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ナデシコ食堂。
忙しいナデシコの職場の中でも、ここは特に忙しい場所。
200人近いクルーの料理を準備するには、人数が少なすぎる。
おまけに、夜間などには出前もやっているらしい。
ホウメイと、ホウメイガールズと、テンカワ・アキト。
その内、アシスタントではないのがホウメイとアキトのみ。
ホウメイは料理万能。
アキトは中華主体。
経費削減と言うものなのか、それとも急な出航で人手調達が間に合わなかったのかは不明。
現在ナデシコはサツキミドリ2号での補給を終え、航行中。
ここからは何もない、長い長い旅になる。
今は昼時。
大抵の人間が、昼食を取るためにナデシコ食堂に集まる。
繁盛しているらしく、席のほとんどが埋まっていた。
とは言え、幾ら儲かってもホウメイたちの給料は一緒らしいが。
沢山の人が昼食を取っている中、ルリは適当に端っこの空いていた席に腰掛けた。
ここで食事を取るのは久し振りだ。
出航してからと言うもの、トラブルに次ぐトラブル。
たまに来た時もあるのだが、夜間のためにホウメイがちょうど抜けていたこともある。
アキトの料理でもいいのだが、まだチャーハンなどのご飯類しか任されていないとのこと。
それに中華では、ルリはまだラーメンしか食べたことがない。
忙しさも手伝ってか、ジャンクフードが中心の食生活に戻りつつあった。
約束。
しっかり約束を守るために、しっかり食べなければ。

「ルリルリ、一人?」

ミナトが隣に立っていた。
「はい。そうです」
「そっか。隣いい?」
「どうぞ」

元々大きいテーブル。
小さいルリだけが使うのでは、スペースが余分。
ミナトは席に座った。

「いっつも仲良さそうだから、一緒だと思ったんだけどなぁ」
「……アキは、部屋で食事を取りますから」
「あら、アキさんとは言ってないわよ?」

ミナトは、にこにこ。
からかわれるのにも耐性がついてきた。
ルリは、動じない。

「他に、思い当たる人もいません」
「ふーん、私とルリルリは仲良くないのかな?」

ミナトは、ルリの頬をつつく。
そのままミナトの方を見る。

「……仲、良いんでしょうか?」
「うん。ルリルリは私のこと嫌い?」
「いえ、そんなことは」
「私もよ。ほら、仲良しよね?」

ルリが頷くと、ミナトは頭を撫でた。
仲が良い。
アキと自分は客観的に見て、仲良く見えるのだろうかと考えた。
一緒にいる機会も、話すことも多いので、仲が良いというのは当てはまる。
ただ、今のミナトとのように確認はとっていない。
今度、アキに聞いてみよう。

「おや、ルリ坊かい?」

ルリがミナトと話していると、白いコック服の女性が厨房から歩いてきた。
ホウメイだ。

「あんまり来ないから心配してたんだよ?」
「すみません、ホウメイさん」

ぺこりと頭を下げる。

「ルリルリ、ご飯どうしてたの?」
「自販機で買ってました」
「ダメじゃない。育ち盛りなんだから、ちゃんとしたもの食べなきゃ」

やっぱり、そう言うものなのだろうか。
ルリは、頷く。

「はい。前にも言われました」
「誰から?」
「…………アキです」
「…………良い人ねぇ、アキさん」

うんうんと、腕を組んで頷くミナト。
言っては悪いが艦長みたいだと思った。

「それで、注文は?」

いつも注文はホウメイガールズが取るのだが、今日はホウメイが取るようだ。

「ラーメン一つ、お願いします」
「あ、私はナデシコ定食で」
「あいよ。ちょっと待ってな、急いで作ってくるからね」

別に急がなくても、いいと思う。
ルリは厨房に戻っていく変なホウメイに首を傾げる。
普段でも十分は掛かるのに、更に急いだら何分で仕上がるのか分からない。
暇な時間。
ルリは数日前のことを思い出す。
アキは、失明以外を除けば健康体だと思っていた。
頭を押さえて、顔を苦痛に歪めるアキ。
痛みから、壁を殴りつけるアキ。
バイザーに隠れていない部分に浮かぶ、薄い光。
持病、と言っていた。
あんな病気があるのだろうか。
アキは、何かを隠している。
もしかしたら、死に至るような病気だったなら、すぐに治療しないと危ないのかも知れない。
アキが、『薬がある』と言う嘘までついて隠したい事。
ルリは病気、医療について詳しくない。
調べて見たが、該当する症状の病気は見つからなかった。
唯一、近かった症状が…………。
ルリは、自分の手の甲を見る。
IFS紋様のナノマシンによる、独特の光。
ルリの場合、コンピュータとのリンクが上手くいけば髪が光ることがある。
アキの顔の光は、それに酷似していた。
パイロットの体内に存在するナノマシン量は、ルリよりもずっと少ない。
投与できるナノマシン規定量は、軍や政府で定められている。
ルリのような特殊な事情がない限り、規定量以上のナノマシンが体内に存在することは有り得ない。
それに痛みがあると言うことは、制御仕切れていないと言うことだ。
違法投与。
それならば、ルリのような遺伝子調整されておらず、何らかの違法実験によって注射されたと仮説を立てられる。
アキは、いったい過去に何があったのだろう。
酷い目に、遭ったのだろうか。
まだ、教えてはくれない。
なら、自力で調べるしかないのだが。
「どうしたの?難しい顔して」

思考から引き戻される。
ミナトがルリの顔を覗き込んでいた。
望みは薄いが、聞いてみよう。

「ミナトさんは、アキのこと何か知りませんか?」
「え……私!?ルリルリの方が詳しいんじゃないの?」
「……いえ、私も付き合いが長い程度で、詳しいことは何も」
「へぇ、そうなの」

やっぱり、ナデシコの人間がアキを知っている筈がない。
誰一人、アキの過去を知っている人などいない。
アキは、ナデシコのクルーとの接触を避けているように思える。
何か重要な出来事でない場合は、ほとんど自室を出てこない。
過去を持たない人間などいない。
ルリならば、簡単に検索できる。
だが、アキは完璧に過去のデータが存在しない。
知っている人物がいるとすれば、ナデシコの優秀なAIが唯一何かを知っていると睨んでいる。

「でもさぁ」

ミナトが、呟く。

「アキさん、ルリルリのことを大事に思ってくれてるんでしょ?それなら、少しの間待ってあげたら?」
「……待つ?」
「そう。男の子って不器用だから変に気を遣ったり、心配かけないように無理しちゃったりするのよ。逆に心配しちゃうのにね」

微笑み、ルリの頬をつつくミナト。
アキは、いつか話してくれると言った。
信用していない訳ではないが、ルリは先日の出来事から焦燥感にかられる。
手遅れになってからでは、遅いのだ。

「でも……時間が、ないかも知れないんです」
「え?」

詳しくは、話せない。
アキが隠していたいことを、言うことはできない。
黙ってしまったルリの頭を、優しい手が撫でた。

「……そっか。なら、待てないわね」
「……はい」
「よし!ミナトおねーさんにまっかせなさい!」
「は?」

ガッツポーズ。
ルリは目を丸くする。

「聞き出すしかないんでしょう?実力行使でも何でも、私が手伝ってあげる。二人なら、何とかなるわよ」

根拠のない自信。
根拠はなくても、ルリは嬉しかった。
もしかしたら、知るとマズいことなのかも知れない。
それでも、ルリは知りたかった。
アキの過去。
何としても、知らなくてはならない。

「……ありがとうございます」
「いいのいいの。すぐに何とかって訳にはいかないけど、手伝えることなら手伝うから」

ルリはこくん、と頷いた。
具体的に人が集まってどうこうとはならないが、相談できる人がいてくれるのは心強い。

「はい、ラーメンとナデシコ定食お待ち」

いつの間にか、ホウメイが料理を運んで来ていた。
テーブルに置かれた丼からは、モクモクと湯気が立ち上っている。
目の前にあるのは、ラーメン。
確かにラーメンだけれども、何だか量が多いようなに見えるのは、ルリの目がおかしいのだろうか。
二人前くらいに、見える。

「えっと……ルリルリ、そんなに食べるの?」

食べれるか食べれないかで言われれば、消費するカロリーを考慮しても、妥当な量だと言える。
だが、あまり食べないように見せているルリとしては、かなり不本意。
ルリは、ホウメイを見上げる。

「……ホウメイさん。これ、大盛ですよね?」
「ん?ああ、サービスみたいなもんだよ。ちっちゃいのに頑張ってるからね」

視線を、逸らした。
怪しい。
不自然な口笛まで吹いている。
この艦には隠し事のできない男性が一人乗っているが、彼女もそう言った人間らしい。

「ホウメイさん……誰かから、何か、聞きましたね?」
「あ、あたしゃ、何にも知らないよ。さぁ、仕事仕事!ルリ坊もちゃんと今度から食堂くるんだよ?」

気迫に押され、逃げるように厨房に戻るホウメイ。
どうも様子がおかしいと思ってはいたが、これを狙っていたらしい。
ルリは、割り箸を割った。
出された物を食べないのは、勿体ない。

「大丈夫?私も半分食べようか?」
「大丈夫です。食べられます」
「ほ、ほんと?それならいいんだけど……これ、嫌がらせか何かかしら」

嫌がらせだとしたら、ルリをあまり知らない人物の仕業だろう。
わざわざ量を増やしても、ルリが残せばそれで終わってしまう。
ルリは、機械的にラーメンを租借し続ける。
ホウメイに何らかの情報を流すことのできる、明らかに確信犯の仕業。
犯人に利益など何もない割には、かなり手の込んでいる。
ルリの、秘密。
それを知っている人物が犯人だ。
一人だけ、心当たりがあった。

「……そうですか、そう言うことをやりますか。それなら、私にも考えがあります」
「ル、ルリルリ?」

食べながらも、ひたすらに黒いオーラを放つルリ。
ミナトの声は裏返っていた。
ルリは、仕掛け人のことを考える。
非常に、回りくどい。
ホウメイには口止めをして、自分は無関係を装って自室に隠っているのだろう。
自分のことは棚に上げて、人の食生活を強制改善するつもりのようだ。
自分のことは何も言わないのに、ルリのことはほぼ全てを知っている。
ひねくれ者。
あの人は、ひねくれ者だ。
とても、理不尽。
ルリの中でふつふつと、納得がいかない感情が込み上げてきた。
お節介とは言わないが、他人の心配をする前にやることがあるだろうと言いたくなる。
正体が何だとかは、ひとまず置いておく。
ルリは、ミナトに視線を向ける。
ミナトは、ビクッとしていた。

「……ミナトさん」
「な、なぁに?」
「早速ですが、手伝ってほしいことがあります」

急いで、食べる。
早々に食事を終えたルリは、同じ食べ終えたミナトを連れて、食堂を出ていった。

『アキ。ご愁傷様』

ルリとミナトが座っていたテーブルに、一枚のウィンドウが表示された。
哀悼の意を理解できる分、ナデシコのAIは優秀らしい。
責任を感じたのか、食器を下げに来たホウメイがそれを見つける。

「……あんたもお友達も、大変だねぇ」
『……うん』

心配で見に来ていただけだったオモイカネは、変なところで励まされていた。









「あ、アキさん。こんにちは〜」

食糧調達のために自販機に向かっていたアキは、能天気な声に歩みを止めた。
食糧と言うのは、カロリービスケット。
買いだめして置いた分が、ちょうど昨日で切れた。
出航時にまとめてプロスに頼んだつもりだったが、計算が甘かったらしい。
気分転換も兼ねて外に出たアキだが、珍しい人物に出会ってしまった。

「艦長。テンカワと一緒じゃないのか?」

ユリカと一人でばったり出会うことは、あまりに少ない。
一種のカリスマか、テンカワ・アキトに対するストーカー紛いの行為のせいか、必ず誰かと一緒の印象がある。

「はい!これからお昼なので、アキトに会いにいこっかな〜、って思いまして!アキさんこそ、今日は普通の格好ですね?」

普通。
理解してはいるのだが、いつもの格好は異常だと言うことだろうか。
今のアキの格好は黒いワイシャツに黒いズボン、黒手袋。
それにいつものバイザーと杖をプラスした格好。
全部ナデシコ内の売店から、適当にプロスが食糧と一緒に持って来たものだ。
さすがに、部屋でもあの格好でいる訳ではない。
時には、洗濯もしなければならない。
ちょっと買いに行って、すぐに戻る予定だった。
誰にも会うことはないと思ったのが、間違いだったらしい。

「……まぁ、そうだな」
「うん、そっちの方がず〜っと似合います!アキさんも食事ですか?」
「……ああ」

はっきり言って、苦手だ。
アキは、小さく溜め息を吐く。
当然、ユリカは気付かない。
ミスマル・ユリカは、違うと分かっていても『ユリカ』の面影を持っている。
いつも明るくて、いつも溌剌。
天真爛漫が似合う女性、だった。
アキにとってはもう会えない、家族にとても良く似ている女性。
あまり、会いたくはない。
会えば、過去を思い出してしまう。

「楽しみですね。なに食べよっかな〜」
「……俺は、そこまで買い出しだ」
「え〜、食堂で食べた方がおいしいですよ!」
「昔から味音痴でな……料理には、興味がない」

誤魔化しは、誰に対するものだろう。
ユリカに誤魔化しているのか、アキ自身に誤魔化しているのか。
あの日以来、ずっと料理を避けてきた。
食べるのも、作るのも。
これから一生、それだけは変わらない。
ユリカは「もったいないなぁ」と腕を組んでぷんぷんしていた。
ミスマル・ユリカ、二十歳。
アキは、何故か自分が情けなくなった。
ユリカと歩いて、自販機に着く。
あとは、買う物を買って帰るだけ。
そこで、アキは根本的なミスに気が付く。

「……艦長」
「ふえ?何ですか?」

話し掛けられると思っていなかったのか、間抜けな声が出た。

「すまない……どれか、見てくれないか?」

ナデシコの自販機で、食糧を買ったことがなかった。
もちろん、買ったことがない物の内容も覚えていない。
ユリカは、アキが目が見えないことに合点がいったのか、ポンっと手を叩いた。

「いいですよ。どれですか?」
「カロリービスケットを頼む」
「うえ〜」

言った瞬間、ユリカはまた変な声を出す。

「どうした?」
「学校で食べたことありますけど……あれ、すっごくまっずいですよ!?」
「……だから、味音痴だと言っているだろう」

しぶしぶながらもユリカはボタンを押し、アキに注文の品を手渡した。
取りあえず、一つあれば今日明日は持つ。
あとは、プロスにまた注文しよう。

「ありがとう」
「困った時は、お互いさまです。私なんか、いつもアキさんに手伝ってもらってばっかりですから」
「……手伝う?」
「あはは。私の指揮けっこうむちゃくちゃで、お父様にも良く型破りって言われたんです。パイロットさんたちに無理言って頼り過ぎてたり……正直なところ、主力のアキさんがいなかったら、ここに来る前にやられちゃってたのかな〜って思って……」

いつになく、弱気のようだ。
ユリカなりに今まで考えることもあり、改善したいと悩んだこともあるのだろう。
悩むのは、大いに結構。
だが落ち込むのは、似合わない。
らしくは、ない。
アキは、苦笑してユリカの方を向いた。

「艦長が、そんな弱気でどうする」
「え、あ、そうですよね。もっと私が頑張って、パイロットさんたちにも無理させないようにして、みんなで無事に火星に……」
「大丈夫だ」
「へ?」

ユリカは、目を丸くしていることだろう。
アキには、見えないが長い付き合いだった。
分かることもある。

「ナデシコも、艦長も、今のままで大丈夫だ。俺がいなくても、ナデシコはここまで無事に来れた。俺がいなくても、無事に火星に辿り着ける。保証しよう」
「そんな……。アキさんが頑張ってくれたから」
「ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカ!」
「は、はいっ!」

アキの号令に、思わずユリカは敬礼した。
連合大学は軍学校。
号令敬礼は、条件反射みたいなもの。
軍上がりは大抵同じ反応を見せる。

「堂々と強気でいけ。私らしく、だろ?」
「あ…………」

思い出した、ようだ。
彼女が、忘れてはいけない言葉。
どんな時も、私らしく。
終戦まで、そして終戦後も、彼女はこの言葉を忘れたことはなかった。
あとは、アキにできることはない。
来た道を、振り返る。

「あ、あの、ありがとうございました!」
「……何のことだ」
「励ましてもらって……それに私、私らしく、なくなってました!私は、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカです!火星にもいけます、火星の人たちも、みんなみ〜んな助けて見せます!心配ご無用です!」

最後にぶいっ、と声がした。
良しとばかりに頷くと、アキは無言のまま歩き出す。
本来の目的は終了。
ユリカも、元に戻ったようだ。
途中、多少のアクシデントはあったが、もう今日はするべきことはない。

「あーーーーーッ!」

自室でトレーニングでもしようかと考えていたアキの頭を、怪音波が駆け抜けて行った。
確認するまでもない、ユリカだ。
今度はどうしたのかと、アキは足を止めて振り返る。

「ア、アキさんですよね?」
「……そうだが?」

改めてどうしたと言うのか。
アキは首を傾げる。
そわそわそわそわ。
そんな擬音が聞こえるような。

「アキさん…………ごめんなさい!リョーコちゃん、アキさん見つけたよ〜!」
『でかした、艦長!クロ助、今度こそそこを動くなよ!逃がさねーぞ!』

はめられた。
寄りにもよって、ユリカに。
さっきまでの真面目な雰囲気はなんだったのか。

「……艦長」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!だって、リョーコちゃんが見つけてくれたら、ホウメイさんの特製パフェ奢ってくれるって……」

そんなしょうもない理由でアキを売ったらしい。
アキは、パフェで買収できるならいくらでもくれてやる、と言った気持ちでいっぱいだった。
しかし、見つかった今では遅い。
リョーコがコミュニケを介して通信していると言うことは、まだ近くにはいないと言うことだ。
急いで部屋に戻って鍵をかければ、まだ間に合う。

「……悪いが、俺は逃げさせてもらう」
「は〜い!すと〜っぷ!どこ行くのかな、お兄様?」

声は、アキの背後からした。
声の主は、ヒカル。
仲間内で包囲していたらしい。
気配を悟れなかったのは、気を抜いていたからだと信じたい。

「……誰がお兄様だ」
「ほらほら、アキさんとかじゃありきたりだし、愛称ってことで……って、あれれ〜?」

ガシッと、アキはヒカルに肩を掴まれた状態で会話を続ける。
逃げられない。
完璧な作戦負けだ。
連日、自室の扉を叩く音があったのに、不用意に部屋からでたのがマズかった。

「なんだ?」
「ん〜ん。ただ普通の服着ると、案外お兄様男前だね〜♪」
「うんうん!ヒカルちゃんもそう思うよね?絶対その格好の方が似合うと思うんだけどな〜」
「……放っておけ。それと、お兄様はやめろ」

ファッション談義に花を咲かせるのはいいが、人を挟んでやらないでほしい。
脱出は、すでに諦めた。
目の前の通路から、どたどたと何かが走ってくる音が聞こえた時点で。

「はぁ……はぁ……。やっと見つけ……って誰だ、てめぇは!?」
「うおっ、いつものヒーロー服はどうしたアキッ!?俺も密かに作っていたと言うのに……張り合いがなくなるだろっ!」

酷く、失礼な連中が加わった。
そんなにいつも格好が異常だと言うのか。
そもそもヒーロー服ではないし、張り合われても困る。
アキはされるがまま、リョーコとヤマダに両腕を掴まれて、背後をヒカルに押され、ずるずる連行されていく。

「は〜い、お兄様一名ご招待〜♪」
「あ?なんだお兄様って、クロ助のことか?」
「うん!コスプレ仲間だからお兄様!」
「おおっ!なら今度三人でやろうぜ!」
「違う。離せ、俺は部屋に……」

ずるずるずるずる。
声は遠ざかって、聞こえなくなった。
ユリカは「いってらっしゃ〜い」と手を振る。
やがて、満足するまで手を振って、一人残っていても仕方がないと食堂に向かうことにした。
ふと、気が付く。

「あれ私、アキさんに言ったっけ……私らしくのこと、何でわかったんだろ」

出航の際、ユリカはトビウメで『ナデシコは、私が私らしくあれる場所』と言った。
だが、その時ナデシコやパイロットには声は届いていなかった。
ちょっとした疑問。
励まされた時に聞いて置けばよかったと、ユリカは思う。
むむっ、としばらくその場で考えたあとに、ユリカは空腹から考えるのを放棄して走り出した。




あとがき。

ユリカ〜放棄するなよ〜〜。

ん…よし、調子が戻った。

はてさて、ついに十五話ですか。

長いようで短い間にここまで…賞賛の言葉を送りたいです。

ついにアキが捕まりましたか…ナデシコのパイロットをぼっこぼこにするのかはてさて。

ルリもなんか腹黒いなぁ…純粋なのに。

アキにも素晴らしい愛称がまた1つついたことで、この話もコスプレブーム到来の話に…え?ならない?だよね。



では。次回楽しみに待ってます。
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