内閣不信任決議案の採決を巡る攻防の中で菅直人首相が2日、東日本大震災への対応のめどがつき次第、退陣する意向を表明した。一体、いつ退陣するのかも分からない首相の発言。復旧・復興が一向に進まず混乱が増すばかりの政治状況に、神戸市内に避難している震災被災者らは、「復興は待ったなしなのに」と怒りをあらわにした。【村上正、渡辺暢】
「『一定のめど』とはまた、あいまいで時間稼ぎだ。辞めるつもりなら早く辞めてもらったほうがいい」。宮城県多賀城市から神戸市垂水区に避難してきている佐藤三男さん(78)は、菅首相が退陣の意向を表明する民主党代議士会のテレビ中継を見つめながら、こう切り捨てた。
佐藤さんは大病を患う妻と別々に避難生活を送り、初めての神戸で不安な一人暮らしを強いられている。菅首相の「何としても震災の復旧・復興の道筋をつけていくことに、すべての力を傾注しないといけない」などと強調する発言に対して「国主導ではなく自治体に権限をもっと委譲した方が、スムーズにいくのではないか」と声を上げた。菅首相退陣後についても「リーダーが替われば内閣の顔ぶれも替わりやり方も違う。それで前に進んでいけるのか疑問だ」と話した。
東京電力福島第1原発事故で警戒区域となっている福島県富岡町から、両親と一緒に神戸市中央区に避難する池添麻奈さん(28)は、故郷から引き離されて間もなく3カ月が経過しようとしているが、帰郷のめどすらたっていない。「日に日に福島が恋しくなっている。待ったなしで一歩一歩、復興に向けて進んでいかなければならない時に、政局が混乱するのは足かせにしかならない。菅政権が頼りないなら、野党も批判するだけでなく支えるぐらいの気持ちがほしい」と訴える。
池添さんは今の状況について「政治家は『被災者のために』と声を上げるが、自分たちの権力争いに利用しているようにしか思えない」と首をかしげる。
同じく福島第1原発事故の影響で福島県大熊町から神戸市垂水区に避難を余儀なくされている槻林茂さん(56)も「悪いことをしていないのに家を追われ、神戸に来るまでは1円の支援もなかった。そこに援助の手を差し伸べるのが政府の仕事のはずなのに……」と菅政権の震災対応に疑問を投げかけた。
一方で、政権奪回を狙い内閣不信任案を提出したが、否決された自民党に対しても「自民党が電力業界と一緒になって原発の安全神話を作ってきたのに、内閣の原発対応を批判するなんて、天につばを吐いているようなものだ」と憤る。
そのうえで「民主から自民に政権交代しても、故郷の放射線量が何倍にもなっている状況は変わらない。今は政党を乗り越えて、被災地や原発をどうにかしてほしい」と訴えた。
〔神戸版〕
毎日新聞 2011年6月3日 地方版