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【発明の名称】 |
万年筆 |
【発明者】 |
【氏名】外 川 照 雄 |
【課題】首部を汚すことなくインクの吸入を行なうことができ、また、衝撃が与えられたときのインクの飛散を抑える万年筆を提供すること。
【解決手段】インク溜め部4を持ち、ペン軸の首部1aより突出してペン先を支持しているペン芯3の先端部の中央部分に、軸心に沿って延びる貫通孔6を設けてペン芯の中途まで達せしめ、その後はペン芯のインク溜め部下方の空気逃げ溝5と連結させ、インク溜め部の空気を逃がす際の外部への排出路とするとともに、軸内部のインク貯蔵部より手動でインク瓶中よりインクを吸入する際の吸入口とした。インク吸入時、首部をインクの中に没入せず、前記ペン芯の先端に開いた吸入孔部のみをインク中に浸すことにより、インクを吸入することができ、首部を汚すことなく吸入操作を行なうことができる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 内外圧の変化に応じてインク貯蔵部のインクを一時的に溜めるインク溜め部を持つペン芯によりペン先を支え、ペン軸の首部内部に圧入固定し、首部に連結したインクタンクには手動にてピストン等を動かして内部減圧を作ることによるインク吸入を行なう万年筆において、前記ペン芯の前部中心部に小孔を設けてペン芯下部の空気逃げ溝と連結させ、他端は、ペン芯外部へ開放しインク貯蔵部に開口するペン芯後部の空気逃げ溝を複数個設け、且つこの空気逃げ溝と空気逃げ溝を隔離する中間障壁をペン芯後部に設けた万年筆。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は筆記具としての万年筆、特に首部を汚すことなくインクの吸入を行なうことができる万年筆に関するものである。 【0002】 【従来の技術】一般に、従来から使用されている一枚万年筆(ペン先部片が1枚の金属板で作られているもの)では、ペン先部片を含めて万年筆の首部をインク瓶に入れられたインク中に没入させて吸入するのが普通である。このような従来の万年筆は、ペン先部片と、ペン先部片を支持するペン芯と、ペン芯を圧入固定することにより支持する首部を有し、首部の後方(すなわち基端側)はペン軸部となっていてその内部にはインク貯蔵部が設けられている。また、ペン芯の上部すなわちペン先部片に接する部分には、ペン先からインク貯蔵部まで延びて設けられインクの通路となるインク溝と、インク溝とは別に、同じくペン先からインク貯蔵部まで延びて設けられ空気の通路となる空気逃げ溝とが設けられている。インク溝と空気逃げ溝とは、インク溝よりも空気逃げ溝の方がいくぶん大径に形成してあり、また、空気逃げ溝は通常1本乃至2本設けられている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の万年筆にあっては、当該万年筆のインク吸入操作によって吸入されたインクは、ペン先から上記インク溝或いは空気逃げ溝を通ってインク貯蔵部へ流入する。このとき、上記インク溝および空気逃げ溝が充分な断面積を有しているとインクの吸入速度が遅くなり、インクの吸入に時間がかかるか、またはインク吸入量が充分でない虞が生じる。また、上記インク溝および空気逃げ溝の断面積を単純に大きくすると、筆記時にインクの流出量が不安定となり、インクの出過ぎ、または息つき(空気がインク溝の方からも入ろうとしてインクの出具合を悪くすること)などの不具合を生じる。また、ペン先を下に向けてわずかな衝撃を与えられたり、キャップの取り外し時の減圧によりインク貯蔵部よりインクがあふれ出し、ペン先部にインクが大量に移動しペン先外にインクが飛び散る等の虞があった。 【0004】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、首部を汚すことなくインクの吸入を行なうことができ、しかも書記時においてインクの出具合を円滑にし、また、キャップの着脱時や落下時における衝撃が与えられたときのインクの飛散を抑えることができる万年筆を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、インク溜め部を持ち、ペン軸の首部より突出してペン先を支持しているペン芯の先端部の中央部分に、軸心に沿って延びる貫通孔を設けてペン芯の中途まで達せしめ、その後はペン芯のインク溜め部下方の空気逃げ溝と連結させ、インク溜め部の空気を逃がす際の外部への排出路とするとともに、軸内部のインクタンクより手動でインク瓶中よりインクを吸入する際の吸入口とすることを要旨とするものである。 【0006】この構成によれば、インク吸入時、首部をインクの中に没入せず、前記ペン芯の先端に開いた吸入孔部のみをインク中に浸すことにより、インクを吸入することができ、首部を汚すことなく吸入操作を行なうことができる。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明の請求項1に記載の発明は、内外圧の変化に応じてインク貯蔵部のインクを一時的に溜めるインク溜め部を持つペン芯によりペン先を支え、ペン軸の首部内部に圧入固定し、首部に連結したインクタンクには手動にてピストン等を動かして内部減圧を作ることによるインク吸入を行なう万年筆において、前記ペン芯の前部中心部に小孔を設けてペン芯下部の空気逃げ溝と連結させ、他端は、ペン芯外部へ開放しインク貯蔵部に開口するペン芯後部の空気逃げ溝を複数個設け、且つこの空気逃げ溝と空気逃げ溝を隔離する中間障壁をペン芯後部に設けたものであり、インク吸入時、首部をインクの中に没入せず、前記ペン芯の先端に開いた吸入孔部のみをインク中に浸すことにより、インクを吸入することができ、首部を汚すことなく吸入操作を行なうことができるという作用を有する。 【0008】以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して詳細に述べる。図1は本発明を適用した万年筆の要部であるインク吸入部の構造を示す断面図で、図2は図1のA−A線断面図である。また、図3は図1のB−B線断面図、図4は図1のC−C線断面図である。これらの図において、符号1は万年筆の胴すなわちペン軸部であり、このペン軸部1の先端部分は首部1aとなっている一方後部はインクタンクとしてのインク貯蔵部1bとなっている。2は紙面等に当たって書記するペン先部片であり、この万年筆は1枚ペン先タイプとなっている。3は首部1aに圧入されてペン先部片2を支持するとともにインク溝や空気逃げ溝が設けられたペン芯、4はペン芯3に設けられペン先部分に対する圧力変化により溢れ出したインクを一時的に溜める複数のインク溜め部としての櫛溝、5は櫛溝4に連通してペン芯3の下部部分に形成され且つインク貯蔵部からペン先の方向へ延びて空気の通路となる空気逃げ溝、6は空気逃げ溝5の先端部においてペン芯3の内部に入り、ペン芯3を貫通してその先端付近で開口する小孔、7はペン芯3の上部すなわちペン先部片2に接する部分においてペン先側からインク貯蔵部まで延びて設けられインクの通路となるインク溝である。 【0009】この実施の形態において、空気逃げ溝5は2本形成されている。また、小孔6はペン芯3の先端側部分の中央部に軸心方向に延びて開けられペン芯3を貫通する形になっており、例えばインク吸入操作時等において、空気逃げ溝5より押し出された空気はペン芯3の基端側から先端側へ移動し(図1中、右方から左方へ)、小孔6を通って外部へ逃げるようになっている。 【0010】複数の櫛溝4はペン芯3の長手方向中間部分から基端部分にかけて、鍔構造をした丸板状の複数の隔壁8を所定の間隔で配置することにより、隔壁8と隔壁8との間に形成されている。なお、隔壁8はペン芯3に取り付けられても、或いは一体成形されていてもよく、また螺旋構造に形成されていてもよい。また、上記空気逃げ溝5およびインク溝7は、隔壁8の一部を切り落とすようにしてペン芯3の長手方向へ延びて形成される。そして、ペン芯3の、上記櫛溝が形成されている部分の後端近辺には中間障壁9が設けられている。この中間障壁9は、空気逃げ溝5が形成されている部分を含むペン芯3の周囲の大部分においては上記隔壁8とほぼ同じ高さ寸法(径寸法)に設定されている一方、ペン芯3の上端部、すなわちインク溝7が形成されている部分においては凹状の切欠部10が設けられて上記隔壁8よりもいくぶん低い高さ寸法(径寸法)に設定されている。また、インク溝7は上記隔壁8と同様中間障壁9の一部をも切り落とすようにしてペン芯3の長手方向へ連続して延びるよう形成されている一方、空気逃げ溝5は上記中間障壁9の部分で前後方向に一旦遮断(すなわち隔離)され、中間障壁の裏側では2本の後部空気逃げ溝15となっている。このため、ペン芯3を万年筆1の首部1a内に装着すると、中間障壁9の外周縁が、上記切欠部10の部分を残して首部1aの内壁に当接しインク貯蔵部1b側とペン先側の間を大部分において遮断しペン芯3の上部に小さな隙間通路11を形成する。 【0011】また、符号12はインク貯蔵部1bの内壁に密着して装填され、当該インク貯蔵部1b内を摺動するピストン、13はピストン12に連結され当該ピストン12を摺動運動させるピストン棒である。 【0012】かかる構成を有する万年筆1において、インク貯蔵部1bにインクが充分貯蔵されている状態の下で書記をするものとすると、インク貯蔵部1b中のインクはインク溝7を通ってペン先へ毛細管現象によって送給され、紙の上に書記することができる。インクは櫛溝4からもインク溝7を通ってペン先へ供給される。インク貯蔵部1bからのインクの流出に対応して外部から空気がインク貯蔵部1bへ送られるが、その空気は小孔6から入って空気逃げ溝5へ送られ、櫛溝4を介して隙間通路11および後部空気逃げ溝15またはインク溝7を通してインク貯蔵部1bへ送られる。 【0013】次にインク吸入操作を行なうには、インク貯蔵部1b内のピストン12をピストン棒13を使って前方に押し、ペン芯3の先端に開設された小孔6をインク壺中のインクに浸してからピストン棒13を引き上げる。これにより、ピストン12はインク貯蔵部1bの前部から後部へ向けて引き上げられて吸引作動を行なう。この吸引作動によって吸引されたインクは小孔6よりペン芯3内に入り、次に小孔6に連通する空気逃げ溝5を通って後方へ流れ、空気逃げ溝5の最後部に相当する位置、すなわち中間障壁9の手前に設けられた2つの櫛溝(4a、4bとする)を通り、これらの櫛溝4a、4bを通して上部に形成された隙間通路11を中継して中間障壁9の裏側へ回流する。そして中間障壁9の裏側へ回流した後は最初の部分に設けられた2つの櫛溝(4c、4dとする)を通り、これらの櫛溝4c、4dを通して下部に形成された後部空気逃げ溝15を通ってインク貯蔵部1bへ入る。いわば、吸入インクは中間障壁9を迂回して流動しインク貯蔵部1bへ入る。 【0014】他方において、ペン先を下向きにした状態で衝撃を受けたり、キャップを急激に着脱したりするとキャップと万年筆1の頭部1aとの間で減圧効果が生じてインクの吸い出し効果が発生し、インク貯蔵部1bのインクがペン先方向へ流動する。この場合、インクは、インク貯蔵部1bから2本の後部空気逃げ溝15を通り、直接空気逃げ溝5へインクが流動しないように中間障壁9により迂回させ、ペン先へインクが到達するのを規制する。 【0015】このとき、後部空気逃げ溝15および櫛溝4の迂回路を2本づつ使うのは、吸入時の吸入インクを流動し易くするために通路の断面積を大きくすることがねらいである。そして、それぞれ空気交代のための通路として適正なインク出しを図るための寸法として、空気溝の幅が限定されるために、複数の溝を使用して断面積を確保するもので、空気逃げ溝5、15はインク溝7の幅よりも30〜40パーセント太目の寸法を必要とするが、1本では吸入時のインク流動を容易にするためには断面積が不足するのである。また、インク溝4の幅は狭いために、衝撃、減圧時においてインク貯蔵部1bからの流動は行なわれず、後部空気逃げ溝15のような迂回路を作ってインクの飛び出しを防ぐ必要はない。 【0016】以上のような構成により、インク吸入のし易い、筆記時の安定したインクの出、およびその他衝撃、キャップの急激な着脱時にも不具合の生じない筆記具を提供することができる。 【0017】 【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、インク溜め部を持ち、ペン軸の首部より突出してペン先を支持しているペン芯の先端部の中央部分に、軸心に沿って延びる貫通孔を設けてペン芯の中途まで達せしめ、その後はペン芯のインク溜め部下方の空気逃げ溝と連結させ、インク溜め部の空気を逃がす際の外部への排出路とするとともに、軸内部のインクタンクより手動でインク瓶中よりインクを吸入する際の吸入口としたため、インク吸入時、首部をインクの中に没入せず、前記ペン芯の先端に開いた吸入孔部のみをインク中に浸すことにより、インクを吸入することができ、首部を汚すことなく吸入操作を行なうことができる。
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【出願人】 |
【識別番号】596105334 【氏名又は名称】スワン萬年筆株式会社
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【出願日】 |
平成8年(1996)9月4日 |
【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】蔵合 正博
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【公開番号】 |
特開平10−76785 |
【公開日】 |
平成10年(1998)3月24日 |
【出願番号】 |
特願平8−233768 |
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