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原発不安、口重く 現場から−下北半島2011年06月01日
「安全だって言うから信じていたんだけど」 「でも、私ら仕事もらえたの、原発のおかげでないの?」 5月下旬の東通村。公共施設で草刈り中の日雇いの女性5人が談笑を始めた。だが、記者が名前や年齢を聞こうとすると、5人の顔がこわばった。「原発のこと話したと知れたら、会社に迷惑をかけてしまう」 原発や関連施設が集積する下北半島。福島第一原発の事故で住民の不安は高まる。だが、多くは口をつぐんだままだ。 むつ市の電気工事会社の社長(61)は、仕事の9割を原発関連など村で受注してきたという。「仕事が減ってもいい。安全が確認できるまで原発建設は中断した方がいい」と社内では語っている。ただ、外部には言わない。「村ではなかなか理解されない」 ■ ■ 原発を1基誘致すれば、県や周辺市町村に入る電源三法交付金は50年で1384億円。立地市町村への固定資産税は20年で244億円。国などが示すモデルケースだ。漁業補償金や関連工事の地元発注もある。 「原発の恩恵は計り知れない。めざせ東海原発、めざせ福島第一だった」。東通村で原発誘致にかかわった元村総務課長(66)は振り返る。 退職後の1999年、原発建設の作業員を当て込んで予定地近くでコンビニ経営を始めた。今年1月に東京電力1号機の建設が始まると、客足は1日100人から500人に伸びた。だが、工事中断で元に戻った。 知事選では、東通の原発4基計画を見直すと訴える候補もいる。元課長は「4基ならメンテナンス業者が常駐してくれる。1基や2基ではたまに業者が来るだけ」。昔の寒村に戻ってしまうことを心配する。 「村では、いま反対も賛成も言うことはタブー」。このコンビニの女性店長(62)の口は重い。自宅で東通原発と大間原発から半径20キロの円を下北半島の地図に描いてみた。「逃げ場がない。海に逃げるしかない」。新しい知事には、身近に原発を抱える恐怖をわかってほしいと思う。 ■ ■ 5月下旬、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場がある六ケ所村の役場前で、候補の一人がマイクをにぎった。「核燃依存から抜け出します」。聴衆はいなかった。 村に入った電源三法交付金は81〜2010年度で388億円、県内40市町村で最高額だ。近くで居酒屋を経営する女性(44)は「原燃さんがいて村が成り立っている。今さら脱核燃なんて無理」と話した。 使用済み核燃料のリスクは、福島の事故で初めて知った。実際に放射性物質が漏れたらどうなるのか。店で話題になった時、常連客に「野菜は洗えば大丈夫」と言われ、「今さらあたふたしてもしかたがない」と考えないようにした。 2日後、村役場前で別の候補が演説に立ち、原燃の社長や幹部、建設会社の作業員ら約400人が集まった。候補は原子力政策の推進を明言しなかった。しかし、応援演説した村長らは「核燃サイクル事業を着実に推進する」と相次ぎ訴え、さながら推進派の集会のようだった。(別宮潤一)
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