駅に向かおうとした時、ぐいっと首の後ろ襟を捕まれた。
マイクを持ったアナウンサー。その後ろにはでっかい中継車が控えていた。
「ちょっとよろしいですか!あなたはどうしてタバコが入ったビニール袋を持っているんですか?」
逃げよう。長谷川は直感的にそう感じた。
木枯らし1号を取りに行こう。
「追って!」
アナウンサーが絶叫する。
全力で逃げた。木枯らし一号に乗り青山通りに出る。
「止まりなさーい!」と巡査が長谷川の目の前に飛び出して来た。
「君、どこに行くの?これはなんだ?」
カゴに入っていたビニール袋から1カートンのタバコがはみ出ていた。
「君!駄目じゃないか!これどこで手に入れた?」
「普通にお店で買ったんですよ。なんで駄目なんですか?」
「駄目に決まっているだろう。そんな事も分からないのか。タバコはこちらで預かる。さあ、見なかった事にしてやるから。」
巡査はビニール袋を取り上げようとした。
「あ、君、ちょっと!」
わしわしわし!っと木枯らし1号を懸命に漕いで逃げる。
「止まらないと撃つぞー!」
本当に撃ってきた。パンパンパンと乾いた銃声が3発。
一発が長谷川の肩をかすめた。
「熱い。」
何処をどう走ったのか、長谷川は覚えていない。
街角のオーロラビジョンに自分の姿が映っている。
「今日、正午過ぎ、表参道付近で30歳前後と思われる男が、警察官の制止を振り切り逃走いたしました。本日の午後から末端価格1箱1000万円に跳ね上がった特別薬物指定のタバコを大量に所持している模様です。」
煙草屋の娘さんから買ったペットボトルを開ける。
乾いた唇を湿らせて喉を潤すと、急に涙が溢れ出てきた。
とりあえず、死ななかった。生まれて初めて本物の銃で撃たれた。あの巡査は本気で俺を殺そうとした。
「これが最後の一服になるかも知れない。」
長谷川はビルのゴミ箱の陰に隠れ、タバコに火をつけた。
BOZZ@AGAN
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