もはや剣を振るう事は出来ず、処刑を待つ罪人の如く、膝を突き頭を垂れるしか俺にはできなかった。
肌の様に馴染んだ鎧も、全身を覆う重石となり、立つ事も叶わず、荒く重い息を、吐き出した。
高い湿度を誇る侵食森が、私の墓標となるのだろうかと、今さらに思う。
鷹の爪が獲物を捕らえ逃がさぬ様に、私の右手は剣を握り絞め続けた。手を放したら二度と掴む事はないだろうと確信した。
刃傷の開きかけた脇腹が酷く痛み、そこから命の流水がひたひたと滴り落ちていく。
紅き血潮は、緩やかな小川となり、戦士の背後に向かい流れゆく。大きく口を開けた縦穴へと向かって。
崖に生えたか細い小枝を伝い、溜り溜まった血液を支えきれずに、水滴は墜ちていく。
真円を描き、艶やかな岩肌を覗かせた。膨大な時間と水という名の名工が彫り上げた虚ろい穴へ向かって。
地下深くを流れる本流と混ざり合い溶けていった。
後ずされば死。時が経てば何れ、死ぬ。
多くの仲間が死んだ。傭兵に殺された。化物の如く、強く荒々しい。人ならざる、人。
あいつは本当に人間なのか………。
圧倒的に、強い。他に思いつく表現が見つからない。
何故、俺たちを襲う。
俺達が囮にならなければ。もっと死んでいたことだろう。さらに多くの犠牲が出ただろう。
生き残れただろうか、彼等は。
生きてくれ。
血が足らない、視界がぼやけ、考える事すら億劫になってきた。
影が陰る。
俺の首を狙う、傭兵。黒の脚甲が視界に映り込み、彼か彼女か、判別はできないが。この状態でも解る事がある。
一つは、剣の間合いに俺がいるという事。
一つは、俺が死ぬという事。
敗者を見下ろす、黒の剣士。何もせず、何も語らず、唯々黙す。表を上げられず顔の判別はつかない。
だが視る事はできない。剣士の剣技は、普通じゃない。
俺は、生きなければならない。
友の為に.。
誇りの為に。
俺は。
選ばなければならない。
生きる。生きて闘う。立てなくとも、起つ。
剣を杖代わりに、死にかけの躰を動かす。脇腹が痛む。命が溢れる。生に、歩みを進める。
鼻を突く、鉄の匂い。迫る死の匂い。
顔前に剣が突き出された。赤々とした、仲間の躰を巡っていたであろう血を、存分に浴びた鋼鉄の剣。
槍の穂先を思わせる刀身は分厚く、宙舞う風さえ切る、鋭利な刃。
二メルテルに達する冗談じみた、巨大な剣だ。
「答えよ」
「探索隊の合流地は何処だ? 護衛ならば知っておるのだろう」
返答したならば、安らかな死。断れば、待ち受けるものは、やはり死だ。
「…………それに、馬鹿正直に答えると思うのかい………傭兵さんよ」
混濁する意識のなかで、声を吐く。少しでも注意を向けさせねば、
時間を稼ぐ、一刻でも多く、僅かでも。一人でも多く生かす為に。この傭兵は剣では勝てない。
「そう、願いたいものだ」
傭兵は淡々と言葉を綴る。怒りも苛立ちも感じられない、この男を殺したとて情報を得る手段は残されている。唯、手間と時間を節約する為の、単なる酔狂だ。
居場所を言えば、良し。言わずとも、生き残りを探し、聞き出す。
「お前が殺した仲間は、良い奴等だった」
「…………」
脚を引き摺りつつ、一歩前へ。男が歩みを進める。
「ノート・ラングス。元教会守護一等騎士。大酒のみで良く俺にからんで、早く嫁を見つけろだの余計な世話を焼いてくれたもんだ。親父に少しだけ似ていたな」
さらに前へ。血が溢れ、草地を赤く、赤く染め上げる。
なにを、話しているんだ俺は。
「エミラ・カーラント。一流冒険者。斧を使わせれば王仕えの近衛兵だろうが勝てる奴はいなかった。喧嘩っ早くて気が強い、これと決めたものは意地でも突き通す、いい女だ……あんな女は滅多にいるもんじゃない」
躰が軋む、折れた肋骨が肺へと刺さり。それは唇を濡らす吐血となった。
死ぬ前ってのはこんなに静かなのか、自分の心臓の音だけがやけに大きく響く。
「ホーク・エミリアン。探検家。小さい躰の割にとんでもない馬鹿力で良く剣を圧し折ってたな……試しに武器を変えてみろと言って、俺が冗談ででかい戦鎚を選んでやったら、予想外に上手く扱ってたな」
痛てぇな、畜生。
「シン・ローハン。凄腕の猟師で無口な奴だった………何を考えてるのか解らない」
俺だけ、生き残って。あいつらに顔向けができるのか、俺は。
「仲間を殺されて、俺は逃げる訳にはいかないんだよ糞野郎」
傭兵を見上げる。覚悟を決めた。男の顔。
「だから―――言えん」
瞬間。
無造作に突き出された剣先は、鎖帷子とを組み合した鎧を容易く突き通した。
元々、鞘に収まる様に定められていたかのように入り込み。右肩から食い込み心の臓を断ち切った剣の感触は酷く冷たいものであり。もはや痛みを感じることはなく、傷口から溢れ出る血はが鎧を伝い、草地を赤に染め上げる。命の色は、唯々紅く熱い。
息が詰まる。肉体を縦断した刀身は、高い強度と靱性を誇る青鋼鎧を難なく両断し、致命傷を与えもはや、生きることはできない。心は死んではいないが。躰が朽ちれば、魂もまた消失する。
後に残るは、魂の器であった肉体だけだが。それもまた土に還るのだ。
まるで、何もなかったかのように消え去る。真理。
「それが、答えか」
傭兵の声は剣士の耳へと確かに聞こえてはいる。耳を傾ける余裕がないだけで。
剣自体の重みが加わり、さらに邁進すべく鋼剣は戦士の躰を横断しつつあった。いまだ意識があるようで、剣を引き抜こうと手を刀身でを掴み、さらに血を剣に捧げた。
己の血で滑る。滑る。滑る。剣は進む。躰の奥へ。奥へ。奥へと、突き進む。
もう生きられはしないのに。死を受け入れぬ往生際の悪さは、若さゆえか。未来を断ち斬られても、現実にしがみ付く。
無駄な、努力。
「逃げろ………エ…リザ…」
黒衣が翻り頑強な脚甲に包まれた足で死に体となった若者を蹴り降す。青鋼製の鎧は大抵の剣や、弩の矢じりすら通しはしないが。狂暴な力の前では主を守るに役不足であった。
剣に沿って致命的な量の血液を流しつつ、血飛沫舞う。緩やかな時間の中で死の感触を確かめ、血に濡れた剣は滑りが良いのか。それとも剣士の脚力が尋常ではないのか、それほど抵抗も無く。宙へと身を躍らせた。
戦士は闇を湛える縦穴へと、音もなく呑まれて消えた。
剣士は佇み、右手に握られた鋼鉄の巨剣を見入っていた。
図太く、重く頑強な肉厚の両刃。人の背丈程も長く、常人には持ち上げることすらできないであろう、剣。
その剣は大量の血脂で塗れ、数多の人間を屠ったであろうそれを振るうとは。剣士の膂力は並の者ではないと、容易に想像が付いた。
不意に。
剣を振るい、易々と肩へと担ぐ、片手で。肩当と剣の刃が、がちんと歪な音を立てる。
その剣士は黒く、そして緋くもあった。
黒い一本角の飾りの付いた面兜で覆われた顔は、男か女か判別が付かず、どちらともにも見える。
長身の体躯に纏われた波状に凹凸の付いた胸部鎧は実用性に満ち、飾りの類は一切ない。腰に取り付けられ、黒い飾り布は下半身を蔽い。容易に足捌きを気取られぬ様に工夫がされていた。膝下に付けられた脚甲もこれまた黒く。光を弾かぬそれは、影というよりも闇を連想させ,まさに黒い剣士と呼ばざるを得ないのだが、黒に覆われぬ部位が存在した。
左腕だ。
右腕に比べてみても、長く、太く、歪で。隆起した筋肉は光沢を帯び。薄明りを受けて鈍く輝く、緋色の腕。躰からはみ出た異物。それは本当に腕なのだろうか。硝子とも、金属ともとれる質感と光沢を持ち。実に不気味だ。
大きな掌に備えられた五本指もまた紅く、極太の爪が砥がれ。それが唯の飾りではないことが窺い知れる。
異形の剣士は、溜息混じりの呼気を吐き出した。殺戮の余韻に浸る気分ではないのだから。
契約は続行しなければならん。
生き残りがいる。
探し。始末する。
今しがたに戦士が消えた穴を見下ろす。
水の爆音と霧状になった滴の所為で、水面は顔を表さずその素顔は全く見えない。
白み始めた緑平線から太陽が顔を覗かせ、薄闇に隠された大地は生命に満ちた躰を温めつつあった。
巨大で偉大な森だ。ここを開拓しようとする人間の熱意と強欲には舌を巻く。魔物も蟲にすらものともせず、命を懸けて成し遂げようとする人の心。先の時代から変わらぬ「人」の本質は今も生き続けている。
人が死するとも、日は上り。日は沈む。幾年変わらぬ光景が眼前に映る。その光景を見ることができるのは生ある者のみ。死者がそれを見ることはない。
左腕を顔へ、面兜をなぞるように、撫でる。一筋の傷がついていた。真新しい傷だ。鎧の各所にも細かな太刀傷が目立つが。 その傷だけは、どの傷よりも深く、鋭い。面兜が防がなければ致命傷になりうるであろう、傷。
惜しい腕だ。竜騎兵にも匹敵するであろう渾身の一撃は、だが。我に届くことはなかった。
後数年すれば中々の手練れに成長していたであろう。
もはや彼と戦うことはない。
二度と。
ゆるりと振り返り。穴から背を向け。木々の合間の草地へと目を向ける。
死体があった。
重厚な鎧に身を包んでいたであろう中年男は、ちょうど胴体を二つに両断され息絶えていた。傍らには長年愛用した長剣が彼と同じ、二つに折られ身を沈めていた。
十代半ばの女戦士は、片手斧を握り絞め、最期の時まで抗った形跡が見てとれた。それでも、肩口から腹にかけての裂傷はあまりにも深い。
生前は快活な少女であったのであろう少女は、巨大な戦鎚を盾にしたのだろう幾つもの傷が鉄の塊に刻まれていた。
それも、武器が耐えられるまでの話。限界を超えれば何ものでも壊れるように。硬鋼製の武器は主と共に眠りについた。
天を仰ぎ見る金の髪の青年は、まるで化物でも見たかのか。驚愕の表情を張り付かせたまま、腹に風通りに良い大穴を開けて弓手は空を見ていた。青く広い、空を。
草地に倒れる死者はそれだけではなく、累々と横たわる。肉と、血と、鉄。
倒れる誰もが死者。誰もかれもが死人、彼等に共通することは、大陸でも名の知れた探索士や冒険者であることだろう。
幾つもの遺跡を発見し、調査開拓。そして発掘された技術を用いて、新しい武器や、知識を売る。
国家や商会の後押しを受け、高額な給金で雇われる者から、高名な戦士と師弟の間柄を経て、剣術を学ぶ者。食い詰めた盗賊がその日の飯にありつく為に、仕方なく。等々理由は多々ある。
無論、危険も多い。
生半可な覚悟と技量では半年と言わず三日で死に至ると言われ、武勇に優れ、鋭敏な感覚をそなえた優れたな人間だけが本物の冒険者となる。その過程で、選り分けられる冒険者が魔物の餌食となり、人の味を覚えた魔物は冒険者を好んで喰らうのだと。そして森には彼等の骨が眠る。
森は寛大だ。全てを受け入れ、飲み込む。
「次なる相手は――――何処だ」
呟き。
辺りに散らばるのは千切れた肉片だけだというのに。
辺りには緑が生い茂るばかりで、だれもいない。だれもいないが、だれかがいる。
何処かに。微かだが、完全に殺し切れない殺意が漂う。
獣ならば、殺意を抱くはずもなく人影に臆し逃げ出すはずだ。素人ならば、はっきりとその出所が解る。では、この気配の持ち主とはいかなる人物なのだろう。
傭兵の頭上から、一人の剣士が見下ろしていた。
人は真上への意識が薄い。意識して見なければ、見ることは叶わない。奇襲に最適の位置取りである。
太い枝を掴み躰を支え、年の頃は十七、八か。短めの赤髪を一纏めに銀の髪留めがその中で鈍く光る。樹木に溶け込む緑の外套を羽織り、軽量さと頑強さを両立させた竜鱗鎧を華奢な躰に纏わせ、猛る怒りを心の底へと閉じ込めて。
確かな意思を宿らした精悍な顔つきと、鷹を思わせる眼差しが熱き決意を宿し。彼女は見ていた。両眼に備えられた金の眼で、全ての仲間が斬り倒されるその瞬間まで。
鉄篭手を握り絞める手の平から滲む紅い滴が、一滴、二敵。 それがどれ程の力なのかは知らないが、自分が斬り倒された方が良い―――そう考えているだろう。
一人の傭兵からの奇襲を受け数瞬で判断できた。幾つもの危険を乗り越え手に入れた経験と、強大な魔物と闘い磨かれた判断力が答えを弾きだす。勝てない、と。
誰もが、解っていた。
探索隊警護班四十七名の猛者の力を合わせたとて、全く以て足りない。
逃げろと、生きて本隊へと伝えろと。兄に諭され。唯一人生きている私。
どう足掻いたとしても無理だと。
力が。速さが。その次元が、違う。
「あれ」はそういうもの何だと。直感した。
それでも、私は決めたんだ。
闘うと。逃げない、と。
あの傭兵が。全ての仲間を切り伏せ勝利の余韻に浸る―――その瞬間。
最初で最後の、隙。それをものにする為に。
そのために仲間を――――兄を――――見殺しにしたのだ。卑怯者の私は。
だから。必ず倒すと、心に決めた。
軋む枝を、突き放す。墜ちて行く躰。
枝葉に当たるなど以ての外だ。そんなことすれば容易く気づかれてしまう。
樹上に身を隠し、隙を見て私が止めを刺す。単純ではあるが、そんな小細工ではこの傭兵は倒せない。そう感じた。
止める理由にはならない。
やらねばならない。死が待つとも。
この化け物を、止めねば成らない。誰かが、倒さねば成らない。
抜き身の片手剣を右腕に握り込む。竜爪を削り出し作られ鋼鉄を遥かに超える硬度と羽の軽さを併せ持つ名剣を。指先から滲む油脂が柄に浸み込み、
刃先を垂直に、柄を握り。柄頭を手の平で覆い固定する。刺突に特化した、剣の型。
狙うは甲冑の隙間。頸と肩との間から刺し込む。上手くいけば致命傷となりえる。
人は真上への警戒が薄い。意識して見なければ、見る必要がないからだ。
エルナを代償にしたこの好機は無駄にはしない。
渾身の一撃。喰らえ。人間一人分の体重と、樹上から飛び降りることによる重力の恩恵を受けた、一撃。鎧越しでも通用する、牙だ。ここで死んでゆけ。
仲間と共に。
切っ先が突き立ったのは鎧でも、兜でも、ましてや人肌ですらない硬音が鳴り響く。
勝利を確信した表情が崩れる。
目測を誤ったのか。いや外れてはいない、ではどうなったのか。
大剣で頭上を遮り、側面を向け剣自体を盾とした。まさしく鉄壁。大振りの得物をこの傭兵は、自分の手足の如く使いこなしている。
奇襲は失敗に終わり、されどこのままでは命が危うい。
中空にできた数瞬だけ存在する足場、剣の横腹に降り立つ。抜群の身体能力が成せる技。
縦穴に飛び込むのはもちろん論外、傭兵が一たび剣を振るったならば易々と墜ちる。
故に判断は一瞬で事足りた。鉄の橋を渡るきる、たったの二歩。剣先から―――跳ぶ。
地面へと到達するまでの僅かな隙が、歴戦の強者――――緋腕の傭兵にとってそれは十分な時であった。
剣士が宙を舞う傍らに傭兵は剣を構え、黒剣を翻す。防御から攻勢に移行する刹那はあまりにも短く。巨刃が、剣士を襲う。
天地が逆さまとなった体勢は、方向を変えるには一旦地面に降りなければいけない。だけども地面に降りるころには、胴体は両断され屍を晒すことは請け合いだ。
避けられぬならば、受ける。単純な判断だ。まともな人間ならば死を覚悟する所だが。剣士は死を受容しない。
剣を眼前に、正中線を貫く構え。峰を二の腕で押さえ暴虐を具現化した剣刃を、迎え撃つ。
傭兵が完全に剣を振り斬る寸前。金と闇の視線が交わる一刹那。剣士と傭兵は相対す。
打ち倒し、生き残る為に。己の剣を信ずるのみだ。
鋭剣と重剣は交じり合い火花散り、宙で弾かれるは剣士の小柄な躰。
強靭な竜爪剣は軋みをあげるも主の命を守りきったのだ。吸収しきれぬ衝撃が細腕を通し背の向こう側まで突き抜け、肺腑に重く圧し掛かる。息を整える間もなく、崩れた体勢で地面へと叩き付けられ無様に草地に転がり、二転、三転と最後の回転は自分の力を乗せて。押し留まり片膝を突き、止まる。
生きている。
息を吐く、息を吸う。肺へと酸素を送り込む。鮮明となった意識に映るのは緋腕の傭兵。何もせず佇む、出方を伺うかの様に。
私をのっぺらな仮面が見つめている。表情を読み取らせない為の工夫か。用心深い事だ。
痺れの残る腕は動く、骨も折れてはいない。つまりは戦える。
辺りには死力を尽くし戦いに倒れた、物言わぬ戦友達が、視界にはいるだけでも七人あまり転がっている。無念だっただろう。この程度の極地で死ぬ様な、生半な彼等ではなかった。
その彼等を容易く肉片へと変えた大剣を、片腕で軽々と扱う膂力、奇襲を受けてなお反応しあまつさえ反撃に討ってでる闘争心の高さ。並みの腕ではない。
だが、もっと奇妙なのは歪な左腕だ。大柄な体躯と比較してもあまりにも大きく凶悪だ。
気を付けなければ。
剣の間合い、体格、重量、装備。どれをとってみても私に不利だ。あの大剣を掻い潜り剣を突き立てねばならない。
腰の重心を僅かに落とし、いつでも駆けるれる様に。きしり……篭手に握り込まれた柄が鳴いた。
軽業師か。いや、違う。
人の子とは思えぬ身の軽さと、類稀な剣術。そして戦いに身を置く者の眼が。戦士だと雄弁に語っている。
気配が、佇まいが、違う。本物の強者だ。
息を殺し、気配を殺し、輩を見捨て。感情を殺し切った冷徹な判断力がそれを物語る。
久しく見ない手練れだな。
仮面の内側で、弧を描く口元。それは歓喜だろうか、それとも………。