きょうの社説 2011年6月3日

◎不信任案が否決 追い込まれた末の辞意表明
 内閣不信任決議案が否決されたのは、ひとえに菅直人首相が震災・原発対応に一定のめ どがついた段階で退陣する意向を表明したからである。一時は小沢一郎元代表、鳩山由紀夫前首相ら民主党議員が大挙して同調する構えを見せ、不信任案可決の可能性すらささやかれていた。この時点で菅首相が強行突破を図る道は事実上閉ざされ、自発的な辞意表明に追い込まれたともいえる。

 菅首相は退陣表明によって、不信任案可決という不名誉を回避したが、辞任を評価され ての否決だけに、とても「信任」されたとは言えまい。退陣の時期については小沢元代表に近い鳩山前首相が代議士会で「2次補正予算にめどをつけてほしい」と述べており、予算案がほぼまとまった段階で退陣の道が敷かれるのではないか。時期がはっきりしないために、「居座り」を懸念する声もあるが、いったん退陣を口にした首相に、もはや求心力はなく、予算成立で野党の協力を得るためにも無意味な引き延ばしはできないだろう。

 自民党の谷垣禎一総裁は、1日の党首討論で、菅首相が辞めれば「党派を超えて団結す る道はいくらでもできる」と述べた。菅首相の退陣が決まった今、未曾有の危機を乗り越えるために、与党と力を合わせる方向へ大きく舵を切らねばならない。公明党などとともに、後手に回った被災者支援や遅々として進まない特別立法の作業に協力し、被災地の復旧・復興に力を注いでほしい。

 今回の造反騒ぎで、菅政権のあからさまな「脱小沢」路線にも屈せず、造反者の取り込 みで剛腕を見せつけた小沢氏と、仲介役を務めた鳩山氏は、しぶとく「復権」を果たした。その余勢を駆ってポスト菅選びでも影響力を行使しようとするのは間違いあるまい。

 ただ、菅政権を支えるグループと小沢氏グループでは、マニフェストや消費税に対する 考え方が大きく違う。双方の主張には大きな隔たりがあり、妥協点を見いだすのは容易ではない。財源問題を避けて通れない2次補正予算の編成はもとより、たなざらし状態の特例公債法案や税制改正法案などの重要法案を含めて、野党との調整はより難しくなるだろう。

◎一体改革案を決定 増税頼みが気にかかる
 政府の「集中検討会議」がまとめた社会保障と税の一体改革案は、消費税率の引き上げ に全面的に依存している点に強い懸念を抱かざるを得ない。

 昨年の参院選で民主党が敗北した主因は、日本経済がデフレに苦しんでいる中で打ち出 された消費税増税方針に多くの国民が反対したためである。現在の景気動向は、東日本大震災と福島第1原発事故によって一段と厳しい状況に追い込まれている。

 社会保障に加えて、大震災の復興財源に関する政府の議論でも、消費税などの増税が有 力視されている。財政の健全化は重要ではあるが、社会保障も復興事業も増税頼みというのでは、国民、企業が経済の苦境を乗り越え、明るい展望を描くことはできまい。

 集中検討会議の改革案では、社会保障の財源確保のため、消費税率を2015年度まで に10%へ段階的に引き上げることをめざしている。将来的には社会保障の公的負担の全てを消費税収で賄う方針を掲げており、そうなれば消費税率を20%程度まで引き上げる必要性が出てくる。

 税率は2〜3%ずつ段階的に上げる方向であり、早ければ来年度税制改正での引き上げ も視野に入っているようだ。しかし、増大する社会保障の財源を消費税増税で賄うことの是非についての議論が十分になされておらず、与党内からも「増税ありきの改革案」と異論が出されている。本質的な議論がもっと必要である。

 また、社会保障と税の一体改革について、全国知事会は「国と地方の協議の場」の早期 開催と地方の安定財源の確保を求めている。社会保障サービスの現場を担う地方としてはもっともな訴えといえるが、今後の国と地方の議論には疑問も残る。

 消費税の国税分が充当される年金、老人医療、介護の「高齢者3経費」だけでなく、自 治体の事業も含めた社会保障全体の必要額を考えるべきという地方の主張は理解できるとしても、消費税増税を前提にした地方の財源要求が政府の増税路線を後押しする結果になることを危惧する。