|
きょうの社説 2011年6月1日
◎内閣不信任案 混乱は最小限にとどめたい
自民、公明両党が内閣不信任決議案を、きょうにも提出する可能性が強まってきた。国
難ともいうべき未曽有の危機の最中に国のリーダーの首をすげ替えることには否定的な意見も少なくない。だが、事故発生から既に2カ月半が過ぎている。このあたりでいったん立ち止まり、菅直人首相のままで復旧・復興を図るべきか、新たなリーダーを押し立てるべきかを真剣に考えるよい機会かもしれない。内閣不信任決議案が可決されれば、首相は衆院解散か、内閣総辞職かの二者択一を迫ら れる。被災地の状況を考えれば、解散は難しいはずだ。内閣総辞職となっても、不信任案が否決された場合でも、民主党は「造反者」を巡って分裂含みとなり、大混乱は避けられないだろう。ただ、菅首相の存在そのものが、大連立を含めた与野党協力の阻害要因となっている一面もあり、不信任案提出が現在の閉塞状況を打ち破る転機になるかもしれない。いずれにせよ、今は「有事」であるという意識を与野党ともに強く持ち、混乱を最小限にとどめる努力が必要だ。 民主党執行部は、不信任案採決での造反には除名を含め、厳しい処分を科す方針という 。「急流で馬を乗り換えるな」の故事があるように、リーダーを代えるのはリスクも大きい。福島原発事故が収束するまで政治の空白をつくるべきではないという主張にも十分な説得力がある。 だが、そんな常識論に逆らってまで野党が不信任案を出そうとするのは、菅首相の力量 不足と人徳のなさに尽きる。東日本大震災発生以降、菅首相の震災対応は遅れがちで、パフォーマンスばかりが目立った。「急流でもがいて流されるなら馬を乗り換えないといけない」と述べた西岡武夫参院議長の言葉は、野党側に共通する危機感でもあろう。 政治空白が好ましくないのは確かだが、力量不足が明らかなリーダーに、このまま復旧 ・復興対策の指揮をゆだねていて良いのか、大きな禍根を残すのではないかという懸念は消えない。どこかの時点で首相の「信任投票」を行う必要があるなら、今が適期という見方もできるのではないか。
◎JR特急火災 安全管理の不備は明らか
北海道のJR石勝線トンネル内で、約240人を乗せた特急列車が脱線、炎上した事故
は、窓ガラスが焼け落ち、熱で大きくゆがんだ車体をみれば死者が出なかったのが奇跡的である。脱線、火災の原因は部品の落下とみられ、北海道警は整備不良が事故につながった疑いが強いとしてJR北海道本社を家宅捜索した。同様の部品落下はJR北海道をはじめ、他のJR会社でも過去に発生していたことが分 かった。それらの教訓が安全管理に生かされていたのか疑問が残る。さらに問題なのは、乗務員が火災を認識せず、乗客の避難誘導がなされなかった点である。 乗客は自らの判断で列車を出てトンネルの外に逃げたが、事故後に避難誘導もできなか ったのは公共交通機関として致命的な不手際といえる。あわや大惨事の重大事故である。原因を徹底的に究明し、再発防止につなげてほしい。 6両編成の特急列車は脱線後、トンネルに入って緊急停止し、その後、煙が車内に充満 、39人が負傷した。動力を伝える床下の推進軸が落下したのが事故原因とみられている。 1972年の北陸トンネル列車火災事故を教訓に、列車がトンネルで火災を起こせば、 すぐにトンネルから出すのが原則になった。だが、今回は脱線、火災が同時に起きた。列車が動かせないなら、乗客を迅速に避難させる必要があったが、JR北海道は「トンネル内で簡単に乗客を降ろしてはいけないという決まりがあった」とし、マニュアルを気にして柔軟な対応が取れなかったことを認めた。 危機に直面したとき、次の行動の基本となるのは的確な現状認識である。火災発生の危 機が迫っていながら、それに気づかず、避難誘導できなかったJRの対応は、メルトダウン(炉心溶融)の把握遅れで対応が後手に回った福島の原発事故に通じるものがある。 非常時にマニュアルが通用しない事態に至ったときに、人命を守る柔軟な判断がいかに 迅速にできるか。大量輸送を担う鉄道事業者すべてに突き付けられた重い課題である。
|