2011年5月31日17時43分
6月4日から開幕するメトロポリタン・オペラ日本公演で「ラ・ボエーム」の主役を演じる予定だったアンナ・ネトレプコとジョセフ・カレーヤが急きょ、原発事故への懸念を理由に降板することになった。同歌劇場のピーター・ゲルブ総裁が31日、都内で緊急の記者会見を開いて発表した。代役としてマリーナ・ポプラフスカヤら4人を起用するほか、配役の一部変更も発表された。スタッフ含む全400人のうち、既に250人は30日に名古屋に到着しており、異例の公演直前のキャスト変更となった。
美声と美貌で世界的に人気が高いアンナ・ネトレプコが降板した理由について、ゲルブ氏は「ロシア出身の彼女はチェルノブイリ事故を経験しており、友人や知人にガンを発病した人がいた。最後まで悩んだが、今回日本への飛行機には乗ることができなかった」と話した。
外国人アーティストらの来日キャンセルが相次ぐ中での日本公演開催にあたり、同歌劇場では、原発事故後の安全性について、アメリカ政府からの情報収集や、コロンビア大学から専門家を招いて説明会を開催するなど、様々な対応を施してきたという。ゲルブ氏が4月に公演続行を決断して以降もメディアなどから多くの質問を受け続けており、震災後初の外国人による大規模公演には世界中から注目が集まっていた。
実際、キャスト陣の判断も分かれた。今月に入り、テノールのヨナス・カウフマンが震災を理由に出演をキャンセル、音楽監督のジェイムズ・レヴァインとソプラノのオルガ・ボロディナも体調不良を理由に降板するなど、今月に入ってから出演陣の来日取りやめが次々に発表されていた。一方、「ランメルモールのルチア」でルチアを演じるソプラノのディアナ・ダムラウは、故国ドイツで様々な情報収集の結果、公演地である東京と名古屋は安全と判断し、今回自身の赤ちゃんと母親を同行して来日した。
ゲルブ氏は、「専門家による正確な分析で私は安全だと判断したが、様々なうわさや不明確な情報も飛び交っており、感性豊かなアーティストたちが思い詰めてしまうのも理解は出来る」と仲間をかばった。
その一方で、「世界中が注目するなか、何としても最高の舞台を届けたいと、世界中から考えられうる限り最高の歌手が集まってくれた。オペラファンの多い日本が、文化的な日常生活に戻る第一歩としていただきたい」と、公演続行の意義を強調。一昨日に代役出演を依頼したポプラフスカヤは、パリでの公演契約を断っての来日といい、担当指揮者は「日本公演は重大なイベントだ」として、契約解除を快諾したとのエピソードなども披露した。
新たに出演が決まったキャストは以下の通り。ソプラノのマリーナ・ポプラフスカヤ、テノールのマルセロ・アルバレス、同ロランド・ヴィラゾン、同アレクセイ・ドルゴフ。(アサヒ・コム編集部 柏木友紀)