※シンジとアスカが高校生位で、少し性格的に成長していたらと仮定しての話です。
LAS小説短編 Air/まごころを、君に Shinji&Asuka 16 years old Ver. ~世界の中心でアイを示した二人~
<ネルフ本部 第一発令所>
最後の使徒である渚カヲルはシンジの乗る初号機によりせん滅された。
発令所に戻ってきた暗い表情のシンジを出迎えたのはミサトだった。
「シンジ君、使徒せん滅お疲れ様」
ミサトはそう言ってシンジの肩に手を置いたが、シンジはそのミサトの手をはねのけた。
そして、怒りを込めた視線を真っ直ぐにミサトにぶつける。
「何で、渚君が死ななければならないんですか」
「それは……彼が使徒だからよ」
「解ってます……だけど、渚君は僕達人間とほとんど変わらなかったじゃないですか」
冷酷に言い放ったミサトの言葉に、シンジは唇をかみしめて悔しがった。
発令所に居る人間は、誰もがシンジがカヲルと接触していた事を把握していた。
シンジの悲痛な姿を見ていたオペレータの三人も、慰めの言葉は思い付かず、黙り込んでいた。
その静寂を破ったのはミサトの発言だった。
「それでは司令、第一種戦闘配備を解除して構いませんね?」
「いや、このまま継続だ」
ゲンドウがミサトの質問にそう答えると、発令所は騒然となった。
オペレータの三人も戸惑った顔をして見合わせた。
「使徒は全て居なくなったんじゃないの!?」
「ああ、これで俺達の仕事も終わったと思ったんだがな」
マヤとシゲルに聞こえない小さな声で、難しい顔をしたマコトはポツリとつぶやく。
「まさか、補完計画が発動されるのか……?」
ネルフ周辺の状況を映し出していたモニターから次々と大きな爆音が聞こえて来た。
戦略自衛隊の部隊がネルフの軍事施設を破壊し、ネルフの軍や職員を急襲したのだ。
爆音と悲鳴が混じる地獄絵図のような風景を、発令所に居るミサトやシンジ、オペレータ達はぼう然と見ていた。
すると、副司令の冬月の前にある電話が突然鳴り始めた。
冬月はすぐに受話器を取り耳に当てると、ゲンドウに告げる。
「碇、先程第二新東京市の日本政府がA-801を発令したぞ」
「何が起こっているんですか、副司令!?」
「戦略自衛隊が攻めて来たのだよ、ネルフを滅ぼし我が物とするために」
ミサトの言葉に冬月がそう答えると、発令所の空気の温度が下がった。
「最後の敵は人間か」
ゲンドウが落ち着いた低い声でそうつぶやいた。
厳しい表情になったミサトは発令所に居るメンバーに言い聞かせるように大声を発する。
「多分、やつらの目的はエヴァとパイロットよ!」
ミサトの言葉を聞いたマコトは端末を操作して、アスカの所在を確認する。
「セカンドチルドレンは303号病室です、第4グループが護衛中」
アスカは使徒アラエルとの戦いで精神に異常をきたし、意識を失って寝たきりの状態が続いていたのだ。
「わかった、私がアスカを連れて行くわ」
マコトの報告を聞いたミサトはマコトにそう告げた。
「ミサトさん、僕もアスカの所へ行かせてください!」
シンジは頭を下げてミサトに頼み込んだ。
「だめよ、あなたは直ちに初号機へ乗ってもらわないと」
「最後に一目で良いからアスカに会いたいんです!」
ミサトはシンジの気持ちが痛い程解った。
この戦いは生きて帰れる保証は限りなく低い。
これが今生の別れになるかもしれない。
「わかったわシンジ君、早くアスカの所へ行きましょう」
うなずいたミサトはシンジの手を取って駆け出した。
「葛城三佐!」
ゲンドウの制止する声にも振り返らず、ミサトとシンジは発令所を出て行った。
<ネルフ本部 303号室>
非常用連絡通路を使って、ミサトとシンジは早くにアスカの病室にたどり着いた。
しかしここもいつまでも安全と言うわけにはいかない。
敵はネルフ本部の中心に向かって攻め込んで来て居るのだ。
シンジはベッドで眠るアスカに優しい口調で話し掛ける。
「ねえアスカ、君が眠っている間に大変な事が起こったんだよ」
シンジが話し掛けても、アスカは何の反応も示さない。
「渚君も助けられなかったんだ、僕の守りたいものは次々と失われてしまうんだよ、トウジも、加持さんも、綾波も」
そこまで話したシンジは感極まり、目から涙を溢れさせた。
そしてそっとアスカの手を取る。
「……アスカの手は、まだ暖かい」
「シンジ君、そろそろ行かないとマズイわ」
タイミングをギリギリまで引き延ばしたミサトが辛そうな顔で声を掛けた。
ミサトの言葉にシンジはうなずいて、身を屈めてアスカの顔に自分の顔を近づける。
そして、シンジはアスカの唇に自分の唇をそっと重ねた。
触れるか触れないかスレスレの優しい物だった。
「でも、僕にはまだ守りたいものがまだ残っているんだ。だから、僕は行ってくるよ」
顔を離したシンジはアスカに向かってそう言って微笑むと、他のネルフの職員に付き添われて病室を出て、初号機の所へ向かった。
シンジを見送ったミサトは、ベッドで寝ているアスカに向かって話し掛ける。
「アスカ、いい加減に起きなさいよ。童話なら王子様のキスで眠り姫は目を覚ますはずじゃないの」
ミサトがそう言っても、アスカは何の反応も示さない。
そんなアスカを見て、ミサトは段々と腹を立て始める。
「起きろって言っているのが聞こえないの!?」
ミサトはアスカの胸倉をつかんでアスカの顔を思いっきり平手打ちにした。
何度も何度もアスカの顔を叩く。
たちまちアスカの顔は真っ赤になった。
「起きなさい!」
周りの護衛が止めてもミサトは振り払ってアスカを叩き続けた。
すると、アスカは目を開けて身体を震えさせて小さな声でつぶやく。
「怖い……」
「アスカっ!」
アスカが目を覚ましたのに気がついたミサトはアスカの腕をつかみ上げる。
「さあ、行くわよ」
「行くって……どこへ?」
アスカが怯えた瞳でミサトに尋ねた。
「決まっているじゃない、エヴァのところよ」
「嫌よっ、もうエヴァには乗りたくない!」
「しっかりしなさい、シンジ君一人に戦わせる気?」
ミサトは厳しい表情でそう言うと、アスカの顔を強引につかんで自分に向けさせた。
しかし、やはりアスカはミサトから目を反らしてしまう。
そのアスカの態度を見たミサトは強い失望感と激しい憤りを感じる。
「あの自信に満ちあふれたアスカはどこへ行ってしまったのよ!」
「アタシは弐号機に拒絶されたのよ……」
目を合わせようとしないアスカが弱々しくそう答えると、ミサトは首を横に振って否定する。
「弐号機がアスカを拒絶するはずが無いわ、心を閉ざしてしまったのはアスカ、あなたの方なのよ」
「そんなのどっちでも弐号機に乗れない事には変わらないじゃない」
「全然違うわ」
ミサトとアスカが言い争いをしていると、護衛をしていたネルフの職員達の悲鳴が聞こえて来た。
ついにここにまで戦略自衛隊の侵攻部隊がやって来たのだ。
「セカンドチルドレンを発見した、こっちだ!」
「直ちに確保しろ、抵抗するなら殺しても構わん!」
戦略自衛隊の兵士達は容赦無くネルフの職員達に向かって発砲をする。
戦う意思の無い職員に向けてもだ。
ミサトの反撃により兵士達は倒されたが、側にいた護衛達は大怪我を負うか絶命していた。
目の前で人が死んで行く姿に、アスカは少なからずショックを受けた。
「弐号機の所へ行くわよ、急いで!」
「嫌っ、どうせ死ぬのならここで死んでも同じよ!」
「まだそんな事を言っているの!」
アスカがそう言うと、ミサトはアスカのほおを思いっきり叩いた。
ミサトに叩かれたアスカは怯えた表情でミサトを見上げる。
アスカにこのような表情をさせてしまったミサトは後悔し、優しくアスカに微笑みかける。
「私はね、アスカに生きる希望を持って欲しいのよ」
そう言ってミサトは、アスカをしっかりと抱きしめた。
突然抱きしめられたアスカはミサトを振り払おうとはしなかった。
「だからアスカには何としてでも弐号機に乗ってもらいたいの。そうすれば、きっと道が拓けるから」
ミサトの言葉を聞いたアスカは、無言だったが大人しくミサトに従う様子を示した。
そんなアスカの手を取ってミサトは迫りくる戦略自衛隊の兵士から走って逃げるのだった……。
<ネルフ本部 地下駐車場>
アスカを連れたミサトは地下駐車場までやって来た。
そして自分の愛車が無事だと確認すると、アスカを助手席に乗り込ませる。
「アスカ、これから私が知り得た全ての情報をあなたに話すわ」
ミサトはそう言って、車のエンジンを掛けた。
そしてミサトは助手席に座るアスカに、ネルフが秘密裏に行っていた人類補完計画の内容を話した。
ミサトの話を、アスカは青い顔をして聞いていた。
「にわかに信じ難いとは思うけど、全て本当の話よ」
「ママがエヴァに取り込まれたって、そんな……」
アスカは頭を抱え込んでそうつぶやいた。
そんな時、今まで雑音が流れていたスピーカーから発令所に居るマコトの声が聞こえて来る。
「聞こえますか、葛城三佐」
「聞こえるわ、シンジ君の状況は?」
「現在、人造湖で戦自と戦闘中!」
「シンジ君、反撃して!」
マコトの背後で、マヤが初号機のシンジに指示している声が聞こえた。
どうやらシンジは戦略自衛隊に対して攻撃するのを戸惑っている様子だった。
シンジが戦っている事を知ったアスカは驚いて顔を上げる。
「シンジ君に伝えて、アスカが行くまで頑張れって」
ミサトは発令所のマコトにそう言うと、運転していた車のスピードを上げた。
そしてミサト達の行く手にも戦略自衛隊の部隊が現れるようになった。
どうやらネルフ本部のかなり深部にまで侵攻部隊がやって来ているようだった。
発令所との連絡も再び途絶え、爆音が周囲に鳴り響く。
どれほどの被害が出ているのか、誰が無事であるのか全く把握できない。
戦略自衛隊の攻撃を受けてもミサトはただひたすら目的地へと向かって車を走らせた。
<ネルフ本部 ジオフロント>
その頃、戦略自衛隊の部隊と戦っていた初号機に乗るシンジは、ミサトから弐号機を出撃させると聞いて狂ったように攻撃を始めた。
病み上がりのアスカが乗った弐号機を戦わせるわけにはいかない、こうなったら自分の手で敵を全滅させると決意を固めたのだ。
「うおおっ!」
S2機関を取り込んだ初号機は、暴走したように戦略自衛隊の戦闘機、戦車、戦艦を次々となぎ倒して行った。
しかし、戦略自衛隊はネルフ本部や初号機への攻撃を止める事は無い。
ついにはN2爆雷まで投下し、ネルフ本部のジオフロントを地上へと露出させた。
ATフィールドを張っている初号機はその強烈な衝撃にも耐えた。
「エヴァには一万二千枚の特殊装甲と、ATフィールドがあるんだから、いくら攻撃をしても無駄なんだよ!」
初号機のエントリープラグの中でシンジはそう叫んだ。
シンジの言葉通り、初号機の装甲に致命的なダメージを与えられることなく戦略自衛隊の部隊はやられて行った。
そして、戦略自衛隊の部隊の大部分がやられ、壊滅すると思われたその時、シンジの目の前の上空に輸送機にぶら下げられた九機の白いエヴァの姿が見えた。
「まさか、あれがミサトさんの言っていたエヴァシリーズ?」
ぼう然とつぶやいたシンジの目の前で、九機の白いエヴァは輸送機から放出され、初号機を取り囲むように降り立った。
状況の厳しさを悟ったシンジは冷汗を垂らす。
「一対九か……圧倒的にこっちが不利だね」
しかし、自分が戦うしかないと知っているシンジは、目に力を入れてエヴァ量産機をにらみつける。
「逃げちゃダメだ」
シンジはそうつぶやいて初号機で目の前のエヴァ量産機に向かって突進して行った。
<ネルフ本部 R20エレベータ>
ミサトとアスカはついにR20エレベータがある場所へとたどり着いた。
このエレベータに乗れば、弐号機が収められているケージに三十秒で行ける。
しかし、ミサト達のすぐ背後まで戦略自衛隊の兵士達は迫っていた。
そして、アスカを銃弾からかばったミサトは背中にかなりの銃弾を受けてしまう。
アスカと共に何とかR20エレベータに乗り込んだミサトだったが、かなりの出血をしており、このままでは助からない事は明白だった。
「ミサト、死なないでよ、アタシを置いて行かないでよ!」
下降するエレベータの中で、目に涙を浮かべたアスカはミサトに声を掛けた。
「ごめんなさいアスカ、あなたを一人で行かせる事になって……」
ミサトは苦しげに息をしながらアスカに答えた。
「ダメよ、無理をして喋っちゃ!」
「私はもう助からないって、私自身が一番良く分かっているわ……アスカ、もっとこっちへ来て」
アスカは無言でミサトの言葉にうなずき、ミサトに身体を近づけた。
すると、ミサトは残された力を振り絞ってアスカを抱きしめる。
「今までいろいろ厳しい事を言ってごめんなさい。私はアスカを本当の妹のように思っていたのよ」
「うん、アタシもミサトを……」
「シンジ君を助けてあげて。きっとアスカの助けが必要だから。私からの最後のお……ね……が……い」
ミサトはそこまで話すと、急に身体から力を抜いた。
アスカの背中にまわした腕もダラリと垂れた。
ミサトが事切れた事を知ったアスカは涙を流した。
それからしばらくしてエレベータが停止する。
どうやら弐号機の居るケージへと到着したようだ。
アスカは腕で涙をふいてエレベータの外へと出た。
しかし、ケージへと到着すると弐号機の姿はそこには無い。
アスカの目に映ったのは緊急避難措置プログラムが発令されたと表示するモニター。
弐号機が戦略自衛隊の部隊の手に落ちる事を恐れたネルフは、弐号機を地底湖の湖底へと沈めてしまっていたのだ。
「そんな……これじゃあ弐号機に乗れないじゃないの。ミサトと……シンジを助けに行くって約束したのに……」
アスカの顔に絶望の色が広がった。
しかし、アスカは祈るような姿勢を取って、念じながら湖底に居る弐号機に向かってつぶやいた。
「……お願い、ママっ!」
するとアスカの呼び声に応じるかのように、弐号機が浮上し、水面に姿を現した。
「ママっ、ミサトの言う通り弐号機の中に居たのね!」
弐号機の姿を見たアスカは、満面の笑みを浮かべた。
そして弐号機のエントリープラグがエヴァの側から開かれる。
弐号機に乗り込んだアスカは、自分の母親の気持ちを感じる事が出来た。
これなら弐号機とシンクロ出来ると、アスカは安心した。
ジオフロントへの射出カタパルトまで弐号機を移動させたアスカは、エントリープラグの中からそっと笑顔で弐号機に話し掛ける。
「今までアタシを守ってくれてありがとう。……またアタシに力を貸して、ママ」
幸いにもカタパルトの電源は破壊を免れていて、弐号機はジオフロントへと発進することが出来た。
<ネルフ本部 ジオフロント>
人造湖で量産型エヴァ九機と戦っていたシンジは、苦戦を強いられていた。
量産型エヴァの持つ武器は、ATフィールドを紙のようにあっさりと貫通し初号機に傷を負わせる。
シンジは必死に交わして致命傷は避けていたが、ダメージは着実に蓄積して行った。
初号機の痛みが伝わり、意識が朦朧しかけていたシンジに、弐号機からの通信が入る。
「お待たせ、シンジ……」
「アスカ、大丈夫なの!?」
モニターに映し出されたアスカの穏やかな笑顔を見たシンジは驚きの声を上げた。
何があったのかシンジには理解できなかったが、アスカはすっかりと立ち直ったように見えた。
「アスカ……よかった……」
感激したシンジはアスカに聞こえないような小さな声でそっとつぶやく。
「シンジ、アタシも協力するから、こいつらを倒しちゃいましょう!」
「ダメだアスカ、こっちへ来ちゃ!」
「えっ、どうして!?」
厳しい表情でそう言い放ったシンジに、アスカは驚いて聞き返した。
「……僕は初号機を自爆させてやつらを倒す。出来るだけ引きつけてたくさんの相手を道連れにするつもりだよ。やつらの数が減ったら、きっとアスカも戦いやすくなるよ」
「バカシンジ、何を言ってるのよ!」
「最後にアスカと話せて良かった」
シンジはそう言って、弐号機との通信を切った。
「シンジ!」
弐号機のアスカが真っ暗になったモニターにいくら呼びかけても、返答は全く無い。
「あのバカっ、一人で格好つけちゃって!」
アスカはそう言って初号機の元へ向かって全力で走った。
走りながらアスカは浮かび上がった疑惑について考える。
「おかしいわ、ネルフを壊滅させるだけならエヴァは九体も必要無いはず……」
アスカの頭の中で、ミサトに聞かされた人類補完計画の内容と、九体の量産型エヴァ達が繋がる。
「まさか、ゼーレはサードインパクトをここで起こすつもりなの!?」
胸騒ぎを覚えたアスカは、必死に初号機の元へと急ごうとした。
シンジの乗る初号機が利用される予感がしたのだ。
今までバラバラの動きをしていた量産型エヴァ達が初号機を中心に陣形を整えているのを見て、アスカの予感は確信へと変わった。
量産型エヴァ達は一斉に初号機向かって突進した。
それを目の前で見たアスカは初号機の自爆を止めようと叫び声を上げる。
「シンジ、ダメっ!」
アスカの制止も通じず、初号機からまぶしい光が広まった。
「シンジーーっ!」
真っ白になった視界に向かって、アスカは涙を流しながら叫んだ。
そして次の瞬間、アスカの意識と視界はブラックアウトした……。
<????>
「アスカ、アスカっ!」
「シンジ?」
「良かった……」
横たわっていたアスカがうっすらと目を開けてそう答えると、シンジは嬉しそうに息をもらした。
「ちっとも良くないわよ、この大バカシンジ!」
怒ったアスカはシンジの胸倉をつかみ上げた。
そして、シンジを思いっきりにらみつけて言い放つ。
「アタシを勝手に置き去りにするなんて、許さないんだからね!」
「ごめん……」
「でも、こうしてまた会えたんだから、シンジを責めるのはもう止めるわ」
アスカが優しい口調でそう言ってシンジをつかみ上げていた手を離すと、シンジは安心したように顔を上げて周りを見回した。
二人の周囲に広がるのは紅い空と白い砂浜、紅い海が広がる世界。
音は打ち寄せる波の音以外、何も聞こえなかった。
「いったい何が起こってしまったんだろう? 僕は初号機で自爆したはずなのに」
「きっと、サードインパクトが起きてしまったのよ。それで人類補完計画の通りになってしまった……」
「僕とアスカがこうして居られるのは?」
「多分、エヴァの中に居たから無事だったのよ。アタシ達のママ達が守ってくれたんだわ」
「そうか……でも、僕が原因なんだろうね」
シンジもある程度察しはついていたのか、暗い顔でそうつぶやいた。
「そんな事は無いわ、これは仕組まれていた事なのよ」
アスカはシンジの手を優しく握って、シンジを励ました。
「どっちだって同じだよ、僕が世界を滅ぼした元凶だって事には代わりは無いよ」
「いえ、アタシとシンジがこうしてここにいると言う事は、人類の補完は完全に行われていないって事になるわ」
「えっ?」
アスカの言葉を聞いたシンジは驚いてアスカを見つめた。
「もしかして、世界の姿が元に戻る可能性が残されているかもしれないって事よ」
アスカが希望を持ってシンジを励まそうとするが、シンジの表情はさえない。
「元に戻ったとしても、僕は嬉しくないよ」
「どうしてよ?」
「だって、サードインパクトが僕のせいで起こったと知ったら、きっとみんなは僕を許してはくれないよ」
そう言って身体を震えさせるシンジの前で、アスカは太陽のような微笑みをたたえてシンジを見つめる。
「みんなシンジが悪いんだって言っても、アタシはシンジを責めたりなんかしないわ」
「アスカ……」
シンジの視線と、アスカの視線がぶつかった。
「世界の全てを敵に回しても、アタシはシンジの側に居るから……」
アスカはそう言ってシンジを抱きしめると、シンジにそっと優しく口づけをした……。
その二人の姿を紅いLCLの海に溶け込んだ全人類が目撃していた。
彼らは何を思ったのだろうか、それを知る術は無い……。
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