(cache) 『光のほうへ』 リアルでシンプルな肌触り - 47NEWS(よんななニュース)
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  • 『光のほうへ』 リアルでシンプルな肌触り 


     

     かつてデンマークで「ドグマ95」という映画運動があった。例えばカメラは手持ちでとか、セットは使わないとか、禁欲主義に徹したシンプルな映画作りの提唱だった。ヴィンターベア監督はその旗手の1人で、本作もドグマの延長線上にある。厳密には相当に作り込まれた似て非なる作風なのだが、リアルでシンプルな肌触りが作品全体を貫いている。

     約2時間の上映を通して世界観を統一させるのは、簡単ではない。だが、もしその監督が、物語あるいは物語の背後にあるテーマを伝えたければ、最も有用な方法だろう。世界観が強まれば、観客は物語に埋没しやすくなるから。

     幼い兄弟が、生まれたばかりの弟の死に直面するところから物語は始まる。アルコール依存症の母親の代わりに彼らが弟の世話をしていたのだ。トラウマを背負って大人になった2人の、もがきながら生きる姿が描かれるが、2人の今をカットバックで交互に見せるのではなく、2部構成に近いシンプルな展開になっている。

     子供を育てるとはどういうことか、嫌でも考えさせられる映画だ。まともに育てられなかった子は、自分が大人になっても同じ過ちを繰り返す。だがその悪循環は、世代を超えて永遠に続くものとは限らない。そんな作り手のメッセージが、これほど我々の心に響くのは、シンプルさが生んだ強固な世界観の賜物だろう。★★★★☆(外山真也)

     【データ】

    監督:トマス・ヴィンターベア

    出演:ヤコブ・セーダーグレン、ペーター・プラウボー

    6月4日(土)から全国順次公開

      【共同通信】