ、座ってくれ。」
「ん・・・。」
高順に勧められて、呂布は近くにあった椅子に腰をかけた。
さて、何から話すべきかな。と高順は呟く。
暫くして「・・・本当はこっちからいくか伝令を出すべきだったけどな。賈詡に握りつぶされる可能性もあったし、そっちから来てくれたのは都合が良かった」と切り出した。
「俺が暗殺されかかったっていう話、どこまで伝わってる?」
「暗殺されたらしい、だけ。犯人、画策した人物。一切が不明。」
「そうか・・・まあ、結論だけ言うと画策したのは賈詡だ。・・・俺を暗殺したところで得るものがあるとは思わないけど。」
この言葉に呂布は頷いた。
逆に言えば、この状況で高順を暗殺しようと思う人物が賈詡しかいない、という意味でもある。
「下手人も捕らえて・・・まあ、拷問にかけたらしい。その間俺の意識は無かったから、らしい、程度でしかないのだけどね。そいつが賈詡の名前を出したそうだ。」
「そう。」
「離間を狙う輩か、とも思ったが。劉備は俺とあんたの仲が悪いことを知っていても賈詡のことまでは知らんだろう。」
情報を得たにしても、この短期間でそこまで他勢力の内部事情を知るとも思えない。あくまで消去法で実際のところはわからないが、ほぼ間違いは無いだろう、と結論付けた。
彼女の処分をどうするのかは呂布が決めるべきで、この話はすぐに打ち切られた。
「さて、本題に移らせてもらうかな・・・色々言うのも面倒だから率直に言わせてもらうけど。呂布、あんたの勢力はもう生き残れない。」
これは楽進や趙雲、本人である呂布に言うべき事ではないと思うが、伝えておくべきだと高順は考えていた。
「家臣の内紛、家臣同士で決着ができなかった事、暗殺・・・これだけ中身がズタズタだと、どうしようもない。」
「・・・(こく」
「すぐに曹操が、それにつられて劉備も攻めてくるだろうな。」
(・・・華雄姐さん、張遼さん、干禁・・・呼び戻す時間はともかく、本人達が動かない可能性も高い。干禁は動くかもしれないが、時間が無い。)
「こーじゅんは、どうするつもり。」
「逃げる。」
あっさり言う高順に、珍しく呂布が「ずるっ!」とこけそうになった。
「俺は曹操にも劉備にも仕えたくないんだよ。今以上に苦労するのが目に見えてる。・・・一都市を預かる人間の手段としては最低だけどね。」
自分のために都市を捨て、民を捨てる。
だから、太守なんて無理だと言ったんだ、と自嘲の笑みを浮かべる高順。
高順は兵と仲間を連れて南へと逃亡を図るつもりだった。
当然、残りたいと言うものもいるだろうからそれは自身の選択に委ねる。
「皆呼び戻して一緒に逃げたいけど・・・時間が足りないし、納得してくれない人のほうが多いだろうね。」
だから、それなりの手は打つ、と言って高順は呂布に聞き始めた。
西砦の事、曹操の軍勢がどれほどか。小沛の編成などなど。
一通り聞いてから、高順はふぅ、と溜息を1つ。
「・・・そうか・・・。じゃあ、そっちは問題ないな。」
「?」
「曹操は張遼さんも干禁も殺さずに迎えるって事。曹操って人は人材を集めたがる人でね。2人とも有能だから歓迎されるだろ。他三人は知らんけど。」
「それなら西砦の人は」
「ん、降伏さえすれば悪い扱いは受けないって事。小沛が攻められれば、援軍も出せないだろ。そっちはすぐ終わる。」
「じゃあ、小沛に攻めてくるのは」
「劉備だろうな。そこで最初で最後の献策かな? ある程度戦ってから降伏。」
「・・・何故。」
「劉備も人材不足で悩んでるからさ。」
「???」
「一筋縄じゃいかないよ、って事を解らせてやれば良い。軍師がいなくても、内部状況が劣悪でも、ここまで戦えるんだぞ、ってね。」
「でも、降伏しても上手く行くとは限らない」
「悪い扱いは受けないだろ。あんたは言うまでもないが華雄姐さんも相当な使い手。張済・張繍だってそうだ。」
「ちんきゅと賈詡と董卓は?」
「・・・。そこは何とも。陳宮はいいかもしれんが賈詡はこの騒動の発端だからな。劉備だったら殺すことは無いかもしれないが。」
暗殺されかかった俺が心配をする必要は無いと思うけど、と前置きをして。
「妥当に行けば斬るかそのまま市井の民として暮らすって所か。あんたが保護するって言うのもいいかもな。あくまで俺の妄想だけどね。」
これはどちらかと言えば勝率の高い考えだった。
董卓を殺すメリットは既に無い。むしろ、生かして呂布の忠誠を引き出すとか、その方面に価値を見出すかもしれない。
それでは十侍寺と大して変わらないが、少なくとも人質生活にはならないだろう。
現在の呂布軍の武将は一部除いて質が高い。兵士も勇猛な手合いが多いし、劉備・曹操ともに欲しくないわけがない。
それの奪い合いで食い合う可能性もあるし、その中で命を落とす人が出るかもしれない。
こればかりは高順にはどうしようもなく、今現状で多くの人が死なないで済む可能性を考えただけに過ぎない。
どこかの勢力に武将として加われば、敵として見えることもある。
もっと良い考えが、手段があるのかもしれない。
干禁を、張遼を、華雄を見捨てずに済む、そんな手段が。
だが、時間も何もかもが足りない。全てが後手に回りすぎた。
楽進も李典も、干禁のことを諦めきれなくても半ば覚悟しているし、他の者も「いつかこんな日が来るのだろう」ということを覚悟しての戦である。
高順にしても家族同然の付き合いをした人々ばかり、辛いに決まっている。それを理解するからこそ彼の決断に誰も文句を言わない。
高順の言い方は割と軽かったのだが、この話をしているときは傷の痛み以外に何かを堪えているような表情をしており、相当に参っているのが呂布にも解る程だった。
「ま、そんなところか。呂布、今日は泊まっていきなよ。あんたが大丈夫でも兵士が強行軍に耐えられない。」
「でも」
「こっちにも用意があるんでね。いいから休んどけ。」
用意というのが良くわからず暫く迷ったが、ん、と首肯してから呂布は席を立った。
趙雲が「部屋に案内いたします」と先導して共に部屋を出て行く。

蹋頓はついていかず、楽進も話をしている間中ずっと呂布に背を向け続けていた辺り、複雑である。
少し気になって、高順は2人に話しかけた。
「・・・2人とも、そんなに呂布が嫌い?」
『当然です!』
(うわ、ハモった・・・)
2人同時に同じ事を言って、怒りを露にした。
高順が暗殺されそうになった事実を知らず、賈詡の暴走を止められる数少ない1人だったのに、それもできなかった。
干禁・張遼・・・部下を守る方策も上手くできない呂布を、勢力を率いるものとして失格だと2人は考えていた。
高順にもそれは解ったが、「それじゃ俺も失格だよな」と苦笑する。
賈詡との折り合い悪く、暗殺されそうになっている事実が解らず、油断したせいでこんな状況だ。
干禁らを取り戻す方策も立てられない。自分と呂布と何が違うのだろうか?
勢力を率いるかそうでないか、と言うかもしれないが隊を集めて養っているのは高順だ。大して変わりない。
その上、民も領地も捨てて逃げるのだから始末に終えない。
だが、楽進達は別の方向で高順に怒りを向けた。
「そもそも、高順さんのなさろうとしている事がわかりません。」
「はい?」
「ここまで来た以上、どうして呂布に献策など・・・干禁さんや華雄姐さんには悪いと思いますけれど、それを覚悟して、皆戦いに身を投じているのです。」
どうしてそこまで・・・と、蹋頓は苦りきった顔をして呟く。
蹋頓さん、華雄姐さんって呼ぶっけ? と思いつつ、高順も応えた。
「今名前の挙がった人たちを生かすためだよ。ま、劉備も曹操もみだりに人を殺すと思えないから献策にもならないねえ」
どちらにせよ、その時はすぐに来る。

あくる日、広陵を発とうとした呂布とその配下だが、彼女らの目の前には夥しい数の輜重車が並べられていた。
それを見て驚いている呂布の隣に、沙摩柯の肩を借りた高順が並ぶ。
「これは。」
「食料と飲料水だ。小沛にある分を含めれば2・3ヶ月くらいは保つだろ? 若干だが金品も積んである。持っていきなよ。」
高順の意図が解らず、どうして? と首を傾げる呂布。
「最後の献策に、最後の贈り物ってとこか。これを余らせるようにして降伏すれば、劉備だって悪く思わないだろう。」
劉備は、州牧と言っても支配しているのは一都市、物資も不足しがちだろう。
高順は「見切りよく降伏する事だな」と言って呂布を見送る。
夥しい輜重を受け取った呂布は広陵の城門から出て行く。最後に高順へ振り返って「ありがと」と一言だけ残し去って行く。


こうして、高順は正式に呂布の下から離れて、逃げる準備を始めた。
商家を廃し、食料、金品を仕分け、運び出し。
国庫に稼ぎの殆どを詰め込んでいた高順だが、流石に今回はそうは行かなかったようだ。
それでも充分な量の宝物を国庫に残しておいて、都市経営に影響が出ないようにしている。
船で逃げる事も考えたが、兵士5千前後と軍馬を輸送できるような船があるはずも無い。
広陵で募集した兵が1千ほどいたが、彼らは残る事を選んだ。
また、陳羣も残るつもりである。
(仲間を捨て、領地を捨て、放浪を繰り返す。為政者としても武将としても最低。・・・俺も劉備と変わらんな。)
思わず自嘲する。どうしてこんな奴に皆ついて来るのか、それも高順には解らない。
このときの高順は精神的に相当に追い詰められていた、といっても良いだろう。

小沛に戻った呂布は賈詡から軍師の権を剥奪、董卓同様余り表に出ない立場へと追いやる。
残りの政務は陳宮が取り仕切る事になったが、それ自体は今となってはあまり意味の無い事である。
賈詡を権力中枢から遠ざけたという事に意味があった、という程度だ。
そして、呂布が帰還して僅か数日。
曹操が州の境を越えて侵攻を開始、劉備もそれに追随するかのように小沛へと攻め込む為に兵を整えた。
まだ劉備はきっちりと支度を整えておらず、慌てて軍勢を仕立てたという側面がある。
広陵にも出陣するべきかな? と思ったようだが準備が整っていない状況で二正面行動は不可能と判断。
曹操と協力して呂布を無力化することに決めた。
広陵の戦力・兵力では援軍をするにしても篭城するにしても不足。そう読んだのである。
その判断は間違いではないが、ある意味では間違いであった。
高順は既に南へと逃げる準備を整えていたのだから。

何とかして自分の、そして部下の生き残りに懸ける呂布。
事態を引きずり回す曹操、自分の考えとは違う形で戦争へと進む羽目になった劉備。
心ならずも自分の仲間を見捨てる決断をした高順。
1つの地に幾つもの思惑を内包していた徐州の戦い。それも終局に向かっていた。



~~~楽屋裏~~~
グダグダだ・・・あいつです(汗

主人公、何やかんやで、というかあっさり生きてましたねぇ・・・

今回は史実と違う方向へ持って行きたい高順君のない知恵絞りでした。
人材コレクターと人材不足の勢力内情を理解しているので気楽なものかもしれませんが、三人娘がこれで散り散りに・・・。
これで、ようやくに格陣営に武将が配置され始める・・・かな?
原作では蜀の武将が異様に多いので、ある程度バラけさせました。
この駄シナリオでは「名前だけ武将」も出してますからそうとも言い切れないかもしれませんけど。
で、賈詡と董卓は以降、まず出ません。名前くらいなら出るかもしれませんが、龐統(シナリオでは鳳ですが)とかいるのに出す理由も無いと思っていたり。
諸葛亮だけなら出る余地もあったでしょうけど・・・



え?コシャジどうなったって?
・・・犬の餌にされたんですよキット

次回は割りとあっさり終わらせたいと思います。
負け描写を書くと酷い事にしかならないw

ではでは。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第65話 窮鼠、猫を噛む(?)。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/09 18:41
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第65話 窮鼠、猫を噛む(?)。

「だらぁっ!」
「げはっ!!?」
張遼の偃月刀がすれ違い様に曹軍兵士の胴を斬り捨てる。
馬に乗り、戦場を縦横に駆ける張遼隊。その数は数千と言ったところか。
しかし、兵力の差は大きく何時まで持ち堪えられるか正直言って解らない。
すぐにでも援軍が欲しいところだったが、小沛に出した援軍派遣の使者も戻っては来ない。
この時既に小沛は劉備軍に囲まれており、使者も捕縛されてしまった状態なのだが、張遼はそれを知らない。

張遼の守る小沛西の砦に曹操軍襲来の報が届いたのは一昨日の事。
高順から遣わされた影の情報収集で知ったのだ。
曹軍の兵力は約6万。砦の守備兵は1万5千。
勝負にならない・・・と、すぐに援軍を請う使者を出したがその時点で小沛は囲まれていた。
それを知る筈もない張遼は、それでも何とか持ちこたえようと奮戦していた。
砦の守備を干禁たちに任せ、自身が兵を率いて敵陣を押し返す、というやり方だがこれは張遼だからこそできる、と言えた。
高順や華雄、呂布でもできただろうが、干禁には荷が勝ちすぎる。
曹操も最初に降伏勧告の使者を出していたが、張遼は「まだ勝負は始まってすらないのに、すぐ降伏なんぞできるかい!」と使者を送り返している。
状況が見えてない、と言えばそれまでかもしれないが、張遼の奮戦は実際に目にした曹操をして「流石ね」と唸らせるに値した。
砦の規模は大きくは無いが、そのせいで兵士が少なくても要所に配置できる。
干禁らが何とか守りきっていたし、砦の付近・・・外だが、張遼隊が攻め寄せてくる曹軍先鋒隊を上手く受け止めて僅かずつでも出血を強いている。
また、張遼は砦に戻らずその近くで野営して内外の守りを固める形で戦い続けていた。
そのせいか、1日2日経っても、曹操軍は砦を落とせずじまい。

~~~曹操軍本営~~~
「ふむ・・・今日も落とせず、ね。」
報告を受けた曹操は特に怒るでもなく呟いた。
「・・・華琳様、やはり私が出ましょうか。」
夏候惇がそう言ってくるが曹操は笑った。
「ふふ、別に怒ってはいないわよ? 張遼の強さ、どれだけの物かと思って見てみたかったのよ。」
前回、虎牢関での戦いは高順・張遼らの一気呵成とも言える襲撃に一杯食わされた形になった。
奇襲が上手いのはわかったが、ならば砦を守りつつ、かつ正面戦闘になれば? と考えて小競り合いを仕掛けさせてみたが、これも中々。
数を出せば押し切れる、というほど甘くは無かったらしい。
申し分ないわ、と曹操は(兵には悪いが)満足していた。
こういった逆境でも諦めずに戦おうとする意思も好意に値する。
逆に、不利な状況であると解れば再起を期して逃げる、という思考のできる者も好きだった。
曹操自身がそういう考えの持ち主だし、そういった思考のできる者が幹部であればどのような状況でも「軍全体に与えられる被害が少ない」のだ。
ただの臆病者であれば話にならない。
勇敢でありながら、そういった冷徹な考えのできる者・・・というのも曹操にとっては得がたい人材である。
難を言えば、そういった割り切った考えのできる人間が曹操陣営では曹操以外にいなさそう、ということくらいだ。
まあいいわ、とその考えを打ち消した曹操は「明日、総攻撃を仕掛けます。確実に落とすわよ」とだけ諸将に伝えた。

後日、その言葉通りに曹操軍は「本気」で攻撃を始めた。
今までは様子見に回っていた夏候姉妹も砦の攻略に加わって、これまで以上の苛烈な戦闘になる。
張遼も奮戦していたが、兵士の疲労が激しくて思うような動きが出来ない。
彼女自身も疲労が溜まっていたが、弱音を吐くことはできない。
張遼が奮戦するその時、砦では・・・
「干禁殿ー、砦が落ちそうなのね~ん」
「落ちそうフンガー!」
「・・・あぅぅ・・・。」
宋憲・魏続の情けない声と今まさに砦が陥落しかかっている状況に、干禁は泣きそうになっていた。
干禁も頑張って戦っているのだが夏候姉妹に追い立てられ、砦の大部分は曹操軍に占領され・・・と、打つ手が無い。
既に降伏する以外に道が無いが、砦外で踏ん張っている張遼がいて、そちらも気がかりである。
こんな時高順さんならどうするのかな、と思った干禁だったが・・・。
前触れもなく、いきなり後ろから頭を殴りつけられた。
「え・・・ぅ?」
何が起こったのか、それが解らず干禁はふらつきながらも後ろを振り向く。
そこには、ニヤニヤと笑う宋憲と魏続、そして何時の間にいたのか侯成まで。
「悪いねぇ、干禁ちゃん。まあ、最初からこうなる予定だったしねぇ・・・さて、少しだけ静かにしてもらうよ」
「あぅ、ぐ・・・」
もしかして最初から敵に通じて・・・?
もう1度、頭を殴りつけられた干禁はその場に崩れ落ちた。
この瞬間、砦は陥落。張遼は完全に追い詰められる事に。

「張遼様!」
「どっせーい! ・・・何や、眭固か?」
張遼は、群がる敵兵を倒しつつも側によってきた眭固へ顔を向ける。
「もう駄目です、砦が落ちました!」
「はぁっ!? まだもう少しは保つはずやろが! 何でそない早く・・・ああ、うざったい!」
張遼もだが、影である眭固も何とか曹軍兵士をあしらっているが多少の手傷は負っている。
「侯成達があっさり寝返ったんですよ! 干禁さんも捕らわれて・・・!」
「ああ?! あの三馬鹿かいな・・・! もうちょい保てばうちが砦入って時間稼ぎできたっつーに。あんの馬鹿どもが・・・」
眭固としても助けたかっただろうが多勢に無勢、手の出しようも無かった。
「どうしますか!?」
張遼は僅かに考えて「眭固、順やんのとこに帰り。」と言う。
「え・・・」
「今まであんがとな。あんたが色々教えてくれたからうちらに被害及ばんかったし。」
眭固は高順の情報を、自分の知る限りではあるが張遼に伝えている。
高順への暗殺が未遂で終わり、危うくも一命を取り留めた事は曹操軍が攻めてくる僅かな前に知った。
西砦に行くようにしたのも、どうしようもなければ曹操軍に降伏させても構わないという意を受けた眭固の入れ知恵も関係していた。
「ははは、うちも行きたいけどなー。干禁の事も頼まれてもーたし・・・順やんの親も何とかせな。それに・・・」
張遼は僅かに視線を落として自分の腹を摩った。
これは閻行と干禁、あと眭固くらいしか知らないことだが、張遼の体には新しい命が宿っている。
間違いなく高順の子だ。
外見上大した変化は無い。
前触れも無く行きなり吐く事が多くなり、閻行に相談したら「もしかして悪阻?」と言われ経過を見ていたが・・・どうも間違いない。
閻行も、それを聞いた干禁も喜んだ。
閻行にとっては初孫になるし、高順絡みで暗い話題が続いていた時の話なので、明るい話題が出来た事は嬉しかった。
張遼も大喜びだったが、お腹の膨らみが目立ち始めた頃に高順に知らせて驚かせてやるつもりだった。
悪阻はそれほど酷くないので戦も大丈夫(ストレスをそれほど感じない)だが、それでも無茶はできない。
この子を産むまで絶対に死ねるものか、と思っているし、高順の驚く顔もみたかったが・・・ここまでのようだ。
この砦の総大将である自分が、干禁を捕らえられたままで逃げる訳にも行かない。
総大将は、何かあったときに自身の判断で責を取るからこその総大将だ。
「ほら、とっとと行き、眭固。」
「・・・くっ・・・」
眭固は身を翻して、走り出した。
一度だけ振り返り「必ず、必ず伝えますから!」と叫んで、後は振り返らずに駆けて行く。
彼の技術であれば、この戦場を脱出出来るだろう。・・・ああ見えて妙に強いし。
見れば、周りにいたはずの配下の兵士も、曹軍の兵も揃って数が少ない。
自軍の兵には「死ぬよりは降伏しーや」と言い含めてあって、それに従ったのだろうと思う。
これほどあっさり片がついてしまったのも最初から勝ち目が無いと思っている兵が多かったのだろう。
援軍さえ来てくれればな、と思うが・・・仕方が無い。
曹軍の兵が少ないのが何故か解らんけど・・・しゃーないな、降伏するか、と思った矢先。
一騎の将・・・曹操がただ一騎でこちらに向かってくるのが見えた。

ゆっくりと馬を進ませ、余裕の表情で向かってくる曹操。
護衛を伴う事なく進んでくるのだから当然余裕はあるだろう。
この状況で、張遼が見苦しく暴れまわる筈も無いと踏んでいたが・・・お互いの距離が10歩程度のところで、曹操は馬の手綱を引いて停止する。
「見事ね、張遼。この規模の砦と少ない兵士、援軍の当てもない状況でここまで保たせるなんて。」
「・・・はん、何が見事や。そっちが本腰入れた瞬間にあっさり崩れたわ。」
張遼は不機嫌そうにそっぽを向いた。
その様子に曹操は少し笑い、さて、と言いなおした。
「降伏しなさい、張遼。ここで死なせるのも、呂布に仕えさせるのも惜しい。貴女の才と能力を、私は高く買い上げるわ。」
「・・・。こっちの条件呑んでくれるなら降伏してもええけど。」
この状況で条件を呑め、というのは尊大。誰であれそう考えるだろうが、曹操は特に考えるでもなく「条件は?」と問い返した。
「1つ目、うちの部下の身柄の安全。部下の家族も同義や。」
当然、干禁も含まれるのだが曹操から言わせてもらえば言われるまでもない話だ。
吸収した兵、民の家族、その土地に住む大部分の人々の生活を保障しなければ為政者足りえない。
「2つ目、曹操。あんた同性愛者やそうやな?」
「ええ。」
あっさりと認め、それが何か?と 曹操は小首を傾げた。
「うちは、あんたの為に働いてもあんたの愛人にはならん。こー見えて操を立てる相手がおってな。ちゅーか妊娠しとるし。」
「妊娠!? ・・・なるほど。ふふ、構わないわ。略奪愛も素敵だけれど、それで叛意を持たれては困るもの。貴女の子供にも危害を加えない、と付け加えておくわ。他には?」
多分、相手は高順だろうな、と予想をつけている。
馬だけでなく女を乗りこなす手管もある、か。やるわね。と妙な感心をしてしまった。
「ほな、これで最後。・・・うち、敬語苦手でなぁ。誰であれこんな話し方しかでけへんねん。」
「・・・。まさか、その話し方を私にも押し通す、かしら?」
「ま、そーゆーこっちゃ。呑んでくれればうちはあんたの為に働く。うちの子、近しい人々の為にもな。どや?」
その条件で忠誠を得るなら安いものだと曹操は笑う。張遼は高順同様に出世とか金銭欲と言うものが薄いらしい。
「聞かれるまでも無いわね。良いでしょう、認めます。そしてようこそ我が軍へ。歓迎するわ、張遼。」
「はん、そー願いたいなぁ。」
苦笑する張遼だったが、一度だけ東の空を仰ぎ見た。
堪忍してや、順やん。と小さな声で呟く張遼の瞳から、涙が一筋すぅっと零れ落ちた。

少し時間が経ち、小沛の戦いも大詰めを迎えていた。
劉備は単独で攻めることになってしまって相当な苦戦を強いられていた。
というのも、西砦を落として干禁・張遼、ついでに三馬鹿を配下に加えた曹操の動きが急に鈍くなったからだ。
曹操としてみれば張遼と干禁を得た時点で満足していたし、高順に対しては夏候淵を派遣して抑える予定だった(高順が生きている事を張遼の言で知った)
いわば、劉備と呂布の戦いは無視されたことになる。
投降兵の傷の手当や戦争時の簡単な部隊への組み入れ編成で多少の時間を必要としたのもまた事実だ。
が、砦を一週間程度で落として、そこに長期間滞在しているのだから曹操の魂胆は丸見えである。
「自分の力で何とかして見せなさい」と言うのだ。
準備が完全に整っていなかった事、出来れば敵対をしたくなかったという劉備の考えもあって小沛攻略は苦戦しているといってもいい。
呂布がそれほど本気を出さなかった事で何とか互角に保っていた。
呂布軍(小沛)の兵力は2万程度しかないがほとんど篭城を決め込んで、外に出るのは華雄や徐栄。呂布に僅かな兵士のみ。
それでも関羽・張飛を擁する劉備軍を苦戦させるのだから鬼神の名は伊達ではないと言うところか。
小沛攻撃部隊は3万ほど。残した1万のうち、後詰で5千ほどを繰り出したいところだったが・・・。
ここで高順が「偵察」と言って200ほどの騎兵を下邳に繰り出して、小競り合いをすることも無く帰還させる、ということを行っている。
これに対し、留守として下邳に残っていた陳到と諸葛亮は「何を企んでいるのだろう?」と高順の本意を疑った。
呂布に対して積極的に救援をするわけでもなく、かといってあっさり見限るような真似をせず・・・。
もしかして、こちらが後詰を出すのを待って手薄になったところで攻めてくるのか? と思ったのだ。
諸葛亮も陳到も同数の兵で高順に勝てるとは思わない。
それに、前政権下である下邳をほぼ独力で落としたのも高順だと聞いている。
高順は下邳の弱点となる場所を知っているということになり、これでは動けない、と諸葛亮が考えたのも無理はない話しだった。
ところが、高順としてはそんなつもりは全く無い。
下邳に残された部隊の動きを1日でも停止させれば上出来だ、ということでしかない。


「・・・まだまだ。」
「ぜぇ、はぁっ・・・つ、強いのだー・・・」
呂布の振るう放天画戟を避け、いなして、時には蛇矛で受け止めて。
張飛は何とか1人で呂布を押さえ込んでいた。
関羽は、というと華雄との一騎打ちを行っている最中だ。
張飛とは違って有利に進めているようだが、楽勝と言うわけには行かない。
攻撃力だけ見れば華雄のほうが上回っており、諸に喰らえば関羽も「ただではすまない・・・」と、覚悟をさせる程の腕なのだ。
この数日間、何度も呂布と華雄に陣をかき回され、苦戦を強いられている劉備軍。
そろそろ2人を無力化させて勝負を決めたいところではあるが・・・時刻は既に夕刻。
両軍の陣(呂布側は城だが)からは引き上げの銅鑼が鳴る。
「・・・引き上げ。」
あっさりと踵を返す呂布。
張飛は引き上げ合図を無視して追いかけようとするが、体力が残っておらず足元がふらついている。
呂布は全く気にすることなく少数の兵を纏めて帰還していった。
「ぅー・・・! また勝負が付かなかったのだー!」
と、強がりを言う辺り、張飛はまだまだ子供である。
華雄・関羽はというと。
「ぬぐぐぐぐっ・・・!」
「ぐぎぎぎぎっ・・・!」
お互いの得物を叩きつけあって延々力比べをしていたとか。(何をしているのだろう?)

善戦する呂布軍だが、張遼と同様に兵が保たなくなっている。
援軍の見込みもなく、無理からぬ話。劉備側もそこそこに被害が出ているものの、呂布軍が限界に近いことを(鳳統が)看破しており、駄目元で「降伏勧告」の使者を出した。
「・・・きた。」と呂布はその使者を受け入れ、口上を聴いてみることにした。
華雄は何とか帰還できたが傷だらけ。張兄弟も董卓と、ついでに賈詡を守らなければならないので出撃が出来ない。
徐栄も連日の戦闘で負傷しているし、陳宮や曹性は弓兵の指揮をして怪我をしているわけではないが、やはり疲労が激しい。
さて、使者の言い分だが・・・。
「これ以上の戦は無益。このまま降伏してくれれば、呂布を始めとした将兵の罪を問わず、身柄の安全は確実に保証する。将軍達も重く用いる事を約束云々・・・」と、ありきたりな内容である。
ここは呂布のねらい目でもある。高順の言うとおり、苦戦させれば何とか収めようとするというのは誰でも考える。
いきなり白旗をあげても向こうは信用しない。ある程度苦戦させた状態と、こちらの戦力が磨り減った状態。
それを鑑みれば降伏勧告は誰にでもわかる手段だった。後はそれが通用するかどうかだが、その賭けは成功しつつあるらしい。
ただ、呂布は劉備からの降伏文書に1つだけケチをつけた。
「・・・これじゃ、駄目。」
「は? 駄目、とは・・・?」
意味が解らず聞き返してくる使者に、呂布はこう付け加えた。
「これじゃ足りない。小沛の・・・民の安全に言及が無い。民の身の安全も保障して。」
「は・・・ははっ、申し訳ありません!」
「・・・?」
慌てて引き返す使者だったが、呂布は「何故使者が謝るのだろう?」とか思っていた。
結局、呂布の言う条件で降伏が決定。(劉備も慌てたらしい)
呂布勢はそれほどの被害を出すでもなく、きっちりと自分達の力を売り込んでから劉備軍の中での立ち位置を確保したのだった。
華雄・張兄弟は何となく不満だったが、「ここで無駄死にするよりは」と不承不承ながらも納得してくれた。
董卓や賈詡も処刑される事なく生き延びる事ができたが、その名で通す訳にもいかず、真名で過ごす事を余儀なくされる。
が、呂布に保護される事になったので、十常侍の時よりまだマシと言うところだろう。
董卓らの名がこれ以降歴史に出ることは無かったが、悪くない待遇で静かに過ごす事ができた分、幸せだったのかもしれない。
賈詡は何もかもが不安であったが、呂布から「信頼できない人物が軍権を握るのは見過ごせない。貴女はここまでにしておくべき」と言われ、むっつりと押し黙るしかなかった。
さて、残るは広陵。
高順は西砦と呂布が降伏したことを影の報告で確認してから、まずは李典・闞沢。蹋頓に閻柔と田豫もつけて輜重部隊4千(戦えないわけではない)ほどを任せて城外南西に進ませた。
広陵の総兵数は7千ほどだが、うち2千は残留。
脱出する軍勢は5千程度なので残留組を除けば残り1千ということになる。
船を使用しないので直進で南に向かう事ができず、南西の寿春方面へ進み転進。秣陵方面へ進み南下・・・というのが高順の考えたルートだ。
袁術や劉表といった勢力となるだけ係わる事のないように、という事でもあるし、現状の江南・江東は戦力、兵力共に傑出した勢力が少ない。
中小勢力が食い合う群雄割拠状態であった。
そこを抜けて交州へ行くか、経由するだけに留めて益州に行くか・・・そこまでは決めていなかった。
ともかく逃亡用意だけはしておいたが、そのまま逃亡するのは配下武将全員が不満であった。
曹操・劉備にこの数で勝てるとは思わなかったが、一矢を報いても良いのではないか、という意見がチラホラと出ている。
高順もその意見には賛同したかったが、もしも出てくる武将が夏候姉妹だったら・・・と考えて一応「考えておく」程度に返したのみだ。
ちなみに、下邳の諸葛亮にも「呂布さん降伏させたよ!」という劉備からの報告を受けて「では、我々も広陵に向かいます」と部隊を進発させた。
別に真正面から戦うつもりはない。
劉備、或いは曹操軍が来るまで高順隊を広陵に封じ込めておこうと言う当初の予定だった。
偵察部隊を見て「何を考えている?」といぶかしんだ物だが、そこから更に何かがあったわけではなく「只の脅しに過ぎなかった」というのがすぐに解った。
それでも無闇に出兵をしないのは諸葛亮の慎重さだが・・・。
留守居に陳登らを残し、諸葛亮は陳到・糜芳を伴い6千の兵で広陵へ進発。
曹操軍に先を越されると後々困る状態になりそうなので、昼夜兼行で急いだ。これによって、僅か1日程度の差で夏候淵の先を行くことに成功している。(位置的に見れば下邳のほうが広陵に近い
城攻めが出来る戦力ではないが、陣地を作り封じ込めてしまえば篭城する以外に手はないはず。こちらが劉備・曹操の軍勢と合力すれば、高順には降伏する以外に取れる手段は少ない。
華雄や呂布が降伏を呼びかければ、その可能性は更に高くなるだろう。
オーソドックスなやり方で考える諸葛亮だったが、彼女は1つだけ思い違いをしていた。いや、忘れていた。
虎牢関で見せられた高順隊の戦いを。
高順・趙雲と言った人々は劣勢な状況であろうとも、好機と見れば攻めかかっていく性格の持ち主である事を。



~~~広陵付近西側、劉備軍陣地~~~
夜は更けて。
見回りの兵士が行きかう劉備軍の陣地。
陣地と言っても、防御柵はほとんど無い。陣幕を多数張って、広陵側に対し僅かな柵を向けているのみ。
諸葛亮が陣を張ったのは広陵の北ではなく西だった。
その更に南西に李典ら先発部隊が存在しているがそれには気付いていない。
西に陣を張ったのは、広陵に向かってくる劉備、或いは曹操軍と少しでも早く合流、合同で攻撃態勢を整える足場を作りたいからだ。
もっとも、昼夜兼行で急いで向かった事もあり、大多数の兵士は疲れている。
それなりの兵数を見張りにして奇襲を受けた際の対抗戦力としているが、諸葛亮自身はまだ子供なので夜更かしが出来ない。
そんな子供が軍師の1人と言うのは周りから見て侮られそうなものなのだが、不思議と劉備軍ではそんな評価は出ていない。
頭も良いし、統率力もある。幼いながら、懸命に自分の役割を果たそうとする姿に尊敬の念を抱く者が少なくない。
彼女の統率力は「自軍から逃亡者を出さない」統率力であって、「戦術と言う意味」の統率力は正直に言えば低い。
戦場で敵を陥れて勝利するというものでは同じ軍師である鳳統には敵わないだろう。
諸葛亮の本質は治世家であるし、そのような事で人と張り合うような性格でもないから問題は無いのだろうけれど。
だが、悪い癖があるもので・・・詰めが甘い、というところがあった。
相手の数が少ないせいで勝ちを確信。或いは篭城するしかないと考えて逆襲されるという事がちょくちょくあるのだが・・・
陣地に喧騒が走る。
僅かに響く、そして次第に大きくなっていく馬蹄が鳴らす地鳴りと黒い影。兵士の声。叫び、怒鳴る声が響く。
「何だ、何が起こった! ・・・あれって、まさか・・・?」
「おい、広陵の軍勢は篭城しているはずじゃないのか!」
「俺が知るか! とにかく、軍師殿や陳到将軍にお知らせして・・・!」
「冗談じゃないっ! 広陵軍が出撃だなんて誰が思うよ!?」
「うわわ・・・来るぞ!」
「弓! 弓隊は・・・くそぉ、間に合わん!!!」
兵の怒鳴り声に起こされて諸葛亮が「ん~・・・」と、目を擦りつつ己の陣幕から出てきた。
彼女の陣幕は後方にあるのだが、そこまで喧騒が響くという事は一気に陣深くまで斬り込まれたか、兵が油断をしすぎて後方にまで動揺が走ったのか。
既に戦いは始まっていて陳到が防戦指示を出しているが、歩兵ばかりの、しかも疲労している劉備軍。
広陵から出撃してきた部隊は攻撃、機動戦を得意とする騎馬兵主体。劉備軍の守備陣系もあっさりと破られて、あちらこちらの陣幕が焼かれていく。
まだ何が起こっているのかよく解らない諸葛亮だが、彼女の姿を見た兵士が「ああ、ちょうど良いところに!」と駆け寄ってくる。
「うにゅぅ・・・なんでふかぁ? 何が・・・う~~~・・・」
「ぐ、軍師殿! それが・・・って寝ないでください!?」
兵士は、油断しているとまた眠りそうになってしまう少女の肩をガクガクと揺らして、何とか眠りを醒まさせようとする。
「はぅっ・・・んぇ? ぇーと・・・? この騒ぎはなんでふか・・・」
「それが・・・その! 敵の奇襲です!」
「・・・ふぇ? 敵襲?」
「はい、広陵軍が!」
「・・・。・・・え? 広陵・・・えー・・・え? ほ、ほんとに?」
眠りこけていたせいで駄目駄目だった頭の回転が少しずつ回ってきたらしい。
「はっ! 出撃してきたのは・・・部隊の数は不明ですが、率いるのは巨馬に跨る髑髏龍の武者・・・か、陥陣営ですっっ!」
「え・・・えーーーーーーーっっっっ!!??」







~~~楽屋裏~~~
もう疲れたよネロ(?) あいつです(挨拶
あっさり描写で終わらせてみたYO!
先生と董卓ですが、これまで言った通り、後は名前しか出てこないでしょうw

え? にんしん? 何の事か解らないなぁははは(乾いた笑顔





~~~番外。本筋に組み込む訳でもなし。~~~
「そう、か・・・張遼さん・干禁も降伏。呂布や華雄姐さんも劉備の降伏勧告に応じたか。」
広陵城の大広間。ここで眭固ら影部隊の報告を、高順は頷いて聞いていた。
他に、干禁以外の高順一党、陳羣、闞沢。全員居る。
いつも三人で行動してしまい同然の仲である楽進と李典は辛そうに顔を歪ませている。
他にも張遼、華雄・・・高順一党とは縁の深い人々。
その全てが無事に、というのもおかしいかもしれないが降伏して命を永らえた事には安堵している。
だが、高順は「すまない・・・」と思い、その意を仲間に伝える事しかできなかった。
もっと早くに行動していれば何とかなったかもしれない。何ともならなかったかもしれない。
だが、自分は全力で事態を解決しようとしていただろうか? と自分を責めている。
趙雲も「どうしてこういう時に頼りないのか」と嘆息してしまうが、彼の置かれた状況に同情する気持ちもあって複雑そうだ。
他の沙摩柯・蹋頓と言った人々はそれほど複雑な思いは無い。
人の縁などなるようにしかならないと考えていたし、彼女達は高順に拾ってもらわなければ今頃どうなっていたか解らない。
自分たちの人生全てを高順にかけている彼女達は、どうなろうと最後まで高順の後ろに続く覚悟を持っている。
ただ、そこで眭固が「それと!」と大声で報告を続ける。
「ん・・・何だ、まだ他に何か?」
「はい、その・・・このような状況で言うのは良くないとは思うのですが。」
「? 何だ、些細な事でも構わないぞ?」
一応の了解を得た、とばかりに眭固は「んんっ」と喉を鳴らす。
他の人々も「一体何が?」と報告を待っている。
「張遼様の事なのですが」
「張遼さんの・・・」
それまで跪いて報告をしていた眭固が顔を上げ「張遼様が、高順様のお子を身篭っておられます!!」

「(゚Д゚)」←高順
「ほほぅ。」←趙雲
『(゚Д゚;)』←楽進&李典
「あらあら」←にこにこ笑っている蹋頓
「ああ、何だ。こういう事態で何だがおめでとう」←沙摩柯

他の人々も苦笑しつつ「おめでとう」と言ってくれる。
だが、高順は硬直したまま動けないでいた。
・・・妊娠? 張遼さんが? 俺の子? 俺の・・・。
と、呟いてからそのままフラフラと大広間を出て行こうとする。
皆が(あれ?)と思った。こういうときにはありがとうと言いそうな高順なのに。
すこし不審に思った趙雲が「こ、高順殿・・・いかがなされた?」と問う。
その問いに高順は振り返って「ん、ちょっと曹操に喧嘩売ってくる。」と言ってすたすたと歩いていく。
その場にいた全員が「はぁ。」と返事をしてしまったが、瞬間「いやいやいやいや!?」と頭を振った。
「ちょ、まっ! 何言ってるんですか隊長!?」
「せやで、逃げる言うたんは高順兄さんやろ! 何あっさり方針転換しとるん!?」
「お待ちなされ! というか落ち着いて!?」
趙雲やら楽進やらが高順の体を抱きかかえて引き戻そうとする。
「はーなーせー!!!!」
「離しませんーーーー!!!!!」
はなせ、はなさない、と問答を続ける高順らを、周りはどうしたものかと思ってみていたが、そこに蹋頓が近づいていく。
「高順さん、落ち着いてください。」と言うが「これで落ち着けるわけ無いでしょう!」と返される。
まあ当然でしょうね、と思う。が、蹋頓はやおら低い声で「お願いですから落ち着いてくださいね。さもないと。」
その声に楽進や李典、趙雲でさえ背筋に「ぞわっ」と何かを感じた。
(これ・・・は、ま、まさか・・・)
感じるどころか、体に震えと寒気が走る。
そんな彼女達の反応は捨て置いて、蹋頓は笑顔でこう言った。



目と耳に、どろどろに溶けた錫(すず)を流し込みますよ・・・?




『ごめんなさいもうしませんごめんさい!!!!!!』
その凄まじい何かに圧倒された高順は勿論、何故か沙摩柯以外の全員が蹋頓に土下座して謝っていた。
高順は純粋にその迫力に負けて謝ったのだが、他の人々はすっげぇ震えっぷりである。
臧覇など、広間の端っこで膝を抱えて座り込み「怖いよぅ・・・蹋頓お姉ちゃんが怖いよぅ・・・」とガタガタ震えている。
「ごめんなさい・・・手足(ry」
「あんな叫びを聞くのはもう御免だ・・・(涙」
「うう・・・もう、あかん。泣きそう・・・」
「あの断末魔が聞こえてくる・・・あの悲痛な叫びが・・・体ではなく心を殺すあの手管がぁっ・・・」
だの、高順には意味の解らない何かであった。
多くの人々が震えて泣いて許しを乞う中、楊醜が天井裏からすっと現れた。
一度は外したものの、流石にこの状況で無視は出来ない・・・と、高順は影を下邳と小沛に配置。色々と情報を探っている。
小沛は既に落ち着いたので(そうでなければ眭固らが帰ってこない)下邳を重点的に調べさせていたが何らかの動きがあったようだ。
「高順、情報だ・・・下邳から5・6千ほどの軍勢が進発したぜ。目標はここ、広陵だ・・・」
「・・・そうか、解った。」
恐怖心を何とか押さえつけて、高順は考え始めた。
曹操に挑むのは無理だが、劉備軍なら。
「楊醜、率いるのは誰だ。あんたの見立てじゃどれくらいでここに到達すると思う。」
「・・・率いるのは諸葛亮、あとは聞いたことの無い将軍だな・・・。ここに到達するのは・・・そうだな、急いでるようだったから2・3日もかからないと思うぜ。」
「2・3日ね・・・ふむ。」
趙雲や楽進には、この時の高順が活き活きとしているように見えたらしい。
張遼の事で気がたっていた事もあるだろうが、高順は劉備陣営に手痛い仕返しを仕掛けてやると思っている。
あいつらさえ来なければ・・・という気持ちもあるようだ。
劉備本人にそんな悪気があった訳ではない、というのも理解しているのだが何と言うか間の悪い動き方をして色々と自分達に不利な動きをしてくれた。
それに、諸葛亮は政治家・或いは軍師という立場で元々慎重な性格。
自分から積極的に攻撃をすることは無いだろうと思うし、兵力差を考えて「広陵の軍勢は篭城以外に手は無いはず」と思い込む可能性も高い。
軍を急かしているともいう。
確かに西から来る曹操・劉備が加われば篭城・降伏しかないが、急いで疲労した軍勢、咄嗟の判断や奇策と言ったものが不得手な諸葛亮。
徐州政権時に劉備に加わった内政官は多いだろうが、まともな武将はいなかったはず。
相手の鼻先に軽く拳打を食らわせてやることは出来るな、と高順は素早く考えた。
「李典。」
「ほいなっ」
高順の呼びかけに、李典は元気よく答えた。
「輜重隊4千を率いて南西に進め。当初からの逃亡予定路に沿ってな。臧覇ちゃんと闞沢・・・蹋頓さんと閻柔、田豫も連れて行くんだ。」
「了解や。出るんはいつがええ?」
「早ければ早いほど、かな。輜重が主だからそれほど早く進めないとは思うが・・・あと、曹操軍にぶつかれば降伏しろ。」
「えっ? ・・・せやけど」
「そこまで早く包囲されるなら諦めもするさ。逃げの一手を打てない状況で逃げるつもりも無い。」
だが、逃げが通用するなら俺は曹操から逃げるけどな、と自嘲的に言い置いて「さ、早く」と李典を走らせた。
名前を呼ばれた蹋頓達も李典の手伝いをする為に広間を出て行く。
それを見送って、趙雲が高順のほうへと顔を向けた。
「して、残された我々は?」
「ん? ・・・はは、決まってるさ。逃げを続けて、鬱憤の溜まった趙雲殿を残したんだ。どういう意味かはわかるでしょう。」
高順の言葉に、趙雲に獰猛にも見える笑みを浮かべ鷹揚に頷いた。
「さて、行くか。」と高順も広間を出て行く。
やるべき事をやる為に。









~~~もういっちょ楽屋裏~~~
これ、高順が諸葛亮と言うか劉備に喧嘩売る前のお話です。
ちょろっと思いついたものの、組み込めそうな場所が無かったので番外にw

錫云々は、どこぞのチンギスがどこぞの捕虜に・・・モゴモゴ
とーとん姉さんというか、烏丸はモンゴル系の騎馬民族なのでそれにかけただけ・・・


最初は曹操に喧嘩売ろうとしたようですが、それはどうも無理っぽいということで、先に到着するであろう諸葛亮に、ということですかね。
同時に、「俺は逃げれるところまでは逃げ続けるよ」という後ろ向きな行動ですなw


それではノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第66話 窮鼠、猫を噛む(?)。その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/11 11:24
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第66話 窮鼠、猫を噛む(?)。その2。


「防げっ、これ以上は行かせるなぁっ!」
劉備軍の将である陳到の叫びが陣地に響く。
広陵西に展開された、諸葛亮率いる劉備軍の陣地は混乱状態に陥っていた。
夜影に紛れて仕掛けてきた高順隊に、強行従軍で疲労していた兵士が対応できないのだ。
見張りは居たし、広陵軍が突撃を仕掛けてきたのもすぐに陣地内に知れたはずなのだが、やはり兵の動きが鈍い。
その鈍さを嘲笑うかのように、趙雲と楽進率いる騎馬隊500ほどが陣地に斬りこんで行き、暴れまわっていた。
高順隊の兵は、鎧の上に羽織のようなものを着込んでいてそれを目印にしている。
その羽織を着ていないものは、全て敵。
目に付くものは片っ端から攻撃、いや、蹂躙するような激しさであった。

「ふんっ、脆いな・・・」
趙雲の一撃で数人の兵が蹴散らされて、周りに展開している兵も怖気づいて逃げていくばかり。
手応えのないことと言ったら。
「仕方が無いでしょう。こちらの数は少なく、劉備の兵は多い。この状態で奇襲を受けるとは・・・しっ!」
何となく物足りなさそうな趙雲の隣にいる楽進が気弾を劉備軍の陣幕に投げつけた。
気弾に粉砕された陣幕がガラガラと音を立てて崩れていく。
土煙がもうもうと立ち上がり、少しくらいの目くらましになるだろうし劉備軍の兵は混乱の度合いを含めて逃げ回る者も多い。
それに乗じた配下の騎兵部隊も思うままに暴れまわっているが、あまり時間をかけて戦うべきではない。
「よし、集合。高順殿の部隊に合流する! ・・・その前に、置き土産を。」
趙雲と楽進、兵士達は馬の背に油を染み込ませた藁の束を括り付けていた。
それをそこかしこに投げ捨て、一気に陣を南へと抜けていく。
その途中、陣の要所に立てられている篝火やら松明やらを地面に叩き落したり、その火を利用して火矢を仕立てて後方に撃ち放つ。
藁に引火し、多くの陣幕が焼かれて兵士達も慌てているようだ。
応戦する兵士と、延焼を防ぐための消火活動をする兵士とに別れてしまい、ただでさえ鈍かった高順隊への反撃が更に鈍る。
高順隊の騎兵は騎射を行えるように訓練をしているのだがそれが大いに役に立ったというところだ。
趙雲と楽進は「この隙に」と一気に南への突破を図る。
「くそ、速い・・・! 構うな、適当で良いから撃ちまくれ!!」
陣の南の守備に回った糜芳(びほう)の号令に、劉備軍の兵士は矢鱈滅多に矢を射掛けるが、全く当たっていない。
その上に、後方で火災が起こって兵士の動揺が大きくなる。
「ええい、こんな時に限って・・・北の部隊は何をしている!」
「そ、それが・・・斬りこんで来た騎馬隊に蹴散らされて・・・」
兵士の言葉に、糜芳はかっとなって怒鳴る。
「その上に放火をされたというのか!? 見張りは何を・・・ん?」
糜芳が北を向いた瞬間。まさにその放火をして回った騎馬隊がこちらに向かってきた。
「・・・は? ま、待てっ、誰か奴らをt「雑魚はどけぇっ!」あわちっ!!」
「糜芳さまー!?」
先頭を進んできた趙雲の馬に蹴倒され、吹き飛んでいく糜芳。
後方から突撃してきた彼女たちの猛進を、このような状況で止める士気も手段もあるはずも無く。
兵たちは趙雲らに道を譲るように逃げ回るのであった。

趙雲達が目指す南には沙摩柯と高順の率いる騎馬隊500が陣に沿って西へと進んでいた。
高順は傷の痛みのせいで全力で戦うことは出来ない。その為メインで戦っているのは沙摩柯だ。
とは言え、牽制程度であって接近戦を仕掛けているわけではない。
高順自身は騎射を行うのだが、超雲達がそろそろ南へと突破してくる事を見越して緊急で編成された戦車隊へと近づいていく。
戦車と言っても、馬2頭に引かせる屋根の無い馬車・・・荷車に近い。本来その荷車には御者と槍・弩で武装した兵士が乗って居る。
だが、この時代では戦車部隊は廃れた存在であり、軽騎兵のほうがよほど戦力になる。
それでも編成をしたのは「荷物を運べる」からだ。
戦車隊は陣形の、できるだけ攻撃を受けないよう位置に配置されている。
そして、その荷車には兵士だけではなく大きな油壺が乗せられていた。(兵士達の腰にも小さな油壺が括り付けられている。
高順は(危なっかしいが)油壺を抱えあげて劉備軍の陣へ近づいていき、油を撒き散らし始めた。
力のある者も高順同様に陣へと油を撒き散らし、他の兵士達も次々に小さな油壺を劉備軍の陣へと放り投げていく。
陣、というより木の柵を多少巡らせた程度。劉備軍も守りを固めて柵から外には出ようとしないが、油を仕掛けられた事で「不味い」と感づいて北へと後退していく。
それを見届けて、高順は「よし、一斉射撃用意・・・放てっ!」と命令を下す。
その声に応じて、騎馬隊は一気に火矢を放つ。陣幕、油の撒かれた場所、若しくは劉備軍の兵士に。
陣の中央付近と南西部分に炎は広がり、劉備軍は反撃どころではなくなっている。
一部の兵は矢で応戦しているが、火に阻まれて有効射程内に上手く入り込めない状況だ。
そこに趙雲らが高順隊本隊と合流して一気に南西へと駆けていく。

諸葛亮は、この状況で「はわわ、はわわ」と慌てふためいていた。
一気に本陣を突破する勢いで迫ってきたのにあっさりと向きを変えて、南側で牽制をしていた部隊と合流。
あちこちで放火魔よろしく火を放ちまくるわ、陳到はともかくあっさりと糜芳が轢かれるわ。
最初は突破を仕掛けてきた部隊に高順が・・・つまり本隊だと思っていたのだがそれは間違いだったようだ。
あの性格からして絶対に自分から突破を仕掛けてくると思ったものだが・・・。
深読みしすぎて自滅する、という典型的な状況であった。
しかも、焼かれた陣幕の中には一部だが軍需物資・食料を集積しているものもあって、割と洒落にならない打撃を蒙っていたりする。
人的被害はさほどのものではないが物的被害が大きい。
木の柵もあっさり焼かれてしまって勿体無い事になってしまった。
(今から追いかけても間に合わないし、しかも食料を一部焼かれてしまっているし・・・)
今まさに目の前を通り過ぎていく高順隊を、諸葛亮は「はぅう・・・」と見送る事しかできない。
一撃離脱、という言葉通りの機動戦を仕掛けられ、自分は何も出来なかった・・・と彼女は反省した。
陥陣営という名は伊達ではない。虎牢関での戦いは偶然でも何でもなかった。
こんな戦い方を出来る武将は劉備陣営にはいない。
放っておけば自壊した呂布さんよりも、高順さんに狙いを絞るべきだったかな・・・と今更ながらに痛感し、そして惜しんだ。
そんな事を思う諸葛亮だったが、このときの彼女は気づいていなかった。
一人の女性武将が、矢の照準を自分に合わせていたことを。

(ふん、あの小娘・・・確か諸葛亮と言ったか?)
沙摩柯の双眼は諸葛亮を見据えていた。
両者の距離は相当に離れているし、当てられるとも思わない。
少し脅してやるさ、という程度のつもりだった。
彼女の弓は複合弓(コンポジット・ボウ)だ。当初は長弓を愛用していたが蹋頓に「こちらに変えてみては?」と贈られた物である。
作り方が難しいらしいが、烏丸(モンゴル系騎馬民族)出身の蹋頓はそれらを熟知しており、高順達にも教え、または贈っている。
普通の弓よりも威力・射程が上昇していて、高順も密かに「これを量産したいな)と思わせる出来だった。(ロングボウでも良いかもしれないが、それを扱うには相当な腕力を必要とする。)
そんな複合弓で、諸葛亮を狙い・・・一矢を放ち、結果を見ることなく視線を戻して一気に駆けていく。



結果その一:諸葛亮が被っている帽子に命中しました。
結果その弐:諸葛亮が「はわわっ・・・」と呻きつつ漏らしました(NANIを?)
結果その参:諸葛亮は陣を北に移しました。



~~~広陵城壁上~~~
陳羣は、劉備軍の陣をあっさりと抜け南西に駆けて行った高順隊を見送り「行ってしまわれたか」と嘆息した。
何というか。あれだけの機動戦と攻撃能力を持っていながら曹操・劉備から逃げるのは勿体無いな、と思わずにいられない。
もしも彼が何の抑圧もなく兵の増員をして調練を滞りなく・・・と色々と考えてすぐ「馬鹿らしい」と頭を振った。
高順と言う人は不思議な人だった。本当にそう思う。
自分は大したことが出来ないから、と政治を割り止る投げしていた彼だったが、陳羣も人の子。
幾ら優秀とは言えミスを犯すこともある。
彼女に限った事ではなく、例えば楽進が建設工事でうっかり資財を壊してしまったりということもある。
李典のカラクリが暴走して部屋が使い物にならなくなったりと言うこともあった。
そういう失敗をすれば、太守として彼女達を処分しないといけない立場の高順だったが、殆どと言っていいほど怒る事はなかった。
大抵「次は上手くやってね」程度だ。
人に怪我をさせたり、それで重傷を負ったりと言うことには怒りもするが、小さな失敗には目を瞑っているのだ。
根が真面目な陳羣は自分から「罰して欲しい」と幾度も言ったが高順はやんわりと「それには及びませんよ」と応えている。
賞罰をはっきりさせないのは太守としてふさわしくありません! という苦言も呈したがそれに関しては聞いてくれなかった。
高順曰く「壊れたのなら直せばいいんです。多少のお金で済むうちは問題ありませんよ」とだけ。
それに、と前置きしてから恥ずかしそうに「俺がやるよりはマシだったでしょうしね。」と笑う。
だが、人の生き死にに関る事は相手が誰であれ怒った。
命ほど取り返しの付かないものはない。高順はそう言いたかったのだろう。
命は消費物として消えていくこの時代。彼自身も武将として命を消して、散らしていく立場なのに。
命を大切なものとして扱おうとしているのだから、やっていることと言っていることは逆である。
それでも、高順は自分の回りの人々の命をただ消費していくだけのものとは考えなかったのだ。
甘いなと思いつつ(もっと平和な時代であれば良き治世者として名を遺されただろうに)と考えずにはいられなかった。
それに、と彼女は託された書状に視線を落とした。
これはつい先ほど、というよりも彼らが出撃して行く前の話。

「陳羣さん、これを。」
高順は、陳羣に紐で封じられている一枚の書状を渡していた。
「・・・これは?」
「曹操へ充てたものさ。降伏したら渡して。」
彼女の問いに答えて「それと」と太守の印綬も渡す。
「ですが・・・これを預かると言うのは。」
「構わないさ、俺はもうここの太守じゃないし・・・太守としても失格だしね。陳羣さんに預けるべきだと思う。」
陳羣は、劉備ではなく曹操に降伏するつもりだった。
今の状況を呼び込んだ一因に劉備があるし、どうも彼女の事を好かない。曹操も同じだが、劉備よりもよほど政治を理解している事を鑑みればこの決断は当然とも言える。
物事を好き嫌いで判断するべきではない、というのが身上の陳羣には珍しい事である。
「でもさ、何で曹操を選ぶのさ?」という高順の問いに「曹操殿のほうがよほど為政者として理解できますし劉備に徐州を治める器量があるとは思えません。それに、私は何度かあの方の治める陳留を見た事があります」と返した。
そっか、と高順は笑ってから陳羣に頭を下げた。
いきなりの事で、普段はあまり驚きの感情を出さない陳羣も慌ててしまう。
「え。こ、高順様!?」
「今まで良く仕えてくれました。貴方のお陰で、太守としての仕事を何とかこなせました。本当にありがとう。」
「そ、そんな事。」
頭を上げた高順は「貴女の才覚であれば曹操も無碍には扱いませんよ。」と笑う。
「それじゃ、お元気で。民と兵の事を頼みます。」ともう一度頭を下げてから、高順は歩いていく。
「高順様・・・。」
「へ? 何です?」
振り返った高順に、陳羣は一つの疑問を投げかける。
「何故、曹操ではいけないのです。貴方ほどの方であれば、武官としても厚く遇されるでしょう。それの何に不満が・・・?」
「・・・んー。そうだなぁ、上手く言えないけど。」
高順は顎に手を当てて、言葉を選んでから続ける。
「曹操さんは、陳羣賛の言うとおり為政者としても統率者としてもこの国一番の人だと思う。恐らく、最大勢力になるのだろうね。」
「そう思っていらっしゃるなら、なおの事」
「でも、俺は御免だ。あの人は優秀だ、それは解る。でもね、あの人は自分の周りの人にも優秀である事を求めるんだ。」
「周りの人に・・・ですか?」
「そ、自分が優秀すぎるし周りが優秀である事も当然であると思っている。そうなるとどうなる? 優秀でない人は生きていけない、そんな話なんだよ。」
「ですが、高順様は優秀です。周りの方々も。」
「どうかな? どちらにせよ、俺は嫌だね。優秀でなければ身の置き所が無いような、堅苦しい所は。・・・優秀であっても過労死するかもしれんし。」
「え``?」
過労死って・・・そ、そこまで? と陳羣は冷や汗をかいた。
「ま、陳羣さんなら大丈夫。じゃあ、俺はこれで。民の事、兵の事・・・お願いしますね。」
「はい。・・・どうか、お気をつけて。」
今度こそ去っていく高順の後姿に、陳羣は頭を深く垂れ、拱手をして送った。


曹操への手紙については「何が書いてあるのだろう?」とは思うが、それは降伏した後に解るだろう。
とにかく、曹操かその配下の軍勢が来るまでは広陵を守らなければならない。
(まあ、劉備軍も数は少ないから一気に攻め寄せてくる事はないでしょうけど)と思うが、油断をするつもりは無い。
実際に諸葛亮らが攻めてくることは無く、この翌日には夏候淵が到着。
「夏」の旗を見た陳羣は、あれは曹操軍の夏候惇かその妹の部隊だな、と即座に理解。
劉備軍ではなく夏候淵・・・曹操に大して降伏を願うために自分から出向くのだった。
それを受け入れた夏候淵は諸葛亮に「広陵を攻めないように」と伝令を送り、曹操の着陣を待つことにした。
曹操がやってくるのは数日後の事になる。



~~~南西へ駆けていく高順隊~~~
奇襲攻撃を行った彼らだが、被害が無い訳ではなかった。
と言っても数人が怪我をした程度であるし、そもそも大規模な戦ではないので劉備側も大きな打撃を蒙ったという訳ではない。
彼らは一気に南西へと向かって、先行している李典達との合流を急いだ。
その途上、趙雲と高順のお話。
「・・・無事に突破できたようですな、高順殿。」
趙雲は高順の隣に馬を寄せて話しかける。
「だと良いけどね。・・・ねえ、趙雲さん。」
「何ですかな?」
少しだけ躊躇して、高順はこんな事を言った。
「俺の事、見捨ててくれても構わないですよ?」
「・・・はぁぁ?」
高順も内心で感じていたが、趙雲はこの頃の高順の方針に微妙に反発していた。
何時までも曹操・劉備から逃げようとする姿を見て「情けない」とまで言っているし、そう思われるのなら離れても文句は言わない、ということだ。
「趙雲さんなら、俺よりもよほど才能も実力もあるしね。良い武将と言うのは良い主君を探し「ごちんっ!」おぶぱぁっ!?」
「馬鹿な事を言わないでいただきたい。殴りますぞ?」
「・・・今殴ったよね。しかも槍の柄で・・・(吐血」
事後承諾ではないが、殴った後に言うのは横暴である。
「高順殿、もしかしてとは思いますが・・・貴方、私をそこまで薄情な人間だとでも?」
「・・・。」
『・・・。』
「おや?」
趙雲の言葉に、高順だけではなく彼の側にいた楽進や沙摩柯まで押し黙った。
皆、こう思っていただろう。
(薄情じゃないんだ・・・?)と。
皆の沈黙を肯定と受け取った趙雲は、引きつった笑みを浮かべる。
「・・・。成程、私がどのように思われているかよぉぉく解り申した。」
「いや、別にそうとは言ってないですよ!?」
「そ、そうです! ただ、普段はなんと言うかけっこう辛らつな事を仰られていたりするものですから。」
「そうか、私はけっこう薄情な手合いと思っていたけどな。」
「空気読んでー!」
「しかしな、趙雲お気に入りのメンマ・・・だったか? 間違って食べた高順がどれだけネチネチと(以下略」
「それは薄情と言うのとは違う気が!?」
遠慮なく言う沙摩柯である。
話は逸れるが、趙雲はメンマ好きである。彼女は他人の物を平気で盗み食いすることはあっても自分の物を盗み食いされるのを嫌う性分であった。
高順は盗み食いをしたわけではなかったのだが・・・凄まじい勢いでネチネチと小言を言われ、しかも弁償するまで言われ続けていたりする。
これは薄情とは言わない、というか粘着気質なのだが・・・。沙摩柯は趙雲と言う人にそんなイメージを持っていた。(間違っていないし)
「・・・。はぁ、冗談はさておいて。自分で言うのもなんですが、私はそこまで薄情ではありませぬ。確かに、逃げ続けるのはどうだろうかと色々思いはしますがな。」
口を尖らせて不満を言う趙雲。
陳羣ではないが、趙雲から見ても高順はおかしな人だった。
普段は弱気な性格で、太守になってからも立場が微妙に悪くて何かあるとすぐに「ごめんなさい!」とか謝る。
その癖、張遼が自分の子供を宿していると解った瞬間に「ちょっと喧嘩売りに行こうぜ!」と言いだしたり。
武将として情けない部分が多いのだが、時に見せる峻厳さ。反撃の隙を与えない機動戦。そういう苛烈とも言える一面も持っている。
どうも、この人は自分の命よりも他人の命を重く見ているな、と趙雲は考えている。
曹操に仕えるのも、戦うのも「自分が死ぬから絶対嫌だー!」というのに、張遼の件では・・・。
どういう育ち方をすればこんな性格になるのか良く解らない。
武将としての彼には愛想を尽かしたくなるときもあるが、だからと言って彼の人格を否定するつもりもなかった。
多くの人に好かれ、民を労わり、異民族であっても差別偏見の類を見せることは無い。
人を見る目も割とある。闞沢などが解りやすいだろう。
曹操・孫策・呂布・公孫賛・馬超・韓遂・張燕・劉備・・・これほど多くの人物から悪くない評価を受け、多くの陣営を転々としながらも欲されている人物と言うのも少ないだろう。
それに、見捨てるつもりであるほど嫌っているのであれば体も心も委ねたりしない。何より蹋頓との約束も果たしていないのだ。
「ま、私は高順殿の下から離れるつもりはありませぬ。そんな事より。」
趙雲は別の話を切り出した。
「そんな事より?」
「この前は李典と随分お楽しみだったようで。」
「・・・はい?」
お楽しみって、何が? と言いたそうな高順であったが、次の趙雲の一言で全てを理解する。
「ほれ、路地裏であんなに激しく。」
「!?」
「・・・隊長、後で詳しく話を聞かせていただきたいのですが宜しいでしょうか。」
楽進が冷たい表情で高順を睨み、高順は怯えている。
沙摩柯はやれやれ、と肩を竦め、兵士は「また始まったな」と苦笑していた。
「うむ、楽進よ。あれは激しかったぞ。どちらかと言えば李典(中略)まさかの二(中略)あんなに献身的な奉仕(以下略)」
「んがっ・・・」
「・・・後で絞めます。宜しいですか?」
「宜しくないぃっ!」
「まったく、あのような行為をお求めならば私に仰ってくださればよいものを。」
趙雲はわざと艶っぽい表情をして高順を見つめる。
「ちょーうんさんいい加減にして欲しいなぁ! つうか何これ虐め!?」
「虐めではありませぬ。弄りです」
「大して変わらないよねそれ!?」
そんなやり取りを見ている兵士達はゲラゲラと笑っている。
沙摩柯も沙摩柯で「ああ、薄情と言うか性格が悪いだけか。」と合点しているのだった。

その後、彼らは無事に李典達と合流。曹操軍に遭遇する事も無く南西へと落ちていく。


~~~数日後~~~
「なるほど、ね。・・・解りました。私は貴方の降伏を受け入れます。」
「・・・はい、ありがとうございます。」
曹操の言葉に、陳羣は頭を下げた。
そこは広陵城、ついこの間まで高順達が使用していた大広間。
夏候淵に降伏の意思を伝え、彼女の部隊と(一応)諸葛亮の部隊を広陵に入城させてから数日で曹操と劉備の軍勢がやってきた。
高順一党の殆どが逃走した事について、曹操は何となく惜しむような表情だった。
張遼や干禁はそんな事態が来る事を覚悟していたが、やはり辛そうであった。
大広間の太守用の椅子に座っている曹操に、陳羣は「これを」と一通の書状と太守の印綬を差し出した。
夏候惇が受け取り、曹操に手渡す。
「これは?」
「はい、前太守であった高順様からのものです。」
この言葉に、曹操は「へぇ?」と興味深そうに紐を解いた。
さらさらと内容に眼を通していく曹操。
要約すると、内容はこのようなものだった。
民と兵の暮らしの保障、この地には仏教と言う宗教を信奉する人々は居るが彼らは大人しい性質である事。
それでも政治には絶対に関らせないで欲しい事。できるだけこの土地の船を押収しないで欲しいという事。
民に対しての租税も負担を強いるようなものにしないで欲しいという事。
広陵の実情を良く知っている陳羣を太守とし、彼女の才能を使いこなして欲しいという事。
広陵の国庫には大量の宝物が収めてあり、それを天下国家の為に使用して欲しいという事。
最後に、これは劉備にも当てはまる事だが、と書かれている文があった。
「張遼さん、干禁、華雄姐さん・・・俺の周りの人々を厚遇して欲しい。それだけの才能があるはずだから」と書いてある。
最後に「もし冷遇されているようであれば、あんたらに対抗できるように力を蓄えて取り返しに行く。」と半ば脅し、半ば強がりのような言葉で締めくくられていた。

それらを見終えた曹操は目を閉じて、手紙を折りたたんで懐に入れた。
(ふふ、高順・・・。未熟ながらも太守としての仕事をしていたようね。ただ強いだけの猛将かと思いきや・・・)
民を見捨てて逃げるのは、お世辞にも良いとは言えないが・・・彼の文面どおり、全てを取り戻すために力を蓄えるというのであれば悪くも無い。
それに、と曹操は目の前で跪いている陳羣を見つめる。
どうもこの地の政治は彼女が一手に引き受けていたようだ。
高順が丸投げをしたのだろうと思うが、それだけの才覚を持っているのならそれに越した事はない。
わざわざこちらから内政官を派遣しなくても良いし、その土地を知っている人間に任せたほうがいいと言うことも理解できる。
陳羣が自分を裏切らない、という前提の下だが、その点はさほど心配していない。
直感のようなものだが目の前の女性は自分を裏切らない、と感じている。
そんな事を心配するような者が覇者になどなれるはずもない。
「陳羣。貴方には広陵の太守になってもらいます。」
「は?」
「貴方の政治能力を高順は高く買っていたようね。貴方に広陵の太守に任じて欲しいとまで書いてあったわ。」
「高順様が・・・。」
「その代わり、この曹猛徳に忠誠を捧げ働きなさい。もし貴方が私を裏切れば・・・。」
この時だけ、曹操は威圧感のようなものを陳羣に叩き付けた。
「・・・っ。当然です、民のため、広陵の為。この陳長文、身を粉にして働く所存。」
並みの武官であれば腰が砕けるほどの威圧感を受け止め、青くなりながらも陳羣は応えた。
彼女の言葉に曹操は笑みを浮かべ、太守の印綬を自ら手渡した。
それから思い出したかのように付け加える。
「ただ、貴方だけでは守りに不安があるわね。そうねぇ・・・武将として、ここに私の部下と兵を派遣させてもらうわ。良いわね?」
「・・・はい、従います。」
つまり監視役か、と見抜いていたが彼女は曹操に逆らうつもりは無い。
どちらかと言えば自分に劉備の牽制をさせるつもりだな、と読んでいる。
劉備は徐州牧だが、この広陵は曹操の領地として飛び地のような扱いで保護される事になっている。(劉備としては不満であるが)
「宜しい。そうね・・・武将として車冑(しゃちゅう)と呂虔(りょけん)。現在ここに居る兵士に加え、更に兵5千を駐屯させましょう。それと・・・」
曹操は陳羣に多くのことを聞き始めた。
仏教とはどのような宗教なのか、この地の食料生産率、季節ごとに徴発される税の割合など、政治・事務の話である。


こうして、徐州の3つ巴は曹操の一人勝ちに近い形で終結した。
それでも劉備はそこそこ多くの将兵、小沛を傘下に治めて負けとはいえない状況で、呂布や高順が手痛い敗北、勢力の消滅などを味わう・・・負け組である。
この後、曹操と劉備は一定の距離をとりつつも友好関係を結ぶ。
だが、許田の巻き狩りから始まる曹操暗殺計画等、多くのことが起こって結局は曹操と劉備の対立は深まっていく。

そして、南西に逃げた後楊州へと入っていく高順一党。
その先の結果がどうなるか・・・それはまだ誰にも解らない。






~~~楽屋裏~~~
カーナビ盗まれた。あいつです(吐血
今年に入ってから不幸回数が多い・・・

それはともかく蒼○って面白いよね(謎

長かった徐州編もこれで終了・・・長、かった(倒
あと2・3話話を差し込んで・・・さぁ、どうするかなあ(笑





それでは。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第67話 そんな彼らの旅路。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/15 07:02
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第67話 そんな彼らの旅路。


広陵(こうりょう)から淮陰(わいいん)。そして濡須口(じゅすこう)を経て楊州へ向かう高順一党。
その淮陰あたりで、1つの出会いがあった。

輜重が4千ほど。騎兵が1千ほど。
輜重と言っても騎兵が荷車引いてるだけで切り離せば騎兵となる。
できれば大勢力に係わりたくないので小勢力の乱立する楊州を通る、ということだ。
そんな高順一党が東へと向かっていく。
大勢力に会いたくないだけで、その歩みは割と長閑なものだ。
食料も資金も余裕があるし、急ぐべきなのは南へと抜けるときだけである。
先頭を進む高順に蹋頓・趙雲・沙摩柯。
輜重を守るのは他の人間と言うことになる。
「・・・長閑ですな。」
趙雲がなんとなく気分悪そうに言う。
「そうですねえ、長閑ですねぇ・・・」
「ああ、静かだな。久しぶりではないか、こういうのは。」
蹋頓と沙摩柯も頷くが、その表情は趙雲とは違って穏やかであった。
徐州に居た頃は平和な時間が殆ど無かったので、今の状況も「これはこれでいい」と思っているのかもしれない。
だが、趙雲はやはり不満そうであった。
「あんなに必死になって逃げてきたというのに・・・この落差は一体。」
はぁぁ、と思わず溜息をついてしまっている。
趙雲さんはやっぱり血の気が多いな、と高順は笑う。
高順も、はぁ、と小さな溜息をついて空を見上げた。
平和だなぁ、と思うが・・・張遼らの事を思えばその平和に浸るわけにも行かない。
ここから先の歴史は正直にどうなるかわからない状態になってきている。
高順と言う存在は徐州で死ぬはずだったものがこうやって生きているのだ。それが既におかしい、と思う。
自分が生きているからと言って歴史が大幅に変わるものではないな、と楽観的な考えもある。

所変わって、高順達から離れる事僅か西。
3~400、あるいは500ほどだろうか、みすぼらしい格好をした賊らしき集団と、その先頭を進む1人ずつの男女が居た。
男はスキンヘッドでひょろりと背が高い。賊らしく斧やら山刀を所持している。
女のほうは髪は肩位までの長さだ、これまた賊らしい格好。動きやすさを重視しているのか皮の鎧を着込んでいる。
身長は馬超より少し高い程度、体つきも無駄な肉が無いものの、出るところは出ているという感じだ。
その男のほうが女に「なぁ、姐御」と話しかける。
姐御と呼ばれた女性は不機嫌そうに返した。
「姐御言うなっ、せめてお頭と呼べお頭と。」
「んじゃあ、お頭。・・・俺達、これからどこへ行くんですかい?」
「・・・そりゃお前。楊州でどこぞの勢力に仕えてだな。」
「どこぞってどこですかい? 袁術なんて民衆の敵なんだから嫌だ! って駄々コネタのお頭ですぜ? まぁ、俺達だって嫌っすけど。」
「うー。」
女性は頭をガリガリと掻き毟る。
「しかも食料も足りそうに無いですぜ。どっかそこら辺の村から略奪しねーと。部下がもちやせんぜ?」
「わーってるって! けどなぁ、俺たちゃもう賊みたいな事しねーって誓ったばっかりだろうが。」
「誓いは大事っすけど、腹が減るのはどうしようもないっすよ、姐御。」
「姐御ゆーなあ!」
だが、男の言う事も解る。腹が減っては戦が出来ぬ、ではないが皆ここまでついて来てくれた部下であり、仲間なのだ。
そんな馬鹿騒ぎをしつつ、女は「ん?」と気がついた。
ずっと先、自分達の前に何千かは解らないがどこかの部隊らしき集団が列を成して進んでいくのを。
「・・・てめぇら、隠れろっ!」
「うっす!」
女の一声で、配下らしき男達は賊らしからぬ動きで身を隠せそうな木やら岩やらに身を隠した。
かなり実戦慣れ・・・と言うかそういった技術を体得しているのが目にわかる動き方だった。
女は一番前にうつ伏せになって目を凝らす。
(旗は・・・ちっ、誰か解らねぇな。この付近で太守っていやぁ・・・袁術のクソか、それとも劉表、もしかしたら劉繇(りゅうよう)の配下か?)
見た感じ、輜重が多いようだが殆どが騎馬隊で編成されているのが解る。
アレだけの数、と言っても全体数は解らないが騎馬を揃えるのは相当な資金が必要だ。
となると袁術か劉表の武将と思うのが妥当だろう。
「(小声で)姐御ぉ、どうしやす?」
「(同じく小声で)お頭言えっ。・・・そうだな、あいつらは袁術か劉表の武将だろ。あそこらでまともな奴なんていやしねぇ。強いていや文聘(ぶんぺい)くらいじゃねぇ?」
劉表はともかくも、袁術は民衆から搾取している手合いだ。
彼女らは賊は賊だが、貧しい村々から略奪するような真似はしていない。
もっと西の汝南で勢力を張っていて、山中で自活をして、時折通りかかる裕福な商隊からちょっぴりだけちょろまかしたり、とまだマシな「賊」であった。
もっとも、それが良いことだとは思わない。自分たちが奪った物資は結局民衆から搾取されなおすだけなのだ。
所詮は堂々巡り。それが女には良くわかっていた。
「んじゃあ、お頭っ」
「・・・おぅ、気ぃすすまねーけど・・・。「ちょろまかす」ぜ。てめぇら、支度しなぁっ!」
「ういっす!」


~~~夜中、高順一党野営地~~~
この日、輜重集積所を警備していたのは武将は趙雲・閻柔・田豫であった。
他の武将も、交代で警備をしているので全員眠りこけているというわけでもなかったが。
輜重を集積といっても相当な量になるし、兵も何百から千前後配置してあって守りは堅い。
そして・・・。

「なぁ田豫。これが終わったら少し酒でも呑まないか?」
「駄目っすよぅ、趙雲様。今そんな酒盛りなんてしてる余裕ないっすよー?」
趙雲の誘いだが、田豫はやんわりと断った。
「むぅう・・・付き合いの悪い奴め。」
「そういう問題じゃないと思うっす・・・」
断るのは、趙雲の酒量に付き合えば確実に潰されるからだ。
趙雲はかなりの酒豪で、あれに付き合いきれるのは蹋頓か沙摩柯程度なものだ。
「高順殿がもう少しでも酒に強ければなぁ・・・」と趙雲は愚痴る。
(・・・高順様は弱すぎっすけどね)
「まあ良い。ともかく・・・む?」
趙雲は言いよどんで、すぐ近くの草むらをじぃっと凝視する。
田豫は何かあったのだろうか、と聞こうとしたが趙雲が槍(龍閃)を構えたのを見て、腰から吊るしてある剣を抜いた。
「出て来い。上手く隠れたとは思うが僅かに気配が漏れていたぞ?」
趙雲の言葉が夜の陣に響く。
彼女はじっと草むらを見つめて油断なく構えている。
「ちっ」と舌打ちが聞こえた瞬間、風を巻くような速さで何かが趙雲に突進してきた。
「・・・!?」
その速さは凄まじく、趙雲も反応が遅れた。
一瞬で間合いを詰められ、槍を構えた右手を押さえられてしまう。
その握力もなかなかで、趙雲も本気を出していないとは言え抑え込まれてしまっているのだ。
「俺の気配に気付くかよ。てめぇ、すげぇな。」
「この声・・・女kもぐぐ。」
女は趙雲の口を自由な右手でふさいだ。
「っと、静かにしてなよ。そこのあんたもな。ちぃっと食料分けて貰うだけさ。」
「うっ・・・食料が目当てっすか? でもここには千人近い警備兵がっ」
「黙ってろって。近くには俺の兵が潜んでるんだぜ? まぁ、大人しくしてくれりゃいいだけさぁ。」
田豫に言い聞かせるようにして、女は再度趙雲の顔を見つめた。
見た感じで、そこら辺の一兵卒でないのが解る。
もしかしたら名のある武将なのかもなあ、と思うが・・・そういう武将を人質に取れば、この陣営の大将も兵も迂闊に手を出せないはずだ。
あとはこの女を人質に取ったまま食料を恵んでもらって、安全なところまで逃げおおせたら開放・・・というのが彼女の計画だったようだ。
だが、女は趙雲の顔をどこかで見たような・・・と僅かに考えた。
「・・・んん? あんた、どっかで見た気がすんなぁ・・・どこだっけかな。」
「むぐぐぐ・・・ふはっ、私にはお前のような知り合いは居ないぞ。あと、1つ忠告だ。」
口を押さえられた趙雲は無理やりに戒めから抜け出して言う。
「あ?」
「奇襲をするならもっと早く、静かに動く事だ。・・・ふんっ!」
「あっ!?」
抑えられていた右手を力だけで強引に外し、趙雲は間合いを置いた。
「ちっ、やるじゃねぇか・・・。」
「何、やるのはこれからだ。」
「あ? ・・・げっ!?」
ふと周りを見ると、兵がこちらに向かっているのが見える。
それほど時間をかけた訳ではなかった筈だが・・・ここまで反応が早いということは相当鍛えられて部隊と言う事だろうか。
閻柔が「こっちっすよ!」と楽進と高順を連れてやってくる。
見回りをしていた中で騒ぎを見つけてこっそりと伝えに言ったらしい。
「くそっ・・・」
女は腰の斧を取り出そうとしたが、今度は趙雲に手を抑えつけられてしまう。
「てめぇ、俺と力比べしようって・・・い、いてててててっ!?」
本気を出して手を払いのけようとしたが、それ以上の力を持って抑えつける趙雲。
先ほどは本気ではなかったのだが、今は割と本気を出しているらしい。
「いでで、てめっ、さっきは力抜いてやがったなぁ!?」
「雑魚に対して本気は大人気ないと思ったのでな。まあ、雑魚と侮ったのは謝ろう。」
「うぐぐぎっ、こ、のぉ・・・!」
余裕の表情を浮かべる趙雲であった。

高順と楽進は、「数は解りませんけど趙雲さんと田豫が賊と交戦してるっす!」という閻柔の報告を受けて少数の兵を連れて来ていた。
閻柔が言うには「知らせる前に、警備兵を向かわせている」とも言ったので問題は無いと思って、少数を率いただけだった。
大多数の奇襲もまず無いだろう。それほどの数であれば各方面から陽動部隊が現れているはずだ。
見たところ、賊の・・・女性のようだが、趙雲が完全に抑え付けて圧倒している。
来なくても問題は無かったかな? と思うがそれはそれとして、伏兵がいる可能性もある。
急いで走り、傍までたどり着く。

「趙雲さん、田豫さん、大丈夫・・・だよな、見た感じで。」
「おや、高順殿に楽進。私のような非力な女が大丈夫なわk「てめぇ、どこが非力だこの馬鹿力!」
趙雲は途中で言葉をかき消されて事に腹を立てたのか、さらに「ぎりぎりぎり」と手に力を加えた。
「あぎゃぎゃぎゃ!?」
「・・・大丈夫だったみたいですね、隊長。」
「ですよねー。」
楽進も高順も呆れたように溜息をついた。
女も伏兵を呼び出したかったようだが、抑えられた腕の痛みが半端ないらしく「いでぇぇぇえっ!?」と悶え続けている。
「・・・まぁ、2人とも無事でよかった。それに他に兵士もいなさそうだしねえ?」(いるのだが、合図の声が無いので出れないだけだったり。
「そうですね、しかし賊も運が無い。よりによって趙雲殿が番をしている時に・・・。」
楽進の言葉に、女が痛がりながらも「ちょーうん?」と反応した。
「いだだだっ、ちょ、待て!」
「何を待てと?(ぎりぎりぎりぎり」
「のぉぉぉおぉぉぉっ! た、頼む、少し力緩めてー! 聞きたいことがあるだけだー!」
「・・・何を聞きたいのだ。」
少しだけ力を緩めたらしい。女の悲鳴が少し小さくなる。
「あうぐぐぐ・・・い、今・・・ちょーうんって言ったよな?」
「ああ、言った。」
「も、もしかして、だ・・・あんた、黄巾討伐戦の最後・・・鄴(ぎょう)の戦いで北門に居た趙雲殿か?」
「ほぉ? よく知っているな。確かに私は趙子龍本人だが?」
「・・・。」
なんだか、女の顔色が真っ青になったような気がした。(高順主観で
「じゃ、じゃあ。さっき「こうじゅん」って言ってたけど・・・孫家の軍勢にいて、俺達の大将の一人だった厳政(げんせい)を討った高順様・・・?」
「・・・。一応、黄蓋殿が討ったことになってる筈だけど。確かに俺は孫家の軍勢に紛れ込んでいたな。」
「んじゃあ、楽進殿って北の壁をぶち抜いた・・・!?」
「・・・・・・一応。」←凄い覚えられ方してるなぁ、とか思っている楽進。
3人を順番に見つめる女の、青ざめた顔には脂汗が「どーっ」と浮き出ている。
(あ、あの高順殿・楽進殿・趙雲殿に挑むなんて・・・)
彼女は、圧力が弱まっていた腕の戒めを解いて。
「も、ももも・・・・申し訳ありませんんっっ! あの名高い高順様に向かってこの無礼! とりあえず死んで詫びます!!」
「ぶふぅっ!? ちょ、待て、頼むから待てっ! 襲撃して驚いて土下座自決とか何事だよ!? 止め、止めてーーー!!!」
壮絶な土下座をしたのであった。

女は奇襲・伏兵として出てくるはずだった部下たちを全員呼びつけ、総出で高順に土下座していた。
土下座されている側の高順も何が何だか解らないが、とりあえず先頭で土下座し続けている女性の目の前に座っている。
そして、「・・・さて、あんた一体何者? 何を狙って襲撃してきたのさ?」という高順の質問から話は始まった。
女は顔を上げて「俺・・・じゃなくて、あたいは・・・ぇ~・・・そのぅ。」といまいち要領の悪い話し方をする。
高順は苦笑して「普段どおりの話し方でいい」と言った。
「す、すいやせん。俺の名は周倉って言いやす! あ、こっちのつんつるてんな頭は裴元紹(はいげんしょう)。目的は・・・その、情けない事に食料が足りなくなって」
「ひどいっすよ姐御!?」
「姐御言うな!」
「・・・しゅーそー?」
周倉というのは、三国志正史・・・つまり、歴史上「居ないはず」の人物である。
作り物の話である「演義」のみに出てくる存在で、関羽に従った悲運の忠臣という扱い方をされる人なのだ。つうかまた女。
それなのに・・・と高順は頭を抱えた。
(うーん、この世界って一体・・・)
そんな高順を見て、周倉は不安げな表情を見せた。
「あ、あのー・・・?」
「あ、すまん。で、周倉さん。黄巾に所属してたんだよね? それが何でこんなところに?」
この質問に周倉がしょんぼりと肩を落とした。
「張角様たち三姉妹が亡くなった後、勢力は霧散。俺達も行き場を失って汝南に逃げ延びたんです。」
張角らはまだ生きているが逸れは置いておく。
周倉は、ぽつぽつと話を続けた。
「汝南に逃げ延びて、臥牛山(がぎゅうざん)ってところで自給自足しながら、同じ志をもった黄巾の同胞を集めてたんです。・・・俺の後ろにいるのもそうで。」
周倉はちらりと後ろを振り向いた。
「俺達、氏素性なんざありゃしません。食い詰め者だったり、俺みたいに生活に困った親に売り飛ばされたような奴だったり。民衆は搾取されて、上が肥え太る。そんな時代を何とかするための力になれれば、って。」
「ふぅむ・・・。」
「なのに、さっきみたいに略奪してるんじゃ偉そうな事いえないっすけど・・・。」
周倉はまた肩を落とした。
この世界ではアレだったが、史実の黄巾は確かに「漢王朝を倒して新たな世を建てる」ことを目標としていた。
張角の野望があったとはいえ、その動きは実を結び30万とも40万とも言われる人々が黄色い布を頭に巻いて、腐敗した王朝に戦いを挑んだ。
金銭欲や名誉のために戦ったものも居れば、今目の前に居る周倉のように、本当に世を何とか正したいと願って戦いに身を投じたものも居た筈なのだ。
「でも、黄巾が壊滅した今じゃそんなことできやしない。だから時節を待ったんです。」
「時節?」
「ういっす。・・・俺達、言った通り氏素性もなければ、どこぞのお偉方への伝手もありません。少ない人数じゃどこも兵として雇ってくれません。」
だから、人を増やして数千という規模になれば、多少出目が悪くてもどこかの勢力が迎えてくれるはずだ、と周倉は言う。
「俺達、まだ諦めきれない夢があるんです。黄天の世が来なくても平和な時代になって欲しい。俺みたいに親に売り飛ばされるのが当たり前っての、嫌なんです。だから人を集めてどこか有力な諸侯、名のある将軍様にお仕えして、平和な時代にするための戦いに参加したいって、そんな夢を。」
「夢・・・ね。」
そう言う周倉を、高順は勿論他の人々も悪意を持って見なかった。
周倉は直情径行と言うか、猪突猛進と言うか、根が真っ直ぐで単純だ。腹芸が出来たり、嘘をつくのが苦手でもある。
彼女は時折、喉を詰まらせて嗚咽するような声で話を続ける。高順達の涙を誘うつもりは無かった。
かつて同じ夢を追い、先立った仲間たちのことを思い出して、それが涙になって頬を伝う。
「ぐくっ・・・でも、それも無理な話でした。後からやって来た、同じ黄巾だった劉辟(りゅうへき)と龔都(きょうと)って奴らに山塞も折角集めた人数もあらかた奪われちまって・・・。」
「だから自分に賛同する仲間と汝南を出て、やりなおそうとしたのか。」
「うっす。本当は北に行くつもりだったんすけど、徐州じゃ戦続きで人が集まる訳ねぇと思いますし、それなら楊州でもちっと人数増やしてから、と。」
高順はふむ、と頷いて考える。
「袁術か劉表を頼ろうとは思わなかった? 汝南から近い大勢力だよ?」
「勘弁してください、誰が袁術なんぞに!」
今までの口調から一転、周倉は怒りを露にした。
「あ、すいやせん、つい。・・・でも、袁術は自分が我侭をしたいからって民衆から搾取してるんです。その我侭が何だか知ってますかい?」
「いや・・・知らないな。」
「・・・蜂蜜水。」
「は? ・・・蜂蜜?」
呆気に取られて聞く高順に、周倉はこくりと首肯した。
「うっす、蜂蜜水。蜂蜜は高いんですが、それを沢山欲しいって重税を」
「・・・。」
先生、この世界にも阿呆が居たようです。
とは言っても、袁術はまだお子ちゃまである。周りにその我侭を止めるような人も居ないのだろう。
「劉表は・・・漢王朝の一員だからってわけじゃねぇですけど、やっぱ好きになれません。あそこは豪族連中が幅を利かせすぎて、後で入ってきた奴らは窮屈な思いをするしかないんすよ。俺らみたいな賊じゃどうしようも。」
「なるほどなぁ・・・。」
確かに劉表勢力は史実の孫家同然、豪族連合のような感じだ。
しかも微妙に統率が取れていない。
そんな勢力に仕官を望んでも・・・正直、周倉らのように元黄巾では肩身が狭すぎるだろう。
高順は少し悩んだ。
彼らをこのまま放逐していいものかどうか。
きっちりと使い方を間違えなければ、彼らはよき兵士、武将となりうる。
だが、このままでは力を持て余して野盗だの盗賊だのに成り下がってしまうだろう。
周倉も周倉で高順に仕えたいと言い出したかったが、それは虫が良すぎると諦めていた。
鄴での彼らの戦いを、周倉は今でも覚えている。
厳政をただの一撃で討ち、漆黒の巨馬で戦場を駆けた高順の姿。敵でありながら「すげぇな」と感心し、また見惚れてしまうほどだった。
あんな大将の下で働きたいものだ、と。
それは今目の前で現実になりつつあるが、その一言を言い出せない。代わりに彼女はこう言った。
「お願いです、こいつらを・・・高順様の部隊の兵卒の端に加えてやってください!」
「む・・・しかしだな。」
「お願いしやす! 俺じゃこいつらを食わせていく事はできないし、このままじゃこいつら本当に道を踏み外しちまいます。虫が良いってのは解ってるんです・・・でもっ」
お願いです、と周倉はもう一度土下座した。
裴元紹らも慌てて頭を下げるが、すぐに「じゃ姐御どうなるんすかぁっ!?」とか叫ぶ。
「姐御言うな!」と叱られてすぐに黙り込んでしまったけれど。
(むー・・・参ったな。)と高順は尚も悩む。
ちら、と後ろにいる趙雲やら楽進、そしていつの間にかやって来た蹋頓・沙摩柯に視線を送った。
皆、目を閉じて肩を竦めるだけ。趙雲などは「まあ、好きになされば良かろうと存じます。」とまで言った。
彼女らは内心で「加えてやってもいいんじゃないか」と考えているらしい。
実際にやりあった趙雲は周倉の戦闘能力を「悪くない」と捉えているし、本人の言うとおり、このまま放っておけば本当に賊として生きていくしかないだろう。
地味に戦力強化も出来るし、話を聞いた感じでは忠誠心にも篤そうだ。
それは全て高順の心次第、と言うことでもあるが。
高順はもう1度、土下座を続けている周倉以下、500人をじっと見てから立ち上がった。
(夢、か。)
自分に夢はあっただろうか。死亡フラグを折る為に駆けずり回り、そのせいで大切な人々を失った。
今の夢は・・・張遼や華雄を取り戻すためと言ってもいいだろう。
その為に、確固たる足場を築く必要がある。今まで苦労をさせ通しだった兵や仲間の住む場所を作って、安定した生活を提供しなくてはならない。
曹操と劉備にある程度対抗できる力を得なければならないのだ。
楽進達は富貴を望んでいる訳ではないだろうが、それでも帰る場所を作る必要はあるのだ。
それが出来なければ、周倉のようになってしまう。ついてきてくれる人々を苦労させ続けなければいけなくなる。
自分が全力を尽くして、それでも張遼たちを取り戻せないのであれば、その時こそ自分は諦めて曹操に首を渡すべきなのだろう。
天下統一とか、それこそが夢のついででしかない。平和になるのであれば、それに越した事はないけれど。
考え、高順はそのまま無言で周倉の目の前を通り過ぎていく。
(・・・やっぱ、無理か・・・)
予想通りの結末だ、と周倉は思った。やはり、自分達はこんなものなのだろうか。
張雲達も自覚しない程度の僅かな落胆を高順に感じていた。が、しかし。
高順は歩いていく途中、閻柔の肩を「ぽんっ」と叩いて呟いた。
「閻柔さん。悪いけど500人分の飯作ってくれる? 人数は使っていいけど。」 
『・・・え?』
高順以外の全員の声が重なる。
周倉たちも顔を上げて高順の背中を見つめている。
「だから、この人たちの飯を作ってあげて。お腹空かせてるっぽいしねぇ。」
「隊長、それじゃ。」
楽進の声に、高順は頷く。
「周倉・裴元紹。それに従う総勢500。俺が纏めて面倒を見る。」
高順の言葉に、周倉は「え・・・ええっ!? 俺まで!? 本当に・・・」と、驚いて立ち上がってしまっている。
趙雲らも何となく安堵したような笑顔を見せる。
「ここで逃がしてもまた人様に迷惑かけちゃうでしょうに。そのかわり。」
高順は振り向く。
「面倒を見る以上、命令には従って貰うし、今まで人様に迷惑かけたんだから最初のうちは給料低いぞ? それでもいいなら、俺は貴方達を雇う。約束できるかな?」
「・・・は、はい! ご命令とあればどこまでも付いて行くっす!」
周倉はもう一度頭を下げた。

こんな流れで、周倉以下500の元黄巾兵が高順隊へと吸収された。
この後に彼女らは高順親衛隊として配置され、以降の戦場を主と共に駆ける事となる。
激戦の中で多くの者が斃れていくが、それでも自分たちの仕事に誇りを持ち不満を言う事はなかったそうな。


別れがあれば出会いがある。
頼もしい(?)仲間を得て、高順達は更に進んでいく。






~~~ちょっと番外~~~
周倉と元黄巾兵500を引き入れた高順隊だったが、少し困ったことが発生していた。
食料云々ではない。移動速度の問題だ。
予備として、兵馬300ほどを引き連れていたのだが、500人に対してでは一頭一人ということができない。
ために、一頭に2人が乗って、という事になる。
そうなると馬の疲労が速くなる・・・つまり、今までのような距離を進めない事になるのだ。
徒歩に比べればマシだが、騎兵中心の編成がこんなところで仇になってしまった。
だが、一人だけ徒歩で従う人がいた。
周倉である。

重々しい馬蹄の鳴らす音。その中で一人だけ徒歩で従う周倉であるが、彼女は平気で走って追随してくる。
現在の高順隊は割と急ぎ足というか、結構な速度で進軍するので徒歩であれば普通についてくる事などできないのだが。
先頭を行く高順(と虹黒)。その横には息一つ乱さずにしっかりと走ってついてくる周倉。
知らない人が見たら「何で一人だけ騎乗しないのだろう?」と思うに違いない。
「・・・ねぇ、周倉。」
「何すか、大将。」
高順の部下になってから、周倉は高順を大将と呼んでいる。
最初はなれない敬語を使おうとして舌を噛んだりしていたので、結局「いつも通りの口調でいい」と許可をもらっている。
「なんで付いてこれるんだ、徒歩で。結構な速度で走ってるんだけど・・・?」
「え? ああ、話してなかったっけか。俺、走るのだけは得意なんすよ!」
いや、得意とかそういう問題じゃないような・・・。
「一日で千里を走れるんすから! 一時的であれば、そりゃもう目にも止まらぬ速さっすよ!」
「目にも止まらぬ・・・。ふむ、あれか?」
すぐ横にいた趙雲が話に割り込んできた。
「あ、趙雲殿。アレって何っすか?」
「む。お前が私に挑みかかってきた時に見せたアレだ。」
食料を奪いに来たときに、周倉は一瞬で距離を詰めて趙雲の腕を押さえ込んだが、その時の動きはまさに電光石火と言えた。
「あー・・・そっすね。あの時のがそうっす。」
「じゃあ、何でそんな早く動けたり、長距離でも普通に走りきったりとかできるんだ?」
「さぁ・・・? 昔っからですし。昔はもっと早く動けたんすけどね。」
「・・・。もっとって・・・。全く想像できん。」
趙雲も興味があるようで質問を続けていた。
「何故、昔より動きが遅くなったのだ?」
「昔ですけどね、足の裏に毛が3本生えてたんすよ。それを抜いちまったらなぜか遅く。」
「・・・。なんと言うか、すごいな。」
趙雲は驚くと言うか呆れていたが、高順も呆れていた。
なんで毛の3本が足の速さの秘訣なのか、というのもだが、それを抜いても平気で千里を走りきるという俊足と体力に。

・・・周倉さん、毛を抜いてもチートだったようです。



~~~楽屋裏~~~
足の速さはWIKIで調べるべき。あいつです。(挨拶
さて、演義のみ出てくる周倉が出てまいりました。あと裴元紹も。
裴元紹は演義で凄まじく扱いが悪い人です。
これもWIKIでry

あと、この2人のモデルとなったとおもわれるのが作中でも名前だけ出ていた劉辟(りゅうへき)と龔都(きょうと)です。
演義でも出ていたので知っておられる方は多いかもしれませんね。
これもWI(ry

ちなみに、というわけではありませんが。行数埋めのお話を。
実は、周倉と張燕の性格は逆の設定でした。
ずっと前に書いた記憶がありますが、当初この作品は張郃・龐徳・高順の三人が別々の外史で・・・という予定でした。
張燕は張郃編で出てくる山賊の親玉、幼くてがさつな少女・・・という感じです。
いきなりそんな三部作の長編を読むような人はいないだろう、と考えてネタを詰め込んで高順一人に絞った訳ですけどw

張郃なんて、仲の良かった沮授と田豊を殺された恨みで(誰が殺したかは三国志好きの人であれば解るはず・・・きっと)袁家に反旗を翻す。
黒山賊と白波賊を、そして公孫賛残党を傘下に。曹操と盟を結び第三勢力として官渡の戦いに望む・・・とか、そんな乱暴な感じだった記憶。
お蔵入りですけどねw

それではまた次回。














~~~むっさ番外編・もしも賈詡が高順を敵視しなければ?~~~

「はぁ? 賈詡から書簡・・・?」
広陵の広間にて、高順は使者から書簡を受け取っていた。
はて、何かあったかね? と書簡を広げてみる。
そこには「そっちの物資、余ってたら下邳に送りなさい」と書いてあった。
そこで終わっていたなら高順も頭にきていただろうが、続きがある。
「隣接する曹操の動きが怪しくなってる。袁術との同盟を急ぎたいから、大量の物資が必要が必要なのよ。そっちも辛いでしょうけど我慢して」と。
賈詡は既に袁術との同盟を打診していたのだが、欲深い袁術は大量の「貢物」を要求したらしい。
「貢物」じゃ配下になるようで癪だ、と賈詡はごねて何度か話を差し戻して「贈り物」という結果で落ち着いたらしい。
当初、それだけの金銭・食料を何に使うのかと思っていたら「蜂蜜水」を買い求めるための金にするらしい。
それを聞いた賈詡は痛む頭を抑えて「・・・はぁ~~~」と溜息をついたとか何とか。
ともかく、そういう事情があるのならば高順としても協力を惜しむつもりは無い。
金や物を送れ。というのにもきっちりした理由があるのならば・・・「多少辛くとも用立てをする」と高順は返書をしたためた。

後日、下邳に送られてきた物資は賈詡の要求と予想を大幅に上回る量であった。
「・・・すごいわね。これだけの物を送るだなんて。」
賈詡は感嘆の声を上げて物資を積み込んだ多数の輜重車を見回していた。
これだけあれば、袁術もこちらとの同盟を嫌だとは言うまい。
だが、賈詡の狙いは袁術よりも、その配下である孫策にあった。
江東の虎、孫堅。その娘である孫策。
あの勇名轟く孫策が何時までも袁術の元にいるはずがない。じっと伏してその時を待っている・・・賈詡にはそれが解る。
高順がこちらの意図を正確に読んだかどうかまでは知らないが、この「贈り物」の一部は孫策に流される予定であった。
孫策自身は知らない。あくまで賈詡の考えによるものである。
あの孫策が独立を狙わないわけが無いし、何時までの袁術如きの下にいるはずもない。
これら物資の一部は「そのときのために使え」と送るつもりなのである。
袁術への使者は自分が行くつもりだが、孫策への使者は高順に任せる予定だ。
聞けば高順と孫策の仲は、一度戦ったとはいえ悪くないと聞く。もっと言えば、孫策配下の周喩・黄蓋といった重臣連中にも妙に受けがいいらしい。
孫策が勢力を張るとすれば、広陵から南の楊州くらいになるはずだ。
彼女が独立を狙うのなら、高順に支援をさせて・・・と賈詡は色々と策を練っている。
孫策が独立をすればそちらと同盟をするつもりだし、孫策も支援をされたことで拒否はしないだろう。
今までの意趣返しとばかりに袁術に反旗を翻すであろう事も読める。
それまで呂布勢力が保てば、の話だが南北で連携をして曹操を挟み撃ちにすることも可能。
曹操の勢力は強大だが、いかんせん中央地帯に勢力を持つがゆえに、東西南北に敵性勢力が生じやすい。
曹操が皇帝を推戴したのは誤算だったが・・・
だが、まだまだ打つ手はある。
呂布・張遼・華雄・張済・張繍・高順一党・・・
武将の量・支配地域・兵数・・・そのいずれもが曹操に劣るがしかし。将の質で負けたなどとは思わない。
まだ何も終わっておらず、始まりにすら至っていない。
(曹操・・・誰もかれもが、あんたの掌の上で踊るなんて思わないことね。油断をすれば、その掌に噛み付いていく手合いが居るって事を教えてやるわ・・・!)
賈詡は不敵に笑った。



~~~以上、IF終了~~~

以前、感想で「賈詡が無能化しないIFを見たいです・・・」と仰った方が居たので、「多分こんな感じ?」とでっちあげてみました。

これには前提があって、劉備が徐州に来るのが遅れる、というのがありますね。
そして孫策が早めに独立をするとか。
この続きを書きたいところではありますが、いかんせんこのシナリオの正史ではありませんし、話が広がりすぎてあいつの手に負えません(w

いかがでしたか、☆天さん(伏字になってない伏字



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第68話 孫家始動。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/18 14:26
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第68話。孫家始動。


高順達は楊州を駆ける。
だが、人馬共に体力には限界がある。
これまでそれほど多くの休息時間を取れなかったことも相まったのだろう。
高順の体調が思わしくないようだった。
風邪等ではなく、精神的な疲労と言うか、寝不足と言うか。
人が増えたという喜ぶべきことはあったが、それ以上に精神的な重圧のほうが勝った部分もあったかもしれない。
あまり寝付けない日々が続き、目の下にもクマが出来てしまっている。
趙雲や李典が無理やり「今日一日、ゆっくりと兵馬を休ませるべきだ」と主張し始めたところが今回の始まり。

「と、いうわけで。今日はゆっくり休みなされ。」
「・・・陣幕に拉○監禁しといて言う台詞がそれですか。」
高順は陣幕に押し込まれて「いつでも寝られる準備が出来ています!」といわんばかりに設えられた寝所を目にそう言った。
その陣幕には高順一党の主だった人々も入ってきており、なんというか・・・「寝ろ!」という無言の圧力を感じる。
「だから、大丈夫だって言ってるのに。別に病気とかしてる訳じゃないんだから。」
高順はそう反論するが全員に「嘘だ」と言われて押し黙った。
「高順さん・・・病気かどうかはともかくも、貴方は一度ゆっくりお休みなさるべきです。」
「そうですぜ、大将。俺っちから見ても、大将疲れすぎっすよ?」
蹋頓と周倉が畳み掛けてくる。
「高順、今のお前に出来る事はゆっくり休む事だ。そんな状態でどこぞの軍に遭遇、戦闘になってみろ。普段の戦いが出来ないのはわかるだろう?」
「・・・。」
沙摩柯も、ぶっきらぼうな言い方をしているが内心では心配で仕方が無いらしい。
他の皆も同じ。
今のままでは、絶対に倒れるのが解っている。
高順は、皆の顔を見回してから、「はぁ~・・・」と溜息をついた。
「解りましたよ・・・じゃあ、今日はゆっくり眠らせていただきます。疲労の度合いが酷い人も同じように休ませてやってください。」
高順の言葉に、一同が頷いた。
皆の去り際「何かあったら知らせるからなー」という李典の声に、高順は手を振って応える。
見送ってから、高順は寝台の上に倒れこみ、目を閉じる。
すると、すぐに意識が途切れそうになるのを感じた。目を見開くのも億劫なほどだ。
自分が思う以上に疲れが溜まっていたな・・・という思考もすぐに薄れ、高順はすぐに眠り始めた。


その高順らの陣の南東20里(約8キロ)ほどに、もう1つ陣があった。
孫策・・・袁術の武将として不遇を囲っている彼女の軍団である。
孫策は(簡単に言えば)劉繇を倒すためにそこにいる。
ここで、その経緯を説明する。

孫策の叔父に、呉景という人物が居る。
彼は丹陽という地に勢力を張っていたが、揚州刺史として赴任してきた劉繇(りゅうよう)に攻撃されて追い出される羽目になってしまった。
そこで、袁術・・・というか孫策に助けを求めたのである。
孫策はこの時期、袁術の武将として働かざるを得なかったのだが、実態はかなり悲惨であった。
反董卓連合の時に、高順に敗北してしまったために袁術に嫌がらせをされ、挙句やっと集めた兵士を没収されてしまったのである。
また一からやり直しかぁ・・・と嘆息したが、嘆息して状況が改善される訳ではない。
何とか足掻こうと周喩や地元の名士である陸遜を派遣して勢力を取り戻そうとしていた。
そこに、叔父の呉景からの救援要請が届いたのである。
いつまでも袁術の下にいるつもりのない孫策は「渡りに船」と、袁術に劉繇討伐を願い出る。
袁術としても、これは渡りに船であった。
袁術は北側に対して勢力を助長する予定である。つまり、曹操か劉備相手に戦いを挑む。
そうなると他所に兵を出す余裕が無い訳だ。一武将である孫策を出せば呉景にも恩が売れるし、もし討たれたとしてもさほど実害は無い。
問題は孫策に兵士が居ない事だ。兵が居ないのに戦えるはずも無く、孫策は袁術に「母様の軍勢があるでしょ? それを返して欲しいな」と駄目元で言ってみたが・・・
「ふふん。妾の兵はぜーんぶ妾のものじゃ。」と胸を反らしてあっさり拒否した。
孫策としては(くっそ、本気でこの餓鬼ぶっ殺す)と思うしかないがそこで1つ思いついた。
洛陽で拾った玉璽の存在を。
孫策は「伝国の玉璽あるんだけどなー。これと兵を交換してくれる人いないかなー」と、わざとらしく袁術に言う。
頭が悪く強欲な袁術は、あっさりとその交換を望んだ。
それでも「兵士は3千しか渡さない」と、最後まで嫌がらせを忘れぬ辺り流石といえる。
母の残した兵士が3千なわけはないが、これ以上ごねても子供である袁術では理屈が通るはずも無く。
孫策はその条件を飲んで、孫家の将全員を率いてあっさりと呉景の元へと向かった。
その場に居らず、後でその事実を知った張勲曰く。
「虎を野に放つようなものですよぉ。そんな事にも気付かないなんて、袁術様は凄いです♪ by張勲」
「うむ、妾は凄いのじゃ。もっと褒めてたもー♪ by袁術」
と、凄まじく頭の悪い会話を繰り広げていたそうな。
寿春を脱した孫策とその配下の武将たちは東へと急ぎ、呉景、そして周喩と合流。
呉景の兵士は4千ほど、陸遜や周喩がかき集めてきた兵士も4千ほどであった。
また、周泰の伝手で過去に湖賊仲間であった蒋欽(しょうきん)と、その配下の賊千前後。
他にも陳武・凌操といった武勇の士も加えており、布陣としては申し分ない。
もう1つあるとすれば、周喩がもう1人軍師となる智謀を秘めた男を連れ帰ったということ。
その名は魯粛という。
この魯粛という男、弓馬に通じ、軍略もあれば資産家のために金もあり、その上野望もある。
物資にとぼしい事を危惧していた周喩が援助を求めたのであるが、各地の情報を集めて孫策の英雄性・将来性を高く買っていた彼は、米蔵の1つをまるまる差出して、その上自分で兵士を集めて参陣した。
その数は2千と言ったところだが、資金も提供しているので大いに歓迎された。
・・・と、こんな感じだろうか。

さて、孫策本陣。
近隣から義勇兵も募って、2万を越す軍勢となった孫策軍。
劉繇を攻めるにはもう少し兵力が足りないと思うが余り時間をかけすぎるのもよくない。
さて、攻撃を開始するのは何時にするか、と諸将と会議をしていたところ、「ほ、報告です!」と伝令が駆け込んできた。
孫策は、咎める事はしなかったが少し不愉快そうであった。
「何事かしら。大した用件でなければ後にしなさい。」
「も、申し訳ありません。しかし・・・。」
言いよどむ伝令兵。
周喩も気を利かせて「まあ良いではないか。で、報告とは?」と取り成して後を促す。
伝令は急いで走ってきたらしく浅く息を継いでいたが、すぐに整えてこう言う。
「こ、ここから北西約20里ほどの場所に・・・こ、こ・・・」
「こ・・・?」
「高順が、5千ほどの兵を率いて陣を敷いております!
『!!?』
高順、という名が出て、孫策・・・いや、反董卓連合に出向いた一堂の顔色が変わった。
黄蓋などは椅子を蹴倒して、伝令に掴みかからんほどの剣幕で問いただした。
「それは本当か!?」
「は、はい! 高・趙・楽・李の旗が立ち並び、あの漆黒の巨馬も・・・」
新しく編成された、或いは反董卓連合に参加していない人々は「高順って?」と思うしかない。
だが、孫策や周喩ですら「どういうことだ・・・」と悩み、あるいは狼狽しているところを見れば只者ではない、くらいは解る。
参加していなかった呂蒙・周泰・陸遜は今1つ実感がわかないようで、陸遜が遠慮がちに「あのぉ~~・・・」と挙手をした。
周喩が「む、何だ?」と顔を向ける。
「そのぉ、高順ってどんな方なんですかぁ?」
「・・・そういえば、お前達は反董卓連合には参加していなかったな。」
周喩は説明を始めた。
高順隊の奇襲で孫家の軍勢が押し返されたこと、孫権が一騎打ちで一方的に敗北した事。甘寧ですら完敗を喫した事。
その後、曹操や劉備相手に、兵力としても戦力としても劣勢であったのに一撃離脱戦法を使って退却をさせたこと・・・。
甘寧は苦々しい表情だったが、孫権は特に動じている訳でもなかった。
彼女は高順に敗北した後、少しずつ泰然とした態度を取り始めるようになっていた。
悲壮なまでに、孫家の人間として知らず知らず己に重圧をかけてしまっていたが、それが薄れてきている。
だからと言って無理をしているかと思えばそうではない。武将として、次代の孫家を担う自負と認識を今まで以上に持ち始めたというべきだろう。
それはともかく、孫策達は「何故この状況下で高順が?」と考えていた。
もしかして、袁術が自分達を追撃させるために? だが、高順は呂布の配下であるはず。
「不味いな・・・もし彼が袁術の命令で来たとすれば。」
周喩は眉間に皺を寄せて不安を口にするが、黄蓋がそれを真っ向から否定した。
「ふん、周喩。お前の目は節穴かよ?」
「どういう意味です。」
「そのままの意味じゃ。袁術如きが飼い馴らせるほど、あ奴は小さい男か?」
「・・・ふむ。」
それは言われるまでもない事だった。
が、周喩は袁術と呂布の同盟工作が水面下で行われていた事を知っている。
呂布軍が何らかの形で敗亡か内部分裂をして、行き場をなくした高順が同盟工作を行っていた縁を頼って・・・と言うこともありうる話なのだ。
軍師たるもの、常に最悪の状況を考えて手をうたねばならない。
こんな反応を見ていた若い武将たちが「5千程度であれば、全軍を持って攻撃をすれば勝てるのでは?」と言いだした。
それは間違った判断とはいえない。高順が敵であれば、あの機動力を駆使して背後から襲撃を仕掛けてくる可能性がある。
それらを排した上で戦おうというのは、戦略・戦術上間違っていない。
だが、周喩は首を横に振った。
「ですが、軍師殿!」
「ならば、あの戦いに参加していた皆に聞こう。今手元にある2万弱の歩兵と千に満たない騎兵。それら全てをぶつけて大きな被害無く生還できる方は居られるか?」
もし居るというなら、私も従おう、と言いきる。
その場を無言が支配した。黄蓋や程普といった、孫家股肱の臣ですら沈黙を保つ。
それまで大人しくしていた陸遜が「策で陥れるというのはどうでしょー?」と言うが、今度は孫策が退けた。
「無理ね。彼相手に策を使用できるほどこちらの兵力が無い。そんな余裕もね」
「孫策の言うとおりだ。高順の部隊は、武将だけでなく兵も強い。わが軍の兵で上手く囲めたとしても・・・その囲みを平然と突き破っていくだろうな。」
「むぅう・・・」
孫策軍の兵士はそれなりに多いが、強兵と言うわけではない。
孫堅の遺した兵は精強だが、義勇兵なども混じっていて全体の質で言えば、錬度も装備もやはり「それなり」だ。
それでも高順を知らない人々は不満そうにしている。
それも仕方が無い、と思いつつも周喩は続けた。
「私の主観でしかないが・・・そうだな、呂布を知っているか?」
「・・・それくらいは知っています。その武に並ぶ者なし。戦場を支配する鬼神、と。」
陳武が応える。
「呂布が鬼神であれば高順は騎神(言いすぎ)だな。あの男と同条件で戦って勝てる騎将がどこにいる? 戦場で騎兵を率いて戦う力量のみを見れば、あれに勝てるものはそういまい。並ぶ者が居ても、な。」
「そ、そこまで・・・」
少しと言うか凄まじく過大評価であるが、少なくとも周喩は「敵である」高順に強い警戒心を感じている。
味方であれば頼もしいだろうが、あの騎馬隊が敵に回ったとすれば恐ろしい話だ。
どう考えても、自軍の武将で彼に勝てる騎将がいない。周喩は考える。
(どうすればいい・・・使者を出して真意を問うか? だが、敵対的な姿勢を見せれば向こうも警戒するだろう・・・)
危険が多きすぎる。さりとてこのままでは・・・と思ったその時。
「私が高順の元へ行きます。」
と、孫権が名乗りを上げた。
「先ほど、黄蓋が言ったように高順という男を袁術が御せるとは思えません。されど、周喩の不安も解ります。」
「権殿・・・しかし、危険ですぞ?」
「もとより承知よ、黄蓋。これで私が死ねば所詮そこまでと言うことに過ぎません。」
「む、むぅ・・・。」
「周喩、お姉様。兵を大勢連れて行っても、敵であれ何であれ向こうが警戒をするでしょう。100ほどの護衛兵を貸していただければ、私が行きます。」
孫権は、姉である孫策へと顔を向けて両者の意見を聞いた。
孫策は特に悩むでもなく「いいわよ」と許可を出した。
「はぁっ!? 孫策、貴女・・・」
「大丈夫よ、周喩。」
「・・・。大丈夫と思う理由をお聞かせ願えるかしら。」
ジト目になって睨む周喩の視線を受け流して、孫策は笑顔で「勘」と答えたのであった。
確かに、五千と言う数の騎兵部隊、高順一党を引き入れる事ができたならそれは大幅な戦力増強になる。
策があろうが無かろうが無理やりに力で突破する、高順騎馬隊の突進力。
攻撃能力に特化した騎馬隊というものは、今の孫策軍に足りないものの1つである。
周喩にしても、袁術の小ずるいやり方を知っている高順があの陣営に協力するのかという疑念もある。
結局は周喩も許可を出し、100の騎兵と甘寧を護衛にして孫権を送り出した。


「んむ・・・ふぁあぁ・・・。んー・・・。」
布団に包まっていた高順が、大あくびをしつつ起き上がった。
目をごしごしと擦り、ぼけーっとした頭で「どれくらい寝たかなぁ」と考える。
寝ぼけていた高順だったが、すぐに陣に騒ぎがあることを感じ取った。
朝餉とか、そういうときの活気ある騒ぎではなく、敵襲とか緊迫した空気の騒ぎを。
彼は陣幕から出ていく。
「ん・・・何だ?」
「あ、大将。」
陣幕の前には周倉がいた。親衛隊長である彼女は生真面目に自分の仕事をこなしている。
交代要員は居るだろうが、もしかしたらずっといたのかもしれない。
「周倉・・・何の騒ぎだ?」
「はぁ、それが・・・孫家から使者が来た様で。」
「・・・孫家? 何故。」
「俺にわかるわけないっすよ・・・今、主だった人が応対してるみたいっす。」
「ふむ?」
高順が視線を巡らすと、なるほど孫家の旗がずっと向こうにたなびいている。
もう袁術を攻める時期なのか? と考えてみたが、使者が来たと言うなら一応会っておかねば。
「周倉、着いてこい。使者とやらに会いに行くよ。」
「うっす!」
高順の発言にさして驚くことも無く、周倉は随伴していった。

「だから、隊長・・・じゃない、高順殿はまだ眠っておられると・・・。」
「それは何度も聞いたわ。だから待たせて欲しい、と言っているのに。」
「ぬぅ・・・。」
孫権の言葉に楽進は押し黙る。
使者として会いに来たのはいいが、高順はまだ眠っているらしい。
楽進としては、疲労が大きいのはすぐに眠りこけてしまったことで解っているし、できれば高順をこのまま休ませてやりたい。
それに、高順は南を目指すといっているのだから、障害の無い状況で物事を進めたいのだ。
使者が待っていれば、その使者との話をしなくてはいけないし、多少でも時間がかかってしまう。
ただ待たせてくれ、と言うのを、理由無く拒否できる訳でもなく。かといって自分たちが逃亡中だということを教えてやる義理もなし。
どうしたものか、と楽進のみならず趙雲らも考えていたところで、その高順がやってきた。
「やあ、皆。お早う」
「へ・・・え? 隊長? もうお目覚めに?」
「ああ、よく寝させてもらいましたよ。で・・・ほー。使者が来たと聞いてやってきてみれば・・・。」
高順は、孫権の姿に目を留めた。
「お久しぶりですね、孫権殿。お元気そうでなによりです。」
「そちらもね。そしてお久しぶり。」
両者は特に蟠りを見せることなく、普通の挨拶を交わす。
孫権にいたっては、嫌味を感じない笑顔ですらある。
高順は、ちらりと孫権の後ろを見た。そこには甘寧と護衛の騎兵100騎ほどが控えている。
この数は・・・特に仕掛けに来た訳ではないみたいだな、ということはすぐに理解できた。
「ま、使者殿相手に・・・出したのは孫策殿ですか。立ち話では失礼になりますかね。誰か、食事の用意を。孫家の兵士にもね。」
さ、どうぞ。と陣幕へと先導していく高順の背を、孫権は静かに追った。

陣幕の中には、高順・孫権。その護衛として周倉・甘寧が詰めている。
外には「念のため」に趙雲や沙摩柯がいるのだが、あまり意味の無い事である。
当初、高順と孫権は当たり障りの無い会話をしていた。
楽しければ笑ったり、と使者としての役目を忘れたかのように、孫権はその会話を楽しんでいたらしい。
だが、何時までもそうしている訳には行かない。
高順としては「どんな話を持ってきたのやら」と勘ぐっているし、孫権は「どう切り出したものか」と考えている。
しばらくそんな会話をしていたが、孫権は気持ちを切り替えて「さて」と本題へと入った。
「高順、少し聞きたいことがあるのだけれど・・・いいかしら。」
「ええ、応えられる事であればなんでも。」
「そう。貴方、どうしてこの場所に居るの?」
この質問に高順は僅かに首をかしげた。
「何故・・・と言われましても。さて、どう応えたものやら・・・。」
んー、と頭の中で整理して、述べ始める。
「簡単に言えば、逃亡中って事です。」
「・・・逃亡中? どういう意味?」
「言葉通りですよ。新天地を目指して逃亡しているんです。」
「新天地・・・?」
まだ良く解っていない孫権だったが、高順は少しずつ説明を始めた。
曹操と劉備の挟み撃ちで呂布勢力が瓦解した事。その二者に、自分の家族が恐らくは仕官したであろう事。
それを取り戻すための地力と、兵の帰れる場所を得るための地を探して流浪をしていると言う事・・・。
わざわざ教える理由も無いのだが、言ったところで問題は無いだろう、と全てを話した。
聞き終えた孫権は納得したかのように首肯。
「そう・・・つまり、ここに居たのは偶然だったと言う事ね。」
「ええ、そうですよ。」
我ながら情けない話ですよ、と肩を竦める高順に、孫権は笑う。
「情けないとは思わないわ。貴方なりの判断なのでしょう。 ・・・安心したわ。」
「へ? 安心って?」
「貴方が袁術の配下で無い事に安心したのよ。」
「はいぃ? なんで俺が袁術に」
「貴方がいきなり後方に陣を張ったから、それで疑ったと言う事よ。」
「???」
孫権も、高順に自分たちの実情を話し始める。
孫策が袁術の元から離れて独立を狙っていること、その戦いが始まる前に自分が現れたと言う事。
要するに、タイミングよく自分が現れたことで孫家首脳陣は「袁術の策略か」とこちらを疑ったらしい。
「なるほどねぇ・・・ま、安心して良いですよ。俺は袁術に仕えてませんし、直接の面識すらないですし。嫌なやつってのは知ってますけど」
ここで、今まで黙っていた甘寧がボソリと「ふん、お似合いだと思うがな」と呟いた。
それが聞こえた孫権は、後ろに顔を向けて甘寧を僅かに睨んだ。
「・・・甘寧。今何と言ったの?」
「お似合いだ、と申しました。」
「何ですって・・・?」
「聞けばこの男、何度も主君を変えてその度に主君の滅亡を黙ってみていた疫病神のような男・・・このような男を評価する軍師殿や黄蓋殿の気持ちが解りかねます。」
彼女は苦虫を噛み潰したかのような嫌そうな表情であった。
お似合い云々の言葉は高順にも聞こえていたし、疫病神、という点についても実際にその通りだから特に何とも思いはしない。
随分嫌われたものだな、程度のものである。
しかし、側に居た周倉はカチンときたようで・・・甘寧に対して凄んだ。
「あぁ・・・? てめぇ、さっきから随分好き勝手言ってくれるなオイ?」
「ふん。事実を言って何が悪い?」
「うちの大将を疫病神だぁ・・・? しかも袁術に仕えてるんじゃないか、だと? っざけんなよこの褌女。見る目がねーにもほどがあんぜ」
「ふ、ふんどしっ!?」
「そうじゃなけりゃ一体なんだ無乳その袁術にいいようにこき使われてるてめぇらに言われる筋合いはねえよこのへちゃむくれがっ!」
何だか凄まじく肺活量を必要としそうな長台詞で周倉は畳み掛けていく。
「へちゃっ・・・貴様、言わせておけば・・・」
「おい、周倉。」
「甘寧、貴方も辞めなさい。というか貴方がやめなさい」
だが、2人は聞かずに更にヒートアップしていく。
「いくらでも言ってやるぜ。うちの大将に負けたからか何か知らねぇがそれを根に持ってんだろが乳無し女。」
「ふん、そんなことで個人への好悪を決めるものか、大体なんだ、貴様は。たかが賊の癖に親衛隊気取りか」←もと錦帆賊という水・あるいは湖賊
「賊で何が悪いよ。賊でも何でも能力があればうちの大将は偏見無く使ってくれるしな。袁術如きにつかわれてる程度の器しかねぇ奴らとは根っこからちげぇんだよっ!」
「貴っ様ぁ!」
「んだよ、やんのか? 元から「無」のてめぇの胸を摩り下ろして抉れ胸にしてやんぞあぁっ!?」
放っておけばどこまでも熱くなる二人に、高順と孫権は同時に『いいかげんにしろっ!』と叫んだ。
「ぅぐっ・・・しかし、孫権様・・・」
「しかし何!? 我々は孫家の正式な使者だというのに、下らない誹謗中傷をして。そんなに私に恥をかかせたいのっ!?」
「周倉も周倉だ。相手のつまらん挑発に乗るんじゃない。」
「うっ・・・す、すいやせん大将。」
ションボリと頭を垂れて下がる周倉と甘寧。
その姿を見た彼女らの主は、同じように「はぁ・・・」と溜息をついたのであった。

孫権は「んんっ」と咳払いをして先ほどの話題を続けた。
「とにかく。あなたは袁術の部下ではない。我々と交戦をするつもりも無い・・・それは事実として受け取っていいのね?」
「そうですよ。」
「解ったわ・・・ところで。」
孫権は、本題のさらに本題へと入った。
「唐突だとは思うけれど、お姉様に会って欲しい。」
「・・・。何故に。」
「理由はいくつか。と言っても、理解できているはずだと思うわ。」
「孫家は兵力と戦力が欲しい、でしょ? 勘弁してくださいよ。」
「さっきの疫病神と言う言葉を気にしているの? そんなものは言いたい奴に言わせて置きなさい。」
孫権の言葉に、高順は苦笑した。
「そうじゃないんですよ。役に立てる自信も無いし。それに、俺にだって目的がある。」
「目的・・・何処かの地に勢力を建てる、だったかしら? それなら、孫家に協力したほうが貴方にとっても都合がいいと思うわ。」
孫家は、ここから勢力を興す。
それに協力して、大きな勲功を立てればそれこそ何処かの太守に任じられる事だってありうる話だ。
孫家は新興勢力という事になる。その分苦労も多いだろうが、その勢力拡大に最初から協力した功臣であれば、権力も土地も・・・思いのままとは言えなくても得られるはずだ。
曹操、劉備と戦うにしても、独力で戦えるはずも無いだろう。
「貴方は自己への評価が随分低いようだけれど・・・他は知らないけど、孫家は貴方の実力を高くかっている。」
「つまり、孫策殿の配下となって使い潰されろと? 土地を得られる保証も無いというのに。」
「そこは私が説得するわ。貴方と貴方の部下が孫家と共に戦ってくれるのであれば、絶対に損はさせない。それに、貴方もだけど部下も疲れているように見える。」
そろそろ、何処かに腰を落ち着けたいとは思わない? という孫権の問い。
この言葉には高順も「むぅ・・・」と考え込んでしまった。
孫権の言葉通りで、これまでの流浪生活に疲れてしまった将兵が多いのは事実だ。特に、その家族も心配である。
趙雲らは何も言わないが、内心で「いつまで逃げ続ければいいのだろうか・・・」と思っている。
思えば、長く在籍したのは公孫賛・張燕陣営くらいなもので、他はほとんど滅亡。
自分もだが、精神的疲労が溜まって来ているだろう。
少し考え、高順は「・・・解りました、お会いしましょう」と首肯した。
彼の肯定的な答えに、孫権の顔には喜色が浮かぶ。
「良かった・・・じゃあ、悪いけれど用意をしてもらえるかしら。貴方の気が変わらないうちにお姉様に会わせたいわ。」
言うが早いか、孫権は甘寧に伝令を孫策の陣まで向かわせるように命令。
渋い顔をしつつも甘寧は陣幕を出て行く。後を追うように孫権も出て行くが・・・途中、高順は彼女の腰に吊り下げられた大剣に目をやった。
あの時に貸した倚天の大剣だ。
「孫権殿。」
「ん・・・何かしら?」
高順の声に、孫権は振り返った。
「貴方の往くべき道は見えましたか?」
「・・・ふふ。未だ我が道見えず、よ。」
孫権は、視線を剣に落とし柄を握り締める。
「今、孫家を率いているのはお姉様だもの。あの人の行く道は覇道。では私は、と聞かれると・・・まだ、よく解らないの。」
王の道か、覇者たる道か。乱世に幕を下ろさんとする立場の者は自然とこの2つを選ぶ。
いや、それ以外に無いといったほうが正しいかもしれない。
「私が孫家を受け継ぐ時期が来るかどうかも解らないけれど。悩みぬいて、答えを出す事にするわ。それまでこの剣は預かりっぱなしになるけれど、ね。」
「構いませんよ、答えのない問いのようなものです。納得できるまで考えればいいでしょう。」
そうさせてもらうわ、と笑った孫権は、今度こそ陣幕を出て行った。


高順と孫家。
彼らの道は交わるか、それとも・・・?






~~~番外編・その頃の西涼~~~
「いやあ、本当に世話になったな。」
「ああ、別に構わない。それより、ちゃと言い聞かせておくんだぞ?」

笑顔で礼を言うのは、綺麗な茶色の髪をポニーテールで纏めた快活な少女・・・馬超である。
礼を言われた人物は華陀。(他に2人筋肉だるまが居るのだがそれは気にしないようにしている。
彼は北に向かったはずだが、旅に同行している卑弥呼と貂蝉が「西涼に行ってみたい~~~」と言い出したので「まあいいけど」と西へと向かったのである。
馬超も、腕のいい医者を探しているところだった。
彼らが来た事を知り(腕がいいとも聞いて)華陀を訪問。
彼女は自身の母・・・西涼の盟主、馬騰が重い肺病にかかっているので見てやって欲しいと頼みに行ったのである。
勿論、華陀はそれを快諾。すぐに容態を診て針治療を行った。
曰く「かなり症状が悪化しているので、長期間無理をさせないように。」と釘をさした。
華陀が診たとき、馬騰はかなりやつれていた。それでも覇気は往年のままであり優しさの中にも威を持つ女傑である。
そんな彼女なので、家臣の前では無理をおして振舞っていたようだ。それもまた病を悪化させる遠因であった。
必要なのは充分な休養と栄養。そして処方した薬を飲めば問題は無い、とは言っておいたが。
馬騰は今で言うところの結核のような症状で何度も吐血をしていたが、それも収まったので華陀らはまた旅立とうとしていた。
だが、その前に馬超は華陀に聞きたいことがあった。
「なぁ、華陀。」
「ん?」
馬超は少し迷い・・・なんというか、モジモジとしながら聞き始めた。
「お前ってさぁ・・・旅でいろいろな所回ってるんだよな。」
「ああ、そうだ。各地を回って病に苦しむ人の力になりたいからな!」
「そっか・・・じゃあさ、高順って奴・・・知ってる?」
「高順? ・・・心当たりはあるぞ。俺の知っている高順は虹黒と言う巨馬を乗りこなす勇者だな。」
馬超は驚き、華陀に掴みかかる様にして追求し始めた。
「そ・・・そいつだ! なぁ、高順はどこに居るんだ、教えてくれ!」
「ちょ、待て・・・首、首が絞まって・・・えほっ」
「あ、すまん・・・」
本当に掴みかかってしまったらしい。馬超はばつが悪そうに手を離した。
「げほっ・・・ふぅ。高順の居場所か・・・俺のいたときには徐州の広陵に向かうところだったな。」
「徐州・・・何だってそんなところに。」
馬超は歯噛みする。
彼女も、一応は高順一党の事を気にかけていた。
間者の類が少ないので、情報も同じように少ないのだ。
董卓軍が崩壊した事は知っていたが、高順らの去就がどうなったかまでは知らなかった。
(ったく、何とかしてこっちにくりゃいいのに・・・)
高順が(親同士が決めた)婚約者だから・・・というのもあるが、馬超は個人的に高順一党に好意を感じている。
母親である馬騰も「一度会ってみたい」と言っているし、妹2人も心配している。従妹の馬岱にも紹介してやりたい。
韓遂とも仲が良かったようだし、西涼の主だった面々に遠慮をする必要など無いのだ。
迷惑がかかる、と思っているのなら・・・それは自分達を見くびりすぎだろう。馬超たちはいつでも高順を受け入れるつもりだった。
「華陀。もしまた高順に出会えたらで良いんだが、言付けを頼みたいんだ。」
「ああ、構わないぞ。俺もまたあいつに会いにいくつもりだしな。何を伝えればいいんだ?」
「ん・・・「一度、西涼に顔を出せ」って。母様も妹達も、高順に会いたがっているんだ。行き場所が無いのならいつでも受け入れるから、って。」
「そうか、解った。もしも会えたらきっちりと伝えよう。」
じゃあな! と華陀達は颯爽と東へ向かって歩き出す。
馬超はその後ろ姿を見送り、そして考える。
(高順が来たなら・・・私はどうするべきなんだろ・・・)
親同士が勝手に決めたとは言うものの、馬超も高順を憎からず思う部分がある。
周りからすれば、妹達にからかわれて即時反応をするところから見ても丸わかりだし、義理の伯母に当たる韓遂にまで「おーおー。恋する乙女よなぁ」とからかわれる始末。
もし、また高順に出会えたのなら・・・それまでに、自分の気持ちをきっちり整理しておこう、と思い直す馬超であった。









~~~楽屋裏~~~
眼精疲労が! あいつです(挨拶
孫家フラグがマカビンビンです(何


ここまで来てやっと中盤・・・ここから先は坂を転がり落ちる速度で終局に逝きますYO!

久々にバチョンさんの出番。
でもここから先出番はなくなっていくのだけれどね!

も1つ。前回の番外編「もしも~」が微妙に好評だったようです。
ですが、外史の中の正史ストーリーを考えつつ外伝ストーリーを・・・という2重思考など出来ません、無理!(笑

ではではノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第69話 孫家始動 その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/20 07:30
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第69話 孫家始動 その2。


孫権、そして高順隊。
彼らは肩を並べて孫策の陣へと入っていった。
使者であり、また孫家の姫である孫権と高順が肩を並べるというのは孫権に対して失礼のような気がする。
高順もそれを憚って「後についていく」と言ったのだが、孫権は「気にする必要は無いわ」と自分から同じ位置に馬を並べて談笑をしながら進む事を望んだ。
趙雲たちも、最初は何を考えているのやら・・・と怪しんだものだが、孫権の態度には含みが全く無い様に感じる。
高順の横に張り付いている周倉もいることだし、大丈夫だろう。と思うのだが・・・何と言うか、楽進は「うー・・・」と唸っていた。
どうも、前は敵であった孫権が高順と馴れ馴れしくしている事が気に入らないらしい。
簡単に言えば嫉妬でしかないのだが、李典も「なんやねんあの女・・・」と不機嫌そうであった。

孫権と高順(護衛として)周倉・趙雲・楽進は孫策の陣幕までやって来た。
何かあったときの為に・・・と陣幕まで武器の持ち込みも許されている辺り、孫権は気を使っている。
他の者は自分達の部隊に留まって、応戦できるようにと警戒している。
まず孫権が陣幕に入っていき、すぐに「どうぞ、入って」と言う言葉が聞こえてきた。
その言葉に従い、「失礼しますよ」とばかりに高順達も入っていく。
そこには、孫家の主要な面々が揃っていた。
孫策・孫権・周喩・孫堅四天王(祖茂はいないが)、陸遜・甘寧・周泰・呂蒙などなど・・・
錚々たる顔ぶれと言っても良かった。
他にも、魯粛や陳武・凌操・潘璋という勇将も。高順を知らぬ人間は「あれが、陥陣営か・・」とじろじろと見ていた。
高順本人はハッタリのききすぎた鎧兜を着用しているので、余計におかしな印象を与えているようにも見える。
諸将は高順を見てあれこれと声を潜めてあれこれと話をしていた。
だが、それも孫策の声で途切れる。
「よく来てくれたわね、陥陣営」
「お久しぶりですね、孫策殿。」
孫策は「まあ、座って頂戴」と高順に席を勧める。別段断る理由も無いので、高順も席に座ったが・・・
座ってすぐに「めきゃあっ」と音を立てて椅子が壊れた。
当然高順は盛大にすっ転んで「のぉぉおっ!」と叫んでいた。
その場にいた全員が「ぽかーん・・・」とする中。黄蓋は思わず「・・・どれだけ重い鎧なんじゃ、それ。」と突っ込みを入れていた。

結局、鎧の大部分を脱いで椅子に座った高順と、その隣で不動の構えを見せる周倉達。
彼女達は異様にピリピリと気を張っていたが、孫策は気にせず話を続けた。
「ともかく、ようこそ。久しぶり・・・と言うべきかしら。」
「そうですね、それほど長い時間は経っていませんけど。・・・で。俺を呼んだ理由は孫権殿から聞きましたが。」
「あら。それならまだるっこしい話は省けるわね。」
「仕えても良い・・・ですが、条件はあります。それを呑んで頂けるなら。」
「ふぅん?」
孫策と周喩は目配せして「じゃあ聞きましょ?」と促す。
「1つ。俺は、劉備と曹操に挑まなくてはならない。大切なものを預けているんでね。それに、今まで尽くしてくれた将兵にも帰る場所を作りたい。」
「つまり、どこかの太守にして欲しいという事か? しかし、お前に太守の仕事が・・・」
周喩の問いに、高順は首肯した。
「尤も、俺には統治能力ないんですけどねえ。その代わり、俺の仲間に政治能力の高い人が居ますから。」
名政治家の力を借りて太守っぽい働きはしてましたけどね、という事は言わずに置いておく。
この要求には、彼を知らぬ武将がムッとしたらしい。どれだけの男か知らないが随分と態度がでかい、ということだ。
しかし、周喩はどこか納得したように頷いた。
「ふむ。お前の言い分は解らんでもない。預け物とやらは知らんが、お前は自部隊の兵の給料を自分の才覚で稼いでいると聞いたことがあった。・・・個人でよくそんなことが出来たものだな。」
「俺の才能じゃないですよ。協力してくれる人々が居たからです。」
「ふっ・・・そういう事にしておくさ。2つ目は?」
「2つ目・・・俺と、俺の仲間たちの事を疑わないで頂きたいという事・・・。3つ目。俺達の部隊を分割せず、1つの部隊として扱い続けて欲しいという事。それなりの兵力ですが、俺の私兵なんですよ。現状で彼らを養える財力が貴方達にはないでしょう?」
「疑う?」
意味が解らんな、と言いたげな孫策達。
「孫家じゃ知りませんが、俺は呂布の軍師から疑われていたんです。その誤解が元で暗殺されかかるわ、勢力が保たなくなるわ。」
そりゃ疫病神扱いされますよ、と溜息をついた。
ここが、甘寧に疫病神呼ばわりされても怒らなかった原因でもある。(普通はそこで話を打ち切りそうなものだが)
「どうも、俺が力を付けていくのを気に入らないという事もあったみたいですけどね。謀反なんざ起こしても仕方ないというのに。」
「・・・ふふ。貴方みたいな甘い性格をしている人間が謀反? その軍師、誰か知らないけど随分な誤解をしていたのね?」
むしろ、人を見る目が無いというべきかしらね、と思いなおした。
遠慮の無い孫策の言い分に、高順はまったくですね、と苦笑した。
「あ、気にしないで。別に批判した訳じゃないから。3つ目は・・・少し難しいかな。貴方達の自由にやらせるっていうのは・・・でも、分割をすれば実力を発揮できそうにない。そこまで財力に余裕もない、か。他の条件は?」
「兵を食わせるための商売もさせて欲しいところですかねぇ。まあ、それはおいておくとして・・・・・・。まあ、孫策殿のやり方が気に入らなければ俺達は離反させてもらう。」
この無礼極まりない言葉には、若い武将が一斉に「何様のつもりだ、貴様!」と怒鳴りだした。
殺気を漲らせているのだが、それは高順達には全く通じていない。
高順らの潜ってきた死線は苛烈なものだ。対黄巾・対呂布・対反董卓連合。
それに比べれば若造の(高順も大して変わらない)のちみっちゃい殺気など脅威ですらない。
その態度に反応して、趙雲達も殺気を出す。その凄まじいまでの威圧感に、威勢よく声を上げた武将たちが黙り込んだ。
「舐めるなよ、小僧どもが・・・」と、凄む趙雲の迫力もあって、何の関係もない孫家の兵士が腰を抜かしそうになる始末であった。 
だが、それも黄蓋の一喝で終わる。
「やめぬか、儒子どもがっ! ・・・すまぬな、高順。うちの若造共は血の気の多い奴ばかりでな。」
「いえ、無礼を言ったのは俺のほうですしね・・・て、趙雲さん? いい加減殺気出すのヤメテ。」
・・・高順もちょっと怖かったらしい。

「・・・ごほんっ。で、それが貴方の言う条件ね?」
「そうですよ、孫策殿。呑んでいただき、実行していただけるのであれば俺は貴方に従います。」
ここまで付いて来てくれた人たちにも、そろそろ報いてあげたいんですよ、という高順の呟きには、孫策だけではなく周喩や黄蓋にも感ずる所があった。
孫家の勢力を興した孫堅が逝き、そのせいで袁術を頼らざるを得なかった孫策達。
それでも皆がついて行くのは「いつの日か、孫家を復興させたい。そして、母の目指した天下一統を為す」という孫策の夢を信じるからだ。
孫策からすれば、そんな家臣たちが何よりも大事だし、報いてやりたいという気持ちも強い。
高順も、立場こそ違うが今まで部下に多くの苦労をかけてきたという事がわかる。
彼の言う条件その一は、まだ確固たる足場を持たない孫策には保障しかねるものだが・・・他3つに限れば、まだ易い条件である。
彼らを冷遇するつもりはないし、高順の悪く言えば甘い、良く言えば部下を大事にして、信頼をすればするほど応えようとする性格も理解している。
政治も、彼の率いる部隊・・・異民族が多いが、そういった人々を冷遇しないように。民を大事にして欲しいと言いたいのだろう。
個人に兵力を任せるのは危険だが、分割をさせれば間違いなく叛意を持つ。扱い方を間違えれば暴発するだろうが、丁寧に扱えば絶対に暴発しない・・・という手間だ。
また、商売云々も、武将のやることではないかもしれないが・・・それだけの利益を出せるのなら、それはそれで悪くは無い。
そこにちょっとばかりの税をかけても文句は言わないだろう。
この苦しい時期に騎馬・歩兵合わせて五千を越える、しかも訓練された戦力を得られる条件としては、まだ易いほうである。
そもそも、扱い方を間違わなければ謀反を仕掛けてくるような性格の男でもないし、孫策から一方的な条件を出せるような余裕も無い。
使えるものなら何でも使わなければいけない。そんな状況なのだから。
考え込む孫策の沈黙に不安を覚えたか、孫権は遠慮がちに声をかける。
「お姉様・・・。」
「大丈夫よ、孫権。周喩・・・貴方はどう思う?」
「どうも何も。それで高順一党の信頼・忠節を勝ち得るなら易いものね。」
「でも、有力な騎馬隊がいるのよ? 分割して諸将に分配するべきとは思わない?」
「だからこそ、だ。高順・高順一党のほかに誰があの部隊を使いこなす? あの数、そして率いるのが高順だからこその攻撃能力だ。分散させれば本来の能力も発揮できないわね。」
黄蓋もうんうんと頷いている。
陸遜らは、高順の実力を詳しくは知らない。だが、孫策達が決断をするのなら、それが大きな間違いで無ければ従う度量はある。
結論は出たな、と思い孫策は高順のほうへ向き直った。
「2・3・4の条件は、こちらとしては問題ない・・・訳じゃないけど。寧ろ望むところね。ただ、1つ目に対してはいますぐに、と確約が出来ない。状況が流動的でもあるから・・・でも、絶対にあなたたちが納得できるような場所を与えて見せるわ。その代わり、思いっきりこき使うから。」
それでもいいなら、と孫策は言う。
「それだけの働きを期待しているからね?」というニュアンスも含まれている。
この言葉に、高順は横にいる仲間達に聞いた。
「ふぅむ・・・趙雲さんたちはどう思う?」
「孫策殿が、高順殿を使いこなせるのであればそれに越した事はありますまい。」
「私は隊長のご決定に従うまでです。」
「へへっ、俺も同じ意見だ。大将のやりたいようにしてくだせぇ。」
聞き終えた高順は、そうか、と頷いた。
「それじゃあ、話は決まりました。約束どおり、俺は孫策殿に従います。そして、こちらの要求を呑んでくれた事に感謝しますよ。」
事も無げに高順は答えた。
どうなるかとハラハラしていた孫権は、「はー・・・」と胸をなでおろして安心した。
もしも孫策が高順に無茶な条件を吹っかければ制止するつもりだったが、それは杞憂だったらしい。
孫策と周喩も「期待しているわよ」と高順に声をかける。
「ふっ、これで、我らが劉繇に負ける要素が無くなったわ!」と黄蓋も満足そうだ。
高順は「周りはともかく俺にそんな力はありませんよ」と返すが、黄蓋は「謙遜するでないわ、わっはっは」と笑い飛ばす。
孫家の武将の中で誰が一番高順を高く評価しているかと言えば、実は黄蓋だったりする。
黄巾討伐で共に戦場を駆け、相手は趙雲だったが反董卓連合でも実際に戦った経験から評価が高いのかもしれない。
一部の武将はまだ納得しかねない感じだったが、そもそも主君・軍師・宿将が高順のことを認めている。
高順が孫家に仕えてから暫くは騎馬隊の力を活かせる戦場が無かったので、そういった「認めない」人々の嫌がらせはあったが、それを知った黄蓋。
「なに、お主の戦場での働きを見せてやればそれで解決する。そうすれば難しいことは言えぬさ。」と常に擁護する側に立ってくれていた。
そんな黄蓋は割りと無茶な人であるが、丁原の元で下積みをした経験からか、高順も上手に付き合っていた。
その流れを見ていた孫策は高順を自陣営に留め置くための布石として「高順と黄蓋仲よさそうだし、結婚でもさせようかしら?」と恐ろしい事を考えたそうな。

それはともかく、孫家に仕えることになった高順とその仲間達。
この後、孫策が太史慈捕縛してきたり、孫策の台頭を嫌った袁術の嫌がらせに、孫家は全力で仕返しをしてみたり。
着実に江東に勢力を広げていくのだが・・・

それが語られる事は、きっと無い(あれ?









~~~悪ふざけ。字数埋めと言う久々のキャラの掛け合い~~~
「どうも、楽進です。まったくあの色ボケ隊長は・・・(ブツブツ)」
「やあ、こんな所くらいしか出番のない沙摩柯だ。・・・って、何をぼやいている?」
「何って、隊長の事です。また女性が増えますよ。ハーレムですか!?」
「外来の言葉だぞ、それ。・・・まあいいか。実際には前からハーレムだな。ところで、当初の予定で10話で打ち切られるはずのこの話。最初期ではもっと違った話だったそうだ」
「え? どうせ作者の脳内(規制)でしょう?」
「・・・否定が出来ん。じゃなくて、当初の高順の性格はもっとキツかったらしいな。」
「キツいって?」
「ああ、何が何でも呂布に天下を取らせようとする・・・陳宮と組んで汚れ役になることも辞さない、とかそんな感じだった、らしい。乱暴な性格ではないが、陳宮の謀に全面協力して、とかな。」
「ええ・・・? 想像できないですよ。」
「作者も「そんな凄まじいオリキャラ描写できん!」と諦めたからな。勢力図も正史・原作と違って大きく変更されていた」
「変更って・・・魏・呉・蜀じゃない?」
「その魏にあたる部分が劉備・袁紹。蜀に当たる部分が曹操。呉は孫策だが、呂布は荊州だ。凄まじく混沌としているな。」
「・・・中二病ですか。」
「劉備は河北で袁紹の策に乗って、野望を露にして皇帝僭称。官渡の戦いをギリギリで曹操に勝利・・・とかな。」
「・・・。(うわぁ・・・とか思っている」
「まあ、そんな破綻した世界をどうするかなんて駄作者に思いつくはずも無い。結局お蔵入りだな。」
「最終的にどうなるんですか、その話。」
「曹・孫・呂連合と偽皇帝劉備の軍勢と決戦だ。しかも、諸葛亮が劉備を暗殺して更に混沌と・・・劉備軍の連中が不憫な扱いだな。今でもか」
「・・・(中二・・・中二・・・)」
「このシナリオもそうだしな。駄作者、プロット作ったのはいいが、肉付けをしていく最中で次々とネタが出てきたらしくてな。それを追加するから手に負えずに「しまったぁぁぁあ!」とか叫んでるし。」
「馬鹿ですね。逝けばいいのに。」
「全くだな。ああ、それと。」
「それと?」
「暫く、私達・・・というか、高順隊の出番はないそうだ。今までが無駄に忙しかったしな。暫く休暇を楽しむとするか。」
「えっ!?」









~~~楽屋裏~~~
あれ? あいつです(挨拶

さて、皆様の予想通り孫家に仕えることになりました。
もしも土地与えられるとしたら武陵とかになるかも。あそこは魏と蜀に接している場所ですしシャマカさんの出身でもありますし・・・。
まあ、先の事は解りません(おいおい



さて、暫く高順達の出番はありません。
え?打ち切りじゃないかって?

うん、そn(刺殺

ではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第1話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/29 20:31
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第1話。

河北、渤海という地。
この渤海の太守であり、河北最大勢力を誇る袁紹。
その袁紹は城の大広間で・・・。
「をーほっほっほっほっほ!!!」
馬鹿・・・じゃない、高笑いをしていた。

董卓陣営が崩壊し、各諸侯は己の根拠地に戻っていった。
袁紹もそうだが、彼女だけは帰還してすぐに勢力拡大を図ったのである。
元々兵力が多かったせいもあるが、瞬く間に南皮(なんぴ)を併合。劉備の拠る平原にも圧力をかける。
袁紹の馬鹿笑いは、南皮を兵力の損失無く取り込んだ事に満足したからである。
袁紹。字を本初。
河北最大勢力である袁家には、従う将も多い。
謀臣としては田豊、郭図、逢紀、許攸。
武将としては顔良・文醜。麹義、朱霊。
他にも審配、王修、蘇由、周昂、崔琰、陳琳・・・多くの配下が居る。
袁紹本人が働かなくても、他が働くので楽は楽なのだが・・・。そのせいで、袁紹本人の資質が丸つぶれであった。
名族の生まれである袁紹は、幼い頃から我侭放題でそれが普通の環境であった。
そんな我侭な彼女だが、内面は優しく涙もろい。
顔良や文醜も袁紹の我侭に振り回されっぱなしだが、それでも彼女を見捨てずついて行くのはそういった内面を誤解せずきっちりと理解しているからこそである。
さて、それは置いておくとして。
城の大広間には、殆どの武将が集っている。
いないのは募兵に出ている審配と、袁紹に直言はばかることのない田豊くらいであろうか。
その広間に居た軍師の1人である郭図が、ご機嫌な袁紹に進言をした。
「殿、一つ宜しいでしょうか。」
「あら、何かしら、郭図さん?」
郭図は、外面を見れば・・・まあ、解り易いくらい陰険な顔をした男である。
逢紀、許攸もだが自身の栄達ばかりを考えている節があって、気に入らない人間はどれだけ優秀でも諌言しまくりという、主君にとってはた迷惑な軍師である。
その郭図の進言である。
良識のある武将は皆、どこか嫌そうな表情をしていた。
「はい、わが殿の威光は四海に遍く(中略)。いかがでしょう、この余勢を駆って鄴(ぎょう)を奪われては?」
「鄴? あら、韓馥(かんぷく)君のところですわね。」
「は。黄巾の乱の後、鄴は復興著しく。わが殿の威光であれば、韓馥など瞬く間に降伏し忠誠を誓いましょうぞ。」
このゴマすりに、軍師陣は皆「その通り!」と袁紹を誉めそやし、顔良らは「また始まったか・・・」とうんざり気味である。
ただ、袁紹はこの言葉に微妙に不快感を持った。
「郭図さん、韓馥など、と申しましたわね? ・・・何だか気に入りませんわ。」
実際はお馬鹿なのだが、割と情理で動く事のある袁紹には妙に気に入らない事だったらしい。
これには郭図らも驚いて「いえいえ、これは言葉のあやと言うものでして」と弁解をしている。
「しかし、この河北で覇権を握ろうと思うのであれば鄴を得るは必須ですぞ」
「う・・・うーん。」
「我らの兵力は10万以上、鄴の兵力はそれほど大きくありません。兵を出して降伏を促せばすぐに決着がつきましょうぞ!」
「公孫賛が攻め入ろうとしている、とでも言って兵を救援に差し向ける振りをするのです。さすればすぐに軍権を奪えましょう。」
公孫賛が攻め入る、というのには理由があって、彼女は現在劉虞と交戦状態にある。
交戦と言っても、公孫賛から仕掛けたわけではなく、劉虞が攻撃したのだ。
劉虞は反董卓連合に参加しておらず、公孫賛の兵力が多少弱体化したことを見越して行動に移したのであろう。
彼の軍師に魏悠(ぎゆう)という人物が居たが、魏悠は公孫賛を攻撃したがる劉虞に「彼女の才は今の時代に必要なもの。どうか私怨を忘れなさいませ。多少気に入らぬといっても目をつぶるべきです」と常日頃から説得を続けていた。
魏悠が生きているうちは我慢していたようだが、その魏悠が病死。
劉虞はすぐに軍を起して根拠地である薊(けい)から東進、公孫賛の本拠である北平へと迫る。
が、劉虞には軍事的才能は欠片もなかった。心ならずも迎撃に出た公孫賛の軍勢に火計で攻められ、また白馬義従に散々に追い散らされて命からがら薊に退却。
公孫賛としても、攻撃をされた以上黙っているわけにも行かず薊へと軍を出す。
現状がそういった所で、もしかしたら南へと攻めてくるかも・・・と疑心を起させようと言うのだ、
そう言って畳み掛けていく軍師陣。
それに大して顔良は「まだ南皮を併合したばかりなのに、そんなに兵を動かしてどうするんですか!」と反論をする。
許攸が「鄴を併合した後に内政に励めば宜しいでしょう!」と更に反論。
袁紹軍は毎度こんな感じだ。配下同士で議論をすることが許されているが・・・肝心要の袁紹の判断が伴っていない。
これが曹操や孫策ならば、ある程度の方策を打ち出した上で部下の進言を聞くという形なのだろう。
ところが袁紹は方策そのものですら部下に丸投げしてしまっている。それが妙に上手く行くときもあれば、逆に大失敗であったり。
ともかく、今回の出兵には顔良や麹義など、主だった武官は出兵に反対。
郭図など強硬派は顔良らと議論をせず袁紹本人に出兵を求める。
「殿、ここで兵を出さぬのは天意に反しまするぞ!」とか「顔良殿の言い分は現状意維持の消極策ですなぁ」など、景気のいい言葉ばかり並べている。
袁紹もあっさりそれに乗せられて、「なら、出兵ですわ!」とか決めてしまう。
「ぇええ・・・麗羽(れいは。袁紹の真名)さまぁ・・・」
顔良は何とか袁紹を思い留まらせようと食い下がるが、袁紹は「をーほっほっほ!」と馬鹿笑いをしていてまるで聞いていない
「ねぇねぇ、文ちゃん。文ちゃんも反対してよぅ」
顔良は隣に居る文醜の袖をくいくいと引っ張る。
だが、文醜は「ふぁぁ」と欠伸をして・・・何と言うかやる気がない。
「ちょっとぉ」
「あー。無理だってば、斗詩(顔良の真名)。あーなった麗羽さまが人の意見聞くわけねーじゃん?」
「あぅ・・・そうなんだけど。」
「ほら、今攻めなくたってどーせどっかで攻めるんだし。伸るか反るかってやつ?」
「・・・すっごい極端だよね、その考え方。」
相方の無茶理論のせいで痛くなった頭を抑えつつ、顔良は「はぁあああ・・・」と溜息1つ。
袁紹という変な主君と、猪突猛進、たまに袁紹と共に騒ぎを大きくする文醜のせいで、思考も行動も一般人な顔良は普段からどれだけの苦労をしているか。
偵察・部隊の指揮・袁紹の身の回りの世話、護衛など。
これだけやって倒れないのは苦労に慣れてしまったから、というところだが・・・本人からすれば「そんな慣れ方やだなぁ」と思うだろう。
そして、話は誰が向かうか、である。これは袁紹がすぐに決めた。
「そうですわねぇ・・・麹義(きくぎ)さん、先鋒軍は貴方が大将としていきなさい。副将は高幹(こうかん、袁家の血縁)補佐としては・・・郭図さん、逢紀さん、許攸さん。」
「はっ!?」
「あら、何ですの? 言いだしっぺは貴方達ですわ。」
「むぐっ・・・」
麹義以外の3人はむっつりと押し黙った。
彼らは危ない場所には絶対に行きたがらない。自分の発言に責任も持ちたくないから、そういう荒事は全て他人任せである。
そのあたりを考えると田豊は剛毅だ。
現在彼は、郭図らの諌言を真に受けた袁紹に蟄居を命じられて自宅にいる。
もともと直言はばからぬ人なので、正しいことを言っているのを理解してても袁紹には煙たがられていてそんな結果になってしまっている。
そんな扱いを受けても袁紹を見捨てぬ辺り、素直なのかそうでないのか。
「後詰として、私が2万を率いますわ。ただし・・・韓馥君は、絶対生かして私の前に連れて来るように。殺してはなりませんわ! ・・・宜しいですわね?」
「ははっ」
軍師陣が余計なことを言わぬうちに、と麹義と高幹は平伏した。
少し補足をすると、現状の袁紹軍で兵の統率力・・・扱いが上手いのは麹義か審配だろう。
その次が顔良、文醜と続く。
袁紹の血縁でもある高幹もそこそこだが軍を使うことは上手く、副将につけたのも箔をつけてやろうとしたのかもしれない。

こうして先鋒軍3万、後詰に2万。総勢5万の大軍勢が鄴に向かおうとしていた。

さて、鄴。
こちら側でもすぐに袁紹が進軍してきた事を察知して「さあどうする」と主要な人々が会議を行っていた。
会議を行っているのは韓馥、張郃・高覧・沮授・辛評など、韓馥配下主要武将だ。
鄴は裕福な土地柄で、黄巾の中核軍に占拠されていた時代もあったが、復興は早かった。
楽進の攻撃でボロボロにされた北城壁の補修には手間どっていたようだが。
兵士もやろうと思えばすぐに3万なり4万なり集める事ができる。
もっとも、韓馥は「まず復興を第一に」という目標を掲げていたために、現在の兵数は1万数千。
兵を募集したところで、装備があるわけでも無く、兵数が5倍近く。
北城壁をすぐ突破される事もわかっている。
張郃・高覧が実戦部隊の指揮を行い、策を出すのが沮授。後方で支援に徹するのが韓馥と辛評。
これが彼らの布陣なのだが、さすがに5倍近い軍勢に抗えるはずも無い。
「どうなさるおつもりか、韓馥殿。」
張郃の言に、韓馥は「抗戦をしても勝ち目は無いです。それなら降伏するしかないんです。」とだけ応えた。
韓馥は10代半ばの若い・・・少年と言っても差し支えがない。
袁紹とは、幼い頃からよく知っており、顔良らと同様袁紹の性格を誤解せずに理解している。
袁紹にしても自分を殺すかどうか解らないし、降伏さえすれば自分はともかく、兵と民の命は安堵されるはずだ。
「されど、それでは韓馥殿のお命が危うくないか?」
「うん・・・そうだろうね。僕もそう思うけど・・・それで皆の命が助かるなら。」
それに、いきなり攻撃される訳じゃないよ、と韓馥は笑う。
戦力差があったからといって問答無用で攻撃を仕掛けてくるとは考えにくい。
袁紹軍がきたのなら、自分から降伏を願い出てもいいとすら思っている。
「ま、そのときが来たら来たで、この老骨の首も差し出すと致しましょうかの。」
そう言って笑うのは辛評。老骨と言うほどの年齢ではないが、彼は韓馥軍では一番年上である。
またそのような戯言を、と苦笑するのは沮授。彼女は韓馥の軍師だ。
君主である韓馥が一番年下だが、心優しい彼は将兵にも民にも慕われていた。
「どちらにせよ、すぐに応戦する準備をする必要はあります。袁紹の目論みは間違いなく、ここ・・・鄴の占領でありますれば。」
「左様、いざ戦とあらば我らにお任せを。なぁ高覧。」
「おう!」
「いざとなれば住民を退避させた上で、都市内に誘き出すこともありうる。それに・・・ふふふ、黄巾の時とは都市の造りを変えたのだ。勝ちを拾えなくともそう簡単にやらせはしない。」
「待て待て。それでは負ける言い方ではないか。」
「おっと・・・失礼。」
戦力の差は大きく、また戦となることが決定した訳ではないが、彼女達はやる気満々であった。







~~~真・恋姫†無双~萌将伝 発売決定を祝って~~~
「よう、ヒロインの1人のはずなのに出番がない馬超だ。」
「初めまして、じゃないかもだけど、このシナリオでは出番がないかもしれない馬岱だよっ♪」
「まあ、祝うといいつつまともな話にはならないのが解りきってるけど・・・。」
「そうだよねー。」
「ところで、だな・・・」
「ん? なーに、お姉さま?」
「その・・・今回も20股・・・なのか?」
「・・・。(沈黙)」
「そ、そうなのか!? やっぱりそうなんだな!? あのやりt(削除)」
「え、えっとぉ・・・その、すごぉく言いにくいんだけど・・・。」
「は・・・? まさか、もっと・・・? い、いや。あの世界でのご主人様の事だ・・・さ、30股くらいなら許す!」
「んっとね・・・まだ未確定情報だけど・・・出演する人々数えたら・・・その。」
「その、何だよっ・・・?」
「・・・50股くらい?」
「Σ!?」
「え、あわっ・・・まってお姉さま! こんなところで槍振り回しちゃ駄目だってばぁっ!」
「うううううるさいー! こうなったらご主人様を焼いてから埋めて死なす!
「何その猟奇的な順番!?」




~~~楽屋裏~~~
どうも、応援しちゃってるあいつです(挨拶
もしスタッフロールで名前出たら「先生、アホの子がここにいます!wwwww」とでも笑ってください(何を


さて、ここからしばらくは外伝になります。
高順らが孫家に合流、袁術を倒したりしている間の北の情勢・・・といった感じでしょうか。
このシナリオの袁紹は最終的に原作とは違う感じになると予想。
少しでもかっこよくなればいいなぁ・・・彼女にネタを期待している方には申し訳ありません、と最初に謝っておきます(笑

それでは、以降しばらくは「外伝・袁紹伝」をお楽しみください。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第2話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/04/29 07:03
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第2話。


韓馥のもとに袁紹の「親書」が届けられたのは、袁紹軍が鄴の東・・・2里か3里ほどに陣を置いた翌日の事だった。
その数、およそ3万。
まだ北城壁の補修が終わりきっていない状況、その上兵数も1万数千。
韓馥側も徹底抗戦を望む訳ではなく、何とかして僅かでも有利な条件を引き出して和睦、或いは降伏を望んでいた。
親書は「公孫賛が鄴へ攻め入らんとしている。鄴の戦力では防ぎきれないし、私(袁紹)と韓馥の仲でもあるし力を貸したい」という旨の内容である。
そして、話し合いがしたいので袁紹軍陣営まで来られたし、と締めくくられていた。

「罠でしょうな。」
「罠としか言いようが。」
「私もそう思います。。」
「うむ、十中八九どころか十中十罠です。」
「・・・あ、あはは・・・。」
張郃・高覧・沮授・辛評が次々に言う言葉に、韓馥は苦笑していた。
幼い頃からよく我侭を言われて袁紹に振り回された韓馥にもそれはわかっていた。
話し合いがあるのなら、自分からやってくるべきだし、袁紹がそこまで複雑なものを持った人と言うことでもない。
というか、こんなに彼女の字は上手くない。
だが、話しはこちらからもせねばならない事だし、頭が悪いとは言え道理を尽くせば袁紹も話の解らない人ではないのだ。
韓馥は話し合いに応じることにした。
こうなる結果が解っていた韓馥の部下達は溜息をつき、それならばと沮授は献策する。
「まずは返書を出します。使者としては耿武(こうぶ)と閔純(かんじゅん)が宜しいかと。まだ袁紹本人の考えかどうかは解りませぬし、相手の真意を探らなくては」
これが袁紹の考えであろうと、この親書を出した者が本人とは限らない。というか多分他の誰かが書いている。
交渉をするなら頭の悪い袁紹相手のほうが分は良いし、袁紹が着陣するまでは無用な力攻めなどは行わない公算が大きい。
もしも目の前に着陣している部隊が攻撃を仕掛けてくるのなら、それこそ公孫賛にでも助けを求めればよい。
袁紹(の策ではないだろう)が公孫賛をダシにしているというのは、公孫賛の軍事力が厄介であると考えている事の裏返し。
ただ、問題はあった。
耿武と閔純、彼らは韓馥が幼い頃から仕えている人々だ。
忠誠心に厚いのは良いのだが・・・割と過激な面があって言動も素でヤバイ。
この件で呼び出された時。「もし何かあったら袁紹を刺してきます!」とか「袁紹ヤれば解決でいいんでしょぉ? 簡単なことですぜフハハァー!」とか・・・
なんというか言動がキツイというか何かを極めちゃってるアレな感じなのだ。
こんなのに使者を任せるというのがそもそも間違っている気がしないでもない。
韓馥も信頼はしていても不安になったのだろう。
「絶対、おかしなことしちゃ駄目ですからね?」と忠告しているのだが・・・
「解りました! 暗がりで刺してきます!」
「要はばれない様に後ろからザックリいけってことでしょぉ? 朝飯前だぜぇ、ヒャッハァ!」
「全然解ってない!? お願いですから変なことしないでくださいね!?」
「解りました! 許可をいただければ皆殺しにして見せます!」
「おいおい、俺達2人であの3万の軍勢をヤれだってぇ? 殺戮の予感に胸が躍るぜぇ、イヤッハーーーァッッ!!」
「言葉通じてます!? というか僕を困らせて楽しんでるだけですよね!!」
「何故解ったのですか!? 騙せると思ったのに!」
「おいおい、俺は本気だったぜェ!」
・・・。3人の遣り取りを見て「こんなに危なっかしい奴らで大丈夫なのかなぁ」と周りにいた人々全員が不安になったとか。
こう見えても彼らは韓馥の身の回りの世話などは完璧にこなすのだから、世の中と言うのは解らない。
沮授は(不安感を打ち払って)さらに指示を続けていった。



袁紹軍陣営。
こちらでは意見の相違があって混乱、或いは衝突していた。
麹義、高幹ら常識的な武将と、郭図・逢紀・許攸といった金や権力の事しか考えてない謀臣。
なぜ衝突しているかと言えば、耿武と閔純が韓馥の返書を携えてきたことによる。
最初、麹義は「何の返書だろう?」と思っていた。
聞いてみれば、袁紹から親書が送られ、それに対しての返事だという。
麹義も高幹も、そんな親書が送られていたことは知らなかった。「郭図らの仕業だな」と思いつつも、なんとか上辺を取り繕って使者を送り返したのだが。
その後、麹義は郭図ら3人の謀臣を呼び出して怒鳴りつけていたのである。
「貴様ら、一体何のつもりだ!」
「はて、何のつもりとは?」
「とぼけるつもりか? 韓馥殿に対して親書を出したのは貴様らであろう!」
「さて、何の事やら・・・?」
郭図・逢紀・許攸はあさっての方向に視線を泳がせる。
「総大将である俺に断りも無く、その上袁紹様の名を騙るとは・・・。」
「はは、麹義殿。貴方は勘違いをしていらっしゃる。証拠も無く我らを疑うとは、いやはや。」
「くぬっ・・・!」
こいつら以外にそんな真似をする奴は居ない。麹義もそれくらいは理解できる。
が、しかし。証拠が無いというのもまた事実であった。
「それに、ふふふ・・・忙しくなるのはこれからですぞ?」
「・・・? 忙しく、だと?」
逢紀のいやらしい笑みに、麹義は悪寒のようなものを覚えた。
(こいつら、何を考えて・・・)
「そろそろ、報告が来る頃でしょう。「韓馥から遣わされた使者が変心。麹義殿を暗殺しようと目論んだので処刑した」という報告が。」
「・・・! き、貴様らっ!」
この瞬間、麹義も高幹も、この謀臣らの考え全てが理解できた。
何でも良かったのだ。「韓馥からの使者」を誘き出す事が出来れば。
その使者を秘密裏に殺して「こちらに被害を出そうとした」という状況をでっち上げる事がこいつらの目的だったのだ。
陣内部で殺してしまえば。郭図らが命じれば兵士達も口を噤む。そして、その状況が作り出されてしまえば、お互いが後に引けなくなる。
韓馥でも良かったのだろうが・・・
麹義は「ちっ!」と舌打ちをして、陣を出ようとした。
止めさせなくては。これでは袁紹様の意思を無視することになる!
しかし、それは間に合わなかった。
ほぼ同時に、2本の剣を携えた兵士が陣幕へと駆け込んできたのだ。
青くなる麹義。そして笑みを浮かべる郭図達。
兵士は郭図らに血まみれの剣・・・韓馥軍が正式採用している二振りの剣を捧げるように手渡す。
「むふふ、ご苦労。これで韓馥を攻める口実が出来ましたなぁ・・・。っくくく。こちらの兵も死んだようですが、何。この状況を作るためならば安いというもの。」
(・・・くそっ。こちらが攻めなくても向こうは篭城か、或いは攻めてくるか・・・)

使者として派遣された耿武と閔純の首は鄴に向かって晒されたという。


鄴城にて。
こちらでは、2人の首が晒されてすぐに戦闘態勢を整え始めた。
これは袁紹軍が難癖をつけてくることも予想していた沮授・辛評の手配で、僅かな期間で全兵を纏め上げている。
それを尻目に、韓馥は幼い頃から自分を守り続けてくれた耿武と閔純の死に落ち込んで涙を流した。
確かに物騒な人々ではあったけれど、韓馥の命令には絶対に背かない忠臣でもあった。
その2人が、袁紹の暗殺など・・・いや、最初はヤる気満々ではあったが、韓馥の命令に従って馬鹿な真似はしなかったはずだ。
状況からすれば、本来はここで両陣営共に使者を出して誤解を解くべきであった。
だが、こうなってしまった以上はどうしようもない。と諦めてしまったのである。
沮授は「本当に耿武達が暗殺を試みたのかを問う使者を出すべきではないか」と思ったが、それも口封じで抹殺されかねない。
賽は投げられた、ではないが・・・ここまでくれば互いに後戻りなどできよう筈も無い。そう思い込んでしまったのだ。
韓馥は大広間で、配下の武将全員を集めている。
彼は、このような事になってしまい、申し訳ありません。と頭を下げた。
「まず、勝ち目の無い戦いです。袁紹軍の兵力は3万以上、こちらは・・・出撃できる兵数は1万前後。何より、向こうには後詰もあるはず。・・・沮授さん」
呼ばれて、沮授は続ける。
「現状で勝ち目はありません。市街戦を想定しておりましたが・・・先ず、目前の部隊に一当てし、そのまま北を目指すのです。」
「北? どういう事か?」
「公孫賛殿を頼るのですよ、張郃殿。かの御仁は現在劉虞を攻めています。が、これが終われば袁紹との決戦は避けられぬ状況となりましょう。」
「ふむぅ。しかし、公孫賛はそのまま劉虞を殺すのではないかの。」
「ありえませんね、辛評殿、公孫賛殿としても、劉虞を殺す値打ちも意味も無い。適当に放逐なり釈放なりするでしょう。」
「なぁ、頼るなら南の曹操とかでもいいんじゃないか。」
高覧も挙手をして意見を述べる。
「左様ですね。しかし、南に抜けるのにも袁紹の影響・・・勢力版図を通らなくてはならない。現状、曹操としても我らを受け入れて袁紹と矛を交えたくはありますまい。」
「じゃあ、公孫賛を頼るのはいいのか?」
「単純に近い、袁家の勢力の及ばぬ場所が多いと言うことが1つ。2つ目に公孫賛殿の性格と韓馥様との間の友誼。3つ目に・・・これが一番大きな要因ですが、公孫賛殿は晋陽の張燕、北の烏丸と盟約を結んでおります。」
「う、烏丸と!?」
「ええ。少なくとも、南北で挟み撃ちにされる事はありません。公孫賛殿の兵力はそれほどでなくとも、晋陽と烏丸の援護を得ることが出来れば?」
「・・・袁紹にも対抗できる、と?」
烏丸の騎馬兵の能力の高さは折り紙つきである。それを自在に使用できるかは今1つ解らないが、判断材料の1つとして考える事ができる。
「その可能性は高いでしょうね。烏丸がそこまで積極的に動くかどうか、そこが不透明ですが。そして、しかるべき後に南の曹操と同盟、或いは協力体制が出来れば・・・。」
「なるほど。袁紹は二面作戦を強いられる、ということか。」
張郃の言葉に、沮授は頷いた。
「無論、公孫賛殿がそれまで保ち、曹操がこの話に乗れば・・・という事でもありますね。袁紹が本腰を入れれば曹操と盟を結ぶ事もできるかどうか。されど、今の状況よりはよほどマシ・・・とは思いませぬか?」
『むぅ・・・。』
「ともかく、今は目の前の事に集中いたしましょう。・・・城内の非戦闘員を巻き込むことはしません。一撃離脱。ただ是のみを良とします。袁紹といえど、反抗をしない民に手をかけるほど愚かではないでしょう。では」
沮授は韓馥を促し、引き下がる。
「皆、絶対に死なないで。・・・出撃します!」
『応!』

数刻と経たず鄴の城門が開き、韓馥の軍勢1万ほどが陣をじりじりと進めてきていた袁紹軍に向かっていく。
先頭を進むのは張郃・高覧。
沮授と辛評もいるが、2人は中軍にあって韓馥を守っている。
彼らの出撃を見て取った麹義は、弩兵・弓兵に命じて屋を射掛けていく。
麹義という男は、突撃戦が出来ない訳ではないが、どちらかといえば待ちの戦いに秀でている。
張郃・高覧の攻撃力は高いが、こちらの陣に到るまでに相当数の兵を減らせるはずだ。
決戦は不可避、と覚悟を決めた麹義であったが、彼もまだ諦めてはいない。
なんとか鄴に韓馥を封じて、袁紹が着陣するまで包囲を続ければ良い。
とにかく、韓馥を殺さぬように、本気では攻めない。
弓・弩の連携、至近距離まで迫られれば、歩兵を繰り出して防がせつつ騎兵で横っ腹を突く。
郭図らは「ここで殺さねば禍根が云々」とか言って五月蝿かったので適当に閉じ込めた。
あとは兵士が上手くやってくれればそれで収まるのだが・・・。
見ていると、韓馥軍の突進力は中々のものだ。
先頭で奮戦する張郃と高覧の武が凄まじいのもあるし、その突撃によって前線部隊が崩されかかっている。
そこに歩兵を繰り出して弓・弩部隊を下がらせ矢を射込んで行く。
ただ、その動きに麹義は不審なものを感じた。
何故に韓馥軍の前衛部隊だけが斬りこんで来て後に続く部隊が斬り込んで来ないのか。
「む・・・あれは。・・・!?」
麹義の目に映ったのは、最初に斬りこんで来た張郃らの部隊が一気に北へ向かって転進した場面。
そして、その後に続いてくると思われた中衛・後衛部隊も一気に北へ駆け始めたということ。
弓・弩部隊も矢を射かけて、そのたびに韓馥軍の兵は倒れていくが、それを顧慮せず一散に北へと走っていく。
(まさか・・・。不味い!)
「伝令! 高幹部隊に追撃を仕掛けさせろ! 何が何でも韓馥軍を止めるのだ!」
「は・・・?」
伝令に言い捨て麹義は急いで馬に跨り、兵を従えて韓馥軍と同じく北へ向かって駆け出した。
すぐに高幹も追いついて麹義に質する。
「麹義殿、追撃はしないはずでは!?」
「そうも言っておれん! 韓馥殿が鄴に篭ると思っていたのがそもそも間違いだ!」
「は!?」
数が少ないと思って油断していた。篭るしかないと思っていたのも間違いだった。
「彼らは北へ・・・公孫賛の元へと向かうぞ! そうなればどうなる!」
高幹はすぐにその意味を理解した。
「・・・袁家を攻める名分を、得る。」
「そうだ! ・・・こうなれば贅沢は言えん。多少の無茶をしてでも韓馥殿を止める!」
「はっ!」
袁家はまだ公孫賛と戦いたくは無い。
いずれ戦うのは解っているが、今はそのときではないのだ。南皮を得て鄴を得て、平原を得る。
できるだけ肥沃な土地を得てから公孫賛の勢力版図である幽州へと攻める。それが現状で取る賢い手といえる。
真正面からやりあっても負ける事は無いだろうが、公孫賛は戦が上手いし領内をきっちりと纏め上げている。
負けることは無くとも、こちらの戦力を大いにすり減らす戦いになる。それもまた理解されている事だった。
韓馥もだが、張郃や高覧といった武将が公孫賛の元へ駆け込むのは何とかして阻止したい。
とにかく、徹底的に矢を打ち込み、追撃を仕掛けて足を止めるなり韓馥を捕らえるなりしなければ。
麹義は焦りつつも馬腹を蹴り、馬を急がせたのだった。

交戦をせず、ただ逃げの一手を取る韓馥軍の被害は大きかった。
少数で袁紹軍の前衛に突撃をした張郃らの部隊も被害は大きかった。(彼女自身は手傷のひとつも負っていなかったが)
ただ1つ問題があるとすれば、韓馥自身が深手を負ってしまったことだった。
彼は中衛部隊にいたのだが、袁紹軍の兵が放った矢・・・その刺さった深さから見て弩であろうが、それが腰に刺さっていたのである。
中軍の更に真ん中辺りに居たはずだが、部隊を反転させた時に一時的に兵の囲みの厚さが薄くなってしまったのかもしれない。
もっと厄介なのは、矢の刺さった鎧の部分までが傷口に食い込んで悪化させてしまっていた事だ。
医術を心得ているものもいなければ薬も無い。出血も酷く、手が出せない、という状況だった。
殆どの兵が反撃をせず逃げに徹した事で、それほどの被害を出さずにすんだということは幸運だったかもしれない。
が、韓馥の容態を診るために一時的に行軍速度を落としたせいで、あと少しで袁紹軍に追いつかれ交戦状態になるような位置にまで追いつかれてしまっていた。
その韓馥は脇腹を押さえ、何とか馬から振り落とされないように手綱を掴んでいる。
沮授・辛評が側にいるのだが、血が足りないのだろう。視界がぼやけて韓馥には2人の顔が良く見えない。
「はっ・・・はぁっ」
手綱を抑える手に力が入らない。
どうもここまでのようだ、と韓馥は腹を決めた。
「韓馥様・・・しっかり」
隣に居る沮授は馬を寄せて声をかけるが、返事は返ってこない。
先頭を駆けている張郃と高覧も心配しているが、だからと言って速度を緩める事が出来ない。
自分達が速度を落とせば軍全体の行軍が滞る。
「沮授、さん。これを・・・。」
「・・・?」
韓馥が所持していた竹簡を沮授へと放り投げた。
「っと・・・これは?」
「公孫賛殿への、書簡です・・・もう、僕の手で渡せそうに、ごほっ・・・」
「韓馥様!?」
咳き込むだけではなく、大量の血を吐く韓馥。
彼はわざと馬の走る速度を緩めて隊伍から外れていく。
「韓馥様! 何を・・・」
「僕はここまでみたいです・・・少しだけ、時間を稼いで、見せますから・・・早く・・・北、へ・・・」
「くっ!」
同じく引き返そうとする沮授だが、それを辛評が押し留めた。
「辛評殿、何故止めるのです!」
「・・・。」
辛評は無言である。彼もまた、すでに心を決めている様子だ。
見る見るうちに韓馥の姿は遠のいていく。
「張郃さんと、高覧さんにもよろしく・・・」
誰の耳にも届かぬほどか細い声でそれだけを言って、韓馥は完全に馬を止めた。それに従い、同じく速度を落としていた彼の親衛部隊も二百ほども付き添うかのようにその場に留まる。
そして、辛評も。
「ふふ。後は頼むぞ、沮授。」
「貴方まで・・・」
何故自分は残れないというのか。この状況、好転させる事ができない無能の自分が残るべきではないのか。
沮授の考えは解るが、それを了承してやる訳には行かない。
辛評は頭を振った。
「お主はまだ若い。それに託されだろう? 公孫賛殿への書簡をな。韓馥殿がお主を信頼するからこそ与えた仕事よ。自身の仕事をきっちりやりとげてみせい。」
それだけ言って、辛評は返事を待たずに馬首を返した。
「・・・くそっ」
沮授はただ、その後姿を見送る事しかできない。

「はぁ、はー・・・くっ。辛評さん、貴方が残る必要は、無かったのに」
馬に乗ることすら困難であった韓馥は、下馬して手ごろな岩のうえに座っていた。
「いや何。若い者だけに任せておくなどできませぬわ。韓馥軍の老人は誰も彼も生き残りたがるなど言われたくもありませぬしな」
そんな事誰も言わないだろうに、と韓馥は血の気の無い顔で僅かに微笑んだ。
彼は今、血が止まらず、命の灯も消えかかっている。
どちらにせよ死ぬのだから、と残ったが戦いになれば一番の役立たずではないだろうか。
隣に佇む辛評は「来ましたぞ」と韓馥に語りかけた。
死を覚悟で残る彼らの目の前に迫る袁紹軍の数は千程度。
「ふっ、血が滾るというもの。各自、奮戦せよ!」
言葉を発する事すら辛い韓馥の代わりに辛評が檄を飛ばす。
それに応じるかのように、韓馥親衛兵が弓を構えた。

袁軍から見れば、敵兵数僅か200。すぐに片が付くと思っただろう。
その考えはすぐに甘いものだと知る事になった。
油断して近づいた兵は矢で射抜かれ、怯んだところで一気に突撃を仕掛けられる。
数が少ないとは言え、太守の親衛兵なのだ。錬度も装備も普通の兵とは違う。
親衛兵が討ち漏らした幾人かの袁兵が突破してきて、韓馥も何とか兵を1人斬り捨てたがそこまでで、後は辛評の肩を借りなければ立てないほどであった。
まず、雑兵が蹴散らされ散り散りになっていくが、やはり数の差はどうしようもなかったらしい。
その時点で親衛兵も数多く討ち死に、生き残ったものも疲労が大きい。
そこへ袁紹軍の後続の兵が現れ・・・これは千程度ではなく、数千規模の数であった。
先ほどの戦いを見ていたのか、数が多くても遠巻きに囲むだけで手を出してこない。
と、そこで一気に矢を撃ち放ってきた。陣形を整えて攻撃する期を見ていたのだろう。
それで生き残っていた韓馥の兵もほとんどが射倒され、残ったのは韓馥、辛評を含め数人ほど。
韓馥自身も脇腹以外に足や腕に矢を受けていた。
今度こそ、ここまでだ。
岩を背もたれにして荒い息をついていた韓馥は、苦労しながらも顔をあげた。
そして「皆さん、ありがとう。よく、戦ってくれました・・・」と言って、咳き込んだ。
「ははは、では、最後のご奉公といきますかな。・・・ゆくぞ!」
辛評も生き残った兵たちも韓馥の言葉に笑顔を見せ、拱手をしてから数千を越える袁紹軍に斬りこんで行った。
彼らが行った後、韓馥は静かに目を閉じた。
こんな結果になってしまったのは残念だが、だからといって袁紹を恨むつもりは無かった。
死を控えた彼の脳裏には、今まで自分を支えてきてくれた人々の姿が思い起こされた。
高覧・張郃・沮授・辛評・耿武・閔純。
多くの人に支えられてきた人生だった。自分は彼らに少しでも報いることは出来ただろうか。
不安が無い訳でもない。
公孫賛ならば、生き残った人々を間違いなく受け入れてくれるだろうが、そのせいで袁紹との戦いに引きずり込む事になる。
皆、大丈夫だろうか、という不安と、公孫賛に対して申し訳なく思う気持ち。
最後に、公孫賛と共に袁紹に振り回されながらも、楽しかった日々を思い・・・静かに息を引き取った。

この乱戦の中、韓馥と共に足止めとして残った兵は全滅。辛評も斬り死にを遂げたという。


麹義の周りの兵は韓馥を討つべきではないと知っていたが末端の兵にそこまで命令が行き届いてるわけが無い。
実際に戦いになれば生け捕りがどうとか言ってはいられないのだ。
麹義が追撃していった兵士に追いついた時には、すでに韓馥は帰らぬ人となっていた。
遅かった、か・・・。と麹義は血が滲むほどに唇をかみ締めた。
これで現状避けえた筈だった袁紹も公孫賛の戦いが前倒しになったことは否めない。
彼は馬から降りて、韓馥の亡骸に近寄っていく。
彼の亡骸を見れば、幾本もの矢を受け、それでも苦悶の表情を浮かべることなく逝った事が解る。
柔弱と言われることが多い韓馥だったが、最後に男としての意地を見せたということだろう。
麹義は、韓馥の亡骸を前にして、静かに拱手をした。
敵、とは言い切れなかったが同じ男として、彼なりの最大限の敬意であった。

「将軍、北に逃げた部隊への追撃は・・・?」
「もう間に合わんし追いつけん。行かせてやれ。」
遠慮がちに聞いてきた兵に返し、麹義は韓馥の亡骸を抱き抱えた。
「戦死した者達を弔ってやれ。韓馥殿の兵もな。」


袁紹が鄴付近に展開する陣に到着したのは、韓馥戦死から半日ほど後の事であった。




~~~楽屋裏~~~
ここまでの難産とは思わなかったよ! あいつです(挨拶
グダグダですがお許しを。今回、4回くらい書き直してるんです・・・(実話
え? 耿武と閔純? いたっけ、そんなの?
冗談はさておき、あんな危険人物になるとは思いもしませんでした。
正史だか横山氏の作では袁紹を暗殺しようとしてましたね・・・
それを膨らませたらただの犯罪者になりました(あれ? 

韓馥の扱いどうしようとか、沮授達を史実のように袁紹軍に入れさせるかとか・・・
それじゃ面白くないと思って普通の人のところへ向かわせました。
そして状況を更に複雑にして収集できなくなる自分の姿が目に浮かびます(駄目

さて、人物紹介ではありませんが・・・
韓馥という人、このシナリオではこういう亡くなり方でしたが正史・演義共に凄まじく情けない死に方です。
いや、他にもいるんですよ? 落ちぶれて「蜂蜜舐めたいー!」とか言って亡くなった方とか、会見場で武器投げつけられてさらし者にされるとか。
勝ち目の無い戦争ばっかかまして陣中で亡くなった人もいれば、有力家臣粛清しまくった挙句負の遺産ばかり子孫に押し付けて亡くなった厨いや仲謀とか。
そして韓馥さん。暗殺されると勘違いして厠(といれ)で首をくくった、とか・・・

・・・。ネタっぽい亡くなり方をしている人々の多い三国志でも、一際異彩を放った最後といえるような。
って、人の亡くなり方ネタにするべきではないのですけどね。
総じて言うと、この人は劉備に騙されて蜀を奪われた劉璋以下の能力だと思います。
最後はともかく、そこに至る経緯を理解しておられる方は納得できるのではないでしょうか?w
興味がわいたら調べてみてください。

あと、やはり別枠というか独立した作品にして高順伝と分けるべきなんですかねえ(汁

ではまた次回。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第3話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/02 23:16
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第3話。


鄴の外に在る袁紹軍の陣。
今までは麹義が責任者として統括していた陣だが、今は袁紹がそこにいる。
袁紹は、韓馥に会えると思って内心で喜んでいた。
生かして連れて来い、というのも韓馥を攻め滅ぼすつもりではない意思表示のつもりだ。
袁紹としては韓馥を自分の手元においておけば「またいくらでも遊べる」という程度の認識でしかなかった。
韓馥は、袁紹にしては珍しい男友達である。
顔良や文醜もだが、色々と迷惑をかけつつあちこちへ引きずって遊んだものだ。(その韓馥を挟んで公孫賛との交流もあったりする。
その性格のせいで多くの人に好印象をもたれなかった袁紹にとって、得がたい存在だったのだ。
もっとも、その得がたい存在は・・・袁紹の知らぬところで逝き、この再開も幽明を異にしてのものとなってしまった。

袁紹は、総大将専用の陣幕で韓馥の亡骸と対面していた。
仮設の椅子に座って待っていた袁紹の前に引き出されたのが韓馥の亡骸。
彼女は言葉を失って、呆然と亡骸を見つめていた。
袁紹の隣にいる顔良と文醜も、何も言えず立ち尽くしている。
韓馥の亡骸の向こうには麹義と高幹、郭図ら三人の謀臣。
麹義は、事の次第をほぼ全て袁紹に報告していた。
ただ、死なせてしまった落ち度が自分にあるからか、郭図達を諌言するような真似もしない。
状況を作り上げたのが郭図、逢紀らとはいえ、それを統率できない自分にこそ最大責任がある。
最後に「責任は自分にあります。どうぞ処罰を与えていただきたい」とまで言った。
自分達に被害が及ばない事を確信したか、郭図らは控えながらもニヤニヤと笑っている。
もっとも、袁紹はその報告を殆ど聞いていなかった。
何故だ、絶対に殺すなとあれほど言ったのに。
生かして連れて来いと言ったのに、何故。何故こんなことになってしまった?
ほかの事を考えられない。
辛うじて「さっ・・・退がりなさい!」と叫ぶ程度だ。
麹義と高幹が「しかし、処罰を・・・」と願い出たが、袁紹は「追って沙汰を、出しますわ・・・」と落ち着かぬ様子で答えた。
「・・・ははっ」
そうまで言われれば退かざるを得ず、麹義らは全員その場を辞した。
彼らが去ってから、顔良は袁紹を慰めようと喋りかけようとしたが、文醜が顔良の肩を掴んで止めた。
「文ちゃん・・・」
「やめときなよ、斗詩(顔良の真名)。一人にしてあげるべきだって。」
「でも・・・」
「いいからいいから。・・・麗羽様、うちら陣幕の外に居るんで何かあったら呼んでください」
ほらほら、と文醜は顔良の背中を押して陣幕から出て行った。
彼女達は武将兼護衛なので、離れるのは得策とは言えないのだが・・・周りには袁紹の兵士がいるだけで、鄴に残った守備兵が打って出てくるとも考えられない。
打って出てきたところで、陣を守備している兵士は袁紹が率いてきた2万を加えて5万前後に膨れ上がっている。
圧力を加えずとも、降伏勧告で事足りる。
暗殺者を放ってきたところですぐに見つかるだろう。刺客の類を心配する必要も無いと言えた。
皆が陣幕から出て、袁紹以外には誰もいない。
韓馥の亡骸はあるが・・・それはもう、生きていない肉の塊だ。
袁紹は椅子から立ち上がり、韓馥の元へ歩いていき・・・亡骸の前でへたりと座り込んだ。
死なせるつもりなど無かった。ただ、昔のように遊びたいだけだったのに。
一体どこで間違えたのだろうか。何がいけなかったのだろう。それが袁紹には理解できなかった。
後悔しても遅い。何をしようと、韓馥が生き返ることは無い。
「どうして・・・どうして、こんな・・・」

少しして、陣膜の中から袁紹の慟哭が響いた。
人払いをして、2人で陣幕を守っている顔良と文醜にも、袁紹の泣き声は聞こえている。
やはり心配なのだろう、顔良は陣幕の中へ入っていこうとしたが先ほどと同じように文醜に止められた。
今は一人にしておいたほうがいい。という文醜の主張も解らないではない。
顔良は何度も行くべきかどうかを迷い・・・結局、諦めて項垂れた。
二人にとっても韓馥は仲の良い友人であった。
彼女達は元々馬賊出身で立場も位も韓馥のほうが上だったが、そういった所をひけらかさず付き合ってくれたものだった。
その韓馥の死に涙を流す袁紹と、まだ聞こえてくる慟哭。
顔良達は締め付けられるような無力感、やるせなさを感じて佇む事しかできなかった。

一夜明けた後、少しは落ち着いたのだろう。袁紹は鄴へと降伏勧告を出した。
鄴の官民としても逆らう事ができるとは思っておらず、それを受諾。
袁紹はまず韓馥の為に盛大な葬儀も執り行いその亡骸を弔った。
それで官民の反発が収まる訳ではないだろうが、袁紹の望んだ事でもあるし、その辺りはあまり関係が無いとも言えた。
また、渤海から鄴へと本拠を移すつもりらしく、多数の家臣と兵を鄴へと移住させている最中だ。
自身に反発があるとはいえ、鄴は渤海よりもよほど規模の大きい都市だ。
豊かさにおいても、これからの政戦略においても、鄴のほうが都合はいい。
韓馥の遺した遺臣連中も今までどおりの待遇で扱うことにもした・・・。と、ここまでが袁紹のやった事である。
ただ、そこから袁紹はまったく動きを見せようとしない・・・というか、指定して自室とした場所に引きこもって中々外に出ようとしない。
韓馥の事で精神的に大きな傷を負ったことが要因なのだろう。
顔良や文醜としては早く立ち直って欲しいが、事が事なだけにそう上手く行くとも思えない。
どうしたものか、と思うし・・・何より。
「仕事が溜まって何も出来ないんですよ! 文ちゃん全然手伝ってくれないしーーーー!」
・・・。顔良の(ある意味)悲痛な叫びが、鄴の城内に木霊する。
何故か彼女は政庁で。何故か太守が使うべき机と椅子を使用して。
政務をこなしていたのである。
「あっはっは。心配性だなぁ、斗詩は。」
文醜はそう言ってケタケタと笑う。韓馥のことをもう忘れたのか、それとも酒で忘れようとしているのか。
その文醜を見て、顔良は一旦筆を置いた。
「・・・そう言っても文ちゃんは手伝う気ないよね?」
「当っ然!」
そこら辺に腰掛けて、真昼間から酒をかっ喰らいつつ、しれっと言ってのける文醜。
(うわ、すっごく殴りたい。)と右拳に力を込める顔良だったが、それで気力を使うのもあほらしいので辞めておいた。
政・戦・諜報。なんでもござれの顔良だが、流石にこの状況は不味いと思う。
袁紹は判断などあまり下さない、というか全部他人任せだったが、大事な案件くらいはちょこちょこと自分で見ていた。
袁紹と言う人はああ見えて・・・持ち前の強運もあったが、大きな才能(実力とは言わない)を秘めているし、政治手腕もそれなりにある。
そうでなければ一群一都市の太守などできるわけが無い。
早く復帰して欲しいな、と思う。主に袁紹と自分自身の為に。
ただ、文醜は何がおかしいのか笑いながら言った。
「麗羽様なら大丈夫だってばさ! そのうちケロッとして「お腹空きましたわ!」とか言って出てくるって!! あっはっはっは!」
「・・・・・・。」
文ちゃんなんか不幸になっちゃえ。
そんな言葉を心中で押し殺して、顔良はこなしてもこなしても一向に減らない、目の前に山積みの竹簡・書類相手に再び挑み始めた。

当の袁紹は、自室の寝台で寝転がってぼんやりとしていた。
彼女はまだ落ち込んでいたが、今まで感じたことの無い感覚にも戸惑っている。
大切な人が死んだ、という事がこうも自分の心を深く抉るだなんて。
父母は既に亡くなっているから、大切な人を失ったのはこれが最初ではない。違いがあるとすれば、自分のせいであるか無いか、という違いだ。
乱世の習いと言うことで、洛陽の時みたく自分で手を汚す事もあったけれども。
こうなる事が起こりえる・・・というのはちょっと考えれば解るし、覚悟もするべきであった。
ただ、今までの袁紹にはそんな覚悟も無く、いや、最初から覚悟なども考えてもいなかった。
自分はどうするべきだったのだろう、と誰かに聞きたかったが・・・顔良と文醜は優しくしてくれるだろうが、きっと上手くは答えてくれないだろう。
郭図、許悠、逢紀・・・論外な気がする。
他にも荀諶(じゅんしん)、王修、崔琰(さいえん)などもいたが、彼女はふと一人の人物を思い浮かべた。
彼ならば、もしかしてきっちりと答えてくれるのではないだろうか?
謹慎させているとは言え、彼も鄴に移住させているし、宛がった居館の位置も把握している。
「・・・。よし。」
既に時刻は昼辺り。出かけるのならばちょうど良いだろう。
袁紹は少し迷いつつも、寝台から体を起こして久々にまともに部屋から出た。
彼女は顔良と文醜を探して城内を歩き回った。
廊下やらどこやらですれ違うたびに、働いている人々は久々に姿を現した袁紹に頭を下げたり会釈をした。
逸れに対しては手を振って応え、顔良らの部屋に赴いたのだが・・・どうもいないらしい。
せわしく歩き回っている人(部下だが)を適当に捕まえて聞いたところ、政庁で仕事をしているという。
政庁ということは、自身の代わりに働いているのだろうか。
袁紹は急ぎ足で政庁に向かうが、果たしてその通り。
皆が皆、忙しそうに動き回っていた。
袁紹は入り口付近に立って顔良と文醜を探したが、2人はすぐに見つかった。
顔良机の上、大量に置かれている書類と格闘しておい、文醜はその隣で酒かっくらっている。と、すぐに袁紹に気付いた。
「あっ・・・袁紹様?」
「ほらなー? やっぱ出てきたっしょ?」
彼女らの言葉に、部屋の中に居た人々が一斉に袁紹へと向き返った。
「おお、殿!」「ご機嫌麗しゅうございます!」などと挨拶をしてくれる。
普通に駄目な人である袁紹だが、その駄目っさぷりがいいのかどうか、はともかく。
家臣達は「それはそれで」と袁紹の為に働いている。駄目なやつほど可愛い、ではないが「もう少し常識的になってくれれば」とも思われている。
天分とか天性と言うべきか、彼女は回りの勢力が思う以上に家臣からの忠誠を得ていたのである。
「ご苦労ですわ」と返事をしつつ、袁紹は顔良と文醜のところまで歩いていった。
「二人とも、所用で外出しますわ。供をなさい。」と顔良達を引っ張っていく。
「え``っ? ちょ、ちょっと・・・まだお仕事・・・っていうか、袁紹様のお仕事ですからねこれ!?」
「あっはっはっは! 諦めろって、斗詩!」
「これだけ溜まったお仕事どうするんですかぁ!」
顔良の叫びに、袁紹は辺りを見回す。ちょうど良く、三人ほどが目に留まった。
「王修さん、崔琰さん、董昭さんに任せておきなさい。」
『えっ!?』
呼ばれた本人達は・・・なんというか「ガビーン」ってな表情である。自分達も忙しく働いているのに! という感じだ。
「お待ちください、殿でなければ通せない案件などが・・・」
「適当にこなせばそれでいいですわ。」
『えーーー!?』
・・・こんな感じで、いつも通りの袁紹っぷりを押し通して、彼女は出かけていったのである。


~~~鄴市街~~~
鄴市街を歩き続ける三人。
「あの、麗羽(袁紹の真名)様・・・どこに向かっているんですか?」
袁紹の後ろについている2人。顔良と文醜だが、その顔良が袁紹に質問をしていた。
「田豊(でんぽう)翁の所ですわ。」
『・・・えぇっ!?』
袁紹の出した名に、2人は大いに驚いた。
田豊というのは、袁紹軍きっての軍師・・・あるいは宰相という人だが、直言はばからぬ男性である。
そのせいか郭図らのような謀臣かつ佞臣とは反りがあわず、諌言されまくって謹慎、という憂れき目にあってしまった。
直言はばからぬといっても、普段は気のいい性格なのだが。
翁、というのは田豊が既に60近いので袁紹なりの敬意であったりする。
「自分で「謹慎ですわー!」とか言ってたじゃないですか? それなのに、何故自分から・・・」
「郭図らでは話になりませんもの。つべこべ言わずついてらっしゃいな。」
「・・・?」
顔良と文醜は怪訝そうにお互いの顔を見合わせた。
何かおかしい。いつもの麗羽さまじゃないような気がする、と。
「あのぉ・・・田豊様に会ってどうするんです?」
「話を聞きますわ。」
『ええ!!?』
「・・・だから、さっきから何ですの?」
二人の更なる驚きっぷりに、袁紹は少しだけ不機嫌そうだった。
「だって「あの翁の話は長くて疲れますわ」とか「耳が痛くなりますわ」とか言ってた袁紹様ですよ!?」
「それが自分から話しに聞きに行くだなんて・・・何か、悪いものでも食べたのか!!!」
「・・・。」

*二人とも、袁紹の所持する剣の柄で叩かれました。

頭を摩る顔良らを連れて袁紹は田豊の居館の前にたどり着く。
大して大きくはない。一勢力の宰相が住む、というのには少々小さいと言うか何と言うか。
「ふむ・・・随分とボロの屋敷ですわね。」
「そりゃあ、あの田豊様ですし。」
田豊はあまり財貨に頓着しない。この居館にしたって、雨風を凌げればそれで充分という感覚なのだろう。
「まあ良いですわ。それじゃ入りますわよ。・・・翁、翁! いらっしゃいますかしら!」
入り口の前で大声をあげる袁紹。だが、返事は無い。
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・。でてこないっすね。強行突破します?」
文醜が得物である大刀「斬山刀」を構えた。
「いや、文ちゃん・・・すぐに強行突破図るのは止めたほうがいいと思うけど。」
「やー。でもさぁ、田豊様が麗羽様恨んでる線もあるしー。嫌がらせで出て来ないってのもありえn「やかましいのぉ」あ。」
扉が「ギィィ」と開くのと同時に、老人が顔を出した。
その老人は、扉の前に立っていた袁紹・顔良・大刀を振りかぶった文醜を見て「これはこれは」と相好を崩した。
「で? なぜ醜の字は刀を構えておるのかの? ・・・事と次第によっては痛いどころか死なせてくれと言うほどのお灸を据えねばならんのじゃが。」
「え。あっ・・・あははは。じょ、冗談に決まってるじゃんかぁ、やだなぁ田豊様ってば」
文醜は誤魔化し笑いをしつつ刀を引っ込めた。基本は穏やかな老人だが、本当にやりかねない。
その田豊は袁紹を見つめつつ、笑う。
「しかし、殿がお越しになられるとは。珍しい事があるものですな。」
「え、ええ・・・。」
袁紹はばつが悪そうに頷く。
「まあ、宜しいでしょう。ささ、中へお入りくだされ。」
「・・・お邪魔しますわ。」

応接室に通された三人。
袁紹は椅子に座り、机にはお茶が入った杯が置かれている。
袁紹の目の前には田豊が座り、顔良らはそこらへんに適当に腰をかけてお茶を啜っていた。
「さて、どのようなご用件でこの爺をお尋ねに?」
「それは・・・ええと。」
言いよどむ袁紹だが、隠しても仕方がないと話しはじめた。
「韓馥君を死なせてしまいましたわ。」
「ほぅ。」
ほぅ、と返事をしたがそんな事は移住してきた袁紹陣営の人々殆どが知っていることだ。
どのようにして死んだか、までを知る人は少ないかもしれないが、田豊はその情報をきっちりと仕入れてある程度の事は理解している。
「私は、派遣した者達に絶対に死なせるな、と命令しておきましたわ。でも、結果は・・・。」
どうしてこのような事になってしまったのか。原因は誰にあって、この状況を回避する術はなかったのか。
それを聞きたいからやってきた、と袁紹は素直に話した。
「そうですなぁ、現場として見るなら郭図ら3人のせいかと思われますがな。」
麹義は傲慢なところはあるものの、袁紹の意向に無闇に逆らいはしない。
となれば、消去法で郭図らしかいない。
「しかし、一番の原因と言えば・・・やはり殿でしょうな。」
「っ・・・。」
袁紹は唇を噛んだ。やはりそうなのか、と。
今までの袁紹なら怒って帰ってしまったかもしれないのだが、彼女はじっと田豊の話に耳を傾けていた。
「殿は強固な君主制を敷いておりませぬ。部下との間に大きな壁が無いといえば聞こえは良いでしょうが、反面軽視されてしまいまする。」
何もかも自分でやる必要は無いが、今の袁紹のように何もかも「部下に」任せているようでは駄目だ。と言うのだ。
「郭図らが暴走をしたのは間違いなく殿の甘さが原因のございますれば。」
「では、こちらの言い分を完全に押し通せるようにしろと・・・?」
「そういうわけでもありませぬ。方針を出して、部下に議論させるくらいは宜しい。ただ、決断をするのは殿ご自身。そして、1つの結論を出したのならばそれを徹底的に守らせることです。」
「そうは言っても何から手をつけていいのか、何をすれば良いのか・・・」
そこからも、2人の会話は長く続いた。
顔良と文醜も、こんなに誰かと長く、しかも真面目な話を続ける袁紹をはじめて見た。
というか、真面目な態度を取る袁紹の姿など見た事がなかった。
気がつけば、すでに時刻は夕方。何時間も真面目な話をしていた。
放っておけば延々と話をしているので、顔良は話が一度途切れたところに割り込んだ。
「あのぉ、袁紹様。そろそろ、時間が」
「え? ・・・あら、もうそんなお時間?」
ふと見れば、文醜は地面に寝転がって寝ている。
「くかー」といびきをかいているのだから気楽なものだ。
「ほら、文醜さん。起きなさいな。」
「ふがっ? ・・・んぅ・・・。」
袁紹に体を揺さぶられた文醜は、んー、と目を擦りながら体を起こした。
まるで子供のような仕草である。
「おお、お帰りですかな。」
「そう致しますわ。・・・。また、意見を聞きにきても宜しいかしら?」
「はっはっは。謹慎を解いてくださればこちらから参りますぞ。」
からからと笑う田豊に、その通りですわね、と苦笑する袁紹。
まだぼけーっとしている文醜を顔良に任せて、袁紹は田豊の居館から辞していった。
最後に「では、また」とだけ言って。


田豊の謹慎が正式に解かれたのは、次の朝を迎えてすぐだったという。






~~~楽屋裏~~~
燃え尽きたぜ、真っ白によ・・・あいつです(挨拶
この後もちょこちょこ追加で書こうかと思いましたが、駄目です、長くなりすぎます。
かといって何時までも外伝続ける訳にもいかず・・・短く纏める能力が無いと辛いです
早く外伝終わらせて本編進めないとw

袁紹さんが少しずつまともになるようです。
曹操との一大決戦をできる人間になるのか、そもそもあいつがそんな袁紹を描けるのか・・・無理ですゴメンナサイ

曹操のライバルと言えば、皆様は三国鼎立した劉備か孫権・・・殆どの方が劉備を思い浮かべると思うのですが、あいつは真っ先に袁紹を思い浮かべてしまいます。
官渡の戦いと言うのは、力を付けて来た曹操にとって最大の戦い・・・
正直、赤壁か、それ以上に大きなものだったと考えています。
その後の戦いでも、どちらかといえばぱっとしないものが続くイメージですし。
夏候淵の死んだ漢中争奪や、赤壁の再来ともいえる濡須の戦い・・・ああ、曹休があっさり騙されたコレは曹操病没後ですけど。
やはり、三国志が一番盛り上がるのはこの辺り(西暦200年前後)だと思えて仕方が無いw
曹操がここまで苦戦したと言うのはあまり無いので余計にそういうイメージがあるのかもしれませんね。
何だかんだといいつつ、袁家掃討に8年近くかかっていますからねえ・・・
あくまであいつ個人の考えですが。

だからと言って、三国志後期が盛り上がらないとは言いません。
蜀滅亡時の黄崇や張遵などいわゆる2世武将が国難に殉じていく場面。
呉末期で陸抗が必死に国を支え、張悌や沈瑩が呉の将として意地を見せたところなどは大好きです。
・・・両国、その時点での皇帝がアレでアレでアレでしたが(解りません


って、総閲覧数88万越え!?
えっと・・・(激震
ミナサン、ミルベキモノヲマチガッテマセンカ?(ガクガク


それでは、また次回。ノシ




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第4話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/09 18:34
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第4話。


「はぁ・・・ようやく、だな。」
鄴より2里か3里ほど東。
20代後半から30代前半ほどの女性が、馬の上で呟いた。
童顔とは言えないまでも少しだけ若く見られる傾向があって、スタイルも袁紹には及ばぬまでもそれなりに良い。
実際の年齢よりも若く見られるタイプの女性である。
腰には剣を帯びており、鎧を着込んでいるので軍属である事が理解できる。
「全く。移住するならするで連絡くらい寄越してくれてもいいだろうに。・・・ま、袁紹様だしな。」
迂闊なお人だ、仕方なし。と女性はブツブツとぼやいている。ともかく、鄴は目の前だ。
「早く報告だけ済ませてしまおう。・・・久々のご主君の機嫌は如何ほどかな?」
独り言の止まらぬ彼女の名は審配。字を正南といった。
そして、彼女の主君は鄴城、政務室で仕事と格闘していた。

田豊に諭されてから、彼女はきっちりと仕事をこなすようになっていた。
時折おかしなポカをするものの、優秀な仕事ぶりと言っていい。
今までサボったツケと言うべきか、ちょっと信じられない量の仕事が溜まりに溜まっていた、という事情もあったし。
地元有力者との折衝もあれば、生産石高の調べなおし、韓馥治世下での税収・支出計算。
流民の流入があったり、それに伴う戸籍の見直し、治水計画・・・大量の仕事がある。
よくもまあこう放っておいた物だと誰もが考えたが、袁紹は逃げることなく、机に齧りついてでも仕事をこなしていた。
その心情の裏には、韓馥の死を一時的にでも忘れようとする彼女なりの痛ましい思いがある。

そんな激務真っ最中、審配がようやく政務室に到着した。
政務中と聞いて、彼女は「ほお?」と感じていた。
もっと言えば、出来れば仕事をしたがらず遊び呆けている事が多いあのお人がな・・・という意味での「ほお?」である。
そんな彼女が「失礼します」と政務室に入っていく。そこは・・・

「袁紹様ー! これどこに持ってけばいいんすかー!? by文醜」
「さっき言ったでしょう! 崔琰さんの所ですわ!」
「え、袁紹様・・・これ、計算が間違って・・・! by顔良」
「えぇっ!?」
「殿ー! これだけの書類を一気に持ち運ぶのは辛いです! by荀諶」
「なら、警備兵を使っても構いませんわ!」
「袁紹様、追加の竹簡50束にございます! 今日中にご決断をお願いします! by王修」
「もう夕方ですわよ!!?」


カオスであった。

そこかしこに竹簡やら何やらが散乱しているし、疲労のあまり床にへたりこんだり、ぐったりしている内政官の姿も多い。
忙しく動いている人々も多く・・・ごったがえしていた。
その混沌っぷりに多少戸惑いつつも、審配は報告だけは終えようとした。
「報告いたします。募兵を終えt「あら、審配さん。ちょうどいい所に来ましたわ!」はぇっ?」
袁紹は両手で竹簡と書類の束を抱えて審配に押し付けた。
「え、あの。袁紹様??」
「それを陳琳(ちんりん)さんの所へ持って行ってくださいな。 早くお願いしますわよ!」
言いたい事だけ言って、袁紹はまた机に戻っていく。
「は、あの・・・陳琳はどこに? というかほうこk「ほらほら、審配さん! そんなところに居たら邪魔ですから早く!」え、ちょっと待て顔良!?」
バタン。
顔良に背中を押されて、審配は政務室を追い出されてしまった。
何でこんな事になっているんだ。自分は報告をしようとしただけなのに。
「・・・。陳琳、どこにいるんだろ・・・?」
ちょっと泣きそうになりつつ、審配は陳淋の居場所を教えてもらおうと、城の女中やら誰やらに聞きこもうと動き始めた。

陳琳を探して、大量にある書類束を渡したまでは良かったが、その陳淋に「審配殿、これを殿の元まで持っていってくだされ!」とまたしても竹簡の束を持たされた。
「これ、さっきより量が多くなって、ってちょっと待て! 私は荷物運びじゃないんだぞ!? それこそ、s「兵士や女中ですら動員されているのですから文句を言わないでください!! 私だって忙しいのですから!」・・・すまない。」
そりゃそうだけど。確かに聞こうとしても女中や兵士まで忙しく動いていて聞き辛かったけど。
だからって、なんで私が叱られているのだろうか。
なんで仕事を終えて、根拠地を知らぬまま変更されてて、やっと鄴にたどり着いたばかりの私まで。
ほとんど休み無く動いて、報告さえ終われば少し休めると思っていたのにこんな扱いを受けるなんて。
いや、私は負けない。袁紹様が珍しく(?)ご自身の責務を果たそうと努力していらっしゃるのだ。
・・・そう思わないとやっていけない。
何故か頭の中に「殺意の波動」と言う危険な言葉が一瞬だけ思い浮かんだが、それは忘れておこう。
そうやって、無理に自分に言い聞かせ・・・というか奮い立たせて、走り回っている人々の間をすり抜けるように、審配は竹簡の山を抱えて政務室へと戻っていった。

~~~政務室~~~
「殿、陳琳から預かってきました。どこに置けばよいですか!?」
「机の上ですわ!」
審配の言葉に、顔を上げるでもなく。袁紹はあれこれと考えつつ書類に何かを書き込んでいる。
多分、何らかの案件に対しての了承か否決か・・・返事を書き込んでいるのだろう。
筆の先端を忙しく走らせ、幾度と無く硯(すずり)に墨を補充して、と動く袁紹。
こうしてきっちりと政務をこなしているのは久々に見たな、と思う。
じゃない、竹簡を置かなければ。しかし、机の上にそれだけの隙間が無い。
「・・・机の上に置く場所が無いように見受けますが。」
「なら、少し貴方が持ってなさい。」
「え!? 少しって、まさかこれが終わるまで持って居ろと!? どれだけ時間がかかるんですか! これを持ってじっと待って居ろと言うのはつら・・・ん?」
ここで審配、ある事に気がついた。
先ほど見たときと袁紹の髪型が違うのだ。
いつもは(審配が名称を知るはずもないが)鬱陶しいドリル巻きである。
人を馬鹿にしているような凄まじいボリュームで、顔両脇一巻きずつ。
後ろに流しているのも全部で3本か4本と言う・・・周りの人から見ても邪魔臭い髪型だったが、今は適当に布で結い上げて邪魔にならないようにしている。
「あの、袁紹様?」
「何ですの。」
袁紹は筆を止めず、視線も書類に移したまま応える。
「髪形をお変えになられたのですか?」
そこまで言われて、ようやく袁紹は顔を上げて、すこしばつの悪そうな表情を見せた。
「先ほど、墨で汚してしまいましたの。水で洗って纏め上げただけですわ。」
「はぁ・・・。」
見れば、確かに纏められている金髪の先端部分、僅かだが黒色になっている。
多分だが、前かがみになった時に硯の中の墨が引っ付いたのだろう。
食事の邪魔になっても絶対にあの髪型を押し通していたのに、と審配は嘆息した。
その用紙に袁紹は「それがどうかしまして?」と不思議そうである。
審配は慌てて首を横に振り「何でもありません」と返した。
なら良いのですけど。と言い置いて袁紹は再び書類へと視線を落としてあれこれと思案に耽り始めた。
結局、竹簡持ちっぱなしになってしまったが「まあ、待つか」と思い直す審配。
そして、仕事を進めつつ数時間。
「終わり・・・ましたわーーーー!!!」
袁紹は力いっぱい叫んで、机に突っ伏した。
顔良も文醜も、その声でようやく「終わったぁぁあぁ・・・」と脱力して背中合わせになって床に座り込んだ。
審配も「ぜはー・・・」と息を切らしている。
体力のある顔・文2人ですら疲労しているのだから溜まったものではなかったかもしれない。
それを思えば文官連中も頑張ったと言える。
今日だけですべての仕事が終わったわけではないが・・・今まで溜まりまくった仕事を相当減らしたようなので「峠を越えた」というべきか。
それまで仕事をしていた人々も「あー・・・うー・・・」と唸りながら政務室を辞していく。
ようやく、募兵の報告が出来ると思う審配だったが・・・当の本人が疲労しきっていたし、袁紹も疲れていて机に突っ伏したまま眠り始めてしまった。
仕方が無いので明日にしようと考えたのだが、そこで1つ。
彼女は眠りこけてしまった袁紹を抱えようとしている顔良に声をかけた。
「なぁ、顔良。」
「はい・・・?」
「私の寝る部屋ってあるのか?」
「・・・多分無いと思います。」
「・・・・・・。」

顔良の部屋に泊めてもらいました。(文醜が「あたいの顔良に手ーだすなー」とか五月蝿かった)


翌日。
朝議があると言うので、当然審配も顔を出した。が、ここでも・・・袁紹らしからぬ振る舞いを見ることに。
昨日までのドリルロールな髪型ではなく、髪を真っ直ぐに、後ろに流している。ストレートヘアーだ(と言っても髪形の名など知らない)
部下の発言に対しても、今までなら適当に「じゃ、それで良いですわ」と聞き流していたのに。
ところが、袁紹は色々な方策・進言・報告に耳を傾けている。
今期の鄴の収穫・収入予測、兵役を課すにもどれほどなら可能か。
鄴を占領したばかりなので、民の意識に配慮して税の軽減をするべきか否か。
まだ北城壁の修復が微妙に終わっていないがそれをどうするか、今後の戦略として、北・・・公孫賛に対抗するためにどう動くか。
皇帝推戴をして勢力拡張を図る曹操に対してどう動くべきか、など。
また、驚くことにこの朝議の席には田豊もいる。
(あれほど「うるさいから」と遠ざけていた田豊殿の謹慎を解いたのか・・・?)
ちらり、と視線をめぐらせて見たが田豊を嫌う郭図や逢紀は面白くなさそうである。
自分や田豊のような在地豪族の発言権の高まりを嫌っているし、彼らは外部からやって来た人材なので、権益確保に躍起になっている。
その「功を焦る」というのが韓馥が死ぬ羽目になった要因の1つだったが彼らにとってそれはどうでもいいらしい。
そんな中、審配は不意に袁紹に名を呼ばれた。
「審配さん。」
「・・・はっ?」
「昨日、報告があると仰ってませんでした?」
「あ、ははっ。えー・・・南皮ですが、募兵を終了いたしました。また、練兵に一巻として賊退治などで実戦を経験させています。流民などから兵を募り新規で獲得した兵数は7千ほど。」
「宜しいですわ。」
「それと、まだ自身の目で確認した訳ではないので何とも言えないところはありますが・・・。」
「はい?」
「劉備の治めていた平原ですが、その劉備が曹操に召された、という話があります。どこぞの太守に転任でもされるのでは? と。」
「へぇ・・・? では、細作を放ち事実関係を調べ上げて頂きましょう。田豊翁、人選は任せましたわ。」
「承知いたしました。」
その後も話は続くが、審配は隣に居る顔良に小声で話しかける。
「なぁ、顔良・・・袁紹様、どうしてあそこまで変わられたのだ。まるで別人のようではないか。」
「そうですね・・・色々あって一皮剥けた、という感じかな?」
「色々・・・ね。本当に何があったのやら。」
顔良は「後で説明しますよ。」と頷いた。
袁紹が変わるために払った犠牲は大きい。だが、辛い結果でも袁紹は乱世に生きる事を強く意識する事に繋がった。
それは袁家全体で見れば幸だろうけど、本人にとって幸なのかどうかは解らない。
「ま、構わないさ。私は今までどおりお仕えするだけだ。」
「ええ。」
話す2人に、袁紹の叱責が飛んだ。
「そこっ! 私語は禁止ですわよ!」

前まで私語ばかりであった袁紹の叱責に、2人は苦笑しつつ「申し訳ありません」と答えたのであった。









~~~同日同刻、薊(けい)~~~

劉虞を降した公孫賛は「流石に皇族を処刑はできないよなぁ」と放逐した。
その家族も見逃し、また財貨も持たせて兵の逃亡も見逃すなどその甘い所は変わっていない。
もっとも、劉虞旧臣、劉虞を支持していた薊の豪族連中を敵に回すことは避けられた。
韓馥軍が保護を求めて薊にやって来たのは、そんな時であった。
少しは警戒しそうなものだが、韓馥の名を聞いて「ああ、久々だな」と思い、すぐに「何故韓馥君が?」と不思議がった。
その軍師である沮授が面会を求めていると言うので、公孫賛はすぐに会う事にした。
韓馥本人が面会に来ないのがよく解らなかったが・・・彼女の話を聞いて、公孫賛は驚愕した。
袁紹軍が鄴を攻めた事。
そこで派遣した使者が暗殺され、韓馥も討ち死にした事。
そして、沮授はこうも言った。
自分達を公孫賛殿の配下にしていただきたい。袁紹に挑むために力をお借りしたい、と。
「解った、私は貴方達を受け入れるよ。でも・・・そうか、韓馥君が。」
公孫賛は、我知らず拳を硬く握り締めていた。
(麗羽、何故だ。あんなに彼と仲良くやってたじゃないか。なんで殺す必要があったんだ・・・!?)
堅く握った掌に爪が食い込んで血が滲む。
韓馥は自分にとっても友人だった。
よく、袁紹のせいで2人同時に・・・いや、文醜と顔良も含まれていたから4人か。よく振りまわされたものだ。
そんな袁紹との戦いは避けられない。それは間違いの無い認識となった。
そうなれば張燕・丘力居との連携は必須だし、沮授の申し出は、軍事力増強を図らざるをえない公孫賛にとっても悪くない話だが・・・。
公孫賛は、そんなことを考えた自分に少しだけ吐き気を覚えていた。

何にせよ、韓馥遺臣を取り込んだ公孫賛はこれ以降袁紹との対決姿勢を強めていく。
両者がぶつかるのも、そう遠くない未来の話であった。




~~~ちょっと番外~~~


「公孫賛殿。」
「ん・・・ええと、張郃、だっけ。どうかしたか?」
「いえ、どうというほどの事ではないのですが・・・白馬義従の動き方、どこかで見た覚えがありまして。」
「へ?」
「ふむ・・・高順殿の騎兵の運用に近いものがあるかな、と。特に、所属兵のほとんどが騎射を行えるのは大したもの。」
まだ公孫賛の部下になって日が浅い張郃だが、きっちりと騎馬隊の動きを観察していたらしい。
「高順・・・あいつか。」
「ご存知ですか?」
「ん。敵としてじゃなく味方としてだよ。昔、烏丸の内紛を一緒に収めたり、黄巾討伐のときも客将として働いてくれたんだ。」
「ほぉ・・・」
公孫賛は過去に自分の元で働いてくれた青年の姿を思い浮かべた。
あの時は一番恵まれていたと言うか楽だったなぁ。趙雲とかいたし、楽進や蹋頓さんも強かったし。・・・また来てくれないかなぁ。
張郃も張郃で、公孫賛と高順に繋がりがあるのは知らなかった。
名を出したのも特に深い意味は無かった。
「ま、あいつのやり方はちょっと真似できないよ。似ているかもしれないけど、アイツほど突き抜けたやり方は出来ないかな。」
「そういうものですか。・・・公孫賛殿はそれが普通なのかもしれませんね。」
「・・・普通とか言わないでくれっ!」
「は?」
張郃は別にけなしたつもりではなく、褒めたつもりなのだが「普通」という言葉に(何故か)激しく反応する公孫賛であった。






特にオチなく。







~~~楽屋裏~~~
血縁とか出身とか豪族とか、そういう難しい話はあまり取り込みたくありませんあいつです(挨拶
田豊とか審配というのは地元の豪族なんですねえ。だから袁紹も無碍には出来なかったのかなと思う。
史実では無碍にしましたけどねw
けど、そういう難しい話をシナリオに食い込ませるのは極力避けます。ぐちゃぐちゃになりますからww
郭図ら外側から来た連中と田豊ら地元の名士・豪族の政治的闘争とか面倒ですよ、ええ。


そして、久々にでました。普通の人。
この辺りの描写は簡略化させていただいています。長々と書けませんよ。
え? もう少し普通の人出せって?

(黙殺)


さて、もう少しサクサクとやったほうがいいのですかね。
いきなり界橋くらいまで飛ばすとかw


自分に「GW中2回更新!」という縛りを設けていましたが、これで任務完了!
スネーク、そろそろ休憩だ!(誰だ


それではまた次回。






余談:「貴様ら」を「きさ○羅」と一発変換してくれたMyパソに乾杯(駄



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第5話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/09 18:32
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第5話

袁紹は公孫賛、公孫賛が袁紹との戦いに備えて軍備を拡大している最中の事。
この頃には、袁紹は漢王朝・・・皇帝というものに対して興味を失っていた。
別に、自分が王朝を築こうと思うでもなし。
さりとて漢王朝に忠誠を誓うでもなし。どっちつかずの態度である。
劉備が居なくなった平原だが、結局兵を出して併合。無血開城に近い形で領土に組み込んでいた。
曹操から派遣された役人もいたが、曹操が呂布との戦いの真っ最中で援軍を派遣する余裕が無かった。
曹操としては「漢王朝から派遣された内政官」を仕向けているので看過できないのだが、前述の事情があって有耶無耶になってしまっている。
余勢を駆って、北海の孔融(こうゆう)まで攻め「城外退去をするので見逃して欲しい」という孔融の申し出も受け、これまた併合。
上党・河内など、全部で4都市ほどを手中に収めていた。
その結果、孔融は曹操の下へ逃げ込んで袁紹へ攻め入る名分の1つを与えてしまうのだが、これもまた特に意味が無い。
お互いが決着をつけるつもりであるし、何よりまだその時ではないということが解っているのだ。
曹操は呂布、そして劉備。袁紹には公孫賛と言う、黙らせたい勢力が存在する。
両者がぶつかるのは、目の前に残る障壁を取り除いてからだ。

鄴(ぎょう)の袁紹。
曹操が呂布との戦を終え袁紹に備えつつ、自身に敵意を持つ連中を誘き出すための「許田の巻き狩り」などを行っている最中の話になる。
こう書くと余裕があると見えるが、内部に毒を持ったまま袁紹との闘いには乗り出せないということだ。
さて、袁家は一気に所領を広げたは良いが、そのせいであちこちで問題が発生していた。
内政官が足りない事、いっきに領地を広げたせいで、配置兵力に穴が出来始めている事。
ただ、悪いことばかりではない。
上党だが、この地域の収穫高を見ると「予想より収穫が多い」事が解った。
報告を受けて、袁紹は「はて?」と不思議そうである。あの地はそれほど裕福ではなかったはずだ。
その北にある晋陽(張燕の領地、ここは袁紹への敵対意思を見せている)に比べればまだマシだったと記憶しているし、報告として送られてきた書簡に、今回と前期。二期分収穫量が記載されている。
見れば確かに、他の裕福かつ巨大な都市に比べれば見劣りはするものの、収穫量が他地域に比べて多い事が解る。
豊作ならば解るが、それが何度も続くものだろうか。
(あの規模の都市でこの収穫が続くのなら中々のものですわね)と袁紹は興味を抱いた。
袁紹は早速審配を政庁に呼んで上党に行き、収穫量が何故多いのか調査するようにと命じた。
命じられた審配は「え、また派遣されるんだ・・・?」と思ったようだが、君命であれば仕方がない。
審配は命令どおりに上党へ行くことになる。
その間も、袁紹は本気で忙しかった。
まず、麹義の処分だ。
本人は処刑を覚悟していたようだが、郭図らの妨害があっても何とか使命を達成しようとした、という事を高幹から聞いていたし、彼の能力を惜しむ事実があった。
最終的に、「次はありませんわよ!」と叱責・一時的に後方へ回すということで決着した。
処分と言うよりも処遇と言っても良い。
最大原因である郭図らだが、本人達が「我々は何もしておりませぬ」と言い張るし、使者暗殺なども(麹義も理解していたが)現場は見ていないので証拠が無い。
袁紹は心中で(ちっ)と舌打ちして見逃さざるを得なかった。
ただし、鄴攻略の手柄は全て麹義と高幹の物、という事にされた。これが処遇へと置き換わった原因だったりする。
当然、郭図らは文句を言うが、袁紹は取り合わなかった。
「あら、実際に降伏するための足がかりを作ったのは麹義さん達ですわよ? 貴方がたは補佐としてつけましたが、特に何もやっていなかったと聞きますわ。」
と言われて押し黙った。
何かをしたと言えば、何をした? と聞き返されるし、麹義は彼らを讒言しなかったが、弁護をしてやるつもりも無かった。
郭図らは不満たらたら・・・特に許攸がそうだった。
彼は財貨に五月蝿い男で、今回の功績で更に財貨を得ようとしていたが、当てが外れたと不平不満を口にしていた。
郭図たちのものは逆恨みそのものだが、袁紹からしても恨みを抱いている。
袁紹は彼らの不平不満を「働かなかった者に出す報酬はありませんわ。本来の給金で我慢なさいな」ときっぱりと斬り捨てている。

それから数週間ほどで派遣した審配らが帰って来た。
政務室で話を聞いているのだが、その報告によると「丁原という、過去に太守であった人の時代に肥料を開発したらしい」ということだった。
「肥料?」
「はい。その肥料のお陰で少しずつ土地が作物の実りが良くなった、と。」
袁紹は中央で何度も丁原を見たことはあるが、人となりまでは知らない。
そんな肥料を作ったということを聞いたこともありませんわねぇ、と考えつつ先を促した。
「へぇ・・・? その肥料、誰が作ったのかしら?」
問いに、審配は書簡を読み解きつつ答えた。
「ええ・・・高順、という男だそうです。元々は丁原殿の親衛兵であったそうですね。他にも、味噌・・・? という調味料で財を成したとか」
袁紹は「高順?」と聞き返した。
「はい。残念ながら上党にはいないそうです。丁原殿が戦死された後、董卓の元へ。そこから先は流石に所在はつかめず・・・。」
審配の答えを聞きながらも、袁紹は記憶の糸を手繰り寄せてその名を思い返していた。
はて、どこかで聞いたような・・・?
すぐそこまで答えが出掛かっているのに、最後まで思い出せない。と気持ち悪そうな顔をしている袁紹。
文醜は「誰だっけ?」と最初から思い出すのを放棄していたが、顔良は「んー・・・」と袁紹同様思い出そうとしていた。
僅かな間が開いて、顔良は「ぽむ」と手を合わせて「ああ、反董卓連合の時!」と叫んだ。
「顔良さん?」
「思い出しました。孫策さんや曹操さんに奇襲を仕掛けた・・・おかしな鎧を着込んだ人です! すっごく大きい黒馬に跨って・・・」
ここまで聞いて、袁紹も思い出したらしい。
「え、ええ・・・? あの色々な意味で凄いと言うかおかしい「あれ」ですわよね・・・?」
袁紹は僅かに上を向いてあの状況を思い出していた。
孫策の部隊に崖上から、曹操の部隊に真正面から奇襲(何かがおかしい)を仕掛け、適当に損害を出させてからあっさりと引いたアレ。
あの曹操自慢の夏侯姉妹の妹、夏侯淵も追い詰めたアレ。
「何でも、丁原殿に可愛がられていたとか苛められていたとか、それでも犬のように後ろを追いかけていたとか。」
審配は書簡に書いてあることをそのまま読み上げているのだが、袁紹・顔良・文醜はその言葉であれこれと妄想をしていた。
あのでかい馬に跨って曹・孫軍に対して大いに武威を見せ付けた髑髏龍の武者。
それが丁原・・・は、袁紹が外見を知っているくらいだが、その丁原に犬のように尻尾を振って嬉しそうについていく場面。
文醜は「犬・・・く、首輪!?」とか変な方向に突っ走っていたけど。
「ありえませんわね(ありとあらゆる意味で」
「ないですね(ありとあらゆる意味で」
「首輪・・・犬のように従順と言うことは・・・む、鞭まで持ち込んでるとか!?(飛躍しすぎ」
ちなみに、審配は高順を見たことが無いので「何だろう?」と不思議がっているのみであった。


~~~同日同刻、楊州にて~~~
「えくしっ」
孫策に従い、劉繇(りゅうよう)の本拠地である曲阿を攻めている真っ最中。
高順は不意に悪寒を感じてくしゃみをした。
「・・・? どうかなさいましたか、高順さん?」
隣に居る蹋頓が心配そうに高順を見る。
「いや、ちょっと寒気が来たような。・・・大丈夫ですよ。」と返事をするが、蹋頓は冗談めかして「ふふ、ご要望とあれば私の身体で暖めてさしあげますけど」とおかしな話題を振ってみた。
「・・・今、戦争中ですよ」
「あら、振られてしまいましたね。残念です。」
まったく残念そうでない蹋頓が笑う。
「ほほう? このような状況で女を抱くとは。いやはや、さすが高順殿。」
「たーいーちょーうー・・・」
その蹋頓の横で、趙雲と楽進は高順を睨んでいる。
「あれ? 俺断ったよ?」と弁解をするが、2人は全く聞いていない。
「大体、隊長の生活はだらけきっています(性的な意味で)。前から進言をしておくべきことだとは思っていましたが良い機会です!」
「おお、いいぞ楽進。もっと言ってやれ。」
趙雲はさも楽しそうに楽進をけしかけている。彼女は高順が困るのを見て楽しんでいる・・・ぶっちゃけS。
「え? 俺、戦争中って言って・・・! つうかだらけてないよ!? 規則正しいよ!!」
「いーえ、だらけてます! 大体、隊長には愛人が多いです多すぎです! 孫家の世話になったのも、愛人を増やしたいからでしょう! 確かに綺麗な人多いですからね!?」
「えっ? 何でそんな話に!? いやそうじゃなくてそれ八つ当たりですよね!!」
「にひひ、別にええやんか。高順兄さんはヤリチ○なだけで、女性には誠意をもっとるし?」
「相反してるよね、それ・・・|||orz」
兵士達は(ニヤニヤ)と笑っていて、一部隊、いや、一軍を率いる人に対しての態度ではないと思う。
高順隊の、ある意味で日常となった女性側からの一方的な痴話喧嘩(反論は許されない)である。
戦闘中であればこんな余裕があるはずも無い訳だが、これまでの戦で騎馬を使うような野戦が無く、今回も包囲戦である以上、投石機くらいしか使いようが無い高順隊。
劉繇軍が打って出れば出番はあるだろうが、それもないほどに戦力差が逆転してしまって・・・簡単に言えばやることが無い。
だからこそ、この余裕である。(高順は余裕など無いのだが。)


彼らの遣り取りを遠くから見ていた黄蓋は「楽しそうじゃのう、あ奴ら。」と思ったとか。


~~~鄴に戻って~~~
「・・・犬かどうかはさて置いて残念ですわ。一度直接会って話を聞いてみたかったですわね。」
袁紹は高順に興味を持ったらしい。
あの武威は実際に目で見て知っていたし、偶然かもしれないが肥料を作成し、また財力もある。
武将でありながら、金の稼ぎ方や民政にも理解がある、というのは割りと魅力があった。
審配をもっと戦闘に特化させたように感じる。
袁紹配下には有力な武将が多いが、どこか突き抜けた能力の持ち主が居ない。
顔良・文醜・審配・麹義・王修・高幹・朱霊・淳于瓊(じゅんうけい)などは、他勢力の有力武将に比べても遜色ないが、他は武将としては少々力不足の感がある。
どちらかといえば内政型が多いと言うべきで、その不足分を財力と兵力でカバーしているから有利は有利だ。
それでも人は不足しがちだ。何にでもつぶしが利く、と言えば聞こえは悪いが万事そつなくこなせる人材と言うのは、どれだけいても不要と言うことがない。
居場所さえ解ればすぐにでも呼んで話をしたいものだ。向こうが望むなら自分から出向いてやってもいい、くらいは思っている。
田豊に諭されてから、袁紹はよく彼を呼んであれこれと話を聞いて人材が必要と教わっているが、いないのなら仕方が無い、と諦めて袁紹は席を立つ。
やる事は多くあるのだ。練兵、決済、会合、今後の戦略、貧しい農村部への救済物資の輸送、将兵の装備の見直し。
加えて、自分自身が戦場で足手まといにならないように、と顔良と文醜に稽古をつけてもらってもいる。
田豊は「主君自身が前に出ることはないと思いまするが。」とあまり良い顔をしないが、最低限自分の身を守ると袁紹が言えば、さほど強く逆らいもしない。
寝る暇も無いほどに忙しい、とはまさにこのことだ。
時折「遊ぶ暇もありませんわ・・・」とぼやいているが、それでも袁紹は文句を言わず次々と沸いてくる仕事を精力的にこなしていた。
飽きっぽい性格ではある袁紹、一度熱中するとのめりこむと言う悪い性格がここでは良い方向へと進んだのだろう。
それに伴って、顔良や文醜の立場も少しずつ重要なものへと変わっている。
今まで1人でなんでもこなしていた顔良にとっては負担が軽減された形だが、文醜も軍事関係できっちり働かされている。
「さ、行きますわよ。」
「はい。」
「うぃー。」
「・・・。文醜、少しはやる気を出せ。」




~~~少しだけ時間経過、北平城広間にて~~~
「殿、張燕殿と丘力居殿からの返書です。」
「お、きたなー。・・・よし、思ったとおりの結果だね。」
公孫賛は沮授から自分宛の2枚の返書を受け取り、すらすらと読んでいく。
内容は「三者の紐帯を強め、共に袁紹へ対抗しよう」という公孫賛からの申し出に対しての返事。
二枚共に応諾の言葉が書かれていた。
元々関係の深い三陣営であったが、袁紹という強大な勢力が出てきたことは彼女らの結びつきを更に高める結果になっている。
張燕は、袁紹が上党を手中に収めた事で衝突が不可避という状況。
丘力居には、袁家との係わりはない。「公孫賛を見捨てて袁家につくほうがお徳ですわよ?」と、袁紹から手紙をもらっていたが、丘力居はこれを破り捨てた。
個人の恨みでしかないが、袁紹が反董卓連合などぶち上げてくれた為に、育ての親であり姉同然の存在である蹋頓と、その蹋頓の良人である高順も行方不明になってしまった。
結果的にそうなっただけという事はわかるが、いつか董卓から開放されて高順達が公孫賛に合流するか烏丸に帰還、という流れがあったかもしれない。
董卓軍の瓦解後、彼女らの足取りも掴めていない。もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。
ようやく、女性としての幸せを掴めそうになっていた蹋頓。
その幸せを、命を奪ったかもしれない袁家に擦り寄る理由が無かった。

「でもさぁ。これで本当に麗羽に対抗できるのかな。」
「まともにやっても勝てない可能性は高い。ですから、まともに戦わない。」
「・・・ん? どういう意味?」
「こういう意味です。」と、沮授は説明を行う。
この時点での袁家の動員兵力は10万以上だ。掌握した地域が多く兵力が分散したために一時的に少ないだけで、時間が経てば動員できる兵力だけで20万を超える勢いだ。
対して、公孫賛は6~7万。張燕は10万を号しているが、実質戦力となりそうなものは3~4万である。
そして丘力居率いる烏丸も、漢土に踏み込める兵力として7万前後を有している。
兵力だけで言えば拮抗しているが、それ以外は全て負けているといっても良い。
一度の戦闘で袁紹軍に大損害を与えたところで、すぐに勢力を取り戻すだろう。
沮授にはそれが解っている。だから、一度はこちらから手出しをしないといけないだろうが、基本戦略は防衛を取る。
防衛をしつつ、袁紹に出血を強いる。
その間に曹操が南から攻め上がれば、袁紹は兵力を2つに分けざるを得ない。
もし曹操の動きが間に合わなかったとしても、丘力居の保護を受けて不規則に袁紹領へと強襲(ゲリラ戦)を仕掛ける。
曹操ならばともかく、袁紹はわざわざ長城を越えるような真似はすまい、という読みだ。
「うー・・・それって、私が負けることを見越した戦略じゃないかよぅ。」
「・・・(目そらし)」
「あ! 今目逸らしたなこんにゃろー!」
「いえいえ何を仰りますか殿の為に我々は粉骨砕身とかそれっぽい事をして勝利に貢献するつもりでございますし兵の育成も頑張っておりますからあっさり負けることはありません」
「なんで息継ぎなしでまくし立てるんだよ! てか負けるって言ったよな今!?」

なんだか情けない気がしないでもないが、公孫・張・丘の三者が同盟を結んだ事は間違いない。
この北方同盟はその関係を崩すことなく、袁紹に粘り強く抵抗を続けて大いに手を焼かせることになる。




~~~楽屋裏~~~
寒気と鼻水が止まらない! あいつです(挨拶
寒かったり暑かったりとおかしな天気が続いてます。皆様も風邪等・・・げほごほ(既に風邪ひいてる

ついに、正式に三者の同盟が締結されますた。
史実よりよっぽど抵抗してくれると思いますYO!(史実では烏丸は袁家と結んでます

早く曹操と袁紹の対決を書きたいですね。
というか、そうしないと何時までたっても本編に戻れないのですけど・・・最初3話で終わらせる予定だったのに。
毎回分量オーバーです。ボスケテ



それではまた次回。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第6話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/15 12:01
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第6話

公孫賛の治める都市、北平。
この地には現在、公孫賛軍の主力が集結している。
数ヶ月前まで彼女を一方的に敵視していた劉虞が治めていた薊(けい)も手中に収め、晋陽の張燕との連携も出来ている。
その薊からも軍勢を動員、北平に存在する兵力は7万を越えた。
必要とされる守備兵力を残しての数。そして7万以上の兵を運用できるだけの食料と物資も揃えている。
公孫賛だけならばここまで円滑に準備を終えることは出来なかっただろう。
彼女の元で能吏として、軍師として働き続けた沮授の働き、高覧と張郃。元から公孫賛に仕える武将の尽力あってこそだった。
また、袁紹は公孫賛の兵力を警戒して南皮から一時兵を撤退させた。
公孫賛も沮授も「罠だな」と感づいていたが、あえてそれに乗ってやろう、と考えていた。
張燕と丘力居も既に出撃準備を整え、公孫賛の決断を待つばかり。
そして、全軍が終結したこの日。公孫賛は命令を下した。
曰く「今こそ、袁紹討つべし。」。
韓馥遺臣と、公孫賛の目的を果たす時が来たのだ、と。
出撃するのは公孫賛・張郃・高覧・沮授。
他に公孫越・公孫範・田楷・厳網・単経・王門など、公孫賛にとっての主力武将ばかり。


一方、袁紹も北部の動向に気を配っていた。
いや、北部も、と言ったほうが正しい。
南方の曹操に気を配りつつ、公孫賛の動きにも注意を払っていた。
鄴は残念な結果に終わってしまったが、他都市は殆ど無血開城に近く、当初は穴が目立った配置兵力にも余裕が出来始めていた。
また、田豊が謹慎される前から言い続けて実行されていた屯田制度も効果を見せて、20万からなる兵を食わせていく余裕もある。
公孫賛ではないが、こちらも攻める・守るに万全な体制を作り上げていたのだ。
策・・・いや、餌として南皮を空にして、そこから南下してくるであろう公孫賛を自領に引き込んで叩く。
こちらとの開戦を望んでいるのだから、でて来ない訳には行かないだろう。
あとは公孫賛の出方を待つだけだったが、ようやくに動き始めた。
実は、袁紹は張燕・公孫賛・烏丸を滅亡させるつもりは無く、むしろ降伏させて取り込む狙いがある。
韓馥の件で懲りたのだろうか、彼女は人の命を言うものをきっちりと見始めている。
ただ、今降伏をしろと言っても韓馥の臣を得た公孫賛は納得できるはずも無いだろうということは解っている。
だから、公孫賛から出撃してくるのを待った。
こちらから攻めて城攻めになれば面倒だし、ここで叩いて戦力を減らしてしまえば後の交渉も上手く運ぶ。
公孫賛・張燕・烏丸の同盟の核となるのが公孫賛。ならば、彼女さえ説得すれば戦力も低下し、同盟も易く崩れる。
袁紹はそう踏んで、出撃の意志を固めた。
公孫賛軍7万に対し、それより1万少ない6万の軍勢を率いて北へと進撃していく。
連れて行く武将は顔良・文醜・審配・麹義・田豊・淳于瓊(じゅんうけい)等。
郭図らは「多分連れて行っても役に立たないでしょうねぇ・・・」という袁紹の考えと、本人達の「危ないところへ行きたくない」という性格が合致。
あっさりと留守に回された。

「ふぅん、南皮を放棄、ね・・・。」
公孫賛は南皮へ軍を進めて、それが事実である事を自分の目で見て理解した。
罠、とは解っていたが・・・本当に市民以外はもぬけの殻とは。
空城の計、というものがあるが、どうもそれとは違う。
城を空にしたと見せかけて、伏兵をもって攻撃、というものの筈だから。
「恐らくは、自身の領地深くに引きずり込んで・・・と、やりたいのでしょう。」
側に居た沮授は訳も無く言って、公孫賛の横にいる張郃も首肯した。
「然り。なれど、我らの盟により、袁紹のほうこそ追い詰められていましょう。」
「そこなんだよな、何か引っかかるんだ。」
「引っかかる・・・ですと?」
張郃が不思議そうに公孫賛を見やる。
「うん。あの麗羽がさ、そういう回りくどい手を使うって思えないんだよなぁ。反董卓の時にしたって「華麗に雄雄しく華々しく前進ですわー!」とかやっちゃうよーな奴だぞ?」
「・・・うーむ。」
張郃や沮授にしても、そこは不可思議な点であった。
あの考えなし且つ無謀無茶無策の三無主義の袁紹が、こういった策を弄するだろうか。
「ふぅむ、田豊殿が復帰したやもしれませんね。」
沮授の言葉に、公孫賛の顔が引き締まる。
「田豊、か・・・麗羽に謹慎処分喰らったとかは聞いたことあったけど。」
「・・・。袁紹の強みは兵力の多さのみ。ですが、殿の懸念も良くわかります。注意する事に越した事はない。」
「うん。」
公孫賛陣営は、田豊が復帰し袁紹がいくらかまともになった事を知らないままで居た。
もし、そのまま何も考えず進撃していれば次の戦いで殆どの戦力を失ったかもしれない。
が、沮授らの力で支えられた公孫賛部隊は以前にも増して強くなっている。
何があったにせよ、まだまだ勝負はわからないさ。と沮授は不安を打ち消していた。

若干の守備部隊を残して、公孫賛は更に南下。
袁紹も北に軍を進めていく。
そして、ついに・・・両軍は南皮の南方にある界橋に布陣した。
公孫賛は方円陣を敷き、その両翼に騎兵(白馬義従)を配置。ほぼ全軍で一気に攻め抜く腹積もりだ。 
張燕から援軍を引き出す事にも成功している。袁紹の妨害が無ければ、だが。
袁紹は麹義に五千ほどの兵を預け、先鋒を任せている。
こちらは持久戦に持ち込むつもりだが、戦いの結果が自軍の勝利であれば短期戦でも良い、という考えらしい。
こちらも晋陽には高幹に2万の兵をつけて牽制を仕掛けさせている。
別に晋陽を陥落させる必要は無い。援軍を出せないようにするための牽制だ。

「・・・白蓮さんは随分と頑張ったようですわね。」
陣と共に、高台になるような場所も建造した袁紹はそこから両軍の布陣を見ていた。
白馬義従の威容もだが、何よりあれだけの兵を集めた事に感心したようだ。
公孫賛は幽州を手中にし、晋陽・長城を越えた先に居る烏丸と組んでいる。
それでも、幽州はそれほど裕福な土地柄といえず、殺伐とした部分が多い。だというのに、7万とも言われる軍勢を組織するとは。
やりますわ、と袁紹が感嘆するのも当然と言えた。
さて、その袁紹だが、彼女のいでたちも前に比べて相当変化していた。
髪型はともかく、鎧と服装もガラリと変わっていた。
今までは金ぴかで肩部分が大きく、下半身の露出も大きい・・・と、防御力も低く、お世辞にも機能的といえない鎧だった。
それが、兜を被り太ももなど露出した部分をなるだけ少なく。肩部分を小さく、動き易いように工夫を凝らした鎧となっていた。
普段着(上は赤いチャイナ服、ちょっと豪華そうな感じ。下は白いミニスカート)の上に着用していたが、鎧を着る場合のみ長袖にぴっちりとしたズボンらしきものを履く事にしている。
さすがに色は変わらなかったが、今までの軽薄なイメージから一転、統率者としてちょっとだけ威厳が増していた。
それに伴い、顔良と文醜の鎧も同じようにきっちりと体を守る鎧へ変わっている。
文醜は「動きにくいっすよー」と不満を漏らしていたが、武将級であれば、勝利もだがまず生還する事を求められる。
その為に、鎧を厚くしたのだ。もっとも、兵士への武具供給は万全とは言いがたい。
現在、袁紹はどの諸侯よりも資金がある。
それでも、全兵士に鎧が行き届いていないのだ。一気に勢力と兵を増やした弊害である。
兜や武器は配給しているし、そういった兵は今回の戦いでは連れてこなかったが。
見れば、公孫賛軍も一部鎧の無い兵が居る。公孫賛は此方に比べて資金も人も余裕が無いから仕方が無いだろう。

「ほっほっほ、公孫賛殿はこれで全力を出し切りましたかな?」
「あら・・・翁。」
高台に居た袁紹の側まで、田豊が歩いてきた。
彼も郭図らと変わらぬ軍師と言う立場だが、必要と思えば平気で戦場まで着いてくる硬骨の人だ。
「殿は、あの軍勢を見てどう思われますかな。」
「翁が今申したでしょう。あれが白蓮さんの全力だ、と。それは私も感じておりますわ。」
「ほう。」
「鎧の配備が足りていない、だけではなく、この一戦に全てを懸けている、というところですわ。もしここで負けても篭城が出来る程度の余力はあるでしょうけれど。それに」
「それに?」
「張燕、烏丸が後ろから援護を。南の華琳さん・・・曹操さんが攻めてくる可能性。それを考えれば、こちらには余裕がありませんわ。」
「公孫賛殿が曹操殿と示し合わせて動く事は・・・連絡ができそうに無いと思えば実現は出来そうになし。もっとも、曹操殿とすれば北の情勢が沈静化するのは面白からぬでしょうしの。」
何らかの横槍を入れてくることは考えられますな、と笑った。
その笑みは、既に袁紹の勝利を念頭に置いた笑みだ。たとえ幽州を得られずとも、今の袁紹にとってはいかほどの事も無い。
袁紹も同じように考えており、公孫賛の戦力を一気に削げばあとはどうとでもなる、としていた。
直接聞いたわけではないのだが、田豊にもそれくらいの事は理解できている。が、袁紹は既に北を押さえる自分なりのやり方を思案しているのだった。
「・・・さぁ、そろそろ軍の展開も済んだでしょう。出撃準備をしてきますわ。翁は後ろに下がってなさいな。」
「ほっほっほ、お気をつけて。」
連れて来た武将らは既に攻撃態勢を整えており、袁紹の下知を待つばかり。
その下知を下すために、袁紹は馬に乗り本陣まで駆ける。


馬上にある袁紹は僅かに笑みを浮かべていた。
この戦いの勝利を確信しているか、それとも曹操との戦いを意識しているか。
それは本人にしか解らない。










文量足りないのでちょっと番外。
その頃の高順達。

孫策軍は曲阿を陥落させ、劉繇を追放。劉繇を失った軍勢は太史慈を総大将として丹陽に立て篭もった。
孫策は、それをも攻め落とし太史慈を帰順させ、軍勢を吸収。
更に呉と会稽を攻め落とし、快進撃を続け江東制覇もまもなくと言うほどの勢いである。
そんな中、秣陵(まつりょう。後に呉の都、建業と改名)での一幕。


「はぁ・・・なんで武官がこんな事を。」
高順はぶつくさ言いながら、倉の物資点検。目録を作る作業を行っていた。
ぶつぶつ文句を垂れながらも、高順はきっちりと点検をして帳面に書き込んでいた。
まさか、丁原様の下で働いていた経験・・・下積み経験がこんなとこで活きて来るとは思いもしないよなぁ、と思う。
この作業には趙雲や楽進など、高順一党が駆り出されていたが全員文句も言わず黙々と仕事をこなしている。
孫家に属してからと言うもの、高順はこれまで以上に「大変だなぁ」と感じていた。
孫策は自分を少し疑っている部分はあるが、概ね信頼はしてくれている。
周喩や黄蓋からは何かと頼りにされるし、孫権も高順の肩身の狭い立場を察してか色々と便宜を図ってくれている。
甘寧はどうも自分達を敵視しているらしいのだが。
一番困ったのは、孫策・孫権の末妹になる孫尚香という少女が自分をからかってくる事だろうか。
まだまだ子供なのだが、その癖孫権よりよほど女性として成熟している部分があると言うか。
小悪魔という形容がしっくり来るほどの少女である。その小悪魔はよく高順に付きまとって、孫権を何度も怒らせて、ということを繰り返して遊んでいた。
ともかく、倉の整理。別に自分達でなくてもいいだろうに、くらいは思うだろうがこの時点での孫家は・・・。やはり、というべきか人が少ない。
多くなってはいるのだ。それでもまだ足りない、と高順達まで手伝う事になった、と言うわけだ。
倉の目録というのは重要な仕事で、例えば金品や大切な物資、有力者への贈り物・贈られ物が納められている。
新参の人間に任せるのは(信頼はしていても)、流石に周喩でも気が引けたようで当然、監督役が付けられた。
その監視役、呂蒙(女性)である。
当初、高順は呂蒙という人が誰か解らなかった。
彼女に限らず、周泰とか陸遜とか言われても誰が誰やら。顔と名前が一致するまで少し時間がかかった、と言えばいいかもしれない。
流石に数ヶ月もすればほぼ全員覚えたが、この呂蒙と言う人・・・高順にとっては意外な人だった。
歴史上の人物として知識があるからそう感じただけなのだが、何と言うか凄まじく恥ずかしがり屋と言うか・・・男性になれていない。
見た感じは、ちょっと目つきがきつい可愛いお嬢さんである。
モノクルというか、片眼鏡をかけていて本人曰く、乱視で近眼、だそうな。
しかも、服装が際どい。上着の袖が異様に長い。ともすれば地面にこすれる。
呂蒙だけではなく、呉の女性武将は皆服装が際どいのだが・・・南方出身の人は皆同じように際どい服装だった。
下半身を隠す袖も短い(ミニスカートというレベルじゃないくらい)し、総じて服の布面積が少ない。胸なんて零れ落ちそうなくらいだし・・・。
まあ、際どい服装などは高順にとっても慣れっこ、とまでは言わないが華雄・張遼・蹋頓・李典などが側に居たお陰か耐性はある。
ただ、この呂蒙という人。男性になれていないせいか、高順に指示を出す時は少し小声になってしまうことがある。
そこで「すいません、もう少し大きな声で・・・」と近づくと袖で顔を隠して「ごめんなさいごめんなさい!」と真っ赤になって後ずさる。
最初は嫌われているか警戒されているのか、と思っていたがどうも本当に男性に免疫がないだけのようだ。
楽進や李典などとは普通に接しているし。
戦場では気にならないのだろうが、こうして日常に近い部分では意識してしまうのかな? と気にしないでおく事にした。
さて、倉の整理をしている最中。趙雲も仕事をしていたのだが、とある箱を開けて中身を確認していたところ・・・。
蝶をあしらった仮面が入っていた。
それを手に取った趙雲は、何故こんなところにこんな仮面が? とまじまじと見つめていた。
「ふむぅ・・・これはなかなか。」と言いつつ手触りやら意匠やらを調べる。
「まさに、匠の技・・・。誰が作ったかは知らぬが・・・ふふ、素晴らしい。」
趙雲は一人でにやけて、周りを見回す。
(誰もおらぬな・・・むぅっ、この趙子龍の魂が叫んでいる! この見事な蝶の仮面を装着せよ、と・・・!)
ふぅふぅ、とやべげな息の荒さ。やばげな目で仮面を見つめていた趙雲はついに―――!
「・・・でゅわっ!」
やってしまったのである。その蝶の仮面を己の体と1つに!!!


趙雲がいなくなった程度で、倉の整理が終わらないはずも無く。
皆は「あれ? どこに行ったんだ?」くらいにしか思わず、趙雲の仕事も手分けしてようやく整理が終わった頃。
倉の外から「ええい、何者じゃっ!」という黄蓋の怒声が聞こえてきた。
高順らも呂蒙も「!?」と表情が一転、倉の入り口まで走っていく。
何が起こっているのかがわからないので警戒するべきだ、と高順は小声で「今から指折りで数を数えます。全部折終えたら一斉に!」と伝えた。
全員武器は持って来なかったのだが(楽進は素手で戦う)、そこらの賊なら棒切れで充分、と皆倉の中にある木棒やら何やらをめいめい手にしていた。
高順は人差し指・中指・薬指を立て、それを静かに「3・・・2・・・1」と折っていき、全部折り終えた瞬間「行きます!」と呂蒙が真っ先に出て行った。
それに続けと、高順達も一斉に出て行く。そして、彼らの目に映ったものは。

「はーはっはっはっは!」
高笑いをして、黄蓋と対峙する変な蝶の仮面を被った趙雲であった。

「・・・。」
「・・・・・・。」
「ぇ、ぇえと・・・。」
「・・・高順さん。あれって。」
「隊長・・・。」
「・・・。俺に聞かないでください。」
高順一党が揃って沈黙する中、呂蒙は「あ、あれって誰ですか!?」とのたまっている。
「え? あれ、趙雲さんですけど・・・。」
「えええ!?」
「解らなかったの!?」
「あうう、申し訳ありません。私、目が悪くて、そのぅ・・・。」
「・・・眼鏡を買い替えたほうが良いのでは。」
恥ずかしそうにする呂蒙を見て、高順は溜息をついた。
いや、楽進たちも趙雲を見て盛大に溜息をついている。仕事サボって何をしているのやら、と。ぶっちゃけ、仲間としてあれは恥ずかしい。
李典あたりは「おお! なかなかイカスなぁ!」と盛り上がっていたけど。
その恥ずかしい趙雲と対峙する黄蓋も、その正体に気付いていないらしい。
「何者だ小娘! 名乗らんかいっ!」
「え、あの人も気付いてない!?」
黄蓋は複数の矢を一斉に放つ事ができる弓「多幻双弓」を構えて次々に矢を放っていき、趙雲はそれをひらりひらりと難なく避けていく。。
外れた矢が木を打ち抜き、壁を崩し・・・と、ちょっと洒落にならない状況であったり。
「ちぃっ、当たらんっ・・む、高順達か? ちょうど良い、助太刀せい!」
「え・・・助太刀って。」
それを聞いていた趙雲は先ほどの同じように笑う。
「はっはっはっは! 黄公覆ともあろうものが私一人捕まえられぬとは・・・孫家の将も大した輩がおらぬと見える! そのような輩に民の平和が守れるはずも無いな」
「何じゃとぉ・・・? それ以前に貴様何者じゃ!?」
趙雲はふっ、と笑い、宣言する。
「問われて名乗るもおこがましいが・・・我が名は華蝶仮面! 混乱の都に美と愛をもたらす正義の化身!」
どどーん、とか聞こえてきそうなほど高らかに名乗る趙・・・じゃなくて華蝶仮面。
「華蝶仮面じゃと・・・? 貴様のようなふざけた格好をした輩が正義の化身など肩腹痛い!」
「ふ、外見で判断とは・・・孫家の宿将ともあろうものが。どうも、孫家には狭い了見しか持っておらぬ者が多いようだ。」
「何ーーー!?」

どんどんヒートアップする2人。
高順達は「あほくさ・・・」と思って特に介入するつもりも無かった。
そこへ、この騒ぎを聞きつけてきたのか孫策や周喩、周泰など孫家の主だった人々もやってきた。
「ちょっと、何・・・が」
「・・・あれは何だ。」
「おお、かっこいいのです!」
「え、今なんて?」
これまた色々な反応が返ってくる。
「おい、高順。あれは何だ。」
「あー・・・周喩殿。見たままです、ええ。」
高順の答えに、周喩は不機嫌そうな表情を見せた。
「見ても解らないから聞いているんだ。あれは何者だ?」
「見て解りませんか?」
「ああ。」
「・・・。参考までに、孫策殿や孫権殿は解りますよね。」
「え? 貴方、知ってるの!?」
「あれが何者か、よりも黄蓋が苦戦していることに注目するべきでしょ!?」
孫権は驚き、孫策は正体以前にあの腕前に注視したようだ。
どうも、誰も気付いていないらしい。さようなら孫家。
その事実に、高順が一層疲労をしたところで、華蝶仮面? を名乗る女傑は身を翻した。
「かような腕前では、私を捉える事など出来るはずも無し。精進する事だ!」
「ぬぐぐぐぐっ・・・!」
「安心せよ、未熟なお主らに代わってこの華蝶仮面が街の治安を守ってくれよう! はっはっは! あーっはっはっはっは!」
言いたい事だけ言って、彼女はその場を走り去っていった。

(あれ、どっちか言えば「パピ! ヨ○!」とか「それは私のおいなりさんだ。」ぽいよなぁ・・・爆裂! おいなり仮面とかそんな流れで)
愚にもつかないというか、おかしな妄想を垂れ流す高順。華蝶仮面の正体など論ずるまでもないと思っている彼(とその仲間達)は割と冷静であった。
ただ、当然と言うべきか、黄蓋はおさまらない。
「ぐぎぎぎっ・・・ええい、高順!」
「へ?」
「もう倉の整理などせずとも良いわ! 兵をもっと徹底的に鍛えねば。お主も来い!」
「ちょっ! やれって言ったのあなた方でしょうに!?」
「あのような怪しい輩を城に易々と侵入させるようではまだまだ錬度が足らぬわ。いいから来いっ! 策殿達も宜しいな!?」
「いってらっしゃーい。」
「あの・・・どちらかと言えば私達も参加」
「権殿、黄蓋殿と高順に任せておきましょう。」
「え・・・でも」
「いやあのちょっと待むぐぐぐぐーーー!?」
首根っこを引っつかまれて黄蓋に連行されていく高順。
「お、おいいい・・・皆、助け、てぇ・・・」
その必死の懇願に、楽進たちの反応は。
「隊長、お気をつけて!」
「骨は拾ったるからなー」
「あら、夜のほうの体力(削除)」
「ああ、行ってこい。張り切りすぎるなよ。」
割と凄まじく冷たかった。(巻き込まれたくなかったので


「・・・。は、薄情者ーーーーーーーーー!!!!!」
「うるさいわ、静かにせい!」

神様。
何で俺はこう巻き込まれるべくも無い状況で巻き込まれてきっつい思いをせにゃならんのでしょうか。

もう、何度思ったか解らぬ事を思いつつ、高順は涙する。


騒ぎの発端となった趙雲は、「ふむ、1人では少し寂しいな・・・仲間を増やすか? 楽進や李典を引き込んで・・・ふっふっふ。」
あらぬ方向の野望を持ち始めていたのだった。

~~~楽屋裏~~~
頭痛が!鼻水が! 止 ま ら な い あいつです(挨拶
ぇろぇろ熟女3人のエロストリームアタック・・・
どこかでやろうと画策してたのに! 公式でやられたら手も足も出ないじゃないか! えっちなのはよくないよ!

たわごとは置いといて。
頭が痛すぎてただでさえgdgdな話が更にgdgdに。
鼻水止まらないって辛いんですよorz


さて。
界橋の戦いですね。多分ボロ負けです(どっちが?
界橋さえ終わればあとはすぐに曹操との戦いに。
そうなれば2・3話くらいで終わって高順たちのお話に戻れますね。
おそらく、袁術軍との戦い辺りに。

それではまた次回。(・ω・)ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第7話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/22 18:09
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第7話


公孫賛・袁紹両軍は界橋にて激突した。
公孫賛側の先鋒は厳綱。
まず、厳綱は様子見として、5千ほどの兵で攻撃を仕掛けた。
それを迎撃したのが、袁紹側先鋒である麹義と、2千ほどの兵士である。
「ふん、来たな。手筈通りにやれ!」
「ははっ!」
兵に号令をかけ、本人も弩を手にする。
この戦い、袁紹軍の中で彼は特にやる気に溢れていた。
前回の失態を帳消しに出来るほどの働きを見せるのだ! と息巻いている。
まず、大盾を持った兵士で攻撃を防がせ、後ろから弓と弩の混合部隊で矢衾にする。
「さあ、来い・・・」
麹義は弩を構え、厳綱隊が射程に入るのを待つ。
厳綱も、盾を構えた部隊が居るのを見て麹義の戦い方を察した。
が、このまま止まれば勢いを失って逆襲されてしまいかねないが、ええい、ままよ。とばかりに更に速度を上げて突っ切ろうとする。
五千の兵が麹義隊二千と衝突、一気に乱戦となるかと思われた。
しかしながら、大盾を構え、長槍で反撃を行う麹義隊の堅守を抜くことが出来ない。
麹義隊後衛の弓速射・弩による猛撃を受けながらも厳綱は何とか態勢を立て直そうとしたが、それはできなかった。
態勢を立て直そうと軍勢を退かせたと同時に、麹義隊の後ろから文醜隊が突撃。同時に麹義隊も矢を放ちながら前進して厳綱隊に追いすがる。
この危機に、方円陣を敷いていた張郃・高覧が救援に向かうが・・・それは間に合わず、単騎突撃を仕掛けてきた文醜の大剣で厳綱は真っ二つに切り裂かれて戦死。
武将を討たれた事で、先鋒部隊は混乱。張郃らが救援に入るまでの間、麹義・文醜隊によって散々に蹴散らされる羽目になった。
結果、先鋒同士の戦いは袁紹側が制した。麹義隊も少々の損害を出したが、公孫賛側は武将と数千の兵を失ったのである。

先鋒同士の戦い、それが自軍の敗北と言う結果を知って公孫賛は歯噛みした。
「くそ・・・厳綱・・・。」
厳綱は公孫賛が北平太守となってから従い続けた古参である。
有能とまで言わなくても、無能といえず。中庸な能力の持ち主であったが・・・。
こうもあっさりと討たれるとは思いもせず、また張郃らの救援が間に合わなかったのも誤算だった。
公孫賛は麹義の事を知らなかったが、麹義という男は西涼出身で騎馬に対しての戦い方を身につけている。
沮授はこれを知っており、だからこそ白馬義従ではなく厳綱歩兵部隊を向かわせたのだが、それも通用しなかったらしい。
ただ、1つだけ確信があった。
袁紹は、自分や公孫賛の知るお気楽な性格ではない、という事だ。
田豊を重用し始めたという話だけでは確信に至らなかったが、麹義の戦いぶりと兵の装備。
前までの袁紹ならば何も考えず一気に全軍突撃を行っていただろうに。
厳綱を差し向けたのはあくまで様子見のつもりだったがそれは完全に裏目に出てしまう結果となった。
だが、厳綱には悪いがこれで現況の袁紹軍を理解できた。
自領内に引き込んで結果的持久戦を選んだのも、全て袁紹或いは田豊の策であったと。
公孫賛得意の白馬義従突撃を仕掛けていたら、それこそ今の何倍の被害を蒙っていただろう。
出来れば一度の戦いで雌雄を決したい・・・戦闘継続力の乏しい公孫賛軍にとって、武将と数千の兵を失ったのは痛恨事だった。
そこまで行かずとも南皮を確保してじりじりと勢力を拡大、曹操の侵攻が始まるまで粘るという戦略の目論見が外されてしまった。
(致し方なし、か。できれば独力で決めたかったがな)
もう1つ2つの策、というほどのものでもないが、そのあたりも織り込み済みだ。
公孫賛も理解しているらしく、だからこそ再度の攻撃命令を出さない。
「殿、一度部隊を下げましょう。」
「沮授・・・しかし。」
「南皮までは下がりません。ここに張った陣で守ります。さすれば。」
彼女の言葉に、公孫賛は「はぁ」と溜息1つ。
「そうか、解った。待たなきゃ駄目なんだな。任せるよ」
「御意。なれど、退くには」
「殿が必要なんだろ? あたしが行くより張郃に任せたほうがいいかな?」
「仰る通り。いえ、彼女の事ですから案外に。」
「ははっ・・・そうだな。」
沮授は公孫賛から視線を外し、今も皆が戦っているはずの南へと顔を向けた。
そして、その南では。

「でああああああっ!!」
「うえぇぇっ!?」
沮授と公孫賛の思ったとおり、張郃は突出してきた文醜隊に攻撃を開始していた。
これは、ある意味で狙ったとおりの流れだった。
流れに含まれる筈の無かった「厳綱の戦死」という誤謬はあったが、追撃してくる袁紹軍の部隊を釣り出して弓弩を使いにくい乱戦に持ち込むのが本当の狙い。
そうなれば袁紹側の騎馬隊以上の攻撃力を誇る白馬義従の突撃を活かせる。
読み違いはあったが、釣り出しに成功はした。
だからこそ、張郃は命令をされていなくても攻撃を開始したのである。
白馬義従は袁紹軍の兵に。そして、張郃は文醜に猛撃を仕掛けていた。
張郃は文醜と馬上戦闘を行っている。張郃の武器は槍、というより両刃の大矛だ。
虎牢関で高順と戦った時は普通の矛だったが、それを叩き折られた事と、高順の三刃槍に内心で憧れる物があったのだろうか、武器を変更していた。
文醜も同じように大剣「斬山刀」だが、リーチの差があって分が悪い(両刃剣なのに刀? とかは思ってはいけない)。
また、張郃のほうが武器は重いはずだが、文醜よりも攻撃・引きの速さ・・・手数まで勝っていた。
文醜が攻撃を防御、反撃しようとしてもそれを許さぬ速度で追撃を仕掛けてくる。
文醜は完全に押さえ込まれていた。
「だわわっ!? こいつ、強い・・・!」
「はっ。」
追い込まれた状況だが、それでも文醜は何とか隙を見つけようとしている。
なんとか、あいつが大振りの攻撃を仕掛けてくれば・・・。
文醜は息を整えて、大剣を両手で構えた。
張郃も「次で決めるつもりか」と読んで、片手で矛を構える。
「・・・ふぅっ!」
張郃は馬を駆けさせ、文醜に向かって全力で大矛を大上段から振り下ろした。
文醜はその一撃を下段から掬い上げるような一撃で迎える。
ギキィンッ、と金属の克ち合う音が響き、僅かに文醜の勢いが勝った。
下からの一撃に圧し返されて、張郃が馬ごと大きくのけぞる。勿論、大矛を持つ右腕も上に圧し返されてしまっていた。
「うくっ!?」
「もらったぁぁっっ!」
勝利を確信した文醜はそのまま張郃の体へと斬り上げる。だが。
「甘いな」
「はぇっ・・・どわあぁぁ!!!?」
張郃はいつの間にか左手で引き抜いていた剣を、文醜へ投げつけた。
文醜は自分の右手側に張郃の姿を捉えていた。張郃の右手と矛ばかりを見て左手側は死角になっていたようだ。
投げつけられた剣は文醜の馬の胴に突き刺さり、馬は地面に倒れる。
文醜もその勢いで放り出されて、地面を転がっていった。
「あぐぐぐ・・・」
「ふん。」
そのまま斬ろうと思えば斬れただろうが、張郃はそのまま駆けて行き、乱戦模様となった前方へ向かっていく。
勝負は付いた、と思ったか、足掻いたところで自分には絶対に勝てないと思ったか。
見逃された格好となった文醜は「うぅぅう・・・負けちまったぁ・・・。斗詩ぃ~・・・(顔良の真名)」と涙するのであった・・・。
さて、その顔良だが、彼女も彼女で大変であった。
高覧も張郃同様に突撃を仕掛けておりその迎撃にでたからだ。
張郃の援護をする為に麹義隊へと向かっており、その迎撃である。
顔良は文醜ほどの苦戦はしていなかったが、彼女は自分の持つ武器のせいでやはり劣勢に追い込まれていた。
顔良の武器は金属で作成された大槌なのだが、かなり取り回しが悪い。
そもそも顔良が得意とする武器はもっと小回りの利く剣とか刀なのである。
それが何故大槌なのかと言うと、文醜が「こっちのほうが強そうだぜ!」と無理やり押し付けたからであった。
袁紹に「これ使い難いんです!」としつこく言ったおかげで、新しく小回りの利く顔良用の鋼刀が作成されている最中で、この戦いには間に合わなかった。。
「はっはぁっ! どうしたどうした、その程度の腕で袁紹二枚看板ってか!?」
「くぅう・・・このぉっ!」
高覧は張郃ほどの強さは無いが素早く矛を振り回し、動作の1つ1つが重い顔良をいいように翻弄している。
顔良隊もよく戦っているのだが、弓などを使わない白兵戦闘なら、間違いなく公孫賛の白馬義従に軍配が上がる。先ほどとは逆に、袁紹軍の兵が蹴散らされていた。
劣勢であった公孫賛側も張郃・高覧の奮戦によって息を吹き返し、互角以上にまで持ち返している。
流石に不味いと考え審配部隊も繰り出す袁紹だったが、それを悟った張郃らが未練気無く退いた為に目立った成果は得られなかった。

今回の衝突では双方数千の死傷者を出したが、やはり割合としてみれば公孫賛側の敗北に近いものがあった。
これ以降、公孫賛は陣で堅く守り、両軍の戦いは小競り合い程度で終始することになる。







~~~番外編。その頃の劉備と曹操~~~


呂布を倒して以降、曹操は領内の統治を進めて来るべき袁紹との戦いに備えていた。
ところが、帝である劉協の舅にあたる董承という男が多くの自称「憂国の士」を引き入れて曹操の暗殺を計ったのである。
一番原因としては自分の敵を炙り出したい曹操がわざと行った「許田の巻き狩り」が挙げられる。
帝・劉協に従って狩りを行ったのだが、そこで曹操は中々獲物を仕留められない劉協の弓を奪い、代わりに撃ち抜くと言うことを仕出かした。
そこには劉備らもいたし、朝廷の群臣も多い。無礼どころの騒ぎではないこの行いに、朝廷の権威を重んじる人々は怒りを露にした。
劉備などは純粋に義憤を感じたのであるが、董承は大きく違っていた。
この男、基本的に権力ボケの爺である。彼の常識で言えば、何進も十常侍も董卓も消えた今、権力を握るのは外戚たる自分であるべきだ、と勝手な思い込みをしていた。
それがそうはならなかった。力も権力も名声も失墜しきった漢王朝に、曹操が手を差し伸べたからだ。
その曹操が高位に昇り、政治を司る立場となったのが我慢できなかった、というのが理由であった。
よく誤解されるが曹操は漢王朝が滅びる事を理解していたが、自身が滅ぼすつもりなどは欠片もなかった。
結局は曹操の事を高く評価し、また漢王朝の余命が尽きていることを理解していた劉協の要請で「魏」を造り皇帝となる曹操だが、禅譲の強制もせず、劉協に「山陽公」の座を与えている。
また、皇帝の一人称である「朕」を終生使用許可を出し、魏にも曹操にも臣下としての礼を取らずとも良い、と大変な厚遇を受けていたりする。
まだまだ正常の安定していない状況で曹操を殺すことは即ち、漢王朝の滅亡を意味するのだが、自身の欲しか考えない董承にはそれが解るはずもなかった。
最終的に、それを察していた曹操の反撃でこの暗殺計画に加担したものはほぼ全員、その三族までが誅された。
処罰を受けなかったのは、暗殺計画に名を連ねたが「ここで曹操を死なせれば漢王朝の灯火が消える」事を理解し、徐州へと逃げ帰った劉備達のみである。
そのまま徐州全域を得、曹操へと対抗できる戦力を整えようと、曹操治世下となった広陵(こうりょう)へと攻め入った。
守るのは曹操から派遣された呂虔・車冑、そして高順配下であった陳羣である。
劉備は主だった武将(呂布は基本的に劉備の護衛のみという契約を結んでいた。主に戦うのは張済や華雄に任せている)と兵を引き連れ呂虔・車冑を抹殺しようと「曹操から書簡を託された」と偽って誘き出そうとした。
時間は夜中、篝火を焚かず、わざと不鮮明な状況下で城門を開けさせようとしたのだ。
ところが、劉備にとって不幸な事にそれを読む人がいた。陳羣である。
彼女は「朝まで待て」と突っぱねて、話し合いに応じようとはしなかった。
劉備らは何とかして城門を開けさせようと似合わぬ恫喝までして見せたが、陳羣は全く取り合わず城壁に弩兵を配備して応戦の構えを見せる。
この弩兵の数は数千規模。そして弩を残したのは高順である。
弩、というのは平たく言ってクロスボウだが、張力が普通の弓と違って凄まじく強力なものだ。命中すれば普通の人間の体など平気で弾き飛ばす威力がある。
連射は出来ないが、それを補うために弓の速射部隊との混合にする。
こうなる事を予見していた訳ではなかったが、高順の遺した物は広陵を守るための大きな力となっていたようだ。
この弩兵の多さ、陳羣の強硬な態度を見て劉備も諦めざるを得ず、力攻めに移行しなければいけなかった。

ここでもう1つ。劉備に限らず、諸葛亮や龐統もだったが、曹操は袁紹との戦いを重視していたがそれ以上に劉備の動きのほうが重い、と考えた事を知らなかった。
劉備が徐州へ逃げ帰った事を知った曹操は、劉備が自分に逆らって独立を目論んでいると看破。見逃せずとして呂布討伐の時同様、6万以上の大軍を即時進発させ、その上自分で指揮を取った。
そのときの劉備側の反応。

「・・・(真っ白」←劉備
「はわわ」←軍師その1
「あわわ」←その2
「ふぇぇ・・・鈴々たちの動きがあっさりばれていたのだ・・・」←張飛
「・・・。流石は曹操殿、といった所です。桃香様、どうなさいますか。」←関羽

とまあ、こんな感じであった。
このまま広陵を落としても、すぐに曹操は第二・第三軍を送り込み完全殲滅を図ってくるだろうことは予測でき、そもそも守る戦力もない。
主だった将兵を全員連れてきたことが不幸中の幸いだったなぁ、と劉備は思い直す事にした。
彼女はすぐに同じ劉性を持つ、荊州の「劉表」の元へ落ち延びる事を決定。
そこからの劉備の動きは早い。何1つの事を顧慮せず、一気に南西へと落ちていったのだ。
その速さは曹操の進軍速度を大きく上回り、劉備があっさり遁走した事を知った曹操が「大したものね・・・」と感心するほどの速さであったという。
(いざと言うときに逃げ足が速いというのは一勢力の主として必要な要素。そしてどれほど惨めに逃げても民の声望厚き劉備・・・ふふ、いいわ。逃げれるだけ逃げて見せなさい、劉備)
天下を得る為には1つや2つ、大きな壁があって然るべきなのだ。
その気になれば誰よりも天下というものに近い覇者曹操。
何事にも多少の労苦が無ければ張り合いが無い。そう考えるのは彼女の英雄性が誰よりも高い故であり、そこが曹操の数少ない欠点の1つと言えた。


劉備は荊州へ逃れ、曹操は着々と袁紹との対決準備を進めている。
南では袁術が皇帝僭称を行う少し前であり、用意さえ整えば孫策はすぐにでも袁術に宣戦布告をする腹積もりであった。
ただ、それはもう少しだけ先のお話。




~~~楽屋裏~~~
真恋姫キャラソン購入しちゃった&応援してるのは黄蓋さんだよあいつです(挨拶

聞いてみての感想。
「あれ、漢女道以外何も覚えてない」(何
あぁ、でも孫策・周喩と周泰と孫策の歌は良かったと思います。後は何も覚えてません(ぉぉい
孫権&周泰の歌は本来曹操が歌うべきだと思いましたが・・・


これで、主要陣営の「その間」は殆ど書けたと思います。
あとはこの戦いの結末とカントのみ。
しかし、真面目な話になると会話・・・キャラ同士の掛け合いががものすごく少なくなる。
ギャグ話なのに・・・まぁ、袁紹外伝は割と真面目にやるつもりなんですけどねえ。
ギャグを待っておられる方はご容赦を・・・え、いない? 

それと、よくよく見たら既に投稿数80を超えてるんですねぇ・・・。
もしかして、本当に100話までいっちゃうのかなぁ。思えば遠くに来たものです・・・(汗

それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第8話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/25 17:58
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第8話

あれから数日。
公孫賛は陣を堅く守って打って出るような真似をせず、袁紹も出てこない相手に力押しをすることも無く、睨み合いが続いていた。
何かあったか、と言えば・・・公孫賛の武将である王門が公孫賛不利と見て袁紹に内応を企てたところを沮授に見破られ成敗されたといった事だろう。
袁紹としても「そんな事がありましたの?」と内実を知らなかったし、田豊も知らないようなので突発的な事態だったとはいえたかもしれない。
王門自身が公孫賛の武将連中から疎まれていた事もあって、動揺も少ない・・・と両者の対陣にさして問題のある状況にもならなかった。
そこに、大きな変化があったのは対陣から1月ほど経った頃である。
公孫賛の陣にやけに大きな動きがあったのだ。


「・・・出撃?」
袁紹は物見の報告に怪訝そうな表情を見せた。
はて、と袁紹は考え込む。
対陣して一月。お互いの物資はそれほど消費しておらず、また兵の損失も割合から見て向こうのほうが大きい。
なのに、向こうから有利な防衛戦闘を捨てて出て来る・・・?
(乾坤一擲に賭けるのか、それとも・・・。)
色々と閲してみたが、可能性として出るのは1つ。援軍の見込みがあったということだ。
そうなると烏丸しかいないはずだ。
袁紹は物見に公孫賛の陣営に増援があったかどうかを聞いたが、公孫賛の陣に兵が増えた感じはしないと物見は付け加えた。
旗が増えたわけでもなく、ただ慌しく出撃の準備をしているように見えた、と。
それなら、何故・・・? と考え込んでいたところで、顔良と文醜が「え、えんしょうさまー!」と陣幕に駆け込んできた。
「何事ですの?」
慌てるようなこともなく、袁紹は応対する。
何かあったのは間違いないようだが、駆け込んできた二人は「あの、そのっ」と舌がもつれて上手く言葉に出来ない。
少しして落ち着いたのか、顔良が息を切らせつつ報告を始めた。
「ほ、報告です!この陣より10里ほど西に張旗! ・・・恐らくは張燕と思われます。その軍勢、騎兵が一万一千ほど!」
「騎兵がっ・・・。高幹さんは何をしていましたの? ・・・いや、全兵に伝令。すぐに南に退きますわ、急がせなさい!」
「え、下がるのですか? ここで迎え撃つ事は可能ですけど。」
「下がりますわ。理由は途中で話します。」
「は、わかりました・・・ほら、いくよ文ちゃん!」
「ええー、でもここであたいが奮戦して追い返すって言う手も」
「ほらほら!」
「あ、ちょっと待てってばぁっ!?」
顔良に急かされて、文醜は不満そうにしながらも一緒に陣幕を出て行った。
文醜はきっちりと最後まで説明しないと納得してくれそうにないが、顔良はその辺り心得たものである。
袁紹も慌しく兜をかぶって陣幕から出る。途上、田豊もやってきた。
「ほっほっほ、少し予想が外れてしまいましたな。」
「ええ、烏丸が来ると思っておりましたのに。まさか張燕のほうだとは・・・。」
袁紹は少し忌々しそうに言うが、田豊は「何事も上手く行かぬもの」と冷静に返す。
「高幹さんも何をしていたのやら。押さえ込むだけなら2・3万あれば・・・」
「はぁ。まあ、突破されたのであれば仕方ありませぬ。もっとも、こちらとて向こう同様に仕込んでおるのです。決して負けませぬわ」
「・・・ふっ、頼もしいですわ。」
自信ありげに言う田豊を見て、袁紹は苦笑してしまっていた。

袁紹軍は慌しく陣に炎をかけて、南へと向かいだし、公孫賛はそれを追いかける形で南下、張燕軍を迎えて兵力は袁紹軍を上回った。
張燕自身が来なかったのは気がかりだが、代わりに派遣された男が何と言うかその・・・

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|ヽ.| |      /     .|  |.     ヽ      .| .|./ .|
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 ヽ .| |    /       .|  |       ヽ    |  | / 
  .ヽ.| |    /     '二〈___〉二`       ヽ   |  |./   
    | |          `-;-′         |  |    
     iヽ|.      ,,... -‐"`‐"`'‐- 、、     |/i  
     |  ヽ     /...---‐‐‐‐‐----.ヽ    /  .|
     |   ヽ.    ,, -‐ ''"~ ~"'' ‐- 、    /   |
    .|    ヽ         !          ./   .|
    ,,|     ヽ.         |        ./     |、
    |\.     ヽ            /     /.|
   .|.  \.      ヽ、____   ___/    /   .|
   '     `            ̄ ̄       ´     '


であった。
彼を見た武将は「えらく濃い顔だな・・・」と感じ、公孫賛は「・・・狙撃が上手そうだなぁ」と思ったとか。

*ちなみに彼を忘れている99%の皆様へ。
彼はゴルgいやそうじゃなくて張燕の部下である張楊です。

張燕からの援軍が到着した事で再度出撃を決意した公孫賛だったが、彼女の動きより袁紹のほうが僅かに早かった。
凄まじい速さで南へと退いていく。
白馬義従に張燕が派遣した軽騎兵1万以上を編成し。元々の機動力に勝る公孫賛は追いすがる。
かなり時間は経ったし、馬を飛ばしていて公孫賛自身も少し疲労が見え始めているが張郃・高覧・沮授もきっちりついてきている。
袁紹軍の最後尾にもう少しで手が届くというところで、公孫賛は異変に感づいた。
彼女は指揮官としても一介の武人としても、どちらかと言えば勇猛な性格である。
追撃戦など、指揮官が矢のような勢いで兵を引っ張っていかなければいけない状況では率先して先頭に立つ。
その公孫賛から見て、目の前にあるのは袁紹の最後尾・・・殿(しんがり)なのだが、その殿には袁紹の姿。
「何だってわざわざ最後尾に麗羽が・・・って!」
よく見たら、最後尾ではない。
袁紹軍はすでに、逃げではなく迎撃のための陣を展開していた。
袁紹の居る場所は最後尾ではなく、最前列・・・。総大将として、公孫賛に向かい合ったのである。
その袁紹、見れば公孫賛に向かって手招きをしている。「来るなら来て見せなさい」とでも言いたげだ。
「くっ・・・」
公孫賛は思わず全軍突撃と叫びそうになるが、それは沮授に止められた。
「殿、お待ちを・・・!」
「な、何で止めるんだ? そら、兵は疲れてるかもしれないけどあいつらだって条件は同じだぞっ」
「それはそうです。しかしあの余裕。袁紹は今までのような考えなしの馬鹿ではありません!」
「むぅう・・・それはそうだけど。・・・。よし、一度距離をとろう、それかr「殿っ」何だよ!?」
張郃の叫びに、思わず大声で怒鳴ってしまう。それでもあまり迫力が無いのは、彼女の普段の気さくさというか残念な感じと言うか、ともかく本気で怒ってもあまり怖くない公孫賛。
「物見よりの報告っ!我が軍の後方から千から2千ほどの兵が幾隊にも別れ攻撃を・・・袁紹軍の別働隊と思われます!」
「はぁぁっ!?」
別働隊? どこから・・・いや、目の前にいる袁紹軍から部隊が離脱して行った様な事はない。
先駆けをしていた部隊は隊伍を建て直し、そこに袁紹が向かい、反転したような感じでこちらに相対。
そこに自分が追いついた格好になって、と考えればどう見ても袁紹側の部隊が此方の背後付近をつけるわけが無い。
とすれば・・・?
ここで沮授はチッ、と舌打ちをした。
「殿、どうか撤退を・・・!」
「て、撤退? 折角ここまで・・・。」
「なりません、兵力を鑑みればこちらが不利です、何卒!」
「だが、千か二千・・・はぁっ!?」
ここで公孫賛も気がついたらしい。沮授は「まさかな」とは思っていたことだったが、それが悪い方向に的中したと見える。
その「まさか」の内容、それは。

「南皮に駐在していた兵力はどこに行ったのだ?」


沮授はともかく、他の武将も、公孫賛ですら南皮に存在していた袁紹軍の兵は北上してきた袁紹本隊と合流したと思っていた。
だが、もしもそうでなければ? 
袁紹がこちらを引き込んで叩こうとした事。もしかしたら、同盟をしている烏丸か張燕の援軍を引き出すまで膠着状態を続ける振りをしていただけであったら。
そして、南皮の兵力を分割して伏兵、或いは奇襲部隊として各地に潜ませていたのなら?
一度合流はした可能性はある。そのときに指示を出し、食料を与えていたのかもしれない。
何より、袁紹はまともになり、その傍らを支えるのはあの田豊。それくらいの小細工をしてくるのは在り得る。
(くっ・・・まさかそこまで袁紹がまともになって田豊の策を受け入れたというのか)
前回戦った時に「袁紹は随分まともになった」とは思ったが、ここまでになっていたとは。
少しばかりか、これまで持っていた袁紹に対しての「無能」の考えは消したほうがいいらしい。
公孫賛も馬上で冷や汗をかいて沮授に質する。
「沮授、その2千っていうのは一部の部隊でしかないよな・・・?」
「御意。恐らくは同規模の部隊が各地に。」
「そう、か・・・」
沮授の言葉に、公孫賛はガックリと項垂れた。ようやく張燕からの援軍を得て決戦に持ち込めると思っていたのに。
いいようにあしらわれた・・・と言ってもいい状態だった。
また、南皮はかなり大きい都市だ。そこを守っていた兵が1万以下のわけもない。
沮授の言う通り、奇襲舞台はいくつも用意されているのだろう。
「殿、落ち込んでいる状況ではありません、お早く!」
「あ、ああっ。全軍に通達、反転し撤退だ。南皮を目指す。張燕殿から送られた部隊もだ、急がせてくれ!」
公孫賛が撤退を決意したのと同じく、袁紹もまた立場が逆転したと感じた。
すぐさま追撃を繰り出して追い立てていく。
「撤退に移りましたわね。」
「そうっすね・・・っていうか、何時の間に敵後方に兵を配置したんすか?」
はてな顔で悩む文醜、その姿を見て(ちゃんと説明したのに・・・)と、溜息をつく顔良・田豊・審配。

ともかく袁紹軍は追撃を開始。逃げる公孫賛の軍勢を押して行く。
その途上で2千ほどの中規模部隊が幾度も公孫賛軍へと向かってくる。
その回数、実に10度。逃げきったと思いきや絶妙なタイミングで横腹を突いてくる。
そのせいで何度も足を止めていては、後方から追ってくる袁紹本隊の猛撃を受けることになる。
まさに「十面埋伏」であった。
被害など気にせず駆け抜けるしかない。
だが、公孫賛側もただやられてばかりではなかった。
特に張郃や高覧、公孫範など武将が直接指揮する部隊に向かっていった奇襲部隊は手痛い反撃を受けて退くばかりだった。
また、優勢である袁紹も一度だけだがヒヤッとする場面があった。
勢いに乗って攻撃を続ける袁紹だったが、何処かから飛んできた矢が袁紹の顔をかすったのである。
流れ矢などではない、確実に自分を狙った一撃。
これには袁紹本人、彼女の護衛も兼ねる顔良らも真っ青になって「ぱ、白蓮さんの部下に弓勢の達者な方いました・・・!?」と身震いしていたり。(この矢は張楊の放ったものだった

公孫賛・張燕連合は多大な損害を受けつつも何とか南皮まで撤退。しかし、被害が大きすぎた。
このまま攻めてくる袁紹本隊を現有戦力で支えきれず、また南皮も維持できないと感じた公孫賛はそのまま北平・薊(けい)に下がり、そこで防衛に徹する事を決定。
張燕からの援軍も薊を経由して帰還させることも可能だ。
沮授も「万以上の軍勢を失い、士気が低下・・・支えきれないと見た殿の見識は正しい」と撤退を支持。
袁紹を見くびったせいでこんな結果になるとは。
これ以降は自分達が積極攻勢に出れることは無いだろうと予見している。
まだ烏丸が背後に控えているし、袁紹も易々とは攻め込まないだろう。即時滅亡は無いと踏んでいる。
とはいえ曹操の動きも幾分読めないところはある。曹操が早く動く事に賭けるしかないか、と唇をかみ締めた。

公孫賛が南皮を放棄した後、袁紹がやってきて同地を再占領。
結果、界橋の戦いは公孫賛を主軸とした北方連合を撤退せしめた事で、袁紹の勝利といえる。
袁紹から見ての問題は、兵力を減らす事に成功しただけで武将を捕縛する事が出来なかった事だろうか。
そこまでやってようやく損害を与えた、という話なのだが。
南皮に入城した袁紹だが、彼女はここで一度動きを止めている。
兵が多少減っていた事が主な理由だが、そもそも彼女はこれ以上北上するつもりが無かったのである。
審配や文醜、顔良までが「追撃一本槍で進むべきです!」と進言したのだが袁紹は「私なりの考えがありますわ」と兵を休息させることにしている。
田豊は「ほっほっほ」と笑うだけだったが、内心では彼女の考えに感づいている節がある。
さぁ、どうするべきかな? と考える袁紹だったが、そこで1つ不測の事態が起こる。
狙い済ましたかのように、漢王朝・・・いや、曹操と言ったほうが正しいが、袁紹と公孫賛に対して使者を送り和睦を斡旋したのである。

漢王朝を(今は)それほど重視していない袁紹だが、流石に会わないわけにもいかない。
袁紹は使者を広間まで通し、礼を尽くし迎えた。
その時の仔細は流すが、簡単に言えば「公孫賛と和睦しなさい」という内容である。
曹操としてはまだ北の情勢は混沌となった状態が好ましい。袁紹が北方を完全統一すれば南へ向かってくる事は明白だからだ。
どういうことか袁紹はあっさりとこれを受け入れた。
顔良らは全員「ええええっっ!!?」とか思ったらしいが、袁紹は淡々と使者の言葉を受け、適当に饗応して適当に送り返した。
あの感じだと、すでに白蓮さんのほうへも使者は到着してるのでしょうねぇ・・・と適当な事を考えている。
使者がいそいそと帰っていくのを見届けた後、「評議をはz「「どーいう事ですかぁっ!」と袁紹の言葉を遮ってきた顔良らの言葉で評議は始まる。
田豊以外が詰め寄るも、本人は涼しい顔をしてこう返した。
「だって、利益がありませんもの。」
「へ?」
「考えてご覧なさいな。これ以上進めば間違いなく烏丸が出てきますわ。そうなれば苦戦・・・その隙を突いて曹操さんが出てくるでしょう?」
「それはそうかもしれませんけど、ここまで来たのだから和睦なんて受けずに・・・」
「無理ですわよ。これ以上進めば白蓮さんは烏丸のいる長城以北まで逃げますもの。北平を得る事と常に烏丸の襲撃に警戒しなければいけない事・・・どちらが重いと考えまして?」
「むぅ・・・」
そこで、田豊が進み出た。
「しかし、このままでは常にここが公孫賛殿の攻撃に晒されますぞ。」
「烏丸と相対するほうがよほど脅威ですわ。此度の戦いの被害で、白蓮さんは暫く攻勢に出られないでしょう。」
「それを補填するために烏丸に救援を頼むことも考えられましょう。」
「ふふっ。そうなれば篭城をしてしまえばよいのです。烏丸は堪え性がないようですから。何より、それだけの大軍を養っていくほどの余裕が今の白蓮さんにはありませんわ。」
「なるほど・・・。」
「こちらが攻め上らなければ、という条件付ではありますけど。白蓮さんには攻め込む戦力がありませんわ。これ以上は無駄ですのよ?」
そこまで言われて、田豊は引き下がった。顔良や審配からすればもっと説得をして欲しいところなのだが、そもそも田豊が袁紹と同意見だったりする。
烏丸と同盟しているといっても、その烏丸兵を食わせていく事ができないのなら公孫賛も派兵をしてくれと言わないし、丘力居もしないのだろう。
これで北方は混乱どころか沈静化した、と袁紹は言う。
言い分は解るのだけど・・・と、顔良や文醜は少し不満そうであった。袁紹がそこまで言う以上は彼女らも従うけれど「両面に敵を抱えるのは危険だと思う」とだけは発言しておく。
解っておりますわ、とだけ答えて袁紹は評議を終了した。
公孫賛は中々の人格者で将兵共に彼女を信頼しているし、支配下にある民衆も公孫賛の事を慕っている。
ここで無理に進んでいけば討つ事はできるかもしれない。ただし、足元が一気に不安定になる。
公孫賛の治世を慕う民衆がいて、その治世者を力で無理に討てば何処かで綻びが生じるものだ。
労多くして益少なし。烏丸のこともあって、これ以上刺激をする必要が無いな、というところが袁紹の本心であった。


~~~南皮、城楼にて~~~
時刻は既に夜。
そこに袁紹は1人、南の地を見つめていた。
少しばかりの酒と肴を持って、ただぼんやりと。
「んぐっ、む・・・はぁ~・・・。」
酒を一気にあおって溜息1つ。
「ほっほっほ、1人で酒宴ですかな。」
「はい?」
いきなり声をかけられたのだが、特に驚くでもなく袁紹は振り向いた。その先には、田豊の姿がある。
彼も酒を詰めた瓢箪と僅かな肴を手にしてひょこひょこと歩いてくる。
「あら、翁も酒宴かしら?」
「いやいや、そういうわけではございませぬが。」
田豊は袁紹の隣に並び立つ。君臣としてはけっこう罰当たりな行為の様な気もするが、そもそも袁紹がそんな事を気にしていない。
「ふむぅ。何か見えますかな?」
じぃっと南に目を凝らす田豊。別に何かを見ていたわけではありませんわよ、と袁紹は苦笑する。
「では、何を?」
「そろそろ華琳さん・・・曹操さんとの戦いが近い。そう考えていただけですわよ。」
「成程。ゆえに南の地に在る曹操殿を睨んでいたのですな。」
「・・・睨む、ってどんな視力ですの。」
ほっほっほ、と田豊は笑うのみである。
「ああ、そういえば。」
「?」
「翁、貴方・・・曹操さんと面識がありましたわよね?」
「ほっほっほ。これまた懐かしいお話ですなぁ。おお、まさか・・・私が内通をしているとお疑いに。」
「はい? 貴方が内通・・・ふふ、中々面白い冗談ですわ。」
田豊の突拍子も無い言葉を一笑に付す袁紹。
「そんなことで翁を疑ったりはしませんわ。ただ、中央にいた頃に面識があったな、と思っただけですわよ。」
「そうですな・・・懐かしい話です。」
田豊は、過去に中央政界に籍を置いていた事がある。
順調に昇進をしていたが、宦官や外戚など権力者の腐敗と専横に嫌気がさして、官職を辞して郷里へと帰還していた。
その中央にいた時代に、曹操との面識が出来たそうだ。
「ちょっとした興味本位ですけど、翁から見た曹操さんはどのようなお人でした?」
この質問に、田豊は髭をさすり、考えながら答える。
「そうですなぁ・・・どこぞの人物批評家が彼女の事を「治世の能臣、乱世の姦雄」と評したそうですが・・・それとは少し違いますかな。」
「と言うと?」
「治世であれ乱世であれ、どのような時代でも一定以上の成果を出す。ふむ・・・時代を超えた傑物、ですかな。そして、覇者です。」
「覇者、ね・・・。やはり、あの人は覇道を進むのですわね」
「左様ですな。一度「仕えないか」と誘われましたがお断りいたしました。」
「あら、初耳ね。」
「どうも、覇道と言うのはあまり好みではありませぬでな・・・おお、そういえば殿も覇道をお進みなされるおつもりで?」
この言葉に、袁紹は「ぷっ」と笑った。
自身がここで覇道を進むといった所で田豊が離れていく事などないし、何より自分が覇者になれるはずも無いと思っているからだ。
「んー・・・質問に質問で返しますけど。翁から見て、私のどこが曹操さんに勝ると思いますかしら。」
「背の高さと胸の大きさですな。」
「・・・殴られたいですの?」
ていうか、そういうことを臆面無く言うなとか、先ず最初に出てくる言葉がそれか、とか何と言うか。
聞きたいのはそういうことじゃないのに。
「おお、いたいけな老人に暴力とは・・・」
「踵で足を踏みますわよ!?」
「ほほほ、ご勘弁を・・・そうですな、背と胸以外でいえば・・・申し訳ありませぬが、思いつきませぬな。」
まだ言うかこのえろえろ爺、と思ったが、後半評は予想通りである。
「でしょうね・・・私もそう思いますわ。その私が曹操さんと同じ覇道を進んで勝てると思いまして?」
「無理でしょう。」
これまたあっさりと答える。
「素直ですわね。・・・だから、という訳でもありませんが、私はあの人とは別の道を進みますわ。」
「王道、ですかな。」
「ええ。消去法というか、意思が宙ぶらりんというか。ま、言の葉遊びと思えばいいですわ。」
肩を竦める袁紹を見て、田豊は「そのような事はありますまい」と言う。
武力・統率力・政治力・知略・・・そういった諸々を含めて、自分は曹操に勝てる要素が無い。
そんな自分が同じやり方で張り合って勝てるはずも無い。だからこそ、自分は別の道を進む。
力で時代を切り開く、という点ではそう大差ないのかもしれない。だが、曹操のようにそこに感情の入り込む余地が無い様に見えるやり方・・・。
情理でいえば、情に動きがちな自分には絶対に無理だ。
自分は歪であっても王道を往く。
そこが彼女の考えで、そこにこそ北方をどう片付けるかの根底があった。曹操を降せば、公孫賛たちにはいよいよ打つ手が無くなる。
そこで降伏を勧める。今はまだ無理だ。南北に敵を抱える今では向こうも納得できまい。
だが、南をあらかた平定してから北を押さえる。そうすれば、後が無い彼女達も降伏してくれるだろう。
袁紹は力で従えるだけではなく、「赦す」事で公孫賛を迎え入れるつもりだった。公孫賛も(昔は意識などしなかったが)袁紹にとってはかけがえの無い友人の1人なのだ。
張燕も、烏丸も同じだ。今自分に逆らっても、降伏を受け入れるのなら全てを赦す。
そうして、徳を施す事でこの戦乱を収束させて見せよう。そこが彼女の意思だった。
・・・別に、自分が皇帝になろうとか、そういう意思を持つわけではない。
自分がそういう立場にあるのが相応しいとかも思わないし、そんな事を考える余裕もありはしない。
皇帝という存在は全てを束ねる至上の神、だそうだがそんなものは御免だ。自分は人であれば良い。
「ま、覇者だの何だのと、今の段階で論じるほど偉ぶるつもりはありませんわ」
「ほほほ、昔の殿を知る私としましては信じられん言葉ですな。」
「・・・その話はしないで欲しいですわ。」
「ほっほっほ。・・・こほっ」
笑っている田豊が、小さく咳き込んだ。
「あら。翁のような元気な人でも咳はしますのね。」
「人の体を何だと思っておいでですか。このような弱い爺に。」
言い置いて、また小さく「こほっ」と咳をする田豊。
「風邪かしら。北の寒さにやられまして?」
「むむぅ・・・」
意地悪く言う袁紹。
「ま、早く治す事ですわ。風邪をこじらせて大きな病気に、は笑い話にもなりませんわよ?」
「そうですなぁ・・・では、酒で体を暖めてから休みますかな。」
そうなさいな、と袁紹は笑い、酒を椀に入れて田豊に差し出すのだった。

こんな流れで、北方戦線は一時の終結を見た。
公孫賛はこれ以降、袁紹領へ攻め入る事をせず防衛に力を入れることになり、袁紹は曹操との対決に備えて動き出す。
この後に官渡の戦いが始まるのだが・・・それはもう少し後のお話。


















~~~主要陣営やったと思ってたら忘れてたよママン編。馬騰さんの憂鬱~~~

おま・・・いやおまけ。


わーにんぐ! 
こっから先は作者の悪乗りと言うか下手すると18禁いけYOふ○っくゆー な展開です。
苦手な方は飛ばしてください本当にお願いします。





忠告はしましたからね?



西涼、その実効支配者である馬騰。
彼女は以前重い肺病を患っていたのだが、名医と名高い華陀の治療を受けて、たまに咳き込む程度にまで回復した。
この病で死ぬ事はないだろう、とまで保証を受けているし病にかかる以前のように体が軽いので、本当に快復したのだろう。
最初こそ、変な筋肉ガチムチ2人を連れてしかも体に鍼を打ち込むとか・・・と疑っていて、愛娘である馬超の推薦だし、これ以上悪くもならないだろう・・・と半ば投げやりな気持ちだったが、いやはや。
そんな彼女は本当に久しぶりに風呂に入っていた。
病にかかってからと言うもの、風呂に入ることなどできるはずもなく。
いつも娘や近習が体を拭いていてくれたのだがそれだけではやはり不満だった。
女性であることもあって、風呂はかなり大きく作成されている。
(娘達が小さい時はよくいれてあげたものだけれど・・・はぁ、いいお湯・・・♪)と、過去を思い返しつつ久々の湯の感触を楽しんでいた。
そんな馬騰、既に娘を三人生んでいるが、それを聞けば余人は「嘘だっ!」と叫ぶほどのプロポーションである。
病だったせいで少しやつれているが、年齢などを全く感じさせない外見。
胸は大きく、体つきも雌豹を思わせるほどしなやかだ。背も高ければ足も長い・・・この体つきは娘達にも大きく受け継がれている。
服装は落ち着いたものが多く、馬騰の静かな性格を現しているといっても良い。
少し話題が逸れるが、蹋頓に似ているといってもいいかもしれない。
もっとも、蹋頓は遊女のような・・・というか、花魁のような艶やかな服が似合いそうで、馬騰は楚々とした着物が似合う風情であった。
楚々とした着物であっても、胸の大きさはよく目立つところだろう。
顔立ちなどは長女である馬超に良く似ているが、目鼻立ちなどは妙齢の女性らしく、すっきりとしている。
馬超の目をもっと切れ長に、落ち着いた雰囲気と言えば解りやすいだろう。
髪の色は黒く、普段はポニーテールにしているがそれでお地面に届きそうなほど長く、かつ美しい。
娘達の髪は栗色で、髪型も同じようにポニーテール。馬家の女性はどうしてか全員同じ髪型である。(髪の長さや結び方などはめいめいによって違いはある。

そんな事はともかく、彼女は風呂を楽しみつつもあれこれと思考していた。
自分が知らぬ間に、曹操とか言う少女が皇帝を保護、勢力を拡大しているとか。
それ以前にも董卓が敗北して滅びただの色々ある。
特に、馬超が高順の事を気にしている事にも母として悩んでいた。
心配をするな、とは言わないがああも連日「はぁ、高順今頃どこにいんのかなぁー・・・」と悩むのを見るのは辛いものがある。
閻行からの便りも来なくなってしまったし、もしかして死んでいるのだろうかと思っていたが・・・華陀からの情報で、少なくとも高順は今のところは生きているらしい。
聞くところによると、反董卓連合との戦いにおいても相当連合を手こずらせたとか、随分資金を貯め、異民族にも慕われているとか。
それほどの器量を持っているのなら我が婿殿として申し分なし、と思うし馬超もあれだけ気にしているのだから好意を抱いていないわけが無い。
時折冗談で話を振ってやると真っ赤になるし、妹の馬鉄・馬休に「いらないなら私達がもらいますよ?」「もらっちゃいますよ?」と言われ「誰もいらないとは言ってないだろ!?」と返すのがお約束。
唯一、姪に当たる馬岱だけは面識が無いので「どういう人なのかなぁ」と興味を抱いているようだ。

あれこれと考えていた馬騰だったが、少し長湯をしてしまったようだ。
のぼせていると言うか少しフラフラする。
不味いな、少し頭を冷やそう、と思って浴室から出ようとした瞬間。
「義姉上ぇぇぇーーーーーー!」
元気よく扉をあけて、馬騰の義妹である韓遂が乱入してきたのであった。

「あ、ほ、蛍(韓遂の真名)・・・今から風呂に入るのね? ごゆっくr「さぁ義姉上、共に風呂に入りましょう!」え、私今から出る・・・って、引っ張らないで!?」
言う事など欠片も聞かず、韓遂は馬騰の腕を引っ張って湯船に向かっていく。
「あ、あのー・・・」
「(ハァハァ)・・・あ、義姉上・・・か、体の洗いっこを・・・ハァハァ」
ああ、またか・・・この義妹は(涙
鼻息荒く迫ってくる韓遂に、馬騰は泣きそうになった。
なんで、こう毎度毎度迫ってくるのだろうか。
昔から女色の気があったし、何度も迫られ責められ・・・まぁ、何と言うか出来れば思い出したくないような行為まで色々あったけれど。
病の時は流石に自重していてくれたようだが、その鬱憤を成公英にぶつけていたらしく、よく「しくしくしく」と泣いている成公英を見て不憫に思ったものである。
そして今、馬騰の病が癒えた事で遠慮なく迫ってくる韓遂。
「ああ・・・義姉上のこの穢れ無き肢体・・・玉露のような汗・・・こぼれんばかりのしっとり(流石に削除)ああ・・・ああああぁぁあっ!」
なんか1人で悶えてる義理の妹。
「あ、あの、やっぱり私は上がらせてもらいますから・・・それじゃ!」と思いっきり引きつつ逃亡を図る馬騰。
しかし、韓遂は慌てず騒がず「そう簡単に逃がすとお思いですか!」と叫び・・・出口の向こう側にいる成公英に閉めさせた。
「あ、ちょっと・・・英ちゃん!? 開けなさい!」
「申し訳ありません馬騰様! ど、どうかお許しを・・・!」
何とかして扉を開けようとする馬騰だが・・・その後ろには、既に韓遂の姿。
「ふ、ふっふっふっふぅ・・・逃げられませんぞ、義姉上ぇ~・・・」
「蛍・・・! って、貴方それ何持ってるの!? それに今気付いたけど何時の間にこんなに沢山の瓶を・・・」
「ふっふっふ。これは我が甥になるであろう高順が土産としてくれたもの・・・そしてっ! その瓶の中にはとろっとろの蜂蜜が!!」
韓遂が何時の間にやら所持していた・・・なんつーか、もう「アレ」としか形容できない何かの形をした張り形が「うぃんうぃん」と変な音を立ててぐりぐりと動いている。
何がどうなって自動で動いているのか全く解らない。
「高順くんって?! まま、待ちなさい蛍! 蜂蜜を風呂に持ち込む理由は一体何!?」
「はぁはぁ・・・あ、義姉上の体に蜂蜜を・・・お、美味しく(またも削除)」
「!!? 一体何を言って・・・や、辞めなさい蛍、これは命令ですよ!?」
「そんな涙目で言っても可愛いだけです義姉上!」
「可愛いって言った!?」
「し、下の(添削)で口移し・・・あ、あそこに入れて「ほぉら、いやらしい(規制)」そして(PTA)一気飲み・・・ああ、さぞかし甘露な・・・ああぁぁぁ・・・良いっ!!」←最早何も聞いちゃいない韓遂
「おおおおお、落ち着いて蛍! ねっ!?」
思い切りたじろぎ、尻餅をついてしまう馬騰、その馬騰を追い詰めて(何か卑猥なものを持ち)迫る韓遂。そして・・・
「いっ・・・いやぁぁぁぁあぁああぁっ!!?」

馬騰の悲鳴が響き渡ったのであった(可哀想に・・・。

~~~時間経過~~~
「うぅぅ・・・ぐすっ。えぐっ・・・」
「はぁ・・・いやぁ、良い汗をかきました♪」
全身蜂蜜まみれにされ、さめざめと泣く馬騰に、何かをやり遂げた表情の韓遂。相反する態度である。
姉としても主君としても悲しすぎる。しかもちょっと気持ち良かったし。
そういった諸々の感情が涙となって出てきてしまう馬騰。
毎度こんな感じで無理やり押し切られて関係を持つのはイケナイ事だと解っているのだが・・・。
まさか、こんな訳のわからない趣向で来るとは思いもしなかった。
よくよく考えたら、自分が相手をしない代わりに成公映が代わりに泣かされていたのだ。
その苦労を思えば、少しだけ自分が我慢をすればよいだけか、と割と人のいい馬騰は思い直した。
ところが、韓遂はそんな空気を全く読まなかったようで・・・

「さぁ、義姉上! 第2戦開始ですよ!」
「はぃっ!? ま、待ちなさい・・・今あんなにシたばかりでしょう!」
「今まで延々お預けを食らっていたのです・・・今夜は寝 か せ ま せ ん!!」
「ま、待って・・・お願いだから堪忍し・・・んくぅっ!」
馬騰の太ももの間に湯とか蜂蜜とかでぬるぬるの腕を割り込ませて韓遂は邪悪かつ淫蕩な笑みを浮かべた。
「それでは、第2戦・・・開始!!!」
「やめ、お願いだからもう・・・ひぃ、ふぁ・・・ん・・・♡」





病気が治ったとは言え・・・彼女の苦労はまだまだ続きそうであった。





合掌・・・。

~~~いやだから飛ばせって言ったよね! アテクシは悪くないよ編、完了。~~~












~~~楽屋裏~~~
うぶっ・・・気持ち悪くて頭が痛い・・・あいつです。
久々に韓遂さんの出番つうかうんすまない、アレは見なかったことにして欲しい。
エロ書きたくないからってこんな形でやらんでも・・・。

さてさて、田豊おじいちゃんに解りやすいくらいのフラグを立ててみました。
もう結果は解りきってるレベルですが・・・さて?

・・・え? 張楊? だれそれ(こら

ではまた次回でお会いいたしましょう・・・はぅ、お腹がっ(吐血



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第9話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/05/29 23:57
真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第9話



界橋の戦いが、曹操の仲裁によって一応の終結を見た3ヵ月後。
許昌・・・許都と呼んでもいいが、そこを根拠地としている曹操は「宣戦布告」と「袁紹南下」の報を同時に聞いて「はい?」と首をかしげた。
宣戦布告の報告が届いたと同時に一気に国境付近の小城に向かって攻め寄せたのだという。
その数はおよそ3千。対して、城を守る曹操軍の守兵は700かそこら。
まさか、公孫賛・張燕を放置して此方へ来るとはね・・・、と曹操は自分の予測が大きく外れた事に舌打ちした。
もう少し時間が欲しかったものだ、とも思う。今はまだ万全とは言いがたい状況だから。

許都の会議室ではその対策にどう動くか、と曹操以下、重鎮が顔をつき合わせて話をしていた。
曹操はそれを片手で制して、荀彧のほうへと顔を向ける。
「桂花(荀彧の真名)、今すぐ動かせる兵の数はどれくらいかしら。」
「は。予測よりも動きが早すぎます。現状で動かせる兵数は2、3千がいいところです。」
「少ないわね・・・。」
「申し訳ありません。もう少し時間をいただければ2万以上の動員は可能です。」
「親衛隊を動かせばどれほどになるかしら。」
「曹操様・・・」
親衛隊を動かす、と言う言葉に夏侯淵が眉をひそめる。
親衛隊を使うというのは、それほど曹操が追い詰められた状況と言うことだからだ。
典韋と許褚もそこには含まれている。
「火急の事態だもの。贅沢を言う余裕など無いわ。」
「親衛隊を含めれば、更に五千といった所です。それでも7・8千程度」
曹操と荀彧はあれこれと話し込んでいるが、一人・・・夏侯惇だけはよく解っていなかったらしい。
隣にいる妹、夏侯淵にボソボソと、
「なぁ、秋蘭(夏侯淵の真名)」
「む、どうしたのだ、姉者。」
「袁紹軍は3千とか言ってたよな?」
「うむ。」
「じゃあ、なんでこっちの兵が7千とかで少ないんだ? 楽に勝てるじゃないか。」
「姉者、あの袁紹だぞ? あの無理無茶無策無謀の、だ。それが僅か3千で攻めて来るなど普通にありえん。」
「・・・だから???」
全く解ってないな、と苦労性の妹は溜息1つ。
「つまり、だ。後続の兵がいるだろうという事だ。」
「その数は?」
「それがまだ掴めていない。だから7千や8千で足りるかどうか、という話なのさ。」
「・・・むぅ」
そういった話をしている間にも曹操は話しを進めていく。
「そうねぇ・・・霞(張遼の真名)と沙和(干禁の真名)を派遣しようかしら。あの2人にもそろそろ働く場を与えてやりたいところね」
「沙和はともかく、霞ですか・・・。」
「あら、桂花は不満かしら?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、彼女はついこの間出産したばかり・・・大丈夫でしょうか?」
「ふぅむ・・・そういえばそうね」
そう、張遼はほんの少し前に娘を産んでいた。
今は彼女の義理の母親である閻行、戦友ともいえる干禁と共に住んでいる。
その子・・・張遼は「張虎」と名づけたそうな。
夏侯淵に匹敵する武才と統率力を持つ張遼だが、身重と言う事情があってこれまでは働かせようにもやりようがなかった。
だからこそここで抜擢しようと思ったのだ。
だが、その思考も「報告いたします!」と入ってきた物見によって一旦遮られた。
「何事?」
「は、袁紹軍は国境付近で停止。城に攻めかかることなく・・・付近の地形を調べている模様!」
「・・・何ですって? 攻めかかってくるつもりは無いという事・・・?」
あの麗羽(袁紹の真名)が? 攻める事もせずに偵察・・・?
そ ん な 馬 鹿 な。
(ありえないわ、絶対に・・・あの娘、悪いものでも食べたのかしら? それとも頭の中身がひっくり返りでもしたのかしら!?)
微妙に混乱する曹操であったがすぐに気を取り直した。
「解ったわ。稟(郭嘉の真名)と風(程昱の真名)が守備をしていたわね・・・。後で呼び戻すわ、麗羽がどう動いていたかを直接聞きたいわ。良いわね、荀彧」
「はっ。では、袁紹軍が退いたらすぐに。」
「よろしく。でも・・・そうね、もし攻めて来てもいいように援軍を出しておく。春蘭!」
「はいっ」
夏侯惇は元気よく返事をする。頭の中身は残念な彼女だが、こういう時は自分の出番だと理解していた。
「貴方が兵を率いて向かいなさい。数は500もあればいいでしょう。ただ・・・」
「ただ?」
「向こうに着いたら風と凛の指示に従いなさい。これは私からの命令、守れるわね?」
「うっ・・・解りました。」
「宜しい」
言い渡されて頷く夏侯惇であるが、その場にいる全員が「言う事なんて聞かないのだろうなぁ・・・」と思っているのは公然の秘密だったりする。(荀彧が珍しく何も言わなかったが、それどころではないようだ

この騒ぎは、袁紹が地形・地理を調べ上げたところで軍を撤退させたために小競り合いにすらならなかった。
地形調査は、曹操と袁紹の国境の広範囲にわたって行われたらしく、徐州方面でも袁紹軍の姿を目撃したといわれる。
その後に、夏侯惇と共に許都へ帰還した郭嘉・程昱に曹操は色々と袁紹軍の様子を聞いたが、2人は「袁紹は最初から此方を攻める気が無かったようです」と答える以外出来なかったという。
これを聞いていた曹操以下「本当に三千しか出してなかったのか・・・」と意外に思ったとか。

袁紹だが・・・こちらもこちらで大変な事になっていた。
田豊が本当に病にかかってしまったのである。
高齢である彼にとって、北方の寒さは袁紹の言う通り相当に堪えたのだろう。
田豊は現在、自分の居館で静養しているのだが相当性質の悪い病にかかってしまったらしい。
咳が止まらず、熱も中々下がらない。このような体調では曹操との戦に随伴させる事は不可能だ。
袁紹はそれを重く見て曹操との戦いを先延ばしにする、とまで考えたが田豊がそれに反対をした。
「曹操は未だ開戦準備が整っていない。時間を与えれば公孫賛らも動き出すだろう。両面作戦にならぬように、という当初の方針に従うなら今しかありません」と。
それを受けて、迷いはしたものの袁紹は当初の予定通りに開戦を決定。
北平・晋陽に対して最低限の、その他の各都市にも賊や治安維持のための兵力を残し、動員可能な兵力を全て南下させる策に出た。
三千の兵が国境沿いに・・・というのも、本当にただ地理を調べ上げ、どこから攻めいるか策定していたのだ。
その他の地域にも僅かな兵を繰り出してあれこれと調べさせたが・・・やはり、本拠である許都を叩くべきだ、という結論に達した。
袁紹が本拠地と定める鄴の南東に濮陽。その濮陽の南西に、順番に陳留・許都となる。
そして、許都は鄴から見て真っ直ぐ南に位置する。そして、その許都にこそ漢王朝の象徴たる皇帝、劉協がいるのだ。そこをとって、皇帝を奪還さえすれば曹操の求心力も支配力も一気に落ちる。
ただ、袁紹が皇帝を推戴するのか、ただ保護するだけにするのか。まだ本人もそこを考えていない。
一部、「このまま曹操を倒し、北方も平らげてしまえば敵対できる勢力も無い」と豪語、袁王朝を作っても良いのではないか、とまで考える配下がいる。
審配など「天下は天下の天下にあらず。別段、劉氏が帝でなくとも良いのです。」と進言してきた。
暗に「天下をお取りあそばせば如何です」と言っているのだ。
これを聞かれたら即逆賊認定ですわね、と苦笑してその意見はやんわりと却下したものの、審配は本気でそう考えている。
ともかく、袁紹は兵も将もできるかぎり曹操との戦いに投入するつもりである。
郭図や許攸まで連れて行くというのだから、それだけの決戦になる、と踏んでいるのだ。
兵も将も揃え、物資も必要分量を揃えた、と袁紹は出陣前夜に田豊の居館を訪ねた。
小間使いやら何やらが慌てて応対してくれるが、それらを気に留めず袁紹は田豊の寝室まで歩いていき、扉を叩いた部屋に入っていく。
「入りますわよ、翁」
「ごふっ・・・ほほほ、入ってから言う言葉ではありませぬな、ごほっ」
寝台で横になっていた田豊は起き上がろうとするが、袁紹はそれを制した。
「そのままで構いませんわ。寝てなさい」
「ほほ、申し訳ありませぬ。」
調度品など無い、飾り気の無い部屋だ。
田豊翁らしいですわね、と思いつつ袁紹は椅子に座る。
「・・・明日、我が軍は出陣しますわ。向かうは許都。もっとも、曹操さんが出張ってくるのは見えておりますけど。」
「そうですな。あの御仁ならば自身の手で決着をつけようと考えるのでしょう。まったく、このような事にならなければこの爺も同行いたしまするに。ごふっ」
「ふふ、ご老体に無理強いは致しませんわ。早く病気を治しなさい。翁にはまだまだやって頂くことがあるのですからね?」
「おやおや、殿は老人をこきつかうおつもりですか。酷いですなぁ・・・げほっ、げほ」
笑って咳をする田豊を、袁紹は寂しそうに見つめる。
この戦いには、袁紹は全てをかけて挑む。
負ければ二度と巻き返しがきかない。逆に勝てば曹操に反撃する力が残らない。
2つに1つの結果である。
それを見越してか、袁紹は各都市の太守に「此度の戦いで私が負ければこれを開いて、後の指示に従いなさい」と木簡を届けさせている。
簡単に言えば「降伏してしまえ」という内容だ。
自分が負けてしまえば、そこで見放されても仕方が無いし、変に忠誠心を出されてしまっても困る。
負けたら負けたで、潔く降ってくれれば見せしめで誰かが滅ぼされるという事は少なくなる。民にも将兵にも被害が極力出ないように、という彼女なりの考えだった。
戦う前から負けた心配をするのはらしくないとは思うのだが、なにせ事が大きすぎる。
「ふ、減らず口が叩けるのならば心配は不要ですわね。・・・さて、そろそろ行きますわ。」
「ごほっ。お気をつけて。」
「ええ。せいぜい、勝利の報を待っていなさいな。」
袁紹は、部屋を出るときに一度だけ振り返り・・・そして、今度こそ出て行った。



袁紹は出陣の下知を出し20万以上の兵を率いて南下、黄河を越えて曹操領の白馬を攻める。
白馬を守備するのは曹操の配下である劉延と言う男で、兵力は数千。一万にも満たない。
そして、急造ではあったが曹操も3万ほどの兵力をかき集めており白馬の救援に向かっている。
だがこの戦いは袁紹軍の圧勝、というかそれ以前の段階で終了している。
曹操は、干禁に別働隊を率いさせて遊撃させ、自分達が白馬で守りを固めていけばある程度防げると思っていた。
統率力の無い袁紹の事だから、先鋒部隊を出して任せきりにしているだろう、と踏んだのである。
ところが、袁紹は僅か数千の篭る白馬を全軍で攻撃。白馬は1日と保たず陥落。劉延は僅かな兵と落ち延びるのだった。
間に合わなかった、ということでしかないが、袁紹はその白馬を前線基地か、或いは補給基地にするために人を入れて守りを固めた。
補給経路の1つにしようと言う魂胆だ。
ここで一気に攻めるべきかもしれないと思ったし、懲りない郭図らがそう進言してきたが袁紹は迷った挙句それを却下している。
補給を甘く見ると痛い目にあう、ということを田豊から何度と無く教わっていたからだ。
「時と場合にもよりますが・・・何よりここは敵地。少しくらい慎重なほうがいいですわ」と言う事だった。

~~~白馬にて~~~
「あーぁ・・・折角思っきし戦えると思ってたのにさぁ。」
設営されている陣を歩いている文醜が、つまらなさそうに歩いている。
その隣にはいつものように顔良がいる。
「そんな事言ったら駄目だよ、文ちゃん。」
軽くたしなめるが、文醜は気にしていない。
「そりゃ、楽っちゃ楽だけどさぁ。出番も何もねーじゃんか。なんつーか、こう・・・ドババーン! って感じでズッギュゥゥウン! な戦いになると思ってたからさ、肩透かしって感じ?」
「・・・。文ちゃんの、ドババーンとかズッギュゥゥウンの中身がある程度理解できる自分が怖いよ」
全くもう、と嘆息する顔良。
「言いたい事は解るんだけどね。でもさ、考えたら凄い事だよね。」
「へ? 何が?」
「だってさ、袁紹軍のほぼすべての武将と兵士がここにいるんだよ? 私、何人か見たこと無い人がいたし。それだけ、麗羽様が今回の戦いに本気でかかってるんだなぁ、って。」
「むー。」
これに関しては文醜も同じ意見だった。
話をはぐらかされた事に気づいていないあたりが彼女らしいが、確かに文醜も見たことのない武将までがこの地にいたのだ。
洛陽で曹操と同格の「西園八校尉」の職にあった淳于瓊(じゅんうけい)は流石に知っていたが、趙叡(ちょうえい)やら蒋奇(しょうき)、孟岱(もうたい)とか初めて聞いた名である。
「まあ、いいけどさ。これじゃあたいらの活躍の場所が無いような気はするかなぁ」
「ところがそうでもない。」
「うぉ!?」
つまらなさそうに頭の上で手を組んでぼけーっとしていた文醜だったが、いきなり後ろから審配が話しかけてきたので驚きつつ振り向いた。
「審配さん。ご苦労様です。」
「ん。・・・はぁ、田豊殿の苦労がようやく解ったよ。」
「はい?」
審配は少し疲れているようで、肩をゴキゴキと馴らして呟いた。
「文官のまとめ役を一時的にやらされてるんだがな。これがまあ大変のなんの。」
「あぁ・・・まあ、癖のある人々が多いですからね。」
「そういうことだ。」
顔良が苦笑するのにあわせて、審配も笑う。
郭図・許攸のような自分の利益ばかり考えているような連中もいれば、崔琰や王修のように、律儀に働く文官もいる。
短期戦で行くべきだの、長期戦でいくべきだの、幕僚内での不和も多く、そういうことのまとめ役をやらされているのだから、苦労も多いだろう。
「ったく、幕僚の見解不一致はまだしも。許攸の甥が不正を働いた、だの・・・そういう情報は今は不要だ。まぁ、そういう雑多な情報を殿の耳に入れないようにするのも私の仕事さ」
「へ? 何で麗羽様に知らせちゃ駄目なんだ?」
「今は、と言ったろ。現状で大切な事は曹操に勝つ事だ。あまり余計な情報を入れて判断を曇らせないように、ってことだよ。・・・私が伝えるまでも無く知っておられたけど。」
はぁぁ・・・と、審配は今日何度目になるか解らない溜息をついた。
「大切な時期なのに、不正を働いて財貨を得る事を重視する・・・それを見逃せと言ってくる許攸もどうしようもない奴だよ」
「・・・始末はつけないんですか?」
「ああ。伝令を出して役人に逮捕させるさ。殿はそういう不正を見逃さないようにしてるしな。許攸の始末は微妙なところだけど」
流石は、というべきか、審配は既に役人を仕向けていたらしい。
その審配にしても、他所から流れてきた犯罪者を匿ったりして「亡命者の親玉」扱いされているが、それはあくまで袁家の兵力に充てるためで私心などは一切無い。
余談だが、許攸は自身の家族を逮捕された事に怒り、袁紹に審配の処分を申し立てるが「不正をしたのは貴方の甥でしょう。本来ならば貴方も処分を免れないという事を理解なさい」と叱責され、袁紹と審配を逆恨みする。
「なー、審配ー。」
「さんをつけろ、さんを。で、何だ、文醜」
「さっきさぁ、そうでもない、って言ってたっしょ。それって近々・・・」
「ん? ・・・あぁ、その話か。そろそろ、お前の望む大決戦になるぞ。」
「うっそ、ホントに!?」
さっきまでのやる気の無さが嘘のように、文醜の目が輝いた。
審配も顔良も、単純だな、とつい笑ってしまう。
「ああ、嘘じゃないぞ。ここから南に「官渡」という場所があってな。曹操はそこに砦を築いていて・・・兵を詰めている。その数、恐らく10万は越えるだろうさ」
文醜と顔良はふむふむ、と頷いて素直に聞いている。
「その官渡を抜けば許都は目と鼻の先。そこが曹操にとっての最終防衛線といえる。殿と曹操の決戦の場となる、ということだ。」
「じゃ、あたいの活躍の場があるってこと!? 10万以上の兵力がぶつかり合う大会戦に!!」
「そりゃ、活躍してもらわなければ困るさ。殿も期待しておられるだろうからな。」
「うおぉぉおっ! そうと決まりゃぼけっとしてらんないな! 斗詩、すぐに特訓だぁぁっ!」
「え、ちょっと一人で盛り上がって・・・駄目だってば、引っ張っちゃ駄目ぇぇえっ!!?」
顔良の服の裾を思い切り引っ張って、文醜は一気に走り出した。・・・どこに行くのかは知らないが、審配は無責任に「夕飯までには切り上げろよー」とあっさり送り出した。
「審配さんのばかー!」という叫びが聞こえたが、それはあっさり無視した。
まだやらなくてはならない事が多い。
袁紹の命令を竹簡などに書き込んで、それを各部署に回して、とか色々と。
口頭で伝えるとどうしても細かい事が上手く伝わらないので、戦争中でもそういう事に従事する内政官が必要だったりする。
これほど規模の大きい軍団であれば尚更だ。
あれこれと指示を出す袁紹も、その指示を間違いのないように各軍へ伝える審配も大変なのである。




その頃の官渡要塞。こちらも既に曹操軍の主力部隊が集結している。
当初こそ袁紹の速攻を予測して、兵站・将兵の集結など相当無茶をしてかき集めたせいで、過労で荀彧が倒れる程の突貫作業。
袁紹が慎重に動いたお陰で、なんとか対抗できる戦力を集中配備する事ができたから結果的には余裕が出来たと言うべきである。
曹操・夏侯姉妹は当然として、許褚、典韋、張遼、干禁、満寵、曹仁、曹休、曹洪、徐晃、史渙など、このときに動員できる武将級はほぼ動員されている。
参謀としては郭嘉・程昱。他にもいるが、今回の戦いではこの2人がメインである。
荀彧は本拠である許都で留守居。
曹操側の兵力は12・3万ほどだが、武将の質で言えば此方のほうが高い。曹操もその点に自信を持っており「支えきれる」と判断しているようであった。
弱点と言えば、屯田制度が思いのほか成果を挙げておらず、兵糧に不安がある。
また、袁紹軍のほうが兵数が多く、それに怖気づいている将もいる。内通するべきかもしれない。と考えている者がいてもおかしくは無い。
兵糧を少しでも多く持たせるためにどう切り詰めるか、そして将を離反させないためにどうするべきか。曹操が抱えている不安は概ねこの2つだった。
南の劉表や袁術が、領内を狙ってくることもありえたが、曹操は「劉備では劉表を動かす事はできない。袁術も外部に兵を派遣できるほど資金の余裕が無い」事を理解していて、参謀である郭嘉・程昱も同意見だ。
もしかして、という可能性をもつのが孫策だが、彼女は楊州制覇に向けて行動しており、此方に攻め込んでくることはまずない。
荀彧が残るのは、その攻め込んでくるかもしれない可能性を考慮してのものである。
袁紹とは違って後顧の憂いの無い情勢といえる。


「ねぇ、張遼おねーさま」
「ん、どないかしたか、干禁。」
干禁に張遼。
呂布勢力から降伏した2人は、すぐ部隊を与えられ一軍の将に抜擢されている。
一部の心無い連中からは「降伏者の分際で」と陰口を叩かれているようだが、本人達はさほど気にしていなかった。
結果さえ出せば文句を言う奴もいないし、何より張遼が妊娠していて、そちらのほうに意識を集中していたからだ。
今は出産も無事に終わり、母子共に健康そのもの。
まだ子も生まれたばかりで、曹操も荀彧の言う通りに出撃を取りやめさせていたが、それを聞いた張遼が発奮して「誰がなんと言おうとうちは出るからな!」と無理やり付いて来てしまった。
さすがに張遼の事を案じた曹操によって、干禁は張遼の目付け役のような形にされている。(彼女は最初から出撃が決定していた。白馬でも一軍を任されている。
その干禁と張遼は馬に乗って陣内の見回りをしている最中の話である。
「張虎ちゃん、大丈夫なの?」
「あー。そら問題あらへんやろ。閻行かーさんに任せとるし。」
そう言われて、干禁は高順の母の姿を思い返した。
閻行は最初「高順の子を宿した」という張遼に驚き、そして大笑いした。「まさか、朴念仁のあの子が貴方みたいな佳い女をね」と思ったそうだ。
閻行は張遼を「霞さん」と呼んで家族として認識しており、張遼も閻行を母と慕い仲が良い。
張虎が産まれた事で閻行は、これで私もお祖母さんになったのねぇ・・・と感慨深げであった。
初孫ということもあって、彼女は張虎を凄まじく可愛がっている。
張遼は母親だから当然だが、干禁も張虎を何度か抱かせてもらって「あうぅ・・・可愛いの!」と頬が緩む事が多かった。
「確かに閻行さんだったら絶対守りきると思うけど・・・張遼おねーさまは大丈夫なの?」
「ん? うち?」
「うん。そのー、何と言うかいいにくいけど。」
「・・・? ああー、授乳か?」
「あぅ、はっきり言われるとこっちが照れるの。」
顔を真っ赤にした干禁を見て張遼は「照れんでもええやろ?」と笑った。
「確かに辛いかなぁ。かーいい娘に会えんのもやけど。胸が張って張ってしゃあないわ。」
そう言った張遼は自分の胸を見下げて苦笑した。
張遼は今まで、胸はサラシで巻いて、肩から着物を羽織って・・・と、露出の高い服装だった。
ところが、子供が生まれたせいかどうか。サラシは変わっていないが、着物をきっちりと着るようにしている。
本人は「さすがに一児の母になったからなぁ。順やん以外に肌見せるつもりもさらさら無いし。」とあっけらかんとした口調である。
これには「意外と身持ちは堅いんだよね」と干禁は感心している。
「ま、そんなんは速攻袁紹にお帰り願えば済む事や。ちっと鈍った身体にはちょうどええ刺激や。それにな。」
「それに?」
「これ終わらせたら、今度の狙いは劉表か袁術・・・もしかしたら孫策か? そこら全部叩けば順やんもおるやろ。更に劉備潰せば呂布とかも来れるし。なんとか早ぅにとっ捕まえてしまわんとなぁ。」
「ん・・・そうだね。」
「そしたら楽進・李典。趙雲達かて一緒に来る。順やんは曹操の事苦手みたいやけど、それで元通り。また皆で一緒に暮らせるってもんや。」
「うん・・・うん!」
張遼の言葉に、干禁は何度も頷くのであった。

張遼は、彼が去ったであろう南の空をちらりと見やる。
(この空の下、順やんもどこぞで生きてる。もしかしたらどこぞの勢力と戦っとる。・・・死なんといてや。うちの、んでもって皆の為に。張虎に片親おらんような寂しい結末にはしとぅないんや。頼むで、ほんま・・・)













何かよく解らないけど地味に評判がよかったので無理やりでっち上げてみる。

~~~むっさ番外編・もしも賈詡が高順を敵視しなければ? その弐~~~

注意:状況が飛び飛びになってます。劉備が少し遅れて徐州へ入った状態でのお話になります。


徐州、というか下邳(かひ)に入城した劉備達であったが、ここは既に呂布の勢力下にあった。
下邳だけではなく徐州全域がそうだ。
力で得たとは言え、それなりに善政を敷いて、それなりに民衆から支持されている呂布。
劉備が交渉を試みたのは賈詡。
下邳の広間にて、下邳は呂布の代わりに話し合いに・・・華雄や張繍をも従えて劉備との交渉に臨んでいた。

いきなり「徐州全てを寄越せ」と言えば呂布の機嫌を損ねるだろう。
それを危惧した劉備(というか諸葛亮や龐統)の考えで「まずは下邳と、下邳に蓄えてある物資の割譲」を迫った。
ここを足場にしてじりじりと勢力を拡大したい、という願望があったが・・・それに増して重要なのが人員・物資の確保である。
元からの持分が少ない事情もあって、とにかく一応の足場と人・物の確保が最重要事項。
龐統は張飛と共に下邳郊外で陣営を張って入城を待っている形になる。・・・張飛だけでは何をするか解らないし。
これに対して呂布・・・いや、この場合は賈詡だが、まず小沛(しょうはい)の張遼と広陵(こうりょう)の高順に相談をしたい、或いは呼び寄せるのでそれを待て・・・と持ちかけている。
数日前でが張遼と高順の両名に、劉備の情勢と要求などを記した手紙を出しており、両者の到着と判断を待ったのである。
その間、「広陵から送られてきた物資」は小沛へと輸送した。
劉備は「それは下邳の物資だよね!?」と文句をつけて取り戻そうとしたのだが、賈詡は「あれは元々広陵の物資なのよね・・・つまり、高順の管轄にある物資。二人の答え次第で下邳に「元から」ある物資は全部渡すけど?」と相手にしなかった。
明らかに詭弁だ。
立場としては正式に州牧に任命されている劉備が上だが、実際に譲るかどうかの決定権を握るのは賈詡。
その賈詡は自信満々であった。
彼女は戦場で武を振るう才能は無いが、誰が相手でも恐れる事のないようなクソ度胸を持っている。
関羽、張飛といった強者を並べた劉備にも全く恐れを抱かない。
「ボクは構わないけどね。文句があるなら殺せば?」
「え? そ、そんな事しないよ!」
物騒な言葉に、劉備は首を横にぶんぶんと振って否定する。
「でもねぇ・・・武神と謳われた呂布、神速を旨とする騎兵の申し子、張遼。汜水・虎牢で連合を相手に一歩も退かず、実質自分の手勢で下邳を陥落せしめた高順。4人がかりとは言え夏侯惇を押さえ込んだ華雄達。彼女達が貴方を叩き潰すために動き出すわよ。解ってんの?」
「むぅ・・・そんな事しないって言ってるのにぃ・・・」
これは、張遼らに手紙を介して返事を求めるのではなく、直接来させる理由の1つである。
もし自分に何かあっても呂布なら押さえ込めるだろう。そこに押さえとしてあの2人と2人の部隊をここに向かわせている。
「正統性があろうと何だろうと、今ここに住むのはボク達な訳。漢王朝がどうとか知った事じゃないわ。そもそも、あんた達にココ(下邳)を明け渡してボク達が得る物って何?」
まくし立てられると何も言えなくなる劉備に代わって諸葛亮が答える。
「私達と、漢王朝を敵に回さないという理と利です。反逆者の烙印を押されない、というのは大きな得ですよ?」
この言葉に、賈詡はそれこそ侮辱めいた笑みを浮かべて鼻でせせら笑った。
「ふん。反董卓連合を組んだ正義のお味方に相応しい言葉ね。あんたらのせいで、ボク達は住んでいた場所を追い出されて放浪する羽目になった。特に民衆に迷惑もかけてない、悪政もしてない。攻撃される謂れのないボク達がね! そのしわ寄せが民にも行ったってこと理解してるのかしらね。」
「はぅ・・・そ、それは」
「ボク達は負けて賊軍に。あんた達勝者は晴れて官軍になったわけ。それにねぇ、さっきも言ったけどもう漢王朝なんてどーだっていいのよ。賊認定される? 知ったこっちゃないわ」
確かに、その通りである。
既に賊認定されてるようなものなのに、それをネタに脅されたところで怖くも何ともない。
賈詡の遠慮ない物言いに関羽が「無礼な」と怒るが、賈詡はそれにすら真っ向から立ち向かい、華雄も殺気を放ち威嚇する構えを見せる。
それを、彼女は制する。賈詡にしても、今本気で劉備と矛を交えるつもりは無い。彼女の後ろにいる曹操を刺激したくないからだ。
挑発をするのは、過去に攻撃された事への恨みと彼女の元の性格である。
「利益を約束も出来ない、示す事もできないなら交渉にもならないわ。あんた達の手札全てを見せられてもこっちが納得できる物が何も無いのよ、解る?」
「うぅぅうう・・・」
「はぅ・・・」
劉備達としては、ぐうの音も出ない。
漢王朝云々は呂布勢力にとっては価値の無い話だ。賈詡はそれに変わる何かを示せ。ということを言っているに過ぎない。
これが劉備側の泣き所であった。
金も無ければ食料も無い、という弱点と、一応は漢王朝の血筋に在るとは言うものの「ただそれだけ」の劉備には、賈詡を納得させる材料など欠片もないのである。
それでも下邳を譲ってやるという方向で動いているのは、劉備の後ろに曹操がいることが賈詡には解っているからだ。
高順と張遼を呼び寄せるのもポーズのようなものだし、ここで劉備がおかしな事をしても(呂布と華雄だけでも充分可能だと計算しているが)確実に押さえ込める。
押さえ込んだ後が続かないからしないだけで、地力があれば劉備に遠慮をする必要だって無いのだ。
劉備にだってそれが解っている。が、ここまで言われては関羽が黙っていられない。
彼女は劉備同様に漢王朝復興に懸けている。それを否定されて面白い筈が無いのだ。
静かに殺気を漲らせるが、それを見て取った賈詡が「パキンッ」と指を鳴らした。
直後、劉備・関羽・諸葛亮の目の前に数本の槍が突き立った。
「っ!?」
一同が見上げると、天井に穴があいており・・・そこから槍を突き下ろしたのがわかる。
呂布や華雄もいるから劉備達を恐れているわけではないが、これくらいの手は打たせてもらっているよ・・・というパフォーマンスである。
この辺り、諸葛亮ではできない賈詡の凄味であった。


「で? どうするつもり? そっちが現状案で満足するか、それとも突っぱねるか・・・」
言いかけたところで「がちゃり」と広間の扉が開いた。
そこにいるのは張遼と高順・・・それと、蹋頓と沙摩柯の姿もある。(趙雲や楽進達は留守役
その場にいる全員を見回して「いやー、遅ぅなってすまなんだな。」と適当に弁明しつつ入ってくる。
「む、間に合いませんでしたか。」
「遅いじゃない、張遼、高順。」
「なはは、悪い悪い。順やんらとそこでかちおうてなぁ。んで、話どこまで進んでん?」
賈詡は咎めるが、別に怒っている訳ではなく、軽い口調だ。
華雄や呂布も「ひさしぶり」だの「やっと来たか」などと話し合っている。
逆に、劉備らの表情は硬い。
もしここで武力沙汰になってしまえば勝ち目など無いのだ。
何とか有利な条件で話を纏めたかったが・・・よく考えれば、張遼と高順もこの件での決定権を持っている節がある。
賈詡にどこまで話が進んだのかを聞かせて、「で、二人の意見を直接聞かせて欲しいのよね」と返事を求めた。
張遼と高順は顔を見合わせていたが、張遼は「ま、うちはええけど。順やんは?」と高順に話を振った。
高順は肩を竦めて「なるようにしかならんでしょ。」と、曖昧ながらも賈詡の考えを肯定する立場を選んだ。
「答えは決まったわね・・・じゃ、色々と手続きするから。ボク達が出て行くのはその後よ。それは良いわね。」
「え・・・ふえ? 今ので決定? 私達の議論なんていらなかったんじゃ・・・これってどういう」
もう、劉備たちの意思など、どうでもいい形で流されどうでもいいノリで決定してしまった。
あまりに流れが速すぎてついていけないのだ。
「うるっさいわねぇ。あんたらにとって悪くない条件でしょ。あ、張遼と高順は行っていいけど、あとで話があるわ。」
「ほいほい、ほれ、いくでー。」
「え、俺達ってこれだけのために呼ばれたの?」
高順も張遼に引っ張られてあっさり退出していった。




~~~夜になって~~~

「悪かったわね。折角ここまできてもらったのに。」
「うちはかまへんけどなぁ。文句あるのは順やんみたいやし。」
「そりゃ、人並みにはね・・・。」
ある程度の話をつけた後、賈詡から「執務室まで来てくれ」というお達しがあり、張遼と高順は2人で執務室まで出向いたのであった。
「広陵の物資の事? あれは小沛に輸送済みよ。劉備たちにただでくれてやるつもりは無いの。あれは袁術との外交で使用する予定なんだから。」
「それもありますけどね。なんで劉備に下邳を明け渡すんです。」
「ふふん。劉備の後ろに控えるのは曹操。どっちにしたって来るのは解ってる。劉備を追い返したら、それこそ「待ってました」と来るでしょうね」
「だから、最低限の物だけ渡して、顔を立ててやったって事ですか。えげつない・・・」
げんなりとしてしまう高順だったが、賈詡は「でも、物資を無駄にしないだけマシでしょ」と答える。
「大体、あんなもん交渉ですらないわよ。漢王朝の権威を笠にしてれば言う事聞くと思ってんだから。馬っ鹿じゃない?」
すっごく不機嫌そうに言う賈詡。
「そう言ってやりなや。んで、うちらに用事って何なん?」
「ああ、忘れてたわ・・・張遼、この街を引き渡したら、私達は小沛に入るわ。あんたを太守にしといて、今更だけど。」
張遼は小沛の太守と言う扱いだ。ただ、下邳を引き渡してしまえば呂布の行き場所は小沛か広陵のどちらか。
賈詡は西の曹操への警戒を最も強く感じており、ここにいた呂布軍の武将と兵を全て小沛へと移動させる腹積もりらしい。
「ん、そら当然やな。うちも太守とかやらされて大変やったし、それはええけど。」
実際、張遼は「あー、めんどくさい仕事少し減るわ」と安堵していた。
資金も人も足りないという状況だったし、他の武将も来てくれるならそれはそれで大助かりだ。
賈詡は悪いわね、と言って今度は高順へと向く。
「で、高順。あんたには頼みがあるのよ。」
「はぁ。」
「1つ。あんたには袁術と同盟を結ぶ使者をやってもらうわ。」
「はぁ・・・はぁぁっ!?」
外交の使者を任せる。これは高順にとってはトンデモ発言であった。
「本気ですか賈詡先生!? 俺に外交なんぞできるわけ・・・」
「面倒な根回しやらなにやらはボクの役目。あんたはそれに沿って動けばそれで良いわ。でも、本当の目的はそこじゃない。」
「・・・? 袁術と同盟は本命じゃない、って事?」
「そうよ。ボクの狙いは孫家のほう。あんた、孫家の宿将である黄蓋や周喩と仲悪くないんだってね?」
「む。」
他家との武将と仲が良いと言うのは、あまり好意的に見られないことがある。
何かあると内通を疑われる可能性もあるからだ。
高順は何とも答えようがなく、賈詡も安心させるように繕った。
「あのねぇ、おかしな意味で言ったんじゃないわよ。あんたのその伝手を利用してくれって事。」
「ははぁ。袁術と同盟を結んでおいて孫家にも力添えをしておけ、と。軍師殿は腹黒いなぁ」
「うるさいわよ、張遼。てかそれくらいじゃないとできないわよ、こんな仕事。高順、説明しとくわよ」
孫家は間違いなく楊州への進出を考えている。
それに力添えをして、その上ある程度の物資を回して勢力を作り上げるのに協力して来い、というのだ。
「・・・むぅ、またしても他家の下で働く事になるか。」
丁原様から(一時的に)曹操、公孫賛殿、張燕殿、董卓殿、呂布、そして今度は孫策殿・・・。
正史の劉備ですらここまで主君を変えてはいないだろう。
あれとは違って主君を裏切り、見捨てるような真似はしていないつもりだが・・・ああ、曹操さんとは敵対してるか。
色々と思い出し「ずーん・・・」と落ち込む高順。
「すまないとは思ってるわよ。でもね、これくらいしないと曹操と戦う事はできない。反曹操同盟を作り上げる事が、ね。いつか孫策が袁術を越えるわ。その時の為に縁と貸しを作っておきたいのよ。」
「それで動いてくれるほど孫策殿って甘くないと思いますけどね・・・。ご命令とあれば動きますよ。あ、広陵は趙雲さんに任せていきますが良いですか?」
「ええ、構わない。それとね、もう1つ頼みにくいことがあるんだけど。」
「まだ何かありますか。」
「もう少し、物資を融通してもらえないかなー、なんて・・・駄目?」
「・・・理由は聞きましょうか。」
またかよ、ってな表情で賈詡を見やる高順。
ううっ、と少し気圧されつつも賈詡は理由を述べ始めた。
「袁紹が動き出してるわ。」
この言葉に、高順と張遼は「むっ・・・」と表情を険しくした。
張遼は「あの馬鹿が動き出したんやなぁ」と思っているが、高順としては「公孫賛殿と張燕殿が不味い事になるな・・・」という事を思っている。
「その袁紹と繋がりを持ちたい、っちゅーこっちゃな?」
「ええ。でね、交渉用の物資を高順に賄って欲しいのよ。・・・白状すると、小沛にも物資の余裕があるわけじゃない。劉備を追い返さない理由の1つよ。今曹操と戦っても、勝ち目が少ない。」
「はぁ・・・でも、繋がりを持つといっても。袁紹と接触する方法は? 曹操領通らないと無理じゃないですか。」
「心配は無用ね。袁紹は平原を併合してるのよ。その隣にある北海まで進んでくるのも時間の問題・・・。」
「そこまで計算しとるんかい・・・せやけど、よぅそこまで知っとるなぁ。」
「ふふん、高順に貸して貰った影を総動員して情報をかき集めたのよ。袁紹と袁術は仲が悪いけれど、上手く巻き込んでやるわ!」
一応の補足をすると、この大陸は現状で「袁紹と袁術の派閥」に分類される。
益州や交州などは含まれていない派閥もあるが、袁紹派に属するのが曹操や劉表、袁術派が(強引に分類するなら)公孫賛や孫策と言うことになる。
呂布はその狭間にある形で、両派閥と関係を持つと言うことになるが。
袁紹派に属す曹操だが、彼女の戦力・兵力が大きくなりすぎた上、漢王朝を奉じた関係で袁紹から独立した一派と言うことになってしまっている。
そういった異なる派閥と上手く付き合わないと先が見えないのが呂布であった。
袁紹・袁術と結ぶとは言うものの、賈詡は「確実に孫策が袁術を圧倒するか滅ぼす」事を見越している。
孫策が独立の方向で動いている、と言うことまでは流石にわからないまでも、あの孫堅の娘が袁術の客将で終わるはずなど無い。
袁術との同盟など手切れとなることを前提に、かつ孫策とのコンタクトを取るためのダミーに過ぎない。
楊州を征した孫策と北方で勢力を拡大する袁紹。それらと組めば「反曹操同盟」となって対抗が出来る。
ここが賈詡の狙いであった。
高順はこれらを聞かされて、相当に悩んだ挙句「解りましたよ・・・」と嘆息した。
「袁紹にはできればかさ張らないようなものがいいのだろうけど・・・価値が目減りしない宝玉とか。」
いや、その前に公孫賛が滅びないようにしないと・・・でも、そんな手があるかなぁ、と高順は別の方向で悩む羽目になる。



「あ、そうだ。先生、ちょっといい?」
「何よ。」
「何でこんな大事な話なのに呂布が同席してないのさ。」
「理解できないからよ。あの子「セキトと遊んでくる」ってどっか言っちゃうし。」
「・・・だから陳宮もいないわけか。」
「ええ。一緒に遊びに行くし・・・ったく、子供なんだから。」
「実際に子供やけどな。」
賈詡は、ふっ・・・と、とても遠くを見つめる。
「会議とか、こういう話し合いにきっちり応じてくれるあんた達がものすごく頼もしいわよ・・・・・・。」
『・・・頑張れ。』






続かない。
















~~~楽屋裏~~~
いきなりレベルの高いアルカディアに投稿した己の愚かさ(ry あいつです(挨拶
ぐぢゅっ・・・ぬがが、蓄膿から来る鼻炎が大変な事に。

さて。
官渡前哨でしたね、今回のお話は。
これであと数話のお話・・・袁紹は・・・死なないでしょう、多分(笑
これが終われば高順君のお話に戻ります。
ちなみに「何かよく解らないけど~」は続けるつもりはありません。
これ続けると多分曹操が負けますしね・・・そうなったら勢力図がどうなるやら。



ではまた次回・・・えくしっ(クシャミ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第10話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/10/18 19:53
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第10話 官渡大戦。


官渡要塞より2~3里ほど北。
白馬より進軍してきた袁紹はそこに陣を構築。
衝車(城門攻撃兵器)や井蘭車(城壁守兵を攻撃するための移動可能な櫓。弓兵を配置する)を持ち出し、万全の状態を築き上げている。
また、兵糧集積としては烏巣を選び、ここに淳于瓊(じゅんうけい)・眭元進・(すいげんしん)・韓莒子(かんきょし)・呂威璜(りょいこう)など、武将数名と兵士3万を配置。
他20万前後は全て官渡北陣地である。
明日出陣、というその前夜。
袁紹は界橋の時同様に戦場を見渡すための高台を作らせてあり、その場所に一人立っていた。

「・・・。」
風が吹き、袁紹の身につける外套・・・マントがたなびく。
明日は曹操との決戦。勝てば全てを得、負ければ全て失う。
しかし、要塞の守りは堅そうで多少の力攻めでは落ちそうにない。何とかして釣り出したいが、やはり一度二度は力攻めをしなければならないだろう。
さて、どうしたものか。
あれこれと考えている袁紹はじっと官渡へと目を向けている。
だからだろうか、すぐ後ろに審配が歩いて近づいてきた事に、気付いていなかった。
「何か見えますか?」
「・・・っ、・・・ああ、審配さんですか。驚かせないで頂きたいですわ。」
「はは、驚かせたつもりはありませんでしたが。」
審配も隣に並んで、じーっと目を凝らして官渡要塞を見つめる。
「別に何を見ていた、というわけではありませんわ。どう攻めるべきか、とね。」
そう言って再び官渡へと顔を向ける袁紹。
そんな袁紹の横顔を見る審配は「立派になられた」と心中に頷いていた。
審配は少し話題をずらすように、こんな事を言い出した。
「ここが天下分け目の合戦、というのかどうかは解りませんが・・・その地に殿と曹操が立つ。これも天命と言うものでしょうか。」
袁紹は「天命?」と審配を見つめた。
私にはそう思えるのですよ、と審配は言うものの、袁紹はすぐにそれを笑い飛ばした。
審配を笑ったのではない。天命と言う言葉に笑ったのだ。
「・・・何かおかしな事を言ったでしょうか。」
「え? ふふふ。審配さんの事を笑ったのではありませんわ。しかし、天命ね・・・」
「・・・?」
「審配さん。私と曹操さんがここに在る事は天命でも何でもありませんわ。」
「では、何だとお思いで」
「曹操さんはどう思うか知りませんが、私がここに立つのは私の意思。」
何もかもを天命などと決め付けられるのは癪ですわ、とまで言い切る。
「天に確たる意思などなし。在るはただ人の意思、ですわ。運命というものはあるかもしれません。ですが、天意・天命などはありませんわ。時代が動くのも、戦が起こるのも、天命ではなく人の意思。」
疫病や、イナゴなどによる食料事情の悪化はただ「運が悪い」だけなのだろう。
彼女は今、韓馥の事を考えていた。
天意があるというのなら、韓馥が死ぬのも天意だったろうか。いや、そんな筈は無い。
あれは自分の不始末であり、自分の未熟さが招いた結末だ。自身の意思が届かなかったから、あんな事になったのだ。
天意などという不確かな言葉に踊らされる必要など、人である自分には必要が無い。天意・天命と言う言葉で自分を赦し、乱世を赦すほどに自分は突き抜けてはいない。
「私は私自身の意志でここに立っておりますわ。それとも、審配さん・・・貴方がここにいるのは天意とでも? 貴方は貴方の意思で戦うことを選び、今ここに在るのではありません?」
「むぅ・・・いやはや、何とも。」
何とも言い返しようのない審配であった。


官渡要塞。
曹操もまた、城壁に上がって袁紹のいる北を見つめていた。
(しかしまあ、何と言うか。あの麗羽がね・・・。)
曹操の思案はその一点のみを考えていた。
昔、洛陽で知り合ってから、悪友と言うべきか・・・微妙な間柄である。
お互いの真名を呼び合っていい仲だし、あの頭の悪さとか凄絶にお馬鹿で、周りをイラつかせる事に定評のあった袁紹。
その馬鹿さ加減が妙に憎めないから不思議なものである。
そのお馬鹿がこの曹孟徳の覇道を妨げんと目の前にあれだけの威容を整えている。
何かあって変わったのか、それともお馬鹿のままなのかはまだ解らない。
ただ、袁紹軍の気勢は只ならぬものがある。という事は理解していた。
「攻めてくるのは明日でしょうね。打って出るか、それとも守りを固めるか。」
袁紹軍は要塞を責めるための攻城兵器を押し出してくると思われる。
先ずはあれらを破壊しないと守備に徹する事もできないだろう。
それに関しては投石器を作らせていて、それで対処をする。
李典の作成したものを干禁が覚えており(うろ覚えながらも)数は揃えている。
当然、李典が直に作成したものより性能は格段に劣るが、それでも砦に篭りつつ強力な反撃能力があるというのは心強い。
「さぁ・・・麗羽、貴方はどう出るのかしら」


翌日。
袁紹は出撃する準備を、曹操は迎え撃つ準備を終えて開戦の時を待つ。



「殿、全軍の攻撃準備、完了いたしました!」
審配の声に袁紹は「宜しい」と答える。
彼女は既に騎乗、その前には烏巣守備隊以外の全ての将兵が揃っている。
袁紹は馬を少しずつ歩ませて将の名を呼んでいく。
「顔良さん、文醜さん!」
『はいっ!』
「審配さん、呂曠さん、呂翔さん、麹義さん、陳琳さん、周昂さん、蘇由さん、王修さんっ!!」
『ははぁっ!』
この戦いに参加していない高幹と蒋義渠(しょうぎしょ)は公孫賛・張燕に対しての牽制で残されている。
高幹が張燕にしてやられたのは、城攻めに移行しようとした所で投石機で撃退された・・・らしい。
そのやり口をしっているなら、同じヘマは2度としないだろう、と考えて再度張燕に対しての牽制を行わせている。
この戦いを終わらせれば、再度北へ向かう。そして公孫・張、そして烏丸の連合を降伏させる。
それでこの大陸の半分は獲った事になるのだ。
後は時間をかけてゆっくりと勢力を伸ばしていけばいい。どれほどの時間がかかるかは解らないが、都市を、街を、村を少しずつでも豊かにして行けばそれで良い。
袁紹は腰から吊るしている袁家の宝刀「至誠三綱(しせいさんこう)」を鞘から抜き放ち、高くかざす。
陽光を受けた刀身は眩く輝いた。
(行きますわよ、華琳さん・・・!)


官渡要塞にある曹操軍も既に迎撃の・・・いや、出撃の準備を整え終わっていた。
夏侯姉妹、張遼など、一騎当千の兵たちも、曹操の合図を待つ。曹操自身が陣頭にたち、袁紹軍の鬨の声を待つばかり。
(さぁ、かかってきなさい・・・麗羽!)



袁紹が宝刀「至誠三綱」を掲げ、曹操が愛鎌「絶」を掲げ。お互いの姿、声も聞こえず。
それでも、その言葉だけは自然と重なった。
「全軍っ!」
「攻撃・・・」
曹操が、袁紹が、己の得物を敵へと向かって振り下ろす。
『開始っっ!!』

将兵の鬨の声が重なり、官渡の地を揺るがせた。



袁紹軍は官渡要塞へと突撃。
そして、曹操軍も要塞から出撃。わざわざ有利な防衛戦を選ばないのだから自信が・・・と言いたいところだ。
曹操側は短期決戦を望んでいる。やはり、兵糧が長持ちしない。備蓄してある食糧が少なくて長期篭城を選べない状況にある。
もっとも、先陣を切って突き進んだのは曹操軍の最精鋭部隊と、あの夏侯惇である。
その突撃を受けて、意気揚々と進んできた袁紹軍先鋒の中央部隊を易々と打ち崩し、更に突き進んでいく。
「はっはっは! どうしたどうした、この夏侯元譲を止められる者は袁家にはいないかーーー!!」
いるわけがない。
少なくとも、雑兵では止める事ができない。
「まったく、姉者は・・・あれほど単独で突っ切るなと言われているだろうに。」
姉の猪突猛進を尻目に、その妹である夏侯淵は左翼にて弓を構え、味方の遺体を乗り越えて進んでくる袁紹軍に矢を浴びせていく。
夏侯淵は基本的に弓兵を束ねるが、別に歩兵を扱えない訳でもないし、自身も肉弾戦が不得手な訳でもない。
彼女も夏侯惇同様に軍を率いて左翼で袁紹軍と真正面から切り結んでいる。
今は歩兵を率いているが、その歩兵部隊後方に弓手が多くいて、また城壁にいる弓兵の援護射撃もあって有利な状況で戦っている。
そして右翼。
こちらでは張遼騎馬隊が突撃を仕掛けている。
「なぁっはっはっはっは! 脆い、諸すぎるわぁっ!」
袁紹右翼側は蘇由という武将が率いているのだが、これが相手にならない。
張遼得意の神速突撃を真正面から受けてしまい、中央同様あっさりと崩されている。
その蘇由の後陣を守るのは周昂。
蹴散らされる蘇由部隊を収容しつつ、矢を何度も射かけつつ少しずつ後退。手堅い防戦である。
張遼はそれをものともせず突撃を仕掛けていくが、やはり守りが堅く今度は容易に抜けない。
真正面からかち合う両部隊だが、そこで張遼隊の後ろに隠れつつ温存されていた干禁の遊撃部隊が一斉に周昂隊の横腹を付くように動き始めた。
蘇由の兵を収容しつつ何とか守っていた周昂だが、相手は張遼。元から分が悪いのに体力の有り余ってる新手を加えられてはどうしようもなく。こちらも徐々に崩れていく。
干禁も馬上で二刀を振り回して、面白いように周昂隊を横脇から斬り散らしていく。
「どけどけなのー! 立ち塞がるやつはなます切りにするのーーー!」
「うおわぁぁあっ!?」
流石に、戦に参加した回数事態は少なくとも、参加した戦自体が凄まじい規模のみである干禁。(高順一党全員に言えることだが
修羅場、或いは死線を潜り抜けた中で培った技術、戦に対しての勘は中々のものであり、袁紹軍の兵を瞬く間に蹴散らしていく。
蘇由・周昂の軍勢も耐えようとするが、張遼の攻撃に抗しきれず、これ以上は被害が大きくなると考えたのか退き始めた。
張遼・干禁は追撃を敢行するが、流石にそこから先は甘くなかった。
麹義率いる弓弩隊が待ち構えており、意気に乗って突撃した騎馬隊の兵を次々と射抜いていく。
麹義は自軍の目の前に展開する張遼隊の動きを見て「この条件であれば公孫賛と同じやり方で通用する」と見る。
中央・左翼・右翼は上手く連携が取れておらず(夏侯惇の猛進が原因)で、危機に陥っても援護をしてくれる部隊は少ない。
麹義は、真正面・遊撃隊が進んでくるであろう左側に対して矢を構えて撃ち込んで行く。
張遼と干禁は矢を叩き落しながら「これ以上は無理だ」と判断、部下を下がらせる。
ここで追撃があれば不味い展開だったろうが、麹義隊は中央で苦戦する呂翔、呂曠の援護を優先させるべきと考えて、そちらに向かう。
蘇由・周昂隊もけっこうな被害を出しており、彼らも焦って追撃をせずに、守りを固めたのである。
そのお陰で無事に撤退、再度出撃準備を整える張遼隊であった。

中央を進む夏侯惇。
彼女と、彼女率いる部隊の突撃力は凄まじかった。
何せ夏侯惇が進むところ袁紹軍の兵の屍が積み重なっていくのだから。
鎧袖一触、とでもいうべきか。
延々進み続けて、部隊が孤立しかかっているのだが、そんなこともお構いなし。
「どうした、袁紹の元には良き武人がおらぬと・・・んっ!」
その突進が、不意に横合いから襲ってきた兵の斬撃によって止められた。
もっとも、それは夏侯惇が咄嗟に後ろに飛びのいたので命中していない。
夏侯惇は楽しそうに笑い、斬りかかってきた者を見据える。
「ふむ・・・?」
「こ、これ以上はいかせません!」
自信なさげに立ちはだかる武将。
それは呂翔、呂曠の部隊を援護するために進んできた顔良であった。
「ふん、お前か。まあいい、少し退屈していてな。相手になってもらおう!」
(ひぇぇえぇ・・・勝てるわけないよぅ・・・!)
獲物を見つけた猛獣のように、目をぎらぎらさせて刀を構える夏侯惇。
その姿にビビリつつも、二刀を構えて対峙する顔良。
本来、顔良の武器は文醜によって(無理やり)持たされた大金槌であったが、右手に長刀、左手に短刀・・・いや、小太刀と言ったほうがいい長さの刀を持っていた。
元々小回りの利く武器を得手としている顔良なので、小太刀を選んだのだが、それだけでは殺傷力に劣ると長刀を持っている。
「さあ、行くぞ!」
びびってる顔良に構わず、夏侯惇は一足飛びに距離を詰め、刀を両手で構え斬撃を見舞う。
「ひゃっ」
顔良は、上段から繰り出された一撃を小太刀で斜め下に受け流し、右手の長刀で刺突攻撃を繰り出した。
その刺突を、受け流されて地面に叩き付けられた刀を持ったまま前方へ空中回転して避ける夏侯惇。
無理な体勢であったが、きっちり着地。すぐに振り向いて顔良の背中左側に突きを見舞うも、それを読んでいた顔良は背を向けたまま僅かに右へ移り、小太刀を水平に構えて刃が交差した瞬間に上に叩き上げた。
ガキィン、という音が響いて夏侯惇の刀が上へ払いのけられる。
「くっ!?」
「せぇぇい!」
夏侯惇がバランスを崩した隙に、顔良は右側から後方へと回るように、長刀で回転斬りを放った。
「ちぃ・・・!?」
身を逸らせて避けようとするが、長刀の間合いを僅かに計り損ねたらしい。
右側から迫ってくる刃をほんの少しだけ避けきれず、長刀の先端が夏侯惇の頬を切り裂いていた。
僅かに血が飛び、夏侯惇は「ほぅ!」と感嘆した。
「なかなかやるな・・・? お遊びで片をつけられると思っていたが・・・はははっ! 楽しくなってきたぞ!」
(や、やっば・・・本気にさせちゃったっぽい!?)
やっと楽しめそうな奴が出てきた、と嬉しそうに刀を構えなおす夏侯惇。
顔良は恐ろしさのあまり泣きそうになりつつも、少しずつ後ろに下がりながら応戦する。
これは袁紹の「猪突猛進の夏侯惇をこちらの陣まで引きずり込んでから多勢で押しつぶす」という策に則っての動きだ。
ある一定の位置まで誘き出してから、後陣に控える審配・文醜隊が前進して囲む、というものだった。
(でもやっぱり怖いぃぃぃいぃっ!)
顔良の苦労はまだまだ終わらない。



左翼では。
こちらは中央・右翼のように突出、あるいは後退せずに出撃初期の位置を堅持している。
というのも、本来はもっと要塞側に誘き出しつつ後退、投石器で攻撃。
それに怯んで後退を始めたら一気に猛追、ある程度の損害を与える。これが当初の予定だったのだ。
それが、思った以上に夏侯惇があっさりと先鋒中央を打ち破ってしまったので、何かもうグダグダになってしまっている。
(姉者・・・。華琳様の命令を全く理解していなかったな・・・)
張遼にしても、程ほどに攻め込んで程ほどに退いているのだが・・・ただ1人、夏侯惇だけが無茶苦茶に攻め込んで全く戻ってこない。
結果、中央部に敵兵が集中する感じになって、左翼の重圧事態はそれほどでないから楽は楽なのだろう・・・が。
夏侯惇を連れ戻す手立ても無く、ただ耐えて戦うことしか出来ないジレンマ状態だ。
当然、自分の盤面を崩された曹操が面白がるはずもなく。
 



「行かせなさいっ! あのお馬鹿はーーーー!」
「駄ー目ーでーすーっ!だから、華琳様(曹操の真名)が言っちゃだめですってば!」
「え、流琉(るる、典韋の真名)も一緒に行こうよ。」
「馬鹿なこと言わないで、っていうか季衣(きい、許褚の真名)も一緒に行こうとしないでよ!」

本陣では、行かせろ行かせないの押し問答が発動していた。


「これじゃ、こちらの作戦が滅茶苦茶だわっ! いいから行かせなさい、ついでに袁紹軍も斬り散らしてくるから!」
「いよぉし、僕たちの出番だね!」
「あああぁぁああっ! だから、皆で出ちゃ駄目だって華琳様が言ってたんですよーーー!!!」
許褚と曹操は行く気満々。典韋は止めるのに精一杯である。
曹操からすれば珍しい事だが、今回は割と素で怒っていた。
あのままでは夏侯惇だけでなく、夏侯淵も押し込まれる羽目になる。
張遼、干禁は一度態勢を立て直すために退いて、今度は上手く敵を防いでいるが。
このままでは不味い、という僅かな焦りと夏侯姉妹の危機に、曹操は我を忘れかかったようだった。
そんなところへ、郭嘉が程昱が駆け寄って来た。
「な、何事ですか!」
「おお、華琳様が憤っておられるのです。珍しい光景に風(ふう、程昱の真名)も・・・ぐぅぅ」
「寝るなっ」
「・・・おぉっ!? うららかな陽気に誘われて」
「・・・。今は戦争中ですよ、風。じゃない、一体どうしたのですか。」
微妙且つ毎度の漫才をやり終えてから、郭嘉は典韋に聞く。
「ああ、稟(郭嘉の真名)さんに風さんっ・・・お願いですから一緒に止めてくださいよぅ、華琳様がどうしても出撃するって」
「は・・・? しゅ、主君たるものがこのような状況で出て行くことに何の益が!?」
「五月蝿いっ。これ以上は見過ごせないだけよ!」
典韋を引きずってまで出撃しようとする曹操。
その典韋と同じように、曹操を引っ張って止めようとする郭嘉。
程昱は(何故この時代にあるかは全く不明だが)ぺろぺろキャンディーを舐めつつ、ぽそりと呟いた。
「主君たるもの、勇敢であっても好戦的ではいけないのですよー。春蘭ちゃんが心配なのは解りますけどー、このまま華琳様ままで出張るのは逆効果です」
「その通りです、ですからお止めください!」
程昱の主張に郭嘉は賛同、曹操も少し冷静になって足を止めた。
「ふー、ふーっ・・・。でも、このままじゃ不味いのは解るでしょう。」
「いっそ、銅鑼を春蘭ちゃんの頭にぶつけるとかー。」
「・・・どこまで遠くに飛ばせばいいのよ。」
はぁー、と曹操は溜息一つ。
「銅鑼はともかく、不味いのは事実ですねー。春蘭ちゃん、けっこう袁紹軍の陣の奥まで引き込まれてますしー。」
それは曹操も知っている。
あのままでは夏侯惇は敵中深くに孤立する。彼女の連れて行った部隊も微妙に引き離されてしまっているのだ。
「あの麗羽がそこまで考えた・・・? いや、しかし」
「華琳様、今の袁紹を華琳様の知っている袁紹と同一に考えるのはお止めになったほうが・・・」
あの麗羽にそこまで出来るはずがない、と否定しかかった曹操に郭嘉は提言をする。
曹操は面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らした。
「それよりも、あのお馬鹿をどうやって連れ戻すか、よ」
「手が無い訳ではありませんよー。春蘭ちゃんに「ご飯の時間よー」とでも伝えればすぐに帰ってきま・・・す、ぐぅ」
『寝るな!』
「おぉっ!?」
またしても眠りそうになる程昱に、全員で突っ込みを入れておいて。
「でも、そんな恥ずかしい手段で何とかなるものかしらね・・・?」
なんというか、そんなことを大声で言うのも嫌だ。しかも、何となく普通に帰って来そうではある。
「一番いいのは「早く帰ってこないと飯抜き」とか「夜のお勤めでしばらく声をかけず」とか「・・・ぶはぁっ!」あ。」
夜のお勤め、という言葉を程昱が口にした瞬間。
むっつりスケベかつ、脳内妄想ピンク色の郭嘉が、鼻血を見事なアーチで噴出し卒倒するのであった。




何を想像したのやら。本当に大丈夫なのだろうか、これで・・・?




曹操は最終的に「春蘭ちゃんなら多少岩がぶつかっても平気ですよー。やっちゃいましょー」という、程昱のとんでもない策を実行。
左翼・右翼の袁軍に対して投石機を作動させた。
虎牢関で投石機相手に苦戦した事を覚えていた袁紹は、「このままでは前線部隊の士気が低下する」として、惜しげもなく後退命令を出した。
投石が開始されたことで夏侯惇も「あ、あれ・・・?」と、自分の任務を思い出して慌てて後退。
審配・文醜部隊が出る前の話だったので、袁紹の策は不発に終わる。
その代わり、引きずり込んで袁紹軍先鋒に大打撃を与える、という曹操の策も不発。
お互い痛み分け、という形で官渡初戦は幕を閉じるのであった。




~~~楽屋裏~~~
あれ、今回は出る予定の無かった稟&風コンビが・・・あいつです(挨拶
この2人は出てくると必ず寝るか鼻血を出す。運命ですね(何が

さて、官渡初戦はこんな感じでした。
袁紹軍の左翼を率いたのは・・・誰なのでしょうね、朱霊か王修のどっちかでしょうねw





~~~番外編、その頃の孫家~~~

楊州で、ついに純粋な意味での自分達の地盤を手に入れた孫家。
その意気は大きく、すぐさまに「袁術討つべき」の声が挙がっている。
だが、孫策も周喩も勢いに流されずに自制をしていた。
何故か。
単純に兵力の問題が1つ。
一度に領地を広げた為に兵力の増強が追いつかない。
その2に、兵を増やしたとして、その兵を養うだけの物資が無い。
もともと孫家に懐いている江南の民は、孫家・・・というか孫策の帰還を心から喜んでいた。
そうでない人々も多少はいるが、ごく少数と言っていいだろう。
また、袁術は地味に荊州に領地を広げており、袁術と敵対してしまうと荊州まで攻略対称に入る可能性が高い。
劉表もいずれ倒して荊州を得ることを画策している孫策ではあるが、一度に、そして戦力豊富である二勢力を相手にするつもりは無かった。
さあ、どうしようか・・・と、孫家の首脳陣が頭を悩ませている頃のお話である。

甘寧と周泰。
孫家の武将の中で、軍を率いる才能も高く、個人の戦闘力もある。
そして情報収集もできる・・・と、色々な戦闘術に才覚を発揮する2人は、城の中庭で稽古をしている。
甘寧はいびつな形をした曲刀、周泰はあまり反りの無いが日本刀に近いものを得物としている。
抜き打ち、というよりも居合い・・・というほうがいいだろうか。精神修練というほうが正しいような内容である。
両者共に、一定の間合いを開けたまま微動だにしない。
じっと刀の柄に手をかけて必殺必中の一撃を繰り出す「機」を探っている。
高順がそこを通りかかったのは、二人がその機を窺っている真っ最中の事であった。

「大将、親衛隊の事なんすけどー」
「何だよ、その親衛隊って?」
「親衛隊は親衛隊っすよ?」
周倉と高順は並びあって歩いている。
周倉。
彼女は高順が孫家に流れる前に、ちょっとした事が縁で彼に仕えるようになっていた。
元々黄巾賊に身を置いていたのだが、それがあえなく消滅してしまったので仕方無しに、仲間達と共に山賊に身をやつしていた・・・という境遇の女だ。
賊らしく、胸を適当な布で隠し、その上に胸当て。使う武器は二刀というか二斧。
外見に見合ってサバサバというか乱暴な性格だが、ネジくれている訳でもなく割と真っ直ぐな性質だったりする。
その周倉は、高順の親衛隊長として張り切っているのだが。
「だから、何で親衛隊かな。俺ってそんなご大層な身分じゃないですよ?」
「身分とかじゃなくて・・・んー、俺達の自負というか自尊心というか心意気というか。」
「何ですよ、それ・・・。」
「ほら、強い奴でも身の回りを守る兵はいるじゃないっすか。あれっす、あれ。」
「解るような解らないような。で、その親衛隊がどうしたの?」
「十人ほど、戦死したっす・・・。」
周倉は少し寂しそうに言う。周倉は、山賊に身をやつしながらも親衛隊(仮)を率いていたのだ。
「・・・。そっか、その人たちに家族は?」
「いねーっす、皆天涯孤独っすからね。きっちり弔いやした。」
「ん。今はいなくても、いつか家族も出きるだろうからね・・・そうなったら申告してくれよ。家族手当とかも出す・・・お?」
「へ?」
高順が何かに気付いて、そちらに顔を向けたのに釣られて周倉もそちらを向いた。
みれば、甘寧と周泰が対峙している。
「何だありゃ。訓練っすかねぇ。」
「みたいだね。」
高順はそれを見て興味が沸いたらしい。
孫家の武将同士の訓練と言うのを見た事が無い、という事もあった。
つい先日まで戦争をしていたので当然と言えば当然である。
高順はそちらへと歩いて行き、周倉も続く。
甘寧達はその動きに気付いたが、それで集中を途切れさせるような事もなかった。
その沈黙は更に続くのだが、不意に彼女達の間にあるピリピリとした空気が不意に「ぐにゅり」と曲がる。
高順と周倉もそれを感じたようで「おや?」と思ったその瞬間。
今まで沈黙を保っていた甘寧と周泰の風を巻くような一撃が交差。
金属がかち合う音が響き・・・その僅か後に、周泰の手に握られていた筈の刀がくるくると宙を舞い、地面に突き刺さった。
「あくっ・・・」
「勝負あり、だな。」
甘寧は冷静に言い放ち、周泰は衝撃で手が痺れたのか、右手の甲を抑えて蹲った。
「いやぁ、たいしたもんだ」
高順はそう声をかけて、周泰の刀「魂切(こんせつ)」を拾い上げる。
そのまま周泰に近づき、はい、とそれを手渡す。
周泰は「あ、ありがとうございますです!」と恥ずかしそうに笑いつつ受け取り、鞘に納めた。
「ふん、貴様か。」
対して、甘寧は少し不機嫌そうだった。
「あぁ? 文句あんのかテメェ。」
「黙れ、殺すぞ・・・」
「はいはい、辞めなさいって。」
甘寧の態度に周倉が反応してにらみ合いになるが、高順が間に入って仲裁。
にらみ合っていた二人は「ふんっ」とそっぽを向いた。
(本当に相性が悪いんだなぁ、この人たち・・・)
最初の出会いからして印象最悪だったみたいだし、と高順はそっと溜息をついた。
甘寧は高順に心を許していない。
だからといって蛇蝎の如く嫌っているわけでもない。
新参でありながら、孫策・孫権など呉の上層、主要人物に評価されている高順が気に入らないのだろう。
或いは、自分を負かした沙摩柯の上司であるからかもしれない。
もっとも、高順は甘寧を嫌っていないし、敵意も無い。自分が嫌われている程度であれば、別に問題は無いだろう。
部下たちとは上手くやってほしいと思っているが・・・。
それに対して、周泰は誰にでも愛想がいい。
降将といっても良い高順達にもごく普通に接しており、評判は悪くない。
高順は彼女の性格を見て「主を慕ってどこまでも着いていく忠犬はち公・・・いやいや。」とか思っていたりする。

「大将がそう言うなら引きますけどね・・・」
「ふん、大将大将と喧しい奴だ。」
「あぁ・・・? 言葉だけじゃなくて、腕の方でも負かされてぇみてーだなオイ」
「だから辞めろって言うのに!」
これである。周泰も「け、喧嘩は駄目です!」と慌てている。
このままじゃ不味い、と高順は「そ、それよりも!」と話題をそらそうとした。
「さっき、二人の間合いが何かこう・・・「ぐにゃっ」ってなったように見えたんだけど。あれって何だったのさ?」
「・・・ふん、原因はあれだろう。」
少し気を落ち着けた甘寧が中庭の一角を指差す。
そこには、猫が一匹。
日向ぼっこをしているのか、そこで丸まって毛づくろい等をしている。
「にへへ~」
「しゅ、周泰さん?」
「にへへ~・・・」
その猫を見つめた周泰はにやけ、甘寧はやれやれ、と首を振った。
「そいつは猫好きでな・・・。」
「・・・見れば解ります。ええ」
「はぁ、腕はともかく。猫に気を取られて集中力を途切れさせるんじゃない。」
「はうっ・・・反省することしきりです」
甘寧の一言に周泰はしょんぼりとうなだれて反省。
「さて、私はそろそろ行く。ではな。」
「はい、お付き合いくださってありがとうございました!」
「ああ。」
去っていく甘寧に、周泰は一礼。そして、周泰は「お猫さま~お猫さま~ぁ・・・にゅふふ♪」と笑いつつ猫のほうへとゆっくり歩いていく。
特に意味も無く、高順と周倉もついていってしまう。何だか面白そうだし。
「・・・(ぴくっ」
猫も感づいたようで、警戒態勢をとるが、周泰の顔を見てすぐに警戒を解いた。見知った顔と言うことだろうか。
「怖くありませんよ~・・・♪」
そろそろと近づいて、周泰は猫を抱き上げた。
「にへへぇ♪ ふわふわなのです~」
「みゃー・・・」
抱きかかえた猫の手触りを思いっきり楽しんでいる周泰。
表情は緩みっぱなし、頬も桜色に染めて・・・なんだか心の底から幸せそうである。
猫は少し迷惑そうであったが「まぁ仕方ないよね」という感じでされるがまま。
「へぇー・・・慣れたもんだねぇ。」
「ひゅわっ、い、いつからそこにっ」
「いや、最初からいたじゃんよ・・・餌付けしたのか?」
「ひゃ、ひゃいっ! お城の中でお腹を空かせてて、それで餌をっ」
周倉の発言に驚いたり恥ずかしがったりと、周泰の表情はめまぐるしく変わる。
だがすぐに猫を撫でて「にへへ~・・・」と頬が緩む。
猫は困ったように「にゃー」と鳴き、やっぱりされるがまま。
それを見ている周倉も少し頬が緩んでいる。
その愛らしさに我慢できなくなったのか「お、俺も抱かせてもらっていいかなぁ?」とか言い出した。
周泰も迷わずに「はい、どうぞっ♪」と周倉に猫を抱かせる。
「にゃー?」
周倉の腕の中におさまった猫は不思議そうに周倉の顔を見つめる。逃げないのを見れば、餌付け云々ではなく、最初から人懐っこいのかも。
「お、おおぅ・・・これはっ。ふっ、ふわふわっ、もこもこっ、すりすりっ・・・はぁぁぁ~♪」
「しゅ、周倉さんっ!?」
「にゃぁー」
・・・。
(恐るべし、猫ぱわー。あの周倉さんがあっさり陥落するとは・・・。つうか頬ずりしちゃってるよ。頬がにやけまくってるよ!)
猫も、周倉を気に入ったのか目を細めて気持ちよさそうにすりすりしている。
「にゃー(すりすり、ごろごろ」
「おおおおお・・・(悦」
「おお、周倉さん凄いのです! お猫さまがあっさりと!」
(・・・周倉さん、女の子だなぁ。)
普段は男勝り・乱暴ガサツ、という周倉が可愛い動物にあっさり心奪われる姿を意外に思いつつ、猫に魅了されている二人の様子を観察する高順であった。(楽しいし






~~~もいっちょ楽屋裏~~~
真面目ばかりじゃ面白くないのでたまには息抜きを。
まあ、原作ねたを改変・・・改悪してるだけですけど。
こうして番外編が増えていくにつれ話数が減っていく罠。
このネタだけで一話書けるんですけどね・・・長いとだれそうになるので辞めておきます(笑

あと、3日ほど前に何故かネットに接続できない祝い呪いを受けました。
触りもしないプロキシ設定とかポート設定が・・・んがぐっぐ。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第11話 
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/06/12 17:09
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第11話 



官渡初戦より一月。戦況は膠着していた。
袁紹はあまり時間をかけたくなかったが、要塞を無力化する方向に切り替えて、攻城兵器を前面に押し出そうとした。
曹操には投石機があって攻城兵器に対しての攻撃方法があるのだし、袁紹もそれを理解している。
それでも尚、袁紹は力押しを選んだ。
それは田豊の病状が日々悪化している、という報告があったからだ。
なんとかして早めに終わらせて良い報告を持って帰ってやりたい。
田豊一人の事にかまけて決着を急いでいる訳ではないのだが、それもまた彼女の理由の1つであった。
別働隊を派遣して曹操の後方を脅かすという手もあるのだが、あの曹操が備えをしていないはずが無い。
兵力を別個に分けても、そちらに対して本腰をいれて撃破されてしまえばそれはそれで意味が無い。
それに、見たところ曹操側の兵糧は長期で続くほどのものでもない、という報告を受けている。
まずは兵糧が切れるのを待つ。
そうすれば、後方から兵糧・戦争物資が送られてくるだろう。そこを狙うか、それとも手薄になった都市を攻撃するための別働隊を派遣するか。
この官渡で全面攻勢に出て曹操を討つ、というのが袁紹の考えであった。
何せ、曹操はしぶとい。
ここで勝てたとしても、許都に立て篭もりつつ戦力再編などは当然として、時間が経てばまた同じだけの・・・いや、それ以上の戦力を蓄えてくる手腕を持つ。
しぶとい上に確かな手腕があるのだから、敵対する側としては本当に厄介な存在である。
時間をかけたくはないが、時間をかけたほうがより勝利を得られる、というジレンマを感じつつも袁紹は待つしかなかった。
曹操も短期決戦を望んでいるのだが、一気に攻めかかられては要塞が保たず、かといって時間をかけられてはジリ貧になる・・・と、こちらもジレンマを感じている。
そんな時に、貪欲で金銭に執着があると評された許攸が動き出す。


許攸はこのところ、自分が袁紹に軽んじられていると感じていた。
感じていたどころではなく実際に疎んじられて遠ざけられていたのだが。
原因は韓馥の一軒での独断専行。つまり、同様に逢紀と郭図も疎まれている。
自分達は「袁紹殿の為に動いたのに」と不満を感じていたが、それは袁紹にも同じ事が言えた。
彼らは頭の出来は多少良かっただろうが人の心の機微を察する事は全くできないタイプだ。
寛容そうに見えた袁紹の心中に、彼らに対しての冷たい怒りがあることに全く気付いていないのだ。
そこに加えて許攸の家族が汚職で不当に財貨を得ている、という事実が発覚。
即罰せられる事はなかったが、このままでは袁紹に誅される、と今更ながらに危惧を抱いた。
そこで許攸は逢紀と郭図を誘って共に曹操に寝返ろうではないか、と持ちかける。
彼は洛陽時代に曹操と知り合っており、それが寝返りを決意させる理由の1つである。
そんなことをあっさり持ちかける辺り、割と駄目なのだが・・・逢紀と郭図も、期待に違わず駄目な人々。
あっさりとそれに乗った。
彼らは自分達の才覚に自信を持っているし、人格とかを考えなければそこそこ優秀ではある。
が、彼らは曹操という人間が目先の利と、思い上がった才能に慢心するような輩を嫌っているという事を知らない。
誤解の無い様に言うと、曹操は無能だからと言う理由だけで人を斬り捨てたりはしない。
無能ならば無能なりに分を弁えていればいい、という程度の考えはある。

~~~夜中~~~

「よし、行くぞお前ら」
「偉そうに言うでないわ・・・」
「まったくだ、我々が人払いをしておいたからこうやって陣を抜け出せるのだ。感謝せよ、許攸」
「喧しいわ。」
許攸・逢紀・郭図は夜中にこっそりと陣を抜け出した。
兵を払い、馬に乗って一目散に南・・・官渡へと駆けて行く。(途中で何度か兵と鉢合わせしたが「厠だ!」と誤魔化した
降伏するに当たって、彼らが手土産としたのは袁紹軍の最重要機密。兵糧集積所の場所であった。
彼らは何とか官渡要塞に到着、兵士に捕獲・尋問され最初こそ疑われたものの、何とか曹操に謁見し「烏巣」という場所で袁紹軍の兵糧物資が管理されている事を語った。
曹操は彼らの情報は信じたが、彼らを信頼はしなかった。
今のまま袁紹の元にいれば勝利側にいられる可能性も高いのだし、このような戦況が不利なほうに寝返ってくるのは自分達の売り込み時を計っていた、と思われて仕方が無いのである。
また、曹操は許攸とは旧知の仲であり、彼の人間性を知っている。
今は流石にないだろうが、いずれ問題を起こすのが目に見えているし、その時に処断してしまえばいい・・・程度の認識である。
道案内として彼ら全員を連れて行くことを告げると真っ青になって「どうかご慈悲を」みたいなことを言っていたが、適当に流した、ていうか捕らえた。
さて、この情報を信じない者は多かったが程昱と、特に郭嘉が烏巣を襲撃するように言い募った。
このまま篭城を続けていても後が無い、という事もあり、また郭嘉が熱心に勧めた事もあって曹操は出撃を決定。
守備は夏侯姉妹に任せて、曹操は自分自身と張遼・干禁、典韋・許褚。
温存していた親衛部隊も投入、全てを懸ける心積もりであった。


そして、袁紹。
「あの3人がいない?」
「は、どこにも姿が見えません。兵が言うには厠がどうとか言って何処かに、と・・・。」
袁紹の陣幕には、袁紹、顔良・文醜に、報告に来た審配。
「厠ぁ? んなもんそこらへんで用を足せばすむじゃん。」
「文ちゃん、下品・・・」
文醜の発言に思いっきり嫌そうに言う顔良。
袁紹は溜息をついた。
「ふぅ、寝返りましたわね・・・」
「へっ?」
「いつかこうなるとは思っておりましたけど。」
「寝返りって・・・どうしてそう思うんですか?」
「それ以外考えられませんわ。まあ、いなくなって困る者でもありませんけど・・・」
割と事も無げに言い切る袁紹であった。正直言うと、あの三謀臣の代わりはいる。
崔琰や王修、荀諶などがそれにあたる。むしろ、人格も良く内政もこなせる分、こちらのほうが扱いを上にしたかったくらいだ。
3人はポカーンとしていたが、すぐに審配が「って、憂慮するべき事態です! 奴らが寝返ったという事は」
「こちらの機密を握られた・・・烏巣の事も知れ渡ったでしょうねぇ。」
これまた事も無げに言い切る。
「顔良さん、文醜さん、審配さん。忙しくなりますわよ。」
「え・・・?」
「曹操さんは間違いなく烏巣に攻めて来るでしょう。あの人の性格からして、一番大事な部分は絶対に逃がしませんわ。」
「え・・・ええっ!? それって・・・」
まさか、そうなることも織り込み済みで・・・?
顔良の、後に続く言葉が出る前に袁紹は立ち上がった。
「文醜さん、本陣守備に麹義さん、朱霊さん、王修さんを主将として残しますわ。官渡を攻める必要はありません。徹底的に守れ、と伝えなさい」
「うっすっ!」
「顔良さん、文醜さん、審配さん、そして私。1万の兵と共に烏巣へ行きます。機動力重視ですわ、急がせなさい!!」
「はっ!」
急ぎ足で駆けて行く3人を見送った後、袁紹も陣幕を出る。
すっと空を見上げて見れば、星と満月が目に映る。
(華琳さんの事です、率いてくるのは少数精鋭。今手元にある最強戦力を投入してくるでしょう。)
自分の最強戦力は、顔・文の2人と多数の兵士。
全戦力で烏巣へいかないのも、守備兵力で官渡要塞を叩かないのも、それを見越してだ。
戦力を多数投入すれば、そちらを放置して少数兵力を叩きに来る。かといって自分が指示を出さず官渡へ出撃させても良い結果は出ると思わない。
あの曹操がそれを考えないはずが無い。
(投入される兵力は1万・・・恐らく、2万は無い。烏巣守備隊、そして今から率いる1万を含めれば4万近く・・・この戦力、いや・・・兵力差でなら)
向こうは死に物狂いで来る。
勝ちが決まったと慢心しかかっている自軍で、勝ちを得るために向かってくる曹操を抑えきれるだろうか。
いや、抑えなければならない。その為に、惜しく無いといえ許攸ら三人を撒き餌としておびき寄せるのだ。
それに、と袁紹はあることを思う。田豊の事だ。
つい先日、田豊の容態が急激に悪化したとの報告が入っている。
何とか勝利して勝利の二文字を聞かせてやりたい。


先に到着したのは袁紹。
彼女は各部隊に伝令を出して、曹操軍を兵糧集積所までは素通りさせるようにした。
計4万ほどの軍勢なので、全てを集積場所に収容できる訳ではないのだが、曹操は精鋭部隊をもって一気に抜けてくるだろう。
既に集積所には淳于瓊(じゅんうけい)・眭元進・(すいげんしん)・韓莒子(かんきょし)・呂威璜(りょいこう)といった元からの守備隊。
そこに顔良・文醜・審配を配置して、袁紹は集積所入り口付近でじっと待つ。
曹操はこういうときには遠慮なく、自分が前に出てくる。
将兵の意気を上げるために、自身を危険な場所に晒すという事を平気で行える。
そして、その予測は当たっている。
曹操は神速を誇る張遼騎馬隊含む一万数千を率い、烏巣に迫っていた。


許攸らを道案内として(無理やり)連れて来た曹操は「おかしい」と感じていた。
集積所は森の中に配置されており、そこに兵が配備されている事は誰でも解る。
森に入っても全く敵の襲撃が無いのだ。とにかく速攻戦で決めてしまいたい曹操にとっては好都合ではある。
「・・・。」
(いや、いないというのは違うわね。この、肌がピリピリする焼け付くような殺気・・・集積所で待っている?)
少し考える曹操だが、すぐに前進命令を出した。
勿論、許攸らを盾にして。
もし嘘であれば殺すし、事実であれば彼らをダシにして堂々と通ればいい。
脱走がばれていればそうもいかないだろうが・・・そこで死なせても全く惜しくは無い。
「死にたくなければ嘘を言わずきっちり案内しろ」と脅したので嘘をつくことは無いだろう。
そんな許攸を先導に、曹操たちは森を進む。
特に妨害があるでもなく、そこまではあっさりと・・・そう、拍子抜けするほどあっさりと集積所に辿りついた。
松明が何本かかけられており、ある程度の明るさを感じる。
曹操らは木や草の陰に隠れつつ、やはりおかしいと考えていた。
そして曹操は、いや、曹操だけではなく張遼や干禁も、これまでに感じていた殺気を更に鮮明に感じるようになっている。
瞬間、今までは薄暗いと思っていた集積所が更に明るく照らされた。
兵は一瞬恐慌状態に陥るも、曹操は「突き進め!」と攻撃命令を出す。
上が怖じれば下も怖じる。こんな時は何も考えさせず攻めの命令をしてやった方がいいのだ。
曹操の毅然とした態度に、兵もすぐに落ち着きを取り戻し、雄叫びを上げて集積所へと殺到していく。
この辺り、さすがは曹操や夏侯惇が鍛え上げた精兵と言うべきかも知れない。
そして、曹操もただ命令を出すだけではなく己が先頭に立って馬を駆けさせる。
後ろで命令を出すだけの指導者に、兵は心服しない。一度二度は危ない場所に立たねば指導者とは言えない。
もっとも、曹操は最初から勇猛である。彼女の強さも中々のものであり、自身を戦力の1つと見るからこそ先頭に立つことを恐れないのだ。走り出した以上、曹操は勝利のみへ邁進する。
その曹操めがけて集積所の部隊がこちらへと向かってくる。
(ふん、迎え撃つつもりね。でも、私を止められ・・・)
自信満々に笑みすら浮かべていた曹操の表情が、目が、驚きに見開かれた。
此方へと向かってくる部隊。その先頭にあの女がいた。
黄金色の兜と鎧、宝刀を横薙ぎに構え、駿馬を駆り、一直線に駆け抜けてくるあの女。
その女は、曹操を見据えて叫ぶ。
「ま、さか・・・麗羽っ!」


100人もいない部隊の先頭に立つ女の名は袁紹。
彼女は守備を淳于瓊(じゅんうけい)らに任せ、何1つを省みることなく曹操へと向かって行ったのだった。








~~~楽屋裏~~~
ちょっと短いですあいつです(挨拶
み、短いのにはちゃんと理由があるんだから! 誤解しないでよね!(何故ツンデレ

冗談はおいといて、ちょっと前に「こんな展開での話を書いてください!」的な・・・リクエストですか。
それを受けてたなぁ、と思い出して書いてたんですが。



そっちのが長くなった。(駄目


受けたリクエストの1つに「賈詡と高順が仲違いしてなければ?」というものがありました。
他にも1つあったと思います。
それを脳内妄想ふるドライヴさせた結果。
こんなんなりました(何





【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 異伝。





1・賈詡とは仲違いしてません。
2・番外で書かれていた「賈詡と仲違いしてなければ?」とは別のifすとーりー。
3・その他突っ込みどころ多数ありますが気づかない振りをしてあげてください。作者が喜びますから(ぉぃ
4・つうか突っ込まれたら泣く(ぉぃ・・・
5・シーンをかなり飛び飛びでやってますが、その辺りは皆様の脳内補完でお願いします。・・トホホ





冀州、鄴(ぎょう)。
今、この地には20万以上の軍勢が揃っていた。
この兵士達は後数日ほどしたら南、つまり曹操領へと進撃する事になっている。
そして、その鄴を治め、曹操との対決に臨む者・・・。
その名は公孫賛と言った。




鄴、城外にて。
趙雲は燦燦と地を照らす太陽の光を避けるように、木陰に座って涼を取っていた。
目を瞑り、何かを思い返すかのような複雑な表情である。
と、そこへ草を踏み鳴らすような音が聞こえて趙雲は目を開けた。
気配には気付いていたが、敵の筈も無いので目の前に来るまでは、と思っていたのである。
視線の先には、体色の黒い傷だらけの巨馬と、その巨馬に跨る・・・黒い髑髏龍の兜と、同じく黒一色の頑強な鎧を着込んだ武将だった。
その武将が巨馬から降りて近づいてくる。
「随分と落ち着いているな、趙雲。」
「ええ。ですが心は逸っておりますよ、沙摩柯殿。それに、虹黒・・・お前もだろう?」
「ぶるるっ!」
沙摩柯、と呼ばれた武将は兜を脱ぎ、「ふぅ」と溜息をついて趙雲の隣に腰掛けた。
虹黒もそれに倣うかのようにすぐ側で足をたたんで落ち着き始めた。
2人(+1匹)とも何も言わず、ただぼんやりと空を見上げていた。
(3年、か。早いものだ・・・)
趙雲は空の青さを見つめて、過去に思いを馳せた。


3年前。
徐州へやってきた劉備と敵対した呂布は、劉備からの挑発(商人から買い付けた馬500頭を奪われる)を受け、対決姿勢を打ち出した。
劉備の篭る下邳(かひ)へと攻め入った呂布だったが、その隙を突いて曹操が8万もの軍勢を率いて徐州へ侵攻。
瞬く間に小沛(しょうはい)を落とした曹操は、呂布を挟み撃ちにしてやろうと占領もそこそこに一気に下邳へと向かった。
呂布側は当初それを知らず、曹操軍の姿を僅か数里後ろに察知した事でようやく事態を悟る。
このまま城攻めなど継続できるはずも無く、かといって曹操軍に向かえば後ろから劉備が軍を出す。
南の広陵では絶対に守りきれないし、西の小沛は既に陥落。そうなると土地を捨てて北へ逃げる以外に道が無い。
折角得た地盤をまた失って流浪か・・・と高順は嘆息したが仕方が無い。
幸いと言うべきか、高順一党はほぼ全員出撃していたので実害は殆どない。
閻行だけは広陵に留まっていたが、誰も心配はしていない。なんたって最強の一人だし。
ともかく、さっさと逃げないと挟み撃ちにされて壊滅させられる危険性が高くなる。
賈詡は「どこに逃げるのよ!?」と言っていたが、高順・趙雲らには公孫賛という(ある意味)切り札がいた。
彼女ならば元董卓軍でも気にせず迎え入れてくれるだろう、と。
賈詡には賈詡の考えがあったが、とりあえずその提案に乗ることにしたらしい。
下邳の囲みを解いた呂布軍は、呂布を先頭に一気に北へと逃げ出していく。
殿を務めるのは高順隊。
本来、彼らは野戦でならば張遼同様に先駆けをするに相応しい部隊なのだが、防衛力も他の部隊より高い。
後ろから迫ってくる敵兵に、騎射で応戦できるからだ。率いる相手が曹操で、それが万を越す兵力であれば分は悪いが・・・。

案の定、逃げの一手を計る彼らに曹操、そして劉備の軍勢が迫る。
騎射で応じるものの、曹操軍の先手は夏侯淵。
そのすぐ後ろには夏侯惇、そして軍勢の相当前に位置するが曹操も出張っていた。
どうやら、小回りの利く軽騎を軸とした布陣で来たようだ。それほど兵は多くないが、応射で高順隊の兵も僅かずつでも減らされていき、撤退速度が鈍っていく。
彼らの前にいる呂布や張遼の部隊は前進していくのだが、高順隊は後ろから追いすがってくる曹・劉軍の攻撃で逸れもままならない。
「・・・参ったな。」
軍勢の最後尾にいた高順は困り果てたかのように呟いた。
すぐ目の前にいる趙雲は「困った、程度の話ではありませんな」と応じるが、彼女がこの逆境を楽しんでいるように見えた。
高順は「余裕だなぁ」と苦笑するがすぐに真顔に戻って「皆、聞いてくれ」と切り出した。
「俺と、俺の直轄部隊・・・そうだな、100ほど・・・で逆撃する。その間に皆で逃げてくれ。」
『却下。』
「ひどいよ!?」
楽進たちまで声をそろえてあっさり言うものだから、高順も思わず叫んでしまった。
「そういうことは一番強くて生き残れる確率の高い者がやるべきです。」
「せや、高順兄さんは2番か3番目やん。それでなくてもんな目立つかっこしとるんや、えー的やでぇ?」
楽進と李典は遠慮なくズケズケと言う。
「だからこそ、だけど。こんなにハッタリの効いた鎧着てるんだからさ、むしろ注目を集めて時間を稼げると思うんだよね。」
「死ぬおつもりですか? そのような事、絶対に・・・」
「いや・・・そんなつもりは無いけどね。遠からず死ぬよ・・・間違いなく。」
「は・・・?」
青い顔をして言う高順は、虹黒の速度を落とし、馬首を返す。
皆に背中を見せた高順だが、その背には矢が4・5本突き刺さっていて、かなりの深手のようだった。
あの鎧を貫く威力の矢を放てる者などそうはいない。おそらくは夏侯淵だろう。
内側にひしゃげた鎧の破片などがそのまま背中に刺さっており、出血も痛みも酷い。
先ほどまでは何とか我慢していたが、気を緩めればすぐに気絶してしまうかもしれない。
「くっ」
「皆、来るな! そのまま進んでっ!」
同じく馬首を返そうとした趙雲達だが、高順の言葉に気圧されてそれができない。
いや、ただ1人。蹋頓のみが馬首を返して高順の側まで戻っていった。
それに釣られるように一騎、また一騎と馬首を返していく兵士達。
すれ違う趙雲らに「ご武運を!」とか「どうかご無事で」と声をかけていき、戻っていく兵の数は総数300ほど。
その多くが高順隊創設以来、彼に従った古参の兵士達であった。
彼らはそのまま迫り来る曹・劉軍に突撃をしていく。
「ちょ、趙雲さん・・・どうするの!?」
「趙雲殿、私も隊長と共に・・・あの傷もまだ手遅れとはいえません、どうか!」
干禁や楽進が言い募ってくるが、趙雲は歯を噛み締めながら「ならんっ!」と一喝した。
「しかし!」
「ならんと言ったぞ、楽進! 何かあったときの総指揮権は私が預かる事になっている。絶対に行くな、後ろを振り返るな!」
ギリギリと歯噛みする趙雲の口の中に、生暖かい鉄の味が広がる。
戻ることが出来るなら、一番に戻りたいくらいだった趙雲だが、彼女にはそれが出来なかった。
高順から「俺に何かあったときは趙雲さんが指揮をしてください。皆も従ってねー。」と武将級の人々は幾度も聞かされている。
「皆、前だけを見つめて進め! 生き残ることが勝利と思え!」


「蹋頓さん・・・どうして来たんです。」
「お邪魔でした?」
高順の隣にいる蹋頓は薄らと笑った。
「そうじゃなくて」
「ふふ、貴方がいない生に執着はありませんから。」
きっぱりと言い放つ蹋頓に、高順は溜息1つ。
「蹋頓さんは男を見る目が無さすぎですよ・・・。」
「そんな事はありません。」
蹋頓は一度だけ自分の腹部を摩って、高順を見つめた。
「例え誰に何といわれようと・・・私は胸を張って言うのでしょうね。「高順さんで良かった」と。張遼さんも、楽進さんも、きっと同じ事を言いますよ。」
「そんな事は無いと思いますけどね・・・虹黒も、お前達も貧乏くじを引いたな」
「ぶる?」
高順は残った兵士達と虹黒にも声をかける。彼らも、「そんな事は無い」と笑っていた。
すぐ目の前に迫ってきた敵兵を見据えて、高順は三刃槍を構える。死に掛かった体でどこまでやれるか解らないが、別にかまわない。
「力の限り、やりますか。皆、奴らが怯える程度には暴れてやれ!」
「ええ。思うが侭に往きましょう・・・!」
「オウッ!!!」
高順を先頭にした殿部隊は、曹操軍へと向かっていく。



最初から生還する事を考えない高順隊300の突撃は敵陣の中へ突撃、凄まじい勢いで暴れまわった。
先頭にいた夏侯淵の部隊を一部蹴散らした高順は、救援に来た夏侯惇との一騎打ちに及んでいる。
だが、後方から態勢を立て直して高順隊を後ろから突いた夏侯淵の攻撃によって部隊は壊滅状態に陥った。
その時に蹋頓は高順を幾多の矢から庇って死亡。
高順は蹋頓の亡骸を抱きかかえたまま夏侯惇に首を斬り飛ばされ戦死するのだが、その際に最後の意地で彼女の左目を潰している。
この戦闘中、傷を負った虹黒は高順が戦死した時点で戦闘が終結したので、結果的に命拾いをしている。
が、首の無い高順と抱きかかえられたままの蹋頓、2人の遺体に寄り添って離れようとしない。
夏侯惇は虹黒を得られて嬉しかったかもしれないが、虹黒は自分を捕獲しようとしてきた兵を蹴り飛ばしたり、噛み付いたりと抵抗。
怪我負いの虹黒が疲労したところで、夏侯惇と夏侯淵が押さえ込んで何とか事なきを得たが、自分の背に夏侯惇を乗せず逆らい続けている。
曹操は、高順の首を掲げて「陥陣営といえど、所詮はこの程度。我が覇道を遮るものは例外無くこうなる!」と喧伝している。
その心中は(そこまでして己の意地を押し通すなんて。馬鹿な男・・・)と、寂しさを感じている。
高順の事を覚えている満寵も(これが乱世の習い)と思いながらも、やはり心境としては複雑なものがあった。
更に追撃を、と考えたがこれ以上北上すれば北海の孔融、その先にいる袁紹・公孫賛を刺激する事になりかねない。
呂布を徐州から追い出しただけで満足するべきか、と曹操は軍を纏めて撤退を決定。
高順や蹋頓の遺体を回収して、まだ占領をしていない広陵へと向かったのである。

広陵の太守代理である陳羣は降伏準備を整えていた。
高順は「影」に命じて降伏を呼びかけていて、陳羣はそれに従うつもりであった。
その「影」にはもう1つ、閻行に「俺達は公孫賛殿を頼りに行くので、時期を見計らって脱出してくださいねー」と何だか良く解らない伝言を任せてある。
一応形式だけ篭城をするつもりであった陳羣だが、曹操軍の降伏勧告に素直に従って開城。そのまま太守に任じられている。
だが、陳羣には1つだけ赦せない事があった。
曹操は自分に逆らった高順と蹋頓の首を市場で晒し者にした。「自分に逆らえばこうなる」という見せしめだが、既に降伏をしたにも拘らず死者を辱める行為に陳羣は激怒。
陳羣は自分が処断される事を覚悟の上で、高順らの埋葬を願い出て曹操もそれを許可している。
曹操からして晒し者にするのは気が進まない事柄なのだが、それでも勝者と敗者の区分をしっかりさせるためにやらなければいけないことで、恨まれるのも覚悟しての事だった。
その覚悟通り陳羣は曹操に従って働きながらも、終生高順の首を晒した恨みを忘れる事はなかったという。



続く(はずもない)






~~~もう一回楽屋裏~~~

これは、徐州で高順が戦死していたら? というifすとーりぃでございまつ。
かなり飛び飛びの描写ですがご容赦を。1つずつ書くとそりゃもう文章量が大変な事にw

こうなると、公孫賛くらいしか近場で頼れる人はいないのでしょうねぇ。
公孫賛は優秀な配下が増えて嬉しいでしょうけど、高順の死が条件である事を思うと、素直に喜べないかもしれません。


さて、後2話か3話で袁紹編終わらせます。
何とか終われるといいなぁ・・・



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第12話 
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/06/17 21:32
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第12話 

「せえええいっ!」
「はああっ!」
馬で駆ける袁紹と曹操。各々の獲物が煌き交差する。
曹操が繰り出した一撃を、袁紹は危なげなく受け止め、すぐに「何も無い」場所へと刀を振り上げた。
瞬間、曹操の追撃がその刀で受け止められる。
袁紹は最初の一撃は釣り、二撃目が本命である事を見切っていた。
「ふん、良く見えてるじゃない。らしくないわね、麗羽!」
「うるさいですわね。余計なことを言う暇があるなら!」
袁紹は、鎌を押し返して斬りかかって行く。
「そのつもりよ、このお馬鹿!」
「やかましいですわ! このちんくしゃ!」
なんかすっげぇ言われようである。
一気に怒りのボルテージというかリミットゲージをぶち抜いた曹操は、思わず袁紹の胸を指差して怒鳴った。
「ち、ちん・・・! 言わせておけば!? 大体何よあんたのその胸は! 栄養が偏りすぎなのよ!」
「はん、羨ましいんでしょう! その 発 展 終 了 なだらか絶壁(?)には何年かかってもたどり着けぬ領域ですわ!」
「きーーーーっ! 何よ何よ! そんなのは将才には欠片も関係ないんだから!」
「才能云々では勝てなくても背の高さと身体の発育の良さなら絶対に負けませんわ!」
「何よ!」
「何です!?」
『・・・・・・。』
最早、ただの痴話喧嘩に過ぎないレベルのド低脳な言い争いをしつつ、両者は剣を交えている。(けっこう仲はいいのかもしれない
この緩いのか何なのか良く解らない状況に両軍の兵は「ポカーン」としていたが、すぐに思い直して戦い始める。
曹操軍の一部部隊が既に集積所に入り込んでいるが、それを守備隊はよく守っている。
張遼や干禁に追い立てられ、或いは討たれている将兵は多いが、そこ以外は概ね良く守っていると言っても良い。
集積所からも袁紹軍が突撃を仕掛け、曹操軍を追い立てようとするが、曹操側の兵は精鋭揃い。
自分達より数が多くても優位に戦っている。
集積所に入り込んだ兵は少なく、だからこそ袁紹軍が有利とも見える。やはり兵の能力が違ったという事だ。
有利なのは顔良・文醜・審配を始めとした武将が奮戦しているからで、それにも限界はある。
この状況に袁紹は焦り、そして曹操も焦っていた。
袁紹は兵が保ちそうに無い事、曹操は袁紹軍本陣から援軍が来る事を恐れている。
早く勝負を決めなくては、と思いながらも、2人は一騎打ちを続けていた。


「はぁ、はぁっ」
「ふー・・・ふぅっ。」
曹操と袁紹が獲物を叩き付け合う事数十合。
両者共に息が上がり始めている。
曹操は自分自身が優れた武将で、一般兵相手ならばあっさりと片付ける能力はある。
袁紹は曹操に敵うほどの腕前ではないが、気力を込めた応酬でありその分息が上がるのも早かった。
袁紹は余裕がなさそうだが、曹操の表情は楽しげですらあった。
麗羽をここまでまともに変えた「何か」に興味を覚えたが、今はどうでもいい。
曹操は楽しんでいた。与り知らぬ「何か」で自分と同じ場所に登ってこようとする麗羽。
自分と違って天運などは欠片もなさそうな麗羽は、自分の意思で覇者・・・いや、もしかしたら王者たらんとしているのだ。
自分が向かおうとする場所に、自分とは少し違う方法で行こうと。
天下盗りに、障害が無ければ面白くない。曹操はそう考えて、その障害になりそうな者にある程度の目星をつけていた。
1人は劉備、1人は劉備と同じく晩成していないが孫策・・・或いは孫権か。
袁紹などは、路傍に石に過ぎないと、高をくくってさえいた。
それがどうだ、今目の前にいるこの女は。まさか、麗羽がここまでの存在になるなんて誰が予想できただろう。
自分が烏巣まで攻めてくることを予見して力不足ながらも機動力重視の編成で自分より先んじ、劣勢でありながらも自分の攻撃を凌ぐとは。
全く予想していなかった好敵手の出現。この事実を、曹操は喜び楽しんでいた。
この時二人の一騎打ちの邪魔をするものは無く、徐々に戦いの場が集積所へと移っていた。
まだ付近で戦っている者は多いが、数で勝っているはずの袁紹軍は劣勢に陥っており、集積所からは火の手が上がり始めた。
この戦いを見守る者はただ1人、典韋のみ。



尚も両者は馬を駆り、何度も切り結ぶ。
曹操は鎌を振るい、袁紹の乗る馬の首を切り落とすが、袁紹は馬がそのまま前方に倒れこむ反動を利用して曹操の馬の足元に跳躍し、足を斬り捨てる。
「ちっ」
舌打ちをした曹操は馬を捨てて袁紹同様に地面に立つ。
お互いに武器を構えなおし、じりじりと隙を窺う。
そうしている内にも、火の手は強まり袁紹軍の一部が壊乱。
戦場は錯綜し、2人の足元にまで矢が飛び、人馬入り乱れての混戦状態になっている。
「集積所は燃えているわね。もう勝負はついた・・・そう思わない、麗羽?」
「そうかもしれませんわね。ですが、我々の勝負は終わっていませんわ。貴方を討てば、その勢いも止まる。」
「それこそお互い様ね。今の袁紹軍は麗羽・・・貴方一人で保っているも同然。今の貴方の跡を継げるような人材は・・・そうね、田豊なら可能かしら。」
その名が出た瞬間、袁紹の表情に僅かに苦痛めいたものが浮かんだ。
「なんであれ、私と貴方の行く道が違う以上・・・決着をつけなくてはいけません。」
「そう。やっぱり貴方らしくない覚悟だわ・・・いいでしょう、来なさい!」
袁紹も曹操も息を整え、構えを直し、最大の一撃を繰り出そうと足腰に力を入れる。だが、一本の流れ矢がこの勝負を台無しにした。
距離を詰めた袁紹の右肩に矢が命中。
袁紹が思わず怯んだところで、曹操の放った鎌の先端が袁紹の右の太ももに突き刺さった。
咄嗟に曹操が力を緩めたので切断とまではいかなかったが、これで決まったも同然である。
「あっ・・・」
「ぐ・・・くぅっ・・・!」
袁紹は痛みと衝撃に耐えかねて、右肩から転倒。右肩に刺さった矢が折れて、矢じりが余計に深く刺さったようだ。
刀を杖に何とか立ち上がるが、もう戦闘などできるはずがない。
「んぅ・・・はぁ、まだ、勝負は、っ・・・これ、から・・・」
「・・・。」
痛みに顔を歪ませる袁紹に、ばつが悪そう・・・いや、憮然とした表情で袁紹を見つめる曹操。
誰が放ったかは知らないし、まず流れ矢だということは解っているがこれは違う、と曹操は唇を噛んだ。こんな決着など求めていない。
対等の条件で死合って勝つことに、この闘いの勝利の意味があるというのに。
もう勝負は付いた。自分が全く望まぬ形で付いてしまった。
さて、どうするべきか。と思考したところで、集積所から審配・顔良・文醜らが僅かばかりの兵を率いて向かってきた。
「殿、ここはもう保ち・・・殿!?」
袁紹が傷だらけになっているのを見た審配は血相を変えて、馬に鞭をくれて駆けさせる。
止めようと思えば止められたし、典韋もいるから多少の将兵が向かって来ても蹴散らせる。
だが、彼女はわざと動かなかった。いや、道を譲るかのように下がった。
審配が袁紹を抱え上げ、顔良らが突破口を開くために先駆けていくのも黙って見送った。
彼らが駆けて行った後、典韋が「良かったのですか?」と恐る恐る聞いてきたが「かまわない」と曹操は答える。
見れば集積所は焼け、張遼や干禁が意気揚々と向かってくるのが見えた。
「あらかた掃討したでー。逃げるんは放っておいたけどなぁ」と機嫌よく言う辺り、守備をしていた将兵を多く討ち取ったのだろう。
多数いた袁紹の兵も逃げるか降伏するかしたようで、勝利は勝利と言うことだ。もっとも、軍勢が勝利しただけで自分は勝利と言い難い。
袁紹が無傷でも自分は負けなかっただろうが、対等な条件での勝利ではなかったし、もう2度と同じような機会は訪れまい。
地味に落ち込む曹操だったが、生き残った自軍の将兵を整列させて命令を発していく。
「皆、苦労だったわね。我々は余勢を駆って袁紹軍本陣に攻撃を仕掛ける。沙和(さわ、干禁の真名)、春蘭たちに攻撃を開始するよう伝えてきなさい!」
「はいなのー!」
「他の者は・・・そうね、流琉(るる、典韋の真名)は捕虜を連れて沙和と共に一度本陣へ向かいなさい。後の処理は風に任せてすぐに出撃するように。」
「はい!」
「袁紹の追撃はどうするん? あいつら、逃げてったけど。」
「放置しておきなさい。あの程度の兵と、あれだけの傷・・・本陣に戻る余力は無いわ。もし戻れるとしても、此方の速度には追いつけない。」
袁紹軍本陣には15万以上の兵力があって楽観は出来ないが、こちらも10万を超える兵力がある。
そして、軍需・兵糧物資がほとんど失われたことで袁紹軍の士気は最低になっているはずだ。殆どの兵は逃げるか降伏してくるだろう。
「・・・ところで。」
「???」
「あの「三人」はどうなったのかしら。」
「ああ。あれらな。許攸以外は馬に踏まれて死んだみたいやけど。」
「・・・チッ」
「え、今舌打「忘れなさい」・・・ええけど。」
なんともまあ、悪運の強い。馬に踏まれて地獄に落ちろ、ではないがお似合いの末路だろう。
生き残った許攸だが、この戦いの後に「曹操が勝てたの自分のお陰だ」とか、後に曹操が鄴(ぎょう、袁紹の本拠)に入城した時にも「自分が居なければ曹操はここに来ることなど出来なかった」やらと吹聴して周り、激怒した曹操に処刑されている。
曹操は代わりの馬に乗って、袁紹軍本陣へと向かっていく。
その表情は、好敵手との決着を付けられなかった無念と、勝利が確定したことの安堵が入り混じった複雑なものだった。

後、曹操は官渡から出撃した夏侯姉妹の軍勢と合流、袁紹軍本陣へと総攻撃を仕掛ける。
最初は楽に終わるかと思った戦いだが、(烏巣が陥落した事を知っても)主将の麹義らの士気は高く、激戦を繰り広げる事になる。
この闘いは3日以上も続き、結果的に麹義は戦死、他の武将も「最早これまで」と降伏のやむなきに至るのだが・・・。
兵糧や矢束が無い中でも、袁紹が戻ってくることを信じて彼らは奮戦し続けたのである。
曹操は最後まで抵抗、自軍に損害を与え続けた麹義の死を惜しみ、また降伏してきた袁紹軍将兵も寛大に扱う事を決めた。
彼らの奮闘振りに敬意を現したつもりである。
また、この後に袁紹の領有する各都市を降伏させていくのだが、それにも幾ばくかの時間がかかっている。
袁紹の治世を慕う者も多く、曹操も「まさか、ここまでの素質を秘めていた、いや実力を持っていたなんて」と驚き、あんな形での決着を心底惜しんだという。


袁紹を担いだ審配と、顔良ら僅かの兵は森を駆け、南東方面へと逃げていた。
本当は本陣へ向かいたかったが、袁紹の怪我が思いのほか酷く、全力で馬を駆けさせることが出来なかった。
曹操に追いつかれるだろうし、物資があらかた焼かれてしまったこともすぐに知れ渡る。
北へ逃げるにしても、今はまだ状況が悪すぎる。森に隠れるほうが生き残れる確立も高いと考えての事だった。
ある程度の距離を稼いだ、と審配は部隊を止めて袁紹の手当てをする為に馬から降りた。
応急手当用の道具を出して、軟膏やら包帯やらで止血をしていくが・・・肩に刺さった矢をそのまま抜くのは不味い。
そこで、途中で気絶していた袁紹が目を醒ました。
「・・・・うぅ。」
「お気づきですか!?」
「審、配さん・・・? 今の状況、は・・・つぅっ・・・」
「我らの負けです。力及ばず、烏巣は陥落。淳于瓊らは討たれ軍勢は四散。無念です、殿・・・」
「・・・そう。」
倍以上の兵力を持ち出してこれとは。
曹操の力を甘く見すぎたか、それとも自分に力が足りなかっただけか。どちらであれ、自分は負けた。
自分に出来る全力を尽くしたつもりだったが、曹操に勝つことは出来なかった。
この戦の勝敗は、そのまま両陣営の勝敗へと繋がり・・・袁家も滅びるのだろう。
袁家の将兵が意地を張らず降伏すれば、曹操もそれを受け入れるだろうし、彼女なら領民も大事にしてくれるだろう。
そこに救いを求めることが出来るだけまだマシだったのかもしれない。
後はどうやって自分を助けてくれた審配達を生かすか。
それを考えるよりも早く、出血と痛みで意識が遠のいてきた。

夢は、終わった。
その事実だけを理解して、袁紹は再び意識を失った。



~~~同日、同時刻。田豊の居館にて~~~
容態が悪化していた田豊は、意識が混濁して昏睡状態になったり小康状態になったり、を繰り返していた。
診ている薬師なども「今日を生きれるかどうかすら解らない」という状況。
その田豊が、小間使いや薬師が見守る中、不意に目を覚ました。
まさか目を覚まされるとは、と周りが騒ぐ中、田豊は「殿・・・」と、一言呟いた。しわがれた、弱々しい声で「殿、殿・・・」とまた呟き、静かに瞑目。
それが、田豊の最後の言葉となった。

袁紹の夢を結実させんと老骨に鞭打って奮闘した老宰相、田豊。
彼は袁紹の夢が砕けた瞬間、まるで自身の役割を終えた事を知ったかのように・・・静かに世を去っていった。




~~~
楽屋裏~~~
はやぶさ、お疲れ様。あいつです(挨拶

袁紹敗北。
しかも両者共にとても納得の行くような形ではありませんでした。
この結果を招いたのは天運でも天命でもなくただ「運」だったのでしょうか。
そして、田豊も病死。
正史よりはマシな逝き方だったと・・・マシかなぁ・・・?

長かった袁紹編も次回で終了(多分
そして本編は・・・こう、加速度的に坂道を転げ落ちるが如く勢いで(ぁ

ではまた次回にて。


















【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 異伝その2。


高順と蹋頓が世を去り二ヶ月。
広陵(こうりょう)で陳羣が多忙を極める中、一人の来客があった。
それは閻行。高順の母親である。

陳羣は最初「閻行」という名を聞いて「誰だ?」と首を傾げていたが、「高順様の母君だそうです」と取次ぎの言葉を聞いて「・・・ああ。」と思い出した。
そういえば、この広陵に住んでおられたのだったな、と思い出して「すぐに会いに行く」と伝えた。
今、彼女のやることは数多い。
正式に太守となってから、高順一党のやっていた仕事をほぼ1人で兼任することになって寝る暇も無い。
特に、武力に秀でたものが軒並みいなくなったことが響いている。
その上「虹黒が飯食ってくれないーーーー!」と夏侯惇が泣きついて来てその世話までやらされる羽目に。
なんというか、虹黒は高順を殺されたことをきっちり理解しているらしい。
傷の手当はともかく、食事などは殆ど口をつけない。
にも拘らず夏侯惇は何とか自分に馴れさせようと奮闘していたが、虹黒の夏侯惇嫌いは決定的になっている。
とにかく、曹操側の人間と見ると「自分に近づくな!」とばかりに暴れまわる。
夏侯淵は「やめておけ、姉者」と諦めさせるつもりである。
彼女は「高順を死なせた自分達に懐くわけが無いだろう?」と、高順・虹黒の関係を(曹操軍の中では)一番に理解していた。
自分の相棒を死なせた私達に懐く道理が無い、諦めろ。と何度も言っている。
なお諦めきれない夏侯惇だったが「陳羣ならどうだろう」と思いついて、泣きついてきた・・・というのが真相だった。
陳羣は「私に出来るとは思わないけど」と言いつつ、虹黒にリンゴやら人参やらを出してみた。
その夏侯惇やら淵やらは広陵にいない。
袁家・・・といっても南の袁術だが、それが北上するような動きを見せたので、警戒をして許都へと帰還していたのだ。
虹黒は最初こそ警戒していたが、陳羣のことを覚えているようで、「ふんふん」と匂いを嗅ぎつつ食事を摂りだした。
それ以外の人間が食事を出しても摂ろうとしないので、最終的に「太守なのに馬の世話役」というへんてこな状態。
そして、閻行の訪問はそんな中での話だった。
本来はきっちりと段階を踏んでから客人と会うものだが、高順の母ならば会わないわけにも行かない。
何せ、高順は広陵に残した金を全て「俺に何かあったら好きに使ってね」と影を通じて・・・遺書になってしまったが、陳羣に届けている。
彼の残した多額の資金は広陵を富ませ、また民の為に使用される。
しかし、何故に高順様の母君が? と不思議に思いつつ、彼女は政務室を出て客間へと向かった。

「お待たせしました」
部屋に入って挨拶をした陳羣の目に映ったのは、旅装姿の閻行だった。
閻行は閻行で「お忙しいでしょうに、お会いしていただいて感謝しています」と頭を下げた。
閻行の姿を見れば「恐らくは趙雲殿達の下へ向かうのだろう」とは予想が付く。それにしても、何故自分に合う必要があるのだろうか。
その疑問にはすぐに答えが出た。
「では用件だけですが。息子の遺したものを全てお譲りいただけませんか?」
「全て、ですか・・・。」
高順の、いや、高順と蹋頓の遺品は全て陳羣が引き取り、物資保管場所に収めていた。
蹋頓の槍はともかく、三刃槍や髑髏龍の鎧を着こなせるものはいない。だが、陳羣はボロボロになった鎧をある程度修復させている。
誰にも使えないのだから残しておく必要など無いし、あの鎧を着るものなど誰もいないのだから、ということを解っていても、修理を施し、手入れをして保管してある。
それを閻行が譲ってくれ、というのは・・・
自分が使用するつもりか、それとも趙雲達に渡すつもりか、そのどちらかだろう。
そして全てというのは、恐らくだが虹黒もだろう。あの馬が閻行を背に乗せるかどうかはともかく。
陳羣は少しだけ迷うが、すぐに気持ちを決めたのか護衛の兵を退出させてから、こんな風に切り出した。
「今から独り言を言うので、適当に聞き流してください。」
「独り言?」
「今日の夜、「偶然にも」厩と武具保管所の見張りがいない状態となっていまして。」
「・・・」
「そこに物盗りが押し入って、鎧一領とそれに付随する刀数本に槍二本、それと馬が一頭いなくなるかもしれませんが・・・まあ、誰にも使いこなせないので何ら影響はありません。更に」
一度、息継ぎをして畳み掛けるように続ける。
「これまた偶然に、夜中であるというのに、北門の見張りがいません。職務怠慢ですね? ですが人手不足で仕方が無いのです。その上一時的に開け放たれているようですが、これも人手不足で仕方がありません。」
「・・・ぷっ。」
閻行は、思わず噴出した。高順と蹋頓の遺品を全て渡した上で、自分が北へ行くのを黙認するというのだ。
虹黒を渡してしまえば夏侯惇あたりが黙っていないだろうが大勢に影響は無い。
「しかし、宜しいのですか。」
「独り言、と申しました。ま、もし露見したところで、私の首1つで済むならそれはそれで安いでしょう。」
陳羣は肩をすくめた。
自分が、太守としてやるべき事は解っている。だが、高順の配下であったことを忘れる気持ちも無い。
人として譲れない部分があって、その譲れない部分が「閻行に協力すればいい」と主張しているのだ。
これくらいなら曹操にとっては痛手でもないだろう。
もし露見して自分の首で購う事になっても、自分で言った通り「安いもの」としか思っていない。
それから、時間の打ち合わせを行い閻行が退出する間際、陳羣は一つだけ聞いた。
「あの、高順様の父君はどちらに?」
「夫ですか?「行きたくないぃ、ワシは静かに暮らしたいのだー!」と抜かしたので簀巻いてます」
(簀巻いてるって何だろう・・・)
おかしな疑問を感じる陳羣だったが、一つだけ納得した事がある。
高順様の割と小心な所は父君に、時折見せた武才は母君から受け継いだのだな。

~~~深夜、厩にて~~~
虹黒は誰もいない厩でふと気配と物音、匂いを感じた。
懐かしい匂いだ。高順の匂い。だが、あいつは死んだ。・・・誰だ?
少し落ち着かず、物音のした方向へ耳を向けて警戒をする。だが、その警戒はすぐに薄れた。現れたのは閻行。
「あ、いた・・・よし、久しぶりですね、虹黒。随分傷だらけになって。」
「ぶる」
そうか、高順の母だったか。
高順と閻行の匂いは良く似ている。というか親子だから似ていて当然である。
その閻行、三刃槍と蹋頓の槍を担ぎ、鎧櫃(よろいびつ)を背負い、何故か簀巻きにされた夫を足元に転がしている。
「虹黒、これから北へ行きます。苦労でしょうが、私達を乗せてくれませんか。」
「・・・ひひんっ」
虹黒は、高順以外は乗せる人を選ぶ。
その虹黒から見る対人関係は、というと。

相棒:高順。
相棒じゃないけど乗っても良い人:蹋頓・沙摩柯・閻行・張遼・趙雲。
世話をしてくれるし、嫌ってはいないので場合によっては乗っても良い人:楽進ら三人娘・閻柔と田豫・陳羣。
世話をしてくれて、まだ幼いので乗せることが出来ないけど好んでいる人々:丘力居・臧覇・闞沢。
嫌いな人々:曹操一派。
死なすっつーか殺る:夏侯惇。

と、こんな感じ。
つまり、閻行は頼めば普通に乗せるのである。というか、素で怖いし。
閻行は虹黒の背に鞍を置き、その上に夫やら何やらを担いで乗っかる。
そのまま厩を出て、城を出て、街を北に抜けていく。
陳羣の言う通り、巡回の兵士に出くわすことなく北門を抜け、振り返ることもなくただ北へと虹黒を駆けさせていく。
北門城壁上では陳羣が佇んでおり、去っていく閻行の後姿に拱手し、静かに見送っていた。
閻行は無言だったが、虹黒の背の上にあって(あの親不孝息子は、いつもこの目線で戦っていたのですね)と実感を持った。
息子が虹黒の背から見ていたのは何だっただろうか。ただ戦場を見渡していたのか、それともその先にある何かだったか。
答えが帰ってくるはずも無いのに、閻行は亡き息子にそんな事を語りかけていた。


閻行は北平へ向かい、特に問題もなく趙雲達と合流。呂布らもいて、高順達を除く皆が揃っていた。
そこで、閻行は貴方達なら使えるでしょう、と三刃槍を華雄に。(ここで、閻行は自分の斧を返してもらっている
鎧と、乗りこなせるだろうということで虹黒を沙摩柯。丁原、そして高順の遺刀を干禁に渡した。
蹋頓の槍は「丘力居に渡したほうが」ということで趙雲に託し、高順と蹋頓の死を皆に伝えている。(趙雲にとっては青釭の刀が高順の遺品となった
皆辛かったし、妊娠をしていた(高順に伝えていなかった)張遼は「・・・うちと順やんの子、ずっと父親の顔も知らんと生きていくんかいな・・・」と嘆いていた。
呂布達を快く受け入れた公孫賛も「あの馬鹿、逝き急ぎやがって・・・」と静かに泣いていた。

高順の父は疲労しており、すぐに部屋に押し込まれて休む事に。
趙雲は閻行に「あの子の遺した人々は、貴方が受け継いでください」と頼まれ、高順からも「俺に何かあったときは趙雲さんに」と言っていたことから反対者が出ることも無く、正式に高順隊の全てを引き継ぐ事になった。
その趙雲は、閻行が(恐らくは)闘いに復帰すると思いながらも「母上殿はどうなさるおつもりです?」と聞いてみた。
聞かれた閻行の表情に、僅かではあったが凄まじい殺意のようなものが浮かぶ。それは趙雲に向けられたものではなく、曹操や劉備に向けられたものだったろう。
背筋に寒気を感じた趙雲だが、すぐに閻行は普段通りの穏やかな表情に戻る。
「・・・やるべき事をやるだけですよ、超雲さん。息子夫婦を殺されたのですからね・・・。その代価は命で贖っていただきますよ。」
そんなことを言って、閻行は賈詡に「少しお話が」と、何事かを相談し始めた。

趙雲は、今の殺意に充てられ、そして思い出していた。
あの殺意、ともすれば狂気に近い何か。どこかで見た覚えがある、と。
それは直ぐに記憶から掘り起こされた。
(そうか・・・。丁原殿が呂布の攻撃で致命傷を負ったとき。郝萌が、朱厳殿が、上党の兵が散っていったあの戦場で高順殿の見せたあの殺意だ・・・)
あの時、高順は底の知れない殺意を呂布に向けた。
その時までは勿論見たことも無かったが、今に至るまであれほどの殺気・殺意を漲らせたのはあの一度だけ。
あの優しい、優しいどころか臆病といってもいい高順が見せた殺意。あれは自分だけでなく沙摩柯すら恐れるほどだった。
高順殿のあの優しさは、父君だけから受け継いだものではないのだ、と実感する。
多少の影響はあるかもしれない。だが、恐らくだが高順は母から受け継いだもののほうが多かったのだろう。
母上殿は「西涼の狼」と言われてもおかしくないうちの一人だ。そして、狼とは家族・・・自分の周りの存在を大事にする。
高順は、自分の回りの人々が傷つく事を、喪う事を恐れていた。
そうならないようになるだけ力を尽くしていたし、係わり合いの薄い自部隊の兵でも、戦死すれば落ち込むということもあった。
その優しさがあるから、丁原の死に怒り、呂布に挑んだ。
あまり敵を作らず、大抵の人とは敵対をしない彼にしては珍しく、呂布との関係は最後までしっくりせず終わっている。
優しい彼があの時見せた殺意、母上殿が見せた殺意。
あと少しでも、たがが外れしまえば狂気そのものになりかねない、大きな感情だった。
閻行という西涼の狼は家族を大事にしている。
夫や子供である高順に対しての扱いはかなりぞんざいと言うか・・・ちょっと暴力的なところはあるが、あれは家族に対しての甘えと信頼の現われではないだろうか。
事実、彼女は自分や楽進らに対して、意味も無く暴力を振るうことはないし、手合わせで完敗させられても必要以上の攻撃は加えていない。
華雄も、配下の四将軍を家族同然に感じていたようだし、今も三刃槍を握り締めて騒いでいる。
「こーろ-すー! 曹操も劉備もぜってーころすー!」
放って置けば本気で行きかねない華雄を、徐栄や楽進が後ろから抱きとめて必死で抑えている。
「あああああ、高順と蹋頓が殺されたのが辛いのは解りますが落ち着いてくださいー!」
「そうです、今から行ってもどうしようもないです! 姐さん落ち着いてー!」
「離せ徐栄、楽進っ! 今から行って仇を討つんだ!」
「だからそういう問題じゃないです! 誰か、止めるの手伝ってぇぇぇっ!!」
「仇を・・・高順と蹋頓の仇を討つんだーーー!!」
涙目になって2人をズルズル引っ張っていく華雄。そこに李典や張遼も加わって何とか止めたのだが、華雄は「ちきしょおおおおぉぉ」と泣き出してしまっている。
感情過多と言うか何と言うか。しかし、方向性は違えどこれは馬超・・・西涼の人間によくある性格だ。
高順は、母の「家族を大事にする」という性質を母親以上に強く持っていたのではないか?
だとすれば、自分が今まで高順に対して持っていた評価は少し違っていた、ということになる。
(・・・いや)
そんな事はもういい。今更評価が違ったとか、そんな事など。
趙雲は苦笑し、首を振って頭の中で組み立てた話は綺麗に忘れようと努めた。
ただ、1つだけ確信してそれだけは忘れまいと思う。
狼から生まれた子は狼だ。高順もまた閻行の血を受け継いだ、西涼の血を引く優しい狼だったのだ、と。


子を喪った閻行と言う狼は、もう一度戦場へ舞い戻り、己の敵に鋭い爪牙を突き立てんと疾駆するだろう。
その日が来るのは、そう遠くない。




(ここまでやったら)続(けないといけない空気なので最後まで書)く・・・かも。


~~~もう一回楽屋裏~~~

むぅ、後1回くらい出来そうな・・・w>異伝
このルートだと閻行まで怒らせる羽目になるのですな。曹操も可哀想に・・・
西涼の方々は家族愛が強そうなイメージ。明らかにオリジナル設定なこの作品の流れる先は一体どこだというのか。

しかしあれだ。異伝、1話を書き直したい(笑
或いは異伝だけ纏めて、あと加筆修正も多少やってから1つの話として投稿するべきかなぁ。
・・・自分の苦労が増えそうなだけなので止めておくべきですかね(駄目

ちなみに、泣いてる時の華雄姐さんは(`;ω;´)になってたと思われます(ぉ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 最終話
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/06/20 22:27
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 最終話。



~~~曹操の場合~~~

袁紹を降した曹操は、河北の制圧に乗り出した。
最初は手間がかかるかと思われたが、それはある意味で外れ、ある意味では正解だった。
官渡の戦いで袁紹軍は北への押さえ以外のほぼ全戦力を投入しており、それを打ち破られては各都市ともに迫り来る曹操軍への対抗などできるわけがなかったからだ。
袁紹が行方不明になったこと、その袁紹が戦前に「この戦で自分が負け、曹操が侵攻してきたら無駄な抵抗をせず降伏をするように」と各都市を預かる責任者に手紙を出しており、そこら辺はあっさりと降伏している。
多少の時間がかかったのは北への押さえとして残された高幹や蒋義渠(しょうぎしょ)がしぶとく抵抗をしたと言うところだ。
また、袁紹の治世を民が慕っているのを見た曹操をして「麗羽(袁紹の真名)は領民から慕われていたようね」と感嘆していたと言う。
占領はしても統治は時間がかかりそうで、それこそ「腕が鳴る」と曹操は息巻いている。
そして、その中で曹操は新たな臣下を得た。
公孫賛・張燕・丘力居・・・北方で盟を組んでいた人々である。

袁紹が敗北、行方不明となったことで一応は勢力として生き残った公孫賛であるが、その袁紹の領地をほぼ呑み込んだ曹操に対抗できる筈も無い。
これ以上の損害を出す事を望まず、河北を制したとは言え兵士にも厭戦気分が広がっていて、連戦をするべきではないと曹操軍首脳陣は判断。
公孫賛・張燕・烏丸の領地を削らず、太守(丘力居は単干)の地位を認める。官民に危害を加えることもしないから帰順しなさい、と公孫賛らの立場などを認める上での使者・勧告を出している。
公孫賛らも一応会議は行うが、「袁紹は滅びましたし、曹操は意味もなく約束を破るような真似は致しません。こちらの権利・官民の命の保証をしてくれると言うなら降るべきでしょう。」と沮授から助言を受け、降伏を決める・
張燕・丘力居に「私は降るが二人はどうする?」と使いを出し、両者も抵抗意思は無いとして共に降る、と返事を出してきた。
時間はかかったが、こんな流れで公孫賛らは曹操に帰順。公孫賛は太守と言う立場でありつつも、曹操の居る鄴(ぎょう)に出仕することになる。(他2人も挨拶は行っている

曹操に仕えることになった公孫賛だが、曹操自身は公孫賛に対してそれほどの期待をしているわけではなかった。
むしろ、彼女の部下である沮授等のほうに目を向けており「私の直臣にならない?」と打診をしているほどだ。
それを聞いた公孫賛は「皆の意思に任せるけど・・・できれば、行って欲しくないかなぁ・・・ははは」と笑いつつも肩を落としていた。
結局、沮授・張郃・高覧は「自分達は公孫賛の臣なので」と曹操の誘いを断り、あくまで公孫賛の部下として働くと言う意思を見せている。
曹操は「何故公孫賛の下がいいのかしら?」と聞くのだが、皆揃って「あの人のほうがお仕えしやすいですし、我々を必要としてくれています」と答えたと言う。
曹操のほうが彼女らを使いこなせるのだが「使いこなせるかどうか、で仕える人を決めるわけではありません。我々が公孫賛殿に仕えるというのは最終的に曹操殿のために働くと言う事です」と返されて「無理強いはしないほうがいいか」と諦めたそうだ。
どちらにせよ、自分の力として使うのだから沮授の主張は間違っていない。
さて、公孫賛。
前述の通り、曹操は彼女の能力に特に期待をしていなかった。
北方同盟を組み、袁紹と対抗しえたのも沮授という有能な配下がいたからこそ、と考えていたからだ。
だが、公孫賛を実際に働かせてみて、曹操は自分の認識が誤りであることをすぐに理解した。
結論から言って、何をするにも「出来る」。それが曹操の下した評価であった。
統率力があれば、個人的武勇も悪くない。政治にもそこそこ理解を持って(太守なのだから当然だが)おり、練兵も上手い。
どんな状況・仕事でも一定以上の成果を出せる、というのが公孫賛の仕事ぶりである。
現在の曹操軍には、こういった「仕事師」が存外に少なかったりする。
曹操自身は数に入れず、とすれば夏侯淵、張遼・・・あとは満寵あたりが色々と応用の利く能力の持ち主だ。
ただ、彼女達は政務にはあまり詳しくない。戦場で冷静に戦況を見る、とかそういった方面だ。
ところが公孫賛は政務にも使える。そのせいか、荀彧や郭嘉・程昱にもあれこれと用事を頼まれていたりする。
そして、夏侯惇・淵姉妹とも真名をすぐに教えあって仲良くなっている。
と、人格面でも高評価。各方面に適性を持っている、と上層部に認識されたのだ。
先ほども出ていたが、曹操軍はどちらかといえば突き抜けた才能を持つ者が多い。
夏侯惇は武力・統率は高いが他はテンで駄目。知力・政務はからっきしだ。
典韋・許褚は武力のみ。
荀彧は知略・政務が群を抜いているが、それ以外はお粗末。特に人格面が酷すぎる。
その点で見れば郭嘉・程昱はまだ人付き合いが上手いが・・・やはり、統率や武力は低い。
夏侯淵・張遼は知略もあれば統率・武力もあり、人格でも慕われる・・・と、この2人は悪くない。
公孫賛は、彼女らに比べれば地味と取られがちだが、それは大きな誤解だ。
他が突き抜けて目立たないから能力が低い、ということには繋がらない。
確かに、軍を率いさせても第一軍(主力)とはならないだろう。
政務でも荀彧らのような仕事ぶりは見せ付けられないだろうし、武力でも典韋達には及ばないだろう。
だが、第一線で働き続ける彼女達を後ろから支える、という事に関して公孫賛に及ぶ者はいない。夏侯淵でも可能かもしれないが、政務という事柄では公孫賛に及ばない。
今まで暴走しがちだった夏侯惇を抑えるために、脇を締めなければいけなかった夏侯淵を前面に押し出せるようになった。曹操軍の攻撃能力が上がったのである。 
北平の太守である為に、時折帰還しなければならないから毎回といかないのが弱点だがこれは大きい。
また、意外にも干禁は顔見知りのようだし、張遼も「順やんのダチならうちにとってもダチや!」と偶然の結びつきを大いに喜んでいる。
苦労人と言うことで夏侯淵とも波長が合って密かな呑み友達だそうだ。
曹操が思うに、自分が拾ったのは公孫賛にとっても良かったのではないかな? と考えてしまう。
劉備に拾われたとしても・・・何だかすぐに埋没してしまいそうな感じなのだ。
劉備陣営は武将は少ないが諸葛亮や関羽やら、個々の能力が高くてそれだけで事足りしてしまうような人材ばかりである。
関羽・張飛に軍師二人。人材が少ないせいで余計際立つものだが、割合から言って曹操よりも「何でもできる」者が多いと言うことになる。
それを思えば、自分の下のほうが、働き甲斐があるのかもしれない。
曹操が高順にやらせようとした仕事がまさにこの役割であったので、曹操からすれば「意外なところで良い拾い物をした」といったところなのだろう。

ここまではいいのだが、公孫賛には弱点があった。
まず、人が良い。良いからこそ曹操軍にあっさり溶け込み、全員が真名で呼んでいいとしている。勿論曹操も。
その人の良さが、おかしな方向で弱点になる。
公孫賛が帰順してからすぐの話だが、公孫賛に任せた仕事の終了が異様に遅いことが何度かあった。
その度に曹操は苛々としたもので、そのあまりの遅さに「何をしているのよ!」と問い詰めにいった所。
夏侯惇や許褚の書類仕事を手伝わされたり、その間に荀彧から仕事を押し付けられたり。
自分の仕事を後回しにして他人の仕事を手伝わされているのだから、終わるはずが無い。
1つの苦労で済むものを、2重3重に苦労をして凄まじい遠回りをしていた、ということであった。
これを聞いた曹操、仕事を回していた人々に軽く叱責をしたのだが、夏侯惇の公孫賛への頼りっぷりは半端なく、殆どの書類仕事を回すのだけは止まらなかったそうな。
2つ目は、普通な性格であるが為に、精神的に強くないという所。
仕事を大量に回される(裏を返せばそれだけ頼りにされている)のはともかく、夏侯惇と荀彧という、相反する2人の信頼を得たことが不運である。
何かと「おい、白蓮」「白蓮、ちょっと」と、2人同時に仕事を頼まれるケースが多いのだ。
当然、水と油な関係の2人。「私が先に白蓮に仕事を頼もうとしたんだぞ!「私が先に決まってるじゃない! 練兵だったらあんただけいれば充分でしょ!」と目の前で喧嘩をされる。
「おい、二人とも喧嘩はやm「何だ!」「何よ!」ああああ(涙」と、仲裁をしても聞いてくれやしない。
それが何度も何度も重なって、心労の為か激しい胃痛で倒れる・・・と言うことがある。
よく夏侯淵が公孫賛を見舞って「・・・すまない。」「・・・うん。」と、苦労人ならではの静か且つ重い雰囲気が展開されることも珍しくない。
3つ目は・・・これは公孫賛が悪いわけではないが、極端に運が悪い。
夏侯惇、荀彧の喧嘩の仲裁。
郭嘉が桃色内容な妄想を全力全開、即死レベルの鼻血を噴出した現場に居合わせる。
典韋・許褚の無茶苦茶な量の飲食、そして生か死かの無茶な訓練に付き合わされる、等。
生き死にを左右する局面に意味も無く鉢合わせたり、それほどでもないのだが胃痛を増加させる状況に居合わせたり。
本人にそのつもりは無いし、周りも悪意があって巻き込んでいる訳ではないのだから本当に運が悪いとしか言いようが無い。(典韋と許褚に誘われるのは慕われているからだし・・・
そのおかげでまた胃痛を引き起こして倒れるわ、自室で臥せっている時に寝言で「高順・・・星(せい、趙雲の真名)・・・た、助けてぇ・・・」とうなされるわ。
多分、高順が曹操に従っていれば今の公孫賛の立ち位置にいて、同じように伏せっていたのだろう。

人の上に立とうが、従おうが、どちらにせよ苦労が離れていかない公孫賛の明日はどちらに向かっているのだろうか・・・。


~~~袁紹の場合~~~

「・・・んっ」
袁紹は目を覚ました。
その彼女の目に最初に映ってきたのは、木造の屋根、そして自分が寝かされている寝台。何時の間にやら寝間着姿。
鎧も脱がされ、刀も壁に立てかけてある。
「・・・?」
自分は官都にいたはずでは? と記憶を掘り起こしていくが、烏巣で負けて右太ももを鎌で抉られて・・・そこから先の記憶が無い。
太もも・・・と、抉られた右足を見るが、包帯が巻かれていて多少痛みはあるが歩けないほどではない。
一体何がどうなっているやら、と袁紹は首をかしげた。審配・顔良・文醜にあと10人ほどの兵士がいるのは覚えている。
ここは鄴だろうか、とおも思ったがこんな部屋は見たことが無いし・・・。
何がどうなったやら? と考え始めたところで、顔良が部屋に入ってきた。
「あ。」
「あら、斗詩さん。」
あ、と言ったまま硬直している顔良が急に笑顔になった。
「みんなっ、れい、麗羽さまが起きましたよーーーーーーー!!!!」
「な、なんだってーーーー!?」
顔良が扉の向こうに大声で叫んだところ、審配やら文醜が「どたどたどた・・・」と走って部屋に入ってきた。
「え? えっ?」
「殿、お気づきになられましたか! もう二度と目を覚まさないとばかり・・・」
「麗羽様、これが何本か解りますか!?(Vサインを作る文醜)」
「・・・2本ですけど。じゃなくて、一体ここh」
「おお、2本って解ったぞ斗詩! 頭の中身はやられてない!」
「・・・。」
何をどうすれば指の数から頭の中身の話になるのかは解らないが、とりあえず心配はしてくれていたらしい。
「審配さん、ここは何処ですの? それに、足も治療されておりますけど・・・?」
「ああ、それはですね」
言いかけた審配だが、そこへもう1人・・・男性だが、入室してきた。
「よう、気がついたみたいだな。」
赤毛の若い男性で、一見変わった服装をしている。
袁紹を見てにっかりと笑い「足の具合はどうだ。まだ痛むか?」と質問をしてくる。
「え? え、ええ。まだ少しだけ痛みが残っておりますけど・・・貴方は?」
「ああ、すまない。俺の名は華陀。修行の身だが、こう見えて医師でな。」
「医師・・・ですの? では貴方が足の怪我を。・・・って、アレから時間はどのくらい過ぎたのです!? 他の者はどうなっておりますの!」
袁紹は立ち上がって華陀の胸倉を掴んで揺らす。
「おおおお落ち着け。あんたの出血が止まらなくて、この人たちが途方にくれてるのを発見したのが10日前・・・」
「10日ですって!?」
「俺はその時、たまたま今回の戦いに出くわして・・・曹操軍と、降伏した袁紹軍の兵の治療を・・・ぐ、ぐるじいっ・・・」
「あ、すいません。」
揺らしていたと言うか、絞めていたらしい。
華陀はゲホゲホと咳き込んで「死ぬかと思った」と呟きつつも再度説明を始めた。
「兵の治療を終えてから、烏巣ってところを通りがかったんだが・・・あの森の奥まったところにあんたたちがいた、ってことさ。審配が包帯であんたの足を縛り上げてたから、出血もそこまでのものじゃなかった。」
「しかし、10日でしょう。どうやったらそこまで眠りこけていられるのです。」
「当然、水なんかは飲ませていたぞ。記憶が無いのは麻沸散を使っていたからじゃないか? 足じゃなくて肩にも使用したからな・・・それで意識が飛んでいたのかもな」
麻沸散、というのは簡単に言えば麻酔である。縫合手術を行ったり、患部を摘出するような手術の時だけ使用されている。
「そうでしたの・・・感謝いたしますわ。ところで審配さん。他の者はどうしたのです。」
「・・・1つずつ説明を致します。」
審配は、現状で集められるだけの情報を集めている。
まず、やはり官渡に集結した袁紹軍は崩壊していたという事。
麹義は最後まで抗戦して戦死、他の武将や書記官は降伏。かなりの数の兵が討たれ、曹操側も大いに苦戦したそうだが、降伏した将兵は寛大に扱われたという。
一部、曹操領に程近い都市は既に降伏をしているらしく、そこは袁紹の指示通りであったといえる。
問題は高幹らであるが、彼らにもきっちりと手紙は出しているし、自分から死ぬような真似はしないだろう。が、この件に関しては袁紹の考えどおりに行かず、高幹は「袁家の一員として、曹操などに降る事はできん!」と反抗。
最終的に討たれる事となるので考え違いであり、袁紹も後悔する事になる。
そして、つい先ほど入った報告に「田豊が病死した」というものがある。
この報告に袁紹は「そう。」とだけ返したが、その表情は相当に苦しそうであった。
問題はここからどうするのか、と言うことだ。
審配としては袁家復興を、と思わずにはいられないが、曹操が袁家領に食い込んで来ているし、今戻っても戦力はこちらが不利になる。
加えて北方勢力も動き出し、田豊もいない・・・となると手のうちようがない。
まだ袁紹が元気に歩き回れるほど回復しておらず(これはこれまでの激務で心身ともに疲労しているからなのだが)、田豊の事もあるからやはり無理をさせないほうがいいだろう。
華陀も「傷は深かったし、外側が治っていても内側が完全に癒えていない。あと1週間か2週間は様子を見るべきだ」と言っている。
馬なら何とかなるのでは、と思ったが馬に乗るというのは太ももに力を入れなければならない。
もし無理をすれば内側から裂けてくるぞ、と脅された事もあって袁紹も歯がゆい気持ちであった。
問題があるとすれば、自分を曹操が見逃すかどうかだ。聞いてみるとココは北海の街の宿で、いつ捜索が来るかわかったものではない。
自分はともかく、自分を助けた人々に危害が来る事を危惧しているのだが・・・不可解な事に曹操は「袁紹は死んだ」と通達を出している。
もう袁紹が勢力を盛り返すことが出来ないと見越してのこともあるし、曹操にしては珍しく、損得抜きで袁紹を見逃している。
あの決着が本気で悔いになっているらしく、曹操からすれば「これで貸し借り無しよ」とでも言う事かもしれない。
実際、袁紹に曹操から追っ手がかかることは一度も無かったりするが、そういった布告があったことを知るのはもう少し後。
そしてもう1つ。精神衛生上、とんでもなくアレなことが1つだけ。
「あぁ~らぁ、袁紹ちゃん気がついたのかぁ~しらぁ~?」
「だぁりん、今帰ったぞ!」
「!?」
いきなり部屋に入ってきた、おさげ・紐パンの筋肉隆々男(確実にセクハラ)と鬟(みずら)に白い胸当て(と言う名のビキニ)の白髪の筋骨隆々男(こちらもセクハラ体現者)の2人組。
その上、股間はもっこりぱっつん。
そう、われらが主人公貂蝉と卑弥呼である。
「な、ななっ・・・なぁぁああ!?」
そんなセクハラ上等、刑法第百七十四条すら知ったこっちゃない(当たり前)彼ら漢女の格好と言うか、その外見と言動が袁紹を思い切りたじろがせた。
「な、なんですの、この筋肉お化けは!?」
「ぬぁぁあぁああぁあんんどうぇすってぇぇえええっ!!? どぅあれが、アゴヒゲ危機一髪・キモ可愛いのっそり筋肉だるまですってぇぇええっぇ!!!?」(変なポージングをキメつつ迫ってくる貂蝉
「ええっ!? アゴヒゲとかそんな事一言も言ってない・・・!」(引きまくる袁紹
「ワシらのような純情可憐! 穢れを知らぬ清楚な漢女になんという暴言! だぁりん、例え怪我人といえ赦せぬぞ!」(悩殺ポーズをキメて袁紹を威嚇する卑弥呼
まともな感性を持ったものにとっては自決モノの光景である。
そして、袁紹は不幸にもそういった「まともな」感性を持っている人だった。
人は追い詰められたとき、覚悟をするか逃げるかを選ぶ。
袁紹が選んだのは・・・
「あぅ・・・はぅぅうあ・・・! 誰か、誰か助けてーーーーーー!!!?」
当たり前すぎるほどに逃走だった。
「れ、麗羽様ー!? 足がきっちり治ってないのに走ったら駄目ですって・・・!」
「ぐはぁぁあぁっ! 足が、太ももが「バクっ」て割れましたわぁぁっっ!?」
「ぎゃーーーー!? 血、血ぃぃぃい!!!?」

・・・なんという大惨事。

精神衛生上、あまりに宜しくないものを見せつけられた袁紹は、誤って傷を悪化させることに。
また、この一件が相当恐ろしいと言うかトラウマになったようで華陀の治療を受けつつ「筋肉怖い筋肉怖い」と、暫く悪夢に見るまでにうなされたと言う。
これを乗り越えるのに2ヶ月以上かかってしまい、それが袁紹勢力復興の道を完全に閉ざす事になっている。
だが・・・。

「ああぁぁぁ・・・筋肉が! ふ、褌と紐がぁぁあ(涙」
「殿、しっかりしてください!!」
寝ていても安息が来ない、というこの現状。
袁紹にとってはこれが一番の問題であったかもしれない。



いいのだろうか、こんな幕引きで・・・?



~~~楽屋裏~~~

なんでギャグになるかなぁ・・・あいつです(挨拶

すっげぇ情けない理由で袁家崩壊。
ですが、原作で貂蝉と卑弥呼が割と平然と受け入れられているのが凄い事だと思います。
最初に酷い目に会わされた黄巾3人組の反応が一番正常ですよ、ええ。

・・・袁紹のトラウマが1つ出来たようです。

さて、これで次回からやっとこ本編。袁紹さんたちは華陀についていくのでしょうかねぇ。
高順君と合流させてみてもいいかもしれません。華陀たちも多人数でうろつきたくないでしょうしねw
ところで、華陀は西涼から(馬超の頼み事もあって)高順を探して東へと戻ってきました。
その途中で官渡の闘いに出くわした、ってな感じでしょうか。
曹操の頭痛は・・・どうなんでしょうねぇ、原作どおりであれば逃げた?(笑





【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 異伝その3。


高順らが逝ってからの3年という月日は苦労の連続であった。
まず、呂布・陳宮・華雄・董卓・賈詡を始めとした、元董卓軍の主だった人々は閻行と共に西涼へと旅立っている。
張遼が残されたのは身重であり、公孫賛の元にいるほうが母子にとって良いだろうという閻行の判断である。
彼女たちが西涼へ向かったのにはそれなりの理由があって、まず反董卓連合の際に馬騰は不戦・・・敵対はしないと明言したほぼ唯一の勢力。
元々、董卓の勢力基盤は西のほうだし、そこならば戦力を集めやすい。呂布らにしても反董卓連合であった公孫賛の下にはいづらい。
公孫賛は「そんなこと気にしなくていいけど・・・」と言ってくれたが。
閻行から見れば、息子の(一応)婚約者である馬超に事情を説明しなければいけないし、あわよくば馬騰を動かす・・・という目論見があったりする。
閻行の相談を受けた賈詡は、自身の考えとほぼ一致する戦略を聞いて「それで行くわ!」と即断即決。
呂布達も特に反対をすることなく西涼へと向かっていった。
それから、趙雲と沙摩柯が丘力居に蹋頓の遺槍を渡し、また張燕の元へも高順達の死を伝えている。
丘力居は叔母(というよりは姉に近いが)である蹋頓と、自分達を拾ってくれた高順の死に驚き、そして怒った。
蹋頓が姉なら、高順は兄そのものであった。
乱世の習いと言えばそれで終わるかもしれないが、それでも怒りを誤魔化す事はできなかった。
この時、丘力居は趙雲に公孫賛への伝言を頼んでいる。「曹操との戦いになったらすぐに呼んで欲しい」と。
張燕も「これで上党の恩人達は皆旅立ってしまわれましたか・・・」と悲嘆し、公孫賛との紐帯を更に強めている。
皮肉にも、高順の死が三者の協力関係を更に強める結果となった。

この後、すぐに袁紹が公孫賛・張燕を降さんと北上。
「まともになった」袁紹は田豊を頭脳として攻めてきて、公孫賛ら北方連合を押し込んでいこうと攻めの一手である。
公孫賛側にも張郃・高覧・沮授が、そして趙雲らがいた。
両者は界橋で激突。兵数は少ないものの、公孫賛側は武将の質で大いに勝っていた。
「元」高順騎馬隊の突進力と、それを率いる超雲達。
趙雲は大規模であろうと、小規模であろうと率いる兵なりの戦い方が出来る。
高順もそういった戦いは苦手ではなかったし奇襲も得意としていたが、どちらかと言えば速さと力で押しつぶす事を得意としていた。
趙雲は小規模での奇襲、大規模な兵数での押しつぶしも出来て、その点で言えば高順よりも小気味よい闘いが出来る。
兵数の多さで有利と思われた袁紹だが、趙雲隊の夜襲・小規模に分けられた部隊が何十回と奇襲を仕掛けてきて、全面会戦の時も白馬義従・陥陣営の猛撃を止めきれず、得る物無く撤退。
十面埋伏も、公孫賛が勝ちに驕らず慎重に進軍したせいで1つずつ丁寧に叩かれて失敗。
袁紹も田豊も、何時の間にあれだけの部隊と将を・・・? と自分達が公孫賛を甘く見たことを痛感して鄴(ぎょう)に退いていった。
それから、公孫賛は着実に勢力・戦力を増やし鄴を攻囲。半年にも渡る戦いの後に袁紹も降伏を決意。自分の首と引き換えに将兵の助命を願って単身で公孫賛の陣までやって来た。
韓馥を殺された恨みのある張郃達は処刑を願うかと思いきや、「話を聞く」とした。
袁紹も話に応じ、その中でその韓馥が手厚く弔われ、また当初は殺されたこと自体袁紹が知らなかったことを知る。
袁紹は郭図を始めとした三謀臣の独断までは喋ったが「それを統率できない自分に非があるから」と締めくくり首を差し出そうとした。
張郃達は最初無言であったが「まずはその首を預けておく」と保留。
ここで殺しても袁紹の臣が暴走しかねないし、公孫賛が河北を統治しきった頃にもう一度斬るかどうかを決める、というのが一応の結論だった。
結果的に、韓馥殺しを主導した郭図らは処刑。袁紹は斬られずに公孫賛配下の有力武将の1人として扱われる事になる。


南進準備が整えている公孫賛は西涼と連携しつつその時を窺っていた。
公孫賛が用意した兵力は約20万。この中には張燕軍5万が含まれており、更に丘力居率いる烏丸軍14万が加わる手はずだ。
閻行も馬騰を動かす事に成功、高順を殺された事で馬超・馬休・馬鉄が発奮し、先陣を務める事になっている。
その先陣に呂布・華雄・閻行が加わり、先鋒部隊だけで3万ほど。賈詡や陳宮は馬騰の軍師の一人として軍勢を支える役に徹している。
西涼軍が動かせる兵力は10万。北、そして西の連合だけで40万を超える大軍勢。
だが、沮授はもう1つ保険をかけようと、孫策との連絡を取る事を提案している。
曹操の支援勢力の1つとなりうるし、できれば敵を増やしたくないからである。その孫策は現状、袁術からの独立を果たさんと戦力と領地を拡げている。
孫策からの提案は「自分たちが曹操の背後を襲う事はできないが、曹操の支援は絶対にしない。公孫賛とは不戦同盟を結びたい」というものだ。
まだまだ対等な間柄とは言えないし、袁術を倒さないと独立も出来ない。その後に荊州になだれ込み、公孫賛に「倒すにも骨がいる」相手だと思わせておきたい。
沮授はそれらの考えを理解した上で「それで良し」と公孫賛の許しを得て形だけの同盟を結んだ。要は曹操の後援勢力でなくなればよいだけだ。
公孫賛が開戦時期を遅らせたのはこういった事情があり、また食糧の増産にも積極的であった。
ただ、無為に過ごしていた訳ではなかったのだ。


趙雲はこの3年間で起こったことをざっと思い起こし、沙摩柯と虹黒を見た。
沙摩柯は髑髏龍の鎧と虹黒を受け継いでいる。
閻行が持ってきたときは修復はある程度されていたが、穴だらけであって使用できそうになかった。
そこで李典が軽量化、沙摩柯の体に合うように板金して苦労しながらも完成させている。
この鎧を纏い、鉄疾黎骨朶(てっしつれいこつだ)をふるって戦場を走破して敵を蹂躙していく姿はいつしか「髑髏龍の再来」だの「2人目の荒武者」と呼ばれるほどだった
もっとも、外見が変わったのは沙摩柯だけではない。
楽進は全身鎧に、現在で言うフルフェイスヘルメットのような兜を着用している。
もし高順が見ていたら「どこのSAAですか?」というような・・・なんというか、近代的な兜というか鎧の魔剣というか。
趙雲も昔は袖に蝶の羽をあしらった純白の服だったが、今は黒や薄紫を基調とし、袖に骸骨龍が描かれた服である。
彼女だけではない。李典も干禁も、張遼ですら黒。どこかに髑髏か骸骨の龍をモチーフとした何かを描いた服装。
そのせいか、趙雲の「常山の昇り龍」というかつての通り名が今や「黒髑髏の戦龍」。それがよりにもよって自軍の兵から呼ばれてしまっており、本人も少々凹み気味であったりする。
余談だが、張遼と趙雲の2人で「双龍」とも呼ばれ、公孫賛の武の両輪とも言われている。

「・・・その鎧は如何にござる。」
「ん?」
趙雲の不意の問いかけに、沙摩柯は少し間を置いてから「重い」と答えた。
「重い、ですか。」
「ああ、重いさ。この鎧と・・・今は華雄が持っているのか? 三刃槍はとても重い。」
「ほう。」
「あの槍は、朱厳と郝萌、高順の槍から作られたのだったな。」
私はその2人を知らないがな、と肩を竦める。
「あの槍は、朱厳・郝萌・高順の生き様を見つめてきた、と言って良い。干禁の持つ刀の一振りは丁原の遺した物だ。あれだって重いのだろうさ。それに」
「それに?」
「あいつはこの数年でどれだけの死を見てきたと思う。」
丁原を始めとした上党勢、公孫賛の元での対烏丸戦、張燕の晋陽攻防戦、反董卓連合、徐州戦・・・
その中で、彼は多くの配下を、仲間を、主君を喪った。この僅か数年で。
「そうやって、あれこれと何もかも自分で背負い込んで、それを発散させる事もできないまま奴は逝った。」
それに、と沙摩柯は虹黒の首を撫でた。
「?」
「全部自分で背負い込んだ馬鹿を背に乗せてきたお前だって重かっただろう。」
「・・・(ぺろっ)」
「えひゃっ」
虹黒は自分を撫でる沙摩柯の指を舐める。
沙摩柯は未だに慣れていないのか、舐められる度に変な悲鳴をあげる。
それを見てニヨニヨとしている趙雲に、バツの悪そうな沙摩柯は「ごほん」と咳払いをして誤魔化した。
「何にせよ」
「うむ、雌雄を決するのも近い。」
二人と虹黒は立ち上がり、南を見る。
そこには自分達の倒すべき敵が、曹操がいる。


この数週間後、丘力居率いる烏丸勢と合流した公孫賛は南下、官渡へと向かう。この動きに西涼軍も呼応して長安を急襲、陥落させる。
二方面に対して戦力を差し向けられない曹操は西の戦線を下げて、両軍を官渡の地にて迎え撃つ覚悟を決める。
その兵力は30万ほど。

南へ進す白馬長吏と東進する錦馬超。
両雄は官渡にて、姦雄と謳われた曹操と対峙する。



~~~更に楽屋裏~~~

もうこれ以上は書かないぞ! あいつです(挨拶
はい、このルートは袁紹さんまともです。

曹操の兵力が本編より多めなのは公孫賛の攻め込む時期が袁紹さんより遅かったせいです。
でも、兵力が増えても戦力が・・・
多分、劉備勢力も曹操と一緒にいるのではないでしょうか。
そして、作者特有中二病が発動>双龍とか髑髏の戦龍とか。

この戦いの結末は、特に考えていません。
ただ、高順とと~とんね~さんの遺骸は陳羣の計らいで上党に(骨だけになってますが)返還されている・・・くらいは考えています。
恐らく、高順が建てた丁原・朱厳じーちゃ・郝萌。そして呂布との戦いで死んだ上党兵の墓のすぐ側に、寄り添うかのように2つの墓が作られたのでしょう。









(嘘)予告。
遠く南の地で愛と勇気と情熱と勝利とアニメ化を謳い戦う華蝶仮面。
が、ただ1人孤独な戦いを強いられる彼女は(特殊な格好もあいまって)誰の理解も得られず心身ともに傷つく。
そんな時に現れたのは2人の新たな華蝶。
行け、そして戦え、華蝶仮面! 共に戦う2人の仲間と!

次回、【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 最終回。

ドキッ! 漢女(おとめ)だらけの水着大会(ポロリしか無し)
お楽しみn(拉致




前振りと繋がってもいないし・・・ 
ほんとゴメンナサイ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第70話  拠点ふぇーず。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/06/27 08:37
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第70話  拠点ふぇーず。


孫策は叔父の呉景の援護、という名目で袁術の下を脱し、己の勢力と足がかりを得るため劉繇を撃破。
これによって一応の足場(丹陽)を得る事に成功した孫策は人材の招致・発掘に励みつつも更に勢力を広げていく。
呉郡・会稽郡を始めとして各地を陥落させ、揚州を制圧。母・孫堅の時か、或いはそれ以上の領土を得ることに成功した。
ただ、電撃的に勢力を拡大したために叛乱を企てるものも多く、特に呉の太守であり、一度は降伏した許貢という男は孫策を「危険な存在だ」と朝廷に上奏。
曹操の力に頼って孫策を追い落とそうとしたのである。
これに怒った孫策は許貢を抹殺。その時に許貢の世話になっていた食客数人が曹操の下へと逃げ、後に禍根を残すこととなるが・・・。
他にも「東呉の徳王」を名乗った山賊の親玉、厳白虎(げんはくこ)が不穏分子を取り込んで孫策に反抗するも、これもすぐに鎮圧される。
ようやく足場が固まってきた、というところで何かを勘違いした袁術が「孫策の得た領土は全て妾のもの、こちらから太守を送るので従うように」という指示を送ってきた。
特に、丹陽の支配というのは微妙な線引きで、呉郡・会稽郡を陥落させたのは「孫策の兵力」だが、丹陽郡は「孫策と袁術の兵」ということになる。
丹陽郡を陥落させた後、孫策は叔父の呉景と、彼の兵力を袁術の下へ送っている。
これはおかしなことではなく、呉景は孫堅亡き後は袁術に従っており、その時点では最初から袁術配下であって、その兵力は袁術と同義。
孫策はその叔父と軍勢を「返却」した後に呉と会稽の攻略に乗り出しており、こちらは独力で陥落させた、という話だ。
また、袁術はこの時に国号を「仲」として「妾が皇帝となるのじゃ! 妾の手元には伝国の玉璽がある。すなわち、天が妾に皇帝となるべきと言うておる!」とこれまたお子様レベルの言い分で皇帝僭称を行う。
孫策の得た領地と自分の領地を合わせれば確かに大勢力だろうが・・・孫策は「んなもん従うわけ無いでしょ」とあっさり拒否。
袁術は「何故じゃー!?」と叫んでいたが、その腹心である張勲は「こうなるのは解りきってた事じゃないですか。それもわからないなんて、頭の中身沸いちゃってるんですね♪」と実も蓋もない発言をしている。
各地の勢力からは「偽皇帝など認めるわけねーよ!」とそっぽを向かれ、孫策は「偽皇帝に従うつもりないし、独立しまーす」と袁術との断交を明言。
これによって孫策は漢王朝へと形だけ近づき、正式に官位を得ることになるがそれはともかく。
袁術の本拠は淮南(わいなん)の寿春、他に廬江(ろこう)という場所だが、劉表の治める荊州にちょっかいを出してそちらにも勢力がある。
劉表からすれば追い出したい相手であるし、孫策からすれば袁術を倒して領土に組み込みたい、というところか。
どちらにせよ、孫策は袁術と断交。
孫策からすれば袁術を倒さない限りは真の意味での独立たりえないということで手加減をするつもりも無い。
両者が決着をつけるのはもうすぐの話である。

あるのだが・・・。


揚州は建業。
袁術との決戦を睨んだ孫策はここを一応の本拠地と定めていた。
何せ寿春、廬江に程近く都市の大きさもかなりのもの。現状では此処が本拠地としてうってつけである。


~~~建業城中庭~~~
「平和だ・・・」
高順は中庭に生えている木陰に座り込んでぼんやりとしていた。
別に仕事をサボっている訳ではない。
蹋頓や楽進達は警邏を行っていたり、李典は新造した投石器の調整。
高順の仕事はそろそろ対袁術戦が近いから部隊の点呼や装備の点検を行って、という程度のものだったから既に終わってしまっている。
だから、ぼんやりとしていても咎められる事はない。
そうやって一時の平和を満喫しているところで、ある少女が走って逃げてきた。
その名は孫尚香(そんしょうこう)、真名を小蓮(しゃおれん)という。
孫尚香は孫家の末姫で、孫策・孫権の妹になる。
年齢は若い・・・というかまだ子供だが、中々の武力を誇り、姉に劣らず猪突猛進なところがある。
ところが色事に関して言えば、ともすれば孫策以上に積極的な面があって「小悪魔」というのが一番しっくりくる。
よく陸遜や孫権の勉強タイムから抜け出して遊びまわっているようだが、今回も同じらしく、息せき切って走ってきた。

「あー、こ、高順だ!」
「おやおや。どうしました?」
孫尚香はその場で駆け足をしつつ、回りをキョロキョロと見回し、高順のすぐ横にある茂みに身を隠した。
彼女は高順を嫌っていない。むしろ、自分より少し年代が上の男性として懐いているし、高順もこの娘を嫌っておらず普通に接している。
よく「ラーメン食べに行こ!」と誘われ(たかられ)ているし、この娘の食べっぷりは傍から見ていて気持ち良いくらいだ。
飛び込んだ茂みからガサガサ、と音がしてそこから「高順、私がここに隠れてること言わないでね!」と聞こえてくる。
「時と場合によります。」
「ひどい! ・・・あ、来た・・・絶対言っちゃ駄目だからね!」
抗議の声に応えることなく、高順は孫尚香が今しがた走ってきた方向へと目をやった。
彼女を追うように走ってきたのは、高順も良く知る臧覇(ぞうは)であった。
はぁはぁ、と息を切らせて走ってきた彼女は高順の側まで走ってきて急ブレーキ。
「こ、高順さん。あの、小蓮様を見かけませんでしたか!?」
昔は高順お兄さん、と呼ばれたものだが、臧覇はこのところ高順を「高順さん」と呼ぶ。
「どしたの、臧覇ちゃん。」
「どしたの、じゃ無いんですよ! 小蓮様ったら、またお勉強から逃げ出したんです!」
「ほほー。また、ねぇ・・・。そんなに逃げ出す回数が多いのかい?」
「多いどころじゃなくて、毎回逃げ出そうとするみたいです・・・。孫権様だってお忙しい中で機会を作ってお教えくださるんですから」
困りました、と臧覇は本当に困っていた。
まったく、このお姫様もわがままだなぁ、と高順は茂みを見る。
どの時代でも勉強をさせてもらうのは金がかかる。こんな時代で教養があるというのはそれだけで素晴らしい事なのに。
そういえば、上党の兵も計算とか出来ない人ばっかりで丁原様も困ってたな、とふと思い出した。
「そっかー、解った。そこの茂みにいるから連行しちゃってください。」
『!!?』
高順の言葉に、臧覇は茂みの中へ押し入り、孫尚香は茂みから逃げ出そうと、同時に動いた。
「見つけましたー!」
「なんで言っちゃうのよー!?」
そりゃ言うでしょ、と高順は呟いた。
孫尚香はそれでも上手く逃げようとちょこまかと動いて臧覇を撒こうとする。
ところが毎度の事なのか臧覇も慣れた物で、ぴゅいいいっ! と指笛を吹く。
するとどこからか孫尚香の親衛隊数人が現れ、一瞬で孫尚香を捕縛。縄で縛って連行していった。
「うわーーーん! 高順の馬鹿ぁぁぁっ!」
孫尚香は吊るされたまま目の幅涙を流しつつ、高順への恨み言を叫びながら連れて行かれたのだった。
それを「はいはい」と適当に手をひらひらさせて見送る高順。
どこからあの人たちは出てきたんだろう、とか考えているが、多分突っ込んではいけないのだろう。
臧覇は「はー・・・」と溜息をついてから高順に「ご協力感謝です!」と頭を下げた。
「いやいや。・・・しかし、きっちり仕事してるんだね。」
「え? ぅ、そんな事ないですー。」
実は臧覇、孫尚香の親衛隊(見習い)の一人として働いている。
「臧覇を尚香殿の親衛隊として少し鍛えてみないか?」と周喩や黄蓋からの申し入れがあり、臧覇もそれに乗り気になったため、こういう事になっている。
だが、これは体のいい人質だということを高順達は理解している。
宮廷に近いところに置いて自分たちが裏切らないように、ということだ。
そんなことをせずとも裏切ったりとかはしないが、もしも臧覇に何かあれば高順一党は平気で反旗を翻す。
しかし、孫策や周喩もそれを解っているし、人質である事も否定は出来ないが周喩はどちらかと言えば臧覇の能力に着目している、と言うところが一番の理由だったりする。
臧覇は反董卓連合の騒ぎから、少しずつだが高順らに師事をしている。
自分の育ての親に当たる沙摩柯が武の人だし、高順一党全体に尚武の気風があるから自然に臧覇も武の道を目指す事になる。
何せ、彼女の師が凄い。当代随一と言える人々ばかりなのだ。
高順・趙雲・楽進・周倉・沙摩柯・蹋頓。今はいないが閻行や張遼、華雄にも一時的に教えを乞うている。
馬術・馬上戦闘術・剣術・槍術・拳術(五胡式格闘術)・気術・・・と、あれこれやっているが、与えられた課題は全てこなしているので本人の本気振りがわかろうというものだ。
今のところ陸戦特化だが、周倉が水上戦闘を(何故か)得意としており、そちらの知識も教わっている。
そんな人々から教わっていて、実力が付かないはずもない。実際、臧覇の戦闘力は同年代を軽く突き放すどころか桁が違うものだ。
臧覇の訓練風景などをたまたま見ていた周喩が「このまま遊ばせるのはいかにも勿体無い。尚香殿の護衛にして、孫家に忠を尽くす武将の一人に・・・」と考えるのも無理からぬことだったし、孫策もその考えを受け入れている。

「ところで」
「はい?」
臧覇は行儀良く高順の隣に正座している。
「臧覇ちゃんはお仕事行かなくて良いの?」
今日は非番ですから・・・と笑う臧覇。
そういえば、今日は親衛隊の服を着用していない。(孫権の親衛隊服は甘寧の着用するのと同じらしく小蓮の親衛隊服もそれほど変わらないものだ。
それなのに捕獲に駆り出されていたようだ。
それだけあの小さいお姫様の逃げる回数が多いと言うことか。
「孫権殿も回りも苦労するだろう。大変だなぁ・・・」と高順は笑うが、臧覇は「そんな事はありません」と返した。
高順のほうが沢山の人命を抱え込んでいるのだから、と臧覇は答える。
彼女は真面目な話を続けるのを忌避するように「あの、1つお願いがあるのですけど。」と切り出した。
「ん?」
「久しぶりにお手合わせ、願えますか?」
「・・・ふぅむ。」
高順はちょっぴり考えた。
いろいろな人に教えを乞い多くの技能を得ながら、その結果少しずつ自分自身の戦い方が解ってきた臧覇だが、彼女は高順から見てかなり厄介な使い手なのである。
彼女の戦い方は、呂布や閻行に似ている、と言えなくも無い。
ただ強力な攻撃を、ただ速く打ち込んでくる。シンプル且つ付け入る隙の無い手合いで、打ち破るとすればそれ以上に強く、速く打ち込むというものしかない。
小手先の技術では勝ちにくいというものだ。
時折体術を織り交ぜた攻撃を仕掛けてくるからそれも厄介だが、純粋に強い、と言う言葉が当てはまる。
考えた高順だが「ま、いいか。負けても良いし。」と情けない事を考えつつ「じゃあ、やろうか。」と立ち上がった。
「はいっ!」と元気良く答える臧覇は嬉しそうであった。


~~~2時間後、中庭~~~
「ぜぇ、はぁ・・・」
「はー。はぁー・・・」
「ははは、頑張れ頑張れ。」
息切れする高順と臧覇。
その二人に声援を送るのは趙雲。
彼女は何時の間にやら、ギャラリーとしてこの場所にいた。
趙雲だけではなく、孫権と、その孫権の授業から抜け出してきた孫尚香。
孫権は追いかけてきたらしいのだが、中庭での立会いに興味を持ってそのまま居座ってしまった。
他にも周倉、周喩、甘寧、黄蓋など・・・多くの人々が高順と臧覇の訓練を見に来ていたのであった。
「臧の字も大将もがんばれー!」
「あの歳でああも動くか。驚いたな・・・。」
「臧覇も大したものね。周喩が目をつけるだけあるわ。」
「ふふ。しかし、高順も大したものです。」
「そうさなぁ。臧覇の奴め、攻撃が早いだけではなく重い。教えた者共の薫陶が行き届いていると見える。」
応援やら何やらが混じっているが、それを言われている本人達に聞こえてはいない。
(ふぃぃぃ・・・また随分と腕を上げたな。)by高順
(うう、隙が無い・・・どうしよう・・・?)by臧覇
お互い決め手が無く(流石に高順も本気は出せない)、「さあ、どうする?」と悩んでいる。
それにしても強くなったものだ。
やはりこの世界は女性のほうが元からの身体能力・成長率共に高いのだろう。
男性はどちらかと言えば大器晩成なのかな・・・? と少し考えた所で、高順に隙が出来た。
その隙を見逃さなかった臧覇は槍を上段から振り下ろす構えを見せて突撃。高順も上段からの攻撃に備えて防御の型を取る。
「せああああっ!」
臧覇の雄たけびが響き「ぶつかる」と思った瞬間、振り下ろされるはずの槍は高順の足元に突き刺さった。
「足・・・!?」
足というより、足と足の間の砂地に刺さったのだが、臧覇はその反動を使って槍の柄を握ったまま棒高跳びのように高順の顔元へと飛び掛る。
過去の事だが、高順が呂布に挑んだ時も同じような事をして意表を衝いたものである。
「ちぃっ! って、ちょっ・・・!」
そのまま蹴りの一発でも来ると思ったが、来たのは臧覇の太ももと太ももの間。
しかも、何故かスパッツのようなものを履いていて、何と言うかいろいろと丸分かりである(?
『なぁっ!?』
「もがぁっ!?」
「ちぇやああああ!!!」
硬直する人々など気にもせず、臧覇はそのまま高順の頭を太ももと太もも、ついでに股間で挟み込み、柄を握った手に力を込めてフランケンシュタイナーの要領で高順を投げ飛ばそうとした。
しかし・・・槍の突き刺さり方がイマイチ悪かったのか。単純に刺した時の力が足りなかったのか。あるいは練習用で先を丸めてあるのがいけなかったのか。
込められた力に耐えられなかったのか、槍の穂先が「すぽーん!」と地面から抜けて、そのまま高順の股間へと。




めごしっ。


「くぁwせdfrgtyふじこlp;@:「」
「!?」

意味不明な叫び声をあげた高順は、天国と地獄を同時に味わい股間を押さえて轟沈。
周りにいた人々は全員「・・・」と、呆然&絶句していた。まさか、こんな訳のわからない幕引きになるとは誰も思っていなかった。
意外というか馬鹿らしい決着に孫権はこめかみを押さえて「はぁ~・・・」と溜息をつく。
今、自分達の目の前で股間を押さえて苦しんでいる高順に自分は負けたのだなあ、と思うと恥ずかしいと言うか何と言うか。
黄蓋と周喩も「はぁ・・・」と何とも言いようのない表情。
臧覇、周倉は「ごめんなさいごめんなさい!」「たいしょー!? しっかりー!」と叫んで混乱、誰も纏めようとしない。

警邏から戻ってきた蹋頓と沙摩柯がその惨状を見て、慌てて高順を抱えて医務室に駆け込むまで、高順は延々悶絶する羽目になるのであった。
・・・体調が戻るのに3日ほど要したそうだ。




その後、臧覇は蹋頓に「高順さんが(性的な意味で)使い物にならなくなったらどうするのです!」としこたま叱られ、その説教を聞いていた人々は(そっちの理由で叱るんだ・・・)と思ったとか。
高順も高順で蹋頓に「いいですか。私は女性関係には寛容ですけれど、臧覇ちゃんはやめてください。あと数年して食べ頃になってから「ぱくり」といくべきなんです! あ、でも双方の合意の元にお願いしますね?」言われ(え、問題なのは年齢なんだ・・・?)と周りが思ったのも言うまでもない。
単純に臧覇が歳若いから、でそんな事を言われる辺り信頼があるのか無いのか解らない高順である。
そもそも高順は臧覇を可愛く思っていても妹を可愛がるような気持ちであって、よこしまな考えを抱いているわけではない。
それでも発育が良く、胸の大きさならとっくに甘寧を追い越して周泰程度はある臧覇に魅力を感じないか、と言われたら・・・
あと数年したら有りかな? くらいは思うだろう。
蹋頓はそれを敏感に感じ取ったのだろうが、本人の言う通り前述のものは年齢を考えての発言だ。
それさえクリアすればいつでもヤっていいよ、というのは少しばかり感性がずれている気がしないでもない。
ただ、臧覇本人も「あぅぅう」と真っ赤になって反論もしなかったことを見れば、兄として以上に高順を慕っている気持ちはあったのかもしれない。



こんな日常を繰り返しながらも、孫家は着実に将兵を揃えて戦いの準備を進めている。
その孫家が袁術との戦いに臨むのは高順がおかしな説教を受けてから数週間後の話であった。





~~~楽屋裏~~~
臧覇ちょーき○ーものを一瞬でも思い付いた私は死ぬべきだと思うあいつです(挨拶

今回は拠点フェイズでした。
ほぼ出番のない臧覇のお話でしたねー。
歳が近いから小蓮のお友達兼護衛の一人、みたいな。
これだけ強ければ孫呉の次代の将として目をかけられてもいいかなぁ、ということでこんな設定と相成りました。
しかし、主人公・・・本当にアレですなあ(遠

そういえば、原作では袁術が荊州を牛耳っていたのですな。その辺りすっぽーんと忘れておりました。
まあ・・・いいか(ナヌゥ

さて、次回がようやく孫策vs袁術でございます。
袁術もまたあっさり負けるのでしょう。そこから先は内政とか拠点フェイズになるのかな?

それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第71話 いんたーみっそん。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/07/01 21:46
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第71話 いんたーみっそん。


「全ての準備は整ったわ。袁術を討つ!」
孫策は宣言し、およそ9万の兵を従えて、揚州・建業より東・・・袁術領地である淮南(わいなん)へと向かう。
その9万には義勇兵も混じっているから一部質が悪いということになる。
また、時間との戦いにもなるだろう、と周喩は予測しておりなるだけ素早く勝ちを拾いに行く、とも言っている。
周喩や陸遜は曹操が割り込んでくる可能性を考えており、もしそうなれば美味しいところだけを持っていかれる事を危惧しているようだ。
確かに反袁術の気風が高まっているし、漢王朝の正統を保護・掲げている曹操にとっても袁術は不要な存在である。
だからこそこの件に介入してくる事はあり得るし、介入を許せば「領地は全て漢王朝のものだ」と袁術の領地も奪われる事も、またあり得る。
それだけの余裕が今の曹操にはないのだが、ともかく速く決着を付けたいというのは偽らざる心境だった。

孫策側の武将は孫策を始めとしたほぼ全武将。
朱治や孫静などは後方の防御に当たっていて、文官もほとんどが残ったが、必要と思われる武将は全て出撃。その中には高順も含まれている。
彼らも孫策軍と共に進軍しており、一応は軍勢の一翼を担う形になっている。
その高順隊だが、趙雲などは「袁術軍が野戦を挑んでくれれば良いのだが」と思っている。
孫家に属してからの戦いは何と言うか、暇だった。攻城戦のみだったからだ。
それでも楽進や李典など、攻城でも活躍できる武将はいたが基本的に高順隊は野戦でこそ真価を発揮する。
これは「鬱憤が溜まっている」というべきだろう。本来の自分達の持ち味を生かせない闘いばかりだったから、それも仕方の無い話ではある。
袁術側は、というと盧江へと迎撃戦力を駐屯させて孫策軍を迎え撃つ構えを見せている。
袁術の本拠は寿春で、そこにも守備兵力はあるが、総大将が出撃しないのでそれほど士気は高くない。
それでもその兵数はおよそ10万強。孫策軍より多いが、それゆえに篭城をあまり考えず一気に決着をつけようという魂胆である。
袁術は「ぐぬぬぅ~、孫策めー! 助けてやった恩も忘れおってー!」と怒っていたが、孫策にしてみれば「よくもあれだけこき使ってくれたわね・・・」とこちらも怒り心頭。
結局、両者にとっては目論見どおりの形での戦になったようだ。

~~~盧江城より東に50里ほどの場所~~~
孫策軍は陣を張って野営。
ここで一度軍議を行い実際の戦場を確認、陣形・編成などを決めていく。
軍議を行う陣幕には孫家のほぼ全ての武将が揃っている。
孫策・周喩・黄蓋・孫権を始めとした最初期からの孫家の武将。
会稽、呉を手中に収めてから仕官してきた武将も多く陳武、董襲、朱桓、賀斉、呂範、徐盛、歩騭等。
官吏としてならば虞翻、厳畯、顧雍等。
どちらかと言えば武将のほうが多いのだが、それはまだまだ武働きが重視されているという事でもある。(別に官吏を軽視している訳でもないが。
この中には高順も入っていて、一応軍議の席にも出ているが、彼は自ら進んで末席に着いていた。
孫策や周喩に求められてということがあっても、自ら仕官をしてきた人々とは違ってなし崩し的に、という側面がある為、高順は常に末席を選んでいた。
別段の軍功を立てているわけでもないし、偉そうな事を言える立場でもないから・・・と高順は常に命令を受けるだけの場所にいた。
そういったところがあるせいか、高順は孫家の一部の武将に軽んじられているところがある。
軍議は周喩の一声から始まった。

「此度の戦、袁術軍の兵力は10万を超えるという。物見の報告ではもっと多いかもしれないということだが・・・対して此方の兵力は9万。義勇兵も含めての数だが将の力量ではこちらが押し、士気も高い。押し負けるということは無いだろう。」
そこに陸遜が「盧江に在る袁術軍の総大将は袁胤(えんいん)。袁術の血縁ですね~」と間延びした声で補足を入れる。
「袁胤~? ただの雑魚じゃないの・・・。袁術は?」
孫策の問いに、陸遜は「ええとぉ」と報告書をめくりながら答える。
「寿春にいるそうですよぉ~?」
「決戦の場に出てこないって・・・? はん、舐められたもんねぇ。それとも、臆病風に吹かれたかしら?」
「どちらかと言えば、この戦いの重要性をまるで認識していないという事だろう。大将軍の張勳も来ていないそうだからな。」
「成程ね・・・向こうは手下さえ繰り出しておけば何とでもなる、と考えている。・・・はっ、孫家も甘く見られたものよね。ま、すぐに後悔させてやるけど。ねえ、蓮華?(れんふぁ、孫権の真名)」
「当然です!」
孫策の言葉に孫権が応じ、黄蓋や程普など、古参の将も頷いている。 
彼女達にとってこれは孫家が袁術から完全に独立するための戦いだ。舐められている事に若干でも腹は立てている。
「孫策や孫権殿の言う通り、我々を侮った事を後悔させてやりましょう。では、出撃編成を決めるとしよう。まず先鋒だが・・・」
この言葉に、若い武将達が「俺が行く!」「いいや、私だ!」と、名乗りを上げ、その中には孫権も含まれていた。
孫権は孫家の者として前面に立つ覚悟を示すべきと考えているが、他の若い将は功名を立てたいと思っていて(そういう野望がなければ士官などしないだろう)、名を上げる絶好の機会と考えている。
孫策や周喩はこれを黙って聞いていて「さて、誰を出すべきか」と考えている。
意外な事に黄蓋も黙って聞き、見る側の一人だ。
熱くなりやすい黄蓋だが、彼女は孫家の重鎮。
虎牢関や汜水関の時のように武将が不足しているならば自分が先鋒に、と言いもするが、武将も多くなってきた事もあって「若い者どもに功績を稼ぐ場を与えなければ」と思って見守っている。
その黄蓋がふと、末席に座る高順の姿を見た。
高順は先鋒として誰が行くのか、という軍議の席でただ事の成り行きだけを見ていた。
発言する気が無いのか、それともそんな資格が無いとでも思っているのか。
(まったく、あ奴は。きっちり参加せぬか)
あれでは功績のこの字もないわ、と嘆息した。
確かにそれほど良い立場ではないかもしれないが、だからと言って発言ができないわけではないのだ。
他の場所は知らないが、孫家の武将となったのなら孫家のやり方に慣れてもらわなければ困る。
その高順は周倉のみを伴って軍議の末席にいた。
本来は趙雲や楽進などもいる筈だがあまり大勢で行っても意味は無い、ということで部隊をいつでも動かせるように外で警戒をさせている。
周倉は高順の護衛と言う名目だが、その周倉は高順の隣に座って「いいんすか、何も言わなくて?」と聞いてくる。
「良いんだよ。」
「むー、ですけどぉ。」
「俺達に発言権は無いんだよ。成り行きに任せておけばいいさね。」
「うーん・・・・・・」
周倉が更に何かを言おうとした時、黄蓋が「おい、高順!」と声をかけてきた。
「うぉえ!?」
呼ばれることを予想していなかった高順は変な声を上げた。
そのタイミングがちょうど静かになった瞬間だったので余計に目立ってしまう。
目立ちたくないから発言をしなかったのに、これでは逆効果である。
「うぉえ、ではない。お主も何ぞ言わぬか。」
「何ぞ、とか言われても・・・。」
ああもう、じれったい奴め、と黄蓋も苛々している。彼女は孫策のほうへ顔を向けてこんな事を言い出した。
「策殿、此度の戦いの先鋒には高順を推しまする!」と。
これには、多くの人々が「何ー!?」と叫んだ。
ようやく仕官した者達にとっては、孫家の将として初めての手柄の立て所。
それを特に働いていない(と思われている)ような奴に奪われるのは気に入らないのだろう。
さて、そこで叫びを上げなかった人々・・・孫策や周喩だが、高順騎馬隊を先鋒に、というのは彼女達も考えていることだった。
反董卓連合に参加している武将は皆知っているが、高順隊の攻撃能力は高い。
周泰や陸遜らは参加していないが、高順の人柄は理解しているらしく、彼の部下である趙雲や楽進が高い能力を持つ人材である事も知っている。
彼らに足りなかったのは働き所だけで、それさえ乗り越えれば他の武将にも認められるだろう、と言うことは考えている。
甘寧も渋々ではあるが高順隊の能力の高さは認めている。
それに、袁術軍は野戦を挑んでくるという情報を得ている。そうなれば突破力に優れ、防御力もある騎馬隊を使わないのは勿体無い。
「そうねぇ・・・じゃあ、高順にしましょ。」
「うわ、あっさり一言。」
本当にあっさり決めた孫策に、高順は思わず突っ込みを入れる。
「いいのか、孫策。そんなに簡単に決めて?」
周喩も苦笑しつつ聞くが、孫策は「あー、いいのいいの。」と適当である。
正直に言って、孫策から見ても配下武将の高順への扱いの酷さには閉口するものがあった。
それには自分たちが高順を重用している事が原因でもあるのだが、実際の働きが無いのに黄蓋やら周喩やらにあれこれと声をかけられて上の覚えがめでたいという嫉妬があるようだ。
悪口雑言が絶えないらしく、それだけを聞くと「女々しい奴らだ」なのだが、確かに働きも無いのに重んじられていては他の者は面白くないだろうし、高順達も気分はよくないだろう。
何より不味いのは、趙雲ら高順の配下武将の悪口はなく、その長たる高順にばかり攻撃が集中しているということだ。
高順自身も表面上は周りに心配をかけまいと平然としているが、時折酷く疲れた表情を見せることもあって相当に参っている事は孫策も知っていたし、周りの人々も何気に感づいている。
それを解消するには誰もが認めるほどの戦功を稼がせてやればいいのだが、今までは生憎、騎馬隊を活かせそうな戦いが無かった。
先方の事で考えていた事の結果も「今がそのときだ」と言う事になる。
周喩にしても仕官してきたばかりの武将にはまず経験を積ませたいと言う考えがある。
もともとの兵力を持っているものなどっほとんどいないし、いてもその数は数百程度。
そんな武将にいきなり数千を任せることなど出来ない。叩き上げの屈強な将となるなら弱さを知る戦いも必要なのだ。
高順も最初は一兵士から始めてここまで来た。下積みをしたから兵の気持ちを知っているし、数百だろうが数千だろうが数に見合った働きが出来るのだろう。
この決定に不満を持つものは多かったが、孫策が決めてしまった以上は仕方が無い。
高順にしても「んな強引な・・・」と言っていたがそれは無視された。
他の武将の配置も決められていき、最終的に。

先鋒中央に高順、先鋒右翼が孫権。先鋒左翼に韓当。
中陣に黄蓋と若手の武将多数。黄蓋は監督役というところか。
後陣、つまり本陣には孫策や周喩。押さえとして程普といったところだ。
どの陣にも孫堅四天王、つまり今の孫家の中核である程普・黄蓋・韓当を配置してあるのは、若い武将の抑え役である。
先鋒は暴走の危険性はないが、中陣はその可能性が大きいので、そこには黄蓋だけではなく周泰なども配置している。
一番暴走しやすいであろう孫策を抑える為に後方に程普と周喩。他にも陸遜・呂蒙なども押さえとして残っている。
暴走しやすいのが君主である孫策というのがちょっと笑えないかもしれないが、基本的に戦では先頭に立ちたがる性格なのでそう見えやすい。
こんな感じで部隊配置も決まり武将が陣幕を出て行く中で、程普は高順の後ろを通っていく時に肩を叩き「期待しているぞ、坊主」と声をかけた。
黄蓋も高順の背を叩いて「何、お主の戦いぶりを見れば若い連中も難しいことは言えぬであろうさ。」と彼女なりの檄を飛ばして陣幕から出て行った。
彼らと同じく四天王であった祖茂は高順隊との戦いで討たれ、その点を見れば恨まれていても仕方が無いのだが、彼らはその事で高順を嫌うつもりは無かった。
幾度も同じ戦場を駆けた仲間であり、実力があった祖茂を平然と討った実力。孫策の元に降った後でも仕事を真面目にこなしており、その辺を評価されているらしい。


高順も自分の陣に帰還して、主だった武将を集めた。
今回の戦いの概要と言うか、こういう配置になったよ・・・という説明の為だ。
先鋒の、しかも中央に配置された事を知った趙雲達は「何ですと!?」と驚き、そして喜び勇んだ。
そして同時に趙雲と楽進が「先陣を切るのは私にお任せを!」と叫んで「・・・むぅ」とにらみ合った。
「趙雲殿、たまには私に譲っていただいても罰は当たらぬと思いますが。」
「ふ、何を言うか楽進。こういう役目は譲る譲らぬの問題ではないぞ?」
「あの、2人とも・・・」
高順が仲裁しようとするが、2人は全く聞かない。
「いつも趙雲殿ばかりではないですか!」
「当然だ。この役目は私が一番向いているからな!」
「あの、ちょっと話を聞いt「高順殿(隊長)は黙っていてください!」・・・はい。」
喧々諤々。喧しく口論する二人。
うん、全然聞いてもらえない。としょんぼりした高順だが、その横に座っている蹋頓がすごく冷たい笑みというか冷たいものを纏わり付かせた雰囲気でゆらぁりと立ち上がった。
この冷気は、皆が覚えている。
高順が暗殺されかかった時に見せた、人を人と思わぬ強烈な狂気。
「えあ、ぅ・・・」
「う、くっ・・・」
「お二人とも・・・少し宜しいですか?」
蹋頓は趙雲と楽進の首根っこを掴んで微笑んだ。しかし、その笑みのなんと冷たいことか。
「高順さんが「聞いてくれないか」と言っているのですからぁ・・・静かにしましょうね・・・?」
『ハイ(がたがたぶるぶぶる)』
そのまま手を離した蹋頓はにっこりと笑って「さあ、お話の続きをどうぞ」と高順を促して自分の席に座った。
(やっぱりこの人怒らせると洒落にならないな・・・)と高順まで真っ青になるが、ごほん、と咳払いをした。
「先鋒なんだけど、これは周倉に任せる。」
この言葉に、全員の視線が周倉へと向けられる。
「・・・え? ええ!? 俺ぇっ!?」
「そ、周倉。他の人々は部隊の統率してください。」
高順にも一応考えがあって、戦いそのものはいつもと同じだが周倉を先陣に出してみたい。彼女は自分の役割を「親衛隊」と思っているようだが大規模な戦で身辺警護と言うのは、彼女の力量を考えると勿体無い。
彼女は素足で馬と同等の脚力と速力があるし、元は賊なのだが戦いぶりや訓練を見ていると「軽業師」というのがしっくりくる。
周倉の得意とする武器は二斧や山刀だが、これをもう少し太刀、といわないまでもそこそこに長く軽い武器にしてみたらどうだろう? と思って李典に武器を作成させてみた。
その結果、柄が短く刃の長いバルディッシュっぽい戦斧が二振り、内側に反った刃(グルカナイフ、或はククリ)の短刀長刀一振りずつ。
それに投擲用の小さい斧のようなものを多く作成していた。
今の周倉は賊兵というよりも強襲兵と言った方がしっくりくる。そのくせ、真正面から戦っても強い。
周倉ならば騎乗している人間の首を狙うことなど容易だし、単体で敵部隊撹乱も可能であり、タイプとしては周泰に近いのかもしれない。
もっとも、周泰のように諜報活動は不得手としているので戦闘特化と言うべきだろう。
その周倉に先陣を任せたいというのは、彼女を自部隊の切り込み隊長候補と見ていたからだった。
趙雲でも楽進でもいいのだが、彼女達はどちらかと言えば部隊統率をするべき立場に変わって来ている。
それならば趙雲達ほど統率力はないが個人武力ならばそれほど劣らない周倉に、というのが高順の考えである。
もっとも、高順自体が先頭を行きたがる・・・どちらかと言えば孫策に近い戦い方を好むので、あまり意味は無いのかもしれないが。
李典はそういうことには拘らないし、沙摩柯と蹋頓は部隊を与えられているが高順の脇を固める立場なので先鋒とかはどうでもいい。
閻柔と田豫も先頭きって戦うタイプではなく、趙雲・楽進は現在ガタブル中なので反論のしようもなし。
反対意見は何も出ず「じゃ、決定ねー。」となってしまった。
高順は「向こうの配置まではわからないが」と前置きして、この戦いに参加している袁術側の武将の名を挙げていった。
紀霊、閻象、陳紀、雷薄、陳蘭、李豊、橋蕤(きょうずい)、梁綱(りょうこう)。
この戦いに参加していない張勳、一部荊州の袁術領を守る楽就(がくしゅう)などを除けば、袁術軍の主だった武官は全て盧江に集結している事になる。
皆、それをきっちりと聞いているように見えたが周倉だけは冷や汗をダラダラと流して話半分。
自分が先鋒にされるとは思っていなかったらしく、ド緊張しているようだ。
その後もあれこれと話を続けたが、周倉はその内容を殆ど覚えておらず、その日の夜も中々寝付けなかったという。

~~~翌日~~~
早朝、孫策軍は野営陣地を引き払い盧江へと進軍。
対して盧江守備軍の長である袁胤は出撃を下知して自分は城に引きこもった。
軍勢を任された紀霊は思わず嘆息した。
総大将が出なければ、それを任された袁胤様も出ない。勝ち目が薄い戦いだな、と自分達の敗北を悟ったかのように、ぼやいた。
(孫策殿の兵は強いし、士気も高いだろう。それに比べて我が軍は・・・)
袁術は蜂蜜が好物で、それを買いあさるために民衆に重税を課している。
城の穀倉には市民が食べられないような肉や穀物が大量に納められ、中には時間が経ちすぎて腐っているものまである。
そんな贅沢をしている袁術だが、それに反して(市民は当然として)兵士も随分と貧しい暮らしだ。
将軍級であればまだしも、一部隊の隊長のような立場のものでも淮水で貝を漁ってそれで飢えを凌いでいるような情勢だ。これで士気が上がろう筈も無い。
絶望的な状況、という現実を考えると溜息くらいは許されるのではないだろうか。
しかし、それを部下の前で見せるわけには行かない。
負けが見えている状況でも、部下の為に戦わなくてはならない。
それが一軍の将である自分達の役割だ、と紀霊は自分を奮い立たせて戦場へと向かった。

孫策軍9万に袁術軍11万。(これとは別に盧江に篭るのが2万ほど。
盧江より東、30里ほどの場所で対陣する両軍。
袁術側の先鋒軍は雷薄、陳蘭。
孫策側は孫権、韓当、高順。
その先鋒の真ん中、高順隊の一番先頭に周倉がいた。

(・・・うう、お、俺なんかが先鋒・・・無理! ぜってぇ無理!)
未だに周倉は震えていた。
まさか親衛隊の自分が先陣を切るなんて、という考えがまだ頭の中にあるようだ。
黄巾の時にも万の規模での大会戦を経験しているし、賊となってからも何百何千の手下を引き連れていたものだが・・・。
敗戦に呑まれたりとか、勢力が減退したりとかばかりで、先陣切って突撃をしたりとかは無かった。
隣にいる裴元紹も「大丈夫ですかい、姐御」と聞いてくるがむっつりと無言のまま。
こりゃやばいなぁ、と裴元紹は頭を掻いた。いつもなら「姐御とか言うんじゃねぇ!」と叱責が飛んでくるはずなのに。
頭を掻きつつ後ろを振り返ると、そこには。
「あ・・・大将。」
「やあ。」
巨大な黒馬に跨り、重厚な鎧を身につけた自分達の大将。後ろに控えている筈の高順がやって来ていた。
彼は、孫家に降ってからほとんど鎧を着用していない。
そのせいか、重厚と言うか重厚すぎるというかハッタリのききすぎた鎧、巨大な体躯の虹黒の威容も合わさって孫家の若い武将は「・・・すげぇ」と呆然としていたのだがそれは別の話だ。
「何だ、周倉はまだ迷っているのか?」
普段はあんなに強気なのに、緊張しやすいんだなぁ、と高順は笑う。
それでも反応が鈍い周倉を見て「やれやれ」と高順はわざわざ虹黒から降りて周倉の隣に立った。
「周倉、ちょっといいかい?」
「あ・・・ぅ? た、たいしょー・・・」
「そんなに緊張するな。いつもどおりやれば大丈夫だ。」
「う、で、ですけども俺みたいな賊あがりが」
「卑下するなってば。ふむ・・・じゃあ、部隊を率いた事のある先輩として一言だけ、偉そうな事を言わせてもらおうか。」
「え、偉そう・・・?」
「ん。先鋒なんてもんを任されて困るのは解るけどな。皆、周倉が先鋒っていっても結局反対はしなかったろ。回りはきっちり周倉の力量を認めてるんだよ。」
「うぐっ。そ、そりゃ嬉しいんですがぁ・・・」
「認めてなければまだ早いって反対意見もあったと思うよ。だから自信を持って良い。それと、緊張させるわけじゃないけど」
「?」
「孫家の軍勢全部が周倉についていく、と思ってくれ。周倉が突撃を始めたのと同時に、孫家の軍勢が続く。」
「!?」
余計に緊張させる事を・・・と、裴元紹は頭を抱えた。
見れば、周倉の体ががくがく震えて「たいしょぉ~・・・」と情けない声で泣きそうになっている。
「周倉が勇気を見せて戦わないと孫家全体の士気が低下するんだよ。で、俺達にはそういう役割が期待されているわけ。」
「うぅー・・・。」
「で、俺も周倉に続く。趙雲さんも、楽進も、他の皆もだ。せっかく回ってきた舞台なんだ。今まで賊上がりだとか、役に立たない騎馬隊だとか言われていたんだぞ?」
「・・・。」
言外に「見返してやろうよ」と言われている事を、周倉はすぐに気付いた。
「はは、それに付き合わされる敵兵は溜まったもんじゃないかもなあ。」
高順は最後に握り拳で周倉の胸を「どん」と叩いて「絶対に死ぬんじゃないぞ、元紹も、他の皆も。こんな所で捨てていい命じゃないんだから」と笑みを見せてから虹黒に騎乗。周倉隊のすぐ後ろに位置する自分の部隊へと下がって行った。
去っていく高順を見送り、少ししてから裴元紹はもう一度周倉の様子を窺うように「姐御ぉ。」と言った。
「・・・うっせ。姐御ゆーな。」
「おっ?」
周倉は一度、両手で自分の顔を「ぱぁんっ」と張った。
「大将があそこまで言ってくれてんだ・・・ここで気張らにゃ、大将の顔に泥つけちまわぁ。」
彼女なりに気合を入れたのだろう。周倉は戦斧を構えて袁術軍を睨む。
「いいかてめぇら。一番首も一番槍も俺達がかっさらうぜ。手柄ぁたててみせろや!!」
『姐御っ!!』
「言うなってんだろーーー!?」


~~~孫策軍中陣~~~
馬上の人となった黄蓋は先鋒中央の高順隊の動きを見ていた。
あの黒の鎧、黒の巨馬。
かなり遠くから見ても相当に目立つ高順の姿を見て、黄蓋は頼もしげに笑う。
最初は味方、次は敵、そして今は共に戦う仲間。最初に出会ったときは率いる数も少ない客将で、敵として出あった時は悩まされた。
それが今や仲間として同じ戦場に経つ。
人の縁と言うのは本当にどうなるか解らぬものよ、というのが偽り無い気持ちである。
そんな黄蓋の様子を見ていたのは配下として付けられた若い武将の一人、徐盛。彼は「あいつ、役に立つんですか?」と胡散臭そうな目で高順隊を見やった。
「ん? ああ、お主は知らなんだな。まあ、見ておれば解る。」
「はぁ・・・。」
なんとなく納得行かなさそうに曖昧に返事をする徐盛だが、他の若い武将も同じようなものである。
だが、黄蓋は楽しそうだ。
自分たちが散々に悩まされた虎牢関と汜水関での高順との戦い。自分たちが受けたあの奇襲、そして真正面からの突撃戦。
それを仲間として見れるということが、黄蓋にとっては嬉しいものであった。



両軍が対峙、睨み合って数十分。孫策の命令で、紀霊の命令で、孫・袁両軍の銅鑼の音が戦場に響く。
銅鑼の鳴り響く音を皮切りに、両軍先鋒部隊が突撃を開始した。




~~~楽屋裏~~~
暑いわあああああああああああっ! あいつです(挨拶
こうも蒸し暑いと嫌になっていますね。人生が(何

本格的な戦いは次回になります。今回はその前のお話しと言うことで。
で、高順もある程度は嫌がらせを受けている、というのは仕方のないことだと思います。
降伏同然なのに上層部からはアレコレとお声がかかれば、周りの武将は面白くないと思いますし・・・。


紀霊さんは自軍の状況を嘆いておりました。
一応、史実でも袁術軍の兵士は貝とか漁ってたというお話が残っていたりしますね。
どんだけ搾取していたのか・・・

それと、周倉でもぇろすーなお話を考えようとしたあいつはド外道です。


さて、周倉は生き残れるのか、それ以前に高順達は勝てるのか。


いや、勝てるって言っちゃってるんですけどね。

ではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第72話 盧江攻防戦。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2011/04/06 19:43
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第72話 盧江攻防戦。


銅鑼の音を聞いた周倉は斧を構える。
そして、一度だけ深呼吸をして、腹の底から声を出して叫ぶ。
「いくぞ、てめぇらっ! 高順隊の力ぁ、見せてやれやっ!」
周倉の檄に、兵は『姐御! 姐御!! 姐御!!!』と叫んで士気を高揚させる。
「何度言わせりゃあ気が済むんだよっ! 姐御って言うんじゃねえええっっ!」
周倉は怒鳴りながらも袁術軍に向かって走り出した。
彼女の走行速度は人間の比ではない。馬と同等である。
その証拠に周りの兵の一部は馬に騎乗しているが、周倉はその馬をあっさり追い越せるし、先頭を走る周倉に誰も追いつけていない。

先頭部隊が駆けて行くのを見ていた高順は、自分を乗せている虹黒の首を2回ほど撫でて「いけるか?」と問う。
「ぶるるっ!」
『ふん、当然でしょ。私を誰だと思っているのよ。・・・べっ、別に高順の為に働くわけじゃないんだから!! 誤解しないでよね!』
「・・・。」
「・・・。」
「ひひんっ。」
「・・・。行こうか、虹黒。」
「な、なんと冷たい。突っ込みも無しとは!?」
隣で妙な事を呟いた趙雲を完全に無視して高順は虹黒を駆けさせようとする。
「いや、高順殿はどちらかと言えば(規制)に突っ込むほうが得意でしたな。むしろ挿入「ぽこっ!」痛っ!?」
「おかしな事を言わないように! つうか自分の部隊の統率はどうしたんですよ!?」
「おお・・・やっと突込みが!」
趙雲は素でやっているのか場を賑わせようとしてふざけているのか、そこがどうにも掴めない。
どっちでやっていようと問題発言でしかないし、すぐ傍で聞いていた蹋頓もくすくすと笑っている。
なんで戦を目の前にこんな事をせにゃならんのか、と高順はげんなりしてしまうが、今度は高順から去ろうとする趙雲に声をかけた。
「趙雲さん。」
「む?」
呼ばれた張雲は振り返る。
「勝ちに行きますよ。」
彼の言葉に趙雲は「当然ですな。」と笑って今度こそ下がっていった。
楽進と李典はと言うと、きっちり部隊を統率して真面目に待機している。趙雲は部隊の展開を終えてから、からかいに来たようだ。
変なところで仕事が速いというのが何とも。
ともかく、周倉が行動を開始した。自分達も行かなければ。
高順は虹黒の背を「ぽむぽむ」と軽く叩く。
応じるかのように虹黒は高く嘶(いなな)き、3・4歩軽く足踏みをするように歩き、少しずつ速度を上げていく。
騎馬隊は暫くそれを見つめた後、一斉に雄叫びを上げた。
趙雲、楽進、李典、蹋頓、沙摩柯、閻柔、田豫。そして5千からなる高順騎馬隊。
今まで溜まり続けていた物を吐き出すかのような猛りだ。
「行くぞ! 高順に続け!!」
黎骨朶を構え馬を駆けさせた沙摩柯の言葉と同時に、ついに騎馬隊が動き出す。
「陥」の字が大きく描かれた新造の旗をたなびかせ、大地を蹴立てる馬蹄の音を響かせて、高順隊は全軍で突撃を開始した。
同じく動き出す趙雲だが、彼女は先に駆けて行った高順の姿を目で追っていた。ああやって駆け出せば、高順は勝利にのみ向かって進んでいく。
大局的な戦いでは負け続けの自分達だが、今回は絶対に勝てる。趙雲には、そんな確信があった。

高順隊が全軍突撃したのを見て、両翼の孫権・韓当部隊も前進。
敵真正面を高順隊に任せて、自分達は袁術軍前衛の両翼を抑えようと少しだけ左右に広がりながら進んでいく。
孫権は「高順隊であれば5千で1万の働きをするわ」と見越しており、彼らが負けることなどありえないと考えていた。




袁術軍前衛部隊の武将は陳蘭と雷薄という男であったが、自分達からは突撃をせずに弓矢で迎撃をして迎え撃つやり方だった。
弓矢でやることと言えば基本は点ではなく面を撃つ。つまり乱射しまくることなのだが・・・一番最初に袁術軍が見たのはたった一人で、しかも徒歩で向かってくる周倉。
高順も周倉もそれを読んでやったわけではなかったのだが、これが功を奏した。
前線の弓兵は、周倉一人に向かって矢を射かけ始めた。周倉が前に出ることで袁術側からの射線が狭まったのだ。
当然、周倉の後に続く兵に矢で射られて倒れる者もいたが、その頃には周倉が袁術軍と交戦している。
「しゃおらぁっ!」
「げぅっ」
周倉は自分に向かってきた敵兵の目の前で飛び、その首筋を斬った。
悲鳴を上げ鮮血を撒いて倒れていく兵士の肩を蹴り飛ばし、軍勢の只中へと踊りこんだ周倉は目に付いた者を片っ端から斬りまくる。
「姐御に続けっ!」
周倉が暴れまわって弓兵が混乱している隙を付いて、先駆けた高順前衛部隊が槍を入れる。
500程度の騎・歩混成部隊の突撃に、一部の袁術兵が浮き足立った。
部隊はともかく、周倉の猛進を止めることができない。
走り周り飛び跳ね、一定の場所で止まらずに常に別の敵を探して戦場を駆け、斧を振るっていく。
一部の兵が、その首を取ろうと駆け寄るが、それを周倉は一喝。
「首なんざ置き捨てにしとけ! どーせ持ってくならそこそこ位の高そうな奴1つに絞れ! 雑魚首なんざ武勲狙いのクソ共にくれてやりなぁ!」
10も20も首もってりゃ動けなくなるだろうが、と言い捨てて更に暴れ回り、兵も思い直して周倉の後に続いていく。
そして黒馬に跨った黒鎧の男と、それに付き従う騎馬軍団が袁術軍前衛へと攻撃を開始。
周倉が撹乱していた中へ、高順を先頭とした騎馬隊が一気に乗り入れていく。
袁術軍の中には反董卓連合に参加していた兵も多く、孫策軍や曹操軍を押し返した高順隊を覚えているものもまた多かった。
あんなに目立つ格好と目立つ馬を覚えていないという方がおかしい話ではあるが。
李典隊は少しだけ後方に下がって矢を放ち援護に徹しているが、高順・趙雲・楽進はいずれも部隊の先頭に立って戦っている。
その強さは兵士などで敵うはずもなく、一方的な展開になりつつあった。
兵がそちらに集中して集まったところに、孫権・韓当の部隊が横合いから突撃を開始した事もあって袁術軍前衛は早期に崩れ始めていた。

「ふん、脆いな。」
自分に向かってきた兵を殴り飛ばした楽進は、密集陣形を取った敵兵に向かって気弾を叩き込む。
それだけで崩れ、抗戦意思を失う袁術の兵を見た楽進は「数が多いだけの烏合の衆だな」と考えている。
徐州の陶謙も弱かったが、今回もまた弱い。
それまでにぶつかってきた相手が強すぎただけ、と言うこともあるがこの弱さはまるで手ごたえが無かった。
ふと見ると、高順が槍を振るう度に何人もの袁術兵が吹き飛んでいく。趙雲も同じく、あっさりと敵軍を蹴散らす。
蹋頓や沙摩柯もこれまでの鬱憤を晴らしているようにしか見えないほどの暴れっぷりであった。
特に冷たい笑顔で敵兵を倒して・・・いや、もう虐殺に近い戦い方をする蹋頓の姿は少し怖い。
あれが彼女の本来の戦い方なのだろうか? と思ってしまう。
もう少し後の事だが、雷薄という武将を追い詰めて命乞いをされた蹋頓は「貴方の首、そこそこ価値がありそうですね・・・?」と笑顔で斬り捨てている。
この話を知った高順は、「命乞いしてるのに斬っちゃ駄目ですよ?」とやんわりと注意しており、蹋頓も素直に謝っている。
蹋頓はこの事について「生かして登用しても邪魔になる気がしたのですよねぇ・・・」と後々に語ったそうだが、ある意味大正解であった。


袁術軍本陣では紀霊が前衛部隊の苦戦に顔を顰めていた。
士気が低ければ兵も飢えて本来の実力が出せない、とは思っていたがまさかここまで。
紀霊は指揮の低さも兵の飢えも、兵数の多さでなんとか埋められると考えていた。
その為にこそ前衛部隊に兵数を一番多く配置したというのに。
それに、あの陥陣営・・・高順部隊がいると言うことが信じられなかった。高順が孫家に保護を求めたのか、或いは孫家がどこかから連れてきたのか。
自分達を苦しめた武将を迎え入れるとは・・・孫策殿も器が大きいものよ、と紀霊は感心し、そして羨ましく思った。
自分の主ももう少し見識と言うか常識があればなあ、という気持ちである。
高順隊の動きに合わせて、紀霊は中衛部隊も前線へと押し上げた。
孫権・韓当の部隊も無視できないし、此方よりも将兵の質が高い。
自分たちが対峙している前衛部隊は多くても3万といったところだろうが、此方はそれに倍以上の兵を叩きつけなくてはいけないとは、と紀霊は嘆息した。


~~~孫策軍、中陣にて~~~
「・・・。」
「どうした、徐盛。まさか「あそこまでのモノとは」とか考えておるのか?」
「はっ・・・その。」
高順隊の突撃を見て呆然としていた徐盛をからかうかのような黄蓋の物言い。
此処からでは解らないが、他の陣にいる「今まで高順を馬鹿にしていた」人々も多少は驚いたのではないだろうか。
黄蓋はニヤニヤして周りの反応を窺っている。
彼女は高順隊の突撃のみ見ていたわけではなく、孫権と韓当が混乱した敵前衛を上手く横から突いた事もきっちりと見ている。
最初こそ高順隊への圧力が大きいと思われたが、あっさりと崩れたせいでそれもなかったように見受けられる。
袁術軍が弱すぎて勝負になっていないということのほうが要因としては大きいが、それでも向こうは中衛部隊を繰り出しており数の差では大きく不利だろう。
「しかし、ただの突撃ですよ? あの勢いは確かに凄まじいと感じましたが・・・何故あれほどの突破力を」
あの無茶苦茶な突破力は一体、と徐盛はまだ信じられないようだ。
黄蓋は(おそらく、武将の動きに兵が付いて行くからであろうな)と見ている。
自分勝手に動いているように見えるが、高順や趙雲という部隊の統率者の動きを見て、それに追従しているのだ。
高順が矢を撃つ方向に同じように矢を撃ち、出鱈目な場所へは絶対に撃たない。
そこらへんを見極めておきながら、黄蓋は答えを教えない。
「そんなものをワシが知るものかよ。知りたければ自分で聞きに行くがよい。さて、向こうの中衛も動き出したのぉ。我々も動くとするかい。・・・徐盛、いつまで呆けておる!」
「は、ははっ! 申し訳ありません!」
徐盛は慌ててその場を離れて自分の部隊へと走っていった。
徐盛に限らず、新規で採用された武将は腕が良ければ統率力もそれなりにある。教えなくとも自分で気付くだろうし、戦の機微を口であれこれ言っても効果は薄いと思っている。
経験が足りぬだけであれらも何れは良き将となりおるわ、と黄蓋は見ているが・・・気になるのは、どうにも他国者や降伏した者、武勲を挙げていないものを露骨に見下す部分がある。
特と虞翻という文官は口汚く高順を罵り、孫策に「あのような男を生かして置くのは為にならない」と処刑まで具申して高順をいびり倒している。
各陣営を渡り歩き、その都度その陣営が崩壊していて信用ならぬし縁起が悪い、というのが虞翻の言い分だ。
高順はこの虞翻に面と向かって罵りを受けており、それを知った趙雲や蹋頓が報復を行おうとしたが、それは罵られた当人である高順が止めている。
とは言うものの、罵っている本人が大した働きをしていないので虚しいだけだ。

それと、これは全く別の話になるが、徐盛らが周泰の下に付けられた時も不満を口にして従おうとしなかった事がある。
周泰は武将と言うよりも密偵方のイメージが強く、実際にその通りなのだが個人的武勇も統率力も人並み以上。
これには孫権と孫策が宴席を設けて、周泰の働きがあるからこそ自分達は戦場の事だけを考えていればよい、と諸将の目の前で周泰の功績を称えている。
情報収集や輜重と言う裏方を馬鹿にするな、と言い聞かせたのである。
更に酔っ払った孫権は周泰の体に残る傷のいくつかを(周泰が嫌がるのも無視して)諸将に見せて「この傷のすべてが私を守ろうとしてくれた時に付いた傷だ!」と言っている。(流石に服をはだけさせる真似はしなかったが。
悪乗りをする奴はいるもので「それくらいの傷ならば俺だって!」と言いながら体の傷を誇示する・・・

どきっ☆ 汗臭い男達の体の見せ合いっこ大会(ボロリ有り)

になってしまって周泰や呂蒙など、男性に免疫のない女性武将の阿鼻叫喚つうか地獄絵図状態になってしまっている。
そんな中、黄蓋が「高順の胸の傷や楽進はどうなる?」と言って「何で黄蓋殿が高順の胸の傷を知っているのだろう?」という話題になりかかったが・・・どうでも良い話である。

閑話休題。


袁術軍中陣が出張って来た頃に、高順隊は一度陣形を整えるために下がり始めた。
孫権・韓当の部隊はほとんど被害は無いが、高順隊に倣う形で一度後退。
袁術側の前・中隊が一体化して攻めて来るのを、こちらも黄蓋率いる中衛と連携して迎え撃つ。
尤も、前衛の将軍であった陳蘭は孫権隊に属していた太史慈に、雷薄は蹋頓に。また多くの兵が死傷、逃亡している。
この後も両軍の前・中衛部隊が押し合っていたが将兵の質に勝る孫策軍が終始圧倒。その中で中衛部隊の武将である陳紀が孫権隊に属していた甘寧に討たれている。
日が沈んだので両軍共に軍を退いたが、この日だけで袁術側の死傷者は万に近く、孫策側は千数百ほど。負傷者を含めればもっと多かっただろうがまだまだ元気な者が多い。
まずは孫策の勝利と言って良い結果に終わった。
これ以降数日に渡って両軍は何度も衝突。
時には紀霊自らが夜襲部隊を率いて攻め込んでくることもあったが、常に細作を放ち続けていた孫権・高順隊によって完全に阻まれて被害を大きくしただけ。
この夜襲時に紀霊は趙雲と再び対戦し、今回も何合と打ち合ったが敵わずに撤退している。
連日の敗北で士気が低下する袁術側だが、これに加えて「食料が無い」という弱点を抱えていた。
紀霊は袁胤に食料の手配を求める使者を送ったが返事も来ない。
待っていても食料は来ず、かといって前面の孫策軍と戦わないわけにも行かない。
兵は毎日のように逃亡し、或いは孫策側に降っていき、更に食料も底を尽いた。紀霊は自分の食べる分を減らして兵士に回していたが、その程度では焼け石に水だ。、
10万を超えた兵も半数を切り食料も無い以上、紀霊率いる袁術軍は盧江に撤退する意外に道は無かった。
俺に出来る事は何も無いのか・・・と意気消沈して退く紀霊だったが、この時点で盧江を守っている筈の袁胤は勝手に寿春まで撤退していた。
理由は簡単、紀霊の送った使者からあれこれと事情を聞いた袁胤は「紀霊ですら勝てないのに私がどうにかできるわけが無い」とすぐに兵を纏めて逃げていったのである。
ご丁寧に城内に蓄えてあった僅かばかりの食糧も全て持ち去って。
城に入った後にそれを知った紀霊は「我々はまだ、戦っているのだぞ・・・? それを、こうもあっさり・・・」とその場で膝から崩れ落ちたという。
まだ兵もいる、盧江の民もいる。それなのに、この盧江を任された責任者が彼らの食料まで奪って逃げる。
動く気力も失った紀霊の傍にいた李豊、橋蕤らは遠慮がちに「紀霊殿、降伏致しましょう・・・」「もう、勝ち目は・・・」と語りかけてきた。
「我々の首を献上すれば、孫策殿も兵を殺すような真似は致しますまい。」と、これは閻象。
紀霊は振り返り、生き残っていた武将を見回して「・・・うむ。」と頷いた。


彼らはその日のうちに孫策の陣まで赴き「自分達の首を差し出すので、兵と官民の降伏を認めていただきたい」という意思を伝えた。
孫策は降伏を受け入れたが彼らの命を取るつもりはなく、また周喩や趙雲の命乞いもあって「降伏してきた将兵全て」登用、希望があれば帰農も認めることにした。
ただし大きな問題があって、彼らの食料と盧江の民の分の食料を孫策側で手配しなければいけないという事だ。
このために後方から大量の糧食を後方から運搬。けっこうな時間を浪費するが、このお陰で「袁術の圧制から助けてくれる解放者」という認識を民に与えることが出来たので不利になる、ということは然程無い。
袁胤の行動は孫策軍を一時的に足止めすることに成功し、最初から低い袁術の声望を更に落とした、と言う事かもしれない。
これが曹操であれば僅かな時間で戦力を出来る限り建て直すだろうが、何せ袁術である。
折角得られた時間を何1つ有効活用できないまま、寿春攻防戦へと移っていく。







~~~楽屋裏~~~

虞翻の狭量さは凄いですよねあいつです(挨拶

虞翻という人は内政とか医術(と、何故か占い)に長けて有能ではあると思うのですが・・・
自分の気に入らない人は徹底的にこき下ろす・・・という困った性癖(ぇ?)を持っています。
誰かに似てるなぁ、と思って考えたら、曹操の息子の曹丕にそっくりです。
曹丕は「自分の気に入った人とは兄弟同然に付き合うが、嫌いな人や憎しみを抱いた人は忘れなかった」と言う人・・・
嫌いな人には無茶苦茶こき下ろしてますし、主君すら軽んじる虞翻。
曹丕の史実での干禁への仕打ち。
そら狭量だわな・・・



今回、生き残った袁軍武将は紀霊・李豊・橋蕤・閻象・梁綱です。
死んだ奴らは個人的にあまり好きではない連中・・・w
紀霊もですが閻象も好きだったりします。結構な硬骨漢だと思います。

今回少し短かったかも(投稿してから気づいた
後で何か追加しようかな?


で、周倉のぇろすですが・・・

あ り ま せ ん か ら。(本当に


・・・と言っても誰も信じてくれそうに無い、何故だろうか・・・。



さて、今回はこの辺で。次回お会いいたしましょう。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第73話 寿春攻略戦。
Name: あいつ◆16758da4 ID:c76520e9
Date: 2010/07/12 19:19
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第73話 寿春攻略戦。



廬江の守りを固める兵を置き、孫策軍は廬江の北に位置する寿春へと進軍。
間に数週間の日時が挟まってしまったが、孫策側からすれば兵を休める小休止のようなものだったかもしれない。
曹操が介入してくるまでの時間との戦いではあったが、どうも曹操はこの件に横入りしてくるつもりは無いらしい。
それならそれで好都合。孫策軍は民に食糧を配給して後のための支配体制を築きつつ、兵を休ませ出撃の時を待った。
周喩と陸遜は紀霊・閻象といった袁術の元将軍である彼ら助言を求め、寿春の守備の弱い部分や他から援軍が来るかどうか等、あれこれと聞いている。
結果、荊州にいる楽就は援軍として来ることはないと判断した。援軍を送れば荊州全土を取り戻そうと劉表が出張ってくるからだ。
寿春の将は張勲、楊奉(ようほう)、韓暹(かんせん)、楊弘、韓胤(かんいん)、廬江から逃げ戻った袁胤しかいない。
袁胤と共に引き上げた兵2万と寿春に在る兵が合わされば5・6万くらいにはなるだろうし、それで篭城をされればそれなりに厄介ではある。
孫策軍の兵力は投降した袁術軍の兵も合わせて20万以上にもなるが、今はそれを維持し続けるだけの物資は無い。
孫策や周喩らの話し合いの結果、紀霊らが「これらなら戦力になる」という兵を3万ほど選んで編入、残りは守備に回す事にした。
相手が袁術であるし、率いる武将そのものも少ないからこれで充分といえる。
その食料購入とか運搬に高順は一枚噛んで・・・いや、噛まされている。
「ねぇ、高順~。ちょっと力を貸してほしいんだけどな~・・・」と孫策のおねだり(?)で降伏した袁術兵と廬江の民に与える食料の一部を賄う羽目になっている。
高順から見ても袁術兵の飢えた姿は同情してしまったし、廬江の民が苦しんでいる現状も理解していて「少しでも力になれるのであれば」と快く応じて資金を提供している。
袁胤は倉にあった食料だけでなく民衆からも食料を徴収したらしく、民衆は飢えて孫策に「食料を恵んで欲しい」という嘆願さえしている。
そういった経緯もあって、食料を配給した孫策は大いに声望を高めたが反面、協力した高順の名前が出ることはほとんどなく声望に繋がるような事は何も無い。
だが「腹を空かせた女子供が道端で座り込んでいる事はなくなったから」というところで満足して気にも留めない態度は、高順の支援を知る人々には案外に好印象だった。



結果、孫策軍の寿春に対して向ける兵力は13万。士気も高く負ける要素など何1つ無い状況であった。



夥しい数の人が北へ向かって進軍する。
孫策軍は基本的に馬が少ない。主君である孫策や主要武将はともかく、兵は基本的に徒歩だ。
そんな中、ほとんど徒歩の兵がいない高順隊は異質な存在であった。
かっぽかっぽと馬蹄が土を踏み鳴らす音を聞きながら、高順は虹黒の背中でぽんやりとして「はぁ・・・」と溜息をついた。
「油断のし過ぎやでぇ、高順兄さん。」
「おっ・・・? あ、李典か。」
「「李典か」ちゃうでー。」
高順に話しかけてきたのは李典だ。彼女も騎乗しており、馬が歩く度にその見事且つ豊満な乳房がたぷたぷ揺れる。
楽進は鎧を着込んでいてわからないが、高順隊の女性陣は全員が揺れ・・・まあ、どうでもいい。
「で、どうかしたの?」
「せやからなァ。油断しすぎちゃうか?」
「油断ねぇ・・・次はきっと攻城戦だろうな、と思うとね。」
「うちらの出番無いってことかいな?」
「そゆこと。李典と楽進、あと趙雲さんは出番あるだろうけど・・・俺には欠片も見せ場が無いだろうねー。」
騎馬隊は攻城とか出来ないしね、と付け加える。
「なっさけないなー。高順兄さんやったら城内戦でも普通にいけるやろ?」
「得物がこれじゃなければね・・・」
李典の文句を聞いた高順は三刃槍を見つめる。
城外ならともかく城内で振り回すには長すぎる。剣や刀のほうがいいが・・・昔はその系統のほうが得意だったが今は長柄で戦うほうが得意となってしまっている。
それなら格闘戦を得意とする楽進、青釭の長刀がある趙雲、斧での近距離戦闘に長じている周倉のほうがよほど役に立つ。
李典は攻城も得意としてるし・・・と見てみると、自分が一番やることが無い。
廬江は野戦があったからともかく、それまでも攻城が続いてやる事がなくて暇であった。
今回も戦力差を考えれば袁術は篭城を選ぶ。つまり、自分には仕事が無い。それを考えて「はぁ」と溜息をついてしまったのである。
李典も高順の悩みには気付いていて「まあ、そんなに落ち込まんでもええがな」と馬を寄せてきた。
「なんでさ?」
「そら、生き残る可能性は高ぅなるし兵も死なずに済む。それにな、もしもの時のために休むんも指揮官の努めや。」
実は、高順は廬江でほとんど休みを取れていない。廬江で食料の手配に関係していた事もあるが、けっこうな激務で休む暇も無かった。
武官なのになんで内政関連の仕事をさせられているのか良く解らないし、こういう裏方で頑張ったところで見ている人など殆どいない。
そんな姿を見て、李典も心配しているのだろう。
それに、と李典はにんまりと笑う。
「袁術倒したら、暫くは大きな戦もおこらんやろーし・・・にひひっ。えろえろ・・・じゃない、色々とお楽しみあるんちゃう?」
「ぶっ」
なにがえろえろですよ、と李典を頭を槍の柄で「ぽすっ」と小突く高順。
「えー、別にえーやんかぁ。うちに限らず皆ご無沙汰やしー。」
「よーし、そっから先を言おうものなら」
「え!? まさか、行軍中の何万もの兵の前でうちを(ごすっ)痛ぁっ!!」
「やめなさい、つーてんでしょ。」
「あうぅう。ほんまいけずやぁ~・・・」
少し強く叩かれた頭を摩って李典はぶつくさと文句を垂れる。
彼らの後ろで話を聞いていた蹋頓も馬を進めてきて話に参加。
「あ、蹋頓はん。」
「楽しそうなお話でしたね。」
全然楽しくないですよ! という高順の抗議を無視して蹋頓は「しかし、兵の目の前で、ですか・・・」と考え込んでいる。
「・・・。あの、とうt「ふふ、それもいいかも・・・でも、やっぱり閨が一番です♪」「せやなぁ♪」・・・」
お願いですから話を聞いてください。

高順の苦悩を発散させるために仕掛けた他愛も無い話だったが、余計に疲れさせた結果に終わり行軍は続いていく。


その頃、寿春では。
「七乃! どどどどどうするのじゃー!?」
「もうこうなったらどうしようもないですよー。 そんなことも解らないなんてさすが袁術様っ☆」
袁術と張勲の意味不明な会議が行われていた。
これに対して袁術の秘書官である楊弘は「やれやれ」と頭を振っている。
正直言って楊弘にも打開策は浮かばない。
袁胤が食料を奪って逃げて来たと言うし、孫策軍の兵力は10万を優に超える。
此方の兵力は5~6万程度。篭城をするにしても孫策相手では分が悪すぎる。
篭城と言うものは他から援軍の当てがあるか、篭るだけで守りきれる状況で行うべきものだ。
今の袁術にはその両方が無い。
一番良い策は無条件で降伏することなのだが・・・。
諦めて降伏いたしましょう、と進言してみたものの「そんなことができるものか! 目をかけてやったというのに孫策めー!」
と、勘違いしたままで取り付く島もない。
このままでは一同皆殺しになるのは避けられない。
何せ袁術は目をかけるといいつつ孫策を無茶苦茶こき使っていたのだ。そんな扱いに感謝しろというのがおかしい。
それに袁術は皇帝を自称してしまっている。これでは形式的とは言え漢王朝に従っている諸侯に救援を頼むことは出来ない。
そして、袁術の周りを囲む勢力がまさに「漢王朝側」の諸侯。
(・・・打開策が何1つ見つからないとは)
楊弘としては頭を抱えるような状況だ。
袁術の悪政を恨む民、その悪政を諌言できる立場の張勲はノリノリで袁術を駄目な娘に育てて・・・。
それでもまともな人々は袁術に少しでも主君らしくなってもらおうと苦言を呈したりもしたのだが。
「うるさい! 妾のやりように口出しするなー!」
「そうです、袁術様は手探りで色々と試そうとなさっているんです! 結果がついてくるかどうかはともかく!」
・・・と、こんな流れで台無しにされることばかり。
張勲は決して無能ではないのだが生来の腹黒さと性格の悪さが袁術に感染ってしまっている。
民も将兵も、そして袁術様本人も哀れだ。と楊弘は何度目になるか解らぬ溜息をついた。
すでに諦め顔の楊弘だが、張勲はそれを見て心中でぺろりと舌を出していた。

寿春より東の地で、孫策は陣を敷設。袁術との対決に備えている。対決と言っても打って出る様子は無いので野戦は無いようだ。
前回と同じく軍議に出ている高順だが今回ばかりは出番は無いな、とやはり末席で気楽に構えていた。
いつも通り周喩や陸遜、呂蒙が策を提示しつつ諸将の意見を聞き最後に孫策が決断をする、というパターンの軍議。
黄蓋や程普が時折発言する事があれば若い武将が積極的に意見を、と言うことも在る。
高順は自分の立場を考えてできるだけ口を出さないようにしていたし、そもそも出す必要が無い。
周喩という軍師がいるのだから、出したところで意味も無いと思っているのだ。
なので、周喩に「では高順。お前の意見を聞かせてもらえるか?」と言われた時、高順は一瞬固まった。
諸将も「どうしたんだ?」と言いたそうな怪訝な表情。
「・・・はい? 俺ですか?」
「高順はお前しかいないだろう。」
何を言っているんだ、と言いたげな周喩の表情を見て「・・・えーと」と言い淀む。
「何だ、「自分には関係ないから」と聞き逃していた訳ではあるまい。」
まずい、ばれてる・・・いやいや。
「えー、今回は袁術は篭城を選ぶと思うのですが。」
「ああ。そうだろう」
「じゃあ、俺達の出番は無いんじゃないですか? 今までだってそうだったでしょうし。」
「うむ、そうだな・・・だが、今まではお前たちがいなくても問題が無かったから、と思ってくれないか? 」
「は・・・?」
「何度も言ったが、我々は時間が惜しい。北では曹操が袁紹を滅ぼし強大な存在へと変貌している。奴が次に狙うのは西か南か、それは解らないが・・・一刻も早く曹操に対抗できる戦力と兵力、地力を得なければならない。」
「・・・。じゃあ、俺達も攻城に参加するんですか? 一部を除いて役に立てませんよ?」
騎馬隊は野戦でこそ真価を発揮する。城攻めで出来ることは殆ど無い。
「そんなことはあるまい。私個人の考えで言わせてもらえば、お前も、お前の軍も歩兵として有効に活用できると思うのだがな。門を突破しての市街戦だって経験しているだろう?」
随分と物覚えの良い事だ・・・と高順は苦笑した。
過去に高順は孫家一派と共に黄巾殲滅戦を戦ったことがある。その時、確かに市街戦を行ったが周喩はそれを言っているのだ。
「楽進、李典、周倉。騎馬戦でこそ真価を発揮するだろうが沙摩柯に蹋頓、高順も歩兵として戦えるだろう?」
「つまり、城門突破以降の戦いにも参加しろと。」
「ああ。市街戦でも騎馬は使えると思っているのでな。」
「はぁ・・・解りました。じゃあ、兵にもそう伝えておきます。でも、何人かは留守として残しますよ。」
「うむ。孫策、良いわね?」
「ん、問題ないわ。」
実は、周喩は高順隊を城外・城内戦にも使うつもりである。
騎馬戦特化でいいかもしれないが、野戦ではないから、ということで彼らを放置するというのはどう考えても勿体無い。
騎馬だけではなく歩兵としても充分な能力があるのだからそれを使わない手は無い。
更に言えば、周喩は高順隊に騎馬戦闘以外の経験を積ませていこうと思っている。
騎・歩・弓。それに加えて水戦の経験も積ませていく。ゆくゆくはどんな状況にも適応できる部隊に仕立て上げるつもりだ。
例えば水軍指揮などは甘寧や周泰に勝てはしないだろうが、彼女らを苦戦させる程度には仕込む。
あれだけ多くの人材を抱える高順隊ならば一級とはいえなくても準一級くらいの働きは期待できると思うのだ。
今の彼らの出番は野戦と攻城兵器を使用した城攻めばかりだが、それ以外の戦いでも大いに働いてもらいたい。
そんな思惑が周喩にはあった。

この軍議を終えた後、孫策軍13万は寿春を包囲。
それまでに妨害らしきものは何も無く、袁術の篭城は間違いない。

~~~高順の陣~~~
寿春の南側に布陣している高順隊。
彼らの近くには黄蓋も陣を張っており合同で攻める手はずとなっている。
他の主だった武将の配置は北が韓当、孫権。東が孫策、程普となっている。
西が空いているのは「逃げるなら逃げてもいいよ」と逃げ道をわざと作っているだけの事だ。
もしも此処から出陣してくるのならそれはそれで良い。
孫策曰く「あのちびっ娘にそんな度胸あるわけないじゃーん」とのことらしいが、油断をするべきではない。
高順は百人ほどを見張りに置いて部下達と話し合いをしていた。
「えー、今回は俺達も攻城後の戦闘に参加する事になりました。質問のある人ー。」
『はい。』(全員挙手
「じゃあ1人ずつ、趙雲さんから。」
「参加するのは全員ですかな?」
「いいや。馬の管理とかにも人を残すべきだからね。兵は半数を投入して半数を残します。」
「参加する武将は?」
「趙雲さん、楽進、周倉、ついでに俺。」
これには李典が「ぇー!? またうち留守番ー!?」と文句を言い始めた。
「いや、李典の螺旋槍じゃ狭い場所で戦うのは不利だし。」
「んなもん、高順兄さんかてそうやんか。うちもたまには後方援護以外の仕事したいー。それに」
李典は螺旋槍の穂先を「すぽんっ」と外して見せた。誰も知らなかったが、ボタンのようなものがあって、それを押しながら捻ると外れるらしい。
更にこの螺旋槍、回転する穂先はともかく・・・この穂先の下の柄の部分に棘が付いている。
「どや、これで閉所でも戦えるでぇ?」
「・・・はいはい。じゃあ李典も参加ね。他の人は悪いけどここで居残りです。他に質問は?」
「ういっす!」と周倉が挙手。
「はい、周倉。」
「城攻めなんすけど、壁って昇っちゃ駄目なんすか?」
「・・・はい? 昇るって?」
「やー、だからこう・・・駆け上がるとか。」
・・・。(全員が無言
「壁を駆け上がるって、どういう事なの・・・」
「ええ!? こう、右足がずり落ちる前に左足で踏み込んで・・・」
・・・・・・。(全員が無言
それ、水の上を走るとかに使われる話なんじゃ・・・? と思う高順であったが、深くは突っ込まない事にした。


後日、寿春を包囲している孫策軍は一斉に攻撃を開始。
寿春南側では黄蓋隊がメインとなって城に攻め寄せていく。
高順隊はその後ろから援護、或いは西側に対しての警戒が仕事だ。
黄蓋隊が前面に出ているのは「ちと若い奴らに手柄を譲ってくれぬか?」と頼まれて譲ったからである。
前回の紀霊戦では完勝したといえ、まだまだ手柄を立てたいという武将は多いだろう。
どちらにしても、高順らは投石機で城壁を攻撃、或いは袁術が打って出て来れば迎撃を・・・ということで黄蓋隊の横に布陣している。
その黄蓋隊の将兵が梯子をかけて城壁を登ろうとするのも援護。
寿春の城壁はけっこうな高さがあって攻略に手間がかかると思われる。
城壁からこちらを狙ってくる弓兵を逆に射倒して・・・と、忙しい。ただ、何となく袁術兵の抵抗が弱いような気がする。
黄蓋も同じ感覚を抱いたらしく「高順、何かおかしくないかの?」と言って矢を射る。
ただ、その場所に大いに問題があった。
「・・・。いや、何で貴方ここにいるんですか?」
「ん? いかんか?」
そう、黄蓋は部隊指揮を他の武将に任せて高順の陣にいたのである。
「いけないに決まってます。部隊の指揮は誰がやってるんですか」
「周泰。」
周泰は、部隊指揮を人並み以上にこなすがどちらかと言えば諜報・撹乱という個人プレイを得意としている。
攻城では持ち前の身軽さを活かして城壁制圧、焼き討ちなどでも活躍できる。
つまり、どう見てもミステイクです。本当にありがとうございました。
「黄蓋殿は早々に陣にお帰りいただいて、周泰さんを投入するべきだと思うのですが?」
「ワシもそう思うが・・・何せ冥琳(めいりん、周喩の真名)の指図であってなぁ・・・」
「周喩殿の?」
「うむ。あれにも大軍の指揮経験を積ませたいのだそうな。今回は焼き討ちをするわけにもいかんでな。」
「成程・・・いや、それでも黄蓋殿がここにいて良い理由にはなりませんからね!?」
「ああ、解った解った。」
絶対に解ってないし、帰るつもりもないなこの人・・・。
高順は溜息をついて寿春攻撃に専心することにしたがその表情は厳しいものだった。
寿春での民衆の暮らしぶりは思った以上に酷いらしい。
袁術の我侭で泣いている人が非常に多い、とは孫策の言だ。
高順は袁術がどのような政治をしているか知らないが、孫策一派は従属していたのでそれを良く知っている。
その彼女たちが「酷かった」というのだから、暴政なのは違いないだろうし、廬江の民の実情を知ればそれも納得できる。
そのせいか、高順はこの戦いで投石器を使用していない。というより躊躇している。
篭城を決め込んでいるのだから徐州で使用した手は意味が無いし、かといって城壁上の兵を狙えば流れ弾(石)で民家なども損壊する可能性がある。
戦だから仕方が無いのかもしれないが、廬江の民同様に寿春の民も苦しい生活をしているかもしれないと思えばなかなか決断が出来なかった。
さぁ、どうするべきかな・・・と思った矢先、「影」の楊醜が音もなく高順の横に降り立った。
「ぬわっ!?」
「おぉっ!?」
「高順、報告だ。・・・む」
「お、驚かせるなよ・・・で、報告って?」
促す高順だが、楊醜は黄蓋を見て押し黙った。
主君以外に情報を渡すべきかどうか迷っているのだろう。
「・・・ああ、別に構わないぞ。知られて困るような情報だったらともかくもな」
「そうか・・・なら報告だ。ここより20里南に袁術軍の姿を確認した。その数およそ5万。真っ直ぐに此処に向かっているぞ!」
「何・・・?」





~~~楽屋裏~~~

このごろ暑いですねあいつです(挨拶
クーラーと扇風機に頼らねば生きていけない。
しかし使いすぎてリアル母上に「電気代、割り増しで払ってもらうから」と言われました(実話

でもね母上。0に10かけようが20かけようが0だと思うんだ。(ぁ


そんな話は置いといて。
次かその次で袁術編は終わり。後は拠点フェイズが何度か続くのかな?


で、ふと思うのですが。


寿春獲ったら赤壁の戦い発生しなくね?(ぁ

・・・。
まあいいか(いやいやいや

そして、後8話投稿すれば投稿数100・・・
どうしてこうなった。

それでは皆さん、また次回。



~~~みりおん突破したらしい記念。華雄姐さんの一日~~~

よう、お前達。華雄だ。
今日は私の一日を紹介するという話らしい。
一応の説明をすると、今の私は劉備配下で、その劉備は荊州の劉表の客将。
新野という小都市を任されているが・・・何だろう、今の劉備は太守代行と言う感じか。
まあ・・・あまり期待するな。


華雄の朝の始まりは早い。
朝の5時ごろに起床して、朝食。
そしてすぐに兵の調練、街の巡回と続く。
現在の華雄は、劉備配下で武力と統率に秀でた武将では3指に入る猛将だ。
呂布は? と聞かれたら・・・彼女は基本的に武将と言う扱いではない。
徐州では降伏こそしたものの「自分が表に出てもろくな事にならない」と思っているのか武将として働こうとはしない。
その代わりに「土木作業とか力仕事ならやる」と言ってあくまで武将として働かない、という事だそうだ。
当然、もしものときは武将としても力を尽くすのだろうけど。
そういう事もあって3指、なのだが・・・。
(そもそも、武将と言える武将の数が少ないだろう)と華雄は思う。
ソレはその通りで、呂布軍の武将が投降する前の劉備軍は人材面で相当に厳しいものがあった。
まともに武将と言えるのは関羽・張飛・陳到くらいのもの。
そこに華雄・徐栄・張済・張繍などが加わってやっとこそれらしく、といった具合なのだ。
張兄弟は董卓の身辺警護を主な任務としているから、実質は自分と徐栄くらいなもの。
この、僅か2人だけでも劉備にとってはありがたい戦力補強だったようで存外に優遇されたりしている。
自分達ですらこうなのだから、高順一党が加わればどれだけの厚遇を受けていたやら。
それにしても、劉備は良く新野を治めている。
徐州統治は明らかに失敗していたが、ここでは敵対勢力はあまりいないからな。
劉表の親族になる蔡瑁(さいぼう)や張允(ちょういん)辺りはキナ臭いがな・・・。
ま、それを今此処で言っても仕方がない。


今日も今日とて、華雄は街の巡回。
外見は怖そうだが、実際に接してみると姐御肌で思った以上に面倒見の良い華雄は街の子供たちに何故か懐かれていた。
華雄も高順達と接しているうちに角が取れて少し丸くなったこともあり、困りつつも子供たちと接している。
ただ・・・

「あ、華雄さまだー!」
「はなおさまー!」
巡回をしていようと非番の時であろうとこうやって纏わりついてくる。
「・・・違う、かゆう、だ。はなおじゃない!」
「わかりました、はなおさま!」
「解ってないだろそこ!?」
おかしな言い争いをしているうちに更に子供が集まって来て。
「あ、お胸の薄い華雄将軍だー!」
「おはようございます、可哀想なお胸の華雄さま!」
「かゆーしょーぐんだ! おっぱいの小さい事で有名な!」
「よーしお前らそこで正座。」
と、華雄が地面を指差し、子供たちは「はーい」と何故か素直に従う。
天下の往来でなんて事を言うんだ、と説教。
「人が気にしていることを言うんじゃない。親にそう教わらなかったか? ・・・まあ、それは良いとして、何故急にそんな事を言い出すんだ、ええ?」
「え? でも、かゆーさまに「お胸がない」っていうのは最低限の、そして最高のれーぎだ、って教わったよ?」
「うん。あたしもー。」
「ぼくもぼくも!」
自分もー、と挙手していく子供たちを華雄は苦りきった顔で見つめた。
「・・・誰だ、そんな事をのたまった馬鹿は。」
『徐栄様。』
「あいつか・・・|||orz」

そうやって地味に落ち込む華雄の姿を路地裏から見ている徐栄は「胸の事で落ち込んじゃう華雄様(*´д`)ハァハァ」と鼻息を荒くしていた。
これ、実は徐栄の屈折した愛情表現である。
かなり危なっかしい愛情だが、いつも気を張っている華雄が胸の事などで落ち込んだりションボリしている姿を見るのは、徐栄の心の琴線を大いに刺激するらしい。

どう見ても変態の域に達しています、本当にありがとうございました。

それと、華雄は女性だが中性的な顔立ちをしている。
女性としても男性としてもかなりの美形であり、性格もどちらかと言えば漢らしい面がある華雄は街の女性陣から大人気であった。
子供たちに説教をしている間も「ねえ、華雄様よ」「素敵ねぇ・・・」「華雄様と禁断の恋・・・はぁはぁ」

・・・こちらにも変態が混じってい(以下略。

そんな感じで子供たちに(悪意などまっさら無いとは言え)凹まされて城に戻っていく華雄だが、彼女の仕事はまだ終わっていない。
城に戻れば関羽や張飛と組み手を行い自己の鍛錬。そして新兵たちの教練もある。
兵にとっては関羽や張飛よりも華雄の教え方のほうが解りやすいらしい。
そもそも張飛は「そこは「にゃあっ!」って感じで突き刺すのだっ!」とかで兵にとっては「「にゃあ!」って感じってどんなだろう・・・」である。
関羽も兵からすればどうやったって真似できない武力の持ち主であって、人に物を教えるのはあまり得意ではないようだ。
その点で言えば華雄のほうが調練は上手い。新兵に基本の構えを教え、未熟だな、と思ったら「これを振っておけ。まずは筋肉を付けろ」と木剣を渡したり。
そうやって一通りの事を終えてから関羽らと組み手を行うのだが・・・相手が悪すぎるのか、どうしても勝てなかった。
関羽なら割といいところまではいくのだが、張飛が相手だと凄まじくきつい。
いつも通り張飛にボコボコにされて、痛む傷を我慢しつつ風呂に入り、一日の疲れを落とした後ゆっくりと眠る。
明日もまた変わらぬ日常だ。
華雄は寝台に寝転がって窓から見える月を見る。

「高順、皆・・・姉は頑張っているぞ・・・頑張ってるんだからな!(涙」


こうして、華雄の一日は過ぎて新たな一日が始まる。



~~~楽屋裏~~~
みりおんに当たりましてまさかの華雄姐さん。
XXXがあると思った方はご愁傷様。本当にないのですw

この世界では関羽と華雄の仲は悪くありません。
むしろ良いくらいだと思われます。
2人で酒場に飲みに行くとかあるんじゃないでしょうかね(笑



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第74話 寿春攻略戦その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/07/18 14:28
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第74話 寿春攻略戦その2。



「馬鹿な!?」
楊醜の報告に黄蓋は立ち上がった。
「そんな筈は無い! 荊州の袁術軍は援軍を出せないと」
「だが事実。どうする、高順?」
楊醜の問いに高順はすぐに決断して立ち上がる。
「兵たちに伝えろ。それと東の孫策殿と北の孫権殿の陣に使者を出せ。今すぐだ!」
「応!」
楊醜はその場から去っていく。「影」を動員して各陣に伝えてくれるだろう。
「黄蓋殿は」
「解っておる、すぐに戻り部隊を反転させる。それと、牽制に一部ここに残すとしよう。しかし5万か・・・」
南側の孫策軍兵力は約4万。将兵の能力はこちらが上回っているとは言え前後を挟まれた格好になり、しかも西側の城門を開けているのでそこから袁術が兵を繰り出してくる事も予想される。
兵の抵抗が薄かったのも、多分だがこちらを引き込んでから北・南・西から兵を出して挟撃する事を目標としていたのだろう。
「黄蓋殿、俺は皆に話しを伝えに行きます。失礼。」
「おう、気をつけろよ!」
2人は同時に陣幕から出て行った。

高順はまず、李典の元へいき事情を説明。巨石投擲型の投石器で「南城門」を塞ぐように命令を下した。徐州で使った城門塞ぎである。
これで南門から袁術軍は出入りできなくなり多少は楽になる。
加えて、ほぼ全ての拡散型投石機と作成しておいた馬防柵を西側に向けるようにも命令しておいた。
だが、李典はあまり乗り気ではない。
「ええんか? 西に陣を向けるんはともかく誤差修正とかもやってたら時間もかかるし、ないとは思うけど下手したら石が民家に」
「構うな」
李典の言葉に、高順は断固とした口調で言う。
だが、表情は何処となく苦しそうで李典としてもそこに救いを求めるしかない。
あの高順が民に被害をもたらすような真似を容認するというのだから、自分達は相当に追い込まれてるというわけか。
高順の表情が後味の悪い結果を示している気がした。
「解った。なら、やれるだけやってみまっさ」
「頼んだ。」
高順は慌しく駆けて行く。西へと部隊を展開し、状況次第で南に向かうだろう。
高順を見送った後、李典は珍しく真面目な表情で投石機を見つめた。
(つまり、なるだけ少ない回数で城門塞げばええんや。・・・やったるわい、この李曼成(まんせい、曼成は李典の字)の腕の見せ所や!)
李典は気合を入れて自ら投石器の位置調節に向かった。

高順からの使者の報告を受けた孫策と周喩はすぐに対応を話し始めた。
嘘か真かを調べるべきかもしれないが高順が自分達に嘘をつく意味がないし、本当に南20里程に接近しているのなら急がなくてはいけない。
「冥琳(めいりん、周喩の真名)、貴方はどう思う?」
孫策の問いに、周喩は特に迷うでもなくすらすらと答える。
「恐らくは事実ね。出てきたのは荊州、江夏に勢力を広げていた袁術軍の楽就(がくしゅう)。すぐ南と言うことはこうなる事を予見して出てきていたと考えるべきよ。」
「ってことは。荊州のほうは?」
「空っぽね。荊州に送り込んでいた袁術勢力を全て呼び戻しているわ。そうでなければ5万の兵が集まるわけがない。」
「ちっ。やってくれるじゃない・・・。」
「やってくれたのは袁術ではないわ、張勲よ。」
やれやれ、と周喩は頭を振って自分の考えの軌道をずらす事にした。
まず孫権殿。あの人にも高順からの使者は向かったというが、彼女ならば下手な手は打つまい。
孫策もそれを理解しているし、何より老練な韓当殿が脇を固めてくれているので不安はない。
そして、こちらからも誰かを増援として南側に送るべきだろう。
黄蓋殿と高順がいるとはいえ、南、そしてがら空きの西から軍勢を繰り出してくるはず。
それが北へ向かうか南へ向かうか。牽制として北に出てくる・・・いや、主力は南に向けてくるか。そうすれば5万の軍勢とで南の我が軍を挟撃する格好になりうる。
「雪蓮(しぇれん、孫策の真名)、程普殿に1万の兵を率いて南に出てもらうわ。それでも兵数はこちらが少ないけど、彼らなら問題はないでしょう。」
「まあね。しっかし・・・張勲もいやらしいことしてくれたわねえ・・・」
「ああ。道理で守備が脆いと思った。こちらを引き込んで南からの軍勢を使って後背を突くつもりだった・・・かしら。」
「多分ね・・・ふふ。珍しいわね、冥琳の読みが外れるなんて。」
「私とて人の身。往々にして間違いもあるさ。」
周喩は確かに読みが外れた、と感じていた。
実は彼女は袁術を逃がすつもりだった。別に温情をかけたとかそういう事ではない。
袁術を荊州の袁術領に逃がして、それを名目に荊州へと攻め入るつもりだったのだ。
劉表は袁術に自身の領地を侵されても動くことが出来なかった。
彼は豪族連中の顔色を窺って方針を決めなくてはならない立場で、君主としての基盤は脆弱そのものである。
江夏へとわざと逃がして、それを理由に江夏へ攻め入る。それから一気に荊州へとなだれ込む・・・というのが大まかな構想である。
それが崩された、ということだ。
もっとも、荊州に攻め入る理由など幾らでも後付けできるし、今現状で攻め入る理由が無いでもない。
孫家の先代・・・つまり孫堅だが、彼女は劉表との抗争の中で戦死している。
実際に手を下したのは黄祖(こうそ)だが、彼は袁術との戦いで戦死。
だが彼に策を授けた蒯良(かいりょう)という軍師は健在で、それを理由に荊州へ攻め入る事だって可能だ。
今回は当てが外れてしまったわけだが、数ある策の内1つが潰れただけでまだまだ手のうちようはある。
「ところで冥琳。」
「ん・・・何だ。」
「高順と祭(さい、黄蓋の真名)、うまくやれると思う?」
「ふっ・・・解っていて聞くものではないわ、雪蓮。」
孫家の誇る勇将と陥陣営がそう簡単に負けるものか。と周喩は自信満々であった。


袁術はというと。
「七乃! なぜ勝手に荊州から軍勢を引き上げさせたのじゃー!?」
袁術の癇癪が爆発していた。しかし、それを張勲はあっさり受け流す。
「えー。だってぇ、これくらいしてもまだまだ不利なんですよぉ? それに、軍勢を集中しないと各個撃破されちゃうだけですもん。」
「ぬぬぬぅ。じゃが、荊州はどうなるのじゃ?」
「そのまま劉表さんに返しましたよぉ? 領地を返還するから後ろから攻撃しないでね♪ みたいな。でも、これだけ速く話を纏めたんですから褒めてくださいねー。」
「むむむむ。」
実は張勲は、紀霊が敗れて袁胤が逃げ戻ってきたのを見て内心「まずいなぁ」と感じてすぐに劉表と楽就のもとへと使いを出していた。
楽就には「出来る限りの食料と軍勢をかき集めて寿春まで戻ってきてね」で、劉表には「自分達寿春へ帰ります。領地はそのまま返還しちゃいますから後ろから攻撃しないでね♪」である。
逃げ場を失うのは得策ではないが、荊州まで逃げたとしても孫策と劉表に挟み撃ちを受けるだけと言うのがわかっていたからこその動きだった。
楽就としては従わないわけにも行かないし、劉表としてもこれがイマイチ事実かどうかを計りかねていた。
更に追い討ちとして「早く答えをくれないと江夏を焼き払っちゃうぞ☆」と脅迫そのものな手紙まで送った。
そんなことをされては堪らない、と劉表はすぐに豪族に働きかけて答えを迫った。
軍勢を戦争で動かす訳でもないし、無血で領地が戻ってくるのであればと劉表配下の豪族達もGOサインを出したのである。
それが今実を結んで南を攻めている孫策軍の部隊を襲撃することができる、という状況だ。
そして、袁術軍の武将は袁術含めて今初めてソレを知ったのであった。
「しかし・・・知っているのなら一言くらい。」
と楊弘は言うのだが張勲は「ほら、敵を騙すのなら味方から、って言葉に従ったんです☆」と相手にせず、心の中で「あっかんべー」をしていた。
(ふーんだ。言えば誰かが孫策さんに密告しちゃうでしょ。そうはさせません)といった感じだ。
張勲とて、この数でも孫策には勝てないということは解っている。あくまで時間稼ぎでしかないが・・・一度くらいなら苦戦させて追い返すことは出来るだろう、と張勲は読んでいる。
その間に無傷の部隊と食料を持って一気に西に逃げる。荊州を通り抜けて益州あたりまで逃げても良い。
傭兵とか山賊まがいの事をやって食料と兵を蓄えれば、まだ平和ボケしている西なら旗揚げしても何とか出来そうな気はする。
孫策に勝てると思うほど自惚れたりはしないが、かといって向こうの読みどおりに動くのは面白くない。
孫家と言う虎の一族からすれば自分達はただの雑魚のようなものでしょうけど、それでも油断すればチクリと刺されるくらいは覚悟するのです! と張勲は出撃する部隊の指揮を取るために門へと向かっていった。


「隊長・・・南門は李典に任せて大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。もしもの為に兵を1千と閻柔さん・田豫さんを残しているし、黄蓋殿からも抑えの兵が出ている。上手くやれば門から出入りは出来なくなる。」
楽進の問いに、高順は答えながら西へと意識を集中した。
高順隊の大半は西へと向けて陣を向けており、投石器の移動や防柵の準備に入っている。
南と北は黄蓋隊が防御を固めており、いますぐにどうにかなる訳ではない。恐らくだが東の本陣からもいくばくかは応援部隊が来るだろう。
問題は今すぐ攻められれば相当な被害が出るということと、出張ってくる袁術軍の規模がイマイチつかめない、ということだ。
少なければそれに越した事はないが、自分達の進退がかかっている状況なら、出せるだけの兵を繰り出してくる筈。
趙雲も沙摩柯も同じように考えており、恐らくは北への牽制も含めて2万前後は来るだろうと予測していた。
これは南門を使用不可能にして、という前提であり、全て李典にかかっていると言える。
激戦が予想される南門から素直に出てくるか、それとも逃がす事前提で開けておいた西門から出てくるか。
その予想がイマイチつかなかったのでこういう動きなのである。
ただ、皆は李典の腕前を信頼しており、だからこそ西に向けて陣を展開していたのである。



「よし、位置はそこ。後は投げたときの威力やけど・・・こればっかはな。」
李典は兵に投石器の位置を調節させ、角度はこれで良し、としていた。
あとは黄蓋隊の兵が引くのを待って石を投げつけるだけだ。しかし、一撃で成功できる訳はなく、どうしても最低限2発は打ち込まなければいけない。
(その一撃目が城壁飛び越えて民家直撃とかせんかったらええんやけどな・・・ま、城壁の高さも高いしそんな心配はいらんかな?)
「李典様、用意完了っス!」
閻柔と田豫が黄蓋隊の後退を確認して声を揃えた。
「おーし、ほならうちらも防御体制固めるんや。どでかいのかましたる!」
「ほいさー!」
城壁守備の袁術兵が盛んに矢を射かけてくるが、距離が遠くて当たる事はない。
向こうが一気に出撃してこない限りは、そう恐れるほどのものではなかったりする。
岩が設置された投石機に向かって、李典は合図を送る。
その合図から数秒。
巨石がぶぉんっ、と唸りをあげて寿春南門へと飛んでいった。付近にいた袁術兵は驚き、弓矢を捨てて逃げていく。
そして、ずどぉんっ! と轟音を上げて城壁に着弾・・・だが、微妙に位置が外れて少し右よりに当たってしまった。
「かぁ~っ! あれじゃ城門閉じれんな・・・もう1回や!」
もう1度巨石を・・・と思ったところで、城門が開いた。袁術軍7千ほどの部隊が出撃してきたのである。
この状況で出撃してくるのは相当に勇気がいっただろうが、むしろこの状況だからこそ出てきたのかもしれない。
「り、李典様・・・どうするっスか!?」
「慌てんなや。拡散型、よーい! ・・・てぇっ!」
李典はいささかも動じることなく僅かに残されていた拡散型投石機を使用、袁術軍の前衛に石を浴びせかける。
「弓隊も射ったれ、狙いなんぞつけんでええ! とにかく手数で相手の足を遅らせたるんや!」
李典の命令を受けて、騎馬弓隊が応戦を開始。白兵距離まで近づかれたら突撃に切り替える手筈だ。
相手に騎馬が多ければともかく、南門から出てきた袁術軍の編成は歩兵ばかり。
(防柵ないんは痛いけど、黄蓋はんの部隊も守備に回っとるし問題はあらへん。時間稼いでもう一射や)
何より、本命は今現在黄蓋が応戦している楽就部隊で、こちらは陽動だという事はわかっている。
その証拠に、自分たちが今戦っている袁術軍の動きは鈍く、牽制程度にするつもりにしか見えないし、下手をすれば投石で逃げ場を失うので及び腰な面が見え隠れしている。
もう1つ本命があるとすれば西側から来ると思われる部隊との挟み撃ちだが、それこそ高順がいる。
趙雲に楽進もいる。多少の兵力差なら押し返すくらいの実力者ばかりなのだ。不安などない。
李典は「前線が防いどる今のうちや、とっとと準備終えんかい!」と投石部隊に発破をかけ始めた。


黄蓋。
こちらは思った以上に苦戦していた。戦力差が倍以上なので、押し込まれているのだ。
今まで城攻めの布陣であったし、急なことで満足に迎え撃つ陣形を整えることが出来なかった事が響いている。
それでも、若い武将が「ここが手柄の立て時だ!」と兵に混じって奮戦しており、黄蓋隊の行う後方からの援護射撃がじわじわと効き始めている。
このまま他からのちょっかいがなければ何とか押し返せる。
時間を稼げば東の本陣からも増援は来るだろうし、後陣の李典も奮戦しているようだ。
西の高順はまだ解らないが、よほどの武将が向こうにいなければ心配をする必要もない。
戦力差はかなり厳しいということは解っている。恐らく1万近い兵数の差があると思われ、そこまで差があると高順でも苦戦は免れまい。
「早くせねばな・・・。」
黄蓋は僅かに焦りながらも、矢を放ち続けた。

高順隊。
こちらは弓兵が多数配置されている城壁に近づかないようにして、高順隊は移動。防御陣の構築をしていたが専門の工作兵などはいないので、ある程度のところで見切りをつけた。
高順隊は、黄蓋隊よりも西に向かい袁術軍の迎撃。本来は戦力を結集して確固撃破と言うのが望ましいのだが、相手が相手なので戦力を分散させても多少は問題ないだろうということだ。
ところで、西門から袁術軍が出てくると決まったわけではないのだが、それでも高順隊は西に向かっている。
「意味は無いかもしれないが」と向かっているのだが、南からの楽就隊を城内に招き入れて防御を強化する・・・という事を主軸に置いて、袁術軍が動いたのでは? という事もあった。
南からの出入りが困難なら、がら空きの西から。そして、その西から迎えの部隊を寄越すという「挟み撃ち」だと考えたのである。
これくらい誰でも考えられるし高順のように動くだろうが、迎え撃つには戦力が必要になる。出撃してくる袁術軍に対して高順はその戦力が足りない。
その為に投石器を多数移動させているのだが、これで足りるかどうか。
あれこれと策は考えているのが、上手く行く事を願うばかりだ。
さあ、袁術はどう動いてくるかな・・・と思ったところで眼前の門が開きだした。
「・・・隊長。」
「来たか・・・。前衛は周倉と趙雲さんに任せてある。あとは指示通りに!」
後衛の高順・楽進隊は援護。前衛の趙雲・周倉は接近戦、という形だが、基本は矢を打ち込みつつ距離を取り疲弊を待つ。
相手城壁からの矢は届かない位置で牽制をしつつ投石。というものが高順の指示だった。
そんな高順は楽進の隣にいる。
「ところでさ・・・何をするつもりなの?」
「はい。少し試したいことがありまして。成功すれば中々の威力になるかと。」
「?」
楽進は移動中、高順に「少し試したいことがあるのですが」と切り出して援護を願い出ていた。
援護と言っても「体を押さえていて欲しい」ということで何だか良く解らない。
しかも、今の布陣。簡単に記すと

(門)
■■■
■■■ 
■■■←袁術軍


□ □←高順隊
 □
 □

上2つの四角が趙雲、周倉。中段が高順・楽進。一番下が投石部隊・・・こんな感じであり、袁術軍は予想通りこちらの倍以上の兵力だ。
趙雲、周倉が矢を射かけている間に楽進が何かをするようで、そのせいで部隊同士の間が空いている。
基本は少しずつ後退してとにかく矢と石を撃ちまくり、近づかれたらこちらから突撃、とここらへんは李典と変わりはない。
この時点で楽進は気を溜め始めており、腰をずっしりと低く構える。
「で、どうするんだ?」
「先ほど言った通り、私の体を後ろから押さえていてください。」
「・・・?」
あまり意味が解らず、高順は虹黒から降りて気を溜めている楽進の体を後ろからがっちりと押さえ込んだ。
「これでいいのか?」
「はい。いきます! ・・・ハァァアァッ!!」
「お・・・おぉ!?」
気迫と共に、気が更に凝縮されていく。
楽進は両手を前に突き出して、どこぞのファイナルフラッシ○みたいな構えを取った。
(まさか、気弾を撃ち込むのか? 黄巾の時は特大の気弾を城壁にぶち込んでいたけど・・・)
体に充満した気が溢れ、真っ赤な色に変わりバチバチと音を立て、体を伝う。
周りにいる兵士も虹黒も巻き込まれないように退避して・・・。
「っておいちょっと待って!? これ、俺一人が巻き込まれる流れじゃないですかね!?」
高順の叫びも無視され、楽進の掌に気が集まって赤く染まる。
「くっ・・・お、押さえていて下さいね。吹き飛ばされるかもしれませんから!」
「は、はひっ!?」
既に前衛部隊では戦闘が始まっており、こちらまで攻め込んでこようとする兵も多い。
楽進は自分達の目の前で密集している敵兵に向かって両掌を突き出した。
「う、ぐっ・・・おおおおぉっ!」
(掌から特大の気弾・・・いや、違う!?)
一体何を、と思ったその瞬間。
気を凝縮させた極大な「光の線」が一直線に袁術軍へと飛んでいった。


袁術軍の先頭を駆けるのは韓暹という男だった。
元々は賊だったが、何の縁か袁術に従い、その上一軍の将だ。
目の前、両翼に展開する部隊が矢を射かけてきて、しかもこちらより射程が長い。
このままでは一方的に射倒されるのみ、と韓暹は軍を率いて突進していた。
南門からは張勲が出撃して楽就と連携して挟み撃ちに。西門の自分はそれを援護し、あるいは孫策軍への牽制を担う。
ソレが任務であった。
幸い、こちらのほうが兵が多いので両翼に牽制部隊を当てて、自分達はその向こうにあるがら空きの本陣を狙う。
歩兵なので機動力はないが、近づいてしまえば数で押し込める。
良く見ればその後ろには投石器があり、放っておけば厄介な事この上ない。とにかく攻め込んでいくしかない、と真っ先に突撃を仕掛ける韓暹。
だからだろうか。楽進の放った気光を真っ先に喰らい、真っ先に戦死したのも韓暹であった。

「えーと・・・。」
楽進の体を押さえていた高順はどうコメントしていいものやら、と光線が通り抜けていった跡を見ていた。
趙雲・周倉隊の間をすり抜けてこちらに突撃してきた袁術軍を、なんというかもうエネルギー波としか言いようがない技で撃ち抜いたのである。
沙摩柯は「何だアレ・・・」と呆然としているし、蹋頓は「あらあら」と笑っている。
(どう見てもかめはめ○とかそんなんだよ・・・)と高順が思ったのは言うまでもない。
「はぁ。はーっ・・・う、うまくいきました。ぶっつけ本番でも何とかなるものですね」
高順の腕にしがみ付くようにしてなんとか立っている楽進は満足そうである。
「・・・待て、ぶっつけ本番?」
「はい。前からできないだろうか、と思っていましたがどうしても途中で気が足りなくなって・・・ここまでのモノになるとは思いもしませんでした。」
「ぶっつけで成功させるのか・・・しかし、大した威力だ。」
高順の言葉通り、今の(便宜上)気光攻撃はとんでもない威力だった。
何百か、もしかしたら千人くらいは死傷しているかもしれない。貫通力はそうでもないし、距離があればあるほど威力は低くなるらしく、門に届く前には気光は消滅している。
密集していた場所に叩き込んだのだから被害が大きいのも当然だろう。
ただ、楽進の消耗が激しすぎる。
たった一撃で肩で息をしているし、高順に抱えていて貰わないと自力で立っていることもままならないほどに。
寿命を削りかねないな・・・と、高順は不安になり、蹋頓を呼んだ。
「蹋頓さん、楽進を後方に下げてしばらく様子を見てあげてください。」
「了解です。さ、行きましょうか。」
「で、ですが・・・私も戦わなければ」
疲労しながらも戦おうとする楽進を「はいはい、いい子ですから体を休ませましょうね♪」と蹋頓は全く取り合わず楽進を後方へと拉致っていった。
(・・・。まあ、あれくらい強引でちょうどいいよ、うん。あれくらいしないと言う事聞いてくれない人ばっかりだし。)
「あぁぁあぁあ・・・」と力なく叫んで蹋頓に連れて行かれる楽進を見送って、高順は改めて袁術軍と向き合った。
見れば、今の楽進の攻撃で袁術の兵は明らかに浮き足立っている。というか趙雲隊と周倉隊も微妙にビビッている。
殺意の塊と言うか破壊力そのものというべき光が自分達の横を通り過ぎて言ったらビビリもするだろう。
これは自分も前に出ていかないといけないかな、と高順は虹黒に乗って投石部隊も攻撃を開始するように命令を飛ばしておく。
その間に弓を構え、一斉掃射ができるようにしてから駆け始めた。
(しかしまぁ・・・本当に凄いな、この世界。兵の多寡よりも一人の武将の能力のほうが高いって言うのだから。・・・俺、一番役に立ってないよなぁ)
格闘では楽進と同等くらいまでは鍛えたが、気という決定力はない。
統率・武力では趙雲・蹋頓・沙摩柯には敵わず、周倉のような俊足もなければ李典のような何かを作成し、創り上げる才覚もない。
家臣・・・いや、仲間よりも数段劣っているという考えなら劉備と大差ない。
「流浪を続け、行き着く先で居場所を失い、更には領地経営でも上手く行かず・・・はぁ。」
ぽそぽそと呟く声は馬蹄の音に掻き消され誰にも届きはしない。ただ虹黒が聞くのみである。

さて、もう一度袁術軍。
突撃していった韓暹が気の光に呑まれて戦死したのを見て、もう一人の将である楊奉は完全に腰が引けていた。
敵の前衛部隊を囲んだと思ったら、さきほどの光に兵が巻き込まれ、後方に控えていた部隊も前進。更には投石機による攻撃を行ってくる。
こちら側の兵が多いのだが、先ほどの攻撃で一部が戦意を喪失しているし、攻撃に向かった部隊もあっさり押し返されている。
向こうは牽制程度のつもりでここにいるのかもしれないが、その牽制だけでどれだけの被害を被ったか。
囲んでいるのはこちら側で、向こうは半分程度の兵力。それなのに決定打を与える事もできていない。
こうなれば出来る事はただ一つだ、と楊奉は前線へ向かう。

趙雲・周倉隊と並んで袁術軍を防ぐ高順の目前に、一騎駆けで武将らしき男が近づいてくる。
高順は大抵部隊の先頭にいるし、武将という事がわかりやすい格好。
武将の一騎駆け、しかもこの乱戦で・・・ということは自分を狙ってきたな、と槍を構えて迎撃をしようとする。
その男も高順を武将と見たらしい。ただ、高順に向かってきた男は。
「我が名は楊奉! うけてみよ、我が技を!」
「む・・・見せてもらおうか」
「目に物見よっ! 白旗大降伏っっ!(馬から飛び降りて土下座)」
「はぁ!!?」
あっさり降伏したのであった。

武将が一騎駆けで真っ先に降伏。
そんな事をされたらただでさえ低い士気がどん底になるのは当たり前。
前衛で何とか戦っていた連中も逃げるか降伏してしまい、門付近に展開していた兵もあっさりと撤退してしまった。
南門から出撃した張勲も李典の防御陣を抜けず、投石器の攻撃・西側から繰り出した兵があっさり敗北した事を知って撤退。
楽就も黄蓋を倒せず、また東側から進撃してきた程普の猛攻を喰らい戦死。逃げ場を失った兵はどうする事もできずに降伏。
西側がもう少し頑張っていれば、楽就の兵も寿春に入城できたのかもしれないが・・・。
「な、なんだかなぁ・・・」
まともな戦いもないまま終わってしまった事に、高順も困惑する事しきりだったとか。

張勲の策は味方に足を引っ張られる形で失敗。南門も塞がれ、以降は黄蓋と高順は寿春西門付近で陣を張る。
防御力強化も孫策軍の戦力を削る事もできないまま、袁術は完全に逃げ場を失ったのである。



~~~楽屋裏~~~
やりすぎた。
あいつです(挨拶
まさか楽進さんがファイナルフラッ○ュかますとは・・・
一撃で楽進が戦闘不能になり、そのまま戦ったほうが最終的に倒せる敵数は多いだろうと思います。
これ以降は先ず出てこない大技ですね。


これは私事なのであまり関係ありませんが、うちの飼い猫が先週亡くなりました。
精神的に落ち込んだこともあって、少し更新が遅くなってしまったのですが・・・言い訳にはなりませんな。

次回で袁術編も終了。袁術の処分はどうしようかなぁ・・・(遠
・・・死んでもらうか?(ぉ


~~~番外、その頃の袁紹~~~
袁紹・審配・顔良・文醜と、兵士が10名ほど。
袁紹一行、と言っても差し支えないが、彼女らは現在華陀の世話(?)になっている。
食費などは全て華陀が出しており、流石にこのままでは・・・と袁紹は「これを売って足しにしてくださいな」と袁家に代々伝わる宝刀を出したが、それは断られている。
「それは受け取れない。それに、こちらもそれほど金に困ってるわけじゃないんだ」と。
華陀は徐州を去る際に高順から多額の資金を渡されていて、ちょっと使い切れない額である。
「蹋頓さんが死なずに済んだのは華陀のおかげだから」と無理やり渡されたものだったが、よく調べてみると金だけではなく高価な宝物まで詰め込んであった。
この乱世にあって一人の命にそこまでの価値を見出すというのは珍しく思うのだが、ソレを本人に言えば「これでも安いくらいだ」とか返されるのであろう。
袁紹としてもいつまでも世話になるわけにも行かないし、華陀に「皆の食い扶持が欲しいのですが、世話をしてくれる方に心当たりはありません?」と駄目元で頼んでみた所、彼は少し悩んで「・・・一人だけ、ない事もない」と言った。
その心当たりを探すために・・・彼女達は現在、広陵(こうりょう)にいる。


「ん・・・? 華陀、だと?」
広陵政庁で、部下から「華陀という者が面会を願っておりますが」と聞かされた現在の広陵太守、陳羣(ちんぐん)は「はて、どこかで聞いたような?」と首をかしげた。
「その華陀とやら、何者なのだ?」
「何でも前太守様のご友人だ、と。」
「高順様の・・・?」
陳羣は顔を上げ、じっと天井に視線を彷徨わせて少ししてから「・・・ああ、思い出した。」と口にした。
そういえば、高順様がそのようなことを言っていたな。
どういう経緯でそうなったかは知らないが、高順様の友人であり恩人でもある、と。
もし訪ねてきたら話を聞いてやって欲しい、とも。
「ふむ・・・会うとしよう。」
「宜しいのですか?」
部下は少し怪訝そうな表情を見せた。
「ああ、構わない。何か問題でも?」
「・・・その。華陀という者は問題ないのですが・・・あー。お付の2人に大いに問題がありまして。」
「問題?」
「紐下着一丁の浅黒い筋肉男と、褌と角髪(みずら)の、これまた筋肉男がお姉ぇ言葉を駆使して・・・」
「・・・。」
高順様、お仕えした期間が短いせいかもしれませんが時折貴方の事が良く解りません。貴方の交友関係はどうなっておられるのでしょうか。
どことなく遠くを見つめて少し現実逃避をする陳羣であった。

応接室に通された華陀達より少し遅れて陳羣も入室。
・・・部下の言った通り、確かに筋肉男が2人。
(公序良俗に反していそうな・・・よく捕縛されなかったな)と思うのは普通の思考である。
それはともかく。
「私が太守の陳羣です。ようこそお越し下された。」
「俺は華陀。医術を志す者だ。後ろの二人は・・・まあ、気にしなくても良いか。」
「酷いではないかだぁりん!」
「そうよぉ、酷すぎるわんっ!」
「頼むから少し静かに・・・で、1つだけ聞きたいことがあるんだ。」
「何ですかな?」
「高順の居場所を知っていたら教えて欲しい。」
「・・・。申し訳ないが、答えられない。」
「何故? 言えない理由でもあるのか?」
華陀の問いに陳羣は頭を振った。
「そうではない。知らないのだ。南に向かった、ことしか解らない。」
「む・・・」
「高順様は曹操様に仕えたくはないから、と南に向かわれた。汝南を経由して。そこまでは知っているが、そこからは解らない。」
楊州に行ったか、荊州に行ったか。もしかしたら益州か交州か。
そこまでは掴んでいないのだ。掴んでいたら掴んでいたで曹操に詰問されるだろう。
「そうか・・・。」
「申し訳ない。しかし、なぜ高順様を探しておられる?」
「ん? ああ、頼みたいことが1つと伝言を1つ預かっていてな。」
「成程・・・。」
陳羣は考え込む。彼が高順を探す事に協力するべきか、せぬべきか。



後日、南へと向かう船上に、華陀と袁紹一行の姿があった。
「船を手配してくれるとはなぁ・・・陳羣とやら、何を考えているのやら。」
審配は揺れる水面を見つめて呟いていた。
「さぁ。どちらにせよ助かったのは事実ですわ。」
袁紹は肩を竦めた。
陳羣は華陀に「楊州へ向かうのならば船を手配しよう。ただし、行きだけで帰りは自分達で何とかしてくれ」と言った。
その数日後、港に呼ばれた華陀達の目の前には食料と大型の船が一隻。
忙しい合間を縫って見送りまでしてくれる陳羣に皆頭を下げ、感謝したが・・・この時、陳羣は袁紹に気がついていた。
彼女は官渡の戦いの結末を知っていたし、袁紹が行方不明であることも知っていた。
もっとも、曹操は袁紹を捕縛するつもりがないらしく人相書きも捕縛命令も出ることはなかった。
未だ北に残る影響力を考えれば、ここで捕縛するべきか? と思う陳羣だったがすぐに「まあいいか」と思い直した。
命令があるわけでもなし、そこまでして尽くす理由もなし。むしろ、余計なことをすればこちらの首が飛ぶだろう。
船に乗ろうとする華陀に陳羣は1つだけ、高順への伝言を頼んでいた。
「もし、どうしても行き場が無いなら広陵へ還って来て欲しい。自分が曹操に取り成して少しでも良い条件を引き出してみせる」という内容だった。
華陀は船上で「やれやれ、行き着く先で伝言を頼まれてばかりだな」と苦笑していた。
もし楊州にいなければ、次は荊州か、それとも交州に行くか。
その先々で伝言を頼まれる状況は・・・ありそうで怖いな。と再び苦笑する華陀であった。


~~~もういっちょ楽屋裏~~~
暫く出ていなかった華陀達の現況です。
もう少しで高順と再開できるのでしょうか。そして完全に忘れ去られている馬超の運命は如何に(ぇ?



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第75話 寿春攻略戦その3。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/07/24 10:56
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第75話 寿春攻略戦その3。


高順・黄蓋隊は寿春西門へと移動した。南門の出入りはまず不可能だし、そこにいても仕方がない。
ここで、高順と黄蓋は今後の対策を立てることになるのだが。

~~~黄蓋の陣幕にて~~~
『間者を潜入させた?』
高順と黄蓋の声が重なった。
これから先、西側の部隊はどう動くか、という打ち合わせを行っていたのだが二人して「考えがある」ということでそれを言ったのだ。
「ワシは李典が踏ん張っておる間に周泰を紛れ込ませたのじゃがな。」
「俺は西側の部隊が撤退する際に「影」を数十人・・・。」
『・・・・・・』
二人とも「しまった・・・」と肩を落とした。
何故か、と言えば両者とも事前に相談をしていなかったのである。ぶっちゃければ独断専行。
周泰も「影」もお互いが忍び込んでいることを知らない。例えば「食料庫燃やしてね」という命令があって両者がかち合えばどうなるだろうか。
高順は、実際に食料庫襲撃を命じており、民が飢えているのに食料を燃やすというのは嫌な選択であったが、結局「孫策さんにたかられるよな?」という結論に達して妥協する事にした。
食料を手配して送られてくるまでの間は孫策も炊き出しを行うだろうし、自分の部隊からも食料を捻出させるつもりだ。
それは良いとして、二者が放った間諜が「怪しい奴!」ということで対峙して無用な混乱が発生する可能性だってある。
「高順、お主「影」とやらに何を命じたのだ?」
「食料庫を襲撃。周泰さんは?」
「・・・周泰は食料庫の焼き討ち。」
『・・・・・・はぁ~~~・・・」
盛大な溜息。
「お互いがかち合わないことを祈るのみじゃな・・・。」
「・・・ええ。」
案外に考えなしな二人であった。
「ま、それはともかく・・・すまなんだな、高順」
「はい?」
「捕虜の事さ。ワシの部隊だけでは食糧を賄いきれんとはいえ・・・お主にばかり負担をかけてしまっておるな。」
「ああ・・・あれですか。」
高順は笑う。
「確かに負担は負担ですけどね。あれだけ「美味い美味い」と言って食べてくれれば・・・ねぇ?」
「ふふ、そうじゃな。楊奉じゃったか? 将軍級なのに涙を流しながら食べていたというのは。」
黄蓋はからからと笑う。
「そうですよ。いきなり「白旗大降伏!」とかいって土下座してくるし、将軍なのにお腹空かせてるしで・・・袁術軍はどうなっているのやら。」
正直言ってあそこまで美味しそうに、そして涙を流して嬉しそうにご飯をかっ込む姿は悲しいものがある。
将軍級であれだ。兵士などもっと嬉しそうであった。
そのうちの一人が「捕虜になったほうがきっちり飯食えるなんてな・・・」と言うのを聞いて、更に悲しい気持ちにさせられたりもした。
どれだけ兵士を飢えさせているのか、という袁術への怒りも湧き上がってきている。
だから、食料庫を燃やせという命令もかなり辛いものがあった。そもそも燃やすほどの食料があるかどうかも不明ではあるが。
そういった内心の苦悩は高順の周りの人も察していたし、黄蓋もなんとなく理解している。
「ま、そこまで背負い込む必要はないわさ。お主一人でできることなど知れておるしな。」
先ずは勝つことよ。と黄蓋は立ち上がり高順の肩を叩いた。
「さて、間者を潜入させた事を策殿に知らせておかねばな。」と黄蓋は陣幕を出て行った。

各陣に、黄蓋と高順隊の間者が潜入したことが知らされた。
本来は夜に実行するべきなのだが、高順も黄蓋も夜中だと袁術に逃げられる可能性を考慮して「孫策が攻めたと同時に行動に移すように」と言い含めていた。
「影」も周泰もその辺りは抜かりなくやってくれるだろう。問題はかちあった時だけだ。
流石に周泰は「影」の人々一人ずつの顔など知らないが「影」のほうであれば何人かは周泰の事を知っているだろう。
そこに賭けるか、と思うほかは無い。

翌早朝、孫策軍全部隊が同時に攻撃を開始。
孫策が前線に向かい、兵に混じって突撃。その姿に兵も勇気付けられたか、凄まじいまでの猛攻であった。(後で周喩に叱られたらしい

「始まったみたいです・・・。」
孫策軍の全面攻勢に周泰は「急がなくては!」と兵士の首をへし折った。
彼女は既に食料庫に忍び込んでおり、守備兵を始末して回っていたのだ。
後は携帯用の油を撒いてから火を起こせばそれで任務終了。あとは何とかして帰還するだけだ。
しかし、随分と簡単ではあった。気のせいかもしれないが守備兵の数も妙に少なかったし・・・。
周泰は全ての兵を始末してから油を撒き始めたが、不意に気配を感じて手を止めた。
その気配は一瞬で消えたが、妙な揺らぎを感じている。彼女は背負っている刀「魂切」の柄に手をかけて辺りを注意深く見回した。
「・・・誰です。」
周泰は殺気を押し殺しながら呟いた。暫くして、気配の1つが降り立ってくる。
「あんただったか。」
「・・・?」
声の主は楊醜であった。と言っても一方的に知っているだけで、周泰は楊醜の事を知らなかったりする。
「あのー、どなたですか? 袁術側の人だと思っていたんですが。」
「ああ。俺は楊醜。高順の部下さ。あんたも食料庫の焼き討ちに来たんだろ?」
「高順さんの・・・それは失礼しました。仰る通り、焼き討ちが任務です。」
刀から手を離し「ぺこり」と頭を下げる周泰。
「よかったのか、ホイホイ信じて。俺が嘘をついてる可能性だってあるんだぜ?」
「高順さんの部下に密偵方がいる、ということは何度かお聞きしていまして。確か青いツナギを着ていらっしゃる方がいるとか」
周泰の言う通り、楊醜は青いツナギを着ている。戦場でその格好はどーなのアンタと言われそうだが彼曰く「生き様」らしい。
「まあ、お互い派遣されてる事も知らなかったしな。あんた、これからどうするんだい?」
「すぐに脱出して黄蓋様に合流するつもりですけど・・・。」
これは楊醜らも同じ事である。入ったのだから出ないといけないのだが、西門に展開している高順以外は自分達を知らない。
「そうか・・・。ん、良い事思いついた。」
「・・・良い事?」
「ああ。協力して何処か守りの薄い城門を開けようぜ。その方がお互い生き残れる確率も高いってもんだ」


~~~西門~~~
「粘るのぉ・・・」
黄蓋は城壁から矢を射かけてくる敵兵を撃ち抜きつつ呟いた。撃っても撃っても沸いてくる。
もう勝負は付いたも同然だというのに。諦めていないのか、それとも自棄になっているのか。
袁術に忠誠を誓っているわけでもなかろうに、と思いつつも容赦をせずに射倒していく。
(降伏勧告を行うべきだが、まだ敗北が決定的ではないところでやっても・・・しかし、将兵共に腹を空かせて・・・むぅ。)
高順隊も同じく矢を撃ち込んでいるが、こちらは微妙にやる気が無い様に見える。
本気で攻めるなら投石器を使うだろうし、西攻城部隊に限っては城門破砕槌も使用していない。
これは黄蓋と高順の話し合いの結果決まったことであり、やる気が無いということではなかった。
「北と東の部隊は全力で攻めるだろうから、こちらはわざと緩い攻めで行こう」と。
そうすれば城壁、或いは門を守る兵が他の場所の応援に行って周泰らも出やすくなる。
食料庫が燃えれば更に混乱が広がるだろうし、全体的に兵の士気も落ちて自分から門を開けてくるかもしれない。
こんな攻めを続けて数時間。黄蓋は一瞬、だが確かに袁術側に広まった動揺らしきものを感じた。
これは歴戦の勇士である黄蓋だからこそ明確に感じ取れただけで、高順や趙雲達ですらおぼろげに・・・程度だ。
まして西側にいる他の武将が感じ取れたわけがない。
そして、そんな好機を黄蓋が見逃す訳がない。
「高順に伝えよ。攻め時じゃ、と。それだけで解る!」
黄蓋は伝令を呼んでそれだけを命じ、伝令はすぐに高順の陣へと向かって走っていく。
これで、攻撃準備が整った。
「さあ、行くとするかの。そろそろ若い奴らも暴れたがっておるだろうしなぁ。」
黄蓋は「とんとん」と自分の肩を2・3度叩いてから弓を構え直した。

「・・・そっか。黄蓋さんに解りました、と伝えてください」
「はっ!」
高順の返事を聞いた伝令が、再び黄蓋の陣へと戻っていく。
「大将、いよいよっすね」
伝令が帰って行くのを見届けてから、周倉が高順に話しかけた。
「ん。そういうことだから配置に。・・・ほんと、大丈夫なの?」
「へ? 何がっすか?」
周倉は何が? と頭をポリポリ掻いている。
「城壁昇り。」
「あー。大丈夫っすよぅ。前言ったとおり右足がずり落ちる前に左足で壁蹴り上がればいいんすから!」
「・・・・・・そ、そっか。じゃ、任せる・・・」
「ういっす!」
高順の言葉に周倉は頷くが、高順からすれば「そんな事できるの貴方だけですよ・・・」と思っていた。


寿春城にて。
「どどどどどどどどうするのじゃあ、七乃ー!?(ななの。張勲の真名)」
袁術の叫びが太守の間で木霊していた。
もう何度聞いたか解らない言葉を耳にして張勲は「もう、今度こそ本当にどうしようもないですよ♪」と、のたまう。
実際に、もう挽回の余地は殆どない。楽就との共同作戦も失敗。西門から出撃した部隊もあっさり降伏。
食料庫は焼き討ちされてしまうし、今までは緩やかだった西側の攻撃軍も勢い盛んに攻めてくる。
既に親衛隊の大半を動員して何とか保っているが、食料が無ければただでさえ低い士気がどん底になるだろう。
城を守る部隊は居らず、いるのは女官や文官のみ。これでは打つ手などあるわけが無かった。
時期を見計らって逃げる事しかできそうに無いのだが、全門を攻められて塞がれている以上、逃げ場所もない。
「ど、どこかに抜け道とかは無いのかえ!?」
「そんなのあったらとっくに使ってますよぅ。もう、そんな事も解らないだなんて能天気なんだから♪」
でも、速く逃げの算段固めないとなぁ、くらいは考えている。
城門突破に気を取られているうちに変装して、あと伝国の玉璽を持って。
ここに押し込まれる前に脱出、どこかに身を隠す。城は陥落するだろうけど、その陥落のどさくさに紛れてなんとか国外に脱出。
お嬢様は嫌がるだろうけど、北の袁紹さんを頼るとか・・・。
よし、そうと決まれば。
「さあ、お嬢様。ちょっとお着替えしましょうね~。」
「え、着替えって・・・何をするつもりなのじゃちょっと離せー!?」



「全兵、周倉を援護。敵弓兵は全て射倒せ!」
高順の号令一過、兵は弓を構えて城壁上の敵兵に狙いを定めて矢を放つ。
黄蓋隊も前進、破砕槌を押し出して今までの緩やかな攻めが嘘のように動いている。
梯子をかけて登っていこうとする兵が射抜かれ、かと思えば射抜いた弓兵が黄蓋隊の弓兵に射抜かれる。
お互いの兵が矢で撃たれ倒れていくが、士気の低い袁術側の兵は及び腰で、逃げに入っているものも少なくない。
高順隊の先頭を走る周倉を狙っている弓兵も多かったが、それらは楽進の気弾や沙摩柯の強弓で優先的に倒されていく。
城壁まで迫った周倉は走る速度を緩めず、そのまま城壁に足をかけた。
「ぬぅおおりゃああぁああぁああっっ!!!」
雄叫びと共に、一気に駆け上がっていく。
「・・・本当に駆け登ってるよ」
高順だけでなく、ソレを見ていた殆どの人が思ったことだがそれは置いて、周倉は足がずり落ちる前にもう片方の足を踏み出す。
水の上を走る無茶な行いを実践するトカゲか何かが実際にいたと思うが、それと同じ・・・いや、全然違うが、とにかく周倉は本気で城壁を走って登っていく。
「く、なんだアイツは! 狙え、撃て・・・ってもう来たあああ!!!」
城壁守備隊の部隊長の一人だろうか。叫んで矢を射こもうとするが、それよりも速く周倉は昇りきって城壁守備隊の中へと踊りこんだ。
「よいさぁっ!」
「げはあっ!」
長斧を両手に持ち、その場で勢いをつけて回転。何人かの袁術兵が巻き込まれ、斬り倒される。
「くそっ」
至近距離で矢を放つ者もいたが、周倉はそれより早く袁術兵の死骸を掴んで盾にする。
「甘ぇっ!」
「なっ・・・ぐおおっ!?」
「賊の戦い方を舐めるんじゃねえよ!」
怯んだ隙に周倉が突進、太ももに括り付けていた小型の斧を投げつけ、更に距離を詰めて敵の頭をかち割っていく。
そして。
「今です!」
周倉が背を向けている反対方向に、今度は周泰が出現。城門を守る部隊は、黄蓋と高順が全力で攻めた隙を見て、周泰と楊醜(影部隊)が背後から襲撃、混乱中。
その混乱を突けば破砕槌も突破をしやすいだろうし、事実防衛力が弱っている。
此処は任せて置けば安心、と周泰は階段を駆けて敵兵を斬り飛ばしながら進んできたのである。
「んお? 周泰じゃねーか!」
「皆さんが突入しやすくする為に頑張るのです!」
「楊醜とかは無事なのかよ?
「はい、最初は知りませんでしたが、うまく行ったのです。」
「そっかぁ。なら案ずる事は無ぇやな。気合入れて行くぜ!」
「了解です!」
周倉・周泰は城壁上で暴れ周り、次々に兵士を薙ぎ倒していく。
「うむ、今のうちじゃ。更に激しく攻めよ、今ならば容易く城壁を制圧できよう!」
黄蓋はそう言いながら自分自身で城壁を越えようと前進。当然のように兵は従い、更に袁術側への重圧を加えていく。
高順隊も負けじと前に出て、高順自身が梯子をスルスルと上って城壁へと登っていく。
城壁に展開していた袁術軍は周泰、周倉を抑えられず、更に黄蓋・高順の部隊が次々に現れたことで支えきれなくなる。
まだ守ろうと踏みとどまる兵もいたのだが、大半が防衛を諦めて寿春政庁へ撤退するか、或いは降伏。
これと同じ頃に北門・東門も制圧され、若干の守備隊を残して即座に政庁を包囲。
殆どの兵が降伏か政庁に撤退して立て篭もる構えを見せたので、市外戦に発展する事は無かった。
孫策は攻める前から「民に対して攻撃、略奪は禁止」と布告していたので、これはこれで都合が良いといえる。

李典は城をジーっと見つめていた。中々堅固な造りであるが、それが活かせていない。
もうちょい兵士にやる気あって、まともな武将が陣頭指揮とっとれば多少は違ったんやないかなぁ、と思う。
兵士にやる気がなかったのは食糧不足と、一番上に対しての信頼のなさだろう。まともな武将がいない、とは思わないが、その武将が腹を空かせている状態では・・・。
さて、考えるのはそこまでにして、と李典は螺旋槍を握り締める。
そろそろ城への突入が開始される。
突入部隊は各部隊精鋭(と言ったら高順が「じゃあ俺外れないと・・・」と言って楽進にシバかれていた)が揃えられている。
他の将兵は逃げた兵を捕らえたり、或いは逃げようとする者を捕縛する。
孫家は名のある武将ほとんどを投入しており、高順隊も高順・楽進・趙雲・李典。そこに兵が2000ほど投入される。
他の者は市街地に潜んでいるかもしれない兵士の捕縛か殲滅が主任務。
余談だが、城内突入の為に武器を必要とした高順に武器を貸したのは周倉であった。
曰く「俺のお古でよかったら貸しまスよ!」と、渡されたのだが・・・形状はバトルアックス(柄の両側に斧刃が付いている)。
しかし、その刃の部分がちょっと刃こぼれしてるわ、赤茶けた錆が付いてるわで、ハッタリの効き過ぎた鎧を着用している高順がそれを持つと、かなり怖い。
どこぞのゲームに出てきそうな大魔王とか、そんな風貌なのである。
背景に「ゴゴゴゴゴゴ・・・」とか「オオオオオォォオォ・・・」とか効果音が付きそうな勢いだ。
柄が短く、バトルアックスとは言えそこそこ取り回しが良くて狭い場所でも使えそうである。
これを見た趙雲がさらりと「夜中に会えば私でも逃げますな」と言った為、高順も素で凹んだとか。
そんな幕間を挟みつつ(またしても)孫策が先頭に立って「突撃ーーー!」と号令。
孫策軍は一気に寿春城内へと雪崩れ込んだ。

「ななななななななな、ななにょー! どうするのじゃ、もう逃げられんではないかーーー!?」
あ、お嬢様噛んだ、と心の中で突っ込みを入れつつ「孫策さんが来る前に逃げれると思ったんだけどなぁ」と張勲も困っていた。
変装をしているとは言え兵士達に見つかれば「逃げようとしているぞ!」になるので隙を見ながらにしたのが逆に仇になったらしい。
「仕方ありません、こうなったら」
「こうなったら?」
「隠し通路はないですけど、地下に隠し部屋はあります。そこに隠れましょう!」

「無闇に殺すな、抵抗する者だけを斬り捨てればいいわ!」
孫策は声を大にして、向かってくる敵兵の首を斬り飛ばした。
血が全身にかかっているが、これは今までの戦闘が激しかっただけで、自分自身は血を一滴も流していない。
孫策は戦えば戦うほどに剣閃が鋭くなるという性質で、今回はソレが遺憾なく発揮された戦いだった。
中庭、兵士詰め所、宝物庫・・・主要な場所を瞬く間に陥落させ、兵士を降伏させ、非戦闘員は広めの食堂やらに適当に詰めていく。
高順隊の面々もきっちり働いているのだが「ぎゃあああ!? 何か怖いのがいるーーーー!?」だの「ひええっ、ゆ、赦して! 後生ですから命だけはぁっ・・・」と、大して戦ってもいないのにほとんどが降伏してくる。
そりゃ、あんな尖った黒い鎧を着たでっかいのが少し重たげに、ゆっくり戦斧を構えて迫ってくるのを見たら普通にそうなるだろう。
戦いが無かった訳ではなく、幾人かの袁術親衛隊が斬りかかって来たので返り討ちにはしている。
おかげで斧に鮮血が・・・。・・・これも理由の1つっぽい。
と、そこで趙雲が青釭の刀を手に近寄ってきた。
「高順殿、食堂付近の制圧は終わりましたぞ。」
「ご苦労様です。李典と楽進はどうしました?」
「地下にあるという食料集積庫に向かったようですな。孫策殿は太守の間へ向かったようですが・・・どうも、袁術が見当たらぬ、と。」
「ふーん・・・どっかに隠れてるのかね。それとも逃げたか。」
「さて? して、我々はどうします?」
ふーむ、と高順は顎の部分に手を当てて考える。
兵士は食堂を占拠して、捕虜とかはそこに詰め込んで・・・それに、袁術の顔を知らないし、探そうにも手がかりはない。
もしかしたら捕虜の中にいるかもしれないが、そこらは孫家の人々に検分してもらえば良い話だ。
「じゃ、李典と楽進の様子を見に行こう。もし苦戦してたら・・・無いよなぁ、やっぱり。」
「無いでしょうな。それでは参りましょう。」
二人は並んで地下へと向かった。


~~~地下、食料庫~~~
「ほへー、こない大きな造りとはなー・・・」
「ああ。・・・なんだか、瓶が多いな。随分甘い匂いがする。蜂蜜か・・・?」
李典と楽進は地下の食糧貯蔵庫に侵入していた。侵入と言っても邪魔者は排除し、兵士達にも捜索をさせている。
隠れている者がいれば連行しなければいけない。
「せやなぁ、蜂蜜の匂いや。・・・うっわ、ここいらの食料腐っとるし。高順兄さんがこれ見たらめっちゃ怒るやろなぁ」
「そうだな。腐らせるほどに余ってるなら窮乏している人々に分けてやれ、くらいは言いそうだ。」
ぶちぶちと文句を言う2人だが、ここで李典がちょっとした異変に気がついた。
貯蔵庫の一角を見つめて不思議そうな表情で近づいていく。
「・・・?」
「む? どうしたんだ?」
楽進が怪訝そうな表情で付いてくる。
「・・・・・・んんー?」
なんやおかしいなぁ、違和感があるんやけど・・・
ここは地下で貯蔵庫だが、城の造りから言ってここはもう少し広い筈だ。
この規模の貯蔵庫と他にあった地下部屋の大きさから考えて、恐らくだが「ここから」城は作成されている。城を作った後に地下室を作った、というような造りではない。
(そう仮定して、基本の造りがそーなると・・・さっきうちが外側から見てた大きさから考えたら、ここにもう1つくらい大部屋がありそうなんやけど)
んー、と唸りながらそこらへんをこつこつと叩く李典。すると、少しだけその感触に違和感があった。
こつこつ、と叩いた音が軽い。この裏に空間がある感じだ。
「なあ、凪(なぎ、楽進の真名)。ちょい、ここ押してみ」
「ん、何だ・・・どれ。」
楽進は李典の指差した場所を人差し指と親指を当ててぐいぐいと押してみた。
「・・・今、少しだが変な感じがしたな。この裏に隠し部屋、か?」
「せやろ。けどなぁ、これうちらの独断で何とかして良いえもんちゃうやろーし。どないするかな。」
「隊長を呼んで来ようか?」
「せやなぁ、そのほうが良えわな・・・あ。噂をすればえろ・・・ちゃうか」
言葉通り(?)、部屋に高順と趙雲が入ってきた。
「やあ、順調そうだな、凪、真桜」
高順は、あまり人前で真名を呼んだりはしないが、今は仲間内ということで普通に2人を真名で呼ぶ。
「ちょうど良いところに。」
「え?」
楽進と李典は、二人に事情を説明。
高順は特に迷うでもなく「じゃあ開けるか」と斧を構えた。
「え、そないに簡単に決断してええん?」
「良いよ。ここが逃走用の隠し通路に繋がってるとかのほうが問題だしね」
よいせっ、と斧を叩きつける。
べぎゃあっ! と音を立てて壁が崩れ、その向こうに通路が見えた。
「大当たり、ってことか。じゃあ行こう」
「お待ちください。どんな罠があるか解りません、ここは私が」
行きかけようとする高順を押し留めて、楽進が先頭に立とうとするが、高順は「ああ、大丈夫大丈夫」と笑った。
「何かあっても問題ない。俺が怪我するだけで済むしねぇ」
「そ、そういう問題では・・・ああ、もうっ」
ずかずかと進んでいく高順に、その背を追う楽進。趙雲も李典も「やれやれ」と苦笑して歩いていく。
通路は狭く、人が2人並んで歩くことが出来ない。照明用の蝋燭と蝋燭立てが壁に吊るしてあるが、ソレは使用されていない。
奥のほうに光が見えて、そこは部屋になっているのが見て取れた。
その光のすぐ側には・・・。
「なな、七乃! あっさり見つかってしまったぞ! しかも斧を持った珍妙不可思議な物体がこっちに来よる! なんとかせぬか!」
「えぅぅ、無理ですよー!」
と、抱き合う金髪の幼女と青髪の女性。袁術と張勲である。
「・・・物体とか言われた。」
寂しそうに言う高順だが「いや、それは仕方ないのでは。」と後に続く3人は考える。だって怖いし・・・。
さて、その抱き合っている二人だが、格好は今までに捕らえて来た女官と同じものだ。
しかし、ただの女官が隠し部屋に、それも2人きりで隠れているというのは考えにくく、袁術か、その袁術の縁者と思われる。
女官の格好をしているといっても逃げるための変装かもしれない。
高順もそれを理解しているが、もしそうでも断を下すのは自分ではない。
下すとすれば、袁術に延々こき使われて利用されてきた孫策が行うべきで、それが孫策のやるべき仕事なのだ。
民を蔑ろにした袁術には嫌悪感があるが、目の前の少女が袁術と断定できる訳もない。
高順は「・・・適当に縛ってどこぞの個室に連れて行こう。見張りは凪と真桜。俺は孫家の人に伝えるか・・・」と決定。
嫌がって暴れる袁術と張勲だが、趙雲らに敵うはずもなくあっさりと縛られた。

趙雲が(何故か)嬉々として米俵の縛り方で2人を縛っていたが、高順は「絵面的にやばすぎるよなぁ・・・」とあまり係わり合わないように遠目から見ていたとか。


高順達がそんな事をしている間に、孫策は最上階まで到達。太守の間を制圧して完全に寿春を占領した。
ただ、袁術が何処にも見当たらず、城内制圧に同行した孫家の武将を総動員して行方を捜索。
そんな中で黄蓋は「そういえば高順が捕虜を食堂に押し込めていると聞いたな」と思い出し高順を探していた。
高順も、孫家の人に見てもらったほうが良いだろうな、と孫家の人々を探していたが、運良く途中でバッタリと出あった。
「おお、探したぞ高順。捕虜の検分をさせて貰いたいのだが構わぬか?」
「ちょうど良いところに・・・ちょっと見てもらいたい人が二人」
同時に発言したが、黄蓋は即座に「どんな奴だ!?」と聞き返す。
「青い髪の女性と、金髪の幼女ですが?」
聞いた黄蓋はすぐに「どこだ、案内せい!」と高順の腕を引っ張って歩き出した。
「いや、どこにいるか知らないのに歩き出されても!?」と高順は興奮する黄蓋を宥めて、部屋へと歩いていった。

結果・・・二人は袁術と張勲と判明。
そしてほんの30分と経たず、袁術らを閉じ込めた部屋には孫策、周喩、孫権・・・といった孫家の主要な面々が揃っていた。

「あぅぅぅう・・・」
完全に泣き出し、座り込んで震えている袁術と、その袁術と抱きあう張勲を孫策は立ったまま見下している。
孫策は、同じく部屋にいた高順に「良く見つけてくれたわね。大手柄よ」と声をかけた。
高順は「楽進と李典のおかげですよ。恩賞だったら2人にお願いしますね」と言って肩を竦める。
「部下の功績は主の功績。胸を張りなさい」と孫策は少し苦笑してから、さて・・・と袁術と張勲に意識を向けた。
「よくもまあ、生き恥を晒そうと思ったものよねぇ・・・。ここまで追い詰められる前に降伏しようとかそういうつもりは無かったわけ? どれだけの兵士が命をかけて、そして死んでいったと思う?」
孫策の声色には殺気が篭っており、その殺気を裏付けるように鞘から剣を抜き放った。
「ひええええっ!? わわ、妾を殺すというのかぁぁ!?」
「とーぜんよ。今まで散っ々コキ使われてきたんだから、意趣返しくらい当然よ?」
「なな、七乃七乃ぉ! 妾を助けるのじゃ!」
「無理!」
「なんじゃとー!? 七乃は妾の傅役ではないのか!?」
「孫策さんには勝てませんよぅ!」
「それでも妾を守るのが七乃の役目じゃろー!」
「守ります! 後ろから見守っています!」
「見ているだけ!?」
ここまで来て漫才を繰り広げる二人だが、孫策は冷徹に「はいはい。そろそろ終わりにして良いかしら」と告げる。
「いい、嫌じゃ嫌じゃ! 妾はまだ死にたくないぃ~~~!」
「私もですぅ~!」
ぎゃーぎゃー泣き喚く袁術と張勲。だが、孫策はまったく気にしない。
「ざーんねん。だから殺すの♪ さぁ、そろそろ覚悟は良いかしら。具体的に言えば首と胴が離れる覚悟。」
『ひぇぇぇぇぇ~~~~!!!』

(あの、隊長・・・)
(ん?)
楽進が高順の鎧をちょんちょん、と突っついて小声で話しかける。
(止めないんですか?)
(俺にはそんな権限ないからね。それに、決断するのは孫策殿だしね)
(それはそうですけど・・・)
楽進はちら、と孫策のほうへと目を向ける。
赦すつもりがあるのかどうか知らないが、このままでは本当に袁術たちの首と胴は離れるだろう。
見苦しく命乞いをする二人を、孫家の面々・・・孫策・周喩・孫権・黄蓋と言った人々は冷たく見下ろしている。
それはそうだろう。高順も対黄巾の時に譲った手柄を袁術に奪われた、ということを黄蓋から聞いているし、そういうことは珍しくもなかったのだろう。
そうやってじっと耐えてきた孫策達に、横から口出しをするつもりも、そんな権利もないことを高順は理解している。
民の、兵の、そして紀霊や楊奉の飢えっぷりを自分で見た高順にとって、袁術ははっきりと嫌うべき存在だ。
丁原ですら民の生活は気にかけていたし、良く酒を買っていたが高い酒はあまり好まず安酒を飲んでばかりいた。
「こうやって使わないと金っていうのは回らないからな」と丁原は言っていたがあれは自分が飲みたいだけでは? とか思っていたものだ。内心では半々くらいの気持ちだったかもしれない。
あの、割ときっつい丁原様ですら民の生活を気にされていた。それなのにこの袁術は。と高順は袁術を睨んでいた。
まだ子供だから多少は目を瞑らないといけないかもしれない。きっちりとした教育者に恵まれれば更正も可能かもしれない。
だが、丁原・曹操・公孫賛・張燕・董卓・呂布・孫策・・・曹操は僅かだが、高順は実に多くの人々の間を渡ってきて、その誰もが民の生活にも目を向ける人々であった。
今目の前にいる袁術は高順にとって初めて、大領を預かりながら民の生活を気にかけぬ暴政者。個人的な感情でしかないが、高順が孫策の立場であればまず袁術を処刑したであろう。
楽進もこれほど露骨に殺意を見せる高順が珍しく、だからこそ小声で話しかけたのだ。
しかし・・・袁術と張勲の命乞いを聞いていた孫策は不意にその殺気を和らげた。
「もういいわ。なんか興醒めしちゃったし。」
「・・・へ?」
「逃げたいんでしょ? 勝手に逃げなさいよ。」
孫策は剣を鞘に納める。
「へ、に、逃げて良いのか?」
「良いっつったでしょ。ただし! 条件が2つあるわ。それを聞けば許したげる。」
「2つ?」
「そ。先ずは1つ。私の領地にこれ以降金輪際、二度と入ってくるな。その時には本当に首と胴が永遠にお・別・れ・しちゃうから・・・」
『ひっ・・・』
お別れ、に思い切り力を込めて言う孫策に、抱き合ったままの袁術と張勲が悲鳴を上げた。
「2つ目。袁術ちゃんに玉璽を預けてたわよね? あれ、返してくれる?」
「ぎょ、玉璽とな!? あれ、妾にくれたんじゃないのかやっ」
「んな訳ないでしょ。あれは兵を貸して貰うために質草にしただけ。兵は全部返したんだから玉璽を返すのも当然よ。」
さあ、どうするの? と問い詰める孫策に、袁術は「ぅぅぅぅ~・・・」と渋りつつも懐から玉璽を差し出した。どうも持ち逃げするつもりだったようだ。
孫策はそれを眺めた後に「ん、本物ね」と周喩に投げて寄越した。周喩も「ふむ、間違いないな」と呟く。
「・・・ほら、何してんの。さっさとどこかに行きなさい。それとも・・・いっそ、ここで死ぬ? その方が生きるよりずっと楽よぉ・・・?」
「ひええええっ! さ、さっさと逃げるのじゃ! 七乃ー!」
「は、はい! さよ~ならぁ~~~~!」
ぴゅーん! と信じられない速さで部屋を出て、2人はどこかに逃げ去っていった。

「・・・良かったのかしら?」
「さあ? でもまぁ、あのお馬鹿さん2人じゃ何もできないでしょ。馬鹿2人くらいだったら見逃すわよ。」
周喩に、孫策は笑いながら答える。
孫権も同意見らしく「仕方ないですね」と言うのみである。
「さあ、一休み・・・と行きたいところなんだけど。まだもう一仕事残っているわよ。」
皆は解っている。と頷く。
「各部隊は城下の治安維持をお願い。すぐに統治活動に移行するわ。周喩、孫権もよ。」
「ああ。」
「はいっ!」
「黄蓋は負傷者の救護と、民への食料の炊き出し。高順、貴方も手伝ってあげて。」
「応!」
「了解です。」
孫策は珍しくきっちりと指示を飛ばしていく。

袁術を打ち倒し、その追放にも成功した孫策。
まだ周りの勢力が多く楽観視は出来ないが、彼女を始めとした孫家の人々は確かな手ごたえを感じていた。
自分達は、遅れに遅れてこの場所にたどり着いた。他の諸侯は既に後にした開始地点に、やっと立つことが出来た。
孫策はあれこれと忙しく動き始めた人々の中にあって、少しだけ目を閉じて・・・今は、心の中だけに生きている母、孫堅に語りかける。
(母様。やっと、やっとここまで来れたわ。本当なら、母様が生きていいればもっと、ずっと前に通り過ぎたはずの場所に。でも・・・)
まだまだここからだ。絶対に巻き返してみせるわ。

孫策が、いや、孫家が新たな、そして真なる大望を胸に乱世に名乗りをあげた・・・その瞬間と言えた。



~~~ちょっぴり番外~~~
夜中。
袁術と張勲は未だに寿春市外に潜伏、裏道を歩いていた。
出て行け、と言われ、このまま留まり続けていたら首を斬られる事もありうるのだが、それでも彼女達は寿春にいた。
理由は簡単。単純に出られなかったのである。
よくよく考えてみれば、全ての門が占領され、孫家の軍勢が守っている。南門はまだ復旧していない。
最初から出られる筈がなかったのだ。この辺りは完全に孫策が失念しただけであるが。
袁術と張勲は手を繋いでとぼとぼと歩いている。
「七乃~・・・これからどうするのじゃあ・・・」
「どうしましょうねぇ・・・お金もないし、門からも出られないし。首が離れるまでもなく餓死しちゃうかも・・・」
「ううっ・・・この袁術ともあろうものが惨めなのじゃぁ・・・蜂蜜水が飲みたいのじゃぁ」
「無理ですよぅ、袁術様。今の私達じゃ水を飲むお金すらないんですっ」
「うぅぅううぅぅ・・・惨め過ぎるのじゃぁ~~~・・・」
当て所なく彷徨う二人だが、ついに袁術が音を上げてその場にへたり込んでしまった。
「もう、歩けないのじゃあ・・・」
「そんなぁ、しっかりしてくださいよー」
「嫌じゃ! 妾は腹が空いたぞ! 蜂蜜水も飲みたいのじゃ!!」
お腹が空いても、蜂蜜水が飲みたくても、金がなければどうしようもない。
ばたばたと暴れる袁術に張勲も困り果ててしまった。

「ん? ・・・あれは。」
そんな所へ通りかかったのは・・・高順。

高順は「おい」と漫才2人組に声をかけた。
「ぴぇっ!?」
「ぴぇ? ・・・良いけど、何をしているんだ。出て行ったんじゃないのか? 金輪際、孫策殿の領地には入らないという約束だったろう。」
「・・・? あのぉ」
「何さ?」
「どこかでお会いしましたっけ?」
高順は「はぁ?」と思ったが、考えてみれば自分は今鎧を着けていない。
そういえば、鎧を着た俺しか知らないっけ、と高順は思い直した。
「さっき、珍妙不可思議とか物体とか言われた人だよ。鎧と斧持ってたアレ。」
「・・・おお、アレか!」
「アレですね、お嬢様!」
アレで理解されるのも悲しいものがある。
「別に良いけどね・・・で? 何でまだここにいるんだ。」
「それは、そのー・・・出られなかったんです。」
「・・・・・・。」

聞いてみれば、城門は閉ざされて出るに出られなかったとか。
話を聞いた高順も「なるほど、そういうことか」と納得してしまった。
「なら、出られるように話をつけてあげるよ。付いて来なさい」
高順は背を向けて歩き出そうとするが、ここで袁術の腹が「くぅぅぅ~」と音を立てた。
「うう、七乃~ぉ・・・」
高順は少しだけ振り向いて空腹か、と理解した。
が、高順は珍しくこれに同情をしない。
今まで袁術は民を飢えさせていた。少しくらい飢えて困窮した民の気持ちを知るべきなのだ。
自分の行ってきた暴政のツケを自分の首で購わずに済んだ、という事でも感謝をするべきなのかもしれない。
ちなみに高順が夜中に裏路地を歩いていたのは、治安活動の一環であり、また炊き出しを行っているので飢えて動けない人とかはいないだろうか? と探し回っている最中である。
幸いにも、治安自体は現状で特に問題ない。なのでメインの仕事は炊き出しと、そこに人を連れて行くと言うことになる。
「もう妾は動けんのじゃ、何とかするのじゃ!」
「何とかって言われてもぉ・・・。」
張勲は助けを求めるように高順を見るが、高順はそれをできるだけ無視した。
「飯を食う暇があればさっさと出て行くべきだと思うけどね。見つかったのが他の人だったらすぐに首から上が無くなってただろうし。」
ほらほら、早く立つ。と高順は急かすが袁術は動こうとせず文句ばかり垂れる。
「何故妾がこんな目に会わなければならんのじゃっ。妾が何をしたと言うんぢゃぁー!」
具体的に言えば、民を飢えさせて、でもって孫策殿を怒らせた。自業自得。と高順は心の中で突っ込みを入れる。
「お嬢様、ガンバです! お嬢様はこんな事でへこたれる繊細な心をもってないんですから!」
子供のように駄々をこねる袁術と、フォローになってないフォローで慰める張勲。
実際に袁術は子供だし、駄々をこねるのも仕方がないといえば仕方がないのだろうが・・・やはり、周りの育て方が悪すぎたのかな? と高順は思う。
(そういえば、この張勲って人が袁術の傅役とか言ってたな・・・言動を聞いていると腹黒っぽいし、この人の教育の仕方が悪かったのでは。)
「・・・はぁ。もう良いよ。2人とも、ちょっと付いてこい」
高順は袁術の首根っこを捕まえ、ぶら下げて持っていく。
「ぎょえええっ!? 苦しっ、首が、首がっ!」
「お嬢様ー!?」
叫び声を無視して、高順が向かった先。そこは炊き出し場所であった。
沢山の生活に困った人々の手には握り飯とお碗に一杯の味噌汁。皆、美味しそうにお握りをほお張り、味噌汁を啜っている。
袁術とそう変わらない年頃の子供が、よほどお腹をすかせていたのだろうか。「おかーさん、もうたべちゃだめ?」とせがんで母親らしき女性を困らせている。
母、子ともに服は汚れていて辛い暮らしをしていたであろうことを窺わせる。
基本的に配給されるのは一個だけだが、それをたまたま聞いていた高順が近づいていき「お握り、美味しかったかい?」と子供の目線に合わせるようにしゃがみ込んで聞く。
袁術の首根っこ押さえたままなので異様な光景になってしまっているが・・・。
その子・・・女の子か男の子か解らないが、高順の言葉に、目を輝かせて答える。
「うん! すごくおいしかった! あの、おみそしる? っていうのもあったかくておいしい!」 
「そっかぁ。ふふふ、じゃあ、特別にもう一個お握りとお味噌汁をもらってきて良いよ。」
「ほんとう!?」
「ああ、本当だ。でも、あまり食べ過ぎないでくれよ。他の人の分が無くなっちゃうからね。」
「うん! ありがとう、おにーちゃん!」
子供は配給所まで歩いて行った。本当は特例とかを認めるわけにはいかないのだが、廬江でも同じことはあったし、こういうことも想定して食料を多く用意してきたので問題は少ないだろう。
「あの、ありがとうございます・・・。」
母親が頭を下げるが、高順は「ああ、いいんですよ」と笑う。
「子供は国の宝ですよ。お腹の空く年頃でしょうしね。」
気にしないでください、と笑いかけて、高順は少しだけその場を離れてから袁術を離した。
その袁術はじっとこの光景を見つめて信じられないものを見た、という表情をしている。
「これは・・・何なのじゃ?」
「炊き出し。食糧の配給だよ」
「そうではない! ・・・七乃、これは何なのじゃ? 何故、こんなにも」
「え? えぇと、それはぁ~」
「妾は聞いておらぬぞ! 何故、ここまで生活に苦しんでいる者が多いのじゃ!!」
・・・はい?
「・・・袁術さん、あんた、知らなかったのか? 民は飢えて食べるものが無かったんだ。紀霊さんや楊奉さん。兵士だって飢えていたんだぞ?」
「何じゃとっ・・・七乃!」
「あうあうあうあう・・・」
何だろう、様子がおかしい。
「えーと、張勲さん。事情を説明してもらえる?」
「はぅぅぅ・・・それは、ですねえ。」

話は1年ほど前。その時、その場には孫策がいなかったらしい。
蜂蜜のほかに温州蜜柑を好んでいた袁術だが、それを運んでいる最中に市街地で馬車の荷台が石に蹴躓いて、荷台に山と積まれていた蜜柑がいくらか零れ落ちるということがあった。
その一つを、ある子供が服の袖の中に1つ忍ばせて盗もうとしたそうな。
この時、袁術はたまたま馬車の中からそれを見ており、降りていってそれを咎めた。
その少年は、恥ずかしそうに蜜柑を差し出して「お母さんに食べさせてあげたかったんです」と答えたのだという。
これを聞いた袁術は「・・・そなた、貧しい暮らしをしてるのかえ?」と聞いて、少年はそれに頷いた。
母親と二人暮らしで、父親も兵士として従軍して戦死。働き手は自分しか居らず、苦労している・・・。そんな話も聞かされた。
これを聞いた袁術、「そうか・・・」としょぼくれた。袁術自身、幼い頃に父母を無くして張勲が母親代わりである。
なんとなく同情してしまった袁術は「・・・良いわ! 好きなだけ持っていけぃ!」と半ば自棄っぽい気前の良さを見せた。
これのせいで、他の貧しい暮らしをしている子供たちまで蜜柑を持っていって、その荷台1つ分の蜜柑はなくなっている。
この時に、袁術は張勲に質問している。
「なぁ、七乃」
「何ですか、お嬢様?」
「妾は知らなんだ。妾とそう変わらぬ歳の者がああも貧しい暮らしをしているとは」
それはそうだろう。袁術は基本的に外の世界を知らない。華やかな城の生活しか知らず、外の世界などほとんど見たことが無かった。
それから、袁術はほんの僅かに変わった。
蜂蜜を求める回数の多さは変わらなかったが、折に触れて「のう、民はまだ貧しいかや?」と張勲に聞くことが多くなったのである。
ソレに対して「大丈夫ですよぅ、お嬢様の威徳は浅く狭く民に広まってますから♪」と、張勲は答えていたそうだが。

「・・・つまり、あんたが原因の1つか」
高順は三刃槍を張勲に向けた。
「ひええええっ!?」
びびった張勲はぺたり、と尻餅をついた。
張勲が素直に「蜂蜜ばっかり買うから、そのせいで民の税金は増える一方」とか言えば、まだマシになった可能性がある。
聞いた感じだと、袁術は散々わがままに育てられていたようだしまだ子供だから期待は出来なかったかもしれないけれど、その可能性を潰した育て方をするのは見逃せない。
「た、助けてー!?」
「あんたの育て方が悪いから袁術の性格が歪んだと。元凶は断つべきだよね・・・」
冷たい表情で槍を握る手に力を込める高順。だが、そこに袁術が割って入った。
「や、やめてたもれ!」
「却下。退いて」
「冷たい!? い、いや、退かぬぞ! 七乃は、妾のたった1人の友達で母親じゃ! 絶対に退かぬ、媚びぬ、顧みぬぅ!!」
「お、お嬢様~~~・・・」
いやそれ間違った使い方なんですけど・・・。という突っ込みはともかく。
このただならぬ雰囲気に周りの人々がざわめく。一体何があったのだろう? とばかりにヒソヒソ話をするものもいる。
この険悪な空気の中、先ほどお握りと味噌汁を貰いに行った子供が怖じもせず高順の服を「くいくい」と引っ張った。
「ん・・・ん? さっきの子・・・どうしたのかな?」
「おにーちゃん、よわいものいじめしたらだめなんだよ?」
「え?」
「よわいものいじめしたら、めっ、てしかられちゃうよ? おにーちゃんはやさしいひとだよね?」
「・・・うっ。」
今度は高順が追い詰められた。こういう、純真な子の言葉ほど心に突き刺さる。高順は恥ずかしそうに槍を収めて、子供へと向き直った。完敗である。
それを見た子供は、えへへ・・・と笑った。
「あ、そうだ。おかーさんがね、おれいしてきなさいって。ありがとうございました。」
子供は、先ほどの母親と同じように頭を下げた。見れば、その母親が半分ずつに割られたお握りと、味噌汁のお碗を持ってハラハラとこちらを見つめている。
「む・・・そっか。あまり気にしなくて良いからね。お母さんの事、大切にするんだよ?」
子供は「うん!」と元気良く頷いて母親の元へと帰って行った。血なまぐさい空気が薄らいだ事で、周りの人々も食事へと戻っていく。
高順は自分の頭を「こつんっ」と殴った。自分が断を下すつもりは無い、と言っておきながら怒りのあまり張勲を斬りそうになった。
自制しなくちゃなあ、と思いつつ、さて、と高順はもう一度袁術のほうへと体を向けた。
袁術はまだ両手を広げたまま張勲の前に立って高順を睨んでいる。
袁術を許せるか否か、と言われれば、やはり許せない。彼女は知らずとはいえ、民の暮らしを追い詰めていたのだから。
だが、彼女は可能性を見せた。人として立ち直れる可能性を。
本当にどうしようもない人間なら、自分が危険な思いをして他者を庇うことをしない。
可能性があるのなら、そこに賭けてみたい。ここよりも甘えの利く時代に生を受けた高順の、そこは譲れない甘さで、考えの1つだった。
「・・・まあ、出て行ってから再度入ってきたわけじゃないし。出られなかったのはこちらに不備があったからだし。」
自分に言い訳をして、高順は配給所に入っていった。暫くして、お握り二つと味噌汁をお盆に載せて袁術の元へと戻っていき、それを渡した。
「ほら、腹が減ってるんだろ。」
「へっ・・・よ、良いのかえ?」
「悪けりゃ持って来ないよ。食べなよ、体暖まるし。蜂蜜水は無いけどね。ほら、あんたも。」
高順は、へたり込んでいる張勲にも渡す。
「あ、ありがとうございますぅ・・・」
「・・・ずずっ。むぅ、塩が利いてて美味しいのじゃ」

高順は、食事を摂り終えた二人を連れて門の外まで送り出した。
こんな現場を孫家の武将に見つかれば裏切りとか何とか言われかねないし、大問題だが「かまうものか」と思う。
この二人が孫策の邪魔をできると思わないし、何か大それたことが出来るとも思えない。
もう係わる事はほぼ無いだろう。ここまでしているのは自分の対応の不味さに反省しているからでもあった。
袁術の去り際に、高順は「ちょっと待った」と引き止め、懐から袋を取り出して袁術に渡した。
「何じゃ、これ?」
「中身には金になりそうな宝玉が入っている。どこかでそれを売り払って金にしなよ。それと」
今度は張勲に「護衛用だ」と腰に帯びていた刀を鞘ごと渡す。
「ここまでして良いのかえ?」
「こちらに不手際があったのは確かだからねぇ。その詫びだよ」
詫びにしては随分とやり過ぎの感もある。
「もう二度と、孫策殿の領地には入るなよ。庇いきれないからな。・・・張勲さん、あんたも変なことをその娘に吹き込まないように」
「あぅ、善処します・・・」

二人は何度も、見送る高順に頭を下げて寿春を去って行った。

高順の危惧通り、この現場は同じく治安・炊き出し活動をしていた黄蓋に一部始終を見られて、或いは聞かれていた。
黄蓋は別段疑うことはしないが、立場上孫策に全てを話している。
一部の人々は「高順を罰するべき」と言うのだが、孫策は「ああ、そりゃ城門が閉じられていたら出られるわけ無いわよね」と納得した。
資金を渡したのも、金がなくなって寿春に戻ってこないように手を打った、とも見れる。
袁術が脅威とならないこともあって、利敵行為及び、叛乱にも繋がらない、として特にお咎めなし、と言うことになった。
その代わりというべきか、この後、高順は意味も無くこき使われることが数度あってそれが孫策なりの「罰」であったかもしれない。
「でも、あの袁術ちゃんにそんな側面があったなんてね・・・。」
それを私に見せていれば、多少は扱いが違ったかもしれないのにねぇ。と孫策は苦笑する事しきりであったという。
 


~~~楽屋裏~~~
萌将伝届いた!
(・・・。)な、何だ、このアダルティな3人は・・・馬岱? 張飛? 璃々!? 嫁にするしかnあいつです(オーバーヒートな挨拶
通販特典の小冊子に書かれていた3人が素敵です。なんという素敵バディ。これは色々と妄想してXXX・・・ごめん嘘。(ぁぁ
しかし・・・



萌将伝起動せず。


( ゜д゜)・・・

・・・真恋姫も最初起動しなかったんだよ・・・毎回起動しないからってサポートにメールするの面倒なんだよ・・・
頼むよ本当に(涙
つうことで買ったは良いが全くプレイできていない現状。んっがぐっぐ。
そういやぁ、応援一覧どうなったんだろう。


前回言った通り今回で袁術編は終了です。無理やり詰め込んだせいで纏まりが・・・毎回か。
なんとか救済措置を取って欲しいという声もありましたし、常に悪役じゃ可哀想な部分もあるので、ちょっとだけ良い人にして見ました。
袁紹だって覚醒したし・・・と思った結果、大失敗ぽいですけど・・・何だろう、本編と同じくらい長かったような(ぁぁぁ
これから、彼女達の出番は二度とないでしょうw


ちなみに、蜜柑の話は横山御大の三国志にも出ていたと思います。曹操も好きだったような記憶。
真・恋姫原作にも袁術が子供に蜜柑を分けるお話があったので、陸績の話が元だと思います。
今回の子供ネタもそれに倣ってパクr・・・げふんげふん、インスパイアインスパイア。

さて、次回からは言った通り暫く拠点フェイズです。
高順伝、長くなりすぎたのでさくっと終わらせるべきだと思うのですが・・・まだ書きたいことはあれこれ有りますよ。基本へ原作改悪ですけど。

それでは、また次回。










更新した。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第76話 孫家的日常。孫策と周喩。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/07 22:17
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第76話 孫家的日常。孫策と周喩。

現在、この世界の中華の実力者というのはかなり絞られてきている。
寿春を陥落させ、袁術の勢力を手にした孫策。
袁紹を倒し、公孫・張。そして烏丸の北方同盟を組み込み最大勢力となった曹操。
荊州の豪族に立てられ、戦を避けて平和を保つ劉表。
地盤は少なくとも精悍無比の騎馬隊を持つ涼州の馬騰。
漢中にあって、益州の劉璋と争う張魯。
他にも小勢力はそこそこあるが、それらは大勢力に従って、或いは駆逐されていくだろう。

袁術を倒し、勢力基盤を整える孫策。
未だ忙しいはずの彼女は城の中庭にある小さな休憩所で周喩と2人きりで椅子に座っている。
彼女らの目の前にある机には酒杯と酒の入った器、ツマミ・・・どころではなく、そこそこ豪華な食事。
ささやかながら2人きりの酒宴を開いていた。
孫策と周喩は、杯に酒をなみなみと注いでから「乾杯」と杯を重ね、一気に飲み干した。
「ぷふあぁ~・・・五臓六腑に染み渡るわ~・・・」
「まだ一杯目だろう?」
「解ってるってばぁ。私はそう簡単に潰れませんよーだ。」
「どうだかな・・・」
本当は、やることは沢山ある。あるのだが、孫策が「あたしたちの新しい門出よ!」とか言い出して、無理やり押し切られて酒宴となっている。
周喩も酒を嫌うわけではなく、どちらかと言えばかなり飲める。
普段はそういったところを見せないだけで、案外に酒飲みなのだ。
「まぁ・・・目的の場所までは遠いが、その足がかりを得ることは出来たのだからな。たまに浮かれるくらいは仕方ないか。」
「そーそー♪ 楽しみなさいよ?」
「雪蓮(しぇれん)、貴方は浮かれることが多すぎる。もう少し自制するべきね。」
「あぅ。」
こんな遣り取りをしながらも、周喩もまた感慨深げである。孫策と出会って、早10年以上が経った。
自分と孫策が幼い時に交わした「天下を取る」という約束。正確に言えば、自分は天下を取る孫策を支える、というものだが・・・それが少しずつ現実になりかかっている。
先代、つまり孫策の母親である文台(孫堅の字)が逝き、途方にくれていた日々。
袁術に兵も物資も奪われ、少ない資金でなんとかやりくりをして、数多の戦場を駆けずり回ってきた。
報われることなど殆ど無かった。体の休まる日々もなく、次から次へと厄介ごとばかりが舞い込んでくる。
周喩の、苦労の滲んだ何とも言えない表情に孫策も感じるところがあって、こんな事を言う。
「母様が逝ってから・・・苦労の連続だったわよね、ホント。」
「そうだな。雪蓮と私。文台様の遺した四天王。まだ幼かった蓮華(れんふぁ、孫権の真名)様と小蓮(しゃおれん、尚香の真名)様。」
「どうしたものか、って皆で途方に暮れたもんねぇ~・・・」
「ああ・・・。」
黄巾党との戦い、反董卓連合。玉璽、多くの武将と兵の参入、高順一党の加入、そして袁術を打ち倒して。
ようやくに、追い風が吹いてきたといった所だ。
「あの頃は何もかもが足りなかった。資金も、食料も、兵も無い。」
「玉璽を質草に出したあたりで漸く・・・だもんねぇ。」
「そうだな。・・・ん、あれは。」
なんとなく暗い話題だったが、周喩は廊下を歩く人物に目をやった。今は物々しい鎧を着ていないが、あの巨槍を見れば一目でわかる。高順だ。
「あら、高順じゃない。おーい、こーじゅーん!!!」
呼ばなくても良いだろう、と周喩は思うのだが呼んでしまったのは仕方が無いし、別に困るようなものでもない。
そういえば、高順とは仕事や戦の話ばかりで雑談らしい雑談はあまりしたことが無いな、と思い出す。
たまにはこういう機会があっても良い。

「何ですか、孫策殿。」
「ん、別に用ってほどじゃないけどねー。何してたの?」
「周倉や楽進と訓練をした帰りです。しかも孫権殿に「貴方にも水軍の修練をしてもらう」とか言って連れ回されるし・・・」
見れば、高順の顔には擦り傷や青痣の跡が残っている。
「ああ、そういえばそうだったな。確か「まずは水夫からやらせてくれ」と言ったのだとか?」
「ええ。こういうのは一番下からやってみないと解りませんからね。そっちは・・・酒宴ですか? 周喩殿が飲むのは初めて見たような。」
「やれやれ。私はどう思われているのやら。」
高順の言葉に、周喩は思わず苦笑した。
「私だって酒くらいは飲むぞ。どこかの誰かのように限度を理解せずに飲むということをしないだけでな。」
「え、祭(さい、黄蓋の真名)の事?」
「筆頭は貴方よ、雪蓮。」
「断言された!?」
「そんな事はどうでもいいだろう。ところで、高順は酒は飲まないのか? 高順が酒を飲んでいる場面こそ、見たことが無いぞ?」
周喩の質問に、高順は「あー。俺、お酒が全然飲めないんです。ほんの一口で酩酊するんですよね・・・」と遠くを見つめた。
この癖のせいで、韓遂とおかしな会話をした結果・・・馬騰がヒィヒィ言ってるのだが、本人は殆ど覚えていない。
「そんなに弱いのか・・・それでは宴会に参加するのが辛いだろう。」
「周りが賑やかだから、あまり気になりませんよ。飲むのは水とかお茶ばかりですしね。」
とくに趙雲さんとか蹋頓さんが賑やかで・・・と、またどこか遠くを見つめる高順。
「しかし、何故2人で酒宴を?」
高順はちょっと話題を切り替えた。
「袁術から独立できたからよん♪」
「我らの夢の一歩に立ったから・・・とは雪蓮の談だが。それを祝って、ということだな。」
ふふ、と周喩は笑う。それなりに酒が入って彼女も機嫌はよいらしい。
が、高順は「そうですか・・・じゃ、俺は帰りますよ」と踵を返す。
「えー、なんでー? 少しは付き合ってくれてもいーじゃないのさー?」
「俺がその「夢の一歩」の祝杯に付き合えるわけがないでしょ。酒だって飲めない俺に参加する資格はありまs「こきゃっ!」クホゥッ!?」
「もー、頭が堅いんだから。硬いのは素敵だけど堅いのは駄目だぞ♪」
「・・・こふぉっ、首、首の骨が・・・」
「・・・・・・。」
孫策に首を変な方向に曲げられ、なんだか寝違えた人みたいになっている高順。凄い勢いで距離を詰められて反応できなかったらしい。
普段はこんな弱いのに、いざ戦となれば心強いのだからなんともおかしな男である。
いや、戦だけではないか、と周喩は思い直す。
孫策が袁術の元から脱却した直後、迎え入れることに成功した高順だが、周喩から見れば彼は単純な戦馬鹿ではなかった。
脱却したとはいえ、資金も食料も心細いあの時に気前良く「いつか返してもらえば良いですよ」とあれこれと支援をしてもらえたのは本当に有り難かった。
高順は率いる兵の給料も自分で出すから、孫家の懐具合はさほど痛まない。ある程度の商売権利を与えればいつの間にか資金を稼いでくる、という強かさもある。
これは高順の部下である「影」が掴んでくる情報と、それをうまく使う闞沢(かんたく)の商売の上手さが主な要因だが、高順一党の強みである人材の多さと優秀さが際立っている。
廬江で民の為に食料の援助をして欲しい、と頼んだ時も快く受け入れてもらえた。
それで自分が得をしたわけでも、得をするわけでもないのにである。なのに、若い武将からは降将と白い目で見られていたのだから立場が無いだろう。
本人は、それに胃痛や疲れを感じても恨み言を口にはしない。時折、蹋頓に弱音を吐いているようだが。
ちょっと話は変わるが、同じく降将である太史慈とは仲が良いようだ。宴席でも下座でよく隣同士になって話をしている姿を見かける。

高順は首が折れ曲がったまま、逃げるように宴席を後にした。
「むー、折角酔わせてあんな事やこんな事をして弱みを握ろうとしたのになー。」
「はぁ・・・。」
どうも、孫策は酔っ払いすぎて訳が解らない事になっているようだ。後で頭を叩いておこう。多分それで治る。(?)
という冗談はともかくも。。
「雪蓮、本当は何をするつもりだった?」
「えー? 言葉通り弱み握っちゃおっかなーって。」
「弱みを握ったところで意味は無いぞ。大体、あの男の本当の「泣き所」など」
家族とか近しい存在しかいないだろう、と周喩は酒杯に残った僅かな酒を飲み干し、新しい酒を自分で注ぎ始めた。
「そっかぁ・・・でもさぁ、曹操のとこに家族が数人仕えちゃったんでしょ?」
「ああ。高順が「曹操に仕えたくないー!」と言っているからな、自分の手の届く場所に取り戻そうとしているのだろう。」
「じゃあ、私達が利用されて・・・な訳ないか。自前の力が欲しいだけなんだろうなぁ、あの子。」
「言葉は悪いが利用して利用されている、だ。正しくはないかもしれないがな。高順が思う以上に孫家はあれを受け入れているつもりなのだが・・・で、引き止めようとした理由は?」
「えー、何の事か解らないなー♪」
「はぁ・・・高順の立場の悪さを何とかしようとしている。そんなところでしょう」
んっふっふー♪ と、孫策は機嫌良さそうにぐいぐいと酒を煽る。だが、すぐに表情は引き締められていて、それほど酔っていた訳ではないようだ。
孫策は静かに酒盃を机において、指を組んで何かを考えるような素振りを見せる。
「高順にだけ肩入れしているわけじゃないけど、あれはちょっとね・・・そりゃ、精神的に磨り減りもするわよ。」
「虞翻か?」
「それもあるけど。高順の事を良く知らない連中。」
周喩は「ああ・・・」と納得して見せた。というのは、例えば・・・宦官や小役人である。
この宦官だが、孫家では漢王朝のように政治的権利は何1つ与えない。例外も無い。仕事が出来ても給料を高くする程度で、政治とは切り離して扱っている。
その宦官や一部の小役人が、降伏者である高順をけなすことで孫策の歓心を得ようとしていると言えば解りやすいだろうが、そんなものを信じるほど孫策は耄碌していない。
同じく太史慈も悪く言われがちであるが、彼には名声があり、そして孫策が自ら捕らえ、自ら縄を外して遇したという事で一目置かれてもいる。
高順は、要請があって加わったとはいえ孫家の主要な面々以外に知れ渡っていた訳ではないし、そういった人々に解りやすい話も無い。
反董卓戦を知る面々からは一定の扱いを受けているがそれを知らない人々からは「何故あのような扱いを受けられるのだ?」ということだ。
袁術戦でその武威を見せ付けて、その戦場にいた若い武将を自力で納得させた高順だが、宮仕えをする連中にはその武威は見えていない。
名士でもないのに金を持っている、ということも敵視される理由の一つに数えられているかもしれない。
「本人は胃痛は感じても、恨んでいるようには見えないから今は大丈夫だろうけど・・・ね」
「その言い方は、不安があると言っているのと同義だ。まだ何かありそうだな?」
周喩の言葉に、孫策は「うー・・・ん」と唸る。
「もしもさぁ、そーいう小物の悪口雑言が高順の家族に及んだらどうなると思う?」
「・・・。ふむ、それは怖いな。」
家族、というのは蹋頓を始めとした人々なのだが、そこには一部異民族が混じっているし、兵も異民族が多い。
孫策らは異民族でも何でも能力があって忠誠心があれば起用に迷う事はない。ただ、一部の人間はそれですら高順への攻撃に使う可能性がある。
もしそうなれば、温厚な高順でもどんな怒り方をするか・・・と、周喩は少し恐ろしくなったが、それは頭の片隅に置く。
「良い。誰にでも解る勲功を立てさせればよいだけだ。その辺りは私に考えがある。任せておけ。」
「はいはい、冥琳にお任せしますよーだ。でもさ、もう1つあるんだけど。」
「ん?」
「曹操が「高順が降伏しないと家族殺すわよー」とか脅迫してきたら、どうなると思う?」
「高順が余計に態度を硬化させるだけだろう。しないだろうが、もし実行すれば曹操の息の根を止まるか自分が死ぬまで戦おうとする・・・くらいは想像がつくな。」
「そっかぁ・・・そうだよねぇ。」
「さっきから、何を言いたいのか良く解らないわね。何を考えている?」
あー、ごめんごめん、と孫策は笑った。
「さっきも言ったけどさぁ、高順は家族を大事にする。で、その家族が曹操のところにいるし、道理も知らない奴らの誹謗中傷で嫌になって・・・もしかしたら孫家を辞す、ということあり得るかなぁ?」
「ふむ・・・。」
「本人は自覚してないでしょーけど、資金的にも戦力的にもいなくなられるのは困るのよね。どうにかして孫家に残ったほうが利益がある、或いは残らないといけない理由を作るべき、と思うわけ」
「それは高順にのみではなく、大多数の武将に当てはまるものものだがな・・・で、何か当てがあるのか」
「前にちょっぴり思ったんだけどさ。あの子って金とか物とかに靡くような性格じゃないのよねぇ。欲がモノに向いてない感じ。だから、モノでは釣れない。となると・・・女?」
「ふっ。・・・解りやすいな。しかし、あれだけ多くの愛人がいるのに、それでも女を欲しがるものか?」
「言い方を変えれば、こっちで嫁用意すればいいんじゃないかなー、と。でも、そうなると誰を候補にするかなのよねぇ。あの子、甘えられることが多いみたいだから甘えさせてくれる女性・・・く、ふふふふ・・・」
「やれやれ、宴席だというのにこんな事ばかり考えて。昔から、性急というか何と言うか・・・」
小声でちょっと怖い事を呟く孫策を、心持冷ややかに見つめる周喩。
そんな周喩の視線と言葉など気にせず、孫策はずんずんと杯を進める。
「ぷふぁー。孫家の高官と夫婦にしとけば出て行きにくくなるかしら。そうなると、祭でもいいかも・・・案外相性は良いみたいだしね」
黄蓋は高順の事を昔から評価している。袁術戦の時も組ませてみたのだが、中々に上手く連携していたようだ。
「あの祭殿を高順の元に、な・・・ふ、尻に敷かれると言うか、上手く行きそうと言うか・・・おい、雪蓮。それは何杯目だ。既に瓶が1つ丸々、空になって・・・!」
「(聞いてない)ちょっとぉ、何「自分には関係が無い」みたいな顔してんのよ。あんただって候補なんだからね?」
「なに・・・?」
「あれ、そうなると高順があたしの義弟に・・・? うーん、嫌じゃないけど厚遇しすぎになるかな? でも、本人はそういうことで権力握るの拒否しそうだし・・・」
「おい、雪蓮。ちょっと飲む速度を落とせ、飲みすぎだぞ!?」
「(やっぱり聞いてない)でも、そうなるとあたしの愛しい冥琳が高順のエロい牙にっ。そして、あたしと高順が冥琳を取り合っての三角関係・・・いや、祭も、そして趙雲達も加わってそりゃあもう何重にも重なる多角関係。ふ、くふふふふふふ・・・孫家を舞台にしたドロドロの愛憎劇・・・(酔」
「・・・・・・・・・。」




とりあえず殴っておいた。 by周喩







~~~番外編。その頃の華陀~~~
華陀と袁紹一行。
彼らは陳羣(ちんぐん)の好意により手配された楊州行きの船を降りて、とある街へと腰を落ち着けていた。
「ふぁぁ・・・船旅も悪くありませんでしたが、やはり普通の生活のほうがいいですわ・・・」
とある街のとある宿・・・と言っても酒場兼用のようなものだが。
袁紹はその宿の2階。自分達に宛がわれた部屋の寝台に寝転がって溜息をついていた。
「悪くない、というより悪かった気がします。船は揺れるし、文醜は船酔いでずっと倒れこんでいるしで。はぁ・・・」
審配が、寝台に倒れこんで「おぅぅぅ・・・」と未だに気分が優れない文醜をチラリと見て、溜息をついた。
「そんなことより、華陀さん達はどこへ行きましたの?」
袁紹の言葉に「そんなことなんだ・・・」と、心の中で呟く顔良であるが、この質問には答える。
「人探し、って言ってましたよ。」
「人探しですの?」
はて、情報に当てがあるのでしょうかね? と袁紹は首を傾げる。
「さぁ。まあ、久しぶりのきっちりとした宿なんです。今日は休ませてもらいましょうよ、麗羽様。」
「全部華陀さん任せというのが申し訳ありませんけど・・・手伝えそうな事はありませんしね。」
そうさせて頂きますわ、と首肯した。

その頃の華陀。
彼はあちこちで「高順と言う男を知らないか?」と聞き込みをしていた。
しかし、結果は不調で「聞いたことが無い」という答えしか返ってこなかった。
参ったなぁ、と華陀は少し休憩をして考えている。
参った、というのは「ここに高順がいないかもしれない」と言うことと「もしかしているのかもしれないが、普通に知れ渡っていない」という2つの可能性があるからだった。
前者であれば益、或いは交州まで足を延ばさなければならないし、後者であればその話が出てくるのを待つ、つまり受身にならざるを得ない。
どちらにせよ時間がかかる。
どこかに、高順の足跡が残っていれば良いのだが・・・。
だが、そんなに都合よく高順の居場所が見つかる訳でもなし。
彼らが高順と出会うのにはまだまだ時間がかかりそうだった。



~~~楽屋裏~~~

文量足りないですかそうですかあいつです(挨拶
ここからしばらくは、原作改悪拠点フェイズが続きます。心の底から期待しないでください(ぁぁ
順番は特に考えておりませんが・・・

ふと日付を見るともう8月。
この小説(もどき)が始まったのは確か去年の9月か10月。もうそろそろ1年にもなるのですねぇ・・・
それを考えると「良く続いたよなぁ、良く皆さん読んでくれるなぁ」と。

余談ですがBASARA3とメタルマックス3のおかげで更新鈍りそうです(何




~~~まだまだ続く番外編、もし高順が北に行けばどうなった?~~~

呂布が徐州にて破れ、その配下であった高順は公孫賛、或いは烏丸を頼るために北へと向かった。
南へと行きたかったが、曹操の侵攻が思いのほか早く進路を妨げられてしまっていたのだ。
それならば、と高順は北・・・つまり、劉備領である下邳(かひ)へと進発。
劉備は曹操と共にいたので守りが薄いと見越して一気に北へと進んだのである。
その下邳の留守を預かるのは諸葛亮。だが、彼女もまた高順の預かる広陵へ、戦力を封じ込めて篭城戦へもつれ込ませるために進軍している。
結果、北へと進む高順隊5千と遭遇。
策を弄することなく、真正面からの戦いであれば・・・諸葛亮如きが高順に勝てる可能性は皆無である。
なにせ、趙雲や楽進と言う一騎当千の猛者が揃う高順隊。諸葛亮側に勇将といえる存在は殆ど居らず、遭遇してすぐの正面突破であっさり隊を崩されている。
何とか逃げおおせた諸葛亮だが、高順も行く方向が一緒だったため猛追撃。
なんかもう嫌がらせとか弱いもの苛めの域に達していたが、劉備勢の為に酷い目にあったのだから誰もが「問題なし!」と思っている辺りちょっと怖い。
こうやって諸葛亮を下邳へと追い返し、自分達はまんまと北進。
そんなこんなで北へと向かう高順一党だが、やはり問題があった。

公孫賛のいる北平に行くには、このまま北海を越えて平原、南皮を北へ抜ける必要がある。
そして、この時は袁紹が平原、南皮を支配下にしていたのである。
それを超えないと公孫賛の元へ行く事はできない。
虹黒の背に乗って進軍をしている高順は「さて、どうするべきかなぁ・・・」と思案していた。


さて、その袁紹。
彼女は曹操との対決に向けて人材を欲していた。
その中には公孫賛も含まれていたが、彼女と、彼女の元にいる韓馥遺臣は納得しないだろう。
そうなれば、矛先は自然曹操の方へと向くのだが・・・。どうも、自分の配下には「戦える武将」が少ない、ということで袁紹は悩んでいた。
顔良・文醜・麹義は強いし、審配・朱霊なども悪くない。
対して、曹操陣営では夏侯姉妹。袁紹はあまり知らないが許褚、典韋に曹操本人。
武勇のみに優れた者もいれば、統率力にも優れた者がいる。
その曹操の武将に、袁紹の配下武将で、夏侯姉妹に勝てる者は? と聞かれたら「いない」と答えるしかない。
「さて、どうするべきでしょうねぇ・・・」
自室で思案に暮れる袁紹。
そんな時である。田豊が「失礼しますぞ」と入室してきた。
「あら・・・翁ではありませんの。態々足労せずとも、呼び出してもらえばこちらから足を運びましたのに。」
「ほほほ、主君にそのような事をさせるわけには行きませぬな。」
二人は穏やかに笑い、袁紹はどうぞ、と田豊に席を用意した。
「おお、すみなせぬな。歳を取ると足腰が弱りまして。あ、どっこいせ」
「おやめなさいな。貴方の目も耳も足腰も壮健なのは知っていますわ。・・・で、今日はどのような用件で?」
「おお、忘れる所でしたな。」
とぼけるどころではない人の癖に、このお人は。と袁紹は苦笑した。
「北海と平原の間辺りに、5千ほどの騎馬隊が通過中と報告が入りましてなぁ。どうしたものかと」
「・・・どうしたものか、じゃありませんわよ。」
ふぅむ、と袁紹は思考を巡らせる。それだけの規模の部隊が何故? と。
騎馬隊が5千なのだから、盗賊の類ではないと思う。賊ではそれだけの馬があっても維持する金が無い。加えてあの当たりの治安は悪くない。
「その騎馬隊、誰が率いておるかまでは解りませぬな。ただ、どこかに被害を出す訳でもなく北へと向かっておる様子」
如何なさいます、と老人は袁紹の顔を見る。
「その騎馬隊、町や村に略奪を行って・・・?」
「報告によればしておりませぬな。きっちりと統率をされておるようで、住民に迷惑をかけぬような動き方をして居るとのこと。」
「翁、顔良さんと文醜さんを呼びなさい!」
「こんな事もあろうかと、既に派遣しております。兵を200ほどつけておりますし、絶対に攻撃を仕掛けるな、とも。」
いけしゃあしゃあと言う田豊。
「何ですって!?」
「独断で動かしたのは申し訳なく思いますがのう。」
「・・・いえ、むしろ良くやってくれましたわ。」
田豊は現在、袁家の宰相であり多少は人事の権利を持っている。
袁紹が詳しい情報を欲して間者を派遣するであろうと見越して、既に手を打っておいたのである。
袁紹でなくとも思うだろうが5千の騎馬隊が整然と北へ向かう、というのは少しおかしい。
公孫賛の手の者か、それとも烏丸の者か。或いはまったく別の・・・例えば曹操の配下か。
一番可能性として高いのは公孫賛絡みだろう。曹操配下であればどこぞを荒らして行くはずだし、曹操もまだ自分とは事を構えたくはあるまい。
その騎馬隊を率いる者の情報が欲しいが、何にせよ5千の騎馬隊、だけでは情報があまりに少なすぎる。
顔良と文醜、というのが少し不安で、文醜が訳のわからない行動をして顔良を引っ張っていきそうだが。
幾ら何でも200で5千に挑むことはしないだろうから、大丈夫だろう・・・。大丈夫と思いたい。いや、ものすごく不安だ。
どうも、自分が出て行かねばいけないような気がする。
「・・・翁」
「そう言うと思って既に1000ほどの兵を出撃できるようにしておりまするが。」
「何ですのその先読み!?」
「おお、それと・・・今から出ても遭遇するのは南皮あたりになるでしょうな。早くしませぬと、北平まで行くやもしれませぬぞ」
「解っておりますわ、留守は頼みましたわよ!?」
「ほっほっほ。」

袁紹は「まったく、あの翁は手際が良すぎですわ・・・」とぶつくさ言いながらも、慌しく走っていくのだった。




~~~楽屋裏~~~
さて、こっちは「高順が袁紹に仕えたら?」というIFの出だしですね。
前に袁紹に仕えるIFを~みたいな感想があったので、文字埋めででっち上げました。つーても、まだ出会ってもいないのですけどね・・・

さて、BASARA3とメタルマックス3(ry

それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第77話 孫家的日常。その2。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/07 22:18
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第77話 孫家的日常。その2。

孫家の中にあって、高順と言う存在は異端である。
孫家の主である孫策や、その妹である孫権。そして重鎮からは評価され、ある程度の自由が許されている。
かと言って上からの寵愛・・・というか、そういう立場を嫌っていて、宴席などでも一番に下座を占拠する。
その分、下と横からの苛めが多く、武官はある程度納得させたものの今度は文官からの口撃・・・と、周りから見ればどう評価して良いのか良く解らない人である。
ただ、孫策にしても意味無く重用していた訳ではない。
実力も兵力も戦力もあるので重用されないほうがおかしいと思うが、それとは別にある目的があったからである。
正確に言えば、ある男の入れ知恵・・・。
その、孫策らに「高順殿を重用してくださいよ」と入れ知恵をした者の名は・・・。

魯粛、字を子敬と言った。

魯粛は周喩の求めに応じて財産を孫家に預けた男である。
幼い頃から弓馬、兵法、剣術などを習い周りから「名士である魯家に気違いが生まれた」と嘆息されるほどであったという。
その魯粛は軍師として孫家に招かれたのだが、ある大胆な戦略を胸に秘めていた。
彼が言うには「曹操を今すぐ除くことも出来ないでしょうし、漢王室再興もまだまだ出来ないでしょう。」と前置きをしてさらにこう言っている。
「まず、荊州を得てそこを足がかりに長江という天然の要害を利して曹操に対抗するべき」と。
その先もあるのだが、魯粛は自分が孫家に合流したての時期はその先を言わなかった。
孫策や周喩に聞かれても「まだ早いです」と絶対に言おうとしなかったのである。
ただ、高順に関しては「絶対に他の勢力に行かせない様に注意してください」と言っており、孫策は内心で疑問を持ちながらも高順を擁護していた
しかし、袁術を追放して寿春を手中に収めたことで「可能性が見えてきた」として、ついに全てを打ち明けたのである。


~~~孫策の執務室~~~
「あっしの言うのは天下二分。南と西を制してそこから曹操に立ち向かう・・・という策ですわ。」
「天下二分、ねぇ。このまま北に向かうってのは不可能なのよね」
不可能ですな、と魯粛は孫策の言葉を断じた。
「ようやくに楊州を得た孫策殿は、外征をする余裕は今はまだ無い。足固めの時期ですからなぁ」
「解ってるって。でもさ、なんでその戦略に高順が必要な訳?」
孫策の言葉は尤もだった。
確かに彼も、彼の部隊も孫家の戦力としては無くてはならないものになりつつある。
だが、戦略・・・というのとは少し違う気がしたのである。
この点については同席している周喩は何も言わない。彼女は何となく察していた。
「いやぁ、はは。ですからね、それをこれから確かめに行こう、っていうんで。」
「はぁ? 確かめってどういう事よ?」
意味が解らない、と孫策は首を傾げた。
「まま、そう仰らずに。あっしの予見とか予想とかが正しければ、やっぱ高順の旦那はこれからの戦略に外せん人ってことっす。」
「う~ん・・・良く解らないけど。周喩、貴方はどう思う?」
困った顔つきで、孫策は隣に立っている周喩を見上げる。
「魯粛のやりたいようにやらせてやれば良い。まぁ、その予想やら何やらが外れても高順は戦術的に外せぬ男ではあるがな。」
「へっへ、さっすが周喩の姐さん。んじゃ、ちょっくら行ってきまっさ。」



~~~高順の居館~~~
「それじゃ、手を合わせて」
『いただきます!』
高順の声に合わせて、皆の声が重なる。
高順の館では、普通に夕食中であった。
彼の住む館はそこそこに広いが、それは他の女性陣も一緒に住んでいるからである。
楽進・李典・趙雲・沙摩柯・臧覇・閻柔・田豫・蹋頓・周倉・闞沢などなど。
これだけの人数が住むのだから広くなければ住める筈もない。
そんな時である。来客があった。

「んぉ?」
その音に気付いたのは周倉であった。
「ん、どうした?」
「いやぁー・・・なんですかねぇ、扉を叩いてる音・・・誰か来たんすかね?」
「え、ほんと?」
それなら出迎えなきゃ、と高順は一人立ち上がった。
「あら、私も行きますね」と蹋頓も立ち上がる。
一人で良いんだけどな、と思いながらも高順は断りもしない。
蹋頓は高順の護衛の為についていくつもりであるし、本人もソレを理解している。

「はーい、どなた・・・およ?」
「よっす。」
「よーう」
出迎えた高順の前に立っていたのは男が2人。魯粛と太史慈であった。
「お・・・何だ、どうしたんだよ2人して?」
「いやぁ、急に押しかけるのもどうかと思ったんだけどなぁ。子敬(魯粛の字)がお前の家に向かってるのを見てな。ほれ、酒と肴も持ってきたぞ」
高順の問いに、太史慈がにっかりと笑って答える。
太史慈は中々の好青年で、背丈も高順とそれほど変わらない。降将同士で気が合い、遠慮の要らない友人の間柄である。
「肴は良いけど酒はなぁ。ま、いいけどさ。ほら、上がりなよ」
「いやぁ、でも夕飯最中っぽくないか?」
「別に構わないさ。」
ほら、入れ入れ、と促されて魯粛と太史慈は「それじゃ遠慮なく」と上がり込んだ。

高順は、自分から交友を求めることが少ない。
何度も言われているが、降将である為に自分から交友を拡げて後ろ盾を作ろうとしないのである。
もっとも、向こうから来る分は構わずに招き入れたりする。そのせいか、交友を求めないやり方の割りに広く深いという感じの交友関係であった。
 
2人が来たためか、この日はすさまじいまでの宴会と化した。
太史慈に勧められて、一口だけ酒を舐めた高順が大酩酊するわ、沙摩柯と太史慈が「どちらの弓勢が上か」で激論するわ。
当然のように太史慈は酔っているが、ふとしたことで「皆はどんな夢がある?」という話になった。
太史慈は「三尺の剣を引っさげて天下を所狭しと駆け回る将になる。それが男の本懐よ」と豪快に笑った。
李典や趙雲、楽進らは「高順の元で楽しくやればそれで良い」とか「高順殿が立派な大将となる姿を見たいですな」いう感じだし、沙摩柯は「そうだな・・・臧覇が一人前になってくれることだな」と答えている。
言外にまだまだ未熟だ、と言われたに等しいが、臧覇は「頑張ります!」とやる気を見せて太史慈に「けなげだなぁ」と感心され、直後に「この娘を俺にくれ!」と高順に言って「お前・・・」とあきれた顔をされていたり。
蹋頓は微笑して首を横に振るだけだったが、趙雲と高順だけは彼女の願いを理解している。
最後に「お前は?」と太史慈に話を向けられた高順は、酔った頭で考えて「そうだなぁ・・・戦争のない時代になって欲しいなぁ」と呟いた。
「戦のない時代? おいおい、そんなのまだまだ見えないもんだろう」
「だから夢さ。天下統一でもいいのだろうけど。」
そしたら、また皆に会える。と高順はしみじみと頷いた。その意味を知っている人々は皆押し黙った。
「皆、って?」
「あー・・・曹操のところにさ、家族が4・・・いや、5人いるんだよ。戦争が無くなれば国境も無くなる。そうしたらすぐに会いに行ける。家族全員で静かに暮らせる・・・」
父母と干禁、張遼と・・・性別も知らない自分の子。恐らく名前は張虎だろう、と高順は思う。
当面の夢はそこかなぁ、と高順は笑う。
そりゃ、誰の天下ですかねぇ・・・と魯粛は思ったのだが、口にはしなかった。
まあ、曹操ではあるまい。本人から聞いた話だと随分と相性が悪く聞こえるし、曹操の天下を望むのなら最初から向こうに付いていただろう。
自分で天下統一を狙うような御仁でもなし・・・そうなると、消去法で孫策殿だわな、と魯粛は納得した。

この後は、何故か個人の武勇談の話になり、魯粛も太史慈もなかなか面白い逸話(競争相手を出し抜いたり、周りの人々に気違い扱いされたり)を持っていたが、高順は何度も何度も死にかけた話をする羽目になった。
孫家に仕えるまでの高順の経緯には魯粛も興味があったようで、色々な陣営を渡り歩き、時には賊扱いをされ・・・という話を聞いて普通に驚いていた。
戦で死に掛かったよりも母親の一撃で死に掛かっていたことのほうが多い、と聞かされて魯粛達以外は「さもありなん」と頷いており、意味不明である。
そういった話を聞けば、幾度も死線を潜り抜けてきたという話も嘘ではないようだ。
孫家の重鎮でも同じようなことを経験した人は多いだろうが、高順は主君を殺され、賊扱いをされ、その仇に拾われ・・・。
しかも、行く先々の陣営でそれなりに遇されて、一時は太守と言う厚遇も受けている。ここまで波乱万丈な生き方をしている人も珍しいのではないだろうか。
高順の苦労話を聞きながら、魯粛はそんな事を思っていた。

宴は終わり。殆どの者が酔って眠りこけている中で、魯粛は蹋頓に「すいやせん、ちょっとお願いがあるんですけどね」と喋りかけた。
「はい?」
蹋頓は浴びるほどに酒を飲んでいた筈なのだが、一向に潰れていない。むしろ、酔っ払っておらず素面に見える。
「いやね、ちょいと旦那に話がありやして・・・その、ねぇ?」
なんとも歯切れの悪い言い方であるが、蹋頓はそれとなく察したらしい。
眠りこけている人々に自室で寝るように声をかけ、太史慈には空いている部屋に布団を敷くのでそちらにどうぞ、と促してから「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げて部屋を出て行った。
魯粛は「すいやせんね」と思いつつ、回りと同様に眠りこけていた高順を起こす。
「旦那、だーんーなー。」
「ん・・・んぉ? あれ、寝てたのか・・・ん~・・・」
ぐぐっ、と伸びをして高順は起き上がる。
「眠ってるところ悪いんですけどね。ちょいとお聞きしたいことがありやしてね?」
「聞きたいこと・・・。ふぁあ」
欠伸をかみ殺して「何を聞きたいのさ?」と高順は問う。
「いやぁね、ちょいと小耳に挟んだ話なんですが・・・旦那、婚約者がいるそうで?」
「ぶふっ!? ・・・な、何で知ってるの・・・?」
大当たり。
「にっしっし。睨んだとおりって事かぁ。どこのご令嬢で? このこの」
羨ましいねうりうり、と肘でつんつんと高順をつつく魯粛。
「っとにもう。聞きたければ正攻法でくればいいじゃんよ。酒で酔わせて情報引き出そうとか、搦め手使う必要ないのにさぁ」
「いや、そういうつもりじゃなかったんすけどね・・・。そもそも酒持ってきたの子義(太史慈の字)ですし」
「それもそうか・・・。でも、何でそんな事聞きたがるのさ? それも子敬の戦略?」
「・・・っと。いやはや、旦那も鋭い。」
鈍いくらいだよ、と高順は苦笑した。高順は正史における魯粛の戦略を知っている。
そういう意味で、婚約の探りを入れてきたのだろう、と感づいていたのである。
「ま・・・隠すほどでもないけどね。西涼の馬家の跡取り娘の馬超殿。一応、俺と彼女は婚約しているらしいね。」
「らしい? 当事者なのにえらく曖昧な。」
「ははは。親同士が勝手に決めたことでね。本人たちがソレに納得するかどうかは別のお話ですし・・・いや、ちょっと待て」
「はぁ?」
「もしかすると、彼女の妹たちまで「婚約者」の範囲に入っているのかもしれん。あの母上だしな・・・」
「・・・・・・(汗」
どんな母親だ。


~~~同日同刻、西涼にて~~~
「っくし!」
「どうしたの、お姉様?」
「風邪なのですかー?」
「いや・・・誰か噂して・・・ふぇ、っくしゅ!」
 
~~~西涼編、完~~~


魯粛は「泊まって行けばいいのに」という高順に断りを入れて、館を辞した。(去り際、高順に「蹋頓さん、良い人ですなぁ。大事にしてやってくだせえよ?」と言っているが、「当たり前だろう」と返されている。


魯粛は歩きながら、先ほどの話を思い返していた。
実は、魯粛は高順と馬超が婚約者である事を前から知っていた。
反董卓連合が結成される以前から各地の情報を集めており、その中の1つとして覚えていたのである。
高順から聞き出そうとしたのも本人の口から事実である事を聞き出そうという意図があっただけ。
相手が馬超だろうが、その妹であろうが、たとえ馬騰であっても、何の問題も無い。
正しくは高順が西涼馬家の女性と強い結びつきがある事を本人から聞く、と言うべきか。
魯粛は、天下二分の計を念頭において戦略を練っている。
その中身は「この国の南を孫家が制する事。西の益州を切り取り、西涼の馬家と盟を結ぶ事。」で、戦力が整い次第曹操に一斉攻撃を仕掛ける、というものだった。
暗愚ではないが、凡庸である劉璋治める益州は孫策や周喩であれば切り取れるだろうが、西涼はそう簡単にいくまい。
何せ屈強な騎馬隊を擁する馬家だ。長年の乱で鍛えられた兵は手強いだろう。その馬家を屈服させるために戦って戦力をすり減らすよりは、盟を結んだほうがよほど賢い。
当然、それが上手く行くとは思えない。曹操だっていつまでも西を放って置く筈がないのだ。
もし、曹操が自分達よりも早く西涼を陥落させ、或いは馬家が壊滅すればそれこそ馬超と婚約をしていた高順を推し立てて西涼奪還の為の御旗としてしまえば良い。
そして、高順に西涼を任せ、西からの異民族の備えにして且つ曹操に対して圧力をかける立場になってもらうのだ。
この場合従属とは行かないまでも、ソレに近い力関係になるだろう。
自分たちが進出するまで馬家が無事であれば、高順を中に立てて同盟交渉の材料になる。
盟約を結ぶ、奪還する、復興させる。
その全てを結ぶ存在として、馬家と深い関係にある高順が活きるのである。
魯粛は、高順をそれだけの存在と思っていないし、孫家の首脳陣もそんな事を考えはしないだろうが・・・。
実力やら何やらより立場のほうが強い意味を持つ。この件に限ってはそれだけの事であって、高順擁する戦力はこれからの戦いに必要なものなのだ。
それに、どちらかといえば。
(しっかし・・・こちらの考えを読まれてるたぁね)
魯粛はそちらのほうにこそ驚いていた。
やっぱ、あの旦那は鋭い。下手に隙を見せるのは危ない。
普段は茫洋として、自分が罵られてもあまり気にしてないような感じなのに、先ほどの話ではこちらを射抜くような眼光の鋭さを垣間見せた。
何も言わなかったが、自分の思い描く天下二分の計もある程度気がついているに違いない。
あの御仁が敵でなくて、本当に良かったよ・・・と、魯粛はしみじみと思うのであった。(完全に誤解である。


魯粛は、ありのままを孫策と周喩に報告。
周喩は「ほぅ・・・」と唸り、孫策は「げっ」と声を出した。
周喩としては(これで、高順が嫌がらせをされることは少なくなるか。しかし、西涼の馬家とも知遇があるとは・・・彼の交友関係はどうなっているのやら)
孫策は(うーわ。西涼に逃げる要素が出来ちゃったか・・・こりゃ、本気で嫁用意しないと・・・)

・・・あの宴席の話は、どうも本気だったようです。




~~~リクエストに応えてみた~~~

ある日の宴席にて。
高順一党はいつもどおり下座を占領、仲間内でちびちびとやっていた。
とは言っても、太史慈は高順の隣にいるし、陳武や董襲といった武官が「是非お話を」と高順の元までやってきたり・・・と、それなりに賑やかである。
寿春攻略戦の後、武官で高順をけなすものは殆どいなくなった。
きっちり働きを見せればそれを評価する、というのは当然なのだが、孫家の武官は高順の戦いを見てそれまでの悪意を見せなくなった。
割とさっぱりした気質の人が多いのか、「いや、まさかあれほどとは」と感心してくれたらしい。
黄蓋や周泰なども下座まで来てくれたし、孫権や孫策は流石に下座までは来なかったが、高順一党を上座に呼んで色々と話をしていたのである。
そんな中、一人の文官が騒ぎ出した。
どうも、高順に対しての悪口を言っているらしい。
宴席でそういう事を言うものではないと思うのだが、酒に酔った勢いで・・・ということらしい。
その文官の名は呂壱と言った。
この男の役職は文官と言うか官僚と言うべきなのかもしれない。
仕事は「文書行政の監査」であり、軍政どちらに対しても何らの権利はない。
だが、ある事ない事を孫策に上奏して重要人物を遠ざけて自分が権力を握ろうと画策したのである。
当然孫策はそんな讒言を信じるような耄碌した人物ではないし、そもそも周喩が国政を握っているのでまるっきり意味は無い。
未だに立場の固まっていない、そして何を言っても反論してこない高順の大人しさを良いことに、自分の思い通りに行かないという憂さを酒の勢いでぶつけていたというのが本音だろう。

「なあ、高順」
「ん、どうしたよ、子義」
太史慈は、隣の高順に話しかける。
「あいつ、また言ってるぞ・・・」
「あー。いいよ、放っておけ」
高順はいつものことですよ、と肩をすくめた。
今回は武官がそういった悪口大会(?)に参加していないし、孫策や孫権と言った人々も「また始まったか」と苦虫をかみ殺したような顔をしている。
趙雲らも宴席に参加しているが、高順と言う武将に仕える武将、という立場である為か文句も言えず歯を食いしばって耐えるのみ。
「俺が悪口言われても怒る必要は無いからね」と言ってあるのだが、こう毎回繰り返されていては腹の虫もおさまらないだろう。
蹋頓も沙摩柯も涼しい顔で酒を飲んでいるが、内心では頭にきている感じだった。
「しかしなぁ。お前も少しくらいは怒った方が良いぞ?」
「俺の悪口で済んでいる間は安いもんだよ。・・・たまーにへこたれるけどさ」
それ、安くないだろ・・・と太史慈はぼやいた。
それで終われば良かったのだが、ここで呂壱は無用なことを言ってしまった。
「薄汚い異民族がこの場所にいるなんてどういうことかなぁ。どうせ、男に股を開いて武将の地位を買ったのだろうさ」という意味合いの事を。
これを聞いた瞬間、空気が冷たくなった。
趙雲、楽進、李典・・・彼女達は呂壱を睨み、殺気を漲らせる。
蹋頓と沙摩柯は辛そうな表情だが・・・問題は高順であった。
(うわ、やべえ!?)
太史慈は焦って高順のほうへ振り返るが、既に高順は立ち上がって呂壱のほうへと歩き出していた。

「む・・・何だ、役立たずの降将か。何の用だ」
呂壱は酔っ払って高順へと挑むような物言いをした。
宴席であり、誰も武器など持っていないし、このような場所で殺しなどできるはずもないと高をくくっているがそれが命取りとなった。
高順は右手で座っている呂壱の髪を掴んで、持ち上げる。
「ぐあっ!?」
「おっさん、今なんて言った?」
「な、何だと・・・」
「俺の家族に「股を開いた」とか言ってたよな・・・」
「べ、別にお前の女の事とは」
「あの2人しかいないけどな。お前曰く「ここ」にいる異民族は。」
「うっ・・・」
呂壱は殺気の篭った眼で睨まれ、ただただ震えるばかり。
この場にいるほかの人々は今まで見たことのない高順の怒りと殺気の鋭さに驚いて、ただ呆然とソレを見ている。
孫権は「高順、やめなさい!」と叫んでいるし、太史慈は高順を止めようと走りよって「待て、ここで殺しは不味いだろ!」と言い聞かせているが高順は全く聞いていない。
「大した苦労も仕事もしないくせに言う事だけは一人前。そんな悪い口は・・・この口かな」
高順は左手で呂壱の顎を摩ってから、下側から抉りこむような拳打を喰らわせた。
「ぼぶぎゃああぁっ!!」
歯が折れ、血まみれになる呂壱の口。高順はそんな苦悶の声を完全に無視して、今度は掌で呂壱の顎を強打。
「うるさい、黙ってろ」
「べぐっ!? げが、はぁぁあ」
折れた歯が歯茎や舌に刺さり、更に苦痛の声を上げる。
彼の口内から血が溢れて高順の右手を濡らすが、全く気にせず呂壱を地面に引き倒した。
「どうした、痛そうだな。消毒で酒でも使うか?」
「ひゃ、ひゃのむ、ゆるひ、てぇ・・・」
命の危険を感じたのか涙で顔をくしゃくしゃにして許しを請う呂壱。しかし高順は・・・
「断る」
冷酷に言い放ち、引き倒された呂壱の顔を踏み砕いた。
ごしゃり、という嫌な音が響き顔を踏み潰された呂壱は絶命した。
顔の表面だけを砕いただけで中身が飛び散ったわけではないが、血はドクドクと流れ続けている。
高順は顔色1つ変えない。

「・・・ああ。失礼した。後始末をするので、皆様方はどうぞこのまま」
周りの沈黙に今頃気がついた高順は、笑顔で言って呂壱の遺体を引きずって退席しようとした。
この沈黙は「あの高順が最初から殺すつもりで・・・」という戦慄と「あの馬鹿、もう少し場所を考えろ・・・」と顔を顰めている2種類の反応だった。
前者は黄蓋など親しい間柄の人々が多く、後者は孫策や周喩といった宴の主催者の思考である。
「ま、待て高順。お前、後始末って・・・」
太史慈が声を震わせて聞く。
「ん? ああ、これか? 路地裏にでも捨ててくれば野犬が始末してくれるさ」
「・・・・・・。」
絶句する太史慈だが、高順は普段と変わらぬ様子である。
仲間達に声をかけて共に去っていく高順であった。

こんな状態で宴の続きなどできるはずも無く、その場はそれなりに流れて解散と言うことになった。
流石にこれはやりすぎだ、と孫策は高順に対して謹慎を言い渡している。
孫権の制止を聞かなかった=上の人間の面子がたたない、ということらしいのだが孫策が止めようとしなかったし、「寛大な処置を」と頼みに来る者が多かった為かすぐに謹慎も解かれている。(それには孫権が含まれていて、「あそこまで言われて怒らぬほうがおかしい」と言っている。
実は孫策すら「あーこれで五月蝿い奴がいなくなったわー」と清々していたし「そりゃ自分が大切にしている人を股を開いて云々言われたら殺意も沸くわよねぇ」と考えていたので最初から厳罰にするつもりがない。
名目としてある程度の罰を与えないといけないし、宴席を開いた自分の面子があるのでそうしただけ・・・という側面が強かった。

この一件以降、高順への嫌がらせは極端に減った。
たとえ宴であろうと、例え主君である孫策の目の前であろうと関係がない。
家族を馬鹿にされた瞬間、躊躇無く本気で殺しにかかってくる現場を見たのだから。
同じく現場にいた魯粛は「怖えー! 旦那本気で怖ぇぇー!」と思ったそうな。






~~~楽屋裏~~~
夏ばてきついですねあいつです(挨拶
こんな感じの孫家的日常でございます。

実は高順と馬超の婚約、というのは今回のネタに使うための話でした。まあ呉でなくても蜀でも魏でも同じネタを使用できたのかもしれませんが。
ちなみに、呉での天下二分は周喩の打ち建てた策でもありますね。
劉備を呉にとどめておいて、曹操が漢を滅ぼした後に劉備を旗頭にして・・・という策だと思います。
魯粛の場合は「漢なんて関係ないから勢いに乗りましょうぜ! 孫家が皇帝になれますYO!」 な感じだったと思いますがw

劉備は益州制圧に数年掛かりましたが、周喩が益州攻めをしたら・・・もっと少ない年月で制圧した気もします。(あいつの妄想
しかし、(正史)孫権では周喩を使いこなせないのではないかなぁ、とか考えたりもします。(これも妄想

そして、リクエスト。
・・・これ、やりすぎちゃったんじゃないかなぁ(汗
でも孫策は佞臣を嫌いそうですし、甘い処罰でもいいんじゃね? な感じでやってしまいました。
本当なら高順に対してはもっと重い罰だと思いますよええ。

・・・。文官と武官って同時に宴席に出るものですっけ?(ぉぃ



・・・・・・え? 何? 
西涼編もう終わりかって?



うん。(ぁぁあ









番外編。ぱk・・・インスパイアされて書いたら思った以上に酷くなった。


わーにんぐ! ここから先は酷くあれと言うか卑猥な発言が出てきます。
その上パクッテマス。それでも良い方のみお読みください






~~~あとがきふゆかい話・高順くんご乱心~~~
出てくる人:高順くん・華雄姐さん・沙摩柯さん。

高順(以下、高)「ハイハイハイ、まーそーいうわけで高順なんですけどねいやーほんとー。がんばってまいりましょうさーいきましょー。」
華雄(以下、華)「あ、あの」
高「まー高順さんとしましてはこれからバリバリにがっんっばっつって世界中をピンクだの桃色に染め上げよっかなーと思ってるワケなんですけど。」
華「あの・・・高順。一体どうしたんだ、お前・・・何か悪いものでも食ったのか?(汗」
高「何か用ですか貧乳姐さん。少しはパイオツでかくする努力したらどうなんですか。そんなだから萌将では人物紹介もないんですよ? そんな微妙な乳の分際で露出度高いとかなめてんですか? あと、そろそろ葉雄って呼ばれるべきです貴方は。」
華「ひ、ひんっ・・・・・・酷い! こんな屈辱、孫堅に晒し首にされた時以来だぞ・・・!?(めそめそめそ」
高「あっ・・・泣いちゃ駄目ですドンマイ! 貧乳も微乳もステータス&希少価値! 世の中広いんですから、そういうのが好みの人もいますって!」
高順の言葉に、華雄は涙目になりつつ振り返る。
華「・・・マヂで?」
高「マヂです。」
そう言った高順だが、くるっと振り返った先にいた沙摩柯の巨乳を見て・・・
高「うそです。巨乳こそが、まさよしじゃなくてヂャスティス。」(華雄を指差し
あっさり前言撤回した。
高「俺の夢はおっぱいの、おっぱいによる、おっぱいのためのオッパイランド(きょぬー開放宣言)。乳の無い人はあれです、出番なしで良いですし主君の座から降りるべき。」(Σ!? by曹操)
華「お前、さっきと言ってる事違うぞ!?」
高「違いません。ちーがーいーまーせーんー。胸の無いのは罪。次の恋姫出るまでに、胸の先っちょでビキニを支えられるくらいのきょにゅーになってきてください。」
沙摩柯(以下、沙)「お、お前な・・・それはちょっと言いすぎだぞ!? 姐さんに謝れ!」
高「・・・沙摩柯さん、つまりシャマカ。カをラに変えるとシャマラになるんですね。なんか次世代のチ○ボコみたいでかっこいい。明日までに改名してください。さもなきゃ華雄姐さんが酷くエロイ目にあうんで」
沙&華「Σはぁ!?」


いや完




~~~楽屋裏~~~

・・・
正直すまんかった(´・ω・`)



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第78話 孫家的日常。その3。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/11 23:53
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第78話 孫家的日常。その3。


「ふむ・・・困ったな。」
「困りましたねぇ~~」
凛々しい声と呑気な声が同じ事を口にする。

ここは孫家領内、寿春城内の廊下。
陸遜からの報告書と、それに目を通している周喩がいて、陸遜はぽんやりとした顔だが周喩は難しそうな表情だ。
「しかも、寿春だけではない、か。廬江も同様なのだろう?」
「はい~。荒廃した土地を耕すとかなら農具を貸し与えて、とかでまだなんとかなるのですけど~。」
「資材は・・・足りているようだな。そうすると残りは人足と資金・・・」
「資財は問題ないです~。ただ、仰る通り人と・・・一番問題なのは資金ですね~。これだけの規模で動かすとどうしてもそれくらい必要になりますよ~。」
「むぅ・・・難しいな。」
「困りましたぁ~」
二人は揃って「はぁ・・・」と溜息をついた。
そして、そこへ通りかかる人が2人。
高順と楽進である。


「隊長、あそこに周喩殿と陸遜殿がいらっしゃいますね」
「ん・・・ああ、本当だ。何か難しい顔してるね。」
こういう時は大抵困っているとかそういう感じだ。近寄るべきか、近寄らぬべきか。
厄介ごとを任される気もするし・・・と悩んだところで向こうが気がついたらしい。
「あれ、高順さんと楽進ちゃんですよ~。お~~~い」
あ、気付いた。
(まあ良いか。別に逃げないといけないよーな、やましい事があるわけじゃないし)
と、高順達も周喩・陸遜の元へと歩いていった。
「む、高順か。それに楽進も。」
「おはようございます、周喩殿、陸遜殿。」
楽進は2人に向かってぴっと敬礼と挨拶をした。
「ああ、おはよう。ふふ、楽進は礼儀正しいな」
周喩はくすくすと笑うが、すぐに真面目な顔に戻る。
「ふぅ、しかしどうしたものやら。・・・そうだ、2人も一緒に悩んでもらおうか。」
『・・・?』
周喩の言葉に、高順と楽進は互いの顔を見て「何だろう?」と考えた。

「実はな、寿春と・・・廬江もだが、城の修復を行おうと思っている。まあ、他の城も同様だが此処は特に修復を急がねばならん」
ここは、曹操領、そして劉表の領土に接している。破損したままではみっともないし、両軍に攻められた時のために防備はきっちりと整えておかなくてはならない。
「はぁ。すればいいんじゃないでしょーか。」
「ふふ、そう言うと思ったよ。ただ、問題がそれなりにあってな。まず人が足りん」
「人、ですか。」
「そう、人だ。工事を行う人足だな。」
「工事・・・大工とかそういう?」
「ああ。城の修復、といえば大事業だ。それだけ多くの人と金が動く。」
ここで高順は「げっ」という表情を見せた。そんな高順を見て、周喩は思わず笑う。
「ははは、鋭いな。そう、金が足りないというのも悩み事の1つさ。」
「城を修復するだけの人数を雇うには大量のお金が必要ですよね~? 纏まった、しかもかなりの数が必要になります~。」
「陸遜の言う通り。そこの時点で巨額の資金が必要になる。下手をすればそこで金が尽きて・・・ということだな。」
「そ、そんなに資金面で苦しいのですか?」
楽進の質問に、周喩はあっさりと頷いた。
「とても苦しい。袁術の贅沢のせいで、国庫に入っていた金がこちらの思う以上に少なかったのだ。」
「ど、どれくらい貧しいのです・・・?」
「そうだな・・・付いてこい」
周喩は言葉では上手く言い表せないと思ったか、皆を中庭へと連れて行く。
そこでしゃがみ込み、石を手にして地面にグラフのようなものを書き込んでいく。
「入城した後に調べたのだが、これは今年のここに住む人の数と、その人数から算出される税収入だ。」
周喩はグラフに線を書き込んでいき、楽進と高順は「ふむふむ」と頷く。
「当然、他からの雑収入はあるのだがそれは煩雑になるし、たいした額ではないので捨て置くぞ。では、今度は支出だ。・・・ああ、これは袁術が政治をしていた時代の話だ」
周喩は更にグラフに線を書き込む。その線は収入の僅か下程度の位置を指し示していた。
ソレを見て高順は思わず声を上げた。
「うっわ、随分支出が多いな!?」
「だろう? ちなみに、この中に含まれる軍事関係やら何やらは・・・この当たりだ。」
がりがり、と音を立てて地面に書き込まれる新たな線は、かなり低い部分である。
「す、少ないですね・・・」
「この中には兵の食料や戦時における消耗品。つまり矢とか剣とか槍とかも含めての値だ。」
「ちょ、ちょっと待ってください」
楽進の質問に周喩は顔を上げる。
「ん?」
「これが寿春だけの収入、支出にしても・・・ここだけで兵数は数万ですよね。なのにこんなに軍事関係の支出が少ないって」
「だからこそ、袁術の将兵は飢えていたのさ。楽進、お前も知っているだろう」
「・・・はい。」
「話が逸れたな。他の支出を書き足して・・・さて。この支出の余り上部分、何に使用されていたと思う。」
「解りません・・・。隊長は?」
「同じく・・・いや、まさかとは思うけど、さっき言った袁術の贅沢?」
「正解だ、高順。」
『・・・。』
周喩の言葉に、高順も楽進もげんなりとしてしまった。
「贅沢というか蜂蜜だな。我々が従っていた時から酷かったがここまで金を使い込んでいるとは。まったく・・・」
あの少女の蜂蜜好きも困ったものだ、と周喩も溜息をついた。
「まあ、そういうことでな。2人も知恵を貸してくれないか?」
「はぁ・・・孫家最大の智嚢者が2人揃って何を言っているのやら。」
しかし、知恵と言われてもねぇ、と高順が悩み始めた時である。
楽進が「少し宜しいですか」と挙手をした。
「ん、もう案が浮かんだのか?」
「案と言うか・・・工事の監督責任者だけを雇う、というのはどうでしょう。」
「監督責任者だけ?」
「はい。それだけ雇えば後は・・・そうですね、兵士に手伝わせるんです。其れなりに給料を増額するとか特典をつけて」
けっこうな力仕事ですし、鍛錬にもなりますよ、と付け加える。
「私は・・・その、解体専門ですけど、李典はこういう仕事が得意なんです。それに・・・ねえ、隊長」
「へ?」
「隊長、私達と出会って初めて徐州に滞在した時。洛陽で董卓に仕えた時。兵にも建築技術を学ばせていたじゃないですか」
「・・・。おお、すっかり忘れていた!」
「忘れてたんですか!?」
「そういえばそうだったな。戦いの無いときでも手に職つけるようにって商業とかもやらせたんだっけ」
「そうです、ですから、我らの隊からも人を出せるでしょう。で、監督責任者がいれば、何をどうすればよいのかも解りますし、兵に経験をさせておけば同様の事態にも対処できるでしょう。」
現場責任者だけを雇うのならそれほどお金もかからないのではないでしょうか、と楽進は言う。
「ふむ。本職には及ばないだろうが、兵に一定の経験を積ませておけば確かに次から活きるだろうな」
「どうしても無理な状況にだけ本職を呼べばいいということになりますね~。」
「ただし、先ほども言いましたが本来の給金に増額をしてあげてください。休憩もきっちり取れるようにして・・・」
「解っている。」
周喩は目を閉じて頭の中である程度の計算をした。
本職を多く呼び込めばそれだけの資金が必要だし、民間の建築が滞ったりもすまい。
何とかなりそうだが・・・高順の部隊からも人を出してもらうべきだな。
「高順、すまないがお前の部隊からも人を出してくれないか? あと、楽進と李典も借りたいのだが。」
「そっちが給金出してくれるなら、こっちからも人を募りますよ。あと、李典も楽進もモノじゃないんで借りたいとか言うのやめてください」
「む、それは悪かった。では・・・そうだな、2人に協力をしてもらいたい。これなら良いか?」
「問題なく。楽進はいいかな?」
「はい。それと、李典には私から伝えておきます。手当てが出るし、こういう仕事なら嬉々としてとびつきそうですしね。」
「細かいことが決まれば連絡をしよう。2人もすまなかったな。助かったよ。さて、陸遜。ある程度の日程をここで決めるぞ」
「はぁ~い」
二人は高順らに手を振って歩いて行った。これから、本格的に話を突き詰めていくのだろう。
こうして小さな会議は終わり、後に大々的な工事が始まるのだが・・・結局、高順も出資と言う形で資金を出している。
「ちゃんと返って来ることを期待してるんですからね!」と孫策や周喩に言っているのだが、半分くらい「踏み倒されるよね、きっと・・・」と諦めの境地だったとか何とか。

彼らと別れた後、周喩は心中で「どうしてああも不器用かな、あいつは」と高順の事も考えていた。
彼の配下に設計とか工作能力というか、そういった技能を持つ人々がいるのは知らなかった。
思えば、高順はどうにも消極的な面が目立つ。
会議などをしても自分から発言する事はないし、あっても会議が終わった後に意見を言いに来たりする程度だ。
その時に言えば良いだろうに、未だに自分の立場を気にして発言しにくいらしい。
もう少しだけで良いから、あの気弱な性格を前向きにすることができないものかなと思う。
そうすれば、もっと上手く生きることもできるだろう。少なくとも、無駄な苦労を背負い込むことも少なくなるだろうに。


解放(?)された高順と楽進は並んで廊下を歩いていた。
「すまないな、楽進」
「はい?」
「いや、仕事を抱え込んじゃったろう?」
「工事ですか? あれくらいは構いませんよ。今はまだ戦争にならないでしょうし。」
「そっか・・・やれやれ、俺からも特別手当を出すべきかもなぁ。」
「ふふ、李典は要求してきそうです。」
楽進は笑った後、少しだけ恥ずかしそうに「あのぅ」と高順に話しかける。
「ん?」
「隊長、明日は非番で・・・お暇ですよね?」
「え? そうだけど・・・。」
「わ、私も明日非番で・・・その! い、一緒にかか、か・・・」
買い物に付き合ってください! つまりデートしましょう、と言おうとしている楽進だが彼女は時折、こういうところで斜め上にぶっ飛んだ・・・いや、かっ飛んだ発言をするときがある。
そして、この時もそうだった。
「わた、私と・・・お、お付き合いを前提に結婚してください!?」
「Σはぁ!!?」

・・・斜め上どころか世界が一巡したレベルだったようです。


その後、更にテンパった楽進の言葉を何とか解読した高順。
結局デートをすることになり、食事をしたり買い物をしたり・・・が、それは本編には関係のない話なのでハブられたのであった。(あれ?



~~~その頃の華陀~~~

彼らはまだ、ある街の宿にいる。

「・・・ふぅ、こんなものですかしら」
袁紹はコトリ、と筆を置いた。彼女の目の前にあるのは筆と、何かが書かれた紙。
華陀はその紙を持ち「おお・・・凄いじゃないか。よく似てるぞ」と言う。
書かれていたものは似顔絵・・・それも、高順のものだった。
外見や名前を口で伝えても埒があかない、と考えて似顔絵という形で情報を集める事にしたのである。
そこで、顔良や文醜に描いてみて貰ったのだが・・・

こ れ は ひ ど い。
 
としか言いようのないアレな出来だった。
審配も書いてみてそれはまだマシだったが・・・見かねたのか、袁紹が「では私が描きますわ!」と言って描き始めたのだが、これが大当たりだった。
大いに似ている。虹黒も描いて貰ったが、これもまたかなりの出来だ。
「凄いな・・・ここまで似てるなんて。」
「そ、そうですの?」
「ああ。俺のうろ覚えで特徴を伝えただけなのに、よく此処まで描けるよ・・・」
「・・・。最初に渡された資料が「アレ」ではねぇ・・・」
「「アレ」じゃなぁ・・・」

華陀と袁紹の言う「アレ」とは、貂蝉が紐パン(?)の中から取り出した一枚の人相書きである。
高順が晋陽叛乱軍に組したときに洛陽にて公開されていた手配書だが、どういう経緯か貂蝉が入手していたのである。
角が生え目が4つ。腕が3本、下半身が馬。人間の範疇を超えた高順の人相書き。
これを手本に描けと言われてもまず無理であろうし実際に無理だった。

「とにかく、これを張って情報が来るまで待つしかないな・・・」
「そうですわね」

彼らが高順に合流できるのはいつになるのやら?








~~~番外編。もし高順が北に行けばどうなった? その2~~~

袁紹は1000の騎兵と審配を引き連れて南皮へ向けて急進していた。
田豊の言うところ、正体不明の騎馬隊の数はおよそ5千。
顔良、文醜に200の兵をつけて追跡させているらしいが・・・彼女達だけで威力偵察とかしかねない。
特に文醜が不安の塊だ。顔良で上手く抑えられるかどうか。
何より、騎馬隊5千に何時までも気づかれないという確証だってない。
「速く行かなくては
・・・」と焦るのも無理からぬことであった。

さて、高順。

「隊長・・・」
「ああ、解ってる。数は少ないけど・・・誰かが追跡してるみたいだね。」
楽進が馬を隣に進め、呼びかけてきたので答える高順。
「そうですか、気付いているのなら良いのですが。」
「ふむ、勢力圏内で言えば袁紹の手のものでしょうかな。ま、これだけの大所帯で移動して気付かれぬ方がおかしいですが。」
趙雲の言葉に、皆が頷く。
「せやけどなぁ、いつまでも追跡されるんは面白ぅないなぁ。」
「だからといって事を構えるわけには行かないでしょう。向こうから手を出してきたのなら別ですけど。」
「そうだな。それに、本当に袁家の者かどうかの確認もしていないからな。手を出されない限り気にせず北に駆ければ良いさ」
李典の文句を蹋頓と沙摩柯が嗜める。
「そういう事です。」
追跡している部隊の所属が何であれ最大速度で行きますよ、と高順は皆に言い置いた。

顔良と文醜。
こちらは兵200で尾行しているのだが、これだけ兵数が多いのに上手く尾行などできるはずも無い。
それに文醜はすぐに「斗詩ー、突撃しようぜー。あたいら2人で行けばちょちょいっとあの部隊の大将ひっ捕らえるのも可能だってー」と抜かしたのでちょっと黙ってもらった。
というのも、あの部隊の掲げる旗に見覚えがあったからだ。
(あの旗・・・んー。)
喉元まで出掛かっているのに思い出せないもどかしさ、というのを延々感じ続け、もう少しで解るんだけど・・・と思った瞬間に閃いた。
「あー! 思い出した!」
「お? 何を。」
「あの旗見て、誰か解ったんだってば! あれ、反董卓連合にいた・・・えーと、高順? って人だったと思う。」
別に高順の旗だけ、というわけではない。趙雲の旗もある。でもって目立つ。
「こーじゅん? そういえば上党にそんな奴がいたってどっかで聞いたなぁ。」
「それそれ。だからね、猪々子ちゃん。」
「ぉ?」
「兵100人と一緒に麗羽様のとこまで戻って。で、相手は高順って人だよと伝えてね。私はこのまま追跡するから。」
「え、なんでアタイが」
「行って来てね?(にっこり」
「うっ・・・わーったよぅ。」
普段は怒らない顔良だが、怒らせると・・・それほど変わらないが、こう、何と言うか・・・言いしれぬ迫力があったりする。
怒らせないほうがいいなー、と文醜は素直に従って袁紹の元へと急ぐのであった。



この間、高順隊は普通に南皮まで進み、食料を買い込んで更に北を目指そうとする。
最初こそ「何処の軍勢だ」と思われたようだが特に迷惑をかけることもなかったし、市場価格に色をつけて糧食を買ったため特に大きな混乱もない。
しかし、強行軍を続けたために兵が疲労してしまって、南皮から北十数里離れた場所で野営を行う事にした。
体調を崩し気味の者も続出して「ちょっと無理をさせすぎたな」と高順も反省したようで数日ほどここで様子を見ることにした。

文醜から報告を受けた袁紹。
高順の名は上党の話で聞いただけだったが、反董卓連合において「孫策・曹操部隊に一歩も引かなかった部隊っすよー」という言葉を聞いて「そういえば、そんな戦いがあった」と思い出していた。
あの時、董卓陣営の将で知っているのは呂布や張遼、それと華雄だけ。あの戦いは大いに驚いたものだ。
どういう経緯でここまで来たかは知らないが、彼らを行かせてしまうのは危険だ、と感じた袁紹は更に進軍速度を上げた。
しかし、何をどう間違えたか野営地よりも北へと向かってしまい、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「・・・・・・。先回りしすぎたのかしら・・・?」
高順達より更に北に数十里ほどの地点で遠くを見つめる袁紹。
まともになったとは言え、どこか抜けているのが彼女らしいといえば彼女らしい話であった。

その袁紹が高順達に接触するのは、これより数日後。





~~~意味も無く番外編~~~

寿春。現在は孫家の領地となったこの都市は、袁術統治下よりもより賑わっている。
これは、とある日に警邏をしていた周泰と蹋頓のお話・・・。

周泰と蹋頓が並んで街を歩く。蹋頓は右、周泰は左。これは割と珍しい光景だ。
蹋頓は大抵高順一党と行動を共にすることが多いからだ。
周泰と一緒なのはたまたま時間帯とかが合致していたに過ぎない。
さて、その周泰の視線はずっと蹋頓の胸とか足とかに集中している。
蹋頓の服は、基本的にずっと前に高順から送られた色気むんむんなチャイナドレスであり、彼女もソレが気に入ったのか似たようなものを多く所持している。
今は胸布をしていないのか、先っぽが微妙に解るような・・・。
その胸が大きく、歩く度にたぷたぷと揺れるので街行く人々、とくに男性の視線を集めやすい。
彼女の巨乳と言うか魔乳というか爆乳というか暴乳に嫉妬しつつも周泰はずっと蹋頓の足・・・厳密に言えば腰を見ていた。
その視線に気がついたのか、蹋頓は首を傾げて周泰の顔を見る。
「どうかなさいました?」
「ふえっ!? いやあのえーとですね! そのぅ、蹋頓様のその服っ」
「はい? この服が何か・・・?」
「その、服の切れ目が凄いですねっ!」
そう、切れ目というかスリットだが、その切れ込みが凄く深いのである。
本来ならば太ももが露になる程度。それでも充分深いのだが、蹋頓のそれは腰・・・お腹辺りまである。
腰から上は鎖のような鉄製の紐で括り付けて(紐靴を連想すれば良いだろうか)締めている。
ただ・・・
「ええ、ちょっと大胆かな、と思いますけど・・・うふふ。」
「あの、えと。もう1つ! これ、下布が見えないのは気のせいでしょうか!?」
本来、腰あたりで見えるはずの下着の布が無いのである。
もしかしたら紐みたいなものを穿いているかも知れないし、鎖紐がじゃまで見えないだけなのかもしれない。
しかし、蹋頓の反応はと言うと。
「さぁ・・・気のせいかもしれませんし、そうでないかもしれませんね?」
優しく笑いつつ、あっさりと受け流した。
(ふわぁ~・・・こ、これが大人の色気、大人の余裕なのですねっ!)
周泰が蹋頓の余裕の態度に一人で混乱している時に、トドメの一言が出た。
周泰よりも背が高い蹋頓は、周泰の耳元で話が出来るように身をかがめて静かに呟く。
「でも・・・履いていないほうが、すぐにお楽しみに入れますからお勧めですよ?」
「!!!?」

・・・。
とーとんねーさんに履いてない疑惑が発生致しました。



~~~楽屋裏~~~

なんで春夏秋冬なんてあるんだよあいつです(挨拶
常に秋か春なら良いのに・・・!(米が出来なくなります、多分

まだまだ続く孫家的日常。
原作を改悪してお送りしております。
これ・・・まだ続けちゃっても良いですよね? 少なくとも華陀が合流するまでは続けたいのですけど。
それから先もありますけど(何

・・・え? 何?
番外編やめるんじゃなかったのか、って?

・・・リクエストした人に言ってくださいよ!(待て


・・・。え? 何ですって?
疑惑について説明するべき?





それではまた。(あっ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第79話 孫家的日常。その4。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/14 22:56
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第79話 孫家的日常。その4。

寿春城、中庭にて。
ここはよく武将たちの手合わせに使われる場所だ。
他にも単純にお喋りの場として使用されたり、ちょっとした宴会などに使われたり、ということもあるが基本は武将の鍛錬の場の1つである。
本日は、そんな場所での小さなお話。

「ほら、どうしたどうした。」
「くぅぅっ・・・」
中庭で武器を叩きつけあっているのは楽進と沙摩柯。
見物しているのは周泰や黄蓋、それと孫策等。高順に趙雲もいる。
楽進の得物は拳・・・まあ、ナックルだ。沙摩柯は鉄疾黎骨朶(てっしつれいこつだ)という長柄。
短い間合いでの戦いを最も得意とする楽進だが、自然に強力な打撃を繰り出してくる沙摩柯に苦戦している。
楽進には破壊力そのものである気の塊を投げつける攻撃があるが「それだけでは駄目だ、長柄にも自然に対応できるように」と不利を承知で稽古をつけてもらっている。
沙摩柯は有利に戦いを進めており、余裕さえ感じられるほどだ。
「そらそら。防御だけではいつまでたっても勝てないぞ!」
「く、このっ」
防戦一方の楽進。なんとか隙を見つけて反撃をしたいのだが、その隙が全くない沙摩柯。
とことん沙摩柯が有利な状況だった。


「沙摩柯さんもすごいけど、楽進もよくあそこまで保つなぁ・・・」
胡坐をかいて座って見ている高順は両者に感心していた。感心できるほど自分は強くないよね、と思いつつ。
もし自分が沙摩柯と戦ったら問答無用の一撃で黙らされてそうな気もするし。
楽進と戦っても・・・うーん、なんか勝てそうにないな。と唸る高順。
そんな高順の側に、どこから現れたか猫がとてとてと近づいてくる。
「・・・ん?」
「なー。」
ごろごろと喉を鳴らし、高順の太ももに「よっこいしょ」とばかりに前足で上って、高順の顔をじーっと見つめた後。
「おっ?」
胡坐をかいている足の間にするりと入り込んで落ち着いてしまった。太ももあたりに頭をもたれさせて気持ち良さそうである。
「おいおい・・・あれ、お前どこかで見た覚えが・・・」
「おお、お猫様に懐かれているのです!」
それを見た周泰が目を輝かせて、落ち着いている猫の頭を撫でる。
どこかで見た猫だよなぁ・・・と思い返す高順だが、すぐに「ああ、周倉が可愛がってた猫だ。周泰さんも・・・あれ?」と気がつく。
「・・・ねえ、周泰さん。この子、どっから連れて来たんですよ」
「おぅっ!?」
ななななな、なんのことか私には解りかねるのでふっ! と噛み噛みで明後日のほうを見つめる周泰。その態度だけでばればれだ。
別に咎めている訳ではないんだけど、と高順は思う。
(周倉もこの猫にやられてたんだよなぁ)と呑気な事を考える高順だが、そこに趙雲が近づいてきた。
高順の足の間に包まって落ち着いている猫に向かって「おお、猫殿」とか言い出したのである。
「にゃ?」←猫
「にゃっ、にゃあ・・・にゃ」←趙雲
「あ、あの・・・趙雲・・・さん?」
いきなり猫の鳴き声をあげて、猫と話し(?)始める趙雲に、高順は明らかに戸惑いの態度を見せた。
「なーぁ・・・にゃ」(猫
「にゃあ、にゃうん・・・にゃうう」(趙雲
「おお、趙雲様は凄いのです! お猫様とお話をしてるのです!」
何故か目を輝かせて猫と趙雲を交互に見つめる周泰。猫好きの彼女は猫と話(?)をする趙雲に、尊敬と羨望の眼差しを向けている。
「にゃっ」(ね(ry
「にゃ? ふにゃ・・・にゃにゃっ?」(ち(ry

趙雲と話(??)をしていた猫は胡坐空間から抜け出てきて、一度「ん~~~~」とばかりに伸びをする。
そして、高順と趙雲の顔を交互に見つめ「な~ぉ」と鳴いてからどこかへと走り去ってしまった。

「あのー、趙雲さん」
猫を見送った高順は、同じく猫を見送っている趙雲に語りかける。
「はて、何ですかな?」
「猫と何を話しておられたのでしょうか?」
何故か敬語の高順に趙雲はニヤリと笑う。
「いやはや、何を、と申されましても。ああ見えて、猫殿は話題豊富ですぞ?」
「は?」
いや、豊富とか言われても困るのですけど、というような表情の高順には構わず、趙雲は話し続ける。
「見晴らしの良いところ、心地良く休める場所。人があまり使わぬような抜け道・・・普段、我々が気付かぬような小さなことを見て、それを知っていることも多くございます」
「へぇ・・・?」
これはちょっと意外であり、ある意味で納得できる言葉だった。
(そういえば、猫っていうのは自分なりに眠りやすい場所があるものだよな・・・涼しい所とか暖かい所とか。)
当然、猫によってその場所は違うし、どこが心地良いかも違ってくるだろうけれど。
「ははは、すこしは納得して頂けましたかな?」
「ああ、それは納得したけど・・・どうやって話をするのさ?」
「・・・。」
あれ、何か黙り込んだ。
「佳い女には秘密の10や20あって当然です。短い付き合いでもなし、それくらいはそろそろ解っていただかねば。」
「・・・・・・多すぎです、それは」
「む。では6か7では如何です。」
「いや、叩き売りとかそういうもんじゃないし・・・」
「ふむ、ごもっとも。・・・くふふ、それに」
いきなり、にったりと笑みを浮かべる趙雲。
「な、何ですよ?」
「今も、中々に有益な情報を頂きまして。」
「あー・・・さっきの猫に?」
「はい、素晴らしく心地良い寝所があるよ、と。」
ちょっと興味が沸いた高順は駄目元で聞いてみる。
「ほぅ。それはどこでしょう?」
「ふむ・・・それならば、失礼して。」
言い置いた趙雲は高順の膝(というか太もも)を枕にしてその場にごろんと寝転がった。
「はい?」
「おおっ。これは何とも寝心地のよい・・・」

そこかYO。

すげぇ突っ込みを入れたそうな高順に、趙雲は下から笑いかけた。
「ははは、たまにはこういうのも良うございましょう。それとも、私などに貸す膝は無いとでも?」
「そういうわけじゃないんだけど・・・うーむ、こういうのって女性がするべきものという先入観が。」
「ふ、はははははっ。自分から先入観と認めておられますか。らしいといえばらしいですが、ふふふふ・・・」
笑わなくても良いでしょうに、と高順も苦笑して趙雲の好きにさせることにした。
(まぁ・・・俺もよく蹋頓さんに膝枕をしてもらってるしね・・・下から見ても見事なあのおっぱ・・・うぐっ、意識したらへんなところに力がっ!)
「ほぉ・・・ふしだらな事を考えたようですな?」
「!?」
あっさりと見抜かれた高順はすぐに「ごめんなさい」と謝った。下手に言い訳するよりも素直に謝ったほうが身のためである。
「怒っている訳ではありませぬ。それはそれで健康な証拠ですからな。しかしどの女性を思い起こして硬くしたのか・・・それは聞かせてもらわねば」
「・・・。」

・・・神様。ぷりーずへるぷみー。
そう思わずにいられない高順であった。


「のぉ、蹋頓」
「はい、何ですか?」
少し離れていたところで趙雲と高順の遣り取りを、蹋頓は「あら、微笑ましい♪」と見て笑っていた。
「お主、嫉妬とかはせぬのか?」
「しませんよ?」
あっさり言ってのける蹋頓に、黄蓋は思わず噴出す。
「ぶふっ、剛毅よの。うかうかしておると横取りされるかもしれぬのだぞ? 他に愛人が増えぬとも限らぬ」
「あの人がどんな女性を好もうと、増えようと気にはなりませんよ。私は私ですし」
(ふむ・・・)
高順が別の女性と仲良くしているのを見ても何とも思わないと言う。
自分が一番寵愛されていると思っているわけでもないようだし、一夫多妻というものに抵抗がまるでないらしい。
「私は、そのうちの1人と言うだけで充分ですよ」とニコニコしている蹋頓。
そんな蹋頓を見て、黄蓋は(ほほぉ・・・高順め、佳い女に慕われておるわ)と思い・・・ニヤニヤと高順と趙雲のじゃれあいを見つめるのであった。




「沙摩柯殿」
「何だ、楽進。」
「・・・我々がすごく蔑ろと言うか蚊帳の外のような気がするのですが。」
「いつもの事だな」
「いつもですか・・・」
「いつもだな。」
沙摩柯との訓練真っ最中、楽進はぼやいていた。



~~~その頃の華陀~~~

「なぁ、これ・・・高順様じゃないか?」
「ていうか、名前書いてあるだろ。しかもあの馬・・・虹黒っていう名だったのか」
とある街のとある酒場。今、ここにはこの街を守る孫家の兵士4人ほどと酒場の店主くらいしかいない。
そこの張り紙を見ていた孫家の兵数人が「間違いないよなぁ、これ。」とかそんな意味合いの事を話し合っていた。
「華陀・・・聞かない名前だなぁ。そんなのに教えても大丈夫なのか? ・・・お、有益な情報をくれたら謝礼金出すってさ」
「それよりも、昨日まで無かったよな、こんな張り紙」
「その華陀ってのに教える間に、まず高順様に一度お伺いを立てたほうがいいんじゃねーか? こっから寿春までちっと遠いけど。」
「どーやってお伺い立てるんだよ。俺達みたいな一般兵の話なんて聞いてくれないような気がするぞ?」
「つか、お伺いを立てる方法が無いんだがな・・・。」
『・・・・・・』
暗殺者とかそういう危険性もあるわけだがここまで堂々と張り紙してるんだから・・・とも思う。
「んー、旅商人に言伝を頼むか?」
「寿春に行く商人がそうそう見つかる訳無いだろ」
「じゃ、早馬」
「早馬たてれるよーな身分じゃないだろう、俺達」
「でも、寿春にいるのは解ってるんだし・・・そのまま教えてやれば良いんじゃないか?」
「でもなぁ、高順様を狙う暗殺者って可能性も・・・ま、暗殺されるような人でもないと思うけどさ・・・」
そうやって兵士たちが(謝礼金のこともあって)悩んでいると、不意に後ろから声をかけられた。
「なあ、ちょっと良いか?」
「え?」
「今、高順がどうとか言っていなかったか?」
彼らの後に立つのは赤髪の男性・・・華陀その人であった。

この2日後、華陀一行は寿春へと向かう事になる。


~~~楽屋裏~~~
4度途中でデータが消えた&マウスぶっ壊れたあいつです(吐血しつつ挨拶
これでよーやくに華陀が高順と合流しそうです。
そんな華陀さん達がいる場所・・・どこなんでしょーねえw
淮陰とか。

あ、それと西涼編も2行ほど書かれていましたがデータが飛んだので無しになりました。
楽進の言ではありませんが蔑ろです。






番外:ハブったのは可哀想なので無理やり考えてみた。

~~~楽進さんと高順のでーと~~~

楽進と高順は、寿春市街を特に目的なく歩いていた。
デートとは言うものの、楽進本人も買い物に行きたいくらいは思っていたが、実際は特に計画無く誘ったので「次はあそこに行って、その次は・・・」ということも無かった。
なので、露天を見て楽しんだり、どっかから沸いた華蝶仮面の捕り物に遭遇したり。
昼食で楽進が頼んだ「辛子ビタビタ」系統の食事に興味が沸いて、高順も一口だけ貰ったのだが、辛さを超越した・・・痛いと言うか苦いと言うか熱いと言うか。
何にせよ人類に非友好的な味で悶絶する羽目になったりもした。

「うぐぐっ・・・まだ舌がいひゃい(痛い)」
「で、ですからあれほど「やめた方が良い」と・・・」
街の大通りを歩く二人。高順にとってはよほど辛かったのか、まだぼやいている。
(マーボー豆腐が凄く辛くなった、程度だと思っていたのにそんな次元じゃなかった・・・お?)
高順の目に、服の販売店が見えた。
ごく普通のありふれた店なのだが「そう言えば、楽進さんは普段着以外の服を着ているの見たことが無いな」と思い返す。
普段着か、戦場での鎧姿くらいしか見たことが無い。
李典や趙雲は割とお洒落だったりするし、最初から服に興味を抱かない沙摩柯はともかく。
楽進も年頃の女子であるし、可愛い小物に目が無いところがあったりする。
「・・・よし。行くか」
「え、行くかって・・・ちょ、ちょっと!?」
高順は楽進の手を握って、服屋へと吶喊するのであった。

「うーん・・・中々楽進に合いそうな服が見つからんなぁ」
「あのぅ、隊長・・・もう良いですから出ましょうよぉ・・・」
こんな流れになるとは思っていなかった楽進は落ち着かない素振りだ。
「だが断るっ」
「何でそんな強気なんですか!?」
最初から服を買う気満々な高順は、楽進の弱気発言を一蹴した。
しかしながらどうしても、コレだ! と思うような服が見つからず、さてどうしたもんかな・・・と考えてしまう。
「やっぱ可愛い服のが良いよね」と思うのだが、そんなのを作成・考える技術も自分に無い。
どうしたものか・・・とまたも考え込む高順だが、都合よくと言うか何と言うか。
李典が「あー、高順にーさんやー!」と店に入り込んできたのである。
「お、李典だ。そういや、李典も非番だったか。」
「り、李典!? 何故こんなところに」
「なんやー、二人でお楽しみかー。」
李典は意地悪い笑顔で「にっしっし」と笑う。別に邪魔をするつもりはなかったが、たまたま通りがかったところで高順の姿を見つけたようだ。
すると、今度は蹋頓まで入ってきた。
「李典さん、今高順さんって・・・あら、楽進さんまで。」
「おろ、蹋頓さん・・・2人でお出かけでしたか」
「・・・ぅぅ・・・。」
思わぬ2人の乱入に「折角2人きりだったのに・・・」と楽進はションボリしている。
聞けば蹋頓も非番だったようで、李典と2人で街を歩いていたのだという。
ここで、高順は(そうだ、2人にデザインを手伝ってもらうのはどうだろうか?)と思いついた。
「ふむ・・・よし、2人に協力してもらうかな?」
「???」

高順は李典と蹋頓に、楽進の服を作ってもらおうと思うのだけどどんなのが良い? と意見を聞いてみる。
李典と蹋頓は「とりあえず」とえろえろ(?)な服を提案してきたがソレは全力で却下された。
「普通のでいいんです! 人前で恥ずかしくないのが!」と。
「じゃあ、高順にーさんはどんなんがええと思う?」
「んー・・・できれば、体の露出が少ないのが良いと思うんだ。楽進、自分の体に傷があることを気にしてるからさぁ」
こっちが気にしなくても、本人が気にし続けてるとどうしようもないんだよね・・・と呟く。
「成程・・・それに、できれば綺麗とか、そういう服が良いのですね?」
「そーいうことです。で・・・あ、すいません、店主さーん!」
高順は店主を呼んで「服を作りたいんだけど、ちょっと協力してもらえる?」と店の人間まで巻き込んで楽進の服のデザインを決め始めた。
あーでもない、こーでもない・・・と議論を重ね、デザインを何度も練り直し、ようやく納得の行くものが出来た。
店主も見たことの無いデザインを見てノリノリで服の作成を開始。少し待てば出来るらしいので、それまで待たせてもらう事になった。

さて、ここまで延々やる事のなかった楽進だが、ただで放置されるわけが無い。
服と体のサイズ合わせで、李典と蹋頓に試着室まで拉致られてあれこれと体を弄繰り回されたのである。

以下、だいぢぇすと。

「ちょっ! 2人とも何・・・ひぇっ!?」
「ああもう、楽進さんったら反応が初心なんだから・・・しかもお肌すべすべ♪」
「ぬっふっふ、凪(楽進の真名)は隠れきょにゅーやしなぁ・・・服の胸の寸法あわせなあかんやろ!」
「なっ・・・おい、どこ触って・・・ま、待て、それ触ってると言うか揉ん・・・」
「なぁ、蹋頓はん、この際やから下着も選んでまうってのはどーや?」
「良い考えです李典さん!」
「わ、私の意思は!?」
『尊重されません(されへん)!!』
「断言された!? ・・・何それ紐・・・・・・!? 下着なのに紐と言うかその細さは糸!」
「これなら高順にーさんも燃えるはずや!」
「無理無理! ぜったい無理だから!?」
「あーもう、やかましなぁ・・・蹋頓はん、押さえとって!」
「りょーかーい♪」
「た、隊長ー! 後生ですから助っ・・・ちょ、食い込ませるな・・・ひぁんっ!」

「・・・・・・楽しそうだな、あいつら・・・」

以上、だいぢぇすと終了。

服が出来上がり、それを着せる段になっても、楽進は「絶対似合わない! 着たく無い!」と抵抗。
が、高順・李典・蹋頓の3人から「着てくれないと泣く」という説得なのか何なのか良く解らない言葉を受けて渋々着始めた。
そして数分。
『おお・・・』
「うううっ・・・」
試着室から出てきた楽進が着ているもの、それは洋風のドレス。
楽進の普段着が紫を基調としたものなので、それを少し明るくした色合いだ。
首の辺りは隠れているが、そこから胸まで徐々に布地が少なくなって肌が出ている。
だが、肌の出る部分には網目生地を当て込んでいるから肌はそこまで見えないし傷も目立たない。
それと、首からは銀色のペンダントをかけている。これは服が出来上がる間に李典と蹋頓が見繕って買ってきた物らしい。
腕の傷には長手袋。肩が少し出てしまっているがあまり気にならないだろう。
髪も、普段は三つ編みだが今はそれを解いて後ろに流している。
今まで三つ編みだったのを解いただけなので、少しウェーブしてしまっているが李典曰く「これはこれで!」だそうで、高順も蹋頓のうんうん、と同意していたり。
さて、当の楽進はと言うと「うううう・・・は、恥ずかしすぎます! こんな綺麗な服を貰っても私には似合いません!」と真っ赤になって泣きそうである。
「いやいや、凄く似合ってる。うーん・・・綺麗だ。」
「うう・・・」
高順の言葉に、楽進は嬉しいのか恥ずかしいのか、更に真っ赤になってしまう。
「あ、そうだ。次の宴席ではその服で出てもらおう。」
「!?」
「せやなぁ、凪の女っぷりを見せ付けるべきや! ・・・あ、ちなみに下着m「それ以上は言うなぁっ!」」
「そうですね、ひm「言わないでくださいぃっ!」」
「・・・何を着せたんですよ、二人とも。」
高順はこの後、店主に「貴方は良い仕事をした!」と親指を立てて服一枚に対してちょっとありえない額のお金を出している。
そして、李典と蹋頓の買い物につき合わされ夕飯を食べに行き(お代は高順もち)・・・と、望むような結果ではなかったが、デートを終えた楽進。
この後、楽進が宴席にドレスを着て行ったかどうか・・・それは定かではない。


~~~その頃の西涼~~~

「・・・ぬぁっ!?」
「どうしたのです、翆?」
「母様・・・いえ、何かこう。」
「こう?」
「私の出番が減った気がして。」
「出番って・・・?」

~~~西涼編、完 了~~~



~~~楽屋裏~~~
完全終了的意味合いで。(何
自分で見てもグダグダな出来ですが・・・字数埋めのためには仕方の無い事だったんだ!(言い訳



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第80話 孫家的日常。その5。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/21 14:47
【習作ネタ】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第80話 孫家的日常。その5。


寿春城のとある一室。
「お、終わったぁ・・・」
がくり、と高順は自室の机の上にどっかりと突っ伏した。

現状では、基本的に武官も文官も仕事は寿春城で行う。
武官はそこに警邏や自己鍛錬が加わるし、文官、と言っても周喩にしか当てはまらないのだが、政務に飽きて街に突撃した孫策の捕縛という仕事も追加される。
捕縛には高順達のような武官も動員される時があるし、高順自身も動員されたことがある。
ところで、今高順がやっていた仕事と言うのは自分の部隊の事だ。
ちょっと遅くなってしまったのだが、寿春の戦いが終わった時点での自部隊の戦死者を調べ、その家族がいるかどうか、というのものだった。
家族がいれば、夫なり妻なり子供に見舞金と言う形で生活資金と、もしも現存すれば遺品を自分から渡しに行く。
その一家の重要な働き手がいなくなった、と言うことになるし、その子供がまだ幼かったりしたら最低限その子が成人するまでは定期的に支給を行う手はずだ。
これは何年も先の事に繋がる仕事である上、自分も何時死ぬか解らないからと周りの人々に「自分が死んでもこの作業だけはきっちり行ってくださいね」と伝えてある。
高順の言う「終わった」とは見舞金の額の選定作業までで、その額を渡しに行く作業は残っている。
ここまでは高順だけではなく、他の者も手伝っている仕事であるが今はこの部屋には高順以外誰もいない。
もう少しでキリがつくからと既に昼時ではあったが、手伝ってくれた人々に「飯の時間ですよー」と外出させて、一人残って作業をしていたのである。

「んん~~~・・・」と椅子に座ったまま伸びをする高順。
さて、ちょっと遅くなったけど昼飯をと思ったところで、不意に扉がノックされた。
「高順様はいらっしゃいますか?」
聞こえてきた声に覚えは無いが、取次ぎの者だろう。
「お、何か用事?」
「なんでも高順様にお会いしたいと言う者が。如何致しますか?」
「俺に・・・名前は?」
「はぁ。華陀と名乗っておりますが。」
「へ・・・華陀!? その華陀って人、赤髪の男性?」
「は、よくご存知で。」
「会う。通して・・・いや、俺が行く。何処にいるんです?」
「は、応接室にお通ししました。」
「解った、よく知らせてくれました。」
空腹ではあったが、そんなものはどうでも良い、とばかりに高順は部屋を出た。

~~~応接室~~~

華陀は応接室の椅子に座ってじっと待っていた。
卑弥呼と貂蝉は同行しておらず、ここにはいないのだが、それは前に徐州の陳羣(ちんぐん)に面会した時、2人に対して凄く胡散臭いものをみるような目を向けられたからである。
怪しい人物と誤解されないように、という彼なりの配慮であった。
「待たされる事も覚悟しなくては」と思った矢先、かちゃり、と扉が開いた。
華陀はすぐに扉のほうへと向いて立ち上がる。その向こうに立っていたのは、今しがた待たされるかもな、と思った人物、高順であった。

「華陀、久しぶりだな?」
「高順、元気そうだな。」
華陀も高順も笑顔で握手をした。高順にとっては急な来訪ではあるが、友人が自分を訪ねてくれたのだ。嬉しくないわけが無い。
「よく訪ねて来てくれたよ。けど、なんだって急に。」
「色々理由があってな。ところでお前、背が高くなったか? ・・・いや、違うな。」
「? よく解らんが・・・で、その理由って?」
「それなんだが。紹介したい人たちがいるんだが、ここでは少し不味い気がしてな。今から時間は空いているか?」
「ん・・・飯がまだなんだが。」
「そうか、それなら問題ないな。今から行くのは宿屋、すぐ下が酒場さ。ああ、それと。」
「それと?」
「馬超から伝言を預かっている。」
「そっか。・・・いやちょっと待て。あんた、西涼に行ってたのか!」
あっさり流しそうになった高順だが、馬超と言う言葉に反応する。
「ああ。行く当てがなければ頼って来い、だとさ。まぁ必要は無かったか。」
「いや、そんな事は無いさ。馬家の人々は元気だったか?」
「ああ、馬騰の病気が酷かったがなんとか治せたよ。皆元気にしていたぞ。」
「そっか。っておい、馬騰殿病気だったの!? しかも治したの!?」
「ああ。」
「・・・。その人、俺の親の友人なんだよ。ありがとうな。また借りが出来た。」
気にするなよ、と華陀は苦笑する。
「親の友人の事にまで借りを感じていたらキリがないだろう。借りは良いから、さっさと行くぞ。」
「お、おぅ。」
華陀は高順を促して共に部屋を出た。


~~~宿~~~
「なあ、そろそろ教えてくれても良いんじゃないか?」
高順は2階に続く階段を上がりながら、前にいる華陀に話しかける。
そろそろ用件を教えてくれても良いと思うのだが。
「もうすぐそこだ。じゃあ、入るぞ」
華陀がある部屋の前に立ち止まり扉を開ける。
その部屋は華陀が当面の拠点として借りている場所らしく、そこそこ大きな部屋だった。
部屋にはいたのは4人程。後で聞かされたが、10人を越す所帯であったそうな。
そして、その部屋にいたのは袁紹・顔良・文醜・審配である。

「この人たちって・・・?」
高順は、彼女達を見て不審に思った。
この4人が紹介したい人というのだろうか。全員女性・・・は構わないが、金髪の女性はどこかで見た覚えがある。
一度も会った事は無いはずだが、誰かに似ているのだ。
あれは誰だったかと思ったところで華陀が「紹介するよ、彼女は袁紹」とかるーく紹介をした。
「はぁ。は・・・? えんしょう???」
「貴方が高順さんですわね。お初にお目にかかりますわ。私は袁本初。」
以後お見知りおきを、と袁紹は挨拶をする。
「袁紹・・・? 袁本初だとっ!?」
高順は殺気を漲らせて普段は護身用に腰から下げている剣の柄に手をかけた。
それに反応して(高順は知らないが)顔良・分醜・審配も武器を構えるが、袁紹は驚きも慌てもせずに自分の部下に「おやめなさい」と声で制した。
高順も柄に手をかけたままじっとしていたが、少しだけ思いなおした。
この女がいなければ反董卓連合など出来なかったし、自分達は洛陽で平和に暮らしていた可能性だってある。が、しかし。
自分自身も「自分の都合で」陶謙を攻撃したのだから、袁紹とそう変わりはしないのだ。丁原や友人達を喪わせた呂布に対してはまだ微妙な心境ではあるが。
少し気持ちが落ち着いたか、高順はとりあえず柄から手を離して殺気を解く。
どころか、そのまま剣を手近なところにあった机の上に置いて、とりあえず害意が無い事を示した。
様子を見ていた華陀が「まったく、斬りかかると思ったぞ」と少しの不安を見せずに言う。彼は最初からこうなる事を想定している。
こいつだから踏みとどまるだろう、と思われていたというのが正解だろうか。
袁紹は特に怒りもせず「仕方が無い事ですわね」と頷いた。彼女も華陀から高順の置かれた状況を聞かされている。
華陀に聞いたことと、自分で調べた事でも知っていたが高順は董卓陣営に身を置いていたと聞いている。
反董卓連合を主導したかどうかはともかく、その盟主となっていたのは紛れもなく自分だ。
謂われなく攻撃された彼らにしてみれば、恨みの1つや2つあって当然だろう。が、思うところがあるのかどうか、目の前の男は一応は怒りを納めた。
感情にだけ任せて動くような人ではない、ということですわね。と袁紹は読んだ。
「いや、すまない。しかし、貴方が袁紹・・・」
どうも、聞いた話と随分違うな、と高順は呟く。
「・・・どんな話を聞いていたのかしら。」
「無謀でお馬鹿で名族の名を使ってやりたい放題。」
「・・・。」
評価を聞いて「ま、まぁ当てはまっていますわね」と、袁紹はずーんと落ち込んでしまうのであった。

高順は華陀と袁紹、両者にあれこれと事情を聞き始めた。
官渡の戦いの趨勢、曹操に見逃され華陀に出会ったこと。その後に徐州まで自分の行方を聞きに行き、ここまでたどり着いたことなど。
「なるほど。で華陀。用事って言うのはこの人たちに関することなんだな?」
「ああ。用件は・・・これは本人から言ってもらうほうが良いかな。」
華陀は袁紹ののほうへと顔を向けて促した。
「そうですわね。実は、高順さんにお願いをしたくてやってきたのですけど。」
「はぁ。そのお願いと言うのは。」
「私達を雇っていただけませんか?」
「・・・はい? 雇う? 俺が貴方達を?」
訝しがる高順に向かって「この通りですわ。」と袁紹はあっさりと頭を下げた。
「れ、麗羽様ー!?」
自分の主が頭を下げる。そんな場面を見たことが無い文醜にとっては驚きの叫びだった。
「一応お聞きしますが、何故俺に?」
高順の問いに、袁紹は頭を上げた。
「曹操さんに見逃されたとは言え、そのまま北に留まっては何があるか解りません。私はともかく、部下の身が危険になってしまいます。」
「それで孫家を?」
「孫家、というよりも高順さんを・・・ですわね。華陀さんの推薦、ということもありますけれど。」
この言葉に、高順は少し恨めしそうな目で華陀を見るが本人はそっぽを向いた。いつか泣かす。
「一族に伝わる宝刀を売って、路銀か・・・皆に渡す金子に、とも思いましたがそれではただの一時凌ぎにしかなりません。きっちりとした働き口を、部下に与えてやりたいのです。」
何分、袁家が滅んだ以上、私には何の伝手も無くて、と袁紹は肩を落とした。
「私に出来る事であればなんでも致します。ですから、どうか・・・」
なるほどね、だから華陀の伝手で俺を頼ってきた、か。
袁紹の嘆願を聞いた高順は、噂って言うのはあまり当てにならないねえ、と感じていた。
今まで袁紹に抱いていたイメージは「無謀でお馬鹿で名族の名を使ってやりたい放題。」だったが、目の前にいる女性は無謀ではあるかもしれないが、名族の名を使ってやりたい放題と言う性格には見えない。
これが高圧的な態度であれば反発もして追い返すことも出来るだろうに。
部下のために、と簡単に頭を下げる袁紹の姿に高順は同情して、今も変わらないかもしれないが、昔の自分の姿を重ねあわせた。
何をやっても裏目に出て、行く先々で安定しない立場に置かれて、それでも自分を信じて付いて来てくれた皆の為にと動いていた自分。
有体に言って、袁紹という人間に高順は一種の好意を覚えている。差し伸べる手があるなら、差し伸べても良いよな? と自分に言い訳をするような感じで自分の心を決めようともしている。
まだまだ自分は甘いのかな、と高順は苦笑した。
他者のために懸命に何かを為そうという姿勢は嫌いじゃないし、ここで受け入れないと自分を推薦してくれた華陀に恥をかかせることにもなる。
ただ、受け入れるにしても、その為に1つ2つの手順を踏む必要がある。
まず1つ目は自分の仲間だ。
彼女達も袁紹をどう思っているか定かではないが好印象を持つものは少ないだろう。
もっとも、彼女らはきっちり説明をすれば理解をしてくれるだろう。
問題は2つ目。孫策にも言わなければいけないということだ。
反董卓連合でお互いを見知っているはずだし、あの袁術の姉。袁家をまず好いていないだろう孫策の理解を得るのは随分苦労しそうだ。
その上、曹操との対立理由になりかねない。
袁家ということで何をするか解ったものではないという不安も付きまとう。
色々とこっちも覚悟しないといけないかと、高順は溜息1つ吐いて華陀のほうへ体を向ける。
「仕方が無い。華陀、あんたにも手伝ってもらうからな。」
「何?」
俺が? と不思議そうにしている華陀を置いておき、高順は袁紹にも顔を向けて「これから孫策殿のところに行きますよ」と語りかける。
高順の意図を察しているのか、袁紹は素直に首肯した。
「ふむ。解りましたわ。」
「色々とこちらからの要望もありますし、それ以前に孫策殿がどう判断するかですけど・・・約束はします、必ず受け入れさせて見せますよ」


~~~寿春城、政庁~~~
「却下。」
「一言ですか・・・」
孫策の言葉に高順は、まぁそうだよなと思いつつ肩を落とした。
政庁には孫策周喩孫権黄蓋などがおり、高順が華陀と袁紹一味を引き連れてやってきた時には「何事」と険悪な雰囲気だった。
北方で勢力を伸ばし、そして曹操に敗北した袁紹が何故 という事もあったし、まさか高順と通じていたのか と疑われもしたが。
袁紹の説明を受け、何とか落ち着いた孫策達だったが、高順の「彼女達を受け入れたいのですが」という言葉にはやはり「却下」の一言であった。
「どうしても駄目ですか」
「駄目。聞くまでも無いわよ。」
高順の嘆願を孫策は簡単にあしらう。
孫策からすれば袁紹などは「面倒な奴が来た」というものでしかない。それに、袁術を追放したのに同族の袁紹を受け入れる理由も無い。
受け入れて得る物・・・曹操を攻める理由の一つ位にはなるかもしれないが、その程度だ。
利益よりも不利益のほうが多そうだ、という考えである。
ただ、1つだけ驚いたことがある。前に比べて袁紹が随分とまともだ。
反董卓連合の時にはすちゃらかというか馬鹿チンというか、どーしようもない奴だったのに今は随分と大人しい。
何かあったのかしら と思う孫策だがそれはどうでもいい。
「とにかく駄目よ。皆もそう思うでしょ?」
「私も、姉上と同意見です。利益よりも損失が大きくなると思います」
「ふむ」
「うーむ。」
孫権は賛成、周喩と黄蓋は微妙な態度を見せた。
黄蓋は「別にどうでもいいし」な感じで周喩は「袁家の兵を糾合、呼び集める事もできるか? しかし、失地回復という名目で袁術と結ぶ事もありうるな」と損得の両面を考えている。
袁紹の勢力はもっと北だから兵を集める事はできないだろうし、集めたところで資金も何も無い彼女では兵を養っていく事はできまい。
南と北の袁家、ということで別れていて、同じ袁家でも支援勢力は全く違う。
高順が出資して勢力を盛り返したところで脅威とはならない、と周喩は素早く考えを纏めた。
だが、高順はこの沈黙を駄目、と受け取り(あまり使いたくないけど切り札使うかな・・・)と決心をした。
「解りました。では。」
「では?」
高順は懐から1枚の紙を取り出し、ばさっと広げた。
「今までお貸し、或いは融資した資金、この場できっちり全額返済お願いします。」
『えっ・・・えーーーーーーーー!?』
「領民への炊き出し、城の工事費用、何故か俺の元に来た黄蓋殿の酒代のツケ。あと人件費とか諸々。あ、利息込みですハイ。」
「ちょ、まっ! 落ち着きなさい高順!?」
「俺はお湯をへそで沸かせるほどに冷静ですよ さぁ、今此処で全額耳をそろえてー。」
無理。
孫策らの目が、そう言っていた。
さしもの孫策も助けを求めるような目で周喩へと向くが、その周喩ですら困りきった表情である。
いきなり全額返せと言われても無理だ。高順の貸した資金はそれだけの額。・・・祭殿の酒代は、後で本人を思い切り締め上げて吐かせよう。うん。
「袁紹の保護を認めたらどうするのだ。」
周喩の問いに、高順は「さぁ?」と含みがありそうな、曖昧な返事をした。
「むぅぅ・・・」
「どーしましょうかねー。認めてくれたら」
今回に限って貸した事実は残しても、借金帳消しにしちゃおうかなー。と、高順はこんな事を言いだしたのである。
「は? ちょ、帳消し!? あれだけの額を・・・!」
「はい。」
今まで舐めた態度を見せていた高順だが、すぐに真面目な表情に戻る。
「ソレでお前に得る物があるのか?」
「ありませんね。これはあくまで俺個人の理由で、巻き込む事は申し訳なく思います。しかし俺は商いの真似事をしています。その中で一番大事なものが信頼である、ということを理解しました。自分は袁紹殿に、必ず何とかする、と約束をしたんです。」
その約束を破る事は、俺には出来ません。と少し苦しそうに言う。
「それとも、孫策殿は都合が悪くなったら俺との約束を反故になさると仰るので?」
「うっ。」
これは孫策には痛い言葉であった。孫策は高順にある程度の自由と、いつか来るであろう曹操との戦いのため何処かの土地を任せるという約束をしているからだ。
「いや、困らせるつもりは無いのです。ただ保護が認められたとして、袁紹殿にもいくつか飲んでいただく条件があります。宜しいですか?」
「私ですか?」
袁紹の言葉に高順が頷く。
「ええ。1つ。軍政に関ることはしない。2つ。袁紹という名を捨て真名で過ごしていただく。」
「つまり、袁紹という人間は死に、麗羽という私だけが残る。麗羽という人間として野心を持たず。そういうことですわね」
袁紹は「考えるまでもありません、承りましたわ」と答えた。今の彼女にとって、そんな事は造作も無い話なのだろう。
「私は曹操さんと争い、敗れましたわ。負けた以上天下を狙う野心があるわけでも無し。すでに死んだも同然の身、その程度の事がいかほどのものでありましょう。」
「と、言っております。」
顔良や文醜、審配が生きて孫家の武将となっても世間には影響無い。袁紹という人間が生きて孫家に渡った、ということに問題があるのだ。
だが、本人は真名で呼ばれても良いとして、庶民として生きていくことを否定しない。しかも、それを認めるだけで高順は借金の帳消しも考えるという。
周喩は「どうする?」と孫策の決断を待つ。
暫く考え込んでいた孫策だが、根負けしたかのように「はぁあ・・・。」と脱力した。
「解った、解りました。もう良いわよ、袁紹。いや、今は・・・。」
「麗羽ですわ。」
「そう。じゃあ麗羽。今からあなたと、あなたに付いて来た者全てを孫家の民として認める。でも、おかしな真似をしたら・・・解っているわね?」
「重々承知しておりますわ、孫策殿。」
孫策の脅しとも取れる言葉に袁紹いや、麗羽は静かに笑って答えた。

「付け加えて、1人紹介したい男がいます。」
「へ?」
もう終わったんじゃないの? という孫策らを尻目に、高順は華陀を前に押し出した。
「彼の名は華陀。医者です」
「はぁ・・・」
そんな事言われても、と孫策は少し困り顔である。
「俺の知ってる中で・・・いや、多分この国で3指に入る腕利きですよ。」
本当は1番だろうが、それを言ってしまえば本人は嫌がるだろう。
「で、どうだ? 体の悪い人はいる?」
高順のいきなりの質問に、華陀は頷いた。
「ああ。ええと、周喩、と言ったか」
「は? いきなり何を。」
名指しで呼ばれた周喩は自分を指差して何か悪いところでも と問い返す。
「このところ寝不足だろう? そうだな。3日ほど不眠不休といったところか。今は良いがそれでは体がもたないぞ。」
「む。」
華陀の言う通り、周喩は3日ほどほとんど寝ずに政務やら軍務やらに携わって駆け回っていた。疲れてはいるが、それを他人に悟らせないようにしていたのに。
「それとな。ええと、あんた。」
「は? わ、わし・・・?」
今度は、華陀が黄蓋を指差した。黄蓋は自分に話が来るとは思っていなかったらしく、少し声が上ずっていた。
「あんただ。酒の飲みすぎは体に良くないぞ」
「むぐっ!? い、いやしかし酒は百薬の長というではないか!」
「過ぎたればただの毒、だ。あんたは酒に滅法強いかもしれんが、3日に1度くらい酒を抜いて体を休めるべきだ。」
「そんな馬鹿な!? あっけなさすぎるっっ!!」
「何がだ。2人に薬を処方するからな。孫策、悪いがどこか開いている部屋を貸してもらうぞ」と言い置いて、華陀は周喩・黄蓋の首根っこを捕まえる。
「さ、行くぞ」
「お、おい。ちょっと待て・・・」
「嫌じゃあああっ!、離せっ、わしは年寄りじゃが体は至って健康じゃーーー!」
いや、言うほど歳じゃないでしょうに、という高順の突っ込みは無視され、2人はずるずると引っ張られて行くのであった。

「えー、あんな男です。」
どこぞの漫才みたいな流れだったが、孫策は華陀に興味がありそうな感じだ。
「まさか、見ただけで容態が解るの?」
「「診た」だけで解るそうです。麗羽殿の保護を認めてくれた礼に、彼が暫く此処に逗留するそうです。」
「ふん・・・彼の仲介があったわけね。ところで、彼って怪我とか病気も治せたりするわけ?」
孫策の質問に、高順は「よほど酷くない限りは」と答えた。
「ふぅん。ねぇ、高順。あの華陀って子、貴方の友達なのかしら?」
「ええ、かけがえのない友人の一人ですよ。」
普通に答える高順に、孫策はふっと笑った。
「そう。ふふ、貴方の交友関係って面白いわね。さて、麗羽の事は認めたし、華陀には暫く力になってもらう。そして借金は帳消し・・・私にとっては良い条件。だけど本当にこれで良いのね? 貴方の得る物は何も無いのよ?」
「ええ、問題ありません。では、どうぞ。」
高順は借用書を未練気なく孫策に手渡した。彼女は文面にさっと目を通してそれが本物であるかどうかの確認をする。
借用書に書いた自分の名、自身の筆跡・・・間違いない。
「確かに。でも高順。くれぐれも・・・」
「解っていますよ。馬鹿な真似をしないように、ですよね?」
「宜しい。それじゃ、退がって良いわよ。」
上機嫌の孫策の言葉に従い、高順と袁紹一行は退室して行った。



廊下を歩いていく高順達。
麗羽が後ろから「あの」と呼びかけ、高順は歩きながら「何です?」と答える。
「先ほど、貸し付けた金がどうとか宜しかったですの? 相当な額だとお聞きしましたが・・・」
「構いませんよ。」
戻ってくるかどうかは微妙だったしね、と高順は苦い笑みを顔に浮かべる。
確かに相当な額だと思うのだが、あのお金が多少でも役に立てばそれはそれで、と考えている。
「そう・・・それと、商いをしているとか?」
「ええ。」
「あの、経理くらいなら出来ますわよ」
遠慮がちに言う麗羽に、高順が歩を止めて振り返った。
「本当に? って、それもそうか。仮にも一勢力を築いたお人ならそれくらいできるよねぇ・・・」
「顔良さんと文醜さんは強いですし、付いて来た者も親衛兵。皆、扱いは傭兵、或いは店の警備と言うことでも良いでしょう。審配さんだって経営というものを知っておりますわ。」
「え、あたいらの意思はむぐっ」
「はいはい、文醜ちゃんは黙って。」
文句を言おうとした文醜だが、顔良に口を押さえられて「むー」とか「もー」と呻き声を上げるだけである。
「ふむ・・・?」
高順は顎に手を当てて一寸考えた。
そういえば、今は店の経営を担っている闞沢ちゃんが「一人じゃ無理ですーーー!!」とか嘆いていたな。
それは当然だろう。何せ店の経営から部隊の輜重までこなさないといけない。一人では無理だから、と泣きつかれて何人か手伝いに向かわせたがそれでも足りないとか。
向かわせた人々も、素人だったから余計に手間がかかってしまっていたらしい。
それを思えば、ちょっと方向性が違っていても素人とはいえない麗羽達のほうが戦力になるかもしれない。
ちょっとした賭けになりそうだが、この人たちにやらせてみるか。と思う高順であった。


こうして、麗羽達は店の経営を一時的に且つ見張りつきで任される事になる。
彼女達は「拾ってもらった恩は返す」とばかりに働いたせいか、周りの疑いもすぐに晴れている。
顔良も審配もよく働いてくれているし、文醜はたまーにおかしな事をやらかすが。
袁家の2枚看板と言われた猛将だけあって、押し入ってきた盗賊の類を鮮やかに組み伏せたり、と高順が思う以上の働きを見せてくれたりする。
また、麗羽の凄まじいまでの「強運」が異様な儲けをたたき出して倉の増設まですることになった。


「あら、高順さん。儲けを納める倉が足りなかったのでいくつか増設いたしましたわ。事後承諾になって申し訳ないのですけど、宜しかった?」
「えっと・・・どういうことなの・・・」
中身満載の、増設された倉を見渡して高順は呆然としてしまった。
これ、もしかして俺たちが今までに稼いだ額より多いんじゃないだろうか・・・?




~~~楽屋裏~~~
いろいろ書き加えてこのザマデスヨあいつです(やけ気味に挨拶
しかも5回以上修正した! ZETUBOUした!

孫家的日常が長いですね。修正する前にも話しましたが後1話か2話で終わる予定です。
まだ西涼とか色々な話あるんですが「こんな戦いがあったよ」なダイジェストにして終わらせるべき、と書いた所「とっとと終われよ」という感想も見受けられました(違

高順伝自体が冗長になってますからねぇ、真っ当な感想です(遠
いっそ、やりたかったお話全てを削って、一気に最終回(それもダイジェスト)でしゃっきりぽんと締めるべきか・・・。
意見を貰うべきかどうか。悩みますな。

それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第81話 孫家的日常。その6。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/25 19:57
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第81話 孫家的日常。その6。

高順は華陀と二人、食堂で昼食を摂っていた。
最中、飯をかっ込みながらも高順は何かを思い出して一度箸を止めた。
「んぐ、そういや、黄蓋殿と周喩殿はどうなったよ?」
「ん? 薬を処方して、あと無茶はしないように言っておいたぞ。」
高順の質問に、華陀はなんでもないように答える。
「黄蓋は単純に飲みすぎだからな。処方と言ってもそう大したもんじゃないが・・・問題は周喩だよ」
「と言うと?」
「働きすぎなんだよ。あの後、もう一度診たんだがな。体の・・・特に内側が悲鳴を上げている。あれじゃ本当に体がもたん」
華陀の言葉には高順も思い当たる節が多くあった。
周喩という人は、現代で言うところの過労状態にある。
軍事・政治ともに強大な権限を持つ、というのは宰相役として相応しくない事なのだが、周喩という人は私心無く役目を果たしている。
その分、重圧も仕事量も他者より多く、はっきり言って働きすぎである。
孫策もソレを解っているのだが、どうしても彼女に頼ってしまってなかなか休みを取らせてやれないらしい。
有能だからこそ他よりも仕事を多くこなし、こなせばこなすほど更に多くの仕事が舞い込む、という一種の悪循環に陥っているのだ。
例えば張昭や陸遜など有能な文官もいるのだが・・・。
まるで正史の諸葛亮みたいだ、とも思う。責任感が強すぎて、1から10までの間の殆どを自分でやらないと不安になるとか、そういう性格なのだろう。
高順からしてみれば、もっと他人を頼るとか甘えても良いだろうに・・・と思うことが多々ある。
お節介は重々承知だが、1度や2度ほど「もっと他人に甘えてみては?」という意味合いの事を、本人にそれとなく言った事はある。
本人からは「心配は無用だ」とばかりに笑われてしまったが・・・。
「まだ孫家は盤石とは言えない。やるべき事は沢山あるんだ。多少疲れたからと言って、私一人が甘える事は出来んよ」と。
そういうことじゃないのに、と言っても周喩は聞き届けてくれなかった。
周喩もいずれは呂蒙や陸遜に権力を少しずつ委譲するつもりだが、まだまだそんな気にはなれないようだ。
ただ、心配をされているというのは理解したようで、周喩は「ありがとうな」と笑って答えている。

「そっか・・・もしかしたら、本当に病になるかもしれん。その時は頼むよ、いや本当に。」
「ああ、言われるまでもない。」
華陀は何でもないように答えるが、彼がここに一時逗留するにも理由がある。蹋頓だ。
高順に「必ず治してみせる」と約束をしたものの、自身の未熟ゆえに未だソレが果たせていない。
彼なりに負い目があるらしく、高順の頼みを断らなかったのもそういった理由があったのである。


「ごちそーさまー」と、高順と華陀は店主に代金を渡して店を出ようとするのだが・・・彼らはその時、何も知らなかった。
自分達の目の前で起こる惨劇(?)を。


~~~高順達が食事を始めた頃~~~
華陀が高順を訪ねた時にいなかった卑弥呼。
そして、高順の元にいる「影」を統率する楊醜(ようしゅう)。
この、超雄(ちょーおす)2者は、高順達のいる食堂から程近い場所で再び出会っていた。(1度目は徐州。)
「また会ったな、卑弥呼。今度も一戦 戦 ら な い か?」
「ウホッ、よいオノコ・・・!」
またしてもこのパターンで・・・!

~~~余談、その頃の眭固(すいこ)と貂蝉~~~
「ところでぇ、あたしの揉み上げを見てぇん♪ これをどう思うぅ?」
「すごく・・・生え際がおかしいけど立派です・・・」
まるで成長していない。

~~~余談終了~~~

普通、街中で戦えばこれまた普通に警備隊が出張って来て捕り物になる。
加えて、華蝶仮面と言う謎(?)の存在がいるため、多数の場所で一斉に騒ぎが起きない限りは殺傷などの騒ぎはすぐに沈静させられるものだ。
ところが、こういう日に限って・・・警備隊の出が遅かった。

「喰らえぃっ!」
「ぬぉぅっ!」
卑弥呼は掌から衝撃波を発し、楊醜はそれを飛び上がって回避、民家の屋根の上に。
「ぬぁはははっ! 甘い、甘いぞ! 砂糖よりも甘いわぁっ!」
「うぉおおお!?」
しかし、卑弥呼は無意味に縦回転しながら民家の壁を垂直に駆け上がり、楊醜同様に屋根の上に立つ。
「ぬっふっふ。暫く見ぬうちに腕が下がったのではないか、楊醜!」
腕組みをし、片足で立つ卑弥呼。上着が風にたなびき、無意味な漢臭さを出している。
「ちっ・・・流石だな、卑弥呼。だが、俺にも奥の手はある!」
「ほぉぅ? ならば、その奥の手とやら・・・見せてもらうとするか!」
「言われなくても・・・なっ!」
楊醜はツナギの(何故かこの時代にある)ジッパーを「ジィィッ」と下ろし、見えてはいけない(中略)、その楊醜の股間に光が集まっていく。
「むぅ・・・!?」
余裕の体であった卑弥呼だが、只ならぬ気配を察し構える。だが、じっと楊醜の準備が整うのを待っているようにも見える。
集まった光が凝縮、1つの固まりとなるのを待つ辺りはまだ余裕がありそうだが、それでも手を出さないのは「ここで手を出すは無粋」という卑弥呼の美学のようなものである。

こんな事をして騒ぎにならないはずがなく、そしてタイミング良くというべきか、高順と華陀もこれを目撃していた。
「なぁ、高順・・・あいつら、何をしてるんだ?」
「俺が聞きたいくらいなんですけど・・・」
ジト目で屋根の上にいる人外たちを見つめる高順。
「そうだよな・・・が、流石に止めたほうがよくないか?」
「できれば関りたくないんだよね、あの流れには。」
「むぅ・・・確かに。」
周りには多くの人だかりが出来ており、動きたくても動けないと言うのも理由であるが・・・高順の言葉に、華陀も同意せざるを得なかった。
そんな会話をしているうちに、屋根の上にいる二人の戦いも大詰めを迎えようとしている。
「待たせたな・・・だが良かったのか。俺は遠慮なくヤっちまう男なんだぜ」
「ワシは一向に構わぬ! さぁ、見せてみよ、貴様の滾りを!」
何の滾り? という突っ込みはともかく、楊醜は何故か股間を突き出した。
「喰らいなっ! 八天(はってん)の拳!」
股間に収束していた光が、楊醜の叫びと共に白濁色をした一筋の光となって卑弥呼へと向かっていく。
「なぁっ! こ、これ、はぁっ!!?」
ずぎゅううううううんっ!! という爆音と共に、光を諸に食らった卑弥呼の体は宙を舞い彼方へと吹き飛んでいった。
そして楊醜は、というと・・・。
「・・・」
精魂尽き果てたのか、人の家の屋根の上でぐったりとしていた。

「・・・なぁ、高順。」
「何ですよ。」
「今の技、どこに「拳」の要素があったんだろうな・・・?」
「・・・。俺が知りたいくらいですよ。」
高順の言葉に、華陀も力なく同意した。
「そうだよなぁ・・・」
「うん・・・。」
よくよく考えたら、卑弥呼も楊醜も放った技は僅か1つだけ。
それだけでこんな訳のわからない仕合になるのは・・・あまり考えたくない。
(つか、あれ見たら楽進がショック受けるか泣くぞ・・・。)
威力こそ楽進のほうが段違いに高いが・・・あんな形で似たような事されたら落ち込むのは当然といえる。
とりあえず、自分達に出来る事はただ1つ。

見なかったことにしよう。

余談でしかないが、この騒ぎはどこかで李典も見ていたらしく。
当然のように楽進の耳に入り、「あれほど苦心して会得した技が・・・」と、しばらく塞ぎこんでしまったとか。

~~~楽屋裏~~~
夏なんて滅べば良いのにあいつです(挨拶
記念すべき投稿数100話目で八天の拳とかかました事実は見なかったことにしていただきたいのですが(ぁ

前回、後2話で孫家的日常終わらせるよ! と言いましたが・・・
終わらせる自信が無いです。短く纏めてしまいますか(ぁ

実際はまだ解らないんですけどね。これも原作改悪話です。

高順が董卓として生まれてたら、とかいうおかしなネタが思いつきもしましたが・・・没ですな。
月が董旻(史実では董卓の弟、原作には出てません)になりそうですし。

さて、前に「これから先どんな風に進めていくべきか」と読者様方に聞いたところ。
作者の思うように書けばいいんじゃない? もっと短くテンポ良く、高順なんてモゲればいいのに(誰も言ってない)など、多くのご意見を頂きました。
やはり、書きたいものを書け、という意見が大半でしたね。ただ、もっとテンポ良くと言う意見もわからないではないのですなw
できるだけ不要な話を削るべきかどうか・・・ちょっと迷い気味です。


~~~番外編~~~
「て、訳です。」
「ふぅん・・・」
孫権の部屋にて、高順と孫権が何事かを話している。
特に何かあったわけではない。孫権に乞われて、倚天の大剣と青釭の刀を曹操から入手した経緯などを話していただけだ。
孫権は、以前から高順がどのように戦ってこの時代を潜り抜けてきたのか、と言うことに少なからず興味を抱いていた。
この乱世だ。腕がよければ一旗挙げるなり、どこぞに仕官して有力武将となる事だって普通にある話だ。
ご多分に漏れず、高順もその手合いだったが・・・これまでの話を聞いていると、どちらかと言えばあまり戦いを好んでいるというわけでもないようだ。
親が勝手に兵士募集に応じて、死亡フラグ回避・・・は言わなかったが、いつの間にか仲間が増えて、その食い扶持を得るためにという流れが、いつの間にかこうなった。生き残るために悪あがきを続けていたらこんな風に、と言うことだった。
「随分隙だらけと言うか、割に合わない生き方をしているのね、貴方って。よくそれで生き残って来れたわね。」
「・・・自覚はしてます、ハイ。」
遠くを見つめて認める高順に、孫権はクスリと笑う。
「ごめんなさい、別に貶めるとかそういうつもりじゃないの。呆れと感心が半々といったところかしら?」
「つまり、褒めるつもりもないって事ですね・・・」
「えぁっ・・・そ、そうじゃなくてっ」
孫権は慌てて頭を振った。

「ふぅ・・・」
更に一頻り話をした後に孫権は、不意に自分の肩を「とんとん」と叩いた。
「?? どうしたんです?」
「え? ああ・・・この頃肩こりが酷くて。疲れてるのかしらね・・・」
孫権は、姉に比べれば地味であるが政務を良くこなしている。
むしろ、事務能力やら調整能力は姉以上である。その代わりに戦争・個人戦闘力は大いに落ちてしまうのだが孫家の人間として申し分のない能力があった。
本人の真面目な性格もあり、周喩ほどではないがオーバーワークになりがちなところがある。
そのせいで疲労が溜まって、うまく発散できないのだろう。孫策の後を継ぐ者として周りの期待も高い。
昔はその期待が重圧になって、他者に対して随分刺々しい態度を取る事もあったが、高順との一件以降、かなり性格の質が柔らかくなり「姉は姉、自分は自分」という意思を持ち始めている。
姉と競い合うつもりはないし、姉に武で劣り勝てないのは承知している。
自分なりの精一杯で孫家の、そして民の為に尽くせば良い。という思考に達していて昔ほど重圧と言うものは感じていないらしかった。
それでも疲れはあるし肩は凝る。
だが、下世話であるが・・・それには彼女の胸にも原因がある。
孫策・周喩・黄蓋には劣るが、彼女の胸も相当に大きい。その胸のせいで余計に肩へと負担がかかってしまうのである。
はぁ、と眉間に皺を寄せて肩を叩く孫権に、高順は「指圧か肩揉みでもしてあげましょうか?」とからかうように言ってみた。
別におかしな下心などないし、冗談で言ったつもりで断られる事前提で言って見たのだが・・・
「あら、そう? じゃあお願いしようかしら。」
「へ?」
「え? 肩を揉んでくれるのでしょう?」
「・・・。あ、はぁ。それじゃ、遠慮なく」
「・・・? 遠慮などする必要があるの?」
冗談通じず。
首を傾げる孫権の姿に「あるぇー?」と思いつつ、肩を揉みはじめる高順であった。


椅子に座っている孫権の肩を揉み始めて数秒。その僅かな期間で高順は(うわぁ・・・こりゃ随分ガチガチだなぁ)とか思ってしまった。
かなり時間をかけてほぐさないと、コリが取れないだろうなぁ、と力を込めて揉みほぐすがあまり力を入れると痛いかもしれない。
そう思っていた矢先、少し痛んだのか「ん・・・もう少し弱く・・・あ、それくらい」と、注文をつけながらも孫権は気持ち良さそうに目を細めている。
ただ、孫権は肉体的にかなり鍛えられている。そのせいで背筋が逃げて、マッサージをしにくいのだ。
ふむ、と唸って高順は一度手を止めた。
「あら・・・もうおしまい?」
孫権が少し不満そうに振り返る。
「うーん・・・ちょっと寝台にうつ伏せに寝転がってくれませんか? 背の筋肉が逃げてやりにくいんですよ。」
「し、寝台!?」
ここでようやく警戒心が出てきたのか、孫権の声が裏返る。
「へ、変なことしないわよね!?」
「そのつもりがあったらもっと早くやってます。警戒心無さ過ぎですね。」
「え・・・えっ?」
「案外に隙だらけですね、孫権殿?」
「・・・。」
さっき言われた事をそのまま返されて、孫権は沈黙した。

不機嫌になりつつも、孫権は寝台に寝転んだ。「早くしなさいよ!」と言わんばかりに。
高順からすれば、座ったままの態勢よりも上から押さえるような感じでやったほうが幾分やりやすい。
それじゃ行きますよー、痛かったら言ってくださいねー。と前置きをしてから、孫権の方に親指を当てて力を込める。
「はぁっ・・・ん」
「・・・(汗」
悩ましげな声をあげて身悶える孫権。
良く見たら、孫策や周喩には敵わないながらも豊かな乳房が寝台に押し当てられて、線の細めな孫権の体からはみ出ている。
その上、「あ、痛・・・い。もう少し優しくぅ・・・」とか「んぁっ・・・そこぉ、もっと強めに」とか・・・声だけ聞いていたら凄まじく何か誤解されそうだ。
しかも、色っぽい声でそんな事を言うものだから、余計に落ち着かない。
誰にも聞かれていませんように、と願う高順だが、彼はこの時点で完全に失念していた。
孫権に付き従う一人の護衛がいたことに。

甘寧は、孫権の部屋に入ろうとしたところで、その孫権の甘い吐息を聞いた。
(何事・・・!?)
嫌な予感がする、と甘寧は扉を僅かに開け、隙間から片目でじぃっと部屋の中を窺う。
部屋の奥の寝台に、孫権の足が見える。
(ああ、蓮華様のおみ足・・・美しい・・・)
ハァハァと興奮する甘寧を見たら、まずもって変態そのものだがそれはこの際置いておくとして・・・。
そこに、高順の姿があり、声が聞こえてくるのは不快だった。
自らの主は、どういうことか高順を気に入って、そしてある程度気を許しているように思える。
そうでなくば、自分の部屋に警戒心無く入れてしまうと言うことはないはずだ。
(くそ、一体何をしているのだ・・・!?)と、もう少し扉を開いて奥を見ようとするが、そこで聞こえてきてしまった。

「あぁん・・・駄目ぇ・・・もっと、優しく。・・・んくぅ」←うっとりとした声をあげる孫権
「ぜーはー・・・こ、こうですかー・・・」←流石に疲れてきた高順
(っ!?)←明らかに勘違いした甘寧

がちゃっ! と乱暴に扉を蹴り開けた甘寧が一足飛びに寝台へと向かう。
彼女が見たものは、うつ伏せになって恍惚の笑みを浮かべている孫権と、その孫権の臀部の上に跨って腰やら背中やらを触りまくっている高順。
高順は指圧をしていただけだが、甘寧には触っているだけにしか見えなかったようだ。
「貴っ様ぁあぁっぁぁあ!!! 私の蓮華様に何をしているーーー!? (怒りの怪鳥蹴り」
「・・・は? ・・・ちにゃっ!!?」
「んぅ・・・?」
甘寧の叫びと蹴りが高順の顔面を捉え、吹き飛ばす。
ただ、場所が悪かった。
寝台の横には壁があり、そして高順が蹴り飛ばされた先には窓があった。
窓と言ってもガラスがこの時代にあるわけではないので、枠にはめ込まれた開閉式のものだ。
蹴り飛ばされ、思い切り吹っ飛んだ高順はその窓を突き破っていたのである。
そして、孫権の部屋は城の上部にある。つまり、高順はけっこうな高さのある場所に、安全装置など何も無い・・・
紐なしバンジージャンプを敢行する羽目になったのである。

蹴り飛ばされ、宙にその身を翻した高順の目に映っていたのは、雲1つ無い真っ青な空。
その透き通る青さに目を奪われ、高順は既に亡い人々の事を思い返していた。
「ああ・・・丁原様、朱厳様、郝萌(かくぼう)。皆が・・・あの空の向kってこれ徐州と同じじゃないかあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
・・・・・・・・・へぐちゃっ。

「・・・。あ、あー・・・」
「・・・ふぇっ? ・・・え、ちょっと、思春(甘寧の真名)・・・え、こ、高順は!?」
最初、何が起こったか解らなかった孫権だが、すぐに我に返って窓・・・いや、今は「手すり」になってしまった部分に手をかけて下を覗き込んだ。
「ちょっと、高順! ・・・ぅわ」
下のほうで、真っ赤な血だまりに沈んでいる高順の姿を見て孫権は真っ青になった。
しかも、こんな時に限ってそこに人が集まるものだ。
へぐちゃ、という音に反応して黄蓋がやってきたのである。がさがさと茂みをかき分けて、事件現場(?)へとやってくる。

「おい、何じゃ今の叫びと変な音・・・って、おぃい!? 何があったーーーー!!」
血まみれと言うか形容しがたい何かになっている高順の姿に、黄蓋も驚きの余り大声で叫んでしまった。
すぐに駆け寄って、抱き上げる。
「おい、高順! しっかりせぬかっ。誰にやられた!? ぬ、いかん・・・血が止まらぬ!」
そして、更に人が集まってくる。黄蓋の声が聞こえたのだろう、呂蒙と周泰までやってきた。
「あのぅ、何かあったんでsうわああああっ!? ち、血がーーーー!?」
「こ、高順様ーーー!?」
「おお、呂蒙に周泰か! 良い所にきた・・・良いか!」
『は、はひっ!』
黄蓋の声に、二人は気をつけの姿勢になる。
普段は酒ばかり飲んでいて威厳など微塵もない黄蓋であるが、こういうときは孫家の宿将らしく判断が素早い。
「何者かは知らぬが、賊が忍び込んだやもしれぬ。ワシは動員できる兵を使って城・市街の出入り口を封鎖する! 呂蒙!」
「はい!」
「お主は策殿、権殿。あるいは周喩でも構わぬが事情を説明し、ワシの一存で兵を動かした事も伝え置け。罰があれば後で受けるとも伝えぃ!」
「え、えっと・・・」
「お主らはワシに命令されただけよ、案ずるな。これは他の者にも伝えておくのだ。次、周泰!」
「はっ!」
「お主は高順を華陀の元へと連れて行け。他の事は考える必要はない、それだけを優先。良いか!」
「は、はい!!」
「うむ、高順を容易く倒す程の者・・・予想はつかぬが、先も言うた通り他国の賊なり間者という線がある。もし出会ってもサシでやりあおうなどとは思うてくれるなよ。解れば行けぃ!」
「応っ!」
3者は己の使命を全うするべく、行動を開始した。

それを上から見ていた孫権と甘寧は、あまりの状況に呆然となっていた。
「あ・・・あいやぁぁ・・・」
「・・・あの・・・どうしましょう」
甘寧の言葉に、孫権は思わず怒鳴ってしまった。
「それは私の台詞よ! なんでいきなり飛び蹴りなんてしたの!?」
「う・・・それは。高順めが孫権様に不埒な事をしたのかと。」
「何もしてないわよ! ・・・それよりも、早くこの状況を収めないと。早く呂蒙を捕まえて・・・あと、黄蓋にも事情を説明s「失礼します!」え!?」
やって来たのは呂蒙だった。ていうか何この早さ。あそこからここまでどれくらいの距離があると・・・
「ご、ご報告します! 高順様が何者かに襲われ意識不明の重症! 黄蓋様が兵を動員し、賊を逃がさぬ為に各所出入り口の封鎖を行っています!」
矢継ぎ早に伝える呂蒙。
「あの」
「孫策様と周喩様にも伝えなければなりません! それではこれで失礼致します!」
踵を返す呂蒙だが、孫権は彼女の肩を掴んで引き止めた。
「その・・・呂蒙? 事情を説明させてもらえるかしら・・・」
「はい・・・?」

結果、全ては誤解であることがわかって一件落着・・・というほど、皆は甘くなかった。
孫策と周喩は黄蓋の独断を評価して、そこにお咎めは無かったが甘寧にはお咎めのみだった。
また高順一党、特に蹋頓の怒りは凄まじく8時間耐久お説教タイム(正座&お茶とトイレ休憩は1回だけ)が発動、甘寧は恐怖におののきながら「ごめんなさい・・・」を連呼するしかなかった。
甘寧は後に「戦死したほうがよほどマシだった」と述懐している。
この後に孫権は高順に見舞いをして謝罪をしたのだが、話をしている最中に本気で落ち込んでしまった。
情けない上に恥ずかしかった、というのが理由だったらしい。
謝罪をされたはずの高順が「いや、別に気にしてないですからそんな落ち込まなくても!?」とフォローをする事になってしまって何がなにやら。

~~~楽屋裏~~~
あまり出てこない孫権+よく使われるネタ=いつも通りの流れ。
高順に限りませんが、こういう話の主人公は

戦よりも通常生活のほうが死に掛ける確率が高い。

・・・変わりようのないことなんですかねぇ(笑




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第82話 孫家的日常。その7。 
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/08/29 19:36
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第82話 孫家的日常。その7。 

その日、高順は市街の警邏をしていた。
彼は基本的に武官なので、仕事内容も治安任務やら兵と自身の修練、というものばかりだ。
他にも商いがあるのだが、そこは麗羽達に任せてあるから金を使うとき(給料を渡したり、高順の認可が必要な場合)以外はそれほど用事があるわけでもない。
「影」からの情報を統括、そして輜重の面では闞沢(かんたく)が頑張っている。
ここにきて、ようやく高順一党は自分達の仕事をそれぞれに割り当てて・・・いわば、分業作業が終わったことになる。
なので、孫家の主要な面々に比べれば彼は暇なのであった。

「今日も平和だ・・・」
そんなことを心中で呟きつつ、高順は街のあちこちを回る。
思えば、寿春にも活気が出てきたものだ。袁術統治の時は酷かったものだが、孫策が支配下に置いてからは少しずつだが活気が出てきている。
前は無かった筈の店や、作りかけではあるが居住区域が広がるのを見ると人が増えてきた、と言うことも実感できる。

今回は、そんな穏やかな日に起こった騒動のお話。

高順が屋台で買った肉まんを「はふはふ・・・」と言いながらもぐもぐと食べている。
(ぉ・・・いい味だな。警邏が終わったら皆にお土産に・・・)
「・・・ぶるっ!(はむっ」
「へぅっ!? 何すんのさ!」
「ぶるるっ!」
予想外の当たりに高順が嬉しそうにしているところ、虹黒が「自分ばっか良い物食べんな!」とばかりに高順の肩に噛み付いてきた。
実は、今回の警邏は虹黒と一緒だった。
普段はあまり警邏などに出さないようにしているのだが、それに拗ねたのか、それともへそを曲げたか。
「あたしも連れて行けー!」と厩で大暴れをしたのである。
確かに此処のところあまり構ってやれなかったし、旅に出た自分を待ち続けて寂しく死んだ海優(上党時代に高順が乗っていた馬)のことも不意に思い出して、仕方がないとばかりに連れて来たのである。
「お前、肉まん食えるのか? ・・・いや、甘みのあるやつのほうが良いよな。あとで砂糖とリンゴ買ってあげるからちょっと待ちなさい」
「・・・。」
砂糖とリンゴ、という言葉を聞いた虹黒はあっさりと落ち着き、「馬なのに現金だよな」と高順は苦笑した。
馬と言うものは自分に愛情をもって接し、世話をしてくれる人に信頼を寄せる。どの動物でも大抵は似たようなものだが、虹黒もそういう手合いだ。
取っ掛かりをしくじると夏侯惇のように延々と嫌われ続けるが(対照的に夏侯淵は特に嫌われていない)、一度心を許せば普通に懐いてくれる。
自分の体を洗ってくれた丘力居の事も覚えているし、乗せるかどうかはともかく楽進らの事も嫌っていない。
人ではないが、高順にとっては良い相棒で、またある意味で女房役と言っても良い虹黒なので、自然と高順も態度は甘くなるがそれはともかく。
よしよし、と首や頬を撫でられた虹黒が嬉しそうに「ひひんっ」と鳴いた所で、高順を呼ぶ声があった。
「おお、高順!」
「・・・?」
「ぶる?」
「こっちじゃ、こっち!」
声の主は黄蓋である。
辺りを見回して、すぐに彼女の姿は見つけたのだが・・・何故か、多数の子供たちに囲まれていた。

「おやまあ・・・随分と人気ですね、黄蓋殿。」
適当な軽口を叩きつつ、高順と虹黒は黄蓋の近くへと進んでいく。
気付いた子供の何人かが「あ、高順さまだー」と、あ「でっかいお馬さんだー!」と、高順達へと近づいてくる。
「こんにちは、高順さま!」
「ああ、こんにちは。皆で何をしていたんだい?」
高順はわざわざしゃがみ込んで、子供たちと同じ目線で話をする。
「んっとね、黄蓋様とおはなしー。」
「そっか。じゃあ、心行くまでお話すれば良いよ。」
「待たんか!?」
高順の言葉に、黄蓋は文句をつける。
「何ですか?」
「(小声で)頼む、こやつらを追い払ってくれ!」
「何でですか。これくらい別に・・・」
(やっぱり小声)ワシは子供が苦手なんじゃ! 話と言っても、さっきから「お姉ちゃんが胸が大きくならないと悩んでいる」だの、返答に困るようなものばかり・・・早く散らしてくれ!」
あー、子供って邪気なくそういう話するからなぁ、と少しばかり納得した高順は仕方ないと、子供たちに事情を説明しだした。
「皆、悪いんだけど黄蓋様はまだお仕事中なんだ。お話したいのは解るんだけど、黄蓋様も困ってるみたいだし・・・また、仕事のない日にお話しようね?」
高順の言葉に、子供たちは素直に「はーい!」と返事をして、黄蓋に「また遊んでねー!」とか「色々なお話し聞かせてねー」とか言いつつ、どこかへと走って行った。

「ふぅ、助かった・・・」と安堵する黄蓋だが、去っていく子供たちへの視線は優しいものだった。
「意外ですねぇ、黄蓋殿が子供に弱いなんて。」
「弱いのではない、苦手なだけじゃ!」
「それこそ何でですか? 子供の事が嫌いなんですか? その割には随分と懐かれているようでしたけど。」
「そんな訳はない。子は国の宝じゃ。嫌っておるわけではない、が・・・」
「が、なんです?」
更に理由を聞こうとする高順に、黄蓋は恥ずかしそうに「・・・笑うなよ?」と言いつつ話を始めた。
「この間、ここいらで暴れていた暴漢を叩きのめしたのだが・・・その時、騒ぎに巻き込まれて泣き出してしまった子がおってな」
「はぁ」
「共に出てきた警備の者達は事後処理に当たっておって、ワシ以外に相手をしてやれるものがおらなんだ故、なんとか泣き止まそうとしたのだがな」
それを見ていた周りの子供たちに妙に懐かれてしもうてなぁ・・・と高順にぼやく。
「ワシはどちらかと言えば周りに怖がられておる筈だったのじゃが・・・子供というのは本当に解らん。」
「それはアレです。黄蓋殿に親しみを持ったということでしょう。」
「はぁ? ワシに親しみ?」
「ええ。黄蓋殿が子供に悪戦苦闘してるのを見て・・・って感じじゃないでしょうか。怖がられている筈の将軍が子供に見せた優しさ、というのを理解したんじゃないですかね?」
「むぅ・・・よく解らんわ。」
好き放題に言われっぱなしの黄蓋は子供のように口を尖らせる。
「ははは。ま、さっき仰ってたように、子は国の宝です。そう邪険にするもんじゃないですよ? それに、そんなんじゃご自身に子供ができた時に苦労するじゃないですか。子を産めば解るかもしれないですけど」
子供をあやす予行練習と思えばいいんじゃないですか? という高順に、黄蓋が「ふむぅ・・・」と何かを考え込むような素振りを見せた。
「のぉ、高順。」
「はい?」
「子を作ってみぬか?」
「・・・はい? 誰と誰が?」
「ワシとお主で。」
「はぁ。はぁぁあっ!?」
「どうした。何を驚くことがある。」
そりゃ驚きます。
「あのね、何故そういう話になりますかね!?」
「何じゃ、子を作ればわかると言うたのはお主ぞ。」
「へ? だから何故そこから俺と黄蓋殿の話になるのかがっ」
「ほーう。あれだけの愛人を抱えておきながらワシを満足させる事はできぬと。ワシのような年増を相手にすることはできぬと。そー言うのじゃなー」
「誰も言ってないよ! だいたい黄蓋殿は年増言うほどじゃないでしょうが! 話が逸れてますからね!」
「ほほー。にも拘らずワシの相手はできないと。ワシは高順の好みではないのだなぁ・・・」
何だか話が別方向に変えられて、しかも高順はそれにあっさりと乗せられている。
「いや好みですって! 黄蓋殿は可愛いし綺麗だし素敵だし! 大体なんですかそのけしからん胸は・・・あ」
自分の言った意味を理解した高順は「しまったー!」という表情である。
黄蓋も、まさかこんなに簡単に引っかかり、そして自分が思った以上の言葉を聞いて照れ臭かったらしい。
「ええい、冗談のつもりで言ったと言うに、本気にしおって!」と、怒りつつも少し嬉しそうである。
「・・・」
「・・・」
「ひひんっ」
微妙に、良い雰囲気ながらも気まずくなってしまい、二人は黙り込んでしまった。
そんな時である。
「あら・・・高順さん?」
「隊長に・・・黄蓋様。お疲れ様です。」
蹋頓と楽進が現れたのであった。

「あ、蹋頓さんに楽進。二人も警邏かい?」
「はい、そうですけど・・・ふふ、お話を邪魔してしまいました?」
コロコロと喉を鳴らして笑う蹋頓。彼女は何となく察しているらしい。
「いや、そんな事はないですよ。ねえ、黄蓋殿?」
「ぬ? あ、ああ。別に邪魔などではないぞ、うむ。」
表情を繕う黄蓋だが、蹋頓にはお見通しだったようで「なら、そういう事にしておきますね」とにこにこ顔である。
「・・・?」
楽進は解っていないらしく、ハテナ顔。
「ところで・・・蹋頓と楽進が2人連れ、というのは珍しいのぉ。」
「そうでしょうか?」
黄蓋にとっては珍しいようだが、実際にはそんな事はない。
高順一党の人同士で組んで仕事をする、という事は多いし、今回は虹黒だが高順も一党の人々と警邏をする機会は多い。
単純に見ている回数が少ないとか、そういうことだ。
(しかし・・・好みか、ワシのような年増を。ふふん、儒子め。うれしい事を言ってくれる)
蹋頓・楽進と話をしている高順を見やって、黄蓋は高順の言葉を思い返す。
内々の話だが、周喩と孫策主導で黄蓋を高順の元へと(性的な意味で)送り込もうという話が出ている。
知っているのは先の二人と当事者である黄蓋の3人だけ。
馬超の話を聞いて周喩も内心で焦りがあるし、黄蓋と高順は相性が良さそうだから・・・と言うこともある。
黄蓋も高順の事は嫌いではないし、先ほどの会話も自分をどう思っているかというカマかけであったが、上手く行き過ぎた。
何だかんだ言って、彼女も割りとこの話に乗り気なのである。
(だが、愛人は多い高順だから女に不自由はしておらぬだろうし・・・。さて、どうしたものかな。)
ふむー、と悩む黄蓋だが、そこに。
ドンガラガッシャーン! と、使い古されたような騒音が中央道から聞こえてきた。
「何だ?」
「行ってみましょう!」
また喧嘩かな? と高順達は(考え込んでいる黄蓋を放置して)音が聞こえてきた方向へ向かって行った。


行った先は妙に人だかりが出来ており、やれ「行けー」だの「そこだー!」だの景気の良い声が飛び交っている。
「うわ・・・何だこの人の数は。」
「さぁ
。捕り物でしょうか?」
「それなら我々の出番だと思いますが・・・って。」
高順達は「すみません、通りますよ!」とばかりに前に出る。
警邏をしている彼らに遠慮をして、市民もなんとか道を開けてくれるたおかげで、この騒動の大元となっている者がすぐに解った。
趙・・じゃなく、華蝶仮面が、10数人ほどのゴロツキ相手に大立ち回りを見せているのである。
その華蝶仮面は、人だかりの先頭に出来てきた高順、楽進、蹋頓の姿を認めてニヤリと笑った。
彼女の笑みを見た楽進は「あぅ・・・」と口ごもり、蹋頓は「あらあら」と笑っている。
「死ねやぁっ!」
「はっはっは! 隙を見せてやってもその程度かっ! そらどうした、そんな腕では小娘一人打ち負かす事もできんぞ!」
華蝶仮面は、ゴロツキの斬撃をひらりひらりと回避、余裕綽綽である。
だが、数が少ないせいか逃げ場を少しずつ失っているような感じには見える。
(はて、あれくらいは趙雲さんならあっさり倒せるだろうに?)
何かを守りながら、という条件さえなければあの程度のゴロツキならあっさり片付けてしまえるだろう。
それをしないというのは・・・?
とか思っていたら、華蝶仮面は一足飛びで民家の屋根の上に退避。腕組みをしてゴロツキ集団を見定める。
「ふむ、数で押されれば苦戦も致し方なし、か。・・・ならばこちらも数を出させてもらうとしよう!」
華蝶仮面が指をパチンッ、と鳴らした瞬間。
華蝶仮面と同じく、蝶をあしらった仮面を被った影が2つ、彼女の横に降り立ったのである!

華蝶仮面の右に降り立った人物:紐パンかつ筋骨隆々。お下げの髪が悩ましい(?)アレ。
華蝶仮面の左に降り立った人物:同じく筋骨隆々。白い胸当ては乙女の恥じらいとか言いそうなアレ(??)。

「我が名はぁっ! 華蝶仮面、に~ごぉ~~~!」
「同じく! 華蝶仮面、三号っっ!」
・・・。
どう見ても二号は貂蝉、三号は卑弥呼である。
なんかボディビルダーの方々が取るマッシヴポーズをきめつつ、彼・・・女達? と言って良いかどうかわからない人々は華蝶仮面としての名乗りを上げたのである。
趙雲さんは何時の間に彼らを引き入れたのだろうか・・・じゃない。
呆然としている高順だが、そこに蹋頓が遠慮がちに話しかけてきた。
「あの、高順さん。」
「はい? どうしました、蹋頓さん。」
「すみませんけど、虹黒さんに少し手伝ってもらいたいことがありまして・・・」
「へ? はぁ、どうぞ。」
「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか♪」
「ひひんっ」
蹋頓は苦もなく虹黒の背に乗り、群衆を掻き分け(ていうかある意味蹴散らして)どこかへと行ってしまった。
それを見送った後、楽進まで「ううっ・・・気乗りしませんが、行ってきます・・・」とか言って姿を消してしまった。
「え、ちょ・・・楽進? どこ行くのさ!? ・・・行っちゃったし。」
何かあったのかな? と首を傾げる高順だが、華蝶仮面らの活劇はまだ終わっていない。

「てめぇっ! 降りてきやがれ!」
「そうだそうだ! 気持ち悪いの2人も追加しやがって!」
「3人もいるなんて反則だ!」
民家の屋根に飛び移ることが出来ないゴロツキ集は口々に華蝶仮面sを罵る。
3人もいることが反則なら、10数人の自分達も反則ではあるまいか? という突っ込みも出そうなものだが、文句をつける本人達はそこに気付かない。
華蝶仮面(一号)は、そろそろか、と口にする。
「はっはっは。我らが3人と誰が決めたっ!」
「何っ!?」
一号の宣言に、ゴロツキと、高順含む野次馬連中は辺りを見回す。
すると、ドカカッ、ドカカッ・・・と、どこからか馬蹄が土を蹴立てる音が聞こえてきた。
「・・・この音って・・・まさか?」
戦の時に聞くこの聞きなれた音。虹黒の・・・と、高順が思ったその瞬間。
蝶の仮面を被った女性が巨大な黒馬を見事に操り、野次馬連中を飛び越してゴロツキの目の前に着地。
それと同時に気弾が地面を打ち、抉られた地面が土煙を濛々と上げる。
「うべ、げほっ」
「ごほっごほっ・・・」
暫くして土煙が晴れた時には、屋根の上にいたはずの華蝶達が新たに現れた2人の華蝶仮面同様に地面に立っていた。
その2人は、先ほど高順と共にいた彼女達・・・!

「天知る! 地知る! 人ぞ知る!」
「悪の蓮華の咲く所!」
「正義の華蝶の姿あり!」
「烏丸華蝶!」←全く隠す気が無いどころかノリノリな蹋頓。
「え、ええと・・・え、閻鬼華蝶!?」←隠したいけどモロバレな楽進。
「か弱き華を守るため・・・華蝶仮面、5人揃って!」
「呉連者!」
どどーん! という効果音が聞こえてきたかどうかはともかく、この後に華蝶仮面一号が何故か高順を指差した。
「名前の腹案として、義乳特選隊もありますぞ!」
「いやそれは色々危ないから辞めておこうか!?」
具体的には名前とか名前とか名前とかが危ない。

この後の展開は一方的なもので、ゴロツキ連中はあっさりと駆逐されていった。
最初から、華蝶仮面は仲間4人のお披露目のようなつもりで戦っていたのである。
ただし、ゴロツキを叩きのめしてからが色々と手間取った。
野次馬が多すぎて、警備隊+(放置されていた)黄蓋の到着が遅れたのである。
ようやくたどり着いた頃にはゴロツキたちは華蝶仮面達に縛り上げられている状況。
これを見た黄蓋は「ええ、またしても! 高順、おぬしも手伝わんか!」と挑みかかろうとした。
「いやあの・・・あの馬とか人を見て誰かを思い出しません?」
卑弥呼とかは知らないだろうから聞いたところで意味がなさそうなので、一番解りやすい虹黒を指し示す。
流石にこれなら気付くだろうと思ったからだ。
「馬? ・・・大きいな。」
しかし、黄蓋はものの見事に気がつかなかった。
「え、そんだけ? じゃあ、馬に乗ってる人は!?」
「・・・。胸が大きいな。」
「・・・・・・・・・どういう事なの。」


丁原様。オー人事したいです・・・。


華蝶達は「争うつもりはない」とばかりにさっと退散したのだが、「あやつら、何者じゃ・・・!」と呟く黄蓋を見て、高順はちょっと本気で転職を考えるのであった。






~~~楽屋裏~~~
通報しないでくださいあいつです(挨拶

どこに通報かって、それは某龍玉・・・ゲフンゲフン

さて、前回に引き続き凄まじくお馬鹿な話です。
とーとんさんはともかく、楽進が引き込まれたのは・・・まあ、弱みを握られたのでしょう。ドレスとか。





~~~番外編~~~
それは、とある日にあったとある出来事。

「馬鹿もんっ!」
「は?」
廊下を歩いていた高順は、不意に響いてきた黄蓋の怒声に足を止めた。
「・・・? 黄蓋殿が誰かと言い争いでもしているのかな?」
気になった彼は、声の聞こえてきた方へそろそろと歩いていった。

「ったく、この石頭は。何度同じ事を言わせれば気が済むのだ!?」
「・・・申し訳ありません」
そこにいたのは黄蓋と周喩である。
「良いか周喩。人生の伴侶とはこれ即ち酒と戦ぞ。智ばかりひけらかす者に、人は着いていかぬ!」
「はぁ。」
あの周喩が、黄蓋に叱られている。珍しい光景だよなぁ、と高順は見守っていた。
まぁ、雲行きが怪しい感じではあるけれど、とりあえず見守ろう。
「しかし」
「しかしではないわ、この石頭が!」
「いえ、その・・・」
「か~~~! お前は昔からそうじゃ。良いからワシに酒を飲ませい!」
「ですから、それは」
・・・やっぱり雲行きが怪しい。
どうも、黄蓋が無茶振りをして周喩を困らせている、という感じだ。
このままじゃ不味いよなあ、と高順はお節介を承知で「ちょっと待った」と割り込んでいった。

「どうなさいました、お二方」
「あ・・・高順。」
「む、ちょうど良いところに現れた。この分からず屋の石頭に、主らからもバシッと言ってやれ!」
「何をバシッと? って痛いちょっと引っ張らないで痛たたたたっ!!!」
ここで、高順は自分の嫌いな匂い・・・アルコール臭だが、それを黄蓋の体から嗅ぎ取った。
もしかして酔っ払ってる? という疑問を持つ高順の事など気にせず、黄蓋は「さあ言ってやれ!」と何故か偉そうな態度。
「いや、言ってやれと言われましても。話の中身も知らないのに何をどう言えば良いやら。」
「どうしてじゃ?」
「は? ですから、話の内容を知らないって」
「何故じゃ?」
「何故って・・・ですから」
「むっ・・・まさか、主までワシをいぢめよーとしておるのか!?」
「何故そうなりますか!?」
もしかして、どころか完全に酔っ払いである。
周喩も、まったく・・・てな感じで溜息をつくばかり。

何とかして話を収めないと・・・でも、酔っ払いだしなぁ・・・と悩みつつも、高順は覚悟をして話を続ける事にした。
「とりあえず、何であんなに怒鳴っていたんですか? そのあたりの事情を教えて欲しいのですけど。」
「ふ、ふぅむ・・・それは確かに。」
「というわけで、理由をかいつまんで、わかりやすく三行で。」
「三行!? も、もちっと負からんか!?」
「無理。さぁ覚悟を決めてー。」
「ま、待て待て・・・ええとだな、うむ!」
『ワシが酒を飲んでいた。』
『周喩に見つかった。』
『叱られた。』(三行)
「・・・つまり、全てにおいて黄蓋殿が悪いんじゃないでしょうか?」
「なぬっ!? ち、違う! これはその・・・そうじゃ!」
もう、完全に駄目駄目な黄蓋であるが、高順はその駄目駄目な言い訳を最後まで聞くつもりである。
「やはり三行では無理じゃ! というわけで・・・その。」
この状況で、周喩はやはり溜息をつく。
普段から仕事が忙しいのに、余計なことまで背負い込んでいる辺り、案外に人が良いと言うか。
「ええとじゃなぁ。台所に酒があったのじゃ。で、これが中々に良い器に入っていて、香りを嗅いだだけで良い酒じゃ、ということが解った。
「ほう。」
「気になるじゃろう、どこの誰がこのような良い酒を台所に放置しておるのか、と。盗まれでもしたら勿体無い」
「まぁ・・・そうですね。」
なんとなーく、先の展開が読めた。
「そこでワシが酒を保護してやろうと思って・・・」
「胃の中に収めてしまったと」
「ぬ!? なぜ解った!」
「いや、何となくそうだろうなぁ、と。良い酒を目にしたら味見したくなって全部飲んだとかそんなオチでしょう?」
「・・・むぅ。」
反論が来ないという事はそのとおりと言うことだ。本当に解りやすい人である。
「ですが、さっきあんなに怒っていたんだから相当きつく叱られたのでしょう? ただ良い酒だった、じゃ説明つかないと思いますけどね」
「ぎくっ」
黄蓋がヤバイ、という感じで黙り込んだ。
「周喩殿がそこまで怒るっていうのは・・・うーむ」
「ふぅ、高順よ、よくそこまで読んだな。お前の察したとおり、黄蓋殿は一番大事な部分を話しておられない」
「ぎくぎくっ」
「・・・はぁ。では、何か他の要因があったんですね?」
「ああ。」
「ぎくぎくぎくっ」
高順は、逃げ腰になる黄蓋の腕をがっちり掴む。逃げちゃ駄目ですよ? と笑顔を繕いつつ。
「で?」
「うむ。黄蓋殿曰く「良い酒」であるが・・・」
帝への献上品だったのだよ。と周喩はあっさりと言った。
「・・・周喩殿の勝ち。」
黄蓋の腕を掴んでいる高順は、空いている手で周喩の腕を掴み「うぃなー!」とばかりに高く掲げさせた。
周喩は困り顔のまま、逆らうことなく腕を挙げる。
「洛陽で拾い、そして袁術から奪還した玉璽を帝へお返しする時に共に献上する品だったのだが・・・黄蓋殿は全て飲み干してしまってな・・・」
「うん、味方しようにも味方できる理由が1つも見当たらないね? つうわけで、黄蓋殿は甘んじてお叱りを受けるべきだと思います、はい。」
「なんじゃと!? 高順だけはワシの味方をしてくれると思っていたのに! この孕ませ屋!」
「なんつーことを言いますか!?」
「大体、主らのような若造にワシの事が解ってたまるか!」
ここで、温厚なはずの高順がちょっぴりイラついた。
丁原様も酒にだらしなかったが、ここまで酷くは・・・酷かったか。いやそうじゃない。
「・・・はぁ。黄蓋殿、ちょっとそこに正座。」
「酒と戦は人生の・・・は?」
「せ・い・ざ!」
何か気に入らなかったのだろう、高順が妙にどすの利いた感じで指を地面に指し示す。
周喩も驚き顔だし、直接そんな事を言われた黄蓋も「え、ぇ~と・・・」と混乱している。
「正座!」
「う、うむ・・・?」
無理やり黄蓋を正座させた高順。
ここからは、高順のSEKKYOUターンであった。

「いーですか貴方華陀にあれだけ酒控えるように言われたでしょうそれなのに帝への献上品駄目にして人様に文句つけるとか舐めてんですか舐めてるんですよね飲みすぎて人に当たるとか最低ですよ解ってるんですか!?」
「お、おぅ・・・」
口読点など無いぐらいの勢いというか息継ぎすらしていない高順の畳みかけに、黄蓋は酔っ払い特有の言いがかり&反論も出来ない。
「酒は百薬の長ですが飲みすぎは良くないって散々言われたでしょうそれなのに飲みすぎるとか馬鹿なんですか死にたいんですかそんなんじゃ本当に子供ができた時に後悔するかもしれないんですよ!」
「そ、そういうものなのか?」
「母親の体が悪ければお腹の子に影響あるのは当たり前でしょう今は良くても後々絶対に響きます今は笑い話で済んでますが笑い話ですまない状況になったらどうするんですか貴方の身に何かあったときどれだけの人が悲しむか解ってるんですか」
「む・・・お主も悲しむというのか?」
「当たり前ですあの子達にまたお話しするって約束したでしょうが! ぷはっ、ぜー・・・はー。げほっ」
息切れして、激しく息継ぎをする高順と、それを黙って見ている黄蓋と周喩。
「の、飲むなとは言いませんが・・・げほっ。飲みすぎは・・・ぜはー。」
「・・・う、うむ。解った。すまなんだな、周喩」
「えっ・・・あ、はぁ。」
黄蓋があっさり謝り、周喩はそれに素で驚いた。
「飲むのは止めれぬが・・・少し量減らすかのぉ?」と呟きながら、黄蓋は立ち上がり去っていった。

「・・・高順。お前って凄いな」
「はい?」
「あの黄蓋殿があそこまで簡単に引き下がるとは・・・いやはや。」
周喩は本当に感心しているらしい。
帝に献上するお酒はまた調達しなければならないが、それはどうとでもなる。
「しかし、子供を産むとかどういうことだ? お前、まさかあの人にまで手を出したのか?」
「ぶっ! 出してないですよ!? あれは・・・」
*事情説明中・・・終了。
「ふ、成程な。あの方が子供たちにそこまで好かれているとは。」
だから「前に警邏を一人でするのは嫌だ」と、ごねておられたのだな・・・と周喩は納得したように頷いた。
「まあ良いさ。こんな結果になるとは思っていなかったが・・・済まなかったな、高順。」
「構いませんよ。で、周喩殿は?」
「む?」
「黄蓋殿にあー言っておいて、自分は働きすぎなんじゃないでしょうね? もしそうだったら遠慮なく正座していただくことになりますが。」
「・・・いや、そんな事は。ははは。」
高順のジト目視線を受けつつ、周喩は乾いた笑みを浮かべる。図星だったらしい。
「はぁ。無理だけはしないでください。黄蓋殿同様、貴方に何かあっても悲しむ人は多いですからね。」
「ああ。そうするよ。」
言われなくても解っている事だが、真正面から言われるとけっこう恥ずかしい言葉である。
黄蓋を叱った興奮がまだ収まっていないだけなのだろうが・・・。しかし、2人の仲がこうも良いとは。
政略でなくても本当にくっつくやもしれんな。もっとも、それはそれで目出度い事だ。と周喩は心中で笑う。
高順が何かをせずとも勝手に外堀が埋まっていく・・・というのもおかしいが、流れはそちらへと向かっていくようだ。
「ふむ。まあ、何かあったら甘えさせてもらうさ。じゃあな。」
「ええ。それでは」
そのまま別れようとしたところで、周喩は少し考えた。そろそろ、高順にも大きな仕事を任せてみてはどうだろうか。
武官は実際の働きで納得させたようだが、文官は一部、高順への厚遇を妬ましく思っているものも多い。
借金帳消しだの、それだけではまだ納得できていないようだし・・・前も孫策に言ったが、あれをやらせてみようか。
「・・・いや、少し待て。」
「へ?」
周喩は、既に歩き始めていた高順を呼び止める。
「今言われたからではないが、お前にある仕事を頼みたい。」
「はぁ。その仕事とは?」
「丹陽郡は知っているよな?」
「丹陽ですか? ここ(寿春)より東ですねえ。それが何か・・・?」
「今、そこには陸遜が派遣されている。あれの仕事を手伝ってやって欲しい。」
「陸遜殿の仕事? 何をしているんです。」
高順の疑問の言葉に、周喩はもっともらしく頷いた。
「山越の鎮圧だ。」
「・・・はい?」



~~~楽屋裏~~~
あと1話で終わらせるといった以上、本気で終わらせました(何

終わらせるためにまたしてもSEKKYOU(笑)ですよ。
まぁ、あれだけ言われても懲りない黄蓋さんも悪いんだとかそんな温い感じで許してください(土下座

追記で書くようなネタじゃないですが、呂布が中原ではなく・・・
えーと、確かモンゴル系ですから北方異民族ですが、そこでとーとんや丘力居のような立場であったらどうだったのかなぁ、とかいう妄想が(何
丘力居どころじゃない、ダイナミックな攻撃を仕掛けてきたかなぁ、とか思ってます。
まぁ、あまり気にせずに・・・









[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第83話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/09/05 06:57
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第83話


丹陽郡。

街の外に陣があり、その陣には孫旗と、そして「陸」と書かれた旗がある。
それが示すのは、山越討伐の為に派遣された主将が陸遜という事である。
周喩の命により追加で派遣されてきた高順は、4千の兵と共に着陣。陸遜のいる陣幕へと向かった。
「お邪魔しますよ」
「あ~。お待ちしてましたよぅ~」
陣幕の中にいたのは数人の兵と、床机に座った陸遜がいるのみであった。
その陸遜は待っていたとばかりに立ち上がり、高順を出迎える。
「孫策殿と周喩殿の命令で来ました。これが書簡です」
高順は、懐から書簡を取り出して陸遜に手渡す。この書簡には、高順を派遣する事と、孫策の命令やら何やらが書かれている。
「あらあら~。」と言いつつ、陸遜はその書簡に目を通した。
書簡によれば高順を山越討伐に参加させ、先に派遣されていた自分や賀斉が検分役も務めるように、と書いてあった。
そろそろ高順に箔をつけてやりたい、という事は周喩から何度か聞かされていたし、陸遜からしても高順が文官に全く評価されないのが不思議でしょうがなかった。
高順が凄まじい怒りを見せたあの宴席にも陸遜は同席していて、やっぱりしっくりしてないですねえ、と嘆息した事はある。
外様は外様かもしれないが・・・高順は、孫策や孫権が自ら乞うて招いたという人だ。皆、というか高順自身その事実を忘れているのかもしれない。
あらかた読み終えた陸遜は「なるほどなるほど~」と言って高順へと視線を戻した。
「それじゃ、簡単に経緯を説明しますね~。あ、座ってくださいね」
「あ、どうも。それじゃ、お願いします。」
高順が立ちっぱなしであったことに気付いて、席を勧めてから陸遜は事情の説明を始めた。

「ええとですねぇ、事の発端は・・・ずっと遡って行くと袁術さんの統治下の頃の話になってしまうのですよ~」
「はぁ。」
陸遜は独特の間延びした話しかたで説明をする。
ここだけ、というわけではないのだが、この地には山越と言う異民族が居住する土地柄であった。
江南の地に跋扈する彼らは自分達を抑圧した漢王朝に逆らっている。
袁術は孫策が自分の配下であったときに、その山越討伐を命じているが戦力が上手く集まらなかった事もあって結果は芳しくなかった。
その上に袁術の政治に不満を持った人々が合流したりして、威勢を増していたのだから手のうちようがない。
異民族というよりは不服住民と言うほうが正しいのかもしれない。
袁術の政治に不満がある、ということは豪族ではなく搾取される側の一般市民だ。
その数は数万とも十数万とも言われ、正確な数は把握できていない。
丹陽だけではなく会稽(かいけい)郡や交州にも多いと言うし、武凌という場所では武凌蛮という蛮族がいる。
高順の仲間である沙摩柯が武凌蛮の出で、その王の一族に連なるようだがこれは仲間の誰も知らない話だ。
話を戻すが、ここ丹陽に根を張る山越の長の名は尤突(ゆうとつ)と言った。
「その尤突さん、此処のところ大人しかったのですけどぉ。最近になってまた暴れ始めて~。」
「袁術のときは大人しかったけど、孫策殿の代になって暴れだした?」
「そうですねぇ。そうなります~。」
高順は「んー・・・」と少し考えた。
「袁術の支配に抵抗してたんですよね? 孫策殿に代わったのを知らないのでしょうかね」
「知ってると思いますよぉ。」
「そりゃ、あれだけ反袁術を声高に宣言して攻め入ってるんですからねぇ・・・そうなると。」
「知っていて反抗をすると言うのは治世に期待していないか、孫策様に恨みがあるのか。それとも誰かに焚き付けられたか」
「可能性としては2番目か3番目っぽいですかね。1番目の線は・・・どうなのかな。」
「あ、あと向こうの兵数自体は少ないですよぅ? こちらは1万と、高順さんの率いてきた4千。山越は2万いるかいないか」
「今は街の外に陣を張っていますが、街の守備隊を合わせれば・・・ふむ、勝ち目は無いですねぇ。こっちは耐えてるだけで良いのですから」
「それにぃ、2万と言うのは総合計じゃないかな~という結論も出てまして。攻めて来たのはどう見ても5千程度なんですよぉ。捕虜の方々に聞いても教えてもらえませんでしたけどぉ。」
「5千? て事は残りの1万5千は・・・?」
「後続として使うのか、どこかへの奇襲に使うのか。その辺りは読めないのですよね~。」
「それでも攻めてくるというのは、恨みでしょうかねぇ。或いは攻めないといけない理由でもあるのか。」
「ほえ?」
「いえね、俺の部下に潘臨(はんりん)っていうのがいましてね。その人、山越出身なんですが・・・今回の騒動でどう思う?って聞いたら、もしかして食料じゃないか? って」
「食料・・・ああ、なるほどぉ。」
いつもはホンワカしている陸遜だが、全て言う前に気づく辺りやはり頭が良いなぁ、と高順は感心する。
このぽわぽわの喋り方はもう少しどうして欲しいけれど・・・。
「山越がどこに定住しているかは知りませんが、住んでいた場所だって瘦せた土地だったはずです。」
「そこに袁術さんの課した重税に耐え切れずに行き場所を失った人々が行き着いて、養わないといけない人が急に増えた。そのせいで武力行使して食料を強奪せざるを得なくなった、ですねぇ?」
「こちらの見立てではそうなります。袁術にではなく、それ以上に手ごわい孫策殿にも敵対する・・・追い詰められている、って事ですか」
「ふむぅ・・・となると、捕虜に情報を聞き出してぇ・・・」
「捕虜がいるなら話は早いですね。相手の本拠地を割り出せるかな?」
「そこで割り出せたとして・・・高順さんはどうなさるんですかぁ?」
この時ばかりは、陸遜の目が鋭くなる。相手の真意を探り出すかのような、そんな目だ。
ある程度好きにさせてやるように、と書簡に書かれていたが、いきなり虐殺をするようであれば止めなくてはいけないだろう。
彼の性格を考えれば無い、と思いたいところだが何らかの拍子でタガが外れる事だってある。あの宴席のように・・・。
「どうって。降伏してくださいね、と交渉をしたいですけど。」
「交渉ですか~?」
「ええ。その為に準備だってしてきましたからねぇ。」


陸遜は高順と、その部下の一人である潘臨を伴って捕虜を纏めてある多数の陣幕へと向かった。
自分達の話は中々聞かないが、同じ山越出身の潘臨なら、と思ったし、もしかしたら潘臨の知り合いがいるかも知れない。
そう思って1つ目の陣幕を覗いた所・・・
「いた。」
『えっ』
・・・あっさり見つかったのである。
その知り合いの名は黄乱という。

「よう、黄乱。久々だなー。」
「・・・お前、潘臨? 潘臨なのか?」
陸遜の計らいで、黄乱は戒めを一時的に解かれている。
この黄乱、女性なのだが半裸で、しかも顔や体にペイントが施してある。
異民族だから、というよりは呪い(まじない)師のような、そんな風情だ。
その黄乱は久々に出会った友人を信じられないものを見るような目で見ていた。
「・・・山越の元首領の1人たるお前が、官軍とは。最低限の誇りも失ったか?」
「耳に痛い言葉だなオイ。でも、官軍になった覚えは無いね。」
「何?」
「ある人の・・・なんつーの、私設軍? その古参なだけさぁ。仕えたのも金に釣られてだけどなぁ。」
「ほぅ・・・」
ならばまだマシか、と黄乱は頷く。
「して? 何故にお前が孫家の軍勢に身を置く。」
「さっき言った人が孫家に仕えてるからだよ。けっこーいい人だぜ? そうだなぁ・・・お馬鹿がそのまんま鎧着てるような感じ?」
「よく解らん例えだ・・・」
ま、会えば解るさぁ。と潘臨はケタケタと笑う。
「して? なぜ虜囚となった私と話しをする?」
「そだなぁ。さっき言った人・・・うちらの大将なんだが、お前んとこの大将と話がしたいんだとさ。」
「話すことなど無ければ、居場所を教える謂われも無い」
黄乱はあっさりと拒否した。そらそうだわなぁ、と潘臨も思う。
「ま、攻めてきたらとっ捕まえる、でもいいんだけどな。お前ら、飯を得る手段がなくなってるんだろ? なんだよそのガリガリの体。」
「むっ・・・」
潘臨の指摘の通り、黄乱はかなり瘦せていた。
黄乱だけではない。山越の男も女も体格は良いはずだが、他の捕虜も潘臨が見たところではかなり瘦せて飢えている。
「思った通りかよ。住んでた土地を袁術に奪われて、瘦せた土地で頑張ってたけどそれも限界になったとかそんなだろう。」
「・・・ふん」
図星だったようで、黄乱は不愉快そうに鼻を鳴らす。潘臨も同じ事情を背負った事はあるのでここらには理解があった。
「流民とかも受け入れたから食料が足りなくなった・・・解りやすいな。そんなに苦しいなら意地を張るのやめたらいいじゃんよ。」
「黙れ。誰が漢王朝に頭を下げるか」
「・・・お前さぁ、何も知らないんだな。孫策は漢王朝の臣かもしれねーけど、その漢王朝が衰退してんだぞ?」
いつまでも従うわけねーだろ? と潘臨は身を乗り出す。
「大将の受け売りだけどな、孫策は江南の地で独立して、漢王朝・・・今は曹操ってのが牛耳ってるらしーが、それに対抗するんだとさ、これがどういう意味か解るか?」
「意味?」
「おうさ。山越に限らず、江南は・・・中原、つまり漢王朝から略奪され続けた。富を、食料を、人を。何もかもだ。孫策はその江南を纏め上げて曹操に挑むんだとさ。」
「そして、天下へ向かうというのか。漢王朝を滅ぼすと。」
「さて? それまでに漢王朝が滅んでるかもなぁ。けど、搾り取っていただけの袁術なんぞよりよっぽど期待できると思うぜ? 意地を張るなとは言わねーよ。でも、話を聞くくらいはいいんじゃねぇの?」
「・・・。」
黄乱は迷った。
潘臨の言う事全てを信じる訳ではないが、自分たちが限界に来ていることは確かだ。
尤突も、勝ち目が殆ど無いことは解っていながらも行動に出たのだから。
2万を号していても、実質戦力は6千ほど。残りは全て戦う能力の無い人々ばかりだ。
身重の女もいれば、病で動けない老人もいる。腹を空かせた子供たちも多い。
孫策を信用できず、受け入れてくれる場所も無い。ならば奪うしかないのだが、それをやれば結局は民に跳ね返って、自分たちが受け入れてきた流民を生み出す原因となることもまた理解していた。
どちらにせよジリ貧・・・それを解っていながら、そうする以外の道が見えなかったのである。
孫策が自分達を迫害し、搾取をしないとは限らないが・・・。悩んだ末、黄乱は高順と陸遜に話を着けることにした。

その結果、尤突率いる山越の民衆が集結している場所の割り出しに成功。
尤突の統率する軍勢が攻めてきた場合の守りは陸遜が担当、お互いがぶつかっている状況で集結地を叩く役は高順隊と賀斉の隊が担当である。
本来の目的は「孫家に従ったほうがお徳ですよマヂで」と山越を説き伏せるもので、武力行使は最後の手段だ。
交渉と言うのは、人を騙しても嘘をつかないこと、だと思うのだが高順自身それが苦手な事は知っている。それでもやらなくては、と心に決めているが検分役の・・・賀斉という青年だが、彼に少し不安なものを感じてしまう。
「なぁ、賀斉殿」
「何でしょうか!」
集結地に向かう間、高順は賀斉と幾ばくか話をしていた。
賀斉は高順を武将として認めている側の人で、むしろ多くの戦役を潜り抜けてきた高順に尊敬の念を持っているようだ。
だからかどうか知らないが、話をするだけでえらく力が篭っているように見える。
「高順様、山越には気をつけてください!」
「ん、なんで? 俺の部下にも山越出身者がいるけど。」
「部下の方々は大丈夫だと思いますが、中にはおかしな呪いを使う奴がいるそうです!」
「呪い・・・って?」
「刃物が効かなくなるらしいのです! あと、矢とかも!」
これに、高順は「へぇ?」と興味を見せた。
本当かどうかは知らないが、こういった迷信に近いものを信じる風習は何処にでもある。とくに、こういう時代ではソレが顕著だ。
「てことで、はい、これをどうぞ!」
そういって賀斉が渡してきた物。それは木で作られた棍棒だった。
「・・・。なにこれ?」
「棍棒でっす!」
「いや、それは見た目から理解したけど・・・なんで棍棒?」
「刃物じゃなければ大丈夫らしいです! なので木で出来た棍棒などのほうがよいと思ったのです!」
この髑髏龍の鎧に、木で出来た棍棒。袁術攻略戦の自分の格好が、錆びかけた斧と鎧であった。
怖い絵面だ・・・と、高順は心なしか肩を落とした。
「そ、そっか。一応、受け取っておくよ。ところで」
「はい!」
「賀斉殿は既に山越と交戦したんだよな。その時も棍棒だったの?」
「剣でした!」
「・・・そうか。」
本当に大丈夫なのかなぁ・・・と不安になる主君を見ている高順隊の人々、がやれやれ、と苦笑していた。



~~~楽屋裏~~~
短い場合は大抵番外編があるんだあいつです(挨拶
もう出番が無いと思っていた方、残念。賀斉さん出てきました。
これ以降先ず出番はありませんけど(ぁぁ


~~~番外編。もし高順が北に行けばどうなった? その3~~~

袁紹が高順の宿営地より数十里北に陣取って数日。
高順隊が北に動き出したのを察知して、袁紹も動き出していた。
一度二度、間者の探りがあったようだが、袁紹は気にもしていない。
見られて困るようなものがあるわけでもなし、知られて困るようなものがあるわけでもなし。
気配は察しても「こちらに対して害意が無いなら好きにすれば良いですわ」と袁紹はいっそ剛毅であった。
ただ、彼女には一つの懸念がある。それは自分が反董卓同盟の盟主であった事実だ。
ちょっぴり自分でも調べてみたのだが、高順という男はどうにも主君運に恵まれていない節がある。
才覚・実力はありそうなのにどうにも使えた相手が悪いと言うか、運がないと言うか。ほとんどの場合、負け側に組してしまっているのだ。
尤も、反董卓連合の時は自分たちが負け組へと押し込んだ形であるが・・・それならば、会いたいと希望しても会ってくれないのではないだろうか? と思うのだ。
何らかの手を打つべきかも知れないが、さりとて急に妙案が浮かんでくるわけでもない。
どうしたものか・・・と馬上の袁紹は、部隊の先頭を進みながらじっと考え続けていた。


そこから南にいる高順も「どうしたものか」と悩んでいた。
楊醜(ようしゅう)らを派遣して袁紹が出張っている事は解ったし、武装はしていても数が少ない(1千程度)のでさして脅威でもない。
どちらかと言えば、それだけの数で向かってくるほうが不気味だ。
もしかして、こちらと接触を持とうとしているのか? とも思うが確証が無いまま接触をするわけにもいかない。
相手は袁紹。反董卓連合の事、公孫賛の事。
接触しても得るものは無さそうだし、そもそも自分達に敵対して董卓を滅ぼしにかかってきた相手なのだから。
趙雲達にも意見を求めたが「まあ、話に聞けば聞くほど頭の悪そうな人だし」と、あまり接触したくないという高順の意見に同調した。
それならば、駆け抜けるべし。
高順達は速度を上げて北へと向かった。
ところが、袁紹は高順隊の通るであろうルートを絞り込んであっさりと先回り。北平は南皮の北東にあるので最短コースの北東に行くであろう事は目に見えていたから簡単なものである。

高順達の目の前に、袁紹とその軍勢一千が立ちはだかる。
「あれぇ?」と高順らは首を捻った。
話に聞いている袁紹はトロイとか、そういう否定的なイメージばかりの存在。
全力で北に駆け抜ければ追いつけないだろうと踏んでいたのに、あっさりと先回りしてきたのである。
目の前に見える軍勢を見据えて、さぁ、どうするか。と高順は少し悩んだ。一戦交えるか、それとも。
(公孫賛殿の事を考えれば、ここで袁紹を攻撃して殺すほうが良い。けど、その俺たちを公孫賛殿が迎えたら・・・)
不味い、当主がいないとは言え袁と公孫の血みどろの戦いになる。下手をすれば、公孫賛が自分達を斬るか、受け入れを拒否して「私には関係ないぞ」という態度を取る事だって考えられる。
それこそ、行き場所が更に北の烏丸か、西の馬超・・・西涼しかなくなる。
趙雲ら、高順一党もそれは察していて「うーむ」と唸っている者も少なくない。
どうするべきかな、と再度迷っていると、袁紹軍から一騎、白旗を振った後にこちらへ進んでくる者がいた。
一騎、しかも交戦の意思は無いとして近づいてくるものを攻撃する訳にも行かず、高順はじっと待つ。
その騎兵は高順と会話が出来る程度の位置で馬を止め、口上を述べた。
「貴君、高順殿と見受けるが?」
「だとしたらどうする?」
「我が主、袁紹が貴君と話をしたいと申しています。応じていただきたい・・・っと、失礼。私は審配。まずはこちらから名乗るべきでしたな。」
「審配、ね。・・・ふん」
死して袁家の鬼となる、の人か。
正史でも演義でも袁家への忠誠心があって、かつ自己主張の激しい人だった・・・だっけか。と高順は審配の記述をぼんやりと思い返していた。
この人も女性だが・・・うん、もう慣れたと思いたい。
「・・・高順殿?」
「うぉぇっ!? な、何ですかね!?」
「いえ・・・して、返答や如何に?」
「・・・ちょっとだけ、仲間と相談させてもらいたいのですが。」
「左様ですか、どうぞ」

(相談タイム)
「なぁ、皆どうする?」
「私は無視したほうが良いと思います。」
「うちも趙雲はんと同意見や。袁紹言うたらうちらの敵やんか。」
「ですが、ただ話をしたいだけなら良いのでは?」
「甘いなぁ、蹋頓はん。どうせ臣従せぇとかそんな話やで? 臣従して何の利益があるっちゅーねん?」
「そこは聞いてみないと解らないぞ、李典。」
「いや、そら楽進の言う通りなんやけど・・・沙摩柯はんはどう思います?」
「相手に交戦の意思は無いのだろう。話は聞くだけならタダだ。」
「むー、反対意見が少ないなァ・・・」
「どちらにせよ、決断をするのは高順殿ですが。如何なされる?」
趙雲に促される高順だが、彼も彼で悩んでいる。
もし戦闘になっても負けはしないと思うが、こちらだって被害は免れない。遭遇せずに終われば良かったのだが、あっさり先回りされてしまってもいる。
こうなったら、適当にかつ穏便に話を終わらせて公孫賛の元へ急げば良いか・・・と思う。
はー・・・と失礼ではあるが、盛大に溜息をついた高順は「一応、話だけはするさ・・・」と諦めたように呟いた。

「解りました。「一応」話だけは聞きます。」
「おお、感謝いたしまする。・・・では、宴席を設けますので皆様もこちらに。」
審配が案内をしようとするが、高順は「いえ、こちらに何人か残させていただきます」とそれを拒否した。
「根っから疑う訳ではありませんが、疑う余地はありますので。護衛は何人か連れて行きますがそれだけです。」
「・・・む、そちらの意見はご尤も。」
高順の言葉に、審配な納得したように何度も頷いて見せた。

袁紹側の建てた宴席用の陣幕。
そこへ向かう高順が連れて行くのは、楽進と沙摩柯の2人だけで残りは待機である。
楽進は素手のほうが強いし、沙摩柯だって武器が無くても強い。流石に護身用の剣くらいは持っているが、それだけだ。
趙雲を残しているのは、自分に何かあっても彼女に託せば大丈夫だろうという事だ。
彼女と、あと蹋頓の気性なら本当に何かあった場合ここにいる袁紹軍全員血祭りにしそうだが・・・。
審配に勧められるまま陣幕へと入っていく高順達だが、その中には兵士はいない。
豪華な食事の用意が整っており、給士と楽師・楽団。それと踊り子数名が控えているだけだ。パッと見では解りにくかったがこの陣幕、かなりの大きさである。
楽進は警戒をしているが、殺気の類は感じられない。対照的に沙摩柯は平然としている。
食事の中に毒が仕掛けられている可能性は否定できないが、殺すつもりなら最初からそれらしき行動に出ているだろう。わざわざ回りくどい事をする必要もない。
それよりも、ここに袁紹らしき人がいないことのほうに問題がある。
「さあ、一献どうぞ。」
「いや、結構。」
何故いないのかは解らないが、審配に促された高順は席に着いて、しかし酒は飲まない。
「む・・・毒などは入っておりませんぞ?」
「そうではなくて・・・下戸なんですよ。」
「ふむ」
それならば、と審配はお茶を勧め、これは高順も受けて飲み干した。楽進も沙摩柯も給仕に注いでもらった酒を飲み干す。
今度は返礼として高順が審配の杯に酒を入れていき、審配は「これはどうも」と笑って酒を口にした。
「ところで・・・袁紹殿はどちらに?」
高順は審配に問いただす。
呼んでおきながら本人が不在とはどういうことだ、という気持ちも篭っていたのか多少強い言い方になる。
「はて、おかしいですな。少し支度に時間がかかって居るのでしょう」
「支度・・・?」
「まあ、そう固くならず。踊りでもご覧になってお待ちくだされ。」
審配のその声を合図に楽団が楽器を鳴らして、それに合わせて踊り子たちが舞い始めた。
高順は踊りとか楽器とか、そういった事に素養がないので音楽は良くわからないが、踊り子の踊りが優雅なのは何とか理解できた。
宮廷舞踊と言うものかもしれないな、くらいに留めておき高順は茶を飲む。
しかし、待てども待てども袁紹は来ない。
「・・・。来ませんね」
「はぁ・・・もしかしたら警戒をしているのかもしれませんね。」
「?」
「高順殿は、董卓陣営に身を置かれていたとか。ならば、我が主は貴方にとって仇敵となる。」
呼んだのは良いが、もしかしたらそこを気にしているのかもしれませんね、と審配は行った。
「随分と勝手な事を。呼びつけておいて警戒? 話なら何でも聞いてやると言っただろう。」
流石に頭に来たのか、高順は怒気を発し始めた。
だが、怒気を充てられた審配は慌てることなく「今の言葉に相違ござらぬか?」と問い返してくる。
「相違も何も、きっちり話を聞いてやると約束してここに来たんだ。今更聞く聞かないがあるものか!」
「・・・だ、そうでございます、殿。」
高順の言葉を聞いた審配は、今まで踊っていた踊り子に向かって「殿」と言った。
殿、と呼ばれた女性が「重畳ですわね」と一歩前に出て、踊り続けていたせいで掻いた汗を手の甲で拭った。
「は・・・?」
「高順さん。貴方が本当に敵意無く話を聞いてくださるかどうかを試させていただきましたわ。」
茶番につき合せましたわね、と袁紹は呟く。これには楽進も沙摩柯も目を丸くしていた。
まさか一国の主君が踊り子に扮してまで・・・。
袁紹は、踊り子の衣装のままだが「さて」と高順の目の前に座りなおした。
「改めて自己紹介を。私は反董卓同盟の元盟主にして袁家総領。袁紹、字を本初と申しますわ。」
宜しくお見知りおきを、と彼女はとっておきの笑みを浮かべるのであった。



~~~楽屋裏~~~
高順が(以下略)3話でございます。
こんな回りくどい事しなくても高順は話しくらいなら聞いてくれそうですが(笑




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第84話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/09/11 08:01
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第84話


高順と賀斉が発った数日後、丹陽山越の首領である尤突(ゆうとつ)は街の外に陣を張る陸遜隊を襲撃した。
街へ攻め入って食料を強奪、というのも大事だが虜囚を助け出すのも目的である。
ただし、相手は陸遜。しかも防御態勢を敷いており、数も8千ほど。
普段はぽえぽえしている陸遜だが、指揮能力は高く襲撃をされても慌てずに「じゃあ~、引き込んで火矢を放ってくださいね~」と指示。
陸遜の敷いた陣を抜く事が出来る訳も無く、尤突側はじりじりと戦力を消耗していく。
また抜けんか・・・と尤突は見切りよく撤退するものの、それを待っていたとばかりに、陸遜は追撃に出た。
今まではただ待つだけであったが、今度ばかりは違う。相手の根拠地を知っているし、今頃は高順と賀斉が山越の根拠地を征しているか、或いは指呼の間に入れて今から征するか。
どちらにせよ、補足はしているだろう。
尤突も根拠地まで退いていくだろうから挟み撃ちに出来て都合が良い。
「さぁ、張り切って追いかけますよ~~。あ、若干の守備兵力は残していきますからねぇ」と、陸遜隊は意気高く前進を始めた。
・・・これでも張り切っているのだから良くわからない。

その頃の高順達。
彼らは既に山越の非戦闘員集結地のすぐ側まで来ている。
夜陰に紛れて進んでいたので少し到着は遅れたが、向こうもこちらに気付いていない。
馬の口にもハミを嚙ませており、鳴き声などで察知される事は無いと思われる。
「影」を向かわせてみたところ、見張りは当然だが少数の戦闘要員はいるらしい。
だが、その数は数百以下で大して武装もしていないようだ。本当に見張り程度の戦力なのだろう。
「さて、如何いたす、高順殿?」
「如何って言ってもなぁ・・・一応、包囲はしているけど」
趙雲の問いに高順は要領悪く答える。
「何です、既に策は考えて居るのでしょう」
「策ねぇ・・・さっきも言ったけど口説き落とすだけだよ」
「我々のように?」
「うん、そ・・・って違うー! 危なかった! あと少しで認めてしまうところだった!!」
「ははは、勢いに乗せてやれば引っかかる。もう少し用心なさいませ」
あっはっは、と笑う趙雲に、むすーっ・・・とした高順。
既にお馴染みの光景であり、この遣り取りも兵たちの緊張を和らげる効果があったりする。
高順の言う包囲というのは楽進や李典が少数の兵を率いて全方位を囲んでいるという事だ。
ここにいる山越の非戦闘員は1万を越えるが、ほとんどが女子供で戦うことはできないだろうし、何より空腹で交戦意思そのものが無いと思われる。
策も考えていないわけではない。
まず、全方位を固めた後に火を使って逃げ場を遮る。
火の中へ飛び込むことはしないだろうから、逃げようとした場所を塞いで降伏勧告を行えば何とかなるだろう・・・ということだ。
部隊を分けたのはちょっとした賭けだが、ここで逃げられては保護も出来なくなる。
「・・・よし、そろそろ部隊の展開も終えただろう。行きますか」
「応」
高順と趙雲、そして彼らの率いる部隊が動き始めた。
その結果、高順隊は山越の非戦闘員を追い詰め、降伏せしめている。

功を焦った賀斉が武力行使しかかったが、控えに回されていた沙摩柯に棍棒で殴られて昏倒。ある意味で平和裏におさまった。
一部逃げおおせた者もいたが、それはすぐに回収できるだろうと高順は追撃を行わなかった。
少しすれば戦闘部隊を率いる尤突と、追撃をしてきた陸遜がここに来るはず。陸遜が戦闘部隊を壊滅なり降伏させているなら話は別だが、陸遜はアレではあるが慎重な性格をしており、無用な人死には出さないだろう。
それより、非戦闘員の人々に食事を振舞わないtp。と高順は部下に炊き出しの用意を命じた。
大人達は、食料を子供に多く振り分けていたらしいのだが、その子供達ですら飢えている。
早くしなくては、と動き始めてすぐに、山越の戦闘部隊、つまり尤突隊が帰ってきてしまった。
陸遜との戦いを速めに切り上げてしまったので、高順らの計算が少し狂ってしまったのだ。
交戦しなければいけないか、と思い戦闘に参加できる兵を集めようとする高順だが、尤突は非戦闘員が包囲され、そして自分も後背に陸遜隊を抱えた状況では勝ち目は無い・・・とやむなく降伏した。
白旗を掲げて降伏意思を見せた尤突隊を見て、無駄な人死にを出さずに済んだな、と高順は胸を撫で下ろした。


一応、害意がないことは説明して食料にも毒が入ってないことを説明して・・・まあ、自分達も一緒に食べれば良いだけでそこに苦労はない。
山越の民も相当に腹を空かせていて、久々にまともな食料を得られたことを安心して喜んでいる。
女子供の数が多ければ、老人もいる。病で体調の思わしくないものも、これまでの戦で傷を負って残っていた者。
それら全員が飢えていたのである。
空きっ腹に大量に食わせるのは危ないので、まず最初に振舞ったのは雑炊。
味噌と卵、肉や野菜などで味付けをしてあるから食べやすく、かつ栄養もそこそこある。
この時代で野菜やら肉やらが入っているのは贅沢なのだが、それを賄えるだけの食糧は運んできたし、むしろまだまだ余裕がある。
高順は、兵の士気を沮喪させないように・・・と、こういうところに金をつぎ込んでいるが、今回はソレが大いに役に立ったというところだろう。
また、楽進や蹋頓に頼んで負傷者の治療をして貰っている。
こうして、無理やりに山越を大人しくさせた高順達だが、尤突の説得という仕事が残っている。
陸遜と合流した高順は、尤突が押し込められている陣幕へと向かった。

「何だ、食べていないのか。」
陣幕の中には、細身であるがよく鍛えられた体躯の青年が腕を組み、胡坐をかき、目を閉じて座っていた。
この青年が尤突である。
食べていない、というのは彼に対して出された食事で、どうも手をつけていないらしい。
「無理せずに食べなよ、体に悪いよ?」
「ふん」
施しは受けない、というつもりかな? と高順は苦笑した。
さて、帰順を勧めなくては。こういう事は陸遜のほうが慣れているだろう。
「では陸遜s「じゃあ、高順さん。説得はお願いしますね~」え? 俺?」
「はい~。説得の主導は高順さんのほうが良いと思いまして~。」
「・・・。何故に。」
どうしよう、押し付けられた。こういう事は自信が無いって言うのに、と高順は嘆息した。
「えーと・・・尤突殿。降伏してもらったのは良いのだけど、色々と条件・・・制約かな。そういうものがあるんだ。」
「負けた以上、何をされても文句は言えん。首謀者である俺らは斬首。残りは奴隷として酷使・・・というところか。」
「はい?」
俺たちは良いが・・・と尤突が言いかけたところで、高順は待ったをかけた。
「いやちょっと待て、色々と誤解があるよ!?」
「誤解? 我々から搾取するのだろう。袁術のように、中原・・・漢王朝のように。」
「いや、だから待て。こっちの話を聞いてくれ。」
「むぅ?」
「まず、制約と言うのはだな。戦える、つまり頑健な人は兵士に。そうでない人は農作業に従事してもらう。」
そんな所だろう、と尤突は納得した。だが、高順の提示する制約というのは、どちらかと言えば制約では無かった。
「もしかしたら、各地に分配・・・家族単位くらいにはして貰えるだろうけど、そこらは覚悟してもらう。で、だ。農作業に従事してもらう人々にはこちらから農具を賃貸する。」
「ほぅ。」
「土地は余ってるからな。人が多ければ多いほど良い。それと、住む所。最初はこういう陣幕を張って暮らしてもらう事になる。家屋を建てるのは、どれだけの人数がいるか確認をして、街を広げてから、という事になるだろうから。」
高順の提示する内容を、尤突も陸遜も黙って聞いている。この辺りの処置は尋常で特に口を挟む事ではない。
「それから、1年は税金を取らせないし、食料・衣服の支給もする。取ろうにも作物が実らなければ意味は無いからね。兵士になった人々にはちゃんと給金も出す。不慣れはあるだろうけど、生活に支障が無い様にはするよ。」
「ふぇっ!?」
「何・・・?」
陸遜、尤突が順に驚きの声を挙げるが高順は気にすることなく話を続けていく。
「それでも生活がままならないと言うなら、俺を・・・あ、言い忘れてた。俺の名は高順。で、俺に伝えてくれ。出来るだけの支援はさせてもらう。作物が取れるようになった場合の税率も街の人々と同じだ。」
本当は支援する資金は孫家が出すべきなのだが、まだそこまでの余裕はないだろう。
それならば人を増やすな、と言うかもしれないが、長期的に見れば生産力も増えて収益も得られる。
「待て、高順とやら。我々の当面の生活資金をお前が出すというのか? 我らは総数で2万ほどなのだぞ。」
「ええ、俺が出しますし、2万人くらいなら何とか。」
この言葉に尤突は頭を振る。
「2万もの人を養えるだと・・・? 解らんな。それをしてお前の得る物があるのか。我々が再度孫策に逆らうかもしれんのだぞ?」
「そうさせないのは孫策殿の役目で、俺が口出しすることじゃないかと・・・で、俺が得る物は無いかもしれませんが、そんなもんどうでも良いですし。」
こういう時にこそ、商売とは言え民から得た金を民に還元すればいい。
彼らもお金に余裕が出来れば自分の店から何か買ってくれるかもしれないし、そうやって得た金をまたどこかで使用する。
ただ貯め込むだけでは勿体無い。だから使うのだ、と高順は考えている。
「益々解らん・・・。何故、我々異民族にそこまで出来るのだ!?」
声を荒げる尤突に、高順は「いや、同じ人間ですから」とあっさりと答えた。
「なっ・・・」 
二の句を失う尤突に、高順はどうしたものか、と思いつつ説明をする。
「んー。尤突殿は北平という場所を知ってます?」
「北平・・・。知らんな」
「そっか。長城の少し南に位置する都市でしてね。烏丸族との抗争の場になったりする事が多かった場所の1つなんですよ。」
「・・・。その北平がどうした」
「そこで、俺の友人・・・いや、失礼かもしれないから知り合いにしておきますけど、太守をしてましてね。その人の施政の1つとして異民族、つまり烏丸との融和と言うのがありました」
「何?」
「その都市では、少なくとも表向きは両者共に仲良くしていましたよ。全員が全員烏丸に対しての信頼をしていたかどうかは解りませんけどね。」
当然、どこかでは侮蔑をしている者だっていただろう。
「それでも、お互いが寄り合って暮らしていたんですよ、その都市では。結婚をして家庭を築いているものも少なくなかった。あそこは、俺の理想を体現している場所でした」
「異民族と漢民族が融和だと・・・馬鹿な。」
「ところが実際の話です。それに、恥ずかしながら・・・俺のこい・・・いやいや、家族に烏丸の女性がいましてね。人並み以上の事をしてあげたい女性なんですよ。」
高順は恥ずかしそうに、なはは・・・と誤魔化し笑いをした。
「俺の部下、仲間、家族。言い方は何でも構わないけど、異民族が多い。烏丸・南蛮・山越・西羌・・・。そういった人々同士で結婚をする者もいれば、今言った北平の人々同様に漢民族と結婚をする者もいます。」
「お前の部下もだと・・・」
「俺は、自分のやっている事も、さっきの北平の事も、特別な事だと思っていない。貴方がたへの処遇についても同じです。」
「・・・・・・では、孫策が我々を迫害したらどうするというのだ。」
「ありえないとは思いますがね。もしもそうなったら・・・その手に噛み付くのみ。陸遜殿も、孫策殿に今の発言を報告しても良いですからね」
どこか不敵な笑みを浮かべる高順に、陸遜も尤突もまたも言葉を失った。
陸遜から見れば、これは孫策に対しての謀反を匂わす様なギリギリの発言に思える。
ただし、高順本人は「そんな事はありえない」と言っているし、孫策がそんな失策をするとは思えないから、言う通りにありえない事だろう。
尤突は尤突で、高順を信じられない何かを見るような目で見つめていたが、暫くして「解った・・・」と項垂れた。
「本当に、山越の者を迫害しないと言うのだな?」
「孫策殿であれば問題ないでしょう。ただし、機会は今回一度だけ。もし、また同じような事をすれば、不本意だが皆殺しも止むなしになってくる。それと、この件は喧伝させてもらいますよ?」
そうすれば、山越の人々も帰順しやすくなるかもしれないからねぇ、と高順は言い聞かせるような口ぶりで言うのだった。

こんな感じで、山越を説得、帰順させる事に成功(?)した高順隊は陸遜・賀斉と共に寿春へ帰還。
降伏した山越の数は約2万。それを引き連れての帰還であるから凱旋と言える。
報せを受けた孫策と周喩は、その内容に唖然としていた。要約すると「双方に大した被害出さずに終わらせましたよー」なのだから。
孫策は陸遜、賀斉、高順が帰還してすぐに登城させて労う事にした。

「いやー、良くやってくれたわ。」
開口一番、孫策はそう言って3人を褒めた。
「皆もそう思うでしょー?」と、孫策は周りに同意を求め、求められた側も「うんうん」と頷いている。
文武百官とまでは言わないが、多くの将が集まっており、彼らは陸遜や賀斉を誉めそやした。
「よし。陸遜、賀斉、高順には褒美を与えるわ。良い品だからねー・・・驚きなさいっ」と、孫策が自信満々に取り出したモノ。
「じゃーん! 蜀錦よー!」
3枚の大きな錦織物であった。
蜀で作成されるから蜀錦という名だが、この蜀錦、当時の最高級絹である。
これを所持する事は一種のステータスとも、言い方が悪ければ金持ちの自慢や道楽とも言えた。
賊討伐で蜀錦とは随分ご大層な、と思うものも少なからずいたが、2万からなる山越を大した被害無く降伏させ、労せずに孫家の民として組み込んだことは価値ある事なのである。
それだけの品、しかも主君自ずからの褒美とあって、陸遜も賀斉も喜んでいたし、諸将も「いいなー!」とか羨ましがっていた。
ただ、やはり一部の人間は高順に対して「あんな降将に蜀錦とは勿体無い・・・」と、意地悪く思い、あるいは見つめる者もいる。
その悪意を感じて、周喩は深々と溜息をついた。2万もの山越を降伏させた意味と意義を理解していないのか。
それほどの被害も無く数千の屈強な兵を得られたこともだし、1万からなる労働・生産力も大きいのだ。
例えば、孫家で最高の文官と言えば張昭と張紘は、高順を嫌っていないが山越にはどうしても(表立ったものではないにせよ)差別意識が出てきてしまう。
名士や儒者と言うものは少なからずそういう面を持つものは多い。が、それでも陸遜や高順の働きが際立っていると、全うな評価をしている。
周喩にも、こちらの予想した以上の成果を挙げてくれた・・・という意識がある。
報告を聞いたときは「これだけの勲功なのだ。流石にこれで認めぬ者はいまい。例え表面的にでも反感は抑えられるだろう」と思ったものだ。それが、今までと変わらぬ態度を取るものが多い。
(山越対策で成果を挙げても評価をされないとは。どうすればこの確執を収めることが出来るのだろう・・・?)という溜息であった。
高順もこの悪意に気付いていて「その褒美は俺には必要ありません」とやんわりと固辞している。
この言葉と態度を、張布(チョウフ)と濮陽興(ボクヨウコウ)という文官が糾弾。
「殿からの褒美を固辞するとは!」
「然り! 孫策様の顔に泥を塗るような真似、見過ごせぬ!」
そういう彼らこそが、悪意ある視線を高順に向けていたのだから、わざととしか言いようが無い。
だが、高順は糾弾された瞬間に「その代わり、認めていただきたいことがございます」と言って、張布らの言を封殺した。完全に無視する腹積もりである。
孫策も、つまらぬ文官を相手にするつもりが無かったので「いいわよ、言ってみて」と応じている。
「報告にも書いてあったと思いますが、降伏してくれた山越の首領、及び民への処遇はあれで宜しいですね?」
「ええ。問題ないわ。むしろ良くやってくれたと思うけど・・・相当な出費よね、大丈夫なの?」
「大丈夫だから金を出しているんですよ。彼らに対して不当な扱いをしないように頼みます」
「解ってるってば。私は異民族を異民族だからと言う理由で差別したりはしない。でもって、そういう差別をする奴らが高順にとっての敵なわけよね?」
「ええ、その通りです。敵を殺すことに問題は無いでしょう?」
じゃあ、そこの馬鹿文官共が一番危ない訳だ・・・と孫策は心の中で付け加えつつ張布達を見た。
自分の是は「江南を纏め上げて平原に挑む」というものだが、山越も纏め上げる対象であり彼の思想とは上手く一致しているのだ。
もしもその是を曲げるような事をすれば、高順は自分へと挑むか、それとも下野して自身の勢力を作るか。どちらにしても孫家にとって悪い方向で動き始めるのが目に見えている。
孫策のみならず他の主要な人々もだが、優しくはあっても一度でも敵と見なした存在を許すほど甘くない、という高順の性格も把握している。
その高順が敵に回ったとしたら、勝てなくは無い・・・だろう。その代わりにこちらも多数の将兵を失うことも覚悟しなくてはいけない。
危険な存在ではあるが、まともに扱えば離脱することも敵対することも無いし、他者からの利で釣られるような事もない。扱いやすいことは事実なのだ。
なのに、それを全く理解していないお馬鹿のせいで、離脱する危険性と言うのが常に付きまとう、という困った状況になり始めている。
呂壱がどうなったのかもう忘れたのか。と、孫策は無視をされて怒りに顔を真っ赤にしている張布達を見据えるのであった。

高順はこの後も何かにつけて山越対策に回される羽目に陥る。
動員されるたびに自分から山越の居住区まで足を運び、山越首領と直接話を付けに行く、という自分の命を顧みない愚直な説得を行い続けて行く。
最初こそ懐疑的であった山越も、きっちりと国の民として認められ、自分達で稼げるようになるまでは衣食住の全てにおいて支援があるという条件を提示されれば叛意も揺らぐ。
そして、自分達より先に降った同胞の暮らしを見せられ、1つ、また1つと帰順していく事になる。
中には従わない者もいて、高順も心ならずも攻撃する事もあったが、打ち破られて逃げていく山越を追う事はせず、常に見逃し続けている。
そうやって逃げた人々が交州より更に南に逃げたり、或いは東の大地に向かって船で逃げていったり。
余談であるが、東の大地に流れた山越の人々がたどり着いた場所は、後に「越前、越中、越後」と呼ばれ、後に伝わっていく事になる。
だが、それはまた別のお話・・・。


~~~楽屋裏~~~
疲れましたあいつです(挨拶
儒者は異民族を人間扱いしなさそうなので、まずヌッ殺されそうです。誰かに。

さてさて、残暑厳しい事この上ないですね。秋抜かして冬になるのかもしれない(ぇ
時折頭の沸いた人が発生しそうな暑さですが(例:あいつ)、夏バテなさらぬように。
それではまた。



~~~番外編~~~

山越懐柔を終えて帰還した高順達。
結局、高順は「陸遜殿達にあげてくださいな」と蜀錦を受け取らずに退出していった。
最後の最後にちょろっと出て行って説得しただけなのに、褒美を受け取るなどできない。
趙雲や楽進らは「何故あんな扱いを受けなくてはならないのか」と怒っていたが、高順はそれを苦笑して宥めている。
孫家内での出世にはあまり興味は無いのだが、こうもこちらを理解してくれない人が多い状況では「何を言っても解ってくれないだろう」と思ってしまうのも仕方が無い。
そのせいか、高順はこれ以降・・・孫家の宮殿、つまり政治的な場所に背中を向け、距離を置き始め意見を言う事すら少なくなってしまう。
名指しで指名された時か、よほどの事でもない限りは発言を控える。そんなスタンスになってしまうのである。
孫策や周喩は、こうした高順の態度にもどかしさを感じて「もう少し自分から発言をしなさい」と何度も言うのだが、高順は「何を言おうと無駄ですし」と否定的であった。
それはともかく、高順は自邸に帰ってゆっくりと休む事にした。

さて、その時。
高順の居館の2階では、袁紹・・・いや、麗羽だが、彼女が街並みを見下ろしつつ、その風景を絵として描いていた。
この日、彼女はたまたま休日でやることが無かった。
いつもは仕事が忙しいし、それさえ考えていれば充実した毎日と言えなくも無いのだが、その忙しさから開放されると途端にやることがなくなってしまう。
高順は、麗羽や顔良など、旧袁紹家の人々の働きを評価して相当額の給料を渡している。
だが、麗羽にはそれを使う暇が無いし、かといって使おうにも何に使えば良いのかが解らない。
さぁ、どうしようか、と思ったところ、前に華陀から「絵が上手いな」と言われたことを思い出し、本当かしら? と自腹で絵やら筆やら墨やらを買い込んで、暇つぶしに描き始めたのである。
彼女は集中して描いており、だからだろうか。皆が帰って来たことにも、すぐ側に高順がいることにも気がついていなかった。

高順一党だが、居館にたどり着くなり殆どの者が「寝るー・・・」とすぐ自室に引き取っていた。
高順だけはお腹がすいたなー、と思ってもう一度街に出ようかなぁ・・・と悩んだ。
でも、1人で行っても面白くないよなぁ。と思ったところで、入り口の靴箱に麗羽の靴があったことを思い出した。
「そういえば麗羽さんが館にいるみたいだし・・・誘ってみるかな?」
楽進が聞けば「自分は中々誘ってもらえないのに!?」と叫んだかもしれないが、デートのようなものである。
高順は居館の中を探したが中々見つからない。
2階だろうか? と上がって見たら・・・いた。。
声をかけようとする高順だったが麗羽は何かを絵に書き込んでおり、こちらに気付かない。
その熱心さを見て、邪魔をしては悪いと思いつつも興味が勝る。
どんな絵を描いているのかな、と近寄って麗羽の背中かららそっと絵を覗き見る。
それを見て、高順は思わず「ほぉ・・・」と感嘆した。
さらさらと描いた下絵のようなものなのだが、街並みを見下ろした光景の細かいところまで書き込んである。
子供たちが走り回る姿、店先で買い物をしている客、道端で談笑している女性たち。
麗羽の記憶力が良いのか、それともそういう情景を思いつつ描いたのか、そこまでは解らないがたいしたものだ、と絵心の無い高順ですら感心する出来栄えだ。
「これでちゃんと色を塗れば更に良い絵になるよ。上手だなぁ・・・」と呟いたのも全くの無意識だったが、それがいけなかった。
本気で高順に気付いていなかった麗羽は、すぐ真後ろから高順が自分を覗き込むような態勢でいることを初めて理解。
「っ! きゃああああああっっ!?(ズパァァンッ!!」
心底驚いた麗羽は思わず全力掌底を高順の顔に叩き込み、それを諸に食らった高順は「ちんすこうっ!?」と叫びつつ、手すりを乗り越えて・・・そのまま真っ逆さまに居館の屋根を転げ落ち、地面に激突したのであった。

死~~~ん・・・

「え・・・あら? こ、高順さん!?」
慌てて手すりから身を乗り出して、落下した高順の姿を探す麗羽。
しかし、既に高順は頭付近から出血、地面を真っ赤に染めており、道行く人々が「だ、大丈夫ですか!?」とか駆け寄ってきている。
「た、大変だ、息をしてないぞ!?」
「そういえば、この近くに腕の良いお医者様が・・・」
「そこに連れて行くぞ、急げー!」
どたどたどたどた・・・と、騒がしくも心優しき住人達に運ばれていく高順と、それを呆然と見守っている麗羽。

数時間後、高順の部屋。
「あのぅ・・・大丈夫ですか?」
「・・・まぁ、死なない程度には。」
頭に包帯を巻いて寝台に寝転んでいる高順と、申し訳なさそうにしている麗羽。
麗羽は「怪我をさせたのは自分だから」と、高順の介護を行うつもりらしく、ずっと高順の部屋に入り浸っている。
怪我が完治するまでは世話をさせて頂きますわ! と本人が言って聞かないので、仕方なく長めの休暇を与える事になった。
高順負傷の報告を聞いた孫策は「いい機会だから少し休んだら?」とこれまた休暇を認めている。

高所から落ちるのは3度目だが、何で死なないかなぁ? と思いつつ、頭を下げつづける麗羽に苦笑してしまう高順であった。



~~~楽屋裏~~~
露骨なエロフラグですが、自分で立てたフラグを自分で折るのが私ですあいつです(どんな挨拶なんだ
と~とんね~さんならぬ、れいはコールが500くらい来たら本気出す。(ぉ


久々のちょっぴり人物紹介。
本日の御題・・・孫権。

注意:あいつの主観やら先入観やらが入りまくったアレな感じの紹介になります。

孫権、字を厨坊・・・じゃない、仲謀。
三国時代のうちの一国、呉の初代皇帝。

長所・・・
  ○政治的な意味での調整能力は高く、豪族の寄り合いであった呉を上手く纏めていた。
  ○謀略も得意で、劉備死後に起こった南蛮の叛乱(雍闓・朱褒・高定)を裏で操っていたのではないだろうか。
短所・・・
  ○若い頃は明晰であったが、歳を取ってから確実にボケた。また、存外に猜疑心が強く、部下に大軍を預けるということが出来ない人である。
  ○国家を打ちたてた功臣の一人である周喩への扱いも悪かったりして人の好き嫌いの激しい面もあったと思われる。
  ○守勢の人、と思われがちであるが、孫策以上の野心を持っていたと思う。それと、対外的に攻めることは多い。
  ○出ると負け。を体現している。部下にやらせるとけっこう上手く行くのに・・・。
  ○似た人に郭図という人がいる。
  ○酒乱をどうにかしてください。
  ○あと、自分から虎狩に出て行くのもやめてください。張昭お爺ちゃんがこっち睨んでます。
  ○張昭お爺ちゃんと2人して命を張ったドツキ漫才をしないでください。両方とも大人気ないです。
  ○不老不死とか、神仙とかの話をしてたら虞翻さんに嘲笑されました。お返しに交州に左遷します。 
  ○割と人の言う事聞かずに失敗する事も多い(公孫淵の件など)
    

・・・など、解りやすい事柄だけを挙げても欠点が多すぎる。
戦争能力では劉備にすら負けそうだが、知力・政治能力では上。
ただ、どうにもパッとしない点はあるし、魅力でも負け・・・。
自分が出撃するとほとんど負ける。勝利した戦いを見つけるほうが困難というのは孔明に近いものがある。
逆に前半生は人を見る目があったのだが、後半生はテンで駄目という典型的な老害。
この人の不幸は長生きをしすぎたせいだと思いますが、何よりも不幸だったのが、彼の兄である孫策の評価・・・
「軍を率いて戦い、領土を得ることではお前は俺に及ばない。ただ、才能ある人々を用いて国を盛り立てる事では俺はお前に及ばない。上手くやれよ」の言葉がそのまま当てはまった事だろう。
要するに「お前じゃ天下は取れんよ」と言われたんですが、これが呉そのものの行く末を示したような。


・・・これ、人物紹介と言うより欠点を挙げただけのような(汗

次はあるのかっ(あっても劉備とか孔明になりそう




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第85話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/09/18 14:07
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第85話

高順が山越討伐より帰還してから少しして、俄かに「曹操が南下してくる」という噂が出始めた。
寿春は曹操領・劉表領と接している形であり、いつ攻められるか解らない。周喩が他を差し置いて城の修繕や軍備を急がせていたのは正解だったという訳だ。
だが、南下の噂があるだけで孫策を狙っているのか、それとも劉表を狙っているのか、そこまでは話題に上らない。
実際、これはただの噂に過ぎず、曹操は「いずれは」と思いながらもまだ時期が早いとして、動く事はなかった。
孫策ならば受けて立つ、と言いそうだが、この南下の噂に「参ったなぁ」と思う者がいた。
劉表を頼り、曹操領へ接する新野の守りを任されている劉備である。

劉表政権下の劉備の立ち位置は微妙だ。
高齢である劉表は、自分の後を長男の劉琦ではなく、聡明と言われる次男の劉琮に継がせたいと思っている。
それを相談された劉備は「それは駄目です! 長幼の順に逆らったら、何が起こるか解りませんよ!?」と反対。
長男である劉琦こそを跡継ぎにするべきだという意見だったのである。
これに次男劉琮派であり、その劉琮の叔父に当たる蔡瑁という男が反感を抱いた。
この男の姉が劉表の妻であり、その姉が劉琮を産んでいる。劉琦とは違い、荊州で生まれ在地勢力との繋がりが深い劉琮を・・・というのも、解らない話ではない。
ただ、それ以上に自分が更なる権力を握りたいという野望が見え隠れしており、全うな気持ちで劉琮を推していた訳でもなかったのだ。
ここで劉表もどちらに後を継がせるか迷ってしまい、荊州は劉琦・劉琮派に別れてしまっていた。
ともかく、劉備は「いつ攻められるか解らないから軍備の増強を」と劉表に依頼する手紙を出したのだが、それは蔡瑁によって握り潰されている。
蔡瑁は曹操と通じて劉備を消し、荊州に平和を取り戻すという思考をしており、その為には劉備に活躍などして欲しくなかった。
それに、反復常ならない劉備に援軍を出せば、その援軍を接収してこちらに牙をむきかねない。
何せ、劉備自体は雑魚であっても配下の関羽・張飛の勇名は鳴り響いている。
他にも華雄や張済、陳到といった有能な武官、諸葛亮、龐統といった文官も揃えており、量はともかく質では荊州軍に負けていない。
だからこそ、恐れていたとも取れるのだが・・・。
ともかく、何度手紙を送っても返事が来ない。それならば、と使者を出してみたが、城に入ることすら出来ずに追い返される始末。
だからこそ劉備は「参ったなぁ」と思うのであった。
劉表は頼りにならない。そうなると、周りを見渡して頼れそうな存在と言えば・・・
孫策くらいしかいなかったのである。


~~~新野の政庁~~~
「ねえ、朱里(諸葛亮の真名)ちゃん。」
「はい、何でふか? ・・・はぅぅ、また噛みました」
劉備に呼ばれた諸葛亮は真っ赤になって俯いた。
あはは。と笑う劉備だが、すぐに真面目な表情になる。
「ねぇ、このまま曹操さんに攻められた場合、どうなるのかな」
「うーん。まず負けますね。兵の質、量。装備も何もかもが敵いません。」
「それに、後方からの支援が得られんのでは話にならんぞ。」
話に、華雄が割り込んできて関羽もさもありなん、と頷いた。
「そうですな。華雄の言う通り。我らだけで当たっても間違いなく負けましょう。」
「だよね。・・・うぅん、それならどうすれば良いのかな?」
「ふむ。ここは孫策殿を頼っては如何です? 雛里(龐統の真名)、お前はどう思う?」
関羽に促されて、龐統はこほん、と咳払いをしてから「それくらいしかないと思います」と賛同した。
「劉表さんの保護下にあるような状況で他勢力と交渉をするべきではないと思いますけど・・・発覚すれば蔡瑁さんもここぞとばかりに諌言するでしょうね」
「でも、、こんなに援軍を送ってー! って言ってるのに何もしない劉表に言われたくないのだ!!」
「それがあるんです。それに、そこが蔡瑁さんの思惑でしょうね。多分、こちらからの支援願いは蔡瑁さんが握りつぶしてて、劉表さんには届いてないんだと思います。」
「何っ!? それでは」
「はい。仮にこちらが何を言っても蔡瑁さんは知らぬ存ぜぬで押し通すでしょう。」
「むぅ・・・」
「ですから、こちらに戦力が残っているうちに何とか手を打たないと」
「手を打つ・・・って?」
意味が解らない、とばかりに張飛が首を傾げる。
「私たちの兵力は3万ほど。これだけで曹操さんは防げません。そして、頼ったとして・・・孫策さんの兵力は正規兵だけで10万ほどになります。攻撃して勝利を得ることは出来なくても、守って勝利を得ることは可能です」
「で、そこに私達が加われば。」
華雄の言に、龐統はこくり、と首肯した。
「更に、勝率も上がるかと思います。この場合は」
「進退の計を為す、だよね?」
「それだけじゃないですけど・・・。私たちは直接戦闘には参加しません。勝てそうなら追撃する。負けそうになったら孫策さんの軍勢を盾にして撤退。ただ、問題はありますけれど」
劉備の言葉に龐統は首肯。簡単に言えば、美味しいところだけ持っていくよ! という事である。
弱小勢力である自分たちがこれをやったところで恥にはならない。むしろ、これくらいなりふり構わずに行かなければ生き残れないのだ。
自分達の置かれた現実を見れば、どうしてもこういう手に頼らざるを得ない。
「よーし。それじゃ、蔡瑁さんに気づかれないようにこっそり急ごう!」
「しかしな、劉備。」
「ふえ? 何ですか、華雄さん?」
「一勢力の長と、一勢力の傘下でしかない我等がどうやって同盟を結ぶのだ? この場合は臣従になると思うのだが・・・」
「・・・あ。」
そう、同盟と言うのは対等かそれに近い立場でなければ成立しない。
こちらが同盟を結びたいと言っても、向こうからは鼻で笑われて門前払いにあうだろう。
龐統の言う問題というのは、その辺を突いていた。
「ど、どうしよう・・・?」
「さぁ?」 

まだまだ前途多難な劉備軍。


この頃の高順は、と言うと。

「と、いうわけです。お願いしますね」
「はっ!」

今度は、会稽郡の山越説得を行っていたのであった。

「やれやれ、今回も簡単に終わってくれてよかった。」
会稽城へと向かっていく山越の群を見送りつつ、高順は胸を撫で下ろした。
彼らの当面の生活費は当然のように高順持ちである。
前の稼ぎなら当たり前のように破綻していただろうが、麗羽が店を任されてからと言うもの、売り上げが大変な事になっている。
強運ということもあるかもしれないが、麗羽という人は基本的に鼻が利く。
なんとなく、とは本人の弁だが、利益還元率が低かろうと高かろうと、売れる商品を徹底的に仕入れてくるのである。
大量に出回ると価値が下がる物品の場合は、他の店よりも仕入れ時点で高く買取、自分の店に優先的に流してもらうようにする。
そして、他の店よりも安めの値段設定、しかも「限定お値打ち品!」と宣伝をして客を呼び込む。
現代でも「限定」という言葉に弱い人は多いのだが、この時代でもそれは通用する手段であったらしい。
自分の店の品ばかり売れて他の店が潰れても困る、とある程度のところで見切りをつけて、「影」を使って他の商品を探しに・・・と、常に商品の相場変動に目を凝らしている。
また、店の規模を拡大していくと人手が足りなくなる・・・という事で山越や、職を失った人々を雇い入れて傭兵にしたりしている。
最早、武装商店みたいな感じである。
手習いであっても計算を教えたり、文字の読み書きを教えたり、と一種の教育機関的扱いも兼ねており、その講師は審配が引き受けていた。

高順は自分の部隊を引き連れて会稽に帰還、兵士を休ませてから寿春に向かおうと考えていた。
ところが、その寿春から孫策・周喩からの命令書を携えた使者がやって来る。
その命令書には「まだ寿春には帰還しなくて良い。それと、近頃支配下に置いた交阯(こうし)の太守に任ずる。何かあれば知らせるので、大過無く治める様に」と書いてあった。

交阯は士燮(ししょう)という人物が治めていたが、孫家の将である歩騭(ほしつ)が侵攻、降伏させている。
歩騭は頭も回るし指揮能力も高い、割と万能な部将である。交阯を得たついでに、とばかりに交阯に程近い蒼梧郡の呉巨という男を策略で嵌めて謀殺、同地を併合している。
さて、元々高齢であった士燮は程なく亡くなり、その後を継いだ息子、士祗(しし)が孫家を追い出そうと叛乱。
武力衝突となったが、歩騭はそれを瞬く間に鎮圧している。
それら一連の動きは、高順が山越を懐柔していた時期と重なっていた。
命令書をじっと見た後、高順は暫く何かを考えていたが「承った」と返事をして、次いで部下たちにもその旨を伝えた。
当然、趙雲達は・・・
「納得いかない!」と、高順に詰め寄ったのであるが、高順にはある程度孫策達の意図が理解できている。
「まあ、聞いて下さい。孫策殿と周喩殿はね。俺に気を使ったんですよ。」
「気を? どこをどうすればそんな・・・」
「だから聞いて下さいって。俺は、孫家を盟主とした政治状況に口を出す事はしないようにしています。それは良いですよね?」
「・・・はい、隊長の功績を評価しない連中に愛想を尽かした、と我々は見ていますが。」
「それはそうなんだけど・・・でね、周喩殿はこのまま俺が寿春、あるいは建業にいたら益々孤立するんじゃなかろうか、と考えたんじゃないかな?」
「考えて、なんで交阯太守やのん?」
「一番遠いからさ。一番影響が少ないけど、その分危険は大きくなる感じかな。」
「そして、高順さんとの約束を守れるから、と言うことですか?」
「一挙両得と言うか何と言うか・・・まぁ、蹋頓さんの言う通り。あそこにも山越勢力があるだろうから、それを帰順させて来いって事でもあると思うね。」
「ふぅむ。孫家の影響の少ない交阯で兵力・地力を蓄えろ、と言うことか。」
沙摩柯が納得したように呟き、高順も頷く。
「だが、これって左遷と言わないか?」
沙摩柯の言葉に、皆が黙り込んだ。
あの命令書だけでは、栄転なのか左遷なのかの判別はつかない。いや、誰もが左遷と思うのだろう。
交阯という場所は、いわば天下の南端。実際、史実の孫呉は左遷と言えば交州に流される、というのが暗黙の了解だった。
「・・・ふむ、孫策殿達の気が変わらないうちに向かったほうが良いかもしれませんね。・・・楊醜(ようしゅう)、眭固(すいこ)!」
高順に呼ばれた良い男2人は、音もなく高順のすぐ隣に姿を現した。
「呼んだかい?」
「ん。麗羽さん達に「交阯郡へ向かうので、準備をしてくれ」と伝言を。店の処遇については一任します。兵の家族と、残してきた兵士も同様に。人手が足りなければ、他の「影」を使っても構わない。」
「ああ・・・次の任地は交阯だな・・・」
何だか良くわからない事を言って、2人はすっと姿を消した。別な意味で不安のある彼らだが、仕事はきっちりと行う。
「さて、趙雲さん。」
「うむ、何かな」
「疲れていると思うのですが、明日すぐに将兵の半分を引き連れて先に交阯へ向かってください。」
「ふっ、高順殿が入るまでに受け入れの準備を怠りなく・・・ですかな?」
「そこまでは言いませんよ。多分、その辺の手配は歩騭殿がやってくれるでしょうから。俺は、帰順してくれた山越の人々の食料やら支給物品の処理をしないといけないので少し時間がかかるんですよ。」
「成程、名代として先駆けよということですな。承った。」
「お願いしますね。」

やれやれ、と高順は溜息をついた。
楽進と李典はまだ不満そうにしているし。ここから交阯に移動するとなると、かなりの距離になる。
彼女達を説得した高順すら、内心では首を捻っていた。
遠いから、一番孫家の影響が少ない場所だから、というのは解るのだが・・・何だって交阯に、と。
(はて、孫策殿も周喩殿も、一体どんな真意があるのやら・・・。)
ま、あの宮廷に近づかんでいいだけまだマシか。と少しだけ前向きに考える高順であった。

確かに周りから見れば左遷なのか流刑なのか栄転なのか良くわからない処遇だが、これは周喩もかなり苦々しい思いで決断した策であった。
経済・軍事にも理解のある高順を軽く見る一部の文官は腹立たしく思うし、もっと積極的に反撃するべきなのに大人しく背を向ける高順も叱責したくはなる。
ただ、周喩は高順が徐州時代に謀略で殺されかかった事を聞いている。
内部のゴタゴタを突かれて取り返しのつかない敗北を喫した、とも聞いていて、だからこそ政争に背を向けたのかもな・・・と同情したい気持ちもあった。
そこで、少し早いが自身の策の足がかりを作ってしまえ、と高順を交阯郡へ送ることにした。当然、孫策の許可も得ている。
策、というのは・・・簡単に言えば、西蜀攻略である。
周喩の「曹操を迎撃し、こちらが勝つ為」の構想では、江南を統べるのは孫策。その妹である孫権に西蜀を治めて貰おうという思惑がある。
軍事・戦闘力では孫策に劣る孫権だが、政治能力や調整能力では孫策を上回る。また、軍事力が劣ると言っても防衛戦闘では負けていない。
自身から攻める能力が足りないだけなのである。そういった孫権の才能を使わないのは勿体無い。
曹操が南下してくれば、一大決戦になるだろう。だが、勝つのは孫家だ。
寿春の陸上・防衛戦で曹軍戦力を疲弊させ、後退。そして長江に誘い込む。水上戦ではこちらに分があるのだ。
もしかしたら、寿春を放棄せずに勝てるかもしれないが。
それはともかく、曹操の南下を防げば時間的に猶予は出来る。曹操はただ一度の敗北からでも学び、同じ負け方はしないための戦いをしてくる。
その学びの時間は、孫家にとって大きな好機となる。
荊州を攻め取るのが先か後かはともかくも、交阯から南蛮を平らげて北上。孫権率いる西征軍は西蜀の頭である成都へと攻め入る。
簡単には落とせないだろうが、孫権軍団の主軸となるのは間違いなく高順隊となる。
そして西蜀を落とせばそこで孫権が治世を行い、高順には西蜀孫家の重臣となって貰う。
然る後に西涼との同盟を結ぶ旗頭に。その後、曹操に対して総攻撃・・・ということである。
互いの関係修復を図ろうにも、どうしても納得したがらない連中はいるし、高順も面倒な事に付き合うのはゴメンだ、と歩み寄りの姿勢を見せない。
高順が江南の政治に背を向けてしまう結果になったのは痛恨だったし、自分の考えが浅はかであった事も認めなくてはならないが・・・それならばもう1つの孫家の治世に尽くして欲しい。
荊州から攻め入りたいのは山々だが、劉表ががっちりと守りを固め、また北に曹操と言う大敵を抱えている状態で二面作戦は不可能だ。隙を見せればどちらかが攻め入ってくる。
苦肉ではあるが、それが周喩の思考であった。

趙雲らが出立して数週間。
諸手続きを終え、高順隊も寿春から交阯へ向かう。
兵達の雰囲気はどことなく追いやられていくような気がして、侘しい感じである。高順もその1人で、馬上で浮かない顔をしていた。
ちなみに、高順隊は1000人ほどの山越兵を新規で採用しており、その中には黄乱の姿もある。
また、後にお目付け役として黄蓋も派遣される手筈となっている。
この頃には高順も軍を2つに分けており、第一軍が自分、第二軍を趙雲が率いる形にしている。
一軍には沙摩柯・蹋頓・周倉。
二軍には楽進・李典。他の部将はその時々に応じて配置されるといった具合だ。
もしもの時は一軍には沙摩柯か蹋頓が一軍を率いて二軍と合流。最終的な指揮権は趙雲に渡ることとなる。

「はぁ」と何度目になるか解らない溜息を吐く高順。
その彼に、沙摩柯が馬を寄せてきた。
「浮かない顔だな。まだ気にしているのか?」
「あ・・・沙摩柯さん。そりゃあね、気にもしますよ。」
「張布と濮陽興か? 気にするな、あんな腐れ文官のことなどな。」
「く、腐れ・・・」
昔からだが、沙摩柯は高順に従っていても普段は同等の付き合い方をする。
高順からしても、そういった気を使わなくていい間柄の友人の1人として大切に思っている。
「腐れで充分だ。大体、ああやって暴言を吐く連中に限って大した働きが出来ん末成りさ。」
考えても見ろ、お前と同等の働きをあいつらが出来ると思うか? と、沙摩柯は高順に同意を求める。
「そりゃ、出来るとは思いませんけど。」
「だろう? 暴言を吐く連中と言うのはな、大抵自分が正しいと思い込んで自分の非を認めない腐れチン○だ。そんな連中に「同じだけの成果、同じだけの働き、同じだけの苦労をしてみろ」とやり返してみろ。殆どは何も出来ん。」
「そういうもんでしょうかねぇ・・・?」
「そういうものさ。そこを指摘すればな、適当に誤魔化し、話をすり替えて、逃げる。むしろ、お前が悪い! とワケのわからんことも言い出す。何処にだっているだろう? 人のやる事為す事にケチをつけて楽しんでいるような、アホそのものの連中が。」
「・・・あ、あほ・・・」
沙摩柯は本当にこういう事には遠慮がない。歯に衣着せぬというのか、普段は冷静な癖に熱くなると言葉の棘が鋭くなる。
「張布を見ろ、濮陽興を見ろ、呂壱を思い返してみろ。文句を言うしか出来ない奴らにまともな働きを期待できるとは思えんだろ。お前が正しいとも言わないが、文句を言って満足をしているような連中が正しい保証はない。」
「まぁ・・・周喩殿とかであれば、実績を見せてから文句を言うとかするんでしょうけどねぇ・・・うーん。」
「大体な、お前だって諦めが早すぎる。」
「へ? 俺?」
いきなり矛先を変えられて、高順は素っ頓狂な声を出してしまった。
「そうだ。相手にするのが馬鹿らしいというのは同意するがな。少しは言い返したって罰は当たらんぞ。」
「むー・・・」
「徐州、賈詡(かく)の事で、政治的な事に接するのが疲れる、というのは解るがな。少しぐらい底意地の悪い所を見せてやれ。」
「そ、底意地!?」
「ああ。陶謙、劉備。徐州で、奴らに底意地悪いやり方で相手をしてやっただろ?」
「・・・思い出したくないことを思い出させないでくださいよ・・・」
本気でげんなりとした高順を見て、沙摩柯は機嫌よく笑った。
「ははっ。そうそう、誰だって聖人君子じゃない。思い出したくないことくらいはあるものさ。ま、お前はもう少し胸を張って生きるべきだな。そら、背筋をシャンとしろっ」
高順の背を、黎骨朶の棘の無い方で「ぺしりっ」と叩いてから、沙摩柯は自分の隊列に戻っていった。
(・・・一応、励ましてくれたってことかなぁ?)
それにしてはこちらが責められたりして、妙な励まし方もあったもんだ、と高順は苦笑してしまった。

後に、沙摩柯は正式に自分の部隊を持つことになるが、周倉や蹋頓同様に副将格として高順を支え、傍で戦うことを選んでいる。
他の者にも言えるが、常に傍らで支え続けてくれる沙摩柯を、高順は友人・仲間として頼もしく思っており、その良好な関係は終生崩れる事はなかった。


かくして、高順隊は交阯へと向かう。
彼らが周喩の思うように動くか、動けないか・・・それは誰にも解らない。



~~~楽屋裏~~~
我が家に家族が一匹増えたよあいつです(挨拶
仔わんこハァハァ。

これ書いてる現在、仔わんこがあいつの足の指をむっさ「はむはむ」しております。
痛いです(は

残暑厳しいですが、少しずつ涼しくなってきましたねぇ。
このままどんどん涼しくなって欲しいですが・・・そうなるとまた風邪が流行り出すのでしょうなw





~~~番外編~~~

周喩はその日・・・ある場所、ある人物に頭を下げていた。

「周公瑾、顔を上げよ」
「はっ」
ある場所、というのは許都。ある人物、というのは皇帝である劉協。

周喩は孫策の代わりに、手土産を持参して許都へと赴いていた。


許都、と呼ばれる都市にある宮中。
そこには皇帝・劉協を始めとした漢王朝の重臣が大勢いるが、その中には当然のように曹操の姿があった。
その曹操は劉協のすぐ近くに侍り、それが彼女が劉協に重んじられている証左である。今の彼女は漢の丞相なのだ。
だが、そこにいるのは曹操だけではない。夏侯姉妹に荀彧といった、曹操軍の重鎮も同席しているのだ。
彼女達は周喩に対して警戒心を顕にしている。
それらの視線は無視して、周喩は「お目通りがかないました事、恐悦至極・・・」と、まずは尋常な挨拶を行った。
「うむ。して、周公瑾。今日は孫家の名代として参ったそうだが・・・?」
玉座に座る劉協が、畏まっている周喩に対して直々に声をかける。
その声には力強さがあり、なるほど暗愚と呼ばれた前皇帝とは違う明晰さのようなものも感じられた。
「はっ。我が主、孫策は江南に割拠しておりました乱賊悉くを平定、彼の地に再び漢王朝の威光をもたらしました。本日はそのご報告、並びに・・・」
このような物を持って参りました、と周喩は自身の傍らに置いていた大きな包みの封を解いた。その中身を見た朝臣連中、おお・・・。とどよめき、曹操までが「へぇ・・・」と感嘆の意を見せた。
中身は、というと・・・真珠・瑠璃・玉、を始めとした金銀珍宝、蜀錦や葛布といった高級衣類もあれば、高級な酒類も混じっている。
周りの、驚きからくるざわめきが一段落したとことで、周喩は「些少ながら、これらの品を献上に参った次第にございます。」と頭を下げた。
些少どころか、相当な価値のある品々である。
周喩は更に「この場に列席なさっておられる皆様方にも、これよりは少なくなってしまいますが同様に贈り物を用意してございます。」と付け加えた。
曹操や荀彧は、これを孫策のゴマすりと理解しているが、それよりもこれだけの品々を用意した孫家の資金力に注目した。
江南を統一して日も浅いというのに、どこからこれだけの資金を得たのか?
ぶっちゃけると、これらの購入資金は高順が差し出した「税金」や、実家が資産家である周喩らが出したものである。
差し出してきたというのも、これも所謂ゴマすりである。ただ、癒着とか賄賂とかそういう類のものではなく、きっちり税として収められたもので裏のある金ではない。

「本来ならば、陛下御即位と同時に御献上するべき品々でしたが・・・遅れに遅れました事、我が主孫策に成り代わり、お詫び申し上げます。」
「・・・いや、良い。江南は山越を始め、賊が跋扈する土地柄と聞いている。それらを平定し、民に安寧を取り戻すことこそが急務。それに比べれば、余への献上が遅れたなど遥かに軽い些事。臣としての役目を果たそうとした孫策の忠心、見事である。」
劉協の言葉を、畏まったまま聞いている周喩は「なるほど、暗君ではない。貢物よりも民の安寧のほうへと意識を向けるか」と分析していた。
言葉だけ、という事もなくはないが、これだけの金銀を目の当たりにしても、そういう言葉を淀みなく口にするというのは中々できることではない。
「ははっ。ありがたきお言葉。・・・それと、もう1つ。これを・・・」
周喩は懐から、厳重に封印された物を取り出し、皇帝側仕えに渡した。側仕えはソレを劉協へと捧げ奉る。
受け取った劉協、封を静かに開けていき、露になった瞬間大きく目を見開いた。
「これ、は・・・玉璽! 伝国の玉璽では無いか!?」
玉璽、という言葉に、またしても朝臣がどよめく。
「かの董卓の乱により紛失されていた筈の玉璽・・・それを何故?」
「は、それは・・・」
劉協の言葉に周喩が答えようとした瞬間、荀彧が声を挙げた。
「理由などただ1つ! それを洛陽で得た孫策が、劉家に成り代わろうとしただけの事!」
「ほぅ・・・証拠は?」
この一言を挑戦と受け取ったか、周喩は眼光鋭く荀彧を見据えた。
「証拠など不要だわ! 今頃になって返上だなんてどう考えてもおかしいじゃない!? 洛陽で玉璽を得、それを利用しようとしたのは明白だわ!」
「ふっ・・・ははははっ! 成程、確かにそう思われても仕方がない。では、何故劉に成り代わろうとする孫策がこれを返還する?」
「それは利用する価値がなくなって・・・」
「価値などいくらでもあろう。大体、玉璽があれば皇帝を名乗っていいと思う馬鹿がこの御世にどれほどいる? 荀彧殿の言はそこを軽視しておられるご様子。」
「何ですってぇ!?」
「ちょっと、桂花(荀彧の真名)・・・!」
曹操が制止しようとするが、頭に血が昇りやすい彼女には全く聞こえていない。
ちなみに、夏侯惇は「なぁ、玉璽って何だ?」と隣の夏侯淵に聞く始末で人畜無害であった。
「声を張り上げるだけの痴れ者にもう少し付き合ってやりましょう。孫策は、荀彧殿の言う通りに洛陽にて玉璽を発見した」
「見なさい、私の言った通り」
「まだ私の発言は終わっていない。当然、孫策はそれを返還するつもりでいたが・・・さて、お聞きしよう。あの時、何をどうすれば陛下にお会いできた?」
「それは・・・あっ」
荀彧は漸く「しまった」と表情を歪ませて舌打ちした。
「反董卓連合はすぐに解散、我らは袁術とともに帰還せねばならずどうしようもない状況であった。あのような混乱の極地にあっては玉璽を保持するだけも困難な情勢であったのだ。我らは迷った。どうやって玉璽をあるべき場所へと還し奉るか、と。連合の総大将であった袁紹に渡したところで、陛下の元へは還るまい。さりとて、当時の曹操殿に渡したところでどうしようもなかっただろう。」
「・・・ちっ」
「そうやって迷っていたところで袁術に見つかり「これは名門袁家の嫡流たるこの袁術がお返しする」と取り上げられたのさ。情けない事に、当時の我らは袁術の傘下でしかなかったからな。取り上げられてしまえば、我々には打つ手がない。」
「その袁術を打ち倒し、玉璽を取り戻し、漸くに・・・と言う事か。」
荀彧に助け舟を出すつもりだったのか、それとも発言の機会を待っていたのか、劉協が周喩へと語りかけた。
「仰る通り、漸く、に御座います、陛下。」

「・・・うむ。孫策の忠勇、忠心相解った。」
少し間を置き、劉協は言った。
「江南を平定し、漢への忠義を貫かんとした事、天晴れ。そういえば周喩。孫策はいまだ無位無官であったな?」
「は・・・。」
「ふむ、それだけの功を挙げながら無位無官では孫策も困るであろうし、何より功臣に報いぬでは示しがつかぬな。・・・丞相。」
「はい、陛下。」
呼ばれた曹操はすぐに畏まる。
「余は孫策を呉侯に封じようと思うのだが・・・お主はどう思う。」
「は・・・そうですね。そこに将軍位・・・討逆将軍を加えては如何でございましょう?」
「おお、そうじゃな。・・・では周喩。今申したとおり、孫策を呉侯、討逆将軍に任ずる。これからもよくよく漢の為、民の為に忠勤して欲しい、と伝えてくれ。」
「ははっ! 陛下のお言葉、必ずや孫策に伝えましょう」
「うむ。印綬などは追って届けさせよう。丞相、周喩の為に宿所を手配してやってくれ」
「ははっ。畏まりました。」

こうして、謁見は終わったのだが・・・その夜、宿所で体を休める周喩を訪ねる者がいた。
漢丞相、曹猛徳である。

「・・・わざわざ、丞相たる貴方が来るとは。」
断ってもどうせ無理やり入ってくるだろう、と周喩は曹操を部屋に入れた。
「で、貴方が何故此処に? 私は貴方の噂などしていないのだが・・・」
「ふふん、世の噂では「曹操の噂をすると曹操がやって来る」とか言われているそうね。まぁ、私は噂をされなくても行きたい場所へ行くのだけど。・・・さて、用事と言うのは1つだけ。私に降りなさい、周公瑾」
「断る。」
周喩は力むでもなく、勢い込むでなく。自然な一刀両断である。
曹操もそれは解っていたようで、特に怒る訳でもなかった。
「ふっ、何故かしら。貴方の孫策、そして私・・・両者共に天下統一を目指している。私の手は孫策よりも早く天下に指をかけるわ。ソレが解らない貴方ではないと思うのだけど?」
「ならば、孫策は貴方よりも早く天下に脚を組み付かせよう。貴方に負けてやるつもりは孫策にも私にも無い。」
「強情ね、どうしてそこまで孫策に拘るのかしら? 負けて虜囚になってから仕える、よりはよほどマシだと思うわね。孫策の下にいる時より好待遇にするわよ?」
「・・・こちらからも問わせてもらおう。もし逆の立場で夏侯惇、あるいは夏侯淵。そのどちらかに誘いをかけたとして、その誘いに乗ると思うのか?」
「思わないわね。」
断言する曹操。周喩はそうだろう、と頷いた。
「あの2人だけに限らないが、彼女達は曹操と言う人間の作り出す天下を、その目に映して戦っている。私も同じだ。孫策と言う存在の作る天下を見定め、信じ、支え、戦う。忠義、友情。何と言われても構わないが、我が信念に揺らぎは無い。」
「・・・ふむ」
「それとも、曹操殿は忠勇の志を、待遇だけで変えられるとお思いか? 猫の爪の様に、必要に応じて出し入れできるような、都合のいい忠義など、誰も信じはすまい。」
「・・・ふ、ふふっ。成程、よく解ったわ。今の言葉を聞いて、貴方を更に欲しくなったけど止めておくわ。貴方と貴方の主・・・正々堂々と傅かせてみせるから覚悟なさい。じゃ、私は帰るわ。・・・ああ、そうだ」
まだ何かあるのか、と言いたげな周喩の表情を見て、曹操はふっと笑う。
「邪険にしないで欲しいわ。聞きたいことが1つ2つあるだけよ。」
「・・・お聞きしましょうか。」
「貴方のところに、高順っていう武将はいないかしら?」
「高順・・・?」
その名を出されて多少は驚いたが、表情を変えることなく周喩は首を捻った。
「さて、知りませぬ。」
「へぇ? 反董卓連合の時に貴方や私の軍を散々に痛めつけてくれた鎧武者よ?」
「・・・ああ、あれが。いや、趙雲の名は知っておりましたが、あれが高順ですか。 して、その高順とやらが何か?」
「ええ、どーーーーしても臣従させたい奴なのよね・・・あれ自体、面白い奴だしその部下も中々魅力的。今、貴方にしたように「従いなさい」って言ったのに、「だが断る!」であっさり斬り捨てられたのよ!」
「はぁ・・・。」
「貴方みたく、誰かに忠誠を誓っているのならまだしも。しかも「あんた、人を使い捨てにするしー。こき使われたくないしー。あばよとっつぁん!」とか言われて逃げられたのよ! 何でかよく解らないけど悔しいの!」
まくし立てる曹操と「そんな事言われても・・・」な表情の周喩。
「何とかして臣従させてやりたいのよねぇっ。・・・ま、知らないなら良いけど、もし捕まえたらすぐに私に引き渡しなさい。調教するから。・・・じゃあ、今度こそさようなら」
肩をいからせ、扉を強く叩きつけるかのように閉めて曹操は出て行った。
そんな扱いをされても周喩は怒らなかったが、最後の一言を気にして、寝台に腰掛て何事かを考え始めた。
(・・・ち、調教・・・?)
まさか、あいつ・・・苛められるのが趣味なのか? 
それならば祭殿ではなく思春を宛がわせるべきかもしれんぞ・・・? いや、しかしあいつは胸の大きい女でなければ反応すまい・・・。
そうなると、強気攻め・・・権殿か!?
と、何か違う方向性で勘違いをして思考を始める周喩であった。


~~~曹操、帰り道~~~
薄暗がりの廊下を歩く曹操に、影のように従う影が1つ。夏侯淵である。
「宜しかったのですか、あのように、素直に諦めて」
「ええ、構わないわ。孫策は必ず私の道に立ちはだかる。周喩がいない孫策軍なんて倒し甲斐がないじゃない。」
また始まったか、と夏侯淵は苦笑した。
遣り甲斐を求めるのはいいのだが、我が敬愛するご主君は何事にもそれを求める。
あまり宜しくない傾向なのだが、今更ソレを言っても聞いてくれるわけが無い。
「それよりも、高順の事を話題に挙げていたようですが?」
「ええ、尻尾を出さなかったわね。そんな男は知りません、とでも言ってくれれば・・・くらいは期待したのにね」
「はは、そういえば、あの鎧のせいでよく見なければ判別はつきませんからな。」
「孫権との一騎打ちも展開しているから知らないわけじゃないと思うけれどね。シラを切ったか、本当に知らないか。」
高順が南へ向かったことは確認している。そこから先の動向はまだ解らないのだが、何となく自分の勘が孫策に仕えている・・・と感じている。
高順は金儲けが上手いらしい。
彼が一時期治めていた広陵を占領した後に、封をされていた倉がいくつかあったが、財貨だけではなく相当な量の穀物や絹等の軍需物資までが納められていた。
それらは全て広陵の財産として陳羣に処理を一任させたのだが、高順があれだけの稼ぎを出した事を聞いて「やっぱり逃がさなければ良かったわね」と嘆息したものだ。
周喩・魯粛・陸遜といった資産家が、孫家の財政を助けているのだろうが、その資産家の中に高順がいるかもしれない、という曹操の勘であった。


~~~楽屋裏~~~

玉璽を返しに行くよー、という事を作中で出してしまったのででっち上げ。
周喩じゃなくて華歆(かきん)か張紘が行くべきだったかもしれませんがメンドクs(さくっ
ついでに呉侯、討逆将軍の任命もやってしまえ、とこんな話になりました。
宮中での礼儀やら言葉遣いなどは知らないのでその辺りは適当ぶっこいてます。知ってるのは帯剣しちゃ駄目とか基本的に早足で移動とかそんな程度。



~~~また武将紹介~~~

劉備か孔明やるって言ったけど、ネタバレ含んじゃうので換えてみた。

今回のお題は・・・
魏延・楊儀。

と思って書いていたら、楊儀の項目で一部のモノに対して壮絶な毒を吐いてしまったので自粛。
でもおいら悪くない(待て待て


てなわけで、今回のお題。
馬超。

恋姫では乱暴純情少女、このSSでは原作華雄ばりの出番の無さと影の薄さで、一部の読者様に(妙に)人気があるバチョンさん。


馬超、字を孟起。
西涼、馬騰の長子として生まれる。
父親の馬騰が西域・・・恐らく西羌だと思うが、その西域人の血を引くハーフなので、馬超はクォーターと言うことになる。
勇猛な性格であり、また性格に相応しい武勇の持ち主であったらしい。演義ではその強さから錦馬超とか神威天将軍とか呼ばれている。
曹操に親を殺され、その復讐を誓う青年武将なのだが・・・

長所・・・
 ○戦が強かった。西羌の血を引いていたからか、特に騎馬戦では無類の強さを発揮。曹操をして「呂布のような強さだ」と言わしめている。
 ○演義では、反董卓連合解散後の事になるが、長安で李傕一派と戦いその部将を数人討ち取っている。ただし、戦自体は撤退、負け。
 ○史実では鍾繇の要請を受け、袁紹残党(叛乱した)の高幹を討伐。その時に自軍の将である龐徳が戦功を挙げている。
 ○美男子だったらしい。羨ましいのでもげろ(ぉぃ
 
短所・・・
 ○なんか、気の毒なくらい頭と運が悪かったように見える(ヒドイ
 ○前述の通り、演義では先に父親である馬騰と、弟である馬鉄・馬休を曹操に殺されるが、史実では先に馬超が叛乱を起こした挙句敗北。結果的に曹操の本拠地にて出仕していた自身の血縁を処刑されている。
 ○ある正月、妾の弟が祝いを・・・と馬超を訪ねたところ「俺の一族が全員処刑されちまったのに何を祝うっていうんだ!」と吐血するほどに強く自分の胸を叩きつけたと言う。
 ○お前が言うな。
 ○曹操をして「呂布の再来か」と言わせるほどに強かったのに、何故か閻行に半殺しにされている。閻行が強すぎたのか、その当時の馬超はそれほど強くなかったのか。
 ○韓遂には却下されたが、黄河で対陣した時に曹操の兵糧を枯渇させようという策を考えている。それを聞いた曹操は「馬家の小僧が死ななきゃ、俺がやられて死ぬかもなぁ・・・」と言ったそうな。
 ○丸っきりの馬鹿と言うわけでもないのだが、人の恨みを買うことが上手だった。
 ○そのせいで自分の妻やら妾やら息子やらは殺され、家族の殆どを失っている。妾のうち一人は張魯の部下である閻圃(えんほ)という人に与えられている。
 ○馬秋という息子がいたのだが、妾の董氏と共に張魯への人質として残されている。その後に、それを放置して馬超は劉備に降伏。お前、息子と妾・・・
 ○その張魯は後に曹操に降伏。当然のように息子は処刑された。
 ○親に置いていかれ、そのまま見捨てられた馬秋は、家族を、祖父を、叔父を、一族殆どを死なせた父にどんな思いを抱いて処刑されただろう。
 ○それと、叛乱した理由は疑心暗鬼。
 ○ま、曹操相手ではそう思うのは仕方ないのかも・・・
 ○馬超降伏を聞いた関羽、荊州から「あの勇名な馬超が降ったってか!? 一騎討ちしてぇぇぇ!」と我侭な手紙を孔明に出したらしい。が、孔明は返書を送り仲裁。事なきを得ている。
 ○その仲裁内容「そりゃあ、馬超は優秀な将なんですけどぉ・・・美髭公(関羽の事。)には敵いませんから(笑)。美髭公のほうが強いDEATHから!!(笑)」 いやまあ、そうなのかもしれないが・・・腑に落ちない。
 ○この返書に関羽、「いやあ、さっすが孔明殿だずぇ。俺の事良くわかってるじゃんYO!」と自慢の顎髭を撫でつけ上機嫌。
 ○髭を褒められた事が嬉しかっただけかもしれない。曹操の所から逃げる時も錦で出来た髭包みの布は大事に持って行ってる(らしい
 ○・・・喋りがチンピラかヤクザっぽく見えるのは、あいつが蜀漢の上層部に対して持っている偏見でゴザイマス。・・・石投げないでっ!(は
 

演義と史実とで随分見方が変わってくるが、これは彼だけではなく劉備や曹操、孫権にも当てはまる。
演義作者である羅漢中は曹操嫌いだったのか、その実像を大きく歪ませて、無意味なほどに劉備を善玉化させている。
孫権にしても(呉はそれほど重視されていないとは言え)二宮の乱の事については完全にスルー。
ともかく曹操に負けた馬超は何度も再起を図っては負け、張魯の元へ逃げ込み、そこでも嫌われてしまっている。
その当時、劉備は劉璋を攻めており、演技に於いてはその劉璋からの援軍要請を受けた張魯が馬超を向かわせた・・・となるが、史実では劉備を頼って出奔した感じである。
劉備陣営では(その生まれや出身地の事情もあって)高く評価されているが、劉備に属してからの馬超はどうにも地味。
こういう「叛の将」というのは、独立した群雄でないと面白くない・・・とか思ってしまう。
呂布とよく似ている気はするが、呂布のほうがよほど魅力的で華があるのではないだろうか。

精彩を欠いた彼の最後は、演義と正史で少し違う。
演義では南蛮制圧に参加し、その後はいつの間にか亡くなっている。羅漢中、もしかして忘れてたんじゃ(笑
正史では劉備より早く死去しており、劉備に別れの上奏をしている
彼には馬秋のほかにもう一人、馬承という子供はいたはずだが、その子の事には言及していない。
もしかして女の子だったのかな? とか早死にしていたのかな? とか色々考えるのだが一応、その子が爵位を継いだらしいので早死にではなかった模様。
それでも馬家を継いだのは馬岱・・・よく解らない。

さて、劉備への上奏だが、このような内容であったらしい。
「俺の一族は絶滅しちまって、今じゃ従弟の馬岱がいるのみっす。あいつの事、よろしく頼んます・・・」

最後の上奏は「俺が叛乱起こさなきゃ、こんな事にはならなかったんだよなァ・・・」という遠まわしな自分への言葉に見えてしまうが・・・
自分の叛乱によって一族郎党殆どを失った馬超、やはり後悔していたのだろうか。



~~~三回目の楽屋裏~~~
武将紹介と言うか考察と言うか・・・
某K○EIのSLGでは、段々知力と政治が低くなっていく傾向のあるバチョンさんでした。
ところで、あのゲームって一般人の能力はどう設定されているのでしょうね。10~20とかなんでしょうか?
どちらにせよ、劉禅は魅力以外が一般人に劣るって事になるんですが・・・いいのか、蜀漢2代目皇帝(笑




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第86話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/04/02 09:56
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第86話



「・・・と、いうわけでな。策殿も周喩もお主らへの扱いに悩んだ結果、こうなった次第じゃ。あまり悪く思わんでやってくれ。」
「はぁ・・・。」
黄蓋の言葉に、高順達はなんとなく頷いていた。


~~~交阯の政庁~~~

高順達に遅れてやってきた黄蓋が「何故、高順を交阯へと派遣したのか」という理由を語り終えた。
孫策・周喩からの命令書には、交阯へ向かえ。という意味合いの事が記されているだけ。
それでは納得できるものではないだろう、と黄蓋に口頭で説明をしておき、合流した時に話してもらう心積もりであったらしい。
「高順を太守に、という話がでると、それを快く思わん連中もおるでな。既成事実、ではないが、太守にして現地に派遣しておけば、無理をしてまで太守の座から降ろそうという輩も出ぬわさ。」
「そういうもんですかね。人の悪意ってけっこう怖いのですけど・・・。」
「そうじゃな。いかに周喩といえ、根本からどうしようもない連中の性根を叩きなおす事はできん。お主らは、きっちり事情説明すれば、不満はあっても理解してくれるであろう、という事さ」
「はぁ。」
微妙に納得できていないが、悪意があって交阯に行かせた訳ではない、と理解はしたのか、一応は皆が落ち着きを見せた。
黄蓋が来た時は趙雲や李典が「何故こうなったー!」と本気で詰め寄るわ、間に入った高順が勢い余った2人に殴り飛ばされるわ、それを見た蹋頓が笑顔で2人を正座させたりとか、混沌とした状況だった。
荒れるだろうという事は予測している黄蓋でも趙雲達が数秒で自爆する事まで予測できなかったようで、大笑いされてしまったが。
「ま、ともかくじゃ。ワシが派遣されたのはお主らの動向を見守るため。悪いことをせぬように、という見張りじゃな。」
「叛乱を起こすかも、と思われてるんですかね?」
「ははは、そう思うのなら手元に置いておくであろ。が、手元に置いておく方がよほど危ない、と判断したのだろうさ。お主らであれば叛乱を起こすまい・・・と確信もしておるだろうよ。」
「なら、何故お目付け役を派遣するのです?」
「ふふん、心配の必要は無い。ワシも、主らが馬鹿な真似をするとは思っておらぬでな。あくまで名目、よ。」
「はぁ。」
「それに、自身で言うのもなんじゃが・・・ワシはこう見えて孫家の宿将じゃぞ? そーいう立場の人間を目付けにするというのは、良い意味悪い意味で注目され、気にかけておるという事じゃ。」

蜀攻略の為の足がかり、孫権の出征。黄蓋は、周喩に「伝えても良い」と言われた事については全て伝えた。
ただ、伝えるべきではないと思う情報については何1つ話していない。
まず1つ目に、目付け役である自分には、連絡員としての仕事がある。
高順がおかしな行動をしたらそれを伝えるように、と言われているし、何かあれば随時報告を、という事だ。
戦力が増えてくれば、そのまま西進して南蛮攻略に乗り出すわけだが、その辺りの指示は黄蓋が出す事になる。
孫策(周喩)→黄蓋→高順、という順番で命令が伝達されるのである。
直接高順に命令或いは命令書が届けばいいのだが、寿春と交阯では距離がありすぎるし、人選によっては高順に全うに指示が行かないという事もありうる。
当然、そこいらは信頼できる人間を中に立てないといけないわけで、そこから黄蓋が、という事だった。
2つ目に、これは何と言うか・・・。
黄蓋は、周喩からこんな事を言われていた。

~~~回想~~~
「曹操が攻めて来るまでには時間があるでしょうから、それまでに高順と懇ろな関係になって置いて下さい。」
「・・・いきなりな話じゃなぁ。」
「高順は、これからの孫家を支える将としての活躍を見込めますし、現実問題、いなくなられても困ります。」
「それはそうかもしれんが・・・」
「今の彼が叛乱を起こすというのは、よほど追い詰められた状況下でなければ・・・と思いますが、そうならないようにする布石でもあります。宿将を娶り、孫家運営側の一人として取り込めば・・・」
「・・・。まぁ、血縁やら仲間やら、周りの人間の事から考えるあやつであれば、有効な手段ではあると思うがの。」
ぶっきらぼうに言う黄蓋に、周喩は尚続ける。
「ええ。その状況でも叛乱を起こすというのは、ソレより上の存在から疑われる・・・と言うことです。幸い、孫家首脳陣で、アレを嫌っていても疑う者はおりますまい?」
「そうじゃなぁ・・・甘寧は嫌っておるようじゃが、裏切りを起こすような奴とは思ってはいないじゃろ。」
「左様。なれば、高順が孫家から離脱する事はほとんど無くなります。その上、子が出来れば・・・」
「万一も無くなる、か。搦め手なのか直接的なのか。」
お主らしくないのぉ、と黄蓋は首を振った。
「ま、構わんがの。しかし、そうなると・・・ふむ。」
色々と気を使う必要がでそうだ。楽進とか特に。
(しかしなぁ、どうすればそういう状況に持ち込めるかのぉ・・・? 蹋頓か趙雲に聞けば良いか? あれらなら、その辺りの手管手練に長じておるじゃろうし。)

~~~(最後が不安な)回想 終 了~~~


(うむ、流石にこれは言えんな)と黄蓋が思うのは無理からぬ話であった。


さて、太守となったからには、ソレらしい仕事をしなければならない。
高順は着任してから「前太守の治世を真似しつつ、問題があったら変えていきますからねー」と馬鹿正直な布告を出している。
自分から真似するヨーと言っちゃってる辺り、ただの馬鹿でしかないのだが、これは自身の基本方針と重なるので変えるつもりは無い。
交阯は異民族や、中央から逃げてきた文人やらが多い土地柄である。
ある意味、自分が適任かもなぁ。と思うところが無いではないが、ともかく、やる事は多くある。
この交阯にも山越が多く蔓延っているし、孫家に組み込んだ時のゴタツキで一部に敵を作ってしまっているようだ。
そこらを説き伏せるのがちょっと難しいかな、と思うが、今回は徐州に比べればまだマシだと思う。
あの時は有能な文官が少なかったし、内外に敵がいたものだが、今回はその逆だ。実務に優れた文官も多くいるし、優秀な武官も、兵もいる。
何より、ストレスの元となる連中がいないというのが素晴らしい。
ただ、問題が無い訳でもなく・・・ぶっちゃけると、暑い。
湿った暑さではないし、心地良い風も吹くし、夜は涼しいし、それなりに水場もあって涼をとることは可能だ。
暑さの問題は、高順の鎧である。
あんなに通気性の悪い、しかも馬鹿みたいに重い鎧。交阯に入城するまでに、何度脱水症状を起こしかけたか。
入城するときは「威厳見せとかなあかんのと違うか?」と李典に言われて、あの鎧のまま虹黒に跨って進んだが・・・
確かに、おかしな威圧感を出せたかもしれないが、城に入った瞬間に死に掛かっていたのでは余り意味が無いとも言う。
楽進も同じく、全身鎧なので「あぅぅう・・・暑いー・・・」とうだっている程だ。
なので、新しく2人の軽鎧を李典に新調してもらう事にした。
ついでに、と他の部将の鎧と武器も全面的改修することになっている。
高順と楽進を除けばほとんどが最初から軽鎧であるし、老朽化の激しいところを補強するとか、そんな程度でよいのだから李典にしてみれば簡単なものである。
てな訳で、しばらくは鎧無し。戦闘はできないので山越討伐などは後回しだ。
それよりも、前士燮政権の官吏と兵の再雇用、雇用条件。戸籍の整理、税率・・・。
前政権のやり方を踏襲するつもりとは言え、やらなければならないことは非常に多い。
闞沢だけでは間に合わなさそうなので、仕方なく麗羽や審配にも手伝ってもらうことにした。
黄蓋が「政治には介入させぬのではないのか?」と問いただしてきたものだが、高順は「孫家本元の政治には介入させませんよ。俺の手伝いくらいなら問題ありません。」と、あっさりスルーした。

幸いと言うべきか、ほとんどが異民族から編成されていた兵士の雇用問題はあっさりと解決。
治世のほうも、士燮と高順は「異民族を差別せずに受け入れる」という根っから同じ方針であり、回りも思った以上に高順のやり方を受け入れてくれた。
また、官吏も異民族に差別意識を持たない人ばかりで、戦乱から逃れてきた文人などもそこに加わっている。
名を上げると劉巴・程秉・許靖といった人々である。
どういう人々か、と言うと・・・
劉巴は元々荊州の人で、父親が江夏太守という人である。
官吏として優秀な素養を持っており、劉表に何度か招聘されても応じず隠棲していたのだが、その評判を聞きつけた劉備にも招聘されている。
ただ、劉備の事が気に入らなかったのかそれも拒否して交阯まで逃れてきた・・・という人である。
程秉も似たようなもので、学問を学んでいたが戦乱の多い汝南から交阯まで逃れ、士燮から長吏に任じられている。
許靖は、何進や董卓政権の時に人事を担当していたのだが、後に反董卓連合に名を連ねる韓馥や孔伷らを地方の要職・太守に任命している。
その彼らが反董卓連合に参加した時に、難を逃れるために董卓政権から逃げて、各地を彷徨いながら交阯へたどり着いて今に至る、という事だ。
話を聞いた高順は周倉以外の供を連れて行かずに彼らを訪ね、力を貸してほしいと頭を下げた。
これからの治世に、優秀な文官は一人でも多く必要だ。優秀な人材と言うのは多くいても足りる事はない。
程秉と許靖は(雇用待遇が良かった事もあって)あっさり承諾してくれたが、劉巴は少しだけ手こずった。士大夫が庶人に仕えるのは・・・と、不満があったのである。
最初は断られてしまったが、それでも高順は何度も何度も足を運んで説得を続けた。そのうち、陳羣の事が話題に上ったのだが、その名を聞いたとき劉巴は大いに驚いた。
彼女は陳羣と親友であり、交阯に流れ着いてからも何度か手紙の遣り取りをして互いの消息を確かめ合うほどに仲が良かった。
陳羣は現在広陵太守だが、前任者に重用されているという内容の手紙を貰った事がある。
前任者の名前までは書かれていなかったのだが「仕え易く、才能に見合った仕事を与えてくれる。お前も一緒に仕えないか?」という誘いも受けていた。
「・・・では、その前任者と言うのは。」
「ああ、俺の事かな。そっか、陳羣さん・・・太守になれたんだな。」
「・・・・・・。」
良かった、彼女が広陵太守になれば俺なんかよりよっぽど上手く治めるだろうし民にも良い結果になる、と彼女が太守に就任していた事を、高順は本心から喜んだ。

その日はそれで終わったが、高順が帰った後、劉巴はじっと考えた。
あの陳羣が絶賛していた前太守というのが、高順だったとは・・・。
彼女は、大事に仕舞ってあった陳羣からの手紙を持ち出して、何度読んだか解らない文面に目を通す。
(まだまだ甘いところは目立つし、本人にはそれほど治世の才能は無い。だが、人の出自など全く気にせず、才能と人格を見て仕事を与えて、働きに見合う報酬も与えてくれる。聞き分けの良いお人で、諌言にも素直に耳を傾け自分が悪いと思えば反省して改めようともする。貴方の好く士大夫ではないが、お仕えしやすい人だ。騙されたと思って、一度広陵に足を運んでみないか?)
そんな意味合いの事が書かれている手紙を、劉巴は幾度も読み返した。

後日、劉巴は自ら出頭。高順に仕えたいと願い出てきた。
その申し出に高順は彼女の手を取り「ありがとう!」と大喜びしていたとか。

さて、高順には1つだけ不安があって、劉巴に限らず士大夫が多いので、異民族の事を嫌っているかな? と危惧があった。
だが、漢民族・異民族の混合軍を編成していた士燮に属していただけあって、皆、そのような差別意識は無いようである。
政務室で次から次へと舞い込んでくる仕事を劉巴らの補佐を受けつつこなしていく高順だが、「ここは俺にとってかなりやり易い土地だね」と確信し始めていた。
少なくとも、権力争いの為に人を差別するような連中がいる場所より、よほど落ち着ける。
暑いのさえ無ければ、最高だったのだけど・・・と、思う高順だったが、彼は政務室で「手を休めている暇はありません、次はこれを!」とか「字を間違えています、やり直しです!」とか「太守殿、やる事は沢山あるのです。まだ休む暇はございません」と劉巴に叱られまくっていた。
劉巴は「陳羣がそこまで言うなら騙されてやろう、ただしきっちりと仕事はさせていただく!」という・・・何だか出来の悪い子の養育に燃える教育ママみたいな感じで高順に接している。
ここまで言われれば怒っても不思議ではないが、高順も高順で「はい、ごめんなさい!」と素直に謝るものだから、余計に悪循環とも言う。
そのお陰で仕事は進んで、回りの人間もそれに感化されたかのように働く訳だが・・・。
寝る間を惜しんで働いたせいだろう。数日後、当然のように高順はぶっ倒れたのであった。


・・・本当に大丈夫なのだろうか?



~~~楽屋裏~~~
普通なら劉巴は高順に仕えないですよねあいつです(挨拶
今回はちょっと駆け足だったよ!

まあ、あれなんです。
書いてたらいつの間にか劉巴とか出てました。(照れ

いや本当に何時出たか解らないくらいに自然に3人ほど入り込んでたんですよ!
史実でも、劉巴は「劉備に使えたくないんだヨー!」と士燮のところへ逃げ込んでいます。
そこを膨らませてこんな地味なお話にしたのですが・・・
史実では、下に厳しく上におべっか使いの張飛に尊敬されていたのですが「士大夫が軍人なんぞと誼を結べるもんか」と彼をガン無視しております。
関羽は上に厳しく下に甘い、という話があるのでこの義兄弟・・・まぁいいか。
そういった性格を嗜めていたのがうっかり長兄たる劉備なのですが、その劉備からして

演義では張飛がやった督郵リンチを、劉備自らノリノリでかました。

ですからなぁ・・・w

横山御大のアニメ版では中間を取って三人でタコ殴りにしてましたが(酷い中間だ)、あの辺りが史実のチンピラ3兄弟たる所以ですなw



~~~番外編。もし高順が北に行けばどうなった? その4~~~

「え・・・袁紹? あんたが、袁紹?」
目の前に座った女性を指差し、高順は震える声で確認した。
「ええ、間違いなく袁本初本人ですわよ? ・・・あぁ、この服のままで話をするのは無礼ですかしら。暫しお待ちになってくださる?」
『・・・・・・・・・・・・。』
高順・楽進・沙摩柯。3人は「まぁぢでぇ」みたいな顔で、着替えるために中座していく袁紹を見つめるのであった。

お馬鹿。無茶無理無策の三無力。
空気は読めず、我侭放題し放題・・・。
高順らが聞いていた袁紹の評判とは、全てにおいて芳しくない話だった。
そして今、衣服を改めて目の前に座る袁紹は、どう見てもそんなお馬鹿な人間には見えなかったのである。
「・・・俺の聞いている噂と180度違う方向に見えるんですけど」
「あら、大方「お馬鹿」だの「浪費家」だの、そういう類でしょう。ふふ、間違ってはおりませんけれど。」
「・・・・・・。」
やっぱ、聞いていた話と違う。
楽進と沙摩柯も「これは一体」といった風情で、困惑している。
困惑しているのは高順も同じだが、それでは話が進まない。思い切って自分から話を切り出すことにした。
「あ・・・そうだ、忘れるところだった。で、そっちからの話ってのは一体?」
「まぁ、私の頭の出来など、今はどうでも良い話ですわね。・・・さて、私からのお話なのですけど。我が袁家は貴方のような能力ある武将を欲しておりますわ。」
正しくは、俺ではなくて、俺の配下の優秀な将兵、といった所だな。やっぱそれだよな。と高順は苦笑した。
その苦笑の真意を読み取ったか、袁紹が少し不機嫌そうな表情をした。
「誤解しないで頂きたいですわね。貴方の配下ではなく、貴方も含めて戦力と見なすのです。」
「そうですか、そりゃあどうも。」
「・・・その言い方では、断るおつもりのようですわね。」
「そりゃあね。素直に話しますが、俺たちが頼ろうと向かっているのは公孫賛殿のところでしてね。まず公孫賛殿の敵となるであろう貴方に仕える道理はありません。」
「そして、私が反董卓連合の仕掛け人だから・・・でしょうか。」
「ご名答。ま、仕掛け人は袁紹殿と曹操殿、といったところですかね。ともかく公孫賛殿を滅ぼそうとするアンタは敵であっても味方じゃない。」
正史であれ演義であれ、公孫賛は袁紹に敗北し、死んだ。
色々と状況の変わっているこの世界でそうなるとは限らないのだが、呂布が負けてその勢力が消滅した以上、曹操は袁紹との戦を指標に動き出す。
そして袁紹も曹操との戦いに備え、後顧の憂いを失くすために北へ攻め入るだろう。
自分が手を貸せば公孫賛が生き残る、と自惚れるつもりはないが、烏丸・張燕と連携すれば、勝てなくても何とか生き残るだろうとは思う。
そのうちに袁紹は曹操との決戦に引き込まれ、北にかまける余裕はなくなる。
曹操が勝てば・・・まぁ、その頃は公孫賛も外に打って出る戦力は無いだろう。順当に行けば曹操に降伏という事になる。
そうなれば、赤壁で負けない限りは曹操の天下統一でほぼ決まる。
曹操の手助けをする格好になるのは気に入らないが、それで天下統一されて一時的にでも平和になれば、と思う。
その時、自分は何をして・・・は、まぁ良いか。
「ともかく、公孫賛殿を殺そうとしているアンタに協力はできんね。」
つれなく言う高順だが、袁紹は怒るでもなく普通に言い返した。
「誤解があるようですけれど、私は白蓮(公孫賛の真名)さんを滅ぼすつもりはなくてよ?」
「はぁ?」
「むしろ、仲間として引き込むつもりですわ。」
「・・・。どうやって?」
「先に南を制しますもの。その前に一度、戦力を削り落とす必要はありそうですけど。」
「はぁ!?」
「華琳(曹操の真名)さんに勝利すれば、白蓮さんも抵抗を諦めるでしょう。そうなれば、北方同盟も終わり。張燕さんとやらも、烏丸も抵抗する理由を失います。」
「・・・北を制する事無く曹操に挑む? そんな事が」
「できますわ。両面作戦にしなければよいだけの事。晋陽、北平、薊を攻め取るには相応の被害が出ます。しかし、その被害に見合うものがこの3都市にあるかと言えば・・・失礼を承知で言えばありません。」
「だから攻めずに降伏させたいと?」
「張燕さんとやらはまだ解りませんが、白蓮さんはやり手ですもの。防衛線も野戦も一筋縄ではいきません。そして、その背後には烏丸。真正面から攻めた場合どれだけの被害を被るか・・・。」
「だから、降伏させたほうが良いと言うのか」
「ええ。白蓮さんも、その将兵も中々の粒揃い。死なせるのも、すり減らすのも、余りに惜しい。」
そして貴方の才も。と袁紹は笑顔を見せている。
「貴方が問題にしているのは、白蓮さんや張燕さんの命と立場でしょう。私はソレを完全に保証するつもりですわ。当然貴方も、貴方の部下も。」
「・・・そこには烏丸は含まれていないのですかね。」
「あら・・・烏丸は保証以前に攻める気もありませんわ。帰順なり何なりはしていただくつもりですが、同盟の軸となるのは白蓮さん。彼女を口説き落とせば、他も私と戦う理由は無いはずです。」
ここまで言われて、高順は頭の中で色々と考えた。
袁紹は公孫賛を滅ぼすつもりは無いという。確かに一撃食らわせれば・・・そもそもの領土、兵力、国力に劣る公孫賛側は長期間立ち直れないだろう。
烏丸と張燕、この2陣営と連携するように、とは言うものの、烏丸は相当数の食糧援助が無ければ長城を超えてくることも難しい。
「・・・ふん、言いたい事は解った。だが、あんたが公孫賛殿を殺さない保証は無いだろ?」
「そうですわね・・・不可抗力と言うものはありますが、その不可抗力を起こさないようにするのも私の役目ですわ。加えて言うなら」
「言うなら?」
「貴方が脇から白蓮さんを殺さないように、私の手綱を取ればよいのです。」
「・・・・・・これはまた。部下に手綱を取らせ、る・・・」
むぅう・・・と言葉に詰まる高順。
・・・。そういや、孫策殿も周喩殿に手綱を取られてるような。あれは友人同士だからか・・・
曹操の場合は、むしろ自分を掣肘しつつ時折暴走だし。劉備は・・・まあ良いか。
割と珍しくないのだろうか、自分の暴走を部下に止めさせるようにっていうのは。
「うーん・・・。」
袁紹の言いたい事が解らないでもない、と高順は悩んでいた。
頼ろうとしておいてアレだが、公孫賛を滅ぼすつもりが無いなら・・・と思い始めていたのだ。
公孫賛に保護を求め、配下として戦っても袁紹に勝てる可能性は少ない。それならいっそ、恨まれる事になっても袁紹に加担して公孫賛・張燕の助命に奔走したほうが良いのではないか・・・。
袁紹が噂どおりのお馬鹿さんで無い事が驚きではあったが、ソレに賭けるのも悪くないか?
それも曹操に勝てればの話なのだが・・・どうしたものか。

迷った高順は一度、許可を得て中座。周りの意見を聞きたいから、という情けない理由だったが。袁紹は眉を潜める事も無かった。
「宜しくてよ。選択肢があるなら、あるだけ迷いなさいまし。ただし、決めたのなら迷う事は許されませんわよ?」
そう言われ待ってもらえる事になったが、常に迷いっぱなしで生きてきた高順には痛い言葉であった。




~~~楽屋裏~~~
袁紹に仕えるフラグビンビンですね

さて、地味覚醒袁紹は高順をどう遇するでしょうか。
孫策よりも良い条件提示してきそうです。裕福ですし・・・
さて、(これ書いてる時点で)明日はPSPの真・恋姫の孫呉編が発売ですね。
周喩と一刀、そして彼らの息子? が中睦まじくしているサンプルCGを見たわけですが・・・
・・・まぁ、あっちで生き残ったんだからこっちで無理に生き残らせる必要ないよね(あれ?

まぁ、どうなるかはまだ解らんですが。



~~~まだ武将紹介~~~

今回のお題。
張飛。


張飛、字を益徳。(横山御大が描いた横山三国志では翼徳)
丸い目と虎髭が目立つ、三国志世界で(多分)2番目の豪傑。
演義では黄巾討伐の立て札を見ていた劉備を「てめぇ、それでも男かアァン?」と叱咤(恫喝)。
兄貴分だった関羽と3人で桃園にて義兄弟の誓いを交わし、劉備に従って乱世へと切り込んでいく。
正史では、やはり兄貴分だった関羽と共に劉備に仕える。(桃園の誓いはあったかどうか解らない)
多くの媒体では「肉屋の息子」という話があり、それが真実としたら何進と同じ屠殺業だったのかもしれない。


長所・・・
 ○強かった。強かっただけとか言うな。(?
 ○演義では呂布と一騎打ちで互角・・・とは言い難い。そこには関羽、劉備も加わっており、俗に言う「虎牢関三英戦呂布」を展開している。
 ○これをベースにしたネタを本編でやったら「痛々しい」とか言われて筆者凹む。多分羅漢中も凹む(羅漢中関係ない
 ○冗談はさておき、三人の英雄(・・・英雄?)相手に互角に打ち合う呂布、という図式であり、さすがの呂布も押し負けて退散している。
 ○曹操配下の智将である程昱からは「一人で万の兵に匹敵する」と絶賛されている。関羽も同様の賞され方をしており、やはり武勇絶倫と言った人だったのだろう。
 ○周喩も「自分なら関・張を従えて事業を為せる」という意味合いの事を言っている。逆に言えば孫権では無理と言うことだが。

短所・・・
 ○頭悪い。
 ○態度も悪い。
 ○関羽同様庶民であったが、徐々に身分を上げていった者の性と言うべきか・・・上に媚び諂い、下に乱暴と言う解りやすい正確になっていく。
 ○兄である関羽は逆で、上に厳しく下に優しいという性格。兄弟揃って性格に難がある。
 ○うっかり長兄である劉備からも「お前さぁ、もう少し下に優しくしろって。そんなだと、いつか自分のみに災いが降りかかるぜ?」と諭されたが全く聞いちゃいない。
 ○今回、本編で出てきた劉巴を敬愛し親交を結ぼうとしたが、完全に無視されて怒っている。
 ○劉巴曰く「大丈夫たる者があんな粗暴な馬鹿相手にできるわけねぇだろ!」
 ○乱暴をした部下に恨まれてしまい、寝ているところを襲撃されてあっさり殺された。
 ○兄も、あっさりとは言わないが上(或いは同じような身分)に恨まれて、それが原因の1つとなって死亡したので似たもの兄弟と言えなくも無い。
 ○ロリコン。アグネスなんて怖くない。かかってこいよアグネス。
 

ロリコン、と言ったがこれは自分にとっては敵である曹操の配下、夏侯氏の少女を強奪し、無理やり自分の妻としている。
その時薪割りをしていたそうだがこの少女、12、3歳だったらしい・・・どっちにしても犯罪です。良い子は真似しちゃ駄目。絶対。
それが縁となって、蜀末期に夏侯覇という武将が蜀に亡命。
張飛の娘を娶っていた劉禅からすれば親戚になってしまうわけで、車騎将軍という重職を与えられる事になるが割愛。

終わりを全うしなかったせいか、陳寿からも少々手厳しい評価を受けている。
ただし、後世の人々からの人気は高い。
愛嬌のある性格と思われたのか、講談などでは大人気だそうな。
また、(演義で)長坂橋にて殿を努めた折、ただ一騎で曹操軍を震え上がらせた場面なども大うけするらしい。
乱暴ではあるが、愛嬌のある好漢と言った感じかもしれない。
頭が悪いと書いたが、後年になると策を使って張郃を打ち破ったりしており、国家の重鎮・将としての自覚はあっただろう。
ただし、人格までは変わらなかった。それが悲劇的・・・或いは自業自得な最後を呼び寄せたのだろうか。 

ソレともう1つ。
よく言われることだが、張飛の容貌。
演義では虎髭だの何だのと言われているのだが、正史では外見に関しての話は殆ど無い。
また、娘が劉禅の妻となっているし、その劉禅も美女好みだったろうから彼自身、けっこう美形だったのかもしれない。
妻の夏侯氏が美貌の人で、そちらの外見を受け継いだだけという可能性も高いが・・・
或いは、張飛同様に毛の濃ゆい武勇絶倫な女性だったのだろうか?(汁
後年、後宮に美女を入れたがって(つうか入れた)劉禅。もしかして醜女専・・・いやいやいや。
政略結婚の意味合いも強いのだろうけれど、外見が綺麗か自分好みでなければ劉禅だって嫌がっただろう。
もっとも、ネタとしてみれば虎髭丸目、剛勇にして多数の兵にも屈さない屈強な女性でもイける劉禅、であって欲しい所ではある(笑


~~~楽屋裏~~~

懲りずに武将紹介。
やらなくてもいいのでしょうけど、字数埋めに利用させてもらうよ!(駄目

そろそろネタもなくなってきたので、取り上げてもらいたい人のアンケートとかとりたいところです。
これに対しては縛りを設けているわけではありませんが「本編で出ている人」「そこそこ逸話の残る人」を書いております。
知らない人とか逸話の少ない人とか「禰衡(でいこう)」お願いします! とか言われても困るのでw

まぁ・・・内容は・・・殆ど・・・あいつの妄想だけどね!(やはり駄目だ

それではまた。ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第87話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/09/26 00:20
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第87話


「高順さん、出資をしてくださらない?」
その日、交阯における高順の一日は麗羽の一言によって始まった。

高順の政務室。
ここは遅くまで仕事を出来るよう睡眠や食事ができるような場所が作られており、自室に帰る手間も省けるので、高順が好んで寝泊りする場所だった。
皆と食事が出来ないのは寂しいが、まだやることが多いため仕方が無い。
その政務室で、朝早くに目覚めた高順。特にやる事も無いので「お茶でも飲むかな」と椅子に座ったところで麗羽の突撃訪問(?)を受けていたのである。

「出資って・・・何にです?」
「商売ですわ。」
「どこで・・・?」
「ここ(交阯)で。」
「えーと・・・」
自信満々に言う麗羽に、高順は言いよどむ。
と言うのも、高順は高順で「交阯に店作れないかな」と思ってある程度の下見はしていたのだ。
ところが、すぐに「駄目だな」と諦めざるをえない状況であることを理解した。
元々交易都市であった交阯には、発展途上であった江南と違い、新規参入できる市場が無かった。
大型、というか老舗、というか、後から入る余地が無かったのである。
なので、諦めるしかないか・・・と思いつつも仕事をこなしていた訳だが、そこに麗羽が「商売をします!」とぶちあげてきたので「はい?」という反応になってしまったわけだ、
それを知ってか知らずか麗羽は、ふふんと笑った。
「後から来た我々では、市場開拓できない・・・と仰りたいのでしょう?」
「まぁ・・・そうだけど。でも、解ってるのなら何故?」
「抜かりはありませんわ!」
断言した麗羽は、どこかから巻紙を取り出して、机の上に広げた。
「これは?」
「ご覧くださいな。」
んー? と覗き込む高順。そこには、大手・老舗・・・交阯で名のある商家の名がずらりと並んでいた。
「おやまぁ、随分と・・・で、これがどうかしたの?」
麗羽は何も言わず、これまたどこかから取り出してきた筆と墨で、書き込まれた商家名の上に○とか×を書き記していく。
そんなに時間がかかるわけではなく、作業自体はすぐに終わった。
「・・・? これは?」
「簡単に言えば、付け込む隙があるかどうか、ですわ。○が隙有り、×が隙無し、と思ってくださればけっこう。」
ほほー、と高順は興味ありげに更に覗き込んだ。結構多く○が書かれており、×の数は少ない。
「でも付け込むってどうやって・・・いや、それ以前にどうやって調べたの!?」
「はい? ああ、影を使わせていただきましたわ。」
「ちょ、勝手に動かしちゃ駄目ですよ!?」
「皆、仕事が無いからって快く手伝って頂けましたわ。当然、私の懐から手当ては出しました。」
「・・・。」
確かに、太守としての仕事が忙しくて、影に仕事・・・諜報活動とかを命じていなかった。
だからと言って、勝手に動かして良い理由にはならないのだが・・・。
「動かしちゃったのは仕方ありませんけど・・・次からは俺に許可とってくださいね?」
「ええ、覚えておきますわ。で、話の続きを。影に調べてもらって、色々解りましたわ。付け込む、というのは・・・」
麗羽は「影」を使って、商家の内情を探らせたらしい。
それによるとどの商家も暴利を貪り、使用人や雇用している・・・社員と言うべきか、その辺への金の払いが渋いのだと言う。
それだけではなく、稼ぎそのものが渋くなって経営難に陥っている商家も多い。
その経営難に陥った商家を買収しよう、というのが麗羽のいう付け込み所、落とし所なのである。
「高順さんの思うのは、後から来た私達は商売をしようとしても入り込む余地が無い・・・という事ですわね?」
「まぁ、そうなるね」
「それなら、1つなり2つなり商家全体丸ごと買い取ってしまえばよいのです。」
そうすれば、その商家の持つ販売・仕入れルートも手に入って、自分たちが1つずつ新規開拓をしなくて済む。
金さえ積めば何とでもなるだろうが、とにかく自分の店が欲しい麗羽にとってはそちらのほうが手っ取り早い。
店さえ作ればこちらのものだし、得意先もそこから拡げて行こうと言う寸法だ。
ただ、そこまで多額の資金は麗羽の手元には無い。なので、高順に出資してもらいたい、と直談判に来たのである、
「ふーむ・・・そういうことか」
麗羽の説明を聞き終えた高順は、顎に手を当てて考え始めた。
「出資と言っても結局は高順さんのお店。儲けも今まで通りの扱いになります。損はしないと思いますわ!」
麗羽は身を乗り出して高順に詰め寄る。
どうしてこうも必死になるのだろうか。熱心なのは良い事だし、むしろ彼女は働きすぎだとも思うが。
「うーん。」
疑う訳ではないが、どうにも高順の反応は鈍い。
そこを勘違いしたか、麗羽は「当然、ただで出資して貰おうとは言いませんわ」と言い出した。
「はぇ?」
「担保は・・・そうですわね、私の体と、あと・・・顔良さんも付けると言う事でどうでしょう。」
「はーーーー!?」
「んふふ・・・高順さんの好みは解っていましてよ! 何せ蹋頓さんに全て聞きましたから! 文醜さんをつけないのは武士の情けです!!」
「ちょ、貴方は何を聞いて、つうかあの人何言ったの!? それと、文醜さんに凄く失礼な事を言ってますよね今!!!」
「あら、お聞きしたいんですの? 仕方ありませんわね」
巨(中略)で、挟(中略)常に中(中略)、股間の槍(中略)心身と(中略)。
獣(規制)後ろ(規制)騎(規制)正(規制)汁(規制)流石に子供には手を(アグネス)。
一晩かけてねっとりと(ズギュン)全て(ドキュン)自分から(バキュン)、そうやってにk(バチョン)て、だからこそ性的な意味で陥陣営。
「と、まぁそんな訳です・・・あら?」
朝っぱらから凄まじい発言を聞いた高順は、|||orz な感じになって打ちひしがれていた。

「ねぇ、高順さん。出資していただける・・・?」
朝から(違う意味で)死にかけている高順に麗羽は体を摺り寄せて迫る(決断を)。
「え。いや、そのー。」
「あら、それじゃあ・・・体?」
「違いますから! 誤解ですよ!?」
「それじゃあ、出資・・・?」
「解りました、出す出します! だから朝からはやめてええええっ!」


・・・結局、出資することになったようです。

この後、発情した麗羽に押し倒されそうになるわ、「太守様、仕事のお時間d何をシテいらっしゃるのです?」と劉巴に見つかってマジ説教を喰らうわで、朝から散々な目にあう高順であった。


麗羽の提案によって、儲けは街道整備・潅漑など公共事業にも使用されることとなった。
聞いてみると、麗羽は江南の店のような普通の商売ではなく、交易をしたかったようだ。
南方の珍しい品をもっと内地に。そして、できれば西にも大々的な交易路を造り、更なる経済の活性化を計るということだし、その為に使用された金は民間へと行き渡る。
また、街道整備・・・民衆が使うための道路を広げ、更に軍用道路を作るというのも経済政策のためだ。
出来れば南蛮にも手を伸ばし、道なき道を整備して人と物の流入を活性化させ、交阯を更に強大な経済都市にする。
武で天下統一を果たすことが出来なかった麗羽だが、彼女は自分の才覚を商売へ向けることに決めたようだ。
自らの才覚が何処まで通用するか、どこまで行けるのか。ソレを試したい。
壮大な野望と言うか、願望と言うか・・・。ともかく、彼女は高順の出資を得て交易商店を得ることになる。
その儲けをもって店を大きくしていき、じわじわと各方面に影響力を深めていく麗羽だが、それはまだ先の事である。

さて、朝からおかしな事になっていた高順だが、今回は新たな布告を発することにしていた。
その内容は「戦火で焼け出された人の税金は1年免除します。また、これから街道整備するので人手募集、給料も払います。農閑期に行うので沢山応募待ってるヨ!」(意訳)
少し前まで、交阯は孫家に攻め込まれ大なり小なり街に被害が及んでいた。
畑や家が焼けて住む場所が無くなったり、生活手段を失ってしまった者も多くいる。
人気取り、金のばら撒きに過ぎないが、街道整備で生活資金を失った人々に金を回して少しでも本来の生活に戻れるように、という事でもある。
その分、麗羽が頑張らねばならないのだが、彼女の強運のおかげで稼いだ莫大な資金がある。
現状でも何とかなる、という判断で布告を出すことにしたのであった。
ただし、他にも布告はある。
「人身売買」「脱税、または収益を誤魔化して税を安く抑える等の不当行為」「祀を建てる事、淫祀邪教」の禁止、これに反したものは重く罰する・・・というものだった。
これらはどう見ても、商家に対しての牽制だ。
麗羽が勝手に「影」を動かしたのには眉を顰めた高順だが、怪我の功名とまでは言わないまでも、他の問題ごとが噴出していた。
暴利を貪っている商家のほとんどが前士燮政権と繋がりがあったという事を掴んでいたからだ。
また、自分達ではない権力者連中が賽銭と言う名目で、民衆から不当に金を巻き上げている事実も掴んだ。
どんだけ「影」は有能なんだろう? とか思ったが、それはそれとして、高順は基本的に商人が政治に関ることも、信仰を名目にして金を巻き上げる事も嫌う。
そういう存在は殆どが自分が美味しい思いをしようとして一番上の権力者・・・ここでは高順になるが、献金だの賄賂だのを送って来るだろう。
癒着、というものが発生すればズブズブと深みに嵌って抜け出せなくなる。
政教分離、は当然だし政商もできる限り分離したいというのは高順の考えだ。
自分自身がそこに含まれるか、と言えば・・・規定以上の税を払っているし、稼ぎも何らかの形で民に還元。兵の給料もきっちり払っていて、自分の手元に残るのはあまり無い。多分大丈夫・・・多分。
後、高順は前士燮政権から続いて雇用された役人のうち数人が賽銭として農民から金を巻き上げている、つまり布告に反した行為を働いたとして罷免の上、全員斬首に処している。
士燮政権じゃどうだったか知らんがいつまでも甘い汁を吸えるとは思うなよ、という一部の存在に対しての警告、見せしめであった。

高順一党はこの処置に関して特に何かを言う事はなかったが、全員が全員「やっと凄みを見せたか、うんうん」と思っていたのが何と言うべきか。




~~~楽屋裏~~~
結局PSP真恋姫まだ未開封だよあいつです(挨拶

どっかで見たネタだなぁと思ってたら蒼天曹操さんと似たような事をやっていた。
向こうの方がよほどわかり易く苛烈だった記憶ですが。

さぁて、内政ターンは終われ・・・るかなぁ(は
そろそろ西涼もやりたいですし。
でもこの次何を書くかは決まってなかったりします・・・あれ?

どうしますかねぇ・・・黄忠さんと厳顔さんの配置も換えないといけないか・・・。

それではまた。






~~~懲りずに武将紹介~~~


皆さんが知ってるような程度の逸話を延々タレ流す文字埋めにもかかわらず、リクエスト、ありがとうございます。

頂いた順番で挙げますと、
程秉・許靖
袁紹
公孫瓚
華陀
賈詡
趙雲
陸遜
楽進

と、なりました。
しかし、華陀や微妙に逸話の少ない陸遜の名が挙がるとわ・・・

まぁ、貰った以上はやりますとも。
と、いうわけで今回のお題。

程秉・許靖。



程秉。字は徳枢(とくすう)。汝南の人。
孫策の死後、孫権に召しだされた幕僚の1人。
あまり逸話を知らないので長所・短所は書かないでおきます。

演義での出番は2つ。
曹操との戦いに巻き込むために孫権を口説きに来た諸葛亮。
口説きは成功して赤壁の戦いになるのだが、その折に孫権配下の文官が諸葛亮の屁理屈・・・? に対して論戦を吹っかけている。
その順番は、と言うと。

「張昭」「虞翻」「歩陟」「薛綜」「陸績」「厳畯」「程秉」という順番だ。
恐らく、呉の文官で権力を持っている順なのだと予測するのだが・・・張昭はどう見ても孫権の幕僚で一番重んじられていたと思う。
当然、皆して演義におけるチート存在である諸葛亮に論破されてしまっている。おのれ羅漢中。
もう1つ出番はあるが、それは夷陵の戦い。
関羽を殺され、張飛を失ったことで・・・張飛は微妙に逆恨みに思えなくも無いが、ともかく劉備は止めておけばいいのに将兵をそろえて呉へと攻め入っていく。
珍しく快進撃を続ける劉備に恐れを為した孫権は、程秉を使者として送り込む。
張飛を暗殺して呉に逃げ込んでいた張達・范彊(はんきょう)、塩漬けにされた張飛の首を持参して停戦・和睦を求める程秉だが、劉備は聞く耳持たず殺されそうになって、何とか逃げ帰っている。
演義での出番はこれだけである。

正史。
学者として声望が高まった頃に孫権に招かれ、長男孫登・・・つまり太子の教育係である太子太傅に任命されている。
225年には太常に任命された、とあってけっこうな地位についている。
この作品に出ている闞沢(かんたく)は、孫登が病死した後に太子となった孫和の太子太傅となっている。
闞沢も太子太傅となった翌年、243年には病死しているのだけれど・・・(汁

此処からは関係のない話になるが、前述した孫登は241年に亡くなったとされている。孫和が太子となったのはすぐ後。
だが・・・この時期というのは、孫権最大最悪の大ポカである「二宮の乱」の時期に当てはまる。
つまり、重臣の粛清が始まる前段階だ。
まぁ、闞沢も程秉もこの時点で暗殺されたという訳ではないだろう・・・と思いたい。
孫権の優柔不断と言う暴走が始まったのも、ここからだが・・・別の話になるが呉の丞相である顧雍(こよう)が243年に亡くなっている。
その前に、234年だったと思うが呉の意見番であり、孫権の諌め役&漫才の相方である張昭も亡くなっている。
陸遜が丞相を継いだものの、彼の任地は荊州。きっちり政治を見つつ意見をしてくれる、という人物が孫権のすぐ側にいなかった、ということになる。
もしも、きっちり諌言してくれる重臣がいれば、と思わなくも無いが、人の言う事をあまり聞きたがらない孫権。
結局、張昭以外ではどうしようもない状況じゃなかったのだろうか。
諌言してくれる人が大好きで、多分諸葛亮の事もお気に入りであったろう孫権。
・・・こう書くと、ドSでドMという、稀有な性癖(?)を持つ困った人にしか見えない孫権だが、実際にその通りなので仕方が無い。




許靖。字は文休。
従兄弟には月旦評で有名な許劭がいる。

元々後漢に出仕している文官だったが、董卓時代に自分が太守に推挙した人々がこぞって反董卓同盟に参加してしまったために、災いを避けようと方々を流離い交州へ。
後に益州を支配していた劉璋に招かれて巴郡・広漢郡の太守に任命されている。
更に後、劉璋が劉備に攻められたときに劉璋をあっさり見捨てて劉備の元へ逃亡しようとするが(オオイ)これまたあっさり発覚、捕縛された。
劉璋に処刑されなかっただけ感謝するべきだと思う。
こんな行為を嫌われたのか、劉備は許靖を嫌って召しだそうとしなかったようだ。
蜀攻略の功臣である法正に「あいつは名高い名士っすよ。あれを登用しないと、劉備殿が人を軽んじるって風潮ができちまいますぜ!」と説得されてようやく召しだしている。
この時に与えられたのが些少軍いや違う左将軍。後漢から劉備が与えられた官位と同じなんですが・・・。
劉備が漢中王を僭称した後にも昇進を重ねて司徒に任じられている。
演義でも正史でもあまり変わらない人物の1人である。
他国の人からも評判が良く、彼を評価しなかった許劭のほうが悪く言われている。

彼の従兄弟である許劭は(割と一方的な)人物評を得意としていた人で、有名なものには曹操の評価がある。
「治世の能臣、乱世の姦雄」である(または乱世の英雄、静平の姦雄)
彼に良い評価をしてもらう、というのは一種のステータスであり、世の名士は彼の評価を求めて訪ねたそうだ。
曹操は評価の内容はともかく、評価をしてもらったことを喜んでいたそうだし。ただし偏狭な人物であったようで従兄弟の許靖を重んじなかったという。
その為、許靖は馬洗いなどをして日銭を稼いで貧しい暮らしをしていた、と言う話が残る。
また、劉繇は孫策に攻められた時に、側近の「太史慈に軍を任せてみてはどうでしょう」という進言に対し「けど、太史慈使ったら許劭に悪い鑑定貰っちゃうだろうし・・・」と、評価を気にして結局使いこなせないでいる。
裏を返せば、そういうことを平気で行うか、やっても不思議ではない人柄という表れなのだろう。
こういった人柄の許劭。曹操は擁護する立場だったそうだが、反感を持つ人も少なくは無かった。
曹丕、諸葛格、蒋済といった人々は「他人の欠点を挙げ連ねていい気になってるのが気にいらねぇ」という意識だったらしい。

そんな許劭は人生の殆どを旅に費やし、劉繇が孫策に敗北した時に、巻き込まれるように逃亡、豫章で亡くなっている。
今でも人物の批評を「月旦評」というようだが、人物評価の大家として許劭がそれだけ重んじられていたからこそ、残ったものなのだろう・・・。
多分。





~~~楽屋裏~~~
何だか違う人の話まで混じってた・・・

一応、リクエストどおりにこなして行きたいとは思いますが、途中で違う人が混じったり1回で2人分になったりするかもしれません。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第88話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/10/09 10:52
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第88話 番外編。出陣前夜。

~~~許都~~~

袁紹を下した曹操は一時的に鄴で政務を行い、河北の内乱を下していたが、それも必要がなくなったと判断して許都へ帰還していた。
その折に周喩がやってきたりしていたのだが・・・ついでと言う事でもないのだが周喩が帰還した後に、曹操は献帝からこれまでの功績を賞する、として魏公となっていた。
それだけ曹操の権勢が高まっており、また曹操家臣の突き上げもあって帝も決断をしたという訳だ。
その曹操、王座の間で夏侯惇と程昱の帰りを待ち侘びていた。

「・・・時間がかかるものね」
「は。・・・姉者が交渉を邪魔していないかと心配で仕方がありませんが。」
曹操の呟きに、夏侯淵が答える。
実は、夏侯惇と程昱は西涼の馬騰の元へ降伏を勧める使者として赴いていた。
幼い頃から動乱の時代を駆け、今ではその家臣となっているが一時は漢王朝そのものへ挑み、西涼三狼の一と呼ばれた猛者であり人格者。
本戦には出ていなかったが反董卓同盟の時は西側の牽制を努めている。
曹操は、前々から馬騰を「欲しい」と思っていた。
馬騰の義妹である韓遂から(ほとんどお惚気に近いが)色々と話を聞いていたし、その娘たちも器量は良いと聞く。
馬騰自体、3人の子を産んだとは思えぬほどの美貌を備えているらしく、歳も40近いのに外見は20代後半でも通じるそうだ。
能力は勿論だが、そこまでの美貌を聞いて、心の底から好き者である曹操の興味を引かないはずはない。
(是非とも母娘ともども私の閨房に・・・ふ、ふふ・・・美人母娘を侍らせてものすごく退廃的な・・・じゅるっ。・・・ふぁっ! こ、この曹猛徳が涎をっ)

好き者過ぎて困る。

「ま、まぁ・・・交渉自体は風(ふう、程昱の真名)が行っている筈。そう心配をするものでもないわ」
「・・・ですが、馬騰は素直に降るでしょうか?」
「さぁ。彼女は漢の臣。そう簡単にいくとは思えないわ。」 
この時点で、曹操配下の武・文官は殆どの者が漢から魏へと官位を移していたが、夏侯惇だけは未だに漢の臣と言う扱いである。
一応、名目上は同じ漢の臣。彼女以外に交渉を任せることは出来ない訳だが・・・曹操の言う通り、夏侯惇はあくまで名目上の使者であって、実際に交渉を行うのは程昱だ。
どうなるかしらね、と思案をした所で伝令兵が王座の間にやって来た。

「報告致します。夏侯惇将軍と程昱殿が帰還なさいました。」
「解ったわ、2人を此処へ通しなさい。」
「はっ。」
兵士が畏まって退出した後、すぐに夏侯惇と程昱が入室、頭を垂れた。
「ただいま帰還いたしました!」
「ただいまなのですー。」
「2人とも、ご苦労だったわね。で、結果は?」
「は・・・それが。「自分は漢の臣。漢を見捨て魏に服従するような、恥を恥と思わぬ行為などできようはずもない」と。」
「・・・。そう。」
こうなるだろうとは思っていたけど、やっぱりか・・・と曹操は嘆息した。
「華琳様の言う通り、好条件を示したのですけどねー。魏の征西将軍、候に封じるという条件も鼻で笑われて・・・ぐぅ」
「寝るなっ」
言っている最中に眠りそうになった程昱の頭を、夏侯惇がぺちりと叩く。
「のぉっ!? ぉぉぉおぉ・・・中々の威力に、素で天へと旅立ちそうでした・・・」
「ええ!? 手加減はしたぞ!!」
「ふん、これだから猪は・・・」
「なんだと桂花お前ちょっと表でろー!」
「おい、姉者っ・・・」
「ぐー。」
「・・・・・・はぁぁ。」
いらんことを言い出す荀彧と、安い挑発に乗って喧嘩を始める夏侯惇。
程昱はすぐに居眠り、夏侯淵が止めに入り。いつもの光景と言えば光景だ。
ここで公孫賛が「おいおい、2人とも止めないか。」と言えば案外あっさり退くのだが、今此処に彼女はおらず北平にいる。
馬騰が降伏拒否の態度を取る事を見越して、曹操は公孫賛に軍勢を動員するように命じているが、やっぱり手元に残しておくべきだったかな・・・と心底から思う。
夏侯淵がいてくれて助かるけど、やっぱり苦労が多いものね・・・と、曹操は痛む頭を抱えて嘆息した。

ただ、曹操は馬騰の降伏拒否を聞いて、半分残念に思っているが、もう半分は嬉しかった。
荒くれ揃いの西涼を治める強者。そうあっさり膝を屈せられては少し面白みが無い。
あの名高き馬騰、韓遂と矛を交えることができる。それを思うだけで、胸の奥が熱くなる。
それに。
(ああ、馬騰と韓遂の義姉妹を侍らせるというのも良いわね・・・首輪をつけて「いぬ(性的な意味あい)」として、とか・・・じゅるるっ・・・ハァハァ)

ここに変態が居るので近づかないでください。



曹操がすぐに南下をせず、意識が西方へ向いているのにはそれなりの理由があった。
劉備・・・というか劉表、そして孫策。南方に存在する勢力は概ねこの2つに絞られている。
同盟を結ぶかどうかは解らないが劉表に属している劉備は、単独で孫策と結びかねない。
そうなると厄介な事この上ないが、孫策はついこの間朝貢をしてきたばかり。それを攻めると漢の重臣連中が小うるさい。
それに、南方を攻めている間に馬騰が攻め込んでこないとも限らない。西涼軍のあの機動・攻撃力は侮れない。 
ほんの僅かの油断で守りを破られ、許都まで攻めあがってこない保証はない。
それならば、後方の憂いを除くべきだ、と考えたのだ。今回は公孫賛の軍勢も加えて10万以上の兵を動員、攻め入る予定だ。
輜重は荀彧に任せておけば心配ない。
連れて行く将軍は夏侯姉妹、公孫賛、許褚、典韋ら。軍師は程昱、郭嘉など。他にも多数いるが、中核武将はこの辺だ。
そして、今回の戦いで連れて行く「中核ではない」武将に、夏侯惇・夏侯淵の縁類が5人含まれていた。
彼らは出撃が決定した後すぐに、玉座の間に鎮座している曹操に自分達も加えて欲しいと願い出てきたのである。

「殿!!」
「お願いです!」
「何卒」
「我らにも」
「兵卒の端にても構わぬゆえっ」
『出陣の許可を!!』

ちょっぴり暑苦しい彼らの願いに、曹操は少し顔を引きつらせた。
「・・・涙(るい)、初(うい)、六(むい)、終(つい)、結(ゆい)。貴方達も行きたいと言うの?」

真名で呼ばれた5人の名。
夏侯楙(かこうう、真名を涙)、夏侯覇(かこうは、真名を初)、夏侯威(かこうい、真名を六)、夏侯和(かこうか、真名を終)、夏侯恵(かこうけい、真名を結)。
夏侯5兄妹と呼ばれる人々であった。


~~~その頃の交阯~~~


高順らは、武具の修繕、並びに高順と楽進の新しい鎧が出来たという報告を聞いて、李典の工房まで足を運んでいた。
彼女の強い要望もあって作成された工房では、鍛冶鋳造や板金、皮のなめし作業・・・。
自分の腕に自信を持っている鍛冶職人が多数集まって、あれこれと作業をしている。
それほどの人数は集まらなかったが、高順や麗羽が商いをしている中で得た人脈、伝手で「仕事は沢山あるからおいでー」とあちこちに声をかけた結果、けっこうな大所帯になった。
最初に作った規模の工房ではすぐに追いつかなくなって、すぐに拡大工事を行う羽目になったが。

「へぇ、新しい鎧の出来も上々だな。」
「ええ。私の鎧も・・・軽いですね。」
高順、楽進が新しい鎧を着込んで感想を口にした。鎧を着た後に違和感があるかどうか・・・という微調整の為である。
2人に色々と動いてもらい、鎧の絞めの部分がきつ過ぎないか。どこかに当たって痛んだりしないか、など。
「どやろ、おかしいところあるかいな?」
「俺は特に無いな。凪は?」
「ん・・・もう少し、胸のところが大きくならないか? 何だかきついぞ」
「おりょ? おっかしぃなー・・・」
楽進の指摘に李典は首を傾げる。
「おかしいって・・・何がだ」
「いやなー。前に使ぅとった鎧で胸囲割り出して当てはめたんやけど・・・うーん」
腕組みをして考える李典に、蹋頓が「あの、宜しいですか?」と横から割り込んできた。
「あ、蹋頓ねーさん。」
「単純に、楽進さんの胸が大きくなっただけでは?」
「・・・。あー」←ぽん、と手を打つ李典。
「・・・・・・。」←うわ、関りたくない、という表情の高順。
「はぁっ!?」←言うまでも無く楽進。
蹋頓の一言を聞いた楽進は、思わず自分の胸を両手で包み隠した。
何をされるか、一瞬で悟った・・・と言うべきかもしれない。

~~~だいぢぇすと~~~
「ちょ、羽交い絞めとかっ・・・ひゃうっ!?」
「おお、やらかいなぁ・・・しかも前よか大きゅうなっとるしこの隠れ巨乳改め隠れ爆乳め。今まで「ぷりんっ」だったのが「むっちり、たぷんっ」。なんでやろな、蹋頓ねーさん」
「揉みまk(以下略」
「・・・・・・(二人で高順を見つめ」
「いやぁ、なんで夕日って赤いんだろうなー」
「今、真昼間ですよ?」
「助けてください隊長!?」
「そっかー、揉みまくれば大きゅうなるもんなんやー」
「ええ、あとは実践あるのみですねぇ・・・ふふふ」
「今から楽しみやなぁ・・・くふふっ」
「・・・。」
高順は冷や汗が止まらない!

~~~姦 了~~~

夜の生活のお話はともかく工房に来ているのは高順らだけではない。
高順隊の中核武将・・・沙摩柯や趙雲、兵を束ねる伍長(5人兵長)や伯長(100人兵長)らも多くいる。
高順隊の兵士は総数6千人ほどだが、これから少しずつ数を増やしていく予定だ。そうなれば、人の上に立つ部将は見栄えを良くしようと、少しくらい武装に金をかけてくるだろう。
もっとも、工房の本当の目的は別にある。兵士に対しての武具普及率を高める事、そして武装品質の向上を図る為だ。
暑い南方では皮鎧などでも良いかもしれないが、これから主戦場は北へと移っていく。
そうなれば、皮ではなく青銅か鉄製品の武装が必要となってくるだろう。
資金が多い高順隊でも一部の兵士には鎧が行き届いていない事もあって、そこが高順の不安な点であった。
その解消の為に・・・と言うわけである。
また、投石機・衝車・井蘭・雲梯といった攻城兵器の質・数の充実も狙いの一つである。
鉄製品を使ったことで多少は耐久力も上がる・・・筈。もう此処まで来ると高順の俄知識では追いつかない。
李典や、鍛冶職人などの専門家に任せておくほうが良いだろう。

やらなければいけない事が多い高順には、工房だけに構っている余裕はない。
治水や食糧増産・・・そして、南蛮。
高順が交阯太守となって数ヶ月もせぬうちに、孫策・周喩から「蜀を攻める時が遠からず来るだろうから、進軍路の確保よろしく。あと、南蛮の処置は一任するわよーん」という「もしかして俺、舐められてる?」としか思えない通知が来た。
黄蓋を通じてのものだったが、黄蓋も「いや、本当にそう言われたのじゃが」とおかしな認め方をしている。
また、高順は「勝手に蜀に攻めちゃ駄目だからねー。孫権に花もたせてやりたいし。」と言うことを伝え聞いており、そこは差し出がましい事をするつもりはない。
南蛮の処置は任せる、というのも「異民族に対しては私達が上からゴチャゴチャ指図するより、高順に一任するほうが早いわよ。勘だけど」という孫策の考えによる。
周喩も「アイツの事だから、無闇に攻め滅ぼす事はないだろう。同盟か服従させるか・・・悪い結果になるとは思えないな」と賛同。結果、南方・異民族については高順に一任と言うことに落ち着く。
それが孫策ら孫家上層部の下した判断であるが、いきなりやれと言われてもそう簡単には実行は出来ない。武具の件もあるし、足場固めもしておきたい。
つうかそんな簡単そうに言うな、と突っ込みを入れたいところではある。
「言われた通りにはしますけどもう少し時間くださいね」と返事を出した高順は「さぁ、どうするべきかな?」と考え始めた。
(まずは兵士の募集だろう。今よりも大きな練兵施設も作りたいな。いや、まず南蛮の・・・今の時代は多分孟獲だと思うけど、手紙とか使者を出して・・・むぅ、やらなきゃいかん事が本当に多い)
劉巴殿たちを得られたのは本当に大きいよな。麗羽さんもだけど、今まで闞沢ちゃん1人に負担させていたし。
優秀な文官を多数得られたのは本当にありがたい。それに比べれば、これくらいの苦労・・・と、実感する高順。
彼もきっちり働いているのだが、謙遜が過ぎるのか、はたまた本気でそう思っているのか。
思い込んだら一直線、というほどでもないが、ここのところオーバーワーク気味になっている事は否めないし、劉巴も「少しは休みを取っていただくべきか?」と思っていたりする。




「ですから、今日の夜伽は私の役目です!」
「いやー、たまにはうちにも出番があってもええやんか!」
「おいこら真桜っ、人の胸を揉みながらというか蹋頓殿もいい加減離して下さい泣きますよ!?」
「・・・。お願いですから静かにしてください。ここ工房です(血涙」

・・・違う意味で疲労が蓄積していく高順であった。



~~~楽屋裏~~~
地味に西涼編の布石を出しましたあいつです(挨拶
次回から ~~~西涼編、美味しい立ち食い蕎麦店どこにあんの?~~~ とか始まってもオコラナイデクダサイネ(何かがおかしい

夏侯兄妹は、楙が長男、覇以下は全員女です。
詳しい方は・・・まぁ、楙は碌な者じゃないことは知っておられると思いますけどw

あと、PSP恋姫と萌姫は高順伝終わるまで封印します(ぇ

・・・更新までに時間がかかったのは、寝ぼけた私が無題:メモ帳でこの話を上書きしたからです(ノヘ




~~~懲りずに武将紹介~~~
リクエストどおり、今回のお題は・・・
袁紹。


袁紹、字は本初。
袁家という家柄は四世三公・・・4代に渡って高位に就いたという名門だが、曹家(曹操)に比べれば歴史は浅い。
最終的に袁紹は大将軍となったので、袁家は五世三公、というところだろうか。
その息子達はアレだからカウントしなくても良いと思う(ひどい
反董卓連合の盟主になっていたり、河北を制圧してウヒャッホウな感じで勢力を増やし、友人でありライバルでもある曹操と官渡にて激突。


○正史や演義では決断力が無いだの優柔不断だの散々な言われようではあるが、KOEIゲームでは能力的に曹操に一歩届かない。恋姫ではどうしようもないお馬鹿さんだが、人情には厚い・・・と、ある程度の評価はされている。
 恋姫の扱いには少し納得が出来ず、勝手に覚醒させてみたがこれ位の能力があっても良いと思う。
 ギャグは袁術とかいるしね・・・(ぉ

○若い頃はけっこうな悪だったらしく、曹操とつるんで花嫁泥棒をしている。
 花嫁を奪った2人、逃亡最中に袁紹が藪の中に突っ込んでしまい、動けなくなった所を「ここに花嫁泥棒がいます!」と曹操が大声で叫んだ為、必死にもがいて脱出した・・・らしい。
 ここで捕まっていればどうなっていただろう。あと、花嫁さんはどうなったのだろう? ちゃんと返還されたのかな?

○この人と、同族の袁術は一時的に大陸勢力を二分していて、三国志前半で大いに目立っている。
 袁家勢力は中盤以降は完全に消滅してしまっているのだが、前半の目玉は董卓→呂布→袁紹な流れだろう。袁術はあれだけ目立っておいていつの間にか消えている。
 まあ、あれだけ惨めな最後は他にそうは無いから、ラストだけ目だったかもしれないけど。

○背が低かったかもしれない。
 正史の話だが、人によっては身長の話が出るけれど、劉備の身長「7尺5寸」以上の数値しか出ていない気がする。
 孔明はそれよりも大きかったという話もあるし。つまり、劉備以下の身長は数値として出されていない・・・? 
 曹操の身長は低かったらしいですが、袁紹も同程度だったのですかね。

○あちこちでボロクソ、あるいはネタキャラとして扱われる袁紹ですが実際には相当な力量を持っていたと思う。
 少なくとも劉備よりは余程曹操を苦しめた・・・と思うのですよ。
 魏の時代になっても袁紹の治世を懐かしむ人がいた、という話もですが、曹操が河北~遼東制圧にかかった年数は8年ほど。
 官渡で敗北しても、曹操は袁紹が生きているうちは河北へと進めなかった。攻撃できないと思わせるほどの戦力がまだあった、と言うこと・・・かな。
 異民族(烏丸など)と手を組んでいたし、統治能力も高かったと思われる。
 ・・・官都で敗北した後、各地で叛乱が起こったらしいが。
 一応、それら全てを潰してから再び曹操と戦い敗北。その後に病にかかって死亡。
 実質は後継者争いで滅んだ袁家だが、袁紹が生きていればそう簡単には曹操も攻められなかっただろう。
 袁紹が47か8歳そこそこ(けっこう若かった)で亡くなった時点で、河北の袁家は滅びたも同然だった。

○後継者選びで迷っていたと言われるが、あいつ的には3男の袁尚を選んでいたのではないかと思う。
 自分の後継者と考えたからこそ、袁尚の病気の時には出撃しなかったのだろう・・・多分。
 曹操との戦いに連れて行き、勝利させることで箔をつけるとか。ただ、三人兄妹は一州ずつ統治を任されているし、甥の高幹も同じ待遇だったので、後継者でなくても重んじていた、という可能性もある

○田豊を投獄→負け→諌言を真に受けて田豊を殺す というのは弁明の仕様が無いし、孫権には敵わないだろうが割と味方の粛清を行っている。
 これまでずっと勝利してきた袁紹が、官都で負けたのも田豊という宰相役が欠けてしまっていたから、と思うのはあいつだけだろうか。
 袁紹と田豊の関係は曹操と荀彧の関係に似ている。違うのは全幅の信頼を置いていたかそうでないか・・・だろう。

○劉虞を起てて、董卓に対抗しようとしたことがある。
 ただし、参加者が少ない(反対された)&劉虞本人が固辞したせいで沙汰止み。
 董卓と同じことをして対抗しようとしたがうまく行かなかったよ、と。
 これで劉虞が天子になれば、面白い事になっていた気もする・・・きっと。

○曹操と「反董卓同盟が上手く行かなかったらどうする?」てな話になったらしい事があるらしい。
 曹操は「天下の智者を揃えば上手く行く」と答え、袁紹は「異民族を抑え、河北を統一して南下すれば良い」と言ったらしい。
 曹操も袁紹も自分の言った言葉を実行した、ということになる。


・・・と、まぁ色々な逸話があるが、曹操にとって袁紹は劉備以上の難敵だ。
官渡の戦いに匹敵する戦闘はそれほど多くない。袁紹、曹操の兵数は詳しくは不明だが、袁紹が14~5万として曹操は10万程度だっただろう。
赤壁はともかく夷陵や五丈原よりも、よほど大きい戦いではないだろうか。
夷陵の戦い直後の、魏が起こした呉への三路侵攻も赤壁に比する大軍勢だったはずですが・・・どうも扱いが悪いと言うか薄いと言うか、重視されて無い感じです。

三国志前半(袁紹死亡まで)、中盤(コメ死亡まで)、終盤(司馬炎による天下統一まで)。
小勢力が乱立する前半が一番熱いとはいえ、どんどん盛り下がっていく気がするのはどうしてだろう。




~~~楽屋裏~~~
いや中盤~後半も楽しいのですよ。
孫家の仲間内での粛清劇とか劉禅のアホっぷりとか魏延の不遇っぷりとかどう考えても南蛮の民を虐殺してるどこぞの丞相とか。
ですが、どうしてもコメの陣没以降は・・・
やっぱり、前半から中盤にかけてのほうが才覚ある人が多いと思います。
後半でも司馬師や鄧艾、鐘会、陸抗、羊祜(晋になるけど)、杜預、王濬、羅憲など中々の人物もいますし。いや、他にもいますが。

え、姜維?
・・・ああ、武力は妙に高かった人ね(え



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第89話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/10/09 10:33
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第89話


~~~西涼編~~~

曹操軍が来た。Σ(・ω・)
戦った。(・ω・)
善戦した。(`・ω・´)
でも負けた。(つω;`)

~~~西涼編、完 璧 終 了~~~






嘘。










涼州、天水城より東。
中原に放った密偵より「曹操軍進発」の報を聞いた韓遂だが、彼女らは既に出撃していた。
韓遂だけではない。
韓遂、馬玩、張横、成宜、楊秋、侯選、李堪、程銀、梁興、そして馬騰。
西涼十軍閥全員が各々の部隊を率いて集結していたのである。勿論馬超らもいるが、彼女達は一部将扱い。
基本的に彼らは横繋がりで誰が盟主、と明確には決まっていない。ただ、この中で漢王朝から将軍位を受けている馬騰と韓遂がリーダー格と言える。
韓遂はこういった状況では義姉である馬騰を立てる立場にあり、実質的な盟主が馬騰である事は誰もが認めるところだった。
何より。

韓遂を始めとした武将たち「馬騰たま(義姉上)(´Д`*)ハァハァ」

・・・曹操に負けず劣らずの変態共であった。

韓遂は馬上にて、すぐ隣にいる馬騰へ話しかけた。
「義姉上、曹操は進軍せず許都に留まっている模様。しかしながら、その数およそ14万」
「そう。こちらよりも多いのね。」
「そうですな。・・・夏侯惇でしたな、あれが帰ってすぐに態勢を整えて逆に一撃を加えようなど。義姉上も中々。」
「我ら西涼軍は常に武具を整え、いつでも出撃可能という状態にしているのですから当たり前です。翠ならここまで早く動けなかったでしょうけど・・・それは経験の差ですね。」
当然のように言う馬騰に、韓遂はうんうん、と嬉しそうに頷いた。
病が快癒したとは言えず時折咳き込む馬騰だが、少し前までのように、寝たきりになることは無かった。
「そろそろ、ですかな。翠らは上手くやっているでしょうか?」
「守りには向きませんが、騎馬隊を率いさせればあの子に敵う者はそういないでしょう。無茶をせぬように龐徳もつけています」
心配は不要です、と馬騰は言い切った。
馬超達は3万ほどの兵を率いて長安を強襲している。夏侯惇が帰還した直後の事だ。
馬騰も騎馬戦では自信のある方だが、電光石火、という言葉に相応しい馬超の機動力には敵わない。
馬騰の言葉に韓遂は頷き、腕が鳴る。と呟く。久しぶりの戦場に彼女の心は躍っていた。
久しぶりとは言うものの、韓遂は馬超・馬鉄・馬休、そして馬岱に稽古をつけていた為に腕は鈍っていない。どころか自身も強くなっている。
基本は馬騰が稽古をつけていたが、彼女が病にかかった後は韓遂が面倒を見ていたのだ。
曹操が強いのは知っている。国力の差でこちらが劣勢なのも解る。だが、そう簡単に負けてはやらん。
西涼の狼を舐めるなよ、と韓遂は東を見つめていた。

「・・・ところで蛍(韓遂の真名)」
「は・・・なんでしょうか、義姉上」
「蜂蜜は持ってきてないでしょうね。持って来てないですね!?」
「・・・(キュピーン)」
「!?」
「ふ、ふふふ・・・いやぁ、義姉上は流石にお目が高い。良くお分かりで・・・ふ、くふふふふ・・・」
「・・・・・・」
韓遂の笑みを見てゾクッといやな寒気を感じた馬騰であった。



ほぼ同じ頃、西涼軍先鋒である馬超・馬鉄・馬休・馬岱・龐徳は、曹操領である長安をもう少しで攻略という状況にまで追い込んでいた。



同時期、曹操軍。
曹操側の動きは、馬騰軍に比べて遅い。
公孫賛が来るのを待っていた、と言うこともある。夏侯惇の報告が来る以前から、馬騰が降伏しなかった可能性を考えて軍勢の用意はしていたが、既に「軍勢に加えてくれ」と願い出てきた夏侯5兄弟に7千ほどの軍勢を預け、長安に向かわせている。
その長安には3万ほどの守備兵と、曹一族の一人である曹洪が守りを固めている。そこに7千を加えれば攻められても問題は無いだろう。
それに、自分のほうが兵力は上、普通に考えれば守備に回ってこちらに出血を強いる戦い方をするはず。西涼軍は城攻めもそれほど得意ではない・・・と見越していたのだ。
だが、曹操は完全に見誤っていた。
馬騰軍の機動力、攻撃力。騎馬主体の馬騰は、城攻めは不得手だろうから向こうから攻めてくることは無い、という思い込み。
曹操の余裕と慢心が、長安失陥というまさかの事態に陥る。

~~~長安、東門~~~

曹洪は何とか残った兵をかき集めて、曹操が向かってくるであろう東へと駆け抜けようとしていた。
「くそっ、まさか奴らがここまで・・・」
曹洪も曹操と同じく騎馬主体の馬騰軍が攻城に慣れているとは思いもしなかったし、こうも一方的な展開になるとも思わなかった。
曹操からは「固く守って自分たちの到着を待つように」と命令を受けていたが、馬超らの挑発に耐え切れなくった曹洪が夏侯兄弟を率いて1万からなる兵を率いて出撃。
だが、馬超の攻撃力を甘く見たこと、先鋒に出した夏侯楙があまりにボンクラすぎた事、という条件が重なり見事に大敗、その上に潜んでいた部隊(馬鉄・馬休)の数十人が長安に撤退した兵の中に紛れ込み、数日後の夜半に開門。
電撃的に攻めてきた馬超隊によって瞬く間に主要部を制圧されてしまう。
その数日間に、曹洪は曹操に「早く援軍に来てください」という旨の急使を出しているのだが、それも無駄だった。
龐徳に言い含められた馬岱が、少人数で編成された強襲部隊を選抜。長安付近に散らせて急使を全て捕縛していたからだ。
挑発に乗った自分が悪い。悪いのだがあれほどの突撃力・・・過去に虎牢関で見た呂布軍、或いは高順隊に比するものだった。
あれを止められるのは、曹操様、夏侯惇殿、夏侯淵殿・・・ソレくらいしか思い浮かばない。そして、その3人に及ぶはずのない自分では止めるどころか相手にならなかったのだ。
曹洪は何とか敗残兵を纏め上げ、包囲の及んでいない東門を抜け一気に東へと駆け去った。その殿は夏侯覇を始めとした夏侯姉妹(覇を含め、そこから下は全て女)が努め、追いすがる西涼兵を斬り捨てつつ、自分達も撤退に成功している。
とはいえ、そこからも苦労の連続だった。先に挙げた、馬岱の選抜した強襲部隊が撤退していく曹洪部隊に対しても効力を発揮していたからだ。
実は、龐徳はこうなることを予見していた。全滅させるのも容易かったが、それはしない。
曹洪をズタボロにして、急使ではなく、ズタボロにされた本人は「馬騰軍の強さは並みじゃない。先鋒部隊にすら手が出なかった」とでも言うだろう。
そうすれば、曹操も少しは警戒して迂闊に攻めて来る事は少なくなる。
その内にここから東の潼関あたりまで手中に収める、そこに陣を張り、曹操との決戦を・・・と思っている。
馬騰、韓遂も最初から守りの薄い長安ではなく潼関で決戦を行うつもりであり、龐徳はそこまで読んでいる事になる。
さて、その頃の馬超は、と言うと・・・。

~~~長安政庁、太守の間~~~

「おっし、こんなもんか。」
曹洪が撤退した事を知って、北と西を攻め取っていた馬鉄・馬休を呼び寄せて政庁へ突撃。
自分が一番乗りを果たしており、今は側に馬休・馬鉄と僅かな兵を置くのみだ。
抵抗していた兵もいたが、あらかた掃討、或いは降伏せしめた。まだ龐徳と馬岱が市街の残兵制圧を続けているがすぐに終わるだろう。
完全とは言えなくも長安を陥落せしめた、と言える。
市民に対しての処置は母様と伯母上が来るまで・・・いや、こういう時は家とか住む場所がなくなった奴らに炊き出しだっけ。
「高順は何て言ってたっけなぁ・・・?」
「へ? 何が?」
「何がですかー?」
馬超の独り言に馬休と馬鉄が反応する。
「いや、戦いが終わったろ? そーなると炊き出しとか・・・」と言ったところで、太守の座る椅子の後ろから「ゴトッ」と物音がした。
その場にいる全員が反応して椅子に向かって獲物を構える。
「誰だっ! 何者か知らねーけど、とっとと出て来い!!」
馬超の恫喝に怯えたか、腰を抜かしたか。椅子に隠れていた男が震えながら出てきた。
夏侯楙(かこうぼう)である。
この男、逃げようとしたのだが、東に向かったはずが何をどう間違えたのか北に向かってしまい、そこも既に制圧されてしまって仕方なく政庁で隠れていた。
しかも、曹洪に合流しようとしたわけではなく、単騎で逃亡を図っている。
「うぅっ・・・頼む、命だけは・・・って何だ、女か!?」
「声を聞いて解れよ! ってか誰だよお前」
馬超の当然過ぎる突っ込みに答えることなく、夏侯楙は胸を張った。
「俺は夏侯楙、字を小林! 夏侯惇殿と夏侯淵殿と同じ夏侯一族だ! どうだざまーみろ!」
「・・・何だ、ただの馬鹿か。」
「馬鹿だね。」
「お馬鹿さんよねー。お馬鹿さんだねー。」
馬家の三姉妹は極めて正当な評価を下した。
「くぬぅぅうあう!!!?! この俺を、馬鹿にしたなああああっ!!」
正当な評価を下された夏侯楙は、ぶんぶんと頭を振って否定した。
「俺は馬鹿じゃない! 俺は優れているんだ! 金儲けが趣味で何が悪い!!!」
「いや、誰もそこまで言ってない・・・まあ、馬鹿以下の阿呆みたいだけど。」
「うん。」
「ですねー。」
「ぬギャああァァ貴様ら今すぐうおg;をh@0あqgr(聞き分け不能」
更に正確無比な評価を下され、夏侯楙は完全にぶち切れた。大げさな身振り手振りで、馬超を指差す。
「女ぁっ! 貴様、俺を怒らせたぞ! 今のおr「良いからかかって来いって・・・うざったい奴だなぁ」
馬超は夏侯楙の言葉を遮って、再度槍を構える。
「ふ、くっくっく・・・ならば見せてやる、俺の、この夏侯楙の秘奥義を!」
「へぇ、見せてもらおうか。」
何を見せてもらえるのだろうな、と馬超は少し楽しげであった。秘奥義と言うのだから、つまらないものではないだろう。
「見せてやる! 喰らえぇーーー!!!」
叫んだ夏侯楙は、太守の間の壁にへと一直線に走り、そして!
「きえぇぇえぇぇぇぇぇえぇぃぃぃっ! 鷹爪三角脚!!!

ただの三角飛び蹴りを放ったのである!

ずごっ!
「おぎゃああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!????!!?」
馬超の槍、「銀閃」が隙だらけの夏侯楙の股間を撃ち抜いた。
「・・・期待して損した。」
馬超の溜息をよそに、男にしか理解できない痛みに悶絶しつつ、夏侯楙は地面を転がり回る。
血とか変な汁とか撒き散らしてのた打ち回っていた夏侯楙だが、その辺の柱に頭から突っ込んでしまった。
ごずっ! と鈍い音が響く。
「うわらばっ!?」と悲鳴を上げ、そのまま夏侯楙は動かなくなった。

馬鉄がつんつん・・・と槍の穂先で夏侯楙を突いてみたが反応がない。
ぐったりした夏侯楙の顔を覗き込むと、白目になって泡を吹いているが、呼吸をしていない。
結論。
「・・・ねー、こいつ死んでるよー?」
「あっそ。燃やしてどっかに埋めとけ」
「はーい。」
すっごく冷たく言い放つ馬超に、馬鉄が挙手して答えた。


夏侯楙、字を小林。ついでに真名は涙。
馬超との戦いに敗れ(?)討ち死に。
お金儲けが趣味で、実際に戦った馬超から「武辺ってのが欠片も無かったよなぁ」と評された男である。
趣味もそうだが、能力も無い癖に自分が優れていると思い込み、妹達には尊大に振舞っていたため凄まじく嫌われていた。
その死を後に知った曹操は「あ、そうなの?」という反応。
夏侯4姉妹は「せいせいしたよ、うん」という反応でしかなかったそうな。
つまり、実害無しという扱いだ。


未だ許都にある曹操は、命からがら洛陽まで逃げてきた曹洪の使者より長安陥落を知る。
報せに「甘く見すぎたか」と反省する曹操だが、「だからこそ戦う甲斐がある」と自身を奮起させ西を目指して進軍。
この時点で公孫賛は到着しておらず、置いてけぼりを食らう羽目になる。
行軍中にソレを知った公孫賛は「ふざけんなー!?」と叫んで、休む間もなく曹操を追いかけて西へ向かうのだが・・・どうにも、運の悪い人であった。


~~~交阯、政務室~~~

「ほぅ、太守様は南蛮と結びたい、と」
「ん。」
劉巴の言葉に、高順は素直に頷く。
「一切の権限は太守様に、というのは孫策様のご命令ですが・・・ふむ。」
「俺たちの現状目標は蜀の劉璋ですからね。南蛮を敵にするつもりも、そんな理由も無いんです。出来れば同盟か相互不可侵の盟約を結んで、蜀へ行きやすくなるように「道路作らせて」とか我侭言うつもりですけどね」
その我侭さえ容れてくれれば、向こうに有利な条件で同盟結んでもいいんですけどね・・・と高順は腕組みをする。
それを聞いて、劉巴は苦笑した。
まったく、このお人好しの太守様は。
普通、外交と言うのは両者に利益を、かつ少しでも自分に利益のあるように、と動くものだ。目端の利く者であれば、更に自分自身に利益を、と考えるものだが。
それを、目の前にいる太守は同盟さえ結ぶことが出来ればこっちが損をしても良い、と言いきっている。
どうしたらこうも栄達とか利潤に対して我欲の薄い性格になるものかな・・・と疑うほどだ。
そこにはそれなりの打算、つまり蜀の、例えば江州や成都を取ればそれ以上の利得はある、という事は解る。
そこから東に進んで永安経由で荊南に進むか、北上していくか、それとも周りを固めるか・・・そこは孫策の気持ち次第だが、そこを取っても高順は太守にはなれない。孫権が来るからだ。
なので、実質的に高順が得る物は何も無い訳だ。それを言った所で本人は「別にいいんじゃね?」とあっさりした反応が返ってくるのが目に見えている。
「太守様は利益を望まぬと仰せですか。平穏を望んでいる、とは聞きましたが・・・他に欲は無いのでしょうか?」
「んー。・・・官位?」
「! ・・・ほぅ、官位、と。どのような理由で?」
「いやー、これまでついて来てくれた人・・・楽進とか趙雲さんとかなんだけど。」
「太守様に初期から従った方々ですか。」
「そう。なんだかねぇ、お金以外のことで報いてあげられないもんかなぁ? と思ってね。皆、ちゃんと自分の部隊を持ったわけだし、そろそろ将軍位とか欲しいだろうなぁ」
あんだけ苦労かけといて、俺がしてあげたことって何も無いんだよなー・・・と高順は嘆息する。
「いや、それは太守様が欲しい訳ではなくて、趙雲殿達にあげたいだけ、では・・・?」
「うん。」

ああ、うん。解っていはいたけど駄目だこの人。

「あ、あのですね・・・太守様。皆様が将軍位を貰って名乗るには、まず太守様こそが将軍位なり官位なりを貰うべきなのですよ?」
「え? 俺が?」
「はい。彼女達はどちらかと言えば太守様の私兵というか・・・。とにかく、順序としては貴方が先にあるべきです。まず、交阯太守を狙うべきですね」
「・・・・・・・・・。どうやって?」
「それは、孫策様に貢いで覚えを良くして、ですね。漢王朝に働きかけていただかなくてはどうしようも」
「・・・。」
この発言に遠くを見つめて「望み薄だなー・・・」と抜かす高順だが、他に手が無いでもない。
一番手っ取り早いのは高順が漢王朝に直接朝貢を行う事だ。ただし、それを行えば独立を狙っていると同義。まず孫策から疑われて・・・生き残れない。
(何より、腹芸も出来そうに無いですしね、この人・・・。賄賂を贈ることはあっても、自分では絶対に受け取らないから権力者からするとやりにくい事この上ないでしょう)
上司や部下からは認められているのに、どうも周りの評価が芳しくない。
自身に対しての評価はそれほど気にせず、金にも権力にも恬淡として、周りの事を気にするあまり自分自身の事を考えていない。
なんとも生きにくいと言うか、馬鹿というか。
その馬鹿をずっと押し通して生きているのだからある意味で大したものだと思うが・・・だから周りが苦労し、やきもきするのだろう。と劉巴は趙雲らの苦労を思い遣った。
(しかし、官位か。確か、孫策様に与えられた官位と将軍位は呉侯・討逆将軍。雑号将軍か。それでは他者に官位を与えられる段階ではない・・・太守様ではないが、望み薄か)
雑号将軍、というのは権力者の都合によって量産される将軍位で、その中でもそれなりの順位があったりする。
(むー・・・)と、劉巴は腕組みをして考える、
自分のことが二の次、というのは社会・組織の中で生きていくうえでは致命的な駄目っぷりだが、官位が欲しいとか、部下に報いてやりたい、という気持ちは権力者としては悪くない姿勢だ。
ただし、主である孫策が高位高官ではない為に与えられるものがない。となればやはり独自に朝貢を、となってしまうが、そちらのほうが危険は大きい。
今の漢王朝を牛耳るのは曹操。
それだけの経済力、主である孫策を蔑ろにする行為。かの人がそういった部分を見逃すはずも無い。
絶対に切り崩しの工作を仕掛けてくるはずだ。
しばし考え、劉巴は「やはり無理だな。この件は今は考えないほうが良い。まだその段階に達していない」と、現状からあっさりと切り離す。
そうやって劉巴が一つの考えを終わらせた頃に、唐突に「影」が天井裏から舞い降りてきた。
その「影」の手には一枚の書状が握られている。

「ん? 何かあった?」
高順の問いに、影は畏まって答える。
「はっ。南蛮王孟獲殿よりの御返事にございます。これを」
「おお、もう返事が来たかっ!?」
影は、高順に書状を渡して再び天井裏へと姿を消す。
「・・・南蛮王からの返事? 太守様、それはどういう」
書状の封を開けて拡げている高順に、劉巴は疑問を投げかける。
「同盟しましょ、良い関係を築きましょ、という手紙を送ったのさ。時間がかかるかなぁ、と思ってたけどけっこう早く返事が・・・おおぅ。話し合いに応じてくれるってさ!」
「は、はぁ・・・」
自分が知らない間に手紙を出していたのか・・・しかも、孫策様からの指令が来る前に。抜け目がないのか、独断専行の気があるのか。
「よし、そうとなれば善は急げ、だ。すぐに兵を用意して・・・そうだ、南蛮の人ってどういう贈り物すれば喜んでくれるんだろう?」
「はい? まぁ・・・無難に金銀、食料。といった所ではないでしょうか」
「やっぱそこら辺か。よし、連れて行く兵はそれほど多くなくて良い。けど、万一の為に3千ほどはいつでも出発できるようにしておいて。人選は任せます。あと、贈り物も多めに用意しておいてね。」
話を進める高順に、劉巴は待ったをかける。
「は・・・あの、本当に行かれるのですか? 罠かもしれませんよ?」
「向こうがこっちに罠を仕掛ける理由は無いと思うね。 ま、そうなっても問題ないように連れて行く人数を抑える訳だし、話し合いをしましょう、と言いだしたのはこちらだしね。誠意を見せる必要はあると思うのですよ。」
細かい事はいいから早く早く。と高順は劉巴をせっついていく。
「誠意はともかく少しも細かくは、じゃなくて今からの政務はどうなされるんです!?」
「何も聞こえないなぁハハハハハ。」
「誤魔化そうとしている!? 止めても無駄でしょうから止めはしませんが、本日の政務を終えてからになさいませ!」
「ちょ・・・いだぁっ!? 劉巴殿、何その握力・・・いだだだだだああっっっ!!??」

高順は劉巴に首根っこ掴まれ力ずくで連行されていく。
じぃっと劉巴に見張られつつ「早く行きたいのにー・・・」とションボリしながら仕事をする高順であった。





~~~楽屋裏~~~
風邪で2日ダウンしてしまいましたあいつです(挨拶
季節の変わり目になるとどうしても風邪を引く・・・ぬがぐぐぐ。

さて、史実同様に西涼軍はボロ負けするのでしょうか。
多分します(あれ?

あと、孟獲は真・恋姫の娘じゃないです、今は。

・・・この頃PCが「ピーピーピー」と三回ほど音鳴らして接続が落ちるんですが・・・何でしょうねコレ。
もうPC寿命なんでしょうか?

それではまた次回。




~~~懲りずに武将紹介~~~

今回の御題は公孫さん。
じゃなくて公孫賛。


公孫賛、字は伯珪。
演義・正史共に劉備の兄弟子ポジションである。

長所・・・
 ○騎馬戦では無類の強さを誇った。
 ○烏丸・鮮卑など、異民族対策のエキスパートと言っても良いかも。
 ○容姿が優れていたらしい。三国志って容姿が優れてるって人多いよね(は?
 ○白馬義従。
 ○白馬に騎乗した兵で編成された部隊は異民族からは相当恐れられていた。白馬来たら逃げれ! なレベル。
 ○一時的に劉備の主君だった。 
 ○ぶっちゃけ見捨てられるフラグです。(長所と関係ない

短所・・・
 ○猜疑心の塊。
 ○袁術に属して公孫越を援軍に出す。その公孫越が袁紹軍の部将である周昂との戦いで戦死、袁家と不仲に。・・・まあ、気持ちはわからんでもないけど。
 ○劉虞を殺したことについては一切の弁明は許しません(誰
 ○最後が妙に情けない。
 ○さすがに蒼天のようなラストではなかった・・・とは思いたい。  
 ○やってる事は董卓とあまり変わらなかったりする。


公孫賛。
貧しい生まれだったようで、そのせいか上流階級という存在に対して弾圧をする人だったそうだ。
自分が太守になった後に、あからさまにそういった人々を弾圧している。コンプレックスを持っていたようだが、周りの人からすれば逆恨みそのもので迷惑と言うかなにと言うか。
「こっちが目をかけて取り立ててやっても、奴らはそれを当然と思うからなァ」ということらしい。
そのせいで人心が離れ優れた人材が寄り付かなくなるのだから・・・認識は間違っていないかもしれないが、やってる事は大間違いだったりする。
こんな男のすぐ側に配置される劉虞も運が悪い。
なにせ、武力で異民族を打ち倒した・・・つまり、苦労をしていた公孫賛だが、劉虞が異民族対策に送られてくると、その異民族はあっさり方針転換。
公孫賛に対しては頑なな態度だったのが、劉虞が来た瞬間に「和睦! 降伏しまーす!」なのだから、そりゃ面白くないだろう。
ここで劉虞も、公孫賛の逆恨みメモリーに登録されたびたび陰湿な嫌がらせをされる羽目に。

嫌がらせ内容:丘力居から劉虞に送られた使者を斬って和睦を台無しにさせようとする(失敗 
      :劉虞から異民族懐柔のために遣わされた金子を奪う。公孫賛曰く「あいつらまた反逆するから意味ねーし。俺が貰っておいてやんよ!」*複数回
      :これらの件に業を煮やした劉虞に「ちょっと頭冷やそうか」とばかりに会談を要請されるが「俺、腹痛いんで」と逃げる。

・・・董卓と同レベルのアレにしか見えません。

劉虞としても我慢できるわけもなく、袁紹に敗れた後の公孫賛を攻めようとしたことがある。
が、劉虞の参謀である魏攸という人が「あんなんでも朝廷には必要な人材なんです。ちょっとした悪行には目をつぶって下さい。」と説得、思い留まらせている。
ところがどっこい、その魏攸はすぐに病没。劉虞は待ってましたとばかりに軍勢を集めて、公孫賛の何倍もの兵で攻め入るが・・・。
結果、信じられないくらいの大敗北。
逃げ切れずに捕まり市へと引きずり出され、その上で
「今から雨乞いを決行する! by公孫賛」

意味が解らないので説明すると「劉虞は袁紹に皇帝になれって言われてんだよなぁ? 皇帝になるような存在なら今から雨を降らせて処刑を止めることもできるだろうぜぇヒャッハァ!」
凄まじい難癖である。
雨乞いの技術などあるわけもない劉虞は、そのまま首チョンパされ、不幸な人生を終えた。
降ったとしてもチョンパされてただろうけど。
・・・公孫賛に関ったせいで。

こーいう事を仕出かす危ない奴なので、自然と民衆は反発。
袁紹に攻められ、敗北し、最後は易京に城を築いて篭城。袁紹をおびき寄せたり迎撃したりで意外と手を焼かせることになる。
しかし、よほどの人間不信に陥っていたか・・・この時点の公孫賛は、どうしようもない状態であった。
報告、というのは基本的に部下から聞くものだが、公孫賛はソレをしていない。報告をするのは正妻とか妾の役割だったようだ。(この時点では
つまり。

「殿ー! また袁紹が攻めてきましたよー!」(妾さんが大声で
「えーおいらいきたくないー」(公孫賛

みたいな状態だったのである(末期的すぎる
不利になった瞬間に門を閉じて出撃した兵士を見殺しにしたり(有名な話だと思う)して自分で自分を追い詰めた公孫賛。
そんなんで人がついてくるはずもなく、多くの人々が公孫賛を見捨てて逃亡していく。
その上、袁紹は地下道を掘って無勢となった易京を攻略。
逃げる事もできなくなった公孫賛は家族を全員殺して自決・・・こんな流れで、袁紹は完全に北方を制圧する。

袁紹も公孫賛に楽に勝ったわけではなく、苦戦を重ねて漸くの勝利だった、ということからそれだけの実力を持った群雄ではあったと思うが・・・何と言うか。
色々な作品では1行か2行くらいの説明で「袁紹に負けた」くらいの扱いでしかない事も多いが、三国志前半を彩る1人であったことは間違いないと思う。
後半では、アクの強い群雄がいないし・・・公孫淵はあっさり負けすぎなのでどうもパッとしない。やはり、三国志は前半以下略。
ボロクソに書いたが、あいつ個人は好きな群雄の一人である。
一度だけSLG三国志で、CPU公孫賛が袁紹を降して北方の覇者となったことがあったのだが・・・(実話
「盛り上がってきたぜぇー!」となったのを今でも良く覚えていますw


ついで。
夏侯楙。

演義では夏侯淵の子、史実では夏侯惇の子。次男だったかな?

史実:曹丕とは仲が良かったらしく、彼が帝位に就くと夏侯淵の持ち場であった長安に駐屯する。
  :父親が功臣だったという理由で曹操の娘を娶っているが、仲は悪かった。だって妾ばっか寵愛・・・
  :金儲けが趣味でそれ以外の才能が無い、と言う扱いを受ける。
  :弟たちとも仲が悪く、夏侯楙の妻に罪を上奏させ、曹叡も処刑する気だったようだが、部下のとりなしで何とか助かっている。
  :それ以降、特に話は無い・・・と、人格的に褒められたもんじゃない事がわかる。

演義:金儲けが趣味で部将としての才覚が無い、というのは史実と同じ。ただしこっちは史実以上に悪く書かれており・・・

  :自分から申し出て諸葛亮と対峙、あっさり敗北して捕縛される。
  :姜維を得たい諸葛亮の策にかかって、姜維を失う。
  :羌胡へと逃げ、そのままフェードアウト。
  :司馬懿が曹叡に「夏侯淵の息子兄弟を従軍させとうございます」という上奏をしたときに「そいつら、羌胡に逃げたまま戻ってこない夏侯楙に比べれば出来はいいよね?」とか言われる。
  :魏延からも「武辺の志、微塵も無し」という評価を受け、史実以上に駄目っぷりが強調されている。
  
この人も「演義被害者」だと思うが・・・。
演義は蜀を善玉扱いしているとは言え、なんで魏の人って駄目な人が多いのだろう。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第90話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/10/17 09:17
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第90話


~~~交阯~~~

高順は4千の兵と周倉・李典・沙摩柯・蹋頓を引き連れて西北、南中の雲南を目指す。
そこが南蛮王である孟獲の所在都市・・・なのだが、近づくにつれて「ん?」と思い幾度か首を傾げた。
すぐ側にいた李典が「お、どないしたん?」と話しかけてくる。
本来の編成と違うのだが、今回に限っては李典も連れている。
趙雲は太守代理として残ってもらい、まぁ・・・劉巴に絞られているだろう。
帰ってきたらネチネチと嫌味を言われそうだが、自分に何かあった場合、彼女には政を代行してもらわなければならない。
そんな事が起きなければいいが、もしもの時の為の予行演習だ。
「ん、あぁ・・・どうもね、思ってたのとは違うな、と。」
「何がやのん?」
「いや、ね・・・失礼な事を承知で言うと、ものすごい未開の地とか、木が鬱蒼と茂っているとか、無駄に暑いとか。偏見なんだけど、そういう場所かな? と思ってたんだよ」
ところがなぁ、と高順は辺りを見回した。
確かに木は生えている。生えているが鬱蒼としているわけでもない。
道も、ソレなりに舗装され案外に人も出入りしているようだ。
一つ気になるのは、どうも人が少ないように見える。
まだ雲南までは距離があるし、小さな村々ばかりということだろうか。実際、それほど大きな町と言うのは見ていない。
気候も交阯に比べれば少し涼しいし、けっこういい所かもしれない。
気楽なものだが、高順はなんとなく嫌な匂いを嗅ぎ取っていた。
「せやなぁ。きっちりとした生活しとるんちゃうかな。これやったら、軍用路の舗装云々も思ったより楽にでけるかも?」
「それは同盟が成立したら、だけどね。」
「?? なんや、気乗りせんよーな事言うて。」
「何かさ。また厄介な事に巻き込まれそうな気がしてね・・・」
苦労の多い彼らしい台詞である。
そんな彼の独白に、周りは冷たい反応を示す。
「いつもの事やん。」
「いつもだろう。」
「毎度おなじみです。」
「大将が何事にも巻き込まれる性質ってのは、俺でもよく解ってるっす」
「えっ!?」
李典だけではなく、沙摩柯・蹋頓・周倉にまであっさりと一刀両断された高順であった。


実は、道案内の為に南蛮出身である楊鋒も連れていたのだが「特に迷うような場所は無いですよ?」と言われていたりする。
信用しないではないが、実際にこの目で見ないとなんともいえない。
それに彼女は孟獲と知り合いのようで、交渉をする場合、少しは有利になるかも? というちょっとした打算もある。

特に妨害があるでも無し、普通に雲南に到着する高順達であったが、高順の嫌な予感が当たったようだ。
遠目から見ても街の規模は大きい。城砦があって、街があって、その街を壁で囲う。漢土とまったく変わらない。
だが、近づくにつれて壊れかけの門。そこかしこに転がっている負傷者。
苦悶の声をあげる者もいれば、恐らく既に亡くなっているのであろう、親か、それとも家族か、大人の遺体に縋って泣く子供の姿。
まるで、つい先ほどまで戦闘があったかのような状態だ。
・・・こうして、彼らは予想通り厄介事に見舞われる。



同時期、潼関。
首尾よく長安を陥落させた馬騰だが、ここに留まって何かをする、という事は考えていなかった。
戦火に見舞われた区域には食料を援助したりとか、その程度の事はやったが、ここを領土として組み込むつもりがないのである。
馬超たちだけで落とせたところを見れば、それほど守りの堅い都市と言うわけでもなく、曹操との戦いを目前にした今では維持するにも手間がかかる。
捨てることを前提にしてしまえば若干の守備兵を残し、戦力の殆どを潼関に集中できる。
ここで負けたとしても西涼に戻れば良いだけの事。ここで戦力を失わなければ、の話だが。
しばし遅れて、曹操軍も同地に布陣。
ようやくに会戦間近、というところまで来ていた。
馬騰側はこの時点で潼関の側面・後方に砦を作り、挟撃をされぬような陣形にしている。
対する曹操は着陣したてで大したことは何も出来ていない。
このまま戦闘になるか、と思ったが曹操はその前にやりたいことがある、と夏侯淵にあることを命じた。

夜、馬騰側陣地。

馬騰は各軍の長と最終的な配置の確認を行っていた。
後方は馬鉄・馬休・馬岱、側面は自分と韓遂を除く10軍閥を二手に分けて配置。
中央、つまり馬騰のいるここには、馬騰と韓遂、そして馬超、龐徳。
後方部隊は、曹操が蒲阪津(ほはんしん)を渡河して後方に回り込まれる可能性も考えている。
馬岱は遊撃隊として使うつもりで、守るだけなら馬鉄・馬休でもできるだろう。遊撃としてなら馬超を、という考えもあるが、あれはどうにも熱くなりすぎるきらいがある。
それを思うと、馬超ほどの統率・武力はないものの、冷静な判断のできる馬岱のほうが使いやすい。引き際を誤らないことも大きな強みである。
戦力の分散は好ましくないが、一箇所に留まって袋叩きにされるよりは余程マシだ。各個撃破もあり得るが、そこは遊軍である馬岱らの出番だし、側面砦も1つは失って構わない。
戦闘になれば相手がどう強いとかクセも解るが、そこは実際に戦ってからということになる。
ある程度の方針を決め、各部将が陣幕を出て暫くして。

「叔母さま、おーばーさーまー!!」
長い髪をサイドポニーで結った少女・・・馬岱が陣幕に駆け込んできた。その手には矢が握られている。
「どうしました、蒲公英(たんぽぽ、馬岱の真名)。」
「これ! 曹操軍がさっき射込んで来たの!」
「見せてみなさい」
馬岱はしゅるしゅると文を外し、馬騰に手渡した。
受け取った馬騰はそれを拡げて文面に目を通していく。
「・・・・・・・・・・・・ふむ。曹操自らの書面のようですね。・・・・・・」
「義姉上、曹操は何と?」
馬騰が読み終わるのを待ってから、韓遂は声をかける。
「もしや、降伏勧告ですかな?」
「まさか。話し合いがしたいそうですよ。」
「・・・はぁ? 話し合い?」
訝しげに言う韓遂に手紙を渡し、馬騰は畏まっている馬岱に「馬を用意して。後は・・・そうね。馬超、いえ、龐徳を呼びなさい」と命令を下す。
馬超ではいきなりどう暴発するかわからない。
「は、はいっ!」
パタパタと走っていく馬岱の姿を柔らかい笑みで見送ってから、馬騰は韓遂のほうへと向き直る。
韓遂は手紙の文面を読みつつ「なるほど・・・」と呟いた。
「策かどうかは知りませぬが、義姉上と話をしたいと言うのは本当のようで。」
「ええ。それにかこつけて私を暗殺するつもりですかね。」
「はは、あの小娘ならあり得る、とは言って置きますか。ただ、あれは義姉上や私を配下にしたいようですからな。案外、本当に話をしたいだけやも知れませぬ。」
「既に「断る」と明言していますけどね・・・行くだけ行って見ますか。」
「御意。」
二人は陣幕を出た。

~~~半刻後~~~

馬騰側、曹操側。両陣地のほぼ中間点にあたる場所。
夏侯惇と許褚を従えた曹操。龐徳・韓遂を従えた馬騰。両者の後方にもごく僅かだが兵はいるが、一応、交戦するつもりはない。
馬騰、曹操。両者は静かに見つめ合い、馬を寄せていく。夏侯惇が続こうとしたが、それを曹操は手を挙げて遮る。
夏侯惇は不承不承、その場で待機した。

曹操も馬騰も、相見えるのは初めてである。
馬騰は曹操のなりの小ささを見て、まるで幼い、と見たが、すぐに威圧感のような物を感じて「なるほど、この威圧感。覇王と呼ばれる所以ね」と納得した。
曹操は初めて見る馬騰を興味深そうに見つめている。
彼女に解るはずもないが、馬騰は黒い着物のような、どちらかと言えば喪服に近い感じの服装である。
つうか胸でかいし。何この凶器になりそうな胸っ! またこの手合いか! と曹操は心の中で「ぎりぎりぎり」と歯軋りした。
それはともかくも、金属製の脛当てや腕鎧を着用して、動きを妨げないようにしているようだ。
(得物は・・・刀、か。)と、曹操は馬騰が腰から吊り下げている物を見つつ、馬を近づけていった。
馬を寄せ合い数秒、先に口を開いたのは曹操だった。
「初めまして、馬寿成(寿成は馬騰の字)。」
「初めまして、曹孟徳。」
「さて、色々と言いたい事はあるのだけれど。もう1度、私の口から伝えるわ。私に仕えなさい、馬寿成。相応の位で迎えるわ。貴方だけではなく、貴方の義妹、一族もね。長安を陥落させたことも不問にするわよ。」
一族にも相応の位を与え、敵対行動を見逃す、というのだから破格の申し出である。しかし、馬騰はあっさりと。
「お断りします。」
と、答えたのであった。
「何故かしら。征西将軍では不満?」
「私は今現在、漢の征西将軍。今ある将軍位をどうやってもう一度渡すのです?」
「歯痒いわね。・・・私は」
「言わずともわかっておりますよ、魏公殿?」
僅かに皮肉を込めて、馬騰は言いかけた曹操の言葉を打ち消す。
「魏公殿はこう仰りたいのでしょう。「魏の征西将軍」に任ずると。」
馬騰の言葉に、曹操は隠すことなく「ええ、その通りよ」と返す。
「いずれ私は魏王となり、漢の中に魏という新たな国が出来る。「劉の氏なき者が王を名乗らば、天下を挙げてこれを討ち果たす」という時代ではなくなるわ。」
「そうでしょうね。新たにできる国は、きっと素晴らしいのでしょう。新たな気風、新たな政策、新たな王。既に倦んでいる漢王朝、この時代の流れを推し留める事は誰にも出来ないのでしょう。」
どこか遠いところを見つめて馬騰は言う。彼女には、新しい時代、新しい国、そこに生きる人々の姿が見えていたかもしれない。
「それが解っていて、何故私の誘いを断るのかしら?」
「私が漢の臣だから、ですよ。私が貴方の言葉に乗ってやる必要が無いだけです。」
「・・・?」
「貴方が漢の丞相であれば、私は従ったかもしれません。ですが、あなたは漢の臣という範疇を既に飛び越している。魏王となる、その一言を己の口にした貴方に、私が従う道理はありません。」
漢の臣である曹操は肯定する。だが魏王となる曹操を、素晴らしい国を作ることが出来ようが出来まいが、漢の臣ではない貴方の命に従うつもりは無い。そんな言葉であった。
「・・・。愚かね。自分で推し留める事は出来ないと言っておきながら、忠誠を尽くし続けるの? 流れを読めない訳ではないでしょう。」
「私自身も一度は漢王朝に逆らった身ですから偉そうなことは言えませんけれどね。それとも、魏公殿は流れの良し悪しで変えられる程度の忠誠心をお望み?」
「む・・・。」
馬騰の言葉を聞いて、思わず周喩の事を思い出す。そういえば、あの女も同じような事を言っていた。
「例え何と言われようと、私の意思は変わりませんよ。・・・これ以上語ることはありません。ここからは魏公殿のお好きな力押しでどうぞ。」
それだけ言って馬騰は馬首を返し、韓遂・龐徳もそれに従い引き返していく。
曹操は「はぁ」と溜息をついてソレを見送る事しかできなかった。
まあ良い。それならば、そちらの望みどおり力づくで言う事を聞かせるのみだ。
しかし、この頃自分はどうにも運が悪い。これは、と思った人材を招こうとしても断られる事のほうが多い。
何故かしらね、と曹操は肩をすくめて、馬騰ら同様に馬首を返そうとした。ところが、だ。
その脇を、夏侯惇が騎馬を駆って駆け抜けたのである。

「ちょ、春蘭!? 貴方何をっ」
「わー、春蘭様ー!?」
驚いた曹操と許褚が止めようとするが、夏侯惇は止まらない。
話の内容は全く理解できていない夏侯惇だが、「何だか良く解らないが、華琳様が馬鹿にされた!」というのだけは解っていた。
それ以外、この頭の中身が残念な事になっている娘の動く理由が無い。というかそれが全てである。
「馬騰ーーーー! 貴っ様ぁ、よくも華琳様を侮辱したなぁーーーー!?」
大声で叫んで、夏侯惇は韓遂・龐徳を無視。大刀を振りかぶって突撃、斬りかかって行く。だが・・・。
韓遂の横を通り抜けようとした夏侯惇だが、その韓遂が抜いた長剣に斬撃を食い止められたのである。
ずざぁぁああっ! と騎馬が急停止する。韓遂に止められた故の急ブレーキといった所だろう。
「何っ・・・!」
夏侯惇は大刀を両手持ちにして斬りかかったのに、韓遂はそれを片手で易々と止めたのである。
夏侯惇の馬鹿力に騎馬の突進力が加わっている残撃を、しかも、涼しい顔をして、だ。
「・・・おい、雌餓鬼。」
「むわっ! め、めすがきい!?」
雌餓鬼扱いされた夏侯惇は、韓遂に憎悪の眼差しを向ける。しかし、韓遂は夏侯惇に顔を向けようともしない。
「お前如きのたわけ者が、西涼盟主・馬寿成に挑もうてか? 身の程を知れ。」
「何ぃっ!? 私の何処がたわけだ!?」
「何もかもが、だろうよ。」
「ぬぐぅっ・・・・・・!」
夏侯惇は力を込めて韓遂を押し込もうとするが、びくともしない。
「解らんか? お前を押さえ込んでいる間になぜ龐徳も義姉上も手出しをしようとしないか。」
それはお前の頭の悪さを哀れんでやっているだけの事よ、と韓遂は嘲笑した。
夏侯惇は思わず龐徳や馬騰の方へ顔を向けるが、龐徳と呼ばれたガチガチに鎧を着込んだ部将は面白くもなさそうに夏侯惇を見るだけ・・・に、見える。
夏侯惇からは兜が邪魔で顔が良く見えない。馬騰に至っては振り向いてすらいない。
完全に無視されているのだ。そこに、更なる追い討ちがかかる。
「自分より弱い奴しか相手にしたことが無いだろ、お前。」
「ぬぁっ!? い、言わせておけばぁっ!」 
顔を真っ赤にして怒る夏侯惇。しかし、どれだけ腕に力を込めても韓遂を退かす事が出来ない。
「図星か? まあ良いさ。それでも義姉上に挑みたいのなら・・・フッ!!」
「ぬわぁっ!!?」
韓遂は掛け声と共に長剣を振り上げ、夏侯惇の大刀を弾き騎馬から振り落とす。
転げ落ちた夏侯惇を見下してから、韓遂もまた背を向けた。
「半生を乱の中に置くぐらいはして欲しいものだ。もっとも、自身より強い存在に挑み続ける気概のなさそうな雌餓鬼に、我らと同じことが出来ようはずも無いが・・・。」
殺そうと思えば殺せた。が、正直言って面倒くさい。



「・・・蛍。」
「何ですか、義姉上」
先頭を走る馬騰の呼びかけに、追いついてきた韓遂は笑顔で答える。
「何故殺さなかったのです?」
「はは、あのような小娘、いつでも首をねじ切れる。」
いやはや、と韓遂は取り繕うようなものの言い方をし、馬騰もさしてきにしないとばかりの反応を見せた。
「そう。どうでもいいですけれどね。」
「どうせ殺るなら戦の只中。そのほうがまだ、あの小娘にも救いがあろうもの。しかし、軽めの挑発にああも簡単に引っかかるようでは・・・ふん、曹操めも苦労しているでしょうなあ。お前もそう思わんか、龐徳?」
「うむ。」
「・・・ふっ。」
遠慮の無い龐徳の、しかし事実そのものである一言に、馬騰は思わず苦笑してしまった。


「ちょっと、春蘭。大丈夫?」
かっぽかっぽと蹄を鳴らし、曹操と許褚が茫然自失となっている夏侯惇に馬を近づけていく。
助けるつもりが無かったのか、まあ死なないだろうと思っていたのか。大丈夫? と聞きつつも曹操は心配している様子ではない。
本音は解らないが、夏侯惇はまた涙ぐんでいた。
「あううぅぅう・・・また、また馬鹿にされたぁ~~・・・」
「・・・いつもどおりじゃない?」
「あはは、いつもどーりですね。」
「え・・・!?」

冷静かつあっさりと一刀両断されてしまう夏侯惇であった。



~~~楽屋裏~~~
あれ、韓遂強くないか・・・あいつです(挨拶
ま、まぁ・・・西涼の狼だしね! それくらい強・・・く(言い訳言い訳
でも、じっと叛乱やら内部抗争の続いた西涼の兵がそこまで弱いとも思えないのですけどね。
それを言うと荊州が弱くなりすぎますが(ぁ

今回はアレです、交馬語ですね。
史実では曹操と韓遂ですが、ちょっと弄って曹操と馬騰にしてみました。
この作品の曹操はどうにも多くの人々にそっぽを向かれてますな。劉備ほどではないにしても。

馬騰と高順はどんな動きになるのでしょう。やっぱ3行で終わらせて・・・
あ、次回は両方6行で91話終わらせよう(おい


~~~懲りずに武将紹介~~~
今回はちょっと番外。

本日の御題。
禰衡。

この人は、一瞬だけの出番だがかーなーりー有名だと思う。
左慈とかおかしな人々は別として、正史で数少ない「曹操をおちょくった」人物なのだ。
他には張松と孔融くらいか。
大体「今の世で人物と言えるのは誰であろう?」と聞かれて「そうだねぇ、孔融と楊修くらいじゃね?」となんとも評価に困る人間を挙げている。
楊修はともかく孔融を挙げるというのはちょっと・・・

楊修のほうは頭がきれ過ぎるという事に、袁術との縁戚関係。また曹植派(荀彧も曹植派)ということもあって、かなーり気の毒な事情が重なってあの最後に繋がる。
孔融に至っては・・・まぁ、同じく処刑されるのだが、腐れ儒者というか何と言うか。正直に言って同情できる余地が何も無い。むしろ殺されて当然(笑
曹操を軽く見て、それが許されると勘違いしている時点で死亡フラグマカビンビンである。
孔子の子孫の一人だが、偉い奴の子孫だからって有能と言うわけではない、を見事に体現してくれた、とは言えそうだ。
楊修を評価するのはいいとして、孔融を評価するのはねぇ。

ともかく、禰衡のやった事を挙げていくと。

才能はあったが、それを鼻にかけて他人に対して凄まじく他人を見下す態度・発言をした為に誰からも嫌われていた。
曹操の治める許都にきたものの、ここでも他人を侮辱するような発言ばかりして、やはり嫌われている。
相手が荀彧だろうが誰だろうが関係なくこき下ろして、これまた嫌われる。
荀彧を「弔問の使者が適当」っていうのはあまりに・・・。

曹操にまで「私のような才ある人間を重んじないとは、貴方は偉大な匹夫ですな」と言ってしまう。
カチンときた曹操に「ではお前自身はどうなんだ?」と聞き返されても動じない。
「私の胸の中には民を安んじるための方策ばかりで私利私欲、欠片もない。私のような人こそが真の人材と言うべきで、そこら辺の者(荀彧や夏侯惇らのこと)と一緒にされるのは屈辱だ」と、返事。
自画自賛此処に極まるというべきだろう。どこかにいそうだなあ、こういう人w

曹操も扱いに困ったようで「殺すのは簡単だけど、それも癪だしなぁ・・・そうだ、劉表のとこへ送れば良いじゃない!」と、体よく追放している。
むしろ、追放で済んだだけマシだったのか。
劉表には尽くしたらしいのだが、その部下を詰る発言を続けて、これまた追放。今度は黄祖の元へ。
ここではそれなりに上手くやっていたようだが、調子に乗った禰衡、黄祖にも無礼な発言をしてしまう。
「あんたは社の神と同じだ。賽銭や供物だけ取り立てて、自分は何もしない。」と。
ここまで言われて黙っているほうが無理だと思うが、黄祖にあっさり処刑されたという。
・・・孫堅や孫策から夏江を守って孫権も苦戦させた黄祖にこんな事言うのもどうかしていると思うがどうだろう。

さて、この禰衡という人が本当に優秀かどうか。実力は未知数・・・か?
頭は良かっただろう。悪意バリバリとはいえ、問われて即座にこういう発言が出てくるというのは頭の回転が良くないと無理だ。・・・ごめん、頭が良くても吃音の人がいましたね。ドンタコス(誰
ただし、孫休もあてはまるが「頭の良い馬鹿」だったように思う。こんなに人格的に問題があるようでは何を言っても回りも下も着いて来ない。
民を安んじる~とかも言っているが、うそ臭いし。

「俺は死人に見送られて荊州に行くのかぁ」や曹操の目の前で素っ裸になって「お前達と違って、俺の体に汚い場所など何処にもない!(股間と尻除く)」
など、見所のある発言をしまくった結果の死だから本人は満足していたかもしれない。
性格の悪さが全てを台無しにした、という程度の奇人だった。
 

・・・あ、番外編忘れてた(ぇ?



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第91話(殆ど簡単紹介)
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/10/20 21:57
~~~6行で解る西涼&高順伝~~~

西涼の人々が負けた。
色々死んだ。
何とか逃げた。
高順に合流した。
色々あった。
天下統一した。

~~~高順伝 お し ま い~~~







~~~楽屋裏~~~
どうも、あいつdうわちょっとおまいら(ry


作者は、怖い目をしたおにーさん達に拉致されたようです。










【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第91話


「あ~ね~じゃ~~~・・・?」
「はい・・・」
曹操を始めとしたその他の面々。
曹操の陣幕には魏の主要な武将が、全員といわずとも揃っている。
その中で、腕組みをして仁王立ちする夏侯淵と、そのすぐ前で正座させられ涙目になっている夏侯惇。
夏侯淵は、曹操もたじろぐほどの威圧感をもって姉、夏侯惇を見下ろしていた。
「で、わき目も振らず「あの」韓遂に斬りかかった、と?」
「い、いや、でもな? 華琳様が馬鹿にされて・・・」
言い訳をする夏侯惇だが、夏侯淵は「あぁ?」ってな感じで睨みつけて問答無用に黙らせる。
ちなみに、命令もなく勝手に行動した・・・ということで、夏侯惇は曹操から「お仕置きとして、暫く夜伽無し」という致命的な処分を喰らっている。
曹操と夏侯惇の関係は周りも良く知っているので皆「ああ、死ぬより辛いだろうな・・・」と思ってしまっている。
「会談を申し込んだこちらが、いきなり斬りかかった・・・それだけで斬首ものだというのに」
夏侯淵は、今朝早くに馬騰側から撃ち込まれてきた矢文の文面を見て、卒倒しそうになった。
文を書いたのは馬騰らしく、夏侯淵が「一度、姉者に教えてやって欲しいな・・・」と思うほど流麗かつ繊細な文字であった。
そして、その文を手に持ち中身を読み上げていく。
〔昨日、そちらの夏侯惇殿が私の義妹である韓遂に斬りかかった事、特に気にしていません。夏侯惇殿の性格は、直情径行。魏公殿と私の話を聞いて、激昂してしまったのでしょう〕
と、敵なのにフォローするような意味あいのことが書かれている。
〔謀殺するにしては、それらしき用意をしたようにも見えず、夏侯惇殿の独断であったように思います。私の言にも無礼が無かったとは言いきれません。何より、勇将として名高き夏侯惇殿がつまらぬ事で処分、処刑されるやもしれない、というのは思いもよらぬ事。〕
敵である私の言葉では意味が無いかもしれませんが、寛大な処置を頼みます、と締めくくられている文を、夏侯淵は一字一句逃すことなく読み終えた。
「・・・(真っ青になる夏侯惇」
「・・・はぁ(やっちゃったなぁ、って感じで溜息をつく曹操」
「しかも、韓遂まで「クヨクヨするなヨ。」と書き添えている始末・・・!(怒りゲージMAXぶち抜いていそうな夏侯淵」
「あ、あわわわ・・・」
夏侯淵は完全に怒っている。普段は軽く嗜める程度で済ませる妹だが、一度怒らせると曹操ですら「あまり近寄らないようにしないと・・・」と遠慮するほどの怒気を見せるのだ。
「・・・華琳様っ!」
「ひわっ!? ななな、何かしら!?」
「暫くの間、姉者を戦場に出すべきではないと思いますがいかがでしょうか! あとは将軍位の返上、兵卒に落とすことも検討するべきです!」
「ぬなぁー!? おい、秋蘭、私に戦場に出るなってそr「五月蝿い姉者は黙れ死にたいか」ごめんなさい(涙」
この遣り取りを見つつ、曹操は「では、秋蘭の言う通り、将軍位を召し上げるわ。高位にある武将として、あるまじき事をしたことは事実。しかも敵に命乞いされる恥まで与えられたのだから」とあっさり締めくくりに入り始める。
「そ、そんなぁ~~~・・・」
結局、夏侯惇は罰として夏侯淵の言う通りの処分を下される。
だが・・・
「その代わり、魏の将軍位。略式の雑号だけど、それを与えるわ。無位無官の兵卒にしたところで、周りの兵が迷惑でしょう?」
「へ? え、ええと・・・」
「活躍を見せることね、春蘭。」
曹操の言葉には、活躍すれば更に高位の将軍位につけるという意味が含まれる。今までの将軍位は召し上げるが、戦場にも立たせる、と。
「は、はいっ! お、汚名返上・・・いや、挽回だっけ? してみせます!」
「・・・汚名返上で正しいのよ。」
曹操は夏侯淵と目を合わせ、二人で「ニヤリ」と笑う。実はこれ、曹操と夏侯淵共同の出来試合のようなものなのである。
いずれは魏の臣となるべき夏侯惇だが、漢王朝の将軍位を貰ったままと言うのは都合が悪い。
なら、夏侯惇には悪いが、今回の不始末を利用させてもらって正式に魏の臣に、と一芝居打ったのである。
茶番で弄られる夏侯惇は少し不幸といえるが、こんな幕間を挟んでから潼関の戦いは進んでいく。


ところ変わって雲南。

「・・・なんやろ、戦でもあったかいな。」
雲南の南門出口付近にいる高順達だが、騒然としている。
門は開け放たれているが、その周りには怪我をした人々、格好からして兵士なども混じっているが――とにかく、戦傷者らしき人々が沢山。
そのうち負傷の少ないか、無傷の兵士のうち何人かが矛を持って高順隊に向かってきた。
ああ、やっぱこうなるよね、誤解されてるよね・・・と高順は心中で溜息をついた。

「お前達、何者だ。蜀から来た連中か!」
今のでいきなり誰が攻めてきたか解ったよ!・・・じゃない。
高順は周りを見渡して「どうするべきかな?」と李典たちの反応を見た。
皆、「あんたが考えろ」みたいな表情である。
まあ、そうなるわな、と高順は南蛮兵のほうへと向き直った。別にやましい事をしに来たわけではない。堂々としておけば良いのだ。
失礼になっちゃいかんよね? と高順は虹黒から降りる。
「いや、我々は孫家の将だ。南蛮王、孟獲殿と誼を通じたく参った次第。お会いできないだろうか?」
「お前たちが孫家の者だという証拠は。」
「いや、旗を見れば・・・ああ、騙っている可能性だな。それなら・・・」
兵の言う事にもっともだ、と高順は頷きつつ、懐から一枚の書状を取り出した。
「孟獲殿から頂いた書状だ。これをご本人に見せていただければ解ると思うのだが。あ、その前に」
高順は、槍を地面に突き刺して「敵意は無いよ」とアピールしてから改めて書状を渡す。
「・・・解った、しばらくお待ちあれ」
書状を受け取った兵は、もう1人を連れて走っていった。

「しかし、随分な状態だ。李典、ちょっと・・・」
「んぉ?」
高順は李典を呼んで、何事かを耳打ち。李典は「ま、高順はんが言うなら従いますわ」と言って下がった。
随分、というのは怪我人の多さだ。医療物資・・・包帯などが足りないのかは解らないが、怪我をした部分をそのままにして苦しんでいる人が多すぎる。
李典に頼んだのは、軟膏(塗り薬)や包帯と言った物資を持ってくることだった。
暫くして、李典が新設された救護班を連れて帰って来た。そのまま「ほないくでー! 周倉も手伝い!」と周倉を引っ張って怪我人へと近づいていく。
「おい、俺もかよ!?」
「どーせ暇しとるんやろがい! いいから手伝いや!」
「お、おいィィィ!?」(引っ張られていく周倉)
当然、南蛮兵はこの動きを警戒して止めようとする。
「お、おい! 何をするつもりだ!」
「何って、見て解れっちゅーの。」
適当に言って、李典は座り込んでいるけが人の治療に当たる。
「こら酷いなー、ちょっと我慢してやー。」と中に水の入った瓢箪の蓋を空け、それを逆さまにして出血場所にかけていく。
清潔な布で拭き取り、軟膏を塗って手際よく包帯を巻いていく。
「あ、ありがとう・・・」
応急処置を施されていた民間人は何が何だか解らなかったが、そう言って李典に頭を下げた。
「ん。これくらいしかでけへんけど、我慢したってや。ほな次や!」
李典だけではなく、救護班の人々も同様に負傷者に応急処置を施していく。
「か、勝手な事を・・・おい、お前は指揮官だろう、あいつらを止めないか!」
兵士が、高順に李典達を止めるように求める。だが、高順は「断る!」と拒否した。
「はぁっ!?」
「こっちには応急処置が出来る程度の物資はあってね。負傷者が放置されているのが個人的に気にいらないだけだ。物資も人も足らんのだろ。何か企んで、ってわけじゃないさ」
「ぬぅぅ・・・」
黙って見ていればいい。と高順は相手にしない。
それを後ろから見ていた蹋頓と沙摩柯は顔を見合わせて「やれやれ」と苦笑していた。
(出来れば食料や飲料水も分けたいけどね・・・しまったな、こうなると解ってるならもっと持って来れば良かった)
うーん、と悩む高順。それを見透かしてか、沙摩柯が「なあ、高順」と話かけてくる。
「ん、何です?」
「交阯に伝令を出すべきではないか? こういう時の為に予備兵を用意させているのだろう。ついでに、黄蓋にも「異変あり」と書状を送ってこちらに向かわせるべきだと思うが・・・」
「むぅ・・・ですが」
「盟を結ぶか否かは知らないが、ここの連中を見捨てるつもりも無いだろう? 早馬を用意させる。」
反論は無いだろう、と沙摩柯は伝令を呼ぶ。
強引だなぁ・・・と思いつつ、高順は筆と木簡を用意して、黄蓋宛の伝言を書き綴った。あと、華陀も呼んでおくか、と更に書き足してから、早馬として選ばれた兵に渡す。
そうこうしている内に、先ほど孟獲の書状を受け取った兵士が戻ってきた。
随分急いで走っていたのか、それとも孟獲の居場所が遠かったのか。少し息切れをしている。
「はぁ、はぁっ。お、お待たせしました。大王がお会いになられるそうで、はぁ・・・。」
「お、おい。本当に会わせていいのか? 怪しいじゃないか。勝手な行動をしている連中なんだぞ!?」
先ほど李典を止めようとした男性兵士が訝しげに高順達を見つめるが、帰って来た兵士が制した。
「ば、馬鹿っ! !無礼を言うな」
「え、何を」
「とにかく、絶対に失礼の無いように、と大王が仰ってるんだ。無礼な事を言うんじゃない! ・・・あ、し、失礼をしました。ご案内いたします!」
「え、あ。はい。」
随分と恭しく接してくる兵士の態度に「あれ、俺ってこんな丁重な扱いうけるような存在じゃないよね・・・」と思いつつ、先導に従い、孟獲の居る雲南城へと向かう高順であった。



高順達が雲南に入城した後。
彼らを見送った兵士達が「あれは誰だ?」と噂しあった。
「こんな時期に・・・確か、孫家の使者なんだよな?」
「と、聞いてるけど・・・何でも、あれが高順様らしい。」
「・・・なぬ、あれがあの?」
「ああ。しかし、到着してすぐに民衆に施しをするとは。恩は売れるだろうけど、自分に直接の利益なんて無いだろうに」
「話に聞いていたのと変わらない人柄、ということだろうか。」
「みたいだな。あのようなお人であれば、大王も安心して話が出来るだろう。」
「同盟か・・・上手くいくのかね?」
「さぁ、孫家の使者と言う形みたいだからな・・・しかし。」
「しかし?」
「同盟が成立、ってことになればだ。中々面白い話になるじゃないか」
「中々って、何・・・あぁ、そうか。それなら、北からやって来た連中とも互角に?」
「ああ・・・それに、これを喧伝すれば兵の戦意も高まるだろ。何せ」
南蛮王と、あの高順様が同盟するってことなんだからなぁ・・・と、兵士は感慨深く頷いていた。

~~~雲南、王の間~~~
高順達が通された王の間。
そこには親衛兵と、玉座に座る女性が居るだけだった。この女性が、恐らくは孟獲だな、と誰もが思うだろう。
それはある意味正しく、ある意味間違いであるが・・・ともかく。
この女性、ウェーブがかった(何故か)緑の長髪。エキゾチックな顔立ちで、間違いなく美人の部類に入る。
ただ、頭や腕に包帯を巻いており、そこには血が滲んでいる。
見るからに痛々しいが、彼女は高順が挨拶をする前に「ようこそ、お待ちしておりました」と立ち上がった。

「お初にお目にかかります、高順様。いえ、蛮族王と言ったほうが良いのでしょうか?」
そう言って、彼女は一礼する。
王と言うものは自分より低位の者に易々と頭を下げないものだが、何故か彼女はそれをした。
「あ、はぁ。お初にお目にかかります、孟獲王。」と、高順も釣られて頭を下げ、皆も倣う。李典と周倉はまだ救護活動中でここにはいない。
(えぇと、どうしたものか。本題から入るべきか、それとも今の状況を聞くべkちょっと待って?)
「・・・すいません、ちょっと良いですか?」
「はい?」
「その、普通に流しかけましたが、蛮族王って何でしょうか・・・」
「・・・はい? あなたの事です、高順様。」



ち ょ っ と 待 っ て く だ さ い。




続く?





~~~楽屋裏~~~
や、やっちまった・・・あいつです(挨拶
でも、けっこうな数の異民族を配下にしてるんだからこれくらい・・・駄目っすか

さて、忘れ去られた人とまだ出てない人は除外される人物・・・というか勢力配置です。
時間かかったので「北に行った場合」と「人物紹介」は今回ありませんし、その為に話も短い感じでした、ご了承ください。


てんぷれぇと

~~~陣営~~~ 
名前。・性別。・人物について何か一言、或いは現状など。

例として・・・

公孫越(男) 公孫賛の親族。特に目立つ事は泣く、数合わせの為に出てきた人。 

と、こんな感じです。
真名とか字も面倒なので略します(泣

~~~劉備陣営~~~

劉備(女) 劉備陣営のトップ。現在は新野を任されている。曹操の南下を受ければ一たまりも無い、ということで孫家との同盟を画策するが・・・現状では勢力の大きさが違いすぎて同盟にならない、と荊州を得ようとしているらしい。老齢である劉表の死を待っているのかも・・・? 

関羽(女) 劉備陣営に置ける武の要の一人。色々と思うところがあったようで、政にも興味を示している。時折諸葛亮らの講義を受けている模様。

張飛(女) 同じく、武の要。まだまだ子供だがその武力は劉備陣営随一。この陣営は何度か高順に痛い目に合わされており、性格的にも合わないようだが、張飛自身は高順に懐いているようだ。 

諸葛亮(女) 恐らく三国志一有名な政治家。高順のせいで漏らした(だから何を)。この世界の劉備陣営は原作より腹黒い。主に作者のせいですゴメンナサイ。・・・つうか、なんでこの娘が初期からいるんだ。おかげで簡雍が出せない・・・いや、出てたっけ?

龐統(女) 名声は諸葛亮に劣るが、有名な軍師。影は薄いが、そもそも(以下略)。やっぱ、この二人は中盤で仲間になるべきなんだよなぁ・・・。

陳到(男) 名前だけになるが、珍しく男武将。趙雲に次ぐ、と言われる勇将。現状、戦・兵力に乏しい劉備軍では無くてはならない人材の一人。

華雄(女) 董卓・呂布を経て劉備軍に降伏。この時点では劉備軍の三指に入る武将。原作などと違って関羽と仲が悪いとかそういう事は無い。高順が姉として慕う存在で、彼女も高順を可愛がっている。たまに変な夢を見て悶々としているが、本筋には全く関係が無い。彼女の死亡フラグを折ったのは高順だが、そのせいで自分の死亡フラグを追加していたりする。ハナオ扱いしたら笑われた。

徐栄(女) 華雄四天王の中で唯一生き残っている部将。華雄より冷静であり、よき女房役といったところか。ところが、普段は華雄を困らせたり凹ませたりしてハァハァしているどう見ても危ない人。それでも忠誠心はあって、華雄の行くところにはどこへでも着いていく覚悟はある。

呂布(女) 華雄同様、降伏組。丁原を心ならずも死なせてしまった為に高順に恨まれる事になる。それでも、高順の危地を救っており、複雑な間柄である。基本的には武将として働いておらず、居候同然の扱い。彼女の食欲と食費は、劉備軍の懐具合を寒くする一因だったり・・・

陳宮(女) 同じく降伏組。自分を可愛がってくれた郝萌を自身の指揮で死なせてしまい、少なからず心に傷を負っている。高順は、陳宮が郝萌を死なせたことは知らないらしい。高順を転落死させようとした人第一号。二号は甘寧で、三号は袁紹。高順と仲が悪いように見えるが、喧嘩友達に近いじゃれあい程度な関係だったりする。

張済&張繍 (両方男) こちらも降伏組。・・・劉備軍って降伏組多いね(何処でもです)。この世界では兄弟揃って優秀。董卓を守る親衛隊扱いだが、ちゃんと武将としても仕事をしているらしい。初期予定では二人揃ってロリコンだった。 

董卓(女) 武将ではなく、現在は劉備の小間使い。特に出番は無い。

賈詡(女) 軍師ではなく、劉備の小間使いその2。高順伝正史では凄まじく嫌な奴になる。救済措置として番外編では綺麗な賈詡にした訳だが・・・あの流れのほうが良かったのかも。この娘も、これから先出番はない。


・劉備陣営、実は「汚いさすが蜀漢汚い」とか言われそうなほど黒い集団になる予定だったが「さすがにそこまで悪役にするのも」と、かなーりソフトな扱いになっている。
それでも疫病神扱い・・・すまない恋姫劉備。
君主たる劉備(史実と演義)が裏切りに裏切りを重ねた人生を送ったのだから仕方が無い。ぶっちゃけ呂布など可愛いもんである(いやいや
あまり関係ないが、劉備陣営、としたのはまだ蜀漢を名乗っていないから。
同じ理由で孫呉も未だに孫家。現在は曹操陣営だけ「曹魏」となる。


~~~曹魏陣営~~~

曹操(女) 完璧君主・・・だと面白みが無いので、周りを強敵で囲んでみた上で原作以上に色狂いにしてみた(ぁぁ)。一方的な勝ち組にするのは面白くないので、勢力・・・というか、武将の質はちょっと弱体化している。

夏侯惇(女) 恋姫界最強のDQN。この世界での彼女もDQNだが、原作からそうなのでどうしようもない。あと、原作よりは強くなっているが周りも強いので相対的にあまり変わってない感。馬に負ける程度の能力、と書くと何がどう強いのか全く解らない。

夏侯淵(女) 姉者大好き。今回はキレていたが、普段はあんな人じゃない。高順に個人戦で負けているが、弓を使えなくなったらどうしようもないよな・・・。駄目な姉と癖の強い同僚に囲まれてストレスがマッハ。高順とは気が合いそうだ。影薄い。

許褚(女) 武器の名前がいい感じにアレなちびっ子。特に出番は無い。

典韋(女) 張繍ネタが出てこなかったので、唯一の見せ場もなくなった可哀想な子。特に救済措置も無い(ぁぁ

張遼(女) 高順の子を産んだ。張遼ですよー! はすでに虎牢関でかましている。だって寿春は孫策領になったし・・・。

干禁(女) 初期から高順に従った人としては唯一曹操陣営。原作イベントがないせいで地味な存在。

荀彧(女) 犬耳軍師というか曹操の犬。そんだけ。

郭嘉(女) 曹操の軍師その2。曹操の事が好きすぎて困るが、高順の事を思い出しても鼻血を吹く模様。全部閻行が悪い。

程昱(女) 軍師その3。魏の軍師陣で一番感性がおかしくて一番人間的にまとも。冗談で閻行に高順の許婚にされかかる。本人は高順を友人として見ているが、からかうのは好きらしい。

満寵(女) 一日だけ高順が曹操の下で戦った時、高順の部下として付けられていたらしい。何故か高順を尊敬しているらしい。・・・本当に何故。

陳羣(女) 徐州の政治家で、一時期高順の下で働いていた。時折高順をしばいていたそうだ。現在は曹操の部下として広陵を治めている。劉巴と高順の縁を繋げたり、番外編では異様に男らしい行動を見せてくれたりと妙に動いている。

閻行(女) 高順の母にして西涼三狼。多分呂布には勝てないがそれ以外なら勝つ。作者の悪乗りで強くしすぎてどこぞの師匠っぽくなった。今は張遼母子、干禁と共に暮らしている。

夏侯楙(男) ネタ要員として急遽参戦。その名に負けぬ奮闘を見せて惜しまれつつ退場。あみヴぁ。なんで真名が設定されたのか。

魏続(男)
宋憲(男) 三人あわせて曹操軍の三馬鹿ラス(三羽烏)。たいむぼかん。
侯成(女) 

他多数(ぁ
(番外)

鮑信(女) 反董卓連合に参加した諸侯の一人。曹操が無名であった頃から彼女を高く評価していた数少ない同等の友人。徐州へと逃亡する呂布を追撃。華雄四天王の胡軫(こしん)・樊稠(はんちゅう)・李粛(りしゅく)を討つも、呂布には逃げられる。その後、青州黄巾との戦いで戦死。


まだ魏王にはなっていないが、一応曹魏という扱い。
この世界での青洲兵は、むしろ足手まといなイメージ。
史実でも略奪したりとかで数の多さだけ・・・屯田も上手く行かなかったようです。
現在は西涼軍と対峙している。

~~~孫家陣営~~~

孫策(女) 孫家総大将。勘と実力で乱世を生き抜く女傑。まぁ、優秀な臣下もちゃんといるし、この世界の孫家はちゃんと天下狙える気はする。死ぬかどうかは不明。最初は高順を軽んじていたが、今ではきっちり頼りにしている・・・している?

周喩(女) 孫家の筆頭軍師。孫家では黄蓋と並んで高順の事を評価しているようだ。彼女も死ぬかどうかは不明。

孫権(女) 孫策の妹。孫家、次代の王・・・だが、まだ孫呉は名乗っていないので王となるのかどうか。この世界には一刀がいないので、いつまでもツンツンされても困る・・・とSEKKYOUしてみたらものの見事に大ブーイング。後悔はしたが反省はしていない。一応、高順を口説き落として孫家に招いた人。

孫尚香(女) 孫策・孫権の妹。高順の立ち位置は一刀とは違う場所にあるので、特に彼女の出番は必要とされる場面が無い。年齢が近いと言う事で臧覇と仲が良い。

黄蓋(女) 孫家の宿将の一人。年齢的にけっこういいとこ行ってるが、この世界では少し若め。孫家陣営では一番高順を評価している。現在は高順の目付け役として同行。色々な事情があって、高順と結婚させられそうな流れになる。この91話の後になんか高順と子作りしたっぽいが、何も問題は無い。

程普(男) 同じく孫家宿将。孫堅四天王筆頭と言う立場。ナイスミドルで、高順を評価する側の一人。特に目立たないが、孫家の主要な武将の一人で孫策や周喩、孫権も頼りにしている。

韓当(男) 同じく四天王の一人。原作では何故か赤壁の時に戦死していた。

祖茂(男) 同じくry。反董卓連合の時、高順隊との戦いで戦死。

朱治(男) 目立たないが、きっちり呉郡を治めている。優等生な性格らしい。

陸遜(女) 孫家軍師その2。本を読むと性的衝動が高まるようだが、高順との絡みは特にない。ゆえに出番も無い(ひどい

呂蒙(女) 恥ずかしがりや&人見知りの軍師その3。彼女の出番も特に無い(こればっか)

甘寧(女) 孫権の身辺警護をしつつ武将としても働くどしふん水賊。周倉に「賊風情」と言ったがために「お前が言うな」と方々から突っ込まれたえぐれ胸。沙摩柯と周倉は相性が悪いようだ。

周泰(女) どしふん武将。密偵方だが武将としても優秀な人。ぬこ大好き。ぬこ繋がりで周倉と仲が良い感じ。

太史慈(男) 孫家の勇将の一人。降将だからだろうか、高順とは公私共に仲が良い。臧覇が気になるお年頃。

魯粛(男) 原作では名前も出てなかった感の孫家の知将。戦略上、高順が孫家に必要な人材と主張して、彼を擁護する立場。だが、それはそれとして普通に高順とは仲が良い。

多数の文・武官はほとんど男(面倒になった 

・・・赤壁の戦いとか起こせないような気がする。
現在は西蜀を狙って行動しているが、北方の曹操も警戒している。劉備は眼中に無い(というか荊州にいること自体知らない
南蛮の事は高順にまかせっきり。それで良いのか小覇王。

~~~高順一党~~~

高順(男) もげろ。じゃなくて、多分主人公。筆者が名づけた姦陣営と言うあだ名のほうが有名になっているような・・・。筆者は史実の高順将軍に呪い殺されても仕方が無いレベル。自分の死亡フラグを折るはずが、むしろ増やしまくってる駄目な人。まぁ、あいつの作品なのでしょうがない。類似語に「大丈夫、ファ○通の攻略本だよ!」という一句がある。

虹黒(馬、雌) 高順の2代目相棒。初代は海優という雄馬。当初は気の荒い性格だったが、多くの人に囲まれてかなり角が丸くなった。夏侯惇を毛嫌いしており、2・3度ほど返り討ちにしたり・・・あれ、強くね?

趙雲(女) 現在、高順隊の副将にして第二軍大将。高順に従う中で数少ない「諌言も辞さない」人・・・まぁ、他の人が盲目的すぎなだけ。高順隊最強戦力と言える。

楽進(女) 高順隊第二軍の武将・・・まぁ、副将といっても差し支えない。恋姫能力値が素で低いと思う人の1人。少しだけ、と思ってたら信じられないくらい強くなっていた。やっぱ5段階評価じゃ無理だよなぁ・・・いつか「(独断と偏見に満ち満ちた)あいつ的能力値」でもやってみたいもの・・・駄目?

李典(女) 戦闘力は他に譲るが、それ以外で部隊に大いに貢献している人。投石機を口頭で教わってきっちり形にするとかどんだけ才能があるのか。楽進同様初期から高順に仕えている。

周倉(女) 高順の親衛隊長。黄巾の乱に黄巾側として参加していたが敗北。山賊に身を窶していたところを高順に拾われた。張三姉妹に心酔していた、というわけではなく、きっちりと自分なりの信念をもって参加している。最終決戦の折、高順の奮闘ぶりを見て密かに憧れていたらしい。関羽の事は全く知らない模様。何故か高順の愛人の一人になっていたりする。

裴元紹(男) 同じく親衛隊。スキンヘッドのナイスガイ。

沙摩柯(女) 高順が徐州に流れ着いた時に知り合い、そのまま配下に。臧覇の育ての親に当たる。虹黒に懐かれており、よく背中や腕を舐められて変な悲鳴を揚げている。多感症という設定有り。諸葛亮をちびらせた。

臧覇(女) 高順隊に参加、というより保護されているような立場。孫尚香の親衛隊に抜擢されており、武を磨いている真っ最中。高順にも懐いているが、太史慈に言い寄られて困っているようだ。嫌っているという訳ではなく、手紙のやり取りなどもしているらしい。

蹋頓(女) 沙摩柯と同じく徐州で高順の配下に。烏丸族の単干代理だったが、追いやられて心身を削る過酷な生活を送っていた。高順伝のヒロイン・・・だが、当初の予定ではメインヒロインは趙雲か楽進だった。最初はただの弱気な未亡人だったのに・・・。作者がSだったせいで、色々と設定を後付された結果この話で1・2を争う不幸な人になった。一人歩き・・・とまではいかなくとも、いろいろな意味で作者の予想を超えている。彼女は幸せになれるのだろうか? 何故か読者様からは「と~とんね~さん」と呼ばれることが多い。あとエロい。

楊醜(いいオトコ) や ら な い か?

眭固(予備校帰りのいいオトコ好き) それじゃあ・・・イキます・・・。

馬日磾(男) 上記2人にホイホイやられてしまった不幸な人。

闞沢(女) 二度目の徐州で高順配下に。幼いが、政治・・・いや、輸送・計算など裏方の能力が高い。まだ幼いが、劉巴などの指導もあって着実に能力を上げている。この時代には珍しい仏教徒。

劉巴(女) 交阯で高順の配下となる。政治能力に長けた女性で、甘ちゃんな高順を厳しく補佐する。たまに高順より強くなってしばいている。

程秉(男) 交阯で高順配下に。政治能力があり、その手に疎い高順を支えている一人。

許靖(男) 同上。

潘臨(女) 高順が洛陽で募兵をしていた時に参加した一人。と言っても沙摩柯が連れて来たのだが。山越出身で、そちら方面に顔が利く。同じく隊に参加した山越出身者に黄乱がいる。

楊鋒(女) 同じく、洛陽で高順隊に参加した一人。こちらは南蛮に顔が利く。

閻柔(女) 上党から高順隊に参加した味噌作成職人。武将としての資質も高い。趙雲の部隊に所属しているが、万能なのであれこれと重宝されている。

田豫(女) 同上。




華陀(男) 一子相伝の鍼医術「五斗米道(ゴットヴェイドォー)」の継承者。原作では治せぬ病など無いもない、無敵の存在であった・・・が! こんなに万能だと使いどころに困る・・・と、かなりパワーダウン。それでもジョーカーですよね、この人・・・。現在は高順の世話になっている。

貂蝉(漢女) 漢女道亜細亜方面継承者。どっかのアナゴさん。一刀を探す時の異邦人。と書くと不思議な人だが、絵面だけ見ると通報モノである。どっちかと言えば全裸道継承者のほうが正解だと思うがどうだろう。

卑弥呼(漢女)貂蝉の先代である、元漢女道継承者。一刀を虜に出来なかった貂蝉を鍛えなおすために恋姫世界に。こっちも外見は性犯罪者レベル。言ってる事は乙女らしく、行動が男らしい。こんな連中に好意を寄せられる一刀と華陀が不憫でならない。


~~~丁原軍~~~

丁原(女) 元は高順の主。無茶苦茶な性格で、酒を好む。獲物はあまり切れ味の良くない刀だが、振りぬく速さで切れ味を出していた、というかなりの使い手。高順も良く振り回されていたが、その高順曰く「民の幸せを願う気持ちはちゃんとあった」という難儀な人。十常侍と対立したせいで、仲が悪くなかった呂布の攻撃で重傷を負い、高順に見取られて静かに旅立った。彼女の死が原因で、高順は呂布に対して微妙な感情を抱く事になる。登場した当時は嫌われていたが、その最後で同情が集まったか少しだけ人気が高まった。

朱厳(男) 丁原が幼い頃から仕えて来た腹心の武将。完全オリジナルな存在。双剣(刀?)の使い手で穏やかな性格。丁原の恥部を全て覚えており、さしもの丁原も頭が上がらなかった模様。張遼と死闘を演じ、戦場に散る。

郝萌(女) 高順の幼馴染、友達以上な関係・・・だったかも。兵としての戦歴は高順よりも長く、先輩として優しく見守っていた。何故か陳宮と仲良くなる。最後まで丁原を守ろうと奮戦するも、陳宮の指示で放たれた矢に打ち抜かれ、それが致命傷となる。陳宮の指示によるものと理解しながらも恨む事はなく、高順が生き急ぐような生き方をしないだろうか・・・と彼の行く末を案じながら逝った。

上党勢力は、悲劇的な最後を迎えたせいか、最後で少しだけ人気が高まった気がする。
もう1度くらい出番があるといいなぁ・・・とは思っています。


~~~烏丸族~~~

丘力居(女) 蹋頓の姪。本来は次期単干で継承するまでの間、蹋頓が後見する筈だった。しかし、蹋頓と同じく追いやられて過酷な生活を強いられる。公孫賛の助力も得て烏丸単干に。蹋頓が幸せになる事を誰よりも願っている。

難楼(女) 蹋頓の友人。一時、楼班に心ならずも従っていたが、蹋頓の帰還を知って離反。公孫賛に協力して楼班を倒した。

烏延(女) 同上。この2人は側近として丘力居を支えている。

~~~公孫賛軍~~~

今では曹操軍の傘下だが、きっちりと自治を認められており、曹操軍では有力諸侯の扱い。
なので、一勢力として扱う。

公孫賛(女) 劉備の友人。色々と気苦労が多く、何事にも苦労させられる羽目になる。袁紹とも一応友人だが、共通の友人である韓馥の死と、その原因を知って激怒。韓馥遺臣を取り込み、界橋で袁紹に決戦に挑む。現在は曹操配下の武将だが、曲者揃いの曹操軍にあって、人間関係で苦労する。夏侯淵とは苦労人同士で気が合うのか良い飲み仲間。

張郃(女) 河北の勇者として名高い武将。韓馥に仕えていたが、紆余曲折あり公孫賛の将に。反董卓同盟の時には韓馥配下として参戦、高順と激闘を繰り広げ引き分けに終わる。もう一度だけ、陣営やら立場やら関係なく一介の武人として高順と手合わせを、と願っているようだ。

高覧(男) 張郃には敵わないが、韓馥軍の猛将。同じく公孫賛に仕える。

沮授(女) 韓馥に仕えていた軍師。公孫賛を頼って袁紹に決戦を挑む。曹操と結んで袁紹を挟撃しようと考えていた。自分の知る袁紹と、実際に対峙した袁紹が別物であり、自身の策を看破されて敗北。そのかわり、曹操が北進するための準備時間は稼いだので役目は果たした、というところか。


他多数(ぁぁあ

~~~張燕軍~~~

張燕(女) もとの名を褚燕。叔父や、当時の晋陽太守のせいで先祖伝来の地を追われていた。晋陽太守に軍を差し向けられるも、丁原の助太刀によって窮地を脱する。その後、晋陽の政治は更に悪化。乱を起こすことになる。高順一党の力添えもあり、晋陽を奪取。差し向けられた討伐軍相手に粘り強く抵抗する。幸運な事に中央の政局が迷走、支援勢力の欲しい董卓によって懐柔され、晋陽太守の座を得る。高順に楊醜達を押し付けたり、中々お茶目な人である。高順が孫家に属している事を知っているが、曹操にはわざと伝えていないらしい。

張楊(男) どこかの国の国民的狙撃主に良く似ている。パキュンパキューン。ゴルティーン。


~~~韓馥軍~~~

韓馥(男) 少年といえる年齢で、よく袁紹に振り回された気弱な性格。張郃・高覧・沮授・辛評の補佐を受けつつ鄴を復興。後に袁紹から攻められ、公孫賛に手紙を出して部下の将来を頼む。最後は辛評と討ち死に。気弱でありながらも、乱世に生きる群雄としての意地を見せた最後だった。彼の死は公孫賛に袁紹を攻める大義名分を与える。生き残った部下は全員公孫賛に仕える事になった。

辛評(男) 韓馥を支えた名臣で、これまたナイスな初老の武将。逃げようと思えば逃げれたが、韓馥を守りきれなかった己の力不足を恥じて、僅かな兵と共に袁紹軍へと特攻。追撃を行った武将は麹義だが、韓馥と辛評の死に敬意を表している。

あと、ヒャッハァ! とかいた記憶(おいっ

~~~袁紹軍~~~

袁紹(女) 原作では駄目駄目な人だったが、この世界では韓馥の死をきっかけに地味に覚醒。曹操をして「予想外」と思わせるほどの存在となる。田豊を重用。官渡の戦いでも曹操の奇襲を予測して烏巣へ手勢を移し、曹操との決戦に臨んだ。現在は高順の元で商店を切り盛りし、自身が商売でどこまでいけるのか、ということに挑戦している。高順の(規制)となり、また真名である「麗羽」を普段から名乗る。曹操どころか読者様にまで予想外とか思わせたかも。原作の不遇が嘘のような暴れっぷりであった。

田豊(男) 袁紹軍の宰相。戦・政で袁紹を支えた硬骨おじいちゃん。袁紹が群雄としての自覚を持ったことを喜んでいた。北方戦線に出向いた時に性質の悪い病にかかる。官渡には従軍できず、袁紹の勝利を願いつつも病没。袁紹の敗北が確定したと同時の事だったという。主の敗北を知らないまま逝ったのは幸だったか不幸だったか。

顔良(女) 美人。じゃなくて、袁紹が覚醒する前は田豊の代わりにアレコレと苦労させられていた人。覚醒してからも苦労していたが、苦労の質が全く違った方向になったので幸せと言うべきかもしれない・・・が、相棒は相変わらず。原作とは違い小回りの聞く刀だか小太刀だかがメイン武器。別に知力が32とか34という訳ではない。・・・袁紹がこの人を巻き込んで高順と(規制)した疑いがあるが、何も、問題は、ない。

文醜(女) 不細工。では無い。むしろ可愛い。袁紹が覚醒してもこちらは覚醒せず。故に周りに迷惑かけっぱなしだが、戦のときは割と頼りになるらしい。現在は相棒や主と共に、商店の用心棒をやっていたり、街の治安活動を行う「傭兵」としても働いている。

審配(女) 30近い女性武将。割と能力のバランスが良く、何事もそつなくこなせる・・・と書くと公孫賛と変わらない。歳は30近いだけで、29かもしれないし31かもしれない。顔良らと同じく、袁紹の商店で用心棒などをして働いている。

麹義(男) この世界では袁紹に処刑されなかった、袁軍一統率力の高い勇将。官渡の戦いでは、本陣で曹操軍の猛攻を退け続ける。袁紹が重症を負い行方不明になっても、帰還を信じて本陣を守り続けていたが・・・支えきれなくなり、乱戦に消えた。曹操も惜しんだだろう。

許攸(男)
逢紀(男) 袁紹を裏切ったり、出たら負ける駄目軍師′s。読者の予想を裏切らない程度に活躍し、地味に全員死んだ。ザマァ、と誰もが思ったことだろう。ただし、彼らが余計なことをした為に袁紹も覚醒した訳で・・・
郭図(男)

他多数。

~~~西涼~~~

馬騰(女) 西涼連合軍盟主(居実では連衡)。馬超をたおやかにした外見で、普段も戦装束も黒い着物・・・というか、喪服に近い。子を三人産んでいるが、体型に崩れが殆ど無いらしく、40歳近いのに20代後半で通じる・・・張魯の母と同じ性質を持っているかもしれない。矛や馬上戦闘を得意とする。馬に騎乗していないほうが強いらしく、得意とする獲物も刀だとか。

韓遂(女) 馬騰の義妹。義姉の事が大好きらしく、良くいけない事を(本人の了解を得ずに)仕掛ける駄目な人。従者の成公英も毒牙にかける。作者が「よく、韓遂が馬騰と争ったのは韓遂がツンデレだったからじゃね?」と病的解釈をした結果、この世界最大の変態となってしまった。地味に夏侯惇よりも強いことが発覚。そりゃ人生の半分以上を叛乱で鍛え上げてたんだし・・・。史実や演義はともかく原作でもあっさり西涼が負けるので、それは面白くなかろうと西涼軍のメインメンバー一部を強化。人も領地も資源も劣るのだから、これくらいは構わない・・・と思いたい。

成公英(女) 韓遂の従者にして愛人。よくヒィヒィ言わされて泣いている。酔っ払った高順の迂闊な一言で更に酷い目に。馬騰も酷い目に。二人は高順を恨んで良いと思う。

馬超(女) バチョンさんの名で親しまれる、出番のない高順の許婚。公孫賛以下の出番の少なさに誰かが泣いた。彼女に限らず西涼全体がネタにされやすいが、筆者が嫌いなのは孔明や劉備らであって西涼ではない(言うな)。高順と再開できるのだろうか。多分出来ない。

馬休(女) 馬超の妹。バキュンさんと呼ばれているわけではない。一時、韓遂や姉妹と共に高順の家で世話になっており、高順一党に良く懐いていた。高順の事を狙っているような発言をするが、どちらかと言えば馬超をからかっている感が強い。結婚してもいいかなぁ、くらいには高順を慕っているらしい。原作では名前も出ない扱いだが、この世界では出てきた。

馬鉄(女) 馬超の末妹。こっちも高順一党に懐いて、馬休と一緒に長姉をからかっている。この娘も高順にきっちりと懐いていた。ゲームでは雑魚扱いだが、この姉妹は親の血を引いて中々に強い設定。

馬岱(女) 馬姉妹が出てきたせいでめっきり影の薄い馬超の従妹。立場としては馬休らに近いが、特に小悪魔な性格は出ていない。

龐徳(男) 鎧をガチガチに着込んだ重装騎兵。ちゃんと妻子がいたりする。彼の強さは演義に準拠・・・つまり?

他、西涼軍閥は省略。

需要があるかどうかは解らないけど、一応。

~~~荊州勢力~~~

劉表(どっちもでいい) 荊州を治める領主。逃げ延びてきた劉備を受け入れるも、半ば警戒している。長子である劉琦と、庶子たる劉琮のどちらに後を継がせるか悩んでいる。

蔡瑁(男) 劉表勢力で一番の権力を持つ。姉の一人が劉表に嫁ぎ、その子が劉琮。自分の血縁に荊州を継いで貰いたいと考えており、その為に劉備を敵視している。何かあれば、新野越しに曹操に降伏するかもしれない。

・・・まぁ、長幼の順を守れと言うのは正論だしね。言える立場にあるかどうかは知りません(ぉぉぃ

一応、思いつく限りは書きました。夏侯4姉妹は書きませんでしたが、姉妹なので解るだろうと省略w
他に出てきてない人は、殆ど男連中ばっかりでしょうねぇ・・・


~~~楽屋裏~~~
というわけで、簡単紹介でした。
こうして見ると、けっこう多いですな・・・ここで名前の出てない笮融とは含めるとどれだけの数になるか・・・。




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第92話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/10/31 13:52
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第92話


「あのー、蛮族王って。」
雲南、王座の間。
孟獲の目の前に居る高順は「何ですかソレは」みたいな顔で、その呼び名を口にした孟獲に質問をしていた。
「その説明は後にして・・・先ずは、自己紹介を。改めまして、お初にお目にかかります。私は・・・一応、現在は孟獲です。」
「現在? それはどういう意味です」
「そうですね・・・少し長くなりますが、説明をさせていただきます。」
私は、と言いかけた瞬間、誰かが扉を「どん!」と勢い良く開けた。
「姉ー! ・・・お?」
その扉の向こうに居たのは、孟獲同様、緑色の髪をした幼女だった。
頭の上に、象のような置物だかぬいぐるみだかを乗せ、何故か虎・・・猫? の耳がついている。
「あら、美以。駄目ですよ、お客様がいらっしゃるのに。」
孟獲に美以、と呼ばれた幼女は「むぅー」とふくれっ面をする。
「「しょく」の連中を追い返したのにゃっ。それを言いに来ただけなのにゃー。」
「・・・そう、ご苦労様。」
ご苦労様、という言葉に気を良くしたか、美以と呼ばれた娘は嬉しそうに孟獲の背中に抱きついた。
「あ、こらっ・・・。」
「はたらきに応じたほうびと思うのにゃっ。・・・ところで、こいつら誰なのにゃ?」
美以は、高順達を指差した。
いきなりのことで呆気に取られた高順達であるが、すぐに「こちらは?」と孟獲に説明を求める。
彼女は困ったように「この子は私の妹でして・・・」と笑う。
「美以。この方達は私のお客様。無礼をしないように」
「にゃはは、姉はしんぱいしょーなのにゃ。みぃは、みぃと言うのにゃ。よろしくしてやるにゃっ。」
「・・・そ、そうか。俺は高順。よろしくされておこう。」
こうじゅん? と美以は首を傾げて、すぐに思い出たのだろう。高順を指差して、「おー。あの「ばんぞくおー」なのにゃ!」と大はしゃぎ。
孟獲はこほん、と咳払いをして「では、1つずつ説明をさせていただきますね」と話を戻す。美以がおんぶ状態で孟獲の背中に捕まっているので、絵面はなんだかほのぼの状態だが。
礼儀とかに拘る人間なら怒っていたかもしれないが、蹋頓は「あらあら」と笑っていて、沙摩柯も苦笑するのみ。

孟獲は「少し失礼を」と言いつつ、高順達が来たときの為にと整えておいた椅子に座り、皆様もどうぞ、と勧めて自分も席に着いた。
傷が痛むのだろうか、時折表情を歪める。彼女に膝の上には、無邪気にも美以が座り込んでいる。
高順らも勧められるままに座った。
「まず、正確に言えば私は孟獲ではありません。私の本来の名は孟節。代理という形で孟獲となっただけです。」
「代理? 代理とはどういう意味です。」
「孟獲、と言う名は世襲です。その時、孟家で一番力のある者。武でも、智でも、何かが抜きん出た者が受け継ぐもの。・・・本当は、美以、この子が受け継ぐものなのです。」
「にゃ?」
孟獲・・・いや、孟節の膝の上に乗っている美以は、意味が解らなさそうに首をかしげている。
「私は、母に後継者と定められてはいません。後継者は美以なのです。ただ、この子はまだ幼い。あと8、いえ、5年は待たなくては・・・」
だから、代理か。と高順は納得した。そう言えば、張燕様もある意味では世襲だったなぁ、元気にしているだろうか、と少しだけ思い出す。
「では、先代の孟獲王は・・・」
「つい数ヶ月前でしょうか。北の蜀が攻めてきまして・・・その時に。」
孟節は少し肩を落とした。
「そうですか・・・ん、蜀? という事は、やはり劉備ですか?」
孟節は、いいえ、と首を横に振って否定。
「劉は劉でも劉璋です。高順様はご存じ無いかもしれませんが、彼が北の張魯と争っていましてね」
「ああ、五斗米道でしたか。宗教勢力ですね?」
「はい。劉璋の父、劉焉と張魯は友好的な立場でした。劉焉のお陰で張魯は漢中に勢力を立てたも同然ですから・・・しかし、劉璋の代になってから、張魯は従わなくなりました。業を煮やした劉璋は張魯の家族を捕らえて処刑、軍事衝突を始めたのです」
なるほど、と高順は頷いた。この辺りの流れは正史とそれほど変わらないらしい。
「しかし、それが何故南に来るのです。北に戦力を集中させて・・・いや、陽平関と剣閣? 漢中から南下するにはそこを抜けないと。」
「良くご存知ですね。その通り、彼らはそこに兵を駐屯させて防衛をしています。守るだけなら多くの兵を必要としないのでしょう。南に来た理由は・・・征服です。」
聞くと、劉璋は兵力増強の為に南蛮に兵を送り、村々を焼き払い、民を強制的に連れて行くことをしたらしい。
当然抵抗もしたし、使者を送って民を返せとも伝えたが、最初から話を聞くつもりなど無い劉璋から反乱者扱いをされる始末。
反逆者、というのはとんでもない言いがかりで、彼らは元々この地に住んでいたのである。南蛮族と呼ばれて蔑まれてもいるが、漢民族とあまり変わらない暮らしをしている。
他者からどう呼ばれようとそれほど気にしないし、こちらの生活を脅かさないのなら、と思っていたが、濡れ衣で攻撃されては堪ったものではない。
更に、劉璋は雲南の北に多数砦を作らせて圧力もかけている。
先代の孟獲は「このままでは不味い」と1万ほどの兵を率いて攻撃を仕掛け、幾つかの砦を奪還。
しかし、その隙を突いて劉璋側の主力部隊が雲南に攻め寄せ、それを知った孟獲が引き返すも伏兵と主力部隊の挟み撃ち。本人も含めて軍勢が壊滅。
そこからは孟節が臨時に指揮を取り、じっと防御を固めて劉璋の疲弊を待つことにしたのだが・・・幾度も攻められて、持ち堪えられない状況に追い詰められる。
高順が同盟打診を打ち出したのは、そんな状況でのことだった。

「そこで、さっきの質問になるのですが・・・なんで俺が蛮族王ですか?」
「そうですね。種明かしをすると貴方の元にいる楊鋒です」
「へ? 楊鋒? あの人が何か・・・」
「彼女は私の友人でして。あの人はこの南蛮と呼ばれる地の1つ、銀冶二十一洞の洞主の一族。勢力が減退し、出稼ぎと称して旅に出てしまって・・・長年、連絡が無くて心配していたのですが、洛陽で貴方に仕えた頃に久々に手紙を出してくれたのですよ」
「はぁ・・・。」
そう言えばそんな話をどこかで聞いたな、と高順は思い返す。楊鋒は孟獲を捕らえた人だがあれは演義での話だったか。
それが何故蛮族王とかに繋がるのだろう?
「洛陽での募兵で集めたのは主に異民族だそうですね。徐州の激戦、呉への臣従、袁術とやらの戦い、山越の帰属、交趾へ来てからの善政並びに武凌蛮の取り込み・・・彼女は、何か貴方が大きな行動をするたびに手紙を寄越して、私に情報を伝えてくれていたのです」
「・・・・・・。あの人、そんな事やってたのね・・・」
別に知られて困るようなことではないとは言え・・・何だか釈然としないなぁ。と高順は脱力した。
「異民族を取り込み、それを己の力として漢土を巡る・・・。そんな事をしている漢人は、私が知る限りでは貴方か、北方の馬騰くらいのものです。」
公孫賛も含まれるのだが、孟節はそこまでは知らないらしい。
「その馬騰にしても、羌と誼を通じている程度。烏丸、山越、武凌・・・羌や鮮卑も一部に含まれるかもしれませんが、大まかに分けてもそれだけの数の民族と通じている人は、本当に貴方一人だと思います。」
「はぁ・・・そうなんですかね? って、え? それじゃ、蛮族王ってそういう理由で呼ばれてるんですか!?」
「ええ。異民族王ではごろが悪いですし。蛮王でも良かったのかもしれません。・・・ああ、南中では、貴方の名声はかなりのものですよ『だって私が言いふらしましたので』」
「・・・勘弁してください。」

・・・どうも、噂が一人歩きした結果の呼び名と言うか、その場のノリと言うか。けっこうお茶目かつ無責任な事をキめる孟節であった。
知らぬ間にそんなことになっていた高順には迷惑以外の何者でもない。


「まあ、その件については後でじっくりお話するとして。同盟ですが、組んでいただけるので?」
軽い頭痛を抑えつつ、高順は切り出した。今回ここに来たのは、その同盟を組むためだからだ。
孟節もそれは解っており頷く。
「はい、ただし・・・心苦しいのですが、幾つか条件を。」
「条件ですか。」
「そちらからの条件は、蜀・劉璋のいる成都までの軍用路、通過時の兵の休息場所の確保、だと記憶しています。」
「いかにも。」
「こちらからの条件は・・・食料、物資の援助。守備兵の派兵・・・と言った所でしょうか。」
「・・・」←むっさ無言な高順
「・・・」←むっちゃ無言な蹋頓
「・・・」←とりあえず無言の沙摩柯
「にゃー。」←解ってない美以
「いや、解っているのですよ!? ものすごく厚かましいお願いだというのは解っているんです!」
三人の無言無表情に気圧されて(美以はこの際見なかったことにして)、孟節は叫んだ。

(ふむぅ・・・)
高順は、少しだけ考え込む。
食料、物資。これは、長らく篭城をして、それらの品が底を尽きつつあるのだろう。
自分で見たので解っているが、城門や市街に溢れる負傷者の数を見れば、医療物資にも事欠く状況だ。
篭城を続けるにも、矢を作るための木材、篝火に使用する油。食料だって必要だ。
派兵も守備能力の増加、そして、自分たちを攻めたら孫家にも手を出す事になるよ、ということだ。劉璋は北南に大敵を抱える事になる。
南蛮だけならまだしもそこに孫家が乗り出してくれば、劉璋としては手が出しにくい事この上ない。
問題は、高順にそこまでする理由があるか、ということだが・・・。
しかしなぁ、と、高順は孟節の膝の上で丸まって「ねみゅねみゅ・・・」と眠りかかっている美以を見つめた。
美以は孟節に「蜀の連中を追い返した」と言っていた。
つまり、こんな年端も行かない子供まで戦に駆り出されているのが現状である。
一応そこも聞いておかないと、と高順が決心をしたとき、ちょうど蹋頓が挙手をして「少し宜しいですか」と質問を投げかけた。
「孟節様、先ほど美以ちゃんが、蜀の軍を追い返した・・・と仰っていましたね。」
「え、はい。そうですが」
「子供にまで戦わせるのが、貴方達のやり方ですか?」
「・・・。うぅ」
蹋頓の言葉に孟節は項垂れた。蹋頓は嫌味を言ったつもりは無いが、そんなやり方を容認できないとは思っている。
「実は、負傷した大人よりも余程頼りになるんです。この子達は・・・」
孟節は、自分の膝の上で丸まってる美以の頭を撫でながら申し訳なさそうに言う。
「皆、同じような顔で・・・なんというか量産型っぽいですが、この子達だけで1万以上の兵。しかも、負傷したのは当然ですが、大の大人よりも余程強く・・・」
「・・・。」
南蛮の方々は揃いも揃って役立たずですか? それとも死ぬのですか? みたいな目で孟節を睨む蹋頓。
「お願いですからそんな目で睨まないでください! 泣きますよ!? 大の大人が声をあげて泣きますよ!?」
(そんな情けない事を、脅迫じみた言い方で言われても・・・)
涙目になって叫ぶ孟獲改め孟節を見て、大丈夫なのかなぁ・・・と、不安になる高順であった。

「で、結局どうするつもりなんだ?」
沙摩柯も少し頭痛を感じているのか、疲れたような表情で高順に問う。
「ん、同盟しますけど・・・ふぅむ。少し時間は欲しいですね」
「良いのか? 向こうにばかり有利な条件だぞ?」
「構いませんよ。劉璋を成都から叩き出せば雲南まで攻めてくることは出来んでしょう。それに、この状況を放っておくというのもねぇ・・・」
「確かに同情はするが・・・甘すぎるぞ。孫策達も良い顔をせんだろうな」
「はは。ま、そうでしょうね。ですが、全権委任とか言って丸投げしてきたのは向こうですからね。文句言ってきたら言い返すだけです。」
「そうか。お前がそう言うなら、文句は言わないがな。」
「そうしてください。・・・孟節殿」
「はい。」
「少し時間を頂いて宜しいですか? 返事は明日中にさせていただきます。」
「・・・解りました。では、寝所を用意させます。こちらでお休みください。」


~~~寝所にて~~~

李典、周倉は「疲れたー・・・」とへとへとになり、その様子を見ていた沙摩柯も「やれやれ」と自分の寝所へ向かっていった。
この寝所にいるのは高順と蹋頓のみ。
「高順さん。あのような条件で同盟と言うのは・・・言いたくはありませんが、少し甘すぎませんか?」
「むー。やっぱそう思いますよねぇ・・・」
蹋頓が口を尖らせて文句を言うが、彼女がそれをやっても可愛いだけである。
「成都を取るまでの間ですよ。今ある脅威を独力でなんとも出来ないから助けを求めているだけです。その脅威を除けば戦力を置かなくてもいいでしょうしね」
「それはそうですけど・・・助けを求めるのなら従属という手段もあるでしょう」
「同盟を打診したのはこっちなんですけどね。それに、助力をしたなら主導権はこっち持ちです。その後の政治闘争は、そーいうのが好きな人にでもやらせてしまいましょ。その前に、やらなきゃならん事もありますしね」
「やる事・・・ですか。」
「ええ。まず、こちらに向かわせる予備兵3千に大量の資材と食料を持たせてから向かわせます。ちょっと遅くなりますけどね」
「はい? 本当に!?」
「本当も嘘もありませんよ。」
高順が連れてきた兵士は約4千。そこに加えるので7千の援軍。高順隊の総兵力は1万2~3千なので、6割もの兵を雲南に派遣するという事になる。
輜重も含んでの数字なのですべてが戦力という訳ではないが、それだけ孟獲との同盟と意味を重視しているのだ。
「向こうの意図がどうであろうと最初から援兵する手筈だったのだフハハァー・・・は、まあ冗談として。・・・よいせっと」
なんで悪役みたいな笑い声を上げたかは不明だが、ともかく高順は木簡を取り出す。
違う内容の木簡を2枚書き上げており、それを明日沙摩柯に渡すつもりだ。
「沙摩柯さんには伝令を2人用意してもらいます。1枚ずつ渡して、一人を黄蓋殿。もう1枚を趙雲殿。」
「一応聞いておきますが内容は?」
「黄蓋殿には「劉璋との衝突は不可避。しかし文句は言わせない!」で、趙雲殿は「出来るだけ多くの資材・食料を持たせる事。率いる武将は閻柔さんと田豫さん。ついでに麗羽さん一行も連れてきてね」と。」
医療物資は大量に必要だろうが、華陀を呼んでいるから消費も抑えられるだろう。彼自身も薬の調合作成を行うので、一石二鳥か。
余ったなら雲南の物資として置いておけば良い。麗羽らを呼ぶのは、彼女の運と言うか、物資調達能力を期待しての事だ。
留守を預かるのは審配あたりだろう。戦力として考えるのなら顔良と文醜もかなりのもので、損は無い。
あとは劉巴充てに「孫策殿に金銀贈っておいてねー」ということも書き加えてある。
南蛮との同盟、その条件。それを聞けば孫策は不機嫌になるかもしれないが、全権委任とか言っちゃってるので文句は言いにくいだろう。
これ見よがしに「それはそれとして、お受取りください」と書き添えておけば何とかなる。むしろ大喜び。
孫策や周喩なら私心なくそれを受け取り、きっちりと目的を持って使用してくれるだろう。無駄な贈り物にはならない。
あとは、蜀の連中を警戒させるために孫家の旗たてまくって、とか考えている高順。
そんな高順とは裏腹に蹋頓は暇そうであるが・・・いつもだったら蹋頓が性的な意味で誘うところだが、流石に今回はソレをしない。
こうやってあれこれと考えているところにソレをするのは野暮だし、ここ雲南には援軍として来たのだ。
ヤるなら交趾ですればいいし、それまでにたっぷりと溜めて貰おう(NANIを?)。



翌朝。
高順と孟節(対外的には孟獲だが)は互いに書簡を交わし、正式に同盟を結ぶ。
孫策にも伝令を出し、昨夜に言った通りの処置も行わせ、きっちりと認可を貰う事には成功する。
ここで、孫家と・・・いや、どちらかと言えば高順と孟節の同盟が成立した。


そんな中での一幕。

「おい、ばんぞくおー!」
「・・・せめて名前で呼んでいただけませんか、美以さん。」

城の中庭。
急造の天幕を大量に設置してあるこの場所には、住居を焼け出されたり、負傷をしている兵士達が雨露を凌ぐために集まっている。
他の場所にも同様の条件で天幕を仮設してあるが、焼かれた居住区の修復をしなくてはならないので、数は多くない。城の中であっても空いているのなら使ってしまえ、という事だ。
つい先ほども高順側が炊き出しを行って、食料を振舞っていたりする。
ある程度片付けた後に、高順が美以に呼び止められたという状況だった。

「おまい、ばんぞくおーと呼ばれてるからには強いんだろうにゃ!」
「・・・いえ、そこまでは強くないですけど。」
「にゃはは、けんそんするにゃ! 聞いてみたら、あのつよそーなしゅーそー(周倉)も組み伏せるそうだにゃ!」
誰がそんな事を言ったのやら・・・と思う高順だが、言ったのは蹋頓で、しかも寝技的意味合いである。
そんなことがお子ちゃまな美以に解るはずもないが、とにかく高順を強いと思っているらしかった。
「というわけで、みぃにばんぞくおーの腕前を見せるのにゃ!」
「え・・・えぇ?」
「にゃははははっ!」
美以は勝手に話を進め、独鈷杵(とっこしょ)っぽい得物を取り出した。
普通、独鈷杵というものは棒状。中心に柄があって上下に刃が付いているのだが・・・美以の独鈷杵は片側だけに。しかも何故か猫の前足を模した形状。
ぶっちゃければ肉球みたいなもんである。叩かれても痛いよりさきに気持ち良い、の一言が来そうな形状だ。
「子供だとおもってゆだんすると酷い目にあうのにゃ!」
「あー。いや、その。」
どうしたもんかな、と戸惑う高順だが、何時の間にやら周りに人が集まっていた。

「あら、高順さん。お稽古ですか?」
「おいおい、うちらにゃ城門付近の投石機設営やら居住区の片付けやらさせて自分はサボりかいなー?」
「何だ、子供相手に大人気ない奴だな。」
「お、大将。今度は子供にまで手を出すんすか?」
「何か色々酷い言葉が混じっていないか!?」
いつもの人々が集まってくる。その中には孟節も混じっていた。
「高順様。美以には気をつけてくださいね。」
「はい?」
「昨日も言いましたが、美以は見かけは小さくとも大人顔負けの実力者です。甘く見ていると痛い目に合いますよ」
「へぇ・・・?」
一応の警告だが、周倉はそれを笑い飛ばした。
「なっはっは。うちらの大将がそんな事わからねーはずないって。言われなくてm「いくのにゃぁーっ!」ゴキッ!「オウフ」解ってなかったぁーーー!!?」
一瞬の出来事だった。


「いったたた・・・くぅぅ、首が折れたかと・・・」
「あれほど用心しろと言われたでしょう?」
「いや、あの速さにどう反応しろと。」
額を独鈷で打たれた高順は一撃で敗北。油断していたといえばソレまでだが、かなり情けない。
その情けない高順は蹋頓の膝枕で、濡れた布で額を冷やしている真っ最中。どうしても情けない。高順を打ちのめした美以は、今は周倉と手合わせをしている。
「大将の無念は俺が晴らすぜっ!」
「いい度胸なのにゃ!」
「いや勝手に殺さないで頂きたい所存ですよ!?」な流れだ。
2人の立会いは回りの者も見ているが、高順から見ても中々の好勝負だ。
「しかし、あそこまでとは。速さもあったけど、腕力じゃ楽進と良い勝負だよ・・・」
あれは本当に強い。試合を見ながらも高順は「蜀の連中を追い返したって言うのは、本当らしいな」と実感する。まだまだ荒削りだが、良い師匠が教えてやれば途方もなく強くなるだろう。
そんな高順の胸中を見抜いたか、孟節が「高順様、少し・・・」と話かけてきた。
「はい?」
「実は、高順様にはもう1つだけ頼みがあるのです。これは、同盟条件ではなく、あれの姉としての頼みです。」
「・・・聞きましょう。」
孟節は寂しそうに、美以を見つめてから言った。
「あの子の・・・次代の孟獲となる美以の後見をお願いしたいのです。蛮族王と称される貴方にしか頼めないことです。」
「後見役? まだ貴方が健在であるというのに。俺に頼むべきことではないと思うのですがね。つうか蛮族王はヤメテクダサイ。」
そんな呼び名が孫策に伝われば謀反をしようとしているとか言われるかもしれない。本人たちが信じなくても、馬鹿な連中が妙な事を吹き込む事もあり得るのだから。
そもそも、王らしいことなんて何もやっていないですよ・・・と、高順は苦りきった表情で呟く。蹋頓は自分が口を挟むことは無い、と高順の額の布を水に漬け直してかけ直している。 
それでも孟節は食い下がる。
「私がいつどこで死ぬか解りません。その時、あれは本当に一人ぽっちになってしまう・・・。先代孟獲、母が亡くなっても、あの子には私がいました。ですが・・・」
「むう・・・。」
情理で言えばどう見ても情に動く高順は、こういう手合いの話が苦手である。受けてしまうからだ。
高順は助けを求めるような表情で蹋頓を見上げるが、彼女は肩を竦めるだけ。冷たい言い方をすると突き放している態度だ。
こういう事は自身で決断をしてもらわなければ困る。どれが正解と言うものではないし、結果的に後悔をするかもしれない。それでも、自分で選び取った決断と結果はこの人の経験となって活きる。
だからこそ、他者が口を差し挟む場所ではない。蹋頓はそれを態度で表していた。つもりだが、内心では高順がどう返事をするかも解っていた。
後見役になったからと言って、孫家に睨まれる訳でも無し。それも同盟の条件でしたといえば済む事だ。
高順は「はぁ~ぁ・・・」と溜息をついてから「解りました、解りましたよ! 受けますよ!」と半ば自棄気味に応えた。
「ありがとうございます! 言質は取りました!」
「え?」


こんな脱力系の流れで、高順は孟獲(美以)の後見に就く。孟獲を高順に預けるという形になる後見は、人質としての役割もある。孫家には逆らいませんよ、というアピールだ。
南蛮で「蛮族王」とか呼ばれておかしな形で声望の高い高順が孟獲を支援するとなれば、立場が不安定な孟獲の足場を固めることに繋がる。
証拠に、孟節が意図的に「高順が孟獲の後見役になった」と噂を流した結果、多くの部族が(何故か高順に対しても)臣従を申し出てきたのである。
その多くが、先代孟獲が亡くなった後に様子見と称して雲南と距離を置いたか、戦力補強の為に離れていった勢力だ。
第一洞主、金環三結(きんかんさんけつ)。第二洞主、董荼那(とうとな)。
禿竜洞、朶思大王(だしだいおう)。八納洞、木鹿大王(ぼくろくだいおう)。烏戈国、兀突骨(ごつとつこつ)。
建寧太守、雍闓(ようがい)。永昌太守、呂凱(りょがい)。他にも高定(こうてい)や朱褒(しゅほう)といった蜀南方の郡太守も混じっている。
主に名が挙がっているのはこれくらいだが、彼(女)らは、高順の名を聞いただけで「孟獲に忠誠を誓う」と自分からやって来たのである。
高順の後ろに孫家がいることを知っているという事情もあるし、劉璋と孫策のどちらが仕え易く前途があるかと言えば、やはり孫策のほうが有利なのだ。
孟節は結果に満足したのか、南蛮王代理の座から降りて美以に南蛮王・孟獲の位と名を継承させている。

続々とやって来る各都市・各地の勢力を見つつ、高順は冷や汗を流す。
「俺、南中ではどんな人間と思われてるんだろうか・・・」
孟節の流した噂がせめてまともなものであって欲しい、と心の底から願う高順であった。


おまけ。

「ところで孟節殿。」
「はい?」
「普通にあの子の事を美以と呼んでいますが、真名ですよね? 良いんですか?」
「ああ、ソレなら大丈夫です。漢土の風習を取り入れているとは言え、そこまで厳しい事も言いませんし。あの子も、自分のことを美以と呼んでいますし、高順様にそう呼ばれても気にしていないでしょう?」
「むぅ。確かに・・・」
言われ、高順は美以に目を向ける。
「にゃはははははっ!」と、同じ年頃の3人の少女(後で知ったが、ミケ・トラ・シャムという真名らしい)を引っ張りまわして走り回る彼女を見れば、孟獲王というよりは美以、のほうがそれっぽく感じる。
「まぁ、まだまだ子供ですからね。」
「その子供に負けた俺の立場って・・・」



~~~楽屋裏~~~
油断しすぎですねあいつです。
そろそろ西涼も進めるべきですが先ずこちら。
ま、西涼はまたも3行で終わればいいので(オイ)・・・
その後はどうしましょうかね。

今回、多数の人々の名前がありましたが、雍闓とかは劉備死後の蜀に叛乱した太守、豪族です。なので劉璋と(本来は)関係のない方々ですね。
呉の孫権と、その支配下、交州の主であった士燮の説得を受けての叛乱だったようですが・・・この話では孫策、交州の太守(?)である高順を見込んで降伏、という形になりましたね。
呂凱は・・・まぁ、劉璋よりは孫策のほうがマシじゃね? と。彼は雍闓の叛乱に加担せず蜀への忠義を通した人ですが、劉璋じゃねぇ・・・





~~~ほぼ同時期、潼関~~~

馬騰軍と曹操軍は激突。双方全力でぶつかっていた。
長年の乱により鍛えられた馬騰軍は、数に勝る曹操軍相手に互角の戦いを見せている。数の差を中々覆せず日を追うごとに劣勢となって行き、馬騰側が篭っていた潼関の北砦を夏侯惇が奪取。
最初こそ正面激突であったが、それでは埒が明かないと感じた曹操は、正面戦闘をなるだけ避けて南北の砦の攻略に注視している。
馬騰も軍を二手に分けて南北の砦に援護をしていたが数の差を中々覆せず日を追うごとに劣勢となって行き、潼関の北砦を夏侯惇が奪取。
曹操側としてはようやくに得られた状況好転の一手・・・と、思われていた。

北砦。
篭っていた馬玩らの要請により、韓遂が救援に向かったが一足遅かったらしい。
数の差と、夏侯惇の攻撃を支えきれず、馬玩は撤退。砦は取られた馬玩は残兵を率いて韓遂と合流することになった。
砦に篭っていた兵は2万ほどであったが、連日の戦闘で磨り減り韓遂の率いる兵とあわせれば2万にも満たない。
合流自体はできたものの馬玩らは申し訳なさそうにしていた。彼らを組み込んだ韓遂は、かまわん。と一向に気にせず「さて、砦を囲むか」と部隊を前進させていく。
ここで、成公英が待ったをかけた。
「で、ですがこうなった以上、中央の馬騰様と合流するべきでは」
「ん? 逆だ逆。これで良いんだ」
「はい? これで良いって・・・」
「我々の部隊は2万以下。砦に篭るのは夏侯惇・・・つまり、曹操側の主力部隊。兵数も多いだろうなぁ。」
「それが解っていながらなぜ」
「北砦にある兵数は3万か4万か。それだけ引き付ければ御の字。でもってその戦力を囲んでしまえば結果上々、さ。」
さぁ、夏侯惇と、主力兵・・・少なからず前衛の薄くなった曹操が義姉上、馬超、龐徳の全力突撃をどういなすかなぁ? と韓遂は黒い笑顔を浮かべる。
「え・・・ええ!?」
「どうした、何を驚く?」
「馬騰様、南の砦の援護に向かっておられたのでは? それに、馬超様たちまでって・・・」
「行ったが、すぐに戻らせた。南に向かったのは馬岱だけだ。義姉上なら、私が横から口を挟まずとも突撃の機会を逸したりはしない」
「で、ですが、曹操ですよ? 夏侯淵もいますし、ソレくらいの備えはしていますよ絶対!」
「そうだろうな。だが、あの義姉上だぞ? 馬超と龐徳もいる。今言った通り曹操は南の砦にも手を出しているからな。正面戦闘は小競り合い程度しかない、と層を薄くしたのがそもそもの間違いだ。」
以前の事だが、呂布は単騎で黄巾兵3万の軍勢を殲滅したと聞いた事がある。
我が友、閻行でも3万は無理だが、ソレに近いことは可能だろう。そして義姉上ならば・・・と思考してまず大丈夫、という結論に達する。
曹操にしても正面防御をする兵が少ないのは承知の上。
その代わり、前衛では夏侯淵が守りを固め、徐晃、許褚、典韋といった勇猛の士が本陣を守る。
武将一人の力量が千万の兵士を上回るこの世界では、これだけで鉄壁の守りと言えし、曹操本人もそれなりの武勇を持つ。
多少の攻撃なら跳ね返してみせる・・・と思うのは決して間違いではない。
「ふん。夏侯惇がいればともかく夏侯淵だけでは止めることは出来ん。曹操の周りを固める親衛隊はどうするかな? ・・・くくっ。」
(こ、怖い・・・)
先ほど以上に真っ黒な笑顔の韓遂に、心底震える成公英。
「適当にけん制をして、奴らが砦から出にくくすればそれでいい。ある程度のとこで見切りをつけて撤退する。成公英、遅れるなよ」

時を同じくして、馬騰は馬超・龐徳と数千の騎兵を従えて、守りの薄くなった曹操軍本陣へと突撃を開始していた。





~~~楽屋裏~~~
この世界では兵士の力量よりも武将の力量のほうが大事なんですよねぇ・・・
張飛なら普通に1万の兵を倒しそうですし・・・力で兵を引っ張る事=統率が高い、がまかり通るなら呂布なんて最強です。
夏侯惇も同じタイプなんでしょうね。

馬騰さんの突撃は上手く行くのか行かないのか。潼関も終幕が近づいています。3行的意味で。(おい



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第93話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2010/12/24 23:45
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第93話


「行きますよ、孟起、龐徳!」
「はい、母様!」
「心得た!」
馬騰の命令に馬超と龐徳が応え馬を駆けさせ、その後ろには5千ほどの西涼騎馬隊が続く。
疾走する馬騰軍の眼前には夏侯淵率いる守備隊が展開している。数はおよそ5千ほど。
さすが夏侯淵といったところか、部隊は既に防御陣形を敷いている。前衛に長矛、中後衛に弓。
夏侯淵本人は中衛に陣取り、先頭を進む馬騰に狙いをつけている。流石に此処からは届かないが、射程圏内に入ったと同時に、討つ。
砂塵を巻き上げ来る騎馬隊。その先頭に有るのは、馬騰。馬超、龐徳が脇を固める形で突き進んでくる。
「全軍、斉射用意・・・放て!」
夏侯淵の号令に、弓兵隊は引き絞っていた矢を放ち始める。
そして、夏侯淵も馬騰を討つための一撃を討ち放った。

馬騰騎馬隊が、夏侯淵隊の放った矢に晒される。
だが、馬騰は慌てることなく更に進んでいく。
「母様、弓兵隊が・・・っ!?」
「撃ってきましたね。そして」
龐徳が馬騰へと飛んできた夏侯淵の一矢を、戟で弾き飛ばした。
「うぇっ・・・?」
「一斉射撃と思わせておき、時間差で思わぬ一撃を放つ。夏侯淵とやら、姉とは違って味な真似をしますね。」
最初から解っていたらしい馬騰は、笑みさえ浮かべている
前方を見れば長矛を構えた歩兵が待ち構えているが、大したことではない。
あの程度で止められると思っていたなら、それは間違いだ、と馬騰は笑う。
「孟起。」
「はいっ!」
「あなたは3千で夏侯淵を足止め。退路の確保をもしておきなさい」
馬騰も中々に無茶を言うが、馬超であればそれが可能だ、と考えている。
歩兵部隊を突破した後に控える弓兵では、少なくとも騎馬を止める事は難しい。近接攻撃も出来るように剣を所持しているが、長矛を持っていなければ騎馬を捉え切れないだろう。
夏侯淵は強敵だが、弓が使いにくい間合いにまで詰めきってしまえば馬超のほうが数段有利だ。
「解りました! おい、龐徳! ちゃんと母様を守れよ!?」
「言われるまでもない。」
「よーし、それじゃあ突撃だぁーー!!」
おおー! と雄叫びを上げる騎兵を率いて、馬超は駆ける。
「孟起」
「はい・・・なんですか、母様?」
「私よりも先に逝く事は許しませんよ。絶対に許しません。必ず生き残りなさい。」
良いですね、と馬騰は念を押す。
「解ってます!」と笑顔で返し、今度こそ馬超はまっしぐらに夏侯淵部隊へと突き進んでいった。
見送った馬騰は、横にいる龐徳へと顔を向ける。
「さて、龐徳。頼みましたよ。」
「承知。お任せあれ。」
馬超が突撃して注意を逸らしても、前方に広がる部隊全てをやり過ごす事はできない。
馬騰と龐徳、残りの騎兵2千もまた打ちかかって行く。


~~~曹操軍本陣~~~

「随分と慌しいわね」
曹操は床几に腰をかけ、事態の推移を見極めようとしていた。回りは親衛兵に囲まれており、背が低いので現場を見ることが出来ない訳だがそれはそれ。
北へ向かった夏侯惇の部隊が封じ込められて砦から出られなくなっているようだが、そこは織り込み済み。
韓遂は上手くこちらを騙せたと思っているようだが、それは違う。
本陣を手薄にしたのはわざとで、馬騰なり馬超が一点突破を仕掛けてくるだろうと見越しての事だった。
南に向かわせた朱霊は中々苦戦しているようだが、そちらは別に構わない。膠着していればそれで良いのだ。
本陣を守る親衛隊は数こそ少ないが、魏軍精鋭中の精鋭。そこに徐晃、許褚、典韋と自分。
守るどころか、これだけで攻め入ることが可能な陣容だ。
防御が薄くなったと思い込んで攻め入ってくるなら、それこそ自分の思う壺だ。と曹操はほくそ笑む。
(さぁ、来なさい。馬騰でも馬超でも良いわ。でもって組み伏せてあんな事やこんな事・・・うふっ、ふふふ・・・じゅるっ。・・・ふぉっ!?)
我知らず涎が出掛かっていたことに気がつき、曹操は慌てて口を布で拭いた。
夏侯惇が暴走したせいで台無しになった面もある会談だったが、あの時に見た馬騰の美しさや凛とした態度は実に曹操好みだった。
(声も綺麗だったし、髪も艶やかだし体つきも涎垂もの・・・じゅるるっ。・・・ふぉわっ!?)

・・・魏の総大将はたいへんなへんたいです。




たいへんなへんたいと発覚したのはともかく、曹操は僅かに違和感を感じた。
(ん? 少し早い・・・?)
夏侯淵が守りに徹しているが、その守りも鉄壁という訳ではない。少しくらいは取りこぼしがあるだろうし、牽制部隊が残ればそちらを優先して叩きもするだろう。
しかし、それにしては・・・こう、戦場の熱気のようなものの伝わりが早い。
馬騰であれ誰であれ、突破をしてくるのはもっと遅いはずだ。だが、喧騒は少しずつ確実にこちらへと近づいている。
(まさか、突破してきたの? でも、そんな筈は)
そう思ったのもつかの間、伝令が「曹操さまー!!」と親衛兵を押しのけて来た。
「どうした。」
「ばばばばばヴぁ、馬騰がすぐ其処まで! 今は許褚殿、典韋殿と徐晃殿が防いでますけど長くは・・・ってうわ、もうきたー!?」
「!」
伝令が叫び、曹操が床几から立ち上がろうとしたその瞬間。
「曹操ーーーー!!!」
「!!」
馬騰が単身、曹操ただ一人を狙って斬り込んで来た。
曹操は床几に座ったまま迎え撃ち、自身の得物である大鎌で馬騰の刀を食い止める。
「ほぅ」
「ちぃっ・・・」
馬騰は馬に乗っていない。陣を抜けてくる時に馬を失ったらしいが、馬が無いにもかかわらず、この攻撃力。
これほどの突進力と、それが乗った斬撃を受け止めるの曹操も大概だが、余裕などは欠片もなく寸でのところで受け止めたようなものだ。
「まさか総大将が直接斬り込んで来るなんて、ねっ・・・」
「貴方も、それが必要とあらば躊躇い無く実行できる手合いでしょう・・・ん」
鎌と刀の鍔迫り合い(?)を続ける両者だが、それは親衛兵の放った矢によって遮られた。
曹操もいるのに矢を放つのは危ないのだが、其処は曹操や夏侯惇が鍛えた兵だけあって、そんなヘマはしない。
馬騰は矢を避けてすっと後退、距離を稼いだ。その隙に、馬騰の突撃に対応が遅れた親衛兵は曹操の周りを固める。
「殿!」「奴を討ち取れ! これ以上はやらせるな!」「応!」と、斬りかかって行く者もいる。
「ふむ。邪魔者がいるようですね」
呟いた馬騰は、一度刀を鞘に納めて、構えつつ親衛兵に向かって歩いていく。馬騰に向かっていった親衛兵は10人ほどだが・・・矛で衝くか、剣で斬りかかろうとした瞬間。
彼らは首から大量の血を吹き出し斃れた。
「なっ!?」
「・・・邪魔をするモノは全て斬り、倒し、捨てるのみ。」
何が起こったか解らず狼狽する親衛隊に走り寄り、馬騰は目にも止まらぬ速さで斬りつけて行く。親衛隊は応戦するが、そもそも攻撃を当てられない。
人と人の間を苦も無くすり抜け、致命の一撃を繰り出す馬騰の姿。もしも、ここに高順一党がいればこう言っていただろう。
閻行の戦い方にそっくりだ、と。


「はぁ、はーっ。くう、強い・・・」
「・・・。私達3人でも、保たせるので精一杯。」
「ふぇぇ・・・何なのこの強さはぁ・・・」
典韋・徐晃・許褚は、何とか息を整えつつ目の前にいる男を見つめた。
その男の名は龐徳。

典韋の得物は、今で言う巨大なヨーヨー。ただし、その巨大さ。彼女の怪力から繰り出される一撃は当たれば即死確定な代物である。
徐晃の得物は大斧で、典韋や許褚に負けない膂力と、何よりも技術がある。力だけに頼った戦い方を好むがそれだけではない辺り、彼女の部将ではなく武将としての本質がある。
許褚は・・・フレイルと言うかモーニングスターと言うか、巨大な鎖鉄球。質量武器と言う点で見れば典韋とそれほど変わらない。
そして、その3人と、曹操直下の親衛隊に囲まれても龐徳は何1つ怖じていない。むしろ、その強大な武力で3人を、曹操の誇る親衛隊を押さえつけているのだ。
彼は馬上で典韋らを見つめていたが、3人が呼吸を整えているのを見て「そろそろかまわんか?」と戟をかまえた。
典韋は内心で(まさか、ここまで)と歯軋りしていた。秋蘭様の防御を軽々と抜き去ってきたのはまぐれじゃないんだね・・・とも思う。
本陣に斬り込んで来た2千ほどの馬騰騎馬隊だが、道を切り開いてきたのは目の前にいるこの男と馬騰だ。
この2人が、本陣へ続く道を守備していた親衛部隊を瞬く間に蹴散らし、蹴散らして出来た「穴」に騎馬隊を投入して更に傷口を悪化、拡げさせている。
お陰で指揮系統がズタズタに寸断されてしまい、曹操が直接采配を取るしかない程に追い詰められ、しかもその曹操が馬騰と交戦中だ。
龐徳の周りには、彼を討とうとした曹操親衛隊の屍が折り重なっている。これだけやっても龐徳は疲労を見せていない。
典韋に限らず、その場に居合わせた将兵は「今まで自分たちが戦ってきた奴らとは違いすぎる」と圧倒されていた。
曹操軍の将兵は呂布本人とは本格的にことを交えていないのだが、もしも直接交戦していれば似たような印象を受けたのかもしれない。
余談だが、夏侯淵も含む曹操直下の最精鋭部隊がここまで押し込まれたのは、西涼兵の用いる「五胡式戦闘(格闘)術」・・・どちらかと言えば西羗式と言うべきだが、それが大きな要因である。
格闘、あるいは関節技、あるいは甲冑兵法。相手を効果的に無力化し、殺す。そういう手合いの殺人術だ。
連日の戦闘で、西涼兵が格闘戦を得意としていること、その殺傷力が高い事は曹操も理解していた。
曹操は「組み付かれる前に倒せばいいのよ」とのたまったが、いきなりそんな芸当が出来るのは将軍級か、典韋らのような強大な戦闘力を持つ一握りに限られる。
そんな技術も戦闘力も無い一般兵は「いきなりそんな事言われても無理です!」と叫びたかっただろう。
それに、馬騰が率いてきた兵は馬超や龐徳が直接に技を叩き込んだ荒くれ揃い。
乱戦に持ち込んでしまえば、武器が無くても戦えるという点を活かせる西涼兵のほうが数段有利なのだ。
夏侯淵も、被害を恐れず距離を詰めてきた馬超隊の猛進を上手く捌けず、苦戦してしまっている。
ちなみに、高順隊には西羗を始めとした五胡(異民族)出身の者が多い。
もしも五胡・・・いずれかの氏族と戦う事になった場合、五胡式戦闘術を使って敵対してくる者は相当な脅威である。
洛陽で馬超と組み手をしたとき、高順は関節を極められたりして再起不能になりかかったこともあるが・・・そんな経験もあり、その威力の高さを有用であると判断した高順はこの戦闘術に精通した者に頼んで、末端の兵にもそれらの技術を仕込んでいる。
高順本人はこれの扱いはさほど得意ではないのだが、知識だけでも知っておけば多少の役に立つだろうと言う事で習っていた。
それはともかく。

「さて、休憩時間は終いだ。再開させてもらうが、かまわんな?」
3人の息が整うのを待っていたのか、待ちくたびれたとばかりに言う龐徳。
「っ・・・」
「来る。守り抜く。」
「絶対に負けないんだから!」
戟を構えた龐徳に、徐晃と典韋と許褚は武器を握りなおした。
「・・・む」
馬を駆けさせようとした龐徳だが、何かに気がついたのか。
じっとその方向を見つめて「いかんな」と呟き、目の前の3人を無視して馬騰が斬り込んで行った場所へと疾駆する。
「あれ?」
「はえ?」
「・・・。無視、された?」

武器を構えていた3人を無視して龐徳は駆けて行った・・・。

「ってそんな事言ってる場合じゃないよ何あっさり通られてるの!?!?」
「あ・・・あー!?」
「追いかける。早く。」
「解ってる!」
徐晃の言葉に頷き、典韋らは急いで龐徳を追いかけた。(徒歩で



馬騰、曹操は激戦を繰り広げていた。
先ほどの技で来られれば手のうちようがない、と恐れていた曹操だが、不思議と馬騰はその手を使ってこなかった。いや、使えなかったというほうが正しい。
あれは、けっこうな量の気を消費する。地面を蹴立て、その反動で走り抜け、攻撃にも気を使用する。全身を気で固めているに等しい技だ。
考え付いたのは過去の閻行で、ていうかあんなものを考え付いて実行に移す閻行がどうかしているのだが、馬騰にも素養があったらしく閻行ほどの威力がなくとも使用は出来る。
全盛の頃であればもっと長時間使用できただろうが、病を患っていた事と、昔に比べれば低下した体力ではどうしても使用時間が限られる。
閻行のようにはいきませんね、と思いつつ戦う馬騰であったが自分よりも若く余程体力のある曹操に対して、彼女は有利に戦っていた。
まだ生き残っている兵は多いが、見守る事しかできない。2人の戦いが凄まじいことになっていて手出しが出来ないのだ。
曹操もソレを悟ったのか、積極的に攻撃を仕掛けているし、反撃も受け流すなり受け止めるなりしている。最初の攻撃に、先ほどの一閃。あれさえなければ・・・ということだ。
事実、馬騰の斬撃は先ほどまでと比べて勢いが無いように感じた。剣舞を舞っているかのような動き。
繰り出してきた攻撃もゆったりとした物で、威力も低い。
これならいける、と思うのも当然だが。しかし、曹操は何かに気がつき始めていた。
(気のせいかしら・・・さっきと比べて、速度が上がってきている。それに、少しずつ一撃の重みが増して・・・つぅっ!?)
違う、気のせいじゃない。一撃の威力が徐々に上がり始めている! 重みどころか、キレも速度も上がっている・・・。
あれだけ暴れ回っておいて、こんな体力が残ってるなんて反則だわ・・・と曹操は愚痴りたくなってきた。
しかも、速度の上昇に曹操のほうが追いついていけない。頭で理解していても、錯覚を起こしているのか体のほうがついていけないのだ。
(なんかよく解らないけどこれは不味い。知らない間に劣勢に立たされてるとかどういう事!?)
なんとか反撃を繰り出すが、馬騰はタイミングをあわせて斬り上げる。
その衝撃には耐えたものの、握っていた右手に痺れが走り左手で庇うように握り締める。
「くぁっ・・・」
先ほどとは逆に、曹操が後方へ飛び退いて距離を開ける。
このままでは不味い。覚悟を決めるべきかしらね・・・と曹操が思った瞬間、追おうとしていた馬騰の動きがピタリと止まった。
彼女は東を見つめ、「・・・ここまでですね」と呟き、曹操に背を見せ走り出した。

「え・・・? 何が」と、曹操も東を見つめるが、すぐに理由は解った。
翻る「公孫」の旗、砂塵を巻き上げて向かってくる軍勢。
曹操に置いてけぼりにされた公孫賛が、足の速い軽騎兵数千を引き連れて漸くに到着したのである。
走っていった馬騰は、徐晃らを無視して突破してきた龐徳に引き上げられ、彼の馬に相乗りになりつつ自軍の兵に撤退を呼びかけ退いていく。
公孫賛の援軍に龐徳が一番に気付き、馬騰、曹操という順番だったようだ。
普通ならば、とうの昔に気づいていただろうが、味方の援軍に気付かぬほど追い詰められていた、というのが一番正しい。
今回ばかりは本当に危なかった・・・と曹操は無い胸を撫で下ろした。

この奇襲戦における馬騰側の被害は2000ほど。曹操側は4000ほどの死傷者を出している。本来ならば追撃を仕掛けるところだが、前衛の夏侯淵部隊も損害が出ており、本陣部隊の消耗も激しいためにそこまでの余裕はなかった。
戦力比から言えば馬騰側の被害が大きいのだが、4000のほとんどが曹操直下の親衛部隊と夏侯淵の率いた一部の主力部隊。
戦力として秀でていた主力兵を多数失った、と言うことを鑑みれば実質的に曹操の敗北、と言っても良さそうだ。
ただし、これ以降は公孫賛の援軍を得て息を吹き返した曹操軍が馬騰軍に猛攻を仕掛けていく事になり、馬騰は苦境に立たされることになる。
悪いことは続くもので、西では親馬騰派であった羌族の迷当大王(めいとうだいおう)が、反馬騰派であった徹里吉(てつりきつ)に屈服させられてしまっている。
徹利吉は余勢を駆って西涼へと侵攻し、武威・西平といった主要都市は陥落。そして、その事実を馬騰はまだ知らない。


漸くに勝利が見えかかった曹操軍だが・・・まあ、夏侯淵やら典韋なんかは公孫賛に「お前らがいて、何で此処まで押し込まれてるんだ!?」と怒鳴られ、曹操本人も「先発するならするで一言言うくらいの伝令は出してくれ頼むから!」と叱られてしまっている。
これに関しては完全に曹操のうっかりであって、公孫賛の言う事は全く正しい。
ただ、この時。
「ごめんなさい、完全に忘れ・・・ぁ。」
「忘れた!? おいちょっと待て華琳今忘れたって言ったよなそんなに存在感薄いのか私はーーー!!?」
「・・・(目逸らし」by曹操
『・・・(ついっ』by典韋とか徐晃とか
「・・・・・・(沈黙」by夏侯淵
「ちきしょーーーーー揃いも揃ってぇぇえぇぇえええぇっっっ!!!!(涙)」

曹操の危地を救った割りに、微妙に報われない公孫賛であった。










~~~南中~~~

南中は雲南。
各部族の長やら何やらが、新たな孟獲(美似)への挨拶などを行っている。
高順、そしてその後ろにいる孫家との仲を深めたいという思惑もあるし、きっちりと後見がついて助力もあるのなら、劉璋よりも孟獲に付く方が利口だという読みもある。
そんなこんなで、各部族長の挨拶や献上品の目通りなどを雲南城内、王の間で行っているのだが・・・何故か、その場に高順も同席させられていた。

玉座には孟獲。その右には孟節、左には高順。彼らのいる場所は少しだけ段差があって、人を上から見下ろすような位置になる。
彼らの前には、阿会喃(あかいなん)という第三洞の主が傅いている。
他の洞主もだが、孟獲への挨拶もだが高順への目通りが目的である。
現在、高順が着用しているのは「あの」髑髏龍の鎧。軽装鎧は一時的に止めて、この無駄に威圧感のある鎧を着ていた。
それは周りが「蛮人王だか蛮族王だか呼ばれてるのに、重圧感の無い格好は駄目だろう」「ですよねー」「というわけで、こんなこともあろーかと高順にーさんの鎧は持ってきてるでぇ」「さすが李典さん!」「えっ」
と、こんな流れで高順の意見など完全無視のまま状況進行されてしまっている。
確かに、何も知らない人が見れば「とんでもない場所だ・・・」と尻込みするのだろう。だが、全てを・・・というか、普段の高順のへたれっぷりを知る人から見れば、笑いを堪えるのに賢明なくらいだった。
そもそも、高順本人が鎧の下で冷や汗をかきっぱなしなのだ。
(やばいよまずいよ、俺って見下ろされるのは慣れてるけど、宮廷とかで見下ろすのなんて初めてですようわこの阿会喃って人俺の事ガン見してるし疑われてることなくね? やばいやばいやばいやばい・・・)

本当に駄目駄目である。

謁見っぽいイベントが終わった後、高順は中庭でぐったりしていた。
あの後、孟節から「では、高順殿から皆様方へお言葉を」と予告無しの無茶振りアドリブを求められ、汗だくだくになりつつ一言を言う羽目になり、後で李典にはゲラゲラ笑われ・・・。
はっきり言ってストレスだけが溜まる場だった。もう二度とやるものか。 

この場にいるのは彼一人ではなく、いつも通り個人での手合わせや訓練の為に、主だった人々が集まっている。
交阯からの後続部隊は到着するのに少し時間がかかるそうだが、黄蓋の部隊は既に到着していた。
どうも高順が勝手に話を進めたことに怒っていたらしく、出会いがしらに高順が一方的にシバかれた。
曰く「独断専行が過ぎるわ!」なのだが、高順に与えられた仕事と権利を考えれば、それもまた止むなしと言う側面もある。
時間をかけることは好ましくないし、悠長なことなどやっていられないという事は黄蓋にも解っていたが、彼女も立場上、怒りたくなくても叱責しないといけない。
だからと言って一方的にシバくのはどうかと思うが。
今は、と言うと、黄蓋は孟節を捕まえて色々と話し込んでいる。
状況・・・つまり、南中側では孫家の、孫家から見れば南中の実情、南中から見れば孫家の実情。両者、知っておきたい話だ。
不味いところはぼかしたり逸らしたり。南中は高順が仲介として中に立ったからこそ孫家との同盟にも応じた、という立場を強調したり。


中庭では蹋頓が正座で座っている。
ニコニコ笑顔で李典達の立会いを見守っている彼女の脇には、包帯や軟膏の入った箱が置いてある。
実力者同士の立会であり、もしものことがあった場合はこれだけでは足りない気もするが、無いよりはましと言ったところか。
そんな彼女からは少し遠い場所には孟獲や、ミケ・トラ・シャムといった仲良し4人組が固まって眠りこけている。
すぴー・・・と、仲良く眠っていた娘達だが暫くしてそのうちの1人、桃色の髪のシャムと言う少女が目を覚ました。
皆で固まって寝ていたところ、周りで眠っている娘たちの寝返り攻撃を喰らって「むぅー・・・」と目をこすりつつ起き上がったのである。
この時、たまたま蹋頓の姿が目に映り、この娘はふらふらと彼女のほうへと歩いていった。
蹋頓からも、自分のほうに向かってくるシャムの姿は見えていたがまさか自分を目指して歩いてくるとは思っていない。
なので、シャムが自分の目の前でぴたりと止まった時、蹋頓は不思議そうな表情を見せた。
「・・・(じぃぃ」
「? あの、何か・・・?」
シャムは答えず、ただ蹋頓を上目遣いで見つめてモジモジしている。
「・・・???」
蹋頓は少し首を傾げて(何をしたいのでしょうね?)と考え、暫くして「ぽむ」と手をついた。
多分、だが。甘えたいのだろうか。この子の年頃なら・・・と思ったのだ。
それなら、と蹋頓は手を伸ばしてシャムを両脇から抱きかかえて、自分の膝の上に乗せた。
そのまま、髪を撫でて抱き寄せる。
「あやっ・・・うにゃぁ~~・・・(ごろごろ)」
最初は戸惑うシャムだったが、すぐに目を細めて気持ち良さそうに喉を鳴らす。
「ふやぁぁ・・・蹋頓しゃまぁ~~~」
「あらあら、ふふ」
こうして昔は丘力居の世話をしていたものです・・・難楼達とうまくやっているのでしょうか。と、彼女は姪と、信頼する友人らの事を脳裏に思い返した。
丘力居を育てていたこともあり、子供の扱いには慣れている。この娘よりは年齢は下になるが、それくらいの子を授かっていてもおかしくない蹋頓である。
「みゃぁぁ・・・蹋頓しゃま、かあ様みたいなのにゃ~・・・」
「・・・。あの、シャムちゃん?」
「にゃぅ?」
「あなたのお母様は?」
「・・・解らないにゃあ」
蹋頓の質問に、今までほっこりしていたシャムの笑顔が消え、一気に表情が暗くなる。
「前に「しょく」が来た時に「ちょっと行って来るから大人しく待っててね」ってとう様とどこかに行って、それっきり帰ってこないにゃあ・・・」
「それは、何時ごろ・・・?」
「何ヶ月も前にゃあ。シャム、寂しいにゃ・・・」
(;;)な顔になってぐしゅぐしゅ鼻を鳴らすシャム。
興味本位で聞いたことを、蹋頓は後悔した。恐らく、シャムの父母は先代孟獲に従って、蜀との戦いに臨んだのであろう。
その時に孟獲軍は、先代孟獲本人も含めて壊滅したという話を聞いている。恐らくは、その時にこの子のご両親も・・・。
同情もあったが、どうにも人事と思えなかった。
だから、かもしれない。蹋頓はほとんど無意識に口を開いていた。
「でしたら・・・シャムちゃんのお母様が帰ってくるまでの間、私のこと「も」かあ様と思っても良いですよ?」
「ふぇ・・・?」
「シャムちゃんが迷惑でなければ、ですけど。」
子供にはちょっと難しい言い回しだが「も」と言う事で、自分の母親を忘れる事はないですよ、と言うのだ。
この子の父母が無事かどうかは解らない。多分だが、生存は絶望的だろうし・・・生きて戻ってきてくれればそれに越した事はないが。
最初は良くわかってないシャムの頬にさっと赤みが差し、蹋頓に思い切り抱きついてくる。
「にゃああ♪ かあ様っ♪ 」
「はい、何ですか?」
「にゃぁ~~~♪」
本当に嬉しそうである。蹋頓も笑顔でシャムを優しく抱きしめる。
ふと周りを見ると、何時の間にやら他の娘たち・・・つまり、孟獲、トラ、ミケまでが周りで蹋頓をじぃ~~~~っと見つめていた。
「・・・あ、あら? どうしまs「シャムばっかりずるいのにゃー!」「ミケもー!」「トラもーーー!」え、あのちょっと・・・きゃあっ!?」
自分たちも撫でて欲しいらしかった彼女たちは一斉に蹋頓に抱きついた。
「とーとんは、美似の母様になるのにゃ!」「ははしゃま~♪」「はは~♪」「かあ様ぁ~(すりすり」
「え、ちょ・・・美似ちゃんには孟節様が・・・というか、皆さんのご両親はどうn」
「姉は姉で母様じゃないのにゃあ」
「・・・それって物凄く酷いことを言っているような気がします・・・」
孟節様もお立場が無いですね・・・と、変なところで同情してしまう。
ここで終わればそれなりに済んだだろうが、ここでシャムが余計な一言を口にした。
「うゃ・・・蹋頓しゃまがかあ様だと、とう様は誰?」
尤もな疑問であるが、蹋頓はこれまた無意識に高順を指差して「あの方がお父様です」とのたまった。
指差された高順は意味が解らず「え、何が?」と返すが、孟獲達は高順に近寄っていく。
「ばんぞくおーが父様なのかー?」
「ととしゃまー?」
「ちちー?」
「とう様?」
「・・・。蹋頓さん。これは一体何事ですか。」
子供たちの行動と発言に戸惑う高順は蹋頓に説明を求め、説明を受けた高順は「・・・何で俺の知らぬ間にそういう事を言っちゃいますかね」と嘆息した。
そんな高順をじぃ~っと見上げる4人の娘たち。
(いかん。俺はこういうのには弱いっ・・・)
元来が子供好きな高順に、これはきつい。無垢な表情で見つめられるとそりゃあもうやばい。
邪気が無く、好意的に見てくれる子供らの視線に、しばらくしてから高順は根負けしたかのように項垂れた。
「・・・まぁ・・・す、好きに呼べばいいんじゃないかな!?」
『にゃー♪』

その後はもう、お子ちゃま達の独壇場。
シャムが蹋頓に「かあ様ー」と抱きついて、胸をはだけさせて乳に吸いつくわ、それで蹋頓が色っぽい喘ぎ声を出して同性の李典や周倉にまで「うわぁ・・・襲いたいっ・・・」と思わせるわ。
もしもこの場に趙雲がいれば、子供たちに好かれた蹋頓を見て寂しそうに笑うか、それとも表面上では何も無かった様に振舞うかしたのだろう。
ともかく、何時の間にか4人も子供を持つことになってしまった高順が(俺・・・南中に来たの間違いだったかも・・・)と、身も蓋も無いことを思いつつ隅っこのほうで三角座りしてたりするのだが、時既に遅し。






中庭に程近い渡り廊下にて。

父様だの母様だの言われて、孟獲達に纏わり付かれる高順達の姿を見て、黄蓋は「親子、か・・・」と少し感慨深げであった。
戯れ少し、殆ど本気で「子作りどうよ?」と高順に水を向けた黄蓋。
おかしな意味で子供が苦手であった彼女だが、どちらかといえば睦まじい親子のように見える高順らを見れば、悪くない。と思うのだ。
「ふむ・・・もっと本気で迫るのも良いやも・・・って、どうしたんじゃ?」
orz、とその場で突っ伏している孟節を見て(ああ、そういえばこやつは孟獲の姉じゃったな)と思い出す黄蓋。
「・・・お主・・・立場が無いのぅ」
「腕白でも良い、逞しく育って欲しい|||orz」
「あー、いやその・・・イ、イキロ?」
壮絶に落ち込む孟節と、(何故か)それにフォローを入れる黄蓋の姿があったとか無かったとか。




~~~楽屋裏~~~

3分待ってやる。今すぐ俺に2万貸すか、俺の半ベソ土下座を見るか選べ(某県の方言で「お待たせしてごめんなさい、あいつです」の意味)(挨拶

正直に言います。
馬騰も龐徳も強くしすぎましたごめんなさいorz


さて、特に意味も無い補足ー。
馬騰さんも気の使い手と判明したっぽですが・・・そうなると、この世界では使い手が三人いますというか判明しましたね。
一応、性能差など。
 
気の総容量(多い順
楽進・閻行・馬騰 
 
威力
閻行=馬騰・楽進

燃費・・・つうか、気の使用の上手さ
馬騰・閻行・楽進


総容量はあれです。エロイことやりまくってるk(削除
というのは冗談にしたいところですが、やっぱり実戦に身を置いているとか、現役とか年齢とかもあるのでしょう。
馬騰さんは病気で実戦から離れていた期間も長いでしょうからー。
威力は・・・まぁ、純粋に戦闘能力の違いから。
燃費は、楽進は他2人に比べれば修行が足りないという事でしょうか。気の使い方に無駄が多いとかそんな感じ。
多分、馬騰も癒術使えるのではないでしょうかね?

あと、喘ぎ声を上げた蹋頓+戯れる子供たちを見て子が欲しくなった黄蓋のエロとかも想定してましたが面倒ですし描きませんし削ります。
文句のある方はn(以下中略)とか言うk(中略)やk(中略)にちょk(中略)ということです(何?

も1つ、これは原作のところでも思ってたことですが・・・
何で南蛮勢には大人がいないのだろう、とか思ってまして。このお話では蜀(りゅーしょー)軍と戦って数がいなくなった、ということにしました。
南蛮軍って、ミケ・トラ・シャムと、それに良く似た量産型だけなんですよねぇ・・・
蜀漢(劉備)軍との戦いで殆ど死んだ、でもいいのですがソレやると・・・ねぇ。
諸葛亮率いる蜀漢軍との戦いで大多数死んでいるのも事実なんですけどね。正史にしろ演技にしろ。


リア充なんて爆発しろ! としっとマスク4545号なあいつでした。

それではまた次回ノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第94話
Name: あいつ◆69d0c125 ID:81575f4c
Date: 2011/01/08 17:09
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第94話

~~~寿春~~~

大広間で椅子に座っている孫策は、高順からの贈り物、という大量の宝物に唖然としながらも、その高順・・・いや、高順の部下である劉巴からの状況説明の書類に目を通していた。
内容は「孟獲と同盟。劉璋との衝突は不可避だが、こちらから仕掛けなければ当面は問題なし。」という事であった。
毎日のように忙しい彼女達ではあるが、高順の扱い方と言うのも1つの悩みである訳で・・・。
「ふぅん。つまり、上手くやってのけた、か。はい。」
すぐ隣にいる周喩に書状を手渡して、目を瞑った孫策は腕組みして何事かを考えている。
「ほぉ。独断専行は考え物だが、それ以上の成果を出したという事か。・・・しかし、だからといってこれか。」
あらかた内容を読み終えた周喩は、書状を折りたたみつつ宝物へと目を向けた。
孫策は瞼を開けて、周喩の方へと顔だけを向ける。
「我が優秀な軍師殿はこれをどうお思いかしら?」
「言うまでも無く。悪い言い方をすればゴマすり、だな。」
「あ、やっぱし?」
「ああ。独断専行はしたが、結果は出したしこれで勘弁して欲しい、というところか。」
「全権委任したから文句は言えないのよねぇ・・・しっかし、こんなに贈ってくる? 普通」
「そうだな。それだけ高順にとっては大きな意味があったということなのだろう。それに、私達にとっても僥倖。これで兵を養うための糧食、新しい武具の購入資金に充てられる・・・ネコババしたらお灸を据えるわよ?」
「うっ」
「・・・。するつもりだったのね」
本気でネコババしようとしていたのかどうかは解らないが、孫策はそっぽを向いて周喩から視線を外す。
その様子に、これまで何度したのかわからない溜息を吐きつつ、周喩は続ける。
「雪蓮の言う通り、責める理由は少ないのだがね。独断専行とは言うものの、急がせたのも権利を与えたのもこちらだ。それで? 我が英邁なる主君は何をお考えかな?」
「え、ちょっ・・・何よぅ、嫌味なお返ししないでよね」
「そんなつもりは無いぞ。しかし、軍師としても宰相としても主君の御尊意は正しく知っておかねばならんのでな。腕組みをして何を考えていたのだ?」
「ぶー。めーりんのいじわるー。」
「で?」
「・・・強引だなー。」
「あなたにだけは言われたくないわ。」
「ご尤も。・・・ま、高順の事なんだけどね。ヤバイかなー、って。」
孫策は、自分の頭をカリカリと掻く。
「やばい?」
「んー・・・簡単に言うと、やってる仕事とあの子の立場が噛み合ってない、って感じかなァ・・・ね、冥琳。孫家で一番重きを成す武将というと自分以外で誰を想像する?」
「ふむ? そうだな、先代から孫家にお仕えし幾多の戦場で武勲を挙げた四将。程普殿、黄蓋殿、韓当殿、そして亡くなってはいるが祖茂殿だな。」
「だよね。そーいう人々が高順と似たような仕事をすれば、回りは「さすが先代からお仕えしている孫家の宿将だ」となる。でも、新参の高順であればどう?」
「成程。言いたいことは解ったわ。立場はそこそこ・・・中堅どころか、もしかしたらそれ以下の武官。にも拘らずやらせている事は譜代の重臣級、か。」
「それにねぇ。一部のお馬鹿さん達は「もっと信頼できる者を交州に据えるべきです」とか言ってくるのよね。」
これに対しては、孫策はあっさりと拒否した。
お前達の言う「信頼できる者」は、私にとって信頼が出来る者か。それとも、お前達にとって都合の良い信頼できる者なのか、と。
大方、交州での権益に目が眩んでの事だろうが、そんな程度の連中に山越や武凌蛮やら南蛮を任せることは到底できない。
あんたらが高順と同じだけの金を稼いで、同じように異民族の統治が出来るなら任命してもいいけど? と言うと、全員が引き下がるのだから、その程度の考えでしかないのだろう。
「全く。呂壱の件など自分たちには関係が無いと思っているのかな」
「さぁ? 馬鹿の相手をするつもりは無いわよ。年齢とか仕えてる年数が長けりゃそれだけで敬われると思ってんだから。諌言なんかしてる暇あったら自分の仕事きっちりやれっつーの。」
それを言えば黄蓋なども当てはまってしまうが、彼女らはそれだけの仕事をして、敬われて当然の立場。実力と役職がきっちりと見合っているということになる。
「全くだな・・・ふ、内も外も苦労が多い。」
周喩は苦笑しつつ、文官連中との軋轢に疲れて孫家首脳陣に背を向けた高順を思い遣った。
成果を挙げれば挙げるほど一部の者には嫌がられる、というのはどこの社会でもあるものだが・・・この乱世では、人格もだが仕事のできる者が重要なのだ。
己の仕事をきっちりこなして嫌われた高順と、それを妬んだ人々。残念ながら周喩にはこの軋轢を解決できなかった。
「つまり、そーいうこと。立場・・・ま、太守って事にはなってるけど、高順達は孫家ではどちらかと言えば武力を期待されている立場。つまり武将としての働きが必要でもあるのよね。」
「それは袁術の時に証明済みだろう。対劉璋戦でも発揮してもらうがな。こちらの戦局如何では呼び戻す必要もある。」
「うん。ま、重臣連中と比べればどうしても軽んじられるけどねぇ。南蛮と友好的に同盟を結び、金銭面でも貢献・・・ほんと、立場以上の働きをしてくれるもんだわ」
だからこそ、困ることになるとは思いもしなかった。さて、どうしたもんかしらねー、と孫策は呟く。
「ふぅむ・・・ならば、正式に漢王朝に認めさせるのはどうだ。上手くやれば、雪蓮にも恩恵がある。」
「へ?」
周喩の提案に、孫策は不思議そうな表情を見せた。
「まず、漢王朝にもう一度朝貢する。」
「はぁ? そんな余裕・・・」
「無くてもやる。そして「交州を平定、南蛮と盟を結び南方の脅威を取り除きました」とする。」
前回は江南を平定し、玉璽を袁術から取り戻したという名目での事で、交州を平定したという話は出していないのだ。
実際には平定したばかりだったという話でもあるが、そこに武凌蛮や山越も服従させたと加えれば資金力だけではなく軍事力もあると喧伝できる。
そこに、漢王朝とは距離がある南蛮をも同盟相手として平和裏に収めたと報告すれば、漢王朝としても動かない訳には行かない。
「一番手っ取り早い手段としては、高順本人に朝貢をさせるという手もある。」
交州は漢王朝にとっては手が届きにくい、統治のしにくい場所だ。
先代の交州支配者は士燮で、この人は毎年漢王朝に朝貢を行っていた。
漢王朝もその功績を認め、また手の届きにくい交州をそれなりに平和に治めてくれるなら・・・と、安遠将軍と龍度侯を与えている。
「じゃあさぁ、高順に士燮が与えられた位を継いでもらうってのはどう? 「俺は士燮の政治を踏襲しますよー」って風にして、交州の統治者である事を内外に示す、っての」
「ほぅ・・・?」
「あ・・・でもさぁ。向こうには曹操がいるでしょ?」
「ああ。しかし、奴は魏公となり今は西の馬騰へと向かっている。まだ証細は不明だが・・・留守役は置いているとして、少なくとも許都にはいないだろう。曹操の部下は皆すすんで魏の位を受けている。一部は密偵のような形で漢王朝の臣として残しているのだろうな。」
「じゃあさ、その隙に徐州を奪うのは? 曹操がいないのならいけるんじゃない?」
「許都を窺うには良い話だが、あの曹操が武将を配置していない訳はない。確か、徐州には張遼や陳登を始めとしたやり手が配置されている。」
落とせんではないだろうが、その後に攻めてくるであろう曹操の軍勢を防ぐのが難しいところだな。と周喩は肩を竦めた。
「劉表が動く可能性は少ないが、蜀戦線がどうなるかは全くわからない。使者を派遣して「まだ事を荒立てるな」と高順には釘を指すが、防衛拠点が増えたことで戦線が長くなりすぎている。攻勢限界を超えかけているんだよ」
「むぅぅぅ・・・」
馬騰のほうが上手くやる可能性だってあるし、もし馬騰が負けても曹操の戦力はある程度削られる。こちらの不利益とはならないというのが周喩の読みだ。
「蜀はまだしも、本隊であるこちらが保たんさ。消極的だが後の先を取り、反撃戦で曹操の戦力を削りつつ勢力を広げる。現状で取りうる最良とは言わないが最善であると考えている。多方に敵を抱えているのは両者変わらずだが、そこは上手く使わせてもらおう。」
曹操が劉璋と劉表を動かすことは出来ないだろう。劉璋は中央から離れているし、劉表はそもそも外敵にだけにしか反応しない。
「今のところは軍政とも充実を図り、外にも良い顔をする、さ。」
「今まで付いて来てくれた皆の昇進も考えなきゃいけないけどね」
孫策のぼやきに、周喩は苦笑しつつ「ただし」と言い加えた。
「覚えておけよ、雪蓮。厚遇すればいいというものではない。取り立て厚遇するということがその人を重んじる、ということには繋がらない時もあるとな。」
「はぁーい・・・」
「それとな。さっきの士燮の後を継ぐ云々だが。」
「へ?」
「それをやると、呉侯・討逆将軍より龍度侯・安遠将軍が高位になるぞ。」
「・・・え」

即却下された。



~~~同時期、南中~~~

同じ頃、高順が手配した交州からの後続隊が南中に到着。
この中には華陀も混じっており、到着すると同時に負傷者に対しての治療活動を開始している。
「うふぅぅううんっ! こぉのぉ、麗しい踊り娘(?)ちょうぉぉぉぉせみのぉぉ、治療を受けたいのはぁ何処の誰かしらぁぁぁん?」
「おお、なかなか良いオノコがおるのぅ・・・ぐっふっふ・・・」

・・・不必要な方々も混じっていたようです。

負傷した(男性限定)人々の阿鼻叫喚蠢く天幕の側を、(うわぁ・・・)と思いつつ通り過ぎていく高順。
彼は、後続隊が到着したという報告を受けてその様子を見に来ていた。
到着と同時に救護活動を開始したという報告も受けており、さすが華陀だなぁ・・・とも思っている。
先発隊でも、応急処置を行っていた人々に声をかけて手伝って貰っているらしく、天幕の数も多い。
どこで治療してるのかねぇ? と華陀を探す高順だが、すぐにそれらしき場所は解った。
1つの天幕に、長蛇の列。あそこかな、と覗きこむ高順だが「横入りは禁止です!」と自軍の兵に追い返されてしまった。
「あ、あるぇー?」となって「いや、華陀に会いに来ただけですよ!? ていうかこう見えて一応隊長なんd「よく解りませんが、怪我人の治療が第一です! 華陀先生の邪魔をしないようにお願いします!!」
「・・・はい。」
よく解らんって。一応隊長の顔くらい知っておいてください。と涙目になる高順だが、その兵は交州で加わったようで高順の顔を良く知らないらしい。
兵の前では頑張ってあの鎧とか兜を着用していたので、高順の顔を知らない人もいるようだ。
兵の言う「怪我人の治療が優先」という事も理解できるし、考えてみれば今会って華陀の邪魔をすることも無い。
結局、その場で会うことは諦めた高順は、届いた資材で城門補修を行っている李典らの様子を見に行く事にした。

そして、夜。

華陀は、まだ負傷者は多いもののある程度のところで見切りをつけてその日の活動を終えた。
診きれなかった人々には「明日早朝から再開するから」と、南中までの道中に作っていた薬や痛み止めを配ってある。
明日も大変そうだな・・・と、おかしなマッシヴポーズを決めている貂蝉と卑弥呼を放置して、華陀は寝泊りする為に割り当てられた部屋へと向かっていった。
高順と出会ったのは、その道すがらの事。

「よお。」
「ん、高順か。」
「良く来てくれたよ。・・・すまないな、俺の勝手で引きずり回して。」
「ああ、別に構わないぞ。戦争が起こるのはお前のせいじゃない。それに、この状況で呼ばれないほうが頭にくるからな。」
医術は仁術、仁術に貴賎なし。というのが基本方針である華陀にとっては、負傷者を放って置く様な状況こそが我慢ならない。
ソレを考えたら、高順の都合で呼び出されたと言うことにも不満があるわけではない。
「まぁ・・・一部の人は体の傷が癒えた以上に心に傷を負ったようだったけど。」
「・・・あの二人だからな」
貂蝉と卑弥呼に治療をされる人々の阿鼻叫喚地獄絵図を思い返して、二人とも表情がげんなりとなる。
それは片隅において、「そういえば」と華陀は話題を逸らした。
「麗羽たちも呼んでいたみたいだが良かったのか? 軍政には介入させないのだろう?」
「ん? ああ、孫策殿にはそう言ったけどな。この状況じゃ、誰の手であっても借りたいんだ。それに、孫家の政策に口を出させるわけじゃないし?」
「それで良いのか?」
「良いんだよ。あの人達が嫌がるのはそういう意味で動かれる事だ。俺たちはここで仕事しているが、あの人たちの損益になるようなことをしてるわけじゃない。」
あまり勝手に動くと何言われるかわからんけどね、と高順は肩を竦めた。黄蓋にもシバかれたし。
高順がやる事と期待されている事は、蜀攻略の足がかり、そして蜀攻略大将(となる筈)の孫権を迎えるための下準備だ。
その為に一応同格の同盟という手段を取り…でもって、攻撃をできる準備を整えつつも、基本は守備に徹する。
その前に、曹操が北から攻めてきてそちらの防衛で呼び出されそうな気もするのだが…。
麗羽らを呼んだのも、そんな状況になった場合の為だ。
麗羽や田豫らと共に大量の物資、特に篭城用の食料や城壁・住宅修理用の資材などを手配していたが、輜重車に山積みされたそれらの物資を見て、孟節は絶句していたりする。
物資食料の山、山、山…。
それらを見た孟節は困り弱音を吐いていて、そのときのやり取り。

「あの、高順様・・・あんなに沢山の物資、保管できる場所が・・・」
「じゃあ、倉庫増設してください」
「えっ」
「えっ」

こんなもんであった。


「あ、それと。」
「ん?」
「趙雲と楽進が「なんで自分たちは呼ばれないんだー!」って叫んでたぞ。」
華陀が思い出したように言う。
「あの二人がいるからこそ、安心してこっちにいられるんだけどね。」
「嫌がらせで叫んだんじゃないか? 特に趙雲。」
「普通にそんな気がしてくるから怖いよ・・・。」



ここから、高順達のてこ入れで南中の防備がエラい事になる。
糧食はともかく、李典らの作成した砦と、その造りがどう見ても「殺し間」っぽく・・・引き込んで包囲殲滅を想定しているのだろうか。
それを見た高順、思わず「何この「歓迎しよう、盛大にな!」な造り・・・」と発言している。
それと、兀突骨の率いてきた藤甲兵を配置して奇襲に使うという手段も用意した。
高順は知識的に藤甲が火に弱い事を知っていたし、火矢など使う余裕のない乱戦に持ち込ませればいい。
騎馬隊の突撃と共に、歩兵部隊に混じって攻撃、攻撃を受け止めつつ味方の道を開く、等。火を使わせない、という前提条件をクリアしないといけないが、用途は多い。
また、高順は兀突骨に頼み込んで藤甲鎧を一丁譲り受け、試験的にだが周倉に装備させることにした。
城攻めでは相手が火矢を使うだろうから、そこでは使用できない。敵陣に突撃して、敵陣の中で軽業師のような身のこなしで暴れ周るというのが彼女の戦い方だ。
徒歩で馬と同等の走破力を持つ周倉。騎馬隊の突撃に平気な顔して随伴できる彼女なら使えるだろう、と判断したのだ。
・・・親衛隊らしいので、自分から離れて戦うのもどうかと思うが。
その高順にしても敵兵のど真ん中で暴れていることが多く、気付いたら周倉も傍で戦っている。突撃隊としての仕事もこなしつつ、きっちり自分の役目をこなしているのだから仕方ないか、と容認されていたり。

こんな感じで、蜀が攻めてきても迎え撃てるように彼是と働いている高順達。
そこから2・3ヶ月ほど。蜀陣営も、孫家が孟獲と結んで防御態勢を整えていることを理解した。
当初こそ、宣戦布告もせず攻め込んだため優勢だった劉璋だが、高順が介入してからは攻めあぐねており、状況を打破する手段がなかった。
そこで、使者を送り込んできたのだ。
高順と孟節は、城に入れて手の内を見せる必要はないと、城外に建築された砦付近で使者(出っ歯で背の低いおじさん)に会うことにした。
使者が言うには「これは劉璋と孟獲の戦で、孫家には関係のない話だから手を引くように」ということだ。
何で上から目線なんだ? そっちの都合なぞ知らん、と思いつつも茫洋とした表情で「そんな事言われてもな」と言葉を濁した。
「そっちが断りなく攻めてきた上に捕虜にして連れて行った人々もいるしなぁ・・・それを返して貰わないとねえ?」
乱世だから何でも許されるとは思わないし、劉璋が律儀に宣戦布告するとも思わないが、高順はわざとそんな事を言った。
「いや、しかし・・・」
「それにさぁ、俺って派遣されてきただけで上の思惑なんて知らないんだよ。言いたい事があれば俺の上に掛け合ってほしいね。」
「むうぅ・・・」
使者は困りきった表情である。後に知ったことだが、この使者の名は張松だったとか。
実は上からのお使いが黄蓋で、その黄蓋は南中にいる。いるが、劉璋の都合など知ったこっちゃないし、掛け合ったところで「馬鹿かお前は」と返されるのが目に見えている。
孫家の西側に対しての方針がはっきりしている以上、劉璋がどれだけ文句を言おうと前述どおり知ったことではないのである。

話の中身が食い違って・・・というか、そもそも前提から話を合わせる気がない孫・孟陣営。
きっちりとした話し合いになる訳もなく、ただ時間稼ぎをされただけで張松はすごすごと引き下がるしかなかった。



潼関。


公孫賛が援軍として参加して以降、3ヶ月。馬騰軍は不利な状況へと追い込まれていた。
それまでの戦いで減らした以上の兵が加わってしまって、戦力・兵力共に完全に呑まれる形となっている。
南北に築いた砦も落ち、後方の砦からも戦力を出さねばままならない状況だ。
そして、この2ヶ月ほどの戦いの中で、西涼10軍閥のほとんどが戦死していた。
成宜(せいぎ)・李堪(りたん)・梁興(りょうこう)・程銀(ていぎん)・馬玩(ばがん)・張横(ちょうおう)が戦死。
砦を再占領したり、また奪われたりする中で、撤退に失敗して壊滅させられた部隊もいれば、落とし穴にかかって壊滅させられた部隊もある。
将だけではなく兵も半数以上が失われ、すでに馬騰軍の敗北は動かないだろう。
ただし、曹操軍も相当に疲弊している。公孫賛が来援してからは持ち直したが、やはり五胡式戦闘術に慣れていない者が多く、そのせいで被害も大きい。
この被害の大きさを見た曹操は仕方なく、洛陽・弘農・河内などの守備部隊を一部動員して、更に兵数を増やした。
数で質を押し込んだ、とは言うが・・・兵力的に見ても曹操側の死傷者は多かったのだ。
そして、今。

「・・・それは、本当なのですか。」
「うむ。・・・信じたくはありませんが。」
「・・・。そう」
韓遂の報告に、馬騰は肩を落とした。
彼女の陣幕には馬超・鉄・休姉妹に、馬岱。龐徳や成公英もいる。
西涼の主要都市の陥落。それは蜂起した西羌族の王の一人、徹利吉(てつりきつ)によって、である。
反抗的であった彼の押さえに、同じく王の一人である迷当大王(めいとうだいおう)を残したのだが・・・それが負けてしまったのだと言う。それが一ヶ月以上も前の話。
ここまで情報伝達が遅れたのは、急を知らせようとした早馬が全て捕らわれてしまったからだ。
韓遂が知ったのもつい先ほどのことだ。多くの密偵を放っていたがそれもあらかた討たれたようで、帰ってきたのは10人もいなかった。
それらの情報を整理した結果が、西涼失陥というものだった。
どうも、長安に残した楊阜(ようふ)という男が裏で糸を引いていたらしい。
この楊阜、長安を陥落させたときに最後まで抵抗していた曹操軍の将で、その忠義・戦いぶりを認められ、命を助けられた男である。
「じゃあ・・・長安もすでに」
「そう、お前の思うとおりだ、馬超。すでに曹操陣営に戻っている。楊阜は復讐の機会を狙っていたということだな」
「くそっ、あいつめ。助けられた恩を仇で返しやがって・・・だから、どれだけ押し返しても曹操は強気で攻めてきたんだな」
右の拳を、左掌に叩きつけて馬超は悔しそうに歯噛みした。
「私に見る目がなかった、それだけです。しかし・・・帰る場所もありませんか。」
長安で篭城し時間を稼ぐという手段も取れなくなった。どころか、本拠地が陥落してしまってはどうしようもない。
ここまで、ですか。と馬騰は立ち上がった。
つい先ほどまで負傷した兵士を癒術で癒していた馬騰だが、体力・気力ともに限界だった。
疲労が溜まりすぎて、まともに戦う事もできないだろうがそれは他の将兵も同じ。帰る場所がないという事実は精神的なダメージが大きいものだ。
「義姉上。どうなさるおつもりか?」
「私の首を差し出します。そうすれば将兵の命は助かるでしょう」
下手をすれば馬超をはじめとした娘たち、それに韓遂の首も必要かもしれないが、それは本人たちも覚悟をしている事だ。
しかし、韓遂は馬騰の首を差し出すという事に断固反対の立場だった。
「馬鹿なことを仰せになる。義姉上や馬超らが死んでどうするのです。我らはまだ負けたわけではありませぬぞ!」
「ですが」
「ですが、ではござらぬ!」
ぴしゃりと言い切る韓遂の迫力に、馬騰は気圧される。
普段ならば弱気になるような性格ではないが、根拠地まで失った事が堪えたのだろう。
「宜しいか、義姉上。我らは意地を通さねばなりませぬ。」
「意地・・・」
「さよう、意地です。義姉上は曹操に仕えるなど御免被る、と。曹操の良いように使われてやるものか、という意地で曹操に挑んだのですぞ?」
ならばこそ、と韓遂は続けていく。
「義姉上には逃げていただきます。再起を図ってもらわねばなりません。」
「逃げる・・・? ですが、逃げてどうなると言うのです。張魯や劉璋、劉表を頼れと?」 
「どれも頼りになりませぬな。・・・もう1つ、報告していないことがあります。高順の行方について。」
『何ー!?』
高順、という言葉に三姉妹が反応する。今まで何処にいるか判らず、姉妹は気を揉んでいたがそれが判ったのだという。
「ここより南東・・・江南は孫家の厄介になっている、という話が舞い込んでおりましてな。」
「ちょ、それどこ情報!? どこ情報だよそれー!?」
「うるさいぞ馬超。ちなみに情報源は華陀な。頼んだのはお前だ。」
「・・・あ。」
交州まで高順にひっついて行った華陀が馬超の元に手紙を出していたが、それが戦中のことで伝わってくるのが遅かったらしい。
この情報を拾ってこれたのは、ある意味で幸運だったと見るべきかもしれない。
「じゃ、じゃあ高順を頼れってこと??」
「高順を頼り、そこを窓口にして孫家に渡りをつける、というほうが正しかろうな。」
「では、馬超を行かせれば良いでしょう。私もここに残り・・・」
馬騰の言葉に、韓遂は首を横に振る。
「いえ、行くのは義姉上に、娘たち。それと馬岱ですな。馬超らだけでは甘く見られましょう。それに、あれらだけでは何もかもが不安です。」
「・・・・・・。」
まあ、確かに・・・と思えるのが何と言うか。実際、馬超は政治とか駆け引きとかができる性格ではない。
その点を見れば、姪の馬岱のほうがよほど世渡り上手。
直情径行何も考えず突っ走る、という思い切りの良すぎる性格の馬超。
親から見ても愛すべきお馬鹿ぶりで、そこはかわいいと思うが変に利用されたりしても困る。
それは判っているが、やはり納得できるものではない。
「私に生き恥を晒せと言うのですか・・・兵も何もかも見捨て、己の取るべき責を取りもせず生き延びろと。」
「然り。義姉上と馬超らがおらねば馬家の復興も出来ますまい。馬援より続く血脈を絶やしてはなりませぬ。それに今の義姉上では、馬超らを逃がす為の盾にもなれませぬ。」
確かに、馬騰は心身ともに疲労してまともな働きは期待できない。それに比べれば韓遂はまだまだ元気なほうで、少なくとも馬騰よりは戦える。
「たとえ負け、生き恥を晒そうと、生きて曹操に逆らうことで意地を押し通す。一度決めた生き方を曲げるなど、それこそ貴方らしくない。・・・そういうわけだ。さ、もたついている暇はありませぬ。ここより南西にある上傭に抜け、国境沿いに南へと抜けるのです。」
「ちょ・・・お、伯母上はどうするつもりなんだよ? 残るって言うのか?」
「ん? ほぉ、馬超が他人を心配するとはなぁ・・・ははっ」
「な、何がおかしいんだよ!? 馬鹿にすんなぁっ!」
「馬鹿になどしておらぬさ。義姉上を頼むぞ、馬超。・・・成公英!」
「え、あの。私の意志は・・・」
馬超を慰めるかのように肩をぽん、と叩き、韓遂は腹心の少女へと向き直る。(馬騰は無視された
「はい!」
「各陣に伝達せよ、義姉上はこれより南へ抜ける。それを逃がすための戦いだ、残りたいやつは残れとな。急げっ! あ、それと・・・そぉいっ!」
「はぐっ!?」
思い出したかのように、馬騰の顎に一撃を決めて気絶させる韓遂。普段はともかく、疲れきっている状態の馬騰を気絶させるくらい簡単なことだ。
こうでもしないと、頑固に「ここに残る!」と言い出しかねないし、それが原因で逃走が遅れても困る。
昔に比べればこの頑固さも薄れたものだが・・・馬超は、その頑固を良くも悪くも受け継いでいる。血は争えんな、と思っているがそれは良しとして。

韓遂に成公英・龐徳。そして生き残った10軍閥の楊秋、侯選と共に砦に立て篭もる。
馬騰直轄の兵士数千に馬家姉妹・馬岱をつけて南方に脱出させる為の戦いである。
将兵にはいつ降伏しても良いと言ってあるが、そんな気配はなさそうだ。
韓遂は成公英にも脱出を勧めたが「絶対残ります!」と聞き入れず、結局残ることになった。
まだ若いし、ここで死なせるのはいかにも勿体無い。そう思っての事だったが、いつも気弱なこの娘は、今回は絶対に退かなかった。


逃亡する馬騰とそれを守るために同行する兵は7千強。
馬騰を逃がすための盾となって残る韓遂以下、残存兵2万数千。
それに対する曹操軍、10万以上。
韓遂らは馬騰達を逃がすため、そして、馬騰と違う形で己の意地を押し通すため。
開戦時と同程度、あるいはそれ以上の規模に膨れ上がった曹操軍に対し、最後の一戦を仕掛けようとしていた。





~~~楽屋裏~~~

あれ・・・西涼がやたらシリアスだよ・・・? あいつです。


前に更新が滞るといったが・・・騙して悪いがあれは嘘だ(何
・・・すいません、すぐに新PC買いました。年末のお金が必要なときにトンデモ出費痛いです;;

次回、西涼編が

「駄目だった」
「逃げ切れなかった(・ω・)」
「【ヤーン】」
とかにならないよう頑張ります。頑張ります・・・






で、久々に。




~~~番外編、もし高順が北に行けばどうなった?~~~


「高順殿」
「何ですか、趙雲殿」
「高順殿のお決めになったことゆえ、多くは申しませぬが・・・やめておいた方が良かったのでは?」
「うーん・・・そうだよねぇ。」
「仰りたい事は判ります。袁家に付いたほうが戦力的に優位な立ち位置。しかしながら・・・」
趙雲はいささか疲れたような表情で、自分たちの前を進む袁紹の後ろ姿を見つめた。

現在、高順隊は袁紹と共に鄴へと向かっている最中だ。
袁紹が連れてきた一千ほどと、高順の五千が一緒になっている。
高順は散々悩んだ挙句、今度は趙雲を連れてもう一度袁紹の陣幕を訪れた条件を突きつけた。
公孫賛・張燕・烏丸を戦うのは仕方ないとしても、滅ぼさず傘下に加えること。
自分や部下の身の安全、立場の安堵。約束を守りさえすれば、仕えてやっても良いが破ればすぐに離れる、とそういう事だ。
これを聞いた袁紹は「えっ?」と耳を疑った。
「それだけで構いませんの?」
「えっ?」
「どこぞの太守にしてくれとか、官位とか爵位を貰えるように上奏してくれとか、そういう要望が来るとばかり。」
「・・・仕えてもないですし、働きも無いのに。いきなりそんなものを要求はしませんよ」
「そもそも、私は彼女たちを死なせるつもりがありませんけど。」
「はぁ。」
しかし、これは袁紹から見て易い条件だった。
今言われた3勢力と交戦する意思はあっても、滅ぼすつもりは無い。それは明言した通りだ。
自分で戦ったわけではないのだが、防衛戦として有利であったことを見ても、孫策・曹操を敵に回して互角の奮闘を見せている部隊がそんな条件で仕えてくれるなら、本当に易くて安い。
袁紹は高順の突きつけた条件を飲むとして、更に自分からこう切り出した。
「戦功があれば、どこぞの太守に抜擢しても良いでしょう。新参であろうと何であろうと、働きには相応に報いますわ。」
「はぁ。そうですか」
「それともう1つ。もし私が貴方の意にそぐわない・・・たとえば、先ほどの条件に反する行いをしたなら」
「したなら?」
それまで座っていた袁紹は立ち上がり、高順の目の前まで歩き立ち止まる。
彼女は高順の前で、腰に挿していた袁家の宝刀を鞘ごと引き抜いた。この宝刀、宝飾ばかりの刀で実用性は低いがそれなりに切れ味はある。
その宝刀を高順に渡し、袁紹は背を向けた。
「構うことはありません、それで私を後ろから斬りなさい。」
「は!?」
これは、同席していた趙雲だけでなく、その場にいた袁紹の兵や審配も予想していない事だった。
彼ら全員の視線が袁紹の背に向けられる。
「私は勿論、部下にも手出しはさせません。好きなときに殺りなさい。」



それを思い出しながら、高順は渡された宝刀を見つめて握り締めた。
「あそこまで啖呵きられちゃったら、ねぇ・・・」
「むむむ。」
「何が・・・いや、まあいいか。」
その啖呵を間近で聞いていた趙雲は唸る。
何より聞いていた感じとまるで違っていたのだ。聞くところではただの馬鹿とか頭の中が残念な人とか、良い印象を感じる話が無かった。
ところが実際はどうか、と言えば・・・お人よしな部分はあるものの、少なくとも馬鹿ではないように見えた。
いや、馬鹿なのだが、噂で聞いていた方向性とは違う馬鹿だ。
(ふーむ・・・)
ちょっと考えたが、まぁ良いか。と趙雲は半ば開き直った。
楽進、李典、沙摩柯など、多くの人々が「本当に大丈夫なんだろうか・・・?」と思っているが、高順本人ですら少し不安である。
蹋頓は文句は言わなかったが、その代わりに「対烏丸戦には出ない」と高順に言っているし、高順もそれを了承している。
高順だって出たくないのだが、必要があればあれば部隊を率いる者として出なければならない。
(公孫賛殿のところで勝つか負けるかわからん戦いをするよりも、多分勝つ側で助命運動したほうが成算は高いよな、多分・・・あれ?)
だが、高順はすぐに思い出した。
 
このままだと、対曹操戦になる→官渡の戦い→敗北 な流れではあるまいか。

しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっっ!!!?


何もかも見通しの甘い高順の明日はどっちだ。



・・・。

結局、高順はそのまま鄴へと入っている。
そのまま公孫賛との戦い、つまり界橋の戦いに参加。
緒戦から公孫賛本人が率いる白馬陣が突撃。それを迎え撃つかのように袁紹軍先鋒となった高順、つまり陥陣営が激戦を繰り広げる。
この界橋の戦いに於ける公孫賛・高順両隊の激突は凄まじく、それに引きずられた形で両軍は総力戦へと発展、僅か数日での決着となる。
結果は袁紹軍の勝利、烏丸も張燕も参加する前に勝敗が決まってしまったのである。(この戦で、趙雲と張郃。高順と高覧。二組の一騎打ちが発生しているが・・・省く。)
公孫賛側は、武将の損失こそほとんど無かったものの兵士を多数失い、また袁紹側も被害は小さくなかったものの、予想よりも早い終結となり曹操に備える時間が大幅に増えた。

このような流れで、袁紹は入念に開戦準備を行い、万全の状態で曹操との決戦に挑むこととなる。





~~~楽屋裏~~~
短いですが番外編でした。
一騎打ちは書きたかったですが・・・まぁいいや、面倒(は?

この番外編は、けっこう状況を飛ばしていきます。官渡はそこそこにやりますが。
補足しますと官渡発生時期でも田豊おじいちゃん元気ですし、あの3馬鹿も相変わらずです。
高順一派は・・・顔・文コンビとかは当然、審配や麹義、他の人々ともけっこう上手くやってるんじゃないでしょうか?
曹操とかの場所とは違って普通の人は多そうですから、やりやすい勢力なのかもしれません。
公孫賛とかも仲間になるでしょうからねぇ・・・



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第95話
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/01/26 20:23
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第95話



~~~潼関~~~

曹操軍。

「なぁ、白蓮。」
「なんだ、春蘭。」
馬騰陣営をじぃぃぃ~~~っと見つめていた夏侯惇は、傍らの公孫賛に喋りかけた。
「なんか、馬騰軍の動きが慌しくなったと思わないか?」

彼女達がいるのは北砦。
韓遂と奪い合っていた砦だが、その韓遂が「兵が少数になった為維持ができない」と判断、曹操軍が確保するに至っている。
同様に南砦も夏侯淵が確保して、残すは中央砦のみだ。
その北砦からじっと馬騰軍を見張っていた夏侯惇だが、なんとなく「あいつら、動くな・・・」と予測していた。
何で? とか聞かれても困るが、とにかく動くと感じたのである。

「そうかなぁ・・・って、ここから見えるのか?」
「え、見えるだろ? こう・・・なんていうか、気とか、それっぽいのが」
それっぽいってどれっぽいのだよ・・・とぼやきつつ、公孫賛も中央砦へと目を向ける。
近眼というわけでもなく、むしろ目は良い公孫賛だが、それらしい動きを読むことは出来ない。
ただ、普段はお馬鹿でも夏侯惇は武将としては相当な出来物だということを公孫賛は知っている。
「春蘭がそういうなら、華琳に伝令を出そうか? 私達の独断では動き辛いだろ?」
「そうしてくれ。」
ん、と頷き、公孫賛は伝令に言伝を頼んで曹操本陣へと走らせ、再び馬騰軍が篭っている砦へと目を向ける。
その姿を横目で見つつ、夏侯惇は「うーむ」と唸っていた。
能力的に「あともう一歩」が足りない(あくまで夏侯惇主観である)公孫賛だが、自分が気付かないような事に気が付いてくれるし、あれこれと自分が動きやすくなるように前準備も行ってくれている。
(華琳様は「準備なんかは白蓮に任せて、貴方は思う存分暴れまわりなさい。ただし、ちゃんと彼女の言葉を聴いて考えるべきところは考えるのよ」とか仰ってたが・・・確かに動きやすい)
公孫賛が裏でどれだけ苦労して、胃痛に悩まされているかなどはまったく知らない夏侯惇だが、色々と動いてくれていることは知っていて、そこは素直に感謝している。
「ま、独断で出撃はしにくいというだけで、危急の場合は好きに動いてかまわないと言われているけどな。やはり伝令は出すべきだよ。」という公孫賛の言葉に頷き、夏侯惇も砦へと目を向ける。
その危急な状況が余り無いと言うだけだが、今は公孫賛が出撃する為の準備をしている。
それから少し経ったが、やはり状況の変化というか、動きらしいものは無い。
「うーん、慌しいって言うのは何だろうな・・・まさか打って出るとか? それとも逃げ・・・」
公孫賛が言い終わらないうちに。


中央砦の東門が開門。
5千ほどの兵が喚声を上げ、曹操軍本陣へ向かって突撃を開始した。

「・・・は?」
「・・・え?」

『ちょっと待てええええええええええええっっっ!!!?』

二人の叫びが一致した。


北砦、南砦共に反応は遅れたが、守備兵力を残しつつ直ぐに出撃。
曹操本陣も前面に対して何重にも防衛兵力をまわしており、迎え撃つ準備は出来ていた。
両軍共に交戦するも、数が圧倒的に少ない馬騰軍は3方向から滅多打ちにされ、じりじりと後退していく。
途中で、馬騰軍が2千ほどの兵を2回に分けて後続隊として派兵してきたが、ほとんど敗走に呑まれてしまっており、上手く立ち回れないでいた。
曹操も前線に立ち、戦闘に参加。鎌を振るっているがかすかに違和感を感じていた。
なぜこれだけの兵数で向かってくるのか。勝ち目などあるわけが無い。
(こちらの戦力の疲弊を狙ったか、それとも囮・・・本命が何処からか攻めてくる? 何より、馬超も韓遂もいない。この状況で使わない手は無い筈・・・)
動けないほどに負傷したか? と負傷訝しがる曹操だが、今は完全に戦の主導権を握っているのが自軍だと理解している。
砦の完全包囲に乗り出すために、後方の部隊も進発させ始めていた。
「どうしたものかしらね・・・後方にも兵はいる。このまま一気に攻め抜くか、逃げ場所を造りじわじわと追い詰めるか・・・」
捕縛して臣従を拒否するのなら粘り強く説得するしかないが、疲労するまで緩々と攻めて、向こうから降伏してくるまで待つか。
考えている曹操の下に伝令がやって来て「中央砦より、後方砦へと一軍が向かった模様。」と報告があった。
「どの部隊?」
「馬一文字・・・馬騰か、一族筋の武将が向かったかと。」
「馬騰・・・? ふぅん」
まさか、西涼に向かって救援部隊を? それでこの戦いでは出てこなかった? 囮か。それとも誘いか。
(馬騰が尻尾を巻いて逃げるクチかしらね? 考えにくいわ・・・と、いうことはやはり救援要請。でも、長安からの補給は途絶えている。)
韓遂、馬騰・・・何を考えているのかしら?


曹操の感じた違和感、いや、夏侯惇・淵。それに公孫賛もだが、それは正解だった。
馬騰軍が向かって行ったのは、派手にやり合って注意を引く事が目的。
前線で韓遂が交戦をしている間、韓遂は別働隊を後方の砦へと向かわせていた。
一応、韓遂の狙い通りに事は運んでいる。中央砦が包囲された事も、韓遂の狙い通りであった。


砦の北方では、成公英が夏侯惇・公孫賛の部隊を相手に奮戦していた。
彼女の部隊は後続隊として出撃。後退してくる自軍の援護を行うつもりだったが、横合いから突進してきた夏侯惇隊と交戦状態になり、援護するどころではなくなっていた。

「せぁっ!」
気合の掛け声と共に、弓に番えた矢を曹操軍に向かって撃ち放つ成公英。
誰に当たったか等を確認する余裕は無く、次の一矢を放とうと腰に吊るした矢筒を探る。
「・・・くっ、残り少ないか」
矢も無くなりかけている。周りを見渡すが、味方の数は少ない。というよりも数えるほどしか残っていない。
最初に突撃した部隊は砦まで退いたようだが、その代わりに自分たちは退き時を逸したかもしれない。
逃げられるなら逃げるべきですね、と成公英は再度周りを見回すが・・・
後方は完全に曹操軍によって遮断されているし、退路を確保しようにも兵が少ない。
・・・どうも、逃げ切れそうに無い、と成公英は自分を目指して進んでくる一群を見た。
禍々しい形の大刀を振りかざし、こちらに向かってくる武将。
あれは、夏侯惇だ。


夏侯惇のほうからも、奮戦する成公英の姿は見えていた。
その夏侯惇の周りを公孫賛と、彼女率いる白馬義従が固めている。
「なぁ、白蓮」
「駄目だ。」
「ぶっ!? まだ何も言って無いじゃないか!?」
「『なぁ、白蓮。あいつと一騎打ちして良い?』 ・・・なにか言い訳は? 反論は認めない」
「それじゃ何も言えないと思うが一言だけ言うなら・・・無い!」
自慢げに胸を逸らす夏侯惇に、公孫賛はがくぅっ! と馬の上でずっこけそうになった。
「あ、あのなぁ・・・出撃が遅れたからって気に病む必要はないだろ。時間差で攻めたって事は割と有利なんだぞ? 向こうは存分に戦って疲労してたんだ。」
公孫賛の言うことは事実で、曹操本陣部隊と戦って退いた馬騰軍の横合いを叩いたのが夏侯惇と公孫賛の部隊だった。
更に、公孫賛は部隊を2つに分け(もう一隊を率いるのは張郃)、更に時間差攻撃を繰り出し後方の遮断に成功している。ちょっとした賭けみたいなものだが、これは上手くいっていた。
「これで馬騰側の戦力を完全に砦に押し込めたし、これ以上救援の兵を出してこない・・・つまり、たいした戦力も残ってないのが判ったんだ。」
「いや、判っているんだが・・・こう、張り合いがないというか・・・うぅ」
「・・・。暴れ足りなかっただけか。」
「そう、それだ! それにたいした武勲も挙げてない! だから挑むぞ、決定した。決定だからなっ! あと兵士には手を出させないようにしておけよ!」
「・・・・・・・・・・・・結局言うこと聞いてくれない。誰か交代して・・・」
猪突猛進、暴走お馬鹿夏侯惇の押さえ役をしている夏侯淵の普段の苦労と、その役を押し付けられた自分の不運。
公孫賛のむなしい一言であった。
そんな漫才を(戦場なのに)しているとは露知らず、成公英は剣を構えていた。
夏侯惇は曹操軍最強の武将。それに、向こうは馬に乗っている。よほどの俊脚でもない限り逃げ切れないだろうし、退路も無い。
覚悟を決める以外、道は無かった。
或いは雑兵に討たれるかもしれないと思っていたが、夏侯惇が到着するまで待っているのか、矛を構えて遠巻きに囲んでくるだけだ。
私と一騎打ちをするつもりですか? と訝しがる。
そうだとすれば随分買いかぶられた、と思う。彼女の武勇の足元にも及ばない自信はある。後ろ向きだが。
(申し訳ありません、韓遂様。どうやら、私が先に逝くことになりそうです。)
成公英は目を閉じて、自らの主君に別れを告げた。

すっと目を開けた成公英の目の前には夏侯惇。すでに下馬している。
ヤる気満々であるが、まずは名を聴いてみることにした。
「見たところそれなりに名のある武将と見受けたぞ。私は魏の将、かk「夏侯惇将軍ですね」うん。・・・ってそうじゃない!」
途中で遮られた上に素直に頷く夏侯惇だったが、首を振って叫んだ。
「だから、おまえ「私は成公英です」・・・。」
また遮られた! と叫ぶところだが、成公英という名に覚えがあった夏侯惇は、後ろにいる公孫賛に声をかえた。
「なー、成公英ってどっかで聞いたっけ?」
「・・・はぁ。華琳が欲しがってる武将の1人だ。何度も聞いたんだから覚えておけよな・・・」
「え、そうだっけ・・・じゃない、ちゃんと覚えてたぞ!?」
はいはい、と適当な受け答えをしてから、公孫賛も馬から降りる。
「成公英。馬騰というより韓遂の武将だな。公私にわたって主人を支え、その上武将としての資質も悪くない。華琳はそう言っていただろ?」
「・・・じゃあ、戦えんじゃないか?」
「そうでもない。むこうはやる気みたいだ。」
「むっ・・・」
ふと振り返ると、成公英は剣を構えている。
「一応聞いてみるけど、降伏してくれないかな? 無駄な人死にを出すのは望むところじゃない。曹操は西涼の将兵を登用するつもりだし、降伏すれば命を取られるようなことはないよ? 立場の安堵とかも、口添えしてみるから・・・」と公孫賛は愛想よく笑う。
が、成公英はそれをきっぱりと断った。
「申し訳ありませんが、それは出来ません。お気持ちは感謝致しますが、私は韓遂様に従う身です。主が降らないと言うのなら、従い、共に戦うのが臣下である私の役目。」
さぁ、どこからでもどうぞ。と成公英は促す。
「しかし・・・」
「やめておけ、白蓮。こういう手合いは難しい。私や秋蘭と同じようなもんだ。」
食い下がる公孫賛だが、夏侯惇がそれを制して大刀を構えた。
「無理やり縛って華琳様に献上しても言うことは聞きそうに無いしな。追い込まれているのに戦意は衰えていない。やらないほうが無礼ってものだ」
「っ・・・!?」
夏侯惇はふっと距離を詰め、成公英の右手に斬りつけていた。
いつの間に・・・? と成公英は驚きと痛みに顔をしかめ、その間に夏侯惇はまた距離を取る。
傷口からは、血がどっと流れている。成公英は剣を握り締めるが、痛みと出血で手に力が入らない。
「う、くぅ・・・たった一度の斬撃で」
「悪くはない。悪くは・・・しかし、お前では無理だな。主に忠義を尽くす姿勢は好意に値するが、その志に腕が追いついていない。悪いことは言わん、降伏しろ」
大刀を肩に担ぎ、夏侯惇は降伏勧告をするのだが、成公英は再び構える。(公孫賛は兵と共に後ろに下がっている
「やめておいたほうが賢明だ。怪我をした、ではすまなくなるぞ?」
「つっ・・・降伏するつもりはありません。さぁ、どうぞ。」
「頑固だな。そういうのは嫌いじゃないが・・・構えがぐらついているぞ。剣だってうまく握れていない。それでもやるのか?」
「当然です。」
「そうか・・・。残念だ」
彼女は自分が言ったとおり、成公英から自分と似たものを感じていたのだろう。
説得(にもならなかったと思うが)不可能と感じた夏侯惇は本当に残念そうに言い、成公英めがけて突進する。
成公英は右手をだらんと下げて夏侯惇の動きをじっと見つめながら、韓遂との手合わせを思い返す。あれは何年前だったか・・・


~~~回想中~~~

木剣での訓練だったが、よくボロボロにされたものだ。
その日も激しい打ち合いをして、あちこち打撲ばかり。なのに韓遂は傷1つ無い。
こちらが本気を出しても向こうは・・・油断はしていないが、明らかに力を抜いている。
力量差がありすぎるわけだが、訓練が終わって、成公英は韓遂に一礼した。
「あ、ありがとうございました・・・」
「うむ。・・・いいか、こういう時は」
「?」
「諦めないことが肝要だ。今のはただの訓練だからマシだが、実戦でならお前は何度も死んでいる。負けると思ったらすぐに諦めるのがお前の悪い癖だな」
「はい・・・。」
韓遂に咎められ、シュンと縮こまる。
「自分が負けて死ぬと解っていても、諦めるな。自分の後に続いて戦う者がいるのを思い返せ。命は有限、最後まで使いきるくらいの気持ちでな。一矢報いる、とでもいうべきか?」
隙があったらいつでも斬りかかる、くらいでいいかも知れんぞ? と韓遂は背を向けた。
その瞬間、成公英は「解りました、韓遂様!」と韓遂の後頭部めがけて木剣で殴りかかりそれが命中。韓遂はもんどりうって転倒する。
「クッフゥ・・・お前に教えることはもう何も無い・・・(ガクッ」
「うわー!?」

~~~回想終了~~~


・・・思い出さなくて良い場面まで思い出した気もするが、成公英は全神経を集中させて夏侯惇の動きを見て動いていた。
まず一撃目は・・・横薙ぎ。
思いつつ、成公英は後方に退いて回避する。いや、夏侯惇の斬撃のほうが早く、切っ先が腹部を裂く。
だが、かすり傷だ。気にすることではない。
二撃目。返す刃で足への斬り付け。これも避ける。三撃、四撃、五撃。
斬り上げ、斬り下げ、斬り払い。次々に繰り出される攻撃に、少しずつ傷を増やしながらも成公英は避けていく。
まだだ、まだ死ねない。私の後に続く人々の為に。私が死んでも韓遂様はまだ生きている。韓遂様が死んでも馬騰様や馬超様が生きている。
今の自分の戦いが、あの人たちの為になれるか否かは知らない。もしかしたら、いつの日か役に立つのかもしれない。立たないかもしれない。
でも、目の前の女に僅かでも傷をつけてやる。
その一心だけを支えに、傷つきながら、成公英はじっと待った。
夏侯惇も、間違いなく自分より格下の相手に決定打を与えられないことに苛つき、(強いとは言わないがなかなか・・・)と関心もしていた。
「頑張るじゃないか。だが、避けてばかりでは私には勝てんぞ?」
「は、はぁっ・・・くっ。」
さぁ、どうする? 何かの誘いをかけているだろうとも予測しているぞ?
その誘いが何かは解らないし、自分の動きの何を狙っているのかもいまいち解らないが。
今自分の動きを封じる事に大きな意味があるとも思えない。
自分を足止めしておいて軍勢を以って逆襲を仕掛けるのか、と疑いもしたが、相手方の残った兵力を鑑みればそれは無い。
それが解っている公孫賛も、動かずに両者の一騎打ちを見守っている。
しかし、先は短いだろう。成公英は頑張っているが長くはもたないな・・・と、思っているうちに、その時は来た。
夏侯惇は大刀を両手で持ち、突きの態勢で成公英の腹部めがけて突進する。殺すつもりは無い。適当に脅かして、鳩尾に強打を入れて気絶でもさせてやろうという心積もりだった。
足も腕も傷つき、動きも鈍っていた成公英は諦めたのか。左手を前に、剣を持った右手を心持ち後ろに構え、迎え撃つ姿勢を見せた。

勝敗は既に決まっている。が、夏侯惇の構えとなる「突き」が、成公英の待っていたものだ。
夏侯惇の膂力で薙ぎ払われたら、真っ二つになって吹き飛ばされるだけだが、突きならばまだ体が千切れず残る可能性がある。
上半身が千切り飛ばされればそれで終了。だから相打ちにできるとは思っていないが、そこに僅かな隙が出来れば・・・という程度のものだった。
突進する夏侯惇。待ち構える成公英。両者の距離はあっという間に縮まる。そして・・・

夏侯惇の太刀が、成公英の腹部を貫く。




「ごぼっ・・・げふ・・・が、ぁ・・・」
「き、貴様・・・何故動かなかった・・・ぉっ?」
成公英の口から大量に血を吐き、また傷口からも同様に血が流れ落ちる。
夏侯惇の問いに答えることは無く、彼女の腰を左手で引っつかんで自分のほうへと引き寄せ体を密着させた。
「っ!?」
突き刺さったのは太刀の半ばあたりまで。これは意図的に力加減をしたからだ。全力でいけば成公英の上半身が吹き飛んでいる。
それがズグググッ・・・と嫌な音を立てて更に深く突き刺さっていく。夏侯惇も、振り払おうとすればいくらでも振り払えたのだろう。
だが、死の間際に立ちながらも、眼光鋭く戦うことを諦めない目の前の少女の意気に僅かに圧され、それが原因でほんの少しだけ反応が遅れた。
太刀の柄を両手で握っていたので、抱え込まれた姿勢で密着させられると手の自由が利かない。その上、成公英は夏侯惇の顔へ向かって口の中に溜めていた血液を吐き出す。
「ぐぅ!? ちぃっ、目が・・・・・・」
(このままでは。こいつ、右手に剣・・・ぁ? さっきまで握っていた剣が・・・無い?)



成公英は「上手くいってくれた」と思った。
思い切り抱き寄せたが、すぐに脱出されるだろう・・・と、成公英は右手に握った矢を振りかぶる。
腕力にも五胡式戦闘術にも自信はない。右手の傷も酷く痛み、剣を握り続けることも出来ない。でも。
血を失いすぎて視界もはっきりとしないが、矢を握って、振りかぶって、叩きつける位なら出来る。
声を出すことも無く、残りカスのような力を振り絞り成公英はそれをした。
どずっ、と鏃が突き刺さった場所、それは・・・夏侯惇の左目。
何処に刺さったかは解らなかったが、それで十分だった。
「韓遂、さ、ま・・・。・・・・・・・・・」
成公英は、何事かを呟き、絶命した。




「っ・・・ぐぅうあぁっ・・・!」
「し、春蘭っ!」
夏侯惇は、既に力を失った成公英の体を突き飛ばして、その場に蹲った。
一騎打ちの邪魔をしないように下がっていた公孫賛は、慌てて駆け寄っていく。
傷を見る公孫賛だが、医術などには詳しくなくても、その傷だけで夏侯惇の左目が潰れているのは理解できた。
「・・・く、ぅぅぅぅ・・・あっ! ぐぬ・・・」
「お、おい・・・」
驚いたのは、その時に夏侯惇が取った行動。彼女は矢を力任せに引き抜いた。
そして、引き抜かれた目から鏃を抜き、そのまま「ばくっ」と目玉を飲み込んでしまったのである。
「・・・ふんっ! 目を射抜かれた程度で怯むものかっ! 父母の血で出来た目玉、捨てるつもりは無い!!」
「・・・うわぁ」
この時の二人の差、というのはただ「成公英の動きが一手だけ早かった」だけだ。
夏侯惇は突進をしてきたときに、彼女に見えないように剣を離し、矢筒に手を伸ばした。太刀が刺さった時に抱き寄せて、その時に矢を振りかぶった。
血を吐きかけられた夏侯惇が振りほどこうとしたときに、矢が刺さった。
本当にただそれだけだった。
「とりあえず、一度下がるぞ。お前の傷の手当もしないとな」
「む。これくらい何とも」
「ないわけないだろ。血、まだ止まらないし。このまま放置してたら私が華琳にどやされる」
まったく、華琳にどう言い訳すれば良いやら・・・と頭を掻きながら公孫賛は後退命令を出し始めた。

「・・・」
傷口を手で押さえつつ、夏侯惇は成公英の亡骸から太刀を引き抜いた。ここまで深く噛み付かれるとは、といったところだ。
まさに文字通り。一矢報いた、だ。
甘く見て油断した自分にこそ一番の原因がある・・・それにしても。
こんな結果になってしまったが、出来ることであれば、いろいろと話をしてみたかった。と夏侯惇は成公英の亡骸を見下ろす。
そんな事を思いつつ―――夏侯惇は少し迷ってから、成公英の亡骸を担いで自分の馬の元へと歩いていく。
自分に傷を負わせたから、ではないがこの娘の亡骸を弔ってやりたいと思った。主の為に戦い、その主を想い逝ったこの娘を。
この乱世。時代を読んで、陣営を変えて賢しく生きることを責めることはできない。そんな時代だからこそ、こうして忠節を捧げてその為だけに死んでいく人々の姿が眩しい。
そんな生き方を、時節を読めない馬鹿という者もいるだろうし、実際にそれは正解かもしれない。
ただ、夏侯惇は自分や妹と同じように、主を愛してその為に死ぬ事を厭わず、そしてその通り死んだ成公英に一種の親近感を感じた。
この娘と韓遂。両者の仲を良く知るわけではないが、成公英の遺した言葉を聴けば、自分と同属だというのは良く解る。
夏侯惇は成公英の亡骸を抱え、馬に騎乗し、その最後の言葉を思い返す。
(・・・こいつは、間違いなく最後に言った。)






韓遂様。私は貴女のお役に立てましたか?







~~~楽屋裏~~~

こんなSSで大丈夫か? ああ、問題しかない(ノヘ) あいつです(挨拶



てな訳で、成公英が戦死しました。この時に夏侯惇の左目も潰れてます。
演技では曹性、史実では・・・多分高順だと思うのですが―――に、左目を潰されてます。
ゲームでは流れ矢だったみたいですけど。

多分、欝展開じゃないから大丈夫ですよね?
欝なんてどこにもないですよね?(不安

細かいこと言うと、腹突き刺されて血を吐いた状態では喋れないです多分。
・・・まぁ、今更だよね、うん。



~~~番外編:その頃の高順さん~~~

*これはあくまでイメージです。


疲れて自分の部屋に戻ってきた。
高順は、(自分の部屋なのに)蹋頓と黄蓋に奇襲された!
高順は逃げようとした。だが逃げられない!


*これはあくまでいm(以下略
            

        イヤァァッァアァ   
【ヤーン】【ニャーン】(;´Д`)【キャーン】【ウフーン】
        タスケテェェェェェ     

*(以下略


グッタリ(_;Д;)_モウハナミズモデマセン


*






・・・。
・・・・・・。
何やってんだ、お前ら。



~~~楽屋裏~~~

・・・何もかも台無しにしてしまった感。


あくまで以下略なので、内容は皆さんのご想像にお任せいたします・・・。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第96話、前編?
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/02/05 20:08
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第96話、前編?


曹操は、不思議に思いつつも砦を半包囲していた。
北側に夏侯惇・公孫賛。東には自分自身。西には夏侯淵。南はもぬけの殻。
南を空けている・・・これにはそれなりの理由があった。
まず、馬騰か或いは韓遂か。この2人の思考がなんとなく読めないのである。脱出を狙っているのか、それとも玉砕覚悟で篭城をしているのか?
それにしては、西の砦に馬旗を掲げた一部隊を向かわせたようだし、そこから先の動きが無いので「何を考えているのやら」と少し警戒心が出ている。
西涼に帰還しようとしているのか? それとも、まだこの砦内にいるのか? と曹操は目の前の砦に眼を向ける。
帰還されれば厄介。必ず勢力の巻き返しを図るだろう。乱の中に身を置き続けた西涼・馬家の力を曹操は軽視していないのだ。
それならば、包囲を緩めて「西涼に帰還させないように」どこかへ逃がすほうがいいし、逃げ場所さえ作っておけば死力を尽くして向かってくることもあるまい。
南の地、たとえば劉表などは自分と敵対したくないという理由で、馬騰が頼ってきても協力はしないだろう。
もしかしたら捕らえてこちらに突き出してくるかもしれない。そうなれば馬騰も諦めて臣従してくれるかもしれない。
曹操が知る限りでは馬騰らは西涼以外、行き場所が無いはずなのだ。
西の砦にも兵は配置してあるし、そこに逃げ込むことはできはしない。主導権はこちらが握っているのだ、慌てることもない。
「・・・ふむ。」
既に日は沈んで夜になろうとしている。西涼側も曹操側も篝火を焚いて、いざ戦闘となった場合の用意も出来ている。
まあ大丈夫だろう、と曹操は自分の陣幕に戻っていく。
(・・・それにしても、あの春蘭がね)
成公英を討った、という事と、その成公英に左目を奪われたという報告が来たときは、伝令に向かって思わず「は?」と聞き返してしまった。
成公英が討ってしまった、というのは状況を聞く限りではどうしようもなかったと思う。が、春蘭が左目を失う大怪我をするとは思いもしなかった。
しかも、自分の左目を奪った成公英を「丁重に弔いたいので許可を頂きたい」とまで言ってきた。
白蓮に怠慢であった訳でもなく、かといって春蘭が油断をした訳でもない。
自分の部下であり愛人である春蘭を傷つけられたことには多少腹を立てたが、春蘭本人が気にしていない言い方だった為、それ以上の追求はせずに弔う云々も許可を出した。
これに関してはむしろ秋蘭のほうが怒るんじゃないかしらね? とか思っていたりする。
「よくも私の姉者をぉぉぉぉをぉぉ!!!」とか。


~~~西涼軍、砦~~~

「そうか、戦死したか。・・・あの夏侯惇を相手にな・・・」
陣幕で成公英戦死の報告を聞いた韓遂は、眉1つ動かさない。
だが、内面では大いに悲しみその死を悼んでいた。
(あの馬鹿娘、私より先に逝くとは。私が切り開いた道を、若いお前たちが進むべきだというのに・・・いや、私のせいだな。)
追いぼればかりが生き残ってしまったか、と韓遂は嘆息した。
さて、と韓遂は少し気持ちを切り替えて後ろにいた2人の老人へと振り返る。
「楊秋、侯選。覚悟はできているか?」
呼ばれた二将・・・男だが、ニッカリと笑う。
「おぅ、聞くまでも無い」
「おおよ、あの気弱娘ですら立派に散ったのだ。わしらが後れを取るわけにもいかんわ。」
「良いのか? 曹操に降る選択肢もあるんだぞ。」
韓遂の言葉に、楊秋と侯選は顔を見合わせてから声を上げて笑い出した。
「・・・笑うところがあったのか、今の?」
「はっはっは。・・・馬玩やら程銀やら、みーんな死んじまいおった。わしら2人だけ生き残っても何も面白うないわ。貧乏籤じゃのぉ。」
「そうさなぁ。それにわしらみたいなのを、あの曹操が欲しがるわけもなかろうよ。」
ま、わしらなどお呼びでないわ。と侯選は言った。
「何よりな、韓遂。我らは嬉しいのよ。」
「嬉しい、とは?」
「時代は移ろい変わってゆく。外交というもんが幅を利かせ、戦う前から勝敗が決まってしまうような時代に変わりつつある。」
「そんな時代に遅れ取り残され、手元にあるのは個人の武のみ。ただ静かに死ぬるだけかと思うておったところに、あの曹操を相手どった「おおいくさ」ときた。」
「わしらのような時代遅れの爺共に、最後に舞台が回ってきた、ということじゃな。この死に場所が有難くてたまらんわ。」
これから死にに行くというのに、いい表情をする老人2人に韓遂は思わず苦笑した。
何度も肩を並べ戦ってきた間柄であるが、確かに・・・ほかの10軍閥も内政とか外交が重視される時代になってきたことを感じて、もう我々の出番など無いのだなぁ・・・と溜息をついていた。
黄巾の乱が勃発し、また戦乱へと戻るか!? と期待するような血の気の多いジジィやババァばかりであったが、曹操に挑んで死ぬ事を彼らは晴れがましく、心嬉しく思っていたのだ。
「それにじゃな。」
「それに?」
「馬騰たんハァハァ・・・あの物憂げな表情・・・! 辛抱たまらんですたい!」
「ハァハァハァ、馬騰たん・・・うッ(ビクンビクン」
「・・・・・・」


せっかく感心したのに、なんかもう台無しだった。

「ゴホン・・・義姉上が魅力的なのはともかく。確認はしておくぞ。まず・・・」
楊秋は西門、侯選は東門から部隊を率いて打って出る。
韓遂は一番戦力が高い北部隊、つまり夏侯惇・公孫賛部隊を相手にする。
そして、曹操軍の注意がこちらに向いたところを見計らい、馬超率いる逃走部隊が一気に駆ける。
「簡単ではあるが、以上だ。」
「ぉう。」
「さぁて、わしらも配置に付くかのう。」
「うむ。頼んだぞ、お二方。」
「ははっ、任せておけぃ。見事討ち死んでやるわい。」」
「達者での、韓遂。」
そう言い残して、二人の老将は陣幕を出て行った。
もう、生きて会うことも無いのだろう。あの二人は自身で言ったとおりに死ぬまで戦い抜くに違いない。それは私自身も。
後は・・・すでに別れを終えた馬超らが上手くやってくれれば良いのだが。そこだけが少し心配だ。


二人を見送った後、韓遂も北へ向かい始めた。
その道中で、曹操がうまい具合に引っかかってくれて助かったな。と思いを巡らせていく。
もし完全に包囲されていたら全軍で南に穴を開けて馬騰を逃がすつもりであったが、その南をがら空きにしてくれている。
追い詰めて行き場所を失わせようという腹積りなのだろうが、そう上手くいくものか。
韓遂は北門へと到達し、残された全軍の配置完了を待つ。
それから時間は過ぎ、伝令が「全部隊所定の位置に付きました! いつでも出撃できます!」と報告をしてくる。
少し遅れて西・東の部隊からも同様の伝令が来る。
弓兵部隊も砦壁上に、南門には馬超が。これで準備は整った。
(さぁて・・・せいぜい付き合ってもらうぞ、曹操。我々西涼軍の意地にな。)



一方、曹操軍。

北・東・西に軍を展開した曹操側だが、主だった武将は西涼側の何らかの動きを察知していた。
壁上の弓兵が慌しく動いている。すでに弓をこちらに向けている者もいる。
曹操も慌しい動きを察知、陣幕から出て行き砦側の動向を見るために移動している。
「まさか、夜間に出てくるつもり・・・?」と訝しむが、既に向こう側の戦力は少ないはず。なのに打って出てくる・・・まだ戦力を隠していた?
いったい、どういうつもりで―――そう考えたところで、伝令が息せき切って走ってきた。それと同時に、こちらの前衛部隊が交戦を始めた空気を感じ取る曹操。
「報告いたします! 馬騰軍が篭っている砦の・・・南を除く門が開門! 打って出てきました!」
「何ですって・・・?」
視界の悪い夜間なのに、本当に出撃してきた?
「こちらには誰が出撃してきたの? 馬騰か馬超? それとも韓遂?」
「は、この暗がりゆえ明確には解りかねますが・・・旗は侯一文字」
「と、いうことは侯選、かしらね。報告ご苦労、下がって良いわ」
ははっ、と拱手をして去っていく伝令兵を見送り、曹操は自分の目で確認しようと前線へと向かっていく。
「・・・苦戦している、か」
曹操が陣幕を張った場所は前衛に近く、いつでも自分が切り込んでいけるようにしている。
総大将なんだから自重しろ、と言われそうなもので、というか言われたことは多々あるが、政治家であり一介の武人でもある曹操は「うるさいわね、却下」と意見を一蹴するのでもう誰も何も言わない。(時々油断して大ポカをやらかすこともあるが 
ともかく、自軍の前衛が少しばかり苦戦していることを察知した曹操は素早く騎乗して更に前進していく。
前衛には徐晃が配置されているが、それでも苦戦するというのは・・・馬騰軍は戦力を温存していたようだ。
東側だけでなく、西・北も同様に馬騰軍の全力攻撃に押されていた。
曹操軍は馬騰軍に比して4倍以上の兵力であるが、夜間であることと「昼間に合戦があったから夜中に大々的に攻めてくることは無いだろう」というちょっとした油断が重なり合った結果だ。
夜襲くらいは想定していても、後先を考えない全力攻撃を繰り出してくるとは思っていない。
将兵が一体となって、死を恐れずに突き進んでくる。最初から生還することを考えていない彼らの勢いは、曹操軍を怯ませるに十分だった。
それと同時に、西砦に「別働隊」として入っていた龐徳が呼応するかのように砦内から出撃。さしたる将のいない西砦包囲軍へと向かっていく。
結果、夏侯淵が楊秋を、徐晃が侯選を討ち取ったものの、手こずった上に両者共に負傷し、また兵も多数道連れにされている。
こちらの被害が10とすれば馬騰軍の被害は6か7ほど。割合だけ見ればとんでもない話だ。
それ故に、絶対数の少ない馬騰軍はほぼ全滅状態に陥っている。だが、それすらも無視して生き残った兵が進んでいき、殺し、殺されていく。
曹操本人も何人もの敵兵を屠ったが、彼らの意図がまったく掴めない。
(こんな特攻を仕掛けて・・・馬騰、韓遂は何を考えている)
砦南の門が開いたのは、曹操がそんな疑問を持ったのと同じ瞬間だった。


~~~北側~~~

「そぉいっ」
「ひぎぇ!」
韓遂は無骨な長大剣・・・見た感じではグレートソードとかツヴァイハンダーみたいなもんだが、自分に向かってきた騎兵を馬の頭ごと斬って捨てた。
この剣は切れ味など二の次で叩き潰すような使い方になるが、剣速の速さで補い斬っている。
韓遂の周りには数多の曹兵の死体。韓遂側で生き残った兵は殆どいないが、韓遂はたった一人で夏侯惇・公孫賛部隊の中枢まで突き進んでいたのである。
どれほど斬ったかなどは最初から数えていない。向かってくる兵を斬る。矛を突き出してきた兵がいれば、矛の柄を握り兵ごとぶん投げる。
矢を射られれば、転がってる死体を盾にしてそこらに転がっている剣や矛を投げつけて殺す。
無茶苦茶だが馬騰とは違う方向で人を殺す技術が高く、化け物である。
今また向かってきた兵の首を跳ね飛ばしたところで・・・誰かが「待て!」と叫んだ。
んぉ? とそちらに目を向ける韓遂。見れば兵が声を上げた誰かのために道を開けて下がっていく。
「しょ、将軍・・・」
「お前らでは勝てん。何百何千かかってもな。手出しはするなよ」
「ほぉ・・・?」
兵を制し現れたのは、羽を開いた蝶の形をあしらった眼帯で左目を隠した夏侯惇であった。
「ははん、ようやくお出ましか。」
「ああ、お前の部下につけられた傷のせいで少し時間がかかった。私が相手だ、雌餓鬼呼ばわりしたことを後悔させてやるぞ、韓遂!」
「ハハッ、いい気迫だ! まぁ、末期の相手としては不足だが・・・悪くも無い。相手をしてやる! っと、その前に一つ聞いておく。」
「? 何だ」
「成公英を討ったのはお前だと聞いた。」
「ああ、私の左目を道連れにされたよ。それがどうした?」
「あれは、苦しんだか?」
それを聞いた韓遂は少し苦しげであった。だが、どうしても聞きたかったのだろう。表情は真剣そのものだ。
「・・・さぁな。本人じゃない私には苦しかったかどうか解らん。だがな。」
「だが?」
「好い顔だったよ。」
その一言を聞いた韓遂の口端が、一瞬だが綻んだように見えた。
「・・・。・・・そうか。いや、感謝する。」
「かまわんさ。さて・・・」
「ああ」
二人は得物を相手に突きつける。
『始めるか』




~~~砦南~~~

開かれた扉から、一斉に七千ほどの軍勢が飛び出した。
先頭には、いまだ眠り続ける馬騰。その体を抱えて馬を駆る馬超。その傍には馬岱の姿もあった。
馬鉄と馬休は軍勢の中ほどか後方付近にいる。
編成としては全て騎兵だが、輜重部隊も混じっている。逃げるにせよ何にせよ食料は必要だからだ。
ただし、そのせいで速度は遅くなりがちだし、馬騰と馬超を同時に乗せる馬にも負担がかかり、やはり普段より足が遅い。

曹操も、僅かに遅れて南門開放の報告を聞いた。(南側に軍勢を派遣していないだけで間諜くらいは放っている)
それを聞いて「・・・不味った」と確信し、状況を整理する。
何故、完全に追い詰めていないのに纏まった数の軍勢が逃げる? 最初から逃げるつもりだったからだ。
どの隙を狙った? 私たちが目の前に突撃してきた部隊と戦っている隙だ。
では、誰が逃げる? この状況で「私にとって」一番逃げられたくない存在は?
・・・馬騰だ。
追い詰められて、やむなく逃げる、と、最初から南を目指して逃げる、では意味合いが違いすぎる。
最初から将兵全てが囮となり、今までの行動全てが馬騰を逃がすためだけの布石だとしたら。
「・・・っ。流琉、季衣っ!!」
「え、ひゃいっ!?」
「はひっ!!?」
いきなり大声で呼ばれた典韋と許緒は(何か怒られるようなことしたっけ!?)と思いつつ返事をする。
「軽騎兵をできる限りの数で出しなさい! 南へと逃げた馬騰軍「本隊」を追撃するっ!!」
「え、・・・えっ!? 本隊って・・・? まだここの制圧・・・」
「徐晃に任せるわ。彼女なら大過なくこなせる。あと、秋蘭・春蘭・白蓮に制圧を急がせなさい、早く!!!」
『はぃぃっ!!』
返事が返ってくる前に曹操は馬を走らせ、ただ1人南へ向かおうとする。親衛隊は主のいきなりの行動に混乱するが、自分たちの役目を考えれば付いて行くしかない。(郭嘉や程昱は戦闘ができないので後方にいる
ちなみに、いきなりそんな事を伝令に伝えられた徐晃は「・・・無茶振り」と、げんなりしていたそうだ。

(最初から南を目指して逃げるということは、何か当てがある、ということ・・・その当て。心当たりは)
馬を全速で走らせつつ曹操は思考する。
張魯・・・まず無い。ここからは西だ。南に向かった後に北西へと戻ることになる。そんな面倒なことはしない筈。
劉表・・・これもない。劉備は同姓同族なので受け入れたのだろうが、馬騰を受け入れてまでこれ以上の厄介ごとを増やそうとは思うまい。
劉璋は・・・論外だ。どう見ても馬騰を扱える器ではない。そうなると。
孫策? 確かに彼女の元に逃げ込まれれば大いに厄介だ。騎将の少ない孫家でならば、馬騰ほどの勇将なら歓迎もされるだろう。
しかし、孫策と馬騰をつなぐ物に心当たりが無い。頼るのなら孫策くらいしか思い当たらないのだが、頼るのなら何らかの繋がりが・・・
そう思ったところで曹操は、はっと気が付いた。
(そういえば、ずっと前。侯成ら、徐州で配下にした者たちが言っていた。馬超と高順が婚約をしていたとか・・・)
どこでどうやって侯成たちがこの話を知ったのかは謎だ。恐らくは賈詡あたりだろうが、曹操がそれを知っているわけが無い。
この話は、侯成らが信用できないので「ふぅん」と話半分に聞いていたが・・・。
郭嘉らも、あまり信用ができないと判断しており干禁に確認を取ってみたりしたが、知らないという答えしか返ってこなかった。
この話が本当だったら、高順は南の、しかも孫策のところに流れ着いていたとなる。高順は馬騰同様に、劉璋や劉表が扱えるような男ではない。
勿論、これが事実であるという確証も、それを証明する何かがあるわけでもない。
ただ、現状で一番その確率が高く、事実としたら一番厄介な状況に、という事は解る。
そうなると周喩は嘘をついていた? もしかしたら、あの時点では本当に知らないという事もあり得るけれど。
何にせよ、こうなった以上は追撃をするしかない。
千、二千と増えていく、自分の後に続く軽騎兵の数を確認する暇も無く、曹操は進んでいく。

「くそっ、やっぱり速度は落ちるか・・・」
思うままの速度が出せない事に、馬超は苛つく。だが、それは馬のせいではない。
つい先ほど「曹操軍がこちらに気付いた模様、追撃されています」という報告を聞いた。
気付かれるのが早かったのだ。このままでは、いずれここまで追いつかれる。
そうなれば、皆の犠牲が無意味となる。なんとかして逃げ延びなくてはいけない。
どうする・・・と焦り後方を振り返る馬超だが、不意に速度を落とし隊列から離れていく兵が現れだした。
「ちょ、おいっ・・・」
逃げるのか? と思った馬超だが、そうではないようだ。
離れていった兵士、およそ千数百ほどであろうか。彼らは一箇所に集合し、こちらに対して拱手をした。その中には妹である馬休・馬鉄の姿もある。
そして、彼女たちは馬首を返して、追撃してきた曹操軍へと向かっていく。
「・・・っ!!」
馬超は思わず手綱を引きかけたが、傍らの馬岱が「駄目っ!」と叫んでそれを制した。
「蒲公英?(馬岱の真名)」
「振り返っちゃ駄目だよ、姉様。振り返って止まったら、皆がやろうとしている事の意味がなくなっちゃう!」
「で、でも・・・あいつらだけで止められる訳」
「止めようなんて思ってない。足止め・・・それだけだよ」
「足止めって・・・あいつら、死ぬ気か!?」
「うん」
はっきりと返事をする馬岱。とても冷たく、はっきりした肯定の言葉。
「・・・最初から、こうしようって3人で相談して決めてたの。最初はあの二人が。それでも無理なら次は私。おば様と姉様だけでも脱出できるように、って・・・」
実を言うと、脱出する彼女たちは最初に韓遂から「曹操が追いついてきたのなら、輜重隊の運ぶ食料やら荷物やらを投げ捨てていけ」と指示されている。輜重隊自体が切り離されること前提の隊列なのだ。
中には空の荷台を引いている馬もあり、このあたりは完全に切り捨て前提。荷台を転がして障害物にするための存在だ。
さすがに曹操から無傷で逃げられるとは思っておらず、輜重隊は保険のようなものだ。
だが、食料は必要だし、物資も売れば資金となる。これからの逃避行に、食料も金も無い、では余りに心許ない。
そこで、馬岱達は馬超に内緒で話を決めた。そのまま逃げ切れるなら良し、追撃をかわせない場合は・・・口減らしも兼ねて、踏みとどまると。それを聞かされた馬超は怒った。
「ばっ・・・ふざけんな!」
「ふざけてなんか無い! 私たちの役目は最初からそれなんだよ? 姉様だけだと割りと普通に心の底から不安だけど・・・おば様が健在ならなんとか」
「いやお前今すごく酷いこと言わなかったか!?」
「(無視)後ろを振り返らないと見えないものもあるけど、振り返ってるだけじゃ前に進めない。姉様の役目は何なの? 前に進むことじゃなかったの?」
自分たちは覚悟を決めて、己の役割を果たすのだ。そんな強い意志の篭った瞳に見つめられ、馬超は視線を前へと戻した。
「・・・くそっ。私には何もできないのかよ」
逃げ延びる為に必要とはいえ、大切な妹たちを盾にして、大切な仲間たちを見捨てて。
失われていく命の重みを背負って、それでも進んでいかねばならない。
馬超は、涙を流しかけて上ずった声で叫ぶ。
「全軍、進め!」と。


馬休・馬鉄は千五百ほどの兵を率いて、追撃してくる曹操軍を相手に陣取る。
その数、およそ五千ほど。時間が経てば更に数が増えるだろう。
まだ距離はあるものの、すぐに交戦状態となるだろう。

「ね、馬鉄」
「何ですかー?」
「残ったこと、後悔してない?」
「しまくってますよー!」
気の抜ける答えに、がくっとずっこけそうになる馬休。
「あ、あんたねぇ・・・」
「もう皆に会えないわけですからー。」
「そっか・・・そうだよね。私もちょっと後悔してるけど・・・へへ、馬家には臆病者しかいないのか、って言われるのも癪だし? 曹操に取っちゃその他大勢の私達でしかないけど、でも、ここで足止めして吠え面かかせて見せるわ」
「ですねっ」
「ただ・・・。」
「ただ?」
「もう一度だけ・・・高順さん達に会いたかった・・・かなぁ。」
「・・・ですね。」
馬休の言葉に、馬鉄は深く頷いた。
洛陽で過ごした時間はさほど多くない。
高順をはじめ、趙雲、楽進。他にも個性的な人ばかりであったが、あの少ない時間は良い思い出となった。

にっと笑った馬休は槍を掲げて振り下ろす。
それを合図として、この場に踏みとどまる決死隊が曹操軍に向かって突撃を開始した。



~~~砦北側~~~


「どうしたどうした、そんな事では疲れきっている私一人倒せんぞ! 足を踏ん張り腰を入れぃっ!」
「ぬぐっ・・・ぅう」
韓遂の繰り出す斬撃を受け止め、時にはいなしている夏侯惇。
だが、その動きは普段に比べて鈍い。上手く感覚を掴めず、間合いの計りが僅かにずれている。
左目を失った、ということが響いているのだ。
成公英の執念はきっちりと後に繋がっている。
韓遂が繰り出す上段からの一撃を避けて、夏侯惇は距離を取り、息を整える。
「ふぅ、ふっー・・・」
「こんな程度で音を上げるか? ・・・ならば、次で終わりにしてやるか」
「ちっ・・・」
不味いな、と夏侯惇は焦るが、それは無理からぬ話だ。
前に韓遂に挑んだ時もあっさりとあしらわれ、今回は・・・相手は疲労しているが、こちらも負傷している。
元々不利な状況であることにはまったく変わりが無いのだ。
周りの兵も、2人の戦いが凄すぎて手出しができない。援護しようとした兵もいたが、戦いの余波で吹っ飛ばされてしまっている。(武将、たとえば公孫賛などであれば問題は無いのだが。
韓遂が止めとばかりに剣を構える、と同時に。矢が二本、韓遂へと放たれた。
「おっ?」
「何・・・?」
韓遂はそれを難なく避け、夏侯惇と同時に矢を放った人物―――二人いる、を見た。その二人は兵の波を静かに掻き分け現れる。
一人は女性、一人は男性。男性はごく普通(?)だが女性はなかなかに目立つ外見だった。
両者、弓を手にしているが女性は背に自分の背丈の倍以上はある大槍を背負っている。

「お前ら・・・」
「夏侯惇将軍は大殿にとって不可欠。今ここで討たせるわけにはいかん」
「そういうこった。卑怯は承知だが、うちの殿(公孫賛を指す)の胃の為に手出しさせてもらうぜぇ?」

男の名は高覧、女の名は張郃。
かつて、公孫賛配下として、袁紹軍相手に勇名を轟かせた二将。







~~~楽屋裏~~~

・・・一話で纏めようとしたら無理だったんだ、すまない。あいつです(挨拶
全後半で分けます・・・

XXX板の更新ですね云々、という話を感想で見ましたが【ありません】
年を越したお年玉とかも【必要ないですよね】
全て、皆様の脳内光景で答えをお出しください(ぁぁ

あと、干禁が婚約を知らない云々とありましたが、あれはシラを切っただけです(ぉ




~~~また番外編~~~

*これは、馬超らが逃走戦を展開した翌日のお話です。



高順さんは自室に帰って来ました。
疲れすぎて早く寝たいようです。


プルプル(((;´×`)))キノウハヒドイメニアッタ・・・アレ? ダレカイルノ?


「ようこそ」by周倉
「えろえろな楽園へ」by李典 
「歓迎いたしますわ、性 大 に !!」by麗羽


工工エエエエエェェ(;´д`)ェェエエエエエ工



*これはやっぱりイメージです。



         モウイヤァァァア
【イヤァーン】【ニュプッ】(;゜Д゜)【ジュプッ】【ヴビュゥッ】
         コロサレルゥゥゥ


*これは(以下略

アーッ

*



翌日、3人の女性に寄り添われたまま寝床で真っ白に燃え尽きつつ、それでも【ピー】おっ勃てる高順が発見された。
見つけたのは蹋頓で、死に掛けている高順を慌てて華陀のもとへと運んだそうな・・・。






もげろ。




~~~楽屋裏~~~


【書きません】

多分、ご無沙汰で欲求不満に陥った3人が廊下で出会って乱戦に持ち込んだとかそんなもんだと思ってください。
私は知りません。収拾もつきません。XXX? 何それ?(ォイッ





[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第96話、後編?
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/02/12 14:22
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第96話、後編?


鎌を突きつける曹操の目の前には、重傷を負い、足を引きずりながらも剣を構える馬休の姿。
その後ろには、全身を矢で撃ち抜かれ馬鉄が、うつ伏せで倒れ・・・死亡している。
姉と共に戦い続けたが、交戦を始めてすぐにその姉を庇う形で弓の一斉射を食らい、それでも戦っていたが力尽きたのである。
馬休も左手の甲を外側から射抜かれ、左太ももにも矢が刺さったまま。手の指も何本か損じている。また、背中や胸部を斬り付けられていて出血も酷い。早く治療をしなければ手遅れになるだろう。
満身創痍の馬休に、曹操は何度行ったか知れない降伏勧告をした。
「そろそろ剣を置きなさい。貴方の狙いは時間稼ぎでしょう。貴方たちと交戦を開始してからどれだけの時間が経ったか。目的を達成できた以上、命を粗末にするべきじゃないわ」
「・・・・・・ふぅっ、す、ふぅぅぅ・・・」
曹操の言うとおり、時間稼ぎの為に残った馬休らと交戦してから、かなりの時間が経っている。
今から追撃を再開したところで、追いつけない事は判っていた。

曹操は最初から彼女たちを無視する、というか後続隊に任せて先行するつもりだった。
だが、自分よりも先行してしまった―――功を焦った500ほどの騎兵が、踏みとどまって残る馬休達に挑みかかってしまったのだ。
前面で戦う自軍の部隊が邪魔をする格好となってしまい、戦場の空気が周りの兵にも伝播してしまったこともあり、なし崩し的に交戦する羽目に陥った。
馬鉄率いる千五百の西涼軍と、最終的に七千ほどに膨れ上がった曹操追撃軍。
ここでも西涼兵は果敢に抵抗し、総大将である曹操が鎌を振るい続けるほどの苦戦を強いられている。

曹操は、西涼の馬騰・馬超・韓遂・成公英以外の武将にさして興味は抱いていなかった。
馬超に妹がいることくらいは知っていたが、名前・・・馬鉄とか馬休とか、そういう情報まで調べていなかったのである。
戦績や実力は姉に及ばないし、そういった武勇を示す話も聞いたことが無いから、と全く話題にも上らなかった。
交戦してから「なんだか馬超や馬騰に似ているような?」とようやく気付いたくらいだ。それほど、曹操にとっては印象の薄い扱いであった。
ところがどうだ。実際に手を合わせてみれば、母や姉に敵わないまでも、武将として十分な武を発揮してここまで戦い抜いた。
既に馬鉄は戦死してしまったが、これは単純に命令が遅れてしまっただけだ。
こちらの先鋒隊と交戦してすぐに、矢を体中に受け、それでも無理をして戦い続けて力尽きてしまい、手の出しようも無かった。
やはり、死なせるのは惜しい。それに、馬超と高順の繋がりもはっきりさせておきたい。
「ふ・・・ふふ、あははははっ」
「?」
降伏勧告を聞いた馬休は、唐突に笑い始めた。
「お断り、よ。妹を死なせて、それなのに私が降る? 馬鹿なんじゃないの?」
「ここで無駄に死ぬよりはマシじゃないかしら?」
無駄? と馬休は不思議そうな表情を見せた。
「ぐ、ぅぅ・・・私は私の役目をきっちり果たした。それ以上は望まない。そして、馬家に臆病者はいない。西涼には、げほっ・・・くっ・・・死ぬ将は、いても、敵に降伏して命を永らえる将はいないっっ!!」
傷口を押さえながら曹操を睨み、馬鉄は大喝する。
「そう・・・まあ良いわ。殺しはしないし自決もさせない。聞きたいこともあるしね。」
曹操は宣言し、馬休の右手・・・剣を弾こうと構える。
馬休はと言えば、剣を構えた姿勢のまま動こうとしない。相打ちでも狙っているのか、それとも僅かにでも手傷を負わせようという魂胆か。
早めに勝負を決めてしまえばそれで良いのだ、と曹操は距離を詰めて、鎌を振る―――ように見せかけて、左手で馬休の右手を掴んだ。
「うっ・・・?」
そのまま、全体重をかけて押し倒すように倒れこんでいく。押し倒された馬休は後頭部をしたたかに打ち、剣を手放してしまう。
ほとんど抵抗らしい抵抗が無かったことから、立っているのがやっとというところか。
曹操もかなり無理な体勢で倒れこんでしまったが、なんとか主導権を握って馬休の右腕・右足を踏みつけ、鎌の刃の無い棒の部分で左腕を押さえつける。
「これで詰みよ。舌を噛んだところで死ねるなんて思わないことね。さぁ、大人しく・・・」
「ぬぅ、うう。くぅぅぅっっ!」
「っ!」
呻きつつ、馬休は矢が刺さったままの左足で曹操の体に蹴りを入れる。
矢傷のおかげで力は入っておらず大した威力は無いものの、無意識に体が反応して曹操は避けてしまったが、ある意味の命取りとなる。
馬休は、曹操の聞きたい事、という言葉ですぐに「姉と高順の事」か「馬騰の行き場所」のどちらかを聞きたがっていると察した。
或いはその両方。
向こうから聞きたがることなんてそれ位しかないだろうし、自分に興味も抱くとも思わない。抱かれても心底迷惑だ。
いずれ、母上達と合流した高順さんが、孫家に仕える身であろうと何であろうと曹操に決戦を挑む日が来る。馬休にはその光景が見えるようであった。
そして、曹操の部下になってやるつもりも、忠誠を抱く理由も無い。ならば。


馬休は手の甲を外側から貫いた矢・・・鏃は残っているのだが、掌を貫通したそれを思い切り自分の喉に叩き付けた。
感づいた曹操が「やめなさいっ!」と制する前に、だ。
鏃は喉を突き破り、血が噴出す。
「げほっ! がふ・・・ぁ」
傷口と口から大量の血を吐き苦しみながらも、馬休は心中で「事実が判るまで怯えなさい、ざまぁみろ。」と大笑し、絶息した。


「・・・。」
どうして・・・と曹操は言いかけ、口をつぐむ。西涼の将兵がどんな思いで戦い、何の為に死んでいったか。
忠誠もあろう。この姉妹のように、親であり主君である馬騰への敬慕もあろう。だが一番の理由は自分への敵意だ。
馬騰が曹操に敵対した理由も、ぶっちゃけ「あんたが気に入らない」の部類だ。
それが馬騰の、ひいては馬騰に従軍した将兵の総意のようなものだったのだろう。
攻め込んできた者が、何かを失ったからといって嘆いても仕方が無い。
このままうち捨てていくのはスッキリしない、と曹操は部下達に命じ、戦死者の遺体を回収を始めた。
荷台を運ばせ、その荷台に亡骸を重ねて運んでいく。
途中で曹操は隣り合わせに並べられた馬休・馬鉄の手を取り、握り合わせた。

これと同じ頃、韓遂と夏侯惇(+アルファ)の戦いにも、終わりが見え始めていた。

「せいぁっ!」
「甘い、あとミエミエだぞ。そこながきんちょ」
「目がいくつあるんだ貴様はぁぁあっ!?」
韓遂は張郃が放つ大槍の突き、夏侯惇の斬撃を難なく避けて腕を掴み、隙を狙っている高覧に向かって夏侯惇を投げつけた。
「げぇっ!?」
張郃の攻撃の合間を縫って矢を放とうとしていたらしいが、すっげぇ勢いでぶん投げられた夏侯惇を受け止める。
「ふん。」
「くっそ、これじゃ上手く狙えねぇ・・・」
韓遂は疲労しながらも、夏侯惇・張郃・高覧の三人を相手に優勢を保つ。
が、それにも限界はある。さすがに韓遂も息が上がり始めていた。
「ふぅぅぅ・・・お前ら、なかなかやるなぁ。三人同時はちっときついわ。」
韓遂はぼやくように言うが、ぼやきたいのは三人同時に挑んで致命傷すら与えていない夏侯惇達のほうだ。
張郃は「化け物か・・・」と言うが、韓遂は平然と「ああ、昔は「西涼の化け物」とか「涼州の怪物」と呼ばれてたなぁ。懐かしい」と平然としたものだった。
同時に攻撃を仕掛けても、時間差で仕掛けてもその悉くを阻止されて打つ手が無い夏侯惇。
攻撃を阻止できても、敵を討つ決定的な隙を見出せずにいる韓遂。
両者、状況を変化させる一手は欲しいが・・・これに関しては韓遂の分が悪い。援護をしてくれる武将、或いは兵がいないのだ。
どうする・・・と韓遂は考え、あっさりと「よし、誰か道連れにしようそうしよう」と決めた。
出来れば夏侯惇が良い。成公英が目を潰してくれたのだから、それは活かすべきだろう。
3対1という状態は望むものではないし、一騎打ちに邪魔が入るとは思わなかったが、こちらが文句を言ったとて向こうは聞き入れるはずも無く。
「・・・よし、行くか。」
長剣を肩に担ぎ、韓遂は脇目も振らず夏侯惇に向かっていく。
「ふん、狙いは私か! いいだろう、受けてt「夏侯惇殿はお下がりを!」おいちょっと待て邪魔だぞコラ!?」
張郃は韓遂と夏侯惇の間に立ち、高覧も弓で狙いをつける。
「邪魔だ、退けぇぇぇっ!」
「ここから先には行かせん!」
突きを繰り出す張郃。韓遂はそれを避けるだろう、と読んで薙ぎ払おうとしたが・・・韓遂は避けるどころかそのまま突進を続ける。
フェイント同然で繰り出した槍の穂先は、韓遂のわき腹を掠めるように傷つける。
槍を引かなくては・・・と反応する張郃だが僅かに遅く、韓遂のえぐり込むような拳打を腹部に喰らい昏倒する。
同時に、高覧の放った矢が韓遂の右足に刺さるが、韓遂はものともせずに張郃の体を放り投げる。
放り投げられた先には高覧がいて「またかぁぁぁっ!?」と叫んで張郃の体を受け止める羽目に。韓遂はこのまま夏侯惇へと突進、長剣を振り下ろす。
ギャギィンッ! と刃の打ち鳴らされる音が響き、火花が散った。韓遂の攻撃は激しく、受け止めた夏侯惇が圧されている。
張郃は気絶、高覧も態勢を立て直していない。このままでは韓遂の長剣が夏侯惇の体を切り裂くだろう。
押し返そうとするが、韓遂の膂力が勝っておりびくともしない。
「・・・こ、のぉっ!」
「ふん、このまま圧し斬ってくれる・・・!」
更に力を込めていく韓遂。夏侯惇の刀が耐え切れず、ヒビが入り始める。
(なっ・・・くそ、このままでは・・・。何か、反撃の糸口を掴まなければ!)
「貰ったぞ、小娘ぇ!」
勝利を確信する韓遂。だが、ここでついに「糸口」が向こうからやってきた。
「やらせるかああああああああああっっっ!!!」
「むっ!?」
「な、白蓮・・・?」
討って出てきた西涼兵をあらかた掃討し終えた(そのぶん、被害も甚大だった)公孫賛が、一騎駆けで突入。矢を放つ。
矢は韓遂の左腕に突き刺さり、そのおかげで圧力が弱まって夏侯惇は距離を取ることができた。
「えぇいっ、邪魔立てを・・・!」
「するに決まってんだろっっ!!」
左側から突撃してきた公孫賛は、剣を構えて斬りかかっていく。
韓遂はそちらへと向き直り、攻撃が当たるより早く長剣を振りぬいて馬の首を叩き斬り、その刃が公孫賛へと向かっていく。
しかし、公孫賛は寸でのところで回避。自分から馬の背を蹴って着地、韓遂へと走っていく。
斬りかかってくるか、と韓遂は公孫賛の腰らへんを狙って長剣を振るうが、公孫賛はスライディングのように滑り込み回避。
足元を滑りぬけるが、その際に公孫賛は韓遂の左のふくらはぎを斬りつけていった。
ぐぅっ!? とバランスを崩しその場に膝をつく韓遂。長剣を地面に突き刺して倒れるまいとする。
「今だ、春蘭!」
「応っっ!」
夏侯惇は答え、韓遂へと向かっていく。
韓遂は突っ込んできた夏侯惇に「させん!」と左手で貫手を繰り出すがしかし、夏侯惇は刀を斬りあげて韓遂の左腕を根元から斬り飛ばす。
左腕が宙を舞い、血を撒き散らして地面に落ちた。両断された体からも血が溢れる。
「ぐくっ・・・まだまだぁぁぁぁあぁっっっ!!!」
韓遂は長剣を振るうのだが、それが届く前に、夏侯惇は韓遂の肩を蹴って彼女の後背に飛び上がる。
そして空中で回転、韓遂の背中に斬撃を叩き込んだ。ざぐんっ、と深く肉を斬った刃の剣閃に沿って血が飛ぶ。
「か、ぁ・・・・・・!!!」
韓遂はついに力尽きて、その場に倒れた。

「ぁー・・・こんな、ものかぁ」
韓遂はよっこいせ、とあお向けになる。背中に傷があるが、痛みは少なくただ熱い。腕の傷からの出血も止まらない。じきに死ぬだろう。
自然、空を見る格好になるが、その視界にはこちらを見下ろす夏侯惇の姿。韓遂はにっと笑う。
「お前の勝ちだ。さぁ、さっさと斬れ。斬らんでもすぐ死ぬがなー・・・」
「ふんっ。こんなの勝ったうちに入るか。私だけの力じゃないんだ。嬉しくもなんとも無い」
「はん、殊勝なお言葉、だなぁ・・・。・・・はぁ。」
結局成公英の働きは無駄にしてしまった、と韓遂はため息一つ。
「斬って首を晒す、なり何なり・・・好きに、すれば良いわ・・・」
徐々に、言葉の歯切れが悪くなる。舌が回らない。体から力が抜けていく。
これが死ぬということかな、とおぼろげに思う。
「・・・。ああ、好きにさせてもらうさ。止めを刺すまでもなさそうだからな、そこで勝手に死んでろ。」
「くくっ、ほざきよる、わ、小娘が・・・。」
ああ、眠い。目を開けているのが億劫で仕方が無い。・・・義姉上は、馬超達は上手く逃げただろうか? 
逃げ切ってくれれば嬉しいのだが。何にせよ、私の仕事は終わった。後は若いやつらが何とでもするだろう。
取り留めの無い思い出が浮かんでは消えていく。色々とあった。
汚いことも平然とやった。西涼を、義姉を頂点とした独立王国に仕向けようともした。
人生の半分以上が戦で、もう半分は・・・義姉と、成公英と、あとは酒くらいか。
後悔はしていない。私は私の思うままに行きたさ。

韓遂は笑み、右手で握ったままの長剣を、剣先を空に向けゆっくりと上にかざす。
「世に、生を受け、三十余年・・・」
自画自賛するつもりはないが。
「・・・ふははっ。我ながら、よく・・・働い、た・・・わ・・・」
韓遂の右手からするりと長剣が離れ、地面に落ちた。

黄巾の戦乱が起こる以前の戦乱。その時代を駆けた将が、また一人、旅立って逝く。






~~~西砦~~~

ここには龐徳と、彼を筆頭として2千程の兵が立て篭もり、攻め寄せてくる曹操軍と渡り合っていた。
こちらに攻めてきた軍勢にはそれほどの将がいなかったようで、数に勝っている曹操軍が少数精鋭の西涼軍に押されている場面もあった。
幾度も幾度も攻め寄せてきては、龐徳率いる部隊に押し返されるという戦闘が続き、その中で曹操側の武将である董衡・董超・曹永などが討たれている。
だが限度はあって、絶対数の少ない・・・更に言えば援軍の見込みなど全く無い状況下。
被害を省みず突進を繰り返してくる曹操軍に、ついに龐徳は「支えきれない」と判断。また、中央砦が陥落したらしい事も判った。
というのは、こちら側の被害が大きいということで駆けつけてきた夏侯淵が矢文を放ち、状況を知らせてきたということ。
夏侯淵部隊が来たという事は、これ以上砦に兵力をかけるまでもないという事でもある。
文の内容は「馬騰は逃げ、韓遂らを含め西涼の将兵は壊滅。これ以上の抵抗は無用。降伏なされよ」ということだった。
龐徳は「そうか、韓遂殿も逝かれたか」と呟くのみ。

「ここまで、だな」
砦の中には、戦えるものは殆ど残っていない。
ずっと続いた戦闘で、殆どの兵は死ぬか重傷を負い、まともに立ち上がることすら出来ない。
龐徳は兵を集め、これまで共に戦ってくれた事に感謝。降伏するように言い、自分は一人、戟を手に曹操軍へと向かう。
彼に降伏するつもりは毛の先ほども無く、最後まで暴れ回ってやるつもりだ。
それが戦火で家族を失い帰る場所すら失った幼い自分を拾い、一廉の将となるまでに育ててくれた馬騰への恩返しになると信じて。
残された兵達はどうしたものか、と顔を見合わせていたが・・・動ける者は皆槍を取り、龐徳の後を追っていく。

龐徳がどう出るか、を見ていた夏侯淵は「龐徳は降伏するつもりが無いようだ」と見て、弓兵を前面に押し出して一斉射撃を命じた。
龐徳と、彼に続いた兵を射抜かんと矢が雨のように放たれる。
何本かの矢が龐徳に命中したが、まだ戦える、と駆けて行く。
兵士達も多数斃れたが、龐徳と生き残った兵は武器を構え槍衾の陣形で曹操の軍勢へと槍を入れる。
それが曹操軍の見た龐徳の最後の姿であったという。


西涼軍と曹操軍の、後に潼関の戦いと呼ばれる戦は終結。
両軍共に多数の戦死者を出し、西涼側は主だった武将はほぼ全滅。
曹操側も兵の損害は大きかったものの、武将の被害はそれほどでもない。
とは言え、当初掲げた曹操の目的は何1つ達成できておらず、その点で言えば西涼側として「してやったり」だったかもしれない。

また、曹操はこのまま西涼を傘下に収めるべく進軍を考えたが、ここで曹操にとっての誤算が発生した。
馬騰のいない時期を見計らって西涼主要都市を占領した西羌の王、徹里吉(てつりきつ)が「ここは羌の、我らの地、お前らの好きにはさせん。」と、自分達の独立を求めてきたのである。
おまけに「この独立を認めなければ、25万の兵を差し向ける」という脅迫もつけて。
実際にそれだけの軍勢があるかどうかは微妙であるし、何より足元が僅かに固まっていないので、どこぞの国よろしく虚勢の面が大きい。
曹操軍も痛手を蒙っており、これ以上の被害を出すのは好ましくないが、彼らの独立とやらを認める理由も無く、外交で解決を図ることとした。
長安太守・主将として夏侯淵、その参謀として西涼の情勢に明るい張既(ちょうき)。加えて幾人かの武将を派遣。
徹里吉と小競り合いが発生したり、徐々に有利な状況へ持っていくことにはなるが・・・どちらにせよ夏侯淵達にとっては苦闘が続くこととなる。














えぴろぉぐ的な何か。

~~~潼関・中央砦~~~


「・・・ふん、こんなもんか。」
夏侯惇は土に塗れた手をぱんぱんと払いながら呟く。
「すまないな、本当は西涼に帰してやりたかったんだが・・・私には良く判らんが、お前達の故郷が徹里き何とかってのに占領されて、行けんらしい」
別に、誰かに喋りかけているわけではない。後ろには公孫賛はいるが、彼女は目を閉じ、腕組みして待っているだけ。
なおも夏侯惇は続ける。
「それまで時間がかかるらしいし、そのままじゃ亡骸も腐るからな。窮屈かもしれないが今のところはこれで勘弁だ。」
語り続ける夏侯惇の目の前にあるもの、それは墓だった。
墓自体は盛り土をしただけの簡素なものだが・・・この下には韓遂と成公英が眠っていて、墓標代わりか、韓遂と成公英の剣も突きたてられている。
ただし、既に荼毘に付され残るのは骨だけだ。
ズボラな夏侯惇にしては珍しくきっちり骨を分けてから骨壷(どちらかと言うと酒瓶だが)に入れ、その上で同じ場所に弔っている。
どうせなら同じ場所に弔ってやりたい、という夏侯惇の考えだ。
韓遂は「好きにしろ」と言った。だからそうさせて貰っただけだ、と言い張るが、彼女なりの好意・善意であったことはミエミエだった。
「まぁ、いずれは帰れるだろうさ・・・その時まで待っててくれ。同じ墓だ、寂しくは無いだろ?」
「・・・おい、春蘭。そろそろ行くぞ。帰投命令ぶっちぎって、どんだけ私の胃痛を誘発させるつもりなんだよ?」
「ああ、悪い悪い。」
何だかんだ言いつつ、公孫賛も墓を作るのを手伝ってこうして待っているのだから、大したことではないと思っているのかもしれない。
「じゃあ、そろそろ行くよ。」
またな、韓遂、成公英。


別れを告げ、夏侯惇は騎乗。公孫賛と共に曹操の元へと駆けて行く。









潼関に散った主従の墓。
そこに突き立てられた二本の剣はこの主従の関係を表わしたのか・・・。
静かに寄り添っているように見えた。








~~~楽屋裏~~~
長かった! 西涼編がここまで長引くなんて思わなかった! あと白紙状態を上書き保存もしちゃったあいつです(挨拶

いやぁ・・・西涼は強敵でしたね。(上書き的意味合いで


董衡・董超・曹永の説明を。誰? って感じでしょうし、私も良く知りません(ぁ
董衡と董超は樊城の戦いで龐徳に「関羽に降伏しようZE!」って言っちゃったので斬られた人々です。
曹永は架空の人物で演義のみの人物。潼関の戦いで龐徳に討たれたそうなので、まぁここに出ても良かったかな、と。
あと、龐徳は死んでいますし、曹操の事ですから戦死者もきっちり供養したんじゃないでしょうかね。



さて、この時点での各勢力の動き。

曹操:西涼との戦いに辛勝、ただし西涼は得られないわ、武将も配下にならないわで散々。得るものは何も無かったと言える状態。
孫策:来るべき曹操との戦いに備えて着々と準備中。
劉備:現在は新野で客将扱い。劉表が死に掛かっているので(病気で)、その長男の劉埼に取り入って荊州簒奪を試みます。あくどいですが、地力を得て曹操に対抗するためには致し方なしです。でも荊州大混乱。
張魯:南の劉璋と戦争状態。
劉璋:南の孟獲と北の張魯に喧嘩を売る。孟獲が孫家と同盟を組んだので涙目。また、劉璋の元で名将・・・優秀扱いな人々はほぼ全員北にいます。張任・厳顔・李厳・法正・呉懿など。恋姫基準で言えば黄忠・魏延とかも。
馬騰:孫家への亡命の為、南へと逃亡中。韓遂を初めとした仲間、娘2人を失って(´;ω;`)状態。
勢力じゃないけど高順:現在は孟獲初めとした南蛮勢を結集、いずれ派遣されてくる孫権が来るまでひたすら守りを固めている最中。




3行で終わったはずの西涼編がここまで長くなるとは・・・なんで短く纏められないのだろう(これでもかなり端折った
ここから、ようやく曹操対孫家の流れになるのかな?
赤壁発生するのかなぁ・・・史実と違って寿春支配下だし。まあ、曹操がそこを無視すればなんとかなるだろうか。

あ、原作では赤壁で終わる孫呉編ですがこのSSでは・・・


終われないよ! 劉璋も片付けないといけないし! 劉備も悪どいし!(正史・演義両方)
・・・何をするつもりだ私。

トゥワールド2も出るし、ドラゴンエイジオリジンズはクリアしたし、戦国無双3Zもあるしで更に更新は遅れそうだけど仕方がないね!(待て


・・・ではまた次回お会いしましょうノシ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第97話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/02/23 21:29
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第97話。 馬騰さんが劉備さんと会ってみた。でも案の定だった。


危地を脱した馬騰達は潼関を南に抜け、そのまま荊州・・・つまり、劉表領に入っていた。
本当なら国境沿いに進むべきだったが、最短距離で南下したほうが早いだろう、と一時的に突っ切ることにした。
ただ、本当に最後まで突っ切ると間違いなくどこかで止められるだろう。
なので、一度どこかで食料・馬の飼葉などを補給してからどこかで益州方面に抜けて、あとは国境沿いを南に進んで行けばいい。
そうすれば南中にいる高順とも合流できるだろう。・・・益州でちょっかいをかけられずに済めば、だが。
その為に、馬旗を使用せずに行軍を続けている。

行軍中、馬騰は家族や韓遂の事を考えていた。
あれから数時間後に彼女を目を覚まし、事の顛末を聞いた。と言っても、誰1人として戦死した場所を見たわけでもなく、憶測の域を出ない話でもある。
ただ、娘にせよ韓遂にせよ、生きていないだろう・・・というのは判る。
馬休も馬鉄も若い頃の自分のような意固地な面があったし、韓遂に関しては言うまでもない。
皆、自分の我侭で死なせてしまったも同然で、その為か馬騰は随分と落ち込んでいた。
馬超・馬岱ともに下手な慰めをしてこないのが有難いくらいだ。しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにも行かない。
無様に生き残ったとはいえ生き残ってしまった以上、娘と姪、そして自分に従う五千からの兵を率いて行かねばならない。

「なー、母様ぁ・・・」
「ん・・・どうしました、翠(馬超の真名)」
あれこれと考えていたので、娘からの問いかけに少し反応が遅れる。
「少し、どこかで補給か休憩しようよー。私達はともかく、兵たちがもたない。」
「うん、姉様の言うとおりだと思う。急がなくちゃいけないのは判るんだけど・・・」
馬超と馬岱が後ろの兵達を振り返る。
彼らの表情は酷く疲れきった顔だった。とはいえ、気力は充分だ。
あの逃亡戦を生き、過酷な行軍にも従ってくれている。だが、疲労はどうしても隠せない。
馬超の言うとおり「自分達は大丈夫でも」彼らが大丈夫というわけではないのだ。
食料の補給は確かに必要で、今は余裕があってもいつ補給が出来るかは判りはしない。
ならば、と馬騰は決断する。
「そうですね。では、少し東になりますが新野・・・ん」
言いかけた馬騰は、左・・・南側へ向かっているので、東側からだが、一団が近づいてくるのを見た。数はそう多くない。千ほどだろう。
まだ遠いが、こちらを目指しているらしい。
「翠、蒲公英(馬岱の真名)、東からの一団が見えますね? 行軍速度を速めます。兵には酷でしょうが新野も諦めないといけないでしょうね。伝令を出しなさい」
「は、はい!」
言われたまま動き出す2人を見送り、馬騰は東からの一段に目をやる。
(見た感じでは曹操の手のものではないようですが、さて。)
ここは劉表領で、いくら曹操でもあの合戦の後で揉め事を起こすつもりはあるまい。また、劉表が自分達に目をつけるとも考えにくい。何か争いを起こせば別だが、侵攻されなければ動かない男だ。
ともかく、行軍を速めた事に気づいたか「向こう」も追跡速度を速めてきた。
逃げられたくないのか、戦うつもりなのか・・・どうしますかね、と思った矢先。「向こう」が白旗を掲げてきた。
白旗? と思い、じっとこちらに近づいてくる一団を見つめる馬騰。まだまだ遠目だが、その先頭にいる人物を見て馬騰はさっと手を上げ、全軍停止の命令を下した。
こちらに向かってくる一団の先頭にいる人物は女性で、その名は華雄といった。

「馬騰様ー、ご無事で何よりですぅぅぅっ!!!」
「え、ええ・・・貴方も元気そうで何よりだわ、華雄。徐栄、貴方も苦労しているわね」
「はっ。」
馬騰に抱きついてわんわん泣き喚く華雄と、それに苦笑しつつ、傅いて馬騰に敬意を表わす徐栄。
華雄らが接近してくるのを待っていた馬騰だったが、すぐ近くで華雄が馬を降りて「お久しぶりですっ!」と挨拶。
馬騰のほうが自分達より上位の存在であることを示し、緊張を和らげたのである。(そんな打算など考えずに、華雄はそんな行動をしていたが。
華雄の馬鹿力で抱きつかれると辛いというか痛いのだが、馬騰はやはり苦笑しつつ抗ったりはしなかった。彼女は幼い頃に馬騰の世話になり、武術を仕込まれ、その腕のおかげで頭角を現して官軍に入れたクチである。
その恩もあろうが、華雄は馬騰をよく慕っている。また、徐栄もその縁で何度か馬騰と面会をしており、顔見知りだ。
「えぐっ、西涼軍が敗退したとか、馬騰様が行方不明になったとかで気が気じゃなくてっ・・・北から騎馬隊が多数南下してきたと聞いてまさかと思ってっっ!!」
「ええ・・・多くの者を失ってしまいました。・・・それで、どうして貴方がここに?」
「ぐじゅっ、しょれは、しょの・・・」
「・・・あー、話が進まないので説明は私が。ただ、急ぎでありますので移動しながら、ということで宜しいですか?」
悪い娘ではないのだが感情過多と言うか。今の華雄では埒があかないと悟って、徐栄が説明をしながらの移動を提案。馬騰は「お願いね」と頷く。
「ただ、1つだけ頼みがあるのですが」
「頼み、ですか?」
「ええ。新野で補給、というより食料の購入をさせて欲しいのです。」
食料? と徐栄は考えて「ご入用でしたら、ある程度はこちらで都合させていただきますが・・・」と言う。
「いえ、それには及びません。我々にも目的がありましてね。「長居をするつもりはない」のです。」
この発言に徐栄は「ああ、やはり読まれているな」と確信した。
「ふむ・・・判りました。では、街の商人には話をつけておきます」
「ええ。お願いしますね。・・・さぁ、いきますよ」
馬騰の命令で、西涼残党軍も動き出す。
道中で、華雄が劉表ではなく劉備を主にしているということ、その劉備が自分に会いたがっている、などの話をしながら、彼女達は新野へと向かう。
もっとも、馬騰は劉備と言う人物を殆ど知らないしさほど興味も無い。新野に行くのは補給と、華雄とすこし話をしようか、と言うことでしかなかった。
華雄から、劉備が反董卓連合に属していたとか、一応は漢王朝の血筋らしいとか、少しは興味のある話題もあったが、割とどうでも良い話であった。
一番興味を抱いたのは華雄の所持している大斧。あれは確か閻行の所持していたものだった。
それを聞いたところ、本人から譲り受けたのだという。
「では、閻行は貴方と一緒に?」
「いえ・・・離れ離れになってしまって。多分、曹操の所に・・・」
「そう・・・」
では高順とも離れ離れと言うことか、と馬騰は納得した。
彼女が曹操の配下になっているかどうかは判らないが、あの曹操でも閻行を飼いならすことは難しいだろう。
曹操と西涼の戦いを知っているのだろうか・・・いや、知らないだろう。
何にせよ、元気でいてくれればそれでいい。


「・・・な、蒲公英」
「なぁに、姉様?」
「あたしたちが伝令出したのって意味無かったよな?」
「うん」



~~~新野~~~

「ほぅ。この規模の都市にしては中々の賑わい・・・」
市の賑わい、人の群れ。それらを見た馬騰は素直に感心した。新野は都市としては小規模だが、行きかう人の数は多い。良く統治している、と思う。
馬騰は華雄らに案内され政庁へ向かうが、その途中で馬岱に補給を頼み、また自軍の兵は新野へと入らず外で宿営をさせている。「入ってもいいんじゃないか?」と馬超に言われたが、長居をするつもりは無い。
また、馬超には小声で「食事を出され饗応されても何も口にしないように」と言い含めてある。
当然「なんで?」と聞き返されたが、これは劉備に借りを作らないように、というものだ。
補給云々はあくまで華雄や徐栄の好意、劉備から貰ったものは何も無いし借りは作らない。後々面倒が無いように。
そんな事を考えながら、彼女達は政庁へ到着。そのまま劉備と対面する。


「えと、初めまして! 新野の太守、劉備です!」
「お初にお目にかかります、馬騰と申します。こちらは娘の馬超。」
「あ、どうも(ごすっ!) 痛ぁっ!? 何すんだよ母様!!?」
「行儀が悪いですよ、馬超。」

まるで祝宴のような雰囲気の大部屋に通された馬騰は、無事(?)劉備との面会を果たしていた。
この席には関羽や張飛、諸葛亮など、馬岱の補給を手伝う為に引き返した華雄と徐栄以外の、劉備軍の主要武将が殆どが顔を揃えている。
当たり障りの無い会話をする両者だが、そこに諸葛亮が入ってこんなことを言い出した。
「あの、馬騰様はこれからどうなされるおつもりでしゅか?」
「これから、とは? あと、噛んでます」
「はわわっ。じゃなくて、えぇと・・・」
「んー、何処を目指していたのかな? って。」
噛み噛みな諸葛亮を援護するように、劉備も口を出す。
「何処でも良いでしょうに。私は敗軍の将・・・我々が生きていける地を探して流浪するのみ」
本当の目的は高順を頼って孫家に・・・というものだが、馬騰はそれを喋らない。
喋る理由もないし、そのせいで高順に迷惑がかかってもいけない。さすがに馬超も察しているらしく、黙っている。                      「うーん、だったらここに滞在しませんか? 宿とか食事のことなら心配しなくてもいいですよ!」
劉備はにっこりと笑ってそう持ちかけた。裏も何も無くこれが彼女の自然体なのだが、馬騰は僅かに嫌な感覚を覚えた。
これは悪意とかそういうものではないのに相手を引き込む・・・劉備と言う人が最初から持っている天性のもの。
嫌な、笑顔だ。
「劉備殿。貴方は何を成す為ここにいるのです?」
「え?」
急に話題を変えられて、劉備はキョトンとした。
「華雄に聞きましたが、貴方は漢王朝の血筋を引いた1人だそうですね。」
「は、はい。靖山中王・劉勝の末裔です」
「貴方の野望・・・望みは何なのです。」
「うぅん・・・難しいことは良く判りませんけど、皆が笑顔で、幸せに暮らせる世にしたい。それが一番の望みです。」
これが劉備の行動原理であり、偽りの無い本心であり、だからこそ彼女の元に人が多く集まる理由の1つ。
だが、馬騰にはそれが通用しなかった。
「ならば、何故漢王朝の元に留まらなかったのです?」
「・・・へ?」
「ただ天下泰平を望むのであれば曹操につけばよいのです。それで世は治まるでしょう。」
この言葉に、諸葛亮らの表情が少し険しくなる。
「私は彼女を嫌いますが、間違いなく傑物。敗れたから認める、ではありませんがね。彼女の元で働いたほうが手っ取り早いでしょう」
「じゃあ、馬騰さんはどうして・・・一度、漢王朝に挑んでるんですよね?」
劉備の言葉に、馬騰は「尤もです」と答える。
「一度ね、試したかったのですよ。自分達の力で何処までいけるのか。その結果が、つい先日まで就いていた征西将軍であり、西涼の統率者という立場。曹操には負けましたけどね」
以降、馬騰は「ならば、今度は自分を取り立てた漢王朝の為に働いてみましょうか」と方向を変えてみたのである。
周りは「これでは暴れられんじゃないか」という不満の声もあったが、今度は西羌の相手をすることになったり・・・と、暴れる場所には困らなかった。
ともかく、馬騰は漢王朝の武将として、最後まで自分のやるべきことをやる、という名目で動いていた。
曹操は力も知恵もあり、壮大な野心家である。では劉備は、目の前の少女はどうなのか? と疑問を持っての先の質問だ。
「で? 先ほどの質問の答えは?」
「それは・・・曹操さんのやり方じゃ、私が納得できないんです。あの人の才能はすばらしいと思いますけど・・・私の求める方向とはどこかが違う」
「成程。ただ天下統一をするならば曹操の元にいたほうが利口ですが・・・」
馬騰は首を振って「この少女では無理だ」と確信した。
自分は漢王朝の将として曹操に敵対する道を選んだからあまり偉そうな事は言えないが、もしも本当に民の笑顔云々を第一に取るのであれば、この少女は漢王朝の元に留まるべきだった。
皇室に名を連ねる1人として、政権運営になんとか食い込んで曹操と対峙すれば良かったのだ。
曹操は魏を作ったとはいえ、一応は未だ漢王朝の臣。そこから先にどう動くかは未知数だが、遠からず帝位を得ようとするだろう。
その時に、現皇帝たる劉協を守ろうとする者はいるだろうか。いはしまい。その時の為に、曹操とはまた違った形で中央で勢力を築けばよかったのに。
劉備の言う事を鑑みれば、これから勢力を伸張させていく、と言うことなのだろうが、自分がそれに協力をする理由も意味も無い。
滞在云々、というのもつまり、自分を武将として取り込みたいと言うことだ。
「陛下は心細いでしょうね。あのお人には、もう親族くらいしか頼れるものはいないでしょう」
「う・・・それは」
「曹操は、皇帝になろうとするでしょう。彼女なりの天下とやらの為に。その時、彼女がどう動くかは明白。貴方は漢王朝を見捨て独自勢力を築いた劉焉と変わりませんよ」
この、冷徹であり真実を語った言葉に、関羽は「むぅ」と考え込み、そして諸葛亮が反論をする。
「で、でも! だからこそ私達は曹操さんの下では働けないんです! あの人は苛烈すぎます。劉備様の望む世になるとは思えません!」
「ええ、そうでしょう。ここ、新野の賑わいを見れば、貴方達が口先だけの人々ではないということは理解できます」
「だったら!」
「ですが、私は御免です。漢王朝が滅びようとしているのにそれを平然と見捨てる。そのようなお人と歩くつもりは無いのです。」
「うー・・・」
馬騰と劉備の言い合いは基本、平行線でしかない。
劉備は自分の望む世の為に、曹操とは別の形で進もうと。
馬騰は、天下泰平を望むのなら、曹操、いや、漢王朝で働いたほうが確実で、その中で権力を得て漢王朝の守人たれ、と。
劉備としては馬騰は欲しい人材だ。個人的武力・統率力・西涼を得る為の求心力など、武将としての価値が大きい。
何とかして手元に引き留めたいのだが、どうにも話がかみ合わない。
ここで話が終わればマシだったが、ここで張飛がいらない一言を言ってしまう。
「良く判らないけど、漢王朝が滅びても大丈夫なのだ!」
「・・・は?」
何を言うとしたのかを察してか「ちょ、待てっ」と制止しようとする関羽だったが、それよりも先に爆弾発言が飛び出した。
「桃香お姉ちゃん(劉備)は皇帝の血筋なんだから、そのまま皇帝になっちゃえばよいのだ!」
それで万事解決なのだ! と自信満々に言う張飛。(そして、あちゃぁ・・・といった感じの面々)
その発言を聞いた瞬間、馬騰の周囲に冷気のような物が溢れ出した。
「劉備殿、あの子は一体どのような人でしょうか?」
「え、えええ? えと、私の妹で、その・・・武将というか何と言うか、あは、あはははは・・・」
乾いた笑いを浮かべる劉備。馬騰は対照的過ぎるほど冷たい笑顔。
「皇帝の血筋たるお人の将が「今の皇帝が滅びたら自分の主人が皇帝になれば良い」と。成程。そのような認識をしていたからこそ漢王朝のために働くつもりは無かったと。・・・馬超」
「は、はひっ!」
母親が久々に見せた冷徹な雰囲気に呑まれていた馬超は、裏返った悲鳴のような返事をした。
「これ以上ここにいる必要はありません。急ぎ出ます。」
「わ、わっかりました!!」
立ち上がった馬超はわたわたと走っていく。それに続いて馬騰も立った。
「お待ちください!」
「あ、あ、あのあのあの・・・」
引きとめようとする諸葛亮や龐統、しどろもどろになっている劉備。
「・・・我々は早々にここを発つと致しましょう。劉備殿、貴方の真意は良く判りました。貴方の配下が、そして貴方がどのような考えで漢王朝を「見捨て」たかが。」   
それが判れば十分。
もしかしたら、劉備本人は帝位への野望など無いかもしれない、だが、その配下が平気であのような事を言うというのがどうも我慢ならない。
斬る事もできたが、それをやれば娘の命は無かっただろう。
関羽と張飛とやらは相当な使い手と見えたし、暴れればすぐに兵が駆けつけてくる。
(何、いずれは機会の1つや2つできるでしょう・・・)と、この場を退いていく馬騰であった。


で、残された劉備たちはといえば。

「鈴々・・・」
「ほぇ? 鈴々、何かおかしいこと言った?」
「鈴々ちゃんの馬鹿・・・」

この後、関羽にしこたま叱られる張飛の姿があったとか無かったとか。。



まっすぐ新野を出た馬騰達は、郊外で食料の補給真っ最中の馬岱の元へと急ぐ。
そこには華雄らもいた。
「あれ? 馬騰様、随分早い・・・」
「華雄、徐栄。我々はすぐにここを去ります。」
「へっ!? 何でですか?」
「劉備という人は「共に語るに値せず」です。張飛という子の発言で、劉備がどう考えているのか、その一端が見えました。」
「え、はぁ・・・何の話ですか?」
「それに、私がここに滞在すれば劉表がどのように動いてくるか。劉備も疑われてしまうでしょう。」
キョトンとしている華雄。彼女は劉備の野心を何も知らないのだろう。シラをきっている可能性もあるが、そんな腹芸が出来るような器用な性格でもない。
このまま連れ出すか? とも思ったが・・・無理強いはすまい。
「良いですか、劉備の元では駄目だと思ったら、あるいは滅んだら私を尋ねなさい。落ち着いたら連絡を入れるようにします。徐栄、華雄の補佐を頼みましたよ」
「はっ、心得ました!」
「え、あの、えーと。なんか置いてけぼりにされてるような・・・」

食料の搬入は済んでいたが、天幕を建てていなかったため馬騰はすぐに南下を始めた。
兵士からは不満の声が挙がったが、もう少し時間を経てから休みます、という発言に渋々従い、動き出す。

馬騰は南中を目指し、ひたすら南へと下って行く。
途中でちょっかいを入れられたり、無理やり切り抜けてみたりと色々とあるのだが・・・彼女達が高順と合流するのはもう少し先の話である。


~~~その頃の南中~~~

「えっくしゅん」
「うわ、汚なっ! 高順兄さん、食事中にくしゃみせんといて!?」
「ごめん・・・ぐずっ(鼻すすり」

平和だった。




~~~楽屋裏~~~

やっぱり劉備はこんな役回りなのね(挨拶

あるお人のせいででっち上げられた回でした(おい
で、張飛のあの台詞・・・横山氏の三国志で、張飛が実際に言ったことですな。
見た当時は特になんとも無い台詞でしたが、今見たら「なんつー事を言うてるん?」と思うのでしょうw




~~~番外編、もし高順が北に(ry~~~

「何がどうしてこうなった・・・」
高順は、陳留や洛陽ほどではないが随分賑わっている都市・・・南皮(なんぴ)の、政庁に続く道を歩きながらぼやいていた。
そう、事の発端は界橋の戦いに勝利したあとのこと。

袁紹が本拠としている鄴。
一連の戦役が終わった後、袁紹は殆どの将兵と共に鄴に帰還し、曹操との対決に備えている。
高順一党もそれに従い鄴にいたのだが、少ししてから「此度の戦の論功行賞を行うので登城するように」と使いが来た。
「はて、俺は戦功上げたっけねぇ・・・?」と首を傾げつつ、高順は皆を引き連れて城へ向かう。
もしこの中で賞されるなら、一騎打ちで張郃を退かせた趙雲くらいだろう。
張郃曰く「さすが龍の一文字を字(あざな)に持つだけある・・・」と悔しそうに撤退したくらいだし、張郃は勇将として名高いから戦功無しと言うことはないだろう。
ま、自分は大して戦功ないし、面倒な仕事を押し付けられることも無いだろうなー。と気楽に思って高順は城に向かったのである。
ところが。

「高順さん、今回の戦功を賞して南皮の太守に任じますわ。」
「!?」

・・・なんか、あっさり面倒な仕事を押し付けられている。しかもいろんな人がいる前で。
「な、殿! 一体何を」
「さよう、そのような新参者に南皮を与えるなどもっての外!!」
「かような粗忽者に太守を任せるとは・・・何を考えて」
「うるさいですわよ、郭図以下略。」
以下略扱いされた逢紀と許攸は口をあんぐりと空け茫然自失。
口調もきつかったので、袁紹は内心で「うっさいですわよこのオタンコナスのスットコドッコイ」とか思ってたかもしれない。
そんな言葉がこの時代にあったかどうかはともかく。

ここで、田豊が「殿、一応理由をお聞かせ願いますかな?」と口を挟む。
「そうですよ、田豊殿の言うとおり! ・・・俺、なんか戦功立てましたっけ?」
「ええ、公孫賛擁する屈強な騎馬隊を防ぎ、張郃らも退け彼らの戦意を挫き、・・・相手側の攻撃手段を封じました。おかげで大した損害も無く、短期間で勝ちを拾うことが出来ましたもの。」
おかげで曹操さんに対抗する為の準備期間が大幅に増えました。十分な戦功ですわよ? と袁紹は不思議そうな表情で高順を見た。
「だからって、南皮はちょっと・・・他に人がいないとはいわせまs「いませんわ」
「・・・」
「・・・?」
「えっ」
「え?」
「あの、田豊さんとかは・・・」
「我が軍の宰相ですわね。手元から離せませんわ」
「・・・」
あ、今現状だと他の能吏がいないのか。と高順は思い至った。
文官は多いが、政治が長けているとなると王修とか陳琳くらいか。郭図とかは能吏とはいえないし。
審配殿はどっちか言えば将軍クラスの人だしなぁ・・・。
でもだからってまるっきり武官の俺に南皮の太守やれとかフリーダム過ぎませんか袁紹さん。
「えーとですね、俺はあくまで武将つーか部将であって領地経営とか全然「徐州の広凌」・・・ごめんなさい。」
なんかすげー勢いで先手取られたんですけど。つうか、俺が一時的とはいえ太守やらされた話をしたっけ? してないと思うのだけど・・・。
困りきって後ろを振り返る高順。そこで、ただの偶然だが趙雲と目が合った。しかしここで。
ニヤリ、と趙雲が笑ったのである。その笑顔を見て、高順は確信した。
あんただろおおおおっっっ!!? と。

「(向き直り)・・・ぇー、すいません。その話は誰から」
「趙雲さんからですわね。見事な手腕だったと絶賛されておりましたけど・・・あと、上党で屯田制を導入したのも貴方だとか?」
(ニヤリ)←趙雲
(ちきしょぉぉぉぉぉおおぉっ!!!)←高順

「ううう・・・ですが、それなら麹義殿とか淳于瓊殿もいますよ?」
「彼らは別の仕事があります。それと、翁への答えですがそれなりに理由はありましてよ?」
界橋の戦いこそ終わったが、まだまだ公孫賛がどう動くかは判らない。
そして、南皮は公孫賛の本拠である北平。もう1つ公孫賛が治める薊という都市の南側に位置する。
つまり、公孫賛が南下してきた時に最前線となる場所だ。
高順に期待されている役割は兵を増やし、鍛え上げ、かつ公孫賛への押さえ。来るべき曹操との戦いにも従軍してもらうが、まずはそこだ。
迎え撃つだけなら麹義でも良いが、彼には太守としての経験は無い。淳于瓊も他都市で兵の調練を行う。
適任がいないからという消去法ではなく、一応は彼と彼の配下の能力を考えての配置だ。
また、高順が私兵団の長と言う立場も関係してくる。
もしも公孫賛がすぐに攻め込んで来た場合でも、自力で対処が可能と言う点が魅力だ。
北方同盟は、今現時点ではほとんど無力化したといっても良いが、それでも警戒するに越したことは無い。
勝利したと言っても、こちらに被害が無かったわけでもないのだから。
徴兵をせずとも戦力となる兵が手元にある高順は、太守としての才覚云々以前に公孫賛への壁として最適なのだ。
敵性勢力への内通を不安がる声もあったが、性格を考えても謀反という行いをする手合いではないから、そこも安心だ。
それに、彼個人の野望・野心が「平穏に暮らしたい」という・・・なんというか武将らしからぬ、一般人みたいな望みだ。
自分と家族・仲間、それと部下の生活が安定して、かつ無理難題を上から押し付けられたりしなければ、割とどうでもいいのだろう。
能力と野心がまったく別方向にかけ離れていて、可笑しな人だと思う。

と、こんな説明を受け、高順が南皮へ送り込まれることに反対意見は出なくなった。
郭図ら(と高順本人)がブツクサ言っていたものの、それらは無視され「今から行きなさい、可及的速やかに」とまで言われ、泣きそうになりつつ高順は南皮へ向かうことになる。
そして、到着してからの高順の言葉が冒頭の「何がどうしてこうなった・・・」となるのだが・・・

この都市は商人が多く駐在、物資の行き来も盛んだ。防御面でも東が海で、西は鄴、南は平原。
鄴も平原も袁紹領であるため、北側だけに集中すればいい。
海も近い為に海鮮も豊富(高順はこれに大喜びだった)で、食料もそれほど問題にならない。
また、馬の調達も容易で、騎馬隊の編成には資金面以外でなら楽が出来る、と高順一党にもうってつけと言えた。

ただし「あの」髑髏龍の鎧で入城してしまった為に、(初期だけ)住民から無駄に怖がられたり、大都市ゆえの殺人的な仕事量に(闞沢が)死にかけたり・・・
あれこれと問題が噴出したが、それはそれとして。



「はぁ~・・・」
「どうなされた、高順殿」
「そうやで、こーんなでっかい街を治めれるねんで?? やったるでー、とかそれくらいの気概もたなかんでぇ?」
「そうですね。隊長も、そろそろ腰を落ち着ける場所が欲しいと仰ってたんですからむしろいい機会だと喜ぶべきでは?」
「あら、腰を休ませるつもりは全くn「それ以上はやめておけ」むぐぐっ!?」
「ふわぁ・・・こ、こんな大都市来たの初めてです!?」
「おー、やっぱ上党とは違って栄えてるっすねー」「そっすねー」
「ひひんっ」
歩きつつ溜息をつく高順と、それを見咎める趙雲と李典。
他にも色々な反応・・・じゃないものも混じるが、どれが誰だか説明をするまでも無いだろう。
「とりあえず、趙雲殿のせいだと言っておきます。つうか俺太守って柄じゃないからな」
「えー、広凌きっちり治めてたやーん」
「あれは陳羣さんのおかげです。他の文官さんも頑張ってくれてたし、こことは規模が違いすぎ。」
俺、たいして何もしてなかったでしょーが。と李典に言い返す。
「ですが高順殿。楽進ではありませぬが、機会ではありましょう。」
「何が言いたいんですよ、趙雲殿。」
「特には。なれど、袁家でのまともな立ち位置を確保できたという事ではありませぬか。これは大きいでしょう」
「・・・それは」
「思えば、ここまで苦労続きでしたな・・・ま、これからも続きそうですがな。」

感慨の篭った趙雲の言葉に、思わず高順は黙り込んだ。
確かに苦労続きではあったし、これからも皆には苦労をかけ通しになるだろう。
だが、袁紹はこちらを信用してくれているし、立場の悪い自分をがっちりと背中から抱えてくれてもいる。
寵愛、というものとは違うが、自分達の実力を評価して仕事を任せてくれている。
思えば、董卓との関係も良くは無かったし、呂布は・・・こちらが憎しみを抱いたせいもあって、これもあまり良い関係ではなかった。
張燕・公孫賛に丁原・・・上手く行っていた方だが、勢力としてはさほど大きくなかった。
趙雲の言うとおり、大きな勢力で自分達の存在感を出せたのは悪くないことだろう。
だが、心配もある。袁家は強大だが、曹操に対抗できるのか、と問われれば・・・はっきり言って良く判らない。
歴史上ではあのような結果だが、実際のところは曹操も敗北を覚悟するほどの戦だったと思う。
この世界の歴史は、自分の知る知識と似ているようで違う部分も多い。どう転ぶかが全くわからない状態が続いている。


(まぁ・・・皆の生活を守る為に、嫌でもやるしか無いんだけどね)
いいさ、自分のやれる範囲で力を尽くすとしよう。
守るべき人々がいて、守らなければならない部下が多数いる。
自分を信じてずっと従い続けてくれた皆の為に、やれることをやろう。



こんな幕間を挟んで、官渡の戦いへ。





~~~楽屋裏~~~
麹義はともかく、何故に淳于瓊? 優秀だからさ(また挨拶

淳于さんは普通に優秀でしょうな。兵糧任されるって大任ですし、袁紹3都督の一人ですよ?
残る二人は沮授と郭図・・・あれ? 後者駄目な人だ(ぁ

顔良・文醜・淳于瓊・麹義あたりは曹操軍の武将と比較しても、見劣りするような人々じゃないと思うのですがねぇ・・・
審配も優秀そうですし。




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第98話。
Name: あいつ◆2911748e ID:81575f4c
Date: 2011/03/06 12:07
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第98話。




「はあぁ・・・ったく、いきなり予定と食い違ったなぁ・・・。」
文句の止まらない高順。彼は南中から北に向かっている。

周喩が曹操領へと派遣した密偵は数多い。勿論、こちらに放たれた密偵も数多いのだが。
消されてしまう者もいれば、まだ任務続行中の者もいる。その中の一人が曹操・馬騰の衝突、その結果を周喩の元へともたらしていた。それが2ヶ月ほど前の話だ。
周喩は孫策らとともに協議をした結果「数ヶ月は攻めてこない」という結論を出した。
と言っても、あの曹操のことだから不意打ちのように襲撃を仕掛けてくる可能性もある・・・が、大規模攻勢は暫く無いだろう。
そのような結果「まだ孫権を送ることは出来ないが、少しずつ足場を増やして欲しい」という要請が来てしまい、高順は「話が違うぞおいっ!?」と叫びつつ北へ向けて進み始めた。
この話、実を言うと高順に伝えられたのはそれだけの事しかない。
曹操・馬騰の戦いには何も触れられていないのだ。
周喩らは馬騰が行方不明というのは知っていたが、それは高順に伝えられていない。
彼の性格を考えると単騎突破とか普通にやりそうだからだ。
馬騰とくれば、その娘の馬超の事も考えるのは当然で、そこから高順の士気が低下せぬように、と心配しての措置だったが・・・。
都市を攻略するわけではなく、その周辺に作られた劉璋軍の砦などを潰したり、そこに自軍の兵を入れたり、という程度のことしか出来ない。
小競り合いのような衝突は数回あったし、防備を固めている間に、一度だけ南中にそこそこの規模の軍勢が攻め寄せてきたりとかもあった。
それは、南中側の抵抗の激しさや投石器での反撃、蹋頓・沙摩柯・高順を軸とした騎馬隊の逆撃、孟獲・孟節姉妹率いる南中歩兵隊の突撃など。
劉璋の派遣した南中攻撃軍は思わぬ猛反撃を喰らい、損害を出して撤退していった。

さて、高順は北へ向かっている。
いや、どちらかと言えば北西へ、と言ったほうが正しい。
南中から建寧(けんねい)を抜け、江州(こうしゅう)へ向かっているのだ。
江州よりも前に朱堤郡があるので、まずはそこからと言う事になるが、目的は威力偵察である。
規模はどれくらいなのか、その周辺の砦の数はどれほどか、地理など・・・調べたいことは沢山ある。
そこで、兵を2千ほどと周倉・李典・沙摩柯を連れ、黄蓋と共に出撃したのである。

~~~その頃の西涼残党軍~~~

「ちくしょおおっ!? しつこいぞあいつらぁぁあぁあっっっ!!!」
「姉様が関守をうっかりしっかり挑発しちゃったからでしょおおお!!?」
「いえ、翠の性格を考えれば、よく殴り合いにならなかったと感心するところです。」
「感心する場所違ってないか母様っ!?」
「蒲公英、貴女は軍の先頭に向かい先導をしなさい。私と翠で殿(しんがり)を務めましょう。行きなさい」
「は、はいっ」

なんか良く判らんが劉璋軍の追撃を喰らっていた。
関というか国境付近を守る部隊と何らかの衝突があったらしい。

~~~西涼残党編、終了~~~



朱堤より少し遠いが、高順たちはそこで陣を張っている。
足の速い者数名(「影」も含まれる)を細作として放ち、周囲に夜盗や劉璋の兵がいないかどうかを確かめさせている。
放ったのはかなり早い時期で、広範囲の情報を拾ってきてくれるだろう。集合場所は知らせてあるから問題は無い。
野営を行っていないのはその結果を待っているだけで、異常が無いとわかったらそこで準備に取り掛かる手はずだ。
別段、劉璋軍に知られていても構わないし、向こうが出てきたら尻まくって逃亡すれば良いだけの話である。
もっとも、そうなる可能性は低い。
北の張魯、南の孫・孟同盟の2箇所に兵を配置しなければならないわけだが、劉璋・・・現在の蜀の国力で二正面作戦はいかにも辛い。
先の反撃で戦力を多少とはいえ失ったことには変わりが無く、戦力の再編成をしているだろう。
してなければただの馬鹿でしかないという話だ。こちらが楽になる。
速く帰ってこないかなぁ・・・と、虹黒の首を撫でていた高順だが、そこに「影」が数人、高順の後ろに現れた。
「ん・・・どうかした?」
少し気付くのが遅れた高順がすっと振り向く。
「ここより北で小競り合いが発生した模様。距離、およそ五里」
「小競り合いって、戦闘? 何処の誰が?」
「片方は劉旗。劉璋軍と思われます。もう片方は旗を立てておらず・・・」
「旗を立ててない? じゃ、どこかの軍勢と劉璋軍が争っているって事か」
ふむー、と高順は考える。
(何処の軍勢かは知らないが、もしかして南蛮の人かな? そうなら助けないと・・・)
違っても別に構わないけどね、と高順はその場で各陣に伝令を出す。もし劉備なら大変だな、と思うがその時はその時だ。
真っ先に出撃した高順を追って将兵は、旗を掲げ、騎馬を駆り、慌ただしく動き始めた。



「おい、高順!」
直ぐに追いついてきた中には黄蓋の姿があり、直ぐに馬を寄せて叫んだ。
「何ですか、黄蓋殿!」
「相手の正体がわからんのにいきなり出撃する奴がおるかっ!」
「ご尤も。ですが、敵の敵は味方かもしれませんよ?」
なぁ、虹黒? と自分を背に乗せて疾走している虹黒に語りかける高順。
虹黒はそれに「ぶるるっ!」と答える。どちらも止まるつもり欠片も無し。
「相棒もこう言っているんで、ええ。」
「がぁぁ・・・全く!」
そうこう言っている内に李典・沙摩柯が兵と共に追いついてきた。その後ろにも兵が従っている。
「高順兄さん先行しすぎやー! つか、せっかく休憩や思うとったんに!」
「事情は聞いたが、何処の軍かわからないのか?」
「さぁ。ですが、劉璋軍が数で圧して来てるのならそれはそれで。叩き潰して戦力を減らしましょう」
「もし、劉璋軍が1万とかならどうする?」
「適当に戦って退きます」
「大丈夫なのか?」
「いきなり仕掛けることはしませんよ。様子を見て問題無さそうなら、ってことで。」
「・・・ふむ、まあ良いか」
沙摩柯はそう言ったが、これに関しては高順は「まず大丈夫だ」と思っている。
南中防衛を成功させた時点で、向こうの戦力は前述した通りになっている。
2正面作戦に陥っているこの状況だ。曹操ならともかく劉璋、しかも蜀の国力ではそれほど多くの兵を用意できないと思われる。
南中ではなく、この場所に大量の兵を送り込んでくる事は無いだろう。
さて、何処の軍勢やら、と思いながらも高順は北へ向かって進んでいく。
小競り合いをしている現場に到着するのには時間はかからなかった。
いきなり全軍で突貫するのは不味いだろうか、と思った矢先、向こうからやって来たからだ。
茶色の髪をサイドポニーで縛り、オレンジと言うか・・・そんな感じの色の服を着た少女・・・馬に乗っている。
それが、軍勢の先頭を駆けてこちらに向かっている。
高順と部隊は警戒しつつそれに近寄っていったが、その少女の顔を見て「なんか、馬超殿に似てるな」と思い始めた。
そして、その後方では戦闘が行われている。騎馬主体の軍勢に対して、歩・弓兵をメインに追い捲っているのが劉璋軍だ。
高順は、李典と沙摩柯に目の前に向かってくる部隊は無視して、劉璋軍のみ叩くように指示を送り、自分は馬超に似ている少女へと向かう。
指示を受けた李典らは左右両翼に分かれて個々に劉璋軍へと向かっていった。黄蓋も独自に判断をして李典の援護をする為に動いた。
さて、と見やると、先頭の少女が槍を構えて向かってくる。
(あ、やばい。多分敵と思われてる・・・)
どうしよう、と思う高順だが、向こうはこちらを敵でないと思ってくれたのか・・・槍を収めた。

馬岱のほうでも、こちらに接近してくる部隊は見えていた。
敵かな? と思って見ると、先頭を駆けてくる騎兵の装備が・・・「髑髏龍の飾りをつけた兜」「重装鎧」「巨大槍」、乗っている馬も馬鹿みたいにでかい。
怪しい、怪しすぎる・・・! と半ば敵認定し槍を構えて向かっていくが、そこでふと思い出すことがあった。
(そういえば・・・お姉様がよく「高順はすごく大きな馬に乗っててな。模擬戦だったけど、騎兵同士の戦いは迫力があったな。あの髑髏龍の鎧兜なんて、気の弱いやつが見たら動けなくなるぞ、うん」とか・・・)
思い出しつつ、目の前に迫ってきた騎兵を再度見る。
髑髏龍の鎧兜、今まで見たことの無い巨躯を誇る馬。そして、後方に翻る幾つもの旗。
大きく描かれた「孫」。他に「黄」「李」「沙」「高」と描かれており、孫家の武将であることが見て取れる。
それに、こんなアホみたいな・・・じゃなくて、とんでもない格好をした人はそうはいないだろう。
こちらを敵と思うなら問答無用で矢を放ってきただろうに、それをせず、部隊を分けてこちらを避ける形で後方へ向かっていった。
多分、最初から劉璋の軍勢のみに的を絞っていたのだろう。
馬岱は槍を収めて、ぶつからない様に(多分)高順へと近づいていった。

高順にぶつからないように、馬の手綱を引く馬岱。
高順も虹黒の首を撫でて速度を落とす。徒歩の周倉も馬岱を警戒しつつ、虹黒にあわせて速度を落とした。
そして、会話が出来る距離まで近づき・・・
『あの』
「・・・」
「・・・」
同時に同じ言葉を発して微妙な気まずさを味わうことになった。


「あー、ぇー・・・」
「あ、あの、そっちから話せば良いよ!」
彼女の気まずい心遣いが痛い。そんな事を思って高順は「んんっ」と咳払いを1つ。
「率直に聞きますがその前に。俺は高順、孫家の武将です。あなた達は・・・少なくとも劉璋の手の者ではないですね? てか後方のアレが劉璋軍ですし。」
「違うよ! 私達は西涼の残党、劉璋軍じゃないよ!」
あ、やっぱし。と高順は頷いた。
「や、失礼。旗を掲げていなかったものでね。では、援護します。」
「ちょ・・・え!? そ、そんなあっさり信用しちゃって良いの!?」
馬岱は叫ぶが、既に高順は虹黒を駆けさせ、そこに彼の部隊も続いていく。馬岱がどう思えど彼女達が西涼の人々なら、助ける理由も義理も高順にはあった。


その頃、殿(しんがり)では。

「あー、くっそぉ・・・群がりすぎだ・・・」
てぇの! と吐き捨てるように言って、馬超は向かってきた歩兵を一突きで倒す。馬騰はというと、流麗な刀技で向かい来る劉璋の兵を片っ端から斬り捨てている。
ただ、まともに戦えているのは母娘だけで西涼兵はこうはいかなかった。
何せ、食料も飲料水も残り少なく切り詰めている状況だ。つまり、兵は空きっ腹を抱えている。
強行軍だった為に疲労も大きく、自分達より弱く数も少ない劉璋軍に押されてしまっているのだ。
善戦しているものの、このままでは不味い。なんとかしないと、という焦りが馬超の槍撃を曇らせる。
普段なら絶対に後れを取らないような、しかも雑兵に反撃を喰らって馬から落とされそうになったのだ。
「うわっ・・・」
「翠っ!!?」
まさかの事態に、馬騰も焦って声を荒げる。
どうにかして態勢を整える馬超だったが、更に兵が斬りこんでくる。それを馬超は柄の先で突き倒す。
「このぉっっ!」
「ぐぁっ!」
突き倒された兵は倒れ、呻いて動かなくなった。だがその後ろに控えていた兵が次々に襲ってくる。
劉璋軍は馬超を名のある将軍と見て殺到、万全の状態なら不覚を取らない馬超も数に押されかかっている。
馬騰も、苦戦する娘を援護しようと戦っているがやはり敵兵が殺到して中々に近づけない。
(不味いな・・・)と思った馬超だが、そこに不意打ち同然で一本の矢が飛んできた。
「っ!」
これも避けたが、この時に先ほど以上に態勢を崩しついに落馬。劉璋軍の雑兵が馬超の首を狙って襲ってくる。

これは死んだ。あーあ、まだ高順にも会ってないってーのに。これじゃ、叔母上や妹達に叱られるかなぁ。
折角、命を張って逃がしてくれたのにな・・・ごめん。

誰に向けられた謝罪の言葉か。諦めたのか、こんな首でよければ幾らでも持って行け、と捨て鉢な気分で馬超は目を瞑る。
その通りに、雑兵が矛を、剣を、馬超の体に突きたてようとして・・・。

「・・・? あれ?」
おかしい。どうして攻撃がこない・・・? と馬超はそっと周りを見た。
そんな馬超の目の前には、矢で射抜かれて絶命、地面の転がる多数の敵兵。
生き残っている兵も、驚愕の面持ちで馬超ではなく、その後方―――を見て、悲鳴を上げて逃げようとする。
逃げようとした一人の兵の後頭部を、後方から駆けて来た誰が棘だらけの鉄棒を叩き付け粉砕した。
「お・・・?」
「ん? ・・・馬超? 馬超か。無事で何よりだ」
馬上からこちらを見下す女性。この女性に、そして彼女の後方に続く騎兵部隊に馬超は見覚えがあった。
「へ、あれ? お前・・・沙摩柯? 沙摩柯なのか!?」
「正解だ。」
よく覚えていたな、と沙摩柯は弓に矢を番えて劉璋軍へと放つ。
それに引き続き、後続の兵士達も同様に矢を放ち始めた。
突出していた劉璋軍の兵士達が射抜かれて、悲鳴を上げてばたばたと倒れていく。
「下がってろ。追い散らしてくる」
と、こんなことを言って沙摩柯は突撃を仕掛けていく。
そこで、彼女とは別に左方向からも劉璋軍へと突撃していく一団が見えた。先頭を駆けるのは女性で、手には穂先が回転する巨大槍。螺旋槍である。
その女は螺旋槍を馬上で振り回しながら「はっはーぁ! 援軍のおでましやーー!」と駆け言って大暴れ。
彼女の名は李典、まさにノリノリである。
その後方からは「わし、必要なかったかのぅ・・・」と溜息を尽きつつも射撃援護を行う黄蓋の姿。
今のうちに、と見てとった馬騰は直ぐに倒れている馬超の元へと馬首を返す。
「翠!」
馬騰に助け起こされた馬超は、先ほどとは打って変わって追い詰められていく劉璋軍と、それを追い詰める集団を交互に見やった。
「なんで沙摩柯が・・・って、もしかして、あれは李典か!?」
李典の戦い振りを見て「あいつ、強くなったなぁ・・・」と馬超は感嘆する。
「翠、彼女達は・・・知り合いですか?」
「ん、母様。あいつらが高順の部下・・・じゃない、仲間かな? まさか、こんなとこであいつらに会えるなんてなぁ」
馬超の言葉に、馬騰も李典らの戦いを注視する。しばらくして「まだ荒削りだが良い戦い方をする」と李典の武力を評価した。
あの棘付きの武器を持った女性。こちらは李典以上の腕だ。敵を全く寄せ付けず一方的な戦いになっている。
それを見て、馬騰は(いやはや、世界は広い。あんな手練がゴロゴロと)と感心してしまう。
高順があれらを率いているといったが、本当にどんな青年なのやら・・・と思う馬騰だったが、その本人がすぐ後ろに来ていることには全く気がついていない。

響く馬蹄の音。
その音に反応してまだ誰かが、と馬騰は後方を見る。
そこには、巨大な馬に乗った仰々しい鎧兜に身を包んだ・・・鎧の外見だけでは男か女かわからないが、そんな武将がこちらに近づいてくる。
思わず身構える馬騰だが、同じくその姿を見た馬超は、信じられなさそうに震える声で「・・・こう、じゅん!?」と叫んだのだった。
「ご名答、無事でよかった・・・ん?」
「・・・?」
高順は馬騰を見て「馬超殿に、こんな綺麗な姉君がいらっしゃいましたか?」と不思議そうだった。
「あら」
「え、お姉さん? いや、そうじゃなくて」
高順の発言に、馬騰は少し嬉しそうで、馬超はそれ否定しようとするが、「ま、事情は後にして、あいつら散らさないと。周倉、いくよ」
「あいよぅ!」
高順の傍らにいた周倉は答え「いったらああぁぁっ!」と徒歩で劉璋軍めがけて爆走。
その元気さに「やれやれ」と笑い高順と配下の兵も続いていく。

彼らが突き進んでいくのを見て、馬超も馬騰もなんとなく自分達は助かった、と実感していた。
それは、すぐに事実となる。



劉璋軍を追い散らした高順達は、馬騰らと共に建寧目指して後退している。
その場で宿営するのは危険だし、何せ西涼軍が疲労し飢えている。
安全と思える場所まで退き、野営陣を張り、食事の用意を始めた。当然、西涼軍の分も用意されている。
そして、今。
高順は馬騰の陣幕で正座させられていた(ぇ?

「あのぅ・・・食事を持ってきたのに正座させられるってどういう・・・」
陣幕には馬岱・馬超・馬騰。高順は彼女らの食事を持ってきていた。
そのときには兜も脱いでいなかったが、直ぐに脱いで自己紹介など・・・と思っていたら、その前に「高順君、正座」と馬騰に申し渡されてしまった。
この時点では高順は馬超以外の人が誰かまでは知らない。馬岱についてはある程度予想していたが、馬騰のことは全く知らなかった。
自己紹介した後で、そのあたりも含めて事情を聞きたかったのに、何で正座? と高順は戸惑っていたのである。
「高順君、貴方は・・・貴方はっ・・・」
何で正座させられてるかわからない高順の前で、馬騰は拳をワナワナと震えさせる。
それを見た馬超たちは、
(うわぁ・・・)
(ぁー・・・伯母様、怒ってるぅ・・・)
と、変な予想を抱いていた。
そう、馬超と馬岱の予想通り馬騰は怒っていた。自分はこの子のせいで大変な思いをさせられたのだ。

「貴方は・・・韓遂に、義妹に何を教え込んだのっっ!?」
「・・・HAI?(呆然」
「貴方が変な事を教えたせいで「ほぉら義姉上の蜂蜜酒(性的な意味で)」だの、「義姉上のぇろ(中略)に蜂蜜を混ぜて飲み干すとか・・・もう、もうっ! 辛抱たまらんですたいっ!」とかっっ!!!」
「え・・・ぇーと・・・? え? 韓遂殿が義妹ってー・・・」
「事情を聞けば「高順に教わりました!」と言うではありませんか!?」
馬騰は「貴方のせいでええええっ!!」と本気で涙目になりつつ、兜の上から高順を叩いていた。
まさか、あれですか。風呂で酔っ払って教えてしまったAREを成公英さん以外にも決めてましたか韓遂殿。
いやこの人が馬騰だって言うのも驚いたけど。俺の母親もですが若すぎませんか馬騰殿。西涼の人々は外見を若く保つ術でも心得ているのだろうか。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! つうかあれ、成公英さんだけに、かましてるもんだと! まさか他人様にまでとは思いもよりませんでした深くお詫びの意をお伝えしますのでやめてええええ!!!(兜の下でも衝撃で痛かった」
「はーっ、はーーーーーー・・・・・・。ふぅ・・・まぁ、過ぎたことです・・・ですが、娘に変な事を教えたら絶対許しませんからね! 嫁入りした後ならまだしも!」
何だか微妙に論点ずれてる気がしないでもないが、そういう事だった。
本当ならもっと色々言いたいこともあったが・・・綺麗なお姉さん呼ばわりされてちょっと嬉しかったりする馬騰である。
「こほんっ。で、高順君。顔を見せていただけますか? 」
「え、はぁ・・・」
ごそごそと兜を脱いで地面に置く高順。まだ正座したままで、しかもあのゴツイ鎧着たままなので凄まじい違和感である。
で、高順の素顔を見て・・・馬超は顔が真っ赤。馬岱は「へぇー・・・悪くないかも?」と感想を漏らす。
馬騰は「ほぅ・・・」と高順の顔をまじまじと見た。
閻行の不肖かつ自慢の息子とやらは、親によく似ていた。特に目元などはそっくりで、閻行を精悍に、髪を短くすればこんな顔になるだろうと思えるほどだった。
「あの、宜しいでしょうか」
「はい?」
「何故、西涼の馬騰様がこちらに?」
「それは・・・」

かくかくしかじか、これこれかゆうま。(理由説明中)


「そうですか・・・韓遂殿をはじめ、皆・・・」
話を聞かされた高順は、寂しそうだった。生きている可能性は殆ど無いという。
(そりゃ、韓遂殿の馬騰殿への入れ込みっぷりは半端じゃなかったからな・・・しかし、成公英さんも、あの姉妹も皆、か・・・)
なんで生き急ぐかな、と高順は嘆息した。
暫し、沈黙がその場を支配する。誰も何も言えず、じっと重い空気に誰もが黙り込んでしまう。
少し経ち、ようやくに高順が立ち上がった。
「・・・さて、ちょっと周りを見てきます。」
「あ、高順」
「はい?」
「いや、その・・・ん、何でもない。」
「そうですか? ・・・食事、冷めないうちに食べてくださいね」
引きとめようとする馬超だが、高順の疲れた表情に何も言えず普通に見送ってしまう。
高順の姿が見えなくなって、馬超は「はー・・・」と肩を落とした。そんな馬超に馬岱がちょっとした冷やかし。
「どうしたの? 甘えれば良かったのにぃ」
「出来るかっ。」
「ふふ、出来るかどうかはともかく、甘えたい気持ちはあるのでしょう」
「ぐぎっ、母様まで・・・。ま、そりゃ甘えたいけど・・・辛いのは私たちだけじゃなくて、あいつもだし。鉄も休も高順に懐いてたし、あいつも本当の妹みたいに可愛がってくれたしさー・・・」
また会おうって約束してたのにさ。こんな事になって落ち込まないほうがどうかしてるよ、と馬超は呟いた。


高順は野営陣を見回ってから自分の天幕へ戻り、どっかりと寝台に座り込んだ。
じぃっ・・・と何があるわけでもない天井を見つめてあれこれと考える。
途中で引き返してきたのは、馬騰に出会ってしまった為だ。
今は流浪とはいえ、西涼の主とも言える彼女と出会い、そのまま・・・というのはどうにも不味い。
黄蓋も同じ考えで「まず孫策に使いを出し、向こうの指示を待つべき」と意見し、高順もそれに同意している。
作戦開始と同時にいきなり頓挫という状態だが、特に戦力を減らしたわけではなく、むしろツキはこちらにあるといっていいかも知れない。
孫策の指示が来ないと動きようは無いし、もしかしたら馬騰を連れて一度帰還してくれ、という流れもあるだろう。
そうなると、一時的に対曹操に回されることも在り得るか、と嫌な気持ちになってくる。
馬鉄・馬休・韓遂・成公英。皆、曹操軍と交戦し戦死したと言う。
「慣れないよなぁ、いつまで経っても。」
人の死など腐るほど見てきたつもりだが、身近な人が死ぬのはどうあっても堪えるものだ。特に、馬鉄と馬休。2人は自分よりも年下で、余りに早すぎると思ってしまう。
良い人に限って死に易いとは言うが・・・何で自分みたいな馬鹿が生き残って、あんなに良い子達が死ぬのやら。
(悪い遊びの1つや2つ、教えてあげれば良かった・・・)
逆恨みだが曹操に挑む理由がまた増えたな、と思いつつ高順はそのまま寝台に身を投げ出す。
もう二度と会うことの出来ない人々の事を想い、鬱々としながら無理やり眠ろうと瞼を閉じた。








~~~楽屋裏~~~
あっさり再開できたねあいつです。いやぁ、トゥーワールド2は強敵ですね(挨拶&何か進行形
本当はもっと長くやる予定でしたが、引っ張ってもしょうがないしなぁ・・・ということで、描写削りまくりの1回で収めました。
おまけの日常もやる予定でしたが韓遂ツンデレ反乱事変とか心の(規制)がどうとかいう話になってしまったので封印します(ぁ

次回からは・・・南中か交阯で日常を1回、そこから曹操南下・・・かな?
そっから先は転がり落ちること山の如く(違


さて、前回の感想で「番外編は不要では?」みたいなものがありました。
そこであいつ、トゥーワールド2をプレイしながら考えました。死にました。執筆も止まりました(おい
そうだよなぁ、2つ同時に書くって面倒だし・・・うーん。

ディスガイア4が発売→執筆とまる

・・・うん、確かに冗長になる理由の1つだしこの意見も尤もだ。やめる方向でいこう。
しかし、いきなり「はい終了」では皆さん怒るよなぁ・・・

3DSが発売→執筆とまr(削除

そうだ、アレでいこう、アレでなら納得するに違いない。

侍道4(ry

・・・そんな訳で(?)今回を以って・・・番外袁紹伝・・・


エターナりまsじゃなくて完結です!




~~~番外編完結編~~~

「官渡の戦いで勝ちましたわ! あ、三謀臣が裏切って軍事作戦流してた上、曹操軍に投降したので捕獲して処刑しました」
「北方同盟も降伏してくださいましたわ」
「西は長安、南は荊州北部まで切り取り完了、曹操さんは・・・行方不明?」
「孫策さんとも同盟、これで・・・ぇ、益州で曹操さんが旗揚げ!?」




いずれ劣らぬ数多の英雄達が肩を並べ天下一統を夢見て戦った。
勝ち上がり、時代に選ばれた3人。その名は袁紹、孫策、曹操。
並び立った彼女達が1つの大陸に3つの勢力を造る。
そんな時代、そんな話を、後世の人々は三国志と呼ぶ。

3人の英雄が立ったこの瞬間は、三国志と言う時代の終わりへの始まり・・・。







番外・もし高順が北へ以下略、袁紹伝。
これにて、終了。




~~~楽屋裏~~~
大・団・円!(おいこら待てまだ三国出来たばっかだろ

はい、冗談です。全然完結してませんね?
ですが、こっから先は・・・まぁどうでもいいや(は

実は、もし高順が以下略 は他の番外編とは違ってちゃんとエンディングが用意されているお話です。
袁紹の子、つまり譚・煕・尚の時代にまで行き・・・正史とまでいかなくとも、かなり時間がかかった話になっていました。
戦闘そのものは少ないですし、官渡以降は一気に時代がすっ飛びましたけどね。
新しい愛人(笑)やら、高順くんが袁家での立ち位置を確固たるモノにしつつ早く隠居したいと駄々こねて叱られたりとか、そういう話・・・
・・・日常的日常になっていたのでしょう。

てな訳で、袁紹の戦いは始まったばかりです(男坂的意味合いで



袁「高順さん、高順さん」
高「何か御用ですか?」
袁「これって要するに作者が面倒くさいという打ち切りですわよね?」
高「はい」
袁「そうですかありがとう素直すごいですね」
高「それほどでもありません」
袁「・・・」
高「・・・。」




・・・本当にこんな終わり方でいいのだろうか(汁





[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第99話。
Name: あいつ◆2911748e ID:81575f4c
Date: 2011/03/17 18:15
習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第99話。

馬騰と高順が合流してから一月ほど後のこと。

~~~寿春、太守執務室~~~

太守専用の椅子に深々と座った孫策は、一枚の書状を何度も何度も読み返し、不機嫌そうに「むーっ・・・」と唸っていた。
そこに、周喩が「入るぞ」と言いながら部屋に入ってくる。彼女の手には、孫策同様一枚の書状がある。
孫策はそれを一瞥して「「入るぞ」って言う奴ってさ、言いながら入ってくる手合いが多いわよね・・・」とブチブチ文句を言う。
「? 何の話だ?」
「んーん、なんでもない。で、何かあったの? それ誰からの書状?」
「ああ、祭殿からさ。けっこうな大事だが・・・そういえば、雪蓮の持つそれは誰から?」
「読めば判るわよ・・・」
ほら、と孫策は机の上に書状を投げ捨てる。
その書状を拾い上げた周喩は、行儀の悪い奴め、と読み始めた。
食い入るように文面を読んでいた周喩だが、暫くして読み終わったのか・・・僅かに不機嫌そうに鼻を鳴らして机に書状を置いた。
「ふん、機嫌が悪くなるのも仕方なし、だな・・・」
「でしょ? ったく、こんな時期に・・・曹操との戦いが一段落ついてからにしろっつーの」
やってくれるじゃないの、劉備・・・と、孫策は言い捨てた。

内容は「劉表殿が病死。現在、長男である劉琦派と次男の劉琮派の跡目争いになっている。私こと劉備は劉表殿の嫡男であり、正当な後継者である劉琦殿を旗頭に、北荊州を押さえ・・・」というものだった。
更に、劉琮を指示する荊州豪族は南荊州に拠って反撃の準備をしているという。
劉表が病死したときに明確に誰を後継者にする、と言っていなかったのが原因だが、劉備は武力での制圧を狙って動いたのだ。
これに関しては孫策は「やるじゃない」くらいは思っている。権力と言うのは・・・さすがにある一定までだが、能力有るものが得るべきものだ。
ぼんやりしているだけの人間が世襲で安穏とする、という時世ではない。平和な時代であればまだしもだ。
それに、劉備にも言い分はある。
劉琮を後継にしたい蔡瑁・張允が劉琦と劉備の抹殺、或いは排除を狙って何度も動いたからだ。
さすがに劉琦は殺せない、と中枢からの排除に留めたが、劉備に対して遠慮をする必要はないと、幾度も暗殺を目論んでいる。
それらは関羽・張飛・華雄らの活躍で防がれたが、ここまでされて黙っている義理こそ劉備には無かった。
ともかく、劉備は動き、それに反発した劉琮とその配下は南荊州に逃れた。ただし、南荊州の主要四都市・・・即ち「零陵」「桂陽」「武陵」「長沙」のうち、武凌太守である金旋だけは非協力的、というかほとんど動かなかった。
周りに蔓延る山越、そして武凌蛮の動きを警戒して動くに動けない、というほうが正しいか。
しかもこの四都市の太守は曹操が派遣した人々で、劉琦・劉琮の両者にさほど協力的と言うわけでもなかった。
まあ、南荊州はいいとして、劉備はこれらの情報を孫策に流し、その上で「同盟しましょ♪」(意訳)と・・・そんな内容の書状だったのである。
こちらが荊州に手を出せない情勢、そして曹操がまだ南下をしてこないとみてとった行動に違い無い。しかもこれ、書いたのは劉備なのに、名義はあくまで劉琦なのである。
劉琦を推すという形にして劉備と孫策、ではなく劉琦と孫策の同盟を求める・・・そんな意味あいだ。
腹立たしくはあるが、やはり手が出せない。そこが孫策の不機嫌の理由だった。
それと、孫策は知る由も無いが劉備の手元に兵力があるのは、汝南に跳梁していた劉辟・龔都(きょうと)ら、黄巾残党を吸収していたのである。
劉表がいないとはいえ、劉備が速攻を仕掛けることが出来た理由だった。
更に、劉琦が江夏(袁術から劉表が取り返し、劉琦を派遣していた)から兵を出したことも理由として挙げられる。しかし、ここで1つの問題が浮上する。
荊州の半数以上の武将・・・というか、豪族、そしてほとんどの荊州知識人が「劉琦はともかくも劉備の力になどなりたくない」と隠棲なり、劉琮の元へ走るなどしてしまっていた。
これについて、劉備は「何で~~~・・・?」と悩んでいたが、そもそも彼女は名門層でなく、それが理由で知識人から白眼視されているような存在だった。
諸葛亮や龐統のおかげで(彼女達は荊州知識人に一定の伝手があった)一部は部下に出来たが、招こうと思っていた能吏はほとんど得られなかった。

「ふむ。それで、どう返事をするつもりだ?」
「無視しても良いけどねー。どっちかと言えば建前上の不可侵くらい」
そうか、と周喩も然程気にも留めないふうに頷く。
「どっちが勝つか判らないし、どっちが勝ってもあまり関係ないのよねぇ、これ。」
「だが、劉備が曹操と組む可能性もあるぞ?」
ないない、と孫策は周喩の言葉を笑い飛ばす。
「劉備にそこまでの度胸あるわけ無いでしょー?」
どっちにしても、劉備はこっちに食指伸ばせないわよ。と締めくくり「で、そっちの書状は?」と周喩を促しつつ酒を取り出す。
「む、そうだな。っておい」
「あによ」
「何を呑もうとしている?」
「いや、見たとおりのお酒・・・ちょっと、そんなに睨まないでよー(とくとくとお酒を杯に注ぎつつ)」
「睨みたくなることを言い、しようとするからだ。で、祭殿からの書状だが一言で言うと」
「言うと?(くぴくぴ)」
「馬騰殿と高順が合流、南中に退いた。これが一ヶ月ほど前のことだ。以上」
「ぶふぅぅぅうーーーっっっ!!」
「・・・汚い奴だな。噴くならその前に言え」
ひょいっと避けて、周喩は嫌そうに言った。
「無茶言うんじゃないわよっ!!? えほ、げほっ・・・ぐずぅ、鼻にお酒がぁっ・・・」
はぅぅぅ・・・を涙目になっている孫策を放置して周喩は続ける。
「それで、こちらの件はどうするつもりだ。無視は出来んだろう」
「うー・・・当たり前よ。しっかし、変な事が続くわねぇ」
「全くだ。しかし、実際どうする? こちらの戦略として、馬騰殿と結ぶという前提はあるが、彼のお人は土地も兵もない・・・」
結ぶ価値はあるか? という問いに孫策は「あるわ」と断言する。
「ほぉ。しかし、結ぶにしてもどうする。高順を餌にすれば・・・いや、しなくても話は出来るだろうが、その後にどう扱う。高順同様の扱いをすれば、馬騰殿が良しとしても高順が認めんぞ?」
「やっぱりそう思う?」
「ああ。高順は性格が大人しいとはいえ、自分以外の親しい人間が同じ扱いをされ黙っているほど、物静かと言うわけではない。怒らせるとどうなるか判らん手合いだ、あれは。」
山越・南蛮・武凌蛮。それらを悉く手懐け、しかも経済的に豊かな土地も押さえている。高順のような大人しい人間を暴発・暴走させると、何を仕出かすかわからないものだ。
現状までは無いと思えたが、こちらの出方次第で「無い」と言い切れない情勢になっている。もしそうなったら、と思うとさしもの周喩も不安になってしまう。
南方の戦力を一気に纏めて、10万か20万か・・・或いはそれ以上の軍勢を動員して蜀を陥とし、江南方面に攻め下ってくる状況も想定できるのだ。
眉根に皺を寄せて憂慮する周喩に比べ、孫策は暢気に「うふふー。私なりに考えてるわよ。さて、と」と、軽いノリだ。
「だいじょぶだいじょぶ。任せてよね」
不安など必要ないとばかりに言い置いて、孫策は筆と白紙の書状を取り出し、癖気ある字でつらつらと何かを書いていく。
暫くして「よし、できた」とそれを周喩に投げ渡した。
「これは・・・高順宛て、か? ふむ・・・馬騰殿とその配下も連れてここまで来い、と。・・・ん?」
じっと見ていた周喩が不思議そうに「雪蓮。少し良いか」と疑問を口にする。
「うん?」
「呼びつける、というのは少し感心しないが・・・何故、道程を指定してある。」
南中から交阯へ行き、そこから寿春、なら納得はしたが、それだけではない。
交阯から南海へ抜けそこから北上。柴桑・蘆江・寿春・・・となっている。
「何故、わざわざ・・・?」
「んふー。ちゃんと後で教えてあげる。ほらほら、それ伝令に持たせて大急ぎで高順の元に行かせて♪」


そんなこんなで話が進む中、南中では。


「ねぇ、高順さぁん・・・言われたとおりにちゃんとお留守番してましたし、ご褒美をくださいな・・・少しご無沙汰でしたし」
「あら、麗羽さんだけずるいですよ。そろそろ私も・・・あ、その前にお茶をどうぞ」
「ありがとうございます・・・(ゲッソリ」
それを見て「ギリバキ」と歯を噛み締め拳を振るわせる馬超。
「ふむ、色を好むという話は本当でしたか・・・まあ、それくらいでなければ娘の夫にはなれません」と余裕綽々な馬騰。
「へぇ、やっぱ種馬なんだぁ・・・にひひっ♪」と興味津々な馬岱。

高順が、麗羽と蹋頓に挟まれて言い寄られて死に掛かって・・・というか、本人の意思とは無関係に死の13階段を登らされていた。

「いやあの、ご褒美とか・・・判りました、特別手当でs「体で払っていただきますわ♪」のぉぉぉぉっ!」
高順の耳にそっと息を吹きかけ迫っていく麗羽。
蹋頓も負けじと豊満なむn(以下長くなるので削除)。
その光景を見ていた馬超はもう我慢できないとばかりに高順を怒鳴りつけた。
「おいてめーこら高順! おま、お前いきなりなぬを・・・つか、いつの間に愛人増やした!!!」
そう、彼女は蹋頓、趙雲、楽進、李典が高順の愛人さんである事は知っている。
だが、麗羽は彼女の知らないところで増えていた側の一人だし、近くにいた周倉も「お? 俺も何度か一緒にシたぜ?」といらん事を抜かした。
「な、ぬなっ!? お前、何人増やせば気が済むんだよー!? そんな物好きな連中・・・」
「どうも、そんな物好き一号です。」←自分を親指で指す麗羽
「えーっと、俺、時期的に見て物好き二号?」←自分を親指で指す周倉
「三号じゃが何か?」←自分を親指で指す黄蓋
「ぇ、ぇえ~・・・」
物好きが沢山いることを思い知らされ、馬超の表情が一気に沈む。
「たいしょー、また言ってくれよな、ちゃっとヌいてやっから!」
「ヌくって何をだ!」


喧しくなってきた連中を差し置いて、蹋頓は馬騰の隣に座り、周倉以上にいらん事を抜かす。
「馬騰さん。実は高順さんには既に子供が」
「ほぅ、子供・・・」と、今度は馬騰も反応する。
「ええ、そこで困ったお母様に強い味方」
と、変な事を言いつつ、蹋頓は胸の谷間・・・彼女は胸元が大胆に開いたチャイナドレスを愛着しているが―――そこから、一つの小瓶を取り出した。
「華佗さん印の超強力媚薬。その名も摩訶敏敏。これさえあれば、夜どころか一昼夜・・・ふふふっ♪」
色々と著作権的にやばいかもしれない薬である。特に名前。
それは置いて、馬騰はこの薬に興味ありげだった。
「・・・それは、未通娘でもぇろぇろになりますか?」
「勿論♪ これ、お近づきの印に差し上げますね。」
「それは有難いですが・・・毒ではないでしょうね?」
「たまに高順さんに一服盛ったりしてますけど? 実は先ほどのお茶にも何滴か」
「飲むほうが効果が高いのですか?」
「いえいえ、直接【ヤーン】に塗りこんだほうがもっと激しく・・・でも、馬超さんも何事かと思うでしょうから、お茶に混ぜて慣れさせて」
「そして、二人きりにさせると。なるほど、悪くない」
「でしょう? 馬超さんは見た所、知らないゆえに弱そうです。あの手は一度味を覚えると、後がすごいですよ?」
「ほぅ、よく見ていますね。・・・では、媚薬は・・・」
「あくまで下準備です。覚えこんだら、後は薬などなくても・・・そうしたら、2人とも若いですからね。あり得ますよ、色々と♪」
「しかしながら、この小瓶の量では少し心許ないですね・・・」
「そう仰ることも予想して」
じゃんっ♪ と、更に胸の谷間から小瓶を10ほど取り出す蹋頓。・・・どこにそれだけの量を隠していたか追求してはいけないと思う。
「・・・」
「・・・」
「アリガトウゴザイマス(・ω・)b d(・ω・)イエイエ、ドウイタシマシテ」


変な所で変な友情が成立していたのであった。


馬騰は受け取った薬を懐に無理やり押し込み、蹋頓の顔をじっと覗き込む。
この女性は何を考えて馬超と高順の仲を取り持つような真似をするのだろうか。
見た所、愛人としては彼女が一番丁重に扱われているように思うのだが・・・そうなれば、娘は好敵手となる。なのに何故・・・?
そんな馬騰の表情から何を言いたいのか読み取ったのだろう。蹋頓が笑った。
「私は、強い牡は牝を囲うべきものだ、と思っていまして。」
「は?」
「高順さんはああ見えて強いですよ? それに、自分の縄張りを守ろうとする気概がとても強くて。本当に、獣みたいなものでしょう?」
「ふむ。」
「まあ、あそこまで気弱な獣などまずいないでしょうけど、ね」
そう言って、未だに色々な人に揉みくちゃにされている高順を見つめて、蹋頓は嬉しそうに笑う。
そこに、孟獲などが「ちちーーー!!」と突撃していって、更に事態が悪化。
「え、ちち? ・・・お前、いつの間にこんなでかい子を・・・!」
「誤解ですよ!? 確かにこの娘達は子供同然ですが!」
高順くらいの年齢で孟獲のような年齢の子供がいるのはどう考えてもおかしいが、先ほどの蹋頓の言葉で勘違いしたのか、馬超は高順の胸倉を掴んでガクガクと揺すっている。
蹋頓は本当の事(孟獲らが高順の子供同然)を言って、本当の事(張遼との間の子)を言っていないだけだ。本当の事を言って騙す、ではないが、他意も悪意もなく、事実だけを言った、ということだ。
さすがにからかい過ぎましたかね、と苦笑し、蹋頓は事を収めようと高順の方へと戻っていった。
そんな光景を見て「我が婿殿は多くの女性に好かれているな」と馬騰も苦笑した。
強い牡云々は馬騰も同意見で、彼が多くの愛人を囲っていることには特に抵抗は無い。その中で馬超が良い立ち位置でいられるなら、くらいは思うし、大事にしてもらえるのならそれで、という考えもある。
もし扱いが悪くて不幸になるようなら婿殿を許しはすまい、とも思っていたが、蹋頓の言葉、他の女性を見るにそんな心配も要らなさそうだった。


「・・・なるほど。高順君、少し良いですか?」
「え、何・・・?」
俺、殺される? と本気でブルっている高順だが、馬騰の言葉は「別の意味で」死にそうになる言葉だった。
「私、そろそろ孫の顔が見たいのですよねー(棒読み」
「・・・はい?」
「正確に言えば翠の子供なんですけどねー(棒読み」
「はっ!?」
「頑張ってください。今 か ら(ある意味脅迫」
「ちょおおおっ!? 何言ってんだ母様ーーーー!!!」
「何ってナニですが? もっと明確に言えば、青k」
「わー! わーーーー!!!(大声で発言を遮る馬超」
「なm「だあああ、やめ、やめてくれーーー!!!」」
「ほぉ・・・翠は、私が何を言おうとしたのか理解しているようですね。」
「っ!?」


馬騰は、シモネタ嫌いと言うわけではない。
韓遂のアレはねちっこい上にしつこいから嫌なだけで、笑い話にする程度のモノであれば、特に抵抗感は無かったりする。
どころか、そんなネタを振ってやった時の馬超の反応が面白いので率先して困らせたりしている・・・と、わが子に関しては、あまり閻行と変わらないレベルの逸材であった。
 


さて。
馬騰らが南中の高順の元で世話になって早一ヶ月が過ぎた。その間、彼女達が何をしていたかと言うと、意外にも何もしていない。
鍛錬などは欠かさないが、何か仕事をしていたか? と言えばしていない、と答える他無い。
勿論、馬騰らは「ただ世話になっているのが嫌なので自分達も働きたい」と申し出たが、高順がそれを由としなかった。
変な意味がある訳ではなく、客人として迎えたのに孫家の一武将である自分の一存で働かせるわけにも・・・という遠慮だった。
それに孟獲、というか、孟節だが彼女も馬騰には遠慮をしていた。
高順自体が自分達にとっての客人であり、それなのに働いてもらってるという状態はかなり心苦しいのに、さらにその客人という立場。
南中勢の態度が随分と緊張していて、馬騰もそこを気にしていた。
「あまり、遠慮などしないで欲しいのですが」と思った所で向こうの態度が変わるわけでもなく、かと言って文句を言える立場でもなく。
高順は「色々あったでしょうし、お疲れでしょうから緩々と休んでいてください」と言ってくれて、そこは有難い配慮であったが、やはり落ち着かない。
心身共に疲労しているのは自覚しているし、馬超・馬岱も言い出しはしないが幾分疲れている。
そんな理由で当初は戸惑っていたが、少しは慣れてきたのか。馬騰は兵舎まで行き、何度も見た高順の軍の訓練風景を見ていた。

兵の動きを見て「良い動きをするものですね」と馬騰は感心する。
武将の動きを見て、それに追随して一個の意思を持った生物のように、乱れなく動いている。そう動くように上がきっちりと教え込んで、それを兵が実践している。
悪くない、と馬騰は感心した。まだまだ見直す点は多いだろうし、やれる事はあるだろう。が、この部隊は強い。とも確信している。
前回助けられた時に自分で見たからこその確信だが、兵の力量も高く、また死を恐れていないようにも見受ける。
何故か、と少し調べてみたら1つだけ判った。この部隊、兵士1人に使用する金額が他とは段違いに高い。
聞いてみた所、戦死した場合でも家族がいる場合、それに子供がいる場合は成人するまでの間は給料が支払われるのだという。
そこまで調べ、兵が死を恐れないのは、後に残る家族の生活に心配が無いからだ、ということが判った。
自分が死んだとしても、高順が家族の生活を見てくれるという安心感。高順が兵を可愛っているというのも関係しているだろうし、彼自身が最初は一般兵だったのだ。
上から目線はなく、下からの視線で兵を理解しようとして、異民族であれ漢民族であれ平等に扱い、戦地でも兵士と同様の生活をして彼らの輪の中に溶け込もうとしている。
上下の関係が希薄なのはどうかと思うが、それでも兵は高順を上司として慕っている。
金だけとは言わないが、そこで上下が繋がっている側面も強い。そこに不安はあるものの強い訳だ、と馬騰は納得していた。
ただ・・・

「ぎゃああああっ!?」
「・・・少しは学習しろ。」
馬上戦で、沙摩柯に一度も勝てない高順の姿を見て(・・・大丈夫なのでしょうか?)と不安になる馬騰であった。



この後、孫策からの書状が高順の元へと届き、その内容に従い馬騰らと共に寿春へと向かう。
この際に、南中の守将として李典・麗羽一党、田豫、閻柔に加えて卑弥呼・貂蝉に兵3千を残している。卑弥呼達に関しては見た目からのインパクトがあるし、その外見どおりの強さなので劉璋側がびびってくれたらなー、という目論見があったり。
また備えとして、益州の各都市で米を買い込むように指示。金に糸目をつけるなとも言い含めていた。
孫家と曹操との戦いが激化しそうだからとか、適当な理由を付ければ怪しまれるようなことも少ないだろう。
交阯の留守役は劉巴ら文官と蹋頓。
蹋頓は不満があったようだが、また趙雲・楽進を残したらそちらから不満の声が出てくる。
それらの要因もあって、蹋頓はそれを了承。こちらは守備兵を4000ほど。
残りの兵6千弱と馬騰率いる西涼残党兵4千ほど、それに、華陀も同行。
総勢一万の兵と共に高順は寿春を目指していく。




途中、劉巴に「2,3日で良いですから滞在してください! つうか少しでいいですから仕事手伝ってください本当に!」と言われ交趾に数日留め置かれたり、その間に楽進が馬騰に稽古をつけて貰って更におかしな事になったり、と色々あるのだが、それはまたいつかの機会に。



~~~楽屋裏~~~

やっと話が動き出したよあいつです(挨拶
地震の話題で持ちきりですが、とんでもない被害ですね・・・。
余震も続いていますし、被災地の皆様お気をつけ下さい;;


ついに赤壁・・・いや、寿春があるから発生しないかもですが、近づいてまいりました。
その前に同盟どうなるのさとか色々ありますが、この戦いでこの話が終わるか続くかは・・・どうなんだろう、そしてどうしよう(何




で、ここからはちっとェロネタ。字数埋め。
駄目な人は見ちゃイヤン。見た以上文句なしの精神(何













警告はしましたからね?


感想にもありました「馬騰さんのぇろはー?」ですが、考えてはいますが書く予定はサラサラありません。
まあ、えろ設定というか、その手の・・・体の設定? だけは後付け万歳的意味でありまして、それくらいは書こうかと。
本編と統合性取れないかもですが電波の導くままツラツラと設定だけ。
それと、ぇろ書くならそっちの板いけよjkとか言われそうですが、更新するまでも無いネタな上、もう書きたくねぇ。酷い奴いたし(笑
てなわけでー。



○黄蓋・厳顔・黄忠に負けないほどのぇろばでー(笑 これは本編でも書いてましたか。
○実はまだ子供が産める年齢。
○馬超って年齢いくつくらいかな、と思うと・・・二十歳前、17~19くらいなんだろうと予想。ただ、恋姫武将のほとんどはこの設定に当てはまるんですねぇ。諸葛亮とか、ロリは10代前半ですが。それに手を出す一刀くんマヂ鬼畜。
○この時代は早婚って誰かが言ってた(ぁ だったら馬騰さんも早かっただろうなと。下手したら15とか16で産んだかもしれないので微妙に30代半ば?
○あと、馬騰さんは結婚してません。これは最初からの設定、あくまで子種欲しかっただけで強い男と契って馬超をあっさり妊娠。これは後付けでなく、本当に最初からw
○あんな反乱多発地域(穎川も負けないと思う)にいたら、出来るだけ早く、出来るだけ多く、でもOKですよね(誰に言ってる そうじゃないと姉妹生まれた説明にならない。
○3人産んだからおk、でそっから先は性交渉なし。経験回数5回未満。命中率高すぎ。え、何? 蹋頓さん? ・・・400や500じゃ効かないレベルと思います。相手も、一度に数人だったのでしょうねぇ(哀
○それ故、男の味はもろちん、恋とか欠片も知らないまま。からかってはいるものの中身では馬超と大差なく、本気で恋をすると激しいタイプ。多分ナニも覚えると情熱的(おい
○じゃあ体は開発されてない・・・と妄想するも「あ、韓遂に開発されてるわ」(死
○馬超と同じく、ぇろも味を占めると止まらないタイプなんだろうなぁ・・・が、どちらかと言えば趙雲に近いかも。普段はクールで冗談好きながらも、ベッドの上では恥じらい、しかも激しくぇろぇろ・・・ああ、書けんわ。無理w
○美人でかわいい親子丼は男の夢の一つ。異論は認める(!? 
○お願いすれば裸エプロンくらいはやってくれs(拉致 でも、頼まれると断れないっていうのは馬超と似てますね。
○どっかのファンタジーエロなら普通にありそうだね。
○姦陣営vs性涼の狼(母子)・・・うん、想像できない。これ、姪も加わる可能性アリだし。馬岱はあと3年もすれば馬超に負けないぇろばでー。萌将伝のメーカー特典で見た人ならわかるネタですよね?
○高順が孕ませた結果、休・鉄姉妹が生まれる構想もあった。でも最初に姉妹出してたから無理ですた(あああ・・・




こんな感じ。ここまで考えたら後は書けそうなもんですが・・・めんどい、書きたくないw
えろは皆様の脳内でよろすこ。


それではまた次回。




[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第100話。
Name: あいつ◆2911748e ID:81575f4c
Date: 2011/03/22 18:28
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第100話


移動を初め、早半月。
高順は、孫策の指示したとおりの予定に従って歩を進めている。交阯から南海、北上して柴桑・蘆江・寿春。
現在は南海を抜けており、柴桑に到達しようとしている。既に、先頭を進む高順と馬騰にはうっすらと見える位置。この速度なら数時間もせず全兵入城できるな、と高順は安堵した。
何故、馬騰が先頭なのかと言えば、それは高順が彼女を自分より上の存在と認識しているからだ。
儒教など知ったことか、みたいな所のある高順だが、自分が馬騰と同等とか上位とか自惚れる筈が無い。
なにせ母の盟友であり、西涼の主だった女性だ。敬意を以って接するのが、高順にとってごく当たり前の事であった。
自分が一緒にいるのは、馬騰が付近の地理に不案内であり、先導するためでしかない。
数時間後、何事も無く高順隊は柴桑へと到着。
全ての兵を入れることは出来ないので、城外に宿所を設営する。
孫家の旗は立てているし黄蓋もいるから大丈夫だろう・・・とは思うが「ここの太守に一言断りを入れるべきだろうな」と、華陀と沙摩柯を留守役にして高順は馬騰ら主要な武将と共に入城しようとした。
孫策が道のりを指定した形なので連絡が来ている可能性は高いのだが、まあそれはそれで、と思いつつ虹黒から降りてから門番に話しかけようとした。ところが、である。
その門番、複数いるが高順の顔を見るなり「お待ちしておりました!」と全員が拱手したのである。
「・・・え? あのー、どういう」
事態が飲み込めない高順は何これギャグ? みたいな顔で唖然としつつ、どういう事? と説明を求めた。
門番は拱手をしたまま「高順将軍がお越しになられたら案内をせよ、と申し付かっております!」と返事をする。
「案内・・・?」
何のこっちゃ? つか誰が? と首を捻る高順だが、門番はすぐに門を開け「さぁ、どうぞ」と促す。
味方に対して罠をかける筈もないと思いたいが、多分大丈夫だろう。何の根拠も無いが、孫策の命令どおりの行動だから大丈夫・・・うん、多分。
他の面々も特に警戒をしているわけでもない。問題ないと判断した高順は「じゃあ、お願いします」と頭を下げ頼んだ。

門番に先導され市街を歩いていた高順一行だが、ある一角で門番が止まり「お疲れ様でした、あちらへ」と促す。
あちら? と門番の示す場所を見ると、そこにはあったのは宿所。
ただし、旅人がおいそれと泊まれる様な安宿ではなく、それこそ名士でなければ入ることすら出来ないような超高級宿であった。
なんだってこんなとこに? と思っていると、その宿の入り口から、ある人物が出てきた。
薄紫の柔らかな髪、その髪には蓮か何かの花をあしらった髪飾り。額には赤い錨のような紋章。
黄蓋までとは言えずともたわわに実った乳房と、それを薄く隠す布面積の小さな、紅と金で彩られた服。
孫家の総大将、孫伯符その人であった。
その孫策、「ん~~~っ」と伸びをしていたが、すぐに高順らのほうへと視線を移す。
そして「・・・あーーーーーーーっっっ! やっと来たぁぁあぁぁっっ!」と叫んで猛ダッシュ。とんでもない速さで高順の目の前まで移動してきた。
どうも、最初は気付いていなかったようだ。
彼女は高順の肩を叩いて「いやぁ~、ひっさしぶりねぇ! 元気そうで何よりだわ!」とご機嫌状態。
「え、ちょ、あの・・・な、なんで孫策殿がこんなとこに!? 寿春にいるんじゃないんですか!?」と叫ぶがバシバシ肩を叩かれてあまり聞いてもらえない。
黄蓋にも「ご苦労様」と労い、趙雲や楽進ら、高順一党にも親しく声をかけている。それから、馬騰・馬超・馬岱ら馬一族へと関心を向けた。
「高順、こちらの方が・・・?」
「あ、はぁ・・・馬騰殿です。」
孫策は、そう、と呟き、馬騰に向かって拱手。
「私は孫策、字は伯符。西涼の主であり、名高い馬騰殿にお会いできるとは、光栄の至りに存じます。」
さきほどまでの軽い態度はどこへやら。折り目正しく、そして恭しい態度で馬騰と接した。
対して馬騰は「どうして孫家の総大将がここに? 何故今の私にそこまで礼を尽くすのか?」という疑問で僅かに反応が遅れた。
「・・・馬騰、字を寿成と申します、孫策殿。こちらは娘の馬超。そして姪の馬岱です。二人とも、孫策殿に挨拶を」
促され、馬超と馬岱も拱手をして挨拶をする。
それを受けてから、孫策はまた普段どおりの人懐っこい感じの笑顔を受かべる。
「んふふ、ま、堅苦しいのはここまでよ! 皆の為に部屋取っておいたから、さ、入って入って!」
ほらほら早くー、と皆の背中を押して宿へ押し込んでいく。
「や、あの。太守殿に一言、城の外に宿営「もう言ってあるから無問題! ほらほら、宴席の用意してあるんだから急ぐ急ぐ!」
簡単に押し切られ、高順らも宿へと入っていった。
華陀と沙摩柯に伝令を出して参加を促したが、二人とも「留守役は必要だろう、お前らだけで楽しんで来い」という返事を返している。
深い意味は無いが、両者ともに騒がしすぎる宴会になると感じたようだ。


案内されて宿の中を歩いていく高順達だが、宿そのものを貸切にしているらしく他の客の姿は見えない。
店の従業員の態度を見ていると相当ピリピリしているし、孫策もまた馬騰に気を使っているのが見て取れた。
それを見て高順は孫策に遠慮がちに話しかける。
「あの・・・」
「何? 高順」
「話があるならここでなく政庁とかでも良いのでは」
「駄目よ。」
「何故ですよ」
「何処に誰がいるか、判ったもんじゃないでしょ?」
曹操の密偵が混じっているかもしれないし、孫家の味方内でも信頼できない者がいると言う事なのだろう。
これには「ああ、そういうことか・・・」と高順は頷いて「楊醜、眭固」と呼んだ。
「なんだい?」と、宿の何処に潜んでいたのか影の統領たる2人が現れる。
「敵でも味方でも、間諜がいるなら構わん。あんたらのやり方で「処理」しておいて欲しい」
「良いのかい? 俺は味方でも隙在らば食っちゃう男なんだぜ?」
「構わないと言ったよ。いいですよね、孫策殿?」
「全然問題なし。」
「って事だ。頼むよ」
『応』
応え、二人はすっと消えた。
すぐに「アーッ!」とか「アオオー!」とか「おおおおー!」とか聞こえて来る。
馬騰達が「何事ですか!?」と警戒していたが「後で説明しますよ・・・」と高順に言われて引き下がった(あまり聞きたくない系統の話と感づいたらしい


少し歩き、2階へ。
ある部屋の戸を前で「さ、ここよ。入って」と入室を促す孫策と、それに従う馬騰。
部屋の中には、人数分の膳。そして1人の女性。
「おお、来たか。」
眼鏡をついっと指で押さえ、笑顔を見せる女性。孫家の筆頭軍師、そして宰相も務める周喩である。
その姿を見て、高順のみならず趙雲達ですら呆然とした。
一国の主と、主を支える超が付くほどの重臣が寿春を離れてここまで来たのだから。呆然としている間に、周喩は先ほどの孫策同様に馬騰らに挨拶をしている。
一通りの挨拶が終わった後、不思議そうに「? どうした。お前達の分も用意してあるんだ。早く座れ。何故我々がここにいるのかの説明もしよう」と急かしてくる。
馬騰達はと言うと、孫策に引っ張られて上座へ。上座には孫策の膳と、馬騰ら3人の膳。
下座に、他の人数分・・・沙摩柯はいないので1つ余ったが。
高順は率先して一番の下座に座ろうとして―――
「(ごしゃっ!)えぶぉっ!!?」
超雲に蹴られた。

「一体何をしますか!?」
「それはこちらの台詞でしょうな。貴方が一番の下座なら我々は座る場所が無いですぞ?」
「上座に向かっていけば良いでしょう!」
「はぁ・・・進歩の無い。我々の主たる高順殿が下座、というのが大問題なのです。主なら主らしく」
さ、上座のほうへと行きなされ、と趙雲に押し出される高順。楽進もやれやれ、と笑いながら趙雲と並んで下座へと座る。
こうなると、高順は嫌でも上座に近いほうへ行かなければならない。しかも、両隣に周喩・黄蓋だ。
「むぅ・・・」と乗り気でない高順を見て、周喩が「何だ、私と祭殿の隣がそこまで嫌なのか?」と意地悪く笑いながら問う。
「いや、そういうわけじゃ・・・」
「ならば何も問題は無いじゃろ? ほら、座れ」
黄蓋に腕を引っつかまれ無理やり座らされる高順。それを見て、やはり笑っている趙雲と楽進。
皆、静かに座り宴会は始まった。


孫策が直に馬騰の杯に「どーぞ♪」と酒を注ぐ。
劉備の時は何一つ口をつけずにいた馬騰だが、今回は素直に酒を呷った。
呑み終え、馬騰は朗らかに笑う。
「どことなく甘い香り・・・良い味です」
「ほんと? これ、私が作った果実酒なんだけど。ほら、馬超と馬岱も呑みなさいよー!」
「え?」
馬超はまだしも、馬岱にまで酒を勧める孫策。大丈夫なのかなぁ、と見つめる高順だが馬騰は止めることも無く、嬉しそうに孫策の酒を呑んでいる。
趙雲も楽進も久々の酒に機嫌が良かったし、黄蓋は周喩に「この小娘、よくもまぁワシにこんな仕事を・・・」と絡んでいる。
なんとなく取り残された感じはあるものの、高順もまた雰囲気を楽しんではいる。
ひとしきり時間が経ってから、ようやくに馬騰が「さて」と前置きをした。
「わざわざ孫策殿自らがお出迎え・・・これにはどういう意味があるのでしょう?」
酒が入ってテンションが高かった孫策であるが、それまでのはしゃぎっぷりが嘘の様に静まり返って、馬騰の隣に座り直す。
「んー・・・そうね、はっきり言っちゃうわ。我が孫家は、貴方達馬家と同盟を結びたいの。対等な立場で、ね。」
「同盟? 従属でも支配でもなく同盟?」
怪訝そうな表情を見せる馬騰だがこれは当然だ。高順らも「何ー!?」と驚きの声を上げている。
「私は兵も土地も失った流浪の存在に過ぎません。それと対等・・・。」
「そ。対等。さっきの高順の質問の答えにもなるけど、だからこそ私はここまで来たの。対等な関係と思うべき相手を一方的に呼びつけたりはしないでしょ、普通。」
「それでなくとも、話をしたいと望むのはこちらだ。ならば、誠意を見せるべき・・・とは我が主の言葉だが。いきなりそんな事を言い出すのだ。私がどれだけ焦ったと思う? しかも、護衛は僅か500。本当に無茶をしてくれる」
孫策の言葉に、周喩が疲れきった溜息を漏らす。
「無論、迎えに行きたいと言う気持ちは判るのだが、な。対曹操の戦が差し迫っている状況では、さすがに交州までは行けなかったよ」
「小康状態だったからここまで来れた、ってことかな。私達がいない間は・・・孫権もいるし、陸遜・呂蒙もいるから一応は大丈夫よね」
「ああ。本来なら孟節殿との同盟でも、こちらからも挨拶の一つでも入れるべきだったのだろうが・・・すまないな、高順」
周喩が素直に頭を下げる。
「いえ・・・俺に謝られても困りますよ。そもそも、俺が孫家からの使者みたいなもんですから。」
高順も困ったように肩をすくめてから、続けていく。
「つまり、馬騰殿を正式かつ対等の同盟者として迎えたい。こういうことですね?」
「そそ。さっきも言ったけど誠意って必要じゃない?」
ね? と馬騰に顔を向ける孫策。
「ふっ・・・。では、その為の見返りは何です?」
「へへ、話が早くて助かるわー。」
うんうん、と頷いてから孫策はその見返りを提示する。
「これから曹操と戦うに当たって、孫家に必要なのは・・・陸戦に長けた部隊。つまり騎馬隊なの。」
「ふむ、私を騎馬隊の武将として使いたい、と?」
「違うわよぅ。言ったでしょ、対等な相手、って。使わせろなんて言わないってば。話を続けるわね。で、孫家の有力な騎馬隊っていうのは、白状しちゃうと高順の部隊だけ」
「・・・・・・。」
口を挟まないほうがよさそうだ、と高順は何も言わないことにした。
「その高順だって、西方攻略の為に常に私の手元にいるって訳でもない・・・他に騎馬隊がいないわけじゃない。でも、数も少なく、練度も低い。歩兵が他に劣ってるとは思わないけど、孫家の主戦力は水軍だもの」
「だが、それだけでは曹操に勝てない。強力な陸戦能力を持つ部隊は必要となってくる。」
守りだけなら長江に水軍を展開すればいいのかもしれない。だが、それだけで曹操に、並み居る強豪に勝てるわけが無い。
「そこで、馬騰殿の力を貸して欲しい。騎馬隊の創設、そして養成。騎馬戦に不慣れな孫家の将兵に、騎馬戦を教えて欲しい。」
「ふむ・・・?」
腕組みをして考え込む馬騰だが、すぐに聞き返した。
「まず1つ。それをすることで私の得る利益・・・対等な同盟者というそれ以外のモノを提示して頂きたい。2つ、騎馬隊の養成をすれば、高順君が不要になるかもしれませんね? 彼の立場はどうなりますか。」
え、俺の立場? と高順が言う前に、周喩が答える。
「1の答えとして、孫家は馬騰殿が西涼を取り戻す為の援助・協力を何ら惜しみはしない。資金、戦力、食料。こちらが用意できる範囲内で協力をしましょう。無論、そこに貸しも借りも無い。我々が助力した結果、両勢力の力関係には影響しないとも明言します。あと、ついでに孟獲もね。」
「次、2の答えよ。彼が不要になることもありえない。孫家は高順の納めた資金、今までの働きを軽々しく見ていない。高順に何かあったら、西涼は当然、孟獲、山越、武凌蛮が黙ってはいないでしょ?」
「当たり前だ! ・・・ぁ」
素直な反応を示して立ち上がった馬超だが、すぐに「あ、ごめん・・・」と座り込む。
「素直ねぇ。さっきも言ったけど、西方攻略で頑張ってもらうつもりなのよ。それに、高順あってこそ西涼と誼を結べるのよ? それを自分から捨てる真似はしないってば。」
信用してもらえるかしら? と孫策は馬騰に笑いかける。しかし、高順の事も気にかけているとは。
確かに内部でも新参の彼を嫌う者はいるし、孫家血縁・・・はっきり言うと孫堅の親族で、自分の親戚になる孫静の長男が彼と自分達を嫌っている。
名は孫暠(そんこう)という。特に秀でた才能も無い上に傍系なのだが、自分が孫家を掌握したいと言う野望を持っている。他の息子たちは皆孫策のために働いているが、彼だけはあいまいな存在である。
何らかの行動を起こせばそれを理由にこちらも動けるのだが、表立った行動に出たわけではないし、孫策も孫静に遠慮している。
仮に孫暠が動いたとしても同調する者はさほど多くは無いだろう。
なので、そこは大して心配もしていないが・・・話を戻す。


「・・・承知しました。そして、最後にもう1つ。あなたは何を目指すのです。天下統一ですか?」
この質問は意外だったのか、孫策は思わず「え?」と聞き返しそうになった。
すこしだけ考え、言葉を選びながら答え始める。
「んー、子供の頃はそうだったけど・・・今は少し違うかな?」
「違う、ですか?」
「ん。勿論、平和になってくれればそれに越したことは無い。でも、天下統一が成った時点で孫家がきっちりとした立場、立ち位置を確保できてるならそれで良いかな」
「・・・。ならば、曹操に従うという手もありますよ」
まるで試すかのような問いかけをする馬騰。が、孫策はまるで動じない。
「はは、そりゃ、曹操がそれだけの才覚を持ってるのはわかるし、曹操が天下統一したなら従うしかないでしょうねー。でも・・・まだ戦りあってないんだなぁ、アイツとは」
「やりあって、ない?」
孫策の目に熱い闘志のようなものが見て取れた。彼女は曹操が攻めてくるのを心の何処かで待っている。
それは天下を得るに相応しい実力を持った者同士の共感だっただろうか。
「うん。どっちが強いのか、優れているのか、まだ判らないんだよねぇ。戦りあってないのに降伏とかもしたくないしね? だから・・・」
もし私があっさり負けてしまうのならそこで諦めるわ、と孫策は事も無げに言い切った。
「その代わり、勝てると踏んだらとことん喰らいついてやるわよ? ああ、それと」
「?」 
「先に言っておくわ。私は漢王朝を滅ぼす気も無いし、強固な統治体制を作れるなら、それで天下静謐となるのなら肯定もする。んな偉ぶった立場になれなくても政治って出来るし。・・・するのは周喩だけど。」
「おいっ」
おもわず周喩が抗議の声を上げ、高順達は失笑する。そんなあっさり政治を丸投げするな、と周喩は言いたかったに違いない。
「馬騰殿が懸念するのって漢王朝の去就でしょ? なら心配しないで。私の母・・・孫堅は江南の独立を夢見ていた。中央から延々搾取されるだけの江南を救いたい、そんな気持ちが根底にあった。・・・いや、自分の力が天下にどれだけ影響するか試したかったってのもあるけど。」
これは馬騰にとって共感できる部分だった。若く幼かった自分も、同じようなことを考えて一旗を挙げたのだ。
しかし、こちらの考えを読まれていましたか・・・と馬騰は目を伏せた。劉備は明らかに漢王朝を見捨てていたが、この人はどうだろうか。
滅ぼすつもりは無い、と言っていたが、途中でどう変わるかは判らないのだ。孫策がどうこうする前に、滅んでいる可能性のほうは高いのだが。
言ったとおりに力を尽くしてくれれば嬉しいのだけど・・・と、馬騰は孫策の次の言葉を待った。
「私は母様の夢を受け継いだ。皆が力を貸してくれたおかげで、漸くここまでの形にする事が出来た。あとはどこまで行けるのか・・・って事よね。だから、私は行けるところまで走ってみせる。」
そして、共に戦って来て、これからも戦い続けてくれる人々の姿が、自分の傍に在り続けて欲しい。
「その形を成した未来に、馬騰殿の姿も在れば私は嬉しい。・・・駄目かな?」
子供のように聞いてくる孫策だが、馬騰は悩み「この場で答えないといけないでしょうか?」と聞き返してしまう。
「うふふ、時間なら少しはあるから大丈夫。速い方が有難いけどね。でも、手応えはあったかな?」
「さぁ、どうでしょうか・・・貴方の言葉が事実であることを願うのみです」

この後、馬騰は孫策と盟を結ぶことを決意。孫・馬・孟の三勢力同盟へと進んでいく。
時代が移り変わると共に各勢力は次第に消えていくが孫策の言葉通り孫家は馬家、そして孟家も対等の仲間として扱っている。
力量を考えれば孫家が有力。他は従属していると取られても仕方なく、中にはそう看做している家臣もいたようだが、孫策は西涼奪還の為に協力を惜しみはしなかった。
後年、後を継いだ孫権は孫策の意向通り二勢力を対等の存在として受け入れてもいる。

この三勢力の友好関係は長く続き、崩れることは無かったという。







~~~楽屋裏~~~

いやいやいや、どう見ても孫家が主だから(嫌挨拶
力を借りるというのは借りを作ることで、その後の勢力同士の力関係に露骨に関係してくるものです。
まぁ、孫家にそこまでやる余裕も無ければ異民族の蜂起も怖いですし極力平和裏に収めようって所でしょうか。
今さらですが、それ考えると高順の存在って怖すぎ。修正するべきですね、存在を(ぉ

しかし、毎度gdgdな内容ですね。この同盟話こそ3行くらいで終わらせたいくらいでした。
要約すると

同盟しようZE!
うん、するするー♪
(・ω・)人(・ω・)人(・ω・)(仲良し

ほら、こんなもん(端折りすぎです
ま、こういう地味な話がこの話には多いと思いますね。

あと、孫静の子供ですが、こんなマイナーな人物出すのはどうかなーとは思います。
孫家の血縁ですらまだ磐石とは言いがたいですし、こいつの孫、つまり孫静の曾孫に孫峻・孫綝が・・・


孫家の為に始末しないとね(ぁぁぁ







わーにんぐ。
こっから先はほんの少しだけぇろの匂いが感じられます。
駄目な人はバックステッポゥでお願いします。



・・・忠告はしましたよ?
















~~~おまけ、柴桑的日常~~~


「どうぞ。どこからでもかかって来なさい、楽進さん。」
「判りました。お願いいたします!」
丁寧に一礼をして、構える楽進。同じく一礼し、特に決まった構えをせず待ちに出る馬騰。
柴桑城の中庭一角。そこで、馬騰と楽進の手合わせが始まった。


事の次第は、交阯での両者の出会いによる。
たまたまだが、楽進の鍛錬を見ていた馬騰が「気の使い手とは珍しい」と興味を抱いたことがきっかけだった。
自身も同じく気の使い手であるから、なのだろうが、確かに気を使用できる人と言うのは数少ない。
どれだけの腕前やら、と興味を抱き楽進に手合わせを願い出たのである。
楽進も最初は戸惑ったが高名な馬騰直々の申し出とあれば断る理由も無い。すぐさま応じ、手合わせを行った。
馬騰はあっさりと楽進を一蹴したが、そこで楽進の実力をきっちりと見抜いてアドバイスを行っている。
まず、気弾に頼りすぎて本来の持ち味である筈の格闘戦が疎かになっている。また、気の扱いが少し雑で、無駄が多い。
ただし気の総容量に関しては自分が知る中では一番で、やり様によっては更に強化できる、とも言ってある。
事実、楽進が放つ気弾の威力は相当なものだし、使用回数も多い。敵よりも高台となるような場所を確保して固定砲台のように撃ちまくればそれだけで驚異的であるが。
しかしながら、出力が大きいのはわかるがそれ故に無駄な消費も多いことも見逃しはしなかった。
楽進もこのアドバイスを素直に聞き入れた。そこで馬騰に「教えを乞いたい」と言い出し、強引に弟子のような立場になってしまった。
そこから数日間、馬騰自らの厳しい修練が始まった。
寿春に向かう道中でも、馬騰は暇さえあれば熱心に教え、楽進も指示通りに訓練をこなして見せた。


「えー、では。どちらも気の使用は認められます。勝敗条件は急所に一撃を入れられたり・・・攻撃を貰えば死亡するような場所に攻撃が命中したら、とかですね。それ以外は2発貰えば負け。」
「降参は?」
「降参と明言すればその場で勝負あり。ただ、気弾は撃っても良いですが威力を抑えてください。じゃないと地面が穴だらけじゃ済まなくなるんで。それでは・・・」
高順の合図に合わせて、両者は声を揃えた。
「いざ」
「勝負!」

こういう時にギャラリーが集まってくるのも仕様と言うべきだろうが、今回、高順は審判として勝敗を見極める立場になっている。
「頑張りなよー、楽の字ー」
「馬騰殿と楽進。素手の戦いを得意とするのは楽進だが・・・全てに於いて馬騰殿が勝っている。さて、どうなるかな」
「あ、あんたねぇ・・・冷静に言うんじゃないわよ。どっちも頑張んなさいよー!」
「ねーお姉様。楽進が伯母様に勝てるかなぁ?」
「んな訳ないだろー。」
「手合わせを見ながら呑む酒は・・・はて、なんというのであろうな?」
「・・・手合わせ酒?」
「そのまんますぎるわ」
「あんたら、緊張感は欠片もないのか・・・」

やっぱり、いつも通りであった。

そんな人々は気にもせず、楽進は挨拶代わりにと気弾を放ち、馬騰は気を込めた掌でそれを簡単に受け流す。
気弾はまるで卵の黄身のようにするりと軌道を変えて地面に衝突。
楽進は構わず何度も気弾を放つが、馬騰はするりするりと避けつつ、確実に距離を詰めている。
「せえぃっ!」
何度目になるか判らない気弾を放ち、そこで一旦手を休める。
馬騰は、ここで攻めに転じようと紙一重で避けようとするが・・・避けようとした瞬間、気弾が割れて拡散した。
「っ・・・! はぁぁっ!!」
避けが間に合わないと判断した馬騰は、全身に一瞬だけ気を充満させ、掛け声と共に地面を踏みしめる。
ドゥンッ! と激しい音が響くと同時に、馬騰の体に命中しかけた気弾全てが掻き消される。
「握りつぶさず拡散させる技術ですか。大したものです。さすがに焦りましたよ」
まだまだ余裕がある馬騰だが、今見せられた技に(この間までは出来なかった事をこんな短期間で)と素直に感心していた。
(さすが馬騰殿・・・気を巡らせて、こちらの攻撃を無力化させるなんて)
チッ、と舌打ちして、楽進は馬騰に突進。自ら格闘戦へと持ち込む。
これもまた楽進の思うようには行かなかった。
拳打・蹴・投・・・それら全てが、周喩の予測どおりであったのだ。馬騰が全ての面で楽進を上回っている。
投げようとすれば、いつの間にかこちらが投げられており、格闘もすべて受け流され、いなされ、あるいは力任せに振り払われることもあった。
見ている人々にとっては一方的な戦いだが、馬騰は先ほどの技術同様「やるものです」と再び感心していた。
前までと比べて、気の集中効率が違う。楽進は自分と同様に全身に気を巡らせて身体能力の向上を図っているが、こちらの攻撃する箇所に防御能力を集中させている。
乱戦ならこうはいかないが、一対一なら有用な使い方だ。完全に体得したとは言いがたいものの、日に日に実力を上げている。
格闘にしても、攻撃力は向上しているように見える。それでいて消費は今までと変わっていない・・・今までの消費量で、威力の向上に成功している。
随分無茶なしごき方をしてしまった自覚はあり、大丈夫かな? と不安になった事もあったが、成程これは鍛え甲斐がある。
だが、楽進には悪いがそろそろ終りにしよう。そう決断して、今度は馬騰が攻撃を仕掛ける。
馬騰と楽進の攻守が逆転した。
様子見で積極的な攻撃をしなかった馬騰だが、決着を狙っての攻勢は凄まじい。馬騰の戦いをはじめて見た孫策と周喩が「凄いな・・・」と呟くほどのものだった。
あの楽進が手出しできず、ひたすら防御に徹するしかない状態を見せられているのだ。それもまた当然といったところだろう。
腕は防御に使い脚で仕掛ける馬騰。かなりの大振りだが隙は少ない。
時折下着が見えてしまっているのだが、気付いていないらしく高順の目の前でも大胆に脚を振り上げ蹴りを放っている。
(く、黒・・・つか待て、あれ紐ぱんつ!?)
審判役の高順が目を逸らすかどうか迷うほど大胆な下着であった。
そして。
隙ありっ、と馬騰が楽進の胸の谷間に、指を差し込んだ。ぷにっ・・・という柔らかい感触が馬騰の指を挟みこむ。
その先には心臓があり、貫通させるように押し込めば楽進は死んでいただろう。
馬騰が鋭利な刃物を持っていたのなら、すでに楽進の命は無い。
無いが、まさかセクハラ(?)をされると思っていない楽進は錯乱。
「これで勝負あr「ぁわーーーっ!?」」
予想外の行動に錯乱し、馬騰に向かって鋭い蹴り上げを放つ楽進だが、馬騰は紙一重で避けて後方に飛ぶ。
だが、この一撃が時代を変え・・・じゃなくて、ややこしい状況へと発展する。
「はは、今のは良い蹴り・・・」
はらり。
「え」
「え」
いきなり、馬騰の来ている服・・・日本の着物のようなものだが、その前がはだけたのであった。
楽進の放った蹴りが鋭すぎて腰帯の前面部分が切れてしまったのだ。上下の下着共に黒く、下は高順の予想通り紐ぱんちー。
「なっ!!?」
「え、待って・・・いだぁ!」
慌てて前を押さえる馬騰だが、まだ空中。体勢も大きく崩れてしまい、後方にいた高順を巻き込んでの着地(失敗)となった。
「痛たた・・・うう。大丈夫ですか、高順くん・・・」
「・・・・・・! ・・・!」
「・・・? あ」
馬騰の下には高順。ただし、着地失敗の上に変な体勢で敷いてしまったようで高順が呻いている。
馬騰の乳に挟まれて。


『うわぁ・・・』←観戦組の反応



「え、な、ななななななっ!? こ、高順君、早く離れて・・・いえ待ってまだ離れちゃ駄目!」
「もが、もががが・・・」
「や、う、動かないで・・・」
動くな離れるな、と言われても、おかしな体勢で圧し掛かられている高順は動きようが無い。自由に動くのは右腕だけ。
また、馬騰がそんな事を言った理由は、胸の押さえ、現代で言うところのブラジャーなのだが、それの前留めも先ほどの蹴りで千切れてしまっていたからだ。
紙一重で避けたのが妙な方向で妙な事態を引き起こした。なので、高順を挟む乳は・・・直接肌が触れている「生ぱふぱふ」状態。
しかしながら「動くな」と言われても、馬騰は黄蓋並みのナイスばでーであり、圧し掛かられてもいるので乳の海、むしろ母なる海で溺死しかかってる高順。
「い、良いですか、絶対目を瞑っていなさい! 良いですね!?」
馬騰は叫ぶが、天国と地獄の境目にいてもがいている高順に届くわけが無い。右腕で馬騰を押しのけようともがき続ける。
「あ、や・・・そんなところ触っちゃ駄目です!?」 (てめー高順母様に手出すなぁー!)(ぎゃー!? お姉様落ち着いてー!?)←場外の反応
「ちょ、ちょっと待ってください、今から隊長に目隠しを!(と言って馬騰の下着を拾う楽進」
「それ私の下着ですよ!?」
「むが、ふぐぐっ・・・!(じたばた」
このもがきがいけなかった。ただでさえ不味い状況が更に不味くなった。苦し紛れの行動だが、高順の指が馬騰の紐下着の結びに入り込んでしまっている。
馬騰はそれを知らないまま立ち上がったので・・・その、なんというか・・・

はらり。(2回目)

と、完全裸状態に。

「ふはぁっ。苦し、死ぬかとおも・・・」
本気で死に掛けていた高順の目に映ったもの。
戦傷があれど、瑞々しさが失われていない、しなやかな体つき。
そして、黄蓋に劣らぬ乳房が(略)、しかも「たぷぅん・・・(はぁと」と(略
程よく(略)桃色の(略)、触れば(略)、まろびやかな・・・そう、それは男の夢とか愛とか希望とかそれっぽいものがたぁっっぷりと詰まった(アグネス)
その上、馬騰は高順の目の前で立ち上がってしまった為、高順にとっては見上げる格好。おまけに馬騰は完全に装甲パージ状態(?
つまり「丸見え」。
ほとんど(PTA)な綺麗で可愛らしい(石原)(海犬)(緑豆)(以下執筆拒否)
もう、女神としか言いようの無い素晴らしい裸身だった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!????(メゴシャァッ!!」
「あわヴゅーーーー!」
『わーーー!?』
「た、隊長!!?」
「忘れなさい! 今見たものを全て記憶から削除するんです良いですね忘れてくれないと私すねて泣きますからねうわぁぁぁぁあぁんっっ!!」
速攻で気の衝撃波を高順にぶちかまし、意味の判らないことをほざき、着物で前を隠して逃げ去っていく馬騰。
普段は冷静だが、こういう予測不可能な事態に陥ると錯乱してしまうのだろう。根っこの部分では馬超と大差ないのかもしれない。
吹き飛ばされた高順はというと、かまされた衝撃波でそこらの木に頭から激突。額が割れて大量出血し、またしても華陀のもとへと運び込まれた。
だが、その表情は・・・何か、至福と言うか幸せそうと言うか・・・
「良いもの見ました、忘れられそうにありません」とでも言いたげなものだったとか。



その夜、馬騰は寝室で布団を頭から被って(あああぁぁあぁああ・・・義理とはいえ息子にあられもない姿を・・・うぅ、ど、どうしましょう・・・)
と、羞恥で真っ赤になりつつ、本気で困っていたそうな。


楽進Vs馬騰。
審判KOの為引き分け。(え?








~~~楽屋裏~~~

えっと、その・・・大変なことになっちゃったぞ。(挨拶
ある意味大暴走と言うか、作者自重しるというか・・・こういうのは書かないように気をつけます。
て言うかラッキースケベすぐるでしょう・・・? 羨ましいからかわr(撲殺

だが、これで「馬騰のぇろ書け、なう」にも応えたと言えますね。
ぇろSS板? そんなものは無い。こういう事ですね!



しかし、100話がこんなんでいいのか・・・



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第101話。寿春的日常?
Name: あいつ◆2911748e ID:81575f4c
Date: 2011/03/26 09:51
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第101話。 寿春的日常?

柴桑に到着した高順、いや、馬騰と孫策の会談は無事終了。形だけとはいえ対等の同盟を結んだ両者は、寿春へと向かい入城。
孫家の武将は、孫策と並んで入場してくる馬騰と西涼騎馬隊を一目見ようと集まり、その威容を見て「さすが西涼の英雄」と誉めそやしていた。
逆に「領地も兵も失った敗者が我が主と同格など」と苦虫を噛み潰したような表情をする者もいる。
ちなみに、馬騰に気を取られてばかりで高順を気にかけている者はほとんど居ない。
居るとしたら、孫家の主要な武将、個人的に仲の良い魯粛・太史慈、そして彼らの帰りを心待ちにしている臧覇くらいなものであった。

孫策・周喩・黄蓋・馬騰一行は城へ向かい、色々な話をする、ということで高順一党と別れての行動となった。
そうなると、高順らは途端に暇になる。
ぼーっとしていても仕方ないし・・・と、高順は久方ぶりに将兵に休暇を与えることにした。
兵の殆どは南中でずっと戦の緊張感の中で暮らしていたし、それにはあまり関わっていない趙雲・楽進も留守役でストレス(?)も溜まっている。
少しくらいは問題ないだろ、と判断した高順は「今日に限っては刻限を超えて遊んでもいいよ」と伝達して、趙雲ら主要武将にも「少ないけどお小遣いねー」と手当てを渡す。
手当てを貰って「ヒャッハー酒盛りだー!」と嬉しそうな趙雲は、嫌がる周倉と楽進を引っ張って酒処に走って行ったし、他の人々も思い思いに動き始めた。
それらを見送ってから「さて、俺はどうしようかな」と高順は考える。
(臧覇ちゃんは・・・孫家の末姫の親衛隊だから遊べないだろうし、太史慈も魯粛も忙しいだろうからなぁ。もしかしたら城に行って馬騰殿のことで説明受けてるかもしれない)
・・・あれ、俺が一番暇人?
よくよく考えたら自分が一番何もすることが無いのか・・・と言う事に気付き、その場でがっくりと項垂れる高順であった。

どうしたもんかなぁ・・・虹黒の野駆けでもするかな? いや、その前にまず腹ごしらえ・・・うーん。
兜を脱いで考え事をしながら、虹黒と共に街をぶらつく高順だが、考え事をしすぎていたのか。
行き違いの人の肩に「どんっ」とぶつかってしまった。ぶつかった人は「あやっ!?」と悲鳴を上げて、その場で顔からずっこける。
考え事をしていたからか高順は反応が遅れてしまい、少ししてから「あ・・・だ、大丈夫ですか?」とその人・・・少女だが、手を差し伸べた。
「だ、大丈夫です・・・あややっ、眼鏡がー・・・」
差し伸べられた手を掴んで、この少女は立ち上がる。
「直すか買いなおさないと・・・でも、お金・・・どうしよう・・・あやや・・・」と、眼鏡にヒビが入ってしまったようで、泣きそうな顔だ。
悪い事をしちゃったな、とその顔を見つめる高順だが、その表情には僅かに驚愕が浮かんだ。
この少女の顔には見覚えがある。
何故、この場所にこいつがいる。何故「諸葛亮」がここにいる? と。

「あ、あの。私の顔、どうかしましちゃひゃ!?」
「え? あ、いや・・・」
だが、その女性の顔をじっと見て、直ぐに高順は「いや、違う」と思い直した。
諸葛亮より10センチか20センチかは判らないが背が高いし、髪も長い。何より、胸がそこそこにある。諸葛亮であればこの先何年かかってもたどり着けない境地といえる。
巨乳とはいえないが、普通より少し大きめで、服装もあのエプロンドレスではないしベレー帽もかぶっていない。
腰からロバの顔のアクセサリーを付けてそこは趣味が悪いなぁ・・・と思う。
顔立ちも、諸葛亮を大人っぽくしたらこんな風になるであろう、と思えるほど似ている。
また、緊張すると所々で台詞を噛むのは似ているが、口癖が「はわわ」ではなく「あやや」だ。
この諸葛亮によく似た少女、高順には一人だけ心当たりがあった。
諸葛亮に良く似た少女も、高順の顔をじぃ~~~っと見ている。
目の性が悪いのか、高順を見つめる目つきが悪くなっている。呂蒙さんも同じように目つき悪いよな、とか思い出す高順。
そして、何かに気付いたかのように「・・・えぇーーー!!?」と少女は大声を上げた。
「え、何叫んでるの!? ここ往来で人の行き来激しいのにっ・・・」
別に不埒な事をしたわけではないのだが、人通りの多い場所で大声を出されると妙に不安になってしまう。
「あ、あの! ましゃか、貴方はしょの、ここ、高順しゃまでは!?」
「いや、噛み過ぎ・・・じゃない。俺は確かに高順だけど、そんな大声で言わないで欲s「やっぱり!」
やましい事など無いのだが天下の往来で自分の名前を大声で呼ばれるのも余り気分の良いものではない。
不愉快ではないのだが、やはり落ち着かないのだ。
「陥陣営・死を運ぶ黒い風・孕ませ屋・黒髑髏・いやあの鎧は怖すぎでしょ? 美人侍らせ過ぎ不幸になれ・・・など、数多の称号を持つ高順様に話しかけていただけるなんて・・・あれ、どうかなさいましたか!?」
「|||orz」
中二病っぽかったり、孕ませだの不幸になれだの酷い称号が混じっていることに絶望する高順であった。

とりあえず、何とか立ち直った高順は判っていて少女の名を聞いてみた。
「で、えーと。貴方はどちら様でしょう?」
少女は緊張しつつも応える。
「わ、私は姓は諸葛、名は瑾。字は子瑜でふ!」
「あ、やっぱり。」
「あやっ!? 私のことをご存知なんですか!?」
「ああ・・・いや、諸葛瑾さん、妹が一人いるでしょ? その人に た い へ ん お世話になってね(ギリギリギリギリ」
「え、何をやったんですか、あの子・・・」
思い切り歯を噛み締める高順の表情を見て、恐怖で固まる諸葛瑾であった。
「あ。いや、すまん。諸葛瑾さんを怖がらせるつもりは無かったんだ。・・・その眼鏡、弁償するよ」
「え? あ、あやや! そんな恐れ多い!」
「いやいや、壊れたのは俺の責任だし、今は暇だからねぇ。じゃ、行こうか」
「え、えええ・・・」
困っている諸葛瑾の背中を押して、歩き始める高順であった。

「ぉぉぉ・・・よく見えます~~~・・・」
「そうか、それは良かった。」
新調した眼鏡をかけて、周りを見渡す諸葛瑾。
今までの物は度があっていなかったのか、あまり視力矯正になっていなかったらしい。
「あの、ありがとうございました! 高順様にお会いできただけでも光栄なのに、ここまd(ぐぅぅぅぅぅ・・・)・・・あ、あやややややっ!!?」
盛大に腹の音が鳴って、諸葛瑾は赤面する。
ん、もう夕飯時だなぁ、と高順は呟き「おいでおいでー」と諸葛瑾を引っ張っていく。
「あや!? どこ、何処へ!」
「飯処。一人で食べるの寂しいし、一緒においでー」
「あやややや!?」

~~~飯処~~~

何でも、諸葛瑾が高順を知ったきっかけというのは寿春攻防戦が終わった後、炊き出しをしていた所を見たからだと言う。
最初こそへんちくりんな鎧で周りを威圧しているように見えていたのだが、自分から集まってきた人々に食料を渡し、分け隔てなく接する姿を見たのだとか。
それからも警邏やら何やらをしている姿を見かけたりして、顔を覚えた、という話だった。
そんな感じで高順を知っていた諸葛瑾は、高順の向かいに座ってはふはふ言いながら美味しそうにご飯を食べている。
見た所、生活は窮乏しているらしい。服もボロボロというか所々ほつれていたりする。
不思議に思った高順は、悪いかな、と思いつつも聞いてみることにした。
「あの、諸葛瑾さん?」
「むぐっ・・・んむ。な、なんでしょう?」
「さっきから思ってたんですけど、貴方って生活苦しかったりします?」
「あや・・・うう。恥ずかしながら。」
俯いて恥ずかしそうにする諸葛瑾。
「・・・仕官してないのですか? 貴方、諸葛亮同様に仕事師だと思うのですが。」
「ううう・・・それがですねえ。上手く行かなくて」
「上手くいかない?」
「はぅ・・・私は都で遊学していたんですが、生まれ故郷の瑯耶が戦乱に巻き込まれて、親族を失って。そこで、妹と荊州に移って来たんです。そこで水鏡老師の経営する水鏡女学院で再度修行を・・・」
話を聞くと、姉妹で入学してそこで研鑽を積んでいたそうだ。
資金は親の残した遺産が幾許か残っていてそれを使ってなんとか食いつないでいたらしい。
「そこで、一足先に卒院できた私は、働き口を求め江東の孫堅様にお仕えしようと・・・でも」
「戦で逝ってしまわれていた、と。」
「はい。ならば孫策様に、と思っていたらその矢先に袁術との戦いに発展、私は寿春にいたものですから何とか生き残ろうと」
ああ、そうか・・・と高順は納得した。その頃に自分が孫策の元で働くことになったのだ。
寿春攻防戦でそれどころじゃなかったのだろう。生き残ることに必死だった訳だ。
「戦が終わって、ようやく落ち着いたわけですけど・・・よくよく考えたら、私って孫家の方々への伝手が何も無くて。伝手が無いと、今の時勢じゃどうしようも」
あうぅぅ・・・と嘆く諸葛瑾。
「荊州でなら伝手があっても、新興勢力の孫家には伝手がなかった訳か。」
「恥ずかしながら・・・妹は、劉備と言うお人に仕えて要職を務めているらしいのですけど、姉の私がこの体たらく。」
まず伝手があるかどうか確認するべきだったと思うのだが・・・この辺のボケっぷりは、成程確かに諸葛亮に似ている。
まあ、それも無理ないかな? と高順は思い直した。
劉備の場合、新興勢力だったが、あそこはとにかく人手が足りない。だからこそ伝手など関係なく仕官できたのである。それは今も変わっていないだろう。
孫家も同じ新興勢力だが、人材で言えばよほど劉備より恵まれている。孫堅時代なら楽に仕官できたかもしれないが、周喩やら陸遜やら呂蒙やら、割と初期からでも有能な人材が多かった。
袁術を倒したことで更に人材は補強されているし、勢力強化から来る噂やら何やらで人は勝手に集まってくるし、孫策から招いた人物もいる。
困っていないと言うわけではないが、恵まれた陣容になりつつあるのだ。そうなると、名声も伝手もない諸葛瑾では士官の口が無い。そうなると・・・
「うーん。遊学って事は、学問を修めていたって事だよね。」
「はい。左氏春秋などを諳んじるくらいは。ただ、私は戦術の才能が無いのか・・・上手く応用するというのが苦手なんです。妹と盤上遊技(囲碁)をやっても、勝った事ないですし。裏方くらいしか出来る仕事は無いと思うんです」
孫堅の生きていた時代なら確実に重宝されていただろうに、と思うのだが、この辺りの性格も正史寄りか、と高順は唸った。
しかし、それはあまり問題でないように思える。臨機応変が出来ないと素直に白状し、自分の得手不得手をきっちりと自覚している。
表で華々しく戦う武官ではなく、裏方としてそれを支える文官。こういう人が、武官が何らの心配せず全力で戦える状況を作り出し、平和になっていく時代を牽引するのだろう。
今の孫家に足りない人材だな、と思う。いや・・・むしろ、孫策・孫権、といったほうが良いのか。
高順は目を閉じ、じっと考えた。
「・・・? あの、高順様?」
呼びかける諸葛瑾の声にも応えず、考え、考え抜いて、高順は決断した。

登城するのは本気で嫌だけど・・・面倒、見るとするか。




後日、高順は諸葛瑾を孫策・・・というより、むしろ孫権に諸葛瑾を推挙した。
この世界の孫権が後年ボケるかどうか知らないが、そうなったらそれを押し留める為の布石にもなる。
孫権は呂蒙や陸遜らにあれこれと教えを受けているが、この両者もまだまだ忙しく中々時間を割いてもらえない。
二人が悪いわけはで無いのだが、やはり少しばかりの不満が孫権にはあったようだ。
謁見の席で諸葛瑾を一目で気に入った孫権だが、彼女の事を「できる」と即見抜いたようだ。高順が孫策ではなく自分に推挙した、という事も併せて大喜びであった。
また、高順は諸葛瑾の友人でもあり、同じく働き口を探していた張承を同時に推挙。こちらは武官としての才能があり、これもまた孫権は喜んでいる。
推挙された二人は延々恐縮し、高順にも孫権にもお礼を言い続けていた。
甘寧は甘寧で最初は不満だったようだが、これから後、自分に無い才能を孫権の為に最大限に発揮しようとする諸葛瑾らの姿と努力を見て、次第に打ち解けて言ったようだ。
これから数十年後、諸葛瑾らは高位へ昇るのだが「私が今この地位にあるのは孫権様の、ここに居られるのは高順様のおかげです」と幾度も思い返すように言い続けていたとか。
話を戻すと、孫策が今すぐどうにかなるかは不明なものの、もし不測の事態(正史における暗殺)が起これば、孫家譜代の武将、そこに加えて呂蒙・周泰等は問題ないだろう。
だから、と言うわけではないが、既に登用されていた歩騭(ほしつ)と厳畯(げんしゅん)を孫権付きに出来ないか、と孫策に持ちかけている。
その理由はそれほど大したことはない。疑問に思っていた事でもあったのだが、孫権付きの武将は甘寧だけ、というのが少し不安だった。
甘寧に不安があるわけではなく、次期孫家の後継者に付いている文武の官が少なすぎることを気にかけていただけだ。
孫権に心服し、懸命に使える武将が少ないというのは威信の問題である。
暗殺が起こるかどうかは判らないが、それが現実に起こると他の新参武将が孫権を見放してしまいかねない可能性がある。
そうなる前に有能な武将を、孫権への忠義第一の臣とするべきでは・・・と、それとなく言ってみたのである。
この辺は周喩や陸遜、孫策本人も危惧していたことだが、誰を付けるべきか、ということでも悩んでいたらしい。
当然、高順を快く思わない連中(前回言及された孫暠ら反孫策派)が「一家臣の分際で偉そうに」と言い出すのだが、高順はこれに「こんな解りきった事、お前らが最初に言ってしかるべきだろう。主君には言わないの俺に対してはグダグダ抜かすのか!」と言い返す。
いつも傍近くいる家臣のお前らが最初に言うべき事じゃねーか! と怒鳴りさえした。
孫策は「落ち着きなさいよ、高順。あんたの言ってることは全面的に正しいけどさ。」と宥めて高順も引き下がったが、怒り心頭だったらしい。
そのまま踵を返して退室してしまった。

孫策はこれには怒らず「困ったわねぇ・・・彼を軽んじたら馬騰殿に何と言われるか」と苦笑、周喩を呼んで歩騭と厳畯の人となり・能力を問うている。
周喩曰く「歩騭は軍政に通じ優秀だが経験が足りない。厳畯は軍事は苦手だが政に明るい。蜀攻略を担う孫権殿につけるなら・・・良い経験となり孫権殿の力にもなるだろう」という事だった。
しかし、と周喩は意外そうだ。
「高順がそこまで気にかけているとはな。孫権殿も高順を気に入っているようだし・・・蜀攻略で組ませるというのも上手く行くやもしれん。」
「そりゃ、蜀攻略の上司の下に有力な武将がいるかどうか、っていうのは気にかけるでしょうよ。」
一考の余地はあるかもねー、と孫策は考えてみることにした。


これと同時期、北荊州をほぼ手中にした劉備は、南荊州の劉琮と小競り合いを繰り返している。
この戦いは張飛・華雄・陳到・龐統を前面に押し出して戦っている劉備側の方が優勢である。守りは劉備・諸葛亮・関羽だが、これらは曹操の北方への備えである。
南荊州の主力として、張飛らに対抗しうる武将が文聘(ぶんぺい)と、力不足の感はあるものの劉表の甥である劉磐(りゅうばん)くらいしかいないのも理由である。
しかし、ここで劉琮は「劉備に負けて荊州を失うくらいなら」と曹操の元へと密使を送り「劉備を追い出してください。その条件として荊州は貴方に降伏します。」といっそ曹操に全てを委ねる策に出たのである。
さて、こうなると困るのは劉備、そして意外にも曹操である。
劉備は二正面作戦を行う戦力が無いから、という理由だが、曹操の場合はもう少しだけ時間が欲しいという事情だ。
先の馬騰戦での傷が癒えたとは言いがたいし、何より夏侯淵が「南征に行くのならば自分も連れて行って欲しい」という手紙を以前から送ってきている。
というのも、西涼を制した西羌との小競り合いで、幾度と無く勝利した成果があって小康状態、やる気満々で赴任したのに早くもやる事が少なくなっている。
夏侯淵の気持ちも判らないではないが、曹操も彼女の武勇に期待しての人事だ。と思ったら期待以上のことをやってくれて折角の配置が微妙に意味の無い状態となってしまっていたからだ。
舌の根が乾かぬうちに、ではないがそう簡単に交代と言うわけにも行かない。
交代を認めたとして後任に誰が就くのか? という問題もある。小康状態なだけで、どう状況が動くかなど判った物ではない。
それに、後1人軍師が欲しい、という要請もあった。
軍師として夏侯淵を支えるのは張既だが、彼の能力に不満があるわけではなく、むしろ有能であると夏侯淵も絶賛していた。
が、作戦立案や純粋な戦術能力は少し不足しているらしい。政治能力や調整能力は素晴らしいだけに、そこが残念だ、とも。
その不足を補える人物はいないものか、という相談である。
程昱、郭嘉、荀彧など補うどころではない能力を持った人々はいるが、彼女たちは都の仕事が忙しく、役割を変われる者など居ない。
何より程昱、郭嘉は南征に連れて行くし、荀彧は留守役として守りを固めてもらうのが常だ。
秋蘭の代わりに西羌に当てる武将、張既の不足を補える軍師、ねぇ・・・心当たりが無いでもないけど、と曹操は悩んでいた。


執務室で「どうしたものかしらね・・・」と考える曹操。
そんな時、運が良いのか悪いのか。
「おーい、華琳ー。入るぞー・・・」と、書簡やら木簡やらを大量に載せたお盆を持った公孫賛が入室してきた。
「ぐぬぬぬっ・・・おも、重いぃ・・・」
「・・・また、えらい量になってるわね。何よこれ?」
曹操の机の上に盆を「どずっ!」と置いた公孫賛はその場で溜息を尽きつつ崩れ落ちた。
「ぜはー、ぜはー・・・お前の大好きな春蘭のおかげでなぁ・・・なんでこんな間違いが多いんだ、あいつは?」
「・・・ああ。そういう事。道理でこの頃字が綺麗になったなぁ、とか間違いが少なくなったなと思ってたのだけど。貴方だったのね?」
「あーそうだ。秋蘭がいないせいで全~~~部! 私に回って来るんだよ! 「白蓮ーーー・・・」って泣きついて来るんだ、堪ったもんじゃないぞ、ホント・・・」
「とりあえず、座りなさいよ?」
「あー・・・」
曹操が座っている机の傍にある椅子にどっかりと座る公孫賛は、もう嫌・・・とばかりに再度溜息をついた。
夏侯惇は、はっきり言って書類仕事が大の苦手である。だが、将軍職としてそういった仕事をしない訳にはいかない。
その為、妹の夏侯淵があれこれと手伝ったりしていたのだが、今はその夏侯淵がいない。となると、夏侯惇としては頼れる人が公孫賛意外にいない、という事だ。
夏侯惇と仲の良い典韋も同じく書類仕事が苦手なので、全てのお鉢が公孫賛へと回ってくる。「やってもやっても終わらねええええっ」状態なのだ。
「私の仕事だけじゃなくて春蘭とかの仕事まで回ってくる・・・休む暇が、なぃぃ・・・」
「断ればいいじゃないの。」
「捨てられた子犬とか子猫のような目で見つめて来るんだぞ?」
「・・・・・・・・・。」
遠くを見つめる公孫賛。
夏侯惇がそんな目をするのを想像した曹操は「確かに、断れないかもね・・・」と、遠い所を見つめるのであった。

書簡を見ながらも、曹操は悩んでいた。
荊州が小さな被害で手に入ることを思えば、やはり兵を出すべきで、しかし夏侯淵の希望を聞いてやらないわけにも行かない。
静かに腕を撫している、というのは夏侯淵の望むところではないし、この辺りは姉に良く似ている。
苦楽を共にした功臣であり、此度の南征の最後の目的は孫家となる。西涼以上の華々しい会戦となるだろう。
彼女の代わりになるような武将など、そうはいない。いや、目の前にいるのだが。
夏侯惇が公孫賛に頼りっぱなし、というのは良くないし・・・少し引き離してみるか。
それに、だ。公孫賛は攻撃戦闘を得意としつつも防衛戦も得意と言う、他にはない汎用性がある。
最初に送り込むべきだったのかも、と反省しつつも曹操は話を切り出した。




「ねえ、白蓮。」
「ん? 何だよ?」
「この地獄から解放されたい?」
「ぜひお願いします!」
即答に「ぷっ」と噴出しつつ、曹操は言い続けた。
「北平の政務を今見ているのは沮授だったわね?」
「そうだけど・・・おい、引き抜きは止めてくれよ」
「違うわよ。その沮授以外に官吏はいる? いるとして、沮授無しでどれくらいの割合で北平の治世を維持できそう?」
「沮授以外だと関靖かな。沮授無しだと・・・んー。」
ちょっと迷ってから、公孫賛は6か7割くらいか。と応える。沮授と比べられては関靖が可哀想な気もするが、関靖が無能なわけではない。
「6か7ね、そう悪くないわ。あと、高覧と張郃以外の武将はいるのよね? もし付近で賊が横行していたら討伐できる?」
曹操は高覧・張郃の実力を高く評価している。さすがに韓遂相手では分が悪すぎた(夏侯惇ですら正攻法では勝てなかった)が、規格外の存在以外であれば彼らに勝てるような武将は多くない。
公孫賛も北方の烏丸相手に共に戦い抜いた家臣たちのことを思い浮かべ、指を折りながら数える。
「質問が多いなぁ。ええと、武将ならそこそこいるぞ。親族の越と範。単経、田楷、鄒丹。この中だと田楷が一番優れてるな。賊討伐くらいなら楽にこなせる連中だけど・・・なんだよ、やっぱ引き抜くつもりなのか!?」
「しないって言ってるでしょう。・・・ふん、これなら大丈夫ね。・・・白蓮!」
「ひゅいっ!? な、何だよ、急に大声出して」
「貴方と張郃・高覧。そして北平の沮授を呼び寄せなさい。貴方達には長安に赴任してもらうわ。代行として秋蘭の代わりに頑張ってね? あ、拒否権など無いわ。沮授がここに来るまでに準備をしなさい」
「え?」


・・・。


こんな事情で、長安の太守は早くも交代、公孫賛が代行として赴任することになってしまった。
なんでこんな事になるのかなぁ・・・と泣きそうな公孫賛であったが、拒否権の無い命令であればどうにもしようがない。
沮授が来るまで待ち、素直に長安に向かって夏侯淵からの引継ぎなどを終え、そして別れ際に少しだけ二人きりで話せる時間があった。
自分のわがままで長安に赴任させられた公孫賛に、夏侯淵は「すまん」と謝罪して、更に「お前なら大丈夫だ」と激励を受けた。
「別に怒ってはないけどさ。私なんかで大丈夫なのかなぁ」
「当然だ。華琳様はな、白馬義従を率いて烏丸との戦いで活躍したお前をきっちり評価してるんだぞ?」
「でもさぁ、私って周りに比べて秀でた所が無いし・・・不安だ・・・」
両手の人差し指をツンツンと合わせていじける公孫賛。だが、夏侯淵はそれを笑い飛ばす。
「ふふっ。白蓮。そこがお前の良い所なんだ。」
「へ?」
「むしろ、お前のような性格の人間が上にいる方が良いのさ。考えても見ろ、姉者が同じ立場で赴任してきたら、下の立場の者はどう思う。」
「・・・。うわ、すっごい不安だ・・・」
「うむ。私とて同じさ。冷静でいるつもりでも、どこか熱くなりがちだからな。自分の強さを過信して深追いしかねない。そこを行くとお前は違う。華琳様は、お前の実力を評価しているから長安に送り込んできたんだ。」
「そんな事無いと思うけど。秋蘭はちゃんと冷静だし、私と違って強いし、頭も良いし・・・」
マイナス思考な発言に「卑屈過ぎるぞ?」と夏侯淵は苦笑する。
「自分の力量を普通だと、周りに比べれば足りないと理解してその上で行動できる・・・我が陣営にはそういう手合いが余りに少ない。皆が皆優秀だからそこを過信してしまいがちだ。それにな、お前の統率力・武力は優秀な部類だ。自信を持ったほうが良い」
「そうかなぁ・・・」
「そうだとも・・・はは。お前はどこか高順に似ているよ。」
「高順? また懐かしい名前だ・・・元気にしてるのかな、あいつ。」
余りの忙しさに、忘れていた、と公孫賛は少し反省した。趙雲やあの3人娘、華雄達・・・皆元気でやってるだろうか。
「さぁ。その高順を攻撃したのが私達だから、心配をする資格は無いのだが、な。自分自身が思うより断然能力が高いのに、何故か自分に自信を持てない。それでいて、人を使い、或いは使われる能力がある。・・・おかしなものだよ」
私のわがままに付き合ってくれたお礼、いつかするからな。また酒でも呑もう。と夏侯淵は公孫賛の肩を優しく叩いて、鄴へと向かっていく。

「・・・本当、わがままだよな。振り回されるこっちの身にもなれって。」

そんな友人の後姿を見送り、公孫賛は一人ごちるのであった。








~~~楽屋裏~~~

なんで即興で思いついた話を話しにねじ込んでしまうのだろう、あいつです。(挨拶


いやぁ、花粉症→一日中寒い風に当たりつつ仕事→風邪 のコンボは強敵でしたね・・・
2日寝込んで有給無駄にするわ熱が収まらないわ・・・ムギグググ
なんかよく判りませんが、この話に更に別の作品が混じってカオスになる夢を見ました。
あれは・・・きつかった・・・(遠



さて、今回のお話。
寿春的日常? ですが・・・
いや、諸葛瑾さんとか出てくる予定無かったんですよ!? 
気がついたら居ただけです(ぁ
まあ、原作でも「諸葛亮が出て何で諸葛瑾出ないんだよ」くらいは思ってますけどねえ。



諸葛瑾さんで思い出しましたが、もう1人有名な諸葛姓として諸葛誕がいますね。他にも諸葛緒とか格とか喬とかいますけど・・・この中では格が一番有名か?

諸葛誕は魏に仕えて頭角を現し、最終的に破滅してしまいましたけど。
「蜀(諸葛亮)は其の竜を得、呉(諸葛瑾)は其の虎を得、 魏(諸葛誕)は其の狗を得た」という狗評価で割りとボロクソですが、無双6で出てきて「俺得じゃああああ」と大喜びした記憶があります(諸葛誕大好き
しかし、諸葛家の本流は誰にあったのでしょうね。どうも諸葛誕っぽいですけど・・・。
そうなると、父祖の地である瑯耶に残った諸葛誕に一番孝徳があり、その地を離れた諸葛瑾、その兄にすら付いて行かなかった諸葛亮・・・
孝徳と評価が真っ向というか真逆と言うか。面白い評価です。しかし、評価・孝徳関係無く、皆能力のある方々なのだと思います。


次数埋めに「劉備が曹操に敵対した理由って何だろう?」とか訳のわからないことを書こうとしましたが寒いので止めます(何
でも、本当によく判らないんだよなぁ、これ・・・

さて、PSPのFF4でもやるか。やっと外伝シナリオじゃああああ(ゲーム漬



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第102話。寿春的日常? その弐。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/04/06 23:15
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第102話。寿春的日常? その弐。

曹操は公孫賛と夏侯淵を交代させ、夏侯淵の帰還を待つ間に戦力を整えていた。
前回、つまり西涼との戦いで戦力を大幅に失いはしたが、主力部隊にはそれほどのダメージが無かったことと、練兵を終えた兵が随時投入されるということで10万ほどの兵力を仕立てていた。
これだけの戦力があれば、南北2つに分かれた荊州制圧は容易いだろう。北さえ制すれば、南は勝手に自分の領地となり、兵力も損耗しない。それに荊州水軍も入手できる。
劉備を倒せばそれで南荊州まで傘下に入るのだから、楽は楽だ。
問題はその先にある孫家。これは劉備とは比べようの無い難敵だ。
荊州を制すれば、付き従う武将の数・質共には馬騰を相手にしたとき以上の布陣となるだろう。しかし、孫家との決戦は官渡と同じか、それ以上の会戦となる事が予想される。
だが、孫家さえ降せば天下統一も夢ではなくなる。今のこの大陸に、孫家を越える勢力は漢・・・いや、魏ぐらいしかない。
その魏が孫家を屈服させれば、そこからは苦労など無い。少なくとも、袁紹や馬騰以上に苦戦するような勢力などは無くなる。
ただし、戦と言うものは水物だ。絶対勝てるかどうかは解りはしない。自分が袁紹に勝利したときのように、まさかの大番狂わせだってある。
(さぁ、どうなるかしらねえ?)
曹操は政務室で出撃の日時を調整しつつ、これから先の戦いに思いを馳せた。

そして、劉備陣営。
こちらは曹操南下が現実のものになりつつあるという報告を受けて、どうするかの協議をしていた。
こうなると南荊州攻略どうこうの話ですらなく「一気に手を引いてしまうべきだ」という声と「いや、南を攻める手を緩めるべきではない」という声が出ている。
手を引く引かない、どちらにせよ南からの反撃はある。それに、曹操が攻め込んでくるまでに南を屈服させる手段は無い。
諸葛亮らは劉備に南の戦線を縮小し、逃げ場を作りつつも北側への迎撃体制を取ることを提案。その間、何とかして南方に逃げようと言う算段だ。
出来れば孫家との渡りもつけておきたいところだが、前に出した同盟打診の返事は来ていない。
劉備か劉琮か、有利な方へ助成しようというのか、それとも相手にされてないのか。これは半々といったところかな、と諸葛亮と龐統は読んでいる。
ともかく、逃げる準備だけはしておかなくてはならない。その為の駒は用意しているのだ。




曹操の動きだが、彼女は夏侯淵が帰還すると同時に南征の軍を興し、即時の南下を開始した。
まず戦力の一点集中を計り、元は劉備のいた新野を陥落せしめた。また、一時的に別働隊を組織して上傭(じょうよう)へ派遣。
益州への逃げ道を潰し自分達、つまり本隊は劉備・劉琦の在る襄陽(じょうよう)へと軍を進めた。
江夏は南荊州の連中に任せて良いし、荊州第一の都市襄陽を陥落させるほうが良いだろう。
このまま劉備が落ち延びても・・・まあ、南の連中が何とでもするだろう、と曹操は考えている。
もし孫家と合流されてもそれはそれで、くらいにしか思っていない。
これは劉備を侮っているのではなく、曹操が劉備と言う人間の器量を正確に把握していたためだ。
時代を動かすことは出来ても絶対勝者となり得ない。それが劉備の本質、と見切っていたのである。
判りやすく言えば「襄陽を制圧し、荊州を手にしたほうが」得な訳で、兵を出すのはそこからで良い。
劉備と孫家が組んだとしても、主に動くのは孫家で劉備は特に何もしないだろう。いや、火事場泥棒的にどこかで領地を切り取っているかもしれない。
そも、孫策に降伏勧告をしたとして従うはずが無いのだ。どちらにせよ交戦するのだから劉備如きが加わっても大差ない。余裕があれば追撃して見せよう、くらいだ。
そんな状況で、両軍の戦いはあっさりと幕を閉じた。いや、戦いそのものがほとんど発生しなかった。
曹操の大軍勢を見て「これは駄目だ」と劉備側の兵が多数脱走。劉備は戦う前から戦力を多数失ってしまったのである。
上傭もあっさりと降伏。援軍の無い篭城に意味などは無く、劉備には江夏に逃げ孫家に頼る以外の道はなかった。
こうなると劉備の動きは速い。完全に包囲される前に、と打って出た劉備軍は張飛・華雄・関羽を前面に押し出し、遁走。
手に入れた土地にも民にも執着せず、望みを繋ぐ為に生きる。劉備の強さはここにあった。


さて、結果だけを言うと襄陽は陥落。
劉備軍は江夏目指して遁走しており、曹操は直ぐにでも追撃を行う腹積もりである。
南荊州をも併合したことで、劉表が手塩にかけて編成した水軍や有能な官吏、数多の将兵を組み入れたことで仕事も増えているが、それは荊州の人に任せるつもりであった。
土地・人材。多くの物を得た曹操だが、ここ襄陽で、新たに一人の武将を迎え入れた。
その武将、名を劉封という。
まあ、襄陽陥落、といってもそこで小規模な衝突はあった。
見捨てられ戦力のない襄陽に入城しようとした曹操軍に、100人程度の小部隊が強襲。
小部隊と言っても装備も不ぞろいな農民兵で、それ自体はすぐに鎮圧。
曹操側としても、黄巾のような反乱兵であればともかく・・・
おそらくは襄陽の民である彼らを全員斬り捨てるのは気が引けたらしく、取り押さえて鎮めている。
その間、先頭を駆けていた劉封と、曹操の先鋒であった夏侯惇が激しい取っ組み合いを演じていたのだが。

夏侯惇は最初「な、劉備!?」と驚いていたが、それほど劉封と劉備は良く似ていた。直ぐに別人と気づいて斬り捨てようとしたのだが、そう簡単にはいかなかった。
最初は剣の打ち合い。夏侯惇が優勢であったものの、それでも劉封はよく耐えて夏侯惇を感嘆させている。
最後はお互いに剣を捨てての掴み合いだったが、こちらで夏侯惇は負けそうになっている。
負けて堪るか! と、夏侯惇は劉封の胸を揉んで、彼女が「ふにゃぁ!?」と怯んだ隙に頭部へ一撃、ノックアウトして勝負がついた。
力が抜けるというか、なんというか良く判らない戦いだったが、当然のように曹操の元に引き出されている。

曹操の陣幕にて。

縄で縛られた劉封は、夏侯惇に連行されて曹操の陣幕にいた。ここにいるのはは曹操・夏侯姉妹・郭嘉・程昱等・・・主要な人物ばかりである。
縛り方が悪かったのか、随分胸が強調されるような格好だ。(後で聞いてみると夏侯淵が縛り上げたらしい
ともかく、曹操が劉封を見たときの反応は夏侯惇のそれとほぼ同等である。
胸の大きさは僅かに及ばないし、どこか芋臭いというか・・・田舎者のような印象はあったが、それ以外は瓜二つと言って良い。

・・・好みだわ。じゃなくて、まずは尋問・・・と、曹操は出そうになった涎を慌てて隠した。
「あなた、名前は?」
「おら、劉封だ」
お、おら? と聞き返す曹操。
「? おら、って何かおかしいべか?」
「い、いえ。そうじゃないわ。あなた、どこかの農民なの?」
「そうだべ。よく判んねっけど、劉備様に似てるって事で影武者兼武将になってくれって頼まれただよ」
「影武者と武将、ね・・・確かに良く似てるもの。言葉遣いはちょっと違うけど。あと、武力も桁違いね。」
で、何故影武者に? という質問に、劉封は素直に話し始めた。
「おらのおっ父とおっ母がたぁくさん、お金貰ってただよ。で、おら・・・良く判んねーけど「これから劉備様に仕えるんじゃ!」って家追い出されただ」
「・・・お、追い出された・・・」
それって、要するに人身売買の類なんじゃ・・・? と曹操はげんなりした。この時代であればそう珍しくは無いが、彼女はそういう制度を嫌っている。
「あなた、嫌じゃなかったの?」
「嫌も何もなかっただーよ。それに、あのお金で両親が楽できるんなら、それでええだ。」
「楽・・・あなたの親はあなたをお金で売ったのよ?」
尋問のはずが、微妙に身の上話相談になってる感じがするが気のせいである。
「それでも構わないだ。親孝行できたと思えばそれでいいべ」
「そ、そう。」
はっきりと言いきる劉封に、曹操は少し困ったような笑顔で答えた。
(最初は戦意高揚とかで適当に処刑しようかとも思ったのだけど・・・うぅ、なんだか気の毒だわ。)
一応、曹操は質問を続けることにした。どう処遇するか、半ば決まった心を隠したまま。
「ねえ、劉封。あなた、劉備に見捨てられたのだけど・・・どうして、それでも戦おうとしたのかしら」
「うう・・・やっぱ見捨てられてただか。兵がだぁーれも居なかったからそんな気はしてただどもぉ」
「気付いてたのね。なら、尚更何故? 篭城していたほうが時間を稼げたでしょうし、完全包囲していたわけじゃないのだから逃げる事だって出来たはずよ?」
この質問に、劉封は毅然として答える。
「見捨てられても、おらは影武者で武将だ。給金もあったし、ちゃぁんと仕事しねぇと。街ん中で戦ったら周りの人に迷惑かかるし・・・でも、これでお役御免だなや」
ほれ、と劉封は頭を垂れた。
「・・・。それは何のつもり?」
「こーいう時って、一番上、責任者とかの武将が首差し出せば丸く収まるって聞いたべ? おらの首やるだで、街の人達とおらについてきた皆の命、助けてくんろ。そんな価値のある首とは自分でも思えんけどなぁ」
ほれ、持ってくだよ。と劉封は目を閉じた。
それを見て、曹操はまたも困った表情で傍らの軍師・・・郭嘉と程昱へと顔を向けた。
「どうする?」
「どうする、と申されましても・・・困りますね。」
「助けてあげれば良いのではないですかねー。風はこの人のこと気に入ったのですよー」
郭嘉も程昱も、曹操がどうするつもりなのか知っていて、適当な事を言う。
曹操は、ふぅ、と溜息をついてから「じゃ、条件を出すわ」と言いだした。
劉封は「じょうけん?」と曹操を見る。
「さっき、あなたが願った通り。街を破壊したりしないし、住民にも危害を加えない。もちろん、あなたに付いて来た兵士も殺さない。」
「え、ほんとだか?」
「ええ、私は嘘はつかないわ。その代わり・・・」
「代わり?」
これからは私に仕えなさい。それが条件よ。

曹操は、にっこりと笑ってそんな事を言うのだった。


曹操が劉封を武将としたのは、外見もだが、性格的な面を気に入り、そして見込んだからだ。
見捨てられていると半ば判っていても、自分に与えられた役割を全うしようと、かつ住民に危害を出さないように、と動いたのだ。
斬り込んで来たのも、最初からそれを嘆願しようとしたのか・・それが・狙いだったのかもしれない。
ともかく、変に律儀な面を気に入ったのである。こういう人間は、期待をして目をかけてやれば、その期待にちゃんと応えようとする。
こちらが与えた以上の働きで返そうとする、という性質なのである。
劉備たちはそれを見抜けなかったのか、それともこの戦いで初めて劉封の性質が表面に出てきたのか。
それは判らないが、こういう人材を捨ててしまったのは劉備にとって痛手で自分にとっては利益であろう。
彼女を捨石にする、という劉備の判断が正しいかどうかは判らない。
殿軍であれば一番信用できて兵も自分も生還させる能力をもつ者・・・劉備にとっては関羽あたりだが、それを残しただろう。
なら、捨石はと言えば・・・それほど信用しておらず、仕えて日が浅い。いなくても然程困らないという人物が残されやすい。
それを捨石にすることで1日2日の時間を稼げたのだから、劉備にとっては貴重な稼ぎにはなったのだろうが。

曹操は劉封を夏侯淵に預け、一部隊の隊長として厚遇。また、襄陽を傘下に治めて直ぐに「求賢令」を発している。
「家柄や過去には拘りはしない。才能があり、最低限の人格を持ち合わせていればどんな出自の者でも構わない。この曹孟徳が使いこなして見せよう。心当たりがあればいくらでも推挙しなさい」というものだ。
劉封は元々敵であり農民であったが、夏侯惇に喰らいつく武勇を、才能を示した。だから私はそれを惜しんで部将として抜擢した。だから荊州の緒人も遠慮する必要はない。我こそはと思うものはいくらでも私の元へ来なさい。
そんなアピールと実益を兼ねた「求賢令」に、劉備に背を向けた荊州知識人が注目し、次々に曹操へと投じて行った。
劉備のように、悪く言ってしまうと何処の馬の骨かわからない人よりも、前漢の高祖に仕えた夏侯嬰、そして血の繋がりは無くとも、同じく高祖に仕えた曹参の末裔である曹操のほうが評判は高いのだ。

夏侯淵の下で働く事となった劉封だが、彼女は曹操に忠義を誓い生涯裏切る事は無かった。
曹操も彼女に目をかけ、また好みのタイプだったので愛人の一人にして、夏侯姉妹とまでは行かずとも要職を与えて報いている。





ここからちょっとぇろがあるよ!(またか





~~~これよし少し前、寿春、高順宅~~~


高順は寿春の自邸に居た。
本来なら南中か交趾に帰還するべきなのだが、馬騰一家の事もあるし、曹操南下が現実味を帯びてきたので寿春に留まるように命令をされていた。
かといって自分から登城はせず、孫権に「手合わせをしてくれ」と頼まれたり、呼ばれたときだけ行くようにして、残りは自己鍛錬やら警邏やらを行うに留めている。
孫策も特に登城を強要することも無く、そっとしているようだ。
これは、そんな時期のお話。

「たいしょー!」
「ん・・・?」
高順の部屋に、周倉が乗り込んできた。
別に何かあった訳ではないのだが、どうも暇を持て余しているらしい。
「大将、今日は暇だよな? 俺と一緒に野駆けに行こうぜ!」
「野駆け?」
山野を回って遊ぶのが野駆けだが、周倉の場合は遊ぶというより鍛錬である。付近に大きな山は無いが、野原なり河原なり、そういう場所はいくらでもある。
そこで走りこんだり、ゲリラ戦闘の訓練やらをしよう、という提案だ。
高順も「上党にいた頃、山岳騎兵としての訓練の為に山に篭ったりしたなぁ」と感慨深そうである。
「なー、良いだろ? 皆他の奴と訓練やってるしさぁ。」
「そうだねぇ・・・たまには良いか。よし、行くか。」
高順の返事に、周倉は「やりぃっ!」と大喜びである。
ところで、と高順は周倉の格好を見てゴホン、と咳払いをする。
「お? 何だ?」
「その服装、なんとかならんの・・・?」
服装? と周倉は自分の体を見回した。
胸は布で縛り上げ下乳が見えている状態。
下はカットアウトとまでは言わないが、けっこう大胆な切れ込みのショートパンツらしきもの。更に、服の下には鎖帷子なのか全身網タイツなのか良く判らない何か。
とにかく、かなり際どい服装なのである。
元々ないすばでーな周倉だが、この服装がそれに拍車をかけてしまっていて流石に高順も落ち着かない。
当初は山賊っぽいボロボロの服だったが、それでは不味いだろ・・・と、高順に注意され、その結果がこの服装であった。
「何かおかしいのか? これ」
「いや、その・・・なんつーか、肌の露出がだなぁ」
問題があるのか? と良く判っていない周倉だが、肌の露出云々で「はは~ん・・・」とニヤケだす。
「なんだよ、知らねー仲じゃあるまいに。なんなら裸のほうが良かったかぁ?」
「お、おいっ」
「なはは、じょーだんじょーだん! ほら、いいからさっと用意しようぜ!」
周倉は笑って、高順の背中をバンバンと叩いた。

半刻後、城外に向かう高順と周倉だが・・・。
「・・・。なぁ、周倉。」
「んー?」
「お前、なにその荷物?」
高順は周倉が肩にかけているズタ袋を指差した。
「これ? 着替えとか布とか水筒とか燻製肉。腹が減るかもしれないからな。大将の分もあるから大丈夫だ!」
「あぁ、そう・・・いや、随分な量だと思ったからさ。」
「なはは、大将のもあるんだからこれくらい多くなるって。ほらほら」
「お、おう」
周倉に背を押され、高順はわたわたと歩いていく。


~~~数刻後~~~

「ぜはー・・・ぜはぁ・・・」
「ほい、これで俺の15連勝な(ぺたぺた」
「むぅぅぅ・・・」
周倉は墨で高順の顔に「正」の字の3つ目を書いていた。
負けたら一筆、で高順が15回負けたらしい。
「うぅぅ・・・周倉、強すぎる」
「いぁ、大将が弱いんだって・・・なんであっさりこっちの手に引っかかるかなぁ」
河原に程近い森で、高順と周倉は追いかけっこをしていた。
追いかけっこ、と言っても普通のではない。罠だろうが何だろうが、全てを駆使して捕まえあう、という・・・まぁ、ゲリラ戦に近いものだ。
「お前に全力で逃げられたら文字通り手も足も届かないんだが」
「だから罠アリっつったじゃんよ。まぁ、正攻法でも俺が勝っちゃったけど・・・うーん。」
周倉は腕組みをして考える。
「大将ってさぁ、実は個人戦そこまで強くなかったりする? いぁ、普通に比べりゃ十分強いんだけどさぁ」
「・・・すいません、弱くてごめんなさい」
ションボリして嘆く高順に、周倉は「いや、謝らんでもいーけどさ」と頭を掻いた。
「楽の字(楽進)との組み手で鎧つけたままで、あの拳撃に対応できてんだから弱いはずねーんだよなぁ・・・」
時々によって調子違うのかね? と周倉はじっと考え込んでいた。
これは、割と正解だったりする。高順は決して弱くは無いが、その時の精神状態で強さに差が出ることが多い。
反董卓連合時に挙行した奇襲・斬り込み等は高揚していたので実力を出せていたが、命のかかっていない鍛錬などでは今ひとつ調子が出にくい事がある。
本人は本気で望んでいるし手を抜いたりしているわけでもないが・・・これはどうしようもない事だった。
「指揮能力はダントツなのになぁ。」
「うっさい」
「なはは。さって、そろそろ飯にするか。どっかそこらへんに河あったからさ、そこで火を起こそうぜ」
「釣りでもするか?」
「いいねー・・・って言いたい所だけど竿がねーしな。あと、大将の顔拭かねーと駄目だろ」
「むぅ」
二人は並んで歩き出す。
すぐ到着したが、川原のある箇所。墓のつもりだろうか大きな石が置いてあった。
高順はその前まで歩いて行きしゃがみ込む。名前でも彫られてないかな? と確認しているが、何が彫られてるでもなく、結局は判らなかった。
「何だろ、誰かの墓かな。」
「墓ぁ? こんな場所にねぇ」
「・・・まあ、何にせよここで騒ぐのは止めたほうがいいな。ちょっと場所を変えよう」
「あいよぅ」
後に知ったことだが、この墓は孫堅の墓だったそうだ。


「ほれ、じっとしてー」
座っている高順の前で周倉は前かがみになって、墨で汚れた高順の顔を濡れた布で拭いていた。
前かがみになっているせいで、周倉の胸の谷間が見えてしまい、しかも周倉の動きに合わせてたゆたゆと揺れている。
訓練でも思っていたが、周倉が走ったりすると、彼女の見事な乳房が揺れ、男としてどうしてもそこに反応してしまう。
挑戦的に「つん」と上向きな(以下略)
こんなものを見せられている高順が赤面していることに周倉は気付いていたが、とりあえず気付かない振りはしておいた。
(慣れてる筈なのに、ほんとこういうのに免疫ないよなぁ、大将は)
よし、ちっとからかってみっか、と周倉は意地の悪い事を考えて実行し始めた。
「おーし、んじゃ大将。服脱げ」
「は!?」
「は、じゃねーって。汗かいてんだからそれを拭くって事だよ。それそれ」
「いやそれは自分でやるってば!」
「却下。15連敗したんだから偉そうな事は言わせないぜー♪」
「いやあああああ!?(脱がされ」


ぴんぽんぱんぽーん(館内放送


皆様、本日は【習作(以下略)】をご覧頂きまことにアリガトウゴザイマス。
大変申し訳ありませんが、ここから先は周倉が調子に乗りすぎて【性的な意味で】反撃されたり、高順くんがベッドヤクザ(??)気味な性格であることが判明したり、隠語満載で色々AREな展開になってしまい閲覧できません。
またのお越しをお待ちしております。

ぴんぽんぱんぽーん。




「はぁぁ・・・」
途中で腰を抜かしてしまった周倉は、高順に背負われて移動していた。
「ったくもぅ・・・大将があそこまで強気攻めになるなんて」
「あれはそっちが悪いんだっ」
周倉の言葉に反論する高順だが、ちょっとばかり分が悪い。
「おいおい、ひでーぜ大将。下着着用禁止とか【規制するしかないよ!】とか言い出してさぁ。まだ【規制せざるを得ない!】してるし、今日の夜も俺を予約とか。」
俺も俺で言うこと聞いちまってるしさぁ・・・と心中でぼやいて、すーすーする下半身を気にする周倉。【だから規制強化だよ!】で、白【アグネス】が滴り落ちそうになっている。
これに対して「え、俺そんな事言った?」と、顔面蒼白になる高順。
「言った! て訳で、きっちり夜は時間空けておけよな!」
「うぅう・・・俺、死ぬかも」
「・・・・・・・・・死にそうになってるのは俺のほうだよ、ったく。この色好みの大将は・・・」
はぁ~・・・と溜息をつく周倉だが、その癖高順の背中からは降りようとしない。
むしろ、広い高順の背中に甘えかかっているように見えた。
その広い背中に背負われつつ、周倉は先ほどまでの事を思い出している。
(しかし・・・えらく燃えてたよな、今日の大将。服のせいか? ん~~~・・・ま、いいか。それよりも、いいようにヤられちまったしなぁ・・・見てろよぅ・・・?)
とか言いつつも結局、夜のほうの運動でもいいようにヤられてしまう周倉であった。

後日、更に大胆な切れ込みのデニムパンツ、下着に黒のハイレグやTバック。あと少しで胸が丸見えになるくらい大胆な胸布を購入して「・・・買ったは良いけどどうすっかなぁ、これ」と自室で悩む周倉の姿があったとか。



周倉さんが少しだけ服装に気を使うつもりになったようです。
ただし変な方向に。






数日後。
劉備は襄陽を脱出するよりも前に、孫策に伝令と一通の書状を出していた。

手紙の内容意訳「曹操が南下してきました、助けてー」

この報せが届いたことで孫策は曹操との対決が近づいていることを確信。素早く動き始めた。




~~~楽屋裏~~~

なんで劉封が!? あいつです(挨拶
今回も幕間みたいな感じでした。ほとんど出番の無い周倉さんを出したらまたしてもぇろすの香り。どうしてこうなるんだ。

さて、なんで劉封が出たのでしょうね・・・よくわからんうちに出てました。あいつが話を書いてると知らんうちに知らん人が出ています(ぉ
正史・演義とは運命が変わった劉封でしたが、劉備にポイ捨てされた事実は変わりませんでした。こんなだから劉備が嫌な奴と思われるのですが・・・
事実だから仕方が無い。

いや、恋姫の劉備はここまで酷くないですよ!? ただあいつが悪意アリアリなだけで(ぉぉぉぉ

求賢令が出たのは210年頃らしいのでちょいと時間がずれてます。
ま、赤壁以前に西涼討伐戦が出たので今更ですよね?w

あと、原作でも孫堅の墓はありましたが、なんで寿春にあるんでしょうかねぇ?
死因は落石or矢で射抜かれた だったと思いますが、黄祖の身柄と引き換えに遺体を返してもらった話があるので、やっぱり矢のほうなのでしょうか。
落石で潰れてたら返還できなかったでしょうし。

あとは・・・高順君の立ち位置って、呂岱っぽいですな。士燮と足して9で割ったくらいの(弱



さて、次は長坂橋とかになるのかな?
趙雲いないから一騎駆けは無さそうです。

それではまた次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第103話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/04/12 21:47
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第103話。


「と、言うわけで貴方に行ってほしいのよ」
「いや、何が「というわけ」なのか・・・」


寿春、太守の間。
ここには孫策、周喩を初めとした孫家の主将、馬家・高順一党など、主要な面々が勢揃いしていた。
集まった理由は・・・
劉備が敗走し、曹操が荊州を制した。この情報が入ってから直ぐに、孫策と周喩は協議を重ね「劉備を支援する」事にしたのである。
馬騰を初め、孫権らも反対。高順も反対しようとしたが「華雄姐さんがいるからなぁ・・・」と、表立っての意見がしにくい立場であった。
「大体、孫家単独でも曹操と争うことは可能でしょう。何故劉備の手を借りる必要があるのです?」
馬騰のこの意見に周喩も「尤もです」と応対しながらも理由を話し始めた。
「まず、劉備は江夏に逃げるでしょう。そして我々に助けを求めています。我々には助ける理由も義理もありませんが。」
「それが解っていて・・・何故?」
「孫権殿。劉備が孫家を利用しようとしているのは良いですね?」
「え? え、ええ・・・」
「我々は、確かに単独で曹操と戦えます。ですが、まだはっきりと戦うという意思表示は出していません。そして、曹操の狙いは明白ですが、向こうも孫家と戦うという意思表示もしておりません」
「え・・・?」
「現状ではあくまで曹操と劉備の戦いなのです。となれば、劉備がどんな理由で助けを求めてきたのか?」
「・・・。孫家を、巻き込みたい?」
ええ、と頷く周喩。彼女は間違ったことは言っていない。開戦の意思はあるが、それを孫家という勢力は何処にも表明してはいないのだ。
曹操にしても同じ事で、そのつもりではあってもただ「南征」という曖昧な表現のみを使っている。
「我々を巻き込み、曹操との戦いに利用し、自分達は・・・そうですね。南荊州辺りに攻め込んで地盤としたい。劉備の思惑としてはそんな所でしょう」
「軍師殿。それを解っていて、それでも劉備を助けると・・・?」
甘寧の言葉に、周喩は「ふっ」と笑う。
「だから、利用し返してやるのさ。」
『???』
「奴らは南荊州を攻めたい。だが、それには戦力が要る。最低でも2万か3万くらいの兵がな。そして、今現在・・・というか、江夏ではそれだけの戦力を保有していると私は見る。」
「私達を盾としようとするなら、逆に盾にしてやる、ですねぇ~。」
「盟を結んだとて、こちらが向こうの要請に乗ってやるという形になりますね。立場の上下で言えば、孫家が上。こちらの要請に劉備殿は逆らえない筈です」
周喩の言に乗るかのように陸遜と呂蒙、孫策も続く。
「あいつらが戦力を隠しているのならそれを理由に滅ぼしてもいーのよ。素直に従うのなら、南荊州の一郡や二郡くらいくれてやるわ。曹操への盾として、ね」
これらの言葉に、武将たちは顔を合わせる。
「他の狙いもあるさ。一応、我々としては戦う意思がある。しかしながら、この意思が一致しているわけではない。主戦・非戦に意見が分かれている。」
特に、孫暠様一派が厄介でな・・・と周喩は溜息をついた。
「ふむ、だから自分たちは巻き込まれる形であっても戦うしかない、仕方ないから戦う、という方面に持って行き、なし崩し的であれ意見一致を図る・・・ですね?」
「そうです、馬騰殿。貴女や高順にとっては劉備は気に入らない存在でしょうが、曹操と戦う事には反対いたしますまい? 巻き込まれた、ならば漢王朝に対して積極的に敵対したという形にはなりません。どんなに弱い理由といえ、理由の1つくらいにはなるのですよ」
「・・・成程。気持ちとしてはそう思い込めれば楽ですね。ならば、私は軍師殿に従いましょう。」
「ありがとうございます。他の者はどうか? 意見が有るのならば忌憚なく言ってくれ」
周喩は集った面々の顔を見渡して言う。そこで、高順が手を挙げた。
「高順。意見を聞こう。」
「俺としては反対したいところですが・・・ま、良しとします。それで? 誰が話を付けに行くのです。それに、劉備が曹操に追いつかれている事だって考慮するべきですよ」
「既に人選は決めてあるさ。話を付けるのは魯粛。部隊を率いるのは高順、お前だ。」
「・・・」
「・・・。」
「・・・・・・」
「・・・? 何だ?」
「・・・e? oreですか?」
「ああ。お前だ」
頷く周喩。それに対して高順は全力で頭を振った。
「・・・い、嫌ですよ絶対! 何で俺? 何で俺なの!?」
「大事なことかも知れんが何度も言うな。・・・考えても見ろ。孫家で一番機動力がある部隊は? そしてそれを率いるのは?」
「高順よね。」
高順が答える前に、孫策が答えた。
「あの」
「馬騰殿と、西涼軍は使うわけには行かん。同盟者を使いに出すわけが無いし、馬騰殿も嫌がる。船? 既に軍船として使える船は収集をかけて集めている。一隻でも無駄にはできん」
いきなり選択肢を潰されている高順である。
「と、言うわけで貴方に行ってほしいのよ」
「いや、何が「というわけ」なのか・・・」
うう、選択の余地無しか・・・と高順はがっくりと肩を落とした。
「意味が無い訳ではないのさ。「助けてやった」という貸しを作ることに十分意味がある。それは理解してくれるだろう?」
「それは、まぁ。」
「我々の手札で強力な一枚を切った。高順隊という孫家に於ける最強の陸戦力を場に出した、という事を教えてやれば良い。それだけ孫家は劉備の力を評価して結ぼうとしている、と誤解させてやれ。」
「誤解か・・・周喩殿も人が悪いですね」
「ふ、そうでなければ軍師などやってられんさ。・・・頼めるな?」
頼めるも何も断れる空気じゃないでしょうに、と嫌そうにぼやいてから、高順は「解りましたよ、行けばいいんでしょ」と投げやりに答えた。
「すまんな、お前にとっても因縁のある相手だが・・・お前の部隊全員を連れて行ってくれ。劉備と揉め事は起こすなよ」
「無理。」
颯爽と言い切る高順であった。


~~~後日~~~


昨夜、馬超が「私も付いて行きたい!」と駄々をこね出したが、未だ騎馬隊の練兵が済んでおらず、それは却下された。
味方として共に肩を並べて戦いたいという願望があったようだが、母親である馬騰に諌められて「次の機会に」という事になってしまった。
彼女は出立時に見送りに来てくれて「絶対帰って来いよ! 約束だからな!」とエールも送ってくれたのだが・・・
高順の頭上を、大量のカラスの群れが飛び去っていき、いきなり嫌な予感満々であった。

高順と共に行くのは趙雲・楽進・沙摩柯・周倉。それに兵士6千弱と魯粛である。
「いやー、頼むぜ、旦那!」
「ああ、うん・・・ま、何とかなるよ、きっと・・・」
魯粛に肩をバムバムと叩かれ、高順はやる気のなさそうな声で応対した。
「つうても、俺の馬術じゃ皆さんにゃ付いて行けんよ。手加減してくれよな?」
「手加減できるもんじゃないと思うけどな。急いで行け、みたいな感じだし。」
こんな軽口を叩きつつ彼らは江夏へ。

昼夜兼行で高順隊は疾走して行く。
途中で江夏に立ち寄るも、劉備らは到着していなかった。仕方なくそのまま通過。



その頃の劉備。

彼女達は、心ならずも民衆を曹操軍への盾とする事で逃亡している。
荷物を持った民衆と馬に乗った劉備が同等の速度で進むことは出来ない。どうしても劉備のほうが足が速いからだ。
かと言って、歩測を緩めることも出来ない。劉備が先頭で逃げないと話にならず、また曹操が民衆に対して攻撃をしない保障も無い。
劉備は民衆を犠牲にしてしまっている結果に、泣きつつも前を見据えて進んで行く。
劉備に付き従うのは・・・武将は関羽や陳到、そして諸葛亮を初めとした文官連である。呂布と陳宮もいるが、彼女達はここでは特に働きが無い。
武将の中には張済・張繡兄弟もいるが、どちらかと言えば彼らは董卓の護衛官のような扱いである。
いないのは張飛と華雄(と徐栄)のみである。
これらは2百ほどの騎兵と共に、長坂橋を未だに越えていない民衆の守備に当たっている。
先行している劉備と、後続の張飛とで随分と距離が離れてしまっているが、この後続は老人や子供といった長旅をするには些か辛い集団だ。
それら両方を守らなくてはならない。だから余計に足が遅いのだが・・・
そんな劉備軍だが、先頭を進む劉備とその近臣は自分達に向かって進んでくる一団を発見していた。
「あれって・・・何、かな。」
劉備が指差す方向を見て、関羽が目を細める。砂塵が舞っており、こちらに何かが近づいているのが解る。
あの早さから考えて騎馬隊だろう。
「あれは・・・」
「て、敵でしゅか? でも、回り込まれるような状況では」
背の低い諸葛亮には見えていないようだが、曹操に先回りされたとは考えにくい。
そうなると、孫策さんの・・・? と思考を速めて行く。
「恐らくは、だな。しかし、敵対するかどうかの意思表示はまだだ。戦闘態勢はできているな」
「は、はぃっ!」
慌しく命令を飛ばしていく諸葛亮に対し、関羽は冷静に向かってくる一団へと目をこらす。
そして、先頭にいる黒紫の鎧を身を纏った武者の姿が見えた。
北平で、反董卓連合で、徐州で。見覚えがあった、いや、忘れようの無い姿。
「高順・・・まさか、あの男が!?」
「ははわわわわっっ!?」
徐州での「アレ」を思い出したのか、高順の名を聞いた瞬間に諸葛亮が悲鳴を上げた。


~~~時間経過~~~

劉備はどこか引きつったような笑顔で、高順達を迎えていた。
下手な対応をすればいきなり攻撃されることもあり得るし、その高順が孫家からの救援部隊である事も理由で無礼な態度は禁物。
どちらも騎乗したままである。本来、相手が格上である場合は先に下馬して拱手するなりして礼儀を示すのが一般的だ。
だが、高順は馬から下りようという意思を欠片も見せない。
もしも相手が公孫賛や張燕なら、高順は自分から馬を降りて礼節を示しただろう。敵となってしまった曹操は無理として、董卓や呂布でもそれなりの礼儀は見せていた筈だ。
例えば公孫賛や張燕などは、事情があって身を寄せたという形だったが、一時的にでも間違いなく主君であった。
僅か一日でも、曹操は高順の主君であったし、董卓・呂布も同じだ。
しかし、劉備に対しては頭を下げる理由が無い。どう考えても立場が上の孫家、その孫家に仕えて救援としてやって来た高順。
この状態でどちらが上か、というのは微妙な線であるが、少なくとも高順は現在の劉備にはこの対応で良いだろうと思っている。
というか、交州全域を自身の領地としている高順と、未だ充てもなく彷徨っている劉備のどちらが上か、などは議論する意味すらない。
高順は自分からそんな事を言うつもりは無いし、聞かれもしないから黙っているだけだ。
魯粛が交渉をする際にそんな話が出るかもしれないが、それはそれで別に構わない。
この高順の態度に、魯粛は何も言わないし趙雲達も同様だ。むしろ、ここで高順が下手に出たら魯粛どころか趙雲に叱られるだろう。
諸葛亮も龐統も、高順が馬から降りない事には不満はあったようだが救援されている自分達では分が悪い・・・と思って黙っていることにしたようだ。

「そういう訳でな。あんたらを救援してこい、だとさ」
「あ、あはは・・・ありがとうございます。孫策さんに仕えてたんだ・・・」
「うん。あと実際の話し合いは・・・こっちの魯粛がやる。」
そう言って高順は魯粛へと視線をやり、劉備も魯粛を見やって「はぁ・・・。」と気の無い返事をした。
「ともかく、江夏まで退くんだな。それまでは協力しておこう。話の内容次第では・・・まだ解らんからな。」
兜の下からでは解りにくいが、劉備は高順に睨まれている気がしていた。
話し方自体は穏やかだが、自分に対して敵対意識を向けている感じだ。徐州での顛末を考えればそれも致し方ない。
江夏までは同道する、と高順隊は馬首を返して進み始めた。
劉備は「とりあえず、孫家に渡りをつける事が出来そうだね」というところで満足しておく事にして、それに従おうとしたが「待ってくれ」と高順を押し留める者がいた。
関羽である。
「頼みがある。」との言葉に、再び体を向ける。
「聞く理由は無いが聞くだけは聞いてみようか?」
「ここから西・・・当陽の長坂に後続がいる。そこには張飛・華雄が200程度の兵で民を守っているのだが・・・」
「へぇ?」
華雄の名に、高順が僅かに反応を示した。
「皆の様子を見に行ってくれないだろうか。もし曹操に襲われているのなら、助けてやって欲しい。張飛は心配要らないと思うが華雄と民が心配だ・・・華雄も大切な仲間で友人だ。死なれたくは無い」
そう言って、関羽は高順に頭を下げた。
これを見て、周りの人々・・・劉備ですら「ええっ!?」と我が目を疑った。
あの誇り高く、人に頼み事をしたり頭を下げるのが苦手な関羽が、自ら頼み込み、頭を下げたのだから。
これに、高順はやれやれ、と頭を振った。
「はぁ・・・何で俺がそこまでせにゃならんのです。」
「う・・・」
「彼らは劉備殿に付いて来た民でしょう。俺が関羽殿の頼みをかなえる理由がありますか? 守るならあんた達が守ってください。」
「そ、そうだな。その通りだ・・・」
正論で返されてがっくりと肩を落とす関羽。(劉備も何もいえなかった
関羽も、行けるものなら自分で行きたいのだろう。
しかし、代わりに劉備を守る役割を果たせそうな部将がいない。陳到では力不足だし、張兄弟は董卓の身辺警護。
他に頼れる者がいない、というのが劉備軍のお寒い事情であった。
「・・・・・・」
誰もが無言となって、静寂が辺り一帯を支配する。
暫くして、高順は「はぁ~~~・・・」と溜息をついて方もう1度馬首を返し、関羽の横を通り過ぎた。
すれ違った時に「ま、生きてたら拾ってやる。民衆のことまでは責任取れないけど」と、一言だけ。
「高順、お前・・・」
「進撃します。遅れないようにね」
それだけ言って、高順は虹黒を駆けさせ、兵もそれに続いていく。
途中、隣を通り過ぎた趙雲も関羽に「いい目になったな」と言葉をかけて行った。

長坂へ進む高順の裾を「旦那、旦那」と魯粛引っ張る。
「何だよ?」
「いやぁ、まさか助けることにするなんてねぇ。恩を売ったつもりかい?」
魯粛の言葉に、高順は「嫌味は止めてくれ」と苦笑した。
「自分の為だよ。華雄姐さんを助けられたらそれで良い。他はさっき言ったとおり生きてたら拾う。こっちから曹操に喧嘩売る形だから良いかどうかはわからんけどね。」
「良いに決まってるさー。ほら、俺達「孫家」の旗使わないし、別に俺らが孫家ってばれてもいいし」
ここまで言われて「・・・ああ、そうか」と高順は得心した。
孫家が劉備に巻き込まれて開戦する以上はどうでも良いのだ、という事だ。
孫家の旗を立てずに行けば、曹操は高順がどちらに属しているか悩む。ばれたとしてどうと言うことはない。
曹操が孫家を放っておく事は無いのだし、ばれるのが遅いか速いかの違いでしかない。
周喩にしてもそこは折込み済みで、だから「交戦するな」という類のことは一言も言わなかったのである。
「それよりもな、お前は劉備と一緒に行っても良かったと思うんだが」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。俺みたいなか弱い羊さんが、あーんな怖い目したねーちゃんらに囲まれてたら貞操の危機! 自分の身を守る術がねぇもの。それになぁ」
「貞操っていう柄かよ・・・?」
「あの陥陣営の戦いを間近で見れるかもしれんからな。こっちのほうが興味ありありさね♪」
「そんなたいそうな事はしないよ。・・・なんだ、さすが魯家の狂児だな」
「お褒めの言葉だねぇ。ま、弓で撃つ位はやったるからさ。」
へいへい、とまたも苦笑して高順は前を見る。
彼らの進む先には長蛇の民衆が列を成し、高順隊を見て「何事だろう」といぶかしんでいる。
民衆は重い荷物を背負い、子の手を引き、老人を背負って劉備の後ろへと続いていく。
これを横目で見つつ、よくもこれだけの人数が付いてくるもんだ、と高順は改めて劉備の魔性とも言えるカリスマに感心し、そして更なる用心が必要だとも感じていた。


華雄が絡んでいなければ高順が関羽の依頼を断っていたかどうか? という話は断っていた可能性が高い。
与えられた役目はあくまで劉備の撤退の手伝いであって、劉備の指揮下に入って戦う事ではない。
趙雲ですら手伝おうと言い出さなかったのは、やはり高順の言うとおり「自分の民は自分で守れ」ということだ。


この間、張飛・華雄は長坂橋で民衆の守備に就いている。
張飛は民が渡り終えるのを待って橋を切り落とすつりだったが・・・曹操本人が軽騎兵5千を率いて長坂橋へと迫りつつあった。




~~~楽屋裏~~~

横山三国志の長坂橋はジャンプで渡れそうだったよね! あいつです(挨拶


というわけで長坂です。
本当は漢水の渡しとかが必要なんですけど、面倒なので省きます(は
夏口ではなく最初から江夏目指してるんで大丈夫・・・かな?
それと、船団を率いて云々、というのは本来なら関羽にするべきだったのでしょうが・・・これは(行ったとしたら)陳宮と呂布あたりがいったんではないでしょーか。
このお話では呂布は凄まじく燃費が悪い(食料的な意味で金くい虫)ので、劉備軍にとってはかなりの経済負担。
そもそも劉備には確固とした経済基盤が無いので、頭が痛い話なのでしょうな。

孫家は(今までは)明確に曹操に敵対意思見せてないのですね。
曹操に攻撃を仕掛ける=漢王朝に逆らう みたいなもんですが、劉備に吹き込まれ巻き込まれて開戦 のほうが名分としてはマシ・・・かな?
このお話での孫策・周喩は曹操には逆らいつつ漢王朝とはコンタクトを取る・・・というような路線で行くのでしょうね。
史実とは違って荊州占領で魏王になるのかもしれません(史実では漢中の張魯を降してから)

ふと思いましたが、実際の長坂橋ってどれくらいの規模だったのでしょうね?
蒼天やゲームなどではかなり大きい橋で、しかも崖レベルの高さでした。
横山氏の三国志では「あれ、守る必要ないくらい小さくね?」って感じで・・・歩いて渡れる程度の規模でした。
この話では前者の崖レベル採用しますがw

次回は高順くん(つうか虹黒?)と惇さんの戦いになりそうです。
これが終わったら・・・そろそろ孫策の暗殺イベントかなぁ?(ニヤリ




ちょっとお話が短いと思ったので・・・


~~~番外・張遼さん~~~

劉備を叩き、孫家と雌雄を決する為の南征。曹操は各地より将軍を集めて南へ攻め込むという。
この大戦に、小沛の守将である張遼と干禁は参戦していなかった。
理由は簡単。

「おぎゃあああああぁぁぁっ・・・!」
「あーよしよし、乳かー? それともおむつかー!?」

生まれた娘、張虎の世話の為だった。

まだまだ授乳を続けなければならない。
乳母に任せる、という選択肢もあったが「なんかあったら困るし!」ということで、最低限授乳期間が終わるまでは自分で面倒を見ることにした。
幸いにも、閻行も張虎の世話を見てくれるし、何より母親という子を育てた経験者である事が大きい。
干禁も「将来役立つから」と一緒に張虎の面倒を見てくれて、慣れない事に右往左往する張遼にとってはありがたい事だ。
・・・閻行が初孫である張虎にメロメロであり「うちの娘、閻行かーさんを母親と勘違いしたらどないしよ・・・?」と思うほどの可愛がりようで、ちょっとばかり不安ではある。
そうやって立派に母親(?)をしている時に「南征」「長安へ公孫賛が赴任」「西涼壊滅」という話が聞こえるようになってきた。
南征・公孫賛赴任の話は、曹操が発表して直ぐに話が来た為に早めに知ることが出来たが、西涼壊滅の報は知らなかった。
負けたのか勝ったのかよく判らない結果となってしまったし、これに関しては曹操が積極的に公表をせず、かといって話が広まるのを故意に押さえつけようとしたわけでもなく。
広がっていくことに関しては、どうでもいいよ、というスタンスである。
これを聞いた閻行は「まさか、あの二人に限って・・・」と信じようとしなかったが、独自に調べて真実であることを早期に突き止めた。
微妙に情報が錯綜していたものの、馬騰・馬超・馬岱は行方不明、他の韓遂含む主だった将も全て戦死したという話である。


~~~その時の閻行の反応、張遼宅にて~~~

「あ、あの・・・閻行さんが怖いのっ・・・」
「閻行かーさん、あの・・・ちょ、まぢで落ちつこ、な? な?」
「あら、干禁さん、張遼さん。私は冷静ですよ? 燃え盛る烈火の炎の如く、どこまでも。この炎は中原を燃やし尽くすまで止まることを知りませんウフフフフ・・・」
(むっさ怒ってはるー!?)
薄ら笑いで(何故か)戦装束に着替えた閻行を見て、干禁は全泣きでガクガクと震え、張遼も「え、閻行かーさん落ち着き!?」と必死に宥めていた。
「では、ちょっと行ってきますね?」
とか言いつつ、玄関へと向かっていく閻行。
「ど、どこにやねん? つかなんで完全武装!?」
「いえ、ちょっとそこまで」
「そこまで?」
「こう、曹操の首を「コキャリ」と♪」
「やめてぇぇぇーー!??」

左腕で頭を抱え、右手でへし折るようなジェスチャーをした義母を見て「あかん、この人なら本気でやりかねんし、つか成功しそうな気がする」と張遼は身震いした。
実際に手合わせして解ったが、閻行は本気で強い。が、さすがに呂布には敵わないだろうとは思う。ただし、呂布には弱点がある。
それは凄まじい燃費の悪さだ。とにかくすぐに空腹になり、空腹時だと本来の力の2割か3割くらいにまで能力が下がる。
爆発力は強大だが、それが持続しない、という弱点だ。
そこを行くと、閻行は燃費が良い。攻撃・防御に楽進同様に「気」を使うが、はっきり言ってこの人の攻撃には気など必要が無いのでは? と思ってしまう。
防御にだけ気を使用すれば、そもそも攻撃が当たらない。当たっても大抵弾かれる。手合わせのとき、張遼が本気で打ち込んだ堰月刀を素手で握って止めた時、どうすればええねん!? と張遼も泣き言を言ってしまったほどだ。
その上、本人の持久力・集中力も高く・・・体力の切れ目がないように感じる。
下手したら、一日中ずっと戦い続けても平気なんちゃう・・・? と思うほどの持久力で「これはうちでは勝てん。下手したら呂布でも敵わん」と認めざるを得ないほどの強さである。
これには「もう老いぼれていますからね。若い頃に比べれば弱くなりました」と閻行は言っているのだが、それが本当なら若い頃ドンだけ強かったんやろ? と張遼は空恐ろしくなった。
ともかく、閻行を行かせるわけには行かない。
この人に何かあったら高順にも申し訳が立たないし、何より自分達の、そして張虎の命にも関わる。
考えれば誰にでも解る事なのだが、頭に血が上りすぎた閻行はこの辺の考えがスッポリと抜け落ちていたようだった。
閻行は、止めようとしている干禁と張遼をずるずると引きずり家を出ようとする。
「止まってなのーーーー!!!」
「不味いって! ほんま不味いってぇー!」
「いえいえ、だいじょーぶ♪」
何が大丈夫なのかはよく解らないのだが、閻行はぶち切れつつも笑顔である。
もうどうしようもない、干禁と張遼が思ったその時。

「おぎゃあぁぁぁ、おぎゃぁぁぁぁぁっ・・・!」
「!!(猛然とダッシュする閻行」
「おぇ? ちょうkのわぁぁああぁあっ!?(引きずられる張遼」
「ぎょええええっ!(引きずられる干禁」
寝室で寝ていた張虎が目を覚まし、大声で泣き始めたのである。
泣き声が聞こえた瞬間、閻行はすぐさま寝室へと(二人を引きずって)走っていき、すぐさま張虎を抱き上げて「おぉ、よしよし。」と孫娘をあやし始める。
「どうしました張虎ちゃん? 何か怖い夢でも見ました? お腹が空きましたか? それとも、私達が大声で話してるのが怖かったのかなぁ?」
「うー、うぅぅぅ・・・」
「ああ、ほら泣かないで、ね? ほぉら、高いたかーい♪」
「・・・(にぱぁ」

今まで泣きじゃくっていたのに、閻行にあやされた途端にそれが止まり、笑顔になる。
張虎は赤ん坊で何が何だか解っていない筈だが、母親である張遼は当然、閻行にあやされても泣き止む。
それが上手く作用したらしかった。
閻行も初孫を溺愛しているし、今のように泣き声が聞こえただけでも様子を見に行く。
この後も、閻行がこっそり出かけようとする度に張虎が泣き喚く、というのを繰り返した為に閻行も「そうですね、孫を巻き込むことは出来ません・・・」と渋々諦めることにしたようだ。

こんな意外な形で決着するとは誰も思いはしなかったが・・・張遼は心底思うのである。
「張虎、ええ仕事したで!」
と。



~~~楽屋裏~~~
関羽の武力を100とすればこのSS呂布の武力は700くらい。あいつです(挨拶

・・・え? なに? 馬超さんとは子作りしないのかって?


もう終わったよ!! 話に上がってこないだけで!

てな訳で張遼さんの今、みたいな感じでした。
出てこないだけでお父さんもゲンキデスヨ?

また、話としては出ませんでしたが満寵も南征に行ってます。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第104話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/05/04 10:26
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第104話。

「ふむ。困った事になっているわね・・・」
軽騎兵5千に夏侯姉妹・郭嘉・程昱・満寵・劉封などを率いて出陣した曹操は、長坂橋で進撃を停止していた。
理由は2つ。
まず1つ目に民衆がいたからだ。
敵兵士を殺すことに躊躇いが無くても、民を虐殺することは流石に気が引ける。
劉封にも「民を大切にする」と約束しておいて、その目の前で民を殺すのは更に気が引ける。
もっとも、適当に馬を駆けさせて後ろから追い立てれば民は四散するだろう。
ただ、ここで2つ目の進撃できない理由が出てくる。
橋の前で、劉備軍一の猛将・・・張飛が蛇矛を担いで待ち構えていたからである。

「ここから先は絶対に通さないのだ! 燕人張飛の武、見たい奴はいつでもかかってこぉーい!!」
そう言って蛇矛を振り回す張飛に、実際に先鋒である曹純や夏侯傑が向かっていき、あっさり蹴散らされるか斬り死に。
同じく攻撃をした兵も返り討ちである。
矢を放てば叩き落され、夏侯惇が「よーし私が」と言って妹の夏侯淵に止められていたり。
今交戦を開始すると、橋を渡りきっていない民の方にも被害が出る。割と手出しできない状況になってしまっていた。
それに加えて、橋の向こうでは砂煙が舞っている。しかし、曹操はこれを「小細工ね」と一顧だにしていない。
アレを見れば普通に敵援軍・・・と思うところなのかもしれないが、曹操にこの手は通じなかった。


「おー、砂煙だっぺ。」
劉封を額に手を当て、目をこらす。
彼女は元々劉備軍に属しており、今回はその劉備軍が相手だ。
今まで仕えていた相手を追うのに、従軍させても大丈夫だろうか? という声もあったが、これは彼女の忠誠心を試す為でもある。
そして、彼女は気負うこともなく曹操と共に劉備の兵を追撃し、自身でも幾人かを討っていた。
ちなみに、今の彼女の軍装は劉備軍であった時代とはかなり違う。
まず、曹操軍の兵に支給されている鎧。ただし、色は違って白だ。
曹軍兵の鎧は基本的に濃い黒紫色。部隊長や将軍になれば別の鎧でも良いし、外見を変えても良いことになっている。
劉封は部隊長扱いであるが、兵の着用する鎧の色変えでしかない。
最初は「兵と同じで良いべー」と言っていたのだが、さすがにそれでは・・・という意見、それに見分けが付きにくいと言うことで色を変えて落ち着いたという話だ。
「そうね、あれは何だと思う?」
「砂煙は砂煙だべ?」
それはそうだけど、と曹操は笑う。素直と言うか何と言うか。
「そうじゃなくてね。あの砂煙の規模から見て、兵はどれくらい? という事」
「そういう意味だべか・・・んー、少ねぇべや、あれくらいなら200か300くらいじゃねーべ?」
この言葉に、曹操のみならず郭嘉も「ほぅ」と唸った。
「数が多けりゃもっと・・・砂の上がり方がちげーべ。あんな薄さじゃぁ、そう大した数いねぇんじゃねえかなぁ?」
「ふふ、劉封殿。良い読みです」
「ほぇ?」
郭嘉の言葉に、劉封はハテナ顔である。
「貴女の仰るとおり、数は少ないでしょう。こちらに対して「兵がいるぞ」と見せかけたいのでしょうが・・・本当に見せかけです。」
「そうですねー。最初から劉備さんに従ってる兵は少ないでしょうから。逃げている兵士さん全部合わせても3千か4千く、ら・・・い・・・。・・・ぐぅ」
「寝るなっ」
「おぉっ?」
郭嘉の前に座っている程昱だが、途中で眠ってしまった為に後ろからチョップを喰らって起こされた。
程昱は身長が低いので一人で馬を御せない。その為、郭嘉に同乗する格好となっている。
彼女らにとっては普通のやり取り(?)だが、これを見た劉封が郭嘉を非難する。
「おおぅ、郭嘉さん、そう簡単に人様の頭叩いちゃ駄目だっぺ? 寝る子は育つ、っつーし、もっと優しくしてやらにゃぁ」
「え? いや、しかし・・・」
「おー、おおー。さすが劉封さんは話のわかるいい女なのです。というわけで風はもうひとねむり・・・ぐぅ」
「だから寝るなっ(ぺち」
「おぉっ!?」
「叩くでねぇっ!」

こんな芝居をしているとは知らず、民衆の守備に就いていた華雄は「不味いかな・・・」と思い始めていた。
自軍の軍師2人の入れ知恵で、騎兵200を使って砂煙を上げての威嚇をしているのだが、どうも見破られているようだ。
「華雄様、どうなさいます・・・?」
「どうするって言ってもな・・・うーん」
部下であり、おなじく見破られていると感じている徐栄の言葉にも、反応の悪い華雄。
もし曹操軍が全力で攻め込んできたら守りきれない。かと言ってこちらから突撃するわけにも行かない。
しかも、援軍無し。完全に打つ手が無い状況での話なのだ。
そんな時に、華雄らよりも先に進んでいた民衆が悲鳴を上げ、列を乱し始めた。
見ると、かなりの数の騎馬隊がこちらに向かってくるのが解る。
「む・・・くそ、回り込まれていたか? 民衆に手を出さずに一直線にこちらに向かってくると言うことは、将兵のみを狙っている?」
徐栄、あれはどこの軍だ? と傍らにいる徐栄に聞く華雄だが、徐栄に解る訳もない。
「まだ遠くて全容は不明、旗が見えます。旗に書かれた文字は「高」や「趙」など・・・高?」
「高・・・? おい、それって」
互いの顔を見合わせて、まさか、と言いかけた二人はもう一度、その軍勢に目を目を向ける。
軍の先頭を駆ける騎兵。まだちっぽけにしか見えないが、その姿には見覚えがあった。

「・・・んぉ?」
「どうかしたか?」
「何だ、何か見えたのか?」
じぃっと民衆のほうを見ていた劉封に、夏侯惇と夏侯淵が反応する。
曹操は民衆が遠くに行くまでは張飛に手出しは無用、としていて動ける態勢は取っていても動けない。
「いやぁ、なんだか砂煙が増した感じがしたんだどもぉ。・・・うや、こっち向かってるべ!」
「何? だが、劉備の兵は少ないと言っていただろう?」
それなのに向かってくるのか? と夏侯惇は怪訝な表情。
「うーん、さっき郭嘉さんは2千とか言ってただども、こっち来るの・・・5千くらいいるべよ?」
「・・・えっ?」
思わぬ言葉に郭嘉が驚き、じっと砂煙の上がるほうを見つめる。
「・・・。むぅ、見えないのでよく解りませんね。誰が率いているのか・・・?」
「風にも見えないのですよー」
「見えないだか? んー、先頭に・・・おぉぅ、変な人がいるだよ」
「変な人?」
「おぅ、黒紫の鎧に・・・なんだべな、ありゃあ。あんなでっけーお馬さん見たことねーべ。」
でっけーお馬さん、に夏侯惇が激しく反応する。
「黒紫の鎧に、でかい馬? ・・・おい、その馬の色は!?」
「真っ黒だべ。日の光が当たるとキラキラ光って綺麗だよー」
「真っ黒で大きな馬。黒紫の鎧・・・」
言葉を繰り返す夏侯惇。
彼女にしろ、夏侯淵にしろ、曹操にしろ・・・思い当たるのは1人しかいない。
「高順・・・アイツか!!」
夏侯惇の声に、多くの兵がどよめき、浮き足立つような感覚に陥った。
これには、曹操が「落ち着きなさい!」と鋭く発した為に直ぐに落ち着くのだが、やはり動揺は隠せていない。


「高順? 誰だべ?」 
「え、こ、高順殿!?」
「おー、高順おにーさんですか。星ちゃんもいるんですかねー」
上から劉封、郭嘉、程昱の反応である。
劉封が知っている訳は無いが、郭嘉と程昱は高順を知っている。
ただし、黒紫の鎧などは知らない。彼女達が知っているのは上党時代の高順であって、それ以降の話は、聞いていても自分の眼で見ていない。
徐々に姿を現した高順隊を見て、曹操も笑う。
「ふぅん、ここで出てきたか・・・劉封、貴女は高順を知らない・・・と言う事は彼は劉備の配下ではないのね?」
「知らねーだよ。初めて見ただー・・・んー、旗が見えるだな、高、楽、趙、沙・・・。」
「おお、皆みるみたいですよー?」
「・・・ああ。やり辛いな」
他の武将も居ると解ったせいか、郭嘉の表情が曇る。
どこから援軍として派遣された、かだが・・・。敗残の劉備に手を差し伸べる余裕のある勢力など1つくらいしか思い浮かばない。
「華琳様、彼らは・・・」
「孫家でしょうね。ならば彼は孫家の部将、いや武将という事か。ふふ、やはり周瑜は嘘をついていたわけね。どちらでも構わないけど、これはこれで困った事になったわね・・・って」
見てみると、張飛も背後を見て「あれ? 誰なのだー?」とか言っている。
その言葉は曹操に聞こえていなかったが、張飛も予想していなかったということだろう。


曹操は高順を、そして彼の率いる将兵を(共に戦い、そして敵として戦ったから、という事もあるが)高く評価している。一騎当千の名に相応しい勇者ばかりだし、兵の錬度も高い。
困った、という理由の1つは曹操個人の評価の高さから来る畏れのようなものだ。
その評価の高さは、曹操をして「高順隊を打ち負かすつもりならば、倍以上の兵力を以って当てるべし」と思わせている。
曹操が率いてきた兵は5千、将は名のある勇将ばかりだが、この陣容で高順隊に挑むとなると・・・負けはしないだろうが、戦力の殆どを失うだろう。
元々、高順が来る事など予想しておらず(出来たら怖いのだが)彼の出現はイレギュラー的な物である。
これほど早期に援軍を繰り出すという可能性は低く見ていたから、でもある。そして、その援軍に高順。
発案をしたのが孫策か周喩かは知らないが、どれほど劉備を重く見ているのか・・・それとも、こちらに対して積極攻勢を考えているのか。
曹操としては、ここで高順と事を構えるつもりはサラサラ無い。事を構えたら負ける確率も高いし、打ち破れたとして、こんな戦いで雌雄を決して良いような相手ではない。
2つ目の「困った」は・・・今回連れて来た兵士の多くが、高順の事を知っているのである。
夏侯姉妹や軍師陣などもそうだが、特に挙げれば満寵。
彼女は楽進救出戦(大梁の黄巾討伐)に於いて兵の一人として参加、高順と虹黒の戦いをその目で見ていた。
その時から憧れを抱いていたらしく、黄巾との最終決戦後に声をかけて貰った事に大喜びしていた。
高順に憧れを抱いているのは満寵だけではない。あの戦いに参加していた兵士で、高順と虹黒に惚れ込んでいる者は多かった。
だから、半董卓連合の戦いの折に高順が敵に回ったことを惜しむ声は多数挙がっている。
敵としての高順・・・孫権を一蹴し、攻め寄せる連合軍に怖気づくことも無く、運の要素が大いに絡んだとは言え夏侯淵を撃破した。
孫家の中で武では上位に位置する甘寧を軽くあしらった沙摩柯。
関羽を破り、黄蓋を打ち破った趙雲。
4人がかりとはいえ夏侯惇相手に引き下がることの無かったうちの一人である楽進。
曹操軍を警戒させるほどの活躍を見せた高順隊。今回の戦で従軍してきた兵の全てが彼らに敬意を抱き、或いは畏怖を感じて・・・とは言わない。
劉封のような、知らないから何の気負いも無いという手合いだっているが、その数は少ない。
そうなれば、恐れを抱く者のほうが多い曹操側の士気は自然と下がる。
事実、見渡せる範囲で見てみると、兵の表情に余裕が無いのが見て取れる。
(さぁ、どうしたものかしらねぇ・・・)
近づいてくる高順隊、そして眼前の張飛を見比べつつ(割と呑気に)曹操は思案していた。


見えてきたか、と高順は橋の向こうにいる張飛、そして曹操軍を見ていた。
数がどの程度かは知らないが、思ったほど多くない。
張飛に一部散らされているのか、その気迫に押されているのかはどうでも良いが、時間稼ぎはきっちりしていたようだ。
彼の傍には収容してきた華雄隊も混じっており・・・彼女たちは張飛の回収に来ただけだが・・・その前に。
華雄と合流した高順隊だが、高順は本気で嬉しそうに「無事でよかった」と胸を撫で下ろし、趙雲と楽進は「ご無事でしたかな、華雄姐さん」「ご無事で何よりです、華雄姐さん」という反応。
沙摩柯も「私もだが、ここに居ない奴らも聞いたら喜ぶぞ、華雄姐さん」と喜びを露にし、当の華雄本人も「いや皆嬉しいけど何で全員で姐さん扱いかな!?」と・・・まあ、いつも通りである。
彼女を知らない周倉には道中で説明、周倉も「へー、大将に姐さんがねぇ」と、自分と同じような呼び方をされている華雄に一種の親近感を覚えたようだった。
そして。

長坂橋にて、曹操と高順が対峙する。








高順を先頭に進んできた隊は、橋の前で整列。虹黒が嘶き、前足で大地を蹴りつけてから、ごふぅぅ・・・と息を吐く。
橋の向こうには曹操軍、それを前にして足止めをしていた張飛。
曹操軍の前衛は夏侯淵と、弓騎兵。高順隊は沙摩柯率いる弓騎兵。両者が手を振り上げると同時に、前衛が一斉に弓を構えて矢を引き絞る。
張飛などより高順を何とかするほうが先決と判断したのだろう。いつでも応戦できるように、敵軍に狙いをつけたままの姿勢を維持している。
一種の膠着状態と言える中、華雄が張飛に「この隙に渡って来い!」と手招きする。
「お・・・おぅ」
華雄の声を聞いて、わたわたと急ぎ足で橋を渡ってくる張飛。
長坂橋、と言ってもそれほど橋は長くない。
幅も然程・・・という程度だが、その代わりに深い。
崖と言うか何と言うか・・・下には河があるのだが、そりゃ橋を架けないと無理だわな、というほどに深い。
その橋を渡り終えた張飛は、そのまま橋を切り落とそうとして・・・高順の槍の柄でぶっ叩かれた。
「ウボァー! 何をするのだ!?」
頭を抑えて高順を睨む張飛。
高順は張飛を冷たく見下ろして(アホ。落としてどうすんだ)と小声で呟いてから、華雄に「姐さん、こいつ連れて先に退いて下さい」と撤退を促す。
「いや、しかし・・・」
「大丈夫ですよ。さ、早く。」
「・・・。解った。だが、無理はするなよ?」
華雄はそれだけ言って、張飛を自分の前に座らせて馬を駆けさせる。
「え、橋・・・」
「黙ってろ」
尚も橋を落としたがる張飛を押さえつけ華雄は撤退。徐栄に200ほどの騎兵も続き、残るのは高順隊だけ。
華雄らが去った後、兵列の中を曹操が単騎、前に進んできた。
変な漫才を見せられていた感じ、というか張飛も逃げてしまったが、追うつもりは無い。そんな事よりも高順と話をするほうが大事だ。
夏侯惇や劉封、満寵までもが「攻め込むのなら私が!」「オラがいって小手調べしてくるべ」「いえ、どうか私に交戦許可を!」と言い募ってくるが、曹操はそれに「抑えなさい」と応える。
高順のほうでも、曹操が一人で軍勢の前に出てきたのを知って、やはり彼一人が前に進む。
郭嘉・程昱の姿も見えて驚いていたが、内心では嬉しいものもあった。
程昱はともかく郭嘉は袁家との戦いが終了したと同時に病没する筈だ。それが、元気そうにやっている。
彼女らの才覚が敵として発揮されるのは厄介であるが、嬉しいものは嬉しい。
曹操の方はざっと高順隊を観察して、見慣れない者が1人増えていたな、とその部将に目をとどめた。
周倉なのだが、彼女だけ徒歩で・・・しかも、虹黒に追従してきたのだ。
馬に追いついてしかも平然としている、という人間など見たことは無く、「高順は変な手合いに好かれやすいな」と、思いつつ。
まあ良いか、と思い直し、曹操は「久しぶりね、高順。」と呼びかける。
「ええ、お久しぶりです。曹操殿。」
「少しはつy「では、戦りましょうか?」えっ!?」
曹操との会話をあっさり遮断して、高順は腕を振り上げる。
「ちょちょ、ちょっと待ちなさい! こっちは話を・・・」
「俺には貴女と戦う理由が増えましてね。逆恨みも良い所ですが付き合っていただきますよ」
「戦う理由、ね。そんなものが無ければ戦うことも出来ないのかしら?」
皮肉を言うが、高順はそれを「はん」と笑って受け流す。
「俺個人の意思です。馬休、馬鉄、成公英、韓遂。・・・あんたを殺る理由ができたんですよ」
高順は、普通に曹操軍へ向かって腕を下ろしかけるが「ちょい待って!」と、魯粛に止められた。
「何で邪魔をする? 曹操を討つには千載一遇の好機だぞ?」
「いやいやいや、そりゃそうだけど! ちょっと待って慌てないで!」
「だから、何でだ?」
「だからー、じゃなくて。いいか旦那。あんた、名声を高めるのに興味ある?」
「無い」
あっさりと言いきる高順に、趙雲が(興味を持っていただきたい事なのだが・・・)と苦笑した。
「じゃ、今ここであんたが曹操を討つと?」
「黙っていれば良いじゃん。ほら、曹操は足の小指を家具に打ち付けて死んだとかそんな」
「嫌だなそんな死に方」
乱世の姦雄がそんな死に様とか本気で嫌過ぎるのだが、何となく言いたい事が解ってきた高順は鼻を鳴らす。
「ふん、名声が高まれば、色々と面倒か。」
「そゆこと。戦うのは反対しねーけど、それと曹操を討つのは別の話。ここで戦っても討つ前に逃げられるだろうしねぇ・・・」
本来の野戦なら突撃・矢の打ち合いどちらでも良いのだが、橋を挟んでとなると・・・確かに、逃げられる可能性は高い。
「ほら、どうせなら孫策様と曹操がド派手に戦って、その戦の中で討ち取ったとかの方が見栄え聞き栄え良いっしょ? こんな局地戦で殺るよりかは格段に。それに、ここで曹操倒したら劉備の名声に刷りかえられるかも。旦那にゃ面白くないよねぇ?」
「それは・・・むぅ、しかしだな」
「そっちのが孫策様の声望が高まるんだってばー。こんな橋挟んでないなら陥陣営の戦いを直で見たいんだけどさ。俺の顔に免じて譲ってくれよ、な?」
「・・・ちっ」
魯粛の言いたい事も判る分、性質が悪い。そもそも華雄の為、仇を討つ為ならばいくらでも戦うのだが、劉備の名声云々で一気に戦意が落ち込む。
高順は露骨に舌打ちをして腕をすっと下げた。
「曹操殿、今回はやめておきますよ・・・」
それでも殺気の篭った声で言い、高順は馬首を返す。
そんなやり取りを見ていた郭嘉は「高順殿は変わったか・・・?」と思い、程昱は・・・
「ぐぅ」
寝ていた。

去ろうとする高順隊の背後、曹操は曹操で冷や汗を掻いていた。
最初こそ余裕はあったものの、それは高順の性格を考えてのことだ。
脅しても良かったし、ヘタレな性格を利用して追い返してやろうとか思っていた。
へタレだしね、と高を括って舐めていた訳だが、案に相違して高順自身が戦いを吹っかけてきた。しかも、韓遂らの名前を出して・・・。
その名前を出したということは、高順は既に馬騰らと接触したと見て良い。
つまり、孫家が更に手強くなったという話だ。
何よりもこんなに小さな戦で高順隊と矛を交えるというのが、曹操にとってありえない話であったりする。
賊程度ならともかくも、名高い陥陣営を「劉備追撃」程度の、形としては「ついで」な流れで戦うには余りに惜しい。
戦力云々の話ではなく、大戦でこそ戦い、打ち破るに相応しいと考えている。
夏侯淵も、そんな曹操の真意を悟っていたか、すでに弓を下ろし兵も従わせている。
どちらにせよ、ここで戦いにしないのは正解だ。
さて、一度帰還して荊州水軍出撃の手配もしなければ・・・と思った矢先。
「待てぇぇぇーーーーーー!!!」
「は・・・? 」
「え? あ、姉者!!?」
「ちょ、春蘭、待ちなさっ・・・」

空気を読まないアホの娘が単身、橋を駆けて行くのであった。



~~~後編~~~


高順は、まず魯粛と趙雲を先頭に立て、残りで後背を守りつつ撤退をすると通達し動き出していた。
魯粛は高順から離れる際に「旦那ぁ。今回はさ、やけに素直に今回の仕事請けたと思ったんだよ。最初っから曹操を殺すつもりだったっしょ?」と話している。
「ん? 華雄姐さん絡みだからさ」
「おいおい、嘘はよくねぇなー。・・・ま、黙っておくけどさ。しっかし、旦那ってけっこう怖いよな。そう見えないのに利用する所を利用してるってとこが。」
「利用って?」
「なはは、解らないならそれでいいさぁ。んじゃ、さきに江夏に向けて進んでるぜ!」
じゃあなー、と手を振って、魯粛は先頭へ。
趙雲も「成程。あわよくばここで曹操を討つつもり、であったとは・・・ふむ、先ほどの殺気も悪くなかった。我慢をしてここまで来た甲斐がありましたかな?」と言って、魯粛と共に駆けていった。
やれやれ、過大評価だな。と高順は苦笑した。本心では半々だ。華雄の力になれたのならそれで良いし、曹操を討つのは(今の状況で言えば)ついでに近いのかもしれない。
今曹操の手持ちの戦力が少ないのなら、ここで殺すのも・・・と考えもしたし、周瑜の命令を受けたときも、それは期待していた。
馬鉄ら西涼の面々の事を不意に思い出し、殺る気になったのも事実だ。が、魯粛の言うとおり、場所が悪い。
せめて奴らが橋を渡った状態なら、と思わずにいられなかった。
まあ良いか、機会ならまだ赤壁あたりが・・・そんな事を考えていたら。
「待てぇぇぇーーーーーー!!!」
と、夏侯惇が単身で突撃してきたのである。

「は?」
「ふ・・・ふっふっふ」
ごふー、ごふー、と変な呼吸をする夏侯惇がいつのまにやら後ろに。
「つーいーにー! 積年の恨みを晴らす時がきたぞっ!」
太刀を掲げ、高順に突きつける夏侯惇。
高順としては恨まれるようなことをした覚えは無く、むしろそれは虹黒だと思う。
「さあ、私と戦え高順! 正々堂々一騎打ちを申しk「撃て」(ヒュンヒュンッ)だぁぁぁあぁあっっっ!!!?」
口上を完全に無視して、高順は彼女に背を向けたまま、兵に矢を撃たせた。
それでも夏侯惇は何十と言う矢を全て叩き落しているのだから、大したものである。
矢を叩き落した後、夏侯惇は高順を睨んで叫んだ。
「貴っ様ぁ! 一騎打ちだと言っただろうが!?」
「それに応じないといけない理由はない。なぁ虹黒?」
「ぶるる」
高順の言葉に「当たり前だろ」といった感じに鳴く虹黒。
「ええい、卑怯なっ」
「自分から突っ込んできておいて卑怯もクソも無いと思うのだけど・・・」
この言葉に、楽進と沙摩柯(どころか曹操まで)が「うんうん」と頷く。
「ちぃ、男のくせに細かい奴だ。黙って私と戦え!!」
「惇さん、貴女って本当に・・・。いや、成公英さんが貴女に殺されたんだってな・・・なら、俺が戦う理由はあるか。」
すっげぇ俺様発言を聞いたような気持ちになりつつ、高順は溜息を吐いて周りに「手を出さないでね」と言い置いた。
高順は夏侯惇に背を向けたまま槍を地面に突き刺して、棒高跳びの要領で虹黒の背から飛び降りる。
それを見て、夏侯惇のみならず楽進達までが「?」と首を傾げた。
「正々堂々だろ? そっちは馬に乗ってないんだ。こっちも地面に降りて戦うさ。あと、兜も要らんな」
よっこいせ、と兜を脱ぎ、鞍の取っ手に引っ掛けてから突き刺した槍を引き抜き、構える。
面頬は付けたままだが、それを見ていた夏侯惇は何とも言えない微妙な表情である。
「変な所で律儀な奴め。お前のそういう所は嫌いではないがな」
「そうでもない。成公英さんを討ったのは貴女だって聞いているんでね。だから戦うだけさ」
「ふん。韓遂も討ったがな? 2人とも中々の手練だった。私の片目も道連れにされているからな」
「・・・そうか。なら尚更だ。」
高順は殺気を高めて槍を握りなおす。
二人は間合いを測りつつ、じりじりと動き出した。
兵も動きを止め、この戦いを見守っている。

~~~高順が兜を脱いだ時点での曹操軍の反応~~~

「おお、けっこう良い男だべや」
「そうか? まぁ、悪くは無いと思うがな」
劉封は高順を良い男、と評し、夏侯淵は微妙な反応である。
「おー、劉封さんは解る女なのですよー。」
「そ、そうだべか? へへへ」
「でも風の許婚なんですけどねー」
『!?』
程昱のある意味で問題発言に、劉封と夏侯淵は硬直した。
「程昱さん、中々隅に置けないだなぁ・・・」
「高順お兄さんのお母様公認の仲なのですよー。えっへん」
「おい、風・・・あれはあくまであの時だけの・・・」
「そんな稟ちゃんは2番目の愛人さんです」
『はぁっ!?』
劉封・夏侯淵が同時に郭嘉を注視する。
「いや違う、違います! あ・・・思い出してきたっ・・・!
「しかも公認された次の日に、はなd「ぷうはぁっ!」」
『ぎゃああああああっっっ!?』
ナニを思い出したのか、体積を超えた量の鼻血を虹の軌跡のように噴出する郭嘉。
彼女の曹操への忠誠心は基本的に鼻から出てくるのだが・・・今回は別の事を思い出して鼻血を出したようだ。
 
・・・緩い。


~~~場面は戻って~~~

高順と夏侯惇。
二人はじりじりと円を描くように距離を測り、斬り込む機を窺っている。
虹黒、楽進、沙摩柯、周倉。兵も見守る中ついに夏侯惇が地を蹴り、高順へと突撃する。
一足飛びに距離を詰め、太刀を右肩に担ぎ右手一本で思い切り振り下ろす。
「ぬあぁあぁあっ!」
「・・・っ!」
高順は太刀が当たる前に後ろに飛び退き、太刀は命中せず地面に振り下ろされる。
退きつつもカウンターのような形で三刃槍を繰り出す高順。隙が出来るだろうと見越してのカウンターだ。
だが、夏侯惇は自由になっている左手を握り、三刃槍の刃の側面に叩き付けて無理やり攻撃を防いだ。その威力で、高順は後方ではなく左後方へと吹き飛ばされた。
「ちっ・・・ん?」
無事に着地した高順だが、その時に面頬の右側・・・瞼部分から下にかけてだが「ぴしっ」と音を立ててその部分から二つに割れ、面頬が地面に落ちた。
割れたのは面頬だけではなく、薄らとだが高順の右瞼から頬にかけて傷が出来ており、出血している。
「避けたと思ったが・・・避けきれなかったか」
相も変わらず強い、と実感する。
「ふん、間一髪だったな。だがまだ終わらんぞ!」
夏侯惇は気合の声と共に斬りかかろうとするが、それよりも先に、今度は高順のほうから攻撃を繰り出した。
横方向からの斬り払い、そこから突きに繋げる。
初撃はあっさり避けた夏侯惇だが、突きには自ら突進。太刀の峰で受け止め、その反動を利して峰を押し込む。
狙いは、高順の左手。
この一撃は狙い違わず高順の左手に命中。一瞬だけ身を引いたため直撃とは行かなかったが、拳の辺りに峰が叩き付けられ、左拳が砕けた。
だが、高順も負けてはいない。痛みに耐えつつ、間合いの近くなった夏侯惇の脇腹を右膝で思い切り蹴り上げる。
これは少々入りが悪い。左拳が砕けた高順のほうがダメージは大きいが、それでもこの一撃は夏侯惇のスタミナを削った。
「ぐぅっ!」
「ちぃぃっ」
同時に飛び退いた両者。距離を取り、そしてまた斬り合い始める。

戦い始めて数十分。
この時点で、前進しようとしない事を不穏に思って引き返してきた趙雲、魯粛も一騎打ちを見ていた。
苦戦する高順を見て「おい、旦那大丈夫かよ・・・」と、さしもの魯粛も不安を隠せない。
不安なのは趙雲も同様で、自分がいれば一騎打ちを請け負っただろうに、と馬上で歯噛みしていた。
もっとも、高順の性格を考えれば一騎打ちを受けただろう。ただし、馬を降りていることは予想外だったが。

曹操は曹操で「また腕を上げたわね」と、高順を見ていた。
一部、この隙に・・・と橋を渡ろうとした部隊もいたが、曹操はそれを「無粋よ」と制して戦いを見ている。
(けれど、このままでは春蘭には勝てない。貴方の大槍は馬上でこそ活きる武器、雑魚相手なら問題無くても春蘭相手では分が悪いわ。さぁ、どんな手を見せてくれるのかしらね・・・)
ここで曹操、ん? と思い出した。
「そう言えば、高順が秋蘭を破った時・・・」
思考した瞬間、それは唐突にやってきた。

夏侯惇が、高順から見て左側から横薙ぎで斬りつける。
高順は負傷した左手は使わずに右手だけで槍を構えている。夏侯惇の攻撃はこれは高順にとっても予想範囲の事だ。
槍を高順から見て右斜めに構え、太刀の軌道を逸らすような行動。
これに夏侯惇は「そのまま押し切ってやる!」と槍の柄を叩き切るつもりで力を込める。そして、そこが高順の一番の狙い目であった。
太刀が柄に当たった瞬間、高順は右手の指で柄を「ぐりん」と回転。柄が太刀の峰に立った。その柄に向かって高順は左腕の肘を入れる。
「でぇいっ!」
「・・・なっ!?」
高順からしても無理な体勢であったが、夏侯惇はそれ以上に体勢を大きく崩した。それどころか、衝撃に耐え切れなかったのか両手が痺れて太刀を手から離してしまう。
高順自身も槍を落としているが、すぐに追撃に入ろうと夏侯惇へと掴みかかる。
だが、ここでは夏侯惇の方が動きが速かった。まず右手で高順の胸に掌打を放ち、左手は心臓辺りへ正拳突き。
掌打を喰らった瞬間、高順の胸から「ミヂィッ・・・」と嫌な音が響いた。高順にしか聞こえない程度の音だったが、胸に激痛が走る。
更に正拳突きが入り、そこで高順の鎧の内側が大きく裂け内側の金属が高順の胸や腹に突き刺さる。
痛みも激しくなるが、高順は歯を食いしばりその痛みを無理やり無視した。
右手で夏侯惇の右腕を掴み、自分のほうへ引き寄せてから思い切り頭突きを喰らわせる。
何度も頭を打ち付ける内、高順の額のほうが割れて出血している。
「ぬっ・・・ぐぁぅ!」
さすがに堪えてきたのか、怯んだ隙を見た高順は夏侯惇に脚払いを仕掛けて転倒させた。
チィッ! と舌打ちをして起き上がろうとする夏侯惇だが、その前に彼女の額に肘鉄が「落ちて」きた。
高順が全体重をかけて倒れこみ、右肘を夏侯惇の額に叩き落したのである。
鎧を着けたまま、しかも全体重をかけた肘鉄。こればかりは無傷と言うわけには行かず、夏侯惇の額も割れて出血する。
しかし、流石と言うべきか、マウントを取ろうとした高順の胸を蹴り飛ばし、突き飛ばしてから距離を取ろうと後方へと跳ねる。
突き飛ばされた高順は転び、何とか立ち上がろうとしたが、片膝を付いた時点で動けなくなってしまった。
「ぐ、ぅ・・・っ」
幾度も同じ場所を攻撃されたという事もあるが、高順は鎧の上から胸を押さえて蹲る。
何とか耐えて来たものの、ダメージが大きい。ぜぇぜぇと荒い息で苦しんでいる。
対する夏侯惇は、腹部への蹴り・額への肘鉄にはダメージがあったが、それ以外は大したことがない。高順に比べればまだ元気だ。だが・・・
後方へと飛んだのは良いが・・・。
たぁんたぁん、とリズム良く飛び、着地しようとする夏侯惇。
「ふはは、やるな高順! だがそれも・・・。・・・え?」
嫌な予感を感じ、ふと振り向く夏侯惇。そこには。
「ぶるるっ・・・!!」

虹黒がいた。

その場に居た皆が『あ・・・』と思ったのも束の間、虹黒は夏侯惇の服の襟に噛み付く。
「ちょ、おまえっ・・・待て、今回ばかりはっ」
焦って何かを言いかけた夏侯惇だが、虹黒はそれすら無視して、ぽいっ、と夏侯惇を投げ飛ばした。
えらい勢いで「ぴひゅうううぅぅぅぅううぅぅぅ・・・」と飛び、そして落ちて行く夏侯惇。
「待てって言ってるのにああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・(落下」
「姉者ぁぁああぁあぁああっ!?(飛び込み」
「え、秋蘭!?」


投げ飛ばした場所、というのは、長坂橋の橋の無い部分。
つまり、断崖絶壁。
下に河が流れてるかも知れないが、そんなものは虹黒にとって知ったことではない。
夏侯惇に限って言えば「あたしの前に立ったのが悪い」というのが虹黒の行動理念である。
落ちた結果、死のうが泣こうが全く以って問題なし。
一仕事やり終えた虹黒は高順へと近づいて行き、顔を摺り寄せてくる。
「ひひんっ(意訳:あたしえらいだろすごいだろがんばったろ。褒めて褒めて褒めろっ)」
「あ、あー・・・。うん、お前は、良くやったよ・・・ごほっ」
「ぶるるっ♪」
高順の危機を見て「これ以上は私が相手になる!」と言おうとした趙雲、楽進らが一声をあげる間もなく、夏侯惇・高順の一騎打ち(?)は妙な闖入者によってあっさりと幕を閉じた。
両軍、余りと言えば余りな幕切れに呆然としているが、虹黒はそれに気付いているのかいないのか。
ゴーイングまいうぇいというか我が道一直線と言うか・・・。夏侯惇以上に、何1つ空気を読まない虹黒であった。

高順はふらつきながらも三刃槍を拾い上げた後に、しゃがんだ虹黒の背に乗る。
体力が残っていないのか、もたれかかるような感じであるが、虹黒も弁えたもので高順が落ちないように立ち上がる。
夏侯惇の事もあってそれどころではないが、曹操が追撃してこないことを確認してから、高順は撤退合図を出して今度こそ本当に退いた。


曹操は曹操で、頭を押さえて「ぬぐぐっ・・・」と呻く。
持病の頭痛がいつも以上に酷くなったことを自覚しつつ、こちらも撤退指示を出した。
この際高順隊を追撃するべきでは? という意見も出たが、夏侯姉妹の事もある。
孫家が劉備に肩入れしたとなれば、長居は無用だ。追撃も可能だが、孫家が派遣した武将が他にいるかもしれない。
早く戻って、孫家との決戦の為に戦力を編成しなくては。
ちなみに、劉封は「おら、2人を探してくるだぁよ・・・」と数百の兵を連れて夏侯姉妹の捜索に。
満寵は一度橋を渡り夏侯惇の太刀を回収。そこで、高順の面頬・・・割れているのだが、それをふと見つけた。
別に憚るものでもなく見咎められるようなことは何も無いのだが、満寵は周りを見渡してから、こっそりとそれも拾っていた。
高順が身につけていた面頬、満寵はこれを大層気に入ったらしい。
真っ二つになっていたこれを持ち帰り、顔が半分隠れる程度の大きさに加工。高順のように面頬として愛用したのだとか。





~~~撤退中の高順隊~~~

高順は楽進・周倉を伴う形で軍勢の最後方にいた。
もしかしたら追撃があるかもしれない、ということで殿となっていたのだが・・・。

高順は虹黒の背に乗っているが、首にもたれかかって、動けないでいる。
「隊長、大丈夫ですか?」
楽進が馬を寄せて心配そうに高順に訊くが、高順は「大丈夫じゃない、かも・・・かはっ!」と大きく咳き込み、血を吐いた。
「え・・・ええっ!?」
「大将!?」
内臓にまでダメージが及んでいるのか、その血の量はどう見ても多い。
「は、は・・・さすが、惇さんだ・・・さっきの、胸への、攻撃で・・・傷が開いて、拡がったみたい、で・・・。ゲホッ、ゴホッ!!」
胸の傷、と聞いて楽進は自身の血の気がサーッと引いていくのを感じた。
徐州での暗殺未遂。あの時の傷で高順は生死の境を彷徨った。傷も塞がって完治したとばかり思っていたのに。
楽進は「周倉、私の馬を頼む!」と叫んで、自分は虹黒の背に飛び移り後ろから高順を抱きとめるのだが、高順は槍を握ったまま意識を失っていた。
せめて出血を留めなくては・・・と、掌から高順の体に気を送り始めた。
左手の傷も酷く、早めに処置をしなければならないと考え、趙雲に事情を説明する伝令を向かわせた。
直ぐに返事が来て「曹操の追撃が無いことを確認してから陣を張る」ということだった。
これを受けて、楽進は幾度も後方に細作を放ち、曹操の追撃が無いことを確認した後、軍勢を停止させた。


楽進の癒術のおかげか、高順は一命を取り留めた。
だが、悪化した胸の傷は高順を生涯苦しめ続ける事となる。





~~~楽屋裏~~~

お待たせして申し訳ありません、どSです(挨拶

前に「高順そろそろ痛い目にあえばいいのに」というご感想を頂いたので、痛い目にあっていただきました。
最初からこうする予定でしたが、彼にはもっともっと苦しんでもらうよ・・・

一回で話を終わらせようと詰め込んだら、書いた本人が良く解らなくなってきた不具合。
この回で起きた事。

曹操と高順が対峙→空気を読まない夏侯惇が単騎突出→よせばいいのに高順さん一騎打ち→虹黒が全てをかっさらう→高順さん重傷。生涯苦しむ系。

・・・あれ? これでいいのか?(汗

話の中で曹純とか夏侯傑が出てきましたが、知ってるお人居るんでしょうかね・・・
死んだのは夏侯傑で、曹純は死んで無いですよ?
今回の曹操軍は、ほとんどが虎豹騎で編成されてるかもしれません。



さて、ネタですが前回か前々回の楽屋裏でぶっちゃけた「呂布の武力700」発言。
これは、呂布が腹ペコ状態では本来の1割か2割程度の能力、と出しちゃったことが原因です。自業自得。
原作では関・趙・張の3人がかりでようやく召捕ってましたね。しかもこの時、呂布は空腹です。
この3人でようやく、なのだから・・・関羽の武力を100、しかも基準値としたら・・・やっぱり、呂布は空腹でも武力150くらいあるんじゃね? と。
正式設定資料では関羽らの武力は「5」で呂布は「6」。でも、この1の差ってどんだけでかいのか。

あくまであいつの脳内妄想なので、深く考えちゃ駄目ですヨ?
あと、あいつはオリキャラをえらく優遇しすぎですね。あいつ脳内では丁原ですら武力100(マテや

武力100の方々。
関羽・夏侯惇・張遼等。

原作キャラでの基準値としたらこれ位がわかり易い。でも、呉ってこのクラスの猛将がいないんですよね・・・
勇将・猛将というより、将軍クラスの人が多いのだと思っています。
太史慈辺りは強いと思うのですが。

武力100オーバーの方々。
趙雲(せいこーの刀含め)。多分103とか微妙な感じ。
張飛は110くらいなんじゃないでしょうか?

高順は? と言われれば・・・最大で90半ばですかねえ?
原作では不遇だった北郷警備隊の楽・李・干も、陥陣営補正で強くなってると思います。
楽進は90以上で、李典・干禁も80以上でしょう。華雄姐さんだって90以上は確実です。
シャマカさんも100前後・・・? 
これは甘寧一蹴してるからですが、とーとんね~さんも90くらいですかねぇ?

え? 何?
オリキャラの武力?


閻行:600(おい
馬騰・韓遂:150~200(おい!
丁原:100(おいィ!
朱厳:96(若ければ100越えくらい
かくぼー:70~80
張燕:80
阿部さん:ウホッ
ゴルゴ:99・89(???


・・・刺されないかな、こんな能力設定して・・・。

西涼の方々に限らず、一時代前の名のある人々はかなり強い、という設定です。
孫堅も平気で武力100オーバーしてたでしょうね。


さて、もう少しだけ作者の妄想にお付き合いを。
実はこの長坂橋、2話で書くつもりでしたが長すぎるのはちょっと・・・と思って、かなり分量を削減して無理やり1話にしました。
なので楽屋裏も2話分です(何


このお話の中での番外編・・・高順くんの事なのですが、公孫賛を頼る途中で戦死したり、徐州で史実どおりに処刑されたり、と早めに死ぬ描写がされています。
今進めているこのお話が高順伝の正史なのですが、この正史でも長生きが出来ない設定です。
反董卓連合の時にも、早死にする、という事が書かれていたはずですからネタばれにはなりませんけどねw
高順くんが長生きできない理由は「色々な人の死亡フラグをへし折った」からだったりします。
華雄、公孫賛。そして呂布や陳宮といった人々のフラグを折った代わりに、自分の寿命を縮めている・・・と。
それなら徐州で死んでても良かったのですが・・・そこから先の構想もあったのでw
病死か戦死かは、まぁ微妙なところですね。

あと、構想だけで没った西涼編では、高順一党の働きもあって長安どころか洛陽辺りまで進撃。
孫家と盟を結び、曹操と拮抗する勢力となりますが、途中で劉備が蜀漢を建国し皇帝僭称。
それを認めない馬騰は劉備との決戦に臨み、五丈原にて決戦。
この戦で蜀漢の主要武将はほとんど討ち死に、代わりに高順君も死亡・・・・・・というような流れでした。
ま、蜀漢は当たり前のように滅んでました(ぁ
この主人公早死にフラグを唯一へし折ったのが、途中でエターなった「もし高順が北に(ry」です。
これはどなたかの感想に返すような形だったと思いましたが、この外史では長生きです。
どうしてかなぁ・・・と思うのですが、袁紹の並外れた運の良さが伝播したんじゃね? と言うことにしました(ぁ



次回で帰還して・・・そこから孫策暗殺?
では、また次回。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第105話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/05/04 11:25
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第105話。

江夏城外。
負傷した高順は、ここに陣を設営して傷を癒していた。

既に劉備軍は民と共に入城しており、高順隊はそれに少し遅れて到着している。
劉備から「これからの事を話し合いたいという要望があって城に招かれたが、高順はこれに「俺が行かなければいけないのか?」と断っている。
話し合いたいのならお前らが来い、と言わんばかりの態度なのだが、高順も高順で重傷を負っている。
楽進や趙雲も「こちらから行く必要はない」と言っていたが、これは高順の体を重んじてのことである。
事実、高順の容態は思わしくない。
胸の傷は前よりも拡がって、楽進の治癒でも中々治らない。また、鎧内部の金属、これがささくれのように割れて高順の体に突き刺さっていた。
それが胸の傷にも突き刺さっていて、余計に悪化した原因の一つとも言える。
また、左手の傷も酷い状態だ。
拳が割れた、というよりも手の甲が割れた、という表現が正しいのかもしれないが、手の甲に幾筋もの裂傷が出来てしまって、一部掌に達成しそうなものがある。
これほど酷い傷で夏侯惇相手に奮戦していた、というのは驚嘆に値するのだが・・・。
しかし、傷を増やしすぎだ、と回りは不安になってしまう。
特に、高順の体の容態を見る機会の多い楽進はそれを良く実感している。
戦うたびにどこかに傷を作って、それでも今までは何とかなってきたものだが・・・今回の負傷は余りにも厳しい状態だ。
だからこそ、治療に専念するべきで、城に行かせるつもりは無い、というのが本音と言う事だ。
味方なのかどうかも解らず、何をしてくるか解らない劉備相手では尚更、というのが楽進の意見だった。
趙雲、周倉、沙摩柯も同意見で、もし高順が自分から行くといっても確実に止められていたのだろう。
もっとも、交渉自体は魯粛の仕事である。
高順がいようといまいと、それ自体に違いは無いのだが・・・魯粛は、この状況を利用したい、と高順に申し出ていた。

「状況を利用・・・?」
「おうとも。」
高順の使用している天幕内。
高順は寝台に寝かしつけられ、そこには周倉、趙雲など、現在の高順隊の主だったものも揃っている。
「どういう意味ですかな?」
「おっとと、そんな怖い目で睨まないでくださいよ。美人が台無し・・・いやだから怖いって!」
魯粛のおどけた冗談に、趙雲は槍を持ち出しかけた。
性格上、普通なら冗談には冗談で返すような趙雲であるが、高順が重傷であったせいかかなり気が立っている。
「趙雲殿、落ち着いて・・・ゴホッ」
「む・・・」
高順が咳き込みながら仲裁し、趙雲もこれには黙って従った。
「で、魯粛。利用って?」
「あ、ああ。俺らは劉備・・・ま、実際は関羽だが、頼まれて張飛・華雄、ついでに民の護衛に回ったわけだ。本来なら立場が上の俺らに。」
「ん。それで?」
「その結果、旦那が重傷。冗談でもなんでもなく、一時的とは言え命がやばかった、と。こりゃ誰の責任になるのかねぇ?」
「・・・。俺が弱いから、で終わらされるのでは?」
「かなぁ? そもそも、劉備がきっちりと自力で民を守りゃそれで良かったんだ。それを救援に来て「やった」旦那にやらせたんだぜ? これは大きな失点さね」
「そ、そーゆうもんかな・・・」
「そーゆうもんさ。ま、旦那にゃあ悪いがこれはこっちに良い手札。もし奴らが「傷を負うほうが悪い」だのと言い出したら・・・へへへ、劉備嫌いの旦那にゃ嬉しい話かもね?」
にっしっし、と意地の悪い笑みを見せる魯粛。
「劉備はそこまで阿呆じゃないと思うけどな・・・」
「そりゃそうさね。あいつらだって流石に自分達の立ち位置くらいは自覚してるだろ。だから、交渉がより有利になった・・・ってね。」
なるほどねぇ・・・と、高順は相槌を打つ。
「使えるもんなら、いくらでも使えばい・・・ケホッ」
「おいおい、無理しなさんな。」
「ゲホッ、ゲホッ! はー・・・流石にあんた一人じゃ不安だ。趙雲殿と沙摩柯さん、護衛を・・・」
「解ったから無理して喋るな」
「その通り。きっちりと役目を果たしますゆえ、高順殿は静養なされよ」
「ん・・・済まないな」

そんなやり取りをしてから、魯粛は勿体ぶりつつ江夏城へと向かっていった。
そして翌日。


まだ体調が思わしくない高順が寝台で暇を持て余していると「旦那ー! 上手くいったぜぇー」と、魯粛が上機嫌で天幕に入ってきた。
「お・・・上手くいったのか? そりゃ良かった。交渉の内容はどうだったよ?」
「にひひ、ほとんどこっちの思惑通りさぁ。きっちり説明すっから聞いててくれよ」
魯粛の説明によると、劉備は同盟を結びたかったようだが、魯粛は「助けを求めて同盟ってのは都合よすぎねぇ?」と散々に苛め抜いてきたらしい。
結果的に従属に近い形での同盟、となる。とはいえ、命令を無理やりとか、強制させるようなことはしないという事であるらしい。
魯粛に寄れば、周瑜は担ぎ上げる形で劉備を利用しても、戦力的には何一つの期待をしていないのだ、という。
自分が受けた説明と違うと思うのだが、そこは「もし戦力があれば使ってやっても良いが、隠そうとするだろう」との事で・・・つまり、期待以前に信用してない、という話だとか。
あくまで開戦する為の方便として利用して、それ以上の価値は無い、と判断しているらしい。
で、反対派を説得する為に、いう話になったらしい。
説得に当たるのは諸葛亮で、護衛に華雄・・・という人選になった、と言う。
「華雄姐さんが・・・」
「そ。ま、これは上手い人選だわなー。旦那にとっちゃ華雄さんは取り返したいけど、一応は客だからな。強奪とか出来んし。」
諸葛亮に迷惑イコール華雄に迷惑。そういう事か、と高順は舌打ちした。
「じゃ、俺からは嫌がらせできないって事か・・・チッ!!」
「チッ、って・・・ああ、旦那やっぱやる気満々だったわけね。いや、それはともかくも、この説得って意味無いんだよなぁ」
「まーな。最初から開戦したいだろ、孫策殿は。もう曹操には両者が通じてると思われてるんだから、向こうにとっちゃ戦う相手、敵勢力の1つさ」
「そゆこと。まぁ、そーいう理由で諸葛亮を寿春まで護衛せにゃならんわけだ。」
「嫌だ、つっても通らないよなぁ。華雄姐さんを守る為だからと思えば・・・仕方ないな。それに、あくまで説得の為で、人質にするつもりも無い、か。」
「・・・。なぁ、旦那。前から思ってたんだけどさ。そんなに劉備・・・劉備陣営の連中が嫌いかい?」
「うん」
「・・・。」

間髪を入れない即答だった。


これより数日後、劉備陣営からは諸葛亮と華雄、それに護衛の兵として500ほどを付けられ、孫家へと送り出される。
高順も負傷を押して(この時は南中で使用していた軽鎧を装備していた)共に寿春へと向かうのだが・・・
華雄も高順も、行軍中は「公務だから」と、馴れ合うようなことはせず、私的な交流をするのは野営をしている時くらいだったという。


~~~ちなみに、魯粛と劉備の交渉の一幕~~~

「ところで、劉備殿には何処か頼るアテがあるんですかい?」
魯粛は途中でこんな事を言い出した。
それまでは当たり障りの無い発言ばかりであったが、劉備は事前に諸葛亮らと相談して、この質問が来るのを待っていた。
「実はですね、蒼梧(そうご)郡の呉巨(ごきょ)さんを頼ろうかと!」(蒼梧郡は、現在高順が統治(?)している交州の領内に当たる)
「蒼梧の、呉巨・・・?」
「はい、私の昔馴染みなんです!」
「へぇ・・・なるほど」
これは諸葛亮の考えだが、呉巨の名前を出すことで不安を煽って「それよりも孫家に協力するほうが良いですよ」と魯粛に言わせようと言うものだ。
孫家に頼っておいて何をいまさら、とは思うが、少しでも良い立ち位置を確保する為であって、小勢力であれば仕方のない措置とも言える。が、しかし。
「無いよ」
「えっ?」
「呉巨はもういない」
「・・・ぇぇ、とぉ・・・それ、どういう・・・?」
「そいつ、もう孫家に降伏してるんで。ついでに交州も孫家が領有してますぜ?」
「・・・。嘘ぉ・・・」
出鼻を挫くつもりが、逆に挫かれた劉備であった。

~~~完 了~~~





寿春には特に何事もなく到着。
まず孫策に報告を・・・と行きかけた高順を、魯粛が「いやいや」と制した。
「? 何で止めるんだ??」
「旦那、報告は俺とあのおっかない姉ちゃん(趙雲の事らしい)でやっとくからさ。旦那は傷の治療に専念しなよ。」
「む。いや、しかし・・・」
「胸の傷も左手の傷もあまり良くなってないんだよな? あの華佗って先生のとこに行って来なよ。事情説明しとくからさ」
「そうか・・・解った。すまないな」
そう言って、高順はふらふらと歩いていく。
それを後ろから見送る魯粛は(やっぱ上が無理させすぎなんだよなぁ・・・ま、曹操との戦いはもうちっと先だ。上にも言っておくから旦那は休んでなよ)と、友人の体調を気遣うのであった。


~~~華佗の部屋~~~

「そういうわけだ」
「そんな事を言われてもな・・・しかし、お前も苦労するな」

事情を聞かされた華佗は、すぐに高順の傷を見た。
胸の傷、左手の傷。左手は然程時間がかからないだろうが、胸の傷が深すぎる。
これらを見た華佗はすぐに表情を変えて「これは・・・時間がかかるな。」と、自分の技術でも完治するのは手間がかかる、と念を押すのだった。
これ以降、体の治療に専念する事となる。そうは言っても、毎日のように誰かしらが訪ねてきて、特に暇だという事も無かったようである。
最初に駆け込んできたのが馬超・馬騰・馬岱あたりで、あまりに(馬超が)やかましい事この上なかったので華佗に追い出された、という話もあったり・・・。
後日、孫策や周瑜まで来るのだが、それはそれである。



さて、諸葛亮の説得だが、これは出来試合のようなもので、反対派の意見を極力抑えさせるという孫策・周瑜の行動で、最初から諸葛亮の勝利が決まっていたようなものである。
開戦反対派である孫暠や、孫暠とは別の派閥である張昭らは殆ど何も言わせて貰えず、開戦と言う運びになった。
張昭らは決まってしまったものは仕方ない、として開戦の為の準備に入るのだが、こうなると面白くないのは孫暠。
彼は「曹操に勝てるわけが無いし、このまま降伏したほうが利口だ」という意見だが「今の孫家であれば互角以上に戦える」と孫権に反論されている。
何度も降伏したほうが良い、と言っても全く聞き入られること無く、開戦すると決定、軍議が解散されたのだが・・・

「ちっ、面白くない」と、孫暠は不機嫌だった。
孫策ならばともかく孫権に意見をされ、しかもそれが通るとは。
孫策は亡き孫堅様の嫡子で、孫家の跡継ぎと決まっている。そこに不満は無い。
しかし、孫権のような実績も実力も無い小娘が自分より上位であることには納得できない。大体、曹操との戦力・兵力差は明白ではないか?
なのに孫策は戦うと言う。降伏すれば戦も起こらずに兵はもとより民の被害も無い。孫家も重く用いられて安泰であろうもの。
これは普通の考え方だが、曹操は孫策と、孫策も曹操と戦いたがっている。
それが解らない孫暠には、孫策が何故こうまで戦いたがるのか・・・それがどうしても理解できないのだ。
また、孫暠は孫策を嫌っているわけではない。
新参者を重用したり、政策的に敵対しているだけで、孫策個人への恨みと言うものは何も無いのである。
が、それもそろそろ我慢の限界だった。
高順という新参者の重用ならばまだしも、今回は事が大きすぎる。
かといって、自分の意見など容れられまい。
孫暠は鬱々としながら自邸に帰ることしか出来なかった。

夜中、孫暠の邸宅では宴会が催されていた。
と言っても仲間内・・・意見の合うもの同士の内々の愚痴り合いのようなものである。
そこでは孫策や孫権では頼りにならぬ、やはり孫暠様でなくては、だの、大体、あのような無骨者ばかり重用されて・・・だの。
「弟の孫瑜殿、孫皎殿すら孫策様に尻尾を振る始末」
「さよう、兄である孫暠様に従わぬなどもっての外・・・」
「いや、周瑜殿も周瑜殿よ。諸葛亮といったか、あのような小娘の意見を肯定ばかりして。」
「そもそも、劉備の使者というが、孫策様は劉琦と盟を結ぶということではなかったか。劉備など劉琦の配下・・・にも拘らず大きな顔を」
こんな感じである。
孫暠はそんな意見、というか愚痴を聞きつつ杯を煽っていた。こいつらはこいつらで・・・と、苦々しい顔つきである。
そんな中、2人の男が「孫暠様、おひとつ」と酒を注いできた。
「ところで孫暠様」
「何だ?」
「孫暠様はこのままで良いとお思いで?」
「・・・、何が言いたい。」
孫暠はその男達の顔をじっと睨んだ。
「いやいや・・・しかし、孫策様では駄目ですな。先の展望が全く無い。そこを行くと孫暠様は違う・・・いかがでしょう、孫暠様にその気があれば協力いたしますぞ」

孫暠に不穏な話を持ち込むその2人。
名は、爲覧(ぎらん)・戴員(たいうん)と言った。




~~~楽屋裏~~~

短い? だが知らんわっ! あいつです(挨拶
ようやく暗殺にかけて動き始めました。

諸葛亮の論戦とかは特に重要じゃないんでばっさり切りました。
このお話的に現時点で劉備陣営はその他大勢扱いです。赤壁の主力になれる訳でもありませんし、あくまで担ぐだけw
爲覧(ぎらん)・戴員(たいうん)? 誰それ? って感じですが、これは孫策の弟の一人である孫翊(そんよく)を暗殺した3人のうちの2人です。
もう一人は辺洪(へんこう)というのですが、これは前述2人に罪をかぶされて殺されたので除外です。
この2人は盛憲という人の配下でしたが、それを孫権に殺された後に孫翊の部下に、という良く解らない人々です。
今回の場合は孫策に恨みがある・・・と言う事でいまさら過ぎますがかなり脚色されてます。
さぁこれで孫策暗殺フラグがビンビンです。
これを防げるのか、防げたとしてこの後の展開をどうするのか。


作者は全く考えておりません。川の流れのようにその時の状況で変えます(最悪です



しかし、今回は短い。暗殺まで書くと前回みたいに無駄に長くなるので、それは次回に持ち越したいと思います。
その代わりに、「日常」でも・・・



~~~ちょっぴり息抜き、寿春的日常~~~

高順は久しぶりに寿春市街を一人歩いていた。
胸の傷も左手の傷も完治したわけではなく、まだ包帯を巻いているものの、初期に比べれば痛みも収まったし、膿んだりもしていない。
ということで、息抜き程度なら外出をして良いぞ、と許可を貰い久々の散策である。
昨日まで、随分沢山の人々が見舞いに来ていて、暇と言う事も無かったが・・・孫家の主要な面々はほとんどが様子を見に来ていたし、孫策と周瑜まで来たのは流石に驚いた。
二人はまず高順に「悪い事をした」と侘び、傷の治り具合などを尋ねてきたり・・・と、これは負傷者に対して妥当な反応である。
周瑜などは、高順がここまでの傷を負う状態と言うのは完全に予想外であった。彼女は高順にもう1つやって欲しい仕事があったのだが、この負傷では当分動けない。
これは劉備に出し抜かれない為の仕事であり、これならば高順も文句は言うまい、とは思ってはいる。
彼を駒の様に扱っている現状。これ以上無理をさせるのは高順に酷だし、彼の部下が納得しない。
馬騰殿の領地のことも考えると、無理をしてもらわなくては困る・・・のだが、華佗曰く「下手をすれば命に関わる」程の重傷。
無理をさせすぎた分、少し休息を与えたほうが良いだろう。仕事の話はすまい、と決める周瑜。
そして孫策。
「んなもん酒でも呑んどけば治るわよ?」と抜かし、高順に「酒を呑めない俺にそれを言いますか・・・」と反論され。
「酒など呑んだら余計に悪化するぞ。」と華佗にまでつっこみを入れられ・・・。
「・・・。はぁ。」
思わず溜息をついてしまう周瑜であった。

他にも黄蓋や孫権など、親しい人々は高順が重傷を負ったと言う話を聞いて見舞いに来ている。
黄蓋は当然かもしれないが、孫権は甘寧に諸葛瑾・歩騭・張承達まで引き連れてやって来た。
皆大げさだな・・・と、高順も苦笑するほどの騒ぎである。

それはともかく、高順は市街を当てもなく歩いていた。
家の中、というのも嫌いではないが、ずっとでは流石に気が滅入ってくるし、それを思えば散歩は良い気分転換にはなるわな、くらいは思っている。
市街の賑わい振りやら、人の行き交う市場やら、見ているだけでも楽しいものだ。
色々と見て回った高順、少し小腹がすいてきたなぁ、と感じて「どこかに食事処ないかなー?」と辺りを見回す。
と、ここで見知った2人が目に映った。臧覇と太史慈である。

(な、あの二人・・・一体何を・・・)
太史慈が臧覇に気があることは薄々感づいている。だが、こうも堂々と・・・まさかデート? デートですか?
それに、臧覇は孫尚香の親衛隊の筈。今日は非番なのかもしれないが・・・
高順は物陰に隠れて2人の動向を見守る。
見ていると、どこぞの店に入って行く。息仲睦まじく、あれこれと「ああでもない、こうでもない」と相談しているのが解る。
だが、何を話しているのか声は聞こえず・・・
(むぅ・・・太史慈め、何を話している・・・? くそ、よくも俺の(誤解)臧覇ちゃんをっ)
大人げないことだが、高順ははっきりと太史慈に嫉妬していた。
臧覇は丘力居同様、高順にとっては妹同然である。
それが、結婚して自分の手元から離れていく娘・・・というような、父親めいた気持ちになってしまっているのである。
自分に懐いてくれて、自分も色々と可愛がっていたのだから、その気持ちが余計に強いのだろう。
しかし、それを小さいと言え声に出してしまったのが高順の命取りであった。

「えぇい、太史慈・・・良い奴だと思っていたのに! 俺の目が黒いうちは臧覇ちゃんに手は出させん!! つか、臧覇ちゃんは俺の心の清涼剤なんだ!」
(・・・つんつん(誰かが高順の肩を指でつつき
「ここで譲ってやるつもりは無いぞ太史慈!! いやそれ以前に臧覇ちゃんは10代半ばなんだぞ? ロリコンか貴様はっ!」
(つんつん(気付かない高順
「そもそも、丘力居ちゃんが居ない今、彼女は俺に残された唯一の心の清涼剤なんだ! 許さん、許せんぞ太史慈ー!!」
「ほぉ・・・?」
「へ?」
ここで高順、ようやくに気が付いた。
自分の後ろに4人の女性が立っていたことを。

「なるほど・・・」by楽進
「つまり俺達じゃぁ」by周倉
「高順殿の心の清涼剤には」by趙雲
「なっていなかったわけじゃなぁ・・・?」by黄蓋

・・・。
「え、ええっ!? なんで皆こんなところに・・・」
慌てて後ずさる高順。
だが、目の前に居る4人からは不穏なオーラが見えそうになっていた。
その4人、冷たぁぁぁぁぁぁぁぁい笑顔で高順を取り囲む。
「いやいや、高順殿の見舞いに行ったら既に出かけたと聞きまして」
「傷の具合は多少良くなっただろうけど、心配になってさぁ」
「探し続けて、漸く見つけたと思ったら」
「清涼剤云々・・・と聞こえてきてな。お主ら、先ほどの高順の発言・・・聞こえておったか?」
黄蓋の問いに、まるで処刑宣告をするかのように、3人は笑顔を浮かべて言い募っていく。
「聞こえました」
「確かに言ってたぜ」
「私も記憶済みですな」
「・・・だ、そうじゃが? 申し開きはあるかのぅ?」
「あ、あわわわ・・・」
おびえる高順を、4人はがっちりと捕まえ、引きずっていく。
「ちょ、ごめんなさい出来心だったんです! 別に皆を軽んじたわけじゃなくてそのっ・・・」
「いえいえ、大丈夫ですぞ高順殿。その認識は こ れ か ら 改めてくだされば良いだけで」
「え、これからって・・・な、何をするつもりなんだ!? もしかして拷問? 拷問ですか!?」
「まさか。痛いことなど何1つありませんよ、隊長。・・・気持ちよくなるだけです、局地というか局所が。」
「ぎゃー!? たす、助けっ・・・」
「うるせぇぜ大将。男なんだから覚悟決めなって!」
「ナニをするつもりか良く解ったけど、俺まだ体がっ・・・!」
「勃たなくなっても、あらゆる手管を使って復活させてやるわ。大船に乗ったつもりで任せておけい。具体的に言えば・・・こう、穴に「つぷり」と指をじゃな」
「ギャアアア、イヤダーシニタクナーイ!!!」 
身悶えする高順を再度がっちりと押さえ込み、4人は意気揚々と引き上げていく。

*この後の描写は特に無いです*




「・・・? 今、高順お兄さんの声が聞こえたような・・・?」
「ん、どうしたんだい?」
「え? あ、お見舞いの品、って言っても色々あるんですね。高順お兄さん、何を贈れば喜んでくれるかな・・・」
「はは、あいつなら何でも喜びそうだけど。臧覇ちゃんの元気な姿だけでも十分じゃないかな」
「・・・そうですか? えへへ」
でも、何にしようかな。果物とかが良いのかなぁ・・・と、臧覇は、再び高順の見舞いの品を選び続ける。

・・・完全に高順の誤解であった。




~~~翌日、高順の部屋~~~

コンコン、と誰かが高順の部屋の扉を叩く。
「おい、高順。起きているか? 趙雲らの姿が見えないのだが・・・」
その誰か、というのは沙摩柯。
趙雲達を探しているのだが見つからず、高順に尋ねに来たのだ。が、暫く待ってみたが返事は無い。
「ふぅ、まだ寝ているのか。それともどこかに出かけたか」と溜息をつく。
「ん? まさか、暗殺とかそういうことは・・・無いだろうな」
状況が状況だけに不安になった沙摩柯は、悪いと思いつつも扉をすっと押してみた。
(鍵は・・・かかってないか。起きているのか?)
思いつつそっと扉を開けて中に入る沙摩柯。
だが、入室した彼女が最初に発した言葉、それは。
「臭ぁっ!?」
室内に立ち込める混沌とした臭い。
そこら中に捨てられている、くしゃくしゃに丸められて・・・何かを包んだような紙くず。目がチカチカして、鼻を刺すようなこの臭い・・・
あの馬鹿、体調悪いのに犯ってたのか!? と、沙摩柯は目と鼻を押さえて臭気に耐えようとしていた。
「ぐぅ、臭、くさ・・・臭っっっ!」
そんな大声に気付いたのか、寝台で4人の女性に埋もれていた高順は沙摩柯にすっと手を挙げた。
「やぁ、沙摩柯さん・・・良い朝だね・・・」
シオシオというか、頬がげっそり落ちて、言われるまでも無くナニをやって・・・いや、寝ている女性陣を見て「ああ、犯られたなこいつ」と正当な評価をする沙摩柯。
「って、良い朝、じゃないこの白濁兵器!! いいからサッサと換気しろこのポコチn(にちゃっ)うっわ何か踏んだっ!!!?」


この後、当然のように4人の女性陣は華佗にめっさ叱られたと言う。





~~~楽屋裏~~~

麗大際のパンフ買いに行こうと自転車走らせてたら車に横から追突されたんだ。あいつです(ぁぁぁ
両足負傷&自転車お陀仏とか辛すぎる;;
皆さんはちゃんと左右確認しましょうね(教訓

さて、いつもどおりの茶番です。こういう茶番だけで良いぞ、と言う人はいるのですかね?
もっとやれ、とか言われても同じオチになってしまうのですがねぇ・・・w

久々の登場となった臧覇ですが、いつの間にやら太史慈と仲良く・・・ロリコンですかそうですね。



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第106話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/06/04 17:48
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第106話。

寿春、孫暠宅にて。

「貴様ら・・・」
孫暠は爲覧(ぎらん)・戴員(たいうん)を睨み付ける。
「今この時期に孫策殿を殺せというのか。そんな事をすれば尚更曹操に勝てぬであろうが!」
激怒し目をいからせて叫ぶ孫暠に、周りを固めている連中は「ひぃっ」と悲鳴を上げる。
しかし、爲覧達は恐れもしない。
「いえいえ、それは間違いですな。宜しいですか、よくお聞きくだされ」
「何?」
「貴方様が今仰られたように、孫家では曹操には勝てませぬ。孫策殿がおられようとおられまいと」
「ぬっ・・・」
それは孫暠も感じている事で、だからこそ降伏して孫家を残せと主張している。
孫策は孫家の中では革新派(保守的な面も強いが)に位置し、孫暠は家を残すことを第一、という保守派に属する。
そこに、孫策からは認められずに不遇であると思っている者が集まり、対抗勢力のような形となっている訳だ。
「ゆえに、孫策殿を除けば年長の貴方が孫家の総領となれましょう。孫権殿には孫策殿のような武勲もなければ経験も浅い。」
「孫権殿が孫家を率いても危ないばかり。ですが、先見の明ある孫暠様なれば、曹操の配下となっても孫家も、江南の民も長らく安泰でしょうな」
孫策と孫権が同意見である以上、孫権が後を継いでもやはり曹操と戦うことになるのだろう。
「だが、どうしろと言うのだ。孫策殿を暗殺しろとでも言うのか?」
「有体に言えばその通りでございます。」
「何!?」
「その為の手管も用意してありますれば・・・」
暗殺、の発言に怖じる周りの文官を尻目に、戴員がパンパンと手を叩き、それと同時に幾人もの武装兵士が部屋に入ってきた。
「・・・そ奴らは何だ」
一瞥して、孫暠が戴員に問う。
「許貢をご存知で?」
「許貢? 孫策殿に殺された呉郡の太守だったな。」
「はい、これらはその許貢の食客にございます。これらは孫策殿に復讐をしたい。我らは孫策殿を除きたい・・・利害は一致すると思いませんかな?」
「もう1つ申せば、彼らは曹操の軍にも繋がっております。例え失敗しても、その伝手を頼れば曹操殿にも降りやすいかと・・・」
「・・・・・・」
「さぁ、孫暠様。民の為、孫家の為・・・ご決断を」
「それは・・・・・・。」

昔から、クーデター、内戦を起こす者と言うのは決まって「このままではいけない、自分が率いなければならない」「自分達が立たねばならない」と理想を持って動く。
それが失敗すれば反逆者であり、成功すればどれだけ非道であっても歴史の勝者となりえる。
成功したとして、その後が不味ければ同じような目に合うものだが・・・孫暠も「このままではいけない」と思う人物。
孫策は暴君ではなく、むしろ民にとっては親しみやすい人物なだけに孫暠が立つべき理由は少ない。
それでも、このまま戦となって負ければ民に膨大な被害が出る、そして孫家が滅亡する、という事が孫暠の懸念である。
孫暠の不幸、それは唆されたとはいえ「自分が孫家を率いなければならない」と、思い込んでしまった事にある。
「良いだろう。だが、お前達にも手伝って貰うぞ」
「おお、よくぞご決断なされた。すでに兵も集めておりますれば」
畏まる爲覧らの、曖昧な表情に孫暠は僅かな苛立ちを感じた。だが、彼にはもう1つの思惑があった。
(ふん、俺を利用しているのは見え見えだが・・・しかし。)
どちらが勝ち、負けるか・・・結果がどんな形であれ、どちらかの派閥は一掃され孫家は1つになる。或いはなり易くする為の土台にはなる。


彼は、孫権はともかくも孫策を嫌ってはいないのだ。




~~~高順の部屋~~~

「まさか、見舞いとはいえ単独でお越しになるとは」
「内密の話なのでな。建前だが」
「建前って・・・」
寝台で寝転がっている高順、そしてその隣で椅子に腰掛けている周瑜。
彼女が事前に見舞いに来るとかそういう話も無しに、急にやって来た事は高順にとって良い話・・・とはならないだろう。
大抵、仕事を任されるとかそんな話に違いない。
「傷の具合はどうなのだ?」
「ま、ボチボチですよ。戦の準備はどうですか?」
「ふっ、ボチボチ、さ。」
「着実に、ってことですね。どこが主戦場となるのやら」
それならお前の傷も着実と言うことになるぞ? と周瑜は苦笑し「私の見立てでは、長江の赤壁となる。開戦は・・・あと2ヶ月か3ヶ月ほどかかるか」と答えた。
「赤壁ですか。互いの戦力はどんなものでしょうね・・・」
「曹操は20万ほどの兵を繰り出してくるだろう。我ら孫家は10万の軍勢を出す。」
「2分の1の戦力ですか?」
「それで大丈夫なのか、という顔だな? 案ずるな。兵力で劣っても戦力で負けているというつもりは無い。長時間の対陣はこちらに有利ですらある」
「南船北馬、ですね。荊州はともかく、北方・・・曹操の引き連れてきた主力部隊が役に立たない、と。馬の上に居るのは得意でも、船に乗って波に揺られて、は辛いでしょうね」
「そういう事だ。ふむ、判っているじゃないか?」
「ま、これくらいは。・・・で? 本題は何でしょう?」
高順が面白くなさそうに、周瑜を促す。
「む?」
「さっき内密云々って言ったじゃないですか。これくらいが内密とは思えませんよ。・・・無茶振りしにきたんでしょーが。聞くだけ聞きますよ。過労死するのは嫌ですけどっ!」
「お見通しか・・・そうだな、お前には過労死しろと言ってるも同然だ。すまんな」
「え、正解!?」
ふう、と周瑜は溜息を吐いてから切り出し始めた。
「高順、お前は劉備をどう見る」
「嫌い」
即答に、思わず周瑜は「ぷっ」と噴出した。
「いや、そういう意味ではない。言い方が悪かったか・・・この戦いにどう絡んでくると見る?」
「孫家が勝てそうなら美味しいところを掻っ攫う、つまり勝ち馬に乗る。勝てそうにない、膠着しそうなら一足先に撤退して、曹・孫が動けないうちに独自に領土拡張に乗り出す。」
「・・・。随分な評価だ、と言いたいが・・・厄介なことに私も雪蓮も、そして馬騰殿も同じ意見なのだ。」
「へぇ?」
寝転んでいた高順は起き上がる。
「既に帰還したが、諸葛亮が申告した劉備軍の兵力はどれくらいだったと思う。」
「その場に居なかったので何とも。・・・2千とか5千?」
「1万だ」
はぁ? と高順が聞き返す。
「1万さ。随分低く見積もった数だと思わないか?」
「俺の予測よりは多い申告ですねえ。もっと少なく見積もるかと思ってたのに。まぁ、実際は2万くらい居るでしょうね」
「何故そう思う?」
「何故って、そりゃ。江夏には劉琦軍がいますからねえ。実際にその城入ったわけじゃないですが、それくらいはいるでしょうよ」
「やはりそれくらいはいると見るべきか。」
ふーむ、と周瑜は腕組みをする。
「それで、俺にどんな嫌がらせをしたいわけです?」
「む・・・案外嫌味だな、お前は」
「こんだけ無茶させられて嫌味1つで済ますんですからまだマシじゃないですかね?」
「ふふっ・・・違いない。だが、私が雪蓮に無茶をさせられる気分が少しは解っただろう? 私はお前以上に働かされている自負があるぞ」
「うっわ、そっちのが嫌味だ・・・」
「褒められた、と曲解解釈をしておこう。本題だ。まだ開戦するには時間が少々かかるが、お前には零陵(れいりょう)と武陵(ぶりょう)を落として欲しい」
「は? 零陵と武陵・・・? 寿春に程近い長沙と桂陽でなくて? 交州から見れば繋がりますけど、便が悪くないですか?」
「ああ。長沙と桂陽は放置だ。劉備にくれてやる。長沙と桂陽のほうが都市の規模が大きいからな。」
はあ、そりゃまた剛毅な・・・と高順はポカーンとしている。
「理由はあってな。先ほどお前は劉備は兵力を隠している、と言っただろう」
「ええ、まあ。」
「が、奴らは嘘を言って無くてな。劉備自身の兵力は本当に1万程度だろう。我らも劉備も「劉琦の所持戦力」には一言も言及していない」
「はぁ。」
「そして、お前が言うとおり・・・劉琦か劉備か、どちらかの兵を赤壁に派遣し、残った片方の1万で、長沙を初めとした荊州南部を切り取りに来るだろう。我らが動けないうちにな。勝敗に関係なく、だ。」
赤壁で睨み合っているうちは両軍共に戦力を割けない。その間隙を狙ってくるという事だ。
「いや、それは・・・2つほど聞いても?」
「ん? 構わんぞ」
「俺達は赤壁に従軍しなくて良いんですか? で、譲ったのは良いとしてなんで零陵と武陵を狙うんです?」
「赤壁は水上戦だ。本当ならお前達にも船戦を覚えてもらう予定だったが、そうなる前に南方攻略になったのでな・・・先ほどの南船北馬、さ。そうなるとお前達が遊休戦力になる。勿体無い、では言葉が悪いがな」
「む・・・確かに。・・・あ、やっぱりこれこき使われる流れか!?」
「否定できないのが悲しいところだ。2つ目に、劉備の狙いは解っている。益州だ。」
「えーと。・・・ああ、そう言えば零陵と武陵は益州に通じていますね。道を塞ぐ、と?」
「お前達と孫権殿に益州攻略をさせる、というのは何度も言っているが、そうなれば・・・苦境に嵌れば劉璋は近場に居る誰かに助力を願うだろう。単独で張魯を降せんのに、南から我々が攻めてきてはな。」
「うーん・・・近場に居る同じ劉姓なら助けを求めやすい・・・? なるほどね。」
「益州入りをしたくても名分が無い劉備にとっては渡りに船だ。となれば・・・解るだろう」
「ええ、よく解りましたよ・・・はぁ、もう少し休みたいのですけどね。なんでこんなに働かないといけないの・・・」
高順は胸をさすってぼやく。左手は回復傾向だが、胸の傷の治りはイマイチで休みたいというのが本心である。
「はぁ、早く隠居したい。できないけど。」
「隠居、か。お前に隠居をされるとこちらが困る。そういった発言は謹んで貰いたいな」
割と本気で言っているらしい周瑜だが、高順はそれを冗談として受け取った。
「困ると言われましても。別に俺が居なくても孫家は」
「問題ないとでも?」
高順の、どちらかと言えば自虐的とも取れる発言に、周瑜は困った様な表情を見せた。
「違うんですか?」
「大違いさ。謙遜するのは良いが、過ぎるのも過小評価も困りものだ。お前の立ち位置、これまでの働きの結果。それは孫家にとって大きな力の1つなのだよ」
「そこまで大きな事、しましたっけ?」
「お前と言う奴は・・・。はぁ、山越に武凌蛮に孟獲。俗に言う異民族だが、お前が対策をしてくれている事がどれだけ助かっているか。」
「あぁ、そういう意味ですか。でもおかしいですよアレ。そんなに慕われる要素があるとは思えないのですけどね。」
「異民族でも差別せず、個人で兵として養い、何かあればその家族に厚い保障をする。そんな真似をする奴がお前以外にいるものかな?」
そりゃいるでしょう。と公孫賛を思い出しつつ言う高順。周瑜は、いるかもしれないが、と前置きをしてから「ここまで大規模にやっているのはお前だけだろう」と言いきった。
「お前も知っているだろうが、異民族には悲惨な生活をしている者は数多い。漢民族も大差ないが、それらにも差別される事だってある。」
「・・・弱者は自分よりも弱い者を苛めようとしますからね。」
「そんな中で、真っ当に扱ってくれる者がいて、兵として戦い戦死する事もあるが―――家族の生活も保障されている、という話があったなら・・・どうだ、大抵の者なら食いつくと思わないか」
むしろ、昔の高順はそれを狙っていたものだ。だが、そこから先はさして考えていない。
「異民族同士の、表立った交流があったかは知らないが、一部の者は横同士で繋がっていたかもしれんだろう。お前の噂が徐々に広がっていった筈だ。そんな人物が近くに居たなら? ある程度面識を持ちたい、繋がりを持ちたい、と思うのは人情ではないかな?」
「うーん・・・そういうもんですかねぇ?」
「そういうものさ。山越・武凌蛮などは解りやすい例だな。高順という人間がいてこそ、孫家は異民族への対応を誤らず、そして然程考える必要が無かった。お前が居なければ・・・外に打って出る等出来ないだろうさ。」
この言葉に嘘偽りは無かった。実際、現状で異民族への対応が重なっていれば曹操との対決に「こちらから乗り込んでやっても構わんぞ」というような意見など出ている訳が無いのだ。
異民族への対策に回さずに済んだ労力・資源。失わずに済んだ人的被害に多大な時間。
それらを鑑みれば、高順の働きと言うものは決して軽くない。
「私個人としては、お前を休ませてやりたいところではある。しかしながら、孫家の事を考えれば・・・公としては、お前をいつまでも休ませているのが勿体無いのだよ」
高順を隠居させると、色々と五月蝿い人も多いからな・・・と、周瑜は孫権やら誰やらの事を思い返す。
「・・・・・・・・・・・・。うぅぅぅぅ。働きすぎたからまだまだ働かせるって一体。」
「すまないな・・・それと、もう1つ理由があるのだ。馬騰殿の一時的な領地を作成しておきたい。」
「へ? 馬騰殿の領地って・・・?」
「うむ。あのお方のおかげで騎馬隊は育って来ている。だが、赤壁で戦うとなればそれも遊休戦力。それに、だ。いつまでも寿春に居ては馬騰殿も肩身が狭い。これでは同盟であるという形になり得ないのだよ」
「あー・・・だからその2都市を暫定的に馬騰殿の領地として?」
「そうだ。上手い具合に、その南方がお前の統治する交州と。馬騰殿を支える役割、劉備の牽制。」
「それに加えて益州の攻略ですか・・・そーいうのって重臣にやらせるべきだと思いますよ! 具体的に言えば程普殿とか!」
あー嫌だ、なんでこんなに忙しくなるのさ・・・と、高順は本気で嫌そうな顔をする。
周瑜も悪いと思っており「すまない・・・」と苦しそうであった。何と言い繕っても、高順を働かせすぎているのは周瑜か、或いは孫策である。
機動力・攻撃力に長けており、城攻めも・・・使いやすいというのも理由だが、高順隊以外に、多方面に水準以上の能力を発揮できる部隊は少ない。だから高順の肩に余計な負担が圧し掛かってきてしまうのだ。
しばらく、重苦しい雰囲気が室内を満たす。
どれだけ時間が経ったのか、諦めたかのように高順が嘆息する。
「出撃までに胸の傷が治ってくれれば良いのですけど。」
「良いのか?」
「良いことはないですが、劉備に美味しいところを持っていかれるのも嫌なんですよね。それに、せっかく成都攻めの下地を整えているのにその成果を奪われたら、頑張ってくれた人たちに申し訳が無い」
指揮を執るだけに留めれば、なんとかなるでしょー・・・と辛そうである。
「解った・・・感謝するぞ、高順。開戦前後で一度交州へ戻り、そこから北上してくれ。馬騰殿の部隊も同行させる。」
「了解。じゃ、馬騰殿に総大将となって貰って、指揮を執っていただきましょう。その方が良いですよね?」
「勿論だ。では、今日は帰るとしよう。細かい打ち合わせは後日にな。私が言えた義理ではないが、胸の傷を労われよ」
「はは、全くですよ・・・。」
「それと、孫家の待遇に不満があるのなら劉備の元に行ってみるか? 給料は安く、今以上にこき使われること請け合いだぞ」
「それだけは勘弁してくださいチクショウ!」



無駄にからかわれただけのような気もしたが、とりあえず周瑜が去ってから、高順は天井裏に潜む楊醜(ようしゅう)と眭固(すいこ)を呼んだ。両者、音も無く室内に降り立つ。
「何か用事かな?」
「どちらかに江夏に行って貰いたいんだ。劉琦・劉備の軍勢、どちらが本隊、主力なのか。どう動くのか調べてくれ。それと、交州に行き劉巴さんに零陵・武陵攻略の為の準備を行って欲しい、と。」
「良いだろう。他に何か?」
「そうだな・・・あと、蹋頓さんにも「皆元気でやってるから心配しないでねー」と伝えてくれ。」
「応。じゃあな」

二人が消えた後、高順は「ふぅ」と息をついた。
なんでこんなに忙しいかなぁ。


そして1ヶ月。
まあ、傷も大分良くなったかな? と高順は自由に行動を始めていた。
胸の傷は痛むものの、別に戦闘をするわけでもなく、傷のこともあって軍務は免除されている。
実はそれほど良くなっては居ないが、最初に比べれば大分傷が治っているのは確かだ。
しかし、それは外見上のことで内部はきっちりダメージが残っていて周りからは「絶対無理をするな」と耳たこレベルな回数で言われている。
今日街に出ようと思ったのは、鎧が破損してしまったのでその修理を街の鍛冶屋に頼んだり、面頬を新規に作ったり、とそれなりの理由はあるし、それ自体に問題は無い。
問題があるとすれば、完全武装(藤甲装備)の周倉がじーーーっと傍に張り付いている事だけだろう。
「なぁ、周倉・・・俺、自由行動したいんだけど」
「すれば良いと思うぜ」
「あの、1人でって意味だけど」
「そりゃ無理。」
「そうですか・・・」
そんなあっさり、と思わないでもないが本人が言うには「何かあったら不味いだろ?」だが、趙雲や楽進は部隊の訓練を受け負っている状態で、常に高順の傍にいない人々の意向も動いているようである。
監視されてるみたいで落ち着かないが実際に監視みたいなものである。
参ったなー、と言いながらも散歩を続けるが、どうも。
「周倉、なんか・・・上手く言えないが、寿春ってこんな物騒な人多かったっけ?」
高順は辺りを見回しながら、そんな事を言い出した。
「そうっすねぇ、ちょうど1月ほど前から増えてる感じだなぁ。孫家が傭兵募ってんのかな? くらいにしか。別段、問題が起こってるわけじゃねーみたいだし。」
にしてはどうにも柄の悪い人間が多い。時代から考えて治安が悪いのは珍しい事ではないのだが、寿春はもっと平和だったと思う。
戦が近いと言うことで気が立っている者はいるだろうが、世紀末救世主伝説に(外見的に)出てきそうな人々は居なかった・・・と思いたい。
「影」を外部に放ったのは間違いだったか、と高順は頭を掻いた。
街の人々も出来れば近寄りたくないと思っているようだし、孫策ら孫家首脳陣なども気付いているとは思うが・・・と思っていたら人ごみの中に孫策の姿が見えた。
こちらには気付いてないようだが、キョロキョロ周りを見回しつつ歩いているので怪しいことこの上ない。
高順は人ごみを掻き分けて、堂々と孫策の傍まで歩いていって「孫策殿~~~?」と話しかけた。
「ひゅいっ!? な、何よ、高順じゃない・・・驚かせないで欲しいわ」
本気で高順に気付いていなかったらしく、驚かされた事を不満に思っているのか、口を尖らせる孫策。その手には酒が入っているであろう瓢箪がある。
「で、孫策殿は城下街で何を? もうすぐ曹操と開戦するこの大事な時期に城下街で何を?? 街に危なそうな人々増えてる中で遊んでたのですか???」
「だ、大事な事だからってそう何度も言わなくて良いじゃない・・・あ、そうだ」
そーよ、見つかる前に二人とも連れて行けばいいのよ。共犯者にすれば見つかってもお小言少なそうだし。と、高順にとっては不吉極まりない単語を口にする孫策。
「あの「そーと決まれば付き合ってもらうわよ、高順と周倉。だいじょぶだーいじょーぶ、ちょっとお出かけするだけだから♪」ちょっ・・・!」
「え、そ、総大将!?」
「きてくんないと「ぎゃー暴漢が私を攫おうとしてるー」って大声で叫ぶわよ?」
『・・・・・・・・・りょーかい。』
なんで孫家の総大将に脅迫されなければいけないのだろう。しかも誤魔化されているし。
孫策は乗り気じゃない高順と周倉は無理やり引っ張られて行くのであった。



それを見ていた10人ほどの集団が、各々苦々しそうな表情を見せていた。
(ちぃ・・・余計なのが二人増えたぞ)
(人ごみの中で殺せれば良かったが・・・クソッ、孫策の後ろを守るような位置にいやがる)
(待てと言っただろうが。こんな所でやれば混乱が生じる。もし外しでもしてみろ、あの女は警戒を強めて二度と好機は回ってこんぞ)
(どうする)
(ふん、ほとんど供を連れていないこの状況を逃すものか。幸い、城に帰るつもりは無いようだ。人気の無い場所に行くのを待て。このまま追い、後ろの2人ごと殺してやる)
(応援は必要だろう。我らの成功と同時に爲覧と戴員も動く。孫策を殺せば勝利も同然・・・念の為に兵を数百こちらに回すように伝えろ)
(応)
(では行くぞ)
暗殺者が、孫策達の後を追い行動を始めていた。




そこから時間経過。城内にて。

「雪蓮は何処に行った!? この忙しい時にっ・・・」
何処に行ったあの馬鹿君主! と肩をいからせて城内を探し回る周瑜。
だが、文官武官がその周瑜を探してあちこちを走り回っている。
「周瑜様、弓はともかく矢の数が足りませんっ!」
「手漉きの者がいれば作成を手伝わせるように」
「軍師殿、朝廷への使者の用意が出来ました!」
「宜しい。直ぐに向かわせろ・・・ああ、もう。この忙しい時期に主君がいないなど・・・」
やはり街に遊びに行ったか、とぎりぎりと歯軋りをする周瑜。
開戦近しということであれこれと仕事が回ってくる中、やはり孫策は周瑜、というか周りの人々に仕事を押し付けて逃げたようである。
このところ、どこからか知らないが流入してきたならず者の多さに住民から苦情が出るわ、本当に忙しい。
ただ、その流入してくる人間の多さには不吉なものを覚えている。これほど短期間に寿春に・・・と思ってしまうのだ。
戦が近いから仕官の口を求めて、なら問題なかろうが、どうにもそれが理由ではないという事は承知している。
ならば呼び寄せた大本が居る筈だ、と周泰配下の密偵に調べてもらっているが、大本は中々尻尾を出さない。
用心深いのか、それとも孫家の武将の誰かが通じているのか。自分でも調べたいが、他にやらなければならない事が多すぎて、今でさえ働きすぎな周瑜である。
流石に無視できない状況になった、と周瑜はそういった連中破防法―――のような感じで検挙したいとも考えている。
そういった色々な事への承認を孫策から得るのも仕事な訳だが・・・何故こういった状況であの女は逃げるのか。
とにかく、孫策を探しに行かせた周泰の報告を待つしかない現状である。
「まったく、何処に・・・。・・・?」
城から下を見下ろした周瑜は、ある一角を見つめてふいと足を止めた。
黒煙が上がっているのだ。
(煙? 場所は・・・あそこは厨房など無いはずだ。)
誰かが城内で焚き火? いや、それは・・・・・・。陸遜あたりならやりかねんな。だが、それにしては。
「ん? ・・・待て・・・あそこは武器庫のある方角だったな・・・まさか」
身を乗り出し、そこを凝視する周瑜。自分と同じく、異変に気付いた兵がわらわらと動いている。
誰かの失火か、それとも曹軍の放った密偵の仕業か。
或いは、孫家の中に居る「敵」が動き出したか。



~~~孫策達に場面を戻し~~~

孫策は街を出て、高順と周倉を人気の無い河原まで連れて行った。
その河原で魚釣りをさせられたり、火を起こして焼き魚にしたりと言う一幕があったが、ここは前に高順・周倉が訓練をした際に通りかかった場所で、二人ともそれを覚えている。

孫策は河原にポツリと存在する大きめの石の前でしゃがみ込み、酒で満たされた瓢箪と魚を石の前に置いて、目を閉じた。
やはり誰かの墓だったのか。と、高順も周倉も孫策の瞑目が終わるのを待つ。
周倉は「ここでヤんなくて良かったなぁ」とか思っていたが、どれほど時間が経過したのか、すっと孫策が立ち上がったので慌てて思考を打ち消した。
「・・・んん?」
周倉は不意に、チリチリとした何かを感じた。産毛が逆立つような、嫌な感じだ。
もしかして、誰かが・・・?

「これ、お墓なんですね。」
「ん。母様のね」
孫策の答えに「やはり孫堅か」と高順は頷いた。
「前にも話したっけ? 無茶な人でね。戦場で子供育てるような人でさぁ・・・あはは、そのせいで私もこんな性格になっちゃったけど・・・って何よその顔」
高順と周倉は「え~~~・・・」てな顔をしている。その性格は絶対に生まれつきだ、と主張するかのように。
「何を言いたいかはさて置いて。でもま、熱意は本物だった。自分の力が何処まで通じるのか、通じるのであれば江南を制して、更にその先へ。」
結局、その願いも野心も半端な所で終わって、それを受け継ぐ場所に来るまで時間がかかりすぎてしまったけど・・・と、孫策は過去に思いを馳せた。
母が生きていればもっと早く回ってきたであろう大舞台。天下を決するに相応しい大戦がすぐ目の前まで迫っている。
亡き孫堅の願いと想いと野心を受け継いで、そこに自分の覚悟も上乗せして、ようやくここまで来れたのだ。
自分も、そして曹操もこの大戦を望んでいる。後は進むだけだ。
「母様の手から零れ落ちたものを、形が変わったかもしれないけど、友人・・・仲間達と私が拾い上げた。それの結果がどうなるか解りはしないけど・・・やすやすと手放したりはしないわよ。」
孫策の心からの笑みを見せられ、高順もまた笑う。
彼女は求めている。孫堅が望んだ以上のものを。渇望して止まなかった願いを果たし、それ以上の舞台へと出ることを。そして、母を超える事を。
俺には真似できんね・・・と思った高順の視界に、何かが映った。
茂みの中に人影のような、黒い影のようなもの・・・
周倉が「総大将も大将も伏せろぉっ!」と怒鳴ったのは、それとほぼ同時だった。

高順から見えたものは暗殺者の影。
周倉の目にもそれが映り、彼女は無意識に腰に手を伸ばす。人差し指と中指、薬指と小指・・・それを両手。
つまり、両手で4本の投擲用の小斧を引き抜いて1本の斧を孫策に向かって投げ飛ばす。(孫策にとっては後方で見えていない
この時には高順が孫策の肩を掴んで無理やり引き倒していたが、既に数本の矢が飛んできており内一本が高順の左手に刺さっている。
高順は「いでぇぇぇっ!? せっかく治ってたのに!」とか叫んでいたが、それはともかく、斧は孫策の頭上を飛び・・・矢を向けていた何者かに命中。
ぎぁぁっ、と悲鳴が響き、何かが倒れるような音がした。
周倉は確認することもなく、殺気を感じた方向に次々と斧を投げつけて行き、それは全部命中したらしい。
次の攻撃が来る前にもう一度、と言いたかったが投擲用途の斧は4本しかない。
斧だけじゃなくて飛刀も持ってくりゃ良かったぜ、と愚痴りながら接近戦用の斧を構える周倉。


「敵・・・暗殺者!?」
最初は何が何だか理解できなかった孫策だが、今まで感じなかった殺気を複数感じ取り、得物を引き抜く。
3人は背を向け合い、後ろを預けあいながら警戒をする。
「随分気配を消すのが上手い奴らみたいね・・・! 周倉も良く気付いたわね!」
「それっぽい感覚はあったけどな、勘違いで済ませるかもしれなかったぜ!」
「つぅっ・・・残りの気配はどれくらいだ?」
傷が痛むのだろう、ふらつきながらも高順も立ち上がる。
「鈍いぜ大将。あと6つくらい・・・って上だ!」
「上・・・!?」
つられて上、というか斜め上を向く高順。そこにはいたのは木の上から弩で高順を狙う男。
人間というのは死にそうな時や危険な状況に直面すると時、間の経過をゆっくり感じる事があったりする。
今の高順もそんな状態(彼は死にかける事が多々ありすぎると思うのだが)で「あ、やべ。こりゃ死んだ。今回は無理っぽいなぁ、あはははー・・・」とあっさり諦める。
自分が矢で貫かれると思っていた高順。間に合わない、と悟りつつも動いた孫策・周倉。
覚悟した高順だがしかし、木の上にいる男の指にクナイらしき形状の投げ刃が突き刺さる。男は弩を落としバランスを崩して木の上から転げ落ち・・・る前に、追撃で放たれた気弾が命中し、すっ飛んでいった。
「・・・何?」
皆、クナイが飛んできた方向に視線を向ける。
その視線の先には、刀を構えて突進していく周泰、その隣に居る見慣れない少女と付き従う数十の兵の姿。
すぐ傍には、趙雲と楽進率いる騎馬隊も在った。



~~~楽屋裏~~~

ちょっと中途半端。あいつです(挨拶
ぶっちゃけると爲覧も戴員も曹操軍と繋がってます。
曹操個人はこいつら知りません。誰と繋がりがあるのやら・・・全く設定してませんけど。もしかしたら董昭あたりか。

原作みたく孫家の領内に曹操軍としての暗殺者が入ってくるのもなー、ということでパイプ役と言うか、許貢残党はそれっぽい役割です。
速攻で抹殺されるでしょうけどね(ぁ



さてさて、ここで高順くんジ・エンドなのか最後までいけるかは迷い中。
まあ、ここで死んでも特に影響が無いような・・・

しかし、この駄作が始まってもう2年近く。
長くても数ヶ月で終わると思ってたのにどうしてこうなった・・・
何とか今年中には終わらせたいものです。

終われるといいなぁ(遠くを見つめ



[11535] 【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第107話。
Name: あいつ◆16758da4 ID:81575f4c
Date: 2011/06/04 17:49
【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第107話。


周泰と趙雲の部隊が突入した事で、大勢は完全に決していた。というより、高順が手傷を負った以外は特に大したことでもなく、孫策と周倉だけでも対処可能ではあった。
何せ周倉は軽装型とは言え藤甲鎧。火矢がなければ、実質ダメージはない。
ともかくも、周泰とその隣に居た少女が隠れている暗殺者をあらかた討ち果たし、その中でまだ生きている者を縄で縛り上げ、孫策の前に引き出していた。


「いやぁ、良く来てくれたわね。おかげで助かったわ。ところで、そっちの子と、あなたの後ろに居るのは?」
孫策は周泰を労い、それから興味深そうに周りの連中を見渡す。
孫家の兵ではないようで、どちらかと言えば海賊といったほうが良いような風貌の者ばかりである。
「いえ、孫策様や高順様がご無事で良かったです! あ、こっちの子は私の友人で蒋欽。周りの人達は・・・」
説明によると、蒋欽も周りの者も、周泰の昔なじみの元水賊らしい。
元が賊であるために戦い方は乱暴なものだが、腕は確かという連中だ。
特に蒋欽は、茂みの中に隠れている暗殺者を確実に矢で射抜き、死んだ振りをして隙を伺っていた者の演技を見抜き、頭を踏み砕いて殺す。
見た感じでは周泰と変わらない年齢で、女の孫策から見ても可愛い部類の蒋欽だが、人を殺す技術、あるいは冷酷さでは周泰以上の物を覗かせる。
人の上に立つには不足だが、あの技術は・・・言い換えれば人を守る技術にもなり得る。
人材ってゆーのは、知らないだけでそこら辺にいるものなのねー、とか思う孫策。蒋欽は、3人の暗殺者を縛り上げ孫策の前に引き出している。
途中で暗殺者の口の中に手を突っ込み、彼らが「自害する為」に歯に仕込んでいた毒を歯ごと引き抜いていた。
中々におっかないというか怖いというか。
ここで孫策「・・・あれ?」と、蒋欽の顔を凝視する。
どっかで見たよーな・・・うーん、とちょっと悩み「・・・あー、そういえば!」と思い出す。
「そーよ、あんた! 私たちがよく使用する海運業者の1つよ!」
「あ、覚えてた」

蒋欽、彼女の海運は元々周泰も所属していた水賊集団が中核となって旗揚げしたものだ。
周泰が孫家に拾われたと同時期に、水賊衆は海運業へと転進していたのだ。
既に権益を持っている他の海運ばかりがある中で作成された海運である為、初期は苦労しっぱなしであったとか。
だが、周泰からリークされた情報・・・例を言えば袁術との戦い、もっと言えば反董卓連合や黄巾の乱の時も、蒋欽属する海運が孫家の為に働いている。
人員・物資移動。或いは物資保護などなど。
元来水賊で、船の扱いのみならず戦にも慣れていた彼らだが、規模は小さいながらも確実に仕事をする、として、仕事があれば名指しで指名される程度には信頼されている。
規模が小さいからか、孫策勢力が弱小時代の頃からも声がかけ易かったという事。
加えて、初めて仕事を任せた時には海運、つまり蒋欽側から「生意気かもしれないけど、最初の料金は貰わない。私達の仕事を見て、信頼できると思ったらこれからも使って」と言い出し、前述の通りの仕事ぶりを見せた。
孫家が弱小であった時にも、安めの価格(規模が小さいから可能だった)で仕事を引き受けてきっちりと仕事を果たす、というのが魅力であり、その関係は今でも続いている、というわけだ。
孫策は彼女らの仕事ぶりを見て「直接孫家の下で働かない?」と持ち出していたが、蒋欽はそれを断っている。
今自分達を受け入れては孫家が苦労をするから、が理由だが遠まわしに「孫家が大きくなったらまた声をかけて」という事でもある。
今回の戦(赤壁の事)でも蒋欽らは物資集積や人員輸送などで動いていたが、孫策は蒋欽の顔を見るまで、約束を忘れてしまっていた。
単純に忙しくてそれどころではないという事情もあれば、そういった実務の殆どは周瑜が担当していたので、あまり会う機会も無かった。
(蒋欽が周泰と繋がっていた、という事も知らなかったし・・・広いようで狭いものねぇ)

さて、周泰がそんな連中と同行していた理由は、と言えば・・・
「ん? ちょっと待って。なんで兵士連れてこなかったの? 貴方にも兵士いたわよね?」
「あぅぅ・・・実はですね。そのぅ・・・反乱が起こったみたいで」
「・・・え? 反乱? えーと、周泰の部隊で? それとも寿春内部で? ・・・もしかしてけっこう規模が大きかったり?」
「うぅ・・・その、後者ですぅ・・・」
「・・・・・・・・・・・・後者って。」


寿春内部で何者かが武装蜂起。要所に攻撃を仕掛けて来て内部は大混乱に陥っているという。
しかも、規模が大きく、少なく見積もっても1万の兵力があるようだ。この兵には待ちに流入してきたならず者が多く含まれている。
当初は孫策を探していた彼女、孫策が待ちの外に居ると突き止めた時に街中に居た為、きっちり反乱に巻き込まれてしまっていた。
元々、周泰は密偵方として働いていることが多い為、戦争中以外では兵を率いることも少なく任されている兵力自体も多くない。
なので、まず孫策を探すか、他の武将と連絡を取るか・・・を考えいといけなかった訳だが、そこで周泰は連絡を取りつつも昔馴染み達の力を借りることにした。
蒋欽は「こんなことで力になれるのなら」と快く応じ、戦力となる者を集めて
反乱軍の規模と、何を狙っての動きなのか。そこはまだ解らないが、どこかの主要部を当たれば最低限、誰かと連携できるだろう。
そう考えて蒋欽に手伝って貰い少々の情報集めを行い、また水賊衆のおかげで、水軍の訓練を行っていた黄蓋とも合流できた。
流石というべきか、黄蓋は不穏な流れを察知していたのか。反乱軍が水軍を掌握しようと寄せた時点で既に港を離れており、集積されていた軍船・軍需物資・兵士を損なわずに済んでいる。
他にも程普や韓当や朱治といった孫家宿将とも連絡は付き、彼らも合流して反攻を開始しているようだ。
詳しい事ははっきりと解ってはいないが、寿春城も攻められているものの孫権・周瑜が防戦指揮を執っている。
兵数に差があって苦戦はしているようだが、防衛戦では強い孫権と周瑜が協力しているので容易には落ちない。
実は、周泰が黄蓋らと合流した前後、城内での破壊活動を行っていた賊も周瑜らに捕縛・処断されており、首謀者が誰か、協力者は誰か、という情報も割れている。
幸いと言うべきか、釣られて同調する者は少ない。反乱軍は「孫策は死んだ」というような事を声高に主張しているが、城内では「嘘をつくならもう少し上手くやれ」とばかりにあっさり無視して防戦中だ。
軍用資材を焼かれはしたもののそれは僅かなものでしかなく、周瑜が迅速に動いた為に大した害も無い。

さて、黄蓋率いる水軍衆が反撃は開始したと同時に、周泰は城外に居る孫策と合流する為に動き出した。
しかし、反乱軍は外に通じる門を占領しており(だから戦力が分散してしまったともいえる)周泰と少数の水賊衆では・・・突破できたとしても、再度中に入る事は不可能だ。
さぁ、どうしたものか。と悩んでいたが、そこでまたも幸運が舞い込む。
高順と周倉を探して行動を開始していた趙雲・楽進・沙摩柯の部隊が、門を占領していた反乱軍と交戦。
更に馬騰・馬超・馬岱率いる騎馬隊も助成し、極めて短時間に・・・1箇所だけではあるが門を解放してくれたのである。
そこで周泰は彼女達に助成を頼み、趙雲・楽進の隊が孫策らの救援に同行。その途上で数百ほどの反乱兵を見つけ、あっさり轢いて今に至る・・・大雑把に言えばこんな感じである。
その趙雲達は、少し離れた場所で高順と会話をして居る。

「そうか・・・解った。」
高順は趙雲・楽進から周泰のものとほぼ同様の報告を聞いて首肯した。
「独断ではありまするが、門の確保を続ける為に沙摩柯殿の部隊を残しました。申し訳ない。」
「いや、良い判断だよ。向こうは数が少ない上に戦力分散。こっちは黄蓋殿や程普殿、あとは孫権殿あたりが戦力集中か、散らばってる兵を吸収しつつの進軍になるだろうし・・・」
問題は市街地への被害だけど、こればっかりはね・・・と、高順は木の幹にもたれて辛そうに呻く。
まだ矢が左手の甲に刺さったままで、かなり痛々しい。楽進がその矢を半ばから切り落とし、ゆっくりと引き抜いていく。
さあ、治癒を・・・と思った矢先、気にもたれ掛かっていた高順が力を失ったかのように尻餅をついた。
「え、隊長? ・・・どうなさいました?」
「ふぅ、うぅぅ・・・・・・」
荒い息、というよりも・・・どこか、嫌な何かを感じさせる息切れ。
楽進だけではなく、趙雲・周倉も「まさか・・・」と血の気が引いて行く様な感覚に襲われる。
趙雲は座り、半分に切り折られた矢を拾い上げ先端を凝視する。
「高順殿。まさか、この鏃」
「あー・・・う、ん。多分、毒が塗られてるっぽい、な。はは。最初は痛いだけだったんだけどさ・・・不味いなぁ、目が霞んで来るし体に力入らな、いし。左手の感覚が、薄れて・・・」
「そんな・・・」
虚ろな表情で言い終えて中空を見据える高順。何が見えているのか、それとも何も見えないのか。
周倉が直ぐに布を取り出し、高順の左肘より少し下あたりをきつく縛る。
治癒を行おうとした楽進も「今ここで傷口を塞ぐのは不味いか」と判断して、高順の事場を待つことにした。
彼女の癒術は、傷に効いても毒には何ら効果が無い。
一度目を閉じた高順は、ゆっくりと趙雲の名を呼んだ。
「いい機会、ですから、ここで明言しておきます。俺が死んだら、軍権は全て趙雲殿に、政治権力は劉巴殿に委譲。貴女の裁量で、兵を・・・はぁ、動かしてください」
「私が・・・いや、しかし。」
「命令だ、聞け」
高順の言葉に、周りの人々は硬直した。
基本、高順は「ああしてくれ、こうしてくれ」と発令をする事はあっても、命令だから従え、などと高圧的な言い方をした事は殆ど無かった。
戦の興奮で口調が僅かに強まったり、という事くらいなら幾らもあった。
誰にでも解っていることだが、今のように明確に「命令だ」と押さえつけられた記憶は、少なくとも趙雲には無い。
それだけの大事、それだけの覚悟で話している。高順はそう言いたいのかも知れない。
「山越や南中など、異民族と呼ばれる、ひと、びとの・・・くっ・・・折衝、交渉は・・・蹋、頓さん・・・に。出来るね?」
これは、断れる雰囲気ではないし、断るべきではない。
これまで何度も「俺に何かあったら趙雲殿よろしくお願いしますねー」「ふむ、よろしくされておこう」という冗談めいたやり取りはあったものの。
それがこうやって現実味を帯びて自身の肩に圧し掛かってくるとはな、と趙雲も覚悟を決めた。
「承知した。だが、貴方はまだ死んではいない。故にこれより、臨時で指揮を執らせて頂こう。」
「それで、良いさ・・・隊を掌握してくれ」
この発言に、趙雲は立ち上がる。
「皆、聞いたな。これより、この趙子竜が指揮を執る! 周倉!」
「お、おう!」
「お主は高順殿を寿春市街の華陀殿の元へ運び込み、そのまま護衛に就け。我が隊も途中まで同行し、その後孫家各部隊と合流し敵を討つ。楽進!」
「はい!」
「お主の部隊は一時的に孫策殿の指揮下に入れ。それほどの心配は要らぬ・・・と思いたいところだが、先ほどのように部隊が派遣されない保証は無い。では行くぞ、各々の職務を遂行せよ!!」
趙雲の号令に、兵士達は「おう!」と鬨の声をあげる。

自分達の役割を果たそうと動き出した将兵の姿を見つつ、安堵したのか・・・周倉に背負われたところで、高順は気絶した。



楽進が事の顛末を孫策に報告に向かった頃、孫策も暗殺者の口から反乱の首謀者が誰か、などの情報を聞き出していた。当然、「真っ黒」なやり方で、だ。
孫策本人は「適当に痛めつけりゃ吐くでしょ」と思っていたが、蒋欽が「そんな程度じゃ吐かない」と、孫策の代わりに拷問を行ったわけだが・・・
凄まじく酷い拷問で、拷問をされた1人があっさり死亡。震え上がった残り2人が全ての情報を吐いたが蒋欽は「誰が簡単に死なせるって言ったの?」と、これまたきっつい方法で2人を処刑。
それが終わった後、蒋欽が「ふにゃああ・・・」と気絶してしまっている。
成り行きを見ていた孫策が色々な意味で唖然とする中、周泰が「蒋欽ちゃん、やっている最中は良いのですけど・・・終わったら、余りの惨状に自分が気を失っちゃうんです・・・」と申し訳なさそうに言った。
途中は気分が高揚していて、最後にガックリ下がる、という事だろう。
ならやるな、と思いもするが、そのおかげで情報を得られたのだし、最初から暗殺者を生かしておくつもりも無かったのだから結果的には問題なしだ。・・・多分。
もしも楽進がその拷問光景を見たら「蹋頓殿が怖いです許してください私は何も悪くないです・・・」と、ガタガタ震えながら命乞いの準備をしていたのかもしれない。




寿春市街では、孫家正規軍と反乱軍が各所で激突していた。
既に暗殺が成功したと考えて戦意の高い反乱軍と、現在の状況についていけず、一部混乱している正規軍。

この反乱軍、爲覧(ぎらん)と戴員(たいうん)が集めた件のならず者がほとんどを占めているが、孫暠率いる私兵もいる。
爲覧・戴員の召集に応じた者は、大部分が孫策に恨みを持つ連中。つまり、孫家が飛躍的に領土を拡大したことによって噴出した、歪と言うべき存在。
凄まじい速さで勢力を伸張した孫家は、それだけ方々から恨みを買うことが多かったのだ。
純粋に孫策に恨みを抱いている者も居れば、良い思いが出来そうだと思って参加した者も居る。それらは暴徒となって火を放ち、略奪をし、女子供に手を出し、破壊の限りを尽くしていた。
正規軍が混乱して連携が取れていない状況に於いて、代わりに奮闘していたのが市街警備隊だ。
彼らは軍に比べて装備では劣るものの、火消し・市民救出および護衛、反乱軍との交戦などを分担で行っていた。
反乱軍に対しても徹底抗戦の構えを見せ実際に矛を交えていた彼らだが、程普や黄蓋ら率いる正規軍、趙雲・馬騰ら遊撃部隊が反攻を開始するまでの時間を稼ぐ等、善戦している。
指揮を執っていた者の1人に、警邏中であった太史慈がおり、彼の個人的武力も善戦できた理由の1つだ、と付け加えておくべきかも知れない。
一番苦戦していたのは城に立て篭もった孫権の部隊だったが、こちらは純粋に数が少なく、外部との連絡が絶たれてしまった事が大きい。
反乱軍も反乱軍で、統率する(まともな)武将が孫暠以外いないという状況で戦っていると思えば、こちらも善戦している、というべきだっただろう。
しかし、孫策が周泰・蒋欽・楽進(と騎馬隊)を率いて戦場に到着してからは形勢が逆転した。
それまでに黄蓋ら正規軍も分断された部隊を拾い立て直していたし、趙雲・馬騰の騎馬隊が文字通り反乱軍を蹂躙している。(馬騰だけで大丈夫じゃないかなぁ? と思うほどの暴れっぷりであったそうな)
また、孫策は包囲されている城に向かって行き「あたし死んでないわよー」と明言し、孫策の無事を知って奮い立った篭城軍の反撃で、反乱軍主力を撤退させている。
その後の事は孫権や
孫策の生死がわからず日和見をしていた連中も、孫策の無事が確認されてから鎮圧に加わっていたり、という一幕もあったが。
これは、それだけ孫策が重きを成し、孫権の影響力が低いという孫家の寒い事情であったのだろう。
何にせよ、これで反乱軍は敗北したも同然だった。

~~~孫暠邸~~~
「そうか、なるようになったか」
撤退してきた兵士の報告を受け、孫暠は「まあ、当然だろう」と思っていた。
孫策の暗殺に成功して、ようやく勝率は5割まで行くかどうか、というところだ。
暗殺が失敗すれば自身の反乱が成功する筈もないし、成功したとしても暗殺と言う手段で、孫家の「真っ当な」武将が自分に付いて来るかどうかも疑問だ。
杜撰な計画で成功など考えていない節もあったが、それでももう1つの役割は達成出来たように思う。
そろそろ、自分達「反乱軍」は各所で敗北し、ここもすぐに包囲されるだろう。
自分が決起したことはいずれ解る事だし、最初から逃げるつもりも無い。
そうとなれば、後始末も必要になってくる。孫暠は兵士に「爲覧と戴員はどうした」と、自分を利用していた二者の事を聞いた。
「は、姿は見当たりません。」
失敗を察知して逃げたか。利用されていることは承知していたが、ここまで鮮やかに逃げるとは。そうなれば、こちらにとっても思う壺だな、とも思う。
というのも、孫暠には数人の弟が居る。孫皎、孫瑜、孫奐、孫謙。
彼らは兄ではなく孫策を支持する武官だが、この反乱を起こした兄に従おうとしていた。
孫静はこの動乱を乗り切る為に息子である孫暠を見捨てたが、弟達は「愚かでも兄は兄。弟の自分達が支えなければ他に誰を頼れるものか」と、孫暠に付こうとしていたのだ。
だが、孫暠はこれを断った。弟の支持があればある程度上手くやれたかもしれないが、彼はそれを許さなかった。
孫暠から見ても弟達は武将として有能で、ここで道連れに死なせるにはいかにも惜しい。
この反乱が成功したら自分の元へ来い、くらいは言って置いたが、成功する確率の低いこの戦いに連れて行くつもりにはなれなかった。
自分達、開戦反対派を粛清した後は将兵は少なからず減る。その状態で曹操と開戦したその時に、弟たちは孫家の人間としても武将としても、有効な戦力だ。
自分が死んでも、彼らなら・・・恐らく、政治的には不遇だろうが、武将としては重用され孫静の血脈が滅びる事も無いだろう。
爲覧と戴員が逃げたのならそれはそれで好都合。その追撃を・抹殺を弟達にやらせて「こいつらが兄を唆しました!」と(事実を)言わせれば助命される可能性も大きくなる。
不幸があるとすれば自らの妻子の助命はされない事で、それならばいっそ・・・と、巻き込んだことに後悔しながらも自身の手で始末をつけた。
既に邸宅も包囲されかかって、逃げ場は無いし、最初から逃げるつもりも無い。手元に残った兵も残り数十名ほど。他は鎮圧されたか降伏している。
こちらに内応し、城内への手引きを行った者達は・・・どうでも良い。所詮不穏分子、遅かれ早かれ処分されていただろう。
「さて。そろそろ孫策殿が来る頃か。丁重に出迎えなくては。」
「我らの力、存分に見せ付けてくれましょう」
「・・・馬鹿者が。お前達は投降せよ。無駄死にでしかない戦に付き合う必要はない」
「いやいや。孫暠様お一人では色々と不安がございます。死出の共が数十人くらいは必要でしょう」
兵の言葉とともに、武装した兵士が部屋に入ってくる。全員は入りきらず、部屋の外にもいるが、迎え撃つ準備は出来ている、とでも言いたげであった。
「・・・救いようの無い馬鹿共だ。俺を捕らえて降伏する道もあるだろうに。」
「仕方がありません。上司が馬鹿なので。」
兵の遠慮ない物言いに、言ってくれる、と孫暠は苦笑した。
「ならば、その馬鹿の最後の足掻きを孫策殿にとくとご覧いただくとするか。」
「はっ!」



反乱軍を抑えた孫策は、配下の軍勢と共に孫暠邸宅を取り囲んだ。
その数、およそ5千。邸宅を囲むのにそんなに多い数は必要ないとして、消火活動や逃げようとした反乱兵の掃討へと兵を回したのだが、それでも一邸宅を囲むには数が多い。
囲んだ武将の中には太史慈がおり、彼は高順が毒矢に倒れたという話を聞いて「野郎、よくも俺のダチを!」と、単独で斬り込みかねないほどに猛っていた。
包囲が整った状況でいつ突撃命令が下るのかと誰も彼もが待機していた所、城内の処理を孫権に任せて・・・というより、孫権自らが「私がやっておくから」と送り出したのだが、周瑜が到着する。
彼女は真っ直ぐに孫策の元へと走り、その無事を確認する。孫策も気付いて「あら、めーりんじゃない。妹達は大丈夫?」と出迎えた。
「ああ、こちらは大丈夫だ・・・む、蒋欽・・・?」
「どうも」
流石に周瑜は蒋欽を覚えており、彼女がいる事に多少の驚きがあったようだ。
「お前も手伝ってくれたのか?」
「うん。料金は周泰から貰ってるから、安心して」
「ふむ。後で事情を聞かせてもらおう」
「解った」
「何にせよ、無事で良かった。孫権殿達は勿論無事だ。」
「そっか、それは何よりね。・・・私は無事だけど、他がね」
「他が、とは? どういう意味だ」
「高順が毒矢で撃たれてね。私をかばったせいなんだけどさ。」
「何・・・!?」
毒、という言葉に周瑜が反応する。
「周倉が華陀の所に連れて行ったみたいだけどね。まだ、無事かどうかは解らない。無事であって欲しいけどね」
「そうか・・・」
周瑜の表情が曇る。
今まで無茶をさせすぎて体が壊れかかっていたのに、その上で毒とは。
「苦労をするとか、運が良い悪い以前に、どうしてこうなってしまうのだろうな・・・お前ではないが無事であって欲しいものだ」
「私のせいよ。だからきっちり報いるわ。当然、生きてもらってね」
その前に、と孫策は邸宅を見やる。迎え撃つつもりのようだが弓兵などは見当たらない。
踏み込んで来い、という事だろうか。
「ふむ。しかし、あの孫暠殿がな」
僅かばかり見くびっていたか、と言う周瑜に、孫策は「なんとなーく、そんな感じだと思ってたけどね。勘で」と返した。
「ほう」
「あの人、政治的・・・曹操への姿勢では敵対立場だけどやる時はやる手合いよ。まさかここまでの兵を集めるとは予想もしなかったけどね。口だけじゃない、ってか。」
「扇動されてそれに乗ったと言う事か」
「みたいね。さぁて、そろそろ行くわ。終わった頃にいらっしゃい」
「ああ。だが気をつけろ。」
「とーぜんよ♪」
孫策は周泰と、気絶から立ち直った蒋欽、護衛役に回っていた楽進に声をかけてたった4人で乗り込んでいこうとしたが、そこに太史慈も「俺も行かせてくれ!」と志願。
そういや、こいつは高順と仲良かったわねぇ、と思い出して「じゃ、一緒にきなさい。死ぬんじゃないわよ」と言って孫策は許可を出した。
兵士達も供をする、と言いだすが「あーんなちっこい場所に100も200も入れるわけないでしょー、待ってなさいよっ」と、孫策たちは駆け出した。
見送る周瑜は「兵の立場も考えるべきだろう」と溜息を吐いていたとか。





~~~楽屋裏~~~

え、高順どうなったのって? 知らない。あいつです(挨拶

またしても尻切れトンボですが、次回で反乱編終了・・・というか、戦後処理(?)です。既に詰んでますが。
こうなると、開戦時期が少し遅れる気がしますね。決着を望む曹操、こーいう状況で乗り込むとかしそうにないですし。

裏設定ですが、ゾウハは尚香を守って、同じ親衛隊の方々と奮戦、無事に孫権・周瑜と合流しています。


関係ないですが、このメンバーで使い古された学園ものをやったらどうなるかなぁ・・・とふと考えてみたり。
ま、結果的に・・・
変なネタ除けば、ぇろしかなかったですが(ぁ
特に李典あたりが凄そうです。現代のぇろ玩具駆使して誘惑してきそうですヨ?
ゴム製品とか。電動ネコじゃらしとか。マットとか。ニーソックスの裾にゴム製品挟んでチラチラとスカートをめくって下着なし誘惑とか。



ごめん無かったことにして(ぁぁぁぁぁ

・・・トウトンさんがヤクザの跡取り娘になってたりして(嫌




次回予告。

「高順、ビーフステーキを食いかけたところで出撃」
「ていうかパインサラダとかこの時代にありますっけ?」
「デスクロー10体に追いかけられてます現在進行形で! ダーツガン・・・弾がねぇぇぇっ!?」

の3本で(以下省略



・・・嘘です。


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