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[28122] 【習作】橘京子の反逆(ハルヒ二次、憑依?もの)
Name: イトマキ◆617a4c43 ID:b2469132
Date: 2011/05/31 22:49
初めまして、イトマキです。今作が処女作で右も左も分かりませんが、なんとか頑張ります。
読者の皆様に注意していただきたい点が数点ございますので、何卒よろしくお願いします。
書こうと思った理由…驚愕での可愛さに痺れ、フェードアウトの速さに糸色望したから。

・作者は遅筆&文の量が少ない(ゆえに投稿ペースは一~二週間間隔かも)
・キャラ崩壊必至
・作者のメンタルは豆腐のようなもの(←重要)
・女主です
・キャラの立ち位置がそういう位置なだけに、アンチハルヒ気味になるかも
・話はスローペースで進みます(多分)急展開スキーには物足りないものになるかもしれません
・驚愕ネタバレ含む……かも(多分無い)


以上の七点に気を付けてください。三番目は大して気にしなくても結構ですが、可能なら何卒お願いします!(泣)

(5/31、20:00に投稿しようとおもったのですが、操作ミスを多発し取りやめました。
誤ってテスト板投稿→慌ててチラ裏へ移動→暫くしてなぜか両掲示板に重複してることに気付く→慌てて全削除
→テスト板だけ消したつもりがチラ裏も文章だけ消えてることに気付く→チラ裏も消して再度投稿しようとする
も制限がかかって投稿不可に→諦めて後で投稿することに決定。鯖に負担かけて申し訳ございませんでした。)



prologue ~橘京子はかく語りき~



 どこかセピア色な世界、私は一人ゴーストタウンに佇んでいました。そこは孤独感こそあるけれど、どこか安心
する『空間』。悩める人間の理想を追求したかのようなそれは、日常というありふれた風景と同化していました。
どこかで見たことのある場所だと思ってはいたのですが、ここは……。
「以前住んでいた家です……ね」
正しくはこの世界に来る前ですが。ああ、すみません。可哀想な子だなんて思わないで下さいね? ……私は誰に
話しているんだか。これじゃあ自分から変人だって言っているようなものであって……。
…………。
ち、ちち、違うのです。大体こんなモノローグに自嘲しているのも、こんなブルーな気分になっているのも、本来
静寂であるべき場所に青いデカブツがいることに加え、それが刻一刻と私に近付いているからこそなのです。
……以前住んでいた、というのは言い得て妙ですが、間違っていません。

 私は世界を渡りました。ほんの一、二ヶ月前のことです。
――そういえば、この『空間』には一度来たことがあるような気がします。そのときは今と少し雰囲気が異なって
いましたが。
うん、どちらかと言われればこちらの『空間』の方が好きですね。
まぁ、いいです。その話は追々余裕が生まれてからということで。まずは目先の問題に目を向けないと。
さて。問題の青い物体から逃げないのかと言われると、そもそも歩幅から考えて私が逃げおおせられる可能性は果
てしなく低いです。いっそのことこちらから向かっていく、というのもありますが、生憎自殺志願者ではないので。
ゆえに立ち止まっているわけです。
どっかで見たことあるんですよねー、あれ。なんて言うんでしたっけ。そう、確か神――
「痛っ……!」
このとき、私は頭の奥底からほとばしる重く鈍い痛みに思わず蹲ってしまいました。


 ……やっと収まった。なんだったんでしょう、あの痛み。……考えるだけ無駄ですね。
場違いな疑問からさっさと思考を放棄した私は、自分の行動方針を決めることにします。
取りあえず、あんな訳の分からない物体に踏み潰されて死ぬなんて嫌なのです。死因:UMAによる圧死、なんて
笑えません。
どうして紛争地域の多国籍軍駐屯地よろしく、こんなにも危険な場所に私はいるのか。
そんな初歩的な疑問が湧き上がり、このあまりにも理不尽な状況に愚痴をこぼしてしまいました。

 淡いパステルカラーの赤色。ふと目についた喫茶店らしき建物にひとまず隠れることにした私は、厨房に身を潜
め、食糧が冷蔵庫にあることを確認しました。
「良かったわ……あった。これで当面は飢えに苦しむことはないのです。それにしても」
電気が通ってる? どういう道理で通っているのですかね。やはりこの『空間』には人間が住んでるのでしょうか?
訳が分からないよ。
そんな取り留めもないことを考えていると、天窓には彼の姿が……。彼女でしょうか?生物学的にはどっちなんで
しょうね?
一つ言えるのは私に逃げる気力など微塵も残っていないということでした。
沈黙のままにこちらを見つめるそれに、思わず苛立ちがこみ上げます。
「んんっ! もうっ! いい加減殺るなら早く終わらせなさ……」
刹那。突如沈黙を破った青色は、トンネルより一回り大きいその腕を勢いよく振り上げ、振り下ろしました。
言うまでもないですが。続きの言葉が紡がれることはなく、私の意識はそこで途切れました。


 ――最悪な夢見って正に最悪なのです。ああ、重ねて言っちゃった。アホな子って思ったそこの貴方は、今なら
罰金千円で許してあげます。え? 貧しい子ですって? ……うるさいです。
どうも、初めましての方もそうでない方も。橘京子です。なお、後者の方は住所氏名を明記のもと、厳正なる調査
を行います。冗談ですけどね。今私は優雅なる惰眠という名目で、授業を居眠りしています。えへん。褒めても何
も出ませんのであしからず。

「よく眠れたようだな、橘」
いえす、まいてぃーちゃー。それはもうばっちり。
「そーかそーか、そりゃあ良かった。授業を進めても?」
どうぞどうぞ。
「よし。それでは諸君、次の分野に移るぞ。『山椒魚』のページを開きなさい」
さ、さーてそろそろ学生の仕事に戻るとするのです。アディオス。
「橘は後日反省文を提出するように」
くすん。
渾身の猫かぶりはこの堅物には通用し得なかったようで、彼は路傍の石に対する扱いのごとく私をスルーしていき
ました。
こら、私の右隣の男子。笑うんじゃない。


 漸く拘束時間は終わり、友人たちと取り留めもない世間話をして帰宅します。
夏に突入し始めた外気は、思いのほか私を追い詰めました。
天候すら私を苦しめる一因にしかなっていない現状に軽く絶望しつつ、蒸留水みたく澄み切った青空に呪詛を吐い
てる内に、そんなつまらない苦しみはいつの間にか消えてしまいました。
やはり怒りはどこかにぶつけないと、より陰鬱な気分になりますね。
「――でさー、聞いた? 東中の怪事件!」
あらら、全然会話に入っていませんでした。

 東中の怪事件というのは、諸説あるのです。
曰く、教室中の机を校庭に並べて不可解な図形を組み立てた女生徒の噂。
曰く、学校中にお札やらいわくつきの品々を配置したあげく、仕舞には校長の頭にお札を張ったという女生徒の噂。
……同一人物? だとしたら随分とおめでたい思考の持ち主だことで。
お前はどーなんだという意見は、締め切りました。
「実行犯は明らかになっているのですか?」
「おっ、やーっと興味を示したみたいだね? そうだよ、もう分かってるみたい。犯人もハナから隠すつもりなか
ったんでしょ。っても緘口令が引かれてて、実名までは分からないけどね?」
会ってみたいか、と言われるとそうでもない。
だけど。
そんなにも自由気ままな人生が送れているのなら。
その子には、それなりのストレス発散法をもってたりするんだろうかって、私は思ったのです。


 家に着こうとも、別段なにをするわけでもなく。要するに暇でした。
こんなことなら友人の誘いを無下にするんじゃなかった、と嘆くのも仕方ないのです。
一人部屋にしては割と広めな私の部屋は、主のガサツさを如実に示すかのように小物が散らかっています。さすが
に壊れた目覚まし時計が放置されているのは、私自身どうかと思いますが。
「…………」
キャスター付きの椅子に寄りかかって、足をブラブラさせているその様は駄々をこねる赤子と大して変わらないか
もしれません。
ぼすっとキャラものの絵柄の入ったファンシーな枕に顔を埋めて物思いに耽る様は、さながら滑稽だったでしょう。
堪えることのできない溜息を噛み殺して、私は丁度二ヶ月前のことを思い出していました。
ギシリ。
背もたれに体重を預けて瞼を下ろすだけで、今でも鮮明に思い出せる。
そう、あの日。平和だった日常が脆くも崩れおちた日。思えばあの日が人生の転換期だったんでしょうか。思わず
眉間にしわが寄るのを押さえられません。
四月某日某所、この世界ではない場所にて。



 私は超能力に目覚めた。




[28122] 第一話 チョウノウリョク
Name: イトマキ◆617a4c43 ID:b2469132
Date: 2011/06/01 22:38
◆ ◆ ◆

「……ぅん?」
目が覚めて、暫くはぼんやりとしていた視界も、時間の経過と共にだいぶ矯正されてきました。
きょろきょろと周りを見渡してみるも、
「見覚えないなぁ」
見渡す限りの知らない土地、建物、風景。林立するそれらに問いかけてみても、何も教えてはくれませんでし
た。先の知れない状況の中、次第に不安になってきた私は、とりあえずそのへんを散策することにしました。
レストラン、公道、公園。
ほんの数分で違和感に気付きました。

人一人も。というより、生き物の気配がしないのです。

辺りは非常に薄暗かったです。こんな夜には背後に気をつけろとよく言いますが、そもそも襲いかかってくる
人間がいないような『空間』はかえって恐ろしいですね。
これはどうしたことかと頭を悩ましている内に、段々と冷静になっている私がいました。
(まさか……誘拐? それにしたってこんな大掛かりなセットを……)
用意できるわけがない。そんな浅慮をし続けるには私の思考能力は少し欠如していたようです。
それはまるで冗談みたいに――冗談と言ってほしかったのかは定かではなく――空に亀裂が、大隆起で地表が割
れたらこうなるだろうかという具合に入り、それはもう一大スペクタクルのように。その世界は急激な速度で崩
壊していったのです。

崩壊のコンマ一秒。赤い光が見えた気がした。



 保健室のベッドというのは果たして寝心地の良いものなのか。個人的にはNOですね、首を痛めそうです。
いささか焦点の合わない目で時計を確認……っはうぁ!?

ただいまの時間は午後七時。平均的な中学生なら、そろそろ門限を気にする時間なのです。

新一年生橘京子、いままで門限を破った試しがないのが唯一の誇りです。
「よしっ帰りますっ! として、ここはどこの学校ですかね?」
そう。室内と校庭を見る限り、ここは私が通っている学校ではありませんでした。
室内には仄かなアロマの香りが漂い、塵一つ見当たらない床からは春の日差しが照り返されてきました。
ありがとうございましたー! ……という野球部の掛け声をバックサウンドにただただ、
――これ、不法侵入ですよね。
そんなことを考えていました。

 カラッポな頭を必死に総動員させながら唸っていると、入口の戸がガラリと開き、保健の教諭らしき女性が入
ってきました。
「あら、気がついた? 大丈夫な様子なら、気をつけて帰るのよ。私はそろそろ上がる時間だから」
「は、はぁ。あの、聞きたいことがあるのですけど」
「うん?」
ガサゴソと荷物を整理している様子。
「ここはどこの中学校ですか?」
キョトンとした顔をこちらに寄こす彼女。しかし、すぐに立て直すとカラカラ笑って言いました。
「嫌ねぇ、ボケちゃうにはまだまだ早いわよ? せっかく愛らしいのにもったいない」
「違っ……冗談ではないのです」
幾分か目を見開いた彼女は、暫しこちらをみつめると嘘や冗談の類ではないと踏んだのか、顎に指をあて考え込
みました。
「打ちどころが悪かったのかしら……記憶が混濁をしてるとか……。ねぇ、あなた自宅の住所とか言えるかしら?」
「はぁ、まぁ。えーとですね――」


 私の言った住所と照らし合わしているのか何度も手元の書類とにらめっこして、険しい顔つきでこちらを見据えま
した。
「精密な検査をしたほうが良さそうね。あなたのお母様に連絡して迎えにきてもらうから、明日一番にでも病院に
いったほうがいいわ」
え、それってどういう……。
「あなたは間違いなく、ここ○○中学の生徒です。体育で頭を強打したのが原因で記憶に障害を起こしているのかも
しれないわ」
「いえ、私は××中に通っていて……」
「そんな中学校、ここらには無いわ……。大丈夫よ、きっと一時的なもの。意外と寝て起きたら治ってたなんてこと
もよくあるし……」
 数十分後、私の母親がやってきたときは安心しました。
仕方がないのです。今まで通ってたはずの学校名を完全否定されて混乱の極みにいた私は、知らない女性が現れて、
『私があなたの母親よ』
などと言われないか不安でいっぱいだったのですから。
目の前の人は間違いなく十数年母と呼び親しんできた女性でした。
「大丈夫? 違和感みたいなもの、あったりしない?」
眉根を寄せて私を覗き込む彼女は橘桜子三十九歳(自称)。
 私の母親なのです。

 あの後、翌日の朝一に市内の大型病院にいった私は、軽度の記憶障害を患っている以外は至って正常と診断されま
した。帰りの車中、母は私を必死に元気づけようとしているように見えました。しかし、私は碌に返事も返さずに半
ば上の空だったのです。
夕食をけんもほろろに断り無言のまま自室に向かう私。
後ろ手に扉を閉めた辺りから、私は自分の行動をあまり認識していませんでした。
お気に入りの枕を力いっぱいに引き裂こうとしたり。
破けないことが分かると、机に置いてあるラックめがけて枕を投げたり。
かろうじて覚えている断片的な記憶に対して思うところは、何もありませんでした。
TVで見るSFにおいて人が死んでしまう時に感じる無感動、それに近いでしょう。恐らくラックが倒れた際に転げ
落ちて壊れたのであろう目覚まし時計に一瞥もくれることなく、私はベッドで横になりました。
 もし私の記憶が偽物だとしたら。今までの人生全てを『そんなものなかった』とされてしまったら。
今ここにいる私はなんなんだろう。


『ね――子! 涼―ハル――――もう―――?』
『―ん、――ね』
『――は、なら――――だね』


「……っ!!」
なんですか、これ。いよいよ末期になったってやつですか?
もうなにがどうなっているのか分からない。変な夢から覚めたら知らない保健室に寝ていたり、いつの間にか記憶
喪失扱いされてしまったり。
気がつくと汗でぐっしょりとしていた私は、いち早くその不快感から逃れるべくシャワーを浴びることにしました。

 草木も眠る丑三つ刻。寝苦しさを必死に押さえて漸く眠ろうかという状態だった私は、突如訪れた重く深い頭痛に
思わずベッドから転がり落ち、もんどりうつようにピクピクと痙攣して気絶しました。
 やがて時間をおいてムクリと起き上がると、世界は見違えました。
理屈は分からないけれど、私の中に確固たる異能が顕現したことを『理解』したのです。
同時刻、脳に奔流する『神』の御姿。私はその方に神々しさすら感じました。
あの『空間』――閉鎖空間とでも呼んでおこうか――への入り方も。
『超能力者』であることの意義も、その力も。
なにより、それら全てを与えたのは先ほどの神々しい少女だということも。
全部、『理解』した。

◆ ◆ ◆

 あの日から、力という力を使ったことは一度もありませんでした。しかし昼間見たあの夢、無関係とは思えませ
ん。私が入れる閉鎖空間ははたしてどちらなのだろう。そんなことを思いつつも、私はある種確信めいたものをも
っていました。それはあの日見た少女の輝きを忘れられない、というのもあるけれど。
シックスセンス。なんというかセピア色のビジョンがぼんやりと頭に浮かんだからです。
私の『神』は、あんな陰鬱で薄暗い閉鎖空間をつくるほど安くはないのです。
 だから、今日は力を使う。白黒つけてやろうじゃないですか。
カッと目を開き、決意を新たにした私。いざ。
背もたれには依然として体重をかけて置き、両腕はダラリと脱力させます。瞼をそっと閉じ、自分の体から抜け出
す気持ちで念じ、後は感じるままに――!

 果たして、思っていた光景が目の前には広がっていました。
――ここは、とても落ち着く。
『神』は素晴らしい御人に違いないと再認識した瞬間なのです。しかし、この場所に浸っていた私は、他人がいる
という可能性を見失っていました。

「やあ、同志よ。遅かったじゃないか。待っていたぞ」
「!? どなた……ですか?」
いきなり後ろからかけられた声に思わず警戒していると、その男はわずかに顔をしかめ、
「おいおい……まさか二ヶ月間何もしてなかったってんじゃないだろうな……」
というも、まぁいいけどさ、と続けると握手を求めるかのように――実際そうなのだろうが――手を差し出してきた。
いきなりの対応に躊躇していると、
「大丈夫。ただのテレパシーだから。超能力者に言葉はいらない、ほんのわずかな接触でも分かりあえるのさ」
おずおずと手を差し出し、彼と握手した瞬間。

理屈を飛ばして『理解』した。

 なるほど。これがテレパシーというものでしょうか。言語化は甚だしく難しい、もしくは……無理ですね。
「分かってもらえたようでなによりだ。さ、行くよ」
え?どうしてですか?
「他の同志が待ってる。第一回、『組織』会議だ」
彼は静かに笑った。








感想を頂けると励みになります。
乞食みたいで申し訳ないのですが、なにぶん処女作なもので……。
客観的な意見が知りたいので、どうかお願いします。



[28122] 第二話 ソシキトニンム
Name: イトマキ◆617a4c43 ID:b2469132
Date: 2011/06/04 20:44
「歓迎するよ、新人さん。分からないことがあったらなんでも言ってくれ」
「はぁ……ありがとう、ございます?」
実のところ、まだ彼らのことは信用していません。
超能力者であるのは十中八九真実でしょうが、行動方針が不明瞭というか……。警戒は緩めないのが吉でしょうか。
 我らが超能力者及び一般協力者を含め、ここにいるのは老若男女問わず十数人。上は老獪そうな老人から、下は
まだ世間の辛酸を知らなそうな子供まで。彼らはすでに見知った仲であるようで、新参の私をもの珍しそうに観察
していました。
 そんなカオスの中で、一際異彩を放っていたのはやはり先ほどの若者でした。
ここに集う者たちのいわゆるリーダーを一心に担っているようで、どこか小物臭くも力強いオーラを兼ねそろえて
いたのです。
彼の超能力、テレパシー。どうやら全ての超能力者にはそれぞれに役割のごとくそれが振り分けられているようです。
大半の超能力者は光球を身に纏ったり、小さな光球を掌から射出する能力ですが、個人差にはなにか法則があったり
するんでしょうか。
かくいう私もその例に洩れず光球を生み出す能力です。
……ふ、ふんっ。べつに悔しくなんかないのです。
とりあえず、テレパシーなどという生意気なものを手に入れたリーダーさんは許さない、絶対にです。
試しに能力を使うべく右手に全神経を尖らせながら念じてみると、
「…………!」
ぽうっと掌大の青い球体が出現し、私は思わず溜息を零してしまいました。
暫くそれをしげしげと見つめていると、眉間を抑えたリーダーが私の肩をポンと叩きました。
「ほぇ?」
「作り出すのはいいけどさ、それどうする気だよ? 俺は知らないぞ、廃棄方法なんて専門外だ」
「それは……」
ふと周りを見渡すも、ここは閉鎖空間。この場所を傷つけるなんて考えられない。『神』への冒涜なのです。
『組織』の人々を見つめても、すぐに顔をそらされました。
いやはや、お爺さんに無視されるのは一向に構いませんが、子供たちにまで無視されるのは悲しいです。
ほら、おいでー? お姉さんは怖くなどないのですよー?

無言で逃げられました。

 暫く肩を落としていた私ですが、ここで私の人生の内でもトップ3に入るであろうグッドアイデアを閃きました。
部下の失態は上司の責任。すなわち目の前の彼には生贄、もとい私の能力の礎となってもらうのです。
「お、おい!? やめてくれよ!? これ本当に洒落になんないから!」
持たざる者の恨み、思い知るですー。
「だ、誰か助けろ! 命令だ!」

「最近は耳が遠いのぉ……ほっほっほ」
「見ない聞かない関わらない。私は何も知らなかった」
「わーい、ひこーきごっこたのしーなー、わーい」
どうなったか、ですって? 彼は犠牲になったのです……。
というのは冗談で、光球はいつの間にか自然消滅してました。がっでむ。


 それからの三週間は地獄の日々でした。一端の構成員としてさまざまなスキルを叩きこまれたのです。
「この先拳銃など使う機会があるのか、甚だしく疑問です」
ぶつくさと文句を言いながら眼前の的に向けての射撃訓練。こんな施設と装備をもっている一般協力者って……。
やめましょう、深く考えるのは。好奇心は猫をも殺すのです、にゃん。
……似合ってないですって? 大丈夫、自覚してますよーだ。
 やがて照準を合わせた私は、ゆっくりと引き金を引きました。
「わっわっ!?」
反動で見事尻もちをついてしまった私は、周囲の仲間に助け起こされながら的を確認しました。
何度やっても慣れませんよ、こればかりは。しかし、三週間の睡眠時間を削ってまで行った訓練は確実に身を結ん
でいたようで、私は弾を中心にピタリとはいかなくとも、的にきちんと当てられるようになりました。

潜入任務においてはなんとか及第点をいただけたようで、新人だからと甘えられなくなった私は、本日が初めて任
務を伝えられる日になります。
「ただいま参りました。橘です」
執務室の扉をノックしつつも、あの男がこんな大層な部屋に居座っている事実にイラッとした私は部屋に入っ
た途端つい、
「ウジ虫が……」
「い、いきなりなんだよ!? 俺なんかした!?」
ちっ聞こえていやがりましたか。だって、仕方ないじゃないですか。
あらゆる贅沢を散りばめたこの部屋、私が一生を費やしても手に入れることはできないでしょう。
 部屋は整理されていて持ち主の几帳面さが窺えますが、額縁に飾られている自画像や彼の銅像がアクセントに
なっていて、なんかこう。
とにかくイラッとさせる雰囲気を醸すそれらは、いずれ破壊するなり処分することが私の脳内審議において満場一
致で可決されました。
「で、どんな任務なのですか? 聞いてあげますから早くお話しなさい」
「……なんか釈然としないが、まぁいい。君の任務はこれだ」


“七夕の夜、東中学校にて涼宮ハルヒの動向を調査せよ”

「涼宮……ハルヒ?」
頭がズキンと響いたような気がしました。どこかで聞いたことが……ある?
いやいや、こんな印象的な名前は一回聞いたらそう忘れないでしょう。気のせいなのです。
「ん? 知っているのかい? ……―か――な、――君が――ている―は……」
彼がぶつぶつ呟いている言葉は、どこかモザイクがかってよく聞こえませんでした。
暫くしてハッとしたような表情になった彼は、
「――そうだ、彼女の詳細を教えておかないとね。こいつを一言で表すならば……盗人だ」
「へぇ? こんな子がですか、世も末ですね……。何を盗まれたのです?」
「君が想像しているものとは別の意味でだ。――我らが『神』は沈黙している。なぜだか分かるかな?」
『神』。そういえば、私は彼女のことを良く知らない。
「噂では、彼女は普通に学生生活を謳歌していると聞いたことがありますです」
「そう、佐々木様は日常を望んでいらっしゃる。俺も彼女の意志を尊重し、『組織』を挙げて見守り続けるつも
りだった……。この涼宮ハルヒという女が現れるまではね」
分からないです。彼女がいて、何の弊害があるというのでしょうか。
沈黙だって、彼女が平穏を望んでいるからこそだろうし……。
「しかし、私が閉鎖空間に来てからというもの、あの巨人――神人でしたか――が現れたことはないのです。問題
が見つからないのですが」
「それが問題なのさ。いいかい? 神人は佐々木様が心理的なストレスを患ったときに顕現する。そして現れた神
人を駆逐するのが我々『組織』の責務のはずだ。神人が居残ると、彼女の心理世界――閉鎖空間だが――はめちゃ
くちゃになるからね」
つまり。と一呼吸し、
「いくら『神』といえども、人の子。当然ストレスを感じることはある。では、なぜ神人が出現しない? その答
えがこれさ」
まさか。
「彼女が」
彼は肯定するように、目を閉じました。
「で、でも! 彼女が『神』の能力を盗んだなんて、どうして分かるのですか!? 彼女が能力を盗んだというの
なら、相応に神人が出現するはず! 一般人が閉鎖空間をもっているなんて……あるわけがないです」
「最近……といっても、二ヶ月前くらいか。我々が『組織』を創り上げたのと同時期くらいの話だが」
…………?
「『機関』を名乗る、超能力者らしき団体が台頭しだしてね。この涼宮ハルヒこそが真の『神』に値する存在だと
言って聞かないんだ」
すると彼は戸棚から数冊の資料を取り出し、私に見せました。
「これが彼らの提出した閉鎖空間の資料と添付ファイル。どうだい、酷似しているだろう? 間違いなく彼女にも
『神の資質』があったということだ。……まぁこれらが偽造文書ではないという確証はないが……。こういうもの
は常に最悪の状況を想定しないとね」
「なるほど、それで……」
「そう。涼宮ハルヒの監視。それと情報源は言うことができないが、七夕の夜、ターゲットに面白い連中が接触す
るという確かな情報があってね」
情報源……ね。胡散臭いです。
「ときに……君は宇宙人とか、未来人とか。果てには異世界人なんてものを信じるかい?」
「超能力者や神様がいる時点で、世の中なんでもありなのですよ。いたっておかしくないのです」
彼は薄く笑うと、
「違いない」
面白い連中=未来人だと聞いたのは、七夕の前日でした。あの男、いつか地味な嫌がらせをしてやるのです。


 『組織』の会合が終わり、閉鎖空間から帰ってきたときには、すでに午前四時を回っていました。
あーうー。また寝不足ですー。また国語の教師にいびられるんですねー分かりますよー。
もう駄目、限界です。おやすみなさいー。

“――ジョン・スミス――”

“――突発性眠り病にかかっていてな――”

“――TPDDは――”

“――私は、ここにいる――”

――なんだ、これ。渋い男の人と、体格に似合わない母性の塊をもつ人と、涼宮ハルヒ。それにクールで無口そう
な人たちの会話が流れ込んできました。誰です――?
そんな疑問が湧いてきましたが、やはり睡魔には逆らえず。やがて眠りに落ちてしまいました。
ぐう。
「むにゃむにゃ、そんなにあるならいっそホルスタイン牛になっちまえです……」

七月某日。蒸し暑い夜の出来事でした。
え? 悪口? 何のことですか?









段々読んでる人いるのか不安になってきた。挫けそう。


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