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発信箱:「脱原発」報道の読み方=伊藤智永

 スイスの「脱原発」宣言は、高原の緑風にも似たさわやかな英断と映った。実現の当てはなくても、いち早く崇高な理想を掲げるのは、いかにもこの国らしい。

 チェルノブイリ原発事故の後にも、スイスは印象的な政策を打ち出した。90年に国民投票で、原発新規建設の10年凍結を決めたのだ。実は同じ投票で「脱原発」提案は否決された。「ともかく10年間、立ち止まって考えてみよう」としたわけだ。

 10年たった。凍結期間が明けた01年、政府は満を持して新エネルギー政策を発表。03年に「新たな原発建設は国民投票にかける」という改正原子力法案を示して国民投票に臨み、「反原発」派の「凍結の10年再延長」「原発5基の順次閉鎖」という提案をどちらも否決に追い込んだ。

 05年に改正法が発効し、原子力開発を再開。07年には「35年までのエネルギー需給見通し」を発表して、既存の原発を20年までに更新・拡充する計画に乗り出し、現在3基について手続きが進んでいた。

 この10年、2年刻みで着々と原発先進国へまい進してきたことが分かる。何のことはない、凍結中の10年を、推進派は周到な準備に費やし、反対派は持論を広げられずに立ち止まっていたことになる。

 新しい政策は、稼働中の5基を19~34年に順次廃止するという。最後は23年先、チェルノブイリ後の25年とほぼ同じ歳月だ。裏読みすれば、その間は今の原発を使い続けるという開き直りでもある。これが本当に「脱原発」と言えるのかは、ひとえにこれからの過ごし方によるだろう。

 ちなみにスイスは、広島・長崎への原爆投下を見て、ひそかに核武装を決意。平和目的でウランを入手し、冷戦終結期まで43年間、秘密裏に開発を続け、核兵器保有寸前だった歴史を持つ。(ジュネーブ支局)

毎日新聞 2011年5月31日 0時06分

 

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