ども。タイトルどおりです。
ちょっと妄想膨らんだんで書いてみました。
ルビとか一杯ふってるんで、耐性のない方はご注意願います。
※5/29 ノシ様、竜虎の拳様、BTCP様感想、ご指摘ありがとうございます。
誤字修正しました。
このSSはフィクションです。
登場する人物、団体名は実在の物とは一切関係ありません。
よろしければ↓へどうぞ。
『監視層は今日も平常運転』
昔、戦争があった、らしい。
気が遠くなるようなって程でもない。
30年位前に火病った馬鹿な国が自称ポリ国家様に核とかぶっ放したらしい。
そんでメデタくWWⅤ。
20XX年、世界は核の炎に包まれた。
ははっワロえない。
その後、国家なんて枠組みはボロボロになっちまったもんで、一部企業が国家の代わりに台頭とか、そんな感じ。
戦争中に人型ロボットとか作られるし、ぶっちゃけリアルAC状態。
人類はかろうじて残った大地に超巨大構造物をおっ建てて其処にしがみついて生きている。
一部の連中は汚染された大地を捨てて巨大飛行物体にて空へとその住処を移していった。
人類の天敵とか沸きそうな感じだろ?
今は、そんな時代だ。キリッ。
ああ、自己紹介がまだだったな。
俺は<監視員>。"ギガストラクチャⅡ"の監視層の住人だ。
名前はまだ無い。
我輩は猫か。
"ギガストラクチャⅡ"の住人は基本的に割り振られた役割に沿って住処、<層>が異なる。
中には幾つかの<層>にまたがって生活している奴もいるが、
基本的にそんなのは定住出来ない理由のある連中――テロリストとか思想犯とか――ま、そんな連中だ。
俺の役割は文字通りの<監視>。"ギガストラクチャⅡ"最上層で付近を航行する"メガフライヤー"のひとつ<arc>を監視することだ。
ちなみに<arc>ってのは、"メガフライヤー"の中でも結構な古株だ。
そもそもは"ソードダンサー"とか言う汎機乗り<汎機乗り>の個人フライヤーだったのだが、
大戦の終わりに起きた大自壊と共に居場所を失った同胞達の帰る場所として一部を改造、開放したのが始まりだ。
増え続ける人員に合わせ拡大を続けた結果、今に至る。
現在する"メガフライヤー"では最大級の規模を誇る"メガフライヤー"。
某人曰く空飛ぶ九龍。居ついて利用する<汎機乗り>はかなりの数に上る。
ただ、その規模の大きさゆえに面子の腕と精神はピンキリ。
メインシャフトには物騒な連中が何人も住み着いている。
ま、基本的には<汎機>に乗って空を眺めるだけの簡単なお仕事です。
空を見る。
すごい見る。
やばい見る。
ぱない見る。
ゆっくりと空を往く<arc>と白い雲。
……動きがないと暇で仕方ねーんだよなー。
流れる雲と、陽光が目に眩しい。
あー、空が青い。
とか考えてると全域ディスプレイの端に<>の文字が点滅。
誰だ?と、不審に思いつつも視線を<>の文字に滑らせて通信ウィンドウをPOPする。
『ひーほー♪ 調子はどうかにゃーん?』
ピボ。とウインドウが開かれると同時に響いてきたのは媚びッ媚びのアニメ声。
ガリッと削れる俺のSAN値。
ダイスロールはピンゾロか。
眉をひそめつつ、俺は声の主に答える。
「……テメェかよ。んで用件は何だ、<C1>」
『なんだよー。暇そうにしてっから、話し相手とか欲しいんじゃないかなぁ~って連絡あげたのにサー』
ウインドウの向こうで頬を膨らませて、
あからさまに『わたし怒ってます』と主張しているのは見た目は13・4歳ぐらいの紅い髪の少女だ。
中身を知らなきゃ可愛いモンなんだろうが生憎、正体を知ってる人間としては顔をしかめざるをえない。
<C1>は俺達、<arc>監視部隊のトップを勤める人間だ。
「まぁ、暇してたのは事実だがよ」
『だよね! お話しようぜ!!あ、それとも一緒に休憩とる? 端っこのトイレ、今なら人いないし……きゃ~♪』
恐ろしい提案をしながら頬を染め奇声を上げる<C1>、無論却下だ。
なぜなら、
「前者はともかく、後者の提案は全力でお断りだ。何が哀しくて、股にドーラぶら下げてる奴とヤんなきゃなんねェんだよ」
そう、残念なことに、非常に残念なことにコイツは男だ。……重要なんで二回言った。
ちなみに老化防止措置済みで実際には酒もタバコもイケる年齢だ。
『うッせえビッツ! てか 差別発言禁止ー。いいじゃーん別に。半分は工事済みだから棒残ってるけど穴もあるよー?』
言うに事欠いて、ひどいことを言う<C1>。●ークビッツは無いよな。泣くよ!
フランクくらいはあるッつの! ホントだぜ!? と内心思いつつも表には出さない。
釣られると俺のバックが危険だしな。
「ハイハイ。俺のはビッツだからテメェの見たらしょんぼりすんだよ」
『む~。挑発してもダメかー。ちぇー』
怒られた子犬みたいにしゅんとする<C1>。
見てる分にはウザ可愛いんだがなぁ。
さっさと話題を変えちまうか。
「折角だ。ちーと雑談に付き合えや。最近出張ってきてる連中、どう思う」
『うぃー。<arc>の面子と闘ってるってゆーと……<nallows>だっけ?』
「ああ。連中、元々はHNC系列企業が母体の<汎機乗り>の集団だろ?何だって、個人所有の"メガフライヤー"とドンパチはじめてんだ?」
『んー。大本の企業母体の方あるじゃん?<汎機乗り>の保護と運用の幇助団体』
「"SNG"だったか。腕の立つ<汎機乗り>をソコソコ抱えてるって話だが」
『そそそ。<arc>に住み着いてる連中にも所属してる奴はいるしね』
『ただ、"SNG"ってのは内部の管理がイマイチ甘くってさ。中堅連中の一部とか下っ端のニュービーとかのモラルが低いのなんの』
確かに<視>てる分、出張ってきてる連中はお上品な連中じゃなかったが。
『基本人体改造で自身の強化が当たり前。少女クローンを使った性処理奴隷兼用の連結生体CPUシステム搭載してたりとか、
他人のカスタムパーツを盗み出してまんま使ってたりとかね。』
「真っ黒じゃん! カレンデバイスかよ! 連中、結構アウトなことやってんなー。
と言うことはあれか? 先月<arc>であった、処刑騒ぎは……」
『そうそう、<nallows>の馬鹿が盗品パーツをひけらかしてね。ま、最近は<arc>の面子も結構アウトな感じだけどさ。
盗みとかは容赦しないじゃん? 特にメインシャフトの住人とかはさ。
内輪で終わりゃ良かったんだが、盗まれたのが<arc>のトップランカーだったってのもあるんだろうけどにぇ。
余罪大杉でアボーン。この業界、あたしら含めて行儀が悪いの確かに多いんだけどにゃーん。
ま、今回の件で"SNG"の上層部も重い腰を上げたみたいだけどさ。自分らの懐が痛むことには敏感なのさ連中。
客寄せ用の美味しいエサがすり抜けちゃった上に全体のイメージダウンとくりゃ当然なんだけどね。
なにはともあれ、実行者は吊るし上げられて集中砲火。
凹られた本人は引き篭もったらしいんだけど、取り巻き連中が報復に来てるってワケ。 <nallows>の身内は鉄の結束だかんね』
しみじみと語る<C1>。ウインドウに映る表情は何時もと同じようでどこか違う。
「遅すぎンだろう対応。つかそれ、下手すると連中<arc>に流れてくんじゃねぇのかよ。
さらっと流したけど、シチリアンマフィアみたいな連中だな、おい。しかし……やけに連中のこと詳しいな。てめェ」
『にゃはは。なんでまぁ、連中には色々と含むところがあるかなって感じだよ。ウン。いわゆる黒歴史ってヤツ?』
笑顔に何時もの力が無い。
「そうかい。そんなもんだろうさ」
『きゃー△ー。 抱いて!!』
「全力でお断りだ。」
俺の杞憂だったのかすぐにいつものテンションに戻る<C1>。
俺にもあるしな、黒歴史。
「ま、俺たちは、ひたすら<視>てるだけ……と!?」
軽口を叩きながら眺めていた俺の視線の先で<arc>の内側から火柱が吹き上がった。
メイン……じゃねぇな、スラムの方か。
思索を余所に<C1>の声が全域通信で飛ぶ。
『全機!監視体制をLv.3に移行!! エンジン温めとけ!
ひょっとするとコッチに落ちてくる可能性もある、気抜くんじゃないわよ屑供!!』
『YES.sir!』
『Mamって言えよ、バカー!』
異口同音、一斉に返事が返る。ソレを聞いた<C1>がとぼけたことを叫んでやがる。
「はは、楽しい楽しい監視のお時間だ」
言葉が漏れる、まったくもって悪趣味な。
きっと俺の口元は悪魔のように歪んでる。
黒煙を吐き出すスラムの一角が吹き飛び、中から2体の汎機が飛び出してくる。
うちの一機、派手なトリコロールカラーに黒印字でf・a……ち、そのまま墜ちやがった。
飛び出してきたソレは背面のパックを開放。派手にミサイルがぶっ放される。
機体越しにも響く鈍い音。空の彼方で爆炎の華が咲いているぜ。
ミサイルをしこたま打ち込まれた箇所から一条の光が走る。
どうやら<nallows>の奴は相手を仕留められなかったらしい。
今日はまた一段と暴れているようだ。
『<A9>より各機へ報告。<nallows>側のメンバーを特定。 "野鴉"です』
この前吊るし上げ喰らったやつの一派だったか。
「何処かの遺産をちょろまかしてツギハギしてたヤツだな。」
『武装は低火力の音唱砲と無線誘導式のミサイルか。後は……過熱給与式のメタルブレードですね』
<A9>が敵戦力の分析結果を上げてくる。
「最初、内側から火柱上がったけど、もしかしなくても潜り込んでたか」
『みたいだね~。ま、<arc>は基本的に誰にでも開かれてるしにゃー』
黒煙の中から飛び出してくる機体。白と緑で鮮やかに彩られた機体だ。
「<arc>側の機体、見たこと無いな。ニュービーか?」
『かもね。新人同士で噛み付きあったかにゃん?』
<C1>から合いの手が入る。
ココ最近は特に人の出入りが激しかったせいもあり、<監視>こっちも全てを把握できていない。
『<A9>より各機へ報告。<arc>側のメンバーも特定できました。"DarkSpirit"です』
「<A9>スゲェな」
手際のよさに脱帽する。
素直な賞賛を<A9>へPOP。
『どうも。武装は手榴弾にトンプソンタイプのハンドマシンガン。大出力光学剣の"虎徹"です』
「"虎徹"ってマジかよ!? なんでネームドウェポンなんざ持ってんだよ」
『確かに。一寸待ってください、調べます。あ……これ、名前が同じだけの粗悪品ですね。
少女クローンで試し切りしてる記録がありますけど、出力が2桁は違います。……コイツ』
思わずといった感じで顔をしかめる<A9>。
すっきりとした中性的イケメンに架かる細いフレームがカチャリと音をたてた。
「パチモンか。びびッたぜ。それより、マジでスゲェよ<A9>一瞬じゃねぇか。後で飯でもおごらせてくれ」
『おや。ありがたくお受けしましょう』
少しだけ眉を上げて驚いてみせる<A9>。
『ぶぶー! 監視中にナンパは禁止だコラー!! 』
割り込んできたのは<C1>、流石のウザさだ。
と言うかだ、
「野郎を飯に誘ってナンパとかいうの止めてくれませんかね。マジで。ガチで」
『なん……だと……? ヤ……ロウ……?』
あン?なんかイキナリ<A9>が凹みやがった。
『あー……うーん。強く生きろよ!!てか監視、監視!!』
「お、おう」
促されるままに監視を再開する俺。
と言ってもまだ大きな動きがあるわけでも無し。
上空ではニュービー同士らしいグッダグダのドッグファイトが展開されている。
予測射撃もクソも無い手当たり次第に弾バラ撒いて突撃を繰り返すだけ。
こりゃダメだ。
最底辺の腕同士なのに被弾が無い。
機体の反応だけは飛び抜けてる。
これはあれか。
「両方ともカレンちゃん搭載済みってか?」
『そうだろうにぇ~。しょっぱ過ぎて泣けて来るよね、コレ』
「だなぁ」
なんて言ってると両方の機体とも攻撃の手を止め距離を取った。
クイックドロウでもすんのかと思ってみていると突然2枠の空間投影ウインドウが展開される。
『何なんだシロミドリィ、いきなりナニ噛み付いてくれちゃってんだよ、ああ!? 』
『手前の機体。装備構成。それ、"大鴉"と同じじゃねぇか。しかも名前が"野鴉"だぁ? 大概にしておけよ、貴様ぁ』
激昂状態で吼える、銀髪の少年。
ソレに対してヤクザ張りの威圧をかけているつもりであろう20代の男性。
上手くメンチがきれてなくてただの変顔になっている。
たぶん本人はこう、横に"!?"とか出てるつもりなんだろうなぁ。
そうして始まったのは盛大な罵り合いだった。
あーこれだよな、この仕事の醍醐味は。
今日も元気だご飯が美味いってな。
うむ、メシウマ。
『知らねぇのかオッサン? リスペクトってゆーんだぜ。こういうのはよぉ』
『は! 戦歴まで詐称しておいて良く言うな。パクリ野郎』
『ぎっ、り、リスペクトだって言ってるだろうが! 話聞けよオッサン!! クソが、これだから<arc>の連中はよぉ』
『ふん。貴様のような屑とこの高貴な俺を一緒にするなよ。"ゴミ漁り"』
『あはははははっ!生体CPU乗っけてる時点で俺に何か言う権利はねぇんだよ。オッサァン』
『ふん、人形どもを複数侍らせている貴様と一緒にするな。俺はきちんと嬲り殺して首だけにして使用しているぞ?』
一瞬全てが沈黙した。
ドヤ顔を曝す自称ヤクザ。
少年の目に怒りの炎が淀んでいる。
『……前言撤回だ、オッサン。俺は、お前よりは、マシでいたい』
消える投影ウインドウ。
"野鴉"のミサイルパックから残弾が吐き出される。
ミサイルの弾幕を盾に"野鴉"が突っ込む。
距離を取りつつ迎撃する"DarkSpirit"。
軽快なタイピング音に散発的な爆音が混じっている。
打ち落とされたミサイルの黒煙にキラキラと光る何かが見える。
考えたな。
瞬間、"DarkSpirit"の動きが鈍る。
どうやら対電子兵装ミサイルによってCPUの動作を制限したようだ。
どちらもCPUの性能に頼っている状態でこの一手。
決まったか?
『墜ちろよ、オッサン!』
ヒートブレードを構え突撃する"野鴉"。
『なめるなよクソガキがぁぁぁぁぁ!!』
"DarkSpirit"の機体前面に吊り下げられていた手榴弾がそのまま起爆する。
爆発が自機を飲み込む。
不意の事態に動きの止まる"野鴉"。
そこへ爆発の中から一筋の光条が伸び迫る。
回避行動をとるが一拍遅い。ブレードを構えた右腕から右胸部辺りまでを切り裂かれる。
『ぐッ、がああぁ!』
『ふははははは! 無様だなぁ、"ゴミ漁り"イィ?』
再び開かれる投影ウインドウ。
うわ、なんか藤鷹作品の悪役みたいな笑顔になってんぞ、ヲイ。
『これは勝負あったにゃー』
<C1>の台詞に内心で同意する。
致命傷は避けているが、操縦席付近の要部まで斬られりゃ機動性は半分てトコだろう。
『……ッ!』
<A9>の歯軋りの音が聞こえる。
「<A9>、間違っても突撃しようとか思うんじゃねぇぞ。」
『――わかってます……!? <arc>より接近する新たな反応を観測! この反応、速い。3秒後に接触 2,1 来ます!!』
そして、それは来た。
それは誘うもの。
それは背中刺す刃。
そう、それは揺らがぬ精神を持つ秩序の体現者。
猛ける雄鹿に似たシルエットのエンブレム。
純白の機体に赤いツインアイ、全身に搭載された十六次元観測砲が物語る。
<arc>に潜む九人の怪物の一人――<勧誘者>だ。
『<C1>から各機! 大物が現れたよ!! 監視、逃がすな!』
『YES.sir!』
監視の目が全て<勧誘者>に殺到する。それは戦域にいた2機の"SS"も例外ではない。
それらの視線全てを受け止める白の機体から全方位へ向け通信が放たれる。
強力な波だ、諸々の電子防御を黙らせるほどの。
『"野鴉"さんは素早くこの<arc>から離脱するべきですね』
唐突にして、圧倒的な宣言。同時に純白の機体の砲門が音を立てて蠢き出す。
『<nallows>とその他の"SSライダー"達の盗品への反応の差も理解出来なかったのでしょうか?』
悲哀と嘲笑を込めた声が響く。
『勝利のためならば何でも許される場所はあそこだけなのであり、勝利を目指す自由すら無い非情な世界が現実です』
侮蔑と憐憫を秘めた声が囁く。
『棲み分けの大切さを理解出来ない愚か者の末路は車に轢かれた小さな蛙ということになってしまいます』
そして全ての砲門から眩い光が迸る。
全方位に向けて放たれる十六次元観測砲による空前絶後の"援護射撃"が行われたのだ!
そこに敵や味方といった区別は無い。
眼を焼く閃光と、連続して響く炸裂音。
『あなたの産む世間一般での矮小な成果でも需要はあるのですから井戸から出ないよう頼ます』
あくまでも紳士的に、悪魔的に紳士的にソレは告げた。墜落する機影に向けて。
『コホン。……失礼、噛みました。では、私はこれで』
来たときと同じ亜音速で戦域を離脱する白い機影。
語尾を噛む呪いにでもかかってんのか、あの人。
『ぶれないにゃ~、あの人』
「だな。相変わらずの全方位射撃だったな……」
『暢気に感想言ってる場合じゃありませんよ! "DarkSpirit"がこっちに落ちてきます!!』
<A9>の報告に<C1>が素早く答える。
……何気にこっちのがボロボロにされてんな。
流石の下衆っぷりに<勧誘者>も多めに叩き込んだのか?
『<A9>! 予測される落下地点は?』
<A9>の視線が計算ウインドウとMAPの間でせわしなく移動する。
『ええと、出ました。談話層のBG区画です』
『あやー。"サロン"に墜ちるかー』
「まぁ、"吶喊部隊"の連中も向こうに何人か居るから大丈夫だろ」
『そうですね。って、あれ? "サロン"から超高熱元反応……?』
<A9>のいぶかしむ声。そして俺達は見た。サロン層から轟々と伸び上がる獄炎の舌を。
『ひとよ、みなそこにねむれ――なんてね。他人に対する礼儀も糞も無いアホに関わるのは嫌なんでスルーが正解』
刹那、ジャックされる通信ウインドウ。
砂嵐の向こうから響く声とともに落下してくる"DarkSpirit"の機体を火炎鞭が強かに打ち据えた!
『ぎひいぎゃああぁッ!?』
"DarkSpirit"からの悲鳴までもが砂嵐から流れて来やがる。
『コース変更! <監視層>"ここ"に墜ちます!!』
<A9>の報告。続くひとつの声。
『悪いけど、よろしく』
同時に通信ウインドウの機能が回復する。
「"サロン"にも来てやがッたのか……」
メインカメラが、火炎の発生源――談話層BG区画の縁に立つ機体を捕捉する。
物理衝撃を伴うヤベェ火炎放射器。
ネームドウェポン"火竜の口顎"。
ゴイスーな高粘性液化燃料投射機。
ネームドウェポン"聖者の油印"。
双装一対のネームドウェポンを装備する黒い装甲に赤い仮面の軽装機体。
俺は声の正体を確信する。
<arc>九人の怪物の一人。
神出鬼没の爆撃者。
テストシャフトに巣食う悪魔――<薪をくべる者>。
思考が空転を始める寸前、火炎鞭の一撃を喰らった"DarkSpirit"が<監視層>の硬い床面に叩きつけられる音が響く。
機体越しに響く微かな震動が現実に引き戻す。
ギシギシと音を立てて立ち上がる"DarkSpirit"。
アレだけの攻撃を喰らってなお起き上がるのは素直に賞賛に値する。
はてさてコイツはお客さんか……?
『<C1>より各機。 これより回線を繋ぐ。おもてなしの準備をしとけ』
『YES.sir』
<C1>がああ言うってことはヤらかすな、アイツ。
『こちら、ギガストラクチャⅡ<監視層>"arc監視部隊"の<C1>でーす☆』
『大人しく私達に従っていただければ<arc>までお送りしますよ~♪』
『ぐッ……ギガストラクチャだと? 最悪の吹き溜まりではないか、糞。それでなんだ、貴様らに従えと?』
ナチュラルにけなしてくる"DarkSpirit"に何人か口元がヒクついてやがる。
『ええ。といっても禁制品の取り外しと武装解除していただくだけですので』
『取り外しだと?……ああ、貴様らアレか俺の素晴らしい武装やパーツが欲しいわけか。ハイエナが、恥を知るんだな』
いらねぇよ、クソ野郎。
『では、従ってはいただけないと?』
『無論だ。貴様らに従う理由などないわ。ふん。戦闘用の俺の機体と作業用の貴様らの機体では天と地ほどの差があるのだ』
<C1>が考えるように片目を瞑る。
お客様決定の合図だ。
俺は素早く通信ウインドウの画像と音声を編集する。
顔の書各パーツを顔の中心に集中させる。
若干アゴは長めで。
ついで音声を編集。
語尾をアッパー気味に延ばして切断。
こんなもんか。
完了の合図を<C1>に送る。
<C1>の顔が邪悪に歪む。
『では、交渉決裂ですね。』
告げる<C1>。
『生意気な口を利くな、メスガキ。10機前後の作業用汎機でなにができる』
『おお、そうだ。いいことを思いついたぞ。貴様を生体CPUの材料にしてやろう。』
武装をこちらに向け、恍惚とした笑みを浮かべて答える"DarkSpirit"。
今の今まで散々ぼこられてたってのにどっから湧くんだこの自信。
『はぁー。<C1>より各機、"お客様"だ。……派手にもーてーなーすーよー!』
『YES.sir!!』
もてなしの命令と同時に俺はプレゼントを送信。
不意打ち気味に開くウインドウ。
そこに映し出されるのはさっき加工した地獄のMSW映像。
『ないわー。天と地ほどの差とかないわー』
無限リピートする地獄のMSW。
ドヤ顔がイイかんじにウザいぜ。
『な……!ぎ 、貴様らァッ!!』
怒りから顔を真っ赤に染め上げて"DarkSpirit"が吼える。
流れるような連携で追撃の数々が送信される。
『<監視層>は初めてか? 力抜けよ』
『生意気な口を利くなめすがきw キリッ。 ぎひいぎゃああぁッさん、おつかれさまですw』
『……くさいわ。でも本当はす……へぶ!』
あ、一人吹っ飛んだ。大帝■乙。
『きがあああああああああああああ! ふーッ! ふひゅぁああああ!!』
頭に血が上ったまま、マシンガンを振り回して弾をバラ撒く"DarkSpirit"。
当然のことながらマトモにあたる訳がない。
さっきのは奴はともかくとして、俺は煽りながら回避に専念すんべ。
そう。俺達は、武器を取らない。
俺達が砕くのは奴の機体ではなく、心だ。キリッ(2回目
これが<監視部隊>の闘い方だ。
そもそも俺等の機体、スコップしか装備してねーからスコップ突き立てるくらいしか出来ないんだがな。
『かwおwまwっwかw 大丈夫か? 頭がチャレンジになっちゃうぜ?』
『ボクと契約して"nalows"になってよ!』
『――――ッ!! ア―ーッ!! 』
量産型さんチィース。
ああ、これだ。これが楽しい。
煽って、嘲って、虚仮にして。
きっとロクな死に方しないだろうなぁと、理解しつつも止められない。
光が機体を掠める。
間一髪、死に掛けたらしい。
たまんねーなぁ、おい。
俺達は屑だ、屑でいい。
そして屑のまんま人生を楽しんで死んでいくんだ。
「既に人間の言葉じゃねぇなぁ。 え、あれ?ひょっとしてリトルグレイさんですか!?」
最低の愉悦に身を浸す。
ここはメガストラクチャ最上部
<監視層>。
屑が屑らしく生きて、死ぬ場所だ。
今日も、空は青い。
『監視層は今日も平常運転』終わり。
予告!
談話層の隅でくすぶり続ける一人の男。
それは2年前"姫騎士"に挑み、敗れた伝説の吶喊部隊"オリハルコンスコッパー"の生き残りだった。
そんな彼の前に現れる謎の紳士。
「君の力が必要です。"オリハルコンスコッパー"」
アタックして欲しい地雷原があると告げ去っていく。
悩む彼は路地裏で一人の少女を拾う。しかし、彼女は未調整の生体CPUだった。
生体CPUの少女を救うため、彼はもう一度スコップを手に取ることを決める。
少女を救うために必要な資材は"XML研究所跡"にあるという。
奇しくもソレは紳士が吶喊を依頼した場所だった。
彼は少女を救えるか。
次回 『奇跡も 魔法も おかしいよ』
続かないよ!