【小説】 君に捧げる千物語

序章   Yウイルスの猛威

長谷川はノソノソ起きた。
「いけねえ。また遅刻かも。」

探偵はフレックスとか言いながら、長谷川の勤めている探偵社はけっこう規模も大きくなって、つい最近朝礼するようになった。
「まったく、学校じゃねんだからさ。」
ポチン。
テレビの電源を入れた。
長谷川のテレビはリサイクルショップで買ったビデオ一体型テレビ。
今時、地デジ未対応。バリバリのアナログ仕様である。

電波もまともに受像出来ていない。
家に遊びに来た友達が
「おお、はせやんのテレビ、フラダンス踊っているぜ。」
ゲラゲラ笑った。
それ以来、フラダンステレビと名付けられた。

「かっこいいっしょ?」
とうっすらぼんやり、一人呟く。
つぶやくのがインターネットとか言うので流行りだが、長谷川はそのインターネットと言うものを良く知らない。
家にパソコンが無い上に、会社でも上司が使っているだけだ。
「班長はいつもインターネットでニヤついているが、何見てるのかな?」
と不思議に思う事がある。
正確には「インターネット」と言う名称である事すら知らない。
休みの日にテレビで流れている面白い通販番組と同じようなものかと思っている程度だ。

テレビでは日本海に小さな隕石が落ちたとわめき騒いでいたが
「まあ、東京からずいぶん離れてるし、いつも朝のニュース様は煩いね。」
まったく気にせず、冷蔵庫の中で干からびていたソーセージを齧りながらダウンジャケットを羽織って、木枯らし1号に乗った。

木枯らし1号はギアが3速付きのママチャリだが、2速しか動かない。
正確には3速に入るのだが、一漕ぎもしないうちにチェーンが外れる。
1速はもともと友人に貰った時から硬くて入らない。だから常に2速固定だ。
そのため、足をものすごく回転させないといけない。
わしわしわしわしわしと漕ぐ。すると「ビューッ」とクランク付近から音がする。
まるで木枯らしのような音。
「かっこいいっしょ?」

ガシャーン!
守衛さんへ敬礼し、木枯らし1号は駐輪場のいつもの決まった場所へ突っ込まれる。
走ってタイムカードを押す。8時58分、上出来だった。
いつもの朝なら…。

長谷川にとって最悪の朝になった。



BOZZ@AGAN


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