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貴重な新種含む昆虫標本6万点焼失…長野

標本を保管していた場所の焼け跡と永井さん(12日、木曽町で)

 長野県木曽町福島で先月24日、昆虫研究家でお好み焼き店経営永井信二さん(63)方の木造2階店舗兼住宅など計8棟を焼いた火災で、永井さんが2階書斎で保管していた国内外のカブトムシなどの昆虫標本約6万点が、ほぼ全焼していたことがわかった。

 昆虫専門家によると、学術的に貴重な標本も含まれ、永井さんは「被害総額は1億4000万円以上」と見積もっている。

 永井さんは日本昆虫分類学会会員で「世界のクワガタムシ大図鑑」などの共著がある。愛媛大環境昆虫学研究室の助手も務めた。

 標本は、約40年かけて自分で採取したり購入したりして集め、一部は研究機関から借りていたもの。約6万点のうち約3万5000点はカブトムシで、執筆中の図鑑の資料だった。ほかにクワガタムシやチョウなど多種の標本があった。

 永井さんは甲虫類を中心に250種以上の新種や亜種を命名。焼けた中には、自分が命名した「モロンシロカブト」(メキシコ産)や「エンドウゴホンツノカブト」(ベトナム産)など新種特定の基にした「タイプ標本」が8種ほど含まれていた。命名前の新種とみられる国内外のカブトムシの標本も約100種あったという。

 図鑑に収録予定だった約800種の約2割は、まだ写真撮影をしていなかった。

 日本昆虫学会評議員で、東京農大の岡島秀治農学部長(昆虫学)は「学術的な損失は大きい。貴重な標本は博物館などで保管されるのが望ましいが、日本では専門施設や分類学者が不足し、生物学の基礎が後退している。適切な保管場所が極めて少なく、今回は、やむを得ないケースだった」と指摘する。

 昆虫関連の出版、標本販売の「むし社」(東京)によると、珍しい昆虫の標本は愛好家の間では1点で約100万円もの高額で売買されることもあるという。

 永井さんは松山市出身。「多種のチョウが生息している」などの理由で木曽町に13年前に転居し、5年前にお好み焼き店を開業した。永井さんは「取り返しがつかず、標本を提供していただいた方々に大変申し訳ない。図鑑は遅れても必ず完成させたい」と話している。

 火災現場はJR中央線木曽福島駅に近い商店街。木曽署は失火とみて調べている。

2011年5月29日12時18分  読売新聞)

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