灼夜さんの異能
衝撃的な出会いとはまさにこの事だった。
まぁ、殴られた後なので文字通り頬も痛いわけなのだが・・・って、そんなことを言っている場合ではないな。
とりあえず俺はこの時、置かれた状況を理解しようと必死に頭を回転させていたのだが、このわけのわからない女の不思議な宣言の意味などまったく理解できずにいた。
だが、俺に指を指して満面の笑みを浮かべているこの女(決まった・・・とでも思っているのだろうか?)は、俺の顔を見てその笑みを大きくした後、更に色々と喋り始めた。
「よくわからないという顔をしているな。なら、説明をしてやろう!貴様は昨日、雷に打たれただろう?あれは雷ではなく「魂の開放」というものをを行うための光で、それの直撃を受けた貴様は魂の開放・・・つまり貴様の場合だと「異能」を使える様になったのだ!」
「・・・ハァ?」
俺が昨日雷に打たれていた?
確かに雷の音は近かったし、意識が飛びそうになったのもそれなら説明がつきそうだ。
だが、それを信じる根拠がどこにもないぞ?
俺は先ほどとまったく同じリアクションしかできなかった自分のボキャブラリの少なさを少し寂しくも感じながらも、俺の脳がこの場で発すべきまともな言葉をひとつもはじき出さないのでひたすら固まってしまっていた。
だが、こうして俺が固まっている間にも満面の笑みを浮べるその女は、1人喋り続けていた。
「私は貴様の様に光を浴びた人間のサポートをするように指示されていてな。今回も貴様が浴びたという連絡を受けてここにとばされて来たのだが、貴様は寝ているだろう?普通の人間だったら魂の開放を行った瞬間にその衝撃に耐え切れず意識を失うのが普通で、衝撃に倒れた人間なら『魂の開放用気付薬』を飲ませて起こせばいいのだがだが、貴様は寝ているし。しょうがなく私は・・・(ぶつぶつ)」
彼女は、俺のいるベットの横を行ったり来たりしながら、一人でぶつくさ言っていた。
とりあえず俺は、まず何を言わなければいけないのかをやっと脳が導き出したので、彼女の独り言を断ち切るように大きな声で喋った。
「あのぉ!あなたはどちらさんですか?」
とりあえず年上っぽかったので敬語で質問をした。すると、彼女は独り言をやめ、ハッという顔をした。
「あぁ、そうか。まだ、自己紹介をしていなかったな。」
そう言うと彼女はベットの上に飛び乗り、ちょこんっと座った。
いきなりベットに飛び乗ってきたので俺はたじろぎながら、ベットのもう半分側に身を引く事になったのだが、彼女はそんな事を気にもしない様子で、自己紹介を始めた。
「私は灼夜《シャクヤ》。この世界とは違う世界からやってきた。年は23だから・・・貴様より年上だな。」
「確かに俺が21だから年上になりますねー・・・って何でそんな事知ってるんですか?ってか、ええ!!違う世界!?」
情報を取り入れて現状を把握しようと思ったのに、更にわけがわからなくなった。
つっこむ事が多すぎる。
「・・・貴様、なかなか良いリアクションするな。」
そんな事を褒めないでいただきたい。こっちは現状を知るために必死なんだ。
「とりあえず、全然理解できないんで1から説明をお願いできます?あと、灼夜・・・さん?がなぜ此処にいるのかも」
「なんだ?さっきの話を聞いてなかったのか?・・・しょうがない、もう一度説明してやろう。」
俺は先ほどの話をまったく聞いてないわけではなかったが、あのような独り言的説明で俺が理解できるわけがなかった。彼女は面倒そうな顔をして頭を少し掻いた後、説明を始めた。
「私は此処とは違う世界・・・『イマード』と呼ばれる世界から貴様をサポートするためにやってきた。」
「異世界・・・イマード・・・ん?サポート?」
「そうサポートだ。貴様が昨日受けた雷のようなものは「魂の開放」を行う為の光で・・・わかりやすく言うと、それの直撃を受けると潜在能力の開放ができる的な事になる。つまり貴様の場合だと「異能」を使える様になったのだが、その様に魂の開放を行われた人物にはランダムで、私のようなサポート人員が送られるのだ。」
・・・ふむ。わかるようでわからないな。っていうか、この人説明が雑だなー。
俺はそんな事を思いながら、更に質問をしようとした。が、
何処からか不思議な音が聞こえてきたため、質問はできなかった。
―――グゥゥゥウ。
まるで、とても大きな動物が唸っている様な大きな音。
俺はどこからこの音が出たのか探そうとしたが、探すまでもない事がすぐにわかった。
灼夜さんの顔が完熟トマトよりも真っ赤になったと思ったら、お腹を抱えてしゃがみこんだからからである。
「―――っ!!」
悶絶とはまさにこういう事を言うのだろうな。
俺は、今さっきまで強気だった女の子が急にお腹を抱えて顔を真っ赤にしていると思うと、笑えてきそうになった。
「・・・まのせいだ」
―――ん?
「貴様のせいだ!貴様が悪いんだぞ!貴様が昨日無意味に踏ん張ったりするから!そのせいで、貴様が意識を失った後に送られるようにセットされていた私の転送時間が大幅にずれてしまったし!で、送られたはいいが、貴様はぐっすり眠っているから私はやる事もなく適当にこの部屋を漁り、見つけた漫画を読んでいたものの結局暇だったから、しょうがないので寝ることにして・・・。で、今度は起きたはいいが貴様はなかなか起きないし!まったく!マニュアルにない行動を取られたので非常に迷惑したぞ!」
顔を真っ赤にさせながら暴走した様に怒り狂っている灼夜さん。
しかし俺は冷静だった。そしてやっとわかった事がある。
俺の部屋が覚えている以上に散らかっている理由と、朝一に俺の顔に怒り鉄拳を繰出すに至った理由。
俺が寝ている間とか知らない間に色々あったんだな。
(よく考えると両方とも八つ当たりじゃないのか?とも思えるが・・・まぁ、いいか。)
っていうか、なんだかこの部屋暑くなってないか?
「・・・歯ぁ食いしばりな。私に無駄に気を使わせて余分なカロリーを消費させた事を償わせてやる。そうだな、どこか体の一部をを消し炭にしてやろう。何処がいい?足か?手か?それともそのムカつく顔か?」
いやいや。意味がわかりませんよ――って、
次の瞬間俺は目を疑った。
―――灼夜さんの手が燃えている。
「どうだ?これが私の異能だ、体から炎を出すことができる。で、どこを消し炭にされたい?」
と、灼夜さんは笑顔でじりじりと近づいてくる。じりじりと俺も下がろうとしたが、すぐ後ろはベットの隅だった。追い詰められた俺、ピンチだ。
灼夜さん・・・そんな笑顔で近寄られても、俺は四肢や顔を燃やされる決心はつきませんよ?
「ちょっ、ちょっ・・・と待ってください!わかりました!灼夜さんに迷惑掛けた事誤りますからっ!あ、後、そのお詫びとしてご飯作りますからっ!!ごめんなさいっ!」
ピタッと灼夜さんが止まる。
と、それに合わせて手に灯っていた炎も消えた。・・・助かったのか?
「ま、まぁそこまで言うならしょうがない。貴様の作った飯を食べてやろうではないか。」
一瞬灼夜さんの顔が少しにやけていた気もしたが、俺はそんな事を気にする事なく俺の部屋にあるキッチンめがけて一目散に走った。そして料理を作った。都合の良い事に冷蔵庫には色々入っていたし、お昼が近かった事も踏まえてオムライスを作ることにした。
俺は一心不乱にオムライスを作り上げた。
あとは・・・これを灼夜さんが気に入るかどうかだ。
「どうぞ・・・オムライスです。」
「うむ。」
オムライスを乗せた皿を机の上に置いてじっと灼夜さんを見る。
大丈夫だ、問題ない、俺は料理には自信があるじゃないか。そう自分に言い聞かせた。
・・・が灼夜さんは中々スプーンを持とうとしなかった。
そして、顔を少し赤めながらこう言った。
「貴様は今のうちにシャワーを浴びてこい。昨日入っていなかっただろう?あと・・・そんな格好で居続けるのも・・・どうかと思うぞ?私も一応・・・女だし・・・女の飯の最中にその姿は・・・な。」
「・・・え?」
俺は自分の下半分を見た。
――――パンツ一丁だった。
「!? しまった、忘れてた!」
昨日スーツだけを脱いで、そのまま寝てしまったいたのを完璧に忘れていた。
今の服装は上がカッターシャツ、下がパンツというなんとも情けない格好だった。
俺は風呂場にダッシュしながら叫んだ。
「すみません!すぐっシャワー浴びてきます!」
即決だった。
こんな姿で女の子の食事に立ち会うわけにも行かず、また昨日は雨で濡れていたし、疲れて汗を掻いていた俺が臭くないと言う保証もなかったからである。
ここは、彼女に言われた通りにするのがベストだと直感したのだ。
そして、俺は脱衣所で服を脱いでいる最中、ふとある事に気がついた。
・・・これは、頭を冷やすちょうど良いチャンスじゃないか?
俺は、シャワーを浴びながらこれまで得た情報を整理することにした。
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