第1章 施設等における体制づくり
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第1節 トップがなすべきこと | |
第2節 身体拘束の原因分析 | |
第3節 日常業務の見直し | |
第4節 全員一致の体制づくり | |
第5節 情報の共有 | |
第6節 リスクマネジメント | |
第7節 家族との良好な関係の築き方 | |
特 別 寄 稿
身体拘束の原則廃止と法的責任 弁護士 高村 浩 身体拘束の原則廃止に対しては、「身体拘束をせずに転倒等の事故を発生させた場合の施設等の損害賠償責任」を危惧する施設等の関係者の声がなお聞かれる。 1 転倒等のリスクについてのアセスメントの重要性 施設サービスなどの提供にあたっては、まず、「自立支援をする上で解決すべき課題」を把握(アセスメント)することが求められているが、転倒のように介護現場で頻繁に発生し、しかも骨折という結果をともないやすい事故のリスクは、当然、把握しておくべき「課題」の一つである。従って、転倒等のリスクについての十分なアセスメントが不可欠である。現在においても、転倒等のリスクについてアセスメントを実施していない施設をときどき見受けることがあるが、医療事故が発生した場合にまず診察の的確性が問われるのと同様に、介護現場で事故が発生した場合にも、まずアセスメントの内容が問われることに留意する必要がある。 2 ショートステイの場合 ショートステイでは、介護支援専門員の所属する事業者とショートステイ先の施設が異なる場合があるが、介護支援専門員から施設に対してアセスメント結果が連絡されていないこともある。施設において、必ず介護支援専門員によるアセスメント結果を入手し、その内容が不十分であればアセスメントを補充する必要があるだろう。 3 リスクに配慮した施設サービス計画等の作成 アセスメントの結果、転倒等の事故のリスクが把握された場合には、そのリスクに配慮した施設サービス計画等を作成することが求められる。自立支援を目指しながら、事故防止にも配慮した計画を作成することは、簡単な作業ではないと思われるが、少なくとも他の施設等で工夫され、効果をあげている介護技術については、個々の利用者の心身の状況等を考慮した上で、その導入の可否と適否を十分検討して、計画を作成することが必要であろう。また、利用者側から、計画の作成段階あるいは事後に、計画内容について「なぜ」と問われたときに、その根拠を説明できる計画を作成しておくことも必要と思われる。さらに、計画の内容を、担当職員全員が理解しておくことも当然必要である。 4 利用者及び家族への説明と同意 施設等において、利用者及び家族に対して、アセスメントの結果及び施設サービス計画等の内容と根拠について十分に説明し、その理解と同意を得ておくことが必要である。サービスのメニューを説明するだけでなく、自立支援のためにいかなるサービスをどのように提供するのか、なぜ原則として身体拘束をしないのか、事故防止のためにどのような配慮をするのかについて説明し、理解と同意を得ておくことが必要である。サービスの目的や根拠、過程が利用者側に理解されていないと、事故という結果だけでサービス全体を評価される危険があることを留意する必要があろう。 5 再アセスメントの必要性 計画に基づいてサービスを確実に実施するとともに、計画の実施状況を把握して、適宜、再アセスメントを実施し、利用者の心身の状況の変化を見落とさないように注意する必要がある。 6 介護記録の整備 以上のサービス提供の過程と結果について、介護記録を整備しておくことも重要である。施設等において、記録の仕方を統一した上で、アセスメントやケアプランに照らして必要と判断される事実を記録しておかなければならない。例えば、転倒防止のために訪室をしても、その事実を記録しておかなければ、訪室はなかったと認定される場合もあることに留意すべきである。 7 施設の構造や設備の安全性 施設の構造や設備の安全性に対する注意も不可欠である。例えば、廊下に段差があり安全性を欠いていれば(土地工作物の瑕疵)、そのぶん職員の負担は重くなり、転倒事故を防止することは困難になるであろう。また、廊下に瑕疵があったと認定されると、その施設の所有者は一種の無過失責任を負うことにもなる。施設の構造や設備については、個々の利用者に対する転倒のアセスメントにおいても確認しておくだけでなく、施設全体の問題として留意する必要がある。 以上は、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚令39号)等の指定基準で定められていることにほかならない。そして、指定基準は、施設等がまもるべき最低の基準である。そこで、転倒等の事故を発生させた場合に施設等がまず問われるのは、指定基準で定められたサービスの基本的な手順、すなわち施設サービス入所者等に対するケアマネジメントが十分に実施されていたか否かになると考えられるのである。従って、損害賠償責任の防止という観点から見ても、施設等としては、ケアマネジメントを的確かつ確実に実施することにつとめ、それによって身体拘束を減少させていくことが必要と考えられる。 |
1 家族への説明 2 日ごろのコミュニケーション 3 家族の立場から見た身体拘束廃止 |
介 護 家 族 の か か わ り (社)呆け老人をかかえる家族の会 理事 笹森 貞子 「身体拘束禁止」の対象となる行為とその弊害を知る 身体拘束と称される行為は、厚生労働省から出ている「身体拘束ゼロへの手引き」で具体例が示されている。また各関連施設諸団体でもこの件に関して話し合いがもたれ、中にはパンフレットなどを作成しているところもある。人権の面から考えても、家族はきちんとこの行為を知ることが望まれる。 基本的に身体拘束を認めない姿勢を持つ 家族は施設利用の前に、可能なら親戚をも含めて「身体拘束の弊害について」話し合いを持つようにする。その弊害を知ることにより、当然のこととして身体拘束を基本的に認めない姿勢を持つべきである。施設を利用する際には、身体拘束を認めない意思を施設側にきちんと伝えるとともに、身体拘束廃止に対する取り組みを施設側から具体的に説明してもらう。もしその説明がないなら、家族側から問いかける。あいまいにしない心構えが大事である。 利用者の情報を施設側に伝え、ケアプラン作成に参加する 家族は利用施設に、利用者の生活歴、性格、行動パターン、心理状態、現在気がかりなこ と等、できるだけ詳細に伝える必要がある。このことは、専門職の介護の工夫に生かされると思われる。 身体拘束と出会った際の働きかけ 万が一緊急で家族に説明や確認がなく身体拘束が行われた場合、家族は関係者に説明を求めたり、記録を見せてもらうなど、率直に意思を伝える。さらに苦情相談窓口の情報を日頃から得ておくことも大切である。 |
コラム 痴呆対応型共同生活介護における取り組み 生 き る こ と を 支 援 高齢者グループホームこもれびホーム長 和田 行男 平成11年3月中旬、入居者説明会でのできごとである。 |