2011年4月5日 12時24分 更新:4月5日 12時39分
東日本大震災の大津波により壊滅的な被害を受けた岩手県沿岸部で、過去の津波被害の教訓から高地に移転し、今回は難を逃れた集落がある。釜石市唐丹(とうに)町本郷と、大船渡市三陸町吉浜の2集落。本郷地区は道路を挟んだ上下で「明暗」がはっきり分かれた。防災の専門家は「被災地の復興策として高地移転を進めるべきだ」と指摘する。
本郷地区は明治三陸地震津波(1896年)と昭和三陸地震津波(1933年)で海岸部の家屋がほぼ全滅した。住民たちは裏山を切り崩して海抜約25メートル以上の高台に団地を造成、約100戸を移転させた。今回の津波は唐丹湾の防潮堤(高さ約10メートル)を乗り越え、高さ20メートル以上に達したとみられるが、移転した家屋はほぼ無傷だった。一方、転入者らが近ごろ建てた低地の約50戸はのみ込まれた。
住民らによると、住民たちは高台に避難し、犠牲者は漁船を沖に出そうとして津波に襲われた1人だけだった。漁業の千葉賢治さん(79)は「堤防を越える津波が来るなんて思わなかったが、親たちの知恵が生きた」と話す。
吉浜地区も明治三陸地震津波の後に約50戸が海抜20メートル以上の場所に移転。今回、元々集落があった水田地帯は水没したが、家屋は全壊が1戸だけで、死者も1人だった。
牛山素行・静岡大防災総合センター准教授は「今回の大津波で明らかに有効だった対策は高地移転だけ。再建する集落に加え、近い将来大地震による津波被害が想定されている東海地方などでも高地移転を検討した方がいい」と話している。【福永方人】