送別会であいさつする菅野村長。「どこに避難しても、飯舘への思いを決して忘れないでほしい」＝１５日、福島県飯舘村役場 　「先祖代々ずっと住み続けてきた皆さんに、こういう引っ越しをさせなければならず、申し訳ない」。飯舘村の送別会に出た約６０人を前に、菅野典雄村長は切り出した。 　計画的避難が持ち上がってから、菅野村長は苦悩し続けた。政府は当初、「長野県や岐阜県に受け入れ先はいくらでもありますよ」と打診してきたという。 　菅野村長は反発した。「数さえあればいいというものではない。そんな遠い所に行くのは無理だ。仕事、家庭、子どものことを考えれば片道１時間以内の場所に避難させるのが、私の責任だ。村民の生活をばらばらにしてどうする」 　移転先の確保は難航した。福島第１原発事故の直後から避難を始めたほかの自治体に、先を越されていたからだ。村職員がチームを組んで「走る不動産屋」になり、物件を探し続けた。 　住民向けの説明会で菅野村長が「集落ごとの避難は難しい状況」と言うと、村民から「話が違う」との批判が出た。ヤジに対し「必死にやっている。生やさしい気持ちで取り組んでいない」と声を荒らげる場面もあった。 　菅野村長はもともと全村避難に積極的ではなかった。「村のコミュニティーが失われる」「畜産や農業を捨てることになる」と考えたからだ。 　「遅きに失した」と非難する声もある。村議の一人は「もっと早く自主避難を進めていれば、無用な被ばくは避けられたはずだ」と指摘。村には「なぜもっと早く避難させないのか。村長は人殺しだ」と激しく責めるメールも来たという。 　放射性物質による汚染が深刻度を増し、次第に全村避難に向かっていった。菅野村長は「難しいパズルのようだ」と話しながら調整を進めた。 　「手間暇惜しまず」を意味する「までい」な地域づくりを進めてきた菅野村長。「家族同士が協力し、までいの精神を糧に、危機を乗り越えてほしい」と祈るように話し、車で慌ただしく村を離れる住民を見送った。 飯舘村をめぐる動き ３月１１日　東日本大震災発生 　１２日　福島第１原発１号機の建屋爆発、２０キロ圏に避難指示 　１４日　３号機の建屋爆発 　１５日　２、４号機で爆発音、大量の放射性物質放出か。２０〜３０キロ圏に屋内退避指示 　１９日　村民約５００人が栃木県鹿沼市へ避難開始 　２０日　原乳から高濃度の放射性ヨウ素、セシウム検出 　２１日　簡易水道水から国の基準を超える放射性ヨウ素検出 　３０日　国際原子力機関（ＩＡＥＡ）が「村の土壌から検出された放射性物質の数値がＩＡＥＡの避難基準を上回った」 ４月２日　ＩＡＥＡが複数の測定値を分析し「平均値は避難基準を下回った」と訂正 　５日　村が妊婦や３歳以下の子どもらの一時村外避難表明 文部科学省の調査で、土壌１キログラム当たり最大１５万８０００ベクレルのヨウ素１３１検出 　１１日　政府が「計画的避難区域」に指定する方針を発表 　１２日　全農作物の作付け見合わせ決定 　１６日　枝野幸男官房長官が避難説明会に出席、東電の賠償金仮払い対象となると明言 　２２日　計画的避難区域に指定 　３０日　東電副社長が村を訪問、住民１０００人以上に謝罪 ５月４日　村振興公社がブランド牛「飯舘牛」の全頭出荷を表明 　１０日　村が県に避難計画書提出 　東電社長が村を訪問、賠償金仮払いは「今月中をめどに」 　１５日　計画的避難開始