未曽有の危機に立ち向かうため、政治が総力を結集すべき局面なのに、与野党が対決姿勢を強め、あろうことか与党内でも分裂の様相を深めている。
あらためて、力説しておきたい。この期に及んで国民不在の政争を繰り広げれば、それこそ「人災」である、と。
主要国首脳会議を終えて帰国した菅直人首相を待ち受けていたのは、与野党入り乱れての退陣要求だった。
自民、公明両党はきのう、菅首相の退陣を求めて内閣不信任決議案を週内にも衆院へ提出する方針を確認した。
もし可決されれば、首相は衆院解散か、内閣総辞職かの二者択一を迫られる。
民主党は衆院で300議席を上回る圧倒的な多数を占めており、本来であれば不信任案を一蹴できるはずだ。
ところが、首相退陣論は民主党内からも噴き出している。小沢一郎元代表を支持するグループが事実上、不信任案への同調を求める署名集めを展開しており、仮に民主党から80人規模で不信任決議案に賛成する「造反議員」が出れば、可決される公算さえ取りざたされている。
自ら押し立てた党代表の首相を、とにかく引きずり降ろそう。そんな動きである。異様な光景というほかない。
民主党は役員会で、不信任決議案に賛成や欠席など同調者が出た場合は「厳正に対処する」として、除名など厳しい処分を下すと決めた。
民主党の幹部は、万が一でも不信任決議案が可決されれば、衆院の解散・総選挙を首相に進言すると発言している。
「造反」をけん制する狙いなのだろうが、まだ不信任決議案は国会に提出も採決もされていない。それなのに「造反」を前提に処分の方針を固め、可決された場合も想定して、衆院解散にまで言及する。これまた尋常ではない。
自民党など野党と民主党内の一部で声高に唱えられる首相退陣論が著しく説得力を欠くのは、首尾よく首相の首をすげ替えたとして、その後に誰がリーダーとなり、どんな内閣や政権をつくるかという展望がまったくないことだ。
政権公約(マニフェスト)のばらまき撤回を強硬に主張する自民党が、その政権公約への「原点回帰」を唱える民主党内の勢力の「造反」を当て込むような永田町の力学も、国民には理解し難い。
もちろん、内閣支持率の低迷が象徴するように十分な国民の理解と支持を得られないまま、野党だけでなく、与党からも退陣要求を突きつけられている菅首相の政治姿勢は厳しく問われよう。
第2次補正予算案の提出を次の臨時国会へ先送りしようとしたり、通常国会の会期を延長しないで早々に閉じようとしたりと、やることなすことが「政権延命のためではないか」と批判され、立ち往生している。
不毛な政争を排して、大震災からの復旧と復興に政治が全力で取り組む。首相がその先頭に立てるかどうかである。
=2011/05/31付 西日本新聞朝刊=