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経済ジャーナリストの野口 恒 氏が、業種・業務分野別に、業界動向やITの最新情報、活用事例等をレポートいたします。 → 一覧はこちら
(2007.9.25 Update)
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業種別IT活用実践シリーズ−流通業のIT活用 第12回
1)最新動向〜好業績を上げる小売業主導による製販統合モデル「SPA」
2)事例研究〜総合的な情報発信企業を目指すゼイヴェル
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2) 事例研究
『総合的な情報発信企業を目指すゼイヴェル。20代・30代の若い女性客をターゲットに携帯サイト事業で成功』
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日本最大級の携帯ファッションサイト「ガールズウォーカー」やPCファッションサイト「ファッションウォーカー」を運営する株式会社ゼイヴェルのネット事業の取り組みがいま注目を集めている。国内には現在多くのネット通販サイトがあるが、本当に売れるネット通販サイトは極めて少ない。それは、サイトの使い勝手が悪い等、消費者が魅力を感じる具体的な提案や創意工夫がなされていないことが一因にある。そんな中、ゼイヴェルは20代・30代の女性を主なターゲットとして、携帯電話を使ったモバイル通販や、インターネットを使ったEC(電子商取引)事業を展開し、さらに実店舗販売やイベント開催などの連携も強化してネットとリアルを組み合わせた事業展開を行っている。最近、同社が主催して埼玉アリーナで行われた人気ブランドのファッションイベント「東京ガールズコレクション」では、若い女性を中心に2万人以上の観客が集まり、大変に盛況だった。このイベントでは、観客は会場で人気ブランドのファッションショーを見て気に入った商品があれば、携帯電話を使ってその場で購入することができる。まさに、ネットとリアルが一体となったファッションイベントである。また、ゼイヴェルはファッション業界の常識を覆した世界初とも呼ばれる、ケータイから生まれたITアパレルブランド「Joias(ジョイアス)」や「LITIRA(リティラ)」を軌道に乗せ、グループ全体でのファッション流通売上高150億円超の実績を上げている。
ガールズウォーカーでは、サイト内に掲示板を設置し、使用した商品の感想やファッション、化粧品の情報等を得ている。また、そうした書き込みによる口コミ効果もあり、着実に売上げを伸ばしている。モバイル通販は、同社が「ゴールデン6(シックス)」と呼んでいる午後9時から午前3時までの6時間に営業やマーケティングに力を入れている。なぜなら、平日・週末を問わず、この時間帯に携帯サイトの利用が集中するからである。同社は、この時間帯における利用客のニーズやウォンツを収集・分析して、関心の高い人気ブランドの特選情報や最新のファッション情報をきめ細かく、見せ方も工夫して提供している。
同社の担当者によれば、モバイル通販といっても薄利多売を目指すのではなく、あくまでも厳選した限定アイテムを紹介するセレクトショップ型のサイトづくりを目指しているという。携帯サイトも当初から画像を使い、メールマガジンにもアスキーアートや絵文字を多用するなど、利用者が楽しく、面白く読んでもらえるように常に創意工夫している。
同社のネット事業で注目されるのは、モバイルやPCによるネット通販だけでなく、オークション、不動産、人材派遣、イベントプロデュース、マーケティング事業、ブランディング事業など、関連会社を通じて若い女性向けの様々なビジネスを展開し、ネットとリアルの相乗効果をうまく引き出していることだ。同社は単なる物販サイト運営会社ではなく、20代・30代の女性をターゲットとした総合的な情報発信企業を目指している。そのため、携帯サイトだけにこだわらず、PCサイトや実店舗、イベントなどあらゆるメディアを有効に組み合わせ、企業提携も積極的に推進している。また、同社は2003年から自社カード「ガールズウォーカーVIPカード」を発行している。入会金や年会費が無料で、自社サイト内を利用したショッピングに対して割引特典が付いている。携帯サイトの場合、決済方法は代引きが多いが、同社ではカード決済の利用者も増えている。
ネット通販事業は新規参入こそ簡単だが、成功するにはそれなりの経験とノウハウが必要になる。独自のブランドを生み出し、売れる携帯サイトに育てることに成功した企業は極めて少ないが、ゼイヴェルは数少ない成功例である。同社が成功した秘密は何か、その要件として次の点が上げられる。
- 20代・30代の若い女性にターゲットを明確に絞ったこと
- 若い女性の最大の関心事「ファッション」を事業の柱に据えたこと
- 携帯サイトの企画・運営も、若い女性の目線から徹底的に創意工夫していること
- 単なる物販サイト運営会社でなく、若い女性が楽しめる総合的な情報発信企業を目指していること
- サイト・店舗・イベントなど、ネットとリアルをうまく組み合わせ、相乗効果を引き出していること
- ファッション業界の常識を覆して、携帯サイトを通じて独自のブランド構築に成功していること
今後は、多様なメディアを組み合わせた事業展開や、積極的な提携戦略による新たなビジネスモデルの構築も期待される。(文・経済ジャーナリスト 野口 恒)
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