長谷川は大量の血を抜かれた後に、生理食塩水と成分点滴を受けた。服は脱がされて患者がまとう寝巻きに着替えさせられベッドにしばりつけられている。
MRI、脳波の検査やその他の精密検査をされた上、今はもの凄く寒い部屋に閉じ込められている。
部屋の温度はどんどん下がっている。
顔は青ざめ、歯がカチカチと鳴って口を閉ざすことが出来ない。
何度か意識が飛んでしまったのだが、その度に介抱され正気に戻るの繰り返しだ。
抗体を持つ人間そのものの生存力を試す実験であった。
もう涙も枯れて何も出てこない。
また意識が遠のいた。
ーーーーーーー
ウイルスと言うものは単独では生きていけない。宿主となる生命体を拠り所に寄生して生き続けるしか無い生き物である。この地球上では最も小さい生命体と言われている。
カプシドと言うたんぱく質に包まれたほんのわずか、20ナノメートルと言う電子顕微鏡でしか見る事の出来ない極小の生き物である。
彼らは自力では生きられないが、そのかわり恐るべき能力を持っていた。
一度寄生すると突然爆発的に自己増殖をし始める。1個の細胞に寄生すると、ウイルスは1000個まで増やすことが可能である。その極めて驚異的な増殖率がやがて宿主まで脅かす。
また、ただ増えるだけでなく爆発的な増殖と同時に遺伝子を常に「変化」させる技まで持っていた。
ウイルスそのものはかなり古くから研究されていたが、1935年にアメリカのウェンデル・スタンレーがタバコモザイクウイルスの結晶化に成功してから急速に進歩した分野である。
およそ数十年前にあった世界的な大戦末期から、枢軸国も連合軍もこの恐るべき力を軍事利用しようと考えていた。そのため密かに地下で人の目を遠ざけるような場所では忌まわしき数々の実験が各国で行われていた。
生物化学兵器の悲惨さは、現実に使用された中東戦争を知っている人であれば言うまでもないだろう。場合によっては核兵器よりも最強の兵器とも成り得るパワーを持っている。直接的な被害以上に、二次被害が起こり食い止めることが大変難しい。
この脅威とパワーを良く理解しコントロールしたいと最も考えているのはやはり大国アメリカであった。
NASAは日本近海に大型のロゼッタ・ストーン(超新星の放出物)が落下する時から事態を細かく追跡していた。だからCIAに雇われた男達はウイルス抗体の謎を解明する事が唯一可能な人体サンプル、長谷川を手に入れる事ができたのだった。
準備は着々と進められていった。
絶好のタイミングで横須賀沖には原子力潜水艦が停泊している。
月明かりは、静かに漂う波間と漆黒の甲板を照らしていた。
BOZZ@AGAN
芸能サブカル裏情報コチラ
総力特集