チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27540] 「習作」 亡霊の軌跡 (ACFA)
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/04 00:23
 この作品はACfAのSSです。 
今回が初めての投稿で、初心者なので分からない事も多々あります。
この部分はおかしいこう書いた方が良い、誤字脱字、等ありましたら指摘をお願いします。

 この作品では作者がアリーヤが好きなのでアリーヤは全体的に若干強化されています。 主人公はストレイドのリンクスでけっこう強めになる予定です。
また幾つかオリジナルな設定やパーツが使われる予定ですが、よろしくお願いします。
 この作品では基本的に武器の性能等はVer1.40が基準になっています。しかし現実的にネクストの動きはVer1.15が最も近いということから一部はVer1.15の性能となっています。
 例 アサルトアーマーの威力、その後のPA回復時間、ジェネレーターの重量、脚部の積載量、ACの機動 等です。ご了承ください。
 初めての作品ですのでおかしいところ等あると思いますが、いろいろ指摘していただければと思います。よろしくお願いします。



[27540] 第一話 
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/04 00:23
第一話 


 国家解体戦争、リンクス戦争。
何回にも渡って繰り返される企業間での経済戦争。
その度に広がる深刻な環境汚染。
それだけが原因ではないだろう、他にも幾つもの要因が挙がるだろう。

 ただそれらの結果として、人類は地上を棄てた。

 人類の新たなる生活の場、人類の箱舟、居住型の超巨大航空機「クレイドル」
高度7000m付近の空を半永久的に飛行するそれらこそが、既に人類の大半にとっての新しい地上と言えた。
人類は自ら汚染し尽した地上を棄て、空に新たな安息の空間を得る事ができた。

 だが、その一方で地上では、経済戦争の舞台として、幾多の紛争の舞台として戦火が止むことは無かった。
激化する戦争と共に深刻化するコジマ汚染。それを全く考えずに続けられる戦争、その影で



      亡霊は動き出す。



 旧レイレナード本社施設-エグザウィル-

 かつての六大企業の一角にて新進気鋭の新興企業であったレイレナード。
リンクス戦争において所属していたリンクスの大半をアナトリアの傭兵によって倒され、また本社施設も破壊されて
壊滅したメガコングロマリット。かつて権勢を誇った白亜の城は崩れ落ち、高濃度のコジマ汚染によって、見る影も
無くなっていた。
 しかしそのエグザウィルの地表から遥かに下の地下部分に密かに動く人影があった。
エグザウィルは周りを湖に囲まれていた。そのため本社に出入りするために航空での移動手段と地下に移動するため
の通路等の空間があった。それらはリンクス戦争の勝者であり、近接していたGAの管理下に置かれていた。
 だがこの人影はそうしたGA等の陣営に属する人間ではなかった。その影はGAの捜索された区域よりもさらに下の区域
にいた。この区域は徹底的に情報管理され、リンクス戦争時のレイレナードの人間ですら知る者は少なかった。
その区域をこの人物は歩いている。ゆっくりと、どこか懐かしむように。

 
 そしてある場所に辿りついた。
パスワードを打ち込み、その部屋に入る。

 そしてそこに”それ”はあった。


 鋭角的なフォルム、漆黒の配色をされた”それ”が。


03-AALIYAH


 レイレナード社製ACネクスト03-AALIYAH、近接戦闘に優れた傑作機。
そして、ここにあるこの機体は通常のものよりも高い性能を誇り、いくつかの新しい機能ももっている。

 人影はそのACに近づき、そして触れて言った。


 「ついにここまで来た。この段階、この場所まで。」


 なおも言い続ける、噛みしめるように、万感の思いをこめて。


 「ここから、すべてが始まる。ここから、すべてを変える。」

 
 そして、目を閉じ、思い出しながら、その”青年”は言う。静かに、厳かに、宣言するかのように


 「父さん、母さん、二人のいや、皆の願いを必ず叶える・・・」

 
 青年は振り返り、元来た道を戻りだす。
これからいくつものやらねばならないことがある。
まず待ってくれている”師匠”に連絡し、次にこのネクストを運び出す。しかもGA等の企業に気づかれずに、だ。
大変なことだろうに、青年はどこか楽しそうに口を歪ませ、歩いていく。

 そして部屋から出るその時に振り返り、言った。


「”世界は私たちが変える・・・”」




[27540] 第二話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/04 00:24
第二話


 「随分とご機嫌じゃないか。」


 彼女は唐突にそう言った。自分では表情に出したつもりはなかったが、彼女には見抜かれていたらしい。
何年も一緒にいたのだからそれも当然か、そんなことを考えていると、


 「だいたい何を考えているか見当がつくが、そんな風にしていたら誰でも分かるだろうな。」


 そう言われ、顔に手をあててみると、気が付かぬ間に口角がかなり吊り上っていた。
なるほど、こんな表情をしてたら分からないはずがないかと思い、苦笑する。
つい先ほどあのAALIYAHを密かにガレージに運びこみ、一息ついたところだった。今のところ、どこかの企業に気づかれた様子はない。それに安心し若干気が緩んでいたか。
それではいけないと気を引き締めようと自戒していると


 「そうだ、今からがお前の始まりだというのに、気を緩ませすぎだ。馬鹿者。」


 本当に、彼女は他者の心が読めるんじゃないか、と愚にもつかぬこと思い、苦笑しながら彼女に目を向ける。

長く艶やかな黒いストレートの髪、涼しげで強い意志を感じる黒い瞳、メリハリの効いた硬質的な美貌の持ち主、旧レオーネメカニカのオリジナルNo16霞スミカ
現在はセレン・ヘイズと名乗っているが、かつての国家解体戦争で戦果を挙げレオーネの実質的な最高戦力と目された彼女は一線を引いた今でさえも常人とは思えぬ雰囲気を発していた。


 「ああ、すまない。どうもやっと始まるからといって、気が緩んでいたみたいだな。」


 「まったくだ。せめて気を緩ますのは最初のミッションを終わらせて、リンクスとして登録が完了してからにしろ。まだ準備さえも終わっていないのだからな。」


 そう言うと彼女は近づいていくつかの書類を渡してきた。
黙って目を通す。それは彼女に頼んでおいた幾つかの兵装についてだった。彼女はかつてリンクスだった故に企業に顔が効く。さすがに敵対していたGAグループとはそうでもないがそれ
以外の二つのグループに関してはなかなかのものだ。そのおかげで調達できたものもある。


 「今回頼まれていた背部武器だが、やはりまだ無理だな。私はインテリオル系列には顔が効くが、それでもアルドラとはそう関係が深いわけでもない。
  それに今後のことを考えると、資金が厳しい。買うのならば、いくつかのミッションをこなしてからの方が無難だろう。しばらくはTRESORを使うしかないな。」


 「そうか。そうなると現状でアセンブリは右手が04-MARVE、左手は047ANNR、右背にMP-O203、左背にTRESOR、そして肩に051ANAMといったところか。
独立傭兵とはいえ見事にばらばらになったな。アルドラのグレネードが手に入ってもばらばらであることには違いないが。」


 「それで大丈夫だろう。それら以外にもいくつか武器はある。ミッションの内容に応じてアセンを変えてみるのもいいだろう。おまえは私とのシミュレータでの対戦や訓練でノーマル
  等はなんとかなるだろう。だが今後はAFも相手にするんだ。油断するなよ。」


 淡々と彼女は言う。珍しいことだ、彼女がAFに対してある程度評価するとは。かつてリンクスであった彼女がAFに大して脅威を感じるとは思わなかったが。
意外と心配してくれているのかと思い、少し微笑ながら訊いてみる。


 「以外だな。貴女がAFを評価するとは、普段鉄屑とか言っているだろうに。」


 そう言ってみるが彼女は微塵も動揺せず、フンッと鼻で嗤いながら言った。


 「私はあれを過小評価するつもりはないさ。各企業のフラグシップのAFは厄介だろうしな。だがおまえは仮にも私が育てたリンクスだ、フラグシップのAFは兎も角普及型のAF風情にや
  すやすとやられるように鍛えた覚えはないぞ。もしやられるようなら、またたっぷりと鍛え直さねばならんだろうな。」


 クックックと嗤いながら言う彼女を見て背筋に冷や汗が噴き出る。彼女はやると言ったらなにがあってもやる人間だ。この話題はマズイ。どんなことになるか考えたくもない、どんな
事をやるつもりなのか聞きたくもない。
 急いで話題も変える。これ以上この話題は危険だ、そんなことを考えながら。


 「ところで何をしにここまで来たんだ?この書類のことだけなら貴女は俺の部屋まで来ないだろうに」


 そう言うと彼女は嗤うのを止めて


 「カラードから連絡があった。初のミッションは一週間後。ラインアーク守備部隊の排除だそうだ。」


 と言った。この言葉で一気に冷静になった。


 「ようやく決まったか。また最近ありがちなミッションだな。例のごとくホワイト・グリントの居留守を狙って襲撃か。
  企業もよくこんな嫌がらせを続けるものだよな。」


 「確かにな。だが最初のミッションには丁度いいだろう。間違ってもこんなところで躓くなよ。」


 それだけ言って彼女は戻りだした。そして部屋をでる際に


 「ここからがお前の始まりだ。私に見せてみろ、お前の答えを。」


 と言って、部屋をでて行った。しばらくの間無音の静寂が続く。そして


 「ああ。遂げてみせるさ俺の答えを・・・」



[27540] 第三話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/07 23:10
第三話


  <ミッション開始、ラインアーク守備部隊を排除する。>


  疾走。
 
  その言葉が言い終わると同時に爆発的な前方へのクイックブーストによって漆黒の機体-ストレイド-が亜音速まで一気に加速する。
 目標を確認。急造らしい脆そうな足場の上に複数のMT。

 『き、企業のネクストだと!?』

 『くそ!こんな時に限って!!』

 こちらに気付くなり複数の戦闘用MTが一斉に攻撃してきた。
 
  -遅いな。

  そんな感想すら抱いていた。
 亜音速まで加速したこちらの機体を追いきれていないのか、それともたんに腕が悪いのか敵の弾幕はこちらの機体どころかPAにすら掠りもしなかった。
 ストレイドは凄まじいスピードで移動し、一気にサイドへクイックブーストで移動。側面から無防備なMTを食らいつくす。

 旧レイレナード社製の傑作アサルトライフル-MARVE-から吐き出された弾丸たちが無防備なMTの装甲を容赦なく喰らい尽くし、破壊する。

 『っく! うわあぁぁぁぁぁっ!?』

 銃撃とMTの爆発によって足場が崩壊し、無傷だったMTまでも墜ちて行く。
 うまく脱出できれば生き残る事はできるかもしれない。もっともコジマ汚染された海で生き残れる可能性は低いだろうが。
 彼らの実力は知れた。どうやら思っていたよりも遥かに弱いらしい。

 -お前らはもう『敵』じゃない。撃たれるだけのただの『的』だ。

 『くそっ! 効いているのか!?』

 『プライマルアーマーだ! まずはプライマルアーマーを減衰させるんだッ!!』

  そして見た目以上に足場の耐久性も低いようだ。先ほど攻撃によって崩壊した足場のことを考えて、行動を開始する。
 移動し、足場の下から足場に向けて、両手のライフルで攻撃する。あっけなく足場は崩壊しまた再び無傷のMTが海へと堕ちていく。

 
 次に橋の上のまとまっているMTたちに攻撃をしかける。プラズマキャノンを展開する。
アクアビット製のプラズマキャノンから発射された白光が一体のMTを一瞬で蒸発させ、続くアサルトライフルの弾丸がMTを食らいつくす。


  <目標、残り約半数。>


そのまま移動するとトンネルの向こう側にMT部隊が展開しているのが見える。ロックオンできる距離ではないのか、撃ってはこない。
こちらもまだロックオンできる距離ではないが構わず右の散布型ミサイルを起動。角度を調整して一気に連射する。左右に広がる散布ミサイルは加速し、MTたちに直撃し破壊し尽した。


  <目標、残り僅かだ。>


  霞スミカの声が耳に心地良く響く。その声聞きながら長く伸びた橋のトンネルの向こうを見る。
 こちらに迫ってくるノーマルを睨む。GA製のノーマル部隊だ。躊躇いなく一気にクイックブーストで踏み込む。
 左手のライフルを撃ちながら、散布型ミサイルを連射し、さらにクイックブーストで踏み込み、ノーマルの頭上を越え背後に着地する。
 直後に両手の武器をプラズマキャノンとアサルトライフルに切り替え、クイックターンで旋回し、まだこちらに背を向けているノーマルたちに発砲する。
 いかにGA製の厚い装甲があっても、この至近距離からのアサルトライフルに耐えきれず相次いで爆発する。その上GAの兵器には鬼門のEN兵器で攻撃されるのだから一溜りもない。
 
 ノーマル部隊はあっさりと殲滅された。


  <全目標の排除を確認。ミッション完了だ。>

  
 思っていた以上にあっけない終わりに拍子抜けしていると


  <良くやったな、ほぼ完ぺきだ。とはいえあまり調子づくなよ、敵が弱すぎたのだからな。>


 -初のミッションなのだから、もう少しやさしく接してくれてもいいだろうに。
 苦笑しつつ、そんなことを考えながらも了解、と答える。AMSを戦闘モードから通常モードに戻し、回収ポイントまで移動し、海上都市を後にする。




 「初ミッションのご苦労。感想は?」

 「拍子抜けだったよ。貴女とのシミュレーションの方が万倍はきつかったな。」

 「拍子抜け、か。言うじゃないか。今回は相手が弱すぎただけだ、次からはこうはいかなくなるだろう。」

 「そう願うよ。スミカさん。弱いものいじめは好きじゃないんだ。」

 「ほぅ。今日は随分と強気じゃないか、まぁ、私の弟子なんだ。そのくらいのことが言える様でなくてはな。」


 帰りの輸送機の中、ストレイドのコックピットに座ったまま霞スミカと会話をしていた。
 しばらく話した後、会話は今日のミッションの内容へと移る。

 
 「スミカさん。今日のミッションはどうだったかな?」

 「ふむ、そうだな。被弾が0、ミッション時間もごく短い時間に抑えられている。これらはいいことだな。
  だが若干無駄撃ちがあったことと無駄なクイックブーストの使用が多いこと。これらが悪かった点だな。
  ストレイドは03-AALIYAHのフレームを使用していてEN消費が多い。クイックブーストを使いすぎていざという時に使えないなどという事になりかねんからな。」
 
 「なるほど。了解した、覚えておくよ。対ネクスト戦では致命傷になりかねないしな。
  後で戦闘ログを頼むよ。見て改良できる点をさがしておくよ。」

 「そうだな…さぁ、帰ろう。初陣の祝いに今晩は久しぶりに私が作るとしよう。奮発しようじゃないか」

 「それは楽しみだな。貴女の料理はとても美味しいからな。」



[27540] 第四話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/07 23:10
第四話


 「さて、今後の方針を決めるとしようか」

  夕食を終え、くつろいでいると、彼女は唐突にそう言った。
 
 「今後の方針か、どのグループの依頼を主として取るか、ってことか?
  特に3つのうちのどれかを優先するつもりはないが、俺として最初は対AF戦がある依頼を優先的に取りたいな。今のうちに経験を積んでおきたい。
  対ネクスト戦もしておきたいが、そう都合よくくるとは思えないしな。スミカさんはどう思う?」

 「ふむ、おおまかにはそれでいいだろう。ただ若干問題になりそうなのはオーメルか。今、AALIYAHについて扱っているのはあそこだ。機嫌を損ねるとやりづらくなりそうだな。
  それに政治力も3つのグループの中では最も高い。オーメルの依頼を優先的に取っているといつの間にか政治的に囲い込まれてたっということにもなりかねん。
  そのあたりのさじ加減が面倒だろうな。まあ最近独立傭兵でちゃんと中立だといえるのも少ないだろうがな。
  お前はそうなりたいわけではないのだろう。そうならんようにバランスを考えて依頼を受けた方がいいだろうな。」

 「確かに。独立傭兵といっても実質的にはどこかのグループに属しているのと同義って奴のはいるな。そうはなりたくないしな。
  つまり今後は対AF戦の依頼を優先的に受け、あるのならば対ネクスト戦の依頼も受ける。そしてどこかのグループにのみ肩入れしずぎないように注意する。
  現状の方針はこんなところか。」

 「それでいいだろう。あとは情勢の変化や企業のお前への評価等を考えて行動すれば良いだろう。」


   会話が終わり彼女は片付けをする、と言って部屋から出て行った。
  初のミッションが終わったことで少しは余裕もでてきたので、しばらくの間一人で今後の事について考える。最近はこのミッションについてばかり考えていた。
  もっともその予想よりもかなり簡単だったが。
   まだまだ始まったばかりだ、やるべきことはいくらでもある。そう考え、先ほど彼女にもらった戦闘ログを見る。
  見てみると確かに無駄にクイックブーストを使った箇所が幾つかある。あれなら使う必要もなかっただろう。
  他に何か欠点はないか、確認。そして目を閉じ、頭の中でシミュレーションする。
  どう動くのが良いか、どの武器を使うのが良いか、クイックを使うタイミングはどうか。
  熟考していると彼女が戻ってきて言った。


 「相変わらずそれか。私とのシミュレーションが終わったときもいつもやっているな、お前は。
  少し止めろ。大切なことを決めるのを忘れていた。」


   そう言われ、目を開ける。大切なこと?何か忘れていただろうか?考えてみるが、思い当たるふしがない。


 「特に思い当たることがないが、何のことかな?」

 「お前のリンクス名のことだ。機体名は前に決めたストレイドでいいだろうが、そっちを決めてなかっただろう?
  まさか、本名をそのまま登録する訳にもいかないだろう?それとも以前使っていた偽名を使うか?」


   言われてようやく納得する。確かに決めなくてはまずい。
  しかしどうしようか多少悩む。本名を使うのは論外、しかし偽名を使うのも微妙だ。
  以前、偽名を名乗っていた時は、その名で呼ばれていてもそれを自分のことだと認識せず、スルーしてしまうことがあった。
  どうも自分が呼ばれていると思えず、反応できないのだ。
   しばし考え、それでも思い浮かばず彼女に尋ねる。


 「特にいい案が思い浮かばないな。本名を使うのはありえないし、以前の偽名を使うのも気が進まないな。
  貴女に何か考えはあるかな、スミカさん。」


   そう言うと、彼女は少し考えてから答えた。


 「そうだな・・お前の昔のあだ名を使うとかはどうだ?それならお前も自分のことだとすぐ認識し反応だろう。
  若干本名がばれそうになる危険もあるが、まあ大丈夫だろう。」


   なるほど、そういうのもありか。しばし考え、良いのが思いついた。


 「決めましたよ。スミカさん。」

 「ほう、存外早かったな。もう少しかかるかと思ったが。で、どんな名にしたんだ。」

 「”シュウ”と、スミカさんの案からとって幼少時に友人から呼ばれた名にしました、ほとんど本名だがね。」


  苦笑しながら答える。懐かしい過去を思い出す、自分にとって最も幸せだった過去を。


 「それに、もし何か名について尋ねられたら、すぐに返答できますしね。」

 「ほう、どんな風にだ?」

 「かつてのオリジナルNo1ベルリオーズの機体”シュープリス”からあやかって名前を決めたと言うさ。
  自分がランク1になってみせるっていう宣言だ、とね。」


   そう答えると彼女はどこか楽しそうに、傲慢に笑っていた。


 「クックック、それはなかなかいいな。気に入ったぞ。今後はそう呼ぶとしよう。
  それに、昔の弟子のウィンはランク3になっているんだから最低でも同程度になってもらわなくてはいけなかったんだ。丁度いいな。」


   その笑い方は彼女によく似合っていた。一瞬見惚れたが、すぐ常に戻り彼女に問う。


 「用件それでいいのかな?あと一つ聞きたいが、カラードの地上本部には何時行く予定かな?
  早めにランクマッチを行いたいんだが。」
  
 「ああ、そうだな。リンクス名も決まったことだし、さっそくカラードに登録するとしよう。その際にランクマッチの申請もしておく。」

 「頼む。できるだけ早く戦いたい。」


   そう話して彼女は部屋をでていった。
  一人になった部屋の中で目を閉じ再び戦闘のシミュレーションを再開する。先ほどよりも良い考えが思い浮かぶ。
  早く、早く、早く、早く戦いたいとそう思いながらシミュレーションをし続けた。
  その口角を吊り上げ、楽しそうに嗤いながら。
  



[27540] 第五話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/13 19:53
第五話


  「さて。早速いくつか依頼がきたが、何処の依頼を受ける?」

  「へえ。なかなか早い対応だな。ちなみに内容は?」

  「GAはミミル軍港襲撃。インテリオルはレッドバレーの突破支援。オーメルはB7襲撃だな。私としてはGAの依頼を勧めるが。」

  「ふむ、取りあえず3つの詳細を確認してみてからでいいかな?」

  「ああ、分かった。」


  そして3つの企業から送られてきた依頼を確認し終えると彼女に告げた。


  「GAの依頼にするとしようか。弾薬費が向こう持ちの上に、戦わないだろうが新型のAFも見れるんだ。スミカさんの勧めた理由も分かる。今は資金が欲しいしな。
   先にGAの依頼を受けておくとしよう。インテリオルとオーメルは特にいいだろう。あの内容なら受ける価値は低い。GAの依頼を終えてからあればで受ければいいだろう。」

  「ああ。ではGAに依頼を承諾する、と伝えておく。」

  「頼む。俺はアセンの方を少し変更するとしようか、あそこのデータから見ると艦船等の数も相当なものだろう。ライフルや散布ミサイルで攻撃するのは効率が悪い。
   TRESORでは装弾数が足りないだろうから変更するか、それかブレードを使うか?」
   
  「その辺りはお前が考えておけ。手持ちの武器でどう戦うのか、考えるのもいいだろう。」


  確かにその通りだな、と返しながらアセンについて思考する。
 手の武器は片方をブレードに変えればいいだろう、もしくはプラズマライフル等を使うのも良いかもしれないあれなら艦船でも一撃で沈められるだろう。
 背中の武器をどうするか。できるならプラズマのように一撃で艦船を破壊できて、かつ広範囲にダメージを与えられるものが好ましい。
 だがそんな今自分の手元にあるのでそんな武器があったか、と考える。手元にあるほとんどの武器は旧レイレナード陣営で使われていたものだ。
 スミカの伝手でオーメル陣営の武器もいくつか手に入ったが、その中にはそのような武器はなかったはず。しばらくの間考え続けると、一つの武器を思いついた。
 使ってみたかったが、重量や安定等の理由ではずしていた武器。今回の依頼なら特に問題はないだろうと思い、決めた。
 そしてそのアセンを彼女に伝える。彼女も異論はないようでそれに決まった。
  




  水上を漆黒の影が疾走する。
 接近するミサイルを前方へのクイックブースターで回避、すかさず反撃して、敵巡洋艦を撃沈める。
 艦船に白光が奔り、榴弾の大爆発で、竜殺しの剣に断たれて、艦船は沈んでいく。
 オーバードブースト始動。一気に亜音速に到達し、その速度で軍港内に移動し、殲滅する。
 今回のストレイドの武装は右腕にブレード02-DRAGONSLAYER,左腕にプラズマライフルSAMSARA,そして右背にグレネードOGOTOとなっている。
 どれも一撃にて艦船を破壊できる程の威力をもつ強力な武装。それらを前に敵はあまりに脆かった。

  <この辺りは片付いたか。>

  <他に向かえ、時間は限られているぞ。>

 再びオーバードブースト始動させ、高速移動にて敵施設内へ侵入する。攻撃してくる防衛部隊をグレネードにて殲滅すると彼女から

  <敵アームズフォートを確認、ボーナス対象だ優先して撃破しろ>
  
 と告げられ、反応する。奥に巨大なAFを確認する。念のため残弾を確認する。プラズマライフル残弾12、グレネード残弾6。
 ブレードもあるし十分足りる、そう判断する。念のため見渡せば、補給艦を確認。補給艦へとグレネードで砲撃。大爆発を引き起こす。
 だがAFはいまだ健在。ブレードを展開し、切りかかる。竜殺しの名を持つ剣はAFの装甲を容易く焼き切り多大なダメージを与える。
 そしてダメ押しとばかりに、AFのブースター部にプラズマとグレネードで攻撃する。
 すると一気に爆発が起こり、外部装甲が弾け飛び、灼熱の炎が噴き出し、AFが幾つのも破片となって水面に堕ちる。

  <よし、敵アームズフォートは落ちたな。>
 
  その言葉を聞きさらに奥へと移動、補給船へ優先的にグレネードで攻撃し、幾つかの艦船を巻き込み撃沈させる。
 最後の1隻。砲撃をサイドクイックブーストで回避し、敵艦へ接近そのままブレードで切りかかり撃沈。

  <全目標の排除を確認、ミッション終了だ。素晴らしい戦果だ。感服したよ。>

 
  彼女には珍しい破格の褒め言葉を聞きながら、息を吐いた。
-彼女がこれほど褒めてくれるとは、明日は槍の雨でも降るのか?
 実際には死んでも口に出せないことを考えながらAMSの接続レベルを下げる。
 こんな程度で達成感や、嬉しさなんて欠片も感じない。まだまだ目指す場所は遠い。もっと強くなろう、とそう決意を新たにする。
 
 「任務終了。ストレイド、帰還する。」

  今の自分がするべきなのは経験を積み、実績を作ることだ。
 だからそのために耐える、かつてやぶれた企業に使われる怒りも憎しみも虚しさも全て。





  カラードのリンクスとなってから初のミッションをこなしてから数日の間、依頼は来なかった。
 インテリオルとオーメルは先の依頼を別のリンクスに依頼したようですでになくなっていた。
 仕方ないと諦め、シミュレーションに没頭する。
  シュウの持つシミュレーターはかなり高性能なものだ。そのあたりは霞スミカの伝手でーカラードにある物ほどではないがー良いものが手に入っていた。
 しかし、それ以上に価値があるのは中にあるデータだろう。旧レイレナードに所属していた5人のリンクスのデータ。独立傭兵がそうそう手に入れられるデータではないだろう。
 だがシュウは自身の伝手、旧レイレナードの伝手を使い、手に入れることができていた。
 これらのデータとの対戦を続けていた。勝率はベルリオーズとアンジェに対し約5割、オービエ、ザンニ、真改に対し約7割といったところだった。
 他と比べ高い質を誇る旧レイレナードのリンクスたちに対して悪くない勝率といえるだろう。しかし彼はそれに欠片も満足していなかった。
 
  -所詮はデータ、実際の彼らには到底及ばない。

 それがシュウの感想だ。自分が幼いころ目にした実戦の彼らの動きにはとても遠いものだと、そう思っている。本物ならばどうか。
  -ベルリオースならもっと行動を予測しづらく、なおかつ柔軟に合理的に無駄なく行動するだろう。
  -アンジェならこれほどブレードをマシンガンを回避することなどできないだろう。
  -オービエならもっと苛烈な容赦ない攻撃と突撃をしかけてくるだろう。
  -ザンニならより空中機動を混ぜ、上下移動をうまく使い射撃戦をするだろう。
  -真改ならより鋭く動き、これほど攻撃が当たることが無いだろう。
 
  そう考えつつもシミュレーションを止めることなく続ける。より強くなる為に。
 

 「ふむ、熱心なことだな。だがそろそろ5時間近くやっているだろう。一旦止めろ。」


 いつの間にかいたのか、霞スミカがやって来ていてそう言った。


 「まだやれるんだがね、俺のAMS適正がかなり高いことは知っているだろうに。この位なら問題ない。」

 「それは知っている。だが依頼が来ているからな。流石に疲れきって行けないというのは嫌だろう?」

 
  そう言われ納得する。機体の関係等で仕方なく、ならまだしもそんな理由で受けられないなど御免こうむる。


 「なるほど、確かにな。そんなのは御免だ。それでどこからの依頼かな?スミカさん。」
 
 「BFFからの依頼だ。決めるなら早くしろ。」

 
  そう言って、依頼のメールを見せてくる。確認すると、確かに時間に余裕は無さそうだ。
 VOBを慣れるのにも丁度いい、などと考える。


 「受けるとしよう。VOBを使うのは初めてだが、この位ならば大丈夫だろう。慣れるのにも丁度いいだろうしな。」

 「分かった。では了承の返事をしておく。お前は早く準備しておけよ。すぐにでるぞ。」

 
  了解。と返しすぐに行動する。初めてのVOBが不安要素だが、今後も使うことがあるだろう。今のうちになれないとな。そう思いながら、準備を進めた。
 



[27540] 第六話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/19 00:42
第六話


  そうして幾つかの依頼をこなしていった。
   スフィア侵攻部隊の迎撃任務では、VOBを用いて、オーメルの部隊をブリーフィングどおりに後方から攻撃し、多数しとめる。
  VOBを切り離し着地する地点にAFランドクラブがいたが、プラズマキャノンを主砲を狙い一点集中して連発し撃破。予想外の初の対AF戦となったが、特に被害もなく終わる。
  その後はノーマルと撃ち漏らした航空機を撃破して任務終了となった。
   AFギガベース撃破で連続してVOBを使用したミッションとなった。予想をはるかに上回るギガベースの精密な砲撃をなんとか回避しながら移動。
  そのまま一気にギガベースの懐に飛び込み、装備してきたブレードで連続で切りかかり、その切断面にプラズマキャノンを打ち込み、撃破。
  補給船を沈めればボーナスであったが、特に何か仕掛けることなくスルーし、任務終了。
   リッチランド襲撃はランドクラブが情報と違い二機いたが、特に問題なかった。オーバードブーストで一気に接近しブレードの連続攻撃で撃破。もう一機も同様に撃破された。
  そうなれば後はMTとノーマルが多少いただけ、ライフルや散布ミサイルであっさりと殲滅させ、任務終了。



   ここまでの戦闘を振り返ってみればかなり良い結果といえる。対AF戦やVOBを使用した任務もここまでうまくこなす事ができている。
  被弾もほとんどなく、ブレードを多用しているから弾薬費もそう多くはない。ほとんど立ち止まる事無く、無駄な動きもなくなってきている。
  広い範囲での戦闘も、閉所での戦闘、水上での戦闘などいろいろな場所での戦闘を上手く立ち回れている。
 
  ―かなりやるじゃないか。
   霞スミカはそう思っていた。ここまでの戦果を考えれば当然とも言える。新人おリンクスにしては破格といって言いだろう。
  依頼がGAばかりであるのが、若干気にかかるところだが、そこまではどうにもならない。
  オーメルからの依頼も多少は取っておきたいところだが、最近はきていない。
   まあ、依頼が来ないならば別にいいか。と考えているスミカのところに依頼のメールが来た。
そのオーメルからの依頼だったが、内容を最後まで見て驚く。
    
  ―オーメルも使えるかどうか見定めにきたか。それもいいだろう。こちらも見せてもらうとしようか。
  そんなことを考え、クックックと笑いながら、部屋を後にした。



   旧チャイニーズ・上海海域の敵部隊の掃討。
  この日、スミカが勧めてきた依頼はそれだった。敵は最新の半砲台ノーマルと水上型AFギガベースがいる。依頼主は協働を望んでいる。
  別に必要だとも思わなかった。リンクスと協働すれば報酬の数割は持っていかれる。別に金を得るのが目的というわけではないが、修理費用までこちら持ちでは割にあうかどうか。
  この程度の敵ならば自分一人で十分こと足りる。ギガベースもこれだけ近づけているのなら以前ほど脅威でもないだろう。そう思いつつリンクスを確認する。
  候補としてリストアップされたリンクスは三人。

  ランク22、<サベージビースト>のカニス。ローゼンタールに近い独立傭兵だが、作戦の成功率には一定の評価があるがビッグマウスで任務を選ぶので評判はあまり良くない。
  ランク11、<トラセンド>のダリオ・エンピオ。ローゼンタールの新《ランセル》ベースのネクストを駆る、同社専属リンクス。権力志向で我の強い野心家。
  そして、最後の一人を見て驚いた。同時に彼女が勧めた理由も納得した。
  ランク1、<ステイシス>のオッツダルヴァ。実戦派の天才と名高いオーメルの切り札、カラードの頂点たるリンクスである。
  

  「なるほど、貴女が勧めるわけだ。なかなか面白そうな依頼だな。他のリンクスとの協働か。リッチランドの時は断ったが今回はいいかもな。」

  「ああ、対AF戦も何回かこなせたし、ここら他のリンクスの動きを見てみるのも良いだろう。そこから何か学べるかもしれんしな。」

  「そうだな。まあ貴女も同意見だと思うが、協働するリンクスは…」

  「ふん、言うまでもないだろう。そう何回も機会があるとは思えん。今回でよく見て、学んでこい。」

  「そうするさ。よーく見てくるとするさカラードランク1の実力をな。」

   シュウはそう言って不敵に笑った。





   旧チャイニーズ・上海海域。
  かつて10億をはるかに超える人口を擁する大国であった中国の大都市は、今やコジマ実験による事故で巨大なクレータができた上に完全に水没してしまっている。
  今やかつての高層ビルがわずかに海面より上にでているだけの地域だ。
  その場所に今回の任務のターゲットがいた。
  噴射されるメインブースタがすぐ下の海水を散らし、大きなしぶきとして飛散させた。
  ほぼ同時のタイミングて、別の輸送機からビルの上に機体が降り立つ。
  深く昏い蒼。超音速戦闘機の様な鋭いシルエット、旧レイレナードを思わせる鋭角なフォルム。最新鋭の武装を装備するカラードの頂点。<ステイシス>。
  オッツダルヴァの駆る軽量二脚型ネクスト、オーメル・サイエンスの切り札。

  『準備できているな? 貴様』

  「ああ、もちろん。今回はよろしく頼むランク1。」

  『ふん、せいぜい気張ることだ。尻拭いなどあまり趣味じゃない。』
 

  そう会話しながら、行動を開始する。
  ビルに配置された半砲台型ノーマルが見えてくる。特殊な形状をしたシールドが目立つ、BFFらしい四脚のノーマル。まずは小手調べと左腕のライフルで攻撃する。
  だが、攻撃ははじかれて、ガトリングの銃口がこちらに向けられた。

  「ほう…」

  『前面のみのシールドとはな。』

  自分はノーマルであれほどのPAを使用できることに少し感嘆したが、彼はそうでもないらしい。
  呆れを隠そうともせずに言い、ノーマルの後ろに回り込みアサルトライフルの銃撃で撃破した。
  
  ―随分と律儀に壊すことだ。
  そう思いながら一気にクイックで前進。ガトリングを躱しながらノーマルのビルに張り付き、そのままブレードで切り裂く。
  するとノーマルは全く動くこともできず、浮上することなく海に沈んだ。

  あのノーマルはシールドに動力のほとんどがいっていて、機動力が完全に死んでいる。さらに加えて海上にいるのにも関わらず浮上することもできない。
  足場のビルを破壊されれば、そのまま沈むしかない。ネクストの機動力を前に、それは致命的だった。
  ほぼ固定砲台とかわらない半砲台型ノーマルではあまりにも相手が悪すぎた。

  
   半砲台型ノーマル部隊を殲滅し、艦船を沈めながら奥のギガベースに向け突進する。
  やがてギガベースを中心とする艦隊が見えてくる。
  

  「ギガベーズは俺がやろう。ブレードを持っている俺の方がやりやすいだろう。残りの艦船を頼む。」

  そう言って返事を待たず、一気にオーバードブーストで懐に飛び込む。
  そのままミサイルの雨を掻い潜り、時にフレアを使いながらギガベースに取りつきブレードで装甲を切り裂いた。
  その部分にプラズマを打ち込み撃破する。そして援護に向かおうとステイシスの方を見る。そこで



  ――蒼が宙を舞っていた。

  天空から左腕のレーザーバズーカで攻撃し敵艦船を破壊していた。
  10隻以上はいた艦船はもう残り2隻しかいない。

  ―莫迦な、早過ぎる…

  自分がギガベースに突撃してからまだ30秒と経っていない。それなのにもうこれほど撃破するとは…
  そう考えつつ、ステイシスを見る。空を舞いながら時折急加速し、攻撃を躱しながら、反撃の一撃で撃破している。
  蝶のように空を舞い、クイックで一気にスピードを上げて蜂のごとく刺す。鋭い緩急のついたヒットアンドウェイ戦術。
  言うのは簡単だが、これほど迅く、正確にできることなのか、とそう思う。

  ―これが、カラードランク1の実力か…

  
  そう思っている間にステイシスは最後の1隻を撃破し、ビルの上に立っていた。


  <全目標の排除を確認、ミッション終了だ。>



  『―ミッション完了か。』

  オッツダルヴァが呟く。少し間を置いて、ステイシスがこちらを見た。こちらを見られたのはミッション開始から初めてだ。

  『ま…ありじゃないか、貴様。』


  と、どこか楽しげにそう言った。少しは認められたのだろうか。
  正直あれ程の機動を魅せつけられたあとでは、自信をもってそうだと思えないが。

  「それはどうも、光栄だな、ランク1にそう言ってもらえるとは。」


  ただそれだけを返して移動した。頭に蒼のネクストの機動を忘れぬ様に刻みつけながら……

  




  「今までで一番為になった様だな、今日の任務は。正直言って報酬の六割は痛かったがそれだけの価値はあったな。」


  霞スミカの発言に頷きながら、それに応える。
  
  
  「ああ、確かにあれほどとは思わなかった。凄まじいな。しかも被弾が0とは恐れ入る。だが届かないとは思わない、いずれ必ず越えてみせるさ。」

  「フン、言うだけならば簡単だがな。そこまで言うんだ、私にあいつを倒すところを見せてみろよ。戦うかもしれんのだからな」

  
  そう言って楽しそうに笑う彼女に頷き、今日の任務を思い返す。
    
  ――宙に舞う蒼のネクスト。自らの目の前で戦う天才の姿。
  
  その姿を思い浮かべながら、薄く笑う。

  
  「いずれ戦うかもしれないか。ククク、刃を交えるその時を楽しみに待つとするさ…」



[27540] 第七話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/06/04 01:04
第七話



  強い、とその男は言った。

 『ふむ、確かにここまでの依頼の結果からみてもかなりの腕だな。今回共に行ったお前から見て何か感じたのだろう?』

 『強いな、技量も判断も良い。良すぎるほどにな。だがそれ以上に…』

 『何だ?』

 『AALIYAHの特性を熟知している。普通ではあり得ん程にな。おそらく旧レイレナードの人間だったことは間違いないだろう。』

 『理由は?それだけではないのだろう。』

 『私がレイレナードに居た時にあった人物に似ている。面影もあるし年齢も丁度だろう。間違いないな。』

 『ほう、それだと10年以上前に会った人物だとことだろう、そこまで確信があるのか。』
 
 『一度だけだが間違える訳がないさ、それだけ印象的だったからな。何せ…』



  ―――私の師の息子だ


 
 『…なるほどな、オリジナルの息子か。血は争えないといったところか、親子そろってリンクスとはな…』

 『間違いないと思うが、念のため確認を頼む。彼の過去を探っておいてくれ。』

 『了解した。確認ができたらハリと同じように彼も?』

 『ああ、だがその前に一つ確かめてみよう。彼の真の実力をな…』

 『例の任務か…』

 『そうだ、本来私がやるはずだったが、あの情報が入ってから上層部は迷っている。ランク1を失うかもしれないとな。
  流石にそれは連中には許容できまい。私があの任務をそれとなく彼を推薦しておこう。あのAFの火力をもって彼の試金石としよう。』

 『分かった。そちらは任せる”テルミドール”』
 
 『ああ、了解した。計画の方は任せる、頼むぞ”メルツェル”』






  ――黒と赤が空中で交差する
  赤の逆関節は時にグレネードも放ちながらマシンガンを乱射する。距離を詰めようとクイックブーストを何回も使い、前進する。
  しかし、距離が詰まらない。
  黒の機体は時に前進し、交差して距離を取り、時に後退、左右に移動し距離を取って戦い、マシンガンの射程から逃れていた。
  そしてマシンガンの射程外から二丁のライフルで攻撃をしかけた。
  連続クイックブーストで死角を取り、逆関節を追い立てる。逆関節の機体は総じて旋回性能は高くない。その弱点を上手くついていた。
  高速で移動し、頭上を飛び越え、死角を取ったまま攻撃し続ける。それを続けているうちにやがて逆関節の機体のAPは0になり沈黙した。

  

 『オーダーマッチ終了。勝者ストレイド。』



 「今回の相手はまだましな方か。下位のランクだから仕方ないことだが。」

 「そうだな。だがお前ならすぐ上に行けるだろう。そうしたら、いつも楽勝とはいかなくなるぞ。」

 「その方が良い。簡単に倒せる者に興味ない。己が全力を尽くして倒せるか分からない、それ位の相手と戦いたいな。No29の時みたいにな。」


   そんなことを話ながら二人はカラードの地上本部の中を歩いていた。
  二人がここにきた理由はオーダ―マッチを行うためである。今日の相手はNo25〈スカーレットフォックス〉であった。


 「今回の相手は今までよりは強かったが、やはりもの足りん。戦法は良いが腕が伴って無かったしな。」


  逆関節機体らしい三次元の機動を繰り返しながらマシンガンを乱射し、時にグレネードと散布ミサイルで攻撃を仕掛ける戦法。
  戦法は悪くはなかったが、腕がいまいちだった。

 
 「下位ランクではあんなものだろう。テレジアは別格だ。本来ならばあいつは一桁でもおかしくない腕を持っているんだからな。お前もギリギリの勝利だったしな。
  あいつと今回の相手では比べるべくもない。ただでさえ普段からコンビで戦い、それに慣れている奴にお前が苦戦などするものか。」

 「それもそうか。できれば次の相手はもっと強いといいのだがな。」

 「次の相手か…、インテリオルから丁度良い依頼がきていたな。見てみろ。」


  そういってスミカは依頼のメールを見せてくる。そこには―


  『ワンダフルボディ撃破』


  とあった。
  ―本当にタイミングが良いことだ。
  そんな風に考えながら

 
 「受ける。初めての対ネクストの実戦なんだ、僚機も選べるようだが今回は単機で行く。」


  と即答した。






 
  ワンダフルボディ撃破の任務終了後シュウは非常に不機嫌だった。
  初めてのネクスト相手の実戦で多少興奮していたが、相手が弱すぎてすぐにその興奮は冷めた。
  クイックブーストどころか通常のブーストを用いた移動さえまともにできず、ほとんど止まったり、歩くという練度の低さ。
  間違いなく戦ったなかでダントツで動きが悪い敵だった。とそう考えながらスミカと話す。


 「なあ、スミカさんあれは本当にネクストだったのか?正直言って、PA付きのネクストの武装を持った新型ノーマルと言われた方が納得できるんだが?」

 「確かにそれは分かるが、一応あれでもネクストだ。私はあれをネクストだと思いたくないな。」

 
  彼女はそんなことを言った。オリジナルの元リンクスであった彼女からすればあんなに弱いネクストというのも認めがたいのかもな、と思った。
  確かにネクストとは言い難い動きだった。何故あれがNo24なのか不思議に思うほどだ。

 
 「あれが最下位じゃないのはGAがバックにいるからかなスミカさん、まあ拡散バズーカがあるからNo30とNo28ぐらいには勝てるだろうが。」


 「だろうな。まあいい、あれのことはもう良い。あれとは比べものにならん程大きい依頼が来ているぞ。」


  楽しそうに嗤いながらそう言って依頼を見せた。その内容は――



   『AFスピリット・オブ・マザーウィル撃破』


  ――そう書かれてあった… 



  
  


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00546813011169