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[24398] ストライクウィッチーズ・モダナイズド・ウォー
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/11/21 21:49
『ご挨拶とまえがき』

どうも、初めまして。
初投稿となります|日0TKでございます。

本作品はTVA『ストライクウィッチーズ(同二期)』の設定をベースとし、
僕なりの解釈で再構築した世界観、具体的には時は21世紀、
TV版SWの世界の現代でウィッチたちの生き様を描いて
(いけたらいいなぁ、と思って)おります。

(※オリジナル設定がかなり多いです。どうしても受けつけられない方は、お読みにならない方がよろしいかと思います)


主として
・主人公エレオノールの所属していた独立試験猟兵連隊第3中隊編
・出雲涼に引き抜かれた後を描く第666機械化航空歩兵戦術航空団編
を軸に書いていきます。


どうか皆さんに楽しんでいただければと思います。

それでは、どうぞ。


 更新は、出来次第逐次不定期とはなりますが上げていきます。
 仕事の合間に書いておりますので、なにとぞ遅筆をご容赦ください。


 筆を執る切っ掛けをくれた七猫伍長氏、そしてですがスレの諸氏に深く感謝を。
 快くキャラを貸してくださった皆(666編のキャラ達)と鳥坂先輩(出雲嬢) には万感の感謝と予め謝罪を(ぉ

 基本的に、借りたキャラも名前だけ借用の≒なキャラです。



[24398] インターミッション
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/11/21 11:31
インターミッション

「エリー!!助けて!!!!!」
激しく燃える陸戦用ストライカー。
その残骸の内から悲鳴が響く。

「     !」
声が出ない。

否、自分は叫んでいるがその声が認識できない。
「あつい  やだ!助けて!   エリー!エレオノール!! 」
彼女が自分を呼ぶ声だけが異様に鮮明だった。

主燃料に引火したのか、ストライカーの自動消火装置による消火が全く追い着いていない。
このままでは弾倉に引火してしまう。
「あついよ………」
「   」
このままでは      が。

――――ある欧州の片田舎の街道、11月末――――

――――振動、エンジンの駆動音。
車輪が路面のギャップ(段差)を拾い貨車が跳ねる。

エレオノールは自分が薄暗いトレーラーの荷台にいることを知覚した。
―――夢か。

辺りを見回す。
ここはガリア製ウイッチ運用パネル仕様荷台のEPC機甲歩兵輸送車の中だ。
エレオノールの右隣には、ガリア陸軍技術研究所及びGIATから供与された
ルクレール2025コンセプト試作陸戦ストライカーユニットが
駐機されている。
現在そのユニットはエンジンの過熱による著しい出力減衰、右前正面への被弾等により
小破の状態となっていた。ガリア製複合装甲は、高性能だが連続被弾耐性に難がある。

―――今日はやっぱり運が良かった。

一人感慨に耽り、続いてその更に右で自分の部下達が戦闘の疲れからかこの轟音の中で
安らかな寝息を立てているのを認識してふっ、と笑みを浮かべた。
それから、この後に控えるデブリフィリングで状況をより精確に発表し、
より姉妹たちの役に立つレポートを作成するためエレオノールは今日の戦闘を可能な限り正確に思い出すことに意識を集中した――





『今日の第9位は、いて座のあなた!ささいな口論から友人との溝ができてしまうかも!?』
うわ、微妙……。

「ちゅーうい、ナニ聴いてるんですか?」
セシールが左の掩体から声を掛けてくる
「ああ、いや今日も空電が多いなぁと思って」
「またまた、エロいのでも聞いてたんでしょ?このこの♪」
そこへ嗜めるようにおっとりした無線音声が被さる
『セシールちゃん、中尉はきっと占い聞いてただけだよ』
図星だった。軍用無線の周波数を民間帯域に合わせ7時の占いを聞いていたのだ。
少し気まずい思いをしつつもエレオノールは自分の後ろにいる声の主へ答える。
「クロエ、憶測でものを言うんじゃない、それと私語を無線で出すな。……ま、正解なんだけどさ」

彼女達はエレオノールが指揮する小隊の隊員で、エレオノールと同じグランドウィッチ(機械化機甲歩兵)だ。
セシールはセミロングにした金髪が目立つ派手な見た目で歩兵科の男性諸氏に人気があるタイプ。
クロエはおっとりしているロングの赤毛をひっつめにした娘。
ただ、非常にイイ体をしているので隠れたファンも多い。

「それにしても今日はツイてないなぁ、何だよ後方で待機って」
はるか前方、目視できないほどの遠方から響く遠雷のような砲爆撃と小気味良い銃声に耳を傾け、
HMDのタクティカル・ディスプレイをマクロ・ピクチャー中隊指揮官権限領域に切り替え、現在の作戦進行度を確認した。
どうやら今日の戦闘は極めて人類側が優位に推移しているようだ。
「データが取れなきゃ試験中隊の意味がないよ」
「でも中尉、やっぱりわたしは戦わなくて済むに越したことはないと思います」
「クロエ~?それはそうだけど、それ言っちゃおしまいじゃん」
「それでもやっぱりわたし、怖いな」
「まぁ、それが正常な感覚だよクロエ。僕なんかはあんまり恐怖心感じないから、
きっと早死にだな。今の感覚を大事にしな」
「エリーちゅうい、アタシは~?」
「お前は殺しても死にそうにないしなぁ」
「えぇ?!ちゅういひどっ!!」
そのやり取りを聞いて、クロエがくすくすと笑った。

エレオノールはため息をつきつつ周囲の警戒に戻る。
ここは現在エレオノール達が駐屯する村から半日ほどの距離にある平原だ、
まだらな森と軟弱な草地以外には何もない。低く雲がたちこめ、朝なのにかなり薄暗い。
エレオノール小隊はその草原に軽易な掩体を構築し、味方の後ろで待機していた。
数キロ先には針葉樹の森、そこから烏の群れが飛び立った。

―――?

「中尉?」
エレオノールの様子に気付いたクロエが問いかけてくるが、答えずに無線機のスケルチをオフ。
途端にレシーバーからは猛烈なホワイトノイズが炸裂する。
その轟音を無視してストライカーの砲身を森に向けた。モード、指向性通信。12オクロック。
――――ザ――ザザ―
ホワイトノイズに甲高いスパイク(感)が混ざる。方位を確認。
続いてエレオノールは掩体から出て100メートルほど後退、
今度は森の方向へ撫でるように砲身をゆっくり旋回させた。

――ザ
スパイク。方位を確認。

エレオノールは掩体まで戻り、マクロ・ピクチャーマップにスタイラス・ペンで
スパイクのあった方角へ二本直線を引いた。
その交点の座標を確かめつつ、無線で状況系をコールする。
センシング情報を見た限り我のIFF情報は統合戦術衛星と空中戦域統制機のセンサーには無いようだ。
「イーグルアイ(統制)、ノーム31(エレオノールのコールサイン)、
座標257 646付近に我の部隊は展開しているか?」
『ノーム31、イーグルアイ、その座標には我の部隊は存在しない。…何か見つけたか』
ネウロイが意思疎通に電波通信を用いる事はよく知られていた。
適切な操作を行えば、解読はできなくとも人類の無線機で拾うことはできる。
エレオノールのストライカーは、計5本のインテグラルアンテナによって通信、及び索敵に任意の方向へ指向性を持たせられる。
先程やったのはこれを併せて利用するエレオノールの編み出した索敵法だ。
「ネウロイと思われる兆候を確認、規模不明」
『イーグルアイ、了解』
続いて中隊指揮系、
「ノーム00、ノーム31、新たに確認したネウロイらしき兆候に対する威力偵察、
可能であれば交戦、撃破を具申する」
『ノーム31、許可する。支援は必要か?』
レシーバーに第3試験機械化機甲歩兵中隊長のベアトリス少佐の声が入る。
「1個魔導砲兵小隊の火力単位使用を申請する」
『許可する。……気をつけてね』
「誰に言ってるんです?センパイ」
エレオノールは闘争の予感に爛々と眼を輝かせ、不敵な笑みを浮かべて振り返った。
「聞いたなお前ら、……エサが来たぜ」
「りょ~おかい」「了解です」

―――やっぱ今日はツイてる!
「ノーム00、ノーム30(小隊コールサイン)はこれより威力偵察に入る」
魔導エンジンに火が入る。マスター・アーム、オン。獰猛な唸りを上げ三機の陸戦型ストライカーがその身を震わせて目を覚ます。
「躍進用意 前へッ!」
エレオノールは風を切り裂き、エンジンの咆哮に劣らぬ声量で小隊指揮系に吼えた。
『傘型隊形!我に続け!!!』
「ya!!」「ya!!!」

周囲の景色が弾かれたように流れる。三機の中ではエレオノールのルクレール2025コンセプト型ユニットは
二人のルクレールシリーズXXI T11-AZURに最高速度で劣るが、装着者の技量とサスペンション性能が優れるため
全力走行を行うと自然に隊形が矢印型となった。

森が近づく。
『林内へ突入、警戒を厳にせよ』

森の中は草地とは打って変わって激しい小起伏の連続。
膝と母指球に意識を集中して地形をいなす。地上戦においてウィッチの駆るストライカーは、
この動作によって極めて優れた機動性を発揮する。
例えるならば通常の戦車と陸戦用ストライカーではソリとスキーの差が存在する。
陸戦用ストライカーの最高速は、ほぼイコールで路外機動速度なのだ―――熟練したウィッチが操れば。

どうやら予想通り森の中にはネウロイはいないようだ。もうじき森を抜ける。
砲兵へコール
「サラマンダ、ノーム31、火力要請。256 645へ1分間制圧射撃、知能化砲弾混用、ASAP(可及的速やかに)」
『ノーム31、サラマンダ、要請を受理した。256 645へ30秒後より1分間、知能化砲弾混用、制圧射撃を開始する』
さすがに早い。自走機動可能なAMX30 AuF1りゅう弾砲型ストライカーを装備した魔導砲兵ならではのレスポンスだ。

更に走る、もっと、もっと速く!
頬を木々の枝が掠める。
『最終弾弾着30秒前、29、28、27―――』
森の端が見えてきた、タイミングはバッチリだ。
HMDの複合センサ画像を拡大する、ネウロイが拡大された視野内に入る。
「ノームー00、ノーム31、敵を確認。歩兵型2個分隊規模、多脚型5、戦車型4」
歩兵型は砲弾で制圧されている、対戦車型も存在しない。問題なし。
多脚が5、これも性能で優越するこちらにとって問題ではなかった。

―――戦車型。十数年前より戦線に出現した、人類地上軍にとっての悪夢。
進化し続ける奴らは今や機動性を除けばウィッチの駆る陸戦用ストライカーに迫る性能を有し、
その火力で味方地上軍を食い荒らす。なんとしても仕留めなくては。

「ノーム32、33は多脚をやれ。歩兵は適宜制圧。戦車は僕がやる」
「ya」「ya」
「ノーム30、突撃用意」
ALSが砲弾を薬室へ叩き込む。装填よし……。セイフティ、ファイア・ポジション。
「突撃に―――」
もうすぐ林端―――
『―――6、5、4――弾着、いま』
抜けた!
「進めッ!!!!突っ込め!!!!!!!」
「「「Ruuuuuuu-Shuu!!!!!!!!」」」
三騎の吶喊、同時にクロエが12.7mm連装機関銃で精確な8の字形に短連射、歩兵型を次々に粉砕する。
クロエの射撃を止めさせようと多脚型がクロエを照準し――突然胴体から炎を吹き出して横転する。
セシールの120mmHEAT-MP-T、OECC120F1による一撃だ。

前方、敵の歩兵型が戦車型を支援するように展開し始めた。
「どけッ!!!!!」
エレオノールは敵分隊の中へ20メートル程突っ込んでGALIX近接防御装置からHE-FRAGを撃った。
弾頭は高速で同時発射され全周へ飛散、空中に数メートル上昇して調整破片を撒き散らした。
地面が一瞬沸騰したかのように土煙を上げ、歩兵型が地面に叩き付けられる。
―――よし!

砂塵を抜けると敵も支援は望み薄と悟ったか2輌毎に高速走行で散開しつつ包囲機動を行っていた。
上等だ、来い!!!!
「そいつらを抑えておけよ!!!!」
「まっかせて!!!」「了解です!!!」

正面、戦車型2輌。
被照準警告及びその方向がHMDに表示される(ブザーはオフにしているので警報音は無い)
左、右の順でエレオノールに向かって微弱なレーザーが照射されたのだ。
―――来る。

奴ら(戦車型)はこの照射によって極めて精密に射距離を測定可能なのだ。
試験中隊に所属する技術士官によると、我のYAGレーザ測距と波長こそ違えど同じ原理との事だ。
APFSDS-Tを装填、意識を左の敵と己の脚、魔導エンジン操作部に集中する。
高揚感、感覚が加速される。

発砲!エレオノールは敵を左に見て斜め前だった進路を
右脚を蹴り込む事で強引に捻じ曲げ敵を正面に捉え疾走した。

「いち、―――」パンッ!!
敵砲弾が右を飛びぬける。

地上戦においてネウロイは、ウィッチの持つシールドで効果が減衰し易いレーザーから、
体内に蓄えた可燃物をレーザーで爆発、固体弾を発射する方法へとその攻撃手段を変換した。
特に最新の戦車型ネウロイの主砲は、通常型第3世代戦車の正面装甲やエンチャント(魔力付与)した
第3.5世代陸戦用ストライカーの装甲ですら安全ではなかった。

1.5秒、約1820メートル。
エレオノールは照準機を覗き込み、弾道偏差を織り込んで照準、魔力を集中して撃発した。
FCAが魔力を検知、整波増幅。HMDにエンチャント・モードのシンボルが点灯し、レチクルの偏差値が変動する。
魔導加速、戦術出力。

ダンッ!!!
長砲身120mmのショックウェーブが多重魔法円と極超音速サウンド・ディスクを貫いて飛翔する弾頭を送り出す。
装弾筒が離脱し、貫徹体が敵の体表面、車体正面に命中する。
と同時、敵の砲塔が空高く弾け飛んだ。
本来、通常型120mmAPFSDSでは貫徹不可能な距離だったが、
エレオノールの固有魔法『ガン・バレル』によってこの距離での撃破が可能だった。
識域下認識領域拡大による魔素侵蝕、魔力による物理法則の改変。
「……ん…」
敵を仕留めたその愉悦から、思わず熱い吐息が漏れそうになり、すんでのところで堪える。
集中、集中……。
―――1輌
発砲煙と砂塵を走り抜けると仲間を吹き飛ばされた片割れの一輌が照準を終えて、
こちらを射撃しようとしていた。

エレオノールは冷却装置をカットオフしつつ腰の汎用格納ボックスから透明な液体の入った薬品用アンプルを
二つ取り出して両手に持ち、それを太腿付近左右の吸気口(インテイク)に叩き付けた。
ダストブロワからガラス片がダイヤモンドダストのように拡散する。
続けて、ハイパーバー(後燃焼装置)の燃料投入量をオーヴァーロード。
直後、UNI製V8XXエンジンがマフラーから青白いショック・ダイヤを吹き出し甲高い悲鳴を上げ、猛烈なパワーを生み出した。

PXから拝借した酒類を蒸留して自作したエーテルと
カットオフされた冷却装置用出力、強制過給タービンへの燃料過剰投入による一時的な出力のブースト。

続いてヴェトロニクスのドライヴコンピュータの制御信号を強制手動信号鍵でインターセプト。
クラッチを一切切らずに精確な回転数制御をしつつギアをシフト、本来ありえない
シームレスなエグゾーストを響かせて加速疾走。敵の砲弾が加速を捉えきれずに後方を飛び過ぎる。

前方に見えた堆土の手前で急制動をかけてジャックナイフ。敵に正対、停止する。
距離は1000、この距離なら精密な測距無しでも戦闘照準で十分中る。
「ブチ貫け」敵の下端を狙った一撃は綺麗に砲塔(タレット)リングに吸い込まれた。

―――2輌!

照準機から顔を上げ、残る2輌を確認する。いた、独立林を隠れ蓑に距離を詰めている。
発見と同時に右のヤツからレーザーが照射された。距離1000以下!かわせない!!!
エレオノールはとっさにエンジンをストールスタート、敵に対し左に躁向しつつ発砲にタイミングを
合わせてピッチアップ

ビキィン!!!
衝撃音を響かせて敵の砲弾が複合装甲に撃角90で侵徹、衝撃を熱に変換し停止した。
敵の弾道に装甲を相対するように姿勢を変化させなんとか停めた。装甲はクラックも剥離もしなかったようだ。

遠のきかける意識の手綱を何とか操り、左のヤツからは死角になるよう堆土の影に入り、
ぼやける視界で敵を捉え、連装機関銃で敵を撃つ

ドココココココッ!と重くも小気味良い連射音を響かせ、12.7mm曳光徹甲焼夷弾を敵に導く。
敵が機銃弾を弾くのを確認して火器変更、そのまま発砲する。
―――この距離ならば、砲弾と機銃弾の弾道は殆ど同じだ。
命中………仕留め損ねた!?
だが深刻な損害は与えたようで、その敵はLOS内から離脱していった。
やっとで回復した視界と意識で最後の1輌を探す――――――いない?

否、後ろ!!!

エレオノールが振り向き、堆土の方を向くとほぼ同時にそいつは堆土を乗り越え、
エレオノールに圧し掛かって来た。
「MERDE!」潰す気か!!

砲を向けるが、敵の砲身がそれを押さえ込むようにぶつけられる。
精密な砲制御アクチュエーターを保護するため、ノーバック機構(外力遮断装置)が作動し、
腕部倍力装置と腕力のみで抗さなければならなくなった。
右脚でそいつの腹を抑えどうにか支えるが、50tを優に超える暴力的な質量が
容赦なくエレオノールに襲い掛かる!!
「ウグルルルルルルル………!!!!」口から無意識に猛獣のような唸りが漏れる、
グルルルルルルルル、とシンクロするようにストライカーのエンジンも過負荷に唸りをあげた。
フレームが軋む。耐用限界を超えた負荷に異常な過熱が始まっている…!
長砲身が災いして砲を指向する事も出来ない!!

ドヴォオオオオオオオオオッキンッ!と唸るような射撃音が鳴り、圧し掛かっていたネウロイがびくりと引き攣る。
エレオノールが腰溜めでボルトオープンし煙を吐くG11Kアサルトハンドウェポンを握っていた。
「HA!!」
闘争本能剥き出しの笑みを浮かべ、吐き捨てるように笑う。
―――この距離なら、小銃弾で底板くらい貫けるのさ、僕はなッ!!!

「GAAAAAAA!!!!!!!」
ゴアァアアアアアアアアアア!!!!!
エレオノールは吼え、ストライカーの両脚を回転させるような蹴りを背中を軸にして繰り出した。
ネウロイの体が粉々の破片に粉砕される。

―――3輌!!

奴はどこだ?!ネウロイの再生能力ならば、もうじき修復してきてもおかしくない。
ちくしょう、出力が殆ど上がらない。過熱か。おまけに足元は軟弱な泥炭だ。
これじゃあ満足に動くことも出来やしない。

……聞こえた!
嘲笑するように真正面から音が聞こえる。
こちらの状況を知ってるわけでもあるまいに。

―――どうする、待ち伏せしかない。だがここは先刻知られている。




単色と極彩色の濃淡で彩られた視界の中、日向の草葉が明るく映っていた。
先ほどの敵は、どうやら味方と戦いそれを屠ったようだ。
今は姿が見えない。だが、移動に支障がある筈で
しかもその虹色のゆらぎははっきりと視えていた。
その場所に向かって撃つ。

反応はない。

近付いて確認することにする。

そこには、ちろちろと燃える粒状の物体が



バギンッ!!!!!!!!
極至近距離から叩き込まれた砲弾で、最後の戦車型ネウロイは一撃で全機能を喪失した。

先程いた場所から約400メートル離れた地点から放たれた一撃で。

「……この僕が、エンジンが動かない程度で擱座すると思ったか?」
魔導エンジンを敢えてカット、己の膂力のみでここまで数10tあるストライカーごと移動したのだ。
エレオノールは地面にあけた簡易掩体から這い出し、元の場所へと戻った。
そこでは砲弾から取り出したキャノンパウダーと有線通信ケーブルでぐるぐる巻きにした
非常電荷用熱電池がゆっくり、しかし確実に燃えていた。

最新の戦車型ネウロイはどうやらサーマルと短波で物を視ている可能性がある、
とはやたらめったら夜戦で負け続けた末、技術士官が出した結論だったが、どうやら当たりのようだ。
掩体は指向性散弾を魔力強化して地面に穴を開けた。
エレオノールはこんな形で新戦術を実践したくはなかったけどな、と苦笑しながらそれを眺めた。
「こっちは全部やったぞ。セシール、クロエ、そっちはどうだ?」
『状況終了♪』『損害、なしです』
無線からすぐさま返事が聞こえる。

マクロ・ピクチャーを確認し、戦闘が人類の勝利に終わったことを確認した。
「ノーム00、ノーム31、敵小隊を撃破、なおノーム31は小破、DSの支援を要請する」
『ノーム31、ノーム00、お疲れ様……怪我はないの、エリー?』
ベアトリス少佐の労いつつも気遣わしげな声を聞いて少し笑い、ふっと表情を引き締め
「人員に異常なし、人類側の被害はどうですか?」
『前線で重軽傷が10名ほど出たけど、ウチのメディカルウィッチが手当てしてる。大丈夫よ。
KIA、MIAは共にゼロ』
「そうですか」
思わず安堵の息が出そうになった。敵小隊があのまま浸透して後方を攻撃していたら、
きっと膨大な死傷者が出ていたことだろう。

―――やはり今日は運が良かった。

「ダイレクトサポート、ノーム31、現在地は地形が悪い。自力で道路まで離脱を図る
合流予定30分後で頼む」
『ノーム31、ダイレクトサポート了解』
少し時間に遊びを作って申請した。センパイもこんなことでは怒るまい。
「お前ら、先に行ってていいぞ。僕は少しかかりそうだから」
『りょうかぁ~い』『それでは……お先に失礼します』

エレオノールはストライカーから這い出し、その砲ユニット部の横に腰掛けた。
装甲板と装甲化クルー・ジャケットを脱ぎ、難燃ツナギを肌蹴て腰に縛る。

ようやく温まりだした空気が汗に濡れた体に心地よかった。

すぅっ……と息を吸う



何となくそんな気分だったから

少しかすれた綺麗な高音で

Mon petit oiseau
A pris sa vole

Mon petit oiseau
A pris sa vole

A pris sa, à la volette
A pris sa, à la volette

A pris sa vole


それから少しの間、興が乗ってきたのでほかにも何曲か歌い、
伸びやかな、でも掠れるようなソプラノで歌い終えてから少しだけむせた。
それから煙草を取り出そうとポケットを弄り、代わりに出てきたロリポップ(棒付きキャンディ)を意表を突かれたような目で見、

「っあ゛~~~~~、やっぱ喉調子悪いわ~~~。禁煙してもすぐは良くならんのかねぇ……」.
とぼやきつつ咥えた。禁煙忘れてなんていないですよ、っと。
そして立ち上がり、ゴキゴキッと背筋を鳴らして伸びをしてから
「さって、そろそろ道路までこのかわい子チャンを連れてきますか……」
ストライカーを装着した。




―――まぁ、こんな感じだったかな。
思い返した戦闘から不要な部分を無くし、必要な情報に重要度別に順位を付けてPDAに挿したフラッシュメモリに書き留める。
それがひと段落した頃、丁度臨時駐屯地『ノーム・ネスト』のゲートが荷台の採光窓から見えてきた。
「ん………着いたか。ほら、起きろお前ら。お上品にしろ」
「ぷりおっしゅが…」「ふな……」
「ったく……」

立ち込めていた雲も細切れとなり、陽光が降り注いでいた。
日ももうすっかり高く昇り、じっとりとした湿気をはらんだ冷たい空気が暖かく澄んでいく。
とはいえ、前日深夜にここを出発した三人には、些かきついものがあったが。
「セシール、レジュメは今晩2100までにちゃんと提出しろよ、いいな?
クロエ、お前はちゃんと食事を摂ってから体を休めるように」
「ちゅうい、何でアタシだけレジュメの催促なの?」
「わたし、眠くて食欲ありません…」
エレオノールは腰に手を当ててもう一度念を押した。
「おまえらがそんな感じだからだ。わかったな?」
「うえぇえ……」「ひうぅ…」

仮設格納庫の前にEPCが到着し、トレーラー後部の昇降ランプがエレオノールの誘導で
油圧作動音とともに降りる。誘導信号灯を手に取って降車誘導(マーシャリング)の準備をした。
「全く……ほら、お前らは自分のハンガーにストライカーを格納してこい。
僕はDSのファクトリーにコイツを渡してくる。格納が終わったら、解散して自由行動でいいから」
「はぁい」「はい…」
セシールとクロエがストライカーを装着し、警告灯とポジションランプを点灯し歩行せずに荷台から降車して格納庫へと履帯走行していく。
「歩くより履帯制御のほうが神経使うだろうに……こういうとこだけそっくりだなあいつら…」
さあ、自分はDSに一言詫びを入れて義理を通しておこう。
トレーラーの操縦手に信号灯で二人の降車完了を伝え、DSが使用する民間飛行場の整備格納庫へ。

小さなものとはいえ、当然滑走路もそのまま使用されており、
空軍の緊急着陸や陸軍の連絡機等を運用している。
現に今も、陸軍の連絡機が綺麗なグライド・スロープを描きながらタッチダウンするところだった。

整地走行で歩くより遅い程度ならば、今の状態でも可能だったためクレーンでホイストせず、
DSの整備兵の誘導で整備用ピットにストライカーを入れた。
「ごめん班長、事前に無線出したとおり過熱と正面被弾で小破です。
過負荷で腰椎部と脚部フレームも歪んでるかも」
整備班長は元ウイッチのアデライド大尉勤務中尉、
いつも額に拡大単眼鏡を付けている20代後半のお姉さんだ。
「ああ、聞いてるよ。ま、生きて帰って来さえすりゃ、ウチらが整備してまた履けるようにしてやるから。
アンタは気にすることないよ。それに、今回は意外とコワして無いようじゃないか?」
アデライド中尉がお下げにした髪を揺らしてにっと笑う。
「いや、面目ありません……あの娘らの方がよっぽど損耗率が低いですしね……」
「だぁかぁらぁ、気にすんなよ!“おねぇちゃん”だろう?
………でもま、アライメントと応力ひずみ計測で
駄目だったらいよいよモノコック・フレームから新造かな?」
ニヤニヤしながら背中をバンバン叩かれ、慰められつつ弄られる。
技術研究所立案、陸戦用ストライカーの大御所、GIAT社の最新鋭社内試作型だ。
交換部品などそうおいそれと在るものではない。
エレオノールは絶対この人には一生頭が上がらない気がした。
「うう、あんまり苛めないでくださいアデライドさん……」
「ほ~ら、お前さんのセンパイが報告待ってるよ。行った行った」
「それでは、……お願いします」
「いいよ」

さて、ここからは少し歩こう。
実験中隊の中隊長室は現在は司令部として徴用している民間飛行場の持ち主だった富豪の家の執務室だ。
車を使う距離でもない。眠気覚ましにもちょうどいい。
EPCは降車したあと、輸送隊の方に既に帰していた。

滑走路エプロンにくっ付いた整備格納庫から徐々に熱くなりだしたコンクリートに出て、
司令部邸宅へと歩き出そうとしたエレオノールの目に、先程の連絡機から降りたであろう人物が
プジョー製の四輪駆動車で走り去る姿が入った。

線の細い、軍服姿のハイティーンらしき女性だ。東洋の血だろうか、綺麗なロングのブルネットだった。
しかし自分たちのように泥と砂塵、血の臭いを感じさせない、清潔感のある戦場の空気を纏っていた。

―――東洋の魔女…、スカイウィッチか。
何の用だ?

エレオノールは、彼女達スカイウィッチが好きではなかった。
彼女らはその膨大な魔法力をシールド変換して味方の盾となることはない。
ひたすら味方と寝食を共にし、暗く湿気た防御陣地や掩蔽壕で苦しみを分かち合い、戦線を支えることもない。
百の火砲よりも価値のある、ウィッチでなくては御し得ない、大口径魔導砲を担いで
硬目標を吹き飛ばすために射弾下を蛇のように這い擦る事もない。

勿論、エレオノールとて現代戦における航空優勢の重要さは骨身に染みて知っている。
対地攻撃型や攻撃ヘリ型ネウロイに追い掛け回された経験も、一度や二度ではない(大半は撃墜したが)
要は鬱屈とした感情論なのだ。

一般兵は、彼らは何の魔力も使い魔の守護も無く、ただその身一つ、
或いは通常兵器だけで勇敢にネウロイに挑む。

見た目や言動は粗暴でぶっきらぼうだが、彼らの大半が実は朴訥な青年で、
自分たち魔女への気遣いを忘れない優しさを持っている(例外は存在するが)
そんな本当はとても勇敢で心優しい彼らを、何故守護しないのか。
運良く授かったその力は、彼ら戦士の傍らで戦乙女の如く行使して当然ではないのか、という感情。

それに、これはベアトリス少佐とアデライド中尉しか知らないであろう事だが、
実のところ、エレオノールはウィッチ養成幼年学校で、強大な魔力容量・密度、制御精度、空間把握…、
その他の優れたスカイウィッチの適正を持ちながら、その道を放棄したのだ。

選ばれし道、と言われている。

普通の魔女は、箒で飛ぶのがせいぜいだ(これも、最近は出来ない者が殆どだが)
彼女らを見るたび、エレオノールの胸中には何とも言えない感情が渦巻くのであった。

―――まぁ、いいか。どこぞのお嬢様なんざ僕に関係ないし。

気持ちを切り替え、中隊長室へ。

コッコッ、と小気味良く、それでいて控えめなノックをしてから。
「エレオノール・べネックス中尉、中隊長に用件あり参りました」
「どうぞ」「入ります」
中隊長室に入ったエレオノールは、その執務机で早速今回の戦闘の事務処理、及び技術研究本部へ
電送する一次報告資料を纏めていた中隊長―――ベアトリス・モルガン・オリヴィエ陸軍機甲猟兵少佐を見た。

―――さっきまで、一緒に戦場で指揮執ってたよね?

尊敬を通り越してもはやぐうの音も出ない。
一種士官用制服を一部の隙も無く身に纏ったその姿は、
ややシャギーの掛かったプラチナブロンドと相まって
完全無欠な戦場の守護神、戦乙女が物語から実体化したかのようだった。

―――僕なんかはさっさと一杯やって速やかにベッドに吶喊したいってのに。

思わずポツリとつぶやく。
「……センパイには敵いませんよ」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
気を取り直してエレオノールは、今回の戦闘での特異事項、及び経過、重要と思われる情報を
さきほど書き留めたレジュメと一緒に口頭で報告を済ませた。

「―――戦車型ネウロイがIRだけではなく短波で物を視ている事の取り敢えずの確認が取れたのは大きいわね。
……咄嗟の時の機転は、流石ねエリー」
ベアトリスが包み込むような笑みを浮かべて付け加え、エレオノールをあだ名で呼ぶ。
面と向かってそう呼ばれると、何だかくすぐったい感覚を覚えて、エレオノールは捲くし立てた。
「い、いえ少佐、本当に賞賛すべきは技術班の彼らです!
その事前知識が無ければ、自分はここにはいません!」
「彼らに直接言ってあげなさい?きっと喜ぶわよ」
「それは駄目です、あいつら調子に乗りますから」
言ってからあっと失言に気付く。ベアトリスはくすりと微笑んで
「こんな時くらい昔みたいにリズお姉ちゃん、って呼んでくれていいのよ」
聞かなかったことにしてくれたようだ。でも弄るのはやめて欲しいなセンパイ…。
「以上です!正規のレポートは2200、こちらへお持ちします!!
何か不足がありましたらお呼びください」
「はい、お疲れ様。ゆっくり休んでね?ああ、それと、本日2130、もう一度ここに出頭して」
「?……何か、ありましたか?」
「まだ本決まりではないの、そのときに話すわ」
つまりまだ僕が知るべきではないという事だ。
「了解しました。本日2130、現在地に出頭します」
「それじゃ、あらためてお疲れ様、エリー」
「センパイも、無理なさらないでください」
失礼しました、と一礼して退出した。

「っと失礼」
「ああ、済まない」
エレオノールは出たところで女性とぶつかりそうになり、
避けつつもこれを支えたが、相手も同じ事をしたためまるで社交ダンスのポージングそのもので
回旋して絡み合ってしまった(しかも相手より上背の低かったエレオノールが女性側だった)。
やたらと気恥ずかしい感覚を覚え、咄嗟に紅潮した顔を伏せたエレオノールはその眼前に飛び込んできた
見慣れぬ白い士官制服と航空機械化歩兵用のズボンを見て、相手が誰なのか認識した。

―――あのお嬢様か。

顔を上げると、その左目にはフソウ・ブレードのガードが眼帯の様に当てられた、
精悍ながらも素晴らしく艶やかな美女だった。年の頃は読めないが、ウィッチなのだ、
20代ということはあるまい。その襟元では、扶桑の少佐の階級章が輝いている。

エレオノールは直ちに姿勢を正し、
感情を制御し紅潮した表情を引き締め(うまく行ったはずだ、と信じたい)
機敏に敬礼を行った。
「失礼いたしました」「こちらこそ」
すこし微笑みつつ彼女も答礼する。彼女が手を下ろしたのを確認するとエレオノールは敬礼を下ろし、
胸の裡の羞恥を隠すように踵を返して足早に司令部の出口へと向かった。
階段に入るとき何となく後方を伺うと、彼女はベアトリス少佐の執務室のドアの前に立ち、
ノックをするところだった。

―――センパイに用事?なんだろう。

まぁ、ニード・トゥ・ノウって奴だ。気にしちゃいけない。
ともあれ、用は済んだ。時間まで少し、ゆっくりさせてもらうとしようかな。





酒は九時半の用事があるため呑めなかったが代わりに宿舎で手料理をたっぷりと拵えて、
セシールとクロエにも一緒に振舞った。勿論、このお楽しみの前に二人にはレジュメと軽食、
それからストライカーの運行後整備を済まさせてからの(かなりの部分はエレオノールが手伝ってしまったが)
夕食である。

「ちゅうい、相変わらずパネェ腕っす!!!」「はぁ……おいしい………」
「まだまだあるから、僕の分を食べない程度にどんどん食べな。
セシール、詰め込まない。クロエ、セシールに肉とられてるぞ」
「これはあれですね、退役したら『高級ビストロ・エリー』開店ですね、わかります」
「セシールちゃん、それ、いいかも」
「勝手に決めんな」
「そんでアタシウェイトレス!!」
「セシールちゃん、つまみ食いは駄目なんだよ?」
「していない姿が浮かばないな……」
「まぁまぁ細かいことはいいじゃな~~~い♪」
「「否定しないんだな(だね)」」
「ちゅういの料理なら~、多少へってもみんなニコニコだよ!!!!アタシが保障する!!!!!」

そんな感じで食事を済ませ、時刻は2110。
エレオノールは私物のタイヤの太い大排気量ネイキッドバイクを司令部邸宅へと走らせていた。

―――結局、どんな用件なんだろうな。

あのスカイウィッチのおねえさんは関係あるのかな?
往けば判るけどさ。

司令部に着く。

衛兵のグランドウィッチ二人が軽機関銃で銃礼をしてくる。
「お疲れ様です!」
「おし」
軽く挨拶と敬礼を返しつつ中へ。

コッコッ、いつものノック
「べネックス中尉、中隊長に用件あり参りました」「どうぞ」
入ります、と室内へ入ると少し薄暗い執務室の中にベアトリスの他にもう一人、
執務机の横に人影が佇んでいた。

―――東洋の魔女。

「遅くに済まないわね、べネックス中尉。ご苦労様」
センパイが僕を呼ぶ声もどこか余所行きだ。
「いえ、ご用件は何でしょう」
「ええ……」センパイが口籠る。何だろう?

「べネックス中尉、貴方には2025を降りてもらいます」



          え?


「  どう    いう、事でしょう」
そんな、まさか。うそ。

「あなたの損耗率が、無視できないレベルに達しつつあります」
「誰よりも敵を斃しています」

ぼく、ただセンパイの   役に

「五度の出撃に一度、撃破されるわね」
「必ず生還しています」

センパイだけの役に      たちたくて   だから

「あなたの機体は、オリジナルパーツの割合が60%以下になっているわ。稼働率はもう限界」
「アデライドさんがいます」

グランドウィッチに

「全力運転でも、スペックの80%の出力も出ていないわ」
「エーテルを焚けば、124%の出力です」
声が遠い、足許が、ふわふわする。視界が ぼやける。

「もう運用試験は、10月で終わっているのよ」
「延長運用に関するレポートは出しました、耐用限界を……」見極めるために。
言葉が詰まる。  試作型であるあいつは、もともと寿命は短い。
限界なのだ、躁手である自分が一番良く解ってる。

「エリー………」
「………」
「アデライド中尉から報告を受けたわ、両脚ユニットのメインシャフトがクラックを起こす寸前なの」

「僕は、   もういらないんですね、 センパイ」
「ちが」

あ、駄目だ、倒れ
「大丈夫か」
闇に尚眩しい、白色の衣にブルネットが映える東洋の魔女に
背中を抱き留められていた。いつの間に。
「離せ……放せ」
無言で立たせてくれた。カッと血が上る。

「センパイ!!どういう事なんですか!!!!それにこいつは誰です!?
『お空のお嬢様(スカイウィッチ)』がハイヒール(航空ストライカー)も履かず!このノーム・ネストに何の用です!!!!!!!」

センパイが息を呑む。意を決したように。



「エレオノール、……貴女にはスカイ・ウィッチになってもらいます」


―――今日はやっぱり最悪についてない。
「2025は、どうなります。セシールとクロエは」
「セシール軍曹とクロエ軍曹は中隊本部直援として中隊長付きになるわ
2025は、モスボール処理の上本国技術研究本部へ、今晩にでも輸送されるわ

こちらの方は、今後貴方の直接の上官となる扶桑―――」

堪えられなかった。
「僕が要らないならそう言ってよ!!!!リズおねぇちゃん!!!!!」
「あなたを喪いたくは無いのよ!エレオノール!!!」
気付くと走り出していた。

途中、視界に入ったストライカー洗車用のデッキブラシを引っ掴み、
それに跨って飛ぶ。

猛烈な加速ですぐに時速120キロを超える。目を開けられない。
更に加速、加速、もっと速く






気がつくと、滑走路脇の草地に転がっていた。

―――墜ちたのか。

骨折は無い、大出血も。
クルージャケットと難燃ツナギが無きゃ、大惨事だったな。
擦り傷だらけの膝が染みる。

体を起こして、体育座りになる。
惨めだった。軍人のすることじゃない。
免職かもな。泣けてくるよ。

立ち上がり、整備格納庫へ行ってみた。
若い整備兵が、エレオノールの姿を見て酷くぎょっとし、
慌てて自分の油染みた整備ジャケットをエレオノールの肩に掛けつつアデライドを呼ぶ。
僕、分厚いジャケット着てるってば。

そりゃそうだ、普段男みたいに肩で風切ってる僕がデッキブラシを後生大事に抱いて、
悪い魔法使いに乱暴された可哀想な魔女みたいに泣いてるのだ。
びっくりもするだろうな。

アデライドさんは、ルクレール2025コンセプトのモスボール処置を終え、
輸送機用重機載パレットにワイヤーとバンドで固定しているところだった。
仕事速すぎだよ、アデライドさん。

アデライドさんは全部知っているのだろう。
お別れを言ってやんな、と言い、肩を叩いて、それから整備班を全員連れて外に出て、
コイツとふたりきりにしてくれたくれた。

何度も命を救ってくれた、騎兵のランスみたいな長砲身戦車砲、52口径120mmF1-TKGUNを構え、
よく見ると幾何学的なステルスデザインのあちこちに被弾修復痕が残りえくぼのようになった
少しバランスが悪い、空っぽの鎧みたいなそいつにそっと触れた。


「元気でな………」
涙が溢れた。僕こんなに弱かったかな。

何となく、

そんな気分だったから

哀切に掠れるような声で

Mon petit oiseau
A pris sa vole

Mon petit oiseau
A pris sa vole

A pris sa, à la volette
A pris sa, à la volette

A pris sa vole

二人きりには広すぎる格納庫に声が響く、別れを惜しむ声が。


「いい歌だな」
バッと振り返る、同時にG11Kを装填しつつ抜き切る。
完璧なウェーバー・スタンス。安全装置は外れている。魔導加速、最大出力。
「何だよあんた、誰なんだ」
「出雲 涼という。扶桑で少佐をやってる。名を聞くなら自分から名乗れ」

「エレオノール…………べネックス、ガリア共和国陸軍、オルレアン独立試験猟兵連隊
第3機械化機甲歩兵中隊第3小隊長、猟兵中尉だ」

「そうか、よろしく頼むエリー中尉」

エリー呼ばわりかよ、上等だ。

「よろしく涼少佐」

言われて、涼は笑ったようだ
「ところで、そろそろそれを下げてもらえないか?鯉口を切る前に鍔に親指が張り付いてしまう」
見ると、涼は超高圧な魔力が篭ったフソウ・ブレードのシースとガードに左手を添えていた。

今どきブレードかよ。剣気だけで僕を十回は殺せそうだな。覚めた目で観る。
まぁ僕も、装甲車くらいなら一撃で頭から尻尾まで撃ち貫けるけど。

ホルスターにG11Kを仕舞う。センパイに貰ったG11K。
全く同時、涼もブレードから手を離す。ガンベルトみたいな吊帯だな、拳銃あるじゃん。
サムライか、これが。おっかねぇ。

胸の裡で呟きつつ、このまま全力の抜き撃ちで死合ってみたい欲望が、
抗い難い本能が剥き出しに―――

「ベアトリス少佐が落ち込んでいたぞ」
「わかってる。命令なんだろ」
「そうだ、お前は私の部下になる、エリー」
「気安く呼ぶな、涼。それと、さっきは醜態を晒してしまって申し訳ない。少佐」
涼が華やかに笑う。
「かわいいじゃないか、あのくらい」
「かわいいとか言うな、笑うな、柘榴になりたいのか」

お別れはすんだか。さあ、往け。
涼はそう囁き、デッキブラシを放って寄越した。

―――リズおねえちゃん。





エレオノールは、いつものようにノックせずにそのまま執務室に入った。

ベアトリス少佐、センパイ、リズおねえちゃん

彼女はらしくも無く泣いていたようだ。
尤も、エレオノールが部屋に入った時点では既に泣き止んでいたが。
涙の跡は消せないようだ。
「……申告、しに来ました」
「ええ……」

そのまま執務机の前、約3メートルの位置に立ち、姿勢を正し、敬礼。
「エレオノール・べネックス猟兵中尉、ガリア共和国陸軍、オルレアン独立試験猟兵連隊
第3機械化機甲歩兵中隊第3小隊長は、扶桑皇国軍へ転属を命ぜられました」
儀式、これは紛れも無く儀式だった。永遠か、一時かはわからない、別れの。

「休め」
一部の隙も無く、休めの姿勢を執る。
「……べネックス中尉、本日までご苦労であった。出雲少佐のもとで戦いなさい。武運長久を祈る」
「ありがとうございます。オリヴィエ少佐こそ、御武運を」
「以上」
再び不動の姿勢、敬礼。

踵を返す。力強く前へ。
扉を、「エリー……元気で―――」閉めた。


「もういいのか」
「うん、もういい」

「明朝発つ。明日の0500、エプロンに来い。」
「了解、涼」





それからエレオノールはセシールとクロエを叩き起こし、箒で飛ぶ訓練をしてやった後、
したたか酒をやった。


「箒に乗るんじゃない!全身の感覚を大気と一体化させるんだ!!
風と大気と一体になれば飛べる。つまりそれは同時に、必中に迫る射手となることを意味するんだ!」
「はい!!!!!」「は、はい!!!!!!!」


「だからぁ、クロエは整備班のジャンがすきなんれしょ?なら押し倒しちゃいなさいよ…」
「ちゅ、ちゅういがこわれた……!」
「お、おおおおしたおすなんて、わたわたわたし……!!」
「バッタは死んじゃうけど、その点アデライドさんの部下なら安心だしねぇ……?おっと…」
「エリーちゅうい!しっかり!!!」
「中尉?!」
「ぼくは大丈夫だ!!!酔ってない!!!!!酒だ酒~~~~~~~~!!!!!!
っていうかその凶器があれば大概の男はいちころだっちゅ~~~~のッ!!!!!!」
「うわわわわちゅういどうどう!!!!」「ひあっああぁ~~~揉んじゃ駄目です~~~~~!!!!!」
「がるるるるるる………っく、あっはははははははは!!!!!!」





「ッあ゛~~~~~~~~~~~~~~~~、頭いてぇ………」
「どれだけ呑んだのだ……」

四輪駆動車の車上、エレオノールは頭を抱えた。

―――取り替えてしまいたい………。

「さ、着いたぞ。乗れ」
「えっ」

「こ……これ飛行艇じゃないか!!!!!嘘ッまさかッ!!!!!」
「ん、ああ。我が  扶 桑 海 軍  が誇るUS-2だ」

「かいぐんッ??!??!!!???」
「そうだ、言わなかったか?扶桑皇国海軍少佐、出雲涼だ、と」「いってねぇよ?!」

「そうか、まぁ些細な問題だ。私は出雲で、皇国軍人であることは変わらん訳だし」
「陸と海ってぜんぜん違うし、そもそも空軍だろ普通!!!!」
「む、海軍航空隊を莫迦にするな!!」
「あ、そのごめん……って違う!!!!僕は船になんて乗らないぞ!!!!!!」

「ちゅ~ういってうわっ?!何してんの?!?」「中尉、見送りに……えぇ?!」
エプロンに何とか飛べるようになったストライカー洗車用デッキブラシでへろへろと
到着したセシールとクロエが見たのは、おっかないサムライに強制連行される子犬の如き有様の、
哀れに怯えきったエレオノール・べネックス猟兵中尉の姿だった。

「よッよせぇええええええ!!!!!このオーガ!!黒魔女!!!!妖怪サムライ!!!!!!
僕は船なんて乗らな~~~~~~~~~~~い!!!!!!!!!!!」





―――時は12月―――



良く晴れ渡った黎明の空が徐々に紫に燃え上がるエプロンで、
エレオノールの悲鳴が澄んだ空気に良く響いた――――――




おしまい。



[24398] 航空編 登場人物メモ
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/12/28 14:17
666機械化航空歩兵戦術航空団編 登場人物メモ


ガリア/2名

エレオノール・ベネックス
亡命ガリア共和国派の勢力であるガリア共和国陸軍猟兵中尉。
『カラミティ・エリー・ブラッドヘア』
黑く、紅い髪、焔を秘めた琥珀の瞳、嫋やかな体躯。ガリア最強の猟兵。
固有魔法は『ガン・バレル』識域下認識領域の拡大・物理浸食による事象書き換え、
弾薬内包エネルギを強制増幅、活性化、火砲及び飛翔体の構造強度強化。魔導加速徹甲弾。
(本来、固有魔法ではない、単なる火力強化魔法。実際には、エレオノールは厳密な意味の固有魔法を持たない。
エレオノールの強烈な魔力が、このウィッチとしては何の変哲もない魔法を固有魔法たらしめる)
電子戦隊リーダーとして、攻性突撃を持って敵防空網や高脅威目標をハードキル、ソフトキルし
爆撃隊及び近接航空支援隊の作戦を可能とする突撃任務、DEADミッション、SEADミッション、及び電子戦を行う。
使用機は強力な電子戦能力と戦闘能力を併せ持ったラファールD-X。
代償として、非常にシステムが不安定で扱い辛い機体である。
加えて、試作機なので交換部品がほとんど無い。
(エレオノールに関しては猟兵編についても参照)


モルガン・ベアール
正当ガリア派の勢力であるガリア海軍中尉。
金髪のボブカット、青い瞳。170センチの長身。
良家の子女だが、実家は全ての家財を2000年初頭のネウロイハザードで失っており、没落しているも同然の状態。
固有魔法は『爆裂』弾頭の炸薬を活性化し榴弾効果を強化できる。スクール出身で、エレオノールとは中等過程終業が同期。
ラファールMを駆る生粋の空母乗り。M型はエレオノールのD型と違い既に実戦配備されており、D型と比較すると電子戦性能は劣る
(D型、X35戦闘脚を除くあらゆる機種よりも十二分に強力な電子戦能力を持つ)が冗長性に優れ、信頼性が高い。
電子戦隊二番機、優れた空戦技能を活かし、広域電子戦及び敵防空網への攻性突撃に専念する電子戦隊長エレオノールのウイングマンとして彼女を守る。



スオムス/2名


リーヌ・クスリンナ
スオムス空軍少尉。
銀髪、海のような蒼い瞳。喜怒哀楽の感情が顔に出にくく、物静かな少女。
固有魔法は『暗視の魔眼』これはストライカー用FLIRよりも探知距離が短いものの精細に目標を観察可能で
夜間対地攻撃に優れた能力を発揮する。魔眼使用中はその瞳が紫に輝くが、本人はこれを見られることを嫌う。
ショーコとは正反対の性格の少女。使用機はF-15FF。爆撃隊所属、夜間爆撃任務のエース。


ショーコ・リトマネン
スオムス空軍曹長。士官候補生。
毛先が跳ねた鮮明な赤毛、黒い瞳。元気いっぱいの対地攻撃少女。
固有魔法は『高硬度シールド』強固なシールドを活かして濃密な対空射撃中にも突入できる。
また空対空戦闘に於いては至近距離格闘戦での削り合いによる撃墜を好む。
射撃全般は苦手。が、誘導兵器の扱いは上手い為、A10フライトではなくF-15FFを装備した爆撃隊に配属される。
それ以前はF/A-18Cを駆り、極北の地で戦っていたが、出力不足に悩まされていた。
大食い。



扶桑皇国/7名


出雲 涼
666航空機械化歩兵戦術航空団司令。扶桑皇国海軍少佐、後に中佐。
腰まで届く美しい黒髪、黒い瞳。左目に扶桑刀の鍔を眼帯として当てている。扶桑の旧家、出雲家の当主。
左目に固有魔法でもある『出雲の邪眼』を飼う。発動間は急激な疲労、二倍の魔力消耗と引き換えに魔力を数倍に倍増させる。
魔女としても百戦錬磨のベテランであるが、主にその能力は通常の司令勤務時において存分に発揮され、表に裏に縦横無尽の活躍を見せる。
666TFWWの持つ異常な政治力はほぼ涼の暗躍によるもの。
ブリタニア・ガリア戦線での戦闘経験を持つ数少ない扶桑の魔女。爆撃隊リーダー兼飛行隊司令
使用ユニットはF-15FFシー・ストライク・イーグルdemonstrater
他の隊員の量産型とは出力、兵器搭載力の双方で隔絶した高性能を誇るが反面繊細で操縦が著しく高難度。


土井 環
扶桑海軍少尉。
黒髪のシャギーカット、焦げ茶色の瞳。漁師の娘として育った海の少女。
風を読むのがうまく、高速巡航の先導を得意とする。また、潮の動きを時間の流れに沿って動態的に捉えられるため、
潜航する潜水型ネウロイを発見する技能にも優れる。
固有魔法は『短期的予知』上述の二つもこれによる応用技法。空戦での危機回避にも使用する。
使用機はF-2A。護衛戦闘隊のサブリーダー。


樫城 勇音
扶桑空軍中尉。
黒髪のロング、黒い瞳。中規模工場の一人娘。
ギークであり、レイヤーであり、クラッカー。イタズラに命を掛ける探究者。クラリーチェのよき親友。
固有魔法は『解析の魔眼』遠視は持たないものの、敵重装甲地上ネウロイのコアを正確に捉える事が出来る。機械にも応用可能。
使用機はA-10。近接航空支援隊サブリーダー。

白水 御影
扶桑空軍少尉。
真っ白い肌、黒髪のショートカット、赤い瞳。物静かな少女。
大人しい性格である反面、芯は強くくじけない精神力と忍耐力を持つ。
暗視の魔眼は持たないが、夜目が効き勘が良いため夜間空戦を得意とする。
護衛戦闘隊前衛として攻撃組を狙う敵を確実に減らす。
使用機はF-2A


南坂 喜美佳
扶桑陸軍少尉。
やや赤みがかった黒髪、茶色の瞳。
責任感の強い扶桑組では涼に次いで年長の少女。持ち前の集中力で地上では狙撃、空中では精密打撃を得意とする。
使用機はF15-FF、改造型スナイパー・ポッドとレーザー誘導滑空爆弾による遠距離精密爆撃による狙撃を得意とする。
元扶桑陸軍特殊作戦師団所属のスナイプ・ウィッチ


高野 皐月
扶桑海軍上飛曹。士官候補生。
前髪の揃った黒髪のセミロング、紫の瞳、小柄な少女。
部隊で最年少であり、軍属経験も浅いが精兵揃いの666において懸命に先輩に噛り付き、スポンジのように吸収する天才肌の少女。
固有魔法は『遠見の魔眼』極大遠距離を見通す希少価値の高い両目の魔眼。
敵の動翼を観察しての空戦により未来が見えるかのごとく敵を屠り攻撃組の護衛を行うファイター・エースであり、効果観測手。
地上ではその魔眼が発動しなくとも極端に見え過ぎる視力をセーブするために強力な遠視用眼鏡をかける。
使用機はF-2A。護衛戦闘隊前衛。


陣流寺 龍華
扶桑陸軍中尉。
ポニーテイルにした長い黒髪、黒い瞳の扶桑撫子、筋肉質で身長180の体躯を誇る。スタイルも抜群。
古流武術の名家、陣流寺家に生まれ、そこで男兄弟と共に武の道を修めてきた女武辺。女好き。
固有魔法は『筋力強化』重量級のストライカーであるA-10に、更に大型リヴォルバ・ボム・ディスペンサを4機積んで
成型炸薬榴爆弾による鉄の雨を降らせる近接航空支援隊の巨鳥。



オラーシャ帝国/1名


クラーラ・ウラディミロヴナ・バラノワ
オラーシャ防空空軍中尉勤務少尉。
透き通るような金髪、眼鏡に隠れたくっきりと鋭くも優しげなアイスブルーの色合いの瞳。
溜息をついて疲れた表情をすることが多い為、実年齢よりも年長に見え、やぼったい印象があるが、
鮮烈なまなざしを持つ美女へと脱皮する過程の美少女。その落ち着いた性格のため、他の面子の抑えに回ることが多い。
使用機はA-10(本来はSu-34)、沈着冷静な近接航空支援隊のリーダー。
オラーシャではエリートコースにあたる(ただし殉職率は非常に高い)モスクワ直掩飛行隊所属のウィッチ。
部隊配備が始まったばかりの新鋭機、Su-34を駆り、押し寄せるネウロイから前線に極端に近い首都モスクワを守っていた。
※近接航空支援隊には中尉が二人いるが、最も理性的且つ合理的な思考様式で指揮技能の高いバラノワがリーダーを命じられている。


帝政カールスラント/3名


ヘレーナ=ヴィルヘルミーネ・シュニッツラー
カールスラント空軍少佐。
灰色の柔らかなロングの髪と灰色の瞳。666航空機械化歩兵戦術航空団のナンバー2。
個性的に過ぎる面々に振り回され続ける苦労人。美味しいものが大好きだが、ストレス解消の側面が強い。
バラノワとはよく士官談話室で愚痴りあっている。
飛び抜けて空戦能力に優れるF-2A改を使用し、護衛戦闘隊のリーダーとして若手の多い護衛戦闘隊を率いる。


オティーリエ・ハーケ
カールスラント空軍少尉。
金髪碧眼のショートカット。いつも眠そうなぼんやりした少女。
固有魔法は『高硬度シールド』ショーコと共に爆撃隊の前衛として後続の盾になり、必殺の一撃を叩き込む補助をする。
使用機はF-15FF。


ジャンヌ・ヴァルツ
カールスラント空軍准尉。飛行隊先任准尉。
ボリュームのある長い茶髪、青い瞳、成熟した身体の少女。
姉御肌で年少組の世話を何かと焼く。ガリア人であるがネウロイハザードの際、民間人であったジャンヌはリベリオンに脱出、
リベリオンに退却していたカールスラント空軍に入隊するという複雑な経歴を持つ。
生粋のエリートコース、ガリアン・ウィッチ・スクール卒業生であるガリア組に対する感情は複雑。
F-15FFを装備し爆撃隊の殿を飛ぶサブリーダー。


ロマーニャ公国/3名

クラリーチェ・アルベティーニ
ロマーニャ空軍少尉。
亜麻色のツインテール、焦げ茶の瞳、幼い外見の小柄な少女。
GAU-8Wガンポッドを追加で2機装備して計三門の大砲を抱えて飛ぶ超絶パワー信奉のA-10乗り。喋らなければ可憐な乙女。
『特殊な創作活動』に勤しんでおり、ファンが多い。印税で実はプチリッチ。勇音の親友。
近接航空支援隊の突撃手。


ティツィアナ・リッピ
ロマーニャ空軍中尉。
色素の薄い柔らかな三つ編みの金髪、蒼い瞳、そばかす。
世間知らずなお嬢様。対空戦闘技能と電子戦技能を併せ持つ電子戦ウィッチ。
ラファールD正規型(エレオノール機のデータをフィードバックした量産タイプ。失速しにくく運用性が向上している)
を駆り、電子戦隊のサブリーダーを務める。

リョーコ・バッシス
ロマーニャ海軍少尉。
ふんわりした黒髪のおかっぱ、蒼い目、扶桑、琉球の血が入った陽気な少女。お酒が好き。
ラファールMを装備して電子戦隊として敵と戦う。



[24398] ハード・ナイス・ランディング
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/11/22 02:42
ハード・ナイス・ランディング


「今回の訓練は、お前たち陸空軍ウィッチのストライカーによる初の発艦、及び着艦訓練だ。
全員、座学とシミュレータは済ませたな。ま、個人差はあるようだが…」
教卓に立った海軍少佐、出雲涼がそう切り出す。
エレオノールは、その最前列に座ってじっとその言葉に耳を傾けていた。

―――いよいよか。

実機での飛行は、陸上基地の滑走路を用いて散々行ってきた。
エレオノールのストライカーは、故郷ガリアのダッソー製ユニットだ。


ダッソー社製
RAFALE‐D-X
TYPE-Discre(ステルス)試作機。


固有名「Roland」

扶桑の連中は「ラファールD」って呼べって煩いけど、いいじゃないか、ロラン。
技術研究本部もたまにはセンスいいな。
ややずんぐりした胴体は、エレオノールの希望でフェライトブラックのスプリッタ・パターンだ。
これも扶桑の連中はロービジに塗れって煩いけど、この色のネウロイが一番墜とし難かった。
間違いない。

ともすれば重攻撃型ストライカーに見間違えそうな
電子戦装備を満載した太くて滑らかな脚部ユニット
(実際、電子戦能力はAWACSに迫る勢いだ)
これぞ近接格闘火器そのものといった感じのストライカー右膝内部に装架された
DEFA791B/30mm機関砲
(エンクローズド・ガンとか言うらしい。どうでもいい)
そして高機動性能。機動力は命だ。
(猟兵時代僕がやってたのと同じで、フライトコンピュータ・インターセプトコントロール、
あらゆる局面で操手の操作信号を優先するFBW制御より上位の制御プログラムで機動性を増しているらしい。
僕天才だったな、実際)

最高だった。扶桑の連中、加速が悪いだとか、最低失速速度が速すぎるだとか、
すぐ操縦翼面気流剥離するだとか、まぁ喧しいけど、
戦車型陸戦用ストライカーよりどれだけ加速性能に優れることか。
森林に高速機動で突入する何倍気が楽か、要は高機動の前にサイドスリップで予備機動掛ければいいだろ。
後は、ビビらずダイヴしてスロットル開ければいいんだよ、慎重にガバッと。

まぁともかく、陸上飛行場ならもう楽勝って事さ。


何度か墜ちたけど。

そんときゃ、整備班に侘び入れて手料理差し入れしたもんさ。

…………お、おとこのひとに食べてもらうの、初めてだったけど(変な意味じゃない、料理を、だ)


まいい。

で、今回の訓練だ。

「今回お前たちには、実際のコンバット・ロードで飛び立ってもらう。
訓練から本番に準じて行うのは当然のことだ」
まぁ、そうだな。
「機械化航空歩兵母艦、たいほうから宮菱製電磁加速・火薬イニシエート・ハイブリッドカタパルトで射出、
35海里の洋上航法訓練を行った後、地上飛行場訓練用飛行甲板で着艦の訓練を行う」
写真がスクリーンに表示される。陸上の滑走路にたいほう飛行甲板を模した設備が仮設されている。
なるほどね、あれを船だと思えってことか。

「航法訓練では、まず私が曳く。早いところ覚えてくれ」
偉っそうに、涼の癖に…………。まぁ、偉いんだけどさ。家も、扶桑のエンペラーにゆかりがあるとか
あの時の「私が出雲で―――」って台詞はそういう意味だったらしい。ガリア人が知るかっちゅうの。
でもそんな高貴な血筋なら、何でこんなとこにいんだ?そういや。まあいいか。
それに僕だって確か一応由緒あるガリア貴族の息女なんだ(数代前に没落したらしいけど)

その後、細かなプラン、手順が明示される。悔しいが、この辺の手並みは流石だ。
センパイより凄い。センパイほど優しくないけどな。

おおむね総ての網羅すべき事項が伝達され、そろそろかな、と思っていたとき。
「エリー中尉」
「はい少佐」
「お前の機体はそもそも離陸速度が速い、そのうえ爆撃機並に電子兵装が積まれてる。
なので離陸用ロケットモーターは他の倍使う。それと特殊装備の拘束用アンカーショット四基。
アンカーショットの使い方を整備班にレクチャーしてもらえ。衝撃で気絶するなよ」
「誰に言ってんだ、涼。戦車型に直撃弾貰ったってノックアウトしないよ」
「そうか、ならいい」
涼が華のある笑みを浮かべる。むかむかする。
「以上、解散」
ともあれ、ここから僕の空母乗りの道は本格的に始まるって訳だ。

いいな、この感覚。スクールでセンパイの尻追っかけてた頃みたいだ。
さぁ、行きますか。ロランの所へ。





『カタパルトセット、ギア、アンカー、ロック』
「チェック OK」

『スロットル、ミリタリー』
「ミリタリー OK」

『ロケットモーター、セイフティ、オールオフ』
「チェック OK」
『マーシャラー・テイク・シェルター』
「クリア OK」
『クリア・トゥ・テイクオフ、オールレディ、ローンチ、ノーム』
「ノーム、オールレディ」
『スロットル、マキシマム』
「マキシOK、メーター、オールグリーン」
『イニシエート・モーター』

ゴッ!!!!!!
尻にくっ付いたどでかい鉛筆みたいな
無地の金属が眩しい二本の筒がその先端のノズルから爆炎の奔流を吐き出す。
全身がビリビリ震える。ロケット・ブラスト・ディフレクターが爆炎を上へと逸らす。
「くうぅ……!」

『ノーム、ローンチ』
「ローンチ」
がちり、ワイヤ切断ボタンを押し込む。

カァン!!!!
「ッッ!!!!!!」
鋭い金属音と共にカタパルトレールから蹴りだされる。
Gで視界が黒くなる。背中から血が全部抜けそうだ。
必死で引き起こし。スロットルはマキシマムのまま。
ギア・アップ。燃焼を終えたモーターを投棄。OK。
「………っはぁ!!!」


『グッドラック、ノーム』
「サンクス、タイホウ・コントロール」


さあ、後は涼の尻に付いて陸に出る。
その後は、いよいよ着艦訓練だ。
『ノーム、落ちなかったようだな』
「莫迦にするな涼」

―――とはいえ、相当きつかった。もっと体力必要だな。
(そもそも勘違いされがちだが、エレオノールはそんなにスタミナが無い。
ありあまる根性とありあまる魔力強化で誤魔化しているのだ。根源的に根性者なのである。)

「さぁ、行くぞ、早く編隊に入れ」
今度は距離が近いからナノマシン通信だ。

あせる気持ちを落ち着け、編隊に入る。

『全員そろったな、では行こうか』
一路、飛行場へ。





やばい。

これはやばいよ。

「よし、まぁ何とかここまで誰も落ちなかったな。先は長そうだが」
「…………」
「さぁ、お前の番だぞエリー」
「……………」
「どうした、緊張しているのか」
「………………………僕……無理」
「…………ん?」

涼が僕の様子に気付く。ああ、死にたい。何でここ掩体無いんだよ。
くそっニヤニヤしやがって。

「行かんのか」
「だってあれ小さいよ小さすぎだよ!!!!!!!
何だよあれ飛ぶまで気付かなかったけど上から見たらランディングゾーンテニスコートみたいじゃねぇか!!!!!!!
大体何だよ航空機械化歩兵運用母艦って!!!!!普通正規空母だろ!!!!!!!
ってかやっぱり海軍なんて無理だぁあああああああああ!!!!!!!!!!!」

「US-2の中で言わなかったか?航空機械化歩兵運用母艦、たいほうと」「いってねぇよ?!」 

「そうか、まぁ些細な問題だ。空母には違わないんだから」
「いや空母と、ってなんだこのデジャヴュ!!!!!!!」
「む、扶桑の誇る新鋭艦を莫迦にするな!!」「続けんなばか!!!!!!!」

「ほら、どうしたんだ猟兵中尉、ガリア機甲猟兵は腰抜けなのか?」
「くううぅ……!!」
あ、アプローチを変えやがったッ!!!!!!

えい、ままよ!!ガリア機甲猟兵は退かない!!!!!!
「ふー、はー、ふぅうう~~~~~はぁああああああ~~~~~……!!!!」
「産気付いたのか」「死ねばか!!!!!!!!!」


こうなったら……!!!!!!
「MERDE!!!!!!AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

急降下、フラップ全開、スパイラル・ダイヴ!!!!!
みるみる滑走路に近づく。高度が『墜ちる』

『の、ノーム!!!グライドスロープに、糞!!!バリケードスタンチョ出せッ!!!クラッシュバリア展開!!!!
おい!!!!レスキューとファイアステーションを出せるようにしろ!!!!』
コントロールも大混乱だろう、ごめん!!!

前方に仮設甲板。だがエレオノールはそこを全く見ていなかった。
「おううううううりゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
腕をクロス・ガードに構える。みるみる墜ちる速度、高度!!!

今だ!!!!!!「シールドッ!!!全開ッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
ヴヴヴヴヴンンンンッ…………!!!!!!!!!!!!!!
全力全開のシールド生成に爆圧のようなエネルギーが球状に広がり、大気が唸る。ストライカーがフレームアウトする。




―――あ、このシールド爆風、攻撃に使えるな。

敢えて現実逃避してみた。




ボグシャァアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!
「えげぁああアアッぶふっっ!!!!!!!!!!!!!!!」
うら若き乙女の出す声ではなかった。知ったことか。


体に何かが絡みつく。

言うまでも無く、バリアフェンス(クラッシュバリア)だ。





ミヤビシ・ヘヴィ・インダストリー製の最新技術、得体の知れない素材の。
多分化学繊維。エステル基の組成だと思う。

気になるなぁ。ピペットしてぇ。

また現実逃避してみた。





だって、その…………リベコミのヒーローの蜘蛛男に捕まった小悪党みたいなんだもん、僕。


ああ、でも、


陸って素晴らしい!!!!!!!!!!!
ラヴ・グラウンド!!!!!いやガイア!!!!!!!!


テンションが上がってきた。後で下がるのは日が昇り沈むより明らかだが、敢えて勝ち誇ってみる。
家畜以下の物体を視る眼でこちらを見下す、出雲涼に。
「見たかゴルゥア!!!これがガリア機甲猟兵だ!!!!!!!!!不退転だ!!!!!!!!
バーカバーカ!!!!!!!オーガ!!!!黒魔女!!!!!!妖怪サムライ!!!!!!!!」






―――――――――虚しかった…。









「あの、……ほおって置いて良いんですか?出雲少佐」
おずおずと、土居少尉が声を掛けてくる。
「構わん、捨て置け」
冷たく言い放つ。

地上では、まだネットに絡まったままのエレオノールがウゴウゴと蠢いていた。
ここまで届かないが、何やら喚いている。

―――全く、その勇気があれば後は冷静になれば訳無いだろうに……。

涼は呆れと感嘆が入り混じった複雑な胸中であった。
事実、彼女は普通の滑走路ならば素晴らしい短距離着陸を決める。
あとは場数なのだ。

飽きないな、あやつは。

「暫くああして、頭を冷やせばよいのだ」
「は、はぁ………」

「しおらしくなったら、助けてやろう」
「ええぇ……べネックス中尉に限ってそれはないですよぉ………」
そうして涼は、くつくつと本当に愉しそうに、サディスティックに嗤った。




「まぁ、見ていればわかるさ、……かわいい奴なんだぞ」
土井少尉は空であることを抜きにしても、背中に怖気が走るのを感じた。





余談だが、件の新型制動ネットはこれ以降『ベネックス・ネット』の通称で呼ばれることとなり、
後の統合軍CVW建造ラッシュの際、どのような状況下でもウィッチを安全に回収可能な当装置はCVWのグローバルスタンダード装備となり、
国外輸出版、ライセンス生産版の商品名もまた『ベネックス・ネット』であった。


―――ハード・ナイス・ランディング―――





おしまい



[24398] ウォー・デュエル・ジャンキー
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/12/18 13:30
ウォー・デュエル・ジャンキー


ドココココココ!ドココココココ!

たいほう後部甲板に軽機関銃の射撃音が響く。
それに合わせて、艦尾から曳航された射撃標的が揺れ、或いは跳ねる。
だが、命中しているわけではない。ウィッチの魔力で発射された弾丸の威力で海面が煽られ、
それで標的まで揺れているだけだ。

エレオノールは、腕を組んでぼんやりとその様子を眺めた。

「へたくそ」
ぽつっと呟く。
「なんか言ったかッ?!」
バイポッドを立てた7.62mm仕様M249に抱きついてプローン姿勢を取り射撃訓練をしていた
ショーコ・リトマネン曹長が、エレオノールのような中途半端なものではない
ぴんぴん毛先が跳ねたショートの明るい綺麗な赤毛を振り乱してがばっと振り返る。

ちっ、聞こえてやがった……。
「いやぁ、スオムスではもしかして味方ごと撃つのが流行なのかねぇ、って思ってさ?
ああ、至高のスナイプ・ウィッチ、シヴィ・ヘイヘを輩出したスオムスに失礼だった、悪かった訂正するよ。
ショーコはスオミンの癖に射撃が下手だなぁ、って思ってさ」
「あぐぐ…!!あ、当たる距離に近付いて撃てばいいじゃん!!!!!
大体、エレオノールに言われたくない!!!!あんた、こないだの大型ネウロイに
30mmの砲身突き刺してぶち抜いてたジャン!!!!部隊一突撃バカの癖に!!!!!」
「はン、それで言い訳は終わりか?へたくそショーコ。
あれは、ちょっと硬くてでかかったからああするのが一番手っ取り早かっただけさ。
それと、エレオノール中尉、だ」
「こぉおおのおおおおおお!!!!」

猟兵が突撃すんのは当然だろうが、ばーか。魚が泳ぐようなもんだっての。
「はぁいはい、いいからちょっとどいてな。僕がお手本を見せてやるよショーコおじょうちゃん?」
「ユニット内装式機関砲に頼ってるあんたがうまいってんだ、いいじゃん見ててやるよ!」
言いながら、ショーコのいた位置に立つ。ショーコが即席レンジに据え付けられたレーザ側遠器付き砲隊鏡にかじり付く。
(砲兵部隊が使う据え置き式のやたらと重くて巨大な双眼鏡だ。何でこの船こんなもん積んでんだ)
「見てな」G11Kを抜く。
「?…バカにしてんの?ハンドウェポンであたるわけ無いでしょ」
わかってねぇな。ま、いい。

体を横にし、初弾を装填。まっすぐと右手をワンハンド・スタンスに構え、
タタン!タタン!タタン!タタン!タタンッ!
セミオートでダブルタップ。
「観測、どうよ」
「……………………………全部、命中」
「はん。ま、セミなら当たり前だな」
カシュ、シャキン。G11Kに新しいマガジンを差し込む。ボルトをリリース。装填よし。
大型のトリガーガードをフォアグリップとして握りこんだ完璧なウェーバー・スタンス。
セレクターをフルオートに。魔導加速、速射出力。

多重魔法円が機関部から銃身を包むように浮かび上がる。
エレオノールが『ガンバレル』と呼んでいる固有魔法だ。
魔法円を展開、対象(この場合、弾薬と銃)の内包エネルギー増大活性化・靭性強化、
魔導加速撤甲弾。結果として貫通力を高めるアクセラレート・ソーサリー。

ドヴォオオオオオオオオオオオオッキン!!!!!
標的が微細に振動する。遠目に見ても瞬間的に表面が蜂の巣になったのが判る被弾濃度。

薬室をしっかり見てから腰に左手を当てゆっくりと銃口を口許に寄せて、ふっ、とたなびく硝煙を吹き散らす。
「どうよ」
「……………ほぼ全弾命中だよバカ!!!!!言わなくてもわかってんだろ!!!!!」
「うん」
「なんでなのよー!!!!!」
ショーコが叫ぶ。本人は射撃の腕は気にしていないようだが、エレオノールに負けるのが納得できないようだ。
「お前、箒乗れる?」
「何だよ脈絡が無い!ストライカーがあるのに箒なんて乗んないよ!関係ないでしょ!!」
「箒、練習したほうがいいぞ。風と友達になれ」
「何でよ」
「それで中るようになる」
「本当だろうナ!?嘘だったらタダじゃおかないぞ?!」
「本当だから、安心しなおじょうちゃん」
まぁほっといてもちゃんと練習するんだろうな。そこは素直にえらいと思う。
こいつ、筋はいいからすぐだろうな。

―――僕の場合、もっと練習したいことが最近はある。
   だからこれしか持ってこなかった。

一度、G11Kをホルスターに仕舞う。
「ふううぅぅぅ、はぁあああああぁ………」
心身を制御する。

ヒュバッ!!
空気を切り裂く音を立てて、フソウ・ブレードの居合いのように
稲妻のような速度でG11Kを抜いて構える。

キリ………
引き金はハンマーが開放される限界まで絞られて止まっていた。
「……くうぅ」
ブウゥン………!一拍遅れて先程より高密度で立体的な多重魔法円が浮かび上がる。魔導加速、最大出力。
ダァンンッ!!!!

野砲のような射撃音が鳴り響く。両手が上に跳ねる。
装甲車を一撃で貫く弾丸で、曳航標的が粉々になる。
「ああぁ~~~~~~ナニしちゃってんの!!?!?!!こ、壊れちゃったジャンバカ!!!!!」
「あれは今日で終わりだったんだよ。替わりはもう倉庫にある。射撃教官は僕だぞ?」
「そういう問題?!」
「僕がいいッつってんだからいいんだよ」

―――これじゃ、駄目だ。

「………これじゃ、勝てない」
「何にさ」
「別に。さ、今日はお仕舞いだ。お前の場合、弾がもったいないから空撃ちで姿勢作りからだな。
その銃、ちゃんと明後日まで手入れするんだぞ」
腰の横くらいで後ろに手をひらひら振って格納庫へ。
「バカニスンナ!するよ!」
興奮したときに出るスオムス訛りでちょっと片仮名っぽい発音になりながらショーコが言ってくる。
別に、疑ってないよ。


1


たいほうの一般食堂で(士官食堂は肩が凝るから嫌いだ)食事を摂っていると、
向かいにでかい奴がどかりと座った。
「ここ、いいか、エレオノール」
「もう座ってるだろ、龍華」
陣流寺龍華中尉が、それを受けて呵呵大笑する。
「がっはっはっは!!!それもそうだ!!!!エレオノール!!!俺としたことが一本取られたよ!」
「………お前、僕が言うのもなんだけどもうちょっと女らしくしたほうがいいよ……」
少しきょとんとしてから、龍華は実にセクシーで男前な笑みを浮かべ




「そんなことは無い。お前は可愛いぞ、エレオノール。
お前の作るガリア料理なら毎日食べたっていい。俺のところに来い」

などとぬかした。


「ゴふッ!!!!!」
フいてしまった。


MERDE!ああ、顔どころか耳と首まで熱い。
「畜生!このばか!!!!そういうのは!……えーと、そその!!決めた相手に、ってお前女だろうが!!!!!!」
「問題ないさ」「大ありだばか!!!!!!!!!!!!!!」

落ち着け、落ち着くのだエレオノール・べネックス猟兵中尉。
ガリア猟兵は敵を前にうろたえてはならない。
「ふうぅうう……」「俺の子が生まれるのか!?」「おまえちょっとだまれよ!?!?!!!??!!」
ガン!!!!G11Kのグリップに右手を添え、左拳で机を殴ってしまった。
「はっはっは!!!!!!エレオノールは愛いなぁ」
動じてねぇし!!!!コイツの場合僕が本気で撃ってもぴんぴんしてそうだ。

周囲はドン引きで砲弾・破片を防護出来るモノの陰に隠れていた(僕の駆る銃器火砲の絶大な威力は良く知られている)
「………で、何の用だよ、わざわざ」
「おう、それよ。そうなのだ。エレオノール」
龍華が笑みを浮かべて瞑目し、腕組みをして大きな掌でごっしごっしと顎をしごく。いちいち男前な龍華であった。
何でこんな奴が僕より胸大きいんだ。
(というか、爆乳だった。現に今もその機雷のような胸が組んだ腕に強調されていた。
貌も、漢らしい所作で間違えがちだが、とても扶桑撫子だ)

―――僕の胸は別に小さくない。明言しておく。

眼を開き、凛々しくこちらをまっすぐ見つめる。
「肉体強化系魔法を教授して欲しい、という事だったな?」
………まじめな用件だった。その話か(切り出し方まで格好良かった)

「……うん、頼めるかな」
「一晩で」じゃきん!ホルスターに格納したままG11Kを押し下げてボルトをコック、薬室に初弾を叩き込んだ。「いいぞ」
「くッこっ………!!!!」この野郎!!!!(野郎じゃないけど)
ホントに撃ってやろうか、エレオノールが真面目に検討し始めたとき。
「ま、今回はツケておいてやる」
「…………ありがとう……?」
何か引っかかるが、とりあえず教えてくれるようだ。

エレオノールも肉体強化は戦闘間・日常問わずに必要とあらばしているが、龍華のそれは次元が異なるのだ。
エレオノールのそれは魔力量に頼った雑なそれだ。地獄のような第二次ガリア解放戦線、北部アフリカ、中東の熱砂で
生き抜くために必死で自ら編み出した適当で野生的なモノ。
「ああ。というわけで、手を出せ、エレオノール」
そう言うと、龍華はおもむろに右腕を腕捲りして、卓の上に肘を乗せて、直角に構えた。
「アーム………レスリング?…これで体得することが出来るのか?」
「いや?適当だ」
……………いちいち突っ込んでは負けだ、エレオノール。

兎も角、エレオノールも腕捲りをして、龍華の掌を握った(あ…龍華の手、大き………っておい)
「では、往くぞ。この状態なら、魔素の流れが直截的に感じられるだろう。
俺の魔力制御を感じて、そのままそれをやるんだ。」
「うん」どうやら、真面目な修行になってきた。
「よし」龍華が笑い、その体躯が燐光に包まれる。

凄い。

魔素が、血流に乗って魔力の根源たる心臓から、龍華の全身に満ちていく。
それを感じる。

魔女の力は、血である。そして、その根源は心臓だ。
別に、血液を作っているのが骨髄であるだとか、血を蓄えるのは肝臓だなどという
医学的事実を知らない魔女はいないだろう。魔女はイコールで軍人だ。
傷病に対する応急処置の知識くらい誰だって持っている。

だが、『そう信じる』、その力が、魔女の力の根源となる。『魔女の血の根源は心臓である』というルール、
『血こそ魔力である』という、真実が、単なる事実とは別に存在するのだ。
幾星霜の魔女の信じてきた、これからも信じるルールが。

「……」
エレオノールの体も、燐光に包まれる。
最初は不器用に。次第に、しっかりと。

いつの間にか、周りにはギャラリーが人の輪を作って、固唾を呑んでその瞬間を待っていた。
そこから一人、進み出てくる。
「わてくしがジャッジをしてあげましょう」変な訛りだった。何処の訛りだろ。

ヘレーナ=ヴィルヘルミーネ・シュニッツラー少佐だ。666部隊のナンバー2。
トップがあの涼である。みんなのお母さん役としてこの愚連隊を纏めている彼女の苦労は計り知れないであろう。
同情に余りある、とは、言えなかった。エレオノールとて自分が、原隊のベアトリス少佐と利害が一致していたとはいえ、
涼が手ずから引き抜きにガリアくんだりまで直接足を運んでヘッドハントした『逸』材であると自覚している。
しかしあいつ、どこで僕のウィッチ・スクール、他国の(ウィッチは国家の重要な戦略的軍事力だ、そのデータは厳重に秘匿される)
それも幼年学校時代の兵科適性資料やら成績なんて手に入れたんだ………?
まぁ……大方それもまた、『私は出雲だぞ』で済ますな。便利だな、出雲。

まぁかわいそうな人である。ヘレーナ少佐。
「……べ、べネックス中尉?何でかわいそうな人を見る目をするのかしら……?」
「申し訳ありません少佐、お願いできますか」
「え、ええ……否定してくれないのね…」
「俺も構わんぞ」
何でお前はそんな偉そうなんだ龍華。僕と同じ中尉でしかも僕のほうが先任な位なのに(涼は、話が別だ)
「お礼に後で夜食作ります」
「あら、いいわねお願い」
花が咲いたように微笑む少佐。彼女は美食家なのだ。腕が鳴るなぁ、何作ろ。
「おお、そりゃいいなエレオノール、俺は」「お前には作らないぞ」
…………くっ、捨てられた犬みたいな顔すんな……!!
「…わかったよ」merde,また負けた……。「おう!愛してるぞ!!!」
「なッ?!??!!」「お前の料理を」にやり、じゃねぇ!この野郎……!!!!(野郎じゃないけど…………多分)

「は…はじめていいかしら……?」
「お願いします」「頼む」

「では………レディ・G「墳ッ!!!!!」「ぅあうっ!!!!」
瞬殺だった。何だ墳て。






「………………」
少佐を見ろ、龍華。たいそう引いていらっしゃるぞ。
周囲は、人の輪が数メートル半径を広げていた。


「さ、次だ。  肝…魔力を練れ、エレオノール」
お前一瞬『肝練れ』って言おうとしたよね。

「……ああ」体躯の隅々まで、魔力を充ち渡らせる。


もっと。さっきより強く。
―――あいつより、強く…!

「……いい魔力だ」
龍華が笑う。


「少佐、お願いします」
「…………ええ」




「では…………レディ・「剄ッ!!!!!!!!」「きゃうッ!!!!!!!!!」

………少々女々しい声が出てしまったようだな。さあ次だ。
「…少佐」
「はい」
少佐が小さく見えた。


心の中でガリア共和国猟兵突撃行軍歌(1番)を歌った。

「レデ「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!」「ヌうぅッ?!!?!!」
フライングしてみた。


いい勝負だ、今度こそ………!!!!!!

これが………龍華の見ている世界!!!!
なんというアクセル感!!!全能感!!!!!!たまらないッ!!!!!!!!
周囲のギャラリーもやっとでお目にかかれたお楽しみに大いに沸き立つ!
口笛が、囃し立てる声が、足踏みが!!!!総てが手に取るように感じ取れる!!!!!!
「その表情ッ!!!!!見えたようだなッ!エレオノールッ!!!!!」
「ああッ?!どんな表情だって?!?!!!!!」
「恍惚に火照る美しい表情だ!!!!!!!」

メメタァ!!!!!!!!!!!!!
僕は上半身ごと食堂のテーブルに叩きつけられていた。




ええと。僕、公開リンチされてるのかな、これ。

エレオノールの上気した肢体が、無防備にもテーブルの上に仰向けで投げ出されていた。
「……お前…………美しいな」龍華がそこに覆い被さって来る。唇が―――

あ、違うこれ公開レ○プだ。

「ってうまくいくと思うのかゴルゥア!!!!!!」「ごッふぅ!?!!」
膝を鳩尾に叩き込んで右脚で絡め取るようにマウントからスイープ、
馬乗りになってとうとう抜いたG11Kを突きつけた。魔導加速、減衰出力。
エロモードに入った龍華は隙だらけだった。
「…お前が上か、それもまた」「落ちろ」ガッ!!!!!!
グリップを首筋に打ち込んで落とした。

「………少佐、医務室まで、運ぶの、手伝って、ください」
息も絶え絶えだった。

「…………」
床にへたり込んでいた少佐が、監禁された哀れな少女のようにコクリと小さく肯く。

突如始まった第二のお楽しみを見ていたら急激な展開に置き去りにされて
阿呆のような顔をしていた周囲のタコスケ共を威嚇しつつ猟兵流の言葉遣いで解散していただいた。
『(意訳)さあみなさま?これでイベントは終わりになりましたわ、
どうかこちらをそんなじろじろと見たりなさらずに、それぞれの仕事に戻ってくださる?』
って感じで。


2


晴天。たいほう飛行甲板には、満月の月光が降り注いでいた。

完全にくたばった龍華を両側から支えて引きずろう………として無理だったので二人で神輿のように仰向けに肩に担ぎ、
そのまま医務室まで運んだ後(通る先じゅうで見られまくっていた。龍華め、いい気味だ)エレオノールは一人で後部甲板に戻って
ひたすら魔力制御の練習をした。ガリア陸軍携行糧食(扶桑の缶飯は食い物ではない。あれは投擲武器だ)の
クラッカーとディップ、ペットボトルの水で疲れを癒しながら夜中までずっと。

「ふうううううぅ、はああああああぁ………」
キィイイイン………、甲高いノイズが耳に入り、感覚がアクセルされる。途方も無い高揚感。体が燐光を纏う。
世界は僕のものだ。そんな気分になってくる。どうにかやっと完成した。フィジカル・アクセルと呼ぶことにした。
本当は龍華の家の流派の名前が付いた肉体躁法らしい。扶桑古語の技名は長くて覚えられなかった。
どのみち、龍華ほど完璧じゃないし、亜流だろう。僕の本来の野生とも混じっている。
固有魔法、という程希少でも強力でもない。

G11Kを構える、少し崩れたウェーバー・スタンス。
ガンバレルを………魔導加速…最大出―――

ズキン!「くうぅ!」側頭部が締め付けるように痛む。
纏っていた燐光が霧散する。途端に頭が冷える。スタンスが整う。
本来の固有魔法、ガンバレルが遅れて生成される。魔導加速、最大出力。

―――同時使用は無理か。

ならば、

キィイイイン………、甲高いノイズ。
フィジカル・アクセル。

ディスペル。魔素再配列。燐光が霧散せず凝集、ガンバレルを形成する。
魔導加速、最大出力。

―――よし!

ガンバレルの最大出力は、ストライカーの支援が無い生身だと約0.7秒かかる上、
同時に肉体強化を殆ど行えなかった。それが最大のネックだった。このやり方だと、タイムラグはほぼ無し。
しかも撃つ寸前まで今までとは全く違う強化精度で肉体を、というより敏捷性を強化できる。
膂力は今までと比べそこまで向上しなかった。そもそも龍華とは地力が違う。

今度はこのディスペルからのスイッチを練習する。
まずは、立ち止まって。次に、動きながら。
最後に、全力の躍動から。

―――これならば。




―――ちき、ちき、ちき、ちき、かちり。
最後のマガジンに、4.73×33 DM11ケースレス弾を込め終える。
ガンベルトのポケットに―――

カチリ。チッチッチッ!
腕時計がアラームを鳴らす。午前零時、0000。

―――仕舞う。

時間だ。

振り返る。舷側エレベータを、睨む。月光を背負って。


3


ゴツ、ゴツ、ゴツ―――
陸軍機甲猟兵用のブーツ、ヌバックレザーの使い込まれた黒いエンジニアタイプ。
それを高らかに踏み鳴らし、凱旋するようにマーチする。最下部まで下りた舷側エレベータへ。

格納庫扉の降りたエレベータ。
そこは、格納庫から昇る、或いは降りる航空機や車両、資材を昇降する場所だ。
平時は必ずがらんどうだ。そこに、まるでいつかとは逆に、エレオノールが入る。


―――涼。

まるでいつかとは逆に、そこでは、扶桑皇国海軍少佐、出雲涼が佇んでいた。いつも通りに。
自分でも、この東洋の魔女に対する執着は常軌を逸していると思う。異常な執着、裏返し…?
振り払う。莫迦な。こいつはベアトリス少佐、センパイとは違う。

涼が、振り向く。

来たか
うん、来たよ

いつもの一言、それに答える。
このシ合いの、端まりの。

腰にはいつも通り、ごついガンベルトのような吊帯。右にリベリオン製大口径拳銃M1911が吊られている。
こちらを向く、左腰が見える―――フソウ・ブレードが。こいつのメインウェポン。
飽く迄左腰に佩いたブレードが、プライマリ。ガバメントはセカンダリですらない。
必要のあるときは、腰の後ろに差した刀子型のナイフを恐るべき弾幕として投擲する。
或いは左手で振るう。それが―――セカンダリ。

あの銃は、佐官である決意表明なのかもしれない。或いは、皇国軍に身を投じる、出雲としての。

チョイスが悪趣味だよな、理由があると思うけど。

刀剣類は総てタケミツ・バンブー・ブレードではない。
真なる剣の冷気を放っている。



45勝、    62敗。

今日までの戦跡だ。
だが、これまでだ。

エレオノールは、周囲を眺めた。
そこここに叩き付けるような浅い弾痕と引き裂くような刀傷がある。
しかし、その傷も、あくまで掠り傷だ。宮菱重工製特殊鋼さまさまである。

来てすぐに、僕を帰せ、と挑んで以来。ここでシ合ってきた。
当然のように実弾と真剣で。勝敗は、敵をどう在っても仕留められる所まで追い込んだら、勝ち。
緒戦は負け続けた。この女は生身による白兵戦、対ウィッチ戦闘が異様に強い。
まるで来たるべき時に備えるように。僕を打ち倒したときは、必ず、

まだまだだな、小娘。精進するがよいぞ。

そう呟く。

眼を戻した。涼と正対する。距離は9メートル。
眼をつぶっても中る距離だ。当然、奴の剣気も。

別に、もう、帰れるとも思ってない。ここにも仲間が、姉妹達が出来てしまったから。


「 さあ、来い 」

その    一言が、 引き金


キィイイイン………、燐光が舞う。フィジカル・アクセル。

高揚する。気持ちいい…。

「ほう、強化術式が安定しているな」

「アンタほどじゃない、涼」


瞳が、闘争の予感に、爛々と金色の光輝を放つ。

ドッ!!!!!
弾丸のように前へと出る。この距離で撃っても、あいつは避ける。
  涼も、応えるように前へ。いつもは擦れて見えるあいつの動きがはっきりと知覚できる。

  ガッ!!!!!!
正面衝突する寸前、二人同時に右前へと鋭く方向を変換する。
超高速で擦れ違う。

  左に、相手を見ながら。視線と視線が絡み合う。死線と、死線が。
  まだ、G11Kはオープンホルスターの中。グリップに右手だけを添えて。
  まだ、ブレードはブレード・シースの、中。シースに左手だけを、添えて。

背後に 廻る、ロンドを踊るように。 背の低いエレオノールが女性側、
涼が、エスコートするかのように

ここだ

抜く     肩から見る    白刃の    煌き。

身をかわす。跳ぶ。空中で、ウェーバー・スタンスを取る。
ディスペル  スイッチ  ガンバレル  魔導加速、最大出力
ダァンンッ!!!!

野砲のような爆音。
ディスペル スイッチ フィジカル・アクセル
   
涼は  砲弾のようなそれを    斬り墜としていた。

  変態的絶技だ。笑いがこみ上げる。

    「  HA!!   あはははは!!  ははははっ!!!あはははははは!!!!!!!」

  追いすがる涼が空中の僕に剣気を

  ディスペル スイッチ ガンバレル
  無造作に斜め横、左約45度、格納庫扉ギリギリの虚空を撃つ
(このような場合だからこそ、艦体への損害は極限すべきだった)
  ダァンンッ!!!!

  涼が即応し、剣気と弾頭がぶつかり、衝撃力が散逸する。
弾丸のように体が斜め後ろ、右へと弾き飛ばされる
  擦過した剣気が薄く壁を引き裂く 火花を散らして 首筋からぱっと血が跳ねる。

  ディスペル スイッチ フィジカル・アクセル

  殆ど天井に近い壁  床から5メートルの垂直面に砲弾のように着地する
  
疾走  駆け上がる 天井へ  剣気が壁を引き裂く

天井を奔る それを追って 刀子が次々に天井に刺さる 

 笑う そのまま天を蹴って飛ぶ くるくると

涼の後方斜め上へと 占位する ストライカーを履いているかのように 

ここだ

ディスペル、ガンバレル

涼の後頭部に銃口を突きつけ、これで―――
涼が消えた。

うそ、どこ―――





気付くと、床から数メートルの壁に背中から叩きつけられていた。
そのまま、床に落ちた。壁に背を預ける様に。
自分の両足が前に投げ出されているのが見える。視界が、上半身が、殆ど水平に、右に傾いで、止まる。

ガッ

床にG11Kのフレームがぶつかる音がやけに大きい。

涼がこっちへ歩いてくる。

「複数術式の変換使用、発射反動を利用した『空戦機動(コンバット・マニューバ)』、素晴らしいな。見込みどおりだ、エリー」

体が動かない。

「私にこの封印鍔を外させたのはお前が三人目だ、誇るがよいぞ」

左手に、フソウ・ブレードのガードを持っている。
貌を見た。アイパッチのように当てられたブレード・ガードが無い。


「ひうぅ…………」

童女のような怯えた声が咽から漏れた。

「邪眼だ、出雲の」

左眼が、どく、どく、と拍動するような紅い光を放つ。
動脈血の色。そして、頬から頸、胸元へと血の涙のような、光る血路が浮かび出る。
ただし、その眼は涙を流していなかった。

魔力の根源、心臓から、血を啜る様に、上へと血が流れている。
ずるずると、啜るように。

どくん、どくん。

心臓なのだ、二つの。

「私を仕留めたければこの眼も潰すことだ。エリー」
力の根源。

「ずるい、よ………」

「疲れるのだぞ、莫迦者。単純に魔力は二倍消費される。強制的に。それに、私はお前のように莫迦みたいな魔力は無い」


力に代償は、  憑き物だろう。


涼はそう、呟いた。

やばいやばいやばいやばいやばい
本能が、野生がけたたましく警鐘を鳴らす。
身体が、勝手にアクセルされる。逃げろ、と。

逃げ切れない、撃たなくては。

スイッチしていては、ガンバレル展開時にやられる。
同時に、使わなくては。

ズキ!

側頭部に痛み。構うものか。あれはやばい。

ズキ!

ガンバレルが、手の裡に


4


涼は、ゆっくりとエレオノールに近付く。
あとは、刀を突きつけて終わり。



カシュ、ゴト

エレオノールがG11Kの弾倉を排出していた。体も起こさずに。

しゃき

再装填、体を起こさずに。

「    く、ふ 」
エレオノールの唇から笑みが漏れる。

ずるり、そんな動きでエレオノールが立ち上がった。
魔力強化術式と魔導加速術式を同時展開して。

「 う  ふふ、  ふふふふふははははははっはははは」

「これは……まずいな。」
「はァッ…ふふ」
エレオノールががばっと上体を起こす。薄く開いた唇から紅い舌が覗き、
その先端から涎の雫が空中に銀色の糸を淫靡に引いて床へとたれる。
ふらふらと、中央へ歩いて、立ち止まった。こちらを向く。
二人とも、最初と同じ位置。

眼が合う。月を背負った、逆光に浮かび上がる黄金色の瞳と。
「暴走か」
制御しきれない魔力に蛇口が壊れたようなものだ。
涼の魔法が、ウォーターカッターのような超高出力、高精度なものだとすると、
これまでのエレオノールのそれは膨大なそれをやや低圧の放水銃で噴射方向を操るようなものだった。
それが今日は、高出力かつ高圧な制御を行っていた。

未熟な超高出力制御は制御弁を、ウィッチを破壊しかねない。
航宙ストライカーの問題点、それと同じ現象。
「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAAAAAHAHAHAHAHAHAAAAA!!!!!!!!!!!!」
止めなくては。

飛び掛る。

エレオノールが奔りながらフルオートで撃つ

ダガガヴァアアアアアアアアァァァンンンンンッッッ!!!!!!!!!!
A-10戦闘脚のGAU-8Wに直接照準射撃されているかのような猛烈な砲爆撃。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
ギガガガギジギイイイイイイィイゴォンッ!!!!!!!!
足を止め総て斬り墜とす。これだけの威力、艦が沈みかねん。

艦長に話を通しておいて良かったな。夜間射撃の(嘘だ)
騒音でクレームは来ない、筈だ。

エレオノールは戦車の戦闘機動、アクシス・ターン(定常円旋回)の動きで疾走しながら更に撃つ。
ゴヴァアアアアアアァンンンンッッ!!!!!!!!!!!
後方、開け放たれた格納庫扉、入れ替わって月を背負って立った涼は徹甲弾の猛襲から身をかわした。
あんなものを連続で斬っていては刀が持たない。

はるか彼方の凪いで黒い海原が、機雷群でも炸裂したみたいなとんでもない水柱を上げる。
しかも無数に。

……誤魔化せないな、これは。また始末書か。やれやれ。


5


敵が身をかわす。

反動で姿勢を失ったエレオノールに真っ直ぐ突っ込んでくる。
速い、敵の間合いだ。けど。

柄頭で殴打しようとして、峰に手を添えて杖術のように繰り出してくる。

斬ろうとしてたら、僕はやられてたよ。
そんな心配そうな必死な瞳で、僕を殺せやしないよ、おねえちゃん。

足を大きく開いて立ち、殆ど水平に上半身だけ左に倒す。かわした。
そのまま、殆ど真上にある敵の眉間に、おねえちゃんの銃を突きつける。
そんな直線的な動きなら中っちゃうよ。

さぁ力を貸して、おねえちゃん。
幸福感と共に引き金を―――

がちん

―――引き金が引けない。

おねえちゃん、どうして。


6


「ふうう……」
涼は、右の虎拳で気絶させたエレオノールを、左手で抱き留め、床に寝せた。
刀を納める。エレオノールの右手を見る。まだ武器を握っていた。
ボルトオープンしたG11Kを。

それから、眼帯に使っていた封印鍔をエレオノールの首にペンダントのように吊った。
魔力が抑制されていくのが確認できた。エレオノールの呼吸が落ち着く。

さぁ、どうしようか。邪眼を開きっぱなしだと、倒れるまで魔力倍加が続く。











………とりあえず、寝るか―――


7






「………ん」
エレオノールは、暖かな感覚を覚えて、ふと目を開けた。
そして、目の前にある暖かくて柔らかそうなものに自分が顔を埋めていたことを思い出し。
「……ん、にゅ」
それにより深く抱きついた。
気持ちいい………。
でもこれ、なんだろう。やけに身近な、というか毎日風呂で触るような感触の―――

がばっ!!!
エレオノールはシーツを跳ね除け飛び起きた。
見回す。見慣れぬ部屋。飛行隊長室。


………じゃあ、この、これは……まさか。
「む……起きたのか」「りょお??!!?!!!!」

「どっどどどどどええええちょええええええ!!?!?????」
記憶、無し。服、無し。身に着けてるのはやけに大きいワイシャツだけ。
ズボンすらない。シャツは多分涼の。

ちなみに体を起こした涼は全裸だった。
「ひああああああああああああああああ!!!!!!!!!!なっなん!!!!!!!!!!!!!」
「いちいち煩い小娘だ、昨日のことを憶えていないのか」
「えっちょ、ど」「落ち着け、言葉を忘れたか。深呼吸しろ」

「ふううぅううう、はぁあああぁぁ、ふううううう、はぁああああああ………」
「落ち着いたか」
「う、うん……しかしいったいナニが」
ベッドの端にズリズリ逃げてシーツを胸元まで引き上げて掻き抱く。
何だこの状況。どういうことなの………?



「憶えていないのか、あの燃え上がるような夜を」「ぜってぇうそだよね?!!?!?!!?!!!!!?!??」
「む、本当なのに………」「えっ」うそ。


「……ホントに……………?」

「うむ、お前が暴走して危うく試合が死合いとなるところであった」「まぎらわしいよ?!!!?!?!!!!!!!!」
「そうか、まあ」「いやもういいからそれ」

しゅんとする涼であった。

出雲さんの貴重な落胆シーン。




………こほん。
「それ、どうしたんだ?」
涼は、布地にヘキサグラムが書き込まれたアイパッチをしていた。
「胸元を見てみろ」
「……あ」

いつものブレード・ガードがエレオノールの胸元にぶら下がっている。
「その霊験あらたかな封印鍔で貴様の暴走を止めている。まぁ、一両日も身に付けておけばよかろう」
回復したら、返しに来い。涼はそう言った。

思い出した、途切れ途切れに。
「でも涼、お前その左目…」
「こんなこともあろうかと作っておいた六波羅封印のレプリカだ」
「テストはどうしたんだよ!?」「莫迦者、そんな暇は無い!!!」
「あそですか……」
テンプレートであった。


ん、何の………?
まあいいか、気にしちゃいけない。

「というわけで、帰るが良いぞ。私は、邪眼が起きていると封印が壊れかねんので寝ることとする」
「そんなんでいいんだ邪眼………」
「邪眼が開いていなければよいわけだからな」
ふうん。

「それじゃあ、もうお暇しようかな」
「うむ、服は需品課が洗濯してお前の部屋に届けるそうだ」

「えっ」
「む?」

「なにそれこの格好で帰れって事?」
「ふむ、そうだな。まぁ、問題あるまい。細かいことを気にするな。」

「こまかくねぇだろ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「嗚呼煩い………私は本気で眠いのだ、早く出て行ってくれないか……?」
「くうううぅ……!!」本気で眠そうだ!この罪悪感が凄い!!!

「お、おぼえてろよ~このばか。オーガ、黒魔女、妖怪首置いてけ」控えめであった。
「…………前から思っていたのだが…………語彙が貧困だな…エリー…」
「なっ!!!!」
殆ど寝ている相手に言い負かされた……!

「…………Z…」

MERDE…、マジでこれで帰るのかよ…………………フッ、いいだろう、僕の超絶スニーキング・テクニック、
見せてやろうじゃないか!!!!!!!!!!!!見せないけど!!!!!!!!!!!!!!!






―――かくして、昼飯時で活気がある艦内を舞台にエレオノールの長く孤独な戦いの火蓋が切って落されたのだった―――



……………………すーすーする………




―――ウォー・デュエル・ジャンキー―――


おしまい



[24398] クラリーチェ・レィディオゥ
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2011/01/23 17:00
クラリーチェ・レィディオゥ


深夜、半舷休暇で静まり返るACVWX『たいほう』
その暗闇の中、男達は静かに、静かに行動を開始した。

あるものは舷側隔壁のノードに。
またあるものは居住区の充電コンセントに。


『専用の端末』をバイパス接続した。




log in.

ぴ、ぴ、ぴ、ぽーん

0000時
かつては舷側エレベータというコロッセオが娯楽を提供していた時間。

それは始まった。
Adaを基礎とした高度な暗号化プロトコルで保護され、
一見通常の艦内データリンクのフッタに見える(実際そうして振る舞う)疑似信号。


『あ~あ~テステス♪コホン、紳士の諸君、おk?』

00:00>『リーチェたんハァハァ………×85』
00:12>『おk×160』
00:14>キターーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!1111111111111111
00:20>0コメ自重しろks

『うんうん、そんじゃ、いっくよ~~~?』

『チャオ♪リーチェだよ!!!!』『勇音だぞ』
『『二人そろって、クラリーーーーーーーーーチェ・レィディオゥーーーーーーーー』』

00:40>『урааааааааааааааааааааааааааа!!!!!!!!!!!!!!×221』
00:40>ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!
00;45>↑おい君、書記長が話があるそうだ

『さぁ本日も始まってまいりましたクラリーチェレィディオゥです!!!パーソナリティはわたし、リーチェと』
『勇音でお送りしちゃいまーす。よろしくな?』
『さっそくだけど勇音ちん、今日の午後は凄かったねー』
『おお、あれは今から36万4千』『はいはいシャダイ乙乙』『最後まで言わせろよ!!!!!!』

01:30>ちょwwwwwwwwwwwwwwシャダんな
01:32>そんなシャダラーで大丈夫か?

『大丈夫だ、問題ない』『お客様勇音ちんにはおてをふれないでくださ~~~~~~い!!!!』

02;01>サーセンwwwwwwwwwwwww
02:04>おkwwwwwwwwwwwwwwwwww

『ほらリーチェ、話が進まないじゃないか』『自分で言うかなwww』

02:12>『お前が(ry ×129』

『それで午後の話なんだけどさぁ、勇音』『話をしよう』

02:25>一番いい話を頼む
02:27>wwwwwもういいから進めてwwwwwwwwww

『うん、横須賀からリニアで秋葉原に出たじゃない?』
『行ったな』『あのコス屋さんは良かったよねぇ?wwww』
『おおwwwwwあれなwwwwwwwwwフヒヒwwwwwwwww』

03:10>ちょwwwwwwwwwwwwwwkwskwwwwwwwwwwwww
03:13>笑い方自重wwwwwwwwwwwwwww
03:23>『エリーたんですね、わかります。×32』
03:27>『↑SR乙×112』
03:32>ザキ中尉にチクんぞこらwwwwwwwwww
03:37>ごめんそれは勘弁して

『は~~~~い当レィディオゥはチンコロの方禁止となっておりまーす』
『仲良くしろよ全く』『チンコロされた方はもれなくカラーコーンねじ込みの上実家に写真送付となりまーす』
『おいwwwwwwwwwwww』

03:43>フヒヒwwwwwwサーセンwwwwwwwwwwwwwwww
03:48>ちょwwwwwwwこええwwwwwwwwwwww
03:55>FUCK YOU!!!FUCK YOU!!!FUCK……ゴホッ!………ゴホゴホッ!!!!

『でぇ、その店にあったコスなんだけどね?クララに着てもらったのね』

04:10>なんだ、ただのおbsnか
04:12>おいお前ちょっと舷側エレベータ来い

『ちょwwwwタイプ早ッ!!!wwww』
『あんまり仲悪いと次の作品のネタにしちゃうゾ☆』
『まぁ謝れよ?』

04:30>ごめん
04:40>こっちこそ

『対立の果てに芽生える感情………互いの顔が判らない処から始まるプラトニックなやり取り…………
げひひッ……………!!!1111!!みなぎってき』『はいそこまで』ピコッ!!!

04:59>『ピコハン本日一回目入りました~~~~!!!×210』
05:01>狂乱の暴走ロケットwwwwwwwwwwwwwww

『いたぁ………』『で、クララがどおしたって?』『ああうん』
『メイド服着てもらったのよ』『へぇ』

05:00>もうわかったwwwwwwwwwwwwww
05:11>俺もwwwwwwwwwwwwwwwwwww

『こいつを見てくれ、どう思う?』
画像データが送信される。『メイド服とお下げウィッグのクララ.jpg』
レスが止まる



05:47>すごく…………メイド長です……。
05:49>どう見ても某家メイドです、本当に(ry
06:01>そwwwwwwwwwwwれwwwwwwwwwwだwwwwwwwwwwww

『『だよね!?!!??!??!!!???!???!??!?』』
06:15>『だよな!?!??!?!?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww×54』
06:17>ひッでぇwwwwwwwwwwwwwwww

『『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!!!!』』
06:22>『だーっwwwwwwwwwwはっはっはっはwwwwwwwwwwwwwwwwww!!!!!!!!×44』

06:40>保存した
06:45>『同志よ×120』

『うん保存したけどね』『妖しい魅力があるよな』
06:58>『わかる×120』
07:02>踏まれたい
07:05>『兄弟×32』
『兄弟!!!!!』
07:10>おwwwwwwwまwwwwwwwえwwwwwwwwらwwwwww
『お前ら訓練され過ぎwwwwwwww変態がwwwwwww』
『紳士だよ!!!!変態だとしても、変態という名の紳士だよ!!!!111!!!』
07:21>うるせぇwwwwwwwwwwwwwww
07:25>クマ吉ーチェだまれwwwwwwwwwwwwwww
07:27>またwwwwwww迷言wwwwwwwwをwwwwwww
『いい加減にしろ!!!!!wwwww』ピコッ!!『あうっ』

07:31>『本日二回目のピコハン頂きました~~~~~!!!×198』
07:33>「あうっ」かわええwwwwwwwwwwwww

『なにすんのよぅ!!!!!!』『教育的指導だ!!!!』
『勇音横暴~~~~~~!!!!!!』『ちがーう!!!』『勇音横暴~~~~~~~~~~!!!!!』
『だ~~~ま~~~~~れぃッ!!!!!!!!』ピピピピピピコッ!!!!!『うごごごごごッ!!!!!』

07:40>ちょwwwwww今回多いwwwwwwwwww
07:42>何回?wwwwwwww
07:49>4回だろ?
07:52>一秒で6回。通算8回。
07:57>↑扶桑ガンバードの会職人乙
08:00>開始8分で早速gdgdwwwwwwwwwwwwwww
08:06>さすが安心のクラリーチェクオリティwwwwwwwwwwwwwww

『うう~~~~勇音のイケズ』『イケズ違うわ』『勇音のイかず後家』


ぴんぽんぱんぽ~~~~~ん≪樫ンゴが 午前 零時 八分 二十秒くらいを お知らせします≫ぽ、ぽ、ぽ、ぴーん
流れるテロップ<しばらくそのままでお待ちください>の文字。

08:19>お仕置きだベェ~~~~~~~~~wwwwwwwwwwwwww
08:21>流石だwwwwwwwwwwwwwwwww
08:25>地雷は踏むもの(キリッ
08:27>だれうまwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
08:34>今回飛ばしてんなwwww時間まで持つのかwwwwwwwwwwwwww
08:40>てかおしおきなげぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

『はぁいお待たせお前ら』『ご……ごめんなしゃいでした……』

09:02>きたwwwwwwwwwwwwwwwwwww
09:04>遅かったじゃないか…………
09:04>おkwwwwwwwwwwwww

『で、次にこれなんだけども』『括目しなさいっ!!!!!!!!』

エレオノールが細身のシャープなメイド服でスカートの裾を唇で咥え、その裾を胸の前でくしゃっと抱き寄せた画像。
足はふりふりガーターで留めたストッキング。目線は飽く迄上目使い、
顔を逸らしつつもその潤んだ瞳だけはこちらを見ている。
見えそで見えないようなチラリズムズボンはふりふりだ。

09:10>『キターーーーーーーーーーーーーーーーー(◎∀◎)ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!1×243』
09:10>『EMT!!!!!!!EMT!!!!!!!!!!!EMT!!!!!!!!!!!!×220』
09:11>『エリィたん最高!!!!!!!!!!!×32』
09:20>うっ…………ふぅ…
09:23>↑早撃ち乙wwwwwwwwwwwwww
『やばいしょこれwwwwwwwwwwwwwwwww』『やべぇwwwwwwwwwwwwwwwww』
『くあぁあああああああ仔犬ちゃん(ピーーーーーーーー)今(ピーーーーーー)てやんよ!!!!!!!!!!!!11』
『ばっかおまえ(ピー)なら(ピー)して(ピーーーーーー)て(ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)』
『勇音ちんおちけつ!!!!!!!!!』『アタシは冷静だ!!!!!!11!!!!!!!』
09:30>wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
09:31>お前らが落ち付けwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
『ううううううおおおおおおおおおおおおお1!!!!!!!!』『うにゃ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!1』
ぴこぴこぴぴぴぴぴこここここここここここここぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴこぴここ!!!!!!!!!!!!!

09:37>荒ぶるピコハンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
09:42>カwwwwwwwwwwwオwwwwwwwwwwスッwwwwwwwwwwww
09:47>お前らの嫁だろwwwwwwwwwww早く何とかしろよwwwwwwwwwwwwwwwww
09:48>おい扶桑ガンバードの会どこいったwwwwwwwwwww
09:54>↑もう無理だこんなもんwwwwwwwwwww

ぴんぽんぱんぽ~~~~ん≪樫ンゴが 午前 零時 十分くらいを お知らせします≫ぽ、ぽ、ぽ、ぴ~~~~ん
流れるテロップ<しばらくそのままでお待ちください>の文字。

10:02>収拾つかねぇwwwwwwwwwwwwwwwwww
10:04>どうすんだこれwwwwwwwwwwwwww
10:05>こんなgdgdで大丈夫か?wwwwwwwwwww
10:07>大丈夫だ、エリィたんの画像を愛でて待てば問題ない
10:09>天才現る
10:11>お前って奴ァ………ッフ、付き合ってやるぜ?
10:16>『待ってくれ!!!俺達も付き合うよ!!!!11!!×231』


『ふぅ………皆さま、お待たせしましたわ』『ええ、本当にごめんなさい』
11:00>賢者になるなwwwwwwwwwwwwwwwwww
11:01>なにがあったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
11:04>おらワクワクしてきたぞ!!!11!!!!!!!(性的な意味で
11:04>エロスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

『まぁ、ほかにもえr…こほん。色々あるんだけど』『そのイキサツってもんがまた傑作でねぇ』
11:12>何言いかけたwwwwwwwwwwwww
11:13>ZIPでくれ
『その時の様子を勇音ちんがMMDで再現してくれました~~~~~~~♪』『えっへん』
11:21>すげええええええええええええwwwwwwwwwwwwwwww
11:22>さらっと流したwwwwwwwwwwwwwwwww
11:22>wktk
『でわでわ~~、どぉぞぉ~~~~~~~~~~~』
『ぽちっとな』





「なぁ、リーチェ。本当にこっちの道で大丈夫か?」
「だぁ~~~~いじょ~~~~~ぶ、問題ないよぉ?」
ある日の昼下がり、森の息吹からの帰り道の農道。
姉妹達を満載した車両は母港へと向かわず、一路横須賀駅へと向かっていた。

ドライバー席のエレオノールは扶桑の土地勘がないため、「近道しよう」と言い出した
車長席のクラリーチェの指示に従って走るがままだ。
それでも何だか妙な感じを嗅覚だけで既に嗅ぎ取ってるあたり、流石『災厄』の名はダテじゃないかな?
まぁ、この先に待ち構える『仕込み』までは判るまい、

ねぇ?仔犬ちゃん………?


「んん、そうか…?」「そーそー」ふっふっふ、勇音ちん渾身の
チュドーーーーーーーーーン!!!!11!!!!!!!

阿呆のように重いHEMTT-A4が一瞬モロで宙に浮いた。
「ふぎゃ!!!!!」「ッ!!!IED!!!!!!タイホウ・コントロール!!!!エマー!!!
航空支援要請!在空エレメントを急派されたし!!ASAP!!!」
ちょwwwwwww勇音ちんwwwwwwwwwパンクするくらいでいいっつったしょwwwwwwww
「リーチェ!!!」「ウィ?!」「座席後ろのコンテナ開けろ!!!!!」「ya!!!!」
コンテナの中には10式分隊支援火器(徹甲榴弾の射撃が可能な300発弾倉、ヘビーバレル、トライポッド仕様の10式)
と11式誘導擲弾(要はライフルグレネード型の小型万能ミサイル)が入っていた。素早くチェック。
「チェックOK!って何でスマートウェポン積んであんの?!」
「TACリンクオンライン!リーチェ!!キュポラから警戒!!!」
ガンガン加速するHEMTT-A4、荷台兼兵員室からはリンク越しに怨嗟が聞こえる。
ああもう引っ込みつかんしぃ……。操縦室天井のシールドキュポラから銃身を突き出して
アクチュエータと10式SAWのFCSをリンク、簡易銃塔にする。


『あ~~~~~~、ノーム、聞こえるか?』勇音ちん?!ばか!!!!!エリー本気だよ!!!!!
「バンシィ、ノームファイン。ピクチャー」どうすんのさ~~~~!?



『ええとその………こちらから見る限り予備燃料タンクが燃えてるだけだ。脅威無し』

……………苦しい。

「………ノーム、リピート」『リピート、予備燃料が燃えている、停車して消火されたし』
「ノーム、ウィルコ」路肩に停車するエリー。
続いてエクスターナル・サプレッサ(車外消火装置)のプルハンドルを引いて消火。
あっさり鎮火した。

装甲ジャケットの前を襟を立ててきっちり閉め、
ホルスターから出したG11Kを「じゃきんッ」と装填し、10式ヘルメットを被りモノクルを調整、
下車して燃料を見に行こうとするエリー。こ、こわ~~~~~。

だがこれで退いては大問題だ、エリーより先に飛び降りて燃料タンクに行き、
発火装置をフライトジャケットのポケットに突っ込む。
「なにかあった?」「なっなにも?!」
見事に予備燃料の30ℓ容器だけ焦げていた。勇音ちん無駄にGJ……。
恨みがましく上を見ると勇音ちんが両手を合わせ扶桑流の『ゴメン』のジェスチャ。
や、ほんとやりすぎだし……。

「うーん……ほんとにこれだけみたいだな」なんか腑に落ちなさそう。
「ほ、ほら今日暑いし、何か爆発しちゃったんじゃない?」「ええぇ…?」
「心霊現象的なさぁ」「!!!!!!」あれ、超反応?
もしかして……。
「ねぇエリー?なんか取り憑いてんじゃない?この道とか」「ひう……!!!」
オウ、かわいい………/// 
じゃなくて「とりあえず駅まで出て指示待とうよ」
「そそそそそそうだな!!!!!!!よし!!!!!!!」
競歩でキャビンに戻るエリー。わたしもそれについてく。

「タイホウ・コントロール、ノーム。状況は予備燃料の火災。故障排除完了、
これより横須賀駅へ向かい再度点検、指示を待つ」
とりあえず駅まで出る旨を伝えようとする。
『ノーム、コントロール。状況は確認した。尚、急遽運用上の必要が発生したため本艦は横浜港横浜基地へと移動する。
ノーム及び666TFWW主力は横須賀駅にて横須賀基地直接支援隊に車両を受け渡し、リニア線にて横浜基地へ前進せよ』
「………?…??…、ノーム、ウィルコ」
今回のドッキリは艦長までグルなのだ。凄い大がかり。
といっても、その内容は「普段娯楽の少ないウィッチ達に素敵なサプライズを」と具申していた。

プランは、
『訓練後の昼食からの帰り道に車が故障してしまったので、修理を横須賀駐陸軍DSさんに任せて
リニアで帰る事にしたけれど、ちょっとだけ寄り道して、買い物へ行こうヨ♪』
というモノであった。

そのためのお小遣いも貰ってる。艦長、わかる人だね、素敵♪







おk、わかってる。何も言わないで。

勇音ちんがやり過ぎた。
てかなにあの爆発、西部警察?西部警察ですか?
例のフォントで『666空partⅣ』とか似合いそうな爆発だったし。

まぁいい。

兎も角、駅に着いた。
手筈通り来ていた整備隊のお兄さんに車両を受け渡し、リニアの構内へ。
ショーコと勇音ちんとも合流。表示板を見ると、丁度上り線のリニアが来るようだ。

……………特急か。

特急は、横浜には停まらない。
横浜で普通にショッピングと、世界のAKIHABARAでディープなファンタジーを見せるの、どちらがいいかな………?



(勇音ちん?)(おk把握)  

無言で頷く勇音ちん。おk。

NOW!!
「あぁああ~~~!!!もうリニア来てるよ皆!!ほら急いでっ!!!!!」
「うああああヤベェ走れぇ!!!!!!!」勇音ちんも一緒になって煽る。
言いつつダッシュ!釣られてみんな付いてくる。
手首のコミュリング(環型万能端末、ID、携帯電話、無線機、GPS、PDA、
財布の機能があるメカメカしたSFちっくなデザインのブレスレット。666TFWWの官給品)
を改札のIC検知器にかざしてホームへ。

「あれ!のって!!」全員駆け込む。
流石、練度で言えばアグレッサ飛行隊に相当するあたしたち666th,TFWWだ。
体力面も優秀、全員素晴らしいダッシュ力で乗り遅れる事無くリニアに乗り込んだ。


特急に。

『本日もFRリニアご利用、ご乗車ありがとうございます、特急リニア3035便の車長、尾崎です。
当車は特急、東京秋葉原駅経由、太平洋ルート、札幌行きでございます。
尚、横浜には停まりませんのでご了承ください、間もなく発車致します、大変高速となりますので
発車時、及び停車時は必ず座席に着いてシートベルトをお締めください。
また、座席にお着きの際はシートベルトをお締めください。
それでは、短い間ですが快適な旅を』
『業務連絡、乗務員はドアモードをアームドに切り替えてください』
『発車致します、次は、東京秋葉原駅、十分で到着です』

「えっ」「えっ?」「あれ?」
車内放送の内容にいそいそと座席に着いていた動きを止め、怪訝な顔をする面々。
「……リーチェ?」涼がこちらを見る。涼は話は聞いてたけど、聞いてた行き先は横浜のはずだ。
「でへっ☆間違っちゃった♪」「…………」「涼、アタシも間違えちゃってさ、怒らないでくれよ~」
「…………まぁよい。で、どうするのだ?」よかった、さすが話せるぅ。

「うん、AKIHABARA行こうと思って」
「秋葉原?」「そう秋葉原」
「ほら、どうせなら面白い方がいいでしょ?」
「アタシも電子部品のサプライ関係補充したいしね」
「………ふむ」黙考する涼。でもほんの数秒だ、相も変わらず異様に頭の回転が速い「いいだろう」
お許しが出た。でも顔にはしてやったりな表情を出さないよう注意する。あくまでほっとした感じで。
(おk)(GJ、リーチェ)





で、AKIHABARA。

見渡す限り雑踏、雑踏、人種の坩堝。もう物凄い。
21世紀を迎え、扶桑の電子機器技術、及び材料工学は統合軍への加盟、軍への供給で大膨張、急激に進化、
同時に輸出規制の緩和(軍用電子機器の爆発的な進化で電子機器の陳腐化スピードが異常に高速化したのだ)
も行われ、その経済効果は途方もないものとなった。

その余波で旧東京駅周辺は大膨張・活性化、かの新宿駅を遥かに超える規模で拡大・複雑化し、
同時に秋葉原駅も膨れ上がって二つの駅は統合され、電気電子、及び経済の重要結節として、
また一大観光拠点として生まれ変わったのだ。
電脳街・秋葉原、経済都市・東京。この融合で扶桑の経済は生まれ変わったといっても過言ではない。

ギークのイェルサレム、第二のシリコンバレー、電脳街、まぁ兎も角、ぱないのです。


勿論OTAKU文化もね?

「えへへへへへっ!アキハバラ~~~~!!!」
「なんだそれ?」「うんまぁお約束」「ふぅん?」
「ところで皆は?勇音ちん」
「もう散り散りだよ、まぁリングで地図と全員の座標は見れるし連絡取れるからいいんじゃない?
コミュリンク(常時接続型音声チャット機能)はオンラインだし好き勝手話せるから迷子にもならないでしょ」
「そだね」「で、どうしようか」

「コスとかどうよ?w」「おお?来たな来たな、先生wいきなりですが好きです喃ww」
「まぁほらあたしってば大人気作家でしょ?みゃは★(笑)
108のペンネームを持つ身としては同人もいいけど目の前の素材たちに心奪われるかなぁwww」
「なるほどなるほど、うくくくwwwww」

すっと目の前の超ラジオ会館の軒先で小型単眼鏡カメラを物色するクララを見る。
「これは………第三世代微光暗視増幅管内蔵ですか。昼夜間切り替え2倍~8倍?へぇ、レールも統合軍規格準拠。
……なるほど、扶桑軍先進装具のトライアルで不採用になったガンカメラですか。………欲しい、かも」
家電量販店の環の声。
『うわあ、これ、秋葉原限定モデルなんですか?凄い可愛い!このマークこれってもしかして、
501JFWのエーリカ・ハルトマン中尉がモチーフだったりするんですか?!』
流し目で目の前の横丁にいるエリーを見る
「!?ふおおお??!?スゲェ!!!非冷却IR受光マットが平方センチメートル売り?!しかもこの値段、この画素数でッ?!
感度上げたらミサイル警報装置になるじゃん!くううううぅっスッゲェ!!!!!!」
その奥、トレード館のショーケースにへばりつくショーコ
『っワァ!!!コレ、超合金ユニコーンソルダムLED発光バージョン!?
限定生産で買えなかったのになんで?!ナンデアルノ~~~!?!?』
ここからは見えないけど、武器屋にいる涼。
『ああ、海軍だ。リングのIDを確認してくれ。うん、刃物を見に来た。MLEの棚の。
ほう……新作のスローイングダガーは鍛造なのか。触っても?…ありがとう。
……うん、中々いい。リベリオン製も捨てたものではないな』
駅近くの屋台でファーストフードを注文していたモルガン
『ええ、レギュラーでお願いしますわ。イスケンデルスパイシーで。
……本当に回ってるんですね、ふふ。なんか不思議……え、おまけですか?ありがとうございます。……うん、おいしい!』
有名ラーメン店に入った皐月とジャンヌ。
『ここ、前から来てみたかったんですよ』『ああ、すげぇ有名だもんな』

他にもよりどりみどりだ。




「………じゅるッ」
「まぁまて、落ち着けリーチェ。まだまだこれからだw」
「おっと、そうだった、いかんいかんにゅひひwwww」
「うくくくくっwww」





「みんな、あそこの服屋さん面白そうだから行ってみようよ」
今見つけました、って感じで切り出す。
『え?どんなお店?』『へぇ、楽しそう』『ちょっとまって、すぐ行くから』
『おいおいちょっと待ってよ、今DOOM4のラス面なんだ』
お?よしよし。いい反響。
程なくして、皆その店の前に集まってくる。

「ほう、ここかリーチェ」「うん涼、何かかわいい服いっぱいあるよ」
「へぇ、いいのあったらガリアに少し送ってやるかな」
「自分で着ないのぉ~?」「ぼっ僕が着ても似合わないよ……」
「またまた~」「そんなことないですよ中尉~~♪」
言いつつ店に入る

「「おかえりなさいませお嬢様」」

キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!11!!!11!!!1
全方位IKE♂MENバトラー!!111!!

組み合わせ ∞ ktkr!111!!!!!

流石は高級衣裳店『フロイライン・クロークス』!!!!!11111
やってくれるわ!!1はぁはぁはぁはぁはぁたまらん…………!!!1
「リーチェ」「Oh,sorry」
そうだ、こうしてはいられない。
勇音ちん渾身のコミュリングの全機リンケージ、及び最高画質動画撮影プログラム、開始(ラン)。
画像は生画質でたいほうの勇音ちんの部屋のサーバ内データストレージへ。

被写体を見てみる
「やっ………あのっ僕ッちが………ひゃぅ!」
イケメン執事に手を取られて目を瞑って縮こまってしまい首どころか手首、
いや、本人は無自覚な悪魔的絶対領域まで真っ赤なエリー………!!11

をっwwwwwwっをwwwwwwwをっwwwwwwwwwwwおwwwwwwwwww!!!!!!!!!

「ふぅむ、今はメイド服が流行なのか?中々良い縫製だな。……へぇ、種類もこんなに。生地も何気に良いじゃないか」
全く動じず、まるでここは自分の屋敷だ、とでも言いたげな堂々としたバロネス、涼。
自分で着る和服も何気にチェック。
そしてなにより、

目の端でエリーを舐める様に見ている…………!!!

エロスッ……………!!!!!!wwwww

「あのぅ、私だったらどんなのが似合いますか………?」
ほほぉう…?!環たん意外と面食い?積極的だねぇ?!メーン?!!

「私はいいよ……皐月に選んでやってくれ」「そんなバラノワさん、きっと似合いますよ」
クララ、わかってない、わかってないわ!!皐月たんはわかってるのね!!!でも君も似合うよ!!111!!!!
もう我慢出来ん!!!11!!勇音ちん!わたしは自重を止めるぞ~~~~~~~!!!!!!!1





「どうせなら試着してみない?」





わたしの一言に場が凍る。視線が絡まり、始まる牽制。執事たちは沈黙を保つ。


「っふ、面白そうだな、いいんじゃないか?」


涼が決定打を放つ。

「それでしたら、お写真をお撮りすることも可能ですが」

執事君がEOS-1Ds Mark IIIを持って現れる。
な………なんとGJな!!11!!!!!
「それでは早速………」
「私どもは必要であれば退出致しますので、別の大部屋と控え室を使用して着替えていただいても結構でございます」
「そう?フヒッw」「なら………一人ずつイこうか」





「え~~~~それではここからは実況、わたくしクラリーチェ、
解説の勇音さん、控え室のリョーコさんでお送りしたいと思います」
「よろしくお願いします」「は~~~~いよろしくお願いします」
「えーいよいよ始まってまいりました666TFWSQファッションショー。
勇音さん、いかがですか各選手のコンディションは」
「はい、各選手まだ困惑が隠せない様子ですがその初々しい様子が得点力につながります。
この流れを大事にしていきたいですねぇ~~~~~~」
ちなみに二人ともこれ以上ないくらいネコミミメイドである。
「おっと、最初の選手の準備が整ったようです」「それでは、観ていきましょう」


「エントリーナンバー1番、2番!………皐月さんと環さん!」
「は、恥ずかしいです……」「これ、着心地いいですねぇ♪」

袴にブーツ、白いエプロン、淡いパステルカラーの女学生風女中さん姿の二人。
「お~~~~~~~っとぉ、こぉれぇわぁ!どうなんでしょう勇音さん!!」
「はい、きましたねぇ~~~~おぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」
「す~~~~ご~~~~い~~~~1!!!!!」
「古き良き扶桑と近代の融合!これぞまさしく美味しいとこ取りと言ってもよいでしょう、
しかも女学生、つまり女子学生との合わせ技!これは高得点ですよ。
身体の前に抱えたシンプルな丸い銀盆がまたいいですねぇ~~~~~いや、お盆の使い方が非常に巧い!!11
んんんんんん~~~~~これはすごい!!!!!!いや~~~~~~たまりませんねえ~~~~」
「勇音さん、か~~~な~~~~り興奮しています」「ハイ、これは興奮してしまうでしょう」

「え~次なんですが、控え室のリョーコさん?」『はい、控え室のリョーコです』
「そちら、次の選手なんですがどうでしょう」
『え~~、着替えの方も終わりまして現在集中力を高めている状況です。
もうじき………あっ、準備の方が良いようです』
「はい、わかりました。ありがとうございます」

「それではエントリーナンバー3番、モルガンさん」
「こ、こんな服久しぶりに着ますね………」

お嬢様風の豪奢なドレスに敢えてミスマッチなエプロンの組み合わせ。ショートの金髪が映える。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
「これはきましたね~~~~~!?!?!!」
「はい、これには驚きました。一見雇用主側な豪奢なドレス、そこに野暮ったいエプロンを追加することで
そこにストーリーを創り出しています。これは一個の完成した世界観と言っていいでしょう」
「な~~~~~る~~~~ほど~~~~~~この深みはそういうわけですか」
「はい、あたかもお屋敷のお嬢様が想い人の為に慣れない使用人に挑んでいるかのようなこのアンバランス感!
これはポイントが高いですよ~~~~~~~?」
「いや~~~~~素晴らしいですねぇ!さぁ次の選手は、リョーコさん?」
『はい、次の選手の準備も整っています、今、会場入りしました。この選手も強力ですよ』
「はい、それではいってみましょう」


「エントリーナンバー4番、5番!対地攻撃コンビ、ショーコさん!ジャンヌさん!!」
「にひひ~~~~ぴーすっ☆」「かったる~~~~」
元気爆発ミニフリルなエプロンドレススカートのメイドショーコと
火は付けてないけど咥え煙草が妙に様になるオーソドックスなメイドのジャンヌ。
「お~~~~~~~~~~~~っと、これは………」
「いいですねぇ、二人のキャラクターが見事に体現されています。
これもまた一つの機能美、と言えるんじゃないでしょうか。なかなかいいですよ?
関係性をテーマにしたコーディネート。まさに技あり!!!!」
「すばらしいですねぇ、どんどん戦いは激しさを増すばかり!!!」
「さぁ次はクララさん」「おっと、先に言ってしまってもいいんですか?」
「ええ、この選手はトッピングのし甲斐があると思いましたので」
「トッピングですか?俄然楽しみになってまいりました。では」

「エントリーナンバー6番!クラーラさんです!!!11」
「私は地味ですから、あんまり」
極めてスタンダードな、誂えたようなメイド姿。
「こぉれは可憐なものの一見物足りない!勇音さん?」
「ええ、そこでここからです…………ゴニョゴニョ……」
執事に指示を出す勇音
「これを付けるんですか?………構いませんけど」
長いおさげのウィッグと傘型散弾銃のモデルガンが手渡される。

「きたああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!11」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
「クララ嬢が大きな大きな一点をキめてくれました!!!!!11勇音さん、これはアレですか!?」
「ええ、アレです!!!!1111これは妖しい色香が倍プッシュですよクラリーチェさん!!!!!!!」
「クラーラさん、そのまま眼鏡を取って三つ編みを解いてください!」

「はぁ、」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!1」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!11111111111111111」
「こぉれは踏んでほしい!!!!!!!!!!!!11」「いや、この格好で殴れば金を取れますよ!!!!!」
「素晴らしいプレイですクラーラ選手!!!!!!!!!11」
「……………流石に怒りますよ?」「おおおおおおおおおヤン眼も実にいい~~~~~~!!!!!!11」
「これはきたかぁああああああああ?!?!??!?」

「……………………え~~~~~、それでは次の選手に行きましょうか、控え室リョーコさん?」
『はい、リョーコです。控え室次の選手既に戦意は最高潮です、
登場を今か今かと待っています、準備は万全、もはや隙なしです!』
「ありがとうございました、それではいってみましょう」


「エントリーナンバー7番!言わずと知れた出雲涼さん!!!!!!!」
「やっと出番か。待つのも飽いたところだ」
艶やかな和服姿。その上に質素な扶桑織物の前掛けをして、和傘を肩にさしている。
「これはす~~~~~~~~~ご~~~~~~~~~~い!!!!!!!!!」
「これぞ、これぞFUSO・NADESIKO!!!!!!!!!!!!!!
流石隊長!!!!!!!!!!1111魅せてくれます!!!!!!11111」
「いや~~~~~~~~~~~勇音さん、わたしはここまで着物の似合う女性は初めて見ましたよ」
「ええ、やはり格が違うのか、まず所作が素晴らしい」「所作ですか」
「はい、いわば欧州で言う貴族子女の歩き方のような振る舞いの和服における基礎です。
涼選手はそれが実にじぃ~~~つぅに美しい」
「なるほど、その動きからこの艶やかな雰囲気が醸し出されるのですね?」
「その通りです」「そういうことだったんですねぇ。涼選手?」
「ああ、私は家で過ごすときは専ら和装だったからな、体が覚えているのだ。
軍属になって洋装にも慣れたが、最初は苦労したものだ」
「なるほどありがとうございました。おや、涼選手?そちらは控え室ですよ?」
「ちょっと野暮用でな」「そうですか?では次に行ってみたいと思います。リョーコさん?」

『…(ザザ)……こ……状……(ガ)…収拾が………(パリーン)……』
「リョーコさん?リョーコさん、どうしました~~~?」
「回線の状態が安定しませんね、少し調整してみましょう」
勇音ちんがパパッと調整、回線が安定する。

『え~こちらは控え室です!(はなせ~~~!)え現在次の選手の
準(大人しくしろエリー!!)備中なのですが、物凄い状況(ドサドサッ)になっています!!』
「どういうことですか?後ろが騒がしいようですが」「乱闘の音ですかねぇ」
『え~次の選手が衣裳を手渡された途端着替えを拒否、
そのまま窓から逃亡を図ろうとした(いやだ!僕には似合わないよそんなの!!)ところを
たった今出雲選(着てみてから考えてみればよかろうに!!!)手が捕獲した(ドガシャン)ところです』
「ここは4階ですが、窓からですか?」「いや、あの選手であればリぺリング降下くらいお手の物でしょう」
『ハイ!!!(あっや!どこ触って……!!)どうやら腰のシー(ふふふ、私から逃げられると思うのか?)スに
仕込んでいた炭素ワイヤーリールで降下(ふぁああ!やぁあ!!!)(はしたないな、エリー?)しようとしていた模様です』
「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~わたしとしましては後ろの様子が
気になって仕方がありません!どういう状況ですかッッ??!リョーコさんッ!111!!1!」
「はい、ぜひkwsk知りたいところですねぇ、現地にいないのが残念でなりません」
『状況ですか?えー(ひぅっ!もう自分でッ着るから!!やめっ…)現在出(ふふ………遠慮しなくてもいいんだぞ?エリー)雲選手が
フニャフニャにした選手を脱(ひうう……やあぅッ)がせて衣装を着せているところです』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!実況してほしいッ!切実に実況してほしいッッ!!!!1(血涙)」
「実況が実況を希望してしまいました!んんんんんんんんんとはいえ私も解説が欲しい!!!!!!!!!!!!!!!!(歯軋り)」

『あ、準備の方が終わったようです、そちらにお返ししまーす!!』
「んんんんんんんんんんんんんんんんこ~~~~~~~~~れは悔しい!!!111!!」
「主に我々のボルテージが上がりましたね~~~~~~~~~~~」


「えーエントリーナンバー8番、エレオノール選手です!!!!!」
「やっ……なんでみんないるの…?!」「ほら、大丈夫かエリー?」
少しヨロヨロとした足取りで、涼の左腕に両手でしがみついた状態のエリー。
格好は肩と背中が大胆に出たセミロングスカートのメイド服だが、スレンダーなエリーに合うよう、
フリルは最小限でシンプルながらシャープに洗練されたデザイン。ナチュラルながら涼しげでキュートなメイクと
ヘアピンと飾り紐で巧みにセットしたショートの紅い髪で印象が普段と全然違う。
そんな中で、腰に巻いたガンベルトとシース、ホルスターが異彩を放つアクセントになっている。
顔や普段あまり見えないうなじ、腕はもちろん、チラチラと覗く絶対領域まで真っ赤で目は潤んでしまっている。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1」
「きたあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ひぃうっ!!」普段の面影もなく涼の陰に隠れるエリー。
「これはあ~~~~~~~ぶない!!!!!!!!!」「そうですねぇ!!素晴らしいチョイスです!!!」
「これぞフソイッシュKAWAII!!!111フソイッシュMOE!!!!!!!!!!!!素晴らしい得点源!!!!!!!」
「おほwwwwwおほほwwwwwwwwほほおっとぉwwwwwwwwなんとも可愛らしい!!!!!!!!1」
「かッ可愛いとかいうな!!!!!!」「「いいやKA☆WA★II!!!!M☆O★E!!!!!!!」」
飛び出して叫ぶエリー。でも腕を伸ばし握り締めた両拳を身体の横に叫ぶとか萌えるだけですから!!!!!!!!!
「可愛くないっっ!!!!!!!」「Che Carina!!11!!!!!!!!」「可憐だ~~~~~~~~~~~~~!!!!!1111」
「いッ言い換えただけだろ!!!!!111」「ふふ、こう言われたいんだろう?綺麗だよ、エリー」「なっ………!!」
「これは凄い事になってきた!!!!111!!!」「漲りますねぇ!!!百合要素を投入してきたッ!!!!!!!!」
「か………可愛いとか言うな………」「おおっと俯いてしまった可愛い!!!!!!!!!」
「やぁあ…………」「カーテンに隠れてしまったああああああああああああ!!!!!!」
「本当にかわいいぞ、エリー……?」涼がやさしく声を掛ける。
「………ほ、ほんとに?」「ああ、私の目を見ろエリー」
「…………嘘じゃ、ないね」「だろう?だからほら、もっと堂々としてもいいんだぞ、胸を張れ」「……うん」

カーテンからおずおずと出てきて胸を張るエリー「こ、こう……?」
「この感じがたまらな~~~~~~~~い!!!!!!!!私は今己の語彙力に絶望をすら感じています!!!!
言葉とはなんと無力なのか!!!!!!……ああ…………Che Carina…………」
「何と言いますか、この背伸び感がたまりませんね」


「僕、かわいいの………?」


「ああもう無理!!!!!無゛理゛!!!!!!勇音ちんあたしを解き放って!!!!!!!」
「よせリーチェ!!!!!!111戻ってこれなくなるぞ!!!!!!!」「いいよそんなのはもう!!!!!!」

「ほらエリー、皆に会釈してご覧?」「う、…うん」
スカートの裾を摘み、斜めに片足を踏み出して軽く膝を曲げ、優雅に一礼するエリー。
完璧で美しいガリアンウィッチスクール仕込みの貴族子女の所作だが、
今はそのドレスとは対照的にフリフリ全開なガーターベルトとストッキングが創り出す紅潮した絶対領域を
それはそれは禍々しいくらいあざとく吸い寄せる様に魅せていた。
そしておぞましい事に本人はそれには気付いていない……………ッ!!!!111

「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛嗚呼亜唖亞阿吾いっそ殺せぇえええええええええ!!!!!!!」
「耐えろリーチェ!!!!!1もうBLが描けなくなってもいいのか?!!??!?」
「んんんんんんん!!!んんんんん!!んんんんんんん!!!!!」
「リーチェ!!!!!!!」「うにゃ~~~~~~~ん!!!ふぎゃ~~~~~~~~ああ!!!!なあおぉおおおおう!!!!!!!!」
「使い魔を使役するな~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!てかお前の使い魔犬だろうが!!!!!!1」
「離せッ!!!!!離せッ!!!!!あたしはエル・ドラードに往くだああああああ!!!!1!!!!!1」


「さあ………エリー、ほんの少しその裾を持ち上げてみて
もっと可愛いエリーを見せてあげるんだ………」

「ん………」
「いい子だ」
目を斜め下にそらしつつも、エリーがゆっくりとスカートの裾を両掌で掴み、震える手で少しずつ持ちあg

暗転、流れるG線上のアリアと美しい湖を進む豪奢なボート
≪本日は、クラリーチェ・レィディオゥにごアクセスいただき、ありがとうございます。
大変申し訳ありませんが、この動画は、運営者が不適切な内容と判断したため、ご覧になれません≫

15:00>ちょええええええええええええええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
15:01>ろっとぉ!!!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
15:01>nice boatwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
15:01>ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
15:02>ここでかよおおおおおおおおおおおおおおおおwwwwwwwwwwwwwwwwww
15:02>勇音さあああああああああああああああああああああん1111111111111!!!!!111wwwww
15:05>うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
15:07>裏切ったな!!!!!僕の気持ちを裏切ったな?!!??!!!!!!!!
『というお話だったのさ!!!!!!111!!!!!!!!』
15:10>みせてくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
15:12>あと二秒!あと二秒でいいから!!!11111111111111
15:14>ぐううううううううううううううあああああああああああああああ

ジリリリリリリリリリリ!!!!1111!!!!!!
『ヴォヴッ!!!!(驚愕)』『感付かれたッ!!!!!111』
突如流れる新日暮里消防署ベルの爆音

15:17>まじかやb

『このワーム…………エリーか?!あいつプログラム上達してんぞッ?!1?11?!!!』
『どどどどうすんの勇音ちん!!??!?』『撤収だ!!!!プランA!!!!!!!』

15:22>『OK×all』

『に、逃げないの勇音ちん?!』
『サブストラクチャ展開………攪乱開始……ランダムジャンプ………デコイレリーズ…アポトーシス、スタート』


『まだ……?!』
『あと十秒………ッ!!!』
『け、ケーブル!!!』『よせッ!!!!!!!』『えっ?!』
『物理切断すると一発で捕捉されるぞ!!!!!!!!!!!』
『ッ!!』






『よし!!!!!OKだ行くぞ!!!!!!』『うん!!!!!』


log out.





「走れリーチェ!!」「待って勇音ちん!!!!」
上構後部、多目的室の隣の機械室から飛び出す。すぐさま舷側側のドアへ。
「こっちだ!!!」
「!いたぞ!!!!!」「追え!!!!!!!!!」
SRタスク(多分あいつらも視聴者)と一部ウィッチを率いて
コミュリングに接続したタクティカル・モノクルのホログラムを睨みつつ
こちらへ突撃してくる10式情報化ヘルメットに装甲服姿、腕にはMP腕章、
手には巨大なホログラフィックFCSが付いたベネリM4ショート
(中身はゴム・スタンかX-REPだ………と信じたい)を引っ掴んだエリー。

「待てゴルゥア!!!111!!リーチェ!!勇音えええええええッ!!!!!!」
「わあああああめちゃくちゃ怒ってるよぉおおお」「そりゃそうだろうなぁ………!!!!!」
多分プロテクトを破った後は追尾しつつ動画を見ていたんだろう、カンカンだな。
うっわ魔力暴走気味に眼から金色の焔出てるし。
「行くぞ!そこの角、お前は右、アタシは左!!!曲がったらフェーズ2だ!位置情報を攪乱する!!!!!」
「う、うん!!!!!」「よし……」コミュリングに位置情報攪乱プログラム実行タスクを起動。
「ねぇ勇音ちん」「なんだ、カウント…3…2……」「プランBって何?」「あ?ねぇよそんなもん!!!!」
弾け飛ぶように左右に分かれる。





「MERDE!位置情報が………ッ!!」
モノクルに映る3Dの艦内ホログラムマップには無数の個人座標がアトランダムに明滅している
これでは使い物にならない………!!!
「中尉、どうしますか!?」「A分隊は右!!!B分隊は僕と左だ!!!!!MOVE!!!!!!!」
モノクルを目の前から外す。もどかしい。

「ウグルルルルルルルル………………!!!!!!」
走りながらショットガンの中のLTLX7000可変射程装弾を確認する。
地に足がついて僕に勝てると思うなよ………?!




―――長い夜になりそうだ




こうして、今日もまた夜の捕り物が展開されるのであった
余談だがこの晩も取り逃がした。





―――クラリーチェ・レィディオゥ#17―――

『タグ』 エリーは不憫 エリィたん萌え 666オールスター 神回  安心のクラリーチェクオリティ
「編集」 EMT クララ様 我々の業界ではご褒美です クマ吉ーチェ りょうえり お前らの嫁だろ、早く何とかしろよ
     女学生コンビ 凸凹メイド お嬢 紳士の社交場 狂乱の暴走ロケット



※各人が試着した服はそれぞれの私物として艦長のポケットマネーから総て購入しました。

おしまい



[24398] メメント・モリ・ネヴァー
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2011/01/25 19:35
メメント・モリ・ネヴァー


ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、………
足元が泥濘になった凹凸が激しい地形を身を低くし、軽機関銃を抱きしめ地を這うように駆ける。
何も聞こえない。耳がおかしくなって自分の吐く息の音しか。

リーヌ・クスリンナ少尉は必死に地を駆けた。
正面で連射撮像器のストロボのような光が瞬く。
はっとなって咄嗟に地に身を投げる。ぐじゃっと全身が泥に食い込んだ。
頭上を金切声を上げて死の権化が飛び過ぎる。


音が戻る。


『オラオラどうしたどうしたァ!!!!!それで御仕舞いかこの腰抜けども!!!!!!
ちったぁ気合の入ったところを見せてみやがれ!!!!!ここまで来い!!!!!僕を楽しませろ!!!!!!
そんな産まれたてのバンビちゃんみたいな屁っ放り腰じゃ僕がちっとも楽しかねぇぞ!!!!!!!!!
くそったれアバウト占いによると今日はいて座の運勢がくそったれ最悪だそうだド畜生!!!!
挽回にはコミュニケーションだとよ!!!!!!!もっと楽しくコミュらせてくれよオイ!!!!!!
いいか!!!!!!よく聞けこのタコスケ共!!!!この僕が万年撤退絶好調なてめぇらに!!!!
ありがたいお話を聞かせてやる!!!!!!!!!耳の穴かっぽじってすくねぇ脳味噌の皺によぅく叩き込んどけ!!!!!!!
くそったれネウロイに後ろからヤられてヒイヒイ言わされた挙句叩き落されてそこで諦めるウィッチは腰抜けだ!!!!!
クソ根性みせてお上品に泥水啜ってでもレスキューのイケメンが助けに来るまで耐え切るのが半人前のウィッチだ!!!!!!
テメェの手足で這ってでも回収地点まで現れてイケメン達に迷惑掛けずカワイイトコ見せんのが普通のウィッチだ!!!!!!!
叩き落されたらチャンスだと確信して油断しやがったくそネウロイのどてッ腹に機銃弾叩き込んでブチ落としキッカリ耳揃えて
勘定合わせんのが真のウィッチだ!!!!!!!!!わかったか!!!!わかったら僕のとこまで来い!!!!!!
おらそこ水溜り避けてンなよ!!!!!!!!低いってことは撃たれねぇんだよ!!!!!むしろ飛び込め!!!!!!
そうだ!!!!!いいぞ!!!!!!!!泥パックでちったぁ美人になった!!!!!!!!!シャイな兵隊君もイチコロだ!!!!!!
さぁこい!!!!!!!ここまで来るんだよおじょうちゃんたち!!!!!!!!気合い入れろ!!!!!!!下っ腹に力入れんだよ!!!!!!』

ドガン!!!!!!爆風と衝撃波で体が泥ごと煽られて余計もみくちゃになる。
「はぁああううッ!!」
悪魔の叫び声が聞こえる。聞きたくないのに。
猛烈なハウリングを起こし大音声で猛獣のように罵倒し続ける魔獣の名は
エレオノール・ベネックス陸軍猟兵中尉。



前髪を長めに短く切った軽やかな髪は、一見黒いがベルベットのような艶と深い紅の色彩が混ざりこんだ不思議な色だ。
毛先の4センチ程が鮮やかな静脈血の色に変化するその色合いは、その下の金色の輝きを秘めた琥珀の双眸を飾り立てる。
やや小柄な肢体は、伸びやかでたおやかな躍動感を秘め、生命としての美しさを全身から発散している。
幼さの残る凛々しい顔立ちは、健康的且つ均整の取れた肢体と相まって
清涼でありながらも溌剌とした美しさを秘めた可愛らしさを紅いコスモスのように煌かせる。

着飾って街を歩けば、さぞ多くの男達が足を止め振り返る事だろう。




だが、そんな美少女エレオノール・ベネックスは現在いつも通りの男っぽい格好であることに加え、
ベッコベコに罅割れたやたらめったらハウリングする電気式メガホンを握り潰さんばかりに右手で握撃し、
(側面に『F**K’N-HELL-HOWL』と血糊のような赤いペンキで下品に銘打たれていた)
左手には其処此処に仕掛けたTNT火薬の起爆装置を地獄の鍵盤楽器のように握り締め、
とどめとばかりに「GOODNEES=CAPTAIN」とデカデカと書き殴られた悪趣味極まるキャップをやくざに被り、
隣に乱射小悪魔(可愛い意味は微塵も無い。大魔獣エレオノールよりまし、程度の意味だ)クラリーチェを従え、
絶え間無い銃弾の雨と爆薬の生み出す紅風を継ぎ目なく最早芸術的に姉妹達に撃ち掛けながら
殺意に餓えた野獣のような表情で長い犬歯を歯茎ごと剥き出しにして殺しの顔でエンドレスにリーヌ達を罵倒し続けていた。



目の前の水溜り(とは名ばかりの十中八九ナニか潜んでいる小さな沼のような何か)に飛び込み、
歩兵用ヘルメットを被った顔を半分水没させ、そこから更に虫のように這い摺り蠢き前進する。
(そうしなくては泥土で前へ進めない)
どっちがどっちだか判らないが、幸か不幸か魔獣の叫びは途切れる事無く耳に入る。
方向を見失うことはない。であるならば、進まねばならない。

最早リーヌはそのためだけに存在する生命体であるかのようであった。
…………もうやだ。


おなかすいたよ………。

悪魔は全てお見通しであった
『喜べこのオボコ共!!!!!!!!今日の昼飯は僕の超サイコーな手作りランチだ!!!!!!!!!!!
どうだ嬉しいか!!!!!!!!!笑え!!!!!わかったらここまで来い!!!!!!!
そうだ来いおじょうちゃんたち!!!!!!気合い入れてハイハイしろ!!!!!!!前に進みやがれゴルゥア!!!!!!
来れねぇヤツはランチ抜きだ!!!!!だが聖母のようにおやさしいこの僕はそんなドベ子にも扶桑の缶飯をくれてやる!!!!!!
期限切れの缶飯だ!!!!!!わかったら来い!!!さぁ来るんだよ!!!!!!前だ前!!!!!!横に進むんじゃねぇ!!!!!
そんなに姉ちゃん妹が好きかこの百合っ子!!!!!ヴォラそこシャミ(三味線)弾いてんじゃねぇ!!!!!!!!
そうだテメェだ進めゴルゥア!!!!!!!!!!』
エレオノールの手料理の腕は誰もが認めるところだ。恥ずかしがって滅多に作ってくれないが超絶美味である。
比して扶桑の缶飯は糧食ではない。あれは対地雷探知器用偽地雷だ。それもおぞましいことに期限切れ……!





リーヌは、否、今ここで虐げられる姉妹達は、己の中に餓えた獣が目を覚ますのを拒絶出来なかった―――





666戦術航空団が所有する数少ない車両の一つ、HEMTT-A4のコンテナに餓えた瞳の少女達を満載し、
エレオノール達は一路街へと向かっていた―――





扶桑全国でも最近とみに人気なガリア料理食堂『森の息吹』その厨房。
ガリアに武者修行にも出た経験を持つ料理長の森源蔵は何か得体のしれない感覚に身震いをした。
「親方、どうしました?」「ウルセェ勝ブイヤベースから目ぇ離すなしっかり灰汁取れ!!!!!」「はいいっ!!」
若手の勝を叱り飛ばしながらも源蔵は先程の怖気を厳めしい顔で思い返していた―――この寒気ァ、確か前にも…

バンッ!!!!!!「おーっすオヤッさん!!キッチン貸して!!!!!!」
裏口の扉を蹴破る勢いで森の息吹のコックコートを勝手に着込んだエレオノールが踏み込んでくる。
袖をロールアップし頭にはオレンジのナプキンを巻いて髪を覆ったエレオノールは大層可憐だったが野郎共の反応は劇的且つ迅速だった。
「うわああああでたぁあああああああああ!!!!!!」「ヘルシェフエリーだああああああ!!!!!!!!」
「ひぃいいいいい666空ううううう」「しょ、食材かくせぇ!!!!!!!」「森の終わりだぁあああ!!!!!!!!!!」
「今日も閉店かぁ……」「わぁ!わああああああ!!!!!!!!!」「またかよぉおおおおお!!!!!!」

これだったか!源蔵は狼狽えずに腹から声を出してエレオノールに向かい合う。
「またきやがったかエリ公!!!!!!てめぇら出禁だっつってんだろがよこのガキャアアアア!!!!!!!!!」
「まぁああまぁ、キレんなよ源さ~ん」ニッコリと微笑んでとりなすエレオノール。
弟子たちは源蔵の気迫でエレオノール達666空が退散する事を願い
期待に満ちた目で事の成り行きを調理台や冷蔵庫の陰から見守る。

「新メニュー考案を手伝う、ってのでどう?」にんまり。エレオノールがドヤ顔をする。
「いいだろう」「親方なんでぇ!?!!!?!」「ルセィ!!!!!!!!」「ひぃ!!!!!」
こいつの料理の腕、そして若い独創的な感性。それはこの森の息吹の行く末をも左右する悪魔の果実だった。
こいつ、今はこんなだが実は名のある没落貴族か何かの令嬢なんじゃねぇか……?
源蔵は実利主義である。悪魔との契約はマッハで成立した。

「さすがオヤッさん、話が早い。僕の姉妹の昼飯、手伝ってくれるよね?」
「やむをえん。オイ勝」「へ、へい?」「店閉めてこい」「へい?!」「早くしろィ!!!!!!」「へい!!!!!」
勝はダイニングに飛び込んだ。果たしてそこには本来とてもとても可憐であろう666空の面々が、
食欲にギラギラした目で既に待ち構えていた。
(というか、彼女らはここへ来る時100%こうであったので
源蔵の弟子たちは彼女らに浮ついた気持ちなど抱けよう筈もなかった)。
「ひぃい?!!??!!」「ゴハンマダ!?!????」
赤い髪の毛の暫定乙女がスオムス訛りのカタカナ口調で叫ぶ。
「しょしょしょしょうしょうおまちくださいいいいいい!!!!!!!!!!」
『closed』の看板をエントランス扉に引っ掛け、親方に惨状を伝えんと勝は厨房に転がるように逃げ帰った。
「おおおおおおおやかた!!!!!!」「おう勝てめぇはイモ剥けや。超速で」「へい!!!!!!!!!!」
厨房は最前線の野戦病院のような喧噪であった。







―――森の息吹の戦いが始まる。





姉妹達が全員満腹となり、HEMTT-A4の荷台で眠りこける帰り道。






トラックはまたもや訓練場へと向かっていた。

到着するなりエレオノールは少女達に怒鳴りつける。
「起きろお前ら!!喜べ!!!!!午後の訓練はサーチ・アンド・レスキュー・タスクの
お兄さんたちが相手をしてくれるぞ!!!」
「「「えぇええ~~~~~!?!?!!」」」」


そんな面々を、少し離れて模擬戦の準備を進める特殊空挺救護作戦群小隊長の扶桑陸軍中尉、
崎山真(シン)は覚めた目で見ていた。

―――はん、あんなに気張ってあいつはまた。

まぁ御嬢さん方の生存技能が壊滅的なのは見てりゃわかるが、
あんな気張ってちゃあいつが持たんだろう。全く。

知らん仲でも無いし、気にならんと言えば嘘だ。
ベネックスはSRタスクの隊員とは特に仲がいい。

あいつは味方が死ぬのを極端に恐れる。
それは最早強迫観念に近い。だからこそ、心配なのだ。

彼女らのためにも、今回の模擬戦は本気で行った方がいい。
(通常、まずはその時点の能力で打開出来る最大限困難な状況を創り出して反復訓練し、
初期作戦能力を獲得させてからアン・リミテッドな演習へと移行する。
だが、『能力不足である』という問題意識を振作させる為の『ハンマーセッション』ではその限りではない)
今回の向こうの想定は、負傷ウィッチ役のウィッチを彼女らの中から一人選び、
その隊員を回収点まで時間内に運ぶこと。

こちらは、それを妨害するってわけだ。

とはいえ、無論向こうにはベネックスがいる。
優位は間違い無いだろうが勝負は実際のところ判らん。
まぁ、やるか。

真は弾丸に祈るような仕草で弾倉にペイント弾を装填し終え、愛銃、対人狙撃銃改、
拳銃型握把と消音器を備えたそれの機関部をそっと撫でた。





エレオノール達は負傷者役の龍華(最悪を想定するのは基本だ)を交代しながら
ファイアーマンズ・キャリーで背負い、回収地点を目指し突き進んでいた。隊形はダイヤモンド・フォーメーション。
損害は無い。武器はいつもはそのまま用いるG11Kハンドアサルトウェポンにフレームストックを接続し、50連マガジンを装填していた。
他の隊員はヴェクター・ライト(肉抜きや素材見直しで軽量化を行っている)か10式改、一部は眼鏡付き89式小銃。
要所要所でエレオノールと喜美佳が短・中距離狙撃を実施し、敵の妨害を片っ端から排除していた。
これは、敵の10式改(短10式小銃改。ビルトインサプレッサとFCSモジュールによる小銃擲弾射撃機能を備える)
よりもエレオノールと喜美佳の射撃の方が正確なため得られた限定的且つ脆い優位だ。

―――でも勘ってのは莫迦になんないよな。

そう思いつつぴたっと足を止める。

そう、上手く行きすぎだ。
こちらの勝利条件は、回収地点までの負傷者の搬送。
対してあちらは、


負傷者の排除



「龍華」
「どうした、エレオノール」

「ここで待ってて」
「ああ。勝てよ」
「うん」

まず御影少尉とヘレーナ少佐を呼ぶ
「御影、僕と来て右を。ヘレーナ少佐、左へ展開して探知を。リョーコ、リーチェ、ショーコ、
僕の後ろに付いて来て目標が近付いたら同時に突入を」
「はい」「ええ」「うん」「わかった」「おっけえ」
「環、後頼む」
「…………はい」


「みんな、風になれ。箒で飛ぶ時みたいに。
敵を感じろ、ゆらぎを観るんだ」
このフォーメーションの変化で、敵にも「こちらが気付いている」ことに気付かれる。


引っ掛かっても、タダじゃやられんよ。




―――………来たか。

真はゆっくりと、完全に擬装された愛銃の筒先を蔦科植物のように微修正した。
その全身にも、現在伏せている地点と全く同じ植生の徹底した擬装を施していた。
擬装が無いのは選抜射手狙撃戦闘服の防水帆布で補強された胴体及び太腿部前面のみだ。
数メートル左には、全く同じ装備の部下、2番射手、井上優が伏せている。
「全班、目標は設定地点に侵入した。呉班、竹中班、行動開始」
666空を追い込んだ呉班が撤収、真の直掩へ入る。
敵の眼前の竹中班が、接触を維持したままあからさまな誘導を行い
敵の注意を敢えて竹中班以外の方向へ逸らす。
真の位置は竹中班の斜め後ろ。あからさまな位置。

敵は負傷者を円形陣で防御、少数の別動隊が我の伏撃を排除せんと動き出した。
―――やはりそうくるか、ベネックス。

「山本分隊、敵主力との接触を断ち、竹中班と合流」
作戦計画を敵がこちらの伏撃企図を察知した状況のものに変える。
返信は無い。不測事態以外の不要な交信は夜戦ウィッチとベネックスに勘付かれる。
真の指揮も、有線及び擬装設置無線機の複合による遠隔発信だ。

ベネックスを潰せば、こちらの優位は決定的なものとなる。
真は最初からベネックスの排除を最優先目標に置いていた。
あの飛行隊に陸戦指揮を執れる者はベネックス以外には出雲少佐しかいない。
出雲少佐は、本訓練の統裁を行うため不参加。

さあ、俺の目の前に来い。





「正面の敵が誘ってる。当面の敵を牽制しつつ翼側を警戒。
正面は僕と喜美佳で警戒する。電探、通信を逃すな」
どのみち、正面の後衛が本命ならば僕と喜美佳以外には見えない。

―――どこだ。

「喜美佳、集中しろよ……」
「わかっています」
「よし、誘いをかける。僕が掻き回すから、撃たずに観測しろ」
「ええ」

ザッ!!!
わざと大きく加速して駆け出し、敵前に飛び込み乱雑にフルオートで射撃。
目の前の倒木に―――

急に立ち止まる。方向変換、マグネシウム手榴弾を警告しつつ上空へ放る。
「フラッシュバン!!!!」
ドッ!!!!強烈な閃光が炸裂し、目の前が色を失う。
別方向の小さな茂みに飛び込む。

倒木、エレオノールがもし飛び込んでいたら胴体が存在していたであろう位置に弾痕。
「喜美佳、どうだ」
「2時の方向、狙撃手」
「いけるか」「いつでも」
単眼鏡を構え観測。いた。ギリースーツを纏った狙撃班。
「よし、撃て!」
パァン!!!!
「死亡!!!」やった。
射手を失った観測手が僅かに照準を修正し喜美佳を―――
ドヴォッ!!!「死亡だ!!!」
エレオノールがすかさずカバー。

これで排除……否!!!
エレオノールは再び駆け出した。
「喜美佳!!!!動けッ!!!!!!!」
パンッ!!!
間一髪、顔の横を弾丸が掠める。

喜美佳!!!走りながら確認すると、喜美佳は眉間にペイント弾を受け気絶していた。
「MERDE!!!!!」狙撃手自体が囮か!!!!!

這うように駆ける。下がれない。しかし方向は判った。最早狙撃手を倒す以外合流の方法は無い。
突撃には少々長い距離を突進しながら、エレオノールの双眸が闘争の高揚に爛々と燃え上がる。





「来るぞ、優!左半身を狙って撃て」「はい!」
真はベネックスの右側、大きく離れた虚空を狙う。
シュバン!!!対人狙撃銃改の独特な発射音が鳴る。
眼球から金色の焔を迸らせたベネックスは、しかし更に左へ爆発するように身を躍らせた。
糞、俺の頭の中でも見えるのか!!!考えつつも照準を瞬時に修正。まだこちらの位置は知れていない。
シュバンシュバンシュバン!!!神速のボルト操作で三連射。殆ど寝そべる様に横へステップして回避。
「優!花火だ!!!」「はい!!!」
優が立ち上がりベネックスの手前、上空へペイント手榴弾を投擲、素早く銃を構え空中のそれを撃つ。
ダァンンッ!!!!
同時、ベネックスが目の前の地面に固有魔法射撃を撃ち込む。
猛烈に地面が爆散し、優が空中で炸裂させた手榴弾のペンキを吹き飛ばす。
魔法は隊員への使用以外は自由とはいえ、なんと破天荒な!!!

空中へ舞った土塊の上を飛び越してベネックスが迫撃砲弾のように躍り掛かってくる。
最早二人は無言で膝射姿勢、全弾撃ち尽くす勢いで空中のベネックスを狙う。
俺と優はライフル実包でクレー射撃が出来る特技射手だ。逃げ切れんぞ!!!!
しかし信じられない事にベネックスは空中で連続固有魔法射撃、
反動を利用しストライカー機動のように全弾回避して魅せた。
高速で回転し弾倉交換を終えた優へと猛襲する。
激突。転がりながら揉みあって転倒。
「あぐッくぅ……!!!」「HA!!!!!」
優に馬乗りになって組み伏せたベネックスは果敢に拳銃と模擬短刀を抜こうとした優をペンキの付いた模擬ナイフで制圧、
弾倉を交換し、対人狙撃銃改を立射姿勢に構えた真へ―――

シュバン!!!
一瞬遅れて首筋、頸動脈にインクが叩き付けられる。
「かッはっ!…死亡だ」





「ははッ!!!!」
惜しかったな、僕の勝ちだ!!!!!!!

唐突にホーンが鳴る。
『状況終了、護衛対象が死亡した。全隊員は弾抜け、安全点検、報告の上広場に集合』
スピーカーから涼の声が響く。

えっ?!

「………最後の一射、あれは陣流寺を狙った射撃だ」
少し咽せながら、人型をした直立する茂みが喋る。
振り返ると、ギリギリ視認可能な射線の先で龍華が頭をペンキ塗れにしていた。
「ザキ!!!」
「常に射線を妨害していたお前がそれを止めたから撃てたんだぞ。
優じゃなく俺を狙うべきだった」
「くうう……!!!」

「それ以前に、お前一人では駄目だって事だ。
わかってるんだろ。肩の力を抜けよ、ベネックス」
擬装網の下から、漆黒の双眸が向けられる。
「……わかってる、merde」




広場では、椅子に腰掛け、フソウ・ブレードを地面に立てて両掌をヒルトへ重ねた涼が待っていた。







ヴろぉろろろろろろろろろ…………

のどかな平原を、でかいリベリオン製防弾ブルドーザーD9がガチャガチャにし、バックして均す。

ヴろぉろろろろろろろろろろろろろ。止まる。ブレードを上げて下す。

「…………なぁ、何で僕は土方か工兵の真似事してるんだ?」
ガコガコ、むやみやたらとでかいギアをリアへ。
安っぽいシートの背もたれに左肘を引っ掛け、後方を見ながら下がる。


ヴぉるるるるるろろろろろろろろろろろ…

別のドーザーが工事予定地の端に到着する。

「……知りませんよ中尉。おおかた今日の訓練で龍華をやられた所為じゃないですか?」
ガコガッコン、リア。
顎を持ち上げ、後ろを肩越しに振り返りながらクラーラ・ウラディミロヴナ・バラノワ少尉が下がる。

ブルるるるるるるるるるるるるゴゴリッ

「でもなぁクララあれは……ああ、木の根だmerde」
勝手に呼んでいるあだ名で言いつつ、後部のリッパ(掻き起すための爪)を動かす。


ぶぶろろろろろろろろろろろろろろ……更にもう一台ドーザーが端へ来る。

「あたしは別に、たまにゃいいけどもねー」
ジャンヌ・ヴァルツ曹長がちょっとだけ話しにくそうに話に加わる。

ぶろろろるるるるるメリメリ…

「……? まぁ、作業自体に不満は無いよ?僕も。…お、きたきた……でか。仮設飛行場はもう一本必要なのは確かだし」
予想より大きい木の根を掘り出しながら、エレオノールも応じる。

ガコガコ、ゴン
ぶるるるるるるるるろろろろろろろろ

それを作業場の傍、廃材置き場に引き摺る。
「たださぁ、罰当番を受けるのもいいんだけど、この……………くそあちい!!!!
何でこいつ防弾キャビンなんて付いてんだMERDE!!!!なんてんだろうなぁ、わかんないや」


ヴぉろろろろろろろろろろろろろろろろ

「なんとなくなんですね。まぁ、私も、何で駆り出されてるんだか」

ガコ
ぶるるるるるるるるるるるるるるるるる

「どうせキャタピラ付き運転できんの、あたしらくらいだしなぁ」

ぶるるるるるるごごごごごごごごご

「「「はぁああ………」」」


現在、エレオノール達土方魔女は666空の使用する仮設飛行場
(エレオノールが初ネット・ランディングを決めた場所)にもう一本、I型滑走路に加えX型滑走路とすべく作業中であった。
首にタオルを掛け、『出雲✚建設』のロゴも眩しいド黄色のヘルメットを被り、大絶賛環境破壊現在進行形。
タンクトップを晒し、爽やかに汗を流して労働中。

広場に集合した面々に、涼は滑走路構築作業の支援を命じたのだった。



ぶろろろろろろろろろ……


「うむ、労働の汗が美しいなエレオノール。このカナッペとやらもいい味だぞ。流石俺の嫁だ」
ぶるるるるるる………
「………」
エレオノールの進行方向、工事現場から少し外に機雷が二つ在った。

いや、医務室で寝ているはずの乳だった。
乳は仁王立ちし、両手に持ったカナッペ(僕らのおやつだ)をバクバク食いながら喋っていた。

「まぁ、この通り俺はぴんぴんしている。喜美佳は医務室だが大丈夫だろう。
心配性も可愛らしいが気に病む必要は無いぞ……うん、いいチョイスだ」
左手でノンアルコールのシャンパン(僕らの喉の渇きを癒す筈だった)をぐびぐびラッパ呑み。

ぶろろろろろロロロろ……

「…………」

「まぁ、そんなわけでエレオノール、何かそれでも悩みどころがあるならばああああああああああ!!!!!!!!」
ぎごごごごごごごごがががががが

無停止で均してみた。

「おおおおおおおおおおおおお愛が重いぞぉぉぉぉおおおおお!!!!!!だが!!!!!!!
愛妻の愛ならば!!!!!!!!すべてこの俺が受け止める!!!!!!!!!!!
俺のモノだもっと来いよマイワイフぅああああああああああ!!!!!!!!!!」

乳が両手でドーザーブレードを受け止めキャタピラが空転する。

「…………ちっ」効かねぇか。どんだけだよ。

がっこん、ギアをニュートラルに。
「龍華、めんどいから怪我の程度は聞かないよ。何しに来た。
なんで僕らのおやつを食い荒らしてる。それをしに来たのか?」
「ハァハァふ、愛妻の事くらい匂いですぐわかるぞハァハァ。ハァハァお前が悩んでいる、と」
「ああ、勘鋭そうだしな」一応心配し

「いや、先程お前が脱いだジャケットを嗅いでなハァハァ……」
「そのまんまのいみなんだ!?!????!!!!!!てかなにしてくれちゃってんのさ!!!!?!!!?!!?!?」
もうやだ何かハァハァも違う意味に聞こえる!!!!!!!!

「照れる顔が、可愛いぜ?」「うるせぇよ!!?!!??!!!!!!!!!」


「中尉、キリがいいので休憩しましょう」「さんせーい」
「………うん、なんだか僕疲れたよ」
パネルに突っ伏すエレオノールであった。


腕の間からふっと目をやるその先にはSRタスクの隊員たちが休憩に入るところだった。





真はエンピを地面に突き刺し、少し離れたセメント袋に腰を下ろした。

手伝いを申し出ておいて何だが、結構キツイな。
しかし、筋違いと分かっていても少し気に病んでしまう損な性分だった。
それに付き合うこいつらも大概人がいい。

休憩に入り、真から43.7m離れめいめい思い思いに休むSRタスクは、
呼んでもいないのにご苦労な事に全員集合だった。


「ベネックスか」
「うん」
後ろからベネックスが近付き、隣のセメント袋に座る。

「手伝わせてごめん」
「気にすんなよ、こいつらみんな好きでやってんだ」
「そっか」「そうだ」

ベネックスが魔法瓶に直接口をつけてあおる。
そういや喉乾いたな。

「ほら」
魔法瓶が投げてよこされ、受け止める。
「特製のハニーレモンソルトジュースだ、疲れ取れるぞ」
「………ああ」
よく冷えたそいつを真も飲む。これは……確かにうまい。

しかしこいつ、普段は男の手も握れんくせにこういうとこだけやたら無防備だ。
タンクトップは殆ど透けてるし、ブラの肩紐は出てるし。

俺の好みは、扶桑撫子だからまぁ、あれだが、部下でありバディの優なんぞはベネックスのこの態度を勘違いし、
ストライカーを整備し終えて格納庫から食堂へ行こうとしたベネックスを捕まえて
「付き合ってください!!」
などと言っちまってた。

「ああああそのぼくストライカー整備しなきゃ!!!!!!!!!!」
とベネックスに男子禁制の格納庫へ逃げ込まれた優が少し憐れだった。
奴はベネックスがストライカーを整備し終えるのをずっと待っていたのだ。

「僕も飲むんだから返せよ」魔法瓶がひったくられる。
まあ、間接キス云々は言わんで置くか。

ベネックスは少し離れた所の姉妹達を見ていた。ぼんやりと。
「………訓練でしごく時と、普段は分けて考えた方がいいぞ。お互いの為にな」
「わかってるよ」むっとして返される。理屈ではそうだろう。
だが、それをするにはこいつ、まだ若すぎる。

「死んでほしくないんだ」
ベネックスがぽつっと呟いた。涙が零れるように。

そうだろうな。俺はお前を知ってる。
あの地獄の底より更に凄惨だったガリア中原、人類の穀庫を奪い返す戦い。
そこに、扶桑皇国強襲軍団陸軍空挺降下衛生兵として義勇軍に派遣された俺は、その血溜りのような平原でお前を見ている。

誰よりも狂おしく突撃し、ひとりきりで啼き続けるお前を。


ガリアを取り返す必要があるのか、そんなありがたい持論をぶつ評論家、活動家がいる。
俺はそいつらの腹に10式銃剣を突き立て、そのまま全弾最大レートで叩き込んでやりたい気持ちになる。
ガリアの肥沃な土壌の赤は血の色だ。そう言い切っても過言では無い膨大な血が無惨に流された。

現在の人類は、女たちの魔力で辛うじて互角の戦いをしている。守るべき女達の血で、平和は贖われてきた。
これからもそうだろう。彼女らは、まだ10代そこそこで戦場へ放り込まれる。
大の男でも発狂する戦場で、彼女らはその身を守るために姉妹で助け合う。


真の『血の』絆だ。


彼女らにとって、上官とは姉であり、部下とは妹だ。
部隊とは家族であり、国家とは遠い親類、姉妹との間にある些末な事情に過ぎない。
夜は、誰も悪夢を見ないよう、凍えないよう猫がそうするように身を寄せ合って眠り、
昼は共に戦い。食事は皆で仲睦まじく摂る。

姉妹の出来事を自分の事のように喜び、笑い、悲しみ、泣く。
その絆は絶対だ。

時に、最早息絶えた妹を抱き締めて泣きながら必死に止血する事を止めないくらい。
その肩を引き、哀しみごと抱き締め、優しく諭すのも、その姉なのだ。


不甲斐無ぇ。男が揃って、女の子におんぶにだっこだ。

死なせたくないだろうよ。


一瞬、お前、SRに来い、と言いそうになる。そうすりゃ、悩む事もあるまい、と。


ベネックスが力無く笑いながら明るく言う。
「………僕、ザキのとこで働こうかな。ほら、陸の方が役に立つだろ?僕。ストライカーも履いてさ」
―――そうしろよ。飲み込む。

「莫迦言ってんなよ、お前がナガグツ(陸戦用ストライカー)履いちゃハチドリでも吊れねぇよ」
言えねぇよ。

お前は、その姉妹達を置いてここへ来た。


空へ。


そこで、妹の為に思い悩む姉の顔をしている。或いは、心配性な妹の。
だから、俺は、お前を助ける事しか出来ん。

「そうだな」ベネックスが苦笑する。


「………なぁ、そっちで、噂聞く?」
「ああ」決闘か「聞くぜ」
「どう?」

らしくねぇな。

というか、もう艦中で周知だ。
あの時なんざ、SRは舷側通路に全員いた。
他の科員も。それどころか勝敗が賭けの対象になる。
俺はお前に賭けてたんだぜ。

ちょいととんでもねぇ事になってあの満月の晩の賭けは有耶無耶だったが。

まぁうるさ屋の将校はいい顔はしねぇ。
「別に、今日はウルセェなぁ、位さ。ボイラーよっかよっぽどマシさ」
「ほんとに?」「ほんとだ」
「そっか」

あの日以来、決闘を見ない。


お前の中の獣は、大丈夫なのか。
ガリア戦線、或いは北部アフリカの熱砂、その瘴気に中てられた女は時に狂気を抱く。
お前は両方だろう。出雲少佐は、それを知ってて、だから決闘を受けていた節がある。
お前の狂気を祓う為に。




俺達には、墜ちたお前らを助ける程度しか出来ん。

んじゃ、戻るとすっかな。ベネックスが呟く。
おお、俺も仕事するよ、そう返した。


だから、安心して飛べ。そう心の裡で呟いて。





夜、士官執務室。
エレオノールは今回のベイルアウトウィッチ救出訓練の報告書をタイプしていた。
ビビットなファイアレッドのアンダーセルフレームのメガネ(読書用のもの)をかけて。

各人の問題点、傾向と対策。所見。爾後の教育方針。
まだまだ先は長い。そして、飛ぶ事そのものを疎かになど出来ない。
エレオノール自身、最近ようやく安定した着艦をモノにしつつあるレベルだ。
突っ込む分には、もう身体の一部なのだが。

あの蒼海。空から見る底知れぬ大洋。それに根源的な恐怖を掻き立てられる。
泳げない訳では無い。着衣での泳法や陸戦ストライカー潜水機動、そのようなものは難なく出来る。
吸い込まれそうで、何か潜んでいそうで。

女々しい、と思う。この僕が、ガリア猟兵が何を恐れるのか。

そもそも最近まで、艦から飛び立ち陸の滑走路へ降りていた。

「ふう…」
眉間を揉む。


今日の夕方は陸から艦に戻るときついでに涼に連れられ、教習用ユニットで着艦を展示された。
「り、涼?まさかこの速度で進入しないよね……」
「ああ、少し遅すぎるな。解ってきたじゃないかエリー」
「………えっ、う、うううん!そうだろ!?ははは!!!」
涼が後ろ、エレオノールが前。背中が弾力のあるものを押し潰す感触を伝える。
早鐘のような鼓動がばれやしないかと更にハラハラ。
「では増速して進入する。タイホウ・コントロール、バロネス。降りるぞ」
『アイアイ・バロネス ユア・クリア・トゥ・ランディング』
滑るように増速降下、みるみる迫る海面。
「ひうぅっ!!!!」
「さぁ、ここだ。わかるな?」
『アレスティング・フック、レディ』
「バロネス・レディ。ミートボール・インサイト」
無理無理無理無理やだよはやいはやいはやいよおちるよやだこわいよぉ!!!!!!!!!

嗚呼、この無限にも等しい死の滑降!!!!!!!

ギィン!!!!!
「3番ワイヤー!!!」
涼が尻から伸びたフックでワイヤーをしっかり掛ける。
3番、むかつくほど理想的だ。スロットルをマキシマムにしてリカバリの態勢。
接地「あっく!!!!」涼の肩と繋がるハーネスが胸の下に食い込んで苦しい。
「コンプリート・ランディング」
『ナイス・ランディング、バロネス』
「サンクス、タイホウ・コントロール。エリー、大丈夫か?これが理想的高速着艦だ。速度ではなく揚力で考えろ」
「…………」すん。息を吸う。殆ど泣きかけました。

明らかに気付いている涼。
「………さぁ、もう一本だ。タイホウ・コントロール、バロネス、リトライ・テイクオフ」
『アイアイ・バロネス ロケットモータ・アーマメントレディ』
ストライカーにイニシエート・モーターが取り付けられる。

「やあぁ………」
完全に涙声だった。目を瞑っていやいやをするような仕草をしてしまう。
ああ、甲板中見てるし。もうやだ。妹達まで見てる。
何でリーチェはそんなドSっぽいとろけた顔してんだよ。クララ、生暖かい顔しやがって。
ハチドリから甲板に降りたザキまで苦笑いだ。SRタスクめ、今助けろよ僕を。
最低だ最低。特に最低なのがこのオーガ・出雲・黒魔女妖怪・涼だ。
絶対わざとだ。そもそもこんな高速着艦、ふつうに不必要だ。
「ローンチ」カァンッ!!!!!!!
「ひううッ!!!!!!!!!!」
いつのまにか再度離床。この悪魔!!!!!!
あっというまにグライドスロープへ。
ファイナルアプローチ。はやいはやいはやいってもうやだよむりだって!!!!!!!!!!
「ユー・ハヴ、ノーム」「ひ」
「さぁ、見せてみろエリー」嗤ってやがる。
「やぁあ!もうやだよ…やめてぼくむりだよ!!!!」
「……全くしようのないやつだ」「え………?」
優しい……?上目遣いに振り返りそうになってしまった。




「スロットルは私がやってやる」「なんでさばか!!!!!!!!!!!!!!!!!」
とうとう振り返ってしまった。うわぁすごくいい顔してゆ………。

エレオノールは婀娜っぽい蠱惑的な笑みを見、次の瞬間ワイヤを捉えた衝撃で降り立った肢体とは裏腹に意識は飛び断つ。

―――甘やかな失墜の感覚と共に―――




―――………はぁ…。

エレオノールははっと我に返った。
いかんいかん、思い出したらまた怒りが。
蕩けるような感覚など無い。無いったら無い。

それにしても、最近怒りっぽいかな。
カルシウムは摂ってるけどな。

毎日飲んでるよ、牛乳。
無かったら脱脂粉乳。怒りっぽいといけないしね、うん。


あの頃みたいな感覚は、まだないけど。
……それも時間の問題だろうな。
実際問題、この艦は慣熟航行が終われば、欧州へ送られるだろう。
良くて北部ガリアの掃討戦。



最悪、地中海側のユーロハイヴ突入作戦への投入。



扶桑の鎮守府にとって、この艦は国際社会からカミカゼを要求された場合に切り捨てるのに最適な生贄だ。
問題を抱えたエース・オブ・エースの巣窟。宣伝がその意義の大きな部分を占めた表の601JFWに対する
こういった暗部めいた隊は、実は世界各地に存在する。正規の(表の)軍に『壊滅』は許されない。
それは、国家の名代の敗北を意味するのだから。

腕が立ち、そして使い捨ても厭わぬ尖兵、鏃、楔。


ネームレス。


皮肉なことだ。センパイの意図は大きく狂いつつある。
僕を、極東で生き延びさせるという。
自分は、僕がいないと、いの一番に突撃する癖に。

………セシール、クロエ……まだ生きてるよな?センパイを、支えてあげてくれ。


僕個人は、望むところである。しかし、この船に乗る妹達の多くは、
片道航海には若すぎる(飽く迄軍属ウィッチとしての基準で、だ。僕だって小娘なんだから)
時間がない。性急に過ぎる。死なせてなるものか。


そのためならば、僕の狂気すら捧げてもいい。
もう、諦めはついている。僕は、あの故郷の平原で、或いはあの砂漠で、壊れてしまったんだろう。


心のどこか、大事なところが。


だから、せめて、それまでに。完全に壊れてしまう前に。
僕の総てをあの子らに。

ザキ、その時は、妹達を助けてやって欲しい。



―――涼、お前は、どうしたいんだ。
   
あんなものをその眼窩に飼い、慣らして。
運の、憑きだろ。

仲良く突っ込むか?

遣欧はいかな出雲とてどうもなるまい。出雲の意思は国家の望みに殉ずる。
過言かもしれないが、少なくともその重要な要素。僕にもわかってきた。
国家の意思とは出雲の望みにも通ずる。つまり、お前が軍属である理由だろう。



noblesse oblige

その高貴なる責務を果たせ。そういうことだろう。
出雲として。

でも、涼。涼、お前は、ただの涼として、何を望む?
指輪、いつもしてるね。


死んでほしくない。
僕には、爆薬庫みたいな力がある。
誰も救いはしない、ただ灼き尽くすのみの業火が。
使いこなしてみせる。






翌日、扶桑海側の巨大な島の上空。エレオノールはじめ数名のウィッチが偵察飛行を行う。
ビーダンスパターン・エンドレスエイト。
エレオノールのラファールD電子戦装備が電子の隠れ蓑で3機のウィッチを電子的に透明化する。
(光学的に透明な訳では無い)

ここに、フォートレス級のジグラッド・コンプレックスが確認された。
そして、僕らにはその討伐が言い渡されたのだ。

しかし涼は「全力での撃滅を行わない」と決めた。
艦長も。

つまり試金石なのだ。僕らの作戦能力の。
初期作戦能力を獲得した部隊は、実戦配備される。

僕らの場合、それは地獄へのピクニックの開催見込み。

―――早すぎる。僕は射撃と生存、突撃の教育を任されているが、そんな段階ではない。

仮にたいほうの火力と666空の全力であれば、撃滅は難無いかもしれない。
爾後投入される作戦での損害を許容すれば、或いは。
駄目だ。それは。

編成の命下時、涼は僕の出撃を最初に下命した。
制圧しろ、と。

つまり、撃滅はしない。当面の戦闘能力を奪う。
的確な破壊工作的攻撃は、下から見た経験と勘がないと厳しい。
本来であれば、地上に潜んだ専門の航空火力管制士官が支援航空火力を指向すべき要衝を指示する。
だが、僕は空からでも解る。昔やってたから。

僕なら、地上にザキ達を降下させる必要が無い。


「皐月、見える?」

最年少のウィッチ、高野皐月が遠見の魔眼で島を観る。
両目の魔眼は希少だ。側遠能力を使える。
「うん、見えます中尉」眼を離さず、応える。
「一般的なジグラッドが16、その中央に要塞級が4」
「ふむ……スター・フォートレスか?」
「はい。十六芒星と四芒星の二重配置。対地・対空火力を兼ねてます」
「クララ?」「うん」
「あの配置、地形的に斜面の途中だ。尾根を越えて行こうとしたら腹を見せる羽目になるし、爆弾も使えない。
かといって馬鹿正直に坂を上れば全力全開で大歓迎です。ネウロイってのは、こういう奴らだったかな……?」
「そうさ。奴ら、こっちの嫌がる事にはとっても機敏だ。知らなかったのか?」
「………ガリア?」「うん」思い出したくもない悪夢だったが、その記憶は貴重な戦訓。

「二人とも、聞いて。奴らは僕らがまだ見えてない。
突然現れたら、まず迎撃しつつも戦力は見せないはずだ。重要な地点も。
だから、奇襲になれば、『どこならどうとでもなるのか?重要なのか?』が判る筈だ。
奴ら、僕らに丸裸にされたのは知らない訳だから」
「はい」「ええ」

そこで、少し間をおいて、続けた。

「だから、僕が掻き回す。皐月とクララは上空監視。
皐月が『反応しなかったジグラッド』を特定しろ。
クララは、火網の重畳範囲、『キル・ゾーン』を正確に特定して」

「無茶です中尉!!!!!!」
「指揮官は僕だ、上飛曹。それは、僕が判断する」
クララは、静かな目だ。
「………成算は?」
「僕の装甲と速度なら、キネティクスSAM以外じゃ墜ちない。
NOEが僕より巧い奴は涼だけだ。対空火器が同士討ちする低空飛行経路なら、全力では撃てない」
「わかりました。たいほうに具申は?」
「電波でばれる。この場の最先任である僕の独断」
「中尉!!!!」
「………わかりました。サツキ」
「でも!!」
クララが難しい顔をして皐月を窘める。
「私らは軍人だ。それに、止めても聞かないでしょう、中尉」
ふ、とクララが寂しげに微笑む。
「ジグラッドの一つや二つくらい、主力の為に減らしとくさ」
軽口で答える。お見通しだよな、クララ。

中隊を率いてたお前にはわかるんだろう。恐らくこれが一番速くて、且つリスクは最小限だ。
無くなりはしないが。拙速でも、遅すぎた最適解よりいい。

僕とて、以前小隊長とはいえ副中隊長、中隊長代理相当の権限を持って指揮を執っていた。
わかってくれ。


「じゃあ、5分後に状況開始しよう。細部をこれから説明する」





五分後、島の反対側、尾根を見下ろし反斜面をギリギリ見通せない空中点、降下加速を掛けるには最適な座標。
「……ハイドロブースター・マキシマム。キャニュラーフュエル・マップ、オーヴァーロード。
アルチチュードリミット、カット。ECS、アクティヴ・ジャミング、MAX」
スタート直前のエアウィッチ・レースのパイロットってのは、こんな気分なのかな?
再就職できる歳でまだ飛べたら、考えとこうか。冗談で考えながら、
エレオノールは低空突撃機動に備え動翼制御の倍力装置と低空でより強い出力が必要になる燃料噴射機構の制御マップを
通常の高空用規定値より高圧にし、降下限界高度をオフにしてオート・プルアップを無効化、
電子妨害手段を能動制御モードでフルパワーにした。

ラファールD(Discret、ステルスの意)戦闘脚は
元来隠密作戦性能に重きを置き、フェライト塗装及び各部エッジを再設計、電子戦装備を強化した戦闘脚だ。
こんな低空突撃をする機ではない。

視界の空中魔法円投影式計器(通常航空機で言うところのHMD)に多数のコーション・マークが次々点灯。
コーションをキル。言う事を聞け。


「スロットル、マキシマムバーナー103%ホールド………!!!!」
さぁ、行こうか、ロラン……!!!!我慢しろよ…!ちょっと暴れるぞッ!!!!!
「バスターッ!!!!」

ゴッッ…………!!!!!!!
アフターバーナーとタービンブレードが獰猛な獣のように大気を喰い荒らして吼える。
パワーダイヴ・マキシマム。尾根のこちら側に叩き付けるように。

まだだ……まだ。尾根が迫る。エレオノールを噛み砕こうとするかのように。


NOW!!!!!

一気に引き起こし!ハーフ・ロール再度引き起こし!!
白紙的空間で見るとシングル・バレル・ロール・マニューバの動き、16G。
ただしそのライフリングには尾根が挟まっている。
「HA!!!」
Gで殆ど真っ暗な視界にモノクロームのXバンド魔導電子感覚視野がオーバラップされる。
頭上に梢、枝がヘルメットキャノピを掠める!!体躯がGスーツにギリギリと締め上げられる!!!!最高にハイだ!!!!

ここはもう敵方斜面、梢を頭上に見て、左手側の斜面の上(実際には斜面の右下側)から紅い閃光が奔る。
「シールドパワー・エンチャント!!!」
装甲服に魔素を流し込む、強度が跳ね上がる。
ゴッ!!!!
左肩の装甲がレーザを霧散させる。効くかよ!!!!
「実弾持って来いゴルゥア!!!!!!」吼える。
クォーター・ロール、エレオノールから見れば垂直に切り立つ壁のような木々の先端を右肩に擦らんばかりにマックスターン。
通常型ジグラッドが正面になる直前、右脚膝に内装したDEFA791B/30mm機関砲を10点バースト。概略照準。

ゴヴォッ!!!!!
速度を殺さないよう、バーストにした上で極めて高速にレート調整された衝角の如き砲が火を噴く。
徹甲弾と榴弾、それぞれ5発。
ジグラッドの周囲が濃厚な砂塵を巻き上げ爆発する。ああすりゃレーザは拡散して使い物にならん。
「はははッ!!!!往くぞオラァ!!!!!」
UNE THARGE!!!!!!
更にクォーター・ロール、天地を正しく取り高速で突っ込む。
「Ruuuuuuuu‐Shuuuu!!!!!!!!!!!!!!!」
吶喊 加速 シールド強度全開!!!!!!


セシール、クロエ、お前らがいたら尻は安心なのに。



ジグラッドが迫る。砂塵が晴れる。
その向こう、弧を描き連なる柱のようなジグラッド。

弧の内側に巨大なキュービック・モニュメント、
遠目にはでかいダイスそのものなフォートレス・ジグラッド。

ジグラッドを旋回内側、常に頭上にしながら連続で切り返し、ハイスピード・シケイン・ターン。
航過する度に30mmを乱雑に撃ち込み、少なくないダメージを与える。
空白的にはシザース・ガン・キル・マニューバ。

見かねたのか、フォートレス・ジグラッドがその四つの頂角に備える射出器から
高速のキネティクスSAMを放つ。実体高速弾。
直撃、或いは近接信管による高速破片で死を吐き散らす飛翔体。
右手でG11Kを抜く。空に撃つ。魔導加速、最大出力。
ズパァン!!!!!音の聞こえ方が鋭い。

殴り付けたように高度が落ちる。
頭の上を死が航過した。目の前に太い枝。
「GAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
左手で、腰の後ろに据え付けられた先端が鉤型のASEK(エアクルー・サバイバル&エスケープ・ナイフ)を叩き付けるように抜き打ち。
枝が飛ぶ、連続で振りぬく。次々に切り飛ばす。
正面、ジグラッド。

クルビット・マニューバ。下に30mmを全力で撃つ。魔導加速、戦術出力。
ドガン!!!!!!!
放り上げるようにジグラッドを飛び越える。マックスターン。
目の前にフォートレス・ジグラッド。四つが正方形に並んだその間を飛び抜ける。
死に飛び込むようだ。だが、その中心は、死の嵐が凪いだヘイヴン。

飛び抜ける。全力上昇。フレアシューティング。
ランチャーからマグネシウム弾を連続でありったけばら撒く。
ついでとばかりに念のため自衛戦闘用に持ってきた空対空誘導弾と増漕を
短距離誘導弾を残して総てJETT(投棄)。
視界の先にエレメント、クララと皐月が居るはずだ。太陽を背負ってて見えない。
ハーフ・キューバン・エイト・マニューバ。

追うように砲弾のような運動エネルギー誘導弾が撃ち上がる。しかし中らない。
相対距離が急激に変化する射撃は難しいだろ、僕も苦手だよ!
お前らが教えてくれたんだぞ………!!!!!
3/4ループの直前、AAMが敵弾を浴び後方で炸裂する。連続する閃光。
もう一度突っ込む。

今度は空中で30mmを撃ちまくる。チャフリリース。
ジグラッドの射撃は殆ど集弾していない。
先程の閃光と30mmの熱源、加えて太陽を背負ってる。

そのまま全力のパワー・ダイヴで尾根の裏に入る。

「フィニッシュ!!!!」


減速し、洋上を飛びながら高速緩旋回。追撃に備える。
損害は、装甲服の表面がレーザであちこち焦げ、破片を少し浴びたくらい。
どれも装甲層でストップしてる。追撃は無い……か。本要塞に航空ネウロイ、無し。
「メイ!バラヌ!!!ノーム、ピクチャー!!!」
皐月とクララに状況を確認する。もう無線は封鎖しない。
『リコナズンス・ア・コンプリート、グッジョブ・ノーム』
よし。

「ウィルコ。オールウィッチ、RTB。帰るぞ」
『ya』『da』

これで、奴らを潰すも半殺しも生かすも僕らの手の裡だ。


実を言うと、この後の着艦の方が緊張するかもしれない。





「ご苦労。ブリーフィリングは2時間後とする。お前達は魔力を回復させておけ」
偵察の成果を伝え終えた直後、涼は開口一番にそう言い放った。
「待て、涼」「なんだ」

「皐月は外せ。こいつは、まだ若すぎる。魔力容量がバラノフや僕ほどない。
連続での魔眼使用は急激な消耗を招くぞ」それに、あれは相当やばい。
「中尉!わたしは!!」僕の後ろに整列した後列の二人、クララが片手で皐月を制する。

破片の刺さり方、あの内側のスタークロス・フォートレスの弾幕は、実はきわどかった。
涼や僕、ショーコ、ティー…オティーリエ・ハーケ以外は間違いなくあれで墜ちる。
クララはそれを一部始終観測していた。
そんな場所に連れてはいけない。

「駄目だ。効果観測手が居なくなる」「じゃあ、僕が低く飛ぶ」
涼は目を細め、値踏みするように沈黙した。


「いいだろう」

よし。
「以上で報告を終わります」「ああ」
「二人とも、行こう」

飛行隊長室を出る。

「自己犠牲で英雄気取りかい?」
出てすぐの通路で腕を組み、背を壁に預けていたジャンヌがエレオノール達を呼び止める。
むかついた。無視して背を向け食堂へと足を進める。いやその前に厨房へ行って僕とクララの―――

「英雄さまは自己陶酔か。さぞいい気分だろうな、カラミティ・エリー・ブラッドヘア」
機甲猟兵長靴をガツンと床に叩き付け、立ち止まる。


―――カラミティ・エリー・ブラッドヘア

久しぶりに聞いたよ。
アフリカで、そして僕の故郷で。
僕は、姉妹の血に真っ赤に塗れ、
ネウロイの紅い体液を全身に浴びながら、
それでも、どれだけ、どんな地獄でも、何度死にかけても、実際何度瀕死になっても、

―――味方が全滅しても―――敵を屠り続けた。

狂おしく哭きながら。



その姿を見て、連合軍の奴らがいつからか僕に付けた仇名……いや、忌名。

ガリア 『 共和国 』 陸軍、最凶のウィッチ。

死線の代名詞
カラミティ・エリー・ブラッドヘアを最前線で見たら、生きては帰れないと思え。
そう囁かれ続けてきた。

胸が引き裂かれるように痛む。切ない感情が胸を支配する。
怒りは無い。誰も彼も死にたくはない。

哀切が胸を引き裂く。

頸に吊った、逝ってしまった姉妹達の認識票の鎖が、
頸を切り落とさんばかりに締め、
僕を責め立てる。

守れなかった妹達、或いは僕を庇った優しかった姉達。


「……リベリオンに逃げた腰抜けが」「何ッ?!」
僕の呟きに反応してジャンヌ・ヴァルツが壁から背を離す。臨戦態勢になったのが気配で感じられた。


右腰のG11Kと、ガンベルトの後ろに横向きにセットしたASEKの化学繊維シースを意識する。
少し顎を引いて俯き、だらりと両手を肩から垂らし、両足は肩幅で、軽く膝から力を抜き、拇指球で立つ。

抑え難き狂気が、 心の、 孔の、 深淵から―――



「まぁ待て、落ち着いてください中尉。ジャンヌ、お前も言葉を選べ」
「………済まないクララ」「クララ……」
クラーラ・ウラディミロヴナ・バラノワが二人を制する。その目は哀しげだ。
彼女は、部下の死を、許せず、結果、ここへ来た。
見ると皐月がひどく怯えている。何がしたいんだ僕は。何をしようとした。
「何か用かジャンヌ」
「……あたしはあんたのその態度が気に食わない」
「はン、何を今更。言うのが半年程遅かないか」
「…………中尉、ジャンヌが言いたいのはそういう事ではありません」
「じゃあ何だ」

「…………いえ。わかったろうジャンヌ、仕様の無い事なんだ」
「…そうかよ」
ジャンヌが背を向け駆け出す。その背中は何故か悲しげだ。


中尉、あなたは、どうして戦うんですか。

クララがそう、呟いた。


10


『カタパルトセット、ギア、アンカー、ロック』
「チェック OK」

『スロットル、ミリタリー』
「ミリタリー OK」

『ロケットモーター、セイフティ、オールオフ』
「チェック OK」
『マーシャラー・テイク・シェルター』
「クリア OK」
『クリア・トゥ・テイクオフ、オールレディ、ローンチ、ノーム』
「ノーム、オールレディ」
『スロットル、マキシマム』
「マキシOK、メーター、オールグリーン」
『イニシエート・モーター』

ゴッ!!!!!!
ロケットモーターがその先端のノズルから爆炎の奔流を吐き出す。


『ノーム、ローンチ』
「ローンチ」
がちり、ワイヤ切断ボタンを押し込む。

カァン!!!!
「っ!!!!!」

引き起こし、ギアアップ、モーター投棄。

『グッドラック、ノーム』
「サンクス、タイホウ・コントロール」

いつもはしない空中哨戒に入る。後続、僕より重い機の援護の為に。
『バロネス、ローンチ』
『ローンチ』

ゴッ!!!!!!!!!!強烈な轟音。
通常のウィッチはM型ロケットを二本、僕でさえL型ロケット二本で上がるのに、
今日の涼はXL型が四本だ。

それもそうだ。狂気のストライカー、F-15FJシー・ストライク・イーグルを履いてるんだし。
あれは爆撃機だ。ロランより更に大きく太いユニットの膝の部分から、そこに接続された
まるでニーアーマーのようなコンフォーマルタンク・アームドターミナルがクランク状に伸び、頭の上まで来ている。
そのステーションには、通常型より翼を小型化した貫通誘導爆弾『メイデン・ディープスロート』が4発も搭載されてる。
ギアは、通常であればストライカー先端のダンパーが兼ねるのに
片足二軸四輪の本格的な複列タイヤ式である。

『殺人機』『処女殺し』

それを、CVWから飛ばす。アレスティングフックを接続して。
クレイジーだよ涼。どう降りるんだ。

それでも、腰にはフソウ・ブレードとM1911、刀子がある。
律儀なことで。

『ノーム、今回はお前の爆撃誘導が鍵だ。しくじるなよ』
「うるさいな、わかってる」

今回の作戦はこうだ。

まず、たいほうの5インチ主砲、及びクラスター弾頭のタクティカルトマホークによる
対地砲爆撃で目標周辺の通常型ジグラッドを黙らせる。
ここは、本格的撃滅ではないから精度を要求しない。

次に、丸裸にされた敵スタークロス・フォートレス・ジグラッドを観測出来る位置へと
僕が斜面下側から超低空進出。

そこへ涼が直掩ウィッチの護衛を受けて尾根側の高空から飛来、
トスアップ・ピックオフでメイデン・ディープスロートを投弾。

僕が、その弾体を遠隔誘導で敵ジグラッドの各頂点へと誘導。
涼による超高圧魔導爆薬で、破壊は出来ないまでもジグラッドの戦闘能力を奪う。

問題は、無い。僕が墜ちない限り。


最後に、ザキたちSRタスクが乗り込んだハチドリ―――CV-22が飛び立つ。
左右ガナーシートにSRタスクの黒い戦闘服が見える。


降下小隊長席に崎山真の姿。
ギリースーツはパラトループザックの中だ。なので細身の黒い降下戦闘服姿。


ザキが居れば大丈夫だよ。


『では、往こうか』
飛行隊長、涼の声。

一路、もう一度、あの島へ。


11


『対地ーーー戦闘用ー意、配置に着け』
たいほうCICに砲雷長の号令が響く。
「砲術配置良し」砲術火器管制席のシートベルトを装着し、レシーバーに応える。

フェイズドアレイ・レーダーが対空警戒を行いつつ対地走査モードで敵島嶼を捕える。
『レーダーに感。目標群、緒元FCSに入力。爾後Romeo01からRomeo20と呼称』
「緒元確認、環境緒元入力、修正値、アジマス、マイナス0.64ミル、エレベーション、0.88ミル」
『対空走査、未だ感無し。敵航空戦力存在せず』
『ソーナー、感なし。敵潜存在せず』
『イルミネーター、ホット。タクトム初期慣性緒元入力開始』
『電子走査完了、目標周辺デジタルマップ作成完了』
『偵察衛星、「レーダー3号」との同調良好、視察可能時間、残り7min』
「同調確認、爾後射弾観測は衛星による」
緒元入力完シンボルがIRセンサのモノクロームな島嶼の映像に
レチクルと20個のターゲットボックスがオーヴァーラップするMFDに表示される。
レチクルはそのまま、砲制御系のみが緒元に従い偏差にスレーヴ。
「砲術緒元良し」

『射撃用――――意』
「目標左舷、敵要塞、弾種榴弾、モードVT、10メートル、
アキュラシー、ランダムスプレッドφ250メートル、射撃用意!!!!!」
『1番から16番VLSハッチ解放よし、地形緒元入力よし、終末誘導、アクティヴ、
各タクトム間データリンクよし、オーヴァーキル防止モード、オート』
二基の5インチステルス砲塔が動き出す。
キュイイイッ!!!!!!!!
極めて静粛な、しかしそれでも隠しようがない力感のあるハム音を鳴らし
猛禽の如き素早さで二つの砲塔が隠し持った5インチ砲身を居合のように
ステルスシールドから抜き放ち、その巨体からは想像できない高速で左へと旋回する。
同時に甲板下で巨大な自動装填装置が各種補機類と共に精緻極まる動作で砲弾を装填する。
殆ど同時、強力な閉鎖アクチュエータが砲尾を強制閉鎖する。
「装填よーーーーーし!!!!!!!」
『射撃電錠安全装置外せ!!!』
「発よーーーーし!!!!!」

CIC全体がビリビリと緊張していた。日向の砲雷、そして砲術にとっても、
これが初の対ネウロイ対地戦闘だ。喉がひりつく。

ごくり。唾を飲み込む。
射撃電錠を握る指の爪が白くなる。
次の号令に遅れないようにしなければ。







「撃ちーーーーーーーーー方はじめーーーーーー!!!!!!!」
シュパアアアアアアアアアアァアアァァァァァァァァンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!

号令と同時、破壊的な轟音と共にたいほうの主要対地火器が濁流の如き質量を吐き出した。
砲尾装置が大きく後座して破壊的な後座衝力を減衰する。
VLSからは夕暮れになお眩しい緋色の火焔が第二の夕日の如く吹き上がり、
16発の散弾弾頭戦術巡航弾が次々に飛び立つ。
二つの砲塔の連射による衝撃と合わさった応力で船体が悲鳴を上げる。




かくして、『たいほう』というとある航空歩兵母艦の砲術科の、5インチ砲の長い長い生涯の、
対ネウロイ砲戦闘の最初の火蓋は切って落とされた。


12


『ノーム、たいほうが砲撃を開始した。観測』
「ノーム、ウィルコ」

エレオノールは島と要塞を遠方に見通す高空で待機していた。
先程と同じく機器類を設定変更しているため、いつもより吹けが悪い。
少し鈍い感触がある。

―――文句言うな、我慢しろロラン。


「来たか」
キュウウウウウウウウンンンンンン………、と航空機のような音を立てて海面すれすれをトマホークが航過、
遅れてベースブリード式5インチ砲弾が成層圏ギリギリの上空を飛び過ぎるのがFLIRで確認できた。




ドッドドドッドドウドウドドドドドッドドドドッドドウッ…………。
敵要塞周辺が次々に爆ぜ、あっというまに灰色の噴煙で見えなくなる。
それでも音は止まず、煙は広がる一方だ。
「すげぇ、あれは真似出来ないな」
『だが、精密爆撃には向かんし、一撃であれば、一部のウィッチの砲撃の方が威力があるのだぞ』
エレオノールの呟きに涼が答える。ふうん。「じゃあ、僕は?」
『莫迦者、お前は大口径砲で本気では撃った事が無いだろう。全力ならお前の方が遥かに強力な筈だ』
なんだ、知ってたんだ。
「うん、F1(ガリア製120mm砲)より大きいのでは撃った事無いけど多分ね」
『随分暢気なものだな、もう間もなく最終弾が落ちる。そろそろだぞ』
「噴煙でエンストしない?」
『大丈夫だと豪語したのはお前だ、エリー』「はいはい」
「じゃあ、往くよ」『うむ』

「ノーム インダッシュ」
ゴボッ!!!!!!!!!!!!!!!
パワーダイヴ・マキシマム。海岸線の漣を航跡で蹴散らし、島へ。

不思議と陸の上ではどれだけ低くても平気だ。
『最終弾弾着1分前。バロネス、投弾点手前2分』
涼からの無線。

到達の猶予は1分。充分だ。問題はそれよりも投弾から命中までの誘導間、
僕が大した回避運動も取れない事だ。数十秒とはいえ、沈黙したか定かではない
キネティクスSAMの射界を緩旋回するのだ。クララがキルゾーンを特定してくれたから、
一応命中精度に難がある位置ではある。それでも万全ではないのだ。

『―――6、5、4、弾着、いま』
ズゥンンンッッ!!!!!!!!!!

最早敵前に肉薄したエレオノールの眼前に127mmハイ・エクスプローシヴ・ウォーヘッドと
タクトムのクラスター・スプレッドが弾着する。
「YA!HAAAA!!!!!!!!!!」
すげぇ、すげぇ!!!!!!おっかねぇ!!!!!!!!!
船ってやっぱかっこいいな!僕も撃ってみてぇ!!!!!!!

どふっ!「あぷっぺぺ!!!」
勢い良く噴煙に飛び込む。幸いロランはフレームアウトしなかった。
慌ててストアコントロールを外気導入から通常は超高空でのネウロイ等の迎撃に用いる閉鎖循環系に切り替える。
(魔力制御で頭部インテイク周辺に酸素を確保する手もあるが、メンドくせーのだ)
最初から閉鎖系にしとくべきだった。
『バロネス、ボミング・アプローチ』
「ya」
OK、敵の通常型は全てピヨッてる。制圧は成功だ。
噴煙が晴れる。

眼前に巨大な漆黒のダイス。
「―――お久しぶり」航過。
尾根側に飛び抜けてそこで緩旋回、誘いをかける。

撃ってこない、どうやら上手く行ったな。

頭部ヘルメットに備えた複合センサタレットをレーザーイルミネータモードに切り替える。
エレオノールのラファールD、固有名ロランは複数目標に同時照射可能なパルスレーザ式照射機を備える。
試験的に搭載されたインテグラル・レーザー遠隔目標指示誘導装置。
「バロネス、ノーム、フォートレスは沈黙。ノームは誘導照準位置に付いた」
『バロネス、ウィルコ。投弾30秒前』
視線同調、左パイロンターンに入りながらジグラッドをキューイング、頂点を照準する。
「ノーム、レディ・トゥ・エイム」
『バロネス、ピックオフ、ピックオフ』
遥か高空の涼がステーションから誘導爆弾を5秒の間隔をあけて全弾投下する。
『ユー・ハヴ、ノーム。グッドラック』
「アイ・ハヴ、バロネス」
ディープスロートの誘導を引き継ぐ。
バロネス――涼が旋回して離脱する。

……まだか。

上空を確認しつつチョコチョコとディープスロートのコースを修正する。
相変わらずいい腕だ、殆ど誘導は微調整でいい。


沈黙したSAMの射出器。気味が悪い。
くそ、高速弾とはいえ、もうちょい早く―――


敵の射出器が動いた!エレオノールを―――
ダガァアアアアアアアンン!!!!!!!!!!!

間一髪、初弾がそのジグラッドの頂点に弾着、敵は沈黙した。
―――まずは1つ!!!!
「ジグラッド・イズ・アライヴ!!!!!エマージェンシー!ノーム・バスター!!!」
『もういい、ブレイク!エリー!!!!!!』涼が叫ぶ。
「ここまで来て逃げられるかよ!!!!僕はガリア猟兵だ!!!!!!!!!!」
爾後の妹達の投入なんて認めない!!!!!
次々にディープスロートが着弾するが、残ったジグラッドがもうこちらを狙いつつある。

くそ、やはり簡単には行かんか!!!
加速上昇、ただし緩旋回はそのまま。残りの最終的な照準が合っている事を確認。
手持ちのマルチプルランチャーの人差し指、やたらと固いソーサリアル・デュランダルの
安全装置をアームドに変更、リリースボタンを親指で押し込む。

ローランの剣。
両手の貫通榴爆弾ソーサリアル・デュランダルが猛烈な爆轟を放って4発同時射出される。
滑走路破壊用のものからドラッグシュートをオミットして流用した
硬目標破壊用のロケットモーター加速突入徹甲爆弾だ。
無誘導で命中には高い練度を求められるが、
弾殻を除く炸薬質量150kg超、静的弾体初速400m/s超
(つまり発射母機の飛行速度に加算される数値が、400m/s、毎時約1440km以上である。)
強烈な威力の徹甲榴弾として使用できる。

4基目のジグラッドの砲口がエリーを捉える。

ダァアアアアアアンンン!!!!!!!
命中!!!差し違えるようにキネティクスSAMが放たれる。

「ふッ!!!!!!」ゴヴァッ!!!!!
30mmを戦術出力で何も見ずそのまま射撃。
何とか破片を躱す。

―――4つ!!!!
惜しかったな!!!僕の勝ちだ!!!!!

「ブルズアイ!!!!フォートレス・サプレッション!!!!!」
『エリー!莫迦者!!!貴様―――』
「!!!!!」真下から対空砲火!!!駄目だ!!!!
ギガガガガガギ!!!!!「くうう!!!!」
『どうしたエリー!?!?!!!』
「ノーム・ビングショット!!!!!MERDE!!!!マニホールドが!!!!」
『エリー!!!!!!!』
「ノームダウン!!!!!ノームダウン!!!!!!!!SOSトランスポンダ・スタート!!!!」
『SR!!!ノームが墜ちる!!!急行してくれ!!!!!!』
「くううう………」マスターワーニングのブザーが煩い。




――――――ごめん、リズおねえちゃん。もしかして、もう会えるのかな、モモ。


13


真はその一部始終を双眼鏡で見ていた。


ベネックスが真下からの実体弾の斉射を被弾する。
『くうう!!!!』
『どうしたエリー!?!?!!!』
常に沈着冷静な出雲少佐が叫ぶ。ベネックスの機からオイルが血飛沫のように散る。
「ちぃッ!!!!」「ザキさん!!!!エリーさんが!!!!!!」優が叫ぶ。
真は無言でガナーからコンソールを奪い、照準する。
ディスプレイを拡大する。地上に対空型ネウロイ。どこに居やがった……!?
『ノーム・ビングショット!!!!!MERDE!!!!マニホールドが!!!!』
『エリー!!!!!!!』ヴォオオオオオオオオオッ!!!!!!
空中でスピンするベネックスに止めを刺そうとする対空型ネウロイを12.7mmガトリングガンで撃つ。
奴の電磁触覚が千切れ飛ぶ。そのまま今度はこちらを狙ってくる。
『ノームダウン!!!!!ノームダウン!!!!!!!!SOSトランスポンダ・スタート!!!!』
『SR!!!ノームが墜ちる!!!急行してくれ!!!!!!』
「茂木!!!!!躱せ!!!!!!」パイロットの茂木に叫ぶ。
CV-22Fがその巨体を沈め、猛烈な対空機関砲の火線を躱す「うああっ!!!!」
対人狙撃銃改で対空型の周囲の歩兵型を次々打ち抜いていた優が悲鳴を上げる。
『くううう………』ベネックスが悲鳴を噛み殺す。怖ければ叫んだっていい………!!!!!


ドッ……!
墜ちた音だけがディスプレイを睨む真の耳に入った。
「エリーさん!!!!!!!!!」優が悲痛な叫びをあげた。
こいつは、まだベネックスを本気で好いているのだ。
「………ッ!!!」ヴォオオオオオオオオオッ!!!!!!!
対空型の上面装甲部にガトリングガンを最早祈るように撃つ。対空型が甚大な被害を受けて退いていく。
畜生、仕留め損ねた………!!!
「3時!!!!ファウスト!!!!!!」
茂木が叫ぶ。3時方向の地上から、対戦車歩兵型ネウロイが煙を曳いて飛ぶ低速対戦車榴弾
通称ファウストをハチドリに次々と撃ち込んでくる。
茂木が必死で回避運動を取る。真と優が対人狙撃銃改で直撃コースの榴弾を撃ち落す。
「無理です中尉!!!!退きましょう!!!!!」「阿呆!!!!ベネックスが墜ちたんだぞ!!!!!!」
またファウストが飛んでくる。問答無用で優と二人で迎撃する。
通常型ジグラッドが一つ、奇跡的に(悪夢のように)ほぼ無傷で残っていた奴がこちらを射界に入れ、狙ってきた。
「………チッ!退け!!!艦に戻れ!!!!」

ハチドリが洋上へと退避する。不甲斐無さに死にたくなる。
しかしこのまま突っ込んでも全員犬死にだ。指揮官としてそれだけは許容出来ない。



―――ベネックス、もう少し耐えてくれ、すまん。すぐに戻る……!


14


その部屋は重苦しい空気に包まれていた。

飛行隊作戦室に666空の幕僚クラス、SRタスクの崎山真、そして艦長が揃う。
「……以上の事から、捜索救難活動は、敵要塞が機能不全から回復するまでが期限と思われます」
出雲涼が状況の概要を伝え終える。

艦長が確認の為に質問する。
「艦の武装は一切使えんのかね」
「はい、エリー……ベネックス中尉ごと耕して良いならば別ですが」
「ヘリは」
「敵対空型ネウロイの能力がどの程度残されているかに拠ります。それを踏まえて……崎山中尉」
「はい少佐。艦長、自分は対空型を仕留めたと断言する確信がありません。しかもジグラッドが一基、健在だ」
「うむ……」
「そこで、上空を666空のウィッチに固めてもらった上での海路潜入をSRとしましては具申します」
「海路」「はい」
涼が引き継ぐ「幸か不幸か、作戦の目標は殆ど達成されています。今の状況であれば、
高速誘導弾による損害を懸念して飛ぶ事が出来なかった我々のウィッチを運用出来ます」
「つまり、現在稼働状態にある敵通常型ジグラッドを666空の近接航空支援で破壊した後、
我々が敵対空型ネウロイを完全撃破、同時にベネックス中尉を確保。爾後ヘリで離脱します」

「…………よかろう。出雲君、崎山君。少々跳ね返りの気が強いが、
彼女は大事な私の娘だ。無事連れ帰ってくれたまえ」
「はい、艦長」「勿論です、艦長」
「準備は、どの位掛かるかね?」
「実は、私が聞かされた時には既に開始されていました。もう完了します」涼が苦笑する。
そもそも、艦に帰ってきた涼がSRのヘリを見て、食って掛かろうとした時、
既に真はSRによる海路潜入準備を進めており、逆に真から対地支援を嘆願されたのだ。
あまつさえ、樫城中尉と整備班長を巻き込んで、自らLCACに夜間航行用に
たいほう砲術科の火器管制用FLIRセンサの予備品を積み込む大改造という暴挙にまで出て、
それを「緊急事態に付き止む無く」の一言で済ませていた。
「自分達の任務は、ウィッチを助ける事であります」真がしれっと、そして堂々と胸を張って言い放つ。
「………頼む」

かくして救出作戦は開始された。

飛行隊作戦室以外の場所は、特に航空隊格納庫とウェルドックを中心として非常に活発であった。
「少佐!!!!各員の使用弾薬、曳光徹甲焼夷弾に変更完了!焼夷弾もOKです!!!」
「ザキさん!!!ダネルNTWオート、01MAT共に異常ありません!LCACへの09FV積み込みもOKです!!!!」
「うむ、よし」「おお、はええな」
皐月と優が報告し、涼と真が答える。

「当然です、中尉のためなんですから」「当然ですよ、エリーさんのためですから」
顔を見合わせ、思わず吹き出す涼と真であった。
「………よし、ではあの手の掛かる小娘を皆で助けに行くとしようか」
「「「「はい!!!!!!」」」」


15



……………声が聞こえる

彼女の呼ぶ声が。


―――モモ。

――― エリー、いつまで寝てるの? ―――

「ん……うんん、朝礼、今日は0820だろ……寝かせてよ……」
暖かな日差し。耐久性を重視した少し硬い官給品のシーツの感触。
身に着けた生成りに犬の肉球柄のパジャマの肌触り。
旧い、歴史のある洋館の匂い、中等ウィッチ寮の匂い。

―――駄目だよエリー、ほら、早く起きて―――

ガリア士官制服に似た形の、スクールの制服を翻して
ローファーを鳴らし、モモが急かす。

「何だよモモ、朝ご飯なら食べたよ……」
他愛無い嘘で睡眠時間を稼ごうと策を弄する。

―――駄目よ、いみじくもガリアン・ウィッチ候補生たるものは、その規範をよく守り、―――

「真に淑女たるべし、だろ?……聞き飽きたよそれ」

―――もう!エリー、このトースト、あげないよ?!―――

気を効かせて、食堂からトーストを運んでくれたのだろう、
バターと目玉焼きの乗ったトーストの匂い。いい匂い……。
「それは欲しいかも……あふ」

―――目が覚めた?じゃ、行こう?―――
モモが部屋の日陰に入って見えなくなる。

どこへ?
ここ、ガリア国立ウィッチ・オフィサー・スクールからは、
幼年科から始まり高等科を卒業するまで
外出許可証が無いと出れないよ。



「どこって、戦場へ」
モモが振り返りつつ言う。

モモの声が異様に聞きなれた、しかし誰のモノか判らないモノになる。
「ほら、起きな。早くしないと」
この声。

モモの姿が黒い影から踏み出す。ゴツ、機甲猟兵長靴の音。
闇に浮かぶ金色の焔を滾らせた瞳。

「死んじゃうぞ」赤い、赤い、昏い、静脈の血の色と、黒の髪。
知ってる。

「起きろよ猟兵。そこで諦めるのか、腰抜け」フライトスーツと装甲ジャケット。
僕の、声だ。

「お前は何だ?」
僕が、昏く冷たい地面に横たわる僕の体を跨いで立ち、
傲然とした表情で、僕のフライトスーツの胸倉を左手で掴んで極め、
気道を締めながら引き摺り上げる。

「僕は……」くるしい

G11Kを眉間に突き付けられる。
「僕は?」しぬのは、いやだ


「   ガリア機甲猟兵、  真のウィッチだ   」




右手でG11Kを抜く。
「ふぅん」
僕の眉間をポイント。魔導加速、最大出力。
「じゃあ、戦え。もっと敵を」
ブチ貫いてやる。引き金を絞る。
「もっと奴らを」
僕が、闘争に昂った眼で、哂う。



「喰い殺せよ」
ハンマーが落ちる。






ダアァンンン!!!!
ゴキンッ!!!

野砲のような爆音とほぼ同時に頸へ掛かった衝撃で意識が覚醒する。
「っくは!!!!」
僕の頭を尾部銃器で撃とうとして前肢鋏で頸を引き上げていた歩兵型ネウロイが、
朱い体液を撒き散らして上半身を霧散させ、一瞬遅れて僕のヘルメットギアのバイザに
実体弾を撃ち込んで機能停止する。鋏が緩む。
ヴォオオ!ヴォ!!ヴ!ヴォオオッキン!!!
速射出力、連続で撃つ。ボルトオープン。

「はぁっはぁっはぁっっ!ふうぅうぅうう、はぁあああ……!!!」
足の異様に長い蠍とケンタウロスの中間みたいな姿の歩兵型ネウロイが周囲に4体。
頸を絞めてたのが1体。
クリア。

どこだ……どれだけ経った。
周囲を見渡す。森の中だ。どうやら死んではいないみたいだ。
既に日は沈み、暗い森の中。背中にパラシュートがくっ付いている。
バイザに撃たれた弾頭はギリギリで跳飛させる事が出来たようだ。
衝撃も頸部エクソ・スケルトンが吸収した。
間一髪、危なかった。

ASEKのシースを確認する。ちゃんとある。
まずパラシュートのハーネスをASEKで切断する。

少し離れた地面に、ロランがグシャグシャになって転がっている。
素早く確認、無事なのは右脚の機関砲だけ。
アクセスハッチを開け、マウントフレームから外して、補助握把を取り付け、使用可能にする。
弾倉は駄目だ。チェンバー内に高速榴弾が一発だけ。

G11Kをリロード、スリングとフレームストックを取り付けて体の前に吊る。
エクソ・スケルトンからエアフレーム部をパージし、地上行動用に軽量な省電力倍力部位のみとする。

再度身体を丹念にチェック。怪我は無い。

パラシュートパックの底から脱出行動用のニーパッドと強化繊維ニーソックス、
軽量なミドルカットのフロントジップ・ブーツ、サバイバルキットを取り出し、身に着ける。
最後にヘルメットギアのキャノピバイザ部と顎部フレームをパージ、脱出行動の準備を整える。

ロランをもう一度眺める。
後部フレームとスキンが火薬イニシエータで排除され、
コネクト部ごと強制射出されている。地表に激突寸前でベイルアウト機構と
オート・シールド・ジェネレータ
(装着者が意識を失ってもウィッチの魔力を強制使用してシールドを生成、
エクソ・スケルトンと共に落下衝撃を緩衝する機構)が作動して
あの高度にも拘らず何とか五体満足で落達したらしい。
オートベイルアウト・システムは完全に作動した。

ロラン、ありがとう…………さよなら。



SOSトランスポンダは………作動してる。大丈夫。
救助信号を受信すれば救難信号が出る。
だがここは駄目だ。奴らに知れた。

動かなくては。


16


皐月は今日の昼の事を思い出していた。


「皐月は外せ。こいつは、まだ若すぎる。魔力容量がバラノフや僕ほどない。
連続での魔眼使用は急激な消耗を招くぞ」
でも、そんなの言い訳ですよ、中尉。

確かに、私、あの後すぐには飛べなかった。
でも、回復も早いんです。

中尉は、危険なことを私にさせたくないんですね。
あなたが私を、私達を妹のように可愛がってくれてるの、知ってます。
私もこの人が、隊のお姉ちゃんで良かったって思う。

私とショーコちゃんに信じられないくらいおいしいザッハトルテを作ってくれて、
生まれて初めてそれを食べる私達を、エプロンをしたままテーブルに頬杖をついて見てた時の、
ああ、見ててくれてるって、安心してしまう優しい瞳と温かい微笑が忘れられない。

時折見せる心配そうな、切羽詰まった顔、自分では冷静なつもりなんですね。
私たちが、弱いから、あなたが無茶を。

ジャンヌさんも、あなたが心配で、
でも多分素直に言えなくて、あんなふうに……。


カラミティ・エリー・ブラッドヘア……怖い噂で何度も何度も聞いた事があるけど、
中尉の事だと知りませんでした。中尉はそんな人じゃありません。
一人で思い詰めないで。私達、頼り無いかもしれないけど、
私達もあなたが心配なんです。


だから、今度は私が、中尉を助けます。
バラノワさんも、ジャンヌさんも飛んでる。
崎山さんたちも船で上陸してる頃です。
皆、います。

ネウロイなんかに負けませんよ。


だから、どうか、どうか無事で―――


必死で魔眼を凝らす。リーヌちゃんも地上を見てる。
『ジグラッド確認』バラノワさんが敵をいち早く捉えた。


『トランスミッタ作動……奴の周りにエリーはいません』
素早く、シュニッツラー少佐と御影さんがトランスポンダの電波を探す。
『バラヌ、黙らせろ』『da』
出雲少佐が命令する。

『ぼくの後ろにはいって!』『頼む』
ティーちゃんがバラノワさんを守る位置でシールド展開。
ジグラッドのレーザを強力なシールドで弾く。凄い。

『援護は任せてください』
喜美佳さんがロケットポッドで絶妙に牽制する。
ジグラッドはレーザが思うように撃てなくなる。

『バラヌ、フォックス3』
強力な30mm機関砲の正確な集中射でジグラッドのレーザが機能不全を起こす。
閃光で損害が精密に見えた
「スプラッシュ、ジグラッド・サプレッション」
すかさず効果を観測し報告をする。

『バロネス、ナパーム・ローンチ』
出雲少佐がターミナルのステーションから特殊焼夷墳進弾を撃ち込む。

ドッ!!!!!!
ジグラッドがあっさり燃え落ちる。
凄い、やっぱり私の先輩たち、すごい!!
「バロネス、ジグラッド・デストロイ」

『バロネス、SRシン、敵主力と接触した。IRビーコンを上げる!焼夷弾で減らしてくれ!』
後ろに機関銃や小銃、ロケット砲の射撃音や爆発音、飛び交う号令、
誰かの雄叫びが混じりこむ無線が崎山さんから入る。
『ウィルコ。オールウィッチ、行くぞ!!』

「ya!!!!」

今行きます、中尉!


17


真は、いつものようなギリースーツではなく、通気性抗弾ラバーの全環境ウェアを着込んだ上に
直接、試作軽装甲防護衣(エレオノールのガリア製装甲服を参考に、技術班が研究本部に試作させた)を着け、
ダネルNTWオート―――ダネル社製20mm狙撃砲改・自動狙撃砲を担いでいた。
予備弾薬は、弾薬手として10式改を持って真の援護をする呉班が弾倉を二本ずつ携行する。
優も同じ。自動狙撃砲を担いで別の分隊を牽いている。

その他の隊員は、01MATと10式改、10SAWだ。

―――どこだ、ベネックス…。

既にSR小隊は、数個小隊規模の敵地上型ネウロイ群と接触している。
叩いてもキリが無い。

ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
焼夷榴弾をなぞるように叩き込む。
ネウロイが燃えながら退いて行くが、またすぐに押し寄せてくる。
航空支援はまだか、少佐……!

『バロネス、アプローチ20秒前、ビーコンを上げろ』
「了解、ビーコンから北西に向かって落としてくれ」
『ウィルコ、バロネス・アプローチ』
「2番射手!目標正面敵上空、距離300、赤外指示弾、二発、指命! 撃て! 続いて撃て!」
二番手が二発、IRビーコン小銃擲弾を打ち上げる。
シュパァン!……シュパァン!!ババッ……………!
ビーコンが敵の最前列直上で開傘しIRストロボを連続発振する。
「射出成功、確認できるか」
『確認、バロネス、ナパーム・ローンチ。熱波に注意』
「全員顔隠して伏せろ!!!!!」

ゴッ……ヴォワアアアアアアアアアアアア!!!!!
真昼のように周囲が明るくなる。
濡れた防水衣から一気に水分が飛んで全身から水蒸気が出る。

火勢がやや衰えてから、素早く自動砲を構える。
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
敵の生き残り、対戦車型の瘤のようなファウストの弾頭を次々に撃つ。
誘爆で、一気に減る。優も全く同じ行動を取っていた。



「制圧完了!!小隊、目標前方の丘陵!分隊逐次躍進!山本分隊より前へッ!!!」

―――待ってろ、ベネックス。


18


はっはっはっはっはっ―――
弾むように駆ける。後方に行列のようなネウロイ。

シュパン!!バツッ!!
「くう!」肩を掠める。
続く弾丸が左腕に命中し、装甲ジャケットの硬質繊維装甲層でスリップ、
外側から前に抜ける。

側方転回、そのまま頭を敵方にしてプローン、フレームストックを接続したG11Kを構える。
魔導加速、戦術出力。

ダン!ダン!ダン! ダン!ダンダダン!
先頭の奴を貫通させてまとめて制圧、すぐさま弾倉を交換「リロード!!」叫ぶ。
誰もいないって。苦笑しつつ立ち上がって後ろへと這うように脱兎の勢いで駆けだす。

襷掛けに負った30mmが重い。棄ててしまおうか……いや、対空型が居るんだ。これは捨てられない。


メキメキキキ………
前方で木が倒れる。その向こうから、ぬぅ、と対空型が顔を出す。

―――ああ、今日はついてないな。

その場に伏せ、30mmを構える。
よりによって榴弾だ、効いてくれよ………。

―――魔導加速、最大出力。

タレットリングを狙う。
そうだ、……そのまま…。

やつがこちらに気付いた。
「ッ!!!」
ドパアァンンッ!!!!!!

大口径砲のような音。炸薬の灰色の噴煙で見えなくなる。
―――どうだ?!

煙の中から勢い良く奴が飛び出す。
こちらに照準を「MERDE!!!」
30mmを放り出して駆け出す。

ドッッ!!!!!間欠泉のように30mm砲ごと地面が爆ぜる。こえぇな畜生!!
前方、歩兵型が押し包むように包囲を……

ドガ!!!!そのネウロイ共が爆風で吹き飛ぶ。01MAT!!!
「ベネックス!!!!!」「遅いよばか!!!ザキ!!!!!!」
安心で涙が出そうになる。

ドッ!!!
地面が爆ぜる「うおおッ?!」「きゃうッ!!!!」
ザキの悲鳴なんてレアだな。現実逃避しつつ奔る!
「バロネス!こいつどうにかならんのか!!!!」
『近過ぎる、もう少し走れ!!!』「一杯だよこれで!!!!」
『では貴様達ごと撃ってやろうか!?』
「糞ッ垂れめ!!!」「MERDE!!!!」
エレオノールがマグネシウム手榴弾を放る「フラッシュバン!」閃光。
その隙に岩の陰に隠れる。

二人して岩に寄り掛かってへたり込む。息も絶え絶え。しかも奴は相変わらずこちらを狙う。
「………ベネックス、……一つアイデアがある…」
「何?」
真は徹甲弾が装填された自動砲を見せながら「こいつに」
「お前の魔力を籠めてくれ」「僕、その武器知らない」「ああ」
「つまり、お前が籠めて俺が撃つ」「……はぁ?」





プローンになった真の左脇の下からエレオノールが顔を出し、機関部に抱き付く。
その上から、真が自動砲を抱き込む。
「…………………ベネックスバッテリー、レディ…」「フテんな」
「フテってねぇ」「魔力頼む」「…………魔導加速、最大出力」
ブゥウウン………
自動砲が輝く。複雑な立体魔法陣。
「弾道はほぼ低伸するようになる。クロスヘアのど真ん中でいい」「おお」
「いけるか」「いつでも」
「発射」ドッガァアアアアンンンンン!!!!!!!!!!
「くううう!!!」「……!!!」
流石に徹甲弾は訳が違うな。

奴は………撃破!よし!!!
「ザキ、やったぞ!……ザキ?」「………ち、ついてねぇ」
胸部から血が、破片が「シン……!」
「落ち着け、エレオノール。止血しといて離脱すりゃどってことねぇ……」
「うん……!!」破片ごと固定して素早く止血。
肩を貸して立ち上がる。

包囲されていた。
退路無し「……………………」merde






『伏せろ!!!!』ヴオオオオオオオオオォ!!ヴォオオオッ!!!!!!
『モヒトツ!!!!!!!!』ヴヴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!!!
ジャンヌとショーコが超低空対地ガン射撃。敵が薙ぎ倒され、道が出来る。
「ジャンヌ!!!!ショーコ!!!!!」
『エリーが死んじゃったらダレがアタシのオヤツつくんのサ!!!!!!!!』
『勘違いすんな、あんたに死なれるとこっちが迷惑だからだ』『ツンデレー』『うるさいぞショーコ!!!!!』
「おまえら………」

胸の、

『中尉、右に500、SRがLZを確保してます。……心配したんですよ』
「皐月」

孔の


『さすがに、わかってくれましたか?中尉』
「うん………クララ…」

裡から


『莫迦者が。帰ったら、たっぷり絞ってやる。覚悟しろよ』
「………涼」


温かいものが―――


「……行こうぜ、ベネックス」
「………うん」


ハチドリへと走る。体が軽い。
後方で涼が残りのナパームを全部ぶちまける。
まるで真昼だ。暖かい風が起きる。
ザキを乗せる。乗り込む。SRが撤収する。
「OK!!!!RTB!!!!!」


ハチドリが飛び立つ。洋上へ……「?!」

敵のフォートレス・ジグラッドが赤い光を放つ。レーザとキネティクスSAMの予兆。
もう総て復活している!
「涼!!!」『ああ、心配するな』「でも!!!!」SAMで姉妹達が!!!!


キュウウウウウウウウウウウンンンンン…………
はっとして顔を上げる。聞いた事のある音。

ダガガッガガッガガガガガガガッガガッガアアアアアンンンンッ!!!!!!!!!!!!
猛烈な、先程の比ではない爆轟、たいほうじゃない?!

『武蔵だ』「ヤマト・クラス‐セカンドシップ・ムサシ!??!!?!!!」「ああ……460mm零式誘導弾か。たいほうも撃ってるな」
ジグラッドが総て根こそぎになる「すげぇ…………!!!」
無数の近代化改修を経て現代に生き残る砲神の眷属。最強のビッグ・ガン。
『乙女の危機と聞いてはぜ参じてくれたのだぞ、贅沢ものめ』
「…うん………」

『帰ろう、我らの船へ』
「………うん」


19


………えと。


あ…ありのまま今起こってることを記す。
というより、完全に理解を超えてるんだが。

『僕は感動的に艦に帰ってきたと思ったらいつの間にか
バリアフェンスのネットで簀巻きにされてカタパルトにセットされてた』

な………何を言ってるのかわからねーと思うが、
僕にも何をされてるのか全く分からない。

頭がどうにかなりそうだ……。

懲罰だとか制裁だとか、そんなチャチなもんじゃ 断じてねぇ。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わって
「いい格好だなエリー」「グスッ、り、りょう………?」
というがガチ泣きだった。

ちなみに解放条件は
『超☆ド級・魔女っ娘!ビビット×キュート!★まじ☆かる★エリィたん☆』
なるクラリーチェ謹製の布切れを身に着け、その上で要求に従う、というモノであった。
承服しかねる。しかし。



「ぼ………ぼく、むり……しん………じゃうよぉ」
「大丈夫だ、ヘリはすぐ飛べる」
「やあぁ…………」「怖くないぞ………?」「やあぁこわいよぉ……………」
「ふふ………大丈夫」「ひううう………」髪をそっと撫でられる。
「可愛い奴だ………」顔を見れない。そのまま髪を撫でた指先が頬をなぞり、唇を弄う。

口腔に人差し指と中指が滑り込む。「んむぅ……」
肢体の内側を、舌先を、どこまでも滑らかな指が蹂躙する「いい子だ」
すこししょっぱい。…ぼく……どうなってるの?
「ぷあ………、ぁ…」銀色の糸を惹いて指が、口腔から引かれる
「どうしたんだ……?」「ん……」目を伏せてそらす。
視界がふわふわする。あたまがぽーっとなって何も考えられな「やっ…!」涼が、
そのまま指を、僕の唾液を舐め摂ろうと己の朱い唇に
「冗談だよ」諭すような声「かわいいな、ふふ」「ぼく……かわいくないよ」
「そんなことはないぞ?」また唇を撫でられる。
囁きだけで怪しい色香が耳に這入るような、あまくあやしくやさしい、声。
「ぐす……ほんと………?」「ああ……ほ

カァン!!!!!!!!!

「ひ い  いいいいいいいいいい    いいいやあああああ          ああああああ                   あああ」

キュパアアアアァァァァァァァ…………………ン



…………どっぱぁああん……。


「リーチェちゃん……ッ?!」皐月が蒼白で隣を見る。
「あ……………ごめん仔犬ちゃんがあまりに愛おしくてスイッチ押しちゃった(てへっ★」
「「ちょ………まッ…!!!!」」ジャンヌとクララが絶句する。
「エリーーーーーーーーーーーー!?」ショーコもドン引きである。

「エリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
いの一番に飛び込む涼であった。腰にブレード類を佩いたまま。要救助者一名様追加。








扶桑皇国海軍航空機械化歩兵運用母艦、実験艦たいほう 第一回
『問答無用☆海水浴!!!ポロリもあるよ(但し射出的意味で)!!!!!』
の開幕であった。





すかさずSRが即動訓練のように全力ダッシュで舷側通路から(医務室の真以外)全員
わらわら飛び出してきてウミガメの子供のように海に飛び込み姉妹達の度肝を抜いたのはまた別の話。
当然ながら爾後、真が飛行隊とSR全員を激しく叱り飛ばした。


―――メメント・モリ・ネヴァー―――


おしまい



[24398] 碑の璧(защитную стену)
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:cb5cde85
Date: 2011/01/05 18:07
碑の璧(защитную стену)



『チョルヌイコット・フライト、DONオペレート。DON270、ALT35、12マイル、ボギー、11。キル・ボギー』
「チョルヌイコット1、ウィルコ」
『BVR戦闘を許可する。誘導支援ヤストヴィネズィア3、投射点へ急行せよ』
「da」

オラーシャ防空空軍広域早期警戒システムの戦区担任オペレーターから無味乾燥な要撃指示が下される。
真西の方角、3500フィートから奴らが来る。視程外戦闘。対空ミサイルのぶつけ合い。

中枢戦区に隣接したここまで来るということは、最外縁のSu-1R隊は抜かれたか。





空を仰ぎ見ると満天の星空、どこまでも広がるオイルすら凍る冷厳なる死の空。
今日もここで、姉妹達が舞い、あるものは空へと還る。

家族へは、勲章と僅かばかりの金銭、私物、そして愛娘のシュバリア・ガーデ1種礼装制服と儀式用騎兵直剣が届けられる。



「…………眼下に見えるのは黒々とした針葉樹の森だけ。私達の祖国、オラーシャ。でも、絶対に渡しはしない」

『バラヌ、投射点到達20秒前。シーカーオープンの時期は。……大丈夫、ララ』
「ええ。………投射点手前5秒でシーカーオープン。全機、ヤストヴィネズィア3へFCSをスレーヴ、ティピラ」
『スレーヴ、ティピラ』


空中警戒管制機(AWACS)のレーダにリンク。統制下に入り、フライトのストライカー3機がただのミサイル投射機械となる。

フライトの定数は4機。
昨日の戦いで、チョルヌイコット2、アナスタシアは祖国の大地へと帰れなかった。
可哀想なアナスタシア、私が不甲斐無いばかりに。


『ヤストヴィネズィア3、チョルヌイコット・フライト。リンクを確認。17秒後、オーバライド射撃を実行する』
「チョルヌイコット、了解」
『チョルヌイコット、DONオペレート。統制射撃後クルビットダイヴ、効果観測し残目標がある場合航空突撃を実行せよ』
「………了解」『ちょっと待て、もう一度繰り返してくれDONオペレート』

AWACSの電子戦士官が食って掛かる。
私達のSu-34戦闘脚には4発の長射程空対空ミサイルが装備されているが、
目標がイシュタルtype1(航空機械化歩兵型ネウロイ戦闘機型)だった場合、
この距離から撃っても3機の合計12発では11機のイシュタルを全機撃墜できない可能性が極めて高い。
仮に殆ど撃墜できなかった場合、その機数のイシュタルへ損耗したフライトのみで突撃するのは自殺行為。
でも、決してここを抜かれる訳にはいかないのが現実。
主よ、どうか加護を。


『迎撃点まで5秒、迎撃を開始せよ』
『くそッ!オーバライド、フォックス1、シュート!!』
「ダイヴ、ティピラ」
翼下、及び胴体下からロケットモーターの噴煙を噴いて長射程誘導弾が飛び立つ。
同時に3機全員でクルビット、そのまま直角に降下を開始。12条の光芒の行方を睨みつける。

FLIRのモノクロームな視野に爆発の煌き。火球の数は6、残存機数は5機。
幸運の女神は、今日くらいは味方してくれたようだ。
『ボギー健在、機数5!』『チョルヌイコット、突撃』
「da」
すかさずアフターバーナーに点火、エネルギー効率を最適に保ったまま引き起こし。
ズーム上昇をしながら突進する。
「全機突入」『『da!』』


『『「Улааааааа!!!!!!!」』』
喊声を上げて突き上げる様に突っ込む。やはりタイプ1。
3対5での編隊空戦では極めて不利だ。
「散開機動!相打ち、友軍相撃に注意、掻き回せ!!」『『da!!』』
至近距離、後方警戒レーダやFLIRを活用した高機動オフボアサイトPSM戦に持ち込む。
乱戦での殴り合いならば出力と機動性双方に優れたこちらが有利だ。

前方、旋回する私の前に交差機動で敵、どこから見ても戦闘脚を装備したウィッチにしか見えないイシュタルが飛び込む。
短くガンを射撃、バイザに朱い液体がぶつかり、すぐに後方へ流れて落ちる。

後ろ、右下方からややローGヨーヨー気味に敵が襲い掛かってくる。
ハイGバレルロール、オーバーシュート。
眼前に敵の戦闘脚。短距離誘導弾を射撃、回避した所へガンを置き撃ち。
敵の戦闘脚が約2秒の機関砲弾直撃で吹っ飛ぶ。
翼の下で体液が散る。風で流れる。二機撃墜。2番機と4番機も1機落とした。

残り一機。スパイラルダイヴで逃れようとするそいつにフライト全機で短距離誘導弾の集中射。
空中で爆散。元が戦闘脚と同じ機影、やや崩れた人型
(脚自体が巨大な上、身に纏うスーツが流線形の空力的に優れた形状のため)だったのが判らない程まで粉砕。

「全機、報告」『3、ノーマ』『4、ノーマ』よかった、全員無事だ。
「DONオペレート、全機撃墜」
『確認した。チョルヌイコット、ヘディング355、16マイル。地上で陸軍機甲部隊が交戦中、急行しこれを支援せよ』
「da」『ララ、もう燃料が少ないわ』
「帰り掛けに対地誘導弾を最大射程から4発全部トスアップで撃ち込むくらいは出来る、行きましょう」
『ええ』「それに、地上で同志が戦ってるわ」
『わかったわ、ララ』

「ヤストヴィネズィア3、こちらチョルヌイコット1。支援に感謝します」
『お安い御用さ、コーシカ。幸運を』「ありがとう」
彼は渾名で私を呼び、それに応えて私達は旋回、北へと向かい、地上軍を支援すべく移動を開始する。





オラーシャ防空空軍モスクワ直掩飛行隊、通称シュバリア・ガーデ第一航空団の飛行場は
オラーシャが誇る広域防空網システムの中枢となる高さ45m、一辺が130m、
レーダーエレメント直径16mの巨大な強化コンクリートのモニュメント
DON-2NP、通称『ピルボックス』フェイズドアレイレーダー・フォートレスに隣接している。
司令部はその地下迎撃指揮所に所在し、モスクワ最終防衛ライン、
『ゼロエリア』への侵攻を目論む敵ネウロイを24時間監視し続ける。

クラーラ・ウラディミロヴナ・バラノワ中尉勤務少尉は格納庫へと愛機、Su-34戦闘脚を格納し終えてデブリーフィリングへと向かった。
「ララ、行きましょ」「ええ、カーチャの機体は異常なかった?」
「大丈夫、ただエンジンがそろそろね…」「そうね、リューリカ製は出力は兎も角寿命がね」
クララはチョルヌイコット4、フライトの副リーダーで元ウイングマンのエカテリーナ少尉と話しながらストライカーを一瞥した。

Su-34はオラーシャ防空空軍の運用するSu-27戦闘脚を基にした最新の戦闘爆撃機型ストライカーだ。
爆撃任務に対応し、同時に戦闘任務にも従事するために原型を遥かに上回る電子戦能力と全遊動カナード、
そしてオラーシャの保有する全ストライカー用兵装に対応したFCS、広大な国土をカバーする長大な航続力を誇り
生存性も大きく向上し、ダメージコントロールシステムと最厚部で17mmのチタニウム装甲を備える。
これらの重量増に対応して出力向上型のリューリカAL-41FLW魔導軸流式ターボファンエンジンを搭載し、
クリーン形態での最大速度は高高度マッハ2.1を誇る高性能機だ。

しかしその代償として、決して少なくはない対価を支払っている。
最も大きなものとして、まずそのエンジン寿命の短さが挙げられる。
アフターバーナーを使用した際の最大呪力は現時点で世界最強の実に177.1kNに達するが、
その平均運用寿命が3000時間以下なのである。
当然、出撃頻度を限界まで上げ最大出力での運用を行う等の過酷な使用環境であればその命数は激烈に縮む。

また、その運用にはウィッチ一人では魔力負担が大き過ぎるという観点から、当初複座が検討されたものの
やはりウィッチ同士の魔力のマッチング、エンジンの調整が難しいという事で、
エレメント同士での魔素感応式遠隔呪法による航法・管制系の相互搭乗者負担軽減のみを行うという変則的な方法が執られる。
言うなれば二機一組で一個のユニットして運用する変則的な遠隔式複座だ。
ナノマシン同調による魔素感応系データリンクがジャミングされる事は有り得ないが、
もし仮にされたとしたら、この機体は扱い辛く、ウィッチに過酷な消耗を強いるだろう。
尤も、それをしたければ血を、魔素を力の根源とする魔力持つもの、
つまりウィッチでなくては不可能だ。

そして、片翼を喪ったウイングマンの居ないウィッチにとっても。

私のような。


全身の血が酷使されて、実のところ今の私は極度に消耗していた。
リベリオンでは当初からこの機能をデータリンクとして組み込んだホスト・サーバーとなるウィッチが存在しない
クラウド・リンクを実装すべく次期主力ストライカーを開発しているそうだ。


私の機も、もうじきエンジンを交換しなければならないけれど、恐らく数週は待たされるだろう。
それまでは出力の落ちた状態で耐えなければならない筈だ。

リューリカAL-41FLWエンジンそのものが生産数不足で装備部隊全体が補給の枯渇に喘いでいる。
大オラーシャ帝国のシュバリア・ガーデ、それもツァーリをお護りするヘッドナンバー航空団、1stFWでもこれだ、
前線では、そもそもSu-34戦闘脚自体が満足に導入されているとは言えないが、
導入の叶ったエースウィッチも部品枯渇で早々にSu-27戦闘脚へと逆戻りしているそうだ。
泣き言ばかり言っていられない。

「ララお姉さま、私の機のエンジンはまだなのかしら……」
アナスタシアの実の妹、チョルヌイコット3、ジリヤが呟く。
「リーヤ、………あなたの機には、エンジンもそうだけれどソーサリー・アンプとアビオニクスにナースチャ……アナスタシアの
予備を使おうと思う。貴女達なら、ナノマシンのDNA適合は問題無いからすぐにでも換装出来るの」

「おねぇちゃんの……?」

「嫌……かしら」

その瞳に浮かんだ透明な色を見て、私は怯えた。
昨日姉を失ったばかりの子に、私はなんて残酷な事を言っているのだろう。
でも、そうしなければならない程にジリヤの機のエンジンとアビオニクスは限界だった。
幼きエース、この無垢な準戦略級魔女を喪う事は絶対にあってはならない、あってなるものか。



恐れを眼鏡の奥に隠し、私はジリヤの言葉を待つ

「……おねぇちゃんと、一緒に飛ぶ」
「………リーヤ」


「ナースチャおねぇちゃん、その洗礼の名は、『Анастасия(目覚める女/復活した女)』……私、おねぇちゃんと飛べるのね」
「……………リーヤ」


「ありがとう、ララお姉さま。私、おねぇちゃんの分もお姉さまのために戦います」
「リーヤ…!!」耐える事など出来なかった。きつく、きつく抱き締めた。


この子は、まだ泣いてすらいない。
そもそも、姉の最期を知らない。
私のウイングマンだったアナスタシアの最期を。

ログではない、その最期を見る事は叶わなかった。
当然看取ることも。

「リーヤ………リーヤ…ジリヤッ!!」
「何故泣くの?お姉さま、私は、これからもおねぇちゃんとも、お姉さまとも一緒なのに」
貴女は泣いてもいいの、その言葉が喉に張り付いて、出てこない。
懸命に彼女の名を呼ぶ事しか出来なかった「ジリヤ」
「泣かないで、お姉さま」
「ジリヤ……!」


「ララ」
後ろから、呼び止められ、振り返る。
カーチャは、その裡に涙を圧し留め、冷たくすら感じる厳しいまなざしで私を諌める。
今、このネウロイの大攻勢の真っただ中で、これ以上列機を減らす訳にはいかない。
それが悲しみに暮れての離脱でも。

そうなると、今度は私達が死ぬ。

その事実にこの子が耐えられるだろうか、自責の念に駆られて死に急ぐかもしれない。
泣く事は後でも出来る。でも、姉妹達を守ること、祖国を守ることは今この時しか叶わない。


「ごめんなさい…行きましょう、カーチャ、リーヤ」
再び歩き出し、デブリーフィリングのレポートを提出すべく、地下通路を通り、
DON2-NP要塞のメインシャフト・エレベーターへ向かった。

残酷でも、死んでしまうよりはずっといい。





司令部への戦術情報の報告が終わったところ、航空団司令室への出頭を命ぜられたクララは、
航空団司令に同じ報告を繰り返していた。要件についても、その本題の見当もついていた。

「報告は以上です」
「うむ。……時にバラノワ中尉勤務少尉、そろそろ少佐任官試験を受けてくれる気になったかね?」
やっぱり、その話。
おじさまも諦めが悪い。

「はい、いいえ、司令。私はそのような器ではありません」
「先代のチョルヌイコット1、スコードロン・リーダーが戦死してから1年近くなる。
君の指揮能力は最早疑うべくもない。反対意見は私が抑える、行き過ぎた謙遜は残酷だぞ」
アレクセイ・マルコヴィチ・アウロフ中将が噛んで含める様に言う。
この人は、私の親戚筋にあたり、妻は無く、子も無い。
だからか、こうしてシュバリア・ガーデに配属された私を娘のように何かと気遣ってくれる。
40代と若くして中将まで上り詰めたこのおじさまの言が的外れだとも、
過大評価だとも思いはしないが、それでも、私にはその資格がないと思う。

「昨日、アナスタシアをむざむざと喪った私がですか?
アリョーシャおじさま、それでは姉妹達が納得しませんよ!」
「あれは仕方の無い結果だ!私は、お前は戻らないと、お前も喪ってしまうと、思っていたのだ………!
昨日、どれだけのネウロイが押し寄せたと思っておる………!!」

「…………タイプ1が36機、タイプ2が20機、地上では戦車型が一個機甲旅団規模、その他多数です」
「そうだ、そして今日もまた、それに匹敵する規模の集団が現れた。だが、お前の隊は見事に守り抜いた」
「私の隊は、………運が良かっただけです」
「大人になりなさい、ララ。軍人は、負うべき職責というモノがるのだ」

「…………私、できません」両手で顔を覆ってしまう。
こんな弱い女が、どうして姉妹達の命を預かれようというのだろう。
「ララ…………、すぐにとは言わない、だが、人は誰しもその時が来れば道が開かれ、歩かねばならん時が来る。
妹達は可愛かろう。しかし、君の姉達は、君の命に責任を全うしてくれたのでは無いのか?」
「……その通りです」
「君だけ逃げるというのかね?」
「はい、………いいえ、司令」
「………よろしい。明朝、作戦は開始される。今日はもう下がりなさい。今日のソーティから君の隊は外しておいた。
酒保に話は通しておいたから、明日に備えて少し飲んでゆっくりするといい」
「ありがとうございます、アリョーシャおじさま…………」
「さぁ、行きなさい。明日も恐らく奴らは来る。ジリヤ君を、死なせてはならないよ」
「はい………」

もう私の顔は涙で見れたものでは無かったけれど、それでも眼鏡を外して涙をハンカチでぬぐい、
体裁を取り繕って敬礼し、出口へと向かった。

立ち止まり、振り返って言う

「おじさま……」
「なんだい、ララ」
「………もう少し……、もう少しだけ、考えさせてください…」
「ああ、待とう。私は待つとも。いつでもいい、その時に、私に話すといい」
「ありがとう、おじさま」
「構わないよ」


ノブを掴む。少しだけ悪戯心が湧いた。

「おじさま?」「なんだい」
肩越しに流し目を作る。私の流し目じゃ、色気も何も無いだろうけど。

「私ばかり部屋に呼んでいると、私との関係を疑われますよ?」「ごほッ!」
おじさまは飲んでいたたっぷりとジャムの入った紅茶を喉に吸い込んで咽た。
撫でつけた銀髪に銀縁のメガネが似合う怜悧で端正な顔が変な表情に歪んでいた。
思わず笑って、私はそのまま部屋を出る。





「おじさま?」「何だい」
私はそんな姪御の台詞に何気なく目を書類から上げた。

ララはドアに手を掛けた姿勢で上半身を捻り、肩越しに振り返ってこう言った。
「私ばかり部屋に呼んでいると、私との関係を疑われますよ?」
先程の涙で潤み、片翼を喪ったせいで倦怠感を湛えたその妖艶な視線と、
上体が捻られた所為で制服が絞れて強調された背中から腰、そして脚への曲線にたじろいて、
私は熱い紅茶を思わず吸い込んでしまっていた。
「ごほッ!」「ふふふ……」
「子供が大人をからかうんじゃあ無い!!」
匂うような色香のある微笑を残し、
そのまま私の部屋を辞する姪御に私は腰を浮かしかけて怒鳴るしかなかった。
が、恐らくドアが閉まる方が先であったろう。体裁も何もない。
追い掛けてドアを開け、捕まえるのは恥を重ねるだけだ。椅子に尻を落ち着ける。

いい大人が、みっともない限りだ。
「全く、………ヴォロージャ、貴様の娘は、美しく育ったようだが、とんだ気まぐれ猫だ」

どこにいるとも知れない弟、ウラディミールに愚痴り、私は溜息をついた。
誕生日に弟から贈られた眼鏡を外し、レンズを拭きながら呟く。

「おまえは、どこで何をしている。………ララを悲しませるな、愚弟め」
軍人の家系であるアウロフ家に生まれながら婿養子としてウィッチの家系、
バラノフ家に行き、ストライカー関連のマテリアル・エンジニアとなった弟は、今や所在も知れない。
その娘がウィッチとして私の前に現れるのだから、皮肉な限りだ。

溜息の癖は、アウロフの血筋だろうか。
親父も、私も、ヴォロージャも、そしてララも頻繁にため息をつく。
そのうち直してやらねば。


そこまで考えて、眼鏡を掛け、私は誰にともなく咳払いをして執務に戻った。
明日も奴らは来る。のんびりはしていられない。
私は、私の戦いをせねば。





「北極海艦隊への分遣、ですか?」
「ええ、そうよ。私達のスコードロンはバルチック海に
展開している北極海艦隊旗艦、重航空巡洋艦アドミラル・グズネツォフへ移動。
予測されるネウロイの進路側面より打撃、敵の首都進攻を殲滅する主力の為の攪乱を行うわ。
Su-34には今整備班の人たちが艦載運用オプションを組み込んでくれてるから、
明日の朝にはSu-32MFになっているわ。マニュアルの航空巡洋艦運用の項をよく読み返しておくように」
夕食を取りつつ私達のスコードロンは明日の作戦について話した。私はおじさまから伝えられた作戦をみんなに通達する。
今回は航空団ではなくスコードロンだけでの別動隊だ。他の隊の支援は期待できない。

「私達だけで大丈夫なの?ララ」
「問題無いわ、私達の目的は飽く迄攪乱。
ある程度掻き回したらすぐに後退して空中給油を受けつつDON-2まで一直線」
「それなら、なんとかやれそうですねお姉さま」
「あたし長距離飛行苦手なんだけどなぁ」
「行動の開始は明朝0400、1200までにアドミラル・グズネツォフへ到着し、
予想されるネウロイの侵攻に備えて休息、DON-2の警戒システムが敵を捉えたら発進、低高度から奇襲するわ」
「管制機の支援はあるんですか?」「いいえ、そのかわりに統合軍と海軍飛行隊のSu-33支援がある予定よ」
「統合軍、ですか?」
「ええ、そもそも今回の作戦も統合軍オラーシャ方面軍との合同作戦よ。
発案は司令だけれども、統合軍の協力が無いと実現は難しかったでしょうね」
「防空軍による海軍と合同での航空OMG、か。司令も思い切った事をするわねぇ」
「さあ、明日は早いわ。みんな、作戦計画にしっかり目を通して、早めに休むように」
「「「da」」」
ちょうどタイミングを合わせたように食後の紅茶を飲み終え、一斉に席を立つ。





「ヤストネヴィズィア3、チョルヌイコット1。
これより我がスコードロンは貴機の戦区統制を離れ北海艦隊の統制区へ入ります。誘導管制感謝します」
『お安い御用だ、幸運を、コーシカ』「ありがとう」

モスクワ近郊を離れ約800キロ、ここからは海軍の統制下に入ってバルチック海で私達を待つ
重航空巡洋艦アドミラル・グズネツォフへと向かう。
『こちらグズネツォフ・コントロール。チョルヌイコット1、聞こえるか』
「チョルヌイコット1、良好です」
『これより貴隊の誘導を行う。進路そのまま、高度をALT34へ。低気圧が接近している、乱気流に注意』
「チョルヌイコット1、了解。オールフライト、ALT34」
2個のフライト、チョルヌイコット・フライト、及びヴォロビエ・フライトの計7機が号令で一斉に高度を上げる。

『レーダーコンタクト!12オクロック・ロー!7マイル!ヘッドオン、高速接近!ララ!!』
「落ち着いて、カーチャ」言いつつ、IFFと同時にフェイズドアレイ・レーダーをピンポイント走査、
対象群の緒元をFCSに流し込みつつ動向を監視する。
暴発しそうなリーヤの前方高位に占位して抑える。リーヤは既にマスター・アームに親指を掛けている。
ミサイルのレンズのような瞳に咎めるような色が浮かぶ。

『すまない、チョルヌイコット1、ウチのおてんば共だ』
『ふぅん、貴女が噂のコーシカ?冷静だね、それに的確。ウチがネウロイなら貴女は次の瞬間叩き落せる』
『挨拶くらいしたらどうなんだ、アクーラ』「……」
『それもそうだね、ウチはレギーナ・キリロヴナ・ゼリナ大尉、
カサトカ1、TACネームはアクーラ、よろしくね』
低高度から突き刺すように接近していたSu-33戦闘脚のフライトがインメルマンターンで綺麗に速度を
位置エネルギーに変換し、前方に付ける。

「よろしくお願いします、ゼリナ大尉」『固いなぁ、レナでいいよ、コーシカ』
「はぁ……」『ま、いいや。ところでウチ、フライトネームカサトカ(鯱)なのに
TACネームはアクーラ(鮫)なんだ。これってどう思う?おかしくね?』
「えっ、と…そう言われても、フライトネームは司令部の決定ですよね」
『そ!センスないよね~あいつら!あ、ウチらに付いてきて、船まで案内すっから』翼を振るアクーラことゼリナ大尉。
『アクーラ!お前はどうしていつも『まあいいじゃんちゃんと連れてくし。ウチがカスピ海に行くとでも思う?』
『話は最後まで聞け!』『怒んなよヴァシュリュシュカ、ハゲるぞ?』
『レナ!お前は通信がログに残るってことを未だに理解していないらしいな……!』
『ウザいからほっとこ、こっちだよコーシカ』「あ、はい」

航法支援も何も無しであっというまに胡麻粒のような母艦へピタリと帰り着くゼリナ大尉、
この人の頭の中には衛星通信航法装置でも入っているんだろうか。
『さ、着いたよ。ウチらが先に降りるからよく見ててね。着艦は?』
「全員、出来ます」『流石はツァーリをお守りするシュバリアガーデだ、コーシカ姉妹だし当然かな?』
『ヴァシュリュシュカ、カサトカ降りるよ~』『お前は………、ユア・クリア・トゥランディング、アクーラ』
『なんだかんだでちゃんとやってくれるあたりヴァシュリュシュカってやっぱいいよね』
『何をッ!?』『ほい3番、ただいま』喋りながら着艦……。複座、じゃないわね。

続いてカサトカフライトの人たちが次々に着艦する。今日の風だとこう降りるといいよ、と翼で語っている。
次は私達だ、ここまで見せつけられて私達シュバリア・ガーデが負けてはいられない。





「2番ワイヤー!コンプリート・ランディング」
『ナイスランディング、チョルヌイコット1』
アドミラル・グズネツォフの甲板へと降り立つ。私が最後。
全員、無事に着艦した。ボルター(着艦失敗)も無し。
ドーリーに収容される。頭胸部エクソスケルトンのキャノピを開放してヘルメットギアをようやく脱ぐ。
「お見事だね、コーシカ」「ゼリナ大尉」
「レナでいいのに」笑いながら、大尉がストライカから降りる。

「私の事もララと呼んでくださるのなら、考えます」
「あれ、そう?コーシカじゃあ嫌?」
「いいえ、ただ、機を降りたら私はただのクラーラですよ」
「ふふふ、両脇に吊った得物が泣くぞ?」「…これは……形見だから」
「なら、なおさらだ」「そう、でしょうか」「そうだよ」
目を落とす。両脇のショルダーホルスターにそれぞれ吊ったOts-23。
制式採用モデルのモノは自分の、もう一つの正規の型番の無いトライアル仕様はお母様の形見。

お母様のTACネームはコーシカだった。Mig-29に乗り、祖国を守り戦った英雄。
私は、お母様の様に強く無い。ネームを継ぐだなんて、とても考えられなかった。
代わりにお母様の姓から取ったネームを名乗ると決めて「バラヌ」と、ただそう名乗った。

でも、徐々に名前と戦果が広まるにつれ、私はコーシカと呼ばれるようになりつつある。
空でなら、お母様のように戦えればと思ってそう呼ばれるのも受け入れているけど、
地上では、私はただのクラーラ、一人のちっぽけなウィッチだと思う。


母の血、頭号航空団司令である防空空軍中将、アリョーシャおじさまの姪という立場、
極めつけに戦時任官とはいえモスクワ直掩飛行隊、シュバリア・ガーデ第一航空団のフライト、
スコードロンのリーダーという任務。

正直、逃げ出してしまいたいもろもろ。それでも、私は逃げるわけには行かない。
祖国が、姉妹が、待っているから。あの空で。

「んじゃ、ラ~ラ?」「わ」
甲板に自分の足で降り立った私に、大尉が後ろから抱き付く。
「ほらアタシも呼んでよララ」「あ、その……レナ、大尉…」
何だか妙に恥ずかしい気がする。
「照れちゃってもう、ララってば可愛いなぁ」「そ、そんな事……」「大尉はいらないよ~?」

「お姉さま、飛行隊司令が……」「リーヤ」「誰ですか?………さっきの…」
ジリヤの瞳から色が消える。剣呑な空気を醸し出す。
「駄目だよ、リーヤ」カーチャが止めに入る。
「カーチャさん、でも」「ジリヤ」私も、彼女に声を掛ける。
ジリヤはやっとでホルスターに伸び掛かる右手の緊張を解いてくれた。
「そっちの子は、少し余裕がなさそうだね?」「……その、昨日」
大尉はそれだけで総て把握し「そう、昨日の。あの子、貴女の隊だったの」「はい」
「惜しい魔女を亡くしたね、全部記録は見たよ」「はい」
私が、不甲斐ないばっかりに「それは違うよ」「えっ」

心を読んだ様に、大尉が言う。
「悲しい事だけど、戦いの空を飛ぶ以上は、誰だって平等にそうなる可能性がある」
「………」「ララはベストを尽くしたよ。それでも、どうしようもなかったんだ。残念だけど」
「…………わたしが」「大丈夫、今日は、ウチが一緒だよ」後ろから、優しく抱きすくめられる。

温かく、優しい、凍えた心が溶け出して、瞳から零れてしまいそうになる抱擁。


「ジリヤちゃんを、護ってあげなきゃ」
「はい」

「今日、終わったら、アナスタシア少尉を葬送してあげるといい」
「はい」
「それまではね?」
「わかっています」
それが、残酷な優しさ。私達の。

「ん、いいこと思い付いた。後でヴァシュリュシュカにやらせようっと♪」
そう言って笑う大尉。
「さ、ウチに付いてきて。ヴァシュリュシュカの所に案内するよ」
弾むような足取りに付いて、艦内へ。





飛行隊司令室ではなく、戦闘指揮所へ行きオラーシャ海軍唯一の海軍航空巡洋艦航空隊司令へと乗船の報告を行う。
「紹介するよ、ララ。こいつヴァシリ・ガヴリロヴィチ・ザイツェフ。ウチらの司令、兼、艦長」
「海軍大佐、ヴァシリだ。好きに呼んで貰っても構わないよ、バラノワ中尉勤務少尉」
「あなたが……?」
若い、というか、アリョーシャおじさまだって極度に若かったがこの大佐の若さは尋常ではなかった。
はっきり言って異様に若い。見たところ、20代にギリギリ入る位にしか見えない。
そう、ちょうど見た目ならレナ大尉と同じくらい。つまり、昇進が電撃的に早いウィッチよりも階級が高い。
いや、それとも外見とは裏腹に経験を重ねておられるのだろうか。或いはこう見えて稀に存在する男名を持つウィッチであるか。
その幼さを多分に残して女性的な容姿をした海軍大佐は、しかし、声音も物腰も完全に男性のそれである。

「オペレーターじゃなかったんですね」カーチャが遠慮なく突っ込む。
「なにぶん、我々も人手不足でね。血の金曜日で二番艦ワリヤーグの被撃沈、
本艦の航空隊の全滅で重航空巡洋艦隊主力が丸ごと不在となってしまったのを、
我々の飛行隊がそっくり埋めているのさ。ウィッチの重航空巡洋艦での運用データが取れているのはまさに不幸中の幸いであるとも言える」
「ちなみに、アタシと同い年でついでにフィアンセなんだよ」「へえぇ~」
「それはこの際どうでもいいだろう、レナ………!」「もう、ヴァシュリュシュカったら照れちゃってかあいいなぁ~♪」

そうか、ではこの人がオラーシャ海軍にたった一隻しかない重航空巡洋艦とその航空隊だけで北極海、
オラーシャにとっての『聖域』と呼ばれる領域の空を護り、艦の実権を握る辣腕の指揮官。

元防空空軍実験航空隊所属、現在開発中と言われる次期『制空戦闘機』
PAK-FAの主導的開発パイロットにして実戦運用飛行隊長だったという、通称『ウビーズァ(殺し屋)』。
噂では、未確認の新型ネウロイに撃墜されてパイロットとしては再起不能になってしまったとも聞いていたけれど、
まさか同一人物だったとは。

「君達の休憩用には第二甲板のウィッチ区画に部屋を用意した。レナ」
「ん、これカードキーね。まぁ心配は無いだろうけど一応寝る時はしっかり施錠すること」
「予測される侵攻時間までまだまだある。まずはゆっくりしてくれたまえ」
「食事は、ウチが呼びに行くから寝てていいよん♪」
「なにか質問はあるか?」
「はい、いいえ大佐、ありがとうございます」
「礼は、ゼリナ大尉が君達の支援をしっかり全うしてからでいい」
「はい。それでは、早速休ませていただきます。失礼しました」
「ああ」「またね、ララ」
指揮所を辞する。部屋は第二甲板、ここの二階層上だ。

「そうそうヴァシュリュシュカ、ちょっと頼みがあるんだよねー、実はさ……、」
そんな声が聞こえたが、頑強な隔壁扉が閉まり、その先を聞く事は出来なかった。





「軍艦の居住区ってもっと狭いかと思ったんだけど、そう捨てた物じゃ無いんだなぁ」
「わたしも、意外でした。もっと3段ベッドとか、4段ベッドで高さが50センチとかそういうの想像してたんですけど」
「まぁ、一般的にはそうよね。実際のところそれは潜水艦の居住区なんだけれど」
「ふぅーん、ララは物知りだねぇ」「お姉さま、流石です」
「やめてよ、二人とも」
宛がわれた広々とした2段ベッドの上でリーヤとカーチャが寝心地を確かめる。
通路で少し荷物を整理していた私は顔を通路に突き出した二人と笑い合う。
何だか学生時代の小旅行みたいで心が躍る。
「ほら、少しでも休みましょう?作戦はこれからなのよ?」
「はーい」「はい、お姉さま」
リーヤの頭を撫でて、私も自分のベッドへ入る。
ベッドは一部屋に4つ。どうしたって一つ余ってしまう。

……そう、3人では、
「おーす♪ララ、いる~?」レギーナ大尉が突然部屋に入ってくる。
「れ、レナ大尉?」「あ、いたいた。ね、お二人さん、少しララ借りるよ?」
「食事でしたら、二人も、」「ん~、それとは別件なんだよね。貴女達がもう食べときたいなら、早飯って事で急がせるけど」
「あ、いえ」「んじゃいいね、行くよララ」

「あ、ちょララ…って行っちゃった」「お姉さま…」
残された二人は呆然とするしか無かった。




「じゃ~ん!どうよララ!!コイツは!」
「これは……Su-32MFですか?でも、この機番、レナ大尉の」
二人で連れ立ってハンガーへ。そこには、私達と同じ型のSu-32MF、
ただ、素体はSu-33を基にした改修機が駐機されていた。

「そのとおりなのだ!今日の夜はね、ウチがララのウイングマンだよ!」
言いつつ、私の右に立って肩を組むレナ大尉。

「……え」
言葉の通り、その機は私のL型機(機関航法・防御管制機)と対をなすR型機(電子戦・火器管制機)
「ララ、Su-34でペアリング・リンク無しで昨日飛んだでしょ。ダメだよ、絶対」
「どうして……?」
「バカ、貴女いま魔素の活性が危ない位低い。てゆーかフライトが3機しかいない時点で気付くって」
「いえ、そういう意味では無くて」「……」
得心が行った様子で、一旦組んだ肩を解くレナ大尉。


正面から、両肩に手を置かれる。
「ウチは、誰も死なせないよ」
「大尉…」
「勿論、貴女も」
そこまで言って、大尉は私の頭を抱き締めた。

だから、力を貸して。
そう耳元で言って。頭を離し、両掌の指を絡ませ、額を合わせて。


「ほら、ララ」

大尉は組んでいた掌を一度解き、
右掌に、左手で抜き放ったオラーシャ帝国軍制式採用の消音ガン・ナイフNRS-2で、小さく傷をつける。
私も、無言で左掌に、右手で抜いた同型ナイフで傷を、つける。

二人同時にナイフを腰の後ろのシースに仕舞い、再び両掌を組む。
血が混じる。


「「  ………ナノマシン・コネクテッド わたしは ペアリング・リンクを受容する  」」


契約の誓約。契約の相手を受け入れ、己の半身として使役し、される事を受容する宣誓の詞。
詞を聞き入れたナノマシンがお互いの掌の傷口を通じて血を通わせ、
魔素を同調、いや、同化させる。

ナノマシン同調による魔素感応通信、その上位リンク、魔素連接融合。
大尉と私はエレメントとして空に在る時には、互いにサブシステムとして使役し合う共生体になった。


これで、準備はOK。


そう言って、レナ大尉は手を解いた。
「ララと私は、一緒だよ」
手際よく、掌に絆創膏を張られた。


「さ、部屋行こうか!」「え」
言いつつ、肩を組んで私達防空空軍チョルヌイコット・フライトに宛がわれた部屋へ突き進む大尉。
「ちょ、大尉?!」ビタッと立ち止まる大尉。

「レナ」「え?」「レナだよ、ララ」
真摯な目で射竦められる。
「ウチはレナ。ウイングマンに、大尉だなんて言っちゃダメだよ、ララ」
「…でも」「いいから」強い輝きを持つ瞳に、まっすぐ見つめられる。

「………れ、な」
「ん?」


「……レナ」
「…………」

「レナ」
「ん!!」

また抱き締められる。
「かぁいいなぁララは!!ほらほら早く休もうじゃないか!!!」
「部屋、あの、レナ?」「誰が何と言おうと今日は一緒の部屋!いや一緒のベッドで仮眠だよ!!」
「え……!?」

言いつつ、部屋へと帰る私達だった。3人では、1つベッドが余る部屋に。


どのみち、一緒に寝たら余りそうだけれど。





『グズネツォフ・コントロール、バラヌ、アクーラ、聞こえるか』
「よく聞こえるよ、ヴァシュリュシュカ」「良好です」
私達は飛行甲板の発艦待機位置で出撃準備をしつつ、ザイツェフ大佐から命令の補足を受ける。
ペアリング・リンクしたレナの声は自分の声のようにはっきりと届く。

『今から3分前、DON-2NP警戒管制レーダーとAWACSがゼロエリアへと進攻する敵群を捉えた。
機数は戦闘爆撃級が30、戦闘級が40、種別不明のイシュタル級が26』
「昨日よりはニセモノ共が少ないじゃん」『だが、戦闘爆撃級が多いのが気がかりだ』「地上は、どうですか」
『戦域統制機が急行している。ヴォルゴグラード要塞とカルーガ要塞の双方で1個増強機甲旅団規模の敵と交戦中だ』

「………多い」
『我々の任務は敵航空戦力への機動打撃だ、そちらは陸軍に任せておけ』「はい」
『バラノワ中尉勤務少尉、ヴォルゴグラードとカルーガは破られんよ』
「そう、ですね」
『万が一抜かれても、帝都要塞がたかが2個旅団に陥とせるものか』
「大丈夫。ウチらが上手くやれば陸軍だってやる気出すさ」
「はい」

準備が総て整った。マーシャラーの指示でドーリーに操作信号を送り、発艦位置へ。
クラウチング・チョークにギアが拘束される。
『準備はいいな?この戦いは、お前達に掛かっている。何としても成功させろ』
「まっかせなさ~い!」「大丈夫です」
『よし、征って来い!!』「おっけぇ……!!」「da!!」

甲板からジェット・ブラスト・ディフレクタが立ち上がり、最大角度に固定される。
『チョルヌイコット・フライト、カサトカ・フライト、ユア・クリア・トゥ・テイクオフ!』
「ララ」「行きましょう、レナ」

エンジンを最大推力へ。
「アクーラ・ローンチ!」「バラヌ・ローンチ!!」
ジャキン!
クラウチング・チョークが引っ込んで、最早私とレナを遮るものは何も無い。
スキージャンプのジャンピングバーンへと急加速で突っ込む。
強いG、足元から甲板が消える。一瞬の浮遊感。
『グッドラック、バラヌ、アクーラ』
「ありがとヴァシュリュシュカ、愛してるよ!」「サンクス、グズネツォフ・コントロール」
『この…早く行け!必ず戻れよ、レナ。いいな、全員連れ帰れ。命令だ』



デパーチャーへと駆け翔る。
皆が待つ、戦いの空へ。


10


旧ミンスク上空、放棄された都市の遥か上空で私達は東進するネウロイ群を発見した。
お互いの進路はこのまま行けば交錯せずに奴らの後ろを通り抜ける形。
「ララ、いるよ」「うん」
「ボギー、2オクロック・ハイ。全機、パワーダイヴ」
Su-32MFとSu-33の三個フライトが一斉に増速降下、敵の斜め後ろへと忍び寄る。
『バラヌ、飛び込むの?』
「進路そのまま、チョルヌイコット、ヴォロビエ、FLIRロック。近接戦闘に備え」
「カサトカ、後衛になれ。空軍が飛び込んだらカバー、鯱の狩りを奴らに見せてやれ」
敵に低空から忍び寄る。海軍は二機一組で、互いの機が触れ合わんばかりに近接して私達の後方に付ける。

まだ、あと12nm。

「………おかしい」「ララ、どうしたの?」
「もうこっちが見えててもいいはず。どうして何も反応しないの?」
「……ッ!ブレイク!!」「!?」熱線映像の中の敵戦闘爆撃級らしき機影が突如閃光を放った。
一斉に回避。瞬間、空間を焦がして強力なレーザーが怒涛の勢いで照射される。
「あいつら、戦闘爆撃機じゃない!電子戦タイプと長射程レーザ型の混成だ!!」
『そんな、それじゃ近付けもしな…キャア!!』「カーチャ!」『大丈夫です!お姉さま』
カーチャに襲い掛かったレーザをリーヤがヴォロビエ・フライト機と共同展開したシールドで防ぐ。

『バラヌ、どうするの?!』「く…!」
「カサトカ、前へ!ショットガン!!」「レナ?!」

『『『「Улааааааааа!!!!」』』』
海軍機が一気に前へ飛び出す。エレメント毎、上下に反転して、互いに両手を握り合った状態で最大加速、
激しく撃ち掛けられるレーザをエレメント・シールド(二機で展開するシールド)で弾き返し、
防ぎ切れない収束レーザが来る瞬間に弾ける様に散開、かと思うと別の機ともう手をつないで更に前へ。
踊るように、撃ち出された散弾のようなマニューバでみるみる距離を詰めていく。
レナも、あの重い機でそれを平然と行う。

そして、近付くにつれ、徐々に後方へ回り込む様な機動を行う。
レナの企図に合わせ、最適と信じるタイミングで号令を出す。
「チョルヌイコット!ヴォロビエ!!AESAビームモード、追尾目標電子戦タイプ!!」
4機のR型Su-32が照準用収束電子ビームを一斉に照射、カサトカフライトの機体が目標と重ならないタイミングで
「高速誘導弾!各機二発発射用意!スティリヤッ!!」
8機のSu-32MFが一斉に16発の高速誘導弾を放つ。
マッハ4まで加速した短距離戦闘専用の高速誘導弾が光の矢となり目標に殺到する。
(とはいえ、全力加速してしまったら殆ど誘導は効かない種類の武器なので、照準操作が極めて重要だ)
命中、爆散。この誘導弾は、その特性上炸薬の類は殆ど無く、その強力な運動エネルギーで徹甲弾に近い効果を発揮する。
電子戦タイプを失った敵は照準精度が下がり、私達精鋭ウィッチを相手取るには最早役不足である。

モスクワの方角から、友軍航空機の大部隊が接近してくる。
『バラヌ、こちらヤストヴィネズィア3。よくやってくれた、後は俺達に任せろ』
「よし、これで主力の防御戦闘は容易になる筈……!!」「待ってララ、おかしい。ニセモノ共がいない」


『お姉さま!あそこです!!』下方、低空をあたかも私達が執った戦術そのもので人類側の航空戦力、
AWACSとSu-1Rの大編隊へと突入せんとするイシュタル・タイプ1群が加速上昇。
「まずいよララ!」「くそ、やられた…ッ!!」私達の位置からでは到底間に合わない。
『レナ、バラノワ!レーザー型が接近しているぞ!!!』おまけに挟撃気味の位置、ぬかった。
本隊のウィッチ隊もイシュタルの突撃に気付いたが、もう遅い。乱戦が始まる、私のミスだ……!!

『待って、ストライカレーザ通信モード、統合軍共通通信波長、どこから……』
戸惑いの籠った声をカーチャが上げる。
私もその通信波を受信する。受信方位は………直上?!


上空を仰ぎ見るがそこには何もない。いや、

『こちらリベリオン航空宇宙軍スターファイタ・スコードロン、ミストレス。そこの黒猫、聞こえるか』

遥か虚空、 焼灼の火星が見えた。

宇宙の闇に穿ったような強過ぎる輝き。

『これより貴様を支援する、再突入弾の衝撃波に巻き込まれるなよ』

輝きは、一気に巨大化した。大気圏内からでも肉眼で視認できる紅蓮の加速魔法陣。


『支援砲撃開始』
大気が吼えた。強烈過ぎる突入速度で至近弾ですらネウロイを易々と粉砕する再突入砲弾。


ガトリング砲のような弾量、隕石の如き威力、無造作に、ただ一方的に天上の高みから降り注ぐ純粋な破壊。
反撃をそもそも不可能たらしめる遥か孤高を驀進する航宙能力、圧倒的すぎる速度。

味方に喰らい付こうとしていたイシュタル群が回避運動に専念して、味方機から引き剥がされる。
今まさに私達に照射を行おうとしたレーザー型と戦闘機型が躱し切れずに爆散する。



これが……、伝説級大魔女、ア・ハートレス・ミストレス・マーズ………!!


『何を呆けている、莫迦が!突撃しろ黒猫!!支援砲撃終了、ミストレス、帰還する。オービタル、任せた』
『オービタル1、仰せのままに』有り得ない至近距離から通信波、FLIRで慌てて探査すると、
闇から滲み出すように鋭角的な『戦闘機』の機影が、じわりとHMD画面に浮かび上がった。

「F-22A……!」
『アクーラ、バラヌ。ここは我々に任せてもらおう。君達は同胞を助けたまえ』
多少固いが、流暢なオラーシャ語がリベリオン軍機から発される。なぜTACネームまで?
「ララ、今は同志を!」「……ええ!!」
「お願いします!!」『元より主命だ、礼には及ばん。征け』


恐らくスコードロン規模のF-22A群が、
残存する、それでも絶望的に多数のネウロイ群へ剣の切っ先のように機首を突き付ける。
『……狩りの時間だ』
淡々と事実を述べるように、オービタル1は言った。



「全機突撃!目標、敵イシュタル群!!」
私達は最大加速で態勢を立て直しつつあるイシュタル群へと突撃する。
『『『「Улааааааааа!!!!!!」』』』
本隊のウィッチは長射程弾を満載しており、WVRでは不利だ。私達がやらなくては。



先頭を飛ぶ、奇妙に小型なイシュタルに照準する。

何、こいつ、どこかで。
高速誘導弾を連続で放つ。妙な胸騒ぎがする。

そいつは、全弾見切っているかのように回避した。
「なっ!?」有り得ない、高速誘導弾を見てから回避するのは不可能だ。
ネウロイには戦闘勘が無いのは検証済みの事実だ。統合軍の戦術もそのように特化している。
ヘッドオン、ガン射撃。

嫌な予感がして、スリップバレルロール気味にウィッチ同士の模擬空戦のように敵の射線、
先読みを意識した裏の裏をかく機動を取る。

敵がガンを撃つ。航空ネウロイにあるまじき実体弾機関砲。
正確に、私の回避予想点を射抜いて弾丸が擦過する。機体表層に損傷。
読んできた。怖気が奔る。

こいつ、一体。


交錯。

瞬間、長く、黑く、紅い髪を背中に流し、頭頂から顎部まで覆う昏いバイザの中に、
私は、確かに、裂けるような笑みを見た。


くすくすくすくす

笑う、哂う、嗤う、そいつが、手で何か合図のような動作をした。

うふふふ


直下から、タイプ1が味方編隊に飛び込む。
完全にこちらの思考を逆手に取っている。


あは、っははあはぁ



「ララ!!」レナが交差機動で突っ込む。協同射撃。踊るように躱す。

そいつが、実体誘導弾、キネティクスSAMと同系統の小型特攻種ネウロイを私とレナに放


ッ!?

斜め下方からジリヤがそいつに喰らい付く。
激しいPSM機動戦。迅過ぎて手が出せない。
ジリヤは姉のガン・ナイフとOTs-23とを手に持ち、最も得意とする斬撃と射撃、
至近距離誘導弾射撃を織り交ぜた零距離格闘戦を仕掛ける。
レンズ眼のような瞳に、冷えた憎悪の焔が燃える。

エカテリーナは、少し離れた位置から全力走査を行い、
ペアリング・リンクしたジリヤの空間把握情報と機動制御演算の負荷軽減に専念している。


「おねぇちゃんの、仇ッッ!!!」


「え…」
そのジリヤの叫びに、私は昨日の事を思い出した。

そうだ、こいつは、一昨日にもいた。確かに。
そして、アナスタシアは墜とされた。

恐らく、いや、状況から見て確実に、


こいつに。

ジリヤは、何度も何度も、憑かれたようにログを見ていた。
この子の解析技術ならば、断定も容易かった事だろう。
なんて迂闊。



「あ…………ああああああああああああッ!!!!!!!!!!」
冷静でなどいられなかった。

頭の冷えた部分は、ジリヤを引き離せ、後ろの味方を救えと叫ぶ。
本能が、警鐘を鳴らす。こいつは危険だ、と。
知った事か。感情が、魂が復讐を望んでいる。

両手でOTs-23を抜く。
バースト射撃、制圧弾幕。


っくう……!


そいつに隙が生じる、戸惑い?

ジリヤが、ナイフの柄をそいつの腹部に当て、
撃発。

極静かな射出音。7.62mm×41SPサイレンサー弾がそいつの腹にめり込む。


がぁっ!!


奴の腹から、鉄錆色の紅い液体が散る。
血液が。


ぐううぅ……!

「ジリヤ!!ララ!!!」私とジリヤと、そいつとの間をレナが超音速で航過、
私達は吹き飛ばされるように距離を取る。
「レナ!?どうして!!!」「バカ!周りを見ろ!!!」
言いながら、レナは短距離弾を出鱈目に放った。

周囲はタイプ1だらけだった。


くく、くふふふふ


「あいつ、ニセモノ共を指揮、いや制御してる……!!」

唐突にそいつは黑い髪を翻して反転し、護衛数体を連れて退却し始めた。
もう充分時間は稼いだ、とでも言うように。
「待て!!」ジリヤが飛び出そうとする。
『やめろ!!!』無線からザイツェフ大佐の声。

『追うな、間違い無く罠だ。奴は、血の金曜日でワリヤーグを沈め、艦載戦闘機とウィッチを全滅させた個体だ』
「ウチらは、奴を追う特命を遂行するために組織されたんだ」
「なら、どうして!」『後ろを見てみろ、バラノワ中尉勤務少尉!』「ッ!!」

振り向いた空は最早戦いの空では無く、

死の空だった。


多数のタイプ1にPSM機動戦を仕掛けられたSu-1Rと長射程弾しか装備しないウィッチは、
ただの狩られるモノ達だった。


『防空空軍参謀本部は、ゴルゴーンの使用を決定した』「なん……」
51T6ゴーゴン対弾道弾迎撃ミサイル転用、殲滅戦用迎撃ミサイル、ゴルゴーン。
原型の運動性を犠牲にしてペイロードを大幅に拡大し、150キロトン級の核弾頭を搭載したそのミサイルは、本来再突入目標を高空で消し飛ばすためのモノだが、
帝都防衛にあたってその目的を変更し、対空・対地殲滅用に用いられる。


過去、オラーシャ国境撤退戦においても濫用され、
ネウロイ勢力下の国境戦線跡地に今なお死の毒を吐き続ける新しい湖を多数創り出した諸刃の剣だ。

敵のタイプ1に牽制射撃を仕掛けつつ、無線機に怒鳴る。
「どういう事ですか?!ここを、国境戦線と同じにしたいんですか!!」
『決定は覆せん。約3000秒後、その空域と地上は6発のゴルゴーンで灼き払われる』
「ヴァシュリュシュカ…………」

『もう始まってしまったんだ、レナ。
発射シークエンスは既にフェイズ2に入った。

………間に合わんかもしれないが、帰って来てくれ………』

戦い続けながら、考える。



「どうにか…………ならないんですか」

『…………目標が、いなくなれば、或いは』




「……………わかりました」

「ララ」『どうする、つもりだ?』

おじさま、アリョーシャおじさま。
人は誰しもその時が来れば道が開かれ、歩かねばならない時が来る。
そう、仰いましたね?


ならば、

…………これが、私の道です。



「聞け!!   当戦区に存在する全軍に告ぐ、これより、クラーラ・ウラディミロヴナ・バラノワ
…………コーシカが臨時に指揮を執る!!!生き残りたい者は私に従え!!!」

ごめんなさい、おじさま。
アナスタシア、私を護って。



「ララ……コーシカ!」「ララ」「お姉さま」
「ごめんなさい、レギーナ、エカテリーナ、ジリヤ、ヴァシリさん。
貴方達の命、私に預けてください」
『そう来たか………恐ろしい娘だ、全く。
ふん、嗾けてしまった手前、介添え位してやろう。レナ』
「うん、ヴァシュリュシュカ!!」
「ついてくよ、ララ」「お姉さま、わたしの命、存分に使ってください」

『コーシカが指揮を執るのか?くく、いいね、付いてくぜ。ヤストヴィネズィア3、貴機の隷下に入る。存分に使い潰してくれ、プリンセサ!!!』
『ズローク・フライト、我々も戦おう』『スナッキシャート、仰せのままに』『ヴォルク、任せた』
『ヴァローナ、了解』『エルク。了解よ』『ミディヴェト、わたし達の命預けるわ』
「全機、EMP放射、距離を開け。突撃戦闘準備」
『『『『『da』』』』』

戦区に存在する総ての人類側電子戦機材が最大出力で電磁パルスを放射、瞬間的に麻痺したネウロイから距離を取る。
双方の勢力が、互いの喉笛を狙って牽制し合う。痺れるような冷厳で張りつめた戦いの空。


『おっと、コーシカ。お偉さんから入電だ。相手は………こいつはたまげた、防空空軍総司令官様だ』
口笛を吹いて言うヤストヴィネズィア3
「繋げ」

『クラーラ・ウラディミロヴナ・バラノワ中尉勤務少尉!!貴様は正気かッ!?直ちにふざけた真似を止め』
突然通信がインターセプトされる。相手は防空空軍モスクワ直掩飛行隊、第一航空団司令、アウロフ中将。



『クララ……』
「おじさま」

『これが、お前の選んだ道なんだね………?』
「はい、おじさま、…ごめんなさい、おじさま」
『そうか』

「あなたのこと、本当は、好きでした。姪だったから、黙っていましたけど」
『ああ』

「銃殺かもしれません、だから……。大好き、ごめんなさい、おじさま」
『………』

「軍法会議で、会いましょう。私が、生きて帰れたら」
『必ず、帰ってきなさい』
「はい」



総司令官が再び通信に入る。
『バラノワ少尉………貴様は!』『司令』
『なんだ、アウロフ君』
『貴方は正常な戦略判断を失っておられる。よって副司令官権限で貴官を拘束いたします』「何を?!」
OTs拳銃の撃鉄が起きる音。憲兵の足音。

「おじさま……?」
『可愛い姪御を護れなくて、何が伯父か。………クラーラ、戦って、生き抜き、帰れ。これは命令だ』
「…はい………おじさま……」

『こッこんな事をして、ただで済むと思っているのかッ?!貴様ら!!!』
「黙れッ!!!!」『ッ?!』


「臆病者は、黙って見ていろッ!!!!!!!」
『ぬうぅ……!』『お連れしろ』



「全機、突撃用意……………!!!」
『行け!ララ!!クララ!!!突っ走れ!!!!!』『ララ!』『お姉さま!!』


「Улаааааааааааааа!!!!!!!!!!!!!!」





11




全員、満身創痍だった。飛んでいるのが不思議な者も多い。
重傷の者も、意識が無く、同志に負われたものもいる。
私とレナも、レナとお互いに支えあってやっと飛んでいられる程の損傷だった。


だが、戦死者は、彼我の戦力比に照らし合わせると極めて少数だった。
少なくは無い犠牲が払われたが、私達は勝利したのだ。

DON-2NP航空要塞基地へと、空中給油を受けつつ、一路向かう。


ふと見上げると、そこにはオーロラが輝いていた。
こんな緯度では見られない筈の奇跡、それが、私達の起こした奇跡を祝福しているかのようだった。
幻想的な、この世とは思えぬ光景。

「ララ」「レナ…」
「熱い愛の告白だったねぇ!このこの!!」「や、やめてよ、レナ……」
肩を組んだ状態で、乱暴に頭をぶつけられる。

「………ね、憶えてる?」「………うん」
常世と通じそうな空を二人で見上げ、呟く。

無言で、頷き合う。


「ジリヤ、………おいで」
『お姉さま……?』

ジリヤを呼び、息を吸って、大きな声を出す。


「これより、延べ三日間の今作戦の英雄達に対する葬送の儀を行う」
『え……』

「カサトカフライト、葬送の詞、斉唱用意」
はじめ。


Боевые знамена склоните親愛なる者達の聖なる墓前に
У священных могил дорогих!我らが軍旗を傾けよ
Не забудет народ-победитель勝利せし人民は
Беззаветных героев своих!己が英雄の献身を忘れぬ

Никогда не забудут живые 生者は去りゆく戦友を
Об ушедших друзьях боевых, 片時とて忘れず
Не увянут цветы полевые 前線の墳墓に咲く花は
На могильных холмах фронтовых. 永久に色あせぬ

(繰り返し)

Знамя Отчизны святое 祖国の聖なる旗よ
Будет их сон охранять. 安らかなる眠りを守り給え
Вечная слава героям, 母なる祖国の為斃れし
Павшим за Родину-мать! 英雄達に永遠の栄光を!

В молчаливой глубокой печали 深く静かなる悲嘆の中
Приняла их родная земля, 祖国は彼らを迎え
И салютом над ними звучали クレムリンの弔砲が
Величавые залпы Кремля. 厳かに響き渡る

(繰り返し)

Боевые знамена склоните 親愛なる者達の聖なる墓前に
У священных могил дорогих! 我らが軍旗を傾けよ
Не забудет народ-победитель 勝利せし人民は
Беззаветных героев своих!  己が英雄の献身を忘れぬ

(繰り返し)

Боевые знамена склоните 親愛なる者達の聖なる墓前に
У священных могил дорогих! 我らが軍旗を傾けよ
Не забудет народ-победитель 勝利せし人民は
Беззаветных героев своих! 己が英雄の献身を忘れぬ


美しく透明な歌声が、冷厳なる空に響いて、溶ける。



「チョルヌイコット、ヴォロビエ、 ……弔砲、
装填、  構え、撃て」
ダァンン…………!
「装填、  構え、撃て」
ダアンン…………!
「装填、  構え、撃て!」
ダアアアアアアアンンンン……………!!!



GSh-30-1 30mm機関砲の砲声が響いて、消える。


その場の全員が、英雄を想って、瞑想した。



「敬礼!!」


「直れ」










「おねぇ、ちゃん」
凍りついたジリヤの瞳が、心が溶け出す。


「お、ねええ、ぇちゃ、ッ………つ!!!!」
ひっく



「アナスタシアおねえちゃあああああああああああん!!!!!!!」
雫となって溢れ、キャノピに零れる。アナスタシア機のキャノピに。泣かないで、と涙を受け止めるかのように。
「っわああああああああああああ!!!!!!ああああああああん!!!!!ああああああああああああ!!!!!!!」
止めど無く、ただ、姉の為に、涙が、温かい心が流される
「おねえちゃあああああああん!!!!うあああああああああああああああ!!!!!!!」


私は、ジリヤの小さな体を抱き締め、その頭をキャノピとヘルメットギアの二重ポリカーボネイト装甲の上から
ガントレットのようなFCSグローブで、泣き止むまでそっと、撫でてあげる事しか出来なかった。



触れる事は出来ないけれど、この鎧、戦闘脚があればこの子は生き残れる。
レナが航法・操縦系をオーバライドして泣きじゃくるジリヤを連れ帰る事も出来る。
哀しみを、魔法の鎧でよろい、戦える。


冷厳なる祖国の空には、優しい暗闇と星の光、オーロラの燐光が舞い、私達を包み込んでいた。




12


基地に帰還した私達は、要塞の強化コンクリート製外壁に英雄の碑銘を刻んだ。

そこには、無数の英雄たちの名が刻まれ、

私達生者と共に、永遠にこの祖国を守り続ける。

永遠に。

いつかは、私達もそこで共に永久の守人として名を連ねるかもしれない。


それまで、どうか、私達を護って。




さようなら。

そして、これからもよろしくね、アナスタシア。






―――碑の璧(защитную стену)―――

おしまい



[24398] クラリーチェ・レェイディオゥ!#2
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:b30d8997
Date: 2011/06/01 13:55
光が見える。
始めそれは闇の中にぽつんと浮かび、滲む、光。

綺麗だな。

ぼんやりと思う。
より鮮明に知覚しようと意識を光に向ける。
光は形を持ち、四角形に。
さらに、幾つかの光の集合に。


徐々に光源が輪郭を固定するのと平衡し、自己の認識もまた肉体に固定される。
今自分がやや硬い床に仰向けで寝転んでいることを認識する。
身に着けているものは肌を露出している。
でも、不思議と寒くは無い、寧ろ。



熱気を感じる。

『―――4!5!6!』
覚醒、カウントが意識に突き刺さる。

腹筋に力を込める。
全身を丸め、頭の後ろ、オープンフィンガー・グローブで体重を支えマットに力を込める。

跳躍。

高速で舞い、コンパクトに畳んだ両脚を大きく伸ばして回転を相殺、両足でコーナーポストに着地し
獣のように両手両足をポストの僅かな上面に着ける。

歓声。



視線を気配へ。
涼がゆったりと撃ち抜いた形で構えた右の掌底を下げる。
無凝の構え、やわらかに、清流のようなさばき。

「……惜しかったな涼、芯は外したよ」
「ほう?先程までそこで気持ちよさそうに伸びていたのは誰だろうな?」
「さてね」
『ベネックス中尉、カウント6で復活!決まったかに見えた勝負は仕切り直しへ!!』
MCのリーチェが早口で捲し立てる。
リング以外の照明を落としたジムの中はさらにヒートアップし、もはや狂騒状態だ。
身体を撓め、躍進の力を全身で蓄える。
「うぐるるるるるるる………」
猛き衝動が溢れ出す。
涼も応え、流れる様に掌を構える。

「…来い!」「GAAAAAhhhhh!!!」
ポストが折れかねない勢いで跳躍、天井に着地、猛然とダッシュ。
足の下を蹴り付け、頭上のリングに両手で着地する。
腕を交差させて身体を捻り、そのまま逆さに見える涼へ高速の連撃を繰り出す。
だがスパーリング用ブーツの蹴撃は悉くいなされる。
ノレンに腕押しってか?これはどうだ!
水平に近い回転面で旋回する脚の軌道を捻じ曲げ、上体で寝そべるように踵で垂直に蹴り上げる。
強烈な手応え。涼が宙を舞い、数歩分後方に着地。ガードの上からだが、確実に捉えた。
「おおおッ!!!」猛然と地を蹴り、低い姿勢で追い縋る。
接触の直前、腕を顔の高さで構え閃光のような拳撃を浴びせかける。
意識が加速し、パリングしつつ己も拳打を繰り出す涼と舞う。
もはやナレーションも喧噪も聞こえない。
楽しいなぁ!最高だ!!「HA!AHA!HAHAHAHA!!」
涼も笑みを浮かべる。なんだかんだで、結局僕らは似た者同士かもしれない。
たまらない。脚が、拳が、掌打が、魂を振れ合わせる。
徐々に加速してゆく連撃の応酬。
拳が、蹴りが涼を捉え始める。

―――もらった!

右足を繰り出す、必殺の横蹴り。
涼が消える。
否、急加速で知覚に隙間を作り滑り込んだ。

まず…!
咄嗟に軸足を踏み切り、前進して間合いを潰そうとする。
やっとで涼を知覚する。真横で右手を左腰に構え、左掌を添えている。

居合い……!?



暗転。





「ん……」
瞼の裏から白い明かりが知覚出来た。
医務室の、ベッドか?

負けちゃったな。
今回は行けそうだと思ったのに。
ふと光が遮られて、瞼を開ける。





真摯な表情で眼を閉じた龍華の端正な貌が目の前にあった。
そろりそろりと近付いてきているというよりもう唇が触れそうだ。

「ッきゃむぐ……!!」
僕が目覚めたのに気付いた龍華が慌てて唇を塞ぎに掛かる。
「んんん~~~んゃ!やだぁ!!!」
顔を背けて躱すものの頬(というか唇の横数センチ)にしっとりした感触がぴったりと吸い付く。
「暴れるなよ!怖くないから!大丈夫だから!!」「誰かぁ!!」
毎回の反撃に学んだのか、その膂力と体術を駆使し切った拘束をしつつ龍華が更に迫る。
完全に四肢を封じて馬乗りの龍華がなおも執拗に唇を狙い
あろうことかシャツを捲ってまさぐり始めたなにこれやだこわい!あ、僕泣いてる?
うそ、これ完全に抵抗できない。なにこれ。

ガチャ

医務室のドアが開く
「あ」
戸口にリーヌ。時が止まる。

「リーヌ助けて!!」

真っ赤になって下を向き涙目で何やら弁明を始めるリーヌ
「あの、ごめんなさい……わたし、その、中尉達がお楽しみだと分からなくて」
「ちが……!」「うむ、俺達はまだ掛かるから後にしてくれると助かるな」
こいつしれっと何を!?
ばたん

救世主は去った。

「さぁ、楽しもうじゃないかエレオノール………」
「…………」
ああ……終わった………。
妙に慣れた手つきで躰を触られる。
薬品棚の瓶のラベルを横目で読んで現実逃避を試みるも五感がそれを許さない。
もうなんか早く終わんないかな……。


ダァン!!

医務室の耐圧扉が吹き飛ぶ(本当に吹き飛んだ、ドアブリーチャでもそこまで飛ばない位に)。
「後にしてくれないか、俺とエレオノールは今から―――」

羅刹が立っていた。

「龍華………貴様、何を、している」
「いや隊長、これはだな」
拘束が緩んで片手が自由になる。



「涼……………っ、りょう………」
必死で戸口の涼に手を伸ばす。


僕の声で涼が『キレ』た。

「そこに直れ、龍華。素っ首叩き落としてくれようぞ」
「待て隊長。話せばわかる、話せばわかるんだ」
「聞く耳持たん」
涼が腰の得物を抜き放つ。
しゅらぁんと絢爛雅な音を雅楽器のように響かせぬらりと煌く白刃が姿を現す。


「エリーをいぢめていいのは私だけだッ!!」
「えっ」「えっ」

涼がブレードを陽の構えにし腰を落とす。
「覚悟ォ!」
「うわぁ!」
振り抜かれるブレード。
リボルバーのバレルで受ける龍華。
「大人しく成敗されろよぅ、お前、エリーに触っただろぅ?!なぁ!?」
「ぬぐ、ぬううぐぐく………」
ぎごごご………
妙な音と共に大型リボルバーからまるで溶接しているかのような火花が散る。

「ひ、ひゃ、ひゃああぁうぁあぁ」
一方シャツを抱いて身体を庇った僕は完全に脳がオーバーフローして意味のある言葉にならない。
やめて!龍華死んじゃう!


「はぁいそこまで」
「ぬっ!?」「ぐ?!」「あう」
ヘレーナ少佐の声と共に戸口からクララとモリーを筆頭に鎮圧装備のウィッチ達がなだれ込む。
「クリア!」「クリア!!」
あっという間にワイヤーガンで涼と龍華を拘束、僕の肩に毛布を掛ける。
「しょ、しょうさぁ~」安心でまた泣けてきた。
「はいはい泣かないの、エリーはつよい子ですよね?」
くしゃっと優しく頭を撫でてくれた。
やだ、頼もしい……、かっこいい!
普段可哀想な人とか思っててごめんなさい!!

「いやぁ助かったぞ少佐、ところでこれ解いてくれないかなぁ」
レイパーが何かほざいていた。
「あなたはそうね、新設されたGDLタレットのレンズの清掃でもやってもらおうかしら?」
「ひ、酷いぞ少佐!俺はただエレオノールと親睦を」
「トイレ掃除1週間も追加するわね?」
「ぐ……了解」
すごすごと引き下がるレイパー龍華。

次に少佐はぶすくれた涼に向き直る。
「さてと、涼?」「なんだヘレーナ」
「医務室でナギワシを抜いた件の説明をお願いするわね?」
「…………綱紀粛正だ」
「オーバーキルね、艦内での妥当性無き危険行為。
貴女にはペナルティとして副官権限で2週間の間、我が隊の庶務を命じます。
その間指揮は私が取るから安心して溜まった書類を片して頂戴?」
「む………う」
「これでも、大事にせず済ませてるのよ?貴方の起こす毎度の騒動の関連書類、
これから全部、飛行隊司令室の端末に送ってもいいのかしら?」
あくまで優しげに苦笑しながらちくりと刺すヘレーナ少佐。
「す、すまない……」
涼もばつが悪そうに俯く。

ぽん、と手を打って話を切る少佐。
「さ、二人を私室にお連れして。二人とも、今日一杯は自室で謹慎」
「「了解であります、少佐ドノ」」

「あ、それと壊れたドアの修繕費。二人のお給料から天引き、クララ、お願いね」
「ちょ?!」「待ッ!?」


「  なにかしら?  」

「「なんでもありません少佐ドノ」」
「よろしい」

がっくりと項垂れた二人が連れて行かれ、医務室には少佐と僕、それからモリーが残った。
「エリーさん、貴女どうしたんですの?寝込みとはいえ、昔の貴女でしたらこんな事、自力で……」
「モリー、いいの、しかたないのよ。この子も、やっと………女の子らしさを取り戻せてきたんだから」
少佐の優しい言葉に頬が紅潮するのが分かる。見せたくなくて、俯く。
「そんな、僕、全然……」
「ま、でもあなたもあなたよ?ちゃんと自分の身は自分で守りなさいな、ウィッチでしょう?」
「はい、少佐………」
「ほら、身体見せて。模擬戦も含めて怪我が無いか見るから。モリー、消毒キット取ってきて?」
「あ…大丈夫です、そのくらいなら治りますから」
「いいから、ほら」
シャツを捲られる。でも、僕の身体には傷はおろか内出血も無い。
「………本当に、無いわ。ちょっと尋常じゃあないわね」
「あ、僕のナノマシン、特別製の試作タイプで」
「そう………なの?」
「はい。な?モリー」
スクール中等部時代一緒だったからその辺は知ってるはず。
「…………ええ、そうですわね」
モリーが目を逸らして応える。
「?」

「まぁ、そういう事なら心配は無いわね。よく頑張ったわね、エリー」
「いや、その、恐縮であります」
皆で苦笑し、その話はおしまい。



[24398] 猟兵編 登場人物メモ
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/11/23 18:14
なまえめも

Éléonore Beineix
エレオノール・ベネックス
独立試験猟兵連隊第三機械化機甲歩兵中隊第三小隊長、一番機、猟兵中尉
『カラミティ・エリー・ブラッドヘア』
黑く、紅い髪、焔を秘めた琥珀の瞳、嫋やかな体躯。ガリア最強の猟兵。
固有魔法は『ガン・バレル』識域下認識領域の拡大・物理浸食による事象書き換え、
弾薬内包エネルギを強制増幅、活性化、火砲及び飛翔体の構造強度強化。魔導加速徹甲弾。
(本来、固有魔法ではない、単なる火力強化魔法。
実際には、エレオノールは厳密な意味の固有魔法を持たない。
エレオノールの強烈な魔力が、このウィッチとしては何の変哲もない魔法を固有魔法たらしめる)
『2025コンセプト』型ストライカーを駆り、強力な電子戦能力で地上の電子環境を完全に支配下に置いた上で狩り(強襲突撃)を行うプレデター。

Béatrice Morgane Ollivier
ベアトリス・モルガン・オリヴィエ
第三中隊長、中隊零番機、猟兵少佐
『アイス・ノーム』
銀の髪、翠の目、凍てつく美貌。カラミティ・エリーのハンドラー。

Cécile Henriette Morin
セシール・アンリエト・モラン
第三小隊二番機、猟兵軍曹
『シューティングスター』
輝く金髪、碧眼、未完の少女。小隊のムードメーカー。

Chloé Charlotte Odette Mâle
クロエ・シャルロット・オデット・マール
第三小隊三番機、猟兵軍曹
『ウッドペッカー』
やわらかな赤毛、灰色の瞳、蠱惑的な肢体。おっとりとした令嬢。
固有魔法は『高硬度シールド』本来T11 XXIユニットでは不可能な固体弾頭徹甲弾の連続被弾に耐える事が出来る。

Régine Dupleix
レジーナ・デュプレクス
第二小隊長、一番機、猟兵少尉
くすんだツンツンの銀髪、小麦色の肌、トパーズの瞳。エレオノールに対抗心を燃やすスクールの同期生
固有魔法は『雷撃』至近距離に高出力の雷撃を放ち、肉薄した敵を焼き払う。
誘導弾の迎撃、限定的ながら短時間のEMPバーストも可能。

Anne-Marie Helvétius
アンナ=マリー・エルヴェシウス
第二小隊二番機、猟兵軍曹
ロングのブルネット、オーシャンブルーの瞳、エレオノールの料理友達

Grâce Lefèvre
グレース・ルフェーブル
第二小隊三番機、猟兵曹長
非対称なセミロングにした茶髪、焦げ茶の瞳、レジーナのストッパー


Bérengère Flavie Régnier
ベランジェール・フラヴィ・レーニエ
第一小隊長、一番機、猟兵中尉
ショートのブルネット、ブラックアイ、真っ白な肌。ベアトリスとエレオノールの理解者
固有魔法は『治癒』中隊唯一のメディカル・ソーサレス(治癒魔法使い)。

Nina Delanoe
ニーナ・ドゥラニエ
第一小隊二番機、猟兵軍曹
灰色の髪、紅い目、中性的な容姿。アルビノの活発な少女。フルールの双子の姉

Fleur Delanoe
フルール・ドゥラニエ
第一小隊三番機、猟兵軍曹
灰色の髪、紅い目、中性的な容姿。アルビノの内向的な少女。ニーナの双子の妹


Adélaïde Ève Dechamps
アデライド・エーヴ・ドーシャン
第三中隊付き機甲歩兵直接支援小隊長、元猟兵ウィッチ、技工兵大尉勤務中尉
三つ編みの茶髪、水面のような青い瞳、成熟した大人の女性。ノーム中隊を見守り、支える女性。




Momo Leclerc
モモ・ルクレール



崎山 真
扶桑皇国陸軍第1特殊作戦師団第零空挺連隊本部付き特殊空挺救護作戦群第2小隊長、陸軍中尉。
2005年1月より連合軍ガリア北部方面義勇軍へ特殊空挺救護特技兵として秘密裏に派遣、
パラメディック・スカウトスナイパー兼フロッグマンとして、ありとあらゆる特殊作戦に従事、
ガリア北部及びユーロポートの死守、アフリカ・中東戦線での友軍救助作戦に貢献。
『魔弾の射手』『魔女の守り人』
宵闇の双眸、漆黒の髪、精悍な狼の佇まい。スコープ越しにしかウィッチと共に戦えない己の非力を呪い、
最前線にウィッチが投入され続けることに心を痛める青年。飽く無き力への渇望、餓えをその胸に秘める。

※ただし、実質的な命令系統の所属は分遣された扶桑皇国強襲軍団第2空挺戦隊である。


Ariel Vanessa Mars
エーリアル・ヴェネッサ・マース
リベリオン航空宇宙軍第一戦略航空団スター・ファイター飛行隊専属テストパイロット。
アストロノーツ・ウィッチ。リベリオン航空宇宙軍少将
『ア・ハートレス・ミストレス・マーズ』『バーニングソウル』『グラディウス』
赤く燃える様な髪、灼熱の恒星の如きアンバーの瞳、完璧な肉体。
猛然と天空を飛翔する、焼灼の火星。決戦存在。伝説級大魔女。軍神。無慈悲な夜の女王。
固有魔法は無い。敢えて云うのであれば『無尽蔵な魔力』小細工など不要な生物的絶対強者。



[24398] はばたいて、私の小鳥
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/11/23 12:07
はばたいて、私の小鳥


『ノーム全機、突撃用意!!!』「ya!!」『ya!!』
高速蛇行機動で敵火を回避、敵陣に肉薄する各種試験用テストベッドを兼ねた
ルクレールシリーズXXI T10-AZURとT11-AZURの混成中隊、
傘型隊形の頂点で疾走する中隊長機、ベアトリス中佐の声がレシーバーに響く。
「ノーム02、レディ!」『03レディ!』
すかさず応答、クロエも続く。
『突撃に―――』
「!!!」右側面、中佐の横っ腹の見える位置に対戦車型「3オクロックファウスト!!!!」
叫ぶと同時、並走するクロエが12.7mmで喰い殺す。『クリア!!』
『進め!!!!!!!突っ込め!!!!!!!!』
「…………!!! ッ! 『『「 Ruuuuuuuu-shuuuuu!!!!!!!!!!」』』
号令に従い中隊が特殊鋼の濁流となり敵陣に加速して飛び込む。HEAT弾を装填、掩蓋構築物に打ち込んで潰す。
クロエが連装重機関銃で敵の白兵を挫く。中佐は!?

「なっ!?!!?!」
前方50、敵防御線を一つ無視して通過、背面を敵に晒してそこでスリップターン、
敵火を回避しつつ近接防御ランチャから空中炸裂榴弾を放ちネウロイの意思疎通ノード(人類で言うところのCP)を制圧していた。
だが装甲化された無傷の戦車型が土煙の中から出現、中佐を狙う。「ノーム01ストールダッシュ!!チェック6!!!!」
回避指示と警告をしつつそいつを照準「03!!!!!」『ya!!!!!』『「ファイア!!!!!!」』ドドガンッ!!!!!!!
クロエと連携し2騎同時、APFSDSのスクァッド集中射で仕留める。
あんなに煩かった戦場がしんと静まり返る。

中佐は歩兵型をその履帯で蹂躙し、信地旋回を組み合わせた教範通り理想的な格闘戦、
高速駆動する履帯をチェーンソウのように使う蹴撃技術、ストンピング・グラップルで
分隊規模の敵を斬新な壁の染みにした姿勢で停止、肩で息をしていた。

『イーグルアイ、ノーム00………。中隊オブジェ(目標)制圧完了、状況終了………』
『ノーム00、イーグルアイ、了解。………D時マイナス43min、損害は無いのか?』

予定より40分以上早い強行突撃だ。無謀すぎるよ、ベアトリス中佐………。
アタシらが居なきゃ中佐死んでた……………。

「セシールちゃん………」「うん……」
傍らに近寄ってきた、クロエの不安げな声に応える。中佐を見据えたまま。

中佐は、ノーム31―――エリーちゅういを国外に出したことで爆発的に増えた
中隊の負担を一人で背負おうとしている。もともとちゅういの能力は中隊長格、戦闘能力は規格外だったんだ。
例えば、戦車型をたった一人で4輌仕留めてなおけろりと生還するだなんて例一つにしても、本当に人間業じゃなかった。
その欠員は、とても大きい。


―――エリーちゅうい、どうしていっちゃったの。この人を置いて………。






とある欧州の田舎道。


臨時駐屯地へと走るトレーラーの荷台、運用型ではないので解放式の貨車に二人の愛騎が固定され、
その縁にクロエと並んで座る。

「ねぇセシールちゃん、わたしたちの配属される部隊、ノーム中隊だっけ……」
「うん、そだよ?どうしたのさ今更」
クロエがこちらを向く。その目は今にも泣きそうに涙ぐみ、太めの眉は情けなくハの字だ。
ぷっ、すこし吹き出しそうになる。
「だって、ノームって言ったら、あれでしょう?ほら……」
「ああ~」わかったわかった、そういうことね「カラミティ・エリー・ブラッドヘア?」
「ひぅっ」クロエが首を身体ごと縮こめて胸の前で両手をぎゅっと握る。
たゆん、と音がしそうな感じで胸が腕の間で潰れて量感を主張する、むぅ。
「びびりすぎだよクロエ~、いいじゃないか、凄腕と一緒の中隊ってことは、そんだけ楽なんだよ~?」
「で、でもぉ……」上目使いに縋るような視線を投げてよこすクロエ、むむ~ぅ。
「大体、一緒の小隊になるとは限んないだろ?クロエ」
「でもぉ」「ああもう、わかったよぅ。そしたら、カラミティエリーがクロエに何かしようとしたら、
アタシがすぐ助けたげるよ。それでいいだろ?」
「ええぇ~~~~」「むぅ、なにさぁ。初等科中学年からのベッドバディが信用ならんのかぁ?」
「ち、ちがうよ?それだとセシールちゃんがカラミティエリーさんに……」「あ…」

ちょっと意表を突かれたかな、クロエ、弱虫クロエ。相変わらず優しいな。
しかし、そんなにビビってる相手にさん付けとはまぁ、クロエってば根っからお嬢様だよなぁ。
「まぁ、いいじゃん、お互い助け合うってことで。な?」「うん」
納得、してくれたのかなぁ~?まあ、考えてもしょうがない事は考えないに限るよ。
「ふぁ~~~~~あ………。アタシ、昨日のお別れ会のせいで眠いや。
まだ2時間はかかるんでしょ?アタシ寝るから1時間たったら起こしてクロエー」
「うん、わかったセシールちゃん」「んじゃおやすみクロエ」「おやすみセシールちゃん」
荷台にそのまま寝転がる。綿菓子みたいな雲が漂う空はポカポカした陽気を身体に浴びせてきて、
トレーラーの走行風と荷台の振動と合わさってとっても気持ちがいい。


春の陽気も気持ちいい午前9時半、アタシとクロエは昨日付けでガリアンウィッチ・オフィサー・スクール中等科を終業、
高等科教育を受ける前に、軍曹待遇で実戦部隊へと候補生任官し、所要の経験を積んで再び士官候補生としてスクール高等科へと戻るのだ。
(まぁ、この『所要の経験』がクセモノで、人によっては何と下士官待遇のまんま、部隊で『アガリ』を迎えることも割とあるとか)
そして、アタシらの向う先は、ガリア共和国陸軍、オルレアン独立試験猟兵連隊、第3機械化機甲歩兵中隊。

通称『ノーム中隊』、その臨時展開駐屯地『ノーム・ネスト』だ。
この部隊は試験連隊の名が示す通り、試作品や改良品、性能テストなどの新装備運用を全軍に先駆けて行うエリート部隊だ。
ま、自慢だけどアタシとクロエってば、今期同点一位、ダブル主席卒業、ダブル猟兵過程だもんね。
猟兵は、胸甲兵よりスゴイんだぞ?猟兵は、陸上科で唯一航空歩兵と同等の魔力素養と戦術素養を求められるんだ。
場合によっちゃ、空挺機動もするからね。ね、凄いだろアタシら。

問題は、その『第三中隊』ってとこ。

ここにいるのは、かつてまだヨーロッパ大陸をあのカニ共が我が物顔で闊歩してた時からまだ戦えないアタシたちを校舎に匿って、
身体を張って奴らを蹴散らしてくれた先輩たちの、その中でもとびきり敵を仕留めた先輩、
あんまりにも物凄い戦いぶりで味方からも恐れられまくった人、エレオノール・ベネックス中尉。
カラミティ・エリー・ブラッドヘア、災厄の血濡れ髪エリー。紅い髪の死神。
アタシたちと殆ど齢の変わらない当時はまだ中等科入りたてだった筈のその人だ。

アタシも校舎の防爆シェルターの耐爆窓から、高等科ウィッチの先輩達に混じって、
いやそれどころか常に先陣を切り続けてスクールに押し寄せる津波のようなネウロイを
真紅のストライカーを駆り、化け物みたいに蹴散らしまくる姿を遠くに見たことがある。

あの人や先輩たちがいたからアタシらは疎開もせずにスクールの候補生過程を続けられたし、
今やこうしてガリアの力になれるんだけど。

でも、やっぱり怖いよなぁ。
あの時のウォークライ、心を引き裂くような雄叫び。完全に怪物の戦いぶり。

夢に見たもん。しばらく。

うう、寒くもないのに震えて来た、やっぱりこええ~~~~~~~~~。


ん………温かい。震え、止まった。……クロエ、自分のクルージャケット……アタシにかけて、それじゃあんたが寒いでしょ。
アタシは仕方なく、クロエの腰に抱き付いて人間膝掛けをしてやった。



アタシが守ってやっからね………クロエ?





「軍曹殿、付きましたよ?」
「ん………クロエ、もう一時間経った?」
「いえ……その、ゲートに到着しました」「ふぁ!?ッ!つう………!!!」
目の前でトレーラーのドライバーが呼ぶ声にがばっと起き上がる。
クロエの胸に頭をぶつけてから後頭部をクロエのおでこと衝突させてしまった。
「むにゃ……、ッ!?はううぅ!!!」
きっかり2秒遅れてクロエが悲鳴を上げる。寝てたな……?
「ご……ご苦労さん!!!ええと衛兵詰所は」「あ、あちらです軍曹」「うんっ!!!ほら行くよクロエ」
照れを隠し目を丸くするドライバーの兵長に応えクロエを引き摺って詰所の衛兵長のところへ。
「お疲れ様です」「うん」衛兵長とお互いに敬礼。
「セシール・H・モラン軍曹、クロエ・C・オデット・マール軍曹、以上二名の者は
独立試験猟兵連隊第三中隊へ異動を命ぜられました。これ、人事発令」
「確認いたしました、どうぞお通りください」銃礼を受ける。
「ありがと。ほら、クロエ答礼」まだ眠そうなクロエと二人で答礼。
二人分の人事関連書類を衛兵長に見せてコミュリングをゲートのリーダーに翳し、入門許可を受ける。

後ろで衛兵のひそひそ声が聞こえる
「すげぇ、スクールの女の子だぜ」「うおっ可愛い!オレブロンドの子」
「おれレッドヘアリーちゃん」「ルクレールって事はやっぱ猟兵かな?」
あーはいはいありがと。くるんと振り返ってにっこり微笑んで手を振ってあげた。
二つ三つ年上であろうファマス・フェリンを肩に下げた装甲化機動歩兵のお兄さんたち、ぶんぶん手を振って大はしゃぎ。
なんか大型犬みたい。だめだ吹き出しそう。背を向ける。

「大丈夫。とりあえずDS(ダイレクトサポート、整備部隊)格納庫にお願い」
「はい、軍曹」兵長も何だか笑いそうだ。再び乗車し、小型飛行場の航空機格納庫を利用した整備格納庫へ。


ここからはちょっと緊張しないと。
「すいません!整備班長殿はおられますか!?」二人して忙しそうな整備格納庫へ。
「はい、少々お待ちください」整備ジャケットを着た若い整備兵がすぐに走っていく。
何とはなしに格納庫を見回す。


わ、わ!見た事ない型のストライカーある!

スゴイ、あれ、スクールにも無いステルス装甲と電子兵装と合成センサが思い付く限り全部満載だ!!!
装甲表面の光沢が特殊だ、それにバイザ類が全部金色?!抗電磁・赤外ステルス塗装の陸戦ストライカーなんてあるんだ!!!!
電子戦機かステルス戦闘機みたい!!!!素敵!!!!!
シャープな外装装甲部にスパイクニードルみたいな武装が沢山飛び出してる!それに頭部独立機銃!?
多分新型の直接迎撃型近接能動防護システムだ!!かっこいい!!!!
足周りも見た事無いロングアーム、しかも今は全部フルボトムしてる。きっとサスがアクティヴ式なんだ!!!!
動力ユニットも排気口のボアが大きい!でも、ユニットそのものは同じ大きさだ、ボアアップじゃない…?
もしかしてあの油圧アクチュエータ、アイリス板?ハイパーバールの上に更にオグメント!?
それに砲も長い!あの形もしかして実験段階のスマート砲弾用砲口データプロッタ?!?!!スゴイ凄過ぎる!!!!!!
漆黒の隠密作戦基本塗装に、関節可動部警告色のレッドと装甲端部のレッドマークがアクセントになって
ルクレールを基本にしたと思しきマッシヴなシルエットをスマートでエレガントに引き締めてる。素敵だなぁ………。

ああっ、何てクールでセクシー!!!!
「ねねね、ねクロエっ!!あれ、あれ!!!!!」「う、うん……!」
クロエも、アタシの剣幕にちょっと困りつつもやっぱり目が釘付け。だあよねだよねぇ!!
くぅ~~~~~~~かっこ「お客さんってあんたらかい?」「「うっぴゃあ!!!」」
身体が飛びあがった。振り返ると、額に拡大鏡を引っ掛けたおさげのお姉さんがアタシたちを見おろしていた。
階級は中尉、大尉勤務腕章を身に着け、担いだ百科辞書みたいな整備指揮記録電子装置で肩を叩いている。この人だ。
「しし、失礼いたしました!セシール・H」「ああ聞いてるよ。セシールとクロエね」「「はい!!!」」
「あたしはアデライド中尉、中隊付きDSの長をやってる。よろしくな?」「「はい!!!」」
「まぁ固くなんなよ、中隊長には?」「まだです!」
「そっか、じゃナガグツあそこの並んで空いてるハンガーに入れたら行ってきな」「ハイ!!!」
「だかぁらぁ固くなるなってば」アデライドさんが笑う。かっこよくて素敵な笑顔だ。

それからアタシたちはDSの隊員のマーシャリングで愛騎をトレーラーから降ろし、指定された場所へ入れる。
ほんといい腕だな、ここの人たち。アタシらの動きに向こうも満足そう。
ストライカーから降り、またアデライドさんのところへ。
「お前らのはXXIのT11第三次機動制御マップ改善型のノーマルフレームだな?
配備後の改修・修理故障履歴はメインストレージのドライブデータロガーに入ってるので全部?」
すごい、外観とアクチュエータの音と動きだけでそこまで……?
「はい、二名とも相違ありません」「ならいい。じゃ行っといで。お楽しみにな」
んん?どういう事だろ?

まあいっか。次は中隊長に挨拶だ。すぐそこだって言ってたし、歩くことにした。
二人とも、相変わらず例のユニットに視線は釘付けだったけど、アデライドさんは何故か気付かないふりをしていた。





歩き始めて35分強
「………ねぇセシールちゃん、わたし達どこに向かってるの?」
「も……勿論中隊長さんのところだよ!?」「前に見えるのゲートだよ?」「う………」
目の前にあるのは徴収した村の入り口に設けられた監視哨付きの対車両障害式ゲート。
この村、臨時駐屯地への改造に当たってロータリーを中心に元々複雑だった蜘蛛の巣状の道路の
あちこちに各レベル別エリア管理を行うID認証式ゲートやバリケードを設けてあり、非常に判り辛い。

機密を多く扱う部隊の性格上必要な処置とはいえ、センサ完備のガチガチな鉄条網三線からなるフェンスや
村の中に突如飛び出した2.5m級のドラゴン・トゥースはどうかと思う。ほんとに。
しかも、最外周フェンスは非常に広大な村の外縁、元は畑作地であったろう、
各種地形を再現したテストフィールド(市街地を模したコンクリート打ちっ放しのキルハウス群まである)
のある丘陵と整備部隊の展開する連絡飛行場を囲む形だ。仮に歩いたら、短径でも端から端まで3~40分は下らないと思う。
これ臨時ってレベルじゃないよね。


そこでセシールはとある提案をしたのだ。

―――突っ切って近道しよう♪

と。

「ね、セシールちゃん?今からでもアデライドさんのところに戻って案内してもらお?」
「…………えへへ、まず、飛行場ってどっちだっけか……?」「ええ?!」
「だって……何とかなると思ったんだもんっ☆」「セシールちゃん?」「うんごめん」
しゅんとしてしまった。ううぅ~~~。
「ごめんよ~~~~~」「………仕方ないから、衛兵さんに聞いてみよう?」
「うん…………んん?」何かが鼻腔をくすぐった。すんすん。
「どうしたの?セシールちゃん」

「ゴチソウの匂いがする」「ええ?食堂はもっと奥だったよ?」
「うんん、もっと美味しそうな匂い」「ええ~~~~?」クロエ、疑わしげ。

「……………こっち!!!」思わずストライカーの突撃機動のように勢いよく駆け出す。
「あ、セシールちゃん!?」クロエも機敏に付いてくる。
間違いない、ホントに美味しそうな香りが流れてきてる。
どんどん走り、テストコースとして芝草で覆われた小高い丘陵地形の試験場の一角へ。

そこでは、機動部隊用フィールドキッチンが野外喫食キットを展開し、一人の女性兵士がこちらに背を向け調理を行っていた。
頭にオレンジのナプキンを巻き、黒い髪をポップな赤のヘアピンでナプキンの中にまとめている。
服は、どうやら何科兵種用かまではわからないけどウィッチ用戦闘ツナギと野戦ニーソックスの上にコックコートだ。
「ん~~~~♪んっんん~~~♪」すごく気分良さそうに即興でハミングしてる。
肩に突っ掛けた略帽から察するに、第三中隊所属で階級は中尉みたい。
主計課の人かな?

「あ……あのぅ」
「んんんっん~~~~~♪ん~~~、ん?」
綺麗な琥珀色の瞳がこちらに向けられる。
ビビットレッドのアンダーセルフレームのメガネの下で煌く吊り目がちで大きな瞳は
淡く穏やかな光沢の金貨がちろちろと燃えるみたいにキラキラしてて吸い込まれそう。
「どした?っていうか、誰?」「あ、その、アタシたち、第三中隊長に会いたかったのですが、道に迷ってしまって……」
「ああ、お前らがねぇ。それならここで待ってなよ。今日は、3中隊はここで僕の特製ランチパーティなんだよ」「へっ?」
「むっふっふ、特別だぞ?お前ら、ちょっとこれ味見してみ?」お姉さんがにんまりと悪戯っぽく笑って小皿を差し出す。
「あ、はい」「いただきます……」
手渡された小皿に載った小さく切った子羊のあばら肉グリルソース添えを口に運ぶ。

「んなッ?!!?!??」「ええぇえッ!!!!!!」「へへ~ん」
全身を衝撃が走り抜ける!




「「美味しい!!!!!!!!!!!」」


す、すごい!!!!!
漬け込んだ香草と香辛料の香りが滲みだしたハーブ・スパイス・オイルで巧みに臭みを消したまろやかなラム、
濃厚でありながらも爽やかでフレッシュな味わいが表情豊かに舌の上で軽やかにステップするようなソース、
そしてそれらのエキスを存分に引き出す火加減、
スゴイ、凄すぎる!!!!!!

「これ、一体?!」「レシピは?!?!?」
「そうだろそうだろ、おいしいだろ~?
実はな~、今朝手に入った新鮮なマスカットと、ドライアプリコットを
たっぷりと粗めに刻んでそのままソースに入れてあるのさ。どうだ?いくらでも行けそうないい味だろ?」
「フルーツを………!?」「め、メモメモ………!!」
この主計科のお姉さん、あんまり年上に見えない、というか外観だけなら絶対アタシより年下に見えるのにスゴイ!!!!!!!
スクールでは本格的なガリア料理も教わるけど、こんな美味しいの食べた事無い!!
きっとこのお姉さん、糧食班長か主計長だ!!!!!!なんだ、アタシらいいトコ配属されたなぁ、幸せだよなぁ~~~~。
クロエも必死にメモを取りつつもさっきの余韻でうっとり。

「おまえら、今日来るって言ってたスクールの終業生だろ?よろしくな」
「ハイ!」「はい中尉殿!!」
「僕もあそこの卒業生なんだ。あ、僕の自己紹介もまだだよな、僕は、」
「あら、もう新人さん捕まえたのね?流石だわ」
後ろから声がかかる。
「ああベアトリス少佐、そんなんじゃないですよ、こいつらが匂いに釣られて来ただけです」
お姉さんが応える。少佐ってことは………。
「ししし申告が遅れ申し訳ありません!!!!!!!」「ごめんなさい!!!!!!!」
振り返って大きな声を出す。
「いいのよ?もともと貴女達の歓迎会なんだから」
ややシャギーの掛かったロングのプラチナブロンド、グリーンアイ。
怜悧な美貌の面に優しげな表情を浮かべてる。戦乙女みたい。

間違いない、この人が唯一カラミティ・エリーをハンドリング出来ると評される『アイス・ノーム』だ。
「こちら、独立試験猟兵連隊第三機械化機甲歩兵中隊の中隊長、猟兵少佐、ベアトリス・モルガン・オリヴィエ」
お姉さんが紹介してくれる。
「よろしくね?セシールさん、クロエさん?」「「はい!!!!」」
「ベアトリス少佐もスクールの卒業生なんだ。っていうか、ウチの中隊は全員そう。
てわけで、スクールとおんなじく、ファーストネームに階級付けて呼んでOKだぞ?
もう昼飯時だし、そろそろみんなも来るころだよ」


ということは、もうすぐカラミティ・エリーが現れるって事だ。真っ赤な血の色の髪ですぐわかるらしい。
少し緊張して、クロエを庇うように立って身構える。クロエも、アタシに寄り添うように身を寄せてきた。
と、お姉さんに引き続いてベアトリス少佐がこう言った。

「そして貴女達の小隊長になる我が第三中隊第三小隊長にして
ガリア最強のシャースル・エース、エレオノール・ベネックス中尉よ」
「えっ?」どこ?え?ってゆか嘘、小隊長?二人しておろおろしつつ周囲を警戒。
い、いないよ……?

「む、何だその反応?まぁいいけど」何故か主計のお姉さんが云いつつ足を動かす。

少佐の隣へ。
そしてメガネを外し、
頭のナプキンとヘアピンを無造作に歩きながら払い取る。

途端、




風が吹き、真紅の奔流が、血の焔が風に溶けるように広がって、

少々幼いながらも凛々しく溌剌とした輪郭と琥珀の双眸を強調するようなショートヘアに顕現した。


「猟兵中尉、エレオノール・ベネックスだ。よろしくな?」
「「ええぇぇぇぇえええええええええええ!!?!??!!!?!?」」





「…………だって、聞いてたのと全然違って、わからなかったんですよぉ」
エレオノール中尉の手による絶品料理を口に運びつつ、苦しい言い訳を口にする。
「どんな噂を聞いてたんだか」
後から来た中隊の先輩、黒曜石のような髪と瞳がまっ白い肌に映えるベランジェール中尉がそれに応える。
「エリーはエリーだよ。噂を鵜呑みにしちゃだめ」
「はあい」
あ、このビシソワーズもおいし。

「まぁ、こいつ見た事あるってなら可愛い新人がビビるのもわかるねあたしは」
小麦色の肌に銀髪とソバカスが似合うレジーナ少尉がそれに混ぜっ返す。
「なにおう?!」エレオノール中尉が立ち上がる
「やるかこら!?」それに不敵な笑みで応え、殆ど同時に立ち上がるレジーナ少尉
「上等!!吠え面かくなよ!!!」「地球にあっつーいキッスさせてやんよ!!!!」
テーブルから30メートルくらい離れてぐわしっと両掌を組み合う二人、
「ヴォラヴォラヴォラヴォラ!!!!!!」「ぬうおおおおおおおおおあああああ!!!!!!!!」
空中にバチバチとレジーナ少尉の固有魔法っぽい紫電が奔り、
エレオノール中尉の猛烈な魔力で大気が球状の空間圧縮を引き起こす。
力と技のパワーバランスは完全に拮抗している。うっわ~~~すげ~~~~~~~~。
「あ~~あ、まぁたはじまった」「おお?!これうまい!!!」「ええぞ、ええぞ!」
先輩達、全く動じず。

「あ………あっあっ、あの!」クロエ、おろおろ。
「いいのよ、ほおっておきなさい?」ベアトリス少佐、優雅にビシソワーズを口に運びつつ見もしない。
は、ハンドラーじゃないの………?
「でもぉ!!」「じゃ、止めれば~?」男の子みたいな雰囲気で、赤い瞳のニーナ先輩が促す。
「えっ?」あれっ、止めていいの?
「べつに、どうでもいいもの」その隣の、見た目は全く同じなのに雰囲気がすごく女の子っぽいフルール先輩が言い放つ。
す、…すごい言われようだ。

クロエが涙目でこっちをチラ見する。あーもう…わかったよぉ。
「一緒に止めよっか?」「セシールちゃん……!!」うう、キラキラした目で見んなよぉ。

未だにレスリングのように組み合う二人に近づく。クロエはアタシの肩に隠れたままだ。
えーと、
「あ、あの~~~~~」取り敢えず声をかけてみる。
「なんだ!?」「どした!?」おお、一応リアクションあった。
無視されるかと思ったけど。
「ほら、クロエ?」「う、うん」

「け、喧嘩は良くないと思いますっ!!!!!」よくいった!
「「格闘訓練だ!!!!」」「ひうっ!」おお、ハモった。駄目だこりゃ。
んで、縮んで完全にアタシの陰に隠れるクロエ。
実は仲良いんじゃなかろうかこの人たち。「せしーるちゃぁん…」あああ泣くなよぅ……。
「わかりました先輩方、では失礼します」「「おうッ!!!!!」」「え」
そんな目で見んなよクロエ~、撤退も戦術の一つだって習ったろ?

「ほらクロエ、料理冷めないうちに食べちゃおう」「え………え、」じゃれ合い
(と言うには少々派手だが、あの人たちもウィッチだ、まぁ死にはしまい。
実際問題、ただの弾丸でウィッチを殺そうと思ったらシールドを使う暇もない奇襲でもなければ
生身の状態でも初活力で最低で338ラプアマグナムFMJ以上は必要なのだ。この程度可愛いもんである)
とアタシを交互に何度も見て、ゆっくり首を横に振るアタシの目を見て諦めたようだ。
しょんぼりするクロエの手を引いてテーブルに戻る。

「どうだった?」グレース曹長がやる気なさげに訊いてくる。
「や、あれはやらしといて問題ないですねぇ」「なんだ、わかってるじゃん?」ちょっと笑う先輩。
「でもわたし喧嘩は良くないと思います……」クロエは俯きつつもはっきり言った。
「そっちの子は、結構かたくなだね?」いよいよもってにやにやするグレース先輩。
「こいつ、むかしっからこうで、お堅いんですよ」一応フォロー「ふぅん、てことは貴女達幼年科から?」
「ええ」まぁそうだろうな、みたいな訊き方だった。ここの中隊、全員そうなんだろう、つまりは。

「きょ、きょうはこんくらいで勘弁しといてやる!!!」
「はぁはぁ………HA!!!捨て台詞がアニメの三下悪役以下だなおい!!!」
あ、終わったみたい。うっわ地面にクレーター出来てるし。

「二人ともこっちきて」ベランジェールさんが立ち上がりつつ手招きする。
「うん」「ああ」素直に従う二人。
それぞれほとんど数秒で、二人の両掌の内出血と腕の筋繊維が治癒魔法で完全に治っていた。
「さんきゅ、ベル」「ありがとなベル」「そう思うなら取っ組み合いを減らして貰いたいもんね」
へへ、と悪ガキみたいに笑ってごまかす二人。平和な風景だなぁ。


でも、しかし、こりゃあとんでもないところに来たなぁ。
エレクトロ系とヒーラー系固有魔法、それも『雷撃』『緊急施術』級をいきなり見せられるとはね。
お披露目の仕方は極めて残念だったけどさ。

ちなみにクロエは『特殊装甲』級ハード・シールド持ち。
アタシも固有魔法こそないけど、魔力容量はちょっとしたモノだ。
で、この時点で既にアタシが知ってる範囲だけで同一の中隊に三人もキャラクタレスティック・ソーサレス(固有魔法使い)がいる。
ただでさえ絶対数の少ない猟兵の、それも固有魔法持ち、そして全員生え抜きのスクール・ステューデント。
連隊の他中隊も同じ状況とは考えにくい。

人的資源の偏在じゃないのかなぁ。まぁ集中運用も一つの方針なのかな?
それと、この中隊には方針を圧し通す能力があるってこと。

ゆったりと口に料理を運ぶベアトリス少佐。
この人、わざと止めずにこれをアタシたちに見せたんだな。

ふとした調子で少佐が切り出す。
「ところでみんな?昨日の夜間哨戒もあったし午後は休務でしょ?
二人のお祝いもかねてこんなの用意してきたの」テーブルにコックの付いた小樽を置く少佐。
匂いからしてロゼかな?「うっわあ!いいんですか少佐?!」「ええ、私の私物の安物で良ければ」
ガリアでは子供でもワインは飲むし、ウィッチのストレス解消のために飲酒は黙認されてはいるけどまだ昼間だ。
夜間哨戒のシフトもそのつもりで調整してたんだろうな。それと、中隊のお披露目はおしまい、ですか。
百聞は一見にしかず。この人、かなりの食わせ者だ。や、切れ者か。心強い、のかな。

最初から視線に気付いてたんだろう。アタシの目をゆったりと見、ふんわりと微笑む少佐。
「貴女達も、長旅疲れたでしょう。午後は休んでいいわ、遠慮せずに召し上がりなさいな?」
「はい」「はい、少佐」
怖い人だ。これは確かに、ハンドラーだね。





あのあと樽が空になるまで皆で飲み、
ガリア猟兵突撃行軍歌と空挺降下強襲歌、ガリアン・ウィッチ・スクール校歌を仲良く歌って、お開きになった。
(やっぱ空挺任務あるのね、ここ)

少佐が、貴女達は自分の愛騎をみてらっしゃい、と言っていたので、DSの格納庫へと向かう。
二人ともザルなので酔い覚ましにはちょうどいい感じだった。
流石に一度通れば覚えるし、無茶なショートカットしなければどうということは無かったみたい。ちょっと反省。
しかし広いなぁ、やっと着いた。

外の芝生でシガリロを吸っていたアデライドさんに声をかける。
「アデライドさん?」「ん、来たか」煙草を消してポケットにしまうアデライドさん。
「付いてきな」「……はい」格納庫へと歩くアデライドさんに付いて中に入る。真っ暗だ。


ガッ!

天井のキセノン照明のスイッチをアデライドさんが操作して点灯する。

「わあ……!!」「すごい………!!」思わず声が漏れる。
仕方ないと思う。目の前のパレットに載っていたアタシたちの愛騎は、それとは判るもののかなり様変わりしていた。
各所に追加された装甲、そしてセンサ、頭部機銃。後部にマルチパーパス・ベイが追加されている。
「ボルトオン・ヴァリアントキット、『AZUR』の試作品だ。パワーオン(全電子機器起動試験)までもう終わってるから、
明日の訓練で試してみな。最高速こそ多少落ちてるが、トルク重視に設定を変更してるから加速力は変わらない筈だ。
追加機能の説明はこれに載ってる。レジュメ頼んだぞ」
ザラ紙にコピーされた厚さ数センチの推敲前と思われる乱雑な打ち込みマニュアル。
酔いは完全に飛んでいた。二人とも、吸い寄せられるようにユニットに触れる。

アタシの、ルクレール。

素敵。



「気に入ったかい?」
「「ハイ!!!!!」」
最高だ。あの謎の試作機程じゃないけど、こんなものをいきなり渡されるなんて、
流石は実験中隊、俄然明日の訓練が楽しみになってきた。







ね、セシールちゃん
なに?クロエ

エレオノールさん、全然怖くなかったね
うん、いいひとそうだった
ベアトリスさんも、やさしそうだね
うーん、アタシはそれ、保留かな
そう?みんないいひとたちよ?
それは否定しない

わたし、ここなら大丈夫な気がする
………クロエ
セシールちゃん、わたしが、
アタシがクロエを守るよ
セシールちゃん…
だから、アタシの背中は、任せる
うん
生き残ろう、クロエ
うん
みんなと一緒なら大丈夫さ
うん

クロエ、………怖い?
ううん
ほんと?
セシールちゃんがいれば平気よ?
アタシは怖い
セシールちゃん

クロエが死ぬのも、誰か姉妹が死ぬのも、自分が死ぬのも
セシールちゃんは私が守るよ、必ず
クロエ………

だから、早くセシールちゃんの故郷、取り返そうね?
うん

案内してほしいな?
勿論だよ
うん

………へへ、楽しみだな
そうだね、ふふふ………

おやすみ、クロエ
おやすみ、セシールちゃん






レチクルが滑らかに移動する。感度、ゲイン曲線共に滑らかさが増していい感じだ。
機体の規模が少し大きいから、慣性モーメントの変化を警戒してたけど、全般にわたってトルクは強化されており、
寧ろ軽快な印象だ。冷却のほうも、系統自体が大容量になっているため余裕がある。

不安なのはシグニチャくらいかな?一定の温度を超えると冷却系が甲高い鳴き声を上げるのだ。
感覚を掴むまでテレメトリの表示を睨みつつの戦闘機動になりそうだ。

『ノーム32、33。31。三度目の模擬戦闘を開始する。送れ』
「32レディ」『33レディ』
『よし、状況開始』

三度目の模擬戦が始まる。


対抗部隊はエレオノール中尉とベランジェール中尉、第1小隊長と第3小隊長。
バトラーを使用しての訓練で、ここまでの結果は最初の一回はこちらが慣れるのを待っていたのか、膠着したまま終了。
続く二回目は左旋回戦になったものの僅差でこちらが先に被弾、大破。

ここまで、エレオノール中尉もベランジェール中尉も、教科書的な戦術に徹していて、
隙は無いけれどどうにも単調な印象と違和感があった。

レフトラダー・フォーメーションで前進する。
アタシのセンサに反応があった。右前。
「33、30、3600、インディオ1、32トラッキングする。警戒頼む」『ya』
複合型スコープの視野角を狭め、拡大、追尾。

いた。

特徴的なマットブラックのマッシヴな造形。
各所に突き出るニードルと5本の太いマルチパーパス・アンテナマスト。
関節部のレッドが、あたかも鎧の隙間から血肉が覗くようで禍々しい印象を抱かせ、
エッジのレッドが向いている方向を錯視のように分かり辛くしている。
重装甲騎兵全身鎧の肩に長大過ぎるランスを直付けしたような歪なシルエット。

やっぱり、あの人のだったか。

ハンガーで見たエレオノール中尉の次世代テストベット試作機だ。
重くなったアタシたちのAZURと比較しても全備重量で数トンは重いはずなのに、極めて軽快な機動。
上半身が全く上下動していない。概算、時速67km。この荒れ地でとんでもない高速走行。
ただ走るだけなら誰だって飛ばせるけど、ああやって精密行進間射撃を行える安定を保つとなると、まず無理だ。
足回りの性能もそうだが、そもそも前提となる技倆が段違いだ。どんな運動神経してるんだ。

でも、あの人の機体の塗装は刺すような赫の筈だ。それですぐには解らなかったんだ。
どういう事だろう?

斜行機動で高速接近してくる。
向こうの照準線、冷たい視線に既に捕えられている事をセンサと勘が訴える。

中尉はこちらを観察している。一挙手一投足を。

『32、270、インディオ2、3300』横からベランジェールさん。
「33、スクァッドチャージ、ターゲットインディオ1」『ya』クロエにエレオノール中尉への同時突撃を指示。
右緩旋回、正対する。「5秒後アクティヴデコイ射出」『レディ』「NOWリリース!」
後部ベイから自律式囮を1つずつ投下、地面に触れる寸前デコイは小型の二重反転回転翼で大加速して前方へ出る。
IRストロボと電波を激しく放射する囮だ。

エレオノール中尉のサーマルイメージャはさぞにぎやかだろうな。
その隙にこちらも加速、相対的には減速しているように見せるトリック。
「突撃に、」まだだ、まだ遠い。

ここっ!!「進め!突っ込め!!!」『「Ruuuuuuu-Shuuu!!!!!!」』
吶喊を上げ、更に加速して突っ込む!!「ファイアファイアファイア!!!!!」
精密な狙いなんか付けずにガンガン120mmHEATで射撃する。
目標が回避機動を取る。その様子をクロエが冷静に観察する。
『エイムOK』クロエが回避機動の癖を読み“もう撃てる”と意思表示。よぉし、やるぞ…!
『「ファイア!!」』僅かにアタシが早く発射。それを回避した先にクロエが必殺の弾頭を撃ち出す。
HMDに≪HIT! ENEMY GUN KILL≫の表示。同時に中尉の機体から黄色の煙幕筒が上方へ射出される。
大破の状況現示だ。

『状況終了、各車その場に停止、安全点検、待機地域まで先進せよ』レシーバからベアトリス少佐の声。
勝った。でも、違和感は付きまとうばかりだ。

何で戦域支配が可能な電子戦能力使わないの?
単純比でも火力性能は5割増しじゃ効かないでしょ。
ただでさえ防護能力に優れた新素材製装甲の被弾撃角制御もしていなかった。
加速も、特殊燃焼装置無し。

確かにネウロイはそんな圧倒的性能で小器用な事はしないかもしれない。
でも、そもそも、あの人はこんな戦い方はしないはずだ。

手加減されているのは明白だ。どうにも面白くないなぁ。





「お疲れ様、どう?少しは慣れたかしら?」
ベアトリス少佐が降着状態のストライカーから降りてすぐで喉が渇いたアタシたちに声をかけてくれる。
手には三本のステンレス製500ml魔法瓶。
「ありがとうございます」受け取る。中身は良く冷えたスポーツ飲料みたい。一息に三口ほど飲む。
「ぷはっ」生き返るわ~~「少しは。まだ、癖を掴み切れてませんが」
「そう?慣性重量分の修正は二回目の終わりまでにほぼ出来てた気がするけれど」
エレオノール中尉とクロエにも手渡しつつ、そう言う少佐。いじわるだなぁ。
「いいえ、まだ、熱管理が計器を見ないと出来てません。
この仕様だと間隙は最大冷却出力回転数で回す癖を付けなきゃだめですよ」
「そこまで解ってるなら、すぐね」正解だったみたい、満面の笑みになる少佐。

「エレオノール中尉とベランジェール中尉は、手加減してたんですか?」クロエがアタシより先に言う。
意外だったけど、考えがあるんだろう。そのままアタシも黙って次の発言を待つ。注目が集まる。
「もしわたしの勘違いで、失礼でしたら、申し訳ありません。
実は、さっきまでの訓練で、二人からは何のプレッシャーも感じなかったんです。
そのせいか、どうも違和感が先行してしまって集中できずに………ごめんなさい、生意気なことを」

「いや、そんなことはないよ」エレオノール中尉が言う。
「僕たちは確かに手加減してた。お前たちがそれを感じられるということは、それも不要だったって事さ。
まぁ、だからといって僕らが本気でやるのも少し違う」
「そうね、今後はカリキュラムを変更しましょうか。哨戒から初めて、実際の戦闘状況を感じてもらう事にするわ」
少佐がそう言った。わたし達が背中を守るから、存分に戦場で腕を磨きなさい、と。
「はい」「はい」やや緊張して、二人でそれに応えた。

「それと、僕の事はエリーでいい」「わたしもベルで構わないよ」
「「ハイ!!」」





次の日アタシたちはノームネストから4時間程の進むにつれて徐々に狭まる峡谷にある森林、
ネウロイの脅威がまだ比較的少ない地域から人類勢力圏の限界付近へと哨戒任務で展開して来ていた。
第三小隊は、中隊主力より1時間先行して主力の為に情報を集める警戒前衛。


よくよく話を聞くと、やはり第3中隊の戦闘能力は異常に突出しており、上層部としては
新人(アタシたち)が来て間もない事を加味しても、
すぐにでも最大密度のソーティで全力投入を行いたいというのが本当の所みたい。

それもそうだ。だって、ここにはエリー中尉がいる。

陸戦ウィッチだったら、いや陸戦ウィッチじゃなくたって、少なくとも欧州だったら誰だって知っている。
カラミティ・エリー・ブラッドヘア。

ガリアが一応の領土奪還を果たして再始動したガリア共和国政府、その最大派閥
「亡命ガリア共和国派」が擁していたガリア『共和国陸軍』最凶のカード。
宣伝に使うよりも何よりも、まず、空軍をその勢力下に飼い慣らし、アフリカ、中東戦線を支える「自由ガリア派」や
北海の警護、地中海の封鎖を専任する海軍軍部がその中核となる「正当ガリア派」が本土に戻るよりも早く、
その咢でもってより多くの国土を奪還させる事でガリア政府内でのイニシアティブを盤石としたいのだ。
同じく国土を限定的にではあるが取り戻したカールスラント亡命政府との協調関係がいつまで続くかも保障出来ない今、
内紛にかまける時間も余裕もない。確かに陸軍としても、ガリアそのものとしてもそれは死活問題だ。
ガリアは、単独で戦争できるほど強い国ではないから。

リベリオンとオラーシャがどう出るか知れない今、
唯一状況を好転出来そうなのはカールスラントを間に挟んでの、
遠く極東のインペリアル・フソウとの同盟を強化する道だけだ。
フソウはリベリオンと親密な関係にある。味方に付ける事が出来れば心強い。

ブリタニアは論外だ。恐らくネウロイがいなきゃアタシたちは東西を向いて配備されてる。
実際、ユーロトンネルなんていう非現実的な代物が建造中なのも、奴らネウロイと戦う為だし。


そしてそんな状況が判らない人でもないであろう中尉と少佐は、
スクールですらまずお目に掛かれないような機密性の高く高価な最新鋭研究試作機や装備を潤沢に供与され、
その兵站補助には物理的に可能な最大の優遇を与えられつつも、ベアトリス少佐が直接の指揮官となってからも、
いつ終わるとも知れない魂を削る強行軍を繰り返していたそうだ。

人類で最も過酷な強行、攻勢正面を専任し続け、周囲の姉妹達、戦友達は次々と斃れ続け、
それでも人員と姉妹達は即座に補充されて強行はむしろ加速し、それを護らんとして更なる狂奔に駆られて戦果、いや戦禍は増大、
その撃破スコアに狂喜した陸軍司令部が更なる強行を命じ、ひたすらに血と屍で敷き詰められた人類の逆襲路を拓く、
そんな日々を送っていたらしい。第二次ガリア解放戦線が過酷な原因は、その戦略的作戦計画にこそある。



常に死線を渡る日々。死線の代名詞。災厄。

これからもそうだろうな。



「エリー中尉のバディは少佐なんですか?」そう訊いたアタシにベルさんは、ぽつりと答えた。

「いなくなっちゃったのよ」 とだけ。



「ところでエリー中尉?」「なんだ?」
アタシは味方前進観測所へと静粛歩行で向かう道中で切り出した。
「中尉って何歳なんですか?階級的に考えるとやっぱり18歳くらいですか?」
「いや、15歳」「え゛ッ?!」「うそっ!っきゃ!?」クロエがバランスを失してコケ掛ける。
「気をつけろ…………なんだよ、そんなに珍しいか?」クロエ機のバランサー制御を
リモートでオーバライドして姿勢を立て直させつつ中尉が言う。すご。

ってちょっとまって同い年?!

っえ、てことはえっと……トリプルスキップした上で、三回戦功昇任?でも、
「だって、尉官カリキュラムはどうしたんですか?スクールでは見かけませんでしたよ」
クロエが聞く。そうだ、例えそれが戦功昇任でも、正規のカリキュラム無しで士官になんてなれない。
「センパイ…ベアトリス少佐がOCSカリキュラムの正規教官資格を持っててな、前線で受けたよ。
全部実地でテキストを予習復習出来て楽だったぞ?目の前に答えがいるんだからチートだよな」
中尉が笑いながら軽い調子で言う。そんな馬鹿な。
「ああでも、僕遅生まれだからお前らよりはいっこ上の筈だぞ?」
「はは………」もう笑うしかない。


「ここで休止、10分後出発する」
HMDの時計を見て、隠蔽に好都合な地形を見定めてから中尉が言った。
ストライカーを待機状態にしてから、小川の水分を含んで瑞々しい空気を胸いっぱい吸い込む。

「いい森だな………。そのうち、プライベートでキャンプしに来たいな」
「はい、とっても綺麗」中尉の呟きに、クロエが答えた。


勿論、アタシ達軍属ウィッチに長期の休暇なんてない。
せいぜい2連休がいいとこだ。みんなわかった上で言ってる。

戦争に勝たない限りは、プライベートでここには来れない。


小川のせせらぎと木々のさざめき、柔らかな木漏れ日を落とす草葉の香りも清々しい。
カービンをラックから取り出してストライカーから降り、小川の水を両掌で掬って顔を洗い、
もう一杯掬って口に含む。乾いていた喉を柔らかな口当たりとともに冷たい水が潤す。
「……はふ、おいしい」本当にいい森だ。

だけど、そこをストライカーの巨大な脚で踏み荒らさなきゃいけないのが少しだけ残念。

早く、取り戻したいな。全部。

「干し杏子、食べるか?」「はい」「やりっ♪いただきます」
「この先にある観測所まで静粛歩行であと1時間だ、歩行行軍はきついだろうがもうちょっとの辛抱だからな」
「いえ、まだ大丈夫です」「全然平気だよ♪」
「そか」と、そこで無線機が味方の通信波を検知した。
「ん、どこからだ、随分感が低い(信号が弱い)な………前進監視所から?」


全員でインカムに意識を集中する。ナノマシン通信はまだ無効な距離だから、
ちゃんとモノクルとインカムを見なきゃだめだ。

『……(ジ)……!エマー!!……を求む、至急救援…(ガリッ)…む!我々は現在ネウ………撃を受けている!!!(ギキ)……繰り………』
ッ救援要請!!

「イグニション!スロットルミリタリー!!マスターアームオン!!!FCSホット!!レディ!スタンディング!!!!」
エレオノール中尉が立ち上がりつつ右掌を剣礼の様に素早く翻して払い、叫ぶ。
ナノマシンによる脳波入力で三機のストライカーが瞬時に起動、
総ての武器とFCSに通電されて素早く滑らかに膝立姿勢から直立姿勢にリモート・スレイヴ駆動、
エンジンを始動しつつ回転を戦闘回転域まで上げてスタンバイしあとはアタシたちが乗るだけの状態になる。

三機同時に脳波制御!?この人、本物の化け物だ。
「乗れッ!!」「「ya!!」」
素早くダッシュ、跳び箱のように直立状態頭頂高4mを超えるストライカーに全員飛びついて乗り込む。
猟兵なら出来て当然の肉体強化。

ナノマシン・ヴェトロニクス同調。魔力がソーサリアル・アンプで整波増幅、
ユニット各部へエンチャントされストライカーが身体の一部になる。
「前へッ!!!」
全力機動、静粛歩行をかなぐり捨てて観測所へと向かう。
「ノーム01、31!エマー!!時、今!FFOPが襲撃を受けている模様!!細部不明!!!30は急行し偵察する!!!」
『こちらでも傍受したわ。偵察を許可する、30は敵の規模編成を解明、急行する00主力の到着を待て』
「イェスメム!!」『気を付けてね、エリー』
「今は僕らより観測所の奴らが心配です!!!」『そうね、急いで』「ya!!」

「続け!!!」「「ya!!」」さらに加速、観測所の存在する町まで数キロの地点まで急行する。
林端から小さな町が見えた。周囲を急峻な山林に囲まれているため、規模の割に高層建築が多い町。
地形的に、後方の人類側平原へと攻め込むならばどうしてもここを通らざるを得ない、森林や峡谷の敵側ギリギリ。
侵攻があった場合、ここからの観測情報でノームネストをはじめとした人類側防御部隊が峡谷出口付近へと展開して
ネウロイの攻勢を食い止める。勿論、人類側が攻める場合もここを通らなければならないので、陥とされる訳にはいかない。

「速度落とせ。01、31、30はこれより偵察を行う。爾後30分間無線封鎖」『31、01了解』
「よし、偵察するぞ。ストライカ戦術レーザ通信モードを立ち上げろ。ナノマシン通信も感応係数を最大値まで上げろ」
「はい」「ハイ」電波通信による被探知の危険を防ぐため、無線系の送信波は総てカット。
光学通信とナノマシン同調による魔素感応通信に切り替える。
「では二機を持ってここからパッシヴセンサで視察、一名は下車斥候を行う」
言いつつエレオノール中尉がストライカーを降りようとする。

アタシは少し考えてから口を開いた「アタシが行きます」
「斥候、できるのか?」中尉が、アタシの瞳を、心を覗き込みながら聞く。
「訓練で、やりました。実戦とは違うでしょうけど」
「そうだ。全く違うわけではないけど、撃たれたら死ぬんだぞ」
「セシールちゃん……」クロエが心配そうな顔をする。力強くうなずいて微笑み返す。
「アタシの機より、そっちのセンサの方が偵察向きですよ、中尉」
「………わかった。じゃあ、お前が行け。支援はこっちに任せろ」


「大丈夫、アタシ、死なないよ? エリー中尉」

「お前……………。
ああ、任せた、必ず戻ってこい、セシール」
「はい」

クロエに微笑む。強張ってないだろうか、触って確認したい。
ああ、どうか、しっかり微笑んでいられますように。
「クロエ、アタシを護ってね」「……うん!」


To be continued



[24398] はばたいて、僕の小鳥
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:cb5cde85
Date: 2010/12/20 18:44
はばたいて、僕の小鳥



じりじりと膝立ちで進み、曲がり角に張り付く。

息を殺し、猟兵正規装備品、アイクホーン社製モデルW-ASEKを腰の後ろから抜き、
(空挺降下作戦を行う猟兵は生存・脱出用特殊ナイフASEKが支給される)
ブレード先端、鏡面になるまで研磨した刃部を地面すれすれに角から出して先を覗き込む。

―――いない?

ポーチから3倍ペリスコープ(クランク状に曲がった潜望鏡)を出して覗く。
次に、地面に腹ばいになって蛇のように進み、顔の半分、眼だけを角から出して覗き込む。
やはり大きな通りには肉眼と潜望鏡で敵の陰は見えない。

膝立ちになり、ファマス・コマンドフェリンに載せた可変倍率スコープの倍率を1.5倍から6倍に切り替えて
カッティング・パイ(上半身を傾けて徐々にスライドさせ、角の向こうを索敵する射撃姿勢)、
すぐに射撃できる態勢でモノクルモニタに映る高倍率視野で索敵する。
光学・サーマル共に敵影なし、クリア。

こちらから見える位置は。


「ふっ………ふっ…ふっ………はぁッ…」次の路地まで、約58メートル。
敵の射弾下を走り抜ける事が可能な限界は約4秒。
「すううううううう、はあああああああ…………」
全身に廻る魔素を整える、ナノマシンが整波増幅を支援し、身体能力が強化される。
「Set………Ready…………」
右脇腹に小銃を抱え込んで腕全体でホールド。
左手に石ころを握りこんで肉食獣のように身を低くし、投擲とダッシュの姿勢。

「Go!!!」
全力で石を投げる。すかさずダッシュ。
ザキュッ!!と音がして機甲猟兵長靴がコンクリートにブラックマークを残してラバーが焦げた匂いの煙を立てる。

空中で石ころが砕け散る。やっぱりいたッ!!
既に飛び出した角から20mは進んでいる。進むしかない。
「らあああああああああああッ!!!!!!」更に加速。
右腕ごと突き出すようにファマスを片手で概略の敵方向、マズルフラッシュへとフルオート射撃。
更に強く踏み切って幅跳びの要領で次の路地に跳ぶ。

バキ゛ュッッ!!!
空中でヘルメットギアのセラミックシェルに固体弾頭が掠めて跳弾する。
大丈夫、あの口径なら撃角90でなければ貫通しない。大丈夫だ。

曲がり角の壁に垂直に着地、猟兵用重装甲装具の質量でとんでもない音がした。
ライフルグレネードを装填、壁に両足で着地したままピンを抜きマズルフラッシュの見えた瓦礫に突き出して発射する。
反動で壁から吹っ飛んで路地に仰向けに落ちる。上体を起こして両足の間にファマスを構え、すぐさま先程の建物を照準。
ライフルグレネードが弾着し、部屋ごと吹き飛んだスコーピオネウロイ(狙撃特化歩兵型ネウロイ)が血煙になるのがスコープ越しに見えた。
そのまま横に転がって角の陰に入り、モディファイド・プローン(変形伏射。しゃがんで上体を倒し、前側の脚を伸ばした射撃姿勢)で
銃と眼だけ出して銃口を素早く振り、残存する敵を探す。800メートル先から発砲炎、歩兵戦闘車級!!
身を翻し、角の奥へと走る。先程までいた路地の入口が一瞬で崩落し、路地の体を失う。

ファマスをリロードしながら路地を走り、状況を報告する。
「ノーム32、31、敵の伏撃に遭遇!現在までスコーピオ3体撃破、800先にFV級2体確認!!損害なし!!!」
「了解、射撃音を確認した。そのまま600前進して掻き回せ」ナノマシン通信で、耳元、
脳裏で喋ったようなエリー中尉の声が更なる肉薄を指示する。無茶振りするなぁ!!
「イェスメム!!ゴー・アヘッド!!」路地を縫うように走って先程の敵に肉薄する。

前方、角からタウルス(歩兵型ネウロイ)が8体、1個分隊。
路面にブラックマークを残しながら叩き割らんばかりに地面を蹴って上へ、更に右、左と壁を蹴って高く、高く跳ぶ。
空中でファマスを両手で構えトリガーを切る事無くフルオート射撃。4体仕留める。
ボルトがストップ。残弾が無くなる。
残る四体の中心に重い音を響かせて着地、ファマスを手放して右手でASEKを抜き、そのまま神速の刺突剣技。
Coup droit (まっすぐ突き、) Une-deux (連撃し、)Bond avant (前へ跳躍)  La parade (敵の刺突を払い、)Remise(すかさず追撃する)
ネウロイが怯んだ様に後ろへ飛び退く。本来刺突剣戦闘術には向かないASEKのブレード長では届かない間合い。
無造作にBM92-G1拳銃(ベレッタM92Fのガリア軍モデル)を左手で抜き、
片手で突き出して6、7発乱雑に連射する。最後の一体が穴だらけになって体を震わせ、頽れる。

地面に転がる敵に歩み寄り8体全部の頭胸部コアに機械的に9mmホローポイントを至近距離から確実に撃ち込む。





ASEKを血振いし、適当にジャケットの裾で拭ってシースに戻す。
ハンドガンをリロードしサイドドローホルスターに仕舞う。頬をグローブの甲でぬぐう。
親指のあたりにべっとりとネウロイの朱い体液が付く。

錆の匂いのしない体液、色だけが赤い。
現実感を奪う、ケミカルなにおい。




「………すぅ、ッはぁ!」  一瞬だけ息を整え、

ファマスを拾い、一度弾薬を抜いて動作を確認してからリロード。敵方へと駆け出す。


とんでもない数だ、奇襲で無ければ早々にアタシ死んでるね。
多分、―――増強中隊規模。



先程の大型ネウロイを側面から見下ろせる建物に着いた。
FVが二体、まだこちらに気付いてない。さっきの奴ら、電波を出す間もなく死んだから。
「31、32、600前進。先程のFV型の横へ着いた」
「32了解、レーザー誘導弾頭を撃ち上げる。15秒後、間隔5秒、二発。誘導しろ」
「イェスメム。レディ・トゥ・エイム」ファマス・コマンドフェリンをレーザ・イルミネータモードに。
アタシから見て奥側のFV型の上面にポイントする。

…………キュゥゥゥゥゥウウウウウウウウウン

甲高い風切音を響かせて120mm知能化砲弾が飛来する。
ドッッ!!!!!!
近過ぎて正常な音として認識できない。撃破。すかさず手前をポイント。

ドボンッッ!!!!!鈍い衝撃を響かせてネウロイが地面に縫い付けられる。
腹の中のタウルスごと燃え尽きる。「命中、撃破」「グッショブ、32」「サンクス、メム」
残るネウロイはじりじりと退き、やがて見えなくなった。こちらを過大評価したのだろう。


しばらく警戒してから前進し、観測所となったTV局跡の周辺を洗う。
「敵主力は後退、観測所付近の安全化、完了」「了解、観測所の安全化は30全力で行う。その場で警戒」
「了解。警戒する。………………はぁふ、終わったぁ……」べしゃっと座り込む。

なんかスゴイ疲れたな。一気に忘れてた疲労が押し寄せる感じ。雑嚢から魔法瓶を取り出して飲む。
思い出したように指先が震える、カタカタと。魔法瓶の飲み口を開けるのにも四苦八苦してしまう。

まずはどうにか、生き残った。
猟兵なのにスカウトみたいな真似してたけどね。
向こうから三機のストライカーがこちらに向かって来るのが見えた。
例によってリモートで一機動かしてるのかな、エリー中尉。
「んくっんくっんくっ……」「気抜き過ぎじゃないか?」「べふっ!!!!」吹いてしまった。
すぐ後ろからエリー中尉が声を掛けてきたんだ。「ちゅうい?!ストライカーは?!」
「リモートで操作してる。すっとろいけど、動かすだけなら問題ないよ」よく見ると、確かにクロエ機以外は二機とも無人だ。
「んなむちゃくちゃな………」「そうか?楽でいいけど」
どう見てもあなただけです、本当にありがとうございました(ストライカー持ってきてくれて的意味で
「生きて帰ってきたな。えらいぞ?」ヘルメット越しに頭を撫でられた。ぐりぐり。
「と、とうぜんですよぅ………」エリー中尉の優しい瞳を直視できなかった。





それから三人でテレビ局の中に入ったが、誰もいないし呼び掛けても返事がない。
うーん、いるとしたら地下のシェルターかも。まぁどちらにしても統合軍共通通信周波数にも反応が無いのでよくわからない。
「えーと…、ここですよね、観測所って。誰も出てこないですけど」
「ああ、ここだ。クロエ?」「はい、20秒待ってください」
クロエが前面装甲の裏のキーボードとトラックボールを開いて何やら操作している。
「開きました。どうぞ」「うん」アタシもモノクルでモニタする。
クロエのヴェトロニクス・ストレージにあったブルートフォーススクリプトで無理矢理暗号鍵が解かれたところだった。
ああ、ここの閉鎖モード通信回線に割り込みしてたのか。暗号の密度も低そうだし、クロエなら楽勝だね。
「こちらノーム31、FO51、聞こえるか?」『うわっ?!誰だ!………………救援か?!………ん?ノームって言ったのか?』
一瞬驚き、それから喜色に満ちた声音になり、最後にアタシたちのコールサインで怪訝な調子になった。忙しいおっちゃんだなぁ。
「ああ、こちらはノーム30、小隊長のベネックス中尉だ。救援に来た。シェルターの外にネウロイはもういないぞ」

『………!?………ベネックス?猟兵中尉エレオノール・ベネックス?』
「…………そうだ、相違ない」
かすかに通信機の向こうで怯えを孕んだ囁きが聞こえた

災厄だって?  なんてこった  道理でこんなに敵が

カラミティ・エリーのお迎えかよ  もう助からねぇのか?冗談じゃない


「ッ」アタシは、一瞬激情に駆られて通信に割り込みそうになった。
でも、すぐに冷水を掛けられたように頭の芯から冷えてしまった。


―――アタシは、アタシたちは二日前、トレーラーの上でどんな話をしてた?



反射的にエリー中尉を見てしまった。

エリー中尉は     胸の痛みに耐えるような、 泣きそうなのを堪えるような、  どこまでも無表情な顔をして、


見ていられなかった。目を背けた。
「シェルターのゲートを開けてくれ。もうじき中隊主力も到着する」

クロエもアタシと似たような表情をしていた。
ああ、なんてこと。

アタシたちは。


『………了解した、ゲートは地下2階だ』
このおじさんは、少しは人間が出来ているようだ。
少しだけ、ほんの少しだけ救われたような気持ちになった。

足の下からゲートが開く音が響く。





「シェルターに退避できたのはこれだけだ。後は………」
「わかった……メディカル・ソーサレスがこちらに向かってる。重篤患者の処置をしたら運び出そう」

シェルターの中は散々たる有様だった。
誰も彼もが負傷し、中には両目に血に染まった包帯を巻かれて呻いている兵もいる。
そして、そんな彼らがアタシ達を見る目は兎も角、エリー中尉を見る眼には、明らかに怯えの色が見え隠れしている。
中には露骨に表情をゆがめ、顔を逸らす者までいる。

「………あの、エリー中尉」どこかガラス玉めいた、異様に凪いで澄んだ瞳をした中尉に声を掛ける。
焔が氷獄に閉ざされたような瞳。なんだか、こんな状況なのに非現実的な美しさを感じる佇まい。
でも、触れたら壊れてしまいそうな雰囲気で。

「どした、セシール」中尉がこちらを見る。

アタシ達を見つめる時だけは、いつも通りの色だ。少しほっとした。
「アタシ達、手当てします」「………そうだな、包帯くらい、巻き直しておいた方が良いな」
「ハイ」「わたし、エイドキット持ってきます」
クロエが地上に向かうスロープに駐機した3機のストライカーに走っていき、
後部装甲のラックから救急キットを3つとも出してきた。陸戦用ストライカーにはこのような場合に備えて
通常の所要数よりも多い、具体的には負傷者3~4名分相当の医療資材が積まれてる。

「大丈夫ですか……?包帯、解きますよ?」
メディカルウィッチの資格を持つクロエが早速、負傷兵の手を優しく握って声を掛け、
治療をし始める。こういう時のクロエは、本当に、天使みたいだ。

アタシも、すぐに始める。
「お兄さん、巻き直すよ」「……ああ…………」
アタシ達より多分5つくらい上、二十歳に届くか届かないかに見えるお兄さん。
腹に乱雑ながら圧迫して巻かれた包帯を解く。そこには、腹腔に届きそうな深く歪な大きい裂傷が口を開けていた。
衛生手袋をした手でそっと、直接触れ、止血する「………ぅう…」お兄さんがうめく。
「あ……大丈夫?ごめん、ごめんなさい、アタシがさつで……」
必死で、圧力を掛けながらも痛くないようにやさしく傷口を抑え、
生理親和性消毒ゲルパックの封を切ってゲルを創傷に塗布する。
なんだか手元が見えない。ここ意外と暗いのかな?

不意に頬をぶっきらぼうに、でも優しく人差し指で触れられた。びっくりして肩が強張る。
「っ!!」「…泣かないでくれよ、お嬢さん………」「え…」
アタシ、「泣いて」ひっく、喉がしゃっくりみたいに引き攣る「ないよ」
お兄さんが少し笑って顔を歪める「そうか、……そりゃ、失敬………」
「もう!傷開くよお兄さん!!」元気な声を作って微笑みかけた。
「………ああ、あんた笑ってる方が良いよ…やっぱり」
あきれた、こんなザマで口説こうとしてるよ、このお兄さん。

「この、エロ、………」ああ、だめだ。
アタシは素早く、でも丁寧に再生癒着人工皮膚包帯を巻き、その上に圧迫包帯を巻く。
腕の静脈にリンゲル液の点滴を挿し、


限界だった「ちょっと、目にゴミが………入っちゃった!こういう部屋もっ、ちゃんと掃除しときなよね!」両手で顔を隠す。
「ああ………すまねぇな、あんたみたいなお嬢さんが来ると、ッ思ってなくってさ…」
後ろから、優しくアタシの肩に触れる手があった。でも不思議と安心した。
「エリー中尉……」
「スタンド、肩より上げといてくれ。あとセシール、点滴出し過ぎだ。……こんなもんでいい」
エリー中尉が手直しする。

それから、アタシの肩を優しく抱き寄せてぐいっと庇いながら、お兄さんにこう言いはなった。
「うちの妹泣かしてんじゃねーよ、ばか。そんな元気なら死なねぇだろばか。
この子、今日が初陣なんだから付け込んでんじゃねぇ。わかったかこのばか」
……………ぷっ。

「……ふふふふ」「くく……ッいってぇ、はははは、おっかねぇ姉ちゃんだなおい」
「なんだよ!」エリー中尉がムキになる。少し涙目のままで。

いつのまにかシェルターの中には、静かな優しい笑いが満ちてた。





一時間後、ベアトリス少佐率いる中隊主力が前進観測所に到着、
すぐさまベルさんが中心になりより高度な医療処置を負傷した兵員に施し始めた。
「……これでよし、もう安心ですよ」
素晴らしい手際でどんどんこなしていくベルさん以下第一小隊の面々。
ニーナ先輩とフルール先輩もてきぱきと効率よく適切な処置を施していく。
「す、すごいですね…………」
「ああ、ウチはなんだかんだでエリーの面倒見て長いからね、このくらいまだいい方なのよ」
「そうなんですか?」
「うん、処置したのはあなたたち三人なんでしょ?二人とも筋がいいわ。エリーはもう持ってるし
この際だから、あなたもメディカルウィッチの資格取っときなさい?」
「はぁ………」
「エリ―なんか、被弾してあと2ミリでお腹、裂けちゃうところだったのに、
自分で無理矢理テーピングしてそのまま敵を全滅させてた事あったし。
これからあの子の部下としてエリーを支えていくなら絶対に必要よ」
「…………え?」
さらっととんでもない事聞いたよ、聞いただけで痛い。思わず自分のお腹を押さえる。
「サウナででもあの子の右脇腹とか見てごらん。
見せたがらないだろうけど、痕だけでもさっきのお兄さんの比じゃないから」
「再生癒着人工皮膚でも治んなかったんですか?」
「一応、綺麗に治ったよ。でも肌の温度が大きく上がるとどうしても、その痕も含めて色々浮き出ちゃうの」
凄い覚悟、いや執念だ、そんなになってまで………。


「はい、おしまい。リズ少佐、終わりました」
「お疲れ様、ベル」現地指揮官とPDA片手に話していた少佐が振り返る。
「エリー、いいかしら。ベルとジーナも」小隊長全員を呼ぶ少佐。

「これから、ここの人たちをネストまで運ぶわ。
航空輸送を待ってたら時間がかかるし、残存勢力に対空型がいないとも限らないから
私達のストライカーに跨乗してもらって移動する事にしました。敵主力が健在で、いつ逆襲をしてくるかわからないので行動は速やかに。
そこで、一個小隊を残置してこの場で遅滞行動を展開、爾後の観測所確保作戦の下地を作りつつ一時退却、
可能であれば敵の攻勢を挫いて同地を保持します。いいわね?」
「うん」「わかった」「ええ」
「残置する遅滞行動組は第三小隊。エレオノール、貴女達よ」
「え?」「ですがリズ少佐」ベルさんとジーナさんが言いかけ、それを少佐が遮る。
「これは各人の能力を考慮した作戦です。変更はありません。
義勇軍司令部に要請を掛けて即動空挺部隊による援護も頼んでいます。それと、陸軍航空騎兵連隊の近接航空支援。

この二人は、両方とも戦略級魔女よ?言うまでもなくエリーは戦略級大魔女。
現時点で一番戦闘能力が高いのは第三小隊なの。経験不足は、エリーがカバーすれば問題ないわ」
アタシ達を目線で示しながら少佐が言い切った。
「…………了解です、少佐」「…………わかりました」

「というわけで、エリー、頼んだわよ」
「はい。でも、もっと弾が欲しい。センパイ」
「頼んでおいたから安心なさいな」少佐が朗らかに言った傍から、輸送機のエンジン音が聞こえ、無線が通信波を拾う。
『ノーム00、こちらカーゴ33。アプローチに入った。投下座標、変化なし。コンテナ投下5秒前。…ドロップ、ドロップ』
『ノーム23、確認した。サンクス、カーゴ33』『グッドラック、ノーム』外で警戒していたグレースさんが応答する。
「空挺投下弾薬コンテナ4つ、中身は市街地戦闘パックよ」「さすがセンパイ、バッチリです」
「セシール、クロエ」「「はいッ!!」」
「聞いてた通りだ。質問はあるか?」「ありません、中尉」「ありません」
「よし、じゃあ奴らを招待するパーティー会場の準備だ」
「「ya!」」





「さて、弾薬は空挺投下コンテナ4Assy分、それと後送組の置いてった分。泣いても笑ってもこれだけだね」
「だが、幸い市街地戦闘パックだ。キャニスター(120mm砲用ショットシェル弾)と近接防御榴弾は使えるな」
「エリー中尉、地下放水路の見取り図、ありました」
「よし」

あの後すぐに後送組が観測所の人員をストライカーで運び出し、アタシ達はまずPDA片手に遅滞行動の打ち合わせをした。
この観測所にストライカーで入れる地下シェルターがあったのでもしかしてと思って調べてみたところ、
やっぱこの町ストライカーがそのまま入り込める規模の外郭地下放水路が張り巡らされているみたい。
水の豊富な峡谷で水害に備えての事かな?本来の用途は兎も角、これは使いようによっては凄く便利だ。
後ろに回り込んだりできるし。

「ここの地下一階に繋がってんの、各トンネルの接続部立坑と調圧水槽だな」
「ここ以外にも接続部が2つあるみたいだね」「地上も、射界が限定されて近接戦闘になります」
「うん…………。セシール軍曹、こういう場合お前ならどう陣を敷く?」
うぇ、アタシですかぁ?!
「えー……。大目標が遅滞、副次目標がここの確保ですよね。
なら、まずここ(調圧水槽)に弾薬を集積して、最終的な防御陣地にします。それが済んだら、
残り二つの接続部立坑には進路を阻害するように爆薬と鉄骨の障害材を設置、後退後にネウロイに利用されるのを防ぐ処置をします。
そんで、ここの出入り口には弾倉を可能な限り増強したセントリーガンと知能地雷を。
IFFを有効にしとけば防御戦闘でも使えるし、あわよくば程度ですけど後退してから再確保戦まで保つかも。
全部終わったら、あとは掻き回しながらギリギリまで削って、いいタイミングで離脱で行けると思う………思います」
「うん、そうだ。それでいい」
「はぁふ…………」なんとか及第点…………、よかった。
「僕ならもう一ひねり入れるけどな」「うえぇ………」
「ふふ。じゃ、掛かろうか」「「はい」」





前方にテレビ局を見据える位置。
黒き異形は群れ成して、注意深く『敵』の射界からは掩蔽された位置を縫うように
テレビ局へと徐々に接近していた。


それを観察する高精度照準索敵センサ。
複合型スコープ上の二重サークル型レチクル、測定した距離と受動センサが連動し、
目標距離に対応し2重円内側の撃破圏サークルが徐々に狭まる。
同時に右上の有効射程表示が射程限界に近付いていく。

『状況開始』シュバアァンッ!!!!
間髪入れず発射。無数のタングステン・ベアリングが猛烈な初速で射出され、円錐状の空間に飛散する。
サークルに囲われた範囲が透明なハンマーで殴りつけたみたいに綺麗にグシャグシャになる。

敵『後方から』の射撃。
あんまり撃った事無かったけど、至近距離戦闘限定ならとんでもない威力だ。
流石に一発でAP数発分するだけある。リベリアンはえげつない物作るなぁ。

っと、気付かれた。さっさと撤収しなきゃ。

アタシの機は瓦礫にぽっかり空いた砲弾の破壊孔に膝立ち姿勢で
灰色のバラキューダ(広帯域擬装ネット)を被り、すっぽり収まっていた。
破壊孔から立ち上がり、マントのようにバラキューダを翻して『接続部2』へと後退する。
火器選択、HMG GAU-21 API-T(高速重機関銃 曳光徹甲焼夷弾)
ブララララララララララララララララララッ!
小口径機関銃以上の射撃レートで大威力の12.7mm重機関銃弾を掃射する。
クロエ程巧くは無いけど、追い縋る敵を叩き伏せるくらい楽勝だ。
どんどん後退、モノクルにはバックモニタを映して、ミラーでもチラチラ確認しつつ
どでかい地下用水路の入口みたいなスロープから地下トンネル、放水路2-3に後ろ向きに飛び込む。

飛び込むと同時、テレビ局屋上に布陣したエリー中尉が放った大遠距離射撃が弾着。敵を削る。
4キロ以上あるのによく中るな、ほんと。

削り切れなかった敵が追い掛ける様にトンネルへ入ってくる。
曲がりくねった水路の壁面にセットした偽装済み指向性散弾のリモコンを起動、T字路で待ち伏せ。
火器選択、GUN CN120-26-F1 HEAT-MP(120mm砲 多目的対戦車榴弾)
程なく敵が押し寄せてくる。馬鹿正直に追撃、単騎と見て油断しちゃった?

まず指向性散弾を起爆。
ゴボッ!!!!!!!!
狭所で音圧が凝集し、ストライカーの装甲を直接叩く。
煙が晴れる前に適当にHEATを撃ち込む。爆圧で煙が晴れ、敵の様子が露わになる。
タウルスを先頭に、多脚が多数。前列が壊乱して前進が停滞している。
さっきの砲弾が命中した多脚が内側から爆ぜ、その破片で周りのネウロイも大きなダメージを負ってる。

やっぱ、これだけ狭ければどう撃っても中るね。



「………ゴー・アヘッド」
履帯は使わず、歩行機動でゆっくりと敵に接近。弾種変更、キャニスター。
「リロード」ALSが薬室に砲弾を叩き込む。「ファイア」発射。命中。撃破。足を止めずに。
「リロード」ALSが薬室に砲弾を叩き込む。「ファイア」発射。命中。撃破。敵が怯んでも。
「リロード」ALSが薬室に砲弾を叩き込む。「ファイア」発射。命中。撃破。前へ…、前へ。
右脚部ユニットを持ち上げる。足下に擱座した多脚型とタウルス。
履帯を最大回転数に。圧し潰す様に踏みつける。ストンピング・グラップル。
圧潰、粉砕、蹂躙。何度も何度も、繰り返して叩き付ける。
履帯のグローサに砕かれた通路床面の破片が飛散して前下面装甲で弾けるまで踏み貫いてやっと止めた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、すううううぅ、はぁ」
総て撃破。これで敵の勢力は大幅に減じた。

機体をチェック「……………」
左肩部装甲が密着状態からの砲弾を受けて大きなクラックを起こしてた。
さっき蹴り潰した多脚だ。
貫徹してたらやられてた。この装甲、もう機関砲弾くらいしか止められないな。



「セシール」耳許でエリー中尉の声が聞こえた。ナノマシン通信。
「大丈夫か」「はい。敵殲滅、完了しました」

一瞬の間。
「そう」「はい」

「呑まれるなよ、セシール」「…………大丈夫です」「よし」
「『接続部2』の仕掛けを爆破。完了したら『接続部3』でクロエと合流。
地上の敵主力が正面からの突破を諦めるタイミングまで潜伏して放水路3-1に誘引しろ」
「了解」

障害構成用仕掛け爆薬の起爆タスクを起動、そのままラン。
地下構造全体が震える。センサで『接続部2』の入口が鉄骨と指向性散弾で閉塞されたのを確認した。
「閉塞を確認、33と合流する」
昏く狭い地下道を疾走する。暫く走り続け、やがて螺旋状のスロープを備え、
底部には谷川から流れ込んだ水を湛えた大きな円筒状の空間に出る。
スロープの中ほどで同型のT11 XXI AZURがこちらをセンシング、アタシに気付くと同時、
どでかくていかつい陸戦ストライカーが大慌てで近寄ってくる。
「セシールちゃん!!!」可愛らしい、でも切迫した肉声で叫ぶクロエ
「ただいま……気が抜けちゃったよぉ」へにゃっと笑う。
初陣にしては頑張りすぎだよね、アタシ。
「撃たれたの?!怪我は?どこも痛くない?大丈夫?」言いつつ、目視と触診、
テレメトリステータスを駆使してものすごい勢いでアタシのバイタルとストライカのステータスを総当たりするクロエ。
「だいじょぶだよ、クロエ」





テレビ局の正面、地雷帯を狙う計3機設置されたセントリーガン。
市街地戦闘パックの構成品。センサと同調した30mm砲が小刻みに敵を探す。
「ノーム32、31。33と合流、待機位置に着いた」『確認した。こっちはちょっと忙しくなるな』
「中尉、ホントに一人で大丈夫ですか?」「わたし達が行くまで、耐えてください」
『誰に言ってるんだ?セシール、クロエ』闘争に昂った声が返ってくる。
『敵主力を捉えた。各セントリーガン、敵影捕捉。射撃用意』ネウロイ群がテレビ局に迫る。

チリチリとした緊張感が漂う。
もう少しで先頭のネウロイが触雷する。あと5メートル………。


ドッ!!!!!

猛烈な土の柱を上げ、最前列のネウロイが吹き飛ぶ。
『オープンファイア』
エリー中尉の声。総ての火器が火を噴く。猛烈な弾雨で敵の最前列を灼き尽くす。
どんどん残弾が減っていく。こんな勢いで射耗したら到底続かない。
ジリジリしつつひたすら耐える。どうか保ってくれますように。
轟々と響く掃射音。敵影の減少に比例する残弾量。
70% 中尉のFLIR映像をMFDに呼び出して状況を確認する。敵影は無尽蔵に増え続けているようにしか見えない。
65% 敵の突撃は留まるところを知らない。勢いはむしろ増している。なんて数なの?!
40% 多脚型がセントリーガン2番機を照準する。
32% 発砲、セントリーガン2番機の映像が途絶える。
7% もうもたない!「中尉…………!」
『魔導加速、最大出力……!!』
FLIR画像に見慣れないシンボルが灯り、レチクルが特殊なモードに変化する。
『ファイアッ!!!』
ジッ

総てのセンサがブラックアウト。



ダアアアアアアアアアンンッ!!!!!
遅れて轟音、地震のような振動、
強固な立坑の内壁から細かな破片が剥がれ落ちる。
映像が回復する。敵の攻勢正面はその衝力を失い、徐々に退いていた。
今の、何…………!?
『32、前進用意。33、射撃支援態勢を取れ』「ya!」
すかさずエンジンを始動、回転数を戦闘出力へ。前進用意。
「……待って、セシールちゃん」「クロエ?」クロエが俯いたままアタシの手を掴む。
「………どうしたの、クロエ」
「セシールちゃん、行かないで……………さっきはたまたま運が良かっただけ………もう次は無いかもしれないのよ…」
「クロエ」ザラッとしたプラスティック装甲に包まれたクロエの肩にごついFCSグローブをはめた掌でそっと触れる。
「セシールちゃん」顔を上げたクロエの瞳は不安と喪失の恐怖に揺れていた。
「中尉が待ってる」力強く微笑む「行かなきゃ」
「だめ、だめよ。行かないで」「クロエ」クロエの手を取る。
「アタシを護ってね」手と手を合わせ、ヘルメットギアごしにこつんとおでこを触れ合わせる。
「……………うん」クロエの瞳を見詰める。
「じゃ、往ってくるよクロエ。
アタシたちラッキーだよね?市街地戦闘改修されてて助かったね?クロエ」
「うん」動揺していたクロエの瞳が、強い意志の光を取り戻した。



「32、レディ」「33レディ・トゥ・エイム」
クロエ機が立坑出口で精密射撃の体勢に入る。目と目を見合わせ、うなずき合う。

『32、前へ』「前へ」地上に躍り出る。
そのまま前進、通りを横切り、更に前へ。
大きな通り、眼前に蠍とも首無しケンタウルスともつかない敵の大群。
「らああああああああああ!!!!!!」吼えながら突撃、HEAT弾を叩き付ける。
後方からクロエも重機関銃で超過射撃を仕掛ける。敵の注意が完全にアタシとクロエに引き付けられる。
そこへ遠距離からエリー中尉の放った知性化砲弾が絶妙なタイミングで殺到する。
「こんの、カニ野郎!!!!!」『よし、走れセシール!!!』『セシールちゃん!!』
HEATの残弾がどんどん減る。敵が迫る。

今ッ!!
パシュン!
少し気の抜けた音を立てて近接防御榴弾が全周に射出される。
そのまま数メートルまで上昇し、調整破片の猛風を巻き起こす。
敵が怯んだ隙に元来た道を全力で駆ける。敵も付いてくる。同じ手に掛かるなんて迂闊な連中だ。
立坑へと飛び込む寸前、6時方向からの被照準警報が鳴り響く。やばい背面から撃たれる!!
ガン!!!!猛烈な弾着音、でも被弾による損害評価はモニタに出ない
「クロエ?!」クロエがアタシの背中を庇うように立ち塞がり、その装甲で敵弾を受け止めていた。
「セシールちゃん!大丈夫?!」「や、アタシよりクロエの方こそ」
スロープにカバーし合いつつ飛び込みながらお互いに言い合う。
「大丈夫よ、ほら」セシール機の装甲表面にはどこか優美で複雑な魔法円が輝き、
装甲表面で敵の砲弾は砕けていた。侵徹すらしていない。「相変わらずムチャクチャなシールド強度だなぁ」
「なぁに?守ってあげたのに。わたしがいなきゃだめね、セシールちゃんは」「ああうん、ごめんよぉ………」
『二人とも、お喋りもいいがちゃんと走んないと追い付かれるぞ。ここでトチッちゃ台無しだ』
「やー」「ya」この人といれば、大丈夫。そんなふうに感じ始めてる。こんな状況で、
未だに勢力差はいかんともしがたくて、追い掛けられてる最中なのに。

指向性散弾とキャニスター弾で牽制しつつ走り、どんどん後退する。
前方に明るく大きな空間、調圧水槽だ。
「主陣地へ到着!!!」『敵が全部そこに入るまで耐えろ』「「ya!!!」」

天井に水銀灯が等間隔に灯り、巨大なコンクリート柱が並ぶ空間、面積はアリーナほどもある。
床には水が張り、敵の歩兵型の移動の自由を奪う。

コンクリート柱に隠れ、事前に置いておいた弾薬と燃料を補給しつつ入口の敵をけん制する。
「中尉も大概無茶だよなぁ」「うん、でもたった一個小隊であんなにいる敵を翻弄できてる。わたし達でもやれるんだね」
「そりゃあ、何たってアタシら二人だもん」「そうね。それに、エリー中尉もいるわ」お互いに笑いあう。
二人同時に敵を撃つ。だけどどんどん数が増える。隠れていたコンクリート柱が被弾で齧られたリンゴみたいになる。次の柱へ。
撃つ、下がる、撃つ、下がる。不安は感じない。恐怖も。
ジリジリと退き、後方にある放水門に近付く。
ぬぅっ、と巨大な大型陸戦ネウロイが侵入してくる。


最後尾の敵が調圧槽に入る。
「今だよ!中尉!!!!」
『了解した、タービン最大出力!』




キイイイイィィィィィィン…………!!
どこからか、ガスタービン機関の稼働音が響く。

ズズズズズズズズズズズ…………
微細な振動。お腹に響く重低音。戦闘が止まる。



ドッ!!!!!!!!!!!
入ってきた通路の脇にある金網から、四角形の瀑布が真横に噴き出す。
巨大な調圧漕があっというまに水没する。
入口の扉(というより水門)はシャッターの様に分厚い鉄の門が放水と同時に降りている。
「セシールちゃん、行こう!!」「うん!!!」
放水門の傍にある緊急避難扉に飛び込んで締める。潜水艦の耐圧扉みたいなハンドルを二人がかりで回す。
分厚い扉越しにも、猛烈な水圧と激流の振動が伝わる。
「はぁふ………」
二人とも、全身ずぶ濡れだ。髪から水が垂れる。
「ぷっ」「ふふ………」


非常排水タービンによる緊急放水で敵を圧し流す。
中尉の『ひとひねり』だ。何とも破天荒っていうか、ムチャクチャっていうか。
『まだ終わりじゃないぞ、セシール、クロエ。上に来い』
「了解………やれやれ、いこっか、クロエ?」「うん」





地上では、放水門からダムの緊急放水みたいに水が出ていて、
そこを一望する二階建てのビルの上にエリー中尉が仁王立ちしている。
「中尉……?」
「セシールちゃん、あれ………」「あっ」

やがて放水門から、大小さまざまなネウロイが一気に川へと流れ墜ちてきた。
歩兵型は瀕死だし、多脚もその動きが鈍い。海洋型ネウロイではない奴らは、
一部の変種を除き水を嫌う傾向がある。

『ノーム30、レディ・トゥ・チャージ』「32レディ」「33レディ」



『いや、待て』そう言って中尉は不敵に笑った。
『いい機会だから、お前らに本物の猟兵突撃ってモンを見せてやる』
持ち上げた両手には、セントリーガンから外した30mm砲が一門づつ握られている。
『よく見ておけ』それを両脇に挟み込むように構え、


ヴヴヴンンンン………!!!
中尉を中心とした球状の範囲が薄暗くなるように歪曲した。
魔素による事象書き換え、余剰魔力が空間の歪みとして発散されてるんだ。
強烈な魔力を叩き込まれた魔導エンジンが悲鳴を上げ、排気口のアイリス板が油圧作動音と共に窄まり、
全身の関節部から覗く内部機構が紅く輝く。
その瞳は抑え切れない闘争の焔を上げ、紅い髪は紅蓮の炎の如き輝きを放ちながらさわさわと踊る。



『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!』
咆哮。同時にストライカーから突き出た5本のインテグラルアンテナが過剰な魔力で紫電を迸らせ
全帯域・全周に暴力的な電磁パルスを放射する。これじゃ電子戦どころじゃなくてもうEMPバーストだ。
「うううッ!!」「きゃ……!」
電子の暴風にストライカーが自動で防御処置を取り、ヴェトロニクスが総てカットオフされてロックされる。


敵ネウロイ群が『気絶』した。

『RUUUUUUUUUUUUUUUU-SHU!!!!!!!!!!!』
エンジンのアイリス板が全開になり、ショックダイヤの赤い奔流を吐き出して、
足下のビルを踏み切った蹴り足で倒壊させて中尉が弾丸のように『跳』んだ。
そのまま空中を低伸する放物弾道で吹っ飛びながら敵中、川面に着地、水底地雷が炸裂したみたいな水柱を上げる。
両手の機関砲を水平に広げ、超信地旋回しながら踊るように発砲。
機関砲の域を超越した砲弾の威力に敵が砕ける。
撃ち尽くした機関砲を空中に放り、バレルを掴んでメイスのように振り回す。
敵が成す術もなく喰い殺されていく。やがてその衝撃に耐え切れなくなった機関砲がバラバラに砕けると、
その巨大な両脚ユニットを旋風のように振り回し、蹴りのみで敵を屠る。

放水門から、大型陸戦ネウロイが現れる。
『魔導加速、最大出力………!!!』
ブウゥゥン!!!
中尉のストライカー全体を包み込むように立体魔法陣が展開する。
シールド・ソーサリー?いや、あの図形は……、


………………………ッッッ!!!!!!!!!!!!!

ザリッという音を残してマイクがカットオフされた。川の水が吹き飛び、一瞬川底が露わになる。
アタシもクロエも無様に転倒してしまう。
大型陸戦ネウロイは全身を粉砕され、跡形も無い。



やがて音が戻ると、川には、中尉だけが立っていた。
『状況終了、敵殲滅。………何寝てんだ、お前ら』
「…………エリー中尉、なんですか今のはぁ……」「あううう」
『僕の魔法さ。ガン・バレル、魔導加速徹甲弾。まぁ、厳密には固有魔法じゃないんだけど同じ事だろ?』
戦艦ですか、あなたは。

中尉のストライカーはネウロイの返り血で刺すような赫に染まっていた。
なるほど、それで戦闘中は赤色に見えるんだね。

『まぁ、兎も角終わったな。結局殲滅しちゃったけど、どうすっかねぇ』
「はぁ………」「もう、弾ありませんね」
今のアタシ達じゃ、ここの確保は出来ない。




ザバァッ!!!
「ッ!!!!」
突如、水中から多脚が飛び出し、エリー中尉の顔面に砲を突き付ける。
「中尉!!!!」『MERDE!!!』
ダメ、間に合わない!!


バクンッ!!
弾着音。でも中尉は無事だ。多脚がそのコアに孔を開け、全身を粉々にする。
一体………何が。




『相変わらず後ろが甘いな、嬢ちゃん』

「?!」統合軍共通通信周波数で、若くて涼しげな男性の声が聞こえた。
『………またお前か!!!嬢ちゃんじゃねぇ!!!エレオノール・ベネックスだ!!!このピーピング野郎!!!!
てゆーかいい加減名乗りやがれ!!!!!あと名前覚えろ!!!ノーム31、エレオノール・ベネックス猟兵中尉だ!!!!』
『ふん、まあ無事なようで何より。後は俺達が引き継ぐから、さっさと帰りな』
『なにいぃぃぃ?!てめぇなんざの助けはいらねぇよ!!!センパイが戻るまで僕らだけで十分だ!!!』
「あの……中尉?」『んだよッ?!』
「誰ですか?」
『こりゃ失礼、俺は義勇軍所属のスカウトスナイパーだ』『扶桑の覗き野郎さ』「はぁ」
『おいおい、随分だな?せっかく助けてやったってのに。
それに、扶桑はガリアに部隊は出して無い事になってんだよ。少しは大人の事情を汲めよ、嬢ちゃん』
『うるさい!!!お前の助けなんていらなかったさ!!!!』
『はぁん?俺の助けがなきゃお前さん、今までもう27回は死んでんぞ』
『ぶ………ぶッ飛ばす……………!!!今日こそお前をぶっ飛ばしてやる!!!!!!』
エリー中尉が砲を山の中腹に向ける。うあ、怒りで眼から余剰魔力の焔出てるよぉ………。
『はん、俺のクロスヘアに捉えられっぱなしでよく言うぜ』『んだと…!?』
『やってみるか?外したら、お前さんのナガグツに怪我しないように優しく一発くれてやるよ』
『ウグルルルルルルルルル…………!!』
「中尉どうどう……!!」「ちゅ、中尉……!!」
慌てて近付き、中尉を二人がかりで抑える。

『騎兵隊のお出ましみたいだぜ』
「え?」「ふん、みたいだな」
やや遅れて、ティーガ攻撃ヘリのローター音が聞こえてきた。
『こちらジャッカル43、ノーム31、聞こえるか』
「ジャッカル、良好だ」
『これより我々がこの戦区の直掩を引き継ぐ、お疲れ様』
「ジャッカル、ノーム31了解。現在この戦区に敵はいない。
現在状況の詳しいデータを送る。TACデータリンクを同調してくれ」
『そいつは助かるな、それにしても、よく持ち堪えたな』
「楽勝さ。誰に言ってんだ、ジャッカル?」データを送信しつつ不敵に微笑む中尉。
『頼もしいな、また機会があったら一緒に戦おう、ノーム。ジャッカル43、アウト』
「ああ、こちらこそ。ノーム31、アウト」

低空をトリガトミサイルとガンポッドを満載したティーガ4機がフライパスする。
高度に進化した攻撃ヘリは固定翼攻撃機に匹敵する火力と電子戦能力を獲得するに至っている。
その上、狭小な地形での戦闘能力は折り紙つきだ。頼もしい限り。


『ノーム31、ノーム01、聞こえる?エリー』
「よく聞こえます、センパイ」続いて、ベアトリス少佐の声が聞こえる。
『状況は確認したわ、よくやってくれたわね、お疲れ様』
「いえ、僕はいつも通りですよ。こいつらのおかげです」
『そうね。セシールさん、クロエさん、散々な初陣で申し訳ないわね。お疲れ様』
「はい、いいえ、少佐。エリー中尉がいれば大丈夫です」
『…………本当に、よく生き残ってくれたわ。帰ったら、皆でパーティーをしましょう』
「その時は、僕がまた腕を振るいますね」『ええ、お願いね?エリー』

『また、エリーを護ってくれたのね。ありがとう、スカウトゼロ。お礼してもし切れないわね、貴方には』
『構いませんよ、アイス・ノーム。麗しい貴女の頼みだ。俺が約束を違えると?』
『そうね、………ありがとう、本当に』
「おいゴルゥア!!!何ドサクサに紛れてセンパイ口説いてんだヴォケッ!!!!
しかもなんでセンパイにはコールサイン教えてんだよ!!!!
スカウトゼロだぁ?!お前なんざピーピング・トムで十分だ!!!!!」
『五月蝿い嬢ちゃんだな、レディと話してんだから邪魔しないでくれ。
作戦上コールサインを通達すんのは当然だろうがよ』
『まぁ、ふふ』「センパイッ!!!!!!」


「なんか、仲良さそうだね、クロエ」「そうね、セシールちゃん」
取り残されるアタシらだった。







前進拠点での宿営。現在中隊は、ノームネストから離れ、ロマーニャ側近くまで敵陣深く斬り込んで潜伏していた。
独立機動部隊を以て戦線後方の意思疎通ノードを潰して、人類側の地中海ハイヴ侵攻作戦を容易にするためだ。
独立機動部隊の指揮官はノーム01、ベアトリス中佐。
ノーム中隊の編成は、あのフソウ・ネイビーの少佐にちゅういが引き抜かれてから補充されていない。
つまり、第1、第2小隊と中隊本部、ベアトリス中佐とその直掩に入るアタシ達二人の9騎編成。
昼の攻撃が終わった後、戦域統制機は帰ってしまったので、ここにいるのはアタシらだけだ。

ストライカーを装備したまま、交代で眠り、明日に備える。
後部ラックには、長駆侵攻用の増漕及び弾薬、食料が満載されている。
「…………」右隣では、クロエが静かな寝息を立てている。

暖かな毛布にくるまって眠りたいところだけど、いつ奇襲されるとも知れないのでそうもいかない。


虫の羽音が聞こえるほど静かな夜。

………虫?
暗視モードに切り替えた照準器で虫を見る。
「偵察型バグネウロイ!!」消音器を装備したファマス・コマンドフェリンで撃ち抜く。
「中佐!!!」「ええ」バグは潰したけれど、これでここは知られてしまった。
すぐに奴らが来る。

「ノーム00、戦闘用意。全機起動。モード、サイレント。エンジン始動のタイミングは私が指示します」
『10レディ』『20レディ』ベルさんとジーナさんが応え、中隊全体の戦闘準備が整う。


闇の奥で奴らが隙を伺っている、センサは沈黙したままだが気配を感じる。

ジッ!!
赤色発光!!!距離700!!!
『イグニション!!!ミリタリー!!!!』中佐が叫ぶ。
9機の魔導エンジンが吼える。
『これより00は敵との接触を断ち、攪乱しつつ集結地2へ移動する!!10、20、01の順!!前へ!!!』
9門の砲が交互にカバーし合うように吼え、二連射したら下がる戦い方で射撃と後退を繰り返す。
敵の数は判らないが非常に不利であることだけは確かだ。

「だめだよ………逃げ切れないよリズ中佐!!!!!」「くぅ……!!」
「ふッ!!!!」クロエが中佐を庇う位置でシールド展開。集中射撃を弾く。
だが、10発近い砲弾を連続で被弾し、耐え切れずに転倒する
「あうっ!ひぅッくあ!!!」「クロエッ!!!」
すかさずカバー。クロエのようなシールドは無いけれど、防御しつつHEAT弾を射撃して耐える。
「……大丈夫、ありがとうセシールちゃん………」「大丈夫なもんか!!!早く下がって!!!!!」

「ッ!!!ATM!!!!!」
対戦車ミサイル型ネウロイが4体、怒涛の勢いで特攻してくる。

近接防御ランチャからフレアを射出してダッシュ、岩陰へ脳震盪気味のクロエを引き摺る。
岩が被弾して体積が一気に半分ほどになる。

誰か、助けて……………エリーちゅうい………。





『こちらエクスレイフライト、TACネーム、ノーム。地上の部隊、聞こえるか。
これより貴隊の援護を行う。10秒後EMPバースト、続いて対地射撃に移行する。対電子防御態勢を取れ』
「えっ」その声、『対電磁シールド、フィルタ起動!!!』中佐が叫ぶ。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
咆哮。虚空で紫電が瞬き、闇に溶ける暗黒色の航空用ストライカーが4機、一瞬だけ浮かび上がる。
瞬間、強烈なEMPバーストが炸裂し、敵ネウロイ群が『気絶』する。
両翼下に巨大な電子戦ポッドを装備したラファールD-X、試作機が何で前線に?!
いや、それよりもあのウォークライ、やっぱり………

『RUUUUUUUU-SHU!!!!!!!!!』
ドヴォ!!!!ヴォオオオオ!!!!!ヴォオオオオオオオオオ!!!
猛烈な30mm曳光弾の奔流が、次々とネウロイの装甲の薄い外骨格上面へと炸裂する。
『エリーさん!!!突っ込み過ぎですわ!!!!』『ならカバーしてくれ!!!頼むぜモリー!!!!』『もうッ!!!』
『やれやれ、隊長が一番突撃してちゃ世話無いわね』『ティツィー、遅れるよ!』『わかってるわリョーコ』
4機のラファール戦闘脚がその翼下とランチャに抱えた火力を遠慮会釈なく叩き付け、辺りは昼間のように明るくなる。
やや距離を開けた位置で移動要塞型ネウロイ『ジグラッド・ドーラ』が
のっそりとその短い脚を動かしてこちらへと砲口を向けるのが炎で照らされて視認できた。


『ブーマフライト、バロネスだ。地上の部隊、誰でもいい。照準レーザを奴に照射してくれ。ウチの小娘が突撃に夢中でな』
『うるさいぞ涼!!!だったら対空型片さなくていいのかよ!!!!』『両方やればよかろうに』『あぐぐ……!!』
ドッ!!
敵の対空型が火を噴いて大破する。
『いい加減、6時を見る癖を付けたらどうなんだ、ベネックス』『ザキ、すまん、助かった』『ふん』
CV-22特殊作戦機からの射撃だ。

「エリー………涼……崎山さん……」中佐がポツリとつぶやいた。
「中佐、リズ中佐……」アタシはそんなどこか陶然とした表情の中佐に声を掛けた。
「ええ………」こちらを向き、うなずくリズ中佐。


爆撃誘導用照準レーザをジグラッド・ドーラの腹部、装甲外骨格の薄い部分に照射する。
「ノーム02、バロネス。照射開始。レディ・トゥ・エイム」
『ノーム……………セシールなのか?』「はい、ちゅうい。お久しぶりです」
『生きてたんだな………よかった』
『そのへんにしておけ、エリー。リーヌ、喜美佳、行けるか』
『マーク。ハイ、いつでも』『大丈夫です、マーク』『よし、ブーマフライト、アプローチ』
『行っくゾー!!!!』『ショーコちゃん、前に出過ぎよ!』『ティーこそもっと前来なヨ!!!!』
ハードシールドを展開した二機を先頭に、
F15系の戦闘脚が6機、Ⅴ字フォーメーションでジグラッド・ドーラに接近していく。

当然敵は猛火を放つが、チャフとフレアを撒き散らして誘導弾を回避し、
実体弾をシールドで弾きつつ6機はどんどん圧し込んでいく。

「すごい……」
『ブーマフライト、ピックオフ』
各機4発、全24発の大型貫通爆弾が一斉に投下される。
猛烈な弾着音。ジグラッド・ドーラの外骨格が半壊してコアが曝け出される。
『路は出来たぞ、見せてやれ、エリー』『うん!ノーム、バスター!インダッシュ!!』
戦闘開始から青紫色に輝き続けるエリーちゅういの機が、アフターバーナーを焚いてまっしぐらに降下突撃する。
『魔導加速、最大出力…………!!!』『全機、1000ftまで退避』『対ショック防御!!』
機体全体が立体魔法陣で包まれる。バロネスの号令で飛行隊が上昇回避、リズ中佐の号令でノーム中隊が全員膝立ち姿勢を取る。


『イコライザ、ファイア!!!!』

エリーちゅういが手に持った巨大なガンポッドが爆音とともに出鱈目な光の奔流を吐き出す。
シャワーのようなそれをもろに浴びて、ジグラッド・ドーラがお湯を掛けた氷細工のように原型を完全に失う。
衝撃波で地面が揺れる。


『こちらは全部撃墜したわよ、涼?』
上空、高いところにステルスストライカーが4機チラッと見えた。
それと、撃墜されて燃え墜ちる6機のイシュタルtype1
『了解だ、ヘレーナ』



『状況終了、敵殲滅』
「相変わらず、滅茶苦茶ね、涼」
『お前こそ、そんな数でこんな所まで斬り込むとは無謀極まるな。顔に似合わず、激しい女だ。恐れ入るよ、ベアトリス』
『センパイ!って、えっ?センパイと涼って顔見知りなのか?』
『…………本当に憶えていないんだな、お前は』
「仕方がないのよ、涼…………」
「リズ中佐?」
「ああ、ごめんなさい、セシールさん。あのひと、私の古い知り合いなのよ」
「そうなんですか」
「貴女達も、エリーに声かけてあげなさい?」「はい」「ハイ」

「えっと、エリーちゅうい?」
『ああ、……久しぶり、セシール。クロエもいるのか?』
「はい、中尉」
「べルさんもジーナさんも、みんないますよ」
『そっか、そっか………。みんな、元気?』「うん」「はい」


『ここにいるってことは、ハイヴ攻略戦か?』「そうです」
『そっか、じゃあ、また会うかもな』「その時は、お願いしますね」『ああ』
『なぁ、』『ビンゴフュエル、時間だ。エリー』
『…………わかった。それじゃ、センパイ、セシール、クロエ』
「ええ」「うん」「はい」
『また、な』

『ベアトリス中佐、またいずれ』
『オールウィッチ、RTB。ベアトリス、また会おう』
「ええ」



エリーちゅうい達、行っちゃった。
「私達も移動しましょうか。皆?」「はい」
次の集結地点へと静粛歩行機動で移動しなきゃ。



なんとなく、

そんな気分だったから、

透き通るようなソプラノの高音で、
再会の喜びと別れの寂しさを乗せて、ささやくように。




Mon petit oiseau
A pris sa vole

クロエが加わる。美しいアルトの響き。交わり、響きあう二重奏。


Mon petit oiseau
A pris sa vole

A pris sa, à la volette
A pris sa, à la volette

A pris sa vole



ちゅういがよく歌ってた歌。
歌えた、あたしたちも憶えちゃってた。

「セシールさん、クロエさん………」
「リズ中佐、エリーちゅういが帰ってくるまでは、アタシらが中佐を護ります」
「だから、もっと、わたしたちを頼ってください。ね、セシールちゃん?」
「ん」

「ええ………ありがとう、二人とも」
「アタシらを忘れてもらっちゃ困りますよ、隊長」「そうね、ジーナ」
ベルさんとジーナさん、1小隊と2小隊の皆も微笑んでいる。
「わたし達皆でノーム中隊なんですから」「あいつが帰って来る時まで、全員生き残りましょう」

「ありがとう、みんな…………」
「へへ………」また眼にゴミ入っちゃったみたい。みんなもだ。
ここ、埃っぽいなぁ、エリーちゅうい、遠慮無く耕し過ぎだよ。
すっと、自然に、魔女達が消えた空を仰ぎ見た。


―――またね、中尉?







―――はばたいて、僕の小鳥―――


おしまい



[24398] その水はいくらですか?
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:037792cd
Date: 2011/02/25 21:54
この水はいくらですか?



「………………あづいいいぃぃいぃ……」

「セシールちゃん…………黙って」「ひあっ」
ストライカーに隣接した掩体の中で、タープの作り出すちっぽけな日陰の中でアタシと並んで砂に横たわり、
ぐったりと虚空を睨んでいたクロエが珍しく猛烈な苛立ちを込めてアタシを睨み、
地の底から響くような非常にドスの効いた声を出す。

こわっ!

普段あんなに着弱げな大きな目が細められるとこんなに鋭い眼光を放つとは…………。

クロエはそのまま不快感も露わに寝返りをうち、アタシに背を向ける。
「…………折角………折角、やっと思考から『暑い』って言葉を消し去ったのに………」

「あうあう……」アタシのバカ。
こんなに不機嫌なクロエは初めて見た、早く謝らないと。ただでさえ暑いのに焦燥で余計に暑く感じる。
アタシはクロエに四つん這いで近付いてその体を両腕で跨ぎ、何とか目を覗きこんで許しを請う。
「ご、ごめんねクロ」「暑苦しいから近寄らないで」

「あうううああぁ」もうなんだか切なくなってきて、アタシはフラフラと立ち上がり、
自らの愛騎、ルクレールシリーズⅩⅩⅠ T11-model‐Tropicに近付き、攀じ登って前面装甲の陰で丸くなろうと近付いた。

タープから出ると、ただちにアタシの頭頂部に猛烈極まるギラギラとした直射日光が殺意を持って突き刺さる。
ノロノロとした動作で頸に掛けたブッシュハットの顎紐を手繰り、頭にハットを乗せて一息つく。

見上げるとどこまでもアホみたいに青い青々とした、いやもう群青に近い、蒼すぎて暗く見える空。


のったりと右を見る。
少し離れてエリー中尉のステルス・コーティングで真っ黒い要素研究試作型ストライカー、モデル2025が
戦闘機動待機姿勢(フレームと人間の骨格からして違うから微妙だけど、低めの中腰、とでも言えばいいのかな?独特の姿勢)で
電源車から太い有線ケーブルで大電力を供給されながら保有する総ての高性能センサ群をフル稼働して索敵中。

そしてその足元、顔に文庫本を乗せて堂々とハンモックで眠る中尉
(多分、うつらうつらしつつナノマシン通信でセンサ情報を意識野に導入してる。………イルカ?)
泰然としすぎてて逆に頼もしい。

その向こうはどこまでも、どこまでも、どこまでも砂。

文庫の紙表紙に中尉の毛先に向かって黒から赤へと変化するメッシュを掛けたような髪が零れている。
本人は「血の色みたいだ」と言って好きでは無いみたいだけど、アタシは好き。純潔でありながら熱血、そして焔のような中尉そのものみたい。
さらさらでとっても綺麗。



ああ………、優しく梳いてあげたい、ううん、是非とも梳かせてほしい。うふふふふふふゅふゅ………

っおあ、暑さのあまり理性がトびかけてしまった、いかんいかんいかん…………。


今度は左を見る。
砂漠迷彩色に塗装され、熱帯仕様のテストオプションを組み込まれたアタシ達のストライカーが砂色のバラキューダを被って
アンブッシュ射撃姿勢(体育座りと腹筋の途中みたいな姿勢の中間、足の間から主砲を突き出した状態と表現したら多分一番近いと思う)
を取っている。

その向こう、どこまでも、どれだけ遠くを見ても砂砂砂砂………。

ああ、違った、低空をカールスラント陸軍のティーガ攻撃ヘリがパトロールしてるのが見える。
それと擬装された味方の天幕のてっぺん。暑すぎて逃げ水のオアシスに天幕が浮いてるみたい。





ああ、素敵………南国のりぞーと…………。

っふぁぁあ?!アタシは何を?!今何処へ逝き掛けた?!?



ここはアフリカ、サハラ。
通称サハラ・ライン、人類防衛線やや後方、機動予備陣地。
アタシ達は一時的に故郷ガリアを遠く離れ、海軍、つまり正当ガリア派に代わって自由ガリア空軍の支援のため
はるばるアフリカまで来ていたんだった。
そうだった、何とか正気を取り戻した。

………まぁ、何で本土反攻作戦の主戦力たるアタシ達がこんな所まで来て現地ガリア陸軍と共に空軍を助けなきゃならないか、
という事情の所は正直知りたくもないし知る気も無いんだけど、任務なので一応おさらいをしておこう。

ここ数か月、サハラ・ラインでは主力となるカールスラント陸軍の被害が原因不明の急増を見せ、
火消しに奔走するガリア空軍の負担が大きくなった。やがてそのワークロードは空軍派遣部隊のキャパシティを超え、
困窮した空軍司令部が取った判断はかつて袂を別った自由ガリア海軍、つまり正当ガリア派への救援要請だった。
しかし地中海の封鎖任務にブリタニア、ロマーニャと共に当たるガリア海軍は先ごろ起きた大攻勢によって損害を受け、
特に虎の子の正規空母シャルル・ド・ゴールを含む地中海艦隊の再編成で手一杯であり、
とてもではないが戦況を打開するほどの大戦力をアフリカに投入する余力など無かった。

そこで白羽の矢が立ったのが栄えある我がガリア共和国陸軍、オルレアン独立試験猟兵連隊、第3機械化機甲歩兵中隊というわけ。
航空戦力(ラファールM戦闘脚装備部隊)の代理として陸軍機甲部隊を派遣するのに違和感を感じるかもしれないけど、
それは先入観に囚われた大きな間違いだと思う。

何故ならアタシ達はガリア機甲猟兵、勇敢なる猟兵ウィッチは真のウィッチだ。
地を駆け、低く這い、敵に忍び寄って重厚なる一撃となる戦いは飽く迄アタシ達の一面に過ぎない。
アタシ達は、アタシ達ガリア猟兵は空から舞い降り、敵の喉笛を致命的に喰い千切る。
空挺機動作戦能力を有した戦略機動作戦単位なのだ。

そしてなにより、我が第3中隊にはあの人がいる!
アタシは勢い込んで右を見る、猟兵中尉、エレオノール・ベネックスの頼もしい姿を!!


中尉は顔に載せていたペーパーバックを地面に落とし、どこまでも平和で幸せそうにガン寝していた。
と、突然むずがるように表情を歪めて困ったように眉を寄せ、左手で自分の頬を思いっきり叩いた。


……………?


虫を追い払ったようだ。
へぇ~、砂漠って蚊、いるんだ…………じゃなくて。



………まぁいいか。

最前線ではないから安全かと思うかもしれないけど、ここは実はその逆
戦線で劣勢な部隊が発生した場合、おっとり刀で突入する騎兵隊の休憩場所、
とどのつまり地獄に向かって一直線の特等席だ。
休める時に休んでおかないといつお呼びがかかるか知れたものじゃない。

優勢になったらなったで、今度は(敵の前衛が待ち構える)敵陣に切り込み(手負いになって死に物狂いの)敵を仕留め、
戦果を拡張せよ、と来るのだから堪ったもんじゃないよな。

後方を振り返ると、ご丁寧に野戦飛行場では現場が遠かった時に備えアタシ達専用に用意された空挺作戦強行突入仕様の
MC-17タクティカル・グローブⅢが3機、常時待機している。
(電子戦装備、対空火器欺瞞装備等で生存性を飛躍的に向上させ、更に出力の強化で速度性能も強化されたが、
航続距離とペイロードを犠牲にした輸送任務には不適な空挺部隊専用の贅沢空挺作戦機だ)

「………セシールちゃん、なにしてるの?」
クロエは上体を少しだけ起こして肘で支え不審と心配が半々くらいの眼差しをアタシに投げた。
しなだれるような姿勢でフライトスーツ
(猟兵は空挺作戦が予想される場合、通常の耐火耐熱与圧防護装甲服、つまりいつものツナギではなくて、
前述の物に更に対G機能が追加されたフライトスーツ、まぁ見た目が多少ゴツくなったツナギを着る)
の胸元を肌蹴ていて、汗で透けたインナーシャツと汗で光るむっちりした谷間が丸見えで……、

「っごく…」
その何だか酷く肉感的で煽情的な光景に思わず唾を飲み込む。

「そんなとこにいると倒れちゃうよ?……さっきは言い過ぎてごめんね、こっちで一緒に休もうよ」
あああいかん………アタシの中のナニカがそれ以上は考えるなと警告してる。
クロエはただ、機甲猟兵ツナギより通気性が悪いフライトスーツの暑さに耐えかねて胸元を緩めてるだけなのに。

ていうか、クロエから見たらアタシ、ふらふらと自分から酷暑の日向に出て、
のったり辺りを見回してただけ(まぁその通りなんだけど)だ、超挙動不審だ。

「う、うん、わかった」
体脂肪率(どこの部位がかは敢えて触れないで欲しい。いやホントお願いだから触れないで)が高めだと、
暑い時いろいろ大変なんだ、それだけだ。


アタシは元いた位置、つまりクロエの隣で寝こけるという光栄に与るお許しを貰って、
そそくさとちょっと浅い掩体に入り、タープの作る日陰でクロエの隣に寝転んだ。

「ふふ……」「なんだかなぁ」


ふと甲高いタービンエンジンの音が聞こえ、空を見るとラファールMの編隊が飛行機雲を曳いて高空を飛んでいた。

そういえば、海軍も少数精鋭で若手のウィッチを送り込んだんだっけ………。確か、その人達もスクール生だとか………、


そこまで考えて、アタシは浅い眠りに落ちた。
傍らから優しく見下ろすクロエの視線を感じながら。



その日は、久し振りに一度も出撃が無かった。





5日後、アタシ達は仮設前線拠点で現地部隊と共に警戒監視を行っていた。
「ノーム32、31、こちらは異常ありません……水、飲んでいいですか?」
『了解、そのまま監視しろ………交代が行く。水は我慢だ、……セシール』
「……もう、む………り」
『あついです……』クロエも弱音を吐く。

『我慢だ………根性の見せ所だ』
と言いつつ中尉の声も死んでる。

のったりと右を見る。


掩体、いや塹壕かな?の中でカールスラント陸軍とガリア陸軍の機動歩兵のお兄さんたちが
高価な電子戦装備を内蔵したアーマーを脱ぎ捨て、Tシャツ姿でぐったりとへたばっている。


そのまま頸を捻って視線を左へ。


カールスラント陸軍のレオパルド2A6EXがいる。FCSが視線を追って視野に勝手にズームが掛かる。
レオパルド・テイマー(統合軍内でも特に勇敢なカールスラント重機甲兵は尊敬の念を込めてそう呼ばれる)のウィッチが
口元の飲料水チューブを吸っている、と思ったら止めた。


…………

物足りなさそうにチューブを眺める彼女。
葛藤がここからでもありありと見て取れる。

あ、また飲……止めた。


涙目だ。

うーん。


なんか気になったので後ろ、というか下を見る。
「おあっ!」

アタシのストライカーが作る影に歩兵のお兄さんたちが蝟集していた。
虫か!
「そんなとこいたら踏んじゃうよおにーさん達!」
「ああわり……踏まれても日向よりゃいいから気にせんでくれ」
まぁ分かるけどさ。

「はぁ………」
「セシールちゃん、お疲れ様………」
クロエ機が近付いてきた。
「ああ、おつかれ。特に異状ないけど、暑いから気を付けてね。っあ……ごめん」
判り切ったことを思わず言ってしまう、またクロエ怒らせちゃうかな。
クロエはくすっと笑って力無く微笑んだ。
「もういいってば、ごめんね、セシールちゃん」
「ああうん」

言いつつ、アタシは半地下掩体へと戻る。


コルゲートメタルを掩蓋部に使用した半地下陣地、急造にしてはいい出来のそれに降り、
機体を降着姿勢にしてシステムをシャットダウンする。

「あら、おつかれさま」
中隊長のベアトリス少佐が出迎えてくれる。こんな暑さの中でも隙が無い。
奥では皆思い思いのスタイルで『怠惰』という題名の前衛アートを展開している。
エリー中尉も、無線機の載った机に付き、手をだらりと垂らしてヘッドセットを付けた頭を机上に横たえ、突っ伏したまま交信している。
髪が汗で首筋に張り付いてる。こうして見てるとホント子供みたいだ。

「これはひどい………」
「まあそう言わずに……はい、エリーの作った冷たいスープよ。水分と塩分」
メスキット(飯盒)に盛られた冷製スープを渡される。

一息に飲み干す。
「…………ふぅ~~~」

至福ってこういう時に使う言葉だと思う。
冷たい白ワインもいいけど、今身体が求めてるのは正にこれだった。
「エリー中尉、ごちそうさまでした!」
中尉は手だけ腰の横辺りでひらひらして答えてくれた。

この猛暑の中、フィールドキッチンの放つ熱気に耐えてこれを作ってくれたのだと思うと、もう…………。
やだ、愛おしい……これって恋?!

「吊り橋効果だね、いわゆる」「ひゃ!」
ニーナが後ろから近付いて耳元でいきなり話しかけてきた。
「ニーナ!……だよ、ね?」

後ろを振り返ると、そこにはテロリスト的な何かが立っていた。
「どういう意味さ」「いや、あまりにも……」正体不明というか、そのマスクが。
「仕方ないじゃん!アタシとフルールは肌弱いんだよ!!」

言われてフルールを見ると、レースのベール付きのつばが広い帽子を身に着け、静かに水を飲んでいた。
「双子で見た目同じなのに片やコレで片やお嬢様かぁ………」「コレ言うな!!!」
「セシール、ニーナに女子力を求めちゃ可哀想」「フルールが一番ひでぇよ!」

「気温上がるからその辺にしときなよ~」「元気だね~…」グレースさんとベルさんが投げやりに言う。
「それにセシール、あのスープは中尉とアンナマリーの共同制作だから、アンナマリーにもお礼した方が良い」
「え、ああ、ありがとうアンナマリーさん」フルールの言葉に促されてアンナマリーさんを探す……あれ?

「まぁ、そこの物陰で虫の息だから聞こえないと思う」
「………アタシ最近フルールが分からない」「こいつ前からこんなだよセシール」
そですか。

「起きたら言えばいいと思うわよ、セシールさん?」
「はい」
ベアトリス少佐の言う通りだな。

ところでベアトリス少佐、…………色っぽいな。よく見ると。
きっちり着込んだフライトスーツが意外とメリハリの効いた長身なボディラインを強調してる。
やや乱れているアップにした髪とうなじの汗が何とも………。



「ッAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
突然の雄叫びに全員が飛び上がる。


寝転んでいた簡易ベッドをぶっ壊ししそうな勢いでレジーナさんが飛び起きる。
「あああぁ~~~~…………アタシのフルーツパフェとトロピカルカクテルが……」

思わず想像してしまった………。くぅッ…………!!



「………ッッるっせぇンだよこのヴオォケエエェッッッッ!!!!!!
てめぇがジューシーなザクロになってみッかあああアアァァアああ?!?!ああんンン?!?!!」
あ、キレた。

エリー中尉が猛然と立ち上がってヘッドセットを毟り取ってアタシに放り(一応通信手は代理立てるんだ……)
一直線にレジーナさんのベッドへ頭から突っ込む。
「わあああ!!寝てるトコ狙うなよこの赤頭!!!!!!!」
「聞こえねェな!!もっとイイ声で鳴けよゴルゥア!!!!!!」

全員同じ気持ちなのか、誰も助け舟は出さなかった。



そもそも何でこんな事になっているのか、少しさかのぼって思い出してみよう。





『10ミニッツ!!!スタート・ヴェトロニクス』「10ミニッツ!!!スタート・ヴェトロニクス」
レシーバーに響く号令を復唱し待機状態になっていた電子機器をホット(起動状態)にする。
HMDの視界にオーバーラップされる形で航空用ストライカーに極めて近い姿勢表示が現れる。
違いは、推力表示の代わりにエネルギー効率計が存在する事。
ジャイロ、異常なし。慣性系、出力変動値閾値内、OK「32ノーマ」『33ノーマ』

「んん……何度やっても緊張するなぁ」
右手でヘルメットギアを触る。対弾性こそセラミック複合材製の通常型に劣るとはいえ、
強度的には問題無いはずの軽量なカーボン複合材シェルが何だか頼り無く感じる。
『無駄口叩くなよ、セシール。照準視線同調のリミットはエアボーンモードに変えたか?』
中尉がレーザ通信でそう言う。当然わかりきったことだけど、緊張をほぐす為にわざわざ話を振ってくれた。

「おっけーですよ。それよかこのヘルメットギア、空挺作戦時も普段の使えるように出来ないんですかね?
どうも降下作戦の時だけ着けるんじゃ、馴染まなくて」
『しょうがないだろ。このギア、空海軍のラファール戦闘脚のヘルメットとスーツの流用なんだから』
「い~つ~も~の~が~いいで~す~~」『んじゃ陸軍規格のギアで降下してみるか?』
「うっ……それは勘弁」『だったら淡々とこなす!猟兵は?』「真のウィッチです………」
『そうだ。何事もスマートにな』

『中尉……これ、やっぱりきついです』クロエがスーツの胸元と臀部を気にして身じろぎしたのが何となく仕草でわかった。
「ああまぁ、クロエはねぇ………」『………今度E号(オーダーメイドサイズの装具)申請してやるよ』
『ありがとうございます………』「あ~あ、うらやましいなぁ」
『肩凝るのよ?………男の人も、胸とかおしりばっかり見るし』「あ~はいはいはいごちそうさま~~」
『もう………』『隣の芝は緑ってな。まぁ、……確かに苦労はしそうだよな』言いつつ、寂しそうに自分の身体を見下ろす中尉。
そういう中尉も、まだ幼くて胸こそ手のひらサイズだけど身体の完成度が神掛かってるんだよなぁ、
嫋やかというかしなやかというか。確実に育ってるし。
アタシは中途半端。良く言えば普通、バランスがいい。
没個性ともいうけど。

髪も面白みのない金髪なんかより、クロエの柔らかくて暖かな色味の赤毛とか、
中尉の強い存在感を放つ黒くて赫い髪の方がいいと思う。

そこまで考えて自分の思考に驚く。
アタシ、んな事思ってたんだ。

『5ミニッツ!チェック・イクイップメント!!』「5ミニッツ!チェックイクイップメント!!」
降下地点まであと五分、アタシは機体各所のビルトインテスト機能をアクティヴにし、異常の有無を確かめる。
目視、及び実際に触って同時に点検。
与圧システムを起動、ギア内に酸素を供給する準備が整う。

オール・グリーン。


改めて周りに目を配る。
MC-17特殊作戦輸送機の腹の中、低く狭いトンネル状の空間に、千鳥配置で高速射出レールにセットされた空挺投下パレットに
アタシ達第3小隊の機体は進行方向向きに固定されていた。
各部関節のショックユニットをフルボトムさせて膝を立て、やや後傾して座り込んだ形、
砲は最大後座位置まで短縮されてコンパクトに格納されている。
後ろに中尉、アタシの前にクロエ。
ユニットの後背部に減速用バリュートと降下用パラシュートの組み合わせられた降下傘パック、
脚部付け根に小型の最終減速ロケットモーターを内蔵した折り畳み式降下動翼。
ガリア軍技術研究本部が世界に先駆け実用化した陸戦ストライカー空挺投下ユニット。
(コストが高すぎるからまだ量産化の目途は立っていないけど、各地の猟兵連隊で試験運用中)

もうすぐ敵の直上に突入する。
当然、対空砲火が熱烈に歓迎してくるのは想像に難しくないから、まず輸送機の腹の中から無事叩き出されるまでは祈るしかない。
勿論、投下後もアタシ達はほぼ完全な無動力飛翔体として滑空というより墜落していく事になるから、
低速では効きのいまいち悪い動翼の生み出す降下機動で敵火を躱し、地上に激突するギリギリでバリュート減速、パラシュート展開、
ロケットモーターの推力で着地しなくちゃいけない。

その先は、敵地のど真ん中で任務を全うすべく孤軍奮闘、
任務を達成したら今度は味方と合流するために敵前線を自ら食い破らなきゃいけない。


スクールの兵科選考過程で同期の子がアタシに聞いたっけ
「ねぇセシール、どうして?なぜ猟兵なの?あんたならスカイウィッチにだってなれるのに」

その通りだ。一般的に、猟兵ウィッチの志願者は自殺志願者と同義で見られる。
航空ウィッチとなる資質があり、なおかつ勇敢なウィッチだけが猟兵となる資格があるんだ。
自ら望んで絶望的な死地へと飛び降りる、猟兵に。

普通、この選択肢を示された者は航空科へと進む。

でも、アタシは迷わずこの道を選んだ。
クロエも。

そして、総ての猟兵が。

その時、アタシは答えられなかった。答えを持っていても、答えなかっただろう。



「理屈じゃあ、ないよ」
口の中で呟く。

みんなが待ってる。


『回避運動、開始。衝撃に備え』
程なく、機全体がシェイカーとなったように激しく揺さぶられ始める。

『カーゴベイ・オールグリーン。与圧開始せよ。ハッチ・オープン』
油圧作動音を響かせ、カーゴベイの外部ドアが左右、下部の3分割に解放され、
続いて内部気密ハッチが上下分割されて機内の気温が一気に下がる。

『投下地点到達15秒前』
ハッチを開放した輸送機は空力性能の悪化で運動性が極端に低下する。
この15秒が最も危険だ。当然、彼らには投下後にハッチを閉じ、無事離脱するまでその危険が付き纏う。

全身を緊張させ、衝撃に備える。
『………5、4、3、NOW DROP』

2秒間隔で予備傘が開き、射出レールの動力と同時に後方へ向け次々に射出。
空中に放りだされると同時、パレットが切り離されて後方へ回転、天頂を見上げてから輸送機を視認、
アタシに続いてクロエも無事に射出されたのが確認できた。すかさずハッチを閉鎖、
チャフ・フレアを全力放出しながら最大出力で上昇回避する3機のMC-17。見回すと10機の戦闘脚が視認できた。
『射出成功!グッドラック!ノーム30!!』『サンクス!カーゴ33!!』中尉が答える。

『デルタフォーメーション!NOW!』『「ya!」』中尉の号令ですぐさま3機で三角形を形成、
『さぁ、しっかり付いて来い……!!』目標へと一直線に増速降下する。

辺りは見事な紫炎に燃える朝焼け、黎明の空に抱かれ、鮮烈で幻想的な光景に呑まれそうになる。
『照準警報!』「やっぱり、そう簡単にはいかないですね……!!」『そりゃそうさ……さぁ、来るぞ!!』
大地が炸裂した。そうとしか形容できない猛火が吹き上がる『ブレイク!!スパイラルダイヴ!!NOW!!!』

位置エネルギーを乱雑に速度エネルギーに変換し、コークスクリュー気味に捻り込んで対空砲を潜る。
エネルギーを管理し、毎秒消費される有限な位置エネルギーを回避運動に費やす。
遅過ぎると、運動性が低下する。
誘導弾のブラストが輝く。ロケットのように一直線に突っ込んでくる。
『セシールちゃん!』
緩旋回から一気に動翼を降下姿勢へ、
姿勢を安定させ動翼の降下限界速度を超えかねない速度で敵の方向に飛び込む。
『32、火器の使用を許可する』「ya」
短縮し格納していた砲身を展開し、砲を射撃位置へ。
「……すううううぅぅぅ、はぁッ」
息を吸い、鋭く吐いて留める。

高速モードにセットしたレチクルにミサイルが飛び込む。
「ファイア」自然にセイフティを解除し、自動的に親指が押し込まれる。
爆散、噴煙を突っ切る。
続いて第2射、第3射、第4射が見えた。クロエと中尉を狙った弾と、アタシを狙った弾。
クロエ機に向かう弾を撃ち墜とす。続いてアタシに飛んでくる弾。

中尉に向かった弾は完全に眩惑され、発射した敵へと目標を変え、そのまま対空型を破壊した。
中尉は電子的に弾頭を無力化しているので心配無い。

『バリュート展開!』バシュッ!と鋭い音を立ててバリュートがガスの圧力で展張し、猛烈な減速Gで速度を殺す。
地面が迫る。根源的な恐怖を押し殺す。まだだ。
『開傘ッ!!!』
主傘の解放タブを思い切り引く。強烈な衝撃、3個のパラシュートが展開し、更なる大減速。
『撃ちまくれ!!!!!』「らあああああああああああああああ!!!!!!!」
持てる総ての火力で敵の頭を押さえ付け、強烈に減速しつつ地面に突っ込む。
『切り離し!NOW!!モーター任意点火!!!』
主傘を切り離し、砲弾のように落下する。足元にネウロイ群。
最終減速ロケットの点火レバーを力いっぱい引き切る。猛烈な火焔の奔流が地面を舐める。
鋼すら一瞬で霧散させる強烈無比なブラストをもろに浴びてネウロイが焼滅する。

ロケットの燃焼終了と同時、自動的に空挺投下ユニットがパージされる。
手近な敵の胴体を粉砕して着地、衝撃。粘弾性を発揮する特殊な着地減衰圧に設定された駆動系が
高圧の余剰ガスを膝関節ブリーザーバルブから吐き出す。
派手に前方へと滑る動きに逆らわず、脚部クローラーを全力回転。

機体が完全に停止した瞬間、ヴェトロニクスの制御システムがエアボーンモードからノーマルモードに移行する。
「ノーム32エアボーン」『33エアボーン』『了解、各個に索敵、敵を駆逐』『「ya」』
『ノーム10エアボーン』『20エアボーン』『30エアボーン』ベアトリス少佐に報告する各小隊長。
アタシは近くにいたネウロイ群を撃破しつつ無線に注意を傾ける。
着地点近辺の敵を排除し、円形の空挺堡を確保する中隊各機。
『了解、ノーム全機の降下を確認。これよりノーム00は敵主力へ突入、これを撃破する。
攻撃方向は射撃で示す、01の射撃を以て突入号令とする。突撃用意』
HMDにベアトリス少佐の照準線が表示される。機体を巡らす。
9機のストライカーが身を撓ませ、薬室に砲弾を叩き込み、合図を待つ。

ダァンッ!!!!
鋭い射撃音。
『『『『『『『『「Ruuuuuuuuuu-Shuu!!!!!!!」』』』』』』』』
鋼の濁流が躍り掛かった。





完全に陽が昇るころに戦闘は終結し、アタシ達は前線部隊、
カールスラント陸軍機甲旅団とガリア陸軍機動旅団の部隊からなる混成中隊と合流を果たした。
「カールスラント陸軍大尉、フレデリカ・アーダルベルトです。支援に感謝します、ベアトリス少佐」
「いいえ、アーダルベルト大尉。それは無事に帰還が成ってからにしましょう」
ふ、と笑うアーダルベルト大尉「それもそうですね、失礼を」
ここはまだ敵中、味方部隊までは少々距離がある。
アタシ達が敵の大攻勢を破砕した結果、彼我の戦力比が逆転し妙に間延びした時間が発生していた。
幸い、即席とはとても思えない強固な防御陣地を構築した丘陵なのですぐさまどうこうという危険は無い。
「問題は、足を失った我々が独力で帰りつけるかどうかですね」
「ええ、跨乗するにしても、人数が多過ぎるわ」
彼ら現地歩兵部隊はその機動力となる車両を先の戦闘で殆ど失ってしまっていた。
徒歩では敵に追い付かれてしまう。

「…………やはり、救援の車両部隊が到着するまで耐えるしかないわね」
「弾薬食料の備蓄は問題ありませんが」「水ね」「はい、その通りです」
「リベリオンが羨ましいわ」「無い物ねだりは切なくなるだけですよ、少佐……」
「そうね、兎も角、待つより他無いわ。ベル、ジーナ、エリー?」
今後の警戒監視のローテーションを決定する為、各小隊長を集めるベアトリス少佐。
その日はそれから掩体の構築に時間を費やす事になった。救援も向かってるみたいだし、あと少しの辛抱だね。
そう思っていた


が、


DAY1(D+0)
差し当たってアタシ達は自分たちのための掩体を構築する作業に専念する事になった。
各機が射撃を行える主陣地と予備陣地、補足陣地の3つを優先して場所を選定し、
砂色のバラキューダネット(擬装ネット)を掛け、その下に穴を開ける。
カールスラント部隊から借りたストライカー工作作業オプション(簡易なドーザー・ブレード)を機体正面に取り付け、
まず大雑把に土を圧し退け、そこから手作業で丁寧に形を整える。
それが済めば今度は、待機用の掩蓋陣地を構築する作業に移る。

アタシ達は普段防御的作戦に従事する事が少ないけど、そこは流石のベアトリス少佐以下精鋭の面々、
あっという間に勘所を取り戻して次々に掩体を構築していく。ほんの半日程度で陣地がとりあえず形になった。
とはいえ、水も限られているうえに資器材が乏しい。交代しながらの作業となる。
水筒から水を飲みつつ、アタシは中尉に聞いた。
「ねぇ中尉、救援っていつ来るんでしたっけ?」
「明後日だそうだぞ」



DAY2(D+1)
今日は砂嵐が酷い。電磁流砂(帯磁性砂塵による通信障害を起こす原因不明の砂嵐)の影響か、通信の精度も極めて低い。
味方部隊と交信が取れなくなってしまった。この様子だと、予定よりも遅れが出てくるかもしれない。
早く止むといいけど。

仕方がないので防御陣地の補強に時間を費やす。新たにコンクリートが使えれば違うんだろうけど、
ここには追加で使える資材はコルゲートメタルプレート程度しか無いので、補強もすぐに終わってしまった。
後は、半地下陣地の出入り口にコンクリート製の防壁を追加で配置した程度。
まぁ、孤立した陣地に陣地構築用資材が僅かなりともあるのだから、これでも十分贅沢なんだと思う。

陣地に付き、電磁流砂によるセンサ不良に耐性のあるサーマルと光学センサのみで遠方を睨む。
視程そのものが小さいからあまり見えない。ネウロイは人類以上に電子環境に敏感だから、
こちらを叩き潰す位の戦力差が無い限り、砂嵐が収まるまでは現れない筈。言い切る事は出来ないけれど。
試しに中尉の機体のグラフィカル・レーダの受動モード映像をデータリンクして見る。
虹色の波紋が激しく流れて、シャボン液の表面みたいだった。

じき日が暮れる、その日は夕焼けも見えなかった。
ただ砂色の世界が徐々に暗転するだけ。これはこれでなかなか見られない光景だ。
小型デジカメで撮影した。ただのカーキ一色にしか見えないけど、よく見ると中尉の陣地が写ってる。

そうそう、アタシ、実は最近旧型のカッコイイ小型デジカメ買ったんだ。
インペリアル・フソウのカシオ製エクシリムG1。性能は旧型なりだけど、形が最高にクールでセクシー。
新型のEX-G3よりスマートだし、カワイイと思う。
どこに行くにも必ず手放さず持ち歩いてる。

そういえば昨日の空も綺麗だった、撮りたかったなぁ。
ま、仕方ないよね。

半地下掩体に戻り、ストライカー関節部の砂をデッキブラシで除去しながら
同じ作業をしてる中尉にひょいっと振り返って話し掛ける。
「中尉、ホントに明日来るんですかね?」
「砂嵐が酷いから、わかんないな」




DAY3(D+2)
ネウロイの襲撃があった。

この時アタシは待機掩体のベットでウトウトしていたので、突然の警報と爆音にすごくビックリした。
同じく眠っていたクロエも跳ね起きて、それぞれ自分のストライカーに飛び乗る。
地上に出ると、ネウロイの放つ砲迫の弾着に歩兵部隊が大慌てで最寄りの掩体に飛び込む姿が見えた。
あちこちに配置したコンクリート防壁と交通壕、掩体が効果を発揮し、殆ど損害は無いみたい。

すぐに敵方向の射撃陣地に付く。ストライカー2機用の掩体。
そこにカールスラント陸軍機械化機甲歩兵のアーダルベルト大尉が入り、
大口径の追加装備機関砲を敵に連射している。長砲身120mm砲は温存してるみたい。
「大尉!状況は?!」「敵ネウロイの威力偵察だ!迫撃型を含む偵察型1個小隊!!」
「探られてるんですかね」「そのようだな、私達も舐められたものだ」
「損害は、ないですか?」「ふふ、君の小隊長も同じ事を聞いたぞ。存外優しいんだな、君達は」
「そんな、中尉は…!」「ああ、噂は噂、という事だな」
「………はい!」『セシールちゃん、敵が退くわ!』
「うん。やるよ、クロエ!」『ya』
2機連携した同時射撃でどんどん敵を削る。

「見事なものだ」「いやぁ、そんな事無いですよぅ」
「ネウロイめ………状況が許せば圧し潰してやるものを」
忌々しげに呟く大尉。極限の重装甲改修が施されたストライカーを駆り、
横隊での重突撃を至上の使命とする重機甲兵の大尉達は、今の状況にどこか不満げだった。

「ん、ほら、君の小隊長が帰ってきたようだぞ」「あ………」
見ると、エリー中尉が別方向に逃げる敵を喰い尽くして遠方から帰って来る所だった。
『無駄撃ちはしていないでしょうね、エリー?』
『全部蹴り潰してやりましたよ、センパイ』
「すごいな……」半ば呆れて呟く大尉。
「はは………」
『それはそうと、通信がつながりました。戻ったら報告します』
『そう、お疲れ様』


陣地に帰り着いた中尉は真っ先に少佐に報告をしている。
アタシ達二人はその間中尉の機の手入れを代わりにした。

やっぱりこの機体、外観こそルクレールに近いけど、完全に別物だ。
関節部から紅く塗装された内部構造を覗き込むと、
超音波アクチュエータや油圧モーターの代わりに能動型電磁筋が集中的に使用されていた。
T11でも電磁筋の採用はフレックス・ブレードフレーム部、つまり着地緩衝機構部のみなのに。
トルクの管理はどうしているのか気になったけど、多分バラしてもそう簡単に分からないな。
これだけ各部の構成要素にバラつきがあると、マッチングなんて在って無きが如きだ、
コンセプトと実機がここまでかけ離れてるといっそ清々しい。

こんなバランスの悪い代物を手足のように操るには天性の素質と鍛錬もそうだけど、
余程ストライカー接続強度を上げないといけない。
中尉はナノマシン接続型魔女だから、使い魔無しでそれをしている事になる。
非生体接続素子であるナノマシン接続は確かにダイレクトな制御を行えるけど、
生体接続素子である使い魔のクッション無しってことはイコールで神経、精神、それと血、
つまり魔素の負担も大きいのに。

手入れを終える頃、ちょうど中尉がストライカー駐機スペースまで歩いて来た。
「あ、中尉………」
「悪いな、手伝わせて。…………遅れるそうだ」
「いえ…………やっぱりそうでしたか」






DAY4(D+3)
「むむぅ…………」
アタシは水筒を前に唸っていた。
いつの間にこんなに減ったのだろう、アタシの水は一体どこへ。

「っていうか、暑ぅ………」
ここ数日、忙しく動いたり日光が遮られたりして忘れがちだったけど猛烈に暑い。
まだ水があれば違うだろうけど、その水もいま目の前で謎の減少をしている。

これは由々しき事態だ。
掩体の底で肩を持たれ合って座ったクロエにこの重大事件を伝える。
「ね、クロエ」「さっき、寝惚けてがぶ飲みしてたよ、セシールちゃん」
「なん………だと?」「自分で飲んだの。わかった?」
なんと犯人はアタシだったッ!!

はぁ………。
「ああ~~~~~~もう!救援はいつくんのさ~~~!!!」手足をバタバタさせて誰にともなく訴える。
「……若干不都合から目を逸らしてるように感じるけど、まだ来ないらしいよ」半ばあきらめムードで応えるクロエ。
「えっ、まじ?」「うん、まじ」

「なんで?」
「昨日ネウロイが来たでしょ?あの本隊と車両隊が遭遇して、撤退しちゃったみたい」
「…………MERDE」「セシールちゃん、そういう事言わないの」「は~い」


「……………」
「…………………」
汗が頬を伝う。

「ねぇ」「なぁに?」
「……水ってあとどのくらいあるんだっけ?」
「わたしは、………個人分はあと14ℓってところ」
倹約家だなぁ。
「や、………部隊全体で」「ああ………」考え込むクロエ。
「えっと…………1kℓってところだと思う」
「持つかなぁ……」
「持つかなじゃなくて、持たせるんだ」
影が濃くアタシの顔に掛かり、逆行を浴びて立つ中尉が目の前に立っているのに気付く。
「あ………、中尉」
中尉は、厚手の長袖ジャケットを羽織って首にシュマーグを巻き、ブッシュハットを目深に被っていた。
男前な着こなしだけど、まさしく女ガンマンって感じでよく似合っている。

「味方の部隊は、敵ネウロイが徘徊している地域を迂回してこっちに向かってるそうだ。
予定よりだいぶ遅いけど、ちゃんとこっちには向かってる。重戦力がここに集中しちゃってるから、
そうおいそれと強行出来ないんだとさ」
「そうですか…………。ちなみに………いつ着くんですかね」


「明後日の予定だ」
「………………」





「………何も言うなよ、セシール」
「何も言ってませんよ、中尉………」






ここまでが昨日までの話。
そして今日、クロエと交代してアタシは本日4度目の警戒監視に付きつつ、未だ現れない救援を恨んだ。
いや、悪いのはネウロイだな。ごめん車両隊の人、だから早く来て。
丘の上に構築した陣地の最外縁、機械化機甲歩兵外哨の掩体で身を低くしてひたすら耐える。

「…………あづい」




一瞬、遠方で何かが鋭く光った。
「ッ!」
すぐに正面装甲で防御できる態勢を取り、センサをズームする。
同時に有線で接続した掩蓋陣地に警報をする。
「ノーム31、32、北北東の方角に反射光確認、引き続き監視する」
『了解、細部判明したら報告』「ya」
中尉の声にも一気に緊張がにじむ。

12倍の高精度画像の中で、何かが光った地点をひたすら凝視する。
今は何も見えない。いや、
「………潜ってる?」
ネウロイは陣地を構築しない。けど、その可能性は否定できない。
「31、32」『31』
「先程の反射光元は32から視認できない。航空偵察を要請する」
『32、航空支援は少なくとも30分後になる。……何かあるのか?』
「恐らく、掩体が」『まさか。いや、そうか、有り得なくは無い。引き続き監視を継続せよ』
「了解」

FCSに問題の輝点の位置を自動監視させ、アタシはその他の場所も併せて視察する。
じっとりと頬を汗が伝う。湿度は低いから不快感はそれほど無いが、急激な消耗を感じる。

程なくして、中尉から通信が来る
『32,31』「32」
『先程の座標に対して航空偵察が実施される。到達時間3分後』
「了解。………随分早いですね」
『ああ、海軍さんの航空ウィッチさ。たまたま近くを対地支援兵装で哨戒していたらしい。
必要があれば叩いて反応を確認してくれるそうだ』
「なるほど、助かりますね」
『そうだな。交信可能距離まで来たらコールしてくれるそうだ。
編隊長のTACネーム、カトラス。誘導しろ』
「了解」

要請受理からきっかり3分後、まだ遠い高空に二つの機影。
レシーバーに通信が入る。
『陸軍機械化機甲歩兵隊、聞こえますか?こちらトゥールビオンフライト、カトラス。
偵察座標への誘導指示をお願いします』
心地いい鈴のような声で美しい発音のガリア語が聞こえてきた。
「ノーム32、良好。偵察要求座標へレーザを照射します。ディテクタ準備」
ガリア軍統合データリンクを接続、高空からのカメラ映像が小さなウィンドウになってHMDに表示される。

『準備良し』「照射」
本来爆撃誘導とかに用いる座標指示用の照準レーザを目標付近に照射。

『照射を確認。これより指定座標付近の航空偵察、及び必要と判断した場合CASを実施します』
照射成功、海軍機にはちゃんと伝わったみたいだ。
カトラスとその僚機の距離が甲高いエンジン音が聞こえる位置まで近付いた。


『…………なにかしら、地上に、不自然な幾何学模様が』淡々とした声。
予想は悪い方向で当たった、かもしれない。
データリンク画像には直線の組み合わさった奇妙なジグザグ模様が映っている。

「カトラス、目視判断では防御陣地のような形?」
『ya、でも、ネウロイは築城をしない筈じゃ』
『カトラス、こちらノーム31。模様を構成する線の交点に一番小さい爆弾を落としてくれ』
言いつつ、中尉のストライカーがアタシの掩体に入り、すぐ隣に来る。

『…………了解、爆撃許可を申請するのでお待ちになって』
「中尉」「良く見つけた、セシール」

『……おかしいですわ、申請した途端あっさり許可が。貴女達、何か知ってますの……?』
少し素になっているみたい。最初の印象通り、お嬢様然とした口調。
「後で説明する。ま、見れば嫌でもわかると思うがな。回避機動の準備と防御装備のマスターアームオンした方が良いぞ。危険だ」
『……わかりましたわ。SDB投下10秒前』
二機のラファールMの内、編隊長機が爆撃コースにアプローチする。
もう一機はやや後方、高めの位置でカバーするコース。

『ピックオフ、弾着まで5秒』
ごく小さな誘導爆弾が投下される。直撃コース。
『命中』爆轟の輝き、遅れてくぐもった爆発音が届く。

二人で全センサを駆使し、じっと凝視する。
でもカトラスの困惑と驚愕の入り混じった声の方が先だった。
『なッ!?何ですのこれは!!!』

後続の機が乱雑に高速対地誘導弾を4発同時発射して牽制し、その隙にカトラスがフレアを連続放出しながら急激に上昇回避する。
こちらからは判らないが、恐らく照準波を照射されたみたいだ。
『ノーム31!地上に多数のネウロイを確認!!回避します!!!』
同時に、地面から次々に対空砲火が撃ち上がる。

「………やはりそうか…」中尉が低く囁いた。
「どういうことですか?」「あれはネウロイの交通壕だ。ガリア中原奪還戦の最後期に見た」
そんなのがどうしてここに。恐らく同じ事を考えていた中尉が呟く。
「何か理由がある筈だ。……もしあれがあの時と同じなら………カトラス!」
『ッ!……ッ!はぁッはァッ!ッく!なんですの……ッ?!』回避運動の強いGに耐えながら応えるカトラス。
「交通壕の先端を誘導レーザでポイントしてくれ、でかい奴がいるはずだ!」
『ッわたくしに!そんなッ余裕が!あると思って……ますの?!』
言いつつも、すぐに映像が送られてくる。大型重機の出来損ないみたいなネウロイが見える。
映像に誘導用照準表示が重なる。
『マーク!これでいいんですの?!』
「OK、誘導弾をブチ込むからそのまま照射を頼む」
『貴女の居る位置から12キロありますわよ?!』
「セシール、100メートルくらい離れて観測頼む。
HVMW(ハイヴェロシティー・ミサイル・ワーヘッド、超高速誘導砲弾)を使う」
「了解、離隔は30メートルで十分です」
「そうか」
掩体から出てアンブッシュ姿勢を取り
中尉の機のALS(自動装填装置)から砲尾にやけに細長い砲弾が叩き込まれる。
でも砲は閉鎖せず、そのままALSが駆動し、もう一発さっきとは違う完全な円筒形の砲弾が押し込まれる。
更にもう一発、今度は普通の砲弾みたいな形。砲尾がやっと閉鎖され、砲の中で鋭い接続音が鳴った。
『ブート完了、ワーヘッド、モーター、プロペラント、接続完了………モード、ビームライド』
仰角どころか僅かに俯角を掛けて照準、関節に自由度を持たせた姿勢。

『魔導加速、最大出力』
ブウウウゥゥゥン…………!
複雑な立体魔法陣が機体を完全に包み込む。
『プロペラント正常加圧、アクチュエータ電荷上昇………完了』

「観測、準備良し」
『ファイア』

バズッ!!!
強烈な発砲炎が掩体の前方の大地に衝撃波の波紋を刻む。
続いて全長が数メートルある特殊な長射程砲弾が強烈なブラストを吹いて更に加速。
瞬く間に飛翔速度がマッハ5を超え、マッハ6に迫る。
レーザービームのように真っ直ぐに、大気を食い破りながら飛翔する流星のような弾丸。

命中。この距離からでもはっきりと目標が地表面ごと爆裂したのが見て取れた。
「命中」『次弾装填』
『な、なんですの?!今のは!!』
カトラスの驚愕の声。中尉は頓着しない。
『照準頼む』『ッ次目標……補足!マークッ!!』
中尉はそのまま第二弾を装填。引き続き次の目標へ。
『ブート完了、ワーヘッド、モーター、プロペラント、接続完了………モード、ビームライド』
『プロペラント正常加圧、アクチュエータ電荷上昇………完了』
「観測準備良し」
『ファイア』
ズパァン!!!!
先程より更に遠距離の目標、対空指揮型ネウロイの巨体が粉砕された。
「命中」
第二弾の弾着とほぼ同時、敵の動きに変化。
『ネウロイが退いて行きますわ!』ほっとしつつも喜色を含んだ声音、
カトラスの協力で何とか敵を退ける事が出来た。
『確認した、グッジョブ・カトラス』

『その出鱈目な火力、エレオノール候補生。あなた何でここにいますの』
『今更気が付くなんて、やっぱ鈍いな。モルガンお嬢様』
『お嬢様じゃありません!!この………!!』
『ふふ、相変わらず瞬間湯沸かし器かよ』
『なッ?!』
『海軍は手一杯みたいじゃないか。代理で猟兵が派遣されたんだよ。
それと、助かった。航空支援無しじゃ危なかった』
『そういう事でしたの。ま、このわたくしに感謝する事ですね。中等寮の王子様?』
『おまっ!そのあだ名はやめろ!!』『あら、おあいこですわ』
『このぉ!!』
『うふふ、……でも、そう、あなた無事でしたのね』
『当たり前だろ、ていうか僕がやられるかよ』
『あら、座学は優秀でもその辺は考えが及びませんのね』
『どういうことだよ』

『あなたほどのウィッチが戦死したらまず間違いなく前線は動揺して士気が下がるでしょう。
結果として、損耗率の増大では収まらずに流れを持って行かれるかもしれない』
『………』『だから、もし仮に、そんな事があれば、隠蔽されるか影武者が立てられるはずですわ』

『これでも心配していたんですよ?数少ない同期に連絡もしないなんて。
たまには貴女のオトコらしい声くらい聞きたいですわ』
『ごめん』
『モモさんの事も、』『モリー』

『………ごめんなさい』
『いや………すまない、僕の方こそ』
『………まぁいいです、偶然か必然か、こうして貴女と逢えたんですから』
『そうだね』

『では、そろそろ行きますわ。武運長久を。ごきげんよう、エリー』
『ああ。またな、モリー』
挨拶を交わし、カトラスは北へ去って行った。

半地下陣地に帰る途中、改めて中尉が言う。
「それにしても、妙だ」「何がですか?エリー中尉」
「ネウロイの動きだよ、あいつらがこんな動きをするのなんて、そうある事じゃない」
それから中尉は考え込むように俯いてしまったので、話はそこで終わっちゃったけど。





「ただいまぁ……」
「おかえりなさい、二人とも」「終わりました、センパイ」
「ええ、おつかれさま」
中尉は少佐に戦闘の詳細をPDA片手に報告。
アタシは機体から降り、そのまま奥の居住スペースまで歩く。
ちょっと狭い通路を通り、簡易ベッドが配置された部屋に入る。

瞬間的に、何とも形容しがたいにおいに思わず顔を顰める。
「うっ………この部屋、オンナくさい………」
「仕方ないでしょ、お風呂なんて入れないんだから」
濡らしたタオルで身体を拭きながらそう窘めてきたのはベルさんだ、
目に痛い位白い背中を晒して身体を清めている。
「ベルさん」
「貴女だって、おんなじなのよ?」
「うう、でも、におうものはにおいますよ」
「まぁね、………替えのズボンも、これで最後だわ」
「アタシもです………」

「……もうやだ帰りたい。おふろ入りたい」
「アンナマリー、泣くな」「でもジーナ……」
「泣くなっつの」「ゔえ゙ええ~」
「ああもう、わかったから泣き止めよもう、めんどくさい奴だなぁ」
「じゃあ背中拭いて?」「ふざけんな」

「なんだかなぁ」
「あんたもクロエあたりに拭いてもらいなよ、セシール。…はいおしまい。フルールもういいよ」
ニーナとフルールは下着姿になってお互いに拭きっこしている。
「ん、そうすっかクロエ」
「うん、わかった。先に拭いてあげる」
「いや、アタシがやるよ。ほら脱いで」「う、うん」
クロエがシャツを脱ぐ。うわ、相変わらずでかいな。
っていうか、ブラのサイズ合って無いんじゃないのこれ。
「クロエェ……、もしかしてまた育った?」
「ん……実は」
羨ましい事で。

「じゃ、拭くよ」「ん」
布を濡らし、石鹸を少しだけ付けてクロエの背中を擦る。
ごしごし
「…………」
ふわふわですね。何がっていうとちょっと返答に困るんですけどね。
「…………」「ねぇ………セシールちゃん」
さわさわ
「…………」「ちょ、セシールちゃん?」
むにむに
「前はいいよ自分でやるから!!」
「いいや限界だ拭くねッ!!」
「きゃあああ!!」
もみもみもみ!!!!!!ヒャッハーーーー!!!!!!

「仲良いのは構わんがうるさい!」
「ぇげゅ!」
エリー中尉が脱いだヘルメットギアでアタシの頭を強打する。
「このエロガッパが………大丈夫かクロエ」
「あ………はい」

「はぁ………。ま、この程度で音を上げるなよ、セシール。まだたった半週ちょっとじゃないか」
「ええぅ……」「が・ま・ん、だ」
そんな事言って、中隊で一番お風呂好きなくせに………。

『なぁなぁお前ら、これ見ろよ!すっごくないか!?扶桑では大自然の中に風呂が沸くそうだぞ!!!
いいよなぁ、あぁ、素敵だなぁ……風景を眺めながら扶桑酒とか呑みたいよなぁ~………(ライスワインの事らしい)はぁ……』

とか言ってフソウ語の『オンセン』旅行誌
(そもそも、そんな専門誌があるのがすごいよ。輸入したのかな)片手に詰め寄って来たり、
一人でうっとり彼方に旅立ったりするくせに。

無理しちゃって…………。


「まぁ兎も角お返しに拭いてやるとイイと思うぞ」ん?
「そうですね、そう思います」あれ?
「……ってクロエ?」
「こんどはわたしが拭いてあげるね?」
「クロエ目が怖いよ」
「ごめんね……?大丈夫だから」
「や、何が。なんで謝るのかなぁ?」
「すぐ済むからね?」
「ちょ………ま…………!!」



「アッーーーーーーー!!!!」


「ていうかあいつらさぁ、普通にガチっぽいよね」
「ニーナにしてはまともな意見」
「こら、そりゃどういう意味だフルール」
「まぁ、スクール出たてならそういう事もあると思う」
「スルーかよ。確かにあそこ男なんて教官しかいないからなぁ………」



そんなアタシらを尻目に、今後の行動に関するディスカッションをしていた
小隊長以上の会話が少しだけ耳に入った。

「突破、ですか?」
「そうよエリー。もう待つのにも飽きたでしょう」
「珍しいな、センパイがそんな策を執るなんて」
「もう気付いてるんでしょう?ここのネウロイはおかしいわ。留まるのは危険よ」
「少し、遅かったかもしれませんが」
「そうね、最初に気付くべきだった」
「それじゃあ、情報が必要ですね」
「頼める?」
「勿論」





夜、すっかり陽が落ちて今度は寒い砂漠の闇夜。
「うう………誰にも触らせた事無かったのに」
「おあいこよ、セシールちゃんだって触ったでしょ。ていうかいつもわたしの事触るでしょ」
アタシはクロエの思わぬ反撃に敗北し、謎の喪失感を感じながら夜間哨戒の準備をしていた。
そこへカールスラントのアーダルベルト大尉が近付いてきた。
「これから出発か?」
「はい、2230に出発します」「寒い中大変だろうが、頼むぞ」
「お任せください」

「セシール、哨戒ルートの変更だ。経路を確認しとけよ」
「ん、ベネックス中尉か」「っと、失礼しました大尉」
サッとラフな敬礼をする中尉。応えて大尉も答礼。こちらはキッチリと、
カールスラント式の完璧な敬礼。中尉が苦笑しながら話し掛ける。

「一部の隙もない敬礼ですね、これじゃ僕が上みたいじゃないですか」
「カールスラント軍人は一に規律、二に規律、三四五、十まで全部規律ってね、
ま、そうとは言っても肩が凝るよ、私個人的には、だが。軍規なんて緩い位でいいと思う」
「同感です、そうも言ってられませんがね」言いつつアタシを見る中尉。……ん?
「うん、その通りだな」しみじみとカールスラントの陣地を振り返る大尉。


「~~!~~~!!!~~~~~~!!」
向こうも向こうで賑やかみたい。

「ドロテアめ………今度は何だと言うんだ」
ぼやいてから目を見合わせ、全く同時に顔を顰めてふっと笑い肩をすくめる二人。


「エレオノール、と呼んでもいいかな」
「構いませんよ。そのかわり僕も、フレデリカ、と」
「ああ、それでいい」
「アタシもセシールでいいよ!!」「ちょっと、セシールちゃん?!」
「ふふ、………それじゃあセシール軍曹、クロエ軍曹、エレオノール中尉、
改めて、私はカールスラント陸軍第5機甲旅団、第2重機甲歩兵大隊B中隊長、
フレデリカ・アーダルベルト大尉だ。よろしくな」
「ええ」「うん」「はい、大尉」

「時間だ、往くぞ」「「はい」」
「じゃあフレデリカ」「うん、帰って来い。また後で」





静粛歩行によってアクチュエータの駆動音のみが耳に響く静寂。
もったりとした独特の重さのある暗視装置の緑色の視界の中で、アタシ達は一路南へと向かっていた。
昼間に迎撃した敵の陣地を調査する形のルート。実質、哨戒とは言うもののこれは明確な偵察だ。

第一に、敵陣地の構造を調査、
第二に、この謎の行動がどういった要因によって発生するのかの探究、
第三に、これら陣地の規模から敵の主力の解明。

そして、この情報を以て、明日の行動に関する意思決定に資するものとする。



『………止まれ』
3機の内2機が前方を警戒監視し、1機が上空と後方を監視、同時に退路を確認。
『着いたな』「かなり大きいですね」
『ああ』
『後方、異常なし』
『クロエ、残って全般の監視。セシール、一緒に来い』
『ya』「ya」

掩体、交通壕の中へ。
ジグザグに走る断面形が逆台形に掘開された深さおおよそ2.5mの交通壕。
要所要所には矩形の射撃陣地。

「なんてこと……ここまでのモノを完成させられちゃったら突破なんてアタシ達の勢力じゃとても……出来なかった」
『………機械力による掘開そのものだな。しかし、この規模。あの工兵級一体でこれだけの能力があるとなると、恐ろしいな』
移動しながらデータを保存し続ける。
パターンを解析するのに役立ちそうなものを優先で調査。

『要部の表層には硬化した非金属の物質。樹脂か?感触としてはネウロイの外骨格に近い。
サンプル採取、………陣地そのものがネウロイ化するとしたら、
完成してたらさしずめバトルボジション・ジグラッドってとこか』
「ありえそうな話ですね、ジグラッドの性質自体、火点そのものですから」
『危なかったが、これは逆に大きな収穫だな』
「はい。やっぱり、今後はあちこちでこういう事が起こるんですかね」
『可能性は高い。というより、そうである前提で僕達は戦わざるを得ない』

『中尉!12時方向に赤色発光!!』
『「!!」』



二人同時に赤色光の方向に照準。
『………何だ?!』
「ウィッチ………?」
『ネウロイ……』
視界にズームを掛ける。最大望遠。
月光を背負って立つ、ヒトガタ。陸戦ウィッチ。
「イシュタル?」『違う』

そいつは、ただこちらを見ていた。じっと。



「…………」
『…………お前は、あのときの』
中尉がオープンチャンネルで無線を発信していた。
「中尉?」


『お前のせいで大勢死んだ、お前が……』


中尉が砲をそいつに向ける。


『お前が………ッ!!』
極大の魔法円が展開される。撃つだけで自らも破壊されかねない暴力的な魔素圧力。
大気が鳴動する。紫電が奔る。過大で制御されていない魔力に対抗して魔導エンジンが自己保護プログラムを作動させ、
余剰純粋魔素をブローアウト・ダクトから投棄放出する。大地が叩き付けるように陥没する。

アタシは圧倒されて何もできない。



『モモを!!!』
撃つ、そう思った時にそいつが動いた。


脚部ユニットが変形し、航空用ストライカーの形状に。
そのまま垂直上昇、背を向け、飛び去る。
一度だけ、こちらを振り返って。
躊躇う様な、振り返り方で。
『逃げるなッ!!!!』
ステルスエフェクト、どんな観測手段でも探知できない一部の上位ネウロイが持つ能力で、
解けるように闇夜に消える。


『モモを返せ!!!お前が!!!お前が奪ったんだ!!!!』
発砲、何に当たる事も無く、タングステンの矢が虚空を飛翔する。
燃え墜ちる星のように。まっすぐ。




暫く中尉は肩を震わせて俯いていたが、
「中尉」
『………ああ、悪い。行こうか、データは十分だよ』
「はい」

そのまま上を向いて、堪えた。





「そう、あれが現れたのね」
「はい」
ベアトリス少佐はすぐに得心が行った表情で報告を聞いていた。
「ここの指揮をしていたのは、奴です」
「気付くのが遅かったら、手遅れだったわね」
「今回に限れば、そうではありませんでしたが」
「結果論ね」「はい」

「明日にでも強行突破すべきです。奴らは、いいえ、奴は削り切るつもりだ。
僕達機動予備の拘束と損耗を狙って、ここは初めから用意された狩場だったんです」
「そして、私達はまんまと罠に掛かった間抜けな獲物というわけね。あの襲撃にしても、絶妙な勢力だった。
攻勢転位出来ると思わせる、そう判断してしまう戦力」
「はい。そしてそれらは今のところ成功している。僕らは釘付けで、動く事も出来ない」
「指揮官失格かしらね、ここまで踊らされるなんて」目を伏せ、おどける様にくすっと笑う少佐。
「止むを得ない状況です。まだここからですよ、センパイ」中尉の瞳には、闘争の焔が灯る。
「そうね………」少佐も、瞼を持ち上げ中尉の焔が伝染したかのように笑う。

「エレオノール。今の話、本当なのか」
「フレデリカ」
フレデリカ大尉が入ってくる。後ろにもう一人、栗色のショートヘアをした男の子みたいなウィッチ。
「ね、私の言った通りだったでしょフリッカ」
「疑った訳じゃ無い。ドロテアは黙ってろ」「ちぇ~」

こほん、と咳払いをしてから改めて大尉が切り出す。
「少佐、突破作戦を開始する時期は何時間後になりますか」
「落ち着いて大尉。まだ何も決まってないわ」
「では、先鋒に我々B中隊を配置してください」
「大尉」

「友釣りの餌にされて黙る重機甲兵などいません。我々の落とし前は我々に付けさせてください」
「センパイ、僕もそれがいいと思う。フレデリカの隊なら突破力に優れてる。
僕達が徒歩部隊の護衛と機動防御をすればバランスがいい」
「そう、ね……」

腕を重ねて考える少佐。
「エリー、貴女の特殊砲弾、あと何発あったかしら」
「3発です、センパイ」

「大尉、貴女の隊の攻撃前進は時速何キロで行えるの?」
「絶対速度毎時15キロメートルです、少佐」


「ベル、クロエさん、歩兵部隊の健康状態と一人あたりの水は?」
「中程度の疲労、水分の不足。休息と給水を行えば戦闘には支障ないわ」
「明日一日なら、一人当たり2ℓは、確保できます」


「………結構。これより我々は解囲突撃及び人類支配地域までの突破を行います。
開始時刻は明日の朝4時、突撃方向は北北東、カールスラント機甲部隊の陣地がある方向」
「ガリア空軍守備隊の方が近いですが」
「機甲部隊にお迎えを頼みましょう、勿論私達は自前の足で行くことになるけれど」
「なるほど」

「じゃあ私達が前衛って事でいいんだよね?」
「ええ、あなたは?」
「申し遅れました、私ドロテア・イズベルガ・ヴィットマン。フリッカの部下で、中尉だよ」
「ヴィットマンって……」クロエが反応した。あ、そういや戦史大好きだもんねクロエ。
「そ、マリーおばあちゃんの孫だよ?」
マリー=ルイーゼ・ミシェル・ヴィットマン中尉の孫ね………。

NW2最強の機械化機甲歩兵の血族、超エリートの血筋か。
「ま、重機甲戦なら任せといてよ。猟兵さんみたいに機転は効かないし、
私は防御もちょっと苦手だけど、私達の突撃を受けて無事に済むネウロイなんていないよ」
「ドロテア、調子付くな」「も~、フリッカはすぐそれだ」
「お前に大破されるとどれだけ周りに負担が掛かると思ってるんだ」
「なにさ~フリッカ?私の心配はしないのぉ?」
「レオパルド2A6EXの装甲は大破してもウィッチを護る。それに、殺しても死なないだろう、お前」
「何それひっどいなぁ、私だってか弱いフラウなんですよーだ」
「フラウ、っていうのは単騎で機甲中隊規模のネウロイを殲滅してケロリとしてるような女に使う渾名なのか、驚きだな」
「フリッカ悪意滲んでる、悪意が滲んでるよフリッカ」


「頼もしいねセシールちゃん」
「う~ん……アタシの感想は保留だなぁ」
「それじゃ、準備に掛かりましょうか。細かい作戦はこれから詰めるわ、エリー、アーダルベルト大尉、ここに残ってミーティングよ。
その他の人は行動準備、使える補給物資は全て使って、人も物も今できる最高の状態にして頂戴」
「「はい、少佐」」





『行動開始5分前、各隊、戦闘用意。準備状況送れ』
無線でベアトリス少佐の声が流れる。

『ノーム10、レディ』『20、レディ』『30、レディ』
『B10、レディ』『20、レディ』『30、レディ』『40、レディ』
『ストゥーム1、レディ』『2、レディ』
『シェパード1、レディ』
二個機甲中隊、及び三個歩兵小隊、つまり一個歩兵中隊規模の準備が完了した。
『よろしい。我が増強戦闘団は、当初ノーム30を警戒前衛とし、右翼側を10、左翼側を20が警戒。
戦闘団主力をB00が護衛、警戒しつつ前進する。各車、間隔60。前進速度、シェパード1規整』
そこまで一気に命下して一度言葉を止め、
『敵主力と接触したならば速やかにBユニットを主力として攻撃、敵包囲を突破する』

全員が言葉を待つ。
『ノーム・グループ前進用意』
電磁クラッチがメインシャフトへ魔導エンジンの膨大なトルクを伝える。
脚部クアッドディスク・ブレーキとヒールスペードが大トルクを抑え付ける。
『前へ』
集合が単一の生命体のように、整然と前進が開始される。

味方部隊、カールスラントの戦友と姉妹達の許へ。


そのまま40分、敵は見えず、ただ暗く沈む砂漠を進む。
死んだような凪が世界を覆い、海の底にいるかのような錯覚、いや、想像を励起する。
実際には海の底なんて知らないのに、なぜそんなことを想うのだろう。


『30、31。 敵影は見えない。前方に陣地帯。先行して偵察する。
火器使用を許可、射撃は任意………行くぞ』
「ya」『ya』
前へ。

昨晩偵察した陣地、時間にしてたった4時間程でアタシ達はここに戻ってきた。

「32、陣地内へ侵入。敵見えず、異常なし。前進を継続」
『33、32と同じ。前進を継続』
『31了解、前進を継続せよ』

軽々と壕を超える。ストライカーの歩幅がなせる長大な超壕能力。
射撃陣地を警戒し、壕内からの奇襲を警戒。

己の歩行音が身体の芯に響き、心音とリンクする。規則的な呼吸音、
超大型ネウロイの発する有害ガスを警戒し、浄化装置を通した外気を吸入する音がヘルメット内に響く。

「………何も、いない」
『セシール、油断するな』
「ya」

『31、01。歩兵部隊が陣地帯に侵入する。最適経路を示せ』
『了解、マクロピクチャにアップロード』
デジタルマップ上に歩兵部隊が踏破可能な高低差の経路が複数示される。
その周囲を護るようにカールスラントウィッチが展開、経路上を警戒しつつ巧みに前進する歩兵中隊。
背嚢を含めた重量物を投棄し、情報化装具としては軽量な戦闘装具及び火器のみとなった歩兵は驚くほど俊敏だ。
有機的且つ規則的に死角をなくし、流れる様に壕内を前進する。

3小隊も前進速度をやや落とし、警戒監視を行いながら前方の低い稜線へ近付く。
歩兵の前進速度が落ちる。やはり陣地の通過は安全化に時間が掛かる。

『B00、B10。フリッカ、少佐、電磁流砂が来るよ』
「わかるの?」
『耳がチリチリする』
ドロテア中尉の頭部に顕現した、
彼女が使役する使いであるミミズクの耳がピクピク動く。


現代の魔女は、使い魔がいる者の方が圧倒的に少数だ。
NW2終結と前後して使い魔との契約の秘術が喪われてしまったため、その契約は血族からの継承に頼るのみとなってしまったためだ。
そして、いかな長命な使い魔とてその寿命は存在する。通常の生物に比べると圧倒的に長いのだが、
いつかは限界が来る。

そうして、『使い魔』そのものが喪われつつある。
使い魔との契約のサブシステムであった魔力増幅支援ナノマシンを高性能化した
接続用ナノマシンによってその代替となすため、各国が研究を行った結果、使い魔無しでの接続は実現したが、
その現状はよりリニアな接続と強力な魔力を引き換えにしてウィッチの負荷を増やすものであり、
完全な代替とは言えず、実際のところ別物である。


歩兵部隊が陣地帯の中ほどまで来たとき、地平線から紅い光が漏れ出始める。
世界が紅く染まる。




ゴン


突然、
左隣にいたカールスラントのウィッチが転倒した。



『あ…………れ?』
取り立てて足元が悪い訳でもない。

『カヤ!!!!』
ドロテアが叫び、機体でカヤ少尉を庇う。


『ごほッ………!』
カヤ少尉が血を吐く。装甲服の腹部に正面装甲裏面の破片が衝突し、硬質防弾プレートに亀裂が入っている。
正面装甲のメインシールドに被弾痕。機体中枢に深刻な損害。

大破。


『敵襲!!!散開して応戦!!!!』
少佐が叫ぶ。一斉に動き出す部隊。同時に前方の稜線が火を噴く。

血の色の黎明、水平方向から突き刺す赤い光に濡れてモノトーンの世界。
だがもはや静寂は無い。

怒号、爆轟、轟々と唸る火焔、瞬く砲火。
『進め!!止まるな!!』『目標群、中隊規模!!依然増大っ!!!』
『衛生兵!こっちだよ!!!カヤ!大丈夫、今降ろすから!!!』
ドロテアが牽制射撃で庇う後ろで、僚機が精密作業用アームでカヤ少尉を機体から慎重に引き摺り出し、地上の担架に降ろす。
カヤ少尉の口許に意識が持って行かれる。虚ろな表情、唇が動く。何かを紡ごうとする。
視線に反応し、センサがズームされる。
唇が動く、ゆっくり。声は聞こえない。


せんぱい、ドロテア先輩、  さむいよ




「はっ………はっ、はぁ、はぁ、……っぐ、かはっ……!」
『呆けるな32!!動け!!セシール!セシール!!』『セシールちゃん!!!』
息が上手く吸えない。耳元で聞こえる中尉の声やクロエの悲鳴が酷く遠く感じる。
遮蔽物に入らなきゃ。そう思う自分は後ろから眺めている。

もし、たまたま被弾したのがカヤ少尉じゃなくてアタシだったら

装甲厚で彼女の機に劣る私は腹に大口径の弾丸を撃ち込まれ、恐らく助かりはしなかった




ちゅうい、エリー中尉、   さむいよ


脳裏に腹部から止めどなく血を流すアタシの姿が浮かぶ。
「かっひ、ぁぁぁ………ぁあ、 あう、うう ッひぅうう………!!」

未だに暴露地に棒立ちになりながら、やっとで吸い込めたと思った息は、
深く大きく、悲鳴を上げるために胸に吸い込まれ


「セシール!!!」
ゴンッ!!

大きな衝撃、真横に機体ごと投げ出され、壕の中に転げ落ちる。
「きゃあぁあああううう!!!!」
頭を両手で庇い、ぶつかってきた何かに半狂乱で泣き叫びニーストライカーを叩き込もうと足掻いた
「落ち着けセシール!目を開けろ!!僕を見ろ!!!」
「ひっううあ?!」
焦点が合う。
目の前にヘルメットギアに包まれた中尉の幼くて凛々しい顔。
焦燥と緊張からくる汗を額に光らせ、どこまでも真っ直ぐな意思の焔が宿る瞳に射抜かれてやっと正気に戻った。
中尉はストライカーの両膝でアタシの機を抑え付け、馬乗りになって壕に庇ってる。

ゆっくりと音が戻る。
「………ちゅうい?」
間の抜けた声が喉から漏れる。
「気が付いたか!?………このバカ、死にたいのか!!」
身体全体で安堵した中尉がアタシを抱き締める。
『中尉!セシールちゃん!!わたしの後ろに!!』
「行くぞセシール!」「はい!」
立ち上がり、機体に異常が無い事を確かめる。

レリーフのように優美な防護魔法の純白の文様を機体表面に浮かべたクロエ機の後ろに入り、
そのままより大きな掩体に飛び込む。
『まずいよフリッカ、歩兵中隊が持たない!』『電磁流砂を確認!!』
『トリアージイエロー!!内蔵に負傷の疑いあり!!』『どいて!治癒魔法を使うわ!!』
『頑張れカヤ!!傷は浅いよ!!!』『おのれぇええ!!!!』
『衛生兵!衛生兵!!』『右に30ミルだ!次弾急げ!!!』『壕内にタウルス侵入!!』
『おい待て!それは味方だ!!!』『バカヤロー!!どこ見てやがる!!!』
無線が矢継ぎ早に情報を吐き出し、却って状況を混乱させてる。

『センパイ!フレデリカ!』『ええ』『承知した』
中尉が二人の中隊長に声を掛ける。



『静まれぇッ!!!!!!』
『ノーム全機!データリンク統制!!音声通信は戦術用途以外封鎖!!』

無線が沈黙する。
『戦場では冷静な判断力が生死を左右する。こういう場合は、黙って反撃しろ!!!』
『各機ナノマシンデータリンク起動、双方向通信許可』


『『『『イェスメム!!!!』』』』
一拍置いて全員が応える。


『各機!隣接する味方と臨時に組を作り連携して射撃!!稜線に惑わされるな!砂ごと撃て!徹甲弾なら徹る!!!』
『ノーム、任意目標に射撃。自由機動、攪乱せよ』
『ストゥーム、シェパード!対戦車火力を集中させろ!!火力分隊、歩兵型を近付けるな!!
小銃分隊!壕の中に入った奴を殺せ!!!各位御嬢さん方に踏まれるなよッ!!!!』
『『ya!!』』『『『Jawohl!!』』』『『応!!!』』
態勢が整う。何とか敵の猛攻を支える。でも、陣地から出られない。彼我の高低差で決定的劣勢が覆せない。


中尉が右手に出現した電磁流砂を睨む。
『………一か八かだ』『エリー、何か思いついたの』
『センパイ、僕を信じてください』

微かに笑う声
『言いなさい、私が貴女を信じないなんて事があったの?』
『ありがとうございます』

『僕達の小隊が電磁流砂に飛び込んで敵の側方に迂回します。その隙にフレデリカを主力に突撃を』
『…………駄目よ、死ぬわ』

『センパイ、…………信じてくれるんですよね?』


沈黙


『ずるい子。   やりなさい。  喉笛を喰い千切れ。征きなさい、カラミティ』
『了解、ベアトリス』


ごく自然にアタシとクロエは中尉の後ろに付く。手信号、前へ。

流砂に突入する。
質量を持った風、砂が機体表面を叩き、自分がどんな姿勢なのかも判らなくなる。
電気的計器は総てホワイトアウトしてカットオフ。

中尉が手信号で方位と距離を示す。
従う。盲目的に。


まぁ、実際盲目状態なんだから、ここで一番信頼できるのは中尉だ。彼女に依存する。
物理ジャイロを手掛かりにひたすら歩く。




時間の経過もわからなくなる。
歩数だけを数える。何秒経っただろうか。
10秒?それとも10分?




中尉が立ち止まる。
左に砲を向ける。
同時に、立体魔法陣が機体を包む。
何も聞こえない。

球状の空間圧縮。中尉の砲の周りだけ砂が消える。
地面が陥没する。大地が細動する。



………………………………ッ!!!!!!!!!!


流砂が『消えた』

HVMWのマズルブラスト。地上の恒星の如き爆轟。


真っ直ぐに放たれた破壊は光芒を引き、総てを掃き散らす。
マッハ7に迫る大威力のエネルギが敵中心で炸裂し、夥しい数の敵を根こそぎにする。
いつのまにか夜は開け切り、辺りは眩しく、毒々しい太陽光線が総てを厭にくっきりと浮き彫りにする。
中尉の唇がかすかに動く。


餌が見えたぜ。

もはや言葉など無かった。ただ目の前の餌を撃ち抜く。
ジグザグに機動して敵火を躱し、肉薄する。
敵の感覚器を蹴り潰す。その破孔に砲を突き立てる。発射。
砕け散る。バイザが紅く染まる。ウォッシャ作動、ワイパオン。次の獲物を頭を巡らし探す。

『HA!!HAHAHA!!往くぞオラァ!!!』
「らああああああ!!!!!!」『ぅぅぅぅぅううううあああああああ!!!!!』
中尉が大型陸戦ネウロイを垂直に蹴り上げて空中に浮かせ、下から砲を突き刺さんばかりに突き付けてそのまま連射する。
数度突き上げられた敵は原型を失って八つ裂きになる。

『フレデリカ!!』




『    B中隊、横隊作れ。  』

いつの間にか、そこには古のファランクスの如き光景があった。
相互に撃たないよう、最低限の間隔を取った横隊。

正面装甲の圧力がタワーシールドのように強固な必滅の意思を主張する。


『  中隊、前へ     圧し潰せ  』

圧倒的質量が迫る。


『30!離脱するぞ!!』『「ya!!」』
蹂躙が始まる。






そこからは、地上がよく見えた。

足掻く乙女たち、襲い掛かる異形。
雄叫びを上げ、銃剣を突き立てる勇猛な青年。
腹に傷を負い、苦痛に喘ぐ娘。
汗を浮かべ、必死に救う少女。



そして、流砂に飛び込む黑く、赫い髪。




『こんなところで見物ですの?』

振り返る。
同高度、2マイルにスカイウィッチ。
ラファールM、翼下に新型のステルスポッド。

少し驚く。自分がこの距離まで気付かないとは。



『有効指揮圏外。あなたがここにいるという事は、もう彼らに勝たせる気は無いんですのね』
「…………」
無視する。
『まぁ、いいですわ』




『  それで、貴女は 『だれ』 なのです  』


「……………………」
応えは持たない。迂闊だった。ここに現れたのは彼女だけではなかった。
カトラス。 幼き掃除屋、と呼ばれた少女。
『無口ですのね? ふん』

彼女が地上で雷鳴を放った。総崩れになる。圧し潰す隊伍。
突き徹し、そこで方陣を組む。撃つ。
もはや趨勢は決した。見届けた。

赫い髪が、猛っている。


機位を巡らす。南へ。
『行かせると思いますの?』

カトラスが照準波を放つ。高速誘導弾の弾頭とDEFA791の砲口がこちらを睨む。


「くすっ」
『………何を笑ってますの?』平坦な声。


無感情で事務的にカトラスが言葉を紡ぐ。ヒトの法を。

『警告する。我が方に帰順し、我が飛行場に着陸せよ。帰順の意思がある場合はギアダウンせよ。
これは警告である。帰順の意思が確認出来ない場合、貴機を撃墜する』
自分に通じると思うのだろうか、カトラスはそう信じているのか。

頤を上げ、虚空を見上げる。そして、地上を見つめる。
彼女は、どう思うだろう?


カトラスを見据え、そのまま後方に滑らかに加速する。
『待……ッ!!?!』
ステルスエフェクトを用いて随伴させていた対空誘導弾型自爆端末を嗾ける。

『くぅ!?』
危うく被弾し掛け、航過したソレを咄嗟に腰の後ろから抜いたP90で撃墜するカトラス。


ステルスエフェクト発動。
存在が大気に溶ける。拡散する意識。
『おのれ………!待ちなさい!!!』


たなびく自分の髪が視界に掛かる。

黑く、赫い髪。
思考が途絶える。


10



「くっ………!!」

ロストコンタクト。もうどうやったところで捕捉する事は出来ない。
迂闊でしたわ、先に手傷を負わせてからにすべきだった。
「………まぁ、ここで終わるわけではありませんし」
帰投するために機首を巡らす。



ふと、地上が気になった。
陸軍混成隊は今まさに敵を殲滅し、鬨の声を上げていた。
カールスラント機甲部隊とも首尾よく合流したようだ。
彼女の勇敢な友人も見える。子供みたいな笑顔。

歌うように、踊るように殺す。
戦いのために生まれたような、無垢で純潔な、戦の焔のような娘。

彼女の澄んだ歌は、誰かの為のものではなく、だから誰にも聞かせてはくれず、
必然的に盗み聞きになってしまうけれど、わたしは彼女の歌声が好きだった。



彼女からは新型の電子戦ポッドのステルスエフェクトでこちらが見えない。
光学的に透明ではないが、太陽を背負っている。
「エリーさん。………貴女、何も知らないのかしら。やっぱり」


感傷的な感情が湧く。
着陸して、すべて彼女にぶちまけてしまいたい。
あの娘の力になりたい。

すぐに振り払う。

沈んだ目までは隠せなかったが、表情を引き締めて己に言い聞かせる。
「…………落ち着きなさい、モルガン・ベアール。貴女は今、任務遂行中ですのよ。
何のためにわざわざ我が正当ガリアが国立軍事研究所から犯罪紛いに奪い取った研究試作装備をぶら下げてますの?」

………ああ、彼女とエレメントを組み、その傍らで介添えを出来たら、そうできたらいいのに。
それは、でも、不可能。



「正当ガリアの為に」


空軍の野戦飛行場ではなく、ガリア海軍の仮設した秘匿飛行場へと向かう。


11


レオパルド2主力戦車をベースにしたストライカー回収車はその甲板に三機のルクレールを載せ、
時速40kmで晴天の砂漠を一直線に疾走していた。
行く先に見えた陰に気付き、ストライカーから降りたアタシ達は座っていた甲板に立ち上がり、
目を輝かせて前方に視線を向けた。


カールスラント機甲部隊の駐屯地が見えてきた。

う~~ん、俄然テンションが上がってきた!
「わああぁ、大きいですねぇ!」クロエも弾んだ声を上げる。
「うん、スゴイなぁ!」中尉も嬉しそう。
実際とても大きな駐屯地だった。

と、頭上を追い越し、MC-17の三機編隊が青空からギアダウンしてアプローチする。
「迎えも来たみたいだな」「三機降りられるなんてすごいです」「ふぇええええ」

並走するレオパルド2EXから短距離無線が入る。
『ふふ~ん、スゴイでしょ♪』『お前が凄い訳じゃ無いぞ、ドロテア』
『も~何さぁ、フリッカってばそればっか』
『ま、何にしても損害が少なくてよかった。犠牲が無い訳じゃ無いから、無邪気に喜ぶのも憚られるが』
「カヤさんも無事だったみたいだしな。もういいんだろ?」
『ああ、ベル中尉には感謝してもし切れんよ。安静にすれば2~3日で復帰できるそうだ。
素晴らしいモノなんだな、メディカル・ソーサレスというのは』
「それは、ベルに直接言ってあげろよ、喜ぶぞ」

『そうしよう。後日、カヤを連れて礼に行くよ。エアステ・ラーゲを持って』『ええっ!?』 
「僕も同席するよ」真顔で即答する中尉「えっ?中尉、なんですかエア何とかって」
「わ………わたしも同席しますッ!!!」クロエまで。

『はっはははは!!安心してくれ、全員ちゃんと当たるようにするよ!!』
「ねぇ、なに?何なのぉ?」
『エアステ・ラーゲってのは高級モーゼルだよセシール。まさかフリッカがあれ出すとはねぇ………』
モーゼル?マウザー?武器………?

『妹の命を救ってもらったんだ、おまけに3小隊は自ら陽動に努めてくれたんだぞ。
全機ボロボロになりながらも欠ける事無く生還、しかもどの隊より戦功をあげてる。 
赫奕たる戦果、軒昂なる闘志、まさに真のウィッチだ』
『まぁ、そうだよね。ありがとエリー。あの子、アタシの後輩なんだ』
「なんで僕に言う?」
『んっもう、治療してるトコ狙われるたんびに突っ込んでくれたじゃん?』
「…………たまたまさ」唇をとがらせてそっぽを向く中尉。耳まで真っ赤だ。

『ま、せっかくだし今夜あたりどうだい?牛乳と芋の料理でささやかに酒宴でも。少佐?』
『ええ、いいわね』
『ということだ。黙祷を捧げて、今日の勝利を戦友達に』
「うん、必ず行くよ」


『が、その前にフロだな』
「風呂?!」中尉、かぶりつき。
『う………うむ、自慢のフソウブロだ。知っているのか?』
「砂漠に風呂があるのか?!」聞いてないご様子。
『ああ、ロテン…』「露天風呂?!月下の砂漠で露天風呂?!?!!」
並走する少佐も失笑している。笑う気配がしたので見ると、周りの味方全員だ。

『落ち着けエリー』
「ボクハレイセイダヨ!!!!!」何故かスオムス訛りが入る中尉。
『わかった、よくわかったから』
「ねぇ、ドロテア?どこにそんな水あるのぉ?」
『ん、ああ。 ほら、あそこ見て、ストライカーグレネード
(ポテトマッシャー手榴弾の巨大化版)のお化けみたいのあるでしょ』
「うん」
確かに、ばかでっかい手榴弾みたいなものが立っている。
『あれがでっかい給水塔だよ。井戸があってね、チョロチョロしか出ないけどああやって溜めて水量確保してるんだ』
「へぇええ…………」「汗流したい……」クロエも額に浮いた汗を拭って、いささかくすんでしまった赤毛を気にしている。

「う~~~~~~ん、持つべきは友邦だねぇ!!!C'est meilleur!!Yahooooooooooooo!!!」
感極まって両拳を突き上げて叫ぶ中尉。こっちまで嬉しくなっ



ゴボッン………



「えっ…………うぉ!!?」
給水塔が破裂した。
急停車する回収車。腕を突き上げた姿勢のまま前方に吹っ飛んで砂の上で派手に転がる中尉。
『何だ?!』

同時に、遠方の駐屯地から敵襲を告げるサイレンが響く。
『キャンプ・マルセイユHQより稼働可能な全戦闘単位へ!!敵襲!!全部隊出撃!!敵を迎撃せよ!!!繰り返す――――――』
「セシールちゃん……!」「うん……」
見ると、巨大機動要塞砲級ネウロイ、ジグラッド・ドーラが単独で駐屯地を襲撃しているのが見えた。

アタシ達の機は、中破状態で稼働不能だ、中尉の機も、ステルス機能に障害がある状態。
『お前達はここで待』「なぁフレデリカ」
『エリーか?………どうした』

びたん!
音を立てて回収車の甲板に掌が掛かる。

「給水塔がやられたってことは、露天風呂は、あれか」
『ああ、うん。確かに…水がたまるまで暫く使えないが、……そんな』
「OKOK、理解したよ。…………AHA,HA」

ずるり、
甲板に中尉が登ってくる。アタシとクロエはお互いに抱きあって硬直していた。
余りの怒りに黑く光を吸い込む余剰魔素を立ち昇らせ、
眼窩から黄金色の恒星の焔を滾らせる中尉がアタシ達の横を素通りする。

『エリー?』
『うぁ』ドロテアがいち早く異変に気付いた。素早く後退機動で距離を取るドロテア。
賢明だと思う。

ストライカーを装備するエリー中尉。
「おい」「「ひぃやぃッ!?」」
「翼付けろ」「え?」「セシールちゃん……!」「!!……了解!」
二人掛かりで回収して来ていた降下動翼を中尉のストライカーに取り付ける。

起動する中尉の機。翼が威嚇するように派手で立ち昇る余剰魔素が獰猛な獣の殺気のようだ。
『ウグルルルルルルルルルルルルルルル………………!!!!!』
回収車から地面へ降り、ドーラへ向かって身を撓める中尉機。

「あっ………!!後退用意!!後へ!!!!」
気が付いたアタシはポカンとしていた回収車の操縦手に号令を出す。
蹴飛ばした様にバックする回収車「おい嬢ちゃん!!」車長が抗議の声を上げる。
「もっと速く!!急げ!!ASAP!!!!!」でも聞いてられない。
切迫したアタシの様子に気圧されて車長も黙る。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


バガンッ!!!

「伏せて!!」「わぷッ!」「おおあ?!」
中尉が跳ぶ、いや、飛ぶ。
地面が炸裂して回収車もあおられる。何とか横転せずに済んだ。
「なんだありゃぁあ…………!?」

完全にキレてるね、あれは。

空中で身を捻り、真下に砲撃して更に上昇、降下動翼で鋭角的に高速機動し『陸棲イージス艦モドキ』と揶揄される
ジグラッド・ドーラのハリネズミのような対空誘導火器を悉く躱し、激しいスピンを行いながらどんどん加速して直上から隕石のように突撃。
時折、謎の空中爆発で対空弾が減る。何だろ?

『………ブート完了、ワーヘッド、モーター、プロペラント、接続完了………モード、ビームライド』
怨嗟のような射撃定型文が聞こえてくる。
『魔導加速、最大出力』
中尉の機が大気圏へ突入した隕石のように赤熱する。いや、あれ魔法陣か、ガン・バレル。
うわぁ………………、神様。

『喰らえヴォケェエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』














≪ 後の調査の聞き取り記録  ※匿名であり、複数の証言である点に留意 ≫

正にそれは隕石でした。

クレーターが出来て、キノコ雲が上がり、衝撃波と吸い込みが発生しました。

結局回収車も引っくり返りました。はい。

とても恐ろしく、でも、そう―――――あれは、一種の荘厳さがありました。

ええ、そうです、荘厳さ。

あそこまで行くと災害にしか見えません。


もうこの際言いますよ、はい。あれはディザスター(災害)ですね。

カラミティ(災厄)でも合ってますけど。

まぁ、敵にとっての最悪、でしょうから、いいんですけど。

いえごめんなさい、よくありませんでした。

てゆうかさぁ、もうありえなくない?  人間?

まぁ、辞めました、みたいな。

≪終了  カールスラント陸軍情報部 調査課≫






『AAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!』
クレーターの底の残骸の上に魔獣のように立ち、中尉が勝利の雄叫びを上げている。
いや慟哭かなぁ、まぁいいか………。

アタシは引っくり返って足の間から逆さに見える風景をやる気なさげに半眼で眺めた。
ウィッチ大隊規模の戦力でも撃退がやっとのモノをよくもまぁ…………。




ぶしゅ~~~~~!!
『あぶっぷあ!きゃうう!!!!』
どばぁああああああああああ……………
突然中尉が吹っ飛んだ。クレーターの中心、つまり真下からの衝撃で。


「…………ははは」『凄いな』『もはや笑うしかないね』「あううう……」『あの子ったら、うふふ』
温泉が湧いた。鯨の潮吹きみたいに。


中尉の一撃で。

「自慢の姉ですもん。ね、エリーちゅうい?」









―――その水はいくらですか?―――

おしまい。




あと、その後の宴会とオンセンでも色々とあったけれど、それは長いので割愛。
またの機会に語ろうと思う。ぞれじゃ、先生、また手紙書きますね。
  
                ―――セシール・アンリエト・モラン軍曹



[24398] 現代編 暫定設定
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2010/11/25 13:13
現代編作成に当たって


・母艦 『ACVWX たいほう』

これはオラーシャ『TAKR アドミラル・グズネツォフ』級重航空巡洋艦、扶桑皇国『CVH16 ひゅうが』級ヘリ運用母艦を母体とし、
リベリオン『ジョージ・H・W・ブッシュ』改ニミッツ級航空母艦の航空機運用システムを参考にして
ウィッチ運用に適した各種装備を備える形で新規設計、
継戦能力に劣るウィッチを積極的に支援・敵をその絶大な火力で殲滅する新概念
『強襲型航空機械化歩兵運用母艦(ACVW)』実証実験として世界に先駆け新造された実験艦である。

武装はTAKR、CVHとしては異常に重武装なアドミラル・グズネツォフ及びひゅうが級の装備を
ウィッチの継戦力を運用母艦が補うに留まらず母艦自ら積極的攻勢を可能とするために更に強化、
砲身格納型ステルスシールド無人砲塔の5インチ速射砲を背負い配置で艦橋構造前に2門装備、
20mm高性能機関砲CIWSをSPY3に連動可能とした上で4基に増設、
左右それぞれ4門、計8門の近接戦闘用57mm自動砲塔を装備、
大増強したVLSセルに対地攻撃用のタクティカル・トマホークを多数搭載。
アスロック改、ESSMと合わせて大気圏外を除く全領域の目標を攻撃可能とした。
また後部にウェルドッグを増設し、LCACを1隻運用可能としている。
(後のアップデートでVLS式ファストホーク対応、主砲の155mm2連装砲塔二基への換装により対地対水上火力が、
スタンダードSAMシリーズへのFCSの対応、CIWSのLAMへの換装で対空火力が、
舷側有線制御スイムアウト対応前装式533mm魚雷発射管増設、攻撃型UUVの搭載で対潜火力が増強された)

結果として、CVH16との共通点は極一部のレーダーモジュール実装方法以外(というよりも、最早皆無と言って差し支えない)無く、
ほぼ完全な新規設計となったばかりか船殻規模はCVH22を悠々と超え、リベリオン正規空母(CVN)に迫る巨体となり、
性格としては事実上のCVWとして試験的に運用されているリベリオン海兵隊所属強襲揚陸艦(LHD)『ワスプ』級を超える
搭載ウィッチを用いなくとも単艦としての戦闘能力、要部を守るセラミック装甲材による防御力、
果ては速力、運動性すら規格外の高性能戦闘艦、新概念『CVW』の歴史的先駆者となった。
(未遂で終わったが、計画の途上でその個艦戦闘能力に着目した一部海軍幕僚部一派の圧力により、
ウィッチ運用能力をオミットした新世代重打撃艦(BBX)として計画を変更されそうになったほどである)

(のちにリベリオンは『ワスプ』より大規模な45,700t級LHA『リベリオン』を改装、CVWとして実用化、
CVNX(次世代航空母艦)の大幅なプラン変更による101,600t級正規CVW-21『ジェラルド・R・フォード』を実用化する。
リベリオンはCVW-21を空母機動艦隊として運用することを前提とし、個艦に過度の戦闘能力を求めず、
その能力をウィッチ運用に絞ることにより実に80機以上のウィッチを同時運用する事が出来る。
このCVW-21級の主力ストライカーは666thTFWWでテストを受けたX-35戦闘脚の正規量産型、F-35である)

本艦は詰め込み過ぎたそのディメンションにより、通常型艦載戦術航空機を全く運用出来ず、その格納庫規模も
ウィッチ最大20以外にはSRタスクの運用するCV-22特殊作戦垂直離着陸機最大15機及び、百里航空基地をマザーベースとする
第1無人戦略偵察航空分遣隊の運用する多目的UAV10機を運用可能であるに留まるが、
元来ストライカードーリーさえあれば駐機に関しては1コンテナに付属関係品を総て格納、
1パッケージとして扱う事が出来るウィッチの運用においては問題無いと判断された。
(他国からは非正規のニックネームとして『ウィッチ・トイボックス』『アーセナル』『ミドガルズオルム』と呼称され揶揄されている)

しかしながら、本艦を母艦とする第666機械化航空歩兵戦術航空団(666th,TFWW)は、
他の航空団に比べて異様なまでの対大型ネウロイ戦に特化した部隊であり、
その筆頭として飛行隊司令、海軍少佐 出雲涼の駆る宮菱重工F-15FF『シー・ストライク・イーグル』などの
VTOLどころかSTOVLも不可能な重量級、若しくは入間航空基地の航空開発実験団より出向した
技術陣による過剰なチューンにより4500kg近い爆装、武装形態で常態運用されるストライカーを擁しており
(信じがたい事に、本部隊の主要な使用兵装はBLU-107W『ソーサリアル・デュランダル』である)
この運用のため、基本概念はTAKR(重航空巡洋艦)及びCVH(ヘリ運用母艦)ベースの艦であるにも拘らず、
その飛行甲板にはカタパルト及びアレスティングワイヤを備える。

ただし、リベリオンが自国外での正規CVNに匹敵する機動戦力の実用化に難を示したため、
最新型の電磁レール・カタパルトは技術提供されず、結果として、宮菱製の電磁レール・カタパルトが出力不足だったがために
離陸用のイニシエート・ロケットモーターと組み合わせて発進するハイブリッド式となった。
この際、その過剰に高熱なロケットブラストを上空に逃がすため、甲板装甲及び舷側要部装甲に宮菱重工の誇る
主力戦車用特殊セラミック装甲技術が活かされる形となった。
(この世界最高峰の非金属装甲技術が無ければ、本艦はウィッチを運用不能であったとさえ評され、
大電力や大量の高圧蒸気を必要としないこの形式は統合軍による後の世界的CVW建造ラッシュへの重要なマイルストーンとなった)

機関には宮菱重工製加圧水型原子炉を4器備え、ポンプジェット推進機4軸及びバウスラスターを装備、
マスカーユニットを全力稼働して船体抵抗を絶縁した上で海象条件が最適であれば瞬間的最大速力は46kt(巡航は不可能)に到達する。
(当然、航空機運用母艦として過剰性能であるどころか、このサイズの軍用艦で世界最速。
本級よりも高速性に優れる大型艦は殆ど存在しない)

※当然ながら本級の建造コストは途方もない数字となり、
(軍部内でも『一隻の建造費「だけ」で新8・8艦隊をまるごと3個新造して退役まで刷新しつつ運用出来る』とまで揶揄された)
実験艦として以外の運用、つまり作戦投入は戦時特例承認・投入に限定された。
最終的に『たいほう級ACVWX』の建造は3隻で終了、その後も『ジェラルド・R・フォード』以外、
本級よりも巨大なCVWは一切建造されず、寧ろ『たいほう級』をコンパクト化した設計が世界的に主流となった。

※本級は主要航空部隊がウィッチに限定されるとはいえNW2後初の扶桑航空母艦であり、
 個艦としての戦闘能力は間違いなく現時点、また近い将来においても世界最強である。

※本艦の所属は海軍技術研究本部隷下 第1航空歩兵運用試験艦隊(旗艦)であるが
 実質の命令系統は分遣されている扶桑皇国強襲軍団第1海上強襲揚陸戦隊が持つ。


・ネウロイは再び大発生、これに対し人類は大規模攻勢に出ている。

第二次ネウロイ大戦(NW2)以後、東南アジア、極東半島での戦役、東欧で初観測された歩兵型ネウロイによる虐殺、
中東湾岸での同時大規模発生、これら総てを人類、そしてウィッチは退けていた。

しかし、2000年代初頭に入ってからリベリオン都市部への特攻型大型航空ネウロイの奇襲を皮切りにして、
再び主として中東地域、及びアフリカ大陸、ヨーロッパ全域、その他全地球規模にネストを持たないネウロイが過去最大の規模で
浸透、出現し暴虐の限りを尽くした。

人類は凄惨極まる消耗戦を全地球規模で展開、オラーシャ戦線では戦術核兵器の濫用すら行われる有様であった。

やがて疲弊した人類はヨーロッパ大陸を放棄、その最終防衛ラインを
オラーシャ中部、ブリタニア・ドーバー及びアフリカのサハラに設定し、
その他地域では突如出現するネウロイによる低強度戦闘に即応する形でのネウロイの封じ込めを図った。

しかし、それでも独自指揮権を持つ一部のウィッチ部隊、及び各国混成の挺身隊がヨーロッパ大陸において
ユーロポート、ガリア北部、北海油田、スオムスに布陣し、一進一退の決死の防衛戦を展開した。
(この中でも、ガリア国立ウィッチ・オフィサー・スクール及びユーロポート守備隊は決して退く事の無い
鬼気迫る戦いで同校及び港全域を死守、同地がネウロイに支配されることは一度として無かった)



「  
 
友が、 妹が、 人類が戦っている。 

彼ら、彼女らを我々は見捨てるのか?

否。我々は決して見捨てはしない!

この星は人類のものだ。
宇宙から見たとき、この蒼き星に国境など無かった。

だが、ネウロイにくれてやる領土など1エーカーとて存在しなかった!
家族の戦う戦火が宇宙からでも見えた!!!

この星は人類のモノだ!!!!友を救え!!!!!妹達を救え!!!!!

奴らを駆逐しろ!!!!!!
私と共に戦え!!!人類!!!!!!!!

                            」
(エーリアル・ヴェネッサ・マース少将帰還スピーチより抜粋)

リベリオン航空宇宙軍(実際には、本プロジェクトの為にリベリオン空軍及び海兵隊内に設立された一連の部隊)少将、
エーリアル・ヴェネッサ・マース。TACネーム『ミストレス』
通称、『ア・ハートレス・ミストレス・マーズ』『バーニングソウル』『グラディウス』

現代において軍人以外も含めた人類の脳裏に最も深くその名を刻みこんだ伝説級大魔女、
超大型軌道爆撃スペースプレーン・ストライカーの試作機による初の単独大気圏外飛行を成功させた
最初のアストロノーツ・ウィッチの帰還スピーチに呼応する形で
全地球規模での反攻作戦『Operation‐Earth』が発動され、
リベリオン基幹部隊による中東戦線『サンダー・ラン作戦』を皮切りに人類は怒涛の進撃を成功させ、

2010年春までにガリアの北半分を含むヨーロッパ大陸の半分、
中東のほぼ全域(ただし、一時的であり、泥沼の戦闘状態が未だ続いている)を奪還、
各地に新たな秘匿型ネストを多数発見するに至っていた。



・ウィッチは決戦存在。ただしウィッチが総てではない。

これは、20世紀後半、及び21世紀初頭における軍事技術の飛躍により、
航続力、継戦力が著しく低いウィッチ兵器―――通称『W-Weapon』略してWWに頼らずともネウロイに抗する牙を
人類が備えつつあるためであるが、そのような中でもウィッチの持つ物理法則改変能力は極めて重要であり、
その戦闘力の急先鋒、楔として運用される為である。

男達とて、座視している訳ではない。


・魔素消耗を抑える技術が確立されている。

エクソ・スケルトン技術の実用化、
及び純粋魔素直接燃焼動力から魔素増幅式通常燃料動力へのパラダイム・シフトが存在し、
嘗て多数存在したような『伝説級大魔女』が現状殆ど兵役に服さない代わり、低いウィッチ適性の少女、
及び魔法力の低下したベテランウィッチが十二分に戦える素地が完成されている。

陸戦戦闘脚に於いては第2.5世代以降、
航空戦闘脚に於いては第4世代以降がこれに当たる。

ストライカーユニットは、NW2時代の『戦闘脚』という名が体を表すサイズから肥大化、
脚部ユニット全長そのものが4メートルオーバー級が一般的となりつつあり、
そのユニット構成はあたかも騎士の全身鎧の如く進化した。

飛行脚においては
・魔素増幅式動力、空力制御動翼及び装備機種は機関砲等の固定武装を備えた脚部ユニット
・腰椎フレームとそれに支えられるエクソスケルトン・システム
・高度なヘルスセンサ内蔵型生命維持機能を備えた
ウェアラブル・アビオニクス内装Gフライト・スーツ及び
空力的に洗練されたボディアーマー、複合センサを搭載したヘルメットギア
・腕部統合軍共通規格による各種兵装パイロン型ランチャーを扱うFCSグローブ
・納入、輸送の際はオールインのコンテナに機体、付属品、予備部品、整備支援コンピュータ及びPDA、ドーリー、
これらを1コンテナに纏め、必要とあれば天板を展開、離陸、限定的な迎撃戦闘を短時間実行可能。
コンテナ外板にはメーカーロゴ、ロット、機種名を意匠化したマーキングが施される。
塗色も機種に因んで工夫される(ラファールDであればフェライトブラック、
F15FJであればロービジグレーと海洋迷彩のグラデーション等)


陸上脚においては
・高度化した履帯駆動系を備えた高機動キャタピラ内臓の巨大な脚部ユニット
・足回りのディメンションの関係上、大腿部及び腰部フレームにオフセットされた魔素増幅式動力
・戦術航空機並の電子機器、及び一部機種であれば電子戦装備を備え
被弾のリスクを低減するために背部に集中し配されたヴェトロニクス・パック
・肩部背面にレール装架される装甲化された砲ユニット及び機関銃、照準用センサ
・強固な正面装甲を身体前面に間隔を開けフレーム懸架、装甲裏面にはMFD等の表示機器
・航空用の比ではない重防護性能を誇るストライカーフレーム一体型全身用エクソスケルトン装甲服、
及びHMDを備え頸部、顎部フレームに一体化した、砲ユニットと合わせて
ハンターキラー能力を持つ独立センサー内蔵ヘルメットギア
・納入、輸送に際しては輸送機用ストライカー空挺投下重パレットに
蹲った状態でワイヤで固定され広帯域ステルスネット
(IR、レーダ、光学、紫外対応のUCP-Dパターンのバラキューダ)が被せられる。
拘束された騎士の魔物のような異様な風体となるが、空挺作戦や航空輸送、
駐機の都合上この方法が最も便利であるので統合軍共通規格化されている。

※両体系とも、ウィッチの継戦力を少しでも助長するため燃料は入る所にはありったけ詰め込まれている

という、嘗てとは全くの別物と言える構成となっている。
兵器としての魔法力の支援増幅という方向性に進化した結果、
『脚』の呼び名を逸脱した現代の『魔女の箒』である
(しかし今現在においても、慣習上『戦闘脚』と呼ばれる)


尚、水上・潜水問わず海洋型ストライカーは未だテスト段階を脱していない。
これは、ウィッチの魔力容量に起因する連続作戦能力を、
ストライカーのサイズでは海軍用途の所要を満たすレベルに出来ない為である。
(ただし、前述の航宙ストライカー技術を流用した試作型のプランは進行中である)



・ウィッチはその魔力で12位階に区分される。
その魔力量、魔力性質の希少性、技量、戦闘能力で区分され、
階級と並行してウィッチの戦闘能力を定量化し、より効率的な運用を行う参考としている。
ウィッチの大半は準戦術級、戦術級魔女以下であり、準戦略級魔女以上は非常に希少。

「レジェンダリ」
伝説級大魔女
伝説級魔女
準伝説級魔女

「ストラテジカル」
戦略級大魔女
戦略級魔女
準戦略級魔女

「タクティカル」
戦術級大魔女
戦術級魔女
準戦術級魔女

「サポート」
支援級魔女
準支援級魔女
非戦闘級魔女

の4区分12位階で区分される。
いくら技術が進化しているとはいえ、ストライカーの性能をスペック通り発揮できるのは準戦術級魔女までで、
支援級以下の位階になるとスペックダウンする(一応装備は出来る)。
またスペック以上の性能を安定して発揮(オーバードライブ)するには戦略級以上でなければならない。

非戦闘級は、魔素起動式計算機を駆使してオペレーターや魔導医療機器を運用して医療従事者等となる。

※かつての伝説的エース部隊501JFW、NW2における五百番台JFWのような
戦略級以上のウィッチは減少し続けている。


・ウィッチの俸給
航空ウィッチの俸給は『ファイターパイロットより少し高い程度』
陸戦ウィッチだと、猟兵(=降下強襲兵)、
重機甲兵(=装甲を強化した突撃戦闘専任のG3ストライカー操手)
がこれと同じ俸給で、それ以外の陸戦ウィッチは普通の兵科+20%程度。
かつてのような破格の俸給ではない。


・軍事技術は現実よりも遥かに進んでいる。
当然、ネウロイという急迫不可避の脅威に対応する為である。
特に『ウィッチ』という根本的に不安定且つ物理法則に相反する要素を
物理法則と規範の塊である軍事技術体系へと取り込むため、
遺伝子工学、生体科学、魔素干渉法則制御研究、それらを支える先進科学の研究が異常進化。
それを流用する形で、軍民問わず人類技術は先鋭化し続けている。


・奪還領土利権の奪い合い

ガリア、カールスラント、ロマーニャ、オラーシャ西部、アフリカ中部、東南アジアその他のネウロイ占領地は、
各国主導者にとって『利権の処女地』そのものであり、喉から手が出るほど欲しいモノである。
それが総てでは無いにせよ、戦役後の利権配当を見越して、各国は戦力を投入している側面が存在する。
つまり、国家戦略的に価値の薄い、または政治的意味で積極的には手を出さない地域も存在する。
戦役による軍需産業コングロマリットの利益も存在する。

だからと言って戦役を長期化させる動きは無いが、
(元々そんな必要は無い程戦力差は際どく、寧ろネウロイが優勢である)
そこに社運を見出す企業体もまた、(主に国土が主戦地とならない国の企業に)多い。


・ネウロイの進化

2003年の段階で、人類通常兵器を模すだけでは無く、航空歩兵型ネウロイ『イシュタル』
(紛い物、贋作の意。機種別に、制空型コード『イシュターtype1』攻撃機型コード『イシュターtype2』のように分類される)
に代表されるようなWWのコピーを投入する兆候が発生している。
これは、第二次ネウロイ大戦中期にも見られた兆候に酷似しているが、
それとは決定的に異なる点として、最悪の予想であるが『鹵獲ウィッチ』を用いたと見られるWWを、
未確認ながら前線で目撃したという不確定情報を鑑みるに、より深刻かつ危急の事態であると言える。


・各ウィッチの装備
 
基本的には出身軍に因んだものを用いるが、そもそも用途として不適であるモノについては
逐次装備体系の統合、その上で各人の能力に合った改装を施している。
これも、扶桑空軍開発実験団及び海軍技術研究本部、陸軍特殊作戦師団隷下装備開発実験隊の肝いりである
『たいほう』の運用に各者が強力なバックアップ(暴走としか見えない場合もあるが、その場合、実際の暴走である)
をしているがために可能な、実験的運用である。

また、CVWとそれを母艦とするTFWWの運用データを欲する統合軍各国研究機関が
データとバーターで技術支援を積極的に行っているという側面もある。

いみじくも『ウィッチ・トイボックス』という渾名は非常に的を得ているといえる。



・通常型航空戦力

統合軍は、WWネウロイ『イシュタル』の投入により一気に無力化された
第四世代以前の通常戦術航空機の代替に当たり、航空戦術の大転換を求められた。
これに応えるべく、リベリオンボーイング社が提出し、採用された回答が、
統合軍標準戦術航空機F/A-1R『キャバルリー・ランサー』である。

本機は、ボーイングB-1Bをその開発母体とし、主機をF119の四発に変更、
機体の前後にAESAレーダ及び能動型電子戦装置(アクティヴ・ステルス・システム)を搭載し、
機体構造・外形にステルス構造を導入、垂尾と昇降舵をラダーベータ―に統合、
機外ステーション6箇所に4連装大型AAMランチャを装備、
機内ウェポンベイに近接防御用高機動マイクロミサイルをヘキサ配置のロータリー・ランチャに
60発格納した長射程高速航空火力戦闘専任機として開発された。

乗員は機長兼操縦士、火器管制士官、近接防御管制士官、電子戦士官の四名でワークロードを分散し、
2機1組のエレメント、2エレメントからなるフライト単位で作戦行動を行う。

典型的な作戦パターンは、4機からなるフライトが空中でスクエア配置による定常旋回円を描き、
それぞれのAESAレーダの探知範囲前後90度のコーンを均一に展開して全周走査し空中警戒、
或いはパッシヴで旋回待機、AWACS又はレーダの示した敵に向かいヘッドオンを避けパッシヴモード若しくは能動ステルスモードで超音速接近、
初期弾道を慣性誘導にしたフライトで最大96発の長射程アクティヴホーミングAAMをエレメント毎の48発2波に分けて投網のように一斉射、
反転して全速離脱、捕捉された際は速やかにコンバット・ボックスを形成、
フライトでの回避機動を行いつつマイクロミサイルの全力射撃で迎撃戦闘を行う。

F/A-1Rは、世界各国でそれぞれ運用国の要求仕様に最適化されライセンス生産されている。
(極端な例では扶桑空・海軍が独自に搭載ミサイルと飛行制御ソフトウェアを変更・改良し、
76mmガンを機首に搭載したF/A-1RF『ガン・ランサー』もこれに当たる。
エアバースト弾頭を発射可能とはいえ、戦術航空機としては超大型機であるF/A-1R系統機での
空対空ガン・キル、また低空進入での対地・対艦ガン射撃という発想そのものが常軌を逸している。)


尚、リベリオンロッキード社F-22A『ラプター』、及びオラーシャスホーイ社T-50『PAK-FA』は、
このような通常型航空機の現状を打破、『制空戦闘機の復権』という「パイロット」の悲願を背負った希望である。


オラーシャはそれまで保有していた通常戦術航空機Su-33及びSu-30、Su-27の性能に絶対の自信を持っていた。
かつてはその自信は信頼と呼ぶに値するものであったが、それは敵航空機械化歩兵型ネウロイの出現後も変わることはなく、
もはや事ここに至っては慢心であった。事実、オラーシャ航空部隊は『イシュターtype1』との正面戦闘を繰り返し、
甚大な損害と人的被害を被った。この惨敗が、それまで頑なに拒否していたF/A-1R系列機の導入をオラーシャに決意させた。
こうして導入されたのが各部にオラーシャ流の空力形状を導入し、ペイロードを増強、
オートマチック・カートリッジ・ロケットモーターによる高運動用補助推力を備えたF/A-Su-1Rである。



・運用される小火器及び装備

基本的に、陸戦に於いて個々の戦闘力で人類の完全装備歩兵を凌駕するネウロイに抗するに辺り、
歩兵用装備開発で最重要視されたのは『情報統合による集中運用での戦闘力の乗数効果』である。

これらのシステムは、
ガリア陸軍歩兵システム『フェリン』、
リベリオン総軍(実体は4軍であるが、基本装備は統合されている)歩兵システム『OFW』
カールスラント陸軍歩兵システム『IDZ』が代表的である。


これらに遅れる形で扶桑皇国陸軍及び海軍強襲陸戦隊においても同種のシステム開発は行われ、

1、10式小銃
2010年正式採用された豊和工業製、扶桑皇国軍正式カービンライフル。
カールスラントで開発された4.73mm DM-16有翼徹甲弾を用い、
本来至近距離でなくては外乱による弾道偏差が大きく実用的ではないDM-16弾を
組み込み式の宮菱重工製FCSで補正表示されるフロートレチクルによる射撃を行う事で命中精度、実用性を高めている。
設計はステアーACR及びH&K G11を参考に行われた。
11式誘導擲弾(小銃擲弾として用いる小型の多目的誘導弾)を運用可能。

バリエーションとして、
銃身を延長、肉厚を増加した上で軽易に交換可能とし、オープンボルト稼動に機関部の仕様を変更、
300発箱型弾倉を接続可能とし、軽量な折り畳み式三脚架を備え、
09式4.73mm徹甲榴弾を射撃可能とした10式分隊支援火器と、
特殊作戦向けに全長を短縮、サプレッサをハンドガード内のバレル部にビルトイン、
10式分隊支援火器用の09式4.73mm徹甲榴弾と12式4.73mm減音弾
(飛翔音を消すために初速を亜音速に落とし、有翼弾から通常の弾頭形状に変更し
弾頭質量を増加したサプレッサ装備銃用軟頭弾)
を運用可能とした10式小銃改がある。

2、09式着用型歩兵情報端末
レベル4抗弾ベストとスペクトラ製ヘルメットに内蔵されたウェアラブルコンピュータ。
旧世代の情報端末RECSを発展、ホログラフィック・モノクルと視線追尾装置、サーマルセンサ、
GPS同期型情報伝送装置を組み合わせた情報化装備。電源は蓄電池。
非常用にシート型太陽電池と体温発電素子を内蔵している。

3、09式戦闘車
10式戦車と同一の部品を用い、構造の40パーセントを流用した歩兵戦闘車。
フロントエンジンフロントドライブ、40mmテレスコープ機関砲、中距離多目的誘導弾2発を備えた一人用砲塔、
下車分隊員8名を収容し、車長、砲手、操縦手の計11名乗りのIFV。
主として10式戦車や機械化機甲歩兵、下車分隊と連携して戦闘展開する。

これらからなる『先進装甲化歩兵システム』『10式戦闘装着セット』を開発・採用した。

※10式改はたいほう所属SRタスク及び666th,TFWWの主力個人火器
(PDWとは別の個人火器としての運用であるが、666TFWWの隊員は好んでPDWに転用している)
として運用されている。

※エレオノールのG11Kは、10式小銃改を基にHK社が更に小型化、
機関拳銃サイズにしたハンドアサルトウェポンの試作品。
付属品としてカイデックス社製開放型ホルスターと後付けねじ込み式に改められたサプレッサ、
カービン運用を可能とするバーティカルフォアグリップ付きフレームストック、専用光学照準器がある。
入手の経緯は、統合軍混成ガリア義勇軍において試作品の運用試験を行っていた崎山中尉がベアトリス少佐へ譲ったものを、
ベアトリス少佐がエレオノールに託した。

※ただし、これら4例以外の国では従来と同じリベリオン規格5.56mmSS109、7.62×51mmNATO、
及びオラーシャ規格5.45×39mm弾、7・62×39mm弾を用いる小銃と機関銃に、
GPS対応測遠器付きPDA内蔵双眼鏡を併せて用いるのが一般的であり、
リベリオン陸軍もOFWの主要火器には7.62×51mmNATO弾を用いるFN社製Mk17バトルライフル
或いはHk417、M14 SOPMODⅡと5.56mmSS109弾を用いるHk416アサルトライフルを使用している。
 (リベリオン総軍は、次期制式歩兵火器の実戦トライアルを行うため、複数種火器の並行配備を行っている。
 国力の豊かな『世界の工場』ならではである)

M500コンペイセイタハンドキャノン『ドラゴンブレス』
SW社製M500PCリヴォルバを改造、材質をマルエージ鋼に変更し銃身を延長、
光学機器搭載用レールとマズルブレーキ兼コンペイセイタを追加した『大砲』。
陣流寺中尉の私物。弾丸として陣流寺中尉が10式戦車用徹甲弾用キャノンパウダと特製タングステン弾頭をハンドロードした
「龍華スペシャル」を用いる。人類の埒外の身体能力を誇る陣流寺中尉以外には射撃そのものが危険で困難な事実上の専用火器。
小型であれば外骨格の上からネウロイのコアを打ち抜く。

対人狙撃銃改
扶桑陸軍が用いる対人狙撃銃を338ラプアマグナムにボアアップし、
サプレッサと昼夜間兼用スコープを搭載した対ネウロイ用の狙撃銃システム。
条件次第では2km先の15×15センチの標的を撃ち抜く。
M24A3SWSとほぼ同じ生い立ちだが、飽く迄扶桑陸軍技術研究本部が対人狙撃銃を基に発展させたヴァリアント。
より高精度なフルフロート化されたリブ入りの冷間鍛造ヘビーバレル、スコープの仕様等、構成要素がかなり異なる高級銃。
世界一高価で高精度なスナイパーウェポンシステムと言われる。

ヴェクターライト
クリスヴェクターの材質を見直し、軽量化を図った扶桑空海軍制式PDW
(扶桑陸軍航空部隊及びAFVクルーは制式PDWを選定していないが、10式改をPDWとして用いる)
ただし、666TFWWでは殆どのウィッチが射程、威力の観点からPDWとして10式、
10式改や私物のカービンライフルを多く用いるため、本銃は余り使用されていない。
(普通であれば十代・二十代の少女であるウィッチは重くかさばる物を嫌うため、
サブマシンガンやマシンピストル、拳銃などの小型軽量なPDWを好む傾向が強いが
当部隊では火力に対する飽く無き欲求があるのか、PDWにもライフルブレット仕様のショートライフル等を使用する傾向が強い。
極端な例は陣流寺中尉がPDWとして携行するM500ドラゴンブレスとM32リヴォルバグレネード)

89式小銃(眼鏡装備、折り畳み床尾仕様)
脱出行動を行うウィッチが中距離狙撃を行う必要がある場合に用いるスコープ付きカービン銃
重量の割に命中精度に優れる5.56mm口径の小銃。故障発生率も低く反動も極めて小さいが非常に高価。
主たる使用弾薬はSS109とほぼ同じ89式普通弾。

ベネリM4ショートライオット
原型銃を短縮化した上でレンジファインダー統合型FCSと可変ブローアウト弁を備え、
LTLX7000可変射程弾に対応している。これによる効率的な暴徒鎮圧が可能であるが、
対ネウロイ戦に於いても12GAエアバースト弾による制圧射撃や通常装弾による近接戦闘に対応する万能散弾銃。
たいほうに浸透型ネウロイ対処用、またSRタスクの白兵戦装備として配備されている。

※エレオノール中尉が原隊経由で持ち込んだ物を崎山中尉が目に留め、制式化を具申した。


ASEK
航空機械化歩兵及び空挺降下作戦を行う猟兵には生存・脱出用特殊ナイフASEKが支給される。
アイクホーン社製W-ASEKモデルはウィッチによる魔力付与に耐えるようブレード長を延長し強度を増したガリア軍制式採用モデル。


・各国軍制式採用拳銃
扶桑皇国 9mm拳銃(SIG社製P220のライセンス生産モデル)
リベリオン M9、USP及びMk23、GSR(9mm及び45口径の並行配備)
オラーシャ帝国 OTs-23(5.45mm3点バースト機能付き拳銃)
ガリア BM92-G1(ベレッタ社製M92Fのライセンスモデル。高強度合金に材質を変更している)
帝政カールスラント P8(H&K社製USP拳銃)
ロマーニャ PX4ストーム
スオムス、ブリタニア SIG P226



・HEMTT-A4

666TFWWが用いる装甲輸送車。
高度な防護能力と航続力、輸送能力を備える。
後部カーゴに各種装備を搭載し、多用途な運用が可能。

人員輸送装甲コンテナ
内部に簡易シート及び折り畳み三段ベッドを備え、
NBCR空調装置と併せて30数名の人員が安全かつ快適に居住可能な人員輸送装備。

対地対空迎撃システム
20mm高性能機関砲CIWSブロック2をオールインで運用し、
対地対空の目標を撃破可能な防御戦闘装備。

野戦指揮システム
簡易飛行場に設置し、又は車載したまま使用する地上作戦・航空戦術統制指揮管制装置。
発電装置による自己完結性と人員輸送コンテナと同じ装甲による生存性を備えており、
スーパーコンピュータがコンテナ容積の半分を占める戦域を高度に統制指揮可能な移動指揮所装備。
必要であれば地中深くに埋設しての使用も可能。

全領域Xバンドレーダ
オールイン式の万能レーダ。たいほうSPY3には及ばないものの
野戦指揮システム等との組み合わせで本格的な索敵管制が可能。

その他用途に応じ自走砲パック等のバリエーションが無限に存在する。
無論、通常のコンテナ輸送も行えるので、CVWたいほうの補給物資輸送やストライカーの搬入、輸送にも用いられる。



[24398] あとがきという名のいいわけと次回予告的なものと
Name: |日0TK◆beeeee3f ID:38310ef6
Date: 2011/02/25 22:35
1 インターミッション
スレ内の流れに便乗し悪ノリでドバっと書いた第一号。読み返すと穴があり過ぎて大幅加筆修正したというアレな話。
そもそもストパン自体スカイウィッチの話なのに陸戦ウィッチにしたのも思い付き。というか運の尽き。
結果自縄自縛で猟兵編も書く事に。猟兵編楽しいからいいけど。
つか登場人物メモ猟兵編が先とかどうやねん?!ほら!ほら!!!
666編の人物メモは今纏めてます、少々お待ちを(11/20 できますた)。

書いたとき最初は全部1945年の話だったんですよ。
無理矢理2000年代に直したけど。

あ、エレオノールのトンデモ戦法は絶対に真似しないでください
確実に十字砲火でヤられます。


2 ハード・ナイス・ランディング
短い上に内容が…………。
どう見てもストライカーの紹介と発艦プロセスです。本当に(ry


3 ウォー・デュエル・ジャンキー
とうとう『ストライカーが一切登場しない』というある意味ファンタスティックな偉業をやってしまった回
もうね、その、なんだ、ほんとごめんなさい。

オリジナル設定の魔法力、魔素、魔法の関係説明回です。出雲さんマジ便利(ぉぃ


4 メメント・モリ・ネヴァー
初の本格的シリアス回。真のおかげでそれっぽい。
真の独白はそのまま僕のストパン感想です。華やかしいエースだけな訳はありませんし。
猟兵編にも少し深く触れてます。基本的には、この『真の独白』の時期のエレオノールを書く事になるかと。
つまり土くれが降り注ぎ血と硝煙と埃と怒号の渦巻く世界です。場合によってはグロ注意まで行くかも。

まぁともかく、ダブルツンデレって厄介ですね、書く方的には。



5 クラリーチェ・レィディオゥ
これが多分一番書き上げるの速かったですお。このコンビはこれからもガンガン出ずっぱりです。
クラリーチェ・レィディオゥをどうぞよろしく。

誰か出雲少佐を止めてください、そのうち某いらん子中隊みたいになりそうで怖いです。




6 はばたいて、私の小鳥
えー新作、猟兵編。政治的方向の話、ちょっと書いてみました。
なっがいなぁ……………(某大天使風
くどかったら、スキップしてキュートなガールズだけ読みましょう(ぇ

事実上前後編構成なのはぼくの根性がないからですorz




7 はばたいて、僕の小鳥
出来ますた。最近は…………仕事に専念しとったのか……?
遅くてすんまそん。
若干クロスしてますね。絡ませにくいけど、頑張ります。
伏線も多めで。
ちなみに『はばたいて、私(僕)の小鳥』ってのは例の歌の題名です。



8 碑の壁
途中ですけど、上げ。諸事情でクララの名前変わってます。
しかし戦死はなるだけ書きたくは無いなぁ、やっぱり。

12/31 ちょろっとうp 許してや、城之内……。

1/5  出来ました。色々辛いの、サム……。
     タイトルのロシア語はfire wallの意味です。
     碑(火)の壁、とまぁ、絶対の防護壁、的な。

     追記の部分、転属の際のやり取りは別話で上げるかも。

     前半もかなり校正、加筆修正しています。     

クララの口調が柔らかいのは母国語だからです。
本来の彼女はこの口調でしゃべりますが、統合軍標準言語であるブリタニア語では
どうしても固い口調(オラーシャ訛り)になってしまうのです。的な。



9 その水はいくらですか?
相変わらず途中ですが、出だしの部分のみでも。
遅れましたが明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。

1/22 追投稿、またも途中です、申し訳ない。

2/22 決戦手前まで、です。徐々に転がしますお。

2/25 完成  クククク………BOY♂NEXT♂DOOR  That's Good.

 現代編 暫定設定
実は母艦が主役ではなかろうかというテラチートd(ry
船カッコイイですよね、なんか要塞ちっくで。

というか『世界観』ってメモもあるんだが、これと一緒に統合しちゃっていいかのう?

 登場人物紹介
基本的に、固有魔法持ちは同位階の無しに比べると魔力が劣る、という解釈でどうぞ。てか人数大杉。
各人のイメージキャラは存在するんだけど、それ書くとそのキャラにしか見えなくなるから敢えて言いませんお。

エリーはみんなの胸の中にいるんだお(キモス




本編書けですって?
なかなか進まないんですよ、いやほんと。




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