大気電流の蓄電システムに関する論文をまとめる饗庭教授=石川県野々市町の金沢工大
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雷を発生させる雷雲から電気エネルギーを収集し、蓄電するシステムを金沢工大産学連
携室の饗庭貢教授(電気工学)が五日までに考案した。従来の避雷器に特殊な蓄電装置を
組み合わせる仕組みで、今後メーカーと共同で装置の開発を進め、年内の実用化を目指す
。世界有数の雷多発地帯である金沢ならではの研究といえ、落雷防止とエネルギー開発を
狙う「一石二鳥」の発明として注目を集めそうだ。
饗庭教授が考案したシステムは、雷雲が近づくたびに地表との間に流れる大気電流と雷
放電後の続流と呼ばれる弱い電流を蓄える仕組み。地上五メートル以上に立てた避雷針で
大気電流と雷電流を捕らえ、雷を発生させる高い電圧の電流は避雷器を通して地下に逃が
し、五〇〇ボルト以下の低い電圧の電流だけを「電気二重層キャパシタ」と呼ばれる特殊
装置で蓄電する。
饗庭教授によると、大気電流は電圧が大小さまざまで幅広く、一定の電圧しか対応しな
い従来の電池やコンデンサーでは蓄電が不可能だった。しかし、近年、電車や電気自動車
のブレーキシステムとして幅広い電圧に対応できる「電気二重層キャパシタ」の開発が各
メーカーで盛んになり、饗庭教授が同装置を雷研究に応用することを思い立った。
饗庭教授が同大で行った高さ六十五メートルの避雷針を用いた観測で、雷が多い冬の一
カ月で百五回の電流が計測され、雷雲が上空に停滞する時間を考慮して電気量に換算する
と、推定四百キロワット時だった。一般家庭の月間平均電気使用量は約三百四十キロワッ
ト時とされるため、一世帯で必要な電気がほぼまかなえる計算になるという。
雷の電流は直流電気だが、インバーターを用いて交流電気に代えれば使用は可能として
いる。
雷の専門家として知られる饗庭教授は、一九七七(昭和五十二)年から、ピアノ線をつ
けた超小型ロケットを雷雲の中に打ち上げる実験を始め、ピアノ線の端に放電電極を取り
付け、雷の電気で水を温める「雷温水器」の開発に成功している。
「電気二重層キャパシタ」の活用で雷エネルギーの蓄電が期待されることになり、饗庭
教授は「雷という毒を薬に変える研究になる。ぜひ実用化させたい」と話している。雷の
蓄電に関する論文は三月にも電気設備学会誌で発表される。