パントマイムの名手で、俳優、劇作家として活躍した芸人マルセ太郎さん(1933〜2001年)の没後10年に合わせ、芸や人柄を文章と映像で紹介する「マルセ太郎読本」が完成した。毎年、偲ぶ会を企画する神戸芝居カーニバル実行委員会(神戸市中央区)のメンバーでつくる刊行委員会が出版。放送作家永六輔さん、キャスター古舘伊知郎さん、作家宮本輝さんや遺族ら、ゆかりの15人によるエッセー、対談などを収めている。
在日朝鮮人2世として大阪市生野区に生まれたマルセさん。1954年に上京し、フランスのパントマイム役者マルセル・マルソーに魅せられた。57年、日劇ミュージックホールでデビュー。85年、映画「泥の河」全編を語って演じる「スクリーンのない映画館」で評判を呼んだ。肝臓がんのため、67歳で他界した。
本はA5判、210ページで2500部発行。お笑い芸を収めたDVDや2演目の録音テープを活字化した文も盛り込んだ。宮本輝さんや舞踏家田中泯さんとの対談では、ストリップ劇場を巡って堅いネタを演じて人気だったことや、色紙に「記憶は弱者に在り」と書いた逸話などが披露される。
評論家の木津川計さんは「“人間模写”に迫真の演技を見せた」と回想。次男の金竜介さんは「父はよく『2世は隠すことができる。それがつらい』と言っていた」と語る。
編集を担当し、マルセさんの亡くなる前日に病院を見舞った経験を執筆した中島淳さん(71)は「迎合せず、市民の目線を貫いたマルセ太郎という人間の本物さは、今も多くの人の心に強烈に残っている。身近に感じるきっかけにしてほしい」と話している。
かもがわ出版、2310円。全国の書店で発売中。同実行委TEL090・1914・4907
(大月美佳)
(2011/05/30 09:15)
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