東京のベッドタウン、川崎市麻生区。その北部に広がる多摩丘陵の高石地区は、坂が多いのに路線バスが走っていない「交通空白地域」だ。ここにコミュニティーバスを走らせようと集まった住民の努力が実を結びつつある。試行運行や国土交通省への許可申請も済ませ、「山ゆり号」が年内には出発する。【高橋直純】
--なぜバスが必要なのでしょう?
この地区は1960年代から住宅地域として開発されました。近くに都市計画道路が走り、交通も整備されるはずでしたが、実現しないまま少子高齢化が進んでいます。「買い物難民」や閉じこもりのお年寄りが問題になってきました。
--「山ゆり号」について教えてください。
昨年6~8月の試行運行で、小田急百合ケ丘駅や病院、スーパーマーケットなど20の停留所を結ぶ約3キロを9人乗りのバス1台が1日12往復しました。
川崎市と民間のバス事業者、私たち協議会が協定を結び、市が業者にバスの購入費を補助し、協議会が宣伝などを担当して利用促進をサポートします。
市は車両や停留所の設置費用は出しても、運行自体へは財政支援を行いません。
07年の試行運行では6人乗りバス2台を走らせましたが採算を確保できず、車を1台に減らしたり、経路を練り直したりして、昨年の試行運行で、ようやくめどが立ちました。
1カ月の経費は60万円。これを利用者の運賃などで賄います。
--採算確保のためにどんな工夫を?
「サポーター制度」を作りました。年間6000円の登録料を払えば、基本運賃300円(子ども100円、70歳以上、障害者200円)が50円引きになります。昨年の試行運行では215人が会員になってくれました。
ほかにも、車内に利用状況を紙に書いて掲示し、どのくらいで黒字になるかを乗客に訴えたり、車体広告を集めるため地元企業などを回りました。
--今後は?
震災の影響でバスの納車が遅れていますが、年内には国交省の許可を受けて本格運行が始まる見通しです。
東京で働く「麻生都民」が多い地域ですが、サポーターを軸に支えてくれる人を地道に広げていきます。お年寄りほど、「行政がやってくれる」という感覚がありますが、市・事業者と協力して、地域が主体的に活動することが大切です。
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■人物略歴
宮崎県都城市出身。神奈川県の小中学校で社会科教師を務めた。高石地区の水暮町会長時の98年から、バスを走らせようという活動を始め、04年に「麻生区コミュニティバス協議会」を発足させた。
毎日新聞 2011年6月1日 地方版