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[27467] 【ネタ】Fate stay Magica(まどかクロス)
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:a9f084e4
Date: 2011/05/29 16:55
「早くサーヴァントを召喚し令呪を開け。もっとも、聖杯戦争に参加を辞退するのならば話は別だ。命が惜しいのなら早々に教会に駆け込むがいい」

 兄弟子の嫌味ったらしく勘に触る忠告を聞き流しながら私――遠坂凛は儀式の準備を進める。

 別にサボっていたわけではない。ついに迎えた聖杯戦争を勝ち抜くために最強のサーヴァントを手に入れるために今日までこつこつ準備しておいたのだ。

 狙いは最良のサーヴァント、セイバー。

 ただ、残念ながら強力なサーヴァントを引き当てるための触媒が私の手元にはない。仕方なく私は魔力にものを言わせて召喚というぶっつけ本番の荒業に出ることになった。

 でもしかたがない。強力なサーヴァントを呼び出すにはリスクのでかい賭けであるものの、触媒を探している間に座が埋まってしまっては本末転倒。

 そして、私は召喚を試みて……

「やっちゃった……」

 見事に失敗した。爆発が起き、めちゃくちゃになった儀式の道具の数々。その中心にサーヴァントはいなかった。

 ふっふっふ、なんでこんな時に遠坂家に代々受け継がれる『ここぞ、という時に発動する遠坂の呪い』によってドジを踏んでしまうのよ……

 私は自分自身に絶望しかけ……上で爆発音が響いた。

「な、なに?!」

 ま、まさか!!

 私は慌てて部屋を飛び出した。











 先ほどの轟音が聞こえた部屋、居間の扉を開けようとして、壊れてるのか開かないそれを蹴りとばし、なんとかこじ開ける。

 めちゃくちゃになった部屋の中心にその子はいた。

 まるで、アニメで出てきそうなふりふりの服に、ピンク色の髪をリボンで纏めた女の子。

「あの、その……部屋を滅茶苦茶にしてごめんなさい!!」

 私を見たとたんに頭を下げるその少女こそが、私のサーヴァントだった。









「で、あんたが私のサーヴァントでいいの?」

 ラインはつながってるからほぼ百パーセントそうであるだろうが、念のために尋ねる。

「は、はい!!」

 私は頭を抱える。はっきり言おう。目の前の少女は戦闘ができるようには見えない。

 いや、聖杯に呼ばれたのだから、れっきとした英雄なのだろうが、その服装も交じって聖杯にバグでも発生したのかと問いかけたくなった。

「で、あんたのクラスは?」

「はい、私はアーチャーです! 真名は鹿目 まどかです!」

 アーチャーねえ? とてもじゃないが目の前の少女が弓兵として名を馳せたような人物には見えない。それに、『鹿目 まどか』なんて名の英雄なんて私は知らない。

 聖杯戦争において、知名度は重要な要素である。

 誰もが知っているような有名な英雄ならば、能力値に補正が加わる。逆に無名ならそういった補正は皆無になる。

 まあ、有名であれば逆に弱点も知られやすいという欠点もあるからどっちもどっちね。

「ふーん、アーチャーねえ。宝具はなんなの?」

 とりあえず、セイバーじゃないのは残念であるものの、アーチャーも悪いクラスではない。そこは妥協点といえる。

「はい、これです!」

 そういってアーチャーが出したのは、宝石と弓だった。

 弓が宝具っていうのはアーチャーとしてわかりやすいわね。宝石のほうは……よくわからない。

「じゃあ、アーチャー、最初の仕事」

「は、はい!」

 私は箒とちりとりを渡す。

「この部屋の掃除をお願い」

 正直、ものすごく疲れた。サーヴァント召喚のためにほとんどの魔力を消耗してしまったあとのこのドタバタなのだから。

「はい! 頑張ります!」

 と箒を受け取ったアーチャーは背を向けて掃除を始めた。

 本当に、英霊なのかしら? ただの女の子しか見えない。

 その背に私はそんなことを考えながら、部屋を出た。










 ――夢を見た。

 ――世界が壊れ、その中心に人形状の上半身と歯車状の下半身を備え、背中には虹色の魔方陣が光る巨大な化け物の姿。

 ――倒れ伏す友。白い生き物。

 ――何度立ち向かっても敵わない悔しさ、自身の行いが結局はかえって自分を苦しめていることに絶望する友。

 ――黒く染まっていく魔法の宝石。

 ――決意の眼差しで、目の前の敵をにらむ。祈りが絶望に終わり果てた、あまりに哀れな存在を。

 ――ごめんね。私、魔法少女になる――

 ――私、やっとわかったの。叶えたい願い事を見つけたの。だから、そのためにこの命使うね――

 ――今まで守ってくれていた、自分のことを大事にしてくれていた友達に伝える。

 ――泣きながら自分に訴える友を抱きしめ、白い生き物に向き合う。

 ――数多の世界の運命を束ね因果の特異点になった君ならどんな途方もない望みだろうと叶えられるだろう――

――その魂を対価にして君は何を願う――

 ――そして、その願いを口にした。

 ――希望を抱くのは間違いだという言葉を否定するために、すべての祈りを絶望で終わらせないために、絶望を否定するために。

――世界の理すら否定する、因果にすら反逆する祈りを。

 ――全ての……









【クラス】       アーチャー

【マスター】       遠坂凛

【真名】        鹿目 まどか

【性別】         女性

【属性】        秩序・善


【能力】

 筋力C

 魔力A+

 耐久B

 幸運B

 敏捷C

 宝具EX




【クラススキル】

対魔力:C 二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。




【保有スキル】

単独行動:C 
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自律行動可能。ランクCならば、一日は現界可能。


不死(偽):C
死という概念に対する耐性。魂であるソウルジェムが存在する限り、肉体を破壊されても死に至ることはない。
しかし、本体であるソウルジェムを物理的に破壊されれば死亡する。また、肉体からソウルジェムを100m以上離した場合、肉体は活動を停止する。

神性:C(A+)
神霊適性の高さ。高ければ高いほど、神との交わりが深いことをしめしている。
まどか自身は本来神に近しい高次元の存在であるものの、サーヴァントの器に収められたため、このスキルがランクダウンしている。

魔女殺し:EX
『全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、生まれる前にこの手で消し去りたい』というまどかの祈りから発生したスキル。
いかなる存在であろうとも、『魔女』という存在に括られるものは、まどかの攻撃の前に存在する事実から消し去られる。




宝具
ソウルジェム:[ランクEX]
一つの願いを対価に生み出される魔法少女の魂そのものの宝石。
魔法を使うために必須のアイテムであり、魔法少女の本体。
魔法の使用、持ち主の精神状態で穢れを溜めていき、輝きを失う。定期的に魔女から回収したグリーフシードに穢れを転嫁しなければならない。穢れが許容量を超えるとグリーフシードに変化し、魔法少女は魔女へと転化してしまう。
「魂の物質化」という第三魔法に近しい存在のため、そもそもランク付けが難しい。



【サーヴァント概要】
ただの中学生だったが、魔法の使者を名乗るキュゥべえと出会ったことで流転の運命を辿ることとなった少女。
心優しく友達思いで、誰かの役に立ちたいと常に願っていた。
ある事情で多くの因果に囚われており、魔法少女として途方もない資質を持っていた。そして、その資質は世界を変えるほどの願いすらも叶えることができた。
しかし、その願いの代償はあまりにも大きかった。





~~~~
勢いです。
なんとなくまどかのあれが、アーチャーの世界との契約にダブって見えたのでつい。
続きはわかりません。ただ、ランサー戦ではゲイボルグはきっと意味をなさないでしょうねえ。あと、保有スキルのせいでキャスターさんは負け決定。
耐久に関しては肉体の欠損はソウルジェムがあれば再生できるので、この値にしてみました。



[27467] Fate stay Magica 第二話
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:a9f084e4
Date: 2011/05/09 21:36
 翌日、私は気怠さと寝苦しさに目を覚ます。窓を見れば……すでに夕暮れ。おそらく学校は終わってるだろう。

 一応時計を確認すれば、針がすでに四時を指している。

 まったく、欠席の連絡もせず学校をさぼってしまうとは、しかも、病気でもなんでもない、ただの寝坊。

 正直、優雅であることを信条とする私としては、少し腹立たしい。

 でも、それよりも、

「夢……」

 内容はよくわからなかったが、たぶん、アーチャーの生前の夢であろう。

 パスが繋がっている証拠とも言えるけど、人の記憶を覗き見しているようで気分はよくない。

 でも、ふと思った。あの町は近代的なビル街だった。そして、アーチャーの姿からすると割と最近の存在だと思われる。

 だけど、あんな事件があればニュースに……いや、協会が感知しないわけがない。

 どういうことなのかしらね?

 考えるが、少ない情報に、そうやすやすと答えは出ない。

「あー、やめやめ! これからが始まりなんだから、先のことを考えないと!」

 寝起きの陰鬱な空気を振り払って寝巻のまま居間に向かう。

 にしても起きたのがお昼って、我ながら少々呆れてしまう。

 なんということか、これだけ眠ったのに魔力が三割かそこら。召喚の際にかなりの魔力を持って行かれたみたいで、もしかしたら私が思ってるよりも大物だったのかもしれない。

 それと、昨夜はアーチャーにめちゃくちゃになった部屋の掃除を任せたけど、大丈夫かしら?

 と、居間に入れば、元通りとは言えないものの、それなりに片付いた部屋の整頓振りが飛び込んできた。

「あら、すごいじゃない」

 と、関心する。女の子だし、割と掃除は得意なのかしらね?

「あ、マスターおはようございます」

 そう私に声をかけてきたのは、昨日とは違う、どこかの制服らしきものを着たアーチャーだった。

 まあ、あっちの服装は悪い意味でも目立ちそうだし、こういう格好のほうが助かるわね。

「おはよう」

 挨拶を返すと、アーチャーが準備しておいたのか、お茶を淹れて私に出してくれる。

「マミさんみたいにうまく淹れられないんですけど、どうぞ」

 気が利く子ね。ありがたく紅茶を受け取る。

「ありがとう。って、マミって?」

 たぶん、アーチャーの知り合いのことなんでしょうけど。

 あ、とアーチャーが口を押える。

「生前の私の先輩です。強くて、綺麗でかっこよくて、私の背中を押してくれました」

 ふーん、生前ね……先輩で強いってことは戦いの先輩とも取れるけど、この子からは、学校の先輩みたいな感じがするわね。

 そして、お茶を飲んでいて、じっとアーチャーが私の顔を見ていたのに気づいた。

「なに? 私の顔に何かついてるの?」

 私が問いかけると、アーチャーは、

「あの、そういえば、まだマスターの名前を聞いてないんですけど……」

 名前? ああ、そういえば、言ってなかったわね。正直、別に知らなくてもいいだろうとも思ってすらいた。

 だいたいマスターとサーヴァントとは令呪に縛られた主従関係、さらに突き詰めれば聖杯を手に入れるという利害が一致しただけの協力関係。

 主にふさわしくなければ裏切るサーヴァントもいると聞くし、マスターの名前をサーヴァントが知るというのはさほど意味がない。ただ……

 じっと私を見つめるアーチャー。

 その姿に、たぶんこの子はそんな子じゃない。ただ純粋に私の名前を知りたがっていると思える。

 会ってからそれほど時間が経ってないのにこの子の雰囲気は容易く人を信用させるようね。

「私の名前は遠坂凛よ。貴女の好きなように呼んで頂戴」

 すると、アーチャーは笑顔を浮かべて頷く。

「はい、凛さん!」

 う……

 その笑顔があまりにかわいくてちょっと顔をそむける。いや、別に私はそっちの気はないけどね。

「さてと、行くわよアーチャー」

 お茶を飲み終え、私が立ち上がるとアーチャーは首を捻った。

「行くって、どこにですか? お買いものですか?」

 がくっと私は脱力する。

「町を案内するのよ! いざという時に地理に詳しくなかったらしょうがないでしょう!!」

 あ! と納得するアーチャー。

 まったく、本当になんなのこのサーヴァントは? 自分が聖杯戦争というたった七組のマスターとサーヴァントで行われる殺し合いに参加しているということを理解しているの?

「じゃあ、よろしくお願いします凛さん」

 でも、アーチャーの笑顔を見るとまあいいかと思ってしまえる。

 サーヴァント相手に、まるで妹かなんかができたみたいね。そんな自分の心境に苦笑するものの、悪い気はしなかった。











 町を案内する私の説明に、うんうんと頷いて頭に入れようとするアーチャー。

 そして、今は私が通う学校に来ていた。

 まあ、学校なんて不特定多数の人間が出入りし、不意打ちされやすい場所ともいえるけど、一般人がほとんどのここなら魔術の秘匿を基本とする魔術師なら、下手なことはしてこないはず。

 それに、一応この学校の関係者で魔術に関わる人間は把握しているものの、そのうちの一人は魔術師見習い、もう一人はかつては名家だったが、すでに家が落ちぶれていてマスターになれているとは思わない。

 というわけで、私は昼はここにいるつもりではある。

 すでに夕暮れ時を回ったこの時間、それに最近物騒な事件もいくつかあるから、学校には人っ子一人いない。

 なんていうか、やっぱり夜は昼間とは違った印象を受けるわね。人がいて賑やかな学校を知っているだけに余計にそう感じてしまう。怪談のネタにぴったりっていうのもわかる気がする。

 と、考えていたら、

「よお、こんな夜更けに女だけとは危ねえなあ」

 かけられた声に私たちは振り向く。

 そこに、青いボディスーツのような戦闘服を纏い、血のように紅い、燃え滾るような魔力を纏った槍をもった男。いや、サーヴァント!!

 槍ということはランサーかしら?

「お嬢ちゃんがサーヴァントだろ? にしても、英霊に見えねえなあ」

 と、アーチャーを見て笑みを浮かべるランサー。その点には激しく同意ね。アーチャーも少し申し訳なさそうに縮こまる。

「まあいい……得物をだしな。聖杯戦争は始まってねえが前哨戦と行こうぜ?」

 そういってランサー槍を構える。途端に吹き出すは魔力を纏った尋常じゃない殺気。

 得物を出せ、ね。正々堂々と戦うことを信条にしてるのか、はたまた、単に戦いが好きな戦闘狂か……まあどちらでも構わない。

 正直、サーヴァントを前にして身体が震えそうになるけど、なんとかそれを押さえつけランサーを睨む。

 遠坂の人間たるもの、常に優雅に勝利を掴むもの! 弱みなんて見せるわけにいかないわ!!

「アーチャーあなたの力、見せてもらうわよ」

 私がアーチャーに呼びかけるとびくっとアーチャーが震えた。

「は、はい!」

 ……本当にこの子はサーヴァントなのよね?

 アーチャーがどこからか宝石を取り出す。そして、それが光ると一瞬で彼女は昨日見た桃色と白の優しい色合いのふわりとしたスカートと服へと変わる。

 その手に大きな花弁のついた木の枝のようなものを携えていて、その枝の先の花弁が広がり、枝が伸びた。そして、その花弁と枝の先端に桃色の光の弦が張られ、弓を形作る。

「へえ? 嬢ちゃんはアーチャーか」

「あ、はい。私はアーチャーです。で、できたら戦いたくはないんですけど……呼ばれた以上は頑張ります」

 そのセリフに私はついに涙を零したくなった。サーヴァントのくせに戦いたくないって……

「はっはっは! 面白い嬢ちゃんだ!!」

 一瞬ランサーも呆けた顔をしたが、すぐに額に手を当てて笑い出した。そこに邪気なんか感じない、爽やかさすら感じられるほど澄んだ笑いだ。

「だが、サーヴァントは戦うための存在だ。さあ、始めるか!!」

 そして、改めて槍を構えなおし獰猛な笑みを浮かべ、ランサーが飛び出した。





~~~~
続いちゃいました。
まあ、キャスター戦まではやりたいなあとは思ってます。



[27467] Fate stay Magica 第三話
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:a9f084e4
Date: 2011/05/16 10:01
 戦いが始まった。

 迫るランサーに対し、アーチャーが弦を引き絞ると、桃色の光が凝固した矢が生まれ、それを射る。

 離れている私も追うことのできないほどの速度で駆ける矢がランサーに迫るが、それをなんなく回避するランサー。さらにアーチャーが数射するものの、ことごとくランサーに回避される。

 お返しとばかりに突き出される槍をアーチャーはなんとか寸前で避ける。

 正直、それなりに武術を噛んだ私から見てもお世辞にもアーチャーの動きは訓練されたものとは言えない。多分にその動きは我流であろう。

 だが、距離を離した私ですら、やっと線で終えるほどの速度のそれを、紅い残像を描きながら繰り出される魔槍をアーチャーはぎりぎりで避け続ける。

 それだけでなく、回避しながらも、アーチャーは距離を離し、再び弓を射るものの、またも避けられる。

 しかし、避けられているとはいえ、あの矢も私が全力で出せるほどの魔力が一射一射に籠められている。たとえサーヴァントと言えども、高い抗魔力を持たなければただでは済まないだろう。

 桃と赤、似ているようで似ていない二つの色が交差する戦場は不覚にも見惚れるくらい美しく、ランサーと互角に渡り合うアーチャーの姿は私の想像以上の実力だった。

 はっきり言おう。私はアーチャーの力を見誤っていた。

 そう、彼女も聖杯に英霊として選ばれた英雄の一人であるのだ。

「はは! やるな嬢ちゃん! 相当場数を踏んでるとみた!!」

「あ、ありがとうございます!」

 でも、会話の内容は……ううう。

 少しだけアーチャーに対して抱いた感動が損なわれる。

 弓と槍、その戦いは激しく美しく続く。

 パッと見た感じでは五分五分と言えるかもしれない。

 だが、違う。アーチャーの矢はランサーに掠りもせず、対してランサーの槍はアーチャーに何度も掠り、アーチャーの服を、肌を幾度も切り裂いている。致命傷にはならない、だが、それでもいつかはこの均衡も崩れる。流れはランサーの味方だった。

しかし、なぜアーチャーの矢はランサーに当たらない? まるで、矢がどう飛ぶのかわかってるようにランサーは避けてしまっているが……

「は! 確かにすげえが……わりいな嬢ちゃん! 俺には目に見える飛び道具なんざ、よほどのものじゃなければ通じねえよ!!」

 私の疑問はランサーの一言で氷解した。  

 なるほど、あのランサーは相当なレベルの矢除けの加護を持っているのだろう。そうなると弓が主体のアーチャーにも厳しいものがある。

 だが、唐突にランサーが距離をとる。なぜこのタイミングで?

「いいねえ嬢ちゃん。正直ここまでできるとは思わなかったぜ。なかなか楽しかった」

 そういって心の底からアーチャーを称賛するように涼しげな笑顔を浮かべる。その笑顔はどこまでも透明で、ここを戦場だということを忘れさせるような魅了を持つ笑み。

「だからこそ、惜しいな……」

 だが、次の瞬間には苦々しい、そう、無念そうな苦々しい表情を浮かべ、心底アーチャーのことを惜しむような声を吐き出す。

「もう少し、そうだな……五、六年もすれば、もっといい女になっていただろうに」

 そういってランサーが槍を振る。それに対しアーチャーは、

「あの、私たちサーヴァントって成長しませんよね?」

 などと、ランサーに返した。

 アーチャー、あんた何言ってるのよ! どう考えてもそんなこと言う状況じゃないでしょうが!!

 ついに私はアーチャーに一言言おうとして、ランサーの笑い声が響いた。見れば、彼から先ほどの苦々しい表情はなくなっていた。それはもう心の底から楽しそうに笑っていた。

「あっはっはっはっは! そうだな、嬢ちゃんの言うとおりだ!! こりゃ一本取られたな!!」

 あーもう、本当になんなんだこいつらは……

 長年自分が思い描いていた聖杯戦争への幻想はこの二人によって完全に殺された。

「ふ、もう変なことを言うのはやめにするか……嬢ちゃんに敬意を表して俺の最高の一撃を見せるとしよう」

 そうして、いまだ笑みを残した表情でランサーが身を低くし、その槍に大気に満ちていた魔力が集まる。

 まずい! 宝具!!

 それを見た瞬間、アーチャーがライダーに敗北するイメージが浮かぶ。アーチャーもランサーの一撃の意味を理解し、強張った、真剣な顔をする。

 緊迫した空気に、私も冷たい汗が流れる。だけど、

 ぱきっと小さな音がした。それが、この戦いをあっけなく幕を閉じさせることとなった。私が振り返ると、そこに一つの人影。しまった!!

「誰だ!?」

 ランサーの鋭い声に弾かれる等に逃げ出すその人物。

 それを見て、ランサーの槍から霧散する魔力。

「ち、つまんねえ幕切れだが……見られたからには仕方ねえ。この勝負預けておくぜ!!」

「待ってください!!」

 アーチャーの制止もむなしく、心底残念そうに吐き捨ててランサーは目撃者を追って校舎の暗闇に消えていく。

 く、これは私のミスだ。校舎に光がないからとはいえ、誰もいないって思い込んで人払いの結界なんていう初歩的な行動を取らなかった私の。

「アーチャー追って!!」

「はい!!」

 アーチャーもランサーを追って校舎へと向かう。

 ただの人間がサーヴァントから逃れられるとは思えない。それでも!

 一縷の望みを託して私も校舎の闇へと飛び込んだ。











 ランサーの後を魔力の残滓を辿りながら追う。

 校舎の階段を駆け上がり、廊下に出ると、そこに一人の少年が、夥しい血の海に倒れていた。

 そのそばでアーチャーが膝をついて何度も少年にごめんなさい、ごめんなさいと涙を流して謝っていた。

「……アーチャー、あなたのせいじゃないわ」

 そう、別にアーチャーのせいなんかじゃない。これは……私の責任だ。私が魔術師の基本であるはずの隠匿を怠ったせいだ。

 なんで、こんな時にうっかりなんて……自分自身が腹立たしくてしょうがない。

 ごめんなさい――謝ってもしかたなく、許してなんて口が裂けても言えない。だって私のせいなのだから。

 せめて顔だけでも……

 そう思って近づこうとして気づいた。この髪の色と背格好……

 嫌な予感がついて離れない。違ってほしいと思う反面、その相手が誰なのか確信があった。

 そして……その通りだった。

「なんで、あんたが……」

 それは、この学校でそれなりに有名な人物。

 生徒会長柳洞一成の親友であり、この学校一のお人よし…………そして、ある事情で共に暮らすことができなかった妹の思い人、衛宮士郎。

 その彼が、死んでいる。殺されてしまった。

 あの子はそれを知ったら……どうなってしまうだろうか?

「っ!!」

 その想像を、私は許せなかった。

 懐から一つの宝石を出す。この聖杯戦争に向けて長年魔力を籠め続けた切り札のルビーを。

 それが魔術師として間違ってることは理解している。だけど、もしこのまま彼を見捨てたらきっと……私は一生自分自身を許せない。

 そして、宝石に籠められた魔力を解放し、私は衛宮士郎を蘇生した。






~~~~
ランサー戦です。どう見ても弓が主体のまどかでは矢除けの加護を持つランサーには敵いませんが、善戦していただきました。
さて、セイバーはどうするか……



[27467] Fate stay Magica 第四話
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:a9f084e4
Date: 2011/05/21 20:16

 処置を終えた後、私たちは足早に校舎の外に出て、二人で夜の街を歩く。もちろんアーチャーは元の姿にもどってる。

 衛宮くんを蘇生したと言った途端に、アーチャーは泣き顔から笑顔に変わった。

 反面、私は沈んだ顔をしている。なにせ、私は魔術師失格の行為をし、その上切り札をこんな段階で失ったのだから。

 決して後悔はしてない。それでも、私の気は沈んだままだ。

「あの、凛さん……」

「……なに」

 アーチャーに呼びかけられて、振り向けば、まっすぐに私を見るアーチャー。

「私、凛さんは正しいことをしたと思ってます」

 え……

 アーチャーがほほ笑む。

「私、凛さんがマスターでよかったです!」

 ああ、なんだろう。本当にこの子は英雄なんだろうか? うじうじしていたのが馬鹿らしくなる。

 ふと気づけば、私は笑っていた。

「あったりまえよ! 私も、あなたがサーヴァントで……よかった」

 尻すぼみでつい呟いていた。

「え? なんて言ったんですか?」

「な、なんでもないわ! ほらさっさと行くわよ」

 ああ、本当に何を言っているんだ私は。

 早足で歩いて、アーチャーが着いてきてないのに気付いて振り返る。その顔は青ざめている。

「どうしたのよ?」

「あ、あの、凛さん。ランサーさんは、私たちの目撃者だから衛宮さんをこ、殺したんですよね?」

 それが、どうしたのよ?

「も、もし衛宮さんが生きてたことに気づいたら、ランサーさん……」

 あ……

 目撃者を消す。魔術に関わるものとして当然のこと。だからランサーは一般人であろう衛宮士郎をあの場で殺害した。

 なら、もしも衛宮くんが生きていることを知ったら……

「あ、アーチャー、なんで早く言わないの! は、早く衛宮くんのところに行かないと!」

「は、はい! 凛さん摑まってください!」

 摑まる?

 一瞬でアーチャーが変身する。私が言われたまま、アーチャーに摑まると、

「行きます!」

 アーチャーの背中から桜色の光が解き放たれる。すると、それが半透明の桜色の翼になった。

 そして、一気に飛翔する。

「うそお!?」

 飛行は非常に高度な魔術だ。強固で具体的なイメージがなければ浮くことすら難しい。それをこの子はやすやすとやって見せた。

 本当にこのサーヴァントは何者なんだろう?

「凛さんどっちですか?!」

 あ、えっと……

 学校のある方向を確認し、自分たちの位置を把握、それから大まかな衛宮くんの自宅の位置を思い出す。

「あっちよ!」

 アーチャーに指示した瞬間、高速でアーチャーは動く。

 あっという間に後ろに流れていく景色、ごうごうと耳元で鳴る風を切る音。

 飛行とは随分なアドバンテージだ。もし相手が飛行、または遠距離への攻撃手段がなければ、手の届かない位置から一方的にアーチャーは攻撃することができる。

 まあ、そしたらマスターである私を守るのが難しく、先に無力化しにくる恐れがあるというデメリットも存在するが戦術の幅が広がる。

 そうして、私たちは衛宮邸へと迫った。










 飛行により一直線に移動したおかげか、予想より早く衛宮邸に私たちは到着した。

 上空からアーチャーが衛宮邸に降りようとして、

「あ、凛さん、ランサーさんが!」

 アーチャーに示され、そちらを向くと、家の屋根に飛び移って衛宮邸から離れるランサーが目に入った。

 もう、衛宮くんは……そう思った瞬間、衛宮邸から一つの影が飛び越えてきた瞬間に消し飛んだ。

 その影は屋根を蹴って、空中の私たちに迫る。

 アーチャーが反射的に動く。相手は何もない手を振る。

「きゃ!!」

「アーチャー!?」

 その瞬間、アーチャーの右腕の半ばまでが『切れた』。

 アーチャーが腕を押えながら相手サーヴァントから距離を離す。そう、サーヴァント。

 ランサーと同等の圧迫感を感じる『彼女』

 斬れたってことはセイバーかしら?

 にしてもまさか、初日に二人のサーヴァントに出会うなんてね……

 しかし、状況はまずい。どうやら相手サーヴァントは地面からこちらを見上げているということから飛行ができないということ。

 だけど、アーチャーは私を背負った上、右腕はどう見ても弓を射るのは難しい怪我をしている。お互いに出せる手はなくなっていた。

 どうすればいいかしら……

 私はこの状況を打開する方法を思案して……屋敷から誰かが飛び出した。

「セイバー! 敵っていきなり……え? 遠坂が飛んでる?!」

「衛宮くん?!」

 そう、飛び出してきたのは、言うまでもなく屋敷の主、衛宮士郎。

 それを見たとたん、アーチャーがほっと息を吐く。敵かもしれないというのに。

「マスターなにをしているんですか! 状況を理解できているのですか?!」

 ……まさかこいつがセイバーのマスター? いや、おそらく十中八九間違いない。なにせ、今セイバーにそう呼ばれたのだから。

 その上、その表情、言葉は明らかに状況を理解してないのがありありとわかった。

 もしも彼が正規のマスターなら私たちの前に現れるという愚行を犯すはずがない。おそらく……なんらかの偶発的な出来事でセイバーを召喚したのだろう。

 ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

 遠坂である私が彼が魔術師であることも知らず、助けにきたと思ったらセイバーのマスター? 私が狙っていたクラスだというのに?

 理不尽な怒りではあるのはわかっているが、この感情だけはどうしようもない。

「あ、あの、凛さん?」

 アーチャーが声をかけてくるが気にならない。

 ふっざけんじゃないわよ。

「なにって、なんもわかんねえよ! マスターだの、聖杯戦争だの、ちゃんと説明してくれ!!」

 ぶちっと、理性の糸が切れる音がした。

「黙れ」

 気づけば、私はそう洩らしていた。

「へ?」

「は?」

「えっと、凛さん?」

 爆発した感情は一気に噴き出してもう私は止まらなかった。

「なんなのよあんたは! あんたがランサーに殺されるかもしれないと思って大慌てでここまで来て、そしたらあんたが召喚したサーヴァントに襲われた? ふざけないで!!」

 もうぐちゃぐちゃだった。ひたすら溜まったものをぶちまける。

「しかも、あんたが召喚したのはセイバー? 私が狙っていたクラスだったのよ! それを、ど素人のマスターに召喚されるなんて……あんた私のこと馬鹿にしてるの?!」

 それだけの量を一気呵成に言い切れば、さすがに息切れだった。

 なんか一気に言いたいことをぶちまけたからか少しだけすっきりした。人間溜めこむのはだめなのね。

 見れば、セイバーはじっとこちらを見つめ、衛宮くんはぽかんとして、そして、アーチャーはどこか悲しそうだった。

「あ、その、遠坂……よくわかんないけど、ごめん。セイバーも剣を収めてくれないか?」

 と、申し訳なさそうに衛宮くんが指示を出す。

 そして、セイバーと衛宮くんが一言、二言話し合う。

 それからセイバーはこちらに視線を上げる。すでにさっきまで放たれていた威圧感を解き、構えていた腕は下げている。

 もう戦う意思がないのだろう。

「もし、その話が本当でしたら、その経緯はわかりませんが、その行動に感謝します。そしてそれを知らず襲いかかったことを謝罪させていただきます。今回は剣を納めましょう。そちらのサーヴァントもそれでよろしいか?」

「はい……」

 どこか気落ちした風にアーチャーが頷く。どうしたのかしら?

 そして、アーチャーが地面に降りると同時にアーチャーの服が元に戻る。それに衛宮くんが少し驚いた。

「あ、あのさ、遠坂、その子もセイバーとかさっきの男と同じなのか?」

 まあ、アーチャーの姿に戸惑うのもわからないでもないわね。普段の格好はまるっきり私たち現代人と大差ないのだから。

「ええ、この子が私のサーヴァント、アーチャーよ」

 と紹介するとおずおずとアーチャーが前に出る。

「えっと、アーチャーです。よろしくお願いします衛宮さん、セイバーさん」

 ぺこっとお辞儀するアーチャー。ほんと礼儀正しい子ね。

「あ、ああ、よろしく」

 と、戸惑い気味に衛宮くんが頷いた。












~~~~
士郎とセイバーとの邂逅編です。
次回、教会編からできたらバーサーカー戦まで行きたいです。



[27467] Fate stay Magica 第五話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:c44bbb35
Date: 2011/05/25 23:08

 外から見た時も思ったけど衛宮邸はなかなか立派な屋敷だった。

 純粋な和風っていうのも普段洋風の我が家からすると新鮮にすら感じる。

「ちょっと着替えてから茶と茶菓子持ってくるから少し待っててくれ」

「あら、悪いわね」

「ありがとうございます」

 と、衛宮くんが破れた服を着替えに席を立つ。

「シロウ、私も手伝いましょう」

 衛宮くんの体調が心配なのかセイバーも連れ立って席を立ち、衛宮くんに続く。

 確かに衛宮くんの声には張りもなく、濃い疲労の色が出ていた。

 まあ、今日一日ここまでいろいろな出来事、それこそ一回死んだり、殺された相手にまた殺されかけたり、セイバーを召喚したりしたんだから疲労するのも無理はないわね。

 にしても、ずいぶん仲が良く見えるわね。さっきは口喧嘩してたりしたのに……

 と、そこまで考えて、未だにアーチャーの表情が暗いのに気付いた。

「どうしたのアーチャー? もしかして傷が痛むの?」

「あ、いえ……」

 そして、またアーチャーが項垂れる。

 あーもう、たく。

「アーチャー、そんな顔してなにもないなんて言っても信じられないわよ? なにかあるなら言いなさいよ」

 まったく、本当に顔に悩んでいるというのがよく出るわね。

 そして、少しアーチャーは思案してから、

「ご、ごめんなさい!」

 いきなり謝ってきた。

 へ?

「そ、その凛さんはアーチャーの私よりセイバーさんがよかったんですよね? そ、その、私が召喚されちゃってごめんなさい」

 ……あー、気にしてたのねあれ。

 少し悪いことをしたと思う。イライラしてたとはいえ、この子を傷つけるようなことを言ってしまったんだから。

 ぽんと私はアーチャーの頭に手を置く。

「別に気にしなくていいわよ。確かに最初は剣を使うセイバーの方がいいかな。なんて思ってたけど、今はそんなこと欠片も思ってないわ」

 え? とアーチャーが顔を上げる。

 だって、この子は私がマスターでよかったと言ってくれた。そして、私の選択を認めてくれた。それが、なによりも嬉しかった。

 そう、たった一日しか経たないけど、今なら胸を張って言える。アーチャーを召喚できてよかったと。

「これでも頼りにしてるんだから、しっかりしなさいよね」

 にっと私が笑ってみせると、アーチャーも満面の笑みを浮かべる。

「はい!」

 それでよし。

「お待たせ遠坂、アーチャー……どうしたんだ?」

 と、気づけば衛宮くんが戻ってきていた。

「な、なんでもないわよ。あ、お茶ありがとう」

 アーチャーの頭から手を放してお茶をいただく。

 そして、彼らが席に座ってから聖杯戦争の説明を始める。

 なんかアーチャーは「マミさんみたいな味……」と衛宮くんのお茶に感動していたわね。

 時折、衛宮くんが困惑や反論の言葉はあったものの、聖杯戦争の説明はすぐに終わった。

 それに衛宮くんは黙りこくって俯き、対してセイバーはきっちりと背筋を伸ばして私の話を聞いている。対照的ね。

「とりあえず、一度教会に行っておかないとね」

 私だけでなく綺礼の話しも聞かせた方がいいだろう。それにマスター登録もしないといけないしね。

 正直、あまり会いたくないけどあの似非神父。

「え? 教会って確か隣町だよな?」

「そうね、まあ、今からなら夜明け前までには帰ってこれるんじゃない?」

 ここから歩いて一時間、今の時間帯なら話を聞いて帰ってくればそのくらいになるだろう。

「明日じゃだめか?」

「だめよ」

 行きたくないオーラを発する衛宮くんをバッサリ切る。ただでさえ自覚が薄いのだから、ちゃんと持ってもらわないと困る。

「セイバーもいいでしょ?」

「はい。シロウ、あなたの知識のなさは致命的です。此度の戦い意図して参加したわけではなくとも、契約をした以上、自覚していただかなければなりません」

 セイバーの言葉にうっと衛宮くんが唸る。

「教会で話を聞くことで少しでも理になるならそうすべきでしょう」

 そうセイバーに言われて衛宮くんは頷くしかなかった。










 そして、教会に行くことになったのはよかったのだけれども、一つ問題があった。

「私は武装を解除する気はありません」

 それだった。なにせセイバーが銀色の鎧のまま教会に向かおうとしたのだ。

 私たちは困り果て、その様子をセイバーはきょとんとしていた。

 唯でさえ人目を引く美貌、その体を覆う銀色の鎧。深夜とはいえ、それを連れ歩くのだ。できれば御免こうむりたい。

 さらには、聖杯戦争関係者に見られたらサーヴァントを連れ歩いていることを宣伝するようなもの。ただでさえへっぽこマスターである衛宮くんには負担以外のなにものでもない。

「あ、あのセイバーさん」

「なんですかアーチャー?」

 と、そしたらアーチャーがセイバーと交渉をし始めた。

 「この国には郷に入っては郷に従えっていう言葉が……」「無暗に正体をさらすべきでは」とセイバーを説得する。

 そして、ついにアーチャーの説得にセイバーは折れたのだった。

 やっぱりアーチャーもそうしてるし(自前ではあったが)同じサーヴァントの方が説得させやすかったのかしらね?













 そして、セイバーに衛宮くんのお古の洋服を着せて、私たちは教会へとやってきた。

「先に言っておくけど、覚悟しといてね」

「か、覚悟っていったいなんのだよ」

「入ればわかるわ。入れば」

 腹黒、精神歪みきったあの神父が何を言うか、それを考えるだけで私まで頭痛がしそうになる。

 なによりも、すっかり忘れていたが、私もあの似非神父になんの報告もしていないことを思い出した。

 いったいどんな嫌味を言われるのだろうか? それに思い当って今度は胃が痛くなり始めた。

 と、考えていたらアーチャーがどこか複雑そうに教会を見つめているのに気づく。

「アーチャー、どうしたの?」

「え、いえ、なんか嫌な感じがして……」

 嫌な感じね? 私は全然感じないけど、英霊特有の勘かなにかかしら? 少しそれが気になりながらも、私たちは教会の扉を開けた。

 あー、憂鬱だわ。












 教会での話し合いはつつがなく終了した。もっとも、ねちねちとした嫌味と共にあの似非神父は、衛宮くんにプレッシャーをかけた。そのくらいしないと衛宮くんは平和ボケしたままな気がするからちょうどいいかもしれないけど。

 特に、あの冬木の大火事が聖杯戦争が引き起こしたことに憤ってたわね。おそらく彼はあの時の被害者なのだろう。

「事情はわかった。もう二度とあんなことを引き起こすわけにはいかない。俺は、マスターとして戦いを止めてみせる」

「ではシロウ!!」

「ああ、半人前だが、一緒に戦ってくれセイバー」

「あなたがそういってくれるのならば、私は貴方の剣となることを改めて誓いましょう」

「ありがとうセイバー」

 二人の話はあっさりとおさまった。サーヴァントはマスターと近しいものが呼ばれるといいし、あの二人割と相性がいいのかもね。

 それに、衛宮くんもここに来る前よりは決心がついたのだろうし、ここに来た意義もあったってことね。

 まあ、ここまでする必要はなかったけど、だからと言ってほっといても後味が悪いし。

 まったく、こんな考えは余計なもの。心の贅肉なのに。油断したら増えやがって畜生。

「あの二人とも戦わないといけないんですね……」

 少し残念そうに呟くアーチャー。まったく、この子は。

「彼だって覚悟はできてるのよアーチャー。だからあなたも覚悟しなさい」

「はい……」

 こくっとアーチャーは頷く。

 優しい子だけど、きっとアーチャーは戦える。なんとなくだけど、そう思える。












 そうして私たちは教会に背を向け歩き出す。

 なんなんだろうかこの状況は。本来なら、サーヴァント同士が揃ったのだから、血なまぐさい戦いを行うはずなのに……調子が狂う。

 いや、もしかしたら私はアーチャーを召喚した時から調子が狂ってるのかもしれない。妙に優しくて、甘いこのサーヴァントのおかげで。

 まあ、それが悪くないって思える自分がいるんだけどね。

 ただ、そろそろ一度仕切り直したいとも思う。これ以上あの二人に感情移入したら、戦いに支障を来しそうだから。

 まあ、そんなことを考えてる時点で十分感情移入してるわね。

 まったく、本当になんなんだろう。

 そして、目の前に分かれ道。そこがちょうどいいと私は思った。

 そう、ここで別れれば次は敵同士になれる。私は足を止める。

「どうした遠坂?」

「ここでお別れよ衛宮くん。もう聖杯戦争は始まってるんだから」

 私は切り出す。

「なんでさ、帰り道はどうせ同じだろ?」

「特別サービスでここまでやってあげたけど、私たちは敵同士よ?」

 その表情に戸惑いの色が浮かぶ。

「それはわかっている」

 と言っているけど、本当はわかってないと思う。だからこそ、ここで別れないとならない。私のためにも衛宮くんのためにも。

 まったく、甘いったらありゃしない。

「これ以上いたら、お互い戦いづらいでしょ? だからここで最後。次にあったら容赦しないから、覚悟しなさい」

 できる限り冷たく、突き放すように言い放つ。ここまですればさすがのお人よしの彼でも理解できるだろうと信じて。だけど、その答えは私の予想の明後日の方向だった。

「俺はできれば遠坂とは戦いたくない。今日はいろいろ助けてもらったし、敵ってのは嫌だ」

 開いた口が塞がらないと言うのはこういうことだろうか。あまりにお人よし。あまりに馬鹿正直。

 どこかアーチャーが嬉しそうなのは気のせいだろうか?

「はぁ、本当に自覚を持ちなさい。衛宮くん、貴方のその考えは戦いにおいて余計なもの。心の贅肉よ」

 教会で話を聞いて少しはマシになったと思ったのに。まったく……

「まあ、今日のことは感謝してる。絶対に一生忘れない。ありがとう遠坂、アーチャー」

「私もこれまでのことは感謝します。健闘を」

 まったく、なんなんだ。これは?

 勘弁してほしい。本当に戦いづらくなりそう。

「そ、それじゃあ衛宮くん、さっきの言葉は忘れないでね。いくわよアーチャー」

 そういって話を強引に打ち切り、私たちは衛宮くんとセイバーと別れようとして、

「ねえ、お話は終わった?」

 突然かけられた声に振り向いた。














 振り向いて、坂の上にある二人の影を見て私たちは固まった。

 その圧倒的な存在感に、暴力を具現化したような異様に見ただけで心が屈しかける。

「バーサーカーよ、ね?」

 鉛色の肌、見上げるほどの巨躯。

 正気を失うのを引き換えに、大幅に上げられた能力と狂気を得てしまったサーヴァント。

 知識では知ってたけど、比較的弱い英霊を狂化すると聞いてたから、これほど圧倒的なものだなんて思いもしなかった。

 軽く見てもセイバー以上のスペックの持ち主。果たしてアーチャーがどこまで戦えるかわからないけど、絶望的な状況。

 唯一の救いは、私たちだけじゃなくて、衛宮くんがいること。

 こっちは二組、勝つことは難しくても、渡り合うことはできるはず。

 我ながら情けない打算だが、今は生き延びることが優先ね。

「こんばんわお兄ちゃん。会うのは二度目だね」

 と、マスターと思わしき十歳ほどの少女が衛宮くんに声をかける。

 知り合い、と言ってもとてもじゃないが、友好的な関係じゃなさそうね。

 無邪気な笑みとバーサーカーの威圧感が相まって異様な雰囲気を作り上げる。

「アーチャー」

「凛さん大丈夫です」

 強張った顔でアーチャーが宝石を取り出す。

「私も怖いけど、一人じゃありませんから」

 そう言って光を纏いアーチャーが変身する。

 まったく、この子は。

 私はありったけの魔力を籠めた宝石を取り出す。サーヴァントが頑張るなら、マスターの私もしっかりしなければ。

「ふふ、あなたのサーヴァント、私のバーサーカーに敵うのかしらね凛?」

「へえ、私のことを知ってるの?」

 つい、そう減らず口を叩く。

「そういえば、あなたにはまだ挨拶してなかったわね。私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 なるほど、あのアインツベルンの人間ね。

 あんな規格外の化け物を引き連れている理由が少しわかったわ。

「衛宮くん、この場を切り抜く方法を考えなさい。生き残りたければ、ね」

 肩を叩いて声をかける。微動だにしなかった衛宮くんが息を吐き出して頷く。

 まあ、仕方ない。あんなのに、相対しているのだから。

「セイバーが前衛でアーチャーと私が後方からセイバーを援護。いいかしら?」

「セイバーさん、すいません。私は矢を射ることしかできませんので」

 アーチャーが頭を下げて謝る。

「いえ、今はそれが最善でしょう」

 そう答えて、セイバーが一瞬で武装する。

「じゃあ、殺すよ。やっちゃえ、バーサーカー!」

 イリヤの命令に暴力が解き放たれた。







~~~~
覚悟編とバーサーカー戦です。
さて、次回で、本格的にバーサーカーと戦います。どうしよっかなあ。



[27467] Fate stay Magica 第六話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:c44bbb35
Date: 2011/05/28 08:47

「■■■■■■ーーーー!!」

 バーサーカーが斧剣を振るう。

「はあっ!」

 大気を切り裂き、凄まじい破壊力の籠った一撃をセイバーが不可視の剣を持って弾く。

 いくらセイバーの技量を持っても、斧剣を弾けるとは思えない。他にもなんらかの力、おそらくは剣のなにかが働いているのだろう。

 さらにバーサーカーが斧剣を振るう。それは狂戦士の名の通り、技もなにもないただの暴力。

 しかし、同時にその攻撃は、いかなるものも粉砕せしめる力だった。

 だが、その猛威に臆することなくセイバーは立ち向かう。

 その表情に焦りも恐れもない。その可憐な姿でバーサーカーに一歩も怯まない姿は美しく、そして、恐ろしかった。

 あまりに、非現実的な光景に私と衛宮くんは動けなかった。それは神話の戦い。ただの人間にはとてもじゃないが、割り込む余地はなかった。

 そこに数条の光の矢が走り、バーサーカーに突き刺さる。

 アーチャーの援護。

 絶大な魔力が込められた攻撃は、しかしバーサーカーを傷つけられない。

 すると、アーチャーはバーサーカーの足元を攻撃した。足に矢が突き刺さり、地面を破壊する。バーサーカーの体勢が若干乱れる。

 そうか、攻撃が効かないなら体勢を崩したのね。

 その僅かな乱れを見逃すセイバーではない。

 乱れた剣先を避け、セイバーはバーサーカーの懐に入る。あそこまで近づかれたら、バーサーカーは反撃できない!

「はああああっ!」

「お願い!」

 セイバーの渾身の一撃が、バーサーカーを切り裂き、アーチャーの先程より強い輝きの矢が射抜く。

 やったと、私は震える手を握りしめる。あれなら、倒せないまでも、きっと!

 だが、それは私の儚い願望だった。

 並みのサーヴァントならきっと倒れている二撃を喰らいながら、バーサーカーは倒れなかった。僅かに揺らいだだけ、その身に小さな傷を与えただけ。

「そんな!」

 あまりの現実にそう洩らしてしまったのに対して余裕の笑みでイリヤは笑う。

「当然よ。バーサーカーは無敵なんだから」

 イリヤの言葉には絶大な自信と信頼がこもっていた。

「■■■■■ーーーー!!!」

 そして、それに答えるようにバーサーカーが、最も近く、渾身の一撃の隙を突かれたセイバーに斧剣を振るう。

「セイバーさん!」

 咄嗟にアーチャーが弓を射る。それは、バーサーカーではなくその斧剣を射抜く。

 うまい、本体に効かないなら武器を。先の足元への攻撃といいアーチャーは冷静だった。

 振るわれた斧剣がぶれるが、その勢いは凄まじく、私たちまで風圧が届く。

「ぐうっ!」

 なんとかセイバーは直撃を避けたものの、バーサーカーの力で十数メートルもセイバーは吹き飛ばされる。

 直撃を避けたって言うのになんという馬鹿力。

「セイバーさん、大丈夫ですか?!」

「ええ、戦闘に支障はありませんアーチャー」

 アーチャーが駆け寄り、セイバーは立ち上がる。

「あの、セイバーさん……」

 そして、何事か相談する二人。

 その間にもバーサーカーが迫る。

「ええ、わかりました」

 そう答えてセイバーはバーサーカーに突っ込む。アーチャーは数射援護してから、距離を一定に離す。

 いくらセイバーといえど一人ではバーサーカーの猛攻を捌ききれるものじゃない。これまで拮抗できたのは即席とはいえ、二人のコンビネーションが上手くいってたためだ。

 それを止め、いったいなにをするかと思い、アーチャーは弓の弦を引き絞る。だが、そこに込められた魔力も、アーチャーの雰囲気も全然違う。

 まさか、宝具を使うつもり?!

 そう考えた瞬間、体から力が抜けていく。

 一気に魔力がラインを通じてアーチャーへと奪われていくのがわかる。折れそうになる膝を必死に立たせる。

「お、おい遠坂!」

 心配そうに声をかけてくる衛宮くんを手で制する。弱みを見せるわけにはいかない。

「バーサーカー!」

 アーチャーの意図に気づいたのか、初めてイリヤの声に自信以外の感情が籠った声を上げる。

 その指示によるものか、はたまた本能的に自身を倒しうる力と感じたのか、バーサーカーはアーチャーへと向かう。

「させませんっ!!」

 バーサーカーを足止めしようとセイバーが割って入るが、その表情には若干の焦りが浮かび、動きに余裕がなくなりつつあった。

 二人でやっと拮抗してたというのに、一人で足止めをしないとならないのだから当然だった。

 アーチャー早く!

 そして、

「セイバーさん!」

 アーチャーの声にセイバーはバーサーカーの足を切る。

 傷は負わせられなかったものの、バーサーカーの体勢を崩すのに成功し、離脱するセイバー。

 そして、アーチャーが弓を解き放ち、桃色の光が一直線にバーサーカーへと迫る。

 バーサーカーはなんとか斧剣で受けるが……弾かれ、その無防備になった胸にアーチャーの矢が突き刺さった。

 一気に莫大な魔力が解き放たれ、巨大な、天すらをも貫く光の柱が上がる。

 それは必殺の一撃のはずなのに温かく、優しい光。呆然と私は……いや、私だけでなく隣にいる衛宮くんも、セイバーも、イリヤですらその光に目を奪われていた。

 そして、光が収まると、崩れ落ちたバーサーカーが現れる。

 今度こそやったと思った。今のバーサーカーは骸だと。

 ぎりっとイリヤが歯ぎし、こちらを睨んでから、笑みを浮かべる。

「すごいわねリン、あなたのサーヴァント」

 負け惜しみをと私は笑おうとして、














「まさかバーサーカーを四回も殺すなんて」













 な、に?

 骸になったはずのバーサーカーを見る。サーヴァントが死んだなら、消滅するはず……だが、違った。

 アーチャーの一撃でぼろぼろになった体がゆっくりと逆再生のように元に戻っていく。な、なんで!!

 再生、その上四回殺した? どういう意味?!

 誰もかれもが動揺を隠せない。

「教えてあげるリン。バーサーカーの真名はヘラクレス。十二回殺さなければ死なないの」

 イリヤの言葉に、バーサーカーの正体に愕然とする。

 先も述べたけど、本来バーサーカーは弱い英霊を強化するためのクラス。ヘラクレスなんていう存在をバーサーカーとして召喚した? でたらめにもほどがある。

「大英雄ヘラクレスは神に与えられた十二の試練を乗り越えて不老不死となった。そして、バーサーカーは乗り越えた死の数だけ命のストックがある。それがバーサーカーの宝具『十二の試練』」

 サーヴァントの肉体そのものが宝具だなんて……

 もしその言葉が本当なら、単純計算あと二回今の攻撃を与えないとならない。しかし、一度食らった攻撃をそう何度も食らうことはないだろう。

 なにより、その前に私が先に倒れる。そう言えるだけの魔力を持って行かれてしまった。現に今にも膝を付きそうなのだ。

 だが、そんなことはしない。屈しそうになる膝に活を入れ、背筋を伸ばし、こちらの弱みを見せつけないようにする。

「ねえ、リン。本当はあなたのことなんてどうでもよかったけど、少し興味がわいたから今回は見逃してあげる」

「なんですって?」

 この場に不釣り合いなまでに無邪気な笑み。だが、そこに込められたのは絶対的な自信。

 たとえここで見逃し、こっちが対策を立てたとしてもいつだって私たちを殺せるという自信だ。

「それじゃあまた遊ぼうね」

 そう言い残してイリヤは完全に元に戻ったバーサーカーとともに姿を消した。

 それを見送り、力が一気に抜ける。それは衛宮くんも同じで嫌な汗をかいている。

 一矢報いることはできたけど、ほとんど完敗に近い結果。

 見逃されるという、こちらの自尊心を粉々に打ち砕かれ、でも、それに安心した自分がいて、なお悔しかった。





~~~~
バーサーカー戦終了、ちょっと強力すぎる気もしないでもないですが、ワルプルギスの夜を一撃で倒したことを考え、これくらいかなあと。
あと、テンプレというご指摘もありましたが、甘んじて受け止めます。
基本まどかが要所要所で介入する以外、本編とさほど変わらないプロットなので。
ちょっと見直ししておこうかな。


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