「タバコ買っただけで指名手配かよ。」
長谷川はしゃがんだまま頭をぐるぐる回した。
「携帯持ってるとヤバイな。3点法で居場所わかっちゃう。」
大事なアドレスを手帳に書き込んで携帯を踏み潰した。木枯らし1号はあきらめ、歩いて50メートルほど離れた雑居ビルの屋上に移動する。
タバコを捨てるかどうかを迷った。吸いたいからじゃない。末端価格で1億円だ。
「どうせ捕まるか殺されるかだ。あの酒屋、どうなってる?」
ビニール袋を捨て、ダウンジャケットにあるあちこちのポケットに10個のタバコを無造作に突っ込む。
ライターで髪を燃やす。
「あちっ!」
人相を変えるには髪型を変えるのが一番手っ取り早い。長谷川は瞬く間にショートヘアの縮れっ毛になった。
「これでしばらくは大丈夫だろう。行ってみるか。」
酒屋の前は大勢の野次馬でごった返していた。
黄色い捜査テープが貼られ、刑事や識鑑が忙しく動いている。
長谷川は野次馬の会話に聞き耳を立てる。
要約するとこうだ。
午前中の国会。怒涛の勢いで200近い法律が通ったこと。その中に喫煙防止法があって、タバコを所持したり売った者は死刑。おばさんは逮捕されて原宿署、愛理ちゃんは間一髪おばさんの使いに出ていて今は逃亡中。
「馬鹿だよな。テレビ見て無かったのかよ。死刑だ死刑!」
野次馬が口汚く罵る。
長谷川は憧れの君、愛理ちゃんが無事と聞いて安堵した。
ポンッと肩を叩かれた。
カジさんだった。
「黙って俺についてきな。」
眼は血走り、乾いた唇を執拗に舐めている。
「…カジさんも、みんなと一緒だよね?」
「いや、俺は違う。正確に言うと半分はあいつらと一緒だが。」
向かった先は外苑西通り沿いにある地下のレストランだった。
入口に一見してヤクザの若衆と分かる男達が身動き一つせず張り付いていた。
暗い階段をカジさんと下りる。
「おう、待ってたぞ。」
十数人の子分にガードされた男がカジさんに声を掛けた。
「じゃ、ブツもらおうか。ほれ、金だ。」
長谷川が今まで見たことも無い大きな札束が目の前にあった。
「折半だからな。」
カジさんは持っていたエコバックに金を流し込む。
「おい、何をぼっとしてる。早くタバコを出せ。」
長谷川は考える暇(いとま)も無いまま、ダウンジャケットに詰め込んでいたタバコをテーブルに置く。
「動くな!!」
一固まりのスーツ姿の男達が現れ、ヤクザを次々に射殺する。
ヤクザも応戦して激しい銃撃戦になった。
「こっちに来い!」
カジさんが長谷川の手を掴んだ。
BOZZ@AGAN
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