音楽は自由じゃありません――既得権益守るのに必死なみにくいキャンペーン
1984年、150人のハッカー(ネットワーク犯罪者ではなく、コンピュータに精通した人の意)がサンフランシスコに集結し、未来を予見するいくつかの宣言を提出しました。その中に、現代でも引用されるきわめて有名な一文があります。
情報はフリーになりたがる。
英語のFREEにはご存じのとおりふたつの意味があり、ひとつは「自由」。もうひとつは「タダ」です。当時はどちらかというと前者に力点が置かれていたらしい。
要するに、デジタル・データはいくらコピーしたってオリジナルがなくなったり目減りしたりしないんだから、コピーを禁じるのはおかしいよ、という意味です。すくなくともデジタル・データの本質からはずれていることはまちがいありません。
アメリカには、「ハッカー界の聖人」と異名をとるリチャード・ストールマン氏など、この点を強調してきわめてラジカルな運動をしている人たちもいます(フリー・ソフトウエア・ファウンデーション/FSF。「WindowsもMacもクソだ!」)。
もっとも、現在は「フリー」を「タダ」の意で扱う人も多くなっているようです。代表はその名も『フリー』という書物を著したウェブ/デジタル界きっての論客、雑誌「WIRED」編集長クリス・アンダーソン氏でしょう。
情報はタダになりたがる。そういわれると、なるほどそうだなあ、と思う人も多いのではないでしょうか。ネットには、タダの情報があふれている。新聞も、映像も、ソフトウエアも。
とはいえ、アンダーソン氏はこう付け加えるのも忘れていません。情報がタダになるのは、それが潤沢な場合だけだ。希少な情報は、逆に高価を指向する。
音楽の例をあげるとわかりやすいでしょう。わたしたちは音楽を、YouTubeなどを通してタダで聴くことができます。楽曲の無料ダウンロードを許可するアーティストやレコード会社もふえてきました。問題となっている違法コピーも、(それが許されるかどうかはともかく)「タダになりたがっている」からだ、ということができます。音楽は「潤沢な情報」なのです。
一方、コンサートなどに赴いて音楽を聴くのは、そのとき・その場所でしか得られない希少な情報になります。それは個人の経験であり、コピーすることは不可能。当然のこと、タダにはなりません。「高価を指向する」わけです。
クリス・アンダーソン氏の論の正しさを実証するような事例が、音楽のダウンロード販売の世界にもやってきています。なんと、レディー・ガガのニューアルバムは、Amazonで購入するとわずか99セント(約88円)だそうです。1曲じゃないですよ。アルバムまるっとたったの88円!
AmazonはAppleのシェアを奪うため、赤字覚悟の出血大サービスに出たそうですが、「情報はフリーになりたがる」ものだということを考えれば、これが潮流なんだろうな、と思います。実際、レディー・ガガの新作なんか、裏でうまいことやれば簡単にタダで手に入るはずです。でも、88円ぐらいならガガちゃんのために支払ってあげよう、と思うでしょ?
にもかかわらず、こうした世界の潮流はどこ吹く風、「Music is NOT free」という音楽愛がまるで感じられないコピーをイラストにでかでかと表示しているサイトがあります。一般社団法人・日本レコード協会のサイトです。
私は洋楽ロックのファンを続けて早20年余なのですが、これ見るだけで日本盤買うのをやめようと思いましたね。「音楽は自由じゃない」なんていうやつにゃ一銭だって払いたくない。汚え手でオレのヒーローの作品にふれるんじゃねえよ!
しかも、ここで開催されるコンテストがまたひどい。著作権法のクソおもしろくない文章を読み上げている映像を一般から募集して、トップを決めるんだって。誰だよ、この悪趣味な企画考えたの!
既得権益を守るのに必死なんですよね。「情報はタダになりたがる」本質からなんとかして遠ざかろうとして、みにくいキャンペーンを張って、その後の発展の足しには絶対にならない後ろ向きなコンテストにムダなカネかけてる。
こんなことやってるからAmazonだのAppleだの外資にもってかれちゃうんだよ。
恥ずかしいキャンペーンはとっととやめなさい。音楽という若者に愛される娯楽に、ダサいオッサンの加齢臭を吹きかけるんじゃないよ。オレをふくめ、オッサンの同意だって得られないよ、そんなの。百歩ゆずってアンタたちの主張が正しいとしても、その出し方じゃあ誰も認めてくれない。少なくともオレは、「Music is NOT free」の看板を掲げてるアンタたちに一銭も払わないよ。……幸いにも洋楽ロックのファンはそれで過ごせるからね!
これでもオレは、日本企業を応援してるんだぜ。Appleはじめ外国企業の製品よりは日本企業の製品を買うようにしてるし、できるかぎりAmazonは使わず日本の書店で本を買うようにしてるんだ。努めてそうしてる人もいるんだから、みっともない姿を見せないでくれよ。本気でイヤになるじゃないか。
オッサンにはオッサンの、日本人には日本人の勝負の仕方がある。そっちで戦おうよ。商売、守りに入ったら負けだろ。
有効かどうかわからないけど、一応、アイデアはあるんだ。それはまたあらためて書いてみようと思っています。
クリス・アンダーソン『フリー』
http://www.freemium.jp/
アマゾンの過激な販売戦略、アップル対抗鮮明に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/9527
「音楽は自由じゃない!」日本レコード協会
http://www.riaj.or.jp/lovemusic_cpn/index.html
「著作権法30条1項3号読上げコンテスト」募集要項
http://www.riaj.or.jp/lovemusic_cpn/voice/
(草野真一)
●(夕刊ガジェ通)記事関連リンク
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