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宮崎

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支局長からの手紙:起立して歌え /宮崎

 四半世紀も前のことだが、ある県で高校の教員採用試験を受けたことがある。その記憶がよみがえったのは、次のニュースを読んだからだ。

 入学式や卒業式で、君が代を起立して斉唱するよう教職員に義務付ける条例案を、「大阪維新の会」の大阪府議団が府議会に提案した。維新の会は、橋下徹知事が自らの主義・主張実現のためにつくった首長政党。先の統一地方選で府議会の過半数を制しており、条例案の可決は確実という。

 大阪本社版の記事によると、橋下知事は「国旗・国歌を否定するなら公務員を辞めればよい。自分の職場環境だけでしかバカな主義主張を貫けない教員はとっとと辞めてもらう」と主張し、不起立を繰り返す教職員を処分するための条例案もいずれ提案するという。

 私が思い出したのは面接の質問だった。「君が代斉唱中に起立しない教員がいますが、どう思いますか」。試験官にこう聞かれた。入学・卒業式での「日の丸掲揚」「君が代斉唱」の義務化が、学習指導要領に盛り込まれる少し前だった。起立強制は「思想信条の自由の侵害だ」などとして、各地で教員らと管理職との対立が起きていた。

 面接の質問は「初めに芽を摘んでおく」という趣旨だったかもしれない。「あまり強制すべきことでないと思う」という内容のことを答えた。試験は不合格だった。

 その後も、教委による教員の大量処分や、教員が懲戒処分取り消しを求めて裁判を起こすなどのいざこざは続いた。

 だが、今や起立しない教職員はほとんどいないと聞く。そもそも「起立して歌え」というのは、条例で定めなければならないことなのか。どうにも違和感がぬぐえない。

 くだんの試験官の質問に、今ならどう答えるだろう。「起立ぐらいしていいのでは」だろうか。思想信条というより、それが他の出席者らへの礼儀だと思うからだ。<宮崎支局長・池田亨>

毎日新聞 2011年5月30日 地方版

 
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