「オレンジ、権藤と何していたの?」
食べ掛けだった弁当はきれいに片付けられている。
「中身は?」
俺の中、中本は自身を指し示す。
ろくでもない昼休みだ。
「ねぇ、オレンジ君。いいかな?」
僕に呼びかける木下の声によってろくでもない昼休みに一筋の光がさした。
「な…何?」
やっぱりこれが恋だよ、というかのように僕の胸が高鳴る。
「権藤くんがね、オレンジ君のメアドと番号教えてくれっていってるんだけど、教えてもいいかな?」
僕の口はぽかんと情けなく、締りのない感じになってしまった。
たとえば、これを権藤が交渉してきたのならすげなく僕は断っただろう。しかし。
「…いいよ。」
「ありがとう。」
木下の他の見事は極力叶えてやりたい健気な僕がそこにいた。
権藤からのメールがいつ来るかと案じていた僕に反し、それらしいメールは来なかった。
帰ろうと校門をくぐったそこに権藤がいた。
「りんご、一緒に帰ろうか。」
「オレンジって…呼ばねーのかよ。」
僕はたじろぐ。権藤が妙に優しくて、だから警戒してしまう。
「りんごっていつもそんなにかわいいの?」
権藤は笑って僕の手を引いた。
「りんごと俺、家が同じ方向なんだ。」
「そうなの?」
「そう。」
僕と権藤は横に並んで歩いた。権藤の物腰はあまりにも普通で、昼休みの出来事はなかったか、もしくは出来心だったんじゃないかと僕は思った。
駅まで二人で歩き、同じ駅で降りた。権藤は話している限りでは、親しみやすく、社交的で嫌味なところがない。本当に昼休みの出来事は夢だったのではないかとさえ思えル。
僕の家の前まで来たところで、そこまで一緒なのはおかしいんじゃないのか。
もしかして、つい最近気付かないうちに権藤はこの近くに引っ越してきたのだろうか、と僕はぼんやり思った。
「じゃ僕の家ここだから、帰り気をつけて。」
僕は権藤に手を振った。
「いい家じゃん。」
「へ?ああ、ありがとう。」
権藤は帰る様子を見せない。僕はそんな権藤を不思議に思う。
「じゃ、お邪魔します。」
「なっ?何で?」
昼休みの権藤が舞い戻ってきた。さよならまともな権藤。こんにちはぶっ飛んだ権藤。
「俺、言ったよね。遊びに行くって。」
「言ってたけど、何だよ、ヤダよ、帰れよ。」
「りんごって俺には好き勝手言えるけど、木下には弱いよな。」
権藤は僕の頭を抱えるようにして僕の家へ向かう。
「俺って卑怯だから、手段は選ばないよ。たとえば木下を使えばりんごは俺の言うことを聞くんじゃないかな…ねぇ、鍵どこ?」
息がかかるくらいの距離に権藤のきれいな顔がある。
「ポケット…。」
それを聞いた権藤はポケットをまさぐった。僕は別に縛られているわけでもないのに、逃げることも暴れることもできず、権藤にされるがままになっていた。
誰も居ない家は場末のスーパーみたいにがらんとしていた。
「りんごの部屋ってどこ?」
耳元で話しかける権藤に耳まで赤くなってしまう。
「離れろ…どっか行けよ。」
権藤の方を向くと、僕の唇の端に軽く口付けた。
「ご…権藤キス好きなの?」
「まあね。」
僕はしれっとしている権藤が恨めしかった。権藤があんなに普通なんだから、僕は赤くなっていないに決まっている。耳が痛いくらいに熱いなんてきっと気のせいだ。
部屋に入った権藤は我が物顔で、僕のベッドに腰掛けた。
「りんご、ハウス。」
権藤がベッドの上で腕を広げた。
ベッドの端に遠慮がちに座ると権藤が僕を手繰り寄せ、腰に抱きつく。
腰に巻きつく暖かいものを僕は邪険に扱うことができなかった。
このぬくさが気持ちいいかもと思う反面、このままだと権藤の思いのままになってしまう。その事実に面白くない、さらに自身の安全に対して危機感を感じつつあった。
「りんごの母さんいねぇの?」
「パートに行ってて…もうすぐ帰ってくると思うよ。」
「へぇ、りんごに似てる?すぐ帰ってくるのかー俺はりんごと夜までずっと二人っきりってのもよかったけどなー。」
きゅうと、権藤は僕の腰に巻きついた腕の力を強める。
「あのさ。」
「ん?」
「これってさ、本気なの?だって僕のこと…その…知らないでしょ?」
「しってる。それに本気。」
「じゃどこが好きか言ってみろよ。」
「りんごは女の子みたいなことを訊くんだな。」
顔を見なくとも解る、今、権藤は僕のことで笑っている。今の僕を見て笑っている。
「りんごは本当にかわいいよ、自信を持って良い。芸とか仕込みたいくらい、本当にかわいい。」
僕はかわいいと連呼されたことも気に食わなかったが、さらに気になる言葉が耳に引っかかった。
「…芸?芸って何?僕は猿回しのサルみたいなもん?」
「違うよ、どっちかというと犬かな。俺の愛玩犬。」
「はぁ?犬?大体芸って何させる気だよ。」
「お手とか、お座りとか。仕込みたいね。待てもかな。」
腰にまきついた権藤は僕を見上げて嬉しそうに笑う。
「ばぁか、今でもそれ位できるって。」
「ほんとう?」
そういって権藤が目を輝かせるものだから、不本意ながらも僕はそれに応えてやりたくなるじゃないですか。
権藤が僕から離れる。腰が急に寒くなる。ベッドの中央よりも少しずれたところに権藤が座る。
権藤の意図を汲み取って僕はその前に立った。権藤を見下ろす形になる。めったにない形だ。
「りんご、お座り。」
僕は権藤の前に正座する。権藤よりも少し低い目線になる。
「お手。」
僕は権藤の差し出した手のひらの上に手を重ねる。
「どうだ。」
そういった僕に対して僕の飼い主は新たな指示を出した。
「…おかわり。」
片方の手はまだ権藤の手のひらの上にある。残った片方も権藤の手のひらに重ねた。
瞬間、僕の両手は権藤の両手に強く絡めとられた。そこからは早かった。僕の視界は驚くべき角度で動き、後ろには天井、手前には笑った権藤が見えた。僕はそれで権藤に押し倒されたことを知った。
「え?」
「逃げなかったりんごが悪いんだよ。何度も逃げ道を用意したのに。」
「逃げ道?」
「まずは呼び出しにこなかったらよかった。キスされたときに十分警戒して、メールアドレスを教えなかったら良かった。家に入れなきゃ良かった。腰に巻きついた俺をすぐに払いのければよかった。違う?」
違わない。けれども。
「権藤が木下さんを。」
「そんなの関係ない。だっていくら木下のことを好きだからといって、恋人でもなんでもない、ただの憧れていた女だろう。大体、俺と木下が付き合っていると勘違いしていたから、付き合う気もなかった。そんな人物のために自分を犠牲にできるのか?」
できる、と言い切れるほど、僕は傲慢な人間じゃない。
「期待していたんだろう?」
僕は期待していたんだろうか。中庭でされた権藤のキスは気持ちが良かったといわなかったらうそになる。それに味を占めて僕は期待していたんだろうか。いやらしいことをしてもらいたいと思っていなかった?少しも?
「…うん、期待してた。」
権藤の表情の変化で僕の心の声が本物の声になって権藤に届いたことを知る。
「りんごはかわいいのにすごくいやらしい。」
いやらしいといわれたのに、少しもけなされた気がしなかった。
「りんごはオナニーが好きだろ?」
「な?」
権藤が俺に圧し掛かりながらニコニコ笑う。権藤の手が僕のペニスを掠める。どぎまぎする。
「これ、拾っちゃった。無防備だなー。」
権藤が差し出したのは、昨日の僕のおかずだった。友人から借りたエロDVDだ。
僕は青くなる。
「夜のお医者さん〜私たちも診察されたい!汁ダク淫乱ナースに極太お注射〜」
ふぅん、と読み上げる権藤に僕は青くなる。恥ずかしいのと、昨日見たその中身を思いだしたのと両方の要因で僕は見る見る赤くなる。
青くなったり赤くなったり忙しい。
「こういうのしよっか?」
「へ?」
「まずは触診ですね。はい、服を脱いでください。」
脱いでくれといっているくせに権藤が僕の服を脱がせる。
ネクタイを解き、手早く僕の手首を拘束する。
「何で縛るの?」
僕はその行動に僕のこれからに対する不安と、そして恐怖を感じた。
「暴れちゃ、危ないですからね。大丈夫です。痛くありません。」
僕のシャツをはだけさせ、じかに肌を指でなぞる。温かい手のひらなのに僕はぞくぞくする。ぞくぞくするのに触れられた箇所は妙に熱くて不思議な気分だ。
権藤は僕の乳首も捏ねた。女の子じゃあるまいし、感じるわけないと思いつつ、この情況と今まで与えられたことのない箇所への感覚で、僕はだんだんぼんやりする。
「悪いところはここですかね。」
すっかり力が抜け切ったところに、ペニスへの刺激が与えられて僕の体はびくりと跳ね上がった。
「ひゃあ!」
気がついたら下着ごとズボンを下ろされている。こんな大変な事態に気がつかないヤツなんて大変なばかか僕くらいだ。
権藤が僕のペニスを握り、優しくこする。人から与えられる自分が与えるものとは違う感覚に僕は息が荒くなる。僕は興奮している。
「腫れあがっていやらしい汁を出していますね、これはいけません。治療します。」
まるで準備してきたかのような権藤のためらいのない言葉選びに、僕はDVDの中の状況と思わず重ねてしまう。DVDの中では触診といわれ乳房をもみしだかれたナースは皮のいすがぬれるほど、ヴァギナからしとどに汁を滴らせていた。顔を赤くしたナースは医者に従いベッドに横たわる。足を開くように言われ、タイトなスカートをめくり上げベッドの上でM字開脚する。目が潤んでいる。
「あ、あぅ…あっ。」
権藤が僕のペニスの先、尿道近辺を指でぐりぐりと刺激する。痛いくらいの刺激に僕は涙が出てくる。何でこうも気持ちがいいんだろう。
またDVDのシーンとデジャブする。そのあとナースは医者にクリトリスを責められて嬌声を上げていた。びちゃびちゃにぬれた下着に指を滑り込ませて与えられる快感にナースはまた汁を滴らせる。喘ぎ声がどんどん大きくなる。。
「せんせぇ…!!いやらしい液がいっぱいいっぱい出ちゃ…!!」
思わず出てしまった、AV女優の台詞に権藤はぽかんとした。
そして笑う。
僕はそれを一通り見届けてからようやく我に帰った。
「あ、あのその…ごごご、権藤さん?今のなしで。ね?」
権藤は僕のペニスを根元からぎゅっと握る。それは射精できないくらいに。
「それでそれで、もー少しで僕気持ちよくなれるんだけど。ってか痛いんでやめてくれないでしょうか、握るの。」
権藤はそんな僕の間抜けな様子に噴出した。
「ああ、ほんとうに君は淫乱な子だね。これくらいの生ぬるい治療じゃ君の淫乱は治らないよ。」
そういう、特殊なプレイはもうやめましょうよ。
「びちゃびちゃだ。」
ペニスからはだらだらと透明な液が滴っている。その透明な液を手に絡ませた権藤は僕のアナル付近を指でつついた。
「ノックしてもそこは出すところであって入れるところじゃありませんから無駄ですよー。」
「いや…入るんじゃないかなぁ。」
「いやいやいやいや。それはないですって権藤さん。」
僕は首をぷるぷると振った。ここで振らなければいつ振るというのか。
「結構萎えちゃったね。」
権藤が握っているものを見て言う。そうなんです、僕のそこはすごくデリケートで。
「はう!」
権藤は本当に油断も隙もない人間だということがわかる。
何を思ったのか、権藤は僕のそこを銜えているではないですか。
尿道を舌で捻じ込まれるようにされると僕は力なくあえぐしかなくなる。
「うあっ…あっ…はぁん…やぁっ。」
「気持ちいい?」
僕の汁と権藤の唾液でぬれた唇が、言葉を象る。思わず、僕は頭がぐちゃぐちゃにかき回されるぐらい、首を縦に振ってしまう。体が熱くて、首を振った勢いで汗がぽたぽたとシーツに落ちた。
権藤の口の中は熱くて、その舌は僕の意思を汲み取っているのかと思うくらい、適切な動きをして僕を翻弄した。それは僕の自慰と比べると明らかに失礼に当たるくらいの圧倒的な快感を僕にもたらした。
僕の限界は早かった。(早漏じゃないかと思うくらい。)
「あ…あ…っ。出ちゃう、離して。」
権藤は僕を見た。目が合う。僕の言うことに反して、権藤は僕のペニスをしゃぶり続ける。
「や…らめらって。くちに…。」
快感でぐずぐずになった体をよじる。権藤は離してくれない。刺激し続ける。
「な…んで。おいしくないってぇ…。」
僕は権藤の口の中に出してしまった。
「うそ。飲んだ?」
「ああ、うん。」
「おいしくないよ。」
なんだか疲れてしまった僕の頭を、権藤が優しくなでる。子供じゃないと言い返したいのに、うまく言葉が出てこない。
「何でりんごは精液がまずいって知ってるの?」
権藤の疑問に僕は何も考えずに正直なところを答える。
「なんか、好奇心でなめてみたことがあるから。」
権藤は有り得ないと、僕を笑った。答えてみてすぐ後悔した僕に抱きついて、おでこにかじりつく。少し痛い。
縛っていたネクタイはゆるゆるになっていてすんなり手首から外れた。
「りんごは面白いな。」
「ふつうだ。」
権藤はニコニコしている。
「ねぇ、僕のかわいい患者さん。あなたのアナルに俺のペニスを突っ込んでもいいですか?」
権藤にお注射宣言されてから、僕はようやく、僕の下半身が開放系になっていて、とても無防備な状態でさらされていることを思い出した。
「なっ…?」
「りんごもさ、引っ込みも収まりもつかないだろ?」
権藤はとろけるような優しい声音でとても恐ろしいことを言っている。
「やだよ…大体権藤のだって、もっといいところに突っ込んでいきたいと思っているよ。」
逃げ場所を僕は探した。しかし、権藤にすでに僕は捕まっていて、半分もしかしたらおいしくいただかれちゃっているかもしれない、そんな状況だった。今の時点で。
権藤がきょろきょろ辺りを見回す。
「どうしたの?何か気になることでもあったか。」
そちらに注意をそらそうと僕は必死だ。
「なぁ、ハンドクリームある?」
「それなら、あそこ。」
僕はベッドサイドにあるカラーボックスを指差す。
「どうしたの?乾燥肌?」
「ううん。アナル拡張に使おうと思って。」
僕は権藤の言葉に凍りついた。
「拡張…?」
かなり特殊な状況におかれて、僕はただただ驚くばかりだ。そんな僕のアナルにぬるりとした感触。権藤の指は温かかった。あふれる違和感に暴れるだろう僕を予想してか、権藤は僕の体を折り畳んだ。
好奇心で仕入れたエロ知識のおかげで現在おかれている体位は屈曲位だということがわかった。
正直、うれしくない。
「雨天中止とかない?」
「晴れてるよ。」
「そもそも僕に勃つの?」
「もう勃ってる。」
「うそだぁ。」
「確かめる?」
何でこんな馬鹿ばかしいことを僕が弱いというそんな真剣な目で。
僕がいよいよされるがままになっていると、玄関からにぎやかな音がした。
「りんごーいるんでしょ!誰か来てるの?」
グレートマザーが帰ってきた!
「りんご、早く降りてらっしゃい。」
階下から声がする。僕は慌てる。折り曲がっている自分の体をまずどうにかしなくてはいけない。
「ほら、ちょっと…どいて。」
権藤は不服そうに口を尖らせる。
「続きは?」
「はぁ?ばっか!できるわけねーだろ!つかしない!なし!」
「後でしてくれるって約束してくれないと退かない。」
「う。」
僕は弱る。りんごーとさらに僕を呼ぶ声。僕はほとほと弱っている。
「あんたの好きな肉じゃがコロッケあるわよー。」
母に今の状況を見られると弱る。しかしこのまま、ぐだぐだと権藤ともめているのでは、母の上陸は時間の問題だ。
「肉じゃがーーーぁっ!」
めったに聞かないであろう、僕の奇声に権藤はびくっとした。その隙を狙って権藤を蹴飛ばし、僕は脱出に成功した。
慌てて見つかったズボンを履くが、トランクスが見つからなかったので直穿きだ。ごわごわして気持ち悪い。
階段を下りて台所へ向かうと、母は夕食の支度を始めていた。
「コロッケは?」
直に下半身にズボンを布が当たって、しかもなんだかいつもより器官が敏感になっているご様子で、僕はどうしても不自然な動きをとらざるを得ない。
「そこ。」
母は振り向くと、僕をじっと見る。眉間に皺が寄る。
ノーパンがばれたのかと僕は背中にいやな汗をかいた。
「制服くしゃくしゃじゃない。さては倫吾寝ていたでしょ!」
「う。」
その指摘はベッドに横たわっていたという視点においては正しい。
「今度からちゃんと着替えて寝なさいよ…で、誰が来ているの?」
母は冷蔵庫から麦茶を出す。お盆に載せていることから持って行けという事だろう。
「権藤。」
「初めて聞くわねぇ。…かっこいい?」
母は一般的な中年女性に見られるように、若くて顔のつくりに優れている男性に目がない。
「かなりかっこいいと思うよ…。」
僕は思わず、権藤の僕に迫るときのあの目を思い出してしまった。
今すぐ見に行きたいと逸る母を止めた。たぶん今の僕の部屋には、僕の脱ぎたてのトランクスが落ちているはずなのだ。それを母に見られるとかなりまずい。
僕はなおも食い下がる母を置いて、コロッケとお茶を持って自分の部屋へ戻った。
真っ先に飛び込んできたのは、権藤の自慰で僕は思わず、目をかつてないほど見開いてしまった。
「ななななななな、なにしてんの!」
「帰ってくるの早いね。」
「何で人の部屋でそんなことすんのかな!」
今日だけでこの部屋内におけるふしだら度は急上昇を見せている。
「なんていうか勃ちっぱなしでうろうろできなくてさ。」
権藤はそういってティッシュを指で引き寄せた。
「座ったら?」
権藤の指示を僕は妙に素直に聞いてしまう。権藤の勃ち上がったペニスが見えた。
そのめったに見られない逸品を僕は凝視してしまう。
すごく大きいわけではない、しかし大きいな、だとか。
いや、あの形は素敵ですねー、理想のフォルムをまさしくかたどっています、だとか。
僕の心の中では権藤のペニスに対して賛辞が贈られていた。
ああ、何を考えているんだ。僕としたことが!
しかし、アレが僕の中に入ろうとしていたのか、そうなったらアレはどうなって僕はどうなるの?
「…何じろじろ見てんの。」
「いやいや見ていません。…見ていないったら。」
でも僕もわかってる、視点はずっと権藤のペニスにとどまっている、うん。とどまってます。
権藤はそんな間抜けな好奇心を見せる僕がおかしかったのか、くしゃっと笑った。
そろそろ絶頂を迎えるのか、権藤の吐く息が少し荒くなる。その様子は恐慌的な色気を持っていた。
「…っん…。」
権藤が吐精した。その様子は現実離れしていて、多少芸術的な様子も感じられて、何か映画のワンシーンを切り取ってきたようだなぁ、と僕は思った。
「物欲しそうな目をしてる。」
権藤が身なりを整える。権藤の指摘に僕はうまく冗談で返すことができない。
権藤が接近した。僕は権藤に何をされるのか、わかっていたのに。
「本当に誘っているの?」
今僕にキスした唇が、僕を追い詰める。僕は権藤の望むような動きをしたくなる。
けれども、まだ僕はそこへいかない。いってやらない。
「ううううまいんだぜ、結構。コロッケ。食おう!」
日本語が下手になるくらい僕は今動揺している。
あからさまにごまかして、僕はお茶とコロッケをずずいと差し出した。
「鬼門だなぁ、それ。」
権藤は緩く苦笑いを浮かべた。
権藤が帰る時、待っていましたと母が、身を乗り出してあからさまに権藤を観察した。権藤はまたしても緩い苦笑いを浮かべている。
「倫吾!あんたナイス!」
母は僕に親指を立てにかにかっと笑った。
「権藤くんだっけ?かっこいいわねぇ。お姉さんと付き合わない?」
「40過ぎてお姉さんはないだろ…。」
思わずため息がでる。僕に鉄拳が飛んだのを見て権藤は笑った。
今日で権藤の様々な表情を見たがどの顔でも様になる顔をしている。そして性格も悪くはないと思う。頭もいい。だから権藤はもてるのだ。
「…送るよ。」
僕がそういうと、権藤はきょとんとした後、嬉しそうにほほえんだ。
またきてね!と熱く詰め寄る母を家において、僕と権藤は駅までの道を歩いた。権藤が車道側を歩いている。
「りんごが送ってくれるとは思ってなかったな。」
「駅までだよ。」
「そんでも俺は嬉しい。」
「権藤は…何で?からかってるんじゃないよね。本気なの?」
「本気だよ。」
嘘、と言われなかったことに僕は不思議と安堵していた。
「なんで不毛じゃん…。」
「不毛でも何でも俺は倫吾が好きで手に入れたい、一緒にいたい。それっておかしいこと?」
権藤の囁き一つ一つが、童貞である僕にどれほど刺激を与えているのか、権藤はわかっているのだろうか。
駅に着いた。権藤は僕をみる。
「今度は最後までしような。」
少し赤くなっていた僕の顔はその言葉で真っ赤になってしまった。
「ばかやろー。」
聞こえないくらいの小声。
僕はそんなのなのだ。
権藤を前にそんなことしかいえない僕にどうして権藤は。
end