東日本大震災を受けた節電対策のため、環境省が6月1日から始める「スーパークールビズ」。職場でポロシャツ、アロハシャツ、Tシャツにジーンズの着用まで認める試みだが、大きなうねりとなって広がるだろうか。【江口一、宍戸護、江畑佳明】
地球温暖化対策として、ノーネクタイや上着なし勤務を奨励する「クールビズ」が始まったのは小泉純一郎内閣の05年。そのハードルをさらに別表のように引き下げる「スーパー」が浮上したのは、福島第1原発事故で当初、「夏の電力25%削減」が盛んに指摘されたためだった。
環境省は、日中の廊下の電灯をほとんど消すなどの節電策を試したものの、削減量は2割にも届かない。「空調の使用を減らし、冷房温度を(国の基準上限の)28度で徹底するしかない」として、より働きやすい軽装を認めることにした。
ただ、国は従来冷房温度を28度に設定しており、さらに温度を上げることについては環境省も「熱中症になってしまう」と消極的だ。「むしろ上限を26度などにしている民間企業に、引き上げを呼びかける率先行動としたい」(国民生活対策室)ともくろむ。
その企業。アサヒビール広報部は「今のところは、クールビズ以上の対応は考えていない。ノーネクタイを認める程度です」。「スーパー」で示された服装については「ポロシャツ姿で商談というのも、なかなか難しいでしょうね」。三菱商事広報部も「(『スーパー』で例示された)服装の社員は見当たらないし、社としても認めておりません」と消極的だ。
一方、積極的に取り入れようとしているのはイオン(本社・千葉市)だ。「カジュアルビズ」と名付け、ポロシャツとチノパンを基調としたスタイルの服装を23日に発表した。全国の400以上の店舗で順次販売する。
社員にも「販売しているものは社内での着用もOK」と勧める。とはいえ「襟のあるシャツが基本で、Tシャツは不可。短パンやバミューダなど足が見えるズボンも禁止です。お客様に失礼になることもありますから」(コーポレート・コミュニケーション部)。
城南信用金庫(東京都)は、今年5月から「クールビズ」を導入したばかり。「ネクタイぐらいは外してもよいだろうとの判断です」と担当者。信用第一の金融機関のハードルは依然高そうだ。
いずれの企業も「お客様の前で極端にカジュアルな格好はできない」という姿勢は共通している。肝心の電力削減効果は旗振り役の環境省でさえ「予測できない」としており、対外的な“説得力”に今ひとつ欠けることも影響しているのか。スーパークールビズではファッションだけでなく、「勤務時間の朝方へのシフト」などワークスタイルの変更も推奨されている。
PRに必死の環境省は、6月1日に東京・日本橋の三越本店で松本龍環境相ばかりか、小池百合子氏ら歴代環境相も“動員”するイベントを共催。テレビ局のアナウンサーをモデルにファッションショーを行うなど盛り上げに力を入れる。
政府とともに節電を推進する東京電力。クールビズの実施期間は例年の6~9月から5月9日~10月までと約2カ月間延長したが、内容は「ノーネクタイに上着なしでも可」(広報部)と例年通り。ちなみに、毎日のように会見で見る幹部の青い作業服は、既に生地が薄い夏服に切り替わっている。
第一生命経済研究所の永浜利広・主席エコノミストは「クールビズが導入された05年度は、衣料品の需要増で全国の百貨店の総売り上げが久々に前年比プラスに転じた。今年も猛暑が始まれば、関連商品の売り上げが伸び、サラリーマンのカジュアル感も増すのでは」と話す。
毎日新聞 2011年5月30日 12時01分(最終更新 5月30日 12時47分)