東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 神奈川 > 5月15日の記事一覧 > 記事

ここから本文

【神奈川】

コミュニティバス 高齢者の日常 支える

2011年5月15日

100段以上続く階段。高齢者ら、足腰の弱ってきた人には厳しい=麻生区高石で

写真

 川崎市麻生区の市営高石団地へ続く約百三十段の階段。大きな買い物袋を二つ抱え、七十代の女性がその途中で休んでいた。「慣れたとはいえ、やっぱりつらいね」と腰をたたく。「まだ足腰が使えるからいいけど、だめになったら買い物にも行けない」。不安げな表情を浮かべた。

 同団地のある高石地区は、最寄りの小田急線百合ケ丘駅まで約一キロ。だが、丘の上にあり、駅までは長い階段を使うか、迂回(うかい)して長い道のりを歩くしかない。急な坂が多く、道幅が狭くて車のすれ違いができない所も多い。路線バスも通っていない、いわゆる「交通空白地域」だ。

 「麻生区コミュニティバス協議会」の副会長を務める岡野幸雄さん(81)らが、この地区にバスを走らせようと活動を始めたのは十三年前。先月、ようやく国土交通省関東運輸局の運行許可申請までこぎ着けた。今秋にも、「山ゆり号」と名付けたコミュニティバスを本格運行する見通しも立った。「高石町会の高齢化率は約25%。高石団地では四十数%に上る」と岡野さん。「買い物難民や引きこもりのお年寄りも多く、何とか解決したかった」と話す。

 道のりは平たんではなかった。一九九八年、問題意識を共有する地域の町会長らと協議を開始。二〇〇〇年に町内地域交通検討会、〇四年には同交通協議会を設立し、区や市に交通空白地域の課題や解決策を訴えた。

 〇七年には二回、バスを試行運行させることに成功。だが、採算が合わず、計画の練り直しを余儀なくさせられた。

 市に高齢者、障害者の運賃割引分の補助金を申請。運行事業の経営を地域住民らの出資で支える「サポーター制度」の導入を思いついたのも、この時だった。

 地域の人たちにバスの必要性を訴え、制度への理解と登録を呼び掛けた結果、約二百五十人が年間六千円の登録料を支払い、登録した。運行事業の引き受け手も決まった。今年六月からの本格運行も決まり、ゴールはすぐそこだった。

 だが、三月に東日本大震災が起き、その影響でバスの納車が遅れることに。本格運行は秋以降に延びた。

 「地域の盛り上がりをつくるのが一番、大変だった」と岡野さん。「延期で、盛り上がりが消えてしまうのが不安」と言う。

 しかし、岡野さんには試行運転のときに見た、忘れられない光景がある。「英語塾に行く」とうれしそうに話していた九十一歳の男性。乗り合う人がおしゃべりを楽しみ、サロン的雰囲気に満ちていた車内。「まさに理想のコミュニティのバスだった」と振り返る。

 同協議会には活動拠点がなく、メンバーはすべて手弁当。これでは運行にこぎ着けても、長続きするか危うい。課題は山積しているが、岡野さんは「十年、二十年先も存続させるため頑張る」と話し、「まだまだこれからが本番」と気を引き締める。

 地域の課題に地域の人たちが取り組み、解決に導く。山ゆり号には、今後の地域行政の在り方を考えるヒントが満載されている。 (平木友見子)

<コミュニティバス> 地域住民の交通の利便性向上を目指し、地域共同体や自治体が運行するバス。川崎市の場合、試行運行や交通事業者の選定、市地域公共交通会議の審議などを経て、道路運送法に基づく国土交通相の許可を得て、本格運行となる。現在、市内8地区でコミュニティバス運行に向けて協議会などが設置されている。

 山ゆり号は、高石団地と生田病院、百合ケ丘駅の約3キロを結ぶ。定員8人で平日の午前9時〜午後6時に運行。1日24往復の予定。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo