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【静岡】脱「交付金」の道へ踏み出せ 浜岡原発停止 御前崎市の憂い2011年5月29日
菅直人首相の要請を受け、中部電力の浜岡原発(御前崎市)が全面停止した。運転再開は津波対策を終えた2〜3年後を前提としているが、万全の安全対策を施すには長期化は避けられない見通しで、情勢によっては廃炉の可能性もある。 「地震が来たら原発に避難すれば安心だ」。1月に御前崎通信部に着任したばかりの私に、地元住民はあっけらかんと言った。中電からは原発がいかに安全かという説明を長々と受けた。それから間もなくして、東日本大震災によるあの事故が起きた。 原子炉建屋の屋根が水素爆発で吹き飛ぶ映像を見た御前崎市の石原茂雄市長は「原発の安全神話が根元から崩れ去った」と青ざめた表情で語った。このとき、長年の原発行政のあり方に初めて不安を感じたという。 すべての原子炉が止まった2日後、石原市長は「原発だけに頼らない、新たな方向性を示す時期がきた」と語った。中電などと協力して原子力以外の新エネルギーの発電施設や研究機関の誘致を目指すと言うけれども、現時点ではまだ構想段階にすぎない。 御前崎市は合併前の旧浜岡町時代の1967(昭和42)年に原発を受け入れた。交通の便の悪さから「陸の孤島」と呼ばれた地域に舞い込んできた原発計画は、「泥田に金の卵を産む鶴が舞い降りたようなものだ」と語った地元有力者もいたほどだ。 貧しかった地域は原発マネーで大きな変貌を遂げた。1〜5号機の建設で地元に入った原発関連の交付金の総額は約400億円。病院や図書館、温水プールなど大型施設を造り続けてきた。本年度の一般会計当初予算約168億円のうち、原発関係の固定資産税と交付金などは約71億円で4割超を占める。減価償却などで目減りする固定資産税や交付金を穴埋めするため、6号機の新設計画も進んだ。市は“麻薬”ともやゆされる交付金に頼る体質になっていた。 市が浜岡原発の全面停止を認めた理由は、政府が停止期間中の交付金を減額しないと約束したことが大きい。すでに6号機新設に必要な環境影響評価や4号機のプルサーマル導入の遅れなどで、8億円以上の交付金が入らないことが決まっていた。交付金が維持されたことで当面は一息付ける。ただ全面停止が長引けば交付金は減り、将来的には財政難に陥ることは避けられない。 石原市長は「脱原発」まではっきり言及しなかったが、廃炉の可能性まで視野に入れているようだ。打ち出した新エネルギー構想は、市の存続をかけた苦渋の策ともいえる。構想では、風力発電施設や自然エネルギーに関する研究拠点、放射線を利用した医療研究機関などを誘致したい考えだ。 石原市長は「これからは『新エネルギーのまち』を看板に掲げたい」と力が入るが、政府が地元への事前説明もなく全面停止を要請したことに不満を持ち、県とも新エネルギー政策の主導権の取り方でぎくしゃくしている。 ただ、当面の課題は停止した原発の安全対策と地元の経済や雇用への影響だ。原子炉建屋内には使用済み燃料を含めた燃料約9000体が残る。市民の多くが原発関係の仕事にかかわり、雇用に不安を募らせている。交付金を活用した「ハコモノ施設」の維持、管理にも膨大な経費がかかる。原発により、豊かな生活を手に入れた代償は大きく、課題は山積みだ。 交付金に依存してきたから市職員や市議らは企画立案の意欲に乏しく、企業誘致や地場産業振興などの努力が足りなかったことは否めない。政府のエネルギー政策の見直しにいち早く名乗りを上げ、支援を得る下心も見える。 原発の交付金に頼り切ってきたこれまでの御前崎市でいいわけはない。この際、国の新たなエネルギー施策の主役に躍り出てほしい。(御前崎通信部・夏目貴史) PR情報
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