自民党など野党が菅内閣に対する内閣不信任決議案を今週後半から来週にかけて提出する見通しが強まってきた。可決されればもちろん、否決されても民主党が分裂含みの状況になるのは確実で、政治は深刻な混乱に陥ることになる。
東日本大震災の発生以来、私たちは与野党が協力態勢を作って難局に臨むよう求めてきた。だが、現実にはますます、それとかけ離れた状態に向かっている。極めて残念だ。
無論、菅直人首相の責任は大きい。東京電力福島第1原発の事故は依然として収拾のめどが立たない。先の「海水注入中断」をめぐる混乱は東電だけでなく政府の対応にも重大な疑問を抱かせた。被災地での仮設住宅建設も立ち遅れている。
しかし今、内閣不信任案を出すべき時期なのか。最も疑問なのは自民党の谷垣禎一総裁らは「一日も早く退陣を」と主張するものの、代わって誰が首相に就き、どんな政権ができれば震災対応がうまくいくのか、まったく説明しないことだ。この非常時に「可決された後で考える」では、やはり無責任であろう。
不信任案は民主党の小沢一郎元代表を中心とするグループなど同党衆院議員八十数人が賛成すれば可決される。自民党はそれを期待する一方で、その後、小沢元代表のグループと連携する考えもないという。
結局、民主党の混乱を誘えばそれでいいというのだろうか。早く提出しないと「谷垣氏は決断力がない」と自民党内の批判が高まるという声も聞く。だとすれば一体、誰のために不信任案を出すのだろう。
小沢元代表のグループも同様に「ポスト菅」の展望を示さない。不満や批判より先に震災対応で具体的な知恵を出すのが与党議員の仕事のはずだ。それでも自ら与党として選んだ首相を国会の場で否定するというのなら離党するのが筋だろう。そこまでの覚悟があるのかどうかも、よく分からない。
仮に不信任案が可決された場合、今の被災地の状況を考えれば、菅首相が衆院解散・総選挙の道を選ぶのは難しいと思われる。だが、総辞職を選択したとしても新首相選びには相当な時間がかかり、政治空白は避けられないのではなかろうか。
否決された場合はどうか。野党は今度は参院で首相に対する問責決議案提出を目指すともいわれる。問責可決となれば自民党は審議拒否戦術に出るかもしれない。これもまた国会は何も決められない状況になる。
政局にかまけている場合ではない。今は国会あげて震災対応に専念すべきだと重ねて指摘しておく。首相も与野党も何が被災者のためになるのか、見つめ直してもらいたい。
毎日新聞 2011年5月31日 2時32分