500回を迎えた「マル激トーク・オン・ディマンド」で語り合う神保哲生さん(左)と宮台真司さん=東京都品川区の日本ビデオニュース社
11月13日、2001年の放送開始から500回を迎えた番組がある。といっても、NHKや民放の話ではない。インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」の「マル激トーク・オン・ディマンド」(毎週土曜更新)だ。
この局の代表でジャーナリストの神保哲生さん(49)と、社会学者の宮台真司さん(51)が司会を務めてきた。500回目は2人だけで、この10年で日本と世界がどう変わったか、これまでの映像を見ながら話し合った。
初回は当時民主党幹事長の菅直人首相が電話出演し、こう言っていた。「政治と行政を国民のレベルでコントロールすればいいんですよ」
その後を振り返って神保さんが語る。「ネット選挙や取り調べの可視化。やると言っていた民主党が政権をとっても、実現しないのはなぜか。それを見ていくのが課題かなあ」
メディアの問題も繰り返し取り上げた。「脱記者クラブ」「ネット時代のジャーナリズム」「なぜ報道被害はなくならないのか」……。この番組はそもそも「メディアが機能不全に陥っている」という2人の思いが出発点だった。「大手メディアが報じない視点」にこだわり、専門家や当事者と討論し、発信してきた。
「問題はいっぱい残っているが、メディアはずいぶん変わった」。神保さんがそう言うと、「変わったんでしょうかねえ」と宮台さん。
「インターネットが広がり、内部告発する時に、朝日新聞に持ち込むよりユーチューブに流してしまう。マスコミも適応して、素人が携帯電話で撮った映像とかを使う。追い込まれてきているということだと思うんですよ」
確かに、この10年はインターネットが時代を変える原動力だった。動画配信のコストも低くなり、1999年に神保さんがビデオニュースを始めたころの苦労がうそのようだ。
だが、今も経営は厳しい。収入は、月に525円の会費が頼り。「広告モデルだと、テレビよりひどいポピュリズムに陥りかねない」と考えるからだ。何とか2年前、損益分岐点の会員8千人を突破、今では1万人を超えた。
心強いのは、「今までになかった視点を与えてくれた」「目からウロコが落ちた」といったファンの声だ。2年前には日本インターネット報道協会をつくり、加盟社は首相会見などの中継もできるようになった。神保さんは言う。
「100年かけて先人たちが培ったジャーナリズムの価値が消えてしまうのか、ネットという新しい武器を手にして生き残るのか。100年プロジェクトと考えて、こつこつやっていくしかありません」(編集委員・隈元信一)
新しい情報技術を導入することに対する反発が論壇の中で根強いのは、なぜか。筆者は、論壇の体質を「提案型」に変えていくことの必要性を説く。