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内閣不信任案:退陣時期 早くも対立、2次補正の扱い焦点

内閣不信任決議案の投票を終え、民主党の安住淳国対委員長(手前)に声をかける菅直人首相。左奥は岡田克也幹事長=国会内で2011年6月2日午後3時15分、藤井太郎撮影
内閣不信任決議案の投票を終え、民主党の安住淳国対委員長(手前)に声をかける菅直人首相。左奥は岡田克也幹事長=国会内で2011年6月2日午後3時15分、藤井太郎撮影

 菅直人首相は2日、内閣不信任決議案の採決で民主党内の造反を抑える代償として、東日本大震災と原発事故の対応に一定のめどがついたら退陣する「期間限定政権」の状態に追い込まれた。退陣時期と民主党の小沢一郎元代表の処分問題では引き続き「反菅」勢力との対立を抱え、即時退陣を求める自民党など野党側の協力を得られる見通しが立たない状況も変わっていない。震災対応を材料に繰り広げられた「菅降ろし」の政争は、政治の閉塞(へいそく)状況だけを際立たせた。

 ◇長くて数カ月 

 「鳩山由紀夫前首相とは文章に書かれた以外のやり取りは一切ない」。菅首相は2日夜の記者会見でこう言い切った。鳩山氏は首相との確認文書に明記した「復興基本法案の成立」や「第2次補正予算案の早期編成にめどをつけること」が首相退陣の条件だと主張しているが、首相はこれを事実上、否定した。

 首相が退陣の意向を表明した2日の民主党代議士会後、岡田克也幹事長も「条件になっているわけではない」と明言。鳩山氏は記者団に「2次補正は6月いっぱいくらいに中身が決まる、すなわち、めどが立つ状況が出てくるのではないか」と1カ月後の早期退陣を求める考えも示した。

 首相は政権延命に執念をみせるが、今後、2次補正や特例公債法案を成立させようとすれば、引き換えに野党側が退陣を求めてくるのは確実。期限付きで退陣を表明する案はもともと、野党に協力を求める切り札として首相周辺で検討されていたが、ここまで逡巡(しゅんじゅん)した揚げ句、不信任案の可決回避に使わざるを得なくなり、法案成立との引き換えとしては切れなくなった。

 首相も出席した2日夜の党役員会。石井一選対委員長が「菅内閣はレームダック(死に体)に入った。特例公債法も2次補正も基本法も全部通してもらう約束を野党から取り付けて、菅首相は即時に退陣を決意すべきだ」と訴え、輿石東参院議員会長らが賛同したが首相は応じなかった。

 政府は2次補正を復興構想会議が6月末にまとめる復興ビジョンを受けて8月以降に編成する方針なのに対し、野党は早期編成を求めている。このため、本格的な復興対策の前に当面の復旧・復興経費を積み増す「1.5次補正」も検討されているが、これを急げば、鳩山氏や野党から退陣を迫られる時期が早まる。2次補正の規模と時期が首相の退陣時期を左右することになりそうだ。

 ただ、その違いは夏か秋かという程度で、鳩山氏の側近議員は「どうせあと1カ月か2カ月」、菅グループの幹部も「あと数カ月かもしれない」とみる。

 ◇トロイカ道連れ

 自民党は首相の即時退陣を求めているほか、民主党が09年衆院選マニフェストに掲げた4K(子ども手当、高速道路無料化、高校無償化、農家の戸別所得補償)の見直しを協力の条件としている。マニフェストの見直しに反対する小沢グループが民主党内に残ることになり、「自民党との連携か、党内融和か」の二者択一を迫られる状況は今後も続く。

 2次補正の成立にこぎ着けたとしても、その後も3次補正や12年度予算案の編成、消費税引き上げを含む税と社会保障の一体改革など、大連立が必要なほどの重要課題が山積している。前原誠司前外相は記者団に「どうすれば野党にも協力を得られるかを考えないといけない。不信任案が否決されたからと言って問題は何も変わっていない」と危機感を強調した。

 首相は会見で「若い世代に責任を移していきたい」とも繰り返した。今回、小沢元代表も鳩山氏も党内での影響力が低下していることが鮮明になり、菅首相を含む民主党の「トロイカ体制」を支えた3人全員が傷ついた。今後も小沢グループが「ポスト菅」候補にマニフェスト堅持を突きつける展開も予想され、分裂の火種はなおくすぶるが、首相の発言には自分が辞めた後はトロイカの時代に戻さない決意もにじむ。

 「代表選の準備をしなければ」。前原グループの若手は代議士会後、安堵(あんど)の表情を浮かべながら、次の戦いへ気を引き締めた。

 ◇首脳外交に影響

 菅首相は5月26、27日にフランスで開かれたドービル・サミット(主要国首脳会議)の際にオバマ米大統領から9月の訪米を求められたばかり。今年前半の予定が先送りされ、米側が不安定な日本の政治情勢を見極めようとしたとみられている。その訪米もだれが行くか不透明な状況となり、外務省幹部は「首相の訪中、訪露なども見通しがつかなくなった。首相が頻繁に代わり、首脳外交が展開できない」と嘆いた。

 首相も会見で「せめて大統領や知事の任期4年程度は継続する方が国際関係の中でも望ましい」と語ったが、松本剛明外相は「外交は国として取り組んでいるので大きな影響はない」と発言。米国との間では鳩山政権下で傷ついた同盟関係の修復を進めている最中で、影響を懸念する動揺もにじみ、外務省は21日の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)は予定通り行うことを確認した。【平田崇浩、犬飼直幸】

 ◇政策審議の難航必至

 退陣の意向を表明をした菅首相の求心力は低下し、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故の被災者支援などに向けた政策審議は一段と難航しそうだ。

 喫緊の課題は復興対策を盛り込んだ11年度第2次補正予算案の編成。10兆円を超えるとされる財源確保に道筋はついていない。政府は、将来の増税を担保に「復興再生債」の発行を検討しているが、参院で多数を占める野党の合意が不可欠だ。自民党などは「辞める人は責任もって予算を作れない」(石原伸晃幹事長)と即時退陣を求めており、復興論議が進まない可能性がある。

 また、11年度予算の約4割を占める赤字国債を発行するために必要な特例公債法の成立の見通しさえたっていない。11年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算でマイナス3.7%と落ち込み、震災後の復興が急がれる。国の資金繰りに黄信号がともれば、足かせになるのは確実だ。

 福島第1原発事故の損害賠償問題の行方にも影を落とす。交付国債や電力各社の資金拠出を基に原発賠償機構(仮称)を設立する政府案には、与野党から強い反発が上がっているからだ。当面は東電の手元資金でまかなうが、賠償負担は数兆円に上ると見られ、国の支援抜きでの対応は不可能だ。

 5月の主要8カ国首脳会議(サミット)で菅首相が打ち出した「国際公約」の実現も不透明感が増してきた。オバマ大統領との会談では、「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)参加の交渉入りを「できるだけ早期に判断する」と意欲を示した。しかし、農業への打撃を懸念する声は与野党に根強く、首相の指導力低下でTPP推進の機運がしぼみかねない。

 エネルギー政策の見直しでは「太陽光パネルを1000万戸に設置」をサミットでぶち上げたものの、直後に海江田万里経済産業相が「聞いていない」と難色を示すなど、閣内の調整すら経ていない実態が浮き彫りとなった。財務省幹部は「政局の混迷が続き政権がさらに弱体化すれば、増税どころか何も決められない状態が続く」と懸念を示している。【坂井隆之、野原大輔】

毎日新聞 2011年6月3日 0時00分(最終更新 6月3日 1時34分)

 

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