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ソユーズ宇宙船:不思議な「験担ぎ」の数々…

宇宙飛行士の古川聡さん=茨城県つくば市の宇宙航空研究開発機構筑波宇宙センターで、森田剛史撮影
宇宙飛行士の古川聡さん=茨城県つくば市の宇宙航空研究開発機構筑波宇宙センターで、森田剛史撮影

 宇宙飛行士の古川聡(さとし)さん(47)が今月8日、ロシアのソユーズ宇宙船に乗り込み約半年間の旅に出る。宇宙船のクルーといえば最先端技術を駆使する集団だが、飛行士たちが気にする「験担ぎ」があるという。毎日新聞の臨時ISS(国際宇宙ステーション)宇宙支局長を務める古川さんも実践するという伝統的な作法とは。【カザフスタン・バイコヌール大前仁】

 ◇古川さん搭乗、8日打ち上げ

 打ち上げ台へと向かうバスを降りて、おもむろに車輪におしっこをかける宇宙服の男たち--。この突拍子もない「伝統儀式」は、人類で初めて宇宙飛行に成功した故ユーリー・ガガーリン飛行士が、打ち上げ直前にしたことをまねたものだ。ガガーリンは初飛行から50年が過ぎた今も「ロシア宇宙業界の最大の英雄」。それだけに、同氏にまつわる数多くの験担ぎが、エピソードとして残されている。

5月26日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地で訓練を終えた宇宙飛行士の古川聡さん(右)=ロイター
5月26日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地で訓練を終えた宇宙飛行士の古川聡さん(右)=ロイター

 ただでさえ歩きづらそうな宇宙服のファスナーを開けて、立ち小便をするのは大変そうだ。だが飛行士は打ち上げの朝にシャンパンを飲む慣習があり、バスに乗るころには尿意をもよおすことが多い。元宇宙飛行士のアレクサンドル・セレブロフさん(67)は「ソユーズに乗っても軌道に達するまでの数時間は用を足せない。小便をかける慣習は、ありがたかった」と振り返る。さすがに女性飛行士には課されていないが、中には尿を容器に入れて持参し、車輪にかける女性もいるそうだ。

 最新技術を誇る宇宙船の打ち上げで、昔ながらの縁起にこだわる--。そのギャップにはいささか違和感を覚えるが、ささいな失敗が人命損失に直結する宇宙飛行では「過去の成功にあやかりたい、という安全祈願の思いが強い」(セレブロフさん)。

 ◇前夜には映画鑑賞

 例えば出発前夜の乗組員は、ソ連時代の人気映画「砂漠の白い太陽」(69年)を必ず見る。これは73年に飛行した「ソユーズ12号」の乗組員が打ち上げ前夜に鑑賞し、全員が無事に帰還したことから始まった。その2年前(71年)には、地球へ戻る飛行で、乗組員3人全員が船内で窒息死している。

 この映画はロシア革命直後の旧ソ連軍兵士の冒険を描いている。飛行士の間では「どうして打ち上げ前にこんな作品を見るの?」という素朴な疑問の声も出ている。

 逆に、飛行士が避けようとするジンクスもある。ガガーリンは68年、戦闘機の訓練飛行時の墜落事故で命を落とした。その当日の朝、忘れ物に気付いて自宅に戻ったことが分かっている。ロシアではもともと忘れ物を取りに帰ると悪いことが起きるという迷信があり、その後の宇宙飛行士は、忘れ物をしても戻らないようにしているという。

 これまで古川さんは、2回ほどソユーズの予備乗組員としてカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からの打ち上げに同席、すでにいくつかの験担ぎを体験している。「砂漠の白い太陽」は、もう2回も見たそうだ。

 一方で時代とともに変わっていく儀式もある。帰還した飛行士は従来、バイコヌールにある「宇宙飛行士の小道」と呼ばれるホテル裏庭の敷地に、ニレの苗木などを植えており、ガガーリンが植えた木も成長している。しかし最近では伝統が変わり、古川さんも打ち上げ前の1日に植樹を済ませた。これだけ多くの験を担いで旅立つ宇宙飛行士。11月下旬に無事に戻ってくることを願うだけだ。

毎日新聞 2011年6月4日 11時16分(最終更新 6月4日 12時24分)

 
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