菅直人首相の退陣意向で野党による内閣不信任案が否決された2日、県内の有権者らからは「国会内の争い」を嘆き、憤る声が相次いだ。震災復興や原発被害の収束にめどが立たない中での政治混乱に、「与野党で協力を」と注文もあった。
光市浅江のやまて小児科の山手智夫医師(49)は「今は野党も協力すべき時。不信任案に時間や労力をかけることは好ましくなかった」と批判。上関原発予定地から30キロ圏内の柳井市に住む無職、藤坂和子さん(64)も「原発事故収束や震災復興にめどが立たない時に不信任案を提出するとは、被災者の気持ちを考えたことがあるのかと疑う。菅首相の手腕にも疑問はあり、めどをつけ退陣するのは理解できる。今は与野党が一体で国難に対処すべき時だ」と憤る。
下関市で製造業の会社を経営する男性(59)は「自民も公明も、対案がないのに内閣不信任を出すのはおかしい。会社でも、提案もせず『うまくいってないからやめろ』としか言わない人間は重宝されない。こんな非常事態には『敵に塩を送る』ぐらいの気概を見せてほしい」と野党の対応を厳しく批判した。
東日本大震災の被災地にボランティアとして訪れた宇部市の看護師、田村圭子さん(67)は、「こんなことをしている場合ではない。被災者が気の毒だ」と話す。その宇部市に、福島県富岡町から一家6人で避難している主婦(33)は「だれも経験したことがない大規模災害だから菅首相一人が悪いのではない。よくやっていると思う。国会でもめるより与野党仲良くして現地に行き、収束に向けた努力をしてほしい。そして早く生まれ故郷に戻してほしい」と訴えた。
政治にあきれつつ、期待する声も。
JR新山口駅で、国会のテレビ中継を見つめていた山口市小郡下郷、会社役員、伊藤信夫さん(71)は「菅さんはパフォーマンスばかり。百の言葉より一の実行力というが、菅さんにはそれがない」と不信任案の否決を残念がった。国会の状況について「この難局を打開するリーダーが求められるが、国民の我々には見えてこない」と嘆く。
11~17歳の3人の子どもを育てる山口市宮野上の子育て団体代表理事、久保田美代さん(45)も、「自分たちの世界しか見えなくなっているのではないか。子どもたちががっかりするような政治はやめてほしい」と注文をつけた。
一方、岩国市尾津町の農業、藤本弥之助さん(33)は「解散や総辞職で復興が遅れるのでは、と心配していたので正直、ホッとした。これを機会に、政治家も少しずつでも変わってほしい」。また、下関市立大学経済学部国際商学科3年、大西浩平さん(20)も「政権奪取のチャンスなので、不信任案提出は理解できるが、誰が首相であっても震災対応への不手際はあったと思う。現内閣に悪いイメージはない。菅首相が退陣した際には、政治空白を作らないよう、日本経済を立て直せる内閣を早急に組閣してほしい」と期待した。
県内政党関係者の間には「震災復興のため政治空白が避けられた」「すぐ退陣を」と賛否の声が交錯した。
民主党県連の西嶋裕作幹事長は、「政治空白ができなかったことで、災害復興など国民の暮らしに影響が出なかったことに安堵(あんど)している。菅首相は、今は復興に向け、力強い足取りを」と表情を和らげた。退任の意向については「世論も考慮して進退を決断してほしい」とし、政権継続を望む気持ちをにじませた。
一方、自民党県連の松永卓幹事長は、不信任案提出への批判があることについて、「大震災の対応など、菅首相では物事が進まないとして判断したのだろう」と説明。退陣の意向については「いつ辞任するかめどを明示しておらず、延命策としか思えない」と批判した。
また、公明党県本部の小泉利治副代表も「震災復興には安定して政策が実行できる内閣が必要。菅首相には明日にでも辞職してもらいたい」と話した。
共産党県委員会の佐藤文明委員長は「菅政権は、原発を引き続きエネルギー政策の柱とするなど、これ以上の政権継続は問題。すぐに退陣すべきだ」。社民党県連の佐々木明美代表は、決議の否決自体は評価しつつも、「そう遠くない時期に、解散して民主党政権の信を問うべきだ。今の民主党は原発推進をうたうなど、(民主党のマニフェストと異なり)『国民の生活が第一』になっていない」と指摘した。【諌山耕、尾村洋介】
宇部市出身の菅首相の地元後援会「宇部草志会」の原田幸一会長(64)は、否決の模様をテレビで見守り、「(菅首相は)苦虫をかみつぶしたような表情。見たくない」とつぶやいた。マニフェストの扱いを巡り対立する民主党の小沢一郎元代表らについては「もはや菅首相とは水と油の関係。同じ党なのに足を引っ張っている」と指摘。一定期間後に退陣を表明した菅首相については「気を引き締めて、震災復興と原発対応に全力を」とエールを送った。
〔山口版〕
毎日新聞 2011年6月3日 地方版