チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27716] 【チラ裏より】焔の道程(魔法少女まどか☆マギカ)【アフター&逆行】
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:39
初めまして。ごま麩と申します。



この度、まどかを見まして年甲斐もなくハマり、ほむら主人公のSSを
書き始めてしまいました。
処女作のため至らぬ点など多いと思いますが、それでも構わない方は
目を通していただけると幸いです。

なお、当作品は、本編12話の終わりから始まります。
そのためネタバレ満載です。
また作者自身の独自解釈なども含んでおります。

それでもご覧になっていただけた方は、
是非に是非に、面白いでも、つまらないでも、ここがおかしいでも
感想をくださるとありがたいです。

それでは、よろしくお願いいたします。


5月27日 友人から指摘のあった点をいろいろと修正しました。




[27716] prologue
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 22:08
「がんばって。」

脳裏に響く懐かしい声に思わず口元が緩む。
ずっと、戦い続けてきた。肥大化した魔力は魔獣のグリーフシードでは浄化しきれず、仲間の魔法少女達は皆少しずつ力尽き、まどかの元に迎えられていった。

私は最後の力を振り絞り、私の武器である弓を多数殲滅用に拡張した黒翼を展開すると、魔獣の群の頭上に飛び立ち空間攻撃を行う。

「お疲れ様。ほむらちゃん・・・」

力尽き、くずおれた私の耳元で再び聞こえたまどかの声に安心すると私は意識を失った。




私が目を覚ますと、いつかの空間に私は裸で浮かんでいた。

「久しぶり、ほむらちゃん。」
「え?」

振り向けば、いつの間にか、そこにわずかに笑みを浮かべたまどかが立っていた。私は何もかも忘れて、まどかに抱きつく。

「まどか・・・!まどかぁっ!」

涙を流しながら、バカのようにまどかの名前を呼ぶ私を、まどかは笑って優しく抱きしめ背中を叩き続けてくれる。

「まどか!会いたかったっ。ずっと会いたかった!」
「うん。うん・・・っ。私も会いたかったよ、ほむらちゃん。おつかれさま。てへへ、こういうときもっと気が利いたこと言えたらいいんだけどね。良い言葉が思いつかないや。」

2人で抱きしめあい、ひたすら名前を呼び合う私達。
だがそれも思わぬ闖入者によって邪魔をされることになる。

「本当にお疲れ様だね。暁美ほむら。」

聞こえたその声に私は耳を疑う。だが、足下を見ると私たちのすぐそばに、キュウベえが佇んでいた。

なぜ・・・なんでコイツがここにいるの!

なんとか内心の叫びを押し殺し、表面上は冷静を保って問いかける事に成功する。

「なぜあなたがここにいるのかしら。」
「僕のする事はただ1つ。少女達の願いを叶え、魔法少女に導くこと。それだけだよ。」

相変わらずの無感情な瞳で私達に向け語りかけるキュウベえ。だが、そんなはずはない。
私はもう願いを叶えられている。浮かんだ疑念を晴らすため、私はキュウベえに向け再度問いかける。

「私たちの願いをもう1度かなえるために来たとでも言うの?」
「その通り。正確には君たちではなく、暁美ほむら。君の願いを、だけどね。」

その言葉に私は再び耳を疑う。私の願いは既に叶えられているはず。でなければ、概念存在となったまどかにこうして再会できるわけがない。

「あなたは私の願いを叶えて魔法少女としたのでしょう。それとも同じ人間の願いを何度でも叶えれるというのかしら。」
「いいや。1人の人間の願いは間違いなく1度しか叶えられないよ。でもね、暁美ほむら。君だけは特別だ。君の、鹿目まどかとの出会いをやり直したいという願いは、鹿目まどかが概念存在となった時点で破棄されている。当然だよね。概念というのは、ただそこにあるモノ。時間という概念がない存在と一定の時間をやり直そうなんていう願いは矛盾してしまうからね。」

 私の質問に律儀に答えてくるキュウベえ。それからしばらく私はキュウベえに疑問のいくつかを投げかけた。コイツの場合疑問には必ず裏をとっておかないと後でとんでもない落とし穴にハマりかねない。その結果いくつかわかったことがある。



 1つめ。私だけがまどかと出会うことが出来たのは、このリボンが媒介となりまどかと私をつないでくれていたから。
 2つめ。かつて他の魔法少女はソウルジェムがなくなり力尽きただけなのに対し、美樹さやかだけが消えてしまったのは、彼女の場合魔法少女となり、やがて魔女となる未来しか存在しないため。 
 3つめ。私が時間遡行の魔法を失っても魔法を使うことが出来たのは、リボンを通じまどかの力を使っていたから。


 以上だ。おおよその理屈は理解した。コマは揃った。あとはまどかを連れて帰るだけだ。

そう。コイツが願いを叶えるなら。私がまだ願いを叶えられるなら・・・!

私は両手を握りしめ、キュウベえを見る。

「ダメ!ほむらちゃんっ!!」
「いいの、まどか。あなたのためなら私はもう一度・・・ううん、何度永遠の迷路に囚われても構わない。」

私を気遣い涙を流してくれる、まどかを抱きしめる。

「ダメだよ、ほむらちゃん。私は大丈夫だから。普通の女の子になれるチャンスなんだよ?普通の女の子になって幸せにすごすチャンスなんだよっ!」
「だめよ!私がいなくなったらまどかはまたこんな誰もいないところでずっと1人。そんなのは私が許さない。」

ひとりぼっちだった私を救ってくれたたった1人の友達。今度こそ私は彼女を救ってみせる!

「叶えて。私をまどかと一緒にあの日からやり直させて。」

決意を胸にキュウベえに願いを告げる。
しばし無言のまま見つめ合う私とキュウベえ。それを心配そうな瞳で見守るまどかに心の中で語りかける。

ごめんね、まどか。あなたには心配ばかりかけて。でも絶対にあなたを救い出して見せるから。

静かに決心を改める私にキュウベえが言葉を吐き紡ぐ。

「確かにその願いは叶えられる。でもいいのかい?鹿目まどかの願いが生きている以上、逆行できるのはそこにいる彼女の意識体だけだ。鹿目まどかは僕と同じように魔法の素養のある人間にしか認識されない。それはもはや人間の定義じゃない。それでもかまわないのかい?」
「ほむらちゃん・・・」

キュウベえの言葉にまどかが不安そうにこちらを伺う。それでもこの願いは変えない。変えるわけにはいかない。

「大丈夫よ、まどか。あなたを絶対にもう一度人間にしてみせる。私を信じて。」

まどかの肩に手を置き、目を見据えてはっきりと言う。

失敗は許されない。いいえ。私が許さない。私はもうこれ以上まどかを傷つけたりしない!

「うん・・・わかった。私ほむらちゃんを信じる。」

揺れていた瞳を1度伏せ、もういちど目を見開いたまどかにもう迷いはない。

ありがとう。ごめんなさい。どんな手を使っても救い出してみせるから・・・だからまどか。今は私を信じてくれてありがとう。

「ありがとう、まどか。私を信じてくれて。改めて言うわ。さあ、叶えさい。インキュベーター!」
「・・・君の願いはエントロピーを凌駕した。おめでとう暁美ほむら。さあ新しい力を使ってごらん。」

キュウベえの言葉と共に、胸に生まれる苦痛。
だがその苦痛に耐えきると、失ったはずのソウルジェムが再び生まれる。同時に左腕にかつてなくした時計が現れる。懐かしい感触に思わず時計の表面を撫でると、長年のパートナーはひんやりと冷たい感触を伝えてきた。
思えばこの時計とも長いつきあいだった。今までただの道具として使ってきたが、この時計のおかげで今度こそ、まどかを助ける事ができるかもしれない。そう考えればもう少し愛着をもってもいいのかもしれない。

「行きましょうまどか。あなたの未来を取り戻しに。」

私の言葉にまどかがしっかりと頷く。
それを見届けると私はギミックを発動させる。中の砂がこぼれ落ち、歯車が動き出す。

「じゃあね、暁美ほむら。向こうのボクによろしく。」
「ごめんよ。2度とあなたとは会いたくないわ。」

縁起ではない言葉を吐くキュウベえに背を向けると、私はまどかの手をとり頷き合うと2人で時間の回廊に向けて足を踏み出す。

今度こそ・・・今度こそこの戦いを終わらせてみせる。

そう心の中で呟くと、もういちど私はまどかの手を強く握り尚した。



[27716] 1話 あなたの願いも決して無駄にはしない
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:29
目を覚ますと私の目の前にまどかの顔があった。不慣れな出来事に頬が熱くなる。考えてみればずっと病院で1人暮らし。魔法少女となってからも、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミの3人では協調性が高いのは巴マミだけ。
しかも巴マミも面倒見こそ良いものの、年齢が1つ上なこともあり、一歩引いた立場で見守ることが多く、一緒に眠ったことはなかった。いきなり誰かの顔が目の前にあることなど経験したことがない。

高鳴る胸を抑えながら、よだれを拭き、なぜかしっかりパジャマ姿に着替えていた彼女の丸見えだった鎖骨を隠し、しばしまどかの顔を観察してみる。
少々口元がだらしないが、こうやってみるとかなり整った顔をしている。母親が美人なのだから、納得ではあるのだけどなぜこれほど母親と印象が違うのだろう。

「まどか、起きて。」

いつまでも眺めてはいられない。日付を確認すると私が転校した日になっている。

いったん、確認のため変身をすると何ら問題なく変身ができた。まどかの力である魔力弓の展開も以前と同じように展開できる。もっともこの力は使い続ければ世界にまどかの一部と見られ、私自身の概念化を早める恐れがあるから、あまり多用はできないだろう。           
うれしい誤算だったのは、今までの戦いで格納してきた武装が使用した物以外、全て時計の中に存在したことだ。これでかなり戦術の幅が広がる。

武装の確認を終えると変身を解除し、これからの事を話すため、まどかをゆすり起こそうとする。だがどれだけ揺すってもまどかが起きる気配はない。あまつさえ、だめだよほむらちゃん・・・もう1日寝させてよぉ・・・・などと寝言を言う始末。

揺すっても無駄だとわかった私は、とりあえず窓を開け、布団を引きはがす。

「起きなさい、まどか。」
「でぉぅうううわあああああああっ!?」

目を押さえ身悶えるまどかを見て疑念を抱く。果たしてまどかはこんなに寝起きが悪かったかしら・・・まどかはいったいどういう生活を送ってきたの・・・ずいぶんと自堕落になっているような気がするのだけど・・・

「うー。ほむらちゃんおはよー・・・」
「おはよう、まどか。」
「えっと・・・ここは?」
「私の部屋よ。」

とろんとした目をしたまま、首を振り部屋を見渡すまどかにまず顔を洗わせる。

洗面所に案内し、洗顔を済ませると、さっぱりしたのかさっきまでと違い、はっきりした口調で話かけてくる。

「そっか。戻って来れたんだ・・・でも前に来たときとお部屋が違うような気がするんだけど・・・」
「前は魔法で空間拡張していたの。ワルプルギスと戦うためのミーティングの必要もあったから。」
「そっか。これからどうするか聞いても良い?」
「ええ。私は学校へ行くわ。」
「そっか、そうだよね・・・。私も一緒に行っても良いかな・・・?」

少し心配そうな顔で上目遣いに伺ってくるまどか。だけど今日はまだまどかを連れて行くわけにはいかない。

「ごめんなさい、まどか。今日は我慢してもらえるかしら。」
「いいけど・・・どうしてか聞いても良い?」

残念そうな顔でこちらを伺うまどか。私にも心臓病時代の記憶があるから学校に行きたいのにいけないという苦痛は理解できる。それでも、今日は我慢してもらうしかない。

「うん。今のあなたはキュウベえみたいな存在だから・・・普通の人にみえない可能性が高いの。でも、あなたのクラスには美樹さやかがいるでしょう?転校生が2人と思って彼女があなたに話しかけたらクラスの全員から彼女が変に思われてしまうわ。だから、今日は我慢してほしいの。まどかは今日は外を歩いて他の人達に見えるのか、触れるのかということを確かめて。美樹さやかには私から接触してあなたのことを話しておくわ。」
「そっか・・・うん、そうだね。さやかちゃんが誰もいないのに話しかけてたらおかしいもんね。」
「ええ、明日には学校にいけるようにしてみせるから。」
「わかった。ほむらちゃんを信じるね。」

自分が改めて人間ではないという事を理解させられて、辛いでしょうに気丈に笑ってみせるまどかを見て、私は何度目か知れない決意を新たにした。



「暁美ほむらです。よろしくお願いします。」

この学校に転入してくるのは何回目だろう。もはや新鮮味もなく、まどかがいない学校は私にとってただの作業場でしかない。私の目的はただ1つ。美樹さやかと共にキュウベえとの接触をすることだ。

「ねえねえどこから来たの?
「東京のミッション系の学校よ。」
「髪すごいきれいだよね。何かお手入れしてる?」
「いいえ。毎日のトリートメントくらいよ。」
「はいはい。みんな暁美さんは転校初日なんだからあんまり質問攻めにしなーい!」

毎回繰り返される休み時間の質問攻めを、美樹さやかが止めてくれた。
この流れは私にとって初めてだ。おそらくまどかがいないことによって生まれた新しい流れなのでしょうけど、これは都合が良い。

「ありがとう。人に囲まれるのは慣れてないから助かったわ。」
「いいっていいって。」
「助けてもらったついでで悪いのだけど、保健室はどこにあるのかしら。定期的に薬を飲まないといけなくて。」
「ああ、そうなんだ。良いよ、私学級委員長だし、案内するよ。」
「そう。申し訳ないけどお願いできるかしら。」

快く保健室までの道案内を引き受けてくれる。もともと少々天然気味なまどかの面倒をよく見ていた彼女だ。少々強引で暴走気味だが、正義感と責任感が強く面倒見がいい彼女は確かに学級委員には向いているかもしれない。
私が知る流れとは違うが、ここまでは私にとって非常に都合良く流れている。

「いやぁーごめんねー。みんな悪気はないんだけど転校生なんて珍しいからさ。見世物みたいで気持ちのいいもんじゃないかもしれないけど、1週間もすれば落ち着くと思うからしばらくの間我慢してもらえるかな。」
「ええ。構わないわ。」
「ありがと。お詫びといっちゃあなんだけどさ。私に出来ることなら何でもいってよ。出来る限り助けになるからさ。」

誰だろう彼女は・・・私の知る美樹さやかと本当に同一人物なのだろうか。確かに面倒見もよく明るい性格だったが、彼女は致命的にこういった気配りが苦手だった印象がある。
まどかがいないだけでここまで変わるものなの・・・?
私にとって非常に都合の良いことは確かなのだが、いささか以上に違和感と不安を感じてしまうのはなぜだろう。
とはいえ、せっかくあちらから協力してくれるのを見過ごす手は無い。

「ありがとう。確か美樹さやかさん・・・でよかったかしら。じゃあせっかくで悪いのだけど1ついいかしら。」
「お。なになに?この魔法少女さやかちゃんにどーんと任せなさい!」

安心した。やはり彼女は美樹さやかだ。この本人に悪意が欠片もないのに地雷を踏み抜くところはこの世界でも変わっていない。

「放課後、少し街を案内してもらえないかしら。来たばかりであまり地理に明るくないから。」
「す・・・するーかい。なかなかやるなおぬし。もちろんOKだよ。っと、ここが保健室。
待ってた方が良い?この学校の中迷いやすいから。」
「それには及ばないわ。ありがとう美樹さん。また後で教室で。」

お礼を告げると扉を閉める。これで最大の難関の美樹さやかと2人きりになるという目標は達成できた。経験上、今日はキュウベエに接触する可能性が高い。
自分で見たものしか基本信じない彼女には、アレとの接触はむしろまどかの存在を理解させるには都合がいい。
即断で魔法少女になってしまう可能性も0ではないが、おそらくその可能性は低いだろう。美樹さやかが魔法少女化しない未来がないというのはまどかのお墨付き。

けれど、美樹さやか。
あなたの願いも決して無駄にはしない。



[27716] 2話 運がないわね。巴マミ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:30
「暁美さーん。一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。今日はこれから美樹さんに病院まで案内してもらうことになっているの。まだ退院したばかりだから定期検診を受けないといけなくて。」
「あ・・・そっか。それじゃ仕方ないね。」

ホームルームが終わった途端クラスメイトの子が声をかけてくれた。
ありがたい話ではあるのだが、今回も断らざるを得ない。

「ええ。ごめんなさい。」
「ううん。じゃあまた誘うね。お大事に-。」

それでも次回のお誘いをくれるクラスメートに少々の感謝の念を抱きつつ手を振りわかれる。
彼女達とちょうど入れ替わりになるように美樹さやかが来る。

「ごめん。暁美さんお待たせ。準備はいい?」
「ええ。こちらこそ無理をいってごめんなさい。」
「いいっていいって。転入生を案内するのも学級委員の役目だしね。あ、ちょっとまって。仁美ー。これから暁美さんを病院まで案内するけど仁美も一緒にいかない?」

待ちなさい。美点を見直した瞬間になぜあなたはそこで毎度私の思惑を破壊するのか。私に何か恨みでもあるのだろうか。
被害妄想だと思いつつも疑いたくなってくる。

「ごめんなさい。ご一緒させていただきたいのですが、今日はピアノのお稽古がありますの。申し訳ありませんが、また今度お誘いいただけますでしょうか。」
「そっかあ。習い事ばかりで大変だねぇ、ひとみも。しゃーない。また今度一緒に暁美さんを案内しようよ。」

なんとか助かったが、やはり美樹さやかは危険だ。
志筑仁美の忙しさから助かったものの、彼女の予定がなければ間違いなく一緒に動くことになっただろう。転校生の案内を友人と一緒にしようという考えは普通なのだが、私にとって少なくとも今日は迷惑極まりない。

「はい。是非ご一緒させていただきたいですわ。それでは暁美さん、お名残惜しいですが今日は失礼させていただきます。ごきげんよう。」
「ええ。ごきげんよう志筑さん。」

上品に会釈をする彼女に私も会釈を返すと、彼女は微笑み教室の外に歩いて行く。
視線をもどすと美樹さやかだけでなく周りのクラスメートも少し面食らった表情でこちらを見ていた。
何かおかしな事があったかしら。

「何かしら。」

思わず美樹さやかに声をかけると我に返った彼女が非常にいやらしい顔でニヤついていた。

「いっやー。まさかひとみの挨拶にごきげんようで返す子がいるとはっ!容姿端麗成績優秀なお嬢様!暁美さんキャラ立てしすぎだ!くぅーそれが萌か!萌えっこ狙いなのか!?」

自分の肩を抱いて身体をくねらせる美樹さやか。
からかわれていると理解した私は一瞬で頬が熱くなる。からかわれるのに慣れていない私は、出来るだけ冷静な顔を取り繕い美樹さやかに背を向け1人で外に歩き出す。

「ごめんごめん、暁美さん待って-!美少女同士のやりとりがあんまり絵になってたからついさー。それで、どこを案内すればいいのかな。病院てどこの病院?」

勝手に歩き出した私を慌てて追いかけてきて謝る。

「こちらこそ感じが悪かったらごめんなさい。病院暮らしが長くてからかわれるのに慣れていないの。話をもどすけど、見滝原総合病院よ。途中でデパートや生活必需品を扱ってる店も教えてもらえるかしら。」
「あれ、暁美さんも見滝原総合病院なんだ。」
「私も・・・?あなたの知り合いも誰か入院しているの?」

彼女の幼なじみが入院していることは知っている。けれど今私がそれを知っていることはおかしい。以前は知識を隠さなかったことによっていらない警戒をされた以上、美樹さやかとも友好的な関係を築かなくてはならない今回は徹底的に知らないふりを通すしかない。

「あーうん。私の幼なじみなんだけどさ。事故でちょっとね。」
「そう。長いの?」

途端に彼女の表情が曇る。魔法がなければ上条恭介の身体が治癒することはない。既にある程度その話は聞いているのだろう。

「うん。もう半年近く入院しているの。経過もあんまりよくないみたい。」
「そう。ごめんなさい。気軽に聞いて良い話ではなかったわね。」
「気にしないで。っていっても気になっちゃうか。ああ、でも元気なんだよ。命に別状があるとかじゃないからさ。ほんと、あんま気にしないで。」

少しゆるんだ口元で苦笑してみせ、強がる彼女。
だが、この流れは想定外だが悪くない。美樹さやかの願いの根幹となる上条恭介。彼の事を知れば、今後の流れを少しでも変えることができるかもしれない。ならば私のする事は1つだ。

「そう。もし良ければ私もお見舞いに一緒させてもらってもいいかしら。私も入院していたとき、クラスメイトのお見舞いがすごくうれしかったから。もっとも、初対面の私では戸惑うだけかもしれないけれど。」
「それ良い!アイツのお見舞いってよく考えたら私と仁美とアイツの家族くらいしかしてなかったからさ。暁美さんみたいな美人がお見舞いにきたらきっと一発で元気になるよ!」

途端に顔を輝かせてこちらに迫ってくる美樹さやか。
その後、彼の趣味や今までの思い出から始まり、たわいもない雑談を続けていく。楽しそうに彼との思い出を話す彼女を見て、ふとある意味で彼女は私に似ているのかも知れないと思った。まどかのためだけに生きる私と、彼のためだけに生きる彼女。

もっとも、それに気づいたところで、私がする事は変わらないのだけれど。

少々の罪悪感と自嘲を込めて心の中で自分を笑う。

とりとめの無い話をしながら歩いて行いると、突然周りから人が消える。
これは魔獣の結界・・・ね。
てっきりキュウベえが接触してくる方が先だと思っていたが、先に魔獣と接触したらしい。

「美樹さん、急ぎましょう。」
「え?え?え?急に何?ていうか、いつの間にか誰もいないじゃん!どうなってんのこれ!?」

もちろん逃げる気などない。彼女の手を引くと私は魔獣の気配がする方へ走り出す。

間もなく白い服を着た成人男性のような魔獣が4匹地面から生えるようにして現れる。
僧侶の出来損ないのような外見なのに、なぜか嫌悪感を生む。
それを見て隣の美樹さやかが、顔をしかめる。

「美樹さん、こっちよ。両手で耳を塞いで口を半開きにしていて。」
「え?ちょっとなに!?どういうこと!?」

戸惑う彼女と共に道を曲がり、建物の影に隠れる。
不安そうな彼女に声をかけ変身し、左手の時計からグレネードを取り出すと、ピンを外し4匹の魔獣の足下に放り投げる。
再び建物の影に隠れた瞬間、グレネードが爆発し、砂塵が舞い上がり大音響が響く。

『きゃああああああああっ』

爆発が収まるのを確認し、魔獣がいた辺りを見ると無事一発でまとめて倒せたらしい。
砂煙が収まると、そこには巻き込んでしまったらしく、少し煤けた巴マミとキュウベえが涙目で立っていた。

ごめんなさい・・・相変わらず運がないわね。巴マミ。





本日のほむほむ収支報告書
M26ハンドグレネード × 1



[27716] 3話 彼女のようにね
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:31
今私達は巴マミ達と一緒に私の家へ向かっていた。
ここまで来る途中で聞いた話では、魔獣を感知した彼女は結界の中で走る私達を、結界に迷い込んだ一般人だと思い助けようとして意気揚々と変身し、さあこれからというところで私の投げたグレネードが炸裂し慌ててリボンで身を守ったらしい。

歩きながらキュウベえと、巴マミが美樹さやかに魔法少女や自身の事を説明する。思惑通り、ただの人間には見ることができないという内容も添えて。私が危惧した美樹さやかは、意外にも私達の会話を少し後ろから黙ってついてきていた。
しばらく歩くと、私とまどかの部屋の前に到着する。

「ごめんなさい。少しだけ待っていてくれるかしら。」

まどかに口裏を合わせてもらうために2人に声をかけ、少し外で待っていてもらう。ドアを開け、中に入り、まどかに声をかける。

「ただいま、まどか。」
「あ・・・おかえり、ほむらちゃん・・・」

椅子にかけて外をぼーっと眺めていたまどかがこちらに目を向ける。だが返事に元気がなく、目元も腫れて赤くなっている。
やはり外で誰にも気づいてもらえなかったのだろう。自分が人間ではないと理解させられて傷つかないわけがない。

「ごめんなさい。まどか・・・」
「あ。ううん、ごめんね、気を使わせちゃって。こんな暗い顔してたらびっくりするよね。」

気丈に笑ってみせるまどかだが、やはり無理をしているのだろう。その笑顔もかなり強ばっていた。心配だけど、今は外で待たせている2人のことを話さなければいけない。

「ごめんね、まどか。後で話を聞かせてもらうから今は我慢してもらえるかな。ひどいこと言ってるってわかってる。でも外に美樹さやかと巴マミを待たせているの。」
「え・・・?さやかちゃんとマミ先輩?」

その表情が少し輝きを取り戻す。
彼女達ならおそらくまどかを見ることができるだろうことは、先だってまどかに話してある。それを覚えているのだろう。だけど、それもつかの間、続けて言った私の言葉に再び表情を曇らせる。

「ええ。でもあなたには2人のこともキュウベえの事も知らないふりをしてほしいの。
彼女達と私達はこの世界では初対面だから・・・」
「あ・・・そっか・・・そうだよね・・・うん。わかった・・・」

目に見えて肩を落とすまどかを見て私の胸も痛くなる。だがこの痛みに耐えなければまどかを人間にもどすことなどできはしない。

「ごめんね・・・それじゃあ、呼んでくるね。」
「うん・・・」

心配そうなまどかを背にドアを開け2人を招き入れる。

「ごめんなさい、引っ越してきたばかりで何もないけれど入ってもらえるかしら。」
「お邪魔しまーす。」
「お邪魔させてもらうわ。」

ダイニングに招き入れた2人にまどかを紹介する。

「改めていらっしゃい。彼女は私の同居人の鹿目まどかよ。」
「初めまして、鹿目まどかです。」
「初めまして、私は美樹さやか。今日から暁美さんと同じクラスになったの。よろしくね。」
「同じくはじめまして。私は巴マミ。暁美さん達の1つ先輩になるわね。」

紹介を終えるとみんなに椅子にかけてもらう。そして、最後にキュウベえが自己紹介を始める。

「はじめましてだね。ボクはキュウベえ。さっそくだけど鹿目まどか、暁美ほむら。君たちは何者だい?特に鹿目まどか。君は僕たちと同じような存在だろう?」

リビングを沈黙が包む。
最初に口火を切ったのは私だった。

「半分は正解よ。彼女は私の契約者。そして魔法少女のなれの果てよ。」

その言葉に再び巴マミと美樹さやかが息を呑む。予想通りキュウベえは、彼女達に魔法少女となるリスクを説明しなかった。
これでまどかの事を理解してもらいつつ、美樹さやかにキュウベえへの不信と、魔法少女となるリスクを教え彼女の契約を少しでも遅れさせる事ができる。
今のままでは彼女は間違いなく上条恭介のために己の願いを使い潰す。それでは困るのだ。

「やはり聞いていなかったようね。気をつけなさい。そいつは嘘をつかない。けれど決して語る言葉全てが真実ではないわ。」
「本当なの?キュウベえ。」

わずかに動揺し、キュウベえに問う巴マミ。
だが、彼女にとってもこの真実は早めに告げておいた方が良いだろう。

「嘘は言っていないね。確かにボクは君たちに話していないことがある。けれどそれは魔獣達との戦いで不要なものばかりだよ。」
「へぇ。その基準は何なのかしら?話していないことってなに?答えてもらいましょうか、キュウベえ。」

表面上は余裕を持って問いかける彼女だが、内心の不安を隠し切れていない。だが、彼女と美樹さやかの精神の脆さを克服しておかなければ、肝心なところでミスを生む心配がある。また美樹さやかには、おいそれと契約しないよう徹底的に恐怖を植え込んでおく必要もある。

「何を話せばいいのかな。質問は具体的にしてもらわないとね。」
「そう。なら私が代わりに質問するわ。あなた達の目的はなに?魔法少女にソウルジェムが生まれるのは何のため?魔力を使い果たした魔法少女はどうなるの?」

とぼけるキュウベえに私が質問をする。この3つの質問でコイツが答えても答えなくてもキュウベえへの不信を植え付ける事ができるだろう。

「・・・」
「答えられないなら代わりに答えてあげる。目的はこの宇宙を維持するため無限にわき出る感情のエネルギーを利用するため。ソウルジェムとは魔獣との戦いを効率的に行うため人間の精神を加工したもの。その際本体はソウルジェムとなり、肉体は外付けのハードウェアでしかなくなる。そして魔力を使い果たせばソウルジェムは消失し、ハードウェアである肉体の操作をできなくなり死を迎える。魔法少女とは魔力の力で動くゾンビのような存在よ。そして同時に人の身に余る願いをした者は、その素養によっては概念存在として死ぬことすら許されなくなる。」
「っ・・・」

キュウベえの答えを予想していなかったのか、顔を真っ青にした巴マミと美樹さやかを見渡し、最後にまどかに視線を向けとどめとなる一言を告げる。

「彼女のようにね。」





「ほむらちゃん。起きてる・・・?」

隣に寝転がるまどかが、おずおずと声をかけてくる。

「ええ。起きているわ。どうしたの。」

問い返す私。だが彼女は私の背にすがりついたままずっと黙り込んだまま。
こういうとき自分の対人経験の少なさが恨めしい。まどかが何かに悲しんでいるのはわかるのに、その悲しみが、なにが原因かわからない。彼女を励ますことができない。
無力感に苛まれたまま私は、ただまどかが話しかけてくれるのを待つしかできなかった。

「私ね・・・今日家族のみんなに会って来たの・・・」

その言葉で気づく。考えれば当然だ。家族仲のよかった彼女が会いに行かないわけがなかった。家族に自分が見えない。家族に自分が忘れられている。この事実がどれほど彼女を苦しめるのか。
私は今まで、彼女を人間に戻しさえすればそれで良いと思っていた。だがそれでは足りない。それだけでは足りないのだ。
彼女が人間になっても、まどかの家族が思い出すとは限らない以上、まどかを本当の意味で救い出すには彼女の家族にまどかを思い出させた上で、彼女を人間にしなければならない。

「ねえ、ほむらちゃん。ほむらちゃんはこんなことを繰り返してきたんだよね・・・ずっと・・・仲の良かった人達みんなから忘れられて・・・気づいてもらえなくて・・・それでもずっと耐えてきたんだよね・・・ごめんねほむらちゃん。気づいてあげられなくて・・・本当にごめんね・・・」

この状況ですら、私を気遣い嗚咽をこらえ謝るまどかに奥歯を噛みしめる。
また私はまどかを傷つけた。私の思慮の浅さがまた彼女を泣かせてしまった。

「そんなことない!少し考えれば気がつく可能性を見過ごした。それがどれほどあなたに痛みをもたらすかなんて、他でもない私が誰よりよく知っているのに!あなたは私を罵っていい。なぜ気づいてくれなかったのかって罵声を浴びせてくれてかまわない。なのになんで・・・なんであなたはそんなに優しいの!?」

すすり泣くまどかに堪えきれず、思わず私は叫び声をあげてしまう。
寝返りをうちまどかの身体を抱きしめる。最初こそ堪えていたまどかだが、次第に堪えきれなくなったのか大きく叫び声をあげて涙を流すのを私はただ抱きしめる事しかできなかった。




[27716] 4話 友達が出来ました
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:31
『暁美ほむらさん。一番の診察室へお入りください。』

「失礼します。」

翌日、学校を終えた私は昨日来ることの出来なかった病院にいた。
昨日のショックのためか、学校へついて来ず落ち込んだまどかを1人部屋に残したままなのが気がかりだが、実際には魔法で完治させているとはいえ、医学上定期的な精密検査は欠かせないからだ。

アナウンスに呼ばれ診療室に入ると、私の専任医の先生と看護婦さんが唖然とした表情でこちらを眺めていた。

「えっと・・・ほむらちゃん?」
「はい。」

そういえば、この姿で診察を受けに来たのは初めてかもしれない。以前と今の私では、イメージが全く違っているのだから、驚くのも当然かもしれない。

「そ、そう・・・イメチェンしたのね。すっごい美少女になってるからびっくりしちゃったわ。」

先生の言葉に看護婦さんも同意をしてくれる。
今の自分が美人だなどとは決して思わない。でも、周りがそう評価してくれるのは正直うれしいと思う。ずっと、まどかの友達として恥ずかしくないように。そう心がけ、己を磨いてきたのだから。

「うんうん、私もほむらちゃんは磨けば光ると思ってたけど、ちょっとこれは予想外だったかも。なあに、学校に行った途端そんなにイメチェンして。さては好きな男の子でもできたなあ!?だめよぉ、ほむらちゃんの彼氏は私と先生が認めた子じゃないと。」

看護婦さんまで私をからかいはじめるが、美樹さやかと違ってこの2人が私をからかうのにはある程度慣れている。今度は表面だけでなく、落ち着いて対処することができた。

「残念ですけど、好きな人はいません。」
「ありゃ、そっか。残念。でも、すっごいイメチェンね。どういう心境の変化かしら?」
「友達が・・・できました」

からかうような口調で問いかける先生にも、私は素直に答える事ができる。この2人は入院した私に常に真摯に、優しく接してくれていた。兄弟のいない私にとって、先生達は歳の離れた姉とはこういうものなのかなと一時期夢想したほどに。

私の答えにも、からかうような表情を変え、本当にうれしそうにほほ笑んでくれる。

「そっか。よかった。ほむらちゃん内気だから、上手くやっていけるのか心配だったの。あ、ごめんね上着まくってくれる?そうそう。あら・・・?でもまだまだ胸はあんまり成長していないみたいね。ここだけはまだまだ成長の余地ありかしら。それで、友達はどんな子なのかしら?」

それから私は先生達としばらくまどかの話や、学校の話などをし、先生はそれをカルテにまとめていく。

その後CTスキャンとMRI、心電図を取り終え再び診察室へと入ると、私の断面画像を見ながら先生達が難しい顔をしていた。

「どうかしましたか?」

私の問いに顔を向ける先生達。

「あ、ううん。確かにほとんど心臓は完治してたんだけど、ね。」
「経過が悪いのでしょうか。」

私の質問に戸惑っていた先生が、慌てて否定する。もちろん悪化しているわけがない。先生を不条理に騙しているようでいささか罪悪感を覚えないでもないが、こればかりは仕方ない。

「違うの、完全に直ってるから驚いてるの。でもそうね。理屈なんてどうでもいいわよね。おめでとう、ほむらちゃん。もう心配ないわ。長い間本当におつかれさま。」
「・・・先生も看護婦さんも長い間、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」

私は立ち上がると2人に向け、なし崩しのまま言えなかった繰り返した過去分の思いを込め深々と頭を下げた。最後は魔法の力を使ったとは言え、私を学校に通えるほどに治療してくれたのは先生達なのだから。そして下げた頭を先生が優しく撫でてくれた。

「大げさね。でも先生良いこと思いついちゃった。今度お休みの日に私の家に遊びにおいで。ほむらちゃんずっと入院生活で服とかもあんまりもっていないでしょう?全快祝いにお姉さんがなんでも好きな服を1つおごってあげる。」
「え・・・?そんな・・・でも、わるいです・・・」

だが、遠慮する私に先生は撫でるのを少しだけ荒くし、髪の毛をクシャクシャにする。

「いいのいいの。子供なんだから、あなたはもうちょっと大人に甘えなさい。」
「そうよー。ほむらちゃんせっかくきれいになったんだから、もっとおしゃれしたら、きっと学校中の男の子がほっとかないわよぉ。」

そう言ってニカっと言う表現がぴったりの笑い方をする先生と、にやにやと笑う看護婦さんに少しの戸惑いと、心からの感謝を込め、精一杯の笑顔を浮かべて返事をする。

「はい。ではお言葉に甘えさせてもらいます。本当に長い間ありがとうございました。」





診察室を後にした私は一旦病院の外へ出て、美樹さやかと志筑仁美と合流すると、上条恭介の病室へと向かっていた。昨日話したお見舞いの話を、さっそく美樹さやかが実行したがったからだ。私としても、少しでも早く彼に接触しておくのは悪くない。
雑談に相づちを打ちつつ、今後の流れを組み立てるうちに私達は彼の病室へ辿り着いた。

「恭介―。はいるよー。」
「うん。どうぞー。」

美樹さやかが声をかけると、部屋の中からまだ声変わりのしていない少年の返事があった。
返事を聞いた美樹さやかが扉を開け、中に入るとちょうど看護婦さんが定期検診を終え、退室するところだったらしい。

「あら、いらっしゃい美樹さん。今日はお友達を連れてきてくれたのね。よかったわね、上条くん。みんなかわいい子ばっかりじゃない。それじゃあ、美樹さん、後はよろしくね。」

看護婦さんはこちらに会釈をすると、カルテを持って退室していった。

改めて上条恭介を見る。
確かに美少年といって良いだろう。身長こそ少し低いがすっきりとした、柔らかい面立ちに、繊細そうな指。
だが目が気に入らない。美樹さやかが私の目を見て演技を見抜いた理由を理解した。
あの目はかつての私と同じだ。全てを諦め、絶望し、自分の運命を呪い他人を妬む。
なるほど。これは美樹さやかの手には負えない。彼女が彼のために祈り、魔女に至るのも当然だ。恐らく彼は真っ直ぐすぎる彼女をいずれ疎むようになるだろう。直接見た甲斐があった。

「突然ごめんね、恭介。恭介のお見舞いに行くならせっかくだしみんなで行こうって話になってさ。あ、この子が転入生の暁美ほむらさん。すっごい美少女でしょ!やったね、恭介、美少女3人がお見舞いなんて男冥利に尽きるじゃん!」
「初めまして。暁美ほむらです。お話は美樹さんから伺っているわ。私も入院生活が長かったから愚痴くらいなら聞けるわ。」
「初めまして、暁美さん。そう言ってもらえると助かるよ。なかなか入院中の愚痴って実際に体験した人しかわかってもらえなくて。たまにでも聞いてもらえるとうれしいな。これからよろしくね、暁美さん。それとお見舞いに来てくれてありがとう。さやか。志筑さん。」
「ええ、よろしく上条君。」
「いえいえ、お気になさらないでください。」

柔和な笑顔を浮かべてこちらに挨拶と握手を求めてくる彼に、私は握手を返す。その間に美樹さやかが3人分の椅子を並べてくれたので、そこに腰掛ける。

「そうそう、こんなかわいい子2人もつれてきたんだからたまには私にも感謝してよね。それじゃ、仁美、暁美さん、ごめん。少し恭介の相手しててもらえる?」
「構いませんけど・・・さやかさんはどちらへ?」
「水差しのお水変えちゃおうと思って。ついでに飲み物買ってくるよ。恭介と仁美は紅茶でいいよね。暁美さんは?」
「お気になさらず。私も手伝うわ。」
「私もご一緒いたしますわ。」

美樹さやかの言葉に少々の驚きを感じつつ、私は腰を浮かせる。だが、それを彼女は手を振って否定する。

「ああ、いいっていいって。2人ともいなくなっちゃったらお見舞いの意味ないしさ。それにほら、2人とも給湯室や自動販売機の場所わかんないでしょ?だから2人で恭介の話し相手になっててあげてよ。」
「わかったわ。では飲み物代を」
「あーもう。今日は私が2人につきあってもらってるんだから私からおごるよ。暁美さんは何がほしい?」
「そう。ではお言葉に甘えさせてもらうわ。私も2人と同じもので結構よ。」
「おっけー。それじゃちゃっちゃっと買って来ちゃうからあとよろしくね。」

そういうと彼女は退室していく。それにしても彼女の気遣いには驚いた。私の知る彼女は、いつも自分勝手に動き回りまどかを振り回してばかりいたが、こちらの彼女はかなり気配りが上手い。
思えば私の知る時間軸では、あれで気配り上手で家事能力も高いまどかが全てをやってしまっていたから、美樹さやかも自分勝手に動き回れたのかもしれない。そう思えば美樹さやかのまどかへの態度は仲の良さ故の甘えだったととるべきだろうか。
正直な話、こちらの世界の美樹さやかはかなり印象が良い。

「さやかさんの気配りはすごいですわね。私など見ての通り鈍くさいものですから、彼女のようにテキパキ動けるのはうらやましいですわ。」
「そうだね。さやかにはいつも本当に助けてもらってるよ。といってもこんな身体じゃ何もお礼できないんだけどね・・・」

そう言うと、表情を陰らせる上条恭介。
ああ。やはり彼は思ったとおりだ。まあいい。気持ちは理解できるが、同情はできない。

「ならそれを直接言ってあげると良いわ。どれだけ感謝しても声に出さなければ相手には届かないのだから。」

私の言葉に彼は少し驚いてこちらに目を向ける。

「そっか。そうだね。そういえば最近さやかにちゃんとお礼を言ったことはなかったかもしれない・・・ありがとう、暁美さん。今度改めてさやかにお礼を言っておくよ。」
「ええ。そうしてあげて。お節介だったらごめんなさい。」
「そうですわ。きっと美樹さんも喜びますわ。」

素直に非を認める上条恭介と、そんな彼を見て優しく微笑む志筑仁美。
2人を穏やかな空気が包んでいる気がする。これは美樹さやかに勝ち目はもともとなかったのかもしれない。あれだけ献身的に尽くしているというのに、つくづく対人関係は難しい。

「おっまたせー。って、何にやにやしてるの?」

胡乱げな目で私達を見ながら買ってきた飲み物を配る美樹さやか。配り終わると、私の隣に座ると自分も飲み物を飲み始める。

少しお茶を飲むと上条恭介から質問がきた。

「そういえば暁美さんも長期入院していたっていっていたよね。どこが悪かったの?」
「心臓よ。」

簡潔に述べた私の一言に病室の空気が固まる。私としては事実を述べただけだし、そもそももう完治しているのだからあまり気に病まれる方が困るのだけど。

「あまり気にしないで。ここに来る前に診察を受けて来たけれど、完治しているし再発の心配もまずないってお墨付きをもらったわ。」

その言葉を聞いて3人ともあからさまにほっとする。気を取り直したのか、再び上条恭介が話しかけてくる。

「そうなんだ。でもうらやましいな・・・僕はあんまり経過が良くないらしいから・・・」

その愚痴ともつかない彼の言葉に再び沈黙が訪れる。
見通しの立たない長期入院にかなり参っているようだ。彼にはここであまり鬱になられても困る。同情した美樹さやかがキュウベえに願いを告げてしまうかもしれないからだ。
けれどこれは良い機会かもしれない。本来はもう少し先に行うつもりだったが、彼らに希望をもってもらうのは早い方が良い。

「そう。あまり自暴自棄にならないことを薦めるわ。私もかなり難しい手術だったらしいけれど、先生が海外の論文なんかも当たってみてくれて。先生もどうせ無理をするなら、体力のある若いうちの方が良いと言っていたわ。もし良ければあなたの症状を教えてくれるかしら。私も先生に訪ねてみるから。」

その言葉に幾分かだが表情を明るくする上条恭介。

「そうか・・・日本でだめなら海外って手もあるよね・・・うん、そうだね。お願い出来るかな暁美さん。僕もパパや先生に頼んでみるよ。」
「私も父に頼んでみますわ。何人かお医者様とのおつきあいもあるそうですし、何かお力になれるかもしれません。」

上手く乗り気になってくれた上条恭介と、それに同意する志筑仁美。2人とも両親は資産家であり、海外への伝手も多いということは既に調べてある。これで上手くいけば海外、悪くても国内の別の病院へという話へもっていけそうだ。
美樹さやかが少々寂しそうな顔をしているのが気になるが、こればかりは仕方がない。

その後、彼から症状を聞き出すと、再び先生の診察室を訪ねお願いをしてきた。その際、相当参っているので、気分転換も兼ねて出来れば海外にという言葉も付け足しておく。
先生と看護婦さんが私にも春が来たとにやにやしていたのが少々遺憾だったが、それも私のことをかわいがってくれているからと言うことで目をつぶることにする。

私が病院を出る頃には日も沈み始めていたが、美樹さやかと志筑仁美が外で待っていた。

「美樹さん、今日はありがとう。それと彼の件、余計なお世話だとしたらごめんなさい。」
「あ、ううん。こっちこそありがとう、暁美さん。あんなにうれしそうな恭介久しぶりに見たよ。ほんっとにありがとう。それにしても暁美さんには憧れちゃうなぁ。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、おまけに気配りまでできるってくぅー!!ねね、暁美さん。どうやったら暁美さんみたいになれるの?」
「あら、それは私も是非教えていただきたいですわ。私も見ての通りおっとりしすぎているので暁美さんのようなキビキビした方には憧れてしまいますの。」

私のことを迎えるなり、べた褒めをしてくる2人だが、正直言って人に褒められるのは苦手だ。

「それを言うなら、美樹さん。あなたが私に良くしてくれたからあなたを助けたいと思ったの。だからお礼を言う必要なんかないわ。それに・・・私のようにはならない方が良い。もう行くわ。また明日、学校で。」

そう告げると髪をかき上げ、振り返ると2人を残し足早に立ち去る。
気がつくと唇を噛みしめていた。
そう、私は誰かに羨まれる資格など無い。その羨望はまどかに向けられるべきだ。彼女がいなければずっと鈍くさいままの私だった。そのままでいられただろう。そして私は彼女を失わずに済んだ。彼女も家族も友人も失わずに済んだのだから。
それを私以外の誰も知らないのが口惜しい。いつも思ってしまう。私が彼女の人生を奪ってしまったのだと。

そんな煩悶を抱えつつ家の前に辿り着くと、そこには巴マミがいた。

「・・・ごめんなさい、暁美さん。話があるの。」

かつて見てきた余裕と明るさはなく、暗く戸惑った瞳で私に声をかけてくる巴マミ。
あまり楽しい話ではないのだろう。けれど、それでもありがたい。今は何かを考えていないと、私は私を呪ってしまうだろうから。



[27716] 5話 魔法少女になるってこういう事よ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:32
話かけてきたは良いものの、何を話したいのか彼女自身もわかっていないのか、ずっと沈黙を保ったままだった。

「少し歩きましょう。」

このままではらちが開かないと判断した私は、とりあえず場所を移すことにした。その言葉にも彼女はひとつ頷いただけで黙って私の後をついてくる。

しばらく歩き、公園まで来ると彼女にベンチに座ることを促し、私もとなりに腰掛ける。

「それで?昨日の話の続きかしら。」
「・・・ええ」

私のかけた言葉にようやく彼女が声を絞り出す。

「あなたは自分がゾンビとなっていたことが悲しいのかしら。それとも魔力を使い果たせば死んでしまうということが悔しいのかしら。それとも魔獣と戦うことが恐ろしいのかしら。」

私の問いかけに肩をびくりと振わせる。やはりそうか。確かに見た目が多少大人びていると言ったところで、所詮15歳。あなたはゾンビです。魔獣と戦わなければ死にますが、無計画な戦い方をしても死にますといわれれば恐怖を覚えるのも仕方がないだろう。
彼女のように、選択の余地も時間もない状態でキュウベえと契約しているならなおさらだ。もっとも、以前のキュウベえを知っている私からすれば、こちらの世界のキュウベえ・・・というより魔女化のないこの契約システムは十分に良心的だと思うのだけれど。

「そんなの全部に決まってるじゃない。あなたはこんな身体にされて、わけのわからない化け物と戦わされて怖くないの?」

力なく、呟くように問いかける彼女に私は答える。

「ええ。恐怖が全くないとは言わないけれど、私は奇跡の代価としては妥当なものだと思っているわ。この身体も戦闘には便利だし、魔力が切れれば死ぬと言うのも、逆に考えれば魔力がある間は大抵のことでは死なないということよ。しかも魔力残量はソウルジェムの濁りによって一目でわかるようになっている。魔獣と戦うのはあまり歓迎できないけれど、私にとって本当の意味で問題なのはこれだけね。」

一息で話す私に唖然とする巴マミ。私と違ってシステムを理解して間もない彼女からすればこの割り切りは理解しがたいものなのだろう。何度か口を開き、閉じを繰り返すと最後に絞り出すように言葉を紡いだ。

「私は・・・私はあなたのように割り切れない・・・」
「そう。」

うつむき、スカートを握りしめた自分の手を見つめる巴マミに私は一言そう呟くと、立ち上がった。

「なら戦わなければいい。魔獣は全て私が狩るわ。あなたの生活に困らないくらいのグリーフシードは分けてあげる。」

私の言葉に彼女は顔を上げる。しばしの間私と彼女は見つめ合うと、彼女は瞳を不安に揺らしながらも意を決したように言葉にする。

「そんな・・・後輩に命がけで戦わせて私だけ逃げ回るなんて・・・」

精一杯の強がりを言う彼女。けれど今の彼女でははっきりいって足手まといになりかねない。なんとか、この精神の脆ささえ克服できれば、彼女の火力と経験は頼りになるのだけれど。

「それは義務感かしら。それとも責任感?やめておきなさい。そんなもので戦えばいずれ死ぬわ。」

私の言葉に彼女の背がびくりと爆ぜる。これは今まで精一杯恐怖と戦いながら、魔獣と戦ってきた彼女を否定する言葉。だが、いつかは言わなければならない言葉でもある。なぜ自分が戦ってきたのか。それを理解しなければ彼女の精神は脆いままだろうから。

私は髪をかきあげ、俯く巴マミに背を向け歩き始める。
だが、その瞬間魔獣の結界が私達を包み込む。毎回の狙い澄ましたようなタイミングの悪さに、思わず舌打ちをする。

「巴マミ。あなたも気がついたでしょう。私の後ろに隠れていなさい。」

彼女に声をかけると、変身をし、魔獣を待ち受ける。しばらくするとまた地面から魔獣が現れてくる。今回の数は16。少々数は多いがこれくらいなら彼女を守りながらでも余裕だ。

そう思ったのもつかの間、現れた魔獣達が共食いを始める。
言葉を失う私と巴マミ。
魔獣が隣の魔獣に噛みつき、噛みつかれた魔獣が鳥肌の立つような絶叫を上げ、喰われていく。そしてそれを喰った魔獣がさらに隣の魔獣を喰い・・・そんなことを次々と繰り返していく。
いったいこれは何・・・?前の世界では数こそどんどん増えていったが、決してこんな事はなかった。
どさっという鈍い音が聞こえ後ろを振り向くと、顔を真っ青にした巴マミが震えながらへたり込んでいた。無理もない。私でさえこの光景は怖気が止まらないのだから。

「きゃあああああああああああああああああああああああっ」

攻撃するのも忘れて立ち尽くす私だったが、突然の悲鳴で我に返る。悲鳴のした方を見ると、美樹さやかが顔を真っ青にして立っていた。

次から次へとっ!

立て続けのトラブルに私は心の中で毒づくと、動揺を抑え立ち上がり変身した巴マミの手を握り引っ張り起こすと、美樹さやかの元へ走っていく。
彼女も私達に気づいたのか、必死の形相でかけてくる。

「あ・・・暁美さん、何あれ!」
「魔獣よ。もっともあんなの初めて見たけれど。」
「なんで暁美さんそんなに落ち着いてるの!?」
「慣れよ。」

いくらかショッキングな光景なのは確かだけれど、仲間が魔女になって襲ってきたり、フレンドリーファイアで殺されかけたり、親友が世界を滅ぼしたりするような状況を経験していれば、多少は思考停止からの復帰も早くもなる。

美樹さやかと巴マミを背中にかばうと、ちょうど共喰いが終わり最後の1匹がこちらに向けて動き出すところだった。その口元と服は血にまみれ、腹は服を突き破って明らかに身長より大きく膨らんでいる。両手を前に突き出し、う゛ぁ“あ”あ“あ”とゾンビのような呻き声をあげ、腹を引きずりながらゆっくりとこちらに歩いてくる姿は、アスファルトで擦れて削げ落ちていく腹肉の血痕と相まって、生理的恐怖を煽るのに十分だった。

「巴マミ。美樹さん。状況が変わったわ。ヤツの動きは遅い。私が相手をするから2人で逃げて。」

私はショットガンを取り出すとコッキングをして初弾を装填し、開いた弾倉にもう1発の弾を補充すると返事も聞かずに走り出す。幸い、魔獣の動きは鈍い。どんな能力がわからない以上速攻でカタをつける!

魔力で強化した筋力は、瞬く間に私をヤツの眼前へと運ぶ。
私が近づき捕食圏内に入った瞬間、魔獣は私に向けて異様な大きさに口を開き私に首を差し出すように噛みついてくる。
そこにカウンターを合わせるようにショットガンをたたき込むと、12ゲージの銃口から撃ち出されるバックショット弾はあっさりと頭部を粉みじんに吹き飛ばした。
反動で仰け反り、仰向けに倒れた魔銃の腹に残った2発を叩き込むと、万一に備えて距離をとり、スライドを動かし排夾を済ませると、手早く弾丸を再装填する。
銃口を向けたまま死骸を観察し続ける。腹部に散弾が作り出した巨大な穴が2つ抉れているが死体が消えないのが気にかかる。

「やったの・・・?」
「暁美さん・・・昨日は手榴弾に今日は鉄砲・・・それホンモノだよね・・・?」
「っ・・・」

後ろから聞こえた声に思わず振り返ってしまう。

「なぜ来たのっ!」

嫌な予感が消えない。突然叫び声をあげた私に戸惑う2人。
だがその瞬間、何かが引きちぎれる音がし始める。
慌てて視線を向けると、抉れた傷跡を起点にバキボキミヂブチと背筋を寒くするような音と共に少しずつ広がっていく肉の亀裂。音がする度に死骸がビクンと痙攣する。
私は魔獣の腹部を食い破って出てきたモノを見て絶句する。

「ゲルト・・・ルート・・・」

そう。銃を叩き込むことすら忘れて呆然とする私の前で現れたのは間違いなく、薔薇の魔女ゲルトルート。
そんなはずが・・・
端から見れば一瞬の硬直だったはずだ。それでも、間違いなく一瞬私に出来た隙を突き、足下から生えてきた触手に足を絡めとられ、私は地面にたたきつけられる。

「しまっ・・・ぐっ!?」

何度も何度も執拗に地面に叩きつけられるのを、魔力強化と受け身をとって必死でダメージを最小限に抑え込む。
どれだけ叩きつけても死なない私に痺れを切らせたのか、ゲルトルートは私を逆さ宙吊りにすると、両手と両足を触手で縛り付け左右に引っ張り出す。必死で両腿を閉じるが地力の差から少しずつ足が開いていく。
じりじりと開いていく足に焦りを感じ、魔力の消耗を覚悟で黒翼の展開をしようとする。

その瞬間銃声が響いた。

銃声の先に目を向けると背中に美樹さやかをかばい、巴マミが銃を構えていた。銃口の先には使い魔のつもりだろうか、チョビヒゲをはやした魔獣が巴マミが触手を撃ち抜く度にツタの粘液から生まれ出てくる。
撃てば撃つほど増殖する使い魔に徐々に巴マミの表情に焦りが生まれてくる。しかもご丁寧に彼女からゲルトルートに射線が通らないような位置取りを取る使い魔。

「くっ・・・倒しても倒してもキリがないっ。それにこいつらまるであの化け物を守ってるみたいじゃない!」

動揺を露わに、何度も執拗に銃を撃つ巴マミ。1対多に特化した彼女の魔法はこの状況でも使い魔を打ち抜いていくがその銃弾が触手を傷つける度に新たな魔獣が沸いて出てくる。

幸い銃声に気をとられたのか、触手の力がわずかに揺るんではいるが、とても脱出できるようなものではない。とりあえずの危機は免れたがいよいよ再びの手詰まり感が襲う。
さてどうしたものか。とりあえずプランは2つほどあるけれど・・・
他に良い方法がないか思案をする私の耳に、再びあの声が飛び込んできた。

「美樹さやか。君には魔法少女の素質がある。どんな願いでも1つ叶えてあげる。君が魔法少女になれば彼女達を助ける事ができるんだ。さあ、ボクと契約して魔法少女になってよ!」

先ほどまでいなかったはずのキュウベえが、いつの間にか現れて美樹さやかを勧誘していた。まずい。今彼女に魔法少女になられては困る。
あまり気は進まないけれど仕方がない。
私は覚悟を決めると戸惑う美樹さやかに声をかける。

「その必要はないわ。離れて美樹さん、巴マミ。」
「でも・・・」
「いいから離れて。」

私の少し強い口調に前回の手榴弾を思い出したのか、慌てて距離をとる美樹さやかと巴マミ。彼女達が距離をとると、再びゲルトルートがこちらを引っ張る力が強まり始める。
だが、痛みを無視して私は眼前に以前作った手製の爆弾を目の前に取り出す。空中に現れた爆弾は重力に引かれて落ちていく。私の手製爆弾は信管などがあるため上部の方がバランス的に重くなっている。そのため地面に落ちる頃にはスイッチがある上部が下を向き地面に落ちると爆弾のスイッチがはいる。それを見届けると私は奥歯をかみ砕かないよう口を半開きにすると全身の力を抜く。

そして爆発。

爆風と炎に炙られ触手が引きちぎれ身体が宙を舞う。木の葉のように土の上を転がり跳ね回り、樹に背中からぶつかって止まる。

「ぐっ・・・か・・・は・・・・ゲホッ・・・」

触手から逃がれたはいいが、内蔵を痛めたのか血を吐く。火薬の臭いとちぎれた触手から漂う植物の粘液の臭いが混ざり合いすさまじい悪臭が立ちこめえずいてしまう。だがのんびりもしてはいられない。

息を切らせながらも、樹に手をついて立ち上がり身体状況をチェックすると、あばらと左腕の骨が折れていた。魔力を使って傷を治し、口元の血を袖で拭うと、時計からRPG7を取り出す。
乱れた息を整え、肩に担ぎ狙いを定めると一息にトリガーを引く。
HEAT弾が煙の尾を引き命中すると植物ベースの魔女であるゲルトルートを燃やし尽くす。

今度こそ消滅し、結界が解除されたのを確認すると変身を解除し、グリーフシードを探す。

グリーフシードは確かにゲルトルートのいた辺りの下に落ちていた。だが、その形は以前の魔女の流線型を主体とした物とも魔獣の直線を主体とした物とも違っている。とりあえず考察は後回しにし、私は回収を済ませると美樹さやか達の方に視線を移す。

「美樹さん覚えておきなさい。魔法少女になるってこういうことよ。」

思わぬ苦戦をしてしまったけれど、逆に彼女に恐怖を植え付けるには都合が良いだろう。

「昨日も言ったけれど、キュウベえの言うことは必ず裏を読みなさい。ソレは敵でも味方でもない。悪意も善意もありはしない。だから嘘もつかないけれど真実全てを語らない。
それを理解した上でなら、ソイツとも上手く付き合えるでしょうけれど。」
「嫌われたものだね。仕方ない。今日のところは退散させてもらうよ。でも、美樹さやか。
君の力があればどんな病気も怪我もたちどころに直すことが出来る。誰かを助けたいと思ったならいつでもボクを呼んでおくれ。」

その言葉に美樹さやかの表情が揺れる。さすがに上手い。ここで願いの誘導を持ち出してきたか・・・言いたいことを告げ後ろを振り返ることなく消えてゆくキュウベえを見送り、巴マミに視線を移すと彼女は変身も解かずに呆然としていた。

「巴マミ。助けようとしてくれた点はお礼を言わせてもらう。でもあなたもこれでわかったでしょう。これからも恐らくあんな化け物が出てくる。半端な覚悟で戦えばただでは済まないわよ。」

そう。魔女の姿をした魔獣が現れた。アレが仮にイレギュラーであれ今後もでないという確証はない。むしろ可能性は高いと思った方がいいだろう。
そうなれば、危険性はただの魔獣より格段に跳ね上がる。そう思って言った私の言葉だが彼女は不満を覚えたようで、苛立ちをこめた目で私を見上げて、叫んだ。

「っ。あなたにそんなことを言われる筋合いはないわ!」

精一杯の強がりを込めて叫ぶ彼女。彼女の言うことは至極もっとも。
かつて事故とはいえ本当に死にかけた彼女だ。自身の死というものへの恐怖も人一倍だろう。それでも尚、自分のように身近な人を失うよう人が減るようにと戦い、利害関係の中に有りながら後進を育て続ける彼女の精神は間違いなく高潔だった。
それをほとんど初対面の私から半端な覚悟だと切り捨てられていい気がしないのは当然だろう。だが、それでも私は彼女には戦って欲しくないのだ。

「ええ、そうね。ただ私はあなたにも死んで欲しくない。それだけの話よ。」

 私の言葉に先ほどの勢いは失せ、きょとんとした瞳でこちらを見てくる。私の立場をはっきりさせておくためにもここは話してしまった方がいいかもしれない。

「そうね。巴マミ、美樹さん、2人とも時間はあるかしら。もし良ければ今日は私の家に泊まっていって。私の過去と目的を聞いてもらいたいから。」

戸惑いながらも頷いてくれた2人を連れ、私は再びまどかの待つ私の家へと歩き出す。出来れば事情を知ったこの2人が、このまままどかと友達になってくれればいいのだけど。
そんな小さな期待を抱きながら。



本日のほむほむ収支報告書

M870 バックショット弾 ×3
ほむボム(焼夷弾仕様) ×1
RPG-7(HEAT弾) ×1





[27716] 6話 こんなの絶対おかしいよ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:32
2人を連れ私の家に入ってもらうと、出迎えてくれたまどかに2人の対応を任せ、ちぎれた触手から出た樹液でべたべたになった身体をシャワーで洗い流す。

お風呂場から出ると、ちょうど美樹さやかが、親に電話を入れているところだった。

「うん。ごめん、転校生の子がさ。帰りに暴漢に襲われかけちゃって・・・うん。たまたま近くにいた人が助けてくれたから大丈夫。ただ、1人暮らしで参っちゃってるから私も一緒にいようと思うの。うん・・・・うん・・・ちょっと待ってね、変わる。暁美さん、お父さんが変わってって。」
『はじめまして、娘がお世話になっております。美樹です。暴漢に襲われたっていう話だけど本当に大丈夫なのかい?』
「はじめまして、暁美ほむらです。おかげさまで通りがかった方が助けてくださって。
ただ1人暮らしだと少し怖いので、よろしければ美樹さんに一緒にいただけると、心強いのですが・・・美樹さんには学校でも本当にお世話になっているので、甘えるばかりで心苦しいのですけど。」
『もしよかったら僕たちの家に来てもいいんだよ?』
「いえ、そうさせていただければありがたいのですけど、心臓病が治って間もないので医師から部屋の間取りのわからないところに泊まるなと言われているんです。万一発作があったときにどこに何があるかわかっていないと危険なので。」
『そうか・・・そういう理由なら仕方ないね・・・わかった。くれぐれも戸締まりを気をつけるんだよ。悪いけどさやかと変わってもらえるかな?』
「はい。」

言われて美樹さやかに電話を返すと、父親から気をつけるんだ等の言葉が漏れ出てくる。
暖かい両親がいることを少し羨ましく思っていると、暖かいお茶を淹れたまどかがお茶を運んできた。

「ありがと。」
「ありがとう。」

通話を終えた美樹さやかと、座って待っていた巴マミがお礼を言う。

「良いお父さんね。」
「まあね。どこにでもいる感じだけど、私もお母さんも大切にしてくれてる感じがするのはすごくうれしいかな。正直この歳になるとちょっと恥ずかしいんだけどね。」

そういって苦笑する美樹さやか。もっともその話を聞いて、まどかと巴マミが暗く落ち込んでしまったのは失敗だった。2人の前では両親の話は禁句にした方がいいようだ。

「そう、大切にしてあげて。冷めないうちにいただきましょう。暖かい物を飲むと落ち着くわ。」

私の声に同意したのか2人ともゆっくりとお茶に口をつける。以前まどかが淹れてくれたものより少し甘めのミルクティー。魔獣との戦闘で疲れているのを見越して砂糖を多めに入れてくれたのだろう。この辺りはかつての巴マミの訓示のたまものだ。

「「美味しい・・・」」

2人が同時に呟いたのを見て少しだけまどかがうれしそうに微笑むのを横目に見ながら私は話を切り出すことにした。

「それじゃあ本題に入らせてもらうわ。まず私の目的は単純よ。まどかを人間に戻してみせる。それだけよ。」

私の宣言ともとれる告白に2人は揃ってまどかの方に視線を向けた。まどかが魔法少女のなれの果てだという話は以前してあるから、2人ともそこまで意外だという顔はしていない。

「なぜ暁美さんは命をかけてまでその子を人間に戻そうとするの・・・?」 
「それは彼女が私の命の恩人で、たった1人の親友だからよ。」

巴マミの疑問に対して私は嘘偽りない言葉を返し、そのまま続ける。

「もともと病弱だった私には学校に通う機会がなかなかなかった。それでも調子の良い日に何度か通っていたんだけれど、友達はいなかったわ。当時は今よりもっと根暗でおどおどしていたし、通学するのもあまり多くなかったから仕方がないけれど。これがその頃の私の写真よ。」

そう説明すると、私は転校する以前にとった証明写真を2人のテーブルの前に提示する。
はっきり言って、我ながらこの差はすごいと思う。その写真を見て案の定2人だけでなくまどかまで私と写真を見比べ感想を言う。

「これ・・・ほんとに暁美さん?劇的ビフォーアフターってレベルじゃないんだけど・・・」
「これお化粧とかしてないのよね・・・イメチェンにしても変わりすぎじゃない・・・」
「あ、なつかしー。この頃のほむらちゃん可愛かったよね。ちょっと小動物ちっくでずっと私の後ろついてきてくれて。」

おおむね予想通りの反応だけれど、1人だけ聞き捨てならない言葉を言っている子がいる。

「まどか。それは今の私が可愛くないってことかしら?」
「あ・・・違うよ!今のほむらちゃんもかわいい・・・よ?」
「なんでそこで疑問系なのよ・・・」

まどかが一緒にいて恥ずかしくないように一生懸命イメチェンしたのに、肝心のまどかに認めてもらえずに少々口を尖らせてみる。

「いや、でも今の暁美さんってなんていうか鉄血の美少女って感じ?ほらスタイリッシュ○○!みたいな?」

14歳の女の子の修飾語に鉄血はないでしょう。

「そうね。クールビューティーって感じでうらやましいわ。」
「そうそう!今のほむらちゃんてなんていうか可愛いって言うよりキレイ!って感じなの!動きもなんかテキパキしててカッコイイし!!」
「お、わかってるじゃん、鹿目さん。そうそうまさにそれ!可愛いじゃなくキレイだよね!うん。」
「年下なのに私よりよっぽど年上っぽいわよね・・・いつも落ち着いて・・・」

女3人よれば姦しいというけれど、私の写真を肴にどんどんと話が膨れあがっていく。いつのまにか、まどかが輪に加わってわいわいと騒いでいるのを見るのは予想外だけどうれしい誤算。美樹さやかが切り出したことで、まどかも巴マミも自分の事を名前で呼び合うようになってくれた。かつて夢見た光景に私は少し胸が痛くなる。

「話を戻すわ。外見通りの性格だった私だから、当然みんなの輪に入っていくことなんてできなくて。遠足や修学旅行でも心臓にストレスをかけるようなことは出来ないから不参加。そうしてたまっていった健康な人達への妬みや自己嫌悪に釣られたのかはわからないけれど、帰宅途中に魔獣に襲われたの。それを助けてくれたのが当時同じクラスだったまどかよ。」

途端に重くなった話に、明るくなっていた雰囲気が一気に沈む。この辺りは時系列こそ少々ごまかしてあるが、おおむね本当の話だ。もっともここから先は魔女について話すわけにはいかないのでいろいろとごまかすことが出てくるけれど。

「既に魔法少女だった彼女が私を魔獣から助けてくれて、それから私のことをクラスでも気にかけてくれてね。見ての通り明るい性格だった彼女は友人も多かったから、彼女を起点に私も友達の輪に入っていくことが出来たの。私にイメージチェンジを勧めてくれたのも彼女よ。」
「褒めすぎだよ、ほむらちゃん・・・」

照れるまどかだけど、これも魔女が魔獣に置き換わっている意外は事実。文字通りまどかは私の世界を変えてくれたのだから。

「誇張じゃないわ。文字通り私の世界観を変えてくれたのがまどかよ。それからも何回か魔獣に襲われた私を守ってくれて。けれど、戦う度に増えていく魔獣に力を使い果たしてしまった。だから今度は私がまどかを救い出したい。私の戦う理由はそれだけよ。」

とりあえず、中身は一気に端折ったが全ての説明を終える。2人の反応を見ると美樹さやかは少し目を潤ませて。巴マミは私を羨むような目で見ていた。

「じゃあ、ほむらちゃんが魔法少女になったのはまどかちゃんを生き返らせたいって願ったから?」
「半分正解よ。彼女を生き返らせるには私の素質じゃ足りなかった。だから私の願いは概念化しかけた彼女を意識体として存在し続けるようにということよ。」
「それは幽霊みたいなものってことかしら?」
「そうね。その認識で間違ってはいないわ。元々幽霊というのも魔力資質が高い人間がキュウベえや魔獣のような存在を見て都市伝説のようになっていった可能性は高いもの。」
「あ、たしかにそれなら見える人と見えない人がいるって理屈も通るかも・・・」

そこまでいって考え込む美樹さやか。やはり彼女も頭の回転は悪くない。1度の説明である程度話が進んでくれるのはとてもありがたい。

「つまり、ほむらちゃんはまどかちゃんに幽霊としてでも一緒にいてほしいと願って魔法少女になったってことよね?」
「魔法少女っていうより武装少女って感じだけどねー」

茶化す美樹さやかに冷たい目を向け、巴マミの質問に答える。

「それであっているわ。私の魔法は燃費が良くないからどうしてもこういう武器に頼るしかないのよ。」

そう言って変身すると、私は2人に手の甲を見せる。そこには濁ったソウルジェムが張り付いている。

「これが濁りきれば私達は力を使い果たして死ぬことになる。まどかのように意識体としてでも残ることはほぼ無いと思って良いわ。そしてグリーフシードはこの濁りを浄化してくれるけれど、一定量の穢れを吸収させると再び魔獣となる。そうならないようキュウベえが穢れをため込んだグリーフシードを処理する。それはキュウベえから聞いているわね?」

私の問いに幾分顔を青ざめさせながらも頷く巴マミ。それを確認すると私はグリーフシードを1つ取り出しソウルジェムに当て浄化を始める。

「キュウベえは私達が願いを叶える際の絶望から希望への相転移と、グリーフシードにため込まれた人間の負の感情を求めているの。インキュベーターとは良く言ったものね。少女という卵に餌を与え、感情という雛を生み、それを収穫するシステム。それが魔法少女の孵化装置たるキュウベえの役割よ。」

そこまで話すとグリーフシードがドクンと脈打つ。私はそれを部屋の隅に投げ捨てると時計から銃とサイレンサーを取り出す。
その瞬間グリーフシードが割れ、中から魔獣が生まれる。

「暁美さん、なにを!」

私に向かって批難の声をあげる巴マミを無視して、私は座ったまま魔獣の額に9mmパラベラムの弾丸を3発ほど叩き込むと魔獣は再びグリーフシードにもどっていった。
それをつまみ上げると、再びソウルジェムに当て浄化を始める。ぽかんと口を開けて私の顔を見ている巴マミに向けて、もうひとつのグリーフシードを投げ渡す。彼女は慌ててそれを受け取ると、複雑そうな面持ちで佇んだ。

「キュウベえに頼りたくなければこうすればいいわ。複数のソウルジェムでやってもいいけれど、殲滅の手間が増えるからあまりおすすめはしない。それから何回か繰り返すとグリーフシードが消滅するから気をつけなさい。」
「・・・・・・・・・・」
「ほむらちゃん・・・グリーフシードは電池じゃない・・・こんなの絶対おかしいよ・・・」

なぜか巴マミだけでなく、まどかまでげんなりしていたけれど。これなら変身と銃の召喚だけで魔力消費も済むし、実用的で良いと思うのだけど・・・

「これで、とりあえず私からの話は終わりよ。質問がなければ、私はまどかと食事の支度をしておくから、2人ともお風呂に入ってきて。」

2人とも質問はなかったようで素直に案内したお風呂場に入っていった。その間に私はまどかと一緒に料理の準備を始める。エプロンをつけ、長い髪をまどかにもらったリボンを使い、うなじの辺りで1つにまとめる。料理の準備をうれしそうに始めるまどかを見て、やはり今日2人に来てもらったのは正解だったと確信した。

「うれしそうね、まどか。」
「うん!パジャマパーティーなんて久しぶりだもん!ありがとほむらちゃん。2人でとびきり美味しいご飯作ろうね!」

そう満面の笑みで語るまどかを見て思わず私も口元を緩める。そういえば、私もパジャマパーティーは初めてだ。料理の準備をしながら軽やかに動き回るまどかに釣られて、私も気がついたら鼻唄を口ずさんでいた。





ちょうど料理が出来た頃、ガチャリと音がしてお風呂場のドアが開き美樹さやかが出てきた。

「けしからんけしからんけしからんけしからんけしからん・・・」

目をうつろにして両手を開いては握りを繰り返す奇行をしながら。
その後ろから巴マミが頬を赤く染め、顔だけを出してこちらに話しかけてきた。

「あの・・・暁美さん。申し訳ないのだけれどもう少し大きい服はないかしら・・・」

その言葉を聞いて理解する。その間に背後に回った美樹さやかが、後ろから巴マミを押しだし、巴マミの全身があらわになった。

「ちょっとマミ先輩!?そんなご立派なモノつけて女の子同士で恥ずかしがられても格差社会を見せつけられて落ち込むだけです!もっと堂々としてください!」
「・・・すご・・・」

まどかと美樹さやかに凝視されてますます赤くなる巴マミだが、風呂上がりの彼女はとてもではないが中学生には見えなかった。服と下着を洗濯乾燥機で乾かしている間、パジャマ代わりにと着てもらった私のシャツだが、はっきりいって全くサイズがあっていない。ボタンを留めるときついのだろうが、上3つを外してなおハミ出そうなボリュームは、スレンダーと言わざるおえない私のシャツでは収まりきらないだろう。

「それが一番大きなシャツよ。もっと小さなまどかのシャツならあるけれど。」
「いや、ほむらちゃん、それ犯罪だから。後ろまで丸見えになっちゃうから。」
「どうせ私お子様体型だもん・・・ママも小さかったから育たないもん・・・」
「でもさ、まどかの方が胸はほむらちゃんより大きいんじゃ・・・」
「戦闘の邪魔だからあまり揺れるのはごめんよ。」

美樹さんの相変わらずの抉り込むような一言に強がりを返すが、同じ女性としていささか敗北感を感じるのは仕方ないだろう。そういえば、まどかの母もあまり大きいとは言えない人だったから、私もまどかも将来の望みは薄そうだ。
そう思うと、ますます真っ赤になって小さくなっていく巴マミにも、少しばかり恥ずかしい思いをしてもらっても良いかもしれないなどと考えてもバチは当たらないでしょう。

「馬鹿な話はこの辺りにしておいて、冷めてしまう前に料理を食べましょう。」

全員が私の言葉に同意し席に着く。

「これ2人で作ったのよね?」
「ええ。私がオムレツとヴィシソワーズスープ。まどかがサラダとパエリアよ。」
「このオムレツすごい美味しい!なんかこつあるの?」
「強火でフライパンをまず熱して、卵を多めにして中に生クリームか牛乳を入れるの。そうするとふわっとした感じがでるわ。」
「このサラダのドレッシング美味しいわね。どこで売ってるのかしら。」
「それ、私が今日作ったんです。今度レシピ書きます?」

女子ばかりといえ、軽めに作っておいたため、あっという間に食事も終わる。
その後は雑談をしつつ、カタンやスピード等でしばらく遊ぶと私達は眠ることにした。私以外の3人にベッドを使わせ、私は日課のトレーニングと先ほど使った銃の手入れを済ませ、リビングのソファーで1人灯りを消しコーヒーを飲んでいた。
目の前には昼間のゲルトルートが落としたグリーフシード。ちょうど魔女のグリーフシードが魔獣のグリーフシードに取り込まれたようなデザインをしている。しばらく考察をしてみるが、いかんせん情報が少なすぎて仮説すら立てられない。

私は1つため息をつくとグリーフシードをしまい、横になってブランケットをかける。
いろいろあったけど、今日良かった事。まどかに友達が出来た。それだけで全ての苦労が報われる。あんなに楽しそうに笑うあの子は久しぶりに見たのだから。まどかの笑顔を思い出し、私は1つクスリと笑うと眠りに落ちていった。


本日のほむほむ収支報告書

9mmパラベラム弾 ×3
まどかの満面の笑顔 プライスレス



[27716] 7話 さやかちゃんって良い子でしょ?
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:33
早めに起きた私達はいったん2人共帰宅し、着替えをした後でクラスの同じ私とまどかは、美樹さんで合流して学校へ向かっていた。
ちなみに、昨日なぜあんな所にいたか来る途中で聞いた話によると、あの後改めて上条恭介の件でどうしても礼を言いたくて私の家に向かっていたらしい。こちらの世界で感じたことだけれど、彼女の場合、上条恭介意外の人間には深入りしてこないため適度な距離で接しやすい。これからどうなるかはわからないが、今の彼女となら上手くやっていけるかもしれない。

そんなことを考えながら歩いていると、目の前を歩く志筑仁美を見つけ隣を歩いていた美樹さんが走り出す。

「仁美~!おっはよー。」
「あら、おはようございます。さやかさん。暁美さん。今日は仲良くご一緒にご登校ですのね。ずいぶん仲良くなられたようでうらやましいですわ。」

その声に気づき、彼女がこちらを振り返り、独特のテンポで挨拶を返してくる。だが、その中にはやはりまどかの名前はなかった。

『まどか・・・』
『大丈夫だよ。私は平気。』

まどかを気遣う私と美樹さんだが、念話で強がるまどかからの返事が返ってくる。安い同情だと自覚しているけれど、私にはまだ何もすることはできない。

「あ、そうそう!」

暗い雰囲気を感じたのか美樹さんが途端に声を張り上げて手を叩いた。

「今朝家に帰ったらね。さっそく恭介のパパから電話があったんだって!知り合いの人に交通事故にあって半身不随になっちゃった人がいるらしいんだけど、その人がかかってた病院でね。海外の病院なんだけど再生神経を使った治療実績が結構あるみたい。まだこれから受け入れてもらえるかとか、検査したりとかで時間はちょっとかかりそうだけど、うまくいけばヴァイオリンも弾けるようになるかも知れないってさ!ほんと、ほむらちゃんのおかげだよ、ありがとう!!」

その言葉にいささか驚く。まさか昨日の今日で病院を見つけてくるとは思わなかった。それだけ必死に探したのでしょうけれど。ここまで話がうまく進むと、後で落とし穴がありそうで少々怖くなる。
もっとも彼女のいうとおり、この手の大手術はまず検査入院をし、その後ようやく本手術となるのが通常の流れなだけに今すぐどうこうという話にはならないだろう。
ともあれ、明るい話には違いない。彼女にとっても私にとっても。

「そう。私は何もしていないけれど、まずはおめでとう美樹さん。」
「ええ。おめでとうございます。さやかさんも。ところで、先ほどさやかさんが暁美さんを名前で呼んでいらしましたが、お2人はたった1日でそこまで仲がよろしくなられましたの?」
「ありがとう、2人とも。んっふっふ。良いところに気がついたね仁美くん。そうなのだよ、私達は昨日一緒にベッドを共にした仲なのだ!」
「まあ!お2人はもうそんな関係に・・・私の大事なさやかさんを暁美さんにとられてしまいましたのねえぇぇぇぇ」

いつだったか読んだ少女漫画のような叫びと表情をすると走り去っていく志筑仁美。それを苦笑で見送るまどかと美樹さん。

「彼女いつもああなのかしら。」
「あー・・・うん。美人なんだけどちょっと変わってるの。でもそっか・・・まどかちゃんはほんとに普通の人達には見えないんだ・・・」

苦笑から表情を暗くし、まどかを見る美樹さん。それに苦笑しながら答えるまどか。

「仕方ないよ。もともと私はこうしていられるの自体が幸運なくらいだから。それにほむらちゃんが生き返らせてくれるって信じてるもん。」

そう言って私を見るまどかに思わず抱きつきたくなるのを必死で我慢する。もっとも、すぐに美樹さんが彼女に抱きついていたのだけれど。

「あーもう!まどかちゃんもほむらちゃんも良い子すぎ!健気っ子さんか、くうううう!!」
「わ、ちょっとさやかちゃん。くすぐったいよぉ!」

そう言ってまどかに抱きつき頬ずりを始める彼女。まどかも本当にうれしそうな顔をして笑っている。満足した美樹さんが離れ、3人で歩き出すと美樹さんがふと思い出したように問いかけてきた。

「そういえばさ、まどかちゃんが普通の人に見えないってことはさっきみたいに抱きついたりしてると他の人達からはどう見えるの?」
「美樹さんがひとりで空気に抱きついて、頬ずりしてるように見えるだけよ。」

だから私は我慢したのよ。フリーズして立ち止まる彼女を尻目に、私は苦笑を浮かべるまどかと共に教室へ歩く。

『ね?さやかちゃんって良い子でしょ?』

念話でちょっと誇らしげに語りかけてくるまどかに私は少し考えた後、頷きを帰す。たしかに良い子だと思う。私にはまどかと共に耐えることや励ますことは出来ても、元気づけたり和ませたりする事はできない。
それを少々羨ましく思いながらも、先ほどの彼女の表情をなくしてフリーズする顔を思い出してクスリと笑い教室へと入っていった。




チャイムと共に今日も授業が終わる。既に中学生の授業で教わる範囲は全て習得している私にとっては、授業中はまどかに手伝ってもらってのイメージトレーニングと将来の予習が主となっている。

「ほむらちゃーん。」

私が教科書とノートを片づけていると、横から美樹さんが声をかけてきた。私は教科書とノートを鞄にしまうと彼女に目を向ける。

「なにかしら。」
「あのね。さっそくだけどもし今日時間あったらまた恭介の見舞いについてきてくれないかなーって。ほら、今朝の件でアイツとアイツのお父さんも是非お礼を言いたいって言ってるからさ。」

なるほど。つくづく彼女は義理堅い。私がしたことなど思考の誘導でしかなく、それを実現したのは結局の所、彼の父親だというのに。けれど、今日は都合が悪い。

「ごめんなさい。今日は先生に進路のことで呼び出しを受けているの。どのくらい時間がかかるかわからないから、改めてでいいかしら。」
「あー・・そっかぁ。それは仕方ないや。じゃあ、また改めて誘うね-。」

そう言うと彼女はその勢いのまま志筑仁美の元へ走っていく。あれで運動部でないというのは学校からしたらつくづくもったいないと思う。もっとも、学校にとっての損益など私にとっては関係がないのだけれど。

『そういえば、ほむらちゃんは将来何になりたいとかあるの?』

問いかけてくるまどかの言葉に少し考える。そういえば今まで将来のことなど考えた事がなかった。

『特にないわ。』
『えはは・・・。ほむらちゃんなら何にでもなれると思うけどな。そうだ!とりあえずお嫁さんとかどうかな?きっとすっっっっっっっっごいきれいなお嫁さんになれるよ!』
『考えておくわ。』

とりあえず教師には今までの技能を活かして、医師か自衛隊員と答えるつもりだったのだけど、まどかに答える以上もう少し真面目に考える必要があるかもしれない。

「失礼します。」

進路指導室に入り、生徒指導の教師としばらくの間話し込む。質疑応答に答えていくと教師からは是非良い高校へ、良い大学へ、良い職業へ。この教師からは私の将来を期待してというより、利用できるものを有効利用しようという考えなのが端々から感じられてしまう。もっとも人の善意につけ込んで、美樹さんを利用しようとしている私にそれを批難する資格はないか。
そろそろ恒例となってきた自己嫌悪に耐えつつ、教師の話をそつなく受け答える。教師から見たら典型的な優等生に見えるのだろう、最後には満面の笑みを浮かべて私の両肩を叩いてきた。

一礼し退室した私は、鞄から携帯を取り出し着信履歴を確認すると美樹さんからの着信履歴がいくつもあった。不信に思いつつも電話をかけ直す。数回のコールを待つと彼女が出てきた。

「もしもし。暁美です。どうか」
[もしもし!?ほむらちゃんごめん、病院に魔獣が現れてるの!今、ちょうど近くにいたマミ先輩が戦ってくれてるんだけど・・・]
「すぐ行くわ。待っていて。」

私は電話を切ると、認識阻害と肉体強化の魔法を展開し、まどかと目を合わせ頷き合うと全速力で走り出した。


無事でいなさい。美樹さん。








[27716] 8話 貴女って鋭いわ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:33
病院に辿り着くと、そこは既に大規模な結界が出来ていた。しかも入り口には見覚えのあるマーク。

「これって・・・あの時の・・・確か・・・シャルロッテ?」

そのマークを見たまどかが呟く。彼女にとっては特に印象深いマークだから尚更だろう。
なぜ魔獣が魔女化するかの原因は相変わらずわからないままだ。昨日家で意図的に孵化させたグリーフシードは普通の魔獣だった。
わからないことだらけだが、とりあえずの救いは魔女化した魔獣は前々回の時間軸とほぼ同程度の力であって、冷静に対処すればそこまでの驚異ではないということか。

私は狭い通路での戦闘を考慮し左手から、サブマシンガンを取り出すと結界の中へと足を踏み入れる。予想通り、中は狭い通路の中のところどころにお菓子がちりばめられ、私にとってなじみ深かった病院の案内灯やベッドが並んでいる。
やはりこれはシャルロッテの結界空間と同じ物。

注意深く観察しながら進んでいくと、使い魔の代わりに通常の魔獣が現れる。
私は3点バーストと手榴弾で丁寧に魔獣を片付けつつ、通路にある文字を解読していく。
デリシャスシャルロッテや手術中などといった文字に混じって、MAMI MOGUMOGU GONYOやWATASHI HA HOMU HOMU HA DESUといった文字が書いてある。  
結界内に入った魔法少女を自動認識している?しかし意味がわからない。
尽きない疑念を脇に置き、辺りに気を配りながら、駆け足で奥へ進むと脳裏に巴マミからの念話が届く。

『相変わらず次から次へと・・・良いわ。まとめて片づけてあげる!』
『これでとどめよ!ティロ・フィナーレ!!』

前回多少動揺していたため心配していたが、今のところは数だけでそれ以外は順調らしい。大技でまとめて薙払うようにしたようだ。だが、このパターンは前々回と同じ。じりじりとした焦りを抱えながら、私は奥を目指した。

『マミさん避けてえええええ!!』
「くっ・・・」

間に合わない?まずい、今巴マミに死なれては美樹さんがキュウベえと契約しかねない。私は魔力消費を覚悟で左袖の時計を発動させ、先を急ぐ。

ホールに辿り着き扉を開けると、表情を凍らせた巴マミの目の前に1本の槍によって口を串打ちされた捕食体が地面に縫い付けられていた。
その槍の持ち主は当然、佐倉杏子だ。私は後ろについてきたまどかと視線を合わせ頷き合うと、時間操作を解除する。

「おいおい。なんだいそのザマはさぁ。キュウベえのヤツから妙な魔獣が現れたって聞いて来てみりゃさぁ、倒したと思って油断なんて随分ふぬけてるんじゃない?それで死にかけてりゃ世話ないね。」

呆然として巴マミも、佐倉杏子のいきなりの罵声に正気を取り戻したのか、やけくそ気味に叫び返す。

「な・・・あなたこそなんでこんなところに・・・!この町は私の」
「ハッ。私のなんだって?今だってあたしが助けなきゃお前死んでただろうが。一丁前に吠えるなら、まずそのビビッて笑ってる膝隠してから吠えな!」

佐倉杏子の立て続けの罵声に唇を噛みしめて耐える巴マミ。
それを見て美樹さんが横から声を上げる。

「ちょっとあんたこそなんなのよ!マミさんを助けてくれたのはありがたいけど、命がけで戦ってる人にそこまで言う必要ないんじゃない!?」
「はぁ?何だぁてめえ。ただの人間がこんなとこうろついてんじゃねえよ、さっさと消えちまいな。」
「なっ・・・!!」
「ならただの人間でなければここにいても良いのかしら。」

これほど早く佐倉杏子が干渉してくるのは予想外だった。変異魔獣や私達が現れたためキュウベえが手駒を増やそうとした?とはいえ、ここで彼女と接触しておくのは悪くない。

「次から次へと・・・アンタ達がキュウベえの言ってたイレギュラーって奴かい?」
「ええ。アイツらからしたら私とまどかはイレギュラーでしょうね。もっとも、私の話を聞いた後あなたがどちらにつくかはわからないけれど。」

私の思わせぶりな言葉に彼女は興味を惹かれたのかこちらに視線を預けてくる。
頭を槍で串刺しにされピチピチと暴れる捕食体から飛び降りると、彼女は手近な結界内のドーナツの上に腰を下ろすと、そのまま辺りにあるお菓子を手当たり次第食べ始める。

「ふぅーん?良いぜ、聞いてやるよ。話してみな。」
「ほむらちゃん、そんな奴に話すことなんかないよ!」
「あーうぜぇ。ったくせっかく人が助けてやったってのに、マミといいお前といい礼儀ってのを教わらなかったのかい?」
「人が黙って聞いていれば・・・あなたなんかにそこまで言われる筋合いはないわよ!」

挑発に乗り銃口を佐倉杏子に向ける巴マミ。
だが、さすがに場数が違うのだろう佐倉杏子はその程度では怯まない。

「おいおい。得物のまずい側がこっち向いてやがるんだけどさぁ・・・良いぜ。そっちがその気なら遊んでやるからかかってきなよ。」

ドーナツに腰掛けたまま、砂糖のついた指をみてそのまま舐め始める彼女。
巴マミを見ようともしない彼女の態度に、ついに巴マミが暴発する。

「馬鹿にしてっ!私がどれだけ1人でがんばってきたのか知らないくせに・・・っ!」

逆上し、引き金を引く彼女。
それを座ったまま後ろに倒れ込み銃弾を避けると、その勢いを殺さず地面で一回転して起き上がり佐倉杏子は好戦的な笑みを浮かべた。

「ハッ!それこそ八つ当たりだね、みっともない。お悩み相談する相手もいないボっちが寂しいってわめいたって誰も相手にしてくれるわけないじゃん。そんなこともわかんないから、ほんとのお友達がいないんじゃないのぉ?」
「うるさい・・・うるさい、うるさいっ。うるさいっ!!」

手を広げて大仰な仕草で肩をすくめる佐倉杏子に向かって、銃を乱射する巴マミ。
一向に当たらない弾丸に激昂していく彼女。
だが、佐倉杏子は銃口の向きを観察し、最小限の動きで避け巴マミの方へ歩いていく。

「ほむらちゃん、2人を止めて!」
「それよりアイツをやっつけてよ!ほむらちゃんならあんなヤツすぐにやっつけられるんでしょ!?」
「その必要はないわ。」
「「ほむらちゃん!!」」

それぞれの意見を言う2人を無視し私は不干渉の姿勢をとる。それが気に入らないのだろう2人が私につっかかってくるが、私はこのケンカに関わる気はない。

「彼女はあれで遊んでいるわけではないわ。きちんとした考えに基づいて動いている。それに彼女は巴マミを殺す気はないわ。」
「なんでそんなことわかるのさ!」
「武器を使う気がないからよ。巴マミを殺す気ならそれこそ、魔女を縫い止めてる槍を抜いてやるだけでいい。彼女の力量ならあの程度の魔女驚異ではないわ。今の巴マミなら魔女と2人まとめて相手しても余裕でしょうね。」
「でも・・・」
「もうひとつの理由は、彼女の思考が私に似ているから。巴マミに己の無力を自覚させ魔法少女を辞めさせる。私が何度言っても伝わらなかった以上、いずれ私も同じ手段をとるつもりだったわ。」
「くっ・・・!!」

頬に衝撃が走った。
美樹さんが私に平手打ちをしたためだ。

「気は済んだかしら。」
「なんで・・・ほむらちゃんだってマミさんのことあれだけ気にかけてたじゃない!なのになんでそんな風に簡単に見捨てられるの!もう良い!ほむらちゃんには頼らない、私が2人を止めてくる!」
「さやかちゃん、だめっ!」
「離してまどかちゃん!私が止めないとマミさんが!!」

戦う2人の元へ駆けていこうとする美樹さんにまどかが抱きついて動きを止める。

「さやかちゃんだめ!ただの人間が割り込んでいっても流れ玉で死んじゃうよ!」
「でも!!」
「巴マミに勝利を。それが君のねが・・・」

予想通り、どこからともなく現れて美樹さんを勧誘しようとするキュウベえに弾丸を叩き込んで黙らせる。

「やらせないわ。インキュベーター。あなたは黙って見ていなさい。」
「ほむらちゃん・・・!あんたはあああああああああ!!」
「落ち着きなさい、美樹さん。あなたが感情的になって契約すればキュウベえの思うつぼよ。」
「あんただってそいつらと一緒でしょう!結局あんたはまどかちゃんしか見ていない!まどかちゃんが助けられれば他の子がどうなったって構わないんでしょう!!」

美樹さんの放ったその言葉は、予想外の衝撃となって深く私の胸を穿った。
いずればれるとは思っていた。
でもまだ気づかれていないと思っていた。
上手くやれていると思った。
もしかしたら彼女とも友達になれるかもしれないと思った。
でもそれはやっぱり間違い。
人間であることを辞めてしまった私に、まどか以外の友達を望むなんて間違いだった。
・・・それでも、私は立ち止まるわけにはいかない。私が立ち止まる時はまどかが人間に戻ったときだけだ。

「・・・やっぱり貴女って鋭いわ」
「ほむらちゃん・・・なんで・・・嘘だよ・・・朝だってさやかちゃんの事良い子だって・・・」

自嘲するようにつぶやいた私を、まどかが涙を浮かべながら否定する。

「良いのよまどか。彼女の言うことも事実よ。私にとって誰より大事なのがあなたなのは間違いない。」
「そんな・・・やだよ・・・せっかくみんなが仲良くなってきたと思ったのに・・・こんなのやだぁ・・・やだよぉ・・・」
「なんで・・・なんで否定しないのよ・・・なんで否定してくれないのよ!私あんたの事友達だって思ってたのに・・・ねぇ・・・嘘だって言ってよ・・・私に・・・ごめんって謝らせてよ・・・」

まどかと美樹さんの言葉が、再び私の心を抉る。
だが、もう遅い。どれだけ取り繕ったところで、私が美樹さんよりまどかを大事に思っているのは間違いない。
黙り込む私を、2人の嗚咽が責め立てる。どうしていつもこうなってしまうのだろう。
だが、考えてみたところで結局のところ、人の感情の機微がわからない私が悪いとしか思えない。

その瞬間、全てに得心がいった。
なんていうことはない。結局のところ私もキュウベえと同じなのだ。まどかのため、宇宙のためという違いこそあれ、他の少女をそそのかし、魔法少女として利用する。
いや、むしろ感情というものを理解しつつそれを利用しようとしている私の方がよほど悪辣か。

「はぁ。やれやれ、今度は仲間割れかい?マミも仲間は選んだ方が良いんじゃない?それとも、ぼっちのマミちゃんがお友達ごっこに混ぜてもらってたのかなぁ?」

その言葉に、私は佐倉杏子達の方向を見ると、彼女は素手で巴マミを一方的に殴っていた。涙を流しながら必死で反撃しようとする巴マミだが、それを佐倉杏子は余裕でかわしていく。
本来、そこまでの実力差はないはずなのだが、動揺と怒りで我を忘れた彼女では精神面での差が大きすぎる。

「あーつまんない。もういっかぁ。」

そういうと彼女は巴マミが投げ捨てたマスケット銃を踏みつけ、てこの原理で起きてきた銃身を握ると、巴マミに向けてフルスイングをする。

「がっ・・・」

強化した膂力で殴られ、いくつかの椅子と机を巻き込みながら吹っ飛ぶ巴マミを尻目に、
佐倉杏子は落ちてくる、椅子の上に隠れてれていたシャルロッテの本体にもフルスイングを叩き込む。
吹き飛んでいくシャルロッテに、私が弾丸を5発ほど叩き込むと結界が解除され、元の駐輪場に景色がもどる。

「ったく。どっチらけだね。あんたもさあそう思わない?」

足下に転がるグリーフシードを拾うと、佐倉杏子は私に向かってそれを投げてくる。

「あんたは他のアマちゃん達とはちょいと毛色が違うみたいだね。お近づきの印だよ。とっときな。」
「何のつもり?」

彼女の意図が理解出来ず、私は問う。
お人好しだが、基本的には自分の利益を優先する事の出来る彼女がグリーフシードを渡すというのは何か意図があるように思える。

「あんたとは上手くやっていけそうだからね。事前投資ってヤツさ。」
「・・・まあいいわ。ありがたくもらっておくことにするわ。」
「そうそう。人の好意は素直にってね。そいつでそこでおねんねしてるボンクラの治療でもしてやるんだね。んじゃ、また今度聞きそびれちゃった話を聞かせてよ。じゃあね。」

そう言うと、彼女はさっさと歩いて行ってしまった。
なるほど。やはり彼女はお人好しだ。巴マミの治療用にということか。さらにこちらに恩を売る形にすることで情報の代価を支払っておこうという思惑もあるのだろう。損得勘定がある分、非常にやりやすい相手であるのは間違いない。
さて・・・むしろ問題なのは精神を含めれば、全員が満身創痍なこちらの状況でしょうね。

「まどか。巴マミはとりあえず私達の家で寝かせておきましょう。彼女をお願いしてもいいかしら。美樹さん。あなたはどうするの?」
「・・・助けに来てくれてありがとう。私は帰る。じゃあね。」

彼女は私の問いに答えず、一方的に言い捨てると1人で帰って行った。
私はその態度にわずかに痛む感情を押し殺し、心配そうにこちらを伺うまどかに頼み事を伝える。

「まどか、巴マミと先に帰っていてもらえる?私はまだやることがあるから。」
「わかった・・・でも、良いの・・・?さやかちゃんとちゃんと話し合えばまだ・・・」
「心配してくれてありがとう。でもこれは私と彼女の問題よ。いずれ折りを見て謝るつもりだから、今は1人にさせて・・・・」
「・・・わかった・・・先行ってるね。気をつけて・・・」

そう言うと彼女は巴マミを抱きかかえると、家に向かって歩いて行った。途中で悲鳴が聞こえて来たのは認識遮蔽を忘れていたのだろう。どこまでいってもまどかなその姿に、私はほんの少しだけ気を取り直すと、隠れているだろう存在に向けて声をあげた。

「いるんでしょう。キュウベえ。」

私の問いかけに木の上から白い毛玉が落ちてくる。予想通り離れて私達の様子をうかがっていたらしい。

「ふぅん。ボクたちの事も知識があるんだね。キミ達は実に興味深いよ。」
「ご託は良いわ。質問に答えなさい。アレはなに?」
「アレというのは何を指してるのかな?君らしくもない曖昧な言葉だね。」
「言葉遊びをするつもりはないわ。わかっているのでしょう。あの変異魔獣よ。」
「ふぅ。つくづく君はやりにくい。じゃあ、君を見習ってこう言うよ。答える必要があるのかい?君もボクに隠し事をしているよね。自分の手札を見せずに相手に公開を強要するのはフェアじゃないんじゃないかな?」

言うに事欠いてフェアときたか。図星を指された形だが、貴方にだけは言われたくないのだけれど。

「貴方がそれを言うとはね。まあいいわ。じゃあ貴方の質問を聞いてあげる。等価交換と行きましょう。」
「OK。話が早いのは助かるよ。それじゃあまず僕の質問だ。君は最初の変異魔獣が現れたときゲルトルートと名前を呟いたよね。アレはボクたちの世界の文字で綴られた名だ。なぜ君はそれを知っているんだい?」
「まどかのおかげよ。彼女の魔法の副産物によって私はあなた達の文字を読むことができる。さっきの変異魔獣の名はシャルロッテ。これでいいかしら。」
「なるほど。否定する材料はないね。というより、ボクたち意外の概念存在への邂逅なんて初めてだから否定しようがないんだけどね。」
「納得したなら先ほどの質問に答えてもらおうかしら。」
「もちろん。魔獣が人の憎悪や嫉妬から生まれてくるのは君なら知っているだろう?」

その言葉に私は頷く。それは前回の時間軸でも変わらない。

「ならば特定の個体が、極めて大きな負の感情をため込んでしまったとしたら?憎しみや妬み、恐怖から生まれた彼らは、その他の魔獣を取り込んで強大化していく。より大きな破滅を求めてね。そして一定の悪意を取り込んだ時点で素体となった感情の負の想念を叶えるのにもっとも適した形状をとる。それが変異魔獣のプロセスだよ。」

なるほど。筋が通る。だが、それではなぜ以前の魔女と同じ姿をしているのか。それに以前の時間軸ではこんなことはなかった。それはなぜ?まどかと関係している?もっともこの疑念を伝えれば私達が時間遡行者であると言うことがばれてしまう。

「なるほど。確かに筋は通るわね。では、次は私の質問から行かせてもらうわ。それは過去からずっと?それともここ近年?」
「過去には例がないね。前回と今回がボクにとっても初めてだよ。もっともこのシステムはボク達とってすごく都合が良い。なぜ、唐突に発生したかっていう疑問と、発生プロセスが解明出来れば、是非今後はどんどん事例を増やしていきたいね。」

つまり私達がこちらに逆行してから?
だが、私の経験上全く同じ魔女が続けて現れるというのはワルプルギスの夜や、クリームヒルトのような時間すら無視するような例外を除いて前例がなかった。
となればやはり鍵となるのは私か、あるいはまどかのどちらかか・・・

「じゃあ、ボクの番だね。君にも興味があるけどね。だけどそれ以上に彼女だ。鹿目まどか。彼女は一体何者だい?彼女はあまりに存在規模が巨大すぎる。」
「彼女は魔法少女のなれの果てよ。あまりに巨大な願いを叶えようとした結果世界に囚われた・・・ね」
「・・・なるほどね」

少し不満そうだが、嘘はついていない。
化かし合いは得意ではないのだけれど相手側もまだこちらの手札を探っている状態。とりあえず、キュウベえもそれがわかっているのか、あまり深入りはしてこないのは助かる。

「じゃあ最後の質問よ。あなたは彼女の願いを叶える事が出来る?」

その言葉にキュウベえが少し考え込むそぶりを見せる。
その姿を見て私は疑念を感じる。なぜ迷う?Yes or Noで答えればいいだけなのに。

「答えは否・・・だよ」

やはり出てきたのは珍しく曖昧な返答だ。何かを隠しているのは間違いない。けれどそれは何?だが、現状まだ手札が揃っていない状況で、追求しても意味がない。深入りしたい気持ちを抑え私は先を促した。

「何か含みがある答えだけど、まあいいわ。それで?あなたの番よ。」
「それじゃあ、ボクからの最後の質問だよ。君の願いは鹿目まどか。彼女を人間に戻すことだろう?それならボク達は協力出来ると思わないかい?」

その言葉に私は思わず感情のタガが外れそうになった。自分を殺された直後に協力ときたか。
なるほど。感情のないコイツららしい良い質問だ。もっとも、以前の時間軸で自分がどういった役割を担ったかを知っても、同じ事を言うでしょうけど。

「ええ。出来るわ。もっとも貴方次第だけれど。」
「そうか。良かったよ。君からはどうも敵視されているようだからね。ボクも君達みたいな力のある魔法少女を敵に回したくはない。とりあえず、休戦ということでいいかい?」
「ええ。」
「ありがとう。今日はすごく有意義な一日になったよ。それじゃあね、暁美ほむら。楽しかったよ。」

振り向き、心にもないことを言い、去っていくキュウベえを見送る。
楽しかった・・・か。

そうね、私はあなたと仲良くなれて楽しかったわ。美樹さん。

塞ぎこもうとする心をなんとか押し込め、1つため息をつき私も帰路へつこうとすると後ろから声がかかった。

「ほむらちゃーん。」

後ろを振り向くと看護婦さんがこちらへ向かって駆けてきていた。

「こんばんは。」
「こんばんは。どうしたの、ほむらちゃん、病院の前でぼーっと立ってたりして。あ、誰かとの待ち合わせ?もしかして上条君かなー?」

にやにやとからかう気満々の看護婦さんをスルーし、私は逆に問い返す。

「違います。看護婦さんこそ、今日はお仕事終わりですか?」
「うん、そーなの。そしたら窓の外にほむらちゃんが立ってるからなにかなーって。」

なるほど。キュウベえの姿が見えないのだから、外から見れば私も待ちぼうけを食っているように見えるだろう。

「友達とさっきまで一緒にいたんですが、ケンカしてしまって・・・帰ろうとも思ったんですけど、病院を見ていたら、制服で車いすもなしにここに立っているのが少し感慨深くてつい・・・」
「そう・・・」

その言葉に少しだけ看護婦さんの顔に陰が落ちる。私の感覚では遙か昔に退院しているのだから、この言葉は嘘だけど、看護婦さんから見ればまだ退院して1週間も立っていない。そのうえようやくできた友人とケンカしたというのだから恐らくこちらを気遣ってくれているのだろう。

「そうだ。ほむらちゃん、この前先生も言ってたけど気分転換にお買い物行きましょう?私も先生も無理をいってシフト変えてもらってるから、何でも好きな物選んであげるわよ。」
「ですが・・・」
「もう。何も大人びた外見になったからって考えまで大人にならなくてもいいの。ほむらちゃんはまだ14歳なんだから。お姉さんの言うことは素直に聞いておきなさいって。」

そういって苦笑する看護婦さんにますます申し訳なくなる。けれど、あまり無理に断っても失礼に当たるだろう。

「わかりました。じゃあ、精一杯甘えさせてもらいます。」
「よし。そうこなくちゃ。」

そういってにこりと笑うと私の頭を撫でる看護婦さん。
彼女達の優しさが眩しい。

ああ。私もこんな風になりたかった。







本日のほむほむ収支報告書

M4A1 5.56NATO弾 × 45
M26ハンドグレネード × 3




[27716] 9話 魔法少女を辞めてください
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:35
家に帰ると、エプロンをつけたまどかが料理を作ってくれていた。昨日のようにご機嫌とはいかず、目元もわずかに赤い。

「ただいま、まどか。ありがとう。料理まで作ってもらっちゃって。すぐ手伝うね。」
「あ、いいよほむらちゃん。ほむらちゃんは戦闘で疲れてるんだから、ゆっくりしてて。」
「そう。じゃあお言葉に甘えさせてもらうね。巴マミは?」
「今はベッドで寝てる。1度目が覚めた時は混乱してたみたいだけど、あったかい牛乳を飲んでもらったら、いつの間にかまた寝ちゃったみたい。」
「そう。じゃあ、彼女が起きるまで待ちましょうか。」
「うん。そうだね。」

そこまで会話をすると、私はシャワーへ、まどかは料理へと戻っていく。

シャワーから出て髪を拭きながら出てくると、既に巴マミがテーブルに座っていた。もっともその表情は暗く、今にも壊れそうだったが。

「気がついたみたいね。聞きたい事もあるでしょうけど、せっかくまどかが作ってくれたのだし、先に食べましょう。」

力なく頷く巴マミと共に、手を合わせ、食事前の挨拶をすると、食事を口に運ぶ。だが一口食べた巴マミは口元を抑えトイレへと駆けていく。
無理もない。必死に恐怖に耐えて戦ってきたのに、危うく死にかけ、さらにああまで虚仮にされればストレスも来るだろう。

「あの・・・マミさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないでしょう!?事故で死にかけて、それでも1人でも魔獣に襲われて悲しむ人が減るならって思って怖いのを我慢して必死に戦ってきたのに・・・どうして!?私と暁美さんやアイツのどこがそんなに違うっていうの!?ねえ、答えて暁美さん!!」
「覚悟の差よ。私は私の意志をもって戦場に立っている。言ったわよね。半端な覚悟で首を突っ込めば死ぬことになるって。」

まどかが気遣って帰ってきた巴マミの背中をさするが、1度昂ぶった精神はそのくらいでは落ち着かない。まどかの手を払いのけ、私に向かって八つ当たりを始める巴マミ。
それでも錯乱してこちらを攻撃してこないだけ前よりマシだなんて思ってしまう辺り、やはり私はもう人間とは言えないのだろう。

「ほむらちゃん。そんな言い方しなくても・・・」
「いいえ。ハッキリと言っておくわ。でなければ、今度こそ死ぬことになる。私はあなたが死ぬところも、あなたが死んでまどかや美樹さんが嘆くところも見たくない。」

そう。巴マミもかつての私にとっては大事な先輩。
それでも、今の彼女ではまどかを悲しませる存在でしかない。だからこそ私は、かつて私を導いてくれた優しい先輩に、ありったけの敬意を込めて彼女にとってもっとも聞きたくないだろう言葉を言う。

「だから、巴先輩。あなたは魔法少女を辞めてください。」
「ぐっ・・・・うっ・・・うぅうあああああ・・・・・」



まどかに泣き疲れた巴マミと一緒に眠ってもらうと、私は日課のトレーニングと武器の手入れをこなし今後の事を考える。

美樹さんと巴マミには少々薬が効きすぎている。少なくとも、もう巴マミは戦場に立てないだろう。だが、ゲルトルート、シャルロッテの変異体が現れた以上、最悪を想定しておかなくてはならない。巴マミが使い物にならなくなり、キュウベえは佐倉杏子をこの街に呼び込んだ。さらに私達も利用する方向へ方針を転換したようだ。
だがワルプルギスの夜の変異体が現れ、仮に同等の強さをもっているとなれば、やはり彼女達の力は欲しい。前回と違い、最悪黒翼の展開まで含めれば圧倒的に私の攻撃力は上がっているが、それでもワルプルギスの夜にどの程度の効果があるのかは未知数だ。割の良い保険はかけておくに超したことはない。
佐倉杏子はある意味、魔法少女の中でもっとも扱いやすい。合理的で思慮深いお人好し。
事情を話せば彼女は協力してくれるだろう。
美樹さんがどのタイミングで魔法少女化するかはわからないが、実戦経験が少ない彼女にあまり期待するわけにはいかず、メンタルが強いとは言えない彼女がどの程度戦闘の役に立つかは未知数。
まどかのためにも美樹さんのためにも、巴マミには立ち直ってほしいところだが、それは私の力でどうこう出来る話ではない。そもそもメンタルケアは苦手なうえ、ここまで彼女を追い詰めたのは紛れもない私自身なのだ。

そこまで考えると、私はため息をひとつつき携帯電話を手にとる、もちろん着信もメールも無い。

「美樹さん・・・」
「ほむらちゃん・・・」

後ろを見るといつの間にか起きていたまどかが立っていた。
呟きを聞かれたのか、心配そうにこちらを見ている。少しバツの悪さを感じながら話を逸らした。

「目が覚めたのね。巴マミの様子はどう?」
「ほむらちゃん、ちゃんとさやかちゃんに謝ろう・・・?話せばきっとわかってくれるよ。」
「ありがとう。心配してくれて。わかってる。美樹さんの協力なしではまどかを人間に戻すことができないもの。ちゃんと仲直りするわ。」
「そうじゃない・・・そうじゃないよぉ・・・さっきのほむらちゃんすごく寂しそうな顔してたもん。ほんとはほむらちゃんもさやかちゃんと仲直りしたいはずだよ・・・」

やはり聞かれていたのか。
まどかの言うとおり、私がいつの間にか美樹さんに友情を感じていたのは確かだ。おそらくそれは美樹さんの側も。彼女の私に謝らせてよという言葉が今も耳に残っている。
それでも、私は彼女を利用するしかないのだ。
まどかを人間にするためには、彼女の祈りが鍵となるのだから。

「否定はしないわ。でも謝り方がわからないのよ・・・彼女の言ったことは全部本当なんだもの。こんな打算まみれの考えで貴女と友達になりたいなんて言えないわ。」
「ほむらちゃんもさやかちゃんも真面目すぎるよ・・・そんな難しく考えなくたって良いんだよ。自分が好きだから相手にも好きになってほしいって自然な感情だもん。」
「ありがとう、まどか。少し考えてみる。さあ、遅いしもう寝ましょう。」

話を強引に打ち切る私を、まどかはまだ何か言いたそうな目で見つめる。
それでも私が今動く気がないのはわかってくれたのか、彼女は踵を返すと巴マミの眠るベッドへ歩いて行った。

私はもう一度深いため息をつくと、ソファーに寝そべる。
眠りはなかなか訪れてはくれなかった。






目を覚まし、家の中を見渡すがまどかがいない。
疑念を抱き、ベッドの上に制服姿で体操座りをしている巴マミに問いかけてみる。

「まどかは?」
「・・・わからない。目を覚ましたときにはもういなかったわ。」
「そう。」

寝起きの悪いまどかが?
とはいえ、本人がいないのにいつまでも考え込んでいても仕方ない。

「私は学校へ行くけどあなたはどうするの?」
「・・・・・・・」
「そう。なら戸締まりだけはしっかりしておいて。食べ物は冷蔵庫の中にあるから適当に。」

私の言葉にも俯いたまま頷く彼女に背を向けると、シャワーを浴び、軽い朝食をとると学校へ出発することにした。
美樹さんと顔を会わせるのは正直気が重い。

すこし憂鬱な気分を感じながらも教室に辿りつき、自分の席に座ると予想外の声がかかった。

「暁美さん。今日の夕方開いてる・・・?」
「え・・・?」

自分の耳が信じられず思わず問い返し、声のした方を見ればそこには美樹さんが立っていた。もっとも、その表情は昨日までの明るいそれではなく、自分自身恐怖に耐えているようなものだったが。

「今日の夕方開いてるなら少し時間もらえる?昨日会えなかったから、恭介と恭介のお父さんが会いたがってるから。」
「・・・ええ。開いているわ。」
「そう。それじゃあ後で迎えに来るから。」

それだけを言い離れていく美樹さん。
彼女の意図がわからず戸惑う。
呼び方が暁美さんに戻っていたから昨日の件が尾を引いているのは間違いない。だがいくら義理堅い彼女でも昨日あれだけのことがあっても、義理を尊重するだろうか?
仲直り出来れば良いというわずかな期待と、それ以上の不安に耐えていても1日は容赦なくすぎていった。




「暁美さん、さやかさん。よろしければ今日はご一緒に帰りませんか?」

授業が終わり、私のそばに来た美樹さんを見て志筑仁美が声をかけてくれる。

「ごめん、仁美。今日は暁美さんとちょっと用事があるから。また明日お願い。」
「そんな・・・お2人の間に割り込む余地なんて・・・ないんですのねえええええ」

だが、志筑仁美の大げさな演技にも美樹さんはにこりともしなかった。
ただ黙って病院までの道のりを歩く美樹さんの後ろを、私も黙ってついて行く。
だが、病院の前につくと彼女は立ち止まり、振り向くと私に話しかけてきた。

「勝手な事言って悪いけど、恭介達の前では今まで通りの振りをして。」
「わかったわ。」

彼女は一言だけささやくと、ドアを開け中に入っていった。

「おっじゃまっしまーす。暁美さん連れて来たよ-!」
「失礼します。」

一礼して入っていくと中には当然上条恭介と、渋い中年男性が立っていた。恐らく彼が上条恭介の父親なのだろう。

「いらっしゃい。さやか。暁美さん。」
「いらっしゃい。君が暁美ほむらくんか。恭介に聞いたとおり、かわいらしいお嬢さんだ。君の発想のおかげで息子にも私にも希望が見えたよ。本当にありがとう。」
「僕からもお礼を言わせて。本当にありがとう。」

そう言って私に向け、深々と頭を下げる上条親子。少しの間談笑を続けると上条父は腕時計を見ると退出しようとした。

「すまないね。これから先生と今後の打ち合わせがあるから失礼させてもらうよ。」

そう言って立ち上がり、退出していく上条父と共に、美樹さんもでていく。

「あ、ごめん、私も飲み物買ってくるよ。」
「そうか。じゃあ途中まで一緒に行こうかさやかちゃん。」
「もちろん喜んで!」

そう言って出て行く2人。
2人きりになり、学校のことなど当たり障りの無いことを話しながら、しばらく時間がたつ。すると上条恭介がこちらへ切り込んできた。

「暁美さん。もしかしてさやかと何かあった?」

その言葉に私は少し面食らう。

「なぜそう思うの?」
「さやかが少し無理をしているような気がしたから・・・」
「そう。」

見ていないようで、存外によく見ている。やはりこの辺りは幼なじみか。
幼なじみのいない私にはわかりにくい感覚だが、その辺りは少し羨ましい。

「ここに来る途中で少し言い合いになってしまっただけよ。」
「そうなんだ。もしよかったらどんな風に言い合いになったか教えてもらえないかな。
この前は僕が相談にのってもらったから、今度は僕が相談に乗りたいんだ。」

その言葉に今度こそ面食らう。
上条恭介はあまり人の役に立とうという人間ではなかった。
少なくとも、今までの時間軸で彼が美樹さんや、その友人の役に立とうとした記憶はない。
とはいえ、せっかくの言葉だ。ダメでもともと、愚痴を聞いてもらうのも良いかもしれない。

「そう。ならお言葉に甘えさせてもらうわ。」

それから私は要点をぼかして彼に事に至った経緯を説明した。
彼は何度も頷きながら、私の言葉にとき質問を交えながら話をきいてくれた。

「なるほど。じゃあ暁美さんは、そのまどかさんって友達と仲良くなってくれそうだからって理由でさやかに近づいて、それをさやかに気づかれて口論になっちゃった。要約するとこれでいいかな?」
「ええ。」

第三者視点で簡潔にまとめられると自覚していたとはいえ、我ながら酷い話だ。美樹さんが裏切られたと思っても無理はない。

「でもさ。暁美さんはどうしたいのかな?」
「え?」
「さやかが怒ったのは自分が利用されたからじゃなくて、暁美さんと友達になれたとおもっていたのに裏切られたと思ったからだよね。」

彼の言葉に戸惑う。
だがその言葉を聞いて、謝らせてよと俯き涙を流す彼女が脳裏に浮かんだ。

「多分・・・そうだと思う」
「なら、さやかはきっと暁美さんに謝って欲しいんだと思う。さやかは意地っ張りだから素直に言いだせないと思うけど、彼女は暁美さんのこと友達だと思ってるんじゃないかな。」
「それは・・・」

でも、それでは私が自分を許せない。
彼女を利用しなければならないのに彼女の好意に甘える。そんな都合の良いことは・・・

「なんとなく、僕も暁美さんの気持ちがわかる気がするんだ。僕もこんな身体だからね。家族や先生達、さやかに頼らないと生きていく事すら出来ない。だからどうしても僕が人を頼るのは、その人達の好意を利用してるんじゃないかって。そんな風に考えて罪悪感を感じてしまう。暁美さんにも記憶があるんじゃないかな?」
「・・・あなたの言う通りよ」

もちろん記憶がある。
ベッドで1人寝ている時間が長いとどうしてもそういった考えに至ってしまう。
無条件に頼れる家族というものがいなかった私にとって、先生や看護婦さんに対して罪悪感を感じたのは両手で数えても効きはしない。

「だけどさ。言葉遊びに聞こえるかも知れないけど、友達を利用するんじゃなく、友達を頼るって考えたらすごく罪悪感が小さくなったんだ。してもらってることは一緒なんだけどね。」

そういって苦笑する上条恭介の目は以前見た、自分の未来を諦めた目ではなく、将来に向けて生きていこうとする力強い意志のようなものがあった。
男子3日会わざれば刮目せよというがこういうのをいうのかもしれない。

「暁美さんは、さやかの事を友達だと思ってくれてる?」

その言葉だけは私ははっきりと頷くことが出来た。
もう言い訳は出来ない。
私はまどかだけでなく、美樹さんも大事に思ってしまっている。

「なら、一昨日暁美さんに言ってもらった言葉をそのまま返すよ。そう思ってるなら、それをさやかに伝えてあげて。さやかはお人好しだから、きっとちょっと怒るかもしれないけど、ちゃんと許してくれるよ。」

その言葉は私に再びの衝撃をもたらした。
それと同時に過去を思い出していくと、私自身誰かに自分の気持ちをはっきり伝えたことなどまどか以外誰もいない。
まったくもって笑うしかない。自分が放った言葉が、私自身に返ってきている。
なにが未来を諦めていた過去の私と同じ目だ。まどか以外の人と仲良くなるという未来を諦めていたのは今も昔も変わらないというのに。
どうやら私は、時間制御で自分の精神の成長まで止めてしまっていたらしい。そして、彼の方がよほど私の言葉を真摯に受け止め成長してくれていた。
それに気づいたときようやく久しぶりに自嘲ではなく、自分自身への苦笑をする事が出来た。

「まったく。あなたにそれを言われるとは思わなかったわ。一昨日とは随分な違いね。」
「暁美さんのおかげだよ。本当にありがとう。」
「そう。なら私もお礼を言わせてもらうわ。ありがとう。美樹さんとは改めて話してみるわ。友達になって欲しいって。」

そう言って私は久しぶりに満面の笑みを浮かべると、なぜか彼は顔を耳まで赤らめて視線を逸らした。
その理由がわからず首をかしげる。
その瞬間、美樹さんが部屋に戻ってきた。

「たっだいまー。2人っきりだからって恭介まさか暁美さんにいやらしいことしてないでしょうね?暁美さんにそんなことするのは私がゆるさんぞーって・・・なんで恭介の方が真っ赤になってるの・・・?」
「さあ。なぜかしら。」

私は少し微笑みを浮かべたまま、立ち上がると美樹さんと入れ替わりに部屋から退室する。

「上条君、ありがとう。今日は有意義だったわ。それから、美樹さん。」
「なに?」
「明日の放課後時間をちょうだい。貴女に見て欲しい物があるの。」
「・・・わかった」
「ありがとう。ああ、それと美樹さん。彼、意外と成長したら有望かもしれないわ。がんばりなさい。」
「なっ・・・」
「それじゃあ。」
「ちょっとま」

真っ赤になって照れる彼女を置いて、私はドアを閉めて病室から退出した。

『まどか。いるんでしょう?』

念話でまどかに声をかけると、待合室の廊下から彼女が顔だけ出してこちらに念話を返してきた。

『えはは。い・・・いつから気づいてたの?』
『違和感を感じたのは最初からだけど、確信したのは美樹さんが彼の父親と一緒に出て行ってからよ。飲み物を買いに行くだけにしては時間がかかりすぎていたもの。』
『うー・・・ほむらちゃん鋭すぎるよぉ・・・ごめんね、お節介で』

そういって上目遣いでこちらを見上げるまどかを見て私は苦笑を漏らす。

『まったくよ。お節介さん。でも・・・ありがとう』

最後にぼそっと呟いた私の言葉を聞いた彼女は、満面の笑みを浮かべると私の背中に飛びついてきた。
あいかわらずの、ストレートな感情表現を私は羨ましく思う。

『さ。帰りましょう。多分巴マミがお腹を空かせて待ってるわ。』
『ほむらちゃん・・・ペットじゃないんだから・・・』

そうやってまどかとじゃれ合いながら家への帰途へとつく。
実際には何も変わっていない。
美樹さんとはケンカしたままだし、巴マミは落ち込んだまま。
それでも私は朝より遙かに軽い身体を感じながら、これからの事に思いを馳せた。

しかし、上条恭介。
そこまで美樹さんをしっかり観察しているなら、あんなにわかりやすい彼女の気持ちにくらい気づきなさい。






[27716] 10話 友達だと思ってくれてる?
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/20 22:44
目を覚まし、家の中を見渡すがまどかがいない。
疑念を抱き、ベッドの上に制服姿で体操座りをしている巴マミに問いかけてみる。

「まどかは?」
「・・・わからない。目を覚ましたときにはもういなかったわ。」
「そう。」

寝起きの悪いまどかが?
とはいえ、本人がいないのにいつまでも考え込んでいても仕方ない。

「私は学校へ行くけどあなたはどうするの?」
「・・・・・・・」
「そう。なら戸締まりだけはしっかりしておいて。食べ物は冷蔵庫の中にあるから適当に。」

私の言葉にも俯いたまま頷く彼女に背を向けると、シャワーを浴び、軽い朝食をとると学校へ出発することにした。
美樹さんと顔を会わせるのは正直気が重い。
すこし憂鬱な気分を感じながらも教室に辿りつき、自分の席に座ると予想外の声がかかった。

「暁美さん。今日の夕方開いてる?」
「え・・・?」

自分の耳が信じられず思わず問い返し、声のした方を見ればそこには美樹さんが立っていた。もっとも、その表情は昨日までの明るいそれではなく、自分自身恐怖に耐えているようなものだったが。

「今日の夕方開いてるなら少し時間もらえる?昨日いけなかったし、恭介と恭介のお父さんが会いたがってるから。」
「・・・ええ。開いているわ。」
「そう。それじゃあ後で迎えに来るから。」

それだけを言い離れていく美樹さん。
彼女の意図がわからず戸惑う。
呼び方が暁美さんに戻っていたから昨日の件が尾を引いているのは間違いない。
だがいくら義理堅い彼女でも昨日あれだけのことがあっても、義理を尊重するだろうか?
仲直り出来れば良いというわずかな期待と、それ以上の不安に耐えていても1日は容赦なくすぎていった。




「暁美さん、さやかさん。よろしければ今日はご一緒に帰りませんか?」

授業が終わり、私のそばに来た美樹さんを見て志筑仁美が声をかけてくれる。

「ごめん、仁美。今日は暁美さんとちょっと用事があるから。また明日お願い。」
「そんな・・・もうお2人の間に割り込む余地なんて・・・ないんですのねえええええ」

だが、志筑仁美の大げさな演技にも美樹さんはにこりともしなかった。
ただ黙って病院までの道のりを歩く美樹さんの後ろを、私も黙ってついて行く。
だが、病院の前につくと彼女は立ち止まり、振り向くと私に話しかけてきた。

「勝手な事言って悪いけど、恭介達の前では今まで通りの振りをして。」
「わかったわ。」

彼女は一言だけささやくと、ドアを開け中に入っていった。

「おっじゃまっしまーす。暁美さん連れて来たよ-!」
「失礼します。」

一礼して入っていくと中には当然上条恭介と、渋い中年男性が立っていた。
恐らく彼が上条恭介の父親なのだろう。

「いらっしゃい。さやか。暁美さん。」
「いらっしゃい。君が暁美ほむらくんか。恭介に聞いたとおり、かわいらしいお嬢さんだ。君の発想のおかげで息子にも私にも希望が見えたよ。本当にありがとう。」
「僕からもお礼を言わせて。本当にありがとう。」

そう言って私に向け、深々と頭を下げる上条親子。少しの間談笑を続けると上条父は腕時計を見ると退出しようとした。

「すまないね。これから先生と今後の打ち合わせがあるから失礼させてもらうよ。」

そう言って立ち上がり、退出していく上条父と共に、美樹さんもでていく。

「あ、ごめん、私も飲み物買ってくるよ。」
「そうか。じゃあ途中まで一緒に行こうかさやかちゃん。」
「もちろん喜んで!」

そう言って出て行く2人。
2人きりになり、学校のことなど当たり障りの無いことを話しながら、しばらく時間がたつ。すると上条恭介がこちらへ切り込んできた。

「暁美さん。もしかして、さやかと何かあった?」

その言葉に私は少し面食らう。

「なぜそう思うの?」
「さやかが少し無理をしているような気がしたから・・・」
「そう。」

見ていないようで、存外によく見ている。やはりこの辺りは幼なじみか。
幼なじみのいない私にはわかりにくい感覚だが、その辺りは少し羨ましい。

「ここに来る途中で少し言い合いになってしまっただけよ。」
「そうなんだ。もしよかったらどんな風に言い合いになったか教えてもらえないかな。
この前は僕が相談にのってもらったから・・・今度は僕も暁美さんの力になりたいんだ。」

その言葉に今度こそ面食らう。
上条恭介はあまり人の役に立とうという人間ではなかった。
少なくとも、今までの時間軸で彼が美樹さんや、その友人の役に立とうとした記憶はない。
とはいえ、せっかくの言葉だ。
ダメでもともと、愚痴を聞いてもらうのも良いかもしれない。

「そう。ならお言葉に甘えさせてもらうわ。」

それから私は要点をぼかして彼に事に至った経緯を説明した。
彼は何度も頷きながら、私の言葉にときに質問を交えながら話をきいてくれた。

「なるほど。じゃあ暁美さんは、そのまどかさんって友達と仲良くなってくれそうだからって理由でさやかに近づいて、それをさやかに気づかれて口論になっちゃった。要約するとこれでいいかな?」
「ええ。」

第三者視点で簡潔にまとめられると自覚していたとはいえ、我ながら酷い話だ。
美樹さんが裏切られたと思っても無理はない。

「でもさ。暁美さんはどうしたいのかな?」
「え?」
「さやかが怒ったのは自分が利用されたからじゃなくて、暁美さんと友達になれたとおもっていたのに裏切られたと思ったからだよね。」

彼の言葉に戸惑う。
だがその言葉を聞いて、謝らせてよと俯き涙を流す彼女が脳裏に浮かんだ。

「多分・・・そうだと思う。」
「なら、さやかはきっと暁美さんに謝って欲しいんだと思う。さやかは意地っ張りだから素直に言いだせないと思うけど、彼女は暁美さんのこと友達だと思ってるんじゃないかな。」
「それは・・・」

でも、それでは私が自分を許せない。
彼女を利用しなければならないのに彼女の好意に甘える。そんな都合の良いことは・・・

「なんとなく、僕も暁美さんの気持ちがわかる気がするんだ。僕もこんな身体だからね。家族や先生達、さやかに頼らないと生きていく事すら出来ない。だからどうしても僕が人を頼るのは、その人達の好意を利用してるんじゃないかって。そんな風に考えて罪悪感を感じてしまう。暁美さんにも記憶があるんじゃないかな?」
「・・・あなたの言う通りよ。」

もちろん記憶がある。
ベッドで1人寝ている時間が長いとどうしてもそういった考えに至ってしまう。
無条件に頼れる家族というものがいなかった私にとって、親身に接してくれた先生や看護婦さんに対して罪悪感を感じたのは両手で数えても効きはしない。

「だけどさ。言葉遊びに聞こえるかも知れないけど、友達を利用するんじゃなくて、友達を頼るって考えたらすごく罪悪感が小さくなったんだ。してもらってることは一緒なんだけどね。」

そういって苦笑する上条恭介の目は以前見た、自分の未来を諦めた目ではなく、将来に向けて生きていこうとする力強い意志のようなものがあった。
ふと、男子3日会わざれば刮目せよというが、こういうのをいうのかもしれないなと思ってしまった。

「暁美さんは、さやかの事を友達だと思ってくれてる?」

その言葉だけは私ははっきりと頷くことが出来た。
もう言い訳は出来ない。
私はまどかだけでなく、美樹さんも大事に思ってしまっている。

「なら、一昨日暁美さんに言ってもらった言葉をそのまま返すよ。そう思ってるなら、それをさやかに伝えてあげて。さやかはお人好しだから、きっとちょっと怒るかもしれないけど、ちゃんと許してくれるよ。」

その言葉は、私に再びの衝撃をもたらした。
それと同時に過去を思い出していくと、私自身誰かに自分の気持ちをはっきり伝えたことなどまどか以外誰もいない。
まったくもって笑うしかない。
自分が放った言葉が、私自身に返ってきている。
なにが未来を諦めていた過去の私と同じ目だ。
まどか以外の人と仲良くなるという未来を諦めていたのは今も昔も変わらないというのに。
どうやら私は、時間制御で自分の精神の成長まで止めてしまっていたらしい。
そして、彼の方がよほど私の言葉を真摯に受け止め成長してくれていた。
それに気づいたときようやく久しぶりに自嘲ではなく、自分自身への苦笑をする事が出来た。

「まったく。あなたにそれを言われるとは思わなかったわ。一昨日とは随分な違いね。」
「暁美さんのおかげだよ。本当にありがとう。」
「そう。なら私もお礼を言わせてもらうわ。ありがとう。美樹さんとは改めて話してみるわ。友達になって欲しいって。」

私は久しぶりに満面の笑みを浮かべると、なぜか彼は顔を耳まで赤らめて視線を逸らした。
その理由がわからず首をかしげる。
その瞬間、美樹さんが部屋に戻ってきた。

「たっだいまー。2人っきりだからって恭介まさか暁美さんにいやらしいことしてないでしょうね?暁美さんにそんなことするのは私がゆるさんぞーって・・・なんで恭介の方が真っ赤になってんの・・・?」
「さあ。なぜかしら。」

私は微笑みを浮かべたまま立ち上がると、美樹さんと入れ替わりに部屋から退室する。

「上条君、ありがとう。今日は有意義な1日だったわ。それから、美樹さん。」
「なに?」
「明日の放課後時間をちょうだい。貴女に見て欲しい物があるの。」
「・・・わかった。」
「ありがとう。ああ、それと美樹さん。彼、意外と成長したら有望かもしれないわ。がんばりなさい。」
「なっ・・・」
「それじゃあ。」
「ちょっとま」

真っ赤になって照れる彼女を置いて、私はドアを閉めて病室から退出した。

『まどか。いるんでしょう?』

念話でまどかに声をかけると、待合室の廊下から彼女が顔だけ出してこちらに念話を返してきた。

『えはは。い・・・いつから気づいてたの?』
『違和感を感じたのは最初からだけど、確信したのは美樹さんが彼の父親と一緒に出て行ってからよ。飲み物を買いに行くだけにしては時間がかかりすぎていたもの。そもそも、美樹さんに私を誘うよう言ったのもあなたでしょう?』
『うー・・・ほむらちゃん鋭すぎるよぉ・・・ごめんね、お節介で。』

そういって上目遣いでこちらを見上げるまどかを見て私は苦笑を漏らす。

『まったくよ。お節介さん。でも・・・ありがとう。』

最後にぼそっと呟いた私の言葉を聞いた彼女は、満面の笑みを浮かべると私の背中に飛びついてきた。
あいかわらずの、ストレートな感情表現を私は羨ましく思う。

『さ。帰りましょう。多分巴マミがお腹を空かせて待ってるわ。』
『ほむらちゃん・・・ペットじゃないんだから・・・』

そうやってまどかとじゃれ合いながら家への帰途へとつく。
実際には何も変わっていない。
美樹さんとはケンカしたままだし、巴マミは落ち込んだまま。
それでも私は朝より遙かに軽い身体を感じながら、これからの事に思いを馳せた。
しかし、上条恭介。
そこまで美樹さんをしっかり観察しているなら、あんなにわかりやすい彼女の気持ちにくらい気づきなさい。



[27716] 11話 あたし自身が確かめなくっちゃ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:36
家に帰る途中にまどかの提案で、ケーキ屋に立ち寄り巴マミのお見舞いの分のケーキを買う。
昼間も食事をとらなかった巴マミも、好物のケーキならというまどかの気遣いだ。
同級生と一緒にケーキを選ぶという経験は実は初めて。
他の人から見えないまどかと話していてもおかしく思われないよう、ブルートゥースのヘッドセットを耳に当てておく。便利な時代になったものだ。
私はティラミス、まどかはショートケーキ、巴マミにはミルフィーユを選ぶと店員さんに包んでもらい、店から出ると、手にケーキを掴んで丸かじりする佐倉杏子とばったり出会った。

「ありゃ。」

私達の顔を見るなり、好戦的な笑みを浮かべる佐倉杏子。

「ふぅーん。キュウベえがここで待ってりゃ会えるって言うから待っててみたんだけど、半信半疑だったけど正解だったみたいだね。」
「何の用かしら。」
「昨日言ったじゃんか。途中で打ち止めになっちゃったお話を聞かせてってさぁ。ちょうどいいや。ついでにちょっとツラ貸してよ。」

再び言いたいことだけ言うと、さっさと先に進んでいってしまう彼女。
とはいえ、彼女に用があったのは私も同様。せっかく会えた機会を無駄にするのも忍びない。
まどかと視線を合わせて彼女に先に帰っていてもらうように頼むと、私は佐倉杏子と並ぶと彼女に疑問を投げかける。
いつの間にかキュウベえも現れて私達の足下を歩いていた。

「それで?何から話せばいいのかしら。」

だが、私の質問への返答は予想外のものだった。

「ああ。大体のところはキュウベえに聞いたよ。まったく。大したヤツらだね、まったく。こんだけ大事な要点ぼかしてあたしらを魔法少女にして回ってるんだからさぁ。」

だが、そういう割には彼女がキュウベえに憤りを感じているようには見えない。むしろ感心しているそぶりさえある。

「あなたはキュウベえにあまり怒りを感じていないのね。」
「うん?ああ。まあね。宇宙の存亡がどうのなんてあたしの知ったこっちゃないしさぁ。ゾンビになっちまったって事もまあ、腹は立つがあの後コイツを締め上げてとっちめてやったしそれでチャラさ。考えてみりゃあ魔力さえあればどうとでもなる身体ってのも便利だしさ。」

そう言って足下を歩くキュウベえのお尻をつま先で軽く小突く彼女。
やはり、この辺りの精神のタフさは過去の経験があってこそか。
戦闘経験以上に、中学生としては異常といって良いほどの割り切りの良さと精神の強靱さこそが、彼女の真骨頂だ。この精神の強靱さは私すら及ばないかもしれない。

「まったく。暁美ほむら。君たちに会ってからろくな目に遭わないよ。」
「自業自得よ。なら、佐倉杏子。あなたは何の用があって私に接触してきたのかしら。」
「なぁに。アンタ達さぁ、キュウベえと、とりあえず手を組むことにしたんだろう?ならあたしとも手を組むってことじゃん。けどさぁ、正直昨日の様子を見る限りアンタ達と手を組むメリットってあんまりなさそうなんだよねぇ。ってえわけで、アンタの腕前を見せてもらおうと思ってね。」
「なるほど、堅実ね。構わないわ。」

この辺りは実戦派の魔法少女である彼女らしい。私としても彼女が協力してくれると言うなら、多少の手の内を見せるのもやぶさかではない。

「そうこなくっちゃね。この先に例のでっかい魔獣を見つけてある。そいつで1つ、腕試しと行こうじゃない。」
「ええ。」

先導する彼女について行くと、港湾の倉庫に辿り着く。

「この中さ。もっとも中に操られた人間が10人くらいいる。さて、じゃあ、どうするのか。お手前拝見させてもらおうじゃない。」

そう言って変身し、トッポを取り出しかじり出す彼女。
私も変身をすると彼女に尋ねる。

「先に確認をしておくわ。私が魔獣を効率良く殲滅すればあなたは私達に力を貸す。この条件でいいかしら。」
「ああ。それでいいよ。」
「そう。」

私は彼女の返答を聞くと髪をかき上げ、扉を少しだけ開け時計からグレネードを取り出すと、キンッと涼しげな音を立てながらピンを抜く。

「うえ!?」

それを見て、目をむき口に咥えていたトッポを落とす佐倉杏子を尻目に、私は開けた扉の隙間からグレネードを放り込んだ。

爆発音と閃光。

耳鳴りが治まると扉を開け中に入っていく。
中にいた人間は全員が痙攣しながら倒れていた。
落としてしまったトッポを名残惜しそうに見ていた彼女だが、新しいトッポを咥え私に問いかける。

「あんた・・・なんてもん持ってんだい・・・」
「スタングレネードよ。殺してはいないわ。」

その言葉を聞き、憮然とする彼女。

「ふん。そうかい。ったく。あんたのおかげで大事なお菓子がダメになっちゃったじゃないか・・・でも、魔獣はそんな子供だましじゃ効かないよ」
「わかっているわ。」

私は再びアサルトライフルを取り出すとコッキングし奥へと進む。

「なんだそりゃ・・・マミのヤツのマスケットはまだわかるけどさぁ。あんたのそれどうなってんのさ。それがアンタの魔法かい?」
「そう思ってもらって構わないわ。」
「ったく。魔法少女やめてコマンドーにでもなった方がいいんじゃない?次から次へと武器出してさぁ。」
「敵に合わせて武器を変えられる。この意味がわからないあなたではないでしょう。」
「・・・ふん。ごもっともだね。」

鼻で返事をする彼女。
頭の上で手を組み、私の後をついてくる。
やがて倉庫の奥に辿り着くと、ドアが結界の入り口になっていた。
私はその中に入ると、早速使い魔の魔獣が現れる。
3点バーストを守り、弾丸を叩き込むと現れるなり簡単に消滅していく魔獣。
使い魔たる魔獣はまったく話にならない。だが私はかつてない焦りを感じていた。
まず肝心の筺の魔女キルステンの変異魔獣にこちらの攻撃が当たらない。
魔法少女になりたての美樹さんですらあっさりと倒せたため、取るに足らないと思っていたのだが、どうも私の攻撃を予測している節がある。
そして、それ以上に問題なのがコレだ。

――――私は鹿目さんとの出会いをやり直したい!彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!

――――みんなが父さんの話を真面目に聞いてくれる世界してほしい!

――――あはははは。やったー!すごい!すごいよほむらちゃん!

――――ははは。杏子はお父さん思いの良い子だな!でも、杏子の結婚式はこの教会であげるんだぞ!

――――キュウベえに騙される前の、馬鹿な私を・・・助けてあげてくれないかな・・・

――――またケンカをしたんだね。だけど友達を恨んではいけないよ。彼らは彼らの考えがあってそうしたんだからね。

――――全ての魔女を生まれる前に消し去りたい!全ての宇宙、過去と未来、全ての魔女を。この手で!

――――魔女め!お前が・・・人の心をたぶらかす魔女だったのか!こんなもので・・・信心ではなく・・・くそぉっ!!


そう、キルステンの能力の最大の特徴。
それは思考を共有し空間内のテレビに映しだす。
しかも、強く記憶に残っている事をだ。
周囲の空間のテレビを凝視するキュウベえ。
こちらの手札を全て晒すにはまだ早い。
私は再びキュウベえに銃口を向け引き金を引こうとした。

だが、その瞬間、周囲のテレビが全て砕け散る。

もちろんそれを為したのは佐倉杏子。
唇を噛みしめ、八重歯をむき出しにした彼女は間違いなく本気で怒っていた。

「胸くそわりぃ。人の頭ン中のぞき見やがって・・・」

得物の槍を多節根状態から、再び一体に連結させると彼女はキルステンに向けて投擲する。
キルステンに突き刺さった槍は、勢いを弱めることなくキルステンを貫き、地面へと縫い止める。
ぶつかった衝撃でキルステンが砕け、それと同時に景色が元に戻った。

「悪いね。水刺しちゃってさ。」
「いいえ。正直言って私とは相性の悪い敵だったから助かったわ。」
「そうかい。」

キルステンの能力を考えれば、ヤツを倒す最短の近道は思考を放棄しての戦闘だ。
だがそれ故に、1から10まで理詰めで動く私の攻撃は全て予見されていたとおもって良い。
怒りに我を忘れた佐倉杏子の攻撃だからこそ、不意をつけたのは確かだ。

「さて・・・と。じゃあ、続きを始めようか。」
「続き?」

ニヤリと笑う彼女に私は問い返す。
さらに魔獣がいるというのだろうか。

「ああ、そうさぁ。やっぱ、あんたの戦い方じゃどのくらい強いのかが魔獣相手じゃイマイチわかんなくてさぁ。やっぱ、あたし自身が確かめなくっちゃって・・・ね!」

そう言うなり、槍を掴み私に突進してくる佐倉杏子。
なるほど、彼女はつくづく実戦派だ。
私は彼女の刺突を半身をひねって避けると、そのまま接近戦で不利なアサルトライフルを彼女に向けて投げつけながら答える。

「わかったわ。ならこれで勝った方が今後の主導権を握る。それでいいかしら。」
「モノわかりいいじゃん!もちろん、あたしが勝たせてもらうけどね!」

投げつけたアサルトライフルを避けると、彼女は再び連続で刺突を放ってくる。
私はその攻撃を避けながら、ベレッタを取り出す。

「ハッ!良く躱すけどさぁ。この距離じゃ銃よりあたしの槍の方が早いよ!」
「それはどうかしら。」

魔力消費を狙っているのだろう。
コンパクトに一撃での大ダメージよりも、小さなダメージの蓄積を重視した連続技。
確かに肉体が本体だと思っている普通の少女には効果が高いだろう。
彼女の攻撃を分析しながら、彼女の刺突が右肩を狙うタイミングを待つ。
待ち続けて4発目。
右肩を狙った攻撃を、右手の銃の銃身とグリップの付け根を使って受け流す。
そのまま右足を軸に左半身を前に出し、左腕を伸ばすと、彼女の顔がその延長線上に合った瞬間左手にUSPを召喚し、引き金を引く。
彼女の眼前で撃ち出される.45ACP弾。
もちろん当たれば大ダメージでは済まない。

「うえっ!?」

だが、さすがに反応が良い。
予想外の攻撃にも関わらず私の攻撃を後ろにスウェーして避けると、そのまま距離をとる。

「盾からしか武器が取り出せないなんて言ってないわよ。」
「て・・・てんめぇ、今マジで殺す気で撃っただろ!」
「ええ。この方があなた好みかと思って。」

動いたことによって乱れた髪を払いながら私が言うと、彼女は再び動揺を抑えてニヤリと笑った。

「上等じゃん!そのスカしたツラに風穴開けてやるよ!」

さらなる覇気を以て再び突進してくる佐倉杏子。
このメンタルの強さはつくづく素晴らしい。味方に出来れば間違いなく最も頼りになる。
だからこそ、この戦いで勝たなくてはならない!

「やれるものならやってみなさい。」

私は挑発を帰すと、突進する彼女に両手で弾幕を張る。
吐き出される9mmパラベラムと.45ACP弾を、彼女は縦に横に、工場内のパイプや壁を利用して文字通り縦横無尽に避け続ける。
3,2,1・・・私のカウント通り残弾が尽き、スライドがロックする。
彼女はそのタイミングを見越して、再び大きく壁面を蹴ると私に向かって今までで最も鋭い刺突を放ってきた。
横に避ける暇は無いと感じた私は、両手の銃を捨て、再び新しい銃を両手に召喚しながら後方へ倒れ込む。
目の前を通過していく彼女の槍。
倒れ込みながらも、最も狙いやすい胴体を狙い銃弾を撃つ私。

「くっ・・・」

だが彼女は半身を無理矢理ひねって私の攻撃を躱すと、そのまま槍の慣性に任せて薙払いを仕掛けてくる。
私は起き上がる暇もなく、横に転げて躱すがここは屋内。
当然、数回も転がれば壁面に辿り着く。

「終わりだよ!」

そう叫び引き戻した槍を、素早く突き放つ彼女に私は覚悟を決め、曲芸をすることにする。
槍は直線の武器だ。
その軌道は正面から見れば点に近いがそれでも線。
その軌道上に私はUSPの銃口を合わせ、彼女の槍の穂先が真横に来た瞬間弾丸を放つ。
当然、弾かれた槍は銃弾の勢いで壁にぶつかり、跳ね返る。
さすがに慣性ばかりは魔法少女の膂力をもってしてもどうにもならない。
ぎょっとする彼女に向け、右手のベレッタを放つが、それでも彼女は飛び退いて躱してみせた。
その隙を見て私は起き上がると、距離をとり向かい合う。
さすがに、肩で息を始める彼女と私。

「トンデモない真似するじゃないか。今のはわざとかい?」
「ええ。」
「ちっ。化け物かい、ったく。だけどさぁ。いくらあんただって百発百中とはいかないんだろう?失敗したらどうするつもりだったのさ。」
「痛いだけよ。」

私の簡潔な答えに目を点にする彼女。
だが、その後再び大笑いを始める。

「ははは!なるほど確かに痛いだけだ!はぁ。いやほんと、あんたさぁ実はコマンドーかターミネーターなんじゃないの?」
「いいえ。あなたと同じ魔法少女よ。」
「はんっ!違いねぇ。」

その言葉に再びひとしきり笑った彼女は、息を整え終わった私と向き合う。

「さてっと。それじゃそろそろ決着つけない?」
「ええ。望む所よ。」

そして、深呼吸をし、先ほどよりもさらに前傾姿勢気味に構える彼女。
私も腰を落とし、今までで最速であろう、攻撃に備える。

「行くよ!」

そして宣言通りのタイミングで猛烈なスピードで突進してくる彼女に、私は銃弾を叩き込む。
だが、私はすぐにその選択を後悔する事になる。
頭部を狙った弾丸以外全て無視し、腹部や足に被弾しても気にもとめずに猛突進してくる彼女に意表をつかれた私は、なんとか慌てて躱すが左の二の腕を深く抉られる。
衝撃で骨が折れたのか左腕に力が入らなくなりUSPを取り落とす。
だが、歯を食いしばり痛みに耐え、躱そうとした勢いを殺さず、左に180度反転し、右手のベレッタを彼女のこめかみに叩きつける。
ゴリっという感触をマズルに感じた瞬間私はトリガーを引くが、彼女もつくづく反応が早い。
後ろに倒れこみながら躱し、あまつさえ槍を多節根にして後ろから私を狙ってくる。

「くっ・・・」

一瞬時計の使用を考えるが、ついさっきキュウベえに記憶を見られた状態で、時間制御をすれば今度こそ私の魔法が露呈するかもしれない。
一瞬でそれを判断し私は飛び上がって躱す私。

「いい加減に当たっちまいな!」

だが彼女は再び槍を連結し通常の状態に戻すと、手首のスナップを利かせて地面に叩きつけ慣性で無理矢理方向転換をして上を狙ってくる。
私は側面の壁を蹴り、軌道をずらすとそのまま回し蹴りを放つ。
かがみ込んで躱す彼女。
私は着地すると、そのままかがみ込み、今度は私が足払いを放つ。
彼女は飛び上がってそれを躱すが・・・これで詰み。
私は魔法で、地面一帯にクレイモアを召喚する。

「ちょ・・・ま・・・・!」

慌てて槍を多節根にしてパイプに巻き付け空中にぶら下がる彼女。

「チェックメイトよ。」
「ナニがチェックメイトだ!こんなもん・・・!」

空中ブランコの要領で私が先ほどしたように壁を蹴り地雷原から抜け出そうとする彼女。
だがその軌道上にもクレイモアを召喚する。
そのまま、彼女の頭に右手のベレッタの銃口を向ける。

「サービスよ。」
「この・・・あー。くそわかったよ!あたしの負けだよ!」
「そう。」

ヤケクソ気味に叫ぶ彼女を見て私は満足すると、クレイモアを魔法で回収する。

「こんにゃろ。やっぱ武装少女じゃねえか。」

槍を連結し、地面に降りるなり彼女は地面にあぐらを掻いて毒づいた。
しかし、美樹さんみたいなことを言わないで欲しい。やっていることは巴マミと大差ないはずなのに私だけどうして武装少女だのコマンドーだの言われなければならないのか。

「あたしが負けたんだ、煮るなり焼くなり好きにしなよ!」

・・・なぜ彼女はこんなに漢らしいのだろう。
とはいえ悪ぶってはいても彼女の性根は純粋だ。勝負に負けた以上、おそらくこちらの要求に素直にしたがってくれるだろう。
問題は・・・こちらをじっと見つめているキュウベえか・・・
先ほどの戦いでどれくらいの情報が彼らに漏れたのか。
むしろその方が今後に影響があるだろう。
もっとも、それを今心配したところでどうにもならないか。
私はため息をつき、左肩の負傷を魔力で治療すると、彼女に手を差し出す。
怪訝な目でこちらを見上げながら、私の手を掴み立ち上がる彼女に私は頼むことにする。

「ならまずやって欲しいことがあるの。私と一緒に来てもらえるかしら。」
「さっそくかい。人使いの荒いこった。っと、ちょっと待った・・・てて。あんたの銃で撃たれて腹に風穴が開いたままだったの忘れてたよ。直しちゃうからちょいと待ってて。」

・・・そんなこと忘れないで欲しい。
痛覚遮断のリスクの1つがこれだ。負傷をしている事を忘れ結果ダメージを大きくしてしまう。とはいえ、先ほどの彼女のあの判断は素晴らしかった。
魔力さえ十全なら、即死さえしなければ回復が可能な魔法少女の特性を十二分に活かしている。
必要に応じて自分の身体すら道具と割り切れる彼女は戦闘において実に頼りになるだろう。
精神的にも私達の中でもっとも成熟しており、精神的な支柱となってくれる事も期待出来る。

「これを使うといいわ。」
「うん?良いよ別にあたし自前でもってるしさぁ。あんたのオトモダチにでもあげなよ。」
「彼女達の分は別に用意してあるわ。あなた風に言うならお近づきの印よ。」
「そういうことなら遠慮なくもらっとくさ。」

そういって私の投げたグリーフシードを使い傷を癒す。私と彼女の傷を癒したグリーフシードはそろそろ限界だろう。彼女もそれがわかっているのか、キュウベえの方にそれを投げた。頭と尻尾を使い器用に背中に回収するキュウベえを見て、不覚にも少し可愛いと思ってしまった自分の愚かしさが悔しい。

「あなたはどうするの。」
「そうだね。興味深いものを見せてもらったし、さっきの映像についてもっと詳しく聞きたいところだけど・・・君は話す気がないだろう?」
「もちろんよ。」

キュウベえの言葉に即断で頷く。
もちろん冗談ではない。どこまで知られたか知っておきたい気持ちはあるが、それ以上にリスクが大きすぎる。
あと少し。あとほんの少しで第一のハードルを抜けるのだ。
それまでの間だけ持てばいいのだから。

「ふぅ。もう少し手の内を見せてくれても良いと思うんだけどね。まあ、今回は引いておくよ。さっきの情報を少し整理しておきたいしね。」
「好きになさい。」

ため息をひとつつくと踵を返し、去っていくキュウベえから視線を佐倉杏子に戻す。

「それじゃあ行きましょう。」
「はいはい、お供しますよっとぉ。」

頭の後ろで腕を組んだ彼女と共にまどか達が待つ家へと帰ることにした。


本日のほむほむ収支報告書

ベレッタM92F 9mmパラベラム23発
H&K USP .45acp 16発
閃光発音筒 1発
コルト M4A1 5.56mm NATO弾 42発



[27716] 12話 ありがとう杏子ちゃん
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/27 21:36
「ただいま。」
「おかえりー。・・・うわぁ!?ほむらちゃんも杏子ちゃんも血まみれ!?・・・あれ?杏子ちゃん?」
「お邪魔するよっと。ありゃ?あんたに名前言ってたっけ?」

ぱたぱたとエプロンで手を拭きながら迎えに来てくれたまどかの表情が固まる。
そういえば、名乗って無かったかも知れないわね・・・
それに変身の解除こそしたが、血は拭き取って無かったかもしれない。

「昨日、私がキュウベえから聞いたのよ。」
「うはは。うんそうそう。私はほむらちゃんから聞いたの!」
「ふぅーん。まあいいけどさ。で、あたしはなにすりゃいいんだい?」
「巴マミを元気づけてくれればありがたいのだけど・・・そこまでは期待していないわ。とりあえずケンカになっても構わないから、会話をしてちょうだい。」

私のフォローに露骨に合わせるまどか。
それを感心なさそうに見逃しつつ、漂ってくる料理の香りに鼻をひくつかせる佐倉杏子。
私の話を聞いているのか少し心配になるが、まあ彼女の場合心配はいらないだろう。

「巴マミの様子はどう?ケーキだけでも食べたのかしら。」
「うん。とりあえず食べてくれたよ。私達が出てる間にお風呂もはいってたみたい。でも、相変わらず用事が無い限り部屋からは出てないみたいだけど・・・」

リビングに向かいながら、まどかに今の巴マミの状態を聞いてみる。
まどかは、寝室の方に憂鬱な視線を投げかける。
自発的に動くようになっただけ昨日よりはマシだが、それでもあまり良い状態とは言えないようだ。
その辺りは来る途中で佐倉杏子にも説明してある。
リビングにつくとそこにはお皿が並べてあった。しかもコンロには少し大きめのお鍋が弱火にかけられている。どうも私達がどのくらい遅くなるかわからないため、暖かい料理をいつでも食べれるようなものを選んでくれていたようだ。
しかも、じっくりと弱火で火を通してくれていたらしい。
まどかの細やかな心遣いに胸が熱くなる。

「ご飯はどうする?シチューにはずっと火を通しておいたからいつでも食べれるけど・・・」
「先にお仕事済ませて来ちゃうさ。アンタ達だって1人だけヒキコモリがいたんじゃせっかくのご飯も美味しく食えないだろう?」

私達に背を向けて手をひらひらと振ると、寝室に向けて歩いて行く彼女。
さて、この劇薬が吉と出るか凶と出るか・・・
入っていった途端彼女達の口論の声が聞こえてくる。
さっそく派手にやりあっているようだ。
あげくに枕を投げつけているのか、扉に何かが当たる音までしてくる。
心配そうなまどかと視線を合わせると私達も中に入ることにする。
中に入れば、お風呂に入ってそのままなのか、トレードマークの縦ロールもなくウェーブがかった髪をながした巴マミが予想通り凄まじい勢いで激昂していた。

「だから放って置いてって言ってるじゃない!」
「ハぁ?人様んちに上がり込んで寝室占拠して引きこもっといて放って置いて?随分良いご身分じゃない。放って置いてほしけりゃ自分ち帰っていつも通りボッちしてりゃいいじゃん。お望み通りだーれも相手してくれないよぉ?」
「昨日からずっとボッちボッちって・・・魔法少女なんだから当然でしょう!?仲良くなったら誰かを巻き込むかもしれない。友達と遊ぶ時間だってない!誰にも相談なんて出来ない。あなただってそうでしょう!」
「ああ、そうさぁ。あたしは誰も頼らない。でもさぁ、あたしと違ってあんたは自分が望めば友達くらいできたんじゃないのぉ?休み時間に話しかけたって良いだろうし、巻き込むのが嫌ならそこのアマちゃん達とかさぁ。そもそもあんたさぁ。そうやってわかってくれないって思い込んで魔法少女だから守らなきゃいけないなんて思い込んでさ。だいたい誰が頼んだのさ守ってくれなんてさぁ。」
「そんなの!頼まれなくたって守るのが・・・それに暁美さんや鹿目さんだって・・・」

そういって反論出来ずに黙り込んでしまう巴マミ。
もっとも、彼女が私達と友達になろうと思わなかった責任の一端は私達にもある。
これだけ限界まで彼女を追い詰めたのは私の責任なのだ。これだけ精神的にボロボロにするまで追い詰めてきた相手と友人になろうとは思わないだろう。
もっとも、彼女の場合下手に友人になると浮かれて油断して自爆してしまうから、こうせざるを得ない側面もあるのだけど・・・

「ほら見ろ言わんこっちゃない。大体さぁ、頼るわけにいかないなんて言って、こいつらに思いっきり甘えてるじゃん。そんなんで他人を守るなんて言ったって誰が信じるかってーの。」
「それ・・・は・・・」
「あんたさぁ。結局他人を守るなんて言ってたって結局、自分のために戦ってただけじゃん。普通の人を守るために戦う私カッコイイって?それともアレかい?誰かに必要としてもらいたいってヤツかい?」
「っ・・・あなたはぁ!」
「マミさん!」

立ち上がり、佐倉杏子に鬼の形相で掴みかかる巴マミ。
慌ててまどかが止めに入ろうとするが、私がそれを手で制す。

「ちょっとさぁ。辞めてくれない?正論言われて逆切れ?とんだ正義の味方じゃない。」
「うるさい!その口を開くなああああああ!」
「はっ。メッキが剥がれてきたじゃない。今のあんたの顔見てみなよぉ。あたしなんかよりよっぽど魔女みたいじゃない。」

佐倉杏子の言葉に巴マミが固まる。その視線の先の姿身に映る彼女は文字通り鬼の形相。
その表情を見て彼女は後ずさりベッドに足をかけて倒れ込むように座り込む。

「ねえ・・・あなたは何のために戦っているの・・・」

しばらくの無言の時間の後、力なく佐倉杏子に問いかける巴マミに佐倉杏子はそのまま問い返す。

「あんたこそ何のために戦ってるのさ。」

ゆっくりと視線を上げ佐倉杏子の顔を見つめる巴マミ。泣き濡れ、目を赤く腫らしてこそいるがその瞳には理性の光がともっていた。

「誰かのためなんてお綺麗な理屈じゃなくてさ、それであんたがどうしたかったのかってのをちょいと考えてみなよ。」
「私が・・・どうしたかったのか・・・」
「そうさ。それもわかってない間は魔法少女やろうなんて考えないことだね。ほら。しみったれたツラしてないでとりあえず飯くらい食えるときに食っときな。あんたのワガママに根気よく付き合ってくれたお人好しが少なくともここに2人いるんだしさぁ。」

そう言うなり無理矢理彼女の手を引き立ち上がらせると、ダイニングに向けて歩き出す。
かなりの荒療治だがとりあえず、巴マミが落ち着いてくれただけでも良い方向に向かっているといって良いだろう。

「ほら、とりあえずこいつらに言うことがあるんじゃない?いっとくけどそれが思い浮かばないようならいつまでたってもボッちのままだよぉ?」

もう大丈夫だと思ったのか、普段の人をからかうチェシャ猫のような笑いを浮かべる彼女。その顔を見て顔を一瞬赤らめ口を尖らせ反論しようとするが、すぐに我に返りこちらを向けて頭を下げてくる。

「暁美さん、鹿目さん、佐倉さん3人とも心配をかけて本当にごめんなさい。」
「別に構わないわ。」
「うん!マミさんがちょっと立ち直ったみたいでうれしいです!」
「ありがとう。ダメな先輩でごめんなさいね。かっこわるいなぁ、後輩の前でみっともないとこ見せちゃって。」
「そうやって見栄張ろうとするから失敗して恥かくんだよ。」
「ぐっ・・・」

佐倉杏子の突っ込みに再び顔を真っ赤にして固まる彼女。もっともその態度に先ほどまでの険悪なものはなかったが。

「さぁて、でもせっかく感謝してくれてるんだしぃ?あたし貸しはつくらない主義なんだよねぇ。ってわけでさ。今度お菓子でも腹いっぱい奢ってもらうかなぁ?」
「ちょっと、佐倉さん!人が謙虚にしてればつけあがって・・・!」
「あれぇー?そんなこと言っていいのぉ?暁美ほむらがいないときあんた1人で戦えるのぉ?そいつだって戦闘はできそうにないし、私がそばにいてやんないとだめかなーって思ってたんだけどさぁ。そっかぁ。さすが魔法少女の先輩だね。立ち直りも早いわ。」
「っぅぅぅぅぅ・・・わかったわよ・・・わかったわよ!お菓子でもケーキでもなんでも奢ればいいんでしょう!」
「そう来なくっちゃ!いやぁ、わるいね先輩。ゴチになるよ!」

真っ赤な顔で叫ぶ巴マミの肩をぽんぽんと上機嫌に叩きながらダイニングに歩いて行く佐倉杏子。完全に巴マミは手玉にとられている。器が違う。

『気のせいかな・・・杏子ちゃんに黒い羽と尻尾が見えるよ・・・』
『よく見ておきなさい。あれが魔法少女のあるべき姿よ。』
『いや・・・それは違うんじゃないかな・・・』

私に念話で呟くまどかに私が返答するが彼女はどうも不満なようだ。タフなメンタルに周囲の人間を元気づける力。私が理想とする魔法少女と言うにふさわしいと思うのだけど・・・

「なかなか胴にいった説法じゃない。あなた案外シスターなんか向いてるんじゃないかしら。」
「ありがとう杏子ちゃん。」
「ふんっ。」

照れて耳まで真っ赤にしてそっぽを向く佐倉杏子を見て私とまどかはお互いの顔を見合わせ微笑みを浮かべる。
ありがとう。佐倉杏子。あなたを連れてきたのは正解だった。
これで少なくとも巴マミが自殺や引きこもりになることはないだろう。
まだ戦力としては期待できないが、とりあえず直近の問題の1つが片づいたのは間違いない。
そして今日の上条恭介の言葉を思い出す。

―――友達を利用するんじゃなくて、友達を頼ると思えば良いんだよ。

なるほど。とらえ方1つでこうまで罪悪感が薄れるものか。久方ぶりに私はすがすがしい気持ちで食事をする事ができている。

「なんだこれ、うめえ、まじうめえ!おかわり!」
「杏子ちゃん、そんなにガッつかなくてもまだまだあるよぉ。」
「そうよ、はしたない。女の子なんだからもっとお上品に食べなさい。」
「うるせーよ。こんな美味い飯久しぶりなんだ。お上品になんか食ってられるか。おいおかわり!ああもういいや、あるだけもってきなよ!」
「ちょっと佐倉さん。」
「あはは、まあまあ、マミさん。まだまだいっぱいありますから。」

佐倉杏子を中心にかしましく食事をする3人をみてつくづく思う。
やはり私も魔法少女など強がっていても所詮元は人間。甘えだと思っていてもこういったやりとりは心温まる。
願わくばこの輪に再び美樹さんが入ってくれれば・・・
私はまどかの作ってくれた、とびきり美味しいシチューをすすりながら明日の事に思いを馳せた。

「あ、残すならそのウインナーもらってくね。」
「待ちなさい。」





[27716] 13話 ママって呼んでもいいですか?
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/28 07:59
「ねぇ。どこに行くの?」
「もうすぐわかるわ。」
「ふぅーん・・・」

 授業が終わった後、約束通り美樹さんを誘いまどかと合流し、目的の場所に向かう。

「そういえばマミさん今日は学校に来てたんだね。」
「ええ。佐倉杏子のおかげでね。」
「佐倉杏子?誰?」
「一昨日の魔法少女よ。」
「ふぅーん・・・」

 興味がなさそうに私と会話をする美樹さんに心が痛む。同時にもう仲直りする事もできないのかもしれないと思うと魔法で再び出会いを最初からやり直したくなる。
 けれど、それでは何も解決にはならない。私が友達になりたいのは今の美樹さんなのだから。左手を右手で握って震えを隠し、心配そうに私を見つめるまどかを従えて私達は歩く。

 そしてもう1つの心配事がまどかの家族との接触だ。まどかには理由と目的を話してあるが、それでも成功の確率は5分5分というところ。
 もし失敗すれば、美樹さんだけでなく、まどかを再び絶望の淵に投げ込むことになる。しかも場合によっては最悪、まどかを傷つけるだけで終わる事すらあり得る。

 思考はくるくると同じ場所を空回る。こんな決断力のない人間に何が出来るかと自嘲する気持ちが沸いてくる。それでも、私を前に進ませているのはかつて自分が放ち、昨日彼から聞いた言葉。その言葉ひとつに希望を託して前へと進む。

 しばらく堤防沿いに歩いて行くと1人の子供が見えてきた。

 その子供を見てまどかが息を呑む。そう。彼はまどかの弟。鹿目タツヤ。前回の時間軸では唯一まどかの事を記憶していた少年。

 私は堤防を降り、彼のもとへと歩いて行く。その後を少し遅れて、かつて誰にも見えなかった時の恐怖を思い出したのだろう、顔を青ざめさせ震えたまどかと、けげんな表情ながらも子供の愛らしさにわずかに口元を緩めた美樹さんがついてくる。

 彼の隣に座り込むと、やはり書いていたのはまどかの絵。その絵を見てまずは安心と、私以外にもまどかを覚えていてくれた人の存在に喜びがじわじわとあふれてくる。

 彼は私に気づくと、こちらを向って笑顔を浮かべ話しかけてくる。

「まろか。まろかぁ。」

 その言葉に私は自然に笑みを浮かべる事ができた。そして、その言葉を聞き、隣に座ったまどかの目尻に光るものが浮かび上がる。

「うん。そうだね。そっくりだよ。」
「うん。たっちゃん、久しぶり・・・だね」
「ぅあー?おぉーねえたんらー。どこいってたおー?」

 やはり彼はまどかを見ることが出来るようで、まどかを見るなり彼女に向かってよちよち歩きで歩いて行き、彼女に抱きつく。わずかな間呆然とするまどかだが、すぐに涙をこぼし彼を抱きしめる。

「こら、だめじゃないか、タツヤ。お姉さんに迷惑だろう?」

 その瞬間、聞こえて来た声にまどかが弾かれたように顔を上げる。そして、タツヤ君も振り向くと精一杯の声を張り上げ主張をする。

「ぱぱ。まろか!まろかぁ!」
「そのお姉さんはまどかじゃないよ。だめじゃないか、お姉さんに迷惑かけちゃ。」

 その言葉を聞いた瞬間、まどかの顔が絶望に染まり、力なくタツヤ君を抱きしめていた腕を落とした。さらに測ったようなタイミングでまどかの目の前からタツヤ君を抱き上げる、まどかのお父さん。

 脱力し俯くまどかを見て胸が痛む。必要な事とはいえまどかを誘ったことを後悔する。
 だが、まどかを気遣う時間すらなくさらなる追い打ちがかかる。

「すいません。大丈夫でしたか?」

 中腰で私に謝る女性。もちろんまどかのお母さんだ。ビクリと肩を震わせるまどかを気遣いつつも、私は立ち上がると、髪を払いなんとか笑顔を作りタツヤ君に笑いかける。

「いえ、こちらこそ。まどか、だね。」

 私の顔を見て一瞬きょとんとした後、うれしそうに笑いタツヤ君が頷く。

「ふぁあ・・・はい!」

 うれしそうなその顔を見て、まどかのお母さんが不思議そうに私を見ると話を切り出してくる。

「あの・・・時間があったら少しお話しません?」
「はい。喜んで。」

 二つ返事で頷くと、俯くまどかと、気遣わしげな目で彼女を見る美樹さんに視線を送る。まどかのお母さんは私を連れて堤防の上まで歩くと、タツヤ君とまどかのお父さんが見渡せる場所に腰掛けた。

 私とまどかと美樹さんが順番に腰掛けるとまどかのお母さんが語り始める。

「まあ、その・・・あの子が1人遊びする時の見えないオトモダチってヤツ?子供の頃には良くあることなんだけどね。」
「ええ。私にも覚えがあります。」
「まどかってさ。あなたも知ってるの?アニメか何かのキャラとか?」

 その一言一言が私とまどかに突き刺さる。あれほど仲睦まじい母娘が自分の娘の事を忘れ、見えないとは言え娘にそれを語る。つくづく、まどかの願いの代償は残酷だ。なぜ平凡な中学生がこれほどの責め苦を味合わなければならないのかとキュウベえを呪う心を抑え切れない。

 しかし、私にとってはここからが本当の意味での正念場。己の感情に蓋をし、まどかのお母さんに言葉を返す。こういう時は、かつての時間軸の中で培ってきた自分の鉄面皮がありがたい。

「いえ。私の知ってる彼女は私の親友です。ここに住んでいた。」
「あなたの?その制服、見滝原だよね。じゃあ私も、もしかしたら会ったことがあるのかなぁ。なんかすっごく懐かしい響きな気がする時があるんだよね。まどか・・・」

 そう言うと私を上から下まで眺めると、前回の時間軸同様私のリボンに目をとめる。

「んん?しっかしそのリボン、すっごく可愛いね-。私の好みにド直球だわ。ちょっとびっくりするくらい。」
「よろしければ差し上げますよ。」
「あはは。こんなおばさんがつけてても似合わないってぇ。」

 切り出す私に、まどかのお母さんは照れくさそうに手を振る。だが受け取ってもらわないと困るのだ。おそらくこれが今回のキーアイテムなのだから。

「もうひとつありますからお気になさらず。手、だしてもらえますか?」
「えっと・・・こう?」

 遠慮し、戸惑いながらも断る彼女に手を差し出してもらい、彼女の手首にかつてまどかにもらったもう1つのリボンを結ぶ。かつてキュウベえは言った。このリボンのおかげで私はまどかを覚えている事が出来たと。ならばもう1度だけ。出来損ないの奇跡ではなく本当の奇跡を・・・

 お願いです神様。あなたを頼るのはこの1度だけ。だからどうかもう一度だけ本物の奇跡を・・・

 心の中で本物の神様に祈りながら、彼女の手首にリボンを結び終えると、彼女は自分の手首をしげしげと眺めながら私にほほえみかけた。

「ありがと。確かにこれなら違和感ないかもね。ねぇ、あなたの名前教えてもらえ・・・」

 手首から視線を上げた彼女の目の先に映るものはまどかだ。それを見て私は安堵する。

 ありがとう神様。

 神様へ柄にもなく感謝しつつ彼女へ先を促す。

「暁美ほむらです。どうかしましたか?」
「あなたの隣の女の子・・・さっきまでいなかった・・・よね・・・?」

 呆然としながら私の隣を指す。それを見てまどかも、美樹さんも驚きの表情を見せる。
 まどかには可能性を伝えてあるがやはり彼女自身半信半疑だったのだろう。わずかに震えながら自分の母親へと問いを返す。

「私が・・・見えるの・・・?」
「あ・・・ああ。ってことは、もしかしてあなたがまどかちゃん?」

 その言葉を聞き私はさっき安堵した自分を殴り倒したくなった。そう、喜ぶのはまだ早いのだ。奇跡は確かに起きてくれた。だがそれはあくまで、まどかが彼女の母親に見えるようになっただけ。決して彼女の記憶をとりもどしてくれたわけではない。

 その証拠に母親の言葉を聞き、彼女は再び顔色を青く染める。だが、それでも気丈に母の問いに答えて見せる彼女を見て私は胸の痛みを抑えるのが精一杯だった。

「はい。かな・・・暁美まどかです。初めまして。」
「そっかぁ。あなたがまどかちゃんかぁ。いつもうちのタツヤと遊んでくれてありがとうねぇ。しっかしどういう理屈なんだろ、このリボン。急に人が見えるようになるなんてね・・・ま、いっか。いやぁ、しっかしまどかちゃん、私の若い頃にびっくりするほどそっくりだわ。娘がいたらこんな子がいいなぁって思ってた理想にドンピシャ!そうだ。今度タツヤと遊んでもらってたお礼にいろいろプレゼントするよ。リボンやら洋服やら・・・もし良かったら着てみてくれない?娘がいたらなーってついつい集めちゃった服がいっぱいあるんだよね。」

 無邪気にまどかに語り続けるまどかのお母さんと、涙を堪えながら必死に頷くまどか。

「ああっと。ごめんね私が話してばっかりで。・・・でもさ、さっきからうなずいてばっかりだね、まどかちゃん。ごめんよ今まで気づいてあげれなくてさ。じゃあさ、今度はまどかちゃんが私にお願いしてみなよ。なんでもお願い聞いてあげるからさ。」
「なんでも・・・?」

 俯き、必死に涙を堪えていたまどかが視線を上げる。その勢いで雫が一滴頬から滑り落ちる。

「ああ。なんでもさ。さ、お願い。言ってみな?」

 ゆっくりと諭すようにまどかに語るまどかのお母さん。それに答えるようにまどかはひとつ深呼吸をした後、胸に震える手を当ててゆっくりと願いを告げた。

「じゃあ・・・ママって・・・呼んでもいいですか・・・?」
「うん?あはは!もちろん!まどかちゃんみたいなかわいい子のお母さんなら大歓迎だよ。」

 その言葉を聞いた瞬間まどかは弾かれたように立ち上がり、彼女の胸に飛び込むと今まで堪えていた感情が爆発したのだろう。大声を上げて涙を流し始める。

「ママ.・・・ママぁ・・・なんで、なんで私のこと忘れちゃったのぉ・・・やだよぉ。思い出してよぉ・・・うっ・・・くっ・・・あああああああああああああああああああああああああ」
「よしよし、まどかは甘えん坊さんだなぁ。・・・はは。あたしまでもらい泣きで涙がでてきちゃった・・・なんでだろうね。やっぱり昔まどかちゃんをこうやって抱きしめてあやしたような気がするよ・・・」

 泣き叫ぶまどかを抱きしめ、背中をあやすようにぽんぽんと叩くまどかのお母さん。一見美しい光景だが、その実決定的に2人の感情はすれ違っている。そのあまりの痛ましさに私はついに堪えきれず立ち上がると視線を逸らした。
 
 まどか達から離れ、ゆっくりと堤防から歩き出す。それを見て美樹さんも私の後をついてきてくれる。

 酷く残酷な事をしている自覚はある。やはり昨日の上条恭介の言葉ひとつで割り切れるほど私自身まだ割り切れていない。そしてまどかのためを目指しているとはいえ、その過程でまどかや美樹さんを傷つけているのは事実だ。
 かつての私は、それをまどかのためと切り捨てて感情を押し殺して来たが、結局はそれもエゴだと自覚してしまった。時間遡行という力を得て、人の感情を利用するというならそれこそが、まさに語り継がれる魔女ではないのだろうか。
 そんな自分がまどか以外の友人を得たいなどと言うのはそれこそ私のわがまま。私にそんな資格などないと、かつて見捨てて来たまどか達が囁く。
 それでも、私は思ってしまったのだ。今の美樹さんと友達になりたいと。自分のエゴと自分の罪悪感が頭の中でせめぎ合う。自分自身の臆病さが嫌になる。

「ねぇ。」

 だがこの期に及んで葛藤を続ける私に、美樹さんが話しかけてくれた。私は立ち止まると彼女に背を向けたまま答える。

「何かしら。」
「もしかしてあの人達って・・・」
「ええ。まどかの本当の家族よ。」

 背後で美樹さんが息を呑む気配がする。まどかの家族が今もこの町で彼女の事を忘れて生活しているとは思っていなかったのだろう。

「以前にも話したわよね。私の目的はまどかを人間に戻すことだって。」
「・・・うん」
「そのためには、まどかのために奇跡を願ってくれる少女が必要なの。私は既に奇跡を願ってしまっているから。」
「・・・それが私だって言うの?だからアンタは私に友達面して近づいてきたっていうの?」

 静かに語気を強めていく美樹さん。こんな風に彼女を怒らせるつもりはなかった。つくづく自分自身の不器用さが嫌になる。でも、私はここでくじけるわけにはいかない。まだ私の気持ちを伝えていない!

「はじめはそう。むしろ、かつてまどかを振り回したあなたを毛嫌いすらしていたわ。」
「え?」

 私の言葉に膨れあがりつつあった怒りの気配が消え、彼女が固まる。

「そうよ、美樹さん。あなたはかつてまどかの親友だった。」
「う・・・そ・・・」
「本当よ。だから私はあなたを選んだ。まどかの親友でありながらまどかを忘れているあなたこそ、彼女のために魔法少女となるべきだと思ったから。」

 私はゆっくりと顔を青ざめさせ立ち尽くす美樹さんを振りかえる。私の言葉に衝撃を受けたのか、それとも私の言葉に傷ついたのか。彼女の目には一筋の涙が浮かんでいた。

「だから今日も私に声をかけたの?あんたとケンカして、私がまどかちゃんのために魔法少女にならないかもしれないから・・・私にまどかちゃんと家族のことを見せて、同情させて彼女のために祈らせようって・・・」
「いいえ。違うわ。」
「じゃあなんで!?」

 不安を映した瞳で私に問いかける彼女。ここまで来てなお私の言葉を聞いてくる彼女に心の中でありがとうと告げると、私は今の心境を語り始める。

「今でもまどかのために祈ってもらうという考えは変わらない。だけどあなたと一緒にいるうちに、私の中でひとつだけ変わった考えがあるの。」

 そこまで言って、私はひとつ言葉をためる。緊張で高鳴る心と不安に揺れる感情を抑えながら彼女に今の素直な気持ちをぶつける。
 
「今更こんなこと言ってもあなたは怒るかもしれないけれど・・・美樹さん。私はあなたとも友達になりたい。こんな打算ばかりの人間で・・・あなたの事もさんざん利用しようとしてきた私だけど・・・それでも・・・あなたさえ良ければ、私をあなたの友達にしてください。」

 そう言って深々と頭を下げる。身勝手なお願いだとは自覚している。ただ、それでも伝えられずにはいられなかった。断られる事は何度も想定してきたけれど、それでもやはり好きな人に嫌われているかもしれないという恐怖は心を蝕む。

 しばらくの間頭を下げ、沈黙に耐えていると美樹さんが呟くように話しかけてきた。

「バカ・・・ねえ、あんたさ・・・実はバカとか不器用って言われない?」

 痛い。

 あれほど私に優しくしてくれた美樹さんに罵声を浴びせられる。今までだってなんども罵声を浴びせられてきた。けれど今回の痛みは特別。そして裏切られたと知った彼女はこれよりもっと痛かったのだと思い、溢れてくる涙を必死で堪える。

 だが、涙がこぼれ落ちそうになった瞬間、身体を抱きしめられた。

「バカ。泣くほど私のこと大事に思ってくれてんなら、さっさと言いなさいよ。手伝ってくれって。」
「・・・・え?」
「ごめん、まだアンタの事許せない。さんざん私のこと利用しようとしてたのに何を今更って思っちゃう。」
「それは・・・・」

 それはそうだろう。私だって、まどかに実は今まで仲良くしてきたのは、私を人間に戻してくれるかもしれないからです、なんて面と向かって言われたら心が折れる。

「でもさ、あんたのおかげで恭介が明るくなったのはほんと。それにあんたに何度も命助けてもらったのも。それが全部計算ずくだったとしても、あの時感じた気持ちまで全部嘘だなんて思いたくない。」
「美樹・・・さん・・・?」
「さやか。」
「え?」
「さやかって呼んでよ。あんただけ私のこと名前で呼んでくんないからさ。」
「それ・・・じゃあ・・・」
「うん。あんたがどれだけまどかちゃんのためにがんばってるかってのは、すっごい良くわかった。私も多分仲のいい友達や家族があんな風になっちゃったら、何をしてでも助けたいって考えると思う。・・・だから、もう一回だけあんたを信じる事にするよ。」

 それだけを一息に話すと私から手を離し私の目をまっすぐ見つめてくる。

「約束して。もう私のこと裏切らないって。あんたが私を信じてくれるなら、私はまどかちゃんのために祈ってあげる。」
 
 彼女の真摯な瞳を見つめ、私は涙を袖口で拭うと、私を信じてくれた彼女にありったけの感謝を込めて誓う。

「誓うわ。私はもうあなたを裏切らない。まだあなたに話せない事はいくつもあるけれど、決してあなたと、あなたの友達を悲しませるだけの結末にはしない。」

 宣言する私に美樹さん・・・いえ、さやかが手を差し出してくる。

「よろしく、ほむら。まだあんたの事信じ切れないけど・・・まずは友達から初めていこうよ。」

 言葉通り割り切れていないのだろう。その表情には幾ばくかの葛藤が浮かび上がっている。それでも私に手を差し伸べてくれる彼女の不器用な優しさが、今の私には心からうれしい。

「ありがとう、さやか。本当にうれしい・・・ええ。あなたの願い、決して無駄にはしないわ。」

 私はさやかの手を強く強く握り、改めて母親の隣に座り、肩に頭を預け語り合うまどかを見る。

 今度こそ。絶対に誰もが幸せな未来をつかみ取ってみせる。

 かつて何度も己に誓った言葉。けれど今日からは違う。私を信じてくれたまどかと、さやかのためにも本物のハッピーエンドを掴んでみせる。
 私は目の前でまどかを見つめるさやかに視線を移し、本当の意味で決意を新たにした。






[27716] 14話 どんな自分になりたいか?
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/31 21:31
「ねえ、ほむら。ところでまどかちゃんのために祈るって何を祈ればいいの?やっぱ、人間になれー!とか?」

 ソファーにうつ伏せに寝転び、足をパタつかせながらさやかが聞いてくる。
 昨日はまどかの事もあって、あのまま別れたため彼女にはまだ願いの件は何も話せていない。

「恐らくそれは無理よ。より上位のまどかの願いが有効である以上、私達の願いでは彼女を人間にする事は出来ない。よしんば出来たとしてもそれは彼女があくまで人間となるだけ。昨日見たわよね。あの子が本当の意味で幸せになるためには、彼女の記憶をみんなに取り戻させた上で人間に戻さなければならない。そのためには最低でももう1人。彼女のために祈ってくれる魔法少女が必要よ。」

 私の言葉を聞き彼女が頭を抱える。気持ちはわかる。私も許されるなら頭を抱えてキュウベえに八つ当たりをしたいのだ。

「ああああああもう!何それ!まどかちゃんてばどんな魔法少女だったのよ!ほむらでも私でもだめってどういうこと!?」
「まどかはかつて最強にして最高の魔法少女だった。それこそ他に並ぶ者のないほどの。」
「最強にして最高って・・・じゃあどうすんのよ。まどかちゃんの記憶を取り戻してほしいって祈るの?」

 なるほど。その発想はなかった。確かにその願いならさやかの願いで叶えられる可能性がある。なにしろそちらはタツヤ君という実例付きだ。けれど、それでもまどかのために祈ってくれる人が足りない事に変わりはない。

「確かにそれも選択肢の1つね。けれど、それでも1人足りないのは変わりない。だからさやか。今はまだ何も祈らないで。まどかには悪いけど少ないチャンスだもの。焦らず確実にいきましょう。」

 私の言葉に、さやかは不満げな顔を浮かべながら不承不承といった感じで頷く。まどかを助けたいと心から思ってくれているのか、あるいは自惚れかもしれないけれど、私の役に立ちたいと思ってくれているのか・・・
 もしそうならうれしいのだけれど、反面申し訳なくもある。
 彼女まで戦いに巻き込んでしまうのだから。

「うーん。わかったけど・・・なーんか納得いかないなぁ。あんまり難しいこと考えるの苦手なんだよね。」
「さやかちゃん。私のために祈ってくれるのはうれしいけど、魔法少女になるって本当に大変なんだよ?もしかしたらほんとに死んじゃうかもしれないんだよ?」

 お茶と、自作のケーキをもったまどかが、さやかに声をかけながら歩いてきた。
 今日も学校にはいかずケーキを作っていたようだ。念話で授業内容をリークして勉強も続けているし、夜は一緒に勉強もしている。学力的な面では問題がないが対人的にはどうかと思う。
 もっともまどかと会話できる人間が現状では実質私とさやかだけで、しかも席までないのだから学校へ行きたくなくなってしまうのも無理はない・・・
 掃除洗濯料理に手芸と手を出し、日中の時間を有効に使うまどかは僅かな日数でどんどんレベルを上げている。まどかの女子力が上がっていくのは見ていて楽しいのだけれど、同じ女性としてそれらで何一つ勝てないのはちょっぴり悔しいのは否めない。
 同時に現状のまどかがかつての私のように、閉塞された交遊関係に依存してしまうのではないかといささか心配になってくる。とはいえ、これこそ友達が、まどかとさやかしかいない私に言えたことではない。
 心に苦笑を浮かべ、さやかを見ると彼女はソファーに起き上がり、目をつぶり腕を組んで唸っていた。

「うん。それはわかってる。ほむらやマミさんが文字通り命がけで戦ってるのは見たし魔獣がぐろいし怖いのもわかった。でも・・・ね・・・」

 そう言って私の方をチラりと伺う彼女。

「そっか。さやかちゃんはほむらちゃんの力にもなってあげたいんだよね。」

 満面の笑顔で笑い、さやかと私の前にレアチーズケーキを置いていくまどか。
 まどかは時にこういう発言をさらっと言うから困る。頬が赤くなるのを自覚し、照れ隠しにさやかを見ると、彼女も顔を赤くして視線を逸らしていた。
 さやかと和解し友達に慣れたのは昨日の夜に話してある。彼女はそれこそわがことのように喜んでくれた。彼女自身もあれからお母さんと上手くいったようで、いつでも遊びに来てと言われている。わずかに寂しそうな彼女だったがそれでもやはり家族といられることはうれしいようで、今度の休みにでも遊びに行こうかなといっていた。
 私は週末は先生達と過ごす予定になっていたので、ちょうど良かったかもしれない。

 そんなことを考えていたら佐倉杏子から着信があった。

「何か用かしら?」
『用ってほどのもんでもないんだけどさぁ。マミのヤツが思ったよりやばいよ。』
「どういうこと?」
『一見落ち着いちゃいるんだけどね。今日も学校へは行ってたし、クラスの連中と昼飯一緒に食ったってさ。学校帰りにゃあたしまで呼び出されてクラスの新しいオトモダチとやらと一緒にゲーセン行くハメになったよ。』

 あえて自分から人付き合いを遠ざけていた彼女が、佐倉杏子も交えてとはいえ友人と一緒に遊びに行ったというのは良い傾向に見えるのだけれど。

「話を聞く限りではむしろ良い傾向に聞こえるのだけれど?」

 だが確かに帰ってきた言葉はあまり良いものではなかった。

『どうだろうね。1人で出歩くのが怖いっていって、学校の送迎はさせられるわ、一緒にいてって言われて家にまで泊まらされるわ。側にいてやるなんて言うもんじゃなかったよ、まったく。ま、もっともおかげであったかい飯に美味いケーキは食べ放題。おまけに屋根も布団もあるんだよとくりゃ、悪いことばっかでもないんだけどさぁ。』
「わかったわ。私も少し考えてみる事にするわ。何かあったら電話するからそれまでの間は悪いけれどフォローをお願いしてもいいかしら。」
『まあいいけどさぁ。出来るだけ早めに頼むよ。馴合いは好きじゃないんでね。』
「わかったわ。ありがとう、それじゃあ。」

 そして通話ボタンを切る。
 なるほど。確かに良い傾向ではなさそうだ。普通の少女として交遊関係を広げる気になったなら歓迎すべきだが、1人でいることが怖くてという事であれば彼女にとって良い影響とは言えない。
 佐倉杏子の信用を得るためにも、かつてのせめてもの恩返しにもなんとかしたいところだが、当然ながら私達のメンバーに彼女のカウンセリングの出来る人間などいない。
 
 どうしたものかと思い視線を巡らせると、ふとカレンダーの赤丸が目に入った。
 そうか、何もかも自分たちでやろうとする必要はない。全てを私がやろうとするから力が及ばないのだ。
 やはり、餅は餅屋。ここはプロにお願いしてみよう。そう思い、私は先日教わっていた番号に電話をする。  

『もしもーし。ほむらちゃんどうしたの?こんな時間に。』
「夜分遅くすいません。あの・・・先日看護婦さんから今週遊びに連れて行ってくれると伺ったので・・・もし良ければ私の友達と先輩も一緒に連れて行っても良いですか?」
『もっちろん!絶対に連れてきなさいよ!私も美咲も楽しみにしてるからね!』

 思わず私が驚くほどの勢いでまくし立てる先生にありがたさを感じながら、私は本題を切り出す。

「それで・・・一緒に連れて行く先輩なんですけど、先日事故に遭いかけてしまって、ものすごく落ち込んでいるんです。一時はパニック状態で・・・今は落ち着いてるんですが、1人暮らしの先輩なので・・・。もし良ければ、相談にのっていただけませんか?」
『そう・・・そういうことなら尚更ね。良いわ。美咲にも伝えておく。ただ、あんまり酷いようなら専門のカウンセラーさんに見せた方が良いわね。』
「はい。そう思います。ありがとうございます。いつも無理を言ってすいません。」
『良いのよ。そうやってなんでも謝っちゃうのは、ほむらちゃんの悪い癖よ。女は笑顔ってね。それじゃ、もう遅いし切るわね。おやすみほむらちゃん。』
「はい。お休みなさい、ありがとうございました先生。」

 通話が切れ、ほっとため息をつくとカレンダーの○を見る。ひそかに楽しみにしていただけに、自分の思惑を入れてしまった事が心残りだが、それでも楽しみな事には違いない。
 私は佐倉杏子に連絡し終えると、ソファーに向かい、ブランケットに身をくるみ、これからの成功を祈りながら眠りについた。





 週末、私は普段より気合いを少し気合いを入れて服を選ぶ。といっても、私はそこまで服をもっていないのだけど。
 まどかに見立ててもらいながら散々迷ったあげく、結局私は、白のインナーに紫のシャツと薄手の黒いジャケットに、白いミニスカートを合わせ、黒のストッキングとスニーカーでまとめることにした。
 さやかはジャンパースカートデニム風のジャンパースカートに、紺色のデニムジャケット。巴マミは黄色のニットのワンピース。佐倉杏子はライトグリーンのパーカーに黒のインナーとデニムのホットパンツ。
 ちなみに、まどかだけは車での移動という事を聞いて一緒に行動するのは難しいと判断し、鹿目家へタツヤ君と遊びにいっている。

 指定の駅前まで行くと、先生達が2人で立っていた。2人とも私を見つけるなり、手を振って合図をしてくれた。

「おはようございます。」
「おはよう。ほむらちゃん。今日はおめかししてきたわねー。紫って似合う子少ないんだけど、やっぱ美少女って得よねー。でも他の子もみんな随分レベル高いのね。」
「もう、ちょっと深雪。まずは挨拶が先でしょう。」
「あ、ごめんごめん。私がほむらちゃんの担当医の深雪先生よ。名字より名前で呼んで欲しいので名字は言いません。」
「もう・・・みんなこうなっちゃだめよ?全く深雪はすぐ悪のりするんだから。私は麻生美咲。ほむらちゃんの看護婦で、一応深雪の親友よ。よろしく。」

 そこからはしばらく私達全員の自己紹介をしつつ、看護婦さんの車で目的のショッピングモールへと向かう。自己紹介が終わるとさっそく助手席に座っていた先生が切り出した。

「ねぇ、あなた巴マミちゃん・・・だったわね。ほむらちゃんから聞いたんだけど、事故にあったんですって?」
「・・・え?」
「あれ、違った?」
「ごめんなさい。黙っていた方が良いかとも思ったんだけど、プロの人に相談してみたら何か変わるかもと思って。」

 意表を突かれ私の顔を見る巴マミに静かに頷きながら伝える。
 最初は初対面の人間に、自分の後輩の前で弱音を吐くのを迷っていた彼女だが、彼女にも私の意図することがわかったようで不安に揺れる瞳でぽつぽつと話し始めた。

「その・・・私・・・子供の頃事故で死にかけたことがあったんです。幸いそのときは助かったんですけど、それからずっと、なんだか自分の身体が自分の物じゃないみたいで・・・時々夢で見るんです。私の身体を誰かが動かしている・・・私は実はもうゾンビになっていていずれ消えてしまう・・・最近は見なかったんですけど、この前事故に遭いかけてからまた頻繁に見るようになってしまって・・・ごめんなさい、わけがわからないですよね。」
「ううん。そんなことはないわ。続けて?」
「・・・はい・・・事故は暁美さん達が助けてくれたおかげで無事だったんですけど、トラウマの事も含めて後輩に頼りっぱなしで、そのくせ八つ当たりまでしまった自分が嫌になって・・・今までは精一杯1人でなんとかやってきたつもりだったんですけど、一度死ぬのが怖いって思ったらもう外を1人で歩くのも怖くなってしまって・・・それまでボランティアみたいなこともしてたんですけど、それも手につかなくなって・・・すいません、支離滅裂で。」

 魔法少女の事をぼかして話す彼女の言葉を全員が黙って聞く。彼女の言葉はある意味全員共通の思いでもある。
 話が終わると、しばらく考え込んだ後、先生が切り出した。

「じゃあマミちゃんは、事故に遭って1人でいるのが怖くなっちゃって。それなのに心配してくれた友達に八つ当たりしちゃったり、自分の都合でボランティアの他の人達に迷惑をかけちゃったりしてる自分が嫌ってことであってるかしら。」

 少し考え込んだ後、彼女ははじめ首を横に振り、次に縦に振った。

「いいえ・・・はい・・・そうなのかも知れません。それともただ死ぬのが怖いだけなのかも・・・」

 混乱しているのか自分でも要領を得ない返答をする巴マミ。
確かに突然言われて急に整理された言葉を語れるものでもないだろう。
 それでも先生は決して急かさず、丁寧に彼女の相談に乗っていく。
 そして腕を組み少し考えた後、切り出した。

「なるほどねぇ。でもさ。死ぬのが怖いってそんなにかっこ悪いことかな?」
「え?」

 先生の言葉に僅かに顔を上げる巴マミに対し、先生は静かに続ける。

「循環器内科に来る人ってね、やっぱり強く死を意識してる人が多いの。いつどこで発作が起きるのかとか、そのとき誰もいなかったらどうなるのかとか。いやがおうにも向き合わないといけないからね。特に子供なんかは感受性が強いから尚更ね・・・」

 先生の言葉に自分自身の過去を思い出す。
 確かに先生の言うとおり、発作の最中、もう死にたいと思ったことも1度や2度では済まないし、反面死ぬのが怖いと思った事だって10や20では効かない。
 手術が成功してもう大丈夫といわれたときの、あの感動は今でも忘れられない。

「マミちゃんはボランティアをしてるって言ってたよね。それってなかなか出来ないことよ。死ぬのが怖いのなんか人間なんだから当然。それより、あなたがどういうボランティアをしてるのかはわからないけど、どうしてボランティアをしたいと思ったのか?それをゆっくり考えてみたらいいんじゃないかな。」

 先生はそこまで言うと助手席から振り向き、身を乗り出すと巴マミの頭を軽く撫でる。

「あとはお友達に迷惑をかけちゃったと思うなら素直に謝ること。今一番大事なのはそれだと私は思うよ。」
「・・・はい。」

 答える彼女の頭をぽんと叩くと先生は体勢を戻して一度前を向く。
 そして先生と看護婦さんは目を合わせ、腕を組み何度か頷くと、途端ににやりと笑いいやらしい目で私を見てきた。

「ねえ、さやかちゃん・・・だっけ。さやかちゃんから見てほむらちゃんてどんな子に見える?」
「え・・・?えっと・・・いつも颯爽としてて、でもぼろぼろになっても友達のために戦ってる強い子・・・かなぁ?あとちょっと不器用で意地っぱり?」

 突然話を振られたさやかが戸惑いながら答えると、先生達はもうひとつ頷いて話だした。

「なるほどねー。でもね。今でこそあんなにすました顔してるけど、ほむらちゃんだって、ちょっと前まで手術が怖い、寝るのが怖いって泣いてたんだから。美咲が手をつないで寝てあげたことだってあるんだし。ねぇ、ほむらちゃん?」
「あったあった。2年前だったっけ?」

 いきなり何を言い出すのか。否定もできない私はただ黙って俯き続けるしかない。
 だがそれを良いことに、彼女達はさらに続ける。

「手術が怖いってベッドから出てこない日もあったよね。勉強は苦手だったし、ちょっと叱るとすぐ涙ぐんじゃうし・・・」
「もう止めてくださいっ!!」

 あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして私は叫んでしまった。
 自分の過去を知る親兄弟が最大の敵だなんて何かの小説で読んだフレーズを思い出す。
 なるほど、これは確かに恐ろしい。
 だが、私が叫んでしまったことで先生達はますますにやにや笑いを深くし、今では口が裂けるよう。さやかと巴マミは驚きで固まっているし、佐倉杏子は良いネタを見つけたとばかりにニヤニヤ笑いを浮かべている・・・

「良いじゃない。ほんとのことなんだし。ほむらちゃんががんばって今友達に憧れてもらえるような素敵な女の子になれたって事の方が私は大事だと思うけど?」
「そうそう。だからね、今情けなくなって良いの。ほむらちゃんは見栄とか張る子じゃなかったから、こうなったのも何か理由があると思うけど、でも、あの泣き虫どじっ子がこんなに変わるって並大抵の事じゃ無いと思うわ。怖いときは誰かに頼っちゃえば良いの。一緒にいてでもいいし、私を守ってでも良い。マミちゃんみたいにきれいな子に、私を守ってなんて言われたら大抵の男の子は簡単に落ちちゃうんだから。だから強がらずに自然体で。焦らずゆっくり自分のペースで変わっていけばいい。大切なのはどんな自分になりたいかって言うのをしっかりイメージしながら生きていくことじゃないかな。」
「どんな自分になりたいか・・・?」

 看護婦さんの言葉に巴マミは問い返す。

「そう。みっともなくて当然。まだ中学生なんだからね。だから焦らずにゆっくり考えてみて。」
「そうそう。恥をかいて恥ずかしい!って笑ってられるのは子供の間だけなんだから。いっぱい失敗して、たっぷり恥をかきなさい。人間開き直っちゃえば結構なんとでもなるものよ。」
「はい。私少し考えてみます。いつまでもこのままじゃだめってわかってるんですけど、やっぱりそんなにすぐには割り切れないので。」
「よっし、素直でよろしい!」

 最後に先生が軽く巴マミの頭を叩くと、彼女は少しだけ照れくさそうに久々の微笑を浮かべた。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.36208987236