自民、公明など野党から出された内閣不信任決議案は2日、菅直人首相が退陣に言及したことで、反対多数で否決された。東日本大震災からの復興や原発事故対応を後回しにしたような政争劇に、府内で避難生活を送る被災者から憤りの声が聞かれた。【田辺佑介、太田裕之、堀智行、花澤茂人】
福島県からの避難者が生活している京都市伏見区の向島市営団地。同県浪江町から家族3人で避難してきた60代女性の部屋にはテレビがなく、不信任案否決も取材を受けて初めて知った。女性は「菅降ろしなんてやっている場合じゃない。私たちが一番知りたいのはいつ故郷に帰れるかということ」と訴えた。
同町から避難した60代男性は「否決されて良かったが、菅内閣は継続することになった以上しっかりやってもらわないと困る」と注文をつけた。男性は農業を営んでおり、今も農機具やトラクターの月賦の支払いが続いている。男性は「復興への良い案があるなら与野党関係なく、どんどん進めてほしい」とため息をついた。
同団地の自治会長、増田征治さん(67)は、町内会のイベントに誘うなど避難者が孤立しないよう気にかけてきた。「国民が一体となって被災者を支えようとしているのに、その気持ちがないのは国会議員だけ」と憤った。
一方、被災地の支援活動をしている人からもあきれる声が広がった。福島県の物産展を開催しているNPO法人「JIPPO(十方)」(京都市下京区)の中村尚司・専務理事(72)は、震災直後から緊急物資を現地に送る活動を始めた。「震災を政争の具にしてならない。私たちはどんな内閣になろうと必要な活動をしていく」と語った。
中京区の民主党府連では居合わせた党所属の地方議員や職員らが不信任案否決の知らせに安堵(あんど)の表情を見せた。ある市議は「被災者のことを考えたら当然の結果」。幹事長の山本正府議は「政権政党の責任を明確に示し、影響は最小限に抑えられた」と述べつつ、「正すべきは正し、挙党一致して全力で国難に当たらねばならない」と気を引き締めた。
一方、小沢一郎元党代表と鳩山由紀夫前首相の一連の動きについて、今枝徳蔵・京都市議団長は「最初から自分たちの存在感を示すことが狙いで、それを果たしたとも言える。今後も党内でいろいろな仕掛けをされることが予想され、事態が落着したわけではない」との見方を示した。
京都商工会議所の立石義雄会頭は「国政の遅滞が許されない状況において不信任決議案が提出されたこと自体にいら立ちを覚える」との談話を発表した。
談話では「与党内部が政争に拘泥する姿は政治不信を高めるだけでなく、国際的な信用力の低下を招く恥ずべきことだ」と断罪。菅首相が言及した退陣についても「タイミングと新たな政策軸や後継政権のイメージが見えないことが大きなリスクになると危惧している」と懸念を示した。
毎日新聞 2011年6月3日 地方版