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周波数オークションFAQ

Q1. 周波数オークションは何のためにやるのか?

Q2. 従来の方式に比べてどういうメリットがあるのか?

Q3. どういう欠点があるのか?

Q4. 免許に莫大なコストがかかると料金に転嫁されるのでは?

Q5. 高値で落札した業者の経営が破綻するのでは?

Q6. 事業化する能力のない業者が金の力で落札するのでは?

Q7. 業者が破綻すると、電波が無駄になるのでは?

Q8. テレビ局はなぜオークションに反対しているのか?

Q9. どの帯域をオークションにかけるのか?

Q10. どれぐらい国庫収入が上がるのか?

Q11. 電波利用料はどうなるのか?

Q12. ホワイトスペースはどうするのか?

Q13. 体力のある携帯電話業者が電波を買い占めるのでは?

Q1. 周波数オークションは何のためにやるのか?

現在の電波行政は、官僚が社会主義的に割り当てを決めるため、電波の配分はきわめて非効率的になっている。これを改めて電波の有効利用を促進し、競争を導入することが本来の目的だ。それによって兆円単位の国庫収入が上がるが、これは目的ではない。

周波数オークションについては、2001年に鬼木甫氏と奥野正寛氏を共同代表とする「IT革命を実現させる電波政策を」という提言が行なわれ、200人以上の経済学者・実務家が賛同した。日本以外の主要先進国では15年前から実施され、問題点も解決策も十分わかっている。周波数オークションは政府がやると決めればすぐでき、2011年には300MHz(時価4兆円)も空く「電波埋蔵金」だ。これこそ自民党の集票基盤となってきたテレビ局の独占を打破し、財源を生み出し、競争を促進して潜在成長率を引き上げる、一石三鳥の政策である。

Q2. 従来の方式に比べてどういうメリットがあるのか?

官僚が書類審査で免許人を決める美人投票では、免許人はいくらでも美しく装うことができるので、本当にどの業者が電波を有効に使えるかはわからない。このような情報の非対称性があるときは、業者がその電波をどれだけ高く評価しているかを自己申告させることが有効である。

オークション(あるいは広く市場メカニズム)では、自分の本当の評価より高い額で応札すると損をするし、安い額で応札すると他の業者に競り負けるかもしれない。したがって評価額を正直に申告することが最適の行動になるのである。くわしくいうと方式はいろいろあり、欧米の周波数オークションで採用されているのは、多くの応札者が価格をせり上げてゆく競売(English auction)である。したがって新聞がこれを「入札」(sealed-bid auction)と書くのは間違いである。

Q3. どういう欠点があるのか?

業者が電波の本当の価値を正しく評価しているとは限らない。2000年に行なわれた欧州の3Gオークションは、ちょうどITバブルの最中に行なわれたため、全欧で1500億ユーロという高値がつき、特にイギリスとドイツでは日本円で4〜6兆円という異常な価格で落札された。このためバブルが崩壊したあと、業者の経営が破綻し、サービス開始が遅れた。

Q4.免許に莫大なコストがかかると料金に転嫁されるのでは?

これは錯覚である。オークションで払う免許料は、落札後1週間以内に現金で全額払い込むサンクコストなので、サービス料金に転嫁することはできない。これは賃貸マンション業者の買う土地のようなもので、高い土地を買ったからといって相場より高い家賃をつけても、借り手がつかないだけだ。逆に、その土地を(相続などで)無料で仕入れたら、不動産業者は家賃を安くしないで相場と同じ家賃を取り、地価はまるまる彼の利益になるだろう。つまり料金は、既存の携帯サービスなどとの競争で決まり、免許料は業者の利益に影響を与えるだけなのだ。

このように市場が競争的であれば、サンクコストを転嫁することはできないが、現実には携帯電話市場は寡占的なので、業者は談合して転嫁するかもしれない。オークションの実際の効果は、このような既存業者のカルテルを困難にすることにある。オークションによって通信業界と無関係な異分子が参入し、談合を無視して低料金を出すからだ。現実にも、美人投票で割り当てた国よりオークションで割り当てた国のほうが料金は安い。

Q5.高値で落札した業者の経営が破綻するのでは?

過大な価格で落札すると、上にのべたようにそれをサービス料金に転嫁できないので、業者が破綻する可能性がある。これはどんな競売でも同じで、高すぎると思えば落札しなければよい。たとえば国有地の競売で、高値で落札したら不動産業者がかわいそうだから無料で払い下げようということにはならないだろう。電波が国有財産かどうかには議論があるが、国有財産だとすれば、それを競売で売却することが財政法の原則であり、競売にしない理由がないかぎりオークションが当然だ。

周波数オークションに反対する経済学者の議論としては、Noamの「オークションは戦略産業である通信産業に対する巨額の課税だ」という批判があるが、逆にいえば無償で配分することは通信業界への巨額の補助金である。日本で最大の利益を上げている携帯電話業界に補助金を出す必要があるのだろうか。かりにNTTドコモが電波を3000億円で落札したとしても、営業利益の4ヶ月分にすぎない。

Q6. 事業化する能力のない業者が金の力で落札するのでは?

その可能性はあるが、官僚が業者より正しく価値を評価できるとも限らない。日本の2GHz帯では、免許を割り当てたアイピーモバイルが倒産し、2.5GHz帯を割り当てたウィルコムは割り当てられた電波を利用しておらず、経営危機に陥って私的整理に入るもようだ。

Q7.業者が破綻すると、電波が無駄になるのでは?

業者が破綻することは問題ではないが、それによってサービスができなくなると電波が浪費される。したがって電波を転売する第二市場を設ける必要がある。アメリカでは電波の転売は可能で、2007年の経済財政諮問会議の意見書でも「電波の二次取引」の市場を設けるよう提言している。欧州の3Gオークションでは転売禁止だったが、業者の経営が破綻したため、この制限は緩和された。

第二市場には「転売目的で応札する業者が出てくる」などの批判もあるが、これまでの経験ではそういう事例はほとんどない。必要な資金が数千億円と巨額なので、投機としてはリスクが大きすぎるからだ。また企業買収によって事実上の第二市場は存在しており、電波だけを売買できるようにすることは大した問題ではない。

Q8.テレビ局はなぜオークションに反対しているのか?

周波数オークションは、今後あらたに配分される電波についてのもので、テレビ局がいま使っている電波を競売にかけようというものではない。ところが一部のテレビ局は、10年前に地上デジタル放送に移行するとき、オークションに反対したことと問題を混同し、自分たちの電波を取り上げて競売にかけると思い込んで反対しているようだ。そんな例は世界的にもないし、そういう方式を提唱している人もいない。

放送用の周波数が、オークションにかけられる可能性はない。放送用の帯域(470〜710MHz)は180MHz以上あまっており、地デジに移行した後は地上波放送に周波数を割り当てる可能性はない。衛星用の周波数はオークションを行なう可能性があるが、この免許料は衛星を運用する会社が負担するので、放送局には関係ない。

オークションを阻止すれば競争が阻止できるというのも錯覚だ。現在の社会主義方式でも、新たな帯域があけば新規参入する業者が出てくる。むしろオークションにかけたほうが新規参入業者は(既存業者の負担しない)免許料を負担するので、既存業者には有利になるだろう。

Q9.どの帯域をオークションにかけるのか?

上の図は、UHF帯の周波数割り当てである。このうち13〜52チャンネル(470〜710MHz)は地デジに使われるが、53〜62チャンネル(710〜770MHz)は2011年以降、通信に割り当てられる予定だ。さらに770〜806MHzはほとんど使われていないので、710〜806MHzを連続して開放すれば96MHzあき、工夫すれば20MHz×5スロット取れる。これを一挙にオークションにかけることが効率的だ。

Q10.どれぐらい国庫収入が上がるのか?

アメリカの700MHzオークションでは、56MHzに196億ドルの価格がついた。この価格をGDPで比例配分すると、130億円/MHzというのが鬼木甫氏の試算である。この単価を基準にすると、100MHzで1兆円以上の国庫収入が上がるだろう。ただ、いきなり100MHzもオークションを行なうのはリスクが大きいので、空いている2GHz帯や1.7GHz帯で小規模なオークションをやってみるのがいいかもしれない。落札価格を下げる方法としては、端末の開放など一定の条件をつけるオープン周波数オークションも考えられる。

Q11.電波利用料はどうなるのか?

電波利用料は、日本でも周波数オークションの導入を検討したとき、通信事業者の反対で見送った代償措置としてできたものなので、オークションが導入されれば廃止するのが当然だ。オークションで1兆円以上の国庫収入が入れば、年間600億円程度の電波利用料がなくなっても影響はない。その代わり免許料は、今の電波利用料のように事実上の特別会計にするのではなく、一般会計に充当すべきだ。したがって財源に悩んでいる民主党にとっても、貴重な「埋蔵金」となろう。

Q12.ホワイトスペースはどうするのか?

電波を私有財産として売却するのは、本来は好ましくない。パケット無線技術を使えば、広い帯域を免許なしで「コモンズ」として共有して使えるからだ。ホワイトスペースもオークションにかけることはできるが、全国平均で200MHzもあるため、応札者が少なくてオークションが成立しなくなるリスクが大きい。また地域によってあいている帯域が違うので、2.4GHz帯のような免許不要帯として開放することが望ましい。FCCはそういう決定を行なった。

Q13. 体力のある携帯電話業者が電波を買い占めるのでは?

原口総務相は「放送業者には体力がないので、オークションになったら勝てない」と発言したが、これは誤解である。これからオークションにかけられる帯域の用途は、すべて汎用のブロードバンド無線であり、放送局(コンテンツ配信業者)がオークションに参加する可能性はない。

オークションに放送用とか通信用という区別はない。しいていえばすべて通信用であり、放送は「ダウンリンク専用の通信」にすぎない。変調方式も決める必要はなく、他の帯域に干渉しないという条件だけで周波数を割り当てる帯域免許が望ましい。

「NTTドコモのような大企業が電波を買い占める」という懸念は、今の美人投票のほうが強い。現実に700MHz帯の割り当てに参加しているのは、既存キャリアばかりである。もし100MHzをオークションにかければ、外資を含めた新規参入が起こって、新しい企業が免許を得るだろう。スロットは20MHzずつになるので、「買い占め」はできない。

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